四ツ谷と梳、紫の勧めでゲームをプレイする事となる。
それを通じて幻想郷の危機を知る。
画面の向こう――。
果てしなく広がる広大なデータの世界――。
されど、
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――やっほー!始めましてー♪
――この『げーむ』の案内役を勤めさせてもらう、妖精の『ナビ』だよ!よろしくね☆
――どう?驚いた?いきなりこんな可愛い子が登場して動揺しちゃった?興奮しちゃった?あははっ☆
――じゃあさっそくこの『げーむ』の内容を説明するね!
――この『げーむ』の
――滅多に見ることの出来ない人里の外、本物そっくりに作られた幻想郷のありとあらゆる場所を自由に探索、行動する事が出来、遭遇した妖怪などの
――この『げーむ』を遊ぶにあたって、君たちにはまず、君たちの分身となる『あばたー』を作成してもらう事になるよ?作られた『あばたー』は、君たちが操作する事で、『げーむ』内の幻想郷を自由に冒険する事が出来るようになるんだ!
――性別を始め、顔立ち、髪の色、身長、体型など自由自在に設定することが出来、そうして完成した
――職業は『剣士』や『退魔師』などの戦闘に特化したものから、『料理人』や『鍛冶師』など生活圏に特化したものまで様々!
――しかも『転職』も可能で、『げーむ』内にある『博麗神社』に行けば巫女の力でいつでも変えることができるよ♪
――『げーむ』内の『
――時間が流れる事で、『朝』、『昼』、『夜』と世界の風景が変化し、それと同時にそこで暮らす『
――敵として戦う事になる妖怪は多種多様。その妖怪達に勝利すれば、経験値を手に入れる事が出来、それを元手に自分たちの『あばたー』の『
――その上、経験値だけじゃなく『
――料理やお風呂、布団で睡眠など、自分だけの空間を作り、そこで現実と変わらない生活が送る事が出来るんだ!
――すごいでしょ?面白そうでしょ?
――しかも、この『げーむ』の一番すごい特徴は、『複数プレイヤーの同時共有』。つまり、君とは別の『ぷれいやー』たちと共に一つの世界観を共有し、一緒に遊ぶ事ができるってところなんだ!
――今、君が使っているフ〇ミコン。実は君が持ってるのとは別の、人里にある他の子供たちが持っているフ〇ミコンと見えない糸のようなものでつながっているんだ。これを『らいん』って言うんだけどね。まぁ、簡単に言えばその『らいん』のおかげで君たちは一つの世界を一緒に遊ぶ事が出来るんだよ。
――今自分が遊んでいる『げーむ』とは他の、別の『ぷれいやー』が一緒の世界で一緒に遊んでいる。想像するだけでワクワクしてこない?
――その子たちと一緒に
――さぁ!説明はこれくらいにしてまずは『げーむ』を始めて行こう!
――まだ知らない幻想郷の未踏の地を仲間と一緒に冒険し、開拓し、思う存分駆け巡っていこう!!
――ようこそ!もう一つの幻想郷へ!!私たちは君たちを心より歓迎し、全てを受け入れます!!
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――…………。
画面越しに、ナビのゲーム紹介がひと段落して、それに影響してか四ツ谷会館の住人の大半が興味の目を向けていた。
人では無い者も多く混ざるものの、そこは初めて見る外の世界の遊具。そして、娯楽の少ない幻想郷であるが故にナビの説明とその時流れたゲームプレイの紹介画像によって、小傘たちの好奇心を否応なく刺激させたのである。
それ程までに先のナビによるゲーム紹介は彼女たちを引き込ませていたのだ。
「「…………」」
――ただ二人だけ、冷めた目でその紹介を見つめていた者がいた。
元、外の世界の出身者である四ツ谷と、同じく外の人間である梳であった。
二人はそのゲーム紹介を見て、周囲の反応同様に内心多少の興味を示していたのだが、その反面、このゲームが孕む
何せこういったゲームで社会に起こす影響は、未だに外の世界でも大きな問題として取り沙汰されているからだ。
ゲームのやりすぎで依存症となり、引きこもりとなって部屋から出る事はおろか家族との接触もロクにする事がなくなってしまう者たち。それが引き金となり事件へと発展するケースも多々あった。
特にこういったMMOなどのオンラインゲームがプレイヤーを『廃人化』に招く最たる例と言っても過言ではない。
ゲーム廃人化になる危険性。そしてそれらが引き起こす事件の数々を、テレビのニュースや新聞などで天寿を全うした四ツ谷はおろか、まだ十代の梳も見て知ってきたが故、今回の人里で蔓延しているこの異常事態は、到底笑える話ではなかったのである。
冷めた目つきのまま、四ツ谷と梳は居心地悪そうにもじもじとしているにとりへと目を向ける。
「……質問していいか?」
「え、えーと……。ど、どうぞ……」
珍しく平坦な声で問いかける四ツ谷に、にとりはおずおずと了承する。
了承を受けた四ツ谷はさっそく質問を始める。
「……コレ、いつから作り出した?」
「えーと……。こ、今月に入ってから、かな……?先も言った『げーむ雑誌』を読んで再現してみたんだ」
「……ごく最近じゃないですか。ワァー、スゴイデスネー、カッパノギジュツッテ……」
にとりの返答に、そばで聞いていた梳は全く感情の篭っていない声を響かせる。
幻想郷では河童は凄腕のエンジニアだと言う事は二人はちゃんと知っていたが、それにしてはいささかオーバーテクノロジーすぎやしないだろうか?としみじみ思う。
やはり、幻想郷であるが故に、ここではこんな型破りでも普通なのだろうか。
頭痛がしてくる頭を押さえて、四ツ谷は何とか顔を上げると何とか前向き思考で口を開いて見せる。
「……だ、だが、だがまだ大丈夫だ……。MMOとは言え
そう響く四ツ谷だったが、目の前に立つ紫とにとりの様子を見て、すぐさまそれが無い事を悟ってしまう。
紫は親の仇を見るかのような恨みがましい目でにとりを睨み、対するにとりは自分たちからそっぽを向き、ひゅーひゅーと、下手な口笛を吹いていたのだから。
言い知れぬ悪い予感を抱いた四ツ谷は口の端を引きつらせて、にとりにづかづかと歩み寄るとその両肩をがっしりと掴んで無理矢理自身の方へと目を向けさせた。
「ひゅいっ!?」
驚くにとりに構わず、四ツ谷は引きつった顔をにとりに近づけて凄みを聞かせた眼光で彼女に問いかける。
「……オイ、河童……まさか、だよなぁ……?」
「え、えーと、その……。じ、実は
「……まさか、『運営』がいるってのか?だが、てめーらも異常に気付いたんならそれも即刻解体してるはずだろう?」
四ツ谷がそう言うと、にとりはブンブンと首を振った。
「『運営』ってのは、最初から存在しないよ。……た、ただ……あのゲームのシステム内に、『追加こんてんつ』っていうのを
「ど、どういうこったそりゃ?」
「つ、つまり……あのゲーム機の中に予め『追加こんてんつ』を入れておいて、『たいまー機能』で
にとりのその告白に四ツ谷は「うっそだろ……」とにとりから手を放してふらふらと後退して見せた。
「だ、大丈夫ですか師匠!?」
その様子を見た小傘は慌てて四ツ谷を支える。四ツ谷も自分の頭を支えながら前に立つにとりを睨みつけながら再び質問を投げかける。
「……今、月一に一つずつって言ったな?月に二つとか三つとか、同時更新される事は無いのか?」
「な、無いよ」
「……最後の質問だ……。一体いくつ『追加コンテンツ』をあのゲーム機内に組み込んだ!?」
「えーーーっとぉ~~……。な、何せ私も河童仲間たちも調子に乗ってそれぞれ別々に色々作っちゃってたからねぇ……たぶん――」
「――軽く、『千』近く入ってるかと……」
「せっ……!!??」
「えぇぇぇ~~……」
にとりのとんでもない発言に四ツ谷は卒倒しかけ、そばで聞いていた梳も放心状態になってそう絶望的な声を漏らす。
そんな二人を前に、頭を掻きながら空笑いを浮かべるにとり。
「あ、あは、あはははは……。いやぁ、私らもさぁ、『げーむ雑誌』で『も〇はん』やら『え〇えふ』なんてモンを見ちゃってから『外の人間たちの技術には負けられない!』っていう闘争心が芽生えちゃってねぇ~。つい、行ける所まで行っちゃえ~ってな感じで――ぐひぇっ!??」
「くびり殺してやりましょうか、この
まるで地獄の奥底から響いて来るような怨嗟の声を上げてにとりの胸ぐらを掴み、吊るし上げる紫。
顔が鬼の形相となり、僅かながら口元から瘴気のようなモノまでにじみ出ていた。
「ぐひゅ、ぐぼぼぼぼぼぼぼゴボゴボゴボゴボゴボォ~~~~ッ!!!」
かく言うにとりも、紫に吊るし上げられた拍子に気管が締まり、瞬く間に顔面蒼白となる。
双眸は白眼を向き、口からは泡までも吐き出てくる。
「お、落ち着いてください紫様!!」
あまりの主の剣幕に、そばで成り行きを見守っているだけだった藍も慌てて紫を宥めすかす。
「……あー、ダメだわコレ、幻想郷終わったかもしんねぇ……」
「ど、どう言う事ですか師匠?」
頭を抱えて天井を仰ぎ見る四ツ谷に、小傘がそう問いかける。
四ツ谷はそれに疲れたように答えた。
「……いいか?およそ『千』もある『ダウンロードコンテンツ』を月に一回で一つずつ更新していくとすると、一年は月に直すと12ヵ月――つまりは、1000÷12=83.3333…。およそ、83年以上もの月日をかけなければ、ゲーム内のそれらをすべてやり尽くす事ができないって訳だ」
「は、83年!?子供たちはそれまでずっとこの『げーむ』をやり続けるって言う事なんですか!?……い、いやでも、まさか、そんな……!」
「……そう、普通ならあり得ない。どんなに面白かろうが、ジジババになってまでやり続ける奴なんざいるわけが無い。……だが、幻想郷というこの環境が、
四ツ谷のその言葉に、小傘は今日見た民家前での光景が脳内にフラッシュバックする。
直接見たわけでは無い。しかし、その時聞いた周囲の人間たちの切羽詰まった叫び声や怒声が、その場に起こっていた異常性を如実に表していた。
それ程までに、その家の子供の症状が笑い事では済まされないくらいにとんでもない状態だったのだろう。
「……そして、その刃傷沙汰を起こしたガキレベルの症状が、同じくゲーム機をもらった人里のガキ共全員に表れている。これの意味する事が何なのか嫌でも分かるよなぁ?」
自棄とも投げやりとも言える四ツ谷のその問いかけに、『学』の薄い小傘でもその先の結果が簡単に想像がついてしまい、自身の内から血の気が引く感覚を覚えた。
ようは妖怪などによる『憑き物』と似たようなモノだ。人間に取り付き、内側から心身共に少しずつ蝕んでいき、最後には
それが今回は操る相手が妖怪などではなく、外の世界から流れ込んできた遊具だったという話だ。
子供たちは今まさに、『テレビゲーム』に取り付かれ、意のままに操られている状態だと言えるのだ。
だが妖怪とは違い、ゲームは『ただの物』だ。祈祷をしても払う事ができないし、自我なんてあるはずもないから話し合いで解決なんて出来るわけも無い。
だからって破壊しようものなら今日の刃傷沙汰の二の舞を踏みかねない。
文字通りの八方塞がりである。
そして今、そんな状態の子供たちがこの人里の大半が占めているという。正直、これを聞いただけでも目まいを起こしそうになる話だ。
打つ手がない以上、もはや後手に回るしかない。
子供たちの家族や親族等は、病んだ子供たちの世話をしながら、一刻も早く元の状態に戻ってほしいと祈るばかりである。
何せゲームの呪縛は妖怪などの憑依とは違い、自力で逃れる事が出来る可能性があるという所なのだ。
ただそれも、幻想郷という環境が影響して子供たちの廃人化の悪化の後押しをしているがため、望み薄ではあるのだが。
――そして、子供たちが自力でゲームへの依存脱出が出来なかった場合、その最悪のケースの先を小傘は想像する。
四季が巡ろうとも、一向に部屋から出てこない子供たち。
やがて幾年月が過ぎ、成人となっても部屋から出てくる者は少なく。何とか脱却できたのもほんの一握り。
しかし、その者たちも長い事部屋から出ていなかったため、肉体面、精神面共に衰退し、就職活動は困難になる可能性が高い。
また、家族ともロクに会話もしなかったため、他者との
そうなれば、異性との交遊もできなくなり、結婚なんて夢のまた夢となってしまう。
仕事に就くどころか子孫も残す事もできなくなる。そうなってしまえば、先ほど紫が言った幻想郷の未来絵図が笑い話では済まされない事となってきてしまうのだ。
「……ただでさえ、外界でも問題視されているほどゲームはインパクトが強烈だってのに、それが外の娯楽を知らない、
頭を抱えながら深くため息をつき四ツ谷がそう呟く。
と、そこへ梳が付け加えるようにして四ツ谷に声をかける。
「……それだけじゃないですよ四ツ谷さん。ここ幻想郷はファンタジーの世界です。そして、ゲームの世界もファンタジーなら、
「うん、笑えねぇよソレ……」
先ほどよりも深いため息をつく四ツ谷。
すると次の瞬間、紫がにとりからパッと手を放す。
「ぐひゅっ!!」
床に落とされ、まるで押しつぶされたカエルのような悲鳴を上げるにとりだったが、当の紫は荒い息を整えながら四ツ谷に向き直り、口を開いた。
「……そうならないためにも、四ツ谷さん……アナタの力が必要なのですよ」
「……どうやら、ようやく
疲れた雰囲気を一転させ、やや険しい顔つきで四ツ谷は身を乗り出すようにして紫の言葉に耳を傾けた。
それに答えるようにして紫も真剣な表情で口を開く。
「四ツ谷さん。今回の異変の対象が人里の子供たちである以上、霊夢に解決を依頼する事ができません。……私は考えた末、一つの方法を見つけたのです――」
「――それは、子供たち自らがゲーム機を手放すように
「……手放すように仕向ける?」
小首をかしげてオウム返しに聞く四ツ谷に紫は頷いて見せる。
「……そう。つまり、ゲーム機対して強い嫌悪感を子供たちに抱かせ、ゲーム機から離れたくなるようにしてしまうのです」
「ちょ、ちょっと待った!」
紫のその提案に四ツ谷は慌てて手で制して見せる。そして気を落ち着かせて続けて口を開く。
「ガキ共に嫌悪感を抱かせるって……一体どうやってだ?」
「決まってるでしょう。
ニッコリと笑ってそう言う紫に、四ツ谷はようやく彼女たちが会館に来た目的が読めた。
「オイオイ、まさかガキ共に『怪談』を語れと?それでガキ共をゲーム機から引き離そうって魂胆なのか?……そりゃあ、できなくもないだろうが、まさか俺に家を一軒一軒回って一人ずつガキ共に『怪談』を聞かせろって言うんじゃないだろうな?人里中の大半のガキ共を一人ずつ……。どんだけ時間がかかると思ってんだ?せめて、ガキ共を一か所に集めてそこで『怪談』を語る方がまだマシ――」
「――いいえ、四ツ谷さん」
嫌そうな顔を隠そうともせず、そうまくしたてる四ツ谷の言葉を紫は途中で遮る。
そして、一拍置くと静かに
「――今回アナタに創って欲しいのは『怪談』ではありません。『怪異』の方です」
新年あけましておめでとうございます。
最新話投稿です。
新しくPCを買い替えたのでそれで執筆しているのですが、まだちょっと不慣れです。
それ故、文章に誤字脱字がある可能性がありますので、見つけましたら気軽に報告をください。
次回で回想編を終わらせ、そのままエピローグにもっていきたいと思っております。