宇宙海賊ミーメの大冒険 ●S3-2 没稿

●S‐3‐2
眼前を遮ることごとくを蹴散らして進まんとするその鋼鉄の意思を示す三対の切っ先が、星の海の波を掻き分け、やがて眩い光を撒き散らして消えた。
それは超光速跳躍の光。

しかし、空間に花咲き吹雪く眩い光は超光速跳躍の常に見られるそれはとは燐光の色が違った。
超光速跳躍とは文字通り主機(エンジン)目一杯(フルスロットル)で回して超光速まで速度を上げ、空間の壁を突き破って一気に跳ぶ航法の事である。そしてその際に発生する光は通常であれば淡い山吹色である。しかしながらデスシャドウがまき散らした光の色は濃淡交じり合った紫の燐光だった。
常とは違う――などというレベルの話ではなかったのである。

◆          ◆          ◆

 ミーメの号令の下、頭に赤いバンダナを巻いた優男――デスシャドウの若き副機関長、シュワンヘルト・バルジは動力機への火入れからワープへ至る突撃シークエンスを艦橋の機関運行班の班席に座りモニターを睨みつけていた。
 超光速跳躍のタイミングを計るのは航海班――今日艦橋に上がっている人間で言えばデスラーだが、この場合タイミングを計るだけであり主機の安定と跳躍(ジャンプ)へ繋げる為の微調整は機関長たるバルジの仕事だった。
 デスシャドウはその自由を体現した艦内規則(校風)故に艦橋に誰が上がるかなどはその日の気分次第の面が少なからずあるのだが、こと航海班と機関運行班だけは例外的にシフトが組まれ、その通りに運営されている。
――もっとも、エンジンの整備以外は何もしたくないという変わり種も中にはいて、そういう連中は機関室にハンモックをかけている始末なので班という括りに入れて良いのかどうか。しかし少なくともそういう連中がいるおかげでデスシャドウはグズって言う事を聞かない事で勇名を馳せる圧縮波動重力エンジンを駆る事ができる。そして、グズって言う事を聞かないこと以上に覇を謳うのがその馬力と粘り気である。それ故圧縮波動重力エンジン(このじゃじゃ馬)を搭載した艦船の数は現状限りなく少なく、それ故デスシャドウは足回りの面において他を上回るアドバンテージを誇っている。また、彼らの異常な熱意による整備は主機換装後ただの一度も動作不良を起こしていない。その技術力がデスシャドウ不動の不敗神話を支えている事は誰もが知るところだった。



超光速跳躍航法への移行時(ワープシークエンス)エンジン(火力)の微妙な調整と艦体制御が非常に重要な鍵になる。速度が遅ければ跳躍間際に船が引き千切れるかもしれず、艦体が傾いたり捻じれたりすればそこに強力な負荷がかかり船が捩じ切れるか折れかねない。
故に機関制御

直前まで順調だったそれは、最終段階目前でもろくも崩れた。それは異常な潮目だった。
デスシャドウの鼻先を直撃して尚有り余るその波頭は宇宙(ソラ)の海にあって珍しく肉眼で確認できるほどに濃いエーテルの乱子が波頭で散り、艦首を横殴りにして行く。当然だか、亜光速に近い読度に達している状況で真横から殴りつけられればいかな圧縮波動重力エンジンの糞馬力をもってしても確度にずれを生じさせないことは出来なかった。
結果、通常逆三角形を描くデスシャドウの艦首、バルバスバウに相当する下部の切っ先から亜空間航路へ突入する所を(ふね)が左にズレ、だけでなく捻りが加わって右の角から艦全体に捻じれを起こしながら突撃することとなった。

艦橋から覗く光景は、美しく荘厳な紫の燐光で彩られていた。
筆舌に尽くし難いその妙なる光景は無理にでも例えるなら宇宙交響詩(オーロラ)の様だった。

◆          ◆

 長距離を一気に渡る星行く船の航行方法は知っている者にとっては大別して二種類ある。それは超長距離航行用の『超空間跳躍航法』と長距離航行用の『超光速跳躍航法』である。一般には後者をワープと呼び、前者の存在を知る者は前者をワープ、後者をジャンプと呼ぶ。―――もっとも、前者の存在を知るものはごくごく限られているのだが。
一般にワープと呼ばれる航法においては空間を跳ぶ瞬間を人が自覚することは出来ない。それは一瞬と一瞬の間、即ち刹那(せつな)の間に空間と空間とを一気に飛び越える航法だ(ジャンプする)からである。
しかしながら、これは一種の恐怖ではないだろうか。自らに知覚できない永遠にも似た刹那の間に成功と破滅の命運が決し、自らの手による回避も出来ないとなれば、それがいかに優れた方法であろうと科学者の看板を掲げる限り決して許容できる事ではない―――そう考えた(バカ)がかつていた。
彼は決して自らの名を名乗ることはしなかった。だからだろう、周囲の人は(たたず)まいや格好から彼の事を『教授』と呼んだ。
教授が考えたのは一般路と高速道路のような関係の航路を形成できないだろうか?ということだった。その為に考察と実験を繰り返し、完成させたそれは文字通り「超空間跳躍」と呼ぶに相応しいものだった。
一般的なワープが光速で跳躍するのに対し、教授()が考案したそれは彼が名づけたところによる超空間を跳躍するのである。



デウシャドウの位置と船の切っ先から亜空間航路へ突入し、奇跡的に船をねじ切られずに突入し切った途端、艦橋の外、光の帯が滝のように下に落ちていくさまが見えた。
ミーメ(キャプテン)(マズ)いぞ!!艦が大幅に揺れるッ。腕なんか組んでないで何かに掴まれ!……吹っ飛びたいのか弩阿呆!!」
普段は優美をもって己を律することを旨とするデスラーにしては珍しく大いに焦った語調のまま、舵輪の前で腕を組んだままだったミーメに叫んだ。
デスラーが叫ぶのとほぼ同時、艦橋の後方、階段に繋がる扉が蝶番(ちょうつうがい)ごと吹っ飛んだ。そうして現れたのは押っ取り刀で駆けつけた人が叫「何をやっているんだアベルトっ!今の横殴りは何なんだ!!」んだ。
デスシャドウの漕ぎ手(船頭)は二人いる。右のブルース・J・スピード、左のアルベルト・デスラーである。この二人を合せてデスシャドウの両椀と呼ばれるのだが、パジャマの上からジャケットを羽織っているところを見るとブルースはついさっきまで寝ていたようだった。
「五月蝿いぞブルース!遅刻だバカ野郎!それと私はアルベルトだ、いい加減にしろ、このトリ頭が!!」
相当に焦っているのか頭に血が上っているのか、デスラーの口調は荒れたままだ。
「五月蝿いも糞もあるか。今の揺れ…いや、これ(・・)はなんだ!」
怒鳴り合いながらもデスシャドウを目的の場所まで運ぶ両椀は隣席に陣取って計器類とハンドルを回し始めた。
「――機関長(バァールジィィィィ)!一体に何があった!? このじゃじゃ馬(可愛い子ちゃん)いきなしグズり始めたぞ!」
 
だが、
艦首が下方にズレ、力場が微妙な湾曲を見た。
それは僅かなものであったが、しかしてバルジには微かに伝わる手応えだけでそれ(・・)を理解してしまった。このままではデスシャドウが捻じれからくる破砕をもって沈没してしまうと。


あとがき
 現状書き進めているのですが、一応全体的にはそのまま使っている部分も多いのですが編集やら何やらでだいぶ変わってしまいまして、けれども消すには少し惜しかったのでここで発表みたいな。
 ともあれ本編更新にはもう少しかかります。


日時:2016年01月31日(日) 11:55

<< そんでまぁ今の所 ちょいと愚考を一つ。 >>


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