四ツ谷会館完成祝いの宴会が開かれ、夜明けまで数時間をきった頃――。
人知れず広間とは別の空き室、その中央に敷かれた布団から、ムクリと上半身を起こす小さな影があった。
「ぅ……ん……むぅ……?」
小さな手で目を擦りながら起きたその幼女は、薊の妹――瑞穂であった。
寝ぼけ眼のトロンとした双眸で、瑞穂は周囲を見渡す。
「……おねーちゃん……?」
てっきり一緒に寝てるであろうと思い込んでいた姉がいない事に瑞穂は小首をかしげ、布団から這い出てくる。
そして、暗がりの中で見つけた襖を両手で引き、部屋を出た。
蝋燭の灯された薄暗い廊下を、半ば夢うつつな状態で瑞穂はトテトテと歩いていく。
そしてふいにその脚が止まった。
瑞穂の見つめる先、隙間から光とガヤガヤとにぎわう声が漏れる襖があったのだ。
そこはまさに、酒と料理でドンチャン騒ぎの真っ只中にある、宴会の開かれている広間であった――。
「……?(まだ、えんかい、やってるの……?)」
もうとっくに今日の祝言の宴会が終わっていたと思っていた瑞穂は首をかしげながら、半ば寝こけている半開きな目を作ったまま、広間へと続く襖へと近づく。
瑞穂が思っていた事もあながち間違いではない。しかし、今行われているのは瑞穂の母、椿の祝言の宴会ではなく、四ツ谷の会館完成祝いの宴会であり、その宴会に参加している者たちは、人間の姿に近けれど、決して人ではない者たちが大半だった――。
そうとは知らず、瑞穂は襖の取っ手に手を掛けようと片手を持ち上げる。
しかし、唐突に瑞穂の背後で声がかかり、その動きが途中で止まる事となる。
「こらこら、良い子はまだ寝ている時間よ?」
「……?」
瑞穂が振り向くと、そこには紫のドレスを纏った長い金髪の女性――言わずと知れた八雲紫が立っていた。
しかし、紫の事を知らない瑞穂は再び首をかしげる。
「……
「おねっ……!?う、うぅぅ……!」
瑞穂の予想外の問いかけに、紫は一瞬固まり、そして片手で口元を覆うとそっぽを向いて両目に涙を滲ませた。
決して悲しいわけじゃない。むしろその反対だ。
瑞穂はまだ五歳の幼女。そんな幼女から見れば、(見た目は若けれど)
『B○A』はともかく、最低でも『おばさん』と呼ばれる事は覚悟していたのである。
それ故、紫にとってこれは予想外の『嬉しいショック』であった――。
感動のあまり身を震わせる紫に対し、瑞穂はさらに頭に『?』を浮かべる。
「……おねえちゃんどうしたの?悲しい事、あったの……?」
「いえ、感涙極まってるの。……ごめんなさいね。もう大丈夫よ」
目じりの涙を拭き終えた紫は、改めて瑞穂と向かい合う。
「それよりも、あなた。瑞穂ちゃんよね?あなたのお姉さんならこの向こうの広間で宴会の手伝いをしてるから大丈夫よ。だから安心して布団に戻りなさい。あなたもまだ眠いでしょ?」
紫のその言葉に、素直に頷こうとする瑞穂であったが、ふいに俯き動かなくなってしまう。
「……?どうしたの?」
瑞穂の様子がおかしくなった事に気付いた紫は、覗き込むようにして瑞穂を見る。
よくよく見ると、瑞穂の体全体がブルブルと小刻みに震え、両足もモジモジと
それを見た紫は全てを察する。
「あらあら……。寒い廊下にいたせいで
「……小さいほう……」
紫の問いに少し恥ずかしそうに頬を赤らめ瑞穂はそうポソリと答える。
それを聞いた紫は「しょうがないわね」と小さく苦笑してみせると、瑞穂の小さな手をとって、優しく引っ張る。
「……
そう優しく微笑みかける紫に手を引かれるがまま、瑞穂は彼女と共に廊下の奥へと消えていった――。
「お疲れ様です。紫様」
「こんなの『お疲れ』にもならないわよ、藍」
『お花摘み』を終えた瑞穂を部屋へと送り、布団に寝かしつけた紫を、廊下で彼女の式の藍が待っていた。
紫は藍に問いかける。
「……いつからいたの?」
「紫様が、彼女を厠へと送っていくあたりからでしょうか。……言ってくだされば、私が代わりに彼女を送っていきましたのに……」
藍のその言葉に、紫はフフッと笑うと、瑞穂が寝ている空き部屋へと振り返り、独り言のように響く。
「そうね……その方が良かったのかもしれないけれど、どうしてかしらね?……ひょっとしたら、
そう語る紫の横顔が、親友である幽々子の前でも滅多に見せない、
藍自身も、紫がそんな顔をする所を見た事が無かったので、予想外の状況に目を丸くする。
しかし、そんな珍しい紫の笑みが次の瞬間には霧散し、代わりにいつもの『賢者としての笑み』を藍に向けてきていた。
「……それよりも藍、喜びなさい。
「……は、え?と、言いますと……?」
一瞬反応が遅れるも、藍は紫にそう聞き返す。
それに紫が再びフフッと小さく笑うと、口を開いた。
「……あの子――瑞穂ちゃんと会った瞬間、感じたのよ――」
「――あの子の中から……『高い霊力』を、ね……」
「高い霊力……?……!!もしや、紫様……!」
紫が何を言いたいのか、直ぐに理解した藍はハッとなる。
それを見た紫は嬉しそうに笑みを深くし、そして続けて声を響かせていた――。
「ええ、
「――霊夢の後釜……
予想より速く書けましたので、投稿させていただきます。