四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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前回のあらすじ。
命蓮寺の面々は『踊るしかばね』を引き起こしていた実行犯たちを捕まえることに成功する。


其ノ十

祭囃子の音が響いてきた――。

 

どうやらあの妖精ども、ちゃんと予定通りにまたやり始めた見てぇだな……。

 

……今度はもっと長く場を引っ掻き回してほしいもんだ。

 

前回はすぐに死体を掴まれてそそくさと退散しやがって。

 

おかげで全然作業が進まなかったぞまったく……!

 

お!騒ぎを聞きつけてあの()鹿()()()()も動きだしたな……!

 

へへっ!いいぞ……さっさと本堂の方へ行っちまいな!

 

よし、()行っちまったな!……へへっ、俺の記憶が正しければ、()()()()()()()()()()()()()……!

 

頼むから、戻って来るんじゃねぇぞ……。

 

(ズズッ……ズズッ……)くっ!……()()()()()()()()、こんなデケエ石を使うんじゃなかったぜ……!

 

フゥ……やっとどかせた……そんじゃ直ぐにおっぱじめるか……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ザック……ザック……ザッザッ……ジャリッ……!

 

夜の闇の中――命蓮寺の裏手にある庭、その一角にある林の中で一心不乱に穴を掘る影があった――。

シャベルで一心不乱に土をすくっては、それを無造作に周囲に捨てる。

それを数回繰り返し、地面の奥深くを掘り進めるその影は、荒く息を吐きながらシャベルの音を静かにその場に響かせていた――。

やがて大人一人分がすっぽりと入るくらいの深さになったとき、ふいにその手が止まり、影の双眸が大きく見開かれる。

そしてシャベルを穴の外に放り出すと、そこからは自らの手だけで土を掻き分け始めた。

そうして土の中からその姿を現したのは()()――。

一つは大人の半分の大きさはあろう見るからに頑丈そうな木箱。そしてもう一つは――。

 

 

 

――白骨遺体……それも身体は人型ではあったが、頭蓋骨は獣のような縦に伸びた形をした、明らかに()()のそれが、そこに埋まっていたのである。

 

 

 

しかし、穴を掘っていた影はその白骨には目もくれず、死に物狂いの形相でその隣に埋まっていた木箱を引っ張り出す。

一心不乱にその気箱を穴から引き上げた影は、すぐさまその気箱の蓋を開ける。

するとその中には最初の木箱よりも一回り小さい箱が入っており、影はその箱を中から取り出すと再び、その箱の蓋を開ける。するとまたもや中から箱が現れ、影はまたその中の箱を取り出すのを繰り返す――。

そうして4~5回ほど同じ事を繰り返した結果、最後には両手で抱え込めるくらいの大きさの水瓶が現れた。

それを見た影はまるで長い年月、ようやく愛しい人とめぐり合えたかのような興奮を覚え、歓喜に打ち震えた。

それと同時に顔は大きく歪み、口元は耳元近くまで大きく広がり、自然と笑い声が漏れた。

 

「はっ……ははっ……!はははははっ!アハハハハハッ!!……ヒィヒャハハハハハハハアハハハハハハハハハァァッ!!!ヒャーッハハハハハハハハハアハハハヒャハハッハハハハハ………ッッッ!!!!!」

 

月を仰ぎ見ながら高々に笑う影。それは長年の苦労が報われた瞬間であり――。

 

 

 

 

――同時に、終焉を向かえた瞬間でもあった……。

 

 

 

「ほぅ……。それかい?お前さんが天狗の里から盗んだと言う『鬼の宝』は……?」

 

唐突にその場に第三者の声が響き渡り、影はピタリと笑いを止め、同時に驚愕に染まった顔で辺りを見回す。

すると、先ほど穴を掘るためにどかした大石の上に、見知った化け狸があぐらをかいて鎮座しているのを見つけ、さらに驚く。

そうやって呆然と立ち尽くす影に向かって化け狸――マミゾウは哀れな者を見るかのように目を細める。

 

「……長い年月、それこそ天狗どもやワシら命蓮寺の者たちの誰にも感づかれる事無く、息を殺して機会を伺い、隙ができてはコツコツと目的の為に行動しておったようじゃが……。いい加減痺れが切れてしもうた見たいじゃのぅ……。まあ、そうなっても無理は無かったかもしれん。ここはワシら狸たちが酒盛りの溜まり場にしている場所の直ぐそばじゃったからのぅ。ワシがいない時でも配下の狸どもが何匹か毎日のようにたむろしておったらしいから、お主が歯痒い思いをしておったのが手に取るようにわかるわぃ……」

 

そこまで言ったマミゾウは、一呼吸の後、正面に立ち尽くす影の名を呼んだ――。

 

 

 

 

 

 

「そうじゃろ?……旧鼠、次郎八よ」

 

 

 

 

 

 

――ほのかな月明かりに照らされて、その影……次郎八は驚愕の目でマミゾウを凝視していた。

そんな次郎八にマミゾウは短く息を吐く。

 

「……ま、ワシら狸の存在だけが今まで()()()を掘り起こせなんだ理由と言うわけではないのじゃろう。この寺の修行者の妖怪たちの大半が『夜行性』。夜な夜な寺の中や周囲を歩き回る奴らが多かったからのぅ。おまけに潜入捜査をしておった天狗どももいた。ワシらや聖たち、その上そ奴ら妖怪たちの目を欺いて動くというのは……さすがのワシでも想像できんわい」

「…………」

 

淡々と響くマミゾウに次郎八はただ歯軋りをしながら睨みつける。

彼にして見れば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()故、この反応は仕方ないと言えた。

だが、そんな次郎八を見てもマミゾウは涼しい顔で響き続ける。

 

「……ここへ修行者として入り込み、周囲へ不審を与えないようにそれらの目をかいくぐりながら、()()()()()()()()()、さらに人目を忍んで掘り起こすと言う行為は、この寺では容易ならざる事じゃたろうな。じゃがお主は諦める事無くそれをやってのけた。感服じゃよ、その呆れるほどの執念、機を待ち続ける根気、そして他者に気付かれぬように息を殺して隠れ続ける忍耐。……じゃが残念じゃ。最後の最後、お主が痺れを切らしてあんな『踊るしかばね』を起こしたが為にそれらの苦労が全て水泡に帰した……!」

 

マミゾウがそう言った瞬間、次郎八の脇を一陣の風が吹きぬけた。

 

「っ!?」

 

風が収まった時、次郎八の足元にあった水瓶が忽然と消えうせていた。

慌てて周囲を見回すと、少し離れた所にさっきまでいなかった鴉天狗の少女が水瓶を持って佇んでいたのである。

水瓶を抱えた鴉天狗の少女――射命丸文は冷たく次郎八に言い放つ。

 

「これは返してもらいますよ」

「か、返せっ!!」

 

血走った目で次郎八は射命丸に食って掛かる。しかし相手は幻想郷最速と言われる天狗。水瓶を抱えたままでも、彼女からして見れば欠伸が出るほどの動きである次郎八の手をかいくぐって避けるのは簡単すぎていた。

ヒラリ、ヒラリとかわされた次郎八は怒りが頂点に来ていたこともあり、その場で子供のように地団駄を踏むと感情の赴くままに怒声を周囲に撒き散らし始めた。

 

「……くそっ!クソッ!!畜生がぁっ!!!何でっ、何で上手くいかなかったんだぁ!!?どいつもこいつも俺の邪魔ばっかしやがって!!……そうだ、命蓮寺ッ!あいつらがこんな所に寺なんかおっ建てなけりゃあ、こんな苦労もせず、とっくの昔に『鬼の力』を手に入れていたってのにぃぃぃぃーーーっ!!!」

 

普段のゴマをするような言動とはうって変わって感情のままに吐露する次郎八にマミゾウは静かに声をかける。

 

「……『鬼の力』と言うのは、その水瓶の中に入っているモノの事かの?」

「ああそうだ!俺が長い時間をかけて調べ上げた天魔の屋敷にある宝物庫!その中に管理されている『鬼の力を得られる秘薬』!それがこれだ!!俺はそれが欲しくて長い年月をかけて計画を練って盗んだっていうのにッ!!それなのにこの寺の奴ら、俺がこの場所へ隠した直後、タイミングよくこの上に寺を建てやがった!!……おかげでここいら一帯の地形まで変わっちまって――」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

「ああそうだよッ!!……おかげで俺は入りたくもない寺に修行者として入門して、周囲の目を忍んで埋めた場所の特定と掘り起こしに無駄な年月を送ることになっちまって……ッ!!」

 

マミゾウの指摘に次郎八はやるせない気持ちで一杯だとでも言うかのような歪んだ顔で頭を抱え、そう叫ぶ。

だがふいに、その顔が上がる。その双眸はもはや焦点が定まっておらずユラユラと揺れている。

 

「……いや、そもそもの始まりは『()()()』のせいだ……。『あいつ』が欲張ってゴネたのがそもそもの始まりなんだ……ッ!!」

「『あいつ』……とは、もしかしてその穴の中で骨になっている()()の事ですか?……一緒に盗みを行った相方だったのでは?」

 

次郎八が掘った穴を見つめながら響く射命丸の問いに、次郎八は即座に否定する。

 

「冗談じゃないッ!!ソレはただ見張り番のためだけに雇ったただの野良妖怪だ!!あの天狗の里の強奪計画は、俺が一から十まで全て調査し建てて実行したモンだ!!だからその『鬼の力』の全ては俺が手にするはずだったって言うのに!『あいつ』は天狗の里からここまで逃げてきた途端、元々予定していた報酬だけでは飽き足らず、あろう事か「『鬼の力』の半分を寄越せ」なんてふざけた事を言ってきやがった!!ほとんど何の役にも立たなかったクセに、調子に乗りやがって……ッ!!」

「だから殺して、ほとぼりが冷めた頃に掘り起こすはずだった『鬼の宝』と共にここに埋めたのですか?」

 

静かにそう再び問いかける射命丸に、半ば自棄になった次郎八が叫ぶように答える。

 

「ああそうだよッ!そうだよ!そうだよ!!そういう事だよッ!!!……全部『あいつ』のせいだ……!何もかも計画通りに行かなくなったのは『あいつ』の欲が出たのが始まりだ!!俺の全てが狂ったのは全部『あいつ』の――」

 

 

 

 

 

 

 

「――その辺にしておいた方がいいのでは?敗北者の戯言(たわごと)ほど見苦しいモノはありませんよ?」

 

 

 

 

 

 

――はっきりと、しかし同時にゾクリとするような不気味な第三者の声が辺りに響き渡った。

反射的に次郎八が振り返ると、そこには着物の上から腹巻を纏った黒髪の男が次郎八を見据えていた。

その顔は不気味なほど真顔ではあったが、双眸はギラつきまるで獲物を捕らえたと言わんばかりの力をその瞳に内包しているようであった。

その男の顔を見た途端、次郎八は思わず後ずさる。

 

「お、お前は……あの『墓まねき』なんてふざけた怪談を流した……!!」

「ヒッヒッヒ。『ふざけた』とは心外ですね……。『踊るしかばね』を起こして騒ぎを起こしたあなたに言われたくありませんよ?」

 

そう言って一歩一歩とゆっくりと次郎八にその男――四ツ谷文太郎は近づきながら静かに声を響かせる。

 

「……ようやく尻尾を捕まえて、大衆の前に引きずり出せたのです。ここいらで決着を着けようじゃありませんか……」

「け、決着……?」

 

次郎八がそう四ツ谷に問いかけている間にも、彼にじりじりと詰め寄られ、最終的に次郎八は、自身が掘り起こした穴の傍まで四ツ谷に追い詰められてしまっていた。

 

「っ!?」

「……そう、決着ですよ」

 

背後に自身が作った穴があることに気付く次郎八に、四ツ谷は再び声をかける。

 

「……『死人使い』と『怪談使い』……。『踊るしかばね』と『墓まねき』……そのどちらが『()()』かという、ね……」

 

次郎八は再び四ツ谷を見る。その顔は不気味に歪み、口の端がまるで耳元まで裂けるように大きく開かれて笑っていた。

そんな四ツ谷を見て、妖怪である次郎八の背筋に冷たい何かが走るのを次郎八自身が感じ取った。

心臓の鼓動がバクバクと高鳴り、何故だか全身から冷たい汗も噴出し始める。

まるで得体の知れない『ナニカ』に魅入られたかのように身体が硬直し、その場に棒立ちになってしまっていた。

そんな次郎八を見下ろすかのように、四ツ谷は優しく、そして静かに――

 

 

 

 

 

 

――『開幕』の言葉を解き放っていた――。

 

 

 

 

 

 

「さァ、語ってあげましょう。貴方の為の……怪談を……!!」




少し遅いですが、あけましておめでとうございます。
今年初めての投稿です。次で四ツ谷の怪談に入っていきます。
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