竜使いかのんちゃんのVRMMO   作:ヴィヴィオ

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第6話

 

 

 草原で寝ていると、身体をゆすられて目を開ける。すると茶色の髪の毛を肩ぐらいまで伸ばした女の子が居ました。

 

「カノン、久しぶりですね」

「ナナお姉ちゃん?」

「はい、そうですよ」

 

 お姉ちゃんの姿は魔法使いのような恰好をしている。

 

「顔はリアルと同じです。名前はステラですね」

「ん、カノン」

「ええ、知っています」

 

 奈々お姉ちゃんがステラ?

 

「ん~」

「ここでは基本的に本名を使うと不味いですからね。ああ、カノンは大丈夫ですよ。まあ、そんな訳でステラかお姉ちゃんと呼んでください」

「ん」

「確か、カノンは召喚士でしたよね?」

「ん!」

「では、ステータスを見せてください」

「?」

「チュートリアルを飛ばしましたね?」

「ん、召喚するの、大変」

「わかりました。じゃあ、教えますね」

 

 お姉ちゃんからステータスの開き方を押しえて貰って、開く。

 

 

  名前 :カノン

  種族 :竜族

  称号 :ドラグニア帝国第一王女、ユグドラシル攻略者

 職業1:召喚士(1)

 職業2:竜王姫(1)

 技能1:眷属強化(1)、代償軽減(1)、かりすまA(1)、炎獄の竜眼(1)

 技能2:眷属召喚(2)、上位召喚(1)、竜属性魔法(1)、上位隠蔽(ー)

  召喚 :機械竜ジャガーノート(武装形態・バスターカノン、待機状態・髪飾り、自立起動モード・人型、機能封印)、守護竜ラードーン(召喚不可)

  装備 :水竜の扇(武器)、炎竜の扇(武器)。竜族の服(緑のブラウスと赤色のミニスカート)。ブーツ。竜煇石のネックレス。

  課金 :PT経験値5倍、PT熟練度5倍。

 

「何をしていたんですか……」

「?」

「まあ、いいでしょう。それより隠蔽をした方がいいですね。色々と隠さないと」

「ん」

 

 お姉ちゃんに従って、竜煇石についている上位隠蔽で駄目な所を隠していく。直に綺麗な状態になった。称号とか、職業2の場所も消した。

 

「竜王姫……かりすまAの習得と竜族に対する強化、命令権ですか。私の巫女より種の全体に効果があるのは凄いですね。いえ、それ以前のこの大量のアイテムが言われた事ですね……」

「お姉ちゃんはなに?」

「種族ですか? 種族は竜族ですよ」

「お~お姉ちゃんも?」

「ええ。βの時はランダムで天使を引いたのですが、正式サービスになって運営の人に両親や妹が竜族なのに、私だけ天使なのは嫌ですって言ったら、種族を変えてくれて特殊職も貰えました。頼み事も色々とされましたが」

 

 お姉ちゃんが頭を撫でてくれる。特殊職?

 

「ああ、そうです。林檎とユグドラシルの露とか、渡して貰いますね」

「ん、いいよ」

「後で美味しい料理を作ってあげますからね」

「おー」

 

 楽しみ。お姉ちゃんに全部渡す。

 

「これで頼まれた一つは問題ありませんね。じゃあ、次はパーティーを組みましょう。今から申請するので参加してくださいね」

【ステラより、カノンにパーティー申請を受けました。受託しますか?】

「ん」

【パーティーを組みました。課金効果の経験値5倍、熟練度5倍がパーティー全体に発揮されました。竜王姫の効果により、竜族のパーティー全体が強化されます。竜の巫女により、竜族に対して自動回復、移動速度上昇、自動障壁が展開されました】

 

 パーティーを組むと、お姉ちゃんのアイコンが視界の隅に出て色々な支援アイコンというのが出て来た。

 

「じゃあ、何かしたい事はありますか?」

「ん~ご飯……?」

「ご飯ですか……じゃあ、海の幸か山の幸、肉、どれがいいですか?」

「ん、お魚!」

「では、海岸に行きましょうか。っと、その前にちょっとよりたい所があります」

「んっ!」

 

 お姉ちゃんと手を繋いでお店に移動する。そこでお姉ちゃんが、色々と買ったりしていた。

 

 

 

 

 ※※※ ステラ

 

 

 

 

 運営から頼まれたのは妹のサポートです。代わりにクエスト発行権限などをはじめとした一部のシステム権限。それに竜族アバターと竜の巫女という特殊職。これによって私は父と母の子供でありながら、継承権は持っていないので王女ではない扱いです。まあ、このアバターは何を思ったのか、前のアバターである天使の力も持っていますのでそちらを理由としてされているのかもしれません。

 これが報酬でサポートの内容としてカノンの持つ危険な黄金の林檎とユグドラシルの葉などを回収し、それを料理にするように頼まれました。決して装備などには使わないようにとお願いされました。まあ、聞いた感じでは大変な事になっているようですし、私達姉妹が運営側になるのは納得です。それにお給料も出るらしいので、カノンの治療費を遊びながら稼げるのは正直助かります。ちなみに私の年齢では働けないのでお手伝いという感じです。報酬は妹の入院費から天引きとゲーム内での課金アイテムなので実際にお金を受け取る訳ではありません。欲しい場合両親の給料に上乗せされるそうですが。

 さて、現在はある運営側の職員限定のお店に来ています。カノンもちゃんと入れます。

 

「で、回収出来たのかい?」

「ええ、問題ありません。それで、頼んでいた物は?」

「そっちは大丈夫だ。調理道具のライブキッチンセット。それに杖にローブ、マント。帽子。どれもご注文通りだ」

 

 カウンターの上に私がβで使っていた装備類が置かれています。これらは引継ぎ特典でもあります。本来なら新しいアバターであるこの子は使えないんですけどね。

 

「ありがとうございます」

「着替えるならあっちの試着室にどうぞ」

「はい。カノン、着替えてくるから少し待っていてください」

「ん」

「じゃあ、嬢ちゃんにはジュースとケーキを出しておくか」

「お願いします」

 

 カノンを残して試着室に入ります。このゲーム、面倒な事にちゃんと着替えないといけないんですよね。ぱっと装着とか出来ません。現実と同じような感じです。

 先ずは服を脱いで下着姿になり、黒いアンダーウェアを着て、黒いタイツを履きます。それから、白色の布地に金色の線で描かれた魔法陣があるワンピースタイプの法衣を着ます。袖口が大きくて和服みたいな感じです。ここからポシェットがついたベルトをとりつけて、しっかりと膨れないようにします。太く見られるのは嫌ですし。次に白色の靴を履いて、白地に金色の刺繍があるマントを着ます。これで幅広の大きな白い帽子を被れば、後は杖を持って完成です。

 天使の時に着ていた装備ですが、やはりこれが性能もいいので落ち着きます。杖は天使を象った物だったのですが、今は錫杖でその輪っかが蛇が尾を喰らっている物になっていました。いえ、それどころか良く見たら杖の全体も蛇みたいです。

 

「ちょっと怖い」

 

 サービスなのかも知れませんが、はっきり言って蛇とか苦手です。そう思ったら、錫杖が光って私の腕に収まりました。形状は細いリングが連なっている腕輪ですね。普段は邪魔なので助かります。

 さて、着替えが終わったので試着室を出て店に戻ると、カウンターに座ったカノンが美味しそうにケーキを口元を汚しながら食べていました。私は隣に座って口元を拭いてあげます。

 

「お~似合ってるじゃないか」

「ありがとうございます。それで杖のデザインはなんとかならなかったのですか?」

「あ~カドケウスやウロボロスを表しているみたいだからなあ。嬢ちゃんにもいいのを渡したんだろ。そっちのお姫様は色々と持ってるからな」

「まあ、いいですけど。この装備も強化されているみたいです」

「最大強化でいいじゃねえかと思ったんだが、最初から最大強化だったからな。それ、ボスドロップから作った奴だろ」

「そうですよ。天使のボスを倒して倒して倒して、倒しまくって羽を集めて布にしました。その過程で強化アイテムが沢山出ましたからね」

「あの動画はやばかったな。ソロの天使が天使を杖で撲殺って」

「支援系ですから。それと障壁もちゃんと使いましたよ」

「攻撃にだろ」

「ええ、攻撃にです」

 

 ただの壁として障壁を配置するのではなく、わざと薄くした障壁を縦に配置して突撃してきた天使を切り裂くトラップにしたりしました。他はレンズのようにした障壁で太陽光を集めてレーザーにしたりですね。

 

「使い方を明らかに間違ってるだろ」

「仕様上で可能なのですから、問題ありません」

「座標指定だからなあ……」

「対象の内部にも作れたらいいんですけどね」

「それはもう、最強の攻撃呪文になるだろ」

「そうですよね」

 

 身体の内部に障壁を作り出して倒す事は残念ながら出来ません。あくまでも障壁など設置系は何もない開いている空間に使うか、身体に付属させる使い方しかできませんから。

 

「支援特化(笑い)の天使様って呼ばれてたしな」

「酷い話です」

「主任は大笑いしてたぞ。作ったプログラマーは泣いていたが」

「駄目でしたか?」

「いやいや、全然おっけーだ。育成のつらい支援型がそれで楽になったのも事実だしな。今までは殴る以外ではヒール砲で頑張るしかなかったからなあ」

「ゾンビとか、本当に止めてください。臭いが酷いです」

「嫌われダンジョンだしな。まあ、経験値はその分高いんだが」

「ん、食べ終わった」

「そうですか。では、ちゃんと手を合わせて御馳走様っていいましょうね」

「ん。ごちそうさま」

「お粗末様。じゃあ、いってらっしゃい」

「はい。いきますよ」

「ん。ありがと」

「おう、楽しんできな」

 

 カノンと手を繋いで外に出ます。直にメニューからマップを他人には不可視モードで表示させます。これはここ、ユグドラシルタウンで発行されている観光マップです。武器屋や道具や、宿屋はむろんの事様々な場所や近場に出現するモンスターの情報も載っています。これは特殊版なのでボスモンスターの出現方法も出ています。更には運営側専用のチャット機能にログが流れていきます。

 

 〔ステラちゃん、なんかイベントを起こしてください。今、開発チーム手一杯で〕

 〔了解です。では、今から海岸に向かうのでそちらで蟹料理をしつつ、討伐イベントを起こしますね。シザークラブを出します〕

 〔うわぁ、殺る気まんまんだ。まあ、了解。告知はどうする?〕

 〔開始時だけで。告知はいりません。突発イベントにします〕

 〔わかった。じゃあ、適当に報酬は用意しておく〕

 〔お願いします〕

 

 チャットをしている間に海に着きました。カノンは楽しそうに海をみています。

 

「おっきな水溜りっ!」

「見た事はありませんでしたね」

「ううん。ちょっと前に見たよ?」

「そうなんですか?」

「ん。ドラゴンさんと空を飛んで、パパの所に行ったの」

「なるほど。ところで戦闘をした事はありますか?」

「かのんはないよ」

 

 確か戦闘したとの既述はあったのですが……本人が戦ったという事ではないのかも知れませんね。

 

「じゃあ、戦ってみましょうか」

「ん!」

 

 街の門を潜り、街道を横断して防波堤にある階段を上って、降ります。下は砂浜になっており、所々で魔法使いの人達が大きな一メートルはある巨大蟹、ビッククラブと戦っています。

 

「魔法、綺麗」

「そうですね」

「? 武器、いない?」

「甲羅が固いですから、魔法を使わないとここでの戦闘はつらいのですよ」

「ん、そっか」

「ええ」

 

 ここにはビッククラブやビックタートルが出現します。彼等は甲羅に覆われていて、攻撃すると武器の耐久力がかなり減ります。物理攻撃にはめっぽう強いのですが、その反面。魔法攻撃には弱いのです。更にビックタートルは移動速度が遅いので逃げ撃ちが可能です。ビッククラブは横移動しかできないので、相手の行動を気を付けながら避けつつ逃げ撃ちすれば倒せます。もっとも、ビックタートルは耐久力がかなり高く、ビッククラブは攻撃力がかなり高いので後衛が喰らったら基本的には即死です。ただ、この街の回りはデスペナルティ……死んだ時に負うデメリットが免除されている上に、街も近いので直ぐ復帰できます。開発者の思惑としては、街の回りに配置したモンスターで身体の動かし方やスキルなどの使い方を覚えて欲しいとの事でしょう。

 後はモンスターの特徴を覚え、対策をたてて狩るという事を学ぶ事でしょう。プレイヤーに優しい街なのですが、その半面。街の付近を離れると途端に厳しくなります。容赦のない集団で襲い掛かる森の軍団蜂に軍団蟻。山に生息する巨大な石を投げてくるゴーレムや草原を走るトリケラトプスにアウカサウルス。山の頂上にある神殿には天使が。海に浮かぶ孤島には悪魔が。あえていいますと、殺しにきています。βとは違う事をせつに願いたいです。

 

「さて、武器を出してください」

「んっ」

 

 カノンは青と赤の扇子を取り出しました。

 

「召喚士でしたよね?」

「ん。これも使う」

 

 そう言ってカノンが扇を開いて振るうと、青い竜と赤い竜が出てきて狙ったのかはわかりませんが、ビッククラブに食らいつきました。そのビッククラブは半分がえぐり取られ、もう半分が炎に焼かれて良い匂いが漂ってきました。

 

「魔法攻撃タイプの武器ですね」

「ん」

「ですが、どうせなら扇子なのですから龍にしましょう。東洋の龍はわかりますか?」

「ん~?」

「こんなのです」

 

 カノンにネットをリンクさせて、検索した画像の画面を見せます。これは運営側にしか出来ません。

 

「お~こう?」

 

 カノンが扇子を振るうと今度は龍が出てきました。どうやら、使用者のイメージのようですね。しかし、使う度にカノンの魔力がそれなりに減っていっています。強力な反面、燃費はかなり悪いようです。一回で10%くらい消費しています。

 

「効率が悪いですね」

「ん~?」

「召喚の方を試してみましょう」

「ん、来る」

 

 直に魔法陣が展開されます。そこからゆっくりと赤い瞳の銀色の髪の毛をツインテールにした少女が出てきました。彼女の服装は青色の胸元が空いている薄いワンピースに白いミニスカート。両手はガントレットのような銀色の機械の腕。グリーブのような機械の足。しかし、足は太ももから上が人間と一緒で顔も人間にそっくりです。どちらかという白い肌は人形みたいです。額に有るのは私達と同じ竜眼ではなく石みたいです。額の物がなければランダムで出て来る機人種(エクスマキナ)の種族とも思えます。

 パーティー画面に彼女の名前であろうノートという名前が増えました。それに召喚獣であるマークもあります。視線を向けると名前の下に召喚獣・機械竜ジャガーノートと出てきています。召喚獣はパーティーメンバーの一つとして扱われる護衛召喚と一撃だけを放ったり、回復などをして消える瞬間召喚が存在します。パーティーに入ると基本的には瞬間召喚が好まれます。パーティーが居ない時は別ですが、経験値が召喚獣にも分割されて入るからです。他の嫌がられる理由として、基本的に召喚士は召喚獣を別にすると他のクラスより圧倒的に弱いからです。それなのに経験値は二人分持っていかれるからですね。

 課金をしていれば誰も文句はいいません。2倍しているなら、減る量より増加しているからです。

 

「あれ、倒す」

「イエス、マスター。バスターカノン典開。ファイア」

 

 両手持ちの大きなビーム兵器が出現しました。そして放たれる光線はビックタートルを飲み込んで、跡形も無く消滅させてそのまま海の彼方へと消えていきました。回りからの視線が痛いです。どうみてもこんな所で撃つ兵器ではありません。

 

「どうですか、マスター褒めてください」

「ん、よくやった……」

「ではありません」

「あうっ」

 

 ハリセンで二人の頭を軽くはたく。このハリセンは何故か竜族特攻武器になっていましたが、気にしません。

 

「痛い……」

「お前、マスターに何をするっ」

 

 敵意を向けてくる少女。取り敢えず、ハリセンで叩いて黙らせます。

 

「私は姉ですから、なんの問題もありません」

「ん、姉ちゃん」

「し、失礼しました」

 

 頭を抱えながら蹲るノート。なんでしょう、この妹が増えた感じは。まあ、いいでしょう。

 

「取り敢えず、そのバスターカノンは仕舞ってください。過剰な威力な上に他の人の迷惑になります」

「了解です」

「でも、武器、ある?」

「ハンドカノンとシールドカノンなら……威力も低いです」

「じゃあ、それでいいですね。私達はどちらも後衛ですから、盾は欲しいです」

 

 このパーティー、どう考えても後衛だけですしね。いえ、遠距離攻撃が充実しているのでいいのですが。近づく前に殺ればいいだけですし。

 

「これでいい?」

 

 ノートの手には銀色の縁がある青色の盾と50センチくらいの手と腕が砲になっていました。

 

「近接装備はありますか?」

「ある」

 

 ハンドカノンが消えて光るビームソードが現れました。武装はどれも物騒な感じです。

 

「では、遠距離の敵はハンドカノンで、近距離の敵はビームソードでお願いします。それとくれぐれもカノンを守ってくださいね」

「了解。マスターは必ず守る」

「良い娘です。良かったですね」

「ん。自慢の友達、妹」

「……マスターが妹かと」

「違う、アイアムお姉さん」

「……」

 

 互いに見詰め会う二人。二人は揃ってこちらを見て来ますので容赦なく答えてあげます。

 

「産まれ的にはノートが妹ですね。ですが、しっかりとしているのはノートでしょう」

「……」

「やった」

「まあ、どちらもどっちですが」

 

 私の言葉で二人はしゃがんで砂地にのの字を書いていきます。次第に色んな物を書いていくお絵かきに変わっていきました。それを見た私は周りに天使の力である、モンスターなど設定した者を近づけない祝福の結界を展開して邪魔な者が来るのを排除します。

 

「ふぅ」

 

 私は二人を置いて二人が倒したビッククラブやビックタートルを回収してきます。それから、ライブキッチンセットを取り出して、魔力をチャージします。その次に大きな大きな鍋をコンロにセットして、水魔法のヒーリングウォーターを使って水を溜めます。その後、着火して湯を沸かします。

 次に引き出しを開けると様々な包丁が入っています。そこから、比較的大きな包丁を選んで取り出します。

 回収したビッククラブを取り出して、解体します。甲羅と粗は大きな鍋に入れて出汁にします。次にライブキッチンセットの冷蔵庫から頼んでおいた野菜類を取り出していきます。先ずは野菜を洗ってから白菜を始めとして切っていきます。次にお米をヒーリングウォーターでといで、飯盒に入れて火にかけます。どうせならと、ユグドラシルの露を少しだけ混ぜておきます。後、水は蟹の出汁を遣います。別の飯盒で普通のお米を焚きます。

 粗や甲羅を取ってから、野菜を大きな鍋に入れて焚きます。後は焼き蟹や蟹サラダを作っていきます。どれも大量に作ります。カノンがどれだけ食べるかわかりませんし、保存しておいてもいいので。

 カノンが事故にあってから、家事は私の役割となったので小学生高学年になった私でも既にかなりのものです。

 さて、少し手が空いたので、甲羅を綺麗に掃除してお皿にします。そこにサラダとかを盛りつけます。大きな椅子とテーブルを取り出して飾っていきます。

 

「うわぁ、凄くいい匂い」

「美少女の料理……」

「食いたい……でも、近づけねぇ」

「結界とか、やべえレベルじゃねえか」

「というか、普通に装備もやばいよ」

 

 外野が集まっているのですが、今は無視します。作業を続けていると、取っていた料理のレベルが上がって更に効率のよい動き方がわかってきました。同時にレシピも浮かんできます。

 取り敢えず、レシピは後回しです。今は焚き上がったご飯です。普通のご飯は寿司酢と混ぜてから放置します。次に蟹のエキスを混ぜた奴は水を付けた手に塩を振ってからおにぎりにしていきます。具は蟹の身ですね。こちらは笹の葉にくるんでいきます。

 

「ノート」

「なに?」

「ちょっと蟹が足りないので取って来てください」

「了解」

「かのんは?」

「お城でも作っていてください」

「ん」

 

 時間が経つと、ノートが追加で持って来てくれたので追加の準備も出来たので大きなテーブルに座って、かのんと一緒に食べる事にします。

 

「おー」

「手を先に洗ってくださいね」

「ん」

「ノートもですよ」

「私もいいの?」

「ええ」

 

 三人でかのんが作った一メートルくらいの精工に作られたお城を見ながら食事をとります。回りには更に人だかりが出来ています。私は取り敢えず、ある程度食べてから、効果を確認します。ステータスアップのオンパレードでした。

 それから、別に出した大きなテーブルとイスを用意して、そちらに料理を置いていきます。

 

「食べさせて~」

「お願い~」

「お腹が~」

 

 空腹はまだ感じないはずなのですが……そう思ってログを確認すると既に実装されていました。そして、クエスト欄に飢えた獣達に食事を提供せよというのが出ていました。これはつまり、私用の物という事ですか。私もプレイヤーとして楽しんで問題ないという事ですね。

 

「では、提供しましょう。一人、一膳1000Gです」

「高っ!」

「1000Gって、100万円っ」

「蟹を提供した人は750Gです」

 

 円とかには答えません。結界の設定を弄って、お金を支払った人は入れるようにします。同時に集金箱を置きます。

 

「お金を支払えば入ってこれます。では、食べたい方はどうぞ」

「私は支払うっ!」

 

 お金を支払って中に入った人にはセットを渡します。サラダは自由にお代わり可能です。

 

「うまっ! これちょう美味いっ! っていうか、なんかステータスアップしてるんだけど!」

「効果時間は結界を出てから二時間です。全ステータスが上昇します。それとこの結界内ではHPとMPが回復する効果もあります」

「まじかよっ! 俺もくれ!」

「俺もだ!」

 

 次々と人が入ってきます。これで私のクエストは達成です。報酬はライブキッチンセットですか、そうですか。つまり、これはレンタル扱いだったのですね。

 

 料理を次々に提供していると、カノンが食べ終えたのかこちらに着ました。

 

「お代わり!」

「仕方ないですね」

 

 作っていた膳をかのんに渡します。

 

「おい、順番はこっちだぞ!」

「この子が優先です。皆さんへの提供はあくまでもついでですから」

「商売じゃ……」

「可愛い妹が最優先です」

「シスコンさんだ!」

「そうですが、それがなにか?」

「うん、駄目だ。勝てねえ。諦めてならぼう」

「嫌なら別の所に行けばいいんだし。その場合、返金はしてくれるよな?」

「もちろんです」

「ちっ」

 

 何人か帰っていきましたが、気にしません。カノンが優先です。

 

 

 

 ※※※

 

 

 それから少しして食材も無くなったので、ただの焼き蟹とかだけです。しかし、気づいたらお酒とかを持ち込んでいる人もいます。しかし、皆さん食事はだいたい終えていますね。この結界から出なければ二時間は効果が大丈夫ですし、ログアウトすれば問題ありませんから。

 カノンも食事を終えて再び砂遊びに戻っています。城の回りにドラゴンが居たり、城にドラグニア帝国の紋章があったりします。何人かはそれを見てなんとも言えない感じになったり、何かを決意したような人が居ます。

 

「さて、このタイミングですね」

 

 人も十分に集まっているので、私はイベントのスイッチを押し込みます。すると、沖合の海のほうで爆発が起こりました。

 

「なんだ、なんだっ!」

「お~?」

 

 カノンは不思議そうにしています。そんなカノンを守る位置にノートが立っています。沖合には巨大な蟹が現れてこちらにやって来ています。

 

「皆さん、あちらに見えるのはシザークラブです。彼の者はビッククラブ達の親であり、子供を倒されて怒り狂っているようです。このままでは街が崩壊してしまいます」

「え?」

「ちょっ⁉」

「どうか、街を守る為に皆さんのお力をお貸しください」

 

 私はそういいながら、クエストを発行する。

 

【イベントクエスト・シザークラブを討伐せよ。報酬:5000G+貢献度毎による報酬。参加者は強制的にレイドパーティに加入します】

 

「NPCかよ!」

「いや、イベントキャラじゃね?」

「というか、GM? いや、GMはアイコンがでるから違うな」

「って、もしかしてこのバフってあれと戦わせる為の奴?」

「多分そうだろ。レイド戦だし」

「何を言っているのか、わかりませんが時間がありませんよ」

 

 ライブキッチンセットを収納して、杖を実体化させる。

 

「お~戦い?」

「はい、戦いです。今回は沢山のか……こほん。人達が居るので後衛で構いませんよ。後はバスターカノンの方で、カノン自身が撃ってください」

「ん、ノート」

「イエス、マスター」

 

 直にノートが大きなバスターカノンになる。それをカノンが持って構える。重そうですが。

 

「まあ、参加するしかないよな」

「せっかくのイベントだしな」

 

 次々と参加ボタンを押して、私達のパーティに入ってきます。

 

「ちょっ、なにこれっ!」

「どうしたんだ?」

「いや、この異常なバフは……」

「料理の事か?」

「いや、そうなのか? 何かおかしい気が……」

 

 私達のステータス上昇のバフは料理のバフに隠れます。ここで更に駄目押しです。

 

「セイクリッドウエポン・エリア、セイクリドドシールド・エリア。プロテクション・エリア。リジェネート・エリア」

 

 錫杖を砂地に打ち付けて大きな魔法陣を展開して、参加者全員に支援をかけます。掛けたのは攻撃支援、防御支援、障壁、自動回復です。

 

「かのん、こう言ってください」

「ん。戦争のはじまりゅっ~~きゃんだ……」

 

 カノンがそう言うと、かりすまAが発動して全体が更に強化されました。カリスマがひらがななのは間違っていません。

 

「これならいけそうだな」

「そうだな」

 

 シザークラブが到達する前に全体のアナウンスが流れた。

 

【ワールド:南海岸にてレイドイベントが発生しました。討伐に失敗した場合、街が崩壊します。イベントに参加したくない方は南海岸に近付かないでください。また、新しくフィールドに入ると参加する意思がある者として判断し、レイドパーティに加入されます。既に該当エリアにおり、参加しない方は避難してください。繰り返します……】

 

 少しし人が増えてきます。皆さんはどんどん準備していきます。かのんは何を思ったのか、前に行ってバスターカノンを構えました。

 

「えいっ」

 

 可愛らしい声と共に引き金が引かれて、光の奔流が解き放たれました。すると、相手のヒットポイントが5%くらいなくなりました。そして、直ぐに戻ってきます。

 

「MPなくなった」

「……どうぞ」

「んっ」

 

 ジュースを渡します。他の人も届くかわからないのですが遠距離攻撃を開始しました。まあ、殆どが届いていません。

 

「もうちょっと近付かないと駄目だわ」

「そうだな。しかし、機械系の召喚獣か。便利だな」

「あ~契約するのが一番楽だしな」

「正確には契約した後がでもあるけどな」

 

 機械系は一度、マスターと認めたら尽してくれますからね。それ以外の生物は基本的には信頼度が上下します。機械系はあくまでも特別な者以外、意思がないですからね。つまり、リアルのペットのように世話が大事という事です。

 そんな事を思っていると、シザークラブが飛び上がって浜辺に落ちてこようとしています。私はそれを見て落下地点に障壁を沢山設置してやりました。

 ドンッという凄い音が響くと、砂煙が巻き起こります。直ぐにそれが張れると、ヒットポイントが半分まで減ったシザークラブが居ました。それを見た私はそっと目を逸らします。

 

「おい、自爆したぞ」

「馬鹿じゃね?」

「取り敢えず、攻撃するか」

「なんか痙攣しているし、いいんじゃないか?」

「盾の応援、いらんかもな」

 

 皆が魔法をどんどん撃っていきます。かのんもどんどん撃っていきます。砂地を沼に変えて動けなくしたり、バインドを使ってしばりあげたりとこちらに近付けない作戦です。

 

「お姉ちゃん」

「はいはい、どうぞ。トランスファー」

 

 私の魔力をかのんに譲渡して、どんどん撃って貰います。ステータスがアップした魔法使い達による、数々の魔法という暴力によってヒットポイントがみるみる減っていきます。

 これは不味い。イベント戦闘にしては弱すぎる事になってしまいました。私はそっと後ろに下がって、他人には不可視になっている画面のとあるボタンを押します。

 

「おい、なんか変だぞ?」

「ん? なんか変形してるんだけど」

 

 魔法にさらされるシザークラブの手が増えました。そこから蟹のハサミを飛ばしてきます。

 

「ぎゃぁぁぁぁっ」

 

 シザークラブの飛んできたハサミで人がゴミの様に吹き飛びます。ちょっと、ノーマルからハードにモード変更しただけなのですが、随分と違いますね。

 

「ノート」

「イエス、マスター」

 

 続いて飛んでくるハサミをノートが盾を構えて受け止めます。小さな少女なのですが、砂浜で足を引きずりながら後ろにやられていくだけで吹き飛びません。それどころか、駆動音が聞こえてくると弾き飛ばしてしまいます。

 

「邪魔です」

 

 ノートが精密射撃を行ってハサミを落としたり、盾で弾いていきます。明らかに強いです。流石はRank8のジャガーノートです。本来の姿じゃなくてもこれですか。ノートが前線で押さえてくれているので、なんとか体勢を整えて攻撃していけるようになりました。しかし、こうなると私もちゃんと仕事をしましょう。ノートに支援魔法と回復魔法を与えて回復して貰います。しかし、ノートの下にゲージみたいなのがどんどん溜まっていっているんですが。それにカノンが扇子を持ちながら踊り出しています。嫌な予感しかしません。

 

「相手の体力は残り微かです。頑張ってください!」

 

 皆さんが最後の猛攻をしてきますが、シザークラブは飛び上がって今度こそこちらを踏みつぶそうとしてきます。流石に今度は障壁を置いたら駄目なので、ちゃんとバリアとして使います。ですが、重量と速度=威力という事でかあなりの攻撃力になるでしょう。

 実際にあっさりと貫通されて大変な事になる……と思っていたのですが、ノートが足の裏に設置されていたスラスターで飛び上がって、盾を両手で構えたかと思うとその盾が開いて、光を収束させていきます。

 

「アヴェンジ・カウンター」

 

 盾の間に作られていた複数の穴から極光が迸ってシザークラブを押し返し、その身体を貫いていました。これにより、無数の穴が開いたシザークラブは沈黙してしまいました。

 

【シザークラブの討伐に成功しました。報酬を配布します】

 

 他の人が見えないランキングを見ると、カノンと私がトップになっていました。これは不味いのでランキングからは除外しておきます。まあ、ランキングはシークレット情報なので問題ないでしょうが。

 

 

 

 

 

 


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