(めんどくさいことになったなー)
フライパンにぶち込んだ傷んだ野菜を炒めながら、男は考えていた。
どうやら今の自分は原作で言う所の『上条当麻』の立場にあるようだ。
根拠は主に二つ。一つは男の背後で腹を空かせている銀髪シスター、インデックスだ。原作において今日彼女が引っ掛かるベランダは上条当麻の部屋のベランダのはずである。しかし、彼女がベランダに引っ掛かったこの部屋は名実共に彼の部屋であり、彼は名実共に上条当麻ではなかった。
尤も、二次創作ではインデックスが上条当麻以外の人物と最初に出会うという展開も多いため、決定的な証拠とは言えないが、可能性は高いだろう。
そして二つ目。部屋に入る前に少しベランダから身を乗り出すことで、防火パネルの先にある両隣の部屋を覗いてみた。一方は空きだったが、もう片方の部屋の内装が問題だった。
流石に部屋の奥まで見えた訳ではないが、全体的には男の目覚めた部屋と同じ間取り。しかしちらほらと見えるジムにあるような本格的なトレーニング機材と、壁際に二つある本棚の片方に並べられている本の内のいくつかの背表紙に書かれた『メイド』の文字が異彩を放つ部屋。
間違いなく上条当麻の友人でイギリス清教のスパイことシスコン軍曹、土御門元春の部屋だ。
原作において上条の部屋の隣は土御門の部屋だ。よって隣に土御門の部屋があるこの部屋は上条の部屋である可能性がある。
無論、土御門の部屋を挟んで反対側にある部屋という可能性もある。
故にこれも確率は五分程だろう。
どちらも証拠としては十分ではない。しかし、二つも偶然が重なると偶然ではないのではないかという疑惑が出てくる。
それに、仮に自分が上条当麻のポジションそのままの立場でなくとも、インデックスと最初に出会った人物ではあるのだ。物語に巻き込まれる確率は高く、なにも対策を立てずにいれば本来起きるはずの無かった悲劇が起こるかもしれない。
そうなれば原作からの乖離によって今以上に面倒な上面白くもないポジションに立たされるかもしれない。男も、そんなのは流石にゴメンだった。
そんな風に考え事をしていると、待たせておいたインデックスが手元のフライパンの中身を凝視していた。その目線の先を見ると野菜は十二分に火が通っていた。(少し焦げたとも言う)
「ごはん」
「あー、わかった。今食わせてやるからテーブルで待ってろ」
端的に催促してくるインデックスを軽くあしらいつつ火を止め、フライパンを持ってテーブルまで移動して、その辺に散乱している物品の中から新聞紙を拾い上げてテーブルに敷き、その上に若干焦げた痛みかけ野菜炒め入りのフライパンを置く。
「ほら、食「いただきます!」………」
(すすめるまでもなく食ってやがる。ていうか、フライパンを置いた時点で既にモーション始まってなかったか?)
それにしても凄い食欲だ。何度も文章として読み、映像で見てきたが、実際に見るとやはり凄まじい。前述の通り若干ではあるが焦げており、そうでなくても原作で(有毒)と書かれた痛みかけだ。コレを食べるのは少なくとも男には無理だった。
そんな物をこのシスターはバクバク食っている。
「…自分で出しといてなんだが、よく食えるな。不味くねーのか?」
「不味くなんかないよ。私のために無償で作ってくれたご飯だもん。美味しくないはずがないんだよ?」
ほぼ原作通りの返答だ。だがだからといってこちらも原作通りの行動で返すつもりは無い。この毒物もどきの処理は自分には無理だし、現状、処理している本人は満足そうに食べているのだ。それを邪魔するのは良くない。そう結論付けると、男は原作通りならインデックスが食べるはずだったビスケットを食べて小腹を満たすのだった。
「で、お前は何だってあんなとこに引っかかってたんだ?どこぞの大佐から逃げてきたとか?」
「……似たようなモノかも」
「何だって?まさか本当に大佐が!?」
「す、少なくとも、軍人では無いと思うんだよ……」
インデックスが食事を終えたところで、男は話を進めることにした。
実際には彼女が引っかかっていた理由も何もかも知っているのだが、可能な限り、知らないはずの事を知っているという状況は避けたい。
現段階での彼にとって、原作知識は唯一の武器にして最大の切り札。
いわばサーヴァントにとっての宝具に等しい。存在は可能な限り秘匿すべきだ。
そうでなくても、知らないはずの知識をひけらかすだけでも、アレイスターをはじめとする危険人物に目を付けられ、多くの人物に味方側に引き入れる際に不信感を抱かれ、不利な補正が掛かる事が予想される。
正直なところリスクしか思い付かない。
よって原作知識を用いた行動は、出来る限り、『集めた情報から推理した』ということにしておきたいのだ。
とはいえ、何か特別な事をする必要は無い。特に今回は相手から事情を聞くというシーンだ。気になった事を聞いていけば、自然と情報は集まる。いざとなれば原作通りの会話でも十分だ。
まあチュートリアルみたいな物と考えよう。そう彼は思っていたのだが……
「で、ここまでをまとめるとあれか?イギリス清教所属のシスターであるお前は、お前の持つ魔導書を狙う魔術師に追われている、と」
「そうだよ」
「その追いかけてる人たちが実は警察や病院の人である可能性について」
「そこはかとなくバカにしてるね?」
「いや、別にそーゆー訳じゃ……つーか言っちゃー悪いが、さっきの話をしたら殆どの奴がこんな反応だと思うぞ?」
「そこはかとなくバカにしてるね!?」
「俺はむしろあの荒唐無稽な話から必死に信じられる要素を探し、譲歩に譲歩を重ねて『追われている』という部分だけでも信じようとした努力を評価していただきたい!」
怒気を強めるインデックスに応えるように男も声を荒らげる。
男としては、さっさとインデックスの話を信じて話を進め、情報を聞き出したいのだが、インデックスの話があまりにもあんまりなので、ここで信じてはただの騙されやすい人になってしまい、どう考えても不自然になってしまう為本当の話だとわかっているにも関わらずそれを疑わなくてはならない歯がゆさを感じており、改めて自分の置かれた状況が面倒くさいものであると痛感していた。
「とにかくだ!信じて欲しければ何か証拠を出せ!俺の目の前でその魔術とやらによる現象を起こしてみせるとか、お前が持ち歩いてるっつー『魔導書』ってのを俺の目の前に出してみせるとか」
「それは無理かも。魔力がないから、私には魔術は使えないし、魔導書も勝手に見られると困るから、取り出して見れるようなものじゃないよ?」
その言葉を聞いて、男は天を仰いだ。
うん、確かに知ってて聞いた。この状況でその回答が返ってくるのは予想していた。だが、だがしかしだ。
「お前は……本当に俺に信じてもらう気があるのか……?」
それくらいは言わせてもらっても良いはずだ。何しろ今のインデックスの言い分はそれこそ一昔前のテレビでやっていたようなオカルト番組に出てくるエセ超能力者や、インチキ霊媒師なんかと一緒だ。しかも今回の場合は彼女の話が本当であると知っている分余計にタチが悪い気がする。
早いところ話を進めて情報を聞き出したいにもかかわらず会話の前進しない状況に男が頭を抱えていると、その姿に疑問を抱いたのか、インデックスは少し不思議そうな顔で尋ねた。
「ねえ、どうしてそこまでしてくれるの?」
「は?どーゆー意味だ、それ」
「あなたはさっきから私の話を『信じられない』と否定し続けている。それなのに、あなたはそんな私の話につきあい続けている」
男は頭を抱えていた手を放すと、インデックスの方へと顔を向けた。
「あー、つまりアレか、信じられない、無茶苦茶だって言うんなら何故投げ出さないのか、投げ出さないのなら何故信じないのか、って言いたい訳か」
インデックスが頷くのを見て男は続ける。
「そーだな、理由付けはいくらでもできるが、一番はお前が嘘をついていないと思うからだ。……別に目を見れば嘘をついているのかどうかわかるなんて事はねーぞ?ただ、お前の話があまりにも荒唐無稽すぎてな、もし俺を騙そうとしているんならいくらなんでももう少しは信じられる話をするだろうと思っただけだ」
インデックスが何も言わないのを見て男は更に続ける。
「信じない理由はさっき言った通りだ。証拠が無く、現実味も無い。だが嘘をついている様子でも無い。それ故……怒らないで聞けよ?今の所俺の中で一番可能性が高いのはお前の妄想である説、次がそう思いこまされている説だ」
インデックスの表情が険しくなる。だが、事前に怒るなと警告されていた事もあってか、反論の声はあげなかった。
「実際がどれであるにせよ、今はコレといった証拠が無い。証拠が無い以上、残るはお前の証言だけ。だから俺は疑問に思った部分や気になった点を突っ込んでくから、それに答えろ。お前が本当の事を話しているのであれば、それでいずれ、お互いに真実が見えてくるはずだ」
インデックスは最初は渋々といった感じだったが、男が今までで一番真剣な顔をしていた事もあってか、納得してくれたようだった。
その様子を確認した男は、インデックスに質問をはじめた。
「じゃあまずは……そうだな、お前が持っているという『魔導書』がどこにあるのか、或いはどんな形状で持っているのか。それを正確に、かつ事情を知らない初心者である俺にも分かり易く教えてくれ。目に見えない物を持っていると言われても信じられないからな」
「そうだね、正確な場所、で言えば私の頭の中かな」
「全てがお前の想像上の産物であると認める……訳じゃ勿論無いよな。どーゆー意味だ」
「私はね、十〇万三〇〇〇冊の魔導書の内容を全て暗記しているんだよ」
男はそれを聞くと目を瞑り顔を上に向けた。先程天を仰いだ仕草と似ている事から彼の癖なのかもしれない。
そして数秒の溜めの後インデックスの方へと向き直り、
「あの、インデックスさん、私は出来れば最初からそう言って欲しかったですね!?」
なんか凄いテンションでツッコミをしだした。
「いや、だってホラ、持ってるって言ったじゃん?持っているって言ったじゃん?そーゆー風に言われたらなんかこう……こーゆー風に手で持つとかポケットに入れてあるとか、そーゆー物理的に持ってると思うじゃん!?少なくとも俺はそー思った。だからこそ目の前に出してくれとか言った訳だし、最初から記憶しているっていってもらえれば取り出して見れる様な物じゃ無いって言われても納得できるってモンですよ。ええ、おかげで余計な手間何個か踏んだじゃないですかやだー!」
どうやら一向に先に進まない会話でストレスが溜まっていたらしい。それが進むきっかけを掴んだ事で気が緩んで爆発したのだろう。
インデックスの方も急激なテンションの変化についていけて無いのか若干引き気味だ。
「あ、う、うんそ、そうだね。確かにさっきの言い方だと誤解を招いたかも。そこはごめんなんだよ」
「ふー、はー……は!あ、あーいや、い、いーんだ、分かってくれれば。今後さっきみたいな誤解を生まないよーに気をつけてくれればいい。つか、俺も少し……いやかなり感情的になってしまった。すまない。とりあえず、お前は話を続けてくれ。今度は俺も最後まで聞くから」
男は内心で(ここは『自分の欠点は怒りっぽいところだ反省しなくては!』の使いどころだろうか……)等と考えている事をおくびにも出さずに何とか落ち着き、話を戻そうとする。
「で、えーと、どこまで話したんだっけ……あ!そーそー。お前が十〇万三〇〇〇冊の魔導書の中身を記憶しているってとこまでだったな。じゃあ……お前はどうやってそんな大量の情報を記憶しているんだ?そんな大量の本、覚え切れるとは到底思えないんだが」
「確かに、普通の人ならそうかもしれないね。でも、私には完全記憶能力っていうのがあるの」
「完全記憶能力……聞いた事があるな。確か、一度見たり、聞いたりした物や事を決して忘れない症状……ま、そのまんまだが。それを、お前は持っていると?」
「そうなんだよ」
男はそれを聞くと少し考える素振りを見せた後、近くにあった新聞紙を取ってインデックスの前に広げると、二点を指差し、「ここからここまでを見てくれ」と言ってすぐにそれをインデックスから見えない位置に移動させると、「さっきの範囲に句点が何個あったか答えてくれ」と言った。
どうやらインデックスの記憶力をテストするつもりらしく、その意をくんだインデックスが即座に答え、それから男が答え合わせをしてみると、見事に正解であった。
その後、偶然でない事を確かめるために似たような検証を幾つか行い、インデックスは無事その全てに正解した。
「ふむ……『完全』と言い切ることは出来ねーが、記憶力が凄く良いのは確かみてーだな。よし、それじゃあ次の質問は……」
「ちょっと待って」
次の質問に移ろうとしていた男の思考をインデックスが遮る。
「次に移る前に聞いてもいい?」
「何だ?」
「どうして完全記憶能力のテストだけして魔導書の方は確認しようとしないの?」
「あー、なるほどな。それはアレだ。魔導書の方は確認しようが無いからだ。例えば、お前が魔導書の一説をこの場で諳んじたとしよう。だが、俺の方ではそれが正解かどうかの確認のしようがねーだろ?ここに魔導書その物があって見ながら答え合わせ出きる訳でも無く、俺は魔導書の内容どころか魔術についてもお前から聞いた知識しか無いんだからな。だから保留する事にした。実を言えば記憶力の方も、完全かどうかを実証できたとは思ってないが、可能な限りの実証をしてお前の話を確かめようと思ってさっきのテストを行った。で、こっから先もこんな風に出来る限りの確認をしながら聞いていきたいと思ってるんだが……こんな感じで納得してもらえるか?」
インデックスの質問に対する男の回答の最中、インデックスは真剣な表情で聞いており、聞き終わると笑顔で、「ありがとう。もう質問の続きに戻っていいんだよ」と返答した。
その様子に男は、インデックスにしては珍しい反応だと思いながらも、質問を再開する事にした。
「なら質問再開だ。で、えーと……何だったかな……アレとソレを聞いて、ココを確認したからー……次は…………あ、そーだな。よし、なら次はお前を追ってるっつー『魔術師』ってのについて証言してくれるか?例えばそいつらの狙いがお前の持つ魔導書であるって情報は確かなのか、それとお前を追っている奴らは本当に魔術師なのか、魔術師を語るカルト集団だったみたいな事はねーのか。そんなあたりについて話して貰いたい」
「そうだね。前半はともかく、後半は確かだよ。奴らが魔術を使うところは直接見たからね」
「『奴ら』ってのが何らかのトリックで魔術に見せかけたとは考えられないか?」
「それはないかも。私の十〇万三〇〇〇冊の知識から見ても間違いないし、もう何度も見てるから見間違いでもないんだよ」
「そっか……なら前半はどーなんだ?お前さっきは『前半はともかく』って言ってたよな?お前の追っ手の目的が魔導書である、確かな根拠は無いんだな?」
「少なくとも、あなたに納得してもらえるだけの証拠はないかも。奴らから直接聞いたわけでもないし。でも、私をあそこまでしつこく狙う理由として考えられるのは、やっぱり魔導書しかないと思うよ」
「そーか……ところで少し気になったんだが、お前、どのくらい逃げ続けてるんだ?お前の言い方からすると恐ろしい奴らなんだろーが、その割には未だにお前を捕まえられてない。もしかしたら、大した実力じゃないのかとも思えるんだが?」
「奴らからもう一年くらい逃げ続けてるけど、奴らの実力は確かだよ。追われながら使う魔術を見たけど、かなりの腕じゃないとあそこまではできないかも。普通の人が立ち向かってもすぐに殺されるだけだね」
「そんな奴らからいままで一体どうやって逃げてたんだ?悪いが、お前にそこまでの戦力があるとは思えないんだが……仲間でもいるのか?」
「ううん、ずっと一人だったよ。それでも逃げ切れてるのは、魔導書の知識もあるけど、『歩く教会』のおかげかな」
「アルクキョーカイ?何だソレは。立って歩く何かの境目……あるいは真祖の姫を祭っているとか……?」
「言ってる事はわからないけど、たぶんあなたが考えているようなものじゃないんだよ」
男はまたしても妙な方向のボケをかますが、当然インデックスはそのネタを本当の意味で理解出来る訳はなく、そのまま話を続ける。
「『歩く教会』っていうのはこの修道服の名前で、絶対の強度を持つ極上の防御結界なんだよ」
「……ぼーぎょ、けっかい……?」
「あ、信じてないね。これは『教会』として必要最低限の……って、あなたには説明するより実際に試した方が早いよね」
「……ああ、そーだな」
「ところであなたはどうしてぐったりしているのかな?もしかして疲れやすい人?」
「少しだけな」
そう答える男にはインデックスの言葉通り確かに疲れが出ていた。それは漸く魔術を目の前で証明してもらえるところまで漕ぎ着けた安心から張り詰めていた気が抜けた事や、今その話題が出せるのなら最初の方で魔力がないから魔術は使えないとか言ってないでさっさと見せれば良かったではないかという思いからくるイラつき等、様々な思いが絡まった物であったが、それをわざわざ言葉にしたりするのも億劫になってきたし、これ以上話を脱線させれば更に疲れそうだという事に気付いたので男は話を進めるだけにしておく事にした。
「それじゃー、実験前に聞きたいんだが、その……『あるくきょーかい』ってのは、フードだけ手に持っても防御性能を発揮すんのか?発揮すんならフードだけ貸して貰って色々試したいんだが」
「うん、大丈夫だよ」
「そーか。それを聞いて安心した。もし防具は装備しないと使えないぞ。みたいなRPGのテンプレ的回答だったら、俺がナイフを持って少女を襲う猟奇的な絵面になってたとこだからな」
そんな軽口を叩きながら男はインデックスからフードを受け取り、実験を始める事にした。
フードを受け取った男は台所へ移動して包丁を取り出し、フードの両端を持ち、頭頂部に包丁を刺そうとした。
びくともしない。次にもっと力をこめる。しかし、フードに穴が開く気配が全くしない。
男は包丁をしまうとその辺にあったクリップを曲げ針金に戻し、フードを細かく見ていくことにした。
まず頭頂部。傷一つ無い。包丁の当たっていた部分を凝視するが、まるで新品であるかのように無傷だ。繊維の隙間に針金を遠そうと試みるも失敗。物理的にはあり得ない力のようなものを感じ、何故か針金は貫通しない。
ついでに割と全力だったので、掴んでいたフードの端も伸びたりしていてもおかしくないのだが、伸びるどころかしわ一つ無い。
続いてコンロに火をつけ、炙ってみる。しばらく続けるも、変化はない。表面が黒くなりはするのだが、軽く払うだけで煤は落ち、焦げ後の一つも残らない。
他にも電子レンジでチンしてみたり、急激に冷やしてみたりとしてみたが傷一つ無いどころか温度すら変わらない。
総合すると、見事なまでに無傷だった。
「なるほど、学園都市の最新技術ですって言われたらそれまでだが、確かにコイツは包丁も火も通さず、その原理は俺にはわからん」
男はそう言ってフードを
「まあ、今言った学園都市の最新技術って可能性もあるにはあるがそんなモンを外部の人間であるお前が持っている可能性は低い。逆に魔術って方が納得し易いのも確かだ。そもそも『魔術』をそこまでムキになって否定する気もねーし……とは言えお前がそう呼んでるだけで実際は別の名前があるのかもしれないが……とりあえず今のところは『お前が魔術と呼ぶ、未知の技術の持ち主』というところまでお前を認めてやる。これが現時点での俺に出来る最大の譲歩だ。因みに言っとくが、これでも俺は相当物分かりのいいほうだ。この街の他の連中は実際に魔術を目の前で見ても信じない奴らが殆どだからな。さて、俺から聞きたい事は聞き終わったと思うんだが……他に何か言いたいことはあるか?」
「ううん、そこまで言ってくれれば十分かも」
とりあえず上々な成果と言えるだろう。今後動くために十分な情報は聞き出した。なので男は時計を見ながら切り出す。
「ところで、俺はそろそろ用事で外に出ないとならねーんだが、お前はどーする?暫く身を隠しておきたいなら鍵を貸しておくが?」
「いいよ、私もそろそろ出て行く。これ以上迷惑はかけられないからね」
男の申し出をやはり断ったインデックスはすっくと立ち上がり、玄関に向かう。
「そうか……だがちゃんと行く宛はあるのか?目的地も無くただ闇雲に逃げ回るってんならヘタに動くより隠れてた方が見つかりにくい場合もあるぞ?」
「大丈夫だよ。さっきは一人って言ったけど、教会まで逃げ切れば匿ってもらえるからね。それに、敵は『歩く教会』の魔力を元に
「お、おう、そいつは流石に困るな。これ以上部屋を散らかされてはかなわんしな。だが、だからといって何も協力出来ないっつー訳でも……」
やや食い下がってみようとしたが、インデックスは玄関の扉の前で振り返ると、
「……、じゃあ。私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」
原作でも印象深いその台詞を告げた。この世界に来る前なら、いや、この場で、直接言われたのでなければ一人の禁書ファンとしてミーハーな感動を味わっていたかもしれなかったが、そのあまりにも辛そうな笑顔を実際に目の当たりにしては、そんな感情は微塵も湧いてこず、二の句を継ぐ事が出来なかった。
そんな様子を見てインデックスがどう思ったのかはわからなかったが、彼女は笑顔のまま玄関の扉を開け外に出ると、
「大丈夫。英国式の教会を見つけるまでの勝負だから。それに、これまでだって逃げれていたし、『歩く教会』もあるし、心配しなくても大丈夫なんだよ」
それは男を危険な目に会わせたくないという純粋な優しさから来る言葉だった。男としても、ついて行ったところで何が出きる訳でも無く、むしろ人数が増える事によって見つかる危険性が上がり、無力な一般人である男をインデックスは見過ごせず、いざという時に足枷にしかならないというのは十分に承知の上だったのだが、
「心配しなくてもついて行ったりとかはしねーよ。これでも身の程は弁えてるんでね。俺が行っても足手纏いにしかならねー事ぐらいはわかるさ」
どうしても釈然とできず、返答がやや棘を含んだものになってしまった。
その様子にインデックスは何か言おうとしたが、そこに清掃ロボットが通りかかり、ロボット自体はインデックスを避けたが、インデックスは「ひゃい?!?」という結構可愛らしい声をあげて転んでしまい、言おうとしていた言葉をいうことは出来なかった。
「~~~ッ!な、なんか変なのがさり気げなく登場してる……ッ!?
正直なところ涙目になっているインデックスそっちのけで初めて生で見る学園都市製のロボットをじっくり見ていたかったが、そんな訳にもいかない。
「その程度で驚いているよーじゃこの学園都市は歩けねーぞ?清掃ロボくらい、この街のそこら中にあるからな」
そこまで言ってインデックスが学園都市についてよく知らない様子だったので、原作で上条がしたのと同じような大まかな説明を行い、最後に、
「まあ、そんな訳だから、教会探すならとりあえずこの街から出るのが先かな。本来なら塀の方のゲートから出るのが普通なんだろーけど……お前はここから東に行った先にある第二三学区の国際空港に行くと良いかもな。そこで巧い事イギリス行きの飛行機に乗り込めれば……目的地に一気に近づけるかもしれないな」
理解したのかしていないのか、ふうん、とインデックスは頷いたところで、ようやく頭に違和感を感じたのか手で押さえた。
「ひゃい!?あ、あれ?頭のフードがなくなってる!?」
「ん、ああ、それならさっきロボットに驚いた時に落としてたぞ」
「ひゃい?」
もう三回目になる「ひゃい」と共にインデックスはいつの間にかなくなっていたフードを探してあちこち通路の床を見まわすも見つける事が出来ず、しばらく頭に「?」を浮かべた後、
「あっ、そうか!あの
と、原作通りの勘違いをして通路の角へ消えた清掃ロボットをダッシュで追い掛けて行ってしまった。
男はインデックスが通路の先に消えるまで見届けると、部屋に入ってドアを閉めめ、
「結局、こうなっちまったか……」
少し残念そうな口調だったが、その口元はうっすらと笑みを浮かべていた。
そう、確かにインデックスがフードを落としたのは清掃ロボットに驚いて転んだ時であったが、その時に勢いよく吹っ飛んだフードは男の方に飛び、それを男は反射的にキャッチし、つい何となく後ろ手に隠しておいたのだった。
インデックスも男の方を見ればすぐに何かを持っている事に気づいただろうが、彼女は『床』しか確認しなかった為に気づかなかったのだ。
何故、男がこんな事をしたのか。直前につい何となく、と言ったが、男自身、その理由はわかっている。結論から言おう。男は後押しが欲しかったのだ。
仮にインデックスがフードを見つけて、そのまま被って行ったとしよう。するとこの先の展開はどうなるだろうか。原作においてインデックスが上条の部屋に戻ってくるのは魔力を放つフードを部屋に忘れ、それによって部屋の主が危険な目に遭うのを恐れたからである。つまり、インデックスがフードをそのまま持って行ってしまえば、男はこのまま物語に関わることなく、多少違和感はあっても原作ルートよりは遥かに安全な学園都市での日常を過ごせるかもしれない。
しかし、この世界に上条当麻がいない前提で考えた場合、つまり本当に男が上条当麻のポジションにいる場合、それは同時に、原作において上条の手で救われていたはずの者達を見捨てる事になる。インデックスの首輪は外されずにステイルと神裂はインデックスの記憶を殺し続け、オルソラは虐殺されるだろう。
男には何の力も無い。
そう、『歩く教会』のフードに触れまくって確認したが、男に
話が逸れたが男も学園都市の生徒という設定である以上、もしかしたら何かの能力に目覚めるかもしれず、もう既に目覚めているかもしれないが、何の能力かわからない以上今使う事は出来ないし、使えたとしても上条の通う学校の生徒、良くて精々レベル2が関の山。彼はチートオリ主ではないのだ。
昨日まで平和な世界でぬくぬく暮らしてた現代人が、そんな弱小キャラとして突然死と隣り合わせの闘いの日々に身を投じなければならなくなった。
いくらずっと憧れていた世界だといっても、実際に他者の命を左右する立場に置かれるともなれば怖くもなる。逃げ出したくもなる。しかしそうすれば確実に、自分自身の選択のせいで本来救われるはずだった人達が不幸になる。そして男はそうなったとき自分を許せる程図太い人間ではなかった。
立ち向かうには勇気が足りない。
逃げ出すとしても言い訳が欲しい。
そこでとった方法がこれである。前述の通り、インデックスがフードに気づく可能性の方が圧倒的に高かった。しかし、それでも一応見つからないようにした――――――物語に関わろうとした――――――と自分に言い訳できるような、そんな方法であった。
相当に馬鹿げていて不確定な方法だったが、運命に身を任せる方法としてはそれくらいが丁度いいと感じた。もちろん、それでもきっと苦しむだろうし後悔するだろう。だが、なにもしないよりは遥かにマシなはずだ。そして、相当関わらないルートよりのベットで関わるルートに入ったのだ。
つまり、神は言っている。ここで関わらない定めではないと。
(ああ、わかったよ……やってやるさ……出来るだけだがな)
決めた以上は、とことんやろう。決めてみると、吹っ切れたのかなんだかスッキリした気分だった。
そして男は次に必要な行動の為に鞄に必要な荷物を入れると、扉を開けて、改めてこれから住む事になる学園都市の風景を見渡すと、笑顔を浮かべながら呟いた。
「まったく、本当に退屈しそうにねーよな、この街は」
はい、という訳で第一話でした。
いやー、本当に大変でした。なにせ油断するとすぐ原作そのままになっちゃうし、インデックスさんの口調難しいし、それでいて必要な部分は入れないといけなくて……と、そんなこんなで何度も言うようですが物凄い時間がかかってしまいました(汗)
ここを抜ければそういった事情からも解放されるはずなので、今回ほど時間はかからない……はずです。ただ、毎回そう言ってやっぱり苦戦するんで当てにはなりませんが(大汗)
それでは、また次回、たぶん今月中に更新出来ると思いますので、その時にまた。
――――――しかし書き進める度、この小説内でもインデックスさんの出番は少なくなりそうな気がしてくる。