皇国に吹く風 (INtention)
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第一話 痛み分けのミッドウエー

世界観は前作(同時進行)の『吹雪がんばります!(史実版)』と基本的に同じです。気になる方はそちらも(ダイレクトマーケティング)

向こうはまだロンドン軍縮条約すら締結されてないという…。私は基本スマホのフリックで書いてるので少し遅いですがのんびり見守って頂けるとありがたいです。


昭和17年5月28日 横須賀()()()()()()()

 

「ミッドウェー島攻略船団は十一航戦千歳、15駆親潮・黒潮と共にサイパンを出発したようです!」

「間もなく二水戦と合流予定です」

 

相次ぐ報告が司令部に届く。

 

「ついにか」

「今回は何ハイ沈めるかな」

「まだ始まってませんぞ」

「そうでしたな」

 

士官の中にはすでに結果の事を話している者もいる。それを諌める士官も言葉に棘がない。誰も勝ちを疑っていないのだ。

司令部の中心にある大部屋には太平洋とインド洋の地図が広げられている。そのあちこちに赤青の旗が建てられ、いつくも駒が置いてある。西太平洋は赤い旗ばかりであった。

 

艦娘の登場により連合艦隊司令部は陸に上がった。艦娘とは特殊な電波でやりとりしているため、わざわざ艦上にある必要を失ったからだ。各戦隊や艦隊司令部などは艦娘と接続されているが、そのトップである連合艦隊(GF)司令部はこの部屋に詰めている。

 

盤上では各地にあった駒がある地点へ集中し始めている。

 

第六艦隊(6F)より入電。五潜戦は()()()()、三潜戦は第二次K作戦を行う2隻を除いて予定通り哨戒ラインへ進撃中との事です」

「なんとか間に合ったか」

「クェぜリンではなく本土から直接向かわせて正解でしたね」

 

連合艦隊司令長官山本五十六のつぶやきに戦務参謀渡辺安次が応じる。二人共目線を上げずに会話している。二人は将棋を差しているのだ。

日本史上最大の作戦は和やかな緊張感のない雰囲気のまま進んで行った。

 

 

 

同年6月5日07時50分 横須賀

 

「報告します!一航艦第八戦隊(1AF8S)阿部弘毅より入電。赤城・加賀・蒼龍が炎上中!」

「なんだと!?」

「馬鹿な」

 

機動部隊の護衛艦利根からの入電で司令部は突如大混乱に陥った。開戦から常に無敵だった南雲機動部隊の主力が一気に壊滅したのだ。そうなるのも当然だ。

先任参謀の黒島亀人などは涙を浮かべて机を叩いている。

しかし、山本五十六は「そうか」とだけ言って将棋の盤から目を話さなかった。

対戦相手の渡辺はその落ち着きぶりに言葉を失った。この緊急時にどうして平静でいられるのだろうか。だが次の一手を差した手が少し震えているのを見て、長官としての器の大きさと人間味を感じたのだった。

 

 

 

同時刻 ミッドウェー島北西部

 

「司令官。電文を送ったぞ」

 

重巡利根は辺りを見渡した。

数時間前までは意気揚々としていた艦隊は今やズタボロであった。

加賀と蒼龍の全身が炎に包まれており、手に持っているはずの飛行甲板は無くなっている。4駆、10駆が懸命な消火活動を続けているが火は収まりそうも無かった。

赤城は飛行甲板と機関部が燃えているだけだが、発艦作業中に攻撃を受けて弓をふっ飛ばされていた。

 

「翔鶴と瑞鶴がいれば…」

 

と、つぶやくのみで航空戦の指揮を取れそうもない。

 

(……利根、二航戦に敵空母攻撃を命じてくれ。俺らは司令部が長良に移乗し終えたら北方に退避だ)

「よし、分かった」

 

第八戦隊の阿部司令官は利根に命ずる。

赤城の被弾で一航艦司令部が機能していないため、第八戦隊が指揮を取っている。

利根から命令を受けた飛龍だが、実はその前から飛龍は敵空母との距離をつめていた。

 

(……我今より航空戦の指揮をとる!飛龍、行くぞ)

「うん。多聞丸、攻撃隊を発艦させるよ」

 

飛龍はそう言うと零戦8、九九艦爆18を飛ばす。

 

「小林隊…仇を取って来て!」

 

飛龍が攻撃隊を放っている間、筑摩5番機から米空母の報告が入る。

 

「筑摩!5番機に攻撃隊を誘導させるのじゃ」

「わかりました」

 

水偵の捨て身の誘導のお陰で()()が第17任務部隊に到達。直掩に上がったF4Fワイルドキャット12機を退けて輪形陣の中心にいるヨークタウンに攻撃を仕掛けた。8()()の九九艦爆が投弾、その内5()()が命中した。

 

攻撃隊を誘導した筑摩5番機はヨークタウン直掩機に追われて逃げる内に第16任務部隊も発見。

さらに駆逐艦嵐が拾い上げた雷撃機の妖精から米艦隊の規模やハワイには修理中の戦艦しかいない事を聞き出して4駆司令有賀幸作に報告。

敵の陣容は徐々に明らかとなった。

 

 

 

同日10時15分

 

利根は周辺にいた筑摩、長良、霧島、榛名を呼び寄せて索敵機を出させた。

飛龍も第二次攻撃隊(零戦6、九七艦攻10)を放つ。その中には尾翼が黄色の九七艦攻の姿もあった。

 

「友永隊、頼んだわよ」

(……飛龍、第一次攻撃隊が帰って来た。収容してくれ)

「うん」

 

第二次攻撃隊と入れ替わるように第一次攻撃隊が帰還する。

数機が撃墜されているが他の空母の艦載機も増えている。

 

 

 

同11時30分 飛龍第二次攻撃隊

 

「機長。敵空母発見です」

「あれは小林隊が攻撃したヨークタウンじゃないか?」

「しかし煙も上がってません」

「いや、甲板が穴だらけだ。さっきのヨークタウンに違いない。もう少し探そう」

「分かりました」

 

操縦士は不満そうである。しかし友永はよく見ていた。健在なならば直掩機を上げるはずだが対空砲火のみだ。表に現れない何かが起きていると考えたのだ。

実際ヨークタウンはそれどころでは無かった。発電機に被害が出ており、航空戦を飛ばすどころでは無かったのだ。もし直撃したのが3()()ならばもっと早く復帰していたかも知れない。

 

やがて友永隊は別の輪形陣を見つける。今度は無傷の二空母を抱えており、もう一つの機動部隊と分かる。

 

「手前の一隻に攻撃を集中させる」

「分かりました」

 

友永は風防をずらして手を伸ばすと信号弾を放つ。

零戦二一型は速度を上げて攻撃隊を追い抜き直掩機を足止めする。その間に攻撃隊は二つに分かれて手前のホーネットを挟む形になる。直掩機と対空砲火をくぐり抜け、4発の魚雷を投下した。

左舷に2発が命中し、大爆発を起こした。

その煙は空戦中の戦闘機まで届くほどだった。

投弾した友永は上昇に移っていたが爆音に思わず振り返る。上を見上げていたホーネットはくるりと反転すると水底に沈んでいった。

 

「機長。突入しなくてよかったのですか」

「うむ。今回は飛龍に生きて帰って来いと言われてな」

「そうでしたか。では今回は恥を晒して海に不時着しますよ。燃料ぎりぎりなので」

「すまんな」

 

たった2発の魚雷で沈んだホーネットだが、実は数日前に三潜戦の魚雷攻撃を受けていた。その後すぐに猛烈な爆雷攻撃を受けて伊号潜水艦は全滅したのできちんとした報告が出来ず、日本側は失敗したものと考えていた。だが、その影響を受けて見えない所にダメージが入っていたのだ。

 

 

 

同13時50分 第二航空戦隊

 

飛龍は第二次攻撃隊を収容した。撃墜されたり、収容出来ても再攻撃は不可能な機体も多かった。

 

「これで一対一だ。これで勝てるし、悪くても相討ちだ」

「だが飛行機が少なすぎる…」

 

二航戦司令部は意見が割れていた。

猛将として知られる山口多聞も攻撃を躊躇している。その原因は搭載機の少なさだ。

 

零戦6

九九艦爆5

九七艦攻4

十三試艦爆1

 

これだけで空母を沈められるかどうか。しかも第一次攻撃隊の艦爆は修理が必要ですぐには出せない。

 

「赤城さん。無事な機体は残ってない?」

「ごめんなさい。全て誘爆してしまって…」

「そう…」

 

巻雲が海上に不時着した友永機を拾い上げ、飛龍も飛行甲板に友永機を護衛していた加賀隊の零戦を着艦させた時、米艦載機が攻撃を仕掛けて来た。

 

第六索敵爆撃隊(VS-6)は戦艦を狙え。俺達第六爆撃隊(VB-6)は空母のレッドサークル(日の丸)を狙う」

 

エンタープライズのドーントレス艦爆は急降下すると擲弾した。飛龍は難なく回避するが次の隊は太陽を背にして飛び込んで来たので対応が遅れ、飛行甲板に被弾してしまう。木張りの甲板は瞬く間に炎に包まれる。

しかし機関は無事であり30ノットを出せるようだ。機関科の妖精も無事と分かった。これが実際の船だったら連絡が行かずに全滅したと思われたかも知れない。

 

榛名も爆撃を受けたが小破止まり。第二次攻撃隊のデバステーター艦攻が利根・筑摩を狙うも全て回避した。

 

 

 

同16時 第一航空艦隊

 

三空母の炎上は続いていた。

特に加賀と蒼龍はひどく、何度も爆発が起きている。

 

「飛行甲板の火、消えないね」

 

蒼龍は飛龍の方角を見ながら脇にいる野分に言う。

 

「赤城さん。あなたは諦めないで。まだ大丈夫よ」

「加賀さん…」

 

加賀は悟ったような目で赤城を見た。

赤城は現状を受け止められずに加賀を励ます事は出来なかった。

二人が生還する可能性はすでに無いに等しかった。

三人の消火活動をしていた第四駆逐隊もそれが分かっており、ただ作業をし続けるだけだった。

 

 

 

同時刻 横須賀

 

「報告します!蒼龍が爆沈しました」

「加賀が沈没しました…」

「飛龍が炎上中!」

 

次々に入ってくる報告に再び沈痛な表情を浮かべる参謀達。先程の飛龍の戦果も轟沈報告でかき消される。

 

「そうか。またやられたか」

「一航艦の司令部が長良に移りました!」

「長官。どうされます」

「南雲は帰って来るだろう」

「そうではなく、作戦です」

 

MI作戦は中止か継続か。その決断を求められた山本はそれには答えず、こう言った。

 

「赤城と飛龍を見捨てるな」

「え?」

「なるべく持ち帰るんだ。第一艦隊(1F)鳳翔から偵察機を飛ばして状況を確認させろ」

「は!」

 

山本自身もこれは負け戦であると分かっていた。しかし、赤城と飛龍の状態、AL作戦部隊の状況によっては逆転の可能性もあるかも知れない。博打好きの山本はそう考えていた。

 

 

 

同18時頃 第二航空戦隊

 

攻撃が収まった頃、第八戦隊の利根・筑摩、第10駆逐隊による消火活動が行われる。もう日が暮れようとしており、片道攻撃を考えなければ空襲が来る事はない。

そう思っていた矢先、1機の航空機が近付いて来た。敵機かと身構えるが音が軽い。よく見ると旧式の九六式艦爆だった。

鳳翔の搭載機である。飛龍は笑顔を作って手を振る。

艦爆はバンクすると引き返して行った。

 

「私、沈むのかな」

(……うむ、どうだろうな。だが俺は最期までお前と一緒にいるから心配するな)

「ありがとう多聞丸」

 

こうして長い一日が終わろうとしていた。

少しずつ歴史は変わっていく。この夜に各司令部は作戦の判断を下す事になる。

 




日本の運命を変えたミッドウェー海戦からです。大分駆け足ですが、きちんと書くとそれだけで一つ小説が出来ますからね。
基本的には史実通りですが、少しずつ違う所があります。具体的には傍点の部分などです。
この少しずつの違いが効いてきます。

島風はまだ建造中で進水すらしていません。
でも日本が勝った世界と簡単に言うのもどうかなぁと思いまして。


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第二話 我夜戦に突入す

書きながら、これがメインの架空戦記でいいんじゃないかという気が...。



 

昭和17年6月5日21:15 横須賀

 

「ミッドウェー島への砲撃を命ずる。敵艦隊と遭遇すればこれを撃滅せよ」

 

山本五十六は命じた。

無傷な敵空母は4隻と筑摩の偵察機が報じているが、2隻は飛龍が撃破しているので残りは攻撃隊が目撃しているエンタープライズ型1隻と不明な空母3隻である。

アメリカが保有している大型空母の残りはレンジャーとワスプだが、レンジャーは大西洋にいるようなので仮に大型空母だとしてもワスプだけである。

という事は2隻は貨物船改造の小型空母となる。(実は誤認でエンタープライズのみなのだが)

 

対して日本は南雲機動部隊で唯一健在な飛龍も大破してしまい壊滅状態だ。

だが、攻略部隊の第二艦隊には瑞鳳がいるし、主隊の第一艦隊には鳳翔がいる。

第二艦隊の近藤司令長官は瑞鳳の傘を受けながら敵に突撃する構えを見せている。

 

だが山本が攻撃続行を命じた決め手はAL作戦の空母であった。

AL作戦を援護するために第四航空戦隊龍驤・隼鷹が向かっていたが、半年間のほとんどが濃霧に包まれる地域のため米航空隊は少数しか配備されておらず、その殆どが地上撃破された。

また、その後の偵察で湾内に数隻の駆逐艦を発見。これも撃沈ないしかなりの損傷を与えた。

憂いを断った日本はアッツ・キスカ両島への上陸をほとんど抵抗なく終えたため機動部隊は早々とサイパンに帰投中であった。そのため搭載機用の爆弾などを補給するのを含めても翌日の6日午後にはミッドウェー海域に到着出来そうとの見込みを受け、夜襲を決定した。

 

日はすでに暮れかけており、空襲を受ける心配は少ない。そこでミッドウェー島に一番近い潜水艦伊168に飛行場砲撃を命じている。伊168は第16任務部隊攻撃の生き残りであり、島の周囲を哨戒していたのだ。また、23時からは栗田少将率いる最上ら第七戦隊が引き継いで飛行場や地上施設を破壊する。

日が登るまでに如何に飛行場の脅威を減らすかが勝負だった。

 

 

 

同22時 第一航空艦隊

 

「準備できました!」

(…よし、曳航開始)

 

長良は大破した赤城を引っ張り始めた。

赤城の爆発は収まり、小康状態になっている。それを知った南雲と山本の強い意志で赤城と飛龍は曳航して引き上げることになったのだ。赤城は長良が、飛龍は筑摩が曳航して敵勢力圏から離脱させる。護衛には野分舞風と秋雲巻雲が付く。

 

「第十戦隊と司令部は任せたよ!」

「おう!任せて下さい」

「夜が明ける頃にはウェーク島航空隊の範囲まで戻って!」

 

赤城曳航のため一航艦司令部は長良から駆逐艦嵐へ移っている。

マストに中将旗を掲げた嵐は強気に返事する。

 

「艦隊旗艦なんて滅多に出来ないよ」

「分かってる」

「嵐の事は私達が守るから!行きましょう」

 

萩風と風雲が嵐を励ます。空襲は空母を狙い撃ちしたため駆逐艦はまだまだ元気である。

 

「よし。両舷前進第四戦速!利根さん達と合流するよ」

 

そう言うと単縦陣で夜闇に消えた。

 

 

6月6日5時 ミッドウェー島沖

 

「そろそろ戻らなきゃ」

「あら、飛行場を砲撃したのですから空襲は来ないはずでは?」

 

第七戦隊旗艦の鈴谷の意見に熊野が反対する。

水偵の夜間偵察によると一定の成果はあるようだが、完全に無力化出来たかは怪しい。

 

「もうすぐ大和さんも来るし、僕らはもういいんじゃないかな」

「最上さんの言う通りですわ」

 

最上と三隈の意見で四人は第二艦隊と合流する事にした。

重巡四人の砲撃で艦上機十数機、B17を8機破壊している。滑走路にもダメージが入ったし充分の戦果である。

 

結局日本は米艦隊を見つけられず、夜襲を掛ける事は出来なかった。米艦隊はレーダーの性能が良くない上、制空権がない夜間に戦うのは不利と見て東方へ下がっていたからである。

しかし、その夜間に日本の主力は急いで走り、戦闘地域に入る事に成功した。戦艦11隻にも登る勢力となった日本だが、空母は小型なのが2隻しかない。対してアメリカはエンタープライズに基地航空隊がある。どちらが優勢なのかはどちらにも分からなかった。

 

 

 

同6時 横須賀

 

「飛龍が撃破したエンタープライズ級(ホーネットの事)を放棄し、重巡を中心とした護衛艦は東へ逃走しています」

「伊168が急行するとの事です!」

「愛宕2番機より入電。敵艦隊発見!大型空母1、巡洋艦6、駆……以降は途切れており確認出来ません」

 

次々と入ってくる報告に司令部は慌しかった。皆ほとんど寝ていない。大打撃を受けてもまだ闘志は失われていなかった。

 

「今こそ艦隊決戦の時かと」

 

参謀の黒島が提案する。

 

「第二艦隊の水雷戦隊を突入させて混乱させ、大和達に砲撃戦をさせましょう」

 

鉄仮面と言われる参謀長宇垣も長年夢見た艦隊決戦に顔に赤みが差している。

 

「そんな上手く行きますかね。制空権は敵さんが持ってますよ」

 

その中で戦務参謀渡辺は冷静であった。

 

「どちらにも言い分はある。今こそ艦隊決戦の機会ではある。だが傘が少ない中

、二つも差してられんだろう。第二艦隊(2F)の水雷戦隊は主力の護衛をしてもらう。いざ戦闘となれば突撃して貰うがね」

 

深く考えていた山本はこう決断した。

 

「空母はどうしましょう。攻撃させますか」

「そうしたい所だが貧弱過ぎます」

 

航空参謀の佐々木が却下した。

 

「瑞鳳、鳳翔共に搭載機は少ないです。二人共戦闘機は九六式が中心で瑞鳳に零戦6機があるだけです。鳳翔の艦爆は旧式の九六式ですし、瑞鳳は魚雷を積んでいません。後方に下げて主力の艦隊直掩に努めるべきかと」

「佐々木!弱気になってどうする」

「いや、尤もだ。そうしよう。最低でも四航戦が来る午後までは持たせなければならないからな」

 

山本の鬨の声で決まっているが参謀達はピリピリしている。思ってもいなかった展開に何が正しいのかが分からなくなっているのだ。

山本はため息をついた。

 

 

 

同8時 ハワイ真珠湾

 

日本と同じく艦隊から降りた司令部は真珠湾の司令部に篭っている。太平洋の地図が広げられた部屋で士官達が考えていた。

 

「連合艦隊が接近しています」

「ナグモの艦隊が壊滅した今、敵の連合艦隊(グランドフリート)は砲撃戦に持ち込もうとしているのでしょう」

「だろうな」

 

第16任務部隊のレイモンド・スプルーアンスは冷静に賛同した。

 

「私が負けなければ…」

 

第17任務部隊のフレッチャーはヨークタウンを見捨てた判断をまだ悩んでいるようだ。

 

「いやいや。応急処置だけで再び海戦とはよくやったよ。むしろ潜水艦などにホーネットを傷つけられた私の方がイライラするね」

 

スプルーアンスは無表情で言った。言葉とは反対に全く怒っている素振りは見えない。

 

「エンタープライズはミッドウェー島を砲撃した敵艦隊に向け攻撃機を発進中」

 

エンタープライズからの報告にスプルーアンスは頷いた。その時ミッドウェー島から無線が届いた。伝令が読み上げる。

 

「ミッドウェー航空隊から入電。戦艦1隻を大破させたようです」

 

室内から歓声が上がる。

 

「やったか。しかし空母1、駆逐艦5と聞いていたが…」

 

スプルーアンスは疑問に思ったが戦力を削った事には変わりなく、日本の主力とは別の部隊なので深くは気にしなかった。

 

 

同時刻 横須賀

 

「第七戦隊から入電。我二度目の空襲を受け、三隈轟沈、最上中破、朝潮荒潮が小破の被害を受ける」

「くまりんこがやられたか」

「敵空母はそっちを攻撃してくれたな」

「このまま向こうに行ってくれれば良いが…」

 

一等巡洋艦の損失は大きいが空母4隻に比べれば衝撃は少ない。むしろ昼間に突進する連合艦隊に向かわなくて良かったという雰囲気が流れている。

山本は時計ばかりを眺めていた。

 

 

 

同9時20分 ミッドウェー沖

 

「壮観ね」

「連合艦隊の主力が揃ってるからな」

 

大和と長門が話すように、現在第一艦隊と第二艦隊の警戒隊は合流して大艦隊となっている。空母部隊の前衛として突撃、敵攻撃隊の吸収という意味合いもある。

 

第一戦隊 大和、長門、陸奥

第二戦隊 伊勢、日向、扶桑、山城

第四戦隊 愛宕、鳥海

第五戦隊 妙高、羽黒

を中心に左右を第二、第三水雷戦隊が固めており、三本の束になって進んでいる。 

続く空母部隊は金剛ら第三戦隊が横に並び、その後ろに鳳翔、瑞鳳、夕風(駆逐艦)が、外周を第四水雷戦隊が固めている。

 

また、第一航空艦隊の生き残りと被害を受けた鈴谷ら第七戦隊、ミッドウェー島攻略部隊、補給部隊はウェーク島航空隊の傘へ入り、主力の突撃後に再接近する予定だ。

 

いよいよ艦隊決戦という形であるが、アメリカの艦隊は空母と重巡が中心であり戦艦は1隻もいない。スプルーアンスは元々水雷屋であるため、日本と砲雷撃戦をしてみたいという気持ちが無くはなかった。しかし、こちらは正規空母という長槍が主兵装であるため、一定の距離を保ちながらむしろ後退していた。

日本は大艦隊ではあるが、速度は扶桑型に合わせて最大でも21ノットでしかないが、アメリカは30ノットである。追いつけるはずが無かった。

しかし山本は時計を見つめたまま、ただ時を待っていた。

 

 

 

同10時30分 連合艦隊

 

「北東から不明機多数。敵艦載機だと思います」

 

大和が電探で敵機を察知した。

 

「ついに来たか」

「空母1隻とは言え侮れないわ」

 

長門と陸奥が応じる。

 

「対空戦闘用意!」

 

大和の掛け声で全艦が一斉に零式通常弾(榴弾)を装填、砲機銃を北の空へ向けた。

 

 

 

同10時35分 連合艦隊上空

 

エンタープライズから発進した航空郡司令のクラレンス・マクラスキー少佐は眼下に見えて来た大艦隊に思わず口笛を吹いた。

 

「主力空母を沈めたと思ったらまだこんなにいたとはね」

「やつらも必死ですなぁ」

 

彼の部下もあまりの数に苦笑しているようだ。

彼らは真珠湾にある艦娘搭載航空隊司令部からの映像を見ている。航空機とはモニターではなく直接脳波で繋がっており、本当に搭乗しているかのような感覚である。実際の航空機には搭乗スペース一杯に装置が詰め込まれており、それとリンクする事で遠隔操作が可能で、かつ空母艦娘が運用出来る。しかし搭乗員と感覚が繋がっているので無人機のような10Gを超える動きは出来ない。

とは言え全員が回線で繋がっているので無線が無くても意思疎通出来る利点は大きい。その分通常の有人機より高額になるが、操縦を妖精に任せる機体よりは格段に安い。

この技術を持っているのは未だに日英米の三カ国だけであり、航空母艦保有の大きな壁となっている。

 

「妖精のやつらにはこの景色をどう見ているんでしょうね」

「同じじゃないか?」

 

クラレンスは横のF4Fワイルドキャットを見る。パイロットの妖精はこちらに気づくと敬礼をした。風防が心なしか輝いているように見える。

比較的潤沢な予算があった米海軍航空隊は消耗品であるパイロットを育てるより資金に物を言わせて妖精という"ユニット"を大量に生産した。それに最新鋭のF4Fが加わり米空母航空隊は世界最強と謳われていた。

だがマニュアル通りの戦闘は少数精鋭の人間パイロットが乗った日本のゼロの前には的でしか無かったのだ。

 

今回も瑞鳳と鳳翔が上げたなけなしの戦闘機に2機が撃墜されている。零式3、九六式6にF4Fが21機という性能と数が開いた戦闘でもこれである。

帰還したら上にレポートを出さなければとクラレンスはため息をついて艦娘の品定めをしているとふと一隻の艦娘に目を奪われた。

その艦娘は中央に位置しており武装から戦艦と分かる。だが後ろに控えるナガトクラスが小さく見える程の武装だ。9本の主砲は17インチ(43cm)はありそうだった。

 

「新型戦艦だ!大きいぞ」

「将旗が上がってますし、旗艦だと思われます」

「直掩機は片付けましたし、攻撃しましょう!」

 

部下達は歓喜の声を上げて攻撃を具申して来た。

日本艦隊は艦隊決戦或いは島砲撃を狙っているし、直掩機の数を見ても残存空母は小型レベル。とすればこの新型とナガトクラスを沈めれば合衆国の勝利である。クラレンスは素早く計算して攻撃を許可した。

 

 

 

同10時45分 横須賀

 

「連合艦隊が米空母から空襲を受けました!」

「被害は」

 

伝令に参謀長の宇垣が鋭く反応した。

 

「は。攻撃は大和に集中。被弾7、至近弾8。それにより右舷の副砲が破損、主砲第二砲塔が電路切断により使用不能との事です」

「かなりやられたな」

「それで、何機墜とした」

「瑞鳳隊が2、大和と陸奥がそれぞれ機銃で1です」

 

あまりに少ない数に失望の声が漏れる。

 

「やはりその程度だよなぁ」

「最上砲の薄い装甲が仇となったか。対空砲火を増やさねば」

 

それに対しての山本と宇垣の反応は正反対だった。

 

「長官。如何なさいますか」

「如何も何も続行に決まってるだろう。あと数回耐えるだけだ」

 

参謀の問に山本は力強く答えた。

 

 

 

同14時 第16任務部隊

 

「第四次攻撃隊発艦」

 

エンタープライズは一人で攻撃隊を送り続けた。リーチを活かした完璧なアウトレンジ。だが空母一隻に戦艦7隻は荷が重すぎた。

三度の攻撃は中心部の戦艦三隻のみを狙っている。弾みで護衛の駆逐艦娘2隻を沈めた程度で三隻が沈む気配はまだない。特に最新鋭のアイオワとも肩を並べそうな旗艦はすでに10発以上の1000ポンド(454kg)爆弾と魚雷を命中させているが落伍していない。長時間の連続運用と敵の粘り強さがエンタープライズを疲れさせていた。

米空母機動部隊を地獄に陥れた報告が入ったのはそんな時だった。

 

「北方より不明機多数!」

 

軽巡アトランタの電探が捉えた影に艦隊は混乱した。

 

「そんなはずは…」

「ミッドウェー基地からの増援かしら?」

 

重巡ニューオーリンズが疑念の声を上げる。

 

「でもあそこにはそんなに飛行機はないはず」

 

重巡達の議論に第一駆逐戦隊のファラガット型駆逐艦娘達は混乱し始めた。嚮導駆逐艦ウォーデンが制しようとしているが収まらない。

 

「念のため直掩機を上げるわ」

 

エンタープライズはF4Fワイルドキャット4機を撃ち出す。全力で攻撃を仕掛けるために手元に残した艦戦は僅かであった。敵機の空襲を受ける可能性は低いと考えていたからだ。

やがて空の彼方に大量の黒点が表れ、確認に行った偵察機がそれらに赤い丸が付いているのを確認して撃墜されると艦隊は大混乱となった。

エンタープライズは慌てて残っていたF4Fを4機上げる。

しかし直掩機の奮戦虚しく日本機は艦隊の上空までたどり着き真上で壮絶な空中戦が始まる。味方機を撃たないように対空砲火は控えめにせざるを得ない。

ワイルドキャットはすぐに撃墜され、攻撃隊が突撃体制へと移る。

この攻撃隊を放ったのは第四航空戦隊の龍驤、隼鷹である。アリューシャンから急ぎ南下してなんとか間に合ったのだ。連合艦隊は攻撃は出来なかったが空母の位置は把握しており、盛んに無線を発信していた。その位置に向けて攻撃隊を放ったのだ。

 

第一次攻撃隊は

龍驤 零戦6、九七艦攻12

隼鷹 零戦3、九九艦爆18

であり、中型空母二隻と言えど充分である。

 

この攻撃でエンタープライズが中破、重巡2を大破、駆逐艦2を撃沈した。

ダメコン班の活躍で轟沈を免れたエンタープライズだがカタパルトが破壊され迅速な運用が出来なくなった。

 

四航戦は第二次攻撃隊として共に艦攻を繰り出してエンタープライズを仕留めようとしたが、またもやダメコン班に救われて撃沈には至らなかった。しかし、着艦が困難で連合艦隊を攻撃した多数の艦載機が海上に不時着するかミッドウェー島に避難、護衛艦も甚大な被害が出たためスプルーアンスは撤退を決め、エンタープライズは泣く泣く真珠湾へと戻った。

 

その後連合艦隊はミッドウェー島に到達。飛行場を砲撃した後に大破した大和、長門を庇いながら帰国。

代わりに第二艦隊が進出して揚陸を敢行し、これを占領した。

第四航空戦隊は弾薬切れにより追撃を諦め、揚陸の上空掩護をした後に帰還した。

 

 

 

6月10日 真珠湾

 

「…という訳でして、我が軍はミッドウェー島を失いました」

 

スプルーアンスはニミッツ太平洋艦隊司令長官に海戦について報告を行った。

 

「君がいながらこの体たらくか」

「大変申し訳ございません」

「ホーネットは空爆で沈み、ヨークタウンは放棄された後に潜水艦に沈められ、エンタープライズは重症を追って帰還か」

 

ニミッツはため息をつく。冷静沈着なスプルーアンスも流石に厳しい表情のままだった。

 

「しかし日本もナグモの空母4隻を沈められてますし、ナガトクラスやあのモンスター(大和)も大損害を負っています」

 

ヨークタウンを率いていたフレッチャー提督は海戦によって得た戦果の大きさを主張する。

 

「そうです。合衆国はエセックスクラスや護衛空母を大量生産しています。対して日本にはそのような建造能力はありません。今を耐えれば必ず勝てます」

()()()()()ね。今太平洋で動かせる正規空母は今日パナマを超えたワスプだけだ。エンタープライズも流石に修理に時間がかかる。それまでどうするのかね」

「海上交易路の遮断です」

 

ニミッツの問にスプルーアンスは淀みなく答える。

 

「潜水艦か…悪くないな」

 

ニミッツは潜水艦に絶大な信頼を寄せている。

アメリカ太平洋艦隊は三箇所の潜水艦基地を持っている。ハワイ、オーストラリア、フィリピンだ。

そのうちフィリピンは開戦時に日本航空隊が台湾から渡洋爆撃をした際に偶然魚雷格納庫に命中。一日で基地機能を失った上、フィリピン占領により物理的にも使用不能となった。

それとは別にアメリカ製の魚雷は不調が多く、P・S級潜水艦娘から苦情が出ていた。

そのような前途多難な潜水艦艦隊だが、魚雷の改良やガトー級の大量生産で改善されるだろう。

 

ニミッツは現在よりさらに積極性な通商破壊作戦を行うように通達をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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