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落窪よしお 2016年05月23日(月) 15:13
読了しました。確かに「あらすじ」にある様に、非常に太宰治っぽい文章だと思います。
私が考える本作の欠点とは「情景描写が足らない」です。特に情報(描写)が不足していると感じたのは次の点です。
1.登場人物の容貌、服装について
2.物語の舞台について(特に主人公達が暮らしている「家」について)
(16行省略されています)
1について、後述する様に本作の文章は読者に対して強烈に主人公(とその母親)の性格を想起させますが、では傍から見て「彼女達がどんな外見をしているのか」ということは全く提示されていないですし、そうであるから想像することも出来ません。物語の典型として「意地悪な老女(本作の場合「母」です)=醜悪な見目」というのがありますからそこから「母」の容姿をイメージし得るにしても、それは本作の個別性からは切り離された抽象的な存在として想像するにすぎません。(私が閲覧した時点で作品タグに「純文学」とありましたので)やはり純文学を標榜する以上は漠然とした「典型的な登場人物像」より踏み込んだ、生き生きとした人物像を読者に想像させてほしいです。
2について、「一円が贅沢」や「下女下男が雇われていない」などの描写から、主人公達の家庭が裕福でなく、かつ舞台は随分古い時代を描いているということは分かります。そこから類推して、主人公達が寝起きしている家もそう立派なものではなかろうということは想像出来ますが、しかしそれよりも具体的なことは分からない。頭の中で視覚的なイメージとして捉えられない。本作において「油屋」の描写と並んで「家の中」は重要な舞台であると私には思われますので、やはり読者に、係る個性的な主人公はどういう家で暮らしているのか、ということを想像させてほしいです。
しかしですね~。実は以上の「欠点」は本作においてはあまり問題ではないのです。何故なら本作には以上の様な「小説一般と比較しての、構造上の欠落」があるにも拘らず、そんなことには気が付かずにスラスラと読めてしまったからです。具体的には、私は本作を楽しく一読した後に、さてどんな感想(文句!)を書いたものかと思案して本作を吟味し、ようやく上記の「欠点」を見つけたのです。上記の「欠点」は本作の本質(それは主人公の性格描写にあると考えます)を傷つけるものではなく、かつ普通に読めば読者にその存在を気付かせないのですから、「欠点」はあってないようなものです。といっても、私の読解能力が一般に比して低いという可能性は捨て切れませんが…。
また上述の「欠点」は小説一般と較べての本作に不足している要素を書いたのですが、本作は短編小説なのでそもそも私が挙げた「欠点」はやや的外れの感があります。短編小説ならば中長編小説の様に詳細に色々書いてのフィニッシュではなく短期決戦ですからね。
新潮文庫に収められていた文章であったと思いますが、何かの太宰作品の解説で「太宰の文章において、読者は太宰から秘事や私事を打ち明けられる錯覚に陥る」というのがありました。私が本作で感じたのも同様です。即ち視覚イメージとして、私の目の前に主人公が座っており、その主人公が滔々と物語る(即ち「自分語り」をする)という様が想像されました。「あらすじ」に「冗長な文章だ」とありますが、その冗長っぽさ(文体)が、まさに年頃の少女がべらべら語っている様子をイメージさせるのに重要な役割を果たしていると思います。
「凄い作品ですね!」みたいな単なる賞讃は役に立たないので好きではないのですが、いや~びっくりしました。不意にこんな文章に出会うとは。短い中でよく文章が生きていると感じました。
最後に一点、本作の本筋とはまたもやあんまり関係ないのですが、読書のリズムを妨げたということで書いておけば、
>私の家は郊外にあるから、ものを買いたいときは…
ここの文章で「郊外」では言葉が強すぎると考えます。現代の我々が「郊外」という言葉から連想する「その場所から都市部までの距離」とは、公共交通機関を使う程には都市部から離れているという程の感覚であると思います(そもそも「郊外」が形成されたのは汽車・自動車が発明された故であります)。
例えば洒落た近代的な商品を買う為には街へ時間を掛けて出なければならぬというのはありそうですが、食品を含む日用品を買うのに「俥」を利用しなくてはならぬというのはちょっと辻褄が合わない様な気が私にはします。そうした「郊外」地域には寡占的な小売業者がいて、都市部と比較して少ない品揃えで地域住民相手に商売をしていたのではないでしょうか(さもなくば殆ど自給自足)、つまり街へ出なくとも生活が出来る様な状態であったのではないかと思うのです…作中の時代と地域が明言されていないので、あるいは作者さんにはピントがズレて聞こえるかも知れませんが。要するに「郊外」という言葉では文章のリアリティを損ずるのではないか、ということです(「女生徒」の時代に、実際にそうした地域があったかどうかの史実は別として)。
まあこれも上に同じでして、読んだ後に粗探しをして「ここがおかしい」と見つけたのであって、読んでいる最中に強く気になるということはありませんでした。枝葉ですね。
以上、お目汚し失礼。