四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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前回のあらすじ。

正体不明の白い女たちは周蔵を『終わりなき四隅の怪』へと誘う――。


其ノ十六

「ふぅ……」

 

宵闇が深まった寺子屋の職員室にて、纏っていた頭巾を脱ぎ、今し方()()()()()()()()()()()を薊が用意した桶に張った水で洗い流した()()()()()が、手ぬぐいで顔を拭きながら一息ついた。

その傍には、同じく頭巾を脱いでおしろいを落とした白装束姿の薊と小傘の姿もあった――。

香霖堂から借りてきた()()()()()()()()()()()を外す梳に薊が声をかける。

 

「お疲れ様でした。梳さん」

「おつかれ、薊ちゃん。水桶と手ぬぐいありがとね」

「二人とも、お疲れ様。いや、ホントうまくいってよかったよぉ」

 

二人の会話に笑いながら小傘も混ざって来る、そして続けて口を開いた。

 

「いや~、わちき練習の時は何度も見てたけど、()()()()()()()』、結構迫真に迫ってたよ。初めてだったのにあそこまで師匠の『語り』を表現するなんてすごいよ、うん」

「あはは……、でも私のはやっぱり見た目(ガワ)だけの『語り』ですよ。四ツ谷さんみたいに人の心を掌握できるほどの力はありません。やはり『形』だけじゃあの人には百年かかっても届きそうにないですよ」

 

苦笑交じりに謙遜する梳。やや自虐的にとらえられる発言だが、梳の言い分にはどこか納得できる部分があったため、小傘も薊も何も反論する事はなかった。

事実、梳の『語り』は四ツ谷の『語り』を上手く表現はされてはいたものの、その『語り』には四ツ谷のような他者から恐怖心を引き出させ、操るような力はまるで無かった。よく真似られてはいるが、やはりただそれだけの代物なのである。

 

それ故、今回の『最恐の怪談』の成功は、『語り』の方ではなく『演出』の方が大きく貢献していた――。

 

白装束と頭巾を纏い、おしろいとカラーコンタクトを使ってまるでこの世の者とは思えない死者のいでたちをし、三人の白い女の出現からその後の行動までの『演出』が梳の『語り』の補助を得て周蔵を恐怖に駆り立たせ、追い詰めたといっても言い。

 

そして、その『演出』の方で『語り』の役目を担っていた梳とはまた別の大役を担っていた者がいた――。

 

突然、職員室の戸が開き、そこから四人の白い女の最後の一人が入ってきた。

白装束は着ていたものの、その顔はすでに頭巾とおしろいは取り払われており、ややくせのある茶髪を露にし、眼鏡をかけている。

その女性に小傘が声をかける。

 

「あ、菫子ちゃん。どうだったあの男の様子は?」

「あー、うん、命に別状は無いと思うけど、はっきり言って『気持ち悪い』という一言に尽きたわね。部屋の真ん中で大の字になって、股間を濡らして、白目むいて、打ち上げられた魚みたいにピクピクしてたわ……」

 

げんなりとした雰囲気で肩を落としてそう呟く女性――菫子に対し、「それ、大丈夫って言えるの?」と小傘が小さくつっこむ。

そこへ今度は梳が菫子に声をかける。

 

「あの……、さっきはありがとうございました」

「さっき?……ああ、あの下衆に殴りかかられた時ね」

「はい。……正直あの時は内心肝を冷やしちゃいました」

「確かにアレは予想外だったけど、それを顔に出さなかっただけ上出来よ」

 

うんうんと何度も頷いて笑って答える菫子に、つられて梳も笑みを浮かべた。

怪談を始めて直ぐ、周蔵が梳の胸倉を掴んで拳を振り上げた時、それを止めたのが菫子であった。

菫子は突然のアクシデントにも直ぐに反応し、自身の持つ念動(サイコキネシス)の能力を使って空中に振り上げた右腕を固定したのだ。

ちなみに、その前に起こった戸が突然閉まった現象も、その後に起こった周蔵の全身と口が動かなくなった現象も、全て菫子の念動能力の力であった。

しかし、何も全ての『演出』が菫子の能力で行われたわけではなかった――。

 

「本当ならあの部屋の隅に私たち三人が同時に出現する『演出』……。あれも私の瞬間移動(テレポーテーション)で表現できればよかったんだけどねぇ~」

「仕方ありませんよ。菫子さん自分以外の人間を一緒に移動させた事なんて今までなかったんでしょ?できたとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()も出来なかったみたいですし……」

 

軽く肩を落としてそう呟く菫子に、梳は慰めるようにしてそう答えた。

そう、菫子の超能力は全てにおいて万能というわけではなかった――。

中には四ツ谷との会話に使っていたテレパシー同様、制約のかかっている能力もあったのである。

その一つがテレポーテーションであった。この能力は菫子自身や一対象を別の場所へと移動するにいたっては何も問題なく出来るのだが。複数を同時に別の場所、及びその場所の正確な位置へと移動させる事には問題があった。

複数の対象を同時に移動させようものなら、その対象の数によって使う集中力や体力が大きく消耗してしまうのだ。

その上で、対象をそれぞれ別の場所に正確に移動させようとすると、必ずブレが生じ、思った位置に中々移動させられなかったのである。

そして、そうなってしまう最大の原因が、今まで菫子自身が能力でそういった練習や機会が無く、してこなかった事による経験不足から来るものであったが、菫子自身、まさかこのような一件に立ち会う事になろうなど今まで思ってもいなかったため、そこを彼女に責めるのは野暮と言ってもいいだろう。

もちろん、そういった欠点は特訓などをして克服することも可能だが、生憎と今回はそれを完璧に成し遂げる時間も有余もなかった。

しかし、それを菫子自身から四ツ谷へと伝えられた時、四ツ谷はその『演出』に対して一計を案じた。

 

「……でもまさか、こんな簡単な仕掛けで解決しちゃうだなんてねぇ」

 

そう響く菫子の視線の先には、職員専用の机、その上に()()()()()()()()()と丁寧に折りたたまれた()()()()()があった――。

 

まずラジカセの方だが、これは出現の『演出』にではなくその直前に行われた()()()()()の『演出』に使用された。

そしてその方法は、以前命蓮寺で起こった『踊るしかばね事件』で光の三妖精たちが使ったやり方を模倣している。

足音が録音されたカセットテープを入れたラジカセを菫子、小傘、薊が紐でそれぞれ首から下げ、タイミングを見計らって音が重なり合わないようにずらしてそれを流せばいいだけだった。

それに首に下げられたラジカセは、着物と一緒に纏っている御高祖頭巾の余った長い裾を使えば簡単に覆い隠す事も出来た。

 

次に暗幕の方だが、これは人一人をすっぽりと覆えるサイズの長方形の形をしており、こちらが出現の『演出』に使用された。

順を追って説明すると、まず部屋の三隅に上から見てそれぞれ三角の空間(スペース)ができるように暗幕を縦に垂らす。

暗幕は上の角二ヶ所に軽く糊付けして壁に張った状態で止めておくだけで良い。ちょっと引っ張っただけで簡単に取れるようにしておく。

そうして出来た三角のスペース内に菫子たちがそれぞれ入って隠れれば準備完了である。

弱弱しい蝋燭の明かりだけの部屋の中、その四方の隅までは照らされず薄暗くなっているため、暗幕が張られていても見つけにくくなっていたのだ。

後はタイミングを見て暗幕を軽く引っ張れば、暗幕は簡単に落ちて蝋燭の明かりに彼女たちの姿をさらす事になるという寸法である。

彼女たちが纏う衣服も全身白づくめであったのも、漆黒の闇から突然現れるという『演出』でその姿を際立たせるためのモノであった――。

 

「ま、なんにせよ成功だね。後は今後どう事態が進展するかだけど……」

 

ポンと両手を叩いてそう言う小傘に薊が不安げに呟く。

 

「さすがに以前の人たちみたいに永遠亭送りにはならないかもしれませんね……。館長さんみたいな実力は持ってませんから、直ぐに立ち直っちゃうかもしれません……」

「あー、そうかもね……四人でにじり寄ったらあの男、直ぐに気絶しちゃって()()()()()()……」

 

梳も顔を少し曇らせながらそう答える。

実は梳たち四人で部屋を一周した後、周蔵ににじり寄って皆で周蔵の顔を手で覆った瞬間、まるでネジの切れたゼンマイ人形のように周蔵は白目を向いて気絶してしまったのだ。

菫子の念動で立ったまま固定されていた事もあって気づくのがやや遅れたが、そこは全く問題ではない。

だが、周蔵が気を失ったことでこれ以上の続行は不可能となってしまい、『四隅の怪』はそこで終了となってしまったのである。

これで上手くいったのか?と、内心不安を募らせる面々であったが、一人だけそんな不安をおくびにも出していない者がいた――。

 

(……ま、その点は心配する必要はないけどね。私がちゃーんと追撃を食らわせておいたから♪)

 

そう内心で響きながらほくそ笑むのは菫子であった――。

『四隅の怪』終了後、小傘たち三人を先に職員室へ向かわせた菫子は部屋に残り、念動を解除して床に倒れた周蔵に自身の能力の一つであるテレパシーを発動していたのである。

テレパシーは思念伝達の能力であるが、使い方によっては自身の頭の中に浮かべた想像を相手に送る事も出来る。

菫子はその特性を利用し、自身の頭の中に浮かべた『四隅の怪』の呪い――永遠に終わらない無限回廊を想像(イメージ)してそれを周蔵の脳内に転写させていたのだ。

 

(……今頃あの男はその悪夢にうなされてるはず。……ま、自業自得ね)

 

内心でそんな事を考えている菫子の前で小傘たちの会話は進んでいた。

 

「……でも正直な所、上手く行くどころか『最恐の怪談』ができるのかすら不安でした」

「そうだよね……。職員室であの男に柚葉さんが襲われた時、怪談とかもうかなぐり捨てて助けに行こうとしちゃってたもん」

 

薊と梳の会話を聞いて菫子も内心で頷いていた。

この職員室で周蔵と柚葉がいた時、彼女たちは廊下から中の様子を(うかが)っており、周蔵が柚葉に覆いかぶさって乱暴しようとした時も全員が怪談の事を忘れて助けに向かおうとしていたほどであった。

特に菫子は、周蔵の横暴振りがこの一件の参加のきっかけとなった霊夢の姿と重なり、他の三人よりもダントツで怒りに拍車がかかってしまっていたのだ。

そしてその事が、周蔵を菫子が追撃した主な要因にもなっていた。

だが、菫子たちが踏み込むよりも先に柚葉が自力で周蔵から逃げ出す事となり、それを見た彼女たちは安堵して梳を囮にして周蔵を空き部屋に誘い込み、結果的に多少のトラブルはあったものの彼女たちも『最恐の怪談』をやり遂げる事ができたのだった。

様々な感情を持って物思いにふける少女たち。

しかし、唐突に薊が眠たそうに小さくあくびをしたのを見ると、他の三人は自然と小さく破顔する。

そして先導するかのように菫子が皆に口を開いた。

 

「帰ろっか。もう日をまたいでいる時間帯だと思うし」

「そうですね。あの男はどうしますか?このまま寺子屋に放置ですか?」

「慧音先生に頼んでどっか手ごろな空き家にでも放り込んどいてもらおっか。朝になったら自然と眼を覚ますと思うし」

 

梳の問いに小傘が軽い調子でそう提案すると、他の三人もそれに賛成し、この一件はこれにてあっさり終了と相成ったのであった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お勤めご苦労様、怪談馬鹿」

「……俺を刑期を終えて出所する囚人みたいに言うな」

 

翌朝、博麗神社の境内に霊夢と四ツ谷の姿があった。

何か大きな風呂敷包みを片手に下げた四ツ谷はしかめっ面で霊夢を睨む。

朝一番にやって来た慧音の一報で人里で起こった『四隅の怪』の一件が解決した事を聞いた霊夢は、早々に四ツ谷を開放したのであった。

 

「……ったく。せめて朝飯を喰ってから開放すりゃいいのに」

「馬鹿言わないで。アンタにタダ飯食わせる義理なんて本来無いんだからね。私の予感が()()()()()()()()()、もうアンタに用は無いわよ。ほら、分かったらもうさっさと帰った帰った!」

 

文句を言う四ツ谷に、眼の下に薄っすらと(くま)を作った霊夢は、それでも弱さの見せないはっきりとした嫌味口調で四ツ谷をシッシと追い払う素振りを見せた。

霊夢のその態度に四ツ谷は口を尖らせるも、直ぐにやれやれと肩を落として、神社の出入り口である石段へと踵を返す。

 

「わかったよ。……世話になったな博麗の素敵な(笑)巫女。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

片手を振り石段を降りながら、最後に背中越しに霊夢に向かってそう吐き捨てた四ツ谷は彼女の視界からゆっくりと石段の向こうへと消えていった――。

 

 

 

 

 

 

そして、石段を降りきった四ツ谷の前に彼を待っていた者たちがいた。

 

「ありゃ、迎えに来てたのか」

 

少し意外そうな顔をする四ツ谷に四ツ谷会館の面々と慧音と妹紅、そして梳と菫子が駆け寄ってきた。

 

「師匠大丈夫でしたか?霊夢さんに酷い目にとか会わされていませんでしたか?」

「だーいじょうぶだよ、三食昼寝付きで結構悠々自適な生活をさせてもらったよ。シッシ♪」

 

そう言って少し心配げな顔をする小傘に、四ツ谷は問題ないと軽く答えた。

事実、()()()()を除けば、霊夢の四ツ谷に対する対応は悪いものではなかった。

まあ、三食を配給に来るだけで後はほとんど放置状態だったのだから、悪くは無いが同時に良いとも言えなかったのだが。

少し忌々しげな表情を一瞬作った四ツ谷は、次に小傘、薊、梳、菫子を順に一瞥すると、口を開いた。

 

「まあ、なんだ。……成功した事は宇佐見のテレパシーで既に知ってはいたが……一応、一応一言だけ、ひ・と・こ・と・だ・け、お前ら全員に言っておこっか……」

『?』

 

首をかしげる四人の少女を前に、四ツ谷はいつもの不気味な、それでいていたずらっ子が浮かべるような笑みを顔に貼り付けると、

 

「おつかれさん♪」

 

そう一言だけ、四ツ谷には珍しい労いの言葉をかけたのだった――。

 

 

 

 

 

 

「所で館長さん。その風呂敷包みは何ですか?」

「……できれば触れてほしくなかった……」

 

薊の問いかけに半ば諦めたような口調で四ツ谷は、これまた半ば自棄になって風呂敷の中身を答えると、それを聞いた全員が四ツ谷から数歩距離を離したのは言うまでもない。まあ、菫子だけは最初から風呂敷の中身に気づいていたので始めから皆よりも四ツ谷から距離を置いてはいたという事実だけはここに付け加えておく。

 

「……ッ!くそっ!さっさと帰って農家のおっさん辺りに肥料として売っぱらってやる!!」

 

そして、全員のその態度を見た四ツ谷は額に青筋をたてて感情のままに最後にそう叫んでいた事も付け加えておく――。

 

 

 

 

 

 

 

――せいぜい良い夢でも見てるこったな――。

「……?」

 

同じ頃、博麗神社の境内に残った霊夢は、去り際に四ツ谷が吐き捨てた最後の言葉に首をかしげていた。

 

(せいぜい良い夢でも……?徹夜した私に対してゆっくり寝て休めっていう労いの言葉かしら……?いや、それにしては……)

 

どうにも釈然としない四ツ谷のその言葉に霊夢は眉間にシワを寄せて首を捻るも、直ぐに諦めたように首を振った。

 

(まあ、もうどうでもいいわ。ようやくこの一件も解決したし細かい事なんて考えるだけ野暮ってモンよ)

 

そう考えた霊夢は踵を返し、今から寝ようと布団を敷いた寝床へと向かう。

そこへ向かう途中、霊夢は硬くなった身体をほぐすかのように大きく背伸びをする。

 

「う~んっ!『最恐の怪談』も防げたし、人里の一件も解決。もう言う事無しね♪」

「……やられたわね」

 

気の抜けた声で独り言を呟く霊夢。それに水を刺すかのように別の声が彼女の直ぐ真横からかかった。

寝不足で反応が一瞬遅れるも、霊夢は直ぐに()()()から距離を置いて声の主を睨む。

 

「……なんだ、紫じゃない。いきなり驚かさないでくれる?」

 

そこにいた自身のスキマの上に座って、何故か呆れた顔で頬杖をつく妖怪賢者に霊夢は警戒を解いてそう文句を垂れる。

その言葉に賢者――紫は何も反応も返さなかったが、それに構わず霊夢は続けて問いかけた。

 

「……いつ冬眠から目覚めたの?」

「つい数日前よ。ホントは直ぐに顔を見せようかなって思ってたけど、どうにも人里で面白い事が起こってるって知って気になって静観してたのよ」

 

幻想郷を覆う博麗大結界の維持には莫大な妖力が必要となる。そしてその妖力を送っているのは主に紫本人なため、彼女は冬に定期的に長期睡眠をとってそれを回復していた。

そして今年、回復を終えて目覚めたばかりの紫の耳に、藍から届けられた第一報が人里の『四隅の怪』の一件だったのである。

 

「あら、そうなの?なら、アンタも手伝ってくれりゃあよかったのに。……ま、全部終わった今となっちゃ、もうどうでもいいんだけどね」

 

頭をガシガシとかきながら眠そうな口調で適当な言葉を投げかける霊夢。

対して紫は眼を細めて静かに声を上げた。

 

「へぇ、そう。……『最恐の怪談』を()()()()()()からふて腐れてるのかしら?」

「そうよ。だからもう眠いからさっさと帰ってく――」

 

欠伸をかみ殺しながらそう紫に返答する霊夢であったが、それが唐突に止まる。

そして、数秒間その場に棒立ちになった後、バッと勢いよく紫に向き直った。

 

「……今、何て言ったの……?」

 

慎重な口調でそう問いかける霊夢に紫はあっけらかんとした口調で答えた。

 

「昨晩、『最恐の怪談』が人里で行われた。って言ってるんだけど?」

「……嘘でしょ?何かの間違いよ。……だって、あいつは……!」

 

驚愕して詰め寄る霊夢に紫は手で制して落ち着いた口調で言う。

 

「ええ、そうね。昨晩貴女はずっと寝ずの番で四ツ谷さんを監視してた。そして、()()()()『最恐の怪談』を行ってはいない……」

「あいつ自身は……?」

「順を追って説明するわね」

 

そうして、昨晩人里で何があったのか、その一部始終を紫は知ってること全部を霊夢に丁寧に語って聞かせた。

話が進むにつれて、霊夢の目が驚きに大きく見開かれていった。

そして、紫から全ての全容を聞かされるとその場に呆然となる。

 

「嘘でしょ……?語ったのはあの梳って外来人?しかも、菫子もあいつとグルだったなんて……」

「四ツ谷さんばかりに目がいって彼の周囲の者たちに目がいかなかったあなたの失敗ね、それは。その上、宇佐見菫子、彼女を敵に回す要因を作ったのも失態の一つね」

 

愕然と顔を変化させる霊夢に、紫は容赦なく指摘してゆく。

しかし、唐突に一息つくと先ほどとは違い、棘のない口調で霊夢に続けて口を開いた。

 

「でも、まあ。それでも四ツ谷さんを拘束した事は評価するわ。そのおかげで彼の能力は発動せず新しい怪異も生まれなかったわけだし」

「ぐっ、くぅぅぅ……!な、なんて事なの!アンタもアンタよ、何でそれを知っていて止めるなり私に伝えるなりしなかったのよ!?」

 

ようやく四ツ谷に言いようにあしらわれ、手玉に取られた事に気づいた霊夢は、顔を赤くして紫にそう詰め寄る。

しかし紫はキョトンとした顔で答えた。

 

「え、なんで?語ったのは四ツ谷さんじゃないから怪異が生まれるわけじゃ無いし、()()()()()()止める必要なんてこれっぽっちも無いんだけど?」

「……っ!!」

 

正論とも言える言い分に霊夢は二の句が告げなくなる。

しかし数秒後、霊夢は怒りを押し殺したかのような声色で独り言のように呟きだした。

 

「……私、昨日あいつに言っちゃったのよ。『『最恐の怪談』が起きなければ私の勝ちだ』って」

「あー、確かにそんな事言っちゃってたみたいねぇ~」

「あいつは確かに今回何も()()()()()()……。でも、『最恐の怪談』は起きてしまった……。これって間接的にあいつが『最恐の怪談』を行ったってわけよねぇ……?」

「まぁ、そうなるわねぇ~」

 

ブルブルと両腕を震わせて俯きながら紫に確認するかのようにそう問いかけ続ける霊夢。

その言葉に肩をすくめて適当に返す紫。

そして最後に霊夢はやや強めの口調で紫に問いかける。

 

「……これって、私の負け……?」

「『最恐の怪談』が起こるか起こらないかで勝負が決まるはずだったのなら…………そういう事になっちゃうのでしょうね。ご愁傷様」

 

そう答えて静かに自分に向けて合掌する紫を目の前にして、霊夢は声を震わせる。

 

「ふ、ふふふ……ふふふふ……今ようやく分かったわ。さっきあいつが言い捨てて行った言葉の意味……」

 

――せいぜい良い夢でも見てるこったな――。

アレは事の真相を知らない自分に向けてのあいつなりの最大限の皮肉だったのだ――。

事実を知るまで道化として踊っていれば良いという――。

 

「ふふ……久しぶり……久しぶりだわここまで私がコケにされたのなんて……!」

 

そこまで呟いた霊夢は一度沈黙すると、直ぐにお腹に力を入れ、今ある怒りの感情全てを言葉に乗せて朝の空に向かって大きく解き放っていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あンの、クソ怪談馬鹿ァァァ~~~ッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝の空に響き渡る霊夢の怒声、それは春の風に乗って家路へと向かう四ツ谷たちの耳にも届いていた――。

歩きながらそれを聞いた四ツ谷は満足げな笑みを浮かべる。

ふと横を見ると、同じく耳に届いたのか菫子も溜飲が下がったとでも言いたげな清々しい笑みを浮かべながら歩いていた。

それを見て、この一件全てに決着がついた事を理解した四ツ谷はいつもの不気味な笑みを顔に貼り付け、春の空に向けて締めの口上を唱え、幕を静かに下ろした――。

 

 

 

 

 

「『四隅の怪』……これにて、お(しま)い……」




最新話投稿です。

いやぁ、この章も後一話で完結です。
振り返ってみれば、もう一年以上かかってましたw
いや~、長かったw
後日談を少々書くつもりですが、それが終わり次第、次章へと向かいます。
今気づきましたが、また一万字近くまで書いてましたw

次の投稿も速めに上げられるようがんばります。ではw
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