アルバス・ダンブルドアと星の魔法使い (十人十色)
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ネタをそのまま置いてあったりするので、注意です。
読まなくて大丈夫です。ただ亀更新ですので、先バレを気にしない、先が気になる方用に置いておきます。


名:サフィロス・A・アストラ

(サフィロス・アレックス・アストラ)

愛称:サーフ

性別:男

父:カルデア人 母:ギリシャ人

出生:1880年 9月

ギリシャ共和国 アルカディア県

寮:スリザリン

杖:黒檀に一角獣

 

言語:古代ギリシャ語 また、古典ラテン語を話していた。

※フラメル夫妻も教養として古典ラテン語が使えたので、最初の意思疎通は古典ラテン語で行なっていた。

後に、イギリスで生きてゆくことになるので、フラメル夫妻が英語の教育を施した。また、年齢の関係もあり話せても読み書きが不十分だった古典ラテン語の読み書きの面倒も見た。

 

容姿:色白の肌 髪は黒の直毛

瞳の色は黒か緑で迷っています。

グリーンサファイアの様な青みがかった淡い緑瞳です。

追加:翠にしようかと思ったのですが、9月の誕生石がサファイアで、石言葉がこれから書こうと思っている主人公にぴったりだったので、瞳の色はサファイアをはめ込んだ様な綺麗な碧眼です。

更に追記:サファイアは赤色以外(赤はルビー)のコランダム(赤以外の色のコランダムは全てサファイア)という鉱石だそうです。元々サフィロス君の瞳の色は緑系統の色にしたいと思っていたので、サファイアにするのを抵抗がありました。しかし、エメラルドとまではいかなくともグリーンのサファイアがあるというではありませんか。というわけで、サフィロス君の瞳はグリーンサファイアをイメージした下さい。

 

年代を見ても分かる通り、アルバス・ダンブルドアと同級生です。

 

 

サフィロスの名前はかつて無いほど悩みました。しっくりくる名前が中々決まらず、長い間放置することになりました。しかし、ハリーポッターは名作ですので、何回か再熱し、この設定は思い入れがありますのでどうにか書きたいという気持ちがありました。

 

 

捏造点

ハリー・ポッターと賢者の石,p198より

"水曜日の真夜中には、望遠鏡で夜空を観察し、星の名前や惑星の動きを勉強しなくてはならなかった。"

など、1年の必修科目である天文学は原作でも詳細は記されていなかったので捏造しています。

→深夜の時間帯なので、移動には先生が付き添っている。

→付き添いの関係上、寮ごとに授業しているのでは?

 

・シリウス・ブラック2世の人物像

シリウス(親世代)似の気怠げなイケメンを想像しています。

 

・フィニアス・ブラック

マグルの権利を支持した為、ブラック家から抹消され生年月日が不明(公式情報)→アルバス・ダンブルドアと同い年にさせていただきました

 

同室の生徒達

→スリザリン寮の寝室が何人用か情報が無かったためボカしています。

 

 

 

登場人物

・フィニアス・ブラック

凄いと思うものを素直に称賛できる人

 

2年生の出会いでは、

「どうして君は他人の責を負いたがるんだ?それは君が負うべき物では無いはずだ。」とサフィロスに言われる。

ブラック家の人間として、いずれ当主となる兄のために生きなさいと幼少期より言い聞かされて育った。その為、強気でブイブイ言わせてた兄に下手に敵を作らない方が良いのに、と尻拭いに奔走していた。

そんな中で兄のことを「他人」と言われ、目が覚めるような思いをした。

 

 

 

〜以下大まかな予定〜

長々と書くよりもあった出来事をぽんぽんと浮上させていく短編集のイメージ

 

序章

第1章 ホグワーツ入学前から、卒業まで

第2章 卒業後から二人がホグワーツの先生になるまで

   ゴドリックの谷へ

   サーフの故郷探しの旅、故郷が見つかってからは神殿の宝物探し。

   ホグワーツの教授に

第3章 ホグワーツ教員編

   ニュート・スキャマンダーの話

   ファンタスティックビーストに片足突っ込む

第4章 トム・リドル編

   トム・リドルの元へアルバスが向かう際に同行するところから始まる

第5章 アルバスとゲラートの終わりの話

   ゲラート・グリンデルバルドとアルバスの決着

以下番外編風

親世代

子世代

 

トム・リドルの性質は私も掴み切れていません。

どうあがいても、ヴォルデモート卿の誕生は避けられなかったルート

普通に教師として接して時々嗜めれば人を殺めることもなく暫く平和な時代が続いたルート

を考えています。

 

トム・リドル編簡易プロット出来ました。ルート決定しました。

 



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序章

鬱蒼と生い茂る森。その中で人の子の鳴き声が木霊していた。

森に住む動物達はその声に耳を傾け、その彷徨っている様をただ見守っていた。

その子は泣きじゃくりながら母を呼んでいた。

 

イギリス、デボン州に住むニコラス・フラメル氏は森に木霊する泣き声を聞いた。

「これは…」

ニコラス・フラメルは泣き声のする方へ駆け出した。

森の常とは違うその様子に、ニコラス・フラメルは驚き思わず立ち止まる。

いつになく静かだった。

いや、子供の泣き声で普段より喧しいのだが、森が、森に住む生物が、息を潜めているかのように静かだった。

ニコラス・フラメルは驚いて止めた足を、ゆっくりと声の主の元へ踏み出す。

 

段々と声が近付いてきた。

 

そこでニコラス・フラメルは、黒い動くものを見付けた。周りの動物達がじっとしているなか、それだけはひょこひょこと動いていた。

草むらよりも少しばかり高い頭が揺れているのだ。

ニコラス・フラメルがその頭を追うと、開けた所に出た。

黒髪の少年だった。

ぼろぼろと涙を零し、止まらないそれを両手で拭っている。

ニコラス・フラメルと少年の間にはもう遮るものはない。

その時、子供の体から霧のように白い光が浮き出すように現れた。

そう、守護霊の呪文に近い霧のような光だ。

白い光は少年の体を包み、より一層光輝いたかと思うと離れる。

すると、その子は膝を折って地面に座り込んでしまった。

どうやら白い光によって眠らされた様子だ。

 

次にその光は、ニコラス・フラメルの目の前まで漂ってきた。

 

光は形を変え、文字を表した。

それはニコラス・フラメルに対する謝罪から始まる彼に対する伝言であった。

 

全てを伝え終えると、役割を終えた事を表すかのように、白い霧のような光は霧散した。

 

ニコラス・フラメルは、しばらく固まっていたが、考えがまとまったのか、地面に寝ている子供を腕に抱いて家へと向かった。

 

 

 

少年の名前は、サフィロス・A(アレックス)・アストラ。

彼は、故郷を追われながらも、故郷の名を知らなかった。

彼は、母の声を、優しさを、姿を知っていながらも、母の過去を知らなかった。

彼は、何も知らなかった。何も。

彼は、自分の特殊な生活も、一族についても、母のことも、共に暮らしていた青年のことも…本当に、何も知らなかった。

 

 

これは、そんな少年と彼の友人の物語。

 

 

 

「サフィロス。貴方に星女神の御加護があります様に、祈っているわ。…もう行かなきゃ。彼一人に任せきりには出来ないもの。」

「強くありなさい。」

 

「…愛しているわ、サフィロス。」

 




文才が欲しい。読者としての立場ではこういう文章が良いな、と思う文章があるのですが、中々自分が書くとなると上手くいきません。
納得がいかなくて、何度も修正したので日本語がおかしい部分があるかもしれません。宜しければ指摘お願いします。


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第1章
誤飲


今回、フラメル夫妻が登場します。
口調や家の構造については、あくまで私の想像ですのでご注意下さい。


柔らかな光が降り注ぐ春の陽気の中。

小さな影が忙しなくちょこまかと動き回っていた。

小さな影は、子供_サフィロス_だ。

彼はニコラス・フラメル氏に秋の始まりの頃に拾われた。

最初は周りを警戒してか、部屋から出ず、悪い時には一日中動かなかった彼だったが、フラメル夫妻の優しさに触れ、徐々に心を開いていった。

一つ冬を越し春になる頃までに、春の陽気がサフィロスの凍った心を段々と溶かされてゆくかのようだった。

春となり、更に最近は外へ出るようになっていた彼は、今日も今日とて家の中を散策する。

 

ふと、重々しい木の扉が目に入った。そういえば、この部屋には入ったことがなかった。

まだ幼く好奇心旺盛なサフィロスはすぐにその部屋が気になり、その扉のドアノブに手を掛けた。

動く。

鍵はかかっていなかった。

サフィロスは不思議と緊張してきていた。ドキドキと自分の脈の音を聞きながら、静かにドアノブを引いた。

小さく開いたその扉の隙間から、サフィロスは部屋の中を覗き見る。

「わぁ…」

サフィロスの口から思わず、というように感嘆の声が漏れた。

部屋の中には、サフィロスが見たこともないような物が数多くあった。

部屋の天井には窓があり、その天窓から明るく柔らかな光が差している。

サフィロスは、さっきまでの緊張を忘れてしまったのか、目の前に広がる未知の光景に惹かれるようにゆっくりと部屋の中へと入って行った。

あれは何だろう、これは何だろう、と周りを見渡しながら歩いている内に、キラリと光る物を見付けた。

床の上にある。

興味を持ったサフィロスは、それに近付いてしゃがみ込む。

それは赤褐色、いや紅茶色の飴玉のようにサフィロスには見えた。

サフィロスはガラスを見たことが無かったので、分からなかったが、その固体はガラスのようにも見えた。

サフィロスはそれを見て、母が作ってくれた飴を思い出した。

紅茶色の固体を天窓から降り注ぐ光に翳すとキラキラと光る。

彼はフゥッとそれに息を吹きかけた。

埃が落ちたのを確認すると彼はそれを口に含んだ。

おや、想像していた甘さが口の中に広がってこない。

不思議に思い、首を傾げていると、

 

「サフィロス!ここに居たのね。」

 

急に声を掛けられたので、サフィロスは驚きそれを飲み込んでしまった。

 

「…ケホッ、ケホッ」

 

フラメル夫人が、咳き込んでいるサフィロスに驚いて駆けて来た。

フラメル夫人がサフィロスの背中を摩る。

 

「どうしたの。サフィロス。」

 

「…飲み…込んじゃっ…た…」

 

フラメル夫人はその言葉を聞いて瞠目した。

 

「まぁ…あなた!あなたーー!」

 

 

 

 

「サフィロス。何を飲み込んでしまったんだい?」

 

ニコラス・フラメルは、サフィロスと視線を合わしてそう聞いた。

 

「キラキラしていて、飴みたいだった。」

 

そう答えたサフィロスに、フラメル氏は暫く考え込み、一つの結論を出した。

 

「…賢者の石か…ッ!」

 

その言葉に、フラメル夫人も驚く。

 

「まぁ!…あなた…聖マンゴに行った方が…」

 

「いや、これは彼らの専門外だろう。

それに、賢者の石は幾つかある有害な鉱物とは違うからね。気管に詰まったわけではないし…このまま暫く様子を見よう。」

 

フラメル氏はそう言うと、またサフィロスと目を合わし、しっかりとした口調で言った。

 

「サフィロス。もう一人でこの部屋に入ってはいけないよ。」

 

そう言われると、サフィロスは俯いた。

 

「もう…入ってはいけないのですか…?」

 

その言葉を聞いて、ニコラスは目を丸くする。

 

「興味があるのかい?サフィロス。」

 

「はい。ここには、私が見たことのないものが沢山あります。」

そう聞いて、フラメル氏はにっこりと良い笑顔を見せた。

 

「そうか。それでは、また今度案内しよう。

さぁさぁ、ペレネレ。ご飯の準備ができていたのだったな。」

 

「え、ええ。」

 

「それではご飯にしよう。」

 

そう言ってフラメル氏は、妻とサフィロスを連れて部屋を出て行った。

 

 

 

 その後、サフィロスの体には目立った異常は見られず、このまま異常が見られなければ、無理に手を出す必要はない事となった。

 

サフィロスがニコラス・フラメルの研究室に入り、彼の実験道具に興味を持ったことにフラメル氏は喜んだが、彼はその見たことも無い物に興味を持っていただけであった。

事実、彼は錬金術に少しばかりの興味を示したものの、熱中するまでとはいかず、日がな外を駆け回るか、またはフラメル夫人が教えてくれる英語の習得を急いだことを記しておこう。




誤字報告歓迎いたします。

追記:ファンタスティックビースト2にてニコラス・フラメル氏が登場するとの話ではないですか!?鑑賞次第変更点があれば変更致します。(活動報告に現時点での捏造点を記しました。詳しく見たい方はどうぞ。)


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入学許可証と杖

追記
映画や原作でお馴染みのギャリック・オリバンダー氏ですが、生年月日が1919年以前の9月25日となっていますので、今回の店主は先代か先先代をイメージしています。


 1892年夏。その日は随分と良い天気で、青々とした若葉がキラキラと輝く夏日だった。こじんまりとした一軒家の2階から、黒髪の少年が眩しそうに外を眺めている。

サフィロスだ。幼かった彼はフラメル夫妻の下ですくすくと成長し、既に11歳を迎えていた。

 

「サーフ!貴方にお手紙が届いているわ!」

 

「ペレネレさんの声だ…はい!すぐ行きます!!」

 

フラメル夫人の声が弾んでいたことに気付いたサフィロスは足早に階段を駆け下りていった。フラメル氏が如何に偉大な錬金術師であるかは説明しなくとも周知の事実であろうが、屋敷は無駄に大きな訳では無いので、彼はすぐにフラメル夫人の元へ辿り着いた。

ニコニコと楽しげな笑みを浮かべる彼女の姿に、彼は首を傾げる。はて、直近で何か良いことでもあったのだろうか。

 

「おめでとうサフィロス!ホグワーツから入学許可証が届いたわ!さあ、必要な物を買い揃えなくちゃ!」

 

フラメル夫人はまるで自分のことのように喜び、サフィロスに未開封の封筒を手渡す。自分宛の郵便物を受け取ったことの無かった彼は慣れない手付きで受け取り、後ろで見守る夫人と共に封蝋を破った。

 

___

 

 イギリス魔法界での買い物といえば、ダイアゴン横丁である。フラメル氏も夫人同様サフィロスの入学が許可されたことに喜び、彼らは早速ロンドンへと向かった。

 

さて何から買おうかと悩み、フラメル夫妻はサフィロスよりも余程熱心に議論を始める。サフィロスはといえば、商店街を興味深そうにキョロキョロと見回していた。彼が暮らすデボン州は長閑な片田舎で、様々な品物で溢れかえった情景があまりにも物珍しかったからだ。

 

「サーフ、まずはやはり杖を買いましょう。あまり嵩張るものでは無いし、魔法使いの証と言える杖をまず貴方にプレゼントしたいわ。」

 

フラメル夫人はサフィロスにそう言うと、彼の手を引いて歩き出した。

 

 2つの大きな『OLLIVANDERS』の文字とその間に挟まれた小さな『Makers of Fine Wands since 382 BC』の剥がれかかった金色の文字が店を彩っている。

随分と年季の入った扉を押し開けるとチリンチリンと店の奥の方ベルが鳴った。

 

店内は杖の入っているであろう箱が天井まで届く棚に所狭しと並べられている。

 

「いらっしゃいませ。」

 

サフィロスが箱の多さに圧倒されていると、老人が箱の山の間から現れる。

 

「失礼、ここいらで最も評判の良い杖職人だと聞いた。この子はこれからホグワーツへと入学するのだが、杖を見繕って貰えないだろうか。」

 

フラメル氏は優しくサフィロスの背中に手を置きながらそう言う。

 

「これはこれは…ニコラス・フラメル殿。お会いできて光栄で御座います。そちらの方は…どういったご関係でしょうか?」

 

オリバンダー氏は少しばかり質問の仕方に悩むそぶりを見せて、彼らの関係性を尋ねた。

フラメル氏はポンとサフィロスの背を叩き、彼に名乗るように合図した。

 

「サフィロス・A・アストラと申します。」

 

「…アストラ?今、アストラと仰いましたか?」

 

「え、えぇ…」

 

名乗り慣れている訳ではないサフィロスは、尋ね返され何か間違ってしまっただろうかと狼狽る。そんなサフィロスの造形をよく確認し、オリバンダー氏はどこか懐かしむような顔をした。

 

「貴方のお母様もここで杖を買われました。」

 

それはサフィロスにとってあまりにも驚くべき事実だった。

 

「え…?母は魔女だったのですか?」

 

母が魔法使いだということをサフィロスはその時初めて知った。

 

彼が知っていたのは、あの懐かしい故郷で素朴な衣装を身に纏い優しく微笑む母だけだった。故郷では地図など見たことがなく、あの地の正確な場所をサフィロスは知らないが、こんなに発展したロンドンと繋がりがあったとは思えない。

思い出の中の母の姿は到底魔女とは結びつかなかった。

 

「ええ、そうですとも。貴方のお母様は、この店でハシバミに一角獣の毛を芯とした杖を御購入されました。さて、杖腕はどちらですかな?」

 

「右…です。」

 

フラメル氏は早速杖を選ぼうとブツブツと呟きながらサフィロスに相応しい杖の収まる箱を探す。

 

「そういえば、彼女は一角獣の杖と相性が良さそうでしたな。一角獣の毛を芯に使用した杖の中から探していきましょう。」

 

サフィロスの頭の中は母が魔女であったことへの驚きがぐるぐると渦巻いていた。

彼はオリバンダー氏が渡す杖を半ば放心状態で受け取り、杖達は彼を主人と認めないと反発するように店内を荒らす。

それに対してオリバンダー氏は慣れたように次々と新しい杖をサフィロスに握らせる。

 

「杖材は黒檀、芯は一角獣の毛、長さは23cm。」

 

次に渡された真っ黒な美しい見た目をした杖は、まるで自分達そっちのけで考え込むサフィロスに対して拗ねるかのように爽やかな風を巻き起こし、彼の肩まであるサラリとした髪を攫った。

はっ、と目の前の杖に意識が奪われる。

 

「おお、この杖ならば良い関係を築けるのではないでしょうか?

芯は最初に説明したように一角獣の毛です。とても忠実で、最初の持ち主と強く結びつきます。」

 

オリバンダー氏はとても穏やかな顔をして、杖を丁寧に箱へ詰めるとサフィロスへ手渡す。

 

「この杖が貴方と共に末永く在ることを祈ります。」

 

それは見習い魔法使いを送り出す神聖な儀式のようだった。

 

 

 

 

 杖の箱を抱き抱えて、店の外へと出る。サフィロスは箱を持つ腕がほんのりと暖かくなったような気がした。

 

「…フラメルさんは、私の母が魔女だったことを知っていたのですか?」

 

まだまだ背が届かない為、フラメル氏を見上げながらサフィロスは尋ねる。

 

「…あぁ、知っていたとも。ここで話すのも何だろうから、どこか店に入ろうか。」

 

フラメル氏はまだ幼さの残る彼にどう伝えるべきか迷うように、困ったようなしかし優しげな笑みを浮かべる。

お昼時であったことから、彼等は飲食店へと足を運んだ。

 

 

「君の母については私も詳しいことは知らないんだ。」

 

 フラメル氏は食事の席に着くと思い出すように静かに語り始めた。サフィロスも決して急かしたりはせず、静かに彼が語ってくれるのを待つ。

 

「君の母親はある危機的状況に陥り、咄嗟に君を守ろうと、誰かに託すことにしたという。そして私は君を託されるときに伝言を受け取った。私達はその伝言でしか事情を知らない。」

 

そう語るフラメル氏は少し申し訳なさそうな顔をしていた。

そして箇条書きを読み上げるように、フラメル氏はポツリポツリと話し始める。

 

自分はホグワーツの卒業生である

訳あってこの子を預けなくてはならない

自分の命が無事であれば迎えに来たいが、その可能性は低い

事情を説明する余裕がない

世話をすることが出来ないならば孤児院への手続きをお願いしたい

見ず知らずの私からの不躾な願いを申し訳ないと思う

 

「母校であるホグワーツへ通わせて欲しいという要望もあった。彼女がホグワーツの卒業生であったことから、ここで杖を買った可能性が高いと思っていたが、やはりそうだったようだ。」

 

フラメル氏はそこで肩をすくめてみせた。サフィロスは静かに聞いている。

 

「君を引き取ったのは…目が蕩けるほど泣いていた君を放って置けないと思ってね。妻と相談して、君が嫌でなければ私達が育てようと思ったのだ。」

 

「フラメルさん…」

 

サフィロスは買ってもらった杖を大事そうに抱えながら、夫妻に対して深々と頭を下げた。

 

「今まで本当にお世話になりました。僕はお二人に育ててもらって本当に良かったと思います。これからホグワーツに行きますが、精一杯学んで、お二人に恩返ししたいと思います。」

 

「おお、そんな事考えなくても良いんだよ。サフィロス。君は私達の自慢の息子だ。」

その言葉にサフィロスは薄っすらと笑みを溢した。




後書き
ファンタスティックビースト視聴しました。なんてこったい、フラメルさんは大層なご老人だった。この設定を考えた当初は知る由も無かったので、もう少し元気な(老ダンブルドア校長のような)設定で進めていきます。

舞台はアルバス・ダンブルドアも入学する1892年。
世界史での直近の出来事といえば、1894年日清戦争などがありますね。私はイギリスのデボン州を訪れたことがないので、詳細には書けませんでしたが、当時の都会と田舎の差は凄まじいものがあったのではないかと思います。サフィロスは故郷とデボン州でしか生活していなかった為、ロンドンやダイアゴン横丁の発展っぷりには驚いたのではないでしょうか。

・ハリーポッターの杖の設定はとても好きです。
興味はあるが知らないという方は一度調べてみることをお勧めします。

・ホグワーツの入学許可証は、いつ頃届くのでしょうか。ハリーは7/31生まれでそれ以前からフクロウ便にて送られてきていたので、夏の同じ時期に一斉郵送されているのかなと思ってこの話を書いています。


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ホグワーツへ

 紅色をしたピカピカの蒸気機関車がプラットホームに停車していた。毎年9月1日11時にキングズ・クロス駅を出発するホグワーツ特急だ。

 

「それじゃあ気を付けるのよ。私達はホグワーツの卒業生じゃないから詳しくはないけれど、魔法学校での生活は貴方の人生をきっと彩ってくれるわ。」

 

出発時間に十分に間に合うように駅に着いていたフラメル夫妻とサフィロスは、ゆっくりと言葉を交わしていた。

 

「はい、ペレネレさん。…お手紙を書いても宜しいでしょうか…?」

 

サフィロスがそっと窺うように尋ねたその言葉にフラメル夫人は破顔した。

 

「えぇ、ええ!勿論よ!ちょっとしたことで構わないわ。貴方が何を思ったのか、聞かせてちょうだい。」

 

夫人の嬉しそうな様子を見て、フラメル氏は感慨深そうに目を細めていた。

 

「サフィロス…君と出逢ったあの日のことを思い出すよ。学生生活というのは、人を何倍にも大きくしてくれる。私とペレネレも学生時代に出逢ったしね。君の学生生活が満ち足りたものになるように、祈っているよ。」

 

「はい、フラメルさん。」

 

ここまで育ててくれた二人に暫しの別れを告げて、サフィロスはホグワーツ特急に乗り込んだ。

 

列車内の人は疎らで、まだまだ空きのある個室から彼は端のコンパートメントを選んだ。自然と先頭車両の喧騒から離れる。彼自身が自覚を持ってその席を選んだのかは分からないが、彼は人々の騒ぎに慣れていなかった。

 

コンパートメントに自分の荷物を運び終えると、列車の窓からホームにいる夫妻が見えた。最後まで見送ろうと追ってきてくれたらしい。

サフィロスは閉まっていた窓を開け、窓枠に手をついた。

 

「僕、一所懸命勉強します。お二人が誇りに思えるように、懸命に。」

 

列車の出発を告げる笛が鳴った。汽車はゆっくりと滑り出し、フラメル夫妻はサフィロスに手を振る。

 

「「いってらっしゃい。」」

 

「行ってきます!」

 

あまり表情を動かさないサフィロスにしては珍しい晴れやかな笑顔だった。

 

 

 

 ホグワーツで学ぶ為の道具を全て揃えてくれたフラメル夫妻に胸を張れるようにサフィロスは勉学に励もうと思った。早速、コンパートメントに戻り、一年生の教材を取り出して予習を始める。

 

「ここの席、空いてるかしら?」

 

サフィロスが教本を読み始めてからどれ程経っただろうか、声が掛けられた。顔を上げると、少女が扉を少し開けサフィロスの方を窺うように見ている。幼い容貌にサフィロスは同じ新入生かと思い、空いている向かいの席に掌を向けた。

 

「どうぞ、空いていますよ。」

 

「ありがとう!」

 

少女は嬉しそうに笑みを浮かべると弾むように向かいの椅子に腰かけた。その動作を見届けるとサフィロスは再び膝の上の教本に視線を戻す。

「私は__」と少女は愛らしい笑顔を見せて名乗った。

 

「あなたの名前は?」

 

「サフィロス・アストラです。」

 

ぷつり、と会話が途切れた。

 

「…それはなんて本?」

 

「基本呪文集です。」

 

ぶつり、と音が聞こえるような会話の途切れ方だった。サフィロスは初対面の相手とどの様に会話をするのか知らなかった。

 

「…ふーん、そうなんだ。」

 

向かいの席に座っている少女は既にサフィロスに興味を無くした様子だった。ぷつりぷつりと途切れる会話は彼女にとって全く面白いものではなかっただろう。

 

今の彼は言葉の文字通りの意味しか読み取っていない。

フラメル夫妻とは出逢い方も特殊であったし、比較的長い時間を共にしていた(夫妻が大人で幼いサフィロスにも分かりやすいように丁寧に話していたこともある)ので日常会話で困ることはなかったが、相手は同い年の女の子だ。サフィロスは「つまり何が言いたいんだ。」と思うことさえない。ただ機械的に聞かれたことに答えることはできるが、質問の意図を汲み取る能力がないのだ。圧倒的に経験値が不足していた。

 

少女は若干気まずそうに移りゆく車窓の外を眺めている。

 

「あ…あの…」

 

その時、中を伺うように控えめに扉が開けられた。

 

「あら?貴方も席が見つからなかったのかしら、どうぞ掛けて下さいな。」

 

少女はこの状況を打開する糸口を見つけたように喜んで扉を開けた少年を中へ招いた。

サフィロスよりも取っ掛かりやすいと思ったのか少女は少年に積極的に話し掛ける。ぎこちないながらもそれに応える少年。サフィロスの目の前では会話が弾んでいた。

 

「一年生の諸君!ホグワーツにもうすぐ到着する!それまでに制服に着替えておくように!」

 

上級生が親切にも通路を巡回しながら一年生に聞こえるように言い回っている。

 

「あら、着替えなくちゃいけないみたいね。先に着替えても良いかしら?」

 

「あ、うん。勿論さ。」

 

サフィロスとその気弱そうな少年は通路で少女が着替えるのを2人して待つこととなった。

 

「あ、あの…」

 

「はい。」

 

「えと、そうだ。名前は何て言うの?」

 

「サフィロス・A・アストラといいます。」

 

「そうなんだ……」

 

再び少年にとって気まずい沈黙が訪れる。

 

「君はどの寮に入りたいとか決まってるの?」

 

「寮…特に決まってはいません。」

 

少年も聞かれていないことをベラベラと喋るタイプの人間ではないらしく、サフィロスの回答を聞くと、そうなんだ、と言い会話は途切れてしまう。お世辞にも愛想が良いとは言えないサフィロスの態度も影響して、少年は拒絶されているのだろうか、とも思い話し掛けるのを躊躇してしまう。

 

「お待たせ!どうぞお二人共!」

 

2人して着替えている間はもう会話などしようとする気さえ起きなくなっていた。

 

 列車は無事にホグズミード駅に到着した。荷物は学校へ届けてくれるというアナウンスがあった為、彼等は手ぶらで列車の外へ出る。

1年生はボートを利用してホグワーツに向かうということを先導の男が告げると、暗い道を歩き始めた。

 

 急に道が開けた。ほぅ、と息を吐く。夜気が頬をかすめた。満点の星空と大きな城の窓からの光が生徒たちの目に飛び込んでくる。他に光源が無い為か、それは随分と光り輝いて見えた。

 

 彼は、母も同じ景色を見たのだろうか、と湖のほとりから星空を背景に浮かび上がるホグワーツを眩しそうに眺めた。

 

 

 ホグワーツの大広間では在校生徒と先生方が一年生の到着を首を長くして待っていた。サフィロスはこんなに大勢の人間を収まることのできる部屋を見るのは初めてで、目を丸くしている。

汽車を初めて見た時も驚いたが、その時はフラメル夫妻が優しく説明してくれた。これからは、未知の経験をしても頼りになる人は隣には居ない。サフィロスは少しばかり不安に思った。

 

 寮の組分けをするという。背凭れの無い、1人用の椅子に随分と年季の入ったとんがり帽子が置かれていた。

 

「アストラ・サフィロス!」

組み分けはアルファベット順で行われるようで、Aから始まるサフィロスは早々に名前を呼ばれた。

椅子に腰掛け、帽子を被る。

 

「おや、珍しくも懐かしい気配だ。」

 

耳の中で声が聞こえるような感覚だった。

 

「母を知っているのですか?」

 

「あぁ、何てったって私は組み分け帽子。このホグワーツで学ぶ全ての生徒に行くべき寮を教えた帽子だ。さて、君の組分けを始めよう。」

 

サフィロスは母の寮を聞こうとしたが止めた。今は時間が無いと思ったからだ。帽子の闇で見えないが、彼の後ろには組分けを待つ多くの生徒がいる。

 

「賢く、誠実で、臨機の才やいざという時に踏み出せる勇気を持っている。資質は十分だ。私は君をどの寮へも送り出せる準備がある。」

 

帽子はウンウンと悩み始めた。

 

「しかし君の本質はまた別の所にある。実に個人主義だ。周囲や世間には流されず、自分というものをしっかり持っているんだね。」

 

固定的な人間関係の中で育ってきたサフィロスは、帽子の言うことを「そうなのか」と受け入れた。自分の本質など考えたことが無かったため、反発することも納得することもない。

 

「君はこの学校で友を得るべきだ。そうすることで君は飛躍的に成長できるだろう。同胞意識の強いあの寮ならば、良き友人が出来るんじゃないだろうか…スリザリン!!」

 

大きな拍手が起きる。

サフィロスは帽子を脱ぎ、ゆっくりとスリザリンの席へと足を進めた。

上級生が寮を代表してか、握手をしてスリザリンに選ばれたサフィロスを歓迎してくれる。サフィロスもあまり動かない表情のまま「ありがとうございます。」とだけ告げた。

 さてさて、組分けが終われば交友を深めるための歓迎会があるのだが__

 

 自分が優秀であることを少し鼻にかけた様子の青年がサフィロスに声を掛けてきた。

 

 自分の容姿が優れているという自覚がありそうな可愛らしい少女が話し掛けてきた。

 

 これからの生活に胸をふくらませ、興奮した面持ちの少年が語りかけてきた。

 

その全ての結果から言えることは、彼の魔法学校での生活は決して順調なスタートを切れなかったということ。それだけは確かだった。




誤字脱字報告歓迎いたします。

後書き
ホグワーツ特急は1892年時点で既に存在していると考えています。

『以前は、親の責任で生徒たちは学校まで向かっており、毎年最大で全校生徒の1/3が学校にたどり着けないことがしばしばであったため、1692年の国際機密保持法制定以降、魔法大臣オッタライン・ギャンボルが、マグルの移動手段である汽車を用いて全校生徒をホグワーツまで運ぶ計画を主導する。
ホグワーツ特急がどこで作られたかは明確ではないが、英国国内で167回に及ぶ忘却術と隠蔽の呪文による工作が行われたとする記録が魔法省に残っている。』→参考文献"https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ホグワーツ魔法魔術学校"


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邂逅

 アルバス ・ダンブルドアは疲れていた。勉強についていけないであるとかそういう理由ではない。彼の父親が犯した罪を知った学生達からの偏見の視線にだ。多くの視線に晒されて続ければそれは疲弊するというものだろう。

ホグワーツを探索し、一年生ながらも余り人の寄り付かない所を知っていたアルバスはただ1人になりたいと思い、湖畔にあるどっしりと根の張った大木に背中を預けていた。心地よい風が吹き、木の葉はさわさわと音を鳴らし、湖の水面を揺らす。風によって作り出された水紋はキラキラと輝いて、ただ眺めているだけで気分が落ち着いていく。

天候も良く、微睡んでいると小さな足音にアルバスの意識は覚醒させられる。折角の休息を一体誰が邪魔したのか、アルバスは心の中で悪態をつきながら、音の主に目を向け、呆然とした。

 

 黒髪の少年だった。自分と余り年齢は変わらないように見える。そして何よりアルバスを驚かせたのは彼が裸足で地面を踏みしめていたことだ。こいつは一体何をやっているのか。アルバスはそう思わずにはいられなかった。

不意に地面ばかり見つめていたその少年の瞳がアルバスに向いた。

目だ。アルバスは思わず鬱々とした気分になる。また目が自分を見ている。

しかし、彼の瞳は一瞬アルバスを確認しただけでまた足元に落とされる。アルバスは拍子抜けした気分で彼を見た。

一瞬目にしただけだが、彼の瞳は美しく涼しげで、宝石のように煌めいていた。彼の瞳を称えるべき宝石の名をアルバスは知らなかったが、そう、少し青みがかった淡い緑で、宝石のようだと思った。だからだろうか、今までこちらを不躾に見てきた多くの目とは違った印象を受けた。

そうだ。あれは宝石だ。目ではなく宝石なのだ。だから嫌な物ではないとアルバスはただ漠然とそう思った。

 

「君。」

 

そう思うと同時にアルバスは彼に声を掛けていた。

声を掛けられると思っていなかったのか、彼は不思議そうに首を傾げアルバスにその宝石を向ける。首を傾げる動きで、少し長い髪がさらりと動いた。その動きも美しく神秘的なものに見えた。

 

「どうして君は裸足で外を歩いているんだ?」

 

「僕かい?」

 

アルバスの問いに少年はまだ首を傾げたままだ。

 

「あぁ。」

 

他に誰がいるというのか。

 

「…窮屈だったから。」

 

「窮屈?ホグワーツに来る前はどうしていたんだ。」

 

靴が窮屈とは一体どういうことだろうか。

 

「もっと楽なものを身に付けていた。」

 

「楽なもの?例えば?」

 

そんな会話から始まり、たわいも無い話をした。少年は浅瀬に入り水を蹴飛ばしながら、アルバスの質問に付き合ってくれる。アルバスは最後に何の気負いなく話したのが遠い過去のことのように感じた。

少年は質問にだけ答えた。見当違いなことを言うのではなく、質問に対してただただ解答する。

最初は酷く無愛想に思えたその顔も、よく観察してみると分かりにくいものの微かに動いている。

 

アルバスはすっかりここに来た目的を忘れて、少年と会話することに夢中になっていた。実際のところ会話というよりも、アルバスによる一方的な質問に少年が律儀に答えていくというものだったが、それがかえってアルバスにとっては楽だった。

 

日も落ち始める頃、そろそろ戻らねば、と彼が言った。確かに直に暗さが増してくる頃だろう。

 

「また、な。」

 

アルバスの口からそんな言葉が零れた。

少年は少し驚いた様に目を見開き、次に微かな笑みを見せた。

 

「あぁ…また」

 

それは、アルバスが初めて見る彼の笑顔だった。

 

その日、アルバスは久しぶりに穏やかな気持ちで眠りについた。

 

 

 

 

 また朝がやってきた。少しだけ憂鬱な朝だ。これから自分が覆していかねばならない周囲の評価がある。

やはり憂鬱だ。アルバスは少し支度にもたついて授業開始ギリギリに教室へ入った。いつもはもっと早く来て、前の席を取る。こんなに遅れて来たのは初めてだったので、アルバスは席が殆ど埋まっていることで、どこに座ろうかと思い迷った。

ふと、後ろの席が不自然に空いていることに気付いた。どちらかというとスリザリンの席であるが、特に定められていないのでまぁ良いかと思いアルバスはそちらへ足を向けた。それに、自分は父のせいでマグル嫌いだとスリザリンの奴等に勝手に勘違いされているからな。と自虐的に思いながら歩いていくと、どうやらある一人の生徒が他の生徒に距離を取られているようだった。

 

見覚えのある黒い指通りの良さそうな髪。

昨日湖畔で会った彼だった。

 

この前会った時は裸足であることに驚いて寮なんて微塵も気にしていなかったが、確かにネクタイはしておらず、どの寮か分かっていなかった。彼はどうやらスリザリンの生徒だったらしい。

成る程、彼の対人能力の低さは仲間意識の強いスリザリンでも孤立してしまうものだったのかと納得した。

 

「隣に座っても?」

 

隣に座ろうと思い声を掛ける。彼はこちらに感情が読み取れない顔を向けて「どうぞ」と静かな声で答えた。

 

「そういえば名乗っていなかった。僕はアルバス・ダンブルドア。グリフィンドールの生徒だ。」

 

そして彼はここで止めはしない。昨日過ごした短い時間で、アルバスは彼のことを大まかに把握していた。

 

「君は?」

 

「僕は…僕はサフィロス・アストラ。スリザリンの生徒だ。」

 

先に回答例を示し、質問すれば彼は答えてくれるのだ。

あまり同輩に受け入れられていない様子を少し観察しただけで見抜いたアルバスはその理由が手に取るように分かった。彼は良くも悪くも純粋なのだ。頭は悪くない。むしろ賢いのだろう。ならばこの原因は何か。恐らく経験が不足しているのだ。先日の会話の中にも散りばめられていたヒント、妙に古めかしかったり丁寧過ぎたりする口調。きっと年齢の近い者達と触れ合う機会が少なかったのではないだろうか。

そう推理し、答え合わせがしたいとアルバスは思った。彼は原因に気付いているだろうか。




原作より、『一学年の終わりには、マグル嫌いの父親の息子という見方はまったくなくなり、ホグワーツ校始まって以来の秀才ということだけで知られるようになった』
アルバスは1年かけて自分の実力で不本意な噂を払拭しましたが、それには凄まじい努力をしたのではないかと思います。勿論才能もあったでしょうが、1年生時点でそんなに評価されるとは…

・現在のサフィロスははたから見れば不思議ちゃんです。アルバスとの親交を通して社会的に成長してくれることを祈ります。


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湖畔

前話『邂逅』の視点違いになります


 さて寮の組み分け直後から寮内で明らかに浮いてしまったサフィロスであるが、物事を覚えることをさして苦だと思わない性質が功を奏したのか、学業については大した問題もなく過ごしていた。

 

 そう、「学業のついては」だ。スリザリンの上級生は責任感からか最低限の声掛けをサフィロスにしたが、同学年は彼と関わりを持とうとはしなかった。寮内での人間関係は絶望的と言っても良かったが、彼はなまじ1人で熟せる実力と性質を持っており、本人は問題だと思っていない。

 

 それよりもサフィロスが問題だと思っていたのは、慣れない生活様式だ。

 彼は何よりきっちりとした制服に辟易していた。ネクタイはまず息が苦しくなる。靴は微妙に足が圧迫されて歩き慣れない。魔法族の服そのものはゆったりとしているので良かったものの、その2点だけはどうしても我慢ならなかった。

あぁ、こんな調子でやっていけるのだろうか、と珍しく弱気なことを考える。

自由な時間ができると彼は注意されるのが分かっているので、人目の少ない場所で良く靴やネクタイを外して歩き回った。ネクタイに至っては、教科書を寮に置くと同時に外してベットへ投げ捨てている。流石に皺になるからか上着は掛けてから、彼は寮を飛び出す。

その日は草を踏みしめたいというふとした思い付きによって校舎を飛び出したサフィロスは、足が汚れることを見越して湖の近くで靴を脱いだ。軽く周囲を見渡すと、人影は見当たらない。彼を良く知る人が見れば上機嫌と分かる様子でサフィロスは地面を踏みしめ歩き始めた。鼻歌でも聞こえてきそうだ。

 

暫く歩みを進めていたのだが、人が木の影に隠れていたことに気が付いた。お相手もどうやらこちらに気が付いたようでバチリと視線がかち合う。人に見られてしまった。しまった、とサフィロスは思ったものの相手も一人でゆったりとした時間を過ごしている様だ。互いに変な干渉はしない方が良いだろう。と判断し、再び視線を戻してこの時間を楽しもうとした。

 

「君。」

 

まさか声を掛けられるとは。サフィロスが訝しげに首を傾げると、少し長い髪がさらりと音を鳴らし揺れた。

 

「どうして君は裸足で外を歩いているんだ?」

 

鳶色の髪に、透き通ったブルーの瞳をした少年だった。

 

「僕かい?」

 

何故見ず知らずの自分に関わってくるのか分からず、彼は聞き返した。

 

「あぁ。」

 

「…窮屈だったから。」

 

「窮屈?ホグワーツに来る前はどうしていたんだ。」

 

良くない行いだと窘められるのかと思ったが、少年は特にこちらの在り方に干渉することは無く質問だけを投げかけてくる。

 

つま先で水面をつつく。水紋が緩やかに広がるのを見ながら、ゆっくりと足を浸した。

素足を水にさらしながら、少年からの問い掛けに答えているとあっという間に時間が過ぎ去っていく。

日が随分と傾いてきた。そろそろ戻らなければ夕食の時間に間に合わなくなる。彼には服装を整える時間も必要だった。

別れを告げると、鳶色の少年は少し寂しそうな顔をして、

 

「また、な。」

 

とサフィロスに向かって言った。

 

サフィロスは少し驚いて目を見開く。この学校に来てそんなことを言われたのは初めてだった。

 

「あぁ…また」

 

自然とサフィロスの顔が綻ぶ。それは実に穏やかな笑顔だった。

 

。。。

 

 デボン州にあるフラメル夫妻のお宅にフクロウが舞い降りる。魔法使いお馴染みのフクロウ便だ。フラメル夫人はフクロウが渡す手紙を受け取り、穏やかな表情で封を開ける。

 

「まぁ、貴方。サーフにお友達が出来たみたいですよ。」

「それはめでたい。友達と分け合えるように何か送ってあげるべきかな?」

 

今まで学校についてのことしか記されていなかった手紙に初めて学生が登場した。そのことを2人は自分のことのように喜ぶ。むしろ当事者であるサフィロスよりも喜んでいるかもしれない。

 

 手紙には決して友達ができたとは書かれていなかったが、その関係性は確かに友人の駆け出しのようなものだった。

 

 

__友達という単語は知っていたけれど、それがどんなものか知らなかった。



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それは幸福な夢だった。

 週に一回、ホグワーツで最も星空に近い場所で行われるその授業をサフィロスは心待ちにしていた。

一年生の必修科目、『天文学』の授業である。

 

天文学は星の名や惑星の動きを学ぶという単純で明快な授業だったが、いかんせん覚える量が膨大過ぎた。深夜という授業条件は生徒たちのやる気を削ぎ、彼らは半分夢の中で教授の話を聞く。

 

しかし、そんな授業をサフィロスは楽しみにしていた。表情筋はいつものように働いていないが、その瞳は夜空の写し鏡のように煌めき、星を真っ直ぐに見詰めている。

何が彼をそこまで駆り立てるのだろうか。

 

『見えるかしら、あの一等明るい星がベガ。』

 

記憶の中の白く嫋やかな腕が真っ直ぐに星空を指刺す。

 

『かつてはリュラと呼ばれていたのだけれど、こと座(Lyra)と同じ音で混乱を招くから、アラビア語源のベガが使われるようになったの。』

 

指先で星と星を繋いで、母は寝物語のように星座の話を紡いでくれた。それはとても美しく、星のような輝きを持って彼の中で息づいている。彼は授業を通して微かな記憶を手繰り寄せようとしているのかもしれない。

 

「もう遅い時間ですからね。今日はここまでにしましょう。」

 

 泡が弾けるように教授の言葉がサフィロスを現に呼び戻した。今日の授業はここまでの様だ。やっと終わったとばかりに生徒達は教本をまとめて、ゾロゾロと天文塔の出口に向かっていく。

 

 スリザリンの寮は地下にある。とても落ち着いた雰囲気で過ごしやすい所なのだが、サフィロスは自分の寝起きする寮がこの天文塔ならば良かったのにと思っていた。星の光が届かない地下は、何故だか息苦しく感じて仕方がない。

 

スリザリンの同級生達は纏まって寮への道を行く。サフィロスは特に親しくする友人も居ない為、自然と集団の後方を歩いていた。天文学の教授は集団の後ろで生徒たちが逸れずにいるかを見守っているため、自然とサフィロスの隣を歩くこととなる。サフィロスは特に何も考えずに前を向き歩いているが、教授は何か気になることでもあるのかチラチラとサフィロスの指通りが良さそうな黒髪を上から伺っていた。

 

「アストラ。良い名ですね。星の意だ。」

 

その言葉を言うタイミングを計っていたのだろうか。アストラと名を呼ばれたと思ったサフィロスはゆるりと顔を上げる。

 

「ありがとうございます。」

 

サフィロスは自分よりも高い位置にある教授の顔を見上げて、いつもと同じ抑揚のない声で礼を言った。教授は決して愛想が良いとは言えないサフィロスを見て困ったような顔をすると、足下に視線を落とす。

 

「君は、アウレリアという名前を知っているかな?」

 

サフィロスは微かに瞠目した。

 

「…先生は、母を知っているんですね。母の名はアウレリアと言いました。」

「あぁ、やはり。アストラという家名は彼女以外に聞いたことが無かったから、もしかしてと思っていました。」

 

そう言って目を閉じた教授は過去の記憶を懐かしんでいるかのようだった。

 

「何故かこの授業を嫌っていましたが、息をするように課題を熟していました。君のようにね。溌剌とした生徒で、生徒達の輪の中心に居て_ 」

 

彼の瞼の裏にはサフィロスの知らない母の姿が浮かべられているのだろうか。サフィロスは母が自分を先導するように目の前の廊下を歩く幻影を見た気がした。艶やかな腰まである髪を靡かせて歩く後ろ姿の幻、それは決してこちらを振り向かなかった。不意に強烈な懐古の念に襲われる。

サフィロスは母の姿を思い出そうとする度、どうしても最期の母の顔が浮かぶ。良く笑う人だった筈なのに、思い出すのは覚悟を決めた険しい顔ばかり。もっと美しい記憶があった筈なのに、あの切羽詰まった顔が脳裏にこびりついて離れないのだ。

 些か沈んだ気分になったが、それでもサフィロスはホグワーツに来てからずっと気になっていたことを尋ねた。

 

「先生は、母がどの寮だったかご存知ですか?」

 

教授は驚いたのか、先程まで懐かしむように閉じていた瞼をパッと上げる。

 

「…知らない?アウレリアは教えてはくれなかったのですか?」

 

先生は訝しげに眉を寄せ、サフィロスの顔をじろじろと見る。

 

「いえ、母とは7歳になる頃に別れたきりで…行方が分からないのです。」

 

別れる際の切羽詰まった母の顔を思えば、生きているのかも怪しかったが、彼はそれを口にすることはなかった。事情を知らない先生に話すべきことではないと思ったのか、それとも彼自身が母が亡くなっている可能性を言葉にすることを嫌ったためか。

 

「そうですか…彼女はグリフィンドールの生徒でした。活発過ぎて手を焼くこともありましたが、良い生徒でしたよ。」

 

活発_確かにそうだったように思う。グリフィンドールという寮の名が妙にしっくりときた。

夜明けの空の色が、よく似合う人だった。朝焼けを背にして黄金色の髪をはためかせ、此方に向かって慈しみの笑みを浮かべる母の姿が鮮明に浮かんだ。朝日は、母の髪の色をしているのだと信じて疑わなかった。

向日葵の黄色がよく似合う人だった。向日葵は母に一目見て笑ってもらう為に毎年花を咲かせるのだと漠然とそう思っていた。そうだ、眩しい太陽のように笑う人だった。大輪の向日葵に視線を向けていた母が、此方に気付いて満面の笑みを浮かべる光景が、眩しく鮮やかな色を持って思い出される。

 教授の中の母は、きっとあの眩しい時のままなのだろう。ずっと思い出されることは無かった記憶が、教授の発した何気ない言葉で呼び起こされた。彼の語る母の姿に引っ張られたのだろうか。あまりに美しい記憶に、サフィロスの心は揺さぶられる。その感情の揺れ動きは彼にとって珍しいものだったが、彼は自分が泣き出しそうになっているのだと判断し、決して泣くまい目元に力を込めた。

 

「そういえば、彼女はギリシャ出身だと言っていましたね。」

 

思い出に浸り、ノスタルチックな気分になっていたサフィロスへ不意に爆弾が落とされる。

 

「君は大陸の方の魔法学校に通おうとは思わなかったのかい?」

「ギリシャ…?母はそう言っていたのですか?」

 

 初耳である。サフィロスはあまりに自分の出生について無知過ぎた。そもそも母の故郷と自分の故郷が同じなのかどうかさえ分からない。自分が使っていた言語がギリシャ語とラテン語だとフラメル夫妻から教えてもらってから、何らかの関係があっただろうと思っていたが、こうもはっきりと告げられるとは。衝撃的な事実に、サフィロスはポカンと口を開け間抜け面を先生に見せる。普段の彼の仏頂面を知っている者達が見れば、こういう顔も出来るのかと驚くこと間違いなしだ。

 

「おっと、そろそろお開きだね。」

 

月明かりと蝋燭に照らされた廊下での閑談はスリザリン寮の入り口が視界に入ったことによって打ち切られた。

 

「それではスリザリンの諸君。お休みなさい。」

 

教授は生徒達へ平等に就寝前の挨拶を告げる。生徒たちは口々にお休みなさいと言って寮の中へと入って行った。

サフィロスは母について教えてくれた先生に再度お礼を言おうと思い、少しだけその場に残る。

 

「今日は本当にありがとうございました。母の話を聞けて嬉しかったです。」

「いやいや、礼には及ばないよ。それでは、サフィロス君。良い夢を。」

 

 

 その日、彼はホグワーツの教室のような場所でちょいちょいとこちらへ手招きをする母の夢を見た。手招きに応じて向かいたいが、体が無いのか動かないのか視点は動かない。母は此方が動かないことに気付いたのか、何やら考え込み始める。そして、徐に杖を取り出したかと思うと空中に文字を書き始めた。

 

『ようこそ、ホグワーツへ!』

 

母が杖を使う場面なんて見たことが無かったのに、それは随分と自然な動作で再現された。彼女は文の出来に対してか満足げな顔をし、最後に此方に向かって記憶通りの満面の笑みを浮かべて手を振る。




ハリー・ポッターと賢者の石,p198より
"水曜日の真夜中には、望遠鏡で夜空を観察し、星の名前や惑星の動きを勉強しなくてはならなかった。"
など、1年の必修科目である天文学は原作でも詳細は記されていなかったので捏造しています。
→深夜の時間帯なので、移動には先生が付き添っている。
→付き添いの関係上、寮ごとに授業しているのでは?

今話の元々のサブタイトル『空に一番近い場所』

『それは幸福な夢だった。』


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この関係性の名は

 

 宿題に必要な資料を探して図書室を散策していたアルバスは人通りの少ない本棚の間で見知った顔を発見した。椅子に座り涼しげな顔でページを捲っている黒髪の少年は、何時ぞやの湖で出会ったサフィロスである。彼の右斜め前には5.6冊の本を積み上げられていた。

 

「やぁ、何をしているんだい?」

 

アルバスは自然と彼に近付き声を掛けていた。声を掛けると、サフィロスは本から顔を上げゆったりとした動作でアルバスの顔を見上げる。透き通った宝石のような瞳に見据えられ、そうだそうだ、こういう奴だったとアルバスは再認識する。

 

「母の名を探している。」

「お母さん?どうしてまた。」

 

ポンと返事が返ってきたのだが、全く予想していなかったその答えにアルバスは首を傾げた。チラリと彼の手元の書物を伺うと、スクラップのように出来事が纏められたホグワーツの記録書のようである。

 

「…」

 

すぐさま小気味良いテンポで質問の答えが返ってくるとばかり思っていたアルバスは、黙り込んだサフィロス見て虚をつかれたように数度瞬きをした。

 どうして、そう問われてサフィロスはすぐに返せる答えを持っていなかった。どうしてだろう。

 

「母が、」

_生きていた証を探して。

 

何とか答えようと音を発するが、どうにも違う気がして言葉を飲み込む。

_僕は、母の名前を見付けて、何がしたいのだろう。

 

 何気なく放った自分の質問に答えを窮するサフィロスを見て、アルバスは混乱した。そんなに真剣に悩むような質問だったろうか。アルバスは考え込むサフィロスの肩に手を置く。

 

「無理に答える必要はない。答えづらいことを聞いてしまったのなら謝るよ。」

「いや、いや…自分でも、よく分からないんだ。何故母の名を探しているのか。きっとはっきりとした理由がある筈なのに…見付からない。それが、こんなにも気持ち悪い…」

 

アルバスは不快そうに眉を寄せるサフィロスと視線を合わせるようにしゃがんだ。

 

「じゃあ、君が答えを見付ける為の手伝いをしよう。構わないかい?」

 

そして安心させるように笑う。サフィロスはアルバスを見てこくりと頷いた。

 

「状況を整理させてくれ。まず、サフィロスのお母さんのことについて教えてくれないか?」

「…何から答えたら良いだろうか。」

「じゃあ名前から。」

「母はアウレリアと言った。」

 

アルバスもアルバスで、どこまで踏み込んで聞いて良いものか迷っていた。アルバス自身、あまり他人に詮索されたくは無い家庭事情を持っている。

 

「…僕は今どこまで質問して良いか迷っているんだ。サフィロス、君が話しても良いと思ったことを教えて。」

「…母は、ホグワーツの卒業生で魔法使いだった。らしい。」

「らしい?」

「知らなかったんだ、つい最近まで…」

「どうして知らなかったんだい?教えてくれなかった?」

「母が杖を使う所を見たことが無かった。それから7歳の頃に今の養い親の元に預けられて、知る機会が無かっただけかもしれない。」

「預けられた……聞いて良いかな?君のお父さんは?」

 

それを訊くのに、アルバスは躊躇わずには居られなかった。罪を犯した父のことが脳裏をよぎるが、今は関係ないだろうとサフィロスの言葉に集中する。

 

「父は、僕と同じ緑の瞳をしていたと聞いた。」

「…」

 

「母がそう言っていた。それ以外に知らない。」

 

_あぁ、やはりそうなのか。

 父を知らず、幼少期には母親との別離を経験している。自分と同じく父が居ないのだということに少々の親近感を覚え、血の繋がった家族が居ないというのはどれほど孤独なのだろうかとアルバスは彼の心情を推し量ろうとした。

これだけ多くの学生がいるのだ。様々な境遇の学生が居るだろうことは想像できなくはないが、彼の話はアルバスに小さな衝撃をもたらした。不幸自慢をしたい訳ではないが、多くの学生は自分よりもずっと苦労を知らないだろうと少なからず思っていたからだ。

 

「それは…君がお母さんの名前を資料から探すのは当たり前のことなんじゃないかな。自分のルーツを知りたいと思うのは人として当然の欲求だと思うよ。」

「ルーツ…」

「あぁ、そうさ。僕だって君と同じ境遇だったら同じように母について知ろうとしたさ。生まれというのは人間にとって大きな要素だ。それを知らないと……自分さえ分からなくなってしまうよ。」

 

アルバスの言葉はストンとサフィロスの中に入ってきた。サフィロスは霧散していた答えがそこにしっくりと収まったように胸に手を当てる。

 

「僕は、自分が何者であるのか。知りたいんだ。」

 

 サフィロスは答えを見付けられたことで大層満足そうな顔をしている。その隣で、彼がどこか浮世離れした雰囲気を纏っていたのはこのためかとアルバスは妙に納得した。フワフワとまるで地面に足をつけて立っていないかのような不安定さは、彼が彼自身の足元を構成する要素である「始まり」を知らないからなのだろう。

 誰かの役に立てるということはとても嬉しい。アルバスは満足そうな顔をするサフィロスの隣で心底嬉しそうに笑った。

 

「アルバス、どこまで探しに行ってるんだい?」

 

突然、本棚の影からひょこりと青ざめた肌をした少年が顔を出した。随分と皮膚のあばたが目立っているが、何かの皮膚病だろうか。病に詳しい訳では無いサフィロスには分からなかった。

 

「あぁ、ドージ。彼はサフィロス。つい先日出会った、僕の友人さ。」

「とも…だ、ち?」

 

不思議なものを見るような目付きで、サフィロスはアルバスを見た。

 

「おいおい、僕が一方的に友達だと思っていただけなのかい?」

 

呆れた様子でサフィロスを見ながらアルバスは戯けたように肩をすくめる。

 

「いや…この関係性は友達と呼ばれるものなのか。ありがとう。」

 

その「ありがとう」が一体何に対してなのか、アルバスは判断に迷った。歩み寄ってきたドージも隣で疑問符を浮かべている。

 

「それは…教えてくれてありがとう、という意味かな?」

「?…その通りだが、他の意味があっただろうか。」

 

さもそれ以外に用法があるのかと、彼は自分こそが常識であると言わんばかりである。

 

「僕は、教えてくれてありがとう、と友達と言ってくれてありがとう、の2通りで判断に迷ったね。」

「…成る程。」

 

彼の言葉の意味を咀嚼するようにサフィロスは深く顎を引いた。

 

「どう受け取るかが人に依るところがあるから。生まれた環境だったり、コンプレックスによって捻くれた見方をする人もいるものさ。」

「人によって言葉の受け取り方が変わってくる…」

「あぁ、そうとも。」

 

自分の中で彼の言うことをしっかりと学習すると、サフィロスは顔を上げてアルバスの目を射抜くように見据える。

 

「重ねて感謝を申し上げる。アルバス、貴方はとても博識だ。」

 

アルバスは、「どういたしまして」とは言ったものの、サフィロスの感情の起伏が少ない表情ではあまり褒めて貰った気がしなかった。

 

 

 

 図書室で借りた資料を胸に抱きながらサフィロスは上機嫌で廊下を歩く。相変わらずの無表情であるが、今にも鼻歌を歌い出しそうな雰囲気だった。

 天文学の先生から母の名前が出た次の日から、何と無しにホグワーツで母の名前を探し始めた。これと言った目的を定めずに行動を起こすことは彼にとっては珍しいことで、自身の行動に違和感を覚えつつも彼は何らかの心の機微に従って母の痕跡を探した。

そんな最中の遭遇だった。

アルバスはサフィロスが訳も分からないまま感じていた心の動きを感じ取り、彼が咀嚼しやすい言葉できちんと伝えてくれたのだ。資料から母がクディッチをやっていたことも知れたし、不快にさえ感じていたよく分からない感情の答えも彼が教えてくれた。分からないことが分かるようになるのはとても気持ちが良い。

 

 彼は僕に寄り添って知らないことを教えてくれる。人間は様々な関係を言語化してきたけれど、どうやらこの関係を_友と云うらしい。

 




ハリー・ポッターと死の秘宝 上 p28より
「〈略〉アルバスが常に喜んで我々を助けたり、激励してくれたりした〈略〉。後年アルバスが私に打ち明けてくれたことには、すでにそのころから、人を導き教えることがアルバスの最大の喜びだったと言う。」
ドージ氏の尊敬フィルターが入っているとは言え、学生時代のアルバス・ダンブルドアは出来過ぎ優等生だったのだろうと想像します。


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学年末試験対策勉強会

 早いもので季節は一巡し、また夏が訪れようとしていた。

図書室は間近に迫った試験の勉強を行う生徒達でごった返しており、その中に試験前で焦る同級生達を教えるアルバスと、随分と余裕そうな顔で試験とは関係なさそうな本のページをペラリと捲るサフィロスの姿があった。

 

 アルバスはこの人付き合いを不得手とする少年を見掛ければ積極的に声を掛け、サフィロスも他に親しくする者が居なかった為、彼等は必然的に寮外で共にする時間は多かった。

 

 一年という時間はアルバス・ダンブルドアが認められるには十分過ぎる時間だった。優秀な結果を出し続けるアルバスに周囲の見る目も変わっていき、そんな中試験が近付いてくる。

アルバスが随分と賢いらしく、また面倒見も良いことが噂になると、彼の周りには助けを求める者達が集まり盛大な勉強会が開かれるようになっていた。自分の勉強もあるだろうに、アルバスは教えを乞う者を拒みはしなかったので、その勉強会は寮の垣根を超え、1学年全体に広がろうとしている。

 

「アルバス、君が居てくれて本当に良かったよ。」

 

アルバスの助言により難問を解き終えたドージは心底有り難そうに言う。

 

「人に教えることも勉強さ。…サフィロスも一緒に試験勉強しないかい?」

 

周りの生徒達が必死になって問題に取り組む中、サフィロスは涼しい顔で本を読み進めている。いつも試験とは関係なさそうな勉強をしているサフィロスを心配したのかアルバスはそう声を掛けた。

 

「問題ない…必要な知識は授業の度に学習してある。……質問して良いだろうか。どうして何度も同じ問題を解いているんだ?」

 

彼にとっては常々思っていた疑問だったのだろう。しかし彼の発言に慣れていない複数の者達は暫しむっとした顔をし、普段からアルバスの近くに居る者達はこの一年でサフィロスが悪意があって言っているわけでは無いことは知っていたので、困った子だなぁと苦笑する。

 

「サフィロス、人によって出来ることや出来ないことは違うよ。自分が出来るからって他人も当然出来るわけじゃ無い。出来る様になるまでの時間も違う。僕達は出来なくても、何度も練習して身につけるんだ。君はその経験が無いとでも言うのかい?」

「…確かにその通りだ。出来る様になるまでの時間は違う。そうか。」

 

彼の疑問は解消されたのか、サフィロスは深く頷き大層納得した顔をしている。

 

「それから、先程の君の質問はあまり好ましく無いな。意図せず他人を傷付けかねない。」

「…どう好ましくなかっただろうか。」

 

考えたもののどう良くないのか分からず、サフィロスは眉を微かに寄せてアルバスに尋ねる。

 

「君の発言に馬鹿にされていると感じる人間もいるということさ。」

「…そういう意図は無かった。…どう良くなかっただろうか。」

 

どう説明すれば周囲と角を立てずに伝えられるだろう、とアルバスが言葉を探していると、

 

「自分が苦労している横で、「何で出来ないの?」なんて言っている人が居たら、不平等感でこの野郎!って思っちゃうな。」

 

ドージが横からからかい混じりにそう声を掛けた。

 

「成る程…すまない。」

 

ドージの説明で納得したのか、サフィロスは険しい顔をする。申し訳ないと思っている時の表情だ。言葉を受けたサフィロスはすくっと立ち上がり、頭を下げた。

 

「僕は人と接する機会が少なかったこともあり、言葉選びが苦手な所がある。もし不快に思うことがあったら言ってくれ…以後直そう。」

 

アルバスはそれを見て安堵し、腹を立てていた者達もサフィロスのあまりに潔い謝罪に毒気を抜かれたようだった。

 

「何を読んでいるんだい?」

「全天の星についての本だ。母が良く話してくれた星について、もっと知りたいと思った。ホグワーツの蔵書量は魅力的だ。」

 

しかしそれを試験期間直前までやるのか、と近くで聞いていたハッフルパフの生徒は思ったが口には出さなかった。

そもそも彼はアルバス達の勉強会に参加している訳ではなく、たまたま図書室でアルバスに遭遇し今までのように近くの席に座っていた。そのことも良くなかったのかもしれない。

 

 アルバスを中心とした困っている同輩を助けようという動きは良い循環をしているように思えた。先生達もこの勉強会を好意的に見ている。

しかし、そんな何もかも良いように思えた一年勉強会であるが、一つだけ困ったことがあった。

あまりに感情の機微に疎くアルバスに都度直されるサフィロスの様子を見て、奴は白痴なのだと、一部のレイブンクローの生徒達が彼を嘲笑うのだ。

勉強会を主導する形になっていたアルバスはその事に責任を感じていた。

 

 

 

 

「サフィロス…何か嫌なことを言われたりしていないかい?」

 

言葉を慎重に選びながらアルバスはそう尋ねる。

 

「嫌なこと?特に思い当たらないが、」

 

ホグワーツの石造りの廊下を二人は歩く。勉強会が終わり、その場を去ろうとしていたサフィロスにアルバスが少し話そうと声を掛けたのだった。

 

「僕は誰かにあいつは馬鹿なんだと言われたらムカっ腹が立つよ。」

「馬鹿とは言われた事がないな。」

「そうじゃなくて…はぁ。君の耳にも入ってるだろ?その……白痴って。」

 

あまりにも口にしたくない単語だったのか、アルバスは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「白痴という単語は知っている。知的障害の意だ。」

 

そんなアルバスに対して、サフィロスはいつも通りの無表情で言葉を返した。

 

「差別用語として使われることもある。」

「成る程、差別用語でもあるのか。以後使用する機会があれば気を付けよう。」

 

飄々としていて、風のように掴み所が無いサフィロスにアルバスはほんの少し呆気に取られた。確かに他の生徒とは違った感性を持つことは知っていたが、全くもって堪えていないようである。

少しは気にしているだろうか、と心配していたが不要なお節介だっただろうか。しかし、本人が気にしていなくても、他人を馬鹿にするのは良くない。と決意を新たにしかけた時。

 

「僕は、どうやらコミュニケーション能力というものが不足しているらしい。君が教えてくれるまで気付きさえしなかった。誰も指摘してくれなかったんだ。」

 

そんな言葉が耳に入ってきた。質問には答えるが自分から会話を広げようとしないサフィロスとしては珍しいことだった。

 

「ホグワーツには勉強をするためにやってきた。だが、だからといって周囲との関係をどうでもよいと思っていた訳じゃない。僕はホグワーツという集団に身を置かせて貰い、勉強をするのだから。そう、認識はしていたのに僕には集団に属す為に必要な能力が欠如していた。」

 

生来のものか経験不足からくるものかは分からないが、確かに彼は同年代の子女達に馴染めずに居た。

 

「集団生活を円滑に送れない者は、排除される傾向にあるらしい。彼等はそうすることで結束を強めているように見える。僕自身はそうされることで失うものは特に無いから問題は無い。アルバス、君との交流が僕にもたらしてくれた多くと比べれば全く問題は無いのさ。」

 

彼等が出逢ってもうそろそろ一年が経過するが、こうやってアルバスがサフィロスの胸の内を聞くのは初めてのことだった。

 

「僕は皆の当たり前が分からなかったりするが、君がとても優しくて、僕を気にかけてくれているのは分かる。それはとても有難いことだ。」

 

アルバスは胸が熱くなった。この言葉少ない友人が一所懸命言葉を紡いで自分に伝えようとしてくれているのだ。

 

「君は得難い………友人だ。」

 

サフィロスは友人という言葉を少し言い渋った。

 

「しかし、だからといって現状のままで良いとは思っていない。友人というのは対等なものであると聞いた。僕には足りないものが多い。君と出会う前は大した問題だと認識すらしていなかったが、君の広い交友関係に触れていく内にやっと実感したんだ。あぁ、僕は他人と意思疎通すらまともにとれないのだと。」

 

サフィロスはずっと前を向いていた。歩調を緩めず、真っ直ぐ前を向いて、自分自身をもしっかり見つめているようだった。

 

「でも学ぶことは嫌いじゃない。だから、今は君を見て学んでいるんだ。僕に足りない、人として必要な能力を。」

 

少し先を歩いていたサフィロスはアルバスに向かって振り返る。その顔には珍しく薄らとした笑みを浮かんでいた。

 あぁ、彼は出逢った時から変わらない。アルバスにはその姿がとても美しいものに見えた。

 

「サフィロスは…嫌な思いはしていないかい?」

「…君と出逢う前とは比べ物にならないくらい、楽しい思いをしているよ。」

 

自分が主導するように始めた勉強会でサフィロスを馬鹿にする者が出てしまったことに責任を感じていたアルバスは、彼の言葉で心が軽くなったような気がした。

 

 

 暫く無言の時間が訪れる。心地良い時間だった。アルバスはサフィロスが語ってくれた今までに無いほど多くの言葉に嬉しくて頬が緩んでいる。サフィロスも嬉しそうなアルバスの様子に、言葉をうまく伝えられたことを実感して穏やかな表情をしている。

 

ふとサフィロスはピタリと足を止める。そういえば、アルバスは目的地を聞いていなかったことを思い出す。てっきりスリザリン寮へと帰るのかと思っていたが、そこは開けた中庭だった。空には夜の帳が下りて、星明かりが地上にいる二人の所にまで届いていた。

サフィロスは石床の上に腰を下ろすと、肩から下げていた鞄から何やら取り出した。アルバスは不思議そうにその様子を覗き込む。

 

「ここで何をするんだい?」

「日課だ…天体スケッチを行なっている。」 

 

どうやら星に興味があると言っていた彼はそれを趣味にしたらしい。

 

「毎日やっているのかい?」

「空が見える日にはという条件はつくが、そうだな。グリフィンドールの窓からは空が見えるんだろう?羨ましいな。スリザリンの寮は地下にあるから、夜空が見えないんだ。」

 

そう言うと彼は杖で明かりを灯し、慣れた手付きで星々の在り方を記していく。今までの記録だろう厚い紙の束が鞄から顔を覗かせていた。

 

「凄いな…」

 

思わずそんな言葉が漏れる。

実に根気のいる作業だと思った。空間認知能力がズバ抜けているのだろうか、あまりに早く正確に記されていくその様子に驚きを隠せない。

やはりこの友人は素晴らしい才能を持っている。そう思うと、やはり彼を馬鹿にする者達に対して苛立ちを覚えずにはいられなかった。

 

「君は確かに他人に無い才能を持っているというのに、それを知りもせずに君を馬鹿にする奴等が許せない。」

 

いきなりそんなことを言い出したアルバスに、紙面に視線を落としていたサフィロスは顔を上げる。あの温厚なアルバスが憤りを感じ険しい顔をしていることに、サフィロスは胸のあたりがふわりと浮いたような感覚を覚えた。

 

「…何だろうアルバス…とても胸のあたりが浮ついているんだ。」

 

彼はそっと自分の胸を指先で触れる。どうしてそう思ったのか、自分の中で答えを探し始める。

 

「きっと…僕の為に、君が心を動かしてくれたことが嬉しいんだ。これは、一般的な感情だろうか。」

 

その発言にアルバスはハッとした。

一々周りとの差異を確認して、ズレを修正していく。それは彼が成長している証であり、アルバスを何故か物悲しい気持ちにさせた。

 

 それはとても、生き辛いのではないだろうか。

 自分が善意から行っていた指摘は、この特異な友人の為になっているのだろうか。

 一瞬、そんな考えが脳裏を過ぎる。

 

「あぁ、それは一般的な感情だ…」

 

 いや、彼はその変化を好意的に受け止めている。僕はただ、彼がこの世界で生きていく為の指標になろう。

 

 彼が評価されない環境にどこかやるせない思いを抱きつつ、アルバスは目を伏せた。

 




言葉選びって難しいですね

サフィロス君は段々とアルバスをお手本にコミュニケーション能力を築いてゆきますので、温かい目で見守ってください。


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1学次の終わりに

 車輪から伝わる心地良い振動が生徒達の体を揺らす。帰りゆく多くの生徒達はこの一年で親しくなった友人と、または慣れ親しんだ学友との話に花を咲かせていた。

そんな車窓から眺める過ぎ去ってゆく風景を、アルバス・ダンブルドアは物悲しい眼差しで見つめていた。

 

「もう一年が終わってしまうんだね。」

「そうだねぇ。」「そうだな。」

 

アルバス、ドージ、サフィロスの3人は、帰りのホグワーツ特急で同じコンパートメント内に座っていた。

 

「試験も終わったし、後は夏休みだー!」

 

ドージは開放感からか嬉しそうに声を上げる。それに対してアルバスの気分は沈んでいた。ホグワーツこそが、本来自分があるべき場所なのだと思えたからだ。入学当初は偏見の目に晒され、大変な思いはしたが自分の力で周囲から認められるようになった。それはアルバスの自信に繋がると同時に、彼の魂を空虚な気持ちにさせる原因となった。魂はまだホグワーツに囚われたままで、今ここにいる自分は空っぽなのだと思える。

 

 視線を窓の外からコンパートメント内に移すと、向かいに座っているサフィロスが読み終えた本を膝の上に置き、涼しげな眼差しで外の風景を見ている。随分とその光景が様になる彼が、思い出したように「そういえば、」と呟いた。サフィロスは視線をアルバスへと向け、バチリと二人の目が合う。

 

「僕は組分け帽子に友を得るべきだと言われたんだ。」

 

あまり自分から会話を始めないこの友人の話は唐突に始まることがある。秀才アルバスをもってしても、この不思議な友人の思考回路を読み取ることは困難であった。

 

「最初は意味が分からなかったが、君と出会ってから僕の生活は大きく変化した。成長したのだと思う。友を得ることで成長すると言った帽子の言葉は正しかった。」

 

 一体全体どういう繋がりでその話が始まったのかは分からなかったが、組分け帽子の話題に、アルバスは以前から気になっていたあることを尋ねることにした。

 

「組分け帽子はどうして君をスリザリンに組み分けたんだい?」

 

一年という長いようで短い間の付き合いしかないが、組分け帽子がこの少年のどこにスリザリン要素を見出したのか気になったのだ。

自分が彼を組分けするのならどこに入れるだろうか。それはアルバスが今まで解いてきたどの問題よりも難解に思えた。

 

「それは…スリザリンは同胞意識が強く。そこでなら、友人ができるのでは無いかと言っていた。」

 

 『同胞意識が強い』そう聞いて、アルバスは出会った当初のサフィロスとその周辺のことを思い出す。明らかに馴染めていなかった。

組分け帽子の言う事は正しかったが、組分け自体はそれにうまく嵌まらなかったといった所か。

 

「君が…一年が終わると言うから、このホグワーツ特急でホグワーツに向かった日のことを思い出したんだ。」

 

懐かしむように目を伏せて、サフィロスは膝の上に置かれた書籍の表紙を撫でる。確か、あの時も本を読んでいた。当時コンパートメントを同じくしたあの少年少女とはあれきりだったが、今彼の向かいには友が座っている。

 

「ホグワーツに向かった日かあ。」

 

ドージが思い出すように目線を上げた。

 

「うん、覚えているよ。こんな肌だし、僕はホグワーツに行くのが嫌だったんだ。でも、そんな僕にもアルバスは偏見を持たずに接してくれた。初日にだよ?僕は本当に嬉しかったんだ。それからは、想像していたよりもずっと楽しい1年間だった。だから、アルバスには本当に感謝しているんだ。」

「…こちらこそだ。」

 

このアルバスに尊敬や敬意の念を抱いてくれる素晴らしい学友もホグワーツで得た物だ。それは彼にとって何よりも大切な財産なのだと思えた。

 

 

 

 

 汽車が緩やかに減速を始め、キングス・クロス駅に到着する。

9と4分の3番線ホームには多くの父兄達が我が子の帰りを首を長くして待っていた。生徒達は列車を降りると、家族の元へと駆け寄って行く。三人も人の流れに従い、汽車を降りる。三人の中でドージはいち早く家族の姿を見つけたのか、「じゃあね」と一声掛けてから家族の元へ駆け出して行った。

アルバスは、母は妹の世話の合間を縫って来るだろうから少し待たなければいけないだろうか、と群衆の中から養い親を探すサフィロスの隣に立っていた。

 暫くしてサフィロスはやっとフラメル夫妻の姿を見つけ、目元を緩めて小走りに歩み寄る。

 

「フラメルさん、ただいま戻りました。」

 

少しだけ背丈が伸びただろうかと嬉しそうにサフィロスを見ていたフラメル氏は、おや、と目を丸くした。約一年前、このホームで見送って以来の再会であるが、随分と表情豊かになったものだと驚く。

 

「え、あ……え?!」

 

サフィロスの呼んだ名前にアルバスは目を丸くさせて驚く。ドージの時と同様、家族と談笑する様子を遠目から見ていようと思っていたアルバスであるが、あまりの驚きに思わずサフィロスの後を追いかけ問い詰めずにはいられなかった。

 

「君!君の養い親って!ニコラス・フラメルだったのかい?!」

「あぁ、そうだが…」

 

それがどうかしたのか、とサフィロスはアルバスの勢いに押されて引き気味に答える。

 

「君ねぇ、稀代の錬金術師だよ!失礼、フラメル氏、お会いできて光栄です。」

 

大層出来た学生であったアルバスは、弱冠11歳ながら偉大な先人を敬うことを知っていた。用いるべき正式な言葉は知らないが、精一杯の尊敬の念を込めて挨拶をする。

 

「おや、これはご丁寧に有難う。私はニコラス・フラメル。君がアルバス君ですね。サフィロスが手紙に君のことを書いていました。この子は同年代の子と接する機会が全く無かったので、学校生活を無事に送れているか心配していたのですが、君のおかげで楽しい日々を過ごせたようです。本当に感謝しています。」

 

決して疚しい気持ちからサフィロスに接していた訳ではないが、偉大な先人からの言葉に、彼はサフィロスと友人となって本当に良かったと思った。

 

「アルバス、迎えに来ましたよ。」

 

丁度その時、少しばかりピリついた雰囲気を纏った婦人がアルバスの元へやって来た。

 

「母さん…」

 

アルバスは緩やかに声の方へ顔を向ける。その様子はあまり喜ばしそうではなかった。

自宅に不安定な妹と、扱いに慣れているとはいえまだ幼い弟を残していることが心配なのか、彼女は早く帰宅したくて仕方がなさそうである。かの有名なニコラス・フラメルと話をできるチャンスがアルバスの目の前にあるというのに!

 

「おや、アルバス君のお母様でしょうか。私、サフィロスの養い親をしているニコラス・フラメルと言います。サフィロスの友人となってくれた彼には、とても感謝をしているのです。」

「まぁ、それはそれは…この子はあまり学校のことで連絡をしてこないので、存じておりませんでした。」

 

ケンドラ・ダンブルドアは口元に手を当てて、目を丸くしている。

 

「アルバスは何をそわそわしているんだ?」

「サフィロス…君はフラメルさんの偉大さをもっと理解すべきだと思うよ。」

 

そうか、とあまり分かっていなさそうな顔でサフィロスは返事をする。

フラメル夫妻とケンドラ・ダンブルドアはいくつか言葉を交わしたのだが、ケンドラが急いでいる様子に気付くと早々に話を切り上げた。

 

「アルバス君、良ければなのだが、この子に手紙を書いてやってはくれないかい?」

「はい!勿論です!」

 

アルバスは汽車に乗っていた時の憂鬱な気分など綺麗さっぱり消し飛んだのか、元気の良い返事をした。

 

「じゃあ、また来年度。」

「あぁ、また。」

 

 彼等は別れ、それぞれの自宅へと向かう。

サフィロスはフラメル夫妻の間に挟まれ帰路に着きながら、学校でのことを話し始めた。手紙はマメに送ってはいたが、彼等の養い子として恥ずかしくない自分であったことを一年次が終わった今、報告したかったのだ。

 

「フラメルさん、僕、とっても勉強したんですよ。」

「それは良かった。」

「母についても知れました。」

「あぁ、手紙にも書いてくれていたね。」

「はい、___」

 

本当に表情が豊かになった。一年前とは比べ物にならない。フラメル氏は一年会わなかったからこその変化を実感する。

子どもの成長は早いと言うが、ここまで変わるものだろうか。驚きつつも、その変化を喜ばしく感じ、その横でフラメル夫人が大層喜ばしそうに笑っていた。

 

 これから夏休みが始まる。




1年生編 完!

アルバスは確かに同世代では飛び抜けて優秀で優しい(ドージ情報)のですが、俗物的に他人に尊敬して貰いたい(ゲラートとの出会いで露呈した人間臭さ)とか、褒めて貰いたいとか思ってそうだな。と想像しております。


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ブラック家

2年生編 始動


「お前が1年で次席だったっていう奴か?」

 

2年次が始まり、スリザリン寮の自室で荷物の確認を行っていたサフィロスに部屋の外から声が掛かった。声のした方へ視線を移すと、気怠げな美丈夫が部屋の入り口に寄り掛かっている。

 

彼の後ろには同じくスリザリンの生徒達が付き添っており、随分な大所帯でサフィロス達の部屋の入り口を占領していた。

 

「…」

 

美丈夫は一角の人物であるのか、サフィロスと同室の生徒達はザワザワと騒ぎ始める。

 

「あー、お前だお前。えーと、なんて名前だったっけ?」

 

返事がないことに痺れを切らしたのか、男がそう尋ねると彼の後ろに控えていた者がこそりと耳打ちをした。

 

「あー、そうだ。お前がサフィロス・アストラか?」

 

自分の名前が呼ばれてサフィロスは首を傾げた。

 

「はい。私がサフィロス・アストラですが、どういった用向きでしょうか。」

 

そう返事をしたサフィロスに、美丈夫はジロジロと不躾な視線をぶつける。

 

「ふん、情けないなフィニアス。一位はグリフィンドールだったというし、こんな気の抜けた輩にまで負けたのか。」

 

サフィロスを一目見るなり取るに足りない存在だと判断したのか美丈夫は鼻で笑った。

 

「兄さん、やめてよ。」

 

黒髪の愛らしい少年が、そんな男の横から顔を出した。彼としては止めようと必死なのだろうが、全く抑止になっていない。

 

「事実だろう?」

 

それだけ言うと、黒髪の美丈夫はサフィロスに興味を無くしたようで風を切るように去って行った。

よく分からないままゾロゾロと男を追いかけ去っていく生徒達を見送っていると、

 

「ごめんね。」

 

酷く申し訳なさそうな顔をした少年は一言謝罪した後、兄と呼んだ男の後を追って駆けて行った。

 

 

 

 

 

 新年度が始まり、少しだけ増えた授業時間に慣れてきた頃、サフィロスは昨年度と同じのように訪れた図書室でアルバス達と居合わせた。

 

「アルバス、ブラックという家名について何か知らないだろうか。」

 

名乗られはしなかったが、例の男がブラックと呼ばれていて、それが家名であることはすぐに分かった。更にはその家名はスリザリン寮内で耳を澄ませばすぐに聞こえてくるもので、今までサフィロスが知らなかったことが不思議に思えるほどだった。

 

「純血の家系だね、そのことに誇りを持ってる。

イギリスの中で最も大きく、古い純血の家系の一つだ。今ホグワーツには、4つ上にシリウス・ブラック先輩と、同学年にフィニアス・ブラックが在籍してる。」

 

博識なアルバスに訊けばすぐにでも分かるだろうと思ったサフィロスの考え通り、アルバスはすらすらとそう述べた。

 

「古い純血の家系…」

「あぁ。ブラック家は中でも特に格が高い。」

「格?」

「家の規模や、歴史、私有財産が数ある純血の家系の中でも一等高いとされているのさ。」

「成る程。」

 

純血がどうのという話はスリザリン寮で生活していれば当たり前のように耳にする話だった。

 

世情に疎いサフィロスであっても、スリザリンの生徒達が純血であることに重きを置いていることはこれまでの一年で把握していた。

そんなスリザリンの中で、古くから純血であることを守ってきたブラック家は特別な存在なのかもしれない。

 

「サフィロス、スリザリンで何かあったのかい?」

 

ふむ、と考え込んでいるとアルバスが少し心配そうにサフィロスに声を掛けた。彼はこの少年が人付き合いを不得手としていることをよく知っていたからだ。

 

「何か…あぁ、そのブラック先輩に声を掛けられた。寮で僕に声を掛けてくる人が珍しかったのと…君のように周囲に沢山の人が居たから、気になったんだ。」

「ブラック先輩が?君に?一体どうして」

「昨年度の試験結果が良かったことで声を掛けられた。」

「あぁ、そうなんだ。それなら良いのだけれど。」

 

あいも変わらず言葉が足らないサフィロスの話で、アルバスは少々誤認する。

サフィロスがやっと寮内でも認められるようになったのか、とアルバスは自分のことではないのにどこか誇らしげに頬を緩めた。

 

 ブラック家というのは随分と特別な家らしい。

 

「家柄か…」

 

昨年アルバスの元に人々が沢山集まっていたのは、彼が自身の知識を惜しみなく周囲に与えたからだ。あれは友人とはまた異なる関係性だとサフィロスは感じていた。ブラック氏の後ろに人々が居たのはどうしてだろうか。あれも友人関係とは違って見えた。

家というものに対する知識が殆ど無いサフィロスにはどうしてか分からなかったが、アルバスとは異なる理由で人を集める人間がいることを彼は知った。

 

 

 

 

 

 サフィロスはいつものように一人で教室移動を行っていた。友人は居るが、あくまで彼等は他寮の生徒。授業スケジュールは寮毎で異なるので、彼はアルバスと出会う前と変わらず寮毎での移動では一人だった。

 

薄暗い教室に入り、端の空いている席へ座る。スリザリンの生徒達は規律正しい生活をしており、席の定位置がほぼ決まっていた。

 

 サフィロスと周囲のスリザリン生達は何とも言えない距離感を保っていた。一年次の試験で良い成績を残した為か、あからさまに避けられることは無くなったが、スリザリン生達はサフィロスとの距離感を掴みかねているようだった。

 

「アストラ君、隣に座っても良いかな?」

 

そんなサフィロスに一人の少年が声を掛ける。

その声の主をよく知っていた周囲のスリザリン生達はギョッと目を剥いた。

 

「構わない。」

 

少年は「ありがとう」と言いサフィロスの隣の席に腰を下ろす。なだらかにウェーブ掛かった黒髪が微かに揺れた。どうして隣に座るのだろうと疑問に思いながら様子を見ていると、顔を上げ自分の方を向いた少年の黒々とした瞳に惹きつけられる。成る程、"ブラック"家だ、とサフィロスは小さく得心した。

 

「僕は、フィニアス・ブラック。先日は兄さんがごめんね、きちんと謝罪しないとと思ってたんだ。」

 

眉を下げ心底申し訳なさそうに謝るフィニアスにサフィロスは首を傾げる。

 

「…何故、君は謝罪しているのだろうか?」

「え?」

 

一通り自分の中で考えたが、それでも理由が見つからなかったのだろう。暫く逡巡するように黙っていたサフィロスはそう言った。謝罪に疑問を持たれるという珍しい体験をし、フィニアスは少々戸惑う。

 

「兄がいきなり君に不躾に話掛けて、迷惑じゃなかった?」

「いや、確かに最初は誰に話し掛けたか分からず困惑したが、迷惑とまでは思っていない。」

 

平然とした顔でそう答えるサフィロスにフィニアスは少しばかり呆然とする。

 

「そっか…でも、兄さんは君のことを「気の抜けた」なんて言って…」

「いや、あの人からはそう見えたのだろう。彼の抱いた印象を否定する権利を僕は持たない。」

「…そうだとしても、兄が君に失礼なことを言ったことに変わりはない。」

「成る程、口にした言葉には責任が発生するということか。しかし、僕はそれに対して謝罪して欲しいとは思わなかったし、もし謝罪するとしても君が謝る必要は無い。」

 

それでもどこか納得がいかないような顔をするフィニアスに対して、サフィロスは首を傾げた。

 

「どうして君は他人の責を負いたがるんだ?それは君が負うべき物では無いはずだ。」

 

至極当然のようにサフィロスが語った言葉はフィニアスに衝撃をもたらしたようで、彼は静かに瞠目した。

 

「何だか…アストラ君は、変わってるんだね。」

「変わっている…」

「あ!いや!悪い意味じゃなくてね!」

「いや、事実なのだろう。君達の当たり前が理解出来ないことが多々ある。それは言い換えれば"変わっている"ということなのだろう。」

 

そう言うサフィロスをフィニアスは物珍しいものを見るようじっと見詰めると、何を思ったのだろうか、手を差し出した。

 

「これから、同じ寮生として宜しくね。」

 

 笑顔で握手を求めるフィニアスに対してサフィロスは目を瞬かせる。握手というものを目にしたことはあっても経験が無かったからだ。サフィロスは明らかに不慣れな動作でおずおずと応じた。

 




祝・スリザリンにも友人ができる

すみません、いつものように公式情報が無かった所は捏造しています

捏造点
・シリウス・ブラック2世の人物像
シリウス(親世代)似の気怠げなイケメンを想像しています。
・フィニアス・ブラック
マグルの権利を支持した為、ブラック家から抹消され生年月日が不明(公式情報)→アルバス・ダンブルドアと同い年にさせていただきました

1年生の時の試験結果が生徒に伝えられるのかどうかがよく分かりません。
マルフォイ氏はハーマイオニーにドラコが全教科で負けてるとか言っていましたが、理事権限?
ハリーの年度始めの学校からの手紙には試験結果について何も書いていなかったし…
梟試験とイモリ試験の試験結果は6段階評価
それ以外の年はどうなっているんだ…
ご存知の方がいたら教えて欲しいです。
→今話ではブラック家がこの年代(?)orもう数年後に校長やってたので何らかのツテがあっただろうということにしてます。

→すみません、1巻の最後の方に「試験の結果が出た」と記載がありましたね。私の確認不足でした。

・同室の生徒達
→スリザリン寮の寝室が何人用か情報が無かったためボカしています。

一年次の試験結果について
記憶力の良いサフィロスは確かに満点解答をしたのですが、次席でした。秀才アルバス・ダンブルドアが満点以上を叩き出したためです。


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