転生しなかったら理想のヒモ生活な件。 (四季式)
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世界の捩れ。

 俺は三上(ミカミ)(サトル)

 三十路という大きな壁を超え、童貞(じゅんけつ)を守り抜き、遂に『魔法使い』へと至ったナイスガイだ。

 

《確認しました。エクストラスキル『魔術師』を獲得・・・成功しました》

 

 そんな俺は、現在死にかけている。

 暗い夜道を一人で歩いていたら、物陰から飛び出してきた通り魔にグサリとやられてしまった。

 ああ、くそ。傷が熱い。

 

《確認しました。対熱耐性獲得・・・成功しました》

 

 しかしアレだ。血を流しすぎると身体は寒く感じるってのはホントだったんだな。

 

《確認しました。対寒耐性獲得・・・成功しました。対熱対寒耐性を獲得したことにより『熱変動耐性ex』にスキルが進化しました。続いて血液が要らない身体の作成に入りま………エラー、エラー。別種の魔法の介入を確認。抵抗(レジスト)・・・失敗。現在獲得したスキルの保護を最優先し、他のスキル獲得を断念》

 

 さっきからいろいろ煩いな。

 もう死ぬんだから静かにしててくれよ。

 

 薄れる思考と視界の中で、自分の周りの空間が歪んでいることに、俺は気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、婿殿。まずは───、は?」

 

 赤い髪と小麦色の肌を持つ美女は、目の前に現れた死にかけの男を見て一瞬呆けたが、すぐさま

 

「──治癒の宝玉を持て! あとすぐに医者を! この者を死なせてはならんぞ!」

 

 と周りの者にその男の治療を指示したのだった。

 

 

 

 

 

 

◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎

 

 

 

 

 

 

 

「──ん?」

 

 ここが、死後の世界?

 なんだか高級なベッドで寝ているかのような感触だ。

 暑くもなく寒くもなく、快適な感じ。

 (まぶた)越しに光を感じる。

 

「んー…!」

 

 思いの外重い瞼を上げると、そこはどこかのホテルの一室のようだった。

 まだぼんやりとしか見えないが、どうやら天蓋付きのベッドに寝かされているらしい。

 視線を彷徨わせていると、部屋の隅の椅子に座っているご老人と目が合った。

 

「………」

 

「──お目覚めになられましたか。すぐに陛下をお呼びいたしますので、そのままお待ちくだされ」

 

 そう言うとご老人は部屋から出て行った。

 とりあえず、その『陛下』とやらを待つとしよう。

 

 数分後。

 

 はっきりとしてきた視界に映る部屋の様子に首を傾げていると、

 

「待たせたな、婿殿。まずは謝罪を。断りもなく『この世界』に呼び出したことを謝らせてもらう。しかし驚いたぞ。『呼び出した』はいいが、いきなり死にかけていたのだからな」

 

「はあ……」

 

「ん、混乱するのも無理はない。そなたの疑問を解消するためにも説明をさせてもらいたいのだが、いいだろうか?」

 

 俺は目の前に現れた褐色美人にときめきながら、絞り出すように

 

「はぃ」

 

 と返事をするのが精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、数年後に魔物(スライム)として別の異世界に転生するはずだった男の、『もしもの物語』である。



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結婚の選択。

「──という訳だ、サトル殿。このカープァ王国のため、我が伴侶になってくれぬだろうか?」

 

 褐色赤髪の美人・アウラさんは、ここ『カープァ王国』の『女王陛下』だった。

 その伴侶、ということは王配になるということだ。

 だが、その王配になるためにも条件があるという。

 第一に王族の血筋が少しでもあること。

 第二に一定以上の魔力を持っていること。

 『え、どちらも俺に当てはまらないのでは?』と思ったのだが、その説明もされた。

 

 一つ目については、大昔にどこぞの女と駆け落ちした王族がいて、それがおそらく俺の先祖なのだ、というのだ。

 なんぞそれ。

 

 そして二つ目。

 これは俺が先祖返り──つまり隔世遺伝で特にカープァ王家の血が濃く出たのではないかとのこと。

 

「はあ、話はなんとなく分かりました。この世界に『魔法』があることも、俺の傷が塞がっていることで納得がいきますし」

 

 あの通り魔に刺された傷は、明らかに致命傷だった。

 なのにこうしてピンピンしていられるのは『魔法』のおかげだ。

 よくゲームにある『治癒魔法』というものらしい。

 そして俺をこの世界に呼んだのが『召喚魔法』という。

 

(治癒に召喚、ねぇ)

 

「多少なりとも理解してくれて助かる。では話を進めるぞ。──まず、サトル殿に謝らねばならないことがある。そなたは元の世界に戻ることができない」

 

(やっぱりか……)

 

 ある程度覚悟はしていたが、実際に聞かされるとクるものがある。

 

(だけど召喚されたことによって、俺は生きながらえることができた。この人に当たるのはお門違いだな)

 

「謝らないでください、アウラさん。あの傷を治してもらわなかったら俺は死んでいました。命の恩人に感謝することはあっても、恨むことなんてありません」

 

「そう言ってもらえると私も心が軽くなる。では改めて本題に入るか。サトル殿、私の婿になってくれぬか?」

 

「結婚、婿入り、そんで王配ですか」

 

 厄介事の匂いしかしない。

 

「うむ。無論、サトル殿が政策に関わることはまずない。そなたにしてもらいたいことは、子作りだ」

 

「こ、子作り、ですか」

 

 顔が赤くなっていくのが分かる。

 視線が自然とアウラさんの胸元に行ってしまう。

 童貞には目に毒なほどナイスバディなアウラさん。

 

「そうだ。先の戦で王族は私以外戦死してしまってな、早急に王族の血を増やさねば国の崩壊に繋がりかねない。そこでカープァ王家の血を色濃く継いだサトル殿に白羽の矢が立った、ということだ」

 

(ふーむ、妙だな)

 

 いくら王族がアウラさんひとりだとしても、婿候補はある程度国にいるはずだ。

 それなのに、いるかどうかも分からない異世界の婿候補に頼るか?

 

「……アウラさん、いくつか質問があるのですがいいですか?」

 

「うむ、いくらでも聞いてくれ。そなたの一生がかかった事柄だからな」

 

「ではお言葉に甘えて。こちらの世界には俺のような『婿候補』はいなかったのですか?」

 

「いるにはいるのだが、婿殿ほどの血の濃さも魔力量もない者ばかりだ。その者との間に子を成しても王家の血が薄れることになるだろう」

 

「そうですか。じゃあ二つ目、例えば俺が結婚を拒否した場合はどうする予定だったんですか?」

 

「本来ならサトル殿を召喚した翌日ならば送還魔法が使えたため、断られれば元の世界に送り返す予定だった。しかし、傷つき血を流しすぎたそなたが目覚めるのに三日が過ぎてしまった。召喚・送還は星の並びに多大な影響を受けるゆえ、次に使えるのは三十年後になってしまう。だから先ほどは『元の世界に戻れない』と言ったのだ」

 

「なるほど。では俺が断った場合は先ほど言っていた他の婿候補と結婚する、と」

 

「そうなるな。だがそれはできれば避けたい事態だ。先ほど申した通り、王家の血が薄まることはかなり大きな問題になる」

 

「三つ目の質問です。俺はこの結婚を断る事ができますか?」

 

「──できる、と言ってあげたいが、それはそなたにとってとても厳しい選択になる。呼び出した責任があるゆえ金銭などの援助はさせてもらうが、三十年後まで帰ることができぬ異世界で自分の力で生きていくのがどれだけ大変かは想像に難くない」

 

 やっぱりか。

 アウラさんは言ってないが、恐らく俺の治療に使ったという『治癒魔法』も普通の人だったらしてもらえないものなのだろう。

 俺に負い目で結婚してほしくないということなのかな?

 

「……最後の質問です。俺は元の世界では特に金持ちなわけでもない、普通の人間です。そんな俺は王族らしいことなんて何もできませんが、それでも良いんですか?」

 

「もちろんだとも。サトル殿には私との子作り以上の要求はしないと誓おう。生活も何不自由させないことを約束しよう」

 

 それは俺にとって都合がよ過ぎないか?

 本当に血を薄めたくないだけか?

 何か裏があるのでは?

 

「────分かりました。不束者ですが、よろしくお願いします」

 

 こうしていくつかの疑念を残したまま、しかし俺は結婚を受け入れることにした。

 



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婚姻の式典。

 俺が異世界転移してから二週間──つまり目が覚めてから十一日──が過ぎた今日は、俺とアウラさんの結婚式だ。

 いや、プロポーズを受けてから準備が早過ぎませんか。

 あ、俺が眠ってる間にも準備してた? どおりで早いわけですね!

 

 そんな訳であの返事を捻り出して以降、ある日は服の採寸だ何だと服飾関係を得意とする侍女がせわしなく張り付き、またある日はマナーだ何だと礼儀作法に通ずる侍女が丁寧に説明したものを必死に覚えたりと忙しい日々を送った。

 

そして式当日には、即席の張りぼて作法をなんとか様にした俺がいた。

 

「これより、強大なるカープァ王国唯一絶対なる所有者にして時と空間の生まれながらの支配者である、慈悲深くも聡明なる女王、アウラ一世陛下と、サトル・ミカミ陛下のご成婚の儀を執り行う。両陛下のおな〜り〜」

 

 なんとも長い紹介の言葉が扉越しに聞こえた。

 これが王制国家の君主の権威かぁ、と思ったのも束の間、目の前の扉が開かれ、騒つく貴族達が目に入った。

 その瞬間、その全ての眼差しが俺に注がれた。

 緊張するなという方が無理な相談だ。

 隣のアウラさんと組んでいる腕の感触が、唯一この状況が現実だと知らせてくれる。

 

 俺とアウラさんは一歩ずつ会場中央の花道を進んでいく。

 礼儀作法を教えてくれた侍女によると『新郎と新婦のどちらが先行してもいけない』らしい。

 理由は教えてもらえなかったが、想像はできる。

 男である俺が王様なら俺が先行しても問題はなかったのだろう。

 しかし、実際の王様は女王であるアウラさんだ。

 そしてこの国には日本のように『女は男を立てるもの』という風習が根付いているらしい。

 そのため、アウラさんが先を行けば『男の前に立つ女』という悪評が広まるし、俺が先を行けば『女王を先導した男』というイメージがついてしまう。

 前者は最悪だし、後者もできれば避けたいところだ。

 

 俺なりにこの十日と少しの間考えてみたことがある。

 それは『どうしてアウラさんはわざわざ異世界から俺を召喚したのか』ということだ。

 プロポーズを承諾する前の説明は、確かに本当のことだろう。

 だが、それが真実の全てかと言えば、それは違うはずだ。

 そもそも前提がおかしいのだ。

 いくら召喚魔法に条件付けをして当てはまる者を召喚するとしても、本当にいるか分からない別世界の親戚をあてにするか?

 結婚相手がよほど嫌な奴だった、などというお粗末な理由ではないだろう。

 いや、性格などの問題ではなく、家柄や思想などが絡む内政的な理由で『嫌な奴』だというならば納得がいくが。

 

 そこまで考えたところで合点がいった。

 なるほど、俺ならば庶民の出、贅沢な暮らしに女を侍らせれば簡単に懐柔できるという考えも少なからずあるだろう。

 少なくとも国を乗っ取るような野心は抱かない。

 アウラさん的にはそれだけでも大いに助かるはずだ。

 後は跡継ぎの子ができれば万々歳。

 

 とまあ、色々思いつきはしたが、俺的には利用されている風な扱いに不満を持っているわけではない。

 人間関係というのは利用し利用されるのが世の常だ。

 アウラさんを非難する気も軽蔑する気もない。

 全てを正直に話すことは人として美徳かもしれないが最善ではないということも分かる。

 話すことで俺が疑心暗鬼になることがないように配慮してくれたのだろう。

 ただでさえ不安な異世界生活なのだ。

 そういったものは最小限に抑えられればそれに越したことはない。

 

 長々と考えて何が言いたいかというと、俺はアウラさんを引きずり降ろして王様になる気はないので、今は物理的にも精神的にも歩調を合わせる必要があるということだ。

 

 

 

 

 

 

◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎

 

 

 

 

 

 

 

 結婚式は五日間夜通しで開催された。

 もちろん主賓である俺とアウラさんは臣下の貴族をもてなし、臣民に手を振り、睡眠時間や休憩時間はあれど、ほぼ誰かの前に出っぱなしだった。

 

 はっきり言おう。

 結婚式甘く見てた。

 

 異世界の、しかも王族の結婚式であるということを除いてもまだキツい。

 誰かの注目に常に晒されるというのがどれほどストレスかを思い知った五日間だった。

 

「お疲れ、アウラさん」

 

「ああ、サトル殿。かなり疲れているようだな。かく言う私もさすがに堪えた」

 

 結婚式が無事終わり、後宮の私室に戻ってこれたのはついさっき。

 ここには侍女たちを極力呼ばないようにしている。

 市井出身の俺としては、使用人であろうとプライベートルームに他人がいては落ち着けない。

 

「それはそうと、サトル殿。そんなところに立ってないでこちらに座ったらどうだ?」

 

「あ、はい。じゃあ失礼します」

 

 三人はゆったりと座れるであろう豪奢なソファの端に座る。

 

「そんな端ではなくもっとこっちに来てはどうだ? それに、そんなに畏まらないでくれ。私たちはもう他人ではない、夫婦なのだから」

 

「はい、じゃなくて、うん」

 

 返事をし直して改めてアウラさんの隣に座る。

 あ、めっちゃいい匂い。

 

「ああ、そうだ。呼び名も他人行儀なのは終わりにしよう。私のことはアウラでいいぞ、サトル」

 

「あ、アウラ……」

 

 見つめ合う俺たち。

 こ、これは行っちゃってもいい感じですか?

 

「ん、ンム」

 

「ンン」

 

 二人の距離がゼロになり、唇が重なった。

 

「ン、はぁ、アウラ。俺……」

 

 もう辛抱たまらん、と飛びかかりそうになったところで、スッとアウラが立ち上がった。

 え、まさかのお預け……?

 

「そんな悲しそうな顔をするな。女には女の準備があるのだ。百、数えたら寝室に来てくれ」

 

 そう言ってアウラは扉一枚隔てた寝室へと消えた。

 

 俺は今までで最速で百カウントするのだった。

 



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認識の差異。

 チュンチュン。

 

「ふぅ。朝、か」

 

 朝日が木製の窓の隙間から寝室内に入ってくる。

 

「はぁ、はぁ」

 

 豪奢なベッドにいるのは俺と、息も絶え絶えなアウラ。

 うん、ヤり過ぎちゃった!

 

 いやね、俺も初体験(脱・童貞)だったから加減が分からなかったり、ひとりでヤるのと全然違って出しても出しても賢者タイムに突入しなかったりと色々ありまして、気づいたら朝でした。

 

「……とりあえず換気しよう」

 

 この生々しい匂いは、いくら侍従とはいえ他人に嗅がせられるものではない。

 まあ子どもを望まれている以上『こういうこと』をするのは前提条件としてあるけどさ、それとこれとは別だ。

 人並みの羞恥心は持ち合わせている。

 

「う、サトル? 朝なのか……?」

 

「あ、おはようアウラ」

 

「ああ、おはよう。ところでサトル」

 

「ん?」

 

「腰が抜けて立てないから侍女を呼んではくれぬか」

 

「あ、はい」

 

 ……かなりヤり過ぎてしまったようだ。

 俺は近くに落ちていた寝巻きを着て侍女を呼びに部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、男女のまぐわいとはこんなにも激しいものなのだな。比較すべきではないが、戦場の方がまだ楽だ」

 

「……ごめんなさい」

 

「ああ、本気で言っているわけではないのだ。ちょっとした冗談だ、サトル」

 

 いや、ほんとすみません。

 実際にいたしたのが初めてでも、この精力が異常なのは分かる。

 AなVの男優ですらこんなに保たないはずだ。

 いったい何が俺の身体に起こったんだ……?

 

「どうした、サトル? 深刻そうな顔をして。──まさか、まだ足りないのか……?」

 

 これは側室も考えねば、とアウラが小さく呟いたようだが、それを気にする余裕はなかった。

 

「アウラ。とても言いにくいのだが、おそらく俺のこの精力は異常だ。元の世界にいた頃にこれだけ、その、出したことはなかったし、知識として知っている一般的な男性よりもかなり多いと思う。何かこの異常の原因に心当たりはない?」

 

「そ、そうなのか。うむ、原因かは分からぬが『治癒の宝玉』は傷や病気の治癒だけでなく生命力を活性化させる効果もあると聞いたことがある。しかし治癒の宝玉を使用したのは二週間も前のこと。その効力がそこまで残っているかは疑問だな」

 

 うーん、『治癒の宝玉』かぁ。

 

「今までに治癒の宝玉を使った人はどうだったの?」

 

「治癒の宝玉が使われるのは大病を患った者がほとんどなのだ。そのため生命力を活性化させても、病気で失った分を取り戻すのが精々だ。そなたのように死にかける大怪我を治すように使った記録は、少なくともこの国にはない」

 

「前例がないからどう影響するか予想できない、と」

 

「その通りだ」

 

 だが治癒の宝玉で怪我を治してもらってからの二週間、そういった欲求が異常に湧いたということはなかった。

 昨晩はアウラといい雰囲気になって昂ぶったが、それも異常なほどというわけではない。

 

「なんというか、どれだけ出しても充填されるって感じが一番しっくりくるな」

 

「それは実質底なしではないか……。やはり側室を早急に──」

 

「用意しなくてもいいです」

 

「む? しかし毎日ここまで求められるとなると、私も政務に支障が出てしまう」

 

「えーと、加減するように心がけますので、側室は遠慮したいです」

 

「男は誰しも複数の女を囲いたい欲求を大なり小なり持っていると思ったが、違うのか?」

 

「誰しも、ってのは違うと思うよ。確かに奥さんがいても他の魅力的な女性に目が行くことはあるだろうけど、それは男のサガと言いますかなんと言いますか……。とにかく、今の俺はアウラでいっぱいだから他の女性の入り込む余地はないの!」

 

「そ、そうか。そう言ってもらえるのは妻冥利に尽きるが、心に余裕ができたら考えてみてくれ。────加減されても身がもたん可能性もあるし」

 

 最後にボソッと言った言葉は聞こえなかったけど、側室かぁ。

 つまりハーレムですね分かります。

 だけど童貞を卒業したばかりの俺には荷が重すぎる。

 



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侍女の歓待。

「では行ってくる。夕食には間に合うようにするつもりだが、先に食べてしまっても大丈夫だぞ」

 

「分かった。仕事がんばってね」

 

 軽くキスを交わすと、アウラは後宮から出て行った。

 女王陛下は多忙なのだ。

 

「さーて、何しよ」

 

 後宮の私室にひとり。

 娯楽の類いは、現代日本から見ると稚拙な物ばかり。

 ならば読書をしようかと思っても、異世界の文字で読めない。

 

「あー、暇」

 

 こうしてゴロゴロと暇を持て余すなんて、ここに来る前は贅沢な事だと思っていたが、それが延々と続く状況になってみると若干の苦痛すら感じてしまう。

 

 コンコンコン。

 

 とノックの音が聞こえた。

 

「失礼いたします。サトル陛下、侍女長のアマンダでございます。入室してもよろしいでしょうか」

 

「あ、どうぞ」

 

 反射的にそう返答すると、二人の中年女性と三人の若い女性が入ってきた。

 

「お休みのところ申し訳ありません。これからは清掃担当者がこの私室に出入りすることになるので、ご挨拶と何か注意点などがあればおっしゃっていただきたいと思いまして」

 

「お初にお目にかかります、サトル陛下。清掃担当責任者のイネスと申します。こちらは同じく清掃担当の侍女のフェー、ドロレス、レテでございます」

 

「ふぇ、フェーです」

 

「ど、ドロレスです」

 

「レテですー」

 

 侍女長には結婚式前に何度も会ったことがあるが、他の四人ははじめましてだ。

 

「三上……じゃなくてサトル・カープァだ。よろしく」

 

「はい。よろしくお願い申し上げます。さっそくですが、この部屋を清掃するにあたって時間や注意点の確認をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」

 

「大丈夫だよ。と言っても、この部屋に元々の俺の私物はないし、時間も基本暇だからいつでも構わない」

 

「それはありがたいお言葉ですわ。では清掃時間は朝食後と夜の入浴中の二回にしようと思います。もし不都合などございましたら何なりとお申し付けください」

 

 不都合──、ふむ。

 

「ではひとつだけ」

 

 五人がピンッ、と緊張するのが伝わった。

 そんな大層なこと言うつもりじゃないのに申し訳ないな。

 

「日中、特にアウラが居ない時にすることがないから、清掃や仕事の合間でいいから話し相手になってほしいんだ」

 

「承りましたわ。それならば年若いこの三人がよろしいかと存じます。ご自由にお呼びになってください」

 

 侍女長がそう言うと、件の三人は百面相をしていたが、清掃責任者に視線で黙らされた。

 

「あー、もし三人に不都合なら別にやらなくても……」

 

「いいえ、陛下。不都合などあるはずがありません。そうですね、三人とも」

 

『はい!』

 

 若い三人が声を揃えて返事をした。

 

「では私達はこれで失礼いたします。あ、この三人は話し相手に残しておきますので、なんでも申し付けてくださいませ。貴女達、陛下に失礼のないようにね」

 

 そう言うと、侍女長と清掃責任者は退室していった。

 そして残るは怯えを表に出さないようにしてるのがバレバレな三人の侍女。

 どうしようか、これ……。

 

 

 

 

 

 

 

◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、改めまして、よろしくお願い致します、陛下」

 

 ショートカットの小柄な侍女、フェーが先陣を切って挨拶してきた。

 

「よ、よろしくお願い致します」

 

 そこに長身の侍女、ドロレスが続き、

 

「よろしくお願いしますー」

 

 垂れ目で巨乳な侍女、レテが間の抜けた感じの挨拶で締めた。

 

「ちょ、レテ! 陛下に失礼でしょ!」

 

「そうよ、レテ! 失礼のないようにってアマンダ侍女長に言われたでしょう!」

 

「でもー、陛下はあんまり堅苦しい態度、お嫌いだと思ったんですけど、違いますかー? もし違うようでしたら謝罪いたしますー」

 

 ぽわぽわした感じに反して、なかなか鋭いなこの娘。

 確かにこの世界に来てから、王配になり陛下と呼ばれるようになり、堅っ苦しい態度と言葉遣いには辟易していた。

 

「レテの言う通りだ。フェーとドロレスもそんなに緊張しなくても取って食ったりしないよ」

 

「……取って食われるのが前提の仕事なんですがね」

 

「ん? なんか言った?」

 

 ボソッとドロレスが何か呟いたが、よく聞き取れなかった。

 

「いえいえ! なんでもありません! ところで陛下。話し相手と申されてましたが、どんな話をご所望ですか?」

 

「だからー、陛下はもっと砕けた話し方が好きなんだってばー」

 

「そ、そうね。えっと、陛下はどんな話がしたいですか?」

 

「そうだなぁ、アウラについて聞きたいな。俺がここに来てからまだ二週間くらいしか経ってないし、その内三日は眠ってた。だからアウラと接していたのは十日ほどしかない。俺はもっとアウラのことが知りたい。君たちの私見でいいから、アウラについて教えてくれないか?」

 

 そう言うと三人は顔を赤くして、

 

「ほえー。アウラ陛下ってば、めちゃくちゃ愛されてるじゃん」

 

「まだ会ったばかりなのに、ここまで想われてるなんて」

 

「うふふー、ごちそうさまですー」

 

 と言ってくるので、こちらも赤面してしまった。

 

 それから清掃責任者のイネスが来るまで、俺はアウラの武勇伝などを色々教わった。

 

 



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一日の終り。

「さて、後宮での生活を一日終え、何か不都合はあったか?」

 

 朝の宣言通り政務を急いで終わらせたのか、アウラは夕食の時間前に後宮へと帰ってきた。

 

「うーん。不都合と言うまでではないけど、とにかく時間が有り余って仕方がない。何かやることや暇つぶしがあるといいのだけど」

 

 そして夕食の席、俺は今日の感想を素直に口にした。

 

「ふむ……本来はサトルがこちらの生活に慣れてからにしようと思っていたが、前倒ししても大丈夫そうだな。実はサトルに家庭教師を付けたいと思ってな」

 

「家庭教師?」

 

「ああ。とは言っても勉学のためではなく、最低限の礼儀作法と『魔法』についてのだがな」

 

「魔法! ついに俺も魔法が使えるようになるのか……!」

 

 しかもアウラや俺の血筋が使えるのは『時空魔法』という、なんとも厨二心をくすぐられる名前の魔法。

 古今東西、強キャラやラスボス級が使える設定がほとんどの『時間』と『空間』を司る魔法。

 それを、俺が、使えるように、なる!

 

「あー、盛り上がっているところ悪いのだが、魔法をまともに使えるようになるには年単位の修練が必要だ。残念ながら、明日習ってすぐ使えるものではない」

 

 なん……だと……。

 全俺が泣いた……。

 

「ち、ちなみにアウラはどのくらいの練習で魔法が使えるようになったの?」

 

「最も簡単な時空魔法の発動には、たしか約一年かかったな。ただ、魔法を発動する際必要な魔力の制御は、魔力量が多いほど難しいらしい。サトルはカープァ王家の血を濃く受け継いでいるとはいえ、さすがに直系である私ほどの魔力量はないはずだから、もしかしたらもっと早く使えるようになるやもしれん」

 

「なるほど」

 

 魔力が多いのも考えものだな。

 将来的に使いこなせるようになるなら多い方がもちろんいいはずだが、より細かな制御は魔力が少ない方が得意そうだ。

 

「サトルもやる気のようだし、家庭教師を付ける方向で話を纏めてしまってよいか?」

 

「うん。それでどんな人が家庭教師になるの?」

 

「後宮で授業を行う関係上、女であることが前提だ。サトルが側室を望まないことを考えると、既婚者か老人となるな。明日から募集をかけるので、一週間ほど待ってほしい」

 

「ん、了解。一週間くらいなら侍女のみんなと暇つぶしして待てるな」

 

 そう言うとアウラは、さっきまでのリラックスした様子から剣呑な雰囲気に変わった。

 

「──ほう、『侍女のみんな』か。今日だけで随分と仲良くなったようだな。しかも複数人と」

 

「あ、アウラ……?」

 

「ああ、報告は受けている。若い侍女三人を(はべ)らせていたそうじゃないか」

 

 にっこりと笑みを浮かべるアウラ。

 そういえば、本来笑顔って威嚇の表情らしいな。

 と、昔テレビで得た情報を思い出していた。

 

「い、いやいやアウラ、違うんだ。ただ日中暇で話し相手がほしいと言ったら、フェー達が残ってくれて。でも変なことはしてないし、決して浮気なんかじゃなくて」

 

 しどろもどろになりながら言い訳のような説明をする。

 

「ふっ、ふふふ。冗談だサトル。側室の提案を自分からした私が、その程度のことで怒るわけないだろう」

 

「おどかさないでくれよ……」

 

 気分的には空腹のライオンの前に放り出された感じだった。

 

「────まあ、少しだけ冗談ではないのだが、な。私にも独占欲はあるのだよ」

 

 最後にボソッとアウラが何かを呟いたが、その内容は聞き取れなかった。

 その晩は何故か激しく求められた。

 

 



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魔法の訓練。

 家庭教師をつける、と言われてから一週間後。

 元からかなり応募があったようで選定に時間を要したとのことだが、なんとかアウラの宣言通りの日数で決定した。

 

「お初にお目にかかります、サトル様。カープァ王国マルケス伯爵領領主、マヌエル・マルケス伯爵が妻、オクタビアと申します。此度はサトル様の教師という大役を仰せつかり、光栄に存じます。無学・非才の身ではありますが、全力を尽くす所存です」

 

 俺の前で深々と礼をする妙齢の女性が、家庭教師のオクタビアさんらしい。

 オクタビアさんを後宮に呼ぶ前に、アウラから言われたことがある。それは「自分の方が『上』であることを意識すること」である。

 たしかにオクタビアさんは俺に礼儀作法や魔法を教える家庭教師だ。だが忘れてはならないのが、俺が『王配』であることだ。

 伯爵夫人と王配、どちらの立場が上かは明らか。

 だからここで俺がすべき返事は『よろしくお願いします』ではなく──

 

(おもて)を上げよ」

 

「はい」

 

 オクタビアさんは今まで下げ続けていた頭を上げた。

 その様相は淑女のお手本のような清楚で上品な感じであった。

 

「サトルだ。アウラ女王陛下の夫である。今後、どれ程の付き合いになるかは分からぬが、よい関係を築きたいな」

 

「はい。私めごときには勿体ないお言葉でございます」

 

 ソファーに座っている俺は、オクタビアさんに「指導方針を聞く。座れ」と指示をした。

 オクタビアさんは「はい。失礼いたします」と返事をしてから、俺の対面の椅子に腰を下ろした。

 

「では話せ」

 

「はい。まず基本方針としましては、私がサトル様に歴史や魔法についてご指導させていただき、その中でマナーや常識に反する事がありましたら、その都度ご指摘させていただくという形を考えております」

 

「なるほど。確かに俺はこの国の常識やマナーはほぼ分からないと言っていい。それをただ説明するのではなく、普段の行いから正していけば自然に身につくということか」

 

「左様でございます。サトル様の慧眼には恐れ入ります」

 

「世辞はよい」

 

「本心でございます。では説明の続きをいたします。マナーを学んでいただく上で欠かせないのが食事の場でのものでございます。そのため昼食は基本的にご一緒させていただくことになります」

 

「分かった。異論はない。良きに計らえ」

 

「ありがとうございます。しかし先ほどから素晴らしい立ち居振る舞いです。サトル様は市井の出とお聞きしましたが、元から王族であったかのようです」

 

 そうなのか?

 多少偉そうな感じで話しているだけなのだが。

 

「それでは今日はまず、魔法の基礎についてご説明させていただきます。不明な点・疑問などございましたら何なりと仰ってください。私の知識で分かる範囲でお答えいたします」

 

「うむ。説明を始めよ」

 

「はい。では最初に魔法の系統についてご説明させていただきます。魔法は大きく二つに分類されます。一つは、差はあれど万人が習得できる『四大魔術』。もう一つは特殊な血筋の方々のみが使用できる『血統魔術』です。『四大魔術』はその名の通り四つの属性、地水火風に分けられます。魔法の発動の仕方は『四大魔術』と『血統魔術』のどちらもなんら変わりません。重要なのは『発音』と『認識』、そして『魔力量』です」

 

「発音と認識、魔力量か」

 

「まず、魔法には『魔術語』と呼ばれる専用の言語がございます。これを用いなければ魔法は発動しません。ご覧ください」

 

 そう言うと、オクタビアさんは右手の人差し指を立てて、

 

「『空中に散らばる見えざる水は、この指先に集い、球形をとれ。その代償として我は、水霊に魔力十八を捧げる』」

 

 という意味の魔術語を唱えた。

 耳に聞こえたのは『ウルムグ』という短い言葉だが、そこには意味が凝縮されているのが分かる。

 そしてオクタビアさんの指先にビー玉くらいの水球が浮かんでいた。

 これが、魔法か。

 

 

 

 

──下級水魔法が解放されました──

 

 

 

 

「は?」

 

 頭の中にテロップが流れたような感覚に戸惑い、思わず声が出てしまった。

 

「どうかなさいましたか?」

 

「今のも魔術語か? 水魔法が解放された、っていう」

 

「水魔法が解放、ですか? よく分かりませんが、私は言っていないかと」

 

 俺もよく分からないが、なんか魔法が使えるような気がする。

 

「『ウルムグ』」

 

 指を立ててそう言うと、俺の指先に先ほどのオクタビアさんと同じように水球ができていた。

 

 



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才能の片鱗。

「はい……?」

 

 今度はオクタビアさんが困惑の声をあげた。

 それもそうだ。

 なんせアウラの話によると、魔法の習得はかなり長期の訓練が必要なのだという。

 それを一度見て聞いただけでモノにしてしまったのだ。

 動揺するのも分かる。

 逆に俺は冷静だった。

 なんというか、できて当たり前のことをしただけ──例えば息を吸って吐いただけのような感じなのだ。

 なんとも不思議な感覚を感じながら、俺はオクタビアさんの方へと顔を向けた。

 

「できたぞ」

 

「は、はい。お見事でございます。……サトル様、申し訳ないのですが、本日の指導はここまでにさせていただきたいのです。明日またお伺い致しますので、何卒ご容赦を」

 

「うむ、許可しよう」

 

「ありがとうございます。それでは失礼致します」

 

 オクタビアさんは早足に部屋を出て行った。

 うーん、いくらなんでも魔法が使えるようになるのが早すぎるよなぁ。

 さっきの『下級水魔法が解放されました』って声も気になるし。

 夜にアウラが帰ってきたら聞いてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オクタビアside

 

 

 アウラ陛下より、サトル様の家庭教師への任命という大役を仰せつかり、その初日となりました。

 私は夫に挨拶したのち、後宮へと足を踏み入れました。

 サトル様への謁見は、陛下方の婚姻の儀以来となります。

 あの時のサトル様はとても緊張されていたようなので、おそらく私の事は覚えていないと思われます。

 しかし、そこは高貴なお方であるサトル様が気に病むことのないように、しっかり自己紹介させていただく所存でございます。

 

 自己紹介をしてから、魔法の説明へと移りました。

 しかしサトル様は市井の出と伺っていましたが、私に下手に出ることなく堂々とされていて素晴らしい立ち振る舞いです。

 これが王族の血のなせる技というものなのでしょうか。

 

 そして、私が魔法の実演をサトル様の前で行いました。

 まずは水魔法の初歩である『水球の精製』です。

 その時サトル様は、私の魔術語以外の何かが聞こえたと申されていましたが、私には聞こえませんでした。

 私が疑問に思っていると、サトル様は先ほど私が行使した『水球の精製』の魔法を完璧に再現されていました。

 私は気の抜けた声を出し、呆けてしまいました。

 

 あり得ない。

 まず最初に思ったのは、以前から魔法の訓練を積んでいたのではないか、という推測。

 ですが、それならば家庭教師としてわざわざ私を付ける意味が分からない。

 ならば、サトル様は今初めて見知った魔法を正しく認識し、正しい魔力を込め、正しい発音で魔術語を口にした、ということです。

 

 天才。

 

 もしこれが事実ならば、サトル様は稀代の魔術師に、それこそカープァ王国随一の魔術師と言われているエスピリディオン様以上の存在になるうる可能性があります。

 

 私はサトル様に(いとま)を頂き、部屋の外に待機していた侍女にアウラ陛下への謁見を打診しました。

 私の雰囲気から緊急の用件と判断したようで、すぐに取り次いで貰えました。

 

 

「どうしたのだ、オクタビア夫人。今は確か我が夫の家庭教師をしている時間だと思ったのだが」

 

 私は臣下の礼をし、

 

「申し訳ありません、アウラ陛下。緊急事態のため、本日は暇を頂きました」

 

 と申し上げた。

 

「まずは人払いをしよう。フォビオ」

 

「はい。暫しお待ちを」

 

 陛下の秘書官は即座に行動し、周りにいた侍女たちを退室させました。

 

「それは、サトルに何かあったということか?」

 

「はい。先ほどサトル様には魔法についての説明をさせていただき、実際に『水球の精製』を見てもらいました。その後、サトル様は同じ『水球の精製』を行使し、成功なされました」

 

「──ッ⁉︎」

 

 陛下と秘書官の表情が強張る。

 

「……それは、確かなのか?」

 

「はい、間違いございません。魔術語の発声をしかと聞き、この目で水球を拝見しました。サトル様は初見の魔法を一度で成功なされました」

 

「これは、下手をしたら戦の火種になる事実だな。よくぞ報告してくれた、オクタビア夫人よ」

 

「もったいなきお言葉にございます。して、このことは夫には」

 

「ああ。忠誠心あふれるそなたでも、夫に隠し事はできまい。このことはマルケス伯爵家とカープァ王家、あとは相談役としておばば様とここにいるフォビオまでで情報を止めておきたい。協力してくれるな?」

 

「はい。もちろんでございます」

 

「よし、ならばおばば様とマルケス伯爵に信用のおける侍女を使いに出そう。二人が到着するまで、申し訳ないが夫人にはここにいてもらう。少しでも情報が漏れないための配慮だ」

 

「心得ております」

 

 



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常識の誤差。

 オクタビアさんが退室してしまい、早々に暇になってしまった。

 まあ、俺がいきなり魔法の発動に成功したのが理由だろうし、このことでオクタビアさんを責めるのは筋違いだろう。

 

「しょうがない。コレを使うか」

 

 俺が手に持ったのは、呼び鈴。

 チリリン、とそれを鳴らすと、すぐさまドアがノックされる。

 まだ名前を覚えていない侍女が、ドアを開けて、

 

「失礼します。サトル様、お呼びでしょうか」

 

 と尋ねてきた。

 

「ああ、フェーたちを呼んでくれ。今日の予定がなくなってしまって暇なのだ」

 

「かしこまりました。すぐに参りますので、しばしお待ちを」

 

 侍女はドアを閉め、フェーたちを呼びに行ったようで、離れていく足音が聞こえた。

 

「さーて、今度は何を聞こうかな、──ん?」

 

 視界の右下の隅の隅。

 普段なら意識を向けることのない場所に、黒い三角形が見えた。

 不思議なことにその三角形は、顔の向きを変えても常に視界の隅に配置されている。

 目にゴミでも入ったのかと、擦ったり瞬きをしてみたが、三角形が消えることはない。

 一瞬、『ゲーム画面のシステムメニューのスイッチみたい』と思った途端、謎の三角形が視界上部までスライドした。

 その動いた軌跡には、

『習得済魔法』

『スキル』

『ステータス』

『ログ』

『ヘルプ』

 という五つの項目がAR映像のように、目に見える景色に重なって見えた。

 なんぞこれ。

 

 

 

 

 

 

◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します、サトル様。フェー、ドロレス、レテの三名、ただ今参上しました」

 

「失礼します」

 

「失礼しまーす」

 

 ふむふむ、なるほど。

 各項目の欄に意識を向けると、一覧が見れるようだ。

 『習得済魔法』には【上級時空魔法】【上級治癒魔法】【上級付与魔法】【下級水魔法】の四つがあり、各上級魔法の下には中級、下級の記載があった。

 時空魔法は『召喚魔法』、治癒魔法は『治癒の宝玉』、付与魔法もたぶん『治癒の宝玉』、水魔法はさっきの『水球の精製』が思い浮かぶ。

 おそらく、一度体感した魔法を習得し、その下位の魔法も使えるようになるのだろう。

 うーん、なんという壊れ性能(チート)

 

「サトル様? どうしたんですか、ブツブツと呟いて」

 

 『ログ』の欄を見ると、最新のものが【下級水魔法:水球の精製】となっていて、少し遡ると【中級治癒魔法:オートリジェネ】が複数見てとれた。

 この『オートリジェネ』というのは、確か体力を徐々に回復させるものだったはずだ。

 とするとあれか。

 アウラとにゃんにゃんした時に、出しても出しても弾切れにならなかったのはこのせいか!

 ……今後も活用しよう。

 

「サトル様ー、来ましたよー」

 

 そして『ヘルプ』の欄。

 これはこのシステムについてのFAQが載っていた。

 なんでもこのシステムは【エクストラスキル:魔術師】の能力の一部らしい。

 魔術師スキルは『能力の可視化』『経験した魔法の習得』『魔法の最適化』などが混ざった複合スキルで、俺が死にかけた時に得た能力なのだそうだ。

 あの時の変な声はコレだったのか。

 

『サートールーさーまー!』

 

「うおっ⁉︎」

 

 気づいたらフェーたち三人が、目の前で俺を大声で呼んでいた。

 

「やっと気づいてくれました」

 

「どうしたんですか? とても集中していたようでしたが」

 

「悩みごとですかー?」

 

「いや、魔法についてちょっと考えていた。どうやら俺の魔法は特別らしい」

 

 三人娘は首をかしげる。

 意味が分からないようだ。当たり前か。

 

「そうだ。質問なんだけど、この世界では『スキル』ってのは持ってる人が一般的なのか?」

 

 メニューの『スキル』欄には、【魔術師】と【熱変動耐性ex】の二つのスキルがあった。

 これらは俺が死にかけた時に聞こえた声が言っていたはずだ。

 その後この世界に召喚されたのだから、何かしら関係があると思ったのだが、

 

「スキル、ですか?」

 

「技能、という意味ですか?」

 

「持っているってことはー、物なんですかー?」

 

 三人は今度こそ全く意味が分からない、といった返答をする。

 『スキル』はこの世界には無い、のか?

 後宮の侍女であるフェーたちが知らないならば、少なくともこの世界の常識ではないはずだ。

 アウラに聞くことが増えたな。

 

「いや、なんでもない。俺の勘違いだったようだ。それより、今日はこの国の歴史について教えてほしい。頼めるか?」

 

「? はい、分かりました」

 

「わ、私、歴史は苦手で…。」

 

「私は得意ですー」

 

 意外にもレテが歴史に詳しいとのことなので、間延びした口調でカープァ王国の歴史について学ぶことにした。

 

 



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女王の思惑。

アウラside

 

 

 おばば様とマルケス伯爵を呼び協議した結果、サトルに魔法の才能があるならば伸ばすべき、しかし才能があり過ぎる(・・・・・)ことはここにいる者までで情報を止めておく、ということになった。

 また、魔法の指導はオクタビア夫人とおばば様の二人体制で行うことにした。

 サトルの家庭教師に抜擢したオクタビア夫人をすぐにお役御免にすると、何かあったのではないか、と誰かに疑惑を持たれる可能性があるため指導は継続。

 魔法の実際の教師役は、ご老体に鞭打つようで申し訳ないがおばば様に協力を要請した。

 

「さて、私はサトルの様子を見てくる。フォビオ、サトルは私室か?」

 

「サトル様付きの侍女からの報告によりますと、若い侍女三人を呼びつけたとのことです。おそらくまだ私室にてその者らと一緒にいると思われます」

 

「うむ、ではその輪に私も加わるとするか」

 

「……新人の侍女たちに陛下のお相手は荷が重いように思います。先に下がらせるのが良いかと」

 

「いや、その侍女たちはサトルの話によく出てくるのでな。どのような者たちなのか自らの目で確かめたいのだ。──サトルが口を滑らせているやもしれぬしな」

 

「そういうことでしたら。どちらにせよ、その三人には同情を禁じ得ませんが」

 

「はっはっは!」

 

 というわけで、いざ出陣。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サトルside

 

 

 レテの歴史講座を聞いている中、ドアがノックされた。

 

「ご歓談中失礼致します。これよりアウラ陛下がお戻りになります。サトル様とそこの三人は陛下の到着までしばしお待ちください」

 

 アウラが戻ってくるのか。

 そのことを聞いて三人はサー、と血の気の引いた顔色になり、アワアワと慌て始めた。

 そんなに怯えなくても取って食われたりは……しないといいね。

 

「サトル、戻ったぞ」

 

「アウラ、おかえり」

 

 侍女三人組は俺の後ろに直立不動のまま、ガチガチに緊張した様子で『お帰りなさいませ、アウラ陛下』と声を揃えて挨拶した。

 

「ほう、この者たちがサトルがよく話す侍女三人娘か。確か名前は、フェーとドロレス、レテだったな」

 

「あ、アウラ陛下が」

 

「私たちの名前を」

 

「覚えてくださってるぅ」

 

 感極まって泣きそうな三人に、アウラは尋ねる。

 

「で、誰とどこまでヤったのだ?」

 

 瞬間、凍りつくその場の空気。

 その中でも特に凍っている俺は、

 

「ア、アウラサン? 何ヲ言ッテルノデスカ?」

 

 と片言になってしまうほど動揺していた。

 今なんて言った?

 

「ん? だからこの者たちはサトルのお気に入りなのだろう? だからどこまで手を出したのかを聞いているのだ。なに、私も大人で女王だ。サトルが侍女を五人や十人囲っても怒ったりはしない。むしろ喜ばしいことだ。────私の夜の負担が減るしな」

 

 最後のボソッと言ったのは聞こえなかったけど、それで良いのかマイワイフ。

 

「無論、私がサトルの『一番』であるのが前提ではあるがな。そしてその反応からすると、まだ手をつけてないのだな」

 

「あ、当たり前だろ⁉︎ フェーたちはあくまで話し相手として居てもらってるだけなんだし! そんなセクハラみたいなことしないし!」

 

「せくはら、というのはよく分からないが、後宮に男はそなたのみ。側仕えが全員女なのだ。そういう過ちの一つや二つはあって当然なことだ。むしろなぜ手を出さぬ?」

 

「前にも言ったけど、俺は今はアウラだけで胸いっぱいで側室とか、そういう余裕はないんだって!」

 

「侍女に手を出してもそうそう側室にはならんよ。『お手つき』のため多少の優遇はあるだろうがな。よし、そこの三人。お前たちはこれよりサトルの側近の侍女に任命する!」

 

『は、拝命いたします』

 

 三人の侍女は女王陛下の命令に背くなんてことはできるはずもなく、すぐに了承の意を示した。

 

「ちょ、アウラ、側近なんて別に必要ないよ」

 

「いや、今まで通りならそうなのだがな。事情が変わったのだ。心当たりはあるだろう? それならば、気心の知れた者の方がよかろう」

 

「……事情って、やっぱり俺の魔法のこと?」

 

「うむ。そなたの魔法については後々詳しく調べるが、この世界の常識では『異常な才能』であると判断せざるを得ない。それを野心家の貴族どもに知られれば、最悪神輿として担がれてサトル派と私派での内戦に発展する可能性もある。それは避けなければならない」

 

 それは、確かに最悪のシナリオだ。

 ならばこの情報は最低限の人間で留めておかなくてはならない。

 

「先ほどのサトルの質問の内容から察するに、その三人には既に何かしら話してしまったのだろう? ならば、そやつらはこちら側に引き込むしかない」

 

「……分かった。三人を側近として側に置く」

 

「理解がある夫で私は嬉しいぞ。では今後は、この三人の内の誰かを通して連絡を取り合うようにする。ちなみにそなたの魔法について知っている者は、ここに居る私たち以外では私の秘書官のフォビオ、マルケス伯爵家、そして王家の相談役であるおばば様のみだ。無いとは思うが、もし他の貴族に会った際に何か聞かれても知らぬ存ぜぬで通すように」

 

「了解。他に聞きたいこともあるから、この件も含めて今夜ゆっくり話そう」

 

「ああ。……すまぬな、勝手に話を進めてしまって」

 

「いいよ。アウラは俺のことを考えて行動してくれたんだろ。なら謝ることなんてない」

 

「サトル……」

 

「アウラ……」

 

 いい雰囲気になりかけたところで、

 

『わくわく』

 

 と俺の後ろから好奇の眼差しでフェーたちに見られているのに気づいた。

 

「あ、アウラ、この続きも夜にしようか」

 

「ふふ、よいではないか。なんなら、こやつらに見せつけてやろうではないか」

 

 ペロリ、と舌舐めずりをして俺を狙うアウラ。

 しかし、部屋のドアをノックする音がして、

 

「アウラ陛下、フォビオ様からの伝言で『政務に戻るように』とのことです。戻られた方がよろしいかと」

 

 という侍女の言葉に興が削がれたようで、「仕方がない、戻るとするか」とあっさり出て行った。

 危機は去ったかに思われたが、

 

「さすがはアウラ陛下。大人ね!」

 

「大人というか、肉食系な感じ!」

 

「過激ですー!」

 

 この後、俺とアウラの様子を見て興奮気味な侍女三人に、根掘り葉掘り夜の事情まで質問責めにあうのだった。

 



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密談の夕食。

最初に言っておきます。
ここから評価が別れるであろう内容だと思います。


「今戻ったぞ、サトル」

 

「あ、おかえりアウラ。さて、一緒に夕飯にしよう」

 

 その晩、アウラは夕飯前に後宮に戻ってきた。

 タイミングを見計らって侍女たちが入ってきて、テーブルに夕食を並べ始めた。

 

「では、いただきます」

 

「うむ、いただきます」

 

 元々この世界には食事前に手を合わせて『いただきます』を言う習慣はないのだが、俺がアウラと初めて食事をした時にこの動作の理由を説明したら「それは素晴らしい習慣だな。我が家にも導入しよう」というアウラの一声で、食事前の『いただきます』が家族ルールに加わった。

 フェーたちの話によると侍女の間でも流行っているのだという。

 いい習慣だから止めはしないし、異世界で日本独特の挨拶が流行ることになんとも言えない面白さを感じた。

 

「それではサトル。私に聞きたいことがいくつかあるとは思うが、まずは私からの質問に答えてくれ。そなたの世界には、本当に魔法は無いのだな?」

 

 その質問の意図は、だいたい分かる。

 俺が初めて触れたとは思えないほど魔法を完璧に発動したので、元々魔法が使えたのではないか、という疑惑が生じたのだろう。

 

「ああ。本当に存在しないかは分からないけど、少なくとも俺にとって魔法は想像上の存在だったし、誰かに師事したことも認識したこともない」

 

「そうか。では、そなたは今日初めて目にした魔法をどうやってモノにしたのだ? 才能があり、偶然成功した、というには些か出来過ぎだ。何か思い当たることはないか?」

 

「うーん。あるにはあるんだけど、アウラは『スキル』っていうものを知ってる?」

 

「スキル? それは『技能』という意味だろう。それがどうかしたのか?」

 

 やはりアウラもフェーたちと同じ反応だ。

 ということは、この世界の人はスキルを持たない、またはスキルを認識できていないということになる。

 

「俺の視界の右下に三角形のマークがあって、それを意識すると自分の情報が見れるんだけど、信じてくれる?」

 

「……情報とは、例えばどんなものなのだ?」

 

「えっと、5つの項目があって、『習得済魔法』『スキル』『ステータス』『ログ』『ヘルプ』ってのが見れる。『習得済魔法』には【時空魔法】【治癒魔法】【付与魔法】【水魔法】とある。また『スキル』には【魔術師】【熱変動耐性】、『ステータス』には現在の俺の身体・精神の状態、『ログ』には過去に使用した魔法の履歴、『ヘルプ』にはスキルや魔法についての説明の記載がある」

 

「治癒魔法に、付与魔法、だと……? サトル、正直に嘘偽りなく答えてくれ。そなたに『双王国』の者が接触してきたのではないか?」

 

「『双王国』って、レテの歴史講座に出てきた『シャロワ・ジルベール双王国』のこと? カープァ王国の東側に位置する国ってことくらいしか知らないけど、その国の人には会ったことはないと思う」

 

「……そうか、その言葉信じるぞ。しかし、そうするとますます分からん。なぜ『双王国』を名前しか知らぬサトルから『付与魔法』の言葉が出てくるのか」

 

「双王国と付与魔法は関係あるのか?」

 

 レテの歴史講座は、アウラの登場により途中で終わってしまったため、双王国がどんな国なのかまでは俺は知らない。

 

「付与魔法と治癒魔法は、双王国王家の『血統魔法』なのだ。我がカープァ王国で言えば、現在私とサトルのみが使える『時空魔法』に相当する。以前、魔法の説明の際に名前を出した治癒魔法を知っているのは分かる。だが、知らないはずの付与魔法の名が、双王国との関係を知らずに話に出るはずがないのだ。一体何がどうなっている?」

 

 アウラが頭を抱えて唸っている。

 ここで「治癒魔法も付与魔法も使えそう」なんて言うともっと混乱しそうだからやめておきたいけど、アウラに隠し事をするのもなぁ。

 

「えっと、アウラ。驚かないで聞いてほしいんだけど、その治癒魔法と付与魔法、俺の『習得済魔法』って欄にあるって言ったじゃん。だから、試してないけどたぶんどっちも使えると思うんだ」

 

「なん……だと……?」

 

 絶句するアウラ。

 そうなるよな、やっぱり。

 

「本当に、使えるのか? 例えばどんなものが使えるのだ?」

 

 俺は視線で三角形をクリックし、出てきた項目の中の『習得済魔法』を再び視線クリック。

 更に出てきた項目の中から【上級治癒魔法】を視線クリックすると、

完全回復(フルヒール)

完全快癒(フルキュア)

高速自動治癒(ハイ・オートリジェネ)

 の3項目が出てきた。

 上級って3つしか無いのか。

 

「“完全回復”、“完全快癒”、“高速自動治癒”の3つの魔法が【上級治癒魔法】にあるらしい」

 

「うーむ。完全という文言は付かないが、“快癒”ならば実際に見たことがある。それはあるか?」

 

 次は【中級治癒魔法】を見てみる。

回復(ヒール)

快癒(キュア)

自動治癒(オートリジェネ)

生命活性化(アクティベーション)

 の4項目があった。

 

「【中級治癒魔法】の欄にあるね。あとは“回復”、“自動治癒”、“生命活性化”がある」

 

「それらならば聞き覚えがある。本当に使えるかは試してみないと分からないが、どうやら情報が見えるというのは事実のようだ」

 

「信じてもらえて良かったよ」

 

「だが、使えたら使えたでかなりの問題が発生する。下手をすると国家間で戦争が勃発するレベルだ」

 

「治癒魔法も付与魔法も『血統魔法』だから、か」

 

「その通り。幸い今のところシャロワ・ジルベール双王国とは友好的な関係だが、この事が明るみになれば、少なくとも双王国はそなたの家柄や過去を詮索してくる。最悪身柄の引き渡しを要求してくるだろう。そして双王国以外に情報が漏れたならば、他国はそなたの誘拐、または暗殺を企てる」

 

 うん、それは予想して当然のことだ。

 

「あるいは双王国ならば、そなたの側室に王族の女を送ってくるやもしれん」

 

 うん、それは想定外のことだ。

 よし、双王国には絶対にバレないようにしないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、なんで俺にこんな能力が備わったんだろうか。確か、元の世界で通り魔に刺されて死にかけてた時に変な声が聞こえて、スキルの獲得だのなんだのと言ってたような」

 

「そうなのか? ならば、本当はサトルの世界にも魔法があったのかも知れぬな」

 

「なら、あの声の主は、一体誰だったんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは、『世界の声』さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アウラと俺しかいないはずの私室、そのソファーにゆったりと座っているのは、水色の髪の少女だった。

 この子は誰? どこから入ってきた? 話を聞かれた? 世界の声とは?

 様々な疑問が頭をよぎって動かないでいる俺とは違い、アウラは即座に俺の前に立ち、魔力を励起させる。

 

「そんなに殺気だたないでよ、おねーさん。そもそも俺が声をかけるまで気づけないほどの実力差がある、ってことくらいはおねーさんも分かるでしょ」

 

 俺でも分かるくらいに、少女の魔力が高まる。

 俺やアウラの何倍もの魔力にあてられ、身体が震える。

 

「……たとえ絶望的な実力差であろうと、女王として、妻として、サトルを置いて逃げるわけにはいかぬ」

 

 アウラ……。

 

「ふ、ふふふ、あーっはっはっは!」

 

 突然大笑いする少女。

 さっきまでのプレッシャーは霧散していた。

 

「ごめんごめん。いやー、良いもの見させてもらったよ。三十路を過ぎても童貞で魔法使いになったばかりの三上 悟()がこんな絶世の美女を嫁さんにしてるんで、ちょっと嫉妬──じゃなくて試してやろうと思ってな」

 

 何で俺が魔法使い(三十路童貞)だった情報握ってんのこの子!

 ってちょっと待て、今『俺が』って言ったよな。

 

《流石はパラレルワールドとはいえ我が主(マイロード)です。この方がどういう存在なのかに気づきましたね》

 

「なんだ、頭に声が直接……? しかもこの声は、死にかけた時の──」

 

《しかし世界の声と私を間違えるようでは、まだまだのようです》

 

「まあそう言うなよ、シエル。この三上 悟()は、俺でいうところのヴェルドラに会った頃くらいだろ? 今の俺と比べるのはナンセンスだ」

 

《………》

 

「劣勢になったら無視かよ! ……まあいい。おい、そこの三上悟に問題だ。さて、俺は誰でしょう?」

 

「───俺」

 

「正解! まあ正確にはお前があの時通り魔と邂逅せず、しかし結局数年後に後輩(田村)の身代わりになって刺されて死んで転生した三上 悟()ことリムルだ。よろしくな!」

 

 ニシシッ、と無邪気に笑う可愛い少女が、俺…。

 どうやらパラレルワールドの俺はTSしたようです。

 




実際はTSしてないので、『性転換』タグは付けません。


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魔王の提案。

シエル先生による説明多し。


 別世界に転生した俺ことリムルは、

 

「あ、ちなみに俺、性別無いから。というか生物的に人間ですらないし」

 

 などと(のたま)った。

 え、じゃあ悪魔とか? 魔力量めっちゃ多いみたいだし。

 

「あー、悪魔は配下に結構いるけど、俺の元々の種族はそんな上等なもんじゃないよ」

 

 それじゃあ、一体何?

 そう聞こうとしたところで、リムルの顔がドロリと崩れていき、全身がプルンッとした青色の丸い塊になった。

 こ、これは、まさか!

 

「そう、俺は“スライム”のリムル。改めてよろしくな。三上 悟()って言うと面倒くさいから『サトル』って呼ぶぞ」

 

「あ、ああ」

 

「よし。それでそっちのおねーさん、お名前を聞いてもよろしいですか? ああ、俺は魔物だけど良いスライムだから、危害を加えたりしないですよ」

 

「……アウラ・カープァだ」

 

「アウラさんですか。姿だけではなく名前も美しい。今度俺の国に遊びに来ませんか? エスコートしますよ」

 

 俺との会話とは比べるまでもない丁寧な態度でアウラに話しかけるリムル。

 おい、俺の奥さんにちょっかいかけるなよ。

 

「だって! 俺の性別をどうにかしようとするとシエルが止めるんだもん! 俺も男として女の子とイチャイチャしたいのに!」

 

《当たり前です。今でも苛烈な正妻戦争が更にヒートアップするのは目に見えています》

 

 あー、それはなんというか、ドンマイ。

 

「サトルは良いよなー。こんな綺麗な奥さん捕まえて、だらだら後宮暮らしだろう?」

 

「だらだらするのもすぐ飽きてくるぞ。日本人的な社畜根性が染み付いてるなぁ、としみじみ思うよ」

 

「……それは俺も結構感じてる。なんかやってないとソワソワするよな」

 

 超分かる。

 とまあ、雑談はここまでで。

 

「リムル、いくつか質問があるんだがいいか?」

 

「いいぜ、サトル。だいたいの事には答えてやれるよ。シエル先生がな!」

 

《お任せください》

 

「……まずはその『シエルさん』ってのは誰なんだ? 声は脳内に直接響いてくるけど、姿は見えないし」

 

《解。私は人ではなく我が主(マイロード)究極能力(アルティメットスキル)智慧之王(ラファエル)】の一部でしたが、『シエル』という名を授かったことにより神智核(マナス)として心を得た存在です。ちなみに【智慧之王(ラファエル)】は別の究極能力(アルティメットスキル)暴食之王(ベルゼビュート)】と能力統合した結果、【虚空之神(アザトース)】になっているため消滅していますが、私の神智核(マナス)我が主(マイロード)の魂の中にあるため影響はありませんでした》

 

 うん、知らない単語だらけで訳わかめ。

 

《順番に解説します。究極能力(アルティメットスキル)とはその名の通り、スキルの究極進化形です。ユニークスキル、エクストラスキルとは一線を画す能力です。分類的には概念操作系が多いです。【智慧之王(ラファエル)】【暴食之王(ベルゼビュート)】【虚空之神(アザトース)】はいずれも究極能力(アルティメットスキル)の名称です。各スキルの内容は省略します。次に神智核(マナス)というのは、思考する核、人工的な心核(ココロ)のことです。私は人ではありませんが、ひとつの意志として存在しています》

 

 とりあえず俺のエクストラスキル【魔術師】よりかなり強力なスキルを持ってるってことは分かった。

 

「へぇ、お前の最初のエクストラスキルは【大賢者】でなくて【魔術師】なのか。俺とは異なる進化をする可能性が高いな」

 

《肯定。しかし我が主(マイロード)よりも獲得スキル数がかなり少ないようです。おそらく世界の意思による転生にアウラ・カープァの召喚魔法が干渉し、スキル獲得が途中でキャンセル。既に獲得したスキルの保護を最優先にしたのだと予想します》

 

「なるほど。だから【魔術師】と【熱変動耐性ex】しかスキルがないのか。まあ、この世界で最低限必要そうなスキルを得られてラッキーだったな、サトル」

 

「なんで俺のスキルが分かるんだ? 【魔術師】はさっき話したから分かるが、【熱変動耐性ex】については一言も言ってないぞ?」

 

「俺くらいの上位存在になると、見ただけで相手のスキルや状態が分かるのさ!」

 

《まあ、私が解析して情報を送っているのですが》

 

「ってシエルさん⁉︎ 俺の威厳とか貫禄がなくなるじゃん!」

 

《元からそれらは伝わってないので問題ありません》

 

「マジか……まあいいや。サトル、お前この国に来てから暑いと感じたか(・・・・・・・)? 快適な気温だと感じていなかったか?」

 

「あ、ああ。だって暑くもなく寒くもないだろ」

 

「シエル。ここの気温、摂氏何度だ?」

 

《現在は28℃、昼間ならば35℃は超えると予想されます。いわゆる南国です》

 

「──ッ! まったく気づかなかった……」

 

「ということで、サトル。お前は自分のスキルを全然理解していない。それではもしもの時に生き残れないぞ。だから提案だ。サトル、俺の部下のひとりに師事してみないか?」

 

 



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魔王の配下。

「少し、よいだろうか」

 

「はい。何でしょうか、アウラさん」

 

「まず、そなたはサトルだった存在なのか?」

 

 質問に対してリムルは「ええ」と軽く答える。

 目の前で意味不明な応酬が繰り広げられ、混乱していると思われたアウラだったが、彼女なりに俺たちの会話を理解しようとしていたようだ。

 

「平行世界、もしもの世界、と言い方はいろいろあります。俺は三上悟としては死に、魔物(スライム)として異世界に転生しました。転生してからの話はかなり長いので省略しますが、まあいろいろあって大魔王になった俺は世界間を移動できる能力を得ました。その能力でこの世界、『三上悟が別の異世界に召喚された世界』に渡って来たのです」

 

「ふむ、なるほど。元々は同一人物であったが、とある分岐点より枝別れして別存在となったのか」

 

「その通り! いやー、理解が早くて助かります。ちなみにサトルは、俺が転生したのと同じ異世界に召喚される直前だったから、この世界には存在しない『スキル』を持っています。スキルが有るか無いかで、その者の力量は大きく変わります。ただ、すごいスキルを持っている方が必ずしも勝つわけではありません。要は使い方次第、ということです」

 

「それで先ほどの『師事する』という話に繋がるわけか」

 

「ええ。サトルのスキル【魔術師】は、この世界ではかなりのアドバンテージになります。しかし、それが絶対的な強さとなるかといえば、そうではありません。あくまで『有利になれる』というだけであって、必ずしも勝てるとは言えません。だから【魔術師】のスキルを十全に扱えるために、俺の世界にいる部下のひとりを預けて指導させようと思います」

 

 どうでしょう? と尋ねる目の前のリムルから、俺にちらりと視線を向けるアウラ。

 それに対して、俺は小さく頷いた。

 

「大魔王リムルよ。その申し出、受けようと思う。しかし、こちらばかり施しを受けるのは申し訳ない。我々の世界のモノでは満足してもらえないかもしれぬが、できる限りのことでお返しをしよう」

 

「ふぅん、あくまで取り引きという形にする、ということですか。交渉のイロハを理解してますね。さすがは女王」

 

 なるほど。

 今後まったく接触しないのならば、申し出を享受しても問題はない。

 しかし、リムルは世界を渡る能力を持っている。

 ならば後々交易などがあった場合、先の施しを受けたことで交渉において下手に出なければならなくなる可能性がある。

 先のことを見通して、アウラはあえて『お返し』をすることにしたのか。

 

「このくらいの交渉術がなければ、一国の王は務まらんよ」

 

「ま、まあ俺も魔物の国(テンペスト)の国主やってますから。そのくらいはできますよ。ええ」

 

「では改めて聞こう。リムル殿、そなたは魔法の指導の見返りに何を求める?」

 

「そうですね。では、俺の世界にはない果物や野菜、家畜なんかを譲ってもらいたい」

 

「……それだけか?」

 

「異世界にのみ生息する動植物なら、価値的には妥当でしょう」

 

 もっとこう、金銀財宝とかを要求されると思った。

 アウラもそうだったようで、拍子抜けしている。

 

「問題ないようなので、交渉成立ということで。ディアブロ」

 

「ここに」

 

 リムルが名を呼んだ瞬間に現れた黒服の男。

 切れ長な目でこちらを睥睨し、リムルに対して一礼した。

 

「テスタロッサを呼べるか」

 

「はい、すぐに」

 

 黒服の男がそう言うと、直後、白髪(はくはつ)の美女が現れた。

 

「外交武官の仕事中に悪いな」

 

「とんでもございませんわ。リムル様の命令とあらば、どこへでも駆けつけます」

 

「そうか、ありがとう。ああディアブロ、今後しばらくのテスタロッサの仕事は副官のモスに引き継ぐよう伝達を。手が足りない場合は適宜他から引っ張ってくるように」

 

「了解致しました。ところでリムル様、そちらの方々は?」

 

「ああ、紹介してなかったな。こいつはサトル、元々は俺と同一存在だったやつだ。こちらはアウラさん、サトルの嫁だ。サトル、アウラさん。こいつらはディアブロとテスタロッサ。俺の部下で、種族は悪魔だ」

 

 俺と同一存在、の辺りでディアブロ氏の目が輝き出した。

 

「クフフフフ。ご紹介にあずかりました、リムル様より“魔神王(デモンロード)”の称号を授かったディアブロと申します。今後顔を合わせることがあるかと思いますが、よろしくお願いします。サトル様、アウラ様」

 

「同じく、リムル様より“虐殺王(キラーロード)”の称号を授かったテスタロッサと申しますわ」

 

 目の前に現れた二人の悪魔。

 その潜在魔力は俺では計り知れないほど底が見えない。

 アウラもそうだったようで、顔が引きつっている。

 

「よ、よろしく頼む。ディアブロ殿、テスタロッサ殿」

 

「よ、よろしく」

 

 アウラも俺も、震え声で挨拶を返した。

 

「あー。ディアブロ、テスタロッサ。とりあえず魔力抑えようか。興奮してる所為かダダ漏れだから」

 

「おや、私としたことが。失礼致しました」

 

「申し訳ございません」

 

 そう言うと、さっきまで感じていた底知れない魔力は鳴りを潜め、どちらも普通の人間程度の魔力に落ち着いた。

 

「ではテスタロッサ。お前には特別任務を与える。ここにいるサトルに魔法の指導をせよ!」

 

「了解致しましたわ。必ずや、サトル様をこの世界最強の魔導師にしてみせます」

 

「そんな感じで、あとはよろしく! よし、帰るかディアブロ」

 

「はい。テスタロッサ、分かっていると思いますがサトル様に失礼のないように」

 

「言われずとも承知していますわ」

 

 そんな会話の後、リムルとディアブロ氏の姿が消えた。

 おそらく元の世界に戻ったのだろう。

 

「では改めまして。わたくしはテスタロッサ。“虐殺王(キラーロード)”の称号を授かった悪魔王(デヴィルロード)が一柱。今後サトル様の魔法指導をさせていただきますので、よろしくお願いしますわ」

 

 



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夫婦の繫り。

 リムルはディアブロという悪魔と一緒に、元の世界に帰って行った。

 急に来て引っ掻き回していきなり帰るとは、嵐みたいなやつだったな。

 

「サトル様。これよりわたくしは一時的とはいえ、あなた様の配下ですわ。なんなりとご命令をなさってくださいませ」

 

 白髪(はくはつ)の美女、テスタロッサが(こうべ)を垂れる。

 

「テスタロッサ嬢。このままここにいると侍女に見つかってしまう。女王の私室に正体不明の女が居たとなれば、話がややこしいことになる。私が時空魔法で人目のないところに送るゆえ、これを持って再び登城してくれないか?」

 

 そう言ってアウラは、紋章が刻まれているメダルのような物を取り出した。

 おそらくテスタロッサの身分を保証するための何かなのだろう。

 

「……サトル様はそれでよろしいですか?」

 

 テスタロッサはアウラに一瞥するも、すぐに俺に意見を聞いてきた。

 

「ああ。すまないがアウラの言う通りにしてくれ」

 

「承りましたわ」

 

 そう返事をしたテスタロッサはアウラの元へ行き、「お願いしますわ」とメダルを受け取る。

 

「『我が脳裏に描く空間に、我が意図するものを送れ。その代償として我は、時空霊に魔力四千三百五十九を捧げる』」

 

 アウラが転移の時空魔法を発動すると、テスタロッサの姿はなくなった。

 

「テスタロッサ嬢は城外の、人通りの少ない所へ転送した。これで心置きなく作戦会議ができる」

 

「ああ、意見の擦り合わせは大事だ。さて、何から話そうか」

 

「第一に考えないといけないのは、リムル殿についてであろう。元々はサトルと同一存在とのことだが、魔物(スライム)に転生して大魔王になった彼の者をサトルと同一視はできんな。まあ思考の仕方まではそれほど変わっていないようなので、ある程度何を考えているかの推測は可能だが」

 

「え、アウラは俺が何考えてるか分かるの?」

 

「サトルは表情作りはできても腹芸はできないであろう。顔には出さないが、行動で大体分かる。あちらには策士(シエル)がいるのでいくらでも補助はできるため読みきれないところはあるがな」

 

「それで、アウラが考えるリムルの目的は?」

 

「確証はないが、さっき語ったのが本音だと思われる。リムル殿は異世界の動植物を得るために先の提案を持ちかけたのだ」

 

「……ほんとに?」

 

「本当だ。無論、私が読み取れる範囲ではだがな。どうやらリムル殿は、権力を持っていてもそれを最大限に利用する事はなかったのだろう。権謀術数(けんぼうじゅつすう)が渦巻く宮中のようなものの経験がないのは雰囲気で分かった。そういった(はかりごと)はディアブロ氏の方が得意そうであった」

 

「あー、確かに」

 

 表面上はにこやかな笑顔だったが、あれは絶対性格悪い。ただの勘だが。

 

「交渉が成立した時点で目的のモノを持って帰ると思ったが、リムル殿は去り際に『魔法の指導が終わるまで待つ』と言っていた。これは私たちを信頼しているようにも思える。しかし、この取引において彼らは圧倒的強者だ。信頼関係を築く前に主従関係になっていても不思議ではなかった。それほどの差がありながら、あちらはこちらに損が出ないように取り計らっていた。どうしてか分かるか?」

 

「え? えっと、俺が三上 悟()だからか?」

 

「確かにそれもあるだろう。だがリムル殿も一国の主。交渉ごとに私情を挟むようなことはしないよう心掛けているはずだ。だが仮にそれを込みでも条件が緩すぎる。ならば、リムル殿は本当にこの世界の動植物の種にかなりの価値を見出しているのだ。──彼らは争いや(いさか)いによるこちらの世界の損失(・・・・・・・・・)を恐れている。まあ、これもあくまで私の予想だが、それほど的を外していないとは思う」

 

 そこまで深く考察しているとは、さすが一人で国を支える女王様だ。

 いや、今は俺もカープァ王家の一員だ。

 この件に関してはアウラだけに任せるわけにはいかない。

 

「アウラ。普段の仕事は門外漢だから手助けしづらいし、俺が手伝えばアウラも動きにくくなると思うから手出しできない。だけど、異世界(リムルたち)に関しては誰かに手伝わせるのはリスクが高いから、ほとんど俺たちだけで対応しないといけない。だからこの件に関しては、俺にもしっかり手伝わせてくれ」

 

「しかしサトル。今は友好的でも、いずれ高圧的な態度での交渉があるやもしれん。その時にそなたは相応の対応ができるか?」

 

「今は、無理だ」

 

「ならば──」

 

「──でも、俺だって何もできないままじゃない。王族らしい振る舞いも、外交の技術も、魔法の訓練も、必要なものならなんだって取り込んで自分のものにしてやる。だからアウラ、俺にも君を少しでも支えさせてくれないか」

 

「……サトル」

 

「はは、柄にもなくカッコつけたこと言っちゃったな。だけど、これが偽りのない俺の本心だ」

 

「──ありがとう、サトル。私はそなたと夫婦になれたことを、本当に幸運に思う。リムル殿たち異世界に関する外交、どうか手伝ってくれ」

 

「ああ!」

 

 この時、俺はアウラと本当の意味で結ばれたのだと感じた。

 



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