レミリア と ボボボーボ・ボーボボ (にゃもし。)
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紅魔館にハジケリストがやって来て…
ある日の夜


 

時刻は時計の針が真上で重なる夜中の12時。

飾り気の少ない部屋の中、薄暗い明かりの下、()が腰掛ける玉座の前には巨大な水晶玉が一つ。それが宙に浮いている。

 

その水晶玉の表面にはこの館──紅魔館の外の光景が映し出されていて、そこにはさまざまな武器と防具で武装した人間たちがたった一人の妖怪相手に攻めあぐねていた。

 

腰まで届く髪の赤と身に付けている衣服の緑──二色の流線を残しながら人と人の間にできた隙間を縫うようにして蛇行しながら高速で移動し、時折立ち止まったかと思えば、肘打ちと膝蹴り、はたまた拳と足の裏で生身の部分を、或いは鎧兜の上から打撃を浴びせて人間たちを次々と再起不能に陥らせ、その数を順当に減らしていく。

 

彼女は紅魔館の守り手である紅美鈴(ホン・メイリン)

妖怪では珍しく武術を嗜んでおり、襲撃者を排除するのに一役買っている。

今もまた一人、垂直に伸ばした彼女の足が男の顎を下から強打、体が空高く宙に舞い上がり、哀れな犠牲者を増やしていく。

 

彼女の頭上では丸い月がほんのりと紅く、妖しく、染まっていた。

 

外で美鈴が襲撃者たちを迎え討っていると時を同じくして……私の前方、私がいる部屋へと通じる扉を乱暴に蹴破って、武装した集団が侵入してきた。

紅魔館の外にいる連中は囮、本命はここにいる一団、目的は紅魔館の主である私。だがこれは想定内の出来事。

武器を手に玉座に座る私に襲い掛かる不届き者たち、しかし、彼らの背後から二本の黒く細長い鞭が伸びて、それを避けるために左右に分かれて飛び退き、彼らの襲撃は不発に終わる。

 

突然の攻撃に動きを止め、鞭が飛んできた方向──開いたままの扉に目を向ける侵入者たち。その視線の先にあるのは、開け放たれた扉を背にして立つ三人の男たち。…だがどれも人の姿をしているとは言い難い。

 

 

その中の一人、サングラスをかけた金髪のアフロをした男が動く。

 

 

毛魂 と書いて バーニング!!!!

 

 

鞭のように二本の鼻毛を伸ばすと、襲撃者たちを上に打ち上げて天井に叩きつける。ついでに両脇にいる仲間二人にも攻撃の手を加えた。

 

 

イヤ、なんで!?

 

 

「国へ帰るんだな。お前にも家族はいるだろう…」

 

 

両腕と片足を上げた奇妙なポーズでそう宣うと、彼の攻撃で打ち上げられた襲撃者たちと、隣にいたためにとばっちりを受けた二人が音を立てて落下した。

 

彼の名前は「ボボボーボ・ボーボボ」

自称「毛の化身」という訳の分からない存在。

数日前から他の二人と共に紅魔館に居座っているのだが…

 

 

「首領パッチ!? 天の助!? いったい誰がこんなことを!?

 

 

床に横たわっている二人に駆けつけるボーボボ。

ちなみにオレンジ色のコンペイトウに細長い手足がついた生き物が「首領パッチ」で、体が水色のところてんでできているのが「天の助」。

二人はボーボボを指差して「お前…」と告げると力尽きたのか腕が力なく垂れ下がり、そのまま気を失った。

 

 

「ちくしょう 毛狩り隊の奴らめぇぇ──っ!!

 

 

天井に向かって大声で叫ぶボーボボ。

サングラスの隙間から涙がとどめることなく流れ続けている。

 

 

「毛狩り隊のことは知らないけど、倒したのは明らかに ボーボボ なんですけど!?」 

 

 

私が間違いを指摘するも聞く耳を持たないのか、耳を塞いで明後日の方向に顔を向ける始末。

ボーボボとそんなやり取りをしている間に複数の足音と共に新たな部隊が部屋になだれ込んできた。

 

 

「ちぃっ、悲しんでいる暇もないってわけか

 

 

部屋の一角に土を盛っただけの墓を作ったボーボボがそんなことを言う。よく見たら足や腕の一部がはみ出ていて、「犯人はボーボボ…」という血文字で書かれたダイイング・メッセージが二つ残されていた。

 

 

「喰らうがいい 鼻毛真拳究極超絶奥義ぃぃぃぃぃ~~~~~っ!!

 

 

両足を踏ん張って気合いを入れるボーボボ。彼の全身が金色のオーラで覆われ、力の余波が突風となって頬に当たる。

そんな様子のボーボボを技が繰り出す前に潰すつもりか、襲撃者たちが一斉に群がって飛び掛かった。

 

 

轢き逃げ -MISUZUのトラックバージョン-

 

 

しかし、技を妨害するよりも早く、突如出現した大きな10トントラックで撥ね飛ばされていく。

 

 

なんか、どえらい技が出た!!

 

 

しかもトラックを運転しているのは外にいる筈の美鈴で、ボーボボは助手席で静かに座っているだけで何もしていない。…どころかスマホをいじっている。

 

 

「次々と襲撃者たちを倒していく美鈴…」

 

 

襲撃者たちが撥ね飛ばされている様子を見ていると、いつの間にか復活した天の助が隣に立っていて、誰に聞かすわけでもなく静かに語り始める。

 

 

「──しかし、疲れからか、不幸にも黒塗りの高級車に追突してしまう…」

 

 

淡々と述べていく天の助の言う通りに横から急に飛び出してきた黒塗りの高級車の側面と激突。運転席にいる美鈴の目が大きく見開かれる。

 

 

トラックもそうだけど、何処から車が出てきたのよ!?

 

 

彼女の見ている前で高級車は部品を撒き散らしながら横回転を繰り返し、数回ほど転がったところで漸く止まった。

ガラスは全て割れ、車体はイビツにへこみ、もはや高級車は廃車と見紛うほどに大破していた。

 

 

「…はぁ、はぁ。よぉ、ねぇちゃん? よくも俺の車を傷つけてくれたなァ~?」

 

 

そんな廃車一歩手前の高級車から首領パッチが出てきた。

ただし、顔面にはフロントガラスの破片が突き刺さり、腕と足があらぬ方向に折れ曲がっている。

 

 

いやいや、車よりも先に自分の体でしょ!?

 

 

首領パッチの惨状を見て、美鈴が忙しなくトラックのドアを開けて外へ飛び出す。

 

 

「すいません お嬢様 はどうなってもいいので、 だけは見逃してください

 

 

コイツ、当主の私を売ろうとしておる!?

 

 

「くっくっく…。主従愛に満ちた泣ける話をしてくれるじゃねぇか…」

 

 

どこが!?

 

 

「だがこの俺様は人の嫌がることをするのが大好きでなァ~?」

 

 

下品な表情で迫る首領パッチに「そんなぁ…」とガックリと肩を落とす美鈴。

やがてオットセイの着ぐるみを着させられて首領パッチと一緒に「オウッ、オウッ!」と鳴き真似を披露する。

 

 

何これ!? 

 

 

「うっ…ううう、汚された私…」

 

 

着ぐるみを脱いだ後、正座を崩した横座りでめそめそと目に片手を当てて泣き始める。

 

 

何を!? っていうか今の何!?

 

 

「それじゃあ、美鈴も気持ちよく反省したことだし、晩御飯にしたいと思いまーす」

 

 

エプロンを身に付けたボーボボが手に持ったお玉で鍋の底をガンガン鳴らす。

細長いテーブルの上には彼が用意したであろう豪勢な料理が並べられていた。

 

 

どこをどう見たら反省しているように見えるの!?

そんで何でこのタイミングで晩御飯なの!? っていうか、いつ用意したの!?

 

 

「…というわけで君たちとはここでお別れでーす」

 

 

倒れた襲撃者たちをニコニコ笑顔で「出荷よ~♪」とトラックの荷台に乗せていくボーボボたち三人。やがて全ての襲撃者たちを乗せるとトラックに乗り込んで急発進、壁を破壊して外へと飛び出す。

 

 

なんでわざわざ家の壁を破壊していくのよ!?

 

 

「まぁまぁ落ち着いてくださいお嬢様。壁は私が直しますから、その間に食事を頂いてください」

 

 

美鈴が怒る私を宥めかせつつ、壁に空いた穴をレンガで埋めいく。

こうして紅魔館の騒がしい一日が終わり、そしてまた騒がしい一日が始まる。

 

 

肉体的にも精神的にも疲れる連中だが…

いつしか、それを悪くないな…と思うようになってしまった自分がいる。

 

 

ここは紅魔館。

私こと──レミリア・スカーレットが当主を務める、人為らざる者が集う悪魔の館。一部、変なのがいるが…

 

 




 

(´・ω・)にゃもし。

久しぶりの投稿よ。
こっちは気が向いたら続くかも…?


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紫が三人のバカを連れてきた時の話

 

 

紅魔館には地下室がある。

そこには危険な能力を持った故に閉じ込められた吸血鬼がいる。

名は「フランドール・スカーレット」

私ことレミリア・スカーレットの唯一の肉親であり妹である。

 

この紅魔館が彼女を外に出さないための牢獄と言っても過言ではない。

もっとも彼女がその気になれば外へ出ることなど不可能ではないが、

 

当主であり責任者でもある私はここを離れるわけにはいかない。

さらにこの場所を人に知られるわけにもいかない。

 

…が、それにも限界というものがある。

 

 

「人を襲い、人に恐怖を与え、人から畏怖される存在が、畏れさせる人間から襲撃される。…ってのは笑えない冗談よね。そう思わないパチェ?」

 

「転移する頃合いじゃないのかしら? こっちはいつでもいいんだけど…?」

 

 

妹がいる部屋とは別に設けられている地下。そこには膨大な数の書物が収められている広大な図書館がある。ちょっとした屋敷が丸々納まってしまうほどの大きさはある。

先ほどから私と会話しているのは図書館を管理している魔女パチェリー・ノーレッジ。愛称は「パチェ」もっともそう呼んでいるのは私だけだが。

彼女からしてみれば日々やって来る襲撃者──ハンターたちは彼女の平穏を乱す害にしかならない。ついでに言えばハンターたちの手の届かない場所、例えば幻想郷への転移なんてのも望んでいることだろう。

 

 

   コン、コン

 

 

控えめなノックが広大な図書館内部に響き渡る。今いる場所から入り口までかなりの距離があるにも関わらずに…。

それから間を置かずに空間に紫色の穴を空けて図書館内部に侵入する影が一つ。紫のドレスを身につけた金髪の女性、八雲紫(やくもゆかり)がやって来た。見知った顔である。親しいかどうかは別だが…。

 

 

「人手が必要と思って幻想郷の三銃士を連れてきたわよ」

 

 

挨拶もそこそこに彼女の背後からぞろぞろとさまざまな姿形をした人物が出てくる。

 

 

「ボボボーボ・ボーボボです」

 

 

まずはサングラスをかけたアフロの男が名乗る。

変わった特徴を持っているものの、一目見たところ長身の男にしか見えないが…

 

 

「回っている扇風機に向かって「あ~」と言うのが得意です

 

 

肘を真っ直ぐ上に伸ばして元気よく笑顔で答えるボーボボ。

彼の発言で思考が一旦停止。頭の中で扇風機に向かって四つん這いで「あ~」と言い続ける彼の姿が思い浮かんだ。

 

 

「年一度に行われる大会で二位を取りました

 

 

そんなのに大会あんの!?

 

 

続く彼の言葉で思考が復活、思わずツッコム。

 

 

「大丈夫ですか、お嬢様!? 地下から気配を感じたのですが!?

 

 

蹴破る勢いで両開きの扉を開けて美鈴が入ってきた。

彼女は自身の能力で気配を察知し、文字通り飛んで来たのだろう。

彼女は目敏くボーボボを発見すると彼を指差して叫んだ。

 

 

「昨年の世界大会で二位を取った人!?

 

 

美鈴、知ってるの!?

 

 

「マイナーなスポーツで競技人数もそんなに多くはいないから知ってる人も少ないでしょうけど……ちゃんと実在してるわね」

 

 

「ほらここに…」と何処からか持ってきた新聞に掲載されている写真を指で差すパチェリー。そこにはF1でも開催されたのかと思うぐらいに無駄に立派なトロフィーを高く掲げたボーボボの姿が写し出されていた。余談だが一位と三位はミスコンに通用しそうな美女。ますますもって分からん。理解しようとする方が間違いだと判断し、記憶から排除することにした。

 

 

「甘いなボーボボ、そんな特技が戦闘に役立つわけがなかろう。この天の助の力の一端をこれで証明してみせよう」

 

 

もっともらしいことを言うのは体がところてんでできた「天の助」

彼は腕の先に豆腐を水平に乗せると、ぷるぷると体を小刻みに震わせて…

 

 

「指がないから握り潰せねぇじゃねぇぇぇかァァァ~~~っ!!

 

 

暫く時間が経った後、怒り心頭で豆腐を床にべちゃっと叩きつけた。

その上それだけでは腹の虫が収まらないのか、巨大なししゃもで何度も叩きつける。

 

 

「男はすべからず、ししゃもであれ!!!!

 

 

豆腐の破片が辺りに散らばるほどまでに叩きつけて漸く満足したのか私たちに向けてそう叫ぶ。

──と同時に天の助の足下を中心に蒼白い光を放つ魔方陣が出現。

 

 

「図書館の床を豆腐で汚さないでくれる?」

 

 

その魔方陣の外側に立つパチェリーが仕掛けたようだ。

私と冷めた表情のパチェリーの見ている目の前で、底無しの沼にでも落ちたかのようにズブズブと足下から沈んでいく天の助。両腕を上下にバタバタ動かして抜け出そうとするが……必死の努力も空しく床に描かれた魔方陣に呑み込まれて……消えた。

 

 

「くっくっく…。奴は俺たち三人の中で最弱の存在。奴を倒したからっていい気になるなよ? この首領パッチ様はさっきの二人と違う…」

 

 

オレンジ色のコンペイトウ、或いは太陽に細長い手足が生えた容姿の「首領パッチ」

彼は細長い鉄の円柱をどこからか取り出して水平に持つと…

 

 

「俺様の手にかかれば硬い鉄の棒もこの通りぐにゃぐにゃに曲がるんだからなぁ

 

 

腕を上下に動かして鉄の棒を振り、それに連動して鉄の棒がぐにゃぐにゃ曲がる。

「ラバー・ペンシル・イリュージョン」と言われている鉛筆を振ると鉛筆がぐにゃぐにゃ曲がって見えるあの現象。

暫くすると先の天の助と同様に足下に魔方陣が出現。下へ下へと引き込まれていく。

またパチェリーの仕業かと彼女の方へ振り向くと……彼女は手をパタパタと振って否定、隣にいるボーボボを指差す。

 

 

「悪霊退散 悪霊退散

 

 

日本の陰陽師の格好をしたボーボボがお祓い棒──大幣を頭上で振りながら一心不乱に呪文を詠唱していた。

 

 

ちょっとこの人、味方に何やってんの!?

 

 

「ぎゃぁぁぁっ!? あたいを誰だと思っているんだい!? あたいはキャサリンよ!!

 

 

キャサリンって誰よ!?

 

 

体半分を呑み込まれた状態から濃い化粧を施した顔で鬼の形相でギャーギャー喚く首領パッチ。何とかして魔方陣から這い上がろうとするも…

 

 

「あまいな首領パッチ、お前の周囲を見てみろ

 

 

言われて自分の周囲を見る首領パッチ。彼の周りにはいつの間にかに黒い粒が等間隔で設置されていた。

 

 

「これはまさか『レーズン』!? 一体いつの間に!?

 

 

正体を知り焦る首領パッチ。

ボーボボは両手で結んだ印を次々と変えながら「レーズンによるレーズンのためのレーズン!」と言霊を発し、印が変わるたびに首領パッチは苦悶し、痙攣を引き起こし、悲鳴を上げ……やがて先の天の助と同じく魔方陣に呑み込まれ……姿を消した。それを満足した表情で一つ頷くボーボボ。

 

 

「どうだレミレア? これを見てもまだ俺たちの実力を疑うか?」

 

 

思いっくそ不安しか浮かばないんですけど!?

 

 

「──でも人よりも強く、生命力も人以上に優れているわよ?」

 

 

虚空から紫の声が流れると、何もない空間に紫色の穴が空き、その穴を通って瀕死の天の助と首領パッチが落ちてきた。間一髪のところを紫が助けたようだ。二人を床に落とすと、宙に浮かんだ穴の縁に紫が腰掛けて、こちらに問い掛けた。

 

 

「あなたの妹さんの遊び相手には丁度いいんじゃないかしら?」……と、

 

「冗談じゃないわ。あんなのと関わったら……一体どんな影響を及ぼすのか分かったもんじゃない。

 とっとと連れ帰ってくれないかしら?」

 

 

強めに睨み付けて連れて帰るよう促すが……紫で微笑で受け止め

 

 

「確かに彼らと関わることは教育上よいとは言い難いわね。でも…」

 

 

反論するかと思えば、あっさりと認める紫。

彼女はこちらと視線を合わすと強く意志を込めた口調で言い放った。

 

 

「それも突き抜けていけば新たな道となるわ

 

 

なってたまるか!!!!

 

 

この後、紫は自分の作った穴を通って帰っていった。

三人のバカを残して…

 

 




(´・ω・)にゃもし。

続いた。


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紅魔館に不老不死を企む連中がやって来て…
十六夜の月が咲く夜に…


 

 

毎度毎度、紅魔館を襲撃してくるハンターたち。

彼らが襲撃方法をあの手この手と千差万別に変えようとも、相手の気配を察知することができる美鈴がいる限り、私たちが不意討ち闇討ちに遭う可能性は無いに等しい。

 

だがその夜、満月が少し欠けた十六夜の日、一堂に集まった私たちに美鈴はこう述べた。

 

 

──紅魔館に近づく気配を、二つしか感じられない……と、

 

 

私の首を求め、紅魔館にやって来るハンターたち。

彼らの雇い主は魔女狩りを盛んに行っていたとある宗教の過激派組織の末裔。

以前は吸血鬼や魔女などの人為らざる者たちの「殲滅」なんてのを掲げていたが……年月を重ねるごとに少しずつ変化していき……今は「捕獲」を目的とする組織へと変貌した。

それは彼らの目的が人間を守るためではなく、

 

私たちが持つ限りなく不老に近い命。

それを解き明かし、自らを「不老」にするための組織へと変わったからである。

 

組織がわざわざハンターたちを使って紅魔館を襲撃させていたのはこちらの戦力を測るため……だがそれも終わったのだろう。連中の代わりに一人の少女が紅魔館の門扉の前に現れた。美鈴が察知した気配は二つ。うち一つは姿を隠しているのか、ここからでは確認できない。

 

修道服を身に纏った銀髪の少女。私ほどではないがやや幼さを残している。

首から下げているのがロザリオではなく銀色の懐中時計という点を除けば教会にいるシスターの一人に見えたことだろう。

逆手で持った右手にある大振りのナイフさえ無ければ…

 

俄に信じがたいが……彼女こそが例の組織の刺客……ということなのだろう。大勢のハンターよりも彼女一人を推す。それだけ自信があるのか、或いは罠か…?

外にいる彼女にはこちらの姿は見えていないだろうが、パチェが作り出した外の映像を通して視線を交わす私と彼女。美人ではあるが表情が乏しい、人形のような印象を感じる。

 

錆びた金属を擦り合わせたような不快な音を出しながら、紅魔館の門が外側に向かって開かれていく……。

度重なる戦闘で壊されているものの、紅魔館には広々とした中庭があり、戦闘するには十分の広さはある。そこに私の声が流れる。

 

 

『遠路はるばる遠くからお越しになった御客様には……盛大にもてなすのが家人の務め、というものよ』

 

 

中庭にはボーボボたち三人が待ち構えていた。いつものふざけた態度は鳴りを潜め、鋭い眼光を彼女に向ける。

 

 

『ようこそ紅魔館へ、十字架に磔にされた聖人を奉る宗教家さん?

 先ずはそちらにいる殿方たちがダンスの相手をしてくれるわ。存分にご堪能あれ…』

 

 

「よっしゃぁぁぁっ 先ずは天の助、例のあれをやるぞ!!

 

 

言うな否、天の助の背後に回り込み、その場でしゃがみこんで両足首を掴むボーボボ。

天の助はいまいち理解していないのか…「え? 例のあれって何?」と問い掛けるもボーボボは無視。答える代わりに天の助の足を掴んだままコマのように高速で回り始め…

 

 

「新必殺技ところてんミサイルぅぅぅ────っ!!!!

 

 

彼女に向かって天のすけを放り投げるも、彼女は当たる直前に横にヒョイと移動して躱した。

 

 

「しまった!? その手があったか!!

 

 

イヤイヤ、物騒なモノが飛んできたら普通、避けるでしょ!?

 

 

勢い余った天の助が紅魔館の門の横の壁に大の字で激突、そのまま壁に張り付いた状態で動かなくなる。

 

 

「おのれぇぇぇ…。よくも天の助をォォォ────!!!!

 次は『首領パッチ爆弾』だ 準備はいいな!?

 

「いいわけねぇだろうが 名前からして俺が被害を受ける技だろ、それ!?

 

「うるせぇ、つべこべ言わずに逝って来いや

 

 

首領パッチの後頭部に後ろ回し蹴りを叩き込むボーボボ。

バットで打たれたボールのごとく緩やかな弧の軌跡を描いて大空を飛んでいき……やがて爆発、夜空に橙色の華を咲かせた。

オレンジ色の淡い光が中庭にいる二人の顔を照らす。

夜空を背景に爆発した首領パッチにボーボボはボソッと呟く。

 

 

「首領パッチはいいや…」

 

 

いいの!?

 

 

「どうやら天の助と首領パッチの仇は俺が取るしかないようだな

 

 

人差し指で彼女をビシッと指差すボーボボ。

アフロがパカッと開かれて、中から饅頭のような頭部だけの胴体に捻れた二本の角を持った奇妙な生物が飛び出す。ボーボボのアフロに大量に住んでいる「ゆっくり」という謎生物。その一匹。ボーボボはそのゆっくりの角を持つと…

 

 

「必殺 ゆっくり萃香ブゥゥゥゥゥ────メラン!!!!

 

 

縦に高速回転しながら地面すれすれを滑空するゆっくり萃香。途中で二つ、四つと分裂していき……彼女の手前に到達する頃には十数を超えるまでに数を増やしていた。

 

流石の彼女もこの攻撃は避けきれないと思いきや……当たる寸前で彼女の姿が掻き消え……ボーボボが投げ放ったゆっくり萃香が目標物である彼女に当たることなく、空を切る。

 

──同時にボーボボの背後に現れる彼女。逆手に持ったナイフを後頭部目掛けて一気に振り下ろす。

 

 

「てんめぇ、さっきはよくもやりやがったな!?

 

 

回避不可能の一撃を……横から復活した首領パッチに蹴り飛ばされ、ボーボボは難を逃れる。代わりに首領パッチが刺された。

後頭部を刺され、堪らず絶叫し、その場でのたうち回る首領パッチ。暫くして痛みが引いたのか、地面に片膝をつき不敵な表情で「今のは効いたぜ…」と宣うと…

 

 

「──だが俺には効かねぇ!!!!

 

 

彼女を指差しながら、そう叫び…「残念だったな!」と腕を組んで後ろにふんぞり返る。

 

 

どっちなのよ…

 

 

「一瞬にしてボーボボの後ろに回り込んだ。移動系の能力者か? どうするボーボボ? 背中合わせで戦うか? それなら周囲360度カバーできるから何処に現れようとも対処できる…」

 

 

ボーボボの隣で憶測を立てて、提案を出す天の助。その表情はいつになく険しい。

 

 

「いや、こちらは彼女の能力の全てを知っているわけではない。相手の技次第では一塊に集まったところを一網打尽にやられる可能性がある。

 ここは離れて戦おう。大丈夫だ。私にいい考えがある。彼女の能力を見破る方法がある」

 

 

相槌一つ返すと、彼女を取り囲むように移動する首領パッチと天の助。

さらにボーボボは彼女の周囲を縦横無尽に鼻毛を伸ばして張り巡らせて、彼女を中心にした包囲網が完成した。

 

 

「くらえッ 半径20メートルの鼻毛真拳奥義(エメラルドスプラッシュ)を───ッ

 

 

張り巡らした鼻毛から枝分かれした鼻毛が彼女に向かって一斉に襲いかかる。

…だが鼻毛が彼女を捕らえる瞬間──彼女は消えて──ナイフの切っ先を向けた状態でボーボボの前に現れた。

 

気付いたボーボボが後方に跳んで距離を取ろうとするも……ナイフから光線を放出、ボーボボの腹を貫き、衝撃で吹き飛び、背中から壁に激突した。

 

ボーボボがやられたのを見て硬直する二人。

そのボーボボは壁に体をめり込ませたまま…

 

 

──メ…ッセージ……で…す…。これが…せい…いっぱい…です。

  首領パッチ…さん。天の助…さん受け取って…ください…。伝わって……ください……

 

 

全身から血を滴らせながら弱々しくそう伝えると、それっきり動かなくなった。

 

 

「はあっ!? 『カスタネット叩くと気持ちいい』何言ってんだ? こんな時に?」

 

「ちげぇよ首領パッチ、ボーボボはこう言いたいんだよ。

 『神様、ごめんなさい。パトラッシュ食べたの僕なんです』って」

 

 

残念だけど微塵も伝わらなかった。それどころか敵の見ている目の前で殴り合いを始める始末。

そんな中、空の彼方から一匹の鳥が飛来、首領パッチの頭上で止まる。

それは絶滅危惧種の鳥──トキだった。

 

 

「「ト、トキが止まった…」」

 

 

まさかアレで「トキが止まる」→「トキを止める」→「時を止める」…とでも伝えたつもりなのだろうか…?

そう思考に耽っている間に首領パッチの足元で爆発、右足を起点に亀裂が走り、全身をくまなく覆うと……岩石のように砕け散って辺りに破片が散乱した。

 

 

「ひぃぃぃぃぃっ~~~!? 首領パッチ組み立てなくちゃ!!

 

 

次々と味方がやられて錯乱したのか、首領パッチの破片を集めて元に戻そうと試みる天の助、無論それで元に戻るハズもなく…

 

 

「ぎゃあああっ!? 

 首領パッチを元に戻すハズがネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲 になっちゃった~~!!!!

 

 

巨大な砲身を上に向けさせた、卑猥なオブジェを完成させた。

 

 

なんで!?

それにアームストロング2回言ったよ! あるわけないでしょ、あんな卑猥な大砲!

 

 

「なんだよオイ、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねーか、完成度高けーなオイ」

 

 

例の大砲をまじまじと見た美鈴がボソッとそう呟いた。

 

 

え゛え゛え゛え゛え゛!?

なんでしってんの!? あんの? まじであんの? 私だけしらないの!?

 

 

「江戸城の天守閣を吹き飛ばし、江戸を開国に導いた黒船の決戦兵器よ。レミィ」

 

 

隣にいるパチェがそう付け加えた。

 

 

何? あんなカッコ悪い大砲に屈したのあの国は!?

 

 

彼女のナイフ捌きで賽の目状に斬られた天の助。粒子となって周囲に弾け、青い濃霧と化して辺りに漂う。

三人の中でも再生能力の高い天の助、宙に浮かぶ破片の一つを核として徐々に頭を再生させていく。

 

そこへ下から手刀で貫く彼女、貫いたその指にはオレンジ色の球体を摘まんでいた。

 

 

「ヤメロぉぉぉぉぉ~~~~~!!!!

 

 

怒鳴り声を撒き散らす天の助を無視して、彼女はそれを潰す。

 

 

「あふぅ…」

 

 

形を崩して液体のように地面に落ちる天の助。それ以降、彼が再生することはなかった。

 

 




(´・ω・)にゃもし。

久々の投稿。スマン。


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十六夜の月が咲いた夜に…

 

  

   少女移動中 NowLoading...

 

 

紅魔館にある部屋の中でも最も広い一室、玄関に設けられているロビーと見紛うほどの広さのある部屋の中、玉座に深く腰掛けて静かに待つのは紅魔館の主である私──レミリア・スカーレット。仰々しい紅い玉座の左右に美鈴とパチェを侍らせて静かに座して待つ。

暫くの間、時計の秒針が時を刻む音だけが規則的に鳴り続ける。

やがて廊下に通じる両開きの扉が左右に開かれて……件の少女が姿を現す。ボーボボたち三人を打ち破った銀髪の少女が…

 

ボーボボが残したメッセージが本当ならば、彼女には「時を止める」という能力を有していることになる。「神」でもなく「悪魔」でもない──ただの一介の「人間」が「時間」を支配しているのだ。

 

 

「──非常に興味深い能力を持っているわね。シスターを辞めて家でメイドをやってみる気はない?」

 

 

冗談交じりで問うが返答は無し、代わりに彼女の姿が掻き消え──すぐにまた消えた地点に姿を現す。彼女が意図的にやっているわけではない。こんな場面でそのようなことをする理由はない。ボーボボたち……特に首領パッチならやりそうだけど。

 

彼女はこちらを──いえ、隣にいるパチェを見る。手のひらから淡い薄紫色の光を放つ小さな魔方陣を展開していた。

 

 

「貴女の「時を止める」能力というのは……分かりやすく説明するならば「空間」に自身の力を垂れ流して「凝固」「凍結」させるもの……手品の種さえ分かれば、いくらでも対処はできる。──ちなみに今回は貴女の力が満たされる前に部屋を私の魔力で満たし、貴女の力を遮断してみたわ」

 

 

要は空のコップを満たされる前に自分の力を注いだ──ということなのだろう。乱暴な理論な気がしなくもないが…

 

 

「──付け加えて貴女の「時を止める」という能力なんだけど、強力な分いろいろと制限があるみたいね?」

 

 

時間を止めている間に相手を倒せばいい。出会った瞬間に時を止めて、刃物で相手の首でもはねれば勝負がつく。彼女がそれをしないのは、矜持でもプライドとか関係なく、能力ゆえの制限──とパチェは指摘する。

 

 

「時が止まった世界は「空気」すらも止まり……文字通り「大気の壁」と化す。極端にいえば生身で深海にいるようなものじゃないかしら? 当然、そんな状況下では移動するどころか呼吸すらもままならないでしょうね」

 

 

指を一本ずつ立てながらパチェは憶測を述べる。

 

 

「「呼吸」と「移動」…。少なくとも二つか三つ、あるいはそれ以上……能力を補佐する役目のマジックアイテムを持っているわね?」

 

 

疑問には答えず、ナイフの切っ先を向けながら駆ける彼女。その先にあるのはパチュリー・ノーレッジ。狙いは阻害された能力を再び使えるようにするために彼女──パチェを討つこと。

 

無論、そんなことを私が許すハズもなく……しかし、私が命令をいちいち口にして出さなければならないほど、美鈴は無能でもなく…

 

パチェを庇うべく、前に躍り出る。

 

 

   ハ ゜ キ ィ ィ ィ ィ ィ ン ン ン ...

 

 

同時に、銀髪の少女が繰り出すその刃を、美鈴は両の手のひらで挟んで受け止め、あっさりとへし折った。

 

 

「……っ!?」

 

 

破壊されたナイフはよほど業物だったか、その一撃に絶対の自信を持っていたのか、目を大きく見開いて驚愕する彼女。僅かに動きを止め、隙を見せた彼女に美鈴は逃さず追撃をかける。

打ち抜かんばりに床を踏み込み、体を捻らせながら腹部に掌底を叩き込む。

 

肉を打つ鈍い衝撃音が部屋に木霊した。

 

力の弱い妖魔なら一撃で粉砕するほどの威力を持つ美鈴の剛拳。ましてや相手が人間ならば、たとえ手加減した一撃でも意識を刈り取るのには十分。相対した彼女も例に漏れず、小さな呻き声を一つ上げた後、美鈴に体を預けるようにもたれかけ……意識を失った。

 

 

「これで先ずは一人目ね。そこにいるんでしょ? 二人目の侵入者さん?」

 

 

気を失った少女を美鈴に言って床に横たわらせたあと、部屋の隅を睨み付ける。

そこには踞るように身を屈めた白い影がいた。

 

 

「そう睨まんでくれ、この老体にその視線は、ちと堪えるわい…」

 

 

そう言いながら私たちの前に姿を現したのは白い司教姿に帽子を被った老爺。白い髭と眉で目と口が隠れているが、年の割には背筋を伸ばしており、紅魔館に至るまでの道中を考えると、随分と元気な爺さんである。

だが忘れてはいけない、この老爺の正体は…

 

 

「「不老不死」を研究している割には善人っぽい顔付きをしているわね?」

 

「悪人面じゃ寄付は集まらんからのォ~?」

 

 

悪びれもせずにそう言ってのける。

 

 

「──ワシの名は『セイント・バレンタイン』…。バレンタインと呼んでくれて構わん」

 

「ご丁寧な自己紹介をありがとう。でも、長い付き合いになるとは思わないけどね?」

 

「そうつれないことを言わんでくれ。折角、お嬢ちゃんたちに面白い品を持ってきたんじゃからのォ…」

 

 

懐から取り出したのは赤と白のツートーンカラーのボール。ポケモンに出てくるボールに極似している……というか、まんまアレ。

 

爺さんはボールの真ん中に付いているボタンを押すと「モヒカン、君に決めた!」と叫びながらボールを宙に放り投げた。

 

しかし、爺さんが投げたモンスターボール擬きからは何も飛び出して来ず、赤い閃光を放ったあと床に転がる。

 

てっきりボールから爺さんの援軍が出てくると思っていた私たち紅魔館組は終始無言。ひたすら冷めた目で爺さんを眺めていた。

 

否、異変に一早く気付いたのが一人。

 

 

「お嬢様! 扉の外に急に気配が!」

 

 

切羽詰まった美鈴の言葉と共に、扉の外から部屋の中へと人が雪崩のように流れてきた。

 

 

「「ヒャッハー!! ウサギ狩りだぜェェェ──っ!!!!」」

 

 

世紀末ファッションで身を固めたモヒカンたちが。

 

 

「ちょっと、そのモンスターボールが出てくるんじゃなかったの!? あと何そのモヒカン!?」

 

 

床に転がっているボールと部屋にうじゃうじゃいるモヒカンの団体──パッと見て十数人は下らないか──を指差して問い詰めると爺さんは言い放つ。

 

 

「モンスターボールはただの飾りじゃ!!!!

 

 

言い切りおった。

 

 

「無論、最初は原作通りにモンスターが入るような作りにしたかったんじゃがな…。残念ながら今のワシらの技術じゃ再現は不可能。

 しかし、このまま捨てるのも勿体ないからのォ、そこの中華娘の気配察知能力から隠蔽する品にしたわけじゃ」

 

 

「見てくれはおかしいが、なかなかの品じゃろ?」…と周囲にいるモヒカンたちをアゴで指す。モヒカンたちも物騒な得物を手にお世辞にも上品とは言い難い笑みを浮かべる。

 

 

「それで、そこにいるモヒカンたちが相手をしてくれるの? 悪いけどこの前やって来たハンターたちの方が手強そうだけど?」

 

「強いかどうかは戦ってみれば嫌でも分かるぞい?」

 

「いやいや、戦う云々というよりも正直、関わりたくないんですけど…?」

 

 

何が悲しくて世紀末映画に出てきそうなモヒカンたちと顔を合わせなければならないのやら……それにこの爺さんの自信はいったい何処から出てくるのか…

 

 

「相手が何者であろうと打ち倒せば済むことです。ここは私に任せてください」

 

 

ゆったりとした動作でモヒカンたちに近づく美鈴。

モヒカンたちも刃物や鈍器を強く握りしめて駆け、或いは床を蹴って飛び掛かる

 

 

『ショットガン!!!!

 

 

高速の拳の乱打から撃ち出された気の塊がモヒカンたちの頭や体にめり込み──吹き飛び、床や壁に激しく打ち付けられた。

普通の人間ならば良くて重傷。当りどころが悪ければ死んでもおかしくない一撃……を喰らったにも関わらず…

 

 

「「ありがとうございます!!!!」」

 

 

モヒカンたちは起き上がり、戦う構えを見せる。恍惚した表情で鼻血を垂らしながら…

 

 

「くっくっく。こやつらはただのモヒカンではない。

 異性、すなわち少女からの暴力を受け入れ、愛する。嗜虐嗜好の集団よ!」

 

 

ただの変態じゃん!!!!

 

 

「それにしてはこのタフさは異常です! ただの人間が私の拳を受けて起き上がるなんて!」

 

 

拳と蹴りを交えつつモヒカンたちを倒していく美鈴。しかし、倒したそばからモヒカンたちは立ち上がり、復活する。

その戦闘の傍ら、バレンタインはモヒカンたちの異常なまでの肉体のわけを話す。

 

 

「そやつらの肉体が頑丈なのは…髪の毛を代償にして手に入れたからじゃ!」

 

 

「ワンパンマン」の単行本を片手にそう強く語る。

圧倒的な力を得るためにハゲになってしまった男が主人公の日本のマンガ。

 

 

そんなんで強くなってたまるか!!

 第一、髪の毛を失って強くなれるんだったら、世の中のハゲはみんな人外じみた強者になってるハズよ!? そもそもモヒカンにする意味は!?」

 

 

「そういう問題じゃないと思うわよ」…と隣にいる魔女が言ってきたが敢えて知らないフリ。代わりに爺さんが答える。

 

 

「そいつらはおそらく自然にハゲになった連中じゃろ。

 だがここにいるモヒカンは違う。自らの意思で髪を剃った奴らじゃ…

 鍛え方が違う! 精魂が違う! 理想が違う! 決意が違う! 

 覚悟が違う! 背負っている物が違う!

 何よりも 信念 が違う!

 

捨ててしまえ! そんな邪念だらけの信念なんぞ!

 

 

わざわざ眉毛を上げて両目を「くわっ!」と見開いて力説する爺さんに、爺さんの背後で鉄アレイを持ってポーズを決めるモヒカンたち。

 

 

「ねぇ、レミィ。もういっそ燃やした方がいいんじゃない? アレ」

 

「火事になると困るから、やめて」

 

 

アレ──モヒカンと爺さんを指差しつつ面倒くさそうに言うパチェに危うく賛同しかけたが…

…とはいえ打撃に対して免疫があれど……いくらなんでも魔法に対する対処法は持ち合わせていないことだろう。

 

 

「ふははは。ワシがその対策をしてないと思うたか!? そこに倒れている娘がそのための布石よ!」

 

 

美鈴の一撃で気を失っている少女を指差すバレンタイン。

少女の胸元にある懐中時計が浮かび上がり、時計の針がぐるぐると回り始めた。

少女の「時を止める」能力はパチェが己の魔力で防いでおり、使用は不可。いったい何をするつもりなのかと窺っていると…

 

 

「急速な成長による老化。この娘の「死」を早めさせるつもりね?」

 

「左様。流石は古くから生きている魔女の一人だけのことはある。すぐさま理を理解し、対応するとはのォ…」

 

 

目を凝らして見れば、懐中時計が薄紫色の膜で覆われており、時計の針も停止していた。

 

 

「だがそれも想定内じゃ!」

 

 

遥か東にある国を思わせる呪文と手の動きを見せるバレンタイン。短い言葉と動作を終えると早速その効果が現れた。

床に横たわっている少女に──

 

 

う ぅ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ……!!!?

 

 

首にある黒い痣を起点に枯れ木の枝のように幾重にも伸びて、皮膚を少しずつ黒く染めていく。その度に少女は苦悶の表情を浮かべ、苦しそうな呻き声を漏らした。

 

 

「くっくっく、それは日本のマンガ「NARUTO」の「呪印」を見よう見まねでやってみたら出来たものじゃ!

 原作と違って生命力を削るだけの代物になってしまったがな!」

 

「モンスターボールといいコレといい…

 どうせやるなら原作通りの効果にしなさいよね!?」

 

「バカめ! 原作通りにして万が一にでも力をつけて逆らうようになったら困るではないか!?」

 

「いやまぁ、そうだけどもさ…」

 

 

モヒカンがパワーアップするのはいいのか? ──と思ったが……今も幸せそうな顔で美鈴に殴られているところを見ると何かしらの取引があったのでしょうね。

 

 

「レミィ、私が呪印を解析して無力化するよりもそこの爺さんをはっ倒した方が早いかもしれないわ」

 

 

友人の魔女に言われ、右手に紅い紅い槍の生成を開始……その途中で槍は雲散霧消、同時に体に重力がかかり、重力に従って腕を下ろし、膝を曲げて床につけてしまう。

 

 

「吸血鬼は強力じゃが、そのぶん弱点も多い。しかし、そのどれもが決定打に欠ける」

 

 

私を見下ろす形で淡々と述べていくバレンタイン爺さん。どうやら、この現象は私──吸血鬼だけに起きているようだ。その証拠に私以外は平常通りに動いている。

 

 

「ニンニク。鰯の頭。折った柊の枝。炒り豆……等々。吸血鬼の弱点と云われるものをくくりつけた十字架を……無論、落ちたときの衝撃で壊れないよう施した物を上空5000mから此処──紅魔館の周辺に落としたのじゃよ」

 

「いったい何をした…? そんなもので吸血鬼を倒せないのは、あんた達が知っているハズでしょ?」

 

「その数、億を超える」

 

「んなっ!?」

 

 

あまりの馬鹿げた数字に思わず間の抜けた声が出た。

外の光景を映し出す水晶には大小さまざまな大きさの十字架が地面に刺さっていた。ご丁寧に吸血鬼の弱点をくくりつけて…

 

 

「これがダメなら他の方法も考えていたんじゃが…

 どうやら「こうかは ばつぐんだ!」…のようじゃな? レミリア・スカーレット?」

 

 

美鈴は戦闘中。パチェは呪印の解析で手一杯。

勝ち誇った顔を見せつける爺さんに私は…

 

 

「時間をかけすぎよバレンタイン司教? こんだけ時間があれば()()()()は復活するわ」

 

 




(´・ω・)にゃもし。

マインクラフトにハマってしまった。スマン。


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傷だらけの紅魔館の住人たち

 

 

──()()()()は復活するわ…

 

 

私のその言葉を待っていたかのようにこの部屋に通じる扉が勢いよく開かれ、その奥から大小三つの人影が現れた。

逆光を背にしているせいで黒い人影にしか見えないが……その特徴のある輪郭からボーボボたち三人組だということが分かる。

あまりにもタイミングのいい登場の仕方に「部屋の外で私たちがピンチになるのを待っていたんじゃないか?」…と疑ってしまうのは私でなくてもそう思うことだろう。

 

 

「すまないなレミリア。ここまで回復するのに時間がかかった」

 

 

そう言いながら近づいてくるボーボボらしきアフロをした影。距離が縮まるほどにその姿が露になっていく…

 

 

「ぜぇ…はァ……ぜェ…ハぁ…」

 

 

光の下に晒されたボーボボたちの姿は……全身を包帯でぐるぐる巻きにした……所謂、ミイラのような格好だった。

どういう原理か、一目で分かるようにドラクエ等で見られるステータスウィンドウを頭上に表示させながら…

 

 

ボーボボ  首領パッチ  天の助

HP 1   HP 1   HP 0.5

 

 

死にかけとる─────!!!? ご丁寧に赤くしとるし!

 

 

「天の助は片栗粉で固めて、首領パッチは元に戻らないから一度ぶち壊して破片をご飯粒でくっ付けて急いで来たんだが…」

 

「片栗粉!? ご飯粒!? それで元に戻れるの!? …というか、そんなんで大丈夫なの!?」

 

 

そう言うボーボボは銀髪の少女にやられた傷が痛むのか、額に汗を滲ませながら片手でお腹を押さえていた。

指の隙間から見える包帯が赤黒く変色していて、今も尚じわじわと広がっている。

ボーボボたちの再生能力は……「早い」を通り越して異常。

時を止められる少女との戦闘から大分時間が経っている……にも関わらず未だ完全に癒えていないようだ。

 

 

「そこの娘に時間を「巻き戻す」能力はないが……代わりに「減速」と「加速」がある。

 減速の能力を使わせて「傷の治る時間」を遅くしたのよ」

 

 

「くっくっく…」と人を小馬鹿するように嘲笑う爺さん。

一頻り笑った後、爺さんは私たちに対して…

 

 

「さてと()()()()も集まったことだし、そろそろ()()を始めようではないか?」

 

 

やたらとボーボボたちを強調して言う爺さん。

はて? 爺さんの目的は「吸血鬼」である私のハズ……いったい、どういうつもりなのか問いただす前に首領パッチが「いやぁぁぁっ!」と女性のように甲高い悲鳴を上げた。

 

 

あの爺さん、世界で一番美しい妖精である私を捕獲するつもりなんだわ!!!!

 

 

瞳を潤ませつつ、そんなことを宣う。

 

そして何の前触れもなく短く華やかなファンファーレが鳴り響いて、一面が劇場で見られる舞台へと変化した。

因みに劇の題目は『ボーボボ劇場:世界で一番美しき妖精「首領パッチ」様』

観客である動物たちが見守る中……紅い垂れ幕が左右に開き、その奥に「3…2…1」とカウントダウンを刻む白黒の映像があった。

やがて数字が0に達すると暗転──

 

 

──ああ、何で私はこんなに美しいのかしら…

 

 

手鏡を片手に化粧を施した己の、うっすらと頬を赤く染め上げた顔を見て自画自賛する首領パッチ。

自分の世界に入っているのか、周囲の声と音は聞こえていないようだ。

 

 

──ああ、神様。神様。どうか罪深い私に欠点をお与えてくださいませ、ませ…

 

 

敬遠なクリスチャンの如く、両手を組み合わせて祈りを捧げる首領パッチ。

 

 

──そしたら神様がクスッと笑って…

 

 

自分の体の頭部にあるトゲの一つを指差すと…

 

 

「トゲの一つを『とんが○コーン』に変えてくれたんだ!」

 

 

無邪気な笑顔で声を弾ませてそんなことを言う。

心底どうでもいいし、それ欠点のうちに入るの?

 

 

「とんが○コーン云々は兎も角。ワシの目的はそこの三人じゃよ」

 

 

アゴでボーボボたち三人を指す爺さん。

首領パッチの憶測は間違っていなかった。

 

 

「吸血鬼以上の生命力を持った生物にワシが興味を抱かんわけがなかろう?

 どうじゃレミリア・スカーレット? そこの三人を大人しく差し出せば……今後、お主と地下にいる妹には手を出さないことを誓おう」

 

 

守るかどうか分からない相手──それも不老不死を求める秘密結社の首魁の言葉。しかも隠し通していたと思っていたフランの存在をどういうわけか知っていた。

 

 

「あ、ゴメーン。街に出掛けたときに知り合いのおばさん連中にバラしちゃった♪」

 

「これが終わったら覚悟しなさい。首領パッチ…」

 

 

犯人は身近にいた。あとで思いっきり殴ることを心に誓い、今の状況を冷静な目で見る。

形勢は明らかにこちらが不利。ボーボボたちも不安そうに私とバレンタインのやり取りを眺めている。

 

 

「答えはNOよ。ここで三人を引き渡したところで貴方たちは必ずまたやって来るわ。今度は私たちを捕らえるためにね?

 そもそも、いきなし問答無用でケンカをふっかけてくるような連中をどうやって信用しろと?」

 

 

こいつらが私たちを調べているように、私たちもまた人間を知っている……人間の持つ底知れぬ欲望を。たとえこの場を切り抜けたところで、またハンターたちを引き連れて現れるのは目に見えて分かる。

 

 

「私は誇り高き吸血鬼の一人であり、この紅魔館の当主でもあるレミリア・スカーレット。

 自分の命惜しさに客人を売り渡すような恥知らずな真似など……できるものか!」

 

 

最後は吐き捨てるように吼えた。

 

 

「くっくっく…。ワシが与える慈悲を理解できぬとはなぁ~?」

 

 

しかし、こうなることは分かっていたのだろう……髭で覆われている口の端が上がっている。

 

 

「ならば、寂しくならないように一人残らず全員生け捕ってくれようぞ!」

 

 

残像と風を切る音を残して姿を掻き消すバレンタイン。

彼が次に現れた場所はパチェの背後だった。

 

 

「暫く静かにしてもらおうか?」

 

 

素早く腕を掴み、パチェの口元を布で覆わせる。

クロロホルムを染み込ませた布を嗅がせて眠らせる気か…?

 

 

「いや、ワシの 靴下 じゃ」

 

「ぐはぁっ!?」

 

 

布の正体を知ったパチェが白目を剥いて血を吐き、床に倒れて気を失った。

惨たらしいバレンタインの攻撃に敵も味方も関係なく、その場にいた全員が恐れ(おのの)く。

 

 

「これで魔女は再起不能。

 『靴下を嗅がされて失禁した女www』というタイトルでネットに拡散してやろう…」

 

 

極悪人か、こいつは……いや、悪人か。不老不死を目論んでいる奴が善人のわけないし…

 

 

「手こずるかと思った魔女戦だが……案外、呆気なく倒したもんじゃのォ。

 まあ、そのお陰で貴重な能力者を失わずに済んだが…」

 

 

能力者──時間停止の力を持った少女をチラリと見た後、美鈴がいる方向に顔を向ける。そこには…

 

 

「倒しておきましたよ」

 

 

丁度、最後のモヒカンが前のめりになって倒れ……床に突っ伏すところだった。

周囲には美鈴が倒したであろうモヒカンが倒れ伏せていて、そのどれもが白目を剥いて口から泡を吹いている。

 

 

「バカな……あれだけのモヒカンたちを……いったい、どうやって!? 答えろ!」

 

 

ここにきて初めて狼狽えた様子を見せるバレンタイン。

爺さんではないが私もどうやって倒したのか気になる。

美鈴は察したのか、モヒカンたちを倒した術を真顔で言い放った。

 

 

股間を思いっきり蹴りました。

 

 

「「 は あ う っ わ っ !!!? 」」

 

 

実際にやられたわけでもないのに爺さんとボーボボたち三人、男衆が苦しそうな表情で股間を手で押さえて前屈みになる。

さしもののモヒカンもそれには耐えられなかったようで今も床に転がっている。

…とはいえ躊躇なく急所攻撃をやってのけるとは、美鈴は私が思っている以上に恐ろしい子のようだ。

 

 

「こ、小娘……貴様、何て恐ろしいことを!?

 女には分からんが、あれは物凄く痛いんじゃぞ!?」

 

「正直、私もこんな手は使いたくなかったのですが…

 武器を持った奴が相手なら、金的攻撃『覇王翔吼拳』を使わざるを得ませんでした」

 

 

右拳を強く握りしめて顔を背けるように横を向く美鈴。

「金的攻撃」を口にしてたような気がするが……この不利な状況下では致し方無しか…?

それに襲ってきたのは向こうだし、正当防衛の一言で片付けよう。うん、そうしよう。

 

 

「何をしている美鈴!? 早く止めを刺すんだ!」

 

「分かっていますよ! ボーボボさん!」

 

 

急かすボーボボに美鈴は足を大きく広げて腰を落とし、その状態から手首同士を合わせた両手を体の前方に構え…

 

 

か~」 「め~」 「は~」 「め~

 

 

ゆっくりと発音しながら両手を腰付近に持っていき、両手の間に青白く輝く気の塊を作り出す。

…という何処かで見たことのある技を使い始めた。

 

 

波ぁ━━━━っ!!!!

 

 

──の声と共に半開きした両手を前面に出し、その掌から青白い光線を発射した。

 

 

「何ぃ!? ワシのギャリック砲にそっくりじゃと!?」

 

 

爺さんは慌てて懐から奇妙な形の銃を取り出すと右腕に装着、間を置かずに銃口から薄紫色の──美鈴のとよく似た光を撃ち出した。

 

あの銃が爺さんの「ギャリック砲」らしいが……記憶が確かなら技の名前だった気がする……それも名前が野菜の宇宙人の…

 

 

「こんなもの! こ、こんなもの…っ! こ、こんな…こんな…!

 うわぁぁぁ───!」

 

 

──それはさておき、爺さんが撃った光は美鈴の放った光線に飲み込まれ……少しずつ距離を縮ませ、(せば)まってきた。

 

 

「ちぃっ、やむを得ん! これを使うか!」

 

 

光が銃口の先を掠めた瞬間。

何を思ったのか、両手を横に広げて巨大な球体と化した気の塊を体全体で受け止める。

上半身の衣服が耐えきれず弾け飛び……その下から鏡のように反射する銀色の盾が現れた。

誰よりも目敏く見つけた天の助がその盾の名前を叫ぶ。

 

 

「あれは『シャハルの鏡』!? そんな物まで作っていたのか!?」

 

「──如何にも。あれとは違ってたったの一度しか跳ね返せないのが難点じゃが…

 受けた攻撃を 1.125倍 にして返すことができるのじゃ!」

 

 

すんごい微妙なんですけど!?

 

 

盾に吸い込まれるように気の塊が徐々に萎んでいき……それとは対称的にシャハルの鏡が光を放ち、輝きを増していき……最後には美鈴の光線を完全に吸収した。

 

 

「くぅっ、反射できても当たらなければどうってことはありません!」

 

「……小娘。動き回るキサマに当てるのは至難の技じゃろうな、だが──」

 

 

向かい合って対峙している美鈴から視線を外して、こちら──私に体ごとシャハルの鏡を向ける。

 

 

「弱体化して思うように動けん吸血鬼ならば、話は別じゃろ?」

 

 

シャハルの鏡から青白い光線を飛ばしてきた。

すぐさま美鈴が動けない私を守るために、間に割って入ってくる。

 

 

「美鈴、吸血鬼である私の再生能力を知っているでしょ? 退きなさい」

 

「でも、()()()()で受けたら、どうなるかのか分からないですよね?」

 

 

私の命令にも振り返ることも、その場から動くこともなく……私の代わりに熱を帯びた光を大の字になって受け止める。

 

 

「ボーボボさん、天の助さん、首領パッチさん…

 このあともバカなことやって負けたら承知しませんからね?」

 

 

ボーボボたちに振り向いて笑顔で言い、直後に爆発。

やがて、爆風が収まると……爆心地の中心で踞るように倒れた薄汚れた美鈴の姿があった。

 

 

「美鈴は…さ、最後の最後で…ボボ神のワシを超え…た…う、うれしいぞ…

 後は任せたぞポポの助。ポポパッチ」

 

 

「「 ボ ボ 神 様 !? 」」

 

 

「神」という文字が施された白いローブと青のマントを羽織ったボーボボが、アラビアン風の衣装を着た天の助、首領パッチとそんなやり取りをしていた。

 

ゴメン美鈴。早速、バカなことをやっている。

 

 

「戦闘中なのに余裕じゃな? もはや抗える者はおらんというのに…」

 

 

勝利を確信したのだろう余裕を見せるバレンタインだが、ボーボボたちを見て違和感を感じ、それを口にする。

 

 

「む…? いや待て、何故キサマらは五体満足に体を動かせる? 

 再生能力は低下しているハズじゃぞ? まさか!?」

 

 

ボーボボたちの姿は最初のミイラ姿からいつもの格好に戻っていた。

 

 

「今度こそ待たせたなレミリア。見ての通り完全回復したぜ」

 

 

例の如くウインドウを見せて現在の状況を見せる。

 

ボーボボ  首領パッチ  天の助

HP7    HP5    HP0.7

 

 

一桁!? これで完全回復したの!? 天の助に至っては1以下なんですけど!?

 

 

「貴方がそこのシスターにやっていた急激な「成長」と「呪印」…をやめてくれたお陰で彼らにかけられた「減速」を解除できたわ…」

 

 

床に伏せたまま、パチェが掌に隠れるほど小さな魔方陣をボーボボたちに向けて展開していた。

その様子を見て爺さんが舌打ちをする。

 

 

「魔女め、生きておったのか…」

 

「死ぬわけないでしょ……あんなので……」

 

 

それでも爺さんのあの攻撃はキツかったのだろう、今度こそパチェは眠るように気を失った。

 

 

「悪いわけど、任せていいかしら?」

 

 

ボーボボ、首領パッチ、天の助の顔を順次に見ながら、そう尋ねてみる。

 

 

「「 当然だ。俺たちを誰だと思ってやがる!? 」」

 

 

彼ら三人は力強く、そう答えた。

 

  




 

(´・ω・)にゃもし。

特殊タグを多用しているので、実際の文字数ってどうなっているのかな…


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紅魔館の住人とバレンタイン

 

 

ボーボボたち三人と向かい合うのは上半身を剥き出しにした老人──バレンタイン。

その腹部には攻撃を吸収して反射させることができるシャハルの鏡があるが……光を反射して眩い輝きを放っていた表面が今は中心部分から四方八方に亀裂が伸びていて──見るも無惨な姿に変わっていた。

 

 

「気をつけろ、首領パッチ、天の助…

 あの爺さんのことだ、盾以外にも厄介な道具を隠し持っている可能性がある」

 

 

ボーボボが二人に向けて警戒を促し、二人もまた無言で頷いて返す。  

 

 

「人間は道具を使うから人間じゃ。

 獣相手に無手で戦うのは知恵足らずの者が行う愚行…

 道具は使わねば道具が泣くというものよ」

 

 

「これもまたその一つ…」ズボンのポケットから掌ほどの、先端に針のついた銃を取り出すと…

 

 

「 ノッキング!!!!

 

 

自分の首に針を突き刺し、引き金を引いた。

 

 

ホ ォ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ っ …!!

 

 

バレンタインの口から空気を振わせる重低音が漏れだし……胸元の筋肉が膨張。さらに腕、脚、背中と膨れ上がっていき……アフロも含めると2mを超すボーボボの身長を追い抜いて……そして──

 

今やバレンタインの体は……触れれば折れる枯れ木みたいな体躯から一変、古代ローマの拳闘士を彷彿させる筋肉の塊へと変貌した。

 

 

「さぁ、どこからでもかかってきなさい」

 

 

両腕を大きく広げ、相手を迎え入れるような姿勢をボーボボたちに見せるバレンタイン。体の表面からは湯気のように青白いオーラが絶えず立ち上っていて近寄りがたい雰囲気を放っている。尚且つ、爺さんの体は分厚い筋肉で覆われており、迂闊にこちらから手を出せば……只では済まされない反撃がくることは明白。

三人もそれを理解しているのだろう……その場で動きを止めて静観することに行動を留めていた。

 

 

「ふぅむ。そちらから来ないのならば…」

 

 

動かない三人に少し考えるような素振りを見せた後、ボーボボたちに向かって駆け始めるバレンタイン。

大型の草食動物が群れを成して駆け抜けていくような地響きを鳴らし、建物の壁と床を揺らしながら距離を縮めていく。

これを迎え撃つべくボーボボは右腕を大きく振りかぶって…

 

 

サタン・ミラクル・スペシャル・ウルトラ・メガトン・ボーボボ・パンチ!!

 

 

名前、長っ!! ただのパンチなのに!

 

 

そう叫びながら殴りかかるも、触れる直前でバレンタインは片手でその手首を掴んで止め…

 

 

しっぺ!

 

 

まっすぐに立てた人差し指と中指をボーボボの手首に叩きつけた。

 

 

技、ショボ!!

 

 

でこぴん!

 

 

さらに隣にいた天の助の頭部を弾いた中指で爆散させ…

 

 

ババチョップ!

 

 

手刀で首領パッチを左右二つに分け──

 

 

衝撃波ぁ━━━━っ!!

 

 

最後に、体の表面を覆っている青白いオーラを瞬時に膨張させて、三人を纏めて吹き飛ばした。

 

 

最後だけ何か違くない!?

 

 

ふざけた一連の攻撃から、いきなり少年雑誌に出てくるような技が出てきて思わず声を出す。

 

 

「バレンタイン! 魔法道具(マジック・アイテム)を使うのはお前だけじゃないぞ!」

 

 

攻撃を受けて片膝をついているボーボボ。

彼が懐から出したのは一冊の黒い本。

 

 

「──そのノートに名前を書くと……書かれた者が死ぬ『デス・ノート』或いは『死神の手帳』という物がある…」

 

「まさか!? ボーボボ、キサマが持っている()()がそうだとでも言うつもりか!?」

 

「いや、これはその劣化版で別物だ。死にはしないがこのノートに名前を書かれた者は── 太る …」

 

 

──その名も デブ・ノート!!!!

 

 

ダジャレか!?

 

 

「効果は絶大だが、支払う対価は己の寿命。

 だが、それも三人で使えば分散されるハズ。

 これでお前もおしまいだ! セイント・バレンタイン!」

 

 

ボーボボの両側に立つ天の助と首領パッチが開いたページの端をそれぞれが持ち、ボーボボがそこに名前を記入していく。無論、書かれているのはバレンタインであろう。

 

 

「こ、これは!?」

 

 

その証拠にバレンタインの体がぶくぶくと太り始まり……ボーボボたちは老いていく。

やがて両者の変化が終わった頃には……バレンタインの引き締まった体は肉団子に手足が生えたような醜い贅肉の塊と化し…

 

一方でボーボボたちの方は顔や身体に深い皺が刻みられ、体が痩せて細くなり、口元には白い髭が生えていた。

 

 

「「……婆さんや、メシはまだかのぅ~?」」

 

 

三人一斉にこちらに振り向くとお決まりのセリフを吐く。

 

 

すんごい老けてるんですけど!?

 

 

「大丈夫だ。問題ない!

 たとえ体が老化しようとも、老体にしかできない老人だからこそ出来る、老人ならではの方法で戦えばいい!」

 

 

私の心配を余所に自信満々に応えるボーボボたち。

よぼよぼした足取りで肥えた体で思うように動けないバレンタインに技を仕掛けた。

三人全員が白衣を着ると声を揃えて叫ぶ。

 

 

「「 必殺! カワイイ孫のために巨大ロボを作るお爺ちゃん!! 」」

 

 

老人、関係あんの!? それ! 確かに博士って聞くと老人のイメージがあるけどさ…

 

 

突如、紅魔館の天井を破壊しながら黒と黄金色のツートーンカラーの巨大ロボが出現、胸部の赤い板状からバレンタインに向かって赤い熱線を照射、バレンタインを巻き込んで辺り一帯が爆発した。

 

当然、紅魔館も無事に済むハズもなく……壁と天井、その上にあった階も吹き飛び…

紅魔館は私たちがいる部屋の床だけを残して瓦礫の山と化してしまった。

 

 

「うわぁぁぁ!? うちの紅魔館が────っ!!!?」

 

 

バレンタインもろとも紅魔館を破壊した(くろがね)の巨人。

その巨人に備え付けられているスピーカーから若い女性の声が流れてくる。

 

 

『ありがとう、ボーボボさん。

 私はこの核熱造神ヒソウテンソクで世界を支配してみせます!』

 

 

なんか、とんでもないことを口走っているんですけど!?

 

 

言うや否、紅魔館の周りの土地を破壊し回る巨大ロボ。炎が燃え盛り、大地がひび割れる。

そのロボットの足下周辺には……ボーボボのアフロから出ていたのか、小さなゆっくりたちが逃げ惑う。

 

 

何この絵面!?

 

 

火の手が広がる光景に暫し唖然としていると……私たちの近くで瓦礫が崩れ、丸い影が──バレンタインが現れた。

あれだけの激しい攻撃に晒されたにも関わらず、爺さんは皮膚を少し焦げた程度で済んでいた。

 

 

「ぬぅおおお、このままでは不利じゃ。

 ダイエット して余分な贅肉を削ぎ落とさねば…!」

 

 

到底、ダイエットでどうにかできるとは思わないのだが……爺さんはCMで流れている筋トレ道具の一種に座ると「倒れるだけで腹筋ワンダ○コア~♪」の歌と共に腹筋運動を三回繰り返し…

 

ぶよぶよした贅肉の塊と化していたバレンタインの体は元の筋肉質の体型に──戻ったどころか、さらに大きさを増して──ボーボボの身長の倍ぐらいにまでになっていた。

 

 

「ダイエット成功じゃ! ついた贅肉を削ぎ落とすどころか、先程よりもパワーアップしたぞい!!」

 

 

ボディビルダーがするポージングを次々に決めつつ筋肉質の肉体を見せびらかす。

 

 

腹筋三回やっただけでダイエットに成功すな!!!!

 

 

もはやダイエットの域を越えている。世の女性が見たら歯軋りをするんじゃなかろうか…?

 

贅肉という足枷を無くしたバレンタインに対してボーボボたちは老体になっている。

さすがにこのままではマズいと判断したのか対策を立てるボーボボたち。

 

 

「ならば、こっちは アンチエイジング で若さを取り戻すぞ!」

 

 

もっと無理でしょ!?

 

 

アンチエイジングはあくまで加齢による老化対策であり、年齢による衰えを()()()()()()()()()()()()であって若返ることではない。

 

 

「先ずは体にいい日本食だ! 俺が握った寿司をたらふく食え!」

 

 

板前の格好をした天の助が握り寿司を山盛りに作り、ボーボボが「アンチエイジング! アンチエイジング!」とうるさく喚きながら首領パッチの口の中に無理矢理押し込んでいく。もうこの時点で体に悪そうだ。

 

 

「食事のあとは運動よ~♥ エクササイズやヨガで健康的な体を作るのよ~♥」

 

 

化粧を施し、レオタードを着た首領パッチが二人にそう呼び掛けると…

ボーボボと天の助が「エクササイズ! エクササイズ!」と鬼の形相で釘バットとバールのようなもので首領パッチに暴行を加えた。

 

 

ただのリンチじゃん!!

 

 

「次は半身浴だ! いくぞ天の助!」

 

 

ぐったりとした首領パッチの両手両足を二人で掴むと……やたらとグツグツと煮え立った浴槽に投げ入れた。

当然、浴槽から出ようとする首領パッチ。しかし、そうはさせまいと二人が「おでん、つんつん! おでん、つんつん!」と口ずさみながら首領パッチをこれでもかと小突きまくる。

 

 

もはやアンチエイジングでも何でもないんですけど!?

 

 

「「 よっしゃぁぁぁ! 若さを取り戻したぜ! 」」

 

 

風が吹けば倒れそうな枯れ木のような体躯から、若さ溢れる瑞々しい肉体になっていた。

 

 

元に戻っとる!?

 

 

「くっくっく。いくら元の姿に戻ったところでパワーアップをしたワシに敵うと思うか…?」

 

 

ボーボボたち三人を前にして不敵な発言を言う。

もっともそれは確信した上での物言いなのも事実。

現にバレンタインとの体格の差は子供と大人ぐらいはある。

 

その状況下にも関わらずボーボボもまた不敵な笑みを浮かべて問う。

 

 

「それじゃあ、そこに一人が加わったならどうなるんだ?」

 

「ふん。この悪魔の館にいる住人はここにいるので全員のハズじゃ。

 それに余所者が入って来れないよう、別の部隊に周囲を張らせておる」

 

 

それでも揺るぎないバレンタインの自信。

 

 

「全く荒々しい方法ね。お陰でさっきよりはマシになったけど…」

 

 

そう言って腕をぐるぐる回して体の感触を確かめてみる()

ボーボボたちが呼び出したロボットは紅魔館だけではなく、そこに刺さってあった十字架──バレンタインが用意した吸血鬼を弱体化させる物を熱線で燃やしたのだ。

 

 

「跪き……泣いて……赦しを請うなら半殺し程度で済ませてあげるわよ?」

 

 

──セイント・バレンタイン…?

 

 

私こと、レミリア・スカーレットは十字架が放つ見えない鎖から解放されたのだ。

 

 




(´・ω・)にゃもし。

次回、戦闘らしい戦闘の描写は少な目にしようと思ふ。
バレンタインの性格を考えてですね。


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空しい勝利

 

 

吸血鬼である私の動きに阻害をかけていた特注の十字架。

空から紅魔館の周辺に落とされたそれは────屈強な肉体を持つ怪老人・バレンタインの言葉が正しければ────その数は億を超えていたと言う。

それも今は……全てではないが、ボーボボたちが召喚した巨大ロボが放った熱線によって大半が燃えて灰と化し、そのお陰で私は身動きが取れるようになった。

 

 

「…とはいえ、完全に自由を取り戻していたわけじゃあるまいて?

 その前に打ち倒して無力化し、目的を達すれば済むことよ」

 

 

体格の差では勝っていても、数の上では四対一と不利にも関わらず強気なバレンタイン。

ただの人間が私たちを相手にここまで裏打ちされた自信があるのは、一重に魔法道具(マジック・アイテム)をまだ隠し持っているから────と憶測を立てるが……いくら注意深く観察しても、持っているような気配は感じられない…

 

 

「行くぞ!」

 

 

両足に力を込めるバレンタイン。

どんな攻撃が来ようとも対応できるように身構える私たち。

 

しかし、爺さんが私たちに仕掛けることはなく……()()に跳んだ。

 

 

「「 ……えっ? 」」

 

 

予期せぬ行動に思わず間の抜けた声がそこかしこ漏れては重なる。

その間にもバレンタインは跳躍を繰り返して──さらに距離を広げていく。

 

 

「──んにゃろう、このまま逃げるつもりだな!?」

 

 

いち早く首領パッチが我に返り、手に持ったネギを頭上でぐるぐると振り回しながら跡を追い掛ける。

だがその途中、足下から火柱が立ち上がり、炎に飲み込まれてしまった。

 

 

「気を付けた方がいいぞ。この周辺には大量の地雷も埋まっているからのぅ~?

 ロボットのビームでダメになったかと思っておったが、問題なく作動するようじゃ」

 

 

いったい、いつの間に…?

顔に出ていたのか、私の疑問にバレンタインが答えた。

 

 

「不思議そうな顔をしているが別に難しいことはしておらんぞ。

 十字架と一緒に特製の地雷を空から落としただけだしのぅ…」

 

 

地雷が埋まっている場所を探知する術があるのだろう。

焔が沸き上がることなく、爺さんはヒョイヒョイ跳びながら移動する。

 

 

「あんたみたいな物騒な奴を、ここで逃すわけないでしょ!」

 

 

右手の掌に紅い塊を生み出し……そのまま握り潰す。

握った拳の隙間から漏れ出た紅い力が水流の如く勢いよく飛び出し、瞬く間に私の背を超す巨大な刃を持つ長槍を形作る。

 

バレンタインが地面を蹴った瞬間を狙って投擲、重さを微塵に感じさせずに一直線に飛んでいく。

 

 

──獲った!

 

 

人外・妖魔の類いなら兎も角、宙にいるバレンタインにこれを避ける術はない。

だが、あろうことかバレンタインは迫り来る紅い槍を()()()()()()

 

 

「……なっ!?」

 

 

必殺必中の威力を持つ紅い投槍。

そんなものを手で払おうとすれば無事には済まされるハズもなく……槍を霧散させて直撃を避けたものの左腕を失う。

死ぬよりはマシとはいえ、思い切った行動をする。

 

 

──今ならまだ間に合う。高速で飛行して追い掛けるべきか…?

 

 

「ちょっと天の助を借りますね」

 

 

逡巡しているとボーボボが天の助の頭を鷲掴みにし、遠ざかるバレンタインに向かって投げる。

さらに「ぴよっ!」と妙な掛け声を言いつつ投げた天の助の背の上に飛び乗り、腰をやや落として後ろ手で組み前方を見据えた。

 

 

桃白白(タオパイパイ)か!?

 

 

飛んでいく傍ら、私の声に気がついたようで、ボーボボが顔を横に向けて真顔で答える。

 

 

「いえ、キン肉マン・ゼブラの『マッスル・インフィルノ』です」

 

 

そっち!? じゃあ、さっきのやり取りの意味は!?

 

 

「悪いがレミリア、今はそれに答える暇はない!」

 

 

何でよ!?

 

 

「このまま奴にぶつかるぞ、天の助! いくぞ! 俺たちの友情ツープラトン技を!」

 

 

地面すれすれを平行に滑空するボーボボと天の助。

バレンタインは二人を確認すると、その場でしゃがんで地面から何やら大きな筒状の物を引っこ抜く。

 

 

「残念じゃが、こんなこともあろうかと対空兵器を用意しておるんじゃよ?」

 

 

地面に埋まっていたそれは携帯用のロケットランチャー。

それを肩に担ぐと何の躊躇いもなく引き金を引く。

弾丸が発射され、ボーボボたちに着弾。爆炎を撒き散らす。

爆炎と爆風がおさまり、あとに残ったのは…

 

 

「ふぅ、危ないとこだったぜ」

 

 

天の助を盾にしたボーボボの姿だった。

 

 

友情の欠片もねぇ────!!

 

 

「派手な攻撃で敵の注意をこちらに惹き付け……本命の一撃を死角からおみまいする。

 よそ見をしてていいのか? バレンタイン?」

 

 

バレンタインの後頭部には小さなボールに変化した首領パッチがくっついていた。

どうやら爆風で飛ばされた首領パッチが縮小・変形しつつ移動していたでようである。

「トランスフォーム、解除!」の掛け声とともに元の姿に戻ると…

 

 

「首領パッチ・エキス注入!!!!

 

 

頭に生えているトゲを一つ抜いて、それをバレンタインの首筋に突き刺した。

 

 

「くっくっく……。いいことを教えてやるぜジジイ。

 首領パッチ・エキスを注入された者は 俺と同じ思考レベルになる!!

 

「なんじゃと!?」

 

 

さりげなく、とんでもないことをぬかす首領パッチ。

それが本当ならある意味、最凶最悪の兵器の一つと言えよう。

どんな天才でも首領パッチ並のバカになるのだから…

 

 

ぬぅぉぉぉ~~~っ…

 

 

そうはさせんと抵抗を試みるバレンタイン。

首領パッチのトゲに入ってる液体が逆流して水嵩が増していく…

どんな方法でやっているのか知らないけどスゴいなこの爺さん。

 

 

「ほんじゃ、もう一本いっとく?」

 

 

体のトゲを外して、空いている箇所に突き刺す。

さしもののバレンタインもこれには耐えられなかったのか、トゲの中に入っているエキスがみるみるうちに減っていき……最後には一滴残らず空になった。

 

やがてバレンタインの全身がうっすらと発光し、時間が経つに連れて強くなっていく。

 

 

「…う、うた…歌○師匠~~~っ!!!?」

 

 

最後にはおかしな断末魔染みた声を残して視界を覆う閃光を放つ。

 

 

そして…

 

 

「婆さんや、メシはまだかのぅ~?」

 

 

視力が回復する頃には、どこから調達したのか地面の上に布団を敷き、布団から上体を起こしたバレンタインがこちらに尋ねる姿が…

筋骨隆々だった上半身は痩せ細っていて、もはや見る影がない。

 

 

「あれ? 何かボケてるんですけど?

 首領パッチ・エキスってこういう効果なの?」

 

 

結果的にはバレンタインを無力化させたから良いんだけど…

それを行った当の首領パッチは口に手を当てつつ「あわわわ…」と困惑していた。

 

 

お前も知らなかったのか…

 

 

「戦いは終わった。

 今はそれで十分ではありませんか?

 それに負傷した皆さんの応急措置をした方がいいでしょう」

 

 

ロケットランチャーの盾にされたハズの天の助が私の隣でそう促す。

パチェと美鈴。能力者の少女。

 

他に片付けるべき問題として大量のモヒカン。元凶であるバレンタイン爺さん。

不利な状況を覆すためとはいえ味方に破壊された紅魔館…

 

 

「『家なき子レミィ』…」

 

 

首領パッチがボソッとそう呟くと、それを聞いたボーボボと天の助が何がおかしいのか「ぶひゃひゃひゃ!」と腹を抱えて笑い転げる。

 

 

ああ、殴りたい。あの笑顔を…

 

 




(´・ω・)にゃもし。

思ったより長くなった。
次回はそれぞれの処遇かな…?


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月下での食事

  

  

不用意な発言のせいで顔を赤く大きく腫らしたボーボボ達三人。

彼らは現在、ボーボボが召喚したゆっくり達と一緒にモヒカン達(気絶している間に縄で簀巻きにした)を寝たきりの老人と化したバレンタインの下へせっせと運んでいる。

 

激戦に次ぐ激戦により、敷地内には破壊された紅魔館の壁が折り重なっている。

焦げた土が剥き出しになった平原にはほのかに湯気が立ち上っている。

頭上では満月に近い月が、足下にはパチェが構築した巨大な円い魔方陣が輝いている。

それだけなら、さぞかし幻想的な光景だった事だろう。

魔方陣のすぐ外側に山積みになったモヒカン達と寝たきりの老人さえ居なければ…

 

 

「奈落の底に捨てるわ」

 

 

よほどご立腹だったのか、にべもなく実行するパチェ。

それも高所からわざわざ一人ずつ蹴落としていく。

落ちていくモヒカン達の絶望に染まった表情と、それを終始無言無表情で淡々とこなす魔女の顔は忘れられそうにない。

程なくして全てのモヒカンとバレンタインを奈落の底へ落とし終えると、パチェは最後に残った銀髪の少女に目を向ける。

 

 

「問題は彼女なんだけど…」

 

 

作業の途中で気が付き目覚めた彼女だが……逃げる素振りは一切見せず、紅魔館の敷地内の隅っこで膝を抱えて座り込んでいた。

その表情は死人のように青白く、目も焦点が定まっておらず淀んでいた。

 

 

「能力を使用した代償ね。

 肉体年齢は10代後半。でも実年齢は10才以下ってことが解ったわ」

 

 

それを聞いたボーボボ達が押し黙り、辺りは不気味なまでに静かになった。

どうやら彼女は時を止めている間は自分の肉体の時間まで止める事は出来ないようだ。

 

 

「それにしたって些か成長し過ぎているような気がするんだけど…?」

 

「大方、無理強いにでも使用させたんでしょ。

 或いはこの娘がそれを望んでいたのかもね?」

 

 

老化による死。

この娘が何を思い、何を考えているのか知らないが…

 

 

「…で、貴女の名は?」

 

 

しかし返ってきた返答は首を左右に振った否定の意。

元から無いのか、答えたくないのか────判断がつかないところだが呼び名がないのは不便極まりない。

 

どうしたものかと、ふと夜空を見上げると……そこには満月よりも少し欠けた月が浮かんでいた。

 

今宵は確か十六夜だったか…?

 

アゴに手を当てて暫し思案に耽る。その間、件の少女はじっと見つめていた。

やがて、思い付いた事を口にする。

 

 

 

 

────十六夜(いざよい)の月が咲いた夜に貴女はここへ来た。

    今より貴女の名は『十六夜咲夜(いざよいさくや)』よ…

 

 

 

 

見上げてこちらを見つめる彼女の顔はさっきよりも生気を取り戻したように感じたのは気のせいか?

 

 

「貴女が連れて来た愚者達のせいで紅魔館はこの通り無惨な姿になったわ」

 

 

もっとも、彼女は命令を従ったにしか過ぎず、しかも破壊したのはボーボボ達だけど。

 

 

「補償金代わりに貴女がメイドとして働きなさい。

 給料無しのタダ働きになるから覚悟しなさい」

 

 

我ながら酷いことを言う。

…かといって、このまま帰したところで能力を酷使されて早死になる未来が目に見える。

暫く無言で視線を交わしていると天の助が間に入ってきた。

 

 

「少女よ。いえ、十六夜咲夜さん。

 うちのお嬢はこう言っているんですよ?

 『行く宛がないなら、うちに来なさい』……とね?」

 

 

穏やかな笑顔で何故か天の助が締めた。

 

 

「大して役に立ってない奴が仕切るんじゃねぇ~~~っ!!」

 

 

そこにボーボボの伸びた脚が天の助の腹に炸裂し、吹き飛ばされた。

味方の盾にされたのに酷い扱い…

 

 

「あのさぁ、さっきのセリフなんだけどよ。俺が言ったことにしてくれね?」

 

 

一方で首領パッチがこそこそと咲夜に耳打ちをしている。

コイツはコイツで何を言っているんだか…

 

 

「お嬢様~、図書館への入り口を確保しましたー。

 何とか野宿をせずに済みそうですよー」

 

 

数体のゆっくりを引き連れて美鈴が現れる。

そのゆっくり達は横に倒した冷蔵庫を頭の上に乗っけて運んでいた。

端から見たら冷蔵庫が独りで宙に浮いているように見えて軽くホラー。

よほどお腹を空かしていたのか嬉々として冷蔵庫を開けるも中に入ってあったのはサンマが三尾。それを見て落胆するゆっくり達。そして…

 

 

「「 …………………… 」」

 

 

誰彼となく首領パッチに視線が集中する。

針のむしろに座された首領パッチはこれに憤慨。

 

 

「テメェら、もしかして俺を疑ってんのか!? 命を懸けて戦った仲間の俺を!!」

 

 

拳を作って抗議する首領パッチ。

目を吊り上げ、額に青筋を立てていることから本気で怒っているのが分かる。

 

 

 

 

   毛の化身説得中 NowLoding...

 

 

 

 

十字架に磔にされた首領パッチがいる。顔面がアザだらけで歯が欠けており、全身のトゲが力なく萎れている。

その傍らには手に入れたものを確認しているボーボボがいる。

 

 

「炭酸飲料水が入ったペットボトル3本とスナック菓子が3袋…

 2017円、カブトムシ、デュエルディスクと……こんなもんか」

 

 

「チッ、しけてやがるぜ」地面にペッと唾を吐いて悪態を吐くボーボボ。

 

 

仲間に向ける態度じゃない。

それに所持しているモノの中にはデュエリストが腕に填めるものがあるんだけど……何で持ってるの? 決闘者なの? デュエリストなの?

 

 

「あ、あなた達って普段からこんなことやっているの?」

 

 

恐る恐る尋ねる咲夜。

味方を平気でいたぶるボーボボを見たせいか若干震えている気がしなくもない。

 

 

「安心しなさい。あの三人は自分達以外にああいうことはしないわ。

 もしもしていたら紅魔館から追い出しているわよ。

 彼らの間で行われる一種のコミュニケーションみたいなものかしら?」

 

「何それ…」

 

 

そうこうしている間に今度は天の助が犠牲になっていた。

同じようにぼこぼこにされて十字架に磔にされる。

 

 

「私達は準備が整い次第、幻想郷へ行くわ。

 幻想郷は全てを受け入れる場所。

 そこになら咲夜、貴女を受け入れる場所があるんじゃないかしら?

 メイド云々なんて言ったけど、ここが嫌ならば知り合いに頼んで貴女をそこに送るけど?」

 

 

私達二人を余所に隠しカメラから撮った映像を食い入れるように見つめるボーボボ、美鈴とゆっくり達。

何とそこに映っていたのはモヒカン達だった。

それが画面に映った瞬間、ボーボボ達の間に気まずい空気が流れる。

 

 

「さあ皆ぁ~、お腹がペコペコになったことだし食事の準備をするよー」

 

 

何事もなかったかのように振る舞うボーボボ。エプロンを身に付けて台所に立つ。

まな板の上にはサンマが三尾。それでどうするつもりなのだろうか…?

 

 

「冷蔵庫にはサンマが三尾しかありませんでしたが、この素材を余すことなく使用できれば……ここにいる全員のお腹を満たすことができるでしょう」

 

 

イヤイヤ、無理でしょ。

 

 

自信満々のボーボボに対して口を揃えて答える私達。

ボーボボがサンマの身に包丁を入れた瞬間、彼の手元が閃光に包まれる。

そして光が収まった頃には…

 

 

「ふう、何とか人数分のハンバーグ定食とゆっくりのためのキャットフードが完成したぜ…」

 

 

額に汗を足らして満足気の表情をするボーボボ。

テーブルの上には人数分のハンバーグが盛り付けられ、足下の地面には大量のペットフードが用意されていた。

確かボーボボのアフロに潜んでいるゆっくりの数は100を超えていた気がする。

 

 

「イヤイヤ、おかしいでしょ!? 何でサンマ三匹でこれだけ作れるのよ!?

 あとゆっくりのご飯ってペットフードだったの!?」

 

「安心しろレミリア、お前のはちゃんとニンジンとピーマンを抜いておいたぞ」

 

「食べれますけど!? ニンジンとピーマンぐらい食べれますけど!?」

 

「お腹が空いてたらマトモな思考が出来なくなる。

 咲夜、せっかくだからお前も食っていけ。考えるのはそれからでも遅くないだろ?」

 

 

テーブルの席には既に紅魔館の面々が着いていた。

いや、一人空席がある。

 

 

(妹の分なら既に美鈴が運んだから心配するな)

 

 

突如、頭にボーボボの声が響く。

彼の方へ振り向くと親指を立てていた。

コイツ、直接脳内に…

 

 

(パチュリーに頼んで脳内に声が届けられるようにしてもらった)

 

 

脳内って、何か危なそうなんだけど…

 

 

(大丈夫だ。時間が経つと幼児退行するだけだから)

 

 

今すぐヤメロぉぉぉ~~~~~っ!!!!

 

 

 

 

十六夜の月が咲く夜の下、私の絶叫が闇夜に響いた。

 

 

 

 




 

(´・ω・)にゃもし。

やっとこさ、じいさん終わった。


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紅魔館にいる妹様が暴れ始めて...
フランドール・スカーレット


 

 

不老不死を目論むマッチョ老人を撃退したものの、その時に発生した戦闘の余波で紅魔館は崩壊。私達は住む場所を失ってしまった。

もっともその要因となったのは味方の攻撃なのだが...

 

だが幸いにも地下にある図書館は無事だったため、もはや錬金術の域に達しているボーボボが調理した料理を平らげたあと私達は今夜の寝床を求めて図書館へと移動していた。

 

 

「あの司教が持ってきた十字架の効果は地下にいる妹様にも届いていたでしょうね。

 派手な戦闘もあったことだし、血の匂いにつられて狂ってなければいいんだけど...」

 

 

紅魔館(だったもの)の敷地内を移動する傍ら、パチェと件の妹──フランのことについて会話をしていると──

 

 

   コ" コ" コ" コ" コ"  コ" コ" コ" コ" コ" ... 

 

 

地鳴りを伴った大きな縦揺れ

ウワサをすれば影というやつか...

 

 

「あなたの妹様は今すぐにでも遊びたいみたいね?」

 

 

「どうするの?」と尋ねてくる友人。

味方の大半は先の戦闘で疲弊していて、マトモな戦闘が出来るのはボーボボ達三人ぐらいだろう。

 

 

「美鈴は襲撃に備えて周囲の警戒を...

 パチェは咲夜の体を診ててちょうだい。あの爺さんがいるような組織よ。体を弄られてる可能性が高いわ」

 

 

私を除いた女性組が私の指示に従い行動を開始する。そして...

 

 

「残った連中は、私と一緒に癇癪を起こして騒ぐ子供を鎮めに行くわよ」

 

 

ボーボボ達三人は心底イヤそうな顔をしていた。

 

 

 

 

   少女移動中 NowLoading...

 

 

 

 

「────私の妹は生まれてきた時から発狂気味で情緒不安定。

 危険な能力もあるせいで地下に幽閉されたのよ」

 

 

円柱に掘られた巨大な縦穴。

壁に沿って作られた螺旋状の階段を私を先頭にして地下へと降りていく。

 

 

「随分と深い縦穴だな... 何か理由でもあるのか?」

 

「空を飛べる人のための利便性と、万が一のために水で満たして外に出さないようにするためよ」

 

 

疑問に思ったボーボボの問いに返答を返しつつ...

 

 

「結構、深く掘ったから落ちないように気を付けなさい」

 

 

──と、注意を促したのも束の間。案の定...

 

 

「「 うわぁぁぁ~~~~~っ!!!? 」」

 

 

足を踏み外して落ちる三人。

 

 

「言ったそばから落ちるなアホ─────っ!!」

 

 

そこは歴戦の勇者、すぐに階段の足場に手をかけて這い上がろうとする。

 

 

「「 キラキラ☆プリキュアアラモードを見ずに死ねるか~~~~~!!!! 」」

 

 

そんな理由で火事場のくそ力を発揮すな!!

 

 

そういった紆余曲折を経て最下層に辿り着いた私達一行。

扉は既に開け放たれていて、その奥で私の妹であるフランが待ち構えていた。

 

 

「ズルい...

 愉しそうなことがあったのに、フランを仲間外れにするなんて...」

 

 

深紅を基調とした服装に白いナイトキャップ

私と同じぐらいの背丈の金髪の少女

 

しかし彼女の背中からには...

木の枝に七色の結晶がぶら下がった奇妙な物体が一対────翼のように生えていた。

 

その彼女が光を失った瞳でこちらを見つめていた。

 

彼女の放つ雰囲気に圧されて首領パッチが危機感を募らせる。

 

 

「おいおい、あれがお前の妹か? 何かヤバかねーか?」

 

「さっきも言ったけど、うちの妹は発狂気味で情緒不安定。

 普段からあんな感じなのよ」

 

 

 

 ゆるさんぞ虫ケラどもめ、じわじわとなぶり殺しにしてやる...

 

 

 

「「 めちゃくちゃ怒ってらっしゃる!? 」」

 

 

「どう見てもダメじゃねぇーか!? 

 何か宇宙の帝王みたいなこと言ってんぞ!? お前の妹様はよ~~~!?」

 

「んなこと気にしてる場合じゃないでしょ!?

 それよりも早く迎え撃つ体勢を整いなさいっ!!」

 

 

フランを目の前にしてギャーギャー喚きながら掴み合いをする私と首領パッチ。

そんな私達二人を前におろおろする天の助。

我関せずと言わんばかりに明後日の方向を向いてボーッと突っ立っているボーボボ。

 

私達の態度に我慢が出来なくなったのだろう。

床を思いっきり足で踏み抜いて陥没させた。

 

部屋内に響く轟音に一同が静まり返り、それを行った人物に視線が集中する。

 

 

 

 

    フランと   いっしょに   あそぼ

 

 

 

 

    あなたが   こわれて   くるって   うごかなくなるまで...  

 

 

 

 

    

 

 

 

 

小さく、だがよく通る声で呟いた瞬間

ぐねぐねと柄の曲がった槍を手に滑空する。

 

ボーボボが「先手必勝!」と首領パッチを思いっきり投げるが────フランは飛んでくる首領パッチを左手で顔面を掴んで受け止める。

さらに首領パッチを掴んだまま体を捻って勢いをつけて────床に投げて叩きつけた。

 

速度を落とすことなく槍が届く間合い──二人の目の前にまで飛んで近付くと両足で床を削りながら着地。

 

 

「天の助! お前の出番だ!」

 

「ちきしょう! そう来ると思ってたよ!」

 

 

ボーボボに背中を押されて前面に出された天の助。

彼はぬの形を模した物体を四つ取り出し、それを頭上に放り投げてジャグリングを始めた。

 

ジャグリングしつつ、うち二つをフランに向けて投げるも彼女はこれを跳んで躱し、避けたところを狙って残りの二つを投げる。

フランは時間差で飛んできたそれを槍を回転させて弾かせて防いでみせた。

 

最初に避けられた二つの武器は曲線を描いて投げた本人の手元に戻り...

 

 

ぬーメラン 無限四刀流!!

 

 

もう一度標的に向けて投げる。

そして入れ替わるようにして槍で弾かれた二つも天の助の手に戻り、やはし同じように投げる。

 

繰り返される投擲術に最初は避けられたその攻撃も、幾度となく繰り返される上下左右背後死角から飛来してくる刃にフランは徐々に避けきれず......首と胴に次々と傷をつけられた。

 

それを好機と見て攻撃の手を緩めず続ける天の助。

幾多の攻防の途中、フランは何を思ったのか持っていた槍を手放して床に落として無防備となる。

 

 

「確かに避けるのは難しそう♠

 なら止めちゃえばいいんだよね♥」

 

 

迫りくる二つのぬーメランをあろうことか

素手で受け止め......腕力に任せて粉砕してみせた。

 

残った二つも同様にフランの手に収まり...

 

 

「バ...カな

 俺は飛んでくる曲刀(ぬーメラン)を受け止めるのに半年以上かかったんだぞ!?」

 

「無駄な努力、御苦労様♠」

 

「ぐっ... くそォオ━━━━━ォ━━━!!

 

 

天の助が悔しそうに叫び

それを両目を細めて見て、口を弧の形にして歪んだ笑顔を作るフラン

両手にあるぬーメランを指先で回転させながら天の助に近づいていく。

 

その妹の背後に首領パッチが音もなく忍び込む

 

フランの頭部を両手の指先で挟もうとするが────気付いたフランがしゃがんで躱し、ほぼ同時に後にいる首領パッチの顔面に腕を伸ばして────掴み...

 

 

爆破した。

 

 

小さな爆煙を顔に纏わせて、背中から床に倒れる首領パッチ。

顔の皮が爆破によって焼け爛れ、空気が抜けていくような呻き声を漏らす。

 

 

「幽閉されているわりには戦闘慣れしているな?」

 

 

冷や汗を足らしながら指摘するボーボボ。

その一言が彼女を機嫌良くさせたのだろう。

虚空から姿形が一緒のフランを三体顕現させて...

 

 

「「 スゴいでしょ? 私はこうやって分身(ダブル)をいっぱい作って一人で遊んでるの♪ 」」

 

 

自分が作った分身を見せて自慢し

何がたのしいのか邪気の無い笑顔で「アハハ♪」と笑い声を上げる。

 

 

「「 面白いこと見せてくれたお礼にフランが得意なことを見せてあげるよ 」」

 

 

四人のフランが一ヶ所に集まり右手親指を触れ合わせる。

今更ながらフランの能力を思い出し逃げるよう警告を発する前には時は既に遅く──

 

 

「「 解放(リリース) 」」

 

 

────フランが唱えた瞬間。

 

 

天の助と首領パッチが破裂し、私は寸前に全身を紅い霧と化して回避する。

唯一、ボーボボだけがフランの能力から逃れた。

 

 

「あれ? 何であなただけ無事なの?」

 

 

フランが不思議そうに質問すると、ボーボボの胸がシャッターが開くように開閉

中からお腹を上にしてぐったりとした様子のネズミが顔を出す。

 

 

「フランが破壊したのはこの俺じゃなく、この木下さんだったんだろう」

 

 

木下さん!?

 

 

「死ぬかと思いました...」

 

 

喋れるんかい!? しかも生きとるし!!

 

 

「フラン。お前の境遇には同情するが、だからといって俺の仲間をこんな目に遭わすのは許せることではない」

 

 

ボーボボのその言葉に当然のように復活した首領パッチと天の助が瞳を潤わせる。

 

 

「木下さんが味わった苦しみをお前にも与えてやろう」

 

 

二人がそれを聞いた瞬間、肩を落として明らかに落胆する。

身構え殺気を放つボーボボとフランに、開きっぱなし胸の中のネズミが声をかける。

 

 

「ボーボボさん、私は大丈夫です。

 彼女はここに幽閉されたせいで外の世界を知りません。

 ただただ、危険だからという理由で幼子を閉じ込めるのは間違っています」

 

 

木下さん!?

 

 

「そうだな... 木下さんがそう言うなら仕方がない。

 ならば俺は平凡な日常というのを味わせてやろう!!」

 

 

満足そうに頷く木下さん。

ボーボボの両隣には首領パッチと天の助が立つ。

 

 

「行くぞフラン! ここを出る前に俺達の協力奥義で外の世界を体験させてやる!」

 

 

石で敷き詰められただけの巨大な牢獄がボーボボ達を中心に変化していく。

それは人間の子供達が通う教育機関である学校。その校舎の一室。

 

 

「「 超絶奥義・ワンダフル鼻毛 7DAYS!!!! 」」

 

 

「平凡な日常を教えてやるぜ...」

 

 

何故か自信満々に言うボーボボ。お前が言うなと言いたくなるもあえて耐える。

正直、不安しか感じないが...... フランがコイツらを知るいい機会なのかもしれない。

 

 




 

(´・ω・)にゃもし。

後書き忘れてた。
今回は勢いで書いたよ。


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平凡な日常を学ぼう

 

 

ボーボボの語る「平凡」とやらをフランに教授すべく、彼は超絶奥義・ワンダフル鼻毛 7DAYSを放ち────無機質な石畳でできた牢獄を学校へと姿を変えさせた。

そしてボーボボの奥義が始まる。

 

 

 

 

【 月曜日 】

 

「まずは月曜日! 学校に登校したらテロリストが校舎を占拠!」

 

 

もうこの時点で平凡じゃないんですけど!?

 

 

いつの間にかに校庭に出ていた私達。

ボーボボの後ろでは校舎を囲むように刀と盾で武装した──日本の妖魔だろう──和装をした人外が包囲していた。

 

 

「てめぇら大人しく言うことを聞いておけよ!

 少しでも妙な真似をしてみろ! ここにいる人質の命はねぇからなぁ!?」

 

 

声が聞こえた方向に顔を向けると校舎の窓から顔を出して威嚇している首領パッチがいた。

首領パッチがテロリスト? ...と思ったが彼の後頭部に銃を突きつけているテロリストの一味らしき覆面をした男の姿があった。

 

 

お前が人質なんかい!?

 

 

「首領パッチに人質としての価値はない!

 ゆっくり達よ! 人質のことは一切気にせず鎮圧してこい!」

 

 

いいの!?

 

 

ビシッと指差すボーボボの号令の下、わらわらと校舎に向かうゆっくり達。

ものの数分でテロリスト達を鎮圧、学校の解放に成功した。

 

犯人達は白い獣耳と尻尾を生やした少女に腕を縄で縛られて次々と護送車に詰め込まれていく。その中には虚ろな表情で下を向いたまま歩く首領パッチの姿もあった。

 

 

一緒に連れてかれとる!?

 

 

 

 

【 火曜日 】

 

「次は火曜日だ! 先日の学校襲撃事件に校長先生からお話があるそうだ!」

 

 

朝の全校朝礼。校庭に集まった生徒に扮したゆっくり達に白髪混じりの映画を撮っていそうな校長が語りかける。

 

 

「突然ですが、君達にはこれから殺し合いをしてもらいます」

 

 

校長のデス・ゲーム宣言にゆっくり達がざわめき始める。

 

 

「爆弾付きのチョーカーを首に填めてもらう予定でしたが...

 君達の体ではチョーカーがつけられないので計画を断念せざる得ませんでした」

 

 

先ほどのテロリスト達と同じく身柄を拘束され、これまた同じ少女が今度はパトカーに校長を乗せて、けたたましくサイレンを鳴らしながら走り去っていく。

 

 

「普通、やる前に分かりそうだと思うんだけど...?」

 

 

 

 

【 水曜日 】

 

「水曜日だ! どんな犯罪に巻き込まれても対処できるように身構えておけ!」

 

 

もう決定事項になってる。

側面にぬのオブジェが付いた車が校庭を爆走、車体を斜めに傾けながらボーボボの手前で止まり、中から慌てた様子の天の助が出てきた。

 

 

「ボーボボ大変だ! 街の人間達がゾンビになってこっちに向かってきてるぞ!」

 

 

人の手でどうにかできるレベルじゃない!! っていうかバイオ・ハザード!?

 

 

校門には夥しい数のゾンビ。

ゾンビ達の重みで門柱にヒビが入り、鉄格子がイビツに歪み......長くは持ちそうにない。

 

 

「ゾンビごときに臆する俺達ではない! えーりんの薬を大量放水!」

 

 

どこから調達してきたのか消防士の格好をしたボーボボ達三人がホースをゾンビに向けて門越しに液体を浴びせる。

液体に触れたゾンビから元の姿に戻っていくも数が数だけに...

 

 

「ヤバいぞ、ボーボボ。薬が足りない...」

 

 

元から青い顔をさらに青ざめさせる天の助にボーボボが苦々しく答える。

 

 

「一か八か、首領パッチ・エキスで代用してみよう...」

 

 

んなもんで代用すな!!

 

 

「許せ、首領パッチ!」と当て身を喰らわせて気絶させるとタンクの中に放り込んで放水を始める。

首領パッチの体液と思われるオレンジ色の液体がゾンビにばら蒔かれ... 意識を取り戻していく。

何故あのエキスで戻ったのか、腑に落ちない私に天の助が答える。

 

 

「どうやら首領パッチ・エキス(バカ)ゾンビ・ウイルス(バカ)が打ち消しあって、正常に戻ったようだ」

 

「なにそれ...」

 

 

 

 

【 木曜日 】

 

「木曜日! 教室入ったら今流行りの異世界召喚!」

 

 

とうとうファンタジーの世界が入ってきちゃった...

足下に光輝く魔方陣、空間が揺らめき転移した先は────

 

 

*「りゅうおうが あらわれた!」

 

 

竜の頭をした杖を片手に、魔法使いの格好をした男の前に着いた。

 

 

「「 いきなしラスボス!!!? 」」

 

 

「ならばデュエルで勝負だ!」

 

 

デュエルディスクを腕に装着して勝負を挑むボーボボ。

りゅうおうも同じようにデュエルディスクを腕に填めて...

 

 

*「望むところだ!」

 

 

受けちゃうの!? そんで何でラスボスのお前がそれを持っているの!?

 

 

バトル・フィールドにモンスターが具現化し、ボーボボとりゅうおうの決闘が始まった。

ターン制で進むこと暫し、決着が着こうとしている。

 

 

「出でよ、青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)!!

 プレイヤーにダイレクトアタック! りゅうおうに滅びの爆裂疾風弾(バースト・ストリーム)!!!!」

 

 

白銀のコートを風に靡かせながら茶髪の青年が巨大な白龍を召喚

口から閃光を吐き出してりゅうおうを攻撃────りゅうおうが光に飲まれてLPが0になる。

決闘終了を告げるアラームの音が鳴り響き、少し遅れてボーボボ達が青年の勝利に喝采した。

 

 

プレイヤー変わっとる!? っていうか社長!?

 

 

 

 

【 金曜日 】

 

「華の金曜日! 恒例の異世界召喚だ!」

 

 

もう二回目で恒例になっとる....

着いた先は、地を埋めつかせんばかりの白い鎧を装備した兵士の大軍と巨大な四つ足の兵器が闊歩している光景。

空に視線を移せば黒雲と見紛う空飛ぶ円盤の群れ、遥か向こう空の彼方には母艦とおぼしき鉄でできた星が浮かんでいた。

 

 

「敵は銀河征服を目論む 帝国軍!!

 

 

もう剣と魔法でどうにかできる相手じゃないんですけど────っ!!!?

 

 

「心配無用だ! こんなこともあろうかと紅魔館の地下でひっそりと秘密兵器を作っておいた!

 出ろぉぉぉ──っ!! パチュリィィィ──っ、ロボぉぉぉ~~~っ!!!!

 

 

ボーボボが指をパチンと鳴らすと大地を割ってドラム缶ようなフォルムの──パチェを模したロボットが飛び出してきた。

 

大きさは前に見たヒソウテンソクよりも大きい。

デフォルメされた顔。円柱形の体に細長い腕と短い足。

右手がアーム状に対して、左手はドリルになっていてギュインギュイン回転させている。

 

 

ひとんちの地下で何を作っとんじゃぁぁぁっ!?

 

 

一抱えほどの大きさのある古めかしいリモコンを地面に「よっこらしょ」と置くボーボボ。二つあるレバーをガチャガチャ動かすと、ポケットから携帯電話を取り出してピコピコとボタンを押して何かを入力、最後に左腕に嵌めてる機械装置に向かって叫ぶ。

 

 

「パチュリー・ロボ! プラズマ・ハリケーンだ!」

 

 

ロボット動かすのに何でそんなややこしい手順が必要なの!? 最後だけでよくない!?

 

 

電波を受信したらしくパチュリー・ロボが一言『ま"っ!』とドリルの尖端を敵に向けると...

高速回転したドリルが電撃を纏った風の渦を生み出し、敵を凪ぎ払い母艦に大きな風穴を空け、爆破。それを見た残りの帝国軍が撤退を始める。

 

 

パチュリー・ロボ、強っ!?

 

 

 

 

【 土曜日 】

 

「一週間も残すところ僅かだ! 土曜日いくぞ!!」

 

 

なぜか怒り気味でホワイトボードにでかでかと書かれた土曜日の文字を片手でバンバン叩く。

地平線の向こうから土煙を上げてこちらを目指してやってくる集団が現れる。そいつらは月から金に出てきた連中の集まりだった。

 

 

「上等だ! 一度舞台退場した敵役が主人公達には勝てないってことを思い知らせてやるぜ!」

 

 

場所は変わって採石場。その窪んだ底にてボーボボは「いくぜ野郎共!」と首領パッチと天の助を連れて集団と激突し...

数秒後にはあっさりと敗北、全員が首から下を地面に埋められた。

 

 

「「 ま、まいった... 」」

 

 

まいるな!!

 

 

敗北を認めたボーボボ達に敵対勢力が彼らに銃口を向け、引き金を引いて止めを刺そうとしたその時... 頭上の一点から幾重にも枝分かれした雷が地上に降り注がれる。

突然の雷に処刑を中断する軍団。

 

「何者だ!?」「どこにいる!?」──と怒号が飛び交い、やがて一人の兵士が高く聳える崖に立つ影を指差す。そこには緋色の羽衣を纏い、触角のような飾りが付いた帽子を被った女性が天を指差していた。

 

 

「「 土曜の夜はサタデーナイトフィーバー!! すなわち衣玖さんの出番! 」」

 

 

ボーボボ達からの黄色い声援を受け、掲げた右手に羽衣が重なり合って──巨大なドリルと化す。

崖から飛び降り、ドリルを下にして彼女は落ちていく。

 

 

必殺! ギガァ... ドリルゥ... ブレ衣玖ぅ────っ!!

 

 

必殺技の名前を叫びつつ戦場の中心地にドリルの尖端から激突。

大地が割れ、岩盤が窪み、二度の爆発が発生、採石場に大きなクレーターができあがった。

 

 

「「 衣玖さんのお陰で脱出できたぜ!! 」」

 

 

ドリルによる攻撃で砂塵が舞い上がる戦場。

全身アザだらけで頭から血を垂れ流し、ほうほうの体で穴から這い上がるボーボボ達がいた。

 

 

超瀕死なんですけど!?

 

 

私が言葉を発したと同時に空間が揺らぎ始める。

フランと対峙するように向かい合うボーボボ。

 

 

「フラン。俺の超絶奥義・ワンダフル鼻毛 7DAYSでこの狭い牢獄の外にある世界と、そこに住まう人間達のことを学び、知ったことだろう...」

 

 

イヤイヤ、無理でしょ!?

 どこをどうやったらあの奥義から人間のことを学ぶことができるのよ!?

 

 

採石場だった場所は────満天の星空を背景に、足場は小さな銀河へと変貌した。

小さな銀河といっても学校の校庭ぐらいの大きさがあるが...

 

 

「知識を得たら次は実戦あるのみだ!

 人間達は戦争という愚かな行為をする一方でゲームやスポーツといった娯楽を生み出している。

 これからやるのは世界でもっとも盛んに行われている競技といっても過言ではない!

 それでフランを外に出しても良いかを判断する!」

 

 

 

 

【 日曜日 】

 

「『 ジャンケン 』で!!」

 

 

戦場が壮大なわりに勝負方法がショボいんですけど!?

 

 

ビシッとポーズを決めるボーボボ達に、首を傾げながらフランが尋ねる。

 

 

「ジャンケンって、なーに?」

 

 

「「 そこから!? 」」

 

 




 

(´・ω・)にゃもし。

ギャグを考える人ってスゴいわ。毎回思うよ。特に原作者。
今回も特殊タグを使いまくり、作る人には頭が上がりません。
とりあえず次は戦闘シーン(?)の予定です。

 


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ルールを学ぼう

 

 

ボーボボの超絶奥義・ワンダフル鼻毛 7DAYS

その奥義の最後を締め括るのは『ジャンケン』だった。

 

しかしフランはこれに「ジャンケンって、なーに?」と質問。

これにはボーボボたちも困ってうんうん唸らせて考えた結果、ボーボボが教えることに...

 

 

   少女に説明中 NowLoading...

 

 

「──というわけで勝ったヤツは負けたヤツをぶん殴っていいんだよ?」

 

「なにさらっと最後にウソを教えてんのよ!?

 フランも「うん。わかった♪」って返事しない!! 

 これウソだからね!? ジャンケンにはそんな物騒なルールはないからね!?」

 

 

笑顔で教えるボーボボの間違いを訂正していると、今度は天の助が自分の腕をもう片方の腕で指しつつ尋ねてきた。

 

 

「俺の腕じゃあ「ジャンケン」なんてできないんだが...」

 

「ああ、そっか。それじゃあ、これを使おう」

 

 

ボーボボが懐から取り出したのは... ジャンケンの手が描かれた札(アニメの最後にやるアレ)────それを三つ一組で全員に手渡していく。

 

 

「...って、俺の札が全部『パー』なんだが...?」

 

「ワガママ言うな天の助。俺の札なんて『チョキ』しかないんだぞ?」

 

「これじゃあ俺ボーボボに勝てないんですけど!?」

 

「フランのは『グー』だけだから取り換えっこしよう?」

 

札の配り方おかしくない!? 明らかに偏っているんですけど!?

 

 

フランの発案に交換し合う三名。なぜかそこに首領パッチは入っていなかった。

彼だけはマトモに配られたのかと思いきや...

 

 

「ちょっと待てよ。お前ら。

 俺の札『 キツネ 』なんだけど!? これどういう意味なんだよ!?」

 

 

札の表側を見せる首領パッチ。

彼が持っている三つの札。その全てには三本の指で頭を作って象る影絵のキツネが描かれていた。

 

 

「「 ジャーン、ケーン... 」」

 

「ちょ!? おい!?」

 

 

そんな彼の抗議など何処吹く風とジャンケンを始めてしまう三名。

「ちきしょう!」と小汚い言葉を吐きつつもキツネの札を出して参加する。

『ポン』と一斉に場に出された四つの札はものの見事に四種類とキレイに分かれたが...

 

 

「「 はい、首領パッチの負け~♪ 」」

 

なんでだよ!?

 

 

さも当然のように首領パッチの負けを告げる三人。

彼じゃなくても疑問をぶつけたことだろう。

 

 

「これより勝者は敗者をピコピコハンマーで頭を叩く!

 敗者はピコピコハンマーで叩かれる前に急いでヘルメットを被って防いでみせろ!!」

 

 

いきなりのルールの追加。

確か「たたいて・かぶって・ジャンケンポン」というやつだったか?

 

だが首領パッチに迫るボーボボが両手で持っているのは大きな木槌。

天の助とフランも木槌を持ってボーボボの跡を追っている。

 

 

どう見てもピコピコハンマーに見えないんですけど!?

 

 

それでもルールに従って憤慨(キレ)気味に「おらよ!これでいいんだろ!?」と工事現場で使われているヘルメットを頭に被る首領パッチ。

従来のルールならセーフなんでしょうけど.....ボーボボが持っているのは木槌だし、ヘルメットを被った程度で防げるとは到底思えない。

 

 

「そんな装備でこの『 ゴルデオン・ハンマー 』を防げるものかァァァ~~~っ!!!!

 

 

黄金色に輝く巨大な金属製のハンマーを片腕だけで持ち上げ... 喚き散らす首領パッチの頭上にゆっくりと時間をかけて振り下ろす。

 

 

光になれぇぇぇぇぇっ!!!!

 

 

ハンマーに触れた部分から光の粒子と化していく首領パッチ。

細かな光の粒の群れでできた二つの螺旋が、絡み合うようにして天へと昇って......消えていく。

 

 

「まずは一人脱落だな...」

 

 

光に照らされたボーボボの顔はやけに神々しいかった。でも...

 

 

首領パッチは味方だったよね!?

 

 

そして二戦目。掛け声とともに出された三つの札。次に負けたのは天の助だった。

舌打ちを一つ鳴らすと直ぐに攻撃を防ぐために備える。

 

 

「精神コマンド発動!! 『不屈』! 『鉄壁』! 『ひらめき』! 『集中』!

 ついでに『ド根性』でHP回復!

 防御・回避系のコマンドを発動した今の俺に耐えられない攻撃など無い!!」

 

 

薄く青い四角錐の結界。その中で腕を組んで仁王立ちする天の助。

よほど自信があるのか不敵な笑みを浮かべている。

 

 

必殺マジシリーズマジ殴り 』」

 

 

────だが、突然現れた黄色のコスチュームに白いマントを羽織ったハゲがバリアを殴って破壊。

さらに殴った時に発生した衝撃波で足場になっている小銀河が半分ほどが吹っ飛ぶ。

 

衝撃波がおさまった後には... 大きく抉られ、かじられたリンゴのように欠けた小銀河。その縁に辛うじて頭部と胴体を残した天の助が... 光を無くした濁った瞳で虚空を見つめていた。

 

 

「サイタマは反則だろ...」

 

 

それだけ言うと血の混じった嘔吐物を口から吐き出して... 沈黙。これで場にいるのは──

 

 

「これで残すは俺とフランだけになった。

 もはや、これは必要ないな」

 

 

ジャンケンの札を背中越しに後ろへ投げ捨てるボーボボ。

フランもまた頷いて、札を地面に落とし────その札が地面に触れる間際。誰からともなく同時に駆け出す二人。

 

お互いの腕が届く距離まで接近すると...

 

 

「「 ポン 」」

 

 

揃って『パー』を出す。

 

引き分けとなると否や、今度は別の腕を突き出して『ジャンケン』を行う。

...だがこれもまた両者が同じ『グー』を出して勝負が着かない。

 

出した腕を引いては、別の腕で『ジャンケン』を行い... 両者が同じ手を出して引き分ける────これを残像を残すほどの高速で、両腕を使って行い続ける。

 

端から見れば────寸止めの乱打による打ち合い────をボーボボとフランが行っている。

 

数えるのも億劫になるくらいの引き分けの数の後。

フランの『グー』で漸く勝負が着いた。

 

そして、この後に名ばかしのピコピコハンマーとヘルメットによる攻防が始まるのだが... 

やはしというか案の定、フランは柄がぐねぐねと曲がった槍を携え、羽ばたき一つして天を突く勢いで急上昇。地上から目視するのが困難になるまで離れると、今度は槍を尖端にして急降下してきた。

 

フランの頭上からの攻撃に対してボーボボは────伸ばした鼻毛で私の帽子を奪い、帽子の縁を握ったまま頭に被ってその場でしゃがみこむ。

 

 

「 レミリア直伝!! カリスマガード!! 」──と、

 

 

人の帽子で何やってんの!? それにそんな技、教えた覚え無いよ!?

 

 

耳障りな爆音と共に私の帽子とフランの槍が接触

触れた部分から放電が発生、周囲に電撃を撒き散らす。

 

 

私の帽子がフランの槍と拮抗しているんですけど!?

 

 

やがてフランの持っている槍、その穂先から亀裂が入り、ピシピシッ...と小さな音を立てて全体に広がっていく。

槍全体に亀裂が入る前に慌てて身を引くフラン。

槍での攻撃をやめて空いている手をボーボボに向かって翳すも掌から弾が出る気配はない。

 

 

「どうやらさっきの槍での攻撃が『一回』と見なされたようだな。

 もう一度この俺に攻撃したい場合はもう一度ジャンケンに勝たなければならない。

 これが ルール というやつだ」

 

 

右腕を隠すように背中の後ろへと持っていき──ジャンケンの構えを見せるボーボボ。

先ほどの槍による渾身の一撃を、何の変哲もない帽子で塞がれた件でフランは未だ戸惑っているようだが... それでもボーボボに合わせて準備を整える。

 

 

ジャン! 」「 ケン! 」「 ポン!

 

 

──しかし、そういった精神面が勝負の行方に作用したのか... 今度はフランが『チョキ』で負けてしまった。

自身の負けが信じられないのか、チョキを出したままの手をボーッと見つめる。

 

 

「何をぼさっとしているフラン!? 勝負はまだ着いていないんだぞ!?」

 

 

ボーボボから叱咤されて我に返るフラン。

すぐさま近くにあったヘルメットに手を伸ばすも、ボーボボが伸ばした鼻毛で銀河の外へと弾かせてしまう。

 

 

「え、えーっと... レミリア直伝! カリスマガード!!

 

 

ヘルメットを、身を守る術を失ったフランは何を思ったのか、ボーボボと同じように帽子の縁を握ってその場でしゃがみこむ。

 

無言で近づくボーボボ。

フランの帽子をぺしっと軽くはたいて地面に落とすと、無防備になったフランの頭部にピコピコハンマーで「 ピコッ♪ 」と優しく叩く。

 

 

「はい♪ フランちゃんの負け~♪」

 

 

陽気な声でそう伝える。

さすがのフランもこれは予想外か、ポカンとした表情でボーボボを見ていた。

 

 

「不思議そうな顔をしているが、これは遊びだ。殺し合いではない」

 

 

至極、真面目な顔で答える。

首領パッチと天の助は酷い目に遭ったんだけど、言うだけムダか... それに今は(フラン)の方が大事だし...

 

そのフランから赤黒い靄がぶわっと噴出、霧のようにフランの周りに漂う。フランはそれの放つ空気にあてられたのか、同じ言葉を何度も繰り返しぶつぶつと小さく言い始め──狂った。

 

 

「「 やだ何あれ、怖ーい 」」

 

 

ジャンケンで敗れて退場していたハズの首領パッチと天の助。彼らの背後には守護霊の如く仮面を被った宇宙の狩人が狩った獲物の首を片手に佇んでいた。

 

 

あんたらの方が怖いよ!?

 

 

今もなお狂ったように同じ言葉を吐き続けるフラン。

その様子からボーボボが憶測を立てて述べる。

 

 

「おそらく俺の『ワンダフル鼻毛 7DAYS』で平凡な日常を体験したことで狂気がそれを受け入れられず... 結果、ああいう形で外に漏れ出したんだろう...」

 

平凡な日常なんて一個もなかったよね!?

 

「だが安心しろ。これも想定内だ!」

 

貴方の言う安心が一番安心できないんですけど!?

 

 

アフロが上下に開いて、そこから飛び出したのは人形サイズの小さな咲夜。なぜかメイド服姿で犬耳と尻尾が生えている。

ボーボボがそれを両手で掴むと吼えた。

 

 

犬咲夜フラッシュ!!!!

 

 

犬咲夜と命名されたそれから光が溢れ──フランの赤黒い影を打ち消し、ゴミで汚れたドブ川がみるみるうちに魚が泳ぐキレイな川へと変化させた。

 

 

変な咲夜が活躍しとる!?...っていうか何でドブ川がここにあるの!? 」

 

 

意識を失い、瞳を閉じ、糸の切れた人形のように前に倒れかけるフラン。

気がつけば私は彼女を体で受け止めていた。

 

  




(´・ω・)にゃもし。

ジャンケン。知っている人は知っている。


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紅魔館に束の間の平和がやって来て…
戦い終えて…


 

 

私の肩で「すぅすぅ」と小さな寝息を立てて眠るフラン。

背中にある一対の羽。枯れた枝に水晶をぶら下げたイビツなその羽さえなければ… どこにでもいる人間の女の子の一人に見えたことだろう。

 

そんなことを思いながら彼女の横顔を暫し眺めていると、唐突にその両目が「くわっ!」と見開き、次いで私の両腕を掴んで動きを封じた後、床を片足で蹴って跳び上がる。

 

そこからさらに空中で反り返って上下逆さまになると… 

床に向かって落下────私の脳天を石畳の床に叩きつけた。

 

 

超人十字架落とし!!!!

 

 

ゴッ… という聞いてて痛そうな凄まじい音が脳内に響き、次に激痛が頭に走る。

これには堪らず「うヴぉぉぉ…!?」という乙女にあるまじき呻き声を漏らしながら、私は無様にも頭を抱えてゴロゴロと床の上で右へ左へと転げ回った。

 

そんな様子の私がおもしろ可笑しいのか、我が妹様はボーボボたちと一緒にこちらを指差しつつ腹を抱えて「ぶひゃひゃ」と無遠慮に爆笑。

 

連中の態度に怒りを覚えた私はすぐさま右足を軸にした飛び蹴りを敢行。

未だに笑い転げていて隙だらけのフランの顔面に見事に命中。ついでに当たった瞬間に足首に捻りを入れてダメージアップを図る。

 

これが功を成したのか、後ろにいたボーボボたち三人を巻き込んで吹っ飛ぶフラン。

壁に激突し、全員仲良く気を失って倒れた。

 

少々やり過ぎたかな…? と思いつつ静観するも一向に起き上がる気配を見せない。

フランたちを蹴り飛ばしたことで溜飲が下がり、冷静になった頭で私は今日のやたらと濃かった一日の出来事を思い出す。

 

さしもののボーボボたちといえど連戦に次ぐ連戦には堪えたのだろう。

そしてそれは私にも言えることであって、気がつけば私は床に俯せになって倒れていた。

もっとも私の場合は精神面での披露の方が大きいのだろうが…

 

 

   少女睡眠中 NowLoading...

 

 

「妹様の槍を帽子で防ぐなんて無謀にも程があるわね」

 

 

長テーブルを挟んで向かいにいるパチェが呆れたような物言いで話す。

一晩経った翌日の昼。私を含めた地下にいた者は全員、大図書館に移動していた。

 

あの後いくら待っても戻ってこない私たちに不審に思ったパチェが美鈴にお願いして向かわせたところ……倒れている私たちを発見。とりあえず大図書館に運んだとのこと。フランに関してはさんざん悩んだようだが……気を失っていたこともあって大丈夫だろう、と判断を下して一緒に連れてきた──ということらしい。

 

 

「これで残る問題は上の紅魔館なんだけど、どうするのレミィ?

 いつまでもここ(大図書館)で寝泊まりするわけにはいかないでしょ?」

 

 

──と、大図書館の隅っこで布団を敷いて眠るボーボボたちに視線を向ける。

言外にあの連中をどうにかしろ、と言いたいようだ。

 

グースカと豪快にイビキをかいて眠る彼らの横にはどこから持ってきたのかキングサイズのベッドにいぬさくやを抱いて眠るフランの姿もあった。こちらはでっかい鼻ちょうちんを作って眠っている。

 

 

「お姉様… ス、スイカ丸呑みしちゃダメだよ。

 バカだねー。耳からキュウリを入れると鼻からシイタケが出るんだよ?」

 

 

「うふふ♪」と、何とも意味不明な寝言を口に出して、心底愉しそうな笑顔を浮かべている。

いったいどんな愉快な夢を見ているんだか…

 

 

「とりあえずゴーレムをいっぱい作って、それを家の形に組んでもらう方法があるんだけど…」

 

「イヤよ、そんな不気味な家! 住みたくないし、誰が好き好んで住むの!?」

 

「意外と住む環境にこだわりを持つのね」

 

「ゴーレムの家なんぞ、私でなくとも否定したくなるよ!?」

 

「でも、もう既にゴーレムいっぱい作っちゃったし…」

 

「すでに手遅れ!?」

 

 

四角い魔方陣を通して映し出される外の光景には、紅い色のレンガで造られたゴーレムたちがどこぞの国民的RPGのように規則正しく等間隔で横一列に並んでいた。今にも緊迫感のある音楽が流れてきそうな感じであるが…

 

 

「何で家主の許可なく勝手にやってるのよ!?

 それにゴーレムが紅いのは、もしかしなくてもうち(紅魔館)の残骸ですよね!?」

 

「とりあえず暫くの間はこれで雨風を凌げる場所を確保できるわね…」

 

 

私の苦言にも何のその、宙に浮いている魔方陣を指先でちょちょいとつつくパチェ。

彼女が触れると画面の中のゴーレムたちが鈍重そうな動きを見せつつも移動を始める。

 

 

「ちょっと何勝手にゴーレムに指示を出してるのよ!?」

 

「何って、紅魔館ができるまでの仮の住まいを建ててるとこだけど…?

 私は大図書館から出たくないから、ここから遠隔操作しているのよ」

 

「さも同然のように答えないで! 今すぐ止めて! お願い!」

 

 

無理矢理にでも中断させようと掴みかかるも、パチェは後ろに退いて己の周囲に流水でできた巨大な水の膜──吸血鬼の特性である流れている水を渡ることができない──を利用した結界を展開。こちらを近寄らせない。

 

 

くっ!? こいつ、ここぞとばかりに無駄に抵抗を…!!

 

 

気だるそうな表情のまま立ち塞がるパチェ。その間にもゴーレムたちは着々と作業をこなし、段々と館の形を成していく。ただし外壁は紅いゴーレム。ゴーレムたちの体を壁とした紅い館。ところどころ手足がはみ出ていて、それがある種のオブジェと言えなくもない。

 

 

「ちょっと、パチェ!? まさかアレで終わりじゃないでしょうね!?」

 

 

他人のを見る分にはいいが、自分がアレに住むとなると話は別。

趣味の悪い外観の館に住みたいとは誰も思わない。

 

 

「はみ出ている手足と頭に関しては… 切り落とせば幾らかは見映えがよくなるでしょ?」

 

 

なんてことはないと言わんばかりに言う。

心なしかゴーレムたちがビクッと身を震わせたのは気のせいだろうか…

 

魔方陣に手を翳して聞き取れない小さな声で呪文を詠唱。

ゴーレムの体が炎で熱しられたアメのように溶かされながら、徐々に形を整えられていく。

最終的には──見た目だけならば、以前の紅魔館とほぼ一緒の姿になった。

 

 

「でも整ったのは外側だけで内側は変わってないのよね…」

 

 

そう言って館内を見せる彼女。

ゴーレムの腕や足、頭などの体の一部が紅魔館の至るところから生えていた。

 

 

「ひいいいぃぃぃっ!? 館の内側が手足だらけ────っ!?

 やるんなら最後までやってくれない!? なんか今にも動き出そうなんですけど!?」

 

「催促してるところ悪いけど… 今、MP(やる気)が底を尽きているのよ。

 あと壁のゴーレムはご要望があれば動かせるけど?」

 

「MPの呼び名が『やる気』に聞こえてくるんですけども────っ!?

 あとゴーレムは動かさなくていいよ!」

 

 

やいのやいのと騒ぎ立てる私たちの騒音に目を覚ましたのか、フランが眠い目を擦りながら起き上がり… 首領パッチと天の助も「ふわぁ~」と欠伸を漏らしながら上体を起こす。何故か一緒にいたハズのボーボボの姿がどこにも見当たらない。

 

 

「先生ぇー、アイツがうるさくて眠れません」

 

「実の姉に向かって『アイツ』呼ばわり!?」

 

 

フランが非難がましく先生とやらに告げると… 大図書館の入り口が突如開かれ、部屋から姿を消したボーボボが現れた。

何やら沈痛な表情で私を一瞥すると、両目を片手で覆う。顔と手の隙間から光に照らされた一滴の涙が頬をつたって… ピチャッ…と床に落ちた。

 

 

「皆の睡眠を妨げたその罪。残念だが… でしか償うことができない」

 

私そこまで重罪!?

 

「喰らうがいい… 鼻毛真拳究極奥義ぃぃぃ~~~っっっ!!!!

 

 

鼻毛を数本伸ばして生き物のようにくねらせるボーボボ。さらにゆったりとした動作で両腕を動かす。さながら素手による剣舞のよう──と思ったら懐に手を突っ込んで何かを探し始める。……しかし、いくら懐をまさぐっても出てくる気配はない。

 

 

「おかしい。ここに小銃──ベレッタがあったハズなんだが…」

 

「小銃!? ベレッタ!? 究極奥義が武器なの!? 

 …って何でそんな物騒なものを持っているのよ!?」

 

「仕方ない代わりにこれを使うか…」

 

 

ボーボボが着ている服の下の何処に()()をしまう空間があったのか… 自分の身の丈の半分を持つ銃身──それを複数束ねたガトリングガンを取り出すと…

 

 

ボーボボ波っ! ボーボボ波っ!

 

 

複数の銃身を回転させながら連続的に銃弾を発射。

他人事のように傍観していた首領パッチと天の助に向けて弾丸の雨を浴びせた。

避ける暇もなく身体中を穴だらけにされる二人。断末魔も耳障りな銃声で聞こえない。

 

 

「ありがとうボーボボ。二人のイビキがうるさくて眠れなかったんだよねー。

 これでぐっすりと眠れるよ♪」

 

 

二人が倒れるのを満足気な表情で見届けてからフランはボーボボに礼を言い、さっさと布団にくるまってすやすやと眠りについた。

 

 

私じゃなくてソイツらの方!?

 

 

硝煙が立ち上る二人の──もはや遺体といってもよさそうな首領パッチと天の助の有り様にボーボボは指を二本立てた印を結ぶと彼らに向けて無駄に渋い声で言った。

 

 

「安心せい。峰打ちでござる」…と。

 

 

峰打ちと聞いて、ガバッ!…と起き上がる首領パッチと天の助。

さすがの二人でもすぐに再生させるのは無理だったのか、身体中が穴だらけのままである。

 

 

「峰打ちだってよ、首領パッチ!」

 

「え!? マジで!? よかった~、撃たれたときはもうダメかと思ってたぜ…」

 

 

眉間にある深い銃創からは絶え間なく血が流れ出ており、他にも多数の銃痕の跡がその身に刻みつけられている。

 

 

「思いっきり撃たれてたし、どう見ても致命傷でしょ!?」

 

 

「そんなことよりもここでお昼の食事にするわよ~」…と割烹着を着たボーボボが言う。

 

 

「凄惨な殺人が今しがた起こったとこなんですけど!?」

 

「レミィ。ここは一応、図書館──本が置いてあるから、できれば食事とかは上の紅魔館で済ましてほしいんだけど…」

 

「ゴーレムの手足をどうにかしてくれたら行くわよ!」

 

 

お昼と聞いて「わーい♪」と喜ぶ首領パッチと天の助の二人。フランもまた匂いにつられて目を覚ましたようでベッドから起き上がる。パチェはしぶしぶ「今回だけよ?」と半ば諦めるように了承した。

食欲をそそる匂いとともに運ばれてくる料理の数々。それらを持ってきたのは美鈴と未だ修道女姿の咲夜。

 

 

「おはよう、咲夜。体の調子はどうかしら?

 貴女用の服も何着か用意した方がよさそうね」

 

「……私はここに留まるつもりは──」

 

「──咲夜がいた組織は私たちの手で壊滅。

 貴女は身一つで外に投げ出されたようなもの… 私には貴女を手助けする責任と義務がある。

 ここを出る準備が整うまではこの紅魔館にあるものは遠慮なく利用していいわ」

 

「さっきまでアホ面晒してたクセに、なにカッコつけて言ってるんだかなー」

 

「ボーボボ。首領パッチのご飯は生ゴミでいいわよ」

 

 

イスに座っていた首領パッチを蹴り飛ばし、ついでに隣にいた天の助も殴り飛ばすボーボボ。

「ほらよ。残さず食えよ?」眼前に生ゴミの入ったバケツを二つ。二人の前に置いて席に着く。

とばっちりを受けた天の助に同情をしつつも私たちは少し遅い昼食を頂くことにした。

 

 

「すいません! いくら俺でも生ゴミは無理です!」

 

「甘ったれるな首領パッチ。天の助を見てみろ」

 

 

ボーボボに言われて天の助の方へ顔を向ける一同。

なぜか生ゴミの入ったバケツはなくなり、代わりにジャガイモを使った料理の品々が彼の前に置かれていた。

 

 

「ヤツは錬金術で生ゴミを腐葉土に錬成。切り捨てられたジャガイモの芽を栽培。

 それを調理してジャガイモ料理を作り上げたんだぞ」

 

「ここの図書館に錬金術に関する本がなければ、成し遂げることができなかっただろう…」

 

 

しみじみと頷く天の助に、素直に感心する私たち。

そんな天の助に首領パッチも負けじと錬成を試みてみる。

 

 

「よっしゃー! 何とか肉マンができたぜ!」

 

 

完成したそれを掲げて見せる首領パッチ。

しかし完成したのはそれは肉マンではなく… 小型の動力付きの自動車模型──所謂、ミニ四駆であった。それも首領パッチを模したやつ。

 

 

「「 なんかスゴいのができてる!? 」」

 

 

タイヤを回転させて首領パッチの手から逃れるミニ四駆。猛スピードで一目散に出口へ駆け抜ける。

「あ、待って!俺の肉マン!」と首領パッチが慌てて跡を追って図書館から出ていった。アレを食うつもりなのだろうか…?

 

騒がしいのが一人いなくなったことで静かになる図書館。

やがて誰かが漏らした微笑を機に笑いに包まれた。その中には咲夜も含まれていて… 最初に会ったときに思わせた氷のような冷たい印象。それが微塵も感じられない、年相応の少女がする笑顔を作っていた。

 

 




(´・ω・)にゃもし。

戦闘シーンよりも日常シーン(?)の方が難しかった。
幻想郷に転移するまではこんな感じでいくと思うの…


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あのロボットはいずこへ…?

 

 

不老不死を目論む怪老人との死闘から数日が過ぎた日の午後。

じいさんの残存勢力を警戒して紅魔館の守りを固めているものの、喜ばしいことに件の組織からの襲撃は今のところ一切無い。

 

『吸血鬼狩り』あるいは『亜人狩り』とも称される『ハンター』という名の教会の手先たち。

その無法者たちが来ない安息の日を迎えたのは、いつ以来だろうか…?

 

ハンターたちの雇い主である司教セイント・バレンタイン。

彼の老人を無力化するまでは… 連中はこちらの都合など一切微塵も考えずに昼夜を問わず執拗にまで襲撃を仕掛けてきた。

 

おかげさまで夜の眷属とも云われている吸血鬼の一員であり、スカーレット家の現当主でもある私が連中の襲撃に備え、または迎撃するため… 世にも珍しい日の光を苦手としながらも日中でも活動する吸血鬼になった。

 

 

「教会から、ちょっかいが来ないことはいいことだけど… 納得できない部分もあるわね」

 

 

すっかり元通りになった紅魔館。その中にある広々としたリビングにて各々くつろぐ紅魔館のメンバー。もっとも美鈴は門にて警備を、パチェはいつものように大図書館で引き込もり、フランは魔法に興味があるのか、大図書館で魔導書を読み漁っていて、この場には居ない者もいる。

 

余談だが、頭のイカれた彫刻家が作ったオブジェのごとく壁から生えたゴーレムの手足はキレイさっぱり無くなっている。あんなモノは二日目にしてパチェの魔法で消し去ってやった。

 

 

「そう言えば、あの巨大ロボって… どうなったのかしら…?」

 

 

ふと思い出すのは外敵を排除するために敵もろとも紅魔館を徹底的に破壊したロボット。名前は確かヒソウテンソクだったか…? あんなものが大暴れした挙げ句、空を飛べば… 人間たちの間でもかなり大きな話題になりそうなものなんだが…

 

 

「やっぱし、レミリアも気になるのか?」

 

 

そう声をかけてきたのは腕にデュエルディスクを嵌めたボーボボ。そのロボットを呼んだ張本人の一人。彼と相対(デュエル)しているのは首領パッチ。彼らは暇さえあればジェンガ、トランプなどで遊んでいる。その遊び方が正しいかどうかは別だが… 今もボーボボが「プレイヤーにダイレクトアタックだ!」等とぬかしながら赤ん坊ほどの岩を両手で持って首領パッチの脳天を殴っている。もっとも、私としてはその方が助かる。紅魔館が破壊される様はもう見たくない。

 

 

「──壁にある、あの黒いシミ…」

 

 

ボーボボの視線の先にある壁には黒いクレヨンで雑に描いたような人の形をしたシミがくっきりと浮かび上がっていた。ご丁寧にも目のような円でできた空白部分が二つあり、その二つの白い目で私たちを見ているような感じがしなくもない。

 

 

なんか心霊現象っぽいシミが出てるぅ────っ!!!!

 

 

大きさはボーボボほどではないが、少なくとも成人男性を優に超えている。そんなものが部屋にあれば私が気付かないハズがない。少なくともさっきまではこんなものは無かった。

 

 

「このシミ。上から塗り潰しても出てくるんだよな」

 

 

紅いペンキで塗る天の助。

しかし、塗った側から黒いシミが滲み… 元に戻る。

 

 

明らかな心霊現象!!!!

 

 

「でも、こういう人型のシミがあると如何にも『悪魔の館』って雰囲気が出るよな…」

 

 

「うんうん」と頻りに頷き、同意を求めるように私に顔を向けるボーボボに私は無視。

何度、塗り直しても元に戻るらしいのでボーボボと天の助に部屋にある家具を近くまで運ばせ… 例のシミを覆い隠すように配置。あとはパチェを呼んで彼女の魔法で浄化させれば問題は解決する。

 

ちなみに首領パッチはボーボボに頭をかち割られたせいで再起不能。今も床に突っ伏す形で気絶している。ついでに普通なら出血多量で死亡間違いない量の血液が傷口からドクドクと流れているが…

 

 

「あ~あ、床に付いた血ってなかなか落ちないんだよねぇー」

 

「すまない、レミリア。俺としたことがついカッとなって()ってしまったようだ」

 

 

──残念ながら、首領パッチの身を案じるような者は… 私も含めて、この場には誰もいない。せいぜい「南無三」と言いながら首領パッチの亡骸に合掌する程度。

 

 

「さーてと気持ちよく反省したことだし、テレビでも見るとするかー」

 

 

大きく背伸びをするとソファーにどかっと足を組んで座るボーボボ。ついでに咲夜から貰ったポップコーンを口の中に放り込んで ボリボリと頬張る。とてもじゃないが反省している態度には見えない。

 

 

「そう言えば咲夜の体の調子はどうなんだ?

 あのじいさんが仕掛けた呪印で随分と苦しんでいたようだが…」

 

「……え? ええ、パチュリー様が解呪してくれましたので……」

 

 

ボーボボから急に声をかけられて戸惑う咲夜。

咲夜からしてみれば仲間を平気で殴り倒すような人物からそんな言葉が出てくるとは思わなかったのだろう。私だってそう思う。…が、実際ボーボボがはっ倒すのは首領パッチと天の助の二人のみ。案外というか意外である。

 

 

「そういう貴方たちは私のせいで大ケガを負ったハズなんですけど…

 お身体は大丈夫なんですか…?」

 

「ああ、じょぶじょぶ、大丈夫♪ 

 俺たちはこう見えても常日頃から体を鍛えてるから頑丈にできてるんだよ♪」

 

 

陽気に答える首領パッチ。先ほどボーボボにやられたケガがキレイさっぱりに消えており、当人も先ほど自分の身に起こった惨事なんぞ何事もなかったかのように平然と座っている。

咲夜はそんな彼らを見て軽く目眩を起こしたようで片手で頭を押さえている。小さく呟いた「この人たち、おかしい…」という言葉が耳に届いた。

 

 

核熱造神 ヒソウテンソク!!

 

 

聞き覚えのある名称とともに流れる音楽。

特撮のオープニングらしき画像がテレビに映し出される。

目を輝かせた緑髪の少女がコックピットらしき座席に搭乗すると、巨大な人型のロボットが鎮座する場面へと変わる。

 

それは紛れもなく紅魔館を破壊したあの時のロボットだった。

 

 

ええ~~~っ!?

 ちょっと、どういうことなのよ!? なんであのロボットが映ってんのよ!?」

 

「レミリア、ちょっと静かにしてくれないか? 今、いいとこなんだから!」

 

 

よほど楽しみにしていたのか、立てた人差し指を口に当てて「シィーッ!」と必死に呼び掛ける首領パッチ。ほかの面々も気になるのか、私と同様に大人しく従う。

ちなみにパイロットである少女の名前は『早苗』

近所の神社にいる巫女という設定、とのこと(首領パッチ談)

 

大人しく視聴すること暫し、ロボットを操縦する早苗の前にローブで身を包んだ人物が立ちはだかる場面へと変わる。

『カカカ』と奇妙な笑い声を上げるとローブを脱ぎ捨て、その下から青い肌に三つの顔に六本の腕を持った一目で人間ではないと分かる男が現れた。

 

 

『カ──ッカカカ。俺の名はアシュラマン男爵。その巨大ロボを…』

 

必殺!! マスタぁぁぁ~~~~~スパぁぁぁ─────っっっ!!!!

 

 

相手が喋っている途中でなおかつ生身にも関わらず問答無用に両目から光線を放つヒソウテンソク。

憐れアシュラマン男爵は避ける間もなく獣が発するような絶叫とともに光に呑み込まれた。

 

 

『おのれ! こっちが喋ってるときに攻撃を仕掛けるなんて…!』

 

 

次に現れたのは深緑色の軍服を着た男。

着ている衣服を脱ぎ捨てレスラーのような格好になると…

 

 

『俺はブロッケンマン伯爵。キサマに討たれた…』

 

必殺!! マスタぁぁぁ~~~~~スパぁぁぁ─────っっっ!!!!

 

先のアシュラマン男爵と同じくロボットが放つ必殺技の餌食となる。

光をその身に浴びて断末魔のような悲鳴を上げるブロッケン伯爵。光が収まった後にはモザイクがかかった物体が二つ、地面に転がっていた。

 

 

モザイクがかかるようなもんを特撮でやるな!

 

 

主人公にあるまじき行為といい、このモザイクといい、とても子どもに見せる内容ではない。

製作者は余程ひねくれた人物に違いない。

 

 

『セイント・バレンタインがいない間を狙って、手薄になった本拠地を叩くとは…』

 

 

「無念」とキラキラした瞳で涙で流すアシュラマン男爵。

やがてロボットは厳かな雰囲気を放つ古びた教会に熱線を放射。建物は瞬く間に爆発四散。ごうごうと炎が燃え盛る。端から見てもロボットを操る主人公の方が過剰戦力で悪役に見える。…だが、それよりも気になるのはアシュラマン男爵が言っていた人物の名。

 

 

「セイント・バレンタインって…」

 

「──はい、映像に映っていた教会は私が所属していた組織が隠れ蓑として使っていた建物です」

 

 

感情のこもっていない平坦な、機械のような声音で淡々と語る咲夜。彼女が見つめるその眼差しは氷のような冷たい印象を受ける。

 

 

『──かくして、不老不死を目論む組織は早苗の活躍により壊滅したのであった。

 しかし、人の欲に限りなはない。いずれ新たな組織が早苗の前に立ち塞がることだろう。

 負けるな早苗 戦え早苗

 全世界にいる全ての意思ある者たちに守谷の信仰を授けるために

 

 

フルフェイスのヘルメットを被ってバイクに跨がった主人公(早苗)が夕陽を背景に颯爽と駆けていき、そのままエンディングへと映像が流れ、番組が終わった。そして続けざまに後続の番組の番宣が流れる。

 

どこかの学校の… それも高貴な家柄のお嬢様たちが通いそうな立派な建物が画面いっぱいに映しだされ、その隅っこにタイトルが出る。

 

 

『このあとは… マジカル・プリキュア・ゆかりん♥-永遠の17才-

 チャンネルはそのまま♪』

 

 

なんかタイトルからして不穏な番組が始まりそうなんですけど!?

 サブタイトルも厚かましいにも程がある!! 永遠の17才って何!?

 

 

前の特撮番組のようにセイント・バレンタインと関係性があるのでは…? ──と、終わりまで視聴したが… 全然1ミリも関係なかった。

 

 




(´・ω・)にゃもし。

遅れ気味の執筆。スマン。


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まだ終わっていなかった。

 

 

マジカル・プリキュア・ゆかりん♥ -永遠の17才-

 

科学技術が異常に発達したとある学園都市にある魔法魔術学校に通う美少女ゆかりん -永遠の17才- (自称)はある日の学校への登校途中に人間の言葉を話す紅い瞳を持つ奇妙な白い生き物である「きゅうべえ」と遭遇。その生き物と魔法少女になる契約を交わす。契約を交わしたその日から彼女はマジカル・釘バットを片手に正体不明の敵(モヒカン)と戦うこととなった。──というツッコミどころ満載の内容のアニメだった。

 

 

「──結局、あの組織とは関係ありませんでしたね…」

 

 

やや口の端をひきつらせて話す咲夜に「…そうね」と返事を返して画面に目を向ける。ちょうど製作に携わった者たちの名前が映し出されていた。

 

 

   ボボボーボ・ボーボボ

   首領パッチ

   ところ天の助

   八雲一家

 

 

作ったのお前らか!!!! 薄々、気付いてたけどさ!!

 

 

意味のない、製作者たちの趣味と暴走で作ったような作品にげんなりしつつ、私はその元凶の一人であるボーボボに問いかけた。

 

 

「まあ、要するにあの女──紫は私たちを体のいい囮として使って、手薄になったところを叩いた。 …のが今回の計画なんでしょ?」

 

「──いや、俺たちも紫から詳しいことは聞かされていない。

 ただ、小生意気な吸血鬼の小娘が…」

 

「小生意気な吸血鬼の小娘って…」

 

「『不老不死を研究している秘密結社に狙われている』──って馴染みの居酒屋で水を飲んでいい感じに酔っている時に聞かされてな…」

 

馴染みの居酒屋で話す内容か!? それに水!? 水を飲んで酔っぱらうの!?

 

「いわゆるプラシーボ効果ってやつだな」

 

「プラシーボって、思い込みにも程があるわよ!?」

 

「それに今まで黙っていたが、実は俺は吸血鬼なんだ。

 同じ吸血鬼として何か力になれないかと、自分の意思でここに来たのさ」

 

「あー、はいはい」

 

 

返事するのも億劫となり適当に相槌を打つと、ボーボボが席から立ち上がり… 突如、彼の体が黄金色の光に包まれた。

 

 

「今まで日焼け止めを塗って何とか耐えてみせたが、どうやらここまでらしい…」

 

「日焼け止めで防げるものなの?」

 

 

自分の手のひらを見つめるボーボボ。

彼の指先が形を崩して、砂のように細かい粒となって足下に落ちていく。

 

 

ええ──────ぇぇっっ!!!?

 

 

「そうか、ボーボボがいつも日傘を差していたのはそういう理由だったのか…」

 

「私、ボーボボが日傘を差しているとこ見たことないんですけど!?」

 

 

納得したと言わんばかりの首領パッチに私はすかさず否定。

天の助は何が悲しいのか、ぬのハンカチを取り出して目元に溜まった涙を拭う。

 

 

「ミンナ…ハドラーサマヲ…タノム…!!

 

「ハドラーって誰!? もしかして私!? 私のことを言っているの!? 共通点が一文字もないんですけど!?」

 

 

屈託のない笑みを浮かべ、最期の別れでもするかのように片手を上げるボーボボ。彼を覆っている光が徐々に強くなっていき… 

 

そのまま、10分 が経過した。

 

 

長いわ!!!! それに何で塵にならないのよ!?

 

「忘れたのかレミリア? ここは室内だぞ?

 それも吸血鬼のために建てられた建物なんだぞ?」

 

「知ってるわよ!! 貴方が紛らわしい演出をしてるから言ってんのよ!!

 

「ふぅ、やれやれだぜ。ちょっと光って体の一部を塵に変えただけなのに…」

 

「ちょっと光って体の一部を塵に変えただけ──って普通できないし、やる意味があるの!?

 そもそも貴方は吸血鬼じゃないでしょ─────がァ!!!?」

 

 

ボーボボとの無意味な会話のやり取りに「ぜーはー、ぜーはー」と肩で息を切らす。無尽蔵に体力がある吸血鬼の体だが、ボーボボとの会話は別の意味で疲れる。

 

 

「ねぇ、ボーボボ。あのじいさん──セイント・バレンタインを倒して組織を壊滅させる──という目的を達成した以上、ここに留まる理由なんてあるの?」

 

「つまり、俺たちと別れるのがツラい……と?」──と横から口を挟むのは首領パッチ。

 

今すぐ帰れ って言ってんのよ。紫とは連絡が取れないの?」

 

 

こそこそと陰で動き回るあの女が今回の一連の騒動を知らないハズがない。今もこうしてる間に私たちを覗き見してることだろう。

 

 

「ちょっと待ってろ。俺が持っている携帯から紫の携帯にかけてみるよ」

 

「妖怪が携帯って…」

 

 

いつものように頭のアフロヘアーが上下に別れて、その中から古めかしい黒電話が現れた。

慣れた手つきでアフロから取り出して床に置き、正座した状態でジーコ、ジーコとダイヤルを回すボーボボ。

「トゥルルル」という呼び出し音がしばらく流れた後、ようやく繋がった。

 

 

『──はい、こちら昇竜拳です』

 

「──あ、紅魔館のボーボボです。ラーメンと半チャーハン、三人前お願いしまーす」

 

「今すぐ切れ! それにどこにかけてるのよ!?」

 

 

ボーボボが電話を切ると同時に空間に一筋の亀裂が入る。

何も無い空間に突如できた亀裂に、ナイフを取り出して身構える咲夜を片手で制し、その間にも件の亀裂が横に大きく広がり──穴が穿たれる。

その奥から紫色のドレスを着た紫が半身を乗り出して顔を覗かせた。

 

 

「は~い♪ お久しぶりね♪」

 

「──って、さっきの電話は紫のとこだったの!? 「はい、こちら昇竜拳です。」って言ってたよね!?

 

「はい、頼まれたラーメンと半チャーハン三人前ね」

 

 

行儀よく座って待っているボーボボと天の助の前に並べていく紫。

ただし首領パッチのところには何も置かず、自分のところに置く。

 

 

「あれ!? オレの分は!?」

 

 

当然、首領パッチはテーブルでラーメンを啜っている面々に問う。

そんな彼にボーボボは煩わしそうにやや怒気を含んだ声で答えた。

 

 

泥水 でも啜ってろ」

 

「オレの扱いヒドくね!?」

 

さすがにこの扱いに憐れんだのか、そっと冷水の入ったコップを差し出す咲夜。

 

 

「ありがとよ、サッキュン。心優しいお前には200首領パッチ・ドルをやるよ」

 

「いえ、結構です。あと、サッキュンと馴れ馴れしく呼ばないでください」

 

 

拒否されてるにも関わらず首領パッチは自分の横顔が描かれた硬貨が二枚。それを咲夜の手のひらに乗せると… そっと握らせ、押し付けた。

 

 

「たとえ、どんなに距離が離れていようとも… そのコインが道しるべとなってお前を導くことだろう。持っているといい」

 

「はぁ…」

 

 

至極真面目な顔で語る首領パッチに、咲夜が気の抜けた返事をするのも仕方がない。彼女は諦めてポケットにしまいこむ。

 

 

「さて食事も済んだことだし、そろそろ本題に入ろうか?」

 

「オレ水しか飲んでねーんだけど!?」

 

でも食ってろ」

 

「頼むからせめて食えるもんにしてくれよ!」

 

「咲夜、首領パッチがうるさくて話が進まないから何か適当な物をあげてちょうだい」

 

「さもこのオレが悪いように!?」

 

 

私の指示に「かしこまりした」と言って部屋を出ていく咲夜に何故か後をついていく首領パッチ。

何度も「オレは何も悪くないよな!?」と尋ねる首領パッチに咲夜は「そうですね」と面倒くさそうに答える。

 

首領パッチがいなくなったことで静かになった部屋。もう一人、天の助がいたハズだが──と彼の方へ振り向くと本を開いて読書に勤しんでいた。ちなみに本の表紙は「ぬ」。それを真剣な眼差しで読んでいる。

 

ようやく話を始められる状況になったと判断したのか、紫が口を開く。

 

 

「単刀直入に言うとあのご老人の組織の残党が残っているから潰してくれない?」

 

 

──と、年頃の少女のように弾んだ声と明るい笑顔でそうお願いしてきた。

 

 




(´・ω・)にゃもし。

歩くような早さで執筆してます。


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紅魔館にマッスルな婆さんがやって来て…
留守番組と討伐組


 

 

人の良さそうな柔和な笑みで物騒なことを平然と宣う紫。

 

紫が語る件の組織は──巨大人型ロボットに乗った緑髪の巫女の手によって本拠地を完膚無きまでに破壊し尽くされて壊滅した……と思っていたが、どうやら連中はゴキブリ並にしぶといらしい。

まあ、あのじいさん(セイント・バレンタイン)とモヒカンがいるとこだし…

 

 

「──でも連中の居場所は……って、うちには咲夜がいたわね」

 

 

モヒカンたちを率いたセイント・バレンタインの襲撃以降は紅魔館に滞在している咲夜。

彼女はここ(紅魔館)にくる前はその組織に所属していた。

組織にいた彼女ならば連中がいそうな場所を知ってても不思議ではない。

そのことは予想していたのだろう、咲夜が戻るよりも早く紫は答えた。

 

 

車で 5分 行ったところに組織の支部があるわよ?

 

車で行ける所にあんの!? しかも5分!?

 

 

予想外に近くにいたことに驚きを隠せないが、襲撃後からだいぶ日数が経っている。

残党がいつまでもその場所に留まっているとは限らない。

 

 

「とりあえず、咲夜が戻ってから全員図書館に移動。それから準備するわよ」

 

 

 

 

── 今 ま で の 借 り を 返 す た め に ね ?

 

 

 

 

その場にいた一同、曰く。

その時の私の顔はなんとも意地の悪そうな表情を浮かべていたそうな。

 

 

 

 

   少女 +α 移動中 NowLording…

 

 

 

 

「──そういうわけで、これから殴りに行こうかと、思っているのよ」

 

「好きにすればいいんじゃない? 私はここから離れるつもりはないから…」

 

 

テーブルの上に広げた魔導書から視線を外さぬまま素っ気ない返事を返すパチェ。

床には無数の書物が無造作に散乱しており、先ほどまでは行儀悪く床に寝そべって本を読むフランの姿があったのだが、今はどこにも見当たらない。

 

 

にゃあ

 

 

代わりに小さい子供が描いたような猫らしき物体が足下でぷるぷると体を振るわせて蠢いていた。

三角の耳がついた丸い頭に、楕円形の体に細い手足をつけただけの雑な作りの、どことなく紅魔館の壁に出現した人型のシミを彷彿させる。もしかして、あの人型のシミもフランが作ったものじゃなかろうか…? それら不気味な物体の出所について問うべく私はパチェに質問した。

 

 

「何これ?」

 

「妹様が魔法で作った猫。しばらくしたら勝手に消えるから大丈夫よ」

 

 

試しに喉を撫でると一丁前にゴロゴロ鳴るし、見た目のビジュアルはともかく確かに猫だわ。

 

 

「別にパチェを連れていくつもりはないわよ。

 私たちはここを離れるから、その間… 紅魔館の周辺に雨を降らしてほしいのよ」

 

「──なるほど。それぐらいなら… 貴女たちが出ていった後に魔法で降らしておくわ。幸い妹様は自室に戻っているから急いだ方がいいわよ」

 

 

私の意図を汲み取り、了承する彼女。

しかし、ボーボボだけは不機嫌に顔をしかめる。

 

 

「この期に及んでフランを仲間外れにするのか?」

 

「勘違いしないでちょうだい。フランのために思ってのことよ。

 495年分もの狂気がすぐに無くなるわけないでしょ?

 何かの間違いでフランが狂気に陥って、周囲に破壊をもたらさないと断言できるの?

 狂気に侵された彼女の厄介さは、あなたたちも承知しているでしょ?」

 

 

言われて押し黙るボーボボ。

首領パッチと天の助も思うところがあるのか沈黙し、どういう原理か頭上にマンガの吹き出しのようなものが出現する。

 

 

「…って、どうなってんの? それ?」

 

 

その吹き出しには口を弧の形に歪ませてケタケタと笑いながら────不気味な人形の腕を持って腹パンをする。または、両手でぬのハンカチをビリビリと破く────を行うフランの映像が映っていた。

首領パッチと天の助の二人はその場面を思い浮かべたのだろう額に汗を滲ませて深く重く頷く。

 

 

「「 ──確かに… 」」

 

そんな過去はなかったよね!? 勝手に捏造するのやめてくれない!?」

 

 

一方、そんな二人の後に続いてボーボボも頭上に吹き出しを出す。

そこに映っていたのは──

 

 

『ここで皆さんに言っておかねばならないことがある』

 

 

メガネをかけた長身の男が大勢の人間の前でそう前置きを置いてから告げる。

 

 

 

 

『オレは 「 爆弾魔(ボマー) 」 だ』

 

 

 

 

──と、

 

 

誰の記憶よ!? っていうか誰!?」

 

「俺たちがこれから向かう場所は戦場になる可能性が高い。

 そんなとこにフランを連れていくわけにはいかないな。

 彼女は戦いと殺し合い、それとは無縁の場所に置くべきだ」

 

「綺麗事言って誤魔化すつもり!?

 それよりもさっきの爆弾魔(ボマー)は何なの!?」

 

「幸い例のアジトは俺が連れてきた婆さんが道案内してくれるそうだ」

 

「なんで私の許可なしに人間をここに連れてくるのよ!?」

 

 

いったいどこから連れてきたのか、東洋人っぽい出で立ちの猫のような雰囲気を放つ老婆がボーボボの隣に立っていた。

 

 

「日本人で今年で九十になる、姫冠と書いて『 ティアラ 』と申します」

 

「なんで日本人がここにいるの!? っていうか何そのキラキラネーム!?」

 

「最近、うちの近所に モヒカン が出てきて困っておったとこなんじゃよ」

 

「そんな害獣が出てきたみたいにモヒカンを……って モヒカン !?」

 

「そういうわけで場所は案内しますので モヒカン の駆除をお願いしますじゃ」

 

「いやいや、別にうちはモヒカン専門の業者でもなんでもないんですけど!?

 専門の業者に依託するように頼まれても困るんですけども!?」

 

 

私が右手をパタパタと横に振って否定しても、婆さんは無視しているのか聞こえていないのか、床に置いてある大きな風呂敷に包まれた荷物を掴んで出発する準備を始めてしまう──のだが……よほど高齢の女性には重たかろう、両手で持ち手を掴んだまま動かせないでいる。

 

 

「ああ、重たいねぇ。なんて重たい荷物なんだい。

 とてもじゃないが私みたいな老人には持ち上げられないよう」

 

 

…なんてことを言い始める。

なら何でそんな物を持ってきた…?

──というより、どうやってここまで持ってきたんだ?

 

 

「この非力でひ弱な老婆のためにこの荷物を持ってくださる…

 勇者は何処かおらんかねぇ!!!?

 

 

黒い瞳がない鋭い三白眼をくわっと大きく見開いて光らせてこちらを見る婆さんに私は思わず叫んだ。

 

 

あからさま過ぎるわ!!!!

 

 

…とはいえ、こんなとこでアホみたいなことで足を止めるわけにはいかず、私は婆さんの代わりに荷物を持つことにした。

 

 

「──って、重っ!? いったい何が入っているのよ!?」

 

 

私やフランならすっぽりと包まれてしまうほどの大きさの風呂敷。

人間よりも遥かに怪力を要する吸血鬼の私でさえ腕がぷるぷると小刻みに震えている。

婆さんは人の良さそうな微笑みでその中身を答えた。

 

 

500kg庭石 ですじゃ 」

 

「そんなもん人に持たせようとするな!! いったいどんな理由で持ち歩いてんのよ!?」

 

「死んだお爺さんから──肌身離さず持ち歩くよう……そう、言われたんじゃよ」

 

「それ絶対嫌がらせでしょ!? あんた、そのじいさんから嫌われてるわよ!?」

 

「何をぬかすか!? 小娘が!! 

 この庭石を常に持ち歩いて体を鍛えろというジジイの愛情がわからんのか!?」

 

 

一気に捲し立てるようにそう言うと上半身が大きく膨れ上がって衣服が弾け飛び、下から老婆とは思えない屈強な筋肉の鎧が露になる。

 

 

「ムダに筋肉がスゴいんですけど!?」

 

 

片腕で庭石を肩に担いで縦横無尽に三次元に図書館をシュバババっと直線的に駆け回る上半身を露出した筋肉ムキムキの婆さん。一応、黒のビキニっぽいものを着衣しているが、ほとんど鍛え上げられた男性の胸部と大差がない。

 

 

「ふははは! 軽い! 軽いぞ! 体が羽のように軽いわ!」

 

「なんかの修行か!?」

 

「ゆっくりしている暇はないぞ! ワシのあとをついてこい!」

 

 

担いでいた庭石を床に置いて、やや前頭姿勢──体を前に傾けた状態で急に走り出す婆さん。向かうその先は図書館の入り口。彼女は走る速度を落とすことなく、そのまま扉を蹴って外へと飛び出した。オリンピックでメダルを取れそうな勢いである。

私たち一同も急いで婆さんの跡を追う。

 

 

「ところで紫はどうしたのよ!? 上で別れたあと姿を見せないんだけど!?」

 

 

ダメもとでボーボボに尋ねてみると返答が返ってきた。

 

 

「飼っている猫にエサをあげなくちゃ、って帰ったぞ?」

 

「あ、そう…」

 

 

もとより期待していなかったとはいえ、ガッカリ感が否めない。

それはそれで良しとするか、正直あの女に借りを作らせてもいいことはない。

 

それにあの女のことだ、今まで残党どもを監視していた可能性がある。

残党が動き出し……アジトを捨て去る気配を感じたからこそ私たちのところに来たのだろう。

 

私たちは残党のアジトへ向かうべく、前を走る婆さんの跡を追った。

 

 

「──っていうか、あの婆さん速くない!?」

 

 

ティアラ婆さんは吸血鬼の全速力をもってしても追いつけないほど速かった。

 

 




(´・ω・)にゃもし。

私はどうも老人キャラ、筋肉キャラを出すのが好きなようだ。


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婆さん一人でよくね?

 

 

黒いビキニを着けているものの、上半身はほとんど裸に近い格好の婆さん。

だが彼女の肉体は……一言で言えば マッスル だった。

 

そんな屈強な肉体を持つ婆さんが上半身をほとんど動かさず今にも敵に襲いかからんばかりに両腕を前方に、地面に足跡をくっきりと跡を残しながら前をひたすら走る。

ぐわははは」と豪快な高笑いを上げながら──大型の草食獣、あるいは巨大な重機のごとく辺り一帯に爆音を響き渡らせつつ、地を揺らしながら森の中を爆走していく。

 

婆さんが走り行く先々では野性の勘か、はたまた婆さんの発する存在感に怖じ気づいたのか、鳥たちが大空へと飛び立ち、獣たちは我先にと逃げるように離れていく。さながら海を二つに分けるモーゼのように…

 

その婆さんの後ろを走るのは私たち紅魔館のメンバー。

私は地面すれすれを己の翼で滑空し、右隣には美鈴が地面を蹴って跳びながらの移動を繰り返し、左には天の助を下敷きにして上に片膝を曲げて乗っかるボーボボが地面を滑るようにして移動をしており、彼の肩には首領パッチがしがみつき、背中にひっつくように咲夜が乗っている。

乗用車ほどの速度を出しているにも関わらず私たちの先を行く婆さんとの距離は一向に縮まらない。

 

 

「何者だあの婆さんは? 俺たちのスピードについてこれるどころか、先を行っているぞ」

 

「いやいや、あの婆さんボーボボが連れてきたでしょ!? 何で知らないのよ!?」

 

「レミリア。人の過去は根掘り葉掘り聞くもんじゃないぞ?」

 

「どこをどう見ても怪しいでしょ!? 何でうちに連れて来たのよ!? あれ!!

 

「おい、ボーボボ。それよりも天の助から魂っぽいのが出かかってるんだけど、大丈夫なのか?」

 

 

私たちの会話に割り込んできた首領パッチが指差す先──天の助の後頭部からは体が透き通った小さな天の助が出ていた。さしもののボーボボも「ヤバいな」と口にしたが……だからといって、それで止まるようなボーボボではない。速度を落とすことなく、天の助の身の安否などお構い無しに走り続ける。

 

それから走り続けること数分。森が途切れて川へと辿り着いた。

その川にかけられている和風の作りの橋の前まで移動すると、誰からともなく私たちは足を止める。

川の向こう岸に三人のモヒカンがいたからだ。

 

 

フンっぬ!!!!

 

 

いの一番に婆さんは首領パッチの頭を片手で鷲掴みにすると「 隕石落とし(メテオ・ストライク)!! 」という技名を叫びつつモヒカン目掛けて投擲。

重さを微塵に感じさせない速さで飛んでいく首領パッチ。──しかし、橋の半ばで見えない壁にでも激突したかのように空中で大の字で停止し……そのままズルズルと落ちた。

 

 

「小癪な、モヒカンごときが小細工を…」

 

 

獰猛な肉食獣のように嘲笑う婆さんにモヒカンたちが怯えるのは致し方無い。

モヒカンの一人が指先を震わせながら私たちの横を指す。そこには一枚の立て札が立てられており、その内容は──

 

 

この橋 渡るべからず

 

 

…と 日本語でかでかと書かれていた。

えーっと、トンチ…? なんで? しかも日本語。ここヨーロッパだよね?

困惑する私に天の助がもっともらしいことを言う。

 

 

「なるほど。トンチを用いた結界術。

 このトンチを解かなければ向こう岸には渡れない──ってわけか…」

 

「なにそれ!? それ結界としての機能を果たしているって言えるの!?」

 

「まったくだ。こんなもん橋の()ではなく、橋の()()()を渡ればいい」

 

 

自信満々に橋の真ん中を「簡単♪簡単♪」と陽気に歩いて進んでいく天の助。

彼が倒れた首領パッチの下まで辿り着くと……二人の足下──橋の真ん中に突如巨大な大穴が空いて二人を呑み込む。

 

 

「ぬぉぉぉっ!! プルプル真拳奥義 手足伸天!!!!

 

 

──あわや川へ落ちる寸前に手足を伸ばして橋の手摺を掴んで難を逃れる天の助。背中にはうまい具合に白目を剥いて気絶した首領パッチが乗っかった。

 

 

「気をつけろ天の助!! その川には…」

 

 

両手両足をプルプル震わせて今にも落ちそうな天の助にボーボボは声をかける。

 

 

イリエワニ が棲息しているんだ!!!!

 

 

 

 

イリエワニ

世界最大のワニ。主に東南アジアに棲息。体長は最大で6メートルを超える。

草食獣はもちろんのこと、ときには人を襲うことがあり犠牲者が跡を絶たない。 獰猛

 

 

 

 

「なんでそんなものがヨーロッパにいんのよ!?」

 

 

水面付近で獲物が落ちてくるのを今か今かと待ち構える巨大なワニ。その数は多く、川を埋め尽くさんばかりである。

そのワニの出所と思わしき場所を咲夜が答えた。

 

 

「あのワニは組織が実験のために飼われていたものです。

 私たちの襲撃に対して川に放ったのでしょう」

 

 

なんとも傍迷惑なことをする。

それだけモヒカン連中は切羽詰まっているのだろう。

天の助と首領パッチを放っておくわけにはいかず、私が空を飛んで二人を回収しようとしたその矢先に婆さんが動いた。

 

 

「安心せい。ワシがこのトンチを見事解いて、道を切り開いてみせようぞ」

 

 

言うな否、川へ頭から飛び込む婆さん。当然、ワニたちが気づかないハズもなく婆さん目掛けて一斉に飛び掛かる。

 

水飛沫を激しく上げ、大口を開けて迫り来るワニ。

婆さんは慌てず騒がず冷静に、そのワニのアゴに下から拳を突き上げ──ワニの巨体を上空に打ち上げた。

それも一匹だけではなく、()()のワニがである。

 

 

廬山昇龍覇!!!!

 

「なんか婆さんがスゴい技を出した!?」

 

 

宙に舞う無数のワニたちはほどなくして頭を下にして落下。頭を水面に強く打ち付けて気絶。腹を上にして水面に漂う。

妨害するものがなくなり川を悠々とクロールで泳いで渡る婆さん。

向こう岸に辿り着き、川岸に上がった婆さんはモヒカンたちに言った。

 

 

「くっくっく。どうじゃ? キサマらのトンチは解いてみせたぞ?」

 

力業 でしたけど!?」

 

「今度はこちらのトンチを見せようぞ?」

 

 

ワニを素手で仕留める婆さんに敵わないと悟ったか、いきなり婆さんに背中を向けて逃げ出すモヒカンたち。

正しい判断だが、さすがに遅すぎた。

婆さんは右拳を地面に思いっきり叩きつけて局地的な地震を起こしてモヒカンたちの動きを止めると…

 

 

ターボ・ババア・タックル!!!!

 

 

腕を交差させ、身を低くした体勢でモヒカンたちに突進。

モヒカンたちは勢いよく上に撥ね飛ばされ、やがて先のワニたちと同じく頭部を地面に向けて落ちていき、受け身を取れないまま地面と激突。口から血を吐いて気を失う。

 

 

「トンチのトンは重さの単位であり…

 トンチのチは血飛沫の を表すのじゃ!!

 

んなトンチがあってたまるか!!

 

 

ワニを素手で倒し、モヒカンたちを蹴散らす筋肉ムキムキの婆さん。

正直、私たちがいる必要があるのか疑わしい。もう婆さん一人でよくね? そんな視線をひしひしと感じる。とくにボーボボと復活した天の助と首領パッチから…

 

 

「これだけ強ければ何も私たちに頼み込む必要はなかったんじゃないですか?」

 

 

美鈴が私たちが心底思っていたことを述べると…

 

 

「相手が魔法使いとか雇ってきたときのための対処法じゃ」

 

「いや、 婆さん なら大丈夫でしょ」

 

 

ティアラ婆さんの理由にすかさず言う私に他の面々も思っていたのか「うんうん」と何度も頷いたのは言うまでもない。

 

 

「それにモヒカンたちの巣の入口がわからんからな… お前さんがたなら知っているかもしれん、と思ってな? いちおう怪しいと思ってるとこはあるんじゃが…」

 

 

モヒカンの巣って、本格的にモヒカンを害獣扱いしてるぞこの婆さん。…とはいえ秘密結社が使ってる隠れ家が一般人に見つからないようにカモフラージュするのはごく自然。私たちはティアラ婆さんのいう怪しい場所とやらに案内されることにした。

 

そこは薄暗い森の中にひっそりと建つ古びた中世の城。ところどころ蔦で覆われており、正面にある城の入口の門扉の両脇には鎮座するガーゴイルの像が二体。さらに見張りらしき二人のモヒカンが絶えず周囲に目を配っている。

 

 

もはや怪しいっていうレベルじゃないんですけど!?

 

 

私たち紅魔館一行は数多の困難とトラブル、紆余曲折を得て遂に目的地に辿り着いた。

 

 




(´・ω・)にゃもし。

日本人だけど、日本語って難しいって思うときがある。


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秘密結社へ遊びに行こう。

 

 

秘密結社の残党らしき者たちが根城として使っていると思われる古びた外観の中世のお城。

その証拠となるか知らねど門番として立っているのであろう見張りのモヒカンが二人。身の丈を超す槍斧(ハルバード)を片手に石突き部分を地面に突き立て、猛禽類を思わせる鋭い眼光で絶えず周囲に目を光らせていた。

 

モヒカンが二人いるのは襲撃があった場合に備えてのことだろう。

一人が敵の侵攻を食い止めている間にもう一人が城内にいる味方に報せるために…

 

他にもモヒカンがいるのでは? ──と城の城壁等を含め周辺を探るが……先日での私たちとの戦闘で負傷し、人員が減ったせいなのか他のモヒカンの姿は見当たらなかった。

 

城内に侵入しようにも出入口は一つ。モヒカンが立つ城門しか確認できないでいる。しかも見晴らしがよく隠れる場所もない。

時間はかかるが城の裏側に回ってから背後から強襲しようかと思ったとき…

 

 

「大丈夫だ。私にいい考えがある」

 

 

ボーボボに妙案があるらしく、どこからか荷車を引っ張り出すと色とりどりの モヒカンヘアー を被せたマネキンの頭部を荷台に乗せていく。何これ…?

 

 

 

 

  少女移動中 NowLording…

 

 

 

 

「そこで止まれ、 モヒカン屋 がなぜこんなところにいる?」

 

 

ボーボボを先頭に城門に近づく私たちにハルバードを突きつけるモヒカンその1。っていうか モヒカン屋 って何? モヒカン屋のことは気になるが……ともかく怪しい一行が近づいてきたのだ。モヒカンその1のこの対応も頷ける。モヒカンその2もいつでも城内に駆け込めるためか入り口付近に陣取っていた。

 

 

ぐはぁっ!!!?

 

 

いつ戦闘が発生してもおかしくない緊迫感が漂う中、首領パッチが突然血を吐いて前のめりになって地面に倒れる。

モヒカンたちが何かをしたのかと、注意深く観察するが────彼らもこれには想定外だったのか……声こそ出さなかったものの、目を大きく見開いて驚いていた。

 

吐血するほどのダメージを負ったように見えた首領パッチだったが、幽鬼のようにゆらりと立ち上がり怒り心頭でモヒカンたちを睨み付ける。

 

 

「テメェら、よくもこの首領パッチ様の顔にキズをつけてくれたなぁ~?」

 

「待て! オレたちはまだ何もしていないぞ!?」

 

「とぼけんじゃねぇ!! テメェが一歩前に踏み出したときにたまたま蹴飛ばした 小石 が顔面に当たってものスゲー痛かったんだぞ!? どう落とし前つけてくれんだよ!?」

 

 

そう言って親指と人差し指、二本の指で摘まんだ米粒ほどの大きさの小石をモヒカンたちに見せつける。

 

 

「「 ヤダ、なにこのチンピラ!? 」」

 

 

身勝手な首領パッチの言動に思わず声をハモらせるモヒカン二人組。

 

 

「それだけじゃねぇ、大事な売り物をダメにしやがって!!

 

 

荷車の荷台を片手でバシバシ叩く。一見、モヒカンヘアーにさして変化は見られないが……モヒカンその1もそのことについて指摘するつもりだろう飾られているモヒカンヘアーを指差した瞬間────マネキンの頭部ごとモヒカンヘアーが粉々になった。そう、まるでナイフみたいな刃物にでも切り刻まれたかのように……そして傍らには手に持ったナイフを隠すように後ろ手を組む咲夜の姿が…

 

 

「むっ!? あれは飛ぶ『指銃』〟(バチ)!!!!

 

「知っているのか!? 王大人(ワンターレン)!! 否、美鈴!?」

 

 

荷台の惨状を見た美鈴が重苦しい空気を纏ってそう告げ、やたらと渋い劇画タッチの顔の首領パッチがわざとらしく驚いて聞き返す。

王大人とは何ぞ? …と思いつつ飛ぶ指銃『撥』について説明される。

 

 

 

 

『飛ぶ指銃 〟(バチ)〝 』

 

高速の指による突きで相手を貫く技。

その派生したものが撥であり、これは超スピードによる突きで空気を弾丸のように押し出して相手を突く。

 

────謎の人物「ぬぬぬぬぬ」より

 

 

 

 

「って、天の助が答えるんかい!? っていうか、そんな超人技そう簡単に修得できるとは思えないんですけど!?」

 

「何故わかった!?」

 

の文字でわかるよ!」

 

 

てっきり首領パッチに聞かれた美鈴が答えるのかと思いきや、まさかの天の助に思わずツッコミを入れる私。

 

 

「ゆっくりたちが精魂込めて作ったモヒカンヘアー。その頑張りを、努力の成果を嘲笑うキサマらの所業……人間とは思えん」

 

 

いつもの表情ながら胸の奥から静かな怒りが感じ取れるボーボボの佇まい。

ボーボボを視界の端におさめつつバラバラになったモヒカンヘアーを見て私は思った。ゆっくりが作ったんだアレ……手がないのにどうやって作ったんだろう? …と、あとモヒカンたちは何もしていない。

 

 

「行くぞ天の助!! マッスル・ドッキングだ!!

 

 

ボーボボはモヒカンの一人が繰り出すハルバードを避けつつ接近。ハルバードを片手で掴んで封じ、空いた手でモヒカンの頭を上から押さえて体を「く」の字に折り曲げ、次に腰に腕を回して持ち上げると同時に高く跳躍。

 

天の助もまたボーボボの跡を追ってモヒカン……ではなく、なぜか首領パッチをこれまたボーボボと同じく拘束、その際に首領パッチが「何でオレ!?」と叫ぶが無視して地を蹴る。

 

二人は上昇しながら、技を整えていく。

ボーボボはモヒカンの体を上下逆さまの体勢にすると、足首を掴み、脇に足をかけ…

天の助は首領パッチを逆さに担ぎ上げ、自分の肩口に首領パッチの首を乗せて太ももを掴むと……ボーボボに肩車するように乗っかっり、次に地面に向かって─────高速落下した。

 

 

「「 マッスル・ドッキング!!!! 」」

 

 

勢いよく地面と激突し、轟音とともに陥没、大きく抉る。

技の衝撃でモヒカンと首領パッチが揃って血を吐いた。

 

 

「「 ぐはぁっ!? 」」

 

 

二人が技の拘束を解いて解放すると、モヒカンその1と首領パッチは白目を剥いたまま口から泡を吹きつつ、ピクピクと全身を痙攣した状態で地面に倒れる。

さらに離れて見ていたモヒカンその2も「ぐはぁっ!?」と技を喰らった二人以上に血を吐いて倒れた。

 

 

「イヤ!? なんで!? どういうことなのボーボボ!?」

 

「もらい泣きならぬ、もらいダメージ……というやつだな」

 

「なんか新しい言葉が出た!!

 いや、そもそも首領パッチに技をかける必要あったの!?

 モヒカン二人に技をかければよかったんじゃないの!?」

 

「いや、ダメだ」

 

「なんで!?」

 

「むしゃくしゃしたときに首領パッチを殺れないだろ?」

 

「完全な 私怨 じゃん!!

 

「とりあえずモヒカンたちが気を失ってる間に身動きが取れないように縛っておこう」

 

 

もっともらしいことを言ってモヒカン二人と、味方であるハズの首領パッチを幅の広い布でぐるぐる巻きにしていくボーボボ。

 

 

「よし誰にも気づかれずに侵入できそうだな」

 

「もう手遅れだと思うけど」

 

 

いったい何処から湧いてくるのか自信満々に言うボーボボに私は力なく答える。それもそのハズ、こんなハデな技を城門付近で門番相手に出したんだ。さぞかし城内は慌ただしくなっていることだろう。

 

なぜなら私たちが城内に足を踏み入れるべく城門をくぐろうとしたとき……二体あったガーゴイルの像がなくなっていることに気づいたからだ。

 

 




(´・ω・)にゃもし。

地道に進もう…


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首領パッチ、死す。

 

 

城門前にあった二体のガーゴイル像。

二人のモヒカンとの戦闘のどさくさに紛れて城内に入ったのだろう、今は主を失った台座だけがその場に残されており、どことなく哀愁を漂わせている。

 

私たちはボーボボたちが再起不能(リタイア)にした門番であるモヒカン二人をその場に残すと、美鈴は大きな城門に片手を当て、次に門に体を密着するように耳を当てて中にいるだろう人の気配を探る。

 

やがて美鈴が小声で「います」と呟くと、ゆっくりと慎重に扉を外側──こちら側へと引いて開けていく。

 

 

 

 

   少女移動中 NowLording...

 

 

 

 

古びた外観の城塞にふさわしい無機質な石造りになっているだろうと予想した私たちは城内の内装に漠然とした。

 

一言で説明するならば『エッシャーのだまし絵』

 

彼の画家が描いた無限回廊、無限階段を用いた立体化不可能な建築物が、その世界観をそのまま切り抜いたような風景が目の前に広がっていたのだ。

 

無論、こんなものが現実にあるハズもなく私たちはそこかしこに漂う魔力の残滓から目の前の光景は幻術、幻影の類いで作られたものと判断。すぐさま美鈴が姿を見せぬ敵を討つべく構えを見せる。

 

 

龍頭戯画(ドラゴンヘッド)

 

 

腰を落とした半身の構えから東洋の龍を模した気を右腕から放つ美鈴。

たとえ、どんなにうまく姿を隠そうとも……生物の放つ気を感じ取れる能力を持つ彼女の前では隠匿、隠蔽など意味を成さない。

 

 

ぐわぁぁぁ~~~~~っっっ!!!?

 

 

──当然、それに該当する姿を見せぬ敵もまた例には漏れず、龍の顎に胴体を挟まれ、咥えられたまま上昇、天井付近まで昇ると……今度は獲物を咥えたまま身を捻って頭を下にして急降下。

哀れ、件の敵は背中から床に叩きつかれ──轟音とともに大量の砂塵が巻き上がり辺りを覆う。

 

やがて土煙が晴れた後にはどこぞのZ戦士の一人の如く床に倒れ伏す姿が見られた。

その様子を見た首領パッチが慌てて言う。

 

 

「ああっ!? みんな見て! あれはモヒカンじゃない!!

 

 

首領パッチの言う通り、それはモヒカンではなく……老婆の格好をした大男だったが…

 

 

「あわわわ、僕たちはなんてことを…」

 

「見ず知らずのおばあさん、ごめんなさい」

 

 

──にも関わらず、あっさりと騙されて「あわわわ」と狼狽える天の助とシュンとした表情と態度で謝る首領パッチ。

そこへ名案と言わんばかりにボーボボがあっけらかんと言った。

 

 

「よし、首領パッチと天の助がやったことにしよう」

 

「「 ええええぇぇぇぇっっっ!!!? 」」

 

 

これにはさすがの二人も猛反発するがボーボボは「じゃかましいわ!!」と一喝。伸ばした鼻毛を二人に打ち付けて問答無用で黙らせる。

 

しかし、そんな三人の心配(?)をよそに老婆の格好をした大男はむくりと起き上がって見せ…

 

 

「あいたたた。背筋を鍛えていたからいいものを……そうでなきゃ大ケガをするとこでしたよ?」

 

 

人の良さそうな柔和な笑みでそんなことを宣う。

背筋を鍛えたところで先ほどの攻撃を耐えきれるとは思えないのだが…

 

 

36連ババチョップ!!

 

 

突然、うちと一緒にいるババァ──もといティアラ婆さんがババァの格好をした大男に向かって両手による手刀を叩き込み、身に付けている衣服やカツラを切り刻んで剥いでいく。

 

 

「くくっ… おれの変装を見破っていたのか~~!!

 

 

やがて、ティアラ婆さんが技を出し終えたあとには……世紀末ファッションに身を包んだモヒカンが露になった。

 

必死の形相で「なぜだ!?」と問いただしてくるモヒカンに筋肉ムキムキで上半身が黒のビキニ姿の老婆───ティアラ婆さんは拳をゴキゴキ鳴らしながら言い放った。

 

 

お前のようなババァがいるか!!

 

「「 お前が言うな!! 」」

 

 

これにはモヒカンだけじゃなくティアラ婆さんを除いた一同の声が重なった。もっとも言われた当の本人は何がおかしいのか「くっくっく…」と腕を組みながら悪党の首魁のごとくほくそ笑んでいるが…

 

 

「どちらにしろ、ここでお前たちを倒すことに変わりはぬぅわぁいぃわぁっ!!

 

 

ゆったりとした不思議な歩行技術で左右に残像を残しながら近付いてくるモヒカン。私たちとの距離を数歩まで縮めると両足を揃えて跳躍、山なりの軌道を描いてドロップキックを放ってきた。狙いはティアラ婆さんの頭部。ほぼ頭上から落下する形で──

 

 

「笑止!! このババァにただのドロップキックなど児戯に等しいわ!!

 

 

あろうことかモヒカンの放つ飛び蹴りを二つの手で足首を掴んで阻止。

 

 

「かかったなアホが

 

 

だが、そうくること見越していたのか、モヒカンは脚を左右に大きく広げて開脚。ティアラ婆さんの腕による拘束を足で力任せにこじ開けて広げさせ…

 

 

「喰らうがいい

 日本のマンガ『ジョジョ』と『キン肉マン』と『ハンター×ハンター』その他諸々を参考にして編み出したオレの必殺技を 散っていった仲間(モヒカン)たちの思いを

 

 

無防備になった首に左右から手刀を叩き込んできた。

どうでもいいが参考にするマンガが多すぎるような、と思いつつ二人の成り行きを見守る。

 

 

稲妻(サンダー)十字(クロス)空烈刃(スプリットアタック)・ドッグイヤークラッシュ・トマホークチョップ・ベルリンの赤い雨・虎咬拳(ここうけん)・南斗水鳥拳

 必殺 猫なでパンチ!!

 

   

名前長っ! それに最後の猫なでパンチって何!?

 

 

肉と肉がぶつかり合う鈍い音。

その直後に骨が砕ける不快な音が私たちの耳に届いた。

 

 

「ああぁぁ~~~っ!!!? おれの指がァァァっ!?」

 

 

ティアラ婆さんの首に変化はなく、代わりにモヒカンの十本ある指の全てがあらぬ方向に折れ曲がっていた。

 

 

「ワシの肩のこりは鋼鉄の強度を誇る。

 生半可な攻撃ではワシの首は落とせんわ!」

 

 

ほぐせよ。その肩のこり。

 

 

私がティアラ婆さんの発言に呆れてる間に「バババババ!」と絶え間なくモヒカンの体に隙間なく拳による乱打を叩き込み…

 

 

「ババァ────っ!!!!

 

 

最後に訳のわからん雄叫びとともに強烈な左ミドルキックでモヒカンの右腕をへし折り、さらに胴体の半ばまでその太い脚をめり込ませ、その衝撃でモヒカンは遥か遠くまで飛ばされ────どこかで壁にでもぶつかったのだろう、轟音が轟いた。

 

その容赦のない攻撃に敵であるにも関わらず私はモヒカンに同情し、ボーボボたち三人は恐怖におののき抱き合う。

 

そしてモヒカンを倒したことで幻影が解かれたのであろう、だまし絵のような世界から、石畳で敷き詰められた大広間と瓦礫に埋もれ血塗れになってピクリとも動かないモヒカンの姿が現れた。

 

 

「くっくっく… どうやら、これが地下へと進むための鍵束のようじゃな」

 

 

一体いつの間に手に入れたのか、ティアラ婆さんの手にはモヒカンから奪い取ったと思われる古めかしいカギが束ねられた鍵束が握られていた。

 

 

「…にしてはカギが多いわね。道中、一体いくつの扉を開けなきゃならないのよ?」

 

 

私の目の前に掲げられてる鍵束。そこにおさめられているカギの数は十や二十ではきかない。かなりの本数がそこにあった。

私の疑問に咲夜が答える。

 

 

「この地下施設は全部で99階あります」

 

 

あまりの多さに私も含めボーボボたちもげんなりする。

 

 

「──ですが、ここを利用する人たちのために近道やエレベーターなどがあります」

 

 

そう言って中庭に通じる通路を指差す。

そこには鬱蒼とした緑が、木々と草花が多い繁っていた。

 

 

「例えば、ここを真っ直ぐ突っ切って行くとエレベーターに辿り着きます」

 

「うっしゃー! ほんじゃ早速行ってみようぜ!」

 

「首領パッチさん! 待ってください!」

 

「ん? どうした咲夜?」

 

 

名を呼ばれて振り向く首領パッチ。

咲夜は両手でメガホンの形を取って警告を発した。

 

 

「そこにはでっかい 肥溜めが!

 

 

時すでに遅し、首領パッチは足下から肥溜めに突っ込む羽目になり……そのまま底無しの沼のごとくズブズブと沈んでいく。

 

 

「ひぃぃぃぃっ!? 誰か助けてくれぇぇ~~~っ!!」

 

「大丈夫か!? 首領パッチ!」

 

「ボーボボ! 頼む! 助けてくれ!」

 

 

ボーボボの方へ必死に手を伸ばす首領パッチ。しかしボーボボが首領パッチを助けるような素振りは一切見せない。ただただ事の成り行きを見守るばかり、しまいには片手でパタパタ振って…

 

 

「ゴメン。やっぱ無理だわ」

 

「えぇぇっ!? ちょ!? お前!?」

 

「だってお前 臭い し」

 

「臭いって、お前!?」

 

 

ならばと、他の面子に顔を向けるが全員明後日の方向に顔を向けて視線を合わそうとする者はいない。

 

 

「フッ…」

 

 

そこでようやく諦める決心がついたのか、キザったらしい笑みを顔に張りつかせ、親指を立てた拳を天に突き上げながら肥溜めの中へと消えていった。

 

 

首領パッチぃぃぃ~~~っ!!!!

 

 

ボーボボの慟哭が城内に木霊するが、誰も彼を責めることはできなかった。

 

 

だって臭かったし…

 

 




(´・ω・)にゃもし。

いろいろとゴメン。


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ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ・パニック

 

 

咲夜の話によれば──城内にある中庭を突っ切って行くと地下へと下りるエレベーターに辿り着く……という。

 

しかし、その場所へ向かおうとした時に浮かれて先を急いだ首領パッチが前方不注意で 肥溜め に落下してしまった。

 

今も現在、肥溜めの中に沈んでいるとは思うのだが……正直、助けたくない。他のメンバーも同じ思いか、私が顔を向けると心底イヤそうな顔で無言で首をブンブンと左右に振っている。

 

そんな私たちの心情を知った上か、はたまた私たち同様にイヤなのかボーボボは力強く雄々しく叫んだ。

 

 

いなかった! 

  紅魔館にいるメンバーの中に首領パッチという存在は始めから存在してなかった!

 

 

そんな非情なことを宣うとスタスタと前を歩き出した。無駄に無意味に強者のような存在感を放つ背中をこちらに向けて…

 

 

「そうだね」

 

 

無情にも私もまたボーボボに激しく同意。首領パッチを見捨てることにして目的のエレベーターへと向かうことにしたのであった。

 

 

「なら急ぎましょう」

 

 

そこへ、この古城を知る咲夜が先を急ぐよう私たちに促す。

 

 

「この中庭には ゴリラ が放し飼いになっていますので…」

 

ゴリラ!? なんで!? 

 何で ゴリラ がこんなヨーロッパの古城にいんの!?」

 

「実験の一環に必要ということでヨーグルトで釣って捕まえてきた。…と、あの老人──セイント・バレンタインは言っていましたが…」

 

「実験!? ゴリラ で!? いったい何を!? それにゴリラの好物ってバナナじゃないの!?」

 

「その研究の産物で道具を使用してですがゴリラとの意志疎通が可能になりました。それとゴリラの好物がバナナというのは勝手なイメージで実よりも寧ろ茎や若芽を好んで食べます。あとグーではなくパーで胸を叩いて音を鳴らします。他にも…」

 

「言っている途中ですいませんけど、ここは ゴリラ を研究する研究所か機関か何かですか!?」

 

 

真面目な顔で語る咲夜からゴリラに関する無用な知識を取り入れつつ、林の中にいるような錯覚を起こす広大な中庭を早足で駆け抜けていく。

その道中、私の背後を影のように走る美鈴が何かを感知したのだろう。

 

 

「お嬢様、気をつけてください!

 周囲から生き物の気配、おそらく咲夜さんの仰るゴリラの群れです!」

 

 

声を大にして張り上げる彼女。だが時すでに遅かったか、私たちの左右にある草むらがガサガサと音を立ててざわめく。私たち以外の何者かが姿を隠して並走している複数の気配。

 

やがて、草むらと木々の隙間を縫って全身黒色の──ゴリラの群れが飛び出し、私たちの後ろを陣取ってこちらの跡を追う。

 

 

「モヒカンならともかく、相手は絶滅危惧種に指定されておるゴリラじゃ。むやみに倒すわけにはいかんぞ」

 

 

「どうする小娘?」と走る速度を落とさずに走りながら問いかけてくるティアラ婆さん。

存在自体がおかしい老人マッチョのくせにこんな時にだけ至極真っ当なことを言う。

 

絶滅危惧種とはいえ、こちらに危害を加えるようなら一戦を交えることに躊躇いはない。

 

面倒だなと思いつつも私がゴリラを迎撃をするよりも早くボーボボが動いた。

 

 

「安心しろレミリア! 

 目には目を! 歯にはハオ様!」

 

「ハオって誰よ!? それに何で様付け!?」

 

「シャーマンキングに出てくるラスボスだ!

 とにかく、ゴリラには同じゴリラをぶつければいい!

 出でよ! ゴリラ召喚!」

 

 

言うな否、ボーボボが手を翳した前方の空間に「ぽんっ!」と軽い音と煙とともに現れたのは……一応メスなのか、後頭部に大きな赤いリボンをつけた一体のゴリラ。

 

 

「さっきティアラ婆さんが倒したモヒカンにゴリラの着ぐるみを着させた。コイツをオトリにしよう。

 なーに大丈夫だ。全身に接着剤を塗ったくったから、そう簡単には脱げない」

 

「鬼かアンタは!?」

 

「よし行ってこい! オトリ作戦だ!」

 

 

私の非難も何のそのゴリラ(モヒカン)の背に思いっきり蹴りを入れて蹴飛ばすボーボボ。

哀れモヒカンは一直線にゴリラの群れの中に吹っ飛んでいき、あっという間にゴリラたちの中に埋もれて…

 

 

あ″あ″あ″あ″ぁ″ぁ″ぁ″っっっっ!!!?

 

 

モヒカンのおぞましい艷声が木霊した。

 

 

「よし、今のうちに行くぞ!」

 

「え? あ、うん…」

 

 

ボーボボの指示の下、私たちは今もなおゴリラの群れにもみくちゃにされているモヒカンをその場に置き去りにして先を急いだ。

 

 

 

 

   少女移動中 NowLording...

 

 

 

 

古城の雰囲気にそぐわない鉛色の金属質でできた扉。その横にあるパネルを咲夜が慣れた手つきで操作すると扉が左右にスライドし中へと入っていく。

 

私たちも入ってみると、ちょっとした小屋ほどの大きさはあるだろうか…? その大きなエレベーターの中、出入口付近にあるパネルの前に私たちに背を向けた咲夜が口を開く。

 

 

「このエレベーターで99階まで降りることができます」

 

 

扉が閉まり、小さな揺れとともにエレベーターが下へと動き出す。

 

 

「──そのさらに下、地下100階にはこの組織が今まで捕まえてきた妖魔や妖精が囚われています。

 この組織が扱う神秘や魔術は彼らを触媒にして発動させるものだと、セイント・バレンタインが言っていましたので…」

 

「なるほどね」

 

 

うちに居候している魔女や八雲紫が管理する幻想郷なら兎も角、神秘や奇跡が失われつつある今の時代に組織がそういった力を持っているのには理由があったようで……すなわち、その力の源を排除、及び無効化させれば────

 

 

「ここに囚われている妖精たちを解放すれば、ここにいる連中は弱体化──場合によっては力を失う。…というわけか?」

 

 

確認の意味を兼ねて問うボーボボに咲夜は無言で頷いてみせる。

 

 

「ならばオレたちのすることは決まったな、倒された首領パッチのためにも」

 

 

なぜか首領パッチの遺影を胸に掲げた天の助が涙を流しながら熱く語り……ボーボボがそっと彼のそばに近づいて肩に手を乗せる。首領パッチに関しては自業自得な気がするのだが…

 

 

「天の助、もう泣くのはよせ」

 

「ボーボボ…」

 

「首領パッチという存在はいねぇつったろ!?」

 

「へぶっ!?」

 

 

渾身の右ストレートを天の助の顔面に叩き込んで黙らせた。

いったい何がボーボボをそこまで駆り立てるのかは知らぬが……そんなことをやっている間にどうやら目的地に着いたらしく重厚な音を鳴らしてエレベーターが止まった。

 

 

「エレベーターで行けるのは99階までです。

 100階へ行くためには99階にある階段を利用しなければ降りることができません。

 それに残った敵が待ち構えているのも、おそらくこの階でしょう」

 

 

気配を察する能力に長けた美鈴の方へ顔を向けると小さく頷いて咲夜の言葉に肯定を示し、当然のようにボーボボが意見を出す。

 

 

「それじゃあ、扉を開けると同時に天の助を外に放り込んで様子を見てみるかレミレア?」

 

「そうだね。咲夜、扉を開けてちょうだい」

 

「わかりました。少々お待ちください」

 

「え? オレの意思は?」

 

 

天の助の意思は無視されて話が進められていく。

扉が半分ほど開かれボーボボが天の助の頭を掴んで投げる体勢に入ったときに…

 

 

「いや、ワシが行こう」

 

 

ティアラ婆さんがスッと前に出てそのままエレベーターの外へと出ていってしまった。

 

ティアラ婆さんを目で追い、彼女の向かう先には軍服にベレー帽を身につけた厳つい顔のゴリラ。ついでに葉巻なんぞ吸っている。

 

 

「そういや、お前さんがたにはワシの苗字を言ってなかったのぅ…」

 

 

鍛え上げられた逞しい背中をこちらに向けたまま、顔を振り向かずにティアラ婆さんは私たちに言った。

 

 

 

 

──バレンタインじゃ、

  ワシの名は『ティアラ・バレンタイン』じゃよ?

 

 

 

 

名乗りを終えると軍服姿のゴリラは恭しく彼女に頭を垂れ、次いで薄暗い部屋に明かりが灯され部屋の全容が明らかになる。

 

鋼鉄の壁でできたドーム型の建物の内側。

世紀末ファッションのモヒカンが多数。

さらに青いボディに単眼、四本足というどこぞの殺人機械が数体。それらが私たちを待ち構えていた。

 

 

「さあ、楽しいパーティーを始めようか?」

 

 

軍服姿のゴリラが流暢な人間の言葉で話しかけ…

 

 

「「 ゴリラが喋った!!!? 」」

 

 

咲夜を除く、私を含めた紅魔館陣営は物凄く驚いた。

 

 




(´・ω・)にゃもし。

この作品とは別にもう一つ連載しててツラい。


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最下層にて…

 

 

因縁のある秘密結社との決着を着けるため、ティアラ婆さんの案内のもと彼らが隠れ家として利用している古城に侵入した私たち紅魔館一同。

 

──だが、その古城の地下へと向かう途中で首領パッチが前方不注意で 肥溜め に落下。

 

それゆえ彼をその場に置き去りにしなければならなくなったが… それ以外は概ね順調に進んでいき、私たちは最下層の一つ手前にある地下99階へと辿り着いた。

 

そこで私たちはここまで一緒に同行してきた筋肉ムキムキのマッチョババアことティアラ婆さんのフルネームを知ることとなる。

 

 

──バレンタインじゃ、

  ワシの名は『ティアラ・バレンタイン』じゃよ?

 

 

そう名乗った彼女。

その名は以前、紅魔館にやって来た老爺と一緒のものであり…

 

 

「くっくっく。ワシはあのジジイの妻じゃよ」

 

 

あっさりと己の素性を白状する。

あの爺さんと同じくマッチョ老人という共通点があるし、なんら不思議ではないのだが、なぜ気付かなかったんだろう… 

 

 

「強烈な 個性(キャラクター) のせいじゃないの?」

 

「貴方たちも大概だけどね」

 

 

今いるこの場所が戦場になるかもしれないというのに暢気に答える天の助に呆れ気味に返事を返す私。個性だけならこの男衆の面子も負けていない。

 

 

「こんなところまではるばるやって来て申し訳ないんだが、おたくら回れ右して帰ってくれないか?」

 

 

ティアラ婆さんの右隣に立つゴリラが不躾な態度でそう要求してきた。道中、咲夜からゴリラとの意志疎通が可能になったと説明を受けていたが…

 

 

「ここにいるゴリラたちはハンターから身を隠すため、労働力と引き換えに匿ってもらってるんだ。

 この場所を失えば、俺たちゴリラはまたハンターたちに狙われてしまう…」

 

 

葉巻を手に持って煙を吐き出す。

随分と慣れた手つきでタバコを吸うゴリラの彼(?)に違和感を抱きつつ…

 

 

「ゴリラはゴリラらしく森に帰ってちょうだい。

 今なら上の階での出来事に目を瞑ってあげるわよ?」

 

 

首領パッチには悪いが敵対する戦力を少しでも削ぐことができればと言ってみるものの、こんな状況になっても組織に残るような連中がはたして素直に従うものか…? そもそも何でゴリラがいるのよ?

 

 

「ようやく追い付いたな。レミリア嬢」

 

 

低く唸るような──それでいて威厳のある声に後ろを振り向くと、そこには迷彩柄の軍服に刀やアサルトライフルで武装したゴリラが四体。それがエレベーターの出入口を塞ぐようにして立っていた。

 

 

「なるほど。後ろのゴリラが到着するまで会話で時間稼ぎしていたわけか…」

 

 

鷹揚にして頷いて見せるボーボボ。美鈴が感知できなったとこを見るといつかの爺さんが使用していた気配を消す魔法道具でも持っているのであろう。

 

その四体のゴリラは手にした刀の穂先をこちらに向けると各々名乗りを上げていく。

 

 

長男、一郎!

 

次男、二郎!

 

 

次々と己の名前を告げるゴリラたち。

日本名であるものの意外に普通だなあ。

 

…と思ったのも束の間。

 

 

三男、三吉!

 

「「 三吉!? 」」

 

 

流れに逆らうゴリラの名前に思わず声をハモらせる私たち。

 

 

四男、三吉マーク2!

 

「「 三吉!? マーク2!? 」」

 

 

四体のゴリラが名乗り終えると今度は最初に会ったゴリラが口を開く。

 

 

「そして俺が五男の アレク だ」

 

「「 名前かっけええな、おい!? 」」

 

 

よくわからんゴリラの名前にいきなり出鼻を挫かれる私たち。

 

 

「ちょっと名前の付け方おかしくない!?」

 

 

半ば反射的に四体のゴリラに問うも彼らは無言でアサルトライフルを腰だめに構えると、なんの躊躇いもなく引き金にかけた指を引き…

 

けたたましい音とともに銃口から弾丸がばら蒔かれた。

 

私たちじゃなく()()()()()()()()()()()に向けて…

 

辺り一帯に飛び交うモヒカンたちの怒号と部屋内に響き渡る銃声。避ける間もなくまともに食らうアレクとティアラ婆さん。

 

しかし…

 

 

「くぅっ!? 血迷ったか兄者!?」

 

「魔法か何かで洗脳されたわけじゃなさそうじゃのぅ」

 

 

大量の銃弾を浴びせられたにも関わらず、体から硝煙を立ち上らせる程度で済んだアレクとティアラ婆さん。忌々しそうに四体のゴリラを睨む。

 

 

「我々はこの日を待ち望んでいた」

 

 

淡々と述べるゴリラの一体。

違いがわかりづらいがおそらく長男…?

 

 

「ここの秘密結社はゴリラを守るためと耳障りのいいことを言っているが実際は資金調達のためにゴリラを利用しているにすぎない。それどころかゴリラを商品にした非合法な売買も行われている」

 

 

思ってた以上にここの組織の闇は深いようである。もっとも、そのおかげで仲間割れが起きて私たちにとって好都合の展開。ゴリラたちの不意打ちも手伝ってか敵の数も減っている。

 

 

「ふん。まあ、よいわ。倒す敵が少々増えただけの話じゃ。アレクよ、あれをやるぞ」

 

「御意」

 

 

ティアラ婆さんの一言で周囲が慌ただしくなる中、彼女は相も変わらず直立不動の姿勢を変えないでいる。

 

 

「空間が歪んでいる?」

 

 

ポツリと漏らした咲夜の呟き。彼女がいち早く異変に察知したのは彼女の持つ能力のせいだろう。

 

彼女がそう呟いたあと部屋の景色が徐々に浸食するように変化していく。

 

無機質なドームから草原地帯へと、

 

 

「巨大な魔方陣はそれだけで大きな力を得る。

 じゃがそれを作るには些か広い場所が必要になる。

 ならば『横』ではなく『縦』ならば?

 ここを地下深くまで掘ったにも理由があるというわけじゃよ」

 

 

それは奇しくも紅魔館の、うちの妹が監禁されていた地下の部屋と同じ造りのものであり…

 

 

「お嬢様! 首領パッチさんの気が近づいてきます!」

 

 

悲鳴に近い美鈴の報告。

ティアラ婆さんの付近の床に穴が開き、そこから何かがせりあがってくる。

 

それはアルファベットのエックスの形をした液体の詰まった容器。そしてその中には──

 

 

「バカな!? 首領パッチだと!? ヤツは死んだはずだぞ!?」

 

「いや、肥溜めに落ちた程度で死なないと思うけど?」

 

 

容器に入っている首領パッチを見て驚愕するボーボボに否定的な答えを言う私。

 

 

「お嬢様、どうやらこの空間の揺らぎの原因は首領パッチさんのようです。『凝』で見ると首領パッチさんから念が周囲に拡散されています」

 

 

そう言う美鈴の両目の瞳は不透明な炎で覆われていた。一体いつの間にそんな特技を…

 

 

「ここにいる連中が一体何を企んでいるか知らないが首領パッチが入っているあの容器を破壊すればこの騒ぎがおさまるというわけだな?」

 

 

どこからか取り出したバズーカを首領パッチに照準を合わせるボーボボ。アレクとティアラ婆さんは止めるような動きは見せずニヤニヤと笑みを浮かべるのみ。

 

味方であるにも関わらず発射するボーボボ。

砲弾が首領パッチが入っている容器に着弾して炎と煙が爆ぜ、容器ごと首領パッチが煙に包まれる。

 

 

「よし! 殺ったか!?」

 

「いやいや、味方を殺っちゃダメでしょ!?」

 

 

もくもくと排煙が吐き出されるバズーカの銃口を下ろして誰に言うわけでもなく喋るボーボボにすかさずツッコミ私。

 

やがて、首領パッチを包んでいた煙が霧散すると…

そこには砲弾を撃ち込む前と何ら変わりない彼の姿があった。

 

 

「なんだと!? いくら『殺ったか!?』という生存フラグを立てたからって…」

 

「生存フラグってそういうもんじゃないと思うんだけど!?」

 

 

悔しそうに歯軋りするボーボボ。だったら言わなければいいのにと思いつつも相手方を観察する。

 

 

「ここは縦長に作られた魔方陣の最下層。

 水が下へ下へと流れていくように力もここに溜まっていくのはご存知じゃろ?」

 

 

なるほど。その力を使って防御力を高めていたのであろう。そのためボーボボのバズーカはもとより、ゴリラ兄弟のアサルトライフルも効かなかったのはそのためのようだ。

 

 

「なるほど。ここに溜まっている力と首領パッチの力を使って防御力を上げていたというわけか…」

 

 

ボーボボも私と同じ考えらしく納得したと言わんばかりに頷いてみせる。

 

 

「残念じゃがここの魔力溜まりを使って発動したのはそれではないぞ?」

 

 

しかし、ティアラ婆さんは私たちの考えを否定した。

 

 

「発動したのはおぬしらの使う『真拳奥義』じゃよ?」

 

 

にんまりと口の端を上げて嘲笑うティアラ婆さん。

 

 

 

 

──ワンダフル鼻毛7DAYSをな?

 

 

 

くっくっく… と、ティアラ婆さんの耳障りな含み笑いが頭に響く。

 

 




 
(´・ω・)にゃもし。

遅れてスマン。


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天の助、死す。

 

 

「──荒ぶるババアのポーズ…!!

 

 

──ゆったりとした動作で両手を上に伸ばし、さらに曲げた右足を上げる──という奇妙な構え(ボーボボ曰く『荒ぶる鷹のポーズ』)をティアラ婆さんが取ると…

 

 

ワンダフル鼻毛7DAYS!!!!

 

 

ティアラ婆さんを起点に赤い突風が駆け抜ける。

暴力的な風にその場にいた誰もが腕で顔を覆う。

 

 

「一体どんな原理で発動してるのか解らないけど、ボーボボの技でしょ!? 中断させることってできないの!?」

 

「残念だがレミリア。あの技は一度発動したら最後まで耐えるしか方法がない! 最悪、天の助で攻撃を防げばいい!」

 

 

横にいた天の助が「えっ?」みたいな顔していたが私は「それもそうね」と二つ返事で返答。

 

 

「──だが、完全に発動するまでに同じ鼻毛真拳奥義かつ威力の高い奥義をぶつければ相殺できるかもしれん!」

 

 

鼻毛を伸ばし、大きくしならせながらティアラ婆さんへと一直線に跳ぶボーボボ。

 

 

「ババアを舐めるな

 このワシが対策を用意せずに発動すると思うたか!!?」

 

 

構えを崩して、先ほどの構えとは別のをポーズを取るティアラ婆さん。完成したそれは今にも駆け出しそうな格好に見えなくもない(ボーボボ曰く『荒ぶる悪魔のポーズ』)。

 

 

「アレクや、やっておしまいなさい!」

 

「あいよ」

 

 

軽い返事とともにゴリラのアレクがモヒカンとキラーマシン擬きを引き連れてボーボボの前に立ち塞がって行く手を遮る。

 

先頭に立つアレクがコンバットナイフを片手に、手元が霞んで見えるほどの高速でボーボボの鼻毛を細切れに切断。さらに無防備になったボーボボの腹に蹴りを入れて突き飛ばす。

 

 

「オレたちは時間稼ぎのためにここに集められた。婆さんの邪魔をしたけりゃオレたちを倒すことだな?」

 

 

片膝をつくボーボボに流暢に人間の言葉で話すアレク。その間にも後方にいるティアラ婆さんが南国を彷彿させる怪しげな踊りを「ヒーラリヒラヒラヒヒラリラー」と曲げた腕をカックンカックン動かして踊っている。

 

その踊り、本当に必要なんだろうか…?

 

 

「さらばだ愚弟よ! 地獄で兄を敬え!!」

 

 

吼えながらアレクの背後から襲撃を仕掛けるのは四匹のゴリラ。

4本ある刀の切っ先をアレクに向けて突撃。アレクもまた彼らを迎え撃つべくナイフを逆手に持って待ち構える。

 

 

「「 三刀流、二剛力斬!! 」」

 

 

必殺の一撃が込められたであろう重なり交じりあう4本の刃。

アレクはあろうことかナイフの切っ先で受け止めて阻止してみせた。

 

 

「悲しいねぇ。実の兄弟で殺し合うなんて、それに学習能力もねぇ…」

 

 

そう言うと右上から左下へと弧を描くようにナイフを一閃。その一振りだけでアレクは自分の兄たちを斬り伏せた。

 

 

「先刻、兄者たちの攻撃がオレたちに通用しなかったのを忘れたのか? それともダメもとで試したのか?」

 

 

憐れむような視線で己の足下に倒れている兄たちを見下ろすアレク。

 

地に伏せたままゴリラの兄弟たちは手にした日本刀を強く握りしめながら悔しそうに呟く。

 

 

「くそっ…聖剣エクスカリバーが通用しないなんて…!」

 

 

そのエクスカリバー、どう見ても日本刀なんですけど!?

 

 

「さっきゅん! お前の『時を止める(THE・WORLD)』能力は!?」

 

「さっきゅんって、もしかして私のことですか?」

 

「いいから答えろクズ!」

 

 

ボーボボからクズ呼ばわれて絶句する咲夜。それでも彼女は律儀に答える。

 

 

「残念ですけど、時を止めることはできません。

 どうやらパチュリー様と同じ方法で防いでるみたいです」

 

「ちぃっ、ラスボスみたいな能力持ってるクセに使えねぇなァ…」

 

 

「ペッ」と地面に唾を吐いて悪態をつくボーボボに「すいません」と叱られた子犬のようにシュンとした表情で謝罪する咲夜。

 

彼女に非はないと思うんだけど…

 

 

「時は満ちた! まずは月曜日じゃ!!」

 

 

歓喜極まったティアラ婆さんの言葉を合図に空間が歪み、収まったあとにはクイズ番組の収録現場へと変わる。

 

 

「これはオレの使う奥義とは違う。 

 もはや別物と割りきった方がよさそうだな」

 

 

ボーボボを筆頭に一つ一つの解答席には私たち。観客席には色とりどりのモヒカン。そして司会者の席にはティアラ婆さんが陣取っていた。

 

 

「まだワシのターンじゃ!! 頭上を見るがよい!!」

 

 

聖鼻毛回転盤(ボーボボ・ルーレット)

 

 

遥か頭上に巨大な回転盤が顕現。ただし文字や数字が書いてあるはずであろうそのパネルは空白になっていた。

いずれその空白の部分には私たちの名が記されるのは想像に難くない。

 

キレイに六等分に分けられた回転盤のパネル。そのうち三つの部分に徐々に文字が浮かび上がってくる。

 

 

紅魔館の誰か1名 』と…

 

 

すんごいアバウトなんですけど!!?

 

 

私がそう叫んでる間に残りのパネルにも変化が現れる。うち一つは「秘密結社の誰か1名」これはもはや想定内。しかし残り二つは…

 

 

『天の助』『天の助』と、うちの陣営だった。

 

 

「オレのが二ヶ所あるんだけど!?

 さっきのパネルも含めたらほぼオレなんだけど!?」

 

「天の助じゃないけど、不平にも程があるわよね!?」

 

 

あまりの理不尽さに問い詰めるもティアラ婆さんは聞く耳を持たぬのかガン無視。そうこうしてる間に無情にもルーレットの針が回り始める。

 

結果は案の定「天の助」

 

そんな彼にクイズ番組らしく問題が出される。

 

 

問1)ビタミンCの正式名称は?

 

 

真っ当な問題ではあるが天の助にはわからないらしく「うんうん」と唸っていた。

 

 

「…し、ししゃも……?」

 

 

時間切れ間近に何を思ったのか、そう答える。

無論それが正解のハズもなく不正解を示すブザーが鳴る。

 

 

「ちくしょ──っ! ビタミンCの正式名称なんて分かるかよ~~~っ!!」

 

 

滝のように涙を流す天の助とともに回転盤とは別に何かスロットマシンに似た物体が出現。ドラムが回転する。

 

 

「あれは『裁き』だな。出た裁きによって攻撃が繰り出される。巻き込まれないように天の助から離れるんだ!」

 

 

そう言いつつ天の助の背中に蹴りをぶちかますボーボボ。

──と同時のドラムの回転が止まり、件の裁きとやらが出る。

 

 

ティアラ婆さんと接吻♥

 

ぎゃぁぁぁ~~~っ!!?

 

 

とんでもない裁きの内容に悲鳴を上げる天の助。

ティアラ婆さんから離れるべく彼女に背を向けるも…

 

 

知らなかったのか…?

 ババアからは逃げられない… 」

 

 

天の助の前には口の端を上げて笑みを浮かべるティアラ婆さんの姿。

 

 

「どこへ行くつもりだァ?」

 

「お前と一緒に逃げようと思ってな…?」

 

 

恐怖に陥ったのか意味不明なことを言う天の助。敵と一緒に逃げてどうする?

 

 

「天の助さ───っ!」

 

「おお、美鈴! 助けてくれるのか!?」

 

「ビタミンCの正式名称は『L-アスコルビン酸』です!」

 

「今さら!?」

 

 

てっきり救いの手を差し伸べられると思って美鈴の方へ振り向いた天の助。

 

ティアラ婆さんはその隙を逃すハズがなく、素早く天の助の頭を掴み……

 

自分の顔へと引き寄せ…

 

()()()()()

 

 

ぶちゅぅぅぅううう~~~っ……

 

 

咲夜の能力とは違った時間が止まったかのような既視感。

しかしその止まった空気の中をティアラ婆さんの貪るような一方的な接吻から奏でる音が鳴り止まない。

 

 

「味の薄いマスカットに、食感はナタデココじゃな」

 

 

やがて無限とも思えた時間のあと、ティアラ婆さんは吸い付くされてミイラのように干からびた天の助を地面に捨てた。

 

 

「「 天の助ぇぇぇぇぇ~~~っ!!? 」」

 

 

さして広くない収録現場に…

彼の名を叫ぶ私たちの声が響いた。

 

 




(´・ω・)にゃもし。

スマホゲーやってた。スマン。


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首領パッチ、ぶっ殺すゲーム

 

 

地面に横たわるミイラ化した天の助。

彼の表情は苦しそうに歪んでいた。

さながら、息苦しさのあまり空気を求めたまま窒息したかのように……実際、その通りなんだけど…

 

 

「なんと、むごいことを…」

 

 

さきほどの光景を──天の助とティアラ婆さんの接吻を──思い出したのか、さしもののボーボボも片手を口に当てて年頃の少女のように内股の格好で怯える。

 

 

「──でもオレじゃなくてよかった! ホントによかった!

 ありがとう天の助! お前がいてくれたおかげで喰らわずに済んだ!」

 

 

両手両膝を地面につけ、涙を流しながら天の助に感謝の言葉を述べるボーボボ。これには私たち紅魔館一同も同調し「うんうん」と頷く。そこへティアラ婆さんが絶望的な言葉を投げ掛ける。

 

 

「くっくっく… 喜ぶのはまだ早いぞ?

 何しろ素敵な一週間は始まったばかりじゃからなァ?

 ほれほれ間もなく火曜日が始まるぞ?」

 

 

頭上の巨大な回転盤であるボーボボ・ルーレット。天の助が再起不能に陥ったことで変化が起きる。天の助と書かれた二枚のパネル。その文字が徐々に薄れて消えて、新たに『紅魔館の誰か1名』という文字が浮かび上がった。

 

すなわち、6枚あるパネルのうち5枚が私たちということになる。

 

 

「もうこれルーレットを回す意味なんてないじゃない!?」

 

 

あまりの理不尽さに思わず叫んだが、それでパネルが変化するハズもなく、ルーレットの針がぐるぐると動き出す。

 

針が回ること数回転。案の定『紅魔館の誰か1名』へとピタリと停止。次いでドラムが勢いよく回転。三つのうち二つが順に『レミリア』『クイズ』と止まり、宙に浮かぶ巨大スクリーンに問題が出題される。

 

 

問2)太郎と次郎。どっちがオカマ?

 

 

「知るわけないでしょ!? んなもん!!」

 

 

間を置かずに鳴らされる「ブッブゥゥゥ!」という不正解の音。もはやクイズでもなんでもない。

 

『裁き』を決定する残り一つのドラムが止まる。

 

 

『中国がフリーザと戦う』

 

 

「中国って、もしかしなくても私ですか!? 

 それにフリーザって、あのフリーザですか!?

 それ以前になんで私なんですか!?」

 

 

美鈴が自分を指差してそう言う。現状、この中で中国を連想する人物は彼女しかいない。なんで裁きに彼女の名前が出てくるのかはこちらに聞かれても正直困る。

 

 

やがて地面に大きな穴が空き、そこから卵型の浮遊する乗り物に乗った小柄な体躯の何者かが「ほーっほっほっほっ」と高笑いを上げながら現れる。

 

 

「わたしの戦闘力は530000です。

 ですが、もちろんフルパワーであなたと戦う気はありませんのでご心配なく…」

 

 

いったいどんな方法で呼び寄せたのか私たちの前に現れたのは宇宙の帝王こと、あのフリーザだった。

 

 

「ならば本気を出される前に倒すのみです!」

 

 

覚悟を決めた美鈴が両腕を腰だめに構えて急接近。先制攻撃を仕掛ける。

 

 

──それから数分後…

 

 

「…はぁ、はぁ。な、なんとか、勝ちました……」

 

 

傍らには倒れ伏せたフリーザ。その側には片目を閉じ、口の端から血を流し、力なくダラリと垂れ下げる左腕を右腕でおさえ、服装も所々破れ……満身創痍ながらも立つ美鈴の姿があった。

 

 

「「 フリーザに勝っちゃった!!? 」」

 

 

「すいません、お嬢様。

 どうやら私はここまでのようです。

 大して役に立てず申し訳ございません…」

 

 

そう言うと力尽きたのか前のめりになって倒れかけ、そこを咲夜が慌てて駆けつけて、寸前のとこで彼女を支える。

 

 

「イヤイヤ、十分役に立ってるよ!?

 フリーザに勝ったんだよ!?」

 

「カカカッ! 次は水曜日じゃ!

 他人を称賛してる場合じゃないぞ!?」

 

 

三度、ルーレットの針が動き出し『紅魔館の誰か1名』を指す。しかし今回、裁きを受けるのは人物ではなかった。

 

 

紅 魔 館 が 爆 発 す る

 

 

「……はい?」

 

我ながら間の抜けた声が口から出た。

例のごとく巨大スクリーンには見慣れた紅魔館の全容が映し出され、それが何の前触れもなく白い閃光に包まれ──瞬時に崩壊……跡には光でできた巨大な白く輝く天へと伸びる十字架が立つ。

 

 

「うちの紅魔館がァァァ~~~っっっ!!?」

 

 

建て直して一ヶ月も経たないうちに紅魔館が崩壊。それで私が思わず絶叫したのを致し方なし。いったい何処の誰が責めようか…

 

 

「くっくっく… ワシが図書館に置いてきた500kgの庭石。あれの正体は対妖魔用の爆弾じゃよ!」

 

 

紅魔館の突然の爆発の原因をあっさりと露呈するティアラ婆さん。

 

 

「図書館内部の書物が強固な魔法防護で守られているのは周知済み。しかし中にいた魔女は無事に済まんじゃろ。あとは主の居なくなった図書館の本を回収するのみじゃな」

 

 

ティアラ婆さんの視線の先、スクリーンの向こう側では──十字架が消え去り、瓦礫の山と貸した紅魔館にはわらわらと動き回るモヒカンたちの姿が…

 

 

『あびしっ!?』『ひでぶ!?』『ザクレロ!?』

 

 

──紅いレンガで造られた見覚えのあるゴーレム。それが数体。近くにいるモヒカンを殴って片っ端から再起不能にしていた。

 

 

『悪いけど私があんな怪しいものをいつまでも放っておくわけないでしょ?』

 

 

画面越しに話しかけるパチェリー。

彼女はゴーレムたちの後ろで部隊の指揮を執っていた。

今も彼女に襲いかかろうとしたモヒカンを我が妹であるフランが槍の柄の部分で殴り倒して阻止している。

 

 

「ふん。まあ、よいわ。あちらは後回しにして先ずはこっちのを優先するかのぅ…?」

 

 

こちらをチラリと見つつ、余裕綽々の態度を取るティアラ婆さん。もはや私たちに勝った気でいる。

 

 

「なら試してみたらどうだ?」

 

 

対して何か策があるのか自信に満ちた表情で答えるボーボボ。

 

 

「鼻毛真拳奥義は厳しい修行の果てに修得するものだ。

 伝承者でない者が使えば己の身を傷つける諸刃の刃となる」

 

「ならば見せてもらおうかのぅ!?

 おぬしの言う鼻毛真拳奥義とやらを!?

 出せるものならじゃがなァっ!?」

 

 

こちらの攻撃は無効化されるのを知って強気のティアラ婆さん。ルーレットの針が動き、『紅魔館の誰か1名』を指し、裁きのドラムが回転する。

 

そこへ両手の指の間にナイフを挟んだ咲夜が動き出す。

 

 

「また性懲りもなく『時間停止能力』かァ!? 

 無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁぁ~~~っ!!

 能力対策はすでに施してるのは周知じゃろぉ!?」

 

 

構わず裁きのドラムに向かってナイフを投擲。回転しているドラムに次々と突き刺さり回転を止めさせた。

 

 

「カーッカッカッカッ!

 何がしたかったのか知らんが、キサマの行動は仲間の死期を早めさせただけのようじゃなァ?」

 

 

「カーッカッカッ…」と高笑いを上げるティアラ婆さん。

私たちが一向に言葉を発しないことに訝しげ、私たちがティアラ婆さんではなく、その後ろ、頭上の裁きのドラムを見ていることに気づいた。

 

 

『首領パッチ、ぶっ殺すゲーム』

 

 

裁きのドラムはそこで止まっていた。

 

 

「キサマが放った『ワンダフル鼻毛7DAYS』は首領パッチをエネルギー源にして放っている。

 その首領パッチがいなくなれば、はたしてどうなるんだろうな?」

 

 

上空から様々な種類の剣が降って地面に突き刺さり、ボーボボはそのうちの二振りを手に取って抜き放つ。

 

 

「どうやら有効みたいだな? 

 いくぜ『首領パッチぶっ殺すゲーム』止められるものなら止めてみせろ!」

 

 

そう言ってティアラ婆さん、否、その後ろにいる首領パッチを目指してボーボボが走る。

 

 

 

 




(´・ω・)にゃもし。

後書きを書く前に投稿しちゃった。


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ボーボボ、死す。

 

 

ティアラ婆さんが放った『ワンダフル鼻毛7DAYS』

その供給源となっている首領パッチ。

 

ボーボボは技を止めるべく二振りの剣を手に『首領パッチぶっ殺すゲーム』を行使する。

 

 

「カーッカッカッカッカ!!

 このワシが大人しく通すと思うたかァ!?

 ババア・ボイスはエンジェル・ボイス

 

 

エンジェル・ボイスとは程遠い不快な音波。

音波に触れたボーボボの持つ剣と地面に刺さった剣が激しく振動を引き起こし粉々に砕け散る。

 

 

ババァ・ゾーンは手塚ゾーン!!

 

 

ティアラ婆さんを中心に風の渦が発生。

ボーボボがその中心へと吸い込まれていく。

 

 

ババァ・クローは竜の爪!!

 

 

風の渦に吸い込まれ近づいたボーボボの手をがっしりと掴み、手と手を合わせた力比べへと移る。

 

 

「カ────ッカッカッカッカ!!

 キサマの言う『首領パッチぶっ殺すゲーム』とやらはどうしたんじゃ!?」

 

 

ボーボボの身長は2mを超す。しかしマッスル化したティアラ婆さんはそれすらも上回る。おそらく、力も…

 

徐々に押されて、上体を反らす体勢になりつつあるボーボボ。

対してティアラ婆さんは「カーッカッカッ!」と高笑いを上げている。

 

…だが不利な体勢にも関わらずボーボボは急に不敵な笑みを浮かべ、ティアラ婆さんはその様子に訝しげる。

 

 

「ワナにかかったな悪霊!!」

 

「なんじゃと?」

 

「こいつはオレが食い止める! お前たちは先に行け!!」

 

  

ティアラ婆さんはボーボボの意図を察し、掴んだ手を離そうとするも今度はボーボボが彼女を逃がさまいと逆に掴む。

 

 

「ちぃっ、ならば速攻で倒すのみじゃ!

 ババァ・キッスエンジェル・キッス!!

 

いやぁぁぁ~~~っっっ!!!!

 

 

ティアラ婆さんはタコのように口をすぼめ、ボーボボの顔面へと己の顔を近づけさせていく。

これにはさすがのボーボボでも心底嫌らしく「イヤイヤ!」と首を左右に振って逃れようとする。

 

 

「頼むレミレア、早く首領パッチをぶっ殺してくれぇぇぇ────っっっ!!!!」

 

 

泣き叫ぶボーボボ。言われるがままに駆け出す私と咲夜。後ろからボーボボの悲痛な叫び声が聞こえてくるが立ち止まるわけにはいかない。

 

 

「おっと、オレを忘れてちゃ困るぜ?」

 

 

ゴリラのアレクがモヒカンたちを引き連れて私たちの前に立ち塞がる。

人数の差に優位的なこともあって油断して気がつかったのだろう。

背後から近寄ったゴリラの一人に羽交い締めにされる。

 

 

「ウホっ!?」「ウホウホ」

「ウホ!」「ウホウホ!!」

 

 

何か会話してるんだろうけど、ゴリラ語で何言っているのか分からない…

 

 

「兄者、ガネメを捨てる気か!?」

 

「ガネメはただの言葉に過ぎない…

 我々はガネメに深く関わり過ぎた!」

 

 

アレクを羽交い締めにしたまま跳躍。黄金色の闘気を纏って急上昇。

 

 

「兄者、自爆する気か!?」

 

「愚弟よ、死ぬのが怖いなら戦場に出てくるな」

 

 

天高く昇っていき、ゴリラの一人はアレクとともに視界から消えて、遥か遠くからの爆発音が聞こえた。

 

 

「…ガネメって、なに? 咲夜、知ってる?」

 

「長いこと組織にいましたけど何のことだが…」

 

 

アレクはいなくなったが未だにモヒカンたちは残っている。強行突破を試みようと一歩前に進んだとき、残ったゴリラたちがモヒカンたちに向かって手榴弾を投擲──地面に落ちると同時に爆発。衝撃でモヒカンたちが吹き飛び、空白地帯が生まれた。

 

 

「ダメージを与えることはできんが、爆発でモヒカンどもを吹き飛ばすことはできるようだな…

 レミリア嬢、やつらが体勢を整う前に!」

 

 

アサルトライフルを乱射しながらモヒカンたちを近づけさせないゴリラたち。そこに咲夜も加わりゴリラたちに加勢する。

 

彼らが隙を作っているうちに私は右手の掌に紅い光球を生成し、握り潰して紅い槍を作り出す。

穂先を首領パッチに向けて────投げ放つ!!

 

紅い槍は瞬く間にアクリルケースごと中にいる首領パッチを大きく穿ち、上下二つに裂く!!

 

 

「ウホっ!」「ウホほほ~」

 

 

これでこの奇妙な空間から解放されると歓喜の声を上げるゴリラたち。相変わらず何を言っているのか分からないが…

 

そのゴリラたちが何者かに顔面を殴られ地に沈み、咲夜も首筋に手刀を叩き込まれて倒れた。

 

 

「くっくっくっくっく…」

 

 

ゴリラたちを倒したのは巨大な老婆──ティアラ婆さん。

彼女は左手に人間の頭部ほどの大きさの物を鷲掴みにしてこちらに向かって歩いてきた。

 

 

「よく見るがいい。キサマが倒したのは首領パッチじゃない!」

 

 

彼女が指差す先には破壊されてバラバラに砕け散ったアクリルケースのみ。首領パッチの姿はどこにもない。代わりにあったのは…

 

 

「えーっと、羊…? なんで?」

 

 

息も絶え絶えに横向けに寝っ転がったモコモコした一匹の羊。

私の攻撃を受けたのだろう、胸のところからプスプスと煙を上げている。

 

 

「スケープゴートというやつじゃ」

 

「スケープゴートのゴートは山羊なんですけど!?」

 

 

やがて私の視線に気づいたのか、羊が顔をこちらに向けて一言。

 

 

呪ってやる…

 

 

それだけ言うとピクリとも動かなくなる。

 

 

「なんか不吉なこと言われたんですけど!?

 それに何で羊が喋ったのよ!?」

 

「なぜかと聞かれたら、この時空がそれを可能にさせたんじゃろ。それについては詳しい者に尋ねるのが一番じゃ。

 もっとも喋ることができればの話じゃがなァ?」

 

 

──と、手に持っていた人間の頭部ほどの大きさの物体をこちらに投げ……地面に二、三回ほど弾んでようやくそれは止まる。

 

この場にいないボーボボと彼が足止めしていたハズのティアラ婆さんがここにいること、また彼女のセリフから私は最悪の展開を覚悟してそれを確認する。

 

 

「キャベツ…?」

 

 

そこに転がっていたのはキャベツだった。

てっきり人間の頭部だと思ってただけに思考が停止。

 

だがよくよく見てみればそれはただのキャベツではなく細い手足がついていて何よりも見覚えのあるサングラスをかけていた。

 

 

「エンジェル・キッスでエネルギーを吸ったらなぜかこうなったんじゃ」

 

「なんで!?」

 

「ワシが知るわけなかろう」

 

 

ピシャリと言い放つ。

ボーボボがなぜキャベツに変化したのかは不明だが、一つだけわかったことがある。

 

 

「ボーボボ、食らっちゃったんだ。エンジェル・キッス…」

 

 

つまり、ボーボボはティアラ婆さんと…

おぞましい光景が脳内に映し出され思わず身震いする。

 

 

「何はともあれ、残すはキサマ一人じゃ。大人しく裁きを受けるがよい」

 

 

この空間は未だ破られず、味方は一人して立っている者はおらず、逆に敵は一人上空に消えたのみでほぼ健在。私は圧倒的に不利な立場に立たされている。

 

 

「万事休すか…」

 

 

頬に汗を滴らせて見上げる。

ドラムが回転を止めていた咲夜のナイフを弾いて、最初はゆっくり、そこから徐々に加速をつけて回り始める。

 

 

「『正義』は勝つ

 

 

顔をにやけて笑うティアラ婆さん。

周囲にはモヒカンたちが復活して立ち上がり、私との距離を狭まる。

戦うどころか逃げるのも難しいこの状況を時間だけが過ぎていく。だがこの状況下をひっくり返すことができる可能性のある人物を私は一人知っている。私はともかく私を信じてついてきたコイツらだけでも、と考えた矢先──

 

 

「レーヴァテイン…

 

 

黒くぐねぐねしたイビツな槍がどこからともなく飛来。ドラムに突き刺さり、突き刺さった地点を起点に亀裂が走り、砕かれた。

 

 

「なんじゃと!?」

 

 

これに一番驚いたのはティアラ婆さん。彼女が現状を把握するよりも早く、太陽に似たいくつもの火球がモヒカンたちに降り注ぎ吹き飛ばす。

 

 

「魔女か!? 随分と早かったではないか!?」

 

 

忌々しそうに口調を荒げるティアラ婆さんの先には白色のバイクに跨がったパチェと彼女の後ろに抱き着いて乗っているフラン。さらに後ろには十字架に磔にされ、捻れた二又の槍が腹部に刺さった首領パッチ。

 

 

「魔法の指輪『ウィザードリング』

 今を生きる魔法使いはその輝きを両手に宿し、「絶望」を「希望」に変える…

 

 さあ、ショータイムだ」

 

 

いったいどうやって駆けつけて来たのか、頼もしい親友が妹を引き連れて現れた。

 

カッコつけて言ってるけど、それってウィザードだよね?

 

  




(´・ω・)にゃもし。

ティアラ婆さん編、ちと長いかな?


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そのスイッチを押させるな───ッ

 

 

パチェとフラン。二人が首領パッチを救助、奪還したことで「ワンダフル鼻毛7DAYS」が解除されたのだろう、テレビの収録現場だった世界が元のドーム状の室内へと戻っていく…

 

…とはいえ完全に戻ったというわけでもなく、戦闘の余波の跡があちこちに見られた。頭上に空いた大穴もその一つだろう。

 

 

「アレクを道連れにしたゴリラの仕業じゃな、キサマら二人はあの穴を通ってここに来た──というわけじゃな?」

 

「…ええ、道中に首領パッチもいたから助かったわ。見張り番のモヒカンがいたけど、フラン相手には分が悪かったわね」

 

 

ティアラ婆さんとパチェの二人の会話から、どうやらあの奇妙な空間には限度ってのもがあったらしい。さすがに本家大元がやれば結果が違ってくるだろうが… 

 

 …ト″ ト″ ト″  ト″ ト″ ト″  ト″ ト″ ト″

 

頭上の穴の奥から段々と近づいてくる動物の足音──それも群れが一塊になって駆け付ける轟音。パチェはその正体を答える。

 

 

「──それと、ゴリラがあなた方に用があるらしいわよ?」

 

 

次々と穴から降りてくるゴリラの群れ。

彼らは降りたそばからモヒカンたちに殴りかかってきた。

無論、モヒカンたちもただ大人しく黙ってやられるハズもなく手にした武器で応戦する。

 

 

「もはや、これまでのようじゃな…」

 

 

怒号と罵声が飛び交う中、ティアラ婆さんは静かに立っている。その間にもモヒカンたちは少しずつ数を減らしていき、機械兵器もパチェの魔法とフランの能力の前には鉄屑と化す。

 

 

「──がキサマらが一ヶ所に集まってるのは好都合じゃ!」

 

 

床にある取っ手を掴んで一気に引き抜くと、円柱の台座らしき物体が床からせり出す。

 

 

「魔力が一点に集中している。まさか自爆する気?」

 

 

床からせり出した物体を見てそう判断するパチェ。これに慌てたのは私たちではなく、未だに残っているモヒカンたち。彼らは我先にとエレベーターのある方角へとを脇目も振らずに走り出す。

 

 

「貴女、正気なの? ここの施設はこの組織にとって重要なものでしょ? ここを壊すなんて…」

 

「魔女にそう言われるとは光栄じゃな、しかし貴重品やデータ等はすでに息子たちに託した! 老兵はただ去るのみよ! キサマらを道連れにしてな!」

 

 

円柱型の台座に設置されてる赤いボタンに向かって叩きつけるように右手の人差し指を振り下ろす。

 

 

「『スイッチ』を押させるな───ッ

 

 

そうはさせまいとして私は両翼を翻して滑空。ティアラ婆さんの下へと飛ぶ。

 

だがティアラ婆さんの指令を受けたのか、かろうじて残っている四本足の青い機械兵器の群れが進行の妨害をする。

 

 

「いいや 限界だ、押すね

 

 

振り下ろされる寸前、虚空よりティアラ婆さんの前面を覆うように数多のナイフが出現。彼女に向かって飛んでいく。

 

 

うォぬぉれぇぃ! 拾った恩を仇で返しおって!

 

 

それを行ったであろう咲夜──床に倒れたままナイフを投げた姿勢で止まった彼女を睨みつつ、全身にオーラを纏い、瞬時に膨張、膨れ上がった気でナイフを弾いて防ぐ。

 

 

「──だが、キサマらの寿命が数秒伸びただけじゃ!」

 

 

弾かれたナイフが床に落ちるよりも早く、赤いボタンへと指を伸ばす。

 

 

「…でも、数秒あれば魔法を発動できるわ」

 

 

──ティアラ婆さんの足下の床がひび割れて窪み、動きが止まる。パチェの魔法による重力操作。突然の重力の負荷に彼女は足をもつれさせてバランスを崩す。

 

 

「なんのこれしき、この程度の重力で庭石500キロを使って修行をしてきたワシを止められるものかァ~~~っ!!

 

 

両膝に手を置いて耐える。

再度、ボタンに指をかけようとして…

 

 

   ホ────ホケキョ

 

 

場に相応しくない小鳥のさえずりが聞こえてきた。

それもティアラ婆さんのお腹から…

 

 

「……ほ、ほぅあァァァ─────っっっ!!!?」

 

 

顔を歪ませ両手でお腹を抱えるティアラ婆さん。その顔には尋常じゃない量の汗が浮き出ている。

 

 

腹がァァァ~~~っ!!!?

 

さっきのは腹の音だったの!?

 

 

苦悶に満ちた表情で体をぷるぷると震わせるティアラ婆さん。どうやら本気で苦しんでいるようだ。

 

 

「当然だ…」

 

 

エンジェル・キッスで体液を吸われて再起不能に陥ったと思われた天の助。彼はしわくちゃになった紙みたいな状態でうつ伏せのまま応えた。

 

 

「オレの賞味期限は 3年以上 過ぎている。

 そんなもん体内に取り込んで腹が無事でいられるはずがない!!

 

 

それ、食品として致命的だよね!?

 

 

そう言われ、天の助に対して何かを言いかけようとしたのだろうが、腹痛の痛みに耐えられないのか、途中で口をつぐむ。

 

それでもぷるぷる震える指を動かし、ボタンに触れるか触れないかという間際、私でない何者かがティアラ婆さんの指を掴んで止めた。

 

 

「そこまでです」

 

「ほォわァ!?」

 

 

ティアラ婆さんの指を掴んだのは美鈴だった。掴んだ指を逆方向にへし折って怯ませると、胸板に蹴りを叩き込んで台座から離す。

 

 

「フリーザ相手に重傷だったけど大丈夫なの?」

 

「はい、パチュリー様の魔法のおかげでだいぶ動けるようになりました」

 

 

残った機械兵器を槍で片付け終えた後、フワリと美鈴のそばに降り立ち、吹っ飛ばされたティアラ婆さんへと視線を移す。

 

美鈴の一撃を喰らってもなお立ち上がってみせるが……生まれたての小鹿のように足をぷるぷると震わせて、もはや戦えないのは一目でわかる。

 

 

「美鈴、やっちゃいないさい!」

 

 

そんな彼女に私は無慈悲な命令を美鈴に下し…

 

 

「はい、やっちゃいます! お嬢様!」

 

 

美鈴の姿がかき消え、ティアラ婆さんの背後に現れる。

彼女の気配を察し顔面蒼白になるティアラ婆さん。

 

 

「ま、待て……今、ワシを倒せば大変なことになるぞ!?」

 

 

狼狽え慌てふためくティアラ婆さんの首筋に容赦なく手加減なしの後ろ回し蹴りを叩き込み…

 

 

「これは咲夜さんの分です」

 

 

足をめり込ませたまま告げる美鈴。

さらに前のめりに倒れかけるティアラ婆さんの彼女のアゴの下から掌底を叩き込み、勢い余った力がティアラ婆さんの巨体を仰向けに浮き上がらせる。

 

 

これは咲夜さんの分です!

 

 

浮き上がって宙にいる間に今度は右足を垂直に高く上げ、腹筋に踵落としを喰らわせ、床に叩きつける。あまりの威力にティアラ婆さんの体半ばが床にめり込み、陥没。四方八方に亀裂が走る。

 

その一撃が決め手となったのだろう、ティアラ婆さんは口から泡を吹き、大の字になって動かなくなった。

 

そんなティアラ婆さんに美鈴は形の整った柳眉を逆八の字に、怒りを露にして叫ぶ。

 

 

これは咲夜さんの分です! 」──と、

 

 

さっきから、咲夜の分しかないんですけど!?

 

 




(´・ω・)にゃもし。

一応、ティアラ婆さんとの戦闘は終わった。
長かった。スマン。


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古城を後に、紅魔館へ(食事前・食事中は読まないように♪)

 

 

如何に鍛えに鍛えた屈強な鋼の肉体を持つティアラ婆さんといえども所詮は人の子。本気になった美鈴の──妖怪の打撃に人間が耐えうる筈もなく……今現在、彼女は陥没した床の中心で蹲った状態で倒れ伏せている。(ボーボボ曰くヤムチャ)

 

 

「これでようやく一息つけるわね…」

 

 

ティアラ婆さんを倒してホッと安堵のため息をはく。

時間にして半日も経っていない、それこそ数時間足らずの出来事なのに極度の疲労を感じるのはなんでだろう…

 

ボーボボが連れてきた老婆が突然キレて筋肉ムキムキになるのを皮切りに…

 

滾った婆さんが爆走。道中にいたイリエワニとモヒカンを蹴散らし、彼女に案内されて辿り着いた古城では首領パッチが肥溜めに落ち(よそ見による落下。自業自得)、見捨てたけど。

 

中に入ったら老婆の格好したモヒカンのお出迎えがあり、中庭ではゴリラの群れに追われ、モヒカンを犠牲(囮とも言う)にして入った地下のダンジョンではモヒカン軍団と実は敵対している組織の首魁だったティアラ婆さん、さらに喋れるゴリラと混戦による戦闘。途中からゴリラと共闘。その間に天の助とボーボボがティアラ婆さんから接吻をぶちかまされ戦線離脱。

 

…と、やたら濃い内容の酷い一日だった。もうヤダ。

 

正直、婆さんみたいな変人のいる組織とは二度と関わりたくないのだが……あの婆さん戦闘中に息子がどーのこーの言ってたし、無理だろーなー。

 

 

そして現実は非情だった。

 

 

真っ先に気付いたのは美鈴。彼女は己の能力でティアラ婆さんの変化を誰よりもいち早く察知した。

 

 

「気の性質が変化していく…? いいえ違う、元に戻っていく…? 初めから別人だった!?」

 

 

驚きつつも後ろに飛び退いて婆さんから離れる美鈴。

貼ってあった札が剥がれ落ちていくように身体中の表面から細長い紙がどんどんと抜け落ちていくティアラ婆さんの姿をした何か……徐々に露になっていく過程でティアラ婆さんに化けた者の正体を私たちは知る。

 

 

「「 モヒカン!!!? 」」

 

 

そう、そこに横たわっていたのは彼の老婆ではなく、この組織に有象無象にいるモヒカンの一人。

 

やがて、彼の体を覆っていた最後の一枚が剥がれると同時に見計らったかのようにティアラ婆さんの声がどこからともなく聞こえてきた。

 

 

『くっくっく… ティアラ婆さんかと思ったか? 残念! モヒカンでした!』

 

 

もはや聞き飽きた野太い老婆の声。だが声はすれども姿は一向に見えない。

 

 

『中世のヨーロッパじゃあるまいし、組織のリーダーを勤める者が先陣を切って戦うわけがなかろう? 安全な場所から遠隔操作でそこのモヒカンを操って動かしていたんじゃ!』

 

 

本当だ。パッと見た程度ではわかりづらいが、モヒカンの背中に携帯電話のアンテナっぽいのが刺さっているのが見える。おそらく、それでモヒカンを操っていたんだろう。なんかどこぞの団体に所属している能力者に似ていなくもない。

 

 

『ちなみにアイテム名は「 携帯する他人の運命(ブラックボイス) 」じゃ!』

 

 

おい。

 

そのまんまだし。名称が。

 

 

『シャルナークは死んだ! もういない!

 だけどワシの背中に! この胸に! 一つになって生き続ける!』

 

 

ああ、やっぱしシャルナークだった。…にしてもこの組織の連中はジャンプ作品由来のアイテムを作ってくる。何か深い意味でもあるのだろうか? あとシャルナークはいい迷惑してると思う。

 

 

『特に意味はない。ただの趣味じゃ』

 

 

疑問を口にした覚えはないのに何故か伝わり律儀に答える婆さん。考えることが顔にでも出ていたのだろうか…?

 

 

「レミィ、ここの施設を無力化した以上、長居は無用よ」

 

「わかってるわよパチェ。こんな辛気くさいところからさっさと脱出するわよ」

 

 

施設の無力化。つまり囚われている妖精たちの解放だが、私の知らぬ間に行われていたらしく、地下へと続く階段からわらわらと妖精たちが現れてはそのまま天井にある地上へと続く穴へと消えていく。そのうち何体かが倒れている咲夜を見て怯えていたが…

 

 

「組織の人間がいない以上ここに居ても無意味。私たちも帰るわよ。紅魔館の居住区部門は破壊されたみたいだけど結界に守られている地下の図書館は無事なんでしょ?」

 

 

それから囚われた妖精たちが全ていなくなりダンジョンの機能は停止。ゴリラたちも去っていき、あとに残ったのは私たち紅魔館の住人とティアラ婆さんの依り代となったモヒカンが一人。その彼の命も風前の灯火と化していて今にも消えそうな気配が漂っていた。

 

そんな彼も何かを言い残したいことがあるのだろう。震える手で虚空を掴むような仕草で細々と呟いた。

 

 

 

 

──…死ぬ前に……彼女を……作りたかった…

 

 

 

 

それだけ言うと腕が力無く垂れ下がり……それ以降ピクリとも動かない。

 

何か共感することがあるのか、ボーボボが片手でモヒカンの瞳をそっと閉じ、両腕で彼を抱き上げると、天の助と首領パッチとともに涙を流しながら叫ぶ。

 

 

「「 モヒカ────ン!!!! 」」

 

 

なんかゴメン。

 

私もモヒカンのために心の中で詫びた。

 

 

涙流すボーボボらを見て、先ほどのティアラ婆さんはモヒカンが化けたものということもあってフランは気付いたのだろう。彼女はそのことを指摘する。

 

 

「それじゃあ、ボーボボと天の助は モヒカンキス したことになるんだね」

 

 

「「 ぐはぁっ!?(吐血) 」」

 

 

今度はボーボボと天の助が口から大量の血を吐く。ついでに抱えていたモヒカンを落とす。

 

それでも老婆とのキスと比べたら幾分ダメージは少ないのか、暫くしたら立ち直ってみせた。もっとも、すこぶる顔色は悪く、足腰も生まれたての小鹿のごとくぶるぶる震えていたが……ともかく私たちは古城をあとにした。

 

 

 

 

   少女移動中 NowLording…

 

 

 

 

徐々に遠ざかっていく古城を背に紅魔館へと帰路に着く私たち。なんやかんやで辺りはすっかり暗くなっていた。

 

咲夜は美鈴に背負われる形で、バイクにはパチェとフランが二人乗りで跨がり、あとは徒歩で一塊になって移動している。

 

その私たちとは別にやや後ろに首領パッチがアヒルの子のようにあとをついてきている。

 

そんなかわいいものでもないけど…

 

歩いて少々時間が経った頃、疎外感に耐えられなくなったのか、恐る恐る首領パッチが話しかけてきた。

 

 

「あのー…」

 

ダメだ

 

 

振り向きもせずに拒否するボーボボ。

 

 

「お前はファブの原液に1ヶ月ほど浸かって臭いを消さない限り近づくのも話しかけるのも禁止な?」

 

 

酷いことをさらりと述べる。でも気持ちはわかる。だって首領パッチは肥溜めに落ちたんだもん。しかも敵に捕らわれ、ティアラ婆さんの強化に使われ、いいように利用された。

 

……………………あれ? よくよく考えたら私たちの足を引っ張ることしかしてない? もしかしなくても首領パッチって役に立ってない? 今回の件。

 

 

「とりあえず1ヶ月間、お前だけドッグフード」

 

「え? 俺ごときにドッグフード!? いいの!?」

 

 

罰としてボーボボは言ったつもりなのであろうが何故か自分を卑下し諸手を上げて大喜びする首領パッチ。だがボーボボが懐から取り出したのはどう見ても食えそうにない金属質の光沢を放つ骨。

 

 

「首領パッチ! メカの素だ!」

 

 

金属製の骨を全力投球するボーボボ。狙い違わず首領パッチの顔面に命中。「ごがっ」という端から聞いてても痛そうな音が鳴る。

 

 

「せめて食えるモン寄越せよ!」

 

 

額に青筋を立てつつ怒り心頭に発した首領パッチがネギを片手に飛び掛かるも、ボーボボは天の助の左足首を掴み、彼の体を得物代わりにして首領パッチを地面に叩き落とし、さらにボールを蹴る要領で林の奥へと蹴飛ばす。

 

 

「首領パッチ菌がつくぞー! 逃げろ~!」

 

 

なんてことを宣いながら天の助をソリ代わりにして颯爽と私たちの目の前を駆け抜けていく。

 

 

「「 ………………………………………… 」」

 

 

古城での戦闘が思った以上に体力を消耗していたのか、私たちはしばしの間、過ぎ去った彼らの後ろ姿を呆然と眺めていた。

 

 

「元気ね。あの人たち」

 

 

たっぷりと間を置いてから言ったパチェの一言に私たちは無言で頷く。

 

 

   ト" ト" ト"   ト" ト" ト"

 

 

再び歩き出そうとしたとき、やたらと無駄に迫力のある日常生活において聞かないであろう重低音の効果音が背後から聞こえてきた。

 

 

「てめぇらはこのオレを怒らせた」

 

 

振り向けばそこには血走った目でこちらを見ている首領パッチの姿があった。

 

 

「吹っ飛ばされた先にこんなのがあったぜ」

 

 

手には木製の桶と柄杓。桶には何やら液体とも固体とも判別がつきにくい物がなみなみと注がれていて、そこかしこに悪臭を放っている。ご丁寧に達筆で「肥」という文字が書かれていた。

 

 

「オレが味わった苦しみキサマらも味わえぇぇ~~っ!!」

 

 

桶と柄杓を振りかざして追いかけてくる首領パッチから脱兎のごとく脇目も振らずに逃げ出したのは言うまでもない。

 

 




(´・ω・)にゃもし。

とりあえず文字数だけ埋めた。
遅れてスマン。


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紅魔館跡地にゴリラがやって来て…
紅魔館の卵


  

 

 とち狂った首領パッチに追われている私たち。いつまでも続くかと思われた追走劇にピリオドを打ったのはボーボボが連れてきた一人の超人だった。

 

 

恐怖のベンキ流し!!

 

 

 腹部が和式便器になっている超人──ベンキマンが自分のお腹にある便器に首領パッチを頭から突っ込ませた後、水流とともに便器の奥へと流し込む。

 

 

「ありがとうベンキマン、お前のおかげで助かったぜ」

 

 

 一応の決着が着いたのを見計らってから礼を述べつつ握手を求めるボーボボ。ベンキマンと呼ばれた彼も「なに礼には及ばん」とボーボボの握手に応じようとするが……

 

 

汚ない手で俺に触ろうとするんじゃねぇ

 

「え?」

 

 

 ボーボボのその一言でベンキマンは動きを止めた。

 

 

 その後、大手を振りながら森の奥へと消えていくベンキマン。気のせいか、その後ろ姿は寂しそうに見えた。やがて彼がいなくなったのを確認してからボーボボがほがらかな笑顔でベンキマンの心情なぞ関係無しに言う。

 

 

「いやぁ~、通りすがりのベンキマンがいてくれて助かったぜ」

 

通りすがりのベンキマンって何!?

 それに助けてもらったのにあれは酷くない!?

 

便器ごときに下げる頭はない

 

貴方、本当に帝国と戦った戦士なの!?

 

 

 この後もボーボボと延々と意味不明な会話を繰り広げていたのだが、途中で見るに見兼ねたパチェが苦言を申してきた。

 

 

 ──やめないと野宿するはめになるんだけど、いいの?

 

 

 よくよく見れば東の空がうっすらと白み始めていた。

 満場一致で私たちは移動を始める。いくら身体が頑丈な人外の集まりでも、さすがに道具無しで野宿は御免被りたいからだ。

 

 

 少女移動中 NowLording…

 

 

 それから歩くこと数分。案の定というか、やはし紅魔館は瓦礫の山と化していて、その中を秘密結社にいたであろうゴリラの群れがもくもくと瓦礫を片付けていた。やがて、そのうちの一体が私たちに気づいて話しかけてくる。

 

 

「貴女たちのおかげで我々は自由を取り戻した。改めて礼を言おう」

 

 

 目を瞑り、深々と頭を下げるリーダー格のゴリラ。そいつにつられて他のゴリラたちも作業を止めて頭を下げる。何この光景……

 

 

「四男の三吉マーク2が我々よりも一足先に天に召されてしまったが、これも運命なのかもしれん」

 

 

 そう言って空を見つめるゴリラ。てっきり長男である一郎が敵対してたゴリラ──アレクを道連れに自爆したと思っていたのだが、どうやら別のゴリラらしい。

 

 もう二度と三吉マーク2と出会えないと思うと、ほんの少しだけ寂しく感じた。ましてや、その身内であるゴリラたちならば悲しみも大きいのだろう。私に話しかけたゴリラが涙を拭う仕草を見せる。

 

 

「私がお腹を痛めて産んだ子なのに……」

 

「え? あなたメスなの? というか母親?」

 

「はい、あの子たちの母で カトリーヌ花子 と申します」

 

「その図体で カトリーヌ花子 って……」

 

 

 つくづくコイツらのネーミングセンスがよくわからん。名付け親がどんな奴なのか、ちょっと気になる。

 

 

「そこで我々は助けてもらった恩を返すためにこの一本の樫の木から……」

 

 

 足下には近くの森から斬り倒してきたであろう一本の木材。それを元手に小屋を組み立て始める。なんとも律儀なゴリラである。そういや囚われていた妖精たちもいたんだが、どこに行ったのやら……

 

 

「──鉄筋コンクリート造の3階建て庭付き一戸建て を建ててみた」

 

なんかスゴいのが建ってる!?

 というか樫の木どこに使ったのよ!?

 

 

 瓦礫が撤去された跡地にはこれまた立派な3階建て庭付き一戸建てが建っていた。ご丁寧にガレージまで付いている。

 

 

「何はともあれ、これで野宿しなくて済むんだ。とっとと入るぞー」

 

 

 勝手知ったる他人の家と言わんばかりに無遠慮に家へと入っていくボーボボと天の助。私を含む女性陣はゴリラたちに礼を言ってから家の中へと入っていく。視界の端にゴリラたちが森の奥へ移動していくのが見えた。

 

 ちなみに家の中には紅魔館で使われていた家具が配置されていた。気が利くゴリラだなぁー、と思いつつ私たちは眠りにつく。

 

 

 少女睡眠中 NowLording…

 

 

 ……トントントン。

 

 

 台所から流れてくるリズミカルな包丁の音に目が覚め、眠い目をこすりながら1階へと向かう。ボーボボたち三人が来たときから聞こえてくる音に、いつものようにエプロンを着けたボーボボが朝食の支度しているのだろうと台所を覗いてみると……

 

 

「おはようございます。 カトリーヌ花子 です」

 

 

 昨日、見たゴリラがエプロンを着けて立っていた。

 

 

あんたら森の奥に帰ったんじゃないの!?

 

「昨日、時間が時間だけに 新幹線のチケット が取れなかったので……」

 

文明の利器で帰るつもりなの!?

 

「それよりもご飯が冷めないうちにどうぞ召し上がってください」

 

 

 ──とテーブルの上に料理を並べていく。置かれた品は餃子、牛丼、ステーキ等々。

 

 

朝から重いんですけど!?

 

 

 しかし、いつの間にかやって来た紅魔館の面々は片っ端から平らげていく。仕方なく自分も席につき、朝食に手をつける。もぐもぐと食事している私にふと思い出すたかのようにパチェが声をかけてきた。

 

 

「ゴリラたちが 紅魔館の卵 を拾ったんだけど、どこに植える?」

 

紅魔館の卵って何!?

 

「……何って、紅魔館が死ぬ間際に最後の力を振り絞って己の分身を吐き出したものだけど?」

 

 

 わざわざ図入りで説明するパチェ。どういうわけか空中に浮かんでいる紅魔館。それを少年期の悟空が下から上へと貫いていた。

 

 

紅魔館はピッコロ大魔王か何かですか!?

 

 

 パラッと二枚目をめくるパチェ。地面に埋められた紅魔館の卵を私を模したゆっくりが水を与えており、右隣の図には双葉の芽を取り囲んで喜んでいる(紅魔館メンバーを模した)ゆっくりたち、最後には紅魔館が完成した図がある。

 

 

植物と同じ手順で復活するの!?

 

 

 いったいどんな魔法を使えばこんな芸当ができるんだか疑問が尽きないものの「元に戻るのなら何でもいいや」……と私は開き直って朝食を平らげることにした。わけのわからんことにいちいち悩んでいたら、こちらの身がもたん。

 

 

 もぐもぐタイム。

 

 

「ここら辺でいいかしら、レミィ?」

 

「ええ、とっととやっちゃって頂戴」

 

 

 全員が食事を済ませ終え、ダチョウの卵よりも巨大な紅い卵形の物体──紅魔館の卵という謎の物体を植えるために外に出た私たち。美鈴に日傘を差してもらいつつ、私たちは事の成り行きを静かに見守る。

 

 やがて、植えた箇所の地面が盛り上がり、地面から芽が出たかと思えば、あっという間に人の身長ほどの背丈にまで成長し、さらにつぼみが出来上がる。それをのほほーんと眺める私たち一同を尻目につぼみが開く。

 

 

 じゃ──ん。首領パッチでした──。

 

 

 植えてビックリ。植物の花に当たる部分が首領パッチという不可思議な生物が誕生した。

 

 私はパチェに対して無言の抗議を送るも彼女は首をゆっくりと左右に振り、次にパチェがボーボボに視線を向けると、やはし同じようにボーボボも首を振り、それから隣にいる天の助を無言で思いっくそ殴った。

 

 

いや、なんで!?

 

 

 唐突に味方を殴るボーボボに思わず問いただす私。マトモな答えが返ってくるとは期待していないが……

 

 

「今はそれよりも紅魔館の卵の行方を探すのが先決だ。秘密結社の手に渡ったら大変なことになる」

 

「そうよ、レミィ。紅魔館の卵には地下図書館にある本が圧縮して納められてるんだから一刻も早く回収しないと……」

 

 

 この私が空気を読めないヤツ扱いされた。納得できん。

 

 

 かくして私たち一同は紅魔館の卵の捜索という意味不明な活動をすることとなった。

 

 




(´・ω・)にゃもし。

 ちょっと、書き方を変えてみた。
 あと遅れてスマン。そして読んでくれて感謝です。


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モヒカン・ランド

  

 

 昼を過ぎた頃。「紅魔館の卵」という謎の物体の捜索のために私を筆頭に美鈴、ボーボボ、首領パッチ、天の助──の計5人はゴリラたちが建てた仮住まいの家を後にする。

 

 美鈴はともかく、他の3人の面子に若干……いや、かなり不安が募るが……それも致し方無しと早々諦めた。

 

 先の戦闘で咲夜は負傷。フランは性格に難があり、人が多いとこには連れていけない。パチェはフランが暴走した時のために彼女の魔法は必要になる。ゴリラの集団など、もってのほか。

  

 

 ──といった理由でこのメンバーになったわけなのだが……

 

 

「ボーボボはまだいいとして、天の助と首領パッチは置いていった方がいいかもね」

 

 

 私から名を告げられて「えっ?」みたいな表情でこちらに顔を向ける二人。人がいる大通りを普通に歩けると思ってたのかコイツらは……

 

 ボーボボは身長が高く、黄色のアフロにサングラスという目立つ格好をしているものの、姿形は人間である。一応。

 

 それに対して天の助と首領パッチは……言わずもがな。ボーボボもそのことを理解しているのであろう。「うんうん」と顎に手を当てつつ頻りに頷いてみせた後、彼は言い放った。

 

 

「やっぱ、全裸 はマズイよなー」

 

全裸以前の問題よ!!

 

 

 

 

「とりあえず、天の助にマントを羽織らせて、ぬいぐるみの振りをした首領パッチを小脇に抱えれば大丈夫だろ」

 

大丈夫な要素が一個もないんですけど!?

 

 

 いそいそと天の助に黒いぼろぼろのマントを羽織らせ、小脇に首領パッチを抱えさせるボーボボ。一通り終えてから、額の汗を拭いながら彼は満足気に言った。

 

 

よし、これで完璧だ

 

どこが!? これじゃあ、ただの不審者だよ!!

 

 

 

 

「よーし、準備も整ったこどだし、そろそろ行くぞ~!」 

 

「ちょっと! それで行くつもりなの!?」

  

 

 「「おー!」」と屈託の無い笑顔のボーボボを先頭に出発する三人。私はもはや「どうにでもなれ」と言わんばかりに冷めた目で彼らを眺めつつ、美鈴に日傘を差してもらいながら彼らの跡をつける。

 

 

 

 

 少女移動中 NowLording…

 

 

 

 

「よし着いたぞ」

 

 

 そう言って立ち止まるボーボボ。彼に釣られて足を止める私たち一同の前にあるのは郊外にある遊園地の一つ。その遊園地の入り口にはデカデカと名前が掲げられていた。

 

 

モヒカン・ランド

 

 

なんか物凄く凄まじく、おかしな場所に着いたんですけど~~~!!?

 

 

「すいませ~~~ん。大人2枚、子供1枚、不審者1枚お願いしま──す」

 

 

 私が盛大に叫んでる横で一人チケットを購入するボーボボ。さらっと不審者って言ってるし……。もっとも不審者呼ばわりされた当の本人は自分のこととは思っていないのか、普通にアーチ型のゲートをくぐろうとして……

 

 

「待て、そこの不審者」

 

 

 ──モヒカンの名を冠している遊園地なだけあって世紀末ファッションに身を包んだモヒカン頭の従業員に背後から肩を掴まれて止められていた。正直、モヒカンなんぞに不審者呼ばわりされたくない。

 

 

「モヒカンを忘れてるぞ」

 

 

 自分がつけている黄色のモヒカンを取り外し、天の助に被せる従業員。

 

 

モヒカン・友情・フォー・エバー

 

 

 去り際にそんなことを宣いながら親指を立てると、ゲートの横に移動して入り口を守る門番の如くに背筋を伸ばして突っ立つ。

  

 

「それじゃあ、中に入るか」

 

「え!? ちょっと、さっきのモヒカンの言動について何か言うことないの!?」

 

 

 こちらが声をかけるも、大した問題ではないと言わんばかりにずかずかと進んでいくボーボボ。

 

 ゲートをくぐった先は、従業員がモヒカンということ以外は何の変哲もない遊園地の風景。

 

 パチェから貰ったログポースもどき(パチェの魔力に反応する魔法道具(マジック・アイテム))を確認すると指針がぐるぐると狂ったように回っていた。

 

  

「ここに入った途端、これがこんな風になるってことはここの遊園地のどこかにある──ってことでいいのかしら……?」

 

 

 腕時計のように腕に嵌めたそれをじっと凝視するもこれといって変化は起きない。

 

 

「ここでじっとしていても話は始まらない。時間はかかるが怪しそうな場所から虱潰しに探すしか方法はないだろう」

 

 

 ……と語るボーボボの視線の先には戦隊もののヒーローショーが行われる野外広場。そこには人だかりができていた。

 

 

「先ずは怪しそうなあそこから探ってみよう!」

 

 

 首領パッチを小脇に抱えた天の助を連れて、生き生きとした表情で一直線に駆け寄る。

 

 

「いやこれ絶対ボーボボが行きたがってるだけでしょ!?」

 

 

 そんなことを言いながらも彼ら三人と一緒に人の壁をかけ分けていく。

 

 

地球戦隊おじひんがーZ!!

 

 

 最前列にたどり着いた頃にはショーの始まりを告げるそんな掛け声がステージから発しられ、続けざまに俳優たちが勇ましい音楽とともに現れた。

 

 

『暑苦しいおっさん! おっさんレッド!!

 

 

 一昔前の主人公が着るような服装をした小太りのおっさんがステージの右から現れてポーズを決める。

 

 

『貧血気味のおっさん。おっさんブルー……』

 

 

 続けてよれよれのスーツを着たバーコード頭の気の弱そうなおっさんが柱にもたれかかりながら弱々しく言う。

 

 

『戦場に咲く一輪の華! おっさんピンク!!』

 

 

 最後に現れたのは……一言で言うならばピンクのゴスロリの衣装で女装したおっさんだった。ご丁寧に長い黒髪のかつらをしているが、一目でおっさんだと分かる。うん、おっさん以外の何者でもない。ついでにちょび髭が生えてるし……

 

 

「っていうか戦隊もののヒーローが おっさん でいいの!?」

 

 

 やがてステージ中央に集まるおっさん三人。彼らの背後で赤・青・ピンクの爆煙が巻き起こり、観客席に向かって声高らかに名乗りを上げる。

 

 

「「 6人中3人揃って地球戦隊おじひんがーZ!!!! 」」

 

 

「全員じゃないの!? あとの3人は!? というか普通5人なのに何で6人!?」

 

 

 ボーボボたちが紅魔館に来たせいである程度、日本の文化を知るようになった私だが……。それでもおっさんがヒーローの話なんぞ、聞いた試しがない。

 

 もっとも、ボーボボを含めた観客たちは皆熱い眼差しでステージ上のおっさんを見ていたが……

 

 

『『 良い子の諸君! 地球がヤバイ!! 』』

 

 

 おっさんレッドとおっさんピンクが腕を組みつつ背中を合わせで観客に向かってそう言い放つ。ちなみにおっさんブルーは力尽きたのかステージ脇にあるベンチで「ぜはーぜはー」言いながら腰かけていた。体力ないなら無理しないでほしいものである。

 

 

このモヒカン・ランドに吸血鬼が紛れ込んでいる!

 

 

 おっさんレッドの言葉にざわつく会場。それとは別に明らかに分かる、私たちに向けたおっさんレッドの視線。

 

 

「「 えー、やだー。こわーい 」」

 

 

 なぜかボーボボたち3人は内股、口元に拳を添えて不安を煽る格好を作っていた。

 

 

「貴方たちは誰が吸血鬼なのか知っているでしょうが……」

 

 

 三人を呆れた目で見ていると突然、人だかりが二つに分かれて、その奥から屈強そうな三人の男たちが出現、歓声が湧き上がる。

 

 

『このピンチのときに、あいつらが駆けつけてくれた!!』

 

 

 異様な熱狂に包まれる会場。老いも若きも関係なしに「リスペクターズ! リスペクターズ!」と連呼する。

 

 現れた三人はそれぞれ、モヒカン頭の巨漢。派手な化粧を施したスモウレスラー。赤い鉢巻に白い胴着をした男。いずれも戦闘を得意とした人間だと一目で分かる出で立ちをしている。どことなく某格闘対戦ゲームのキャラに似ているが……

 

 

「モヒカンと相撲取りは知りませんが胴着の男は偽物ですね。本物はもっと強い気を発してました」

 

「『~ました』って、美鈴は会ったことあるの?」

 

「ええ、日本で一度拳を交えたことがあります」

 

 

 なぜか自信満々に答える美鈴に思わず「そっか、実在してたんだ。リュウ」と呟く私。

 

 

「上等だ。こちらから出向く手間が省けた。ヒーローショーを潰された恨み、お前たちで晴らすとしよう」

 

 

 怒りの炎を滾らせてボーボボが彼らと対峙するように向き合う。正直、しょーもない理由だが……

 

 

「こいつらを倒して目的のものをぶんどるわよ」

 

 

 私もまたボーボボの意見には大いに賛成である。

 

 




(´・ω・)にゃもし。

敵キャラ考えるの、わりとスキ。


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鉄仮面の男

 

 

 ガラの悪い巨漢のモヒカンが自分の頭のモヒカンを両手の指先で挟むと「でぃあっ!」と勢いよく前方に投げ放つ。

 

 

「先手必勝『モヒカン・スラッガー』!!」

 

 

 刃物のような鋭い部分を前にして飛ぶそれだが、ボーボボたち3人は左右にバラけて跳んで避け──彼らの合間を男のモヒカンが通り過ぎていく。

 

 

「しかも脳波コントロールできる!」

 

 

 目をつぶって二本の指を額に当てる大男。彼の意思に反応したのか彼が投げたモヒカンが急激に上昇した後、縦に大きく弧を描いて戻ってきて……

 

 不規則な動きでボーボボの全身を切り刻み、首領パッチを左右真っ二つに切断し、天の助をマントごと賽の目状にバラバラにした後……

 

 

「この人、痴漢 です!」

「しまった!」

 

 

 金髪青年に腕を掴まれた一見紳士っぽい中年男性を切りつけ

 

 

「こいつスリだぞ!」

「やばっ!」

 

 

 逃げようとしたスリの背中を切りつけ

 

 

「指名手配中の 殺人鬼 が!」

「ヒャッハー!!」

 

 

 鉈を持ったホッケーマスクの男の腹部に命中、園内にある池へと突き飛ばした。

 

 

「なんて奴だ! 俺たちだけじゃなく何の罪もない一般人を巻き込むなんて!」

 

何の罪もない一般人、一人もいませんでしたけど!?

 

 

 辺りの惨状に激昂するボーボボ。彼の後ろでは痴漢、スリ、殺人鬼らが警察の手によってパトカーに乗せられ、そのまま連行されていった。とりあえず犯罪者たちによる被害は心配しなくてよさそうである。

 

 

い"や"ぁ"ぁ"ぁ"~~~~~っっっ!!!!

ハ"ケ"モ"ノ"よ"ぉ"ぉ"ぉ"─────っっっ!!!!

 

 

 マントを失ったことで姿が露になったせいだろう。ガマガエルみたいな体型の女性が天の助を指差して叫んでいた。

 

 一瞬、カエル型の妖魔かと思ったぞ。そんな存在に化け物呼ばわりされた天の助は暗く沈んでいた。

 

 そして、女性が悲鳴を上げたことで誰かが通報したのだろう警備員とおぼしきモヒカンたちが駆けつけてくる。

 

 

「なにぃっ!? 化け物だと!?」

「どこだ!?」

「このモヒカン・ランドに侵入するなんて!」

 

 

 まるで見計らったかのように建物の陰、植木の中、あるいはマンホールの下からワラワラと湧いてくる3人のモヒカン。

 

 

「敵は強大だ。クールに決めていこうぜ」

 

「「 オーケー、ラージャー 」」

 

 

 手にこん棒やら釘バット等の得物を携えて一直線へと駆け寄る。

 

 

「「 アタック!! 」」

 

 

 頭、腹、背中へと気合いとともに叩き込む──ただし、女性の。

 

 

何の罪もない一般人が犠牲になった!

 

 

 モヒカンの攻撃に堪らず倒れる女性。モヒカンの一人は見物していた一般人を安心させるために至極、爽やかな笑顔で言う。

 

 

「皆さん安心してください。

 モヒカン・ランドに侵入した化け物は我々モヒカン隊が成敗しました」

 

 

 そう説明すると女性を担架に乗せて何処へと運んでいく。私はそんな彼らの後ろ姿を眺めることしかできなかった。

 

 

 

 

「フハハハ! 怖かろう!!」

 

 

 一連の騒ぎで忘れかけていたが、こっちはリスペクターズの一人である巨漢のモヒカンとボーボボたちが戦いを繰り広げていたことを思い出す。

 

 

「しかも手足を使わずコントロールできるこれをぉぉぉ!!?」

 

 

 3人にダメージを与えたことで気を大きくして饒舌になるモヒカン男。喋ってる途中で返ってきたモヒカンに気づかず眉間に突き刺さって叫び声を上げる。戦闘中に目をつぶるから……

 

 

「「 おのれ! よくもうちのリーダーを!! 」」

 

「そいつリーダーだったの!?」

 

「リーダーの仇はこのニュー・リーダーであるワシが取るしかないようだな」

 

 

 ずいっと前に出てくるスモウレスラー。リーダーと呼ばれていたモヒカン男の頭を片手で掴むとゴミでも放り投げるように背後を見ずに後ろに投げ捨てた。リーダーを敬う気持ちが微塵も感じられない。

 

 

「気をつけろ! 見た目からして相撲が得意な奴に違いない!!」

 

 

 ボーボボが二人に注意を促し、彼らもそれに頷いて応え、スモウレスラーとの距離を取るのだが……

 

 

波動ケツぅ~~~!!

 

 

 敵に背を向け、両拳を地面につけた構えた状態から尻の形をしたオーラを尻から飛ばすスモウレスラー。ボーボボたちはマトモに食らって吹き飛ぶ。

 

 

昇龍ケツぅ~~~!!

 

 

 さらに尻をボーボボたちに向けながら──上昇するヒップアタックの追い打ちでさらにキズを負わせる。

 

 ダメージを受けながらもすぐに起き上がり片膝立ちする3人。ボーボボは口の端から滴り落ちる血を片手で拭いつつスモウレスラーを見据えると次のようなことを宣った。

 

 

「くっ、なんという攻撃力!

 これが スモウ というやつか!!」

 

イヤイヤ、私スモウの事よく知らないけど、これ絶対スモウじゃないよね!?

 

 

 ボーボボたちの有り様を見て両腕を高く翳して「がははは」と笑うスモウレスラー。しかし、その彼が突然「はぐぅ!?」と苦しそうに顔を歪ませ、胸をかきむしるように胸を押さえたのち、その場でバッタリと前向きに倒れた。

 

 

「「 …………………………………………え? 」」

 

 

 私を含めてその場にいた一同は突然の出来事に呆け、しばし倒れたスモウレスラーを目を点にして見ていた。

 

 

「心の臓の発作だな」

 

 

 いつの間にかにスモウレスラーに近づいていた胴着の男。

 

 

「久しぶりの戦闘だというのに、さぞかし無念だったろう」

 

「でしょうね……。

 っていうか、心臓弱い奴を戦闘に駆り出さないでほしいんですけど……」

 

「お嬢様、男には死ぬと分かっていても立ち向かわなければならない時があるのです」

 

「美鈴。私、女なんだけど」

 

 

「敵を前にして会話とは随分と余裕だな、だがリーダーとニュー・リーダーの仇はこの真・リーダーであるこの俺が取らせてもらう」

 

 

 仁王立ちの状態から両目を閉じ黒いオーラを全身から噴出、湯気のように立ち上らせた後、自称、真・リーダーの男は両目をカッと見開いて吼えた。

 

 

二人が味わった苦しみを思い知らせてやる!

 

私達まだ何もしてないんですけど!?

 

 

 私の言葉に聞く耳を持たないのか、片足を上げて滑空するように青黒い残像を連れながら移動する真・リーダー。ボーボボ、天の助、首領パッチを次々と撥ね飛ばして──

 

 

ぎゃぁぁぁ────っ!!!?

 

 

 真横から飛び出したパトカーと追突、勢いよく撥ね飛ばされ、二、三度ほど地面にバウンドしてようやく止まる。

 

 

「「 ………………………………………… 」」

 

 

 再び訪れた静寂。その沈黙を破ったのは美鈴だった。

 

 

「死亡確認!」──と、

 

 

 美鈴には気を察知する能力があるのでそれで生死の判断を確かめたようである。

 

 

 

 

 リスペクターズの最後の一人がほぼ自滅に近い形で倒れたことで、これからどうしたものかと悩んでいる時に…… 

 

 

『──リスペクターズを倒すとはな……』

 

 

 突如、頭上に巨大なスクリーンが投影され、そこにトサカの付いた鉄の兜に黒の軍服の格好をした男が映し出された。

 

 

『それに地球戦隊おじひんがーZもやられたようだな』

 

 

 と、モニター越しにおっさん3人組に視線を送る。おっさん3人組は何のことか分からず「え?」みたいな顔してるけど。

 

 

『敗北者に用はない。貴様らには罰を与えよう』

 

 

 モニター越しにも関わらず、掌から淡い桃色の光線を3人のおっさんに放つ兜男。避ける間もなく桃色の光に包まれる3人のおっさん。

 

 

『私のこの光線を浴びた者は……』

 

 

 もったいぶるように溜めた後、その男は言った。

 

 

おっさん になるのだ!!

 

そいつら元からおっさんなんですけど!?

 

 

 やがて、おっさんたちを包み込む桃色の光がおさまって消えた後には、やはしというか光線を撃たれる前と変わらん、おっさんたちの姿が……

 

 

から に性転換するなんて……」

 

 

 リーダー格の赤いおっさんが女座りでそんなことをめそめそと涙を流していた。

 

 

「あんたらその風体で だったの!?」

 

 

 おっさんたちのその姿を見て笑う仮面の男。彼は一頻りに笑った後……

 

 

『この私──鉄仮面に会いたければ、このモヒカン・ランドにある 公衆便所 に来るがよい』

 

公衆便所!? なんでそんなとこ!? 普通、黒幕ってもっと豪華そうな部屋とかで待ち構えてるものだよね!?」

 

『貴重な品物を壊されると困るから壊されても大して困らない場所を選んだ』

 

「だからって公衆便所はないでしょ!?」

 

『なお、そちらが来ない場合は──』

 

 

 鉄仮面が指を鳴らすと画面が彼の背後へと移動し、見ず知らずのモヒカンが天井から吊り下げられた状態で拘束されていた。額から二本の小さな角が生えていて一目で人間じゃないことがわかる。

 

 

「トモヒロ!?」

 

『ボーボボさん、すいません。ドジを踏んでしまいました』

 

 

 ボーボボに対して謝罪するトモヒロ。どうやらボーボボの知り合いのようである。そんな彼の体の所々には拷問の跡と思われる傷がつけられていた。

 

  

『彼をスパゲティまみれにしてやろう』

 

 

 部屋(公衆便所だけど)にずかずかと入ってくるモヒカンたち。彼らの手には山盛りに盛られたスパゲティが乗っている。

 

 

『ほーれスパゲティだぞ~』

『いい匂いだろ~?』

『ミートソースたっぷりだぞー?』

 

 

 トモヒロの顔近くにスパゲティを持ってくるモヒカン。「トモヒロ!!」と叫ぶボーボボ。「ナポリタンやでー」とケチャップで味付けされたパスタを持つ首領パッチと天の助。

 

 

『妖怪、妖魔……人ならず者たちには、肉体的な拷問よりも精神を追い詰める方法が良く効く、くははははは……』

 

 

 敵対してる私たちを見て嘲笑う鉄仮面。モヒカンたちも彼につられて下品な含み笑いをする。

 

 ボーボボたちも含めて、やってる当人たちは至極真面目にやってるんだろうけど……私からしてみれば、ふざけてるようにしか見えない。

 

 それでもやられているトモヒロには効果は抜群らしく、みるみるうちに憔悴しきっていく。

 

 そんな半死人と言っても過言ではない彼が突然ボーボボの名を叫ぶと同時に縄を力付くで千切って拘束を解くと──

 

 

『俺に構わず悪を討ってください!』

 

 

 隠し持っていた短刀で自分の腹を刺した!

 

 

『なにぃ!? 自害しただと!?』

 

 

 これにはさしもの鉄仮面も驚きを隠せず立ち上がり狼狽え始まる。

 

 

『おそれいりますが
しばらく、そのまま
お待ちください』

 

 

 というテロップとともに画面はどこぞの滝を映し出す。その向こう側からモヒカンたちの慌てた声が聞こえてくる。

 

 

ぎゃー!? トモヒロが暴れ始めたぞ!!

スパゲティだ! スパゲティを持ってこい!!

ダメだ効いちゃいねぇ! こうなったら力付くでおさえるぞ!

 

 

 

 しばらく経つと問題が解決したのか画面が切り替わる。……と思いきや、東アジアらしき地域の竹林風景がそこに映りテロップが表示される。

 

 

『そして僕たちはタケノコになった』

 

 

「何があったの!?」

 

 

 

 

 いくら待っても変わる素振りを見せない上空のモニター。苛立ちを抑えられないのか首領パッチが声を荒げてボーボボに詰め寄る。

 

 

「どうすんだボーボボ!? このままじゃあトモヒロがやられちまうぞ!? 正直、いてもいなくても困らないけどよ!」

 

「公衆便所にいるとは言ってたが、この広いモヒカン・ランドにどれだけの公衆便所があるんだか…… 正直、トモヒロはいてもいなくても困らないが……」

 

「トモヒロは貴方たちの知り合いなんだよね?」

 

 

 私自身もトモヒロが生きようが死のうが構わないが目的の品を持っているであろう鉄仮面には何がなんでもご対面したいところ。

 

 美鈴の能力で探れないかと提案したところ彼女はすぐに返答した。

 

 

「このモヒカン・ランドで気が段々と小さくなっていくのが一つあります。おそらく、それがトモヒロさんでしょう」

 

「さすがだぜ美鈴、どっかのお子ちゃまと違うぜ。そんなお前には500首領パッチ円」

 

「どっかのお子ちゃまって私のことじゃないでしょうねぇ?」

 

 

 美鈴に硬貨を渡す首領パッチに問いただすも、へたくそな口笛で誤魔化そうとする。

 

 

「居場所を特定できるなら話は早い。急ぐぞ!」

 

 

 駆け出すボーボボ。すかさず、その後を私たちが追う。目的の場所は当然、鉄仮面の男がいる場所。……なのだが、その場所が公衆便所なだけにいまいち締まらない。

 

 ため息を吐きつつも、私は僅かにあるやる気を無理にでも奮い立たせて走った。

 

 




( ´・ω・)にゃもし。

というわけで、今回の黒幕さん登場です。
ここまで読んでくれて感謝します。


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イマジナリーフレンド使い

 

 

 鉄仮面に囚われたボーボボの知人──トモヒロを救出すべく私たちはモヒカン・ランド園内を、生命が放つ気、それを探る能力を持った美鈴を先頭に、彼がいると思われる方向に向かってひたすら走る。

 

 

公衆便所 だけどな」

 

「俺がボーボボたちと敵対した時、いろいろあって公衆便所が決着をつける場所になったことがあったけど……今、ボーボボの立場になってみて分かったよ。

 公衆便所 はないよな……」

 

 

 すぐ隣を走る首領パッチと天の助が前を見ながら真顔でいらんことを言う。私だって本音は公衆便所はないと思う。正直、紅魔館の件がなければ今すぐ回れ右して帰りたい。そんな帰りたい衝動を抑えつつ私は黙って走る。

 

 

   少女移動中 NowLording…

 

 

 目的地の場所はすぐに分かった。何しろ辺り一帯にモヒカンの一団が地面に倒れているのだから……。おそらく、トモヒロが暴れたせいだろう。

 

 では肝心のトモヒロは? と周囲を見渡すとモヒカンとは別の──胸に七つの傷を持っていそうな濃い男と一緒に公衆便所から出てきた。ただし、原型をとどめないほどに顔を腫らし、肩に担がれた状態で……

 

 

「トモヒロ!?」

 

 

 暴力の跡と思われる痣だらけの彼の姿を見たボーボボが堪らず叫ぶが無反応。代わりに男の後に現れた鉄仮面が応える。

 

 

「こちらの話し合いに一向に応じないのでね。君たちには悪いが力付くで黙らせてもらった」

 

 

 ──と男に担がれているトモヒロを顎で指す。気配に気づいたのか、トモヒロは弱々しくも喋り始める。

 

 

「……すいません、ボーボボさん。俺が──

 

時給 2,000円 ☆交通費 全額支給

☆完全週休2日制 ☆制服貸与 ☆まかない あり

 

 ──につられたばかりに……」

 

 

「時給と待遇いいな、おい」

 

 

 ボーボボたち3人も時給と待遇の良さを聞いて、王にかしずく騎士の如く片膝を地面につけて履歴書を両手で手渡そうとしているし……無論、鉄仮面が採用するはずもなく──

 

 

「残念だが君たちは 不採用 だ」

 

 

 直後、ボーボボたちは両腕を交差させた状態で後ろに飛び退く(──端から見れば謎の力によって吹き飛ばされたように見えなくもない──)

 

 

「トモヒロを救出しようと接近したんだが、隙がなかった……!」

 

 

 両膝両肘を地面につけて、さも悔しそうに涙を流しながらボーボボが言う。そんなあからさまな態度に私が呆れて無言になるのも致し方無い。

 

 

「そちらの中華のお嬢さんはこちらの指定するウサギスーツを着てくれるなら雇っても構わないんだが?」

 

 

 ウサギスーツ。要はバニースーツのことだろう。美鈴の方に顔を向けながら野卑たことを宣う鉄仮面。正直、美鈴なら似合いそうではあるが……。

 

 ちなみにボーボボたち3人は厚化粧を施した顔でバニースーツを着て突っ立っているが鉄仮面は無視。そこまでして雇われたいのか、こいつらは……

 

 

「ちなみにこれがそのウサギスーツだ」

 

 

 そう言って懐から取り出したのは、顔の部分に穴が空いており、着ている人の顔が見える作りになっている ウサギの着ぐるみ だった。

 

 

「そっち!?」

 

「冬場は兎も角、夏場の炎天下での着ぐるみは堪えるのでね。体が丈夫な者でないと倒れる恐れがある。その点、妖怪や妖魔ならばその心配をする必要はない」

 

 

 至極真っ当な理由だった。

 

 

 そんな中、今まで沈黙していた男──鉄仮面が連れている男が突然、私たちに向けて話しかける。

 

 

「お前たちは胸に七つの傷を持った男を知っているか?

 俺はその男をリスペクトしているリスペクターズの一人……」

 

 

 肩に担いだトモヒロを乱暴に地面に放り捨てると「ほぁぁぁ…」と奇妙な呼吸音を口から漏らし、同時に炎のような揺らぎを見せる赤いオーラを全身から放つ。

 

 さらに変化はそれだけでは止まらず上半身の筋肉が大きく膨れ上がり、筋肉の膨張に耐えきれなくなった上半身の衣服が弾け飛び、その衣服の下から北斗七星と同じ配列をした七つの黒く丸い点が露になった。

 

 

七つ乳首 を持つ男──クリスティーヌ・薫だ!」

 

それ乳首だったの!?

 

 

 とんでもない暴露をしたクリスティーヌ・薫。彼は上半身を剥き出しにしたままボーボボを指差すと次のようなことをぬかした。

 

 

「俺が勝ったらボーボボ、貴様の乳首を頂こう

 

その乳首、人の物なの!?

 

いいだろう、その挑戦受けて立つ

 

受けちゃうの!?

 

 

   ボーボボ戦闘中 NowLording…

 

 

いやー、乳首を取られちゃったよ~

 

負けてるし!

 

 

 さして時間も掛からず決闘から戻ってきたボーボボ。暢気に「あははー」と後頭部に片手を置いて笑っている彼だが、彼が身に付けている衣服の乳首部分が円形に切り取られてていて、そこにある筈の乳首がなくなっていた。

 

 

「ところでレミィ、乳首って生えるのかな?」

 

「知るか! 私に聞くな! んなもん!」

 

 

 自分の胸の部分を凝視しながら、こちらに尋ねるボーボボ。あまりにもアホな質問に怒りと羞恥心で私は顔を多少赤く染めてたかもしれない。

 

 

「まさか乳首を取られたら終わりだと思ってはおるまい?」

 

「まだ、あんの!?」

 

 

 薫の背後の空間が揺らめき、次いでその揺らぎが人型を取り、最後に機械的な女性の形を取って具現化した。

 

 突如、現れたそれに私たちは警戒を強め身構えると、薫がその正体を口にする。

 

 

「これは私のイマジナリーフレンドだ」……と、

 

 

 

 

【イマジナリーフレンド】

 

本人の空想の中だけに存在する人物、及びキャラクター。

当然、他人には見えないし、実体を持って具現化しない。

 

 

 

 

「私の知っているイマジナリーフレンドと違うんですけど!?」

 

「一回呼び出すごとに10000円かかるのが難点だがコイツの能力は折り紙つきだ」

 

「なんで呼び出すのにお金がかかるのよ!?

 それホントに友達って言えるの!?」

 

「俺のイマジナリーフレンドであるシンデレラ。その能力は……」

 

「ちょっと! 無視しないで答えなさいよね!」

 

 

 コ" コ" コ" コ" コ"

 

 

 そんな地響きするような腹にずんと来る重い音とともにボーボボの心臓辺りにダイナマイトの束にデジタルタイマーのパネルのついた物体──時限爆弾らしき物が浮かび上がった。

 

 

「俺の手で乳首を奪われた者を時限爆弾に変えて爆殺させることができる」

 

「乳首を奪われたぐらいで!?」

 

「尚、それを解除する唯一の方法が……」

 

 

 薫が言い終える前に無数の、二個で一組の乳首が乗った長方形の肌色の板が私たちの周囲に現れ……

 

 

「──この中から自分の乳首を探し当てて嵌めることだ」

 

 

 カチリという不吉な音ともにボーボボの胸にあるパネルの数字が10,000から9,999へと減った。

 

 

「「 あのー、すいません! 

  俺たちも技を喰らってんですけど!!? 」」

 

 

 見れば首領パッチと天の助もボーボボと同様に時限爆弾が取り付けられていた。薫に乳首を取られた覚えはないハズなのだが……

 

 

「例外として元から乳首のない者は無条件で爆弾に変えることができる」

 

「「 そんなー! 」」

 

 

 しかもよく見れば二人のタイマーはそれぞれ天の助は「ぬぬぬ」。首領パッチは「13月0日」と設定されている。何これ?

 

 

「ところでスカーレット・レミリア嬢」

 

「なによ? 鉄仮面?」

 

「年頃の娘が乳首を連呼するのはいかがなものかと思うのだが?」

 

「やかましい! 誰のせいだと思ってんのよ!?」

 

 

 いくつもの乳首が漂うというふざけた空間の中、その日、一番ダメージを受けたのはこの私かもしれない。

 

    




( ´・ω・)にゃもし。

◆書きたいこと書いたやつが優勝を糧に書いてます。


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モヒカン・ランド戦 終結

 

 

「くっ、自分の乳首なんて普段そんなに見ないからどれが自分の乳首なのか分からん!」

 

「そうでしょうねー」

 

 

 宙に浮いている大量の乳首と自分の胸にある時限爆弾──刻々と残りの数値が減っていくのを見て焦るボーボボ。

 

 他二人も焦っているが、首領パッチのは「13月0日」で天の助にいたっては「ぬぬぬ」でいまいち緊迫感を感じられない。当の本人たちにとっては死活問題なんでしょうけど……

 

 

「こうなったら一か八かあれに賭けてみるしかない!

 いくぞ! お前たち!」

 

 

 首領パッチと天の助に声をかけるボーボボ。二人も「おう!」と力強く返事を返した後……

 

 

「「 プレイヤーに

  ダイレクトアタック(物理)だ!! 」」

 

ルール無視しちゃったよ! コイツら!

 

 

 両刃斧や鉄の棒の先にトゲつき鉄球といった見た目からして物騒な武器を片手に薫へと襲いかかる3人。戦略的には間違ってはいないが反則な気がする。

 

 しかし、あと一歩のところで見えない壁と激突、直後に発生した衝撃派じみた突風をまともに浴びて吹き飛ばされ戻ってきた。そのうちの一人、首領パッチは忌々しげに薫を睨むと吼えた。

 

 

おのれ卑怯な!

 

どこが!?

 

俺は自分が不利な時は相手を卑怯者呼ばわりしてんだよ! 文句あっか!?

 

最悪だコイツ!

 

 

 そして、ルール無視を行ったボーボボたちに敵は見逃すつもりはないらしく、薫の背後にいるイマジナリーフレンド──シンデレラが動き出す。

 

 

違 反 ニ ヨ リ 、 ぺ な る て シ マ ス

 

 

 口のない仮面のようなのっぺらとした顔でいったい何処から声を出しているのか、ややぐぐもった声でそう告げると──

 

 

「「 パネルの数字が!? 」」

 

 

 ボーボボの胸にある時限爆弾のパネルの数値がどんどん減っていき……

 

 

「ふぅー、ギリギリセーフだぜ」

 

 

 よほど焦っていたのか、額についた汗を拭うボーボボ。彼の胸にあるパネルは「 0,0124 」で止まっていた。

 

 

小数点以下なんですけど!?

 

 

 さらにペナルティを課せられるのはボーボボだけじゃなく首領パッチにも与えられ、パネルに変化が現れる。

 

 

「げ、げぇ~~~!? 俺のは13月もあったのにもう残り1月しかねぇーじゃん!」

 

「あ、それそういう意味だったんだ」

 

 

 そんな二人をよそに天の助のパネルには変化はなく「ぬぬぬ」のままだった。これに天の助がホッと安心したのも束の間、薫は無慈悲な言葉を告げる。

 

 

キサマは見せしめとして爆殺する

 

なんでオレだけ!?

 

 

 天の助の胸のパネルの「ぬぬぬ」が「ねねね」へと変わり、次いで凶悪な面構えをした幾つもの巨大な「ね」が上空から高速で飛んできた。

 

 

ひぃぃぃ~~~っ、こっちに来た───っ!!

 

 

 そして間を置かずに天の助の下へと次々と飛んで群がっていき、その光景はさながら死肉に群がるハゲワシの如く。

 

 

ぎゃぁぁぁ───っっっ!!??

 

「「 天の助ぇぇぇ~~~っ!!!? 」」

 

 

 やがて天の助の悲鳴が消え、彼に群がっていた「ね」が一羽一羽大空へと羽ばたいて離れていき、全てがいなくなった頃には……

 

 

たまには「ね」もいいよね

 

 

 「ね」の文字でびっしりと埋まった白のスーツ、シルクハットで身を固めた笑顔の天の助がそこにいた。

 

 そんな有り様の天の助にボーボボはサングラスの隙間から涙を溢しながら天に向かって叫ぶ。

 

 

天の助が爆殺された───!!

 

爆殺されてないし、すんごい笑顔で生きてるんですけど!?

 

 

 未だ泣き止まないボーボボ。彼の周囲には天の助との過去の出来事が写真のように四角い枠に収まった状態で空中に散りばめられていた。そのほとんどがボーボボが敵の攻撃を防ぐために天の助を盾にしている場面だったが……

 

 

「天の助さん、ろくな思い出しかありませんね」

 

「正直、予想はついてたけどね」

 

 

 天の助の扱いに哀れみを込めて言う美鈴。そうこうしてるうちにボーボボが今の状況を打開すべく次の一手を打つ。

 

 

「目には目を! フレンドにはフレンドを!

 おいでよ♪ 僕のお友達♪」

 

 

 左腕を頭上に右手の掌を地面に向けながらボーボボが陽気に言うと「ポン」というコミカルな音ともに煙が発生。煙の中から小さな人影が現れる。

 

 

「召喚! イマジナリーフレンド『 康一くん 』!!」

 

なんかとんでもないのが出てきた!

 これ本人じゃないよね!?

 

 

 名前も容姿も本物と一緒のイマジナリーフレンド。彼は至極真面目な顔で薫の方へ向けると次のようなことを述べた。

 

 

「もし僕が選んだ乳首が違う乳首だったとしたら、あなたのスタンド(フレンド)で僕の目を傷つけて……

 僕の目を見えないようにしてください」 

 

他人の乳首のためにそこまでやる必要あるの!?

 

 

 

 

   乳首捜索中 NowLording…

 

 

 

 

目がぁぁぁ、目がァァァ!!

 

案の定、間違えてるし!

 

 

 両手で両目をおさえながら地面を転がり回るボーボボのイマジナリーフレンド。やがて力尽きたのか途中でピタリと止まり、来たときと同じようにして煙に包まれて煙とともに消えた。

 

 

くその役にも立ちやしねぇ! 想像以上に想像以下だったぜ! けっ!

 

あんたが想像以上に想像以下だよ! 友達に言う言葉じゃないよね!? それ!

 

 

「やはり最後に頼れるのは自分の力のみ! 自力で探し当てるしかないようだ!」

 

「時間もないのに、どうやって!?」

 

「計算して導き出す!」

 

 

 そう言うとカツカツとチョークを鳴らしながら黒板に数式を書き込んでいく。だが、そこに書かれていたのは────

 

 

 

 

   1+1=2

   3+4=7

   5+2=?

   3+3=7?

   3+3=8…

 

 

 

 

一桁の足し算じゃ無理でしょ!? しかも間違えてるし!

 

 

 やがてボーボボが計算を終えると彼の背後で数字と文字、円や多角形の幾何学模様が具現化して空間を埋め尽くす。

 

 

 

 

   $x^{n}$ 

   $x_{k}$

   $\frac{A}{B}$ 

   $\sqrt[n]{2x+1}$ 

   $z=\vec{x}\cdot\vec{y}$

   $(0,1\cdots,N-1)$ 

   $\sum\limits_{i=0}^{N}$ 

   $\frac{\partial}{\partial x}f(x,y)$  

   $\int_{0}^{\infty}$

 

 

 

 

一桁の足し算で!?

 

 

「よっしゃー! 今の計算で導き出された俺の乳首はこれだ───!」

 

 

 そう言ってボーボボが手に掴んで頭上に掲げたのは掌ほどの大きさの黄色い星のマーク二つ。

 

 

それ絶対違う!

 

 

 しかしボーボボはこちらの主張も何のその「蒸着!」と声を上げて星のマークを両肩に張り付けると──衣服が飛び散って青いパンツにブーツのプロレスラーの出で立ちになり、額に「米」の文字が浮かび上がる。そのボーボボの姿に薫はおののく。

 

 

「ば、ばかな……。あれだけの乳首の中から自分のを探し当てたとうのか……」

 

「落ち着け、薫。ヤツらは体の一部を変質、及び変形させる能力を持っている。その能力を用いて切り離された乳首を変形させたのだろう」

 

 

「いやいや! たとえそうだとしてもレスラーになる意味がわからないんですけど!?」

 

 

 存外冷静な鉄仮面に思わず片手をパタパタさせてツッコムがレスラーの件についてはスルーされる。答弁の代わりに彼は懐から手榴弾のような物を取り出すと、そのまま地面に叩きつけた。

 

 「いったい何を…」と私がみなまで言う前に白と灰色の混ざった煙が手榴弾から噴出、辺りを覆い尽くして視界を遮ってしまう。同時に不快感を感じさせる臭いを嗅覚が捉える。その臭いから察して……

 

 

「催涙ガスの類いよ! 吸わないように気をつけて!」

 

 

 ──と、周囲に呼び掛けるも……

 

 

「「 ごほっごほっ! 」」

 

 

あーもー! 言ってるそばから!

 

 

 一足遅くボーボボたち3人は涙目で咳き込んでいた。

 

 

すいません、お嬢様。ごほごほっ!

 

美鈴、貴女もなの!?

 

 

 煙で四苦八苦してる間にあの二人は逃亡しているであろうが、3人はともかく美鈴を放っておくわけにもいかず、それに彼女の能力で追跡すればすむと考えを改め、煙が晴れるの待つことしばし……

 

 

「「 ごほごほっ!! 」」

 

「 ………………………………………… 」

 

 

 煙が消え去ったあとには──ガスを吸ったのか、咳き込む薫と鉄仮面の姿があった。

 

 

自分たちも苦しんでどうする

 

 

 あきれつつも薫の側頭部にハイキックを叩き込む。

 

 

「「 ぶべらっ!? 」」

 

 

 もろに蹴りを喰らった薫が近くにいた鉄仮面を巻き込んで真横に吹き飛び、公衆便所の壁と激突して壁を陥没。そのまま二人は動かなくなる。

 

 あとには何をするわけでもなく突っ立っている私と苦しそうに咳き込むボーボボたちと美鈴の姿がそこにあったそうな。

 

 




 
(´・ω・)にゃもし。

◆夏は暑い。執筆が渋るがガンバる。
 tex変換ツールが機能するといいなー。

◆tex変換ツール、反映されないなー。(修正1回目)

◆tex変換ツール、やり方わかったよ。(修正数回目)
 


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弁護士=カラサワ

 

 

「凄まじい力を感じる。今ならテリーマンをボコったジャスティスマンを倒せそうだ」

 

 

 星のマークを両肩につけたら、何故かどこぞの超人レスラーみたいな容姿になったボーボボ。彼は変化した自分の姿をまじまじと見つめながらそう呟くと……

 

 

「ほう、それは聞き捨てならないな」

 

 

ひー!? ジャスティスマン来ちゃった!!

 

ジャスティスマン!? 何でいるのよ!?

 

 

 何処から駆けつけてきたのか、やたらと重圧感を放つ超人が品定めをするかのごとくボーボボをじっと見据え、その視線を受けたボーボボは間髪置かずに首領パッチを前に押しつつ言い訳を言う。

 

 

──ってコイツが言ってました!

 

ちょ!? おいっ! ボーボボ!

 

ほう

 

ほう、って今ので納得しちゃうの!? ねぇ!?

 

 

 

 

 

「首領パッチよ~~っ、これがお前に下す最後の裁きだ。

 その思い上がりごと砕け散るがいい──っ!」

 

 

 

 

 片手で首領パッチの顔面を掴むと掴んだまま急上昇、天高くまで昇ると今度は落下を開始。首領パッチの後頭部を下にして落ちていく。

 

 

 

 

 完璧・陸式(パーフェクト・シックス)奥義 ジャッジメント・ペナルティ──ッ!

 

 

有罪(ギルティ)───ッ!

 

 

 

 

 地面と激突。鼓膜を揺るがす轟音が轟き……

 

 そして暫しの静寂の後、ピシッという音を合図に首領パッチの後頭部を起点に身体中にヒビが入っていき……ほどなくして土塊のように崩れていく。

 

 首領パッチの最期を見届け終えるとジャスティスマンはこちらに背を向けていずこへと立ち去る。彼が向かう先には沈んでいく夕陽の幻影が見えた気がした。

 

 

「なんてことだ。天の助だけじゃなく首領パッチまでやられるとは……」

 

「首領パッチは貴方のせいでしょうが、それに天の助は普通に生きてるし」

 

「──だがそのかいあって胸の爆弾は消えたようだな」

 

 

 術者──薫を撃破したせいだろう、ボーボボの胸にあった爆弾はいつの間にか消えていた。あとは「紅魔館の卵」を探すだけなのだが──

 

 

「園内をやみくもに探すよりも彼らから聞き出した方が手っ取り早いわね」

 

 

 そう言って私の蹴りで吹き飛んで壁にめり込んだまま気を失っている薫と鉄仮面に視線を送ると、私の意図を汲み取った美鈴が一つ頷いてから丈夫そうな縄を手に未だ意識を取り戻さない彼らに近づいていく。

 

 

 

 

『──その必要はないですよ?』

 

 

 

 

 その音声とともに宙に現れるのは──もはや見慣れた鉄仮面の画像。ボーボボは壁にめり込んだ鉄仮面と画像に映っている両者を見比べたあと、何やら一人で納得してアゴに手を当てて頻りに頷く。

 

 

「残像、あるいは念能力ってやつか……」

 

「気を失った状態でどうやって残像を残すほどの高速移動ができるのよ? それに念能力はどう説明するの?」

 

「死後の念ならば……」

 

「殺してないよ!? ちゃんと手加減したよ! 私!」

 

 

 ボーボボとそんな掛け合いが面白いのか、画像に映っている鉄仮面は「くっくっく…」と含み笑いめいた声を漏らしたのち……

 

 

『残念だが残像ではないし、念能力でもない。そして君たちがそこで戦っている間に──』

 

 

 

 鉄仮面が映っている画像がどんどんと引いていき、全体像が映し出された。

 

 

『私は空の旅を堪能している』

 

 

 鉄仮面がいた場所は飛行機の機内らしき場所だった。私たちに分かりやすく理解させるためだろう、窓の外の光景──青い空と白い雲を映している。

 

 

『そうそう、君たちの言う「紅魔館の卵」とやらは、()()()()()()弁護士に尋ねるといい』

 

 

 そちらにいる。──と言うからにはすでにこの場にいるのだろう、私は確認のために周囲を見渡すとその男はそこにいた。背が低く小太りで逆立った髪をしたスーツ姿の男が、くりくりとした小動物っぽい円らな瞳でこちらを見ていた。

 

 

「ドーモ、レミリア=サン。弁護士のカラサワと申します。早速ですが()()を始めます」

 

 

 手を合わせて自己紹介するや否や、園内の一角だった場所が裁判所の法廷内部へと瞬時に変わる。

 

 中央──被告人が立つ場所には私が、左側には検察官が立つべき場所にはカラサワ。それ以外の場所にはモヒカンたちで埋め尽くされていた。誰が見てもこれから行われる裁判とやらがこちらに対して不利なのは明白である。

 

 

「ちなみにこの裁判の結果で有罪になった場合は牢獄に直接、転送されます」

 

 

 なにそれ恐い。

 

 

「安心しろレミリア! お前には俺たちがついてるぜ!!」

 

 

 右手から聞こえたボーボボの声に振り向くと、ボーボボを筆頭にやる気の無さそうなウサギ、紙袋を被った半裸の男等々、どう見ても弁護に向いてない連中がそこにいた。

 

 

安心できる要素が一個もないんですけど!?

 

 

 

 

   少女裁判中 NowLording...

 

  

 

 

判決、被告人は無罪

 

「「 よっしゃぁぁぁ~~~! 」」

 

無罪、勝ち取っちゃったよ!

 

 

 モヒカン頭の裁判長が無罪を読み上げるとカラサワはガックシと肩を落とし、対してボーボボたちは喜びの喝采を上げる。

 

 

「「 さすが美鈴だぜ! 」」

 

あなた達が弁護したわけじゃないの!?

 

決め手は賄賂脅迫でした

 

まさかの違法行為!?

 

 

 堂々の違法行為宣告なのに何故か誇らしげな顔で親指を立てる美鈴。ボーボボたちもそんな彼女に対して窘めるどころか囃し立てる始末。

 

 

「キサマの負けだカラサワ=サン!

 鉄仮面=サンが奪った『紅魔館の卵』を返してもらいます! はいッ!」

 

 

 おかしな口調でカラサワを指差しつつ言うボーボボ。カラサワも観念したのか懐から紅魔館の卵らしき物体を取り出す。どうやら本物らしくパチェから借りたログポースもどきの指針がそれを示す。

 

 

「随分と素直ね? 何か裏があるんじゃないの?」

 

「欲しい知識は手に入れた。持っていても居場所を特定されてしまうなら手放した方が良い……と鉄仮面=サンが私ことカラサワに仰ったのです。レミリア=サン」

 

 

 彼の言うことに納得すると同時に新たに語る「欲しい知識」とやらに興味を抱く。強奪してまでも欲しがる知識を問いただそうとした瞬間──

 

 

「残念ながら私はここまでのようです。本来ならレミリア=サンが刑務所送りになるはずでしたが……能力の反動で私が送られるようです」

 

 

 汗だくで言うカラサワの背後には、どことなくフランが使っている地下室の入り口を彷彿させるが巨大な門扉が現れていた。

 

 

「この能力はただ単に刑務所に入れられるわけではなく、送られる者にとって最も最悪な場所へと……」

 

「あらまあ、可愛らしい新入りさんね♥」

 

 

 一体いつの間に現れたのか、彼の背後には縞模様の囚人服を着こんだ屈強な男がカラサワを値踏みしていた。

 

 

「さあ、逝きましょう♥」

 

 

 腕を絡ませ自分の方へと手繰り寄せると開かれた門の奥へと消えていく。最後に見たカラサワの顔は死人と見紛うほど生気を失っていた。

 

 

 

 

アアアアぁぁぁぁ~~~~~ッッ!!!?

 

 

 

 

 扉越しからでも聞こえる耳を塞ぎたくなるほどの絶叫が迸ったあと、誰からともなく私たちは手を合わせて合掌。目をつむりながら彼の冥福を祈った。

 

  




(´・ω・)にゃもし。

◆ようやく目的の物が手に入りました。


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かりそめの宿

 

 

 途中、首領パッチが通りすがりのジャスティスマンに葬られるというアクシデントに見舞われたが、私たちは弁護士=カラサワを下して「紅魔館の卵」を取り戻すことに成功した。

 

 だが、彼が間際に言い遺した「欲しい知識」とやらが頭にこびりつく。尋問しようにも等の本人は自身の能力の反作用で檻の向こう。事の真相を聞き出すためだけに、あの刑務所に行きたいとは思わないし、どこにあるのかも分からない。それに…

 

 

「トモヒロ! 無事か!?」

 

 

 人質になるぐらいならと、隠し持った短刀で自分の腹を刺したトモヒロ。ボーボボは倒れたままの彼の元へと急いで駆け寄る。

 

 

「痛いの痛いの飛んで行け~♪」

 

 

 到着するや否や、頭を撫でながらそう唱える──小さい子どもが転んだときに母親がやるおまじないを笑顔でトモヒロに施すボーボボ。

 

 

天の助とこに!!

 

 

 唐突に怒り顔でトモヒロにビンタをかますと、巨大な空気の塊がトモヒロから放出、天の助に向かって勢いよく飛んでいく!

 

 

ひぃぃぃっ! なんか飛んできた!!

 

 

 突然の出来事に避けることままならず、真正面から攻撃を喰らってしまった天の助。体が風船のように徐々に膨らんでいき、最後には耐えきれずに爆発四散! 水色のゼリー状の物体が辺りに飛び散る。絶命した天の助に対してトモヒロの傷は消えていき、最後には完全に消失した。そんな様子をボーボボはこともなげに言う。

 

 

よし、一命は取り留めた

 

約1名、爆発四散しましたけど!?

 

 

ボーボボさん、ありがとうございます。これでバイトが続けられます

 

まだ働くつもりなの!?

 

 

 傷が癒えたらしく、トモヒロは直立不動の姿勢でそう言うと売店へとそそくさと入っていく。待ち構えていた店長らしきモヒカンがニコニコ笑顔で「君、クビね」と言い渡され「んだと、こらぁ!」と殴りかかる彼の姿を目撃するが…

 

 

「お嬢様、私たちも帰りましょう」

 

「首領パッチと天の助はバラバラになったまんまだけど?」

 

「そのうち復活して勝手に戻ってきますよ」

 

「それもそうね」

 

 

 ──と結論づけて、バラバラに飛び散った首領パッチと天の助をその場に置き去りにして私たちは帰路に着く。

 

 

 

 

 少女移動中 NowLoading...

 

 

 

 

 かりそめの宿として使っている森の中の一軒家。その周辺にはモヒカンの群れが倒れ伏せていた。どうやら私たちが出ていったのを見計らってから襲撃した模様である。もっともそんなことは予想済み。パチェにフランがいるのだ。彼らにどうこうできる相手ではない。もっとも私たちと合流させないための足止め要員という可能性もあったが…… むしろ、そっちの方の可能性が高いのではなかろうか?

 

 

「ヒャッハー! 今日はこんぐらいで勘弁してやるZE!」

「ヒャッハー! 命拾いしたなジジイ!」

 

 

 そんな捨て台詞を残し這う這うの体でモヒカンたちは去っていく。あとに残ったのはモヒカンたちを撃退したであろう白髪、白い髭、鍛えられ引き締まった肉体に鋭い眼光を持った──格闘家とおぼしき一人の老人。知り合いなのか、ボーボボはその老人に警戒することなく近づき、がっちりと固い握手を交わす。

 

 

「助かったぜ マヒャドじいさん

 

マヒャドじいさん!?

 

「この地にムキムキマッチョの老人が現れたと聞いての、もしや メラゾーマじいさん では? と思ってやって来たのだが……」

 

メラゾーマじいさん!?

 

 

 「どうやら別人だったようだ…」と太極拳を嗜む人たちが好んで着そうなカンフースーツを羽織ると、背中をこちらに向けて立ち去った。彼との距離がだいぶ離れたところでボーボボは言った。

 

 

「マヒャドじいさん。いったい何者なんだ」

 

「知り合いじゃないの!?」

 

「今日、初めて会った」

 

「そのわりには親しげでしたけど!?」 

 

「そんなことよりも早く家に入るぞー」

 

「マヒャドじいさんは放っておいていいの!?」

 

 

 

 

 少女移動中 NowLoading...

 

 

 

 

 場所は変わって家の中のリビングにて、そのリビングに設けられているテーブルの上にはちょこんと卵形の紅い物体──紅魔館の卵が鎮座している。その卵に手を翳して調べているパチェ。しばらくしてから調べ終えたのか、手を引っ込めると彼女は語り出す。

 

 

「ダウンロード履歴を確認してみたけど」

 

「ダウンロード履歴って」

 

「ゴーレム作成と死霊魔術に関する知識を調べてたみたいね」

 

 

 「大方、兵士に変わる兵力を模索してたんじゃないかしら?」と開閉部分にギザギザの牙がついて、さらにはでっかいベロのようなものが中から飛び出している宝箱──どう見てもミミックという危険物にしか見えない物に卵をしまおうとする。

 

 

「なんか 死の呪文(ザラキ) を唱えてきそうなんだけど、大丈夫なの? それ?」

 

「攻撃力、防御力が高いから防犯にうってつけなのよ」

 

「いや、そういうことを聞きたいわけじゃなくて……」

 

「それよりも連中にここの拠点を知られた以上、早めに移動することを薦めるわ」

 

 

 ──と出発の準備でもするのか、パチェは彼女が使っている部屋へと移動。そして、入れ替わるようにしてボーボボが現れる。ただし格好は麦わら帽子にアロハシャツ。足下にはビーチサンダルを履いており、ゆっくりの形をした浮き輪を片手で抱えている。

 

 

「俺はいつでも行けるぞ」

 

「その格好でどこへ行くつもりなの?」

 

「明日へ、その先にある世界へ……」

 

 

 明後日の方向を見ながら真顔でそんなことを宣う。ちなみに彼の視線の先にはゆっくりたちが「きゅーきゅー」鳴きながらたむろしていた。そんなゆっくりたちを見守るボーボボに私は告げる。

 

 

 

 

「日本へ、幻想郷のある地に行くわよ」

 

 

 

  




( ´・ω・)にゃもし。

◆地道に投稿。

◆やっとこさ、日本へ


-追記-
 
◆マヒャドじいさんはどこぞのドラクエの4コマに出てたキャラ。
 


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紅魔館、幻想郷へ向かう道中で…
空中の檻


 

 

 明くる朝、ゴリラ兄弟の母であるカトリーヌ花子を筆頭にたくさんのゴリラに見送られながら私たちは紅魔館跡地を去る。そして今現在、私たちは日本に向かっている飛行機の機内にいる。

 

 

『パチェ、貴女の魔法で幻想郷に直接、転移できないの?』

 

 

 ──と、出発する前に我が家の魔女に尋ねてみたのだが…… 彼女は指を一本ずつ立てながら……

 

 

『度重なるモヒカンたちの襲撃で魔方陣がダメになった。

 中途半端な術式だと『*いしのなかにいる*』状態になる可能性がある。

 転移のための魔方陣を直そうにも設備が整っていないと無理。

 何よりも やる気が起きない

 

  

 ──という、ありがたくない返答が返ってきたのである。そんな紆余曲折があって、私たち紅魔館組はボーボボと共に(天の助と首領パッチは未だ復活ならず)飛行機に乗ってるわけなのだが……

 

 

「姉さま、モヒカン が空を飛んで、こっちに向かってるよ♪」

 

 

 窓際の座席に座っているフランがはしゃぎながら窓の外──渡り鳥の群れのように空を滑空しているモヒカンたちを指差している。そんな妹の言葉につられて目を向けたのか、後ろの座席に座っているであろうパチェたちの声が聞こえてきた。

 

 

「翼もないのによく飛べるわね」

 

「舞空術の類いじゃないですか?」

 

「おそらく魔法道具(マジック・アイテム)を使っているのでしょう。組織で既存のやり方にとらわれない新たな飛行方法を模索していましたから」

 

 

 呆れつつも感心したパチェの声。意見を述べる美鈴。最後に憶測を立てたのは咲夜。

 

 最初に言ったパチェの言う通り空を飛び交うモヒカンたちは翼を持たずに飛行している。彼らはいつもの世紀末ファッションにいつもの髪型。いつもと違うのは風避けのために着けているだろうゴーグルと背中に背負っているリュックぐらいだろうか? そんな連中がそこかしこに気持ち良さそうに大空を飛んでいる。

 

 やがて、そのうちの一人が目敏くこちらを見つけたのか、フランがいる窓へと急接近、そのまま窓にカエルのようにへばりつくと片手を背中にあるリュックへと回して中からある物を取り出す。それはある人物を模したぬいぐるみであり、見覚えのあるものだった。

 

 

いぬさくや?

 

 

 二頭身姿の咲夜に犬耳が付いたそれをいそいそと窓に貼り付けると、モヒカンは機体の壁を蹴って飛行機から遠ざかる。

 

 どうやら飛行機に近づいたモヒカンは他にもいるらしく、機内のあちこちで窓に顔を向けながら乗客達がざわめく。そして、窓の外の状況が他の乗客に知れ渡った頃、窓の外にあるいぬさくやの両目がキラリと光る。

 

 

「レミィ、魔道具の一種よ。離れて……」

 

 

 パチェが警告を発する間もなく、機内が一度大きく揺れ、直に止まる。異変が収まったのを確認して窓の外へと視線を移せば……

 

 

「──止まってるわね。この飛行機」

 

 

 今まで流れていた外の風景が、揺れを境に完全に止まっていた。いや、風の流れで雲がゆっくりと流れてはいるが…… そんな中、乗客たちを落ち着かせるためだろう聞き覚えのある男の声のアナウンスが流れる。

 

 

『乗客の皆様にお願いがございます。機内での……

 命をかけた最終奥義!! ……のしすぎにはご注意ください』

 

 

なにこの機内アナウンス!?

 

 

『おい、天の助。こんな逃げ場のない空で命をかけた最終奥義を使うバカはいねえよ。こういうときはこう言うんだよ』

 

 

「首領パッチの声よね? これ? 今度は何?」

 

 

おすぎ! おすぎ! おすぎ! おすぎ! おすぎ!

 おすぎ! おすぎ! おすぎ! おすぎ! おすぎ! ……のしすぎに注意してください』 

 

 

機内アナウンスで何をやってるのコイツら!?

 

 

 訳のわからん機内アナウンスで騒然とする飛行機内。それも当然だろう。空を飛ぶモヒカンに、安心できない乗務員がいるのだから……

 

 

「劣化したものとはいえ、咲夜を模した人形の能力で航空機の時間、正しくは航空機の周りの空気を固めて即席の牢屋に仕立てる。さらにフラン対策に複数、それも視界外に配置」

 

 

 講義染みた口調で誰に言うわけでもなく喋り始めるパチェ。

 

 

「でも大事なのはそこじゃない。連中は私たちが幻想郷に向かうのを嫌がっていること、そのために私たちをここで足止めさせている。それが重要よ」

 

 

 パチパチ パチパチ

 

 

 まばらな拍手とともに前方から近づいてくる一つの気配。案の定というか、そいつはモヒカンだった。モヒカンにしては、やや細身の体躯。銀色のコートに水泳で使うようなゴーグルをかけた目立つ容姿だが、それよりも真っ先に目についたのは──

 

 

決闘者(デュエリスト)か……

 

 

 ぼそっと呟いたボーボボの言う通り、モヒカンの左腕には決闘盤(デュエルディスク)と呼ばれる物が填められていた。

 

 

「まさか本物?」

 

「いや、これは ただの飾り だ」

 

 

 私の疑問に律儀に答えるモヒカン。連中の出所不明の謎技術ならやりかねんと思っていただけにちょっと残念に思ってしまった。

 

 

「──だが、俺の領域(テリトリー)とイマジナリーフレンドの能力を合わせれば、それに近いものを実現させることができる!」

 

 

 モヒカンが言った途端、彼を中心に飛行機内の景色がぐにゃぐにゃと歪みながら変わっていく。

 

 

 




( ´・ω・)にゃもし。

◆筆が進まない。すまん。


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決闘! おじひんがーカード!

 

 

 私たちと己の能力を発動させたであろうモヒカンを除いて、視界に映っている乗客ごと時計回りにぐにゃぐにゃと歪む飛行機内の風景。

 

 やがて、パレットの中の絵の具のごとくにごちゃごちゃに混ざったような景色を作り出した後、今度は反時計回りに景色が回転していき……

 

 

「採掘場?」

 

 

 気がつけば、私たちはどんよりとした灰色の雲の下、切り立った崖に囲まれた場所の中心地に立っていた。

 

 

「これが俺の領域(テリトリー)『いつもの採掘場』よ!」

 

 

 向き合う形で対峙している件のモヒカン。さらに彼の背後に突如として黒い人影が現れ、次いで姿を明かす。

 

 それは宙に浮かぶ上半身とその上半身から切り離された状態で浮遊する二本の腕を持った人型の機械。その手には切れ味の鋭そうな大鎌を両手で携えている。

 

 

「コイツは俺のイマジナリーフレンドのジャッジだ」

 

 

 立てた親指で自身の背後にいるイマジナリーフレンド──ジャッジを背中越しに指差しつつ、モヒカンはそう紹介する。

 

 

「説明が面倒なので省くが、この俺が提示する()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()この空間から抜け出すことができない!」

 

 

 そう言いながら懐からカードが入っていると思われるパックを取り出し、表側をこちらに見せるモヒカン。そのカードパックにはイラスト付きででかでかとこう記されていた。

 

 

決闘! おじひんがーカード!

 

 

 ついでにカードパックのパッケージにはいつぞやの三人組のおっさんが戦隊ものでよくある決めポーズを取っていた。

 

 

「ならばキサマを倒してとっとと脱出するのみだ!

 クレジット36分割払いアタック!

 

 

 左腕に決闘盤(デュエリスト・ディスク)を装着したボーボボがモヒカンに向かってカードを一枚飛ばす! 飛ばしたカードは無数の光弾となって分裂、流星のような尾を引きながらモヒカンへと飛んでいく!

 

 

男なら現金一括払い攻撃

 

 

 対してモヒカンは一枚のカードを光弾の群れの中に投げ放ち、直後にカードが発光、次に爆発、光弾をまとめて消滅させて防いでみせた。

 

 

カードゲームで戦うってそういう意味なの!?

  

 

 驚く私をよそに戦いはなおも続く。

 ボーボボが爆発を迂回するようにモヒカンの側面に移動、カードをくくりつけた拳で殴りかかる。

 

 

ボーボボ・立ち小パンチ連打!

 

 

 ビシッ! ビシッ! ビシッ! ──と、どことなく格闘ゲームを彷彿させるボーボボの左ジャブの連打。しかし、モヒカンはこれを右腕を上げた立ちガードの構えで対処。

 

 そして、ボーボボの連打の合間を縫って一枚のカードをボーボボの方へ放り投げるとそのカードが巨大化、ボーボボのパンチを受け止めてしまう。さらにデュエリストらしく右腕をボーボボに向けながら声を高らかに叫ぶ。

 

 

「ドナーカード発動! 対象プレイヤーの攻撃を無効化! さらに対象プレイヤーはドナーカード登録しなければならない!」

 

 

なんで!?

 

 

 唐突なドナーカード宣告に思わず叫ぶ私。ボーボボの前にはドナーカードおぼしきカードが現れ、次いで書くための台座が煙とともに現れた。そして戦闘中にも関わらずカードに記入していくボーボボ。

 

 

私は臓器を提供しません

 

 

 しないんだ。

 

 

 常人には理解し難いよくわからない戦いはボーボボが『天の助』『首領パッチ』を召喚してから更に過熱、モヒカンもまた動き出す。

 

 

「『幸せの壺(本体価格20万円)』を発動! この契約書にサインをしてもらおう!」

 

「断る! 俺の代わりに『天の助』が契約する!」

 

「なんで俺が!?」

 

「『スミドリ』を犠牲にして『第9王子 ハルケンブルグ』の能力を発動! 『首領パッチ』のコントロールを得る!」

 

「ベンジャミン王子殿ォォオオ!! 万歳ィイッッ!!!」

 

 

 ボーボボが盾として召喚した二人だが、モヒカンはこれを冷静に排除。守る盾がなくなったことでがら空きになってしまったボーボボの陣営。そこへモヒカンが一気に距離を縮めて急接近。勢いをつけたまま束ねたカードの角の部分でボーボボのこみかみを強打する!

  

 

デッキの角・アタック!!

 

 

ぐわぁぁああっっつつつ!?

 

 

 額が割れ、そこから血が間欠泉のごとく勢いよく吹き出し、さらに全身を刀で傷つけられたような裂傷ができあがり、そこからも血が飛び散り、最後にボーボボが後ろ向きに吹っ飛ぶ。

 

 

あの攻撃で何でそこまでダメージを負うのよ!?

 

 

 モヒカンの攻撃がよほど堪えたのか、両手で額を押さえながら転がり回るボーボボ。そこへ、今まで静観していたジャッジが喋り出す。

 

 

ボーボボのヒットポイント が 「0」 に なった!

 デュエリスト・モヒカン は ボーボボ を 倒した!

 

 

 RPGのゲームを思わせるジャッジの物言いに眉をひそめるものの、ジャッジはそれ以上は何も言わず再び沈黙。また、それ以上の行動をしてこない。

 

 

「……って、それだけ? ペナルティとかはないの?」

 

 

 そう尋ねるのは当然と言えよう。

 

 

「安心しろ。ペナルティはない。強いて言えばカードゲームで負ったダメージそのものがペナルティかな? ついでに言えば決闘(デュエル)を受けなければ負傷することはない」

 

「──でも、貴方と決闘(デュエル)して勝たなければ、ここを出ることができない。ゆえに戦わざる得ない……ってわけね」

 

 

 思った以上に厄介な能力である。この様子だと、決闘(デュエル)を無視して本人をはっ倒す──ボーボボが以前、同様のイマジナリーフレンド使いに対して使った手──対策をしていることだろう。

 

 

「美鈴の、彼女の気配を察知する能力では何も反応を示さない。

 咲夜が時を止める能力を行使しても時間は止まらない。

 妹様は破壊するための物体の綻びの目が見えない。

 

 私たちの能力は発動せず、敵対者──モヒカンたちの能力だけが発動する。彼らにとって都合のいい世界ね、ここは……」

 

 

 ボーボボとモヒカンが戦ってる間にこの奇妙な空間を調査してたらしく、そんなことを述べるパチェ。

 

 

「どうやら、私自身が彼と決闘(デュエル)して調べてみる必要がありそうね」

 

 

 そう言いながらパチェは腕に決闘盤(デュエル・ディスク)を嵌めた。

 

 

 動かない図書館と比喩される頼もしい魔女が動き出す。

 

 




( ´・ω・)にゃもし。

◆たまには他のキャラを活躍させなくちゃ……


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非現実の世界

  

 

「……デッキを、カードを持ってない場合はどうなるの?」

 

 

 左腕に嵌めた決闘盤(デュエル・ディスク)を右手で弄りながらそう尋ねるパチェ。よくよく見ればデッキをおさめる収納部分は空になっている。

 

 

「カードならこちらが用意しよう」

 

 

 モヒカンが指を一つ鳴らすと「ぽん」という煙とともにカードパックが山盛りに積まれたテーブルが出現。これでデッキを作れ、……ということらしい。

 

 

「ルールに関しては?」

 

「モヒカン・ランドで行われているスタンダード・ルールがいいだろう。詳しいことはテーブルにあるルール・ブックを読めば分かる」

 

 

 「そう、ありがとう…」と実に素っ気ない返事をした後、傍らにあった電話帳並にやたらと分厚いルール・ブックとやらに一通り目を通していくパチェ。

 

 

「なんか決闘(デュエル)する流れになってるけど、勝つ見込みでもあるの?」

 

 

 私たちの中で唯一の経験者と思われるボーボボが敗北した手前、素人どころかこの類いのTCG(トレーディングカードゲーム)の経験がなさそうなパチェが勝てるとは到底思えない。

 

 

「素人がプロに勝てるわけないでしょ? あくまで決闘(デュエル)することが目的だから勝敗は関係ないわ」

 

 

 ──と、あっさり認める。そうこうしているうちに準備が整ったらしく決闘(デュエル)を始める両者。傍目からでも素人とは思えないカードバトルを披露するパチェ。それを涼しげな顔で淡々と捌いていくモヒカン。そんな戦いの最中、何かしら脱出するはないのか、と方法を探す私たち。

 

 そんなやり取りをしている私たちをよそにボーボボは何をしているのかというと、アフロから取り出した黒電話でどこかにかけていた。

 

 しかし、いくら待っても発信音しか鳴らさない電話に不信を抱いたのか、一言「おかしい…」と呟くと……

 

 

「さっきから 武藤 遊戯(むとう ゆうぎ) とこに電話をかけているんだが、一向に繋がる気配がない」

 

「え? 貴方、王様を呼べるの?」

 

「ああ、だが今はどういうわけか遊戯どころか、ゆっくり妖怪も召喚できない。どうやらこの空間では第三者を呼び寄せることができないようだ」

 

「~ようだ。って、貴方さっき天の助と首領パッチを召喚したわよね?」

 

「あいつらはレアリティSSGSSのカードが具現化したものだ。本人たちではない」

 

「なにそのDB(ドラゴンボール)の変身したサイヤ人っぽいレアリティの名前」

 

「ちなみにあいつらのレアリティの価値は最上位だ」

 

「あいつらが?」

 

「ライフポイントを支払えば墓地に置かれる代わりに手札に戻すことができるからな、しかも相手のターンでも使用できるぞ」

 

「……よくわからないけど使い勝手のいいカードだってことはわかったわ」

 

 

 会話をそこそこに武藤 遊戯を呼び出すのを諦めたのか、ボーボボは黒電話をアフロの中にしまう。

 

 そして、解決の糸口を見つけられないまま、パチェとモヒカンの決闘(デュエル)が佳境を迎え……やがて、終えた。

 

 モヒカンが自分の命を人質に「 社長の死ぬ死ぬ詐欺 」を敢行。「俺が死ぬと元の世界へ戻れないぞ!」と恐喝。パチェはしぶしぶ決闘(デュエル)を投了したのだ。

 

 

「「 おい! デュエルしろよ! 」」

 

 

 モヒカンを除いた全員の非難もなんのその、しれっとした顔を見せるだけで全く動じる気配を見せないモヒカン。

 

 

「ちょっとォォォ! これってありなの!?」

 

「嫌なら決闘(デュエル)しなければいいだけだぜ? レミリア嬢?」

 

 

 口の端を上げて人を小馬鹿にした笑みを浮かべる始末。ジャッジも「無罪」と書かれた紙を掲げるだけで対応する素振りを見せない。

 

 モヒカンの態度にイラっとした私はこの状況を打開すべくをモヒカンに近づいていく。しかし慌てた美鈴が背後から抱きしめるような格好でこちらの動きを抑えてきた。

 

 

「お嬢様、落ち着いてください。ここで彼らに危害を加えるようなこと、それに似たような行動を取れば、ボーボボさんの二の舞を演じることになるかもしりません」

 

 

 言って顔を横に向ける美鈴。そこには地面に力なく横たわっている首領パッチと、血を滴らせる釘バットを片手に彼を見下ろしているボーボボの姿があった。

 

 

人気投票1位の首領パッチは不幸な事故で亡くなられたので繰り上がりで6位の俺が1位になります

 

どう見ても貴方が犯人でしょ!?

 しかも何でそれで6位から一気に1位ってどういうこと!? 」

 

 

「パチュリーさんとモヒカンが決闘(デュエル)してる間にパチュリーさんのお願いでボーボボさんが背後から赤ん坊くらいの大きさの石でジャッジを攻撃しようと試みたのですが……」

 

「やってることが卑怯極まりないんですけど!?」

 

「以前のクリスティーヌ・薫と同じく攻撃を通さない結界に阻まれ、罰としてあのような 悪夢 を見せられてるのです」

 

「あれ 悪夢!? 本人の願望にしか見えないんですけど!?」

 

 

 顔を歪めながら「悪夢」と言う美鈴に、私が否定するのは当然と言えよう。

 

 

「この空間でルール違反──モヒカンかジャッジを攻撃すると本人の願望が投影されるみたいね。やたらと煽ってくるのはそのためかしら?」

 

 

 パチェの言ってることが正しいのか、モヒカンは口をつぐんで押し黙り、鋭い視線をゴーグル越しに彼女に向ける。

 

 

「私たちの自身の能力が反映されない、使えない。しかし相手は好き勝手できる非現実の世界。それができるのは…… おそらくここは彼らの夢の中、精神世界、あるいは仮想空間じゃないかしら?」

 

 

 パチェの憶測が正しく、肯定を示しているのか、モヒカンは口の端を上げて笑った。

 

   




( ´・ω・)にゃもし。

◆ほぼ空気のキャラとかいるので、そういったキャラの言動も考えないとダメだね。


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夢の終わり

 

 

 片方の口角を上げて笑うモヒカン。その彼の左手のひらの上に煙とともに一つのぬいぐるみが現れた。咲夜を小さくデフォルメした例のぬいぐるみ──通称いぬさくや──だ。

 

 

「こいつには人の持つ視覚、聴覚、ありとあらゆる感覚に働きかけて人を眠らせる能力が備わっている。こいつでおたくらを含めた乗客を全員、眠らせた後……」

 

 

 次に現れたのは無骨で飾り気のない灰色のサークレット。モヒカンは空いた右手でそれを指に引っかけてぐるぐると回しながら説明してきた。

 

 

「こいつを眠っているおたくらの頭に嵌めて、俺の夢の中にある領域(テリトリー)『いつもの採掘場』に引き摺り込んだ。……ってわけさ」

 

 

 そう得意気に語るモヒカン。

 

 そして、ここから少し離れた場所には現状を打開するため、行動を起こしたものの、失敗したためにジャッジから罰を受けて幻影を見せられているボーボボがいる。

 

 

『人気投票1位おめでとうございます! ボーボボさん!』

『やったね! ボーボボ! 念願の1位だよ!』

 

『みんな、ありがとう』

 

 

 ボーボボに賛辞の言葉を送っている少年少女はボーボボの知人だろうか、その周囲では人だかりができていて実に賑やかである。こちらの姿が見えていないのか、気に留める素振りを一切見せない。

 

 

『さあ、ボーボボさん、これから皆で 首領パッチぶっ殺すゲーム をやりましょう!』

トゲ付き鉄球 とか持ってきたよ!』

 

 

なんか凄い物騒なことを笑顔で仰っている!!

 

 

 物騒な名前のゲームを行うためだろう、少年がボーボボの手を引き、少女がボーボボの背を押して何処かへと連れていこうとするが……

 

 

「いや、俺は友と帰るよ」

 

 

 どこか寂しげな表情でボーボボがそう言った途端、彼の周辺の空間が音を立てて軋み、次に幾筋もの亀裂が走る。

 

 そして最後には割れたガラスのように複数の破片を撒き散らして砕け散った。

 

 

「ば、ばかな。あの空間から自力で抜け出したというのか……」

 

 

 ジャッジが見せる幻影に絶大の信頼をしていたのか、幻から覚めたボーボボに恐れおののくモヒカン。ボーボボはそこから脱出したわけを話す。

 

 

「当然だ。 俺が人気投票で1位を取れるわけないだろ

 

「認めて受け入れてるし! それでいいの!?」

 

「ああ、世の中には順位よりも の方が大事だということに気づかされた」

 

「リアル過ぎるよ! こういう場面って普通、ためになることを言わない!?」

 

「………夢を見ることは悪いことじゃない。だが…相応に現実を見なくてはな少年」

 

「少年じゃないわよ! 私は! それにそれ、オールマイトがデクに言ったときのセリフだよね!?」

 

 

「どうでもいいがお前ら一応ここは敵の陣地だということ忘れてないよな?」

 

 

 堪え性がないのか横から私とボーボボの会話に口を挟んでくるモヒカン。

 

 

「ジャッジの罰が効かなくともキサマらにここを脱出する術がないことに変わりはない!」

 

 

 そう啖呵を切るも……

 

 

「ドラえもんのどこでもドア~」

「ドアドアの実の空気開扉(エアドア)♪」

「黒霧のワープゲート?」

 

 

 場違いな三つの女性の声音。両手をメガホンの形にして、美鈴、フラン、咲夜が声を発したものだ。彼女たちの声がモヒカンの領域(テリトリー)内で響き渡り、ほどなくして彼女たちが口にした物体が具現化した。

 

 

「さすが貴方の夢の中の世界ね。ちょっと単語を口にしただけで勝手に想像して形にしてくれる」

 

 

 モヒカンはパチェに対して舌打ちをするも、具現化したものはそう簡単には消せないのか、その場に留まり続ける。そして、私たちを逃がさないために両手の指の間にカードを挟んで扉の前に立ちはだかる。

 

 

「立ちはだかるならば退かせるだけだ! 想像しろ!」

 

 

 ボーボボが片膝立ちで地面に片手を置いて叫ぶ。

 

 

ときめき☆女子高生300人大行進!

 

 

 学生服を着たさまざまな髪の色をした女子学生が出現、あっという間に人で溢れかえり……

 

 

「ただし首から上が 世紀末モヒカン!!

 

 

 続いて言った言葉で見目麗しい女子学生の顔がゴツい顔をしたモヒカンに早変わり。これにはさすがのデュエリスト・モヒカンも絶句。怒涛のように押し寄せるモヒカン頭の女子学生の群れにモヒカンは為す術もなく埋もれてしまう。

 

 

「おめでとう。これで君も ハーレム主人公 だ」

 

「いやだぁぁぁ!! こんな ハーレム主人公 はイヤじゃあぁぁぁ~~~!!!!」

 

「ああ、そうか。水着やハロウィンとかのコスプレがないからイヤがっているのか」

 

 

 なるほど、と手を叩くボーボボ。それを合図にモヒカン女子高生の格好が制服から水着、はたまたハロウィンで見かけるコスプレへ変貌。 首から下は美少女の肢体なのに、頭部だけが厳つい男 というそれが与える衝撃は凄まじく……

 

 

「@#÷ちょ、%$※○おま?!〒♭♪◇♡&¥!!??」

 

 

 声にならない悲鳴を上げるモヒカン。天に向けて両腕を上げるその様は、底無しの沼から這い出るため、もがいているように見えなくもない。

 

 やがて、抗う体力が尽きて諦めたのか、モヒカンは親指を立てながらモヒカンの海へと沈んでいき、ほどなくして完全に没した。

 

 

 

 

 

 

 

 




( ´・ω・)にゃもし。

◆ここまで読んでくれてありがとう。
 キャラクター増えると難しい。


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機内での出来事

 

 

「「 真っ赤な、お鼻のー♪ 」」

 

 

 サンタの格好をしたボーボボと、トナカイの角をつけた首領パッチと天の助の3人がクリスマス定番の曲を歌ってはしゃいでいる。

 

  

「「 サンタのおじさんは言いました~♪ 」」

 

 

 そこまで歌うと急に歌うのを止める3人。首領パッチと天の助は酷く暗い表情で足下を見ていて、二人の前方にはサンタの格好のままのボーボボが机を挟んで二人に背を向けた状態で椅子に腰掛けていた。彼らがいる部屋の中の空気がやたらと重く感じる。

 

 

 やがて無限にも思える沈黙の後、二人に顔を向けることなくボーボボは冷たく言い放った。

 

 

 

 

今日中に辞表を提出したまえ

 

 

 

 

   少女睡眠中 NowLoading…

 

 

 

 

いや、サンタ酷くない!?

 

 

 ガバッと勢いよく上半身を起こして私は目覚めた。両隣には大きな熊のぬいぐるみを抱えた寝間着姿のフランとボーボボ。周囲を見渡すとそこは薄暗い飛行機の中なのだが、何者かに荒らされたのか散乱しているうえに他の乗客たちの姿が見えない。

 

 

「………………………………ん?」

 

 

 不意に足下を、小動物が体を擦り付けるような何ともこそばゆい感触を感じ取り、そこに目を向けると見慣れた丸っこくデフォルメした頭部だけの妖怪──ゆっくり妖怪がたむろしていた。しかも見覚えのあるサークレットを口に咥えて。

 

 どうやらこの小さな妖怪があの夢の中から抜け出すのに一端を担っていたようである。ボーボボのアフロに潜んでいたために、いぬさくや人形による睡眠攻撃を免れたのだろう。

 

 

「感謝しろ。なんかこれのせいでうなされていたみたいだからな、王様に頼んで外してもらったZE☆」 

 

お前、喋れるんかい

 

 

 得意気に語る小さな妖怪。正直コイツらが喋れることに驚いたが、彼女(……でいいのか?)が呼ぶ「王様」という人物に関心が引く。おそらく夢の中でボーボボが呼ぼうとしたあの人物のことだろう。彼の姿が見えないのが気がかりだが……

 

 

「なんか急用があるみたいだから、とっととボーボボのアフロに入っていって帰ったぞ?」

 

「……あ、そう」

 

 

 思ったことが顔にでも出ていたのか、足元にいるゆっくり妖怪がそう答える。王様がボーボボのアフロに乗り込む姿を思い浮かべつつ、まずは現状を確認することが先決だろうと考える。幸いなことに両脇にいる二人に加え他の面子──後ろの座席にいるであろう三人が目覚める気配を感じ取った。

 

 

「人避けの結界でも張ったのかしら?」

 

「機内に人の気配が感じられませんね。消していたら分かりませんが…」

 

「組織は人の目に触れるのを大変嫌がってましたから、おそらく今回もそういった工作をしているのでは…」

 

 

 私が座っている座席の後ろから三者三様の意見を述べる。

 

 

「どっちみち、ここにいても仕方がない。それならとっとと出ていった方がいいだろう」

 

「その意見は大いに賛成だけど、その格好はどうにかならないの?」

 

 

 相も変わらず寝間着姿のボーボボ。彼は抱えた大きな熊のぬいぐるみを通路側に、それも自分と向かい合うように置くと……

 

 

「それじゃあボーボボさん、自分はこれで帰りますので」

 

「ああ、おかげでぐっすり眠れたよ。マタギに気をつけな」

 

「え? それ人形じゃないの?」

 

 

 傍目からではただのぬいぐるみにしか見えない、つぶらな瞳をした熊が急にすくっと立ち上がってボーボボに対して深々と一礼すると、そのまま出口へと向かったのである。

 

 

 

 パァ────────ン!!!

 

 

ぎゃぁ────────っ!!?

 

 

 熊が飛行機の扉から出ていって、さして時間も経たずに銃声らしき音と熊の断末魔とおぼしき悲鳴が聞こえた。その音と声を聞いて、しんと静まり返る機内。そして何事もなかったかのようにボーボボは言った。

 

 

「よし行くか」

 

「「よし行くか」って、今の銃声が聞こえなかったの!?」

 

「おいおいレミリアここは日本だぜ? 人様を銃で撃つような物騒な人間がいるわけがない。さっきのは熊だから撃たれたんだろ」

 

 

 「大丈夫だ問題ない。俺を信じろ」と、自信満々に機内通路へと足を踏み入れた瞬間。

 

 

「ぐわぁぁぁ────────っ!!?」

 

「ほら、言わんこっちゃない!」

 

  

 突如、ボーボボに向かって放たれた銃弾の嵐。避ける間もなく全身に受け、銃弾が止んだ後、そのまま仰け反るようにして後ろに倒れてしまう。

 

 

「あら、ごめんなさい。急に飛び出すから反射的に引き金を引いてしまったわ」

 

 

 自分がした残虐行為を何の悪びれもせずにそう言って私たちの目の前に現れたのは人形めいた容姿と表情をした金髪の少女。ただし両手に自動小銃(アサルトライフル)というゴツい装備をしている。

 

 

「そんな、ボーボボが死ぬなんて……」

 

 

 よほどショックだったのか、口に両手を当てて涙ぐむフラン。倒れたボーボボを見てみたら、顔面はもとより、全身に銃創の跡があり、到底お子さまには見せられない状態になっていた。確かにこれを見たら普通は死んでいると思うのが常人である。

 

 

「な────んちゃって!」

 

 

 しかしそこはボーボボ。突然、飛び上がって起きたかと思えば、両手を頭の上に、両腕で輪っかを作ってそんなことを陽気に宣う。

 

 

「じゃ~~~~ん! こんなこともあろうかと防弾チョッキを着てました!」

 

 

 ガバッとシャツの前を開けると防弾チョッキらしきベストが見える。もっともに顔面の銃創から血がだらだら流れていて防弾チョッキが役に立ったとは言えない。そんな状態にも関わらずボーボボは件の少女に対して至極真面目な顔で話し掛ける。

 

 

「久しぶりだな、アリス。ゾナハ病を撒き散らす自動人形(オートマータ)を破壊している人形破壊者──しろがねと共に真夜中のサーカスを追っているお前が何故こんな所に?」

 

「──自動人形とか、しろがねとか……って

 うちと世界観が違うんですけど!?

 こっちが相手してるの モヒカン なんですけど!? 何この差!?」

 

「彼女の名はアリス・マーガトロイド。見た目で分かると思うが人形遣いだ」

 

自動小銃(アサルトライフル)を振り回す人形遣いがいてたまるか!」

 

「これから説明をするわ。ダイジェスト で……」

 

ダイジェスト で!?」

 

 

 そしてファンファーレを合図に機内に設けられている大型スクリーンに映像が投影される。その名もボーボボ劇場。

 

 

 

 

 少女鑑賞中 NowLoading…

 

 

 

 

 機内はモヒカンたちが仕掛けたぬいぐるみ──いぬさくやによる催眠で全員が寝静まっている。そこへ夢の世界で会ったデュエリスト・モヒカンが現れ、私たちの頭にサークレットを慎重にそっと嵌め込んでいく。

 

 よほど緊張していたのか、作業を終えたモヒカンは「ふぅ…」と額についた汗を手で拭いつつ息を吐く。

 

 

「「 そこまでだ 」」

 

 

 逆行を背に現れたのは首領パッチと天の助。普段のふざけた態度はどこへやら、キリッと表情を引き締めて厳しい目でモヒカンを見据えている。

 

 

「機内に人間に扮した自動人形(オートマータ)とそいつらを破壊する人形遣いの集団」

 

「それも全てはこのためだったとはな……」

 

 

 天の助と首領パッチが重々しく言う。私たちが乗ってたこの飛行機は予想以上に大変な事態に陥ってた模様である。

 

 しかしモヒカンはこのことを予測していたのか懐からモンスターボールっぽい物を取り出し、投げ放つ。

 

 

「バルムンク=フェザリオン、見参」

 

 

 一体何が出てくるのか思えば、長髪の漆黒の鎧を纏った一目で只者ではないと分かる男だった。ついで始まる両者の戦い。どんな戦いが行われるのやらと固唾を呑んで見守っていると、彼らは真剣な表情で「牛乳の早飲み」から始まり……「逆立ちしながらの格闘対戦ゲーム」「ベイブレード」「ミニ四駆」等々をやっていた。

 

 それから勝負すること10戦目か過ぎた頃、一応の決着が着いたらしく両肘両膝を床に付ける首領パッチと天の助。対して不敵な笑みを浮かべて二人を見下ろすバルムンク=フェザリオン。

 

 

「くっ、このバルムンク=フェザリオンが負けるとは!」

 

 

 お前が負けたのか……

 

 

「ただでは死なん! キサマらを道連れだ!」

 

 

 おいっ!? 

 

 

 自らの体を風船のように大きく膨らませるバルムンク=フェザリオン。無関係な乗客もろとも自爆するつもりだろう。

 

 

「「 バイバイ、みんな… 」」

 

 

 短い別れの言葉を告げた後、未だ膨らみ続けるバルムンク=フェザリオンに掌を当てて、敵と一緒に消える首領パッチと天の助。そして遥か遠くで爆発音が聞こえ、この機内で各々の敵と戦っていたらしい人物たちが首領パッチと天の助を称え、あるいは二人のために涙を流していた。……と、そこで映像が終え、しばらく無言が続く。

 

 

 

 

「えーっと、この後どうやって幻想郷へ行くの?」

 

 

 見せられたボーボボ劇場にどう反応すればいいのか分からず、とりあえず目的地である幻想郷への道順をボーボボに尋ねるのは私でなくてもそうしたはず。

 

 

 

 

「まずは電車で アッガイ村 だな」

 

アッガイ村!?

 

 

 

 




( ´・ω・)にゃもし。

●クリスマスなので以前書いてたネタを…


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