四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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時期的には第四幕の直後の噺です。


『真価』

四ツ谷の長屋での一幕――。

椿の婚約者、修平が退院をし、その祝いとしてその日の晩は豪華なものにしようと言う事となった。

とは言え、金小僧の能力で資金面は問題ないにしても、何を作るべきかと一同は思い悩む。

いつものメンバー(四ツ谷、小傘、薊、金小僧、折り畳み入道)に加え、慧音も参加し、一同が頭をつき合わせてウンウンと唸る。

四ツ谷が口を開く。

 

「高い食材を片っ端から買い込んで、それを調理して並べりゃいいんじゃねーか?」

「見も蓋もない。……私だったらこういった祝い事には昔、刺身を用意していたがな(まあ、ここでは川魚の刺身はあまりお勧めできんが……)」

 

慧音の返答に小傘が口を挟む。

 

「お刺身、ですか……?でも川魚のはあまりできそうにありませんよね?寄生虫とかもありますし……」

「んー?ならオラ、いい魚、知ってる」

 

そう言って片手を挙げた折り畳み入道に、全員が注目する。

その視線を浴びながら折り畳み入道は、自身が入っている葛篭に両手を突っ込むと中で何かガサゴソとあさり、そして()()を四ツ谷たちの前に出して見せた。

 

『おおっ!??』

 

()()のインパクトを前に、折り畳み入道以外の面々が、反射的にそう声を漏らす。

それに構わず、折り畳み入道は()()を皆の前にあるちゃぶ台の上にデンと置いて見せた。

 

「おおっ!すごいな!!()()()()()()()()。こんな大きくて活きの良い、立派なマグ……ロ……?」

 

驚愕のままに声を上げる慧音であったが、それが直ぐに尻すぼみとなる。

そう、ソレは……紛れも無く(マグロ)であった。

それも今朝、水揚げされたばかりだと思われる全長3メートル近くにも達する巨大な鮪であった――。

……そう、何度も言うが鮪である。川ではなく、()()()()()()――。

 

『…………』

 

鮪を前にして四ツ谷たちは押し黙る。

 

「「?」」

 

唯一、これを持って来た折り畳み入道本人と、鮪の生態を知らない薊だけが、固まった四ツ谷たちを見て首をかしげていた。

しばしの静寂の後、四ツ谷は意を決したかのように折り畳み入道に問いかける。

 

「……オイ、折り畳み入道。お前この鮪……どこで手に入れた……?」

「……え?今、()()()()()()()()()()一匹もらってきた。今朝水揚げされたばかりの上物なんだって!」

「そうか……。で?()()()魚市場だ……?」

「へ?どこって――」

 

 

 

 

「――()()()()()()()()()()()……?」

 

 

 

 

今度は、薊も固まってしまう。

彼女はてっきり、この魚は人里の川から釣られたものだとついさっきまで思い込んでいたからだ。と言うか、こんなでかい魚が、そこいらの川を泳いでいるわけが無いのだが……。

誰もが知っている事だが、四ツ谷たちのいる幻想郷は陸地ばかりで、魚といえば近くを流れる川からしか獲れない。つまり、()()()()()()

それなのに今目の前には、海に生息する鮪がちゃぶ台にその存在感を主張させていた。

つまりこれは、さっきまで海のある場所にいたという事になる。

では何故あるのか?それは今の流れから、折り畳み入道が()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事だ。それはつまり――。

 

「――つまりお前は……行けたのか?()()()()()……!」

「え?言ってなかったっけ?」

 

四ツ谷の問いに折り畳み入道が首を傾げて返答する。

しばしの静寂後、

 

『エエエエエェェェェーーーーーーーーーッッッ!!!???』

 

部屋中に四ツ谷たちの絶叫が響き渡った。

いち早く覚醒した慧音が折り畳み入道に詰め寄る。

 

「嘘だろ!?お前の『箱から箱へと移動する程度の能力』はそんな事もできるのか!?」

「お、うん……。いけなかったか?」

「博麗大結界にも干渉せずにか!?」

「……それが何なのかオラには分からないけど、外の世界に行く時は何も感じなかった」

「し、信じられん……!ん?と言うかお前、魚市場から取ってきたと言ったな?ちゃんとお金は払ったのか!?」

「…………」

「目を逸らすんじゃなああぁぁあぁいィ!?」

 

半ばパニックとなった慧音と折り畳み入道の会話を聞きながら、四ツ谷は一人思考する。

 

(こりゃすごいな……。まさかこいつの能力がここまでのモノだったとは……。ヒヒッ、こいつは使えるな。この能力があればいつでも外の世界の物が手に入り――)

 

そこまで考えた瞬間、四ツ谷の肩にポンと誰かの手が置かれた。

四ツ谷が顔を上げると、そこには真っ青な顔で四ツ谷を見る面々が……いや、正確には()()()()()()()()()()()()青ざめて固まっていた。

嫌な予感を覚えた四ツ谷は生唾をごくりと飲み込むと、最初に自分の肩に置かれている手を、そしてその手の持ち主へと視線を向けた――。

 

「…………(ニッコリ♪)」

 

そこには満面の笑みを浮かべた妖怪の賢者の姿があった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、折り畳み入道の能力は、自称十七歳の賢者の手により、術で弄くられ、その能力は幻想郷内限定のモノへと威力を封じられてしまった。

そして、その日の晩の祝い料理は――人里の川から獲れた、普通の川魚の塩焼きが並べられたという――。

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