Not上条 But主人公   作:是夢

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本来はキリの良いところで区切った二話分の話だったのですが、いざ書いてみると両方とも五千字弱だったので、纏めて一万字位の一話にすることにしました。


第四話 上条さんの最大の武器は説教

七月二十四日。

前日には既に無事退院を果たしていた男は病院の待合室の長椅子に座ってぼんやりとしていた。因みに退院直後顔色が悪かったのはまだ体調が優れなかったからではなく、治療費及び入院代が財布に割と大きなダメージを与えていた事が原因だったが、それは今はどうでもいいことだろう。男はここである『事象』を待っていた。だがその間結構暇だったので、ここまでの回想を挟んでみたりすることにした。

 

電撃を食らって気絶した男が次に目覚めた時、まず目に入ってきたのはまたしても知らない天井だった。一瞬、もしや自分はこれから目覚める度に「知らない天井だ」のネタをやらないといけない運命なのだろうかという極めてどうでもいい不安に襲われたが、すぐにそんな事を考えていられる状態ではなくなった。

頭が痛い、喉も痛い、そして咳が止まらない。端的に言って、相当に酷い風邪の症状だった。その後すぐ、カエル顔の医者がやってきて電撃による傷は完治したことと、しかし体力低下の影響で風邪をこじらせたこと、そしてインデックスの面倒は美琴がみていることを告げられた。本来なら原作での重要人物との安全な遭遇にテンションが上がっていただろうが、生憎とそれすら出来ない程の病状だったので、大人しく休養をとることにしたのであった。ここまでが三日前の出来事だ。そして昨日、病状が軽くなり、ようやくまともに会話が出来るようになったところで、御坂美琴が訪ねてきたのだ。朝目覚めると、すっかり知らない天井ではなくなった天井と共に、自分がこの入院生活を送ることになった、ある意味での元凶が突然いたもんだから、男はその日開幕から驚かされたものだった。そして驚いているといきなり、その元凶が頭を下げてきた。なんでも、男を追いかけ回したのは人違いで、勘違いしたまま襲ってしまって申し訳なかった、といった感じの話だった。話がそこまで来たところで、男は寝起きの頭を無理矢理フル回転させていた。

 

(御坂さんはどこまで掴んでいる?少なくとも、俺と上条さんが別人であるとは認識しているみたいだが……まあいい、この立場を利用すればいくらでも情報を確認できる)

 

そこから先は男の情報収集タイムとなった。いや、正確にはお互い状況を正確に理解するために情報交換をしようという提案を男はしたのだが、美琴の知りたがっていた、間違いが起こった原因や間違えた少年の行方について、男は知っては(・・・・)いなかったので、ほとんど男が一方的に美琴から情報を引き出す形になってしまったのだった。

 

(うーむ、今までの情報をまとめると、どーやら俺は上条さんのポジションになる上で、どーゆー表現が正しいのかはわかんねーが上条さんの辿ってきた歴史ごと乗っ取っちまったと考えていーんだろか。んで、御坂さんから得た情報で重要そーなのは、上条さんを思い出すことはできねーけど俺が上条さんと別人であると認識することはできる人間が存在するって事だろーな。取り敢えず、そこは頭に刻みつけておくとするか)

 

そして美琴との情報交換が終わった辺りでインデックスが入ってきたので三人で雑談、その後カエル顔の医者から退院の許可がおりたので、午後、三人でインデックスを匿ってくれそうな教会を探すついでに、学園都市を観光して回ったのだった。結果として、インデックスを受け入れてくれるような教会は見つからなかったが、インデックスにとっては初めての「友達」との行動が、とても嬉しそうに見えたのは気のせいではないはずだ。

 

「ねー、みことはまだ来ないのー?」

 

「いずれ来るさ、待つこともまた闘いだ」

 

そんな回想を経ている間に、男の隣に座っているインデックスが待ちきれずに文句を言い出した。尚、この数日間で(男視点で)すっかり仲良くなり、お互いに名前で呼び合う美琴とインデックスを見て、

 

(やはりみこインはいい……この状況を作り出す事が出来ただけでもこの世界に来た価値はあったな!!)

 

等と考えたこともまた、極めてどうでもいいことであった。

 

「ねーねー」

 

「何だ?俺に催促しても御坂さんは速くならないぞ?」

 

「そうじゃないんだよ。昨日、みことに言ってたこと、どういうことか教えてほしいかも」

 

「昨日は結構話したから、どの話か言ってくれなきゃわかんねーぞ?」

 

「最後に言ってた占いのことなんだよ。あれってカバラ?それとも占星術?」

 

インデックスが言っているのは前日に男が美琴にした助言のことである。

 

「明日は先にあんたが追ってた事件の方に顔を出した方がいい。明日あんたの友達に危機がせまると占いに出ている」

 

男は会話の中で、超電磁砲側のストーリーも進行しているのを知り、向こうの方も原作通りになるように、原作知識を使って誘導したのだ。占い、というのはそのためのとっさの方便だったが、男自身は、なかなかに面白い言い訳だと気に入っていた。が、この科学の街でそんなオカルトの話を持ち出してくる男を、インデックスは少し不思議に思ったのだろう。

 

「そーだな……少なくともおめーらみてーな専門的な話じゃあないのは確かってだけかな」

 

「ふーん」

 

「でも、ま。一つだけ言える事があるとすれば」

 

そんなつまらなそうなインデックスの様子を見ながら男はそう言って立ち上がると

 

「俺の占いは当たる」

 

と、また何かのパロディでごまかした。そうこうしているうちに、美琴がこちらへやってくるのが見えた。恐らく、共感感性を思い出すくだりが終わったのだろう。そして、それとほぼ同時刻、少し離れた別の場所で男の待っていた『事象』もまた起こっていたのであった。

 

 

 

 

     ※

 

 

 

 

 

佐天涙子が倒れ、病院に搬送された。

この知らせを聞いて、美琴達は今日の外出の予定をキャンセルし、すぐさま病院にとって返す事になった。

病院に着くと、美琴は先に着いていた風紀委員(ジャッジメント)の腕章を付けたツインテールの女子生徒と情報交換した後、カエル顔の医者に呼ばれて行ってしまい、この件に関しては部外者である男とインデックスはついて行っても仕方ないと判断し、再び手持ち無沙汰となり、美琴達が入っていった部屋の前の廊下で長椅子に座って待つことにした。

 

「ねーねー」

 

「何だ?俺に催促しても」

 

「みことは速くならないんだよね?知ってるんだよ」

 

「じゃあ何だ、御坂さん達がどんな事件に関わってるか、とかは聞くなよ?俺は説明が下手だし、そもそもよく知らん」

 

「そうじゃないんだよ、あなたの占いのこと」

 

「あー、確かに俺の言った通りになったな」

 

「あなた、本当にのうりょくしゃーでも魔術師でもないの?」

 

「オイオイ、一回占いを当てただけで異能者判定か?そんなんだったらこの世界は異能者だらけじゃあねーか」

 

「でも、さっきは妙に確信を持って当たるって言ってたように見えたんだよ」

 

「あんなもん、只の常套句さ」

 

「むー」

 

インデックスも男と接したこの数日の間に、男がこういった曖昧な表現をするときは明確に答える気がないか答えられない時だと既に把握していたので、割とあっさり引き下がった。

一方の男としては、インデックスがここまで食い付いてくるのは予想外だったが、全て右から左へと受け流した。例えどんなに怪しまれようと、勘が当たった、偶々だ、と言って乗り切るつもりである。なにせ男に彼が未来のことがわかる証拠なんてものは出しようが無いのだから、こうして飄々としていれば問題は無い。男はそう思っていた。欲を言えば、刑事ドラマとかのお約束のパターンで……とか言い出したいところだったが、果たしてインデックスに効くのかどうかわからなかったため、そっちの言い訳が使えないというのもあるのだが。そして勿論、そんなチャチな言い訳が通用しない奴に追及される場面も今後出てくるだろうが、それはその時までに考えれば良いことだ。

そんな話も交えながらポツポツと雑談しながらどれくらい待っただろうか、向こうの話も終わったようで、美琴がこちらに戻ってきた。

 

「ごめんなさい、こんな事になっちゃって……」

 

その表情を見て二人は少し顔を見合わせると頷いた。

 

「あー、こっちには構わねーでいーからそっちの用事済ませて来なよ」

 

「え?でも……」

 

美琴の中では、インデックスを守ると約束した責任感と、今すぐにでも友達を助けに行きたいという感情がせめぎ合っているのだろう。それを、二人は察したのだ。

 

「みことは、友達を助けたいんだよね?なら、早く行ってあげて。私たちのことは心配しなくていいんだよ」

 

「でも、またあいつみたいなのが襲って来たら……」

 

「大丈夫だって、元々インデックスは一人で一年近く逃げ回れてたのは聞いてんだろ?なら御坂さんが一つ事件解決するまでの間くらい、どーにでもなるって」

 

「俺が足を引っ張らない限りな!」と男は笑い、「それはあなたが言うことじゃないかも……」とツッコミを入れるインデックス。二人とも、美琴を心配させまいとしているのは美琴にも伝わった。その意を汲んで、美琴は決断する。

 

「わかった。行ってくる」

 

「うん、みことも必ず帰ってきてね」

 

「勿論」

 

そう約束を交わすと、美琴の姿は一緒に来ていたツインテールの風紀委員と共に消えていった。お分かりの通り風紀委員の方の空間移動(テレポート)能力であるが、それを知らないため人が突然消えた事に少し驚いたインデックスに男は説明しておくのを忘れなかった。そして、廊下には男とインデックスの二人が残った。

 

「で、これからどーするんだ?当初の予定通り昨日の続きか、それか多分安全圏のここで待つか」

 

「いいよ、出てく。流石にこれ以上ここに迷惑かけられないし、それにここにいて本当に襲ってきたらそれこそ大迷惑かも」

 

美琴には男の連絡先は携帯が壊れているため伝えていない。そして、インデックスは連絡先を持たない。よって、ここから出て行くという言葉は同時に、美琴をもうこれ以上関わらせないという意味も持っていた。

 

「そーか、じゃあ一応聞いとくが、お前、まさか一人で行く気じゃあねーよな?」

 

その言葉に、インデックスはハッとして振り返る。その行動は、図星を突かれたからか、それとも男が暗にインデックスと一緒に行動する気であると言ったからか。

 

「もしそーなら道に迷うから止めとけ。俺は役立たずだが地図は読めるから道案内くらいはできるぞ」

 

「で、でもそれじゃああなたが危険に」

 

「大丈夫だって、その辺の覚悟とかはもーしてるし、いざとなったら見捨ててくれて構わない。御坂さんから聞いた限りじゃ、無関係な奴に事前に逃げるよう警告はする奴らみたいだし、こっちも逃げれるだろ」

 

「で、でもーー」

 

「あーもー!兎に角だ!俺はもうお前を手助けするって決めたんだよ!だから、問題なのは、お前がそれでいいかってとこだ。もし、お前にとって俺が付いていくのは邪魔だから嫌ですってんなら俺は素直に引き下がる。そんじゃあ一度だけ聞くぞ?」

 

そう言って、一旦言葉を区切ると、

 

「地獄の底まで落ちない為に、悪魔と相乗りする勇気はあるか?」

 

男はインデックスに、一番言いたかったパロディ台詞を言い放った。その顔はまるで本当に悪魔が誘いをかけているかのような顔に見えたが、インデックスは不思議と安心感を覚えた。だから、

 

「じゃあ、その前に一つお願いがあるかも」

 

「何だ?俺に出来る事は少ないぞ?」

 

「あなたの名前を教えて欲しいんだ」

 

「あ?名前?それなら、俺の病室の表とかにも書いてあったし、もー知ってるだろ?」

 

「うん、それでも、やっぱりあなたに直接教えて欲しいんだよ」

 

男はそれを聞くと納得した表情になり、

 

「そーか、そーいや直接名乗っちゃいなかったな。人に名前を預ける。確かに大事な事だな。よし、良いだろう」

 

この物語は、一人の男の物語である。

男には、特別な力は何もない。この場に立つのが彼である必要性は全くない。彼より優れた力を持つ者や優れた頭脳を持つ者、或いはもっと弁の立つ者が、彼より素晴らしく、劇的な方法で事件を解決する物語もあるだろう。だがしかし、この物語は彼の物語である。この非力で愚鈍で不格好な男が、それでもなお、一人の主人公(ヒーロー)の背中を追いかけて、誰かの助けになろうとする物語である。だから、彼は己の、自らを表す名を名乗る。

 

「俺の名は、間桐杖伽(まとうじょうか)だ」

 

これは、そういう物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

     ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕焼けで赤く染まる学園都市の街を、間桐杖伽は一人歩いていた。ここに至るまで、魔術師達の襲撃はなく、至極安全に本日の探索も終了していた。インデックスは、少し気になる事があるとかで先に行ってしまった。追いかけようかとも考えたが、追跡の上手でない自分が下手に追いかけて道に迷っても事だし、集合場所に指定してある自分の部屋で待っている方がいいだろうと考えたのだ。

さて、ここで一旦状況を再確認しよう。時間は夕暮れ。夏休みだから学生達も学校に縛られる事もなく外に出ている者も多いだろうし、夕飯の買い物に出掛けている者もいるかもしれない。まあ、ともかくそんな時間帯に、杖伽は開けた表通りなのに自分以外誰一人いない道を歩いていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。これは間違いなく、誰かが人払いをしている。勿論、杖伽も流石にそんな異常な状況に気付かない程鈍感ではなく、

 

「おーい、いつまでも見てないでそろそろ出て来たらどーだ?もー一人は飽きたぞー」

 

「やはり、気付いていましたか」

 

杖伽が適当な方向に向かって叫ぶと、突然前の方から声がした。驚く暇もなく、そこには大和撫子が西部劇のガンマンみたいな格好をしたような、長身の女が立っていた。

見えなかった。

いや、自分程度の動体視力で聖人の移動を捉えようとする方が間違っていて見えないのが正しいんだと理屈ではわかっている。だが実際に見せつけられるとそのプレッシャーに押し潰されそうになる。

 

魔討(まとう)浄化(じょうか)ですか。───良い真名(まな)です」

 

「オイ、どんな当て字してるかわかんねーけど、俺の名前は杖の如く人の助けになれる奴になれってジョジョ好きのお父さんが付けたモンだぞ?勘違いすんじゃあねーぞ!」

 

プレッシャーに押し潰されまいとして異を唱えてみるが、魔術師はそれを華麗にスルー。

 

「そうですか。私は神裂火織と申します。……率直に言って、もう一つの名を名乗る前に、彼女を保護したいのですが」

 

「……えーと、つまり、お前が例のインデックスを追ってる魔術師で、戦わずに俺に降参して欲しいって事か」

 

魔術師は肯定する。正直、さっさと要求を呑んでこのプレッシャーから解放されたかったが、そうもいかない。ここで自分が引いてしまえば、インデックスも、目の前にいる彼女も(・・・・・・・・・)救えない。杖伽はひとまず落ち着くために、神裂火織のスペックを思い出す。

必要悪の教会所属で元天草式十字凄教の女教皇。世界に二十人といない聖人の一人であるとともにロンドンで十指に入る魔術師で、意外と年上に見られがちなのを気にしていたりする他可愛い面もいっぱいある、後に洗濯機と友になったりする、別名堕天使エロメイd

 

瞬間、間桐杖伽の頭上直ぐの空気が引き裂かれた。

 

杖伽と神裂の間にはまだ数メートルの距離があり、二メートル強の神裂の刀では本来届かないように見えるが、こんな風にその差を感じさせないような斬撃を放つことが彼女には簡単に出来るとか、杖伽の背後斜め後ろの風力発電のプロペラが裂けるチーズみたいに裂けていってるとか、わりかし状況はハードなのだが、杖伽の心を占めていた感情は一つだった。

 

(今のタイミングで攻撃とか、モノローグで例の単語を口にしたから攻撃してきたようにしか思えなくて怖えええええぇぇぇぇぇ!!)

 

無論、そんなはずはない。そんなはずはなくても怖い物は怖いし、仮にそうでなくてもいきなり当たれば即死レベルの攻撃が飛んでくればやっぱりどっちにしても怖かった。

 

「やめてください」

 

「な、何をぅ?」

 

背中どころか全身に冷や汗をびっしりかきながら、うわずった声で返す。

 

「私から注意を逸らせば、辿る道は絶命のみです」

 

どうやら先程の一撃は、プレッシャーに飲まれまいと、脳内のデータに意識を逸らしていた杖伽への警告だったようだ。

心臓が早鐘のように鳴り響く。前進の感覚が鋭敏になっていく。今この瞬間も、自分の命が相手に握られているのを、間桐杖伽は体で感じていた。しかしそれと同時に、彼の脳はじっくりと状況を見極めていた。

 

(一発で仕留められた筈なのにわざと外してきた。警告してきたのもそーだし、やっぱり神裂さんも原作通りってことだな……)

 

ドスン、と杖伽の背後に切り裂かれたプロペラの切れ端が地面に落ちた。

本当にすぐ側に落ちたのだが、杖伽は動けなかったし、動く必要もない(・・・・・・・)と思った。神裂は、いつの間にか閉じていた片目を開いて、

 

「もう一度、問います。魔法名を名乗る前に、彼女を保護したいのですが」

 

戦力差は絶望的だった。杖伽が抵抗の意志を見せれば、神裂は即座に杖伽を細切れに出来るだろう。

神裂火織は、強い。間違いなくステイルより強いし、ここにいたのが杖伽でなく御坂美琴でも分が悪かっただろう。

一方の間桐杖伽は、弱い。ステイルにも御坂美琴にも、勝てる確率は一厘もないだろう。ステイルが魔術を使わず素手の殴り合いで勝負すれば話は別かもしれないが、そんなどんぐりの背比べには何の意味もない。

だが、にもかかわらず杖伽は笑っていた。気が触れておかしくなった訳ではない。しっかりと状況を認識した上で、

 

(勝ったぞ……この戦い、我々の勝利だ)

 

どっかのうっかり顎髭みたいな事を考えている余裕があった。

そう、杖伽には、この詰みダイヤをひっくり返す策があった。ステイル相手だと厳しかったが、神裂が相手なら問題はない。何故なら、彼女は自分を殺さない。杖伽の知る彼女は、敵であれ人が傷つくのを酷く嫌う人物だ。さっきプロペラの切れ端が落ちてきたとき動く必要を感じなかったのも、彼女が斬ったものが自分にあたるように落ちてくるはずがないと確信していたからだ。

そして、そんな人物相手なら、一つ、とても有効な策がある。だからまずは、

 

「わ、わーかった!わーかった、あんたの言う通りにするから殺さないでくれ!な、な?」

 

両手を挙げて全力で命乞いをした。神裂はこの一見惨めだが力の差を理解したとも言える反応を見て、刀を納めた。

 

「賢明な判断です」

 

だがしかし、当然ただ降参するだけでは終わらないのが策である。

 

「で、でも、そ、そ、その前に一つだけ、ききき聞いておかなくちゃいけないことがある」

 

「何でしょうか」

 

「あ、あんた達がインデックスを狙う目的を教えてくれ」

 

「……あなたには関係の無いことです」

 

にべもなく断る魔術師に杖伽は食い下がる。

 

「大有りだ!もしあんた達の目的がインデックスの魔道書を使って世界をどーこーしようってレベルの話だったら、俺の明日も危ういじゃあねーか!もしそーなら、ここで死んでも同じ事だから、やっぱりさっきのは無しであんたに立ち向かわなきゃいけなくなるしな!」

 

物凄い理屈を持ち出してきた相手に呆気にとられる神裂を尻目に、杖伽は更に続ける。

 

「それにあんたはさっきから警告に留めて戦いを極力避けようとしているよーに見えるが……俺を傷つけるのが嫌なんじゃないか?そんな奴がなんで世界をどーこーするパワーを求めるのか興味もあるしな……まあ、とにかく、もしあんた達の目的が俺の納得するようなモンならお互いの利益は一致するはずだろ?あんたはただ話すだけで名乗りたくない魔法名を名乗らずに済むんだからな!」

 

そこまでまくし立てると、杖伽は緊張からか長台詞の疲れからか荒い息を吐く。それに対し、神裂は少し考える素振りを見せた後、

 

「わかりました。全てお話ししましょう。私も極力、無用な争いは避けたいので」

 

結局、その申し出を受け、彼女のインデックスを追う理由を話し始めた。

神裂の話す話の内容は原作通りだった。神裂の所属している組織は必要悪の教会で、インデックスの同僚にして親友だったこと。インデックスは完全記憶を持っているため、どんな記憶も忘れられないこと。インデックスの脳は、彼女の記憶する十〇万三〇〇〇冊によって八五%が埋め尽くされてしまっていること。残りの十五%では、一年ごとに記憶を消さないと脳がパンクして死んでしまうこと。そしてその期限があと三日後に迫ってきていること。

全て原作通り。知っている知識と同じだった。だが、既に知っている知識でも、ここではそれを神裂自身の口から話させたことに意味があった。これでいよいよ手札を使う準備が整った。「わかっていただけましたか?」と問う神裂に対し、杖伽は体の震えを抑えながら渾身の力を込めて言い放つ。

 

「あー、わかったよ……今のお前らにインデックスは渡せねーってことがなぁ!」

 

「なっ……今の話を聞いていなかったのですか?私達が記憶を消さないと、あの子は死んでしまうんですよ!?」

 

「あー、聞いた。いー話だった。感動的だな。だが無意味だ。何故ってお前、矛盾だらけなんだよ。何から何までなぁ!」

 

杖伽はそこから一気にまくし立てる。神裂に反論の隙を与えない。何故なら、ここは一気にいかないとまた飲まれそうで怖かったからだ。それでも、その恐怖すら原動力にして彼は進む。

 

「まず、完全記憶能力ってのは別にインデックス固有の能力じゃあねー。他に持ってる奴を何人かテレビとかで見たことあるしな。その人達は別に魔術なんかで記憶を消さずとも普通に生きてる。これはわかるな?」

 

「はい、ですがそれは、その人達はあの子と違って魔道書が」

 

「そー、魔道書。それがインデックスの脳の八五%を占めてるからあいつは一年しかもたねーんだよな?でもよそれっておかしくねーか?だってよ、その計算でいくと一年で十五%使うから魔道書無くても六、七年しかもたねーじゃあねーか!!おかしーだろ、他の完全記憶能力者は五十年以上生きた人もいるのに、インデックスだけ七年の寿命?そんなんありえねーっつーの!!」

 

そこまで言って、漸く神裂の方を見る。見るからに動揺していた。自らの信じていた事が、全くもって道理が通らないという事実を突きつけられて。

 

「初めは、あんたが適当ぶっこいてるだけかと思った。でも、話してる時のあんたの必死そうな顔見てそれはないって思った。でもそーなると、インデックスの体に魔道書や完全記憶能力以外の何かしらの異常がないとおかしーんだ」

 

そして、杖伽は最後の一手を指した。

 

「なー、あんたの言ってた八五%云々の話、一体誰から聞いたんだ?そしてそれは、信用出来る話なのか?」

 

二人の間に、沈黙が訪れる。

どれくらいの時間がたっただろうか。数秒か、数分か、いつの間にか日が落ち、夜の闇が静けさをより一層引き立てる中、神裂火織が、口を開いた。

 

「情報の出所は、私達の上司です。そして、その人物なら、あの子の体に細工をする事も可能で、そうする理由も……あります」

 

認めた。その事実を認めるのに、どれほどの葛藤があったかはわからない。だが、今この瞬間、彼女は真実へと足を踏み出したのだ。

そして、そんな彼女に、杖伽は誘いをかける。

 

「そっか……それじゃあ……これからあんたはどーするんだ?この事に気づいた上で、まだ何も考えずに記憶を消し続けるか、それとも、試しに俺達と協力して原因を探してみるか?」

 

答えは、言わずもがなであった。




感想、誤字報告等、ありましたらお待ちしています。

因みに、今回主人公の名前が明らかになりましたが、某運命の蟲一族とは一応無関係という設定です。

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