行別ここすき者数
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(0)市ヶ谷宅、有咲の部屋--
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(0)美咲「はぁ……静かだなぁ…。」
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(0)有咲から合鍵を貰ってからというもの、美咲は度々有咲の家に訪れてはこうして1人過ごしていた。
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(0)美咲「1人の時間を持てるっていうのは、幸せだよ。市ヶ谷さん、こうして私が来る時は必ず外出してくれてるし、お婆さんも出かけてるし気使わせ過ぎちゃってるかも。」
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(0)ソファーに寝転び天井を見上げる。外界から隔絶されたこの空間には物音1つ立たず、静かさが辺りを包んでいる。横に顔を向けると、そこには有咲が書いたいつもの書き置きが。書き置きは美咲が来る時には必ず置いてあった。
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(0)美咲「いつもはそんな当たり障り無い書き置きだけど……"別宅に行ってくる"って……別宅って何だ?愛人でもいるの?」
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(0)笑い声が壁に反響する。この世界に来るまで美咲はいつも1人だった。1人が楽だった。誰の顔色を伺う必要もないし、気を使う必要もない。美咲にとってはこれ以上最高な空間はなかった。
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(0)なかった筈なのに--
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(0)美咲「……………はぁ。いつもなら落ち着ける筈なのにね…。」
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(0)牛込宅前--
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(0)一方で、有咲は"別宅"であるゆりとりみの家の前まで来ていた。手には紙袋が1つ。
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(0)有咲「ふふーん。ちゃんと手土産を持参する辺り、私の女子力も捨てたもんじゃねーな。りみはチョコケーキ、ゆりはきっとモンブラン取るだろ。休みの日に急に訪ねたから、びっくりする顔が目に浮かぶな。」
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(0)ほくそ笑みながら、有咲は呼び鈴を鳴らす。数秒してドアが開いた。しかし、中から出てきた人物はゆりでもりみでもなかった。
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(0)薫「おや?どちら様だい?」
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(0)有咲「へ…?」
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(0)薫「あぁ、有咲ちゃんじゃないか。ゆり、有咲ちゃんが訪ねて来てくれたよ。」
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(0)有咲「ど、どうして……?」
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(0)牛込宅、リビング--
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(0)中に入り有咲は更に驚く事になる。薫に加え、彩と燐子もいたからだ。
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(0)有咲「どうなってんだ…?」
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(0)ゆり「驚かせてごめんね。テストが近いから…。」
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(0)りみ「1年生3人で一緒に勉強しようってなったんだ。」
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(0)ゆり「そのついでに、仄かに成績が芳しくない、薫の勉強も見てあげようってね。」
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(0)薫「世話になっているよ。」
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(0)ゆり「勇者部から落第者を出す訳にはいかないから。」
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(0)薫「あぁ……ゆりの優しさが身に染みるよ。」
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(0)ゆり「や、やめてよ…。これは…その…部長としての義務感で……。」
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(0)有咲「ふ、ふーん。そっか。なら私がいたら邪魔だよな。帰るわ。」
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(0)折角の時間に水を刺したと感じ、帰ろうとする有咲だったが、
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(0)ゆり「何で帰っちゃうの?折角だから晩御飯でも作って行って。」
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(0)有咲「私は別にご飯を食べに来た訳じゃ……って、なっ!作れ!?」
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(0)ゆり「だって、有咲ちゃんは勉強出来るし、手が空いてるから来たんだよね?」
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(0)有咲「…………そ、そんなに言うなら仕方ねー。手伝ってやるか。」
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(0)ゆり「ありがとう。りみ達は夜ご飯まで勉強。薫もちゃんと問題集やってね。」
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(0)燐子「分かりました…。」
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(0)薫「任せてくれ。」
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(0)1時間後--
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(0)有咲「えっと……キュウリは確か…塩で揉むんだよな…。」
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(0)不器用ながらも、着々と料理をこなしていく有咲。
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(0)ゆり「有咲ちゃん、随分料理の腕前上がってきたよね。」
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(0)有咲「ま、まあな…ゆりがやってるのを見て、自然に覚えたって感じだ。」
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(0)ゆり「偉い偉い。」
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(0)有咲「ちょまっ!包丁持ってるのに危ねーだろ!」
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(0)薫「うん……幸せな家庭の風景じゃないか…儚い。」
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(0)りみ「薫さん…どの立ち位置なのかな…。」
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(0)燐子「…お父さん……でしょうか。」
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(0)彩「?それって……あぁ、家族ごっこだね!」
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(0)燐子「それじゃあ私達は…3人姉妹かな……。」
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(0)りみ「でも、そしたら有咲ちゃんは……。」
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(0)勉強そっちのけで、家族ごっこの話しに華が咲く3人なのだった。
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(0)そこから更に2時間後--
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(0)全員「「「ご馳走様でした!」」」
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(0)薫「至福の時間だったよ。眠気が私を包み込もうとしているね……。」
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(0)有咲「まだ寝るには早いぞ。問題も全然解けてなかったし。」
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(0)ゆり「後片付けはしちゃうから、先にお風呂に入っておいで。」
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(0)有咲「お風呂って……みんな泊まってくのか!?」
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(0)彩「うん!今日はお泊まり会でもあるんだ。」
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(0)りみ「お姉ちゃん。私達3人で入るね。」
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(0)ゆり「3人で?流石に3人じゃ狭いんじゃない?」
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(0)彩「みんなで洗いっこするんだ♪」
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(0)燐子「楽しみです……。」
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(0)心なしかいつもより燐子のテンションが高いのが伝わってくる。
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(0)ゆり「あんまり長く入ってのぼせないように気をつけてね。」
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(0)りみ・燐子・彩「「「はーい♪」」」
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(0)ゆり「さて。じゃあお皿洗って、3人が上がってきたらデザートにしよっか。」
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(0)有咲「うっ……アポを取らなかったのは失敗だったな。ケーキ、3つしか買ってきてねーんだ。」
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(0)ゆり「そんなの気にしなくて大丈夫だよ。ケーキはりみ達にあげて、私達3人は果物でも食べよう。」
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(0)薫「果物か…どれ、私が切り分けよう。」
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(0)ゆり「薫は勉強が残ってるでしょ。私達でやっとくから大丈夫だよ。」
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(0)薫「いや、ゆりには日頃から料理を振る舞ってもらっている。それくらいはやらせてくれないか?」
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(0)有咲「日頃から……?」
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(0)ゆり「いやいやいや!毎日じゃないよ!?たまに!たまーーにだからね!」
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(0)顔を真っ赤にしながら、ゆりは顔を横に振って訂正する。
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(0)薫「そう……3日に1度くらいにお弁当をね。」
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(0)有咲「それもう頻繁すぎるぞ!」
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(0)ゆり「だ、だってほら!薫は放っておくと、魚しか食べないから!」
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(0)薫「魚だけではないさ。海藻も食べているよ。」
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(0)有咲「あんま変わんねーよ!」
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(0)薫「それは置いておいて…今日はゆりの為に、私がパイナップルを切り分けるよ。」
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(0)薫は冷蔵庫に入っていたパイナップルを取り出し微笑む。
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(0)有咲「ぐぬぬ……わ、私だってゆりの為にバナナの皮ぐらい剥いてあげれるっつーの!」
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(0)何故かそれに対抗心を燃やした有咲も、冷蔵庫からバナナを取り出した。
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(0)ゆり「それは猿でも出来るよ?」
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(0)有咲「ううううるせーー!だったら勝負だ、薫!」
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(0)ゆり「えっ、何で!?」
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(0)薫「良いだろう。」
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(0)ゆり「良いの!?」
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(0)有咲「どっちが美味しく果物を切れるか勝負だ!」
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(0)ゆり「何その勝負!?ジャッジが難し過ぎるよ!」
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(0)有咲「ぐぬぬ………!」
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(0)薫「………!」
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(0)互いが一歩も譲らぬ一触即発状態。
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(0)ゆり「何これ……何これーーーーっ!!」
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(0)1時間後--
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(0)彩「はぁ…….良いお湯だった。お先にありが……っ!?」
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(0)りみ「ええっ!?」
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(0)燐子「これは……何でしょうか……?」
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(0)お風呂から上がった3人が目にした光景。それはキッチンで有咲と薫が唸り声を上げながら、沢山の果物を切り分け、その横でゆりが慌てふためいている地獄絵図。
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(0)りみ「有咲ちゃん、薫さん、これは一体……。」
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(0)薫「はあぁぁぁぁっ!デザートを!」
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(0)有咲「作ってるんだあぁぁぁぁぁっ!!」
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(0)その時だった。呼び鈴の音がりみの耳に入ってきたのだ。
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(0)りみ「だ、誰か来た……!」
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(0)慌てて玄関へ行き、ドアを開けるとそこにいたのは美咲だった。
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(0)りみ「み、美咲ちゃん!?」
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(0)美咲「帰りがてらに市ヶ谷さんにお礼を言おうと思って寄ったんだけど…。何この音。」
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(0)りみは美咲を招き、事の経緯を説明するのだった。
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(0)牛込宅、リビング--
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(0)美咲「うん、ごめん。全然情報が頭に入ってこないや。っていうか……。」
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(0)ゆり「美咲ちゃん!?丁度良いところに!2人を止めてよーー!」
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(0)美咲「ふふっ……あはは!1人になりたかったのに…私ったらおっかしいなぁ…。こんな光景を見てると、やっぱりみんなと一緒に過ごせば良かったかもって思っちゃうな。」
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(0)有咲・薫「「出来た!!」」
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(0)お皿に乗って出てきたものは、最早形を留めていない果物だったものだった。
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(0)ゆり「何これ!これじゃあ、ただの山盛り細切れフルーツだよ!!」
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(0)美咲「あははははっ!ゆり先輩ナイスツッコミです!あはは!」
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(0)りみ「パイナップルにマンゴー、桜桃、バナナにグレープフルーツ……。」
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(0)燐子「黄色ばっかりですね……。」
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(0)彩「全部ゆりさんの勇者服の色だね!」
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(0)ゆり「ふ、2人とも……そんなに私の事を思って…!」
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(0)有咲「いや…全部家にあったやつだぞ!」
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(0)薫「あぁ。黄色しかなかったね。」
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(0)ゆり「うっ……。と、ところで美咲ちゃん。もう遅いし、せっかくだから美咲ちゃんも泊まっていけば?」
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(0)美咲「え?良いんですか?市ヶ谷さんも泊まるの?」
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(0)有咲「わ、私は泊まるなんて一言も!」
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(0)ゆり「え?今から帰るの?1人で?ふーん、そうなんだぁ……。」
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(0)有咲「くっ………そ、そこまで言うなら泊まっていってあげない事もないぞ。」
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(0)ゆり「そんなには言ってないけど…。」
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(0)有咲「う、うるせーー!泊まるーー!」
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(0)美咲「あはははっ!絶対明日お腹が筋肉痛だよ!」
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(0)美咲(1人の時に感じてたあのモヤモヤ……その原因…何だか分かった気がするな…。それはきっと……みんなの事が好きになったから…。)
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(0)りみ「あれ?どうしたの、美咲ちゃん。考え事?」
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(0)美咲「へ?いや、逆かな。考えてた事が解けたんだ。ありがとね、りみ。みんなのお陰だよ。」
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(0)あの時には感じられなかったものが、今は部屋いっぱいに満ちている。それは美咲が心から求めていたものだった。