色を無くした問題児が異世界からやって来る様ですよ!! (毛利 綾斗)
しおりを挟む

YES!黒ウサギが呼びました
始動


街路樹には色とりどりの電飾が張り巡らされていて、周りには沢山の人で溢れかえっている。

 

電飾とは違う幸せそうな色が、少なからずピンクも混ざっている、溢れかえっている今日。

聖なる夜=性なる夜とは存外間違っていないと思わせられる。

 

 

そんな中何も見ないでいいように下を向きながら歩く男が1人。背中には哀愁など漂っている事なく、ただ淡々と作業をしているかの如く足を進めていた。

 

そんな特徴的な歩き方をしている男はきっと顔は悪くないのだろう。冷やかし目的で声をかけた男は顔を引攣らせ、女は寧ろ今日のお供にと迫っている様だ。

一度止まった男は彼らの事など興味がない様に歩き出し、また別の群衆に話しかけられ止まる、歩き出すを繰り返していた。

 

それを数回、十数回繰り返すと手袋もしていなかった男は寒さのあまりかポケットに手を突っ込むと歩き出し、数歩先で止まる。

 

何かをポケットから取り出す男。

表情は分からないが急に立ち止まった事から推測するにポケットに入っていたナニかは知らないうちに入っていたんだろう。

軽く辺りを見回し確認する素振りを見せると手元に視線を戻す。

おそらくナニカを入れた人物が近くにいると思い辺りを見回したに違いない。

 

結局見つからずに手元を一瞥し、ナニカをポケットにねじり込むと歩き出す。

先ほどと同様下を向いて歩く男はどこか嬉しそうな足取りで進んでいる。

 

男は踏切を渡ろうとするが電車の接近を報せる音とともに棒が降りてきた。

そんな中立ち止まった男は待ちきれなくなったのだろうか、ポケットからナニカを取り出すと再び、いや先程よりもしっかりと確認している。そのまま手を動かしたかと思うと、そのナニカを顔の前まであげる。

 

 

男が持っていたのは1枚の紙。

 

 

何か書いてあるのかはわからない。ただそれに目を通すためにあげた男の目は一瞬輝き、そして死んでいく。

 

 

 

急に男は振り返ると何かを叫ぶ。

 

 

 

ただ男の様子と口の動きからしてそう判断しただけだ。

男の真後ろには電車が通過していて全ての音をかき消していく。

夜間ということもあり、電車の明かりで男の姿が照らされたり、影になったりしている。

 

男の姿は夜の闇に見え隠れを繰り返す。

 

 

電車が通過しきる瞬間ひときわ明るく光ると、男は先ほど立ち止まっていたところには居らず、それどころか人混みで溢れる道から消えてしまった。

私には聞こえなかったとはいえ近くにいた人間に聞こえていない筈がない。なのに最初からそんな男など存在しなかったかの様に周りの人は騒ぐ事なく、歩いていく。

何処に行ってしまったのだろうか、そんな事を考えることさえ許されない様な街の在り方に、男は初めから居なかったのだと錯覚してしまう。

 

 

 

そして私は考える。この10分間自分は何をしていたのだろうか、と。




さて今回は誰だかわからない3人称視点での召喚シーンでした。
設定としてはファストフード店の2階から下を見ていた人視点だと思われます。
次回はちゃんと主人公と問題児たちを絡ませようと思ってます。
コメントお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

邂逅

あぁ、なんでテラスで大暴れしてるんだよ。

周りの視線も痛いし何より落ち着けないだろ・・・・・。

 

 

レンガがひかれた広場に面している店。

テラス付きで小洒落ているからだろう。客入りもそこそこいい店のテラスの角。

そこではテーブルが倒れ、1人の男が少女に組み敷かれる。そんなカオスな状況が展開されていた。

 

 

 

〜2時間前〜

 

 

真っ暗だった視界が急に明るく、そして青く染まったと思うと身体に浮遊感を感じる。そこでやっと自身がどこかのはるか上空にいること、他にも何かが落ちていることが分かった。周りから何かが聞こえてくるがわからない。ただ俺は目を閉じるとそのまま地面に衝突するのを待つ、これで漸く終われるのだと考えながら。

そんな希望は砕かれた。水に落ちたことで衝撃が分散され身体には全くと言っていいほどダメージはない。そのまま身を任せ水中に沈んでいこう、そう考えたがそうもいかなかった。水中に漂い続けていると肺が空気をよこせと叫びだす。苦しい、そう感じると恐怖が全身を襲い身体が空気を求めてもがき始める。

もがきだしたのが遅かったからだろう。目が霞み始め、そして俺は暗くなった水中で意識を手放した。

 

 

・・・スタート前に死なれても困るし今回は特別だよ

 

 

 

 

 

気が付くと俺は青々と茂った草の上に寝ころんでいた。

だんだんと意識が覚醒するにつれて周りの音も聞こえてくる。風の音、草の揺れる音、鳥のさえずり、・・・そして騒がしい声。

・・・ミミガー、とかヤハハ、とか聞こえてきた俺はもう一度目を閉じることにする。だってやばいでしょ。なんなんだよ、うさ耳を付けたきわどい格好の女の子がいたりその周りでいい笑顔で耳を引っ張ってる3人の男女。関わりたくないし、何より俺は他人と関わってはいけない。つか、あのうさ耳っ娘痛いって言ってたけどあれってつけ耳じゃないのかよ。アロンαか何かでくっつけてんのか?

それから大体30分後、静かになり何やら説明が始まったようで、恩恵がギフトでーとかゲームがーとか言っている。

 

恩恵が神からのギフトというのであれば俺の呪いは何だろうか?

この自分も周りも不幸にするこの呪いは恩恵では絶対にない。

それに説明している奴は焦っているようにも感じる。が、俺には関係ないだろう。彼女が求めているのは恐らくだが優れた恩恵を持った者だ。俺みたいな呪われている人間は切羽詰まっている彼女の足を引っ張るだけの存在だ。俺はまた拒絶されるだろう。

それも当たり前だろう。俺だって俺みたいなやつが現れたら関わらないようにする。

それに俺は誰かの邪魔をしたいわけではない。邪魔をする前に俺は立ち去るべきなんじゃないだろうか。

 

 

 

「・・・おい、そこで寝てるふりし続けてるお前。今からゲームをするから起きろよ」

 

 

 

「・・・・・そ、そうなのですヨ。早く起きてください。どうやら話は聞いていたようなので黙っていましたが、早く起きてこっちに来てください」

 

 

 

うんうん、と他に二つの女性陣の声が聞こえてくる。どうやら全員に気づかれていたらしい。

仕方がない、全員に気が付かれているのであれば起きるしかないだろう。

出来るだけ関わらないでいいように、一番の希望は誰とも話さず、触れず、目も合わさないようにただ空気になる努力をしよう。

立ち上がり、4人が集まっているところへと行く。

そこには平原には似合わない重そうなギャンブルに使われる机と、その上にトランプが置かれている。

 

 

 

「それでは全員集まったようなので内容を説明させていただきます。今回のギフトゲームはこの机の上に並べられたトランプの中から1枚めくり、絵柄を当てていただくという簡単なものなのですヨ。っと、このゲームもクリアできないような雑魚はいないとは思いますがその方は足手まといになりますので皆さま頑張ってくださいね」

 

 

うさ耳の彼女がそう言い終わると同時に目の前に羊皮紙のようなものが現れる。

 

 

「これがギアスロールでございます。こちらに詳しいルールをまとめましたのでご覧ください」

 

 

『ギフトゲーム “スカウト”

プレイヤー一覧:逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀、伊藤綾斗

 

クリア条件:机の上のトランプ52枚の中から絵札を引く

・挑戦権は一人一度のみ

・トランプには一度しか手にしてはいけない

 

敗北条件:降参、又はプレイヤーが上記の勝利条件を満たせなかった場合

 

 

宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催する

 

 

“サウザンドアイズ”』

 

 

最後に回ってきたそれを見る。名前を名乗っていないのに勝手に知られていたことに少し驚きはしたが今はどうでもいい。

ルールはわかったし、自分ではクリアする目途すら立たない。というよりクリアする必要性が感じられない。

 

 

 

「条件は確認した。それでゲームなら何か賭けるんだろ?それはどうするんだ」

 

 

 

「そうですね。もしあなた方が勝てば一ついうことを聞いてあげます」

 

 

 

ヤハハと笑いながらうさ耳の彼女の豊満な胸を凝視する逆廻とそれをジト目で見つめる女性2人組。その視線に気が付いた彼女は胸を隠すように腕を巻き付けるがそれでも隠せない胸は逆に誘っているようにも見える。

 

 

「た、ただしいやらしいお願いはだめですよ」

 

 

「別に冗談だ。それで俺たちが負けた場合はどうする。恩恵でもかければいいのか」

 

 

「いえ、あなた方が負けてもこちらは何も要求しません。ですが、そうですね。負ければプライドに傷がつく、というのはどうでしょうか」

 

 

「面白い。この勝負乗った」

 

 

「不正がないか確かめさせてほしい。もっと言えばトランプを確かめさせて」

 

 

逆廻が少しぎらついた笑みをこぼしながら言い放つと冷静な声で短髪の女性が確認をさせてくれと頼む。うさ耳の女性はトランプを手渡し、それを金髪と赤いドレスはただ適当に流し見、短髪はトランプを確認しながら時々何かをこすりつけている。他にも机の確認もしているようだ。俺はというと確認も何もせずに、というか受け取ることもなくゲーム開始を促した。

 

 

「それではゲーム成立デス!」

 

 

そう高らかに宣言した彼女はトランプをシャッフルし机に一列に並べる。

一番手にと逆廻が前に出る。

 

 

「そうそう、言い忘れていたのです。黒うさぎの耳はこの『箱庭』の中枢につながっています。不正などは行わない方がいいですよ。すぐにわかりますので」

 

 

わかったよ、と返事をした逆廻は机の前に立ち、思いっきり手をたたきつける。

彼の手の風圧によってトランプが舞い上がる。表裏がめちゃくちゃな状態で地面に落ちたトランプの中から表になっている絵札を拾う女性陣。俺はというと机の前に立ちトランプを確認する。机の上のトランプの枚数は逆廻が触れている一枚とすべて表を向いた数字。

それだけ確認するとトランプに触れることなく元居た場所へと戻る。

抗議したそうな黒うさぎの雰囲気に逆廻は先回りしたかのように

 

 

「いっておくが別に俺はルールに抵触していないぜ。トランプに触れたのはこれだけだし他の奴らも一回だけだ。まあ、トランプに触れてないやつもいるけどな」

 

 

「そ、そうなのです。今クリアが確認されているのは飛鳥さんと耀さんだけなのですよ。十六夜さんと綾斗さんは」

 

 

何言ってんだよ、と心外そうな顔をする逆廻はトランプを拾い上げる。

 

 

「俺がひいたのも勿論絵札だ。それにもうゲームは終わってるぜ。確認してみたらどうだ」

 

 

うさ耳をぴょこぴょこさせていた黒うさぎは急にうなだれる。

 

 

「箱庭の中枢からこのゲームは有効、勝者は皆さまだという判定が下りました。ですが、なぜ綾斗さんまで。トランプをとっていないはずでは」

 

 

彼女はそう言いながらこっちを見る。彼女は本当に気が付いていないのだろうか。というか他の3人はわかってるんだから笑ってないで早く説明してあげろ。くそ、意地でも説明しないつもりだな。

 

 

「机の上に絵札がなければルール違反。だから俺だけじゃなくてあの二人もいうなれば不戦勝」

 

 

それを聞いた黒うさぎは机へと向かい確認する。

肩を落としながらこちらへとやってくる黒うさぎに対して追い打ちをかけるように逆廻は告げる。

 

 

「早速言うことを聞いてもらうぜ」

 

 

黒うさぎは慌てながら再び自身の身を隠すかのように腕を巻き付ける。それは逆効果だと思うがどうでもいい。だってやましい感じはしないし。

 

 

「せ、性的なことはだめですよ!」

 

 

「それも魅力的だが・・・俺が聞きたいのは、手紙に書いてあったのは本当か」

 

 

何ですか、と頭にクエスチョンマークを浮かべる黒うさぎ。

それに対して少し問い詰めるかのような口調になる逆廻。

 

 

「この世界は・・・本当に面白いのか」

 

 

どうやら他の二人も同じことを考えていたようで先ほどまでとは変わり真剣な面持ちで黒うさぎの返答を待っている。

それもそうだろう。すべてを捨ててまでこの世界に来たのだ。それに見合うだけのモノの存在は重要だ。

 

 

「YES!『ギフトゲーム』は人を超越したモノたちだけが参加できる遊戯。この箱庭には森羅万象が集い競い合っています。元居た世界よりも格段に楽しむことが出来ると黒うさぎは宣言しましょう」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。