行別ここすき者数
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(0)「一撃必殺ですぅ!」
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(0) 上空を飛び交うハイベリアよりも高い位置に跳躍したシアがその手に持った機械的なデザインのハンマーを振り下ろすと、ハイベリアは地面に叩き付けられる。その頭部は完全にひしゃげており、生命維持の部分も含め、脳が殆どの機能を失ったのは明らか。そして、そんな彼女の背後をついてもう一体のハイベリアが上空から強襲を掛けるが、彼女は落ち着いた様子でハンマーの面をハイベリアに向けると、面の部分が開き、そこから4連装式の砲門が現れ、そこから撃ち出された砲弾がもう一体も撃ち落す。
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(0)「それなりに使いこなせてるようだな」
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(0)「ハイ、この“ドリュッケン”凄く扱いやすいです。ありがとうございます、ハジメさん」
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(0) 幾つかの内臓機能を搭載したハジメ特製、戦鎚型アーティファクト“ドリュッケン”。その試運転と言う事でカナタ達はライセン大峡谷で戦闘という名の大蹂躙劇を行っていた。因みにメインとなって暴れていたシアの周囲は勿論、他の4人の周りにも銃殺、斬殺、凍死や焼死とバリエーション豊かな死に方をしている魔物達の死骸が転がっている。
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(0)「しっかし、ライセンの何処かにあるってだけじゃあ、やっぱ大雑把過ぎるよなぁ」
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(0)「見渡す限りの絶壁、普通に考えたら洞窟の類があると思うんだけどねぇ……」
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(0)「それらしいものも無く、見渡す限り切り立った崖ばかりだもんな。いっそこのままグリューエン火山に直行するか?」
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(0) 一行の次の目的地はグリューエン火山の大迷宮だ。しかし、危険度的に交通に使われる事は無いが地理的には通り道で、更に大迷宮があるとされるライセン大峡谷の迷宮も探してみようと言う流れになった。
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(0)「元々大火山に行くついでなんですし、見つかれば儲けものくらいでいいじゃないですか。大火山の迷宮を攻略すれば手がかりも見つかるかもしれませんし」
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(0)「まぁ、そうなんだけどな……」
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(0)「ん……でも魔物が鬱陶しい」
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(0)「確かに、この大峡谷はユエに取っちゃ比較的一番辛い場所だろうな」
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(0) ユエ以外はそれぞれ魔力に頼らない戦闘手段を持っているが、ユエだけは魔法のみ、香織も本来のヒーラーとしての役割は殆ど果たせず、ハジメと一緒に銃撃で攻撃に参加している。まぁ、そもそもここの魔物程度でヒーラーの力が必要なるのか?と言う事もあるが。そんな感じで試運転も終わった所で、一行は遂に完成した魔導4輪に乗りながら大峡谷を走り、カナタとシアが荷台で魔物達を迎撃しつつ入り口らしき何かを探しながら進む事3日目。その日も特に収穫は無く、彼らはテントを張り野営をしている。
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(0) 因みにブルックの町で購入した道具にはそれぞれハジメによる魔改造がされている。先ずテントには生成魔法で生み出した《暖房石》と《冷房石》でテント内の空調を整え、テントの骨組みには気配遮断の効果を付与した《気断石》を埋め込む事で、魔物の襲撃対策もしている(それでも見張りは立てるが)。フライパンには込める魔力量で火力調節が効くクッキングヒーター的な機能を内蔵したり、風爪を付与する事で包丁を研ぎ石要らずにしたり等、調理器具にもハジメの魔改造が施されている。錬成師+生成魔法の組み合わせは便利すぎるの一言に尽きる。
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(0)(光輝達がオルクス大迷宮を攻略してコレの存在を知ったらどういう反応するかね……)
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(0) 錬成師というありふれた天職をここまで化けさせる魔法。でも逆を言えば錬成師不在のパーティではこの魔法は殆ど役に立たない。その点では彼らがオルクス大迷宮を攻略する事で得られる最大の旨みを檜山によって失った事になる。
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(0) 香織と、そして同じく料理が得意だったシアの二人が作った食事に舌鼓を打った後、交代で見張りを立てて就寝を取る事になった。睡眠不足はお肌の天敵、何より女性に見張りをさせて自分達が眠るのは忍びない、と言う男の性から、見張りはカナタとハジメが交互に行っている。
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(0)「どうした、シア?」
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(0) そしてカナタが見張りをしている時にシアが目を擦りながらテントから出てきた。
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(0)「ちょっとお花を摘みに」
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(0)「そっか、一応魔物には気をつけろよ」
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(0)「判ってますよ」
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(0) そう言って、シアがその場から離れて少しした時だ。
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(0)「み、みなさーん! 大変ですぅ! こっちに来てくださぁ~い!」
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(0) シアの叫び声を聞いて、カナタがそして少し遅れて他の3人がシアの所に駆けつける。そこには、巨大な一枚岩が谷の壁面にもたれ掛かるように倒れおり、壁面と一枚岩との間に隙間が空いている場所があった。シアは、その隙間の前で、ブンブンと腕を振っている。その表情は、信じられないものを見た! というように興奮に彩られていた。
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(0)「こっち、こっちですぅ! 見つけたんですよぉ!」
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(0) と、シアに引っ張られるままにカナタが岩と壁面の隙間に入り、ハジメ達もそれに続くとそこにはキレイな装飾がされた長方形の看板が掛けられており――
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(0)“おいでませ!ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪”
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(0)「……なんじゃこりゃ」
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(0)「……なにこれ」
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(0) 迷宮という名のをアトラクションを思わせる様な文字が彫られており、ハジメとユエの呆れと疑問の声が重なった。
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(0)「何って、入口ですよ! 大迷宮の! おトイ……ゴホッン、お花を摘みに来たら偶然見つけちゃいまして。いや~、ホントにあったんですねぇ、ライセン大峡谷に大迷宮って」
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(0)「いや……でも、これ……なのか?」
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(0) 世間的に解放者は忌むべき存在とされている、ならばその名を騙って何かをする利点は無い。そう言う意味ではここがまさしく大迷宮の入り口なのだろうが、この看板の存在がどうしてもそれを疑わせる。
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(0)「でも、ミレディ・ライセンって書いてあるし、反逆者もその名前は明らかになってないみたいだし。やっぱりここで間違いないと思うよ。疑わしく思う気持ちはすごく判るけどね……」
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(0)「でも、入口らしい場所は見当たりませんね? 奥も行き止まりですし……」
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(0) と言いながら、シアが辺りの壁をぺしぺしと叩いていると――
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(0)「ふきゃ!?」
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(0) ――シアの悲鳴と共に壁の一部がぐるりと回り、シアが壁の奥に消える。さながらその様子は忍者屋敷の回転式の隠し扉だ。彼女の後を追い、4人も回転扉を潜る。そこは明かりの無い暗闇だったが、元々夜目の技能を持ってるカナタ達にとっては関係の無い。けれどその直後ヒュンヒュンヒュンと言う風切り音が響き、ハジメはその方向に向かってドンナーを発砲。カナタは大剣を盾の様に構え飛来するそれを防ぐ。
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(0)「金属の矢、か。入場客を出迎える歓迎にしてはちょっと過激すぎやしないか」
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(0) 銃弾と矢、刀身と矢、それぞれがぶつかる金属音が20回ほど響いたところで辺りは静寂を取り戻し、周囲は夜目を必要としない程度に明るくなる。ハジメ達のいる場所は、十メートル四方の部屋で、奥へと真っ直ぐに整備された通路が伸びていた。そして部屋の中央には石版があり、看板と同じ丸っこい女の子文字でとある言葉が掘られていた。
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(0)〝ビビった? ねぇ、ビビっちゃた? チビってたりして、ニヤニヤ〟
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(0)〝それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ〟
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(0) その文字を見て4人の心情は一致する即ち「うぜぇ……」この一言である。
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(0)「あ、そう言えばシアちゃんは?」
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(0) 香織がふと思い出したように呟き、4人は辺りを見渡すがシアの姿は見当たらない。そしてあの矢は回転扉で部屋に入ると同時に飛んできた。カナタが再度扉を回転させると、その裏からローブに矢が刺さり、壁に縫い付けられたシアの姿が現れた。幸い、矢は直撃してはいない様だ。
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(0)「うぅ、ぐすっ、カナタざん……見ないで下さいぃ~、でも、これは取って欲しいでずぅ。ひっく、見ないで降ろじて下さいぃ~」
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(0)「いや、無茶なこと言うなよ。そもそも見ないでってどう言う……」
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(0) やがてカナタはシアの足元に気付き、「あ」と呟く。結論から言えばシアの足元が濡れていたのだ。大よその事情を察したカナタがなんて言えばいいか困った様な表情で矢を抜いてシアを解放する。
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(0)「そういや、花摘みに行く途中だったな……まぁ、そんな状況で死にそうな目にあったんだし。今回ばかりは仕方ないって、うん。不幸な事故ってやつだ……」
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(0)「仕方なくありまぜんよぉ~! うぅ~、どうして先に済ませておかなかったのですかぁ、過去のわたじぃ~!!」
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(0)「と、兎に角まずは着替えてこよう、ねっ? ハジメ君たちはちょっと向こう向いてて」
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(0) 惚れた男の前で粗相をするなんて、女性にとっては大層ショックだろう。とは言え、そんなシアになんて声を掛けてあげれば良いかも判らなかったので香織とユエがそそくさとシアを慰めながら隅っこの方で着替えに行った時はカナタ的にはちょっと助かったと思ったりもした。そして程なくしてシアの着替えも終わり、改めて迷宮探索開始と言う所で、シアが例の石版の存在に気付く。そしてその文字を読み――
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(0)「ムキィーー!!」
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(0) 奇声と共にドリュッケンを振り下ろし、石版を木っ端微塵に粉砕。不用意にそんな事をすれば何が起こるか判らないが、今回ばかりは4人もそれを止める気持ちにはなれなかった。しかし、石版が建っていた部分の床、つまりは石版を砕くかどかすかしないと見えない所にも何か文字彫られていた。
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(0)〝ざんね~ん♪ この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~プークスクス!!〟
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(0)「うぜぇ~ですぅ!! このっ! このぉっ!!」
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(0) まるで怒りに駆られた誰かが石版をぶっ壊す事を想定してたかのように彫られた文字にシアはその床に向かって何度もドリュッケンを振り下し続ける。
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(0)「ミレディ・ライセンだけは〝解放者〟云々関係なく、人類の敵で問題ないな」
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(0)「だな……まぁ、死んでるから何も出来なのが口惜しいが……」
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(0)「あ、あははは……」
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(0) 発狂しているシアの様子を冷めた目で見ながらハジメがポツリと呟くと、カナタが返事をして、ユエは無言で頷き、香織も苦笑と共に乾いた笑い声をあげていたのだった。
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(0) ※
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(0)「もしかしたら、ライセン大峡谷が魔法を拡散する場所になってる原因は此処かも知れないな。この場所の分解作用が外部にも漏れているからかもしれん」
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(0) そんな推測がカナタの口から出るほど、ライセン大迷宮は大峡谷以上の魔力分解作用が効いており、それらがハジメ達の能力を著しく制限していた。それと言うのもハジメや香織の銃は纏雷によるレールガンの原理を加えているからこそ、必殺の威力を持つのであって、それを封じられたとあっては、ただのハンドガンに過ぎない。使えなくは無いが、効果が外部に現れることもあり、その威力は激減。風爪と言った完全放出系は全滅だ。この時点で香織の手札はほぼ完封、ユエも今まで以上に魔力を過剰に込める事で通常よりも遥かに射程が短い状態で魔法が使える程度だし、蒼天の様な上級レベルは使う事が出来ない。そしてそれはカナタの竜変身も同様だ。あの変身の原理はカナタの身体の周りに魔力で構築された別の肉体を構築し纏っている様なモノであり、それの維持と損傷時の再生に魔力を消耗する。つまり、この迷宮内では竜変身は出来なくは無いが、魔力の減りも普段と比べ爆発的に早くなる。この迷宮内でマトモに機能する魔法は外部でなく、術者の体内で発動する強化系のみ。つまり荒事になった際はカナタとシアが一番の戦力となるのだが……
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(0)「殺ルですよぉ……絶対、住処を見つけてめちゃくちゃに荒らして殺ルですよぉ」
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(0) 怒り心頭のシアは据わった目で辺りを見渡し、その言葉のイントネーションも少しおかしい。今ならあの戦闘狂集団になったカム達の中に混ざっても違和感がないぐらいだ。普段であれば冷静さを失ってる彼女を落ち着かせる所だが、今回ばかりはそれも出来ない。なんせ、気持ち的にはカナタ達も同じだからだ。それは一行が迷宮探索を開始した直後まで遡る。
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(0) ※
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(0)「こりゃまた、ある意味迷宮らしいと言えばらしい場所だな」
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(0)「……ん、迷いそう」
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(0) オルクス大迷宮は所々橋と言った人工物が点在しているが、殆どは人の手が掛っていない岩壁ばかりで迷宮とは名ばかりの洞窟と呼んだ方が正しい場所だった。けれど、この大迷宮は階段や通路、奥へと続く入口が何の規則性もなくごちゃごちゃにつながり合っており、まるでレゴブロックを無造作に組み合わせてできたような場所で、正に迷宮と呼ぶに相応しい内装をしている。
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(0)「ふん、流石は腹の奥底まで腐ったヤツの迷宮ですぅ。このめちゃくちゃ具合がヤツの心を表しているんですよぉ!」
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(0)「……気持ちは分かるから、そろそろ落ち着けよ。取り敢えずマーキングとマッピングしながら進むしかないか」
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(0)「……ん」
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(0)「あ、じゃあマッピングは私がやるね」
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(0)「判った、そんじゃ任せたぜ香織」
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(0)「うん、任されたよ」
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(0) 〝マーキング〟とは、ハジメの〝追跡〟の固有魔法のことだ。この固有魔法は、自分の触れた場所に魔力で〝マーキング〟することで、その痕跡を追う事ができるというものだ。本来であれば生き物に使用し、その痕跡を追うのに使うのだが、魔力を可視化する事で迷うのを防止する為の目印にも出来る。これは大気中ではなく壁に直接付与するものなので分解の作用も及ばないらしい。そして入り口部分に最初のマーキングを付けてから一行は歩き始めたのだが――
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(0) ガコン
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(0)――程なくして、そんな音とハジメは片足が少し沈んだような感覚を覚えた。そして足元に目を向けるとそこには予想通り、踏んだ事により一部が窪んでいる床。直後、前方の両脇の壁から回転ノコギリが現れ、高速回転しながら迫ってくる
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(0)「回避!」
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(0) 一行がその場に倒れこんだり、マトリックス張りの仰け反りをしたりとそれぞれにのこぎりを回避する。
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(0)「……完全な物理トラップか。魔眼石じゃあ、感知できないわけだ」
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(0) このトータスでのトラップと言うのはその殆どは魔力を伴ったものだ。だからこそ魔眼石を始め、魔力の流れを読む事で罠を識別する道具である“フェアスコープ”で大体のトラップは発見できるのだが、ここは魔力が無効化される迷宮。従来の罠も無力化されるので必然、魔力を伴わないトラップが待ち構えていると言う事だ。
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(0)「し、死ぬかと思いましたぁ~……」
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(0)「今の所、魔物の気配は無いが、それでなくても厄介なところだな、こりゃ……」
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(0) こうなってくると罠を見極めるには経験に基づく直感しかないのだが、生憎それが培われているメンバーはいなかった。
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(0)「うぅ~、何だか嫌な予感がしますぅ。こう、私のウサミミにビンビンと来るんですよぉ」
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(0) と、ウサミミをピンと立てて明らかに緊張しているシアがそんな事を呟く。
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(0)「お前、変なフラグ立てるなよ。そういうこと言うと、大抵、直後に何か『ガコン』…ほら見ろっ!」
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(0)「わ、私のせいじゃないですぅッ!?」
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(0)「!? ……フラグウサギッ!」
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(0) 直後、階段から段差が消えて、ご丁寧にタールの様な液体がスロープの床に空いた無数の小さな穴から溢れ、すべりを良くする……。
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(0) ハジメは義手と靴に仕込んだ鉱石を錬成してスパイク状に、カナタは剣を突き立てて滑り落ちるのを防ぎ、ユエはハジメの首に飛びつき、香織はハジメが咄嗟に抱き寄せる。
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(0)「うきゃぁあ!?」
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(0) シアだけは咄嗟の対応が出来ず転倒、反論時に後ろの方を振り向いていた為、カナタに額からぶつかる形でダイブ。その衝撃で剣が抜けて彼も滑落、そして背後に居たハジメも巻き込んで結局全員で滑り落ちる事になる。流石に勢いがついてしまっては、スパイクでは止められない。ダメ元で錬成を試みるも案の定上手く機能しない。
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(0)「ハジメさん! 道がっ!」
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(0) そんな中、何とか身体を起こし、後ろを振り向いたシアが叫ぶ。滑り落ちるスロープ、途切れてる道、その時点でこの後の展開が予想できた。
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(0)「っ! ユエ! 香織っ!!」
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(0)「んっ!」
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(0)「うんっ!」
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(0)「シア、掴まってろ!」
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(0)「は、はい!」
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(0) そしてスロープは終わりを告げ5人は宙へと投げ出される。
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(0)「〝来翔〟!」
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(0) ユエが強力な上昇気流を発生させる魔法を使う、が、迷宮内では僅かな間だけ滞空させるのがやっと。
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(0)「十分だ」
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(0) けれど、カナタとハジメにとってはそれで十分だった。ハジメは咄嗟に周囲を確認し、正面の壁に奥に通路が続いてる壁を発見すると首にユエを抱きつかせ、香織は抱き寄せた姿勢で天上にアンカーを打ち込み、ターザンの要領でその穴に飛び込む。カナタも咄嗟に竜に変身、体勢の都合上、背に乗せる事は出来ず、両の掌に乗せる形でシアを横穴まで連れて行き、自分は変身解除と同時に穴の縁に掴まり、ハジメに引き上げてもらった。
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(0) それから改めて、底の方を覗くと無数のサソリがワシャワシャと蠢いており、女の子三人は鳥肌が立ったのか、自分の腕を擦る。そして天上に目を向ければ――
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(0)〝彼等に致死性の毒はありません〟
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(0)〝でも麻痺はします〟
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(0)〝存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能して下さい、プギャー!!〟
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(0) 此処に落ちた場合、サソリの麻痺毒で動きを封じられてサソリを視界に入れない為、もしくは藁にも縋る思いで天井に手を伸ばす為など、兎に角仰向けになろうものなら、爛々と輝くミレディからのメッセージを延々眺める事になる。
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(0)(判っちゃいたが性質が悪いな……)
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(0) その後も、進む通路、たどり着く部屋の尽くで罠が待ち受けていた。突如、全方位から飛来する毒矢、硫酸らしき、物を溶かす液体がたっぷり入った落とし穴、アリジゴクのように床が砂状化し、その中央にワーム型の魔物が待ち受ける部屋、そしてその全てにまるでこちらがどう足掻いたり動いたりするかを読んでるかの如く、ミレディの煽り文が目に付き、カナタ達のストレスはどんどん蓄積され、最初は挑発文を見つける度に、苦笑を浮かべていた香織も、今や他の人が見れば恐れを抱くほどの物凄く良い笑顔を浮かべている。やがて、幅が6,7メートルにも及ぶ通路に出る。一見すれば何も無い通路だが、此処までの経験上、絶対に何か罠があると一行は確信していた。そして歩き始めて暫く、もはやイヤと言うほど聞きなれた「ガコン」と言う音と共に、後ろから何か転がってくる音。もはや振り向く間もなく、その正体は予測でき、一行は走り始める。
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(0)「か、カナタさん!? 早くしないと潰れますよ!!」
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(0)「いや、なに……流石に此処までやられっぱなしってのもアレだからな」
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(0) そんな中、カナタだけは大玉が転がってくる方を向くと四つんばいの姿勢から再度竜に変身。流石に二足立ちは無理だが四足状態なら何とか変身スペースを確保できた。
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(0)『たまには一矢、報いてやらんとなっ!』
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(0) そう叫び、ドラゴンブレス(カイザーブレスの威力・チャージ時間が共に縮小されたもの)を転がってきた大岩に向かって放つ。一瞬の拮抗の後、熱光線は大岩を粉々にし、奥の壁にも穴を開ける。先の変身分も含め、その段階で魔力が尽きたのか、カナタの姿は元に戻り魔力回復ポーションを服用しながら、「どうよっ!」得意げに4人の方を振り返った
(0)
(0)「カナタさ~ん! 流石ですぅ! カッコイイですぅ! すっごくスッキリしましたぁ!」
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(0)「まぁ、これでちょっとは溜飲が下がった事だし、さっさと先に――」
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(0) 次の瞬間、ズシンと言う音と共にカナタの背後に先程程と全く同じ大玉が落ちてきた。
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(0)「マジかよ……」
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(0) 大玉との追いかけっこを続けること暫く、お約束の横穴が見えたのでそこに雪崩れ込む様に飛び込んだ一行。そして目の前の壁にはお約束の文章。
(0)
(0)“大玉ぶっ壊してスッキリしちゃった!?一矢報いてやったぜ(ドヤァ)!ってしちゃった?ところがギッチョン!大玉の貯蔵は充分さ、ミレディちゃんの方が遥かに上手だったのでした~♪(ドヤァ)”
(0)
(1) 直後、カナタがその文章に向かって榴弾砲撃をぶっ放したのを誰も咎める事はしなかった……そして無言で先に進み始めるカナタ達。次の通路一本道だったので何かあると思ったが不思議なぐらい何も無かった。つまりは次の部屋が最奥、ボス部屋の可能性が高い。カナタ達が僅かな期待を抱いて扉を潜ったその先は――
(0)
(0)「……何か見覚えないか? この部屋。」
(0)
(0)「……物凄くある。特にあの石板」
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(0) そう、そこは物凄く見覚えのある部屋とその中央にあるこれまた見覚えのある石版。
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(0)「最初の部屋……みたいですね?」
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(0) やがてシアが誰もが思い、されど嘘であってほしいからこそ口にしなかった言葉を口にしてしまった。そして、それにお答えしますと言わんばかりに石版付近の地面に文字が灯る。
(0)
(0)〝ねぇ、今、どんな気持ち?〟
(0)
(0)〝苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?〟
(0)
(0)〝ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ〟
(0)
(0) ミレディからのNDKメッセージに全員が能面の如き無表情で見下ろす。
(0)
(0)〝あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します〟
(0)
(0)〝いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです〟
(0)
(0)〝嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ!〟
(0)
(0)〝ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です〟
(0)
(0)〝ひょっとして作ちゃった? 苦労しちゃった? 残念! プギャァー〟
(0)
(0) ドパンっ!と、その文字に向かってマッピングを担当していた香織がナイチンゲールを発砲。一発では治まらず、まるで親の敵を討つかのように、マガジン一つ分丸ごとその文字に向かって発砲した。
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(0)「うふ、うふふふ」
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(0)「は、ははははは」
(0)
(0)「フフフフフフ……」
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(0)「フヒ、フヒヒヒ」
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(0)「クックックッ……」
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(0) そして発砲と同時に香織が壊れたように不気味な笑い声を挙げ、それに釣られて他の4人も狂ったような笑い声を挙げる。直後その空間に、打撃音や更なる銃撃音、爆音や熱光線の照射音のオーケストラが響き渡り、話は迷宮探索始まりの段階に繋がるのだった。