前回のガルパン二次創作アイデアの続きです。

 前回のアイデア冒頭部について、「面白い」と言ってもらえて、嬉しかったです。その嬉しさのままにさささ〜っと一晩かけて続きを途中まで書いてみました。話の着地点が定まらないままスマホで書いているので、これから話がブレて迷走するかもしれません。なので、まだ清書して投稿するかどうかは決めかねています。矛盾点や、「もっとこういう展開や描写があればいいのに」というご意見かあったら、教えて下さい。



『大洗の忠犬、黒森峰の猟犬と出会う②』


「なんと、整備長さん(・・・・・)も『戦略大作戦』をご覧になったのでありますか!歳に似合わず硬派でありますねえ!」
「アンタに言われたくないわよ。でも、あの映画は面白かったわね。大学で一人暮らししてた頃に初めて観たんだけど、あの時は感動したものよ」 
「え?大学?」
「んんんッ!ち、違うわ、“姉が大学で一人暮らししてた頃”の間違いよ。ところで、ノンアルコールビールのお替りはいらないかしら?いるわよね?」
「あ、は、はい。頂きます」

 勢いに押されて頷いた私のマグカップになみなみとノンアルコールビールを注いだ整備長さんは、汗ばんだ額を隠すように帽子を深くかぶり直して、なんだかひどく取り乱したように見えました。気のせいでしょうか。
 私たちは今、黒森峰女学院の戦車道チームが保有するタンクガレージのミーティングルームにふたりきりで座っています。さすが戦車道で名を馳せる黒森峰なだけあって、ミーティングルームといっても大会議室なみに広くて、掃除も行き届いています。大洗との差を見せつけられるようで、少し悔しく思います。でも、想像ではもっと質実剛健な実利主義的で、調度品も一切なく、必要最低限のものしか置いていないような空間を想像していたのですが……。

(……これはクマなのでしょうか……?)

 絆創膏だらけの変なクマ(?)のヌイグルミがところどころに置いてあったりと、意外に女学院らしさもあります。
 ちなみに、整備長さんというのは彼女の自称であります。私が「もしかして貴方は整備長さんなのでありますか?」と問うたところ、手をヒラヒラさせながら「まあそんなもんよ」と応えてくれたのです。整備長というのは隊長より怖い存在とはよく言ったものなので、先ほどの女生徒たちの(おのの)きっぷりも頷けます。戦車を手荒に扱うと彼女の雷が落ちるのでしょう。

「整備長さん、さっきは助けていただいてありがとうございました。あのままだと捕まってしまうところでした」
「気にしなくていいわ。うちの子たちは規律に厳しいのが良いところでもあり悪いところでもあるのよね」

 自分と同年代でしょうに、やけに大人びた目線からの物言いです。でも、嫌味っぽさは微塵もありません。「この人がそういうならそうなんだろうな」と思わせるような、厚みのある経験と含識に裏打ちされた言葉には不思議な説得力があります。だからでしょう、おそらく私とも同い年なのでしょうが、なんだか年上に接するような態度になってしまいます。
 そこでふと、私は初見の時から気になっていた疑問を投げかけてみることにしました。

「どうして、私のことを知っていたのでありますか?」
「ああ、“オッドボール3等軍曹”のこと?」

 それは先日、サンダース大学付属高校に潜入した際に咄嗟に口に出た偽名なのですが、それを知っている人物は限られるはず。神妙な顔で頷く私に、整備長さんはにやりといたずらっぽく微笑みます。なんだか嫌な予感。

「“ヒヤッホォォォウ!最高だぜぇぇぇぇ!!”」
「なああっ!?な、な、なんでそれを!?」

 念願叶って戦車に乗れた際につい口走ってしまった台詞を身振り手振りまで完全にトレースされてしまい、私はアワアワと手をバタつかせます。耳たぶまで真っ赤になっている自覚のある私を見て、整備長さんはくつくつと喉を鳴らして笑います。意地悪そうなのにまったく害意を含まない器用な笑い方です。

「内緒の情報網があるのよ。大洗の忠犬、秋山優花里さん」

 茶目っ気のあるウインク混じりにそう言われてしまうとそれ以上追求できません。落ち着いた物腰でありながらも男子のようなイタズラっぽいところもあって、不思議な魅力のある人です。
 しかし、この人はどこまで知っているのでしょうか。対戦相手についてここまで知り尽くしているのは、さすが黒森峰、侮れません。いえ、このミステリアスな整備長さんが特別なのかもしれません。

「でも、残念ね、秋山さん」
「何がでありますか?」
みほ(・・)───うちの隊長が不在ってことよ。苦労して潜入したからにはせっかく会って“黒森峰の軍神”から話の一つでも聞き出したかったでしょうに。ほら、寄港地から熊本が近いでしょ。あの娘の実家があるから、昨日からちょっと実家に顔を出しに行ってるのよ。貴方が近々やってくるとは思ってたけど、まさか今日来るとはねぇ」

 「タイミング悪かったわね」と、ため息まじりに整備長さんが零しました。本当に、心底残念そうです。まるで私と西住みほさんが出会うことを心待ちにしていたような雰囲気に小首を傾げます。みほさんとも初対面のはずなのですが。

「西住みほさんのご実家は、前隊長である西住まほさんと同じく、あの西住流総本家でありますね」
「そうよ。姉妹なの。姉妹仲は前からよかったけど、最近は親子仲もすっかり良くなったみたいで、ちょくちょく実家に顔を出してるわ。熊本土産をしこたま持たされて帰ってくることもしょっちゅうよ。ちょっと信じられないわよね」

 「信じられない」と語る時の目がどこか遠いところを見ているように感慨深げなのが印象に残ります。お家の深い事情があったのでしょう。この厳しくも気のいい整備長さんはみほ隊長とも交流が深いようです。
 でも、一つ勘違いしています。私はたしかに黒森峰女学院の情報を集めるために潜入しました。前任者の西住まほさんから隊長を継いだかと思いきや、立て続けに功績を打ち立てたことから“軍神”の異名をほしいままにする西住みほさんの情報を得ることも考えていました。そうすれば、西住流のライバルである島田流の継承者にして、大洗女子学園戦車チームの隊長である島田愛里寿殿の役に立つヒントを持ち帰ることが出来たかもしれません。
 けれど、私はそれよりも何よりも、顔を突き合わせて話をして、人となりを探ってみたい人物がいるのです。

「いいえ。たしかに西住みほさんは憧れの人ですが、私がもっとも話をしてみたい人物は別にいるのです」
「え?そうなの?」

 心底意外だったのでしょう。整備長さんの朱色の瞳がキョトンと丸くなります。この人になら、話していいかもしれません。なにか重大なヒントをくれるやもしれません。私は意を決して、胸の内を明かすことにしました。

「はい。私が話をしたかったのは……逸見エリカさんなんです」

 西住みほさんではなく、彼女の傍に付き従う副隊長とこそ、是非とも話をしてみたい。私はそう考えて黒森峰に潜入したのです。
 整備長さんには私の答えが意外だったのでしょう。しばしポカンと硬直したあと、自失から立ち直ると、とても興味深そうに少し身を乗り出しながらルビーのような目で私の目を覗き込みます。

「理由を聞いてもいいかしら?なんでうちの“狂犬”に興味が?」
「まさに、その“狂犬”という異称故なのであります」
「というと?」
「なんといいますか……あの人には違和感(・・・)があるのであります」

 ギクリ。そんな音が聞こえた気がして整備長さんを見ると、顔が引き攣っているように見えました。でも、私が疑念を浮かべる前にその表情は大きなビールマグによってさっと隠されます。「続けて」という意思のこもった赤い目線に促され、私は気を取り直して前々から逸見エリカさんに対して感じていたことを言い連ねていきます。

「あの人の試合は見たことがあります。中学時代、あの人はたしかに狂犬と呼ばれるような荒々しい戦い方でした」
「あら、今もそうじゃないの?」
「今もそうです。いえ、私はそうであって中身が違う(・・・・・・・・・・・)と感じています」
「中身?」
「はい。なんというか、今のあの人は、自分を狂犬と(・・・・・・)規定した戦い方(・・・・・・・)をしているように見えるのです」

 整備長さんは何も言いません。でも雰囲気はいかにも真剣で、私の話にちゃんと向き合って聞き入ってくれていることがわかります。そのありがたい反応に、応答のある無しに構わず話を続けることにしました。

「高校に入った直後も、まだ戦い方は荒々しいものでした。まるで躾のなっていない暴れ犬のような。でも西住みほさんが隊長となって、あの人が副隊長となってからは、むしろわざと荒々しさを演出(・・)しているように感じるのです」
「なるほど、そういう意味の違和感なのね」

 なんだか少しホッとしたように見えるのは気のせいでしょうか。熱の乗ってきた私は構わずに口を動かします。

「そう考えると、実はあの人ほどの策士はいないのではないかと私には思えるのです。自分の狂犬っぷりを演出することで、相手チームからの警戒心を一挙に引き受けて、注目を自分の身に集中させることを意図しているのではないかと。そうして隙を作ることで、西住みほさんの勝利の道を切り開こうとしているのではないかと。そう考えると、空恐ろしいものを感じます。だから私は、是が非でも逸見エリカさんに会ってそのことを確かめたくて───」
「あ、エリカさん(・・・・・)、やっぱりまだここにいたんだ。お母さんがまたお土産をたくさん押し付けようとしてきたから大急ぎで帰ることに───あれ、お客さんなんて珍しいね」

 背後から唐突に、いかにも純粋そうな少女然とした声が投げかけられました。ガチャッと扉の開く音に中断されて二人でそちらに目をやると、なんと“黒森峰の軍神”と名高い西住みほさんがタンカースジャケットの前ボタンを留めながらこちらに笑顔を向けてくれているではありませんか。

「こ、これは西住みほさん!黒森峰の隊長さんとお会いできるとは光栄であります!私は大洗女子学園の───……」

憧れの人物が突然目の前に現れたことに仰天して、私は椅子から跳び上がって直立不動の姿勢を取ります。そして敬礼とともに自己紹介をしようとして、

「………“エリカさん(・・・・・)”?」

 先ほどみほさんが呼んだ名前を思い出して、思考がギシリと止まります。そのままギギギと音を立てるように背後の整備長さんを振り返ると、彼女は苦笑を一つ浮かべてさっと作業帽を脱ぎました。肩まで届く特徴的な銀髪が羽のように閃いて、切れ長の赤い瞳の全貌が明らかになります。

「んななななな!!??」
「あーあ、バレちゃったじゃないの。面白い話だったのに」

 形のいい片眉をくいっと吊り上げて笑うその人は整備長ではなく、なんと、紛れもなく“黒森峰の狂犬”の忌み名で称される逸見エリカその人なのでした!どどど、どうしましょう!?助けてください、島田殿〜〜!!


日時:2021年05月06日(木) 22:44

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返信コメント

トーシローRUSH

素晴らしかったです!
本編もそうですが、更新を待ち続けている価値があります


日時:2021年05月08日(土) 02:54

純菜

偵察に来たのに相手の顔も知らないのか?
有名校で有名人なんだから取材とかでプロフィールとか出回ってそうだけど
雰囲気が違ってて気が付かなかったのかな


日時:2021年05月07日(金) 21:23

1㍑

これだ……これが見たかった!


日時:2021年05月07日(金) 17:40

スイーツジャンキー

また続きが読めるとは、ありがとうございます!
すっごい面白いです!!!!


日時:2021年05月07日(金) 01:52

主(ぬし)

青い人さんのご意見は本当にためになるぜ……。愛里寿もボコ好きな設定をすっかり忘れていました。先に貴方に読んでもらえてよかった……。清書して投稿する際は修正します!


日時:2021年05月06日(木) 23:19

青い人

あり?秋山のセリフからすると、大洗では島田はボコ好きを表に出していない?まさかこちらのあんこうチーム、原作あんこうチームほど仲良しというわけではなかったり?大洗側の様子がどんな風になっているのか気になる所。
島田がボコ好きなことが分かっててそれを西住が知ったら、お土産にボコグッズ渡して、その縁でボコ好き同士仲良くなり、大学選抜戦に駆け付ける、とかありそうでしたが。知らなくてもお土産に渡した結果同好の士の存在を知って……とかにもなりそうですが。

「“ヒヤッホォォォウ!最高だぜぇぇぇぇ!!”」
なるほど、オッドボール含めて情報網があることをチラつかせる形で出てきましたか。原作逸見がやってたらと思うとかなり面白い光景。

家族仲が良好な西住家。原作でも見てみたい光景です。

秋山、逸見に関してかなり考察を深めてきましたね。そして不在だった西住の乱入によって整備長さん身バレ。さて、ここから西住殿と言わせにかかるのか。でも自己紹介したら秋山は普通に西住殿って言うかもですね。
しかし、お土産を大量に押しつけようとするとか、原作より大分面白いことになってそうですね、西住母。お土産押しつけようとする西住母を家政婦の菊代さんが止めてる間に帰ってきたのだろうか。


日時:2021年05月06日(木) 23:09

Nzz

ヒヤッホォォォウ!最高だぜぇぇぇぇ!!

>身振り手振りまで完全にトレースされてしまい
み、見てぇ~!!


日時:2021年05月06日(木) 22:40

主(ぬし)

これはひょっとして……本当に最後まで書くべきなのか……!?


日時:2021年05月06日(木) 22:38

L田深愚

ひゃっほう! 最高だぜええええええええええええええええ!!


日時:2021年05月06日(木) 19:54

一升生水

まだだ!もっと、もっと続きを!もっと続きを!


日時:2021年05月06日(木) 14:26



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