四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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前回のあらすじ。
四ツ谷たちは真澄の家に『とおりゃんせ』を流し始める――。


其ノ八・裏

その次も、その次の晩も、四ツ谷は薊に『とおりゃんせ』を歌わせ続けた。

その度に、真澄は家中を走り回る事となり、その様子を見た四ツ谷は順調に計画が進んでいる事に内心満足していた。

薊も薊で四ツ谷の指示通りに『とおりゃんせ』を歌い続けた。四ツ谷から()()()()をしっかりと守ってである――。

最初の『とおりゃんせ』が歌い終わった直後、薊は四ツ谷から「次の晩は今回よりも口調を強くして歌え」と言われていたのだ。

何故そうする必要があるのか薊が問いただした所、四ツ谷はニヤリと笑って見せ――。

 

「簡単だ、『演出』だよ。こうする事で『とおりゃんせ』を歌うナニカが段々と近づいてくるように思えて恐怖心が増してくるだろ?」

 

そう軽い口調で響いたのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

四ツ谷の『とおりゃんせ』が始まってから三日目の昼――。

薊の淹れるお茶を待ちながら、四ツ谷は長屋で小傘の報告を受けていた。

 

「あの奥さん、相当参ってました。フラフラしながら買い物へ行く準備をしていましたよ」

「そうか」

 

それを聞いた四ツ谷は思案顔になる。

ちょっとした揺さぶり程度の前振りだったが、意外と効果が出ていたらしい。

『とおりゃんせ』が流れると同時に、彼女は家の中を走り回っていたが、結局『箱の中』から歌が響いてきている事には最後まで気付かなかったようだ。

まあ、家中にある『箱という箱』から一斉に『とおりゃんせ』が響いてきたら、どこが歌の発生源か分かるわけがない。

そのうえ彼女は、()()()()()()()をも見つけるつもりだったらしく、人が隠れられそうなところばかり見て、小物入れなどの箱には全く目もくれていない様子であった――。

 

「あの様子ではもう持ちそうににありませんよ師匠?」

 

不安げにそう響く小傘に、四ツ谷は一度目線を下に落とすと、再び小傘に眼を向けて頷く。

 

「ああそうだな……。ぼちぼち、頃合のようだ――」

 

 

 

 

 

 

「――今夜、『とおりゃんせ』の仕上げをするぞ……!」

 

 

 

 

 

静かながらも力の篭った四ツ谷のその言葉に、その場にいた小傘、金小僧、折り畳み入道は同時に頷いた。

同時に薊が四ツ谷たちにお茶を運んでくる――。

 

「四ツ谷さん、お茶が入りましたよー」

「よし、そうと決まれば手順を説明するぞ?まずは――」

 

そう言いながら薊がちゃぶ台に乗せた湯飲みの一つへと手を伸ばす四ツ谷だったが、そこへ唐突に小傘が「待った」をかけた。

 

「……ちょっと待ってください師匠!今何かが急速に人里――しかもこの長屋へと迫ってくる者たちがいます!これは……霊夢さんと魔理沙さん!?」

 

小傘がそう叫んだと同時にすぐさま四ツ谷が皆に指示を出す。

 

「すぐに全員、折り畳み入道の葛篭へと飛び込め!折り畳み入道、繋げる先は慧音先生の家だ!」

「りょ、了解!」

「へ?あの、お茶は……!?」

 

折り畳み入道は四ツ谷の指示に頷き、能力で今自分が入っている葛篭の中を慧音の家の衣装入れの箱と繋げる。

突然の展開に場違いな事を響いてオロオロしだす薊を、小傘が手を掴んで葛篭の中に最初に入っていく。

そして続けて金小僧、四ツ谷と続き、最後に折り畳み入道本人が葛篭の中に入って箱を閉めた。

箱が閉められたのと、霊夢と魔理沙が四ツ谷の長屋の前に降り立ったのはほぼ同時であった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四ツ谷たちが慧音の家に着いたとき慧音は家を留守にしているらしく、誰もいなかった。

仕方なく四ツ谷たちは彼女が帰ってくるまで、先ほど霊夢たちによって中断されたミーティングを再開する。

そうして待って、夕方になる時刻に差し掛かった頃、慧音は清一郎と共に家に戻ってきた。

戸締りはしっかりとして出たはずなのに、帰ってきたら四ツ谷たちがいた事に慧音は一瞬驚きで目を丸くするも、折り畳み入道を見てすぐに理解した。

対して清一郎は四ツ谷の創った怪異である金小僧と折り畳み入道を()()()()()()、腰を抜かしそうになっていた。

まだ人間の容姿に近い小傘ならまだしも、どう見ても人間ではない異形丸出しの姿の二人では、さすがに驚愕せずにはいられなかったらしい。

半ばパニックになる清一郎を、慧音が慌ててなだめすかすのにしばしの時間がかかった――。

何とか落ち着かせはしたものの、それでも清一郎はやはり金小僧と折り畳み入道が気になるのか、チラチラと目線を向けていた。

それを見た慧音は小さく苦笑するも、それよりも先に清一郎と合流する前に見た()()()()()が気になっており、それを教えるために四ツ谷に声をかけ、話し始めた。

 

「……あの巫女が奥さんに?」

「ああ……退魔札を渡していた。霊夢も真澄に目を着けたようだった」

「……でしたら霊夢さんのことですから、今回わちきたちがあの奥さんに『最恐の怪談』を行う事を知るのも時間の問題かもしれませんね。……さっき長屋(うち)にやって来ていましたし……」

「何だと?」

 

小傘のその言葉に、慧音の顔から一層険しさが増した。

そして再び四ツ谷に向かって口を開く。

 

「どうする?怪談を中止するか?」

「馬鹿な。今が絶好の機会だというのに、みすみす先延ばしになんぞできるか」

 

そう言って一度目をつぶって思案顔になる四ツ谷だったが、すぐにニヤリと不気味に笑いながら目を見開く。

 

「……このさいだ。()()()()()()あの二人にも一つ、『とおりゃんせ』完成の為に()()()()()()()()とするか……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。明かりの落ちた真澄の家に四ツ谷、薊、金小僧、折り畳み入道、慧音がやってきていた。

しかし、彼らよりも先に()()が来ており、先頭に立ってその者の姿を見た四ツ谷は目を丸くする。

 

「……なんだ。今夜も来ていたのか?」

「随分ね。()()が危ない目に会ってるのに気にならないわけがないでしょ?……それに、私の創った物語がいまいちだと言ったあなたの怪談が、一体どんなモノかも興味あるしね……」

 

月下の下に風に金髪をなびかせたアリスが、不敵にニヤリと笑いながら、そう答えていた。

そして続けて四ツ谷に向かって問いかける。

 

「ねぇ、あの奥さんの夫と小傘はどうしたの?」

「あの二人は今、所定の場所で待機させている。今夜が『とおりゃんせ』の総仕上げだからな」

「あら、そうだったの?」

 

四ツ谷の返答に、これは丁度いいわね。とばかりに口元に手を添えてクスリと笑うアリス。

そんなアリスを四ツ谷はスルーし、薊にと折り畳み入道に声をかける。

 

「準備はいいな?まずは今夜も前と同じ手順であの奥さんを起こし『とおりゃんせ』を歌う。その途中で薊、今度はこのメガホンを使って『とおりゃんせ』を歌うんだ」

 

そう言って四ツ谷は薊に黄色い簡易性の拡声器――外の世界の応援団などが使う俗に言うメガホンを取り出し、渡す。

 

「わかりました。途中からこれを使って歌えばいいんですね?」

「ヒヒッ!そうだ薊、それを使えば声がもっと大きく響くようになるはずだ。『演出』効果を高めるにはいいモンだろ?」

「ふーん、それを使うの?だったらその効果とやら、私がもっと向上させてあげましょうか?」

 

そう言って唐突に横からアリスが四ツ谷と薊の会話に割り込んできた。

怪訝な顔をする二人に目もくれず、アリスは薊の持つメガホンにそっと手を添えると、小さく何かの魔法の詠唱を響いた。

その途端、メガホンに小さな魔法陣が現れ、すぐに消える。

ポカンとする四ツ谷と薊にアリスは得意気に口を開く――。

 

「今この道具に『拡声反響効果』の魔法を付与したわ。これで外の世界の『マイク』並みの音響が出せるようになったはずよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その効果はすぐに現れた。

アリスの魔法付与されたメガホンを渡された薊は最初、いつもどおりに『とおりゃんせ』を歌い、そしてその途中からそのメガホンを口につけて歌いだしたところ、なんとその歌声が家から漏れてこちらにまで聞こえるようになったのである。

静かに歌っていてこれである。もし大声で歌っていたら周りの民家にまで必要以上に届き、安眠妨害で苦情が出ていたかもしれない。

 

「いやっ!!もう嫌あああぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!」

 

そうこうしている内に真澄が肉塊を連れて、叫びながら家から飛び出してきた。

真澄に抱きかかえられるというより、むしろ彼女の身体に張り付く感じで連れられるブヨブヨとした肉塊を目の当たりにし、薊の口から小さく「ひっ!?」という悲鳴が漏れる。

しかし、隣に立つ四ツ谷はその光景を見て瞬時に周りのモノたちに指示を飛ばす。

 

「俺は先に折り畳み入道の能力で先回りし、所定の場所に向かう。その後金小僧はその葛篭を持って()()()()()()()()()()。そして薊は()()()()()()()()箱に向かって再び『とおりゃんせ』を歌い続けろ。そうしながら同じ所定の場所へと向かえ!」

 

四ツ谷のその言葉に、薊、金小僧、折り畳み入道が同時に頷く。

それを見た四ツ谷は、すぐさま葛篭の中へ姿を消した。

残された金小僧はその葛篭を抱えて、真澄の後を追って駆け出す。そして薊は地面に置かれていた、前もって四ツ谷が用意していた彼女でも抱えられるほどの木の小箱を持ち上げ蓋を開けると、ゆっくりとした足取りで目的地に向かいながら『とおりゃんせ』を歌い始めた。

その歌声を聴きながら、慧音とアリスも薊の後を追おうとするも、不意にアリスが立ち止まり、それに気付いて慧音も無意識に足を止めた。

 

「どうしたアリス?」

「……まったく。相変わらず末恐ろしいわね。彼女の『勘』は……」

 

慧音の問いには答えず、夜空の一点を睨みつけながら、アリスは毒付く――。

何事かと慧音もアリスの視線の先を追い、同時に理解する。

月明かりに照らされて、夜の闇の中をこちらに向かって飛んでくる二つの人影があったのだ。

その二つの影は、遠目からでも目を凝らせば分かるほど、特徴的な色合いの服を着ていた。

慧音とアリスにとっては見慣れた紅と白、黒と白をそれぞれ基調とした服。それを見ただけで誰がやって来たのか二人は瞬時に理解したのである。

 

「霊夢と魔理沙か!?くそっ、どうやって嗅ぎつけたんだ!?」

「大方、霊夢のあの化物じみた『勘』でしょ?厄介極まりないわね。……慧音先生、彼の怪談を成功させるため、しばし()()()()をしましょ?」

 

アリスの提案に慧音は力強く頷き返した――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして、『裏』は『表』と交じり合い、現在に至る――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『所定の場所』である繁華街近くの雑木林――そのそばに立てられた小屋に置かれている木箱から現れた四ツ谷は雑木林の中に身を隠し、『聞き手』が来るのをじっと待った――。

そうして金小僧と『とおりゃんせ』によって追い立てられた真澄と肉塊がやって来たのを見計らい、四ツ谷は一人と『一体』の前に姿を現す。

 

「あ、貴方は……!!」

 

唐突に現れた四ツ谷を視界に納め、真澄が目を大きく見開く。

対して四ツ谷は見ていてもおぞましい肉塊を、まるで宝物のように抱える真澄を眺め、一度目を閉じ再び開く――。

その目に映るは、果たして異形を我が子と信じ、仕舞いには人の道に外れようとする彼女に対する嫌悪かそれとも哀れみか――。

それは誰にも分からない。分かる事があるとするならただ一つ――。

 

彼はただ()()()()――。全てを賭けた『怪談』を――。

 

今宵の幕は……今、開かれた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さァ、語ってあげましょう。貴女の為の……怪談を……」




裏編、これにて終了です。
次からは山場である『結』編が始まります。
後、タグを少し追加します。
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