小傘とイトハは地霊殿を訪れ、そこでさとりと四ツ谷を『引き合わせる』。
――地上と地下を繋ぐ、大きな穴。
地下へと降り立ち、旧都へと向かう道中には、地下水が集束して大きな川を形成して居場所があった。
その川には、川に負けないほどの大きな木製のアーチ状の橋が架かっており、その橋のたもとで今、二人の妖怪と一人の守護神が地面に直接座って仲よく酒盛りを楽しんでいた。
守護神もとい『
同じく金髪で、その髪を茶色の大きなリボンでポニーテールにしており、4本のベルトを巻き付けた特徴的なこげ茶色のジャンパースカートを纏った、
そして、三人の中で一番小柄で幼い容姿を持ち、緑色の髪をツインテールに纏め上げ、白い着流しを着た上、身体を大きな木製の桶に入れているのが特徴的な、妖怪『
三人は仲の良い酒飲み友達で、昔から
「へへへっ……。さ、
ほろ酔い気分でヤマメが瓢箪から
だが杯を差し出した先には、
「あ……!」
「……ヤマメ。
やってしまった、とばかりにヤマメはハッとなり、それを見たパルスィは呆れた顔をヤマメに向けて呟く。
その光景を見たヤマメも
さっきまでの酒での上機嫌が一転して重たい空気がその場に立ち込めた。
「……はぁ~っ、一体いつまで続くんだろうねぇ、
「さぁねぇ、少なくとも
ため息交じりにそう呟きながら瓢箪と杯を地面に置いくヤマメから、瓢箪だけを貰って自分の杯に酒をそそいでパルスィはそう答える。
それを聞いたヤマメは再びため息をつく。
「だろうねぇ……。少なくともそれまでは勇儀も酒を断って
「無理ないわよ。勇儀の奴、
そう言いながら、パルスィも
無理もない話だとこの場にいる全員理解してはいるが、やはり自分たちの中で一番の酒豪が離れたことで酒盛りも一気に火が消えたように寂しくなってはいたのだ。
小さくため息をついたパルスィは目の前に座るヤマメとキスメに向けて真剣な目で言う。
「……私らもさぁ、出来ることがあるなら勇儀に全力で協力してやろ?……こんな
「ああ、同感だね。……その間はキスメ、アンタは私たちから片時も離れちゃいけないよ?
ヤマメのその言葉に、キスメは素直に小さく頷いて見せた――。
「全く……私に心を読まれたくないがために、わざわざ河童に頼んでこんなモノを作らせるなんて」
『ヒッヒッヒ!【テレビ通信機】だ。結構嬉々として作ってたぜにとりの奴。よっぽど奉仕活動に嫌気がさしてるみてーだな』
「小傘さんたちの心を読んで大体の事情は知ってますが、あえて言わせてもらえれば、彼女たちの自業自得でしょうに」
『だよなぁ』
画面の中で不気味に笑う四ツ谷を前に、さとりはうんざり顔で四ツ谷と会話を続けていた。
『それで、どうだ?俺の心を盗み見れないご感想は?』
「……
『……当然だ』
面白くないのでさっさとこの話題を切り上げたいのか、さとりはやや強引に話の筋を変え、ニヤニヤと笑う四ツ谷の方もそれを察して素直にそれに従う。
そして、単刀直入に四ツ谷はさとりへと切り出した。
『……んで、どうなんだ?古明地こいしはそっちに帰って来てんのか?』
数分後、小傘とテレビ通信機を抱えたイトハは、さとりに案内されるままに応接室らしき部屋に通されていた。
さとりは四ツ谷の質問にはすぐには答えず、小傘たちをその部屋に通すと、自分は一度部屋の外へと出て行ったのだ。
その間、燐は小傘とイトハにお茶や茶菓子を用意しながら、さとりにしか分からなかった来訪理由を改めて二人から聞いていた。
ひとしきりの話が終わった後、さとりが部屋に戻ってきた。その手には紐で一まとめにされた『紙束』らしきモノを持って――。
「おまたせしました」
そう言ってさとりは小傘とイトハが据わるソファーから机を挟んで対面となる別のソファーへと座った。
そして、持っていた紙束を小傘たちに見せる様に机に置く。
「これは……」
その紙束を見て、小傘がそう声を漏らした。
――それは、何十枚も重ねられた『手紙』の束であった。
しかも見た所、手紙には
小傘がさとりに尋ねる。
「この手紙の束ってもしかして……」
「お察しの通り、紅魔館の主の妹――フランさんから送られてきた、妹への手紙です」
『……やっぱ、手紙はちゃんとそっちに届いてたのか』
机に置かれたテレビ通信機からも手紙の束が見えたのか、画面内で四ツ谷が目をスッと細める。
「ええ……。元々あまり地霊殿にいつかず、ふらふらと出歩いて数日は留守にする事が多い子でしたが……ある日、『友達が出来た』と言ってはしゃいで帰って来た時は正直驚きましたよ。……しかもその相手があの吸血鬼の妹で、ちゃっかり文通まで始めたって言うんですから」
その時の事を思い出したのか、さとりはフッと苦笑を浮かべながらそう響く。
しかし次の瞬間、その顔にスッと陰りが帯び、さとりは俯きながら手紙の束を見下ろした。
「……ですが、ここにある手紙は、全て、
「……って事はやっぱり、この地霊殿にも帰って来てないと?」
「はい……」
イトハの問いかけに、さとりは静かに頷いた。そして、続けて言う。
「……そして妹が居なくなったのは、妹がフランさんとの約束を違えたのと
「……なっ!?って事は、いなくなってからもう半年たつって事!?ちゃんと捜索はしてるの!?」
「してるよっ!!地霊殿の全ペット総出で毎日方々を駆けずり回ってね!!」
さとりの言葉に驚いてそう叫ぶ小傘の言葉に少しカチンときたのか、今まで黙っていた燐が小傘に噛みついてきた。
少々失言な言い方だったと、小傘はしゅんと俯いて「……ごめん」と一言呟いていた。
それを見ていたさとりは小さく息を吐いて絞り出すように言葉を吐き出していく。
「……しかし全力で探しましても妹は見つからず、しかも妹がいなくなってからフランさんからひっきりなしに手紙が送られてくるようになりました。ですが、妹が行方不明になった事実を話す事もできず……。結果、やむ負えず手紙だけを保管する事に……」
『……?何でだ?本当の事だけでも
四ツ谷のその指摘にさとりは再び頷く。
「……確かに、そうだったのかもしれません。……ですが仮に私がそうした場合、そのあと彼女がどういった行動をとるか、想像できませんか?……彼女の性格上、たった一人の大切な友達が突然いなくなったのです。ただ黙って妹が見つかるまで紅魔館でジッと待っているとでも?」
『「「…………」」』
さとりのその言葉に、四ツ谷、小傘、イトハは同時に沈黙する。
三人とも、さとりが言いたい事が自ずと察せられたからだ。
フランドールの性格からして、事実を聞いてそのまま黙っているはずがない。最初の内は待っている事に専念していたとしても、直にしびれを切らして
そして、世間知らずなフランドールの事である、捜索と称して地底世界を暴れまわり、さとりは良いとしてもその他の地底に住む危険な妖怪たちの目に留まってしまえば、最悪地上との関係に大きな波紋を呼ぶ事になるかもしれなかったのだ。
三人がそんなことを考えていると、さとりは片手で頭を抱えて力なく首を振る。
「……ですが、こちらが黙っていたとしても、しびれを切らした彼女が地底へとやって来る可能性がありました。そうなった場合、紅魔館側と協力して彼女を全力で止めて帰す事も考えていたのですが……。まさか、狂気が再燃して紅魔館で暴れ始めるなんて……」
『……
「…………」
四ツ谷のその言葉に、さとりは何も言わず沈黙する。
『……不安だったんだろうよ。不安で怖くて仕方なかったんだ。だからこそ勇気をもってそっちに行って問い詰める事もできなかったんだろう。……んで、周りにも話せず一人
「師匠!」
画面の中で頬杖を突き、言葉を選ばずやや乱暴にまくし立てる四ツ谷のその物言いに、小傘がすかさずそうたしなめた。
すると今度はイトハが口を開いた。
「……確かにそうだったのかもしれませんが、それだけではないように私には思えます。……恐らく妹様は、こいし様が来なくなった後も、ただひたすらに『遊びに来る』というこいし様との約束を信じ続けて待っていたんだと思います。あの方は世の中の事に疎くはありましたが、誰かとの約束や予定を交わした時は、自分から
元紅魔館の妖精メイドであり、この中で一番フランドールの事をよく知っていたがためか、イトハはフランドールをかばうようにそう言い、そして次に真っ直ぐにさとりを見据えると力の入った声で続けて口を開いた。
「――でも……だからこそ、妹様の為にも一刻も早くこいし様を見つけなければなりません」
「…………」
それにはさとりは何も返答はしなかったが、「当たり前だ」とばかりに力強く頷き返していた。
『……それで、ぶっちゃけ何かないのか?古明地こいしを探す手がかりみてぇなモノは……?』
短い沈黙の後、四ツ谷がそう切り出すと、さとりは少し思案顔になりながらも言葉を吐き始める。
「……実は、心当たりが無いわけじゃないんです。……でも、それにこいしが
「どんな事でも良いです。教えてください」
前のめりになりながらイトハがそう詰め寄ると、さとりは何故か言いにくそうにしながらも
「……実は、ここ二、三年の間に、旧都内で
小傘たちが地霊殿を訪れた日の夕刻――。
旧都の喧騒が昼間よりもさらに高まり、都市全体が宴会をしているかのような賑わいを見せている中、とある居酒屋に一人の『鬼』が客として訪れていた。
「……お!
「ああ、悪いね店主……。頼むよ。……料理の方は適当なの何でもいいから見繕っておくれ」
「はいよ」
どこか声に覇気が無く、そう店主に注文を頼むのは額に黄色の星印のついた大きな赤い角を持つ、長い金髪の女であり、その女こそ鬼の四天王の一角にして、『力の勇儀』という二つ名で恐れられた怪力乱心の鬼――星熊勇儀であった。
勇儀は店主から、おつまみと共に出された
それを見ていた店主が勇儀に声をかけた。
「……まだ見つかんないのかい?子供たちは……」
「ああ……、残念ながらね。ったく、我ながら情けないよ」
いつもは竹を割ったように明るく豪快ない性格をした勇儀であったが、数ヶ月前の
「根を詰めすぎないように注意しなよ?
「あっははっ、ありがとよ店主。……分かってるって……
小さく笑いながら自身の持つ湯呑に視線を落とす勇儀。そこへ、また別の声が彼女にかかった――。
「……あら、姐さん。お久しゅ♪」
勇儀が声のした方に振り向くと、そこには居酒屋の出入り口を背に着物を纏った妙齢の女が立っていた。
その女が
「……なんだ、お
「ええ。でも、その前に腹ごしらえをね……。私の仕事は精力が多く必要になるからさ♪」
そう言いながらその女――お糸はカウンターに座る勇儀の隣の椅子に陣取ると、店主に
やがて店主からそれらの品が運ばれてくると、お糸はおいしそうにそれらに口をつけ始めた。
それを見ながら勇儀はお糸に向けて口を開く。
「一晩に何人もの男を相手する『遊女』だろ?その程度の料理だけで朝まで持つのか?」
「フフッ……これでも燃費は良い方なので♪良かったら姐さんも気晴らしにどうです?私と一緒に男の相手」
「よせやい。アタシが男に
「フフッ!まっさかぁ!言ってみただけですよ♪姐さんにはやっぱりお酒が一番お似合いですから♪」
そんな会話をしながら、お糸はそそくさと食べ終えると、店主にお勘定を払って店を後にする。
去り際にお糸は、思い出したように勇儀に問いかけてきた。
「……そう言えば、例の幼子たちの失踪事件。何か進展はありまして?」
「……いいや。情けない話だが手がかり一つ見からないね」
「そ。無事に子供たちが見つかればいいですわね。私もできうる限り協力はしますから。……それじゃ♪」
そう言ってお糸は背中越しに手をヒラヒラと振りながら店を出て行き、勇儀はそんなお糸に
――ピシャリと居酒屋の戸が閉じられ、店内に静寂が降り立つ。
カウンターの奥にいる店主は
その勇儀はと言うと、笑みを浮かべたまま
湯呑の中のお茶の水面が、冷たい目で笑みを浮かべる勇儀の顔を薄っすらと映し出す。
次の瞬間――勇儀の持つ湯呑の表面にピシリと、小さな亀裂が走った――。
――某日、某所。
薄暗い、長い廊下を今、一人の幼い少女が走っていた――。
「ハア!……ハア!……ハアッ!……ハアッ!……」
手足が獣の体毛で覆われたその幼い妖怪の少女は、着物がはだけるのも構わず息を切らして全力で、先の見えない暗闇に続く廊下の奥へとただひたすらに走ってゆく――。
と、突然、少女の足がもつれ、少女は盛大に前のめりに倒れこんだ。
「あぅ……!」
小さくうめき声をあげて倒れる少女、しかし身体に走る痛みに
……ミシリ。
……ミシリ。
……ミシリ。
「ひっ……!」
唐突に、されどゆっくりとした歩調で自分に向かってくる足音を耳にし、少女は小さく悲鳴を上げ、体を硬直させる。
両目に並々と涙を溜め、恐る恐る少女はゆっくりと振り返る。
――そこには、『鬼』がいた……。
闇の中からゆっくりと現れたその『鬼』は恐怖に怯える少女を楽しそうに見下ろす――。
「ぁ…………ぃ、や…………や、だぁ…………いゃぁ……………っ!」
涙を流しながら、少女は何とか『鬼』から距離を取ろうと手足をばたつかせる。
しかし恐怖に支配された少女の四肢は、彼女の言う事を聞かず、その場でジタバタともがくだけであった。
その上、恐怖が
それを見た『鬼』は楽しそうに、愉快そうに、面白そうに……笑う、
「………ぁ……ぅ、ぁ………」
自分を見下ろし、笑う『鬼』を見て、やがて諦めを悟ったのか少女は暴れるのを止め、急速に光を失った目で目の前の『鬼』をぼんやりと見上げる。
抵抗を止め、絶望に染まった少女を『鬼』は非常に、冷酷に、そして満足そうに喉を鳴らし、目の前の幼き少女へと手をゆっくりと伸ばしていった――。
最新話投稿です。
ゴールデンウィークに入り、例の伝染病の事もあって時間があり余り、早くに今回の話が完成しました。
次回も早めに投稿できると思います。