四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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前回のあらすじ。

霊夢と華扇は人里の様子が気になり、調査を開始する。


其ノ三

「昨日の晩に騒ぎ?……一体何の話だ?」

「確かにうちはあの家の向かいにあるけれど、あそこの子の悲鳴なんて聞かなかったわよ?」

「そこの桃色髪のねーちゃんの勘違いじゃないのか?」

「子供たちが外で見かけなくなってる?気にしすぎじゃない?」

「うちの子はちゃんと寺子屋に行ってるわよ」

「子供の失踪なんて無かったと思うけど?」

「刃傷沙汰だぁ?あったっけそんなの?」

「あそこの家で刃傷沙汰なんて起こってないわよ。騒ぎにもいっさいなっていないわ」

「あら、霊夢さん。稗田の家に何か?…………。昨晩の騒ぎ?刃傷沙汰?……一体何の話ですか?」

「いらっしゃいませ~。鈴奈庵にようこ……って霊夢さん?…………。へ、へぇ~、昨日の夜にそんな事が?それに刃傷沙汰とかも?……す、すみません、私ここ最近、ずっと店に篭りっきりだったもので何も知らないんです」

 

 

 

 

 

 

『……巫女様の思い過ごしだと思いますけど?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どーなってんのよ、コレ?」

「分からないわ……」

 

人里の一角にある甘味所――団子屋に設置された長いすに、力なく座り込む霊夢と頭を抱える華扇の姿があった。

少し前に人里へとやって来た二人は、早速聞き込みを開始したのだが、彼らから聞く答えは、まるで狐につままれたかのような、予想外のモノばかりであったのだ――。

 

「目に付いた人に片っ端から聞き込んでんのに、全員が全員、まるで口裏を合わせたかのように昨晩の騒ぎも、刃傷沙汰も、子供たちの減少も全否定って……一体全体どう言う事よ!?」

 

周囲に人がいるにも省みず、霊夢は空に向かってそう叫んでいた。

些細な情報だろうと得ようと、めずらしく気合を入れてやって来たと言うのに、情報を得る所か、ここ最近の人里で起こった一件が綺麗さっぱり無かった事になっていたのだ。

まるでこの一件が丸ごとごっそり隠蔽(いんぺい)されたかのように――。

 

「まさか……人里中の人間がグルになってもみ消した……?でも、そんなのかえってただ事じゃない……!」

 

ブツブツとそう独り言を呟く華扇。その横で霊夢も思案顔になって考えていた。

 

(華扇の言うとおり、これはただ事じゃないわね……。でも、情報らしい情報もつかめない今、何が起こってるのかすら皆目見当もつかない……!――ったく、もう!どうにもこの一件の裏にあの怪談馬鹿が絡んでいるように思えてならないわ……!)

 

脳裏にシッシッシ!と笑う件の変人の顔を思い浮かべ、霊夢はガシガシと頭をかいた。

と、その時。聞きなれた少女の声が霊夢と華扇の耳に届いた。

 

「おいおい、何言ってんだよオッサン!アンタも見ただろ!?この通路の先にある民家で刃傷沙汰あったの!!って言うかあん時、刃傷沙汰があったのを私に教えたのオッサンじゃないか!!」

「さ、さぁ~どうだったかなぁ?最近、やたらと物忘れが酷くなってきててこの間の事なんて何一つ覚えていないんだよ。……わ、悪いが今急用で急いでるんだ、じゃあな」

「あ!おい、待てって!――くそっ!!」

 

霊夢と華扇は同時に同じ方向へ眼を向ける。

そこにはそそくさと立ち去る中年男性の背中を、肩を怒らせながら鼻息荒く睨みつける魔理沙の姿があった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ったく、何だって言うんだよ。揃いも揃ってとぼけ面しやがって!」

「……ちょっと魔理沙、それ私の頼んだ団子なんだけど」

「刃傷沙汰を一緒に見ていたオッサンだってあの態度だぜ?クソ面白くもねぇ!」

「聞きなさいよ、タダ食い魔理沙」

「いーじゃんかよ、霊夢。おごりって事にしといてくれよ。返済期限は私が死ぬまでにしといてくれ」

「OK。要は早死にしたいってわけね。わかったわ、団子代はあんたの葬式でもらえる香典(こうでん)で返済にしてあげる」

 

数分後、霊夢と華扇が座る団子屋の長いすに魔理沙も加わって座っていた。

魔理沙は、今までの一件が無かったように振舞う人里の人間たちの態度が気に入らないらしく、憤りながら霊夢の注文していたみたらし団子を本人の断り無く取って食べ。

霊夢はそんな魔理沙の態度に、こめかみに血管を浮き立たせて懐からお札を取り出して睨みつけていた。

そんな二人に華扇は声を上げる。

 

「魔理沙、霊夢も落ち着きなさい。特に霊夢、こんな所で殺傷高い弾幕なんて放ったら確実に周りにも被害が出るわよ?」

 

やや疲れたようにそう言う華扇を尻目に、団子を食べて竹串だけを持った手をぶらぶらと揺らしながら魔理沙は呟く。

 

「……この一件、事の発端がガキ共の減少から始まってると私は睨んでる。何せ刃傷沙汰や昨晩の一件よりも前に、初めに起こったのがそれだったからな」

「子供の減少……なら、教師である慧音なら何か知ってるかもしれないわね」

 

霊夢がそう言って次の聞き込み調査対象を捕捉するも、魔理沙は直ぐに頭を振る。

 

「だーめだ、霊夢。私もそう思ってちょっと前に寺子屋に行ったんだが、ここ最近休んでいるらしく連絡すらないんだと。……あいつの家にも行ってみたが、見事にもぬけの殻だった」

「……どういう事?」

「……雲隠れ?」

 

霊夢が首をかしげ、華扇が怪訝な顔でそう呟き、その華扇の言葉に魔理沙は強く頷く。

 

「そう!私もそう思った!……大方、私らが調査に乗り出すのを見越して自ら消息を絶ったんじゃないか?あいつ嘘つけない性格してっから」

「……けど、問題ないわね。隠れてる場所ならおおよそ察しは着くから」

 

頬杖をつき、そう響いた霊夢の脳裏に、慧音の親友である竹林に住まうもんぺ少女の姿が映っていた。

霊夢はすっくと立ち上がると、勘定を長いすに置いて歩き出す。

少し遅れて魔理沙と華扇も立ち上がって霊夢の後を追った。

 

「おいおい、霊夢。まさか今から竹林まで行くつもりか?」

「そうよ。何?まだ日は高いし、あそこは人里のすぐそばにあるからそう時間はかからないでしょ?」

 

魔理沙の言葉に、霊夢は素っ気無くそう答え返す。しかし、魔理沙はいやいやと首を振る。

 

「あそこの竹林は頭に『迷いの』ってつくだろうが。土地勘のあまり無い私らじゃ下手すりゃ迷子だぜ?そんな面倒な所行かんでも、慧音と同じく寺子屋で教師やってるあの怪談馬鹿の方に聞きに行けば手っ取り早くないか?」

 

怪談馬鹿。その言葉が魔理沙の口から出た途端、霊夢は何とも複雑な表情を作ってその場で歩みを止めた。

何事かと魔理沙は霊夢の顔を覗きこむも、霊夢はどこか上の空で虚空を睨みつける。

 

「怪談馬鹿……ねぇ……」

「……?どうしたんだよ霊夢。なんか喉に小骨が刺さったみたいな顔してるぜ?」

「……やっぱり腑に落ちてないみたいね。あのスキマ妖怪の言葉が」

 

明らかに様子のおかしい霊夢に魔理沙は怪訝な顔をしてそう響き、そこへ華扇が割って入って来る。

 

「スキマ妖怪?紫の事か?……おいおい、一体何の話だ???」

 

魔理沙の視線がどう言う事かと霊夢から華扇へと移り、華扇はここに来る前に博麗神社であった事を魔理沙に説明すべく口を開きかける。

が、そこで思案顔になっていた霊夢の表情がキッと豹変する。

そうして唐突にとある方向に向けてズカズカと歩き出した。

 

「「?」」

 

突然の事に魔理沙と華扇は呆気に取られる。

しかし、霊夢はそんな二人の様子に気付く事無く歩き続ける。その先には――。

 

「柏餅はいらんかえ~!甘くて柔らかい柏餅はいらんかえ~!もうすぐ端午の節句(こどもの日)!子供たちに柏餅をお土産にどうですか~?その時はこちらの和菓子屋をどうぞよしなに~!」

 

――和菓子屋の前で、柏餅を売っている売り子の娘がいた。

人里の人間にしてはめずらしい短い赤毛の娘で、同じく赤い着物を纏って売り物の柏餅の入った箱を片手に、道行く人たちにそれを売って回っていた。

しかし、その娘の姿には一つだけ少し妙な所があった。それは春の時期であるこの温かい日和の中で、何故か分厚い首巻を首の部分にがんじがらめにしていたのだ。

 

「「あ」」

 

その娘を見た途端、魔理沙と華扇は同時に眼を丸くし、声を漏らす。

と同時に、前を歩く霊夢はその娘の前に立ち声をかけた。

 

「ちょっと、私にも一箱くれない?」

「あ、はい!まい……ど……」

 

霊夢を視界に納めた途端、営業スマイルを浮かべていたその娘は、その表情のまま凍りついたように固まり、同時に売り物の柏餅の箱をボトリと手から滑り落としていた。

そんな娘を見ながら霊夢はため息と共に口を開く――。

 

「……あんた、こんな所で一体何やってんのよ――赤蛮奇(せきばんき)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何って、見ての通り柏餅の売り子ですよ、霊夢さん」

 

和菓子屋の脇にある小さな路地、人目につきにくい場所にあるその路地で売り子の娘――赤蛮奇は、ボリボリと頭をかきながら面倒くさそうに霊夢にそう返していた。

この赤蛮奇、その正体は飛頭蛮(ひとうばん)と呼ばれるろくろ首の仲間とされる妖怪で、四ツ谷たち会館組や上白沢慧音同様、人里の人間社会に溶け込んで生活をしている少女であった。

 

「人里で生活する以上、そこの規則(ルール)にしたがって生きなきゃいけませんからね。霊夢さんたちだってそうでしょう?金は天下の周りもの、持てばこの世の楽園(パラダイス)ってね」

「……まぁ、その点は確かに同感ね」

 

少し前まで貧乏生活を送っていた霊夢は、赤蛮奇のその言葉には素直に同意を示した。

しかし、幻想郷の調停者である博麗の巫女である手前、人間たちに紛れて暮らす人外には警戒の念を向けなければならなかった。

 

「……あんた、この和菓子屋でいつから働き出したのよ?」

「まだ今月に入ってからですよ。……そんなに警戒しなくても店主さんや他の従業員の人たちに悪さなんかしてませんって」

 

そんなに信用できませんか?と、やや呆れ気味に言う赤蛮奇を霊夢はジーッと見据える。

数秒の沈黙後、霊夢はゆっくりと赤蛮奇への警戒心を解いた。

 

「……どうやら、嘘は言ってないみたいね」

「分かっていただけて私も嬉しいですよ。それじゃあ、もういいですよね?速く仕事に戻らないといけないんで」

 

やれやれと肩を落とした赤蛮奇は、霊夢たちへのあいさつもそこそこに仕事に戻ろうと歩き出す。

しかし、そこで霊夢が待ったをかけた。

 

「待ちなさい。今思ったけれど、この人里に住んでるのならここで飛び交っている噂とかも聞いた事あるの?」

「噂?……ええ、まあ多少は」

 

歩みを止めて当たり障り無くそう答える赤蛮奇。それを聞いて声を上げたのは霊夢ではなく、今まで成り行きを見守っていた魔理沙であった。

 

「じゃあお前、この間とある民家で刃傷沙汰があったの知ってるか?」

「刃傷沙汰?……ああ、ありましたねそんなの。私は人伝に聞いただけなので現場には行かなかったですけれど」

 

魔理沙の問いに赤蛮奇がそう答えると、今度は魔理沙の隣に立つ華扇が問いかける。

 

「それじゃあ、昨晩あった騒ぎって知らない?女の子が悲鳴を上げて家から転がり出てきたって話しなんだけど」

「昨晩……?ああ!確か同じ和菓子屋の同僚の女性がそんな事言ってましたっけ。彼女の家、その騒ぎのあった家の近所だったらしくて、悲鳴が上がった時は心臓が飛び出るほど驚いたって言ってましたよ」

 

赤蛮奇のその答えに華扇は「やっぱり……」と、そう呟く。

そして最後に霊夢が赤蛮奇に詰め寄って聞き出す。

 

「じゃあもちろん。最近、人里の子供たちがそとであまり見かけなくなったのも知ってるわよね?」

「ええ、もちろん。和菓子屋によく来ていた子供たちがいたんですけれど、いきなりぱったり来なくなったんでおかしいなと思ってましたから」

「やっぱり、人里の人間たちは皆して誤魔化していたのね。……じゃあなんで知らないなんて嘘を……?」

 

そう呟きながらむむむっと唸る霊夢に向けて、赤蛮奇は驚きの事実を口にする。

 

「そりゃあ、まぁ……今現在、人里じゅうに『緘口令(かんこうれい)』がしかれていますからね」

「「「緘口令!?」」」

 

驚きで霊夢、魔理沙、華扇の三人の声が重なった――。




最新話投稿です。

今回も短めでどうもすみません。
どうも、最近また筆の進みが遅くなってきています。
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