マシュ√ BADEND

 マシュの手にした包丁が彼女の胸に突き刺さりそうになる。
 なんとかして止めないと…!

【傷つかないようにマシュの手を抑える】

【刃を握り絶対にマシュに刺さらないようにする】

 迷う暇などない。反射的に傷つくことを恐れ、思わずマシュの手を抑える方に走る。

「離してください…先輩。そうしないと先輩に見てもらえないじゃないですか」
『だから―――』
「離してください!!」

 心が壊れるような悲鳴が鼓膜を引き裂く。
 もう、マシュには俺の声なんて聞こえていない。
 ただ俺を引き離そうと必死に暴れているだけだ。

『落ち着いて! マシュ!』
「もう! もう! 私にはこれしかないんです!!」

 取っ組み合いのようになり、お互いに何がどうなっているか分からなくなる。
 そのうちに力で勝る俺が勝ち、マシュの手から包丁が吹き飛ばされる。

『よかった…?』

 ホッとしたのも束の間。胸元に走るビリリとした不快な感触。
 何が起きたか分からずに視線を下げる。

「え…?」

 マシュの呆然とした声が聞こえる。
 俺も声を上げようとしたが、代わりに出てきたのは鉄臭い液体だった。
 それもそうだろう。包丁が飛んだ先は―――俺の心臓の真上だったのだから。

「先輩…先輩!?」
『……シュ』

 声が出てきてくれない。
 今にも泣きだしそうなマシュを安心させてあげたいのに。
 せめて抱きしめようとするが、体は前に進むことなく床に崩れ落ちた。
 おかしいな、俺はマシュの下に行きたいだけなのに。

「ごめんなさい…! ごめんなさい…! 先輩を傷つけるつもりなんてなかったのに…!」
『…………で」

 泣かないで。そう伝えようとするが無理だ。
 俺に覆いかぶさるように埋めるその顔からは、涙が雨のように降り注いできている。

『マ……シュ…』
「せん…ぱい…?」

 何とか腕を伸ばす。
 涙の止まらないマシュの頬に触れて、涙を拭いてあげる。
 
 ―――ああ、ダメだ。俺が触れた先から赤く染まっていく。

『ご…め…ん……』

 もう、一緒に居られそうにない。
 瞼がゆっくりと閉じていく。
 でも、最後に伝えないと。これだけは伝えないと。
 マシュの首に腕をかけ口元に耳を近づけさせる。

「……なにを…?」

 最後にこれだけは伝えないと死ぬに死ねない。
 彼女が暴走してしまったのは、俺の責任なのだから。
 俺が彼女を救ってあげないと。


 ―――愛してるよ。


 かすれた声で精一杯に伝える。
 腕にも瞼にも力が入らなくなり、ダラリと落ちていく。
 意識が遠のく。そこへ彼女の声が聞こえてくる。

「先輩…私も……愛してます。だから―――」

 胸元から何かが抜き取られる感触がする。
 ああ、違うんだ。俺はただ君を救いたかっただけなんだ。


「―――これからはずっと一緒です」


 生温かい雨が降ってくる。
 こんな結末を望んでいたわけじゃない。
 彼女をもっと幸せにしてあげたかった。

 ああ……でも、これが彼女への救いになるのなら…それも悪くない…か。

「先輩……抱きしめてあげますね」

 ベチャリ、と崩れ落ちてきたマシュの体が俺を抱きしめる。
 そして、俺の手を握りしめてくれる。
 俺も残された力で握り返す。

 これで終わる。もしかするとこんな終わりも悪くないのかもしれない。
 でも、できることなら最後に一度だけ。


 ―――マシュの笑った顔が見たかったな


 


日時:2016年12月12日(月) 16:20

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返信コメント

トマトルテ

色々とバッドエンドは妄想が広がっていいものですww
ここにもうちょい加筆するのもいいかも。

皆さん感想ありがとうございました(*^^*)


日時:2016年12月13日(火) 13:28

猫旦那

なくなった夫のミイラを居間に飾っていた人が居たな……。


日時:2016年12月13日(火) 08:53

ハマトラ

マシュの笑った顔?もう少し堪えてれば見れたかもですね、壊れた笑顔でしょうが・・・・


日時:2016年12月13日(火) 03:08

フラッティア

これはバッドエンドのマシな部類なんですか……
まぁ、まともかもしれませんね(混乱)
そして、バッドエンドがまだまだ増える可能性が?
……それは楽しみですね。バッドエンドを読むのも好きなので。


日時:2016年12月12日(月) 23:47

蝦蟇口咬平

湖の騎士発狂まったなしw


日時:2016年12月12日(月) 23:17

トマトルテ

まあ、マシュが死んだ先輩を狂った目でお世話するエンドも考えていたのでまだマシな方です、これは。
マシュは役に立つ最強の後輩なので頑張ってください。


日時:2016年12月12日(月) 21:01

爆走する猫

偶々サイト開いて見たら、ゾッとしてしまいました。
最近BADものを読んでないからかな?

それでも王道の中の王道って気がするので気がついたらまた読みたいみたいな感じなので嫌いじゃ無いって事は確かですね。

あぁ早くマシュをレベル上げなきゃ(後輩の冷たい声を背中から感じながら)


日時:2016年12月12日(月) 16:33



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