「えーと、『学校の階段』ある。『ココロコネクト』ある。あ、『コラボアンソロジー2』あるから『バカテス』も『文学少女』もあるな......」
八月四日。
間桐杖伽は学園都市の駅前の本屋で本のラインナップを見ていた。なんの為の行動かと問われれば趣味も混じるが、『この世界』のクロスオーバー事情を探る為でもあった。
簡単な例をあげよう。『ドラゴンボール』の世界に『ドラゴンボール』という漫画は存在しない。逆に、『ドラゴンボール』という漫画が存在する世界には、7つ集めれば願いの叶うドラゴンボールというアイテムや戦闘民族サイヤ人は実在はしないだろう。この法則を利用することで、今自分のいる世界が何か別の作品とのクロスオーバー世界であるかどうかを調べているのだ。勿論、『銀魂』のようなメタ、パロディ上等のギャグ作品や、『生徒会の一存』のように作中でも発行されているという設定である等の例外はあるが、それでもおおよその事は推し測れる方法だと思う。え?『キン肉マン』でブラックホールが単行本読んでた?知らんな。
これと似た手法で、特定の世界にしかない作中劇を探す、というのもある。『落ち込め!ネガ倉くん』や『学園革命スクレボ』がどこぞの少年誌に連載していたら注意するといい。前者なら
他にも確認しておくと良いものとして、架空の地名や、事件等も有効だ。ボルジニア共和国という国が存在すればそこは結構な確率で○○VSカプコン的なタイトルの世界だろうし、1939年にヴォルガノ島の火山が大噴火したという記録があったらなにも対策をせずにいればその世界は2011年に一巡して終わる可能性が高いので注意だ。
後忘れてはいけないのは世界的大企業である。鈴木財閥があれば殺人事件が頻繁に起こるし、西澤グループが存在していればその世界にはいろんな宇宙人がいるだろうし、覇道財閥があればそこはクラインの壺の中だ。
尚、以上にあげた対策をたてていたとしても、こういったことは何時何時何が起こるかわかったもんじゃないので、駄目な時は駄目なのだが、それでも、用心に越した事は無いという事を、以前多重クロスオーバーモノの世界で苦労している人物の話を読んで感じたので、こうして微力ながらも確認している訳だ。
さて、ここまで民明書房刊『ある日突然異世界に来てしまったときやっておいて損は無い100の行動』の現代モノの章に準えた話をしてきたが、そろそろ読者諸兄の大半が感じているであろう、「あれ、前回の最後から時間飛んでね?」とか「何でこの時期にこんな事してる余裕あんの?」みたいな疑問に答えなければなるまい。
その為に、時間を間桐杖伽が神裂火織を説得した夜まで遡って順を追って回想する事にしよう。
※
インデックスについての真実を導き出した杖伽と神裂は、まず適当な路地裏に行きステイルを呼び出した。そこで神裂に伝えたのと同じような話をしたところ、最初こそ「何をバカな事を」みたいな顔をしていたが、二人の話に理屈が通っていることに気づいた辺りから段々苦々しい顔になり、最後にはくそっ、と地団駄でも踏みそうな様子で悔しがった。
「本当に、何故このような可能性に気がつかなかったのでしょう」
「俺が思うに、その上司って人が、気付かないよーにするか気を逸らすよーな、認識阻害みたいな魔術をかけてたんじゃないか?そーでなきゃ、こんな俺でもわかる嘘何年も信じられてないって」
「全く、聞けば聞くほど、あの女狐がやりそうな事だね」
因みに、こんな事を言っているが杖伽は原作を読んだとき上条さんが気付くまで全く気付かなかったのは秘密だ。
その後、手っ取り早くインデックスに真実を明かして調べるのに協力してもらおうと、罪悪感からインデックスとの接触を拒む二人を押し切って三人で杖伽の部屋に戻り、先に帰っていたインデックスが杖伽の後から入ってきた魔術師二人を見て警戒体勢に入ったものの、それに対する杖伽の、
「違うぜインデックス、俺が、勝ったんだ」
という物凄いドヤ顔と共に放たれた衝撃的な一言と直後に背後からステイルに頭を軽く叩かれるという漫才みたいな光景に目を丸くする事になった。
それで緊張がほぐれたのかどうかは定かではないが、警戒をある程度解いてくれたインデックスに、二人が敵じゃなかった事とか、インデックスの体に仕掛けがある可能性とその理由とかについて、杖伽は語った。語りまくった。インデックスも、初めは訝しげだったものの、三人(主に説明していた杖伽)の必死な様子と、その話に筋が通っていることを理解した辺りで、なんとか信じてくれることと相成った。
その後、全ての事情を理解したインデックスがステイルと神裂の罪悪感を許して和解する感動的な場面を挟んだ後、インデックスにかけられた『仕掛け』の解除に取り掛かったのだが、これは難航した。ステイルの精査により、インデックスの喉の奥に『首輪』が仕掛けられているのは割と早い段階で発覚したのだが、その解除となるとてんでお手上げだった。しかしそれも無理のないことだろう。相手は十字教三大勢力の一つ、その中でも対魔術師に特化したイギリス清教が十万三〇〇〇冊の魔道書にかけた
そうして一日が経ち、二日が経ち、とうとうインデックスの記憶を消す期日が来てしまい、ステイルと神裂は、悔しそうな表情をしながらも今回はダメでも次こそは、次の一年で解決策を必ず見つけてみせると意気込んでいた。
杖伽としては、これは想定通りのことで、インデックスの首輪を外す方法に策はあれど、それに必要なカードが揃わない今は見送るしかないし、今の時点で打てる布石は全て打っておいたと割り切っていた。割り切っていた筈なのだが、目の前の人間が実質死んでしまうのに、それを黙って見ているしかない自分に、言いしれない無力感を感じた。
インデックスは、そんな三人の心情を慮ってか、ずっと笑顔のままだった。苦しいのを、悲しいのを必死に押し隠そうとしながら、聖母のような慈悲深い笑みを浮かべ続けていた。
そして、インデックスの記憶は、規定時間通りに殺された。
その後、ステイルと神裂は
「その『あーくなんたら』ってのは相当な女狐なんだろ?それなら、誰かが首輪の秘密に気づいたって知ったらそいつの記憶も消す、位の事はしていてもおかしくねーだろ?だからさ、表向きは今まで通り気付いてない事にしておかねーか?」
という杖伽の意見に二人共賛同し、色々な事に気付かせてくれた事に対しての礼と、何か進展があれば連絡すると言って去っていった。
そして現在、ステイルは『首輪』を外すのに協力してくれそうな人物を探し、神裂は上の目を欺くために、予め事情を全部バラしておいたインデックスとの
そんなこんなで杖伽はといえばインデックスに対して自分からできることはないので、誰が残したのかも知らない補習を消化しつつ、冒頭のように、自分に今できることをしていたのだった。以上、回想終わり。
※
「あぢぃ......」
そして、そんなこんなで本日の補習と調査も終わらせた間桐杖伽だったが、彼は今酷くバテていた。補習はいい。二学期が始まる前に学園都市の学校と授業を体験できるのは、重度の禁書ファンである彼にとっては然程苦では無かった。調査もいい。今いる世界のサブカル事情を調べるのは、さっきも言ったが半分は自分の趣味でやっていることだ。苦では無い。
しかし、しかしだ。今の季節は夏なのだ。八月なのだ。夏真っ盛りなのだ。故に当然暑いのだ。クソ暑いのだ。もう「あつはなついな~」という極限までどうでもいいことが頭に浮かんでそれ自体にイライラするくらい暑いのだ。科学サイドの頂点に位置する学園都市の都市部は、当然のようにコンクリートジャングル───実際にコンクリートなのかは知らないが───でビルが建ち並んでおり、ヒートアイランド現象絶賛発動中なのであった。どうやら学園都市の超科学も炎天下に屋外で打ち勝つ方法は開発していないらしい。いや、もしかしたら既に開発しているのかもしれないが、金や利権等の問題で一般的になっていないだけかもしれない。だとすれば余計腹立たしいが、根拠の無い憶測な上、実際にそうだったとしても只の一学生でしかない杖伽にはどうする事も出来ないのだが。
まあ何はともあれ、そんな環境故に杖伽の足が休業中のアイスクリーム屋さんをスルーして冷たいシェイクを求めてファーストフード店に向かったのは至極自然な流れだった。
しかし重ねていう。外は暑い。そして冷房のきいた店内は涼しい。更に今は夏休みの午後。そこから導きだされる答えは、店内は恐るべき満員状態だったということだ。この絶望的な状況下で一縷の望みに賭けて店員さんに聞いてみると、相席なら可能だと窓際の一角を指差してくれた。その指先を視線で追い掛けてみると、
そこには巫女さんがいた。
超満員の中四人掛けのテーブルに一人で突っ伏している巫女さんがいた。
間桐杖伽がここ数日、彼女に会える可能性に賭けて毎日ファーストフード店に通っていた巫女さんが今日はいてくれた。
さて、この正史より少し早い邂逅という幸運に、間桐杖伽は、
(ほら、念のために来て良かっただろ?)
と、誰にともなく考えて、巫女さんの側まで行って、声をかけた。
「相席よろしいですか?」
巫女さんは突っ伏したまま首をもぞりと縦に動かした。それを肯定と受け取り、杖伽は巫女さんの向かい側に座るとハンカチで汗を拭きつつバニラシェイク(Lサイズ)を飲む。そうして、冷房の効いた店内を満喫しつつ、話し掛けるタイミングを窺っていると、意外な事に、巫女さんの方からコンタクトがあった。
「食い倒れた」
「......と、言いますと?」
「一個五八円のハンバーガー。お徳用の
「それで?」
「やけぐい」
「......?」
「帰りの電車賃。四〇〇円」
「それらが一体どー繋がるんで?」
「全財産。三〇〇円」
「その心は?」
「買いすぎ。無計画。だからやけぐい」
「成る程」
杖伽はシェイクをすすりつつ、適当な相槌を打ちながら、
(確かこの時のクーポン券は
というまた極めてどうでもいい考察を始めている事をおくびにも出さず、
「それでは......三〇〇円分電車に乗って、後は歩くとか......或いは、誰か知り合いに貸してもらうとかは出来ないのですか?」
「───それは良い案」
「えー、そこで何故今ここで出会ったばかりの私を見るんですかねー?」
と、言外に金銭を要求してくる巫女さんに笑顔をひきつらせながらも、杖伽はここに来て初めて顔をあげた彼女をしっかりと観察していた。
日本人としての白い肌と、それをより一層際立てるロングの黒髪と眠たげな黒目。どことなく鋭い剣をイメージさせる神裂とはまた別種の、日本人然とした美しさを持った美少女だ。これだけの逸材が「メインヒロインより空気なエアヒロイン」扱いされている原作の境遇に心の中で涙を流していると、
「一〇〇円」
と、何やら難しい顔で悩んだ後、
「無理?」
と尋ねてきた。さて、ここまでの会話の流れは概ね原作通り。そしてここで金欠を主な理由に断ったのが原作の上条だが、彼のような特攻紛いの散財をしていない杖伽の財布にはまだ結構な余裕があった。とはいえ、流石にはいそうですかと言って渡すのも癪だったので、
「残念ながら、ただであげられるお金はありませんね。するならトレードです」
と、原作で未来の彼女が言った台詞をアレンジして返してみた。勿論、その込められたネタに気づける訳もなく、巫女さんは「トレード?」と首を傾げる。
「ええ、そーです。一〇〇円位なら渡せますが、私どーにもケチな性分でして、やはりそれ相応の対価が欲しくなってしまうのです。例えばそーですね......先程三十個程頼んだというハンバーガーなんかどーです?それだけ買ったのなら流石に全部食べきれているとも思えませんし、余ったのから二、三個と交換ということでどーでしょうか?まあ、元の値段を考えれば多少此方が有利な交換になりますが......そこはほら、困ってる巫女さんを助けたお駄賃ってことで」
杖伽の説明を聞いて納得がいったらしく、巫女さんはやはり余っていたらしいハンバーガーを三つ、杖伽の方へよこしてきたので、杖伽は財布から一〇〇円玉を取り出して巫女さんに手渡した。
巫女さんは受け取った一〇〇円玉と、「いやー、思わぬところでいー取引が出来ました!巫女さんありがとうございます」とおどけながら早速手に入れた
「私。巫女さんではない」
出来る限りこの台詞を引き出す為の
「えーっと......私の見る限りでは巫女さんを知らない外人さんに巫女さんという存在を紹介するとき、貴女の写真を見せれば上手くいきそーって程巫女さんしているよーな気がするのですが......巫女さんで無いとすると一体何さんなのです?」
「私。
やっとこさ自らにとって必要な発言を引き出す事に漕ぎ着けた杖伽は、呆れたようにも感心したようにもとれるように「ほーっ」と息を吐き出した。
(インデックスの時より遥かに簡単に終わったな。いや、あれは向こうが面倒臭過ぎただけか。まーいーか。兎に角、これでまた俺の手札を使う準備が整った)
「魔法使い、ですか」
杖伽の呟きに巫女さん改め自称魔法使いの少女はこくんと頷く。それを見て杖伽は少し考えた素振りを見せた後、鞄を漁ると一枚の写真を取り出し、少女に見せた。洞察力に乏しい杖伽にはわからないが、きっとドラマに出てくる刑事なら、少女の様子の微かな変化を見抜いた事だろう。
「実は私、この方を探しているのですよ。私の知人が少し......いやかーなーり困った事情を抱えていまして、彼ならばその解決の手掛かりになるかもしれない、と言われてこの写真を渡されたのですよ」
この話、概ね事実である。ステイルと別れる前、彼に人探しなら自分にも手伝えるかもしれない、学園都市の中に情報があるかもしれない、と言って渡してもらったインデックスを助けるのに協力してくれる可能性のある人物リストの中から抜粋したものだ。無論、こうなる展開を原作知識から予想しての行動である。
「どうして。私に?」
「いえね、この話によるとこの方、魔術関連の人だそーで。貴女が魔法使いを名乗るものですから、万が一にでも知っていれば助かるなーと、思いまして」
そこまで聞くと、少女は少しの間写真を見つめて、言った。
「私。知ってる」
「え?ほ、本当ですか!?」
「ん。塾の先生」
そう言うと少女は立ち上がってテーブルから離れていく。
「ちょっ、ちょちょちょちょっと!何処へ行くんですか!?」
「ついてきて。案内する」
少しだけ振り返ってそう答え、再び一階へと降りる階段の方へと少女は歩いていく。それを見て杖伽は自分がまたしても都合のいい展開を引き当てたのだという事を理解したが、一応確認しておこうと考え待ったをかけた。
「ままま待って下さい!いーんですか?こんな見ず知らずの男相手に」
「ん。親切にしてもらったお礼」
少女は再び振り返ってそう答えると、三度歩き始めようとする。しかし、
「あ、行く前に最後にもう一つだけ!」
いくら杖伽でも折角自分に有利に展開が進んでいるのにこう何度も引き止めるのはマズいとわかってはいた。だがそれでもこれだけは個別に確認しておかなければならないと思った。
「この残ったハンバーガー、どーするんです?」
そう言った杖伽の指差す先にある少女が座っていた席には、杖伽が買い取った分を取り除いても尚、それなりの数が残るハンバーガーがあった。これを残したまま立ち去る事は出来ないと、杖伽の中の勿体無い症候群が叫ぶのだ。何度も呼び止められた事で少しむっとしていた少女も、こんな状況であってもどんな安物の食料ですら残すまいとする杖伽の『ケチな性分』の徹底したところを見せつけられては呆れを通り越して笑いがこみ上げてきたらしく、軽く吹き出した後、「あなたの好きにしていい」と答え、階段を降り始めた。
杖伽はそれを聞くと慌ててハンバーガーを鞄に詰め込み、飲み掛けのシェイクとパンパンになった鞄を手に取って少女の後を追いかけた。
(それにしてもこいつぁ、いつ幸運のツケが回ってくるのかわかんねーのが怖い所だな......と言っても、抗う術も必要もねーし、今のところは流されておきますか)
さあ、第二ラウンドの幕が開く。
他所でやってそうな所はバッサリカットするスタイル。
個人的には、早い人は主人公のインデックスを救う為の策はもう読めるかな?と思っています。
それでは今回はこの辺で。
感想、誤字報告等ありましたらお待ちしております。
───ところで、この巫女さん改め自称魔法使い、いつ名前出せばいいんだろうか?