四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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前回のあらすじ。
四ツ谷と薊は妖怪傘を使い行動範囲を広める。


其ノ三

折り畳み入道の怪談は、四ツ谷たちがあちこちに流しただけでなく、それを聞いた者たちからまるで病原菌が伝染するかのごとく、他者へと広まっていき、わずが一週間程度で幻想郷じゅうに噂が知れ渡るようになった。

そして、それは博麗の巫女の耳にも入るようになる――。

 

「折り畳み入道?何それ、聞いた事がない妖怪ね」

「ああ、私も初めて聞いたときそう思った。でも今幻想郷じゅうはその噂で持ちきりだぜ?」

 

居間でよく神社に顔を出してくる腐れ縁の魔法使いの少女――霧雨魔理沙(きりさめまりさ)の話を聞きながら、博麗霊夢は入れたてのお茶をズズッと口に流し込む。

魔理沙はお茶請けに用意された醤油煎餅をバリボリと食べながら続けて言う。

 

「だが、たかが一妖怪の噂がこれほどまでに広まるなんておかしいぜ?裏で誰かが何か企んでるとしか思えん」

「……でしょうね。でもまだ誰が何をしようとしてるのか私にもさっぱりね。面倒な事を考えてなければいいのだけれど……」

「……そう言えば、この噂が流れる前、人里の中だけだが似たような噂が広まったことが二度ほどあったな」

「……なんですって?」

「私は人づてで聞いた程度なんだが、赤染傘だの金小僧だのこっちも聞いたことの無い妖怪ばっかりだったな」

 

魔理沙の話を聞いて霊夢は眉間にしわを寄せる。

偶然にしてはできすぎている。もしや何かしらの異変が起こる兆候なのではないか。

思案顔でお茶を飲む霊夢は魔理沙に問いかける。

 

「ねえ、その噂最初に広まり始めたのはいつ?」

「あん?えーと確かついこの前、夏の初めごろだったみたいだぜ?」

 

夏の初めごろ、その言葉を聞いた霊夢の脳裏にある一人の男の姿が浮かんだ。

その同じ時期に出会った、見た目は人間、だが中身は怪異そのものであるその奇妙な男――。

その男を人里へと見送ったときの事を霊夢は思い出していた。

黙り込んだ霊夢を見て怪訝な顔をしながら魔理沙は声をかけようと口を開きかけたが――。

 

「あら、その様子だともう霊夢は会ってるみたいね。あの男に」

 

いきなり第三者の声が部屋に響いたかと思うと、二人のすぐそばの空間がぱっくりと裂け、そこから複数の目玉のようなものが顔をのぞかせる別空間が見えた。

そしてそこから優雅に紫色のドレスをふわりとなびかせた金髪の女性が姿を見せる。

 

「紫!?」

「……やっぱり、あの男の仕業なのね紫」

 

魔理沙が驚きに声をあげ、その反面最初から気付いてたとでも言うかのように霊夢は別段動じることなく、現れた金髪の女性――八雲紫(やくもゆかり)にそう問いかけた。

紫はフフッと笑うと霊夢の問いに答える。

 

「ええそうよ。……でも誤解しないでね霊夢。彼は決して幻想郷を危機に陥れるつもりは無いみたいだから、ただ彼自身に宿った能力を調べるためにあえてあんな怪談を幻想郷じゅうにばら撒いただけなのよ」

「……何なのよ、その能力って――」

「ちょ、ちょっと待った二人とも。私にもちゃんと説明してくれよ」

 

二人だけで話が進められようとしているのに気付き、慌てて魔理沙が割り込んでくる。

それを見た霊夢はため息をついて、魔理沙に説明し始めた。

 

「夏の初めに会ったのよ、その男に。この神社の境内でね。……確か名前は四ツ谷文太郎って言ったかしら。……見た感じ大した力も持っていなさそうだったから人里へ送り出しても大丈夫だと思ったんだけど……」

「ええ、確かに彼は怪異だけれど、寿命の概念が無い事以外は普通の人間とそう大差は無いわ。弾幕を撃つどころか空だって飛べないみたいだしね」

 

「だけど」と、紫は目を細め、幾分か声のトーンを落として続けて言う。

 

「彼が幻想郷の影響で覚醒した能力は……決して見過ごせるものではないわ」

 

そう言って紫は彼――四ツ谷文太郎の『怪異を創る程度の能力』を霊夢たちに説明し始めた。

説明が進むにしたがって、魔理沙の顔から焦りが、霊夢の顔からは深刻さが浮き彫りになる。

紫の説明が終わると魔理沙が声を上げた。

 

「おいおい、やばくないかそいつの能力!早めに何とかしたほうがいいんじゃないか!?」

「私もそう思うわ。でも紫、それでも何の行動も起こさずにここで手をこまねいているのは何でなの?……あんたならもうとっくの昔にあいつに接触して処分なり何なりしていると思うんだけど?」

 

霊夢のその問いに、紫は懐から扇を取り出し、それを広げると口元を覆い隠してそれに答える。

 

「……私はね霊夢。貴女たちのように彼の能力をただ単純に危険なモノだとは思っていないのよ。私は彼の能力は……()()()()なんだと考えてるの」

「諸刃の剣……?」

 

霊夢が首を傾げたと同時に、縁側から声がかかった。

 

「おーい、霊夢はいるかー?」

 

聞き覚えのあるその声に霊夢たち三人は一斉に外へと眼を向けた。

そこにいたのは銀髪のストレートロングヘアを地面すれすれまで伸ばし、深紅の大きな瞳と整った顔立ちを持つ美少女が立っていた。

白いシャツと紅いもんぺを纏ったその少女――藤原妹紅(ふじわらもこう)は霊夢たちに軽く手を上げると彼女たちに歩み寄る。

 

「妹紅じゃない。珍しいわね、何のよう?」

「ああ、実はちょっと気になる事があってな――」

 

そう霊夢に問われ、妹紅は昨晩迷いの竹林で出会った()()()()の話をし始めた――。




今回は短めで、しかも四ツ谷は登場しません。
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