四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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前回のあらすじ。

とある民家に怪異が出現し、そこに居合わせた霊夢たちによって、怪異の背後に四ツ谷がいる事がバレてしまう。


其ノ六

「ギャアアァァァー!??止めろやめろヤメロォーーッ!?」

「ギャアギャア騒ぐな!狙いが定まんないだろ!」

 

騒ぎ、喚き立てる四ツ谷を魔理沙が()()()()叱責する。

今、四ツ谷は、霊夢と魔理沙の手によって会館の広間の天井にかかる(はり)にかけられた荒縄で宙吊りにされていた。

縄でグルグル巻きにされ、身体を横にされて吊るされる四ツ谷。その四ツ谷の後ろ――つまり、四ツ谷の尻の前に魔理沙が陣取り、ミニ八卦炉を構えて仁王立ちしている構図であった。

そして、他の会館住人たちは、戦々恐々とした面持ちで身を寄せ合い、そんな四ツ谷と魔理沙の現状を遠巻きに見つめていた。

――いや、正確には見ている事しか出来なかった。

何故なら会館住人たちと四ツ谷と魔理沙の間には、霊夢が仁王立ちで会館住人達を睨みつけていたのだ。

 

「良い、アンタたち!少しでも妙な動きをして見なさい!容赦なく弾幕ブッパしてやるんだから!」

「お、落ち着いてください霊夢さん魔理沙さん!これには深い訳が……!」

「訳なら後でゆっくり聞いてやるわ!今はこの怪談馬鹿のお仕置きが先よ!」

 

小傘の言葉にも耳を貸さず、そうバッサリと切り捨てる霊夢。問答無用、聞く耳持たずで睨み付けてくる霊夢を前に、もはや会館住人たちは『蛇に睨まれた蛙』状態で手も足も、口すら出す事が出来なくなっていた。

それでも自身の危機的状況を前に、四ツ谷がジッとしているわけも無く、手足をバタつかせながら騒ぎまくる。

 

「おい、本当に止めろ!マジでそんなモン、俺の尻にブチ込む気なのかよ!?」

「あぁん!?冗談でここまでする訳無いだろ!?私は生まれてこの方嘘なんてついた事がないんだぜ!?」

「それこそ嘘だろ!?いや、この場合嘘の方が良かったッ!!とにかく、訳はちゃんと話すからいったんこの縄解いて下ろしてくれ!!」

「まずは霊夢が言った様に仕置きが先なんだぜ!お前も男なら覚悟決めるんだな!!」

「馬鹿言うな!そんなモンくらったら一瞬であの世行きになるに決まってんだろ!!」

「いいや、案外そうならないかもしれないぜ?尻穴から内臓を通ってどっかの怪獣よろしく口からバァーッ!と出て来るかもしれないじゃないか」

「なるか阿呆ッ!確実に内臓グチャグチャになるわ!それ以前に肉片一つ髪の毛一本すら残らんわッ!!」

 

言葉の応酬を繰り広げる四ツ谷と魔理沙。特に四ツ谷は必死だった。

自分の命が軽いノリ感覚で消されそうになっている、言わば風前の灯状態なのだからたまったものではない。

そこへ、霊夢が吊るされた四ツ谷を見上げながら歩み寄ってくる。

 

「観念なさい。恨むなら、私の眼を盗んで勝手に怪異を創った、ケツの緩いアンタ自身を恨むのね」

「だ、だからその言い分を説明させてくれって!」

「問答無用!魔理沙、やっちゃいなさい!!」

「オラァ!待ちに待った『開通式』を始めるんだぜぇぇぇッ!!」

 

「ア゛ーーーーーーーーーーーーッ!!??」

 

四ツ谷の悲鳴と共に、四ツ谷の尻の中心に向けて構える魔理沙の八卦炉が光を帯び始める。

霊夢が背を向けた瞬間、小傘たちは四ツ谷を助けようと動く構えを見せる。

と、同時にギュッと力強く閉じられる四ツ谷の双眸と肛門括約筋(こうもんかつやくきん)

貞操どころか、命をも消し飛ばされると四ツ谷が覚悟した。その次の瞬間――。

 

――その場に救いの声が囁かれた。

 

「そこまでよ。霊夢、魔理沙」

『!!』

 

声と共にその場にいる全員の動きが一瞬止まり、同時に全員が声のした方へと眼を向けた。

その瞬間、視線の集中したその空間に大きな切れ目が走り、大きな裂け目を作った。

そして、その裂け目の中から一人の女性が姿を現す。

 

「お前は……!!」

「…………」

 

その女性を目にした瞬間、魔理沙は驚きに声を上げる。

しかし、逆に霊夢は「分かっていた」とばかりに何の反応も見せず、ただ黙ってその女性を睨みつけていた。

少しの沈黙後、やがて霊夢は静かにその女性に静かに声をかける。

 

「……やっぱり、アンタも絡んでたのね。……ま、当然よね。考えて見れば、今回の一件で()()()()()()()()()()、アンタだったもんね――」

 

 

 

 

 

「――紫」

 

 

 

 

そう霊夢に声をかけられた女性――八雲紫は困ったように笑って見せる。

 

「やだわぁ霊夢ったら、そんな怖い顔しちゃって、私は霊夢の笑った顔が好きよぉ~?」

「誤魔化す気?いの一番に私に怪談馬鹿(コイツ)が絡んでないって嘘情報教えて来ておいて。まんまと騙される所だったわ」

「そうピリピリしないでよ、ちょっとした冗句(ジョーク)じゃない。少し遅れの四月馬鹿(エイプリルフール)だと思って笑って許してちょーだいよぉ~?」

「黙らっしゃい。私に嘘をついておいて、ただで済むと思ってるの?」

 

わざとらしく身をくねらせて、そうねだる様に響く紫に、霊夢は誤魔化しは通じないと言わんばかりに大きく顔をしかめて冷たく言い放つ。

それを見た紫はやれやれと肩を落とすと、次に瞬間には真剣な顔で霊夢に向き直った。

 

「……霊夢。さすがにこれ以上、四ツ谷さんに危害を加える事は、私も看過できないわ。少なくとも()()()()()()()()()()四ツ谷さんには健在でいてもらわなければ困るのよ。……それに()()にも」

 

そう言ってチラリと紫は視線を逸らし、霊夢も紫の視線を追うように視線を動かす。

そこには先程、民家を襲撃した長い黒髪の白い女が立っていた。

二人の視線を受けて白い女はビクリと肩を震わせる。

それを見た霊夢は紫へと視線を戻す。

 

「……聞けない話ね。私に黙ってあんな怪異を生み出してコケにしておいて、『はい、そうですか』で引き下がる訳ないでしょう?」

「これもまた()()()()()()()()()()、ひいては()()()()()()()()()()()()()()

「……どう言う事?」

「霊夢、よく聞いて――」

 

そう言って紫は一拍間を置くと静かにそれを口にした――。

 

 

 

 

 

 

「――今、幻想郷は未曾有の危機にさらされているの、このままでは幻想郷は確実に滅ぶわ」

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

それを聞いた瞬間、霊夢とそばで話を聞いていた魔理沙もピシリと表情を凍りつかせた。

そして、すぐさま霊夢が切羽詰った顔へと変わり紫に詰め寄る。

 

「どう言う事よ!?幻想郷の危機!?だったら直の事、そんな大異変が起こってるなら私の出番じゃないの!!何で隠すようなマネすんのよ!?」

 

声を荒げてそう叫ぶ霊夢。反対に紫は冷静な口調で霊夢に言い聞かせるように静かに口を開いた。

 

「そうね。()()()()()()()()()()()()()、私も黙って見ているだけに留めていたんでしょうけどね」

「だったら何で――」

「――今回の異変は、今までとは()()()()()()()()()

 

さらに問い詰めようとする霊夢の声に重ねるようにして紫がそう言い放つ。

静かだがどこか力の篭った紫のその言葉に、霊夢は毒気を抜かれ、呆気に取られる。

そんな霊夢を前に、紫は言葉を続けた。

 

「……今までの異変なら、異変の首謀者を見つけて弾幕ごっこやら武力行使やらで負かしていれば、それで解決だったのだろうけれど……今回はそう言う訳には行かないのよ」

「……どうしてよ。異変の首謀者ならここにいるんだし、コイツをボコれば済む話なんじゃないの?」

「……ああ、()()()()()()()()()()()()、霊夢」

 

吊るされた四ツ谷を指差してそう言う霊夢に、紫はやれやれと頭を抱えた。

そして顔を上げた紫は、霊夢に真剣な目で口を開く。

 

「誤解してるわ霊夢。今回の異変の犯人は四ツ谷さんじゃない。むしろ今回の彼の立ち位置は()()()()()()()()。言うなれば彼は異変解決のスペシャリストである()()()()()()()なのよ」

「私たちの、代役ですって?」

 

驚く霊夢に、紫はしっかりと頷いてみせる。

 

「そう。だから今ここで四ツ谷さんを失うわけにはいかないのよ。……まぁ、私の個人的な意見を言わせてもらえれば、もう少し四ツ谷さんの『開通式』を見ていたかったのだけれどね?」

「……なっ!?悪い冗談言うな!!お前、俺を見殺しにする気かぁ!?」

 

チラリと四ツ谷を見ながら意地悪げな笑みを浮かべてそう言う紫に、今まで黙って成り行きを見守っていた四ツ谷が血相変えながら叫ぶ。

それを見た紫はにこやかに何でも無い事の様に言う。

 

「あら、別に死なないかもしれないじゃない。もしかしたら魔理沙がさっき言ったみたいに口から怪獣みたいに出てくるかもしれないし」

「ざけんなスキマ賢者!!だいたい、俺に怪異創るよう直接依頼して来たのは()()()()()()()ッ!!」

「なんですって?」

 

四ツ谷が発した新たな事実に、霊夢はすぐさま食いつき、紫を睨みつける。

仮にも四ツ谷の能力を使わせないために監視していた本人が、その監視対象に能力使用の許可を出したのだから怒らない訳が無い。

しかし紫はそんな霊夢の視線を涼しい顔で受け流す。

 

「異変解決に比べて必要な事だと思えばこれくらいの対価、痛くもかゆくも無い事よ。一人二人程度増えた所でパワーバランスが崩れるほど幻想郷は(やわ)じゃないしね」

「アンタねぇ……!」

 

さらに噛み付こうとする霊夢だったが、別の人間によってその言葉が遮られる。

 

「あーもぅ、じれったいなぁ。一体誰なんだ?その異変の犯人って奴は?いい加減教えろよ」

 

事の成り行きを見守っていた魔理沙が痺れを切らし、四ツ谷に向けていた八卦炉の構えを解いて霊夢と紫の会話に混ざってきたのだ。

それを見た紫は小さくため息をつくと、霊夢と魔理沙の視線を一身に受けながら、その犯人の名前を口にした――。

 

「――今回起こっている異変の犯人……それは――」

 

 

 

 

 

 

「――人里に住む、人間の子供たちよ……」

 

 

 

 

 

 

「えっ!?」

「なっ!?」

 

予想とも言える紫のその返答に、霊夢と魔理沙は驚愕をあらわにする。

そんな二人に紫は捕捉とばかりに続けて言葉を紡ぐ。

 

「まぁ、人里の子供たち『全員』がじゃなくて『大半』が、なんだけどね。異変に加担してなかった子もいるし。……それに、子供たちが異変を起こしてしまった主なきっかけを作った()()も別にいるしね……」

 

落ち着いて静かに言ってはいたものの、紫のその言葉の後半部分には明らかな怒気が篭っていたのを霊夢と魔理沙は感じ取っていた。

『きっかけを作った奴ら』。その者たちに対して紫には隠しきれない怒りがあったのだ。

 

「……人里の子供たちって……どう言う事よ?子供たちが幻想郷を滅ぼすほどの事って一体……」

 

もう訳が分からないといった風に霊夢が戸惑いながらそう響き、紫は落ち着いてゆっくりと深呼吸をすると、再び口を開いた。

 

「……そうね。ここまでチグハグな話になっちゃったけど、やっぱり一から順に説明した方が良さそうね。……霊夢、魔理沙。少し長い話になるけれど良いかしら?」

 

紫にそう尋ねられた霊夢と魔理沙は、お互いに顔を見合わせると再度、紫に向き直り、両方同時に頷いて見せた。

そして霊夢が釘を刺すように口を開く。

 

「……いいわ。でも、大した話じゃなかったら、許さないから」

「オーケー、わかったわ。じゃあ早速話そうと思うけれど……その前に()()()()()()()もこの場に召喚する必要があるわね」

「……他の当事者?」

 

紫の言葉に霊夢は首をかしげるも、その間に紫は何も無い空間にスキマを展開する。

そして霊夢と魔理沙に向けて口を開いた。

 

「そうよ。と、言ってもここに呼ぶのは二人だけ。その二人とも貴女たちのよく知っている者たちよ。……そして、その内の一人はこの忌々しい異変のきっかけを作った『大馬鹿者共』の中の一人……」

 

再び怒気を言葉に含ませながらそう言う紫は、スキマから一人目を召喚する。その者は――。

 

「……あれ?ここは……?」

「アンタは……!」

「慧音!?」

 

――寺子屋の女教師、上白沢慧音であった。

突然、何の前触れも無くスキマでこの場に連れて来られたため、何が起こったのか分からず慧音は眼を白黒させながら辺りをキョロキョロと見回す。

そして吊り上げられた四ツ谷と霊夢、魔理沙の姿を見つけると、大よその事情を察したのか頭を抱えて見せた。

そんな慧音を尻目に、紫はスキマから二人目を呼び寄せながら響く――。

 

「……そう、今回の異変の当事者の一人は寺子屋の教師、慧音先生。そして、もう一人はこの異変を引き起こした子供たち……その子供たちに異変を起こすきっかけを与えた()()()()の一人――」

 

そうして、まるで呪詛を吐き出すかのように紫が呟きながらスキマから召喚したのは――。

 

「えっ!?」

「お前が!?」

 

その者を目にした瞬間、霊夢と魔理沙は同時に声を上げた。

紫はそんな二人の声を聞きながら、静かに続けて口を開いた――。

 

「今回の異変の元凶――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――妖怪の山に住む、河童代表……河城(かわしろ)にとりちゃんよ」

「――……ひゅいっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慧音同様、突然スキマによって連れて来られた河童の少女――河城にとりは状況について行けず眼を白黒とさせながら辺りを見回す。

そして、そんなにとりの姿を笑みを浮かべたまま見つめる紫であったが、その双眸には絶対零度の如き冷たい殺意が宿っていた――。




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