ソードアート・オンライン~桐ヶ谷和人の幼馴染~ (隆斗)
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番外編
番外編 ポッキーの日


今日は和人(キリト)×優良(カユラ)の 十一月十一日ということでポッキー関係の番外編です。
時間軸的にはGGO編が終わった後のある日の現実世界べの話と仮想世界での話です。
出来るだけネタバレが無いようにしますが、あった場合はすいません。
それとタイトル替えました。
本当は他のシリーズのやつも書きたかったのですが、時間が無くできませんでした。次のイベントの時は他のシリーズも書きたいと思います。 では、駄文かと思いますが……どうぞ!



 お昼休みに……

 

 

 

 

 

 ガンゲイル・オンライン———通称GGOでのある事件が終わったある日の事。

 俺———桐ヶ谷和人は恋人であり幼馴染でもある茅場優良と共にいつも通り学校へと向かっていた。

 

「なあ優良、今日の放課後はなんか予定あるか?」

 

「う~ん? 和君とイチャイチャする以外は特にないかな」

 

 首を傾げながらそう言ってくる優良は彼氏である俺の贔屓目無しでもとても可愛いと思うし、そんな優良にそういう事言われると、自分の中から彼女に対する愛情があふれ出て来てあああ、俺は本当に彼女の事が好きなんだなぁって改めて実感する。でも時と場所くらいは弁えてほしかった。

 

「優良、そういうのは嬉しいが時と場所を考えてくれ」

 

「え? ……あっ!」

 

 俺に言われて優良も気付いたらしい。途端に顔を朱に染めて俯いてしまった。

 

「クソッ、リア充がっ」

 

「爆発しろリア充」

 

「黒の双剣士のリア充だから……”黒のリア充”だ!」

 

『それだっ!』

 

 なにやらいつの間にかまた不名誉な渾名がつけられたようだ。この学校に通っている生徒は、全員がSAO生還者(サバイバー)である上にその大半の生徒達がALOプレイヤーでもある。きっとさっきの不名誉な渾名も今日の放課後にはALO中に広げられてしまっている事だろう。はぁ~、しばらくALOにログインするのやめようかな。

 

「ほらっ、さっさと学校に行こうぜ」

 

 何となく俺も気恥ずかしくなってしまったので、優良の手を握って早足で学校へ向かった。

 

「……フフ」

 

 俺の後ろでは俺に引っ張られながらもちゃんと付いて来ている優良が、俺の手を握り返しながら小さく笑っていた。

 

 

 

 

 

「オーッス、カズ。朝から姫とイチャイチャしながら登校とは、流石”黒のリア充”様だ」

 

 教室に入って自分の席に着くと、前の席の友人が今朝の事をからかってきた。それにしてもこいつ等、よく本人の前で姫とか言えるよな。……まあ、俺も優良の赤面顔が見たいがために(ちゃんと時と場所を選んだうえで)言ったりするけど。

 

「……見てたのか」

 

「いや、それを見てた友達から聞いた」

 

「うぅ~、やっぱり見られてたのかぁ」

 

「大丈夫! 姫はメッチャ可愛かったってその友達は言ってたから!」

 

 友人が良く分からないフォロー(?)を優良にいれた。てか、ちょっと待て。その友達誰だ? 今すぐ連れてこい。

 

「フフフ、大丈夫だよ。もとより和君以外の評価は気にしてないから」

 

「おおぅ。どうしようカズ、俺姫が眩しすぎて直視できない」

 

「俺は普通に出来るから問題ない」

 

 むしろ直視できなくなったら俺は死ねる。これだけは断言出来るな、うん。

 

 ガラガラ

 

「お前ら、席に着け~。朝のホームルームを始めるぞ~」

 

 先生が来たのでそれぞれが席に戻った。といっても皆席はすぐそこだけど。

 そして俺はその際に優良の机に一つの紙切れを置いた。十一月十一日をいう今日だからこそやりたいことを優良とやる為に。

 

 

 

 

 

 朝の時間に和君から渡された紙には、短く『昼休みに屋上に来て』とだけ書かれたいた。

 色々と疑問に思う所はあったけど、どうせお昼を食べる為だろうと思ったので深くは考えなかった。

 ところで話は変わるが、今日は十一月十一日だ。この日は別名”ポッキーの日”と呼ばれている。そしてポッキーと言えばポッキーゲーム。よって私は和君とポッキーゲームがしたい。朝起きて今日が十一月十一日だと分かった時からしたいと思っている。彼氏彼女のいる人ならこの気持ちが分かると思う。何より今日は”ポッキーの日”という大義名分(?)まであるのだからその気持ちは余計に強い。

 だが私の恋人である和君は基本的に鈍い。”基本的に”という枕詞を付けたのは、和君が変な所で鋭いからだ。恋人としては、その鋭さがもっと他の事に向いてくれればと思う。例えば、十一月十一日(今日)私が和君としたい事を察知する、とか。

 そして当の和君だが、彼は購買で買いたいものがあると言って購買に向かってしまった。

 どうせポッキーゲームをしてくれないのだから少しでも一緒に居たい、という私の気持ちを無視して。

 

「はぁ~、和君とポッキーゲームがしたい……」

 

 思わず呟いてしまったが、それは誰の耳に入ることも無く風に融けて消えた。

 

 ガチャ

 

「お待たせ。待ったか?」

 

「うんん、全然ま……」

 

 そして和君が屋上に入って来た。のだが私は和君が手に持っているものを見て思わず固まってしまった。

 

「……それ、どうしたの?」

 

 和君が持っているそれ———ポッキーに向けて指を刺しながら私は問いかけた。

 

「食べたくなったからさっき購買で買ってきた」

 

 そう言われただけなのにもしかしたら、と思ってしまっていた私は少し落ち込む。

 そして私達は搭屋の上に登った。私はそのまま屋上でもよかったのだが、和君がここがいいといったのでここになった。

 

「ん」

 

 座っていた私に向かって和君が、ポッキーのチョコのついていない部分を口にくわえて此方に突き出してきた。

 

「えっと………これは?」

 

 これから何をするのかは予想できた。そして和君からこうしてくれたのも嬉しかったのだが、一応本人に聞いてみることにした。

 落とされまくったんだから、言わせるくらいいいよね?

 

「あれ? 優良はポッキーゲーム知らなかった?」

 

「うんん、知ってる。私が聞きたいのは何で今なのかって話」

 

「いやだって……」

 

 私の問いかけに和君は照れ臭そうにした。

 そして次の和君の言葉を聞いて私は、身体の奥からいろんなものが込み上げてきた。

 

「……優良がポッキーゲームをやりたそうにしてたから」

 

「……⁉」

 

 聞いた瞬間、分かっててくれたんだととてもうれしくなった。

 だが朝からさんざんガッカリさせられてきた私は、その意趣返しと少しの悪戯心を含めてもう少し質問を続ける。

 

「どうしてそう思ったのか、聞いてもいい?」

 

「……それ、俺に言わすのかよ」

 

 呆れたように呟かれた言葉を私は無視した。だって散々待たされましたし。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……う」

 

「……」

 

「分かった、分かった! 言うから無言で見つめて来るのをやめてくれ」

 

 睨めっこは和君の方が先に音を上げた。まあ、昔からこうすると必ずと言っていいほど和君が、音を上げるんだけどね。

 

「今朝優良がカレンダーを見たのと、よく俺の口の当たりをチラチラ見て来たので分かったんだよ」

 

「え? ……‼」

 

 前半のは良く分かった。だって本当の事だし。でも後半の事は完全に無自覚だった。そしてそこを突かれたことで私の顔が真っ赤に染まった。

 見てみると和君も私ほどではないと思うけど顔が赤い。

 

『………』

 

 お互いが赤面して俯いてしまったので自然と無言になる。

 

「優良っ!」

 

「は、はいっ!」

 

 大声で和君に呼ばれたので、そちらに体と顔を向ける。

 

「ん」

 

 座っている私に対して和君は膝立ちの状態になり、先程銜えていたポッキーをもう一度銜え直して私の方に突き出してきた。

 

「うん」

 

 先程とは違い今の私にそれを断る理由などなく(と言うより一度断った事で、断らないという理由の方がいっぱいある)、素直に和君が銜えている側とは反対側を銜えた。

 

 ポキン……パキン……パキン  パキン

 

 おかしい。明らかに和君の進むスピードが私より遅い。そう思った私は閉じていた眼を開く。

 するとニヤっと笑う和君と目が合った。そこで私は和君の狙いに気づく。

 恐らく和君は私から行かせることによって私の羞恥心を煽っているのだろう。和君、私に対してSなところあるし。まあ、私も和君に対してMなところあるけど……。

 閑話休題。

 確かに和君の狙いは間違いじゃない。下から見上げている所為で雛鳥が親鳥に餌をもらう様な構図になっているのと、自分からそういう事を強請りに行くような感覚になってしまって羞恥心が沸くのは確かだ。

 

 が、それがどうした。

 

 今の私は、和君とポッキーゲームが出来ている嬉しさやら恥ずかしさやらで既に顔は真っ赤だ。だったらそこに別の羞恥心が追加されようとも、これ以上に赤くなることはないので今更だ。

 

 パキン……パキン……パキン

 

 最早和君は完全に食べるのをやめて”待ち”の姿勢になっている。

 私は食べ進めながらも、薄目を開けて和君の顔を覗いてみると加虐心からくる笑みを浮かべていた。だがその笑みには私とこういう事ができる”嬉しさ”と早く私とキスがしたいという”期待”が含まれている様な気がした(早くキスがしたいなら自分から行けばいいというツッコミは無しで)。

 そしてついに、

 

「……ん」

 

「……ちゅ」

 

 私と和君の距離はゼロになった。

 

 

 

 

 

 優良が顔を真っ赤にしながらポッキーを食べ進めるのを俺は間近で見ている。

 恥ずかしさやら嬉しさやらで顔を朱に染め、体勢がきついのかプルプル震えている彼女を見ていると加虐心が沸いてくる。まあ、だから俺は今止まっている訳だが……。

 

「……ん」

 

「……ちゅ」

 

 遂に優良がポッキーを全部食べ終え俺と彼女の距離がゼロになる。俺の予想通りキスの味はチョコとプリッツの味がした。

 

「……んぅ……ぅぁ」

 

「はぁ………ぁぁ」

 

 先程沸いていた加虐心の所為かはたまた別の要因か、俺は普段以上に優良と触れ合っていたいと思った。だから空いていた両手で彼女の両頬を優しく押さえ、彼女と俺の唇が離れないようにする。

 鼻呼吸だけでは苦しくなった彼女は、俺のネクタイを持つ手の力を強くする。

 そしてたっぷり三十秒程キスをした後、俺と優良は唇を離した。

 

「はぁ……はぁ……。もう、長すぎ」

 

「ごめんごめん」

 

 頬が上気し上目遣いで艶めかしく見て来ながら抗議する優良に、あんまり心の籠っていない謝罪をしながら優しく抱きしめる。これにはただ単に優良と触れていたいって気持ちもあったけど、それと同時に今の艶やかな優良を見ていると、色々とヤバかったので彼女を見ない為、といった目的もあった。

 

「フフフ」

 

「? どうした?」

 

「和君は分かりやすいな~って思って……」

 

 考えていたことを当てられた俺は苦笑した。

 最近優良が俺の考えている事を的確に分かるようになってきているのは驚きを隠せない。以前はもっと漠然とした感じだったのに、どうして此処まで精度が上がったのだろう?

 

「愛のなせる業だよ」

 

「また分かったのか……」

 

「まあね。でも、和君も私の考えている事が分かるでしょう?」

 

 此処は彼氏として絶対に当てないとな、と思い真剣に考え始める。

 

「……次の授業をサボって、もっとここでイチャイチャしていたい……かな?」

 

「………」

 

「優良?」

 

 真面目に考えた結果、自分の欲望が詰まった答えになってしまった。そして俺の考えを聞いて優良が黙ってしまったので間違っていたのか、と不安になる。

 

「……あってる?」

 

 コク

 

 恐る恐る聞いてみると、小さく頷かれた。

 どうやら優良は、自分の考えを当てられたことにより照れているらしい。抱き合ってるから顔は見えないけど……。

 

「……どうする? サボる?」

 

「……うん。もっとこうして和君とイチャイチャしていたいかな」

 

「じゃあ……そうするか」

 

「うん!」

 

 そして俺と優良はお昼休みが終わる鐘が鳴り、次の授業が始まっても搭屋の上で心行くまでイチャイチャしていた。




だんだんと定期考査が近づいてきたので更新が遅くなります。そこの所はご了承ください。
感想・評価・誤字脱字等の報告を待っています。


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番外編 クリスマス

ということでクリスマスの番外編です。
何とか今日中に仕上げられました。
出来れば本編でやりたかったんですが、そこまで進まなそうなので番外編にしました。
時間軸的にはGGO編が終わった後のある日の現実世界べの話と仮想世界での話です。
出来るだけネタバレが無いようにしますが、あった場合はすいません。
クリスマス感が薄いですが、どうぞ。


 

 

 

 

 

 ガンゲイル・オンライン———通称GGOでのある事件が終わった後のある年のクリスマス。

 私——————茅場優良は、現在アンドリュー・ギルバート・ミルズことエギルが経営するカフェ《ダイシー・カフェ》に居た。

 本当なら今頃は和君とクリスマス一色の街を腕を組んで歩いたり、二人で炬燵にくるまってのんびり過ごしたりできる予定だったのだ。

 でも、今日和君は最近始めたバイトのシフトに急遽入れられたらしく、そっちに行ってしまった。

 ……むぅ、和君のバカ。

 

「おいおい、そんな怖い顔すんなよ。可愛い顔が台無しだぞ」

 

 膨れっ面の私にこの店の店主であるエギルがカウンター越しに声を掛けて来た。

 

「……じゃあ、和君連れて来て」

 

「無茶言うな……」

 

 それが無茶な事だというのは、分かっている。

 でも、そう言わずにはいられない。

 やっとお互いに素直になってホントの意味で通じ合う事が出来たのに、和君は今私の傍にいない。

 

「それで、何で和人のヤローはこんな大事な日にお前さんの傍にいないんだ?」

 

 一時間程エギルには愚痴を聞いて貰っていたが、そう言えば肝心な事は言っていなかった。だから聞いて来たのだろう。

 

「バイトだってさ」

 

「いや、あいつバイトならすでに————」

 

「最近始めたんだって。そして今日は急に入ったんだって」

 

「俺が言いたいのはそこじゃないんだがな……」

 

「?」

 

 エギルの言いたいことが良く分からない。何が言いたいんだろう?

 

「まあその事はひとまず置いておいてだ、今日はまだ時間があるんだから取り敢えずポジティブに考えてみたらどうだ?」

 

 実は今の時間は十時をちょっと過ぎた頃。

 開店前で準備中の時に無理言って入れてもらって、その上に口まで聞いて貰っているのだから彼には頭が上がらない。

 

「……でも、今日と明日はずっと一緒っていった」

 

 私がそう呟くとエギルに苦笑された。

 そしてコト、という音と共に目の前に置かれるショートケーキ。

 

「クリスマスプレゼントだ。ジンジャエールも今日はタダでいい」

 

「……ありがと」

 

 父親の様な彼に感謝しつつ貰ったケーキを食べる。

 口の中に広がる生クリームの甘みと、イチゴのほのかな酸味が何とも言えずとてもおいしかった。

 

「………ねえ、私の愛って思いのかな?」

 

「……例えば」

 

 ケーキのお蔭で幾分か落ち着いた私は、取り敢えず和君が今日私と一緒に居ないのは私の所為と考え、自分を見直してみる。

 そしてエギルは私の質問に恐る恐る聞いて来た。

 

「例えばこれ」

 

 そう言って彼の前に出したのは私のスマホ。そしてその画面には大きなハートマークとその下にある九十六という数字。

 

「おいおいこれって————」

 

「そう、和君の心拍数」

 

 何でもない事の様に言うと、エギルは私からちょっと身を引いた。

 

「他にもあるよ。現在の位置情報とか、盗聴器とか」

 

「……お前、一応聞くが和人はこの事は—————」

 

 最早ドン引きしているエギル。

 そんなにおかしなことかな? 盗聴は兎も角心拍数と位置情報位は普通だと思うけど?

 

「勿論知ってる。と言うより和君のスマホにも私のやつがあるし」

 

「……ハ、ハハハ」

 

 乾いた笑いしか返せなくなったエギル。

 暫くするとそれも止み、微笑ましいものを見る様な顔で言ってきた。

 

「じゃあ大丈夫だ。お前さんからの一方的なまだしも和人も了承している上に、向こうもお前さんに同じことをしてるんなら心配はいらねぇよ」

 

「そうかなー……」

 

 それでも未だに不安を拭えない私。

 

 カランコロン

 

 丁度その時入り口のベルが鳴り来客を告げる。

 

「いらっしゃい」

 

 そのお客に対してニヒルな笑みで対応するエギル。しかしそいつは何も言わない。

 私には関係ないと思い、残っているケーキを食べ始める。

 口にケーキを運んだちょうどその時、後ろから優しく抱き締められた。

 ほぼ毎日してもらっている事なのに、それだけの事なのに涙が出て来そうになった。

 ————ああ、自分はこんなにも依存してたんだ。

 そんな風にふと思うが、今はほったらかしにされたことに対する納得のいく説明を聞き出す時である。その後はお仕置き(と言う名の甘え)の時間だけど。

 

「……早かったね。バイトはもういいの?」

 

 つっけんどんな口調になってしまうのはしょうがない。

 それが分かっているのか彼は苦笑いした。

 

「ああ、元々給料を取りに行くだけだったからな。……ちょっと手伝ってたり寄り道してたら遅れちゃったけど」

 

 ふむ、取り敢えず言い分は分かった。だが未だに私は納得できない。

 

「……こんな事で納得すると思ってるの?」

 

「思ってない。だから続きも兼ねて家でゆっくり過ごしたいんだが————」

 

 ————いいか?

 

 無言で許可を求める彼に、素直に頷いてしまいそうになる。

 だがまだだ。まだ私の気は晴れない。

 椅子の上でクルッと回転し彼————桐ヶ谷和人と向き合う。

 

「許してほしかったら———して」

 

 わざとしてほしい所だけを聞こえないように言う。

 それでも彼には私が何を望んでいるのか分かったらしく苦笑いしながらも分かった、と言って私に顔を近づけて来た。

 段々と私と和君の距離が縮まり、あともう少しでキスできるといったところで—————

 

「お前さんたち、そういうのをやるなら家に帰ってからやってくれ」

 

 ————この店の呆れた店主の声で中断させられた。

 

「何だよエギル。別にいいだろ、今は俺達以外に誰も居ないんだから」

 

「そうだが、もしお前さんたちがシてる途中に、誰か入ってきたらどうする? 気まずいのはお前さんたちだぞ」

 

『うっ……』

 

「分かったんならさっさと帰れ」

 

 シッシとハエでも追い払うように私達を追い立てるエギル。

 私もこれ以上ここで厄介になるのはいい加減に悪い気がしてきたので、彼の言う通り御暇することにする。

 

「メリークリスマスエギル。ケーキ美味しかったよ」

 

「メリークリスマス。優良がお世話になった」

 

「MarryXmas二人とも。イチャイチャするのは構わないが、時と場所は考えろよ」

 

 そんなクリスマス定番挨拶をして私と和君は《ダイシー・カフェ》を後にした。

 

 

 

 

 

 《ダイシー・カフェ》から帰って来た俺と優良は、二人で俺の部屋に居た。別に今は家には俺達二人以外は誰も居ないので、居間でもよかった気がするが優良の要望により俺の部屋になった。

 そして現在俺達はベットに並んで座っている。

 未だに優良は機嫌が直らないらしく、俺と目絵を合わせてくれない。

 ————仕方ない、本当は夕方に渡したかったんだがな。

 

「……優良、これを受け取って欲しい」

 

 そう言って俺がポケットから取り出したのは、小さな正方形の箱。そしてそれは大体の人が知っているあれ(・・)を入れる箱だ。

 

「……うそ」

 

「嘘じゃない。まあ、流石に給料三ヵ月分じゃないし子供の遊びの様なものだけどな」

 

 箱の蓋を開けると宝石も何もついていない見るからに安物と分かる指輪が、部屋の光を反射して輝いた。

 

「和君これは————」

 

「ええっ……婚約指輪(エンゲージリング)、みたいなものかな」

 

 少しふざけて言うと彼女はそれをおかしそうに微笑んだ—————でも、彼女の顔はまだ優れない。

 

「……ねえ、和君。今日が何の日か知ってる?」

 

「いや、クリスマスだろ」

 

 急に居住まいを正してベットの上に正座する、彼女に吊られて俺も自然と正座になる。

 

「うんそうだね。じゃあ……なんで今日は朝から出かけちゃったの?」

 

「いや、それはだから—————ッ⁉」

 

 そこまで言って俺は気付いた。

 俺は彼女の為に良かれと思ってやったことだが、彼女は欲しかったのはそれでは無く『俺と一緒に過ごす時間』なのだと。

 必ずしも他人の為にと良かれと思ってやった事は、必ずしもその人の為になるとは限らないという事、だろう。

 

「……ごめん。優良の気持ちも考えずに、俺——————」

 

「……だったら、はめて下さらない? 王子様」

 

 優良のその言葉に俺は苦笑しながらも、箱から指輪を取出し彼女の手を取りそこにもっていく。

 

「そういう話は嫌いじゃなかったのか?」

 

 指輪をはめる最中、ふと思った事を聞いてみた。

 

「それは騎士とお姫様。王子様とお姫様の関係はいいの」

 

 俺にとってはどっちも変わらないような気がするが、まあ優良がいいならいいのだろう。

 そして彼女の雪、もしくは白魚の様に白くて綺麗な手に指輪が嵌る。

 

「さて、それでは次の要求ですが………」

 

「えっ? 今ので終わりじゃなかったのか?」

 

 手桐終わりだと思っていた俺は優良の言葉に心底驚いた。

 だがまあ、その間は優良と一緒に居られると思うと………うん、バッチコイだな。

 

「分かった。次は何打?」

 

「それはね~………えいっ」

 

 優良は可愛らしくタメを作ると俺を押し倒してその上に馬乗りになった。

 

「ちょっ⁉ 優ムグッ⁉⁉」

 

 ビックリした俺は彼女の名前を呼ぼうとしたところ、何の前触れもなく彼女にキスされた。それも結構濃いめの。

 

「ん…ちゅ…ぴちゃ」

 

「ちゅ…くちゅ…んぁ」

 

 俺と優良はそのまま一分程キスを続け、どちらからともなく唇を離した。

 

「優良………」

 

「和君………」

 

 濡れた瞳で俺を見つめて来る優良。そしてまた唇がゆっくりと近づいていき——————

 

「あっ、忘れてた」

 

「……へ?」

 

 優良が急に離れた為俺は間抜けな声を出すことになった。

 

「ねえ和君、トナカイとサンタクロースどっちを先に見たい?」

 

「? どういう意味だ?」

 

「いいからいいから。どっちか答えて」

 

「じゃあ……トナカイの方からで」

 

「了~解。じゃあちょっと待っててね」

 

 そう言って優良は俺の部屋から出て行った。

 そして約十分後、ノックと共に優良が再び俺の部屋に入って来た。

 

「どう…かな? 似合う?」

 

 —————トナカイのコスプレをして。

 いや、普通のコスプレ衣装ならまだいい。だが今優良が着ているのは、

 ノースリーブでへそ出し状態のモコモコしていてトナカイの体毛を再現したベスト

 者がネバ中が見えてしまいそうなほどに短く、先を白い毛で飾り付けた茶色のミニスカート

 そしてひざ下までの茶色のソックスと肘までの茶色い手袋、そして十センチ程の短く可愛らしい角

 もうオレの理性がヤバイ。今まで獣娘なんてどうでもよかったが、トナカイ姿の優良を見ただけで鼻血を吹きそうな位ヤバイ。

 

「ね、ねぇ何か言ってよ……」

 

 そして今の優良は、恥ずかしいのか顔を赤くしてモジモジとしていた。そして今彼女が着ているベストは一番上のボタンが空いていた。恐らく同年代より明らかに成長著しい胸を持つ彼女には、ベストの胸囲のサイズが合わなく苦しい為ボタンを一つ開けたんだろう。

 だがそれにより彼女の胸の谷間が露出。加えて、今の彼女は手を前で組んでモジモジしている為余計にその谷間が強調されていた。

 

「優良」

 

「何?」

 

「その格好、絶対俺以外の前ではするなよ」

 

「………」

 

 真面目くさった顔で独占欲全開の事を言ってしまった俺。それにより優良もポカーンとしている。

 

「フフフフフ……アハハハハ」

 

「……ど、どうした?」

 

 独占欲全開の言葉により嫌われてしまったか、と危惧していた俺の耳にいきなり優良の笑い声が聞こえてきてちょっと焦った。

 

「大丈夫、和君以外の前では着ないから。それで、感想は?」

 

「え、えっと………。お、襲いたいくらい可愛かったです」

 

「エヘヘ、ありがとう。じゃあ次はサンタクロースに着替えて来るね」

 

 頬を朱に染めハニカミながら、優良トナカイは俺の部屋を出て行った。

 そしてまたさらに十分後。さっきと同じくノックと共に優良は入ってきた。

 今度のサンタクロース衣装も先程のトナカイ衣装と露出度はあんまり変わんなかった。ただ二回目という事もあって俺の動揺はさっきより少ない。

 今度のは、

 赤をベースにして淵は白い毛におおわれており、首までしっかりと布で覆われているものの谷間を強調するように胸のあたりはダイヤ形に切り抜かれているノースリーブ

 下のミニスカートは先程の茶色い部分が赤になっただけだが、今度は何故か増えている網タイツ

 手袋は先程の茶色の部分が赤に変わってる

 そして今度は何故かソックスでは無く赤いブーツ

 なんだか網タイツの所為で先程よりも色香が増し、可愛さよりもエロさがアップしていた。

 

「何か………さっきよりもエロいな」

 

 バッ

 

 そんな効果音が似合いそうなほどに素早く、優良は胸元を手で覆ったりスカートを下げて少しでも露出を抑えようとしていた。

 ——————まあ、逆効果だけどな。

 

「………和君のエッチ」

 

 非難の目で見られて少し居心地が悪い。

 

「そ、それで……感想を言えばいいんだよな?」

 

「うん。どっちが良かった?」

 

 明らかな話題逸らしだと分かっている優良だったが、何処からともなく先程のトナカイ衣装を取出して俺の誘いに乗ってくれた。

 

「普段見れない新鮮な優良が見れたから、どっちも良かったぞ」

 

「う~ん…本当はどっちか決めてほしかったけど———……。ま、いっか」

 

 ちょっと不満そうだったから心配になったが、どうやら選択的には間違っていなかったらしい。

 

「じゃあ和君にはプレゼントを挙げます。…目を閉じて」

 

「おう」

 

 優良に言われた通りに目を閉じる。

 そしたら俺の唇に柔らかい感触があった。先程よりそれは短かったけど、先程と同じ位俺の心は幸せだった。

 そして目をゆっくり開けるとそこには満面の笑みを浮かべた優良の顔があった。

 

「メリークリスマス。和君」

 

「ああ、メリークリスマス。優良」

 




因みに本編でやろうとしていたのは、クリスマス限定のクエストの話です。
感想・評価・誤字脱字の報告を待っています。


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ソードアート・オンライン編
プロローグ


何とか宣言通りにこの土日中に投稿することが出来ました。……駄文かどうかは別として。


プロローグ

 

〰〰〰〰〰ソードアート・オンラインβテストの一年前〰〰〰〰〰

 

三人称SIDE

 

黒髪黒目で男子にしては体の線が細い少年桐ヶ谷和人は今、隣の家に住んでいる幼馴染茅場優良(かやばゆら)の家の居間にいた。しかし今回は優良に呼ばれた訳では無く、優良の異母兄妹の兄で天才科学者と世間で呼ばれている茅場晶彦に呼ばれたからだ。勿論、和人は晶彦とは面識は勿論ある。それどころか小さい頃は何度も遊んでもらった記憶さえある。

 

和「それで、話ってなんですか? 晶彦さん」

 

晶「なに、今日はちょっと頼みたい事があってね」

 

優「あの……それって私も必要なの?」

 

和人と同じ側に座らされていた優良が口をはさむ。

和人自身、自分が呼ばれたのになんで優良がいるのかが疑問だった。

これまで晶彦に呼ばれる時は、殆ど和人か優良のどちらか片方だけで二人とも同時に呼ばれたことなど和人の記憶にはほとんど記憶にない。

 

晶「ああ。実は二人には今度私が作るVRMMORPGの開発を手伝ってもらいたいんだ」

 

優「えっと……私たちなんかが手伝っていいの?」

 

優良の発した質問に和人もうんうんと頷く。

いくら茅場晶彦の妹で才能があるかもと言っても、優良はその道に関しては素人同然。和人についても才能はあるのかもしれないがやはり素人に毛が生えた程度だろう。それがいきなり晶彦の推薦とはいえゲームの作成を手伝うなんて前代未聞だろう。

 

晶「問題はない。二人の腕は私が保証する」

 

……そういう事ではない気がする。

偶にこいつ(茅場晶彦)は何処か考えが普通の人とはズレている、と和人と優良は同時に思った。もちろん思っただけであって実際に口には出してはいない。

 

和「じゃあ、報酬は?」

 

優「そのゲームの名前は?」

 

和人と優良、二人同時の質問にも晶彦はゆっくり答える。

いささか和人は欲望に忠実すぎるような気もするが、彼を小さい頃から知っている晶彦は気にも留めない。

 

晶「そのゲームの名前はソードアート・オンライン、通称SAOだ。そして報酬だが、そのSAOのβテスターを1000人募集するつもりなんだが、そのβテストの参加権でどうだろう?」

 

それを聞いた二人は顔を見合わせて少し考えるそぶりをした後、息をそろえて言った。

 

和・優「「その話乗った」」

 

それから二人のゲーム制作という名の地獄が始まった。

 

この出来事は、後にデスゲームとなるソードアート・オンライン通称SAOの正式サービスが始まる、僅か一年半前の出来事だった。




いかがだったでしょうか?
誤字脱字があったら教えて下さい。
短いのは勘弁して下さい、これから長くなる予定ですので。


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デスゲームの始まり

ここの感想の方で台本形式でなくてもいいんじゃないかと言う感想をいただいたので、この最新話とバカテスとISの最新話は台本形式と~SIDEをやめて書いてみたいと思います。
此方の方が良いという意見が多かったら、書き方をこっちに変えたいと思います。ですが今までに投稿したやつはそのままですのであしからず。
出来ればこの書き方と前の書き方のどちらがいいか感想を下さい。これはアンケートではありません。


デスゲームの始まり

 

 

「優良っ、早く早く!」

 

「ちょっ、待ってよ和君」

 

茅場晶彦からソードアート・オンラインの製作の手伝いの依頼を受けて一年と少しが経った今日。二人は急いで優良の家へ向かっていた。その理由は、言わずもながソードアート・オンライン通称SAOである。

ソードアート・オンラインの製作は予定していたものより早く終わった。

βテストで他のどのプレイヤーよりも、上へ上った二人は今日という日を今か今かと待ち望んでいた。ちなみに余談ではあるが、二人がβテストで張り切っていたのは、表面上はシステムが正常に作動しているかの確認としているが、完璧にただ楽しみたいだけである。

 

「じゃあ、いくぞ」

 

「うん」

 

今二人は優良のベットで二人一緒に横になっている。そして二人は同時に口にした、仮想の世界への魔法の呪文を。

 

「「リンクスタート」」

 

 

 

 

 

 

〰〰〰〰〰〰仮想世界『ソードアート・オンライン(SAO)』の中〰〰〰〰〰〰

 

仮想世界に降り立った二人の容姿は、現実世界とほとんど変わらない。しいて言うなら、キリト(和人のキャラネーム)は現実世界より男らしい顔になっており、カユラ(優良のキャラネーム)は黒髪黒目になったくらいだ。

そんな二人は同時に自分の右手を握り、呟く。

 

「「帰ってきた、この世界に」」

 

この世界に来たことを確認した二人は、互いに頷きあって走り出した。

 

「あのー、すいませーん」

 

突如声を掛けられたので、振り向くと茶髪でツインテールのキリト達より小さい少女がいた。

 

「あの、お二人はβテスターなんですか?」

 

「あ、うん」

 

「そうだけど」

 

「あの私、シリカっていいます。こういうゲームは初めてなので、いろいろ教えてもらえませんか?」

 

二人は顔を見合わせる。キリトは目線でカユラに先に言ってると示し駆け出した。そしてカユラは——————

 

「私はカユラって言うの。シリカちゃん武器はどんなのがいいの?」

 

その言葉にシリカは笑顔でダガーと言った。

 

 

 

 

 

〰〰〰〰〰〰〰原作でキリトとクラインがいた丘〰〰〰〰〰〰〰

 

あの後キリトとの集合場所に行こうとしていたカユラは、シリカの他に短髪で髪がピンクのメイス使いの少女リズベット通称リズと、栗色のロングストレートのレイピア使いの少女アスナにも、指導してほしいと居られたので、仕方なくキリトとの約束の場所に連れて行くことにした。そして約束の場所についてみると、キリト以外にも人がいた。一人は色黒でスキンヘッドの斧使いと、頭にバンダナを巻いた赤髪の曲刀使い。そして最後は、カユラも良く知る人物だった。おそらくキリトが助っ人として呼んだと思われるフードを被った人物は、元βテスターのアルゴだ。

 

「キリく~ん」

 

「よっ、遅かったな。ところで後ろの人たちは? 心なしか増えてるような気がするけど」

 

「それはそっちも一緒でしょ」

 

それから八人はそれぞれ自己紹介をした。斧使いがエギル、曲刀使いがクラインというらしい。

 

それからは、キリトがクラインとエギルを、カユラとアルゴがアスナとシリカとリズを教えた。

 

「違う違う、少し溜めるイメージだ」

 

「て言われても良く分かんねえしなあ」

 

「こうだろ?」

 

「そうそうそれそれ、うまいなエギル」

 

「まあな」

 

ソードスキルの発動に一番手間取っていたのは、クラインだったが(SAO内で)夕日が沈む頃には、何とか使えるレベルまではなっていた。初心者の中で一番すごかったのはアスナだった。

 

「そろそろ五時だけど、この後どうする?」

 

「私はそろそろ帰るわ。母が煩いし」

 

「俺もピザとジンジャエール頼んでるから一旦落ちるわ」

 

クラインとアスナの他に、エギルも現実世界で店をやってるらしく、それの準備があるため落ちるらしい。ちなみにアルゴは、皆がある程度出来るようになった頃に情報集めにでてのでもういない。

落ちる組と残る組が別れの挨拶を交わし、落ちるためにログアウトボタンを探すが見つからない。慌てて他のメンバーも確認するがやはり見つからない。その時、全員の体を青い光が包んだ。

 

「おうっ、なんだこりゃ」

 

「これは、転移の光だ、どこかにテレポートするぞっ!」

 

そして七人が転移した場所は……

 

「始まりの広場?」

 

周りの状況を理解する暇もなく、次々に人が転移してきた。

 

「お、おいあれを見ろ」

 

誰かがそう叫ぶ。そして空に目をやると……

 

「ようこそ、諸君。私の世界『ソードアート・オンライン』へ」

 

茅場晶彦の巨大なホログラムがあった。

 

「各々ゲームを楽しんでいる所申し訳ない。実は…い……ま………こ…………は………」

 

しかしそれは、何かを言う前にノイズが混じり、消えてしまった。何事かとプレイヤーたちがザワついてると、空からスライムのようなものが落ちてきて、赤いローブを纏った人の形になった(要するにアニメや原作で茅場晶彦が使ってたアバター)。

 

「アッハハハハハ、ようこそ諸君、デスゲームへ」

 

突然聞こえてきたデスゲームという単語に戸惑っているプレイヤーを無視して、話を進める。

 

「このゲームは僕がハッキングさせてもらった。そしてこのゲームは(原作で茅場晶彦がしたデスゲームの説明と同じ)」

 

そして最後に赤いローブは、アイテム欄を見てみろと言う。そしてプレイヤーがアイテム手鏡をオブジェクト化させると、それぞれのアバターを光が包んだ。

 

「大丈夫かみんな」

 

「あ、ああ」

 

「大丈夫だよキリ君」

 

「俺もだ」

 

「私も大丈夫」

 

「私もよ」

 

「私もなんとか」

 

返事のした方を向いて、キリトは絶句した。みんなの姿形が所々変わっていたからだ。

 

「お前、キリトか?」

 

そうクラインが訊いて来ると、カユラ以外の全員が首を縦に振ってクラインの意見に賛成した。

 

「ああ、そうだけど」

 

「お、女の子だったブヘェ」

 

「言っとくけど、俺は男だから」

 

キリトの気にしてることを言ったクラインを、(圏内なので遠慮なく)殴って黙らせたキリトは他のみんなが勘違いをしないように忠告し、皆はそれに素早く頷いた。

 

「それでは諸君、このデスゲームを楽しんでくれたまえ」

 

そう言って赤いローブの奴は消えた。



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ホルンカ

レベルの設定は適当です。あまり気にしないで下さい。



ホルンカ

 

 

 

赤いローブの人物が、消えてから始まりの街の広場は混乱に包まれた。誰かか悲鳴を上げ、それが連鎖的に広まっていった。そんな中、キリト達七人は広場から繋がる裏道にいた。

 

「いいかみんな、今から俺の言う事をよく聞いてくれ」

 

「(原作でクラインにした説明)という事だ。だから一緒に来てくれ」

 

キリトの言葉にクラインたちは困ったような顔をする。キリトの顔は、来いと言うより来てほしいと言っているように見えたからだ。

そんな中、カユラの心は決まっていた。

 

「私はキリ君と一緒に行く」

 

カユラがそう言った瞬間、みんなが彼女に注目する。皆が見たカユラの目にはしっかりとした決意が宿っていた。

 

「わりぃ、俺は行けねえや」

 

「……そうか」

 

「すまねえな」

 

「いや、無理に言って悪かった。そのかわりこれを」

 

そう言ってクラインにメッセージを飛ばすキリト。

 

「? これは……!!? おいキリトこれって」

 

「ああ、βの時の情報だがないよりましだろう。そしてそれを出来るだけ広めてほしい、それだけで死者は減る筈だから。そのかわり俺が情報源だなんて言うなよ」

 

「へへ、分かったよ。じゃあなお前ら、生きてまた会おうぜ」

 

キリトの最後の照れ隠しを、彼より年上ゆえに理解したクラインはそれについては何も言わなかった。

そう言ってクラインは広場の方へ戻って行った。そしてキリトはみんなの方に向き直ると、みんなの目にカユラと同じ決意が宿っているのが分かった。

 

「俺と一緒に来るんだな?」

 

最後の確認をすると、皆は無言で頷いた。

 

「分かった。まずここからホルンカっていう村に向かう。付いて来てくれ」

 

キリトが先頭になって先を行き、殿をカユラが勤めながらキリト達一行はホルンカへと向かった。

 

 

 

〰〰〰〰〰〰ホルンカ〰〰〰〰〰〰

 

 

 

ホルンカについたキリト達はまず、道具屋で来る途中の先頭で消費した回復アイテムなどを補充した。

 

「これからアニールブレードっていう強化すれば第三層ぐらいまで使える片手用直剣を、取る為にクエを受ける。これは売ると金になるから、要らなくてもみんな受けてくれ」

 

一軒の家の前でキリトがそう言うと、皆で目に前の民家に入って行った。数分が経つとみんなクエストを受け終わったので、ネペントを狩りに森に向かった。

 

「ネペントは花付と実付きと普通の奴がいる。実付きの奴は実を割ると、他の奴らがよって来るがこのメンバーなら十分に対処できる。実を割ったら焦らず俺かカユラに言ってくれ。ちなみに俺らのターゲットは花付の方だ。それと、これはレベル上げも兼ねてるから、全員がレベル五になるまでやる」

 

キリトが移動途中そう残りのメンバーに説明する。彼らはそれぞれ短く了解と言った。

 

「しっ!」

 

突然キリトが止まり茂みに身を隠す。後ろについて来たカユラ達もそれに倣う。

 

「いた!」

 

キリトが小声でつぶやくのが聞こえたカユラ達は、彼が見てる方に目を向ける。するとその視線の先には、実付きと花付のネペントがそれぞれ一体ずついた。

 

「どうするんだ?」

 

「みんな今レベルはどのくらいだ?」

 

キリトがそう聞くと、彼女たちはそろって三と答えた。彼は自分のメニュー画面を呼び出し、自分のレベルが三であることを確認すると、少し考え込む仕草をしてから言った。

 

「俺とカユラで実付きを抑えとくから、その間に花付を倒してくれ」

 

彼女たちは了解と頷くと、気を引き締めた。

 

「行くぞ!」

 

キリトの短い掛け声で、彼らは一斉に飛び出した。

 

「はぁっ!」

 

彼らの中で一番俊敏値が高いアスナを皮切りに、キリトとカユラを除くメンバーは数分でネペントを倒した。アスナ達がキリトとカユラの方を見ると、二人はまだ戦っていた。しかしネペントのHPはレッドゾーンだ。だが二人は中々とどめを刺そうとしない。気になってリズが二人に問うた。

 

「何でさっさと片づけ無いのよ?」

 

「いや……」

 

「実を割るか割らないかで悩んでるのよ」

 

歯切れの悪いキリトの代わりに、カユラがそう答えた。

 

「何でそんなので悩むんですか?」

 

シリカが代表して聞くとキリトが答えた。

 

「割ったらネペントが結構な数来て倒せれば経験値稼ぎになるけど、その分死ぬ確率も上がるからみんなに聞いた方がいいかなって思ってたんだよ」

 

キリトの言葉に彼以外のメンバーは納得したようだ。

 

「で、どうする?」

 

「割らない?」

 

カユラがみんなに聞くと、まあいいか的なノリで他のメンバーも賛成した。

 

「エギル、ソードスキルなしの上段でやってくれ」

 

「それで倒せるのか?」

 

大丈夫だとキリトが言い、それを聞いたエギルが斧を上段に持っていき振り下ろす。するとキリトの言ったとうり、実が割れた直後にネペントもポリゴンの欠片となって消えた。それと同時に彼らの周りに五体のネペントがPOPする。

 

「気を抜くなよ!」

 

『おう!』

 

キリトの声に、それ以外のメンバーが気合を入れた声音で返した。

結局その日は、午後八時頃に全員がレベル十になるまで続いた。



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ボス攻略会議と兄

は、初めて6000文字超えた——!
相変わらずの駄文かもしれませんがよろしくお願いします。
この作品には色々なオリジナル設定や独自解釈が含まれています。そこのところご了承ください。


ボス攻略会議と兄

 

 

 

 

 

 

あれから狩りを終えて戻って来たキリト達は、攻略会議が行われる場所に来ていた。女性陣は目立つ為、全員が麻色のフードケープを装備している。集まったメンバーは彼らも入れて四十八人。

 

(思ってたより少ないな)

 

それがキリトの感想だった。フロアボスを死者数ゼロで倒すつもりなら、レイドパーティー(一パーティー(六人)×八の計四十八人)を二つ作って交代制でやるのがベストなのだが、これではレイド一つしかできない。

 

「ちょっと少ないね」

 

カユラもキリトと同じ事を思ったらしく、ボソリと呟いた。

 

「そう? 初めてで不安もあるのにこれだけの人が来るのは多い方だと思うけど」

 

「そうだゾ二人とも。アーちゃんの言う通りダ。前向きに考えろヨ」

 

アルゴとアスナに言われて、二人はまあ確かにと納得した。

 

「はーい、皆静かに~。ちょっと早いけどこれから第一層ボス攻略会議を始めま~す」

 

石作りのステージに青髪で背中に盾を背負った片手剣の青年が、声を掛け注目を自分に集める。

 

「俺の名はディアベル。職業は……気持ち的には騎士(ナイト)やってます」

 

彼ディアベルのそんな自己紹介で場の雰囲気が和やかになる。

キリトとアスナとカユラとアルゴは、同じく石でできた扇形の客席の一番遠い所で話を聞いていた。逆に、エギルとリズベットとシリカとPoHとジョニーとザザはステージ付近の席に座っていた。ここら辺はやはり対人スキル(コミュ力)の違いだろう。

 

「昨日俺たちのパーティーが、最上階でボスの部屋を発見した」

 

先程とは打って変わって真剣な口調になったディアベルにつられて、場の雰囲気の真剣なものになり喋り声も無くなった。

 

「俺たちはボスを倒してこのデスゲームが攻略できるってことを、始まりの街で待ってる皆に教えなきゃいけない。そうだろ皆!」

 

ディアベルの声に賛同する意見が数多く上がる。それに気を良くしたディアベルは、話を進めようとするがそれに割り込む人物がいた。

 

「ちょっと待って貰おうかナイトはん」

 

茶髪のイガグリ頭で関西弁の背の低い青年?はステージに上がり、ディアベルの隣に立つ。

 

「君は?」

 

「ワイはキバオウってもんや」

 

イガグリ頭改めキバオウは名乗ると、客席に当たる位置の方を向いて集まったプレイヤーたちを見据える。

 

「会議を始める前に、この中に何人か死んでいったプレイヤーに詫びいれなああかん奴がおる筈や」

 

瞬間キリトの体が強張る。

右隣にいたアスナは気が付かなかったようだが、左隣にいた幼馴染のカユラはそれに気が付いた、いや幼馴染だからこそ気が付いたというべきだろう。そして強張った理由も。

だから彼女はそっと右手でキリトの左手を握る。彼が自虐しないように。自分ですべてを背負い込まないように……。

行き成り握られたことで驚いたキリトがカユラの方を向くと、彼女は隣にいる彼にしか聞こえないような声で————

 

「大丈夫、和君の所為じゃないし私も居るから」

 

リアルでの呼び方をしたのは何となくだったが、効果はあったらしくキリトの体からは力が抜けていた。

 

「ありがとう、優良」

 

優しく笑い掛けて手を握り返しながらお礼を言うキリト。その笑顔に見惚れた所為かはたまた別の理由化は分からないが、カユラも頬をほんのりと赤く染めて微笑み返す。

 

 

 

 

「ありがとう、優良」

 

また、助けられた。優良には何時も何時も助けられてきた。スグとの仲がギクシャクしてた時も、その所為で学校にあまり行かなくなった時も、色んな事で彼女には助けてもらってきた。そしてまた…………。

おそらくキバオウが言いたいのは、βテスターの事だろう。βテスターがビギナーを見捨てたから、ビギナーが沢山死んだ。そう暗に言っているのだろう。そして俺もその一人だ。アスナ達を見捨てなかったという見方もできるが、それはただ単にキバオウのような奴に詰(なじ)られるのが嫌だったから保身のために過ぎない。カユラは違うと言うだろうが、あの時の俺は確かにそう思っていた。

隣に座っている彼女に目を向ける。フードの所為で顔は見えないが、おそらく真剣にキバオウとディアベルと先程加わったエギルの話を聞いているのだろう。

彼女には借りが増えるばかりで、何も返せていない。出来る事なら、彼女の隣に彼女にふさわしい男が立つまで俺が守ろうと思った。だからこの世界からは彼女を絶対に返したいと思う。例え自分が死んでも。例えその一回しか借りが返せないとしても……。彼女の為になるなら俺は………。

 

 

 

 

「分かった、今回はこれまでにしといたる」

 

そう言ってキバオウはステージ近くの席に座り、エギルも元居た場所に戻った。

 

「それでは会議を再開したいと思う。つい先程例の攻略本の最新版が更新された」

 

彼はそう言って先程のキバオウとエギルとの話にも出て来た、攻略本(MIDE INアルゴ)の最新版を取り出す。

その光景を見ていたアルゴは、密かに気分を良くし小さな音で鼻歌を歌っていた。

 

「攻略本によるとボスの名はイルファング・ザ・コボルドロード。取り巻きには、ルインコボルド・センチネルが出て来る。取り巻きの数はボスのHPバー一本に付き三体とのことだ」

 

そこで一先ず言葉を区切ったディアベルは、集まったプレイヤーを見渡し告げた。

 

「取り敢えず皆はパーティーを作ってくれ」

 

ディアベルがそう言うと、彼らはパーティーごとに集まり始めた。キリトが目でエギル達の方を見てみると、元からメンバーが決まっていたエギル、PoH、ジョニー、ザザ、シリカ、リズベットはすでに連携などの話をしていた。

 

「キリ君、私たちも残り二人を探さないと」

 

この広場には四十八人いる為、レイドからあぶられることもパーティーからあぶられる事も無い。しかしキリト達のパーティーメンバーは、キリトとカユラとアスナとアルゴの四人しか居ない為、何処かに二人余っているのだ。

余っている二人は何処かとキリトが視線を巡らすと、少し離れた所にディアベルとはまた違った感じの騎士風の男と、アスナ達と同じようなフードケープを被った人物がいた。おそらくフードケープを被った人物は女性だろうとアタリを付けつつ、アスナにその二人をパーティーに誘うように言った。

 

「何で自分で誘わないのよ?」

 

「いや……俺若干コミュ障だから」

 

あながち間違いでは無い。カユラのお蔭で少しはまともになったとはいえ、まだまだ人と接するのは苦手だ。親しい人物ならまた話は違うだろうが、騎士風のグレーの長髪を首元で束ねた男は記憶にないし、女性? の方は顔すら見えない。

アスナは情けないと呆れつつもその二人の元に行き、うまくパーティー申請をした様だ。

カユラ達の他に新たなHPゲージが追加され、キリトは二人の名前を確認する。

 

「(ひ…い…す…く…り…ふ。ヒースクリフか? もう一人は、る…る。ルルか?)」

 

取り敢えず挨拶は必要だろうと思い、アスナと共にこちらに来た二人に挨拶する。

 

「俺はキリト。こっちはアルゴとカユラ。これからよろしくヒールクリフとルル」

 

「……ああ、よろしく頼むよキリト君」

 

「よろしくお願いします。キリトちゃん」

 

ヒースクリフがキリトとカユラの顔を見た時、ピクリと眉が動いたのを二人は見逃さなかった。

ヒースクリフとルルも挨拶をしてきたが、ルルの最後の一言を聞いたせいでキリトが落ち込んだ。

行き成り落ち込んだキリトに、訳が分からないといった表情で首を傾げているルル。

その後、キリトは男だと説明し何とか誤解は解けたものの、キリトが男だと分かった時のルルの驚き様にまたキリトが落ち込んだ。

会議の結果、キリト達のパーティーは取り巻きのセンチネルの相手だった。この事にアスナが不満を漏らしていたが、それはカユラが抑えた。

 

 

 

〰〰〰〰〰〰閑話休題〰〰〰〰〰〰

 

 

 

攻略会議が行われた日の夜。会議に出ていた人たちは決戦前という事で軽い宴会状態になっていた。そんな中、キリトとカユラそしてアスナとアルゴの四人は宴会(仮)に参加していなかった。キリトとカユラはエギル達とで貸切状態になっている宿に、明日の準備があるからと言って戻り。アルゴは情報収集に出ていて、アスナはアルゴだけでは心配だから、とその付添だ。

キリト達が泊まっている宿は二人部屋が全五部屋。部屋割りはPoHとザザ、エギルとジョニー、アルゴとアスナ、リズベットとシリカそしてキリトとカユラだ。最後に二人の部屋割りに女性陣は猛反対し、男性陣はニヤニヤ笑っていた。だがカユラが強く希望したことと、二人が幼馴染だという事等の理由により渋々女性陣は納得した。

そして今二人はベットに座って向かい合っている。

 

「で、どうしたの? カユラ」

 

部屋で二人だけで話があると誘ったのはカユラの方だった。

 

「……ねえ、和君。私たちの事みんなに話さない?」

 

「俺たちの事って……SAOの開発に関わった事?」

 

「それと、私が茅場晶彦の妹だってことも」

 

キリトだけでなくカユラも耐えられなかったのだった。このゲスゲームを引き起こしたことに自身が関わっている事に。

その証拠にキリトは彼女が震えているのが分かった。

きっと彼女も怖いのだろう。茅場晶彦の妹と知られることによって、他の人たちから誹謗中傷を受けることが……。いくらゲーム制作できるとは言っても彼女は普通の中学生の女の子なのだ。

そこまで考えたキリトの行動は早かった。

 

「ッ!!?」

 

「分かった、優良の意見に従うよ。でも、エギル、PoH、ジョニー、ザザ、アスナ、シリカ、リズ、アルゴ、ヒースクリフ、ルルだけにしよう。彼らは信頼できる。きっと君の力になってくれる筈だ。それに信用ならない人が君の事を利用するかもしれない、だから彼らだけにしよう。いい?」

 

これ以上彼女が壊れてしまわないように震えているカユラを抱きしめる。少し強めに、自分の存在が分かるように。最初は驚いたカユラだったが、次第に落ち着いていき、キリトの提案に頷いた。

 

「……もう大丈夫だな」

 

そう言って離れようとするキリトを、今度はカユラが彼の背中に手を回して抱き着き後ろに倒れる。そしてそのままキリトがカユラを押し倒す様な形で二人でベットに倒れこむ。その際キリトの顔がベットに突っ込んで息苦しくなった(SAO内で息をする必要はないが)が、そんな事も気にならない程にキリトはテンパっていた。

 

「ゆ、優良!」

 

「……もうちょっとだけこのままでいい?」

 

行き成りの状況にテンパるキリトだが、彼女の消え入りそうな声に何も言えなくなってしまう。そしてそれと同時にカユラと抱き合っている事により落ち付いて来てもいた。

仕方がないので暫くそのままでいることにする。しかし流石に体制がキツイので、横向きにして向かい合うようにする。二人は向かい合うような形になったわけだが、そんな事は二人とも気にならなかった。そしてカユラはニコニコ笑顔で物凄い嬉しそうだったが、キリトはその理由が分からなかった。

 

「なあ、優良」

 

「何和君」

 

暫くするとキリトが口を開いた。

 

「あのヒースクリフって人さ、どう思う?」

 

「どうって、兄さんかどうかってこと?」

 

「そう、妹の優良から見てどう思った? 俺は何となくあの人が晶彦さんだと思うんだけど」

 

「私もそう思う、何より仕草が兄さんと似てたから」

 

その問いに間髪入れずに答えるカユラを見て、キリトはやっぱりかと言って納得顔になる。そりと同時に僅かな仕草だけで身内と分かるカユラに関心もしていた。キリトなら恐らく身内を仕草だけで分かるのは無理だろう。今回もヒースクリフが晶彦かもしれないと思ったのは一〇〇パーセント勘だ。

 

「でもどうするの? その事とさっきの事」

 

「さっきの事は第一層のボス戦が終わってからかこのメンバーでギルドを作る時でいいと思う。まあ大まかにしか説明しないけどそれで良いよな」

 

「うん。じゃあボス戦は死なないようにしなくちゃね」

 

「ああ」

 

「それで兄さんの事は?」

 

「今ここに晶彦さんを呼ぼう。それで話をする」

 

「なんて言って呼び出すの?」

 

カユラの問いにキリトは、抱擁を解いてメニュー画面を出す。抱擁を解いた時にカユラが残念そうな顔をしたのをキリトは気づかない。

暫くするとキリトは可視モードにした画面を彼女にも見せる。そこにはこう書いてあった。

 

『晶彦さんへ

 

 今空いていたら、俺と優良のいる所まで来て下さい。会って話したい事があります

 

                            和人より』

 

「これで来るの?」

 

「……多分」

 

「…………」

 

「と、取り敢えず待ってみよう」

 

自信なさげな自分を見てくるカユラのジト目に耐えられなくなったキリトはそっぽを向きながら言った。

 

〰〰〰〰〰〰〰十分後〰〰〰〰〰〰〰

 

コンコン

 

「私だ、ヒースクリフだ」

 

部屋の扉がノックされると同時にそんな声が聞こえた。

キリトが扉を開けると、そこには予想道理ヒースクリフが立っていた。

 

「……一人か?」

 

キリとの問いに無言で頷くヒースクリフ。

彼を部屋に入れると、予め用意していたメッセージをヒースクリフに飛ばすキリト。

その内容は『GM権限でこの部屋の中の事を外に漏れないようにしろ』と言ったものだった。普通なら、どういう意味だ? と首を傾げるだろうが彼ヒースクリフはそんな事はせず、無言で左手を(・・・)振った。それから色々やった後、彼から口を開いた。

 

「もう喋っても大丈夫だ。和人君、優良」

 

「やっぱり晶彦さんだったんですね」

 

「ああ」

 

「兄さんどうしてこんな事になったの?」

 

カユラの問いに、顔を伏せるヒースクリフだったが少しした後顔を上げた。

 

「……そうだな、君たち二人には知る権利があるだろう。だがこの事は他言無用だ」

 

そう言うとヒースクリフ否茅場晶彦は自分の知っている事を話し始めた。

彼曰はく、仕事が一段落したのでGM兼プレイヤーとしてSAOにログインしたところ、ハッキングを受けたという訳らしい。

 

「中からは対抗できなかったんですか?」

 

「それは無理だ。中からやれる事は外からやれる事程多くは無い。恐らくハッキングした者は私がログインするのを待っていたのだろう」

 

「犯人は誰だかわからないの?」

 

「…………ああ、まだ分からない」

 

少しの間があったものの茅場晶彦はそう答えた。

その後彼らは何気ない雑談をして時間を潰した。その際先程キリトとカユラが話していた自分たちの正体をみんなに明かすかどうかの話も晶彦に話した。

 

「君達二人が決めたなら私は口出ししない。だが、今の私にできる精一杯のサポートはする。だから遠慮なく私を頼って来なさい」

 

成人した大人らしく又二人の頼れる兄として晶彦はそう言った。

その後ヒースクリフに戻った茅場晶彦は、キリトとカユラが一緒の部屋に泊まるのは反対だといったシスコンっぷりを発揮してから自分の宿へと戻って行った。

ヒースクリフが戻った後、二人は同じベットで横になっていた。キリトは別々のベットでと言ったのだが、カユラが必死に説得(上目遣いのおねだりとも言う)をした為こうなった。今二人はお互いに向か会って寝ている。

 

「和君」

 

「何?」

 

「明日のボス攻略頑張ろうね」

 

「ああ」

 

そうして二人は深い眠りについた。

 




最近スランプなので更新速度が今まで以上に遅くなります。出来るだけ早くするつもりですのでこれからもよろしくお願いします。
あと誰かスランプの脱出方法知りませんか? 知ってたら教えて下さい。


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ビーター

大変遅くなりました。待っている人は少ないかもしれませんが、これからもこの作品をよろしくお願いします。
そして、今回で第一層は終わりです。次回からはもう少し早く更新できるように頑張ります。
今回は私の独自解釈やオリジナル設定があるかもしれません。


ビーター

 

 

 

翌日の朝、目が覚めた二人はおはようの挨拶を交わした後一階にある食堂に向かう。そこで先にいたアスナ達におはようの挨拶を言い朝食(味は微妙)を取る。

その後集合時間になったので、昨日の会議をした場所に行き、少しするとレイド全員が揃ったのでディアベルのパーティーを先頭にボス部屋へ歩いて向かう。ちなみにキリト達のパーティーと同じくPoH達のパーティーも取り巻きであるセンチネルの相手だ。

 

「やっぱりネットのオンラインゲームとは違って暇だね」

 

「確かに。ネットのやつだと会話する暇なんて無いからな」

 

歩いていると、ふと思ったようにカユラが言ったので、キリトも自分の思った事を言う。

 

「ネットだと会話できないの?」

 

今までの人生の中でネットのオンラインゲームをしたことが無いアスナが二人に尋ねた。

 

「ああ。正確に言うなら会話する前に状況がドンドン進んでいっちゃうから、セリフを打ち込む暇がないんだよ」

 

キリトはアスナにそう返すとカユラとの会話に戻った。

 

「ねぇ、キリ君」

 

「ん? どうした? モンスターでもPopしたか」

 

「うんん。ただ今回の攻略はなんか嫌な予感がするから気を付けてねって言いたかったの」

 

真剣な、そして真面目な顔で自分を見ながら言うカユラに、キリトも真面目に頷き返した。

 

「キリ君」

 

「なに?」

 

「和人はずっと私と一緒に居てくれるよね?」

 

「……」

 

縋る様な、願う様な顔で言われキリト——和人は一瞬逡巡する。それも彼女は『和人』と言った。それはつまりこの世界を出た後もという事になる。その事を含めて和人は考えた。

 

「……ああ、俺はずっと(守るために)優良と一緒に居るよ」

 

言い出すのに少し間が空いたが彼女はその答えを聞けて満足したようだった。

 

(でも、優良の為なら俺は…………ごめん)

 

和人は心の中で自分に絶大な信頼をしてくれる彼女に向かって謝っておく。その約束を破る時が来てしまうかも知れないから。彼女の為に自分の自己満足の為に……。

そして彼は『桐ヶ谷和人』から『剣士キリト』へと戻った。

 

 

〰〰〰〰〰〰〰〰〰閑話休題〰〰〰〰〰〰〰〰〰

 

 

 

あれから何度かモンスターとの戦闘があったが、特に何事も無く無事にボス部屋の前まで辿り着くことが出来た。今は部屋の前でレイド全員が武器や防具などの最終確認をしている。

最終確認を終えるとディアベルが扉の前に立つ。

 

「皆! 俺からいう事は一つだ。…勝とうぜ」

 

オオォォォォォォという雄叫びがレイドから上がる。それを背にディアベルは決戦(ボス)の扉を開けた。

レイドの面々がボス部屋に入っていくと、奥の玉座にいたコボルドロードが此方へ飛び出してきた。それに続く形で三体のセンチネルがPoPする。

 

「全員、突撃!」

 

ディアベルが剣を振り下ろし、そう命じるとプレイヤーたちも飛び出した。

 

「ハアァァァ」

 

「ヤアァァ」

 

キリト達のパーティーとPoH達のパーティーは取り巻きであるセンチネルの相手だった。これはキバオウの差し金である。

センチネルとコボルドロードは人型である為ソードスキルも使える。それにより初心者にとっては獣型のモンスターと比べると比較的倒しずらい相手かも知れない。しかしキリト達は違う。彼らは早朝に圏内でデュエルを使わない模擬戦をしている為、対人戦においてはこのレイドの中でも頭一つ飛び出している。それに加えて、キリトとカユラとヒースクリフそれにPoHとザザとジョニーは現実世界でも格闘技の経験がある為、むしろ人型相手の方が遣り易いくらいだった。

しかしいくら格闘経験があろうとも消耗はする。仮想世界でも、肉体的な消耗は無くても精神的な消耗は存在するので延々と戦う事は出来ない。

 

 

 

ボス攻略開始から十分ほどたった現在の死亡者は未だゼロ。ボスの方で何度か危ない場面があったが、一応死者は未だ出ていない。そしてこれまでの事で分かった事は、ボスのHPバー一本に付き取り巻きのセンチネルは、三体一組が三回PoPの計九体出て来るということと、ボス戦の戦闘パターンの一部だった。

 

 

 

 

更に十分ほど経ち、現在ボスは四本あったHPバーを最後の二本まで減らした。

 

「よし! これならいけるぞ!」

 

「ああ、これなら余裕だな」

 

キリト達が再びPoPしたセンチネルを相手にしていると、ボス担当のパーティーからそんな声が聞こえてくる。

 

「皆! もう一息だ。頑張ってくれ!」

 

ディアベルはその掛け声と共にレイド達に突撃命令を出し、自身も同じC隊のメンバーと共に突撃する。

それをセンチネルを相手にしながら遠くから聞いていたキリト達は驚愕する。

普通HPバーを削った後は、新たな攻撃パターン等が追加されたりするかもしれないのでここは様子を見る所である。それなのにディアベルは突撃を選択した。つまりそれは最悪の事態になるかも知れないという事を意味する。

しかし、彼らの予想とはいい方向に異なりボスの新しい攻撃パターンは現れなかった。

 

「アスナ、スイッチ!」

 

「了解。ハアァァァ!」

 

もしボスの攻撃パターンが急激に変わり、その所為で彼らが危機に陥ったら割り込んで無理やりにでも助けるつもりだったキリトは、向こうは問題ないと判断しセンチネルに意識を戻した。

 

 

 

 

 

 

「よし、ラスト一本だ。皆気合を入れなおせ!」

 

暫くするとディアベルのそんな声が聞こえてきた。

俺は気になってボスの方を見てみるとディアベルの言う通り、ボスのHPバーが最後の一段になっていた。

これまで死者も出ず至って順調にきている事に訝しみながらも喜ぶ。

 

 

 

 

「キャァァァァ」

 

『ッ⁉』

 

突如聞こえた悲鳴に俺とエギルのパーティーは戦闘の事など忘れてそちらに勢いよく目を向ける。

そこにはHPバーをレッドまで陥らされて凶暴化したコボルドロードが武器を野太刀に持ち替えて、今まで攻撃してきたディアベルがいるC隊の面々を重範囲攻撃のソードスキル『旋車(つむじぐるま)』で攻撃し終えた後だった。普通ならボスのHPバーをレッドまで減らしたら、一旦下がって様子を見るのが普通だし、攻略本にもそう書いてあった。だがディアベルはそれをせず突っ込んだ様だ。

そこまでならまだよかった。彼らも俺達程のレベルでないにしろ、そこそこのレベルではあった為一撃で死ぬような事は無い。だがコボルドロードが大技を出した後の長めの硬直から回復した後、先程のソードスキルを喰らって”スタン”しているメンバーの正面に居る、ディアベルとその横に居た紫の髪(おそらくアイテムで染めた)の少女に狙いをつけてソードスキルの恐らく『浮舟(うきふね)』であろうそれを発動させようとしていた。

別に『浮舟』自体はそれ程までに威力の高いスキルではない。恐らくHPが半分ほどまで減っている彼らでも一撃ぐらいならば受けても死にはしないだろう。だが『浮舟』はスキルコンボ技の開始技で、その次に『緋扇(ひおうぎ)』という三連撃技に繋がる。

恐らくいや絶対に今の彼らではそのコンボを喰らえば確実に死ぬだろう。そう思った俺の行動は早かった。

……例え今後攻略の最前線に居るであろう面々と溝が出来てもいい。彼らを助ける事が出来れば。

心の中で静かにそう思った俺は早速行動に移す。

 

「エギル‼」

 

俺の叫びに(自称)無私無欲の精神を持つ斧使いは応じた。

俺が地面を蹴って数十センチ程度の高さまで跳ぶと、地面との隙間を潜るように、エギルの両手用の斧が差し込まれる。俺はスケートボードの様に両手用の斧の側面に足の裏を付けて着地する。

俺とエギルは一言も言葉を交わさなかった。

そんな余裕がなかったのもあるが、一ヵ月近く一緒にパーティーを組んでクエストや狩りをしてきた仲なので、言わずとも相手が何をしてほしいのか大体分かって来た、というのもあった。

 

「————ッ‼ オラァ‼」

 

エギルが短く息を吐き、気合の入った声と共に両手用斧を横に振り回すような軌道で思い切り薙いだ。

人一人を載せた斧を振り回すなど普通では絶対にできないような芸当であるが、ここは仮想世界『ソードアート・オンライン』の中だ。筋力値が高ければ小学生でもできる。

そしてエギルは斧使いなので筋力値が俺達の中でもかなり高い。そんなエギルの膂力を借りてドパンッ! という音と共に俺は砲弾のように射出された。

 

「ウオォォォ‼」

 

空中で体勢を整えた俺は片手剣突進技『レイジスパイク』の構えを取る。そして、雄叫びを挙げながらスキルを発動させ、システムアシストの補助もあり俺のスピードが加速する。

 

「当たれェェェェ!」

 

下段からディアベルと少女に迫るコボルトロードの野太刀目掛けて、飛んできた勢いも、体重も、全ての力を集約させて上段から思いっ切りアニールブレードを振り下ろした。

ガギィィンという金属と金属がぶつかり合う音と共に、俺とコボルトロードの武器は衝突した。そしてその余波で僅かに周りに衝撃波が走る。

俺とコボルトロードの武器が均衡していたのは、一瞬だった。元々ボスのパラメーターはプレイヤーよりも断然高い。上段から振り下ろしたこと、飛んだ時の勢い、その他諸々の要因で俺の方が有利だったにもかかわらず、鍔迫り合いは一瞬で崩れた。俺が押し負けてソードスキルがキャンセルされるという結末で。だが、これで良かった。その一瞬のスキにPohやエギル達がスタン状態から回復しても、死の恐怖でその場に立ち竦んでいた者達を安全圏まで運んでくれたのだから。勿論ディアベルと例の少女も避難した。

 

「皆、一気に畳み掛けるぞ!」

 

『おう!』

 

いつの間にか俺の周りに勢揃いしていた俺とエギルのパーティーメンバーに声を掛ける。見ると彼女を含めた俺とエギルのパーティーの女性陣全員がフードケープを取ってその美貌を大衆の目にさらしていた。

 

「手順はセンチネルと同じだ。でもリーチが全然違うから気を付けろ」

 

『了解』

 

短くも気合の入った返事を聞いて俺達はコボルトロードへと駆け出した。

コボルトロードは俺達目掛けて野太刀を振るって来るが、ヒースクリフやエギルのタンク組がそれらを受け止める。その隙に俺達アタッカーは各々のソードスキルを使いコボルトロードにダメージを与えていった。本来ならメイサーであるリズもタンク役である筈なのだが、『女の子にそんな事はさせねぇ』と二人の紳士(の皮を被った量子物理学者とカフェのマスター)が言ったのでアタッカーに入っている。

 

「キリ君ラスト!」

 

「おう!」

 

見ればもう後ソードスキルを一、二発当てれば全損するまでになっていたコボルトロードに向かってカユラと止めを刺しに向かっていく。

 

「ゴォォォォォ」

 

コボルトロードの咆哮と共に振り下ろされた野太刀のソードスキル『幻月』をキリトは右に、カユラは左にずれてしっかりと避ける。そしてソードスキルの技後硬直で固まっているコボルトロードの肩位まで飛び上がり、キリトは『ソニックリーブ』を右肩に、カユラは片手用曲剣振り下ろし技の『クーパー』を左肩に当てた。そして、キリトはそこから左脇腹まで切り付け、カユラは右脇腹まで切り付けた。

二人の切り付けた後がクロスしコボルトロードに×(バツ)印の傷が出来る。そしてコボルトロードは断末魔の叫びをあげるとポリゴンの欠片となって消えた。

 

『………』

 

目の前の現実が理解できず一瞬呆然と佇む攻略メンバーの面々。しかし次の瞬間割れんばかりの歓声が上がった。

 

『オォォォォォ‼』

 

攻略メンバー達は諸手を上げて喜んだ。

 

「Cngratulation。お疲れ様、キリト」

 

「実にすばらしい戦いだったよ、キリト君」

 

「Good。Nicebattleだったぜキリ坊」

 

「お疲れ様キリ君」

 

そして俺の元に年長者組のエギル、ヒースクリフ、PoH。そしてカユラがやってきて労いの言葉を掛けてくれた。

 

「なんでやっ!」

 

勝利ムード一色のボス部屋にそんな叫びが響いた。この関西弁はもちろんあのキバオウだ。そしてボス部屋に居た全員の視線が彼に集まる。

 

「なんでディアベルはんを見殺しにしようとしたんや!」

 

悲鳴にも似た叫び。それが俺に対するものだとは容易にわかった。

 

「見殺しにした?」

 

「そうやろがっ! ジブンはボスの使うソードスキルを知っとたのに、それを公表しなかったやろ」

 

恨みがましく俺を睨みつけるキバオウ。そして彼の言葉で、カユラ、ヒースクリフ、エギル、リズ、シリカ、アルゴ、アスナ、ルル、PoH、ジョニー、ザザそして申し訳なさそうな顔をしているディアベル以外のボス部屋に居た面々が、不信感を露わにした目を俺やカユラ達を見る。

 

「キ、キバオウ君。俺は助かったんだし、もうそれ位に……」

 

「ディアベルはんは黙っといてなぁ。これはこれからの攻略にも関する重要な事や」

 

……キバオウのいう事は間違っていない。攻略に関する事で隠し事をしている奴が居たら大変だし、要らぬ揉め事に発展することもある。だが、非難される側————この場合はβテスター———の事も考えてほしい。特に今回は、事前にキバオウ自身がテスター達に謝罪と賠償を請求していた。謝罪だけならまだしも賠償まで求めたらそりゃあ名乗り出るテスターは皆無になるだろう。それで自分が命を落としてしまう場合もあるのだから。

 

「あいつ、きっとβテスターだ! だからボスの事も知ってたんだ。他にもいるんだろうβ上がり共、出てこいよ!」

 

(恐らく)キバオウのパーティーメンバーがそう叫んだ。それをきっかけとしてボス部屋の面々が互いを牽制しだした。そして中にはアルゴの事も悪く言ったり、仕舞いには俺と親しいという理由でカユラ達まで疑いだした。まあ、俺とカユラ(優良)はSAO製作チームの一員で、ヒースクリフ(茅場晶彦)なんてSAOの生みの親だ。正直βテスターなんて目じゃないが、それを今言っても状況は悪化しかしないので言わない。そして俺はこの不穏な空気を打破するため————じゃなく、カユラ達仲間に向けられている疑惑の目を他の場所に(・・・・・)逸らすために口を開いた。

 

「なあ、キバオウ」

 

「……なんや」

 

俺に声を掛けられたキバオウは、嫌悪感を隠すことなく俺を見た。

 

「さっきお前は俺に『何故ボスのソードスキルを公表しなかったのか?』と聞いただろう」

 

「せや。それがどないしたんや」

 

「いや、お前の質問に答えようと思ってな」

 

そこで俺は一回区切り、その答えを言う。

 

「俺がボスのソードスキルを公表しなかったのは簡単だ。聞かれなかったからだよ」

 

『………』

 

俺の言った答えに、一同騒然とした。

 

「そ、そんなんただの屁理屈やないか!」

 

「そうだ。だが事実でもある。それにこの世界での情報はそのまま自分の生命線にもつながりかねない。それは今回の事でも分かっただろう。それに自分の生命線を易々と人に教える事はこの世界じゃ自殺行為だ」

 

「せやからって、ジブンはジブンが良ければいいんか」

 

俺の自分本位な考えにキバオウは案の定食って掛かった。此処までは俺の狙い通り、この場の視線を俺に向けることが出来た。そして次だ。これをやると優良が悲しむかもしれない。だが彼女が直接傷つけられるよりはマシだ!

 

「そうは言ってない。その証拠にちゃんと助けただろう。それに俺をそこらのβテスターと一緒にしてもらっては困る」

 

俺はそこで一回区切る。

 

「SAOのβテスターの殆どがレベルの上げ方も知らない素人同然だった。だが俺は違う。俺はβテスト時代他の誰も到達できない層まで到達した。ボスの刀スキルを知っていたのはずっと上の層で刀スキルを使うモンスターと戦った事があるからだ」

 

俺のセリフに唖然としているキバオウたちを無視して俺は更に続ける。

 

「他にも色々知ってるぞ。情報屋なんて目じゃないくらいなぁ」

 

「そ、そんなんβテスターどころの騒ぎやないやん。チートやチート! チーターやん‼」

 

「βのチーター……ビーターだ!」

 

キバオウのパーティーの一人が言った「ビーター」という言葉が広まり、カユラ達以外の攻略レイドの面々が俺をビーターと言って罵った。

 

「……ビーター。良い呼び名だなそれ」

 

俺はそう言うと同時にアイテムウィンドウを操作して、先程のボスのLA(ラストアタックボーナスの略称)のアイテムを装備する。すると、真っ黒なロングコートが装備された。LAは同時攻撃の場合はその攻撃をしたプレイヤー全員に与えられるようになっているから、恐らくカユラもこのコートを持っているだろう。

 

「そうだ俺はビーターだ。これからは元テスターごときとは一緒にしないでくれ」

 

俺はそう言うと呆然としている面々を無視して第二層へと続く扉へと歩いて行く。

 

「転移門のアクティベートはしといてやる。ついて来てもいいが、ここを出てから街までは少し歩くから犬死したいやつだけついて来るんだな」

 

後ろを見ずに一方的に言う。

 

「な、何やジブン等何でそないな奴に付いて行くんや!」

 

後ろでキバオウのそんな叫びが聞こえてきた。気になって踵を返して後ろを振り向くと、俺の方へ歩いて来ているカユラ、ヒースクリフ、エギル、リズ、シリカ、アルゴ、アスナ、ルル、PoH、ジョニー、ザザが見えた。

彼らは俺が見ているのに気が付くとそれぞれ暖かな笑みを浮かべた。そして全員が俺と並び立つ位置まで来ると、俺と同じように踵を返して攻略レイドの面々と向き合う。そして俺の横に立っていたカユラが代表して先程のキバオウの質問に答えた。

 

「私達は私達の意思でキリトに付いて行く。例え彼がビーターだろうと私達のリーダー彼だから」

 

凛としていて気高く振舞いながらそう言った彼女は、とても美しかった。小さい時から彼女を見慣れていた俺が見惚れるほどに。

 

「それに他の皆は違うけど私もビーターよ。ビーターはビーター同士お似合いでしょ」

 

最後の一言は俺の方を向き微笑みながら言ってきた。俺はそれに仕方ないな、といった感じの笑みを返す。

そして俺とカユラは手を繋ぎ、後ろで呆然としている奴らを無視して、皆と並んで第一層ボス部屋を後にした。




感想・評価・誤字脱字の指摘を待っています。
今回は私の独自解釈やオリジナル設定があるかもしれません。それらと原作との矛盾もありましたら指摘をお願いします。
次回はもう少し早く仕上げられるようにします。


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告白

久々の投稿です。
それと活動報告で言った通り、バカテスの最新話を削除して今新しいのを書いています。
これからもよろしくお願いします。


それと今回初めて本文の文字数が一万字を超えました(嬉)!
何気に最高記録も更新です。


 告白

 

 

 

 

 次の改装に続く扉に向かって歩くキリト達を、第一層フロアボス攻略レイドの面々は呆然と見つめていた。そしてその中でも、一番入り口に近いプレイヤーは一人ポツリと周囲の誰にも聞こえない程の声音で呟いた。

 

「さあ、ここからが始まりよ。頑張ってね主人公(ヒーロー)

 

 そう呟くと、そのプレイヤーは空気に融けるようにして人知れず消えた。

 

 

 

 

 

 第二層の転移門のアクティベートを済ませたキリト達は、人数分より一つ少ない部屋数がある宿を貸切にして、その宿の一階にある食堂でささやかな第一層突破記念パーティーをしていた。

 

「それじゃあ全員無事に第一層を攻略できたという事で……カンパーイ!」

 

『カンパーイ!』

 

 慣れない事をしている自覚があるキリトは、顔を赤くしながらも持ているコップを掲げた。そして全員で囲んでいるテーブルの中心辺りで、それぞれのコップがぶつかり合いカチャンをいう音が鳴る。そしてそれぞれが思い思いにテーブルの上に並べられた料理を食べて行く。

 まだ第二層である為、料理はお世辞にもおいしいとも不味いともいえない微妙な味ではあったが、彼らはそんな事は気にせずに食べていく。

 

「この後はどうすんだ」

 

 酒(らしきもの)を呑みながらキリトに尋ねたエギル。

 

「さっきちょっとアルゴとカユラと話したんだが、少し休憩して満腹感が薄れたら、東の端に一際高くそびえる岩山の頂上近くで習得できるっていう”体術”スキルを取りに行こうって思ってるんだけど……お前らはどうする?」

 

 キリトはさり気なーく自分達の会話を聞いていたアスナ達にも声を掛ける。

 

「え、えーと私も行きたいかな?」

 

「あ、アタシもアタシも」

 

 気まずそうにアスナが、その気まずさを紛らわすようにリズが行く意思を告げ、それに続いてPoh達も参加する意思を見せたので結局みんなで行くことになった。

 

 

 

 

 

「ね、ねぇちょっと休まない?」

 

「そうだな。じゃあそこの安全地帯で一休みするか」

 

 二桁を超える戦闘と永遠に続くかと思うほどの長い洞窟を、圏内から休みなしで進んで来た事により疲れがたまっていたリズが休憩を提案すると、ちょうど近くに安全地帯あったこともありキリト達男性陣もその提案に賛成したので、安全地帯で一休みすることになった。その際男性陣は男性陣、女性陣は女性陣といった感じに分かれて世間話が始まった。

 

「ねえ、カユラ。あんたとキリトとの関係ってさ、実際の所はどうなの?」

 

「あ、それは私も気になります」

 

「実はもう付き合ってたりして」

 

「ええっ⁉ そうなんですか⁉」

 

 ……どうしよう私まだ何も答えてないのに話が勝手に進んでしまっている。

 それにしても和君との関係かぁ~………やっぱり幼馴染が今の所一番適切かなぁ。本当はこ、恋人同士になれたらなぁ~と思うけど、男子の精神面の成長は一般的には女子より遅いから、恐らく和君もその例に漏れていないから今こ、告白しても和君が困っちゃうだろうし……う~ん、前途多難だ。

 

「で、結局のところはどうなのかしら?」

 

 いつまでも私が黙っていたのでじれったくなった皆を代表してルルが改めて聴いて来た。

 そういえばルルは、自己紹介の時の様な丁寧な感じの敬語から親しみやすいタメ口にいつの間にか口調が変わっていた。それが彼女との距離が少し近づいた気がしてちょっぴりうれしくなった。

 

「う~ん? 幼馴染、で会ってると思う」

 

『ええっ⁉』

 

 ……正直に言ったのに驚かれた。しかもみんなの声が大きかったから男性陣が何事かといった風にこっち見てるし。

 

「ちょっとカユラ、嘘はいけないわよ嘘はっ‼」

 

「そうですよカユラさん。毎晩一緒に寝てるのに恋人じゃないってことはないじゃないですか」

 

「ええっ⁉ 二人って毎晩一緒に寝てるの⁉」

 

「いや違うからね。一緒の部屋って意味だから。決してアスナが考えている様に一緒のベットって意味じゃないから」

 

 はい、嘘つきました私。実は数日に一度はキリ君と一緒のベットで寝ています。いや、別に深い意味なんてありませんよ?

 因みに一緒に寝ている理由としては、あっちの世界からの習慣とでも言っておきましょうか。私とキリ君が小さい時に今の私とキリ君との関係になるきっかけの事件がありまして、その事件の後しばらく私は情緒不安になっていました。そしてその間はなかなか寝付けなかったので、キリ君を抱き枕代わりに抱き着いて寝ていたんですが、抱き心地は良いし温かいしですっかり私はキリ君の魅力にハマってしまいまして、それ以降も余程のことが無い限りはほぼ毎晩キリ君に抱き着いて寝ていた私です。まあ流石に小学校高学年になった頃からはキリ君にも羞恥心というものが出て来たようで、「ちょっと遠慮してくれ」と言われたので数日に一回まで回数を減らしましたが。

 仮想世界の中では温もりとかは再現されませんが、小さい頃からの習慣という事で今でも数日に一回は一緒に寝ているという訳です。

 

「ふ~ん、本当にそうなのかしら?」

 

 ルルが含みのある顔で私のことを見ながら聞いてきますが無視です。こういう顔の人には関わるとろくな事がありません。

 

「あ、じゃあさあキリトにも聞いてみようよ」

 

「ちょっ」

 

 リズの言葉の意味を素早く理解し止めに入ろうとするが、

 

「まあまあ、別に減るもんじゃないしいいじゃない」

 

「そうよ。こういう時女はドッシリと構えているものよ」

 

 両側からアスナとルルに抑えられてリズを止める事が出来ませんでした。まあ抑えられなかったとしてもタイミング的に間に合ったのか微妙ですけど。

 

「おいおい何やってるんだよ」

 

 そんな事を思っている間にキリ君が来てしまいました。

 クソッ、どうする?

 

 一、キリ君に色仕掛けして言わせないようにする

 

 二、悪あがきをする

 

 三、諦める

 

 これしか選択肢が無い……だと⁉

 取り敢えず一は却下。そんな事をすればレイドパーティーにレアアイテムを放り込むようなもの。たちまち場が盛り上がってしまう上に、これから先私(と多分キリ君)はその事でみんなにからかい続けられるでしょう。

 という事で、

 

「リズベットさん? 後生ですからキリ」

 

「ズバリ、あんたとカユラの関係ってどうなのよ」

 

 選択肢二……失敗。クソぅ、こうなったらキリ君頼みです。

 

「……!」

 

 私達の状況を一瞥した後何かを思いついたような顔をした後彼は口を開きました。

 

「俺は何があってもちゃんと(・・・・)守りたい存在だと思っている」

 

『………』

 

「あ、あれ?」

 

 まさかの答えに私以外の女性陣は驚愕した。恐らく兄妹とかそんな関係が出て来ると思ったのだろう。

 かくいう私の頭は、

 

 どうしようもないほど冷静になっていた。

 

 先程のキリ君の言葉は普通の男子が女子に言ったならロマンチックな言葉だっただろう。場合によってはプロポーズになっていたかもしれない。

 だが、キリ君の場合は過去への執着や後悔、自分への戒めといった意味を含んでいる。もしかしたら別な意味も含んでいるかもしれないけど、あの事件があった後キリ君が私に初めてその言葉を言った後は今言ったような意味が含まれていた。

 そして私はその言葉をキリ君の口から聞くたびに後悔と不甲斐無さが心の中で渦巻き、そしてもう二度とあんな出来事は起こさないという誓いを再認識させられる。

 

「……え……っと、それは本当なの? キリト君」

 

「ああ、この想いだけはいつまでたっても変わらないさ」

 

 はかなげな顔をして私の方を見ながら言ってきたキリ君の顔を見た瞬間、私はどうして彼に告白しないのかその本当の理由が分かったような気がした。

 

 結局怖いのだ私は。あの時のようなことが起こるのが。

 

 あの事件は私の所為で起きたものだった。そしてキリ君はそれに巻き込まれて、未だに消えない傷をその背中に負っている。SAOは妙な所でリアリティがあるから、恐らく”全武装解除”のボタンを押して、裸になったキリ君の背中を見たら今でもある筈だ。その時の傷が。

 もし私がキリ君に告白をしてキリ君がそれを受け入れたら、キリ君と私の距離はあの時以上に近くなる。あの時でさえキリ君はシャレにならない怪我を負ったのに、その時以上にキリ君と私の距離が縮まったら今度は命さえも危ないかもしれない。そうなるのが怖いから私は告白しないのだと思う。多分、いやきっとキリ君は私の事を受け入れてくれると思うから。

 

「そ、そんな事よりそろそろ移動を再開しよう」

 

 先程までの言葉を思い返して、恥ずかしくなったのか彼は私達から顔を背けるようにしながら言い放った。

 

「そうですね。そうしましょっか」

 

「そうね」

 

 私がルルとアスナに捕まったあたりから、ずっとオロオロしていたシリカちゃんがキリ君の意見に同意し立ち上がる。

 そしてそれに続くようにしてルルも立ち上がった。向こうでは男性陣はもう既に移動する準備が整いつつあった。

 

「それじゃあ行くか」

 

 キリ君はそう言って男性陣がいる前衛へと戻っていった。そしてどうやらそこで先程の事についてからかわれているようだ。

 

「それでどうだったの?」

 

「そうそうどうだったんダ?」

 

「何が?」

 

 アスナとリズとシリカちゃんの数歩後ろに居た私の横に、アルゴとルルが来てそう問いかけて来た。

 

「またまた~、恍けちゃって~」

 

「さっきキー坊にあの騎士が御姫様に言うような言葉を言われた時、どう思ったかに決まってるだロ」

 

 ああ、その事か。

 

「再認識させられたよ。キリ君と私はこのままの関係と距離がちょうどいいって」

 

 そうこのままの関係と距離なら、キリ君も酷い事には合わないだろうし私もキリ君の傍に、幼馴染としてだけど居られる。この関係がちょうどいいのだ。

 それに私は、その”騎士とお姫様の関係”が嫌いだ。別に他の人達がその関係ならばなんら問題はない。寧ろ素敵な関係だね、と言ったような言葉を贈るかもしれない。

 だがその関係が私とキリ君の関係を表すものとして使われるのは酷く嫌だった。

 お伽噺や物語などではパッピーエンドを迎える騎士とお姫様の関係だが、現実はそう甘くなくどれも悲惨な最後を送っている。かの円卓の騎士の一人である湖の騎士ランスロットとアーサー王の王妃ギネヴィア叱り、愛の黒子ディルムッド・オディナとエリンの王女グラニア叱り。

 だから私は、”守られるだけのお姫様”から”隣で一緒に戦う相棒(パートナー)”になる為に戦う術を欲した。キリ君の隣に立つために。

 

「ふ~ん」

 

「まあ、カユラっちがそう言うならいいんダ」

 

 私の言葉に納得がいかないような二人だけど、それ以降は深く追求せず攻略の事等ありきたりな話しかしなかった。

 

 

 

 

 

「や、やっと着いた~」

 

「疲れました~」

 

 ”体術スキル”を獲得できるクエストを、受ける事が出来る小屋の前に着いた瞬間リズとシリカちゃん。

 あんまり戦闘に参加しておらず、もっぱらサポートがメインの二人だったけどずっとあたりを警戒しながら進んできたから疲れたみたい。

 そして私達は小屋の前にある大きな岩がゴロゴロ転がっている場所で、ちょっと休憩した後小屋に皆で足を踏み入れた。

 

「入門希望者か?」

 

「……ああ」

 

 代表して、と言うよりこの手のクエストは一人ずつしか受けられないので、まず一番最初に事前に決めていた順番に従ってキリ君がオッサンの問いに答えた。

 

「修行の道は長く険しいぞ?」

 

「受けて立つ」

 

 短い問答を終えた後オッサンの頭の上にあった!マークが?マークに変わった。そして小屋を出て行くオッサンの後に皆で付いて行った。

 オッサンが向かったのは先程まで私達が休んでいた場所にあった大岩の一つ。

 

「汝にはこの岩を両の拳だけで割ってもらう」

 

「………」

 

 オッサンにそう言われると、無言でその大岩をノックするように叩いて何かを確かめるキリ君。その後一度頷いた彼はオッサンに向き直って、

 

「うん。無理」

 

「それでは汝には弟子である証を立ててもらうぞ」

 

 しかしオッサンはキリ君の言葉を無視して、着ていた道着の胸元から小型のツボと太くて立派な筆を取り出した。

 

「え、ちょっ⁉ ま」

 

 これからオッサンがやる事が安易に予想できた私達。勿論キリ君もその一人で、彼は制止の声を上げようとしたけどオッサンンはその言葉の途中で、見事な筆さばきを私達に見せてくれた。

 

「のわっ⁉」

 

 髭書きが終わった瞬間にちょうど此方を向いたキリ君。

 

『………』

 

 そのまま無言で見つめ合う私達とキリ君。

 

『プッ……ククッ……アッハハハハ‼』

 

「わ、笑うなよっ! てか、皆も早くクエストを受けろよっ!」

 

 私達に笑われて恥ずかしくなったキリ君は、オッサンが消えていった小屋を刺しながらそう言う。

 

「や、やっぱり私遠慮しようかな~」

 

「そ、そうですね。私もそうしときます」

 

「あら、でももしもの時の為には取っておいて損はないんじゃない?」

 

 キリ君と同じ目に遭うのは避けたかったリズとシリカちゃんは、辞退しようとしたけどルルにそう言われたのと二人以外の皆が受けることを決めたので、仕方なく二人もクエストを受けることにした。

 

 

 

 

 

 クエストを始めてから六時間以上たった現在、皆は一人の例外もなく地面に横たわっているかしゃがんでいた。此処に来た時はお昼前だったのだが今ではすっかり日も落ちかけている。途中でお昼休憩を取ったものの、やはり皆永遠と大岩を殴るだけの作業は退屈で疲れたようだ。

 

「あ~、お腹減った~」

 

「私もです~」

 

 外見など気にも留めずに地面に倒れているリズとシリカちゃんがそう言った。

 

「はいはい、今準備するから待ってて」

 

 そう言いながら私はウィンドウを操作して、今朝作っておいたおにぎりの入ったバスケットを取り出す。視界の端ではアスナもおんなじ様な大きさのバスケットを取り出していた。

 

「せーの」

 

『いっただっきまーす』

 

 皆で声をそろえてそう言った後、キリ君とリズが素早く手を伸ばしておにぎりを取り勢いよく食べ始めた。そしてそれに続くようにして他の皆もおにぎりを食べ始める。

 

「おっ、これは鮭モドキね」

 

「あうぅ、すっぱいですぅ」

 

「Oh、これは肉団子モドキか? 中々uniqueな中身じゃねえか」

 

「明太子こそ、おにぎりの、定番」

 

「はぁ~? 何言ってんだよぅザザ。シーチキンこそざ最強だぜぇ」

 

「へえ、これは中々斬新な味だな。向こうに戻ったらおにぎりもメニューに入れてみるか」

 

「むぅ、何故ラーメンが無いのだ」

 

「いや、普通はこういう場面ではラーメンは出ないと思うけど」

 

「あ、これ物は試しにってやった奴だけど意外とイケるね。次はどんなのにしよっか?」

 

「う~ん? 意外と木の実系もイケるんじゃない?」

 

 そんな会話を私達はしながら私達は楽しい時間を過ごした。

 そして楽しい時間が終わり、皆でこの場所で野宿することになったのでアイテムストレージからそれぞれ寝袋を出していたのだが問題が起きた。

 

「一、二、三、…………。ふむ、一個足りないな」

 

 そう寝袋が一個足りなかったのだ。

 

「そして寝袋のうち一つは、図ったかのように二人用の寝袋だしね」

 

「じゃあカユラっちとキー坊が一緒に寝ればいいんじゃねえカ?」

 

「あ、それは良いわね」

 

「ちょ、ちょっと二人とも⁉ そんなの絶対だめよ‼」

 

「リズの言うとうりですよ。そんなの絶対ダメです!」

 

 アルゴとルルの意見にアスナとリズが猛反対している。

 

「いや……私は別にキリ君とで大丈夫なんだけど」

 

「そうだな。俺も別に問題ない」

 

「全然大丈夫じゃないよカユラ⁉ 男は皆狼なんだよ? 一緒に寝てて襲われたらどうすんの?」

 

「いや襲う訳無いだろ。……襲いたい襲いたくないで言ったら襲いたいが」

 

 ? 最後に何言ってたのかは聞こえなかったけど、……そっかぁキリ君は私を襲わないのかぁ。ちょっとショックだなぁ~。

 

「別に大丈夫だよアスナ。それに私キリ君になら襲われてもいいし」

 

『なっ⁉』

 

「えっ⁉」

 

「AHAHAHAHA~」

 

「羨ましい」

 

「だよなぁ~」

 

「ニャハハハハ」

 

「ほう」

 

「程々にな」

 

「フフ、じゃあカユラちゃんとキリト君は一緒の寝袋で寝るってことで」

 

 ルルがそう〆て私達は眠りのついた。

 ところでキリ君が私の発言の後に、何やら葛藤してたけど、どうしたんだろう?

 

 

 

 

 

「?」

 

 意識が半分以上覚醒していなくて目も開いていない私は、外部からの突然の外部からの刺激にその閉じていた目を開けた。そして目ぼけ(まなこ)でウィンドウを開き時刻を確認すると、まだ日付が変わってから一時間も経っていなかった。つまり寝てから三時間とちょっとしか経っていない。

 明けた瞳に最初に入って来たのは綺麗な星空。普通なら次の層の底が見えるはずだが、『夜にダイブした人が夜空を見れないのはおかしい』という私の意見により、各階層の何処から見上げても昼には空と太陽が、夜には月と星が見える仕様にしてある。

 

 ドッ! ガッ!

 

 なにやら音が聞こえたので其方を向いてみる。

 

「何やってるの? キリ君」

 

 そこには何時ものコートだけを脱いだ姿のキリ君がいた。一度自分の隣を確認してみると、そこにはキリ君の姿は無かった。普通なら起きた段階で気付くと思うが、私は意識が覚醒しなさすぎて気付けなかったようだ。もしくは、確認するまでもなくキリ君がそこに居ると思っていたのか。

 

「ん? ああカユラか。悪い起こしちゃったか?」

 

「うんん、大丈夫。それより何やってるの?」

 

「早くこれを落としたかったからな。岩殴ってた」

 

 そう言いながら自身の頬を指さすキリ君。暗くて良く分からないがそこには昼間にあのオッサンNPCから書かれた髭があるだろう。結構似合ってて可愛いと思うけどなぁ~。

 

「そう言ってくれるのはカユラだけだよ」

 

「えっ、今の声に出してた?」

 

「いや。でもなんとなくカユラの考えている事は分かるよ」

 

「……ぅぁ」

 

 そう言われて、私の顔は朱に染まった。起きて数分の私でさえすでに夜目が聞いて来てるので、それより前に起きていたキリ君に確実に私の顔が見えていて、それが朱に染まっている事に気づいているだろう。

 ……考えたら余計恥ずかしくなってきた。

 

「おい、boy&girl。イチャイチャするのはいいが俺達もいる事を忘れるなよ」

 

 声のした方を向いてみると、アスナ、リズ、シリカ以外のみんなが居た。

 

「皆もキリ君と同じ?」

 

「ああ、我々も早くこれを取りたいからね」

 

「何で?」

 

「………」

 

 私がそう問いかけると、ヒースクリフは黙ってしまった。

 

「嬢ちゃんたちやキリトみたいな歳の子や、女性であるルルなんかは付けていてもまだ大丈夫だろうが、俺達は精神的にも見た目的にもきついものがあるからなぁ。だから早く取りてんだ」

 

 黙ってしまったヒースクリフの代わりにエギルが答えてくれた。

 まあ、確かにその理由ならば納得出きる。二十歳超えた成人男子が御髭付けてるとか、何の罰ゲームだよって思うし。

 

「じゃあなんでキリ君とルルは急いでるの? 別に二人ならビジュアル的にも大丈夫でしょ」

 

「……恥ずかしいからだよ」

 

「私はただ目が覚めちゃってやることが無いからやっていただけよ」

 

「だがそろそろ休むとしよう」

 

 ヒースクリフの言葉で立っていた皆が、アスナやリズやシリカがいる所からは少し離れた場所に円になって座った。彼女達を起こすと悪いという事で、火は焚かないでおいてある。

 

「なあ、Mr.茅場」

 

「は?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「はぁ?」

 

『………』

 

 突然のPoHの問いかけに私とキリ君とヒースクリフ以外の面々が驚く。

 

「参考までに何でそう思ったのか聞いてもいいかね?」

 

 いや兄さん、それはもう認めちゃってるようなもんだと思うんですけど。

 

「なにとってもeasyなことだ。お前はβテスターじゃないってフロイラインルルに言ったんだろう?」

 

「確かに言ったが……」

 

「なのにあんたはテスターであったアルゴやキリトたちの話に何の不自由も無くついていってやがる。もしお前の『テスターでない』という発言を信じるならば、テスターでもないのに話についていけるお前は運営側の人間ってことになる」

 

「だがそれだけでは私が茅場晶彦というにはちょっとばかり弱いんじゃないのかね?」

 

 確かに兄さんの言う通りだ。

 

「いやそれだけあればsufficient。ある雑誌に因れば茅場晶彦はquestやmonsterの強さの設定、更にはitemの設定を全部自分一人でやったらしい。そしてお前は情報屋であるアルゴよりもquestやitemに詳しかった」

 

「………」

 

 PoHの証明に兄さんは只々黙って聞いている。

 

「運営側の人間でquestやitemに詳しい人物となると茅場晶彦唯一人だ。よってお前は茅場晶彦となるが、どうだ? 俺の推理は間違っているか?」

 

 ……すごい。只々そう思った。

 日々の細やかな情報を見逃さず、冷静に情報を分析するという意外と簡単にはできない事が平然と出来ている。

 現実(リアル)では何をやってたんだろう?

 

「……ふむ、中々いい推理力だ」

 

「てことは認めるのか? 自分が茅場晶彦だってことを」

 

「ああ、認めよう。ここまで立派な推理をされても足掻くほど、私は往生際が悪くはないよ」

 

 遂に兄さんが認めた!

 

『⁉』

 

 それにより私とキリ君以外の皆が驚愕する。

 

「………」

 

「………」

 

 私達はどうしよう、といった思いでキリ君を見ると彼は大丈夫と言いたげな笑みを向けて来た。それだけで私の中に在った不安が軽減された気がした。

 

「……それで、ヒースクリフの正体が茅場晶彦だと分かっても、ショックを受けなかった二人はもうsubgroundquestをclearしてるってことでいいのか?」

 

 PoHの話しの矛先が今度は私とキリ君に向いた。

 私は思わず隣に居たキリ君の手を強く握る。それにキリ君はただ黙って痛くない位の強さで強く握り返してくれた。

 だから私はキリ君に任せることにする。キリ君が選択したことなら私は文句を言わない。

 私はキリ君に付いて行くと決めているから。

 

「……俺は、いや俺達は確かにサブグラウンドクエストをクリアした」

 

 キリ君はそこで一旦言葉を切った。多分その先を言うかどうか迷っているのだろう。

 

「そして俺とカユラは……運営側の人間だ」

 

『⁉』

 

 遂に言った。

 

「いや、いくらなんでもそれは無いだろ」

 

「そうよキリト君。いくら何でも君たちが運営側の人間ってのはあり得ないわ」

 

 すぐさまエギルとルルが否定してきた。まあそう言いたくなるのも無理もないと思う。

 私とキリ君は見た目が中学生———良くて高校生にしか見えない。そんな子供が『私がフルダイブゲームの開発に協力しました』と言っても誰も相手にしないだろう。

 

「キリト君の言っている事は本当だ。そして改めて自己紹介をしよう。私が茅場晶彦だ。そしてこっちの二人は”ソードアート・オンライン”を開発するにあたって私の助手をしていた、桐ヶ谷和人君と私の妹でもある茅場優良君だ」

 

『⁉』

 

 兄さんの改めての自己紹介にまた皆に衝撃が走った。それは恐らく私達が助手だったという事と、私と兄さんが兄妹だったという事に対してだろう。

 

「んじゃ俺も改めまして。キリトこと桐ヶ谷和人だ」

 

「カユラこと茅場優良です」

 

「へぇ、Mr.は本物のシスコンだったってわけか」

 

「私としてはそんな自覚は無いのだがね」

 

 PoHの冷やかしに兄さんは苦笑しながら答える。

 

「待て。カユラが茅場晶彦の、妹という事は分かった。だが、何故茅場晶彦と、全く関係なさそうな、キリトまで開発に、参加していた?」

 

「私達の家は元々隣同士でね。そして和人君は元々コンピューター関係の才能があった。だからそれに目を付けた私が彼をスカウトしたという訳だ」

 

 その後も皆の質問には基本的には兄さんが答えた。私と和君は偶に兄さんの答えを補足していただけ。

 そして私達三人が現実(リアル)での名前を言ったのだから、自分たちもという事になり彼らの自己紹介が始まった。

 

「改めまして。ザザこと、新川昌一だ」

 

「ジョニー・ブラックこと金本敦だよぉ~」

 

「エギルことアンドリュー・ギルバート・ミルズだ。改めてよろしくな」

 

「アルゴこと八夏香夜八夏香夜(はつかかや)ダ。改めてよろしくナ」

 

「ルルこと流郷瑠璃(るいごうるり)よ。これからもよろしくね」

 

「PoHこと藤原北斗だ」

 

「お前日本人だったのか。てっきり在日外国人だと思ってたんだが……」

 

 まさかのPoHの自己紹介に和君がそう漏らした。かくいう私も驚いていた。堀の深い顔立ちに霞がかった金髪というPoHの外見はどっからどう見ても外国人のそれだ。というよりそんな外見で日本人って……詐欺じゃない?

 

「祖母がイギリス人でな。俺のこの外見は隔世遺伝によるものだ」

 

 へぇ~、隔世遺伝ってそんな風にも遺伝するんだ~。

 

「それより俺へのquestionはそこまでにして、これからの事をどうするか離さなくていいのか?」

 

 PoHの提案も尤もだと思った私達は、まだまだ現実でに事で話したいことはそれぞれあったものの、それらを中断してこれからの事について話し始める。

 

「アスナとリズとシリカには話すの?」

 

 何をが抜けているがそれを言わなくても問いかけた相手には何ら問題はないだろう。

 

「よっぽどのことが無い限り話さなくていいだろう。彼女達は恐らく中学生くらいだ。そのくらいの子供は秘密をうっかりと話してしまう事が多い。それにリズベット君はおしゃべり好きの様だしね」

 

 ヒースクリフの最後の一言に皆が苦笑いする。

 

「俺とカユラは?」

 

「君たちは明らかに同世代の中では異質だし、二人とも特にキリト君は他人とコミュニケーションを積極的に取りたがらないから問題ないだろう」

 

 あ、ヒースクリフがナチュラルにキリ君をディスった。

 

「おい、俺をナチュラルにディスるのやめろ」

 

「だが事実だろう?」

 

「………」

 

 その後さっき決めたこと以外にも色々と決めた後、私とキリ君は流石にもう遅いのと明日に響くという事で寝ることをみんなに勧められた。他の皆はまだ大岩を割るって言ってたけど。

 そして私は隣に居るキリ君と向い合せになって一つの寝袋で寝た。うん、これなら幸せな夢が見れそう。

 そして私の意識は闇に沈んでいった。




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新スキル獲得と将軍

どうも~、遅くなりました。隆斗です。
今回の話の前半は前回の続きで、後半は第二層フロアボス戦の前編です。
そして実は私、最近新作のアイディアばっかり出てきて今書いてるやつの続編が全く思いつかないんですよ。
具体的には
・ZEROのサーヴァントが”桐ヶ谷和人””兵藤一誠””ネギ・スプリングフィールド””奴良リクオ””司波達也””織斑一夏””エミヤシロウ”だったら(恋愛無しの予定)
・D×Dにヴァーリ以外にも”奇跡の事例”がいたら(女オリ主もの)
・魔改造されたネギ×エヴァ(一途もの)
・原型が残っていない明久(オリ久)×八雲紫(一途もの)
・もしも幻想郷に他の世界の主人公たちが幻想入りしたら(一途もの)
・『魔法科学校の劣等生』の司波達也を幸せにしてみた(一途もの)
等々です。
まあ、かく予定はありませんが。

取り敢えず最新話です。ゆっくりしていってね。


 新スキル獲得と将軍

 

 

 

 

 

 翌日、私は予めセットしていた目覚ましの穏やかなメロディーで起こされた。

 只今の時刻は午前五時。

 かなり早起きな方だとは思うが、現実(リアル)ではいつも早起きして茅桐(ちぎり)流の型の練習や、軽いジョギングをキリ君とほぼ毎日していたので私にとってはこれが普通だ。

 

「さて、そのキリ君はというと……」

 

 腕の中(・・・)にいるキリ君を見下ろしてみる。昨晩(日にち的には今日だが)寝始めた時は、私がキリ君の腕の中に居たけどどうやら寝ている間に立場が逆転したらしい。そして現在は私にとってはそれだけでは済まされない状況だった。それはどういう事かと言うと、キリ君の顔が私の同世代の子たちより成長著しい胸に埋まっていたのだ。

 う~、嬉しいような恥ずかしいようなちょっと複雑な気持ちだ。

 

「や、やっと起きたのか。カユラ」

 

「ちょっき、キリ君⁉ どうしたの⁉」

 

 私がキリ君を抱き締めていた腕が緩むと、キリ君はすぐさま距離を取った。といっても寝袋の中だから未だに結構近いけど。そして顔を上げたキリ君の顔はくまこそない(アバターだから当然ともいえる)ものの、雰囲気がとてもゲッソリとしていて何処かやつれて見えるキリ君だった。

 

「……いや、ちょっと考え事してたら寝れなかっただけだから気にすんな。………言えない。まさか抱き付いていたカユラの身体の柔らかさにドギマギしてたなんて。絶対言えるか」

 

「? そう? でもあんまり無理しないでね」

 

「ああ、分かってる」

 

 後の方はものすごい小さい声だったから聞こえなかったけど、キリ君が顔を赤くしていたから恥ずかしい内容だったのかな? だったら聞かない方がいいね。

 それにしても……キリ君は私に欲情しないのかな? 一緒に寝られるのはもちろんうれしいけど、何もされないとそれはそれで私魅力ないのかな? って思っちゃってちょっと傷つくかも。全く久しぶり———と言うよりSAO(こっち)に来てからは初めての”抱き合いながらの就寝”なんだから少しは何かあってもいいと思うんだけどな~。

 

「型の練習とクエスト……どっちやる?」

 

「クエストだな。これを早く落としたいし」

 

 気持ちを切り替えてキリ君に問いかけると、予想通りの返答が返ってきた。

 

「年上組はどうしたのかな?」

 

 キリ君の方を向いたまま上体を起こす。

 

「もうみんな終わったみたいだぞ。ほら」

 

 そう言ってキリ君が私の後ろを指さすので、つられて其方を向いてみると大の字だったりたくさんある大岩の一つによりかかったりして寝ているみんなが居た。そしてその顔には誰一人として御髭は無かった。

 ちなみにアスナとリズとシリカは相変わらず寝袋の中で夢の中だよ。

 

「じゃあ私達も始めよっか」

 

「おう」

 

 寝て凝り固まった体をストレッチして(バーチャルの中なのでする必要はないが、そこは癖だ)ほぐしながら私とキリ君は自分達の担当の大岩まで歩いて行った。

 

 

 

 

 

「これで、ラストォォ!」

 

 キリ君のそんな叫びと共に彼の右ストレートが彼の目の前の大岩に吸い込まれていった。

 

 ガッ! ドゴォン!

 

 そんな音と共にキリ君の目の前の大岩は砕ける。

 

「それじゃあ私……もっ!」

 

 何となくキリ君と一緒の終わり方だと味気ないと思った私は、右足で上段蹴り(といっても高さは私の肩くらい)を目の前の大岩に叩き込んだ。

 

 ガン! ガラガラガラッ!

 

 結構大きな音を立てて目の前の大岩話崩れ落ちた。

 

「ふむ、これでキリト君とカユラ君もクリアだな」

 

「後残って、いるのは、アスナとリズ、そしてシリカだけ」

 

「やぁ~い、ノロマぁ~」

 

「うっさいわよジョニー! 少し黙っていなさい!」

 

 からかうジョニーをリズが怒鳴っているが、彼は尚もからかい続ける。リズを集中攻撃で。

 

「よくやった。汝はもう免許皆伝だ。私から教える事は何もない」

 

 二人のやり取りに気を取られていると、いつの間にかあのオッサンNPCがキリ君の前に立っていた。

 

「それでは”証”を消すとしよう」

 

 オッサンのそのセリフにキリ君が、安堵のため息を吐いた。恐らくクエストをクリアしても御髭が取れなかったらどうしよう、という要らぬ心配をしていたのだろう。

 

 ガシッ! ガシッ!

 

「……え?」

 

 そんなキリ君の両肩を左からはエギルが、右からはPoHがガッシリと拘束してキリ君が動けないようにする。

 

「ちょ、おい! 離せよお前らっ!」

 

「まあまあそう暴れんなって、キリト」

 

「Don'tworry。直ぐに終わる」

 

 二人はそう言いながら”いい笑顔”でキリ君を抑えつずける。

 そしてそれらを気にせずにオッサンは懐からボロボロの布きれを取り出した。そしてそれをキリ君の顔に近づけていく。

 

「えっ、ちょっ、まっ……」

 

 ギャァァァァァァァ‼

 

 この日アインクラットに一人の少年剣士の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 私とキリ君がクエストをクリアした翌日にリズとシリカもクリアした。因みに女性陣が顔の御髭を取る時は、綺麗なハンカチが渡されて自分で取った。

 そしてその日中に圏内に戻ることをリズとシリカの二人が嫌がったので、その翌日である今日圏内に戻って来た。

 その間のリズとシリカ以外の面々は直ぐに戻ってこれる範囲内のモンスターを狩っていたり、ソードスキルの熟練度上げ(とストレス発散)の為にNPCから買った消耗品の装備に切り替えてひたすら大岩にソードスキルを叩き込んだりしていた。

 

「あとちょっとでお昼か……。どうする? 先にお昼にするか? それともちょっと攻略してから昼にするか?」

 

 ウィンドウを出して時間を確認していたキリ君がみんなに問いかける。

 

「アタシはお昼食べてからにするわ。もうここまで来るのでヘトヘトだし……」

 

「私もリズさんと一緒で……」

 

「じゃあ私はちょっと用事があるから午後は別行動で」

 

「俺も午後は店の準備をしなきゃならんから別行動だ」

 

「じゃあオレとザザとジョニーはgirlsと一緒にlunchにするか」

 

「腹が、減った」

 

「ヨッシャァ、お昼だぜぇ~」

 

「アルゴはどうする?」

 

 そう言ってキリ君は先程までアルゴがいた所を見るが、そこにはもう彼女の姿は無かった。

 

「アルゴならさっき私に『オレっちは三日間サボっていた情報収集に言って来るから、今日一日は完全別行動ダ』って言って行っちゃったよ」

 

「じゃあアルゴはそれで良いか……。それで、カユラとヒースクリフはどうする?」

 

 キリ君が今度は私とヒースクリフに聞いて来た。

 

「私は別に腹も減っていないので攻略でも構わないが」

 

「私も今は空腹感はないから別にいいけど………キリ君はどうするの?」

 

「俺も攻略の方だ。試したいこともあるしな」

 

 全員の意見が出ると自然とそれぞれ一緒に行動をする者達で固まる。エギルとルルは一人だけど。

 

「おいキリト、今ディアベルからメッセージが届いたんだが、どうやらついさっきフィールドボスを倒したらしいぞ」

 

「……お前、いつの間にディアベルとフレンド登録してたんだよ」

 

 呆れたように呟いているキリ君だが、その裏には若干尊敬の念が含まれている。恐らく自然と人とそうやって関係を持つことに対してのだろう。

 

「第一層フロアボス攻略会議の時にだ。此処には名刺が無いからな」

 

 そう言いながら私達を意味あり気にチラッと見るエギル。

 ねえ、何に今のは? もしかしてあれ? 名刺位作っとけよって言いたいの? いや普通作んないからね。別に作らなかった私達が変ってわけじゃないから。

 

「それじゃあ俺とカユラとヒースクリフが攻略で、PoHとおジョニーとザザとシリカとリズが昼飯、エギルとルル後今はもういないけどアルゴが私用って事だな」

 

「うんそれで合ってるよ。じゃあ終わったら宿に集合ね」

 

 アスナがそう締めくくって私達は別れた。

 完璧に余談だけど、私達三人はこの日お昼を取らなかった。

 

 

 

 

 

 

 二日後の午後、私達はフロアボスの扉の前にフロアボス攻略レイドの一員としていた。

 この後全員の装備の確認が済み次第フロアボスの攻略に入る……のだが、

 

「何かみんなの装備のレベルが低くない?」

 

 まあ別に全員が第一層のフロアボス攻略レイドのメンバーと一緒という訳では無いので、一概に全員の装備が低いとは言えないが。だが確実に装備のレベルは低いと私は思う。みんなここに居るという事はそれなりにレベルも高く、そこそこ前線での戦闘も経験しているはずだ。それなのに明らかに装備のレベルが低い。まるで今まで使っていた装備が突然使えなくなったので、ありあわせの装備をしかたなく使っているかのようだ。

 

「確かに低いな」

 

 私の呟きが隣に居たキリ君にも聞こえていたようで、私の呟きに同意の意を示していた。

 

「ああ、どうやら皆武器や防具の強化に失敗したらしいよ」

 

 私とキリ君の呟きに後ろからそう返された。二人してビックリして振り返ってみると、第一層フロアボス戦の時よりも装備が少しばかり良いものになっているディアベルがいた。

 

「どういいう事?」

 

「何でも、ウルバス東広場にいる鍛冶屋に強化をしに言ったらことごとく失敗してあのざまらしいよ」

 

 ? それは鍛冶屋の鍛冶屋スキルが低いの?

 

「その鍛冶屋はまだ鍛冶屋スキルが低かったのか?」

 

 私の言いたかったことをキリ君が代わりに言ってくれた。

 

「いや、俺の見た限りだと”アイアン・ハンマー”を使っていたから、NPCの鍛冶屋よりは高い筈だよ」

 

「じゃあ皆強化素材を持っていかなかったの?」

 

 それなら納得する。

 前線に出る人たちは皆元々性能が良い武器や防具を使うか、強化して性能を上げたものを使う。今はまだ第二層だから余程のレアアイテムでない限り武器や防具の性能はNPCの所で売っているものとドロップ品とではそれほど大きな差はない……ハズだ。だから皆今はまだ武器や防具を強化して性能を上げて使っている可能性が高い。そして強化はすればするほど成功率が低くなる。強化素材を使えば話は別だが、強化素材を使っていなかったら成功率は当然低いままだ。その状態でみんなが強化しに行ったら納得できる。

 

「いや、俺の確認した限りでも四、五人は強化素材を持ち込んでいたよ。上限ギリギリまでかは分からないけどね」

 

 これで強化素材を使っていないという線も消えた。

 だったらなぜ?

 

「………」

 

 私の隣ではキリ君も同じくこの疑問について考えていた。

 

「あっ、でも成功している人たちもいたよ」

 

「……そいつ等は今居るか?」

 

「いるよ。ほらあそこ」

 

 そう言ってディアベルが視線を向ける方に私とキリ君も視線を向ける。するとそこには、周りが若干装備のレベルが下がっているのに対して明らかに(現段階では)高レベルの装備を付けている五人組がいた。

 

「あそこの奴らか……」

 

「うん。バシネット被った彼がオルランド、そしてその隣にいる小柄な両手剣使いがベオウルフ、そしてベオウルフと反対側に居るのがクフーリン、それであの革装備の彼がエルキドゥ、最後の盾持ちハンマー使いがギルガメッシュだよ」

 

「全員英雄の名前で統一か……。何か意味でもあるのか?」

 

 キリ君が最後に呟いた一言と私も全く同じことを思った。

 

「何でも彼らは第三層に上がったら”レジェンド・ブレイブス”ってギルドを作るらしいよ」

 

「なるほど、伝説の勇者たち……か。確かにそれをここに来る前に決めていたのなら全員の名前が英雄の名前で統一されているのも納得だ」

 

 本とこういう時のキリ君には感服する。普段はご飯の事や寝る事について考えてばっかりで、自分の興味のない事にはほんとに無関心なのに一度興味を持つとそれに対しての頭の回転がとてつもなく早くなる。あと、何でか私の事についても頭の回転が速かったり、勘が鋭かったり、洞察力が普段よりも高くなったりする……何で?

 

「……それで、あいつらはボス戦(ここ)でやっていけるのか?」

 

「レベルやスキル熟練度はやや低いけど装備がしっかりしているから、取り巻きの相手位なら勤まると思う。……そして今回も君たちには取り巻きの相手をしてもらう」

 

「えぇ~、また~⁉」

 

 ディアベルの最後の言葉に私は不満気な声を上げる。だが、それは建前の様なものだ。その証拠にキリ君は隣で私の事を咎めるようなことはせずに苦笑しているだけである。

 恐らく私達の事はキバオウとその取り巻き達が強引に押し切ったのだろう。その証拠に私達にそれを告げたディアベルの顔は申し訳なさそうだ。

 

「……すまない。俺は棒の方を担当してもらいたかったんだけど、キバオウ君達がね………」

 

 ほら、私の予想通り、と言った感じでキリ君の方を向くと苦笑しながらも私の頭を大人が子供にするような感じで撫でてくれた。

 むぅ、その扱いは納得いかない。

 頭撫でてくれたのは素直にうれしいけど……。

 

「……君達、大事なボス戦の前なんだからイチャイチャするのはやめてくれないかい」

 

『?』

 

 ディアベルに言われた意味が分からずに私とキリ君は首を傾げる。

 はて? 今の私とキリ君とのやり取りの何処にイチャイチャの要素があったのだろう?

 確認の為にキリ君を見ても彼も私と同じような顔をしていた。

 

「なんであれで付き合ってないのよ……」

 

「全くです」

 

「ア、アハハ~」

 

「気付かぬ、ばかりは、本人たちばかり」

 

「全くだぁ~」

 

「正式なcoupleになったらどうなるんだろうな~」

 

「あら、意外と今まで通りかもよ」

 

「そうなったら壁がなくなるな」

 

「私としては、早くそうなってほしいものだがね」

 

 なんかアスナが苦労人みたいな雰囲気だしてるんだけど、大丈夫かな?

 そしてヒースクリフ、アンタは私が暗に奥手だと言ってるの?

 

「クソッ! 見せつけやがってっ!」

 

「おい、そこに壁があるぞ」

 

『よし殴ろう』

 

 ドン! ドン! ドン!

 

 今度はレイドの大半の人達が、ボス部屋に続く扉側の壁を殴ってるんだけど……。そんなに殴りたいなら体術クエストを受けることをお勧めするよ。

 

 パンパン

 

「は~い皆、そろそろ全員の最終確認が済んだみたいだから今からボス攻略を始めるぞ。ほらそこ! もう壁を殴るのをやめる!」

 

 私達の隣からいつの間にか消えて、レイドパーティー全員から見える一のボス部屋の扉の前に居たディアベルがそう声を掛ける。

 

「よし、じゃあ最終確認だ。第二層のフロアボスは”バラン・ザ・ジェネラルトーラス”、そして取り巻きが”ナト・ザ・カーネルトーラス”のそれぞれ一匹ずつだ。だが第一層の時と同じように、これはβテスト時代の情報だ。だから情報と違う事があるかもしれない。皆その事は絶対に忘れないでいてくれ。ほかには———」

 

 扉の前に居てレイドパーティー全体に向かっての最終確認と注意事項を話しているディアベル。だが私——―いや、私とキリ君とヒースクリフの事情を知っているメンバー全員が、別の感情で心が埋まっていた。つまり、

 

 ——————めんどくさい、だ。

 

 実は、もう隠す事でもないだろう、と思って私達の事を知る六人にはこれからの”情報”についてもある程度は話している。その中にはもちろんフロアボスの情報も含まれている。

 そして問題のそのボスなのだが……将軍バランではない(・・・・)のだ。

 βテストが終わった後、この第二層フロアボスに不満を持った和君がヒースクリフにボスの強化を進言。それを兄さんがあっさりと受け入れた上に悪乗りした結果が、将軍バランも取り巻きにしてしまって新たなフロアボスを作る、という事だ。……まあ、私も和君のその意見に賛成してたんだけど。

 とまあそんな訳で、将軍バランはフロアボスをクビになり、新たに”アステリオス・ザ・トーラスキング”通称アステリオス王がフロアボスに就職した。やったね、アステリオス王!

 

「———という訳だ。皆準備はいいかっ」

 

『おう!』

 

 全体的に野太い応答。まあ、私達がそれに加わっていたとしても野太いのは変わんないと思うけど。

 

「それじゃあ皆……勝つぞっ!」

 

 ディアベルの短いながらも気合の入った叫びと共に、ボス部屋の扉がゆっくりと開かれた。

 

 このキリ君とのやり取りで浮かれている時の私はまだ知らない。この後私達———正確に言うなら私とキリ君に起こる、とても辛い出来事を。

 

 

 

 

 第二層のフロアボス攻略は比較的順調に進んでいる。今のところは、という枕詞が比較的にの前に付くが。

 

「皆、それなりに強くなってきたね」

 

「まあ、そのお蔭で俺達は今暇だけどな」

 

 俺の隣にいるカユラがボヤく。ちなみに彼女が言っている”皆”とはブレイブズのF隊と俺達のG、H隊を除いたレイドパーティーだ。

 因みに、ナト大佐は開始した後少しして早々に退場してもらった。別にナト大佐は弱くはない。寧ろ一体だけの分、センチネルより圧倒的に強い。だが、流石にレベルのアベレージが二十一ある俺たちの敵ではなかった。ついでに言うと、LAを取ったのはルルでアイテムは”トーラス・ザ・ヘッドガード”というスタンに少しばかりの耐性が付く兜だった。

 

「ねぇ、エギル。この兜私達の誰も使わないんだし、あなたの店で売ってそのお金で皆の消耗品とか買う足しにしない?」

 

「おっ、そりゃあいいな。よし、任せとけ! ドーンと高く売りさばいてやる」

 

「ええ、期待してるわ」

 

 どうやら大佐がくれた(寧ろ奪った?)兜は俺達の資金の足しにされるようだ。

 憐れ大佐、君の事は忘れない……五分ほど。いや、もしかするとすぐに忘れるかも。

 

「しっかし随分とleisureだな」

 

 leisure? ああ、暇って意味か。

 

「なぁ~、俺達もあれに参加しよ~ぜ~」

 

「ダメよ我慢しなさい。アタシだって我慢してるんだから」

 

「でも、何で私達は待機でブレイブズの皆さんは参加なのでしょうか?」

 

「う~ん……。多分もしもの時に備えてじゃないかな」

 

 ジョニーのあれはただ単に我慢が出来ないだけだからまあいいとして、アスナとリズとシリカの三人には詳しい事情を説明していないから罪悪感が沸く。

 

 パリン

 

 いつかきっと話そう。そう思っていた俺の耳に、ガラスの割れるような甲高い音が聞こえた。

 

「なっ⁉」

 

 慌てて音の聞こえた方を見てみると、そこには盾しか持っていないキバオウがいた。

 

「な、なんでや………。なんでなんやっ!」

 

 訳が分からなそうにそう叫んでいるキバオウ。そして戦闘の中で一人だけ違う動きをしている彼に目を付けたバラン将軍。この事に指揮官であるディアベルを含めたA~F隊のメンバー誰一人として気付いていなかった。

 そう言えば彼も強化が失敗して有り合わせで集めた装備を付けていた一人だった、と今更ながらに思う。

 恐らく折れた理由は、キバオウがあの剣を使う前によくチャックしていなかった事だろう。でなければいくら質で劣っているとはいえ、ここに来るまでの戦闘と将軍バランとの戦闘だけで折れるわけがない。だが今はもう過ぎたことであるそれを言っても仕方がない。

 

「ヴゥオオオオヴァァルァアアアアアア———ッ‼」

 

 迫力のある咆哮を迸らせながら、将軍バランは目の前の獲物(キバオウ)へと自身の獲物であるバトルハンマーを振り被る。

 そうなることを予め予測出来ていて、尚且つキバオウの元へと向かっていた俺達だがキバオウはこの広いボス部屋の中の最奥部のその中でも一番奥の次の層へと続く扉付近に居て、俺達はボス部屋の中心と彼らと将軍バランが戦っている最奥部を隔てるように半円に陣取っていた。もちろん俺達がこの場所に居たのは意味がある。実はこの部屋の中心こそが真のフロアボスであるアステリオス王のPoP位置なのだ。だから俺達はアステリオス王がPoPした時に、レイドの盾となる為にこの位置に居た。だが、今回はそれが裏目に出てしまった。

 間に合え! と強く思いながら俺達は疾走する。

 だが、現実はそんなに甘くない。

 

「ヴゥオオオオ———ッ‼」

 

「グハッ⁉」

 

「しまっ⁉」

 

「! みんな直ぐに飛べっ!」

 

 俺の警告はカユラ達には間に合ったが、レイド本体には間に合わなかった。

 将軍バランはまず、キバオウをアッパースイングで打ち部屋の壁まで吹き飛ばすと、頭上まで振り上げられたバトルハンマーをそのまま振り下ろした。それによりキバオウのHPがグリーンから一気にレッドまで落ちる。

 無論それには黄色いスパークを帯びている。将軍バランのユニーク技、《ナミング・トワイス》だ。そして残念ながらこれにも行動不能(スタン)効果がある。

 

「ヴルルルル——」

 

 ソードスキル後の硬直の間も目を光らせ、次の獲物を探している将軍バラン。

 

「ヴルル、ヴァアアアア———ッ!」

 

「ヒィッ⁉」

 

 そして将軍バランが次に目を付けたのは、ディアベルに憧れ自身も髪を青色に染めた人物————リンドだった。

 そして自身が狙われたことを悟ったリンドだが、既にスタンから回復しているはずの彼は尻もちをついて体を恐怖に振るわせるだけでその場から動かない、いや動けないのだ。

 彼の今のHPはイエローゾーンだ。普段ならいつでも回復できるように準備位はしておくが、別に一撃を受けて即死っていうくらいではないので、そこまで”死”の恐怖に震えはしない。だが今は自身の最高レベルの装備を強化の失敗によって失っており、現在つけているのもはそれよりも一、二ランク程下がった装備だ。これではリンドがそうなるのも仕方ないと言えるだろう。

 

「………」

 

「い、いやだ……」

 

「ヴゥオオオオヴァァルァアアアアアア———ッ‼」

 

「いやだァァ—————ッ‼」

 

 リンド目掛けて振り下ろされる死神の鎌(バトルハンマー)

 リンドはそれをしっかりと見ながらも死にたくない、生きたいと叫ぶ。

 そして、その叫びは————

 

 ザザッ

 

「……⁉」

 

「背筋伸ばして、その場を動くなっ!」

 

「は、はいっ」

 

 ————届いた。モノクロの女神に。

 

 ハンマーとリンドの間に割って入ったカユラは、ハンマーに対して両手に持った片手用直剣の腹(・・・・・・・・・・・・・)を垂直に掲げる。

 

「彼女は、何をする気なんだ……?」

 

 俺がディアベルの横を通り抜けた時に聞こえた彼の呟きは、俺とヒースクリフとカユラ以外の皆の気持ちを代弁していた。

 そして、振り下ろされたバトルハンマーがカユラの持っている片手用直剣に当たる。

 

『⁉』

 

 その場に居た殆どの者たちがカユラのとった行動に驚いた。

 何と彼女は、バトルハンマーと片手用直剣がぶつかった瞬間に片足を軸にしてその場で一回転しだしたのだ。まるで風の流れに身を任せる風見鶏の様に。これぞ茅桐流”力流(ちからながし)”。その名の通り自分に向かって来る(ベクトル)を自分の体をその力と同じ方向に回転させてばねーじを受け流す技だ。

 

 そして位置的な関係でバトルハンマーよりも先にリンドの元へ向かう片手用直剣。

 え? まさか……、とレイドパーティーのほぼ全員が思った時、その予想はいい意味で裏切られた。

 

「おぉ……りゃぁっ!」

 

「へ? おわぁっ」

 

 場に似合わない二つの叫び声が響いた。

 カユラがしたことは至極単純。二本の剣をリンドの体育座りの形になっている膝の下と肩の後ろで引っ掛けて、そのまま遠心力とバトルハンマーの威力を使ってリンドを俺達の方へ放り投げただけ。リンドの悲鳴はその時の物だ。

 そしてそれに続き彼女も此方へ跳躍しようと身を屈めた。しかしやはり現実は非情だった。

 カユラが此方へ飛ぶ前に将軍バランのバトルハンマーが地面に直撃。そこを中心に波の様に黄色い波紋が広がる。そしてカユラはそれをモロに喰らいその場に崩れ落ちる。

 

「! しまった!」

 

 後ろの方で今更ながらにディアベルが叫んだ。

 

「ヴオオォ、ヴオオオオ———ッ‼」

 

 折角のトドメを邪魔されて怒っている(様に見える)将軍バランは、カユラがスタンから回復するよりも早くソードスキル後の技後硬直から回復する。

 そしてバトルハンマーを構えカユラに向かって振り下ろした。

 

「ハアアアァァッ!」

 

「ふんっ」

 

「ウオオオオオォォッ‼」

 

 だがそれは俺の飛び蹴りと、ヒースクリフのシールドバッシュ、リズのメイスの一撃により軌道を逸らされ、カユラのわずか数センチ横の地面に直撃した。

 

「おらぁっ」

 

「it’s a chance」

 

「ヒャッハー、くらえー」

 

「……」

 

「セイッ」

 

「やあっ」

 

「……」

 

「ハアァッ!」

 

 そしてその隙に残りのメンバーが将軍バランに向けて一誠攻撃をした。それにより将軍のHPが最後の一段目に突入する。そしてそれと同時に第二層フロアボス戦も終わりに近づいて行く。

 だが俺とカユラは知らない。俺とカユラにとってつらい選択をしないといけなくなるのは、むしろその後だという事を。

 




という訳で、第二層フロアボス戦の前半戦はこれで終わりです。
次はできるだけ早く投稿したいと思います。具体的には年内には。
それと前書きで言った小説のやつでもしも、読みたいやつがあったら言って下さい。余裕がある時に短編で出します。

感想・評価・誤字脱字の報告などを待っています。


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想い

どうも、隆斗です。
今回はなんと最高文字数更新! イェ~イ!
今年最後の更新で最高文字数を更新できたことを嬉しく思います。
それとD×Dは改稿して投稿し直し、バカテスとISの方は削除する予定です。



 ごごぉん!

 

 将軍バランのHPが最後の一本になった時にその音は聞こえた。

 ……ああ、ついに来たか。

 そんな事を思いつつ、俺は周りの皆がしている野と同じように音のした方向————この部屋の中心へと目を向ける。

 すると、三重の円を描く敷石が、少しずつスピードを変えながらスライドしていく。見る見るうちに石たちは床面からゆっくりせり上がり、やがて三段のステージを作り出した。そしてその光景に呆気に取られている俺達を差し置いて、状況はどんどん進んでいく。

 今度はステージの一番上の背景が歪みだした。そして………

 

「ヴブォォォォ——————ッ‼」

 

 この層の真のボスである“アステリオス・ザ・トーラスキング”が現れた。

 

 

 

 

 

「ディアベルッ!」

 

 アステリオス王が出てからの俺の行動は早かった。

 

「何かな? キリト君。正直俺は今この状況を打開できる策を考えるので精一杯なんだけど」

 

「……俺とカユラとヒースクリフであいつを足止めする。だからディアベルはレイド本体全員ですぐに将軍バランを倒してくれ」

 

「無茶だっ! そんなのは無謀すぎる!」

 

 案の定ディアベルは俺の案に反対した。いや、ディアベルじゃなくてもまともな奴なら俺のこの案は反対するだろう。

 

「よく聞いてくれ。今この場でレベルが高い上位三人は俺とカユラとヒースクリフなんだ。それに俺達三人はHPもほぼフル状態だから、この中で一番死ぬ確率が少ない」

 

「ダメだ。やはりリスクが大きすぎる。此処は一度撤退して————」

 

「どうやって? 俺達が今いるのはこの部屋の最奥だ。対してあいつがいるのはほぼ中心。しかもまだバラン将軍も残っているこの状況で撤退する方がむしろリスクが高い」

 

 俺がそう言うと彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「それに、撤退するにしてもどちらにしろ殿は必要だ」

 

「………」

 

 俺がそこまで言うとディアベルは黙ってしまった。恐らく今の彼の頭の中では、どうやったらみんな死なずにこの状況を打破できるか、必死に探しているのだろう。

 

「……分かった。キリト君の案に乗ろう」

 

「乗ってくれてありがとう。じゃあ俺達はあいつを足止めするから、出来るだけ早く倒してくれよ」

 

「勿論だ」

 

 その言葉を爽やかスマイルを俺に残して、彼は未だにアタフタしているレイド達たちの所に向かった。

 

「……カユラ、ヒースクリフ」

 

 俺もそれを見届ける間もなく次の行動に移した。

 

「全く、君は相変わらず無茶をするな」

 

「えー……。でもそこがいいんじゃん。私はキリ君のそういうとこ好きだよ」

 

 好き……ね。恐らくカユラが言った「好き」は俺が望んでいるけど望んでいない方の意味での好きではないだろう。俺と彼女はそんなに簡単なものではないのだから。

 

「それで、意図せずに私達はあれを足止めするという大役を任されてしまった訳だが……別にあれを倒してしまっても構わないのだろう?」

 

「……フフッ」

 

「ああ、もとよりそのつもりだ」

 

 ヒースクリフの大胆な発言に、カユラは微笑み俺は同意した。

 カユラがほほ笑んだのは恐らく、あまりにもヒースクリフがらしい言葉を言ったからだろう。

 

「よし。じゃあ行くぞ!」

 

「勿論だ」

 

「うん!」

 

 俺達三人は言うや否や、大事な会議(せんとう)に遅刻してきた王様に向かって駆け出した。

 

 その途中でヒースクリがウィンドウを呼び出しなにやら操作すると、彼の持っていた十字剣が消えて代わりに盾がもう一つ出て来た。恐らくと言うか確実にその盾はオブジェクト化させただけの物だろう。まあ、これから俺達はソードスキルを使わないつもりだから普通に装備してもいいんだろうけど……。

 そしてヒースクリフが盾だけになったという事は、彼はアステリオス王に対する攻撃を俺とカユラに一任するらしい。まあ、この三人の中で一番防御がうまいのは彼なので妥当な配役だと思う。

 

「私はディフェンスに徹しよう。君達二人は好きに攻めたまえ」

 

 俺とカユラの少し後ろを付いて来ているヒースクリフからの頼りになる言葉。俺達はそれに頷きだけ返した。

 そしてアステリオス王も俺達の方に気づき、ステージから飛び降りて来た。

 

「ヴォオオオオォォォ——————ッ‼」

 

 咆哮を一つ上げるとアステリオス王はその場に佇んだ。まるでどっからでもかかって来い、と言わんばかりに。

 俺一人だったらその挑発に乗ってしまっていただろう。だが今ここに居るのは俺一人じゃない。兄のように慕うヒースクリフがいて、何よりも守りたくていつまでも一緒に居たいカユラがいる。その他にもアスナやエギルやPoh達がいる。だから俺はその挑発には乗らない。皆でこの戦いから生きて帰る為に。

 

「……キリ君っ!」

 

 片手用直剣の二刀流からいつも使っている曲刀の二刀流に持ち替えたカユラが走りながら俺に話しかけて来た。

 

「私が先に仕掛けるから、キリ君はサポートお願い」

 

「いや、俺が先に仕掛けるからカユラが俺のサポートをしてくれ」

 

 カユラの提案を一蹴し、それとは逆の事を彼女に頼む。

 

「でも………」

 

 カユラは常に俺の隣に立ちたいと願っている。別に聞いたわけじゃないがそんなの見ただけで分かった。

 あの日以来、カユラは俺の隣に立つことを目標とし、俺はカユラをちゃんと守れることを目標としている。恐らくそれは何か劇的な事が無い限りこれからも変わらないだろう。

 今回の提案は多分そういったところからきたのだろう。だが俺に危険な所にカユラを一人先に行かす事などできない。カユラも同じ気持ちだろうが、これだけは譲れない。

 

「はぁ……。分かった、キリ君の言った方でいいよ……」

 

 ため息を吐きながらカユラが折れてくれた。

 

「でも、無理はしないでね。キリ君、自分の事を顧みずに行動するから……。そういう事されると、とっても不安になって悲しくなるから」

 

「うっ、はぁ……そうだな分かった。それに、カユラが悲しむ顔は見たくないしな」

 

 自分の一番大切にしている人に心の底から心配している、といった表情で見つめられてどうしてそれに逆らう事が出来ようか。いやできない(反語)。

 だから俺は彼女の目をしっかりと見つめて、自分の気持ちを伝えた。彼女の不安顔が少しでも晴れる様に。そうしたらカユラは顔を赤くして目を背けてしまった。はて? 今のやり取りの中に顔を赤くするようなことはあっただろうか?

 

 ドン! ドン! ドン!

 

 後ろの方から凄い打撃音が聞こえるが無視だ。きっとあれは将軍バランがプレイヤーを攻撃して、外れたバトルハンマーが壁や床に当たった音だろう。うん、きっとそうだ、そうに違いない。

 

「……君達、イチャイチャするのは結構だが時と場所を考えてはいかがかね?」

 

『イチャイチャなんてしてないっ!』

 

 ヒースクリフの心外な一言に思わず俺とカユラがハモる。

 

『嘘だっ!』

 

 あーあー、俺は何も聞いてない。生きるか死ぬかの戦いの最中なのに、ネタにはしったツッコミなんて俺は聞いてない。

 

「ヴルル——」

 

 進行方向から溜め息の様な唸り声が聞こえて来たのでそちらを見てみると、アステリオス王が視線を下にして首を左右に振っていた。俺にはその動作が、「ダメだこいつ等、自覚が無い」ってバカにされているような感じがして、イラッときた。

 そして俺達がアステリオス王の持っているバトルハンマー(将軍バランのより豪華な奴)を、俺達目掛けて思いっ切り振り下ろしてきた。

 

「ヴァルルルルルゥアアアア—————ッ‼」

 

 ドゴォン!

 

 バトルハンマーが床を打ち凄まじい轟音が響くが、俺とカユラと少し後ろに居たヒースクリフはそれぞれ左右に分かれて回避しているので俺達にダメージは無い。

 

『ハアアァァ!』

 

 そしてガラ空きになったアステリオス王への胴体に、俺の片手用直剣の乱舞とそれに少し遅れてカユラの曲刀の乱舞が入る。

 勿論この時俺達はソードスキルを使っていない。と言うより茅桐流の体捌きや型を使えばソードスキルより遥かに効率的に乱舞を行えるので使う必要が無い、といった方が正しい。

 

「ヴルアアァッ!」

 

 だがその乱舞は長くは続かない。アステリオス王がバトルハンマーを横薙ぎに振るった事により俺とカユラは攻撃中断を余儀なくされた。

 そしてそれからは攻撃して回避してのヒットアンドウェイの繰り返しだった。時偶にヒースクリフがバトルハンマーを両の盾で逸らしたり防いだりするので、思いのほか三人でも苦戦はしなかった。寧ろ五分五分の戦いをしていると言ってもいい。そして一番の理由はやはり俺達三人のレベルだろう。

 俺達の今のレベルは此処にいるレイドパーティーがとっている安全マージン(各階層+十なので第二層だと十二)よりも更に十ほど高い。いくらフロアボスとはいえ俺達のレベルが此処まで高いとお互いのHPのヘリも普通にPoPするモンスターとあんまり変わんなくなってくるわけで………。つまり何が言いたいのかと言うと、

 

 ……ディアベルたちレイド本隊が俺達と合流する頃には、アステリオス王のHPが五本目(アステリオス王のHPバーは全部で六本)に突入する所だった。

 

『………』

 

 そしてその光景を見たディアベルたちは唖然。まあそりゃあそうだろう。

 明らかに将軍バランより強いモンスターを経った三人で五分五分の戦いに持ち込んでいたのだ。これで唖然とするなと言う方が難しい。因みに俺達の強さを知っているエギル達は、はぁ、あいつらハッチャけやがったって感じのため息を吐いていた。

 

「ふむ、ではディアベル君、全体の指揮は任せるよ」

 

「え………あ、はい」

 

 ヒースクリフがディアベルにそう言ったのを聞いた俺とカユラは、ちょうどタイミングよく振り下ろされたバトルハンマーをパリィして後退する。

 

 

 そこから先はディアベルたちA~E隊が中心となって戦っていった。その他にもブレイブズも戦いに必死に食らいついて、サポートとして役に立っていた。

 そして俺達はもうほとんど用無し状態だった。ディアベルは俺達にも指示を与えるのだが、それをキバオウとリンド等の俺の事を良く思っていない奴らが、俺達に与えられた指示を横からかっさらっていくので結局俺達はやることが無い。

 

「…………」

 

「カ、カユラ何か怒ってないか?」

 

「怒ってない!」

 

 エギルの問いかけに明らかに起こっている声音で返すカユラ。その原因は確実にキバオウやリンドたちの行動だろう。

 そしてカユラの怒気に周りの人たちがビビッり、場の空気が悪なって気まずいので俺はカユラを後ろから抱き締めた。いや、何言ってんだこいつって思われるかもしれないが、彼女は昔から俺がこうすると機嫌がよくなるんだ。べ、別に俺がただ抱き付きたいわけじゃないんだからね!

 ————何やってんだろう俺………。

 

「キ、キリ君ッ⁉ 人がいる前で何やってるのっ⁉」

 

 ————人がいなかったらいいのだろか? いや、深く考えないでおこう。

 顔を赤くして抗議して来るカユラを間近で見ていると、なんだかもっと虐めたい、という加虐心が沸いてくる。

 それにしても……上気した頬を緩ませながら至近距離で上目使いでこちらを見てくる彼女を見ていると、胸の奥から『何か』が溢れだしてきそうになる。だが、俺はそれを無理やり胸の奥にしまいこむ。きっとそれは表に出してはいけないものだから。

 

「何って……カユラが不機嫌だったから、抱き締めて落ち着かせているだけだが?」

 

「—————何でそこで抱き締めるって発想が出て来るの……」

 

 何か呆れられたけど振りほどかれないという事は、少なくても嫌がってはいないのだろう。

 その事に自分の中でさっきまで押さえつけていた『何か』が、再び溢れだしてきそうになる。

 

「……はい、もう終わり」

 

「えー……」

 

 それが溢れ出て来る前に俺はカユラを離した。

 彼女が不満気にしていたがこればっかりは我慢してほしい。君を……不幸にさせないためにも。

 

「皆、一旦下がれっ‼」

 

 ディアベルの叫びが聞こえて来たので、視線を其方に向けるとアステリオス王がバーサクモードに入っている最中だった。

 

「ッ⁉ 君達、今すぐに下がれっ‼」

 

 ディアベルの切羽詰まった声が聞こえた。

 彼の視線の先を見てみると、ブレイブズの五人がバーサクモードに突入する際の演出中で無防備なアステリオス王へと向かっている所だった。

 

「ヘっ、こんなチャンス逃すかよっ」

 

「俺達はこいつを倒して英雄になるんだ」

 

 それは、英雄に憧れる子供に見えた。

 だが、憧れだけでは英雄にはなれない。そしてちゃんとした自分の“芯”が無いと英雄にはなれない……と、俺は思う。

 そして彼らからはその“芯”が見られない。

 

「ガアアアァ——ッ‼」

 

 長いようで短い演出が終わり、自分に向かって来るブレイブズにメンバーに対してアステリオス王は麻痺ブレスを放った。

 

「ギャアアァァ!」

 

「グアッ!」

 

 当然先頭に慣れていないブレイブズのメンバーがこれを避けられる筈も無く直撃を喰らう……かに思われたのだが、

 

 カアァン!

 

 甲高い金属音がアステリオス王の額の王冠から響いた。そしてボスの巨大な上体が揺れる。

 ブレイブズのメンバーは呆然と立ち尽くす。

 その隙にブレイブズを助けようと既に走っていた俺達がアステリオス王に一斉攻撃を叩き込み、かのトーラス族の王はその体をポリゴンの欠片へと変えた。

 

 

 

 

 

「何でだよっ!」

 

 ボス戦が終わって結果に納得否ない人たちもいたけど、皆で取り敢えず勝てたことを喜んでいた時その声は聞こえた。

 皆が声の主に視線を向けると、そこには先程から動いていなかったブレイブズがいた。

 

「俺達は英雄になる為に努力した。強化詐欺なんて英雄らしからぬ汚い事もやった。それなのに何で………何で、FNCのお前が良い所を持っていくんだよネズオっ‼」

 

 見ればオルランドが近寄って来たネズオと呼ばれるプレイヤーの胸ぐらを掴んでいる所だった。

 だが私達にはそれよりも今の言葉の中に、もっと気になる単語があったのを聞いた。

 即ち“強化詐欺”だ。

 そして強化を失敗した人たちの中に、あのネズオを呼ばれるプレイヤーの事を覚えている者がいるらしくレイドの方もそれでざわついている。

 

「……確かに僕はFNCだ。でも、ある人に言われて気付いたんだ。こんな僕でもみんなの為にできる事があるって……。だから、もう強化詐欺なんてやめよう。皆だってちゃんとやればきっと—————」

 

「話してるところ悪いけど、ちょっといいかな?」

 

 ネズオ(仮)がブレイブズの人達に力説している所にディアベルが割って入った。

 レイド全体のリーダーである彼としては先程の発言はやはり聞き逃せないのだろう。

 

「あ…あ…」

 

「ひぃっ⁉」

 

 ディアベルの後ろに居たレイドパーティーの人達の、睨みにブレイブズの人達は委縮した。

 

「先程の“強化詐欺”について、詳しく言いても良いかな?」

 

 口調はいつもと同じだが、声音が自然と強くなっているディアベル。まあ、その気持ちも分からなくはない。

 今回の事は下手すると死人が出ていたほどの事なのだ。自然特徴が強くなるのは仕方がないだろう。

 

「……はい、僕の方から全部お話しします」

 

 そして萎縮しているブレイブズに変わってネズオ(仮)が彼の質問に答えた。

 そして彼は全部話し終えると、土下座した。

 それに倣ってなのかどうかはわからないけど、ブレイブズの人達もネズオ(仮)の隣で並んで土下座をした。

 

「アカン! いくら土下座したからって許されん事は、世の中に何ぼでもあるんやっ‼」

 

「今回ばかりは俺もキバオウの意見に賛成だ。こいつ等には重い処分が必要だ」

 

 キバオウとリンドの言葉を皮切りに、レイド全体からも彼らに重い罰を求める声が上がった。中にはこれからこういった事が起きないようにする為の見せしめにしよう、という意見もあった。

 

「あー、悪いんだがキリト君達は先に転移門のアクティベイとしに行ってきてくれないかな? こっちは俺が何とかしておくから」

 

「…分かった。出来るだけ穏便な方法にしといてくれよ」

 

「分かってる。俺としても過激なのは不本意だからね」

 

 此処に居ても自分に出来る事は何も無いと判断したキリ君は、素直にディアベルの提案を了承。

 そして私達は彼らより一足先に第三層へと向かった。

 

 

 

 

 

 私達は第三層の主街区である《レフライト》の中を転移門へと向かって歩いていた。

 

「…あんまり酷い事されてないと良いけど」

 

「ディアベルがいるんだし大丈夫だろ」

 

 思わず呟いた私の独り言にキリ君は律儀に返してくれた。

 

「でも————」

 

「それに、これは被害にあっていない俺達が口を出していい事じゃない」

 

「……うん、そうだね」

 

 キリ君の言っている事は正論だ。だが正論ゆえに、冷たい。

 

「そんなことより、俺はもう二度とあんな無茶をしてほしくないんだけど」

 

 先程の冷たい感じとは違い、何処か怒ったような拗ねたような感じのキリ君。

 ——————はて? さっきの戦闘で私が無茶をした場面はあっただろうか?

 

「………将軍バランからリンドを助ける時」

 

「あれ無茶かな~?」

 

「はぁ〰〰〰。あのなぁ、あの時俺やリズやヒースクリフが間に合っていなかったらカユラは死んでいたかもしれなかったんだぞっ‼」

 

「ごめんごめん」

 

 疑いようもなくキリ君は怒っていた。でもそれは、私が危険を冒したから怒っているのが丸分かりで…怒られているのにそれがどうしようもなく嬉しい。だから謝罪の言葉がちょっとだけ弾んでしまった。その事にキリ君は顔を顰めるけどこればかりは勘弁してほしい。

 そしてその所為で、———が胸の奥から溢れ出て来そうになる。今まで抑えて来たのに、キリ君が———すぎる所為で簡単に———は抑えを押しのけて出て来そうになる。

 今までもこういう事は何度かあった。でも今回は生死も関わっていた為、生物の————という本能も—―を助力してしまって——————

 

「ねあ和君、私と……お付き合いしてくれる?」

 

「……………え?」

 

 —————気が付いたら私は和君に告白してしまっていた。

 

 

 

 

 

「ねえ和君、私と……お付き合いしてくれる?」

 

「……………え?」

 

 カユラいや優良が俺に言った言葉に対して俺は意味が分からずに間抜けな声しか出せなかった。

 いや、言葉の意味は分かる。お付き合いしてくれる? と言ったのだから、よくある買い物に付き合うとかじゃなくて男女交際の事を刺すのだろう。だが、それを俺に言った事が理解できない。

 今まで俺が優良に助けられて来たり、優良を傷つけてしまった事は結構あった。でも、俺が優良を助けたりましてや惚れられたりするようなことは(情けない事に)何一つした覚えがない。

 でも、これだけは分かる。今俺がどっちの答えを出してもこれからの俺と優良の関係は変わるという事だ。だったらこの絶妙な距離感が心地いい関係が壊れるというのなら、俺は———————

 

「……………か」

 

「…え?」

 

「このまま今まで通りの関係でいないか?」

 

「……私の事が、嫌いなの?」

 

「違うっ‼」

 

 否定の言葉は反射的に叫び声となって出た。

 

「そうじゃない。そうじゃないけど……どんなに探しても俺が優良に好かれる理由が無いんだ…」

 

「それは…私の気持ちを否定してるってこと?」

 

「………」

 

 俺は優良のその問いを否定することが出来なかった。

 彼女に告白されて過去類を見ない程に嬉しいのは確かだ。でも心のどこかでは俺が彼女に好かれるわけがない、と思っている自分もいるのも確かで………。

 だから、彼女の問いには答えられなかった。

 俯いていた俺は目の前の地面に何かが落ちて、ポリゴンの欠片となって消えたのを見た。恐る恐る視線を上げてみるら————

 

 パァン!

 

 ————子気味いい音が俺の頬から鳴った。

 本来ならここは圏内であるので、障壁が発生するのだが…なぜか障壁は発生しなかった。甘んじて受け入れろという神(カーディナル)のいしだろうか。

 叩かれた威力で回った首を正面に戻してみると、そこには綺麗なサファイアの瞳から透明なしずくを流している優良の顔があった。

 —————ああ、やってしまった。

 その顔を見た俺は他人事のようにそう思ってしまった。

 自分の我儘の所為で、自分の所為で優良をまた泣かせてしまった。

 本当はそんな顔をさせたいわけじゃないのに……。

 君には笑顔が似合うのに……。

 そんな言葉が頭に浮かんできたが、どれも口に出すことは出来なかった。

 

「…和君には、和人にはそんな事…言ってほしくなかった‼」

 

 その、何とも重みのある言葉を俺に叩きつけて優良は何処かへと走って行った。

 俺は追いかけるわけでもなく、それを…ただ眺めている事しかできなかった。

 

 

 

 

 

「……和人君」

 

「………」

 

「和人君ッ‼」

 

「………」

 

 ドガッ!

 

 強く名前を呼ばれたのでそちらを向いたら、今度はビンタでは無く拳が飛んできた。

 此方も同じく障壁は発生しなかった。

 殴られた衝撃で俺は無様に地面に這いつくばる。

 

「君には…失望したよ、和人君」

 

「………」

 

 言葉通り失望の色を含んだ声音。だが今の俺にはそんな事はどうでもよかった。

 ———また俺が優良を傷つけた……—————

 その事だけが頭の中をぐるぐるまらっている。

 するとヒースクリフいや晶彦さんに胸ぐらを掴まれて引き寄せられた。

 

「君はそれで良いのか……? 優良を泣かせたままでいいのかね?」

 

「………だろ」

 

「……」

 

「良い訳無いだろ!」

 

「…じゃあどうする?」

 

「………」

 

 つい答えてしまったが、その問いには答えられなかった。

 そしてゆっくり掴んでいた手を離された。

 追いかける? 泣かせたのは俺だぞ。また泣かせるに決まってる。

 他の人に追いかけてもらう? 俺が泣かせたんだ。自分で何とかしたい。

 はぁ、八方塞だ。

 

「はぁ~」

 

「?」

 

 そんな葛藤をしている時、頭上から晶彦さんのため息が聞こえた。

 

「やれやれ。君たちは近い様で遠いな」

 

「…どういう…意味ですか」

 

 そう質問するとまた呆れたようにため息を吐かれた。

 

「君達は普段は言わなくても相手の事が分かっているのに、こういった肝心な時にはお互いの心がすれ違っている。それ故にこのような事が起きた」

 

「すれ違っていなかったらこんな事にはならなかったんですか?」

 

 もう過ぎたことなのに未練がましくも聞いてしまった。

 

「それは分からない。運命とは不確かで無数にあるからな」

 

 科学者らしからぬその発言に、思わず俺は苦笑いした。

 そんな俺を見た晶彦さんは傍目にはわからない位に微笑む。

 

「決心はついたが、未だに自分の感情が分からないといった顔だね」

 

「ええ…まぁ……」

 

 そう決心はついた。俺は何としても優良を連れ戻してくる。例えそれが俺のエゴだったとしても、俺は優良と一緒に居たいから。

 だが、そうなるならば俺が優良に対して向けるこの感情は何だ? 恋、とは違う気がするし………うーん?

 

「やれやれ、仕方ないな」

 

「?」

 

「君が優良に対して向けるその感情と、優良が君に対して向ける感情は全く一緒だ」

 

 と、いう事は、

 

「俺のこの感情も“恋”って事ですか?」

 

「違う」

 

 即答された。じゃあこの感情は何だ?

 俺が頭の上に?マークを作っていると見かねた晶彦さんが答えを言ってくれた。

 

「君達がお互いに向ける感情…それは“恋”よりももっと深いものである———と私は思っている———“愛”だよ」

 

「愛…ですか」

 

「そうだ愛だ。つまるところ君たちは、小さい頃から一緒に居る所為で恋というものを通り越しお互いを愛し合ってる領域までいってしまっている訳だ」

 

「その“愛”は親愛とか兄弟愛とかそういうものでは?」

 

「違う。長年見てきた私の判断ではあるが、君たちのそれは恋愛の“愛”だよ。それも、依存するほどに深い…ね」

 

 最後の一言は良く分からなかったが、この感情を“愛”を言われた時、パズルのピースが綺麗にハマる様にその言葉が胸の中に入り込んでくる感じがした。という事は、そういう事なのだろう。

 でも————

 

「『こんな自分が、優良の想いを受けてしまっていいんだろうか』とか思っているかね?」

 

「……何で分かるんですか」

 

 思っていたことを当てられてしまって思わずぶっきら棒になってしまった。

 

「先程も言っただろう、『長年君達を見ている』と。それと君の疑問に対する答えだが……悩んでいるのなら今は保留でも私はいいと思うぞ」

 

「良いんですか? そんなんで……」

 

「いい。だが気持ちの整理がついたらちゃんと返事をしてやんなさい」

 

「……はい」

 

 晶彦さんの言葉で何処か吹っ切れた俺は、立ち上がり走り出す。

 目指すは勿論優良の所だ!

 

 

 

 

 

 キリトがカユラの元へと走り出した後、その場に立ち尽くしたヒースクリフに近づく影があった。

 

「随分sugary何じゃねぇのか?」

 

 ———PoHだ。

 他の面々(特にアスナやリズやシリカ)も今の事でそれぞれ思う所があったものの、少女三人は年長者組によって誘導されたので今この場に居るのはこの二人となる。

 

「……そうかもしれないな」

 

「何だdenyしないのか」

 

「ああ、自覚しているからね」

 

 そう言ってヒースクリフはエギル達の向かった方へと歩き出す。

 

「取り敢えず今は二人が帰ってくるのを待とう」

 

「agree。そうだな……」

 

 そう言ってPoHもヒースクリフの後を歩き始めた。

 

 

 〰〰〰〰〰ヒースクリフとキリトが問答をしている時〰〰〰〰〰

 

 

 和君から逃げる様にその場を走り去った後、私はただひたすらに走った。いや実際に私は逃げたのだ。こんな情けない顔を見られたくなくて、和君に拒絶されたことが嫌で。

 

 ドン!

 

「きゃっ」

 

 其れからどれくらい走っただろうか? 我武者羅に走っていたからわからないが、もうかなりの距離を走った時私は何かにぶつかった。

 

「ブルルルルルゥゥゥゥ」

 

 そこは開けた野原の様な所で、私の目の前に居たのは大きな体の猪———“グレート・ファング”がいた。

 こいつは中ボス的な立ち位置なのでHPバーは二本ある。

 普通なら逃げるか戦うだろうが、私はそのどちらもしなかった。和君に拒絶されたことによりもう…どうでもよくなったのだ。

 

「ブルルゥゥ、ブヒヒヒィィィ———ッ!」

 

 私から一度距離を取ったGファングが、その巨体に見合わぬスピードで勢いよく突進してきた。

 この一撃では死なないだろうが、私はこの子によって死ぬだろう。

 私との距離が二十メートルを切り“死”がそこまで迫った時、私は自然と目を閉じていた。

 そして私が思い浮かべたのは神でも家族でもなく————

 

「——————和君」

 

 ガギイイイィィン!

 

 私が和君の名前を呟いた瞬間Gファングが止まった否止められた。

 閉じていた眼をゆっくりとあけると、

 

「グウゥ、結構キツイな。———大丈夫か…優良」

 

 和君がそこにはいた。

 両の手に持った片手用直剣を体の前でクロスさせてGファングの突進を受け止めていたのだ。

 

「—————な」

 

「言いたいことはいっぱいあるだろうが、少し待っていてくれ。今すぐこいつを……倒す」

 

 そこからの和君とGファングとの戦いは一方的なものだった。いや、あれは戦いとは言えずただの駆逐だったかもしれない。

 基本的にGファングの脅威は、一定以上の距離からくる突進攻撃にある。それさえ封じてしまえば後はただの体が大きく体力がちょっと多いイノシシだ。

 そして製作者の一人である和君もそれを知っていたので、距離を開けずに一方的な乱舞で圧倒した。

 

「ふぅ~、終わった終わった。大丈夫だったか、優良」

 

「う、うん」

 

 Gファングが倒れたことにより安全地帯となったところで和君と二人だけになった。

 別れた時とは違い自然に話しかけてくる和君。それに対して私は碌に目も合わせられなかった。

 —————ああ、やっぱり私って和君の中ではその程度なんだ……。

 

『………』

 

 ————ち、沈黙が痛い。

 私は和君の方を見ていないからわからないけど、どうやら何か悩んでいるようだった。

 

「?」

 

「優良ッ‼」

 

「は、はいっ!」

 

 私がちょうど和君の方を向いたタイミングで、彼が私の名前を強く呼んだ、というより叫んだ。

 和君は私と目を合わせるといきなりしゃがみ込んで————

 

「さっきは…ごめんっ!」

 

 ————土下座をした。

 

「…え? あの、ちょっと…和君?」

 

「俺優良との今の関係を壊したくなかったんだ。だからあんなこと言っちゃって……。でも決して優良の気持ちを疑ってたわけじゃあ—————」

 

 ————ああ、そういうことなんだ。

 私の前で懺悔するように胸の内を告白している和君を見て気付いた。

 結局彼もこの関係が心地よかったのだ。

 ただ私との違いは、それ以上を求めるか求めないかだけ。

 そして和君は私より心の成長が遅かっただけ。

 たったそれだけの違いで私と和君はすれ違ってしまった。

 でも、今は違う。和君がちゃんと話してくれたから。だから、次は私の番。

 

「—————で」

 

「顔を上げて、和君」

 

 私はしゃがみ込んで、未だに告白を続ける彼の頬に手を添えて顔を上げるように促す。その時この場では感じられない筈の和君の体温を感じた気がした。

 

「……優良」

 

「私ね…小さい頃から和君のとこ好きだったんだ」

 

 それは先程とは違う告白。

 

「それは……あの時よりも前から?」

 

「うん」

 

 “愛”ではなくこれまでの“想い”の告白。

 

「でね…あの時ね、和君が沢山血を流しててこのまま死んじゃうんじゃないかって思ったんだ」

 

 和君は黙って私の告白を聞いている。

 

「そしてら怖くなって、目の前が真っ暗になって…何も考えられなくなった。……まるで自分の半身が無くなるみたいに痛かった」

 

「……」

 

「後になって、あの時より以前の気持ちやあの時の気持ち、そしてその時後持ちを考えてみたら、それが―——ちょっと違和感があったけど——―“恋”だって気づいたんだ」

 

「……違う。それは“恋”じゃない」

 

「……え?」

 

 さっきの告白とは違い明確な否定。

 でも私は自分でも思っていたよりそれ程動揺しなかった。

 きっとそれはこれから和君がいう事に、私の感じていた“違和感”を解く鍵がある、と無意識のうちに感じ取っていたからだろう。

 

「それは…“愛”だよ」

 

「愛……?」

 

「そう“愛”。まあ、俺もさっき兄貴分に教えてもらったんだけどな……」

 

「アハハ……何それ…」

 

 そう言って苦笑いする和君につられて私も思わず笑ってしまった。

 二人で一通り笑った後、急に和君が気を引き締め直した。

 

「あ、あのさ…優良」

 

「ん? 何に?」

 

「さっきの告白の答えなんだけど…さ」

 

「う、うん」

 

 いくら和君の心の内を知ったとしても、やはりまた拒絶されるかもしれない、という恐怖はある。故にどもってしまった。

 

「————気持ちの整理がついてないから、ついたらでいいかな?」

 

「…………へ?」

 

 今和君はなんて言った? 気持ちの整理がついたら返事をする? 

 

「ア……ハハハ。アハハハハ」

 

「ど、どうしたんだ優良?」

 

 ああ、そうだ。私はこの間自分で言ったではないか。

『男子の心の成長は女子より遅い』と。

 あの時から一ヵ月も経っていない。だったら和君の心がそこまで成長せていなくても納得できる。

 ————はぁ~、身構えていた自分がバカみたいだ。

 

「大丈夫。大丈夫だから心配しないで」

 

「————本当かよ……」

 

「本当だって。それでね答えの事だけどね」

 

「あ、ああ」

 

「和君の言う通り、和君の気持ちの整理が出来てから聞かせてもらうね」

 

「……ごめん」

 

「いいよ。……私も、和君にはちゃんと考えてほしいからね」

 

 そして私達はどちらともなく立ち上がる。

 

「じゃあ、帰るか」

 

「うん、帰ろう…みんなの所へ」

 

 私達は自然と手を繋ぎ元来た道を歩き出した。

 




という訳で次回からは付き合ってないけど甘い関係に(書ければ)なります。
感想・評価・誤字脱字の報告を待っています。
それでは少し早いですが、みなさん良いお年を。
そして来年もよろしくお願いします。


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キリがいいので設定集

本編の区切りがいいので設定集です。別に読まなくてもいいです。
出来るだけネタバレが無いようにしています。


~人物設定~

 

桐ヶ谷和人

・桐ヶ谷家の長男で直葉の義兄

・直葉との仲は優良や晶彦のお蔭で良好

・小さい頃にある事により背中に傷を負う

・料理は優良に付き合っていたので簡単なものならできる

・優良の幼馴染で晶彦の弟分兼弟弟子

・基本戦闘スタイルは回避して攻撃・カウンター、と攻撃重視。防御も出来ない事は無いが、性に合わない為やらない。攻撃力なら四人の中で一番

・基本的に獲物を持っていても足を使ったりと自由な戦い方をする。獲物は現実だと刀二刀流で、バーチャルでは片手用直剣二刀流(偶に刀になる)

・四人の中では優良と並んで二番目に強い

・茅桐流(後述)をやっている為リアルでも普通に強いし、バーチャルの中ではなおさら

・SAO製作チームの一員

・理系に関しては晶彦も認めるほどだが、その大半をゲーム作り等の趣味に当てているので勉強は普通

 

桐ヶ谷直葉

・和人の義妹

・今の所登場予定はない

・戦闘力は四人(晶彦・和人・優良・直葉)の中で一番弱い

・先述の通り和人との仲は良好。寧ろ和人と優良をくっつけようと頑張っている。今のというより最終的な目標は優良をお義姉ちゃんにすること

・剣道の全国大会優勝

 

茅場優良

・オリキャラ

・晶彦とは異母兄妹

・他の家族は幼い頃に他界

・白銀の柳髪にサファイアの瞳で、背は和人と変わらない(彼にとっては何気にコンプレックスである)。身体の成長は同年代より明らかに著しい(特に胸)。

・アルビノだがメラニン変色症(後述)が理由

・和人どころか直葉との仲も良好。最終的な目標は直葉にお義姉ちゃんって呼んでもらう事(優良お姉ちゃんとなら小さい頃によく呼ばれていた)

・家事万能

・基本戦闘スタイルは相手の攻撃を流してからのカウンターで、カウンターだけで言えば四人の中で一番うまい

・四人の中では和人と並んで二番目に強い

・基本的に獲物を持っていても足を使ったりと自由な戦い方をする。獲物はどちらの世界でも刀二刀流(二刀流は和人の影響)。だが決してバーチャルの方で片手用直剣が使え無い訳では無い

・和人に対しては色々と寛大…というか寧ろ積極的

 

茅場晶彦

・優良の異母兄妹の兄

・四人の中での兄貴的立ち位置…というか年齢的に兄貴

・優良の唯一の肉親

・若干シスコン

・茅桐流の茅場家第二十九代師範代(桐ヶ谷家の方は和人の父が第二十八代師範代)

・四人の中で最強

・獲物が双盾(そうじゅん)(盾が二つの事)の時は防御力チート

・家事が壊滅的に出来ない。三日すれば部屋がゴミだらけに

・獲物はバーチャルでは盾と十字剣(偶に盾二つ)、現実では普通に刀一刀流だが決して素手がダメな訳じゃ無い

 

流郷瑠璃

・オリキャラ

・面倒見のいいお姉さん(にしたい)

・黒髪のショートボブでスレンダー

・世話好き?系妖艶?お姉さん

 

八夏香夜

・アルゴのリアルでの名前

・謎系猫お姉さん

 

藤原北斗

・PoHのリアルでの名前

・謎系イケメンお兄さん

 

 

~その他の設定~

 

茅桐流

・大昔から続く由緒正しい流派

・ただし現在で両家の第二十七代と茅場家の二十八代師範代が無くなってから、諸々の理由で教える者がいなくなったので武道の世界では幻の流派となっている

・師範代は茅場家と桐ヶ谷家にそれぞれ一人ずつ

・刀、素手、槍、なんでもござれの流派で、実戦を想定している

 

メラニン変色症

・作中オリジナルの病気

・簡単に言うと色素の色だけが変わる病気

・先天性白皮症からデメリットだけを抜いた病気

・色素がなくなる訳じゃ無いので紫外線には人並みに大丈夫

・医学の事は詳しくないのでそれむりじゃね? ってツッコミは無しで。ご都合主義だと思ってくれればいい

 




他にも聞きたいことがあったら感想の方にどうぞ。


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日常

大分時間が掛かった気もしますが、最新話を投稿します。
次はD×Dの方を投稿するつもりです。


 

 

 

 

 第二層フロアボス攻略から二ヵ月と一、二週間経った今は一月の中旬。その間にクリスマスとお正月という一年の中でも大きいイベントが二つあった訳だが、俺とカユラの間には何もなかった。というより例年通り過ごした。その際にリズやアスナ達に、

 

「あんたらいつもこんな感じなのっ⁉」

 

 て驚愕されながら言われたんだが……。別に変った事は無いと思うぞ。

 まず、クリスマスは普通にプレゼント交換をして、カユラの手作り料理を(皆で)食べた後部屋で(大みそかには早いものの)今年一年の色々あったことをベットに入って抱き合いながら話していただけなんだが? あ、でも不意打ちで頬にキスされたな。まあ、それも偶にされていたから今更だけど。

 次にお正月だが、何故かNPCのお店で売っていたおせち料理(割高)を食べてこれまたなぜか売っていた羽子板や凧で正月らしい遊びをした。あっ……でも、二人羽織の時にカユラが後ろから抱き付いてきた時は驚いた。でも、自分だけされっぱなしというのもなんだか嫌だったので、交代した時にちゃんとやり返したけどな。

 そして今はそんな正月気分もすっかり抜け、皆いつも通り攻略に励んでいた。

 そんな現在の最前線は二十八層。

 第三層でそれぞれがギルドを作ってから、ギルド単位で動くことにより統率や行動が効率化され攻略のペースが上がり、第二十五層を除いた大体の層を一層あたりに付き約三日で攻略してきた。ただ第二十五層だけはクォーターポイントだったので犠牲もこれまでで最悪の数だった。

 その犠牲の大半がシンカーという人をギルドリーダーにした“アインクラッド解放軍”だった。因みに副ギルドリーダーはあのキバオウだ。

 その他にもリンドはディアベルと考え方の違いにより彼の作った“血盟騎士団”というギルドには入らずに、自分で“聖竜連合”というギルドを立ち上げそこでギルドリーダーとしてアインクラッドの攻略を目指している。

 え? 俺達? 俺達は——————

 

「ちょっと二人とも、アンタ達いつまでそうやってんのよっ! さっさと攻略に行くわよ!」

 

「そうですよ、お二人が来ないとはじまんないんですからっ!」

 

「もう……。二人ともギルドリーダーと副リーダーなんだからもっとちゃんとして!」

 

 朝食の満腹感を落ち着かせるためにギルドホーム(と言ってもただの広いログハウス)の近くにある、湖を一望できる草原の丘でカユラとのんびりしていたら、そんな俺達を呼ぶりずとシリカとアスナの声が聞こえてきた。

 どうやらこの至福の時ももう終わりらしい。

 誠に残念に思いながら俺の膝を枕にして寝ているカユラの頭を撫でる。

 あの告白以来彼女は以前より俺に甘えて来るようになった。別にそれが嫌という訳じゃ無い。寧ろ彼女との時間がそれだけ増えたので、俺的にはかなり嬉しい。なので今も俺は素直にカユラにされるがままになっているのだ。

 

「ほら、そろそろ攻略の時間だから起きろ」

 

「うにゃ~、後五時間……」

 

「いや、長すぎだろう……」

 

 こういう時の定番を大きく超える要求をしてきたカユラに思わず呆れた。

 だがカユラがそこまで言いたい気持ちも分かる。

 季節的には寒いが今日は月に一度の最高の気象設定の日なのだ。風は穏やかで日差しもちょうどいいという絶好の日向ぼっこ日和にのんびりしたくない奴がいるだろうか? いやいない。

 だがまあ、そろそろ動くとしよう。後ろから来る三対六つの視線が痛いし。

 

「カユラ、そろそろマジで起きてくれ」

 

「は~い。……ん~、良く寝た」

 

 今度は変なボケも無く素直に起きて伸びをしたカユラ。

 

「うん、じゃあ行こうか…キリ君」

 

「おう!」

 

 見惚れるほどきれいな笑顔でそう言ってきた彼女に、俺も今できる精一杯の笑顔で答えた。

 ————まあ、待ってたのは俺なんだけどね。

 そして俺達は手を繋いで皆が待っている所に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

「オース、キリト」

 

「ん? よぉクライン。相変わらずの野武士面だな」

 

「ほっとけ。そういうお前らは相変わらずのリラブラブっぷりだな」

 

 俺とカユラが手を繋いでいるのを見てニヤニヤと気持ちの悪い笑みを見せながらそう言って来る。

 恐らく俺とカユラが照れるのを予想して言っているのだろうが生憎とそうはならない。

 

「勿論。私とキリ君はお互いを隅々まで知り尽くしてるからね」

 

 恥ずかしげもなくそういうカユラ。その発言にウチの女性メンバーは色めき立っていて、あちらの残りのメンバーは俺に殺気を飛ばしてきた。

 クラインは第一層で俺と別れた後、ネット仲間を全員見つけ出し“風林火山”を言うギルドを作り第二十六層から最前線に参加している。

 何だかんだ言っても、俺はコイツが攻略組に来てくれた時は頼もしさと安心感を感じた。

 口に出したら調子に乗るから言った事は無いけどな。

 

「それにしてもえ~……と、何だっけ? お前んとこのギルド名」

 

「“モノクローム”だ。それぐらい覚えておけよな……」

 

 この名前になったのは偶々だ。他にいい名前の案が出なかった為、候補の中で一番まともだったこれになったてだけだ。

 

「そうそうそれそれ。いや~、女性陣が美人ぞろいで羨ましいぜ」

 

「全く、あの子たちをあんまりジロジロ見ちゃだめよ。そういうのに耐性ないんだから」

 

「よぉルル、相変わらず世話焼き気質のオカンだな、おめぇ」

 

「……それは老けてるって言いたいのかしら?」

 

「ヒィッ⁉ 違う違う違います! だからその槍を下ろしてください!」

 

 槍を突き付けられて土下座している野武士面。うん、漫才にしか見えないな。

 何でもあの二人は幼馴染らしいけど、単なる幼馴染じゃなくてもっと複雑な関係らしい。

 以前ルルに聞いたら、

 

「幼馴染で元恋人で永遠に続く腐れ縁よ」

 

 って言われたんだよな。

 クラインとルルが一時期付き合っていたってのも気になるけど、永遠に続く腐れ縁ってどういう意味だ?

 

「———字。おい、キリの字!」

 

「え? あ、ああ悪ぃ聞いてなかった」

 

「だから、人数がちょっと多くなっちまうが、この後一緒に行動しないかって聞いてんだよ」

 

「ああ、別に構わないぞ。皆もいいか?」

 

 俺の問いに皆頷いた。それを見ていた風林火山のクライン以外のメンバーがオーバーリアクションで喜んでいた。

 

「喜ぶのはいいがお前ら、カユラに手を出したら……ワカッテイルナ?」

 

『サ、サー! イエッサーッ!』

 

 俺の質問に一糸乱れぬ綺麗な敬礼で答えてくれた。うん分かればいいんだ。分かれば。

 え? 当の本人はどうしてるかって? 幸せいっぱいって顔で俺の腕に抱き付いてるよ。

 俺はそんな彼女の頭を優しく撫でる。すると彼女はますます笑みを深めた。

 カユラマジ天使。

 ……ゴホン、失礼余りのカユラの可愛さに少々取り乱していたようだ。

 

「おいルル、あいつ等マジで付き合ってねぇの?」

 

「ええマジよ。……まぁ誰かさんたちの様に焦って付き合った結果、幼馴染同士の方が良かったって後悔しながら別れるよりはマシなんじゃない?」

 

「……そうだな。確かにお前の言う通りだ」

 

 ? クラインの奴いきなり雰囲気が暗くなったがどうしたんだ? ルルとの話でなんか動揺する事でも言われたのか?

 

「ねぇ、キリ君」

 

「ん? どうした?」

 

「うんん、何でもない。ただ……呼んでみただけ」

 

 微笑みながらそう言ってきた彼女は、そのまま俺に体重を預けてきた。

 ああ、君のその行動一つ一つが愛おしい。

 

「……カユラ」

 

 だから俺はそれらの感情をこめて彼女の名前を呼んでみた。

 

「何?」

 

「呼んでみただけだ」

 

「フフッ、私と一緒だね」

 

「ああ、一緒だな」

 

 俺達はお互いに微笑みながらさらに身を寄せ合う。お互いの存在を相手がちゃんと認識できるように。()は此処にいるよ、あなたを一人にはしてないよって教える為に。

 

『リア充が、いなくなるまで、俺達は、殴るのを、やめない!』

 

「おい、ルル。あいつらあれで本当に————」

 

「ええ、付き合ってないわ。不思議な事にね」

 

「アスナ君、すまないが醤油ラーメン(の様なモノ)はあるかね?」

 

「いや、口の中が甘いならコーヒー(の様なモノ)を呑めばいいじゃないですか。まあ、ありますけど」

 

「あっ、じゃあアタシにも一杯頂戴。コーヒーモドキだけじゃ飽きちゃってさ」

 

「あのアスナさん、塩味はありますか?」

 

「大丈夫ちゃんとあるよ。ちょっと待っててねシリカちゃん」

 

「おーいPoH達、お前らもコーヒーだけじゃあ飽きただろう。ジンジャエールモドキでも飲むか?」

 

「nicetiming。ちょうどコーヒー以外の味が欲しかったところだ。遠慮なく頂こう」

 

「エギル、コーラは、あるか?」

 

「オレサイダー~」

 

「残念だが最近やっとこれが完成したばっかでな。他の奴はまだ試作段階にも至ってない」

 

「仕方ないな。じゃあ、ジンジャエールで、いい」

 

「サイダーに期待しとくぜぇ~」

 

「おうよ! 任せときな」

 

 後ろがなんか騒がしかったがそんな事は気にせずに、俺達は身を寄せ合っていた。

 

「————え~と……これはどういう状況なのかな?」

 

 そして混沌(カオス)に青髪の苦労人(ナイト)が登場。

 

 

 

 

 

 あの後自身のギルドメンバー兼パーティーメンバーを引き連れて現れたディアベルに、私とキリ君は安全地帯で説教を受けていた。内容を要約すると時と場所を考えた上に節度を持ってイチャイチャしろ、というもの。私はこの言い分を彼女が出来な奴がキリ君に僻んでる、と捉えている。

 いや、これでもキリ君とイチャイチャするの押さえてる方なんだけど。本当は今すぐにでもキスしたい気分。勿論唇に。

 だが、そういったのはちゃんとした恋人同士になってからな、と他でもないキリ君自身に言われてしまったので今の状態になっているのだ。

 十年以上も待ったんだから後数日或いは数週間位は待てるだろう、と思う人もいるかもしれないがキリ君に対するこの気持ちを自覚してからは、以前にも増して歯止めが利かなくなってきているので、キリ君には出来れば早めに決めてほしいと思っている。寧ろあの第三層の時から今日までの二ヵ月弱もったのが奇跡に近い。

 

「—————って訳で……て、聞いてるのかい二人とも?」

 

『アアウン、チャントキイテルヨ』

 

「………君達は俺をバカにしているのかい?」

 

 何故だろう、素直に答えたのにディアベルのこめかみがピクピクと痙攣している。解せぬ。

 だが私はそんな事よりも、キリ君とハモれたことに小さな嬉しさを感じる。

 

「まま、もうそれ位にしてやってはくれないかなディアベル君」

 

「大体あなたが二人にキツく注意しないからこうして俺が代わりに注意をしているんじゃないですかっ! あなたがちゃんと注意すれば俺がこうして注意する事は無くなるんです!」

 

「それを言われると痛いが、私としては今までのもどかしい関係を近くでずっと見て来たからな。そういう訳で二人がやっとお互いの気持ちを理解して、いい方向に向かおうとしているのをキツく注意はできないのだよ」

 

 紅い騎士と青の騎士が目の前で言い合いをしている隙に私とキリ君はその場を逃げ出した。

 

「それでどうするの? もう休憩終わりにする?」

 

「いや、この状況じゃ無理だろう……」

 

 そう言いながら周りを見渡すキリ君につられて私も周りに目を向けてみた。

 

「いや~、エギルはんもなかなかお目が高いですわ~」

 

「いやいやそういうお前さんも、これに目を付けるとは中々いい鑑識眼をもってるじゃねえか」

 

「フムフム、しかしPoH殿それではパワーでゴリ押された時にどうしようもないぞ。此処はやはりこちらもパワーで———」

 

「あーOKOkお前の言いたいことは良く分かる。だが俺達はお前ほどmuscle-brainじゃねえんだ。そこのところをもっとよく考えてから言え」

 

「……ゴ、ゴドフリーゴドフリー、まだ攻略に行かないのか?」

 

「団長様があの様子だからまだだろうな。それよりお前も私の後ろに隠れていないで“モノクローム”や“風林火山”の人達と話さないか」

 

「い、い、い、い、いい! 俺はいい! 俺は“血盟騎士団”のメンバーとだけ話せればそれで良い!」

 

「どうやら、コミュ障と、いうより、対人恐怖症の、ようだな」

 

「だなぁ~。あれはウチの坊ちゃんより酷いぜぇ~」

 

 キリ君は基本というより全く皆から“団長”や“リーダー”的な呼ばれ方をしない。本人もその方がいい、って言ってるし私も変にキリ君が祭り上げられるのは好きじゃない。

 それにしてもあの髭もじゃゴリラの後ろに隠れている前髪を一房垂らした顔の痩せこけた人、彼は粘着気質のストーカーかと思ったけどまさか対人恐怖症だったとは……。人は見かけによらないね~。

 

「……あいつら、好き勝手言いやがって……」

 

「まあまあ。それよりも事態が収束するまでそこに座って休んでない?」

 

 アスナ達女性陣も女性陣で、集まって女子会の如く話しているし、他の血盟騎士団のメンバーもクラインを除いた風林火山のメンバーと一緒に一心不乱に地面を殴っているんだけど……何をやってるの?

 そして私とキリ君は、ちょうど背中を預けられるところに座りお互いに寄りかかった。

 

「……な、なあカユラ。あ、あのさ……」

 

「ん? 何?」

 

 珍しくし私相手に挙動不審になっているキリ君。そんな彼の姿も可愛いと思ってしまう私はもう末期なんだろうか。

 

 コテン

 

 そんな効果音が似合いそうな感じで、キリ君の頭が私の伸ばした足の上に落ちて来た。

 

「終わったら起こしてくれ」

 

「それはいいけど、この体勢はちょっとキツイから一旦頭退けて」

 

「ん」

 

 四十五度くらいまでキリ君の頭が上がっている隙に、私は足を伸ばした状態から折り畳み正座する。

 

「はい、どうぞ」

 

「ん。じゃあお休み(うっ、カユラの胸が当たる……。……平常心平常心)」

 

「お休み」

 

 体勢を入れ替えた私の足の上に再び頭を置いたキリ君は、そのまますぐに寝息を立て始めた。

 私はそんな愛おしい彼の頭を、起こさない様に静かにゆっくり愛おしげに撫でる。

 あ~、幸せ。もうずっとこうして居たいくらい。

 

『(リア充爆発しろっ‼)』

 

『(お前らは早く結婚(ゴール)しろっ‼)』

 

 ? みんなからなんか電波が来た気がする。まあ、気のせいだろう。

 そして私は皆の事態の収拾がつくまで、キリ君を膝枕してその頭を撫で続けた。

 

 これが最近の私達の日常。




という訳で彼らの日常的な話でした。次回もオリジナル回です。
この回から原作一巻に入るまでは全てオリジナル回となる予定です。

感想・評価・誤字脱字の報告を待っています。


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バレンタイン(本編)

最高字数記録です。
無事今日中に投稿できてうれしいです。



 バレンタイン

 

 

 

 

 

 今日、二月十四日は言わずと知れたバレンタインデーだ。

 それはこのSAOでも例外では無く、現在の最前線である第三十二層から第一層まで雰囲気はバレンタインデー一色に染まっている。それによって本日一日は、攻略を一旦停止している。

 現実(リアル)よりも命の危険があるこの世界で、そうなったのにはもちろん訳がある。

 その訳が今日一日限定のイベントクエスト、通称『バレンタインクエスト』なのだ。

 

「それにしても〝二人組専用”クエストなんて……狙ってるのか?」

 

「それはオイラに言われてもナ。それに、そう設定したのはオイラじゃ無くてカーディナルだと思うんだガ」

 

 現在俺達は二十二層のログハウスでギルメン皆で朝食(メイド・イン・カユラオアアスナ)を食べている。

 そして俺達もこの後は噂のバレンタインクエストに行く予定だ。

 

「それで、そのクエストは何処でやってるんだ」

 

「何でも五の倍数の各層に変なゲートが出来たらしい、そこに行けばできるらしいゾ」

 

「てことは、第五層・第十層・第十五層・第二十層・第二十五層・第三十層か」

 

「あ、それなら皆で別々の場所に行かない?」

 

 アスナの提案に女性陣全員が思いのほか乗り気になり、結局全員が別々の所に行くことになった。

 ザザとシリカは第五層、ジョニーとリズは第十層、アルゴとアスナは第十五層、エギルとヒースクリフは第二十層、誰と行くかは知らないがルルは第二十五層、そして俺とカユラは第三十層に行くことになった。

 アルゴとアスナはそれぞれ異性の相手が居なかったらしいので女二人で、エギルとヒースクリフはそれぞれ現実(あっち)に恋人もしくは奥さんがいるから異性の相手とはいけない、でもイベントには参加したいから、という事でこのペアになった。

 そしてPoHだが、あいつはこんなイベントに興味はないらしく朝食を食ったらここにあるあいつの部屋で寝ているらしい。

 そして俺達は朝食を食べた後は各々のクエスト先に向かった。

 

「ねえキリ君、これってホントにクエストなのかな」

 

「多分な。どうしたんだ、何か別の可能性でも思い浮かんだのか?」

 

「うん。あのね、もしかするとバレンタインクエストはもう始まってるんじゃないかな」

 

「え……? でも俺達はまだそのゲートについてすらいないぞ」

 

 噂のゲートは主街区より少し離れた所にあるらしく、転移門で第三十層に転移しても少し歩く。

 そしてお俺達は只今そのゲートに絶賛向かっている途中だった。

 

「うん。そうなんだけど……何か今日はアインクラッド全体の空気が違う気がしたからさ」

 

「それは皆がバレンタインで浮かれている事を言ってるのか?」

 

 俺はカユラにそう質問したが、何となく彼女が言っている『いつもと違う空気』というのはバレンタインで浮かれている空気でないのは分かっていた。

 

「うんん、違う。でも確かこんな空気になったのは昨日寝ている時からだったような気がする。時間は見て無いからわからないけど」

 

 それは俺も感じていた。多分深夜くらいだったと思う。まあ、眠くてそのまま寝ちゃったけど。

 

「じゃあ、今はまだ警戒しておくだけにしよう」

 

「うん。……ごめんね、せっかくのバレンタインなのに変なこと言っちゃって」

 

「気にすんな。それよりも今から向かうゲートの事を考えよう。恐らくと言うか絶対にゲートをくぐった先に何かある」

 

「そうだね。でも何があるのかな?」

 

「それは俺にも分らない。ただ、バレンタインのイベントだからかなり強いイベントボスとかはいないと思う」

 

「そうだね~、私的にはキリ君とイチャイチャできるならどんなものでもかかって来い! かな~」

 

 腕を組み俺に体重を預け気味にしながら歩くカユラの顔は、この上ないほど幸せそうで緩みきっていた。

 それにつられて俺の頬も緩む。

 

「あっ、見えて来たみたいだよ」

 

「ん? でもなんでゲートが三つもあるんだ?」

 

 カユラの言う通り確かにゲートは見えてきた。でもなぜか三つある。

 一番左端の奴は青色のゲート、一番右端の奴は赤いゲート、そして真ん中のゲートは左端と右端のゲートの色が丁度半分ずつの配色になっている。

 

「ようこそいらっしゃいました。キリト様とカユラ様ですね」

 

 ゲートの近くに立っていた黒スーツ姿の優男のNPCが話しかけて来た。

 先程のセリフからプレイヤー全員の名を覚えていると推測できるので、相当行為のNPCのようだ。

 

「お二方はどの扉をお選びになりますか?」

 

「俺達が選んでいいのか?」

 

 てっきり強制的に真ん中のゲートにさせられるものだと思っていた俺は虚を突かれた。

 

「ええ、その通りです。男女ペアの場合はどの扉を選ばれても一緒ですので、お好きな色の扉をどうぞ」

 

 ってことは、男同士だったら青い扉、女同士だったら赤い扉という事だろう。

 

「どれにする?」

 

「う~ん……。普通に真ん中の扉でいいんじゃない?」

 

「ま、それが妥当か」

 

 特になにもないので、カユラの意見に素直に従う事にする。

 

「お決まりになられましたか?」

 

「ああ、真ん中の扉にする」

 

「左様で。それではごゆっくりとお過ごしくださいませ」

 

 NPCが真ん中の扉を指すと、扉が左右に開く。だが仕様なのだろう、その向こうは真っ暗になっていて見えない。

 

「じゃあ、行くか」

 

「うん!」

 

 何があってもいいように獲物がちゃんとあるか確かめた後、俺とカユラは青と赤の扉を潜った。

 そこは外から見たまんま真っ暗な所だった。

 発光しているのか良く分からないが、道だけはハッキリと見えた。

 

「この道以外は何もないな」

 

「そうだね。それにこの道も何処まで行っても先が見えないし……」

 

 扉の中に入って数十分。

 もう入口も見えない中、俺とカユラは腕を組んでひたすら道なりに歩いていた。

 そしてほんとに何もないのか辺りをキョロキョロ見ている。

 だから俺がそれに気づけたのは偶然だろう。

 

「ッ⁉ カユラっ‼」

 

「え? キャッ!」

 

 丁度俺達が歩いて来た方向から植物のツタの様な緑色をした細長い物体が複数這って来た。そしてそれはカユラを串刺しにしようと、一本の槍の様に突き出された。

 だが、予めその事を予期していた俺がカユラを自分の方に抱き寄せたので、カユラにそれは当たらなかった。

 

「あ、ありがとう、キリ君」

 

「どういたしまして」

 

 俺の腕の中で頬を赤らめてカユラがお礼を言ってきた。

 その頬の赤さがドキドキから来るものなのか、それとも俺の腕の中にいるからなのかは彼女にしかわからない。個人的には、後者の方が嬉しい。

 

「……よ」

 

「……ん?」

 

「だから、後者の方だよって言ったの」

 

 ……えーと、これはあれだよな。

 

「俺の心を読んだのか?」

 

「うんん。でも何となくキリ君が考えてる事が分かったから……」

 

 だから、わざわざ教えてくれた、と。

 

 俺の幼馴染が可愛すぎてもっと一緒に居たい。

 

「それよりも、さっきの植物みたいな奴私達が歩いて来た方に戻っていくけど、どうする? 追う?」

 

「追おう。今はあれしか手がかりが無いからな」

 

 抱き合った状態から離れ、先程襲ってきた植物モドキを追いかける俺達。

 幸いにも、植物モドキの移動速度はそこまで早いものではないので見失う事は無かった。

 

「あそこみたいだね」

 

「ああ、そうだな」

 

 数分ほどで植物モドキの根本の様な場所を見つけた。

 そこはこの道からちょっと外れた所だった。

 そこは真っ黒で見ただけではどうなっているのかは分からない。

 

「………」

 

「……カユラ」

 

 不安に思っていたのを目ざとく感じ取ったのであろうカユラが、俺の手に自分の手を絡めて来た。

 

「大丈夫、どんな時も一緒だよ」

 

 この道以外は何もない空間で、その微笑は太陽の様に眩しかった。

 そしてその微笑を見た俺の不安な心は、いつの間にかなくなっていた。

 

「……そうだな。いつも一緒だよな」

 

「そうだよ。これは昔キリ君が言ったんだから忘れないでね」

 

「ああ、そうだな。……行くぞ優良!」

 

「うん。行こう和君!」

 

 そして俺と優良は獲物をそれぞれ携えながら、根本の部分に向かって一歩踏み出した。

 その瞬間、俺達は暗闇の中に落ちていった。

 

 

 

 

 

『……う、うぅぅん』

 

 キリトとカユラが落下してから数分後、二人は殆ど同時に目を覚ました。

 

「ここは……?」

 

「どうやら深く落とされたみたいだね。景色が全く違うよ」

 

 二人が今居るのは、先程までいた道以外何もない場所では無く草が生えた原っぱだった。

 原っぱの大きさは野球のグラウンドほどで、端にはそり経った岩の壁になっている。

 

「取り敢えず回復しよう」

 

 落下の衝撃によって、二人のHPはイエローまで陥っていた。

 それをポーションを呑んで全快させる。

 二人のHPが丁度全快したその時、二人を囲むようにして大量のモンスターがPopした。

 

「キリ君!」

 

「分かってる!」

 

 すぐさま戦闘モードに入った二人は、キリトは片手用直剣を、カユラは刀をそれぞれ一本ずつ両手に持ち背中合わせになる。

 そのモンスターたちはなぜかほとんどが、豆の化身のような姿の植物系や角ばった形の岩系の奴らばっかりだった。

 その事に疑問を思った二人だったが、多勢に無勢のこの状況でそれを深く考えている場合ではないので、一旦頭の隅に追いやる。

 

「どうする、カユラ」

 

「取り敢えず向かってくる敵だけ相手にして、様子を見よう」

 

「分かった。後ろは任せたぞ、カユラ」

 

「! うん。任せてキリ君!」

 

 危機的状況にもかかわらず、キリトの言葉に思わず嬉しくなってしまうカユラ。

 それもしょうがないのかもしれない。なぜなら先程キリトが言った言葉は、ずっとカユラがキリトに行ってほしかった言葉なのだから。

 

「キィ、キキィィィィ!」

 

 奇声をを挙げながら上げながら向かって来るモンスター。

 それにそれらを、二人で息を合わせながら被害を出来るだけ少なくして対処している二人。

 だが数分を過ぎた時、二人はある事に気付いた。

 

「ねえ、キリ君。こいつらって……」

 

「分かってる。俺も気づいた」

 

『メチャクチャ弱い(ね)』

 

 そう、襲ってくるモンスターたちはどれもこれもが驚くほど弱かったのだ。

 ソードす来る無しでもHpの七割以上が削れ、二連撃以上だと最早オーバキルになってしまうほどに、彼らは弱かった。

 

「ねえ、キリ君。これどう思う?」

 

「うーん……? バレンタインクエだから……かなぁ、としか……。カユラは?」

 

「私も全然。それよりも、私はあの豆の化身のような奴らと岩系の奴らの方が気になるんだけど」

 

 言われて、キリトはもう一度敵を注意深く見てみる。

 豆のような奴らは緑色と茶色のやつがいるが、どちらも形は細長く先がちょっと尖っている木の実みたいな姿だった。

 一方の岩系奴らは、どの個体も白くて、見た目に違いこそあるものの角ばっていた。

 だがどちらの姿も、キリトにはイマイチピンとこなかった。

 

「? あいつらに何か共通点でもあるのか?」

 

「共通点ってより、終着点かな? まあ私の思っている通りなら……だけどね」

 

「ふーん」

 

 気になりはしたものの、それはこいつ等を片付けた後でもいい、と思ったキリトは今はそれ以上は追及しなかった。

 そしてそれから更に十分ほど後、二人はモンスターたちを殲滅し終えた。

 

「おっ、レベルが二上がってる」

 

「本当だ。雑魚い割には経験値は結構多かったんだね」

 

「ん? この『シュティンガーの粉』ってなんだ?」

 

「どれどれ……。うーん? さっきの岩系モンスターのドロップ品じゃない?」

 

「じゃあこの『カチュカシュラオの豆』って奴は植物の方か?」

 

「多分ね」

 

「………」

 

 良く分からないドロップ品に、モヤモヤするキリトだったが取り敢えずその事は置いとく。それよりもカユラに聞かねばならない事があるからだ。

 

「なあ、カユラお前—————」

 

 ゴゴゴゴゴ

 

 キリトがカユラに質問しようとしたその瞬間、二人の立っている所が揺れ、地鳴りが聞こえだした。

 それ自体はすぐに収まった。

 何か変化はないか、と辺りを見回す二人の目に先程までは無かった者が見えてきた。

 

「これって……」

 

「扉……だな」

 

 ここに来る原因ともいえる、赤青の扉が岩壁にできていた。

 

「進む?」

 

「いかないだろうなぁー」

 

 このままここにいても埒が明かないのは明白なので、仕方なく進むことにした二人。

 ただキリトは、嫌々だったが。

 

 

 

 

 

 二つ目の赤青の扉を潜ったら、そこは牧草地だった。

 先程より二回りほど狭くはあるが、戦闘するに当たっては十分に問題ない広さだろう。中心地にいる奴らが相手でなければ。

 それは体長三メートルほどの大きな牛だった。ただし、角は人を余裕で貫けそうなほど大きいし、足の筋肉は到底牛には出せないであろうスピードで走ることが可能そうだ。

 だがまだ俺もカユラも見つかっていない。

 あいつらはのんびりと草を食っていた。

 なのでちょっとここいらで別な事を考えてみる。

 どれは勿論、カユラ——優良の事だ。

 今から約三か月ほど前、俺は昔から大好き——を通り越して愛していたカユラ——優良に告白された。

 だが、俺がヘタレなせいで今も優良には返事を待って貰っている。流石にそろそろ返事をしなければダメだろう。

 勿論俺は優良と付き合いたい。というより結婚したい。それ位に愛しているし、それ位に優良の存在は俺の中で大きい。

 だが決心がつかない。

 確かに告白をOKすれば、俺と優良の距離は今まで以上にグンッと縮まるだろう。だがそうしたら今までの俺と優良の関係には戻れない。

 確かにお互いの距離が近い方が俺もいいが、今までのこの距離感も俺にとっては落ち着くのだ。その所為で俺は中々踏ん切りがついていない。

 でも言い訳をさせてもらうなら、俺は優良との距離感等を変えようと一応の努力はしてきた。

 最近では優良に一緒に戦ってくれ、と言ったり背中は任せた的な事を言ってみたりしてきた。今までの俺ならば優良には安全な所にいてもらって、俺一人で危険地帯に向かっていただろう。だからこれは大きな進歩と言える。

 そして徐々に距離を詰めていき、それに慣れれば告白の返事(もちろんOK一択)をしようと思っていたのだが、最近の優良を見ているとどうも無理をしている感がある。

 理由は十中八九俺がまだ返事をしていない所為だろう。

 その事を優良に聞いても、

 

「告白したから今はこれで満足だよ」

 

 って言ってくれたりするが、あれは絶対に俺の事を気遣った嘘だ。

 俺も優良程ではないが相手の考えている事は分かる。だから彼女が俺を気遣って嘘を言って、負担になっている事を隠しているのも知っているのだ。

 だが、俺はそれでも告白の返事を出すべきか迷っていた。

 本当に、自分の事しか考えていなくてヘタレな自分が嫌になる。

 ……こんな時、何か俺達の関係を変える様な事が起きれば、と思う他力本願な自分は間違っているのだろうか?

 

「————ん。———君。キリ君!」

 

「え? ……ああ、ごめん。ちょっとボーっとしてた」

 

「それは見たらわかるよ。それよりもあの牛モドキたち、私達の事に気づいたみたいだよ」

 

 カユラに言われ、牧草地の中心地を見てみるとこちらを睨み鼻息を荒くしている牛型モンスター二頭がいた。

 二匹ともHPバーは二段。

 これはちょっと手古摺りそうだ。

 

「ッ⁉ 来るよっ!」

 

「分かってるっ!」

 

 予想を裏切らない見事な突進で、二頭は俺とカユラの所に突っ込んできた。

 

「さっきと同じだとは限らないから、出来るだけ攻撃は喰らわないようにね」

 

「分かってる。それと、ああいうタイプは正面の防御は無茶苦茶硬いと相場が決まってるから、攻撃する時は側面もしくは背面から攻撃な!」

 

「勿論!」

 

 迫りくる牛型モンスター『ミージャルク・ファルスタイン』の猛進を闘牛士の様にヒラヒラと避けながら、カユラと最低限のやり取りをする。

 そこから先は俺とカユラでそれぞれ一頭ずつ相手をした。

 

「ハァ……ハァ……⁉ カユラッ‼」

 

 ミージャクの猛攻を交わしながらカユラの方を窺い見てみると、彼女はモロにその攻撃を喰らていた。

 その光景を見た俺は心が締め付けられるような痛さを感じた。

 

「だい……じょーぶ!」

 

 幸いにも『力流』を使っていたようで、彼女のHPには変化はなかった。それどころか『力流』で回った勢いを利用して反撃に出ていた。

 だが、あの光景は心臓に悪いな。そういう技があるってのはもちろん分かってるけど、『もしも』があるからな。

 その後十数分ほどかかって、ミージャク二頭は倒した。一回目の戦闘と同じく、攻撃力はそれ程でもなくて防御力もあり得ないくらい低かった。

 そしてそれと同時に俺も、一つの決心がついてきた。

 

「……なあ、カユラ」

 

「ん? 何、キリ君」

 

 次の扉が出現するまでにまだ時間があったので、俺は思った事をカユラに言ってみることにした。

 

「出来るだけさ、『力流』は使わないでくれないか?」

 

「え? どうして? ……結構便利だから気に言ってるんだけど……」

 

 それは以前本人に聞いたので知っている。

 だが俺は、そんな事よりも俺をハラハラドキドキさせないでほしかった。

 はは……自己中な理由で他人を縛り付けるとか、最低だな俺。

 

「でも、カユラは『力流』を使う必要のない時でも使っているだろう? それをやめてほしいんだ」

 

「まあ、それは確かにそうだけど………うーん……」

 

 キッパリ断られるものだと思っていたけど、意外にもカユラは真剣に考えてくれた。

 それだけで、ちょっと嬉しくなる俺はかなり彼女にのめり込んでいるんだろう。

 

「ねえ、キリ君……」

 

「……ん?」

 

「それってさ、もし私が要らない怪我をしないかって心配で心臓に悪いから?」

 

 彼女を思っての提案だと彼女の中では確定しているのか、俺の方を真っ直ぐに見てくる彼女の頬は朱に染まっていた。そして何よりもその瞳は、俺の心を奥底まで見透かしているようだった。

 

「だ、だとしたらなんだよ!」

 

 そんな瞳で自分の心を覗かれるのが恥ずかしかった、俺は彼女から貌を背けて強めん口調で答えてしまった。

 

「クス……分かった、いいよ」

 

「……え?」

 

「だから、キリ君の意見を聞くって言ってるの」

 

 そんな俺が面白かったのか、彼女は微笑むとそう言ってきた。

 

「まあ、元々キリ君の意見を無下にするなんて選択は、私の中には無いんだけどね」

 

 そう言いながら悪戯っぽく笑う彼女は、何処か妖艶だった。

 

「でも、条件があります」

 

「な、内容次第になります」

 

「今後、私以外の異性と必要最低限以上の身体的接触はしない事、これが条件です。……この条件を呑めますか?」

 

 彼女は、普通以上に独占欲が強いんだろう。じゃなければこんな条件は出してこない。だが、彼女になら自分の行動を縛られてもいい、と思ってします俺は結構歪んでいるのだろうか?

 

「ああ、了解だ。そんな条件ならいくらでも呑んでやる」

 

 彼女が先程キリ君の意見を無下にするなんて選択は無い、って言っていたけど、それは俺も同じだ。だから精一杯かっこつけた背言葉で了承した。

 

「うん、じゃあ交渉成立」

 

「交渉かどうかは分からないけどな」

 

「アハハ、そうだね」

 

 途端におかしさが込み上げてきた俺達は、声をあげて笑った。

 

 

 

 

 

 それからちょっとして、俺とカユラは未だに牧草地にいた。

 何故か次に進むための扉が一向に出てこないのだ。

 だが、俺はこれ幸いとカユラに一回目の戦闘が終わった時に聞きそびれたことを聞いてみる。

 

「なあ、カユラ。一回目の戦闘中に、言っていたアイツらの終着点って何のことだ?」

 

「おしえなーい、教えちゃったらつまんないもん」

 

 機嫌がいい今なら答えてくれると思っていたが、その考えは甘かったようだ。

 だが彼女は分からなくて悶々をしている俺に、ヒントをくれた。

 

「じゃあ、ヒント。今さっき倒した牛型のモンスターも関係しているものです」

 

「うーん……もう一つヒント」

 

 余計に分からない。

 

「じゃあ、第二のヒント。疎の終着点は、キリ君も絶対に一度は現実(あっち)で見たことがあります」

 

「見たことがある……?」

 

 ? それはヒントになっていない気がするんだが……。

 そんな俺を他所に、俺達の目の前には例の扉が出て来た。

 

「まあ、まだ考えたいだろうけど取り敢えず進もっか」

 

「……そうだな」

 

 この時だけはこの扉を恨めしく思いながらも、俺達はまた扉を潜った。

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした、お二方。着いてそうそうなんですが、キリト様は青の扉に、カユラ様は赤の扉に入っていただけます」

 

 扉を潜った先にいたのは、一番最初の扉の所であったNPCだった。

 いや、見た目だけが一緒で本当は別な個体なのかもしれない。

 

「うん、分かった。でも、キリ君のところにも、私の所と同じ造りにしてくれる?」

 

「大丈夫でございますカユラ様。そう言われると思いまして、既に準備はできております」

 

「わぁお、仕事が早いね。じゃあねキリ君、また後で」

 

 そう言ってカユラは赤い扉を潜っていってしまった。

 

「それではキリト様もどうぞ」

 

 NPCが俺を青い扉の方へ誘導する。

 

「はぁー……。分かったよ、潜ればいいんだろ」

 

 イマイチ状況についていけないが、進む以外に手はなさそうなので観念して扉を潜った。

 

 

 

 

 

「……へ? なんでキッチン?」

 

 扉を潜った先にはかなり大きいキッチンがあった。何を言ってるのか分かんないと思うが、俺にも分んない。

 だが、此処に来て唐突に俺の頭が妙に冴えわたる。

 浮かんできたキーワードは、『バレンタイン』『白い固形物と木の実と牛の終着点』『現実(あっち)あるもの』『キッチン』

 

「ああなんだ、そんな事か……」

 

 すべての謎が解けた俺は、その答えに従っていまするべきことをする。

 

 あれ? でもだったら、俺ってただ待ってるだけでもよかったんじゃ?

 

 そんな事が思い浮かんだのは、すべての作業が終わってカユラを待っている時だった。

 

 

 

 

 

「ごめんねキリ君。待たせちゃった?」

 

「うんや、俺もついさっき来たとこ」

 

 デートで定番の挨拶をした俺とカユラがいるのは、キッチンから更に扉を潜った場所で、ただの真っ白な空間。

 カユラにとってはもっと別な所の方が良かったかもしれないが、俺にとってはむしろ個々の方が良かった。

 園に周りに何かあった方が、色々と緊張しそうだからな。

 

「カユラ——いや優良、聞いてほしい事があるんだ」

 

「それは、今じゃなきゃダメ? これを渡した後じゃダメなの?」

 

 彼女がそう言って掲げて来たのは、綺麗にラッピングされた小さな袋。あの中に彼女手作りのバレンタインチョコ(本命)が入っているのだろ。

 だが、俺はそれを貰うよりもはやくにこの事だけは言っておきたかった。

 それは、さっき優良に渡すバレンタインチョコ(本命)を作っている時に考えたこと。

 今までの俺と優良の関係に終止符を打つ言葉。

 

「なあ、優良。俺達もいい加減に変わらなきゃいけないよな」

 

「突然なに? まあ、そうだとは思うけど……」

 

 訝しげにしながらも、ちゃんと俺の質問には答えてくれる。

 

「だからさぁ、俺達ももうこういう馴れ合いはやめないか」

 

「………え? 何言ってるの和君?」

 

「だから、こういった俺達のなあなあな関係をやめようって言ってるんだ」

 

「……それってつまり、告白の返事を聞かせてくれるってこと?」

 

 優良はいつになく真剣に、俺の話を聞いてくれている。

 

「ああ、そうだ。始めの頃は怯えていたシリカやリズが成長したのに、俺達が此のままってのもおかしいと思ったからな。……いい加減に俺達も成長すべきだと思ってな」

 

「……そう。……分かった、ちゃんと和君の気持ちを聞かせて」

 

 そういう優良の声は震えていた。

 何で彼女の声が震えているのかは分からなかったが、俺の答えはもう決まっている。だから、言う。考えに考え抜いた末にたどり着いた俺の気持ちを。正直に。

 

「優良、俺と……」

 

「……」

 

 言いながら俺は、ウィンドウを操作する。

 

「……結婚してくれ」

 

「………ッ⁉」

 

 俺の言葉と共に優良の前に現れるのは、『結婚をしますか?』というシンプルな表示。

 だが俺の言葉を聞き、目の前の表示を見た彼女は感極まって泣きそうだった。と言うより泣いていた。一滴一滴彼女の瞳から雫が溢れる。

 

「ほ、本当に……私で…いいの?」

 

 泣きながらに確認してくる彼女に、俺は一歩ずつ近寄る。

 

「ああ、俺は優良がいいんだ。いや、優良じゃなきゃダメなんだ」

 

「ほ、本当……に?」

 

「勿論。てか寧ろ確認したいのは俺の方なんだよな」

 

 一歩、また一歩彼女に近づく。

 

「恋人の段階をすっ飛ばしちゃうけど……いいか?」

 

「全然、問題ないよっ! むしろこっちからお願いしたいくらいだもん!」

 

 手の届く距離まで近づいた時、彼女は俺の腕の中に飛び込んできた。

 

「これからはまた違った関係でよろしくな、優良」

 

「うん。こちらこそよろしくね、和人」

 

 俺たちはそれからしばらくずっと抱き合ったままだった。

 

 

 

 

 

 お互い気持ちを落ち着かせるのに結構な時間を要したが、今はもうそれも落ち着いた。

 そして俺と優良は(この世界限定だが)夫婦になって初めての共同作業(・・・・)をしている。

 ……いや、ただ単にバレンタインチョコを一緒に食べているだけなんだけどな。

 

「はい、和君……あーん」

 

「あーん」

 

 優良が作ったチョコトリュフを彼女の手で食べさせられる。

 うん、これめっちゃ幸せ。

 そして驚くことに、味はまんま現実世界のチョコと同じだった。

 カーディナルの成長に驚愕しながらも、今度は俺が優良に俺作のチョコを食べさせる。

 

「優良、あーん」

 

「あーん」

 

 俺が作ったのはシンプルな星や丸の形をしたチョコだったが、彼女は美味しそうに食べている。

 何でも彼女曰く、

 

「和君の作ったモノならどんなものでも愛情が籠っているからおいしいの」

 

 だそうだ。

 ちょっと照れ臭いが、それを上回る位に嬉しい。

 

「……ね、ねえ和君」

 

「ん? どうした?」

 

 頬を赤く染めながら、チョンチョンと袖を引っ張ってくる優良(俺の嫁)

 ヤベェ、俺の嫁マジ天使。

 

「く、口移しで食べよう……」

 

 最後の方は尻すぼみになっていて聞こえずらかったが、彼女の言いたいことは分かった。

 だが流石に、普段彼女と一緒の布団で寝ている俺でも、それは恥ずかしい。

 だって、まだキスすらしたことないし……。

 だがここで、(優良)の頼みを断ったら男が廃る。

 羞恥心を心の奥底に押し込んで、彼女の頼みを了承した俺は自分の作ったチョコを、自分の口でくわえる。

 

「ほぉ、ほぉらふら」

 

「……う、うん」

 

 ゆっくりゆっくりと俺と優良の距離が縮まっていく。そしてついに俺達の距離は零になった。

 

 チュッ

 

 唇同士が触れるだけのフレンチキスだが、その時間はかなり長い。

 そしてお互いの体温(この世界には無い筈のもの)でチョコが溶けていき、ちょうど半分ずつになって俺と優良の口に入っていった。

 

「ん……ふぁ」

 

 優良が唇についたチョコ(何故かポリゴンの欠片にならなかった)やつを手で拭き、それを舐めとる。

 その姿があまりにも妖艶でエロチックすぎて、俺は思わず彼女から目を背けた。

 

「……ねえ、和君」

 

「ん? どうかしたか?」

 

 顔を背けている俺に彼女は、普通に話しかける。

 恐らく俺が顔を背けている理由が分かっているんだろう。

 うわぁ、恥ずかしすぎる。

 

「こっち向いて」

 

「いや……でも……」

 

「良いから向いて」

 

 語尾が強くなったので大人しく従う。

 あれ? 俺ってもしかして優良の尻に敷かれてる?

 そんな事を考えながら、彼女の方を向く。

 そこにはかなり真面目な表情をした彼女が真っ直ぐに此方を向いていた。

 

「これからも……よろしくね」

 

 だがその表情を一転させ、彼女は太陽のような眩しい笑顔でそんな事を言ってきて。

 その急変に呆気に取られるも俺は直に我に返り、彼女に負けない位の笑みで言った。

 

「ああ……これからもよろしくな」

 

 それは、このデスゲームが始まってから約三ヵ月経ったある日の事だった。

 

その後しばらくして気が付いたことだが、異性からのチョコを食べるとレベルが一上がる様だった。

だが、お互いにチョコを食べさせあった上に、その当人たちが他の異性にチョコを挙げなかったら、レベルは二上がるようだ。

因みに同性同士だと何にも起きないらしい。

恐ら、俺と優良が感じ取っていた『変な雰囲気』はこれの事だったのだろう。

だって、食べさせ終わった後にクエストクリアって表示が出たし。

 




これで今月の投稿は終わりです。
今月末に定期考査があるので、次の更新は来月になります。
後、何でもいいので感想下さい。

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結婚

これは一度やってみたかったネタをした為、時系列は前回から移動してません。
私的には糖度100%です。
甘かったら、感想に『砂糖口から精製した』とお書きください。


 結婚

 

 

 

 

 

 文字通りの甘い時間を過ごしたキリトとカユラは二十二層のギルド本部として使っているログハウスへと戻って来た。あの扉の中では時間の流れが違うようで、二人が出て来た時には既に辺りは赤くなり始めていた、とキリトとカユラは思っているのだろうが、実際は二人がイチャイチャしすぎて時間を忘れただけである。

 

 

 

『ただいま~』

 

『お帰り~』

 

 俺とカユラがただいまを言いながらログハウスに入ると、すでに俺達以外は全員リビングにいた。

 

「随分遅かったようだが、何かあったのか?」

 

「……あ~、いや…特に何もなかったよ」

 

「あ、アハハハ~」

 

 今冷静になって考えてみると、あの時の事は結構恥ずかし。だから自然と俺とカユラはキョドってしまった。

 

「んん~、何やら面白そうな情報が聞ける気がするナ」

 

「やめときなさい、アルゴ。そういうのは野暮ってものよ」

 

 ナイスだルル。正直アルゴの相手をするのはメンドイのでとても助かった。

 

「ヒースクリフとエギルはどんな感じだったんだ?」

 

「いや~、正直聞いても何の面白味もねぇぞ」

 

「大丈夫ですよ。私とアルゴさんの所もそんなに面白い事は無かったですから」

 

「では、私が話すとしよう」

 

 アスナの言葉を聞いて、ヒースクリフが彼とエギルの経験した内容を話し出した。

 

「私とエギル君は当然なんのだが青い扉に入った。そこには何もなかったので取り敢えず二人で進んでいたら一つの家が見えてきた。そこで警戒しながら入った私達を出迎えたのは大量の酒と一人のバーテンダーだった。私達は初老のバーテンダーに勧められるままに酒を飲んだ」

 

 そこまで言ってヒースクリフは口を閉ざした。どうやらもう終わりらしい。

 その後アスナとアルゴの話も聞いたが、二人もヒースクリフとエギルが経験したのと同じ様なものだった。

 

「ま、同性同士のペアはそんなもんだロ。それで、キー坊たち異性同士のペアはどうだったんだ?」

 

「俺とカユラは数回モンスターと戦った後、そいつ等からドロップした素材でカユラとチョコ作って食べさせあった」

 

「こっちも、そんな、感じだ」

 

「そうね、私とジョニーの所も大体同じよ」

 

「私もそうだったわ」

 

 どうやら異性同士のペアになると全員アレをやらされるらしい。

 下の階層のプレイヤーはどうするんだろうな?

 

「ふむ、これで全員の報告が終わったわけだが……キリト君とカユラは私達にもう一ついう事があるのではないのかね?」

 

『ッ⁉』

 

『……?』

 

 他の皆が頭の上に?マークを浮かべている中、ヒースクリフだけがジッと俺とカユラの事を見ている。

 いや、別に結婚したことについて隠すつもりはない。寧ろ俺達の方から言うつもりだったので、その事を示唆されたこと自体は何も問題ない。

 だが、これだけは言わせてほしい。

 

 あんた、俺とカユラの事について知りすぎだろう。

 

 結婚した後俺とカユラの距離感はする前と変わっていない。逆に言えば結婚する前もそれだけ距離が近かったってことになるがそれはこの際おいておく。

 

「………」

 

「はぁ、分かったよ。……カユラ」

 

「うん」

 

『……?』

 

 未だに状況を掴めていない皆を置いて、俺とカユラは皆の前に立つ。

 改まってこういう事をするとなんか恥ずかしいな。

 

「なんか恥ずかしいね」

 

「……だな」

 

 隣にいる彼女もそう思っていたらしく、俺にだえっ聞こえる声でそう言ってきた。

 

「え、ええと……この度私キリトと」

 

「私カユラは」

 

『結婚しました』

 

『…………』

 

 ハモッた俺とカユラの声がログハウスのリビングに響く。

 突然言われた皆は、一部を除いてポカーンとしている。

 

「ふむ、これでいくらか私の肩の荷も下りたな」

 

「congratulation。幸せになれよ、二人とも」

 

「congratulation。やっとgoalinか。随分かかったじゃあねぇか」

 

 やはりこの三人は色々と別格の様だ。

 てか、エギルとPoHの発音は相変わらず良いな。

 

「へ、へぇ~…結婚したのね二人とも。良かったじゃない。……年下に先越された。それもこれも全部アイツがッ!」

 

「うわぁ~、おめでとうございます、お二人とも。式には呼んでくださいね」

 

「へっ⁉ し、式⁉」

 

 あ、今のカユラの声可愛い。

 それと、ルルは何かここには居ない誰かに向かってブツブツ言ってるが大丈夫なのか? 何か黒いオーラも出てるぞ。

 

「あの歳で結婚とか……いっそ清々しいまでのラブラブっぷりね」

 

「仕方ないよ。ずっと両片思いだったんだから」

 

「いや~、これはいいネタになるナ」

 

「二人とも、幸せそう」

 

「いや~、めでたいな~」

 

 彼らの驚きが思いのほか少ないのは意外だったが、皆から祝福されるのは素直にうれしい。

 

「あ、そう言えばキー坊」

 

「ん? 何だアルゴ」

 

「前にこのアインクラッドで一番最初に結婚した、グリセルダとグリムロックていうプレイヤーに情報を聞きに行ったことがあるんだがナ、その二人が言うにはここでの結婚はちょっと面白味が加わっていて、システムでやり取りした後に現実(リアル)の婚姻届とにたモノに二人で書き込むと正式に結婚できるらしいが……そこのところはどうなんだ?」

 

 アルゴがこそっと俺にそんな事を聞いて来た。

 それにしても流石はアルゴ。そんなことまで知ってるなんてな。

 

「確かに結婚のやり取りをした後にそれは出て来た。だがまだ記入して無い」

 

「ふーん。因みにその二人が言うには、初々しい新婚さんみたいなやり取りが出来て幸せだった、て言っていたんだが……どんな内容なんだ?」

 

「……それは教えない。知りたかったら自分で結婚して確かめてみろ」

 

 まー、確かにあの内容はイチャイチャするにはもってこいの内容だろうな。

 

「ちぇ、つまんねーナ。……因みに言っておくと、その二人はそれのお蔭で今でもイチャイチャラブラブしているらしいぞ」

 

「……そうか」

 

 それからはちょっとした宴会をやった後、アスナとシリカとリズは就寝し、大人組+ジョニーとザザはそのまま雑談にはいった。

 そして俺とカユラは、ここに来る前に二十五層で買っておいた新居へと向かった。

 

 

 

「あー、疲れた……」

 

「そうだな。フロアボスを相手にするよりも疲れたかもしれないな」

 

 俺と優良の新は日本家屋の二階建てだ。ちょうど現実(リアル)での俺の家に近い。

 さらにこの二十五層は温泉街の純和風の造りになっている。そのお蔭でこの家にも露天風呂がついているのだ。まあ、その分値は張ったけどな。

 因みにここにいる時は現実(リアル)呼びしようと優良と取り決めをした。え? 理由? そんなのその方が幸せを感じるからに決まってるだろ。

 

「しかし、晶彦さんも太っ腹だよな。ここの代金全部持ってくれたんだから」

 

「うーん、でもサブグラウンドクエストの報酬って言ってたからプラスマイナスゼロじゃない?」

 

 ああ、そう言われればそうだな。

 買ったばかりのこの新居だが、晶彦さんが優良の方のサブグラウンドクエストの報酬として内装も整えてくれたので、結構家具も揃っている。これ、全部でいくら位するんだろうな? 

 

「さてと、それでは……」

 

「うん、そうだね」

 

 改まった俺の意図を理解した優良は、アイテム欄から一つの用紙を取り出す。

 それは紛れもなく『婚姻届』と書かれている。ただし、その文字のやや左上に『アインクラッド用』と四角く囲まれて書かれているけどな。

 

「それじゃあ、やるか」

 

「うん。……なんかドキドキするね」

 

「そうだな」

 

 顔が薄らと赤くなっている優良と笑い合いながら、『婚姻届』の項目に二人で書き込んでいく。

 

「始めは記入日と付合開始日と結婚申出か」

 

「これは……全部一緒だよね」

 

「そうだな。正確に言うなら俺達は恋人の段階をすっ飛ばしたから、付合開始日は無いんだが……それじゃあなんか嫌だしな」

 

「ねー」

 

 俺の言葉に相槌を打ちながら優良はそれらを記入した。

 

「えっと……この届書を記入する前に、二人の間に右記七項目があるか必ずご確認ください…だって」

 

「ふむ、項目は『愛情』『信頼』『思いやり』『覚悟』『責任』『忍耐』『笑い』か。問題ないな」

 

「だよね。寧ろここに『お互いへの依存』を入れても問題ない気がする」

 

「ハハ、全くだな」

 

 そして優良はその欄に丸——ではなくなぜか半分だけのハートを書き込んでいく。

 ニコニコ笑顔で書き込んでいくその顔はとても楽しそうだった。

 

「はい、和君」

 

「はいよ」

 

 優良から書く物を受け取った俺は、優良の書いたハートのもう半分を書いて行く。

 そして次は『夫になる人』と『妻になる人』を新姓で書くようだ。

 そしてその左横に注意書きで、別にプレイヤーネームをそのまま入れても構いません。これはカーディナルが確認させていただいた後お返ししますので、現実(リアル)ネームでもどちらでも好きな方をお書きください。って書いてある。

 

「これは…勿論現実(リアル)の方でだよな」

 

「当然。じゃないと結婚した意味が感じられないしね」

 

 どうやら優良も俺と同じ考えだったようだ。

 良かった。これで、プレイヤーネームにするって言われたら軽くショックを受ける所だった。

 

「じゃあどっちで書く? 桐ヶ谷? 茅場?」

 

「『桐ヶ谷優良』『茅場和人』……か。どっちも捨てがたいな」

 

 う~む。これは結構悩むな。

 

「じゃあ桐ヶ谷で書いた後に、その下に()して茅場姓の奴も入れておく?」

 

「そうだな。そうするか」

 

 どうやら優良もどちらがいいか迷っていたようだ。

 そして最初に優良が自分の所を書いた後に、俺が自分の所を書いた。

 ……それんしても『桐ヶ谷優良』……か。いい響きだな。

 

「和君、顔がニヤケてるよ」

 

「えっ⁉ そ、そうか?」

 

「うん。ものすっごいニヤニヤしてる」

 

 いやでも優良さん。あなたも顔がメッチャ笑顔ですよ。とは言わないでおいた。なんか水を差すような感じがしたからな。

 

「次は第三者への呼び方か——つまり俺が他の人に優良を紹介する時の呼び方か……」

 

『妻』や『奥さん』という色々な項目があったが、俺はそれらを選ばずに『嫁』の欄にチェックを入れる。そして呼んで欲しい希望の欄には『うちのひと』と書く。

 

「おー、やっぱり和君はそう呼んで欲しかったんだね」

 

 そう言って優良は、その他の欄にチェックを入れて『うちのひと』と書く。そして呼んで欲しい希望の欄には俺が書いた『嫁』って書いた。

 

「以心伝心だな」

 

「フフフ、そうだね」

 

 そう言いながら優良は俺の肩に頭を預けて寄りかかって来た。

 まあ、呼び方が些か古いのはそれぞれの家が『古き良き』だから仕方がないだろう。

 そしてその次はお互いの呼び名。

 

「第一希望はどちらも名前でいいとして……」

 

「問題は第二希望だよね……」

 

 因みに優良の第一希望の欄には『和人』の下に()で『和君』と書かれている。

 

「子供が出来た場合を考えて『お父さん』『お母さん』ってしとく」

 

「だったら、『パパ』『ママ』でも良くないか?」

 

「いやでも昔何かの情報媒体で知ったんだけど、子供の前で赤ちゃん言葉ってあんまり良くないらしいよ」

 

「……今からそんなに悩まなくても」

 

 結局『お父さん』『お母さん』の下に()で『パパ』『ママ』とも書いておいた。

 ……俺達()で書き足すのが多いな。

 

「次は理想の献立と朝食の希望か……」

 

「……」

 

 俺が悩んでいる間に、優良が何やら書いて行く。

 そこには二人の欄全部使って『その都度、作る係りも献立も二人で相談して決める』と書いてあった。

 

「それが一番適切だな」

 

「エヘヘー、でしょ~」

 

 優良の頭を撫でると惚けた笑顔でこちらを見て来た。

 クソッ、俺の嫁超可愛いな‼

 そしてその次は『休日の二人の時間・過ごし方』だった。

 

「『アクティブ』と『まったり』だったらどっちにする?」

 

「う~ん……あっ! こうすればいいんじゃないか」

 

 俺は『アクティブ』と『まったり』の両方にチェックを入れると、『理想プラン』の欄を上下に分けて上の欄に『茅桐竜の稽古』『狩り・攻略』と書き込み、下の欄に『二人で縁側でゆっくり過ごす』『のんびり昼寝』と書いた。

 ——俺の願望が入っているのは、見逃してほしい。

 だが、自分でもナイスアイディアだと思った————のだが、

 

「全く、和君は肝心な事が分かってないね」

 

 俺の嫁さんはそうは思わなかったらしく、頬を膨らましながら俺が引いた線の上に書き加えていく。

 そこには『イチャイチャしながら』と書かれていた。

 ——ああ、なるほど。

 

「和君、一番大切な事……分かった?」

 

「よーく、分かりました」

 

 眉をへの字にしながらこちらにそう言って来る優良。だけどその顔が愛おしくて面白くて。俺は怒られているはずなのに、自分の頬が緩むのが抑えられなかった。

 

「むぅ、私が怒ってるのにニヤニヤして……」

 

「ごめんごめん。それより、次に行こうぜ」

 

 これ以上不機嫌になられるとちょっと困るので、露骨かもしれないが話題を変える。

 

「ええと次は……———ッ⁉」

 

「ん? どうしたの和君?……ああ、これね」

 

 何故かうちの嫁さんは冷静だった。

 ———いや、これは……。

 

「はぁ、仕方ないな……」

 

「ん?」

 

 どうするか悩んでいると、優良が俺から二歩ほど離れて姿勢を改める。

 

「ええと、コホン。和君」

 

「は、はい。何でしょう……」

 

 急に態度が改まったので、こちらもなぜか緊張してきた。

 そんな俺を他所に優良は花が咲いた様な笑顔になると、

 

「——和人、ご飯にする? お風呂にする? それとも……?」

 

「———ッ⁉」

 

 その時俺を襲った衝撃はとても言い表せるものじゃなかった。

 そして俺は迷わず、三つの欄すべてにチェックを入れた。

 

「やばい、俺の嫁最高」

 

「そ、それは良かった」

 

 やはり優良も恥ずかしかったのか、俺の隣に戻ってきた彼女の頬は赤くなっていた。

 そして次の質問も中々アレな内容で、毎日のキスの有無と回数だった。

 

「まあ、これはこうだよね~」

 

 俺が何か言う前に優良が書き込む。

 最初は勿論『有』で『出勤時』『帰宅時』『就寝時』『その他』全てにチェックが入っており、回数は∞だった。

 

「そうだな、実際はどのくらいするか分からないからその方がいいな」

 

「でしゃ?」

 

 ——得意げな顔でこちらを見て来るウチの嫁が可愛すぎます。

 

「次は『夫婦間での決まり事・約束事』だね」

 

「『帰りが遅くなる際は必ず相手に一報入れる』『喧嘩をした日も必ず一緒に寝る』『飲みに行く日は誰と行くか伝えておく』は有の方にチェックで『相手が作ってくれた料理に口出ししない』は無の方に、『お見送りは最低でも玄関までは行く』『年に1度は一緒に旅行に行く』は両方にチェックだな」

 

「『相手が作ってくれた料理に口出ししない』が無なのは口を出した方が上達するからで、『年に1度は一緒に旅行に行く』が両方なのは忙しくて行けなかったり家でのんびり過ごしたい年もあるからだと分かるけど、『お見送りは最低でも玄関までは行く』が両方なのは?」

 

「いや、体調が悪かったりしたら無理はさせられないだろ」

 

「和君……大好き‼」

 

「ちょっ⁉ おわっ!」

 

 俺の言葉に感極まって優良が抱き付いて来た。その所為で倒れそうになるのを、攻略組トップクラスの筋力パラメータで耐える。

 ——ですが優良さん、何にとは言いませんが俺の顔が埋まってます。心地? 最高です。

 そして少ししたら解放された。

 ……ちょっと残念に思ってしまった俺は、ムッツリなのだろうか?

 

「次は家事の分担だな」

 

「これは『出来る方が出来る事をやる』でいいよね」

 

「そうだな。あまり細かく決めると揉めそうだしな」

 

 これはあっさり決まった。

 

「次は老後の過ごし方だけど……」

 

「二人一緒に入れればいいよね」

 

「そうだな」

 

 これもあっさり決まる。

 そして最後の項目がやって来た。

 最後の項目は『誓い』だった。

 

「婚姻理由——決め手……か」

 

「和君はなにが決め手だったの?」

 

 俺は優良のその問いには答えず、夫の欄の婚姻理由の所に書き込む。

 

『いつも健気で、真っ直ぐでだけど何処か不安定な優良と、ずっと一緒に支え支えられていきたいと思ったから』

 

「じゃあ……私も」

 

 俺の奴も見た優良も妻の欄に書き込んでいく。

 俯いていてその顔は見えなかったものの、彼女の耳の赤さと雰囲気から彼女の顔が綻んでいるのは容易に想像できた。

 

『強くて、優しくてだけどすぐに壊れてしまいそうな儚さをもった和人に守られるだけでなく、ずっと隣で支え支えられるようになりたいと思ったから』

 

『………』

 

 書き終わった優良と視線が重なる。

 自分の顔がどうなっているのかは分からないが、きっと彼女に向かって微笑んでいるのだろう。だって、彼女が俺に太陽の様な微笑みを見せてくれているのだから。

 そしてその下の『理想の夫婦像』には二人で同じことを書いた。

 

『お互いの事を想い、いつも一緒に支え支えられる関係でいること』

 

「最後はそのまま『誓い』だな」

 

「ねえ、和君。私からいい?」

 

「いや、俺からするよ」

 

「え?」

 

 俺の言葉に違和感を覚えた優良は俺の方を向く。

 すると彼女の事を見ていた俺と視線がぶつかる。

 

「———優良を守る。最後の一瞬まで一緒に、優良の隣にいる……」

 

 すると優良も体の向きを変えて俺と向き合った。

 

「———私も和人を絶対に守る。これからも何があろうと、和人の隣にいます……」

 

 そして見つめ合った俺と優良の距離は近づいていき……結婚式のように誓いの後のキスをした。

 

 その後、先程言った言葉を『誓い』の欄に書き込んだ。

 

 

 ———二〇二三年二月十四日。この日は俺と優良の心に一生忘れない日となった。

 




ご愛読ありがとうございました。
次回はホワイトデーです。

感想・評価・誤字脱字の報告を待っています。


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ホワイトデー(本編)

何とか今日中に投稿できました。
今回はバレンタインデーの時とは違い、和人と優良以外の話もすこしあります。


 ホワイトデー

 

 

 

 

 

「………」

 

「フ~ンフフ~ン」

 

 ——どうしてこうなった、と俺キリトこと桐ヶ谷和人は心の中でつぶやいた。

 そんな俺の隣では俺の嫁さんであるカユラこと茅場優良が鼻歌交じりにお菓子を作っていた。因みに場所は第二十五層の俺と優良の家の台所だ。台所と言っても昔の釜戸とかある奴じゃなくて、普通の現代風のキッチンだ。

 ……うん、楽しそうにお菓子を作っている優良はいつもの数倍可愛いな。

 

「? 和君、私の顔に何かついてる?」

 

「い、いやなにも付いてないぞ」

 

 あ、あっぶね~。危うく優良の顔に見惚れてるのがばれる所だった。いや、別にバレテもいいけど。

 

「あ! もしかして今私に見惚れてたでしょ~」

 

「な、何で分かったっ!」

 

 と、大げさに驚いてみたものの俺も彼女の事ならある程度の事は分かるので、彼女が俺の事をある程度分かっていても不思議じゃない。

 

「もちろん分かるよ。だって私は、和君の事なら八割方分かるし」

 

 そんなドヤ顔も可愛いと思ってしまう俺はもう末期なのだろうか。

 いや、そんな事は無い筈だ。俺の愛はまだまだ深くて重いからな。あ、でも重すぎるとダメなんだっけか?

 

「ん~ん、そんなことないよ。私は和君の愛ならどんなに重くても受け止めきれる自信あるし」

 

 また読まれた。これはもう心の中で愛を囁くしかないんじゃないかな。

 

「あー……。ついでに言葉にもしてくれるとその……うれしいかな」

 

 そんな風に照れながら上目使いで言って来る優良。

 そんな風にされた俺はもう心臓が煩いほどにドキドキと鳴っている。

 ……全く、こんなとこまで再現しなくていいのに。

 

「優良、それ取ってくれ」

 

「はーい。あ、和君それ取って」

 

「おう」

 

 それに気づかれないようにするために優良の注意を別の方向に向けた。そして調理器具を取ってもらったお礼に優良のも取ってあげる。

 俺達はあれやこれ等の指示語でも十分に相手の言いたいことが分かる。その事で俺と優良の絆の深さを改めて分かった俺は自然と頬が緩む。

 

「フフッ」

 

 その時横で小さく優良が笑った。

 生憎俺は優良の考えてる事を彼女ほど正確に分かる訳じゃ無いので今の笑いが何に対する笑いなのかは分からない。だが、彼女の頬が少し赤い事やその横顔が笑顔な事からきっと彼女にとってうれしい事に対する笑いなのだろう。

 ——俺と同じこと考えていたから笑ったのかな?

 そんな事を思いながら俺は、隣にいる優良と共にお菓子作りを続けるのだった。

 今作っているのはホワイトデーとしては王道ともいえるクッキーだ。

 ただここは現実世界(リアル)じゃないので、材料の名前は全く違う。中には虫を連想させるものだったり、ゾンビ等の化け物を連想させるものだったりと食欲を失せさせるものもある。だがそれさえ気にせずに、尚且つ料理スキルがそこそこ高いものが作ればあっちの世界とそっくりな味のクッキーが出来上がる。

 そおして実はこの調理の仕方にも裏ワザがある。といってもすごく簡単なものだ。

 その前にこの世界での調理の仕方について。この世界の調理の仕方は二つあって、一つは材料を包丁で叩くと切った後の状態になり、料理をする人がすることは包丁と材料に当てる事と煮込み料理などのタイマーをセットする事くらいと言う『簡易調理モード』。もう一つはあっちの世界と同じように調理する人が一から十まで全部やる『基本調理モード』。それで実はその裏ワザとは『基本調理モード』の事なのだ。

 今ではもう料理スキルを持っている人は全員気付いているのだが、この『基本調理モード』で調理をすると料理の味が上下するのだ。つまりうまく作れたら実際に自分が習得している料理スキルの値よりも、少し上の出来具合になり料理がおいしくなる。しかし逆に下手に作ったらその分不味くなる。という風にあっちの世界をいくらか再現しているのだ。ま、『簡易調理モード』の方がある程度スキル熟練度が上がれば安定するから、こっちを使う人は少ないけどな。

 

「う~ん……」

 

「? 何を悩んでいるんだ」

 

 材料を混ぜ合わせている俺の隣で優良が唸っていたので聞いてみる。すでに彼女は材料を混ぜ合わせるのを終えていて、生地を冷蔵庫で冷やしている段階だ。

 

「いや、ここは敢て失敗して和君にドジッ子アピールをするべきかな~、と思って」

 

 あの、アピールするも何も……

 

「それを俺に言っちゃお終いじゃないのか? それ以前に幼馴染でもある俺にそれは通用しないと思うぞ」

 

「あっ! そっか!」

 

「いや、気づかなかったのかよ」

 

 呆れたようにツッコむと、彼女はいや~、と言って照れながら頭をかいていた。

 だが、彼女が気付かなかったのはそれだけ俺の事を思っていた(という俺の願望)という事なのでこれ以上はその事には触れないでおく。

 それよりも今はクッキーを作らなきゃな。慣れてないから結構難しい。これは優良に見栄を張って『基本調理モード』を選ばなきゃよかったな。まあ、その見栄も優良にはお見通しだろうけど……

 

 ピピピッピピピッ

 

「あ、固め終わったみたい」

 

 彼女がセットしていたタイマーが鳴り優良が冷蔵庫から冷やされて固まったクッキー生地を取り出す。俺はそのタイミングでやっと生地を混ぜ終わったところだ。

 

「それじゃあ先にオーブンで焼いてるね」

 

 そう言って彼女はすでに余熱を終えたオーブンに生地を入れて時間をセットする。その手際の良さに生地が固まるまで暇な俺は見惚れた。

 

「ん? どうしたの?」

 

 見返りながら小首をかしげる優良は普段見る凛々しさとは違い年相応の可愛らしさがあって、その姿に俺の胸の鼓動が高くなる。

 そしてまだ出来ていないクッキーの甘い香りに当てられたのか、彼女の問いに俺は無意識のうちに口を動かしていた。

 

「いや……。ただ今日の優良は可愛さが増してるなー、と思ってさ」

 

「ふーん。……じゃあ何時もの私は可愛くないんだ」

 

 どうやらあまり考えもせずに言ったのが悪かったらしい。優良は拗ねてしまって俺から顔を体ごと背けてしまった。

 

「い、いや別にそうはいってない! ただその……何というか……普段の優良は凛としたカッコよさとかふいに見せる仕草の色っぽさとかそういうのの方が際立ってる感じってだけで……。決して可愛くないなんて言ってない。寧ろ俺はこの世に優良異常に可愛い子なんていないと思ってる!」

 

「………」

 

 俺が勢いに任せて今まで思っていたことを言うと彼女は不意に黙ってしまった。

 

「あ、あの…優良さん?」

 

 流石に(後になって思い返してみると)恥ずかしい事をかなり大きな声で言ったのに何も反応が無いのは不安になった俺は、未だに顔を背けている優良の肩に触れようとする。

 

「………」

 

「おわっ⁉」

 

 しかし俺の手が触れる前に優良が勢いよく振り返り俺に胸の中に飛び込んできた。

 いきなりの事に驚いたものの、何とか体制は崩さないように踏ん張りながら彼女の体を抱く。

 

「ど、どうし———」

 

「……い」

 

 どうした? と聞こうとした時、優良が聞き取れるかどうか怪しいほどの小さな声で何か言った。なので俺からは何も言わずに彼女の言葉を待つことにする。

 

「和君は………いよ」

 

「……ん?」

 

 先程より聞こえるようになった彼女の声には、いくらかのテレが含まれている様な気がした。よくよく見ると綺麗な白銀の髪の隙間から見える彼女の耳が赤い。

 

「和君はいつもずるいよ。いつも、私をドキドキさせることを無意識に言って……。和君は…ずるい」

 

 俺の腕の中から顔を真っ赤にして見上げながら彼女が俺に言った言葉はそれだった。

 今の彼女のサファイアの瞳は、ウルウルと潤んでいて吸い込まれそうになるほど綺麗だ。そして顔全体がリンゴのように赤く、その肌はいつも以上につやつやとしている気がする。そして彼女と抱擁していると分かるが、俺とあんまり背は変わらないのに彼女は華奢でその体の細さから繊細さも伝わって来た。何よりも潤んだ瞳で上目使いの威力がヤバイ。具体的に言うなら二十五層のクオーターボスの三倍くらいの威力がある。

 だがそれでも、俺は先程の彼女の言葉に異を唱えずにはいられなかった。

 

「いや……ズルいのは優良の方だろ」

 

「私が? ……何で」

 

 俺の言葉に訳が分からずに頭に?マークが浮かんでいる優良。

 ——いや、だからそのキョトンとした顔とかですよ……。それ俺にとったら効果は抜群なんですからね。

 だが、それを直接口に出して言うのはなぜか憚られたので口には出さない。

 

「何でもだよ」

 

「えー、何それ意味わかんない」

 

 だから理由を言わなかったのだが、また優良が拗ねかける。

 

 チーン

 

 そんな時丁度良く俺の方のクッキーが焼きあがった。

 

「あ、焼きあがったな」

 

「え……ちょっと和君! 何で私がズルいのっ!」

 

 逃げる様にレンジの方に行くがここはキッチンなので、逃げられるわけなく優良が後ろから何回も聞いて来る。

 

「分かった分かった。後でちゃんと話すから今はクッキーを作ることに集中しようぜ」

 

「むー……分かった。じゃあクッキー作り終わったらちゃんと教えてね」

 

「分かってる」

 

 それから俺と優良はクッキー作りに精を出した。と言っても後は冷えるのを待つだけなんだけどな。

 その間優良は一度もさっきの話題を出してこなかった。どうやら俺の言った事に賛成してくれたらしい。

 

 

 

「んー」

 

「いや……あの、優良さん?」

 

「んー」

 

 クッキーを作り終わった俺達は居間でお互いの作ったクッキーを食べることになった。なったのだが……

 

「ほぉら、ふやくふぁずくん」

 

 今俺の目の前には俺が作ったクッキーを口にくわえて突き出してくる優良が居る。その様子は雛鳥が親鳥から餌をせがむ姿みたいでものすごく愛らしく可愛い。だがなぜこうなった……。

 いや、彼女のやりたいことは分かる。だが最初はただ普通にお互いの作ったモノを食べさせあうだけだったのにどうしてこうなった……。

 

「むー……、ノリが悪いぞ和君」

 

 いつまで経っても食べない俺に痺れを切らした優良が、口にくわえていたクッキーを取って俺にそう言ってきた。

 

「いや、やるのは別に構わない——というよりこっちから頼みたいくらいなんだが……なぜ普通に食べさせあうだけだったのにそうなったのでしょうか? 説明を要求させてもらいます」

 

 現在進行形で期限がよろしくない方向に向かっている優良を刺激しない様に自然と敬語になる俺。うん、確実に尻に敷かれてるな。

 

「なんでって……そんなの私が和君とキスしたいからに決まってるじゃん。他に何があるの?」

 

「いや、キスなら毎日二桁以上してるでしょう。まだ足らないんですか……?」

 

「うん、足りない」

 

 流石に攻略がある日(ほとんど毎日)は控えめに十数回だが、それ以外の日——特に家で一日中ごろごろしている日はゆうに二十回は超える数のキスをしている。それでもしたいと言ってきたという事は、彼女はまだまだ不満なのだろう。だがこれは逆にチャンスかもしれない。俺も普段からもっと優良とイチャイチャしたりキスしたいと思っていた。流石にこれ以上するのはあれかなー、と思っていたので今まで言わなかったが向こうがそれを望んでいるならこちらにも都合がよいので素直に受け入れよう。

 

「分かった。これからはもっとイチャイチャしよう。前々から俺も物足りないと思っていたしな」

 

「やったーっ! 和君愛してるー‼」

 

 喜びを体全身で表現した優良が俺に抱き着いて来た。何となくこうなる事は予想できたので余裕をもって彼女の体を受け止める。

 

「じゃあ早速……んー」

 

「はいはい……」

 

 突き出されたクッキーを今度は直に自分の口でくわえる。その時に彼女の唇と俺の唇が触れる。

 パキンとクッキーを折って咀嚼していると、自然と優良と視線がぶつかった。

 

「えへへ、おいしー」

 

 ヤベェ、何この天使超可愛いんですけど!

 

「ああ、俺もおいしいよ」

 

 彼女の蕩けそうな笑顔を見て自然と俺の頬も緩み、声音も柔かいものになる。

 

「……和君」

 

「ん? どうした?」

 

 俺の胸に額を付けて寄りかかりながら、俺の名及ぶ彼女の体を俺は抱きしめる。

 

「私達は、どんなことがあってもずっと一緒だよね……?」

 

 その声は確認するような声音だった。

 その声は何かに恐怖しているような声音だった。

 その声はそう願っているような声音だった。

 その言葉を発した彼女の身体は震えていた。

 

 だからだろう。俺が頭で考えるよりも早く俺の体は動いていた。

 

「大丈夫だ。俺達はずっと——どんなことがあっても一緒に居る。例えフロアボスが相手だろうと、(システム)が相手だろうと、俺達は…ずっと一緒だ」

 

「……ッ⁉」

 

 俺の言葉を聞いた優良の身体がビクッと一度跳ねる。

 しかしその後は俺にゆっくり体を預けて来た。どうやらもう震えは止まったらしい。

 根拠は全くない言葉だけれど、絶対と宣言できるほど確証はないけれど、俺自身その事が怖くて自信を勇気づける為に出た空元気な言葉だけれど……それでも、彼女の震えを止められただけで俺は満足だ。

 

「和人……ありがとう」

 

「どういたしまして。……けど、何かむず痒いな」

 

 今まで優良に名前を呼ばれたことはあまりない。大体はニックネームかキャラネームだ。それがいきなり名前で呼ばれたものだから背中の辺りがむず痒い。

 

「もう、折角の雰囲気が台無し」

 

「ごめんごめん」

 

 拗ねた顔で見上げて来る彼女に軽く詫びる。

 

『フフ……』

 

 暫くの間見つめ合っていた俺達は、どちらからともなく自然と笑みが零れた。

 

 その後俺と優良は作ったクッキーを全部口移しで食べ、一日の残りを優良と体を密着させたまま過ごした。

 その時に縁側から見た外の景色は、デスゲームに不釣り合いなほど輝いて見えた。

 

 

 ~おまけ~

 

 ——時はこの日の朝に遡る。

 

 流石にこの日は攻略も殆どのギルドは休みだ。

 故にいつもは最前線にいるプレイヤーたちが思い思いの層に居るので、この日に限って言えばどの層の主街区もいつもより人が二割増しで多かった。

 そんないつもより人通りの多い主街区を歩く一人の青年がいた。

 青年は頭に趣味の悪いバンダナを付けていて野武士面だ。

 

「あ~……どうすっかな~」

 

 彼のプレイヤーネームはクライン。ギルド『風林火山』のリーダーで、攻略組屈指の実力者だ。

 そんな彼は今ある壁にぶつかっていた。

 

「ホワイトデーつってもいったい何を送ればいいんだ……?」

 

 というのが今の彼の前に立ちはだかる壁なのだが、ぶっちゃけこの悩みを彼の友人である黒の双剣士や商人兼斧使いなどに尋ねたら……

 

「そんなもの、相手が喜ぶものをあげればいいだろ。例えば……『愛』とか」

 

「そうだな、キリトの言う通りだ。それが一番悩まなくていいし、相手も一番喜ぶ」

 

 と言われることは目に見えているので、彼は相談しに行ってはいない。

 

「……どうしたもんかな~」

 

「何が?」

 

「オワッ⁉」

 

 そんな事を呟いた彼の後ろから、いきなり声が掛かった。その所為で柄にもなく変な声を上げてしまう。

 

「な、なんだルルかよ……」

 

「何だとは失礼ね。そんなに私は魅力がないのかしら……?」

 

 声を掛けて来た人物——ルルにそう言われたので彼女の体を頭の先からつま先まで見てみる。

 

 ザ日本人といった黒髪。

 某白銀の双剣士とは違ってあまり気丈に飛んでいない胸部。

 スラリと伸びた綺麗な脚線。

 そして何処か感じさせる大人の色香。

 

 普通ならばセクハラになる位見回したクラインは、彼女の顔を改めて見つめて彼の中で思った事を素直に口にした。

 

「いや、別に魅力が無い訳じゃ無いと思うぞ。幼馴染()の贔屓目無しでも十分にいい女だぜ」

 

「あら、ありがとう」

 

 クラインの言葉にいつも通りの感じで返すルルだったが、その頬は先程より僅かに赤い。

 その事に気づいたクラインだったが、見て見ぬふりをした。

 

「じゃあ褒めてくれたお礼に今日は色々奢ってあげるわ。付いてきなさい」

 

「いや、ここは俺が持つ。こういう時は男が払うもんだからな」

 

「あらそう。じゃあお願いするわ」

 

 そうしてクラインとルルの幼馴染コンビは主街区を練り歩いた。

 

「はぁ~……。今日は結構歩いたわね」

 

「そうだな。俺も久々に街の色々な所を見て歩いた気がするぜ」

 

 すっかり日も落ちた頃、二人はちょっと高そうな雰囲気のレストランに入ってディナーを楽しんでいた。

 

「……あっ」

 

 そこで一息ついた時にクラインは思い出した。彼女にバレンタインデーのお返しをしていない事に。

 

「フフ……。別にいいわよ、今日一日付き合ってくれただけで」

 

「え……?」

 

 そんな彼の心を見透かしたかのようにルルがクラインに向かって言った。

 

「だから、バレンタインデーのお返しは今日一日付き合ってくれた事でいいって言ったのよ」

 

「……いやいや、そんなの俺の気が済まねえよ」

 

 ようやく彼女の言っている意味を理解したクラインが、彼女に何かお礼をしようと頭の中で色々考えるがいい案は思い浮かんでこなかった。それでも必死に考えるクラインに向かってルルから今日一番の爆弾が投下された。

 

「それに私にとってはあなたと居れる時間こそが、どんなものにも代えがたいほどの宝物だわ」

 

 テーブルの上にある蝋燭に照らされたルルの顔は、美しい笑顔だった。

 

「ぇぅ……そ、そうか」

 

 面と向かって言われたクラインは顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 

「フフ、夜はまだ長いわ。ゆっくり楽しみましょう」

 

「あ、ああ……そうだな」

 

 こうして二人の三月十四日は過ぎていく。

 その過ごし方は双剣士夫婦とは違い、甘すぎず苦すぎない大人な過ごし方だった。

 




正直ホワイトデーはあまりいいネタが思い浮かばなかったのでグダグダ感が半端ないと思います。こんな駄作を読んでいただきありがとうございます。
最後のクラインとルルの話は急造なのでやっつけ感があります。ですがこの二人の絡みは書いてて楽しかったので気が向いたらまた書きます。
次の更新はいつになるか分かりませんがこれからもよろしくお願いします。


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