四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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幕間・弐となります。
前回の幕間よりも短くなると思います。


幕間・弐 新設、四ツ谷会館
其ノ一


秋の終り。雲一つ無い快晴となったその日。

命蓮寺の本堂で薊の母、椿とその伴侶となる夫、修平の祝言が開かれた――。

白無垢に薄い紅を差した椿は三十代とは思えない可憐な容姿で羽織袴姿の修平と寄り添っていた。

その場には寺の関係者だけでなく修平の親族、ならびに椿の娘である薊や瑞穂はもちろんの事、四ツ谷と小傘、それに椿の姉である小野塚小町も立ち会っての式となった。

四ツ谷たちも皆、この祝言の為に祝儀用の晴れ着を纏っており、全員が温かい目で椿と修平を見守る。

この祝言の司婚者(しこんしゃ)である白蓮も祝儀用の袈裟を着こなし、椿と修平の前で二人に勤行(お経)と祝いの表白(言葉)を送った。

そして、誓いの言葉の後に念珠の授与が行われ、焼香、法話の後、合唱礼拝をして椿と修平は本堂を後にした――。

赤を基調とした金の刺繍のやや派手目の晴れ着を纏い、同じく赤い髪をアップで纏めた小町は椿たち二人から一度たりとも眼を離す事無く見つめ、彼女が退場する時、その背中を見ながら誰に気付かれる事もなく、一滴の涙を流したのだった――。

 

祝言が終り。命蓮寺を後にした椿と修平の両名とその関係者たちは、人里の端っこにできた新築物件へと脚を運んだ。

そこにはつい最近できたばかりの二軒の建造物が建っていた。

一軒は椿と修平、そして薊と瑞穂のために作られた民家。

そしてもう一軒は妖怪の賢者、八雲紫が稗田阿求経由で人里の人間に建てさせた、多目的総合遊戯施設――。

 

 

 

 

――通称、『四ツ谷会館(よつやかいかん)』がそびえ建っていた――。

 

 

 

 

この二軒の建物は今から数日前に完成した。

最初こそ四ツ谷会館の建設が先に始まっていたが、後に椿たちの家が造られる事により、先にそちらを完成させることに重点が置かれる事になり、結果先に完成したのは民家の方であったが、そのすぐ後を追うように四ツ谷会館も完成する形となったのである。

そして今回。椿たちの祝言と一緒に、民家と四ツ谷会館の新築完成祝いも兼ねた宴会も同時に行うこととなり、四ツ谷たちは民家の方ではなく、向かいにある四ツ谷会館の方へと歩みを進ませた。

 

外の世界の体育館を思わせる、大きな舞台のついただだっ広い空間に『ござ』が敷かれ、そこにいくつもの長机と座布団が置かれ、さらにその机の上には豪華な酒や料理が所狭しと並べられていた。

一見すると寒そうな空間であったが、あちこちに暖房器具が設置されていたため、それほど寒くは無い室内温度であった。

四ツ谷たちがやってきた時すでに宴会場には民家と会館を建設した大工の方たちとその関係者。さらには上白沢慧音や阿求が来ており、各々思うがままの席に座っていた。

小傘たちも、各自に好きな場所に座り、椿と修平、そしてこの()()()()()()()四ツ谷も上座の主宴席に座ってようやく宴会が開始された。

 

時が経つのも忘れて、皆思うがままに飲み食いをし、椿たちへの祝いの言葉や談笑などもわいわいと交わされ続けたのである。

そして宴会の催し物として、四ツ谷の怪談が行われる事となり、舞台に上がった四ツ谷はそこに置かれた座布団の上に正座すると、祝言の時から纏ったままの晴れ着である羽織袴をゆらりと揺らし、その場にいる皆に向け深々と一礼する。

 

「えー、この度(わたくし)どもや椿さん修平さんたち新婚夫婦のためにこれだけの宴会を開いていただき、真に感謝の言葉もありません。これから私はこの会館の館長として就任し、この人里の人たちのために作られたこの施設を管理し、守る役目をおおせつかる事とあいなりました。就任したてでまだまだ右も左も分からない若輩者の身ではございますが、それでも精一杯この場所を守っていこうと思う所存でございますので、皆々様にはこれからもご指導ご鞭撻(べんたつ)の程、なにとぞよろしくお願いいたします。……さて、それでは催し物という事で、私の得意分野で皆々様を楽しませていければと思います。季節外れになりますが、一時皆様にはこれから語る私の噺に耳をお貸し願えればと、そう思う所存でございます……」

 

懇切丁寧に語られた前口上の後、一息置いて四ツ谷は不気味な笑みを作って続けて言った。

 

 

 

 

 

「……さァ、お聞かせ差し上げましょう。貴方たちの為の怪談を……!」

 

 

 

 

 

この直後、宴会場の馬鹿騒ぎに悲鳴も含まれるようになったのは言うまでもない――。

 

 

 

 

 

 

 

宴会が終わり、参加していた各々が自分たちの家に帰るために人里へと散ってゆく――。

最後の方まで残っていた慧音と阿求を会館前で見送った後、その場には四ツ谷と小傘、薊、瑞穂、椿、修平、小町、そしてこの会館と民家建設の総指揮を取っていた大工の棟梁(とうりょう)だけが残った。

ちなみに瑞穂は、祝言と宴会ではしゃぎ疲れたのか、薊に背負われてスヤスヤと眠っていた。

椿と修平は棟梁にお辞儀をする。

 

「今回私たちの家を建てていただき、真にありがとうございました」

「いやいや良いんですよ奥さん。久々に腕の鳴る仕事をさせていただきました。我々もあの家を長く大事に使っていただければ本望ですよ。もちろん後ろにある会館の館長になるそっちのアンタもな!」

「ええもちろん。大事に住まわせてもらいますよ」

 

椿から一転、棟梁は四ツ谷にも話を振るが、四ツ谷はそれに笑って答えた。

それを聞いて満足そうに頷く棟梁は、最後に椿と修平にこう言った。

 

「あ、そうだ奥さん。旦那さん。あの民家の旦那さんたちの寝室なんですけどね?他の部屋と違って、()()()()()()を高くしてありますから、今晩()る時は周りを気にせず思う存分できますよ?」

 

ニヤニヤと笑いながらそう言う棟梁にさすがの椿と修平の二人も真っ赤になって俯いてしまった。

それを見た棟梁はガハハと笑う。

 

「これは、意地悪がすぎましたな!」

 

そう言って後ろでに手を振りながら棟梁は家路へと向かい去って行ったのだった。

その場に残された四ツ谷たちの間に、やや気まずい空気が流れる。

しかし、それを直ぐに打ち壊すかのように、唐突に小町が修平の前に立ち、両手を修平の両肩にポンと置くと、満面の笑みを浮かべて優しく修平に語り掛けた。

 

「修平君?椿をできるだけ痛めつけないでね?優しく、だよ?」

 

どこか凄みを利かせる小町の笑みと口調を前に、修平はただコクコクと頷くことしかできなかった。

 

 

 

 

小町が帰るのを見送った椿は、ふと思い出したかのように四ツ谷に問いかける。

 

「……あの、本当によろしかったのでしょうか?今晩だけ薊と瑞穂を会館(そちら)で預けていただいて……」

「ええ、いいですよ。今夜ぐらい旦那さんと夫婦水入らずで過ごしたいでしょう?薊ちゃんも瑞穂ちゃんも、ちゃんと理解していますから大丈夫ですよ」

 

四ツ谷の答えに、椿は少し苦笑すると四ツ谷たちに向けて深々と頭を下げる。

 

「……本当に色々とありがとうございました。これからも薊の事、なにとぞよろしくお願いします」

 

それに四ツ谷は小さく頷いて答えると、椿は修平と共に真向かいにある新しい民家の中へと消えていったのであった――。

そうしてその場には四ツ谷、小傘、薊、瑞穂(睡眠中)の四人だけが残り、小傘は四ツ谷へと声をかける。

 

「師匠、ようやく()()()()終わりましたね」

「ああそうだな……。よしお前ら、疲れてるとこ悪いが直ぐに準備するぞ。薊は瑞穂を部屋に寝かして来てくれ」

「わかりました!」

 

そう言って薊は四ツ谷たちより一足先に、瑞穂を背負って会館へと消えていった。

一足遅れて四ツ谷も小傘と共に会館へと戻る。

 

「さぁて、んじゃ……『()()()』と参りますかね……!」

 

そう小さく響きながら――。




四ツ谷の新拠点完成編です。
この章はあと二、三話で終わるかもしれません。
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