キングダムif  馬陽で信が龐煖を討ったら (魯竹波)
しおりを挟む

前編 馬陽は勝利にて

度重なるお願い

戦術うんぬんは突っ込まないでください(^-^;



信「るぁああああっ!」

 

信は龐煖の動きを全て読み切り、彼の剣は龐煖の体に深く突き刺さる。

 

だが

 

(浅い……………殺れてねぇ)

 

信の剣は骨の髄に届いていない。

 

信は作戦の失敗を悟った。

 

しかし、その時。

 

(………………俺が力を貸そう。 信)

 

どこからか懐かしい声が信の脳裏に響いた。

 

(…………………漂?)

 

その声の主は、かつて秦王・嬴政の影武者となり、朱凶に討たれた信の親友の漂であった。

 

(信………………こいつはお前と俺が中華を征く上で、絶対に倒さなけりゃならない大きな障壁だ。

共に倒そう )

 

(…………………おう!)

 

そのやりとりはまさに刹那の出来事だった。

 

その瞬間、信は力が漲るのを感じた。

 

 

信は剣に力を集中させ、一気に龐煖の骨の髄を裂いた。

 

烈しい鮮血が信の顔を染めた。

 

龐煖の巨体が地面に倒れ込むのを、信は背後に感じた。

 

確実な手応えと共に。

 

信が地面に着地した時、巨大な音と共に遺体は地面に落ちた。

 

尾平「………………………っ。 し、ししし信……………っ!!」

 

次の瞬間。

 

秦国軍「「「「「うおおおおーーーっ!」」」」」

 

勝利が確定した秦国軍、無論、飛信隊も勝利の雄叫びを上げる。

 

動けないでいたのは夜襲をかけていた万極軍とその迎撃にあたっていた王騎軍第4軍長・干央だけであった。

 

干央はあり得ぬ…………という表情を崩せずにいたが、やがて。

 

干央「今すぐ、この情報を各地の味方に知らせるのだ!

飛信隊・信が敵の総大将の首を挙げたとな!」

 

王騎軍兵士「はっ!」

 

干央「この勝利に酔うのは後だっ!

今は目の前の敵を討つぞっ!

 

干央軍、突撃ィ!」

 

干央は万極軍への突撃を命じた。

 

一方の万極軍も。

 

万極「ほ、龐煖様の……く、首を………は、辱めさせる……な 

全軍、じ、蹂躙………しろ」

 

万極軍も迎撃体制を整え、干央軍との戦闘に入った。

 

が、やはり万極軍の対秦への恨みは凄まじいものがある。

 

加えて、総大将を喪ったことへの怒りが彼らを支配している。

 

干央軍はたちまち、劣勢に追い込まれた。

 

干央「飛信隊・信!  早く龐煖の首を持って退却しろ!」

 

信「う、う、うっす!」

 

信と飛信隊は首を包むや、他の秦国兵たちと一緒に退却を始めた。

 

退却する飛信隊を先導するのは魯延と石だ。

最後尾には尾到と山和がついている。

 

 

 

この様子を王騎は直後すぐに知った。

 

早馬「き、き、急報~~っ!

敵総大将・龐煖、敗死っ!

我が軍の勝利が確定いたしましたっ!」

 

王騎はこの報せに耳を疑った。

 

六将・摎をもってしても殺せなかった、いや、返り討ちにされた因縁の敵を、自分から奪ったのは誰か。

 

蒙武それとも、騰か。

 

王騎「……………………して、どちら様ですかァ?

龐煖さんを狩ったのは?」

 

早馬「ひ、ひ、飛信隊・信という百人将です!!」

 

側近「な、な、なんとひ、ひ、百人将っ!?

し、しかも、あのガキが?」

 

隆国「ば、馬鹿なっ!」

 

王騎も驚きのあまり、声を喪ったが、やがて

 

王騎「…………………そうでしたか。 しかし誰であれ、今がたとえ夜だとしてもやることは変わりありません。 

 

夜明けを待っていたなら、あの敵であれば間違いなく体制を整えにくるでしょうからねェ。

 

騰、録嗚未、鱗坊、同金に指示通り動くよう、伝えなさい。

 

蒙武軍にもです

 

隆国。 この本陣を頼みましたよォ?」

 

隆国「はっ!」

 

隆国は王騎の本陣を守り。

 

王騎は干央軍の救出に。

 

騰軍は趙荘本陣に。

 

録嗚未・鱗坊・同金の軍は、李牧の仕掛けた伏兵部隊の各個撃破に向かう。

 

王騎は既に、騎馬隊の到着が自身の予想よりも早かったことを長年の戦場で培った 勘 で悟っていたのだ。

 

勘が働くのは何も本能型の将に限った話ではないのである。

 

後は話が早い。  

伏兵の潜んでいると思われる予測地点を割り出し、立ち込める殺気という確信を以て軍を動かして叩けばいいのだ。

 

 

 

なお、蒙武軍は退却の経路の予測地点にて、退却してくる趙国軍の追撃の任に当たることになっている。

 

 

 

 

 

 

 

一方、趙荘のいる本陣。

 

趙荘「何っ! 龐煖様が討たれた?!」

 

早馬「はっ! 間違いありません!」

 

趙荘「くっ  だから不安だったのだ!

 

これでは、これでは王騎めの首は取れぬではないかっ!」

 

趙荘は床几を足で破壊する。

 

早馬「して、どうなさいますか?」

 

趙荘「撤退しかあるまい!

李牧様の真の狙いは王騎めの首だったのだ!

 

それが、王騎めに対抗する 武 を喪った今、もはやそれは不可能だ

李牧様もきっと撤退を望まれるだろう

 

撤退の用意をするように、全軍に伝えるのだっ!」

 

早馬「ははっ!」

 

と、その時。

 

兵士「趙荘様! た、直ちにお逃げくださいっ!

て、て、敵ですっ 王騎の副官の騰が、騰の軍がここ、本陣に迫っております!」

 

まさに電光石火だ。

 

おそらく、王騎の伝令が届く前に動いたのだろう。

 

趙荘「ぐっ……………。 王騎めっ!

逃がさぬ ということか……。

 

そして、隠していたなっ  優秀な副官を……!!」

 

次の瞬間、騰自らが趙荘の本陣に乱入。

騰の剣により趙荘はその生涯を終えた。

 

 

 

一方、李牧。

 

趙国の兵士の出迎えのもと、伏兵部隊の1つと合流していた。

 

李牧「何です?  この騒ぎは

味方の本陣が特に騒がしい気がしますが、もしや………………」

 

早馬「はっ…………どうやら龐煖様が討たれたようです!」

 

李牧「!!…………………やはり。

趙荘も愚かな将ではありません。

退却命令を全軍に届けたのではありませんか?」

 

早馬「はっ!  どうやら、そのようです!」

 

李牧「賢明な処置です。

もはや、王騎の首を取るのは不可能。

無駄な戦は避けねばなりません

………………私からも全軍撤退を命じます。」

 

カイネ「李牧様………………。」

 

と、そこへ

 

早馬「き、き、急報っ!

録嗚未軍です! 

録嗚未軍、来ますっ!」

 

李牧「全軍、退却!

夜陰に紛れて録嗚未軍からの追撃を逃れてください!」

 

総大将の死が広がっている以上、士気の差は明白である。

 

また、李牧は無用の戦を避けたがる。

 

兵士「ははっ!」

 

李牧「その他の伏兵部隊とは、本来王騎を迎え撃つ筈だった平原で合流するのです!

ここで合流し、軍を再編し、追撃を企む蒙武軍を流動の陣で撃破した後、あらためて退却の指揮を執ります!」

 

李牧は雁門の騎馬隊と共に、逃れた。

 

雁門の騎馬隊は機動力に定評があり、録嗚未軍から逃れることなど造作もない。

 

そして、李牧たち雁門の騎馬隊が平原にて合流を図ろうとした次の瞬間。

 

李牧「……………どうやら、2つの伏兵部隊は、大半が王騎にやられてしまったようですね…………。

まさか伏兵の到着の時期までバレているとは思いもよりませんでしたが。」

 

右手、右奥から伏兵部隊の敗残兵、合計5千ほどが李牧の騎馬隊に合流する。

 

その直後、左奥後方からは万極軍の敗残兵、ついで、干央軍と王騎の本隊が現れた。

 

王騎「まったく、お見事でしたよォ?

私がここまで追い込まれたのは本当に久しぶりですねェ。

久々に血が滾りましたよォ コココココ。

ですが、貴方は1つ、心得違いをしました。

 

それは、趙国に新たな力の台頭があるように、秦国にも新たな力の台頭があるということです。

 

それでは、やっておしまいなさァい!」

 

号令と共に、新たに前方から蒙武軍、同じく右手から鱗坊軍と同金軍、

左手からは干央軍と王騎本軍がやってきた。

 

更に。

 

王騎「おや、貴方も間に合いましたか。 騰?」

 

趙荘本陣を撃墜した騰の軍が山から降りてきた。

 

そして、李牧軍の後方からは録嗚未軍が来た。

 

王騎「ンフフゥ。

どちら様かは知りませんが、本来ならば、貴方達がこの地で私たちを包囲殲滅する予定だったのでしょォ?

 

残念でしたねェ ココココ。」

 

程なく王騎の軍は包囲殲滅に入る。

李牧の雁門騎馬隊は流動の陣をかろうじて敷き、善戦するも、蒙武の破壊力の前に陣形は無力化。

 

雁門騎馬隊は全体の八割を失う大敗を喫し、李牧はどうにか戦場を逃れたという。

 

 

 

 

 

 

後年、合従軍が秦国の蕞を攻撃した際、雁門騎馬隊がいなかったために麃公と飛信隊は趙軍に先回りして蕞への入城を果たし、趙軍3万を楊端和の助けなしに撃退している。

なお、この時の大将も龐煖という名だが、こちらは李牧が策により立てた偽物という説、

兵法家の龐煖と武芸者の龐煖の2人が存在し、蕞を攻撃したのは劇辛を討った兵法家の方だとする説が秦国内に流布されることになり、後者が今日に伝わっている。

 

 

 

 

 

 

とにかく、こうして、秦国軍は趙国軍に圧勝したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




拙い戦術描写 深くお詫び申し上げます。

下手の横好きとはよく言ったものですね笑


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後編 矛は新たな世代へ

王騎をはじめとする秦国軍は咸陽に凱旋した。

 

そして、大王・嬴政の前で論功行賞が行われる。

 

信(政………………。)

 

いつもとは違う礼装に包んだその王を見るのは信にはやはり新鮮に思えた。

 

そして、論功行賞が始まった。

 

竹簡を読み上げるのは軍総司令・昌平君である。

 

昌平君「まずは第一功 戦を勝利に導いた総大将・王騎将軍!」

 

オオーッと文官から、王騎軍から、歓声が上がる。

 

王騎はンフと一笑すると、嬴政の前に立て膝をついて、嬴政のもとに跪く。

 

昌平君「王騎将軍には宝物15点、爵位1階級昇級、ならびに金10000と然るべき土地を授ける。」

 

 

政「王騎、これからも秦国のため、よろしく頼む」

 

 

王騎「それは出来ない相談ですねェ  大王。」

 

政「?!」

 

一同はどよめきたつ。

 

昌平君「……………どういうことでしょうか?」

 

王騎「私、悟ってしまったのですよォ。

六大将軍、三大天の時代は既に過去の時代であると。

完成され、伝説の時代となりつつあることを。

 

そして、これからの時代は、新たな世代の時代となるでしょう。

 

この 童 信のような………………ねェ?」

 

王騎はその巨大な手で信の手を掴む。

 

信「お、王騎……………将軍…………………。」

 

王騎「ゆえに大王。 申し訳ありませんが私は貴方と共に中華を歩むつもりはありません。

 

ですが、 私は大王の行く末を見守っております

 

どうか偉大な王におなりください。 大王。」

 

王騎は自らの席に戻った。

 

一同は黙り込んでいる。

 

昌平君は構わずに竹簡を読み上げる。

 

昌平君「続いて、第二功 百人将ながら、かの六大将軍・摎を以てしても討てなかった敵総大将・龐煖を自ら討ち、戦局を決定づけた百人将・飛信隊・信!」

 

またさらに大きなどよめきが場を支配する。

 

「百人将で第二の功を? 」

 

「しかも、六大将軍・摎を以てしても討てなかったという総大将を自ら?」

 

昌平君「飛信隊・信! 前へ!」

 

信「え、は、は、うっす!」

 

緊張のあまり、信はぎこちない動きで政の面前に出る。

 

政「まさか、もうこの場で会えるとは思わなかった。」

 

信「へへっ。  俺もだぜ」

 

信からはいつの間にか、緊張が消えていた。

 

昌平君「飛信隊・信には宝物8点、金2000を与え、

住居のある風利の地を拡張。

加えて爵位を3階級昇級、将位を三百人将に昇格。

その後、然るべき手柄を以て千人将に昇格させる!」

 

政「これからも、秦国のために尽くして欲しい。」

 

信「あ、ありがかく。」

 

信は立て膝をついて跪く。

 

 

そのしっくりと来る光景に目を奪われなかったものはいなかったという。

 

 

 

そして第三功・騰、 第四功・蒙武の表彰などが行われ、論功行賞は終わりを告げた。

 

信「さて、帰るか」

 

と、そんな信を王騎は捕まえる。

 

王騎「後で私の城にいらっしゃい 童信?

いいものを差し上げましょう。」

 

信「いい物?」

 

王騎「それは来てからのお楽しみです。

待ってますからねェ? 童信。」

 

王騎は信に返事をさせる暇も与えずに去って行った。

 

 

 

 

数日後

 

信「このさき…………だったよな、渕さん?」

 

渕「は、はい。  間違いないはずです…信殿」

 

三百人に増えた飛信隊を引き連れ、信は王騎の城に向かった。

 

するとあと1里というところで。

 

ドドドド という土煙が巻き起こり、王騎の騎馬隊がやってきた。

 

王騎「来ましたか 童信?」

 

信「それで、何をくれるんだ? 王騎将軍?」

 

録嗚未「こ、こいつ………!! 殿を」

 

隆国「黙れ録嗚未。 」

 

王騎「その前に、龐煖を討ってくれた礼を言い忘れていました。

礼を言いますよ 童信。」

 

信「い、いや、礼を言われるようなことじゃねえよ」

 

王騎「実は龐煖さんには借りがあったのですよ。

本来なら私、自ら叩き潰すつもりでいたのですが、貴方に取られてしまいました。

 

童信の分際で、やるじゃあありませんか コココココ」

 

信「その因縁って……………六大将軍の摎とかいう将軍か?」

 

王騎「ええ、 …………まぁ、話すと長くなりますからこの場では話すつもりはありません。

 

それで、これが貴方への礼です。」

 

王騎は自らの矛を信に手渡す。

 

一同、あっけに取られる。

 

信「い、いいっ!?  お、王騎将軍………いいんすかコレ………。」

 

王騎「童信。 その矛は今日から貴方の物です。

今はまだ貴方には重いでしょうが、いずれ、中華に名を轟かすその時は、その矛と共に、思う存分、暴れまわってください。

 

貴方には期待していますよ 飛信隊 信」

 

 

 

 

その後、王騎は完全に前線を引退。

翌年には病死する。

 

まさに時代の終焉を象徴し、燃え尽きるかのような死であった。

 

王騎軍を継承したのは王騎軍副官の騰である。

 

この騰が、後に王騎軍を率いて韓を滅ぼし、内史騰と呼ばれるのは当分先の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(終わり)

 

 

 

 

 

 

 




やっぱり原作の王騎将軍の死は信の糧としては正解でしたね


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。