四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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前回のあらすじ。

赤蛮奇に人里の情報収集を任せた霊夢は、彼女の口から密かに新しい怪談が噂されていたのを知る。


其ノ五

「紫様。あのろくろ首を放置しておいて良かったので?殺さないにしても、口止めさえしておけば……」

「いいえ、藍。遅かれ早かれ霊夢には全てを知られていたと思うわよ。何せあのろくろ首に接触する前から四ツ谷さんの事を疑ってたしね。それに……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……そこで完全に詰みになっているわ――そして、それは今まさに現実になろうとしている……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズルズルズル……ズルズルズル……。

ズッズッ……ズルルルル……。

ズル……ズル……。

 

人里の一角に建つ立ち食い蕎麦屋。

日が完全に落ち、明かりが漏れるその店の中に、霊夢、魔理沙、華扇の三人が仲良く蕎麦をすすっていた。

魔理沙が蕎麦をすすりながら霊夢に問いかける。

 

「……霊夢、赤蛮奇が聞いたって言う『怪談』……。今回の件と関係あんのかな?」

「さぁねぇ、まだ何とも言えないわ」

「でもさぁ、聞いた感じ、『番町皿屋敷(ばんちょうさらやしき)』っぽい怪談だと思ったが、今回の事とあまり関係ないように思えるんだぜ」

「……私は、無関係だとは思わないわ。赤蛮奇がその怪談を聞いた()()からしてみても妙よ」

 

魔理沙の言葉に、それまで黙々と蕎麦をすすっていた華扇も会話に入って来る。

 

「その『怪談』が人里内でも一握り……それも、()()()()()()()()()()()()でしか広まってないってのは、どう考えても変よ」

 

赤蛮奇の話を脳裏で思い出しながら、霊夢は華扇の言葉に静かに耳を傾けていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――元々、赤蛮奇自身も『怪談』の存在を知ったのは全くの偶然であった。

 

今日の昼間、自分が働いている和菓子屋の店に、たまたまその店を贔屓(ひいき)にしている、近くに住む奥様集団がやってきたのだ。

何を選ぼうか、何を頼もうか姦しく騒ぐ奥様連中のそばで、人間を装った赤蛮奇は、耳にタコができる思いを感じながら店内に備え付けられたテーブルの上の商品の補充を行っていた。

 

(速くどれ買うか決めて、さっさと帰ってくんないかな……)

 

赤蛮奇がそんな事を思っていると、奥様連中の一人である女性が、ふと気になる事を喋り始めたのだ――。

 

『……それにしても良かったですわね、山田さん所の息子さん。また、寺子屋に通うようになって』

 

その言葉を皮切りに、他の奥様達も口々に喋りだす。

 

『ホントにねぇ、一時はどうなるかと思いましたけれど、何とか元の日常に戻ってきたので良かったですよ』

『……私の所の娘も、()()()()()()()()()()ですよ……』

『元気出してください、田中さんの奥さん。近いうちにきっと元に戻りますから』

『……それにしても、本当に出たんですかね?……()()

『さぁ……。あの子が悲鳴を上げた時、私も主人も()()を見てはいないので何とも……』

 

(『元に戻る』?『あれ』?『それ』……?一体、何の話をしてるの?)

 

商品を補充しながら会話を盗み聞く赤蛮奇は、人知れず怪訝な顔を浮かべた。

その間も、奥様達の会話が続く。

 

『……でも、実際に出たと言うことは、()()()()()()()()()()が語った()()()()は、本当の事だったって事ですよね?』

『慧音先生から「館長さんの怪談を聞いてくれ」と言われた時は、「()()()()()()何を!」って怒鳴っちゃいそうでしたけれど……』

『今にして思えば……あれも()()()()()()()()()()()()、だったんですかね?』

 

 

 

『……怪談?』

 

 

 

『怪談』という気になる単語が出てきた事で、そばで聞き耳を立てていた赤蛮奇は思わずそうポツリと声を漏らしていた。

そして次の瞬間、赤蛮奇のその声が聞こえていたらしい奥様連中は、一斉に赤蛮奇へと視線を向ける。

それを見た赤蛮奇は、しまったとばかりに口を手で押さえるも、もう遅かった。

驚いた眼を向ける奥様連中の一人が、恐る恐る赤蛮奇へと声をかける。

 

『お赤ちゃん、もしかして今の……聞こえちゃってた……?』

『あ、えっと……、すみません。盗み聞きする気はなかったんですけれど……』

 

真っ赤な嘘である。しかし余計な波風は立てぬよう、体裁だけは整えておかねばならない。

嘘八百を並べて奥様たちに言い訳をする赤蛮奇は、そばに説教癖のあるあの閻魔がいない事に内心つくづくホッとする。

赤蛮奇のその言い訳が事実だと受け取ったのか、奥様たちは苦笑顔でお互いの顔を見合わせた。

それを見た赤蛮奇は、思い切って彼女たちに切り込んでみる。

 

『あの……さっき、言ってた怪談って何の事です?』

 

赤蛮奇のその質問に奥様たちは直ぐにはそれに答えず、お互いで会話を始める。

 

『どうする?』

『別に良いんじゃないかしら?もう聞かれちゃったんだし。それに、お赤ちゃんは人里の人間だから、一人ぐらい教えちゃっても大丈夫でしょう?』

『それもそうね』

 

まさか目の前の少女が、人間ではなくそこに紛れ込んでいる妖怪だとはつゆ知らず、奥様たちは赤蛮奇を心底人里の人間だと信じて疑わず、軽い調子でそんな会話を交わし、それを聞いた赤蛮奇は小さく苦笑を浮かべずにはいられなかった。

やがて奥様たちは、改めて赤蛮奇に向き直り、その内の一人が口に人差し指を当てながら、念を押すかのように赤蛮奇に口を開いた。

 

『それじゃあ、お赤ちゃんには特別に教えちゃうけれど、誰にも言っちゃ駄目よ?もちろん、私たちから聞いたって言うのも駄目だからね?』

『はい!分かりました!』

 

ニッコリと笑いながらそう答える赤蛮奇は、内心でチロリと舌を出していた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔理沙に「まだ分からない」と言ったばかりであったが、その時の事を赤蛮奇伝いに聞いた霊夢は、内心、四ツ谷がこの件に何らかの関わりがあると確信していた。

そして、それと同時に四ツ谷会館の者たちだけでなく、()()()()()()()()()()()がいる事も――。

 

(人里の人間たちに、慧音にそして、()()()……結構多く関ってるじゃない。これはますます博麗の巫女として無視できなくなってきたわ)

 

そんな事を考えながら、霊夢は蕎麦屋の亭主に勘定を済ませると、魔理沙と華扇と共に店を後にする。

そうして、店を出て直ぐに、霊夢は懐から折りたたまれた一枚の大きな紙を取り出し、それを広げる。

――それは、人里の地図であった。

どこに、どんな店舗や住居があるのか事細かく書かれたそれを、霊夢を真ん中に挟んで魔理沙と華扇も左右から覗き込む。

まず、華扇が口を開いた。

 

「……次に襲撃がある民家に、何か心当たりでもあるの?霊夢」

「そんなの、あるわけ無いじゃない」

 

華扇の問いかけに、霊夢は間髪いれずにそう答え、そして続けて言う。

 

「前回起こった場所も時間帯もぜーんぶチグハグ。これに何かしらの規則性を探ろうとする事事態、無駄な努力よ。たぶん……いや間違いなく、()()()()ただ単に、適当に次に狙う家を選んでそこに襲撃をかけてるだけね」

「じゃあどうするんだぜ?」

 

魔理沙のその言葉を聞きながら、霊夢は地図に眼を走らせながら、あっさりとした口調で言う。

 

「そりゃあ、もう、『直感』に頼る他無いじゃない」

 

呆気に取られる魔理沙と華扇、そんな二人に構わず、霊夢は地図を見ながら二人に向けて口を開く。

 

「……前回までは西側の地区で襲撃が起こっていたから、今回は恐らく東側の地区を襲って来ると私は睨んでいるわ。……一口に東側と言っても子供のいる家は多くある。でも、私の長年培われてきた『勘』を頼りに言わせてもらえれば……今回、襲われる家はここか、もしくはここね……」

 

そう言って霊夢は地図に記された二ヶ所の民家のマークを指差す。

何の根拠も確証も無いと言うのに、そう自信ありげに響く霊夢に、魔理沙と華扇は開いた口が塞がらず、何とも言えない微妙な表情を浮かばせながら、お互いの顔を見合わせていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、霊夢。本っっっ当に、この家か、向こうの突き当たりの民家に出るんだよな?」

「それ聞くのこれで何度目よ魔理沙。もぅ、いい加減にしてくんない?そんなに私の『勘』が信用ならない?」

「……いや、お前とは長い付き合いだから、お前が適当な事を言っていないのは分かるし、今更お前の常人離れした『勘』を疑う事の方がおかしいのも分かる。分かるんだが……」

「だったら四の五の言ってないで見てなさい。これ以上、何か意義を申し立てするんなら、その減らず口に『夢想封印』よ」

 

いまいち釈然としない魔理沙の言い分に、霊夢は苛立たしげに吠える様に言い返す。

蕎麦屋から移動した霊夢たちは、とある民家の前にいた。

とっくの前に明かりを消したその民家は、()()()()()()()()住人全員が既に眠っているかのようにシンと静まり返っていた。

そんな民家の前でギャーギャーと姦しく騒ぎたてる霊夢と魔理沙。

そんな二人を、見かねた華扇が仲裁に入る。

 

「ちょっと二人とも。もう少し静かに出来ないの?この家の人だけじゃなく、周りの家の人間たちも起きちゃうじゃない」

「うっさいわね、文句があるなら魔理沙に言いなさいよ」

「いや、だって、流石になぁ……」

 

頬を膨らませてプリプリと怒る霊夢とバツが悪そうに人差し指でポリポリと頭をかく魔理沙。

そんな二人を見てやれやれと肩を落とした華扇は何かを言おうと口を開きかける。その次の瞬間――。

 

 

 

 

「-----------------ッッッ!!!!」

 

 

 

 

――絹を裂くような少女の悲鳴が、霊夢たちの目の前に建つ民家から大きく轟いた。

ポカンとなる魔理沙と華扇。そんな二人を前にフンと胸を張って霊夢は声を上げる。

 

「ほぉら見なさい!さっさと突入するわよ!」

 

そう言い残して霊夢はすぐさま民家の玄関戸を蹴破って中へと入って行く。

 

「うっそ……」

「マジか……」

 

未だ状況についていけていない華扇と魔理沙は、家の奥へと押し入っていく霊夢の背中を呆然と突っ立ったまま見つめながら、そう呟いていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……あぁぁ……!」

 

――民家の裏手側にある薄暗い部屋の中。その部屋の持ち主である少女は、壁際に自身の体を寄せながら、ブルブルと小動物のように震え、怯えていた。

恐怖に染まる少女の瞳……その視線の先には、ぼんやりと光を放つ()()()()()()()()――。

 

 

 

 

――……ザザッ……ザザッ………………ザザザザッ…………!

 

 

 

 

――()()()()()()()が部屋の中に静かに響き渡る。

そして、どうやらその砂嵐の音は、少女の見つめている箱から発せられていた。

 

と、次の瞬間――その箱の中から細く、青白い腕がニュルリと突き出てきた。

 

「ひっ!?」

 

短い悲鳴を上げる少女。その間に腕は掌を畳にそっと着ける。

 

 

 

    ……ヒタリ……。

 

 

 

                  ……ヒタリ……。

 

 

 

やがて腕だけでなく、肩、そして長く()()()()()()()()()()を垂らした頭が箱からゆっくりと姿を現す。

 

「――ッ!――――ッ!!」

 

少女は何とか声を上げて助けを呼ぼうとするも、恐怖で声が詰まり、助けを呼ぶ事ができなくなっていた。

がくがくと震える少女の両足――その両脚の付け根辺りから、じんわりと少女から出てきた液体が、少女の着物を濡らし、ゆっくりと広がっていく――。

同時に、箱から出てきた()()()胸、腹、腰と、徐々にその全身を現していく――。

少女の着物が吸収し切れなかった液体は、少女の脚の間を伝い、やがて足元の畳へと到着すると、少女を中心に()()()を作り始めた。

自身の足元で徐々に広がりを見せる水溜りに気づいていない少女は、恐怖を顔に貼り付け、その双眸から涙を流し続けながら、箱から出てきた()()()凝視し続ける。

そしてついに……箱から出てきたソレは、完全にその姿を少女の視界にさらけ出す。

 

 

――それは、白い服を纏ったずぶ濡れの女であった。

 

 

頭から足先まで、まるでバケツの水を被ったかのように濡れたその女は、池の水のような生臭い匂いを漂わせながら、一歩一歩、壁際で怯え続ける少女へと歩み寄っていく――。

腰辺りまである、柳のように垂れた黒髪は、女の顔をすっぽりと覆い隠しており、その表情は少女からはうかがい知れる事は出来なかった。

だが、それがかえってその女の不気味さを強調させる要因となり、少女はますます持って恐怖で発狂してしまいそうであった。

 

やがて、女と少女の距離が目と鼻の先まで縮まる。

濡れた女はゆっくりと右手を持ち上げると、恐怖に染まる少女の顔へとその青白い手を伸ばし――。

 

 

 

 

「そこまでよ!!」

 

 

 

突然に部屋の襖がバンッと叩きつけるように開かれ、そこから紅白の特徴的な巫女服を纏った少女が部屋の中に飛び込んできた。

巫女服の少女――霊夢は部屋に立つ少女と濡れた女を視界に納めると、間を置かずして濡れた女に数枚のお札を放った。

放たれたお札は濡れた女へとまるで吸い込まれるように一直線に飛んでいく。

しかし当たる直前、濡れた女はその姿を白黒にまみれた砂嵐のような模様へと変化させ、そしてそのまま身体を人型から(もや)のような形へと変えると、その身を天井付近まで浮上させ、ひらりと霊夢のお札を回避する。

と、そこに来てようやく魔理沙と華扇も現場に駆けつけて来た。

 

「霊夢!どうなっ……って、なんだありゃ!?」

「砂嵐?靄……?あれが襲撃者の正体?」

「いいえ。さっきまで白い服着たずぶ濡れの女だったわ」

 

天井付近に漂う靄を見た魔理沙と華扇がそう呟くも、霊夢は直ぐにそれを訂正する。

しかしその瞬間、砂嵐模様の靄はまるで吸い込まれるようにして元来た箱へと戻って行った。

 

「待ちなさい!」

 

一拍遅れて霊夢は箱へと駆け寄るも、そこからは既に、『人間ならざる気配』は綺麗さっぱりと消えた後であった。

だがそれでも霊夢は、その箱から眼を離さないでいた。

霊夢を追うようにして魔理沙も霊夢の横に立ち、その箱を凝視する。

 

「……これって確か……こーりんの店で見た事あったな。確か『てれびじょん』とか言う外の世界の『かでんせいひん』の一つとかって言う……」

 

魔理沙がそう響き、霊夢が睨みつける箱の正体――それはブラウン管の大型テレビであった。

本来、明治時代あたりで文化がストップしているはずの幻想郷。その人里の民家にさり気なくそれが置かれていたのである。

しかも、そのテレビからは複数のコードが前と後ろの二方向へと延びていた。

テレビの後ろから伸びるコードの先には部屋の隅に置かれたテレビよりも一回り小さい『何か』の機械に。そして前から延びるコードにはそれとはまた別の、さらに小さいごてごてとした機械へと繋がれていた。

それを見て霊夢は魔理沙に問いかける。

 

「魔理沙、これも何か分かる?」

「えーと、テレビの後ろに繋がれてんのは、たぶん『はつでんき』ってヤツだと思う。あれもこーりん所で似たようなモン見た事あるからな。……だが、手前にある機械が何なのかは私も知らないな」

「ふーん、まぁいいわ。おかげでこの一件に絡んでる妖怪が()()()()いる事がはっきりした」

「?」

 

霊夢のその言葉に首をかしげる魔理沙。と、その時、霊夢たちの背後でドサリという音が響く。

二人が振り返ると、そこには自身が作った水溜りの中心でへたり込み、涙を拭きながら嗚咽を漏らすこの部屋の持ち主の少女の姿があった。

その少女を見た霊夢は未だ部屋の出入り口で様子をうかがっている華扇に声を上げる。

 

「華扇。あの子の事、頼むわ。私は()()()()()()()()の所に今から行くから!」

「え?ちょ、ちょっと霊夢!?」

 

華扇が止める間もなく霊夢は部屋から飛び出すと、そのまま風のように民家から外へと飛び出して行った。

 

「あ!ま、待て霊夢!私も行く!」

 

一足遅れて魔理沙も霊夢を追って外へと飛び出して行く。

少女と共に部屋に取り残された華扇であったが、やがてため息と共に先程、霊夢に頼まれた事を行い始める。

 

「お嬢ちゃん、大丈夫?安心して。もう怖いのは何もいないから」

「……う、うわぁぁぁぁん!!」

 

華扇にそう優しく声をかけられた少女は、途端に内心でせき止めていた感情を爆発させ、泣きじゃくりながら華扇の胸へと飛び込んでいった。

 

「よしよし、怖かったわね~(うっ……()()()()()……)」

 

身体を密着させてくる少女の下半身から、体温とはまた別の温かさを感じ取り、華扇は僅かに顔を歪めた。

すると、ギシリと小さな音が背後から響き渡り、華扇は首だけを動かして背後を見る。

そこにはこの民家の住人であり、今、華扇が抱きしめて背中を摩っている少女の両親らしき男女が、部屋の前の廊下に佇みこちらを見つめていた。

二人の視線は華扇の腕の中の、未だ泣きじゃくる少女へと注がれており、その瞳の奥に宿る少女の身を案じる思いと、何故か()()()の感情を華扇は僅かながらに感じ取っていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜の寝静まった人里の夜空を紅白の巫女が物凄い速さで翔けて行く――。

そして少し後を箒に乗った白黒の魔女が必死になって追いかけて行く姿があった。

 

「オーイ、霊夢!どう言う事だ!?『首謀者』ってお前、この一件の犯人が分かったのか!?」

 

ようやく霊夢に追いついた魔理沙は、横で並走する霊夢に向かってそう叫ぶ。

それに霊夢もスピードを落とさずに()()()()()()と向かいながら、同じように叫びながら答える。

 

「分からないの魔理沙!私たちがさっき見たあの怪異!()()()()()()()()()()()!?」

「え!?いや……無いな。同じ靄っぽいモノで『煙々羅(えんえんら)』は見た事あるが……」

「私も見た事無いわ、あんな砂嵐状の靄っぽいモノになれるずぶ濡れ女の妖怪なんて!だとしたら()()()()()()()()()()()()としか考えられないじゃない!」

「最近?」

「いるでしょ一人だけ!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!!」

 

そこに来てようやく魔理沙もハッとなって気づく。そしてその顔を段々と怒りに染めていった。

箒を持つ手に力を入れ、そのスピードを徐々に上げながら、魔理沙も霊夢と同じ『目的地』へと向けて全速力でかっ飛ばして行く。

 

「やりやがったな、あの怪談馬鹿ぁ!!!!」

「今度という今度は、もう容赦しないんだからぁ!!!!」

 

人里の夜空に魔理沙と霊夢の怒声が大きく響き渡った――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに!?バレただぁ!!?」

 

所変わって四ツ谷会館の広間。そこには深夜にも拘らず、四ツ谷会館の住人全員が勢揃いしており、四ツ谷の目の前には、先程、少女を襲っていたずぶ濡れの白い服の女が立っていた――。

さっきまでのおどろおどろしい雰囲気から一転して、濡れた女は傍から見ていてもテンパっているのが丸分かりな程、そわそわとした落ち着きの無い様子を見出していた。

そして、それは女の前に立つ四ツ谷もまた同じであった。

そんな四ツ谷に傍で聞いていた小傘が声をかける。

 

「ど、どうしましょう師匠?」

 

その言葉に頭を抱えていた四ツ谷はバッと顔を上げると、四ツ谷会館従業員一同に指示を飛ばす。

 

「お前ら今すぐ荷物をまとめてここからずらかるぞ!」

「え!?逃げるって一体何処へ!?」

「行くあてならいくつかある!とにかく一刻も早くケツまくってここから逃げねぇと――」

 

小傘の言葉に四ツ谷がそう答えていた、その次の瞬間――。

 

 

 

 

 

――ドカアァァァァン!!!!

 

 

 

 

 

唐突に会館の出入り口の扉が大きく吹っ飛んだ。

吹き飛んだ扉は天井近くまで高く舞い上がり、四ツ谷たちの頭上を飛び越え、そのまま反対側にある舞台の前に大きな音を立てて落下した。

しばしの沈黙後、やがてその場にいた全員がギギギッと錆びた鉄のように吹き飛んだ扉のあった会館の出入り口へゆっくりと首を向ける。

特に四ツ谷にいたっては顔中から滝のような冷や汗をダラダラと流しながら――。

そんな四ツ谷会館の住人達の視線をいっぺんに受け止めながら、乱入者である少女二人は四ツ谷を視界に納めると不気味な笑みを顔に浮かばせた。

 

「……『ケツまくって逃げる』?それよりも先に……ケツに『夢想封印』ブチ込む方が先決じゃない?」

「私のマスパが先なんだぜ、霊夢」

「あらそう?なら、コイツに決めてもらいましょう?」

 

そう言って二人の乱入者――霊夢と魔理沙は冷ややかな瞳を携えて歪んだ笑みを浮かべながら、青ざめて顔を引きつらせる四ツ谷に向けて静かに問いかけた――。

 

 

 

 

 

 

 

「「――どっちを先にブチ込まれたい?」」




最新話投稿です。

すみません。また少し遅くなりました。
次回からこの一件の全容が明るみになっていきます。

誤字脱字があれば気軽にご報告ください。
感想の方も待っていますw

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