霊夢と魔理沙によって拘束される四ツ谷。
と、そこへ駆けつけてきた紫によってスキマから慧音と妖怪の山の河城にとりが召喚される。
時は、
「――!……こりゃまた、ぞろぞろとまぁ……」
半ば呆れ気味にそう呟く四ツ谷の目の前には、慧音を始めとした多くの人里の住人達が立っていたのだ――。
夜分に何十人もの人間たちが一同に押しかけてきたため、四ツ谷は面食らう。
それを申し訳なさそうに見ながら、慧音が四ツ谷に声をかけた。
「四ツ谷、すまないな。夜にこれだけたくさん押しかけてくる事になってしまって……」
「……いや、まぁ、ただ事じゃねぇって事が嫌でも分かった。とにかくこれだけの数でここで立ち話もなんだ。茶ぐらいだすぞ?」
そう言って四ツ谷は会館に入るようにその場にいる全員に促して見せた。
ゾロゾロと団体で会館に入っていく慧音と人間たち。
広間には既に他の戸締りを終えて集まっていた小傘たち会館住人が集まっており、四ツ谷を先頭に慧音や人間たちが大勢でやって来たのを見るや否や、先程の四ツ谷同様に驚きに眼を丸くしていた。
ふと、四ツ谷は小傘たちの中に金小僧と折り畳み入道の姿がいない事に気づく。
後から知る話だが、どうやらいち早く小傘が多くの人間たちが来たのを察して、異形の姿を持つ彼らを職員室へと引っ込めたようであった。
そうして、あっという間に半分ほどが人里と会館住人で埋め尽くされる広間。
「……で?一体全体、何なんだ?こんな大所帯で夜分に押しかけてきて」
金小僧と折り畳み入道の事はさて置いて、小傘や薊にお茶を用意するよう指示を出した四ツ谷は、やや迷惑そうな顔で住人達の先頭に立つ慧音にそう問いただした。
しかし、それに慧音はすぐには答えず、何度か口篭る仕草を取る。
普段ハキハキとした口調で答える慧音にしては珍しい。
首をかしげる四ツ谷だったが、次の瞬間、眉間を寄せて顔をしかめる光景を目にする。
困り顔で何をどう言おうか迷っているらしい慧音の顔――その少し離れた視界のすみに『何か』がチラリと蠢いたのだ。
衝動的に四ツ谷の視線が慧音から外れて
そして……四ツ谷はそれを――一瞬の内に薄暗い広間の闇に溶けるように消えていく
「……!」
それを見て、四ツ谷は一瞬眼を大きく見開き、そして直ぐに眼を細めると、未だ困り顔の慧音に提案するように口を開く。
「……慧音先生。ここじゃ人が多くて言いたい事も言いにくいかもしれない。一先ず慧音先生だけ職員室に来てくれ。そこで落ち着いて話を聞く」
「あ、ああ……。分かった……」
突然の四ツ谷のその提案に、慧音は一瞬戸惑うも、直ぐに了承する。
四ツ谷はその場に残っている梳とイトハに人間たちの相手を任せると、慧音を連れて職員室へと向かった。
職員室に着くと、丁度、小傘と薊が客人たちに出すお茶の用意をしている所であった。
そばに金小僧と折り畳み入道もおり、二人の手伝いをしている。
四ツ谷は休憩スペースに置かれた椅子の一つに慧音を座らせると、薊に出来たばかりのお茶を一つ出させる。
やがて、人間たちに出すお茶の準備が出来た小傘たちは、足早に職員室を出て行き、その場には四ツ谷、慧音、金小僧、折り畳み入道の四人だけとなった。
薊から出されたお茶を一口飲んだ慧音は、フゥと落ち着いた吐息を一つ吐くと、ようやく話すことが頭の中でまとまり、それを言おうと四ツ谷に向けて口を開こうとするも――それよりも先に四ツ谷が
「……オイ、見てんだろ?いい加減出て来い」
驚く慧音を他所に、四ツ谷が睨みつける空間に大きな切れ目が走り、その切れ目が大きく広がるとその奥から無数の目玉が四ツ谷たちをギョロギョロと見つめていた。
しかし、初見の時と比べ、今ではそのスキマの事をよく知っている四ツ谷たちはもはや驚きもしなかった。
一拍の間の後、そのスキマから
「……すごいですわね四ツ谷さん。
「……ただの
三人の女性の内の一人――八雲紫の言葉に、四ツ谷はそう問いかける。
すると、紫は真剣な顔で頷き返した。
「……ええ。事は一刻を争いますわ。それも、今までとは全く毛色の違う異変ですから霊夢にも異変解決を頼めない状況なのですよ」
「……その異変ってのは、
そう言う四ツ谷の視線は紫の足元に向く。
そこには、何故かボロボロになって眼を回している河童の少女――河城にとりの姿があったのだ。
「きゅ~……」
紫に引きずられ、力なくそう声を漏らすにとりを見て、慧音は声を上げる。
「紫、やはり
「ええ、そうです慧音先生。このバカッパたちの仕業でした」
普段の飄々とした口調とは打って変わって、吐き捨てるような辛辣な言葉を投げる紫と顔を大きくしかめる慧音。そんな苛立ったような二人に怪訝な顔で四ツ谷が問いかける。
「……話が見えねぇな。一体何があったんだ?って言うか、何で
「実は慧音先生に、アナタの所に相談に行くように勧めたのは私ですの」
「……ああ、やっぱりか。薄々そうじゃないかと思ってたんだよ。お前の事と言い、あまりに慧音先生の歯切れが悪かった事と言い……大方、この賢者に言われてここに来た事を言うのをためらってたんだろ慧音先生?俺が嫌な顔をするのが分かっていたから」
言葉の後半で四ツ谷が慧音にそう問いかけられ、慧音は図星をつかれておずおずと頷いてみせた。
「……なーんか、棘のある言い方ですわね」
「そりゃお前が直接動くような特大の山をこっちに押し付けられそうになってんだ。嫌な顔の一つもすんだろ?」
年甲斐も無く子供のように頬を膨らませる紫に、四ツ谷はジト目で睨みながらそう返した。
短い沈黙後、紫は小さくため息をつくと真剣な目で四ツ谷を見つめる。
「四ツ谷さん。今回の異変、霊夢に頼る事が出来ない以上、
「俺の?」
「ええ……。と言っても分からないでしょうから一から話し始めますね?藍、
「かしこまりました」
紫に促されて三人の女性の最期の一人だった八雲藍が紫に一礼すると、そそくさと一度、開かれたスキマの中へと引っ込んでいった。
それを確認した紫は今一度、四ツ谷に向き直ると一つの要求を出す。
「……それと四ツ谷さん。大変申し訳ないのですが、情報を全員に共有させる事もかねて、広間にいる会館関係者の皆さんも呼んで来てもらえませんか?」
突然、職員室に来るように言われ、人間たちにお茶を配っていた小傘たちは、困惑しながらも部屋に戻って来る。
それとほぼ同時に、藍も
それを見た四ツ谷と小傘たちと共にやって来たばかりの梳は同時に眼を見開く。
「こいつは……!」
「テレビ……?」
藍が持って来た物――それは二台の大型ブラウン管テレビであった。
しかもその二台のテレビには、それぞれに二本のコードが伸びており、それらも別の機械へと繋がれていたのだ。
「ブラウン管とは……こりゃまた懐かしいモンが出てきたなぁ。しかも一緒になって繋がってるのは、小型の発電機と……オイオイ、こりゃあフ○ミコンじゃねぇか……!」
四ツ谷が眼を丸くする視線の先には、『フ○ミリーコンピ○ータ』。通称、『フ○ミコン』と呼ばれるゲームの
それは1980年代にて、ゲーム会社『任○堂』により発売された『えんじ』と『白』を基調の色としたゲーム機であった。
しかし、今、四ツ谷たちが見ているそのゲーム機の筐体には、見知らぬ別の機械の塊が、その筐体を中心にいくつもあちらこちらにくっ付けられていた。
その異様な姿の筐体に四ツ谷は眉根を寄せると、そばに立つ紫に問いかけた。
「……どう言う事だ?なんだってこんなモンが幻想郷にあるんだ?」
頭に疑問符を浮かべる四ツ谷に紫があっさりと答えた。
「それは四ツ谷さんもよく知る『再思の道』にあった物なのです。あそこは結界が綻んでいる為、外の世界の道具が良く流れて来るんですよ。……ゲーム機だけではありません。ブラウン管テレビも発電機も……元は全て『再思の道』に落ちていた物で、それをこの河童たちが拾って独自に『改造』したのです」
「どおりで見たこと無いモンがあちこちにくっ付いてると思ったら……これは河童が作ったモンだったのか」
「へぇ~。実物を見るのは初めてです」
と、そこへ梳も会話に入ってきた。
梳は物珍しそうにテレビに接続されたフ○ミコンのゲーム機へと歩み寄り、それを眺め始める。
なにせフ○ミコンは彼女が生まれるよりもだいぶ前に発売されたゲーム機だった為、人伝や雑誌などで見た事はあれど、彼女自身が本物を見たのはこれが初めてだったのである。
そんな梳を横目に見た四ツ谷は、視線を紫へと戻すと再び彼女に問いかけた。
「――で?その河童が改造したこれらのモンが一体なんだって言うんだ?」
「……これら一式を、河童たちは無償で人里の子供たちに譲渡したのです」
「……なんだって?」
紫のその言葉に四ツ谷は眉根を寄せてゲーム機を、そして今度は眼を回して倒れているにとりを見つめると、再び紫へと視線を戻した。
「……別に悪い事じゃ無いんじゃねぇか?ガキ共に新しい遊びが増えたってだけで、大事にする事じゃねぇだろ?」
「……まだ、事の重大さが分かってないみたいですわね」
怪訝な顔でそう言う四ツ谷に紫は頭を抱えて深くため息をつくと、続けざまに四ツ谷に『ある事』を勧める。
「四ツ谷さん。試しに一度、このゲーム機でゲームをプレイして見てくれませんか?」
「あン?何でだ?」
「そうすれば、私の言っている事の意味が理解できると思いますので。……なんでしたら、同じく元、外界出身者である梳さんもプレイしてもらってもよろしいかしら?」
「え?私も、ですか?」
首をかしげながら自分を指差す梳に、紫は頷いてみせる。
「ええ。貴女と四ツ谷さん、二人は元は外の世界の住人でしたから、このゲームをプレイすれば、おのずと
「……ああ、なるほど。元々、これらを二台用意したのは、始めっから俺と梳にこのゲームをさせるつもりだった訳だな?」
「そのとおりですわ」
詫びれも無く涼しい顔でそう言う紫に、四ツ谷は良い様に転がされている様でなんだか釈然としなかったが、どの道ゲームをしなければ話が見えて来ないだろうと思い、それを言葉にせず、グッと喉の奥へと押しやると、ため息を一つついて渋々と言った感じで、二台の内の片方――テレビとゲーム機の前にドカリと座り、筐体から伸びるコントローラーを手に取った。
後に続くように、梳もおずおずともう片方のゲーム機の前へと座り、同じくコントローラーを持つ。
二人がゲーム機の前に座ったのを見計らって、紫はスキマを小さく展開させると、そこからフ○ミコン専用のゲームソフトを二つ取り出して見せた。
「……それでは、ゲームをプレイするにあたり、四ツ谷さんにはあの某有名キャラクターのシリーズ作品の一つ、『スーパーマ○オブ○ザーズ』を。梳さんには、そうですわね……堀○ミステリーの第一作、『ポ○トピア連続殺人事件』でも試しにプレイしてもらいましょうか」
そう言うやいなや、紫はさっさと二つのゲームソフトをそれぞれのフ○ミコンの筐体にガチャリガチャリと差し込むと、次に二つの筐体の電源を起動させた。
筐体から機動音が聞こえ始め、それと同時に紫はブラウン管テレビの電顕もそれぞれ起動させる。
真っ暗だった二つのテレビに光が灯り、画面が大きく変化した――。その次の瞬間――。
「「…………は?」」
四ツ谷と梳は、同時に目が点となり、間の抜けた声を漏らしていた。
今、四ツ谷がプレイしているゲームは、本来ならドット絵のグラフィックで横スクロール型のアクションゲームのはずであった。
しかし、今、四ツ谷が見るテレビ画面には――。
――果てしなく広がるオープンワールドが映し出されていた。
草木はとんでもない高グラフィックで作り出されており、葉の一枚一枚がまるで本物のように風で揺らぐ。
空は果てしなく青く澄み切り、白いいくつもの雲も風で優雅に流れていた。
空中にはいくつものコインやブロックが浮かんでおり、その中には『?』と書かれたブロックも混ざっていた。
そして、そのフィールドの中央を立てに裂くようにして一本の小道が画面奥へとのびており、その小道の上には四ツ谷や梳がよく知っている某有名キャラクターがこちらに背中を向けて佇んでいる姿があったのだった。
「…………」
口を半開きにしてポカンとそのキャラクターを見つめる四ツ谷。
それもそのはず、後姿を見せるその操作キャラクターはどう見てもフ○ミコンのキャラクターらしいドットの姿を全くしていなかったのだ。
いや、ドットどころかポリゴンみたいなカクカクした姿でもない。もっとその上位。綺麗な丸みを帯びたボディラインに着ている服の生地すら細かい部分が表現されているそれは、さながら近年発売された『ギ○ラクシー』や『オ○ュッセイ』にも引けを取らない完成度だったのである。
操作キャラだけではない。周りでうろついている敵キャラクターもまた叱りであった。
呆然としたまま、四ツ谷は自分の横で同じくゲームをプレイしている梳を見ようと視線を動かす。
しかしその途中、梳がプレイしているゲーム画面が視界に入り、『それ』を見た四ツ谷は反射的に視界を止めて画面を凝視してしまった。
「……き、綺麗なヤ○……だと……?」
愕然とそう響く四ツ谷が見つめるその画面には、どこぞの乙女ゲーの攻略キャラかと言わんばかりのイケメン刑事がそこに映っていたのである。
ゲーム自体はメッセージウィンドウとテキスト、コマンド選択という基本システムはそのままになっていたが、出て来る立ち絵のキャラクターたちがどこのプロのイラストレーターに頼んだんだと言いたくなるような高グラフィックに置き換わっていたのである。
いや、キャラクターだけではない。後ろに映る背景もまるで写真からそのまま移したかのような美しい風景がそこに広がっていたのだ。
場所は京都らしく、二枚目刑事の肩越しに五重塔と大文字山が見える。
「……え?え?え?」
梳は自分の見ているモノが信じられないのか、しきりに視線が画面と手元のゲーム機の間を行ったり来たりしていた。
しばしの沈黙後、四ツ谷と梳は同時にそばに立つ紫へと顔を向け、そして同時に口を開いていた――。
「何だコリャ?」
「何ですかコレ?」
「……河童の技術ですよ。ゲームソフトに組み込まれたデータを改造された筐体が読み取り、分析し、それを現代の外界でも通じるような高グラフィックやシステムに変換、一新させ、テレビに映し出しているって仕組みです」
そううんざりと、そしてどこか疲れたような顔で紫が二人にそう答える。
そして、付け加えるようにして続けて口を開いた。
「……もっとも、ソフトは人里の子供たちでも分かりやすそうな時代設定やプレイシステムの物しか渡してなかったみたいですけどね」
「マジでか……。だが、操作面とか子供らに分かるモンなのか?この時代のゲームには
「――藍の調べでは、説明書代わりのメモ書きを子供たちに渡していたみたいですわ。それでも理解できていない子には、短時間ではあれど、実際にプレイさせてやり方を教えていったと聞いています。――そうよね、にとりさん?」
四ツ谷の質問に、紫はそう答えると最後にギロリと未だ倒れたまま微動だにしないにとりに向けて声をかけた。
その途端、にとりの身体はビクリと反応し、やがておずおずと上半身が起きていったのである。
ゆっくりと上半身を起こしたにとりは気まずそうに紫たちに視線を送ると頭をカシカシとかいて、先程の紫の質問におずおずと答えた。
「……そ、そうだよ。子供は飲み込みが早いからね。少し教え込んだら直ぐにのめり込んで行っちゃったよ。たはは……」
「ちょっと前に眼を覚まして狸寝入りを決め込んでただけあって良い度胸ですわね。なんでしたら今度は永眠させて上げましょうか?」
冷ややかに見下ろしてくる紫の視線に、にとりは涙眼になりながらブンブンと首を手を激しく振った。
「か、勘弁してよ!私たちだってまさかこんな事になるなんて夢にも思わなかったんだよ!!」
「それで、
「……何っ!?」
「えっ!??」
反射的に部屋に響き渡る紫の怒声に、四ツ谷と小傘が同時に声を漏らす。
他の未だ事態が飲み込めていない周囲の者たちも一斉に眼を丸くした。
四ツ谷が慌てて紫に問い詰める。
「オイオイ、どう言う事だよ?幻想郷崩壊って!?冗談にしてもきついぞ?それ程までにやばい状況なのか!?」
「はぁ……はぁ……。ええ、そうです。せめて子供たちに渡したのが
荒げた呼吸を整えるも、また直ぐに怒りがぶり返したのか、ギリリッと歯を鳴らしてにとりを睨みつける紫。
にとりはその視線を一身に受けて頭を抱える。
「うぅぅ……。わ、私たちはただ……子供たちに外の世界の遊具の面白さを知ってもらいたかっただけで……。悪意なんかこれっぽっちも無い、良かれと思ってしただけだったんだよぉ……!」
「それで渡した子供たち全員を『ゲーム廃人』にしたんじゃ世話無いでしょうにッ!!!!」
「何ィィィッ!??」
「えええッ!??」
先ほどよりもさらに大きい、絶叫にも似た紫のその怒声に、四ツ谷はおろか、同じ外の世界出身である梳も飛び上がらんばかりに驚いた。
だが、『ゲーム廃人』という単語に聞き慣れていない四ツ谷と梳以外の幻想郷の者たちは、全員今度は首をかしげていた。
そんな周囲の様子に気付いていないのか、四ツ谷はまたもや慌てて紫に声をかける。
「ちょ、ちょっと待て!!全員がゲーム廃人になっただぁ!?え、嘘だろ!??」
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……。いいえ、四ツ谷さん。残念ながら事実ですわ。もう既にこの人里に住んでいる子供たちの大半はこの河童たちの渡したゲーム機によって皆『ゲーム廃人』にされてしまっていますの。……それこそ、この短期間に『好奇心』や『熱中』のレベルをすっ飛ばしてね……!!」
「し、信じられねぇ……!」
紫のその言葉に、さすがの四ツ谷も理解が追いつかず、呆然とその場に立ち尽くす。
そんな四ツ谷の前で叫んだ拍子に乱れてしまった髪をかき上げながら、皮肉げな目線を彼に投げかけて紫は響くように口を開く。
「……別に不思議な事では無いでしょう?遊具の概念が明治時代で止まっている子供たちにとってゲーム機なんて物は中毒性のある薬物に等しいモノでしょうに……。しかもそれが、現代の最先端を行くレベルの高グラフィックのキャラクターや世界観に置き換えられていたのならなおさら……ね?」
「……好奇心の権化であるガキ共にとっては目に毒レベルの話じゃなかったって訳か?……そもそも何でそんな『改造』を施そうなんて考えたんだ?」
そう言って呆れた目で四ツ谷はにとりへと視線を向ける。問われたにとりはビクッとなりながらも両手の人差し指の指先をちょんちょんとつつき合わせながら気まずそうに答える。
「え?いや……その……『どっと』っていう画面だと何だか味気ないなぁ~って思って、河童仲間の皆と相談して同じく『再思の道』で手に入れた近年の『げーむ雑誌』に載っている内容や写真を参考にして、画像をもうちょっと進化させようって事になって……。そ、その方が子供たちも喜ぶかなぁ~って……あ、あはは……」
「……うん、ガキ共の為とか言って、実際はいの一番にてめーらの発明我欲丸出しにしてるじゃねぇか。と言うか、もうお前らの言う『ガキ共への慈善活動』が『ガキ共をモルモットにした魔改造ゲーム機のテストプレイ』にしか聞こえねぇ」
「ひゅ~……」
呆れと侮蔑と冷ややかさを混ぜた四ツ谷のその言葉ににとりは正座の姿勢をとってしゅんと落ち込んでしまった。
それを見た紫は深いため息混じりに子供たちが廃人化した『その後』をぽつりぽつりと話し始めた。
「……私たちが河童たちが広めたゲーム機の存在と危険性に気づいた時には、もう遅かったわ。ゲームの影響を受けた子供たちは瞬く間にそれにのめり込み、部屋からロクに出る事が無くなってしまったの。それこそ食事や厠に行く事以外は全く。睡眠もほとんど取る事がなくなったわ。私たちは慌ててゲーム機を子供たちから回収しようと動き出したのだけれど……それもまた、手遅れだったの……」
「……どう言う事だそりゃ?」
「……回収する前に、それが
四ツ谷の問いに紫がそう答え、それに小傘が反応する。
「……もしかして、今日私と魔理沙さんが見たあの刃傷沙汰の事を言ってるんですか?」
「刃傷沙汰?そう言やぁ俺も今日そんな事があったって聞いたような……」
小傘の言葉に四ツ谷がそうポツリと呟く。
『謎の女』や『子供たちの減少』程ではないにせよ、四ツ谷もその刃傷沙汰の一件は小耳に挟んでいたのだ。
同じく小傘の言葉を聞いた紫は大きく頷いてみせる。
「……あれはね。ゲーム機を無理矢理自身の息子から取り上げようとした母親が、それに発狂した息子に台所にあった包丁で追いかけ回されて殺されそうになった事件なのよ」
「えっ!?」
驚きを見せる小傘に構わず続けて紫は言葉を紡ぐ。
「……幸い、外へ飛び出した所を通行人に発見されて母親は事無きを得たんだけれど、息子の方は発狂したまま拘束されて永遠亭行きに……」
それを聞いた四ツ谷たちの間に重たい沈黙が流れる。
そして、自然とその場にいる全員がにとりの方へと眼を向けていた。
その視線を一身に受けたにとりは、ガタガタと震えながらも何とか弁明をし始める。
「わ、私たちも、直ぐにやばい状況になってきたのに気づいて子供たちから回収しようとしたんだよ!?で、でも子供たち皆、最初渡した時と違ってまるで別人じゃないかって思えるくらいにガラリと様子が変わって……!まるで親の仇を見るかのような目つきで私たちに襲い掛かってきて、もうどうしようもなくて……!」
「……くだらない言い訳は止めてしばらく黙っていただけませんか?ただでさえ今回の事で貴女たちに殺意が湧いているというのに……!」
頭を抱えながらもにとりをギロリと睨みつける紫。その人外の怒りに満ちた視線ににとりは二の句が告げなくなる。
はたから見ていた四ツ谷には、紫が今にもにとりに襲い掛かろうとしているように見え、このままでは話がこじれると思い、話の方向を変えようとそんな紫に声をかける。
「……だが、やっぱり分からねぇな。何でガキ共のゲーム廃人化が幻想郷崩壊に繋がるんだ?」
「関係大有りですよ。まだ分かりませんか?このまま子供たちがゲーム廃人のまま部屋に閉じこもりきりだと、不健康な生活が続いて体調を崩し、最悪誰にも気づかれず部屋の中で孤独死してしまうかもしれません。いいえ、例えそうならなかったとしても、子供たちがあのままの状態が続けば、いずれ成長して大人になっても職に就く所か誰かと所帯を持つ事も無くなります。そうなってしまったら人里は少子高齢化に突入し、いずれ人口も減少の一途を辿る事となるでしょう。……そして辿り着く先は、幻想郷からの
「――幻想郷の……破滅です……」
紫のその言葉と共にシンと静まり返る職員室。
だが、そんな紫を前にしても四ツ谷は腕を組み、真剣な顔つきで眉間にシワを寄せ何かを考える。
やがて、四ツ谷は紫に問いかけた。
「……体調不良の所は分かるが、その後のくだりがまだ納得できねぇなぁ?……確かにガキ共に限らず人間は好奇心の塊だが、同時に『飽き性』も持つ存在だ。
四ツ谷のその指摘に、紫は小さくため息をつき、物悲しそうに遠くを見つめる仕草をする。
「……そう、ですわね。確かに
「……オイオイ、まさか河童共、子供一人につき複数のゲームソフトを渡したんじゃないだろうな!?」
問い詰めるようにそう言う四ツ谷に、紫は力なく首を振る。
「いいえ……。河童たちは子供一人につき一つしかソフトを渡していませんわ……」
「あぁ、なんだ。なら問題ねぇじゃ――」
安堵と共にそう言う四ツ谷の言葉を遮るように、紫は今一度首を振ると、ゆっくりと置かれたゲーム機へと視線を落とし四ツ谷に声をかける。
「……四ツ谷さん。もう一度、このゲームをプレイしてもらえませんか?今度は
「何?」
「実は、このフ○ミコンのゲーム機自体に、
「!」
紫のその言葉に四ツ谷は僅かに眼を見開く。
そしてすぐさま、四ツ谷は今し方まで使っていたゲーム機の電源をオフにすると、刺さっているソフトを引っこ抜くと手早くゲーム機の電源を再起動させた。
すると、直ぐにテレビ画面に変化が現れる――。
「……何だコリャ?」
そう呟く四ツ谷の視線の先――テレビの画面には、河童のマークがあったのである――。
真っ暗な画面の中央に緑色の河童の顔が浮かんでいる。恐らく『何か』のゲームソフトのファイルだろうと四ツ谷はそう考えたが、同時に何故か『嫌な予感』を覚えた。
「……師匠?」
「四ツ谷さん……?」
背後から小傘と梳が、動きを止めた四ツ谷に不安を覚えて声をかける。
だが、その声が後押しとなったのか、四ツ谷は意を決してコントローラーを操作し、そのゲームソフトファイルを開け放ったのである――。
――そのゲームの内容を見た瞬間、四ツ谷は眼を大きく見開き、驚愕する。
「……?……え、えええええええッ!!??」
四ツ谷の背後から覗き込むようにして画面を見ていた梳も、『それ』を見た瞬間、驚きに眼を丸くする。
それもそのはず、その画面に表示されたゲームの内容は――。
「……え、
最新話投稿です。
またもや一万字越えとあいなりましたw
この話で今年の投稿は終了とさせていただきます。
次回は新年を迎えてからということで、この作品をご愛読してもらっている皆々様に感謝を込めて。
体調にもお気をつけて、来年もまた、よろしくお願い申し上げます。
それでは、よいお年を!