オリ主によるストパンの学園もの (Ncie One to Trick)
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こんな感じのSSがあったような記憶があるけど探しても無いので初登校です



 

 

『ヴヴヴヴ...ヴヴヴヴ...』

 

 枕元でやかましいスマホのアラーム音で俺は目を覚ました。

 

「うーん……スマホ……」

 

 俺の名前は波崎 迅。ウィッチーズ育成学校に通うごく普通の高校生だ。(テンプレ)

 え? どうして男の俺がウィッチの学校に通ってるかって? 実は俺にも魔力があってだな……。

 

 それはそうと、俺は微睡みから叩き起こす容赦ないスマホのバイブを切った。昨日夜遅くまで友人とゲームで遊んでいたからまだ眠い。

 

「ふあぁ~」

 

 大きく間延びした欠伸を一つ。のっそりと布団を押し退けて起きようとした時だった。

 

「お兄ちゃーん!」

「ぐえーっ!」

 

 起床アラームと合わせて弐撃決殺と言うべきか。威勢の良い掛け声と共にドアがバァン!(大破)と開かれ、ちんまい生物が俺の腹の上にダイブして追い打ちをかけてきた。コイツは小動物のような愛くるしさがあると近所で評判の宮藤 芳佳。俺と同じ学校に通う従姉妹だ。

 実家が田舎の診療所という事もあり、将来は実家を継いで医者になるべく日夜勉強を励んでいる頑張りやさんだ。

 

「おはよーお兄ちゃん!」

「おはよ……」

「朝ご飯できたよー!」

「ん」

 

 おまけに料理もできる。

 

「あと制服の解れ直しておいたからね」

「サンキュ」

 

 裁縫までできる。

 なんだこのスペック……完璧じゃないかたまげたなぁ……。思わずお礼と一緒に腹の上に乗っかっている芳佳の頭を撫でてしまう。

 

「えへへー……」

 

 芳佳は嬉しそうにはにかんで、俺のお腹にグリグリと頭を擦り付けてくる。どこまで愛くるしいんだコイツは。もう芳佳がいないとダメになりそうだ……。

 

「宮藤さん、いつまでひっついているのかしら?」

 

 開けっ放しになっていたドアからツンツンとした声が芳佳を嗜める。

 彼女は金髪パッツンの彼女はガリアから留学してきたペリーヌ。ホームステイとしてこの家に住んでいる同居人だ。

 早生まれの彼女は高校二年生。俺と一緒のクラスで委員長も務めている秀才さんでもある。

 

「あぁ、おはよペリーヌ」

「おはようございます。早く準備しないと遅刻しますわよ?」

「うん。すぐ下に降りるよ」

「ほら宮藤さんも。波崎さんが困っていましてよ?」

「困ってないもん! ねーお兄ちゃん?」

 

 上目遣いにニコニコ笑顔で聞いてくる。問題ないよと反射的に頷きそうになるが、実はちょっと困っていた。起床後特有の尿意だ。あと着替えないといけないし。

 

「ごめん芳佳。着替えてトイレ行きたいからちょっと困ってるかな」

「じゃあ口にしていいよ! あー」

 

 ウェルカムドリンクかな?

 

「いや……えぇ……(ドン引き)」

「な! なななな何馬鹿な事言ってますの! 恥を知りなさい恥を! さっさとお退きなさい!」

 

 顔を真っ赤にしたペリーヌに頭をペチンと叩かれ、渋々と退散していく芳佳。ほんっと、こういうたまに垣間見える変態的言動さえ無けりゃなぁ……。

 

「ん゙ん゙っ! ……それじゃ、先に朝ご飯を頂いてますわね」

「うん」

 

 咳払いしてペリーヌはドアを閉めて出て行った。ペリーヌは良い子だなぁ……、流石良家育ちなだけはある。侵略されたガリアなんて無かったんや!(優しい世界)

 

 

――――――――

 

 

 寝間着から制服に着替えてトイレも済まし、階段を下りてリビングにやってきた。扉を開けるとペリーヌと芳佳、それにリーネとハルトマンが朝食を食べていた。

 

「おはよ」

「おはよー」

「おはようございます」

 

 ハルトマンとリーネが挨拶を返してくれる。俺は自分のお茶碗が用意されている席に着いて納豆を混ぜ始めた。

 ペリーヌ以外にもウチにホームステイしてる留学生は結構いる。二人もそのメンバーだ。

 

 現状、一見するとハーレムだが俺からすれば生き地獄そのもの。溢れる性欲を我慢して日常を過ごさなければならないからね。もしも彼女達に手を出してみろ。そのままその国の軍人さんに連れて行かれて帰化されてお前がパパになるんだよ!されてしまう。

 俺だって青春ドラマみたいにボーイミーツガールの時間を味わいたかったさ。ワンチャンホームステイ先が別の家なら、清い交際もできただろうになぁ……。

 どうしてウチがホームステイ先なんですかねぇ(半切れ)

 

「あれ、ハルトマンが取り残されてるなんて珍しいじゃん」

 

 それはそれとして、ハルトマンがポツンと一緒の席に着いて朝飯を食うのは珍しい光景だ。いつものハルトマンなら同郷のバルクホルンさんやミーナさんと一緒に飯食ってるのに。ちなみに二人はウィッチーズ高校系列の大学に、ハルトマンだけがまだ高校生だったりする。

 

「違うよー。二人とも今日は三限目から講義あるんだって」

「あ、バイト行ったのか」

「うん」

「そっか」

 

 二人は先に日本に移り住んでいた知り合いの伝手で、フレックスタイムのウィッチに関するバイトをしていると聞いた。

 正直、バイトしてるならアパートでも借りて一人暮らしすればいいんじゃないかと聞いたのだが、この家の住み心地が良いらしく出て行く気は更々無いらしい。バルクホルンさんに至っては「お姉ちゃんを追い出すのか」なんて泣きつかれたし。

 

 ちなみに、同じくホームステイの名義でここに住んで大学に通っている坂本さんに至っては、芳佳のお父さんの元教え子というコネで芳佳と一緒のタイミングで住み始めた。その剛胆さというか図々しさは見習いたいけどホームステイの概念が壊るる^~

 というかただのお目付役じゃないか!

 

「あ、リーネはどう? こっちの暮らしには慣れた?」

「は、はい。お兄さんのお陰で扶桑の文化にも馴染めてきました」

「そっか。なら良かった」

 

 彼女はブリタニアでウィッチ関連の仕事をしているお姉ちゃんに追いつくべく、ストライカー技術が発達した扶桑に来てウィッチのイロハを学んでいるのだが、まだ日が浅い。

 そんな彼女をサポートしてケアするのが家主たる俺の果たすべき義務というものだ。あとリーネは人が良すぎて危うい。防犯ブザー持たせなくっちゃ(使命感)

 

「えー、私だってリーネちゃんのために頑張ってるよ?」

「ふふっ芳佳ちゃんにも助けられてるよ」

「はいはーい私も!」

「ハルトマンさんにも。勿論、ペリーヌさんにも。私、ホームステイしたのがここで良かったです」

 

 天使だ。これを気遣いとか煽てでなく本心から言ってのける姿はまさしく天使。大学生組に是非とも聞かせてやりたい。

 ウィッチなのに将来の夢がお嫁さんってマジ? ここまで清い心をもった女の子は世界中探してもいないだろ……。

 

「改めて言われるとこそばゆいですわね……」

「そうだね。でもそう言ってくれるとこっちも安心だよ」

 

 その後、御飯を食べ終えた俺達は一緒に登校した。

 

 




思いつきで書いたから時系列とか年齢設定とかガバガバで整合性とれてないです。お兄さん許して!


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書いていく内にドンドン描写が諄くなる……クゥーン
あ、誤字修正兄貴姉貴アリシャス!


 芳佳、リーネと別れて、俺とハルトマンとペリーヌは二年生の教室に入った。あまり人はいない。いつもなら俺がもうちょい布団の中でごねてるだろうが、芳佳ショックで案外早く登校できてしまったようだ。

 俺は自分の席に着いて手提げカバンを机のフックに掛ける。と、不意に肩をポンポンと叩かれた。

 

「おはよーサン」

 

 一足先に登校していたエイラだ。今朝の食卓にいないからどうしたのかと思ったら、もう学校に来ていたのか。

 いつもなら夜更かし常習犯で寝坊助のサーニャに付き合って遅刻ギリギリに登校するエイラが、俺よりも先に登校してるのは非常に珍しい。

 

「オッスオッス。何だよエイラお前、珍しく早いじゃん」

「サーニャが妙に張り切って早起きしてナ」

「へぇ……。何かあった?」

「それがサー、聞いても教えてくれねーんだヨ」

「ふーん」

 

 サーニャとエイラは北国出身という共通点もあって、いっつも仲良しな二人組だから秘め事なんて無いと思ってたのに。

 

「それはそうとケイがオメーを探してたゾ」

 

 ケイ、というのは担任の愛称である。

 

「マジ?」

「マジ。何かやらかしたカ?」

「全然心当たりなし!」

「ジンは真面目だもんナァ」

「ハハァ……」

 

 そりゃウィザードだし留学生を預かる側としては真面目にもなる。しかし呼ばれる心当たりは一切無いのだが、何の用なんだろうか。

 

「後で職員室に行くよ。ありがと」

「ン」

 

 何かやらかしたかなーなんて考えながら一限目の準備をしていたら、教室のドアがバァン!(大破)と開かれた。

 

 『アフリカの星』と名高い天才ウィッチのハンナ・マルセイユだ。

 しかし肩で息をしている。多分、ハルトマンが自分より先に登校したのに勘づいて走ってきたのだろう。いつも一緒のペットゲンがいないし。

 

「ハァー……ハァー……。おはよう諸君、早速だが勝負だハルトマン!」

「はいはい」

 

 慣れたように生返事であしらう。俺もこの光景には見慣れたもんだ。

 あろう事かコイツ、ハルトマンのホームステイ先であるウチにまで押しかけてくるからな。

 そういう時は決まって付き添いのペットゲンと一緒にそのままウチに一泊していく。ペットゲンが毎回申し訳なさそうに謝罪しているもんだから、俺も居たたまれない気持ちになってハンナを追い返せずにいるのだが……。

 

「ふっふっふ……。その余裕綽々な態度もこれまでだ! 今日は秘策を練ってきた!」

 

 そう言いながらこっちに来た。大層にも秘策なんて言っちゃってるけど、それ失敗したら凄い恥ずかしくない?

 

「ナミザキ ジン! お前を手に入れればハルトマンに勝った事になる!」

「えっ、何その超理論は……(困惑)」

 

 左斜め前の席にいるペリーヌに目線を向けると、ムッとした表情でこちらを見ていた。ハルトマンなんて面倒くさげな態度から一変、怒り心頭と言った表情だ。前もバルクホルンが標的になった時もこんな顔をしていたかな。

 

「ちょっとハンナ! ジンは関係ないでしょ!」

「そうですわ! 校内不純異性交遊は禁止です!」

 

 ペリーヌがハルトマンに便乗して怒り出した。流石委員長である。ええぞ!ええぞ! もっと言ってやれ!(他人事)

 

「それに留学してからは異性との接触が厳しすぎる! 放課後ですら制限されてるなんて、カールスラントにいた頃と何も変わらないじゃないか! お前達はジンの家にホームステイしてるからいいだろがな、私は寮だぞ! 男と一つ屋根の下で暮らしやがって……!」

「だ、だからジンは関係無いって!」

 

 ハルトマンが顔を赤くして反論する。全く持ってその通り。正論。二人の勝負なんだから二人で決着付けてくれ。

 

 ……何て他人事のように静観していたのが不味かったのだろうか。俺を手に入れる何てのが秘策だと宣言していたのだから、何かアクションがあってもおかしくなかった。しかし俺は構えを取っていなかった。

 

 それが命取りと言わんばかりに、ハンナは素早い動きで俺の後ろに回ると……なんと抱きついてきた。

 あすなろ抱きという奴だ。フワッと髪の匂いが鼻孔を擽る。走ってきたから汗は少し掻いてたけど、逆にソレがアクセントになっている。

 

「「アッー!」」

 

 ペリーヌとハルトマンの叫び声がハモってる。

 

「どうだジン! こんな事ハルトマンにされてないだろう! これで私の勝ちだ……!」

 

 確かにされてないし、実際俺はとても嬉し恥ずかしな心境なのも確かだ。でも男を落とす手段としては弱い……弱くない?

 

 それに一つだけ釈然としない。

 

 俺の意思を無視して勝手に話進めている事だ……。てめぇの玩具になんかダレガナルカ!

 今日の今日まで、面倒事はゴメンだし二人だけの勝負だからとスルーしていたが、そっちが俺を実力行使で巻き込むならこっちも実力行使だ。

 

 グルルルッと敵意剥き出しにするペリーヌとハルトマンをアイコンタクトで抑えると、俺は首に回されたハンナの腕をグイッと持ち上げた。そこまで力を入れていなかったのか、案外すんなりと腕は俺の首から離れた。

 そのまま廊下に面した壁に両手首を押しつけ、壁ドンに似た姿勢のまま真剣な顔でハンナの目を見つめる。お~良い格好だぜ?

 

「お、おいおい何だよ急に積極的になって……」

「……」

 

 無言で見つめ続ける。壁に押さえつけたからと言って、俺もハンナと同じくそこまで力は入れていない。振り払おうと思えば振り払えるはずだ。

 しかし、急な一転攻勢に驚いたのか抵抗する素振りを見せない。それとも俺が奥手な草食系男子だとでも思っているのだろうか。

 

「お、おい、何とか言えって」

「……」

 

 まだ無言でハンナの目を見つめる。背は俺の方が高いから、どちらかというと見下す感じなのか。

 ハンナは女性にしては背の高い方だから、自分より背の高い人間に壁に押さえつけられるなんて滅多にない経験だろう。感謝してほしい。

 

「おいってば……」

「……」

 

 普段は強気な女性が力で押されて徐々に口数も少なくなっていく

 いいよね……

 

 しかし口では喧しい癖に抵抗が一切見られない。Sって事は、Mって事なのかなぁ?

 

 調子に乗った俺は、トドメを刺そうと試しに片手だけ手首から離して指を絡めてみた。恋人繋ぎ。これで恥ずかしくなって逃げ出すかと思ったが、意外と素直に受け入れらてしまった。

 

「あ……ぅ……」

 

 遂に顔を赤くして俯いてしまった。もう懲りただろうか。

 俺はハンナを抑えていた手をパッと離し、繋いでいた指も解いてそのままハンナの頬に添えて顔を持ち上げると――――。

 

「テイッ」

「あたっ」

 

 凸ピンをした。

 

「俺は誰のモンでもねっつーの。オーケー?」

「あ……」

 

 数秒ほどボーッとしていたが、我に返ったのか歯を剥き出しにして

 

「くぅ~……! ポイテーロ!」

 

 捨て台詞を吐いて教室を出てどっかに行ってしまった。多分、ペットゲンにでも泣きつきに行っただろう。

 ペットゲンしか心の拠り所無いとか恥ずかしくないのかよ(嘲笑)

 

「ハハッ。超ウケるー」

「おー、あんなハンナ初めて見た」

 

 あたふたしたハンナに胸中スカッとし、ハルトマンと「イェーイ」と拳骨を合わせる。

 

 しかしふと気づいた。俺達の声が反響して耳に入ってくる。教室ちょっと静かすぎない?

 

 

 そして己のしでかした愚行を嘆いた。同級生から注がれる視線が痛い。

 

 

「おーええ(シチュ)やん。気に入ったわ……」

 

 やめてくれパティ。そんなキラキラした目で俺を見ないでくれ。君はリーネが貸していた少女漫画の見過ぎだ。

 

「じゃあ俺、職員室行ってくるから……」

 

 俺はその場を後にして、呼び出しにあった職員室に向かった。去り際にエイラが「お前ってタラシだよナ……」と呟いた気がしたが決して振り返らなかった。

 

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

 

「で、用事ってなんスか……?」

 

 俺は担任の加東 圭子先生、もといケイ先生に呼び出された原因を恐る恐る問い質す。反省文を書かされたり説教されるような悪事は働いてないはずなのに、先生に呼び出されただけでやけに緊張する。

 

「宮藤博士からさっき連絡があってね、波崎君にお仕事の話があったのよ」

「ほーん」

 

 前にも言ったが俺には魔力がある。所謂ウィザードって奴。まだモルモットよりはマシな扱いだけど、度々ウィザードの研究と称されてウィッチ関連機関に呼び出される。

 その一貫として、芳佳のお父さんにウィザード専用のストライカー開発もしてもらっているのだ。

 え? お前もウィッチと同じストライカーはけって? 男がズボン(女用)じゃないのをお忘れじゃないだろうか。ホモは盲目。あんなんズボン(男用)じゃ履きづらいんだよなぁ……。魔力の伝達力もかなり下がるし。

 

 話を戻すが、これは学校側も承認しており、当然ケイ先生も俺の事情は知っている。

 

「そっちの携帯にも電話したらしいんだけど……?」

「いやまぁ学校じゃスマホの電源切ってますし」

「真面目ね」

「ハハァ……。授業中に鳴ると恥ずいじゃないッスか」

 

 にしてもまた叔父さんの研究かぁ……。(酷使されて身体が)壊れるなぁ……。

 

「で、何時行けばいいんスかね?」

「今日ですって。放課後に車を手配するからそれに乗ってすぐ来てくれと」

「えぇ……」

 

 いつもなら数日前に事前通告くらいあるんだけど急を要するって事は……やっぱり壊れるじゃないか(呆れ)。

 

「どうする? 断っておく?」

「いや、コレ欲しいんで行きますよ」

 

 そう言って俺は親指と人差し指で輪っかを作る。金だ。叔父さんの研究に協力すれば金がもらえる。それも、世界でも珍しいウィザードだからたんまりとね。

 

「ねぇ……、やっぱり11人も住んでるからお金大変なの?」

「いえ全然。ただ人生何が起こるか分かんないッスからねぇ。今の内から貯金しとこうかと」

 

 俺の金銭面を心配しているようだが、別に金に困ってる訳ではない。ウチに住んでるウィッチの生活費は親御さんからしっかりと頂いているし、それを抜きにしても俺から毎月お小遣いを配る程度には余っている。

 ただ、将来何が起こるか何て誰にも分からないから、ある程度は貯金しとこうという安定志向なだけだ。

 

「感心ね……。私なんて、その歳の頃は写真や資料にお金を使いすぎて何度貯金が底を突きかけたか……」

「やだなぁ先生、昔を懐かしむほど歳食ってないでしょう? 外見だってホラ、まだ若いし独身ってのが信じられないッスよ」

「あら、煽てても内申点は増やさないわよ? でもねぇ……付き合おうにもこんな職場だからいい人いないし……。というかウィッチ専門学校だからまず男性が少ないし」

 

 なんてちょっと嬉しそうに謙遜するケイ先生だけど、いやいやそりゃねーよ。

 ケイ先生は学生の時に映画に出演した経験もあるしウィッチとしても優秀だし、職場恋愛以外にも引き手数多で行き遅れは無いだろう。嫌味か何かだろうか。

 

「いや世辞じゃないッスよ。先生はどちらかって言うと綺麗系より可愛い系だし、それなりにお洒落して町とか行ったら一発で声かけられますって」

「ふふっ。随分私を買ってくれるじゃない。行き遅れたら波崎君にもらってもらおっかなー」

「あ、いっすよ(思考停止快諾)」

「え……え!? え、あの、その、私は嬉しいけど、でも卒業後の進路とか、元教え子との関係っていうかゴニョゴニョ……」

 

 最後は尻すぼみになってしまった。

 御覧の通り非常に弄り甲斐のある先生である。そんなんだから、ハンナを始め殆どの生徒から呼び捨てで呼ばれるのだ。尊敬される先生だけども威厳がない。

 

「でもほら、社会に出た自分を想像してみて? 私と年の差八つも離れてるのに、世間体ってものが……」

「いや将来を想像できないから俺は金貯めてるんですって」

「あっ、そっかぁ」

 

 呼び出した当初の予定を忘れて雑談を続ける俺達だったが、SHRの予鈴のチャイムが鳴り、その場はお開きとなって俺は教室へと戻った。

 しかし社会に出た俺か……。こんなのが良いな、という漠然とした未来予想図なら一応ある。

 

 空がいい。

 

 ウィザード用のストライカー開発してくれてるし、ウィッチ専門学校に通ってるんだもん。大学行けば教員免許も取れるけど、教師になるような柄でもないし空を飛んでいたい。

 

 うん。空がイイ。

 

 でも、もしも俺が社会に行ったらウチにホームステイしてる連中は――――。

 

『お兄ちゃーん!!!!!』 

 

「うわ!」

 

 芳佳がドアップでこっちに飛び込んできた。頭を振って将来のイメージを払拭する。芳佳だけは10年経っても今まで通りな気がする……。

 




―その後のマルセイユ―

「があああああああああああああああああ!!!!!! ああああああああああああああああ!!!」

(ティナが学校から帰って来るなりベッドでゴロゴロし出した……)



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眠気と戦いながら初投稿です

ルッキーニの純粋さには参るね……おかげで淫夢要素がクッソ薄くなりましたホモのみなさんごめんなさい


 時刻は午後9時。叔父さんの研究所からようやく解放された俺は家のドアに鍵を挿して回した。

 

「ただいまー」

「おかえり!」

 

 ドアを開けると寝間着姿のルッキーニがタックルをかましてきた。ドタドタという足音はドア越しにも聞こえていたのでそれくらいは予想できている。俺は小さな猪を受け止めた。

 

「っとと。ルッキーニは元気だなぁ」

 

 そのままルッキーニとリビングに入る。リビングにはシャーリーとミーナさん、それに坂本さんが各々マグカップを手にテレビを見ていた。他の連中は風呂に入ってるか自室にいるのだろう。

 それぞれ口々に「おかえりなさい」と言ってくれる。俺は「ただいま」と返しながら、誰も座っていないソファに上着とバッグをポイと放り投げた。

 

「で、宮藤博士からの呼び出しは何だったんだ?」

 

 連絡用LINEグループで遅れる旨を伝えたから、みんな俺が遅れた理由を知っている。

 そして、かつて博士のストライカーの開発に付き合っていた坂本さんが真っ先に食い付いてきた。今回は特に秘匿も口止めも強要されていないので要点を掻い摘んで内容を話す。

 

「魔力伝達率の高い新しい繊維を開発したんで、それを編み込んだウィザード用ズボンの試着。それからフライト実験ですね」

「ほう。魔導エンジンとストライカーだけで飽きたらず新繊維まで開発とは、そろそろ要人に指定されてもおかしくないな」

「魔導エンジン開発した時点でなってるでしょう」

「それで……フライトしてどうだったんだ?」

「今までズボンのままストライカー装着しても30%くらいの性能しか出せなかったんですけど、今回のズボンだと体感80%くらいはストライカーの性能引き出せましたね」

「宮藤さんのお父さんって本当に凄いのねぇ……。けど、私達も聞いていいのかしら?」

 

 ミーナさんが感心しつつも困惑している。扶桑とカールスラントは医学や科学など、とにかく技術力を競い合う仲なのだが、機密情報を相手側に教えてもいいのかと彼女は危惧しているようだ。

 

「近い内テレビで発表するらしいッスよ。ネットとかで情報拡散しなけりゃ問題無いでしょう。それにウチに居る人たちはみんな信用してるし」

「へー、嬉しい事言ってくれるじゃん」

 

 シャーリーがニヤニヤしてこちらに顔を向けている。その笑みは嬉しさ半分、からかい半分って感じか。

 

「だってシャーリーも言わないでしょ?」

「まーな」

「じゃいいじゃんそれで」

「いいのかしら……」

「いいんスよ」

 

 呆れたようにミーナさんが零している。別に構いやしないさ。ネットに漏洩したわけでも無し、身内四人に話しただけで然したる問題は無いだろう。カールスラントは規律違反に厳しすぎる。ハッキリわかんだね。

 

「うじゅ……?」

 

 いかん。研究内容から話に着いてこられなくて、ルッキーニが頭上に「?」を出している。もう少し賢くなることをオススメします。

 

 とりあえず、腰にくっついてたルッキーニを引きはがしてキッチンに行く。流し台の上には扶桑料理が並んでいた。芳佳が作ったであろう今日の晩ご飯で、俺の分を取っておいてくれたのだ。

 そのままレンジに入れてあたためを押し、リビングに戻ってテレビを見ながら暖まるのを待つ。

 

 テレビでは世界情勢のニュースをやっていた。それについて坂本さんやミーナさんが、ああでもないこうでもないと意見交換をしている。たまにシャーリーも茶々を入れて楽しげだ。

 

 しかしルッキーニはテレビの内容がつまらないのか、俺の膝の上に頭を乗せて丸くなった。猫か。いや使い魔は黒豹だけど。

 そのまま膝の上に乗っかった頭を撫でていると、テレビはスタジオから暗転してロマーニャが映った。ルッキーニの故郷だ。テレビでは綺麗な景色や美味しそうな食べ物が取り上げられている。

 

 それまで撫でられるがままにされていたルッキーニが、膝の上に乗せた頭を捻ってテレビに釘付けとなった。

 

「……夏休みになったらロマーニャに帰るか?」

 

 撫でるのを止めてルッキーニに聞いてみる。

 彼女はまだ13歳、去年までランドセルを背負っていた子供だ。シャーリーが母親の代わりを務めていてはくれているが、それでもホームシックになるだろう。故郷が懐かしくてもおかしくない。

 

「ん……マーマの家に帰りたい」

 

 だろうな。一時帰宅や帰省でなく、帰りたいという本音が出ているからその寂しさ度合いも伺える。

 

「けどジンと離れるのヤダー」

 

 その一言に頬を緩ませてしまった。

 コイツも芳佳みたいに可愛さの権化だ。気分は親戚のお兄ちゃんそのもの。思わず上半身を屈めて抱きしめてしまうのも仕方ない。

 

「そしたら俺もロマーニャまで着いてってやるよ」

「ホント!?」

「ロマーニャの観光してみたかったし」

「ヤッター!」

 

 嬉しそうにルッキーニが抱き返してくる。

 ロマーニャと言えば飯ウマな国で有名だ。いつかは本場のピッツァやパスタも食べてみたいと思っていたし、ルッキーニがロマーニャに帰るなら着いていって観光をしたい。

 ふと、視界が暗くなった。俺が上半身を屈めている姿勢だから、上から誰かが覗いているのだろうと簡単に想像できる。

 

「それならさ、ついでにリベリオンまで来ちゃいなよ」

 

 想像通り、シャーリーが覆い被さってきた。俺の下にルッキーニがいるから体重は加減してかけてこないが……美少女のサンドイッチになった俺の気持ちも考えて欲しい。

 けどリベリオン合衆国か……。あっちもいいなぁ。

 

「いいねぇリベリオン。俺アレ食いたい、本場のでかいハンバーガーと肉」

「ハハッ。扶桑人は食に関心があるって聞いてたけど、本当にそうなんだなー」

 

 シャーリーがカラカラと笑いながら愉快そうに体を揺らしてくる。考えてみると、美食家でも無いのに脳内にあるのは他国料理ばかりだ。観光とは言ったが有名な地名や建築物を挙げない辺りその説は否定できない。

 

「確かにそうかも。我ながら食い意地張ってんな」

 

 釣られて俺も笑う。

 

「んんっ!」

 

 ソファの方から咳払いが聞こえた。テレビを見ていたミーナさんだ。隣では困ったように坂本さんが笑っている。

 

「あー、じゃあ夏休みは帰省と海外旅行行くっつー方向で」

「りょーかい」

 

 そそくさと話を纏めると、被さっているシャーリーを上に持ち上げた。

 

 ミーナさんは、まだ中学生のルッキーニには目を瞑ってはいるが、それ以外の女性との過度なボディタッチにはかなり厳しい傾向がある。

 理由はハルトマンから聞いたのだが、そこそこ長く付き合っていた彼氏が事故で亡くなったのが原因だそうだ。他人の幸せは毒の味らしい。

 異文化交流で扶桑を訪ねた他の留学生とは違い、悲しみに追われるように、または紛らわせたくてこっちの国に留学したという寂しい背景が彼女にはある。バルクホルンとハルトマンはそれに着いてくる形でこちらに来たそうだ。

 

 ちなみに俺が誰とも関係を持っていないのはウィザードだからというのもあるが、ミーナさんの素性も手伝っている。俺が彼女作ったりしたら発狂しそう。だから内心、家から出て行け!出てけと言っている!

 

 それでもウチから出て行かないのは、やはり居心地が良いのだろう。

 多分、炊事洗濯掃除と家事全般を殆どやっちゃう芳佳のせいだな……。一応家事のローテーションは組んでるけど、気づいたら芳佳が手伝ってて意味をなさない。

 

「あ」

 

 芳佳で俺は思い出した。彼女が作った晩ご飯をレンジで暖めていたが、もう稼働音は聞こえない。充分に暖まったのだろう。

 料理を取りに行こうと膝の上のルッキーニをどかそうとしたが、彼女はウンともスンとも言わない。

 

「……ん?」

 

 それもそのはず。ルッキーニは眼を閉じて船を漕いでいた。

 

「ほらルッキーニ。寝る前に歯磨かないと」

「さっき磨いてたぞ」

 

 おねむなルッキーニの代わりに坂本さんが答える。

 

「お風呂は?」

「私と一緒に入ったな」

 

 今度はシャーリーが答える。寝間着だしそれもそうか。

 

「ルッキーニさん、いつもなら寝てる時間よね」

「確かに……」

 

 ミーナさんが意味深な台詞を付け加える。まだ21時過ぎだが彼女からしたら夜更かしの域に入る時間だ。どうして夜更かししていたのだろう。

 ……俺は自意識過剰なタイプではないという自負はあるが、もしルッキーニが俺に「おかえり」を言うために起きていてくれていたのだとしたら、それはとても嬉しい。

 

 俺はルッキーニを起こさないように抱きかかえて彼女の部屋のベッドに運び、ソッと寝かして布団をかけた。

 

 スヤスヤと眠る彼女はとても愛おしい。父性とはこういう感情を指すのだろうか。

 

「お休み、ルッキーニ」

 




ひとまず501キャラ全部出したので後はのんびりやります

……ん? 何か足んねぇよなぁ?
あれーおかしいね。バルクホルンとサーニャがいないねー

次はバルクホルン&サーニャ回でいこっかなーどうすっかなー俺もなー


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本当は冒頭からバルクホルンに白いワンピース着せてわたわたさせたり、サーニャとボーイミーツガールなデートをさせる予定でしたが長くなりそうだったので変更して初投稿です。誰か書いてくださいオッスお願いしまーす。



「ズズッ……。フゥ」

 

 休日のお昼時。俺は駅前の大型デパートの中にあるフードコートの椅子に座り、なんかそれっぽいお洒落なお店でテイクアウトしたコーヒーを啜っていた。

 バルクホルンさんとサーニャの二人と来ていたが、ゲーセンで軽く遊び、しばらく洋服を物色して二人を着せ替え人形にした後、今は別行動をしている二人を待っている状態だ。

 

 珍しく他のメンバーがいないのにはそれぞれ用事があったからだ。芳佳やリーネ、ペリーヌは同級生や後輩達とそれぞれ交流を深めているらしい。他も似たような感じ。うん。

 

 ちなみに二人を遊びに誘ったのは俺じゃない。むしろ俺は誘われる側であった。

 

 

~ 回想 ~

 

「波崎、明日の日曜日は少し私に付き合え」

「あ、いっすよ(快諾)」

「あ……」

「ん、どうした? サーニャも一緒に来るか?」

「え、いいんですか?」

「私は別に構わないぞ」

「いいよ! 来いよ!」

 

~ 回想終わり ~

 

 

 我ながら簡素な回想だ。実際こうだったし盛っても仕方ない。

 

「待たせたな」

「んー」

 

 ボーッとしながらコーヒーを飲んでいた俺を、バルクホルンさんの声が現実に呼び戻した。

 ようやく合流できたなーと顔を上げたが、バルクホルンさんとサーニャの様子がおかしい。サーニャの方は顔を伏せてプルプルしてるし、バルクホルンさんは慈母のような笑みを浮かべている。

 

 何だろう、トイレに間に合わなくてお漏らしでもしたのかな? なんてデリカシーの欠片もない下品な予想を打ち立てる。十中八九ないだろうけどね。

 

「あ、あの……ジンさん!」

 

 サーニャが何かを手にして一歩俺に近づいた。その背中をバルクホルンさんがソッと押し、二歩、三歩と更に歩み寄ってきて止まる。

 

「これ……!」

 

 サーニャはバルクホルンに促されるまま、手の内にあった可愛らしい絵柄のラッピングされた小さな紙包みを俺に差し出してきた。

 

「俺に?」

「はい」

 

 驚いた。彼女から俺にプレゼントだそうだ。エイラが見たら涙を流して羨ましがるだろう。

 

「開けても?」

「はい」

 

 包装紙を丁寧に開けると、ずんぐりむっくりとした体型の猫耳ペンギンがこんにちはした。

 

 

「お、ネコペンじゃーん」

 

 中身は小さなネコペンギンのキーホルダーだった。ネコペンギンとは世界的にも有名なマスコットキャラクターで、サーニャがこのキャラクターを好んでいるというのはエイラが言いふらしているので周知されている。

 しかしこのキーホルダー、かなり既視感がある。

 

 確か、そう、サーニャが財布に全く同じキーホルダーが付いていたハズだ。

 

 何というか……、あの奥手なサーニャが俺のために選んでくれて、あまつさえお揃いのキーホルダーにしてくれたと思うと胸の奥がムズムズする。

 

「ありがとう、嬉しいよ」

 

 けど少し疑問もあった。

 

「でも、今日なんかの記念日だったっけ? 俺の誕生日でもないし……」

「え、あ、えと……」

 

 何か拙いことを聞いたのだろうか。狼狽してしまった。

 

「お、お礼です! いつもお世話になっているので、その、お礼……!」

 

 彼女はお礼だと言うけれど、それじゃあ不自然だ。

 

 お礼なら芳佳にもしなければ辻褄が合わない。幾ら家主が俺とは言え、家事全般をやってるのはアイツなのだから世話になってるとしたら芳佳の方だろう。二人とも仲良いし。

 しかしパッと見、サーニャのバッグに不自然な膨らみは見えないから恐らく芳佳へのお土産も無いだろう。

 

 それに、サーニャなら贈り物なんてマネはしないで、口で直接「ありがとう」を伝えるくらいが関の山だ。

 これ、多分誰かの入れ知恵だろ。前にエイラが、サーニャが最近コソコソしてるみたいな話をしてたっけか。

 

「サーニャ……」

 

 多少の好奇心から誰の入れ知恵なのかを言及しようとしたけど

 

「ああいや、明日から通学鞄にでも付けさせてもらうね」

「ひゃ、はい!」

 

 やめだやめだ。

 折角サーニャが勇気を出してプレゼントしてくれたんだ。これ以上彼女を追いつめるのは野暮ってもんだし、彼女が感謝の印と言い張るならそういう事にしておこう。

 

「アー……イイ……」

 

 こっちをこれ以上ほっといてトリップさせるのもどうかと思うしね。

 何とも甘酸っぱい空気に加え、サーニャのモジモジする仕草に萌え萌えキュンキュンなバルクホルンさんだ。この人、年下で妹属性っぽい雰囲気だったらなんでもいいのか。

 

『ヴヴヴヴヴヴ...』

 

 と、バルクホルンさんを現実に引き戻すようにタイミングよくサーニャのバッグからバイブ音が鳴った。サーニャはバッグからスマホを取り出して確認する。

 

「あ、エイラから電話……」

「今日の事はエイラに?」

 

 コクリと首を縦に振る。

 

「忘れてんじゃね?」

 

 一瞬の間が空き、コクリと首を建てに振る。メールならまだしも口頭で伝えた程度なら忘れててもおかしくないだろう。

 ようやく起床したエイラが「サーニャ!? サーニャー!!」と家中を探し回っている姿が容易に想像できる。

 

「すいません、少しでてきます」

「うん。そろそろ帰るってのも伝えておいて」

「はい。あ、もしもし? もーエイラ? 今日、駅前のデパート行くって……」

 

 サーニャが俺達から離れるにつれて声がフェードアウトしていく。

 

 そういえばと、今日の俺はバルクホルンさんに誘われた側だ。いつもだったらハルトマンにせがまれて一緒に外に出るタイプなのに。

 せっかく二人きりになったからバルクホルンさんに聞いてみる。

 

「バルクホルンさん」

「ん?」

「バルクホルンさんは何で俺を誘ったんですかね?」

 

 サーニャは俺に日頃の感謝を、という名目のもと休日を楽しんだのだがこの人は何で俺を誘ったんだろう。順番で言えばサーニャより先に誘ってきたし。

 

「あーそれはだな……」

「言い辛い事だったら無理に言わなくていいんスけど」

「そうじゃないんだが……そうだな。波崎、ガールフレンドを作りたがっていただろう?」

「そッスね」

 

 彼女ほしいなーみたいな愚痴は言った記憶がある。

 

「お前の立場上それは難しいだろう? だからと言って、我慢させるのもどうかと思ってな」

「あっ、ふーん(察し)」

 

 つまりこの人は、がんじがらめになって彼女を作れない俺のために、彼女役を買って出てデートに誘ってくれたのか。サーニャも同伴だから妹同伴デートみたいな感じになったけど、確かにゲーセンで軽く遊んでから洋服を見て、なんてのはちょっとした学生デートっぽいかも知れない。

 

 嬉しくて涙がで、出ますよ……。

 

「……なんか気ぃ使わせちゃいましたね」

「そんなことは無いさ。可愛い弟の彼女代理くらい喜んでやるぞ?」

「は?」

 

 一瞬で感動が引っ込んだ。弟だと、聞き捨てならない言葉であった。

 

「最近、妙に距離があったし……この際だ。試しにお姉ちゃんと呼んでみるといい。きっと気分もスッキリする」

 

 何がこの際だ。どういう理論の元、俺の気分がスッキリすると言い切ったのだ。それバルクホルンさんの気分が、の間違いだよね。

 というか距離が遠いって、バルクホルンさんの想定している距離が近すぎるだけだってそれ一。

 

「嫌です……」

 

 当然拒否る。

 

「何で?(殺意)」

 

 何でもクソも無いだろう。さもそう呼ぶのが当然のように、目をぎらつかせて不思議そうに聞き返してきた。ウッソだろお前wwwwww

 この人も来日当初はこんなじゃなかったのに……。絶対、本国にいる実妹のクリスちゃんに会えなくておかしくなってる。この人も、夏休みは本国に帰省した方が本人の為になりそうだ。

 

「嫌って言っても、そう呼ぶんだ。な?」

「嫌です(鋼の意思)」

「大丈夫、嫌なのも最初の内だ」

「怪しい宗教の勧誘みたいになってますけど」

 

 がしっと肩を掴まれた。ドンドン距離が近づいてくる。心なしか鼻息も荒い気がする。何がこの人をここまで駆り立てるのだろうか。

 

「どうしてだ……。昨日はあんなにお姉ちゃんお姉ちゃんと激しく求めてくれたじゃないか……」

「(求めて)ないです」

 

 遂に脳内の妄想を持ち出してきた。やべーよやべーよ、どうすんだよ……。ウチにいる時はこんな症状見られなかったから、さっきのサーニャを見て拗らせていた妹成分欠乏症が発症した可能性が高そうだ。

 つーかこれ下手したら明日にでも強制送還案件ですね。やはりヤバイ!

 

「お待たせしまし……た……?」

 

 通話から戻ってきたサーニャが困惑してしまっている。

 どう説明するか迷ったが名案が浮かんだ。ここはサーニャを生け贄に捧げ、まずはこの場を落ち着かせよう。

 

「なぁサーニャ、バルクホルンさんをお姉ちゃんと呼んで差しあ――――」

「今お姉ちゃんと呼んだか!」

「あーもう滅茶苦茶だよ」

 

 名案が一瞬でポシャった。

 

 

 ここからどうこの人の興奮を収めて帰路に着こうか考えていたが、災難は続くもので……。

 

「おい、波崎だよな?」

「え? あ、先輩」

「やっぱり波崎だ」

 

 俺達に近づく三人組のグループがあったのに全然気づかなかった。ガムをくっちゃくっちゃさせたグループの一人に声をかけられて、ようやく俺はその存在に気づいた。

 

 彼女らはそれぞれクルピンスキー、ビューリング、ジェンタイル。三人とも三年の先輩で、密かに『クールウィッチ三銃士』なんて呼ばれているクールビューティ三人組だ。後輩からの人気が高い事でも知られている。けどパッション系が二名混じってるんですがそれは……(名推理)

 ちなみに喋りかけてきたのはジェンタイル先輩である。コイツいつもガム噛んでんな。

 

「何だ、トゥルーデにも遂に春が来たのか?」

「バカ。どうみても痴情の縺れだ」

 

 バルクホルンさんと面識のあったプンスキー先輩が絡んでくるが、それをビューリング先輩が嗜める。っつーか痴情の縺れって……。

 

 改めて現状を客観的に説明すると、俺がバルクホルンさんに必死の形相で肩を掴まれて迫られ、隣ではサーニャがオロオロしている。

 まるで二股をかけていたのがバレた彼氏みたいだぁ。

 

 

 ヤバイじゃんアゼルバイジャン。

 

 

「そういう、関係だったのか……お前達」

「違います」

 

 ジェンタイル先輩がくっちゃくっちゃとガムを噛みながらこちらを直視してくる。

 

「安心しろ。これでも口は堅いんだ」

「違います(半ギレ)」

 

 ビューリング先輩がフッと鼻で笑う。その『私は分かっているぞ』っていう態度が今は苛つく。いらないフォローをしないでほしい。

 

「いや、待ってください先輩方。一回こっちの話を聞いてくださいって」

「えとその……私達は遊びに来ただけで……」

 

 サーニャも事態を飲み込み、どう言い訳をしようか考えてくれている。彼女が唯一の癒しだ。

 

「そうだ違うぞ三人とも。私は波崎のガールフレンドではない。お姉ちゃんだ」

「違うっつってんだろ(全ギレ)」

 

 バルクホルンさんが肩を握る力を強めて力説してくる。

 しまった、この人は黙らせるべきだったと後悔するがもう遅い。

 

「おねえ……ちゃん……?」

「波崎、カールスラントに親戚でもいたか?」

 

 ビューリング先輩とジェンタイル先輩が懐疑的な視線を向けてくる。余計ややこしくなったじゃないか(呆れ)

 

「あっ(察し) お前も大変だなぁ……」

 

 しかしプンスキー先輩だけは違った。同情的な口調で語りかけてきたのだ。

 そう、この人はバルクホルンさんの妹成分欠乏症を知ってくれているのだ。さすが同郷出身でハルトマンのグータラの原因になった人物なだけある。

 

 その後はプンスキー先輩の口添えもあり、誤解を解いて事なきを得た。クールなウィッチは理解が早くて助かる。

 立ち去る際に三人から「強く生きて欲しい」とのエールを承ったけどもう折れる寸前だよ……トホホ……。

 

 けど、ある意味見つかったのが彼女達で良かった側面もある。

 バルクホルンさんの事情を知るプンスキー先輩がいてくれたし、大人びていたから事態が終息するまで時間もかからなかった。多分これがウチのクラスの連中だったらもっと大騒ぎしてただろうなぁ。

 

「な、波崎が二股してるー!?」

「フェル、静かにしてください……!」

「そうよ邪魔しちゃ悪いわ! こんな面白いシチュエーション!」

 

 そう、こんな感じに赤ズボン三変人がセットで来るとね。やれやれ……また一から説明か(笑)

 

 

 あああああああああああもうやだあああああああああ!!!!

 

 ヴォエッ!(胃痛)

 

 

 





―― その夜のとあるLINEグループ ――

幻影『今日はどうでした?』

【デートまでは発展しませんでしたが、とても充実した一日になりました】

オーク『内容詳しく』

姫『まあまあ、それは二人きりだけの想い出にさせておけ。それはそうと私のアドバイスはどうだったかのう?』

【日頃のお礼だと言ったら受け取ってくれました。明日からカバンに付けてくれるそうです】

姫『よっし! さすがじゃ私!』

元一位『あ^~いいですね^~。彼を独占しているマークみたいですね!』

【ど、独占だなんてそんな! そんな……】

ウサギ『よーし。彼とクラスメイトの私がキチンとチェックしてきてあげますからね!』

オーク『付けてなかったらシメといてやるからな』

幻影『けど……ハァ……。恋バナは楽しいですが、他国のウィッチに彼を渡したと本国にバレたら怒られますよね……』

『『『『それなぁ……』』』』

オーク『いっそ彼をナイトウィッチ内で共有するか!』

姫『いいのぅそれ!』

元一位『悪くない案ですが、彼に一番近いリトヴャクさんが承諾するかどうか……。あれ? リトヴャクさん?』

ウサギ『寝ちゃったんですかね』


「独占……ジンさんとお揃い……。ふふっ」ベッドゴロゴロ



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電子レンジを使って初投稿です。お気に入り50件もありがとうございます。
この物語では全編通してなるべくお淑やかなペリーヌにします。それじゃ、流しますえ……






 ウィッチの中には、『固有魔法』と呼ばれる必殺技的なスキルを保有した者がいる。

 サーシャの映像記憶能力や芳佳の治癒魔法がこれに当たるのだが、固有魔法なんて持っているウィッチが希有な存在で、大半は固有魔法なぞ持っていないのが当たり前なのが世の常だ。

 

 つまり、俺も例に漏れず固有魔法なんて持っていない。だから先週の夕飯時にこんな事を言ってしまった。

 

『なんつーかさ、こう、ペリーヌやハルトマンみたいにド派手な固有魔法とか見ちゃうとさ、俺ってスゲー地味じゃない?』

 

 ただの雑談ネタのつもりだったのだが、これがいけなかった。それからというものの、ストライクガンダムみたいに、各々好き勝手に自分の固有魔法をカスタマイズさせようとしてきたのだ。

 

 口は災いの元だった。バカじゃない、僕はバカじゃない!

 

「待ってペリーヌ……もう限界……」

「貴方、扶桑男子でしょう? もっと根性見せなさいな」

「いやもうホント痛いんで無理……」

 

 家の庭でペリーヌと絶賛特訓中である。あるかどうかもハッキリしてない俺の固有魔法を引き出す特訓。

 つーかウチにいる連中全員が固有魔法持ちってやっぱりおかしい(小声)。そのせいか、一部界隈では貴重なウィザードと優秀なウィッチの遺伝子を掛け合わせた子供を作るために各国がここに集中させた、みたいな噂まで立っている。

 

 それはそれとして、今日はペリーヌの固有魔法《トネール》を模倣する練習だ。もしも彼女のトネールを少しでもマネできて一瞬でも発現できたのなら、それが俺の固有魔法の可能性が高い。

 

 最も、いきなりマネしてみせろってのも無理な話なので、かれこれ一時間ほどトネールを直に食らって雷のイメージを膨らませてはトネール発現に挑戦している。

 のだが、発現する気配がピクリともしない。体には彼女が手加減してくれていたとはいえ、まだ軽い痺れが残っている。

 

 つまりトネールは俺の固有魔法じゃないっぽいんだな。ちなみに昨日はサーニャの魔導針もマネしようとしたが失敗に終わった。こうもなしのつぶてだと、気分はスカばかりを吸い込むカービィである。

 

「ハァ……仕方ありませんわね。私も少々魔力を使いすぎましたし、そろそろお開きにしましょう」

「いやーありがとね。わざわざ付き合ってもらっちゃってさ」

「私も貴方の固有魔法は気になっていましたから、そこはお互い様ですわ」

 

 そう言うと、ペリーヌはねこみみと尻尾を引っ込めた。ああいう細長い尻尾は好きな部類だからもう少し眺めていたかったのだが……。それにともない、俺も角と尻尾を引っ込めた。

 

 そう、角である。かどではない、つの。耳の代わりに頭のテッペンに二本の角が生えており、先っちょが中央部に向かって『ハ』の字に曲がった角。

 尻尾に関しては、なんか蛇とか蜥蜴みたいな艶があって爬虫類っぽいし、専門家の間では俺の使い魔は空想上の動物『ドラゴン』ではないかとまことしやかに囁かれている。ウィザードが夢物語の塊みたいな存在だしね。

 

 隙 あ ら ば 自 分 語 り 。

 

 まぁ俺の使い魔なんてどうでもいい。今は俺の固有魔法が何なのかを探っている最中だ。

 

「こうなってくると、ミーナさんの推してらした説が正しいのではなくって?」

「うん、俺もそんな気がしてきた」

 

 ミーナさんが推してる説というのは、《男が魔法を使える事自体が固有魔法》である。鶏が先か卵が先かみたいな、透明人間がいないことの証明が始まりそうだが今のところはこれが俺に対する定説だ。

 

 これマジ? これが心理だったとしても地味すぎだろ。

 

 なんて零したのが原因で特訓してるのだけども、ウンともスンとも言わないのはもう言い訳ができない。

 

「先天的な魔眼でもない、治癒魔法も全然ダメ、肉体強化してもそんな強くない、感覚が鋭くなる気配もなし。あーつまんね、固有魔法なんも無しかぁー」

「貴方ねぇ、贅沢な要求をしている自覚はありまして? ウィザードというだけで、唯一無二の存在ですのよ」

「そりゃ分かってっけどさ。ただのウィザードで終わるのは何か釈然としないっつーか……」

 

 『みんなに置いていかれてるような気がして、周りは固有魔法持ってるのに』そう言いかけて止めた。これ以上はやっかみだ。

 

 ただの雑談から、各々好き勝手に特訓なんて昇華して取り付けてきたが、ナンダカンダで俺も固有魔法が見つかればと淡い期待を抱きながらやっている身だ。

 俺の我が儘に付き合ってくれているペリーヌを不快な思いにさせたくはない。

 

「……お茶にしてリラックスしましょう。こういう時は気分転換が大事ですわ」

 

 そう言って彼女は庭からリビングへ引き上げ、そのままキッチンへと足を運んでしまった。

 さすが、領主出身のお嬢様だけあって心情を読み取るのが上手だ。それに比べてダメだなぁ俺は、ペリーヌにいらない気遣いまでさせちゃって。

 

 俺も体から痺れが抜けるのを待ってから、靴を脱いでリビングに上がり、ソファへと腰を降ろした。

 

 キッチンから食器の擦れる音が聞こえる。ペリーヌがお茶を淹れる準備をしてくれているのだ。こちらからは後ろ姿しか拝見できないが、それもまた情景のワンシーンとなるのだろう。

 

 と言っても待ってる間は暇なので、今度はソファから窓越しに庭を眺めた。

 

 ウチの庭の花壇にはカモミールが咲いている。ペリーヌが同郷の後輩から貰った苗から育てたハーブだ。彼女が今淹れてくれているお茶もカモミールである。

 他にもレモングラスやローズマリーの種を植えたらしく、庭の一角をハーブ畑にするのが彼女の楽しみの一つだと話していたな。お前いつか本国に帰るのに、残ったハーブの世話は誰がやると思っているのか。

 

 そういえば、彼女はハーブの話もそうだが故郷の話にもなると途端に饒舌になる。いつも喋るときはハキハキと喋るのだが、その時はやたらとテンションが高いのだ。あ、あと坂本さんの時もテンション高い。

 

 一方で、彼女は領主のお嬢様だからか、学校では優雅で瀟洒な振る舞いをする堅物委員長として有名だ。家にいる時でさえ、一部のメンバー以外とは真面目な態度で接している。

 

 けれども、ひとたび饒舌になるとまだ垢抜けてない女の子なんだと実感させられる。たまにホームシックな一面を覗かせる事もあるので、そうしたところも含めてまだ年相応の未熟さは顕著に表れるのだ。

 

 何というかペリーヌは、気品溢れる良いところのお嬢様のような、特訓に付き合ってくれる上に気を利かせてくれるから世話焼きお姉さんのような、人によってはツンケンした態度を取りつつも最終的には良好な関係に落ち着くからツンデレのような。

 

 どう表現すればいいのか悩む。

 悩みはすれども、迷いはない。最終的に解は一つに収束する。

 

 

「――――ペリーヌは可愛いなぁ……」

 

 

 これ。正に全ての感想をひっくるめてこれ。

 彼女は最高に可愛いのである。

 見た目的にも、あの金髪パッツンとちょっと太めの眉毛はポイントが高い。

 

 そう、心の中で思っているだけならば良かった。

 

 けれども、ぽつりと言葉にしてしまった答えは呑み込むには遅すぎて。

 

 ペリーヌの耳に届いたのか、彼女はカモミールティーを注いでたティーポットをカップに「カチャン」とぶつけてしまっていて。

 

「あ……ッ!」

 

 慌てて自分で自分の口を塞ぐ。

 

 何を口走ったんだ、何を。こういうのは冗談めかして言うのが俺のキャラなのに。マルセイユの時みたいに、計算の上に成り立った褒め言葉を言うのが俺なのに。

 

 まさか、こんな自然に口説き文句がスルリと抜け落ちるなんて信じられない。

 ルッキーニに「可愛い」と言うならまだ分かる。子犬や子猫のような無邪気さを形容するにはピッタリだからだ。これは意識しなくても口を突いて出てしまうだろう。

 

 だが、それをよりにもよって思春期真っ盛りのペリーヌに。

 

 同年代だから、未だに面と向かって容姿や仕草を褒めた試しのないペリーヌに。

 

 俺は慌ててソファを立ち上がって弁解を始めた。

 

「あ、えと、ち、違うんだ! 今のは違くて……」

 

 待てよ、このフォローはまずくないか。これで否定したらペリーヌが綺麗じゃないみたいじゃないか。

 それは嘘だ。

 彼女は綺麗だ。だから口に出してしまったんだ。これで彼女を否定したら俺自身を否定する事に繋がってしまう、それは勘弁したい。

 

「い、いや違くない! ペリーヌは可愛い! 可愛いんだけども……! その……DJDJ(届かぬ思い)」

 

 ペリーヌは相変わらず何も言わない。ピンとした姿勢のままティーポットでカモミールを注ぐ姿勢のまま動かない。微動だにしない。

 だ、ダメだ! こちらからは後ろ姿しか見えない! 彼女の心境が読み取れない!

 俺は童貞だしウィザードという立場故、ここで強気に押せない。周囲の環境上、ギャルゲーや乙女ゲーをプレイした事がないから気の利いた台詞も思いつかない。

 

 正解を探すにはあまりにも高難易度だ。これもう分かんねぇな?

 

「ふふっ。波崎さんって口下手な一面もありますのね」

 

 モゴモゴと口を動かしていた俺は、ペリーヌのその一言で顔を覆って座ってしまった。彼女だってさっき動揺しただろうに、もう持ち直している。できる淑女は違うなぁ。

 

 彼女はポットとティーカップの載った御盆を持って歩いてくる。

 そのまま御盆を机の上に置き、俺の隣に腰をかけた。

 

「いっそ殺せ」

「あら、私は大変嬉しゅうございましてよ? 世界に一人しかいないウィザードから賛辞を頂戴したのですから」

「カンノミホ……」

 

 もはや声にならない。

 思わず項垂れてしまった。顔くらい、真っ赤になっても……バレへんか……。

 

「そ・れ・に、耳まで赤くする波崎さんなんて自爆するくらいでしか見られませんもの」

「クゥーン……」

 

 鳴き声はかろうじて出せた。恥ずかしさで体がむず痒い俺は、ペリーヌの淹れてくれたティーカップに手を伸ばそうとして――――。

 

「ん?」

 

 異変に気づいた。

 視界の端っこでひょこひょこと何かが動いているのだ。よく見るとそれは、ペリーヌの体から伸びている。

 

 だが、当の本人は気づいていないようだ。余裕綽々とばかりに優雅にカモミールティーを飲んでいる。

 

 その動いている正体は即座に判別できた。さっき仕舞っていたはずの、彼女の頭とお尻からいつの間にか飛び出した猫耳と尻尾が忙しなく動いているじゃあーりませんか。犬かよ。

 

 天下無敵のブループルミエ様はやっぱりキュートじゃないか。

 

「耳と尻尾」

「……へ?」

「いや、めっちゃ動いてんじゃん。ペリーヌの耳と尻尾」

「え……あ! ち、違いますわ! これは別に、貴方に褒められたから嬉しくって振ってるんじゃありませんのよ!?」

 

 言い訳しながらも彼女の耳と尻尾はひっきりなしに動いている。これは、彼女は俺に褒められて嬉しがっているのだろうか。さっき口では嬉しいと言っていたが、まさかここまでとは。

 

 また一つ彼女の可愛さ発見伝だ。ほら、見ろよ見ろよ! すっげぇ可愛いゾ^~これ。

 

「そうなの?」

「そうですわ!」

「そっか」

「し、信じてませんわね!?」

「信じてるさ」

「嘘仰い!」

 

 ペリーヌはまだあたふたとしている。俺のド直球な恥ずかしすぎる台詞でこれを引き出せたのなら安いもんだ。少しだけ溜飲も下がった。

 

 俺は熱々のカップを手に取り、傾けた。

 

 カップと同じだけ熱のある体に、カモミールの透き通るような甘みが不思議と心地良い。

 




そろそろリーネちゃんと芳佳ちゃんにスポットライト当てたい……当てたくない?

って考えてたら学園部分が進まない予感がしてきたゾ。


ヌッ!(思考回路はショート寸前)
ちょっとくらい失踪しても……バレへんか。


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ほのぼのを考えていたら意味が分からなくなったので初投稿です。


「えー、二年担任の加東です(半ギレ)。 些か急ではありますが、二~四限の座学を一年と合同模擬戦に変更します」

 

 これからストライカーに関する座学が始まろうと言うのに、ケイ先生が突拍子もない事を言い出した。

 当然、教室はざわつく。前の席で眠る準備に入っていたエイラもガバッと身を起こしてこちらに振り向いた。

 

「オイオイやったなジン! 模擬戦に変更だってサ!」

「そーだね」

 

 興奮するエイラ。反面、俺は非常に冷めた態度である。

 

「……オメーなんか知ってんだロ」

「まーね」

 

 適当に相づちを打ちながら席を立ってグラウンドへ向かう準備をするが、俺はどうして変更されたのかを知っている。

 

 いつだったか、宮藤博士の手によって魔力伝達率の高い繊維を使ったウィザード用のズボンが開発されたと話した。実用段階まであと一歩というラインまで迫っているのだが、最後の最後に念を入れてテストをしたいと博士が申し出たのだ。

 

 そのテストがこれから行われる、一年と合同の模擬戦である。俺が履いているズボンが、もう新繊維の編み込まれたウィザード用ズボンだ。

 では何故俺が冷めているのか。

 当然俺のためのテストなので、俺は自然とフル出撃になる。つまり死ぬほど疲れるのだ。午後からの授業が欝になる事間違いなし。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

「一年生全員いまーす」

「二年生も揃いましたわ」

「よーし、揃ったな。おい静かにしろ!」

 

 グラウンドに並んだ1・2年生から、それぞれのクラス委員長が集合したと告げると一年生担任の北郷先生が生徒の前で声を張る。

 見た目も中身も喋り方も、使う武器まで坂本さんそっくりな北郷 章香先生である。前髪パッツンにして眼帯でもしたら坂本さんの生き写しになるレベルだなぁ。凛とした大和撫子って感じだ。

 

 しかし、一年生と合同の模擬戦らしいがメンバー選抜はどうするのだろうか。

 当然、俺はフル出場になるだろう。みんなに付き合って貰って悪いのだが、これは俺のための実験でもあるわけだし。

 

「二年生二人と一年生二人の計四名による小隊同士で戦ってもらう。呼ばれた者は返事して前に出てくるように。ちなみに波崎はとある事情でフル出撃してもらう」

「ういッス」

 

 やっぱりフル出撃っぽい。午後の授業は寝よう。

 

「じゃあ読み上げるぞー」

 

 ルール説明が終わり、北郷先生は隣にいるケイ先生にアイコンタクトをした。加東先生は一歩前に出ると、クリップボードに挟まった用紙に書かれているであろうネームを読み上げていく。

 

「一年生、宮藤芳佳」

「はい!」

 

 若干緊張気味の芳佳が威勢の良い返事と共に進み出てきた。芳佳の固有魔法は治癒系だし案外チョロそうだな。

 

「お兄ちゃーん……」

 

 小声で俺を呼びながらニコニコ笑顔で手を振ってきた。どうやら俺と戦えるのが嬉しいらしい。コヤツめ、ハハハッ。

 

「リネット・ビショップ」

「は、はい!」

 

 こっちも芳佳と似たり寄ったりであるが、芳佳よりも狙撃に特化してるだけ戦闘力は高そうだ。

 しかし意外な人選な気がする。芳佳は魔力こそ高いものの模擬戦はそこまで得意ではないし、狙撃タイプのリーネもドッグファイトには不向きだろう。そこまでガチ構成って気はしない。

 

「次、二年生、エイラ・イルマタル・ユーティライネン」

「はーい」

 

 固有魔法の未来予知による変態機動で射撃・回避を繰り出す、スオムス随一のエースであるエイラが選ばれたって事は、一気にガチくさい雰囲気がプンプンしてくる。

 というか、ここまでウチにいる連中しか呼ばれていない。……何やら嫌な予感がしてきた。

 

「ハンナ・ヘルッタ・ウィンド」

「はい」

 

 

 

 予感的中である。

 

 

 

「ふざけんな!(声だけ迫真)」

「どうした波崎、不満か?」

「不満しかねーッスよ! 強すぎじゃないッスかそっちぃ!」

 

 思わず声を荒げて反発してしまう。しかしこれは仕方ないのだ、許してほしい。

 

 何せ、どう頑張ってもこちらに勝てるイメージが湧かない。

 エイラだけですら落とせるかどうか怪しいのに、そこにオールラウンダータイプでスオムス二位の戦績を上げているハッセが加わるのだ。

 

 そこまで強くない芳佳を背負っても余りある過剰戦力。

 バランス崩壊ってレベルじゃねーぞ!

 

 元々戦闘データを取るのが目的とはいえども、黒星を多く抱えたまま一日を過ごすのは癪じゃないか。

 

「こんなんどうやって勝てっつーんですか!」

「そーよそーよ! 戦闘力殆ど無いの宮藤ちゃんくらいじゃない!」

「私は絶対嫌ですからねー!」

「私もちょっと……戦いたくありませんわね……」

 

 これから模擬戦の相手にされるかもしれない生徒からもブーイングの嵐である。

 当たり前だ。最低でもスオムスのツートップを相手にしなければならないのだから。無理無理無理、勝てない!

 

「はいはーい! みんな戦わないなら僕が戦いたい!」

 

 しかしどこにでもチャレンジャーが現れるもので。一年生側から僕っ娘の元気な声が飛んできた。

 三変人赤ズボンのマルチナだ。お前の先輩のフェルがさっき反対してたけど……おっ、大丈夫か大丈夫か?

 

「ふむ、スオムスツートップか……。妾も手合わせ願いたいのう」

「あ、待て待て! 私もやるぞ!」

 

 マルチナに発破をかけられたのか、プリン姫とマルセイユが続いて名乗り出てくる。

 プリン姫は純粋に戦ってみたいだけだろうが、マルセイユは絶対目立ちたいからだろ。

 

「1、2、3……げ」

 

 しまった。

 気づいてしまった。

 目立ちたがり屋兼自信家の三人が意気揚々と立候補するのは結構だが、都合良く一年二人の二年一人だから、このままでは俺を入れて丁度四人編隊が組めてしまう。

 

 ぜってぇこの三人とは組みたくない。

 個人技が高いのは大変宜しいのだが、どいつもこいつも我が強すぎる。調和なんか一切取れないし、チームプレイなんて夢のまた夢じゃないか。

 

「こちらの人選とは違ったが……このメンバーでやるか?」

 

 北郷先生がケイ先生のクリップボードを覗きながらこちらに聞いてきた。俺は慌てて首をブンブンと横に振る。

 

「嫌ですよ。絶対やりたくないです」

「そうか……。だが残念だったな、本人達はやる気みたいだぞ?」

「は……?」

 

 言われて意気揚々としていたマルセイユ達に目線を移すが、もう誰もいない。

 

「もう格納庫に行ったわよ」

 

 ケイ先生が右手に見える倉庫を指さす。どうやらもうユニット格納庫に行ってしまったみたいだ。

 行動力高スギィ!

 ちなみに芳佳達もいなかった。あちらもメンバーを変える予定なんて更々無かったらしい。

 

「この状況でお前に自由は無いな。やれ」

「クゥーン……」

 

 聞くだけ聞いといてこの仕打ちとか、「痛かったら手を挙げてくださいねー」みたいに言ってくる歯医者みたいだぁ……。

 

「南無ー」

「その……頑張って?」

 

 ハルトマンが念仏を唱えて雁淵が応援してくる。同情するくらいなら俺と変わってクレメンス。

 

「……なぁハルトマン」

「やーだよ」

「まだ何も言ってないんですがそれは……」

「ハンナと組んだら私と勝負始めちゃって模擬戦所じゃなくなっちゃうよ」

「そりゃそうか。じゃあ雁淵……」

「一旦手前共に引き取らせてもらいます。その上で熟考し――――」

「やる気無いですねクォレハ……」

「波崎君、そもそも貴方のデータが取れないと意味ないでしょ。ホラホラ、早く移動しないとあの子達に怒られちゃうわよ?」

「ウッス……」

 

 漫談してたらケイ先生に促されてしまった。校内のどっかでデータを取っているであろう宮藤博士と愉快な仲間達を怨みながら、俺は格納庫へと向かった。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

 俺は芳佳と同じ型番の機銃を手にし、愛用のストライカー『橘花』に男用ズボンのまま足を突っ込んだ。

 

「おーええやん……気に入ったわ」

 

 いつもなら魔力の伝達率が低く角や尻尾もちょっぴりしか生えてこないのだが、角も尻尾もしっかり出し切れる。

 改めてこのズボンの完成度は凄い。これ、今までウィッチにとって問題だった寒い冬場も、ズボンの重ね着をして問題無さそうだ。

 

「波崎 迅。で、でますよ……」

 

 気の抜けたコールと共に、俺は空へと舞い上がった。目に見えた負け試合だからね、仕方ないね。

 とは言っても黒星も嫌だし、一応ベストは尽くす予定だけどもね。

 

 数秒ほどの上昇でグラウンドの上空に着くと、既に俺以外全員待機していた。

 

「遅いぞジン。私の勝ちだな!」

「お前達がはえーんだよ」

 

 マルセイユが味方相手に勝利宣言を始めた。コイツ、前の一件以来妙に絡んでくるな。

 

「ふむ、そう言えば波崎の了承を取らなかったな。妾達と組んで良かったかの?」

 

 プリン姫が訊ねてくる。どの口が言うんだ、どの口が。

 

「Noっつっても来る癖に」

「そりゃそうじゃ」

「だよねー。こんな楽しそうな相手と戦えるんだもん。拒否られても行くっしょ」

「楽しそうな相手ねぇ……」

 

 マルチナ曰く、相手チームは楽しそうらしい。

 どれ、銃器片手に待機しているあちらのチームに耳を傾けてみよう。 

 

「私とハッセが組めば、まず負けないだろーナ」

「エイラは相変わらず自信家だねぇ。ま、私も早々負けるつもりは無いけど」

「お二人ともそんなに強いんですか?」

「芳佳ちゃん、この二人はスオムスでも一位二位を争うエースなのよ?」

「えーそうだったんですか!? 凄ーい! 私エイラさんと住んでるのに全然知らなかった!」

「フフーン。そうだゾ、リーネの言うとおり私達は強いんダ! 二人とも大船に乗ったつもりで戦えよナ」

「ハハッ。私も期待に添えられるように頑張るよ」

「あ、ウィンドさん、これが終わったら握手してください!」

「ああ良いよ。私はアッチのハンナと違って握手もサインもしてあげるからね」

「やたー!」

 

 なんて呑気な会話が向こうチームから聞こえてくる。なんとも和気藹々とした雰囲気じゃないか。

 別の意味で確かに楽しそうな相手だ。

 

 一方こっちチームは……。

 

「よーし……。いいかお前達、私は負けるのが大っ嫌いなんだ」

「とーぜん、やるからにはこてんぱんにして勝たないとね!」

「赤ズボンは威勢だけはいいよな。ま、精々私の足を引っ張らないようにしろ」

「一番足を引っ張りそうなのはお主じゃと思うが」

「アハハ! それ言えてる!」

「なにぃ!? どういう意味だ!」

「そのまんまの意味じゃ。スタンドプレイに専念しすぎんようにの」

「うっ……わ、分かっている!」

 

 プリン姫とマルチナは、少なくともチームプレイをする気はあるみたいで安心した。

 一方、釘を刺されたマルセイユだが、(スタンドプレーに走って各個撃破される未来が)見える見える。

 

『両チーム、準備は良いか?』

 

 インカムから北郷先生の声が聞こえる。

 

『Aチーム行けます!』

 

 あっち側はもう準備万端なようだ。

 俺は味方三人にアイコンタクトを送る。三人とも縦に頷いた。

 

『Bチームもオッケーッスよ』

『それでは、私の合図をもって開始とさせてもらおう』

 

 スゥ……とインカム越しに息を吸う音が聞こえる。

 俺はそっとインカムのスイッチを切った。

 

「用意……始めッ!!!!!」

 

 

 眼下に広がるグラウンドから轟く雄叫びによって、今、戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

「降参です」

「だろーナ」

 

 エイラがしたり顔でこちらに銃口を向けてきたので、俺は両手を挙げて大人しく投降のポーズを取る。

 まるで即落ち二コマみたいだぁ……(直喩)

 

 だってもう残ってるの俺しか居ないんだもん。無理無理無理勝てない!

 

 結果は下馬評通り。三人ともサクサクッと墜落判定を出されていった。

 やはり勝てない。芳佳、エイラ、ハッセの三人で前線を支えながら、その後ろでリーネが狙撃してくるからきついのなんの。

 

 まず、遠距離が厄介なリーネを先に叩くべくマルセイユが潜り込もうとするのだが、エイラが未来予知で必ず後衛への進路を塞いでいた。それも最小限の動きでマルセイユに着き回るのだから、その都度マルセイユは対抗心を燃やして仕掛けるものの、あえなくハッセに撃たれて撃墜。

 

 じゃあ正攻法のドッグファイトに持ち込めばいいじゃんと残った三人で戦ったが、エイラとハッセだけでも充分きついのにそこに芳佳も加わってちまちま弾をばらまいてくるから鬱陶しい事この上ない。

 しかも戦いが長引けば長引くほどリーネの狙撃が精度を増してきて、こちらの動きがかなり制限されていく。

 完全に詰め将棋だよ。相手が一手も間違えなければ100%勝てるゲームだわ。

 

 結局、痺れを切らしたマルチナが半ばヤケクソ気味に「オリャー!」とキックを咬ましに行ったがカウンターで負けた。

 プリン姫も奮闘し、後一歩で芳佳を落とせる場面まで肉薄したものの人数差で押し込まれて負け。

 

 こうして残ったのは俺だけだ。

 

 気分は陸の上でホッキョクグマに捕食されるアザラシである。ぼくのかんがえた最強の4人組を相手にどう戦うのが正解なのか見当も付かず、必死の抵抗虚しくついぞ誰一人として撃墜は叶わなかった。

 

 もうこんな戦いやめましょうよ! みんな平和が一番! ラブ&ピース!

 

「そりゃ」

「あたっ」

 

 両手を挙げた俺に容赦なくエイラのペイント弾が飛んできた。大きく反り立った角がピンク色に染まり、今日一番クソ怠い模擬戦はこれにて閉幕。みんな解散!

 

 

 

 ……ところで、これ、俺の戦闘データ取れてるんだろうか。

 

 




 (オチは)ないです。(戦闘描写も)ないです。

 おまけにウィッチ同士の絡みが多いだけで恋愛要素が無いじゃないか……(呆れ)

 けどまぁ、ネウロイとかの設定もイメージできてきたのでそのうち書けたら書きたいですね。

 ……あれ、これまた恋愛描写無くなるんじゃない?


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クッソ長いけど頑張って書きました。褒めて。


 

 現時刻はカラスが鳴いたら帰ろう夕方、学校から帰宅した俺はテレビのニュースを見ている。

 前回と同様、ルッキーニが俺の膝上に乗っかっている。というか、この時間はルッキーニを膝に乗せてニュースを見るのが日課になった。

 

 それにしても、顎が乗っかるような丁度良い位置にルッキーニの頭があるので撫でやすい。

 

「ん~♪」

 

 俺が撫でてやると喉を鳴らして喜んだ。クッソかわいい(ノンケ)

 

 しかし、今回は前回と少し状況が違う。

 

「お兄ちゃん私もー」

 

 なんと俺の右隣に芳佳も座して体を寄せてくるのだ。ちなみに大の仲良しさんであるリーネは庭に洗濯物を取り込んでいるのでいない。

 

 それにしてもハーレムの王様かな?

 ま、手を出したが最後なんですがね。ロリコンと呼ばれるのが先か、責任を取らされるのが先か想像するだけでも恐ろしい。ハハァ……(乾いた笑い)

 

「はいはい」

 

 それでも癒されるので、二人の頭を撫で続ける。何というか、犬と豹が二人の使い魔だからペットの飼い主みたいな気分だ。

 

「お兄ちゃん♪」

 

 俺の心中を読み取ったのか、芳佳はポフンと耳と尻尾を出した。こーれは癒しポイントが高まりますね。ジンさんポイント+100くらい上げちゃうぞ。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 ……心なしか息も荒くなってきたようだが。顔色も上気して赤い気がする。

 

 そういえば、クラスメイトのジョゼは芳佳と同じ治癒魔法持ちだったが、魔法力を使うと体温が上昇して夏場は大変だと話していた。俺もその現場を見たのだが大変エロかった。

 つまり、同列の固有魔法を持った芳佳も魔法を行使すると体温が上昇する可能性が……?

 

「お兄ちゃん……ンッ」

 

 いや違う、芳佳が俺の右腕に体を擦り付けてきた。コイツ魔法関係無しに発情してるだけだわ。ジンさんポイント-1000。

 

 好意は嬉しいのだが、今俺が求めているのはアニマルセラピー的な癒しなのだ。

 それに芳佳はもうファミリーみたいなもんやし。恋人として見るのは難儀というか、困難を極めるというか、決して無理ではないけど意識するのは難しい。

 

「そうじゃなくて……まぁいっか」

 

 俺は芳佳の体から腕を引っこ抜くと、芳佳の火照ったホッペタをムニムニとつねった。

 こうして芳佳の顔を弄るだけでも癒しになる。物は考えようである。

 

「いひゃいいひゃい」

「痛い? どのくらいだ?」

「いっはいいひゃい!」

 

 おや、かなり手加減しているのにいっぱい痛いらしい。まぁそこそこ楽しめたし止めておくか。

 

「もー痛いよお兄ちゃん……」

 

 俺がパッと手を離すと、芳佳は抓られたホッペタとナデナデし始めた。

 

「痛い……うへへぇ……。優しいお兄ちゃんが痛いことするなんて……」

 

 それも嬉しそうに。

 

 えぇ……(困惑) お前精神状態おかしいよ!

 

「うじゅ……私もやるー!」

「おーやったれやったれ」

「え? ちょ、ちょっとルッキーニちゃん!?」

 

 一人だけ除け者にされていたのが気にくわなかったのか、膝の上からルッキーニが猫さながらの跳躍で芳佳に詰め寄り、即座に芳佳のホッペをぐにぐにし始めた。

 

「アハハー芳佳のホッペタ柔らかーい」

「い、いひゃいいひゃい! ルッキーニひゃん手加減ひて!」

 

 結構もみくちゃにされてる。子供は手加減を知らないから痛いときはマジで痛い。

 しばらくじゃれていたのだが、満足したのか、ルッキーニは芳佳から離れて俺の元に戻ってきた。

 

「もー……ルッキーニちゃんまで酷いよー」

「でもでもー、芳佳のホッペプニプニしてて気持ちよかった。ジンのホッペ固いんだもん!」

 

 そらそうよ。美容ケアだってしてねーんだから固いよ。

 

「でもシャーリーのおっぱいのが触ってて気持ちいいしもっと柔らかい!」

「うんうん! 私もそう思う!」

 

 いや芳佳も同意するなよ。この二人って変なところで意気投合するなぁ。つーかそっちと比較すると何にしたって柔らかくなくなるんじゃない? 

 

 いやそれはそれとして、二人ともあの胸を揉んだことあるのか……。俺も揉みたいなぁ……DJDJ(届かぬ思い)。

 

「お兄さーん!」

 

 邪な気持ちを感知したのか、ここで癒しの塊のリーネがご登場だ。

 しかし、彼女は洗濯物を取り込んでいたハズなのだが手にはスマホを持っている。何かあったのだろうか?

 

「た、大変です!」

 

 何かあったっぽいな。

 

「ん? 今リーネも俺達と一緒にじゃれたいって?(難聴)」

「え、いいんですか? ……じゃなくて、真面目なお話なんです!」

「ハハッ、悪い悪い。それで真面目な話ってのは?」

「その、お姉ちゃんが扶桑に来たって連絡が入って……」

 

 お姉ちゃん。名は確か、ウィルマ・ビショップさんだったか。

 

 ペリーヌやリーネやパティから、少しだけお姉さんの話を聞いたことがある。ただ、一番印象に残っているのが年上のおじさまと結婚した話だけだが。

 その差なんと30歳差。歳の差結婚って奴だろうがいくら何でも離れすぎだろ……。

 

 今回の来訪は、何でもその例の夫が扶桑に用事があったらしく、ついでに彼女も同伴して来たのだとか。

 しかし、扶桑に着いたのがさっきなら、ここに来るまでもう少しくらい時間はあるだろう。お茶請けとか扶桑土産とか買ってこなくっちゃな。

 

「それがもう、家の近くらしくって……」

「はやくなーい?」

 

 おいおいロスタイムも作ってくれなかったのか。というか、普通に考えてブリタニアを発ったタイミングで通知が来るだろ!

 何で到着してからなんだよ! はえーよ!はえーんだよ!

 

「やべーよやべーよ、どうすんだよ……。何の準備もしてねーよ……」

「ご、ごめんなさいお兄さん……」

「いや、リーネが謝ることじゃないけど……参ったな……」

 

 俺自身にウィザードというネームバリューはあるが、齢僅か17歳の高二男子が家主だから、留学に送り出したご家族はきっと心配しているだろう。芳佳の家族以外。

 

 故郷にいる家族さん達を安心させてあげるためにも、まずはリーネの姉ちゃんに、俺が良識と常識を兼ね備えた人間である事をアピールしなければならない。しかし初対面での好印象を獲得するには、最低限のラインとして美味しい茶菓子が必須だ。ウチにあるもので足らせるしか方法は無いのだが、そんなのあったかなぁ?

 

「へぇーリーネちゃんのお姉さん来るんだ。どんな人なんだろー」

「ねぇねぇ、リーネのお姉ちゃんもおっぱい大きい?」

 

 その大切なイメージ操作をこれからしなければならないのに、この二人、完全に他人事である。

 

「とりあえず、掃除しないと! 芳佳、そこら辺に散らばってるハルトマンの私服どっかにやっといて!」

「はーい」

 

 芳佳がソファの上や机の上に乱雑に置かれてるハルトマンの私服を持ってリビングを出て行った。俺も壁に立て掛けてあったコロコロで適当に床の上を掃除する。これで見栄えは多少良くなったはずだ。

 

「もう掃除機かけてる時間は無いから……。えーっとお茶請けも準備しないと。リーネの姉ちゃんって甘いのとしょっぱいのどっちが好き?」 

「甘いのが好きですけど、用意してくれるのならどっちでもいいと思いますが……」

「どっちでもって……。うーん、ポテチと大福でも並べとく?」

「アレはー? ざらざらして甘じょっぱいやつ」

「そうだ粗目のお煎餅あったわ! 中間とってこ!」

 

 確か、買ってからキッチンの下の引き戸に保管しといたハズだ。お茶を淹れるついでに持っていこう。

 もう懸念事項は無いか。このまま家に上げて大丈夫か。

 玄関は……少し靴が多すぎるか。いや、そんな小さな事に気を配ってる暇はない。

 

「とりあえずお湯沸かさないと……」

「あ、お兄さん、それ私がやります」

「いやいや、リーネは姉ちゃんとどんな事話すのか考えながら、心の準備して待っとけって」

「私は何かやるー?」

「う、うーん……。今の所は無いかな」

 

 ルッキーニがお手伝いを申し出てくれた。気持ちはありがたいのだが、一番大人しくしてほしい人物である。

 これでルッキーニがリーネの姉ちゃんの胸でも揉んだら、俺の監督不行届が疑われかねない。まぁ、実際は甘やかしまくってるからある意味正しいのだけれども……。

 

「そろそろシャーリーが帰ってくるし、部屋でゴロゴロしてれば?」

「うんそーするー!」

 

 よし。これでルッキーニは自室から出なくて済む。急いでお湯を沸かしてお煎餅も用意しなければ。

 

 

 

 《ピンポーン》

 

 

 

 だから早いっつってんじゃねーよ(棒読み)

 

「やべーもう着いたの!?」

「ど、どうしましょうお兄さん!」

「とりあえず、リーネは姉ちゃんを自分の部屋に案内して適当に雑談でもしてて! 後でお茶とかお菓子持ってくから!」

「はい!」

 

 リーネを玄関に走らせた。

 

 本当はリビングを使ってほしかったのだが、ウチはリビングからキッチンが見える構造なので、最初から邪魔者がいては気まずいだろう。俺だって気まずいよ。

 それに、よくよく考えればまだ外出から帰ってきてない面々もいるし、事情も知らないそいつらがリビングに入って荒らし回るよりかはマシだ。無意識ながらナイスファインプレーだぞ、俺。

 

 よし、後はアドリブで野となれ山となれだ。俺もキッチンへ行こう。

 

 

 玄関からは、『久しぶりー』とか『また大きくなった?』とか、リーネと姉ちゃんの会話がちょいちょい聞こえてくる。

 しかしそれも段々と遠ざかり、やがて階段を上る音へと変化してそのまま何も聞こえなくなった。どうやらリーネの部屋に行ったみたいだ。

 

 一難去った。かなり際どかったがいなしきった。

 

 後はお茶をリーネの部屋に運んで、軽く挨拶を済ませてミッション終了だな。

 

 俺はお煎餅を袋から取り出して平たい木の器にザラザラーっと入れる。急須も食器棚から取り出して軽く水で洗い、茶こしもセットしてそこに茶葉を入れた。

 取っ手の着いた来賓用のコップも御盆の上で、今か今かと口を開けて待ちかまえている。準備万端だ。

 

 しばらくして、シーンと静まりかえったリビングにはヤカンの水が沸騰する音が聞こえる。ついでにポットに入れる分も沸かしているので、あと1~2分は待たねばならない。

 

 そんな時だ。

 

「ただいまー」

 

 がちゃりと、玄関のドアを開けてシャーリーが帰ってきた。ナイスタイミング。

 

「おかえりシャーリー。今ちょっと立て込んでるからさ、俺の代わりにルッキーニの相手してくれない?」

「おいおい、何か厄介事か?」

「それがリーネの姉ちゃんが電撃訪問してさ。リーネの部屋に通したんだけど、ルッキーニなら迷い無くちょっかい出しに行くだろ?」

「それでルッキーニを抑えておけってか」

「頼めない?」

「うーん……、さぁーどうしよっかなー?」

 

 こ、こいつ……いつもだったら俺に頼まれるまでもなくルッキーニの相手を務めるくせに、ヘマできない俺の立場を見越して愉しんでやがる……。

 

「何が目的だ! 物か? 金か?」

「違う違う、そんなんじゃない。そうだなぁ……今度ウチの同好会に来てくんないか? 顔見せてくれるだけでもいいからさ」

 

 要求は俺の体らしい。

 

 彼女の言う同好会とは、ストライカーを弄ったりウィッチの装備を作ったりするのが好きな物作り集団の事だ。彼女が俺達よりも帰宅が遅いのはそのせいだったりする。

 シャーリーの他に、ハルトマンの妹やルチアナ先輩なんかがいる。一応、変なことをしてないか中等部のマロニー先生が見回りに来るらしい。誰も裏切り者がいないやさしい世界。

 

 俺は別に断る理由もないので了承する。これで取引が済むなら安いもんよ。

 

「あ、いッスよ(快諾)」

「そーかそーか来てくれるか! よし、早速あいつらに連絡しないとな!」

 

 そう言ってシャーリーは通学バッグをその辺にポイと投げ捨ててソファに横になり、スマホを弄り始めた。

 

「『ウィザードの衣装合わせ、ブースター実験可能』っと……」

 

 これは生き急いだか。早まったか。

 

「ところで波崎、お湯沸いてるぞ?」

「あ」

 

 ヤカンが蒸気機関車の汽笛を鳴らしていた。シャーリーが何を企んでいるのが気になるが、それは後回しにしよう。

 

 コンロの火を消して、沸騰したお湯を急須に淹れて、残ったお湯をポットに淹れる。これで乗り込む準備はできた。

 

「じゃあルッキーニ抑えといてね」

「おう、任せとけ」

 

 しっかりと最後に釘を刺し、御盆を手にして俺はリビングを後にした。

 

 

 

「フゥ……。よし」

 

 深呼吸をし、階段を上がっていく。リーネの部屋に近づくに連れて緊張も高まっていく。

 変な髪型になってないだろうか、さっきまで眠かったから目やにがついてないだろうか。身だしなみを整えてからでも良かったかもしれない。

 

 そんな事を考えていたら、あっという間にリーネの部屋の前に着いてしまった。

 

 両手で持った御盆を一度床に置き、コンコンとノックをする。

 

「入ってもいいかな? お茶持ってきたんだけど……」

『はい、どうぞ』

「じゃあ失礼しまーす」

 

 ドアを軽く開け、床に置いた御盆を手に持ってから半開きになったドアを体で押して入った。

 

 まずは挨拶から、次に「これどうぞ」とお茶を勧めて軽い世間話をしてから退散……。

 よし、我ながら荒波を立てない完璧なプランだ。

 

「お邪魔してまーす」

「ありがとうお兄さん」

 

 

「あ、お兄ちゃんお疲れー」

 

 

 最後の芳佳がいなければな!!

 な、なぜここにいる。彼女はハルトマンの部屋に行ったっきりだったじゃないか。

 

「芳佳お前……リビングに戻ってこないと思ったら……」

「それがね? 私もリーネちゃん達の邪魔しないように部屋で待ってようとしたんだよ? そしたらリーネちゃんとウィルマさんが来たから、そのまま。ねー」

「「ねー」」

 

 姉妹揃ってハモってんじゃねーよ。つーかビショップさんと芳佳、めっちゃ打ち解けてんじゃん。

 

 しかしなるほど、どうして芳佳が戻ってこないのか謎が解けた。

 

 そもそもの前提として芳佳とリーネは相部屋を使っている。

 当初はリビングでビショップさんをお出迎えする予定だったが、準備が間に合わないから慌ててリーネの部屋に急遽変更になった。しかし、ハルトマンの服を片付けてたからそんな事情は知らないので、そのまま邪魔にならないよう相部屋に引っ込んでいようとしていたのか。

 

 芳佳らしいと言えば芳佳らしい気遣いだ。今回は完全に裏目ってたけど。

 

「そ、そうなんだ……。あ、これお茶です。どうぞ」

 

 とりあえず、お茶を淹れていた御盆を机の上に置く。

 

「いえいえそんなお構いなく……。あ、私からもこれ、フェラウェイランド土産です」

「わざわざありがとうございます。こちらも扶桑土産を用意しようと思ったのですが……」

「気にしないで下さい。私としても、今回は些か急すぎたと反省していますから」

「そうですか」

 

 ビショップさんからは敵意を一切感じない。ファーストコンタクトは成功だという手応えを感じた。このまま何事もなくやんわりと終わってほしいな。

 

 しかし、立ったまま話すのは怠かったので座ろうとしたが、生憎リーネの隣は芳佳で埋まっている。小さいサイズの机なので、二人が座ったら一面は潰れてしまう大きさだ。

 だからと言ってビショップさんの正面ではなく、側面に座るのも忍びない。初対面だし。

 

 

 ……いや待てよ。もしかしたら、もしかするかもしれませんよ?

 

 

 さっきの様子を見る限り、芳佳とビショップさんはかなり打ち解けている。

 となるとだ、色々とリーネについての話題で弾んだだろう。学校生活とか、家での振る舞いとか、俺から話すことも無いくらいには喋ってくれてるんじゃない?

 

 ……よし!

 

 あとは芳佳に全部ぶん投げて任せちゃおう。じゃあ俺、お土産貰ってリビングに帰るから……。

 

「それじゃ俺はこれで……」

 

 そうして踵を返したのだが、そうは問屋が卸さなかった。

 

「あぁちょっと待って、貴方に聞きたいことがあるの」

「はぁ、何でしょうか?」

「ちょっと長くなるかも知れないし……リーネ、こっち側に来なさい」

「う、うん……?」

 

 リーネが何を話すのだろうと訝しげに立ち上がり、ビショップさんの隣へと移動した。

 

 座るスペースできちゃった。(もうこれ逃げ場)ないじゃん。

 

 渋々俺は芳佳の隣に座る。芳佳と俺を机で挟んで、その正面にビショップさんとリーネがいる構図となった。

 

「それで、俺……あぁええと、私に聞きたいこととは?」

 

 一応、保護者の前なので一人称をよそ行きに正す。さっきは失敗したけどね。

 

「まずは、ホストの貴方から見たリーネはどんな子ですか?」

 

 来た。想定通りの面倒くさい質問が来てしまった。

 この内容は文面通りに受け取ってはいけない。『ホストの貴方から』には『男の家主から見て』というニュアンスも含まれているからだ。

 もしもニュアンスを汲み取って返答したら、内容次第で彼女の柔和な態度が一変すること間違いなし。あっという間に男と女の関係についてまで言及される。

 

 なのでこれはスルーしよう。

 これが一番の安全策だ。それに俺、遠回しのやり取り嫌いだし。

 

「とても良い子ですよ。家事は手伝ってくれますし、買い出しも一緒に出かけてくれますし、自分の時間を削ってホストに貢献してくれていますからね。目立つ問題行動も起こしませんし、模範的な留学生です」

 

 保護者の手前、取り繕って良い点を挙げているのではない。ほんとに彼女は献身的に動いてくれているし、俺としても助かることばかりだ。それをただ述べているだけなので問題はないだろう。

 

「良かったじゃないリーネ、べた褒めよ?」

「う、うん……」

 

 「自慢の妹ね」とビショップさんがリーネの頭を撫でている。もうリーネは途中から照れ始め、今はもう顔を伏せてしまっているのでされるがままだ。とても可愛い。

 

「その、私も留学してきた当初は迷惑ばかりかけちゃいましたから、少しでもお兄さんに恩返しできたなら、嬉しい……です……」

 

 もう彼女のルートに入っても良いんじゃないだろうか。そう思わせるような天使っぷりだ。

 なんて考えていたら、今まで黙って聞いていた芳佳が俺の太股を抓ってきた。表情はムッとしている。何だこれは、芳佳なりの嫉妬か。

 

「……ん?」

 

 しかし、ここまで理想通りの展開だったのに、ビショップさんが怪訝そうに俺を睨んできた。

 

「お兄さん……?」

「あ」

 

 ちょっと、まずいですよリーネちゃん!

 

 本人もハッとした表情で、口元を手で押さえていた。どうやら今の今まで、俺の事は波崎さんとか迅さんとか、「お兄さん」以外の呼称でビショップさんと会話をしていたらしい。

 これ、下手に取り繕うと誤解を生むパターンだ。一から説明しなければ(使命感)

 

「いや、えーっと、芳佳と私は従妹の関係でして、それで芳佳は私の事をお兄ちゃんって呼ぶんです。だから、えーっと……なぁリーネ?」

「そ、そうなのお姉ちゃん! それでね、芳佳ちゃんに釣られて私も釣られてお兄さんって呼んじゃったのが始まりなの!」

 

 リーネが早口で一気に捲し立てる。ナイスだ、こういうのは俺より本人が言った方が効果がある。

 

「へーそうだったんだー。年上だからだと思ってた」

 

 芳佳がせんべいを食いながら驚いている。めっちゃリラックスしてんじゃん。つーか客より先に食うな。

 

「そ、そうなの……。まぁ本人達が納得してるなら私からは何も言わないわ。でもリーネ、貴女そのままでいいの?」

「うっ……」

 

 そのままでいいのとは、どういう意味だろうか。別に俺はお兄さんと呼ばれても不愉快に感じないし全く持って問題無いのだが。

 しかし当のリーネは言葉に詰まっている。

 

「えぇと……そのぅ……」

「ハァ……。波崎さん」

「えっ、あはい」

「貴方から見てリーネはどう映っていますか?」

 

 どう映っている、とはどういう意図があっての質問だろう。

 さっきと同じ『男から見て』というニュアンスだろうか。だとしたらまたスルーするけども。

 

「いやだから、さっきも言いましたけど家事は手伝ってくれるし良い子だと……」

「私が聞きたいのはそうではありません。恋愛感情があるかどうか、です」

 

 超直球のドストライクな剛速球が放たれた。俺の隣で芳佳がピクリと身体を震わせ、リーネはあわあわと取り乱している。

 しかし――――。

 

「無いッスよ」

 

 捕球成功。

 

 というか、俺の立場上これ以外に返す言葉がない。あるなんて口が裂けても言えるワケないじゃないか。そう、ウィザードとホストという立場上ね。

 

 けれども即答したのは少々悪手だったか。俺の言いぐさにビショップさんのこめかみがピクッと動いた。隣のリーネも若干しょげてる気がする。反面、芳佳はフフンと鼻を鳴らしたが。いやリーネに恋愛感情が無いからっつって芳佳にあるわけじゃないからね?

 

 もしかして「恋愛感情を持てないほどウチの妹は可愛くないんですか!?」って言われる奴っぽい。

 それは面倒くさいな、フォロー入れておこう。

 

「いやその、えー何と言いますか、こう、妹のような感じで接していてですね? ほら、俺もお兄さんなんて呼ばれていますし」

 

 ビショップさんは未だに怪訝そうな面持ちだが、多少納得したように話を聞いてくれている。よし、潜り抜けたか。

 しかしさっきよりもリーネが落ち込んでしまった。これはアレか、リーネは『可愛いよりも綺麗って言われたい系女の子』だったか。

 

「あ、えーっと、妹のような感じですが、時折女性らしさを感じさせてくれるっていうか」

「へぇ、どんな時に?」

「料理作ってるエプロン姿とか、後ろ髪を三つ編みに結い終わったときファサってやる仕草とか……」

 

 これでリーネの機嫌も治ったかなと思ったら、今度はそっぽ向いてしまった。リーネ的にはこれもダメなの?

 それでまた芳佳が太股を抓ってきた。同じ箇所を抓られると流石に痛い。

 

 しかしさっきとは打って変わって、ビショップさんは「よろしい」とばかりに頷いている。姉ちゃん的には正解だったみたいだ。

 

「ではリーネの身体はどうでしょうか。男性からしてみれば、魅力的で色気も備えてると思いますが……」

 

 ここでとんでもない爆弾を投下してきた。

 いい体してんねえ!通りでねえ!とでも言えばいいのだろうか。

 

「お、お姉ちゃん!?」

「でもリーネも気になるでしょう?」

「恥ずかしいからやめてよもう……気になるならないじゃないの! ジンさんも答えなくていいですからね!」

「う、うーん……」

 

 顔を赤くしたリーネがわたわたしながらビショップさんを制しに入った。

 なんというか、段々とビショップさんの纏う雰囲気がプレゼンして商品を売り込む営業さんみたいになってる。

 

「とっても私好みです!」

「おめーじゃねーよ」

 

 自信満々に芳佳が答えたので突っ込む。しかし、対象を切り替えるというのはナイスアイディアだ。リーネに関してはあやふやな感じにして無難に切り抜けよう。

 

「うーん……、色気だったらウチにいるシャーリーってリベリオン出身の子がいるんですけどね。彼女が俺の中では一番かなぁと――――」

 

 

 とまぁ、なんとも不健全極まりない内容だが、リーネから的を逸らして語ろうとした時だ。

 

 

 バタァン!

 

 

「「「うわあぁ!」」」

 

 

 情けない声と共に、部屋の扉が開いて中に人の塊が傾れ込んできた。

 

 一番下にシャーリー、その上にハルトマン、その上に坂本さんが、団子三兄弟みたいに被さっているではあーりませんか。

 

 なーにやってんだあいつら……。

 

「ちょっとシャーリー! なんで暴れちゃうのさー!」

「だって、まさか私の名前出されるなんて思わなくって……あっ」

「ハハハ。いやースマンリーネ、邪魔するつもりは無かったんだが……」

 

 こいつら、部屋の外で聞き耳立てて盗み聞きしてたな。つーかシャーリーにはルッキーニを止めるよう取引してたんだけど……。

 

「おいシャーリーにハルトマン、坂本さんまで……。悲しいよ俺は、特にシャーリーにはガッカリだよ」

「悪い悪い。つい……な?」

「テヘへ、バレちゃった」

「いやー私も止めたんだが好奇心が勝ってしまってな……。ハッハッハ」

 

 誤魔化し気味に笑う三人に俺は呆れたが、それ以上に自分の運の無さを呪った。まさかハルトマンがこのタイミングで帰ってくるとは、まさか坂本さんが気まぐれで二人を止めなかったとは。そしてこんな時、ミーナさんがいてくれてたらなぁ……。

 

「ふふっ、愉快なルームメイトさん達ね」

「ほんとすいません……。悪い人たちじゃないんですけどね……」

「いいじゃない。賑やかな方が楽しいわ」

「そう言ってもらえると助かります……。こいつらの場合は賑やかすぎますけどね」

 

 寛大にも、ビショップさんはフフッと微笑んで盗み聞きを許してくれた。

 

「よっ、流石リーネのお姉さん」

 

 よせシャーリー、余計な茶々を入れるな。

 

 しかし……何か彼女達から違和感がある。

 

 なんだろう。

 坂本さんのよそ行きの私服姿にか?

 ハルトマンがシャツしか上に羽織っていない事?

 珍しくシャーリーが照れたようにはにかんでいるから?

 

 いや違う。もっと重要な――――。

 

「あ」

 

 そうだ。ルッキーニがいない。ビショップさんに興味津々だったルッキーニも聞き耳を立てていると思っていたのだが、なぜ彼女達と一緒にいないのだ。

 

 ……もしや。

 

「あぁっ!」

 

 気づいたが、時既に遅し。

 

 ルッキーニはさっきのどさくさに紛れて部屋に侵入し、気配を殺してビショップさんの背後に回り込んでいたのだ。

 そして、楽しげにクスクスと笑うビショップさんの脇にそっと手を這わすと――――。

 

 

「おりゃー」

 

 

 ムニュッ

 

 

「キャアッ!?」

 

 

 や、やりやがった……ビショップさんの胸を鷲づかみにして揉みしだきやがった!

 

「ルッキーニイイイィィ!」

 

 俺は慌ててビショップさんに駆け寄り、胸の感触を楽しんでいるルッキーニを引きはがしにかかった。

 

「バカお前手離せルッキーニ! ほんとすいませんビショップさん!」

「な、何なの一体……! アンッ」

「うじゅーもちもちするー! リーネと同じくらいの大きさだけどこっちのを揉んでたい!」

「そりゃ良かったな! いや良くねーけど!」

「あールッキーニちゃん狡い」

「何が狡いだバカその2!」

 

 まだ胸を揉み続けるルッキーニの手首を少し力を入れて握り、彼女が痛さに手を緩めた所で思い切り後ろに引っ張った。勿論、ビショップさんの胸には手を触れないように細心の注意を払って。

 

 そのままルッキーニを抱きかかえて距離を取ると、胸を揉まれて少しばかり息の上がったビショップさんに弁解する。揉んだのは俺じゃないんだけどな!

 

「えっと、この子ロマーニャ出身の留学生なんですけどまだ中一でして! 凄い性に興味を持つお年頃でして! だからすげー胸を揉む子でして! 決して俺が常識を教えていなかったのではなくって! なぁリーネ!?」

「う、うん、そうなのお姉ちゃん! 私も何回か揉まれてるけど、それも仕方ないかなって!」

 

 子供だからという免罪符に加え、さり気に情熱の国出身という事もアピールし、だめ押しに身内の口添えも借りる。

 これで許してください!何でも許してください!オナシャス!

 俺は彼女を甘やかしてただけで何も変なことは教えてないんです!

 

「え、えっと……仕方ない?」

「そうですしゃーなしなんです!」

「仕方ないのよお姉ちゃん!」

「うんうん。私も仕方ないと思うな」

 

 芳佳も参戦した。 HERE COMES A NEW CHALLENGER!

 お前は揉む側だろうが、もうこうなったらヤケクソでごり押しだ。三人に勝てるワケないだろ!

 

「そう……仕方ない……のかしら……?」

 

 よし、まだ若干戸惑ってるけど受け入れようとしている。ナイスアシスト。

 

「けど、いくら何でも初対面の人の胸をいきなり揉むのはダメよ? 国が国なら訴えられてもおかしくないんだから」

「ハーイ」

 

 許しながらも叱る。なるほど、押しに弱くても自分の意見を申し立てる所がリーネそっくりだ。

 しかしその押しに弱いところさんで助けられた。ありがとうリーネに似てて。

 

 

 そんなゴタゴタもあったが、その後は割と砕けた雰囲気で話もでき、お煎餅も気に入ってもらえたので幾つか包んで臨時のお土産として事なきを得た。

 そのまま時間は夕刻に差し掛かったので今日はお開きとなり、ビショップさんは迎えを呼んで帰っていったのだった。

 

 もう懲り懲りだよ……トホホ~。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、シャーリー今日の約束なしな」

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 






―― その後の二人 ――


「じゃあね、お姉ちゃん」
「またね、リーネ。大きな休みが取れたら帰ってくるのよ?」
「うん」
「それと……まあ悪い人じゃなさそうだし、私からアドバイスあげる」
「うん……?」
「彼のことよ。このままお兄さんなんて呼んでると、リーネを女として意識しないわよ?」
「うん!? まだその話続くの!?」
「当たり前じゃない。自覚はあっても行動に移さないと何も変わらないわよ。手始めに彼のことを名前で呼んでみたらいいんじゃないかしら。きっと今までと見る目が変わるわよ」
「う、うん……。頑張ってみる……!」



「そのままゴールインして、私とリーネで姉妹揃っての挙式よ!」
「もーお姉ちゃん! 早く帰って!」


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Season7のランクの時間を少しずつ削って初投稿です。巨人の勇気ポッピーとダリウスひでたるとまひろじゅんぺい


 

(さて、やってきました横浜ウィッチ図書館)

 

 今俺は、学校のすぐ隣に新説された図書館内にいる。ちょっとした読み物をするためだ。

 学校が半ドンで終わった直後なので、館内には宿題をする学生ウィッチや子連れの主婦などが屯って居る。

 

(『モンテクリスト伯』『モンテクリスト伯』っと……)

 

 そうした利用者の観察も程ほどに、900の文学に分類される本棚へ向かい、俺はお目当ての本を探した。

 

(『も』の欄だからここに……あった)

 

 探し出した本を棚から引っこ抜くと、窓際付近の長机目指して歩く。

 

 日光の当たるところで本を読むと本が日焼けするかもしれないが、俺は窓際が好きなのだ。将来会社員になったら喜んで窓際族になれるくらいに窓際が好きなのだ。だからこの歩みは誰にも止められない。

 

「……おや」

 

 窓際に設置された長テーブルに付くと、本棚に隠れて見えない死角となる椅子に誰か座っていた。しかしその後ろ姿はあまりにも特徴的で、彼女を知る人物からしたら一目で判別できるだろう。

 なにせ、もう春先なのに黄色と緑のマフラーをしているのだ。

 

 俺は彼女の後ろから肩をポンポンと叩いてニコリと笑う。

 

「よっ、管野ちゃん」

「ん……あぁ波崎先輩か……」

 

 彼女は顔を後ろに反らせて声の主を確認すると、すぐに本に顔を戻して睨めっこを始めてしまった。

 

 ちょっと距離感の取りづらい彼女は中等部三年生の管野直枝ちゃん。

 トゲトゲした風貌とツンケンした性格からヤンキーっぽく見られがちだけど、本質は読書大好きな文学乙女だ。雁淵さんの妹さんから又聞きしたから間違いない。

 現に今もなんかそれっぽい難しそうな本読んでるし。

 

「何読んでんの?」

「『斜陽』」

「へ、へぇー……」

 

 ちょっと小耳に挟んだことのあるタイトルだけど内容全然知らん。知ってたら「あーそれ○○の書いた本だよね。内容や雰囲気が~~~」みたいに蘊蓄話で花を咲かせられるのだろうが……。ダメだ俺の知識量じゃこれ以上話題を広げられない。

 

 ……よし!(思考放棄)

 俺も自分の作業に集中しよう。

 

「横に座ってもいい?」

「邪魔しなけりゃな」

「サンキュ」

 

 了承を取ると、俺はガリア語辞書とモンテクリスト伯(ガリア語Ver)とモンテクリスト伯(扶桑語Ver)と大学ノートの計四冊を机の上に置き、管野ちゃんの隣の椅子を引いて座った。

 

 まずは扶桑語Verの1ページ目を捲って読む。次にガリア語Verの1ページ目の単語を少しずつノートに写し、それを辞書片手に翻訳しながら読み進めていく。そしてたまに日本語Verを読み、自分の翻訳した文章の大筋が正しいかどうかを確認し、また読み進めていく。

 

(うーん……あ、コイツが主人公なのか。それで主人公は……えーっと辞書辞書)

 

 中々苦戦する作業だが、暗号を解読している気分に浸れて楽しい。もしかしたら俺には翻訳家の才能があるのかもしれない。多言語でも勉強して資格を取ってみようか。

 

 そうやってあーでもないこーでもないと、四苦八苦しながら5ページ目まで読み進めたときだ。

 

 管野ちゃんが口を開いた。

 

「……なぁ先輩」

「ん?」

「さっきから何やってんだ?」

「ペリーヌが……あー、ウチのガリア出身のハウスメイトに『暇つぶしに何か面白いの無い?』って聞いたらこれ勧められてさ」

 

 そう言って、俺はガリアVerをこれ見よがしに振る。

 ちなみにこれはペリーヌの私物である。

 

「それ、原文で読む必要ないんじゃねーの?」

「俺もそう思う」

「じゃあ何でそんな手間かけんだよ」

「だって和訳された本だとさ、翻訳する人なりの解釈や意訳が混じっちゃうでしょ? 折角ハウスメイトが勧めてくれたんだから俺が俺なりに解釈した『モンテクリスト伯』を読みたいの」

「ふーん……。先輩ってさ、適当そうに見えて結構頑固だよな」

「凝り性と言ってくれ。それに他人に迷惑かけない頑固だから良いの」

「そうかよ」

「そうだよ(便乗)」

 

 しかし、なぜ彼女は本を読むのをやめて唐突に俺に話を振って来たのか。

 何か気づかないうちに彼女の邪魔でもしてしまったのだろうか。それだったら面倒くさいけど……。

 

 あ、もしかして彼女はコレを読みたいのだろうか。

 

「もしかして管野ちゃん、これ読みたい?」

「いや、もう読んだ」

「あっそうなんだ」

 

 じゃあアレか。内容を早く俺に喋りたくてウズウズしてるのか。

 俺は、本やゲームや映画のネタバレを気にしないタイプの人間なので、別に好き勝手喋ってくれて構わないのだが。

 

「実は俺さ、ちょっとだけガリア語できるんだ」

「はえーすっごい……」

 

 全然予想と違った。まったく別方向からのアプローチだった。スペック高スギィ!

 というか、ウチの学校の公用語になってるブリタニア語ならまだしも、ガリア語を習得してるとは意外や意外である。一体彼女とガリアのどこに共通点があったのだろう。

 

「へー、何でまたガリア語を?」

「昔からガリア文学って有名だろ?」

「いや、だろって言われても……」

「とにかく有名なんだよ。だから読みたくって勉強してたんだ」

 

 そうだったのか。

 ガリアと言えば、料理が旨くて観光名所がたくさんあるところみたいなイメージしかなかった。まさか文学まで堪能できる国だったとは。恐るべしガリア。

 

「……ちなみに先輩が読んでる奴、アニメにもなってるくらい有名なんだけどな」

「あ、そうなの?」

 

 さっきから感心してばかりである。これじゃ俺が無知なだけじゃないか(呆れ)

 

 ……で、ガリア語が達者な子猪の本題はなんなのだろうか。よもや知識をひけらかしたいワケでもあるまいし。

 

「少しくらいなら……その……見てやろうか?」

「見るって……この作業を?」

「あぁ」

 

 見る、というのはただ見学するだけじゃなくて、手伝ってやるという意味も含まれているだろう。

 しかしさっき邪魔するなと言っておきながらそっちからちょっかいかけて来るのか(困惑)

 

 正直な話、俺一人でやった方が自分のペースで読み進められるから効率は落ちそうだけど……それに俺なりに読み解いてみたかったし。

 

 けど、珍しい後輩からの有り難い申し出だ。ここは俺の評価を下げないように素直に受け取っておこう。

 

「まぁ一人でやるより楽しいかもね。一緒にやろっか」

「っしゃ!」

 

 管野ちゃんがニヤリ顔で小さくガッツポーズをした。何だこの手ぇ、何だこの手は。

 

「……何で喜んでんの?」

「え? いや、えーとそれはアレだよ……。そ、そうだ、恩返しだよ、恩返し」

「恩返しって……まだアレ引き摺ってんの?」

「ま、まぁな」

 

 恩返し、と言われて思い当たる節が一つある。

 

 

 以前、後進の育成として中等部の演習風景の見学に行ったときだ。

 

 エイラとパティの同郷で、二人と非常に仲の良いニパという子が学校の屋上から落ちてきたのだ。いつの時代のラノベだよオラァン!と怒り半ばに魔法力を展開して彼女を受け止めた事がある。

 

 

 その落下の原因となったのが、雁淵さんの妹さんと管野ちゃんだった。

 

 

 三人で仲良く屋上で昼食を取っていたのだが、御飯を食べるのが遅いニパに痺れを切らした雁淵妹と管野ちゃんが、ニパの腋を擽りだしたのだ。

 擽りに耐えかねたニパが二人の手から逃れようとしてフェンス側まで逃げたのだが、何もないところで急に足を捻ってしまった。その理由は不明だが、ニパ曰くただ不幸なだけだったとか。

 そして転ばないように慌てて近くのフェンスに手をかけたのだが、そのフェンスが壊れて向こう側に倒れてしまったらしい。フェンスが壊れた理由も不幸だったからで片付けられた。それしか言えんのかこのニパァ!

 

 そうして俺が助けた事故に繋がるわけだが、どうやら管野ちゃんはまだその時のことを気にしてるらしい。ちなみに落ちてきたフェンス直撃で俺は入院したがそれは別の話。

 

 しかしこういう荒っぽい子が実は繊細……というギャップも中々オツだが、そんなの済んだことだからもういいじゃんアゼルバイジャン。被害者側が気にしてねーってんだから割り切ればいいのに。

 

「それに……それだけじゃねーよ……」

「ふーん、それだけじゃないって?」

「気付けバカ」

 

 唐突な罵りと共に肩パン食らった。大胆なボディタッチは美少女の特権。

 

「そういや先輩、それ和訳した奴だけでも七冊あるけど全部読む気か?」

「は?」

 

 シリーズ物だったのか、てっきり一巻だけだと思ってた。偶になら良いけど、こんなんずっとやってたら心壊れっちゃ^~う↑

 

「し、仕方ねーな! 七冊全部俺が面倒見てやる! そうだ、この後暇ならウチに来いよ、ガリア辞書も持ってるしさ!」

「えぇ……めんどくさいから一巻だけでいいかな……」

「は?(威圧) 全部見ろブン殴んぞ」

「ヒエッ」

 

 大胆な脅迫も美少女の特権。

 

 ちなみに図書館だったので全ての会話の音量は小さめだった事をここに記します。

 





折角アニメやってるんだし502組も出して行きたいですね。


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カミールの練習時間を削って初投稿です。

淫夢要素はどこ……? ここ……?



 俺は波崎 迅。世界で唯一のウィザード。

 

 俺に両親はいない。10年以上も前に交通事故で他界している。

 事故の際に発現した魔力で生き残ってから数年前まで、親戚の家で厄介になっていた。しかし最近は、両親と住んでいた一軒家に帰って一人暮らしをしている。

 

 金には困っていない。国の半モルモット化の代償として、毎月恐ろしい額の金を振り込まれているからだ。

 

 一見すると、事故から立ち直って順調に生き続けているように見えるが、俺には悩みがあった。

 

「またか……」

 

 各ビルの換気扇から漏れる色んな匂いが鼻を突く、人通りの少ない路地裏。

 

 そこに足を踏み入れ、表通りがすっかり見えなくなるまで歩き、振り向く。

 

「……いい加減出てきたらどうだ?」

 

 俺の呼び声に、ビルの上から、物陰から、フルフェイスマスクで軍人然の武装を施した悩みの種が姿を現した。

 目視できる人数は五人か。他にも潜んでいそうだが果たして……。

 

「で、俺に何の用だ?」

「……」

 

 誰も答えない。その代わりと言わんばかりに、集団の一番先頭に立つ男が恐ろしい早さで腰のホルスターから銃を引っこ抜く。

 それと同時に背後の男達も銃を抜いた。

 

 直後、気の抜けるようなサプレッサー独特の銃声が複数回、空気を裂いた。

 

 だが俺には効かない。シールドがあるから。

 

 俺の足元に複数の弾丸が散らばった。

 

「おいおい……街中でコイツァ穏やかじゃねぇなぁ……」

「……」

 

 男達は沈黙を貫く。先頭の男が舌打ちして銃をしまい、今度はナイフを取り出した。

 それに合わせて他の男達もナイフを抜く。彼がリーダー格だろうか。

 

「いいね。俺さ、得意なんだよ。インファイト」

 

 得意、というのは語弊がある。正確には遠距離武器を持ち合わせていないから、立ち向かうには超近距離による肉弾戦しか無いのだ。

 

 相変わらずコミュニケーションを取らずに、男がノータイムで、速攻で踏み込んできた。慌てて俺もファイティングポーズを取るが受け流すには間に合わない。

 そのまま腕でナイフを受け止めた。

 

 男のナイフは俺の腕を切り裂いた。

 

「Shit!」

 

 先頭の男が、フルフェイスマスク越しに初めて悪態を吐いた。

 

 男は岩をスコップで殴った感触しかせず、切り裂いたハズのナイフに血が全く付いていないからだ。

 

 なぜなら、俺がガードした腕の表面だけ……つまり皮膚がちょっと切れただけに終わったからだろう。ナイフは俺を戦闘不能状態まで追い込めなかった。

 

 原理は簡単。魔力で肉体強化したのだ。もっと上手く肉体強化ができれば無傷で弾くことだって可能なのだが、俺はそこまで器用じゃない。

 しかし、表層を凪いだだけとは言え皮膚が切られた。血が出ている。少し痛い。

 

「いってぇなぁ……。一発は一発だ」

 

 俺は魔力に満ちた脚力で一気に距離を詰め、男の顎を思い切り右フックで振り抜いた。

 風に運ばれた落ち葉の様に、しなやかな縮地。

 

 今度は男が対応できず、ガードも間に合わずに直撃を食らった。

 顎部分を殴られた男はフルフェイスマスクの破片をまき散らし、壁に打ち付けられて地面に落ちる。ピクリとも動かない。脳を揺さぶられて失神しているのだろう。

 

「こんなもんか。もういいや、全員で来いや」

 

 

 こうしてウィザードのウィザードによるウィザードのための蹂躙が始まった。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

「もしもし宮藤博士? うんまた……え、護衛? いい加減付けろって? やだよ、一人でどうにでもできるもん」

 

 俺は波崎 迅。世界で唯一のウィザード。

 

 その希少性からか色んな国が俺を狙って襲ってくる。魔力で毒ガスも銃弾も効かないから簡単に排除できるのだが、一々相手にするのは面倒だから勘弁してほしい。

 それを証明するように、床にはどっかの国の軍人が寝っ転がっている。戦闘前は他に気配があったが、戦闘中にそれも消えた。どうやら逃げたらしい。

 

「うん、じゃあ後は軍の人に任せて……。うん。バイバイ」

 

 俺は電話を切って路地裏から出た。辺りは落ち行く陽の光で真っ赤に染まっている。少し時間をかけすぎただろうか。

 そうして帰路に着こうと、路地裏から出て直ぐだった。

 

「ねぇねぇ外人さん、俺達と一緒に遊ばない?」

「良い喫茶店知ってんだよ。ケーキと紅茶が美味くてさぁ」

「えっと、その……困ります……」

 

 車による帰宅ラッシュこそあるが、夕暮れ時で人通りが少なくなった表通り。女性が不良っぽい男性三人組に絡まれていた。

 

 いつもの俺だったらスルーしていたかも知れない。

 

 しかし今は違う。殺し合い(俺は殺すつもりは無かったが)をしてきたばかりだから、まだその余韻が、余熱が残っている。

 是非とも、それを発散させて一日を終えたい。

 

「なあ兄ちゃん達」

「あん?」

「んだよてめぇ」

「彼女、困ってるってよ」

 

 まぁ穏便に済むならそれで済ますが。パンピー相手に本気でやったら勢い余って殺しそうだし。

 

「……チッ。白けた」

「あーあ、うぜーんだよなぁこういうスカした男」

「服もキメェしよ」

 

 男達は愚痴愚痴と文句を垂れ流しながらも、素直に引き下がっていった。てっきり殴り合いにまで発展すると思っていたのに、肩すかしを食らった気分だ。

 

 けれどなるほど、そうか。あの後だから服が少し血と埃で汚れているのか。それを彼らは気味悪がって離れていったのだろう。

 

 しかし殺し合いの汚れで風来坊の風貌と化した俺だが、それでも度胸があるなら殴りかかってくる奴は殴りかかってきただろうに。

 

「あーつまんね」

 

 彼らと同じく白けた俺は、絡まれていた女性に声を掛けずに通り過ぎようとした。

 女性に何かしらのアクションをすると、『助けたあげたよ! 感謝してね!』みたいな恩着せがましさが混ざって嫌いだからだ。

 

「ま、待って……」

 

 しかし彼女がそうはさせなかった。通り過ぎ際に、俺の服の袖を遠慮がちに掴んでこう言ってきた。

 

「あ、あの、ありがとうございました」

「いいよ気にしなくて」

 

 

 『俺は俺のやりたい事をやっただけだから』。

 

 

 そう言おうとして振り返り、言葉を失った。

 

 彼女の容姿に目を奪われ、頭の中が真っ白になったのだ。

 

 黒いカチューシャ。美しいウェーブを描くブロンドヘア。華奢な体つきに似合った、可憐で儚さを感じさせる幼さの残った面持ち。透き通るような声。

 

 全てが美しい。

 

「あ……」

 

 俺は波崎 迅。世界で唯一のウィザード。

 生きてきて17年、こんな動揺するのは初めてだった。

 

 この胸の高鳴りは、この喉が枯れるような緊張は、一体何なんだ。

 

まさか、これが、噂に聞く一目惚れか?

 

 

 

「その、次からは……気をつけて。じゃあ」

 

 頭が真っ白になり、気の利いた台詞が思い浮かばなかったので、無理矢理その場を収めて去ろうとする。

 

「あ、あの!」

 

 が、彼女は以前として俺の裾を掴んで離さない。

 

「あの、私、アレクサンドラ・イワーノブナ・ポクルイーシキンと言います。後日お礼がしたいので、せめてお名前だけでも……」

「名前……」

 

 俺は……俺は世界で唯一のウィザードだから……。

 

 もしもこのまま彼女と接点を持ってしまったら、彼女に俺の不幸が降り注いでしまうかもしれない。

 

 だがそれでも、彼女の身を案じる俺がいる反面、初めて感じるこの気持ちに嘘を吐けなかった。否、嘘の付き方を知らなかった。

 

「……俺の名は――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おーいサーシャ、外にみんなで飯食いに行こうぜー』ドンドン

「はいはい。今行くから待ってて。……こんな感じかしらね、それじゃ投稿っと」カチカチッ

 

 




『淫獣』

―★☆☆☆☆―

 いつもは飄々としてるのに、ニヒルでクールなおn波崎さんが格好良かったです。
 けれどもヒロインが、親戚という強力な接点のあるわた宮藤 芳佳ちゃんじゃないので-114514点。
 ★一つですね。


『アイザック』

―★★★★★―

 とても面白かったよ。
 ところでヒロイン候補だけど、男装してウィッチである事を隠しながら生きてきたイザベルってウィッチはどうかな?
 キャラや境遇が近いしお似合いだと思うよ。


『Jhin』

―★★★☆☆―

 えっ、何このSSは……たまげたなぁ……。申し訳ないが現実の人物を対象にするのは本人に迷惑がかかるのでNG。
 けどまぁ悪印象も無かったので真ん中くらいの評価です。ちょっと普通、三点!(笑)
 と言うか彼のバックストーリーはどこから入手したんですかね? 確か、ホームメイト以外に口外してなかったと思うんですけど……。


『EMT』

―★★★★☆―

 こういうジンもいいねー。アイツ絶対こんなキャラしないし新鮮だった。
 けどやっぱヒロインは別のが良いかなぁ。次は姉妹丼ルートがあるハルトマン姉妹がオススメだよ!


『二期主人公』

―★★☆☆☆―

 あの優しさに溢れた先輩が、裏でいつもこんなスリリングな日常を過ごしているのかと思うと胸がドキドキします。とても良い妄想材料でした。
 けどヒロインが姉妹丼のある雁淵姉妹じゃなかったので★二つです。


『リーネが欲しいさん』
―★★★★★―

 とても良かった。
 彼は強気な年上の女性趣味がありそうだから、次はガランドなんてどうだろう。


『正純系後輩』
―★★★★★―

 とても良かったです。
 先輩は強気な年下の女性趣味がありそうだから、次は服部静香さんでお願いします!



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