Not上条 But主人公   作:是夢

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にじファン時代からは考えられない量の感想とお気に入り登録に、喜び、感謝しながらも戦々恐々とする日々です。


第二話 RPGでもミステリーでも最初にやることは一緒

 

インデックスと別れた男だが、やる事はインデックスに会う前と基本は変わらず情報収集だ。ただし今度は部屋の中ではなく、外で集める。

学生寮を出てまず目指すのは交番……ここでは警備員(アンチスキル)の詰め所だろうか?まあ、どちらでもいいがそこで地図を貰うか、道を聞くことにした。

言うまでもないが男は今日始めて学園都市を歩くのだ。初めて来た町を地図なしで歩ける程彼は方向感覚は良くないし、学園都市の情報がデフォルトで脳内に入っているなんて都合のいい特典は無い。男にわかるのは精々『全テ』に載っていた学区単位の大まかな地図と原作かアニメで描写された場所ぐらいだが、そのどちらにも細かい道のりは記されていなかったし、仮に記されていたとしても、男の知る禁書の世界とこの世界が完全に一致する保証は無いし、そもそもこの世界が原作通りであるという確実な証拠も無い。この世界に彼の知識が通用するかどうかすらも、まだわからないのだ。

 

 

 

 

 

 

とは言え、よく考えてみると、警備員は全員が基本学校の先生であり、詰め所も普通の交番のように街中のわかりやすい所にはなく、どちらかというと会社のオフィスの方がイメージとしては近かったはずだ。そのため、探し回ったはいいが、結局見つからず、何故か先に薬局が見つかったので、とりあえずマスクと市販の風邪薬と冷却ジェルシートを購入。

因みに、買い物の最中に男は、

(一二巻で一方さんが来た薬局ってここなのかな~……違うかな~)

とか考えていた。一応、アニメの映像で内装は知っているが、画面を通して見る映像と実際に見るの光景は違う。今後は、そこら辺にも注意しておこうと思った男であった。

 

 

 

 

 

さて、男が買ったマスクを早速装備しながら薬局を出ると、男に語気を荒くして絡んでくる人物に遭遇した。

上条のクラスメイトで通称カミジョー属性完全ガードの女こと健康マニアで通販好きな頭突きの達人、吹寄(ふきよせ)制理(せいり)である。

補習があるはずの男が何故街中をうろついているのかということらしい。通常であればやっかいな人物に遭遇したと思うところだが、クラスメイトの誰かとはいずれ遭遇するとは思っていたし、次に行く宛もない時に、対策を立てやすい原作に登場したキャラとの遭遇はむしろラッキーだと言えるだろう。

 

(うまく言い訳して逆に情報収集させてもらうか。しかし問題は……)

 

しかし男には彼女を相手取る上で一つ心配な事があった。

 

(俺が上条さんのポジションだってことか……)

 

そう、原作において吹寄は上条当麻を目の敵にしているかのような反応をし、彼との会話には常にどこかトゲトゲしいものが含まれている。元の世界で男は「逆にもうこれはデレなんじゃね?」とか言っていたが、実際に対峙してみるとやはり気圧される。しかしこれはチャンスでもある。吹寄の自身に対する反応が上条に対する反応と同じなら、自身が現状、原作の上条と大体同じ人間関係を築いている、という証拠を得られるかもしれない。

 

(ま、今までの反応でほぼ確定な気はするがな)

 

ここまでに吹寄が男に見せた態度は上条に対してのそれに酷似している。少なくとも、男が1年7組所属でクラスの三バカ(デルタフォース)の一角

を担っているのは確実だろう。

 

(と、今立てられる対策はこんぐらいかな。後は会話をしながら掴んでいくか……てか、それより……)

 

男にとってはそういった事柄よりもある意味重要な事実があった。それは男が背後から声を掛けられ、声や口調から相手が吹寄であると予想し、吹寄の姿を見て、その姿を確認した際に相手がやはり吹寄であると認識した直後から思っていたことだった。

 

(アニメ版か…GJだ。極めてグッジョブだ)

 

主に胸と前髪とバストと胸囲が、である。

 

さてこのあたりで自分が一方的に喋っているだけな事に気付いたのか、男の妙な視線に気付いたのか、吹寄は不快そうな顔をしながら言った。

 

「貴様、さっきから曖昧な返事ばかりして、適当に聞き流してないか?」

 

「い……んん、いや、そんな事は無いですよ?口を開くタイミングが掴めなかっただけです、ゴホ」

 

「その気持ち悪い敬語はやめなさい。そして聞いていたと言うならあたしの質問に答えなさい」

 

「ん、敬語はダメか。わかった。……けほ、確か補習を受けている筈の俺がなぜこんな事にいるのか、だったな。……こほ、それはこのマスクとレジ袋の中身を見て察してくれ、風邪引いたんだよ」

 

薬局での買い物はこのようにクラスメイトに遭遇した時の言い訳として使う為でもあった。実際にこれで引いてくれれば楽なのだが、彼女相手ではそうも行かない。現に今も下手な言い訳に怒り心頭のご様子だ。よって、男はもう一押し用意する事にした。

 

「貴様はそんな嘘があたしに通用すると思っているのか?言い訳するならもっとマシな理由を…………どうしたの?」

 

吹寄が頭突きを止めたのは男の様子が変だったからだ。

上を向き、目を細め、「ハ、ハ、ハ、」と言いながら空気を吸っている。

それはまるで……というより完全にくしゃみの出る前兆だった。

 

「ハ、ハークション!!ハーーーーーーーーっクション、クションげほ、げほげほがほ、こほん、ハーーっ、くしょん、けほ、けほけほこほ」

 

マスクの上から口を押さえて横を向き、最初の一発と共に身体がくの字に折れ曲がり、そのまま苦しそうに地面にしゃがみこんで咳き込む男を見て、流石に心配になったが、演技である可能性を捨てきれない吹寄は、戸惑いつつも様子を見ている。

しばらくして落ち着いたところで男がフォローを入れる。

 

「ハー、ハー……すまん、さっきまではだいぶ収まってたんだが、けほ、時折大きなのが来るんだ」

 

「ちょ、ちょっと、そんな状態で外を出歩いて大丈夫なの!?」

 

軽く目に涙を浮かべ、本当に辛そうにする男を見て流石に演技ではないと思ったようだ。

……まあ、実際に男のくしゃみは演技というより、わざと咳をし続けることで本物のくしゃみを誘発させる、という万年花粉症や喘息に悩まされ、自分の咳やくしゃみを熟知した男がいつの間にか習得していた技術(スキル)なので、演技でない、というのもあながち間違いではなく、実際にとても苦しいのだが。

因みに、会話の端々でけほこほ言っていたのは、この予備動作である。

 

「大丈夫、とはあまり言えないな。家をでる前には熱が下がり始めていたとはいえ予断を許さない状況だ」

 

「なら薬局で済まそうとしないで病院に行きなさいよ!」

 

「もう行った。そんで風邪と診断されて家に一度帰って、寝ようとしたところでこれらを切らしていることに気づいた。熱も下がり始めていたし今後の為にもかって置いた方がいいと判断し、買いに来て今から帰るところにお前と会った」

 

「そうだったの……悪かったわね。引き止めたりなんかして」

 

「いや、こんな時に出歩く俺が悪いのさ。現にまた具合も悪くなってきたみてーだし」

 

「え?ちょ、ちょっと診せなさい!」

 

「――――――――――――っっっっっっ!!!???」

 

そう言うと吹寄は男の額におでこをあてて熱を計り始めた。

突然訪れた初のドキドキイベントの到来に男の心臓の鼓動が数段早まり、顔が熱く、真っ赤に上気する。只でさえ長時間炎天下にいたために熱くなっていたのと併せて男の体温が急上昇する。

しかし吹寄はそれを風邪によるものと勘違いしたらしく、「大変じゃない!」と叫ぶと、どこからか健康飲料と栄養ドリンクを取り出し、

「マグネシウム配合のスポーツドリンクと栄養剤。家に帰ってこれ飲んで早く寝なさい!」

 

一方、男は急激な接近に未だドギマギしていたが、「あ、ああ、ああぁありがたく貰っておく」としどろもどろになりながらも差し出された物を受け取った。普段だったら栄養剤のラベルに書かれた「コラーゲンタップリ混入☆」の文字とかに突っ込むところだが、今の男にそんな余裕はなかった。

そこで男はふと思い付き、話題を逸らす為にも例の件を吹寄に尋ねることにした。

 

「あ、あ、あーそういえばさー。学園都市の紙のっつーか、アナログ地図を貰えるか買える場所って言ったらどこになるかな?」

 

「え?うーん……たぶんその辺のコンビニにでも行けばかなり詳しい地図の載ってるガイドブックがあると思うけど……何でそんな事を聞く訳?」

 

学園都市に限らず、最近の人間の多くは、地図は携帯に搭載されたアプリ等を用いる。特に学園都市のGPSは、その精度から軍事衛星に利用されているというウワサもあるほどだ。ついでに言えば学園都市は建物の建て替えのスパンが短く、更新の速いデジタルの地図でないと、あっという間に情報が古くなってしまうという事情もあり、アナログ地図はほぼ使われない為、男の質問に吹寄が疑問を抱くのは当然の事であった。

 

「あー、今朝携帯見たら何故かぶっ壊れててな、新しい携帯買うにも前に買ったのが随分前の話だったから店の場所もわからないことに気づいて、ならいっそ寝てる間の暇つぶしがてらに古い情報見ながら店の場所も探すかと思ってな」

 

一応、嘘じゃない。部屋の捜索をしたときに、携帯を発見したのだが、何故か見事なまでにぶっ壊れていたのだ。おかげで自分、もしくは上条の昨日までの人間関係を知るチャンスを一つ失ってしまったが……まあ十分挽回は可能な事だし、元よりあったらいいなくらいの感覚だったのだ。別に良いだろう。

ついでに言えば、最新情報より原作で描かれた事のない古い情報の方が、ファンとしては興味深いのも事実である。

後半の理由は伏せたが、吹寄を見ると、一応納得してくれたみたいだった。

「そう…まあ、いいけど。あまり風邪を長引かせて補習をサボろうとするんじゃじゃないわよ」

 

「ヘイヘイ、病人はおとなしく部屋に引きこもって健康を取り戻す努力をしますよっと」

 

そういって男はその場を立ち去ろうとして、何かを思い出したように「ああ!」と言って再度吹寄の方に振り返った。

 

「最後に、一つだけ」

 

「な、なによ?」

 

「お前、『上条』という名字に心当たりはあるか?」

 

「え?無い、と、思うけど……それがどうかした?」

 

わかってはいたが、やはり確認したくなってしまう。あの主人公(ヒーロー)がこの世界のどこかにいて、自分が代わりをする必要は無いのではないかと。

だがこの世界に、上条当麻はいない。悲劇を起こさないためにはどうあっても、自分が何とかするしかない。

それを思い知らされていく。

 

「いや、ならいいんだ。忘れてくれ」

 

そう言って吹寄に背を向け、そのまま手を軽く振りながら、「じゃーな~」と言いながら今度こそ立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、吹寄にはそう言ったものの、今日は家にすぐ帰るわけに行かない。家にいれば最悪、インデックスと予定より早く鉢合わせしてしまうかもしれない。そうなった場合、ステイルと正面対決する運びとなってしまい、計画が大きく狂う。ステイルはいくらファンからヤムチャ呼ばわりされているとは言え無能力者たる男が正面から戦って勝てる相手じゃない。最低でも奇襲を掛けないと無理だ。そのため、インデックスには悪いが助けに行くのは原作の時間通りだ。それまでは適度に休憩しつつ情報収集に専念するつもりである。

ちなみに吹寄にまた会ったときは熱で頭がクラクラして帰り道がわかんねー、とか言うつもりである。

とりあえず近くにあった冷房が効いてそうなスーパーに入り、棚で色あせていた地図を安価で入手。

店内にあったベンチに座り地図を見ながら原作に登場した建物の位置とそこまでの道筋を、時々ペンで書き込みつつ確認していく。勿論、チェックしていることがばれてやばいことになりそうな施設は除いて。

 

そんな休憩を挟んで再び捜索開始。地図を頼りに原作通りなら今後行く事になるであろう施設と生活する上で必要そうな店を巡り位置を確認する。

第七学区にあるカエル顔の医者がいる(であろう)病院。学舎の園(ゲートの外から外観を眺めるだけ)。常盤台中学女子寮(僚艦がいたので遠くから)。例の自販機(蹴ったが反応なし)。柵川中学(念の為)。よく登場するファミレス(ドリンクバーが美味い)。セブンスミスト(爆発事故の影響で改修工事中)。三沢塾(アウレオルスが居るかは確認できなかったが代わりにパンフレットを貰った)。自分の学生寮の最寄りのスーパー(さっき地図を買った所とは別)。等々(順不同)。同じような施設でも元の世界とはどこか違った部分もあり、憧れの学園都市に来たという実感を感じると共に非常に興味深い体験だった。

 

 

 

 

 

一通り情報を集め終えた男は、現段階での状況を纏めておく事にした。

 

(まず、この世界は俺の知る『禁書』や『超電磁砲』の世界とほぼ一致している……難しく考えても仕方ないし、概ね原作通りと考えていいだろ)

 

厳密には、元々原作、アニメ、漫画、ゲーム、劇場版、番外編等、それぞれによって細かい部分が異なっていたり矛盾したりしており、『正史』が極めてわかりづらい所もあったりするが、それを差し引いても明確にどれであるとも言えないし、どれでも無い可能性もある……が、その辺を考え出して変に縛られても利は無いし、大凡の大きな流れは変わらない筈なので、深く考えない事にしておく。

 

(で、俺の知る原作と違うのは俺が原作における『上条当麻』のポジションにいる事)

 

これはインデックスと最初に遭遇したこと、隣室が土御門の部屋である事に加え、先程遭遇した吹寄の対応等から推測された。

 

(そしてそのせいかはわからないが上条さんはこの世界に……少なくとも原作で通ってた高校には通っていない)

 

これは吹寄が上条を知らなかった事の他に、男が地図や警備員の詰め所を探しに街へ出る前に学生寮で行った探索の成果も根拠に含まれている。流石に部屋ごとに表札があったりといった便利な事は無かったが、ホールの郵便受けやベランダの様子を探るという、変質者紛いの調査の甲斐もあり、男が目覚めた学生寮は間違いなく原作で上条が通っている高校の寮で、上条はこの学生寮にいない、ということを確認できたのであった。

 

(で、その辺踏まえて俺の視点から考えると……いわゆる『成り変わり』モノが近いか……?)

 

『成り変わり』、文字通りキャラクターの行動を本来行う筈だったキャラに変わって行い、そのキャラが本来手に入れる力やら名誉やら人間関係やらを手に入れるタイプの物語を一部でそう呼ぶらしい。

例を挙げると、IS(インフィニティット・ストラトス)の織斑一夏や、ハイスクールD×Dの兵藤一誠などに憑依、転生したり、ゼロの使い魔の世界で平賀才人の代わりにルイズに召喚される……等の展開だろうか。総じて、主人公が多くの女性から好意を寄せられるハーレム展開のある作品の主人公が多い傾向にあるのは、まあ仕方のない事だろう。

その点だけを見れば一応上条当麻も作中女性に建てたフラグの総数一万を超え、フラグメイカーと呼ばれる男ではある為、条件には当てはまっているように見える。

しかし上条当麻のポジションそのままに収まろうとする二次創作は少ない。

禁書の二次創作の設定でよく見るのは『上条当麻のクラスメート』で、そうでなくても原作の話で上条当麻と共闘する始まり方が最も多く、それ以外でも原作の話をやる場合上条当麻がいない作品は極めて珍しいように思う。

上条当麻が存在しない世界の作品も確かにあったが、総じてダークな作風だったように思う。新約四巻にて言及された、『目についた登場人物を片っ端からすくい上げる性質』が影響しているのかもしれないが、実際の所はどうだかわからない。

 

原作のエピソードも、幻想殺しという能力の特異性、人の心に深く響く熱い説教、そしてたとえ何があっても絶対に諦めない心、といった様々な点から彼でなければ解決できなかった、もしくはもっと悲惨な展開になっていたかもしれない事件がほとんどであり、だからこそ『とある魔術の禁書目録』と言う作品が上条当麻無しで進めるのが極めて難しいのだろう。

 

更に言えば成り変わりモノの主人公は主人公魔改造モノを含めて超高確率で原作主人公より大幅にスペックが上回っているモノである。

原作において主人公は必死に、ギリギリの状態で勝利をもぎ取っているのだから、彼らよりスペックが劣った状態で、主人公補正も期待出来ない中原作での彼らと同じ、ないしそれ以上の成果を挙げる事は難しいからある意味当然だろう。

ところがこの男はと言えば、

 

(体のどこにも幻想殺しは無い。体力は少し走れば息切れする人並み以下で喧嘩慣れもしてないし、心を熱くする説教もできない。上条さんも頭もそこまで良い訳じゃないけど、学園都市の赤点と、外の学校の赤点ギリギリ、じゃああんまり変わらないだろうし、前兆の予知なんぞ出きる訳もない。俺が上条さんに勝ってると言えるのは原作知識除いたら身長と伊能忠敬知ってる事ぐらいだぜ……)

 

この通りである。

タダでさえ主人公の中でも前述の通り困難であろう上条当麻の代役を、この一般人ステータスでやれと言うのだ。例えるなら戦国BASARAを直江兼続でプレイするようなもの。或いはワンピースをコビーで旅立つ、もしくはドラゴンボールをピラフ大王でだろうか。

更に今回はスタートの時期も原作開始直後。赤ん坊のときや子供の頃から開始ならまだ努力や準備、もしくは悲劇が起きないようにする根回しの十分な時間があり、男もそれで何とかなるだけの力を付けたり悲劇を回避したオリ主達の二次創作を何作も見てきた。

が、男にはその時間もない。

今日、七月二十日が既に原作一巻の二日目。インデックスの記憶のタイムリミットは一週間後、一方通行(アクセラレータ)戦まで一ヶ月であり、それを含めて新約に入る前までの約三ヶ月の間、原作本編で上条当麻が巻き込まれた事件だけでも十六個の超過密スケジュールである。

 

(どう考えても詰みゲーです。本当にありがとうございましたってか……)

 

ついでに言うと超電磁砲を読んでいればよりよくわかると思うが、妹達が殺されていく絶対能力進化(レベル6シフト)計画の実験は、既に始まっている。今この瞬間もあの悲惨な実験が行われていると思うと胃が痛いでは済まされない程気が重くなってくる。

 

(だが、だからといって、いや、だからこそ、絶望している場合じゃねーんだ。今俺に出来る限りの事をしねーと。それに……この状況じゃ、まだマシな方だろーしな)

 

男は、この状況下で尚、絶望しきってはいなかった。

絶望して何もしない、というのが状況の改善に微塵も繋がらない、というのもあるが、男を支えているのは脳裏に浮かぶ、今の自分よりもっと悪い条件で闘ってきた者達の姿であった。

転生者――――――――正確にはそうでない者も含むが今は纏めてそう呼んでおく――――――――の全てが行く世界を自ら選べる訳では無く、幸福になれるとも、何不自由ない暮らしを約束されているとも限らない。

スタートからいきなり戦場のド真ん中に放り出されたり、巨大な猛獣がウヨウヨいるジャングルの中でサバイバル生活を強いられる者もいる。転生先が人間とも限らない。人間よりも遙かに弱い生物になってしまうかもしれないし、強く、知性があっても人類の敵とされる種族で、人類との望まぬ対立を強いられるかもしれないし、或いは生き物ですらないかもしれない。

チート能力を持って行っても、行った先によっては何の役にも立たない場合もあり、原作知識やその世界で役に立つ知識を持っていても、それが何時までも通用するとは限らないし、どんなイレギュラーやバタフライエフェクトが発生するかもわからない。

そんな中、幸福や勝利を掴み取れる者はほんの一握りであり、そんな他の転生者の踏み台にしかなれない者もいる。それだけならまだしも物語にすら、脇役にすらなれずに消えていく者だって大勢いる。

その点、男は恵まれた方かもしれない。住むところも社会的な居場所も用意されてあり、目を付けられたら拙い奴もいるが、一応生命が常にさらされ続ける環境でもない。その上やるべき事がわかっているのだ。何をしていいのか全くわからなかった前の世界よりずっと良い。それに原作通りかどうかわからないが、男が一番好きだった作品の世界に行けたのだ。これで文句を言っては他の皆に怒られてしまう。

 

(まあ、これで与えられた役割がスパイダーマンやらテッカマンやら、オルステッドだったら、それこそ絶望してる自信はあるが……そっちと違って手が無い訳じゃねーからな。まだマシな方だろ)

 

ともすれば自分より下を見て自分はまだマシだ、と考えるあまり誉められたものでは無い考え方だが、それでも確かに、男に前を向く活力を与えていた。

そして生粋の禁書オタクであり、作品考察が趣味である男は、原作通りの展開ならば、成功率は高くないが、代役を果たすのは決して不可能ではないという答えを導き出していた。勿論、何度も言うように原作通りの事件が起こるとは限らない。そもそも悲劇は起きないのが一番いいのだが、それに期待して何も対策を立てないのはどう考えても愚策中の愚策だ。用心に越した事は無い。勿論、予想外の事態が起こったり、自分の力不足からどうにもできない状況が訪れるかもしれないが……諦めるのはその時でいい。

ギリギリまで頑張って、どうにもならなかったら流石に諦める。だが、やる前から諦めて自分から可能性を潰すようなマネはしない。そう男は心に誓っていた。

 

 

 

 

完全下校が近くなって来た時刻、真っ赤な夕焼け空の中、灼熱と称される真夏の学園都市の街中でそんな風に改めて決意を固めていた男であったが、

 

「あっ、いたいた。この野郎!ちょっと待ちなさ……ちょっと!アンタよアンタ!止まりなさいってば!!」

 

男はその声、台詞の内容、及び原作におけるこの時間に発生するイベントから誰が声をかけたのか瞬時に判断出来ていたが、万が一に人違いである可能性を考慮して少し反応が遅れながらも、そーっと声のした方を振り返ると、そこには中学生ぐらいの女の子がいた。肩まである茶色い髪は夕焼けで燃え上がるような赤色に輝いて、顔面はさらに真っ赤にに染まっている。灰色のプリーツスカートに半袖のブラウスにサマーセーター―――――――――と、ここまで原作そのままの描写をしてみたが、詰まるところ、常盤台中学のエース、学園都市第三位の超能力者(レベル5)超電磁砲(レールガン)の異名を持ち公式スピンオフ漫画の主人公も務める、ビリビリ中学生こと、御坂美琴だ。

辺りを見回してから、「俺?」と自分を指差しながら聞く男に対し、「アンタ以外に誰がいるのよ!」と美琴は喚く。

(ここで原作通りに声をかけ、原作通りの対応……俺が上条さんに見えているのか?或いは、昨日までのこの世界の『俺』は御坂さんにこんな態度をとらせるよーな関係だったのか?どちらにせよ一体どーやって……?何が原因で……?)

 

正直、男にとってこの展開は大きなチャンスであった。

彼女からこの確認がとれれば、男がおかれている立場の正確な把握、及びこの世界がどの程度どの原作によっているか、更には自分がこの世界に来た原因までわかるかもしれない。

そんな千載一遇のチャンスを目の前にして男は、

 

「人違いです」

 

全速力でのその場からの逃走を図った。

 

あまりにも突然の事に美琴は一瞬あっけにとられた表情になったものの、

 

「こ――――――――――――――の。っざけてんじゃねーぞアンタぁ!!」

 

と、勢い良く歩く歩道のタイルを踏みつけ、その踏みつけた足から電撃を放った。

その瞬間、辺りを歩いていた人達の携帯電話が一斉にバギンと凄まじい音を立て、商店街の有線放送はブツンと途切れ、そこらを走っていた警備ロボットがビキンと嫌な音を鳴らし、逃走中の男は「ペキン!」と叫びながらの全力回避を行い、地面に転がった。

 

「ふん。どうよ、これでようやく腑抜けた頭のスイッチ切り替えられた?」

 

と、余裕綽々の御坂美琴を華麗にスルーして、男は体勢を立て直すと全力で逃走を再開する。

なにせ何度も言うようだが男は幻想殺しを持っていない。しかし美琴は容赦なく電撃を放ってくる。それだけなら実はそこまでの問題ではない。美琴は普段不良を追い払う時等にも不用意に電撃を放っているように見えて実はちゃんと適度な手加減をしており、絶対に相手を殺したり、取り返しのつかない傷を負わせるような事は無い。そこら辺の加減まで完璧に出来る辺りが流石超能力者(レベル5)と言ったところなのだが、今回はその理屈は通らない。この状況を問題にしているのは、『男は現在上条と同じ扱いを受けるようである』という事だ。何故なら、能力の効かない上条相手には前述の加減が無くなるのだ。そしてその上条と同じ扱いを受けるということは……

 

(死んじゃうー!マジで死んじゃうーッ!!いや、よしんば死ぬのは良いとしてもあんなうっかりでコメディじみた、それでいて後味の悪すぎる死に方は嫌だーーッッ!!)

 

人並み以下の耐久力しかないにもかかわらずヘタをすれば自然界における最大威力の落雷レベルの電撃すら喰らいかねないということであり、いくら重要な情報が得られる可能性があると言っても、そこまでの危険を冒してまで渡る勇気は無かったし、ここでは場所も悪い。それ故に、男は全力でその場から逃走するのであった。

 

「あれ?」

 

そんなこんなで、美琴がまわりの状態に気付き、警備ロボットが甲高い警報を辺り一面に鳴り響かせた時には、既に男は美琴が見渡せる範囲から姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

改めて思うが、上条当麻は幻想殺しだけじゃない。

原作の上条当麻と同じように路地裏を全力疾走した上条当麻でない男の体力は原作の上条当麻と違って尽きかけていた。

 

「ゼー、ヒュー、ヒー、ヒーフー、ハーーーッ、ハー、ヒー、ヒー、ヒー……」

 

路地裏の壁に背中をつけて座り込み、切らした息を整えようと必死に呼吸を行う。

 

(俺も体力は無い方だけど、それを差し引いても上条さんの体力やばすぎるだろ。なんせ……)

 

「だらしないわねえ。昨日はもっと長い距離走らなかった?」

 

(この御坂さんから何度も逃げ切ってるんだからな)

 

男は一旦は美琴の視界から確かに外れたのだが、美琴は男を見失ってから男が逃げている間に再度見つけ出し、こうして男に追いついているのだ。単純に考えても、男より遥かに長い距離を速く走ったのは明白であり、にもかかわらず息一つ乱していない。

女子中学生ということを考慮しようがしまいが驚異的であり、こんな人物を相手に毎回逃げ切っている上条はやはり幻想殺しだけの男では無い。

まあ、何はともあれそういった化け物じみた体力の無い男は、今は少しでも体力を回復しなければならない。とはいえ、流石に美琴を無視し続けるのも無理そうなので、なんとか喋れるようになるまで回復したところで声をかける。

 

「で、一体俺に何の用なんだ?」

 

「そんなの決まってるでしょ、勝負よ。今日という今日こそ決着つけてやるんだから覚悟しなさい!」

 

「勝負?決着?一体何の事だ?まさか喧嘩か?見ての通り俺は只の非力で無力な無能力者(レベル0)。そんな俺があんたみてーな高位能力者とまともに戦えるとは思えないんですけども?」

 

「ゼロ、ねえ」

 

少女は口の中で転がすように、その部分だけを繰り返した。

(あれ?この台詞……)

その様子を見た男を何かもの凄く嫌な予感が襲う。

 

「それ、昨日も言ってたけど、アンタがホントに無能力者(レベル0)なら―――」

 

御坂の髪が電極のようにバチンと火花を散らし、男がまずい、と思ったときには、もう遅かった。

 

「コイツで十分なはずでしょ、っと!」

 

少女の前髪から角のように青白い火花が散った瞬間、槍のごとき雷が男を襲った。

避ける、なんて事ができるはずがない。何せ相手は超能力者(レベル5)の髪から迸る雷撃の槍。原作でも黒雲からの光の速さで落ちる雷を目で見て避けろと言うのと同じと言われていた代物だ。もはや素人には避けるどころか知覚するのさえ困難だ。雷の速さは厳密には光よりも遅い、という話をどこかで聞いた気がするが、そんなもんは気休めにもならない。

 

男は為す術も無く、高圧電流に身を焼かれた。

 

 

 

「え?」

電撃が直撃し、男の体が寄りかかっていた壁に叩きつけられ、そのままぐったりとして動かなくなった。その光景に、今まで渇望していたはずの勝利に美琴は喜ぶでも達成感を感じるでもなく、ただただ驚いていた。

確かに美琴は躊躇なく雷撃を放ったが、その攻撃が通るとは本人も思っていなかった。

これまでケンカではどんどんエスカレートしていく美琴の攻撃を全て打ち消してきたその少年(・・・・)なら、これぐらいの攻撃ならあっさりと打ち消すはずだと思っていたのだが……

 

(どうして……)

 

そこまで考えて、ある程度冷静さを取り戻した美琴は違和感の存在に気づいた。

そう、何かがおかしい。昨日まで少年に一度も効かなかった攻撃が通った。

疲れて能力が発動しなかった?いや、今までのケンカの中でも少年が疲れているときはあったが、その時にも普通に美琴の攻撃は何の問題もなく防がれていた。

この間のように美琴がもう絡んで来ないようにわざと負けたのか?いや、美琴が放つのは最大一〇億ボルトの電撃だ。そんな攻撃が当たれば、どうなるかは明らかだ。絶対に勝てる相手が絡んでくるのを避けるのに、命を懸けるとは思えない。

 

ならば、何故、どうして防がなかった。

おかしい、何かがおかしい。美琴は何かとてつもなく大きな違和感を感じるのだがそれが何なのかがわからない。

 

「―――っ!!」

 

尚も違和感の正体を探る美琴を得体の知れない不快な感覚が襲う。

だが美琴は思考を止めない。後少し、後一手で違和感の正体が掴めそうなのだ。

美琴は頭を抑えながら、ぐったりしている男に近づき観察する。間違いなく違和感の原因はコイツだ。そう、思い返してみれば電撃が効いた事だけでなく、今日コイツに会った時から何かがおかしかった。いつもより何故かあのムカつく感じが弱かったし、いつもならあの程度の距離を走った程度で疲れるはずが無い。何より美琴に対する反応がまるで初対面のの人物に対するそれだった。気が立っていた事もあって最初は美琴をからかっているだけだと思ったが、今にして思えばあれは明らかに変だっった。

 

おかしい。変だ。何かが違う。いつもの少年とは明らかに違う。そう、それではまるで―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に全くの別人のようじゃないか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこまで思考が及んだ瞬間、美琴が今まで感じていた得体の知れない違和感が消え、同時に、不快感からも解放された。

 

美琴は改めて目の前でぐったりしている男を見る。俯いているため顔は見えないが、少し見ただけで簡単に分かるほど、男と美琴が昨日までケンカしていた少年は似ていない。髪の毛の色も黒髪ではあるがやや灰色に近く、髪型もあの特徴的なツンツン頭ではなく、天然かどうかはわからないが軽い癖っ毛。背も男の方が高く、体についている筋肉もあの少年よりずっと少ない。共通点など、それこそ着ている学校の制服と日本人だということくらいだろう。

 

一体どうして、この男をあの少年だと思ったのだろうか。あの少年が関わっているのか。この男は何か知っているのか。そして――――――――

 

様々な疑問が渦巻く中、ピク、と、男の指先が動き、小さく唸りながら全身に力を入れようとする。

美琴の電撃の最大電圧は十〇億ボルト、しかしちょっとした牽制のつもりで放ったと言う事もあってか、命を奪うほどの威力では無かったようだ。

男の身を心配する声をかけながら、美琴の脳裏には最も単純な、しかし最大の疑問が浮かんでいた。

 

(それじゃあ一体、コイツは何者なの?)

 

少女は矛盾に気付き、男は何を思うのか。

物語は大きなズレ(・・)を孕んだまま、進むこととなる。

 

 

 




何やら思わせぶりな終わり方をしましたが、余り深く考えないでもらえると嬉しいです。本当なら色々語りたいところなのですが、次回以降のネタバレになりそうな気がするので。
ご都合主義のような展開もあるかもしれませんが、その辺はフレキシブルにお願いします。

基本的な投稿頻度は今回くらいのスパンで上げていこうと思っていますが、そろそろリアルで定期試験が迫っているので、次の投稿は今回より遅れます。それでは、今回はこの辺で。


――――――――幻想殺しが無いというのは、決して悪い事ばかりではない。
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