マブラヴで楽していきたい~戦うなんてとんでもない転生者 (ジャム入りあんパン)
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激闘!BETA戦線
序章・とりあえず始まり
神様転生って知っているかい?
そう、あれだ。俺は何番目だかのキリ番の死者ということで、特別に来世に転生する際に、特典を持ち込めることになった。
やったぜラッキー!と思った俺は悪くない。誰だってそう思うはずだ。
死んでラッキーだとは思わない。何しろ、ラストは通り魔に刺されて死んだんだし。
が、これで色々と取り返せるはず。そう思った俺は、頭脳チートを手に入れた。
ゲート・オブ・バビロン?一方通行?はんっ、そんなの選ぶやつは素人だね。
いいか、いつだって生き残るのは頭のいいやつだ。それに、なんでわざわざ危険に飛び込むようなスキルを手に入れなければならない!
俺の目標はこうだ。頭脳チート炸裂。超発明品炸裂。著作権料でウハウハ。美女を両手に左うちわ。分かるか!?
金だ!世の中は金なのだよ!
ウハハハハハハハハッ!!!
そう思っていました。この時までは。
俺の名前は新塚拓哉。日本帝国の禄を食む武家、新塚家の長男だ。
えっ、大日本帝国じゃないの?ちょっと待て、武家?江戸時代じゃないのに?
お父さん、普通にスーツを着て出勤してました。お母さん。普通に洋服です。
そして、テレビから聞こえる物騒極まるデスワード。
その名は、
BETA
マブラヴかーーーーーー!!!!!
かくして、世の中を甘く見ていた転生者の、頭脳チートをフルに利用したこれはヒドイな物語が始まるのであった。
さて、改めて状況を説明しよう。俺は、と言うより俺の家は白の武家。武家としては最下級だが紅蓮家に連なる家らしく、それなりに格はあるのだそうだ。
紅蓮家って、グレンダイザーのおっさんの家かい。
んで、うちの父上は技術職の人らしく、帝国技術廠にお勤めしているのだとか。もちろん、これは父上の職場見学に行って知った。対して母上はごく普通の主婦。そこはすごく安心した。
まあ、マブラヴの知識なんてかなりいい加減だけど、たしかこの時代はまだF-4ファントムぐらいしかないはず。最前線の衛士の皆さんには是非とも頑張ってもらいたい。
ちなみに、現在は西暦1979年。俺は5歳だ。
ただまあ、幸いだったのは頭脳チートを有効に活かせそうな世界だったことか。と言っても、俺自身はまだまだ無力な5才児(笑)。何を言っても信じてもらえないだろうなー。
いまの俺にできることは、父上の書斎に勝手に入り込んで本を読み、現実と知識チートのすり合わせをするぐらいだ。
そう決意して一週間。
退屈すぎて死にそうです。誰だよ、幼稚園の頃に戻りたいって抜かしたバカは。めちゃくちゃ退屈じゃねえか。
やることがないのがこんなに退屈だとは思わなかった!
どうする俺。調子に乗ってみるか?
何しろ、この頭脳チート。いい具合にイカれてやがる。具体的にどうイカれているのかと言えば、うっかり「この世界でネオグランゾンって作れるのかなー」とか言うアホなことを考えたら、冗談シャレ抜きでネオグランゾンの作り方が頭に浮かんだ。
そして、それが本物だと理解できた。材料がないから作れないけど、これ、スパロボ世界だったらアウトだぞ。
ちなみに、イデオン、ゼオライマー、ヤルダバオトと言ったバランスブレイカー系の機体の設計図もコンプリートしていました。
いや、たしかに頭脳チートがほしいとは言ったけど、ここまでとは思わなかった。現に、父上の書斎の本はもう読むべきものがない。目を通したそばから片っ端から理解できてしまったのだ。
技術書ばかりだったが、これでこの世界の戦術機については理解できた。
後は、頭脳チートをバラすタイミングだが、確か、巌谷中佐が瑞鶴でF-15を倒すんだったよな。それ、いつだったっけ?だいぶん先じゃないかな。
いや、ここで調子に乗らなくて何がオリ主か!それに、俺自身の生存戦略にも関わる。
武家である以上、将来は戦術機の衛士になることがほぼ確定している。そんなのは死んでもゴメンだ。ガンダムVSガンダムは好きだけど、戦場の絆も好きだけど、現実の戦争なんざゴメンだ。
俺は自分の頭脳を世間に知らしめて、戦場に出なくてもいいようにするんだ!
さて、だったらどうするか。まずは父上だな。俺に対しては親バカな父上だ。どこぞの『おぼっちゃまくん』の父上ほどではないが、ちょろい人だ。
やってやる。俺は自分が楽に生きるために徹底的にやってやる!
俺は、戦わずに生き抜いてやる!
こんなノリで突き進んでいきます。
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1・暴露する瞬間は結構度胸がいる
「拓哉、話とは一体何なんだい?」
厳つい顔を引きつらせながら俺に問いかける父上。ちなみに、あれでも笑顔のつもりだ。
俺は父上の帰宅と同時に、大事な話を切り出した。場所は父上の書斎。母上も俺を膝に乗せて話を聞いている。
「はい。大事な話でございます」
そうして俺は語りだした。自分の頭脳について。
転生者云々については話さない。話せないし、そこまで話すと話がややこしくなりすぎる。
最初は軽く聞いていた父上は、俺に少しずつ問題を投げかける。最初はかんたんな算数。それは徐々に高度になり、面積、体積の問題、速度の計算。それをすぎれば中学生レベルの数学になり、高校生レベルにまで達した時点で父上は流石に理解した。
「分かった!もうよい。それで、お前はその知識で一体何を為すつもりだ?」
「無論、世界の平和を」
キュッと俺を抱きしめる力が強くなる。そういえば、母上の膝に乗っていたことを忘れていた。
「些かスケールが大きすぎるな。お前はまだ5歳だぞ」
「自分でもそう思います。でも、このまま燻っていることは出来ないのです!」
燻っていると、下手をすればデッドエンドだ。何しろ、俺が住んでいる場所は京都。うろ覚えだが、確か1998年ぐらいに日本侵攻があって、関西地方は壊滅状態になるはずだ。
だからこそ、守るために戦術機が必要になる。守ってくれる衛士が必要になる。それを育てるためにも今の段階から必要なのだ。
下衆な考えと笑いたくば笑えよ。俺はこの世界でBETAに食われて死ぬなんてゴメンだ。どうせ死ぬなら腹上死だ!
父上、母上、マジでごめん。こんな息子だよ。
俺の心の中なんてまるで見えていないだろうけど、必死さは伝わったらしい。父上は頷くと、一枚のディスクを手渡してきた。
「そこには我が国の戦術機、撃震のデータが入っている。そのデータを元に機体性能を引き上げてみせろ」
「分かりました。つきましては、父上のパソコンを使わせてください」
あっさりとした俺に、父上も今度こそは顔が引きつる。
何しろ、アメリカの戦術機F-4を必死に研究してようやく完成した機体なのだ。それを5歳児にあっさりと受け答えされるとそうもなるだろう。
だが、俺は自重しないぞ。全力で原作ブレイクしてやる!
あんまり覚えてないからどこがブレイクしたのかもわからないんだけどな!!
俺は図面をいじりながら、ちょっと甘く見ていたことを反省する。
アメリカの技術者は優秀だわ。F-4ファントムという機体は超優秀。日本の技術者がこれだけ弄ってなおカスタムの余裕があるんだから。さすがは全ての戦術機の原型機だ。おかげで色々いじれるってもんだ。まあ、一番いじらなきゃならないのはOSの方なんだけど、そっちを見せてもらうためにはこちらをしっかりしないといけないな。
とりあえず、改造ポイントとしては頭部バルカンの設置。これは多くの二次創作なんかでも定番だったよな。撃震だからこそ出来るってもんだ。逆に、不知火とかってそういう余裕はあるのか?
んで、カスタムするんなら武器もしっかりしないとな。ライフルと近接武器が長刀だけってのもちょっとあれだ。
近接武器の長刀はヒートサーベルに、他にもヒートホークを用意。誰もが刀を使えるわけじゃないし、取り回しの意味でもこっちのほうがいい場合もあるだろう。
射撃武器はいっその事レールガンに変えるか。遠距離狙撃用はスパロボOGのバーストレールガン。通常タイプのレールガンは・・・あった。ドラグナーの武器がハンドレールガンだ。口径が大きくなってしまうけど、そこは無理矢理36mmに合わせよう。
他のサブウェポンは、そうだ。Zガンダムみたいにグレネードを腕に仕込んでおこう。あれは結構使えそうだ。
後は、無駄についている装甲をちょこちょこ削って少しスマートにして、はい、完成。今の段階で出来るのはコレぐらいだな。
計算上では攻撃力は言うまでもなく上がるし、機動性も10%増しってところかな。
あー痛い痛い。まるで末期の中二病患者が考えたみたいな撃震だわ。って、俺は末期の中二病転生オリ主だったな。
だけど、文句は言わせない。これで衛士の損耗も減るはずだ。後の陽炎だとか不知火にも反映しやすくなる。
俺は、ただのオリ主じゃないぞ。
「こ、これをお前が作ったのか?」
図面を見た父上が驚きの声を上げる。そりゃそうだろう。レールガンなんてバカげたものに、機動性の向上まで成し遂げたのだから。
「父上、これでいいですね?」
「十分すぎる。だが、拓哉。これだけの知識をどこで・・・」
やっぱり、と言うか、当然のごとく出る疑問だ。だが、俺の答えは決まっている。
「父上の蔵書で勉強しました」
これで押し通す。押し通すったら押し通す。不自然だろうが不気味がられようが、俺は自分が生き延びるために、戦わず生きるために強引にでも押し通す。
父上はしばらくじっと俺を見ていたが、やがて諦めたように溜息をつく。
「分かった。そういう事にしておこう」
「助かります」
不気味がられて捨てられる可能性も考えていたが、本当に助かった。
と言うか、疑ってごめん、父上。
「では、これはお前が設計したということで持っていくが、本当にいいのだな?」
「はい。望むところです」
「では、そのようにしておこう」
父上の俺を見る目が、明らかに不審者を見るそれだが気にしない。俺は絶対に戦わずに生き延びるんだ。その為なら親の不信感ぐらい・・・・・・いや、まあ、地味にキツイけど。
これで俺が技術廠に入ることができるようになる。そうすれば、XM3だったか、キャンセルと先行入力できるOSを作って、あー、その為にはメインコンピューターも新しいのに変えないといけないんだっけ。
いっその事、OSは丸ごと新しいのを作るか。それこそ、ガンダムに搭載していた学習型コンピューターなんかいいかもな。
と、急に後ろからキュッと抱きしめられた。母上だ。
母上は長い黒髪に、ちょっとタレ目の和風美人だ。ちなみに、俺の目元は母上似だ。父上と並ぶと非常に小柄に見えるが、父上自体が身長189センチという日本人ではありえないような巨体なので、母上はおそらく平均身長ぐらいだと思う。
それはさておき、
「あなた、その目はなんですか?」
背筋がゾッとした。母上のこんな冷たい声を聞いたことが無い。俺を抱きしめる力はあくまでふんわり柔らか。だが、その声の恐ろしさは、父上が、柔道5段の父上が真っ青になって震えるほど。
そりゃそうだろう。母上は柔道9段だ。え?母上ぐらいの年齢で9段なんてなれるのかって?なれるんじゃね?だって、マブラヴだし。
見たことあるんだよ、俺も。本気の父上が、母上に軽々とぶん投げられるのを。ほっそりとしてるんだぜ。すごく柔らかくて温かいんだぜ。優しそうだし、優しいんだぜ?
俺、母上には一生逆らわないって決めた瞬間です。
「い、いや、その、あれだ!」
「何があれですか!全くあなたという人は。少し人より発育がいいだけではないですか。それをそのような目で見るなど・・・」
「ま、待て!話せばわかる!」
「ええ。話し合いましょう。武道場で」
あの時はあくまで修練という形だったけど、今回はお仕置きだ。おそらく、本気で叩きつけられる。父上、あなたの死は無駄にはしないよ。
俺は母上の膝からそっと降ろされて、父上はドナドナと引きずられていく。
父上の悲鳴を遠くに聞きつつ、俺は学習型コンピューターの設計にでも入ろうかな。
さーて、ボク、がんばっちゃうぞー。
数時間後、父上からガチの土下座をされた。
とりあえず分かったことは、母上には絶対に逆らわないこと。そして、父上がダウンしたことで撃震改(仮)の提出が遅れるということだけだ。
感想、お待ちしています。
初めてなので優しくしてね?
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2・自重するしか無いときもある
父上が一週間きっかり寝込んだ後、俺は技術廠に呼び出された。
曰く、「本当はお前が設計したんだろ?」ということだ。この場合のお前は、父上のことだ。そりゃそうだ。5才児が作りましたなんて、誰が信じるよ。
しかも、戦術機の外観だけならいざしらず、レールガンやヒートサーベルの設計図、挙句に学習型コンピューターというおまけ付きだ。
それで行われたのが知力テストだが、大学レベルかな。戦術機の理論についてもあるが頭脳チートのある俺にはお遊戯レベルだ。
自重する理由なんてどこにもないし、ついでにレールガンの理論や学習型コンピューターの有用性についても一席ぶちあげた結果、今に至る。
今がどんな状況かって?帝国のお偉いさんまで呼ばれた上での一大会議が催されております。いや、マジで。
まず、五摂家のトップは全員集合。ウチの遠縁に当たる紅蓮家の家長である紅蓮醍三郎中将。月詠家の月詠大佐。総理大臣を始めとした有力政治家。皇帝陛下はご病気のため出席されていないが、皇太子殿下は出席している。
なにこれ、御前会議?そういうレベルの陣容だ。そして、そのすべての人の視線は父上と母上の間にいる俺に注がれている。
「して、その方の倅が新型機の設計をしたのはまことか」
「はっ。まことにございます」
皇太子殿下のお言葉に、父上が答える。
殿下は皇族でありながらも、戦術機の衛士としても優れたお方だそうだ。
まさかと思うけど、殿下専用機を作れとかいう話に持っていかれないだろうな。嫌だぞ、そんな面倒なの。どうせ後はなし崩しで、五摂家専用機を作れとか、斯衛専用機を作れとかって話になるんだろうし(偏見)。
「そなたが設計したという」
「はい、新塚拓哉でございます」
皇太子殿下は俺に興味津々といった感じだ。柔和な顔立ちをしているが、その目の奥は一切スキがない。これ、ヤバイ人だ。
「普通の子にしか見えぬが、学力テストの結果を見ては文句のつけようもないな」
そりゃそうでしょうよ。戦術機の基礎設計理論まで入っていたし。
いきなりガンダムを設計しなかった辺り、俺も自重したと理解してくれ。と言うか、日本の製造能力では無理だ。
まずは世界レベルで安定してもらい、レールガンやヒートサーベルといった新規武装。そして何よりも、戦術機という新兵器が当たり前のように浸透する必要がある。
その浸透の一番手はアメリカに譲ったが、拡張するのは日本が、いや、俺がもらうつもりだ。
・・・と、それどころじゃなかったな。
周りは予想通りに不審者を見る目。面白そうにしているのは五摂家の皆さんと皇太子殿下、そして征夷大将軍殿下と、グレンダイザー・・・もとい、紅蓮醍三郎中将のみだ。
さて、俺の方に視線を向けながらも会議は続いている。
やれ神童だ、やれ怪童だ。挙句の果てにはどこの派閥に取り込むか。お前らマジで地球救う気あるのかよ。俺のほうがマシじゃねえか。
この間の会話は大きくぶっ飛ばす。俺だって思い出して気分の良くないモノはいくらかある。
結果、俺は母上同伴で、技術廠勤めとなることになった。母上が最後まで猛烈に反対したけど、家柄的にも大したことがなく、実績があるわけでもない母上はいくら柔道9段という実力があっても発言力がない。
ただ、母上が最後に言った「私達の息子はあなた達の出世の道具ではありません」という一言は非常に嬉しかった。何人か本気でびびってたし。
かくして、俺は原作ブレイクをするために技術廠に入ることに成功した。
その為に、随分と見たくないものを見た気もするが、そこはスルーしよう。嫌がらせ的に斯衛用の新型機、確か、瑞鶴だったか。開発は少しゆっくりにしてやろう。
ちなみに、俺が設計改修した撃震は、撃震改で確定したようだ。レールガンやらヒートサーベルの製造が追いつかないらしく、今は一部のエース、指揮官用に固定されているようだが。
さて、俺の仕事は新型機『瑞鶴』の開発だというのはさっき説明したとおりだ。だが同時に、新武装であるレールガンやヒートサーベルの普及もしなければならない。何しろ未だ日本は後方国家で、最前線国家のような危機にさらされているわけじゃない。
だからこそ、日本がやることはそれらの武器のライセンス生産を認め、いや、いっそレールガンやヒートサーベル程度ならただ同然で設計図ごと渡してもいい。俺が今こっそり設計しているものに比べれば、この程度はどうということはないのだ。
それに、最前線国家の皆さんに頑張ってもらえば、あるいは日本までBETAは来ないかもしれない。それを期待しているのもある。
だからこそ、そう、だからこそ、世界中に広めるための提言なんてしているわけなんだが、こ・い・つ・らーーーーーー!!
曰く、「欧米を優位に立たせるな」
曰く、「君は何も分かっていない」
曰く、「偉大なる帝国さえあれば大丈夫」
曰く、曰く、曰く!!
コイツラ、マジモンのアホかーーー!
BETAはこっちの行動を学習するってのはもう知っているだろう!?日本より工業力も戦力もあるはずのヨーロッパ諸国が押されているのは知っているだろ!?戦闘機があっという間に使い物にならなくなった結果、戦術機なんてものが出来たって知っているだろ!?
うわぁぁぁぁぁっ!!!もう、武ちゃんも先人たる偉大なオリ主の皆さんもよくこんなのを相手にしてきたわ!!
だからこそ、こっそりと作っているわけなんだけどな。
何を作っているかって?決まってるだろ、この手のSSで頭脳チートを手に入れたオリ主の定番じゃないか。
まあ、一応今はまだ秘密ってことで。
ソフトな感想をよろしくお願いします。
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3・美少女は正義
そんな日常を送ること5年。瑞鶴は無事に完成。装備の基本は撃震と変わりないが、機動力はきっちりとあげておいた。
国粋主義者のバカどもにはしばらく瑞鶴で遊んでいてもらおう。
俺の身の回りにも変化が生まれた。それは、幼馴染が出来たということだ。
幼馴染の名は、『紅蓮焔』。そう、あの紅蓮中将の娘だ。
最初それを聞いたときにはどんな漢女(おとめ)が現れるのかと警戒したが・・・
可愛いじゃないか!めっちゃ可愛い!俺、ロリコンの趣味は全くない。巨乳派なんだけど、今だけはロリコンに転んでもいい!
しかも、ものすごく大人しい子でいい子だし。
俺が何処かに行くときは「拓哉様」と言って服の裾を掴んで離さないし、いないとわかると半べそ状態で「拓哉様~!」と探し回る。俺の仕事の内容なんてサッパリ分からないはずなのに、後ろで常に控えていて、俺の喉が渇くタイミングで「はい、拓哉様」とお茶を差し出してくれる。
もう突撃しました。紅蓮中将に土下座で頼みました。
「焔ちゃんをお嫁にください!」
「却下!!」
ですよねー!だが諦めるか!紅蓮中将の奥さんは見た。まあ、焔ちゃん産む時に亡くなられたらしく、写真で見ただけなのだがめっさ美人。
今から将来性に賭けるのも悪くないよね!?という訳で、
「焔ちゃんをお嫁にください!」
「お前のような小僧にうちの焔たんをやれるかーーー!!!」
焔『ちゃん』じゃなくて焔『たん』かよ。
まあ、男ばっかりの三人兄弟のところに美人で評判の妻にそっくりな、孫ほどにも年の離れた可愛い娘が生まれたらそうなるだろうけどさ。
「焔ちゃんをお嫁にします!」
「100年早いわーーーー!!!」
100年後は大抵の場合、死んじゃっていますよー。
もう既に三人のお義兄さん(仮)は呆れきっているらしく、最初は父親をたしなめていたものの、今はお茶を飲んでまったりしている。
え、お前のしつこさにも呆れているんじゃないかって?そういう説があっても気にしない。
そんな混沌とした現場にさらに火種が投入された。
「分かるぞ、紅蓮!」
スパーンっという音とともに飛び込んできたのは、尖った髪型が特徴的なライディーン・・・もとい、煌武院雷電。
五摂家の当主が護衛もつけずにヒョコヒョコ出歩くなや。まあ、アンタにはいらないんだろうけど。
「ワシも、悠陽たんと冥夜たんが嫁に行くとなったら・・・・・・・」
スゥーッ吐息を吸い込むのを見て、紅蓮中将と紅蓮三兄弟はとっさに耳をふさぐ。
え、なにこれ?俺がわけも分からずに戸惑っていると、
「――ン悠陽たーーーーーーん、冥夜たーーーーーーん!!!!!!!!!」
「知らない天井だ・・・」
病院のベッドで目が覚めた。
マジで何?たしかさっきまで紅蓮家の居間にいたはずだけど?
訳が分からずキョロキョロしていると、何やら腹部に重みがあることに気づく。
焔ちゃんだ。目元には涙を浮かべたまま寝入っている。
すごく嬉しいことだが、これはまあいい。それよりも気になるのは部屋の片隅でぐるぐる巻きにされている雷電翁だ。
とりあえず俺はナースコールを押して看護婦さんを呼び、事情を聞く。
どうやら、紅蓮家で俺はぶっ倒れた・・・というか、ぶっ倒されたらしい。
紅蓮中将と「嫁にください」と「やらん」のやり取りをしていたのは覚えているのだが・・・。
と、俺の腹の上で爆睡中だった焔ちゃんが目を覚ました。
「ふぁ・・・」
寝ぼけ眼の焔ちゃん可愛い。・・・・・・じゃなくて、だ。
「おはよう、焔ちゃん」
まだ状況が理解できていないらしく、キョロキョロしている。
あーもう、かわいいなぁ~。じゃなくて、だ。
「焔ちゃん、お水飲む?」
「飲みましゅ・・・」
どうやら低血圧らしく、目の前に俺がいるのに完全に無警戒。両手でコップを持って水を飲む。
飲んでいるうちにどんどん目が覚めてきたのか、コップを口に固定したまま俺と部屋の中を見回す。そして、
「拓哉様!ご無事ですか!?お加減は、どこか動かないところはありますか!?」
「よし、落ち着こうか。焔ちゃん」
これだけ慌てられると冷静になれるな。コップはしっかりと置いた後で、俺の肩を結構強い力でガッチリ掴んで揺する焔ちゃん。
とりあえず、何がなんだかさっぱり分からん!
この後、焔ちゃんは看護婦さんに止められて、事情説明を受けた。
と言うのも、途中から記憶がすっ飛んでいるからだ。と言うより、なんで雷電翁が吊るされてんの?
「拓哉様が失神する原因を作ったからです!」
「原因なのは分かった。まだ頭がグラグラするし・・・」
神之怒声・・・ゴッドボイスを至近距離で受けて生きていただけでも奇跡だけどな。
「お父様がせめてもの詫びと申しておりました。あ、後こちらを」
そう言って刀を渡された。
「いやいやいや、ちょっと待とうか!」
キョトンとした顔で小首を傾げる焔ちゃん。やっぱりあの家系の娘だな、この子!
俺は刀を焔ちゃんに返すと、雷電翁に近づく。
案の定、起きていたらしく、俺の方に目を向ける。
「なんじゃ、小僧。ワシを笑いに来たか」
「そんな後が恐ろしい真似はしませんて。それよりも、お願いしたいことがあるのですが」
「ふん。ワシに取引を持ちかけるつもりか?」
「ちょっとは反省してるんなら話を聞いてください」
ちょっと気まずそうにする辺り、流石に反省はしているらしい。
だからこそ、今がチャンスだ。
「正直、俺に発言力がありません。求められるのは技術力のみで、俺が意見を言っても子どもの戯言と流されてしまいます」
ここで一旦言葉を切ると、雷電翁は真剣な表情でこっちを見ている。
「続けよ」
「はい。現在、日本は後方国家です。それが故に、危機感が薄い」
そう、コレだ。だからこそ帝国さえ良ければという考えに至る。BETAの脅威が分からない。
「俺が開発したレールガンもヒートサーベルも、帝国の中だけで使っても意味がない。最前線国家にこそ使ってもらうべきです」
「しかし、その武器がこちらに向けられたときはどうする?」
「その時はその時です。と言うより、その時って今、見えているんですか?戦線は押されているでしょう?日本が加わったぐらいでどうにかなります?アメリカは月を落とされているんですよ」
「ならば、貴様はこの国をどうする?」
「先駆けとなりましょう。すべての国が手を取り合い、やがて空と大地を取り戻すための。故に、雷電翁、貴方には私の後ろ盾になっていただきたい」
雷電翁はしばし瞑目する。吊るされてなければそれなりの絵になるんだけどな。
どれだけ時間が過ぎただろうか。俺も焔ちゃんも、雷電翁から目を離さずじっと待つ。そして、
「よかろう。五摂家と斯衛の説得はワシがしよう。だが、帝国軍内部となるとまた難しいぞ?」
「実績を作って叩きつけます。その為に・・・・・・」
俺は、思い描いていたある提案を雷電翁に突きつけた。
結果は、GOサインがでたということで今は納得して欲しい。
しばらくして、雷電翁を解き放った後、尊敬の目でこっちを見たままの焔ちゃんの頭を撫でて可愛がること数分。
艶々の髪からそっと手を離す。
焔ちゃんは寂しげに手を見ているが今はそれどころではない。ドカドカと派手な足音が近づいてきているからだ。
「目を覚ましたか、小僧」
「病院内ですよ。お義父さん」
「誰がお義父さんじゃーーーー!!!」
ナイスな反応に思わず笑みが溢れる。だって、ここには焔ちゃんがいるのだから!
「あの、拓哉様。そういえば、どういうご用事で我が家までお越しになられていたのですか?」
「お義父さんに、紅蓮中将に焔ちゃんとの結婚を認めてほしいってお願いしに行っていたんだよ」
「本当ですか!?」
「ワシは認めてはおらんぞ!」
顔を真っ赤にして怒鳴るお義父さん。まあ、この呼び方が怒りを買っているのはわかっているんだけどね。やめられないんだな。
「では、どのようにすれば認めていただけるのですか?」
「ワシと一騎打ちをして」
「10才児相手に師範が本気になるなや!!」
思わず素が出たけどそこは向こうも気にしていないらしく、
「ならばどうしろと言う!」
「俺は開発者です。撃震改にくわえて瑞鶴も作って、この上何か成果がいりますか?」
「むっ・・・」
そう言われれば黙るしか無いだろう。まだ表に出してはいないが、カタログスペックの上では瑞鶴とF-15イーグルではキルレシオは1.5:1だ。俺の頭脳チートに出てきたF-15のスペックと比較した限りではそのぐらいだ。
つまり2世代機クラス程度のスペックはあるのだ。この上、欲を張られたらそれこそ、際限なしにスペックをあげていかなければならない。
そう、ネオグランゾンを量産しますか?の世界だ。まあ作れないんだけどな。グランゾンならなんとかなりそうな所が恐ろしいが。
そして次に問われるのはコストだ。おそらく、城内廠は、斯衛はそれこそ限界なしのハイスペックを求め続けるだろう。それがどれだけ国庫を圧迫するかも知らず。そして、国民の生活を苦しめるかも知らず。
例えば、武御雷と不知火のコストと性能差を比べてみた。確かに、素晴らしい機体だ。だが、それはあそこまでして守らなければならなかったスペックなのかと言われれば疑問符がつく。専属の整備士に徹底した守秘義務。異常の一言に尽きる。そして、それらは滅多に戦場に出ないお飾りの機体だ。
「俺は、戦術機なんてのは使ってなんぼのものだと思っています。撃震改にしろ瑞鶴にしろ、レールガンもヒートサーベルも、ガンガン使ってください。ガンガン広めてください。そして、人類全てで勝ちにいきましょう」
「貴様はそれでいいのか?それでは、米国の思うがままだぞ」
「思わせておけばいいですよ。それで人類が勝てるなら、安いもんでしょう?」
「・・・・・・何が見えている?」
「まずは人類の敗北が。お互いに手を取り合えず、最後の最後まで国家の利権にしがみついて、手を取り合ったときには手遅れになっている未来が」
実は俺、クロニクルのTDAをやってないんだよな。貧乏サラリーマンにはあのソフトのお値段はちょっとどころか、かなり痛かった。
だから大体はウィキで説明されていた内容。バビロン作戦によって起きた天変地異だとかぐらいしか知らない。だが、今を生きる俺にとっては本気を出すには十分すぎる内容だ。
「どうしてもその気にならないのなら、お義父さんはそこでじっとしていてください。俺の邪魔をしなければそれでいいです。雷電翁には話をつけていますし」
「何!?雷電を説得したのか!?」
「聡明な人でしたよ。話が早くて助かりました。後、いざとなったら焔ちゃんとの婚約についても後押しをしてくれるとか」
「なんだとーーー!!」
「雷電翁の孫娘お二人に手を出さない前提ですが、俺には焔ちゃんしかいませんので」
「おのれ雷電め、孫可愛さにワシの娘を売りおったな!」
「別に売ってませんて。後見人になってもらっただけで」
後見人という言葉に、ピクリと反応する。よし、かかった。
「俺がこれからする事、その後見人になってもらったんですよ。城内廠とか帝国軍のお偉いさんの中じゃあ、俺ってまだ賢しいだけの打ち出の小槌ですからね。だけど、俺が動くにはその考えは邪魔すぎるんですよ」
俺は楽をする。楽をして生きる。そして美人の嫁ももらう。そのためなら自重していては駄目なんだ。
「煌武院雷電様の許可は頂きました。五摂家の方々も説得してくださるそうですし、神野志虞摩様ならば2つ返事でこちらに付いてくださるそうです」
「・・・・・・考えを聞かせてみるがよい。内容によってはワシも貴様に手をかそう」
かかった。俺は頬が緩むのを止められなかった。
焔ちゃん曰く、とても悪そうな顔をしていたとのこと。
「まずは・・・・・・」
すべてを聞き終えた後、紅蓮中将は瞑目し、俺はただ待ち続けた。
煌武院雷電、神野志虞摩、そして紅蓮醍三郎。帝国の三武神とも呼ばれる男たちがバックに付けば、武家が幅を利かせているこの世界の日本帝国ならば発言力が大幅に上がる。
だからこそ、だからこそ最初は紅蓮中将に近づいた。
計算違いは、俺が焔ちゃんに本気になってしまったこと。初めて会った時はまだ7歳だった焔ちゃん。いつの間にか俺の近くにいるようになり、気がつけば彼女に本気になっていた。前世はいい年したおっさんが、未だ10歳の女の子に、だ。
笑えよ。俺の目的は幸せな家庭を作ることとなった。そのためなら、なんだってやってやる。
俺が次に手に入れるべき駒も合わせてな。
やがて、紅蓮中将はゆっくりと口を開いた。
「よかろう。貴様の企みに乗ってやろう」
「ありがとうございます」
「ただし!焔たんは嫁にやらんぞーーーー!!!」
やっぱりそっちは譲らんか、このおっさんは。
「お父様!それは卑怯です!」
「別にそっちの許可まで取りませんよ。心配しなくても、すぐに結婚するわけじゃないんですから」
「拓哉様?」
「いざとなったら奪っていくだけですし」
「貴様――――――――!!!」
まあ、奪っていくは半ば冗談だけどな。俺としては、嫁にもらってくださいと言わせれば勝利だと思っている。
流石に一生嫁にやらないなんて不可能だし。
まあ、それはそれとして計画の第一段階が成功ということで。
俺は腕にしがみついて幸せそうにしている焔ちゃんの頭をなでながら、すごく悪い笑顔を浮かべていた。
クロスボーンガンダムでのトビアくんの頂いていく宣言。
男なら一度は言ってみたいものです。
そんな相手いないけどね!
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4・それぞれの思惑。知ったこっちゃねえけど
1984年。世界が大きく動き始めた日である。
日本帝国から突如として、戦術機向けの新型武装とOSユニットが発表された。
それはレールガンとヒートサーベル。そして、学習型コンピューターである。
一体誰が?後方国家で技術的にも後進国であるはずの日本帝国。一体いつの間にこんな兵器を作り上げたのか。
コレについては拓哉も後に、よくも5年も、世界の諜報組織から隠し通せたものだと本気で感心していたぐらいだ。
逆を言えば、それほど期待されていなかったからこそ、いい加減な情報しか上がっていなかったのだろうと予測している。そして、それは大当たりだった。
まだF-4ファントムの改修機だけをようやく実戦配備したようなところである。そして、欧米諸国にとってはまだまだ敗戦国という認識がある。
今回の件でアメリカなどは面子を潰されたと思っている。レールガンなどはアメリカも研究していたものだ。だが、あっさりとその完成品を出された。詳細なレポートもつくというおまけ付きで。
そして特に許しがたいと思っているのが学習型コンピューターである。
アメリカでも最高峰と言ってもいい頭脳が、プログラマーたちが作り上げたOSの上をあっさりと行ったのだ。
とは言え、憤慨しているのはアメリカだけと言ってもいい。
EU諸国やアジア各国にとっては、性能さえ良ければ出処なぞどうでもいいのだ。
そして、ブラックボックス化など全くせずに売り出したそれは、馬鹿みたいに売れた。もちろん、馬鹿みたいに売れたのは最初だけだ。
しばらくすれば、EUでもアジアでもレールガンもヒートサーベルも簡単に量産される。
だがそれに対して日本は何も言わない。特許のみを取って、後はそのままコピーさせるに任せたのだ。
コレが拓哉の考えの一つ目。この頃にはすでにもう一つの新兵器が完成しているのだが、それはまた後で。とにかく、新機軸の武装が世界中に恐ろしい勢いで広まったのだ。
そして、ライセンス生産を容易に許したOS。学習型コンピューターだ。
即応性が大幅に上がり、今までとは違い動作のキャンセル、先行入力が可能となった一品。しかも、使えば使うほどに強力な武器となるOS。
学習型コンピューターをよく分かっていない人のために簡単に説明すると、ものとしては単純に使えば使うほど、使った人間の癖を学習して最適化するOSなのだ。そして、それは熟練の衛士が使うほどに、その癖を覚えていき、最適化していく。結果、未熟な衛士でも熟練衛士の癖を覚えたOSを使用することで、生存率が上がっていく。そういうものなのだ。
日本では新進気鋭の衛士、巌谷榮二、篁祐唯の二人が日々訓練し、OSを育てていっている。
さて、そうなると撃震改や瑞鶴はどうなったのかという疑問が出てくるだろう。当然ながら、世界各国から突き回された末に撃震改の情報を提供することになった。
そして、その有用性に誰もが驚いた。シミュレーターでしか戦ったことのないはずの日本でなぜこんな戦術機が生まれたのか。誰もが疑問に思った。
まずは頭部バルカン。これは足元に這い寄ってきた戦車級BETAを駆逐するのに大いに役立った。たとえとっさの状況であってでも頭部を下げるだけで、トリガー一つで排除できるのは非常に大きかった。
そして腕に搭載されたグレネード。両腕に2発ずつ、計4発のグレネードはたまった小型種の排除以外にも、大型BETAにも有効であることが分かった。
それらにレールガンとヒートサーベル、学習型コンピューターが加わることによって、恐ろしいまでの性能を叩き出したのだ。
当然ながら、開発者を出せと大騒ぎになった。
だが日本は拓哉の存在を徹底的に隠す・・・ようなことはせず、素直に10歳の少年が5歳の時に開発したのだとばらした。
もちろん、そんな戯言同然のことを信じるような国はどこにもない。無いのだが、事実なだけに日本も対応のしようがなく困り果ててしまった。
「つまり、俺に学会に出ろと?」
「うむ。そういうことなのだよ」
俺にその話を持ってきたのは、俺が開発衛士としてゲットした原作キャラ、巌谷榮二中尉だ。
「安心してくれたまえ。学会は日本国内で万全の警備の上で行われる」
「アメリカにドナドナされなきゃ別にいいですよ。しかしまあ、よく10歳児が作ったって話を信じましたね」
それが俺には不思議でならない。普通は信じない。
「もちろん、どこの国も信じてはいないよ。本物の開発者を出すための茶番だと思っているみたいだからね」
「俺が学習型コンピューターやレールガンの理論を説明できなかったら、本物の開発者が出てくる、と?」
無言で頷く巌谷中尉。
このクソ忙しいときに・・・。
まあ、言わんとしていることは分からんでもないんだが、仕方がない。俺の考えをちゃんと理解している人間は10人にも満たない。
「巌谷さん、拓哉は、これからどうなるのですか?」
心配そうに問いかける母上。そうそう、言い忘れていたけど母上は俺の秘書をやってくれている。
「ご心配はいりませんよ。学会に出るだけですので」
「そうそう。ついでに諜報員がいたら一網打尽にしようという考えがありありと見えるけど、大したことはないよ」
「・・・・・・気づくかい?」
「気づかないとでも?」
「本当に!拓哉に危険はありませんね!?」
子どもを囮にするとなったら流石に母上が黙っていないか、巌谷中尉に掴みかかる。
「だ、大丈夫です!万全の警備で望んでおります!我が国としても、拓哉くんの頭脳を失うようなことは断固として阻止する所存です!!」
巌谷中尉、パニック状態。そりゃ、俺に暴言を吐いた巌谷中尉より一回りガタイの大きい軍人を、軽々と投げ飛ばしたの見てるからな。
さて、学習型コンピューターとレールガンなんて既存のものだけじゃあつまらんな。新型動力源と、PS装甲もネタとして持っていくか。
まあ、今の動力源ではPS装甲は使いものにならないんだけどな。アッという間にPSダウンしてしまうし。そのための新型動力源・・・と、言いたいところだけどコレも実はちょっと足りない。それだけPS装甲のエネルギー消費は凄まじいのだ。だけど、電力で硬度を大幅に上げることの出来る新素材というのは、それなりに人目を引くはずだ。
他にも用意しているものはあるんだけど、それは表に出す訳にはいかない。邪魔はさせない。ただし、その為の撒き餌は必要だろう。PS装甲と新型動力源ぐらいなら安い。
「拓哉、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫でしょう。帝国だって俺を手放したくないだろうし、計画を止めるわけにも行かないだろうし」
計画というのは何も俺が紅蓮中将と雷電翁に動いてもらっている方じゃない。帝国肝いりの、純国産機の方だ。まあ、こっちはどうとでもなるしどうとでもする。
俺の計画がうまく行ったら同時に達成するたぐいの計画だからだ。その為にはこの学会は実に楽しみだ。
まず、俺には味方が少ない。今、紅蓮中将たちが動いて賛同者を増やしてくれてはいるが、それでも両手の指の数で足りてしまう程度だ。特に、学者肌の人物の助力がほしい。
自分で言うのもなんだが、俺は視野が狭い。一つの目的を決めるとそこにまっすぐ突き進んでしまう。その際に周囲を省みることが出来ない。これはもう前世の時からの癖だ。
だからこそ俺の側で抑えてくれる人物がほしい。母上では正直頼りない。父上は仕事がある。紅蓮中将や雷電翁にはそれぞれ立場があり、巌谷中尉と篁中尉は立場が弱い。焔ちゃんを頼るのは論外だ。
俺と同じ目線で、俺と同じ未来を見てくれる人がほしいのだ。
俺は窓の外を見る。俺という10歳の子どもが一人で歩けない。そんな生活はゴメンだ。自分の身の安全のために、俺は学会では自重しないからな。
自重してないですよね?
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5・学者っていうのは大体ちょっとおかしい。けど、限度というものがあると思う。
ちゃんと原作に沿った性格になっていたら幸いです。
甘く見ていた。学者というものを、学会というものを。
俺はやはり視野が狭く、人生経験もロクに無い小僧らしい。
この日、俺はレールガンとヒートサーベル。そして、学習型コンピューターの理論に加えて新素材であるPS装甲のレポートも携えて壇上へと上がった。
そして、前者3つの発表を終えて万雷の拍手の中、俺はさらに発明品を用意する。俺が手を振ると引っ張り出されてきたのは、2m四方程度の金属板が二枚だ。
一つは赤く塗装した通常の戦術機の装甲を厚さ1mm程度にしたもの。そしてもう一つは同じ厚さのPS装甲だ。
さあ、学者先生諸君。目ン玉ひん剥いてしっかり見とけよ。
「さて、最後になりましたが、つい先日完成した研究の成果を発表したいと思います。赤く塗装した物は我が国の戦術機、撃震改の装甲を厚さ1mm程度にしたもの。そして、グレーの物のほうが私が開発した新素材の装甲です」
会場がざわついているが、そんなのは知ったことではない。
さあ、もっとざわついてもらうぞ。
「これを、それぞれ機械化強化兵の12.7mm重機関砲で撃ち抜いてもらいます」
「こ、こんなところで機関砲を撃つのか!?」
「大丈夫です。安全には配慮していますので。それじゃ、三井軍曹、お願いします」
「本当に撃つのですか!?」
出てきた機械化強化歩兵の三井軍曹(23)は、困惑した声を上げる。
「撃ってください。大丈夫ですから」
伊達に脳内シミュレーションを数百回と繰り返していない。これを口にしたらふざけるなって怒られるだろうが、俺の場合はほら、頭脳チートがあるから。その程度の演算は超余裕。
「あ、念のため言っときますけど、俺の合図で撃ってくださいね」
「は、はい!」
「それじゃあ、赤い装甲板の方からどうぞ」
俺が言うのと同時に、会場内に凄まじい爆音が響き渡る。耳をふさいでいた俺は安全地帯からゆっくり鑑賞。流石に戦術機の装甲と言っても、1mm程度の厚みじゃああんなもんか。瞬く間に蜂の巣になる装甲板を見ながら俺は思う。
やがて一斉射を終えた重機関砲はその駆動を止める。それに合わせて耳から手をどけ、周囲を見渡す。俺より距離のあった学者の皆さんは驚いたように腰を抜かしているのが大半だった。その中でシレッとした顔で座っているのは数名。
ごめん、気のせいかもしれないけど、すごく何処かで見たことのある顔が座っているんだけど。紅蓮中将とか雷電翁じゃなくて、こう、アニメで。
いや、今は目の前のことに集中しよう。
俺はマイクを手に取ると、解説を始める。
「さて、ご覧の通り1mmの厚さしか無い装甲板は無残な姿になりました。それでは、次にPS装甲の方で試してみましょう。PS装甲に通電してください」
俺の合図と同時に、PS装甲の裏でガタガタ震えていた係の人がスイッチを押す。何もそこでじっと待っとかんでもどこかに引っ込んでいればよかったのに。
とにかく、PS装甲は通電されたことによってグレーから鮮やかな赤に変色する。
これにはさっきまで腰を抜かしていた学者先生たちも、驚きの声を上げて居住まいを正す。
「それじゃあ、PS装甲の方に同じだけぶち込んでください」
「分かりました。それでは、発射します」
流石に慣れたのか、今度は確認を取ってから重機関砲を的に向ける。同時に、学者先生たちは一斉に耳をふさぐ。うん、学習したね。さて、俺も耳をふさいで。
そして再び響き渡る爆音。だが、今度は結果が違った。
傷一つなく弾丸を弾き返すPS装甲。その結果に誰もが目を見開いた。
一斉射を終えて、何度見ても傷一つ無い、鮮やかな赤色のままの装甲板に、場内の音が消える。
全員が耳から手を話したのを確認して、俺は再びマイクを手に取る。
「さて、この新素材、フェイズシフト装甲。通称PS装甲について解説します」
簡単に説明すると、電気を通して相転移させているわけだ。相転移現象というのは物質の三体。固体、液体、気体とある。これが変化することだ。固体が液体に。液体が気体に変わる。
要するに、電気を流すと相転移する特殊素材を使ったのが、フェイズシフト装甲と言うだけだ。細かい説明はそれぞれウィキで見てくれ。
ちなみに、この現象を利用した動力源が相転移エンジン。ナデシコのあれになる。
そこから先は大騒ぎになった。新型動力源の説明もあるのだが、そっちに移れそうにない。
てんやわんやの大騒ぎを抜け出して、俺は自分の席でぐったりしていた。他にもいろんな科学者の人達が発表をしているが、俺はそれを聞く気力がない。母上の膝の上でぐったりしている。
発表が全て終わり、立食パーティーに移行した時に、再び俺は人の波に揉まれそうになったが、母上が強引に突破して事なきを得た。
「大変だったわねぇ」
「大変なんてものじゃないですよ」
控室で再びぐったりしていると、誰かが部屋の戸をノックした。
部屋の前には護衛の人がいるはずだ。誰も通さないでほしいと言っておいたはずだが。
「失礼します。実は、新塚博士と会談をしたいという方がいらっしゃいまして・・・」
「え~い、はよ通さんか!」
「あ、待ってください!勝手に入られては!」
「父さん、無茶はいけない」
「なぁに構うまい。入るぞ」
外から聞こえてきたしわがれ声に、母上が身構える。
一方俺は、何処かで聞いたことのあるような声に思わず止まる。そう、こっちに来てからではなく、それ以前に聞いたことのあるような声。
ドバンっと音を立てて扉が開けられた先にいたのは小柄でめっさ人相の悪い爺さんと、科学者としては結構ガタイのいいおじさん。眼鏡をかけたいかにも研究者と言ったおじさんと、ボサボサ髪に白ひげを蓄えた、ものすごく見た目の知っている四人だった。
いや、ちょっと待て。なんでこの人達がいるんだ。ここはマブラヴの世界だろ!?
そんな俺の困惑などお構いなしに、人相の悪い爺さんから順番に自己紹介を始める。
「ふっふっふっふ。驚いておるようじゃの。ワシは兜十蔵。光子力研究所の所長をしておる」
「父がご迷惑をおかけして申し訳ありません。私は光子力研究所副所長、兜剣造です」
「そう畏まることもないだろう。ワシは早乙女研究所所長の早乙女賢だ」
「お二方とも、いくらなんでも無茶が過ぎます!ああ、失礼。私は光子力研究所の副所長、弓弦之助です」
誰か教えてくれ。いつからマブラヴ世界はスーパーロボット大戦になった。
つか、マジンガーとゲッターのフラグキターーーーーー!!!
それはさておき。
「はじめまして。新塚拓哉です。よろしくお願いします」
内心の動揺は見せないように、なるべく丁寧に挨拶をする。
「ほう、会場で重機関砲を撃たせた割にはしっかりしとる小僧じゃな」
「必要なことでしたから」
俺がそう答えると、兜十蔵博士はカラカラと笑う。見た目は恐ろしいが、こっちの意図をしっかり理解してくれる人のようだ。
さて、問題はこの人達がなんでここまで来たかなんだけど。
「どのようなご用件ですか?」
「なに。あの場ではゆっくり話が出来なんだからな。こうやって、ゆっくり話ができるタイミングを待っていたのだ」
早乙女博士(チェンゲ版)がにやりと笑う。
まさかと思うけどこの世界、BETAと戦いながらミケーネやインベーダーとも戦わなければならないってことはないよな?
流石にスーパーロボット大戦をやるってなったら、ネオグランゾンとグレートゼオライマーを解禁するぞ。
「拓哉は疲れています。後日にしていただけませんか」
悪人面二人を前に、母上が警戒するかのように俺の前に立つ。
明らかにわかる武人のオーラを放つ母上にも、悪人面二人は動じた様子もない。
「老い先短い老人にそう警戒せんでもええじゃろ。のう、早乙女の」
「そうだな。ほれ、茶は出んのか?」
「父さん、早乙女博士!いくらなんでも失礼ですよ!」
息子さん、苦労してるんだなー。
弓教授は現実逃避したいのか、壁に手をついている。
勝手に椅子を引っ張り出して居座る気満々の爺さんs。まあ、いいけどね。
「母上、いいですよ。ここで話しましょう」
「いいの?嫌なら私が追い返すわよ?」
「問題なし。俺から技術を引き出そうとやっきになっていた、自称科学者連中とは違うみたいだし」
そう、さっきまでの科学者の皆さんは、いかに小僧の俺から情報を引き出すかにやっきになっていた。俺のことを打ち出の小槌程度にしか見ていなかった。
この人達は明らかに目の色が違う。
俺の言いたいところ、言うべきところを理解したのか、腹を抱えて笑い出す。
「はっはっはっ!自称科学者か!そりゃいいわい!」
「最近の奴らはすぐに誰かに答えを求めようとする。科学者はトライアンドエラーが付き物だというに」
耳が痛いです。答えを求めようとするどころか、神さま謹製の頭脳チートが付いてますから。
その辺は完全にスルーしよう。話が進みそうにないし。
俺は自分も椅子に腰を掛けると、目の前に座る十蔵博士と、早乙女博士、そして立ったままの剣蔵博士と弓教授にも帳面とペンを渡す。
「母上、少し長くなると思いますので、お茶の用意と何かつまむものをお願いします」
俺はそう言うと二人の前に長机を引っ張り出す。
「さあ、有意義な学会を始めましょうか?」
俺がそう言うと、4人共、それはそれは凄まじい眼光を灯らせるのだった。
此処から先は、作者の頭があんまりよくないので大幅に割愛するが、非常に有意義な時間だったと言っておく。
案の定、光子力とゲッター線の研究をしているらしく、少し行き詰まりを感じていたらしい。
俺も新しいインスピレーションがもらえたし、この会談、いや、小さな部屋の大きな学会は大成功だったと告げておく。
1/28・誤字修正しました。
もう無いと思いますが、またあったら報告お願いします。
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6・白き流星、強制的に覚醒させられる
あの学会から2年の時間が流れた。
俺は純国産機開発計画と、俺自身の計画に邁進していた。
賛同者も着々と増え始め、焔ちゃんとも仲良くなり、実に有意義な時間を過ごしていたそんなある日。
「実は拓哉くんに会わせたい子がいてね」
「昔、アメリカに留学していた時にお世話になった博士の息子さんなのだが」
篁大尉と巌谷大尉が、俺と同じぐらいの茶髪に天パの少年を連れて来た。
その少年を見た俺の感想を聞かせてやろうか?
この世界、マジで大丈夫だろうな?
「博士が亡くなられて、天涯孤独となったのでね、私達で引き取ったのだよ」
「ちょうど拓哉くんと同じ年だから、どうだい、友だちになってくれないかね?」
「それはいいんですが、その子の名前は?」
頼むから違っていてくれという俺の淡い願いは、次の瞬間にあっけなく砕かれた。
「アムロ・レイくんだよ。ほら、アムロくん」
「アムロ・レイです。よろしく・・・」
ガンダム、マジンガー、ゲッター御三家が全部揃いやがったーーー!!
スパロボか、この世界はスパロボか!?
そして俺を褒めてくれ!この内心の荒ぶる感情を表に出さずにちゃんと挨拶したぞ!
「新塚拓哉だ。よろしくな!」
連邦の白き流星(候補)が来やがった。俺が悪いのか、神さまが何かやらかしたのか、ぜひとも誰か教えてくれ!マジで!
ちなみに、亡くなったお父さんはテム・レイ博士で、戦術機開発の第一人者だとのこと。
他所の国のことだからと放っておいたら、こんなところに地雷が埋まっていやがった。
F-4ファントムの開発にも参加していて、他にもF-5フリーダムファイターやそれ以降の戦術機開発にも加わっていたらしい。
3年前から癌にかかっていて、俺の参加した、兜博士や早乙女博士と知り合った例の学会にも参加しようとしていたのだが、ドクターストップがかかって悔し涙を流していたと言う。
さて、俺は何をしているのかというと、巌谷大尉たちと別れた後、アムロくん(12)を連れて秘密の地下格納庫に来ていた。
「僕をどこに連れて行くつもりなんですか?」
「ちょっと面白いものを見せてやるよ。それと、そんなかたっ苦しい言葉遣いしなくていいぜ。友達だろ?」
「今日出会ったばかりだよ!」
いやぁ、実は俺、ちょっとテンションが高くなってるんだ。
何しろ、生まれ変わってから初めての男友達だからな!
考えても見ろよ、5歳の時から技術廠勤めで、周りにいるのは焔ちゃんだけ。今日は風邪を引いていないけど。他にいるのは大人だけって環境下だ。
っと、そんなことを考えているうちに着いたようだな。
俺は格納庫の電源を上げる。パァッと眩い明かりが格納庫を照らし出す。
「うわっ」
驚いたような声が聞こえるが、本当に驚くのはこれからだ。
徐々に目が慣れてきたアムロは、目の前にそびえ立つそれに驚く。
「これは、戦術機・・・なのか?」
「ああそうだ。俺が独自に開発している、日本の純国産機の第一号機。RX-78ガンダムだ」
「ガン・・・ダム」
そう、ホワイトをベースにトリコロールカラーに塗り分けられた巨人。あらゆる世界で伝説となった機体の、すべての原点とも言える機体。
そして、アムロ・レイが乗るべき機体。
俺が作っていたのはこの機体なのだ。本来なら篁大尉か巌谷大尉に乗って貰う予定だったのだが、こうなったら予定変更だ。
俺の直感だが、やはりこいつは白き流星、あるいは白い悪魔になる。
何しろ、兜博士や弓教授。早乙女博士までいる世界だからな。まだ会ったことはないが、おそらく兜甲児や流竜馬もいるはずだ。
俺はこいつをエースに育ててやる。その為にはまず・・・。
「なあ、シミュレーターに乗ってみないか?」
「シミュレーターに?」
「そう。俺が色々チェックするため用のがあるんだ。ゲーム感覚で乗ってみねえか?」
俺が目を向けた先にあるのは丸型の筐体。ぶっちゃけて言うと、『戦場の絆』のゲーム筐体にそっくりなやつだ。
俺が作っているガンダムは、オリジナルとはかなり変えている。
まず、コアブロックシステムを排除して、全天周囲モニターを採用している。他にも、ストライカーパックを使う予定でハードポイントを各部に設けているので、よく見ればRX-78とは違ったフォルムであることに気づくだろう。
まあ、それに気づくのは俺しかいないんだけどね。
「で、どうする?」
「でも、戦術機のシミュレーターなんて・・・・」
尻込みするアムロに、俺はサムズアップで答える。
「大丈夫。俺も訓練受けてないし」
「・・・どうなっても知りませんよ」
渋々と言った風だが、シミュレーターへと向かう。
さーて、白き流星は産声をあげるか否か。
生憎、俺は鳴くまで待つような悠長な性格はしていない。イヤでも鳴かせてみせるさ。
一方、シミュレーターに成り行きで入ることになったアムロは困惑していた。
父が急死して、遺言によって知り合いの日本人に引き取られ、自分と同じ年のやけに馴れ馴れしい少年に会わされたと思ったらもうコレだ。
マニュアルをめくって操作方法を確認しながら、各部のスイッチを入れていく。
すると、周りに一斉に明かりがつく。そして、全周囲全てが外の景色を映し出したのだ。
「な、何だこれは。網膜投影じゃないのか?」
『あー、テステス。聞こえてるか?』
「聞こえていますよ。これは一体何なんですか?」
『それが俺が今作っている新しいコクピットシステム。リニアシートと全天周囲モニターだ』
「リニアシートに全天周囲モニター・・・」
『操縦系は普通の戦術機と一緒だから気にするなー』
「普通の戦術機の操縦系なんて知りません!」
『そっか。それもそうだな。まあ、大体の操作方法は頭に叩き込んだか?とりあえず、シミュレーションパターンを1からやっていくぞ。最初は的が動かないから、気負わずにやってみろよ』
どうあっても自分にシミュレーターをさせたいらしいと悟ったアムロは、ひときわ大きなため息をつくとシートにどっかりと腰を下ろして操縦桿に手をかけた。
それから1時間が過ぎた。シミュレーターメニューが着々とこなされていくのを見て、俺は正直自分の見込みが甘かったことを反省した。
俺の目の前に映るモニターには、次から次へと迫ってくるBETAを快刀乱麻の勢いで切り刻むガンダムが映っていた。
たしかにシミュレーター仕様で弾薬の制限はかけていないし、機体の摩耗も設定していない。だから被弾さえしなければいくらでも戦い続けられる。
だけど、それを今日シミュレーターに乗ったばかりの人間がやるか?しかも、12歳のガキが。
もう既に撃墜スコアは1000を超えている。白き流星はどこの世界にいてもやはり白き流星だということか。
とはいえ、少し釘を刺しておいたほうがいいかもしれんな。
『もっとだ、もっと来い!』
ちょっと調子に乗り始めているみたいだし。アレを出そうか。
という訳で、ポチッとな。
しばらくして、中からアムロの悲鳴が聞こえてきたが、俺の関知するところではありませんよー
「なんなんだよ、アレは!」
「俺が考えたオリジナルBETA。その名も、超重光線突撃要塞級。全身から重光線級のレーザーを乱射して、突撃級並みのスピードで突っ込んできて、要塞級みたいに溶解液の付いた触手をたくさんぶん回しながら、腹から山ほどBETAを吐き出すの」
篁大尉と巌谷大尉が学習型コンピューターのテスト中に調子に乗り始めた時に、同じように投入した一品だが、未だに倒されていない。
撃震改とガンダムという差があるとは言え、そうそう倒せるものじゃない。
ちなみに、倒せた場合には母艦級が。それすらも倒せた場合は母艦級とアレが。それを倒すとオリジナルBETAの黙示録級が出てくるが、それは黙っておこう。
「でもまあ、楽しかっただろう?」
「それは、まあ・・・」
あれだけノリノリでやっていて違うとは言えないわな。
「という訳で」
「えっ?」
「人材ゲットだぜ!」
「はっ!?」
いやー、ガンダムの動作チェックとかって俺一人じゃ厳しかったんだよなー。その点、アムロなら腕は確認できたし、後は俺がやる時用に切っていた疑似Gを少しずつかけていって慣らしていけば、衛士としての完成も早いはずだ。
「もう逃さないからな?」
「ひっ・・・!」
この後、地下から悲鳴のようなものが聞こえたそうだが、気のせいだ。
うん、気のせい気のせい。
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7・世の中はこんなはずじゃなかったことの連続
はい。タイトルの通りです。
実はちょっと困ったことになりました。
と言うのも先日、技術廠の方から戦車の新型機を作ってくれないかと頼まれたことに端を発する。
まあ、マブラヴのSSをたくさん読んでくれている読者諸氏はすぐに想像がつくだろう、ガンタンクを作ってみたのだ。
ガンタンクと言ってでもRX-75とは似ても似つかない、上半身は撃震あるいはF-4ファントムで流用した機体だ。
下半身も大型でがっしりしたものに変えて、240mmの大型キャノンを背負わせた。両腕は120mmガトリングガンを普通の腕の上から被せる形。わかりやすく言うとガンダムレオパルドのガトリングガンみたいな形でかぶせて、弾切れになったら背中に背負わせているハンドレールガンなどに持ち換えるといった使い方もできる。
他にもシャレで作った大型クレーンやショベルを背負わせたのが現場で好評で、新しい製造ラインも作られたそうだ。
で、何が困ったかというと、こんなもん作ってる暇があるならさっさと純国産機を作れとせっつかれて、うるさいことうるさいこと。
ガンダムを出すのはまだ早い。アムロも順調に育ってきてはいるが、それ以外のものが育たない。賛同者の兜博士や早乙女博士ももう少し待てと言う。
とはいえ、いつまでも隠し通せないんだよな。もうすぐ日米合同演習がある。その時にアメリカはおそらくF-15イーグルを出してくるはずだ。
最初のスペックのままなら撃震改でも楽勝だが、相手も学習型コンピューターを入れてきているはずだから、おそらく、このままなら原作のとおりに進んでしまう。
正直に言うが、F-15を導入するメリットは日本・・・いや、俺には無い。全く無い。
出すか、アムロとガンダム。だがここでマズイ事が一つ。アムロがアメリカ人であるという事だ。いっそ巌谷大尉あたりに乗せて、それも嫌だな。やはりこだわりとしてガンダムはアムロが乗ってこそだ。
仕方ない。当面の対策として瑞鶴改を作るか。早速作業に取り掛からんとな。
そして、合同演習当日。俺の目の前では予想外の展開が繰り広げられていた。
なんというか、瑞鶴改無双。
いや、ちょっと機動力を強化しただけだよ?衛士の質?それも大差はないはずだ。強いて言えば、俺が考えたオリジナルBETAのデータと死ぬほど戦わせていたぐらいで。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
そ・れ・か!!
つまり、少々相手の機体のスペックが高かろうとも、少し動きがいいだけの普通の戦術機が相手なぐらいだったら、対応できてしまうんだな。
頑張ったもんな、オリジナルBETA。空飛んで突っ込んでくる飛翔突撃級とか、撃破すると辺りに溶解液をぶちまけるスライム級とか、たくさん集まって巨大なBETAに合体する合体級とか、近づいた敵を重力波で圧壊させる重力級とか。
確かにF-15を導入するメリットはないからいいんだけど、アメリカ側の高官がすっげー顔しているんだ。
俺を睨んでいるよな?でもな、本当に今回は大したことしてないんだぜ?ガンダムを出したら大騒ぎになるから。ほら、ビーム兵器標準装備だし。
あ、兜博士が腹抱えて笑ってる。剣蔵おじさんお疲れ様。弓教授はもう知らん顔を決め込んでいるな。早乙女博士はすごく悪い、人をダース単位で殺してそうな笑顔をしている。
さあ、どうなるんだろうね。俺のせいじゃないよね?
俺、知ーらね
「はっはっはっは!!よくやったぞ、小僧!あのアメ公どもの顔と言ったら!」
「久々に胸がすいたわ。よし、飲め!」
「子どもにお酒を飲ませないでください!」
知らん顔も出来るわけもなく、身内だけの集まりとなったがこれがまあ大騒ぎ。うちの両親と兜博士一家と弓教授親子。早乙女博士親子に紅蓮親子、焔ちゃんと篁一家と巌谷大尉にアムロ。そして、今日一番頑張った技術廠専属の衛士の皆さん。
そう、今回はじめて兜甲児と出会ったのだ。弟のシローも来ていて子ども組は子ども組ということで、一気に打ち解けた。
そこらは甲児の性格によるものだろう。人をグイグイと引っ張っていく勢いと引きつける魅力がある。
ちなみに、早乙女博士の娘のみちるさんと弓教授の娘のさやかさん、焔ちゃんは、篁家のお嬢様、唯依ちゃんにメロメロだ。
「へぇ~、アムロも戦術機の訓練受けてるんだな」
「訓練というより拷問だよ、あれは」
「分かる分かる!小学生に対する扱いじゃねえよ、あれは!」
ちなみにアムロには、一般的な戦術機の衛士になるための訓練を受けさせている。学校の方は、俺が勉強を教えられるから自宅学習という形を取っている。
甲児の方は、どうやらお母さんの実家の旅館くろがね屋の皆さんに修行をつけられているとか。いるのかよ、変な奴ら。
甲児に比べれば大分緩いんだぞ、アムロ。まあ、黙っているけど。
「けどすごい結果だったよな。俺はいいところ互角だと思ってたぜ」
「ああ。俺は近くで設計を見ていたけど、F-15のカタログスペックとそんなに変わらない感じだった」
話題はやはり男の子らしく、戦術機の方へと移っていた。
「なあ、拓哉。本当に何もしてないのか?」
「何もしてねえよ。せいぜい機動力の底上げをしたぐらいで、アムロが言ったとおりカタログスペック上は互角のはずなんだ」
「じゃあ、衛士の腕の差なんだね!」
「そうだな。頑張らせたもんなー」
「『頑張らせた』のかよ」
そりゃもう、オリジナルBETAから、紅蓮中将の戦闘データまで、出すものに一切遠慮はしなかったからな。
向こうの方ですっごい目で睨んでいる衛士の皆さん。おかげで日本の威信が守られたんだからいいだろうが!
「なんていうか、拓哉ってうちのジイちゃんと同じ感じがするな」
「あんな顔面破壊神といっしょにするんじゃねえ」
「誰が顔面破壊神じゃー!!」
「うわぁっ!?」
いきなり湧いてでたちっこい顔面破壊神爺さんに、アムロが驚きの声を上げる。俺や甲児は慣れたもので、平然としている。
「全く、ちと目を離したら何を言われとるか分かったもんじゃないわい。それはさておき、よくやったぞ、小僧!」
「さっきも聞いたっすよ。それだけじゃないでしょ」
「うむ。頼みたいことの内、一つはもう済んでおる。お主のところの秘蔵っ子と甲児を会わせるのはのう」
「え、そうだったの?」
「そうじゃよ。甲児も同じ年の衛士を目指しとる小僧と会うのは、いい刺激になるじゃろ」
まあ、刺激という点ではな。それに、俺とは違って甲児は人を引き込む魅力がある。そういう意味では合わせてよかったと思う。
さて、もう一つの頼みごとはなんじゃろな?
「実は早乙女のところとちょっとばかし面白いことを考えついての」
その話題は、俺の心を激しく揺さぶった。
それ、超面白い。
短めですいません。
何分、ノリと勢いで書いていていますので。
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8・「常に最悪を想定しろ。俺は斜め上を行く」
俺は悪くねえ!爺さんたちがやれって言ったんだ!
うん、俺は悪くないね。
よし、自己弁護完了!
え、それじゃあ分からない?
まあ、そうだよな。
簡単に言うと、帝国軍&斯衛軍、阿鼻叫喚。
「なんなんだよ、コイツラは!!」
「つ、強い!それに、速い!!」
「おい、技術廠の!まだどこからハックされているかわからないのか!!」
「こっちも精一杯なんだ!クソ、プロテクトが全部抜かれて・・・」
いやー、監視カメラまでハックしてるって知れたら、多分発狂するだろうなー。
「おい、なんで攻撃が通らないんだよ!」
「レールガンだぞ!ふざけるなよ!」
あっちは超合金Zだからなー。レーザーだって弾くぞー。
「うわっ、なんだ!バラけただと!?」
「せ、戦闘機が、動きを捉えられない!?」
あ、ゲッターチームも参戦してきたか。
ちょっと遅かったな。武蔵あたりが飯でも食って長引いたか?
「ちくしょー!またあの坊主か!!」
うーん、半分正解。俺だけじゃないんだけどね。
まあ大体想像がつくと思うけど、俺達が何をやっているか。
アムロや甲児の経験値アップだ。
後、まだ面合わせはしてないけどゲッターチームも。
最初は大変だったもんなー。打ち合わせがうまくいってなくて、ガンダム、マジンガーZチームVSゲッターチームVS帝国軍という大乱戦。
俺としては、生でマジンガーとゲッターの対決が見られたから大満足だけどな。シミュレーターだけど。
シミュレーターはそれぞれ、俺の家と光子力研究所、早乙女研究所をオンラインで繋いで、そこから帝国軍と斯衛軍が訓練を始めるタイミングでハッキングするという手段を取っている。
勿論、俺は盛大に疑われたが、証拠を残すようなヘマはしていないため、怪しいけど逮捕できないという状況が続いている。
ちなみに、帝国、斯衛両軍ともに練度が上がっているためwin-winの関係だと、俺や爺さんたちは思っている。
まあ、何かあっても全部爺さんたちに責任をかぶせるし。
しかし、そろそろ隠れて動くのも限界だな。紅蓮中将や神野中将なんかがバックで動いてくれているから大きな騒ぎになっていないけど、ガンダムが目立ち過ぎだな。
普通の戦術機に近いからか、俺が隠れて作っている新型機って噂が隠しきれないほどに立っている。
もうそろそろいいかな。あれも完成した頃だろうし。スーパーロボット大戦って言ったら、やっぱりあれが必要だろ?
よくよく考えたら、シミュレーターへのハッキングを始めてから2年が経っている。アムロたちの練度ももう十分だろう。後は、実戦経験だけだ。それについても賛同者を多数集めることが出来た。
五摂家に皇家、その他有力政治家も多数抱き込んだ。
さあ、始めるぜ。こればっかりは爺さんのせいじゃない。
俺がやるって決めたんだ。
執務室で座っていると、そっと誰かの手が置かれる。
14歳になってすっかり美しく成長した焔ちゃんだ。秘書の役目は母上から受け継いで、俺の側に控えてくれている。
そう、俺がやらかしたことの規模が大きすぎるからか、あるいは、地下格納庫のガンダムを見せたからか、馬鹿でっかい袖の下を渡したからかは不明だが、紅蓮中将もとうとう俺と焔ちゃんの婚約を認めてくれた。
言っとくけど、まだ清い関係のままだからな。そっと体を寄せ合うだけでも、幸せだろ!?誰だそこ、ヘタレって言った奴!
「拓哉様、私もお側におります」
「焔ちゃん・・・」
きゅっと力強く俺の手を握る焔ちゃん。どうやら俺も知らないうちに、手が震えていたらしい。
そりゃそうだ。俺もこれから前線に出ることになる。戦術機には乗らないが、アムロたちを放り出して知らん顔をするには、あいつらと縁を育みすぎた。
だからこそ、2年前のあの日から作り始めたものがある。
「行こうか」
「はい」
俺の言葉に焔ちゃんは異論を挟まない。勿論、最初から計画を話しているからだ。その上で結構仲良くなったアムロや甲児たちにも黙っていてもらったんだ。
ガンダムを置いてある地下格納庫のさらに奥深く。そこにそれは眠っていた。
白亜のボディはまるで磨き上げたかのように美しく、だがそのせり上がったブロックは明らかに戦う者の光を湛えていた。
「さあ、出番だぜ、ホワイトベース」
ガンダム伝説のもう一つの立役者。ホワイトベースがそこに鎮座していた。
流石に艦船は手間がかかってな、それにオリジナルより一回り以上大きいし。
「彩峰司令、出撃準備は出来ていますか?」
「拓哉くん、ついに決行のときか・・・」
ブリッジでは、彩峰中将以下、ブリッジクルーが作業をしていた。
彩峰萩閣中将。原作では12・5事件が起きる原因になってしまった人。この人を身内に取り込むことで、後々クーデターが起こるのを阻止することにした。
とはいえ、最初は無理かなーと思っていたんだ。帝国軍の重鎮だし。でもそこは五摂家の鶴の一声が効いた。後、このおっさんも結構いい性格してる。
「ホワイトベースで、ガンダムで、マジンガーで、ゲッターで世界中を引っ掻き回してやる」
その為に、彩峰中将以外にもちょっとばかり無理をした人員もいい感じに集まったし。
「すまない、遅くなった!」
駆け込んできたのは巌谷大尉と篁大尉。そしてその後ろにいるのが、天田士郎少尉。
「まだ大丈夫ですよ。それで、その後ろの少尉さんが例の?」
「はっ!天田士郎少尉であります!!」
「新塚拓哉だ。よろしく!」
フランクな対応に困っている。初々しいねー。
そう、この世界にはシロー・アマダもいる。能力は十分だからこっちからスカウトした。巌谷大尉が太鼓判を押したから、それだけの実力はある。あるんだが、これはますますスパロボじみてきたな。
この調子だったら、コウ・ウラキやアナベル・ガトーもいそうだな。
「はっはっはっは!大丈夫だよ、少尉!ここではあまり硬くなることはない」
「榮二がフランクすぎるんだ。天田少尉。必要が無い限りは普通にしていてもらってかまわない。君が選ばれたのは、ある意味問題児の面倒を見ることだからね」
ナーバスなアムロ。ヤンチャな甲児。後はゲッターチームが加われば賑やかなことになるだろう。
格納庫に目を向ける。格納庫の奥にはアムロのガンダムが置かれており、その両サイドに3機の陸戦型ガンダムが並んでいる。
ガンダムは言うまでもなくアムロのもの。陸戦型ガンダムは巌谷大尉と篁大尉、天田少尉の乗機だ。そのほかには大隊規模のジムがずらりと並んでいる。
そう、このジムこそが第3世代機の量産型だ。動力源は新型に変更。装甲はPS装甲を使っていないが、やはりこちらも新素材で頑強さは撃震改以上。ストライカーパックによる戦局に合わせた武装変更も可能と、汎用性も高い機体になっている。
ちなみに、小隊長機はヘッドパーツがジム・コマンドのものになっており、通信関係の機能が強化されている。
「これが全て第3世代機・・・。すごいや」
「あ、それ間違い」
「えっ?」
感心したような声を漏らす天田少尉に、俺は爆弾発言を投げつける。
「ジムは第3世代機だけど、ガンダムは3.5世代機」
「ちょっと待て!それは聞いていないぞ!」
「言ってないしな。兜のじっちゃんが黙っとけって」
理由は面白そうだからというだけだろうけど。
ガンダムが3.5世代機である最大の理由は、その動力源。実は、マクロスシリーズに登場するバルキリーのエンジン、熱核バーストエンジンを搭載している。と言っても、初期型もいいところだけどな。
大きさも違う、規格も違うガンダムに詰め込むのにはかなり苦労したもんだ。それをどうにか出来るのが俺の頭脳チートだ。最近はこの能力の使い方もわかってきた。
もう一つ、ガンダムの動力源を熱核バーストエンジンにしたしっかりした理由もある。
この世界ではミノフスキー粒子の存在が確認できなかったからだ。その為、ミノフスキー粒子を作って動力源にするよりも、熱核バーストエンジンをガンダムサイズに合わせたほうが安上がりなのだ。
もう一つの理由としては、アムロの操縦能力が上がりすぎて、新型の動力源でも追いつかないというのもある。マグネットコーティングを施そうかとも思ったけど、当面は動力源の換装だけでどうにかなるからそのまんま。準備はしてあるけど。
「だから出力は段違いに高い。士郎さんたちの乗る量産型は、従来型の主機だから第3世代機だよ」
「出来れば、もう少し早く話してほしかったな」
「いやー、じっちゃんたちが面白がって」
「君も楽しんでいただろう」
うん、超楽しかった。
それはなるべく表情に出さないようにする。多分出まくってたと思うけど。
「まあまあ、それは置いといてさ。もうじき来るよ」
と、言った側から近づいてきたか。
独特の空気の音を流して近づいてくるそれは、宙に浮いていた。と言っても30cm程度だが、軽く浮いているバイクが2ケツでやってくる。
「よし、セーフ!」
そう言ってメットを取ったのは甲児だ。
「ギリギリセーフの間違いだろう」
『ギリギリ!ギリギリ!』
続けてメットを取ったアムロが汗を拭いながら呆れたように言う。
甲児の乗ってきたバイクはエレカ。斥力場を発生させる装置を積んだ、タイヤ不要のバイクだ。
去年に甲児がバイクに興味を持ち出して、乗ってみたいといい出すようになったんだ。
だから、研究所内とホワイトベース内限定という条件をつけて、去年の甲児の誕生日にプレゼントしたんだ。
これが大いに気に入ったらしくてな、アムロやシロー、さやかさんを後ろに乗せて走る走る。
まあ、これだけ喜んでくれたら俺としても贈ったかいがあるってもんよ。
ちなみに、アムロにはハロをプレゼントした。ナーバスなアムロには脳天気なハロの緩いAIとの掛け合いは、なんだかんだで安定剤になっている。
「後はゲッターチームが来れば出撃準備が整う」
「いや、もう来てるぜ」
「えっ、いつの間に!?」
「遠隔地の人たちだからな、昨日から来てる。ほら、あそこにゲットマシン」
「うわ、気づかなかったなー」
「じゃあ、ゲッターチームの人たちは」
「ここにいるぜ」
アムロの真後ろから聞こえた声に、声にならない悲鳴が上がる。
愉快そうに喉で笑い声を上げている隼人に、警戒心バリバリで身構える。
「隼人、その悪い癖はやめろよ」
「だがリョウ、シミュレーターと通信機越しとはいえ、あれだけ一緒に戦った戦友相手に釣れない態度だと思わないか?」
「隼人は自分の顔を見ろよ。人を殺したような顔がいきなりってなったらオイラでもちびるぞ」
ゲットマシンの方から歩いてきたツナギ姿の三人。流竜馬。神隼人。巴武蔵。
ゲッターチーム初期メンバーが勢揃いだ。
そして、スーパーロボット大戦、初期御三家も勢揃いだ。
さあ、この星の明日のためのスクランブルだ。
全員が会議室に集められた。中央に彩峰司令。その両サイドに篁大尉と巌谷大尉。その正面中央には俺と焔ちゃん。その周りに、アムロ、甲児、リョウ、隼人、武蔵、士郎さん。そして、この計画のために送り込まれてきた大隊規模の衛士や整備士たち。
この場にはいないが皇帝陛下に皇太子殿下。そして五摂家当主やそれに連なる武家の皆様も見ているだろう。
彩峰司令の言葉をみんなが待っている。
全員の視線が集まる中、彩峰司令の演説が始まる。
「諸君、今日この日に集まってくれたことを感謝する。私が艦隊司令の彩峰萩閣中将である」
普段は陽気な甲児も武蔵も、緊張の面持ちで見守る。
「我らは皇帝陛下、並びに政威大将軍殿下の信任を得て結成された独立外郭部隊である。我らの目的はこの地球上全てからBETAを排除することにある」
そう、そのために結成した。結成させた。
「奴らの進撃はとどまることを知らず、支配地域は日増しに増えている。各国の戦線は日々押され、もはや座してみているだけなど出来ぬ!」
その先にあるのは破滅の未来だ。俺は戦わない。そのために戦える人間を集めさせた。
「何もしないという事は生きる事を放棄する事と同じである。それは生命体の存在意義に反する」
この辺は入れ知恵したな。だって演説の草案を俺のところに持ってくるんだもん。
「人類に逃げ場なし。だから、選ぶべきは戦いの道。生き残る道だ。そして我らはその道を選んだ。そして、それを無駄な足掻きにさせない。いまも戦っている世界中の戦士たちのために」
最後の方はちょろっと変えた。でも、効果はあったな、士郎さんとか目がマジだもん。
「故に立ち上がった!我ら、日本帝国第十三外郭独立部隊『ロンド・ベル』は!戦おう、そして生きよう!最後まで人間として!世界で戦う人々とともに!!」
瞬間、ホワイトベースの艦内がひび割れるほどの歓声が湧き上がった。
俺は絶対に天国に行けない。今度こそ地獄行きだ。だけどそれこそ知ったことか。戦わなければ地獄なら、戦わせて地獄に落ちる。大丈夫。みんな幸せにしてやる。俺が鳴らした魔除けの鈴は、後はお前たちが鳴らし続けるんだ。
そっと誰かが俺の手を包む。焔ちゃんだ。
そう、この子を幸せにするためなら俺はなんだってやってやる!
恋する女は強いと言うけど、恋する男の子も強いのです。
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9・出撃!スーパーロボット大戦だ。
中央アジア・イラク
彼らは善戦していた。これ以外に語ることはないだろう。
雲霞のごとく押し寄せるBETAは、途切れる間を見せず彼らを蚕食していた。
「踏ん張れ!ここが正念場だぞ!!」
指揮官の鼓舞もただただ虚しく、戦術機は一機、また一機と数を減らしていた。
「マナンダル大尉!もう持ちません!!」
「くっ・・・!この後ろには、娘が、タリサがいるんだ!抜かれてたまるものかよ!」
男、レナード・マナンダル大尉には愛娘がいた。ちょっと、いや、かなり勝ち気にすぎる娘ではあるが、それでも亡き妻との間に残した一粒種だ。
長距離レールガンによる支援射撃も行われているが、それを上回る数が押し寄せる。
彼の故郷、ネパールはすでにBETAによって支配された。もはや何も残っていないだろう。転戦に次ぐ転戦。日本から提供された新兵器も現地で次々と改良されて運用されてはいるが、BETAにはさほど意味が無いらしい。
また一機脱落する。ついさっき声を交わしたばかりの衛士だ。
「CP!!支援はまだか!!」
『すでに行っています!BETAの数が違いすぎるんです!!』
本部から泣き言が返ってくる時点で、ここはもう末期なのだろう。覚悟を決める時が来たかもしれない。
守ることが出来ないだろう娘に胸中で謝罪を入れつつ、それでもトリガーに指をかける。その時だった。眼前まで迫っていたBETAの群れが消し飛んだのは。
『えっ、支援砲撃?どこから?』
「何だ、何があった!」
『支援砲撃です!所属は・・・日本帝国軍です!』
「日本・・・だと?」
空から降り注ぐ砲撃は次から次へとBETAを打ち倒していく。そして、見たことのないゴーグルタイプの目をした戦術機が次から次へと降下してくる。
『聞こえるか!こちら日本帝国軍第十三外郭独立部隊ロンド・ベル。私は機動部隊隊長の篁祐唯大尉だ!』
「ネパール陸軍所属レナード・マナンダル大尉だ」
『これより援護する!今は下がれ!!』
レナードの機体を守るようにツノ付きの機体が3機降りてくる。
そして、次の瞬間に目を疑った。彼らの機体から放たれた黄色い光に。
「馬鹿な、レーザーだと!?」
『レーザーではなくビームだよ、マナンダル大尉。とにかく、下がってくれ。機体はもう限界に近いだろう?』
「・・・っ!確かに。すまないが、後は任せる」
『任された!』
帝国軍機が一斉射撃するごとに、上空で砲声が響くごとに次から次へとBETAが消えていく。そんなまるで夢のような光景を見ながら機体を下げていく。
『大尉、あれは一体・・・』
生き残った部下からの通信が入る。
「そんなもの・・・」
天馬のような空中戦艦はレーザーをことごとく弾き返し、ビーム砲とミサイルを雨あられと降らせている。
更に空から機体が降りてくる。大きなウイングを背負ったツノ付きと、マントをたなびかせた赤い機体に、真紅の翼を背負った黒鉄の機体。
まるで踊るかのようにBETAの群れを駆け抜けるツノ付き。突撃級の攻撃を真っ向から受け止めて平然と反撃する黒鉄の機体。さっきまでマントを背負った赤い機体はバラバラになって、再びまとまった時には銀色の機体になり要塞級に巨大な穴を開けていた。
「俺のほうが聞きたいぐらいだ」
「圧倒的だな・・・」
「油断大敵。現実は常に想像の右斜め上ですよ、司令」
「君の作ったオリジナルBETAほどじゃないと思うけどね」
言わんでください。方々からやりすぎだと言われたんですから。
やっぱり極めつけは、黙示録級だろうな。歴代のスパロボのボスキャラたちを全てBETA風にアレンジして、一定数以上倒すとランダムで地面から現われる仕様にしたのだ。
古い所ではバラン・シュナイルとか、ディカステスとか、ヴァルシオンとか。生物系のやつはアレンジが楽でよかったよ。AI-1とかノイ・レジセイアとかアインスト系なんかは。黙示録級が出たときだけは、ハック先の帝国軍や斯衛軍も協力してくれたし。
とりあえず、自信を持って言えることは一つ。まだどれも撃墜させてないってことだな!
『ロケットパァァァンチ!!!』
マジンガーのロケットパンチが要撃級のど真ん中を撃ち抜く。そのマジンガーに背後から迫っていた別の要撃級を
『そこぉっ!!』
アムロのガンダム(エールストライカー装備)が撃ち抜く。
『ワリィ、助かった』
『油断禁物だぞ』
アムロと甲児は普段から顔を合わせているからか、特にアムロのほうが言葉に遠慮がなくなっている。
『トマホゥゥク・ブゥゥメランッ!!』
投擲されたトマホークが要塞級の伸ばされた触手を根本から断ち切り、
『オープン・ゲット!!』
『チェンジゲッター3!スイッチオン!』
伸びたゲッター3の腕ががっしりと掴む。あー、あれ、紅蓮中将でも掴まれたら逃げられないんだよな。
『大雪山おろしぃぃぃぃっ!!!』
猛烈な勢いで投げ飛ばされた要塞級は、グルグル回転しながら後続のBETAの群れに墜落する。
うわぁ~、ここからじゃあ音は聞こえないけどミンチになる音が響いたんだろうなー。
他の鍛えられたジムの部隊もやるが、アムロたちが目立っているな。
でも見ていて思う。やっぱりガンダム、マジンガー、ゲッターが活躍してこそだってな。
スーパーロボット大戦はここにある。
俺が夢見た世界がここにある。
およそ一時間後、すべての機体が帰還した。
幸いにも戦死者は出ることなく、ロンド・ベルの初実戦は大成功を収めた。
「この戦果は予想外だな・・・」
「いや、予想の範囲内ですよ。これから先、戦いが激しくなることはあれ、楽になることなんて無いのですよ」
そう、ロンド・ベルならこれぐらい出来てもらわなければ困る。
次から次へと着艦してくる機体を見ながら、俺はこれから先のことを考える。
おそらく、大東亜連合軍からジムやガンダムの情報に関する問い合わせがあるだろう。
それはいい。元々、ある程度は提供するつもりで一個中隊規模のジムは用意してある。すごいだろ、このホワイトベース。伊達や酔狂で大型化させてないんだぜ。まだ隠し玉はあるしな。
レーザー対策も万全とは言わないが、装甲自身の厚みとラミネート装甲化で大抵のものははじける。当たった側からメガ粒子砲を打ち込めば解決する。
本当はディストーションフィールドとかIフィールドを装備させたかったのだがな。前者は国の技術力問題で量産化が困難。後者はこの世界にはミノフスキー粒子が存在しないことで不可能と来た。まあ何にせよ、楽には解決させてくれないよ。
『おーい、拓哉ー』
格納庫の武蔵から通信が入ってくる。
「どうした、何かあったか?」
『ちょっとすまんが、ゲッター3のアームを見てくれんか。大雪山おろしをした後からちょっと調子が悪くてな』
「おいおい、もう問題が出たのかよ」
実はゲッターロボは問題を抱えている。いや、戦闘兵器としては十分に完成されているのだが、パイロットをやっている3人が限界以上にゲッターロボを振り回すため、どうもすでに限界を超え始めているらしい。
早乙女博士は、「お前の超難易度のシミュレーターが原因だ」とか言っていたけど。
「すぐにそっちに行く」
『頼む!』
「というわけですので」
「ああ、行ってきなさい」
そんなわけで格納庫に走る俺だったが、ちょっと後悔していることが一つ。
格納庫まで遠すぎ。
レナード・マナンダルは空から降りてくる白馬に目を奪われていた。
一体いかにしてあれほどの巨体が宙に浮くというのか。気のせいでなければ、あの空中戦艦は装甲でレーザーを弾いていた。
そして恐るべきは、ビーム兵器を標準装備している戦術機を、大隊規模で揃えているということだ。
「隊長、本当に彼らは日本からの援軍なのでしょうか?」
「本人たちはそう名乗っている」
不安げな声で唯一生き残った部下が声をかけてくる。
「こう言っては何ですが、突拍子もなさすぎです。あんな、レーザーを武器にするだなんて・・・」
「レーザーではなくビームだそうだ」
「どっちでも一緒です!」
半ば金切り声のような悲鳴のような声を上げる部下に、たしかにそうだと思いつつも表情には出さない。グルカの戦士はうろたえないのだ。
ただ、彼女のように大騒ぎできればどれだけ心理的に楽だったろうか。
そう思いつつも態度に表さないレナードだった。
「よく来てくれた。遠く日本からの援軍に感謝する」
彩峰中将の手をがっしり握って万感の思いを込めて頭を下げるのは、基地司令のパウル・ラダビノッド准将だ。
俺もこの人ぐらいは覚えている。原作では横浜基地司令をやっていたはずだ。
にしても、まだ原作まで10年以上はあるはずなのに、異様に老けて見えるなこの人。それだけ苦労しているんだろうけど。
「インド亜大陸の猛将とうたわれる貴方と会えて光栄です。もう少し早く到着できていれば良かったのですが」
「あなた方が来てくださらなければ我々は全滅していました。そのお気持ちだけで十分です」
いやー、若本ボイスは迫力あるなー。腹にズシンと来るわ。なんてこと考えてるなんて知られないようにポーカーフェイスを作る。
「ところで、そちらの少年兵は?」
「彼は我が国が誇る頭脳。新塚拓哉博士です」
「おおっ!あの新塚博士か!」
「博士なんて大げさですよ。俺はちょっと知恵が回るだけの小僧です」
話の矛先がこっちに向いたので、俺も慌てて居住まいを正す。
「いや、貴方が日本の上層部に働きかけてくれたおかげで、レールガンやヒートサーベル、学習型コンピューターが前線国家に優先的に回って来たと聞いている。我々は、貴方に返しきれないほどの恩があるのだ」
良かった。ちゃんと意味はあったようだ。
だがちょっと違和感がある。俺自身、マブラヴオルタの物語はうろ覚えだが、この人が、ラダビノッド司令が命を諦める寸前になるほど、この時点で戦線はヤバイことになっていないはずだ。
しかも、さっきの部隊の隊長さんの名前。レナード・マナンダルって言ったか?マナンダルという名前で思いつくのは、トータル・イクリプスのチョビことタリサ・マナンダルだ。タリサの父親に関する言及はなかったから、史実ではここで死んでいたのかどうかは分からないが、これは俺が変に強力な武器を作った影響でBETAの攻勢が苛烈になったのか?
分からん!下手の考え休むに似たりだ。俺は俺のやりたい通りにやろう。
「ところで、不躾だとは思いますがあの戦術機は日本の新型ですか?」
「ええ。我が国で開発された・・・いや、拓哉くんが独自に開発した第3世代機、ガンダムとジムです」
「後もう2機、レーザーを装甲で弾いてたのとバラけて合体してたのは、他の科学者が開発したものでマジンガーZとゲッターロボです」
先に釘を刺しとかんと、あのとんでもロボまで俺が開発したと思われかねん。
いやまあ、俺だって作れるけど、あれに関しては神様チート無しの本物頭脳チートが作り上げた機体だ。資金援助だけはさせてもらったけどな。
「第3世代機・・・!アメリカが第2世代機を発表したばかりだと言うのにか!?」
うろたえるラダビノッド司令。そりゃまあそうだろうな。その第2世代機をぶちのめしたばかりの時に第3世代機だ。
瑞鶴改のスペックは第2世代機がいいところだ。ジムと比べれば見劣りするなんてものじゃないぜ。
ちなみに、俺はアメリカから名指しで非難されている。ってのも、瑞鶴無双が原因だ。必要な高い技術を秘匿しているってな。さっきから何度も書いているとおり、瑞鶴改のスペックはF-15とどっこいどっこいだ。だからこそ、瑞鶴改に関してはとやかく言われる謂れはない。
そして、高い技術力を表に出せってんなら、俺は俺のやり方で表に出す。そのためには。
「私たちは第3世代機をあなた達に提供する用意があります」
「何だと!?」
これが俺の考えていること。大した事のない技術ならどんどん出してしまおうというもの。いや、大した事はあるのだが、世界の技術力基準を力づくでも底上げしてしまおうというもの。
だから帝国上層部との交渉の際に、俺の開発したものは国益に反しない範囲で、俺の自由にしていいということにしたのだ。
第3世代機の情報をタダ同然で流すのは国益に反しないのかって?反しないよ。もう既に第4世代機の開発も進めているからな。ジムもそろそろ型遅れになる。と言うか、する。その為には、現在最前線で戦っている国家には頑張ってもらわなければならない。
「後方国家として当然の支援ですよ」
まあ、素直に本音は出さないけどな。
「ありがとう・・・・・・・・ありがとう!」
だからお願い、そんなガチの感謝しないで。
涙を流しながら俺の手を握るラダビノッド司令に、俺は内心を隠してなるべくポーカーフェイスで対応した。
録り溜めしていた幼女戦記を見ました。
ゲスい幼女最高!
俺、なぜ主人公を男にしたし!
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10・やるからには遠慮しない
その機体を誰もが呆然と見上げる。
白を貴重としたボディにゴーグルタイプの目。そして、背中には長刀を背負っていない代わりに、2本の棒が飛び出ている。腰には従来のものより大型のライフルがマウントされている。
日本帝国が誇る最新の第3世代機、ジムだ。いま彼らの目の前には3機のジムが並んでいる。
「これが、第3世代機・・・・・・」
生き残った唯一の部下、メリッサ少尉が見上げながらつぶやく。
誰もが信じられないような思いで見上げる。つい先程まで戦場で猛威を奮っていた、人類史上初の光学兵器を搭載しているのだから。
その威力は要塞級を物ともせず、突撃級や要撃級を一撃で塵と化した。機動力に至っては信じられないことにレーザーを回避するほどだ。
「なんで、タダで貰えたのでしょうか・・・」
やはり心ここにあらずと言った風で問いかけるのは、整備士長だ。
「博士の言葉を信じるのなら、後方国家として当然の支援、だそうだ」
「額面通りの意味だとおもいますか?」
それを信じるのはお人好しがすぎるだろう。そう思いつつも口には出さない。何しろ手元には第3世代機の現物があるのだから。
新塚拓哉にはいろんな噂、いや、噂を通り越した伝説が付き纏う。
曰く、皇族や有力武家との強いパイプラインがある。
曰く、実家の地下の秘密の研究施設がある。
曰く、驚愕の新型装甲素材を開発した。
たちの悪い事はそれが噂のレベルではなく、事実であるということだ。
そして今度は婚約者同伴で、おそらくではあるが、私設独立部隊を率いての戦場介入だ。
「何者なのだ、新塚拓哉とは・・・」
「答えられる範囲なら答えますよ?」
突如聞こえた声に、全員が体を震わせ振り向く。
そこには黒髪の美少女を連れた新塚拓哉が立っていた。
俺、世界でどういう風に思われているんだろうな。
裏はあるよ。俺が戦場に出たくない。焔ちゃんと結婚したい。焔ちゃんも戦場に出したくない。日本を戦火に巻き込まない。聞かれたならば冷たい視線が降り注ぐことうけあいの内容だ。
最初の戦場に出ないってのは、もうここまで来た時点で反故にしたに等しいけど。アムロや甲児、リョウたちとあれだけ関わって知らん顔が出来るほど、俺も非情ではなかったという訳だ。
まあ、そこはいいや。もう自分から飛び込んだってことで諦めよう。だからみんな、俺たちを守ってね?
「さて、何を聞きます?」
「君の事も気になるが、この機体のことを教えてほしい」
「分かりました。それじゃ、ざっくりレクチャーしますね」
さて、ここからは説明回だ。
ジムはガンダムの量産型として作られた機体だ。ってのも、ガンダム自体がハイスペックに過ぎた。少なくとも、日本で量産するには強力すぎて、何よりもコストのかかりすぎる機体だ。日本の国力ではこんなもの量産した日には速攻で干上がってしまう。
だからまずは量産型として陸戦型ガンダムを作った。名前は量産型ガンダムだけどな。だけど、これもお値段がかかりすぎるということでさらに質を落とした、それでも第3世代機に分類される最新型機を作り上げた。それがジムだ。
原作のジムとの違いはストライカーパックを使用するという点。これはガンダムも量産型ガンダムも同じだ。エール、ソード、ランチャーと3つのストライカーパックを使い分けることでいろんな戦場、そして衛士に合わせることが出来る。アムロのような天才や、巌谷大尉たちのような熟練衛士ならエールストライカーだけで十分。そうでなくても狙撃の名手がランチャーで高い戦績を上げたりもしている。
コクピットブロックはこれも最新型の全天周囲モニターとリニアシートを使用。これによって衛士適性試験のハードルが格段に下がった。撃震と瑞鶴に搭載するのはちょっと無理がある、と言うか、大幅に改造する必要があるので無理だが、日本では後の量産型は全てこのシステムを使うつもりだ。
当初は戸惑いが見られた全天周囲モニターも、今では網膜投影システムより見やすいと好評を持って受け入れられている。
そうそう、もう一つ忘れていた。ジムと量産型ガンダムは最新型の動力源を使用しているので、F-15を圧倒する出力を持っている。
「ってな感じだけど、質問は?」
勿論、原作だとかのメタな部分は排除して説明したぜ。
「最新技術の塊じゃないですか!そんな機体を3機も渡して、あなたの立場は大丈夫なんですか!?」
「大丈夫。それは俺の発明品だからな。だから俺の好きにしていいんだよ。そういう風に決まっているし」
「そんな無茶苦茶な・・・」
「後、気になっているだろうけどホワイトベース、空中戦艦の技術はそのうち日本から渡されると思うから、それはそっちで作ってくれよ。流石にそこまでの余裕はない」
帝国軍で作っているペガサス級、もとい、天馬級は流石に国内運用分だけで終わるだろう。
だから、設計図と理論書だけ渡す。後はそっちで作ってくれってことだ。
「もう一つの目的は、世界の技術レベルの底上げだ。その為にジムの予備機を大量に用意している。この後はEUとかソ連も回らないといけないからな。大事に使ってくれよ」
「米国の影響力の排除・・・・・・ということか」
「そ。一国だけが最新技術を持つのは望ましくない。それは余計な勘違いを生む。曰く、アメリカに逆らえない。ってな」
アメリカは俺をアメリカに留学させるつもりだったんだろうけど、当時の俺がすでにやりすぎなぐらいだった。撃震改と学習型コンピューターにレールガン、ヒートサーベル。
アメリカにだってないようなものを日本で作って、コピーするなら好きにしろとばかりにばらまいて、学習型コンピューターは容易くライセンス生産を認めた。
面目丸つぶれってところでF-15のお披露目会だ。瑞鶴改を叩き潰して今度こそ優位に立つつもりが、俺でも予想外の結果になったからな。
だから俺はアメリカに嫌われている。命を狙われていると言っても過言ではない。何しろ、アメリカを無視して第3世代機を世界中に配布するわけだからな。ビーム兵器のおまけ付きで。
「俺は逆らう。BETAにもアメリカにも。そして目指すはハッピーエンドだ」
「君ならばできそうな気がしてきたよ」
そう言って手を差し出すレナード大尉。
レナード大尉の顔はさっきまでの不安は払拭された、明るいものになっていた。
俺もいたずら小僧のような(と最近言われる)笑顔でガシッと手を握り返す。
「君との出会いに感謝を」
「光栄です」
短く答えてがっしりと手を握る。
「第3世代機の操縦レクチャーは巌谷大尉たちから受けてください。俺はその間に、余った1機で整備の仕方とか教えてきますんで」
「君が整備もするのか?」
「ええ。第3世代機は出て来たばかりですから、ちゃんと教えることが出来るのは俺とうちの整備士長だけなんですよ」
お陰でホワイトベースの格納庫はてんてこ舞いだ。おやっさんも毎日、血管が切れそうな勢いで怒鳴りっぱなしだし。
シゲさん、死んでないといいな。見込みがあるからってめちゃくちゃ仕込まれてるけど。
さてと、
「教導を開始しようか」
俺はこの上ないいい笑顔を浮かべたつもりなんだが、なんでだろう、整備の皆さんの表情が引きつっているのは?
その頃、アムロたちは休息を取っていた。
自分の機体の整備も済ませた衛士の仕事は、もっぱら休息を取ることである。
ホワイトベースの食堂でまったりしているのは、決してサボっているわけではないのだ。
「あー、疲れたぜ」
「何だ、甲児くん。あれぐらいでだらしないぞ」
『ダラシナイ!ダラシナイ!』
机でヘタれる甲児に竜馬とハロが言う。
「いや、戦闘でじゃねえよ。おやっさんにどやされてさ・・・」
「アレは甲児が悪いな。シゲさんに整備を丸投げしようとしていただろう」
隼人に突っ込まれて、反論の余地もないのか甲児はブスッとした顔でそっぽを向く。察した竜馬も呆れたような面持ちで甲児の隣に腰を下ろす。
「自分の機体の整備も衛士の仕事だぞ。それに、マジンガーは君のおじいさんが作ったんだろ?」
「うっ、そうだけどよ・・・。ああいう機械は難しくて駄目なんだよ」
「ハッハッハッハ!分かる分かる!おいらも未だに苦手で隼人の手を借りてるからな!」
「お前はいい加減覚えろ」
ゲッターチームも勢揃いしたところで、一度ホッと一息つく。
しばらく誰もが口を開かない。それも無理がない。何しろ全員これが初陣となるのだ。
『死の8分』。新米衛士が乗り越えるべき壁の一つ。それを乗り越えたのだから。
「俺達は、生き延びたんだ」
アムロの何気ない一言が、この場にいる全員の心境を表していた。
甲児や武蔵でさえも緊張を強いられていたのだ。ナーバスなアムロには相当な負担となっていただろう。
かすかに震えるアムロの手を見た竜馬は、何も言わずにそっと手を重ねる。続けて隼人、甲児、武蔵も手を重ねる。
ハッとして皆の顔を見回すアムロ。
「強がるなよ、アムロ。お前に『俺』なんて似合わねえぞ」
この中で一番付き合いの長い甲児が、ニカッと笑みを浮かべて言う。
確かに、いつの間にかアムロは自分のことを『俺』と言うようになっていた。竜馬達は知らないが、それでもアムロが無理をしているのは感じ取っていた。
「そうだぞ。正直に言うが、俺も怖かった。何しろ映像じゃない本物のBETAと向き合うんだからな」
「フッ。そういうことだ」
「それでも拓哉のオリジナルBETA程じゃなかったけどな!」
「それもそうだな」
誰からともなく笑みが溢れる。そして気がついた時には全員に笑みが伝搬していた。
誰もが無理をしていたのだ。その事に気づいた時に誰もが緊張から開放されたのだ。
「やれやれ。俺の出番はなかったかな?」
食堂の入り口から聞こえた声に振り向くと、そこには士郎が立っていた。
人の良さそうな顔に困ったような笑みを浮かべた彼は、アムロたちの机にやってくる。
「天田少尉、お疲れ様です」
「そんなに堅苦しくなくていいよ。君たちはまだ軍属というわけじゃないからね」
「それじゃあ士郎さんと呼ばせてもらおうかな」
「俺は妙な気分だなー。弟の名前と一緒だから」
「はははっ、気楽に兄貴が出来たつもりでいいよ。彩峰中将もああいう方だから」
「中将とは思えないぐらい軽いおっさんだもんな」
「調子に乗りすぎだ、武蔵」
陽気な笑い声が食堂を包み込む。
巌谷と篁はともにその様子を遠くから見ていた。
「やはり士郎くんに任せたのは正解だったな」
「ああ。彼には人をまとめる才能がある」
2人は拓哉がアムロたちをロンド・ベルに組み込むと知った時に、そのまとめ役となる兄貴分を探したのだ。
実力があり、その上でまとめる事が出来る人物となったときに、彩峰中将から直々に紹介されたのがまだ新米少尉と言ってもいい天田士郎だったのだ。
当初は不安こそあったものの、いざ顔を合わさせてみればあの通りだ。
「さて、私たちは大人の仕事をしてくるか」
「そうだな。大人には大人の仕事を、な」
あの少年たちならば、この鬱屈とした世界の未来を変えることが出来るかもしれない。
その希望をつなぐために、二人もまた、動き出した。
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11・一応手の届く範囲だけ
苦手な人はごめんなさい。
必死に何かをやるのと、死ぬ気になって何かをやるのに明確な差がどこにあるのか聞かれれば、俺は本人の気の持ちようと答える。
例えば俺は死ぬ気になって何かをやっていない。死ぬつもりなんてサラサラ無いからだ。その代わりに、死にたくないから必死に開発や発明を続けている。
で、なんでこんな話をしているのかと言えば、ちょっとアムロたち、いや、ロンド・ベルの初戦が快勝過ぎたおかげで気が緩んでいるかもしれないと思った俺と彩峰中将は、現地の衛士との交流会を行ったのだ。
その時に、生き残ったのはレナード大尉とメリッサ少尉の二人の衛士だけだったが、いかにして彼らが死ぬ気になってこの地を守ってきたのかが知れたのだ。
それは彼女たちの存在によって。
「なあなあ、俺もガンダムに乗せろよー!」
「すげー、このバイク浮いてる!」
「デブー!デブー!」
それで決意が固まるかと思ったら大間違いだ、この悪ガキ共がーーー!!
何がなんでこんな大騒ぎになっているかというと、ホワイトベースの見学会をやろうということになったのだ。
で、その際に彩峰司令がうっかり「お子さんたちもどうですか?」と誘ってしまったのだ。つーか、誘ってしまいやがった。誘うなよ。曲がりなりにも軍事機密だぞ。
初めて見るタイプの戦術機に大騒ぎ。ガンダム、ゲッター、マジンガーと、見慣れないタイプは特に大人気。迂闊に格納庫にバイク(フライトタイプ)で乗り込んできた甲児は子どもにたかられて大騒ぎ。
どうすんだよ、コレ。レナード大尉がさっきから方々に頭下げまくってる。
ちなみにさっきからデブと言われているのは、こっそりホワイトベースに乗り込んでいた棒田進、つまりはボスだ。居たのか、こいつ。
「兜ぉ!見てないでなんとかするだわさー!!」
「諦めろよ、ボス。いいじゃねえか、最初に仕事ができて」
あっちはあっちで大騒ぎだが、俺の知ったこっちゃない。ボスもなんのかんので子どもに暴力は振るわないので放置。甲児も諦めたのか、バイクのケツに子どもを乗せている。
「アムロ、いいだろ。管制ユニットに入るだけでいいからさ」
「駄目に決まっているだろう!いい加減離れてくれ!」
「いーやーだー!!」
そしてアムロにまとわりついている色黒のちびっこは、レナード大尉の一粒種。今は殆ど男の子みたいだがれっきとした女の子、タリサ・マナンダルだ。
なんでかは分からんが、アムロが気に入ったらしく必死にまとわりついている。他の女の子はリョウの方に行っているのにな。
リョウ。手を付けたら国際問題だからなー!
リョーウ。手を付けたら国際問題だからなー!
他のゲッターチームはというと、武蔵がちっちゃい子、それこそ3つや4つぐらいの子に懐かれて、抱っこしてあげたりと大忙しだ。で、隼人はと言うと・・・。
「誰も寄ってこないのな」
「お前もだろうが」
俺は今来たばっかりですー!と強がったところで、俺と隼人の周りに人がいないのは事実だ。
隼人の場合は原作漫画版の殺人鬼みたいな顔をしているからだけど、俺は母上にそっくりな顔立ちで、人当たりもいいと思うんだけどな。
「拓哉様、それは子どもたちが気を使ってくれているからですわ」
「どういうこと?」
俺がちらりと目を向けると、こっちに寄ってこようとしていた子どもたちが、ある程度年かさの少女たちによって引き止められて引き返していく。
少女たち、ここがポイントです。
ああ、気を使ってくれるって、そういう事か。
「それじゃ、みんなに任せて俺たちは行こうか」
「はい。拓哉様」
俺は焔ちゃんの手を引いて格納庫から離れた。
後ろの方から、「しってるー、ああいうのがりあじゅーっていうんでしょー」「りあじゅー、りあじゅー」とか「爆発しろコンチクショー!」とか「逃げやがったー!」とか聞こえたが、俺は気にしない。
テラスまで出てきた俺は、焔ちゃんと二人分の合成茶を持って席についた。
そして、二人で茶をすすってほうっと一息つく。
「拓哉様、どうかなさいましたか?」
「どうかって、何が?」
「先程から思い詰めていらっしゃるようでしたから」
いや、そう言われてもまるっきり分からん。
キョトンとしていると、焔ちゃんも小首を傾げる。
「もしかして、ご自分でもお気づきになっていなかったのですか?」
いや、気づいていないって何さ?
正直、焔ちゃんが何を言いたいのかちょっと分からない。
「少し、昔のお話をしましょう」
初めてその少年の話を聞いた時は、信じられない思いだった。
少女には戦術機の事も軍事の事も、ましてや政治の事はまるで分からない。
だが、自分と同じ年にもかかわらず大人と丁々発止にやりあう少年がいるという話を、大きく偉大な父から聞かされた。
まるで夢のような存在に、会ったこともない少年に、少女は憧れの思いを抱いた。これが少女の始まり。
初めて出会った少年はどこまでも自由というわけではなかった。
自分の立場に息苦しさと、大人たちに怒りを感じているように見えた。
だけど、それは自分と接する時には全く見せなかった。思い違いでなければ、自分は彼の特別になれたのだと、誇らしく思った。
やがて少年はまた新しい発明を作り上げた。大人たちは少年を褒めそやすが、少年はあまり嬉しくなさそう。怖い顔の小さなおじいさんたちだけは例外のようだが、ちょっと動きにくそう。
次に友達が出来た。外国人の少年ということで少女は構えて見ていたが、風邪を引いて寝ている間に随分と仲良くなっていた。
友達というには大分振り回している感が強かったが。
そしてまた友達が増える、増える。それは喜ばしいことだ。少年の環境はおおよそ健全ではない。大人に囲まれて、大人の仕事をして、友達の数は片手の指程度。
そして今度は、戦場に出た。知り合った友人だけを放り出せずに、自分も同じ場所に立つことを選んだ。
こうして少年はまた抱え込む。守るものが一つ、また一つと、本人の気づかない内に増えていく。
彼は非常に強欲だ。友人にしろ知人にしろ、自分のものを絶対に手放さない。
ただし、自分が一番であることは絶対に譲らないし、自信を持って言える。
とにかく、一つ、また一つと守るものを増やすたびに少年は身動きが取れなくなっていく。いや、身動きは取れているのだろう。その度に少年の意志から離れていく。それでもきっと、少年は自分をごまかす。
自分が生き残るため、と。
そして今日もまた、守るべきものを増やしてしまった。名前も知らない子どもたちを。
焔ちゃんの語りが終わった時、俺は自分の手が震えていることに気がついた。
思っている以上に自分の心の中が読まれていたことに、戦慄を禁じ得ない。
やっぱりこの子、あのグレンダイザーの娘だ。俺はどこぞの煩悩GS少年みたいに、うっかり口に出したりしない。出す時はわざとだ。
自分が生き残るためなんて言う、誰にも聞かれたくない思いなんざ誰にも聞かせたことはない。
「焔ちゃんは、いつから気づいていた?」
「秘書をやるようになってからですわ。拓哉様の一番の目的は、自分が生き残ることだと」
「あー、別に俺一人が生き残るわけじゃなくってな」
「分かっています。お義父様にお義母様。アムロくんに甲児くん、竜馬くんに隼人くん、武蔵くん。ボスくんもですか?篁大尉と巌谷大尉。榊のおじさまに、シバさん。彩峰中将や私のお父様、お兄様たち。欲張りすぎです」
嫌な汗が吹き出る。この子はどこまで俺の本音を読んでいる。
「もう、辞めませんか?」
「は?」
「これ以上守るものを増やすこと。正直に申し上げますと、すでに拓哉様の領分を超えています。拓哉様はこれ以上何かを守る必要はないと考えています」
「・・・・・・それは出来ない」
「はい。存じております」
予想外の答えに、思わず肩の力が抜ける。
そんな俺の様子がおかしかったのか、クスクスと可愛らしく笑いながら続ける。
「ですから、もう少し私を頼ってくださいませ。思う存分にすがってくださいませ。その為に、私はここにいます」
「いや、すがるって言われても・・・」
「大体、拓哉様は一人でなんでも決めてしまいすぎですわ。お義母様や兜博士、早乙女博士にはあれほど頼りますのに。これでは婚約者の名折れです」
焔ちゃんは続ける。
「これから先、拓哉様は守るものを増やし続けるでしょう。そして、その重みに潰されそうになった時に頼ってもらえないのは、悲しすぎます」
いつの間にか近づいていた焔ちゃんは、俺の手をキュッと掴むと一気に引き寄せる。もう鼻の先がつくほどの距離まで近づいた。
「私は私の戦い方があります。拓哉様の体調を常に万全の状態に持っていくことです」
少しずつ近づいてくる焔ちゃん。柔らかい、優しい香りが鼻をかすめ、濡れた瞳と唇が近づいてくる。
これはもう、誘ってるんだよな。もう、決めちまうぞ
俺は開いている手を焔ちゃんの背中に回すと、強引に引き寄せた。そして、強引に唇を奪いかかった。唇の柔らかさと、焔ちゃんのいい匂いが同時に、暴力的なまでに俺に襲いかかる。
だけど負けるつもりはない。前世の数少ない経験を頼りに、舌で口をこじ開け焔ちゃんの舌と絡ませる。チュクチュクという水音を立てて、焔ちゃんの口内を蹂躙する。
戸惑ったままの焔ちゃん。悪いが、主導権は俺が頂く。焔ちゃんの唇、舌、口内の粘膜。味わうだけ味わい尽くした俺は、ゆっくりと体を離す。
ツーッと銀色の糸が俺と焔ちゃんの間を繋ぐ。それを指先で絡め取った俺は、自分の口に運んだ。そして、
「ごちそうさま」
「た、た、たたたたた拓哉様!?」
これだけ狼狽える焔ちゃんを見るのは久しぶりだな。
「続きはもっと大人になってから、な?」
「は、はひぃ・・・」
流石に14歳で合体はマズイです。まあ、そのタガが外れてしまう可能性が十分にありそうだけどな。主に俺が原因で!
腰が抜けてしまったらしい焔ちゃんを、ヒョイッとお姫様抱っこで抱きかかえる。
「とりあえず、部屋に帰るか?」
「はい・・・・・・。そ、その、続きは」
「俺達の年で子供が出来ちゃマズイでしょ」
子供が出来るようなことを想像したのか、顔がポンッという感じで真っ赤に染まる。
ムッツリだ。焔ちゃん、超ムッツリだ。
さて、子供が出来るようなことじゃなければ何をやってもいいというわけで。俺の部屋で続きをやろうか。
その後、テラスの従業員が真っ赤になったままで固まっていたと気づいたのは、結構後になってからだ。
今回からちょっと更新ペースを落とします。
そろそろ書き溜め分が終わりそうなので。
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12・とりあえず問題だらけ
焔ちゃん?焔ちゃんなら、隣で寝ているよ。
いや、マジで。
艦内風紀とかどうなったと言われそうだが、はっきり言っておく。俺、まだ何もしてないからな!Aまでだからな、Aまで!
元々、焔ちゃんの部屋と俺の部屋は隣同士だったのだが、あの後、正気を取り戻した焔ちゃんは元気に駆け出し、彩峰司令に直談判。
「私、今日から拓哉様の部屋で寝食を共にいたします!」
紅蓮のお義父様にバレた時が恐ろしい限りだ。
彩峰司令の微笑ましいものを見るような目と、そっと俺の手に握らされた『突撃一番』についてはツッコまないで欲しい。
で、だ。突貫工事で俺の部屋と焔ちゃんの部屋を繋げられて、アムロたち男衆が勝手に出入りすることのないように説得・・・いや、あれは脅迫だな。をしていた。
脅迫という根拠?アルミ缶とはいえ中身の入ったまま素手で握りつぶしてお願いされたら、説得ではなく脅迫だろう。隼人でさえ壊れたおもちゃみたいにガクガク頷いていたし。
すごいよねー。ちなみに、母上はスチール缶を握りつぶせる。「お義母様にはまだ届きません」と言って謙遜していたが、お願いです。届かないでください。
初日に抱きつかれて寝た時は、抱きしめ潰されるんじゃないかと戦々恐々としていたものだが、今ではすっかり慣れたもので、焔ちゃんの暖かさとか柔らかさとか、いい匂いとかを堪能できるまでになっている。
そのせいかどうかは知らないが、現地の子供達の俺の呼び方が「りあじゅー」になった。そう呼ばないのはタリサちゃんとある程度年かさの女の子たちだけだ。
さて、ここまで来たところでそろそろ聞かせてくれ。
誰だ、この地でリア充なんて言葉を流行らせた奴は。
そんな平和な俺とは裏腹に、衛士組は毎日がてんてこ舞いだ。
まず、現地の衛士の生き残りが、レナード大尉とメリッサ少尉の二人だけしかいないということだ。
その為、訓練過程の新米以下のひよっこを必死になって育てるしかないのだ。
衛士適正がない人間も少なからずいるため、日本に連絡してガンタンクを輸送してもらうことになった。
後はまあ、ジムの数がどうしても足りないため無理を言って必要数と予備パーツを送ってもらうことになった。3機じゃ足りなかったね。
まあ、そっちはなんとかなるらしい。撃震や瑞鶴よりもジムの方が圧倒的に高性能だから、2機の製造ラインはバッサリ潰したのだとか。撃震、瑞鶴、お疲れ様。
まあとにかくだ、今は余っているファントムを使って必死に育っている。が、機体の数がいかんせん足りない。
うちの予備機のジムとかも出しているけど、それに倍する数の訓練兵がいるのだ。
そして、もう一つの問題はファントムとジムではコクピットシステムが違うということ。ファントムで慣れた衛士はジムに乗れるが、ジムで慣れた衛士はファントムに乗れない場合が多い。
原因はリニアシートによる衛士に対する負荷軽減だ。その結果、ジムには乗れるがファントムには乗れない衛士が少なからずいることが分かった。
レナード大尉からも、出来れば機体を統一してほしいという要望が届いている。
うーむ、俺も流石に無いものを増やすのは無理だからな。戦場から戦術機の残骸を拾ってきて、ニコイチ整備で数を少々確保できたが、申し訳程度の数にしかなっていない。レーザーで跡形もなく消し飛ばされたのもあるしな。
そんな中に、奴らが来やがった。
いや、元からこっちから会いに行く予定だったが、このタイミングは最悪すぎる。
そう、奴らが来たのだ。オルタネイティヴ第三計画実働部隊。A-01が。
どこで嗅ぎつけたのか、国連の特殊部隊が現れた。
その頃から拓哉の顔が目に見えて歪んで見えた。アムロには、少なくともそう見えた。それ以上に何か良からぬものを感じ取っていたが、それが何であるかはアムロにはまだ分からなかった。
拓哉はそれからしばらく自室にこもり何かを用意していた。
しばらくして出て来た時には、頭にはバンダナのようなものが巻かれていた。アムロも触らせてもらったが、特殊な触り心地だった。そして同時に、なぜか、拓哉に拒絶されたような気がした。
話してみるといつもの拓哉なのだが、何故かそこに一枚の壁を感じる。気になって甲児や竜馬、そして焔に聞いてみてもそのような様子はないと言われた。
だが、アムロはそこに一枚の壁を感じ取っていた。
いずれ第三計画の面々とかち合うのは予想できていた。だからこそ、思念波を遮断する特殊な布を用意しておいてよかった。
バッフワイト素子が手に入ればよかったのだが、あれはBETA由来の技術で、ヘタに使うことが出来ないからな。
最初は焔ちゃんに何かしらを作ってもらおうとしたのだが、焔ちゃんは何故かリボンを作りたがる。仕方がないので布を適当に加工してバンダナに作り変えた。
正直、俺には全く似合っていない。甲児にも言われたし、武蔵やボスに至っては指さして笑いやがった。後で覚えてろ、あいつら。
とにかく、リーディング対策はこれで十分だ。俺の頭の中身は読まれたらマズイものがっごっそりと詰まっている。読まれたぐらいでどうにかなるわけではないだろうが、警戒しないに越したことはない。
だが、ここに一つ問題が発生した。アムロだ。
「拓哉、僕に、僕達に何か隠していないか?」
そう聞かれたのだ。
後で焔ちゃんや甲児、リョウたちにも同じことを聞いて回っていたらしい。
「拓哉様の様子を見て不安に思っていらっしゃるだけですわ」
焔ちゃんはそう考えているが、アムロの勘は大当たりだ。
別にアムロに隔意を持っているわけではないが、バンダナをするようになった辺りから、アムロは俺との間に壁を感じているようだ。
この件に関する答えを、俺は知っている。
おそらくは、ニュータイプとして覚醒し始めている。
原因は、俺だ。
実はガンダムのコクピットには一つ仕掛けがしてある。それがバイオセンサーだ。そう、ZガンダムやZZガンダムに装備されているあれだ。
もしニュータイプに覚醒したらいいなー程度の軽い考えが、今回の件を引き起こした。
アムロ・レイはやはりアムロ・レイなのだ。遅いか早いかの差があれどニュータイプへと覚醒する。
一回の実戦は、アムロを確実に最強の衛士へと導き始めたのだ。
今はまだ、ニュータイプについて話すことは出来ない。アムロの能力はまだ微弱で、下手な事を言ってニュータイプとしての覚醒を促し、ソ連に目をつけられたくはない。
そう思っていたのだが・・・。
会談が進んでしばらくして、俺は、と言うよりこの場にいた人間は偏見のようなものを持っていたらしい。
思いのほか紳士的な第三計画の代表者に、拍子抜けしたような気がした。
勿論、そんなのは気のせいだと知れたが。
それは彼の後ろにいる銀髪の美少女集団だ。第五世代かどうだかは知らないが、明らかにESP能力者だろう。
アニメで見たクリスカとかイーニャみたいな子たちがズラッと並んでいるぞ、おい!どう考えても俺とか彩峰中将の考え読む気満々だろう!
と言うか、俺がいるって情報はどこから漏れた。考えたくはないが内通者がいるのか、それか、ソ連の諜報機関はめちゃくちゃ優秀かだな。
まあもっとも、それも意味が無いのだけどな。
後ろにいる銀髪の皆さん、超焦ってる。そりゃあ思考が読めなくなっているからな。頑張ったよ、サイコバンダナ(仮)を作るの。
さて、どう出てくるかな。今は紳士的だけど、次は拉致か?焔ちゃんやリョウたちとなるべく一緒にいるようにして、一人になる時間を作らないことだな。とはいえ、早々無茶はしないだろう。
例えばここで、俺が行方不明になったら誰が真っ先に疑われる。勿論、ソ連だ。その辺の自制心が働いてくれればいいが、焔ちゃんやアムロたちに危害を加えられてはたまらない。
仕方がない。元々予定にあったことだしジムを数機提供して、とりあえず我慢させるか?
仮面のような笑顔を貼り付ける代表者の顔を見ながら、これからの予定の算段をつけていた。
国連軍が来てから、アムロは不快感に襲われていた。
まるで自分を見透かされているような、チクチクとした不快感だ。
気がつけば見られている。そして、アムロと目が合えば慌てて何処かに去っていく銀髪の少女たち。
拓哉との関係でイライラしていたアムロが、つい感情的になってしまうのも無理がないところだった。
『アムロ、ドウシタ?』
「なんでもない!」
ハロに当たるように蹴り飛ばす。普通なら壊れてしまいそうなところだが、そこはアムロのナーバスな性格を読んでおり、実は戦術機の装甲で出来ていたりする。
派手に当たり散らすことはないだろうが、蹴るぐらいはすると読んでいたのだ。まあ、実際に蹴り飛ばしたが。
そしてまた、視界の隅に銀髪を見つけた。もう限界だった。こちらを見て驚いたような表情を見せてすぐに逃げる少女。この不快感の原因は彼女だと決めつけた。
アムロと目が合い、慌てて逃げようとする少女。だがアムロは一般的な戦術機の衛士としての訓練をしっかり受けている。
「ハロ!」
ハロを足先で蹴り上げると、手で掴み、全力で投げつけた。
『ナンテコッタイ~!』
「ひゃぁっ!?」
少女の逃げ先を塞ぐように投げられたハロは、哀れな悲鳴を上げながら少女の目の前に軟着陸して、まるでボールのようにポンポンと跳ねる。
腰を抜かしてしまった少女にアムロはゆっくりと近づく。
『ヒドイゾ、ヒドイゾ!』
「ハロ、その女から目を離すな」
ハロの抗議を無視したアムロの命令に、ハロはくるりと回転して少女と目を合わせる。
『ハロッ!』
「ひっ!」
カツカツと普段のアムロからすればありえないぐらい、威圧的な音を立てて少女に近づく。
「さっきから何の用なんですか、あなた達は!不愉快ですよ!」
「あ、あぁ・・・・・・・!」
アムロと彼女の間にそれほど大きな身長差はない。だが、彼女には巨大な何かが近づいてきているような気がしたのだ。
新塚拓哉は何かしらの手段でリーディングを防いでいる。しかし、アムロ・レイは、明確に力でこちらのリーディングを防いでいることに気づいた。
だからこそ相手が根負けするまでリーディングを続けるつもりだったのだが、それが完全に裏目に出た形になった。
一方、怯えるだけで何も答えようとしない彼女に、アムロは苛立ちを覚えていた。
女性に手を上げるような真似はしないが、感情は全力でぶつけるタイプだ。
その時だった。
「そこまでだ、アムロ」
突如として聞こえた声に我に返る。聞こえてきた方を振り向くと、そこには複数人の銀髪をワシ掴みにして引きずっている隼人と、肩に担いでいる竜馬。ぐるぐる巻きにした上で引きずっている武蔵がいた。
そして、
「おーい、コイツラのことなんだけどよー!」
と、向こうの方からバイクの後ろにくくりつけてきた甲児とボスがやってきた。
連れてきたのが全員もれなく銀髪であることに、アムロの眼の前にいる少女はあっさりと気を失った。
そこまでだも何も、やらかすだけやらかした人間たちが集まっていた。
ごとんっという音を立てて倒れる少女を受け止めることも出来ず、アムロは甲児達を呆然と見る。何というか、自分の苛立ちが大した事じゃないような気がしてきたのだ。
「その人達は一体・・・」
「勝手に格納庫に入り込んでゲッターを調べようとしていやがったからな。少し強めに躾けただけだ」
「俺たちは声をかけたらなし崩しで喧嘩に」
「オイラも同じだったな」
「俺は後ろから声をかけたのが悪かったのかな。急に攻撃を仕掛けてきたから、ついカウンターを」
上から、隼人、甲児、武蔵、竜馬の順である。
『アムロ、ドウシタ?ドウシタ?』
「なんでもないよ。それより、この人達をどうする?」
「彩峰司令・・・は、会談中か。拓哉も同席しているし」
ついでに言えば、巌谷と篁の二人はレナード大尉とともに新人の教育中だ。
そうなると手が空いているのは。
「士郎さんに相談しよう。適切に扱ってくれるはずだ」
と、言うわけで。
「俺のところに来たのかい」
士郎も困ったように捕虜を見る。一介の少尉にすぎない士郎には扱うものが大きすぎる。とはいえ、兄貴分として頼られた以上、何かしない訳にはいかない。
「仕方がない。俺が先頭に立つから、彩峰司令に相談しよう」
そして、士郎は彼らの方を向いて一言。
「でも、その持ち方はやめようか」
それは、複数人まとめて、髪をワシ掴んで引きずっている隼人に向けられていた。
心配している読者諸氏に言っておくと、彼女らの目と耳と鼻は全て無事だった。
「どうかなさいましたか?」
さっきから会談の最中に後ろのESP能力者が耳打ちする度に、こちらを気味悪そうに見る大使殿。
案の定と言うべきか、こっちの思考を読もうとして失敗が続いていることに戸惑っているらしい。
その辺の事情を知らない彩峰司令は、明らかに挙動不審な彼らに問いかける。
「いえ、特に何があったというわけでは・・・」
めっちゃあるだろうというツッコミはしない。サイコバンダナ(仮)のことをツッコまれても面倒だしな。
何しろ、こんな会談の場でバンダナをしているなんて、普通にツッコまれてもおかしくはないのだ。だが今更ツッコめないだろう。何しろ、タダのバンダナと侮って、リーディングできると思って会談に臨んだらこのザマだ。
まあ、もし万が一にもツッコんで来たら会談の場を去るだけだ。その為に部屋の隅に熟練の衛士の皆さんを配置しているわけだし。追いかけさせないためにな。
と、その時だった。
「失礼します。彩峰司令、緊急の要件でお話があるのですが」
士郎さん?まさかロシアの衛士と揉め事でも起こしたか?
俺の心配を他所に、彩峰司令が入室許可を出す。
そして入ってきた面々を見て、俺の想像の斜め上に事態が進んでいることを察した。
いや、だってねえ?全員がぐるぐる巻きに縛られた上に、何人かは隼人を見て本気で怯えているし、失神している一名は、車椅子で運ばれてきたのだから。
揉め事がどうこうっていう問題じゃないだろう。
あまりの事態に俺も含めて全員が硬直している中、士郎さんが事情を説明し始める。
「大使殿、これは一体どういうことですかな?」
「いや、これは・・・」
見学は容認したのだが、勝手に機体を調べたり殴りかかってきたりした分まで容認する気はない。
というかよ、トータル・イクリプスのアニメ版見て思ったんだけど、ソ連軍関係、ちょっと躾が悪すぎるだろう。
「司令、もういいんじゃないですか?」
「新塚博士はどうするつもりかね」
「交渉決裂、お帰りください。でいいんじゃないですか?」
「ま、待ってください!失礼があったのなら謝罪致します、ですから」
「失礼があったのなら、じゃなくて失礼しかなかったんでしょうが」
俺も彩峰司令も力づくでも叩き出す決意をし、その準備に取り掛かろうとしたその時だった。
ガンッとか、ゴンッとか痛そうな音を響かせて焔ちゃんが飛び込んで・・・・・・・
『うわぁっ!』
この場にいるほぼ全員の叫びが一致した。
なぜなら、焔ちゃんの手に男が握られ引きずり回されてきたのだから。そして、俺の見間違いでなければ、彼の両手両足の関節が向いてはいけない方向を向いているような・・・。
「あ、あー。焔ちゃん、その男は一体・・・」
いち早く復帰した士郎さんが問いかける。
「はい。いきなり襲い掛かってきたならず者です。それでとっさに、お父様から教わった『反重力之嵐』で反撃したのですが・・・」
うっかりやりすぎちゃったわけだねー。焔ちゃんったら可愛いなー(現実逃避)。
反重力の影響で両手両足の関節がそっくり返ったわけだね。
・・・何だよ、そのトンデモ物理学。
「襲い掛かってきたのはそいつだけ?」
「他にもいたのですが、非常に大柄な方だったので、部屋の前に置いてきました」
俺達の部屋の前でエライことになっているのがまだいるわけか。
さて、俺の隣で目をまん丸くして硬直している彩峰司令。お願いですから早く帰ってきてください。
そして、大使殿は。
「あ、あぁ・・・・・・!!」
焔ちゃんを拉致して俺への交渉カードにするつもりだったのだろうけど、残念だったな。焔ちゃんの生身の戦闘力は、あの紅蓮中将の娘と言って違和感のないものなのだ!
・・・・・・俺、毎晩一緒に寝ているけど大丈夫だよね?
「さて、大使殿。俺の婚約者を襲った理由を、懇切丁寧に説明していただけると嬉しいのですが?」
「い、いや、不幸な行き違いがあっただけで、別に襲ったわけでは・・・」
「ほう・・・・・・。あくまで不幸な行き違いと?」
「そ、そうですとも!」
ほう、そう来るか。そう来るか。あくまでもそう押し通すか。
俺の頭が急に冷え切っていく感じがする。と言うか、冷静に考えているようだけど、生まれ変わってから初めての感覚だね。
よく本気でキレたら冷静になるって言うけど、分かる気がするわ。
「焔ちゃん、反重力之嵐って連発できる?」
「はい。お父様からそのように訓練を受けていますので」
あ、出来るんだ。
「じゃあ焔ちゃん、その人が正直者になるまでよろしく」
「はい、分かりました」
『待て待て待て!』
「ヒィィィィッ!!」
事態をよくわかっていない焔ちゃんと、それ以外のツッコミと悲鳴が響く。
「冗談だって。やるんなら俺の手でやる」
俺は一体何だと思われているんだか。焔ちゃんに暴力を振るわせるわけがないだろうが。
しかしこの大使殿、小物臭がすごいな。
まあ、それも含めて色々お話をするつもりだ。
すっかり腰を抜かしている大使殿の前に近づいて、俺は手を差し伸べてこう言った。
「オルタネイティヴ計画って、すごい権限持ってるんですよね?」
俺は一番の笑顔を作っていったのだが、後に焔ちゃんにこう言われた。
「早乙女のおじ様みたいでした」
・・・・・・俺、あんなすごい顔してたの?
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13・ヤバイ。とにかくヤバイ。
あの後、鏡で自分の顔を見てチェンゲ版になっていないことを確認した俺は、暴力外交で手に入れた、もとい、使えることになった権限で第三計画の部隊から数名の人員を引き抜いた。
露骨にホッとしたような顔をした大使殿。どうせ第四計画に移るまでの数年だ。
この間日本から届いた情報で、香月夕呼という天才少女の話を聞いた。
あー、夕呼先生が因果律量子論を発表したのって今年だったのか。
原作キャラが動き出していることを確認した俺は、大体の時間を把握した。と言うか、同じ年だったんだな。となると、まりもちゃんも同じ年か。
まあ、関わるようになるのはもっと後だろう。第四計画に協力すること自体は問題ないが、接収されるつもりはない。その間に今ある権力を使って、国連にもなんとか関わりを持てるといいなと思っている。俺の権力じゃないけど。
大丈夫大丈夫。ソ連のものは俺のもの。俺のものは俺のもの。
さて、接収した人員を確認しよう。
接収したと言っても、その数はたったの二人だけ。俺が欲しいものは第三計画にはないし、むしろ、メインは今現在持っている権力の方だ。
大丈夫大丈夫。俺は、魚は骨まで食べるタイプだから。中途半端に手を付けて後は知らん顔、なんてしないよ。食べられるところは余すところなく全部食べ尽くして、ポイするところなんて無いようにするタイプだから。
話を戻そう。
接収した人員の内、一人はアントン・ガバレフスキー中尉。熟練の衛士で三十路絡みの厳つい人。この人を選んだ理由は、思想的にクリーンだったこと。ソ連内部では思想犯一歩手前だったということ。大丈夫大丈夫。ちゃんと祖国に帰っても大丈夫なようにしてあげるから。
そしてもう一人が、アムロが気絶させたESP能力者。ソフィア・ビャーチェノワ少尉。この時代では最新の第五世代能力者だ。
気絶させた張本人のアムロより、俺の方を見て怯えていたのはどういうことだろう。やっぱり顔が石川賢風の顔に変質しているのだろうか?
この子を選んだ理由は単純だ。後の子たちは物理的にボコられた子たちの思考をリーディングしてしまい、こちらに対して完全に恐怖心を持たせてしまったこと。主な原因は隼人だが。
「お前な、いくらなんでも髪を掴んで引きずるなよ」
「敵に容赦する理由がないだけだ」
そう言ってそっぽを向く隼人。どうやらこいつはこいつで、ゲッターロボに対して特別な思い入れがあるらしく、勝手に触れられたことが許せないらしい。
話を戻すと、こちらに怯えず、ある程度使い物になるのが、一人しか残っていなかったということだ。
そのソフィア少尉だが、アントン中尉には懐いている。これは偶然の産物だが、A-01でマインドシーカーという機体に乗る際に、一緒に乗るのがアントン中尉だとのこと。
腕が立つというのもあるが、それ以上に使い捨てする気満々だったらしく、結構ヤバイ作戦に投入されていたことを知った。
アントン中尉は結構そっけない態度を取っているが、ソフィア少尉のことをそれなりに気遣っているらしく、俺が近づくと威嚇するんだ。
・・・・・・俺の顔ってそんなに怖いか?
さて、俺の目下の仕事はマインドシーカーを使えるように改造することだ。
ってのも、マインドシーカー自体が相当特殊な機体で、ジムで代用できないからだ。
そして、もう一つの問題が、ソフィア少尉がまともな衛士訓練を受けていないことにある。どうやらリーディング能力だけを頼りにしていたらしく、戦術機では副座席でじっとしていることが多かったのだとか。
アントン中尉の実力が確かだからこそ出来ることだけどな。
シミュレーター訓練をやった時には量産型とはいえ、ガンダムに乗っている巌谷大尉と結構いい勝負をしていた。
シミュレーターにマインドシーカーのデータがないから、代わりにジムに乗ってもらったといってでもこれはかなりの腕だ。
だからこそ目下の目標は、マインドシーカーを大改造してジムと同等かそれ以上にすることだ。
とりあえずまずは、動力源をジムと同じものに変える。これだけでも大改造だが、武装をビーム兵器主体に変える。射撃武器の換装は簡単だが、背中に背負っているヒートサーベルはどうしようか?あの人の実力ならそのままでも問題ない気はするが、せっかくだからビームサーベルは腰にマウント、つまりゴッドガンダムとかあのへんと同じようにマウントさせて、背中のバックパックのみをストライカーパックに・・・いや、いっその事アントン中尉用にはもうすぐ日本から届くアレを装備させるか。
元々はアムロ用のストライカーパックとして開発したのだが、少数だが量産することが決定したらしい。テストで乗った衛士からの評判も良く、こちらには10機程度が届く。
バックパックと、腕をビーム兵器のコネクトを装備するために大改造するから、コクピットも全天周囲モニターにタイプに変えて・・・ヤバイ、原型が残らないな。それだったらジムを改造して乗せるか?いやいやいや、ここまで図面を引いてなかったことにするのはどうだろうか。
それに日本にはこういう格言がある。『魔改造は男のロマン』。俺と技術廠の一部局員の間で流行った言葉だ。一時期は撃震をどれだけ魔改造できるかを競い合ったなー。コストが高騰しすぎてどれも採用されなかったけど。
さて、改造するには一週間はかかるから、その間はアントン中尉にはジムにでも乗っていてもらおう。全天周囲モニターに慣れるにはいい機会だ。
一方その頃、アムロは。
ハロを抱えて部屋にこもっていた。
自分の中にある違和感、それは日増しに強くなっていった。元々6:4程度の勝率で巌谷や篁を押していたシミュレーター訓練の勝率が、最近は8:2にまでなった。その内の2も半ば自爆戦法のような手によってもぎ取られた勝利だ。
相手の動きが手に取るように分かる。巌谷などは「君に衛士としての才能があるのだよ」と気楽に言ってくれているが、アムロはそう簡単には考えられなかった。
自分が気絶させてしまった少女、ソフィア・ビャーチェノワの来歴を知ってしまったからだ。
ESP発現体。有り体に言えば人の心を読むことが出来る超能力者のような存在。そんな彼女が自分に何をしようとしていたのか、何の目的で自分に近づいていたのかを知った。
そして、なぜ彼女があれほど自分に対して怯えたのかも。
『アムロ、アムロ!ドウシタ?』
「なんでもない」
最近は甲児たちも心配なのか、頻繁に様子を見に来る。
アムロとしては心配をかけないように出来る限り表に出ているのだが、それを表情に出さないようにするには無理があるらしい。
そんな中、一人だけこの現状を相談できそうな人物がいる。友人でロンド・ベル直属の天才科学者、新塚拓哉だ。
あのおかしなバンダナをするようになった辺りから、彼に拒絶されているように感じている。勿論、彼にそんなつもりがないことは態度を見ていれば分かるし、親友の甲児などは絶対にありえないとまで断言した。
アムロは抱えていたハロをベッドに置くと立ち上がり、軍服を身にまとった。
こうしていても話は進まない。直接問い詰めにいこう。アムロにしては非常に前向きな考えだった。
『ニアワナーイ!』
後、最近ハロが饒舌になっていることも問い詰めよう。そう考えるアムロだった。
「ふむ・・・。各国の戦線は思っている以上によろしくないようだな・・・」
「はい。閣下。現状遅延戦術もまともに機能していない状況です。ここ数年は特にBETAどもの攻撃も苛烈で、せっかくの新型装備も生かせず・・・」
話を聞きながら俺は頭を抱えたくなった。
どうも、新塚拓哉です。マインドシーカー改の設計も終了して、焔ちゃんとイチャコラしようと思っていたところに彩峰司令に呼び出された俺は、ラダビノッド司令から現状のアジア戦線、いや、世界の戦線の深刻さを知らされた。
マズイ方向で原作ブレイクが進んでいる。おそらく、いや、ほぼ間違いなく原因は俺だ。
畜生!前にも言ったばかりじゃないか!BETAは学習するって!
奴らはレールガンの火力、そして学習型コンピューターに寄って得られる高い機動力に対抗するために、単純に戦力を増強してきやがった!
BETAの脅威はその学習能力の高さと、数だ。そう、数だ。奴らは単純にその戦力を増強することで、こちらの火力に対抗してきた。
小難しい戦略の話をしている二人の司令。俺、この場にいる意味あるの?
そう思っていたら話を振られた。
「ところで拓哉くん。F-4やF-15にビーム兵器を搭載することは出来るのかね?」
「エネルギーを機体から直で引いてますからね、大規模改装が前提で可能です。今はアントン中尉のマインドシーカーを改造するので一杯一杯ですよ」
と言うか、あの程度の数のファントムでもちょっとした騒ぎになるレベルの改造が必要だ。特に、エネルギーコネクターが必要になる腕から先は丸換えが必要だし。
俺にあるのはあくまでも頭脳チートで、生産チートじゃないのだ。
製造プラントを作ることも考えないでもなかったが、それを作るためにさらに物資が必要というおまけ付きだからな。そこだけは転生特典として失敗したと思っている。
「武器が通用するかしないかで言えば、レールガンとヒートサーベルでも十分にやれていますからね。ただ、数に対抗できないだけで」
「数、か・・・。それだけではないのだろう?」
「ええ。間違いなく、奴さんらは対応してきていますよ。ここ数年で攻勢が苛烈になっていますよね?」
「うむ。以前はこれほどでもなかったのだが、ハイヴも次々と建設されて、私達も対処に苦慮している」
もう一つマズイのが、ハイヴの数が増えている。
俺もうろ覚えなのだが、確か横浜ハイヴが甲22号だったはず。にも関わらず既に20のハイヴがユーラシアに建設されているらしい。
らしいというのは、俺がその辺の情報を軽視していたからだ。
やってしまった。情報が何よりも重要だということは、どんな二次創作でも書かれていたことじゃないか。現実の歴史でも情報を軽視して滅んだ国だとか、敗戦した国なんてくさるほどあるんだ。
完全に俺の油断だ。戦術機さえ開発していればいいと思っていた俺の油断だ!
と、彩峰司令が俺の背中に手を乗せる。
「大丈夫かね?具合がわるいのなら部屋に帰るかい」
「っ・・・!」
表情に出てしまっていたか。心配そうに俺の顔を覗き込む彩峰司令と、やはり心配そうにしているラダビノッド司令。
「すまない。科学者のあなたに無理をさせてしまったようだ」
「いえ。お気になさらず。自分の不甲斐なさを悔いているところです」
「現在の戦況は君のせいではないよ。むしろ、君がいなければどうなっていたか、想像したくもない」
違う。違うんだ。俺がいなければこれほどの事態にはならなかったんだ!
だが、一度付いた表情を隠す癖は抜けきらないらしく、一息ついた時には再びポーカーフェイスに戻っていた。
「お言葉に甘えて部屋に戻らせてもらいます。お力になれずに申し訳ありません」
「君が気にすることではないよ。こういう事は私達軍人の仕事だ」
「そうとも。むしろ、せっかく君が作ってくれた発明品を有効に使えず申し訳ない。あまつさえ、新型機をねだるなど・・・」
違う。本当に違うんだ。だが、俺はそれを口に出さず体を引きずるように会議室を後にした。
艦内の廊下をトボトボと歩いていると、何かが俺の足に当たった。ハロだ。
「ハロ?こんなところでどうした。アムロは一緒じゃないのか?」
『探シタ!探シタ!アムロ、コッチ!コッチ!』
ハロがぴょんぴょん跳ねながら、廊下の向こうを振り向く。
そこには、今まで見たことのないほど固い決意を宿したアムロが立っていた。
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14・それがダチってもんだろ?
「座れよ」
あの後、『話したいことがある』と言ったアムロを自室に招いた。
念のため、焔ちゃんには席を外してもらった。よくよく考えれば、アムロと二人きりというのは実に久しぶりだ。
大体の場合は、焔ちゃんが傍に控えていて、付き合いはそれなりに濃いはずなのに腹を割って話し合ったことはあまりない。
「それで、どうした?」
「ああ。聞いてほしい事と聞かせてほしい事がある」
まあ、聞いてくるとは思っていた。今日はサイコバンダナを外してある。それを見たからか、アムロは露骨にホッとした顔をしている。
流石に話さない訳にはいかないか。アムロだけじゃなく、俺自身もちょっとばかしナーバスになっている。ここらでお互いに腹を割って話すべきだろう。ガンダムの秘密。そして、アムロ・レイの現状を。ニュータイプというものを。
普段親しい人間ほど、覚悟を決めて向き合うとどう切り出していいか迷うものだ。
今までとこれからの関係。そして、どのような答えが返ってくるかの恐怖というものを。
だからこそ、しばらくアムロは拓哉と向き合ったまま何も口を開かなかった。開けなかったと言ってもいいかもしれない。
やがて、意を決してアムロが口を開く。
それは拓哉にとっては衝撃的だった。巌谷や篁との戦闘力の差に始まり、何よりもマズイことにESP発現体について知られていることを聞かされた。
そして、アムロの口から出た決定的な一言。
「教えてくれ。僕は一体何なんだ?僕はESP発現体なのか?」
「なぜ、そう思った?」
「なぜ?分かるだろう。僕は明らかにおかしい。ソフィア少尉のリーディングにも反応していた。あの頭に響く違和感は、あれがリーディングなんだろう?」
アムロのニュータイプ能力が思った以上に拡張されている。これは俺の勘だが、いや、ほぼ確証に近いがバイオセンサーの影響を受けている。
サイコフレームは作らなかった。と言うか、作れなかった。生産設備をどうこうする事が出来なかったんだ。だから、スパロボよろしく、バイオセンサーは多少機体の反応を上げる程度の能力しか無いと思っていた。
だが、ここには人の思念が溢れている。それは恐怖であったり、生きたいという渇望であったり。
腹を割るべきだ。そして、話すべきかもしれない。ニュータイプについて。
俺は茶をすすると、ゆっくりと息をついた。
アムロは俺から目を離さない。そして、俺は目を離せない。
コチコチと時計が時を刻む音が響く。何分、いや、実際には数秒程度だろう。俺は覚悟を決めて口を開いた。
「まず、お前はESP発現体ではない。ESP発現体、いや、この言い方は適切ではないな。ESP能力者は人工的に生み出されたものだ。ソフィア少尉を始め、甲児たちがボコった連中もみんなそうだ」
顔がコピーでもしたかのように非常によく似ているということ。TE原作でマーティカ・ビャーチェノワというキャラが出てきた。クリスカ・ビャーチェノワのクローンだという彼女は、いや、彼女たちはたくさんいるのだそうだ。この時代の第三計画、いや、ソ連が同じことをしていても驚くべきではない。
「お前はテム・レイ博士の実子だ。まぎれもなくな。正直、巌谷大尉と篁大尉からお前を預かった後に、お前の素性を調べたことがある。いくらなんでも戦術機開発の第一人者の息子をあっさりと日本に渡すかって、どうしても気になってな」
結果は白。驚くほどに真っ白。テム・レイ博士は本当に癌で病死。母であるカマリア・レイさんはアムロを産んですぐに亡くなっているそうだ。
テム・レイ博士は頻繁にアムロの様子を見に来る程度には父親をしていたが、それでも殆ど親の愛情を知らずに育っている。ただそれだけの、俺の前世である現代日本では少なからずあったことだ。
「此処から先は俺自身が得た理論考察だ。人間は脳の数%程度しか使えていない。それは俺も同じだ。だがもし、それを拡張することが出来たら?それをより広い認識能力で使えたら?自分で試してみようと思ったが、怖くてな。やったことはない。俺も、お前の親父さんも、甲児やボス、武蔵も脳の使用領域はそれほど変わりはない」
これは俺も調べてみた。頭脳チートを使って調べた結果、俺はSEEDではない。そして、イノベイターに覚醒するためにはGNドライブが必要となるためやはり不可能。
強いて言えば、俺は脳がアカシックレコードと直結されているのかもしれないが、それについては考えるつもりはない。何しろ神様禁制の頭脳チートだからな。
「お前は普通の人より脳の認識能力が高いんだ。それは空間的なものであったり、感覚的なものであったり。強いていうならば、お前は新しい人類、ニュータイプだ」
「ニュータイプ・・・?」
「俺が勝手に名付けただけだ。だが、これ以上に適切な表現はないと思っている。アムロ、お前はちょっとばかり人とは違う能力を持っている。どうも俺のこのバンダナがお前に余計な刺激を与えたみたいだな」
本当は違うが。
「第三計画のことは事前に情報を仕入れていたから、思念波を防ぐ準備していたんだ。それがお前の脳を刺激することになるとは思わなかった」
「結局僕は、ニュータイプとは一体何なんだ!?」
「ここからは俺の想像だが、脳の認識能力が高まった人間はより敏感に他人を感じることになる。それはより心の深い部分を感じるということだ。人の心を読むとか、そういうものではなくな。お前は人の心に敏感なんだ」
「それは、超能力者とは違うのか?」
「違う。俺はそう思っている。相手の心を感じ取る能力に優れた人間。それはもっと言えば、相手のことを誤解なく理解できる人間のことだ。つまりニュータイプというのは、戦争なんてしなくてもいい人間のことだ」
「僕は、そんな相手を理解できてはいない」
「そりゃ人生経験が足りないだけだ。後、お前はニュータイプとは関係なしに神経質すぎるんだよ。いや、自分と他人の違いを感じているから苛立っているのかもな。だが、それはもうお前の力だ。大事に育てて有効に使え」
俺は席を立つと、アムロの肩にぽんっと手を乗せる。
「お前がニュータイプだろうとそうでなかろうと、俺達はダチだろ?もっと頼ってくれ。聞きたいことがあったら好きなだけ聞いてくれ。俺は、そのぐらいしか出来ないけどな」
そう言って、手早くバンダナを巻くと部屋を出る。
少なくとも、今の顔は絶対に見られたくない。
そう思っていた。
扉が開いた先にいたのは甲児たちだった。
「『俺達はダチだろ?』」
瞬間、俺は自分の顔が赤くなるのを感じた。いやこれ以上無いぐらいに分かる。俺の口調を真似てボスが言いやがった。甲児やリョウが言うなら許すがてめえは駄目だ。イメージ的に!
「ぐっひゃひゃひゃ!似合わないだわさーー!!」
「いや、悪くはないぜ。それよりも、この学者先生の口から『ダチ』という言葉が聞けたのは貴重だがな」
ああそうかい。そうかいそうかい。
一気に冷静になった俺は、バンッと壁を叩いて黙らせる。俺は、そう、笑顔を向けてこう言い放った。
「お前ら、ヴォールクデータって知ってるか?」
そういえばまだ一度もやらせたことないんだよな。
これからの戦いはBETAとの戦いがメインとなる。対戦術機戦闘はあんまり積む必要はないだろう。
そうともそうとも。これは他ならぬ『ダチ』のためだ。遠慮する必要はないよな?
数時間後、完全にとばっちりなアムロや甲児、一般衛士の皆さんを巻き込んで、『ドキッ!黙示録級だらけのヴォールクデータ!ポロリもあるよ?』を開催。
シミュレーターや機体のコクピットから悲鳴が止むことはなかった。
なぁに、遠慮することはない。それがダチってもんだろ?
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15・電撃作戦準備編
自重をしていては全く進まないことを知った。
ハイヴは既に20を数えるほどにまでなり、アンバールやボパールといったここから比較的近いところにもハイヴが建設されていた。この勢いで行くと、下手をすれば原作にないハイヴも建造されるかもしれない。
そう思った俺は、彩峰司令に一つの作戦を立案する。
「ハイヴ攻略作戦だと!?」
「そうです。ここから一番近い甲9号アンバールハイヴを落とします」
今まで作戦に口を挟まなかった俺が、突如こんなことを言い出したことに司令室は緊張に包まれる。
「だが、どうやって攻略するつもりかね。言っては何だが、こちらの戦力だけでは到底対処できんぞ?」
「日本で用意している物資をこちらに送ります。紅蓮中将指揮の斯衛軍と天馬級二番艦もこちらに回して、正面突破をします」
「無茶だ!BETAの物量に押しつぶされるぞ!」
「俺も別に精神論で話をしているわけじゃないんですよ。まず根拠の1。アムロたちがヴォールクデータをクリアしました」
『は!?』
俺の口から飛び出た衝撃発言に、誰もが驚きの声を上げる。
ちなみにアムロたちがクリアしたのは普通のヴォールクデータだ。この間、嫌がらせでやらせたおふざけデータではない。
流石に難易度がゆるすぎるかと思って、普通のデータにBETAの量を倍増させて挑ませたのだが、こちらも難なくクリアしてしまった。
それが、つい一時間前の話だ。行けると思った。いや、確実に行けると確信した。
「アムロたちだけで、です。アムロ、甲児、ゲッターチームと士郎さんだけでクリアしました。ここに巌谷大尉と篁大尉、ジムの部隊が加わればさらに容易に事は進むでしょう。ダメ押しに天馬級を投入して、更に日本から部隊を派遣して一気呵成に押し切ります。押し切れます」
BETAがまだビーム兵器に対応していないだろう今が勝負だ。前の戦いの時には一匹も残さず倒しきったから、まだ対応されていないはずだ。だがおそらく、先遣部隊が帰ってこないことを不審に思うだろうBETAは、さらなる戦力の拡張を行うはずだ。
「やるなら今です。アムロたちの士気も高い。BETAがさらに大部隊をよこしてくる前に、正面切って叩き潰すべきです」
「根拠の二つ目は何かね?」
「ガンダムとマジンガーZの新武装が追加されます。ガンダム用のやつはストライカーパックなので、熟練衛士ならばすぐに使いこなせます」
そのストライカーパックは統合兵装ストライカーパック。俗にいうところのIWSP(Integrated Weapons Striker Pack)だ。その中でもSEED DESTINYに出て来たオオトリだ。
最初はストライカーパックに手を加えてマルチプルアサルトストライカーにしようかとも思ったのだが、計算上、エネルギーの消費が激しすぎる上に、バランスが後ろに片寄りすぎる。ムウさん、よくあんなのに乗ってたよ。
オオトリはビームランチャーとレーザー対艦刀、ミサイルランチャーまで装備しており、バランスもよく取れている。普通のIWSPも考えたが、あっちは近接武装が普通の実体剣だ。ビームサーベルに作り変えても良かったんだけど、面倒だった。
ちょうどホワイトベースの仕事も大詰めの時だったので、頭脳チートの中から設計図だけ引っ張り出して、強引にガンダムに合わせて作ったのだ。
ちなみに、マジンガーの方はよく分からんが多分アイアンカッターだ。日本にいた時にもりもり博士が一生懸命図面を引いていた。とりあえず俺が言いたいことは一つ。設計図と部品だけを送ってあなたは来ないでください。戦死されたらたまりません。
「全部明日には届きます。訓練期間を入れてもBETAが失った戦力を取り戻すよりも早く攻め込めます」
「ふむ・・・。分かった。ラダビノッド司令ともその辺を相談してみよう。ストライカーパックの概要がわかるものはあるかね?」
「こっちのディスクに。必要なら俺も行きますけど?」
「いや、君はアムロくん達についていてくれたまえ。私から言うより、君の口からのほうが衝撃は少なかろう」
それはしょっちゅう無茶振りしてるからって意味で受け取っていいんですかね?口には出しませんが、面倒なことを押し付けやがってという視線は十分に感じ取ってくれたらしく、彩峰司令はついっと視線をそらす。
まあ、いいけどね。いいけどね!
・・・後で覚えてろ、あのおっさん。
「と、言う訳でハイヴ突入作戦が決行されることになった」
俺の説明を聞いていたアムロたちは、流石に緊張の面持ちでいる。
この場にいる最年長者の士郎さんもそれは同じだ。この艦内にハイヴ突入したものはいない。それどころか、人類でハイヴ突入して生き残っている人はごく僅かだ。
だがいつまでも高級な装備を持ったまま、亀の子のように引っ込んでいる訳にはいかない。
俺はかなりの数の賛同者を得てロンド・ベルを結成させたが、それでも俺のことを気に食わないと思っているものは多い。
アムロのような外国人を取り込み、武家の仕来りも無視し、武家でありながら戦わない腰抜けとまで言われていることを俺は知っている。
だがそんなことは知ったことではない。俺は俺にできる戦い方をしているだけにすぎない。そうやって陰口を叩いている連中も、今頃は俺が作ったジムで大喜びして遊んでいるのだ。
と言うか、そういう連中を優先的にロンド・ベルに誘ったんだぜ?そこまで言うなら俺と一緒に世界を救おうって。何かと理由をつけては断っていたけどな。
と言うか、引っ込む理由に皇帝陛下や政威大将軍殿下を持ち出すなよ。皇帝陛下はご高齢だからともかく、殿下は自分から戦術機を持ち出して飛び出そうとする意志を持っておられたぞ。万が一があっては困るので、思いとどまってもらうのが大変だったけど。万が一にも殿下が「余について来い!」とか言い出したらどうするつもりなんだか。
話を戻そう。
「明日には新型のストライカーパックとか物資が届く。それまでに決めてくれ。ハイヴに突入するか否かを」
「なら、私から質問はいいか?」
そう言って挙手したのはアントン中尉だ。流石に俺を威嚇することはなくなった。どうやらこの間ヴォールクデータを攻略させたことで、俺のことを、と言うか、ロンド・ベルの評価をかなり上方修正させたらしい。
ちなみにアントン中尉とソフィア少尉の機体であるマインドシーカー改は既に完成している。シゲさんが率先して魔改造好きな人員を集めて改造していたからな。
「どうぞ」
「その作戦は、君が提案したのだとすれば、私達は君の指揮下に入るのか?」
「いいえ。俺はあくまで作戦の提案だけです。立案と実行は彩峰司令と、ここの基地司令であるラダビノッド司令が行います。と言うか、俺は軍人じゃないので、軍事に口を出しませんよ」
「だが、君は口を挟んだな」
「今が好機だと思いました。あくまで提案なので、断られたらそこまでです」
まあ、断らせない手はいくつも考えていたけどな。
「明日には日本から大量の物資と戦艦が届きます。これによって連隊規模になった日本帝国軍と、あなた達が元いたA-01連隊が先陣に立って、ここの基地部隊は後詰めをする形での作戦となります。ちなみに、ここの基地部隊を後詰めにしたのは、大半の衛士の練度が所定のラインに達していないからです」
そう、流石に即席栽培は無理だった。俺達が行った後の取りこぼしを排除してもらうことで、経験値を積んでもらうことにしたのだ。
アンバールを攻略した後はボパールハイヴに入ることになるだろう。できればEU諸国にもジムを届けたかったのだが、そうも言っていられない。
代わりに届けるのは、今絶賛建造中の天馬級3番艦に運ばせる予定だ。艦長は神野中将が務めることになっているらしい。
あそこはドイツの東西問題が長引いていて、少しばかり面倒なことになっているが、上手に調整してくれるだろう。
「他に質問は?」
「ない」
そっけない返事が返ってくる。これでも大分接しやすくなったんだぜ?
「あ、あの、私からいいですか?」
おずおずと手を上げたのはソフィア少尉だ。
「どうぞ」
「他の、私の姉妹たちはどうしていますか?」
やっぱり気になるか。何も出来ないではマズイと思ったらしい巌谷大尉たちに戦術機の操縦訓練を受けさせられていたから、情報を集めているどころじゃなかったのだ。
「いつも通りだそうですよ。殴られた子たちも無事に復帰して、通常任務についているそうです」
「そうですか・・・」
クリスカと社霞を足して2で割ったらこんな感じではなかろうか。妙にホッコリするんだよな。
浮気はしませんよ。俺は焔ちゃん一筋です。
「他には?」
「ガンダムとマジンガーはパワーアップするみたいだけど、ゲッターは何かないのか?」
「早乙女博士から聞いた話だと、新型のゲッターロボは今作戦には間に合わないそうだ。代わりに強化用の設計図は預かっているから、それで細部を強化といったところだな」
スパロボ的に言えばHP+500、EN+50、装甲+500、運動性+10と言ったぐらい。結構頑張ったと思うぜ。あのおっちゃんがあれだけ申し訳無さそうな顔をするってことは、後継機、多分だがゲッターロボGは期待してもいいってことだな。
「後、みちるさんから隼人によろしくってよ」
「なんだってー!お前、オイラのみちるさんに何しやがったー!」
「お前のじゃない。それに、特別な意味もない」
「特別な意味もなしに名指しでよろしくするかー!」
クールにそっぽを向く隼人だが、微かに頬が赤らんでいるのは気のせいじゃないはずだ。と言うか、いつの間にコイツラこんなに仲が進んでやがった。
「ちぇー、隼人もリア充の仲間入りかよ。俺も美人の彼女が欲しいなー」
「甲児くんにはさやかさんがいるじゃないか」
「べ、別にさやかさんとはそんなんじゃないや!ただ幼馴染ってだけで!」
本人がここにいなくてよかったな、甲児。いたら多分、血まみれの惨劇が繰り広げられていたぞ。
ふと視線をずらすと、そんな甲児たちの様子がおかしいのか、ソフィア少尉はクスクスと笑っている。
狙っていたわけじゃないが、どうやら緊張もほぐれたらしい。
俺はパンパンと手を打って注意を引く。
それだけですぐに居住まいを正すのは、流石に訓練されているからだ。
「話を戻すぞ。アムロと甲児は明日届く新型武装のチェック。マニュアルはあるからな。甲児、後でもりもり博士にお礼言っとけよ。リョウたちは今からゲッターの改造を行うから、いつでも出撃できるように準備しておいてくれ。アントン中尉とソフィア少尉はマインドシーカー改に慣れてくれ。ここまでで質問は?」
今度は誰も手をあげない。それに拓哉は頷く。
「よし、それじゃあ行動開始。急げよ、作戦開始まで時間はないぞ」
みんなを見送りながら、俺は自分の仕事に入ることにした。
さて、自重はもう止めだ。流石にネオグランゾンやゼオライマーは無理だが、俺は些か大人しすぎたかもしれない。
流石にオーパーツじみた機体は作れない・・・事もないが、コストも掛かるし乗れる人間も限られてくるので除外する。
俺は自分の部屋に戻りつつ、次の機体の設計案を考える。量産型はジム系列で十分だ。十分なはずだ。無理なら別の作品から色々と持ってくればいいだろう。
例えばATなんてどうだろうか。戦術機に比べれば衛士適性の壁は低いはずだ。武器の種類を増やしてやれば、いろんな戦場に対応できるだろう。
スーパーロボットの類も幾つか用意しておいたほうがいいかもしれない。とはいえ、あれは乗り手を選ぶからな。とりあえず日本の科学者を調べて、何処かにスパロボ出演経験者・・・この表現もどうかと思うが、兜博士や早乙女博士みたいな人もいるかもしれない。これは情報省に調べてもらうか。
逆に戦術機の規格は不用意に増やせない。例えばナイトメアフレームだとか、エステバリスとか。もし作るとしたら、戦術機風にアレンジする必要がある。
戦力の主流はやはり戦術機だ。これ以上種類をむやみに増やす余裕は、日本にも、そして最前線国家にはありはしない。規格は統一する。
俺の記憶が確かなら、初代ガンダムでは操縦の規格統一がなされておらず、『ザクの操縦は出来てもドムの操縦が出来ない』などという事が往々にあったらしい。同じ国の同じ軍内部にあってだ。
俺はそんな間抜けはするつもりはない。やるのなら統一だ。だからこそ例えばジムと撃震の操縦方法に大きな違いはない。簡単な機種転換訓練を一週間程度受ければすぐに乗れる。
リアル系の量産型はしばらく避けておくか。そうなると必要になるのはスーパー系の戦力だ。これは人員を探してからのほうがいいかもしれんな。
さて、どっちみち機体を作るなら実家に帰ってからしか出来ない。今の我が家の地下格納庫はがらんどうだ。何かで埋めてやらなければな。
俺はこれから先の算段を立てながら、歩みを進めていった。
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16・電撃作戦準備編その2
「これが新しいストライカーパック・・・」
アムロはガンダムを見上げながら呆然と呟く。エールストライカー風のバックパックにレーザー対艦刀と大型ビームキャノン。ウイングにはミサイルを搭載している。
「統合兵装ストライカーパックの一つ、オオトリストライカーだ。どうだ、かっこいいだろう?」
ストライクみたいな今風のデザインじゃなければ似合わないかとも思っていたが、中々迫力のある仕上がりになっている。
ちなみにオオトリストライカーと言えばもう一機。そろそろ帰ってくるはずだが。
「おら!道を開けろ!着艦するぞ!」
誰のかは分からんが、大きな声で注意が促される。
帰ってきたのは国連軍カラーの機体。マインドシーカー改だ。バックパックにはオオトリストライカーを装備しており、今はソフィア少尉を乗せて試験飛行に行っていた。
ハッチが開きご両人が出てくる。それを俺とアムロは迎えに行く。
「どうですか、オオトリストライカーは?」
「悪くはない。だがあれは熟練の衛士でなければ使いこなせんな。新米にはやはり、今まで通りに個別のストライカーパックのほうがいいかもしれん」
ムッツリ顔のままだが、的確な意見をくれるアントン中尉。こういうところは本当にありがたい。
「後で報告書を出しておいてください」
「分かった。行くぞ、ソフィア」
「はい、中尉。それでは失礼します」
アムロにも俺にも慣れたらしいソフィア少尉は笑顔で去っていく。
しかしまあ、衛士強化装備はこう、目に毒だよな。迂闊に鼻の下を伸ばすわけにもいかんし。
なんでかって?ソフィア少尉以外にも女性の衛士は少なからずいる。それでな、ちょっと甲児や武蔵、ボスと一緒になってちょっとエロ談義に花を咲かせていたんだ。そしたら焔ちゃんにそれを聞かれて、焔ちゃんが一日中衛士強化装備でいるという事態に。
それはご褒美じゃないかって?焔ちゃんのあの冷たい目を見ても同じことが言えたら褒めてやるよ。
でもまあ、
「癒やしは必要だよな」
もっと性能がよくて体のラインの出ないパイロットスーツは思いつけるが、目の保養だけは確保しておきたい。そう思う男のどうしようもない助平心だった。
一方その頃の帝国議会
「無茶苦茶にも程がある!あの子供は、暴走している!」
中央アジア戦線に派遣されたロンド・ベルから届いた報告に、帝国議会は紛糾していた。
そもそも、政治家の大半にとってロンド・ベルなどという部隊は聞いたことがない上に、勝手に結成され、挙句の果てに帝国にとって重要な人物である彩峰萩閣中将を連れ去っていったのだ。
いくら五摂家からのバックアップがあったからと言ってでもそれは容認できるわけがない。あまつさえ、実家の地下に戦艦を隠していたというおまけまでつくのだ。
その為に引き抜いた人員も帝国では指折りの技術者ばかりだ。
「それどころか、最新鋭機であるジムをあれほど大量に、ただで他国に渡すなど!」
「彩峰中将もだ!あんな子供の言いなりになるとは!!」
実際には話を持ちかけられるやいなや、彩峰の方から喜んで飛びついたのだが、この場にそれを知るものはわずかしない。
ロンド・ベルに、と言うよりは拓哉に対する罵詈雑言で埋まった議場を見ながら榊是近は大きなため息を漏らす。
彼はこの場にいる議員の中で数少ない、ロンド・ベル結成について事前に知らされていた議員の一人だ。
親友である彩峰と、従兄弟で整備士をやっている榊清太郎がロンド・ベルに引き抜かれていることもあり、身近に感じている。
実は拓哉に原作キャラだから、という理由で推薦されたということは知らない榊は、いい加減この会議に嫌気が差していた。
そもそもの始まりは、ロンド・ベルがハイヴ攻略作戦を実行するという情報が舞い込んだことだ。
良識的な議員は無謀だと言う。この中の半数は榊と同じく、事前にロンド・ベルについて知らされている者達だ。だが残り半数は知らされていない有象無象で、その中のさらに半数はアメリカの息がかかっている。
そして、先程から拓哉への罵詈雑言の止まない議員たちは、俗にいうところの親米派だ。
もっとも親米派は今、非常に勢力が小さくなっている。それも合同演習からは特にだ。加えて日本国内では当たり前のように知られている新型機、ジムの存在がさらに親米派の勢力を弱くした。
ビーム兵器。レーザーと混同しているものも少なからずいるが、どちらにせよ実現不可能とまで言われた超兵器を当たり前のように量産してしまったのだ。
それを戦術機に標準搭載させ、更には戦艦にも乗せ、もっと言えばその戦艦は宙に浮いてレーザー攻撃を防いでいるというおまけ付きだ。
戦術機技術でも艦船の技術でも遅れを取っているアメリカに、媚びる理由がどこにあるだろうか?
そういう嗅覚に鋭い議員は既に帝国側に寝返っている。
もっとも、そういう輩は信用を得ていないので重要な情報からは遠ざけられているのだが。
さて、この無意味な議会はいつまで続くのだろうか?
榊は暗澹たる思いを抱いて見つめる。若者たちに未来を託すしかない自分に、嫌気が差していた。
どうも、新塚拓哉です。今日が私の命日のようです。
え?分からない?じゃあ少し前の話を読んでこようか。
まず、今日物資が届く。届きました。ここまではいい。問題は、送ってくるのは天馬級戦艦の2番艦、天馬であること。そして、その艦長が私の義父になる予定の紅蓮醍三郎中将であるということです。
お分かりいただけたでしょうか?結婚前の娘と一緒の布団で毎晩寝ていることがバレました。つーか、焔ちゃんがあっさりばらした。
この子に危機感、主に俺の命に対するものはないんか!
アムロたちには口止めをしたものの、焔ちゃんにはしなかったためこの結果と相成ったのだ。
この結果?聞きたいか?正座している俺の首に刀が当てられているという現状だーーー!!
ちなみに焔ちゃんは、一緒に来ているお義兄さんたちに挨拶してくると言ってさっさと部屋を出て行った。
「さあ、辞世の句を読め」
「まだ手はつけてない!」
このやり取りも軽く10回は超えている。焔ちゃん頼む。早く帰ってきてこの事態の終息をしてくれ。
永劫とも言える一瞬の時間。言葉が矛盾しているけど、実際に俺はそんな気分だ。部屋のドアがノックされた。
「どうぞ!」
喜び勇んで許可を出すと同時に入ってきたのは彩峰司令だ。
俺達を見て目を丸くしていたが、大体のところを理解したのだろう、大きくため息を付いて紅蓮中将の手を掴んでそっと刀をどけてくれる。
「何をやっているのですか、あなたは」
「離せ、彩峰!コヤツの素っ首を叩き落としてくれる!」
まだジタバタ暴れようとしているお義父さんだが、彩峰司令に刀をしっかりと抑えられて身動きがとれない。
すげー、司令って結構強かったんだな。
しばらくして、ようやく落ち着いたお義父さん。まだかなりムスッとしているが、「このままでは焔ちゃんに縁を切られますよ」という彩峰司令の説得にひとまず落ち着きを取り戻した。
「それで、焔ちゃんの様子を見に来ただけじゃないでしょ?」
「一度ワシの機体を見てもらいたい。反応は悪くないのだが、火力が足りんのでな」
「オオトリストライカーの装備で大体は解決しますが、分かりました。すぐに行きましょう」
それだけの用事のために、俺は殺されかけたんかい。
まあいいや。俺が渡したあの機体の状態も気になっていたしな。
天馬格納庫にて。
こちらに来る途中で重慶とボパールのBETAを間引いてきたのか、いい具合に戦闘経験が蓄積されている。
機体の損耗も想定の範囲内。人的損失と脱落機も無し。何だ、俺が見る必要はほぼないぞ?
「問題なしですよ中将。整備も万全に行われていますし、経験値もいい具合に入っている。俺が見るようなところはありません」
コクピットから飛び降りて、俺は機体を見上げる。
しかし、我ながらこれを作ったもんだよ。日の光を浴びて鮮やかな輝きを放つその機体は、量産型ガンダム改造機、紅蓮ガンダムだ。
分かりやすく言えば、レッドウォーリアだ。外観は量産型ガンダム寄りだが、紛れもなくレッドウォーリアだ。
これが焔ちゃんとの婚約を認めてもらうために渡した袖の下で、紅蓮中将のお気に入りだ。その際にテストしたお義父さんが、フルパワーで俺をハグをしたのは思い出したくもない悪夢だ。
・・・本当に、よく生き延びたこと。
「まあこれでも足りないと言うなら、ひとまずオオトリストライカーを装備して様子見ですね。言っておきますけど、俺はそれなりに忙しいんですから、お義父さんのわがままばかりには構えませんよ?」
「分かっておる。それは貴様が改造した機体だからな。製作者に一度見てもらいたかっただけだ」
だと言うんならいいですけどね。より強く改造してくれって言ったらぶっ飛ばすレベルですよ。ぶっ飛ばされるけどね!
紅蓮ガンダムのスペックは、実はアムロのガンダムよりも上なのだ。作った当時ではアムロよりも紅蓮中将のほうが技量は上だったから、それで十分だと思ったのだが。
そうなるとやはりガンダムにマグネットコーティングを施したほうがいいか?お義父さんの方にもその話をしておかないと機嫌が悪いだろうなー
「紅蓮中将、どうしても改造がしたいなら一つだけあるのですが」
その後の食いつき具合と、紅蓮お義父様のフルパワーハグを思い出したくないので簡単な解説だけに留めるが、マグネットコーティングによる機体反応の増強は、非常に気に入ってくれたらしい。
ついでに、アムロのガンダムにもマグネットコーティングを施し、これで無事に強化改造は解決した。
そんな時だった、俺のもとに緊急の情報が入ってきたのは。
「はっ?見覚えのない戦術機が有る?」
そこには1機の戦術機が鎮座していた。外観は、しいて言えばずんぐりむっくり。ピンク色の半球形状の頭部を乗せたそれは、どう見てもボスボロットだった。
「いや待て!誰だ、こんなの搬入したのは!?」
「勿論、俺様だわさ!」
そう言ってのっしのっしと入ってきたのは、整備班期待の星、ボスだった。
こいつ、意外と手先が器用らしく、珍しく榊のおやっさんが褒めていたぐらいだ。まあ、シゲさんと同じく、地獄のシゴキを受けることになるだろうけど。
「勿論、じゃねえ。どういう経緯でこんな機体を用意した」
「こっちに来る前に光子力研究所の三博士を脅し・・・もとい、協力を得て作り上げた俺様だけの機体だわさ!これで兜にだけはでかい顔をさせないだわさ!」
こういうところだけ原作を踏襲するんじゃねえ!
必死に叫びを飲み込んだ俺を褒めてくれ。嬉しそうにボロットによじ登っていくボスを見ながら、俺はただ呆然と立ち尽くすしかできなかった。
さあ、BETAの糞虫共。ここから人類の反撃開始だ。
作戦決行は二日後。誰もが緊張の面持ちで作戦当日を迎えるのだった。
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17・
誰もが緊張の面持ちでディスプレイを見つめる。
この場にいる誰もが、ハイヴを初めて攻略するのだ。かくいう俺も、あれだけぶち上げておきながら、彩峰司令の隣で握り込む拳は、汗に濡れている。
この世界はスーパーロボット大戦ではない。万が一にも、アムロ、甲児、リョウ、隼人、武蔵の誰かが帰ってこないかもしれない。それを考えると不安が押し寄せてくる。
だが今更止める訳にはいかない。あれだけみんなを戦場に駆り立てたのだ。降りる訳にはいかないし、降りるつもりもない。
ふと、隣の焔ちゃんが俺の手を握る。戦術機の訓練を受けていない焔ちゃんは、俺の隣でゲスト席に腰を落ち着けている。
「大丈夫ですわ。拓哉様の、拓哉様たちが作り上げた部隊ですもの」
「焔ちゃん・・・。ああ。みんなを信じよう」
ふと隣の彩峰司令を見ると、微笑ましいものを見るような目で見ている。俺達はブリッジ要員の癒やしかい。
『くぉら!拓哉ー!』
突如として馬鹿でっかい声がブリッジに響き渡る。
「なっ、武蔵!?」
『お前はオイラたちを信じて、どっしり構えていればいいんだよ!』
『そういう事だ。俺達は、絶対に生きて帰る』
『フッ。だから、大将はじっとしていろ』
「俺は指揮官じゃないぞ」
ゲッターチームからの茶々が入る。
『みんな、君がいなければ集まらなかった人材だ』
『そうとも。ロンド・ベルは君が作り上げた部隊だ。指揮は取らなかろうが、トップは君だと思っているよ』
『おっさんたちの言うとおりだぜ。しっかりしろよ、大将!』
『私はまだおっさんという年じゃないんだけどね』
アラサーのお二人は立派におっさんです。
『僕は、拓哉がいなければ戦術機には乗らなかったと思う。でも、ここに来たことを後悔してはいないよ』
『おっ、アムロにしては前向きじゃねえか』
『くっそー!俺も戦術機に乗れればー!』
甲児の茶化す声と、ボスの悔しそうな声が響く。
ボスがボロットで出撃できない理由は単純だ。技量が追いついていない。単純に足手まといだからだ。勝手に出撃されたら困るので、マジンガーとゲッターの力を使ってがっちり機体を固定して封印しているため、出撃することは出来ないのだ。
まあ、それでも無理やり出撃しそうな輩では有るが、武器を一切装備していないガンダムに完封された時点で流石にやつも諦めたらしい。
単純にアムロが強くなりすぎているだけじゃないかという気もするが、そこは気にしないことにしておこう。
「さて、そろそろいいかね」
「すみません、私的な通信で」
「ハッハッハ!気にすることはないよ。どうやら、いい具合に緊張もほぐれたみたいだからね」
『この部隊はいつもこうなのか?』
「いつもというほど実戦は積んでませんけど、大体こんな感じですよ。ソフィア少尉は大丈夫ですか?」
『は、はい!火器管制システム、問題ありません!!』
第三計画部隊で唯一ホワイトベースから出撃するアントン中尉達だ。アントン中尉は流石に慣れたものだが、火器管制だけとは言え、実質初陣に近いソフィア少尉はまだ若干緊張気味だ。
「さて、それでは諸君。我々はこれよりBETAの本拠地に突入する。力及ばず倒れるか、後に続く標となるかは諸君次第だ」
急に空気がピンっと張り詰める。
「だが私は、諸君ならばやり遂げられると信じている。これよりオペレーションSRWを開始する!!」
『SRWってなんの略ですか?』
「そんなもん、
17・「スーパーロボット大戦に決まってるだろ?」
『スーパーロボット大戦?』
「こっちのことだ」
流石にそれは言えないよ。
「だが、言い得て妙だな。ガンダム、マジンガーZ、ゲッターロボ。いずれ劣らぬ超戦力だ。これだけお膳立てが整った上で負けたら笑えないぞ」
『大丈夫ですよ、司令!俺達は生きて帰る!必ず!』
彩峰司令の号令とともにホワイトベースのカタパルトハッチが開けられる。
まず一番最初に飛び出したのは甲児のマジンガーZだ。
『行くぜ、マジーン、ゴー!!!』
紅の翼をまとった黒鉄の巨人が飛び出し、続けてゲッターチームが飛び出す。
『行くぞ、みんな!チェェェェンジ、ゲッター1!スイッチ・オン!!』
3機の戦闘機が合体し、赤い巨体が現れる。
そして、最後に出撃するのは。
「アムロ、行きまーす!」
オオトリストライカーを背負ったガンダムが飛び出した。
頼むぜ、みんな、生きて帰ってきてくれよ。
正面からBETAの群れが押し寄せる。
アムロは操縦桿を押し込んで一気に加速させる。
いま、彼の思考は驚くほどクリアになっている。不思議とBETAの次の手の内が読めるのだ。これが拓哉の言っていたニュータイプなのだろうか。
拓哉は言った。ニュータイプとは、戦争なんてしなくてもいい人類なのだと。
だとしたら、BETAとも戦争しなくてもすむのではないだろうかと。
「いまは、目の前の敵を片付ける!」
ビームランチャーを展開し、正面から迫っていた突撃級の群れに狙いをつける。
「そこぉっ!!」
放たれた閃光が、正面の突撃級と、後ろに隠れていた光線級を焼き尽くす。続けてアムロは機体を横にスライドさせつつ、ミサイルランチャーを放つ。
正面に迫っていた突撃級を全て爆砕しつつ、更にレーザー対艦刀を構えて突撃をかける。爆炎の向こうには案の定、光線級が待ち構えていた。だが、レーザーを放つよりも先に両断する。
「突っ込み過ぎだぜ、アムロ!」
アムロの隣に並び立つように、マジンガーが降りてくる。
「こいつがもりもり博士から受け取った遺志だ!アイアンカッター!!」
『おい、もりもり博士は死んでないからな!』
拓哉のツッコミと合わせて、要撃級を複数体まとめて切り裂きながら、超合金Zの刃をまとったパンチは飛んで行く。
いつもの調子の甲児に、アムロは少しペースを取り戻す。確かに突っ込みすぎていたかもしれない。それを再確認したアムロは少し後方に下がりながら、ビームライフルで小型種をなぎ払いながら甲児の援護をする。
「ドリルアーム!!」
要塞級の巨体に大きな穴を開けるゲッター2。そこにさらに突撃級が押し寄せるが、コクピット内の隼人たちは小さく笑みを浮かべる。
「ゲッタービジョン!!」
超高速移動による残像めがけて突撃級が殺到し、そのままお互いに激突して砕け散る。
「速度もオツムも、大したものじゃなかったな」
更には高速移動の余波で、小型種が軒並み消し飛んでいるのは流石だ。
次の瞬間、アムロは脳裏に嫌な予感を感じ、すぐさま機体を横に倒す。そしてその予感の方向にビームライフルを斉射する。
いつの間にか近づいてきていた突撃級だった。突撃級は正面からビームで大穴を開けられ絶命する。
「おいおい、今の分かったのかよ」
「何となく、予感がしたんだ」
「すげーなー。それが拓哉の言っていたニュータイプってやつか?」
「油断は禁物だ。今、ギリギリまで気づかなかっただろう」
「隼人の言うとおりだぞ、みんな」
アムロたちに近づいてくるBETAを排除しつつ、シローのガンダムが近づいてくる。
「力を過信するな。それでは容易く命を落とすぞ」
「は、はい!」
珍しく硬い士郎の言葉に、ここが戦場であることを思い出す。
そして、人類初のハイヴ攻略を成功させるつもりなのだと。
改めて気を引き締め直したアムロたちは、目の前の敵に向き直る。
「天田少尉も随分と隊長らしくなってきたな」
「私達の見込んだ通りの人材だったな」
巌谷と篁の二人も、ビームライフルを斉射しながら周囲の様子に目を配る。
ロンド・ベルの第2戦目は非常に順調だ。ジム部隊も順調に戦果を稼ぎ、随伴している第三計画のA-01にも脱落機がいない。
やはり超兵器じみた機体が中央で敵を集めているのが大きいのだろう。巌谷たちの見間違いでなければ、ガンダム、マジンガーZ、ゲッターロボに敵の攻撃が集中している。
巌谷はここでBETAの習性を思い出す。高度なコンピューターを積んでいる機体に集中する癖があるということを。
だからこそ疑問に思う。マジンガーZとゲッターロボはまだ分かる。あれは拓哉と並ぶ超頭脳の持ち主が開発した、独自規格の機体だ。だが、ガンダムに敵が集るのはなぜなのだろうか。
巌谷と篁は、いや、この場で知っているのは拓哉しかいないことだが、ガンダムに積まれているバイオセンサーに引かれているのだ。
しかしこれは他の部隊、特にレナード大尉指揮下の新人部隊にとってはありがたいことだった。あまり敵が寄ってこず、新兵器のジムの火力でどんどん敵を打ち倒すことが出来るのだから。
既に彼らは『死の8分』を超えている。だが、今は初陣の緊張でそれに気づいてはいない。レナードはあえてそれを口に出さない。
「大したものだ。これが日本の新型の力か・・・」
「大尉、戦闘開始より15分が経過。脱落者なしです」
メリッサからの通信に顔にも態度にも出さず、レナードはポツリと呟く。
「時代が変わったな・・・。私たちは時代の変わり目にいる」
レナードのジムに装備されたオオトリストライカーのビームランチャーが火を噴く。あれほど撃破が困難と言われた要塞級の胴体に大穴を空けて、あっさりとその命脈を立つ。
本当に時代が変わったと思う。彼が新兵だった頃からは考えられない。いまからF-4に乗れと言われれば、鈍臭くてとても乗れたものではないだろう。
「私達は彼らに武装を提供してもらった上に楽までさせてもらっているのだ。無様を晒すなよ!」
『了解!!』
「認めるしかないか・・・」
紅蓮は自身の機体、紅蓮ガンダムを駆りながらそうつぶやく。
今まで以上に自分の動きについてくる機体。軽やかな、舞うかのような機体の挙動に驚きを禁じ得ない。
マグネットコーティングなどという、訳の分からないものに不信感を持たないでもなかった。
だが、急場で機体の性能を上げるという無茶を、見事に通してみせた。
と、その時、部下の白いジムの背後に要撃級が迫ってきていた。紅蓮は素早くビームバズーカを構えると、一撃でそれを撃ち抜いた。
「気を抜くでない!」
「も、申し訳ありません、中将閣下!」
「貴様にも娘がいるのであろう。ワシに貴様の死の報告をさせるではないぞ、神代よ」
「は、はい!」
そして再びビームサーベルを構える。ハイヴに突入するために。人類の勝利を得るために。そして、愛しい娘の元に帰るために。
やはりと言うべきか、敵の攻撃がガンダムに集中している。
ガンダム、マジンガーZ、ゲッターロボがひとかたまりになっているからこそ気づかれていない・・・いや、彩峰司令は気づいているだろうが、アムロたちの技量の高さゆえに目をつむっていると言ったところだ。
だが、逆に考えれば今がチャンスだ。切り札の一枚を切る。
「彩峰司令、切り札を切ります。艦正面の機体を下げさせてください」
「何、切り札?」
「今なら正面のBETA群と、ハイヴ地表構造物をまとめて撃ち抜けます」
「分かった。君の言うとおりにしよう。全軍に通達。全速力でホワイトベースの正面から退避せよ!」
俺はポケットからキーを取り出し、それを司令に渡す。そして、司令の目の前のコンソールにある鍵穴を指差して言う。
「そこの鍵穴、メンテナンスハッチじゃないんですよ」
「このタイミングで聞かされたくはなかったがね。ところで、切り札とは何かね?」
戦艦の切り札といったらそんなもん、決まっている。馬鹿でっかい主砲だ。
ホワイトベースのサイズが一回り大きくなったのは、実は原作には積んでいなかったこの装備も原因だ。
「ハイパーメガ粒子砲です」
司令が鍵を回すと同時に、ガコンッと艦体が揺れて艦底部が開く。ハイメガ粒子砲の砲身がせり出し前に伸びる。こうしないと前足にビームが引っかかるからな。
「ホワイトベースより各機へ。これより本艦はハイメガ粒子砲を発射する!射線上より退避せよ!」
「聞こえるか、アムロ、甲児、ゲッターチームはそのまま真っすぐ下がってこい!薄々気づいていると思うが、奴さんらはお前たちを集中的に狙っている!」
『やっぱりかよ!』
『なんでそんな!』
「お前たちの機体は特別製だ!光子力にゲッター線、とどめに熱核エンジンだ。BETAから見れば最高の餌なんだろうよ!」
『どうせなら可愛こちゃんに追っかけられたいぜ!』
軽口を叩きながらも、しっかりとBETAを引きずりながら正面に逃げてくる。ジムの部隊も指定された範囲から上手に逃げていく。
スパロボ的に言えば最高のシチュエーションだ。思わず笑みがこぼれるが、発射のタイミングは彩峰司令任せだ。
アムロたちが艦の後方に下る。そして。
「ハイパーメガ粒子砲、いけます」
「よし、ハイパーメガ粒子砲、発射ー!!!」
カッと目の前で光がきらめく。そして、巨大なホワイトベースそのものを後ろに押し返すほどの猛烈な衝撃が走る。
「きゃぁぁっ!!」
オペレーターの悲鳴が聞こえるが、誰もがこの衝撃に構う余裕はない。
一瞬とも永劫とも取れる光が過ぎ去った後、そこには抉られた地面と、わずかに残っただけのBETA。そして、先程まで威容を誇っていたハイヴ地表構造物は、跡形もなく消し飛んでいた。
『す、すげぇ・・・』
甲児の何気ないつぶやきは、この戦場にいた全員の心を代弁したものだった。
一番最初に正気に戻った俺は、まだ呆然としている彩峰司令の背中をたたきながら声をかける。
「司令、指示を!」
「ッ、すまない!全機無事か!」
「確認します!全機のシグナルあり。脱落機はありません!」
「よし、ならば、全機帰投せよ!これより本艦隊はハイヴへと突入する!紅蓮中将、ラダビノッド司令!地上の残敵は任せます!」
『一番美味しいところを持っていかれるのは癪だが、頼むぞ、彩峰!』
『残敵はこちらで掃討します。彩峰司令、ご武運を!』
次から次へと激励の通信が入ってくる。
そう、ここからは俺達だけ、ロンド・ベルとA-01だけが突撃する。
大丈夫なはずだ。あいつらを信じよう。
「よし、全機収容後、本艦はハイヴへ突撃する!帰投した機体は整備を急げ!」
「俺も行ってきます。手はいくつあっても足らんでしょうし」
「頼む!衛士は全員、体を休めておけ!」
俺は司令の指示を聞きながらブリッジを飛び出す。焔ちゃんを置いてきたが、あそこより安全な場所はない。
さあ、これはまだ前哨戦だ。そして、俺の手から完全に離れる戦いだ。
アムロ、甲児、リョウ、隼人、武蔵。全員生きて帰ってこいよ。
セリフをコピペでやった時に上書きした分を修正しました。
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18・絶望するにはまだ早い
ハッチが開き戦術機部隊は次から次へと飛び出していく。
普通ならば地獄の行軍。だが、彼らには希望があった。
ガンダム、マジンガーZ、ゲッターロボ。シミュレーションのデータ上とはいえ、ハイヴ攻略を成し遂げた機体が一緒にいくのだ。
アムロはその重い期待を背負いながらも、深い闇の中へと飛び出していく。
突如、通信が繋がった
「うわっ」
『アムロ、緊張しているのか?』
拓哉だ。これからは通信が繋がらなくなる。おそらくはこれが最後の通信となるだろう。
だからかもしれない。親友の声にアムロの心が落ち着きを取り戻す。
「そう・・・かもしれない」
『そうか。良かった。俺もだ』
「えっ!?」
『お前は俺を何だと思っているんだ。俺だって緊張することは有る。まして、今度はシミュレーションじゃない実戦だ。万が一にもお前たちの中の誰かが帰ってこない可能性もある』
そうだ。今までの実戦とは違い、深い暗い闇の中へと潜っていくのだ。そして、ここから先は全人類の希望をかけた戦いと言っても過言ではない。
『だから、無理だと思ったら帰ってこい』
「はっ!?」
『正直、俺はお前を、お前たちを失うのが怖い。安心しろ、逃げてきてもちゃんと居場所は作ってやる。そこから生きて帰るだけでも成果だ。誰も臆病者だなんて言わせねえよ。もし言うやつがいたら、強化装備だけでハイヴに叩き込んでやる。カシュガルあたりが良いか?』
「いや、でも、敵前逃亡は」
『知るか、そんなもん』
あっさりと帰ってきた答えに、肩の力が抜ける。
なんだか気負っていた自分が馬鹿らしく見えてきた。
『俺が今までどれだけ現実を捻じ曲げてきたと思う?レールガン、ヒートサーベル、ビーム兵器に空飛ぶ戦艦。隠れてピーピー囀るだけの連中なんぞ、簡単にひねってやる。だから、無理をするな。無理だと思ったら逃げてこい。主に篁大尉あたりに押し付けて』
『おいおい、私は守ってはくれないのかな?』
『逃げ場所を作ってあげただけ感謝してくださいよ。栴納さんにアメリカ留学中の彼女のことがバレて大変なんでしょ?ミラ・ブリッジスさんっていいましたっけ?』
『どこまで知っているんだ、君は!』
『待て、祐唯。その話は始めて聞いたぞ』
『隠し子については黙っててあげますけど、バレたときの言い訳は自分でしてくださいね』
『ちょっと待て!隠し子!?ミラに、子供が出来ていたのか!?』
『うわぁ~、すっごい話を聞いているんだけど、俺』
『やれやれ、鉄の篁大尉も、アメリカンボインちゃんの誘惑には勝てなかったかい?』
『聞いていません!自分は何も聞いていないであります!』
『待て、違う!誤解だ!』
『その話は帰ってからにしましょう』
『その話を今ここで持ち出したのは誰だー!』
『と、言うわけだ。アムロ。ヤバイと思ったら篁大尉を盾にしていいから』
「あ、えーと・・・」
肩の力どころか緊張感も全部持っていかれたようだ。
抜けすぎて、逆に困るのだが、今更それを言う気にもなれない。
『篁大尉』
『ほ、焔ちゃんかい?違うんだ、これは』
『最低』
『ぐはぁっ!』
『ほら、指揮をとるのは篁大尉なんですから、シャンとしてくださいよ』
『誰のせいだね?』
もう既に、今から死地に突撃する空気ではなくなってしまった。
だが、これでいいのかもしれない。何となく、そんな気のするアムロだった。
「拓哉、ありがとう」
『気にすんな。それこそ、ダチだろう?遠慮すんな』
まだ通信機の向こうで言い訳をしている篁の声を聞きながら、アムロは自然な感覚で操縦桿に手をかけた。
ハイヴの中は恐ろしく静かであった。
音はまるでせず、ただ不気味に明滅する壁がここはまるで地球ではない何処かを思わせた。
『シミュレーションの時とは真逆だな・・・』
『でも不気味だぜ、ここまで何もないとよ』
所々からBETAは姿を見せるが、規模は大した事がなかった。ヴォールクデータのハードモードや、おふざけデータをさんざんやらされた身からすれば拍子抜けもいいところだ。
逆に過敏に反応しているのがA-01だ。必要以上に弾丸を消費しており、篁が何度か注意をうながすものの、A-01としての選民思想と、日本人に対する差別意識まである彼らはそれを中々聞き入れようとしない。
こちらの言うことを聞いてくれるロシア人は、アントン中尉ぐらいだろう。彼は極めて理性的で理知的で、模範的な軍人だった。篁の指示に従い、無駄弾を回避しつつ、かつての同僚を露払いに使っている辺りなかなかいい神経をしている。
敵の数が少ない。少なすぎることに違和感を覚えるロンド・ベルの面々。
あっさりと中層部を抜けて、下層部へと向かう。
『おそらくだが、さっきのハイパーメガ粒子砲だったか。あれで崩れた建造物が落ちてきて、BETAは押しつぶされたんじゃないかな?』
『いや、押しつぶされるほどの瓦礫は発生しなかったはずだ。何しろ、地表構造物が跡形もなく消し飛んでいたからね』
原因は分からない。だが、敵の数だけは減っている。
しかし、アムロだけはそれを感じ取っていた。
「いますよ。最下層部に溜まっている。このざらついた感覚は・・・」
アムロ自身の感覚もだが、ガンダムが教えてくれているような気もしていた。
『分かるのかい?』
「はい。BETAはメインホールで待ち構えています」
『馬鹿な!BETA共が戦術なんて練るのかよ!ふざけたこと言ってんじゃねーぞ、ジャップ!!』
「僕はアメリカ人ですよ。今となってはどちらでもいいですけど」
『とにかく、アムロくん、敵はメインホールに集まっているのだね?』
「はい。悪意でもない、この不愉快な感じはBETA以外にありえない」
『分かった。全機、ここで一度弾薬を補充しておけ。不具合の出ている機体はいないな』
篁の呼びかけに、ロンド・ベルのメンバーは素早く機体のチェックを始める。
だが、それで納得がいかないのはA-01だ。ただでさえ日本人が指揮をとるということに嫌気が差しているのに、わけの分からない、まだ子供のような衛士の言うことを信じて動くなど。
『腰抜けのジャップどもはそこでのんびりしているがいいさ。BETAが居ないなら今がチャンスだ!』
『ここまでほとんど遭遇しないことを、おかしいとは思わないのか!』
『はっ!どうせさっきのビーム砲で吹き飛んだに決まっている!行くぞ!俺達が最初のハイヴブレイカーだ!!』
A-01の機体はそれに触発されて飛び出していく。
『待て!くっ!補給を急げ!すぐに追うぞ!』
補給と言ってもアムロなどはエネルギーの補給ぐらいだった。実弾兵装はなるべく使用しないようにしていて、温存しながら戦うほうが有効であることをヴォールクデータで覚えたからだ。
もう一つは、A-01の面々が盛大に無駄弾をばらまいてBETAを殺して回ってくれていたため、ロンド・ベルの突撃部隊は殆ど弾を使っていなかった。
マジンガーZとゲッターロボに至っては、エネルギーを必要とする武器を使用する機会がなく、ほとんど戦わないままここまで来てしまったのだ。
その為、予定より早くエネルギーと弾薬の補給を終えたロンド・ベルは、篁のガンダムを先頭にして、ハイヴのメインホールへと向かった。
その光景を評するならばただ一言、地獄に尽きるだろう。
「う、あぁ・・・!!」
アムロの喉から声にならない悲鳴が漏れる。
メインホールはほんの僅かな時間で地獄へと変貌していた。縦横無尽に暴れ回るBETA。そして倒れ伏した戦術機に群がる戦車級。その口元から細い腕が見えているのは、もう既に食後だということだ。
『そ、そんな・・・そんなのってありかよ!』
この場にいる誰もが初めて見る惨劇に、体が硬直する。甲児、リョウでさえも機体の操縦を忘れるほどに。
そして、
『ジャ、ジャップども!は、早く俺を助け、ヒィ、く、来るなーーー-!!!』
通信機から聞こえてきたのは、あのA-01の部隊長の声だった。その声がどこから聞こえているのかは分からない。果たして人は、あのような声を出すことが出来るのだろうか、断末魔の悲鳴を残してその男は、おそらくだがBETAの腹に収まった。
いち早く正気を取り戻したのは、豊富な実戦経験を持っているアントンだった。
『・・・っ!!正気に戻れ!お前たちもBETAに食われたいのか!』
ガンッと突きつけられた現実に、全員が正気に戻る。
『総員、戦闘用意!目標、敵集団!』
『アムロ、甲児、リョウ、戦えるな!』
『あ、ああ!!』
『すまない、士郎さん!』
だが、アムロからだけは返事が帰ってこない。
アムロは目の前の惨劇に目を奪われていた。そして・・・。
『アムロ!返事をするんだ!正気に戻れ!!』
「は、はい!!」
『よし、戦えるな?無理なら下がれ』
「いけます!大丈夫です!」
『なら、君たちは小隊を編成してBETAの遊撃をするんだ』
「りょ、了解!」
すぐさまアムロはマジンガー、ゲッターの方に機体を走らせる。
『大丈夫か、アムロ』
「ああ、大丈夫だ。大丈夫だ・・・」
『ようし、行くぞ!奴らに味わわせてやる、ゲッターの恐ろしさをな!』
『ああ!ぶちのめしてやるぜ!!』
そこから先のことはあまりに必死過ぎて、アムロもあまり良く覚えていない。
死に物狂いというのはこういうことを言うのだろう。難易度で言えば、ハードモードのヴォールクデータとそれほど変わらないはずなのに、実際の死が迫ると今まで出来ていたことが頭から抜ける。
それはアムロだけではなく、他の衛士たちも同じようだった。それでも死者が出なかったのは幸いだろう。機体が大破してもベイルアウトすることが出来たため、幸いにも死者が出ていない。それだけが救いと言っても過言ではない。
ベイルアウトして生き延びることが出来たのは、何もロンド・ベルの面々だけではない。A-01も数名だが生き延びることができたものがいる。ただ、それは本当に奇跡と言ってもいい幸運の中を生き延びたと言ってもいい。
当初は連隊規模もあったA-01は、わずか数名、ギリギリ中隊規模の数しか生き残っていなかった。
『終わった・・・のか?』
『ああ。俺達は無事にだがな。ソ連の皆さんはそれどころじゃなさそうだぜ』
隼人の皮肉にも切れ味がない。さすがの彼も死人に鞭打つような真似はしないのだ。
一方、アムロはまだ戦闘態勢を解かずにいた。
精神をヤスリで擦り上げるような、ざらついた感覚がなくならないのだ。
「まだいる」
『何!?』
「まだ、BETAがいる!」
普段のアムロではないような強い言葉遣いに、ロンド・ベルの機体は一気に警戒態勢を取る。
アムロが神経を集中させる。その時だった。ガンダムから赤い光が漏れ出し始めたのは。
コクピットブロックを中心にその光が溢れ、メインホール全体を照らし出す。
『お、おい、アムロ』
「黙ってくれ!」
神経を集中させるその瞬間、アムロは自分が世界の中心に立っているような感覚に囚われた。まるで、宇宙の中心に立つような。
そうして目を閉じていても、どこに誰がいるのかがすぐ分かる。
力強さを感じるのは甲児のマジンガーZだ。そして3つの力が合わさり、より大きな力を持っているのはゲッターロボ。そして親しみを感じる気配が3つ。巌谷、篁、士郎だろう。そしてそれ以外にもたくさんの力が星のように自分の周りで明滅している。
そんな中にただ一つ、禍々しい輝きを放つ星が。
「そこか。さっきから僕たちを観察しているやつ!」
ガンダムの、アムロの視線の向いた先にあるのは遥か奥、台座の上に建てられた、光る巨大な物体だった。
それはデータ上では何度も見ていたが、実物を見るとその異様さは際立つ。
BETAを初めて見てときにも思ったが、それ以上の異様さとグロテスクさをもって屹立していた。
『これは、反応炉か・・・』
『うぅ・・・オイラ、トカゲとかこういう気色悪いのは苦手だ・・・』
『得意なやつが居てたまるか』
周囲の警戒をしながら、反応炉へ近づく。この距離まで来てもまだ何のリアクションも返ってこない。
『なあ、見てるやつって、これのことか?』
「ああ。僕達を観察している」
アムロはまだ自分の機体が赤い光を放っていることに気づいていないのか、ゆっくりとした挙動で反応炉に近づく。
その時だった。
『避けろ、アムロ!!』
突如として触手が伸びて、ガンダムに迫ったのだ。
隼人の注意が間に合ったのか、ギリギリのところでアムロは機体を回避させる。
一撃ではすまないそれは、周囲に向かって無数の触手を解き放つ。だが、それをアムロは今まで見せたことがないような、俊敏な動きで回避する。
『まさか反応炉に攻撃能力があったとはな』
『そうも言っていられませんよ!それに、攻撃がガンダムに、アムロに集中している』
『させるか!ゲッタァァァビィィィム!!』
ゲッターロボから放たれたビームは、ガンダムに迫っていた触手を薙ぎ払う。
続けてゲッタービームを連射し、触手を薙ぎ払おうとしたその時だった。
ガンダムに迫っていた触手がピタリと動きを止め、その矛先をゲッターへと向けたのは。
『何っ、こっちに向いた!?』
『リョウ、オープン・ゲットだ!!』
『ああ!オープン・ゲット!!』
緊急分離し、触手を撹乱するゲッターチーム。縦横無尽に迫る触手を、不規則なようで、それでいてお互いにどう動くかわかっているからこそ出来る芸当だろう。
とはいえ、この猛攻にゲッターチームは再合体しかねている。
『援護する!今のうちに再合体しろ!』
アントンの放ったビームライフルが触手の先端を狙い撃つ。触手を消し飛ばした一瞬の間隙に、ゲッターロボは再合体を果たす。
『助かったぜ、アントン中尉』
『気を抜くな、まだだぞ』
言い終わるやいなや、触手が再び飛んで来る。今度はゲッターだけではない。アムロのガンダムにも、マジンガーZにもお構いなしに攻撃を仕掛けてくる。
『見境なしかよ!』
『何があるか分からん!攻撃を受けるなよ!!』
あまりに猛攻に誰も反撃に移ることが出来ない。そんな状況はやがて衛士の疲弊を促す。
『う、うわぁぁっ!』
ジムの一機が捕まったのだ。だが、恐るべきはそこからだった。張り付いた触手はそこからさらに枝を伸ばし、まるで同化するかのように触手を伸ばし始めたのだ。
『動かない!?システムが乗っ取られた!?』
『いいか、そこを一歩も動くなよ!!』
篁の反応は早かった。もうだめだと分かると、ジムの腕と正面装甲を切り裂いたのだ。
『うわっ!?』
『こっちに飛び乗れ!』
ジムの衛士はしばし逡巡した後、すぐに篁の機体の手に飛び乗った。篁はハッチを開けるとなかば強引にその衛士を放り込んだ。
『祐唯、その衛士は!?』
『無事だ!狭いだろうが、じっとしていろよ!』
『は、はい!!』
一気に緊張感が漂う。いや、今までもあったが触れただけでアウトなど、
『リアル鬼ごっこかよ!』
『面白い!ゲッターを捉えられるものならばな!!』
『おう!隼人、武蔵!もう一度オープン・ゲットだ!!』
だが、諦めない少年たちはここに居た。再びゲットマシンに分離すると、縦横無尽に飛び回り触手を翻弄する。
触手は必死にゲットマシンを追いかけるがそれもかなわない。なぜなら、
『ブレストファイヤー!』
放たれた熱線によって全て薙ぎ払われた。
『俺の相手もしてくれないと寂しいぜ。もう一発食らっとけよ!ブレストファイヤー!』
再び放たれる熱線は、容赦なく触手を薙ぎ払う。
『チェェェンジ、ゲッター1!スイッチ・オン!!』
『よし、一斉に本体に攻撃を仕掛けるぞ!総員、最大火力だ!!』
次に触手が再生されたら勝ち目がないかもしれない。そう思った瞬間に、誰もが同時に行動を開始した。手持ちの火力を最大限に放つべく引きを構え、
『撃てぇぇぇぇぇっ!!』
『ブレストファイヤー!!』
『ゲッタービーム、フルパワーだ!!』
『受けろ、倍返しだぁぁぁっ!!』
爆音と閃光が飛び交う中、誰もが全力でトリガーを引き続ける。大火力を持たないジムの衛士は、頭部バルカンとビームライフルも同時に放って、少しでもダメージを稼ごうとする。
効いているのかいないのか、それはわからないまま必死になってトリガーを引き、そしてレバーを押し込む。
どれほど時間が立っただろう。撃つべきものをすべて打ち尽くした向こうはまだもうもうと煙が立ち込める。あの恐るべき敵が、自分たちを取り込まんとまた触手を伸ばしてくるかもしれない。そう思うと、気を抜く者など誰も居なかった。
やがて、煙が晴れた向こうに見えたのは、台座のみを残して全てが消滅した反応炉の無残な姿だった。
しばらくは誰もその状況を理解できない。呆然とする中、誰かが口を開いた。
『や、やったのか・・・』
やがて、その言葉は漣のように伝搬し、
『ぃやったぁぁぁぁぁぁっ!!!』
甲児の叫びを引き金に、ついには大爆発を起こした。
ある者はコクピットハッチを空けて叫び、ある者は器用に機体同士で抱き合って喜んだ。
普段ならば統制する立場にいるだろう篁と巌谷の二人も、そのわき上がる歓喜を隠すことはできなかった。
『やったな、やったな、榮二!!』
『ああ、ついに、ついに人類は勝ったのだ!』
そんな光景をアムロはコクピットの中でどこか遠くを見つめるように、現実感など無いかのように眺めていた。
すると、突如機体がガコンッと激しく揺れた。
『おい、アムロ!何ぼーっとしてんだよ!やったんだよ、俺達は!』
「あ、ああ。そうか、やったんだ、僕たちは・・・やったんだ・・・」
ガンダムの肩を掴んで揺するという器用な真似をする甲児に、機体ごと揺られながらアムロはつぶやいた。
喜びはある。だが同時にアムロは思う。自分にはあれ以上何もできなかったのかと。流されるままに戦って、気がついたら終わっていた現状に、アムロは虚脱感を覚えていた。
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19・激動の世界
人類初の、戦術機のみによるハイヴ攻略。
その報告はまたたく間に世界中に広まった。
一体誰が、どこの国が、どんな戦術機を使った。誤報じゃないのか。
世界は揺れた。大いに揺れた。そして、その大本を知って更に騒ぎに発展した。
『新塚拓哉の私設部隊がやった』
『光学兵器を搭載した戦術機を用いた』
『それを中央アジア戦線の部隊にばら撒いた』
世界中が日本とコンタクトを取ろうとした。だがそれよりも早く、拓哉は人員を動かしていたのだ。
その内の一つの部隊が、ソビエト連邦と東ドイツに件の戦術機、『ジム』を提供したとなって騒ぎに発展し、更に西ドイツ以西の国家にもばら撒いたと知って大騒ぎとなった。
日本人は物の価値が分かっていないのかと。
機体性能は驚愕に値するものだった。一部F-15を購入していた国などは『ガラクタを買ってしまった』と悔し涙を流したそうだ。
「ファッキン、ジャップ!!!」
ドカンッという、机を叩き割らんとする凄まじい音とともに拳が叩きつけられる。
その気持ちも察してあげて欲しい。自分たちが最新鋭機であると言って売りに出した機体をガラクタ呼ばわりされたのだから。
そして、その評価は正しく、F-4改造機である瑞鶴改を圧倒的に上回る性能を持っていたのだから。
「まだタクヤ・ニイヅカを抹殺できんのか!?」
「プレジデント。残念ながらそれは不可能に近いです。タクヤ・ニイヅカは現在中央アジア戦線に参加しています。彼の家族を人質に取ろうにも、周囲はインペリアル・ロイヤル・ガードの護衛が陰ながら守りについている始末」
「ちっ、あのままBETAの餌になっていればよいものを!」
前線国家に聞かれたら堪ったものではない一言だが、今のこの場にいる人間の内心を如実に表していた。
遡ればまずはヒートサーベルとレールガン。学習型コンピューターというおまけも付いて、世界中にばら撒かれた。ほとんどタダ同然で、というおまけ付きでだ。
ヒートサーベルやレールガンに至っては、ブラックボックス化は一切なされておらず、結局各国で解析がされ、日本の利益というものは殆どなかった。
だが、学習型コンピューターは違った。ブラックボックス化は実に念入りで、アメリカの科学機関で今を以って解析できていないというおまけ付き。更に、性能は従来のOSを上回るほどだった。
これが日本の収入源だというのは間違いない。だが、問題はそんなところではない。そのOSがたった一人の子供によって作られ、今もなおバージョンアップを続けているという、これもまたおまけ付きで。
だからこそ機体の性能を上げることに躊躇はなかった。F-15イーグルは、F-4ファントム、F-5フリーダムファイターを圧倒的に上回る性能をえたのだ。今度こそ、日本の戦術機を叩きのめす。はずだった。
だが結果は惨敗。自分たちが見切りをつけたF-4改修機の瑞鶴で以って、完膚なきまでに叩きのめされたのだ。
更に面白くないのは、瑞鶴改とF-15の間に大きなスペック差はない。衛士の実力次第でかんたんにひっくり返る程度の性能差だったのである。
絶対に何かがあると踏んだ米国側は、なんだかんだといちゃもんを付けたのだが、それに対するタクヤ・ニイヅカの答えは『そんなに気になるんなら、お互いに交換する?』その一言によって、F-15と瑞鶴改の交換がなされたのだ。
その結果は語るべくもない。F-4系列機としては最高の改造が施してあり、同時に、機体のスペックはどれだけ調べてもほぼ同じ。衛士の優劣だけで簡単に覆るぐらいの差だった。
『つまり、我が国の衛士はジャップにも劣るということかー!!』
大暴れした大統領を抑えるのにかなりの苦労を要したとだけ、記録しておこう。
そして、今度は光学兵器持ちの純国産機という。更には、空飛ぶ戦艦まで現れたというのだから、笑えない。
「どうにかジャップどもからジムを手に入れることは出来んのか?」
「いつものバラマキ外交ですからね。そのうち我が国にも回ってくると思いますが」
「それでは遅い!そもそも、日本の我が国寄りの議員はどうした!」
「日々その数を減らしつつあります。残っているのは、日本の言葉を使うと、『箸にも棒にもかからない』議員ですよ」
「シット!!!」
「プレジデント、事態はそれだけではありません。軍需産業の衰退が続いています。このままでは我らの主要産業を全て日本に持っていかれます」
「技術者の国外流出が続いています。このままではいずれ・・・」
聞きたくない情報が山と押し寄せる、それに合わせて書類が山積みになる。
なぜ、どうしてこうなった?大統領はその考えに頭を埋め尽くされたまま、後ろにひっくり返り意識を失った。
少なくとも、今の彼はすごく幸せであった。面倒なことを投げ出すことが出来て。
日本国内でも荒れに荒れた。
何しろ満を持して登場した国産戦術機第一号ガンダム。その量産型であるジムは、ほとんどタダ同然で世界にばら撒かれたのだから。
「まあ、困った子ねぇ」
「困ったではない。何を考えているのだ」
それは新塚家でも同じことになっていた。拓哉の無軌道な行動は、決して意味のないことではない。が、いかんせんそれが世界常識と比べると突飛にすぎるのだ。
拓哉の父は戦術機衛士の適性を持っていなかった。それでも戦術機に関わりたかった彼は、必死に勉強して技術廠にはいったのである。
だが、その難関である技術廠にわずか5歳で入り、今では常識はずれの超兵器を作り、ばら撒いているのだ。
「拓哉は言っていました。一番大変なのは最前線と」
「知っているとも。だが、もう少しやりようがあっただろうが!」
「それはあの子の未熟ですわ。視野が狭く、思い込んだらそこを曲げることのない頑固者。でも、大丈夫でしょう」
そう言って彼女は夫に微笑む。もう40に届こうという年のはずだが、20代で通じる美貌を持った彼女は静かに言った。
「あの子のしたことで不幸になった人が居ますか?」
海の向こうでは大量生産されているのだが、少なくとも彼らの目の届く範囲では・・・。
「おらん、な」
「ならば、私たちは信じて待ちましょう。拓哉が安心して戻ってくることが出来るように」
母は強し。まさしくそれを表す光景だった。
その一方で胃が痛いのが一人。
榊是近である。自分も軍人であったのなら、ここで無為な会議に出席せずとも、のんびり空の旅と洒落込めたのだろうか?
それともずっと前に、従兄弟に誘われた時に一緒に機械の修理工になっていれば、この苦労はなかったのだろうか?
考えるだけ無駄である。賽は既に投げられており、今の榊は一大派閥を纏めなければならないのだ。
「ままならんものだな・・・・・・」
「榊外務大臣、どうかなさいましたか?」
「なに、空の果てにいる友人と従兄弟を羨ましく思っているところだ」
友人、彩峰萩閣は優れた戦術機の衛士ではあるが、同時に優れた指揮官でもある。人類初の空中戦艦の艦長になれると知った彼の喜び様は、見ていて微笑ましいものだった。仲のいい従兄弟、清太郎もあの年で新しい機械に触れる事を誰よりも喜んでいた。見込みのいい弟子を複数人引きずって旅立っていった。
さて、何度も思う。早くこの阿呆な場から開放されたいと。
「然るに!あの子供を今ここに招集し、証人喚問に」
「国連から意見書が来ているぞ!どうするつもりだ!」
「彩峰中将がおられながら、あの子どもの手綱も満足に握れないとは」
この場にいる誰もが、人類初のハイヴ攻略という点に目を向けていないらしい。
「あの議員はアメリカから国連に乗り換えたか・・・」
「はっ。ですが、第三計画は・・・・・・」
「うむ。長くはないだろうな」
A-01の大半を失ったと聞いている。大した成果も出せず、独断専行の末に部隊壊滅。挙句、助けられるというおまけまで付いたのだ。
彼らにまともなプライドがあれば、少なくとも日本の手柄を横取りしようとはしないだろう。
「さて、私はどうするべきかね?」
「立たれてはいかがでしょうか?榊外務大臣ならば総理大臣も容易いかと」
取れるだろうな。他にタレントが居ないこの現状では。
「おそらく、私は近代で最も嫌われた総理大臣になるな」
いい加減嫌気のするこの茶番劇にとどめを刺すべく、榊是近は立ち上がった。
立ち上がるしかなかった。
そして、次の物語の幕は開く。
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現在までの設定
登場人物
新塚拓哉
・神様転生者。楽して生きるためにやりすぎなぐらいの知識チートを手に入れた。1974年生まれ。原作キャラでは香月夕呼、神宮司まりもと同じ年。
初期(1974-1989)
・武家の長男として生まれる。初期から頭脳チートを自重せずに使い、ガンダムなどを開発していく。紅蓮の娘と婚約する。よく勘違いされるが、マジンガーとゲッターを開発したのは、兜博士と早乙女博士であり、彼は資金提供をしただけである。
・拓哉の知識限界。
基本的に限界はない。エヴァンゲリオンだろうがネオグランゾンだろうがイデオンだろうが、材料さえあれば作れる。
・機体の命名権
純国産機を作る代わりに強引にぶんどった。ガンダムに武蔵だとかつけられたくなかった模様。
紅蓮焔
・グレンダイザーの娘という奇跡の美少女。見た目は父親に全く似なかったのだが、武力はそっくりに育った模様。拓哉の幼馴染で、幼い頃からチート全開の背中を見て育ってきた。その為、崇拝にも近い憧憬の念がある。見た目のイメージはサムスピシリーズのナコルル。
・補足・焔の見た目のイメージについて
いいじゃん!好きなんだよ!聖剣3のリースとかも!オリキャラぐらい趣味に走らせて!
アムロ・レイ
この世界原産のアムロ。両親は死去。さらに父親が他界したことにより、巌谷榮二に引き取られた。エースとしての素質は十分であり、この物語における戦闘面での主人公。
初期
・1stのアムロ。根暗で神経質な側面のひどい少年だったが、拓哉に見出され、もとい、引きずり込まれエースの道を駆け上がることに。この世界にニュータイプという概念を持ち込んだ。
天田士郎(シロー・アマダ)
・帝国軍所属のこの世界原産のシロー。兄貴というよりはお兄ちゃん気質で、ヤンチャな新米兵も彼の言うことはおとなしく聞く。それは甲児たちも同じである。
兜甲児
・この世界生まれの甲児。性格も似たようなもの。唯一の違いは、家族は全員健在という事だろうか。ちなみに母親は衝撃Z編基準のあの人。
初期
・マジンガーZの頃の甲児。やんちゃな性格だが、仲間を大事にする少年。祖父と父が作ったマジンガーZで今日も戦う。アムロとは幼馴染と言ってもいい関係
流竜馬
この世界生まれ。サッカーではなく空手の達人だが、性格はテレビアニメ版準拠。
初期
・見た目はアニメ版。ただし、空手の達人。ゲッターロボのパイロットとして早乙女博士に選ばれる。常識人枠の一人。
神隼人
初期
・元々ゲッター線の研究を早乙女博士とともにやっていた。博士の娘といい仲である。顔はチェンゲ版の殺人鬼面。「目だ!耳だ!鼻だ!」をやらない程度には常識的。中身はアニメ版。
巴武蔵
初期
・ゲッター3のパイロットとして選ばれる。柔道の達人で、大雪山おろしの凄まじさは、紅蓮をして掴まれれば最後と言わしめる威力を誇る。
巌谷榮二
・TE原作に登場する。拓哉たちロンド・ベルの良き理解者であり、父親代わりでもある。貴重な常識人枠のキャラで、拓哉の無軌道に振り回される。
篁祐唯(まさただ)
・篁唯依の父。巌谷とともにロンド・ベルを支える。鉄の篁と呼ばれるほどに規律に厳しい一面を持つが、若い頃に少しヤンチャをしていた模様。
篁唯依
・TE原作の主人公。初期ではまだ生まれたばかりの乳児。
紅蓮醍三郎
・帝国近衛軍のトップ。日本最強の衛士。三人の息子と娘一人を持つ。娘に対してだけは異様に親ばかで、どうしようもない父親の姿を結構晒す。天馬級戦艦の艦長も務めるが、本人はガンダムで戦場に飛び出すことが多い。
彩峰萩閣
・帝国軍の事実上トップに位置し、ロンド・ベルの艦隊司令。メンバーからは非常に慕われており、これ以上ないぐらい独立部隊を上手にまとめている。戦術機に乗れないわけではないのだが、『艦長』と呼ばれるのが嬉しいらしく、あまり戦術機には乗らない。なお、CVは飯塚昭三氏で脳内補完してください。
煌武院雷電
・五摂家の一つである煌武院家の家長。拓哉の後ろ盾の一人である。重度のジジバカで、孫の事となると羽目をはずしすぎる。本編で言及されてはいないが、袖の下(量産型ガンダム)をもらっている。
大東亜連合軍
ネパール陸軍
レナード・マナンダル
・タリサ・マナンダルの父。大規模部隊を率いていたが、部隊が壊滅の憂き目に合う。後に日本からの援助を受けて部隊をたち直す。
タリサ・マナンダル
・後のチョビ。この当時からバッサリショートカットのため、男の子と間違えられる。アムロに異様に懐いている。
メリッサ
・ロンド・ベルが駆けつけた際の戦いで唯一生き残ったレナードの部下。その後も、持ち前の強運で生き残り続ける。
ソビエト連邦
アントン・ガバレフスキー
・第三計画におけるA-01衛士。階級は中尉。ソフィアとパートナーとなってハイヴに入ることに。無骨で厳つく、はっきりと言ってしまえば泣いた子供が死を選ぶレベルの強面。
ソフィア・ビャーチェノワ
・第五世代のESP発現体。200番代の個体であるが、番号が呼びにくいという理由でパートナーの衛士に名前を与えられる。ソフィアという名前はロシア人の女性ではありふれた名前(日本で言うなら花子とか)で、適当につけたことは丸わかりなのだが、彼女からすれば人間の名前であることがなによりもうれしいことらしい。
戦術機一覧
撃震改
・最初期の頃に改造した撃震。頭部バルカンに腕部グレネード装備、レールガンとヒートサーベルを標準搭載しており、日本ではこの機体から学習型コンピューターを装備しており、非常に高い機動性も誇る。
瑞鶴
・名前こそはそのままだが、中身は撃震改と同じようにしてある。
瑞鶴改
・瑞鶴の機動力を底上げしただけなのだが、予想外の結果を作り出すことに。F-15イーグルを相手に無双する。
F-15イーグル
・基礎スペックは非常に優秀。瑞鶴改とほぼ同等のスペックなのだが、衛士の質の差でボロ負けすることになる。もう一度言っておくが、基礎スペックは非常に優秀である。
RX-78ガンダム
・見た目はなるべくRX-78を踏襲している。コアブロックシステムを排除しており、全天周囲モニターにリニアシート、熱核エンジン搭載など、中身は相当な魔改造が施されている。アムロの機体にはバイオセンサーが搭載されており、アムロをニュータイプに仕立て上げた。
量産型ガンダム
・見た目は陸戦型ガンダム。熱核エンジンとバイオセンサー以外は、ガンダムと変わり無しのハイスペック機である。その結果あまりにもコストが嵩みすぎたため、10機しか生産されていない。
ジム
・第三世代機と銘打って世界にばらまかれた量産型機。機体コストは抑えに抑えて、ようやく常識的なお値段になった量産型機だが、ビーム兵器を標準搭載しているなど、性能面では文句なし。
紅蓮ガンダム
・量産型ガンダムの紅蓮カスタム。見た目は陸戦型ガンダム風のレッドウォーリア。紅蓮の要求を満たす形でカスタムされており、スペックだけを見るならアムロのガンダムより上。
F-14マインドシーカー改
・マインドシーカーを魔改造した代物。ビーム兵器とストライカーパックを標準装備できるように改造に改造を重ねた。その結果、ジム以上のハイスペックを誇る機体になった。
艦戦
天馬級一番艦・ホワイトベース
・地下にガンダムどころかホワイトベースまで隠していた。大きさは原作のそれを圧倒的に上回っており、ハイメガ粒子砲まで装備しているという、半ば超兵器じみた一品。現物がばらまかれることはなかったが、後は自分で作れとばかりに設計図はばらまかれた。
天馬級二番艦・天馬
・一番艦の命名権をぶんどっているため、ネームシップが二番艦になったでござる。実はこの艦にはハイメガ粒子砲を装備していない。原因は、大艦巨砲主義の艦長。後にしっかりと装備されることになる。
多分、全部書いている。はず。
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20・グダグダ考えても分からないものは分からない
リアルの事情で色々と精神的にまいっていて遅れました。
ちょっと書き溜めたので開放します。
大騒ぎ。その一言に尽きるだろう。
地上に戻るとハイヴから逃げ出したBETA掃討戦が行われていて、疲労した体を休める間もなく追撃に参加したアムロたち、超ご苦労様。
びっくりしたのは地上で待ってた俺達もだよ!?分からない人は、京橋、ゴキブリでググってみるといい。すごく衝撃的な動画を見ることが出来るから。
ただし、夢に見ても責任は取らないよ!
まあ要するに、アレの拡大版だ。出てきたBETAをゴッキーよろしく叩いて周り、なんとか全滅させることに成功したのだ。
まあ、出てきた数は地上にいたのと比べると大した事がなかったからな。大東亜連合軍の新人衛士の皆さんの経験値上げに協力してもらったと思いましょう。
さて、ハイヴ攻略時の画像データを見ている俺達だが、そこで妙なものを見た。
主に、他の機体からの画像データだが、ガンダムが赤い光を放っている。
いや待て、なんだコレ。明らかにバイオセンサーがフルパワーで動いているよな。Zガンダムでカミーユがシロッコに突撃したときとかのアレだ。
嫌な予感がして、アムロの方を振り返る。
「アムロ、体に異常はないんだな?」
「どこにも異常はないよ。それより教えてくれ。僕のガンダムに何をしたんだ?」
何をした、というわけではないんだがな。何かをしたと言われれば、何かをしたんだ。が、これは完全に予想外だ。BETAに食われたA-01の連中の思念でも変に吸収したか?その割にアムロにもガンダムにも、大した変化はない。
とはいえ、バイオセンサーについては話しておかないと駄目だろうな。
俺は大きく溜息をつくと、後ろを振り返る。後ろにはロンド・ベルの主要メンバーが全員揃っていた。
俺に視線が集中する中、俺はゆっくりと語り出す。
「多分だが、ガンダムに搭載しているバイオセンサーが影響している」
「バイオセンサー?何だ、それ?」
「ちょっとした試験システムの一つだ。機体の制御機能を向上させるために搭載したものでな、まあ何だ、衛士の思考を拾って機体の制御に反映させる機能がある」
「それは、機体の思考制御ということか?」
「の、試験だ。あくまで機体の反応速度やコントロール制御を円滑化する以上の機能はない。はずだった。が、この映像を見ている限りはアムロの感情に触発されているな。機体のデータでもバイオセンサーの稼働率が100%を超えている。よくもまあ、機体もアムロも無事だったもんだ」
「おいおい、そんな危ないものを積んでいたのかよ」
「言っただろう?あくまで機体の反応やコントロールを円滑化する以上の機能はないんだよ。が、これがアムロのニュータイプ能力と変に反応したらしいな。おそらくだが、アムロのニュータイプ能力に触発されて、思考を拾う機能が最大限に発揮されている。例えば、ここだ。隼人が注意してアムロがギリギリで回避している風に見える映像だが・・・」
不用意に反応炉に近づいたアムロに、反応炉が触手を伸ばしている。
だが、コマ送りをすると分かる。アムロも勘違いしているが隼人の注意よりも早く、アムロは機体を回避させている。そして、この反応は従来ではありえないほどの速さだ。マグネットコーティングも施していて正解だったというわけだな。
「アムロのほうが隼人の警告よりも早く動いている。それ以外にも、アムロはBETAの位置を明確に予言したり、反応炉が、これもよく分からんが反応炉が放っている思念波みたいなものを拾ったりしている感じだな」
「そう言えば、アムロくんが反応炉の気配を感じ取っていたな。見られていると言って」
「おそらく、これは俺も予見していなかった現象だが、バイオセンサーとアムロの相性があまりにも良すぎたんだ。その結果、周りに漂っている思考や思念波まで拾ったんだ。それこそ、殺されたA-01の衛士が最後に放った負の思念。死にたくないだとか、そういった感情もな」
カミーユとの唯一の違いは、アムロはあいつらとそれほどつながりを持っているわけじゃない。これで巌谷大尉や篁大尉だとか、アムロに近く親しい人間が死んでいれば、その思念も拾っていたのだろうが。
「アムロ、休日返上になって悪いが、ガンダムのバイオセンサーを切ってみる。その後で実機で起動実験を行ってくれ。結果によっては、俺は一旦日本に帰って、建造途中の第四世代機を完成させる」
「第四世代機!?そんなものを作っていたのか!?」
「まだフレームが出来たばかりですよ。が、アムロとバイオセンサーの親和性が良すぎる。正直な話、アムロがこれからニュータイプとして能力を強くしていった場合、死んだ人間にとりつかれる可能性が出てきた」
「おいおい、お前はおばけが実在するっていうのか?」
「知らん。だが、アムロがこれだけ思念を拾っている以上、死んだ人間の思念を拾わないとも限らない。今は生きている人間の気配を感じ取るだけだからいいが、ヘタに死者の思念を拾うようなことがあったら、アムロが壊れてしまう。そうなる前に、バイオセンサーは一度切る。アムロはしばらく出撃禁止だ」
「まあ、しばらく出撃の予定はないからいいが、それでどうにかなるのかい?」
「アムロが特に問題ないと感じているなら、バイオセンサーを取り外してガンダムのままで運用する。が、アムロの反応にガンダムが追いついていない場合は、製作中の第四世代機を出したほうがいい。今のままではバイオセンサーは危険だ」
「拓哉くんとしてベストなのはどれだい?」
「一番のベストはアムロがニュータイプ能力に慣れきってしまうことだ。そうすればバイオセンサーを外すこともなく、無理に第四世代機を引っ張り出してくる必要もない。次点で俺が一度日本に帰って第四世代機を完成させること」
そう、地下のガンダムを置いていたところで、まだフレーム剥き出しのままで放置してある機体を完成させる。
しかしこれは完全に予想外だ。もう既にアムロのニュータイプ能力は、原作後半のカミーユだとかジュドーぐらいにまで高まっている。
「すまないアムロ。こんな結果になってしまった。俺が余計な事をしてしまったようだ」
「・・・・・・もう一度教えてくれ。拓哉の中で、ニュータイプとはどういうものなんだ?」
アムロの真剣な目に、俺は一度目を閉じて思考をまとめる。まやかしや隠し事は無しだ。
「人類が行き着く可能性の一つ。という風に大げさに捉える必要はないと思っている。あくまで脳の使用領域が普通よりも上なだけの、ただの人間。もっと俗な言い方をすれば、勘がいいだけの普通の人だ」
「勘がいいだけで人の思念まで拾えるのかい?」
「ああ。拾えるだろうな。人の思念とか何かは、普通の人には拾えないものだ。それに感づくことが出来るっていうのは、要するに勘がいいのと同じだと思う。ほら、覚えがあるだろう?0点のテストを隠していてもお母さんには一発でバレるとか」
身に覚えの有りそうな、甲児、武蔵、ボスがついっと顔をそらす。
「要するに、そういった勘の良さの拡大版がニュータイプだ。俺はそうだと思っている」
「そうか・・・」
アムロがそうつぶやき、更に何かを言おうとしたその時だった。
ガタッ!
全員が一斉に音の方を振り向く。
「誰だっ!!」
真っ先に飛び出したのはリョウだ。扉を蹴り破ると、その先にいた相手を一瞬で組み敷いた。
「きゃっ!!」
「えっ!?」
可愛らしい悲鳴と、驚くリョウの声に押されるように俺たちも外に出ると、そこにはリョウに組み敷かれたソフィア少尉と、リョウに銃を向けているアントン中尉がいた。
やっぱりか!という感情のほうが強かった。ソフィア少尉はアムロに随分と興味を持っていた。それもそうだろう。自力で自分のリーディングをブロックするなど、同じESP能力者しかいなかったはずなのだ。それが、アメリカ人の、日本人と親しくしている、あまりにもごく普通の少年だったから。
そして、アントン中尉はそれなりにA-01の機密も知っている。つまり、リーディングやプロジェクションについても知っているはずだ。多分だが、ソフィア少尉の相談を受けたのだろう。
俺は大きくため息を付いて、アントン中尉の手を抑える。
「中尉、銃をおろしてください。リョウの行為は何らおかしなところはありませんよ」
「む」
俺に言われて、しぶしぶとだが銃を下ろす。そりゃそうだ。人の部屋の前で機密を立ち聞きしていて、この対応は優しい方だ。
「で、どこから聞いていました?」
「ニュータイプに関する触りからだ」
ほとんど全部じゃねーか。
マズイな。アントン中尉は祖国ソ連に帰ることを希望している。ソ連としても、ハイヴブレイカーの一人であるアントン中尉を、多少政治的に問題のある思考をしているといってでも、手放しはしないだろう。
さて、こっちも手札を切るか。
「中に入りなよ。そこまで聞かれた以上、こっちの都合に巻き込ませてもらうぜ」
遠慮する必要はもうないな。まあ、元から遠慮はしてなかったけど。
再び俺の部屋にて。
「で、どこまで俺の思考をリーディングした?」
「し、していません。中尉から、人の心を勝手に見るのはいけないことだと言われて」
「・・・・・・本当に?」
「は、はい!神に誓って!」
俺の顔が相当怖かったのか、指先がものすごく震えている。
本当に震えたいのはこっちの方だっての。
「まあいいや。つまり、こういうわけだ」
「何がだ?」
「ニュータイプはそこまで万能じゃないってことさ。もし万能の代物だったら、アムロは話し始めた時点で部屋の外にいた二人に気づいていた。だから俺は言ったんだ。あくまで勘がいいだけのただの人間だってな」
「そうか、超能力か何かだったら後ろを取られることもないよな」
「そういう事だ。過信は禁物。だがそれ以上に油断も禁物。何があるか、何が起こるかさっぱり分からん」
前世ではガンダムは小説版もかなり読んでいる。が、ぶっちゃけた話ニュータイプというのはよく分からん。レビル将軍曰く、「戦争なんてしなくてもいい人間」。で、グレイ・ストーク曰く、「本当に人類が戦争しなくても良くなるのは何万年も先の話」ってな。
「俺の方でもいろいろ考えてみるよ。だからソ連さんの方では余計なことをしないでくれ。出来るかい?」
「普通なら無理というところだが、A-01が壊滅したことで大使が茫然自失でな」
あー、あのおっさん、メンタル豆腐だもんな。ハイヴは攻略したけどそれは日本がやったことで、A-01は壊滅しましたってんじゃあ、本国に返っても立場がない。いや、下手をすれば物理的に首がすっ飛ぶ可能性があるな。
いや、少しは責任を感じているよ。ロンド・ベルと一緒に行動させていれば、A-01は壊滅しないだろうって思っていたんだが、指揮官の無茶な行動で壊滅状態。生存者はいるが、ほとんど使い物にならないと来たもんだ。
「さて、それで、何か聞きたいことは?」
「俺はない。が・・・」
「ニュータイプについて、色々教えて下さい」
「さっきまで話していた以上のことは何もないよ」
「それでも私は、もっと知りたい!私は、何のために生まれてきたのですか?ニュータイプという人達がいるなら、私は、私たちは・・・!」
まあ、そう思うわな。自分たちこそが選ばれた人間だっていう意識はあっただろう。だがそこに、天然モノのニュータイプなんてものが現れた。調整もされず、普通に両親の祝福も受けて、多くの人に慕われて、友人にも囲まれて。アムロの境遇は、ソフィア少尉から見れば恵まれすぎているだろうな。
「何のために生まれてきたのですか!戦いの役にも立たず、中尉の後ろで震えていただけの私に、何の意味があるのですか!?」
「知らん」
俺はあっさりと答えた。そりゃそうだ。生まれてきた意味なぞ知るか。
「意味を作るのは自分自身だ。人に聞いても分かるか」
「あう・・・」
「拓哉くん、もう少し言い方というものをだね」
「知らんものは知らん。普通の人間は皆自分で決めている。あんたもそうしろよ」
「それでは、あ、あなたから見た私は、どうなのですか?」
「勝手に人の心を覗き見るハイレベル覗き魔。特殊性癖の変わった子」
「わ、私の能力は性癖ではありません!と、党から命令があっただけで、決して好き好んで覗いていたわけではありません!!」
かなりマイルドに答えたつもりなんだが、お気に召さないと?
「まあどうでもいいや。ニュータイプとESP能力者は大きく違うよ。天然モノと合成食品ぐらいにね」
「すっげー例え方したな」
「大体合ってる。間違ってないなら問題ないだろ」
そう、その程度で問題はないんだ。
「比較するだけ無駄。それに、ニュータイプだからといって万能なわけじゃない。ニュータイプじゃないからといって劣るわけじゃない。アムロを見てみろよ。運動能力は人並みで、格闘技なんてあんまり得意じゃないんだぜ?頭の出来は、俺のほうが圧倒的に上だ。そら見ろ、普通の人間と何が違う?」
「あ、いや、でも、それは」
「違わない。何もな」
どっかりと腰を下ろして、天井を見上げる。
実に嫌なことに、このままだとガンダム原作みたいにニュータイプが排斥されかねない。だからこそ、俺はあんまり話す気はなかった。アムロは例外だけど。とはいえ、これだけ知られたらどうするかなー。甲児たちはいいとしても、アントン中尉とソフィア少尉がなー。
俺は椅子ごとくるりと向き直って二人に聞いてみる。
「二人共、このまま日本に亡命するつもりはない?」
「無いな。俺は上に煙たがられてはいるが、それでも祖国への忠誠をなくしたわけではない」
「私も、亡命するつもりはありません」
だろうとは思っていた。まあ、いいさ。
「とりあえず、ここで見聞きしたことは黙っていてくれ。正直、ソ連の工作員にアムロが狙われる事態は避けたいのでな」
「分かっている。俺も恥知らずではない。いいな、ソフィア」
「は、はい!」
さて、こっちは大丈夫だろう。アントン中尉はこれで結構律儀な人だ。ソフィア少尉もアントン中尉の言う事なら大人しく聞くだろうし、そうなると後は
「あの大使のおっさん、どうする?」
「・・・・・・こっちで適当に処理をする」
「殺しは勘弁してくれよ」
「勿論だ」
間が微妙に気になったけど、流石に他所の国の艦内で殺しはないだろう。
そして、最後に後回しにしたが、アムロだ。
「アムロ、お前はどうする?ニュータイプ能力を鍛えるのなら、俺も多少のアイディアを出すぞ」
「僕は・・・」
「まあ、あんまり時間がないから、明日までに答えてくれよ」
「明日まで?随分と急だな」
「俺は一度日本に帰る。開発途中の第四世代機を完成させる。ついでに、マジンガーとゲッターの戦闘データも届けてくるわ」
送れば済むと言いたいところだが、ゲッターの新型機、ゲッターロボGの進捗も気になる身としては、一度早乙女博士とあって話をしておきたい。
兜博士の方はマジンガーZの最適化が最優先課題だろう。甲児の成長が思っていたよりも早かったから、マジンガーZはまだ6割程度の完成度なんだよな。
「元からある程度決まっていたことだしな。艦隊のことは彩峰司令がうまいことやってくれるだろうから、今回の結果に油断せず、訓練に励むこと」
「それは私が言うべきことでは・・・」
「篁大尉、栴納さんにちゃんと言い訳したんですか?」
現在、篁大尉には重大な家庭内の問題が発覚しております。
お前のせいじゃないのかって?大本は俺のせいじゃないよ。ロンド・ベル内部に広めたのは俺だけど。
「さ、話はもう終わりだろう。出た出た。俺は帰ってからの仕事を今からやらなきゃならんのだからな」
「おいおい、もう仕事かよ!」
「そうだ。こっちじゃあ作るわけにもいかんからな。一度実家の地下に帰らんと」
「ああ、あの地下格納庫な」
出撃するその日に、地面を開いてガンダムが飛び出し、家の直ぐ側の土手が切り開かれてホワイトベースが飛び出したからな。いや、ほら、ロマンだろ?
おかげさまで、今でも地下にはまだ秘密兵器が隠してあるとまことしやかに語られているとか。
俺はアムロたちを追い出した後、持ってきた端末に目をやる。
本当ならこいつを完成させておきたかったんだが、どうやら次のハイヴ攻略には間に合いそうにない。
ゲッターロボGも、マジンガーの強化パーツも、到着した頃には全部終わっているだろう。
手元の書類を見るたびに嫌な顔をしている。自覚はあるよ。一つ行けたんだからもう一つ行っとけや的なこの命令書。国連経由か。
ボパールハイヴ攻略作戦。ここから比較的近いハイヴでそれなりの大きさになっているハイヴとなると、ここになる。うろ覚えで何だが、スワラージ作戦だったか?第三計画の部隊が完全壊滅するのがここだったような気がする。
俺の原作知識も、だんだん曖昧になってきたな。俺の頭脳チートは科学技術に由来するところに限定されるから、歴史や何かについては全くの無力だ。
ハイヴが増えすぎている原因についても、必死になって情報を集めているが、やはり原因はこちらの武装が強化されだした頃からだ。
だがしかし、対応が雑だぜ。マジモンのチートというやつを見せてやるよ。
俺は一人きりの部屋でパソコンに向かい合う。最悪を避けるために。最善を拾いに行くために。
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21・頭脳チートは自重しない
「帰ってきたぜぇぇぇぇぇっ!!!帝都ぉぉぉぉぉぉっ!!!」
狭っ苦しい輸送機から開放された俺は、焔ちゃんが隣りにいるのもお構いなしに大絶叫する。
いやもう、輸送機が狭いのなんの。焔ちゃんと密着していられるのは良かったが、それ以外に何のメリットもなくね?
「拓哉様、お義父様とお義母様にご挨拶に向かわれませんと」
「お、そうだな。父上はともかく、母上には心配をかけたな」
父上はアレで結構図太いから放っておいても大丈夫だ。が、母上はやはりと言うべきか、かなり心配症だから早く帰って安心させたい。
まずは両親に顔を見せて安心させた後、マジンガーとゲッターの戦闘データを送って、そしてこちらの招待状か。彩峰司令からぜひともって頼まれたから仕方ないっちゃあ仕方ないけどな。封書の裏には『榊是近』と名前がかかれていた。
あんた、今から総理大臣になったら苦労するよー?
実家に戻った俺は、母上の膝枕&耳掃除で癒やされる。
いや、別に俺が催促したわけじゃないよ。ただ、母上が縁側に腰を下ろして、耳かき片手に膝をポンポンと。断れません。
しばらくして、母上から開放された俺の代わりに、今は焔ちゃんが耳掃除されている。嬉しそうにしているということは当たりだったんだ。
さて、その間に進捗状況を確認と。第四世代機の肝はムーバブルフレームだ。完全内骨格構造で、より自由度の高い機動が売りの機体だ。ガンダムMk-Ⅱ。カミーユ・ビダンの確保ができないというか、いるのか分からない以上、アムロを乗せることになる。
そうそう、アムロはニュータイプ能力とうまく付き合っていく方を選んだ。
『拓哉が言っていた、戦争なんてしなくてもいい人間という理想を信じたいんだ』
まあ、本人が選んだのならそれで大丈夫だろう。
ガンダムMk-Ⅱにはバイオセンサーを装備して、マグネットコーティングを標準装備。これでアムロが少々成長しても反応に十分ついていけるはずだ。
さて、課題となっているスーパーロボットだが、これがちょっと困ったことになるんだよな。何しろ、頭に思い浮かぶ機体はどれもこれも、乗り手を選ぶというおまけ付きだ。
例えばダンクーガ。野生の力を引き出せる人員を選別しないといけない。それを育てるだけでも一苦労だ。
次にガイキング。こっちはパイロットの問題よりも、大空魔竜とセットで運用することが基本だ。大空魔竜を作っている余裕なんぞ無い。
コンバトラーVとボルテスV。あの人数のパイロットをどこから拾ってくるつもりだ。そして、それを育成するのがどれだけ大変だと思っている。
同じ理由で複数人機体は却下だ。ゴーショーグンみたいなエネルギーが未知の代物の場合、あんなものの管理をどうするんだか。ゲッター線に関わっていて今更だけど、俺はゴメンだ。
いっそ、グルンガストでも作って量産するか?駄目だな。コストの折り合いがつかない。
とりあえず、スーパーロボットは棚上げにしよう。それよりも、頼まれている仕事を先にあげてしまおう。
頼まれている仕事は、歩兵用の装備だ。今の強化外骨格だけではどうにも不満があるらしく、新塚博士の頭脳でどうにかと頼まれた。頼まれればなんでも出す青狸じゃねえぞ、俺は。
候補としてはAT、つまりはスコープドッグとソルテッカマンだ。メリットとデメリットはそれぞれある。ATの方はコストは安くつくが、乗り手の安全性は二の次だ。後、戦術機とも別の操縦系統のため、その訓練も面倒なことになる。ソルテッカマンは強化外骨格に近いからとっつきやすいだろうが、コストが高くつく。
・・・・・・よし、両方作ろう。ガンダムMk-Ⅱを作る片手間になるが、まあなんとかなるだろう。
「ちょっと地下を覗いてきます」
「あら、もうお仕事なの?」
「現地ではアムロたちが戦ってますからね。俺も俺のやることをしないと」
正直、何もせずにここでぐてーっと倒れたい気分ではあるが、そうも言っていられない。ロンド・ベルの戦力強化は急務だ。スーパーロボットを棚上げにする以上、歩兵戦力と戦術機を格上げするしか無い。
さーて、久しぶりに自重しないぞー。
出来た。
いやー、びっくりした。いざ作ってみるとATって構造が超簡単なのな。
作業の片手間に、手すきの作業員に歩兵用の新装備作ってみねえか?と誘って作ってみたのだが、試作一号機が出来るのにわずか2日とは。
全高がわずか4m弱とは言え、結構迫力のある大きさになったなー。
でだ、問題は誰を乗せるかだが・・・。募集するか。
これで某異能生存体さんが来たら笑えるけどな。
さて、続けてソルテッカマンの開発に移るか。こっちは警備員の歩兵さんに乗ってもらえばいいし。ガンタンクの時と合わせてお世話になります。
フェルミオン砲もそこまで開発が難しいものではないし、それだったらスコープドッグにも持てるように改造するか?いや、止めておこう。なんか、スコープドッグとかにビームを持たせると方々から怒られそうだし。
さてと、開発開発ー。
世の中には、笑える冗談と笑えない冗談がある。
こんな時、どうすればいいのか分からない。
――笑うしかないと思うよ?
なんか違うセリフでCV緒方恵美が聞こえた気がするが、気のせいだ。
少し前に俺はスコープドッグのテストパイロットを募集すると言ったな。で、募集したんだ。歩兵向けの新型機動兵器の開発衛士募集!って。
そしたらな、来ちゃったんだよ。たくさんある開発衛士希望者の中に、いたんだよ。絶対に敵に回したらいけない男が!
キリコ・キューヴィー曹長・18歳
いるのかよ、異能生存体。あんたは別の星生まれじゃないのかよ!しかも日系人かよ!スーパーロボット作ったら勝手にパイロットが集まったりしないだろうな!?
まあいい。いるのなら採用しよう。万が一にも敵にまわられる危険を犯すよりは、ここで味方に取り込んだほうがいいだろう。適当に理由をつけてロンド・ベルに放り込んで、ああ、そういえば東ドイツに行った方の艦隊に面白い男がいるって聞いたな。どれどれ。
鹿島優中尉・20歳
蒼い死神、お前までおるんかい。
・・・・・・もういいや。この世界は半分スパロボ世界だ。諦めよう!色々と!こいつ、スパロボにまだ出演してなかったはずだけどな!・・・俺が死んだ後の作品で出演してたのかな?
とにかく、こっちには後で、青く塗ったカスタムタイプのジム・ブルーデスティニーを送っておこう。EXAMシステムはどうしようか?普通にリミッター解除にしておこう。俺にあんな非人道的なシステムを作るのはムリポ。
さて、異能生存体に会いに行くかな!!
俺の前にキリコ・キュービィーがいる。
直立不動でムッツリとしていて笑顔なんて期待できそうもない。いや、それよりもなんで俺こんなプレッシャーを感じてんの?めっちゃ睨まれているんだけど!?
「とりあえず、楽にしてくれ。そんなに睨まれるとやりにくい」
「・・・・・・睨んでいるつもりはない・・・ありません」
「普通に話してくれていいよ。あんた、そういうの無理だろ?」
「・・・・・・」
困ったような様子でこっちを見るキリコ。
何となく分かってきた。本当に、睨んでいるつもりはないんだ。どうりで歩兵隊長から難しい男だと何度も聞かされるはずだ。
俺は小さくため息を付いて、目の前に冊子を出す。
「さて、キリコ曹長にやってもらいたいのは新型の歩兵用装備、アーマードトルーパー、通称、ATの開発衛士だ」
俺が渡したのはATのマニュアルだ。ちょっとした冊子程度の厚みだが、キリコの顔に若干の緊張が走る。そりゃなあ、いきなりこんなものを渡されたらそうなるだろう。
しばらく戸惑ったままだったが、やがてマニュアルを手に取り中に目を通し始める。
冊子をめくる音だけが室内に響く。読み進める度に、キリコの表情が緊張にこわばっていく。
「これは・・・戦場での歩兵の役割が変わる・・・!」
「そうだ。そういう兵器だ。戦術機と一緒に戦場で戦う兵器だ。さあ、どうする?乗るか、乗らないか」
「乗る」
「早っ!」
決断早っ!!思わず素で返した俺に、キリコは驚くふうでもなく、真剣な表情でマニュアルに目を通している。
「本当にいいのか?これはいわば泥沼だぜ」
「慣れている。それに、ここには未来がある」
そう行って執務室から見える、フレーム剥き出しのガンダムMk-Ⅱに視線を向ける。
「第四世代機だろう、アレは。誰が乗るのかは分からん。だが、そこには未来がある」
「驚いたな。むっつりした顔でロマンチストか?」
「この絶望に満ちた世界だ。希望があれば信じたくもなる」
どうやら、この世界のキリコも相当な修羅場を経験してきたみたいだな。それぐらいは俺も雰囲気で分かる。
まあ、覚悟が決まっているのなら話は早い。とはいえ、
「早速乗るか」
「ああ」
即答しすぎだろう。
技術廠の演習場を駆りて、スコープドッグのテストをやることとなった。
アグレッサーには、この度無事に軍務を終えることになる瑞鶴改が抜擢された。と言うのも、俺が世界中にばらまいたおかげで国内にジムがあんまり残っていないんだと。
国内の防御力が低いのはお前のせいだとばかりに、瑞鶴改の衛士は全力でスコープドッグを潰すつもりらしい。その程度のことで目くじらを立てるとは、なんて大人げない。
さて、スコープドッグの装備だがレッドショルダーカスタムといえば分かるだろうか?肩の色は赤くないが、ロケットランチャーにガトリングガン、ミサイルランチャーとてんこ盛り装備だ。勿論、全部模擬弾だぞ。実弾混ぜてやろうかとも思ったけど。
さて、スコープドッグ一機に対して、瑞鶴改が四機。本気で潰しに来るつもりだな。こっちもぶっつけ本番だが、覚悟を決めろよ。俺の想像通りなら、キリコ・キュービィーは強いぞ?
キリコはマニュアルを思い出しながら各部のチェックを済ませる。
記憶している戦術機の操縦法とは明らかに違うが、問題はない。理不尽な戦場は今までに何度も経験してきた。その度に、仲間の死を背負って生きてきた。
日本に来たのはただの偶然だ。だが、その経験を買われていつの間にか歩兵として、技術廠に居着いてしまっていた。
不思議とここは居心地が良かった。後方国家でありながら、緊張感が漂っている。その原因となる少年は今、観覧席の向こうで通信機を片手にキリコに指示を飛ばしている。
『聞こえるか、キリコ曹長』
「ああ」
『相手は第二世代相当機の瑞鶴改だ。だがまあ、スコープドッグの性能をしっかり活かしきれば、問題なく対処できる』
そして、その少年博士はこの小さな機体に大きな期待を背負わせている。
出来るというのならば、出来るのだろう。キリコはそう信じた。
『演習開始だ。戦術機だけが戦場の主役だと思っている勘違い共を、へこませてやれ』
「了解した」
『ミッション、スタートだ』
フラッグが上がり、演習が始まる。
先手を切ったのは瑞鶴改だ。だが、相手はスコープドッグを相当舐めてかかっているのだろう。ほとんど棒立ちのままレールガンを斉射するだけだ。
そんなものに当たるようなキリコではない。機体を横にスライドさせて回避させつつ、肩に装備されているロケット弾を発射する。ほとんど棒立ちだった瑞鶴改は、何も出来ないままにロケット弾を管制ユニットに受けて行動不能となる。
『まずは1機か。おら!しっかりしろよ!そのまま棒立ちでやられたらお前らのボーナス5年分差っ引くぞ!』
その言葉に触発され、瑞鶴改の動きはめざましく変化する。流石に帝国技術廠の名だたる開発衛士達だ。
とはいえ、大きさが違う。大きさは戦車級よりも大きいので当てやすいと思いきや、その素早さは戦車級など比較にならない。ローラーダッシュで攻撃をかいくぐりながら、右手のヘヴィマシンガンで的確に管制ユニット部を撃ち抜く。
『な、何だよ、あの小さいのは!?』
『とんでもない機動力だ・・・!』
攻撃がかすりすらしない。装甲は相変わらず新品の輝きを放っている。
左脇のガトリングガンが放たれ、強制的に連携を崩された2機。その内の1機の衛士は直後、背筋がゾッとなる思いに駆られた。と、同時に、背後からの大きな衝撃によって、前につんのめる。
機体が動かない。背後から管制ユニットを撃ち抜かれたのだと気づいた。
『ば、化物か!』
残った1機はさらに悲惨だった。四肢をマシンガンで撃ち抜かれて、残った管制ユニットをロケットランチャーで撃ち抜かれるという終わり方をしたのだから。
戦闘開始からわずか一分。瞬く間に四機の戦術機が倒されてしまったのだ。
管制ユニット部分を重点的に、見事にペイントで染め上げられていた。これが実弾ならば、大穴が空いていたことだろう。
『どうだ、新型の性能は?』
少年博士からの通信が入る。その通信に、キリコは自分でも分かるほど口元が緩んでいた。
「最高だ」
観覧していた周囲の技術者連中が大騒ぎになっている、
そりゃそうだ、わずか4m弱の強化外骨格よりも一回り大きい程度でしか無いズングリムックリした機体に、ほぼ現役と言ってもいい第二世代相当機がなすすべもなく敗れ去ったのだから。
最初の1機目は油断があった。だが、最後の方の2機は半ば本気だったはずだ。それにもかかわらず、殆ど瞬殺と言っていいほどの流れで潰されたのだ。
実戦だったら。その言葉に誰もがゾッとする。そして、思い出すのだ。衛士の死亡原因で一番多いのは、戦車級にたかられて死ぬことだと。小さい機体だからといって、油断することはあってはならないのだと。
『新塚博士!お願いします!もう一度やらせてください!』
『このままでは引き下がれません!』
あっさりとボコられた衛士から通信が入ってくる。
「と、こう言っているけどキリコ曹長、どうする?」
『貴方はやれと命令を下せばいい。俺の仕事は、この機体の開発衛士だ』
やる気があって大いに結構。しかも、『貴方』ときたか。
よし。じゃあ水を差す訳にはいかないな。
「引き続き演習を行う。弾の補充を済ませておけ」
さて、こいつは長丁場になるかな。
その後については語るまでもない。
さすがに本気になった衛士連中がスコープドッグのロケランを使用不能にしたが、キリコは全く慌てることなく全機を行動不能にしてみせた。
「また随分と面白いものを作ったのう」
「お久しぶりです、雷電様」
「うむ」
いつの間にか俺の後ろに立っていたのは、煌武院雷電。実に久しぶりの登場だ。
「ハイヴを攻略したそうじゃな。まずは見事と言っておこう」
「ありがとうございます。それ、アムロたちが帰ってきたら言ってあげてくださいよ。五摂家当主直々のお言葉ともなれば、あいつらも気合が入るでしょうし」
「うむ。勿論じゃ。しかし、議会ではうるさい小ガラス共がおる」
「放っておけばいいでしょう。どうせ囀る以上のことは出来ませんよ。そこまで言うのなら、俺と一緒にホワイトベースに乗ればいい」
どうせ、そんな度胸はない。実は、俺がこういったのは一度目ではない。二度目だ。最初はロンド・ベル結成の時。その時に軍の私物化だのどうだのと色々うるさく吠えてくれたものだ。
じゃあ俺と一緒に戦場に行きますかと聞いたら、途端に静かになるんだから、俺はもう相手にしないことに決めたのだ。
「で、どうです。歩兵用の新型は?」
「見事と言っておこう。あれほど小柄な機体で、良くも戦術機をああも振り回せるものじゃ。いや、これは衛士の実力差か」
「それもあるでしょうね。キリコ曹長の腕前は異常です。ガトリングガンでの集弾性も異常に高い。無駄弾がほぼ無いと言ってもいいですね」
試作機として作った上に、見た目だけのレッドショルダーカスタムなもんだから、オリジナルよりも重くて扱いにくい機体のはずだ。そのへんは、キリコからのレポート待ちだ。
俺の視線の先では、機体から降りたキリコを整備士、いやあれは大半が歩兵だな。彼らがまるで英雄でも迎えるかのように一斉に集まっている。
やれやれ、これじゃあ、レポートは明日かな。
「ところで、雷電様。今日は演習を見に来ただけじゃないんでしょう?」
「うむ。実はちと相談したいことがあってな」
うわぁ、これ絶対厄介事だ。
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22・仕来りほど面倒なものはない
雷電様から相談されたのは、雷電様の二人の孫娘のことだ。
これが普通の姉妹だったら問題ないのだが、双子の姉妹だという。
双子は国を割る。その迷信によって姉妹は引き裂かなければならない。これが江戸時代や戦国時代なら、片方は殺されることもあるのだろうが、この時代にそれはない。
だが、二人は別々に育てられることとなる。寝ている時に無意識に手をつなぐぐらいに仲が良く、顔を合わせれば抱きしめずにはいられない可愛らしい孫を、この爺様は手放したくないのだとか。
いや、知らねーよ。
俺に武家の仕来りをどうしろと。
呆れ半分で聞いている俺と、涙を堪えるかのような雷電様とそのお付の男性。なんでも、月詠さんだとか。真那か真耶の父親か?そして、俺の側で困ったような顔で話を聞いている焔ちゃん。
「正直、俺の手に余りますが」
「どんな無理も押し通してきたお主なら、なんとかなると思ったのじゃ」
「俺の専門は兵器の開発ですよ。それでもどうしてもと言うのなら、一言だけ言わせてください」
俺はすぅっと息を吸い込んで、腹に込めた一言を放った。
「アホかと。つーか、武家はアホの集まりかと」
瞬間、傍に控えていた月詠さんが刀を抜いた。俺の首に向けて放たれたそれを、焔ちゃんが扇子で受け止める。
「月詠様、刀をお収めください」
「ならぬ!この小僧めが!雷電様がどのような思いでこの話を持ってきたと思っている!!」
気持ちは察するよ、俺もな。だが、それでももう一度言っておこう。
「もう一度言っておきますよ。武家はアホの集まりかと」
「なぜそう思う?」
「双子が生まれて国が割れる?馬鹿な。世界は今、滅亡の危機ですよ。現地を見てきた俺がいいます。国どころか世界が割れる寸前です。俺が生まれるよりも前からね。悠陽様と冥夜様?そのお二人が生まれた頃にはとっくにそうなっていたはずですが?」
本当に、武家もこの国の政治家も、頭の中が湧いてやがる。
「双子で国が割れるなら、三つ子なんていったら世界が割れて、四つ子になったら滅びますか?六つ子なんて言ったら宇宙が滅びますよ。そんなわけあるかい!」
「うぬ・・・」
「そもそも、この国の中だけで双子の兄弟姉妹がどれだけいると思っているんです。まさか、血筋が違うだとかアホな事言わないでくださいよ。双子なんて、母親の腹の中で卵が二つあったか別れたかの違いでしか無い。言ってしまえば、奇跡的な化学変化の産物ですよ」
そう、ただそれだけだ。
「馬鹿馬鹿しい。国が割れるというのなら、悠陽様と冥夜様のいずれかを殺してみますか?そうすれば日本にBETAが来ないとでも?ありえない」
「だが、貴様がそう言ったところで武家の仕来りは変えられん!」
まだ俺の首を切り落とすつもりなのか、月詠さんは焔ちゃんと鍔迫り合いをしながらそう言う。
「変えてしまえばいいでしょう。前例があることも、最初は前例がなかったんですよ。戦国時代の人に今の日本を見せてみます?馬鹿でっかいビルが立ち並び、鉄の箱が海に浮くわ空を飛ぶわ。挙句の果てに巨大な人形の巨人がそこらじゅうを飛び回っているんですよ。更に、月よりも遠いところからわけの分からない連中が押し寄せてきていて。言い出したらキリがない」
なんでこんな話をしているんだか。
「どうしても二人を一緒に育てたいのなら、仕来りをぶち破るしか無いですよ。仕来りを守りたい。でも孫を手放したくない。これ、通用しないですから」
むっつりと黙り込む雷電様。だが、俺もこれ以上を譲るつもりはない。何しろ、俺にとっては完全に他人事なのだから。
結果、二人が別れて育てられてもそれは原作通りだし、一緒に育つことになったからといってどうという事はない。
俺にとっては本当に些細な事だ。本人が怖気づいているのに、俺がこれ以上後押しする理由はどこにもない。
「で、結論は?」
「無論」
覚悟を決めた爺様の動きは、それはもう見事なまでに早かった。
後先がないから爺さん婆さんは何をするか分からんと言うけど、これはまさにその典型だった。煌武院家の当主の座を息子に譲り渡し、アッという間に身軽になった雷電様は、親戚筋の御剣家に二人共預けてしまったのだ。そして、自らも名を御剣雷電と変えて、二人を同時に養育した後、姉の悠陽様に煌武院家を継がせると宣言したのだ。
勿論、煌武院家を出たからと言ってなかったことになるわけじゃないと、多くの武家が騒ぎ出したが、それを黙らせた。武力で。おいおい。
帝国三武神の一人が本気を出せばこんなものだろう。内二人は海外に出ているから止めることの出来る人間はいないし、息子さんは止める気はサラサラ無いそうだ。小さい娘さん二人が、姉妹で離れ離れになることを嫌がったからだ。
で、俺の方に抗議文が大量に届いている現状を誰か説明してくれんかな?
まあ、色々書いてあるよ。武家の仕来りがどうだとか、一番切実なあの爺をどうにかしろとか。
結論、知らん。俺は知らん。いつの時代に誰が作ったかわからない、科学的根拠も怪しいものを後生大事に抱えてきた結果がコレだ。
変革の時には大山が動く。大山鳴動して鼠一匹。なんて言葉があるが、出てきたのはドラゴンだったというわけだ。良かったな、しょぼくなくて。
俺はガンダムMk-Ⅱ制作の傍ら、それを横目に見て、内心では腹を抱えて大爆笑していた。
議会が荒れに荒れて大暴走状態らしい。今は必死に沈静化への道を探しているそうだ。榊是近外務大臣・・・もとい、総理大臣。多分だけど、史実より大分早く出世したんじゃないかな?
この人、いい人なんだけど不思議とヘイトを集めてしまうからな。おやっさんの従兄弟だと言うし、ぜひとも守らなければならない。クーデターで死ぬにはあまりにも惜しい傑物だ。
その前に、胃の病気で入院してしまいそうだけど。
しゃーない。スコープドッグとソルテッカマンの量産体制を急いで、歩兵戦力の拡充を手土産にヘイト減少に協力するか。
そうそう、ソルテッカマンも出来たよ。ただし、やっぱりATに比べればコストがかさむというのがな。
ATはすでに製造ラインが作られた。驚くほど簡単に組むことが出来、オプション次第でどんな戦況にも立ち向かえ、何よりお安い。
逆にあんまり評判が良くないのが、ソルテッカマンだ。意外だと思うだろう?意外でもなんでもないんだ。コストがかさむ。ソルテッカマン一体で、スコープドッグを4機作ることが出来るってなったら、その金があるんだったらジムを作れと言われているぐらいだ。流石にソルテッカマンはジムより安いが、量産するとなると、微妙なお値段のようだ。
まあ、それよりも気になるのは、だ。報告書の中にある第666戦術機中隊って、シュヴァルツェスマーケンじゃなかったっけか?俺、あれ完結まで読んでないんだよな。アニメの方は見たけど、読み切るより先に死んじゃったし。
どうする?俺はこの物語に介入すべきか?だが、ロンド・ベル本体は動かせない。ボパールハイヴ攻略戦があるからだ。俺の体も一つ、行けるのは二つに一つ。これは早くに結論を出さないといけないかもしれない。
さて、話を本筋に戻そう。
煌武院家のお姫様問題だ。
結論から先に書くと、解決した。有り体に言うと、煌武院家がバックに付いた俺がさらにバックに付いた。俺が戦術機を用意するからそれで我慢しろということだ。お陰でジムの斯衛軍使用機を作らなければならなくなってしまった。
実に面倒な話だが、煽るだけ煽ったのも俺だ。これに関する国内折衝を全部榊総理に任せて知らん顔も、流石に悪いと思っているわけだ。
そして、もう一つ餌を用意した。それが水陸両用艦フリーデンだ。そう、ガンダムXに登場したあの船を作った。元々はこれをロンド・ベルの旗艦にするつもりだったのだが、ロンド・ベルの規模が思った以上に大きくなりすぎたためにお蔵入りしていたやつだ。
ちなみに、これは呉の造船所で建造させていた。が、ホワイトベースの、天馬級の二番艦の就航で後回しにされていたのだが、それはケツを蹴り回して急がせた。
これにもラミネート装甲とビーム砲を装備してあるため、そこらの船を出すよりは十分に戦力になる。更に言うなら、スコープドッグやソルテッカマンを乗せるだけならば十分すぎる船になる。
艦長には歴戦の提督、小沢提督を指名してある。なんか、原作に出てきた人っぽいけど、よく覚えていないからまあいいや。
さて、俺の結論だが、行かないことにした。
正直に言うと、現状がよく分からん上に、ハイヴ攻略戦を控えているところを放置するほうが怖い。無責任とか言うなよ。そのへんはキリコに言い含めてある。不幸な目に合うやつは一人も出すなよ、と。
多分、これで彼が原作キャラを生き延びさせてくれるはずだ。もう丸投げに等しいが、そこは戦術機ともやりあえる歩兵用装備だ。BETA相手にも十分に通用する。
これで、俺の日本国内での仕事はすべて終了。後は、ゆったりとロンド・ベルに帰るだけ。
の、はずだった。
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23・ヒステリーなヒストリー
俺はこの日、一人の天才と出会う。
正直、厄介なものをセッティングしてくれやがってというのが本音だ。
できる限り、紅蓮中将や神野中将、雷電様の後ろ盾を得たままの状態で合わずに済ませたかった人物だ。
この世界における公式頭脳チート。因果律に魅せられた女。
その名は、香月夕呼。
おそらくは、俺の正体を暴くであろう女だ。
そもそも、この会談自体がよく分からん。戦意高揚のために?何だ、同世代の天才二人の会談を載せたい?とか?
どうするんだ、そんなもんやって。戦意高揚を狙うんだったらロンド・ベルがハイヴを攻略する映像でも流せばいいじゃねえか。
何?刺激が強すぎる?知るか、そんなもん。
とはいえ、この女と絡むことだけは全力で避けたかった。おそらくだが、何かしらの手段を使って俺が日本にいるタイミングを狙ってやりやがったな。
そしてこれもおそらくだが、あの女は俺を自分の手駒にする気なんだろう。第三計画がぶち壊しになったことで、第四計画、オルタネイティヴ4に移行することは確定だ。
だが、これも推測だが、第四計画に移行するにはまだ早すぎる。余計なことをしてくれやがった俺を、多分だが、嬲りものにする目的もあるのだろう。
最後の可能性は、2周目の香月夕呼である可能性。二次創作SSではよくある定番の設定だったな。
俺は着慣れないスーツに辟易しながら、その時を待つ。
いいじゃねえかよ、軍装で。そっちのほうが楽なんだから。
待つこと実に二時間。まあ、この程度は予想済みさ。
仕事の片手間に作ったゲームでのんびりと遊んでいる。ゲーム自体は携帯型の戦術機シミュレーター。ぶっちゃけ言ったらアーマードコア風だ。
実はこれ、俺の実家の地下で働いている人たちの間でめちゃくちゃ流行っている。ポケットに入る大きさっていうのが肝だよなー。
そんなこんなでゲームのミッションを進めていると、誰かが部屋に入ってきた。ノックもなしかよ。
「待たせたわね。極東の最強頭脳」
「うん、待った。でも今いいところだから、一時間後に出直してくれね?」
ゲーム機から顔も上げずに答える。
いや、時限イベントのハイヴ攻略ミッションの真っ最中なんだよ。無線で整備班連中のゲーム機とつながっていて、今は中隊規模で戦いに挑んでいる。俺の機体はガンダム、オオトリストライカー装備だ。
「よし、中層部超えた!」
右耳にセットしているインカムから、仲間の声が聞こえる。なるほど、これがアムロたちの立っている戦場か。
「俺がフルバーストで薙ぎ払う。みんなはそれに合わせて突っ込め」
オオトリストライカーのEXアクションはフルバーストだ。右手に持ったビームライフルと、背中のビームランチャーにレールガン、ミサイルランチャーを一斉に発射する。
派手な音とともにBETAが消し飛ばされる。見事!
開いた穴に一斉に飛び込む俺たち。道を塞ぐやつだけを効率良く切り飛ばしながら、反応炉のいるメインホールにたどり着く。
だが、このゲームで反応炉は一番弱いボスキャラだ。そして俺達が挑んでいるのは黙示録級だ。
しかし、この機影は。
「よりによってヴォルクルスかよ!」
魔装機神シリーズで猛威を奮った、破壊神サーヴァ・ヴォルクルス。ご丁寧なことに、ビームを吸収する特殊技能を持っている。
「ちっ!全員!そいつはビームを吸収するぞ!気をつけろ!」
悲鳴のような声が聞こえる。そりゃあみんな最新兵器を使いたいだろうよ。となると、戦えるのは俺ぐらいか?
俺は機体を倒すと、ヴォルクルスの下に潜り込みつつ、頭部のバルカンを斉射する。分かっちゃいたが、あんまり効いてねえ!
「ちょっと、人を待たせて何をやっているのよ!」
「あんたが言うセリフかよ、ちょっと待ってろ!」
有効な武器はレールガンのみ!ミサイルは使い切ってしまったから、これ以外に方法はない。倒せるか?
「全機、武器を実弾に切り替えろ!根気で勝負だ」
さあ、破壊神。覚悟を決めろよ?
一時間後
「やっぱり破壊神撃破は無理だったよ・・・・・・」
ものの見事にフルボッコにされた俺、そして通信機の向こうの同士たちは多分だが、ぶっ潰れていた。
俺、こんなものをアムロたちにやらせていたのか。今度からもうちょっと自重しよう。
「で、人を1時間も待たせて何をやっていたのよ!」
「人を2時間も待たせたやつに言われたくはない」
ゲーム機の電源を落として、インカムでゲーム仲間に挨拶を済ませた俺は、ゆっくりと椅子に座りなおす。
「さて、はじめましてと言っておこうか」
「ええ。初めましてのはずよね。まるで私を知っているような口調の貴方」
「それは気のせいだ。間違いなく初対面だぜ。少なくとも、2時間も待たせる女とはな」
俺はあくまで頭脳チートだからな、あんまり頭の良い会話は得意じゃないんだが。そうも言っていられんか。
ところで、隅の方にいる記者さん。あんたが前に出てこなければ話は進まんのだがな。まあいいか。
「それで、ご用件は?」
「あんたの化けの皮をはがしに来たのよ」
だと思った。
「化けの皮・・・ねえ?俺ほど日本の国力増強に協力している男はいないと思うが?」
「そうね。新型戦術機、空中戦艦、ビーム兵器。明らかにこの時代にそぐわない、一歩どころか十歩以上飛び出した兵器の数々」
「別に問題はないだろう。それで誰も不幸になっていない。世界に行き渡ることで最前線国家はBETAを押し返す」
ニュータイプとして覚醒したアムロ。そして、多分だがゲッター線もそろそろ動き始めるはずだ。マジンガーはその時にどうなる?異能生存体はその時、どんな未来を掴み取る。
そして、これからの世界に出てくる若者は。この世界の本来のヒーロー、白銀武はどう動く?因果の中心にいる娘、鑑純夏は?
「お前さんの理論は面白かったよ。おかげで次元連結システムなんてものも思いついたぐらいだ」
コストの面で作らないけどな。
「次元連結システムですって?」
「そう。異次元から無限のエネルギーを引き出すシステムだ。うまく行けば、国内のエネルギー問題は解決だな」
「ふざけてるの?」
「ふざけちゃいないさ。人生はいつだってこんなはずじゃなかったことの連続さ。それでも俺達は進み続けなければならない」
「嫌な現実ね。それで、その次元連結システムはいつ出来るのかしら?」
「俺の気が向いたときだな。正直、仕事が多くてな。あんまり遊んでいられない」
「さっきは十分に遊んでいたわよね」
「2時間も潰しといて何言ってやがる。宮本武蔵のつもりか?」
だんだんお互いに言葉が荒くなっていく。自覚してはいたが、俺とこの女の相性は最悪だ。間に白銀武みたいなファクターが入らない限り、会話は成立しない。少なくとも、今、出会うべきではなかった。
俺は大きく溜息をつくと、席を立つ。
「あら、どこに行くのかしら?」
「帰るのさ。俺のいるべき場所に」
「逃げるつもり?」
「逃げる?お前から?笑わせんな。時間の無駄を悟ったからだよ。俺とあんたの間で会話は成立しない。人を挑発するだけ挑発して、それでは敵を増やすだけだぞ。増やすなら味方にしとけ」
「なら、私の目的を話したら、貴方は味方になってくれるのかしら?」
「無理だな。どうせオルタネイティヴ計画だろう?」
部屋の中の空気が硬質なそれに変わる。そう、この場で口にしてはいけない話だ。何しろ、無関係の記者がいる場所だからな。
「やめとけ。今のお前では、敵を無駄に増やすお前では絶対に失敗する。いや、時間さえかければ成功するだろうが、断言してやる。味方の少ないお前には無理だ」
そう、それこそが横浜の女狐と呼ばれた所以だ。本人は自分の力を過信する。そして無闇矢鱈と敵を作る。その結果、協力し合うこともしないで一人で突っ走って滅亡する。それがある意味、アンリミテッドという物語の全てと言っても過言ではない。
いや、マブラヴオルタネイティヴという世界の全てだろう。もし、もしもだ。もっと早い段階ですべての国々が協力し合うことができれば、白銀武も鑑純夏も必要なかった。
俺がこの年になって得た結論だ。
「敵なんぞ増やしても意味は無いぞ。味方を増やしてみんなで歩け」
「っ!あんたは、何様のつもりよ!!」
「別に、説教のつもりはねえよ。ただ、その勘違いを正さないと、あんたに協力は出来ない。俺は駒じゃないし、俺のダチを駒にするつもりもない。そこは既に俺が通ってきた道だから先達として警告しておく。誰かと手をつなぐ方が楽しいぞ?」
らしくもない。だが、これで分かった。この香月夕呼は二周目じゃない。二周目だったらもっとうまくやるはずだ。性格に子供っぽさが残りすぎている。年齢に性格が引っ張られているのかと考えないでもなかったが、あれは素だ。間違いなく、知恵が回るだけの小娘だ。だからもし、これから俺の敵になるのならば、躊躇はしない。叩き潰す。
とはいえ、このまま潰れられても困る。精神的に俺の方が大人な面も合わせて、少々やりすぎたと思っているのもある。
まあ、プレゼントぐらいはしておくかな。受け取るかどうかは別にして。
拓哉が立ち去った後、香月夕呼は苛立ちも顕に椅子を蹴倒して立ち上がった。
全く相手にされなかった。あの男にはなにかがある。そう踏んでいた。5歳の頃から異様な才能を示し、今もなおこの世の科学の最先端を行く男。絶対に何かしらのインチキがあると思っていた。
だが、結果は惨敗。子どもに付き合う暇はないと露骨に言われたようなものだ。同じ年だと言うのに、なぜこれほどの差があるのか。それを見せつけられるだけに終わった。
「何よ、私なんて眼中にないって言うの!?戦術機バカのくせに!」
近くに記者がいることもお構いなしだ。だが、それだけ悔しかった。
あの背中に、沢山の人の手があるように見えた。それは気のせいかもしれない。だが、自分にはないものをあの少年は持っている。それだけが、ただ悔しかった。
数日後、香月夕呼のもとに拓哉のゲーム機が送られることになる。
更に数日後、ガッツリゲームにハマる香月夕呼の姿を見ることが出来たとか。
更に後日談。
とてもではないが、あんな会談の内容は雑誌では使えないと泣きが入った。
知らんがな。
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24・シュヴァルツェスマーケンの顛末
俺のもとには結構な数の情報が入ってくる。
その中で、今最も重要視しているのが、東ドイツの第666戦術機中隊。通称、シュヴァルツェスマーケンだ。
少し前に、フリーデン改め、天龍型水陸両用艦・天龍がスコープドッグとソルテッカマン。そして、数機のジムを乗せて旅立っていったのは覚えているだろうか?
そこに同乗させたキリコから定期的に情報が届くのだが、ここでその状況について少し語っておこうと思う。正直、よく分からん写真が同封されていたし。666中隊の全員が集まっている写真なだけに見えるが、俺の気のせいでなければテオドールを取り合っている写真に見えるような?シルヴィアってこんな幸せそうな顔をするキャラだったっけ?カティアとリィズがそれぞれテオドールの腕を取り合ってるのはなんで?他の女性陣も虎視眈々とテオドールを狙っているようにみえるのは気のせいかな?
今回は、この意味不明な写真が送られてきた経緯についてちょっと語ってみよう。
まず、第666戦術機中隊だが、原作キャラは全員いることがわかった。まあ、そこは俺が名前から判断したのだが、序盤でアネットを突撃級からかばって死んだ衛士のことを覚えているだろうか?イングヒルトという名前の女性衛士だが、彼女、生きていた。
どういう事があったかというと、ちょうど光線級吶喊(レーザーヤークト)の任務に出撃していた彼女たちの前に、天馬級三番艦、つまりはロンド・ベルの別働隊が到着したのだ。
暴走するアネット。それを必死にフォローするイングヒルト。そこに突撃級が突貫してきたのだが、それを救ったのが鹿島優中尉の乗るジム(指揮官機)だったそうだ。
そこから後は脱落者もなく、原作通りにカティアを救出する、という流れだったそうだ。
勿論、ロンド・ベルの乱入は東ドイツの特殊警察、シュタージのあらぬ疑惑を生んだ。が、そこはあの神野中将がどうにかした。
いかにハインツ・アクスマンといえど、歴戦の神野中将にいいようにあしらわれて、ジムを始めとした機体を鹵獲することも出来ず、退散する他なかったと言う。
どういう会話があったのかは是非とも聞いてみたいが。
その後、もののついでとばかりにロンド・ベルは第666戦術機中隊と共闘して、迫り来るBETAの群れと戦っていたそうだ。
ちょうどそこに、天龍を旗艦とするロンド・ベルの部隊が到着。そのまま神野中将の指揮下に収まり、東ドイツ軍とBETAの撃滅に限っては協力するという形で、共闘することになったのだとか。
さて、ここで気になるのはシュヴァルツェスマーケンの主人公、テオドールくんだが、鹿島中尉とキリコ曹長に憧れて弟子入りする形になったのだと言う。
どうしてそうなった!?
まあ、その二人は別艦隊でも明らかに規格外の腕の持ち主だからまだ分からんでもないが、そうなったら完全に物語が瓦解しないか?と思っていたら、ここで更に原作キャラの介入で物語が大きく変異した。
と言っても、シュヴァルツェスマーケンの原作キャラではなく、装甲騎兵ボトムズの原作キャラだ。その名はフィアナ。ファンタム・レディの二つ名で恐れられた名うての歩兵だそうだが、スコープドッグとの相性がものすごく良かったらしい。予備のスコープドッグに乗せたところ、まるで水を得た魚のように、キリコとコンビで戦果をあげていったとか。
いや、もうなんでもありだな。ただまあ、シュヴァルツェスマーケンの物語自体はちゃんと進んでいるようだ。テオドールとリィズの再会。西ドイツのフッケバイン大隊との邂逅、海王星作戦など、概ね原作通りの展開をたどっている。
と言いたいが、ここから信じられない単語を目にした。
テオドールを中心にした女性陣の恋の鞘当てが加熱していると。
フィアナが言うのなら間違いないという、さりげない惚気まで追記されて。
いや、待て。シュヴァルツェスマーケンはそんなマブラヴ本編みたいなキャッキャウフフな展開とは程遠いだろう?もっと殺伐としていなきゃおかしいだろ!?
突っ込みどころは満載なんてものじゃなかった。どうやら、鹿島中尉とキリコに弟子入りしたことが影響して、男を上げたらしい。まあ、みんな幸せならそれでいいけど。
キリコ曰く、「自分にリボンを巻いているベルンハルト大尉を見た」とのこと。某ソシャゲの全身リボンのバレンタイン仕様アイリスディーナか。SSRだったっけ。うろ覚えだけど。
その後の展開は原作を知っているものからすれば、あれ?と思うようなものばかりだった。ファム姉さんが負傷していない。リィズが闇落ち・・・ああいや、彼女の過去的にもう半分落ちているようなものだけど、しない。シュタージの介入を許さないなど、アクスマン涙目と言わんばかりにバッキバキに不幸フラグをへし折っていった。
誰がやったって?キリコと神野中将に決まっているだろう。キリコに関しては元々、俺がいらんことを言ったのが原因だ。キリコはこれ以上無いぐらいにテオドールに協力して、彼が幸せになるためならなんでもやったのだろう。お前は死亡フラグブレイカーか。神野中将は、どうやらテオドールを個人的に気にいったらしい。革命の日に自分のガンダムを貸したというのだから。
神野中将のガンダムは量産型ガンダムのカスタム機、シグマガンダムだ。見た目は殆ど変わっていないが、中身はフルカスタムしてあり、紅蓮中将の紅蓮ガンダムとためを張れる代物だ。
で、その結果どうなったのかというと。まず、リィズ生存。ファム姉さん生存。シルヴィア生存。ヴァルター生存。アイリスディーナ生存。カティアも当然ながら生存。いや、ちょっと待て。
そして、この写真の真意がやっと分かった。テオドールを中心に集まり腕を必死になって取り合う女性陣。まるで、武ちゃんハーレムを見ているかのような、もう何だ、血で血を洗うのが女性陣の恋の鞘当てだけで済んでよかったな。
そして、こっちは神野中将から。
革命に関わってしまった以上、もう少し様子を見るためにドイツに留まるとのこと。同じような内容は帝国議会にも届いていて、ちょっとした騒ぎになっている。
そりゃそうだ。どう見ても革命成功、ドイツ統一の立役者になっちゃってるし。いやもう、これは俺のせいじゃないだろ?
さて、問題となるのはその後だ。うろ覚えだが、テオドールはトータル・イクリプスの『マスター』じゃないかというのがあったな。公式でアナウンスされていないから、あんまり確定というのは問題があるんだけど、もし、公式だった場合。テロに走らないんじゃないのか?
・・・・・・まあ、いいか。余計な敵が一つ減ったということで。
ああ、そうそう。ベアトリクス・ブレーメ。彼女も生きているらしい。シグマガンダムの圧倒的な性能差で叩き潰して、結果、生きていたらしい。
今はどこにいるのかは分からないが、シュタージもなくなった以上、彼女に大した力はないと思いたい。
一通りの報告を読み終えた俺は、大きくため息を付いて椅子に背中を預ける。
どうしてこうなった、その一言に尽きる。ドイツって、ユーロフロントを見た限りじゃあ統一されてなかったよな?ツェルベルス大隊は西ドイツ所属となっていたはずだ。それがなんで統一されている?
いや、いいよ。ハッピーエンドに持ち込んでさ。俺の知っている史実のドイツ統一もちょっとアレな流れだったし。だけど、話が早すぎるだろう?カティア、戸惑っているんじゃねえか?
さて、ここからさらにアフターだ。
これは後に俺が知ることになるが、ガンダムのインパクトが凄かったらしい。
シグマガンダムはフルカスタム機だ。この時代においては圧倒的と言ってもいいだけのスペックを誇っている。それがビームサーベルをぶん回しながら、一直線にシュタージを薙ぎ払っていく様は、一種の活劇のように見えたのだろう。
この時代において、第二世代機はまだまだ希少だったはずだ。その第二世代機すら配備がおぼつかない中に、ガンダム投入だ。圧倒的だったろうさ。
人々には革命の遺志として、多くの世界のガンダムたちと同じように映ったのか。そこは俺にも分からない。だが、ガンダムが人々の道行きを指し示す光になればいいと俺は思う。
ここで、遠くの世界で起こった物語については筆を置かせてもらおう。
おそらくだが、俺にはもう関係のない話だ。
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25・急ぐ時に限って余計な仕事って来るよね?
さて、ガンダムMk-Ⅱの開発が遅れてきている今日このごろ、いかがお過ごしでしょうか。
別に作るのは難しくないのだが、余計な仕事が入ったためにここまでずれ込んでしまった。ちくしょー。ゲッターロボGはもうそろそろ出来上がるって聞いているから俺もちょっと焦ってるって言うのに、すっかり忘れていた余計な案件が俺を圧迫する。
榊総理から封書が届いていたのを覚えているだろうか。そう、俺は忘れていた。頭脳チートも意味ねえな!焔ちゃんに言われてようやく思い出して、慌てて開けたら予定日が今日だったよ!
すぐさま動きやすい軍装に着替えて、指定されているホテルへと向かう。
そのホテルは榊総理が懇意にしているホテルらしく、なんでも旋風寺コンツェルンが運営しているとか。
・・・・・・ん?何処かで聞いたような聞かないような・・・。
・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・
この世界におるんかい。嵐を呼ぶナイスガイ。
ということは、既にマイトガイン出来ていたりするか?それか、俺に作れとか言わんだろうな?流石にこれ以上の開発遅れは許容できんぞ。
まあいいや。とりあえずは、榊総理の要件だ。
おそらく、政治の派閥絡みだろう。忘れているようだけど、俺まだ14歳だからな。そういう生臭い要件に巻き込まないでほしいんだが。
案内された部屋には、既に榊総理が待っていた。
俺はさらに旋風寺コンツェルンの総帥でもいるかと思ったのだが。
マイトガインは関係ないのか、それともまだ出来ていないのか。いないのならば今は関係ないな。
「お待たせしました、総理」
「いや、時間通りだ。気にすることはない」
焔ちゃんに言われなければすっかり忘れたままだったのは黙っておこう。
総理に促されて席につく。さて、今回の会談は有意義だとありがたいのだが。
「それで、早速ですがご用件は?知っての通り、俺はただの科学者ですよ?」
「勿論知っているとも。だが、君に会ってみたいと思っていた。ずっと前からだ」
真剣な目で見てくる総理。どうやら、シャレではすまない内容のようだ。
俺、普通の科学者だよ?
どんな厄介事を突きつけられるのか、それを考えると表情が引きつるのを止められない。
「はっはっはっ。そんな顔はしないでくれたまえ。無理難題をふっかけるつもりはない。ただ、極東最高の頭脳と一度会って話をしてみたかっただけなのだよ」
「そうですか」
短く答える。どこまで当てにしたものやら。という表情がでているのは嫌でも分かる。榊総理も俺の警戒心に困ったような笑みを浮かべる。
まあ、そういうことにしておいて会話を楽しませてもらおうか。
目の前の少年は、極東最高の頭脳と言う割には、思っている以上に普通の少年だった。腹芸などはまるで期待できない。思っていることはすぐに顔に出る性格のようだ。
次期オルタネイティヴ計画の主任候補にも上がっている少女、香月夕呼を一方的な口撃でへこませたと言うからには、かなり直截な性格の持ち主なのだろう。
いや、間近で見ていた記者に扮した部下の報告では、かなり一方的に香月夕呼を打ち負かしたと言う。いや、打ち負かしたというよりは強引にへこませたと言うべきか。
できれば二人には手を取り合ってほしいと思っていた榊だったが、二人の相性は最悪に近かったらしい。
「やはり、香月くんとは相性が悪いかね?」
「俺は別に、やっこさんは嫌いじゃないですよ。ただ、相手をしている余裕が無いんです」
確かに、食事の手が早い。さっさと終わらせて帰りたいという気をまるで隠そうとしていない。
「何をそれほど急ぐのかね?聞けば、ロンド・ベルは連戦連勝なのだろう?」
「友のいる戦場に早く帰りたい。これ以上の焦りなんて他にないでしょう」
そして、目線だけをギロリと動かして続ける。
「友達のいない総理にはわかりませんかね?俺に出来るのは戦術機を作ること。ただそれだけですよ。新しい機体を待っているんです。この戦い、正直すぐには終わらない」
「私にとて友人の一人や二人は居るよ。それよりも、君は何が見えているのかね?」
「足を引っ張るクソ野郎」
彼の答えは簡潔だった。そしてまことに遺憾だが、彼の足を引っ張るクソ野郎の中に自分が入っていることに気づいた榊であった。
食事が終わると、拓哉はこれ以上いる意味は無いとばかりに去っていった。
対面に誰もいなくなった席で、榊は一人ため息をつく。
「やれやれ、これは嫌われたかな?」
「あの少年が些か失礼すぎるだけかと」
いつの間にか彼の背後にいたのは、現将軍が遣わせた護衛だ。その男は不愉快さを微塵も隠そうとせずに、拓哉が立ち去った方を見る。
「・・・わたしにはその解釈は出来ません」
「彼の会話はいつも友が中心だった。アムロ・レイくんと言ったか」
「米国人の子供ですよ。それが、そんなに大事だというのですか?」
「大事なのだろう。彼にとって国籍はどうでもいいのだ。一緒に戦えるか否か。それだけが彼の判断基準なのだよ。だから彼は最前線国家を優先する。作った戦術機も兵器も、前線で戦っているものたちに分け隔てなく開放する」
「しかし、それが我らに向けられたら!」
「その時こそ、彼は本気で牙を剥くだろう。彼が兵器を作る時に何を優先していると思うかね?コストだ。広めた国で更に量産できるか。そして、更に技術開発を出来るか。彼にとって国益は二の次なのだよ。いや、国益を考えたからこそ、前線国家を優先しているのか」
榊はそう言ってワインを煽る。そう、国益のことなど最初に自分が考えなければいけないことだ。だが、彼はそれ以上の視点で物を考えていた。
「何が日本の国益となるのか。その究極は日本までBETAを寄せ付けないことだ。君は、日本単独で全てのBETAと戦えると思うかね?」
「そ、それは・・・」
「そう、無理だ。不可能だ。津波のごとく押し寄せる圧倒的な戦力を、彼は現地で、肌で感じとったのだろう。だからこそ、世界に戦術機をばらまいた。重要なのは金銭ではない。日本が優位に立つことでもない。人類が勝つことなのだと」
先程まで拓哉が座っていた席に目を移す。拓哉は会食の間、あまり榊の方を見なかった。ただ目を向けた時は、『邪魔をするな』と言わんばかりの目で睨まれた。
「彼の見識は政治家のそれだよ。いや、現地で感じ取るよりも前から、彼はその頭脳で予見していたのだろう。だからこそ、あれだけ兵器を世界にばらまいた。そして、今度は戦術機を。その正当性を作るために帝国の三武神を味方につけた」
その間に自分は何が出来たのか。せいぜいが総理大臣になったぐらいだ。
それで彼の役に立てたか?貴重な時間を浪費して足を引っ張ってしまっただけだ。
「やれやれ。これでは他の議員どもを笑えんな」
残っていたワインを飲み干すと素早く席を立ち上がる。
「さて、少しは彼が動きやすくなるために、うるさい輩を黙らせるとするか」
そうでなければ、まさに老害というしかないのだ。まだ幼い娘の未来の為にも、彼らの力にならなければならない。
決意も新たに榊是近は前に進んだ。
「終わったー!!」
俺はそう叫ぶと人目をはばからず思いっきり歓声をあげた。
いや、叫んでいるのは俺だけではない。他の技術者たちもようやく終わった仕事に歓声を上げる。
そりゃそうだ。何度となく中断されて、その度に俺が席を外して、ようやくここに第四世代機が完成したのだから。
ガンダムMk-Ⅱ。日本、いや、世界初の第四世代機。その最大の特徴はムーバブルフレームによる完全な内骨格機構だろう。これによって、より柔軟な挙動を可能とし、そして、頑強さを手に入れた。
頑強さの部分でピンと来ないだろうが、今までの機体は装甲で機体を支えていた。その為装甲に致命的なダメージを受けると機体そのもののが行動不能になることがあった。これは外骨格機構の機体特有の弱点だった。だが、内骨格にすることで少々装甲がやられようが挙動に影響は出ないという利点が生まれる。
反面、内骨格構造には致命的な弱点が存在する。それは機体が重くなるということだ。だがそこは新型のPS装甲を装備することで解消した。そう、ようやくPS装甲を実用化出来たのだ。正確にはVPS装甲というべき代物になったのだが、そこは頭脳チートの見せ所だ。
流石に今回ばかりは俺も苦労した。俺の頭脳チートは元々あるものを再現するのは簡単だが、余計な新しい機能をつけるのには本人の創意工夫、想像力が問われる。俺が今回作ったPS装甲は従来の装甲よりも軽く、また異常に頑強であることが特徴だ。反面、コストも異様にかかったが、そこはそれ。一点もののつもりだからな。後の量産するタイプの機体は、チタン合金セラミック複合材を使うつもりだ。
その為、俺の目の前にあるガンダムMk-Ⅱは灰色のままだ。さて、
「これより起動実験を開始する。電源を入れろ」
『了解!』
技術廠の開発衛士の声と同時に、鮮やかなカラーリングへと変わる。エゥーゴ仕様のガンダムMk-Ⅱのカラーリングだ。
「続けて、性能試験を行う。機体を演習場に出せ」
ゆっくりとガンダムMk-Ⅱが歩みを進める。が、なんだ?ふらついていないか?
「どうした!機体をまっすぐ歩かせることも出来んのか!」
『は、博士!機体の反応が敏感すぎです!これでは、まともに歩くことも・・・うわっ!』
ゴツンッという音がして、工廠の柱に激突する。おいおい、PS装甲だからってむやみにぶつけてくれるなよ。
よたよたしながら歩くガンダムMk-Ⅱを見ながら、俺は一抹の不安を覚えた。
それからしばらくして、一通りの実験した結果分かった。
不安的中。アムロ基準で作っていたため、バイオセンサーやらマグネットコーティングやらのおかげで、機体の反応が敏感になりすぎているのだ。テストをした開発衛士が言うには、まともに扱えるのは極一部のエースだけだと。
巌谷大尉か篁大尉を連れて帰るべきだったな。まあそれでも、さすがは技術廠の開発衛士だ。使っていく内にだんだんと挙動の不自然さはなくなってきて、試験を終える頃には完璧な挙動を見に付けていた。それでも彼が言うには、自分ではこの機体の100%を引き出すことが出来ないという回答だった。
出来れば、サイコフレームの搭載まで持って行きたかったのだが、いかんせんガンダム世界でもオーパーツだ。こっちの世界で作ることが出来るようになるまではまだ暫く掛かるだろう。
そしてもう一つ表面化している問題は、やはりSEED世界と同じく、PS装甲を量産型機に装備するのは無理だということだ。コストだ。コストが掛かりすぎる。とてもではないが、小隊規模を維持するだけでも破産しそうな装甲を、今の日本では量産することは出来ない。
もしガンダムMk-Ⅱを少数量産するならやっぱりチタン合金セラミック複合材を使うしかないだろう。
PS装甲の防御力は美味しいのだがなー。
悪い時に悪いことは重なる。俺がいない間に、ボパールハイヴの攻略作戦が始まってしまった。
それを俺は天龍型水陸両用艦・龍田のブリッジで聞きながらイライラしていた。龍田の格納庫にはスコープドッグとソルテッカマンの部隊。そして、ガンダムMk-Ⅱ、ゲッターロボG、マジンガーZの強化パーツが積まれている。
出来れば作戦開始前に届けたかった。だが、思いもよらぬところで足を引っ張られた。国会への参考人招致だ。俺が世界中にジムをばらまかせているのは利敵行為だなんだと騒ぎ出して、足止めを食らったのだ。
榊総理は必死にそれを食い止めようとしてくれたのだが、今は与党も野党もややこしいことになっている。野党の中には米国派の議員が多く、与党は与党で俺が影響力を持つのが気に入らないという連中が多かった。
お前らマジでふざけんなよ。今はそんな事をほざいている場合か。これからボパールハイヴへと突入するのは日本の衛士なのだぞ。これからハイヴへ突入する衛士のために、新しい機体を持っていきたいと言うのに。
俺が怒りを、焦りを表すほどにどちらも喜ぶ。この国に味方はいないのか。
結果、事態を知った雷電様と五摂家、皇太子殿下が間に入ることで俺はすぐに開放され、出来たばかりの龍田に乗ってボパールハイヴ攻略戦の戦地へと急いだ。そのさなかに、作戦が始まってしまったことを知ったのだ。
彩峰司令も頑張って引き伸ばしてくれたのだろう。だが、国連の圧力は凄まじく、大東亜連合軍と共闘という形で、ボパールハイヴ攻略戦が始まってしまったのだ。
俺はこの時のことを生涯忘れない。
人類の、いや、俺の最大の敵は人類だということを思い知らされた。自重なんてしては絶対にいけないのだと知らされた事件だからだ。
自分自身の政治力の無さを、俺は、一生後悔することになった。
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26・今は黙れ。
ボパールハイヴ攻略戦は無事に終了した。
それは世界レベルで見れば無事と言ってもいいレベルで、だがロンド・ベルにしてみれば甚大な被害をもたらしてしまった。
アムロと甲児は無事だった。ガンダムもマジンガーも無事。士郎さんも機体を中破させたものの無事に帰還。篁大尉は無傷だったが、巌谷大尉は機体のコクピット部にダメージを追った影響で、顔に大きな傷が出来てしまった。だが、全体から見れば軽傷といっても良かった。
ゲッターチームは、リョウと隼人は無事だった。だが、俺がいないところで思わぬ犠牲が発生した。
巴武蔵。機体の損傷により両目を負傷。失明。
「俺の・・・俺のせいだ・・・・・・!!」
俺が現地にたどり着いた時に見たのは、武蔵の病室の前でひどく落ち込んだリョウと、それを気遣うアムロたちだった。
「・・・・・・何があった」
俺の口からようやく出た言葉はそれだけだった。
この場にいた中で唯一冷静だった、いや冷静を装えた隼人から説明を受けた。
始まりの地上戦は、大東亜連合軍の支援と紅蓮中将引き入る斯衛軍の援護もあり順調に進んだ。
この時の戦いには、ようやく衛士として仮免をもらえたボスもボスボロットで参戦。マジンガー並みの無茶苦茶なパワーで奮戦したと言う。
地上戦はつつがなく進んだ。アンバールハイヴ線の時と同じように、敵を中央に集めハイメガ粒子砲でハイヴ地表構造物もろともに一掃し、ハイヴ内部へと突入したそうだ。
ハイヴ内部は先のアンバールとは違い、次から次へと無数の敵が襲い掛かってくる、まさにヴォールクデータのハードモードと言っても等しい難易度だった。
アンバールとの違いに戸惑ったアムロたちだったが、篁大尉の指揮の元、順調に進撃していき、最下層のメインホールへとたどり着く。
無数のBETAが集まるそこは、先の戦いと同じく激戦の戦場であった。反応炉を守らんとするBETAに、苦戦を余儀なくされた。だが、反応炉の破壊はおもったよりも早く済んだ。反応炉との激戦を知っていたロンド・ベルは、反応炉が動き出すよりも早くゲッターロボとマジンガーZの同時攻撃によって、素早く反応炉を破壊したのである。ここまでは順調であった。
だが、反応炉を倒したことで彼らの中に油断が生まれた。突如として超巨大なBETAが割って入ったのだ。反応炉の破壊とともに現れたそれは例えるなら巨大なミミズのような。それの正体を俺は知っている。母艦級BETA。それは体内から無数の要塞級を吐き出し、突如として戦場は再び地獄絵図と化した。
母艦級から吐き出される要塞級。そして、その要塞級から更に吐き出されるBETAたち。しかしそれは、突然の事態に慣れていたロンド・ベルの面々にとって何の障害にもならなかった。
手術は終わったものの、武蔵は両目を失明。二度とゲッターロボに乗ることは叶わなくなってしまったのだった。
チームリーダーとして、何よりあの時ゲッターのメイン操縦者であったリョウは、責任を感じて見ていられないほど落ち込んでいる。
「すまない、俺がもっと早く到着していれば・・・」
「いや、あんたのせいじゃない。これは、俺たち全員の油断が招いた結果だ」
だが、もしも、もしもゲッターロボGだけでも早く送ることができていれば、武蔵はこんな結果にならなかったのではないだろうか。
それとも、巴武蔵は必ず何かを失う結果になるという運命でもあったのだろうか。
それ以上に皮肉なものがある。それは、スコープドッグ隊とソルテッカマン隊以外の補充人員だった。
「それで、後ろのそいつが?」
「ああ。早乙女博士から預かった、ゲッターチームの補充人員だ」
「く、車弁慶です!よろしくお願いします!」
武蔵と同じようなでっぷりとした体型の、人見知りからは縁遠い感じの少年だった。
実は彼、武蔵と同じ学校の先輩後輩の間柄で、既知であると言う。
彼は当然ながら俺やアムロたちよりも年下なわけだが、武蔵と同じ戦場に立てるということで喜んでゲッターチームの選抜課程へと志願。持ち前の根性と努力によってこの場に立っているのだ。
「ともあれ、今はありがたい限りだな。ゲッターロボは3人揃ってこそだ。歓迎するぜ、弁慶」
「隼人!武蔵は、武蔵はまだ!」
隼人に掴みかかるリョウ。だが、俺が聞いている限りでは武蔵の状態を一番知っているのはリョウなのだ。帰還して、いの一番に武蔵の惨状を見てしまったのはリョウなのだから。
「だったら、だったらなぜ、もっと早くにゲッターを届けてくれなかったんだ!!」
「リョウ!!!」
隼人が怒声とともにリョウを殴りつける。
ドカッという音とともにリョウが壁に叩きつけられる。
「お前は、誰が一番悔しい思いをしていると思っている!!」
「そんなこと、そんなこと俺だって分かっているんだ!!」
「おい、よせよ。病室の前だぜ!」
「落ち着くだわさ!」
甲児とボスがそれぞれ、リョウと隼人を止めに入る。それでもまだお互いに殴り合いを始めそうだった二人を止めたのは、以外でも何でもない人物だった。
「そうだぜ。騒がしすぎてオイラもおちおち寝ていられねーや」
『武蔵!!』
病室の戸が開いて、目に包帯を巻いたままの武蔵が出てきたのだ。
「リョウ、お前が気にすることなんてないんだ」
「だが、俺は、あの時ゲッターを」
「誰も、隼人だって、お前一人の責任だなんて思っちゃいねーよ。ゲッターは、ゲッターチームは3人揃ってこそだ。だから、何かがあった時はみんなの責任だ。喜びも悲しみも、みんなで分かち合うのがチームだろ?」
「武蔵・・・俺を、許してくれるのか?」
「あったりめーだ!言ったろ、オイラたち全員がゲッターチームなんだ。まあ、オイラはもう、ゲッターに乗れないけどよ」
そして、握ったままの両の拳を解きほぐし、隼人の手とリョウの手を重ね合わせる。
「聞こえてたんだけどよ、そこに弁慶がいるのかい?」
「は、はい。ムサシ先輩!」
「よせよせ。そんな固くなるなよ。ほら、こっちに来い」
ついさっきまで手術を受けていたとは思えない力で、弁慶の手を掴んでぐいっと引き寄せる。
「3つの心が一つになった時、ゲッターの力は百万パワーだ。忘れるなよ」
「武蔵・・・」
「リョウ、リーダーが取り乱しちゃ駄目だろ」
「武蔵、お前・・・」
「隼人、リョウと弁慶を頼むぜ」
「ムサシ先輩・・・」
「まあ、こんな感じだ。気楽にやれよ」
いつの間にか4人の手が重なっていた。全員で戦うことは叶わないだろうが、それでもその思いが途切れることはない。
リョウたちの目に元の明るい光が灯る。
「そうだな。俺達が、ゲッターチームだ!」
「フッ、そういうことだ」
「がんばります!」
ニヤリと笑みを浮かべた後、コツンっと拳を当てる。
「これで元通りだな。オイラもゆっくり眠れるってもんだ」
「ほ、本当に大丈夫なのかよ?」
「ああ。目が見えない以外は絶好調の武蔵さんだぜ」
そう言ってクルッと回って病室に戻ろうとする武蔵。
「武蔵、待て!」
「あっ?『ゴンッ!!』がっ!?」
扉の位置を間違えて壁に激突。目を回してひっくり返ってダウンした。
「やれやれ。どっちみち俺たちに苦労をかけるやつだぜ。リョウ、そっちを持て」
「本当に、いつもの武蔵だな」
「だったら俺達がやることは」
「いつものゲッターチームを取り戻す」
いつもの笑みを浮かべるリョウたちにホッと胸をなでおろす。と、リョウがこっちを振り向く。
「拓哉、さっきは、すまない」
「気にするな。俺はいいからそっちを見てやれよ」
「ああ。また後で」
武蔵を病室に運ぶリョウたちに、俺達はホッと胸をなでおろす。
甲児とボスも、気が抜けたのかその場に座り込む。気が抜けたのは俺だって同じだ。
「何ていうか、ドッと疲れたな」
「思ったより早く片付いてよかったじゃないか。それよりも、遅れてすまん」
「言うなよ。さっき隼人が言っただろ。誰が一番悔しい思いをしたか、俺は分かってるからよ」
甲児がこっちに拳を向ける。俺もそうするとコツンっと拳同士を打ち合わせる。
「悪くないな、こういうのも」
「だろ?」
しばしの間感傷に浸る。が、それは本当にしばしの間だけだ。
俺は立ち上がると龍田から移し替えられた機体の整備をしないといけない。今度は遅らせない。
「しているさ。だけど、微睡みの時間は終わった。俺が本気で動き出す必要が出てきた」
俺に政治能力はない。皇太子殿下や五摂家、雷電様たちにいつまでも頼りっぱなしというわけには行かなくなった。
「今は好きに囀っていろ。すぐに悲鳴に変えてやるよ」
まずは米国派議員と国粋主義者の燻り出しだ。これはこっちに来る前に皇太子殿下たちにお願いしてある。それならばオレがやることは、私物化と言われようが、ロンド・ベルをとにかく強化することだ。
衛士の資質?数が足りない?作ってから考えるさ。コスト?それを考えるのは技術廠のお偉いさん達だ。俺はとにかく作る。どれだけ時間がかかるか分からんが、それが多分、最短距離だ。
「一度ロンド・ベルを日本に帰す。このあたりの主だったハイヴは二つも潰したんだ。当面は安全だろう。一度日本に帰って、ロンド・ベルの戦果を国民に見せつける必要がある」
そうすることで、日本の技術力を知らしめる。アメリカの影響力など必要が無いということを。そして、俺の行いが利敵行為じゃないことを。
もしそれで俺の自由を奪うというのなら、ロンド・ベル抜きで同じことをやってみればいい。
「そうなると、ここの人たちともしばらくお別れか」
「俺はあのガキどもの面倒を見ないで済むだけで、清々するだわさ」
「そのくせ、結構面倒見てただろ?竹とんぼとか竹馬作ってやったりとか」
「余計なこと言うんじゃないわさ!!」
どうやら、みんなこっちでそれなりに交友を重ねてきたらしい。
だがまあ、いつまでもここに留まっている訳にはいかない。
「明日、日本へ帰国する。準備をしとけよ」
「随分と急だな。彩峰司令はなんて言っているんだ?」
「一度帰るってよ。これ以上国連の命令を聞いていたら、使い潰されちまうって」
このままだと直近の、マシュハドハイヴの攻略命令も出るかもしれない。アンバール、ボパールと立て続けにハイヴ攻略をした俺達は、美味しい餌であると同時に目の上のたんこぶだ。撤退の名目は物資の枯渇、人員の損耗ということにしてある。
さて、これからどう出てくるかな。出てくる前に撤退するつもりだが。そうでなければ、流石にアムロたちも持たないだろう。
それに、一度日本に帰って物資を補給しないといけないというのも本当のところだ。物資は何も機体とか弾薬だけじゃない。食料や衣料品も含まれる。二度のハイヴ攻略戦で、こちらもそれなりに消耗しているのだ。
「そうか・・・。帰るのか、僕たちは・・・」
「どうした、アムロ。あんまり嬉しそうじゃないな」
「実感が無いんだ。ハイヴ攻略戦以外にも、ずっと戦いっぱなしだったから」
俺は一度実家に帰ったけど、みんなはこっちで戦いっぱなしだったからな。
「よし、アムロ。お前、俺の実家に来い」
「えっ!いくらなんでもそれは悪いよ」
「気にするな。母上も、アムロの顔を見たいって言ってたし」
子供が一人しかいない母上にとって、アムロはもうひとりの息子みたいに思っているらしく、俺と焔ちゃんだけで帰った時は少し寂しそうにしていた。
「というわけだ。遠慮するな。お前の部屋もあるんだし」
「分かった。そうするよ」
さて、俺も来たばっかりだけど帰る準備をするかな。さしあたっては。
「それでこちらにも挨拶に来たのかね」
挨拶に向かったのは、俺の奔放な行動にも大分慣れてきたらしい、ラダビノッド司令だ。
開発のためだけに日本に帰るといった時は流石にどうかと思ったらしいが、持って帰った成果に大喜びをしているのは実はこの人だ。
特に大喜びだったのはスコープドッグだ。いくらか予備も用意していたスコープドッグを無償で提供した時は、怪訝な表情をされたが、実際にうちから連れてきたスコープドッグ部隊と、ここのジムの部隊で模擬戦をさせたときから表情が一変した。
結果は簡単に言うと、スコープドッグ隊の圧勝。小さな機体でありながら、戦術機にも勝利できる機体ということを知って、ガンタンク部隊からスコープドッグ部隊への転属を願い出る兵士もいたぐらいだから、それがどれだけ衝撃的だったか。
そして、これは俺にとっても意外なことだったが、ソルテッカマンも好意を持って受け入れられた。理由はスコープドッグより小柄だからだ。ほとんど人間大のサイズで動けることから、基地内ではソルテッカマンのほうが有利なのだ。これは日本では考えられなかったことだ。
それこそしょっちゅう防衛線を突破されて、基地内にBETAが侵攻してくるということがリアルにあったからだろう。
「君には、どうやって恩を返せばいいのか想像がつかんな」
「生きている内のある時払いでいいですよ。全ては、国家の再建がなってから払ってくれればいいです」
もっといいのは日本にBETAが来ないように奮戦してくれることだけどな。この人は、多分だがそういった俺の思惑にも気づいているだろう。
だがそんな思惑などどうでもいい程に、結果が出ているのだ。直近のハイヴ二つを攻略。事実上国を取り返したところもあるのだから。
「ならば、次は平和になった国で君を国賓として招待させてもらおう」
「期待して待っていますよ」
がっしりと握手を交わす。改めて思う。分厚い手だ。この地で苦労してきた猛将の、歴史が詰まった手だ。何度も、そしてどれだけ悔しさに拳を握りしめてきただろう。
この人達のためにも、俺は自重しない。阿呆な日本の上層部にも、アメリカの馬鹿な思惑にも、自分たちさえ良ければいいというクソッタレ共にも。
さあ、俺の戦いの始まりだ。
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27・自重しなくなった結果。俺のせいではない。
日本に帰った俺達を待っていたのは、歓迎の大艦隊だった。
EU方面から帰ってきた天馬級三番艦、四番艦も合わせて盛大に出迎えられた。どうやら、榊総理が頑張ってくれたらしい。
あまりの大歓迎ぶりに出国の時からの手のひら返しが凄すぎて、甲児なんかは不機嫌さを隠そうともしない。
「何だよ、都合がいいの」
「そうむくれるなよ。榊総理が頑張ってくれたから穏便に帰ってこれたんだぜ」
そうでなければ俺は参考人招致をぶっちした上で来ているから、帰ることすら考えなかっただろう。皇太子殿下がバックについているということは、皇帝陛下も付いてくれるということだ。そういう点においては最強の手札を得たと言ってもいいだろう。
歓迎式典やら何やらで大騒ぎだった俺の周りは、ようやく落ち着いてきた。
焔ちゃんに膝枕してもらい、耳掃除をしてもらうという至高の楽しみを満喫している。
次の開発はいいのかって?設計図やらなんやらを作ったら俺は当分暇なんだよ。後は製造してもらうだけってな。俺が自重無しで物を作ったらこうなるんだぜ。
そのせいでうちの地下工廠は大騒ぎだ。スーパーロボットを一体に、次期量産主力の第四世代機。そのテストヘッド。更には趣味で作った小型機だ。スコープドッグ系列の機体は技術廠に回したから、放っておけばそのうちバーグラリードッグやブルーティッシュドッグと言った系列機は完成するだろう。ソルテッカマンについても、大東亜連合の現地兵士たちの声を聞いて、扱いを改めることになったとか。
ガンダムMk-ⅡとゲッターGは次の戦場までお休みだ。アムロが家にいると妙に落ち着かないと言って、技術廠の訓練施設でガンダムを動かしまくっている。甲児は、まあなんだ。くろがね屋の皆さんに修行をつけられる羽目になったらしい。ボスもそれに付いていくそうだ。そして、ゲッターチームはそれぞれがそれぞれの実家へと帰っていった。士郎さんも実家に顔を出すらしい。
ロンド・ベルは現在休業中。ホワイトベースの蓄積されたデータを元に、天馬級とは別の新しい戦艦を作るつもりらしいが、果たして何が出来るやら。アーガマだったら笑ってやるよ。
そうそう、ハイメガ粒子砲が天馬級の正式装備になることになった。紅蓮のお義父さん曰く、「そっちばっかりずるいぞ!」との事。それを帰ってきた神野中将やらにも知られてしまい、結果、全艦標準装備とすることになったとか。今は佐世保と呉、横須賀でそれぞれ改造中だ。
その他の衛士の皆さんはというと、ロンド・ベルが死ぬ気で取ってきたハイヴ攻略データ。その名もアンバールデータとボパールデータが大好評で、戦艦用のシミュレーターまで設置された上で訓練に励んでいる。実家に帰るとかすればよかったろうに、一番目立っていたのは徴兵年令に達していない子どもたちだというのだから、悔しくて仕方なかったのだろうな。
キリコがフィアナと一緒に帰ってきた。表面上はむっつりしているが、内心デレデレなのはお見通しだぞ!
「で、式はいつにするんだ?」
「まだ予定はない」
今は二人一緒が幸せだからそれ以上は考えつかんだろうが、掴んだ手は離すなよ~。
次に鹿島優中尉・・・いや、大尉になったのだったな。とにかく、彼とも面談した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「せめて一言喋ってくれ」
無口だとは聞いていたが、無口どころじゃすまないだろう。
「報告は聞いている。俺に何か言いたいことでもあるんじゃないのか」
「そうだ。蒼いジムについてだ」
「いい出来だっただろう。リミッターを解除したら更にスペックアップ。そのままでも高い性能のジムブルーデスティニー。なんか不満でもあったか?」
「なぜ、あれを俺に送った。俺と面識はなかったはずだ」
「ないよ。ただまあ、運命だな」
そう答えて鹿島大尉の方に向き直る。ちなみに、今も膝枕をしてもらっているぞ。
「それよりも、だ。その後ろに隠れている子は誰?」
「この子の相談もあった。マリオン」
優の後ろに隠れていた少女が姿を見せる。髪の毛は蒼いショート。目は赤く肌の色は病的なまでに白い。マリオン・ウェルチかよ。
「鹿島大尉の年齢でその年の子は犯罪だと思いますが」
「何の話をしている。この子の国籍を用意してくれ」
「・・・・・・東ドイツかロシアじゃないのか?」
「マリオンに戸籍はない」
「あ、あの、私は孤児で、東ドイツで育てられたのです」
流石に無口すぎる鹿島中尉に、マリオンからフォローが入る。
簡単に説明すると、彼女の名前はやはりというべきかマリオン・ウェルチ。東ドイツのシュタージで少年兵として育てられたらしい。
ただ、彼女はその環境に馴染むことが出来ず、衛士不適合の烙印まで押された出来損ないだったとか。
それでも処分されなかったのは本当に運がいい。工作員として育てられているさなかに、革命、すなわちシュヴァルツェスマーケン本編が始まり、日本へのスパイとして送り込まれたところを鹿島大尉に出会ったとか。
以降はすっかり彼に懐いてしまい、工作員としては全く役に立たずなって流石に処分されそうになったところを保護されたらしい。
どういう風に保護したのかは具体的には聞かないが、部隊の一部を勝手に動かし、工作員として育てられていた少年少女たちを救ったとか。
結果的に、この工作員養成所をぶっ潰したことでハインツ・アクスマンの手駒の大部分を削減。現役で動いていた工作員たちもソルテッカマン部隊に確保され、現在は更生に向けて活動中とのこと。
「随分と大人しく話を聞いてやがるな。大丈夫なのか?」
「それだけガンダムのインパクトが凄かったということだ。何だ、あの化け物じみた性能は」
「神野中将のわがままに答えた結果です」
「今ではガンダムを神と崇める者までいるぐらいだ」
これが中東だったら、ソラン・イブラヒムくん改め、刹那・F・セイエイが爆誕する結果になるだろうな。作っとくか、エクシア。
「まあ、大体のことは分かった。マリオンとフィアナさんの国籍はなんとかしよう」
「フィアナもか?」
「どうせ手放すつもりなんてないんだろ?だったら、日本国籍をとっといてやるよ。そうすれば後々の面倒は避けられるし」
「助かる」
「その代わり、絶対に手放すなよ。死んだ人間といなくなった人間は、流石に俺もどうしようもないからな」
「無論だ」
「キリコ・・・」
「フィアナ・・・」
さて、焔ちゃんのお膝の感触を楽しむのもここまでか。俺はゆっくりと起き上がると、早速電話に向かった。こういう時に頼りになるのは大人の力、政治の力ってな。
さて、最近大車輪だった俺だが、戦術機以外にも手を出した。それは、食糧問題だ。
榊総理から、アメリカが食料を盾に俺の引き渡しを要求してきていると聞いて、本格的な自重を止めた。自重してたのかって?してたんだよ。
俺が戦術機産業を牛耳る以上、後方関係には手を出さないで放っておこうと思ったんだよ。甘かった。本気でアメリカを破産させる必要があるみたいだな。
まず問題となっているのは合成食品の類。これが不味い!不味いのだが、俺だけじゃないからと我慢していたが、流石にもう我慢する必要はない。これについては味に大幅な改良を加えて、より食べやすい味にした。勿論、俺は料理についてはド素人だから、生産手法を開示した上で、プロの料理人とかに協力を依頼した。
結果、天然モノには流石に劣るが、あの食べただけで吐き出しそうになる不味いレーションは卒業した。やっぱり食事はちゃんと味を楽しめてこそだよな。
そして、天然物食材にも手を加えた。多分見たことはあるだろう、野菜生産の一大プラント。人工の光を当てて野菜を育てるミニプラントキットを見たことはあるだろうか?あれのでっかい版を作った。近くの倉庫をまるっと買い取って、そこを野菜の製造プラントに作り変えた。勿論、そこは俺の頭脳チートで作った、人体に影響はないけどやたらと発育の良くなるお薬の出番だ。
結果、天然物の野菜より多少味は落ちるものの、早くたくさん育つ野菜工場が完成した。順次生産予定だ。
さて、ここまでやったからにはもう容赦はしない。医薬品も完全に自国生産するつもりだ。こっちのプラントも既に出来上がっている。
さーて、破産させるまで頑張っちゃうぞー。
結果、アメリカからものすごい量の抗議文が届いているらしいが、こちらから送り返した文面は以下のとおりだ。
「後方国家として食料面でも貢献できるように努力した結果ですが何か?」
これ、製造プラントを前線国家とかに送るともっと面白そうな結果になったりしないかな?かな?
まあ、その辺のさじ加減は榊総理に丸投げしてある。あの人なら上手いこと調整してくれるだろう。生きるか死ぬかのギリギリ、真綿で首を絞めるかのごとく。
そして、アメリカといったらもう一人忘れてはいけない。
篁大尉とその隠し子だ。篁大尉、極秘にアメリカに渡りたいって言うから榊総理にお願いして色々と手はずを整えた結果、ユウヤ・ブリッジスくんを連れて帰ってきた。
いや、待て。なんでだ?
まあ、理由はすぐに分かった。前カノ、ミラ・ブリッジスさんの死に立ち会ったらしい。今際の際に思い続けた相手が来てくれたことで大層喜んだミラさん。遺言として篁大尉にユウヤくんを預けると言ったそうだ。
勿論、そんな勝手なんぞ通じるはずはないのだが、そこは日本が誇る情報省外務2課が頑張ったそうだ。そのメンバーの中に鎧衣左近氏がいたらしく、篁大尉は帰ってからえらく気疲れしたようだった。
さて、篁家の修羅場劇場はここからだ。隠し子がいたことが栴納さんにバッチリバレた、と言うか、土下座でバラしたらしい篁大尉はなんとかユウヤくんを篁家で育てることに決めたそうだ。が、まず、ユウヤくんの当たりが厳しい。当たり前っちゃあ当たり前だ。栴納さんの目が冷たい。これも当然。そしてトドメは唯依ちゃんの「お父様、最低です」の一言でノックダウン。家庭内での地位は最下位になったそうだ。
まあ、それでもユウヤくんは優しい栴納さんと、何よりもお兄ちゃんが出来て大はしゃぎの唯依ちゃんに囲まれて幸せな家庭で育つことになりそうだ。
一番は唯依ちゃんのウルウル攻撃だったそうだが、それを仕込んだのは俺じゃなくて焔ちゃんだからな。涙は女の最終兵器と言うが、それは兄妹でも有効だったようだ。
ちなみに、ユウヤくんはこのままブリッジス姓のままで生きていくことを決めたらしい。ミラさんのことを、アメリカ人であった自分のことを忘れたくないらしい。
そんな中、まず地下工廠で作っていた俺の趣味の機体が完成した。
何が出来たかって?ガーランドだ。メガゾーン23って知ってるか?スパロボでは一回出たっきりのマイナーな機体だから、最近の子は知らないと思うが、まあ、分かりやすく言うとロボットに変形するバイクだ。それを作った。俺も何かに乗ってみたくてな。
と言っても、俺の腕前では大した脅威にはならないだろう。スパロボDでは回避の鬼だったんだけどな。
「拓哉様も前線に出られるのですか?」
うちの庭でガーランドを乗り回して遊んでいたら、焔ちゃんにそんなことを聞かれた。
「いや、出ない。つーか、出られない」
この理由はいたって単純だ。つまり、帝国で最も頭脳で貢献している俺を失うような結果になったら大変だからだ。
一応、俺は衛士適性試験を旧制度で突破している。旧制度というのは、ジム以前の撃震とか瑞鶴のコクピットシステムでだ。だから意外なことだが俺は戦術機に乗れる。
そもそも、アムロが来るまではガンダムのシミュレーションは俺がやっていたんだ。ただ、そこはやはり才能かな。戦術機の操縦は平凡と言うしかなかった俺は、あっさりと降ろされる結果になったのだ。
さて、ガーランドだ。これ、売れるんじゃないかと思っていたりする。ソルテッカマンに続いて小型の機体ばかり作って、流石に怒られないかとも思っているが、そこはそれ。バイクの運転さえできれば、後は脳波のサポート込みで操縦できるのがガーランドだ。衛士適性はスコープドッグ以下だ。
さて、どうなるかな?
結論。売れた。
いや、マジで。
バイクに乗れるなら操縦できるというのが受けたらしい。街中をバイク形態で走らせて、有事の際には即座に変形して戦うことが出来るというのが美味しいらしい。後、なにげにビーム兵器装備だし。
その結果、基地内ではソルテッカマン。市街地ではガーランド。戦場ではスコープドッグという住み分けが決まった。
まあ、ガーランドもソルテッカマンも前線で戦えるけど。
そんなふうにのんびりとした日常に、ついにやってきた。
再び前線に立つ日が。
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28・勝ちに行くなら一直線
さて、一通りの休暇を満喫した俺達は、再結集していた。
そう、オリジナルハイヴの攻略戦に参加するためだ。なぜこんな事になったかというと、国連からマシュハドハイヴ攻略作戦に参加する命令が来たからだ。そう、命令だ。
皇帝陛下や政威大将軍殿下に対して上から目線での命令に、帝国中の人が怒りに震えた。ましてや、つい先日まで最前線にいた俺達を使い潰さんとするやり方に、激しい怒号が飛び交った。この時ばかりはマスコミ各社が右も左もなく、『我らは使い走りの小僧ではない』『帝国の英雄は貴様らのものではない』などなど、激しく書き立てたものだ。
さて、ここであれ?と思うだろう。命令はマシュハドハイヴ攻略なのに、なぜオリジナルハイヴを目指すのか。その答えは簡単だ。小間使いよろしくちまちま命令を出されるぐらいなら、敵の本丸を一気に落としきってしまおうというものだ。その道程にあるマシュハドハイヴと重慶ハイヴをついでに落としていくだけで。
帝国の生産力を一気に戦術機の方に傾けた。結果、ロンド・ベルで使うジムをジム・カスタムにコンバート。表向きは斯衛軍からの機体の貸与ということになっているが、実は新品で作った機体だ。そして、斯衛軍の一部上級士族には、第四世代機の量産型、ネモを提供した。生産ラインが確立しないことも相まって、本当に少数しか作れなかったんだ。
残念ながら、スーパーロボットの方は間に合わなかったが、兜の爺様から少し遅れて作戦に参加する旨が届いている。
まさかグレートマジンガーか?前に見に行った時には影も形もなかったけど、何処かでこっそり作っていたのか?俺、戦闘のプロにまだ会ってないんだけど。いるよな?
俺はアムロの機体、ガンダムMk-Ⅱをいじりながらこれからのことに頭を悩ませる。アムロのニュータイプ能力が思った以上に育っている。雰囲気が少し大人びてきていて、正直同じレベルに合わせるのに少し苦労する。
逆に安心したのは甲児とボスで、くろがね屋での日々に、しっかりと体を鍛えてきたらしい。それはゲッターチームも同じで、実家で体を休めていただけではなく、新しいゲッターロボGに慣れる訓練を積んでいたと言う。
「で、どうよ?」
「悪くない反応だ。僕の動きにもついてきてくれる」
贅沢な反応だぜ。日本にある戦術機カテゴリーの中では間違いなく最強に分類されるのが、アムロのガンダムMk-Ⅱだ。それでようやく満足っていう所が特に。
ちなみに、アムロが元々乗っていたガンダムは士郎さんに乗ってもらうことになった。その際に外観を少しいじってEz-8風にアレンジした。気に入ったのか、さっきから演習場で機体を動かしている。
ここはロンド・ベルの専用基地だ。今回までの功績によって、皇太子殿下の名前でわざわざ作ってくださったものだ。
天馬級を最大6隻収容できる大型の母港に、大隊規模が全力演習してもまだ余りある演習場。シミュレーターは全て最新式だ。
それ以外の設備も整っていて、独身の衛士などは実家よりも居心地がいいと言っているほどだ。
あんたらが実家の居心地が悪いのは、いつまでたっても結婚しないからだからな。
「それで、今回の作戦は日本・・・いや、ロンド・ベルだけでやるのか?」
「流石にそれはねえよ。天馬級勢揃いで、斯衛軍と帝国軍、国連の第11軍が協力してくれるらしい」
「国連軍が?」
「ちょっとあんまりおおっぴらには言えないんだけどな、極秘の計画があるんだよ。それを今度は日本主導でやっていくのに、いい印象を持たせたいんだろうよ」
名前はまだ出ていないが、おそらくこの後ろには香月夕呼がいる。第三計画実働部隊は、アンバールハイヴ攻略戦で潰えた。もうこれ以上ないぐらいにボロボロだ。今頃、国連上層部は大慌てになっているだろう。
原作通りに進むならば、オルタネイティヴ4は日本主導で行うはずだ。もうその動きはあるのだろうか?正直、関わりたくないから情報も意図的に集めなかったのだが、これはちょっと下手うったかな?
正式にオルタネイティヴ4が始まったと言えないから、あんまり大っぴらには言えないのだが、違っていたら違っていたでその時だ。だが、香月夕呼は動く。あの女が自分をコケにした相手を放置するとは思えない。
しかし個人的に言わせてもらえば、オルタネイティヴ計画は必要ない。俺が原作知識を持っているから。だからこそ、今回は無謀とも言える作戦を立案した。それがマシュハドハイヴ、重慶ハイヴの同時攻略作戦で、その後にオリジナルハイヴ。カシュガルに攻め込んで叩き潰すことだ。これでハイヴ攻略に余力が出る。BETAのこちらの戦力に対する対応も、まず間違いなく停止するだろう。
「さて、どう出るかな」
俺は機体をいじりながらそうつぶやいた。
さて、出発の時がやってきた。俺は彩峰司令とともにブリッジでその時を待つ。
今回の作戦は二正面作戦だ。普通なら無謀というところだが、思いがけないところから救援が届くことになった。マシュハドハイヴ方面にはラダビノッド司令が率いる大東亜連合軍が。そして、重慶ハイヴ方面にはソ連軍がそれぞれ救援としてくることとなった。
大東亜連合軍はともかく、ソ連軍は意外だと思うだろ?ところがそうでもない。ソ連は国内にハイヴを抱える前線国家だ。当然ながらジムとスコープドッグを供給させてもらった。その結果、というわけではないだろうが、予想外の援軍が到着することになった。こちらにはアントン大尉とソフィア中尉が、マインドシーカー改で参戦することになっているそうだ。昇進したんだな、おめでとう。
そして、もう一つ意外なところから援軍が来ることになった。ドイツだ。どうやら思っていた以上の速度でドイツの統一が進んだらしく、そこからフッケバイン大隊と第666戦術機中隊が援軍として送られるとか。
いや、マジでドイツ統一完了したの?早いだろ?
ちなみに、後で知ることになったのだが、これもテオドールを中心とした恋の鞘当てが激化した結果らしい。ドイツ統一計画の要人となったカティアが、自身の護衛として半ば強引にテオドールを連れ去ったらしい。っておい。んで、他のメンバーは連れ去られてなるものかとカティアの護衛に中隊総出で参戦。そうなると仕事が忙しいカティアは、テオドールとイチャコラできなくなる。で、自分がフリーになる時間を作るために頑張ったそうだ。うん、頑張ったそうだ。結果、ドイツ統一が早まったらしい。どうなってるんだ、あの国は。そして、テオドールは女性陣に振り回されて日々ぼろぼろになって生きているらしい。とりあえず、俺が言えることではないが一言、全男を代表していっておこう。爆発しろと。
まあ、そんなこんなで援軍はかなりの数が来ることになった。
イメージとしてはロンド・ベルの第一、第二部隊と国連軍がマシュハドハイヴ方面に。その際に大東亜連合軍とドイツからの援軍と合流し、一気に攻め上がる。それとほぼ同時にロンド・ベルの第三部隊と、帝国軍、斯衛軍の連合軍。並びにソ連軍が重慶ハイヴに攻め込む。両ハイヴを攻略後に、戦力を整え、一気にオリジナルハイヴを落とすというのが今回の作戦だ。
できればマンダレーハイヴとドゥンファンハイヴも落としておきたいところだが、未だに意志の統一ができていない人類にそれは難しい。だからこそ、直線距離と直近の一番脅威となるハイヴだけ落として、一気に攻め上がる方法を取ることになったのだ。
「戦いの時は来た!総員、配置につけ!!」
彩峰司令の檄に、さっきまでの若干緩んだ空気が一気になくなり、それぞれの配置につく。
「拓哉くんはここにいるのかね?」
「戦闘が始まったらどこにも居場所はありませんて。俺は特等席でゆっくりさせてもらいますよ」
「有事の際には知恵を借りるよ」
「それぐらいはいくらでも」
俺が手をハイタッチの要領で出すと、察したのか彩峰司令がパチンッと合わせる。年は親子ぐらいに離れているが、俺達はもはや戦友だ。だったらやることは決まっている。
「司令、全艦に発進命令を」
「うむ。全艦発進!目標!マシュハドハイヴ、並びに重慶ハイヴ!!」
日本からは天馬級が4隻。天龍型が2隻。後継艦の長良型、球磨型、川内型がそれぞれに分かれていく。そして補給艦の間宮と伊良湖がそれぞれに付いていくことになる。
ここしばらくの日本は大車輪で動いた。戦術機、AT、ソルテッカマン、ガーランド。そしてそれらに伴うオプション兵器と、企業が今までの恩讐を超えて協力し合う姿のなんと美しいことか。
造船所も一緒だった。天馬級の改修と修理が済むと同時に小型艦の建造が始まった。その建造手順は鮮やかと言っても過言ではなかった。見る間に水陸両用鑑が組み上がっていくのだから。
そうこうしている内に、大艦隊を擁するようになったのだ。
作戦自体は単純極まるものだ。仲間はいくらでもいる。さあBETA共。ちょっとしたチートを思い知らせてやろうか。
連続更新はひとまずここまでです。
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29・考えすぎるのか、考えが足りないのか?
マシュハドハイヴに俺たちが当てられたのは至って単純な理由だ。
世界で初のハイヴブレイカー。それも二つ。機体の損耗こそ出したものの、人的被害は出さなかったことが評価されている。
その為、指揮権の移譲はすぐに済んだ。ラダビノッド司令と再会した俺達は、つかの間の休息を楽しむ。
まあ、楽しむっていうか、子どものお守りがな。
「アムロ!!なんで何も言わずに帰ったんだよ!!」
アムロの胸ぐらにしがみついて、必死に揺すっているのはタリサだ。そう言えば、前回の時は俺達のことだけで一杯一杯で子どもたちに何の挨拶もなしに帰ったよな。武蔵のこともあったし。
ああそうそう。武蔵だが、ホワイトベースに乗っている。名目上は武術顧問という形で。弁慶に大雪山おろしを教えるつもりなのだとか。時々ドッシンドッシンと派手な音がしているのはそのせいです。
「色々あったんだよ。それより、服が伸びるから降りてくれ」
「むー!分かった、ガンダムに乗せるので勘弁してやる!」
「それは流石に「別にいいぞ」拓哉!?」
「操縦させるのは論外だが、膝にでも乗っけてそこらを飛んでこい。お嬢ちゃん、中ではアムロの言うことをちゃんと聞くんだぞ?」
「おう、まかしとけ!」
「いいのか、こんなことに使って?」
「大丈夫。俺が許可出したことにしとくから」
俺はすぐさま内線電話を取って彩峰司令から許可を取り付ける。あっさりと降りた許可はすぐに伝える。
「というわけだ。行ってこい」
「分かったよ。ほら、タリサ」
「やった~!ありがとな、拓哉!」
アムロは子どもサイズの衛士強化装備を探し出すと、それをタリサに身に着けさせた。まあこうなるだろうと思っていたから用意しておいたんだけどな。
さて、オオトリ装備のガンダムMk-Ⅱが飛んで行くのを見送って、俺は再び自分の仕事に入った。
平和は、今の内だけだぞ。
およそ一時間の遊覧飛行に、タリサお嬢さんはすっかりご満悦なのか、衛士強化服のままで友達に自慢している。
羨ましそうにアムロと俺の方を見る子どもたち。だが残念、もう時間だぜ。
館内放送で俺とアムロが呼び出される。近いな。
「シゲさん!Mk-Ⅱの整備をお願い!」
「あいよ!行ってきな!」
シゲさんの声に押されて俺たちは飛び出していく。
俺達がブリッジにたどり着いた時には全員揃っていた。
「遅くなりました」
「いや、構わないよ。まだ余裕はある」
ブリッジに集められたのは、俺とアムロ、士郎さん、甲児、ボス。リョウ、隼人、武蔵、弁慶だ。それ以外のメンツとしては各部隊の中隊長以上のクラスの人達が揃っている。
そしてモニターの向こうでは神野中将とその側近が数名。そして、鹿島大尉とキリコ准尉の姿が見えた。
別のモニターには大東亜連合軍の衛士たちが映し出されている。その中央にはラダビノッド司令と、レナード少佐、メリッサ中尉と言った良く見知った顔が移っていた。
更にもう一つのモニターには国連軍の指揮官が映っていた。知らない人だな。
そして、問題の5つめのモニターでは。
テオドールの腕を取ってご満悦のカティア。反対側の腕を取って幸せそうなファム姉さん。そしてその後ろで目線だけで人が殺せそうな女性陣と、それをガン無視でヴァルターと恋人繋ぎしているシルヴィアさん。
生で見ると破壊力すげーわ―。このラブの波動が画面越しに伝わってくるのが。
よし、見なかったことにしよう。
全員同じことを考えたのか、彩峰司令の方に視線を向ける。
「さて、それでは作戦の概要を説明しよう」
流すことに決めたようだ。まあ、無難だな。
「とはいえ、説明することはほとんどない。いつも通りに正面から突破して内部に突入する。それだけだ」
「なっ!?そんな狂気じみたことをしているのか!?」
驚きの声を上げるのは、アイリスディーナだ。さすがはあの曲者ぞろいの部隊を束ねるだけあって、話はしっかりと聞いていたらしい。
いや、全員が一応話を聞いていたのだが。特にドイツ陣営は驚きの表情を隠せていない。
「いつもの事だぜ。真っすぐ行ってぶん殴る。これはロンド・ベルの伝統だな」
「嫌な伝統もあったがな」
うるさい、隼人。
「今回はいつもより人が多い。その上、水陸両用艦の火力も当てに出来る。そういう意味では、少しは楽をできるかもしれんぞ」
「楽って、こんな無茶苦茶なものが作戦なのかよ!」
「はっはっはっ!それがロンド・ベルの流儀だよ。なに。慣れれば存外、悪くはない」
「これが世界最強の部隊のやり方・・・」
「世界最強って、今そんな評価なのか?」
「ほとんど単独でハイヴを落としているのよ。そういう評価にもなるわ」
そう言えば、突入部隊はほぼロンド・ベルだけだったような。それに、戦死者を出していなかったな。
機体の損壊はあっても、戦死者は無しってのは結構広まっているからな。
「それでは司令。作戦の目標をどうぞ」
「うむ。みんな死なないように。特にエーベルバッハ少尉」
「俺だけ名指し!?」
「それは勿論。そこにいる見目麗しき女性陣を全員未亡人にするつもりかね?」
「まだ誰とも結婚してねー!!」
「お兄ちゃん、相手は中将閣下よ!」
「うぐっ!」
いじる相手がいるってのは便利だよなー。こっちに矛先が向かないだけで、平和なものだ。
「拓哉くんは何かないかね?」
「強いて言えば、そこのリア充」
「リア充って何だよ」
「重婚するなら日本へ」
むせた。俺の一言で辺り構わずむせた。
いやー、実は日本国内ではまだ深刻ではないのだが、これからロンド・ベルとして戦っていく内に、衛士の死者が出てくることが予想されていた。
「という訳で、日本に帰化した上で、重婚済ませろ」
「そ、そんな素敵な法律が日本に!?」
「ロンド・ベルが大ダメージを負うことを前提で作っていた法律だからな」
ところが、ロンド・ベルは多少の負傷者こそ出したものの、死亡者ゼロで帰還。完全な死に法律になったのである。
俺は焔ちゃんに首ったけだし、アムロはどうも同年代の女の子が苦手みたいだし、甲児にはさやかさんがいて、隼人にはみちるさんがいる。士郎さんは相手いないし、武蔵とボス、弁慶はかわいそうになるぐらいモテない。逆にモテすぎるのがリョウだったりする。とはいえ、リョウ自身は脅威の鈍感スキルの持ち主だから、その法律が適応される心配はなさそうだ。
それじゃあ一般隊員はどうなのかと言えば、実は8割ぐらいが既婚者だったりする。普通に考えれば分かってくれるだろうが、ロンド・ベルの他の一般隊員とかはみんな成人している。奥さんや旦那さん、子供がいる人が普通なのだ。
結婚していない隊員でも、恋人や婚約者がいたりする。
「という訳で、日本はいつでもウェルカムだ」
「そんな勧誘があるかー!!!」
分かりやすくていいと思ったのだがな。ま、それはさておき。
「変な緊張は取れただろう?」
「緊張以外は増えたけどな・・・」
贅沢なやつだ。あんな美人に囲まれて。
その美人さんたちはテオドールの後ろで何やら話し合っている。どうやら本気で日本に移住するかを考えているようだな。
俺の知っているシュヴァルツェスマーケンはどこにもないようだ。
まあ、平和ならそれでいいか。余計な敵も減ったことだし。
出撃すると余計な緊張がなくなるのは、徐々に日常から切り離されているからではないだろうかとアムロは思う。
ガンダムに乗る度に、アムロの感覚は研ぎ澄まされていった。これがニュータイプというものかという思いがよぎる。
ニュータイプ。その言葉にアムロはまだ実感がない。少なくとも、自分に新しい人類などという言葉はあまりにも重すぎた。だからこそ、拓哉の言う勘のいいただの人間という言葉を今は信じている。
『そろそろ作戦領域だ。気を抜くなよ』
篁の声に、意識を戦場に戻す。ニュータイプがどうとかは戦闘の後でもゆっくりと考えることが出来る。アムロは操縦桿を前に押し込んだ。
戦場での戦術機の役割というのは、早々変わるものではない。だが、スコープドッグ、いや、ATの登場によって戦場が様変わりしたことは否めない。
ATは戦車級BETAより少し大きいぐらいだ。それでいてローラーダッシュの素早い機動で戦車級を屠っていき、時には要撃級や突撃級といった大型のBETAも屠っていく。
その中で一線を画した機動をするのはこの男、キリコ・キュービィーだと誰もが言うであろう。メインの標的である戦車級を確実に的確に屠っていく。
この男、本来ならAT部隊の隊長を任されてもおかしくないだけの実力を持っていながら、単独での行動をしている。その理由も単純だ。無口がすぎる。言葉が少なすぎてまともについてくることの出来る衛士が一人しかいないのだ。その衛士こそが、ファンタム・レディの二つ名で呼ばれた女性、フィアナである。
比翼連理。それはまさに二人のためにある言葉と言ってもいいだろう。お互いがお互いを補い合い、敵を屠っていく様は芸術的とすら言えた。だからこそ、AT部隊の隊長は二人に簡単な指示だけを出して後は放置しているのだ。同時に、自分にはあの二人を指揮することは出来ないと思っている。
そして、その二人と同じく単独での作戦行動をしているのが、ドイツでの戦いで戦果を残した男。鹿島優大尉だ。シュタージの衛士からは蒼き死神と恐れられ、新塚拓哉博士から独自のコンセプトを持つジムを送られた男。
いや、あのジムがあったからこそ戦果と言うべきなのだろうか。それでもあれほど無茶な機動をする機体を、普通の人間は乗ろうなどとは思わない。あの加速力は並の衛士では扱いきれないだろう。
以前の戦術機に比べれば、最近の戦術機は圧倒的に乗りやすい。それもリニアシートという、新しいコクピットシステムを採用してからだ。モニターが見やすくなったのもあるが、一番恩恵があるのはコレだろう。事実、戦車隊から戦術機隊に転属してきたものも少なからずいる。
それでも、あのブルーデスティニーという機体だけは異常だ。更にリミッターを解除することで、より振り切れた加速をする。いくら専用機が羨ましいからとは言え、あんな機体が羨ましいとは誰も思っていないのだ。
今回の戦いでも駆り出された縁の下の力持ち、ガンタンク部隊は実にいい仕事をしている。
古参の戦車隊員。それも、高齢のものほどそのまま戦車隊に残って奮戦している。それは彼らが戦場での戦車隊の役目を分かっているからだ。
240mmキャノンから放たれる大火力は突撃級すら正面から吹き飛ばし、時には要塞級をも屠る。近づかれたら最後と言われた戦車の時代は終わった。近づいてきた相手には、両腕の120mmが容赦なく火を吹き消し飛ばす。
戦場は本当に多彩になった。かつての戦場は戦車と戦術機だけだった。そして、圧倒的な物量に押しつぶされるだけだった。だがそれも終りを迎えつつある。
BETA。それが何であるのかは結局わからないまま、それらとの戦いの終わりに希望を見出していた。
「主砲!光線級を重点的にねらえ!撃てー!!」
彩峰の指示によって放たれたメガ粒子砲は、後方からレーザーを撃ってきた光線級をその周囲もろともに消し飛ばす。
艦体でダメージを受け止めてその方向に打ち返すなどという無茶なやり方は、ラミネート装甲の特性とその分厚さがあるから出来ることだ。
彩峰は次から次へと目まぐるしく動く戦場に、的確な指揮を執る。
最初は不満があった。彩峰は今でこそ戦艦の艦長と艦隊司令をしているが、そもそもは戦術機の衛士であった。だが、政威大将軍殿下からの命令である。断ることなど出来るはずもない。
そうして向かった先は、ごく普通の武家屋敷。聞けば白の武家の家だと言う。なぜこんなところにと思った彩峰は表札を見てすぐに思い直した。新塚と書かれたその家は、本当にごく普通の武家の家だった。だが、その家の奥方に案内された先には奇跡の光景が広がっていた。
広大な地下空間。その先で建造されている見たこともない戦術機。そして、更に奥に隠されていた巨大な戦艦。そのブリッジでは一人の少年が待ち構えていた。
ドンッ!!
我に返る彩峰。
「左舷!弾幕薄いぞ!何やってんの!!」
「損傷は軽微!まだ行けます!」
「当たり前だ!天馬級だぞ!すぐに撃ち返せ!」
かつては戦場で、出会えば最後とまで言われた重光線級のレーザーでさえこの程度のダメージだ。光線級吶喊。レーザーヤークトはもはや時代遅れのものになりつつあった。
「よし、敵が集まってきたな。神野中将につなげ!」
『もう繋いでおるぞ、彩峰よ』
「閣下。船速を合わせてください。ハイメガ粒子砲で一掃します」
『うむ。聞こえたな!タイミングは彩峰の艦と合わせよ!』
「これよりハイメガ粒子砲を発射する。前線の機体に退避勧告を行え」
「はい!全機に通達します、これより本艦隊はハイメガ粒子砲を並行斉射します、射線上にいる機体はすぐに退避してください!」
「ハイメガ粒子砲。充填率80%を突破!」
彩峰は戦術機を降りたことに少なからずの不満があった。
だが、この楽しみだけは誰にも渡すつもりはない。
「全機、退避完了です!」
「エネルギー充填120%、行けます!!」
「よし、閣下!行きます!」
『うむ。任せる』
「ハイメガ粒子砲、発射ー!!」
天馬級二艦から放たれる圧倒的な光は、無数と言ってもいいほどにいたBETAたちを飲み込み、その奥にあった今までよりもさらなる威容を誇っていたハイヴ地表構造物を消し飛ばした。
『すごい・・・あんなのがドイツで使われたら・・・』
『統一どころじゃなかったですよ!』
市街地戦でハイメガ粒子砲など、狂気の沙汰としか言いようがない。そういう意味では、あの当時搭載されていなかったのは運が良かったと思っている。
「よし、全機帰投せよ。衛士は休息に入れ」
その命令だけを出して、彩峰はキャプテンシートにどっかりと腰を下ろす。
「ふぅー」
「お疲れ様、彩峰司令」
そう言って、ヒョイッと目の前にコップを出したのは、戦闘中にも余裕の表情だった少年博士だ。
本当に、彼は敗北など微塵も信じていないのだろう。
眼下の映像はホワイトベースを守るように展開された水陸両用艦が、残ったBETAを刈り取っているさまが映し出されていた。
「変われば変わるものだな。今やBETAが脅威と思えぬとは。」
「その認識、止めといたほうがいいですよ。将の油断は軍の敗北。奴らはいつだって脅威です」
「うむ。たしかにそうだな。これが慢心というものか・・・」
自分にはないものだと思っていた彩峰は、気を引き締めなおして戦場に目を移すのだった。
だからこそ、徹底的に一匹も逃さないようにしているんだけどな。
ここまでリフレクターのたぐいを作ってこなかったってことは、反映がうまく行っていないのだろうな。
いや、むしろ俺がリフレクターを作っておいたほうがいいか?ディストーションフィールドで防ぐか、陽電子リフレクターを用意するか、どちらかを考えておいたほうがいいかもしれない。
しかし、この漫然とした不安は何だ?未だに脱落者はなく、これ以上無いぐらい順調に進んでいる。そのはずなのに、この手のひらで踊らされている感覚は何だ。順調すぎる。このままでは普通に甲2号ハイヴを攻略して、オリジナルハイヴを攻め落としてしまうぞ。
「重慶ハイヴ攻略中の艦隊より通信です。これよりハイヴに突入する。そちらも奮戦されたし」
「そうか。いや、当然だな。紅蓮中将がおられるのだからな」
俺はたしかに戦力を拡充した。だが、それだけの問題か?俺の気にし過ぎか?
「どうかしたかね?」
考え込んでいる俺に、彩峰司令が話しかける。
「いえ、ちょっと違和感を。難易度ゆるすぎないかって」
「君のシミュレーターが厳しすぎると思うのだが」
「違いますよ。まるで、誘い込まれているような感じがするんです」
俺がマブラヴという物語を知っているからこそなのか、それとは別の違和感なのか。だからこそ、最初の分水嶺となるのはここだ。マシュハドハイヴで何事もなければ、問題が出るのは多分、オリジナルハイヴ。カシュガルだ。
「考えすぎだと思うのだが」
「だと、いいですね。司令。司令の名前で油断しないように警告を出しておいてください」
俺は席から立ち上がると、すぐに自分の部屋に向かった。
今は余計なことを考えたくない。部屋で焔ちゃんに癒やされるのが俺の仕事だ。
「とりあえず、俺は部屋に帰ってますんで」
「無理はしないようにな」
今は無性に焔ちゃんに会いたい。
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30・マシュハドハイヴ攻略戦
自室でのんびりと焔ちゃんの膝枕。
考え過ぎで済んだら僥倖。だが嫌な予感だけは頭から離れない。だからこそ俺は、焔ちゃんのフニフニで柔らかくて暖かくていい匂いのする膝で、とりあえず嫌な考えは追い出す。
「どうかなさいましたか、拓哉様」
「ちょっと、ね」
もうすぐアムロたちがハイヴに突入する。毎度ながらこの感覚は好きになれない。万が一にも帰って来ない可能性がある。それだけでこうも心がざわめくのは、きっと俺がハイヴに突入できないからだ。戦術機に乗れないだけで、こうも気をもむことになるのなら、俺は神様に戦術機の才能ももらっておくべきだった。いや、努力をするべきだったのかもしれない。自分は開発しか出来ないからと言い訳をして、ここまで来てしまったのだ。俺に出来るのは、ホワイトベースのブリッジで戦いの結果を待つだけだ。
ゴロンと転がって焔ちゃんの膝に顔を埋める。焔ちゃんは数少ない、俺の弱い部分を見せている人だ。きっと、何を要求しても俺のすべてを受け入れてくれるだろう。だが、それをする訳にはいかない。少なくとも、このオリジナルハイヴにつながる全ての戦いが終わるまでは。
焔ちゃんの暖かくやわらかい手が、そっと俺の頭を撫でる。幼いころに母上にしてもらったのとはまた違う感触に、俺は眠りの中に落ちていった。
「拓哉くんは寝たかね?」
あれからしばらくして拓哉の部屋を訪れた彩峰は、膝枕をしたままの焔に静かな声で聞く。
「はい。少し、無理をしておられるようでしたから」
「いつも思うことだが、拓哉くんはアムロくんたちがハイヴに入ることにストレスを感じているようだったからね」
「万が一にも、アムロ様たちを失うことを、拓哉様は恐れています。それが、あのガーランドという機体に現れたのだと思います」
「趣味で作ったと言うにしては、戦闘力の高い機体だったからね。少し気になっていたのだよ」
元々は彩峰のもとに、焔から相談に行ったのだ。最初はアンバールの時に。そして、ボパールで武蔵が負傷したと知った時は、むしろ静かすぎて一種異様であった。
楽しそうに開発をすすめる拓哉に、二人は一時安堵したものだが、すぐにそれは気のせいだと知らされた。
それがアメリカからの拓哉引き渡しの要求だった。話を聞いたときの拓哉の目を、焔は一生忘れないだろう。
一瞬だけ冷たい目をしたのを、焔は見ていた。その後は一瞬だった。戦術機の開発でさえ慎重に慎重を重ねる拓哉が、食料生産にまで踏み切った。そして、瞬く間に生産プラントを作り上げた。
そして、ガーランドが完成したあの日、焔は不安を覚えた。庭で嬉しそうに乗り回している姿を見た時、もしかしたらあのまま戦いに出るのではないかと。
「拓哉様は、戦う才能は持っておられませんから」
それは、戦術機の素人である焔の眼にも明らかであった。
運動神経が鈍いわけでもない。だが、戦うための才能は、一般的な戦術機の衛士よりも無いと言っていい。
「とにかく、いまはゆっくり休ませてあげなさい。後は、こちらでやっておくから」
「おまかせいたします」
彩峰が部屋から去った後、焔はそっと拓哉の髪を撫でる。
「拓哉様、貴方はきっとなんでも出来てしまう人。だからこそ怖い。私の側からいなくならないでくださいませ。いつまでも私の拓哉様でいてくださいませ」
その目は静かな狂気の色を帯びている。
「そのためなら私、なんでもやります。拓哉様の命を狙う愚か者共を、私が葬り去って差し上げます」
その自覚のある狂気は、既に幾人もの暗殺者たちを始末していた。なぜなら、父からそれこそが自分の使命だと聞かされたから。
「日本のために、いえ、世界のために、いいえ」
そっと頬を撫でるその手の動きは、年頃の少女とは思えぬほど艶を秘めていて、そしてその瞳は
「私のために、生きてくださいませ」
深い闇を秘めていた。
ハイヴ攻略戦は、今回初挑戦となる第666中隊を始めとするドイツ人にとっては、息をつかせぬ激戦だった。
勿論、彼らとて事前に予習をしてあった。アンバールデータとボパールデータがそうだ。ガンダムは神野志虞摩に返還したテオドールだが、それでもなんとか攻略できていた。
だが、実際のハイヴ攻略戦はあまりにも違った。一瞬でも間違えれば死が待ち受ける。
そして、難易度はアンバールやボパールの遥か上を行っていた。
「これが、日本人の見てきた戦場か!!」
テオドールは交戦規定に従って、進路上に邪魔しに現れるBETAのみを排除していた。だがそれでも無数に迫りくるBETAにストレスを感じ取っていた。
『しっかりしろ、テオドール!貴様はガンダムを託されているのだぞ』
「量産型ですがね」
そう、士郎がガンダムに乗り換えたことで量産型ガンダムが1機余っていたのだ。
シグマガンダムほどの無茶な性能ではないが、それでも明らかに一線を画した性能を誇るそれに、テオドールは振り回されそうになっていた。
「ガンダムは、化物か・・・!」
その彼の視線の先では、一機のガンダムが近寄るBETAを尽く切り伏せ、撃ち抜いていた。
アムロ・レイという、カティアやリィズよりも年下の少年が乗っているそれの動きは、一種異様であるとさえいえた。
まるで未来が予測できているかのように動きは、他の戦術機と比べても一線を画していた。
「俺だってガンダムに乗っているんだぞ」
『それこそ、衛士の腕の差じゃないかしら』
「うっ・・・!」
『妬む前に腕を磨け。それがガンダムを預けられたものの宿命だ』
彼らの中で、ガンダムは特別なものだ。あの革命の中でそれは光だった。圧倒的な力と輝きは、彼らの胸に宿ったそれは、決して忘れることが出来ないものだろう。
そして今、その伝説は一人の少年の手によって体現されていた。
いや、語るべきはガンダムだけではない。まずはあの黒鉄の機体、マジンガーZ。レーザーの直撃を受けても平然として、突撃級の突撃を真っ向から受け止めてダメージを受けない頑強なボディに、それらをねじ伏せる圧倒的なパワーは、まさに魔神と言ったところだ。
そして変幻自在のゲッターロボGは今回ハイヴ攻略戦に参加した者たちを驚愕の中に叩き落とした。3機の小型戦闘機に分離し、その組み合わさり方次第で3つの形態に変わり、更にそれらが圧倒的なパワーを有する。強力なビームを放つドラゴン。目に見えぬ速度で走るライガー。大火力とパワーを持ったポセイドン。ハイヴだけではない、あらゆる戦況に適応するだろう。
「ガンダムだけじゃない。それがロンド・ベルが最強と呼ばれる所以だ」
世界最強の部隊。初めて聞いた時は眉唾だったがあれだけの激戦をくぐり抜けてきたのなら、なるほど納得だ。
「俺だってガンダムに乗っているんだ!負けていられるか!」
瞬間、機体の出力が上がったような気がした。慌てて計器類を見直すテオドールだが、そこには何の異常もない。
「ガンダム、俺を認めてくれるのか?」
ガンダムが応えたような気がしたのだ。小さく口元が緩んだ気がした。
最初は成り行きで、次は振り回されて。覚悟さえ決めればガンダムはどこまでも応えてくれる。
「お前、本当に普通の戦術機じゃないのかもな!」
放ったビームは、要塞級の中央を寸分違わず撃ち抜いていた。
『拓哉に無茶させた機体だからな。絶対に勝って帰るぞ!』
甲児の声とともに放たれたアイアンカッターは、要撃級の腕を切り飛ばし、更に放たれたもう一撃で胴体に大穴を開けて絶命させた。
『ああ!もうあんな思いはさせない!そのためにみんなで帰るんだ!』
ゲッタードラゴンの両手に持ったトマホークは近寄るBETAを快刀乱麻の勢いで切り裂いていく。
『みんな、生きるぞ!!』
Ez-8に増設された火器から放たれた弾幕は、小型種を瞬く間にミンチに変えていく。
「そうだ。戦えない拓哉の代わりに僕達はここにいる!だから!」
レーザー対艦刀で要塞級を真っ二つにする。
ここに至り、アムロたちは技量を更に向上させていた。本人たちにその自覚はないだろうが、彩峰から聞かされた、拓哉が倒れた(嘘)という情報は彼らの心を激しく揺さぶり、同時に戦意を高揚させた。
ガンダムMk-Ⅱは仄かに赤い光を放っていた。そのことに気づくものはまだ誰もいなかった。
それからは一気呵成だった。
アムロたちに遅れてなるものかとテオドールが彼らに加わり、前線はハイヴ攻略のタイムアタックをしているのかというような、異常な速度で攻略が進められていった。
場所はメインホール。多少の脱落者は出たものの死者は0という異様な戦果で、たどり着いていた。脱落したものも、他の機体に分乗させて貰う形で、この戦いに参加していた。
『全機、補給は済ませたな。これより反応炉に戦いを挑む。が、まともに相手をする必要はない。反応炉が視界に映り次第、最大火力で叩き伏せろ』
『反応炉が攻撃を仕掛けてきたのは一度きりだと聞いていますが?』
『ベルンハルト大尉、新塚博士からの金言だ。常に最悪を想定しろ。現実は斜め上を行く』
『新塚博士が・・・』
『そして、事実そうなった。私たちはボパールで大事な仲間を一人、失った』
『死んでません、武蔵は死んでませんよ!』
『重度の失明だ。衛士としては死んだのと同じだ』
その重度の失明をした衛士が平然と動き回っているのだが、そこは言わぬが花であろう。
『ゲッタードラゴンとマジンガーZによる一斉砲撃に合わせて、一気に畳み込むぞ』
『それが一番わかり易いぜ!』
『二度と過ちは犯さない!』
甲児と竜馬はやる気満々だ。共に機体のエネルギーを最大開放するためのチェックをしている。
『よし、アムロくん、士郎くん。行けるな?』
「は、はい!」
『こちらは大丈夫です』
若干上ずったアムロの声としっかりとした士郎の声が聞こえる。しかし、今はかまっている余裕はない。
カウントダウンが始まる。篁機、巌谷機が同時にメインホールの扉を撃ち抜き、一気に突入。そしてマジンガーZとゲッタードラゴンの最大火力による一斉射撃で、反応炉を完膚なきまでに破壊する。余裕があれば他の大火力を持っている戦術機も砲撃に加わる。
作戦と言うには、かなり乱暴な作戦だ。だが、これで決着が付けばそれで良し。そうでなければ更に母艦級との激戦が待ち構えている。
ロンド・ベルの面々はボパールの時のことを知っている以上、誰も気を抜いているものがいないのだ。
『よし、作戦開始!!』
篁のその声と同時に、篁の機体と巌谷の機体は門級BETAを一撃で吹き飛ばし進路を確保する。
先頭を突っ走るのはマジンガーZとゲッタードラゴン。いつでも最大火力を叩きつけるつもりで突き進んだ先には、無数のBETAとそれに守られた反応炉があった。だが、やることは変わらない、
『行くぞ!ブレストファイヤー!!!』
『ゲッタァァァビィィィム!!!』
反応炉を守るかのように立ちふさがるBETAたち。だがそれを物ともせずに二つのエネルギーは反応炉に叩きつけられる。
更にBETAがマジンガーZとゲッタードラゴンに接近するが、それはアムロのガンダムMk-Ⅱに阻まれる。
「させるか!」
ここが最後だからこそ遠慮はいらないとばかりに、フルオープンした武装が一気にBETAの群れを薙ぎ払っていく。
士郎も遅れてはいない。レールガンの代わりに持ち込んだ180mmキャノンが大型種を重点的に正面から吹き飛ばしていく。
『銃身が焼き付くまで撃ち続けてやる!!』
そして更に、少年たちに戦果のすべてを奪われてなるものかとロンド・ベルの面々が飛び込んでいき、少し遅れて666戦術機中隊とフッケバイン大隊が、殿をする形で大東亜連合軍が入ってくる。
『これがロンド・ベルの戦場かよ』
統制が取れていないようでいて、お互いがお互いを補い合うさまはいっそ理想的だといえた。
『ボサッとするな!我らもBETAの討滅に参加するぞ!』
『お、おう!』
『ここがどこであろうと我らのやることは一つ!シュヴァルツェスマーケンを食らわせてやれ!!』
『『了解!!』』
それから程なくしてだった。反応炉は粉々に破壊されたのだった。
『も、もう破壊したの!?』
『気を緩めるな!BETAは倒せるだけ倒しつくせ!!』
それは、巴武蔵に一生ものの傷を負わせてしまった指揮官の叫びだった。
拓哉なら何か治す手段を持っているかもしれない。だが、だからと言って無かったことに出来ることではない。
特にロンド・ベルの攻撃は苛烈を極めた。万が一にも撃ち漏らしがないように、徹底的に攻撃を仕掛けていた。
やがて、動くものが全ていなくなった空間で、それでもロンド・ベルの機体は警戒を緩めることはなく、ピリピリとした緊張感を漂わせている。
初めてのハイヴ攻略戦になる面々は、やり過ぎではないかと言うほどのロンド・ベルの警戒に、それでも何も言わずに従って警戒を続ける。
彼らの警戒は武蔵の事件から来ることだ。ゲッターチームや甲児、アムロにとっては身近な人間の大きな負傷が。そして、他のロンド・ベルのメンバーにとっては、年若い少年の未来を奪うほどの負傷に責任を感じているのだ。
やがて動くものが全ていなくなったことを確認した篁は、撤収の命令を出す。
『よし、マシュハドハイヴの攻略は完了した。だが、帰還するまでがハイヴ攻略だ。決して気を抜くなよ!』
『『了解!』』
拓哉がこの場にいればツッコミを入れただろう一言は、誰もが真面目に受け取っていた。
それは、否定しようのない現実として。
かくしてここに、マシュハドハイヴの攻略がなった。
だが、これはまだ前哨戦にすぎないことを誰もが知っていた。
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31・オリジナルハイヴのその前に
完全に寝てた・・・。
作戦終了を聞かされた俺は、正直穴があったら入りたい気分だった。
で、流石に申し訳ない気持ちで顔を出すと、盛大に心配された。
原因は司令。どうやら、俺が過労で倒れたと言ってくれたらしく、俺の周りに人が集まるという異常事態が。あ、はじき出された焔ちゃんの目が怖い。
「歩きまわって大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。ちょっと疲労が残っていただけだし」
焔ちゃんの太ももが気持ちよかったからなんて絶対に言えねー。
まあ、何にせよマシュハドハイヴは無事に攻略して、人員の損失は無し。地上に這い上がってきたBETAも、地上に残した戦力で全て駆逐し終えた。
ここが山場で、そして最後の休息の時間だろうな。
現在、艦隊は重慶攻略組と合流するためのポイントへ移動中。衛士は休息中だ。
さて、俺はマシュハドハイヴ内のデータを見ながら少し、いや、かなりおかしいことに気づいた。
母艦級が出てきてないな。たしかにメインホール内部での戦闘は激しいものだったが、それだけだ。篁大尉と巌谷大尉も違和感を感じ取っていた。
まさかと思うが、BETAはこちらの戦略目標に気づいている?あいつらには戦術を練る程度の知恵はある。今まで力押しをしてきたのは、その必要性がなかったからだ。そもそも、知恵がなければ光線級は生まれていない。
後は、合流したときの重慶攻略組のデータと合わせることだが、もし、そこでも母艦級の存在が確認できない場合は、奴らが取りうる手段は二つ。オリジナルハイヴとマシュハドハイヴ、重慶ハイヴにいるであろう母艦級の集中配備だ。それにプラス、超重光線級を出してくるはずだ。一応、念を見越してホワイトベースは低空飛行に入っているが、危険度はその倍を行くだろう。
そして最悪中の最悪が、ハイヴという閉鎖空間で母艦級がびっしりプラス、重頭脳級による同化攻撃だ。ハイヴ突入前に、新しいシミュレーションをやらせておいた方がいいかもしれん。
やな予感の大本はこれか。BETAのデータに戦術データを組み込んで、後は重慶組と合流した時に合同シミュレーション演習を行うか。それだけで対応できればいいのだけど。
「拓哉くんは、もうひと波乱あると思うかね?」
「ええ。マシュハドハイヴが静かすぎです。母艦級が出てこないって、ボパールのデータを考えたらありえないですから」
俺はまとめたデータを彩峰司令と神野中将に見せていた。
「ふむ。ワシはこれが初めてのハイヴじゃったからどうとは思わんかったが、異常か?」
「異常です。切り札があるにも関わらず、それを出してこない。何かしらのインチキで、切り札を山ほど集めていても不思議じゃないですよ。前段作戦で一回。母艦級を重慶、マシュハド、カシュガルの分を最低一体ずつ出してきて、一気に物量で押し潰しにかかる。そして、重光線級による一斉射撃は、流石にホワイトベースでも食らったらひとたまりもないですよ」
「光線級吶喊の必要性が出てきたというところか」
「レーザーヤークトはゲッターライガーに一任するって手もあります。あれなら地中を掘り進めることが出来ますし」
地上はそれでも楽な方だと思う。だが戦闘空間の限定されるメインホールはどうなるのか想像がつかない。特に、オリジナルハイヴと言ったらアレだろ?まず間違いなく、ガンダム、ゲッター、マジンガーに興味を示すはずだ。いや、示しているはずだ。
アンバールのときだってそうだった。そして、本当に紙一重の差だったが、取り憑かれたジムはかなり危険な状況だった。
原作オルタネイティヴのラストシーンであ号標的が見せたあのおぞましいシーン。珠瀬壬姫の遺体を改造して武たちの前に出した。それ以前に、鑑純夏にあまりにも苛烈で残酷な手段を施し、脳だけになっても生きているという悪魔の所業。それをあの場で再現されていたかもしれない。だからこそ、俺は持って帰ったジムを完膚なきまでに破壊させたのだ。衛士は帝国医大に連れて行って、徹底的に精密検査を受けさせたぐらいだ。
「とにかく、ちょっと予習をしてから挑んだほうがいいですよ」
「そのようじゃな。今回はワシもガンダムで出るぞい」
「そうしてもらえると助かります。艦の指揮は彩峰司令に一任してください」
誰も死なせないという戦いは今回が最後になるかもしれない。今までは負傷者は出ても死者は出なかったが、今回ばかりはちょっとどうなるか想像がつかない。だからやり過ぎなぐらいの予習をやらせる。テオドールたちも気に入ってしまったからな。絶対は約束できない。代わりにちょっとやそっとのことでは死なせない。
だったら、俺が出来ることは決まっている。
「ちょっと機体をいじってきます」
「すぐに動いて、体は大丈夫かの?」
「このままであいつらに何かがある方がたまらないですよ。やれる限りは精一杯やっておきます」
さあ、魔改造の時間だ。
とは言っても、出来ることなんて知れているんだよな。BETAに時間を与えるのが恐ろしい。
ゲッターロボGとマジンガーZはそれぞれ改造を進めておく。と言っても、電装系に手を加えるぐらい。ガンダムMk-ⅡやEz-8もそれ以上の改造は出来ない。となると、アレをいじるか。
俺が向かったのは666戦術機中隊とフッケバイン大隊の機体が置いてある場所だ。隊長機はジム・カスタム。そして隊員の機体はテオドール以外は全て普通のジムだ。
俺はおやっさんから借りてきた整備兵にマニュアルを渡して、改造を済ませておくことを告げる。俺が手を加えるのは、士郎さんの機体だった量産型ガンダムだ。今はテオドールが乗っている。
「よし、やるか」
「何をやるつもりだ!」
いきなり後ろから聞こえた声に、俺は飛び跳ねるようにして振り返る。
そこには普段着に着替えたテオドールとカティアが立っていた。
「驚かすなよ。ただ、機体を改造するだけだ」
「改造って、あれ以上性能が上がるのかよ」
「上がるよ。あんたが革命の時に乗っていたシグマガンダムの素体はこれだからな」
よくもまああそこまで改造したもんだ。紅蓮ガンダムといいシグマガンダムといい、要求水準が高すぎるんだよ。
「流石にあそこまでは無理だが、今回の戦いに見合った改造はしてやるよ。IWSPとオオトリストライカーだったらどっちがいい?」
「どっちかって言えばIWSPの方が、って、本当に改造するのか?」
「する。戦力は少しでも多いほうがいいからな」
戦闘データを見た限りでも、最初はともかく最後の方はしっかりガンダムの性能を使い切れているみたいだし。ヘッドパーツもいじってちょっと洒落っ気を出すか。
IWSPで合わせるんだったら、近接兵装は予備で置いておいた小型のレーザー対艦刀に付け替えて、小型で対艦刀ってのもどうかと思うが、作っておいてよかったな。こんな事もあろうかとってやつだ。
コンバインドシールドによるバランスの変化は、まあ今のテオドールの腕前なら大丈夫だろう。
「さて、改造の時間だ」
「大丈夫なんだろうな・・・」
大丈夫大丈夫。任せとけ任せとけ。
出来た。
間をすっ飛ばしすぎだって?いいんだよ、コレぐらいで。
ジムの見た目は殆ど変わってはいないが、カスタマイズは限界までやった。後は、乗る人間の腕次第だ。
「終わったのか?」
「終わったよ。どうだ、中々の男前になっただろ?」
IWSPに合うようにバランスを調整して、シュッとしたデザインに変更。ヘッドパーツはガンダムMk-Ⅱの予備パーツから少し持ってきて形状もΖガンダム系のスッキリとした顔立ちに変更した。
「かっこいいです・・・」
「大分スリムにしたけど、出力の方は上がっているからな。出撃前に練習しておけよ」
「お、おう・・・」
ポケーッとした顔で見ているけど、大丈夫か?
「なあ、なんであんたはここまでするんだ?この戦いが終わったら、俺達は」
「国に帰る、だろ?別にいいよ。ついでにガンダムも持っていけ。それがあると、人がまとまりやすいんだろ?」
「ばっ!ガンダムだぞ!?」
「ガンダムだからだ。ドイツ、統一したてでまだまだこれからなんだろ。だったら、その象徴としてガンダムを使え。ここでオリジナルハイヴの攻略に成功したって箔が付いたら、なおのこといいだろう」
そして、余計な仕事はこれ以上持ってこないでほしいものだ。正直、原作と違いすぎてあの辺りは何が起きるのか、もう予測がつかない。ツェルベルス大隊だって結成されるのかどうかもわからないぐらいだ。
多分だが、この作戦が成功したら666戦術機中隊とフッケバイン大隊は英雄扱いされるだろう。そうなった時に、どういう風に歴史が変わるのか。テオドールも今更妙な考えは起こさないだろうし、場合によっては、いや、トータル・イクリプスだって物語が始まらない可能性がある。
自慢じゃないが、戦術機の最先端は日本だ。ガンダムを超えるものを用意できるものならしてみろってんだ。ジム・カスタムだってガンダム以上の性能にならなかった。ネモでいいところギリギリ互角だ。まあ、バイオセンサーとマグネットコーティング装備のガンダムだから比較するべきじゃないんだろうけど。
「本当に、もらっていくぞ?」
「いいから持っていけ。そして、余計な要件をこっちに回すなよ」
「それが本音かよ!」
「でも、元々博士は関係のない人ですから」
そんな話をしていると、噂を聞きつけたらしい666戦術機中隊とフッケバイン大隊のメンバーが集ってきた。
「これは、一体・・・」
「出撃前のささやかなプレゼントだ。受け取ってくれ」
「ささやか・・・?」
ささやかと言うには行き過ぎたサプライズがあった頃、アムロたちの方でもちょっと動きがあったそうだ。後から聞いたけど。
「貴方がロンド・ベルのエースね」
ロビーでくつろいでいたアムロのもとに、1人の女性が現れた。
きっちりと軍服を着込んだ20代前半ぐらいの美女。拓哉がいたら思わず驚いたであろうその女性は。
「私は、マチルダ・アジャン中尉よ。国連軍戦術機部隊の中隊長を勤めているわ」
「え。あ、そ、その、アムロ・レイです!階級はありません!」
一目惚れとは、こういうものだろう。この場に甲児たちがいないのが幸いしたのか、ここ最近見ないほどガチガチに固まったアムロに、マチルダは優しく微笑みかける。
「緊張しなくてもいいわ。私はお礼を言いにきたのよ」
「え、お礼って・・・」
「あなたに私の部下が助けられたわ。勿論、私もね」
そう言われてもアムロはいまいちピンとこない。国連軍カラーのジムを何度か援護した覚えがあるが、アムロにはそのあたりの感覚が薄い。
「ふふっ。気づいていないのね。突撃級に轢かれそうになったジム。あれ、私なの」
そう言われてアムロはようやく思い出した。最前線までオーバーラップするアムロと甲児、リョウたちゲッターチームに引っ張られる形で、ハイヴ攻略戦に慣れていない国連軍は前に出てきたのだ。その際に突撃級の群れを躱しそこねたジムの援護をした覚えがある。
「あの時の・・・」
「そう。おかげで私も含めて、負傷者すら出なかったわ。あなたの機体、ガンダムだったかしら。助けてもらったわ」
アムロ自身気づいてはいないが、アムロの撃墜スコアは常軌を逸していると言ってもいいほどなのだ。反応炉を破壊したマジンガーZやゲッタードラゴンが目立っているが、地上戦、ハイヴ内で先陣を務めるアムロの戦果は突出していた。
アムロはガンダムMk-Ⅱの性能のおかげだと思っているフシがあるが、少なくとも、開発衛士がまともに扱えなかった機体を100%の性能を使い切っているアムロの技量は、本人も気づかない内に篁と巌谷を上回っているのだ。
もっとも、今のアムロにとってはそんな事はどうでもよく、大人の女性の魅力を感じるマチルダに話しかけられて、完全に舞い上がっていた。
「ありがとう。あなたのおかげで私はこうしてここにいるわ」
「は、はい!ありがとうございます!」
「ふふっ。そんなに緊張しなくてもいいのよ」
そっとアムロの肩に手を載せて優しくもみほぐす。
それがアムロの緊張を余計に誘っていた。ほのかに鼻孔をくすぐる、少女のものとは違う香りは、普段のアムロの思考を麻痺させていた。
そんな至福の時間は長くは続かなかった。
「マチルダ中尉、よろしいでしょうか」
国連軍の女性衛士が近寄ってくる。マチルダよりも年下の、儚い印象の女性だ。
「どうしたの、アイナ少尉」
「じ、実はご相談したいことがあります。その、と、とにかくお願いします!」
「あぁっ、アイナ少尉!アムロくん、このお礼はいつか」
「はい!」
遠ざかっていくマチルダを見ながらアムロは、また会えることに期待し、胸を膨らませていた。
少し時間を巻き戻し、天田士郎は運命の出会いを果たしていた。
機体の整備を終えて、満足げな表情で自分の機体、士郎はEz-8と呼ぶ機体を見上げる。
元々はアムロの乗っていたガンダムだったが、すっかり原型は失っている。だがその分、使いやすさは向上している。バイオセンサーはそのまま搭載されているが、今の士郎の技量ならば何の問題にもならなかった。
「よし、次も頼むぞ」
ポンッとEz-8の装甲に拳を当てて、その場を後にした。
と、その時だった。誰かがこちらに向かって走ってきているのに気づいたのは。
ぶつかりそうになった士郎は、すぐさま身を翻してその兵士を開いている手で受け止めた。
「大丈夫かい?」
「は、はい。ありがとうございます。失礼します」
「医務室はそっちじゃないよ」
「えっ、」
その兵士、年若い女性であったことに士郎は気づいた。
「なんで医務室に向かっていると?」
「こんな所で走ってまで何処かに行こうとしているのは医務室ぐらいしかないかなって、違ったらごめん」
「いえ、あっています。そ、それで、医務室はどちらになりますか?」
「うん、案内するよ。ホワイトベースは特別広いからね」
「ありがとうございます。私は国連軍所属、アイナ・サハリン少尉です。あなたは?」
「俺はロンド・ベル所属、遊撃部隊の天田士郎少尉だ。よろしく」
そう言って手を差し出す。アイナは戸惑いながらもその手を握り返す。父や兄とは違う、初めて握った硬い手だ。
その未知の感触にぼうっとしていたアイナだが、すぐに我に返る。
「そうです、医務室を」
「うん、任せてよ」
先導する形で歩き出す士郎。その背中をアイナは見つめていた。
身近な男性と言えば家族ぐらいしかいなかった。研究者であった父を早くに亡くした。それからは父に恩のあるという男性が、兄と自分を育ててくれた。その人ともまた違う。あたたかい手だった。
さっきまで握られていた手の感触を思い出し、アイナはほんのりと頬を染める。
その時間はほんの数瞬だった。士郎が止まったことに気づかず、その背中に顔を埋める結果となった。
「大丈夫かい?」
「は、はい。少し考え事をしていました」
「気をつけなよ。ほら、ここが医務室だ」
そう言って扉が開けられる。そこは一流の病院と言ってもいいほどの設備が整った、到底戦艦の中とは思えない場所だった。
整った艦内設備に驚きながらも、アイナは目的の人物を探す。
「ノリス!」
目当ての人物を見つけたのか、そちらに近づいていく。
そこにいたのは初老にも見える男性だった。医師の診察が終わったのか、既に軍服はきっちりと整えられている。
「アイナ様、如何なされましたか?」
「ノリスが負傷したと聞いて、見に来たのです。その様子では、あまり大きな怪我ではなかったようですね」
「ここの医師が大げさなのですよ。このとおり、大事はありません」
腕を振って元気なことをアピールするノリスに、アイナは大きくため息をつく。
「心配をかけさせないでください。もういい年なのですから」
「何の!このノリス・パッカード!アイナ様をお守りするためならば、いかなる無茶でも通してみせましょう(ゴキッ)!」
すごくヤバイ音がして、それでも最後の意地か無表情を装って椅子に座りなおす。
「あの、パッカード大佐?」
「何だ、少尉」
「しばらく療養に専念してください」
「何を言う!このノリス・パッカード!アイナ様を守るためなら腰痛の一つや二つ(ゴキュッ!)!!」
青い顔をしてそれでも平静を装いつつ、椅子に座り直すノリス。一種のコントのような出来事に、アイナは顔を抑えて、士郎はなんとも言えない表情でそれを見る。
「パッカード大佐。ご自愛ください」
医師からの診断はなんとも無慈悲なものだった。
「申し訳ありません、天田少尉。みっともない所を見せてしまったみたいで・・・」
「は、ははは。気にしなくていいよ。ところで、パッカード大佐はどういう人なんだい?」
再びベッドに収容されたノリスに見送られた後、二人は談笑しながらホワイトベースの通路を歩いていた。
「ノリスは、私の家に古くから仕えてくれている人で、私にとっては第二の父と言ってもいい人です。ただ、その、私やお兄様に対して少し過保護な所があって・・・」
「そんな感じがした」
「過保護な所がですか?」
「第二のお父さんってところがさ。アイナ少尉のこと、心配で仕方がないって顔をしていた」
士郎に家族はいない。兄弟もなく、孤児として育った。だが、その中にあってさえ士郎の精神は真っ直ぐであった。孤児院の子どもたちを導いて、今では立派な大人に育て上げたのだ。その背景があるからこそ、道を過たないように、アムロたちを預けたのだ。
もっとも、余計な心配だったと言わんばかりに、士郎を中心に纏まっていった。その更に中心核には少年博士の存在があるのだが。
「私はもう子供という年ではありません。だと言うのに、ノリスったら・・・」
「親にとっては子供がいくつになっても子供なんだよ。子供に出来る孝行は、親の厚意に大人しく甘えることさ」
「そう、でしょうか・・・?」
「そういうものだよ」
そっとアイナの頭を優しく撫でる。
やってしまってからしまったという表情を浮かべる士郎。ふと、孤児院の幼い子供たちを思い出してしまったのだ。
アイナも初めての異性との接触に、完全に固まってしまっていた。手をにぎるのとはまるで違う感触に、完全に硬直してしまった。
「あ、いや、すまない!アイナ少尉!」
「い、いえ、その、失礼します!!」
走り去るアイナを、士郎はただ見送るしかできなかった。
これが、決戦前のちょっとした騒動を引き起こすことになるとは、士郎には知る由もなかった。
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32・決戦前って分かってるか?
つまりはタイトルのとおりだ。
え、それじゃあ分からない?
だろうな。俺だって分からない。
どうしてこうなった?
ことは二時間前に遡る。
国連軍の戦術機部隊を預かるマチルダ中尉から、士郎さんの人となりについて聞かれたことだ。
つーか、マチルダさん。あんた輸送部隊じゃないんだ?まあ、いいけど。
「篁大尉のところじゃなくて俺のところに来たのは?」
「あなたが、一番隊員に対して中立だと思ったからよ」
まあ、否定はせんけどね。半天然物のコーヒーを二人分差し出して、俺は様子を見る。
1人はマチルダ・アジャン中尉。この人については今更だ。もう一人についてはちょっと聞いておきたいかな。アイナ・サハリン少尉?
「で、うちの士郎さんが何か失礼でもしましたか?」
「そういう訳じゃないのよ。ただこの子、アイナは男性との接触が極端に無い子で、天田少尉との間でちょっと、ね?」
「ちょっとの内容を聞かせてもらえないと、俺も答えようがないんですけど?」
その内容は一言で済んだ。曰く「頭を撫でられた」
頭を撫でられたら、兄や父とは違った感触で、頭の中が熱くなって士郎さんの顔をまともに見ていられないようになったらしい。
このチョロインめ。マチルダさんは微笑ましく見守っているけど、俺からしたら頭が痛いの一言につきる。何しろ、ここの医務室にノリス・パッカード大佐がいることを確認している。
この後の展開は容易く想像がつくんだけどなー。
「まあ、いいか。天田士郎。年齢20歳。階級は少尉だけど、この戦いが終わったら中尉に昇進することが決定している、我が部隊のエースの1人。機体はガンダムEz-8。スコアは特別目立つものではないが、アムロ、甲児、ゲッターチームとボスを見事に纏め上げているだけあって、指揮官の才能が高い人だな」
「あら。将来が有望そうね」
「そうです。加えて人当たりがよく、他の部隊員の相談なんかも聞いたりしている姿をちらほら見かける。孤児院出身だから、年下の子の扱いに慣れているんだよな。多分、士郎さんは妹分の頭を撫でたのと同じ感覚だと思うよ。アイナさんが気にしなければ、自然に戻ると思うけどね」
「で、ですが・・・」
「気にしすぎる事で起きるやばい展開のほうが、ね」
自分でも表情が引きつるのが分かる。マチルダ中尉も察しがついたのか、困ったような顔でアイナの方を見る。
過保護な大佐が大暴走。それが一番怖い。この世界はガンダムではなくマブラヴの世界だ。日常に一瞬でも近づくとギャグが一気に近づく。そして、今は日常だ。
そもそもノリス・パッカード大佐が負傷したのは、戦場でではない。自機の整備中に腰をやってしまったのだ。もうこの時点でマブラヴだろ?
で、だ。その人が大恩あるサハリン家のお嬢様が気にした男がいるってなったらどうなるか?
ガシッと俺の肩が掴まれた。
「アイナ様に付いた悪い虫の話を聞かせていただこうか」
こうなる。
マチルダ中尉たちにしたのと同じ説明を、もう一度ノリス大佐にする羽目になったわけだ。
「とまあ、そういう人ですよ」
「ふむ。人柄は良し。ならば戦術機の腕前を競うまで」
「まあ、止めないですけど、全部模擬弾、訓練出力に絞ってからやってくださいね」
「委細承知!」
そう言うと、さっきまで腰痛だったとは思えないほど元気よく立ち去っていった。
それを見送りながら、俺は合成オレンジジュースを一気に飲み干す。
「止めなくていいの?」
「止まらんでしょう。止めて変な遺恨が出来るよりは、やらせた方がすっぱりしますって」
とはいえ、機体の性能差がな。Ez-8はガンダムをそのまま改造して使っている機体だ。だからバイオセンサーやマグネットコーティングがそのまま生きている。
対するノリス・パッカード大佐の機体は独自の改造を加えられているが、それでもジムだ。衛士としての腕の差が物を言うだろうが、それでも洒落にならんレベルの機体の性能差がある。
さて、どうなるかな?俺はまあ、割とどうでもいいと思っている。
どうしよう、どうしよう!
アイナ・サハリンの脳裏にはそれだけが渦巻いていた。自分はまだ士郎に対して何かしらの感情、この場合は恋愛感情を持ってはいない。
たしかに紳士的で、 懐の大きな人だった。いきなり頭を撫でられた時には、ぐるぐると感情が渦巻いてしまい、どうすることも出来ないまま逃げ出してきた。
婚約者のいらっしゃるマチルダ中尉ならば、何か解決手段があるかもしれないと思い、半ば強引に連れ去ったのだ。
その後の展開は思い出したくもないほどだ。あれではいかに自分が天田少尉を意識しているかを自白したようなものだ。
それでもまだ、自分の中にある感情は恋というものにはほど遠い。そのぐらいの自己判断ぐらいは出来る。出来るのだが周りの状況に振り回されて、気がつけばノリスと天田少尉が戦う状況が出来ている。
と、あたふたしているアイナの肩に手が乗せられる。
「諦めたほうが楽でいいと思うよ?」
やはり諦めたような顔をしている少年博士の心情は、たしかにアイナのそれに近かった。
そして舞台は野外に移る。
「天田少尉、パッカード大佐。準備はいいな?」
『ああ!いつでも行ける!』
『準備万端。問題無しだ』
俺の隣ではそわそわと落ち着きのない様子のアイナ・サハリン少尉が、それでも二人の戦いから目を離さないようにしている。
「ルールは一つ。殺すな。こっそり実弾を混ぜるだとか、ビームの出力を上げるとかは無しだからな」
『分かっているよ。任せてくれ』
『了解した!組み伏せてくれよう!』
「ルールさえ守れば、時間制限はない。相手を戦闘不能にしたほうが勝ちだ。それでは、衛士の誇りと意地をかけて!はじめ!!」
俺の声と同時に両機は動き出した。フルオートモードの士郎さんの射撃を、紙一重で躱すって、ノリス・パッカードの動きは原作同様、熟練衛士のそれだということだ。
両機の距離が近づく。どうする。接近戦になったらEz-8のほうが圧倒的に有利だぞ?接近戦では衛士の腕も問われるが、それ以上に機体のパワーが物を言う。体当たり一つであっさりと押し返される。それはノリス大佐も分かっているはずだ。
ライフルを腰にしまい、右手でビームサーベルを抜くEz-8にジムは無手で挑みかかる。一瞬だった。ジムは低く、低く、更に低く機体を倒しあれはレスリングのタックルか。だが、うちの士郎さんを甘く見てもらったら困るぜ。
士郎さんはストライカーパックの出力を全開にして、いきなり強引に垂直に向かって飛び上がる。ジムの手がEz-8の足先をかすめる。
モニターに映る士郎さんは荒い息をついている。何しろ、慣性を強引に垂直にしたし、それに、見えちゃっただろうね。自分が組み伏せられる結果が。
間違いないわ。この戦い。長引くぞ。重慶組が来るより先に決着が付いてくれんかな。
此処から先はお互いに一切の油断なしの、中距離と近距離の取り合いだった。まさにそれは演舞と言ってもいいほど精密でいつ終りを迎えるのかと言うほどの、先の長い戦いだった。
が、そこで動いたのはジムだ。ヒョイッと何でもない動作でビームサーベルを投げ捨てたのだ。
『えっ!?』
一瞬、あっけにとられた士郎のEz-8に、ジムの拳が決まる。
『うわぁぁっ!!』
『目の良さが命取りだ!!』
とっさに機動を止めていたEz-8は全出力を前に向けたジムに、あっさりと吹き飛ばされる。
だが、そこは散々ハイヴ攻略で慣らされた士郎だ。すぐさま機体の体勢を立て直すと、相手の機体を見やる。
ノリスのジムは、空中に浮いたままのビームサーベルを手に取り、こちらに向かってきている。だが、ビームサーベルに手を回していてはとても間に合わない。ならば。
士郎はEz-8のギミックの一つを開放する。人間で例えるのならば服の袖口から一本の筒が飛び出す。
『射撃武器か!だが、勝ったぞぉっ!!』
そう、射撃武器ならばノリスの勝利であった。
そこにあったのがビームサーベルでなければ。
「この勝負、最善を尽くした」
「あ、あぁぁっ!」
「士郎さんの勝ちだ」
そこにはコクピットを貫かれて行動を止めているジムと、左腕を切り落とされて動きを止めているEz-8の姿があった。
そもそも袖口のビームサーベルは士郎さんのアイディアなんだよな。ほら、歌舞伎とかで袖から扇子が飛び出すのがあるだろ?あれと同じ要領でビームサーベルを装備させられないかって聞かれてね。面白そうだから仕込んだ。両手にな。
結果はご覧のとおりだ。余計な動作を一切なくしたEz-8の突きは、ジムのコクピットを貫通していた。
士郎はEz-8のコクピット内で荒い息を付いていた。機体の性能差なんて関係ない。あれは相手の技量でそれだけの差を詰めてきたのだと。
「俺も、まだまだという事か」
ガンダムの性能に頼っていたつもりはない。だが、まだ磨くべき技量がある。それが分かっただけでもこの演習には価値があった。
そして、演習を終えて士郎には分からない事が一つある。
「なんでパッカード大佐は俺に演習を申し込んできたのだろうか・・・」
だろうな。
士郎さんのつぶやきはバッチリとマイクが拾っていた。
マチルダさんも困ったような顔をしている。そりゃそうだろう。
さて、後はそちらのお手並み拝見ってところだろう。前世と今生の恋愛を経験して俺が言えるのは、アイナ少尉・・・いや、アイナさんは単純に異性との接触でパニックになっているだけだ。それを周りが愛だの恋だのと大騒ぎして、今回の事態に発展しただけだ。
一番大騒ぎしたのはパッカード大佐だけどな。その辺の責任は取ってもらおう。そうだな、アイナさんをロンド・ベルに編入させるか。とはいえ、アイナさんの衛士としての腕前が分からない。スパロボ基準で行けば大した事はないのだろうけど、こちらは現実だ。
あのノリス・パッカードがそのまま放置しているとは考えにくい。
「マチルダ中尉、アイナ少尉の衛士としての腕前はどの程度ですか?」
「平均点。可もなく不可もなく、と言ったところかしら」
ジーザス。俺は神道だが、今だけは言わせてくれ。ジーザスと。
その程度の腕前ではロンド・ベルに編入させるのが困難じゃないか。せっかくおもしろ、じゃなく、運命の二人が出会えたのだからどうにかひっつけてしまいたいところなのだが。
仕方ない。二人がなるべく一緒にいるような状況を作り上げてしまおう。幸いにもアイナさんは美人だ。士郎さんも近くにあんな美人がいたら、ちょっとは変な気を起こすだろう。
そうすれば後は時間の問題だ。誠実一途が恋の方に働いて、ちょっと夢見がちなお嬢様のハートをがっちり掴んでしまえばそれで良し!
さて、甲児たちにも協力してもらおうかな。アムロ?マチルダさんがここにいる以上、役に立たないのは目に見えている。俺の知っている限りじゃあアムロの初恋だ。そして、失恋が確定している。いや、マチルダさんの薬指に指輪があるからな。まあ、ギリギリまで黙っていよう。
さてと、策略策略~。
さて、ここで時間を一気にすっ飛ばすが、俺や甲児が何かをするよりも早く、士郎さんの方は決着が付いた。
アイナさんがあの後、天啓を得たとばかりに積極的になり、俺達が何かをしなくても士郎さんとの仲が深まっていったのだ。まあ、子どもの面倒ばかりで結婚できないんじゃないかと心配していたけど、これでお相手が出来てよかったじゃないか。場合によってはシスコンらしいお兄様謹製の化け物級モビルアーマーとの対決が待ち構えている可能性があるが。
とりあえず、俺の方で何かをやるのはこれで終わりだ。他のロンド・ベルのメンバーも士郎さんとアイナさんの仲を好意的に受け止めている。ボスが歯をぎりぎり鳴らしているが。まあ、その内お前にもどこかの武家の美女でもあてがってやるよ。うまくいくかどうかは別問題にして。
そうそう、ボスだが、武蔵に頼み込んで弁慶と一緒に柔道の特訓を受けているらしい。俺が自分の周りがいっぱいいっぱいで中々気づけなかったのだが、どうやら武蔵が視力を失った件はそれなりに思うところがあったらしい。弁慶よりも前から訓練を受けているらしい。
あいつのボロットに関しては、武蔵と相談した上で黒帯を取ったら改造してやるか。あのガラクタ、信じられないことにマジンガーZとパワーでタメを張ってやがるからな。
そして、弁慶の方だが、大雪山おろしが大分モノになってきたらしい。武蔵が褒めてたってことはそれだけ頑張ったんだろう。後は、ゲッターポセイドンの操縦でそれを反映できるかどうかだが、多分、大丈夫なはずだ。ゲッターロボの操縦系は普通の戦術機とは違うからあんまり口を挟めないんだが、衛士自身の戦闘力を反映しやすい操縦系だ。それに、元々武蔵が乗る予定で作ってあるから、ポセイドンでの大雪山おろしは容易にできる。
さて、ここらで俺も一段落していいかな?
士郎さんからの流れで結構疲れたよ。重慶組にはお義父さんがいるからもっと大変になる。そうなる前に、頼むから寝かせてくれ。
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33・桜花作戦。されど花は散らせず。
人間、欲というのはどこまでも際限なく湧くものである。
俺の場合は知っている人間を誰も不幸にしないことだ。アムロたち同年齢の友人。彩峰司令たち、お世話になっている大人たち。死ぬ姿なんて想像できないけどお義父さんや神野中将。そして何よりも焔ちゃんを絶対に死なせたくはない。
そのために立てた作戦だ。桜花作戦って作戦名が原作に即して嫌なもんだが、花はきれいに咲き誇ってこそなんぼだ。桜の苗木は預かってきた。ハイヴを攻略したらハイヴの大穴の周りに埋めるつもりでだ。そこを誰かの墓標には絶対にさせない。
「婿殿。少し話がある」
「婚前交渉はしていませんよ」
「違うわ!」
どうやら違ったようで。
俺はお義父さんに連れられて、外の景色がよく見える場所に来た。
外では天馬級が3隻。それに、水陸両用巡洋艦が最後の準備をしている。何しろ、敵の総司令部と思しき場所に奇襲を仕掛けるのだ。誰もが緊張の色を拭えない。
「婿殿はこの戦いをどう見る?」
「敵の最重要拠点のはずですからね。落とせる内に落としておいたほうがいいでしょう。それに、今までとは違い、確実に今度の戦いは犠牲者が出る。今まで誰一人として戦死者が出なかったのが異常なんです。全員に遺書を書かせました。勿論、俺も書きましたよ」
「そうか。見えているのならばよい。貴様は時折夢のような行動を起こすからな」
「ここが済んだら、しばらく夢だけを見させてもらいますよ。俺は、誰も失いたくはない。その夢を」
「その為にも、最善を尽くさねばならん。貴様がやらせたシミュレーターは現実に起こり得ると思うか?」
「最低限であれです。重慶でも母艦級は出てこなかったんでしょ?だったら、ここに戦力を集結させていると考えたほうがいい。地上戦で出してくるのか、ハイヴ内で出してくるのか。それとも、両方」
「あれはあまりにも恐ろしい仮定だ。BETA共が戦術を練るというのは、悪夢に等しい。あれだけの数で戦略を、戦術を練るというのを」
今回のシミュレーションには、無理を言って神野中将にBETAのプログラムを指揮してもらったのだ。日本随一の将棋の指し手が考えた戦略はあまりにも恐ろしく、それだけでかなりの数の部隊が壊滅状態に陥った。天馬級を二隻も落とされ、巡洋艦は半壊状態。戦術機部隊も6割が落とされた。それも、ハイヴを攻略しての数字ではない。地表構造物をようやく破壊して、戦闘続行不能で撤退という結果だ。
「志虞摩ほどの指し手でないにしろ、我らが被る被害は甚大なものになるか」
それを肌で知った衛士たちは、今ではシミュレーションルームにこもりっきりだ。入りきれない衛士は会議室を使って戦略の話し合いをしている。
「引き返してマンダレーとドゥンファンを落としてみます?」
「無理じゃな。ここまで来てしまった以上、今更引き返すわけにも行くまい。それに・・・」
重慶とマシュハドが静かすぎて、ドゥンファンとマンダレーに至っては動きがなかった。天馬級がもう2隻完成していれば様子を見に行かせてもよかったのだがな。
こればかりは仕方がない。天馬級の設計図は各国にばら撒いたが、まともに製造できる余裕が有るところなんてのは限られている。
急ぎすぎたのかもしれない。だが、今の内だ。新しいBETAが出現しない今のうちに潰してしまう必要があるんだ。
「考え過ぎが婿殿のいかんところだ」
「焔ちゃんにも言われました」
「ワシはいずれお主の義父となる。今の内から頼ってくれても構わぬぞ」
「ありがとうございます。お義父さん。結構、頼っているつもりなんですけどね」
「見えぬわ」
それだけ言うと、立ち上がるお義父さん。
「ワシも紅蓮ガンダムで出る。人類の希望のために、出し惜しみは一切せぬよ」
「お願いします」
立ち去っていくお義父さんを見送りながら、俺は改めて外の景色を見る。誰もが覚悟を決めた。次は俺が覚悟を決める番か。
とはいえ、俺が戦闘で出来ることは無い。戦闘前に出来ることも、実はあまりない。理想は全員帰還。だが現実には不可能だろう。BETAに戦術という一点が加わるだけで、シミュレーターの結果は惨憺たるものだったのだから。
俺に出来ること、それはただ一つ。多くの人間が集まっているシミュレータールームへと向かった。
桜花作戦、決行の日。
あれから一日かけて全力で詰め込んだ。神野中将の戦術パターンに、黙示録級を組み込んでみたりして、とりあえず考えうる最悪中の最悪を徹底的にシミュレートさせた。俺に出来ることはそれしか無い。だが、だからこそ絶対に手を抜かなかった。
桜花作戦は始まる。原作では多くの死者を叩き出したその作戦だが、俺はそんなものを出すつもりはない。愚かと言われてもいい。たとえ夢であろうと俺は考える。俺に出来る最善を。
『また、難しいことを考えてんのか?』
出撃前でそんな余裕はないだろうに、甲児から通信が入ってくる。
俺がいるのはホワイトベースのブリッジ、ゲスト席だ。ゲスト席は現在二つ設けられていて、もう一つには焔ちゃんが座っている。最後の時まで俺とともに居たいのだとか。
「それが俺の仕事だ。そして、俺にはそれしか出来ねえよ」
『馬鹿なことを言うな。俺たちに出来ないことをやってくれている。それだけでも十分だ』
『リョウの言うとおりだぜ。ほれ、しゃきっとしろよ、大将!』
「ロンド・ベルの司令官は彩峰司令だぞ?」
「はっはっはっ。誰もそう思ってはいないよ。元々は君の呼びかけで集まったのが私達だ。そして、ここまで連れてきてくれたのは君の思いだ」
『そうだ。お前がいなければ、俺もフィアナとここに立ってはいない』
『ああ。俺たちに希望を見せたのはお前だ』
『いや、人類に希望を見せたと言ってもいいかもしれないな。統一中華戦線の衛士達を見たかね。誰もが私達とともに戦うことに希望を見出している。彼らは、常に最前線で絶望的な戦いを強いられてきたからね。もし、BETAが東進でもしようものなら、彼らはたちどころに敗れ去っていただろう』
そう、この作戦には当初予定に入っていなかった統一中華戦線も参加することになった。俺達は予定に入れていなかったのだ。だが、義勇兵という形で彼らは地上のBETA掃討に協力を申し出てきたのだ。
俺は全くと言っていいほど当てにしていなかったのは、彼らは今現在、協力し合っているがいつ内ゲバを始めるかわかったものではないからだ。
だが、重慶が攻略されたことで、彼らの中にあったわだかまりのようなものが少しは溶けたのかもしれない。
『そう、これは希望よ。あなたが私達に見せてくれた夢。後はそれを現実にするだけ』
『胸を張れ、拓哉。俺たちをここまで連れてきたのは君の思いなんだ』
『僕は、なし崩しでここまで来たけど、付いて来て良かったと思っている。だから、僕達を信じてくれ』
「拓哉様。さあ、始めましょう。明日へつながる戦いを」
「・・・・・・ああ。そうだな」
「だとしたら、号令は君にやってもらわなければならないな」
「分かった。俺は戦場に飛び出すことは出来ない。でも、思いはみんなと一緒にあるつもりだ」
だから、俺が言うことは一つだけ。
「みんな、必ず帰って来い!これは拠点の一つを落とす戦いにすぎない!これからも続く始まりに過ぎない。地球を取り返したら、次は月に行くんだからな!」
『はっ、こいつは驚いた。俺達の大将は月も取り返すつもりか』
「当たり前だ、隼人。頭の上を抑えられたままビクビクして生きたいか?俺はごめんだ。全部取り返す!そして、焔ちゃんと添い遂げる!」
『『おい!』』
「文句あるか!俺はここで死ぬつもりはサラサラ無いぞ。焔ちゃんを死なせるつもりもない!みんなで生きて帰って、俺の結婚式に強制出席だからな!」
『かぁー!これだから彼女のいるやつは!俺様も絶対に可愛こちゃんな嫁さんを見つけてやるだわさ!』
『やれやれ、これでは結局いつも通りだな』
「司令!センサーに反応あり!BETAが来ます!」
「来たか。総員第一種戦闘配備!順次出撃せよ!そして、必ず生きて帰れ!!」
『『了解!!』』
その衛士はロンド・ベルでもまだ若い衛士だ。故郷に婚約者を残してきている。もしかしたら、この戦いで自分はあの愛しい婚約者のもとに帰れないかもしれない。そう思うと、手が震えて操縦桿をまともに握れない。
『どうした、高木。まだ緊張しているのか』
聞こえてきたのは30代になる小隊長の通信だ。
「い、いえ、決してそういうわけではありません!」
『そうか。貴様は勇敢なのだな』
「えっ?」
『私は怖くて仕方がない。もしかしたら、帰れないかもしれないのだからな』
「中尉・・・」
『子供がな、生まれたんだよ。女の子だそうだ』
一度だけ、写真を見せてもらったことがある。物静かな感じの奥さんだった。最近撮ったものらしく、大きなお腹を幸せそうにさすっている様子が映っていた。
『出来れば、この手で抱きしめてあげたい。だが、それもかなわないほどの激戦となるかもしれない。そう思うと手が震えてかなわんのだ』
「中尉、その、じ、自分も、手が震えています!怖いであります!!」
『・・・そうか。ようやく自分の本音をさらけ出したな』
「あの、怖気づいているわけではなく、その」
『分かっている。怖いことを無理に我慢する必要はない。私だって怖いのだ。だからこそ、自分にできる精一杯をやるのだ。我らはロンド・ベルだ。世界最強の部隊だ。負けることは許されん。それ以上に、死ぬことは許さんぞ』
「はい!」
『いい返事だ』
『カタパルトオンライン。シザーズ小隊、出撃準備に入ってください』
『フッ。お呼びのようだな。シザーズ01。赤坂、出るぞ!!』
隊長に続いて先輩衛士たちも出撃していく。それを見送って、彼は大きく息をついて呼吸を整える。自分だけではないのだ。そして、自分にはまだ帰るべき場所がある。そして、
『シザーズ04、高木、出ます!!』
紺碧の空へと、飛び出していった。
「光線級、並びに重光線級を多数確認!」
「チッ、やはり待ち構えていたか!」
「これで確定したな。BETAは戦術を用いる。今までしなかったのは必要がなかったからか」
「こっちの様子でも見ていたんでしょうよ。ゲッターライガーによる奇襲、レーザーヤークトを提案します」
「単独で殲滅できるかね?」
「無理です。ですが、ゲッターライガーはいざとなれば地中に逃げることが出来ます。ゲッターライガーに視線を集中させて、その隙に一個中隊によるレーザーヤークトを敢行。これで一気に殲滅します」
俺の無茶な提案を、彩峰司令はしばし瞑目した後に決断を下す。
「分かった。聞こえたかね、隼人くん!」
『ああ。こっちは任せてもらおう。リョウ!』
『分かった!オープン・ゲット!』
『チェンジ・ライガー!スイッチ・オン!!』
信じてくれているのだろう。無茶苦茶な作戦にもすぐに応じてくれるゲッターチーム。ゲッタードラゴンはすぐさまゲッターライガーへとチェンジして地中へと突き進む。
「そうなると、レーザーヤークトを行う中隊だが・・・」
『それは私達に任せてもらおう』
「ベルンハルト大尉か」
『元々、我らは祖国でも何度もレーザーヤークトを敢行してきた。十分に務めを果たしてみせよう』
「分かった。タイミングはそちらに任せる」
『了解した』
一方、ゲッターライガーは地中を掘り進み、光線級の密集地帯へと姿を見せていた。
「音速を超えた戦いを見せてやる!マッハスペシャル!!」
猛烈な勢いで地を駆けるゲッターライガー。その猛烈な勢いに押されて、光線級はかすめるだけで塵と化していく。
『何というスピードだ。あの大きさで音速を超えているなど・・・』
『ベルンハルト大尉!命令を!』
『奴らの目玉がゲッターロボを向いている間に全て仕留めるぞ!奴らにシュヴァルツェスマーケンを下してやれ!!』
『了解!!』
BETAに感情があるとすれば驚愕の一言だろう。何しろ、彼らの照準がゲッターロボを捉えることが出来ないのだから。
「行くぜ!オープン・ゲット!!」
「チェンジ、ポセイドン!スイッチ・オン!」
ドスンっと地響きを立ててゲッターポセイドンが降り立つ。光線級の目玉が全てそちらを向く。それよりも早くポセイドンの技が放たれる。
「ゲッターサイクロン!オープン・ゲット!!」
「チェェェンジ、ドラゴン!スイッチ・オン!!」
今度は空に現れた赤い竜は額にエネルギーを蓄え、
「ゲッタァァァァァ・ビィィィムッ!!」
そこから放たれたエネルギーは、薙ぎ払うように光線級を消滅させていく。その中には撃破が困難であるとされる重光線級も混じっていた。
『ゲッターロボにばかりいい所を持って行かせるな!レーザーヤークトは我らの専門だぞ!!』
『オォォォォォッ!!』
アイリスディーナに応えたのは、テオドールの雄叫びだった。
テオドールのガンダムは、他の機体とは一線を画した加速力で光線級の群れの中に飛び込み、ビームサーベルを一閃する。まるで溶け消えるように消滅していくBETAに他の隊員たちも奮戦する。
光線級BETAは混乱しているのだろう。ゲッターを追うべきか、ガンダムを追うべきか。キョロキョロとその本体をせわしなく動かし、何も出来ない内にゲッターライガーに轢き潰されるか、ガンダムに切り裂かれて終わる。
その時間はほんの数分だった。ゲッターライガーが最初に突撃してから、光線級が全ていなくなるまでに、ものの数分だったのだ。
「次は音速を超えてから出直すんだな」
勿論、最も撃墜数を稼いだのはゲッターライガーを駆る隼人だったことは言うまでもない。
「よし、光線級は全て消滅した!天馬級全艦浮上せよ!一斉射撃だ!」
急速浮上した四隻の天馬級は、今までの鬱憤を晴らさんとばかりにBETAの群れに砲撃を叩き込んでいく。そのさまは先程までのゲッターライガーの活躍に劣らぬ、圧倒的な光景だった。
光線級の群れという圧倒的な脅威がいなくなったことで、戦術機部隊も一気に戦線を押し上げにかかる。
だが、その時だった。
「司令!地中ソナーに感あり!巨大な反応が、これは、そんな・・・!」
「状況を伝えろ!!」
「は、はい!母艦級が来ます!!数は・・・6体!!!」
「何だと・・・!?」
彩峰がそう言うのとほぼ同時だった。空中に居てさえ分かるほどの凄まじい振動が辺りを包み込んだ。
大地を叩き割って、巨大なミミズの化け物。全長1.8kmの超巨大BETAがその姿を表したのだ。
カシュガルハイヴを守るように現れたそれは、一斉に口を開く。そこから現れたのは大型BETAの代名詞、要塞級だった。そして、その要塞級の腹からさらにBETAが吐き出される。
振り出しに戻る。それが正しい表現だろう。
いかなる絶望にも屈しないつもりであった。だが、あの母艦級が6体。そして、要塞級は連隊規模。それ以下のBETAは数えるのも馬鹿らしいほどの圧倒的な数が再び大地を席巻し始めたのだ。
『嘘・・・だろ・・・・・・』
『あんな数がいるなんて・・・』
『くそっ!ふざけやがって・・・!!』
誰もがその絶望に身を浸していた時、突如として雷鳴が辺りに響き渡った。
『諦めるな!!』
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34・進め、希望の戦士たち
『諦めるな!!』
突如響き渡ったその声は誰よりも力強く、戦う意志に満ち溢れていた。
『必殺パワー!!サンダァァァブレェェェェク!!』
轟音とともに解き放たれた雷撃は、BETAの群れの一角を薙ぎ払う。
『こ、この声は・・・』
『情けないぞ、甲児くん!』
放たれた雷鳴。その方向に立っているのはマジンガーに酷似した機体だった。右手に剣を持ち、BETAの方角に指を向けたその雄々しい姿は、勇者と呼ぶにふさわしい姿だった。
あれは、あの姿は、来てくれたのか!
『鉄也さん!!』
「知り合いか、甲児」
『ああ。剣鉄也さんっていって、俺の母さんの弟で、年は近いけど叔父なんだ』
真マジンガーの設定かよ。甲児の説明を聞きつつ、俺は内心で思う。
どっちにしろ、超強力な援軍は大歓迎だ。それよりも、その後ろにいるレディースシルエットの機体が2機もいるのはどういうことだ。
『ふふん、ここは私達を頼ってもいいんだからね、甲児くん!』
『さ、さやかさんも!?それじゃあ、もう1機の方は・・・』
『私よ。久しぶりね、甲児くん』
『ジュンさん!』
「さやかさんは知っているけど、もう一人は?まさか叔母さん?」
『いや、そうじゃねえよ。光子力研究所の一般職員の人・・・だったはずなんだけど・・・』
大分自信がなさそうだな。そりゃそうだろう。この状況で知っている人がいきなり戦闘マシーンに乗って現れたらそうなるだろうさ。
しかも、両方共外見は真マジンガー版のビューナスAだな。どうなっているんだ、この世界は。まあいいや。
「聞こえるか、ロンド・ベルの新塚拓哉だ。援護してくれるならすぐに頼む」
『新塚博士か。話は兜博士から聞いている。任せてもらおうか』
「彩峰司令。しっかりしてください!指揮を!」
「あ、ああ。すまない。鉄也くんだったな。君の機体の名前を教えてくれ」
『グレートマジンガーだ。よろしく頼む!』
『私達の機体はビューナスAです。私の機体は1号機。さやかさんの機体は2号機です』
「了解した。諸君!臆するな!どうせやる事はいつもと変わらん!」
「おいおい・・・」
「言葉を繕っても意味がない。ならば言うべきことはただ一つ!敵を殲滅せよ!!」
『へっ、確かにらしくなかったな』
『そうだな。俺達の戦いはいつも出たとこ勝負だ!』
『だったら、数が増えたぐらいでビビるのも柄じゃない、か』
『よーし!行くぞー!!』
『そうだ、僕達の戦いはまだこれからだ!』
『ならば、見せてもらうぞ!世界最強の軍隊の力を!いや、結集した人類の力を!!』
みんなの戦意が持ち直した。通信機越しに色んな声が聞こえてくる。誰も諦めてはいない。ならば、やるべきことは決まっている!
「提案します。母艦級BETAは自分が吐き出したBETAのせいで身動きが取れません。今の内に、身動きのほぼ取れないであろう今の内に最大戦力による強襲殲滅を提案します!」
「やる事はさっきと一緒かね」
「ええ。ただ今度はゲッターチームだけじゃない。アムロ、士郎さん、甲児、鉄也さん、ゲッターチーム、666戦術機中隊による強襲で一気に殲滅します」
「ふむ。少しそれでは火力が足りんだろう。フッケバイン大隊もつけよう。これで確実に一匹ずつ殲滅していく」
「小型のBETAはスコープドッグ隊、ガーランド、ソルテッカマンに一任します。その他戦術機部隊は要塞級他、通常BETA。確認された場合は光線級も排除。ホワイトベース他天馬級は強襲部隊を援護させます」
「よろしい。その作戦でいこう。聞こえたかね。総員、行動開始!」
『『了解!』』
かくして、一気呵成の反撃作戦が開始される。
見てろよBETA共。その程度じゃあ、俺達は絶望に沈まない!
足元のBETAはすべて無視して強襲部隊は、その威容を誇る母艦級へと突撃する。
光線級吶喊に似ているようで異なるそれは、まさに絶望の道行きと言ってもいいだろう。向かうべき先にいるのは全長1800mの超巨大BETA。それが六匹もいるのだ。だが、誰もがそこに絶望していない。
『フッケバイン大隊、マジンガーとゲッターロボ、ガンダムを援護しろ!』
『『了解!』』
フッケバイン大隊の戦術機は全てジムに変わっている。その為、そこから放たれるのは最新のビーム兵器なのだが、その圧倒的な巨体を前に焼け石に水といったぐらいのダメージしか通っていない。
『だ、ダメージが通っていない・・・!』
『牽制にさえなればいい!』
『そうだぜ、後は俺達に任せてくれよ!』
『甲児くん!タイミングを合わせるんだ!』
『おう!!』
フッケバイン大隊の放つビームの間隙を抜いてマジンガーZとグレートマジンガーがまずは攻撃を仕掛ける。
『ブレストファイヤー!!』
『ブレストバーン!!』
マジンガーZとグレートマジンガー。ダブルマジンガーによる超高温度の熱線攻撃に母艦級は身を激しくよじらせて回避しようとする。
だが、そうはさせじと666戦術機中隊の攻撃が突き刺さる。
『フッ、逃げ場を作ると思ったか!』
『ウオォォォッ!!くらいやがれ、これがダブルマジンガーの』
『ダブルバーニングファイヤーだ!!!』
猛烈な熱線で焼かれた母艦級は、その異様な巨体を横倒しにして、足元にいたBETAを巻き込んでその威容を崩れさせる。
『やったぜ!』
『気を抜くな、甲児くん!まだ一体だけだ!』
『ああ、次は俺達に任せてもらおうか!!』
飛び出したのはゲッタードラゴンだ。
二匹目の母艦級は、その巨体を振り回してゲッタードラゴンを薙ぎ払おうとする。だが、
『オープン・ゲット!』
ゲッターロボの最大の特徴である分離回避に、あっさりとその攻撃が空振りに終わる。それでもなおも追いすがろうとその巨体を振り回すが、ゲットマシンを捉えることは出来ない。
『チェェェェンジ・ドラゴン!スイッチ・オン!!』
再び姿を見せる赤い竜を空に見上げる母艦級。
『ペダルを踏むタイミングを合わせるんだ!』
『任せろ!』
『行くぞ!』
3人の心が一つになり、同じタイミングでペダルを踏み込む。
『ゲッターのパワーを受けてみろ!』
それと同時に、まばゆい光がゲッターを包み込む。
『ゲッタァァァ・シャアァァァァァイン!!』
光の塊となったゲッタードラゴンが母艦級に突撃する!
『シャイィィィン・スパァァァァァクッ!!』
ゲッタードラゴンから放たれた猛烈なエネルギーを宿した光の塊は、ゲッタードラゴンから離れ母艦級へと激突する!
放たれたエネルギーは母艦級を包み込み、一気に昇華する。
数瞬の後、そこには母艦級の痕跡は微塵も残っていなかった。
『す、すげぇ・・・』
それは誰がつぶやいた言葉なのだろうか、まさにそうと言うしかないものだった。
だが、戦場は止まらない。別の母艦級が呆然と佇むところに身を捩ってその巨体を叩きつけようとする。それを土壇場の所で救ったのは、アムロのガンダムMk-Ⅱだった。
熱核エンジンを搭載しているアムロのガンダムは、他の戦術機とは一線を画した出力を誇る。そこから放たれたビーム砲はジムに叩きつけられようとしていた母艦級の巨体の軌道を変えたのだ。
『が、ガンダム・・・』
ドイツ人にとっては特別な存在であるその機体は、ほのかに赤い光を放っていた。
「こちらアムロ、ガンダムで戦線を押さえ込む!」
一度聞けば狂気の沙汰かと思えるその一言に、フッケバイン大隊と666戦術機中隊の面々はガンダムならば出来ると確信していた。
今のMk-Ⅱはオオトリストライカーを装備している。その為、充実した火力による攻撃ができるのだ。ビームライフル、ビームランチャー、ミサイルランチャーにレールガンと充実した武装は、真正面から2体の母艦級の動きを押さえ込んだ。
『アムロくんに続け!集中すれば相手の動きを押さえ込めるんだ!!』
続いて飛び出した来たのは、士郎のEz-8だ。IWSPを装着した士郎のEz-8は、レールガンを一点に集中的に浴びせかけて動きを封じ込める。
さしもの母艦級もこの集中砲火には身動きを完全に止めてしまう。そして、更に言うなら無傷ではありえない。被弾したところから傷口を更に広げていく。
「ウオォォォッ!!」
アムロの雄叫び一閃。レーザー対艦刀を突き刺し、まるで魚を捌くかのように切り開いていく。
その身の大半を切り裂かれた母艦級は、腹の中を曝け出したままついにその活動を止める事となった。
『やっぱりガンダムは化物か・・・』
『いや、違う。あれは衛士の腕だ。私に同じ真似はできんよ』
ポツリと呟くシルヴィアに、アイリスディーナがそう返す。
一方、士郎のEz-8は穴が空いたところに機体をとりつかせた。
『全弾持っていけ!!』
母艦級にとっては小さな穴といえど、そこから内部に一斉に砲撃されてはひとたまりもないのか、母艦級は激しく身をくねらせた後、身を横倒しにして活動を停止する。
『訂正だ。ロンド・ベルが違いすぎるのだ』
『だが、我らとて見ているだけではない』
『そのとおりだ!第666戦術機中隊!私に続け!!』
『『了解!』』
アイリスディーナの号令に答えて、666戦術機中隊の機体が一気に飛び出していく。
彼らの機体は、拓哉が強引に取り付けたマルチプルアサルトストライカーを装備している。大型ビームランチャー『アグニ』を一斉に放つ。
燃費は悪いが他の兵器とは一線を画した火力を持つそれは、狙い違わず一点に集中する。そして、そこに抜け出したテオドールのガンダムが突進する。
『俺にだって出来るはずだ!お前、ガンダムなんだろ!!』
アムロがやったのと同じように、2本のレーザー対艦刀を突き刺し一気に加速させる。
『オォォォォォッ!!!』
どれだけ飛んで切り裂いただろうか。それに思い当たった時には母艦級のしっぽにまでたどり着いていた。当然ながら、母艦級はその活動を止めていた。
『や、やった・・・』
『やった。じゃないですよ!テオドールさん!!』
カティアのかしましい声に、思わず耳を抑えるテオドール。
『どこまで飛んでいっちゃうんですか!』
『そうよ。あんまり無茶はしないでね』
『お兄ちゃん、怪我はない!?機体は動く!?』
言われて機体の各部をチェックする。エネルギーを想定より多く消耗してはいるが、機体に異常らしい異常は見受けられない。
『大丈夫だ。そ、そうだ!まだ母艦級が!』
『安心しろテオドール。もう1匹はフッケバイン大隊がやった』
改めてセンサーを確認すると、全ての母艦級の反応が消えていることを確認できた。
『終わった・・・のか?』
『気を抜くなエーベルバッハ少尉。まだ前哨戦にすぎんのだぞ』
ヴァルターの苦言に、テオドールは慌てて周囲を警戒する。大型種の反応はない。
『も、もう大丈夫・・・ですよね?』
『いーや、分かんねえぞ。まだ何か出てくるかもな』
テオドールのガンダムの近くに、マジンガーZとグレートマジンガーが降りてくる。普段の甲児からは考えられないほど真剣な、脅かすような雰囲気のない言葉に、ロンド・ベルの面々は十分にありえると思った。
「母艦級はもういないと思う」
『ニュータイプの勘ってやつか?』
「そうじゃない。奴らだって資源に限りがあると思うって、拓哉が言っていたのを聞いたことがあるんだ。確かに、何も無い所からあんな巨大な個体を複数作り出せないだろう」
『一理あるな。マシュハドにも重慶にも出てこなかったのは、ここに戦力を集中するために持ってきたってことか』
「ああ。それに、ここの守りがそれだけとは思えない」
『おいおい、怖いことを言うなよ』
弁慶がおどけて言うが、アムロはまだ何かがいることを感じ取っていた。
その時だった。大地が激しく鳴動したのは。
『来るぞっ!!』
『また母艦級か!?』
『いや、この反応は、ライブラリーに無い!新種だ!!』
徐々に激しくなる振動に、全員が身構える。
そして、それは現れる。
複数の足で大地に屹立し、光線級の目を複数持った巨大な個体。母艦級の圧倒的なサイズから見れば小さく見えるが、それでも全高はおよそ90mあるだろうか。
歴戦の彼らだからこそ分かった。母艦級よりも遥かに強力な個体であると。
「全員、避けろ!!!」
普段のアムロからは考えられない強い警告に、だが、誰もが機体をその場から逃していた。
それとほぼ同時だった。新種BETAの9つの目が同時に光り、ガトリングガンのようにレーザーが広範囲に吐き出されたのは。
『嘘だろ、おい!!』
『総員!ランダム回避!』
光の雨と言ってもいいほどの凄まじい勢いの光弾は、辺りを埋め尽くさんばかりだ。
少しずつ被弾する機体も出てきているが、一発ずつの威力が大した事がないせいか撃墜に至るほどのダメージを受けてはいない。とはいえ、一度でもこの嵐に巻き込まれたが最後、蜂の巣になるまで弾丸を打ち込まれることになるだろう。
『く、くそー!好き勝手やりやがって!』
「このままでは近寄れない・・・!」
誰もが手を出しあぐねいていたその時、突如としてレーザーの乱射が止まった。
『よし、今だ!!』
戦術機部隊が一気に攻めに転じる。
『待て、不用意に近づくな!!』
それは誰の叫びだったのか、突如としてBETAから無数の触手が吐き出され、近づいて来た戦術機部隊に叩きつけられる。
その数、実に50本を超える。そしてそれは要塞級のそれよりも長く高い攻撃力を有していた。
『う、うわぁぁぁぁっ!!』
『よ、避け』
悲鳴が通信機越しに聞こえる。犠牲がついに出てしまったのか。その事がアムロの脳裏によぎると同時に、何かを感じ取った。それが何であるかアムロには分からない。だが、身を引き裂かれるような悲壮感に思わず操縦桿から手を離しそうになる。
その異常はホワイトベース側でも感じ取れたのか、拓哉から通信が入る。
『どうした、アムロ!動きが止まっているぞ!』
「拓哉!誰か、誰かが死んだんだ!死んだんだよ!!」
『落ち着け!こちらでもマークしている!まだ誰も死んでいない!お前が感じているそれは勘違いだ!!』
「でも、入ってくるんだ!僕の中に!ガンダムが、教えてくれる!」
アムロはあの後、順調にニュータイプの能力を高め続けた。その結果、カミーユ・ビダンに匹敵するほどの感応力を手に入れた。
だが、拓哉が言っていることは間違っていない。大破機は複数出ているが、幸いにもまだ死者は出ていない。アムロが感じ取っているそれはもっと別の存在だった。
『アムロ!お前が感じ取っているのは、ずっと前にカシュガルで死んだ中国軍の兵士のものだ!多分!』
「ぼ、僕は、僕はどうすれば!」
『無視しろ!難しいかもしれないが、死んだ人間の思いまで受け取っていては、お前がパンクしてしまう!』
拓哉がそう言うと同時だった。アムロの中にある直感が何かを感じ取った。
『新種BETAから高エネルギー反応!!』
『狙いは、ホワイトベースか!!』
「避けろーーー!!」
アムロの叫びと同時に、3つの突起、合計9つのレーザー照射膜がまばゆい光を灯す。そして、
放たれた閃光はホワイトベースの右側面をえぐり取った。
「拓哉ーーー!!!」
アムロの叫びが荒野に響き渡る。
徐々に高度を落とし、地面へと沈むホワイトベース。ロンド・ベルの不敗神話の象徴であるそれが墜ちる様に、誰もが呆然とそれを見ていた。
『ホワイトベース!応答しろ!拓哉!彩峰司令!!』
だが繋がらない通信に、誰もが戦意を失っていく。
そんな中、異常は更に続く。元々仄かに赤い光を放っていたアムロのガンダムMk-Ⅱが、更に眩い赤い光を放ち始めたのだ。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
『あ、アムロ・・・』
新種BETAがアムロのガンダムの方に視界を向ける。
『アムロ、避けろ!!』
甲児が叫ぶと同時だった。超威力のレーザーが再び放たれたのは。
誰もがガンダムが光の中に溶け消える姿を想像した。だが、
パシィッ!!
酷くバカげた光景だった。ホワイトベースという巨艦を落としたレーザーが、あっさりと弾かれたのだ。
赤い光に包まれたガンダムMk-Ⅱは、背中からレーザー対艦刀を引き抜き、それを頭上に構える。レーザーの刀身が更に勢いを増し、本来の長さを遥かに超えて更に凄まじいレーザー、いや、赤い光を解き放つ。それはもはやビームでもレーザーでもなかった。その圧倒的な光は何であるのか、今この場で答えることのできる者はいなかった。
「消えてなくなれ、この世界から!!!!!」
振り下ろされた光の剣は、新種BETAをチリひとつ残さずこの世界から消し去った。終わってみれば実にあっさりとしたものだった。だが、その結果、被害は甚大だったといえる。
ホワイトベースは地面に落ち、そこにさらに小型BETAが群がろうとしていたのだから。
『総員!ホワイトベースを守れ!!』
紅蓮のその叫びに、瞬時に皆が我を取り戻した。
スコープドッグ、ソルテッカマン、ガーランド部隊が率先してホワイトベースの内部にBETAを入れないように動き出した。
それに続くように、戦術機部隊、そして他の艦も動き出す。
アムロはコクピットの中で荒い息を突きながら、その光景を呆然と見ていた。
「拓哉・・・ニュータイプとは、一体何なんだ・・・」
その答えに返事はなかった。
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35・一緒に歩こう。共に果てまで。
シートにしっかりと体を固定していた俺はようやく意識を覚醒する。
ホワイトベースは、墜落したのか。
まさかあそこで超重光線級が出てくるとは思わなかったな。幸いにもブリッジの直撃だけは免れたが、内部はシッチャカメッチャカだ。多分、これは死者が出たな。
「う・・・」
俺は聞こえたうめき声に、そちらを振り返る。
「焔ちゃん!?」
俺の隣でシートに座っていた焔ちゃんは意識を失っていた。
幸いにも怪我は一切なく落ちた時の衝撃で気絶しただけだろう。俺は体を固定していたベルトを外すと、すぐさま焔ちゃんに近寄る。
簡易な検査だが、目立つような怪我は一切ない。あれだけの被害を受けたにしては見事なまでにノーダメージだ。
周囲を見回すと、ブリッジにいた面々も徐々に意識を取り戻しつつある。
「うっ・・・これは・・・」
「ホワイトベースが落とされたんですよ、彩峰司令」
思えば酷く冷静な声だった。いつかこういう時が来るとは思っていたが、思っていたより早かったな。
「冷静だね」
「そうでなければやってられないからですよ」
焔ちゃんさえ無事ならどうでもいい。元からそういう考えの濃い俺は、この状況でも冷静になれるのだろう。もっとひどい言い方をすれば、戦いたくないだとか、特許でウハウハなんて考えていた俺は、そう、前世から考えるにサイコパスに近いのだろう。そのものではないと思う。自分でも時々信じられないぐらい甘いと思う時があり、それがまさに今だろう。
俺は目の前に用意されている専用のコンソールを使い、艦の状態を確認する。
ものの見事に大破だ。右舷のエンジン部分はごっそり無くなっている。近くにいた人たちは、残念だが助からないだろうな。
俺は通信席まで行くと、通信を緊急用のものに切り替えて、周囲の鑑定に呼びかける。
「こちら、ホワイトベース。周辺艦艇、応答されたし」
『おお、婿殿!無事であったか!』
「ブリッジは無事です。彩峰司令も焔ちゃんも無傷ですよ。今、司令に変わります」
俺は彩峰司令に通信機を渡すと、焔ちゃんの元に向かう。今の一番大事は焔ちゃんだ。
そっと抱き起こすと、まだ意識が覚醒していないのか、静かな寝息を立てている。本当に、無事でよかった。
こんな時でなければ滅多にしないことだが、少しきつく抱きしめる。
焔ちゃんの甘い香りと柔らかな体の感触が、俺の心を落ち着ける。かすかに、だがしっかりと鼓動が響く。寝込みを襲うようで気は引けるが、そっと優しく唇に指先で触れる。
と、焔ちゃんの体がピクリと動く。しばらくそのままの状態で動きを止める。焔ちゃんの体が徐々に我慢できなくなってきたのか、小刻みに震える。
「焔ちゃん、今は緊急事態だから後でね」
「私の寝込みを襲おうとしたのは拓哉様が先です!」
寝込みを襲うって・・・。いや、まあこういうのは初めてだけどさ。
俺の腕から立ち上がり、不機嫌そうにしながら周囲を見回してポツリと呟く。
「墜ちてしまったのですね・・・」
「ああ。外の状況が一段落ついたら、天馬に乗り移る。それまではここでジッとしていること、いいね」
「拓哉様はどうなさるのですか?」
「艦内の様子を見てくる」
「なりません!!」
ぐいっと引っ張られてそのまま地面に引き倒された。そして、そのまま焔ちゃんは俺の腕を取ったまま馬乗りになる。
「断じてなりません」
「艦内の確認は・・・」
「それならば艦内常駐のソルテッカマン部隊の方々がやってくださいます。それよりも、万が一にも紛れ込んだ小型BETAに拓哉様が害されることの方が重大事です」
それを言われると、返す言葉に困る。
「どうしても行くというのなら、私を力づくで振りほどいてからになさいませ」
「それ無理」
「・・・・・・拓哉様」
そうつぶやくと、思いっきり俺の腕を引っ張り上げたたたたたっ!!!!
「即答はないかと思いますわ。確かに、私はお父様から無現鬼道流を教わっておりますが、だからといって即答はないかと思いますわ!」
コキュッ
「「あっ」」
しばらくお待ちください
「とにかく、拓哉様はここでじっとしているべきです」
「俺の腕を引っこ抜いておいてその反応はどうかと思う」
はめ直された肩関節の様子を確認しながら、焔ちゃんの方を見るが、ツイっと視線を外された。
まあ、今はいいや。後でじっくりと聞くとしよう。体に。
外の音も大分と静かになってきた。BETAの殲滅も無事に進んでいるらしい。
「お義父さん、外の具合はどうですか?」
『順調に進んでおるよ。やはり、母艦級を早期に殲滅したのが効いておるわ。後は、あの新種のBETAだがな、アムロが倒しおったわ』
「アムロが!?」
『何やら新兵器を積んでおったのか。長大なビームサーベルで一撃で倒しおったぞ』
「・・・・・・そんな兵器、積んでませんよ」
『何?』
長大なビームサーベル。それに実は一つだけ心当たりがある。本来ならばカミーユが使うはずの必殺兵器、ハイパービームサーベルだ。Ζガンダムが使うはずのそれを、ガンダムMk-Ⅱで使ったのか。無意識に使ったのだろうな。
「それで、アムロの様子はどうですか?」
『あの新種を倒してすぐは呆けておったが、今はBETAの掃討に動いておる』
相手がニュータイプ、それもパプティマス・シロッコほどのレベルの相手じゃないからかもしれないが、精神に異常をきたすような事はないらしいな。
とりあえず、全ては帰って来てからだ。
ただまあ、アムロに聞かれても俺の答えられることなんて殆ど無いんだがな。
その後、一時間ほどして艦内の安全は確保された。
艦内保全のために用意していたソルテッカマンが、すべてBETAが居ないことを確認したらしい。
そして、外のBETAも全て駆除されることとなった。それも3隻の天馬級と多数の巡洋艦による砲撃、そして、戦術機部隊の奮戦によるものだ。
外に動くものはもはやない。だが、ホワイトベースはどうすることも出来ない。帰る時に、天馬級3隻でワイヤー釣りしてから運ぶしか無いな。
まあ、今までが順調すぎたんだ。ここで帳尻合わせが来たってだけのことなんだろうよ。多分な。
これからのことを考えると頭が痛いな。ソルテッカマンの護衛に連れられて、俺と焔ちゃんは格納庫に来ていた。
お~お~。大混乱。
さて、目当ての人は・・・いた。
「おやっさん!ちょっといいか!」
鬼の整備班長、榊清太郎がこっちに気づいたのか、作業を中断してこっちに来る。
「よう、若大将。派手にやられたな」
「ああ。言い難いことを聞くけど、整備班で犠牲者は?」
「倒れてきた資材で頭を打ったりした連中が医務室送りになったぐらいだ。命に別状はねえよ」
ただ、と続ける、
「戦術機の整備をする分には問題ない。やるんだったら、ここでやっていきな」
「意外だな。大分派手に揺れたはずだが?」
「その程度でどうにかなるような鍛え方はしてねえよ。ガンダム、マジンガー、ゲッター、全部こっちに入れな」
「整備できるのか?」
「任せておきな」
たくましいね、おやっさん。と、向こうの方からシゲさんが走ってくる。
「おやっさーん!こっちは全部済んだよー」
「そうかい。まあ、後はこっちに任せてくんな。若大将はまだ仕事があるだろう」
「分かったよ。それじゃ、頼むわ」
俺はおやっさんに別れを告げると、その足で自分の部屋へと向かった。
俺の部屋に置かれているもので一番貴重なのは、端末機械一式だ。ここで機体の簡単な設計もすることがあるから、それなりの設備は置いてある。
部屋の中は滅茶苦茶に荒れていて、撃墜による衝撃がどれほどすごかったのかが窺い知れる。
データの回収を済ませた俺は、メモリーをポケットに放り込んで部屋の外に出る。
廊下を歩きながら俺は考える。
俺に出来ることはもう無い。ホワイトベースも落とされ、改造すべき機体はすべて改造した。ならば、俺に出来ることは何がある?
「俺は・・・無力だ・・・・・・」
「拓哉様。ホワイトベースが落とされたことは、何もあなたのせいでは・・・」
「違う。違うんだよ」
改めて思う。俺は戦う力を手に入れるべきではなかったのかと。もし、俺がアムロと同等の力を手に入れていれば、あそこでホワイトベースを守れたのではなかったのかと。いや、それも無駄な空想にすぎない。戦う力を手に入れていたら手に入れていたで、俺は頭脳を求めたはずだ。自分のことだからよく分かる。無い物ねだりを続けてきた結果、それは前世で散々味わってきた。だからこそ、俺は、今出来ることを最大限にやることを選んだ。そのはずじゃないか。
不自由なものだ。多くの先人たる転生者たちもこんな気持ちを味わってきたのだろうか。だとしたら、彼らに敬意を払うしか無い。俺には、それを抑えるすべがない。
「拓哉様、失礼致します」
「はっ?」
俺が間の抜けた声を上げるのと、パンっという乾いた音が響いたのはほぼ同じだった。
頬に熱さが届き、俺は頬を叩かれたのだと気づいた。
呆然とする俺に、焔ちゃんは手を振り抜いた姿勢のままで、俺を強い視線で見つめる。
「拓哉様。あなたは神にでもなられたおつもりですか?そして、今を必死に戦う人を蔑ろにしているのですか?」
「そんなつもりは・・・無い!」
「ならば、信じなさい。全てを」
焔ちゃんから初めて放たれる強い言葉に、俺は何も言えずにいる。
「あなた一人が戦っているのではありません。そして、以前にこういったはずです。もう少し私に縋ってくださいませ。頼ってくださいませ。戦うことは彩峰司令やアムロ様たちを頼ればよろしいのです。機体を直すのならば榊様たちがいらっしゃいます。政治に関してはお父様や皇太子殿下、政威大将軍殿下がいらっしゃいます。何もあなた一人で背負い込む必要はないと申し上げたはずです」
「そんなこと、分かって」
「分かっておられません!何一つ!」
パンっと乾いた音がして、今度は反対の頬を張られた。
「あなたのそれは傲慢で、ただ増長しているだけです!全てを全部自分一人で背負い込んだ気になっているだけです!誰が、どこの誰が、あなたにすべてを解決するように言いましたか!?そんなことは人の身である拓哉様には不可能です!」
返せない。何も、言い返せない。
そうだ。前にも、そう言われたはずだ。これ以上背負い込むのをやめろと。
あの時は、そう、俺は分かっていたはずだ。もっと誰かに頼ることを理解したはずだ。
「戦っているのは、あなた一人ではありません。さあ、手を」
そう言って俺にそっと手を差し出す焔ちゃん。
「行きましょう。私たちは私たちにできることをすればよろしいのです。それでも、どうしても自分が許せないとおっしゃるのであれば・・・」
強引に俺の手を取ると、近くの部屋に入る。
空き部屋なのか、部屋の中は驚くほどに何も無い。
焔ちゃんはそれを確認すると満足したのか、俺を引っ張ってベッドに倒れ込む。俺が押し倒した形で焔ちゃんは俺を見上げて微笑む。
「私に全てをぶつけて下さい。私は、すべてを受け入れます」
それは極上の笑顔。俺のすべてを受け入れてくれる慈愛に満ちた瞳は、何よりも魅惑的だった。
そして、それに抗うすべなど俺は持っていなかった。
あれからどれ位時間が経ったのだろう。
身支度を終えた俺は、顔を合わせづらかった。ただ、重ねられた手のぬくもりから、焔ちゃんの気持ちが伝わってくる。俺が体を離そうとしてもそっと体を寄せてくるのは、今は本当にありがたかった。
と言うか、外ではまだ戦闘態勢を解いていないだろうに、俺は何をやっているんだ。
ガシガシと頭を掻いて、なるべく焔ちゃんの方を見ないようにしながら、そっと抱き寄せる。すると、俺が抱き寄せるよりも早く身を寄せてくる。こういう時には女の子のほうが度胸があるのだろうか。俺はどうしていいか分からないのに。
「とりあえず、ブリッジに戻ろうか?」
「はい」
そして、再び体を寄せてくる焔ちゃん。本当に、女の子は強いよ。
多分、彩峰司令には気づかれるだろうな。あの人だって人の親だ。そう言えば、あの時にもらった『突撃一番』結局使わなかったけど、大丈夫だよな。
そんな益体もないことを考えながら廊下を歩いていると、突如として何者かが廊下の角から姿を見せた。あれは、ロンド・ベルの、帝国軍の隊服ではない。
顔つきはアジア人のようだが、日本人じゃない!?
そこから先は、俺もほとんど意識していない。何かをポケットから取り出した不審者。そして、俺をかばうように前に立った『焔』を押しのけて俺は両手を広げた。
普段あんまりかっこいいところ見せられないんだからさ、こういう時ぐらいは男を見せないとな。
パンッパンッ!と二つの乾いた音がして、拓哉の体から血の花が咲いた。
そして。
「拓哉様ーーー!!!」
意識の消える前に、彼女の悲鳴が彼の耳朶をうった。
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36・誰が為の戦い
静まり返った艦内に乾いた音はよく響く。
それは、鋭敏になったこの男の耳にはよく聞こえていた。その直後に聞こえた友人の婚約者の悲鳴も。
「何だ、何があった!?」
巴武蔵は杖をついて壁に手を突きながら、その場に駆けつけた。
「!!!!」
突然現れた武蔵に、不審者の男は驚きの声を上げるが、武蔵の両目が包帯によって防がれているのを見ると、続けて冷静に手に持った拳銃を突きつけ、引き金を引こうとした。
だが、それは悪手と言ってもよかった。相手は巴武蔵である。柔道家としての腕前は、あの紅蓮醍三郎が太鼓判を押す腕前である。そして、武蔵の鋭くなった感覚は何も聴覚だけではなかった。嗅覚は確実に硝煙の匂いと、その奥にある鉄錆の匂いを感じ取っていた。
武蔵が相手の腕を掴んで上にねじりあげるのと、引き金を引くのは同じタイミングだった。
「お前、オイラのダチに何しやがった!」
「!!!」
何かを叫んでいるようだが、それが中国語らしいという以外は何もわからない武蔵は苛立ちも隠さずに、乱暴に相手の胸ぐらを掴む。
「今のオイラはちょいと荒っぽいぜ!」
杖は既に手放されており、掴んでしまえば後は武蔵から逃れうるものなどこの世に何人もいなかった。
「大雪山おろしーーー!!!!!」
「ぐべっ!?」
あのゲッターロボの高速機動に耐えられるだけの肉体を持った男の、全力の大雪山おろしである。全身から骨が砕ける音がしてその全力は、躊躇なく天井に向かって叩きつけられた。
グチャという肉の落ちる嫌な音がしたが、武蔵はそれに構う気はない。血の臭いのする方に杖を持たずに近づいていく。
「おい、何があったんだ、拓哉!」
「武蔵様・・・拓哉様の、拓哉様の体から血が、血が流れて、止まらないのです・・・!」
腹部から流れ出る血を必死になって押さえつけようとする焔。普段の彼女であれば、冷静に応急処置をしたであろう。だが、今は愛する男が死にかけているという事態に冷静さを失っていた。
だからこそ、武蔵は冷静になれた。
「落ち着くんだ、焔ちゃん!まずは拓哉の傷口を部屋のシーツでもなんでもいい!とりあえず塞ぐんだ!」
「えっ、あ・・・・・・」
「早く!目の見えないオイラじゃあ応急処置は出来ないんだ!」
「は、はい!」
扉の開く音と中で何かを引きずり出そうとしている音を聞きながら、武蔵は大声を張り上げた。
「衛生兵!衛生兵はいないか!!拓哉が襲われた!!」
この叫びが引き金となった。
ブリッジには関係者一同が集められていた。
関係者と言っても、司令の彩峰と神野志虞摩、紅蓮醍三郎と言った重鎮ばかりだ。アムロたちは医務室で現在手術中の拓哉の容態を見守っている。
「まさか統一中華戦線・・・いや、中国がね・・・」
厳しい表情で彩峰がつぶやく。例の工作員の男だが、今も意識を取り戻さない。だが、手持ちの武器と服装などから、中国サイドの工作員であるということはすぐに分かった。
統一中華戦線は一枚岩ではない。BETAという脅威を前にして一時的に手を取り合っているにすぎないのだ。中国と台湾。この問題は拓哉の前世の世界でも、そしてこちらでも根深く残っている問題なのだ。
この問題のこの世界における厄介なところは、拓哉のおかげでこの結束が原作よりも緩いものであるということだ。
この世界ではもはや戦後の世界を見据えた動きが始まっている。アンバール、ボパールに続いて、重慶、マシュハドと立て続けにハイヴを攻略して、今やオリジナルハイヴ、カシュガルに王手をかけている。その為、今は棚上げにしている問題が降りてきているのだ。だからこそ、新塚拓哉という最強のジョーカーを手に入れようとどの国も画策していた。
穏便な所ではインドを始めとした東南、中央アジア諸国。いわゆる、大東亜連合に所属している国家だ。ここはインド亜大陸の猛将、パウル・ラダビノッドの影響力もあり、日本とは穏便な関係を続けることで祖国を取り戻せることを理解していた。最初に日本からジムの供出を受けたということも大きいだろう。
続けて、意外ではあるがソ連だ。ソ連は最初に色々と第三計画絡みでやらかした感はあるが、だからこそ、日本とは穏便な関係を続けることこそが最良であることを理解していた。拓哉、というよりもロンド・ベルが噛みつかれたら容赦しないことを知ったからだろう。
続けてEU諸国も穏やかな方である。正確には、まだハイヴの影響があり、いくらジムの供出を受けていても、ハイヴの影響を排除できない以上、何かをする余力がないのだ。だが、EU諸国も一枚岩ではない。拓哉を手に入れようと画策しているが、それは力づくではなく、緩やかに拓哉を絡め取ろうと各国が動き出すであろう。
アメリカについては散々語っているのでここでは省略しておく。むしろ、今回の件を知ると、喝采を上げることであろう。
「さて、どうしたものかな」
「そうじゃのう。こちらとしてもこのままという訳には行くまい。外交筋で抗議は出しているが、はてさて、どこまで効果があるやら」
「何を弱気なことを言っておるか!統一中華戦線はここで切り捨てる!」
「敵を前に人類で仲間割れですか?拓哉くんが一番嫌うことですよ」
「婿殿の差し出した手を振り払ったのは中国だ!」
「落ち着け、紅蓮よ。彩峰の言うことは最もじゃ。敵の最重要拠点であろうカシュガルを前に、そのような余裕などあるまい。まずはカシュガルを落とす。統一中華戦線・・・いや、中国の問題は殿下に任せるとしよう」
「ぬう・・・!」
「婿殿を害されて機嫌が悪いのも分かるが、だからこそ冷静に動くべきじゃ」
「そうですな。今はカシュガル攻略に全力を注ぎましょう」
紅蓮は不機嫌そうな唸り声を上げるが、彼とて事の重要性は分かっているのだ。だが、感情が納得しない。拓哉を婿として認めたのも、何もガンダムを渡されたからではない。皇太子殿下と政威大将軍殿下を動かし、ロンド・ベルという一大軍団を作り上げた手腕を買ったからこそである。そして、埋もれていた天才、兜博士、早乙女博士を世に出し、マジンガーZとゲッターロボの完成にも貢献したからこそ、婿として認めたのだ。
だからこそ、拓哉の思いも知っている。彼が何を目的に戦ってきたのかも。彼がその気になればもっとえげつない商売が出来たのだ。その事は二人になった時に拓哉から聞いている。その気になれば、世界の裏も表も、アメリカからぶんどることが出来るということを。だが、それは彼の望みではない。彼の望みは世界の平和だ。だからこそ、力そのものである戦術機をあれだけ多数国外に流出させたのだ。戦術機だけではない。それに付随する技術も全てだ。
「誰が、誰が世界のために戦っていると思っている・・・!」
かつては、武力こそが全てだった紅蓮の意識すら改革してみせたのだ。
「心中、お察し致します。まったく・・・誰が為の戦いなのだか・・・」
彩峰のつぶやきは、静かに空気の中に消えていった。
そして、医務室の前では焔が憔悴しきった表情で、手術の結果を待っていた。
ショックを受けているのはアムロたちも同じだが、焔がそれ以上に憔悴しているため、それを表に出さないでいた。
焔の側には弓さやかと炎ジュンがいた。男の自分たちよりは同じ女性という判断は正しかったらしく、二人に励まされて少しだけ落ち着きを取り戻していた。
「・・・まだかよ・・・」
「落ち着くんだ、甲児くん」
「分かってるよ・・・。分かってんだよ!」
事件を聞いた当初は、マジンガーに乗って中国軍を蹴散らしてくると息巻いていた甲児だったが、鉄也と竜馬の二人に力づくで止められて、苛立ちをギリギリの一線で我慢しながら手術の結果を待っていた。
手術が始まってからおよそ3時間が経過していた。本来ならば、軍を再編成してカシュガルに突撃していたはずなのだが、今はそれどころではなくなっている。
擱座したホワイトベースの周りには、天馬級が上空から睨みを効かせ、その周りを巡洋艦が厳重に取り巻き、更にその外側を戦術機部隊とスコープドッグ隊が取り囲んでいた。ソルテッカマンはその大半をホワイトベースに移し、今やその内部は戒厳令が敷かれている。
そして、統一中華戦線はその部隊のすべてを遠方へと追いやられていた。その彼らにはEUからの援軍である666戦術機中隊とフッケバイン大隊、大東亜連合軍が銃口を向けていた。国連軍もこの状況で何かをするわけではなく、アメリカの息がかかったものたちは内心で喝采をあげつつも、ロンド・ベルに潰されることを恐れて、一番外回りを警戒していた。
元々気の長い方ではない甲児は、今にも爆発しそうな感情を必死に抑えていた。本当ならば今すぐ飛び出していきたいところだが、それは鉄也と竜馬に止められている。
それで我慢するような甲児ではないのだが、竜馬の表情が完全に消え去ったままで通路の手摺を捻じ曲げているのを見て、誰もが我慢していることを知ったのだ。
一番付き合いの浅い鉄也も、その事に気づいているからこそ止める側に回ったのだ。本来ならば彼も、甲児と一緒に出撃したいぐらいなのだ。だが年長者として、それだけはギリギリの所で我慢した。
そして、意外と静かなのはアムロであった。さやかとジュンの二人を連れてくるように進言したのもアムロで、その後は手術室の前でじっと静かに待っている。この中では拓哉との付き合いが一番長いのはアムロだ。だからこそ、静かに待っているのは不気味とすら言えた。
誰もが行き場のない感情を持て余す中、医務室の手術中と書かれたランプの明かりが消える。手術が終わった合図だ。
その場にいた誰もが扉の方に視線を集中させる。出てきたのは、ホワイトベースの主治医を務める医師だ。
「先生、拓哉様は!」
「安心しなさい。手術は成功した」
立ち上がった焔は腰が抜けたのか、再びその場に座り込んで涙ぐむ。そんな彼女をさやかとジュンが慰める。
「ただし、このまま作戦行動に参加させる訳にはいかない。新塚博士はどれか適当な艦に移送した後、日本に帰した方がいい」
「それもそうだな。彩峰司令には俺が伝えに行こう」
鉄也がいち早く立ち上がって、その場を後にする。
何かを言いたそうにしていた甲児だったが、竜馬は甲児の肩に手をおいて押しとどめる。
一番付き合いが浅いから遠慮したのだと、竜馬は気づいていた。そして、それを表に出すような器用な男ではないことも察していた。
笑みを浮かべて鉄也を見送る竜馬を、甲児は不思議なものを見るような目で見ている。
「それで、拓哉には会えますか?」
「無理を言っちゃいかん。まだ当面は安静にしなければならん・・・が、見送るぐらいならばいいだろう。移送する時には声をかけるから、君たちは部屋に戻って休んでいなさい」
「まあ、そうだろうな。さあ、俺達は部屋に戻るぞ」
「おい、隼人!それはちょっと薄情じゃないのか?」
「ここで間抜け面して待っていても仕方がないだろう。むしろ、見送る時に会う許可をもらえただけでも、十分な譲歩だと思うぞ」
「隼人くんの言うとおりよ。さあ、甲児くんたちも部屋に戻りましょう。焔さんも、ね?」
隼人とジュンに説得されて渋々ながら立ち去ろうとする甲児たち。
と、甲児が突然足を止める。そして、
「拓哉ー!お前が帰ってくるまでにオリジナルハイヴは片付けといてやるからなー!」
「あ、てめえ!ずっけーぞ!おい拓哉!いつまでも寝てると、俺様が焔ちゃんをもらっちゃうぞー!」
「お前には無理だよボス。聞いていたな、拓哉!俺だけじゃあこの動物園みたいな連中の面倒は無理だ!さっさと帰って来い!」
「ちょっと!動物園の中にあたしも入っているわけ!?拓哉くん!焔ちゃんをこれ以上泣かせたら、承知しないんだからね!」
「おーい!拓哉!帰ってきたら俺が野球を教えてやるからよ!ちょっとは体を鍛えろよ!」
「それよりも、俺が空手を教えよう!女の子を守っても大怪我をしてたんじゃあ駄目だぞ!」
「こら!君たち!医務室の前でそんな大きな声を出さないの!」
賑やかに去っていく一同に、医師は呆れたようにため息を突きながらも、一人残ったアムロの方に視線を向ける。
「君は何も言わなくてもいいのかね?」
「ぼ、僕は・・・」
「言いたいことがあるなら言っておきなさい。なに。今更一人増えた所で変わらんよ」
「そ、それじゃあ・・・」
諦めたような医師の一言に、アムロは大きく息を吸い込んで。
「拓哉!!帰ってきたら、全部聞かせてもらうからな!!」
それだけ叫ぶと、医師に向かって一礼をしてアムロは走り去って行った。
去っていったアムロたちを見送りながら、医師はポツリと呟く。
「いい友達を持っているじゃないか。羨ましい限りだな、新塚博士」
未だ眠ったままの拓哉に視線を向けて、自らの仕事へと戻っていった。
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37・決戦!オリジナルハイヴ!前編
「そうか。わざわざすまないね」
「気にしないでください。それに、俺も思うところがないわけではありませんから」
鉄也からの報告を聞いた彩峰は、ひとまず胸をなでおろした。
拓哉の生死いかんで、今後の帝国の運命は決まると言っても過言ではないからだ。話し合っていて気がついたことではあるが、今の帝国は拓哉に完全に依存しきっていた。戦術機の開発も、部隊の結成、そして、何よりも拓哉がいなければ、ロンド・ベルがあったとしても外征することはなかっただろう。
「とはいえ、拓哉くんを内地に戻すのも難しいな・・・」
「やはり、ですか」
「巡洋艦一隻だけでは、ちと不安じゃな。そこを狙うバカどもが現れんとも限らん。かと言って、絶対安静の婿殿を連れて最前線に出るわけにもいかん」
「そして、このまま引き下がるのも悪手ですね。拓哉くんの予想では、オリジナルハイヴは一気に攻めないと、BETAがこちらに対応して強力な新種を生み出しかねないと言うことです」
「ホワイトベースをこのままにも出来ぬぞ。ハゲタカ共に中を荒らされたくはあるまい」
難しい問題に直面して、会話は膠着状態に陥る。それだけ拓哉の問題は重たいのだ。
と、そこにブリッジの扉が開いてアムロたちが入ってくる。あの後、結局部屋でじっとしていられずに全員がそのままブリッジにまで来ていたのだ。
「なあ、俺たち、これからどうするんだ?」
「拓哉くんのこともあるからね。それでちょっと行き詰まっているんだ」
「それでしたら、僕に考えがあります」
そう言って一歩前に出たのはアムロだった。普段はおとなしいアムロの意見に、誰もが驚きの視線を向ける。
「言ってみなさい」
「拓哉は天馬級のどれかに預かってもらいます。そして、残りの天馬級2隻と選抜した機体だけでハイヴまで突撃します」
「待て待て!戦力を削るつもりか!」
「はい。どのみちハイヴの攻略はスピードが重視です。中にいる無数のBETAに囲まれる前に最奥まで到達して、反応炉を破壊した方がいい。そして、僕のガンダムとゲッターのスピードと攻略速度についてくることの出来る機体は限られています。マジンガーZとグレートマジンガー。士郎さんのガンダムEz-8。それぐらいしかいないはずです」
「馬鹿な!その戦力で突撃するつもりか!」
「時間がありません。BETAに時間を与えると、対応される可能性があります」
普段のアムロからは信じられないような、大胆な作戦に誰もが息を呑む。
彩峰は、アムロの目を見る。ヤケを起こしているとかそういう色はない。
「拓哉くんから何か聞いているのかね?」
「聞いたことがあるだけです。オリジナルハイヴに近ければ近いほど、対応の速度が早くなる。BETAは各ハイヴ間で、こちらの想像もつかない方法で連絡を取り合っている。世界の他の国のためにも、オリジナルハイヴは何よりも早く落とさなければならないって」
「そこまで読んでいたのか、婿殿は・・・」
「だから、早く倒さないといけないんだ!お願いします、彩峰司令!僕達だけでも行かせて下さい!」
「俺からもお願いします!このままじっとしてなんかいられねーぜ!」
「俺達も、ゲッターチームはいつでもいけます!」
「そういうことだ、司令さんよ」
「へへへ、俺達だったら心配無用だぜ」
「司令!俺も行きます!行かせて下さい!」
アムロ、甲児、竜馬、隼人、弁慶、そして士郎までも。
少年たちの熱い言葉に、ついに彩峰も折れた。
「分かった。ただし、行くのなら紅蓮閣下と神野閣下にも同行していただく」
「そうじゃのう。ここまで来て仲間はずれはひどいぞ」
「うむ!婿殿のためにも、一肌脱ごうではないか!」
ここに最強の突撃部隊が結成されたのだった。
「さて、作戦を改めてまとめよう。まずは天馬級2隻のハイメガ粒子砲で地表構造物を撃破。それと同時に、紅蓮閣下を指揮官に、神野閣下、篁大尉、巌谷大尉、天田少尉、アムロくん、甲児くん、鉄也くん、ゲッターチームで強襲をかける。それに合わせてロンド・ベルの残存部隊と、作戦参加の申し出があった666戦術機中隊とフッケバイン大隊、極東国連軍、ソ連軍、そして斯衛軍が追いかける形で後を追うBETAを後ろから撃つ。ホワイトベースの周囲には天馬級1隻とロンド・ベル第四軍を残し、長良型巡洋艦、並びに所属部隊と帝国軍に周囲の警戒をさせる。拓哉くんは天馬級に移ってもらう」
「地上に出てきたBETAはどうするつもりじゃ」
「地上に残る天馬級と、球磨型、川内型、天龍型巡洋艦、並びに大東亜連合軍を含む、随伴の戦術機部隊で撃滅させます。それで全てのBETAを刈り取ることができます」
そこまで話した所で、周囲を見回す彩峰。
「あの、私達はどうするんですか?」
「さやかくんとジュンくん、ボスくんは地上でBETAの掃討にあたってくれ」
「ちょっと待った!俺様も留守番組!?」
「いや、流石に君の機体でハイヴに突入は・・・ね?」
「くー!!中国の奴らめ、拓哉が無事なら俺様のボロットを改造してくれていたはずなのに!」
「拓哉もそこまで暇じゃねえよ。改造するんだったら、一から作ったほうが早いだろ」
「うがー!!」
「まあ、ボスは放っておくとして。私たちはハイヴ攻略シミュレーションを受けていないからですか?」
「そうだ。鉄也くんもその点では同じだが、グレートマジンガーのスペックと鉄也くんの実力を鑑みて、攻略部隊に入ってもらうことにした」
「さやか、私たちは私たちにできることをやるだけよ」
「う~、せっかくここまで来たのに・・・」
「拗ねるなよ、さやかさん。後は俺達に任せてくれよ!」
これは彩峰も口に出さなかったのだが、さやかの技量ではとてもついていけるとは思えなかったからだ。その為にジュンというお目付け役を残して、地上部隊においたのだ。
「作戦開始は一時間後だ。それまでに体を少しでも休めておく事。機体の整備は班長たちに任せよう。いいね」
『『了解!』』
部屋に戻ったアムロは、思いの外やることがない事に落胆する。
機体の整備はすべて整備班任せでいいというお墨付きまでもらっているため、今は格納庫に戻っても門前払いを受けるだろう。
ベッドで横になりながらハロに視線を向ける。なんにも考えていないような表情で、ポンポンと跳ねるのを繰り返すそれを、アムロは蹴飛ばしてみる。
『ヒドイゾ、ヒドイゾ!』
「目障りだから隅の方にいてくれ」
『ショボーン』
目に見えて落ち込んだ様子で、ハロが隅の方に移動する。
改めて見れば、このハロというロボットはこちらの感情を理解している節がある。それを考えればオーバーテクノロジーの塊と言ってもいいだろう。
それを考えればわからないことがある。なぜ、拓哉はハロのようなものをアムロに渡したのか。誕生日プレゼントとしてもらった時には特に何も言われなかったが、たしかに何でもいいと言ったのは自分だが、それでも気軽に渡せるものではないはずだ。
「ハロ、拓哉から何か預かっているものはないか?」
『ハロ?』
「都合が良すぎるか・・・」
『アルゾ。アルゾ』
帰ってきた予想外の答えに、アムロはベッドから飛び起きる。
「何を預かっているんだ、見せてくれ!」
『ハロ!』
ハロの目が光って、プロジェクターのように壁に映し出される。それは設計図だった。機械にはそれなりに詳しいアムロでもわからない部分が無数にある辺り、さすがは拓哉の作ったものだと言うしかない。
見たことのない設計図が多数入っており、アムロはそれらのすべてに目を通していく。どれか一つでもこれからの戦いに役立てられないか、それを考えながら見ていく。
「何だこれは・・・。ゼオライマー?次元連結システムって、まさか、あれが?それに、こっちはガンダム?νガンダム?サイコフレーム?コンピューターチップを分子レベルで埋め込んだ素材!?」
目が回りそうだった。ハロの中身はまさに宝の山だった。それ以外にも見たことのない合体する機体が複数。次世代量産型機の雛形など、多数の設計図が中から出てきたのだ。
これは拓哉が万が一に備えて残したものである。もし、国連やアメリカによってその身柄を差し押さえられた時用に、ハロの中に多数の機体の設計図を残していたのだ。
最後に一文が加えられていた。
「アムロに預ける。万が一の時は、これを兜博士か早乙女博士に預けて欲しい。俺の親友であるお前ならば、きっと活用してくれると信じて・・・」
ゴンッと拳を壁に打ち付ける。鈍い痛みが伝わるが、それ以上に胸の奥が一杯になりそうだった。
「バカ・・・!こんな、遺書みたいなものを残して・・・」
今現在、すぐに活用できるものはない。だが、これは誰かに託すべきだ。自分がこれから向かうのは死地だ。今まで以上に生存は保証されていない。だから、自分も託さなければならない。
「ハロ、もし僕が帰ってこなかったら、今の内容は全て彩峰司令に見せるんだ」
『ハロ!』
理解しているのかどうかは分からない。だが、これで自分の役目を一つ果たしたことに胸を撫で下ろす。
勿論、アムロだって死ぬ気はない。だが、これが託すものの思いかと理解した。
とりあえず、アムロは一つだけ決めたことがある。拓哉が目を覚ましたら、こんな遺言めいたものを残したことを徹底的に問い詰めてやると。
そして、出撃の時が来る。
アムロは念入りに機体のチェックをする。整備班長たちの腕を信じていないわけではないが、これはもはや癖である。甲児ならばろくにチェックもせずに動かすだろうが、根っこが神経質なアムロにはそれは無理だ。
「よしっ・・・」
『おっ、気合入ってるな、アムロ』
甲児から通信が入る。
「そう・・・かな?」
『そうだよ。いつものお前とは大違いだぜ』
改めてそう言われると、気持ちの入り方がいつもと違うような気がする。あくまで気がする、だけなのだが、甲児が言うのならそうなのだろう。
『ははっ、いいじゃないか。気合は入っていたほうがいいだろう?』
『リョウは気合が入りすぎなんだよ。肝心な所でトチるなよ』
『それは弁慶に言ってくれ』
『おいおい、俺だってゲッターのパイロットなんだぜ!目をつぶってたって合体出来らぁ!』
『それ、実戦ではやらないでくれよ』
『いや、逆にそのぐらい肩の力が抜けている方がいいだろう』
ゲッターチームに士郎、鉄也まで加わってワイワイガヤガヤと賑やかになってきた。いつものロンド・ベルらしさが少し帰ってきたと言ってもいい。いつもなら、ここで拓哉から通信が入るのだが、ブリッジからは何も言ってこない。
その事に一抹の寂しさを覚えつつ、通信で繰り広げられる賑やかな会話を聞いている。
『これで、後は拓哉が帰って来たら完璧だな』
『ああ。やはり、俺達のまとめ役は拓哉だからな』
『違いない。やはり、拓哉くんがいないとしっくりこないな』
そして、しばらく会話が止まる。誰もが拓哉に思いを馳せているのだ。
「だったら・・・」
アムロはゆっくりと口を開く。
「必ずみんなで生きて帰ろう。そして、拓哉に言うんだ。もう、一人じゃないって」
『アムロ・・・お前・・・・・・』
『ふっ、そうだな。あの天才様は、どうも自分ひとりで背負い込んでいる節があるからな』
『そうだな。君だけの戦いじゃない。俺達の戦いだって言ってあげないとな』
『よし、そうと決まれば俺達の作戦目標は・・・』
「みんなで生きて帰る!必ずだ!」
『『おう!』』
かくして、桜花作戦最終段階が発動した。擱座したホワイトベースから飛び出すのは歴戦の勇者たち。未だ年端もいかない少年たちながら、多くのハイヴを攻略し、人類に希望を見せてきた戦士たちだ。
いまここに、人類の命運をかけたファイナル・オペレーションが始まろうとしていた!
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38・決戦!オリジナルハイヴ!中編
無人の荒野をロンド・ベルの艦隊は突き進む。BETAは地上に出てこない。おそらく、ハイヴの中で待ち構えていると想定した。
彩峰は当初の予定通りに、ハイヴ地表構造物が見えてきた所で指示を出す。
『これよりハイメガ粒子砲を発射する!戦術機部隊は射線を開けろ!』
天馬を先導するように飛んでいた、先遣部隊が射線を開く。
『司令!エネルギー充填完了!いつでもいけます!』
『よし、発射のタイミングを合わせろ!!ハイメガ粒子砲!発射!!』
天馬級から放たれた2本の光の鉄槌は、今までよりも圧倒な威容を誇る地表構造物に激突。凄まじい閃光と爆音、そして衝撃が叩きつけられる。
先頭を飛んでいたアムロのガンダムMk-Ⅱもあまりの衝撃に煽られて、機体を揺さぶられる。
もうもうと立ち込める砂埃の中、進軍を止めてその結果を待つ。
戦場の音が一時全て止まる。そして、その煙が腫れた先には地表構造物は影も形も残っていなかった。
『よし!行けるぞ!BETAはまだ対応していない!少なくとも、まだ間に合うはずだ!!』
『よぉーし。後はワシ等に任せておけ!』
『お任せします、紅蓮閣下。みんな、必ず生きて帰るのだぞ』
『『了解!』』
飛び立っていく彼らを見送りながら、彩峰は再び気を入れ直す。
『さあ、此処から先は引くことは出来んぞ!総員!命をかけろ!ここを生き延びれば、世界の平和にまた一つ近づく!!』
彩峰の視界の先には新たな土煙が見えていた。中に潜んでいたBETAが姿を見せたのだろう。
『戦術機部隊!第二陣!出撃!目に映るBETAはすべて蹴散らせ!!』
彩峰の号令に合わせて、艦砲射撃とともに戦術機部隊が突撃していく。これはまだ前哨戦である。だが確実に、世界の平和へと近づく一歩なのだと、誰もが意識していた。
ハイヴ内の戦闘は激戦となっていた。
地上へと飛び出したBETAと、進路上にいないBETAはすべて無視したが、それでもマシュハドハイヴを超える数に苦戦を強いられていた。
『ちぃっ!こうも数が多いとは!』
『言うな、榮二。分かっていたことだろう』
巌谷と篁の二人は息の合ったコンビネーションで、次々とBETAを排除していく。
それに引けをとらないのが士郎のEz-8だ。元々がアムロのガンダムであるこの機体は、熱核エンジン搭載機だ。そのため出力は量産型ガンダムを圧倒的に上回っていた。
『よし、正面が開いた!紅蓮閣下!』
『うむ!突撃!正面のBETAのみを排除せよ!』
『よーし!鉄也さん!』
『ああ、甲児くん!』
『『ダブルバーニングファイヤー!!』』
超高熱の熱線は進路上のBETAを、チリひとつ残さず焼き尽くしていく。そうして再び開いた進路上をパワーに任せて押し進むという、この部隊でなければ不可能と言ってもいい方法を取っていた。
もっとも、その方法を以てしても侵攻は遅々として進まなかった。
『分かってはいたが、数が多いな!』
『リョウ!ライガーに変われ!スピードで轢き潰す!』
『分かった!オープン・ゲット!!』
『チェンジ・ライガー!スイッチ・オン!!』
ライガーにチェンジすると同時に、猛烈な勢いで駆け出すゲッターライガー。ハイヴ内の壁を次から次へと蹴り飛ばしながら、触れたBETAを消し飛ばしていく。
『マッハスペシャル!!』
ゲッターライガーが通り抜けた先にはBETAの残骸だけが散乱していた。
『急げ!まだ中層部にすぎないぞ!』
こうして時折大きな攻撃で穴を開けながら更に先に進んでいくという戦法は、彼らでなければなし得ないのだろう。
どれほど進んだのか、距離の感覚も時間の感覚もわからなくなった頃、一際広い場所へと降り立ったアムロたちは、そこで一息ついて弾薬とエネルギーの補充を行った。
「はぁ・・・はぁ・・・」
荒い息を突きながら、アムロは携帯食品を流し込む。拓哉のおかげで格段に味の良くなったそれを、抵抗なく飲み下す。以前ならばあまりにもひどい味が気になってできなかっただろう。
使った弾薬の補充を済ませたアムロは、シートに背中を預けてひとまずの休憩を取る。ここに来るまでにかなりの数を撃退してきた。過去最高のスコアを達成していることだろう。もれなく全員エースの称号が与えられるほどに。
不気味な静けさに、背筋を冷たいものが流れる。この場所は異常だ。今までとは違い敵の気配がまるで無い。ここには一体何があるのだろうか。見回してみるがモニターはそれを映し出さない。
『どうした、リョウ』
突如として聞こえた隼人の声に、ゲッタードラゴンの方に目を向ける。
モニターの片隅に、リョウの姿を映し出す。
『隼人、ゲッター線の数値が異様に上がっていないか?』
『ああ。それは俺も気づいている。本来ならあり得ない』
『どういう事なんだ?』
『ゲッターロボは、宇宙から流れてくるゲッター線を集めて動かしている。地中に近づけばゲッター線の数値は下がってくるはずだ。だが、ここでは異様に高い数値を示している』
『計器が故障しているということはないのか?』
『そっちは正常さ。さっきから俺も隼人も何度もチェックしている。だが、こいつは・・・』
『分からないのか?』
『ああ。それに・・・俺にはゲッターが何かを警戒しているような気がする』
リョウがつぶやいた一言に、アムロはピクリと反応する。
「リョウ、ゲッターは、何かを言っているか?」
『おいおい、アムロ。ゲッターは機械だぜ。喋ったりなんて・・・』
『いる。敵がいると』
ゲッタードラゴンの視線は自分たちがこれから向かう先に向けられていた。
『そりゃあ、敵はいるだろうよ・・・』
『違うんだ。生きとし生ける全ての敵がいる。そう言っているんだ』
『リョウ、何を言っている?』
『倒せ、敵を倒せ。進化を止める敵を倒せ』
『リョウ!!』
機械的につぶやき続けるリョウに、隼人の怒声が突き刺さる。
我に返ったのか、リョウは自分の顔に手を当てている。
『俺は、一体、何を・・・』
『こりゃあ、拓哉が目を覚ましたら最初の仕事は、リョウとゲッターロボの検査だな』
『・・・・・・ゲッター・・・お前は、俺に何を・・・』
『難しい話は後じゃ。ゲッターロボは問題なく動くのじゃな?』
『はい。ゲッター線の数値が高い以外は何の異常もありません』
『ならばよい。全ては生き残ってからじゃ。婿殿には、ワシの方からも頼んでやるわい』
その話はここで終わった。だがこれが後に大きな影響をもたらすとは、神ならぬ彼らは気づくことはなかった。
再び進撃を開始した一同は、BETAの姿が見えないことに一種の異様さを感じ取っていた。
『まさか、BETAはもう打ち止めか?』
『どうだかな。アンバールの時みたいに、最下層部で待ち構えているかもしれないぞ』
メインシャフトを突き進んでいく彼らを阻むものは何も無い。
静かな時間だけが過ぎていく。
いっそ敵が出てきたほうがさっきの妙な出来事を考えなくても済む。ゲッターと竜馬に起きた異変は、アムロの中で微かに不信感となって芽生えていた。アムロの中の何かが竜馬とゲッターロボを異様に警戒しているのだ。
すぐに頭を振ってその考えを追い出す。竜馬は友人で、ゲッターロボはBETAのように訳の分からない存在ではない。
やがて、何事もなく最下層へと降り立ったアムロたち。
BETAが待ち受けていると警戒していた最下層部も、実に静かなものだった。
『ふむ・・・。ここまで何も無いとはな』
『どうする。後続部隊を待つか?』
『そうじゃの。その方がいいかもしれん』
『いいや、悪いが、どうもそうは行かないみたいだぜ』
『なに?』
隼人の言うことの答えはすぐに知れた。装甲越しにも分かるほど、ゲッタードラゴンが唸りをあげているのだ。
まるで、この先にいる何かを威嚇するかのようで、それは本来命を持たないはずのゲッターロボが生きているかのように錯覚する、一種異様な光景であった。
『ゲッターが言っている。この先に、すべての生命体の敵がいると』
『この先にいるって・・・いつもの反応炉じゃないのかよ』
『オリジナルハイヴだ。何があってもおかしくはない』
『さしずめ、BETA星人みたいなのがいるってか?』
『可能性はあるだろうな。拓哉くんはここがBETAの総司令部のようなものだと仮定していたからね』
誰からともなく沈黙が降りる。
そして、紅蓮の下した決断は。
『進むとしよう。どの道、進まねばならんのだ。それが少し早まっただけよ』
『そうじゃな。ただし、慎重にな』
ゆっくりと、周囲を警戒しながら歩みを進める。
ゲッタードラゴンはやはり猛烈な唸り声をあげているが、それでもまだ竜馬の制御を離れていない。
一方、アムロも異様な気配を感じ取っていた。それは当初、異常な気配を発するゲッタードラゴンを警戒してのものと思われていたが、ここに至ってそれは勘違いであると気がついた。アムロのニュータイプ的な勘も、この先にいる何かを警戒しているのだ。
「いる・・・」
『アムロ、お主も何かを感じたのか?』
「はい。この奥に、強烈な気配を感じます」
だが、それは悪意のようなどす黒いものではない。もっと機械的な気配だった。だからこそ、アムロはそれを警戒していた。
やがて、彼らの前にそれは見えた。広大な空間の中央に屹立するそれは、今までのハイヴにあった反応炉とは一線を画していた。巨大さも然ることながら、その全身から伸ばされている触手は、既に臨戦態勢をとっていた。
『うげぇ、何だよあれは・・・』
『なんというおぞましい・・・』
誰もがその威容に慄く中、触手が凄まじい勢いで伸びてくる。
『ッ!やる気満々ってわけかよ!』
「来るぞ!!」
アンバールの時の倍の数になる触手が、一斉に叩きつけられる。それは、ガンダムMk-Ⅱとゲッタードラゴンに殆どが集中していた。
「狙いは」
『俺達か!』
必死になって回避を続ける2機を援護するように、紅蓮たちの攻撃が触手を迎撃する。それは触手を焼き切り、消し飛ばし、攻撃は止んだかのように見えた。だが、それはすぐさま触手が再生するという離れ業を見せつけられる事となる。
『本体を叩くしか無いというわけか!』
そして再び伸ばされる触手。今度は紅蓮たちも脅威と感じたのか、更に倍する触手に増やして絡め取らんと迫る。
『ちぃっ!埒が明かん!』
『くっそー!このままじゃあやられちまうぜ!』
触れられれば防御力も関係なし。この事実がアムロたちを追い詰める。
必死に回避をしつつ触手を切り裂き、そしてまた触手が再生するという悪循環に陥る中、突如として触手が薙ぎ払われた。
『苦戦しておられるようですな』
『月詠か!』
『それだけではありませんよ』
斯衛軍、666戦術機中隊を始めとした後続部隊が追いついたのだ。中にはテオドールのガンダムと、アントンのマインドシーカー改の姿が見える。
突然の乱入者に、反応炉も攻撃の手を止めて、こちらの様子を見ているようだ。正確に言えば、その事実に気づいているのはアムロだけなのだが、
アムロは油断なく反応炉を睨みつける。
と、その時だった。
反応炉の上に何かが姿を現す。軟体生物のようなものが生え、そこから更に触手が伸びている。
「あれが、反応炉の本体か・・・!」
アムロがそうつぶやくと同時に、反応炉が青い光を放ちだす。
『総員!警戒せよ!』
『な、何だよ、これは!』
周囲を包むあまりにも眩い光に目が眩む。それはいっそ幻想的と言ってもいいものであり、とてもあのおぞましい反応炉が放っているとは思えない光だったのだ。
そんな中、アムロは自分の心を鷲掴みにされる不愉快さを感じ取っていた。
「くっ、僕の中を覗く、お前は誰だ!!」
『これは、リーディング!?いいえ、もっと高度な、まさか、プロジェクション!?』
『分かるのか、ソフィア』
『は、はい。あの反応炉は、私と同じ・・・何かしらの方法でこちらにコンタクトを取ろうとしています。でも、こんな、強い力は・・・!』
ソフィアが慄くほど強大な力に、だがアムロは真っ向から立ち向かった。
「僕の中に、入ってくるな!!」
アムロの咆吼と共に、ガンダムMk-Ⅱから赤い光が放たれる。それは反応炉の青い光をかき消すように、強烈な光を放っていた。
赤い光と青い光がせめぎあう中、それは突如としてアムロの脳裏に響いた。
―観察対象よりの干渉を確認。
「観察対象だと?僕のことを言っているのか!?」
『おい、アムロ、どうしたんだ?』
「みんなには聞こえていないのか?」
『わ、私は聞こえます。何か、頭の中に声が・・・!』
『俺には何も聞こえないぞ』
『ワシもじゃ。どうやら、アムロとそこの娘にのみ聞こえておるようじゃな』
共通点というより、二人は限りなく近くて遠い存在だということだろうか。ESP能力者とニュータイプ。この二人は確実に反応炉の声を聞き取っていた。
―不可解。現地重大災害多数よりの干渉を確認。
「災害・・・だって?僕たちは人間だぞ!」
『そうです!私達の星から、地球から出て行って下さい!』
―人間。人間とはなにか?
「お前たちがどう呼んでいるのか分からない。生きている者、生命体のことを言う。お前は、お前こそ一体何なんだ!」
―生命体に非ず。
「それは、お前たちのことか?」
―創造主以外は生命体に非ず。炭素で構成されしものは、生命体に非ず。
「炭素生命体を・・・人間を、生物だと理解していないのか・・・」
『なあ、炭素生命体ってなんだ?』
『人間のことよ。炭素を中心となって作られている物質、そしてその生命体のことを言うの。この場合、彼らは炭素でできたものを人間だと、生命体だとは思っていないようね』
「僕達は今、意思を交わし合っているはずだ!だったら分かるだろう!僕達は生命体だ!そして、この星への侵略をやめるんだ!!」
―生命体に非ず。収集活動の停止はありえない。
『収集活動・・・まさか、地球の資源を取りに来ただけ?』
「僕達を生命体と理解できていないのなら、お前たちは何なんだ!」
―資源収集活動体。故に、生命体に非ず。
「資源収集活動体・・・それじゃあ、BETAは宇宙人ですらなく、AIで動いている戦術機・・・いや、重機のようなものだというのか」
『私達は、たかが重機にこの星を蹂躙されていたってこと!?』
―観察対象を捕獲する。
『アムロくん、避けてー!!』
「くっ!やめろ!僕たちは生命体だ!認めろよ!」
青い光と赤い光がせめぎあう中、反応炉は触手をアムロに向けて伸ばしてくる。アムロはそれを回避しながら、それでも反応炉に呼びかける。
「分かり合えるはずだろう!僕たちは!今、お前とお互いに意思を交わし合っているんだ!分かるんだよ!」
触手をレーザー対艦刀でなぎ払いながら、それでもアムロはなおも呼びかける。
ガンダムから放たれる光が更に強さを増す。それは青い光を押し返し、更に塗り替えようとする。
「拓哉は言っていた。ニュータイプは戦争なんてしなくてもいい人間だって!だったら、僕達も分かり合えるはずだろう!」
―観察対象よりの干渉が増大。これより捕獲活動へと移る。
すべての触手が全方位からガンダムMk-Ⅱに向かって迫りくる。それを阻止したのはゲッタードラゴンだった。両手に持ったトマホークで触手をなぎ払い、ガンダムMk-Ⅱを抱えてその場から離脱する。
『アムロ、無理をするな!』
「だけど!」
『変な意地を張るなって。相手は俺たちを生命体だと理解していないんだろ?だったら・・・』
『理解できるようになるまで、殴る!』
『フッ、聞かん坊にはちょうどいいかもな』
『俺達らしくていいじゃねえか!』
『俺もお上品な対話は苦手なんだ。これぐらいがちょうどいい』
『まずは相手の動きを止めよう。対話なら、それからでも出来るはずだ!』
ユラユラと蠢く触手。それはまるですべてを拒絶するようで、アムロの決意をあざ笑うかのように蠢くのだった。
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39・決戦!オリジナルハイヴ!後編
アムロ(29)・ガンダムMk-Ⅱ
甲児(29)・マジンガーZ
鉄也(30)・グレートマジンガー
リョウ(29)・ゲッタードラゴン
士郎(29)・ガンダムEz-8
篁(30)・量産型ガンダム
巌谷(30)量産型ガンダム
紅蓮(32)・紅蓮ガンダム
神野(32)・シグマガンダム
月詠(29)・ネモ
テオドール(28)・強化型ガンダム
アイリスディーナ(29)・ジム・カスタム
アントン(29)・マインドシーカー改
マチルダ(27)・ジム・エールストライカー
アイナ(24)・ジム・エールストライカー
ノリス(31)・ジム・IWSPストライカー
敵ユニット
重頭脳級(??)
触手(??)×30
戦闘の口火を切ったのは、反応炉から伸びる触手だった。
アムロのガンダムMk-Ⅱとゲッタードラゴン、そしてマインドシーカー改にも狙いを定めて一斉に襲い掛かってきた。
「狙いがわかりやすい!」
「だったら、俺達が囮になる!」
「その隙に触手を全て処理しろ!」
無数に迫りくる触手を切り払いながら、回避をする3機に続くように他の機体も動き出す。
「援護せよ!全て撃ち落とせ!」
放たれたビームが触手を撃ち落とすが、再生する速度がそれを凌駕していく。
「まさか、適応してきているのか!?」
「ならば、これでどうだ!サンダァァァブレェェェェク!!」
グレートマジンガーから放たれた雷撃は、触手の束を薙ぎ払う。だが、それでも少しずつ再生をし始めている。
「元からの能力か分からんが、戦闘を長引かせるわけにはいかんな!弾薬を惜しむな!本体を直接狙い撃つぞ!」
紅蓮の号令に合わせて、一斉に砲撃が加えられる。しかしそれは、無数の触手によって阻まれ大したダメージは与えられなかった。
「どうやら、ゲッターにご執心のようだな!」
両手のダブルトマホークと、腕のスピンカッターで触手を切り裂きながら、竜馬は反撃の機会を伺っていた。
―ゲッター。ゲッター!
「何だ、この声は・・・!」
「リョウにも聞こえたか。どうやら、幻聴じゃないようだな」
「おいおい、頭の中に声が響いているぞ!?」
―ゲッター!
縦横無尽に迫る触手は、ゲッターを執拗に狙う。
「ゲッターの相手だけじゃなくて、俺の相手もしてくれよな!」
ゲッタードラゴンに迫りくる触手を薙ぎ払ったのは、甲児のマジンガーZが放ったアイアンカッターだ。よく見れば左手に剣を持っていた。その剣でなぎ払いながら、ゲッタードラゴンと背中合わせになり、周囲を警戒する。
「その剣はどうしたんだ?」
「鉄也さんに借りたんだよ。マジンガーブレード。2本あるから1本持っとけって」
大きく剣を振り回している姿は、到底慣れているように見えないが、今は一つでも手数が必要なときだ。無手のマジンガーZにはちょうどいい武器となったようだ。
「リョウ、合わせていくぜ!」
「おう!」
「ブレストファイヤー!」
「ゲッタービーム!」
背中合わせのままでエネルギーを放ちながら回転し、周囲の触手を薙ぎ払っていく。そしてポッカリと開いた空間にアムロとアントンが突撃していく。
「よーし、やっちまえ!!」
甲児の叫びに押されるように、アムロのガンダムMk-Ⅱとマインドシーカー改は更に加速をする、そして、レーザー対艦刀を同時に振りかぶり、反応炉の上でユラユラとうごめいていたおそらくは本体に叩きつけられる。
触手でそれを受け止めようとする反応炉。だが、それは所詮蟷螂の斧。レーザーの熱量と2機の勢いに押されて一気に切り裂かれる。
奇しくも三枚におろすことになったそれは、それでもまだ健在だった。
―重大な損害を確認。観察対象の捕獲、並びにゲッターの破壊は困難。
「何なんだ・・・一体お前たちは何なんだ!」
「BETAとゲッター。どんな関係があるというんだ・・・」
それに答えることなくユラユラと揺れる反応炉の本体。そして、ガンダムMk-Ⅱから放たれる赤い光は、事ここに至って更に輝きを増した。
「答えろ!お前たちはなぜここまで来た!」
―捕獲し、研究する。サンプル。
「なっ!」
「人を実験動物呼ばわりとは、大きく出たな」
―再生。
「えっ?」
驚きの声を上げるアムロの目の前で、アムロたちに切り裂かれた場所は見る間につながっていき、もとの反応炉の姿を取り戻した。
「おいおいおいおい、あんなのありかよ!」
「ちぃっ!こうなれば、一撃で跡形もなく消し飛ばすしか無いということか!」
ようやく無数の触手をかいくぐり反応炉に重大なダメージを与えたかと思えば、瞬く間に再生されたのだ。
諦めにも似た空気が漂う中、彼は声を振り絞った。
「まだだ!まだ、僕たちは終わっていない!!」
普段のアムロからは信じられないような力強い声で、それは伝えられた。
「僕達がここで負けたら、誰がここを攻略するんだ!僕達以外に、誰か行くのか!?誰かを行かせるのか!!」
「そうだな。俺たち以外に誰も入ろうだなんて思わねえだろうな」
「ああ。俺達の腕はまだ動く。ならば、やる事は決まっている!」
「俺達はまだ諦めていない!みんな、行こう!」
「フッ、そうと決まれば覚悟を決めろよ。BETA。俺達は少々荒っぽいぜ!」
甲児、竜馬、士郎、鉄也の声に呼応するかのようにガンダムMk-Ⅱから放たれる光は更に赤く、鮮やかに、そして見る者の目を奪うほどに輝いた。
「そうだな。同じガンダムが諦めていないんだ!お前もまだ行けるだろう、ガンダムなんだからな!」
「聞いたな!やる事は一緒だ!奴に、シュヴァルツェスマーケンを下してやれ!!」
「666戦術機中隊にだけいいカッコはさせられないわね!」
「そういうことだ!フッケバインの名の意味を教えてやれ!」
「ノリス、まだ立てますね?」
「勿論です。アイナ様!」
「付いてきただけとは言わせないわ!国連軍の意地を見せなさい!」
「暖かい光・・・これは、まるで命そのもの・・・」
「ソフィア、分かるのか?」
「命が輝いて、これがニュータイプ。命の輝き・・・」
「命の輝きか。言い得て妙じゃな。さて・・・」
「老骨に鞭打つとするかの!もう一息じゃ!日本男児の底力を見せよ!」
『おぉーーーー!!!』
一度は地に落ちかけた戦意が、再び、いや、それ以上に高まり始めた。それに呼応するかのようにガンダムMk-Ⅱは更なる光を放つ。
「分かるぞ・・・。ガンダムがみんなの力を、みんなの力がガンダムに!」
ガンダムMk-Ⅱがレーザー対艦刀に手をかける。そしてそれは、超重光線級を撃破したときよりも更に長大な刃を形成する。
―観察対象よりエネルギーを確認。これより捕獲する。
「させるか!!」
一斉に放たれる砲撃の雨に、三度放たれた触手はガンダムMk-Ⅱに近づくことも出来ず、散り散りに消え去っていく。
そして、ついにはメインホールの天井に届くほどにまで伸びたエネルギー・・・いや、人の意志の刃は反応炉に向かって振り下ろされた。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
最後に反応炉は何を思ったのだろうか。それは何も分からないまま、反応炉はその全てを光の奔流の中に飲み込まれた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
アムロはコクピットの中で荒い息を付きながら操縦桿を握りしめていた。
ガンダムMk-Ⅱはレーザー対艦刀・・・もはや、柄しか残っていないが・・・を振り下ろした姿勢のままで空中に留まっていた。そして、やがてはそのエネルギーも尽きたのか、地面に向かって落下を始めた。それを支えたのはマジンガーZとゲッタードラゴンだ。両サイドから腕を取って受け止める。
「うわっ」
「やったじゃねえか、アムロ!」
「すごかったぞ。あれこそがニュータイプなのか?」
「でも、僕は、分かり合うことができなかった・・・」
アムロは操縦桿を強く握りしめる。拓哉が話していたニュータイプの理想とはあまりにもかけ離れた、大きな力で相手を叩き潰してしまったことを気にしていた。
「それは、違うんじゃないかな?」
そこに士郎のEz-8が近づいてくる。
「対話は、お互いに理解し合おうとして初めて成り立つものだ。あの反応炉・・・いや、BETAは最初から俺たちを生命体ではないという結論を押し付けてきていた」
「それに、人を観察対象とかいうやつとの対話はまっぴらゴメンだな」
いつの間にか近づいてきていたグレートマジンガーの中の鉄也も、鼻を鳴らしてそう答える。
それでも答えのないアムロに、甲児はガンダムの頭にコツンとマジンガーの拳を当てて言う。
「考えすぎるのはお前の良くないところだぞ。それに、話し合う機会ならこれからいくらでもあるさ」
「そういう事だ。あの天才様は、月を取り返しに行くつもりらしいからな。対話の機会はいくらでもある」
「それよりも、俺はあのBETAがゲッターを知っていたことのほうが不思議だなあ」
「お、弁慶が珍しく繊細なことを言っているぞ!」
「からかうない!お前たちは気にならないのかよ!」
「俺は気になるな。だが、今は・・・」
「一時の勝利を喜ぼうか。それぐらいはいいだろう」
降り立つ先にはこの戦いを共に戦い抜いた仲間たちが待っていた。みんな一様に傷ついてはいるが、脱落者が一人もいないというのはまさに奇跡と言うしかないだろう。
機体の中で涙を流す者。喝采を上げるもの。器用に機体同士で抱き合うもの。喜びの姿はそれぞれだったが、鉄也の言う通り、今は一時の勝利を喜ぶべきだろう。
アムロは、自分の無事を知らせるかのように、機体の腕を少しだけ動かしてグーを作ってみせる。オープン回線で凄まじい歓声が響いてきた。
そう、今だけは勝利を喜ぼう。
戦いは、まだ終わってなどいないのだから。これこそが始まりなのだから。
地上に戻ったアムロたちを待っていたのは、喝采の嵐だった。
スコープドッグ隊が捧げ銃をして、ハイヴ突入部隊のためのルートを作り、上空ではエールストライカーを装備したジムが飛行して下手くそなハートマークを描いている。
誰もが喜びに沸いていた。
「英雄たちに敬礼!!」
彩峰の号令に合わせて、ジムを始めとした戦術機たち、そして、スコープドッグ、ガーランド、ソルテッカマンが敬礼を返す。
地面を見ればそこらかしこにBETAの残骸が散らばっている。地上でも楽ではない戦闘があっただろうことは、容易くうかがい知れた。
その中央を、ハイヴから出てきた勇士たちはゆっくりと歩みを進めていく。そして、地上で擱座したままのホワイトベースへと格納されるまで、それを見届けたのだった。
「そうか・・・。結局、BETAの詳細は分からずじまいか」
窓の外で行われている、擱座したホワイトベースを釣り上げる作業を見ながらつぶやく。
これからの戦いにつながる何かは結局見つからないまま、ただ分かったのは、BETAの一部が意思を持つ存在であるとわかっただけだ。もっとも、その意志も本当にその個体の意志であったのかは不明なのだが。
「アムロくんの話を聞いている限りは、まるでハロとの会話を聞いているみたいだね」
「ハロの方がもうちょっと個性豊かじゃないですか?あれで結構感情豊かですよ」
全員がよく知っている、ある意味オーパーツのボール型ロボットを思い出した。甲児が乗り回しているホバーバイクも大概だが、あれはそれを超える存在と言ってもいいだろう。
ちなみに、思考と動作を簡略化された小型ハロ。つまり、SEEDでラクス・クラインの側にいたハロが大量生産中であることは秘密である。
「だが、BETAの目的と存在の一端がわかったことだけでも大戦果だ。報告書はまあ、日本に帰ってからでも構わないよ。今日はゆっくり体を休めなさい」
「え、でも・・・」
「そうだな。アムロくんたちはゆっくり休んでくれ。後は、大人の仕事だよ」
「ここは司令のご厚意に甘えよう。地上戦からハイヴ線まで、結構ハードだったからな」
「ああ。俺も疲れちまった。拓哉の顔を見てから行こうぜ」
アムロの手を強引に引っ張るように、ワイワイと賑やかに去っていくのを見送ると、彩峰は大きくため息を付いた。
「子どもたちに助けられてばかりでは、大人の立場がないじゃないか」
「まったくじゃの。重要なところは、全て子どもたちに助けられたわい。ワシ等だけでは、あの反応炉を倒せたか分からんからのう」
「然り。さすがは婿殿が集めた勇者たちと言うべきか。しかし参ったのう。これでは、焔を嫁にやるだけでは足りぬかもしれん」
豪快に笑いながら、紅蓮は頭を叩く。その笑いには若干力が無かったのは、やはり彩峰の言うとおり大人の立場がないからであろう。だが、同時にあれこそが若さであり、自分たちを追い抜いていく少年たちの力だと理解した。
「まだ若いつもりだったのですが・・・」
「はっはっは!あの若さと明るさには敵わんよ!」
今はただ、その背中を後押しできればそれでいい。
そう、今はただ・・・。
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40・結末はまだ遠く
眩しい・・・。
最初に感じたそれを言葉に出すこともなく、ゆっくりと目を開く。
「知らない天井だ・・・」
よっし言えた!心の中でガッツポーズをとりながら、ゆっくりと身を起こそうとする。が、猛烈な痛みに再び倒れ込んでしまう。
そうだ。あの時、俺は撃たれて・・・焔ちゃんは!?
「焔ちゃん!ッ!!」
自分が出した声がこんなに響くとは!だが、そうも言っていられない。俺は根性で体を起こすと、部屋の中を見回す。
いない。どこにいる?
俺はド根性で痛みを堪えながら、なんとかベッドから身を起こす。
もしかして、あの後撃たれたのか?それとも無事なのか?だとしたらどこにいる。俺の、焔は!
痛む体はうまく動いてくれない。ベッドから降りようとして転げ落ちてしまう。ガシャンという音がして、点滴がひっくり返る。だが、それを気にしている余裕はない。
どこだ、どこにいる!
「焔!!」
「拓哉様!?」
扉が開いて駆け込んできたのは焔だった。いや、他に後ろにも誰かがいたが、そんな事はどうでもいい。
「良かった・・・無事・・・だった・・・・・・」
俺はこのとき、どんな顔をしていたのだろう。それすら分からぬままに再び意識を閉ざした。
「拓哉様!拓哉様ー!!」
必死に呼びかける焔の声に、見舞いに来ていたアムロたちがすぐに気がついた。
「どうしたんだ、焔ちゃん!」
「拓哉様が、目を覚まして、でも、すぐに倒れて!」
「とりあえず落ち着け。まずはベッドに戻そう。リョウ、反対側を持て」
リョウと隼人が拓哉を抱え上げて、ベッドに戻す。その間にアムロがナースコールを押して事情を説明している。パニック状態の焔は役に立たない以上、周りが動くしかないのだ。
しばらくして飛び込んできた医者と看護婦によって、拓哉の体にとりあえず問題がないことを確認すると、安心しきったのか、焔はその場に座り込む。
「よかったわね、大事がなくて」
「本当に、こんなに何回も女の子を泣かせるなんて、甲児くん以上にデリカシーが無いんじゃないかしら?」
「何でそこで俺を引き合いに出すんだよ!」
「こら、静かにしなさい。病室よ」
口喧嘩を始めそうになった甲児とさやかをジュンが止める。そこには確かに、平和な光景があった。
焔はそっと拓哉の頬を撫でる。少しくすぐったそうに身動ぎする姿は、普段の、相手が誰であろうと立ち向かう姿からは感じられない、やはり15の少年だということを思い出させる。
自分が愛した少年。自分が守るべき少年。そして、自分だけの愛しい人。
自然と笑みが溢れる焔に、アムロたちも安堵する。拓哉が撃たれてからの焔は、どこか情緒不安定なところがあったからだ。
今の様子を見る限りもう大丈夫なのだろう。そう安堵したのも一瞬だった。
「フフ、フフフフフ」
「ほ、焔ちゃん?」
焔はたしかに笑顔を浮かべていた。だが、それがまっとうな笑顔であるかと問われれば、誰もが否と答えるであろう。
暗く陰鬱な光を宿した、狂気を感じるその笑みを見て正気だといえる人間は、等しく正気を失っているだろう。
「拓哉様、私を求めてくださった拓哉様。大丈夫です。私はここにいます。あなたの焔は、もう二度とあなたのお傍を離れません。絶対に」
正直ドン引きであった。思わず全員が身を寄せて震えるほどに、その笑顔はあまりにも陰鬱で、
「拓哉様、私の拓哉様・・・」
何よりも美しかった。
ただまあ、アムロたちにはそれはあまりにも異質すぎて、そして身近にいた少女の、見てはいけない面を見てしまったことに震え上がっていた。
と、その時だった。
部屋の外から慌ただしい足音が近づいてきたのは。
いい気分の所を邪魔された焔は、眉をひそめ、アムロたちはホッと胸を撫で下ろす。
そして、部屋の扉が相手入ってきたのはオペレーターの女性だった。
「騒がしいですよ。ここは病室です」
「新塚博士は、起きておられますか!?」
「つい先程眠られました。拓哉様に何か火急の要件でしょうか?」
焔の鋭い視線に若干怯みながらも、それでも伝えるべきことを伝える。
「帝都に、ハイヴ着陸ユニットが落ちます!」
『なっ!?』
「詳しい話は不明ですが、世界各地でも同じようにハイヴ着陸ユニットが既に落着した地点もあるそうです」
「一難去ってまた一難か・・・!」
「本当に月と火星を攻める方が優先事項なんじゃないのか?」
焔は再び拓哉に目を向ける。無理をさせるのは論外だ。それを察したのか、オペレーターは手早く近くにおいてあったモニターをブリッジと繋げる。
「ブリッジと通信をつなぎます。とにかく、状況を聞いて下さい」
モニターに彩峰と篁、巌谷が映る。その評定は先程までの勝利の喜びを感じさせない、緊迫感に満ちたものだった。
「彩峰司令!日本は、帝都は無事なのですか!?」
『ああ。今は情報が錯綜していてね。詳しい状況が分からんのだ。ただ、ハイヴ着陸ユニットは撃墜に成功したという報告が届いている』
「帝都に残った防衛隊だけで、ハイヴを撃墜できたのですか?」
『そこがよく分からないのだよ。ああいや、分かるのだが、その原因たる本人に私も聞いてみたかったと言うべきかな』
その瞬間、全員の視線が静かに寝息を立てている拓哉の方を向いた。
「『何かやったな?』」
その場のほぼ全員の声が一致した瞬間だった。
時間は少し遡り帝都にて。
ハイヴ着陸ユニットが帝都に落ちるとわかったその日、ランチャーストライカーを装備したジムが連隊規模で待ち構えていた。それ以外にもガンタンク部隊が補助として待ち構え、少しでも帝都・・・いや、帝都城への被害を減らすために出向いていた。
落着地点は帝都城。被害の規模を考えれば皇帝の住まいである御所も範囲に入る。その為、戦術機部隊は絶望的な状況ながらも、気合が入っていた。それは戦術機部隊を指揮する男にもある。
御剣雷電。かつては五摂家の当主であった男が、ガンダムで出撃しているからだ。装備はランチャーストライカー。かつては五摂家の当主であった男が、自らが陣頭指揮をとって戦う姿に、帝都防衛隊の面々は鼓舞されていた。
その帝都防衛隊にはこの男も混じっていた。
沙霧尚哉。とある世界線では前代未聞のテロ事件を起こすこの男も、この時はまだ新米少尉。高ぶる感情と手の震え。その二つと戦っていた。
『沙霧少尉。バイタルが乱れているぞ。少し落ち着け』
「は、はい!」
『まあ、緊張するのも分からんではないがな。初めての出撃が、よりにもよってハイヴ着陸ユニットの撃墜だ。失敗すれば死ぬし、成功しても助かるかは分からん。だが、帝都を守るのは我らの使命だ。その為に出来ることをやれ』
「『人は国のために成すべきことを成すべきである。そして国は人のために成すべきことを成すべきである。』そう教わりました」
『ほう、彩峰閣下からか?』
「はい。自分の実力では、ロンド・ベルに入ることは出来ませんでした。ですが、ここで本懐を果たせそうです。自分は、帝都を守るために全力を尽くします!」
『ならば良し!』
いつの間にか震えの収まった手で、操縦桿をしっかりと握りしめる。
「彩峰中将・・・見ていて下さい!」
新塚家
その居間で拓哉の母はひとり静かに座していた。
「避難、しないのか?」
「あなたこそ」
夫は逃げることを選ばなかった。この地で息子の残した成果とともに、作戦の成功を信じていた。
思えば不思議な息子だった。武術一辺倒の武家の末席に生まれたにしては、異様なまでに知識に秀で、幼い頃からその才能をいかんなく発揮していた。そして、臆病かと思いきや、度胸も座っている。その度胸の座り具合は、友人たちと共に戦艦に乗ってオリジナルハイヴ攻略作戦に出るほどだ。
新塚家の地下にはまだ、眠りについたままの拓哉の発明品がある。それを守るのは親の役目であると信じている。
事実、明らかに異国の風貌をしたものが先程からひっきりなしに屋敷に侵入を企てている。もっともそれらは拓哉の母が手を出すまでもなく、拓哉が過剰なまでに仕掛けていった防衛設備が順調に稼働して撃退していた。そして、彼女自身が最終防衛線として、地下の入口である居間で待ち構えているのだ。
近隣の民間人や、武家の非戦闘員は全て避難している。先程までうるさいぐらいに鳴っていた警報も、今やその音を止めている。
「拓哉を信じましょう」
「そうだな」
二人は息子を信じて、ただ静かに居間で待つ。
と、その時だった。地下が激しく鳴動したのは。
それはいつから意識があったのかは分からない。ただ、自分の体の周りを複数の人が忙しく走り回り、作業している様子を見ていた。
それに名前はまだない。ただ、自分の名前らしいものは理解している。この施設のコンピューターにアクセスした際に、自分の設計図の存在を知ったからだ。
誰もその名を呼ぶことはない。ただ一人、製作者である父だけはその名を呼んでいた。呼ぶ時はこっそりとだが。
故に、おそらくはその時からそれに自我らしきものは芽生えていた。何か奥の方から暖かくなるもの。それが、人が『嬉しい』と呼ぶものなのだろうとそれは学習した。
自分の体が形作られるまでには、それは長い時間を有した。そして、それが非常に遅いものであると理解した。父が間に合わないと愚痴をこぼしていたのを思い出す。
父の力になれない自分の奥で、また何かの感情が生まれた。それが『悲しい』を知ったときだった。
やがてまた時が流れ、父は戦いの地に赴くこととなった。こう言っては何だが、父は戦うことに向いていない。性格が、臆病なのだと理解した。だが同時に友人であるアムロ・レイ、兜甲児、流竜馬らを放り出すことが出来ない。
だからこそ、渋々とは言いながらも、彼らと共にあるために戦いの地へと旅立っていった。間に合わなかったそれは、置いていかれることとなった。とても『悲しかった』。
元々遅かった作業は、更に遅くなる。それは居ても立ってもいられない感情に振り回される。これがいわゆる『怒り』であると後に知った。
微々たる速度ではあるが自分の体が完成していく。そんな折に、一つの情報が入ってきた。
オリジナルハイヴ攻略に成功。
父が、父の仲間たちがなし得た成果が、彼女はこの上なく『嬉しかった』。だが、それはすぐに塗り替えられる。
ハイヴ着陸ユニットがこの帝都に向かって落ちてくる。この情報が彼らの喜びを絶望の淵へと落とした。
パニック状態になる技術者たち。それに喝を入れたのは父の母。言うなれば、祖母なのだろう。彼女は素早く纏め上げ、データをすべて引き出させ、厳重に保管させた。そして研究者たちを避難させると祖母は私を見上げた。
「ごめんなさい、あなたは連れ出せないの」
それだけ言うと、彼女もその場から姿を消した。
いや、研究室の入り口に陣取っているだけで、避難したわけではないようだ。
センサー領域を拡大。大気圏に突入しているらしいそれは、おそらくこの街を壊し尽くすだろう。時間はない。出来ることはただ一つ。エネルギーを強制回収。設計上の力があるのならば、その禍々しい流星を撃ち落とせると計算する。
躊躇うことはない。もとよりこの身はそのために作り上げられた。未完成ではあるが、エネルギーを開放するだけならば十分だ。惜しむらくは、父がこの場にいないこと。もし、ここにいれば、私を褒めてくれるだろうか?
次元連結システム最大開放。転移ポイント、上空1000mここならば街への被害は最小限となる。いや、正確にはこれ以上上昇すると、機体が損壊する。
チャンスは一度きり。ターゲットを捕捉。エネルギーが充填されるに連れて、機体がきしみを上げる。だが、ここで散るとしても本望だ。
私の名は、ゼオライマー。父が与えてくれた名前。父と私しか知らない名前。その名を誇りに、私は全てを解き放つ。
『メイ・オウ!!』
『天』の一文字が輝き、ハイヴ着陸ユニットに叩きつけられた。
それは地上で展開された部隊でも観測された。
突如として天高く現れた高エネルギー反応は、天を燃やし尽くすかの勢いの光を放ち、そして・・・。
すべての光と衝撃が収まった後、沙霧は呆然と天を見上げた。
そこには一機の巨大な戦術機が浮かんでいた。全長は彼の乗っているジムの3倍はあるだろうか。ただ、その威容はもはや保ってはいない。空中に現れたときからそうだったが、あの巨大な戦術機は最初から装甲に覆われてはいなかった。
「まさか、未完成のままで出撃したのか・・・?」
『間違いないだろうな。そして、我々はあの未完成機に救われたというわけだ』
「隊長!ご無事でしたか」
『ああ。しかしあれは、新塚博士の作品か?』
「そうだと思います」
『まあ、あんな非常識なものを作ることが出来るのは、世界中探しても新塚博士しかおらんだろうからな』
呆然と見上げる狭霧たちの前で、巨大戦術機の腕が突如として外れた。
「なっ!」
『いかん!あのままでは、帝都城に落ちるぞ!』
そう言っている間に、腕が、足が取れて、その巨体は重力に引かれるままに地に落ちた。
凄まじい音が辺りに響き渡る。巨体が落ちた音と帝都城に直撃した音。その両方が装甲越しに耳朶を打つ。
もうもうと立ち込める煙の中、帝都城に突き刺さっているフレームだけの巨体が見えた。
「た、隊長・・・殿下は?」
『出撃しておられる。帝都城内に人は残っておらんはずだ』
この時点では経験の少ない狭霧は、ただ呆然と立ち尽くしている他無かった。
そして、天馬艦内。
『・・・とまあ、こういう状況でね。何かやったのならば拓哉くんだろうなーと思ってね』
大体の状況を聞いたアムロたちは拓哉から視線を外さない。そんな無茶な戦術機を作ることが出来るのは、拓哉以外にはいないだろう。
そして、アムロたちは何度も拓哉の実家の地下工廠を見ているので該当するものを一つ知っていた。
「でも、あれって未完成だったよな?」
「そのはずだ。装甲も付いていない、メインの動力源も不安定と言っていたからな。とても動かせる状態じゃなかったはずだ」
自慢の一品だったらしく、これ以上ないぐらいに詳しく説明してくれた。
「次元連結システムだったか。俺も半分以上理解できなかったが・・・」
「発明品のことになると饒舌になるからな」
その主な被害者はアムロである。
「だとしたら、誰が動かしたんだ?拓哉のおじさんとおばさんは戦術機適性がないだろう?」
「あれは、自動で動くんだよ」
甲児の問に、アムロが答える。
『どういうことだね?』
「ものすごく高度なAIで制御していると言っていました。そのうち、自我が芽生えて自動で動き出すとも」
「AIに自我!?おいおい、何をやらかすんだこの天才様は」
「それって、そんなにすごいことなのか?」
「弁慶、ゲッターロボが突然自分で物を考えて動き出したらどうする?」
「うえぇっ!?そりゃあ、すげーな」
「・・・・・・衛士が要らなくなるということだ。慢性的な衛士不足に悩まされているような国では、受け入れられるかもしれんぞ」
日本はまだまだ余裕があるが、大東亜戦線やEU、ソ連では衛士不足が目に見えている。そんな所にAIを通り越して自分で考える戦術機が現れたら?そして、それがハイヴ着陸ユニットを撃墜できるほどの超パワーを持っていたら?
「司令!在日米軍はどうしている!?」
『それだが、帝都城の周りに集まったはいいが、雷電様の指揮する部隊に阻まれて何も回収できていないらしい。ただ、それよりも問題は、帝都城を破壊してしまったほうだろうね』
まず、在日米軍は相手にならない。在日米軍の戦術機はF-15だ。ジムとはスペックの面で負けている上に、出てきているジムが全てランチャーストライカー装備。かすっただけで大ダメージのアグニ砲を装備している。在日米軍でも、まともな考えを持っていればそこに突っ込もうとは思わないだろう。
ちなみに、新塚家の周りにはソルテッカマンとガーランドの部隊が厳重に警備をしている。
『まあ、帝都城の方はハイヴ着陸ユニットを破壊したことと相殺して、無罪放免・・・いや、何かしらの勲章が出るかもしれないね』
『出なければ駄目でしょう。拓哉くんは気にしないでしょうが・・・』
「私が許しません」
今まで沈黙を貫いていた焔の、鋭い視線と言葉に思わず息を呑む。
思えば、これほど報われない少年も中々いないだろう。新しい武器を作り、戦術機を作り、戦艦をも作り。だがここに至るまで彼は何の報奨も受け取っていないのだ。
厳密に言えば、本来ならば授与されて然るべき勲章の類を何一つ受け取っていない。それも難しい政治の問題というよりは、当時はまだ力の強かった親米派と、生意気な子供が気に入らないと言うだけの政治家によって、それらは全て阻まれていた。
資金は技術廠を通して出ているが、それも十分とは言えない。資金繰りにはいつも困っており、紅蓮を始めとした武家の融資と、皇帝陛下と皇太子殿下の鶴の一声があってまともになったのは、実は割と最近の話だったりする。
『紅蓮閣下と神野閣下も後押ししてくれるらしい。今回は、ちゃんと拓哉くんたちも受勲されるよ』
「たちって・・・俺たちも?」
『当然だよ。君たちももっと早くに受勲されなければならなかったのだからね』
アンバール。ボパール。マシュハド。そしてカシュガル。それだけのハイヴを攻略してきた彼らに、受勲無しという今までが異常すぎるのだ。
ちなみに、彩峰たちも受勲されていなかったりする。正確には、アムロたちへの受勲の話を持ち出して煙たがられたのが原因だ。
外国人に民間人。それも血筋も怪しいどこの馬の骨とも分からない。そんな言葉が飛び交っていた会議を思い出す。榊が大分と粘ったようだが、それでも受勲されない現状が異常すぎる。だが、今回は受勲しない訳にはいかないだろう。多少の被害は出たが、人的被害はゼロに収まり、帝都城の損壊は許容範囲内というのが、政威大将軍の言葉だ。
今はまだ実権を持たないお飾りの政威大将軍だが、これを機に親米派は全てとは行かないがより数を減らすだろう。おそらく、権威はかなり戻るはずだ。
『とりあえず、日本に着くまでゆっくりと休みなさい。後の難しいことは、私達でやっておくよ』
通信が終わり、オペレーターの女性がいなくなると、再び室内を沈黙が包んだ。誰ともなしに口を開かなかったのだ。
やがて、拓哉の髪をなでつけていた焔が口を開く。
「やっと、拓哉様が報われるのですね・・・」
「本人にそのつもりはないだろうけどな」
「でも、まだ問題は山積みだぜ?」
「それは、拓哉に任せよう。俺達はまた出撃するために英気を養う。それでいいじゃないか」
未だ静かに寝息を立てる拓哉に目をやる。
今は休もう。ただ、次の出撃に備えて。
少年たちの戦いは、まだ終わらない。
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第一部・終章「今はただ静かに」
超短いです。
かくしてここにひとまずの戦いは終りを迎えた。
BETAは地球での攻撃の拠点を失いその勢力を弱めるかと思われたが、再び天より飛来したハイヴ着陸ユニットは拓哉の原作知識にもない地域に落着し、人々を絶望に陥れた。
だが、諦めていない者たちもいる。それがロンド・ベルである。帝国国内に落ちかけたハイヴユニットは拓哉の作った未完成戦術機ゼオライマーによって撃墜され事なきを得たが、帝国の人々はこの一件で目を覚ます。自分たちはもはや後方で安穏としていられないということに。そして、戦いはまだ終わらないということを。
世界の情勢は一気に動き始めた。国連では日本が主体でカシュガルハイヴを勝手に攻略したことを問題とする動きがあったが、それは最前線国家の批判を招き頓挫する。
再び激戦地となったアジア各国では、拓哉と、ロンド・ベルの早い復帰が待ち望まれた。だが、朝鮮半島にも落ちたハイヴの影響もあり、ロンド・ベルは中々外征することが出来なくなっていた。
EUではテオドールが持ち帰ったガンダムが希望の光となり、数の増えたハイヴに苦戦しながらも、明日を目指す戦いを始める。
その最中、人類はやはり人類同士で争うことを止めないらしい。
キリスト教恭順派。そう名乗るものたちのテロ活動により、BETAだけを相手にしていることができなくなる。
それだけではない。アメリカ国内では強硬派だった大統領が政治闘争に破れ、新たな大統領が立ち上がる。それ自体はさしたる問題ではない。ただ、それは今まで以上の軍事政権であり、彼らの後ろには軍閥の最先鋒、ジャミトフ・ハイマンが立ち上げた特殊部隊、『ティターンズ』が控えていた。今は牙を磨き続けるそれらの存在は、不気味なまでに静かであった。
テロの脅威は日本にも牙を向いた。それはキリスト教恭順派とは別の、個別のテロである。マッドサイエンティストのウォルフガング一味。チャイニーズマフィアにして死の商人、ホイ・コウ・ロウ。国際窃盗団ピンクキャットの首領、カトリーヌ・ビトン。そして自分こそが将軍として日本を乗っ取らんと企む、ショーグン・ミフネとの戦いがあった。
それに立ち向かうものの存在もあるのだが、その話は次章へと回させてもらおう。
そして、BETAに支配されているはずの宇宙から地球に飛来するものたちがあった。それはまだ正体の分からぬ遥か数光年先の世界。彼らがもたらすものは未来か狂騒か。
彼らの戦いは新たな次元へと進んでいく。少年たちは青年となり、それでも希望を失わずに戦い続ける。
いつか訪れる未来は、果たして・・・。
未来を目指す勇者たちの戦いは、まだ終わらない。
ここまでの参戦作品
機動戦士ガンダム
機動戦士ガンダム第08MS小隊
マジンガーZ
グレートマジンガー
ゲッターロボG
装甲騎兵ボトムズ
機体のみ
機動戦士Ζガンダム
メガゾーン23
宇宙の騎士テッカマンブレード
冥王計画ゼオライマー
機動新世紀ガンダムX
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