四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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前回のあらすじ。
『四隅の怪』を実践するために梳を連れて寺子屋に帰ってきた四ツ谷に待っていたのは、非常な現実であった――。


其ノ四

「……オイ、慧音先生。どういう事だコレは?俺への嫌がらせか!?」

「……すまん、四ツ谷。私としてもこの二人を連れてくる気は毛頭無かったのだが……」

 

子供たちから声が届かない所まで距離を置き、こめかみに血管を浮き立たせた四ツ谷はそう言いながら慧音に詰め寄った。

慧音の方も申し訳なさそうに四ツ谷に謝罪する。

そして続けて口を開き、事の経緯を四ツ谷に話し始めた。

 

「……実は妹紅を誘った後、鈴奈庵の小鈴にも協力してもらおうとそこへ向かったんだ。小鈴もかつては私の教え子だったし、頼んだら協力してくれると思ってな。そしたら運悪く丁度、鈴奈庵にこの二人がいてな……」

「ならコイツら見た時点で回れ右して退散すりゃ良かったんだ。何捕まった上に全部バラしてんだ」

「霊夢の『勘』の異常な鋭さはお前も知ってるだろう?予想外の遭遇で私が少し動揺したのを見て何かあると感づいたらしい。おまけにそれに四ツ谷(お前)も関わっているだろう事もな」

「何だその気持ち悪いぐらいのピンポイント能力は!?もうほとんど透視(とおし)じゃねーか!」

 

言い合う四ツ谷と慧音。だがそこに霊夢が割り込んできた。

 

「ちょっとちょっと、女苑(じょおん)じゃあるまいし人を疫病神あつかいしないでくれる?」

「宴会で会ったあの貧富姉妹の妹の方か?疫病神って言ったら俺からすりゃあお前も似たようなモンだ」

「あらそう?私から見たら里に怪談ばら撒いて騒動を起こそうとしているアンタの方がずっと疫病神だわ。何なら事を起こす前に退治してあげましょうか?」

「待て待て待て、今回の主導者はあくまでも慧音先生だ。俺は協力している側にすぎん」

「でも元凶はアンタの怪談なんでしょ?」

「ぐっ……!」

 

お札を取り出して半眼で睨む霊夢の指摘に四ツ谷は二の句が告げなくなった。

そこへ再び慧音が口を開き、霊夢を説得する。

 

「まあ待ってくれ霊夢。それもこれも子供たちに『四隅の怪』をやらせない為なんだ。ここに来る途中で()()()()の事は話したろう?……ちょっとの間だけで良い、協力してくれないか……?」

 

頭を下げる慧音に霊夢は複雑そうな顔を向けるも、やがてため息と共に頷いた。

 

「はぁ~、仕方ないわね。まあ私もここで無理矢理中止したりなんかしたら、『子供たちの遊戯を妨害した乱暴巫女』として、人里に悪評を立たせる事にもなりかねないしね」

「感謝する」

 

普段、周りの目など何処吹く風だというのに、人里での自分の評判となると途端に気にしだすようだ。

それ故、最終的に霊夢も慧音の頼みに折れたのである。

ホッとしながらそう響く慧音に今度は魔理沙が声をかけた。

 

「……で?まずは何すりゃ良いんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供たちを引き連れ、寺子屋の廊下をズンズンと奥へと進んでいった一行は、ある部屋の前にたどり着く。

先頭を歩いていた慧音が率先してその部屋の引き戸を開ける。

そこには家具一つ無い、およそ八畳(はちじょう)分ほどの広さの空き部屋がそこにあった。

四方をむき出しの土壁に囲まれ、上下を木製の天井と床が広がっている。

出入り口から見て奥の土壁、その右隅の上の方に、申し訳程度に作られた換気や光を入れるための小さな格子窓がちょこんと着いていた。

誰に聞かれるまでも無く、慧音が口を開く。

 

「元はこの寺子屋にある三つの物置部屋の一つだったのだが、去年の大掃除の際にいらない物を一掃処分してな。結果、この部屋の分が綺麗に無くなったと言う訳だ。……今回『四隅の怪』をこの部屋で行おうと思う」

 

慧音のその言葉を皮切りに、各々が一斉に行動し始めた。とは言っても簡単に『四隅の怪』の舞台準備をするだけなのだが。

慧音と妹紅は、奥にある格子窓に内側から木の板で蓋をし、その上に光を通さない厚手の布を多いかぶせ貼り付けた。

こうする事で外からの光を完全に遮断する。

一方、霊夢と魔理沙、四ツ谷に着いてきた梳は、別の物置き部屋から大きな暗幕を引っ張り出すと、部屋の出入り口である引き戸に内側からその暗幕で垂れ幕のように覆ったのである。

これで屋内からこの部屋に光が漏れることもなくなった。

そして四ツ谷はというと、子供たちと一緒に廊下で待機し、慧音たちの準備作業をぼんやりと眺めているだけであった。

暗幕を固定している最中、魔理沙が独り言のように呟く。

 

「しっかし、本当にこんなので幽霊だかが現れるモンなのか?」

「ンなわけないでしょ、馬鹿らしい。部屋の中グルグル回ってるだけでそんなのが出る事なんてそうそう無いわよ」

 

霊夢のその言葉にそばで聞きながら作業をしていた梳も口を開く。

 

「……え?そうなの?外の世界じゃ『四隅の怪』って一種の降霊術としての側面もあるって話だから、もしかしたらこの幻想郷の中だと出るんじゃないかな、と思ってたんだけど……」

 

そう言う梳に霊夢は呆れた目を向けた。

 

「あのねぇ、降霊術って言うのはちゃんとした段階を経て始めて霊が現れるモンなのよ。少なくともこんな簡易的なやり方で霊が現れるなんて私は初耳だし、出るとも思えないわよ。……まぁ、確かにこの幻想郷じゃあそうなる可能性も全く無いとは言えないけれど、今はまだ夕方前、幽霊たちが活動するにはまだ速い時間よ。だから今コレを行ったとしても何も無いとは思うけどね……」

「…………」

「……ま、もし万が一何か起こったとしても、私が万時退治するだけだけどね。……元凶であるあの怪談馬鹿と一緒に」

 

霊夢のその言葉に黙って聞いていた梳は顔を霊夢の方へ向けて口を開く。

 

「え?いや……さすがに恩人を目の前でボコボコにされるのはちょっと……」

「何よ、あいつかばう気?ならアンタから先に退治される?」

「ご、ご無体な……」

 

ジロリと霊夢に横目で睨まれ、梳は引きつった笑みでジリジリと後ずさりする。

「まあまあ」と後ろから直ぐに魔理沙に宥められ落ち着く霊夢だったが、ため息と共に梳を見据える。

 

「……アンタもさぁいつまでもあの怪談馬鹿たちの所に居候しているつもりは無いんでしょ?外来人らしいし、アンタさえ良ければいつでも外の世界へ帰してあげるけど?」

「……っ、わた、しは……」

 

唐突な霊夢のその提案に梳は押し黙り俯くと、両手で自身の着物をギュッと握り締めた。

短い沈黙が場を支配するも、直ぐにそれは終りを告げる。

 

「おい霊夢、何をしている?」

「あー……はいはい、直ぐに済ませるわよ全く……」

 

部屋の奥にいた慧音が霊夢にそう声をかけ、それを聞いた霊夢は適当にそう受け流すと、梳に再び目を向ける。

 

「……ま、何があったかなんて聞かないけど、それなら思う存分悩んで決めなさいな。帰りたくなったらいつでも私に言いなさい……気分にもよるけどね」

 

最後にそう締めくくった霊夢は梳の返事を待たずして作業を再開する。

梳はその霊夢の背中に向けて小さく頷いたのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

室内を完全に暗闇にした慧音たちは再びその部屋の前の廊下に出てくる。

慧音は廊下で待っていた子供たちを見ると腰に両手を当てて宣言する。

 

「よし。それじゃあお前たち、準備もできたからいよいよ『四隅の怪』を実践するぞ!」

「「「「「わーい!」」」」」

 

待ってましたとばかりに子供たちが両手を挙げて喜ぶ。慧音はそれを苦笑しながら眺めると、再び口を開いた。

 

「……それじゃあ前の約束どおり、最初はここにいる博霊の巫女様と魔理沙おねえちゃん。そして妹紅おねえちゃんと梳おねえちゃんがやるから、お前たちはここで見ているんだぞ?」

 

慧音のその言葉に子供たちは素直に頷き、それを見た慧音は振り返り背後にいる妹紅たちに声をかける。

 

「それじゃあ頼む」

「ああ、任せてくれ慧音」

「頑張ります……」

「……メンドクサ」

「オイオイ、霊夢……聞こえるぞ?」

 

妹紅と梳は素直に了承し、小さくぼやいた霊夢を魔理沙が同じく小さな声でたしなめた。

そうして今度はその四人が再び出入り口と暗幕を掻い潜って部屋へと入っていく。

彼女たちが入室する際、四ツ谷は彼女たちの向こう――部屋の中の様子がチラリと視界に入った。

入り口から差し込む光よりも向こう側は完全な漆黒の闇だった。格子窓はふさがれ、その上に分厚い布で粘りされたため一縷(いちる)の光も漏れてはいなかった。

部屋の出入り口も内側から暗幕で覆われているため、扉を閉めて暗幕を戻せば、完全に部屋の中は闇一色で支配されるのだろう。

やがて妹紅、梳、霊夢、魔理沙が部屋へと入り、ピシャリと扉が閉まった。

そうして三分もかからないうちに――。

 

 

 

 

 

 

 

 

……タッ……タッ……タッ……タッ……タッ……タッ……タッ……タッ……タッ……タッ……。

 

 

 

 

 

 

 

耳を澄ましても聞き取りづらい微かな足音が、部屋の暗幕と扉越しに小さく廊下へと漏れ出してきた。

その音を聞いた子供たちは固唾を呑んで部屋の様子を伺うように扉を見つめる。

そしてそれを見計らったかのように、四ツ谷は子供たちに気づかれないようにさりげなく慧音の横に移動し、慧音にしか聞こえないように小声で声をかけた。

 

「……始まったが、本当にうまく行くのかね。先生の作戦」

「うまく行ってもらわなければ困る。と言うか、そのためにお前に演技力の高い者を連れてくるように言ったはずだが?」

 

横目でチラリと四ツ谷を睨みながら慧音も小声でそう返した。

そして続けて言う。

 

「……お前があの梳と言う外来人の娘を選んだのも、ちゃんと()()()()()()()()()()()()()()なんだろ?」

「ああ、あいつには事前に先生の作戦はちゃんと言ってある。『タイミングを見計らって部屋から転げ出て、「五人目が出た!」って大騒ぎするように演じろ』ってな」

 

四ツ谷のその答えに慧音はそれで良いとばかりに小さく頷いた。

そう、元々この『四隅の怪』で軽く一芝居うち、子供たちを怖がらせて『四隅の怪』をさせないようにする事が慧音の作戦であった。

部屋の中をある程度周り、事前に打ち合わせをしていた梳が部屋から飛び出して子供たちの前で恐怖し騒ぎ立てる演技をするという簡単なモノ。

それを見た子供たちが怖がって『四隅の怪』を自分たちでやろうとする気を失わせることが今回の目的であった。

それは梳だけでなく、今部屋の中を歩き回っているであろう妹紅や霊夢、魔理沙もちゃんと知っていた。

 

――そうこうしている内に『四隅の怪』が始まって五分近くが立った。

 

部屋の中では未だに、タッタッタッタと足音が小さく響いてくる。

四ツ谷が再び小声で慧音に声をかけた。

 

「……そろそろだな」

「ああ……。子供たちには悪いが、危ない事はさせたくないからな。暗闇の中でもし転んで怪我とかされては大変だしな」

 

慧音がそう答えた直後、扉と暗幕越しに小さく、されどはっきりとした口調で少女の声が響いた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……誰よ、アンタ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――()()()()()……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

「あン?」

 

予定外の人物の声に慧音と四ツ谷は一瞬呆気に取られる。

それを合図にしてか、部屋の中がたちまち大きく騒ぎ出した。

 

「うわっ!?れ、霊夢どうしたぁ!?」

「え?ええっ!?何!??何ィ!!??」

「待ちなさいッ!!」

「な、何やってんだよ霊夢……ん?……お、お前誰だよッ!!?」

「ちょっと誰よコレ!?邪魔よ!!……(ドテーン!)ギャッ!?」

 

部屋から溢れ出すパニックと化した少女たちの悲鳴とドタンバタンと転げ、のた打ち回るかのような大きな騒音。

予定外の事態に慧音や四ツ谷のみならず、そばにいた子供たちも呆然となって立ちすくむ。

しかし、速くも慧音がハッと我に帰り、慌てて部屋の扉の前に駆け寄ると、ドンドンと扉を叩いて部屋にいる四人に叫ぶようにして声を上げた。

 

「おい!どうした!?一体何があったん――おわぁっ!?」

 

唐突に引き戸であるはずの扉が跳ね橋よろしく前のめに慧音に向かって倒れてきた。

とっさに横に飛んで回避する慧音、直後バターン!という大きな音と共に扉が倒れ巻き込まれずにすむも、倒れた扉の上に霊夢たち四人が積み重なるように倒れているのが見えた。

一瞬の静寂がその場を支配する。

しかし、直ぐに四ツ谷が倒れている四人に近づいて声をかけた。

 

「……おい、お前ら一体どうし――グエッ!??」

 

四ツ谷の声が途中で苦悶を含んだ悲鳴へと変わる。

四人の一番下にいた霊夢が、他の三人をやや乱暴に押しのけて立ち上がると目の前にやってきていた四ツ谷の胸倉を掴んできたのだ。

 

「この怪談馬鹿!一体どう言うことなのよアレ!?誰なのよアイツ!!」

「な、何!?何!??なんだってんだ一体!?」

「答えなさい!子供たちの為とか言って本当は私たちをからかおうとしてたのね!?何処に潜ませてたの!?まさか、創ったんじゃないでしょうね!??」

「や、藪から棒に何言ってんだお前!?く、苦しいから手ェ離せ!!」

 

半狂乱状態でつかみ合いになる霊夢と四ツ谷。

それを見た慧音が慌てて仲裁に入る。

 

「ま、待て落ち着け!落ち着け霊夢!一体何がどうしたと言うんだ!?」

「どうもこうも無いわよ!!アンタ達でしょ()()()呼んだの!!」

 

四ツ谷の胸倉を掴んだまま今度は慧音に噛み付く霊夢。

慧音はそんな霊夢を必死になって宥め空かす。

 

「本当に落ち着いてくれ霊夢!……子供たちが見ている」

 

慧音のその言葉にピタリと霊夢は口を閉じ、チラリと子供たちの方へ目を向ける。

子供たちは何が起こったのか分からず少しビクビクとしながら一箇所に固まってこちらの様子を伺っていた。

それを見た霊夢は苦虫を噛み潰した顔でそっぽを向くと掴んでいた四ツ谷の胸倉をおずおずと放した。

ぶはぁっと、息を吐いてその場で脱力した四ツ谷を横目に慧音は落ち着いた口調で霊夢に再び声をかけた。

 

「……一体、何があったと言うんだ霊夢?正直、私や四ツ谷も何が起こったのかまるで分からないんだ。だから、ちゃんと一から説明してくれれば助かるんだが……」

「…………」

 

霊夢はそう言った慧音をジッと見つめ続けると、クイクイッと右手で小さくて招きをし、『子供たちから少し距離をとるように』と促す。

それに気づいた四ツ谷と慧音、そして既に立ち上がって様子を見守っていた妹紅、魔理沙、梳は共に霊夢の後に続く。

ある程度、子供たちから距離をとった霊夢は振り返り、慧音と四ツ谷に再度問いかけた。

 

「本っっっ当にあんた達の仕業じゃないの?」

「だから何の事を言っているんだ?予定では梳が騒ぐはずだったのに、何故お前が騒ぎ出した?」

 

両手を腰に当てて険しい目で見て来る霊夢に、慧音は腕を組んで困惑と怪訝を混ぜたような顔でそう問い返した。

霊夢は少し考えるように俯くと、直ぐに顔を上げて今し方部屋の中で起こった事を簡潔に話し始めた――。

 

「……部屋の中を回り始めてしばらくして、目が暗闇の中に慣れてきて辺りがぼんやりと見えるようになったのよ」

 

霊夢の声が静かに小さく廊下に響き渡る――。

周りにいる慧音たちも黙って霊夢の話に耳を傾ける――。

 

「……ほんの少し、今誰が動いてるのか気になって部屋の中をなんとなく見渡して見たのよね。……そしたら、いたのよ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――……いつからいたのか、部屋のど真ん中にぼんやりと佇んでいる、『五人目』の人影をね……!」

 

霊夢のその告白にその場にいた()()()()の者が、驚きと困惑を隠せずに目を丸くしたのだった――。




最新話投稿です。
すみません。今回も書くのに時間がかかりました。
次は速く投稿できればいいなぁ……。
なるべく速く書けるようがんばりますw
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