行別ここすき者数
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履歴はこちら。
(0)「テツロウ選手、お疲れ様でした。
(0)控え室でゆっくりお休みください。」
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(0)レフェリーの1人が哲郎に声をかけた。
(0)哲郎は会釈だけをしてその場を後にした。
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(0)「……テツロウ………
(0)おめでとう!!!!」
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(0)闘技場を抜けて少しした所にミナがいた。後ろにサラもいる。
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(0)「ギリギリだったとはいえあのゼースが白星奪うなんてね……」
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(0)サラも哲郎の実力を認める他なかった。
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(0)「…でも私は予想してたよ!
(0)あの時ゼースを組み伏せたんだから!」
(0)「いいえ。 それは違いますよ ミナさん。
(0)その時はただ彼が油断してるだけで、彼の実力は全く出さないまま倒しただけです。
(0)実際、彼の魔剣に防戦一方でしたから。」
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(0)「随分 謙虚なことね。それをゼースが聞いたらどう思うかしらね?」
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(0)サラはおそらくゼースが情けをかけられたらどう思うかと言いたいのだろう。
(0)しかし哲郎はそんなこと気にする必要はなかった。この瞬間 彼との因縁は切れたのだから。
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(0)「さっき言ったこと、覚えてるわよね?」
(0)「この世界の厳しさを教える でしたっけ?
(0)それなら大丈夫ですよ。 たった今彼からたっぷり教わりましたから。」
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(0)「…ゼースを倒したくらいでこの魔界コロシアムを優勝できるとでも思ってるのかしら?」
(0)「いいえ。それはこれからわかるんじゃないですか。これから戦いを繰り返していくことでね。」
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(0)哲郎とサラが言い合っていると、レフェリーが駆け寄ってきた。
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(0)「テツロウ選手、そろそろ第二試合が始まりますので、退場を願います。」
(0)「あぁ。 すみません。」
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(0)レフェリーに促されて哲郎は足早にその場を去ろうとした。
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(0)その時、
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(0)男の絶叫が聞こえた。
(0)何事だと哲郎が声の方へ駆け寄ると、控え室への通路でゼースの喉を掴む1人の男がいた。
(0)黒の長い髪をオールバックにし、肌はゼースと対照的に色白で、目は彼同様につっていた。
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(0)「あ、兄者………!!! 許してくれぇ……!!!
(0)あいつはいつか必ず俺が………!!!!」
(0)「黙れ。」
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(0)その黒髪の男は首を掴んでいた手に明らかに力を込めた。
(0)哲郎にも魔法の類であることはわかった。
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(0)ガッ!
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(0)黒髪の男の手首が掴まれた。
(0)掴んだのは哲郎だ。
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(0)「……何をしているんだ。」
(0)「貴様、テツロウ・タナカ……!!」
(0)「何をしているんだと聞いている」
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(0)哲郎は内心激怒していた。 最早この男には敬語すら必要ない。
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(0)「分からぬか? 処刑だよ。」
(0)「処刑……!!!?」
(0)「そうだ。こいつは貴様という【下等種族】に不覚をとった。
(0)魔界公爵の名に傷をつけた。その罪を処刑以外でどうやって裁くというのだ?」
(0)「そんなことで弟の命を……!!!?」
(0)「甘い事だな。我が一族は力こそ全てだ。」
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(0)その黒髪の男の言うことは哲郎の怒りに油を注いだ。
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(0)「人の命を、何だと思っているんだ!!!!!」
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(0)遂に哲郎の怒りが爆発した。ゼースもいけ好かない男ではあったが、人の命を弄ぶこの男の方がよっぽどの外道だ。
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(0)「おい貴様、あまり思い上がった口を聞くなよ。まるで貴様が人の命とやらの重要性を知っているかのようだ。」
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(0)そう。哲郎は知っていたのだ。人の命の重さを。
(0)転校を繰り返した彼は様々な人と友情を育んだ。しかし、その全てが報われた訳では無い。
(0)一人、固い友情を育んだ人が交通事故で死んだ。
(0)一人、固い友情を育んだ人が不治の病に侵されて死んだ。
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(0)この経験から哲郎は人の命がいかに尊いものであるか思い知らされたのである。だからこそ目の前のこの男を許す訳にはいかなかった。
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(0)「…貴様の過去に何があったかは分かりかねるが、それは弱者の戯言に過ぎん。
(0)だが、この魔界公爵 跡取りであるこのレオル・イギアに盾突く貴様の度胸に興味が湧いた。」
(0)「……………」
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(0)レオルと名乗るその男はゼースの首から手を離し、指で哲郎の胸に触れた。
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(0)「私はCブロック出場だ。
(0)何が言いたいか分かるか?」
(0)「僕が勝ったら彼を許そう。 そんなところでしょ?」
(0)「その通りだ。そして私が勝った暁には魔界公爵家の名のもとに貴様を処刑させてもらう。」
(0)「……いいでしょう。」
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(0)哲郎の言葉を聞くなりさっきまで怯えていたゼースが立ち上がった。
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(0)「バカな!!!やめてくれ!!! お前はイキってるんだ!!! 兄者は俺なんかとは比にならねぇ!!!
(0)だから止めて━━━━━━━━━」
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(0)そこまででゼースの言葉は遮られた。
(0)哲郎とレオルが彼に同時に貫手を向けたからである。
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(0)「……………」
(0)「……………」
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(0)2人は見合い、同時に貫手を引っ込めた。
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(0)「…僕がこの世において絶対に負けない確信のある人間の種類 が何か分かりますか?」
(0)「何だ?」
(0)「あなたのように慢心している人ですよ。」
(0)「馬鹿馬鹿しい。 その心根自体が慢心であろうに。」
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(0)哲郎がポケットから何かを取り出す。
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(0)「もしあなたが勝ったなら彼や僕をどうしてくれても構わない。
(0)ただし、」
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(0)哲郎がポケットから取り出したのは1本のナイフだった。あの女性から護身用にと手渡されていたものだ。
(0)それを哲郎はレオルに向けた。
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(0)「僕が勝ったらあなたの首を貰いますよ?」
(0)「よかろう。貴様のような下等種族に遅れを取るようなら私の存在価値などない。」
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(0)そこまで言ってレオルは哲郎に背を向けた。
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(0)「では私は失礼させて貰うぞ。これから試合が控えているのでな。」
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(0)そう言うとレオルは去っていった。
(0)さっきまで腰を抜かしていたゼースが哲郎に詰め寄る。
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(0)「め……面目ねぇ 面目ねぇ!!!!
(0)もうダメかと思った 死ぬかと思った!!!
(0)何て礼を言っていいやら………!!!!」
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(0)泣きながら差し出してくるゼースの手を哲郎は払った。
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(0)「これから僕のことは絶対に応援しないと約束しなさい。もし命惜しさに僕を応援するなら、僕はわざと負けることもできる。」
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(0)その哲郎の言葉にゼースはうなだれた。
(0)その風体に公爵家の威厳は微塵も無かった。
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(0)***
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(0)「聞いたわよ。あなた、あのレオルと一悶着あったようね?」
(0)「えぇ。まあね。」
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(0)レオルに宣戦布告して戻ってきた哲郎にサラが言った。
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(0)「大変なやつに喧嘩売っちゃったわよあなた。あいつはやると決めたら絶対にやるやつなんだから。」
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(0)レオルと面識があるのかサラは親身に哲郎の心配をしてくれる。しかし哲郎にはそんなことは問題ではなかった。
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(0)忠告に無視を決める哲郎にサラが言う。
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(0)「じゃあテツロウ。ゼースとあいつ、どっちがクズいと思う?」
(0)「そんなこと考えたくもない。」
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(0)哲郎は既にレオルへの怒りを押さえ、切り替えていた。
(0)彼の前に来る次の試合に全てを集中させていた。