ファンタジーな子守り (グランド・オブ・ミル)
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1.時空乱流

 

 

 

 

やぁ、私の名前は「ルル」。しがない子守り用ロボットだ。

 

日本で生活していれば、誰しも一度は「ドラえもん」という漫画を聞いたことがあるだろう。何をやってもダメな野比のび太という少年を救うため、未来からはるばるやって来た子守り用ネコ型ロボットのドラえもんが奮闘し、のび太と友情を育んでいく日本が世界に誇れる傑作作品の一つである。

 

かくいう私もドラえもんに魅了された者の一人だ。3歳の頃にドラえもんに出会って以来、一時もドラえもんを忘れたことはない。

 

さて、あなたはなぜ私が急にこんな話をしたのか気になっていることだろう。信じられないかもしれないが、私はそんな"ドラえもんの世界"に転生してしまった。それも人間にではない。"子守り用ロボット"としてだ。

 

私は何の変哲もない普通の男子高校生だった。ある日、課外で遅くなってしまい、走って駅へ向かっていた私は、居眠り運転のバスにひかれてしまった。どうやら運転手は長時間の運転で疲労が溜まっていたらしい。バスにひかれた私はそのままあっけなく昇天した。

 

はぁ、俺も死ぬのか…。逝くのは天国かはたまた地獄か……。

 

そう覚悟した私だが、不思議と次の瞬間に体の感覚が戻っていた。恐る恐る目を開けると、白衣を着た男性女性含む研究者らしき大人達が皆を手を大きく挙げてガッツポーズをして喜んだ。あの時、私は何がなんだか分からなくて頭に?マークを浮かべた。

 

今世での私の姿は、髪は輝く白色で、目は赤、肌は病的な程に白く、黒いレインコートのような服を羽織り、頭には服のフードを被った"女の子"だった。俗に言う「TS転生」というものをしてしまったらしい。ロボットだから転生というのは少しひっかかるが。転生当時は昔のままの男言葉でしゃべっていたが、ロボット学校で先生に「君の個性も大事だが、ある程度は直したほうがいい」と注意され、努力の末になんとか直った。染み付いたしゃべり方を直すのは中々に骨だった。

 

私は自分の姿を姿見で見た時、真っ先にこう思った。

 

「戦艦レ級だ。」

 

私の姿は艦これの戦艦レ級そのままだった。もちろん先端が戦艦のようになっている太い尻尾もある。この尻尾はちゃんと戦闘に使えるみたいだが、艦これにあまり詳しくない私では今のところ強力な力で振り回す程度だ。

 

戦艦レ級なのだから戦闘用ロボットなのかと聞かれれば実はそうではない。私、なんとドラえもんと同じく子守り用ロボットなのだ。しかも最新型の記念すべき初号機である。子守り用ロボットなのに何で戦闘用の尻尾があるのか工場長に聞いてみた所、「子供を守るため」と言われた。いや、過剰戦力だろ。何があるんだよ22世紀。

 

こうして"子守り用少女型ロボット"として産まれた私はドラえもんと同じロボット学校へ通った。ネジが外れたことで皆についていけないドラえもんを慰めるのは毎回私かクラスメイトのノラミャー子の役割だった。超エリートロボットのパワえもんは余裕綽々といった様子で学校を首席で卒業した。私は普通より少し下といった所。むむむ、悔しい。私、最新型なのに。

 

まあ、そんなこんなあってようやくこの世界に慣れてきた今日この頃、私は久々にドラえもんに会いに行こうとタイムマシンに乗っていた。セワシ君を訪ねたらドラえもんは21世紀ののび太君の所にいると言われ、少し見ない内にもう原作に入ったのかとしみじみ感じた。ちなみに私のタイムマシンはドラえもんの物と同型の"空飛ぶ絨毯型"、一番安い機体だ。タイムマシンなんて高級品のように色んな機能がなくたって時間移動さえできればそれでいい。べっ、別に高い機体が買えないからってひがんでるわけじゃないんだからねっ!ぐすん…。

 

『ドウカシマシタカ?』

 

「…何でもないよ。それより21世紀まで後どれくらい?」

 

『21世紀ノ東京、ノビ太君ノ部屋マデ残リ14分程デス。』

 

私の質問をタイムマシンのコンピューターが機械らしいカタコトで返す。最近のタイムマシンは時間旅行をより快適にするためにこのようなコンピューターが取り付けてあるのが主流だ。私のタイムマシンは時空間の中をゆったりと進む。

 

ドラえもん、元気かなぁ。あいつは昔から妙に人間ぽいっていうか、純粋というか、子供っぽかったからな。ちゃんとのび太君の世話ができているか心配だ。久しぶりに飴と鞭でびしばし鍛えてやらないと。

 

私がドラえもんに渡そうと思って買ったドラ焼きをギュッと握りしめたその時だった。

 

ビシャアッ!!!ゴゴゴゴゴ……!!!

 

『緊急事態!緊急事態!"時空乱流"発生!!』

 

突然、辺りに雷鳴が轟き、タイムマシンが激しく揺れる。時空間はさっきまでの穏やかさを失い、まるで雷雲の中のように乱れている。時空間の乱れ、時空乱流に遭遇したらしい。これに引き込まれれば一溜まりもない。最悪二度と戻ってこれなくなる。私は慌ててターボレバーを下げた。するとタイムマシンの燃料タンクも兼ねる両脇の部位からターボエンジンが飛び出し、ゴウッとタイムマシンが加速した。ドラミちゃんのチューリップ号のような高級品のタイムマシンならもっと安全な対処法があるのだが、私の物のような安物はこうやってスピードを上げて一か八かゴリ押しするしかない。私のタイムマシンは乱れる時空間の中を全速力で突っ切っていく。

 

その時だった……

 

ビシャアッ!!!

 

「なっ!?しまった!!」

 

『たーぼしすてむガ故障シマシタ。加速デキマセン。』

 

時空間の雷が不運にも私のタイムマシンを直撃した。雷によってターボシステムを破壊された私のタイムマシンは失速してしまう。

 

「わあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ターボシステムを失った私は為す術がなく、時空乱流へ吸い込まれていった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チョン……パタパタ……

 

「んっ……んん……ん?」

 

倒れていた私は一匹の蝶々に起こされて目が覚めた。起き上がってみるとそこは森の中だった。どうやら時空乱流に引き込まれた私は時空間を放り出されたらしい。

 

『ビビ……ヒビビ………』

 

後ろから機械音が聞こえたので振り返ってみるとそこには見るも無惨な変わり果てたタイムマシンの姿があった。時空間から放り出された衝撃で壊れてしまったらしい。タイムマシンに近寄り、今どの年代にいるのかを調べるためにタイムカウンターを覗くと、年号などは表示されておらず、ただ『UNKNOWN WORLD』とのみ表示されていた。まあ、うすうす気づいていたことだがこれで確信した。

 

私は誰も知らない異世界へ来てしまったようだ。

 

 

 

 

 





設定は新ドラえもんのほうから引っ張ってきています。ドラえもんの声優が変わって10年以上。そろそろ旧のドラえもんを知らない人がいるのではないかと思っての配慮です。


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2.異世界

 

 

 

 

 

 

 

時空乱流に引き込まれた者が二度と戻ってこれなくなる理由、それがこれである。時空間の歪みに引き込まれることで元いた空間から外れ、私のように別の世界へ飛ばされることがほとんどだからだ。いくらタイムマシンでも、別次元からの移動は容易ではない。私のタイムマシンは安物だからなおさらだ。劇場版の「日本誕生」でククルという原始時代の少年は時空乱流に引き込まれたものの、時間だけを越えて現代ののび太の町にやって来たが、こんな例はごく稀で、大概は私のように帰らぬ人となる。

 

「……おーい、大丈夫?」

 

『大丈夫二……見エマスカ…?ビビ……ワタシ……モウ…動ケナイ……ガピー……』

 

「だよね。どこ損傷したか分かる?」

 

『たーぼしすてむ及び…ビビ………時空間移動装置ヲ深ク損傷。…ビビビ……めいんえんじんモ作動ガ難シイ状況デス。』

 

とりあえずタイムマシンの損傷が軽いものならまだ希望があったが、現実はそう甘くなかった。タイムマシンはもはや修理工場に出すかスクラップにしなきゃならない程のガラクタと化していた。

 

まいった。直してやりたいがタイムマシンは非常にややこしくデリケートなマシンで専門のメカニックじゃないと手に負えない。一子守り用ロボットの私にはとても無理だ。

 

「とりあえず、ポケットに入れとくね。」

 

私はタイムマシンを両手で部品がこぼれないように持ち上げ、お腹の真っ白な"四次元ポケット"にしまった。四次元ポケットはドラえもんの代名詞とも言えるひみつ道具で、ドラえもんのお腹についている。このポケットの中は四次元空間になっているのでどんな大きなものでもしまえるし、いくらでも物を入れられる。

 

「さて、当面は、下手したら一生ここでくらさなきゃならないわけだけど……まずはここらを探索しなきゃ。」

 

どうでもいいが、転生してから私は妙に精神的に強くなったと思う。別次元に来てしまったなんて状況、普通は泣きじゃくるか混乱するかしてもおかしくないが、私はいたって平常運転のままだ。もしかしてロボットになったことで多少非常事態に対する耐性がついたのだろうか。

 

まあ、やたらオロオロしないのはこの際好都合だ。私はタイムマシンをしまった後、ポケットから"タケコプター"を出して頭に装着し、フワッと空へ舞い上がる。タケコプターは……ってもはや説明しなくても分かるだろう。プロペラを回して空を自由に飛べる道具で、最高時速は80㎞/h出すことができる。ただし連続8時間以上運転すると電池が上がってしまうので注意が必要だ。

 

私はタケコプターでとりあえず高度100メートルくらいまで上昇してみた。周りにあるのは森や草原といった自然ばかりで人が住んでいる気配はない。

 

「あれ?ひょっとしてこの世界って何にもいなかったりする?」

 

怖くなった私は急いで降りてポケットに手を入れて別の道具を探す。いくらなんでも何にもいない世界なんかで生きていけるわけがない。早急に確認しなければ!

 

「あった!"◯×占い"!」

 

ドラえもん風に出した丸とバツを象っただけの道具を右手で天高く掲げて叫ぶ。えへへ、ちょっとやってみたかったのだ。誰も聞いてないけどね。

 

この◯×占いという道具は、どんな質問にも◯か×かはっきり答えてくれる的中率100%の占い道具だ。あくまで質問の合否のみを答えるので勘違いを起こしやすいが、まあそこは使いようだ。

 

「えーと、まずは……この世界に生き物は存在する?」

 

ピンポーンッ!

 

◯×占いを地面に置き、私が質問すると正解音と共に勢いよく◯が飛び上がった。良かった。この世界には少なくとも生命体はいるみたいだ。

 

「…虫だけとかじゃなくて?」

 

ピンポーンッ!

 

一応聞いてみるとまたもや◯が飛び上がる。いくら生き物がいても、それが全部虫とかだったら嫌だからね。じゃあ、次は希望は薄いけど……

 

「この世界に人間はいる?」

 

ピンポーンッ!

 

おっ!これは嬉しい誤算。望み薄で聞いてみたが、どうやらこの世界にも人間はいるみたいだ。良かった。本当に良かった。なら何とか暮らしていけそうだ。じゃあ、最後に……

 

「この世界は科学が発達している?」

 

ブッブーッ!

 

ああ、やっぱりこれは違うんだ。やっぱり別次元だから人間がいるといってもそっくりそのまま私達の世界のように科学が発達するとは限らないか。とすると、この世界の人間は科学とは違う文明を持っているか、もしくはまだ石器時代辺りなのかもしれない。ま、人がいただけラッキーと思おう。

 

私は◯×占いをポケットにしまい、続けて違う道具を取り出す。

 

「"たずね人ステッキ"!」

 

またドラえもん風に出してしまった。一度やるとクセになるのだ。この出し方は。

 

次に私が出したたずね人ステッキは、紳士な方が持っているような杖状の道具で、探したい人の名前を言って地面に立て、倒れた方向にその人がいるという道具だ。ちなみに的中率は70%。まあ、ないよりマシだ。

 

「人間はどこ?」

 

私はステッキを立ててそう尋ねてステッキから手を放す。しかし、ステッキはぐわんぐわんと揺れるだけで一向に倒れる気配がない。どうやら人間がいっぱいいるせいで迷ってるようだ。こりゃ失敗。

 

「それじゃあ…え~と……あった!"探シマリス"!」

 

たずね人ステッキをしまい、今度はまぬけな顔をしたリスのロボットを取り出す。この探シマリスはたずね人ステッキと効果は似ていてたずね人、もしくは探し物を探すのだが、このリスはあまり頭がよくなく、特定の人物では機能しない。「人間を探して」といった感じの抽象的なたずね人しか受け付けないちょっと役立たずな道具だが、この状況ではこいつが役に立つ。

 

「ここから一番近い所にいる人間を探して。」

 

私がそう言うとリスはこくんと頷き、すんすんと鼻を動かすと森の中へ颯爽と消えていった。私もリスを追いかけて移動を始めた。

 

 

 



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3.夜の森

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…ちょっと、待って…。」

 

私が息切れしながら前を走る探シマリスに声をかけるとリスはその場に立ち止まって私を振り返る。私は膝に手をついてはぁはぁと息を整えた。探シマリスで人を探し始めてかれこれ数時間、ぶっ通しで歩き続けた私の体力はもう限界だ。見れば辺りはもう薄暗くなってきた。今日はこの辺で寝るとしよう。

 

「ねぇ、本当に人がいる場所に向かってる?」

 

「(コクコク!)」

 

「そう、ご苦労様、明日もお願いね。」

 

私の質問にリスは自信たっぷりに頷き、私のポケットに入ってくる。リスは自信満々なようだが、歩いても歩いても見えるのは木と草ばかり。正直進んでいるのかすら怪しくなる。

 

「え~と、確かこの辺に……あ、あったあった!"キャンピングカプセル"!」

 

探シマリスをしまった私はポケットからテニスボールにピンをつけたような道具を取り出す。キャンピングカプセルを地面に挿すとむくむく大きくなり、やがて眺めのいいキャンプハウスになった。私がハウスの柱をトンと叩くと上からエレベーターが降りてくる。

 

このキャンピングカプセルは山などにキャンプに行った時に使う22世紀のテントだ。柱一本でハウスを支える高床式住居になっているので獣の心配もいらないし、テントでありながらベッドに浴室、トイレまで完備されている。

 

カプセルの中へ入り、トイレの水を流したり、浴室の蛇口をひねってみると問題なく機能を発揮した。しばらく使ってなかったからちょっと不安だったが、ちゃんと使えるようだ。

 

ぐぅ~……

 

「うっ……次はご飯か。"グルメテーブルかけ"を使うのもいいけど、この世界の食べ物にも慣れておかなきゃいけないな。」

 

グルメテーブルかけは注文した料理が何でも現れる便利な道具だ。それを使えば食べ物には困らないが、私は余程の奇跡が起きない限りこの世界で一生を過ごさなければならない。この世界の食べ物も知っておく必要があるだろう。

 

私はエレベーターに乗ってハウスから再び森へ降りた。辺りはもう薄暗い。東の空はほとんど真っ暗、西の空の少しオレンジかかっている程度だ。食べ物を見つけるならさっさとしなければ。

 

「おーい、出ておいで!」

 

「ドーララ♪」

 

私がポケットに声をかけると中から小さな赤いドラえもんが元気よく飛び出してきた。"ミニドラえもん"、通称"ミニドラ"だ。ドラえもんの小型版で私達子守り用ロボットのお助けロボットだ。体が小さく、「ドララ」とものの頭文字しかしゃべれないが、結構頼りになるやつで、私達が故障した時に体の中に入れれば修理もしてくれる。

 

「ミニドラ、見ての通りもう日が暮れそうなの。急いで何か食べられそうな物を見つけてきて。」

 

「マーマー!」

 

「あまり遠くに行っちゃダメだよ。迷子になるからね。」

 

「ワーワー!」

 

「分かってる」と胸をドンと叩いたミニドラは早速森の中へ消えていく。私もミニドラと反対の方向を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しいたけによく似たキノコが6つに赤い木の実が4つ。まあ、急いでたしこんなものかな。ご苦労様ミニドラ。」

 

「ドーララ♪」

 

私が頭を撫でるとミニドラは気持ち良さそうに身じろぎした。私は早速焚き火を焚いて二人で見つけたキノコを焼き始める。色々調べてみたがどちらも毒素反応はなかったので食べても問題ないはずだ。万が一あったとしても体内の抗体ロボットが大概は何とかしてくれる。

 

「いっただきま~す!」

 

「ドララッタ!」

 

私とミニドラはホカホカに焼けたキノコを同時にパクっと食べた。うんうん、味はそれほど悪くない。野生だからかいつも食べていたスーパーのキノコより味が濃い気がする。おいしい。キノコを食べ終えた私達はデザートに木の実を口に放り込む。ラズベリーに少し酸味を強くしたような甘酸っぱい味が口に広がってこれまた美味なものだった。

 

「ド~ララ……。」

 

少々物足りない夕食を終えるとミニドラが体を伸ばしながら大きなあくびをした。

 

「キヒヒッ、眠くなっちゃった?じゃあ早いけどもう寝ようか。」

 

「ドラ……。」

 

私は力なく返事をするミニドラを抱っこしてキャンピングカプセルに向かう。そしてエレベーターを下ろそうとしたその時だった。

 

ガサッ…

 

「ピクッ)……何かいる。」

 

「ドラ?」

 

遠くの草むらが揺れる音がした。神経を研ぎ澄ませば1体だけではなく、他にも2、3体の生き物の気配を感じる。私は辺りを警戒しながらミニドラをエレベーターに乗せて安全なハウスに入れた。そして次の瞬間……

 

「ギギィ!!」

 

「ギシャア!!」

 

草むらから緑色の肌で耳は尖っていて、わらでできたパンツを履き、錆びた槍や木の棒を持った小柄な化け物が3匹飛び出してきた。彼らはあまり知能が発達していないのか涎をだらだら滴ながらこちらに歩みよってくる。この化け物は何なんだ?くそっ!某携帯獣ゲームの図鑑が欲しい所だぜ。

 

「「ギャア!!」」

 

「ふっ!」

 

「「ギィッ!!」」

 

化け物達が一斉に飛びかかってきたので私は冷静に戦闘用の尻尾を振って彼らを蹴散らした。彼らは私のパワーが強かったために木や地面に強く叩きつけられひるんだようだ。ドラミちゃん程ではないが私はこれでも5000馬力発揮することができる。化け物とはいえこんなチビ共にやられてたまるか。

 

「"空気砲"!ドッカーン!」

 

化け物達がひるんだ隙に私はポケットから空気砲を取り出し、一発お見舞いしてやった。すると化け物達は一目散に森の奥へ消えていった。

 

空気砲はドラえもんの武器系ひみつ道具の一つで、黒い大砲の砲口のような形をしている。手にはめて「ドカン!」と言うと空気の塊を発射して相手を攻撃することができるのだ。

 

「どうやらこの世界は危険がいっぱいみたいだな。気をつけよう。」

 

私はハウスの中に入るとミニドラを抱き締めてベッドで眠りについた。

 

 

 

 

 




一応戦艦レ級なのでルルの笑い方は「キヒヒッ」です。この笑い方はルル本人も気にしていて、指摘したりいじったりすると5000馬力でボコボコにされます。


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4.少年達

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォン……ドォン……

 

「うぅ……ん……。何の音?」

 

バキバキバキ……!

 

「へ?わぁぁぁ!!」

 

次の日の朝、私は大きな音と共に揺れるキャンピングカプセルで目を覚ました。私が目を擦りながらむくっと起き上がるとキャンピングカプセルは音を立てて倒れた。

 

「ドラ!!ドラドラ!!」

 

「どうしたの!?わっ!!」

 

ミニドラに急かされてカプセルの窓から外を見ると昨日の化け物が私達を取り囲んでいた。今度は一匹や二匹じゃない。昨日の化け物は群れを引き連れて私達を襲いに戻ってきたらしい。

 

「あはは……これはこれは、団体様のお越しで……。」

 

「ドラララ……。」

 

化け物達は斧やら錆びた剣やら槍やらを構えて私達にじりじりとにじり寄ってくる。私とミニドラは互いの顔を見合って苦笑いを浮かべた。そして……

 

「逃げろ~~っ!!」

 

「ドラ~~!!」

 

「「「キシャアッ!!!」」」

 

二人揃ってタケコプターで一目散に逃げた。化け物達は奇声を上げながら後を追いかけてくる。さすがにあんな集団の化け物と戦う勇気は私にはない。私とミニドラは化け物共を振り切るまで全速力で逃げ続けた。

 

 

 

 

「あ~、ひどい目にあった…。ミニドラ、もう戻って良いよ。」

 

「ドラ~…。」

 

ミニドラは肩で息をしながらポケットの中に戻っていった。

 

「さて、また今日も探シマリスで……ってあれ?」

 

ポケットから探シマリスを取りだそうとした時、私は周りの景色がだいぶ変わっていることに気がついた。昨日までどこまで進んでも森、森、森だったが、今いる所は森ではあるものの、ある程度整備されている。長い間ほったらかしなのか雑草が生え放題であったりと荒れているが、それでも人の手が加えられた跡がある。

 

「もしかしてこの近くに人間が……お?」

 

私は道の端に立てられた看板に気づいた。近くの木のつるが絡み付いている古い矢印の形の看板だ。私はつるをはらって看板に書いてある文字を読んでみた。案の定、看板には丸やら四角やら三角やらの訳が分からない文字が書いてあり、読むことなどとてもできなかった。

 

「"ほんやくこんにゃく"!」

 

私はすかさずポケットからプルンとやわらかいこんにゃく型の道具を出した。このほんやくこんにゃくは食べると外国語や宇宙人語、古代語などあらゆる文字や言葉をほんやくできるようになる道具である。

私はほんやくこんにゃくを一口食べて改めて看板を読んでみた。看板には『この先"レムの村"』と書いてあった。看板を読んで私は喜びに打ち震えた。ようやく、ようやく、人が住んでいる所を見つけることができた。これを喜ばずして何とする。

 

「走れーー!!」

 

「ん?」

 

私が内心で狂喜乱舞していると、レムの村の反対の方の道に、森から二人組の少年が飛び出してきた。一人は赤みがかった茶髪の少年で、腰に剣をぶら下げ、いかにもRPGゲームの主人公の初期装備ですと言わんばかりの服を来ている。もう一人はお前日本人かと聞きたくなるような見事な黒髪で、茶髪少年と似たり寄ったりの服を来て、背中に矢を数本入れた筒を背負い、手には弓を握りしめている。二人とも必死の形相で全速疾走してこっちに向かってくる。

 

「そこの人も早く逃げてーー!!!」

 

「グォォォーーー!!!」

 

黒髪の少年が私に向かってそう叫んだ。と、次の瞬間、森からおよそ5メートルはある巨大な白い熊が雄叫びを上げながら飛び出してきた。見た目だけ見ればホッキョクグマにそっくりなその熊だが、とにかくデカイ。ホッキョクグマの大きさは最大でも3.4メートル程だ。だが目の前の熊はそれを遥かに上回る。加えて目を赤く光らせよだれを垂らしながらドスドスと駆けてくるその様子は尋常ではない恐怖を感じさせる。

 

「何やってんだ!!早く逃げろ!!」

 

茶髪の少年が私にそう叫びながらすれ違った。二人はそのままレムの村の方へ走っていく。二人の言う通りここは逃げるべき場面なのだが、ここで逃げると私達はこの熊を村に連れていくことになる。せっかく見つけた人里を熊に襲わせるわけにいかない。私は素早くポケットから道具を出した。

 

「"桃太郎印のきび団子"!それっ!」

 

桃の絵がプリントされた網から団子をひとつ取って熊の口目掛けて投げた。その団子は熊の口に一直線にとび、見事入った。団子を食べた熊は血走っていた目がとたんに黒くなり、私の前で止まると甘える猫のように私の顔をなめてきた。私はその熊の頭をよしよしと撫で、森に帰るように言った。熊は頷くとのしのしと森に帰っていった。このように桃太郎印のきび団子を食べた動物は食べさせた人になついてどんな命令もしたがってくれるようになるのだ。私はふぅーっと息をついて改めて村に行こうと振り返った。

 

「う、嘘………。」

 

「ホワイトベアーを……手なづけた……。」

 

そこにはさっきの少年達が顎が外れる程口を開けて驚いていた。

 

 

 



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5.クリストリア

 

 

 

 

 

 

 

ルルは現在さっきの少年達と一緒にレムの村へ向かっていた。その道中、この世界について二人から説明を受けていた。ルルがこの世界について何も知らないと知ったとき、二人が奇異な表情を浮かべたため、ルルはとっさに自分がド田舎の箱入り娘だったとウソをついた。

 

まず、少年達は茶髪で剣を持った活発そうな少年がライガ、黒髪で弓を持ったほうがアークというそうだ。

 

二人が言うには、ここは科学ではなく、魔法文明が発達した世界で、名を「クリストリア」というらしい。この名には"輝く世界"という意味が込められているそうだ。

 

「そのまんまだね。」

 

「ん?何か言った?」

 

「あ、いや!何でもない何でもない!続けて!」

 

ポツリと呟いた独り言をアークに聞かれ、ルルは慌てて話題を戻す。学生時代からドラえもんと一緒にいたせいで、彼女は思ったことをポツリとしゃべってしまう癖がついていた。ドラえもん曰く、これは"口が悪い"というらしい。

 

アークに変わって今度はライガが説明を続ける。ライガ達がやってきたのは、レムの村よりさらに進んだ所にある都市「ブランカ」。そこはこの辺の地域の冒険者が集まり、冒険者の戦利品で賑わう冒険都市なのだそうだ。

 

冒険者というのはあれだ。ファンタジー系のラノベを読む人にとってはお決まりの、魔物と戦い、人々を助け、お金をザクザク稼ぐあれだ。ライガ達はそんな冒険者に憧れて、1年前、古里の村から剣と弓を引っ提げてブランカにやって来たという。冒険者というのはランク付けがあって、下からE,D,C,B,A,S,とあるそうだ。世間一般ではSが最高位と言われているが、世の中上には上がいて、SS,SSS,とか化け物レベルの冒険者もいるそうだ。だが、そんな奇才は国が軍事力として使用するため、軒並み王城で贅沢な暮らしをしているため、表にはめったに出てこないそうだ。

 

ライガ達は、1年間の努力が身を結び、Dランクへランクアップを果たして、晴れてモンスターを狩れるようになったらしい。冒険者は新米の無謀行為防止のため、ランクによってやれる依頼を制限されていて、最低ランクのEランクはモンスターと戦うこともできないそうだ。やっとモンスターを狩れるようになった二人は早速遠出し、ゴブリンの群れ(ちなみにルル達を襲ってきたモンスターはこのゴブリンらしい)を討伐した所であのホワイトベアーに襲われたようだ。ホワイトベアーはCランクの冒険者のパーティが狩るモンスターらしい。

 

「こんな所だ。ルル、分かったか?」

 

「うん、大体は。あと分からないことがあったらその時に知っていく。」

 

「そう、良かった。じゃあ今度はルルのことを教えて。」

 

「へ?私?」

 

「そうだ。ホワイトベアーを手なづけるなんて、お前、あの時何をしたんだ?」

 

ルルは両隣から注がれる視線にたじろぐ。アークは期待の眼差しで、ライガはどこか疑うような視線をルルに向けていた。

 

「これを使ったんだ。桃太郎印のきび団子。この団子に含まれる特殊な成分が食べると同時に動物の脳髄に届いて………ってあれ?」

 

「「??」」

 

ルルはポケットから桃太郎印のきび団子を取りだし、自慢げに道具の説明をするが、ライガとアークは頭にはてなを浮かべ、何も分かっていないようだった。魔法文明の世の中で生きてきた彼らには今の説明でも難しかったらしい。そこでルルは理解しやすいように説明を変えた。

 

「ま、私の魔法さ。」

 

「すごいよ!ルル!そんな魔法使い聞いたことない!」

 

「あぁ、俺もそんな魔法は聞いたことない。っと、見えたぜ。あれがレムの村だ。」

 

アークがルルの誤魔化しに目を輝かせた所でライガが目の前を指差した。そこには草原の中でポツリと佇む決して大きくはないがのどかで静かな村が広がっていた。

 

「……いいところだね。」

 

「だろ?俺達も昨日ここに泊まったんだ。ブランカはこの村から延びてる一本道を進んだ所にある。」

 

ルルはライガの説明を受けながらレムの村に入った。村の中では桑を担いだ男が畑を耕したり、子供達が走り回ったりしていた。子守りロボットであるルルは子供達が元気な様子を見て思わず頬を緩める。

 

「ここはたまに襲撃するゴブリンさえ気をつけりゃ比較的平和な村だ。」

 

「…えぇ、それは見ればわかる。」

 

「?」

 

ライガの話も聞かず、ルルは子供達をじっと見つめていた。子供がこれだけ元気に楽しそうに遊んでるというのはここがいい村だという何よりの証拠だ。

 

「きゃっ!」

 

鬼ごっこをしていた子供達の内、小さい女の子がドテッと転んだ。女の子はひざを擦りむいたらしく、道の真ん中でえんえん泣いている。

 

「君、大丈夫?」

 

子守りロボットのルルはその女の子に駆け寄った。ルルはポケットから「お医者さんカバン」を取り出す。

 

「ちょっと染みるけど我慢してね。」

 

ルルはお医者さんカバンから取り出した消毒液をガーゼにつけて女の子の傷口にぽんぽんとつける。そしてその上からドラえもん印の絆創膏を貼って治療完了だ。

 

「お姉ちゃんありがとう!」

 

「クヒヒ、今度は気をつけてね。」

 

女の子はルルに手を振って走っていった。ルルがライガの元に戻ると、ライガはまたしても驚いていた。

 

「驚いたな。お前治療もできるのか?」

 

「少しだけね。これも私の魔法だよ。」

 

「どんだけ多才なんだお前は。」

 

ライガは呆れて溜め息をつく。ルルは今更科学技術の賜物ですなんて言えないなと思い、と苦笑していた。

 

「ね、ねぇ!ルル!!」

 

その時、後ろからルルを呼ぶ声がした。ルルが振り向くとアークががしっとルルの手をつかんでこう言った。

 

「僕達と冒険者やらないっ!?」

 

「……………はぁ?」

 

アークの誘いにルルは困惑した声を出した。

 

 



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