ウマ娘2次創作を通してみる現実社会のコラム
第15話の感想欄で書いた内容をここに貼付する。
どの感想に書かれたものだったかは失念してしまったが、作者はおおよそ自身の文章力に自信なさげなことを返信していた。
しかし私はこの作者の文章力は確かなものがあると評価したい。
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文章力とはあまりにも漠然としており定義もままならない抽象的なものであり、その構成要素も多岐に渡る。詩的表現に富む文章も、平易難解を問わず豊富な語彙で表現する文章その他特徴ある文章は全て文章力という曖昧模糊とした語句の中に閉じ込められる。
その中から作者の文章を言い表すならば、「端正な文章」ではなかろうか。著名な作家で連想されるのは2022年に直木賞を『黒牢城』で受賞した米澤穂信だ。無論、全く同じという意味ではない。彼の文章もまた「端正な文章」で評判なのだ。言語化するならば、文章に込められた情報や意図を正確に伝達する明瞭で無駄のない、目障りのない整った言葉の並べ方と選び方といったところだろうか。こうした特徴と要素は見た目や形が違えど共通するものがある。
けっきょくのところ、文章は読まれて理解されなければ意味がない。いかな文豪だろうが無差別な独りよがりは歓迎されない。思い返せば、年間で何十万部と売り上げる作家には形の違いこそあれど「わかりやすく伝える」文章を書くことは共通している。(中略)
いずれにしても、その程度の差はあれど伝わりやすい文章を書くことは文章力を語る上で、極めて重要なファクターの一つであると思料する。
その点、この作者は先ほども述べたように「端正な文章」を書かれる。それはとても素晴らしいことなのだ。正直羨ましい。
筆者が感嘆で息を漏らしたのは文章だけに留まらない。内容についてもとても素晴らしいと賞賛する義務が我々には生じることだろう。それは例え口の乾かないイギリス人であったとしてもだ。
(中略)
まず前提として、ここに訪れる人々はウマ娘の二次創作を嗜みに来ている。となれば必然、求めるのは(個々人の好みはあっても)作者のその作品やキャラクターに対する解釈だろう。この作者はどう物語やキャラクターをどう動かすのかということについて我々は飽くなき好奇心を等しく持っている。
この作品は二次創作としてその解釈の仕方は王道をゆく。実在の競走馬と架空たるキャラクターの情報収集とそれによる解釈は誰にとっても受け入れやすく、また納得しやすいものになっている。(中略)具体的なことは実際に読んで感得して欲しいが、少なくとも誰であれ悪く思うことはないだろう。
そしてテーマであるセカンドキャリアの方もキャラの個性によくあっている。こちらの方で特筆すべきはそのリアリティだ。
目次欄を見ればわかる通り、この作品は参考文献に基づいた執筆がされており、そのため話の内容は現実を生きる我々にとってもまるで他人事ではないような感覚を得る。つまりは当事者感が生まれ、それ故に物語への没入感を誘引されているのだ。これは現実への考察がなされない、もしくは重要視されないタイプの作品では得られない感覚であり、他の感想にもある通り重厚な内容となっている。気を楽にしたものが多い二次創作界隈の中では稀有な作品と言っていい。
全く不思議な感覚だ。我々はいっそファンタジーであるウマ娘の2次創作を読んでいたはずが、実際には彼女らを通して社会のコラムを読んでいた。もちろん、場末のネット小説に確かな信憑性があると断言することは考えを放棄していると言えるが、この納得感ではそうも思いたくなる。
このファンタジーとリアリティの融合は他の2次創作作品には滅多にない魅力だろう。
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山葉 2024年04月23日(火) 12:04 ★ (Good:7/Bad:2)
ウマ娘でとても良く学べる現代社会ドキュメンタリー
現在6章セイウンスカイ編が完結のウマ娘長編現行作品。
他に「ナイスネイチャ」「イクノディクタス」「ヒシアケボノ」「マチカネタンホイザ」と、
「メイショウドトウ」について、彼女達のトレセン引退後の第二の人生が描かれ
ウマ娘で中心のレースでなく、走れなくなった後何をするのかに焦点を当てた良作です。
(19行省略されています)
どのウマ娘にも死闘を繰り広げた現役生活を終わる時はやってくるが、
現役中はレースに勝つ事が至上目的で現役が終わった後を考えているウマ娘はほぼ皆無で。
本作ではそんな状況で彼女たちの引退後は何をしているのか。
そして何を思ってその職についたのか。それをインタビューで明らかにしていきます。
本作は先ず各キャラクター達の解像度が非常に高いのが魅力的で、
このキャラだったら確かにこの職業を選んでいても全くおかしくないと、
違和感が全く出ない深く考え込まれた物語が展開される。
その物語の構成自体も本当に良くできていて、
ウマ娘達のセカンドキャリアの最初は何をすべきかも分からない苦難の連続から、
どんな転機があって落ち着いた今に至るのかを描く読み応えある展開が各章毎に味わえます。
そして何よりもウマ娘達が選んだセカンドキャリア自体に対する濃密な描写が素晴らしい。
章末の参考文献リストで分かるように作者による現代社会の調査が深くなされているので、
正にドキュメンタリー番組のように知らなかった職業の一面が克明に記され本当に勉強になる。
そんなウマ娘キャラクターで読者に入りやすく現代社会の実像に迫っている、
他にない2次創作となっているので是非一読してみて下さい。
(同内容を自サイトでも投稿しています)
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夜市よい 2023年06月16日(金) 12:22 ★ (Good:14/Bad:1)
人でもウマ娘でも、輝かしい青春のあとには、現実が待っている
毎年末、TBS系列で『プロ野球戦力外通告・クビを宣告された男達』という番組が放送される。
凌雲の志を胸にプロ野球の世界へ飛び込んだものの、心ならずも結果を出せず戦力外通告――つまりクビを宣告された男たちが、現役続行の最後の望みをかけ、合同トライアウトに挑む。その合否結果はもちろんのこと、どこからもオファーのなかった選手が、拾ってくれる球団をなおもあきらめずに探すか、それとも家族のためにユニフォームを脱いで第二の人生を始めるか、その苦渋の決断を下すまでを包み隠さず放送する同番組は、野球中継で日ごろ目にする輝かしい世界の裏に、こんなにも苦しい現実が横たわり、そして数えきれない人々の涙が流されていることを教えてくれる。
物心ついたときから競技に全知全能を傾注してきた選手たちが、突如として一介の社会人としてゼロからキャリアをスタートさせるのは、決して容易なことではない。まして、それまで年俸何千万あるいは億単位で稼いで、周囲から蝶よ花よとスター扱いされてきた一流のアスリートが、上司と先輩と顧客に頭を下げ、「いまはこんな仕事やってるんだ」と陰口を叩かれる屈辱を味わい、それでいて現役時代よりケタがひとつ、あるいはふたつ少ない年収に甘んじねばならないのだ。メジャーリーグのプロ野球選手が引退後5年以内に約80%が自己破産することを考えれば、「社会復帰」の難しさは察するにあまりある。
(14行省略されています)
戦力外通告されず最後までエースで居続けられたとしても、野球のみならず、あらゆる競技のプロ選手にはいつか引退の時期がくる。種目にもよるがアスリートの平均寿命はおおよそ30代から40代であろう。だがアスリートとして終わったとしても、人生は続く。まだまだ何十年も「余生」が残っている。
本作では、引退したウマ娘の「その後」が極めて淡々とジャーナリスティックに紹介されていく。ウマ娘版『あの人は今』であり、『プロ野球戦力外通告』でさえ追跡取材されることの甚だ少ない、ユニフォームを脱いだ元選手たちの後日談ともいえる。
ターフを去ったウマ娘たち、現役時代は走ることしか考えなくてよかった少女たちは、いま、社会というゴールなきレース場で、自分なりのゴールを見定め、やるべきことの多さに目を回しながらも、そこへ向け自分のペースで歩みを進めている。そう、引退した彼女たちは、もう走らなくてもいいのだ。
己の限界を超えて疾走するウマ娘という「人間」が実在したなら、一生レースで走り続けるわけにもいかない以上、彼女たちにはかならず引退と余生がある。走れなくなった、走らなくてもよくなった彼女たちは、社会人としてどのような第二の人生を歩むのだろう? その当然の疑問に、本作は広範な知識と教養、そしてなにより競走馬とウマ娘への愛情で十二分に答えてくれている。
現実の競走馬の末路は、残念ながら悲惨なものが多い。怪我から予後不良となった馬もいれば、引退して引き取られた牧場でほとんど餌を与えられないままガリガリにやせ細って餓死寸前で愛護団体に保護された馬もいる。
だからこそ、せめて、フィクションの世界では、ウマ娘――そしてその名を託した競走馬たちに、幸せなセカンドライフを歩んでもらいたい。その願望を、本作は徹底したリアリズムに支えられた世界観でしっかりと、幸福なかたちで叶えてくれる。すなわち、推しのウマ娘の引退後の生活を想像するよすがとするに足る秀作といえるのである。
また本作には、現実の引退馬の余生を支援する団体に、推しにスパチャ投げる感覚でクラウドファンディングしてみようか、と一考させられる副次的な効果があることも付け加えておく。
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蚕豆かいこ 2022年03月20日(日) 13:03 ★ (Good:48/Bad:0)