どうやら英雄が逆行した模様です (もこりん)
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プロローグ

つい想像力が溢れ出してしまったぜ・・・




それは、ある日のことであった。

 

 

 

火影として、一日中数多くの書類を捌いていく日々。

忍としての仕事どころか、訓練の時間さえ滅多にない。

とはいえ、彼に回ってくる書類はほとんどが火影の印鑑が必要な物だけであった。

それも、彼の側近が非常に優秀だったからなのだが、それでも彼には1日がかりの大仕事なのだ。

 

帰宅は深夜、家族との団欒の時間も限られていた。

自由などは無いに等しかった。

 

それでも彼は満足していた。

火影は彼の幼少の頃からの夢であり、憧れであった。

たとえどんなに書類にまみれていようが、先代から残る里の闇を思い知らされようが、彼はそれを誇りに思っていた。

 

 

だが、そんな日常も終わりを告げる。

争いが起きたわけでは無い。

まだ忍界大戦の傷跡も残り、当時の世代が未だに働き盛りである。

誰も戦争などは望んでいなかった。

何より、かつて世界を救った二人の力が未だ衰えていないにも関わらず、彼に真正面から喧嘩など売るものはいない。

 

彼の健康にも問題はなかった。

馬鹿は風邪をひかないとよく言うが、彼はそれを体現したかのような存在であった。

おそらく、人柱力であるが故の異常な回復力が原因であったのだろう。

 

もちろん、暗殺されたわけでもない。

世界を救った力は、たかが不意打ちで破れるほどやすいものではない。

そもそも、火影ともあろうものが、そうそう暗殺できる環境になどいない。

 

では何が起こったのか。

それは、誰にも分からなかった。

分かることといえば、彼、すなわち七代目火影が忽然と姿を消したことだけ。

彼がどこへ消えたのか、どうして消えたのか、どうやって消えたのか。

そして、里の、ひいては忍界の未来はどうなるのか。

 

あるいは、五代目火影や六代目火影、彼の側近、そして世界を救ったもう一人あたりは何かつかんでいたのかもしれない。

けれども、たとえそうであったとしてもどうにもならなかったのは事実であろう。

彼が戻ってくることはなかったのだから。

 

 

これは、彼が直後にこの時のことを語った一部始終である…

 

 

 

 

「あ…ありのまま さっき 起こった事を話すってばよ!

『オレは 書類整理をしていたと思ったら いつのまにか寝っ転がって空を見ていた』

な… 何を言っているのかわからねーと思うが おれも 何をされたのか わからなかったんだってばよ…

頭がどうにかなりそうだったってば… 

マダラだとかかぐやだとか そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえんだってばよ

もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったってばよ…」

 

 




続きを期待するなよ。
本当に期待するなよ。
絶対に期待するんじゃねーぞ。







振りじゃないぞ。


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第1話

たとえほとんど誰にも期待されていなくても書くのである。
期待されてないところが俺クオリティー。

かと思いきや、感想が4件、お気に入り34件もあるではありませんか。
評価10はもっと考えてつけるものですよー。

ともかく、読者の皆様ありがとうございます。

注)時と場合と気分により、文体や口調どころか一人称と三人称までもが使い分けられるかもしれません。
  ご了承ください。

12月24日12時 誤字修正しました。報告ありがとうございます。


書類整理をしていたはずなのに、気づけば空を見上げていた。

 

いや、それだけであればナルトもそこまで動揺しなかっただろう。

もうとっくに成人しているのだから、酒に呑まれたことも一度ならずある。

さすがに、今回のようなひどい記憶の混乱は経験がなかったが、せいぜいヒナタに一日中怒られる程度で済んだであろう。

もっとも、愛妻家のナルトにとってはそれもひどく辛いことではあるのだが。

 

 

そう、何よりもナルトを動揺させたのは…

 

サスケに顔を覗き込まれたことだった。

 

「ナルト、さっさと立て。和解の印を結ぶんだ。」

 

イルカ先生らしき声が聞こえた。

しかし、いつもより妙に若々しかった。

よく見れば、サスケも幼い頃の姿だ。

 

ふと気づくと、身体中に痛みが走っている。

その中でも、受身を取らずに投げられたようなあの独特な痛みがナルトを襲った。

思わず起き上がろうとすると、身体に違和感を覚える。

どうも自分の身体が全体的に小さくなっているようだった。

 

 

そんな状況に、ナルトは動揺を通り越して720度ほど回り、かえって冷静になった。

それを抜きにしても、一応すでに火影として落ち着いた身である。

このくらいの動揺に、いつまでも身を任せてはいなかった。

 

まずナルトが考えたのは、これが夢である可能性。

もっとも納得出来るものではあるが、この場合は何も心配はいらないので一旦置いておく。

 

次に考えたのは、幻術であるという可能性。

しかし、すでに九喇嘛と打ち解けている今、普通の幻術は効かないはずだ。

そう考えたナルトの脳裏に、ある出来事がよぎった。

八尾の人柱力であり、ナルトよりもずっと先に尾獣と打ち解けていたキラー・ビーがなすすべもなくかかった幻術。

 

そう、無限月読である。

 

とはいえ、もし本当に無限月読ならば、火影であり、人柱力であるナルトが事前に知らなかったことに説明がつかない。

何せ、あの幻術には馬鹿でかいチャクラと図体を持つ十尾が必要だからである。

そもそも、この可能性を考えたところで何もできることはない。

 

そこで、ナルトは自らの経験を思い出す。

かつてナルトがサクラと巻き込まれた幻術、限定月読のことだ。

あれならば火影に気付かれずに事を進めるのも不可能ではない。

あの時はまだ九喇嘛と和解していなかったが、それでも共闘はした。

それなのに抜け出せなかったのは、それがとてつもなく強力だったからだ。

そんな限定月読だが、あの時はその世界でのナルト、メンマという名前ではあったが、それを打ち倒したことにより幻術から逃れられた。

この場合なら、頑張ればどうにかできる。

 

最後に、これが本当に現実である可能性。

この場合、忍界では知られていない新たな力を仮定することになる。

 

ナルトはここまで考えたところで一旦思考を止める。

ここで寝っ転がったままでは選択肢を一つに絞れない。

それに、元々ナルトはあまり考えるのが好きではなかった。

それは、火影になった今でも変わらない。

ついでに言えば、いつまでも寝っ転がっていても怪しまれるばかりである。

 

 

起き上がって周りを見渡すと、忍者アカデミーの校庭で、物の見事に幼くなった同級生たちが囲んでいた。

女子は皆サスケに黄色い歓声を上げている。

サクラやイノまでそうしているのを見ると、少し悲しくなった。

男子は幾分かこちらに目を向けているが、瞳に映るのは嘲笑ばかり。

いや、忍同期男子メンバーはこちらを心配そうに見てくれていた。

サクラとイノも見習ってほしくなる。

 

ふと後ろを振り向くと、幼いヒナタがナルトを見つめていた。

思わず数秒見つめ合ってしまったが、いつまでもそうしているわけにもいかないので、まだ若いイルカ先生の元へ向かう。

しかし、小さくなった身体のせいで思うように歩けない。

 

見れば、サスケはすでにドヤ顔でイルカ先生のそばに立っていた。

 

「遅いぞ、ウスラトンカチ。俺を待たせるな。」

 

サスケがそう言うと、さらに女子の歓声が上がる。

男子はさすがにうっとうしくなってきたのか今度はナルトを非難するような目を向ける。

ナルトは幼い頃に受けた差別を思い出し悲しくなったが、火影にまで上り詰める間にできた仲間達を思い、そんな悲しみを振り払った。

 

なんとかイルカ先生の前まで辿り着き、サスケと和解の印を結ぶ。

その時、ナルトはアカデミーでサスケと初めて組手をしたことを思い出す。

どうやら今はその組手の時まで戻っているようだと気付いたナルトは、これからのことを思ってため息をつくのであった。

 

謎の現象の中、これからのことを考えられるほどにナルトも成長したのだ。

 

 

 

この時、ナルトに見つめられたヒナタが顔を赤らめていたことに気づかないところは全く変わっていないのだが。

 

 




筆者の脳内捏造設定大暴露の術


限定月読

映画ROADTONINJAでオビト(トビ)がナルトとサクラにかけた幻術。
かけられたものの願望が反映される。
おそらく七尾までの力を使ったものと思われるが、ナルトはそこまで考えていない。
ナルトがメンマ(月読世界でのナルト)を倒した時に破れたのは、同じ世界に同一人物が二人存在することをお互いに認識したから、と考えるべし。

感想、評価、批評お待ちしております。



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第2話

あらやだ、気づけば評価バーがオレンジじゃないですか。
感想は二倍に、お気に入りも139件!
前回よりも100近く増えました。

読者の皆様、ありがとうございます。


ナルトは今、家路についていた。

 

 

あの組手の後、歩くのさえやっとであったナルトを見かねて、イルカ先生がナルトを木の葉病院まで運んだのだ。

その後の診察で異常が見つからなかったため、軽い脳震盪でも起こしたのだろうと判断され、入院もしなかった。

その頃になると、すでにナルトも持ち前の勘で問題なく歩けるようになっていた。

もっとも、まだ激しい動きや細かい動きはおぼつかないのだが。

 

ナルトは手詰まりを悟っていた。

無限月読が見せる幻術は対象者の望む世界になる。

さらに、幻術にかかった本人でさえそのことに気が付かないのだ。

このことは、実際に無限月読にかかった何万人もの証言で明らかにされている。

唯一、テンテンだけが始めのうちに違和感を覚えていたというが、その違和感もすぐに無くなったらしい。

 

限定月読にしても、ある程度は自らの望みが反映されていた。

これはナルト自身が体験したのだから間違いはない。

 

だが、この世界はどうだろう。

果たして自らの望みが反映されているだろうか。

今の所、自らの過去となんら変わりがない。

里の皆の反応からして、恐らく両親は生きていないだろう。

バタフライエフェクトなんていう言葉があるが、ほんの小さな歪みで未来など大きく変わるものだ。

限定月読ではカバーしきれないほどに複雑なのだ。

無限月読だって歪みに耐えられるだけで、歪みは存在していただろう。

 

現状ではそんな歪みが未だに全く見て取れない。

それは、無限月読を超える所業である。

それこそ、本当に過去に戻ってしまったと考えた方が納得がいく。

 

ナルトはそんなことを考えながら歩いていた。

現状何もできない以上、出来る限り自然な状態を保つことが最優先だ。

そして、この場合の自然な状態とは自らの過去と全く同じということだ。

 

あるいは歪みを大きくすればこの世界は破れるかもしれないが、いきなりそんな賭けに出るほど今のナルトは能無しではなかった。

 

 

家にたどり着くと、ナルトは急に感慨を覚えた。

たとえ紛い物だとしても、記憶と同じこの部屋は懐かしいものであった。

火影になってからは、さすがにあのぼろアパートに住むわけにはいかなかったのだ。

 

そんな感情もひとまず脇に置いておき、九喇嘛との意思疎通を図る。

少なくとも限定月読では九喇嘛も一緒についてきていた。

しかし、この異常事態の中で全く音沙汰のない九喇嘛が一緒についてきているとは考えにくかった。

案の定、九喇嘛の応答はない。

 

仕方なく、ナルトは自らの精神世界に入っていった。




ひとまず1000文字投稿します。
本格的な更新はもう少し先になりそうです。


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第3話

前話から随分と間が空いてしまいました。
もしかしたら文章の雰囲気に違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、久しぶりの投稿ということでひとつご理解いただきたいです。

一応第1話で言っといたからいいよね…


突然、目線が上がるのを感じる。

思わず自分の体を眺めると、火影時代の体に戻っていた。

子供の姿に戻ってから未だ半日といったところではあるが、ずいぶん久しぶりの感覚であるかのように思える。

元の体に戻ったのは、ここが精神世界であるからだろうか。

自分の精神は元のままであると確認し、ナルトは少し安心した。

ただ、チャクラは今の現実の姿相応になっているようだった。

 

周囲を見渡すと、懐かしさとともに僅かな恐怖を覚える。

水浸しの空間には高濃度のチャクラが充満していた。

クラマのチャクラというより、九尾のチャクラと言った方が適切だろう。

憎悪を孕んだそのチャクラは、慣れ親しんだクラマのチャクラとはまるで別物のように蠢いている。

しかし今のナルトには、憎悪に隠されたクラマの悲しみが手に取るように分かった。

 

ナルトは本来、ここよりもう一段深い精神世界に入ることができる。

むしろ、クラマと和解した後にはこの空間に来ることはほとんどなかった。

しかし、今この精神世界にいるのは、クラマ側の協力がないせいなのだろう。

クラマがこの世界に一緒についてきていないことを確信し、ナルトはこの世界のクラマのもとへと歩みを進めた。

 

 

「お前は何者だ」

 

クラマが最初に発した言葉はそれだった。

突然己の依り代となっている人柱力が別人のように変化したときの尾獣の驚きは想像に難くない。

しかも、クソガキと思っていた相手が急に中年の姿となって現れたのだから、その混乱もひとしおであろう。

そんな状況下で平然と(少なくとも、さも平然としているかのように)ナルトに問いかけたクラマには賞賛を送るべきである。

 

ナルトは事情をクラマに話した。

さしものクラマといえど、この状況でナルトの話を聞かないわけにもいかない。

比較的おとなしく話を聞いていた。

だからと言って納得しているわけではないようであるが。

 

もっとも、ナルトとしても真実を伝えたわけではない。

現状、真実が真実である保証もない。

クラマという影響力の強い存在に見境なく何もかも吹き込むのは危険であった。

それに、この世界のクラマにナルトと和解したクラマの話を伝えても、それはきっと混乱の元でしかないだろう。

見ず知らずの他人といってもいい今のナルトと和解しろなんていうのも、どだい無理な話である。

チャクラは子供の時のものであったため、六道仙人の話も省けたのも上々であった。

 

「話は理解した。さっさと消えろこのクソガキ。」

 

クラマはそういうと、もう何も聞く気はないと言わんばかりに口をつぐんだ。

和解した後のクラマを知っている身からすると、この関係はむず痒いばかりだった。

しかし、この世界のクラマは元のクラマと別の存在であると思い直し、ナルトは精神世界を後にした。

 

 

精神世界から戻ったナルトは、今後の行動方針について考えを巡らせた。

 

この世界が幻術なのであれば、何か大きな行動を起こすことで破れるかもしれない。

しかしナルトは、この世界がどうにも現実であるような気がしてならなかった。

この世界が現実ならば、何か不都合なことが起きても取り返しがつかない。

幸いにも、今のところは自身の過去の経験と完全に一致している。

昔と同じようにすれば、このまま自身の経験をなぞらえる可能性が高い。

未来を知っていることは大きなメリットである。

判断材料が少ない今、現状維持に努めることが最善だ。

 

 

考えをまとめたところで、どっと眠気が押し寄せる。

こんなことが起きているのだ、疲れない方がおかしい。

 

布団に入ると、寂しさが押し寄せる。

思えば、一人で眠るのは久方ぶりであった。

いつもは家族で暮らす家で寝ているのだ。

公務での出張でも、火影としての立場上護衛がつく。

もちろん寝室に堂々といることはないが、ナルトはその気配をはっきりと感じることができた。

 

 

元の世界の仲間のことを考えながら、ナルトは眠りについた。



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