看板娘のモンスター (ばたけ)
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この恋物語に爆発を!

思いついて書いてしまいました。
後悔はしてません。
でも早めにネタ尽きるかも……。
がんばりたいです。

+タグの初投稿の字が間違っていたのでなおしました。



吾輩は安楽少女である。

名前はまだない。

ただこの道に、ぼけーっと突っ立っていたのを覚えている。

なんて、くだらないどこぞの猫が言っていそうな序文のパロディのようなものを脳内で垂れ流すところから、この物語は始まる。

 

朝光合成をしていると、一言、声をかけられた。

 

「おお、噂通り、こんなことにいるよ。やっぱ人通りの多いところにいるもんかねえ」

 

訂正。結構しゃべっていた。

 

独り言のようだったので、答えなかったけれど、どうやら私に用があるらしい。

私を狙った冒険者……かな。

それにしては、随分とやせ衰えて、貧相な男だなあ。

童顔に髪を無造作に伸ばしているのがあいまって、女の子みたい。

こっちとしては、丸々太った餌のほうがいいんだけど……。

まあいいや。

 

久々……といっても、経験豊富(意味深)というわけでもないけれど、とりあえずこの男を私の虜にすることにしよう。

 

もしかしてそばにいてくれるの?といった感じの視線を、少年に送ってみる。

 

ふふふ……これで大抵の人間は私の虜。

この庇護欲をそそる外見と相まって、かなりの庇護欲をそそるだろう。

あとはもう、私の餌まっしぐらだ。

さあ、おとなしく、養分となるがいい!!

 

心の中であくどい笑みを浮かべながら、外ではかわいらしい表情をキープ。

私でもえぐいと思うけれど、そういう生態なのだから、仕方ない。

 

若干中二なのも、安楽少女の生態だ。そうに違いない!

 

じっとみつめてみる。

少年は、こちらと目が合うと、ずかずかと笑顔で近寄ってきた。

……いや、普通もう少し躊躇しない?と若干引く。

女に飢えていたのかな。

少しかわいそう。

 

そして私の眼前に立った。

少年は、私を見定めるかのように鋭い目つきで睨んだ。

まだ落ちてなかったよう。

近寄ってきたからいけたかと思ったんだけど。

「一つ、聞いておきたいことがあるんだ」

 

ん?と小首をかしげる。

キャラクターは大事だから。うん。

 

「君、薬屋(くすりや)の看板娘になるつもりはない?」

「……は?」

 

今一瞬、こいつが何を言ったのかわかんなかった。

というか、今でもわからない。

まったくもって、この少年が何を言いたいのかわからない。

理解しきれない。脳……なんてものが私にあるのなら、そいつは既に高速回転でバターになってしまっている。

まともな思考もできないまま、聞き直す。

 

「え、なに、もっかい」

 

 

薬屋(うち)で働かないか、と聞いたんだけれど……」

少年は、その眉をハの字にして、私に同じ質問を繰り返した。

 

ごめんちょっとわけがわかんないや。

 

「何で私なんかを雇用するの?もっといい相手が……人間が、いるはずじゃない?」

「じゃあ言わせてもらうけれど……。君には、とても雇用するメリット、存在的価値があるんだ。まず、君には人の神経を弱らせる、微弱な神経毒を持った実を持っているよね?」

「持っているっちゃあ、持っているというか、生えているけど」

「どうでもいい」

ああ、少し格好つけた言い回しが。格好つけれているのかな?わかんないけど。

本場の人たちはもっとすごいっていうし……。

「そいつがね、こっちの医療方面においては、麻酔の代わりとなるんだ。さらに————

 

まだ説明は続くようだ。少し眠い。でも寝たら怒るんだろうなぁ。本当、人間って厄介。

でも、夢中になって話す少年の瞳は、きらきらと輝いていて、それに心をひかれなあったといえば、嘘になる。

私に言葉をかけるのは————生きることを諦めた人間だけだったから。

こんな生き生きとした言葉は――初めてだった。

 

でも、私はその生を奪うことしかできない。

だって、私は怪物(モンスター)だ。

君は優しいのだろう。きっと、こんな殺し殺されの屍しかない場所から、私を連れ出そうとしてくれているのだろう。

でも無理なんだ。

私は怪物(モンスター)で、君は人間だ。

そこには歴然とした差がある。

だって私は。

今だって、君を殺す方法を考えてる。

生態が、本能が、君を殺せとがなり立てる。

でも、君の目を見てると、どうしてもそれができない。

口を開くことさえ、ままならない。

だから、無理だ。

絶対に、不可能だ。

 

「だから————」

「ごめんなさい!!!」

 

声が————出た。

「私は、既に、何人も人を殺しています!だから」

「だから何だ」

その声には、今までないほどの威圧感があった。

 

「人を殺したら、人に交じっちゃいけないのか!?そこにあることすら!否定されるのか!?」

 

がなる君の瞳は、さっきとはうって変わって、必死だった。

何かにおびえるような、何かに抗うような、そんな感じ。

 

そして、君の目が、すわった。

一瞬にして濁った瞳は、もはやどこを見て言うのかも曖昧になる。

ダンと足を踏み込み、私のすぐ懐に入り込み、小刀を私の喉に押し付ける。

 

「いいから、看板娘、やれ」

 

「はい。お願いだから殺さないで!」

 

「———よし」

君の目は、最初と同じ、澄んだものに戻った。

 

この後、スコップで引きずり出されて(数本ブチっていった。ちょー痛かった)余計なものはもがれ(やっぱちょー痛かった)、そのまま連れていかれた。

 

どこかで聞いた話だ。

美女と野獣、という話があるらしい。

私は別に、悪い魔法使いに怪物(モンスター)にされたわけじゃないけれど、でも、そんな風になれたらなあと思う。

そうだったらどれだけいいかと悔やむ。

物語に嫉妬したって意味がない。

この話は私と君の恋物語(ラブストーリー)なのかな。即堕ちすぎだと、笑われそうだけれど。

でも、一つだけ願いたいことがある。

神様が、アクアでもエリスでも何でもいい。

もし誰かがこの世界を見守っているなら。

この物語は幸せな結末(ハッピーエンド)で終わることを願おう。

 

この異形な恋物語に祝福を————。

 




一番好きなキャラはバニルです。
あの仮面、いいじゃあないですか!
中二が治ってないという惨事には目をつむってください。

昔あった話。
~数年前~
最近、いえ以前から、扉は私に牙をむきます。
自動ドアは、断じて私を通すものかと反応しませんし、手動ドアは、跳ね返ってきて手を攻撃したりします。これがまた微妙に痛いのです。
あとたまに、細くあけたドアを通ろうとすると、通りすがりにかたをバンってされた感じになります。
ですがそれに今日は負けません!
負けなかった結果……。
壊れました。
どあ、はしっこのほうがへこんで、閉まりません。
どうしたらいいのでしょうか……。
攻撃したらこちらにダメージが返ってくる敵って、すごく厄介ですよねなんて現実逃避を行います。
めっちゃ怒られました。
なんかもう……。
ものをたいせつにしよう。
ものにたいせつにされなくても、わたしはものをたいせつにしよう。
そう思えた出来事でした。

一生懸命頑張っていこうと思います。
感想下さるとうれしいです。


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この長ったらしい回想に面白味を!

今回は過去編です。

最近鼻炎がひどい……。
ブタクサでしょうか?
いいえ、誰でも。
風邪ですかね……。


「モンスターを拾ったぁ!!??」

 

 

僕の店で、大声が響き渡った。

「騒ぐな、他のお客さんに迷惑だ」

「で、でも!!いほうだよ!ふつーに、あたりまえに、いほーだよ!!!」

頭をふるたびに、胸部につく脂肪の塊がぶるんぶるんと揺れる。

……震度は5強以上くらいだろうか。

 

「そんなことはわかってる。だからどうしたというんだよ」

「大問題だよ!問題外だよ!!もはや論外だよ!!!」

大声で髪を振り乱しながら絶叫するアホそうなこの女性は、まあ実際アホな子の女の子は、数少ない僕の友人の一人だ。

そして、この世界に共に来た、日本出身の医者志望の仲間(笑)だ。

 

 

 

 

僕と彼女は、元々同じ学校の生徒だった。

 

世界に存在する天才たちを集めた高校。

名前はもう忘れた。

希望云々とかいったしゃらくさい名前だった気がする。

 

 

彼女は医学で、僕は薬学。

優秀な生徒だったと思う。

 

 

そんなある日。

唐突にそれは起こった。

 

それはたった一つの実験ミスで、重大な一つの管理不足だった。

研究室(ラボ)で僕が一人で実験をしたとき、小さな火事が起こったのだ。

僕の管理ミスだった。

ガスの管に小さな穴が開いていた。そして、充満したガスに静電気の火花が散り、大爆発を起こした。

その際薬品が漏れ、毒ガスが発生。

その渦中にいた僕は、当然命を落とした。

全身やけどの上に毒ガス攻めだ。生きているはずがない。

 

だが、当然でない落命(こと)がその事件であった。

 

その事件では、本来僕以外の死人は出るはずではなかった。

しかし、彼女は己の命をなげうって、僕のことを助けようとしたらしい。

 

ただ近くに居たというただそれだけの理由で。

ほとんど顔も合わせたことのない、この僕を。

 

 

目も見えず、感触もなく。

全身が『痛み』を僕に伝えてくる。

だが、意識は落ちなかった。

それは僕が僕であるゆえんだけれども。

 

そんな中、一言、声が聞こえた。

 

僕の名を、呼んでいた。

 

呼んでいて、くれた。

 

 

 

 

涙が出そうなくらい、うれしかった……。

 

一人で死ぬのかと思った。このまま消えるのかと思った。

亡くなるのかと思った。終わるのかと思った。

屍になって、生を抜かれた物体となって。

これまで死ぬほど見てきた、死体になるのかと思った。

 

その通りだった。

そのまま消えた。亡くなった。終わったし屍になった。

死体になった。

でも。

最後まで、一人じゃあなかった。

 

孤独であることは決して悲しいことじゃない。

それは僕の中で一貫通った意見の一つだ。

大量の一貫に貫かれてハリセンボンみたいになっている僕だけれど。

それでも、死亡は絶望だった。

 

その結果、彼女まで死なせてしまった、殺してしまったというのはやるせないものがある。

最後まで僕は、人を殺すんだなあ。

そんなことを思考しながら死んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた、転生してみる気はない?」

 




まだ少しだけ、回想が続きます。


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この長々しいプロローグに劇薬を!

早速サボってすいません。
まだ続きます。


目が覚めた。

そこは見知らぬ路地だった。

知らない街並みだ……。

中世ヨーロッパのような、特徴的な街並みだ。

明るい髪の人々が、そこらを歩いていた。

あちらこちらに、鎧をまとった戦士の風体の屈強な男ども……とは言いづらい、初心者丸出しの人々がそこらにいた。

レンガ造りの街並みが、世界にはえている。

 

「これは、ギルドを探すのが最初のミッションかな?奇野クン?」

 

「ぉっ!?」

 

一人の少女。

黒髪を後ろでくくった、かわいらしい女の子だ。

———といっても、同学年なのだけれど。

クラスメートの木石来(きいしき)(らい)だ。

僕が殺した、女の子。

全部、あのいけ好かないメガミサマから聞いたことだけれど。

「……」

「じゃあ、行こうか!」

黙っている僕の手を、彼女はパッと取った。

木石来は僕の手を引いて走っていく。

「ちょ、肩外れるっ!!」

「大丈夫だよ!こんなんで外れたらナンジャクだよっ!」

 

ギルド、のような建物についた。

酒場もついたそこは、随分と冒険者たちでにぎわっていた。

……なれないなあ。

胸の大きなお姉さんが、「お食事なら空いてるお席でどうぞ!お仕事案内なら奥のカウンターで!」と元気よくいった。

……なれないなあ。

ちなみにお姉さんは両手あわせて12くらいのビールジョッキを持っていた。

……どうやってるんだろう。

わいやわいやとはしゃぐ彼らは、豪快に酒をかっこんでいた。

そいえばこの辺は、未成年飲酒の類はどうなっているのだろうか。

僕は、どっちにしろ飲めないけれど。

弱いんだよ。というかトラウマ。

「お仕事案内だから、僕らは奥のカウンターだね!」

彼女も、お姉さんに負けず劣らず元気に声を上げた。

おいおい走るな。お店の皆さんに迷惑だろうが。

 

「お金がない!」

木石来は、悲壮な顔でそう言った。

「どういうことだ?」

「あのね!お金がないと冒険者に慣れないんだって!」

うっそ。

なかなかに厳しいジョブなようだ。

というか、そういうのは出世払いだろう普通。

がめつい話だ。

別世界から来ている僕は、当然一文無しだ。

 

そんな時だ。

「ぐぅおっ!!」

「うわあああ!!!!!」

「医者を!!誰かあああ!!」

悲鳴がこだました。

パニックではまだないが、何かが起こっているようだ。

騒ぎの真ん中をのぞく。

一人の男が、首をおさえて苦しんでいた。喉を詰まらせたようだ。

卓上には巨大な餅のようなものが乗っていた。あれを詰まらせたのか。

 

僕が出ようとした横を、すっと通り過ぎていくものがあった。

木石来だ。

彼女が彼の隣によると、皆口を閉ざした。

医者の風格。

そんなものをまとっていた。

「喉を詰まらせたんですか?」

「———ッ!———ッ!」

男は必死でうなずく。

「では!」

そう言って彼女は、肩甲骨の間を手の付け根で強く、何度もたたいた。

ダンッ!ダンッ!と響く音は、数度で止んだ。

 

「ッゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!」

男は息を吹き返した。胃液と血が混じった咳を繰り返す。まあまだ死んではいないけれど。

「よかった……。助かった……」

彼女はそう言ってその場にペタンと腰をついた。

 

 

「すまねえ、助かったぜ」

男は、ひげだらけの顔を緩めた。

「お礼に――」

「いや、礼は——」

「ばっきゃらー!」

二重否定だった。

木石来が馬鹿なことを言おうとしたから止めたまでだ。

「お礼に、登録手数料分のお金、いただけますかね?」

 

奇野は、お金を、手に入れた!

 

「では、登録しますか!」

木石来は嬉々としてカウンターへ向かった。

 




今回はここまで。
テスト週間だるい……。


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この大きな恩義に多大な利子を!

タイトルは結構テキトーです……。


木石来がカウンターへ走っていった。

僕ものっそりと重い腰を上げることにする。

 

「とーろくしてーくだーさい!」

 

とっても元気な木石来ちゃんであった。

 

「あーはいはい、登録ですね、では登録手数料を」

「あります!!」

「最後まで言わせてやれよ」

 

それには面倒な手続きはいらず、ただ機械(魔道具)に手をかざすだけである、という。

便利な世の中になったものだ、いや、こちらから来たのだが。

 

手をかざすとキュゥイイと音を立て、機械輪が回転し、歯車がかみ合って、僕の情報を吸い取っていく。

何やら不快だ。気分の問題だけれど。

これで僕をスキャンしているのだろうか。

そんなもので僕のことがわかってしまうとは、いやな世の中だ。

僕から来た世界なんですけどね。てへ。

 

「何ですか?ねえ、何なんですか?あなたは」

「はい?何ですか?」

急につめよられた。

それはもう接近というより圧力だった。

怖い怖い!

呼吸音までロボ戦士みたいだ。コフーコフー言ってやがるぜ。

 

「なんで、さいしょから、すきるが、あるんですか」

「なんかひらがな表記なんですけど大丈夫ですか」

「おかしいでしょう!人として!」

「図書館ではお静かに」

「ここはギルドです!」

「うるさい」

「—————っ!!!」

 

いえ、つまりねー、と話し出した嬢によると、僕のアビリティはおかしいらしい。

スキルが最初からついていたり、知力が異様に高かったり。

ただし、明らかにおかしい点が一つ。

職が、すでに決まっていたのだ。

 

「……ここでも選択の自由はないんんだな……」

「え?なんです?」

「いえなんでも」

 

ふと(つぶや)いた戯言をいい加減に誤魔化し『冒険者カード』を片手でいじくりつつ、木石来の登録を待った。

 

向こうでもひと騒ぎあったようだ。

まああいつが騒がしいのはいつものことだ。いつもを語れるほど、長い付き合いでもないけれど。

 

適当にだべりながら歩いていて、僕は一つの問題に気がついた。

 

「宿……どうしよう」

「のじゅくでいいんじゃない?」

「んー、まあいいか、それで」

 

あっさり決まった。

しかし道具なしでの野宿は、ややきついものがある。

辺りは暗くなり夕焼けで橙というには余りにも赤い、赤い空が広がっていた。

血のように真っ赤な世界が広がっていた。

こんな時間にまだ食料を確保できていないのはまずい。

火も用意できないし、水も飲めるかどうか……。

そのことを木石来に話す。

「ひとにもらえばいいんじゃ?」

「それなら、もう人の家に上がり込むほうがはやいだろ」

「はんざいだよ」

「そういうのあるのかねえ」

「あるんじゃない?」

「あるといいなあ」

「いいねえ」

延々とだべる。

「おなかへってきた」

「そうかあ」

「ちょっとさっきのおしょくじやさんいってくる!」

「おう。じゃあ、またここで」

「いってきまーす!」

「お、おう」

 

僕もおなかが減ってきた。

だんだん強くなっていく。

あの機械に腹の中の食事まで吸い取られた感覚だ。

気のせいなのはわかっているけれど。

しかし、あれはどこまでのぞき込むんだ。まるで咎凪だ。

くそ。食欲には抗えない。

降らり降らりと足を交差させる。

街並みはあまり移り変わらず、いい加減な食欲が腹痛を呼び起こした。

腹痛が痛い、だなんて頭の痛いことを言いたくなるような痛みだ。

 

 

どうしようか。どうしてやろうか。

木石来は、腹をぐうぐう鳴らしながらギルドを歩きまわっていたら、少し分けてもらえたそうだ。

うらやましい。

 

すきっ腹を抱えて、どうしようか迷っていたら、ギルドの嬢がおごってくださった。

有能な人材をこんなところでつぶすわけにはいかないそうで。

日雇いのバイトと冒険者の仕事『巨大蛙(ジャイアントトード)の討伐』のレクチャーを受けた後、寝るなら馬小屋がある、と教えてもらった。

「ありがとうございます」

「このかりは、出世払いで返してもらうからね!」

「え、おごりじゃないんですか」

「出世払い!」

「わかりましたよ」

そんな風にして、人間の三大欲望の一つ、食欲を満たして木石来のいるところに向かった。




はよバトル書きたい……。
ちなみに安楽はしばらく出てきません。


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この眠れぬ男に睡眠を!

戻ったそこに、木石来はいなかった。

暗くなった街並みに、女の子一人にしたのが裏目に出たかっ!

慌てる。

散々、散々大慌てする。

辺りを見回す。

視界がぶれる。

人はおらず、暗闇が

人工光が圧倒的に少ないここで、いなくなった人間を探すのは至難の業だ。

何処だ、何処だ、何処だ。

 

いったん落ち着け。

まだ希望がついえたわけじゃない。

まだ死んだわけじゃない。

耳をすませ。騒ぎを探せ。

さわやかな家族の団欒。

楽し気な宴会の騒ぎ。

甲高い断末魔の絶叫。

戦闘音!?

風を切る音が聞こえた。何だ、何処からかはもうわかった。

急げ、急げ、急げ!

足の筋肉を縮め、爆発するように発進する。

目標はそう遠くない。

ダン、ダン、ダンと。

爆進する。一歩、一歩、ロケットのように。ばねのように。

進め。進め。まだ間に合う。

流れる景色。

後方へものすごいへ飛んでいくものは、平穏と光と、それから幻想だ。

 

「あ、キノさん!」

「ギルドの!」

ちっ、ギルドの嬢に見つかってしまった。

一飯の恩があるため、無視もできない。

急いでいるのにっ!

「こんな時刻に何を?そんなに急いで」

「ああ、ゴミ出しですか。頑張って、それじゃあ」

ダン、と一歩走り出そうとしたが、それを邪魔するものがあった。

コートの袖を、がっちりと掴まれていたのだ。

「なんで、そんなに急いでるんですか?」

「何でって、そんなのいいから、もうっ!」

はなせよ!と言いかけた口が、嬢の目を見て止まった。

泣きそうな顔だった。今にも目から涙がこぼれ落ちそうな顔だ。

眼のふちには長いまつ毛にのった涙のダムが出来上がっていて、今にも決壊しそうだ。

「あなた、死にに行くつもりですか」

思考が、止まった。

 

「何で、そんなこと言うんですか?」

「あなたの目です。ギルドのカウンターやってるからわかるんです。大抵死ぬ前の冒険者は――」

そんな目をしているんです、と。

そんなつもりはない。死ぬなんて、そんなことは考えてもいなかった。

でも――

すこし、焦りすぎていたかもな。

「落ち着きました。ありがとうございます」

「それは結構」

 

「それじゃあ、いってきます」

「ええ、いってらっしゃい」

 

僕は、ダン、と一歩踏み出した。

 

「木石来!」

「奇野くん!」

そこでは、木石来が蝙蝠の大群に襲われていた。

木石来は持ち前のメスで数匹の蝙蝠を撃退していた。

だが、全然足りない。

もっと、もっと。

力を。

「————っ!」

 

 

決められた(ジョブ)があった。

過去から決定していて、子供の頃から決まっていた仕事だ。

それ以外の道はなく、分岐はセメントでふさがれていた。

人間性など邪魔なだけで、人として、間違っていることこそが正しい仕事。

『病毒遣い』

生まれたころから全身に病と毒を仕込まれ、対象を呪うことのみに特化した化物(ゲテモノ)

それこそが『呪い名』だ。

それが『奇野』だ。

異世界に転生すると聞いたので、このスキルともやっとおさらばできる、そう思っていたのに。

まだ、憑いてくるとはね。

これは呪いだ。

呪いのスキルだ。

ないほうがいいと思っていたけれど。

こんな風に誰かを守れるんだったら、在ってもよかったかもな。

憑いてきてくれて、ありがとう。

 

「だらぁ!」

指先から毒を生成する。汗みたいなもんだ。意識的に出すのはかなり疲れるが、それも致し方ない。

プシュウと情けない音を立て、暗い刃を構成する。

辺りに液化した毒の成分が広がる。

本来なら気化した毒で一掃したいが、今回はそういうわけにもいかない。

木石来を守り、こいつらを殺す。

今回は、神経毒を多めに含んだ腐食毒だ。

全身を使って、刃を振るっていく。

回る、回る。

一振。

次々と蝙蝠が地に落ちていく。

二振。

当たっていなかった蝙蝠に、的確に当てていく。

三振。

それでも落ちない蝙蝠を、神経毒多めにして払いのける。

きさまらに攻撃のターンはない!

 

「大丈夫?木石来」

「……」

あっけにとられた顔をしていた。

間抜けな面だ。

「なんで!」

「……え?」

「なんで、言ったところで待ってなかったんだ!」

「……っ」

「すっごく、すっごく心配したんだぞ!なんで町の外の森なんかにきてこんな事になってるんだよ!」

「……ごめんなさい」

「おう、俺もごめん」

「……え?」

木石来は、泣きそうな顔から一変、呆けたような顔をしていた。

いつもの顔だ。

「え、何で……」

「あんなところに女の子一人おいていくなんて、、人として論外だった。ごめんな」

「……うん。いいよ」

「ありがと。じゃあ、行くか」

「どこに?」

「馬小屋だ」

「何で?」

「格安で泊まれるんだとさ」

「へー馬糞大変そうだ」

「安いから、仕方ないね」

「仕方ないね」

 

寝る前の体温は高めだ。

いつも病にうなされたようにして眠る僕は、そう長生きできないだろうと察している。

木石来もまだ寝ていないようだ。

「……ねえ」

「なんだ」

「……あんたは、聞かないの?」

「……何を」

「わたしが、あんなところにいた、理由」

「……聞く必要が?」

「別にないけど……でも」

「でも?」

「わたしが、言いたいの……」

「……じゃあ聞いてやるよ」

「うん。じゃあね……」

「おう」

 

異世界転生って、噓みたいで、夢みたいだと思わない?

木石来は、そんなことを言った。

「怖いんだよ。何してても、死後の世界の一時的な夢なんじゃないかって」

何かしてないと、消えてしまいそうで……。

そういう木石来の声は消えそうなくらい細かった。

だから待てなかった。じっとしていられなかった。

ああそうか、と僕は理解した。

あんなに元気だったのも、無駄に騒がしかったのも。

彼女はまだ、二度目の生を実感できてないのだ。

 

ぎゅっと、彼女の手を握った。

「ちょっ、なにすん」

「あったかいか?」

「……冷たかったら、死んでるじゃない」

「だから、生きてるんだ」

「うん」

「お前の掌も、とってもあったかい。だからお前は生きてるよ」

「……うん!」

「じゃあ、寝るか」

「うん、おやすみー」

 

「ちょ、抱き着くな!」

「いいじゃん。ほかほか~」

「おい、ちょ、ドコ触って」

「ほかほか~」

「……もういいや」

こうして、異世界の夜は更けていく———。




戯言はあんまり出てこないのでお構いなく。

これからも亀更新で生きますので、まったりと気長にお楽しみいただけたら幸いです。
戦闘シーン難しい……。


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この危険な改造手術に安定を!

ええ、そうですよ。私が安楽少女ですよ。

きらきら輝く王子様が、やっと私を助けに来てくれた!なんて思っていた時期もありました。

ありましたとも。

でもね、こんな展開は望んでないんですよ。

なぜに私は、今まさに。

手術台に縛り付けられているのでしょうか!?

 

そこは手術台。上からはランタンがつるされ、簡易ベッドが中央に置いてあるが、周りにある機材がその平穏な風景を一気に塗り替えている。

ドリル、糸ノコ、メス、それからぶっとい注射器。

中にはタプタプと朱色の液体が、不思議な文様を描いている。

あれを全部体内に……。

考えるだけでもおぞましい!

なんかベルト的なもので拘束とかされてるし!?

若干赤いものが辺りに見えるし!!

 

「拷問されてから殺されるうううううううううう!!!!!!」

「ばっかおまえ、そんな物騒な真似しねーよ。ただの予防接種だよ」

「そうだよ。奇野くんは、拾ったペットは大事にする人だよ」

「やっぱ人権ないじゃないですかああああああああ!!!!」

 

「おらさっさとするぞ。子供みたいなマネしてんじゃない」

「うわあああああああああああああああああああああああああ……」

ぐさっ。

 

キノ、と名のる少年の注射の腕は確かだった。

ものすごく大きい注射だったのに、少しもいたくなかった。

でも、体内に注入されたものの異物感は残る。

血管の中を、血液でない液体が巡り巡って、私を侵食していく感覚。

うええ、きもちわるい……。

でもまだ寝かされたままで、なんだか少し眠くなてきた。

あの液体の中には、麻酔も入っていたのだろうか。

体内がごちゃごちゃになる異様な感覚が眠気と釣り合って、ただただ不快だ。

我慢できないほどじゃあない。でも気持ち悪い。

このまま眠気に任せたら、楽になるのでは、という一縷の期待を抱いて、私は目を閉じた。

 

 

「……やっと寝たか」

僕は、安楽少女が眠りにつくのを待って、声を発した。

隣にいる木石来に言ったのだ。

「ずいぶん長かったね」

「まあ、モンスターだからな。だが……」

『奇野特性』の麻酔に十分も耐えるなんて、さすがはモンスター。

人間用に抑えていたが、人間との規格が違う。

正直、驚愕だ。十分息をのめる。

見た目は完全に人間だが、その他の機関があんまりにも違う。

だから、それを修正する。

そのための薬品だ。

脆弱な機動性を強化し、日常生活に支障がないまでに引き上げる。

今は麻酔で何も感じてないようだが、目を覚ました時にはきがつくだろう。

とんでくるグーパンは甘んじて受け入れようと思う。

そんなことを考えて、顔をしかめている僕に、木石来が話しかけてきた。

「でも、なんでモンスターなんて拾ってきたの?こいつは十分人間に被害を与える、人を喰らうタイプのモンスターだよ?麻酔なら、奇野くんはいつでも出せるじゃない」

単純な疑問だった。それに対する答えなら用意済みだ。

「おいおい、僕はそれを数リッター出すだけで精一杯なんだ。大量生産には向かない」

「そういう問題じゃないんだよ!」

「お前だって、麻酔がほしいっていっつもこぼしてたじゃないか」

「……奇野くんは、そうやっていつも論点を切り替えるんだ。ずるいよ」

……ばれてたか。

「ずるいのはお前だよ。お前のリクエストにこたえただけなのに、こんなに攻め立てて」

「違うよ!」

彼女は叫んだ。何かを拒むように。何かを守るように。何を守りたかったのだろうか。

それは僕には分からない。

分からない。

「さっきからおかしいんだよ!何を聞いてもごまかして!何!?そのモンスターにひとめぼれでもしたの!?」

「実はそうなんだよ」

「ふざけないで!!」

かつてない激昂は、僕の鼓膜を揺らしたが、心は揺れない。

揺らがない。

「……」

「どうして?奇野くんはどうしてこのモンスターを拾ってきたの?」

息をのんで、言葉を継いだ。

「……あんま騒ぐな。こいつが起きるだろ。」

「そういう問題じゃあ、ないって言ってるのに……」

もういいよ、と木石来は部屋から去っていった。

ふと体から力が抜け、壁に体をもたれかけさせた。

とびそうになる意識を、どうにかつなぐ。

「……怖いんだよ……」

逃げた。

その自覚はあった。

現実からの逃亡、問題に対しての保留。

口をつぐんだ。戸を閉ざした。

軽蔑されてないといいな、と思った。これが僕だから。僕の卑怯な部分で、僕の本質だ。

理解していて、自覚していて、だからこそ気味が悪かった。

「……言えるわけないだろ……」

聞かれてないからでこそ吐いた弱音は、やはり誰にも聞かれることもなく消えていった。

同じ人殺しだったから、見捨てられなかっただなんて。

道端で僕を殺そうと向けた死線が、その姿が、あんまりにも前の自分に似ていたから。

君を殺した僕の姿に、似ていたからだなんて。

安楽少女を見ながら考える。

僕にとっての木石来に、今から僕はなろうとしている。

アクセルはストッパーとなり、ブレーカーとなる。

いざとなったらこの身焼ききれてでも、君を守ろうか。

それが救われたものの救いというもので、君にとっての最大の罰だろう。

だからまあ、その時は君も何かを助けるといい。

化物を人間にしてやるといい。

仕立てあげてやるといい。

その時君はやっと人間になるのだろう。

だからこの名はそれまでの仮名となるだろう。

一応考えておいたんだ、と笑って、マジックペンを取り出した。




過去最長———いつもが短いのですが。

ハイ、テスト入りましたぁ!
だりぃ……。
そんなことを覚えなくても生きていけるしぃ!というのは子供の戯言なのでしょうか。
とかまあ考えながら、今日もこうして現実から逃げるための脚力を鍛え上げる日々ですが。


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この素晴らしい看板娘に初の接待を!

「いらっしゃいませー」

「声が小さい!もう一回!」

「い、いらっしゃいませぇ!!」

「うるさい!」

こんなあほなやりとりをしていると、お客様がやってきた。

 

はい、私です。安楽少女、改め『楽薬(ラクヤ)』です。

……。なんですか、この名前。なれないというか、むず痒いというか……。

まあいいんですよ、そんなことは。

そんなことより、初めてのお客様です。

 

その人は、きれいで、少しくせっげの長い髪をもった、少し顔色の悪い美人なお姉さんでした。

長い髪で片眼が隠れ、妖艶な雰囲気を生み出せるのは、多分胸部の特大サイズのアレにあるのでしょう。

うらやましくはありませんが。

あっても肩がこるだけでしょう、あんなの。

負け惜しみなんかじゃありません。ほんとにいりません。

べっ、べつにあんなのうらやましくなんてないんだからねっ!

……………。

ぺったんこに需要ないですよね。知ってましたよ。

でも需要がないからといってなんだというのでしょう!

需要なんてなくとも生きていけると、私は教わったばかりなのですから!

……。ごめんなさいちょっとだけうらやましいです。

「ねえねえ薬屋さん、胸が大きくなる薬とかありませんかね」

「あるかボケ。仕事しろ」

 

まずそのお姉さんにむかって、きらっきらの接客スマイルを浴びせかける。

もともとこの辺りは私の特性で得意分野だ。楽勝です!

「顔色が悪いですね、風邪薬をお探しですか?」

「……はい、そうなんです。げほっ」

「……聖職者(プリーステス)に治してもらわないんですか?」

「オイコラ」

ぱしん、と頭をはたかれた。星が出るほどじゃあないものも、ほんの少しくらっとします。

「……は、はい。なにぶん、お金がないんです」

「はーそうか、そうですか。それではサヨナラ、お元気で」

「薬屋さん!」「奇野くん!」

うちの店長は人としてどうかと思う。怪物(モンスター)より化物(モンスター)だ。

ぶすっとした顔をした薬屋さんの代わりに、私は適当に薬を出しておきます。

「このポーションなんていかがでしょうか?」

ポーション。さっき知ったが、飲みやすい液体に回復魔法をかけ保存しておくものらしいです。

外注で作ってもらっているらしいです。これ置いとかないと客が来ないとか何とか。

「……ぁ、えっと、ポーションはダメなんですよ。あれるぎーで」

「はあ、アレルギーですか」

ポーションアレルギーなどもあるのでしょうか。初めて知りました。

「了解。当店特性風邪薬ですねー。10000エリスになります」

「こら!微妙にぼったくらない!」

「ちっ。でも現に『風邪薬』なんて売ってんのここだけだぜ。希少価値があるとは思わないか?」

「でもそういうのはやっぱり倫理に反してるよ。そもそも何で風邪薬の成分とか覚えてるのさ」

「昔から読書が好きでね。主に読んでいたのは薬の成分表とか。やっぱ楽しくならない?」

「同意を求めないで」

「何で?面白いよ?」

「そう思ってもらえるならきっと薬の成分表も本望だろうね……」

だらだらとお客様の前でしゃべる二人です。接客としては最悪だなあ、と笑顔がひきつりました。

お客さんはレジの前に薬(紙袋が9個入り)をおいた。

「風邪薬ですね、1500エリスです。毎食後にどうぞ」

「お前さえ言わなければばれなかったのに」

「まだ言ってるの?」

袋を渡す際、お医者さんはニコッと笑いました。

こういう所がお客さんの心をつかむんです。わかってますか薬屋さん?と流し目で見ます。

すると薬屋さんは、何かお思いついたような笑みを浮かべました。

おぬしもなかなか悪じゃのうと笑うお代官様のような、クククと笑う自信家のような。

「お買い上げ、有難うございました。くれぐれも浄化されないよう、気を付けてくださぁい」

「————っ!!!」

妙にねっとりと。何かを含むような、含みしかないような。無邪気な子供のような、邪悪な悪蛇のような。

止めるべきなのでしょうか。でも本当にこの人が悪い人なら、と固まります。お医者さんも似たような様です。

それに対して、お客さんは大げさというほどの反応しました。

肩を震わせ、だらだらと大げさなほどの冷や汗を流し。

それから半分涙目でうちの店主を見ました。

「大丈夫、誰にも言いませんって」

「お願いします」

「まあしかし、その薬―――」

「あと8500エリスですねっ!ただいま―――」

「いえ」

そこで言葉を切りました。

それから少し考えました。

きっとその間には意味があるのでしょう。

含ませるだけの意味があるのでしょう。

「早く元気になって下さいね」

当たり前の言葉は、当たり前の笑顔と共に、当たり前に放たれました。

含ませた意味も、きっと優しい意味だったのでしょうか。

お客さんは、それまでの涙を引っ込めて、安堵に満ちた笑顔を浮かべました。

「・・・はい!」

「では、お元気で」

「ありがとうございました!」

「いえいえ」

 

「なんだったんですか?彼女」

私はお客さんがいなくなった店で、薬屋さんに尋ねます。

「あの人は――」

そこで一瞬間をあけました。

「ある時は超過激なやり手の魔導士!またある時は魔王軍に組する最強のリッチー!しかしその実態は――」

「実態は……」

すでに聞き逃せないワードが数個出てきていますが、それを超えるワードがー

「この町で一つの魔道具展を経営している、心優しい人間さ」

ずん、と、心の中に響いた気がしました。

アンデットの王たるリッチーが、こんな街の風景に溶け込める。

世界は案外懐が広いのかもしれないと思えた瞬間でした。

動揺を顔に出さずに、へえと答えます。

ここで泣いたりしたら、負けだと思ったからです。

でもついにやけてしまうのはなぜでしょうか。

オイコラ、そんな優しげに私を見ないで下さい。なんか恥ずかしいっ!

カランコロンとベルが鳴りました。私は逃げるようにその場を離れます。そしてすう、と息を吸い込みます。

「いらっしゃいませ!」

とびっきりの笑顔が、浮かべられた気がしました。




どんどん長くなっている気が……、いや、これくらいがちょうどいいのか?
これからも頑張っていきたいです。
期末テストやっと終わったー!
終わった……。
ああいうのはもういい点数を取ることでなくこなすことが重要なのではと思いだす今日この頃。


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この孤独なら来店者に友人を!

カランコローンと涼やかになるベルが、来客の到来を告げる。

僕はそれまで薬棚を整理していた手を止め、スカートを翻してお客様に向き直った。

「いらっしゃいませー」

もう慣れたようだ。言葉がするすると口から出てくる。

しかしこの格好にはなれない。絶対に慣れるもんか、とひらひらのフリルの付いたエプロンドレスを見た。

 

僕こと奇野叡智は、ババ抜きの罰ゲームにて女装中であった。

誰得だよ、と愚痴を漏らすと、さっさと働け―との木石来の声。

「店長は僕なんだけど」

「私は医者だ」

「関係ないよねえ!?」

「ほらほら、罰ゲームなんですから黙って受けてください」

「お客さん引くでしょ、これぇ・・・」

「にあってますよ」

「一番言われたくないことをっ…!」

「だ、大丈夫です、ちゃんと可愛いです」

「だからそれを言うなって―――」

 

お客様だった。お客様は神様だ。リッチーであれ悪魔であれ猫であれお客様なら神なのだ。

お客様は巷で有名な紅魔族だった。

変な奴が多いことで有名な種族だそうだ。最近店の外で爆発音がするのはそれらのせいだとアンラから聞いた。

店とか壊されないといいな。

くりっとした目の可愛い子だ。

まあ楽薬には負けるがな!とか名づけ親バカを発動してみるも、さして面白くなかったので辞める。

 

「何をお探しでしょうか?」

「えーと、ここは、特製のポーションが売ってるってホントですか?」

「ええ、本当です。よく効きますよ」

病毒遣いの『特性』を活かして、ポーションにかかっている付与魔法の解析を行い、それにここの『薬』を混ぜ合わせたものだ。効果は普通以上。成分は基本楽薬が作ってくれる。産地直送だ。というかここが産地だ。

と、自分に突っ込みながら、僕はその紅魔族の娘にカタログを見せる。

これは木石来が一昨日徹夜で仕上げてくれたものだ。

可愛らしいイラストが薬の説明をしている。

かなりの完成度で、楽薬はめちゃくちゃ喜んでいた。

 

「うーん・・・、じゃあ、これで」

彼女が指さしたのは、ソロ向けの回復薬に様々な支援魔法を付与したものだった。

僕は魔法が扱えないのだが、木石来が使えるのだ。そこそこ高いスキルから、アークプリーストを選択していたと思う。

というか、パーティにプリーストを加えればいいのでは?と思うも、保険をかけることは重要である。

というか、この子そもそもソロなのだろうか。紅魔族といえど危ないんじゃあないかな?と思ったが、それは僕が干渉すべきところではない。世界は厳しいのだ。

 

だからでこそ、僕は優しくありたいのである。

「ソロは危ないですよ?」

「えっ?」

余計なお世話だったかな?と視線をさまよわせる。

視線の先には誰もいなかった。

あれ?二人は?と思うと、机の上に手紙があった。

『ちょっと二人でデートしてきます♡晩ご飯までには帰ります♡』

僕がカウンターに出た隙に、裏口から逃げたようだった・・・。

 

「……」

「……」

どうしよう、気まずい。

 

「…ありがとうございましたー」

「…ど、どうも……」

 

カランコロンと音がした。

お客様御一行、金髪金眼のクルセイダーの女性一人と、紅魔族の娘(この子よりちっちゃい)、黒髪黒目の初級冒険者っぽい服装をした若い男であった。

「ゆんゆん、おすすめの店ってここかー?」

「はい、ちょっと前から噂になっていて、一度来てみたかったんですよ」

パーティがいたのか、良かった。

紅魔族の娘(ちっちゃい方)が薬品棚を凝視している。

粉薬が珍しいのであろうか。

「ほほう、これはところてんスライムっ!」

なんだよそれ。

「いや、それは―――」

説明しようとしたところに。

 

「も~ちょっと何でおいていくのよ!ひどいじゃないの!」

 

聞き覚えのある声が、した。

 

 




遅れまくってごめんなさい。


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