四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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前回のあらすじ。

博麗霊夢と『聞き手』の知らぬ所で、慧音と四ツ谷会館の面々が静かに動き出す――。


其ノ十

翌日、外の世界から再び幻想郷にやって来た宇佐見菫子は、その足で博麗神社の境内の地を踏みしめる。

トンと神社のまん前に降り立った菫子は辺りを見回す。

ここの主、博麗の巫女の姿は無い。

それを確認した菫子は意識を集中させるために眼を静かに閉じた。

そして己が精神内で、この神社に囚われの身になっている男へと意思を飛ばした。

 

(――……聞こえる?『飲むおしるこ』さん……)

 

数秒後、菫子の言葉に答えるようにして彼女の脳内に男の声が返って来た。

 

(……こちら『飲むおしるこ』。おはようさん『秘封倶楽部会長』殿……)

 

男の声――四ツ谷文太郎の声を聞き、菫子は一先ず安堵するも、一抹の不安はいまだ残っていた。

 

(おはよ……随分と覇気の無い声ね。もしかして、徹夜した?)

(あぁ……だが心配すんな。()()はちゃんと完成してある。およそ一時間前にな……)

 

欠伸を噛み殺したかのような声で、菫子の脳内で四ツ谷の声がそう響く。

それを聞いた菫子はホッと胸をなでおろす。

 

(お疲れ様……。所で霊夢さんは中にいるの?)

(ああ……。今の時間だと朝飯作ってる最中じゃねぇかな)

(そう……。ならここにいるのを怪しまれないために、一言彼女に声をかけてから()()を回収するわね)

(了解。……しかし、便利なモンだなぁお前の超能力……『テレパシー』っつったっけ?離れた所にいる相手と意思疎通できるって結構使えるじゃん)

 

四ツ谷は素直に菫子の持つ超能力の一つ、『テレパシー』を絶賛した。

これなら、霊夢に気づかれずに会話による情報交換が可能であり、実際昨日も霊夢に気づかれずにそれを成功させている。

昨日、菫子は慧音や小傘たち会館組と会話している最中(さなか)、それを発動して四ツ谷と彼女たちとの情報交換を可能にしたのだ。

まあ、何のことわりもなくその時菫子に『テレパシー』で意思疎通することになった四ツ谷は、唐突に頭の中に響いた彼女の声に腰を抜かしそうになったのはここだけの秘密だ。

だが菫子は高評価する四ツ谷に、ため息交じりにそれを否定する。

 

(いいえ、残念だけど四ツ谷さん。私の『テレパシー』は意外と結構不便なのよ。今あなたが()()()()()だからそう思えるだけで、そうじゃなかったら真逆の評価を出してるわよ、きっと)

(ん?どう言うことだ?)

 

疑問の声を出す四ツ谷に菫子は端的に答える。

 

(私の『テレパシー』は意思を飛ばす相手の現在位置が()()()()()定まっていないと発動しないのよ。つまり、『携帯電話』タイプじゃなく『固定電話』タイプ。意思を飛ばす相手が今現在、移動していたり何処にいるのか私自身が正確に把握していなければ、全く使い物にならないの)

(ありゃ、そうなのか)

(そうなのよ。今あなたと意思疎通できているのも、あなたが監禁されて移動ができない状況だからこそなのよ)

 

ままならないわ、と肩を落として首を振る菫子。

そうして彼女は霊夢と会うために移動を始め――。

 

(……それじゃあ私は行くわね、後で必ず()()()()()から)

(あ、ちょっと待ってくれ)

 

――唐突に四ツ谷に呼び止められ、その歩みを止める。

 

(何?)

(この後慧音先生に会ったら、こう伝えといてくれ……『決して()()から眼を離すな』ってな)

(……わかったわ)

 

小さく頷いた菫子は今度こそ霊夢に会うために動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは~。霊夢さん」

 

調理場を訪れた菫子は、竹筒を使って米の釜炊きをしていた霊夢の背にそう声をかけた。

声をかけられた霊夢は振り返り、相手が菫子だと知ると少し意外そうな顔で口を開く。

 

「あれ?菫子、今日も来たの?案外暇なのね」

「…………」

 

悪気は無いにせよ、霊夢の無自覚な棘のあるそのもの言いに、菫子の眉がわずかにピクリと動いた。

胸の内から込み上がってきた感情を抑えながら、菫子は作り笑いを浮かべて霊夢に答える。

 

「……ええ。今ちょっとした長期休暇に入ってまして、この時間帯でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「へぇ~、そっちの学校……こっちで言う所の寺子屋は、今春休みか何かかしら?」

「ええ、まぁ……。ですが私の場合はちょっとばかし違うんですよね」

 

含みのある菫子のその言葉に、霊夢は首をかしげる。

 

「……どういう事?」

「あれ?言ってませんでしたっけ?」

 

霊夢のその反応に、菫子も一瞬キョトンとした顔になるも、直ぐにキリッとした顔でどこかの軍人見たくビシッと敬礼を取って高らかに宣言した。

 

(わたくし)、宇佐見菫子は、先日を持ちまして高校を卒業し、今年の春から大学へと入学する事とあいなりました!」

「……だいがく?」

「……まぁ、速い話が今まで通っていた寺子屋より、もう一段階学力の高い寺子屋へと進学したって事ですかね。今はその高校卒業から大学入学までの休みの期間なので、私もあんまりやる事無いんですよねぇ」

 

菫子の話を聞いて、霊夢は少し考える素振りを見えると、再び菫子に問いかけた。

 

「……もしかして、ここしばらくアンタが幻想郷に来るのが少なかったのも、それが原因?」

「ええ、まぁ。大半はそうですね。大学進学のための受験戦争におわれていましたから……」

 

苦笑を交えてそう答える菫子に、霊夢は少し哀れみを含んだ同情的な顔で菫子の肩をポンポンと叩いた。

 

「そう……。よくは分からないけれど、大変だったみたいね。アンタ……」

「霊夢さん……」

 

自分の苦労を理解してくれているのかと、そう思って一瞬うるっと瞳を揺らいだ菫子だったが、次の瞬間にそれが粉々に霧散する事となる。

 

「そんなアンタに渡したい物があるの……コレよ」

 

そう言って霊夢がポンと自分の手に握らせてきたモノを見て、菫子の目が文字通り点になった。

それは小さな紙切れで、その表面には小さな文字がびっしりと書き綴られていた。

嫌な予感を覚えた菫子は引きつった笑みで恐る恐る霊夢に尋ねる。

 

「れ、霊夢さん、これは……?」

「見て分からない?買い物リストよ。食材だけじゃなく日用雑貨とかもそれに書かれているわ」

「ま、まさか霊夢さん、私に人里でコレを……?」

 

そう再び尋ねた菫子の目の前で、霊夢は然も当然だと言わんばかりな顔で両手を腰に当てて口を開いた。

 

「アンタ今暇なんでしょ?日々忙しく幻想郷の秩序を守っている私を労ってやろうとは思わないの?手が空いてるんなら、こっちの負担を軽減する手助けをするのは当然でしょ?」

「そ、そんないきなり――」

「――何、断るの?博麗の言葉は絶対よ。拒否権は無いわ。それとも今から何かやることでもあるとか?」

「え?いや……そういうわけでは――」

 

口篭る菫子に、霊夢はニヤリと笑いかける。

 

「――だったら良いわよね?アンタ今、ヒ!マ!なんだし。……あ、あとそこには書かれていないけど団子屋で抹茶団子もついでに買ってきてね。新発売みたいなのよ。よろしくね~♪」

 

『ヒマ』を強調させて畳み込むように霊夢がそう言いきり、話はもう終りと言わんばかりに、菫子を外へと送り出すかのように手をひらひらと振って見せた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

博麗神社、その調理場から正反対に面した場所に四ツ谷が監禁されている部屋があった――。

四ツ谷は部屋に唯一ある格子窓から、傍目からでもはっきりと見える隈を真下に作った双眸で外の様子を除き見る。

そうしたまましばらくしていると、ようやく目的の人物がゆっくりとした足取りで現れた。菫子だ。

菫子は格子窓越しに四ツ谷と対面する。

 

「おお、来たか。あの巫女には感づか、れ……なか、った……よ……なぁ…………?」

 

最初こそ眠気を払うように覇気のある声で菫子に語りかけていた四ツ谷であったが、途中から風船がしぼむかのように段々と萎縮していき、終には途切れてしまう。

そして短い沈黙の後、四ツ谷は今度は恐る恐る菫子に声をかけた。

 

「……お、オーイ宇佐見?何かあった……?」

「え?何が?」

 

対して声を弾ませながら晴れ晴れとした口調でそう答えた菫子は満面の笑みであった――。

だが、四ツ谷はその笑みに恐怖を感じていた。

何故なら菫子のその気持ち悪いぐらいに深めたその微笑の向こうで、赤い憤怒の炎が轟々と燃え広がっているのを確かに感じ取ってしまったからだ。

満面の笑みの裏の確かな怒り。それを見た四ツ谷はすぐさま先ほど菫子が霊夢と何かあった事に感づいたが、それを追求する勇気が四ツ谷には無かった。

それ程までに目の前の菫子から吹き出る迫力が凄まじかったのである。

四ツ谷が内心、肝を冷やしているのに気づいていないのか、菫子は淡々と言葉をつむぐ。

 

「何を言っているのか分からないけれど、速く『例の物』を渡してもらえる?」

「……あ、ああ、分かったよ」

 

これ以上の追求は身を滅ぼすと判断した四ツ谷は、さっさと話を進めるべく格子の間から()()を菫子に渡した。

 

――ソレは、文字がびっしりと書かれた紙束であった。

 

四ツ谷からその紙束を受け取った宇佐見は僅かに眉根を寄せる。

 

「……意外と厚みがあるわね。()()を書くだけなのに、えらく気合を入れたじゃない?」

 

宇佐見のその言葉に、四ツ谷は得意気に口を開く。

 

「俺サマ特製の『マニュアル』だ。そこには『台詞』だけじゃなく、どういった雰囲気や口調、しぐさで語ればいいのかも事細かに書いてある。コレをマスターすれば、()()()は俺と同じ境地に立てる!……()()()()、だが」

()()()がそれを聞いても、嬉しくないと思うけどね」

「残念ながらあの巫女から紙と筆しか手に入れられなかったから『本』にする事はできなかったがな」

「心配ないわ、なんだったらこっちで加工するから」

「シッシ♪助かる」

「んじゃ、コレ預かっとくわね」

 

そうして用は済んだとばかりに片手で紙束をひらひらと振りながらその場から去ろうとする宇佐見であったが、おもむろに立ち止まると、部屋の中の四ツ谷へと振り返り、先ほどとは違って大きく眉根を寄せて顔をしかめると最後に四ツ谷に問いかけた。

 

「……所でさっきからその部屋の中、微かに『異臭』がするのだけれど?」

「その事には触れるな」

 

忌々しげに顔を歪めて四ツ谷はそっぽを向く。

その視線の先には大きな風呂敷包みがあり、その中には先日、霊夢から用意された『おまる(異臭の原因)』が入っていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

宇佐見が神社から去ったのを確認した四ツ谷は、壁に背を預けると一息ついた。

それと同時に、調理場の方から腹立たしいほどに楽しそうな巫女の鼻歌が風に乗って微かに耳に届いてきた。朝餉(あさげ)の準備ができたのだろう。

 

「……随分とまぁ、気分が良さそうで。さっきの宇佐見の様子と言い、周りに敵を作ってることに気づいているのかねぇ……?」

 

呆れを混ぜた口調で四ツ谷は一人呟く。

 

「まァ、いいさ。そのおかげでこっちは順調に事が進んでるし、せいぜい()()()()()笑っとくがいい。……後々、その顔が歪むのが目に浮かぶ」

 

ニヤリと不気味に笑みを浮かべると、四ツ谷は両手を頭の後ろで組んで天井を仰ぎ見ると、小さく声を響かせた――。

 

 

 

 

 

 

 

「……さァ、行くぞ。いざ新たな怪談を創りに……!」




読者たちよ、私は帰ってきた!!

……すみません、ふざけすぎました。
前回投稿した大晦日から三ヶ月以上。四月に入り『新元号』も決まって世の中新時代の幕開けってな感じですね。

次回の投稿はなるべく速く作れるよう頑張ります。
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