四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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時期は第四幕と第五幕の間の出来事です。


『縁の下の力持ち』

パチ、パチパチ……パチパチパチパチ……。

 

四ツ谷たちの住む長屋、その小さな部屋で、大きな図体をした金小僧が器用に小さな算盤(そろばん)の玉をはじいて、出た数を家計簿につけていた。

時刻は夜、行灯のわずかな明かりだけで彼は作業をこなす。

サラサラと小さな筆でこれまた器用に達筆で文字を書きながら、金小僧はチラリと横に目を向けた。

 

「ぐがー……ぐごー……」

 

そこには鼻提灯を出して高いびきで眠る四ツ谷(我が父)の姿があった。

 

四ツ谷は働いてはいない。

 

毎日、鈴奈庵で借りた本を読みふけったり、昼寝したり、たまに外に出ては、子供たち相手に怪談を聞かせるかのどれかだ。

そんな暮らしをしている()()()()()に金が入るわけが無い。だが、それでも普通の生活ができているのは、何を隠そう金小僧の存在が大きい。

いや、事実金小僧におんぶに抱っこ状態である。

一日の生活費も、新拠点建設の費用も、椿たちの祝言資金の一部も、全て金小僧の能力があってこそである。

彼が持つ、『隠し金を召喚する程度の能力』で外の世界から隠し財宝などを召喚し、それを元手にしているからであった――。

 

「ふぅ……」

 

家計簿をつけ終え、金小僧は次に別の方へ目を向ける。

そこには両手で抱えるほどの大きな風呂敷包みが置いてあった。

それを見ながら、金小僧はポツリと響く。

 

「……明日が『納金日』、か……」

 

 

 

 

 

 

 

翌日、金小僧は折り畳み入道の能力を使い、とある場所へとやって来ていた。

そこは、博麗神社であった。

以前に霊夢から定期的な納金の約束をしていた金小僧は、それを果たすために金銭をジャラジャラと入れた風呂敷包みを持って彼女の元へ訪れたのだ。

物置の中にあった大きな葛篭から出てきた金小僧は、その脚で神社の来客用の玄関の前にやって来る。

そして、軽く戸をノックし、神社の主が来るのを待った。

少しして、

 

「はぁ~い、誰よこんな朝っぱらから……って金小僧じゃない」

 

玄関の戸を開けて、神社の巫女、霊夢が姿を現す。霊夢は来客が金小僧だと知ると目を丸くした。

それに構わす金小僧は用件を言う。

 

「霊夢殿、約束の納金です。お納めください」

「ははっ♪ちゃんと渡しに来てくれたのね?関心関心♪」

 

金小僧の抱える風呂敷包みを見て、目を輝かせた霊夢は、意気揚々に金小僧からそれを受け取った。

 

「ウェヘヘェ~♪これでもう食べる事に困る事は無いわね。ようやくこの貧乏生活からおさらばよぉ~♪」

「……では、我輩はこの辺で」

 

上機嫌で金小僧から受け取った包みを玄関の上がり口に置く霊夢を見ながら、金小僧がそう言い、クルリと霊夢に背を向ける。

その途端、ポンと言う軽い衝撃が金小僧の背中に伝わる。振り返ると背中にしがみ付く霊夢の姿があった。

 

「霊夢殿?」

「んふふふぅ~♪ねぇ、金小僧?この際だから、うちの子になんなぁ~い?悪いようにはしないわよ?」

「……なっ!?だ、ダメですよ!我輩には父上がいるのですから!!我輩がいなければ誰が父上を養うのですか!?」

 

そう言って霊夢を引き離した金小僧は、彼女から距離を取る。

それを見た霊夢は少し口を尖らせる。

 

「ふぅーん、結構あいつに対して忠誠心があるのね?……わかったわ。だったらこうしましょう」

 

霊夢はそう言って意地悪い笑みを浮かべると、一枚のカードを取り出した。

それはスペルカードであった。

それを持って霊夢は金小僧に声をかける。

 

「『弾幕ごっこ』よ。私が勝ったら、あんたをもらうわ」

「なっ!!そんなご無体な!?」

「さぁさぁどうする?って言ってもあんた弾幕戦やった事ないわよね?だったら私の一人勝ちね♪」

 

勝ち誇ったかのように言う霊夢に対し、金小僧はしばし俯き、思案顔になる。

直ぐに顔を上げる。

 

「……わかりました。受けましょう」

「え!?」

 

予想外の返答に霊夢は面食らう。それに構わず金小僧は続けて言う。

 

「実はですね霊夢殿。我輩にも最近一つだけ、放てる弾幕ができたのですよ。それも対霊夢(あなた)用の」

「私用の、ですって……?へぇ、面白いじゃない。なら撃ってきてみなさいよ。完璧にしのぎ切って見せるわ!」

 

そう言って構える霊夢を見て、金小僧は内心ほくそ笑む。

そして、直ぐに真剣な顔になると『能力』を発動させ、霊夢に向けて弾幕を開始する。

 

「では、行きますよ――」

 

 

 

 

 

 

 

「――金符『大盤振る舞い』!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……!?」

 

金小僧の背後から現れた無数の弾幕を見て、霊夢は半ば呆然となった。

それは魔力や霊力などで練られたモノなのではなく。一つ一つが純金でできた小判や、宝石などの貴金属類。それらが雨あられのように霊夢の頭上に降り注いだ。

 

「っキャーーーーーー♪」

 

歓喜の悲鳴を上げる霊夢。この瞬間、彼女の頭の中で弾幕ごっこの事は綺麗さっぱり吹っ飛んでいた。

両目を『$』に変化させて、一心不乱に地面に散らばった小判や宝石をかき集める霊夢。

その間に金小僧は折り畳み入道の協力を経て、すたこらと逃げ去ったのは言うまでもない――。

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