ライバルを超えるために幻想入り (破壊王子)
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【1章】幻想郷へ
【第1話】ベジータの決意


いきなりですが、私はドラゴンボールについても東方projectについても未熟な面が多いと思います。しかしその2つの作品に情熱はあるのでなんとか頑張って書いていきたいです。
誤字脱字等はなるべく無くしていきたいですが、もし出てしまった場合はご了承ください。

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。
キャラ崩壊や独自設定、独自解釈が甚だしいです。
過度な期待はせずに、温かい目で見てくださると幸いです。

最初の挿絵はTwitterの絵師さんに描いて貰いました。


 

 

 

 

 

───強くなりたい───

 

 

 

 

 

男はそう願い、拳を振るう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

ー精神と時の部屋ー

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

 

ベジータがスーパーサイヤ人2になって気を高める。しかし彼が納得いくほどの力は当然でない。

 

「…くそっ!こんなもんじゃ…こんなもんじゃいつまでたってもカカロットの奴を超えることはできやしねぇ…!」

 

そう大声で言った後、ベジータは変身を解いて座り込んだ。

 

時は孫悟空の元気玉によって魔人ブウが倒されてから1ヶ月。

地球の危機は去り人々は平和に暮らしていた。ベジータは悟空に追いつくことは考えずに自分の限界を知るために精神と時の部屋に入り、修行を積んでいた。

 

「あきらめきれん…オレは…またあいつと対等に…」

 

1度はあきらめたベジータであったが、いつの間にかまた悟空と対等に闘いたいという本音がでてきつつあった。修行を積んでいくうちにベジータはあのとき闘った悟空のスーパーサイヤ人2と互角以上になったと確信していた。

 

しかしそれでもベジータは自分の力に物足りなさを感じていた。

 

 

「足りねぇ…まだ…限界を超えなければ…」

 

「スーパーサイヤ人3…か」

 

 

ベジータはわかっていた。悟空を超えるには自分もスーパーサイヤ人3になるしかないと。 そしてそれが並大抵の努力では叶わないことも。

 

 

「カカロットのやつめ…あの世で相当修行を積んでいやがったな…あの様なもの簡単には…」

 

考えてる途中でベジータは立ち上がった。表情には何の迷いもない。ただひたすら前だけを見ていた。

 

 

「…考えていても時間の無駄だ。オレはオレのできることをするしかない」

 

此処にはもちろんベジータしかいない。だからすべて独り言なのだが、口に出さずにはいられなかった。

 

そしてもう一度気を高めようとした瞬間、ベジータは何かに気づき、一度動きを止めた。

 

 

「これは…」

 

ベジータの目の前に妙な空間がでてきた。そこからはベジータが今まで感じたことの無い気を感じた。

 

〝不気味〟

 

一言でいえばこうだろう。明らかに普通の現象ではないということだけをベジータは感じ取っていた。

 

 

「…この空間の向こう側にいくつもの気が感じるな。それもなかなか大きい気もちらほらと」

 

普通の人間ならこんな得体の知れないものに近づくはずはないのだが、ベジータは逆にこれを好機と思った。

 

〝普通ではない〟のが『サイヤ人』なのだ。

 

「この中のやつらと闘えばオレはさらにスーパーサイヤ人3に近づくかもしれんな。そしてカカロットにも…」

 

ベジータはこの空間は異世界か何かに通ずるものだと考えていた。それは空間の向こう側の気の質がこちらの世界とは明らかに異なっていたからだ。

 

異世界に入るのならまたこっちに帰ってこれる保障などはまったくないのだが、ベジータの心はもう決まっていた。

 

「あちらからこちらへ帰るときには次元に穴を開けて戻ってくるしかないか。 スーパーサイヤ人3でな」

 

「もしスーパーサイヤ人3になれなかったらオレはその程度だったというだけだ …次元に開けることができてもこの世界に帰ってこれるとは限らんがな」

 

 

〝強くなりたい〟

 

今も昔もベジータはそう思っている。そしてこれからも。

 

「ブルマ…トランクス…少し待っていろ。オレは必ず戻ってくる」

 

そういってベジータは一歩踏み出した。得体の知れない空間はベジータを受け入れるかのように、静かに待っていた。

 

 

「ククク…上等だ。オレは必ず超えてみせる。首を洗って待っているんだな…カカロット!」

 

決意を完全に固め、ベジータはその空間に勢いよく向かっていった。空間はベジータを飲み込んだ後、すぐにそこから消えてしまった。

 

 

ベジータはライバル(悟空)を超えることができるのか。

 

 

 

摩訶不思議な物語はここから始まるのだった。




どうも、破壊王子と申します。
今回、なぜベジータの幻想入りを書いたというのかと言うと…
他の幻想入りの作品を見ていくうちに、自分でも作ってみたいと思ったからです。あくまで『二次創作』だということを忘れないで貰えると嬉しいです。

動機が単純な上にDBに関しても東方に関しても未熟な私ではありますが、どうか皆さんの暇つぶし程度になれるくらいの作品になるように努力しますのでよろしくお願いします。

入口が破壊された精神と時の部屋になぜかべジータの入ってるという初っ端のご都合展開… 色々とgdgdになるかもしれませんかよろしくお願いします。

※精神と時の部屋に関しては超の設定を使わせてもらいます。


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【第2話】 影から見つめる者

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

私はドラゴンボールに対しても東方projectに対してもまだまだ未熟な面がおおいですが、温かい目で見てくださると嬉しいです。


 

 

 

 

 

 

「ここは…?」

 

 

何故かいつの間に閉じていた瞼をゆっくりと開けた。そして辺りを見渡す。ここは森のようだが、何処なのだろうか。

 

 

 

「……そうか!オレはあいつに!」

 

 

 

 

ー遡ること10分程前ー

 

 

 

 

「なんだこの趣味の悪い目玉は。いや、そんなことより…」

 

 

ベジータは謎の空間に勢いよく入った。するとその中は薄気味悪い目玉がそこかしこに溢れかえっている場所へ辿り着いた。

 

普通の人間ならまず恐怖するであろう。

しかしベジータからするとただの趣味の悪い空間としか思えなかった。

 

「おい、そろそろでてきたらどうだ」

 

「……」

 

 

ベジータは話しかけた(・・・・・)

自分1人しかいないのに?

否、ベジータは此処に自分以外の誰かがいる事に気が付いていたのだ。

 

「それとも力尽くで引きずり出してやろうか?」

 

ベジータがニヤリと笑う。この空間の主もベジータが決して冗談で言ってるのではないと気づいていた。

 

「………フフフ…」

 

不気味な笑い声が聞こえた。しかしどの方向からするのかはわからない。

この空間全体に大きく響いていた。

 

「っ!! なんだっこれはっ!」

 

 

ベジータは背後には、ベジータが気づかぬうちに更に小さい空間が生まれていた。

ベジータはその空間にいち早く気づくも、一瞬遅くそこへ吸い込まれてしまった。

 

「キサマっ!なんのつも」

 

言い終わる前にベジータは完全に空間に飲み込まれてしまった。

ブラックホールというものは見た事ないが、それに近い感じなのだろうか。

 

「ふぅー、これでよし」

 

空間の裂け目から人が出てきた。

いや、もしかすると〝人〟ではないのかもしれない。

 

「ちょっと強引だったけど…貴方にはこれくらいが丁度いいでしょう?」

 

勿論ベジータにはもう声は聞こえていない。

独り言のようにどんどん続ける。

 

「先程の目…私がなにか行動を起こさなければ、彼は本当に実力行使にでたかもしれないわね…」

 

 

正解である。

 

この空間の中に入った時点でベジータに出来ることなどたかが知れているが、ベジータのことだ。恐らく何かをしよう考えていただろう。

 

 

「彼には…この幻想郷のために頑張ってもらわないといけない。しかし1つ間違えれば幻想郷の崩壊にもつながる可能性もある」

 

「注意深く、長い目で見ていかないといけないわね」

 

 

 

「…ま、なんにせよこれから頑張ってね、サイヤ人の王子様♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー森ー

 

 

 

「あの声…女か! クソッタレめ!このベジータ様に舐めたことしてくれやがって!次あったらただじゃおかんぞ!」

 

 

ベジータがわかったことはというと、先程の空間の主は〝女〟だったということだろうか。

ベジータは怒りつつも先程のことを思い出し、色々と考えた。

 

「しかし…背後にでてきた空間に気づくのが遅れてしまったな… 」

 

 

あの空間の主の気は自分達の世界の人間とは比べものにならないくらい大きかった。

しかし相手はベジータ。本来ならなにか仕掛けようとしようものならベジータはすぐに察知できるであろうし、ベジータも警戒していたので、何があってもすぐに動けるようにしていた。

 

「それでも…反応が遅れた。この世界の住民は気だけでは実力を測れんのかもしれんな」

 

考えていてもこの世界のことは何もわからない。

ベジータはとりあえず行動に移してみることにした。

 

「…あっちから多くの人の気がするな。とりあえずこの世界のことについて聞きに行くか」

 

 

 

 

「…騒がしい所は嫌いなんだがな」

 

 

嫌な予感を感じつつも、ベジータは気を感じる方角へと飛んで行った。

 

 




はい、第2話でした。

小説を書くのってやっぱり難しいですね。
gdgd展開真っしぐらですが次の話も見てくださると嬉しいです。

では、ありがとうございました。




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【第3話】人里

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

至らぬ点も多いかと思いますが、温かい目で見てもらえるありがたいです。


 

 

此処がどこなのかすらわかっていないベジータ。

とりあえず情報を得るために人の気がする方角へ向かうことにした。

 

 

「そんなに遠くはないか。まあすぐ着くだろう」

 

向かっている途中、ベジータはある違和感を覚えた。

 

 

「…なんだ? 大勢で移動してやがるのか?」

 

「いや…移動というよりは…逃げているという感じか…」

 

 

どうも何かおかしい。

 

たくさんの〝気〟が一斉に動いているのだ。ベジータには、それが〝何か〟から逃げているようにも感じた。

 

 

ベジータは念のためにスピードを上げながらその場所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー人里ー

 

 

人里らしき場所へ辿り着いたベジータ。

そしてベジータの違和感はあたっていた。

 

人里に妖怪の群れが現れ、好き放題に暴れていたのだ。

 

 

「なるほど…そういうことか」

 

「キメラ…いや妖怪という奴か」

 

 

ベジータは冷静に起こっていることを考えていた。

すると一匹の妖怪がベジータの背後へ忍び寄っており、隙だらけのベジータに向かって攻撃を仕掛けた。

 

 

 

妖怪の攻撃はベジータの後頭部に直撃した…かのように見えた。

 

 

「…くだらん」

 

 

 

目にも留まらぬ速さで妖怪の後ろにまわり、ベジータの手刀で妖怪は倒れた。

 

「!!」

 

 

妖怪達は今の光景に驚いた。それは一瞬で妖怪が倒されたから…ではなく、ベジータの動きがその場にいる妖怪達には全く見えなかったからだ。

 

それでも妖怪達は自分達にとって邪魔であるベジータを殺そうと攻撃してくる。

しかしベジータはそれを意にも介さず倒していった。

 

「面倒な奴らだ… 一気に吹き飛ばすか」

 

 

倒しても倒しても数が減らない。

面倒だと思ったベジータは『爆発波』で一気に周りの妖怪達を吹き飛ばそうと考えた。

 

「…っ!」

 

その瞬間ベジータは1つの小さい〝気〟を近くに感じた。

 

「…ちっ!」

 

 

妖怪達を倒しながらその場所へベジータは向かった。

 

 

 

「おい、キサマなぜ逃げなかった」

 

「怖くて…グスン…」

 

 

そして見つけた。

 

人里の建物と建物の小さな隙間に子供が隠れていた。おそらく母親と逃げている最中にはぐれたのであろう。涙ぐんでいてとても一人で逃げれられる状況ではなかった。

 

先程の場所からあまり離れておらず、もしあのままベジータが『爆発波』を使っていたら、子供諸共吹っ飛んだだろう。

 

「…チッ!」

 

「おいキサマ!そこから動くなよ!死にたくなければな!」

 

「うん…」

 

子供にそう伝え、ベジータは妖怪達の元へと戻っていく。

 

 

すると妖怪達は先ほどよりも数が増えており、ベジータを一瞬で取り囲んだ。

一斉に攻撃をするつもりだろう。

 

 

「さっさとかかってこい雑魚共」

 

 

ベジータの薄笑いと共に妖怪達がベジータに攻撃を仕掛けてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ…これは…」

 

1人の女性がこの光景をみて唖然としていた。

 

その女性は腰くらいまである銀髪だった。

彼女がみた光景とは、妖怪の大群が全滅しているというものだ。

明らかにただの人間の仕業ではない。

 

 

「…どういうなんだ?」

 

「おい、キサマ」

 

 

何が何だかわからないまま呆然としていると、背後から声をかけられた。

声をかけた男は勿論ベジータである。

 

「!! …わ、私か?」

 

「他に誰がいるんだ?」

 

この場にはベジータと女性の2人しかいない。

 

 

「それはそうだ…とその前に!」

 

「これは貴方がやったのか?」

 

 

当然最初に確認しなければならないことだ。

ここに他は誰もいないということは、この男しかいないとわかっていたが、それでも一応問いてみた。

 

「ああ。まさか妖怪を殺したらダメなルールでもあったか?まぁあったとしてもオレには関係ないがな」

 

「いや別にそんな事はないけど…」

 

女性は戸惑う。

そしてなんとなく感じた。この男は〝普通ではない〟と。

 

 

「丁度いい。キサマに頼みたいことがある」

 

「頼みたいこと?」

 

 

「あいつをなんとかしろ」

 

ベジータは先程子供がいた場所を指差す。

 

「え?」

 

女性がベジータの指差した場所を見ると子供が倒れていた。

ただ外傷はない。妖怪達が倒されたのを見て安心したのだろう。今までの緊張感が途切れて眠ってしまっていた。

 

女性はすぐに子供に駆け寄り、保護をした。

そしてその後またベジータの元へやってきた。

 

「ありがとう。貴方のおかげで助かった。名前を聞かせてくれないか?」

 

「ベジータだ」

 

名前を聞かれ、ベジータはそれに答える。

 

「私は上白沢慧音。慧音と呼んでくれ」

 

 

彼女名前は慧音というらしい。

見た目は人間そうだが、ベジータは少しだけ違和感を覚えた。

 

 

「キサマにいくつか聞きたいことがある」

 

「ああ、私が知ってることならなんでも答えるよ。でもこんな所で立ち話もなんだし…ついてきなよ。お茶の1つでも出すぞ」

 

「…そうだな」

 

 

果たしてベジータが聞きたいことを慧音は答えてくれるのか。

 

 

 

焦る必要はないと思ったベジータは、とりあえず慧音についていくことにした。

 

 

 

 




はい、第3話でした。

べジータの優しさが垣間見えた感じでしたね。
地球襲来時のべジータだったらギャリック砲で一掃していたと思います。

こんな感じで東方キャラと絡めていく感じなので、もし違和感を覚えたら言ってもらえるとありがたいです。

ではまた次の機会へ。
お疲れ様でした。


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【第4話】幻想郷

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

至らぬ点も多いかと思いますが温かい目で見てもらえるとありがたいです。


 

 

 

 

 

 

ーーー寺子屋ーーー

 

 

 

 

ベジータが慧音に連れてこられたのは、寺子屋と呼ばれる子供たちに学問を教えるための施設であった。

 

 

 

「ここが寺子屋か…学校のようなものだな」

 

慧音がお茶を持ってくるまでの間ベジータは自分たちの世界にあった学校のことを思い出していた。

もっともベジータは学校には通っていなかったのだが。

 

「すまない、待たせたな」

 

慧音がお茶を持ってきた。そして出されたお茶を一口飲んでからベジータは口を開いた。

 

「キサマにいくつか聞きたいことというのは…この世界についてだ」

 

「この世界? …という事はやはりベジータは外来人なのか」

 

 

『外来人』

 

 

慧音はそう言った。言葉自体ベジータは聞いたことがない。

 

 

 

「外来人だと?それにやはりとはどういうことだ」

 

 

べジータは謎がどんどん増えていっていることに対して少し苛立ちはじめた。

無理もない。此処へ来てからわからないことだらけなのだから。

 

「まぁ落ち着いてくれ。外来人とはいうのは簡単にいうと外の世界から来た人間って事だな」

 

「たまにいるんだ。違う世界から来た人間が。どういう経緯があって幻想郷に迷い込むのかは色々だけどな」

 

 

慧音は分かりやすく説明する。

ということはあの謎の空間はベジータが思っていた通り、異世界へ通じる空間だったということだ。

 

 

「幻想郷…それがこの世界の名か。それと先程のやはりというのはどういう事だ?」

 

べジータが慧音に問い詰める。もしかしたらべジータがこの幻想郷にくることの経緯となった空間の女と関わりがあるのではないかと考えたからである。

 

 

「ああ、それか………なんかうまくは言えないんだが…この世界の人間ではないっていう気がしたからかな」

 

「妖怪共をあっさり片付けたからか?」

 

「まぁそれもあるかな。べジータのような強い人間はこの幻想郷にはあまりいないからな」

 

 

ベジータも純粋な人間とは言い切れないが、まぁ人間と言っていいだろう。

そんな人間が明らかに強そうな妖怪を倒すというのは、確かに珍しい事である。

 

「(あまり…か) 俺はタダの人間ではない。誇り高きサイヤ人だ」

 

「サイヤ人?」

 

聞いたことも見たこともない『サイヤ人』について慧音が聞き返した。

 

「ああ。戦いに関してのエキスパート…戦闘民族のことだ」

 

 

先程の慧音の答えのようにわかりやすくべジータは説明した。

 

 

〝戦闘民族〟

 

 

これほどベジータの自己紹介として分かりやすい言葉もない。

 

 

「戦闘民族か…どうりで強いわけだ。それにしても普通の人間と見た目はほとんど変わらないんだな」

 

「それはお前も同じことだろう?」

 

「ーー!!」

 

 

慧音は目を見開いて驚いた。

ハクタク化してない今はどう見ても人間である。しかしべジータは自分が半獣であることに気づいたからだ。

 

「お前…なぜ私のことを…」

 

 

ベジータの能力なのだろうかと考えつつ、慧音はベジータになぜ気づいたか聞いた。

 

「気だ。キサマの気は他の奴とは微妙に違う。だがオレにもその微妙な違いが完全に分かるわけではない…だからキサマ自身に聞いたまでだ」

 

ニヤリと笑いながらベジータが答えた。

 

ベジータは慧音に対する違和感を会った時から覚えていた。人間なのか妖怪なのかどちらだ、と。

だからベジータは〝あえて〟わかっているような口ぶりをした。それで慧音が否定しなかったら慧音は〝クロ〟であるとわかるからだ。

 

 

「……カマをかけてたってわけか。納得したよ」

 

 

やれやれと溜息を吐く慧音。

まさか気づかれるとは思わなかったのだろう。

それもこんなにすぐに。

 

 

「キサマは妖怪なのか?」

 

 

「正確には半獣だな」

 

「満月をみると〝それ〟になるんだ。だからなってくれと言われてもなれないぞ?」

 

 

冷静に聞いていたベジータが先程の慧音のようにカッと目を見開いた。

 

「なんだとッ!?大猿にか!?」

 

急に大声を出されたので慧音は少し驚いた。

冗談のような言葉だが、言い方はとても冗談とは思えなかったので慧音は真面目に答えることにした。

 

 

「お、大猿?いや違うよ。 獣人に変身するんだ」

 

「…なんで大猿なんだ?」

 

 

 

「い、いや違うならいい。気にするな」

 

「?」

 

 

ベジータが何を考えているかわからなかったが、まあ自分には関係ないことと思った慧音はそれ以上追求しないことにした。

 

「まぁ私のことは置いておこう。それよりべジータはどうやってこの世界に来たんだ?」

 

 

話の本筋に戻る。

 

 

「精神と時の部屋でオレは修行をしていた。すると途中に変な空間が現れやがったんだ」

 

「その中で強い〝気〟を感じたからその空間に入ったんだ。それでこの幻想郷に辿り着いた」

 

 

変な空間にいた女の話はしなかった。慧音に話してもわからないと思い時間の無駄と判断したからだ。

 

 

 

「(さっきから言っている〝気〟とは?) 」

 

 

〝気〟とは体のエネルギーか何かか?と思いつつもそこでは問い詰めなかった。話がまた逸れてしまうからだ。

 

 

「なるほど…ではベジータが行くべき場所は決まったな」

 

 

慧音はベジータに行く場所を指定しようとする。

恐らくは親切心からなのだろう。

 

「なに…?それはどこだ」

 

 

 

 

「ベジータがこれから行くべき場所は…博麗神社だ」

 

 




はい、第4話でした。

満月をみると変身するっていう設定は普通の人なら狼男が真っ先に出てくると思うのですが、ドラゴンボールのファンの私は真っ先にサイヤ人の大猿を思い出しました。

こんな感じで今回は終わりです。
第5話でお会いしましょう。ありがとうございました。


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【第5話】戦闘開始

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

できるものなら毎回これくらいの頻度で更新していきたいですね。
原作通りにするために
『俺』を『オレ』に変更しました。


 

 

慧音はベジータの次の行き先は【博麗神社】だと言った。

 

 

 

「博麗神社? なんだそれは」

 

「そこにいる巫女に頼めばおそらくベジータは元の世界に帰れるはずだ」

 

 

ベジータは目を瞑って黙り込む。

 

 

「…キサマは勘違いをしている」

 

「えっ?」

 

「オレは自ら望んでここに来た。この世界の奴らと戦い、修行を積む。…帰れるかどうかは二の次だ」

 

「……」

 

慧音は言葉が出なかった。幻想入りをした者はどうやって自分が元の世界に帰るかを第1にかんがえて行動することがほとんどである。しかしベジータは自分が元の世界に帰れるかなどは考えていない。修行を積んで今よりもっと強くなりたいという向上心だけがヒシヒシと慧音に伝わってきた。

 

 

「会った時から思っていたけど…やっぱりベジータってとんでもない奴だな」

 

 

ベジータに会った者はほとんどがこういう感想になるだろう。いや、ベジータというより『サイヤ人が』なのかもしれないが。

 

 

「ふっ、一戦交えてみるか?」

 

「やめておくよ。でもそんなに戦いたいのなら尚更博麗神社に行けばいい。 博麗の巫女は強いぞ。 とても人間とは思えない強さだ。ただ…」

 

「ただ?」

 

 

霊夢の場合戦うこと自体をめんどくさがりそう、というのが慧音の本音だった。

 

 

「(まぁあいつは気分屋なところもあるからな。行ってみないとわからんだろう)」

 

「いやなんでもないよ。それよりどうするんだ?行くのか?」

 

「ああ…そのためにオレはこの世界に来たんだからな」

 

ベジータは戦闘本能剥き出しの顔をしてそう言った。

不安は全くない。あるのは好奇心とやる気だけだ。

 

 

「ふふっ そういうと思ったよ。じゃあ地図を…」

 

「いらん。方向だけ教えてもらえば気で探って飛んでいく。強い奴ならすぐにわかるはずだからな」

 

「気というのは便利なものだな。 あっちの方角にずーっと進めばあるはずだ」

 

「そうか、わかった」

 

慧音の雑な説明でも、気を探れるベジータなら簡単にわかる。

 

ベジータは立ち上がり出発する準備を始めた。

 

 

 

 

「ほんとに地図は大丈夫か?」

 

「ああ。世話になったな」

 

「こちらこそな…気をつけていけよ」

 

 

べジータは頷くと博麗神社に向かった。

物凄いスピードで、すぐに見えなくなった。

 

 

「おお!流石に速いな! サイヤ人…か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベジータは博麗神社に向かって飛んでいた。ベジータのスピードは桁違いなのでおそらくそろそろつくだろう。

 

 

「…ん?あそこか?でかい気が2つあるな。 …おもしろい 」

 

 

不気味な笑いを浮かべながら博麗神社らしきところに着地した。

目の前には見た目か弱そうな少女が2人で座って居た。

 

 

 

 

「ん?どうやら参拝客が来たみたいだぜ霊夢」

 

「魔理沙ほんと? …でもあんまりお金持ってなさそうね」

 

 

博麗神社の縁側に座っていたのは巫女の博麗霊夢。そして遊びに来ていた霧雨魔理沙である。

 

 

「どうやらここが博麗神社みたいだな…」

 

 

ベジータはキョロキョロと周りを見渡した。此処を一言で表すのなら〝和〟だ。なんとなく落ち着いた雰囲気がそこには漂っていた。

 

 

「よう、あんた参拝客か?ここの巫女はグータラしてるから賽銭なんて入れる価値はないぜ」

 

 

まずは魔理沙がベジータに声をかける。

初対面の相手でも軽々しく声を掛けられるのは魔理沙の長所の一つだ。

 

 

「っ! 魔理沙あんた余計なことを!」

 

続いて霊夢も声を出す。しかし2人の会話が続く前に、今度はベジータが口を開いた。

 

 

「博麗の巫女…オレと戦え…!」

 

 

 

 

「…………は?」

霊夢と魔理沙は一瞬何が何だかわからなかった。

急に出てきた怪しい者に戦えと、それも霊夢相手に。

 

 

「………ふふっ!」

 

「はははははははっ!いきなり来て一体なんなんだ?意味わかんないぜ!」

 

 

霊夢の実力は魔理沙が一番知っている。そんな霊夢相手に無謀とも言える戦いを挑んできたベジータが可笑しくて腹を抱えていた。

 

 

「…なに?」

 

「あんた外来人だろ?どこで霊夢の噂を聞いてきたのかはわからないが…少し腕っぷしが強いからって調子に乗るのはダメだぜ?」

 

 

確かに見た目ではベジータの方が圧倒的に強そうでなのは間違いない。

しかし人は見かけで判断するなという言葉ある。

 

何を言いたいのかというと、魔理沙は霊夢がこの変な男に負けるわけがないと思っているのだ。

 

 

「……」

 

 

こんな魔理沙の話し方と内容を聞いてべジータが黙っているはずがない。冷静を装っているつもりだろうが顔は本気である。

 

 

「ちょっと魔理沙…まだ話も聞いてないのに…」

 

 

若干、いや非常に失礼な物言いである魔理沙を止めようとする霊夢。何より自分が面倒ごとに巻き込まれたくないのだ。

 

 

「いいだろう…まずはキサマから相手をしてやろう…キサマとその変な帽子が無事で済むとは思うなよ…!」

 

「へ、変な帽子!? っ〜!」

 

 

今度はベジータが魔理沙を挑発する。ベジータにとって、罵倒や挑発は十八番なのだ。

立ち上がった魔理沙は帽子を馬鹿にされて怒りをあらわにしていた。

 

 

「こいよ!ゴングを鳴らしたのはそっちだぜ!」

 

 

手に取った箒をベジータに向ける魔理沙。敵意むき出しの表情は誰が見てもわかる。

 

 

「上等だ…このオレ様をコケにしたことを後悔させてやる!」

 

 

ベジータも怒り心頭とまではいかないが、明らかに魔理沙が気にくわない様子だ。

 

 

「はぁ…私しーらないっと」

 

 

霊夢は人ごとのようにお茶を飲みながら2人を眺めていた。

 

 

「それじゃあ行くぜ!」

 

「いつでもかかってこい…!」

 

 

ベジータの幻想郷での最初の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 




はい、第5話でした。

この東方龍球伝のベジータはZの終盤らへんのベジータを意識してかいてます。
決して土下座なんかはさせない…

では第6話でお会いしましょう。
お疲れ様でした。


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【第6話】ギャリック砲VSマスタースパーク

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

原作では1回くらいしか出番のなかったギャリック砲…
ゲームでは幾度とお世話になりました。


 

 

ベジータと魔理沙が睨み合っている。それもそのはずだ、これから闘いが始まるのだから。

場には緊迫した雰囲気が漂う

 

 

 

「用意はいいか?」

 

 

ベジータが魔理沙に問いかける。

 

 

「お前こそできているのか?私に負ける用意がな!」

 

 

冷静さを取り戻していたベジータはむしろこの展開になって好都合だと思っていた。

どちらにせよ幻想郷の強敵全員と闘うつもりでいたため、霊夢が先であろうと魔理沙が先であろうと関係ないからである。

 

 

「(なんやかんやいって相手はただの外来人だ。テキトーに一発食らわせてダウンさせればもう刃向かってこないだろ )」

 

 

 

「じゃあいくぜ!」

 

 

掛け声とともに魔理沙はすごいスピードでベジータの背後に回り込み、一撃を放った。

とても細腕の女の子が繰り出す拳打とは思えない。

 

 

「容赦ないわねあいつ…」

 

 

霊夢は座ったままお茶すすりながら見守っていた。

 

 

 

 

 

「どうだ!もうこの魔理沙様に刃向かうんじゃ…」

 

 

 

言い終わる前にベジータが振り向いた。けろっとしており、まるで効いていなかった。

 

 

「今のが全力か?」

 

「!!」

 

 

魔理沙は驚いた。いくら腕っぷしが強い人間でも今の攻撃を受けてなんともないはずはない。そう考えているうちに今度はベジータが攻撃を仕掛けてきた。

 

 

「なんだ? 手を…」

 

「ふんっ」

 

 

ベジータの手から気弾が放たれた。

 

「っ! 」

 

 

 

 

 

魔理沙は気弾を危機一髪でかわした。

スピード、威力共に

 

「(スピードと威力のある弾幕…あの人ただ者じゃなさそうね)」

 

 

魔理沙だけでなく霊夢も内心驚いていた。

 

 

「弾幕が打てるのか…正直甘くみすぎていたぜ」

 

 

「さっさと本気でこい。でなければ相手にもならん」

 

 

ベジータは腕組みしながら魔理沙に言う。

その時、ベジータの表情(カオ)は退屈そうだった。

 

 

「言ってくれるぜ…だが弾幕の勝負なら外来人に負けるわけにはいかないんだぜ!」

 

 

そう言うと魔理沙はすごい数の弾幕を放ってきた。しかしベジータはそれを見切って丁寧にかわしていく。

 

 

 

「(くそっ!簡単によけてくれるぜ! あいつホントに何者なんだ!)」

 

「そんな攻撃ではいつまでたってもオレには届かん」

 

 

避けながらベジータは言う。その通りだ。

この程度の攻撃では目を瞑っていたってベジータなら躱せるだろう。

 

 

「まだだぜ! 《 魔符「スターダストレヴァリエ」》」

 

「ほう?」

 

 

星の形をした弾幕がベジータに襲いかかってきた。先ほどよりもスピードでも威力もある弾幕である。 先程よりも凄まじい量であるためベジータもよけきれずダメージを食らう…と思った刹那。

 

「はあああああッッッ!!」

 

 

 

「な、なんだっ! くっ!」

 

魔理沙のスペルはベジータの〝気〟で全てかき消されてしまった。

無理もない。この周辺全体が揺れたのではないかと思うほどの圧だったのだから。

 

 

「(き、気合いだけて吹き飛ばしやがった…なんてデタラメなやつなんだ!)」

 

 

魔理沙は驚愕する。自分はトンデモない相手に喧嘩を売ってしまったのではないかと、今更気づいていた。

 

 

「オイきさま…」

 

 

ベジータの雰囲気が先程と変わる。

 

 

 

「(なんだ?雰囲気がいままでと…)」

 

「!!」

 

 

 

ベジータは眉間にシワを寄せ、こちらを睨みつけていた。明らかに怒っていた。

 

 

「さっきから言っているはずだ。本気でこいと。

なのにきさまときたらオレの様子を伺って大した攻撃もしてきやがらねぇ。なんだ?怪我でもさせたくないために手を抜いていやがるのか?」

 

ベジータの言っていることは当たっていた。

外来人と本気で戦ったりなんてしたら大怪我をさせてしまう。ベジータが強いのはわかってはいたのだが、魔理沙は無意識の内に手を抜いてしまっていたのだ。

しかしそれがベジータの逆鱗に触れてしまった。

 

 

「べ、べつにそんなことは…」

 

 

「オレは『闘う』ためにここにきた。仮にきさまが強く、オレがこの戦いで命を落とすことがあってもそれはオレが弱かった、ただそれだけの話だ。まぁそんなことはありえんがな。

 

それともなんだ?幻想郷とやらではこの遊びの事を闘いと呼んでいるのか?」

 

 

「ッ! ちがうっ!」

 

 

すぐさま魔理沙は答えた。なんだか今まで異変を解決してきた自分や、仲間たちの努力を否定された気がしたからだ。

 

 

「ならばこい。キサマの闘いをみせてみろ」

 

 

ベジータの言葉で魔理沙の眼の色が変わる。

先程とはまるで違う。〝本気〟の眼だった。

 

 

「言われなくても見せてやるさ…私の本気をな!」

 

 

魔理沙は上空で攻撃態勢に入った。おそらくこれが奥義のようなものだろうとベジータは感じ取った。

 

 

 

「ち、ちょっと落ち着きなさいよ魔理沙!そんなもんぶっ放したら神社が…」

 

 

「…悪いな霊夢。もう後には引けないんだぜ…。私はこいつと決着をつけるまで終われない!」

 

 

「このバカッ…!」

 

 

身の危険を感じ止めに入ろうとした霊夢に向かった。

が、その霊夢に対しベジータは言った。

 

 

「闘いの邪魔をするならキサマも倒す」

 

 

冗談ではない。ベジータがこんな所で冗談を言うわけがないことは、さっき会ったばかりの霊夢でも簡単にわかる。

 

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!ここら一帯木っ端微塵になるわよ!」

 

 

確かに魔理沙の全力の一撃が、そのままの威力で地面に当たるものなら大変なことになる。

 

 

「いいから見ておけ!」

 

 

ベジータも攻撃態勢に入る。魔理沙の一撃を相殺しようとしていたのだ。

 

 

「真逆だな…あの時カカロットが思っていたことが少しはわかる気がするぜ」

 

 

そう呟きながら〝気〟を高める。

 

 

 

 

 

「いくぞ!これが私の正真正銘の全力だ!」

 

 

 

「いっけぇぇぇ! 恋符「《マスタースパーク》」!」

 

 

 

 

 

全身全霊の一撃が魔理沙から放たれた。これと似たような技をベジータは嫌でも脳裏に浮かんだ。

 

 

 

「使うのは随分と懐かしい気がするな… いくぞ!」

 

 

 

 

 

「『ギャリック砲』───!!!」

 

 

 

 

 

 

ビーム状の一撃がベジータから放たれた。2人の一撃は似ていた。

見た目だけは(・・・・・・)

 

実際にぶつかり合うと質、密度はケタ違いだった。勿論ベジータの方が上だということは魔理沙、それと眺めていた霊夢にもわかった。

 

 

「な、お、押され…」

 

 

 

「…終わりだ!」

 

 

 

 

 

〝気〟を解放したベジータのギャリック砲は、マスタースパークを突き破り魔理沙にあたる直前で軌道がずれた。いやベジータがずらしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 

全ての力を出し切った魔理沙は地面に倒れこんだ。

こいつに勝てない…と心の底から思ったのは生まれてこのかた初めての事だ。

 

 

「悪くない一撃だった。大口を叩くだけの力は持っていたようだな」

 

 

「へ、へへ…簡単に跳ね返したくせによく言うぜ…負けだ…私の負けだよ」

 

 

「(よかった…)」

 

 

魔理沙が握手を求めてきたのでベジータもそれに応えた。

被害が最小限に抑えられたことに対し、霊夢は密かにホッとしていた。

 

 

「あんたはどこからきたんだ?こんな力…あっ、そういえば名前を聞いてなかったな」

 

 

魔理沙は今ごろ名前を聞いた。自己紹介の途中で闘いに発展したので仕方がない。

 

 

 

 

「オレは────」

 

 

 

 

 

 

「戦闘民族サイヤ人の王子ベジータよ♪」

 

 

 

 

「───きさまは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、第6話でした。
予定より長文になってびっくりしました。

ベジータと東方勢の強さについてなのですが正直能力なしで戦う場合ノーマルでも圧倒できると思うのでこのような形になりました。能力があっても圧倒的力の差があれば効かないというのがドラゴンボールなのですがそれでは話的にアレなので頑張って考えます。

長くなりましたが今回はここで終わりにします。
ありがとうございました。


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【第7話】力の封印

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

ドラゴンボール超の新章始まりましたね。 悟空の「やだね…」ってセリフがかっこよすぎでした。


 

 

 

 

「きさまは…!」

 

 

聞き覚えがある声だった。あの空間の中の女である。

その女のことを一言で表すならば

〝不気味〟 其れでいて〝妖しい〟というのが第一印象だった。

 

 

「紫?何の用よ」

 

 

「今日は貴方達じゃなくてこっちの人に用があるのよ」

 

 

紫はゆっくりとベジータに近づく。無論、紫側も若干ベジータを警戒しているようだ。

 

 

「はじめまして…いや直接はあってないけど2回目だったわね。私の名前は八雲紫。よろしくねベジータ」

 

 

ベジータは感じ取っていた。この女の秘めている巨大な〝気〟を。

ベジータは紫の眼をジッと見る。そしてすぐに口を開いた。

 

 

「…いい度胸だ。あんな舐めた真似をした後、すぐにオレ様の前に現れるとはな!」

 

 

「こうでもしないと私が無理やり引きずり出されたかもしれないじゃない。正当防衛ってやつよ」

 

 

「嘘をつくな。恐らくきさまは自分の空間にオレがどれ程対応できるのか見ていたのだろう。 癪に触る女だぜ!」

 

 

「(へぇ…やっぱり気づいていたのね。 さすがだわ。)」

 

 

実力だけではなく頭もそこそこ回ることに、紫は嬉しそうに笑っていた。凄く妖しい。

 

 

「…それで、なぜきさまはオレのことを知っている?」

 

 

「少し前、あなたたちの世界を覗き見したからよ」

 

 

「なぜキサマがオレたちの世界を見る必要があったんだ」

 

 

確かに異世界の様子など見る必要はない。ベジータの言い方は完全に紫を疑っていた。

 

 

「魔人ブウが復活した……と聞いてね」

 

『魔人ブウ』

 

その名を聞いたベジータは表情を変える。

 

 

 

「なぜきさまが魔人ブウを…」

 

「こうみえて私ってみんなより少しだけ長生きなのよ。だから過去に貴方達の世界で魔人ブウが暴れていたことも知っているの」

 

 

「少しだけ…ねぇ…」

 

 

霊夢と魔理沙が声を揃えてそう言った。すると紫は2人をギロッと睨む。女性にはデリケートな問題らしい。

 

 

「魔人ブウは異世界に入り込む力をも持っていると考えたら…背筋がゾッとしたわ。

まぁあの時は界王神様が封印してくれたから事なきを得たけどね」

 

 

ベジータは紫に対して、どれだけ永く生きているのかと思ったが口には出さなかった。話が逸れるのが面倒くさいからだ。

 

 

「しかし魔人ブウは復活した。どういう経緯で復活できたのかは知らないけど…この世の終わりかと思ったわ」

 

「……」

 

 

経緯は違うにしても、魔人ブウが復活するまでのエネルギーの一部を集めてしまったのは他でもない自分と悟空だ。それに対してはベジータもほんと少しの罪悪感はある。

 

 

「訊いてる?」

 

「ああ…続きを話せ」

 

 

 

「…? それで私は魔人ブウが復活した事を知り、貴方達の世界を見に行ったの。

 

その時貴方達は界王神界で闘っていたわ。

…貴方ははボロボロになりながら時間稼ぎをしていた」

 

 

恐らく、悟空の〝気〟が溜まるまで時間稼ぎをしていた時のことだろう。

 

 

「チッ…見ていたのなら少しは協力しやがれ」

 

「ごめんなさいね。私が協力したところでなんの力にもなれないと思ったのよ」

 

 

紫は強い。この幻想郷でもトップクラスに。

しかしあの場で役に立てたかというと、答えるならばNOだ。

紫と魔人ブウではあまりにも次元が違いすぎる。

 

 

「その後孫悟空の元気玉によって魔人ブウは完全消滅した。

 

…で合ってるわよね?」

 

 

「ああ…で、なぜきさまは俺をこの世界に呼んだんだ?」

 

「それはもちろんお礼よ。貴方達が魔人ブウを倒さなかったらこの幻想郷にまで被害が及んでいた可能性もあるしね。

 

 

それにあそこで1人で修行するより、幻想郷の強者たちと戦った方がいい経験になるでしょ?」

 

 

 

 

「…それだけか?」

 

「もちろん♪ これは善意よ♪」

 

 

 

「(胡散臭い…)」

 

 

 

3人は疑ったが面倒なのでこれ以上突っ込まないことにした。

 

 

「フンッ それならいい。 ところで次はきさまだ」

 

 

ベジータは霊夢を指差して言った。

手当たり次第マシな奴と闘う。そう決めたのだろう。

 

 

「まさか闘う気?嫌よめんどくさい」

 

 

「逃げる気か?

 

「挑発しても無駄よ。めんどくさいからやらない。ただそれだけ。 強い奴ならいくらでもいるから他を当たってちょうだい」

 

 

 

霊夢は完全に戦う気がないようだ。

それも当然だ。霊夢からすると何もメリットがないからだ。

 

 

「(ここまでやる気がないやつを闘わせても意味がないか…)

 

 

「ちっ! いつか戦わせてやるから覚えておきやがれ!」

 

「はいはい」

 

 

霊夢は興味なさそうに手をフリフリ振る。

その動作に対しベジータが「チッ!」と舌打ちした。

 

 

「それでこれからどうするんだ?」

 

魔理沙がベジータに訊く。

どうやら少し興味があるみたいだ。

 

 

「どうするもこうもない。強いやつを探して闘うまでだ」

 

 

 

 

 

「そのことなんだけど…」

 

紫が話に入ってくる。

 

 

「たしかに幻想郷は強者がたくさんいるわ。それに能力ももっていて貴方とは違うベクトルでの強さを持っている。

 

でも…それでも貴方は強すぎる…手を抜いて闘っていても大した修行にはならないでしょ?」

 

 

遠回しな言い方で、話の趣旨がまるで伝わってこない。

 

 

 

「…なにが言いたい」

 

 

 

「それでね…貴方に『力の封印』をさせてほしいの」

 




はい、第7話でした。

東方龍球伝ではありがちの弱体化が次の話からはじまります。東方の世界のキャラと互角に渡り合えるようにするためにこのような形にしました。

紫はもう少し後に出すつもりだったんですが、力の封印をするために早めに出すことにしました。(ホントは紫が好きだからとかそんなことではないです。ホントです。ホントですよ?)

では第8話でお会いしましょう。お疲れ様でした。

追記
力の差について考えるとか言ってたのに結局弱体化とか頭おかしいんじゃないかと自分で更新した後におもいました。


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【第8話】己の限界

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

なんかハイペースでここまできてしまったのですが、内容が薄すぎてカルピスになってないか心配です。


 

 

 

 

 

紫はベジータに力の封印をさせてほしいと言った。

何のために?

それがベジータにはわからない。

 

 

 

「力の封印だと?」

 

 

「ええ、もちろん貴方の全ての力を封印することはできないけど… まぁ修行をするのであれば全ての力を封印する意味はないしね」

 

 

全ての力など頼まれてもベジータが許可する筈はない。

まずそんな事出来るのかすら怪しい。

 

 

「…」

 

 

ベジータは考えた。確かに幻想郷(ここ)の強者たちと闘うにあたって、実力が拮抗してるに越したことはない。

 

しかし、もし自分より強い相手が出てきたとき…自分は本来の実力を出しきれずに敗北することになる。それは誇り高いサイヤ人であるベジータにとって屈辱的なことだ。

 

暫く考えた後、ベジータは決断した。

 

 

 

「いいだろう」

 

 

ベジータは結局力の封印をすることにした。幻想郷には自分を超えるやつなどいるはずがない、そう確信していたからだ。

 

なぜ『力の封印』をするのかという理由は訊かなかった。紫が何か企んでいるとしても、何の問題もない。つまり絶対的な自信があったからである。

 

 

 

「…ありがとう。 でも力を封印するにしても貴方はトップレベルに強いと思うわ。だからやりすぎだけには注意して頂戴。幻想郷を護るのが私の使命でもあるから」

 

ベジータは考えていた。『力の封印』』をして修行をしているうちに己の限界を超えることができるかどうか。つまりスーパーサイヤ人2の壁を破れるかどうかを。

 

 

「やるなら早くやれ。オレはヒマじゃない」

 

 

「わかったわ。 藍!」

 

 

 

 

「はい」

 

 

紫の呼び声を聞くとすぐさま紫の式神である八雲藍が現れた。

狐の耳、尻尾が生えていたが、全体的に見ると人間達の容姿に近い。

 

 

 

「早速取り掛かるわよ」

 

 

 

 

 

 

こうしてベジータは、紫の一言により『力の封印』をすることになった。

他の誰の為ではなく、〝己の為〟に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『力の封印』中に、関係のない霊夢と魔理沙は、お茶を飲みながら話をしていた。幻想郷の住人には、この光景は見飽きたほど見ているだろう。

 

 

「なんかあいつらの言ってることよくわかんないよな。魔人なんちゃらだとか〜」

 

 

魔理沙は先程の話を上手く理解できなかった様子だ。それも当たり前と言っていいだろう。ベジータなど、普通に過ごしていれば一生会うことのなかった者なのだから。

 

 

「そうね。でもあのベジータが相当強いって事はわかったわ」

 

 

一方霊夢は要点だけは掴めている様子だ。ベジータの底なしの強さを感じ取っていたのだ。

 

 

「そうだな!なんたって私に勝ったんだからな!」

 

 

えっへん!と魔理沙は胸を張った。霊夢はいちいちツッコむのがめんどくさいのでスルーしておいた。

 

 

「…でもおかしいと思わない?これから幻想郷の強者たちと戦うって人にいちいち力の封印をさせるなんて」

 

「そうか?そのくらいベジータが強いって事だろ?」

 

 

魔理沙のいうことも霊夢のいうことももちろんわかる。

 

 

「それはわかるんだけど…なんかモヤモヤするのよね。なんたって紫だし」

 

 

「まぁそれは同意だな」

 

 

 

しかし唯一引っかかるのが、八雲紫という存在だ。

紫は常に何かを企んで行動していることは、幻想郷の殆どの者がしっている。故によく警戒されるのだ。

 

 

 

 

 

 

「人聞き悪いわね」

 

 

封印が終わったのだろう。紫たちは戻ってきた。

時間にすれば10分と経っていないだろう。

 

 

「あらもう終わったの?早かったわね」

 

 

「まあね。 …ベジータ、気分はどうかしら?」

 

 

『力の封印』中のベジータは、ただ魔法陣のようなものの中で立っていただけだ。それ以外は何もしていない。

 

 

「あまり変わった気はせん。だが〝気〟を高めたら嫌でもわかるだろう」

 

 

ベジータからすると特に変化はわからなかった。恐らく戦闘時になれば何かわかるだろう。

 

「…そう。 じゃあ私たちは用が終わったから帰るわね」

 

 

やるべき事が終わったと言わんばかりに紫はそそくさと退散しようとする。

そんな紫を、ベジータが「待て」と呼び止めた。

 

 

 

 

「封印を解除する方法を教えろ」

 

 

ベジータは万が一、の事を考えて問いかけた。当たり前である。

むしろ紫の口からそれが出なかったのが不思議な程だ。

 

紫はベジータをジッと見つめる。その眼からは何を考えているか全く予測、予想がつかない。

黙り込んでいた紫は、急にニコッと笑って口を開いた。

 

 

 

 

「そんなの簡単じゃない。自分の限界を超えればいいのよ♪」

 

 

紫は満面の笑みをして言った。それがどういう意味なのか、ベジータ、霊夢、魔理沙は全くわからない。

 

 

 

 

「…なんだと?」

 

ベジータの目つきが鋭くなる。

これはベジータが『気に食わない奴』を見る時の目だ。

 

 

 

「貴方言ったわよね?異世界からまた戻ってくるには限界を超えて次元に穴を開ければいいって。

 

この封印は私からは解けないわ。解くとしたら貴方自身が今までもっていた力の限界を自分の力で超えるしかない。

…元から超える気だったんだから別に問題はないでしょ?」

 

 

 

 

紫の言っている事は滅茶苦茶であった。要は戻る確証はないのに念のために封じさせたのである。

それに言い方も軽く、これではベジータが怒っても仕方ない。

 

 

 

「紫…アンタ自分が何を言ってるのかわかってるの?」

 

「そうだぜ!もしベジータが限界を超えることが出来なければどうするんだ!」

 

 

これに関しては霊夢も魔理沙も黙って見ているわけにはいかない。

何か紫も考えがあってのことだとは思うが、それの説明すらもない。

 

 

「その時はその時ね。ベジータがその程度だったっていうだけじゃないかしら」

 

 

「アンタッ…!」

 

 

あまりにも自分勝手すぎる紫に、霊夢は怒りを覚え食って掛かろうとした。

 

 

 

「待てッ!!!」

 

 

しかしベジータの大声で霊夢はピタッと止まった。ベジータは何故ここまで冷静でいるのか、霊夢はわからなかった。

 

否、ベジータは冷静ではなかった(・・・・・・・・)

 

あまりの憤怒に、一度大声を出さなければ、今にも紫を消し飛ばしてしまいそうなだけだったのだ。

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

 

ベジータは息を吐く。ここでやっと冷静になれた。

 

 

「何をそこまで焦る必要がある? …他の奴にも言ったがな、オレはここに闘いにきたんだ。

 

己の限界を超え!さらに上を目指すために! …そいつが何かを企んでいることはわかっていた。だがッ!そんなことはオレには関係ないッ!」

 

 

 

「!!」

 

 

霊夢と魔理沙はこの一言に驚いた。

ベジータは、自分が限界を超えることが出来ない場合のことなど全く考えていない。前、いや上を。自分のさらに上を目指す事だけを考えてた。

これ程までの向上心を持つ者など、幻想郷には数える程もいないだろう。

 

 

 

「オレは必ず己の限界を超えてみせる。

オレが限界を超えた暁には、八雲紫…その時はきさまで力試しをするとしよう。 殺さん自信はないがな」

 

 

「…」

 

 

紫は黙って聞いている。紫の式の藍は、ベジータを最大限に警戒して見ていた。

 

 

「フン オレはもう行く… 待っていやがれ。オレの更なる力を」

 

 

そう言い残してベジータは凄いスピードで何処かへ行ってしまった。

ここで手を出さなかったのは、ベジータの大きな成長だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紫…アンタ一体何を考えてるの?」

 

 

「…いきなりきてごめんなさいね。今日のところは引き上げるわ。 …藍」

 

「はい、わかりました」

 

 

謝罪だけで質問には答えない紫。2人は先程のスキマで、帰ろうとしていた。

 

 

 

「ま、待てよ紫っ!」

 

 

「またくるわ。 じゃあね」

 

 

ヒュウン…

 

 

 

魔理沙の呼びかけも無視して、2人は帰った。この場には謎だけが残ってしまった。

 

 

 

「…行っちゃった。あ〜!何が何だかわかんないぜ!」

 

 

「(紫…)」

 

 

 

結局2人は何も理解できぬまま終わってしまった。

霊夢は、帰り際に少し哀しそうな顔をしている紫の様子が気になって、何とも言えない気持ちになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ!胸糞悪い女だったぜ…!」

 

 

ベジータは愚痴を吐きながら強い〝気〟を探して飛び回っていた。

これからどうするか、全くプランを立てていない。

 

 

「…あそこからデカい〝気〟がいくつか感じるな…まずはあそこに行ってみるか」

 

 

 

 

目的地を決めたベジータ。

その目線の先には、真っ赤な館が不気味に(そび)え立っていた。

 




はい、第8話でした。 そしてここで1章が終わりです。

紫をこんな役回しにするのは胸が痛みましたが…こうするのが1番だと思い、涙を飲んでやってみました。

次から2章が始まるのですが、皆さんに少しでも面白いと思ってもらえるように頑張るのでどうかよろしくお願いします。

あとこれまでの話を見てきた中で、良いところや悪いところ、気になったところがあったらコメントお願いします。

ではここまでお疲れ様でした。ありがとうございます。


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【2章】師弟
【第9話】紫の思惑


この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

瞬間移動を覚えたい今日この頃。


 

 

 

 

先ほどの事にまだイライラしながら飛んでいると大きな紅い館が見えてきた。

 

「ほう、あそこにするか」

 

大きな気がいくつかあるため、ベジータはそこに向かうことにした。

 

途中でチルノがベジータに喧嘩をふっかけてきたが、先ほどのことを八つ当たりされて一瞬でチルノは吹っ飛ばされた。そして館の門の前まで来た。

 

「…あいつは門番か。ならまずはあいつからだな」

 

「……」

 

ベジータは門番のところに歩み寄って行く。そして気づいた。

 

「………」

 

「(こいつ…寝てやがる…一体何のためにこいつはここにいやがるんだ…)」

 

呆れた顔をしてベジータは門番の顔を見ていた。このまま素通りしてもよかったのだが、それでは戦うことができないので起こすことにした。

 

「…おい、起きろ」

 

「………」

 

「おい!」

 

「………」

 

「………」

 

ベジータは大きく息を吸った。

 

 

 

 

 

 

「起きやがれぇぇぇ!!!!!」

 

 

 

 

 

「ひゃうん!!??」

 

門番はベジータの大声にビックリして飛び起きた。

 

「さ、咲夜さんすいません!!!いや、ただ寝てたんじゃないんです!こうすることによって精神統一を…っと?」

 

門番は目の前のベジータに気づいた。

 

「えっ? あれっ? 咲夜さん…じゃない…」

 

「手間かけさせやがって!何度起こしたと思ってる!」

 

「それは失礼を…で、あなたは?」

 

冷静さを取り戻した門番が尋ねる。

 

「俺はベジータ。ここの館にいるやつらと戦いにきた」

 

 

『戦い』という言葉を発した途端、門番の顔つきが変わった。

 

 

「ではあなたはこの紅魔館への侵入者…ということでよろしいですか?」

 

「知ってどうする?そうだとしてもキサマではオレに勝つことはできん」

 

「…自己紹介がまだでしたね」

 

「私は名前は紅 美鈴。紅魔館の門番です。 例え誰であろうが…侵入者は倒します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

 

「………」

 

「紫様…」

 

「その…なぜあのような言い方をなさったのですか?」

 

「貴方が私に意見するなんて珍しいわね」

 

「いえっ!そういうわけでは…」

 

慌てて藍は言い繕う。

 

「これが必要だったからよ」

 

紫は藍に向かって指をさしだす。

 

「…指輪ですか?いつの間にそのようなものを」

 

「ええ、さっき作ったんだもの」

 

「えっ?」

 

「…これが必要だったから私はベジータの前に出向いたのよ」

 

「あの…私には何が何だか…」

 

藍の頭の中は謎で広がっていた。

 

「あなたには話しておきましょうか。…ベジータの力の封印をしたのはまずこの指輪にベジータの気を蓄えるためよ」

 

「もちろん、ベジータの力が大きすぎて幻想郷が危険ということもあるけどそれは建前ね。力の差があっても恐らくベジータは相手を消し飛ばしたりはしないわ」

 

「そう言い切れるのですか?」

 

「ええ、あっちの世界の強者たちは気という力をうまくコントロールできる。だから相手によっては力をうまくセーブして戦うことができるのよ」

 

その通りである。Z戦士達はみな大きな力をもっているが、その分その力をコントロールできるので力の暴走などが起きることはほぼ無い。 コントロールをして力を抑えても普通の人間よりは力があることには違いないのだが。

 

「そして、こっちが本音ね」

 

「この指輪に蓄えたベジータの力を利用して、強大な結界を作ろうと考えているからよ」

 

「け、結界…ですか? しかし既にもう…」

 

「ええ、確かにあるわね。でも外の世界の敵には今ある結界なんて容易く破れる力を持つ者もいる…。だからベジータの力を使い、今のうちにさらなる強大な結界をはる必要があるのよ」

 

「…まるでこれからそのような敵が幻想郷にやってくるかのような言い方ですね…」

 

静寂が2人を包む。

 

「………まだ可能性の話だけどね。 だからそのためにベジータに接触し、力をもらう必要があったのよ」

 

「ではなぜこの真実を彼に伝えなかったのですか? こう伝えていれば怒らせる必要はなかったのでは?」

 

「ダメよ…こういったら彼は《結界なんて必要無い。このオレが敵とやらをぶっ殺せばいいだけの話だ》なんて事を言うに違いない…」

 

「…相手はそんなに強いのですか?彼が勝てないくらいに?」

 

ベジータでも勝てそうにない相手のことを想像すると藍はゾッとした。

 

「勝てる勝てないの話じゃないのよ。その敵とベジータが本気で戦えば、その影響で幻想郷が大変なことになるかもしれないってこと」

 

「な、なるほど…では最後に…なぜその扱いにくそうな彼に頼んだのですか?他の強者でもよかったのですよね?」

 

「……」

 

しばらくして口を開いた。

 

「そうね…本当はベジータではなく他の人に頼むつもりだったの」

 

「 …でも、彼が異空間で修行をしている姿をみて…ライバルに大差をつけられて嘆いている姿をみて…なにか力になりたかった」

 

「……」

 

「だからベジータに決めたの。こちらの利だけで異世界に呼び込むなんて都合のいい真似はしたくなかったから。せめてベジータにもこの世界で修行して強くなって欲しかった」

 

「……紫様」

 

「でも結局はこうして結界を作ることができる。道順は違ってもこうなればしばらくは大丈夫のはず…!」

 

「これからまだまだやることはあるから…藍!しっかりサポートして頂戴!」

 

いつもの笑顔をみせながら紫はそう言った。

 

「…はい!」

 

その笑顔に応えるように藍も笑顔で返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館

 

「(この気の大きさ…タダ者ではない!気をぬくとすぐにやられる!)」

 

美鈴は相手が格上だということはわかっていた。しかし、逃げるわけにはいかない。紅魔館の門番として。

 

「では…いきます!」

 

「…こいッ!」

 

紅 美鈴との死闘がはじまった。

 

 

 

 

 




はい、第9話でした。

ブウ編でのパンチマシンの数値で、悟空が1番コントロールできていたのをみてやっぱり強い者はそれだけ力のコントロールもうまいっていう解釈ができると思い、このような話にしました。
(この物語の主人公はマシンを破壊しましたが… あそこは笑いました。)

とても長くなったのでここらで終わりにします。お疲れ様でした。


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【第10話】門番の誇り

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

ドラゴンボールの世界に美鈴が入ったらどのくらいまで強くなるのか気になりますね。


「いきますッ!」

 

まず攻撃を仕掛けてたのは美鈴だった。次々と連続で攻撃を仕掛けるがベジータには届かない。

 

「どうした?その程度か?」

 

涼しい顔でベジータは躱していく。

 

「まだですッ!《華符「芳華絢爛」》

 

全方向に弾幕が飛んできた。しかしベジータは1つ1つ丁寧に手で弾いていく。

 

「(隙…! ここだ!)」

 

美鈴がベジータの死角から蹴りをくりだす。しかし

 

「フンっ!」

 

「はぁぁぁ!」

 

「くっ!…」

 

ベジータは美鈴の足を掴み、壁に向かって放り投げた。

 

「狙いは良かった。だが肝心のスピードが足りなかったな。キサマの攻撃を簡単に躱す余裕すらあるぞ」

「流石ですね…(まともに戦っていたら勝ち目はない…どうすれば…)

 

美鈴が考えている中、今度はベジータから攻撃を仕掛けてきた。

 

「(パンチも!キックもッ! パワーとスピードが桁違いだ!まともに食らったらやられるッ!)」

 

「くっ…はぁぁぁぁぁ!」

 

「ほう?」

 

美鈴が気を解放した。ベジータの攻撃を避け、一旦距離をとった。

 

「はぁ…はぁ…」

 

美鈴はベジータからのダメージといつも以上の集中力を使っていたため、疲労していた。

 

「キサマ、気を使えるのか。ここのやつらは気を使い方を知ってるやつはいないと思っていたんだがな」

 

「私がたまたま気を使う能力だっただけです。…それにしても強いですねあなた。 戦闘センスも弾幕の威力も桁違いです」

 

「そうか。お前は期待はずれだがな。」

 

「……」

 

「怒ったか?」

 

「…いえ、事実ですので…それより次行きますよッ!」

 

「ああ、さっさとこい」

 

「《彩符「彩雨」》」

 

ベジータが全て躱す。

 

「ま、まだだ!《彩符「極彩颱風」》」

 

「はッ!」

 

ベジータの連続気弾とぶつかり合い、大爆発をおこす。土煙が舞う中、ベジータは違和感を覚えた。

 

「(気を感じない…)」

 

美鈴は気を消し、土煙の中ベジータに攻撃を仕掛けるつもりだろう。

 

「………そこだッ!」

気配を感じたベジータは蹴りをくりだす。その蹴りは美鈴の腹に直撃した。

 

「ッ!残像か!」

 

残像はベジータの蹴りをくらい消えていった。

 

「こっちですッ!はぁぁぁぁぁ!」

 

後ろから美鈴が現れ、渾身の蹴りがベジータの顔に直撃する。…ように見えた。

 

「なっ!… ガッ………!」

 

ベジータのパンチをくらい、美鈴は倒れた。

 

「な、なんで……?」

 

美鈴は訳がわからなかった。

 

「残像を使ってオレの蹴りを躱したのは見事だった。…だが、キサマも自分と同じ手でやられることになるとは思わなかっだろう?」

 

「ざ、残像…ですか…」

 

「期待はずれといったが、なかなか面白かった。お前はまだまだ伸びそうだ。修行を怠るなよ」

 

ベジータはそう言い残して紅魔館の門に手を掛けた。そして開けようとした瞬間…

 

「待てッッッ!!!!!」

 

「…ほう?まだ立つか」

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

美鈴は満身創痍である。とてもまだ戦えるような状態ではない。

 

「まだ…終わっちゃ…いませんッ!」

 

「……」

 

ベジータはあの時の自分を思い出した。悟空のために魔人ブウ相手に時間稼ぎをしていた時のことを。

 

「はぁぁぁ!」

 

ベジータは気を解放した。

 

「…オレは死にかけのやつ相手に手加減できるほど器用じゃないぞ」

 

「はぁ…はぁ…私は…私は紅魔館の門番!紅 美鈴だ!ここでやめるくらいならッ…死んだほうがマシだ!」

 

「紅魔館のため…!お嬢様たちのため…!ここで負けるわけにはいかないッ!」

 

「そうか、じゃあ…いくぞッ!」

「やぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

己の全ての気を拳に込めて、ベジータに向かっていった。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

それに応えるようにベジータも強烈な一撃を放つ。

 

そして決着はついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んん…」

 

美鈴は目が覚めた。門のそばで横になっていた。

 

「目が覚めたか。」

 

「私が横になってるということは…私は負けたんですね…」

 

美鈴は潤んだ目でそう言った。

 

「だが最後の一撃は見事だった。 あのタイミングは紙一重だった」

 

「慰めはいいです…私の力が足りなかった。それが全てです…」

 

美鈴は拳を握りしめていた。

 

「お嬢様…申し訳ありません…」

 

「……」

 

「…いくのですか?」

 

「ああ、そのためにオレはここにきた。それに…見てみたいしな」

 

「…えっ?」

 

「キサマをそこまでさせた…この館の主とやらをな…」

 

「…お嬢様は強いですよ。私なんかよりさらに」

 

「…楽しみだ」

 

そう言ってまた門に手を掛けた瞬間…

 

 

 

ドカーーーーーーーン!!!!!

 

 

 

 

紅魔館で爆発が起きた。

 

「! 一体なんだ?」

 

いきなりの出来事にベジータは驚いた。

 

「この気は…妹様!?」




はい、第10話でした。

美鈴みたいなお姉ちゃんが欲しかったです。

今回はここで終わります。お疲れ様でした。


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【第11話】狂気の妹

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

今回短いです。




 

 

 

ドカーーーーーン!!!!!

 

 

と大きな音が館全体に鳴り響く。

 

 

 

いきなりの爆発音にベジータも美鈴も驚いた。

 

「一体なんだ?」

 

「この気は…妹様!」

 

美鈴はこの気の主の正体をよく知っていた。

 

「イモウトサマ?なんだそれは」

 

「この館の主のレミリア・スカーレット様の妹のフランドール・スカーレット様です!とりあえず説明は後にして行かないと!」

 

そうは言ってるものの美鈴は先ほどのベジータとの戦いですでにフラフラである。よろけた美鈴に仕方なさそうに手を貸したベジータが言った。

 

「そんな体で何を言っている。…オレが行く。そのイモウトサマってやつを止めればいいんだろう?」

 

なんてオレはツイているんだ、とベジータは思った。この幻想郷にきて次々と戦う口実が出てきていることに対してである。そしてその嬉しさからか、ベジータから不気味な笑みがこぼれていた。

 

「妹様はとても危険です!ベジータさんでも舐めてかかると本当に…」

 

「そんなことはどうでもいい。オレは行くぞ」

 

美鈴の話を聞こうともしないベジータ。

 

「ま、待ってください!私も行きます!戦えなくてもなにかお役に立てるかもしれませんし」

 

「戦えないやつが本当に役に立つと思っているのか?」

 

「……」

 

ベジータの正論に対して美鈴は黙り込んでしまった。

 

「…さっさとしろ」

 

「は、はい!」

 

そうしてベジータと美鈴は爆発音の元に向かった。

 

 

 

 

 

 

「あははははははははッ!!!」

 

 

 

 

 

ドカーーーーーン!!!

 

 

 

 

滅茶苦茶に暴れている。紅魔館の主、レミリア・スカーレットの妹のフランドール・スカーレットである。

 

「い、妹様ッ!落ち着いてください!」

 

「い、妹様〜〜〜!」

 

フランを必死に止めようとしてるのはメイド長の十六夜咲夜と、レミリアの友人であるパチュリー・ノーレッジに仕えている小悪魔である。

 

「 邪魔だよッ!」

 

「うっ…!」

 

「きゃあっ!?」

 

頑張って止めようとはしているもののフランの暴走は止まらないどころか激しくなってきている。このままでは紅魔館自体が吹き飛んでしまう。

 

「…そこまでよ、フラン」

 

「お、お嬢様…!」

 

このままではラチがあかないと思ったレミリアが直々に出てきた。

 

「あれぇ…?お姉様だぁ…どぉしたの?」

 

「どうしたはあなたの方よ。勝手に地下から出てきたと思ったらいきなり暴れ出して…なんのつもり?」

 

「何って…遊んでるだけだよ♪」

 

「…早く地下に戻りなさい」

 

レミリアの顔がどんどん本気になっていく。

 

「いいこと思いついたぁ…」

 

「何…?」

 

「今度はお姉様が地下に行ってよ…その方が楽しいかもよ…?」

 

「…お仕置きが必要のようね」

 

「じゃあ切り刻まれて血にまみれた方が地下ってことで…ゲームを始めましょうお姉様♪」

 

「誰がそんな馬鹿げ」

 

「《禁忌「フォーオブアカインド」》」

 

「!!」

 

「「「「いっくよー…お姉様、簡単に消えないでね?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この先です!」

 

ベジータと美鈴は急ぎながら爆発音の元に向かっていた。

 

「チッ!気味の悪い館だぜ!幻想郷のやつらは趣味が悪い奴が多いみたいだな!」

 

そうして爆発音に元に着いた。

 

「「「「あれぇ?美鈴だぁ…」」」」

 

そこにはボロボロになっていたレミリアがいた。

 

「お、お嬢様!?」

 

「あいつがイモウトサマ…」




はい、第11話でした。

半分眠りながらかいていたのでおかしいところや誤字脱字があるかもしれません(いつも通り)
レミリアが一方的にやられてた理由は次の話で説明します。

ではこの辺で、お疲れ様でした。


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【第12話】偽物の拳

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

ドラゴンボール超の力の大会でドン引きしました…
これ悟空たちが勝ってもほかの宇宙が…なんとかなることを願います。


 

 

「美鈴だぁ…その人と遊んで楽しかった?」

 

1人に戻ったフランが手についた血を服で拭きながら言った。

 

「お嬢様!!!」

 

美鈴はフランにやられてボロボロになっているレミリアのそばに寄った。

 

「平気よ…それよりみんなを…」

 

美鈴は周りを見渡した。そこにはフランとレミリアの戦いで巻き添えをくらっていた咲夜と咲夜を介抱しているこあの姿があった。

 

「ぶーっだ!私が話しかけたのにお姉様の方にいくんだ!やっぱり私はどうでもいいんだ!」

 

「妹様…なぜこんなことを…」

 

美鈴は疑問をそのままフランにぶつけた。

 

「なぜって…遊びたいからに決まってるでしょ?…地下から美鈴とそこの人間との戦いを感じたわ。とても楽しそう…でも私は1人。ずっと1人。なぜかはこっちが聞きたいわ」

 

「妹様の気持ちもわかります!しかしお嬢様がどんな思いで妹様を地下に…」

 

「キモチガワカル…?」

 

美鈴やレミリアを睨むように見ながらフランはそう言った。

 

「美鈴に私のキモチがわかるの?495年間も閉じ込められていた私のキモチが?」

 

「そ、それは…」

 

「わかるわけないよ。私のキモチは私にしかわからない…寂しくて、怖くて、悲しくて…もうあんな思いはしたくない!」

 

「だから壊すの…壊している内はなんにも考えなくていいんだ…。楽しさだけがあるの…だからお姉様、私のために壊れて?」

 

「フラン…!」

 

「《禁忌「レーヴァテイン」》 」

 

「い、妹様!待ってください!」

 

「さよなら…お姉様」

 

そう言いながら炎を纏った剣でレミリアに、正確にはレミリアを守るべく一歩前に出た美鈴ごと斬りかかった。しかし直前でフランの横腹に気弾が当たり、フランは吹き飛ばされてしまった。

 

「べ、ベジータさん!?」

 

「さっきから聞いていれば意味がわからんことを…」

 

そういいながらベジータは美鈴たちより3歩ほど前に出た。

 

「キサマらは下がっていろ。オレがあいつを止める」

 

「あなたは一体なんなの…?なぜ…」

 

「利害の一致というやつだ」

 

「…はぁ?」

 

レミリアは意味がわからなかったが美鈴がレミリアを抱えて後ろに下がっていった。

 

「………いったーーーい…」

 

「なに…?あなたが遊んでくれるの…?」

 

歯茎をむき出しにした笑顔でフランは言った。

 

「キサマは遊びたい、つまり戦いたい。そしてオレはここに戦いきた。……答えは出ているはずだ」

 

「あははッ!」

 

「じゃあ…いくよッッッ!」

 

「《禁弾「スターボウブレイク」》!」

 

虹色の弾幕がベジータに向かってきた。そしてその弾幕はベジータに当たる瞬間に弾けて爆発した。

 

「ちっ!」

 

 

 

「あはははははッ!!避けた避けた〜♪」

 

フランは笑いながら手を叩いていた。

 

「あいつ…見境なしか!」

 

「もっといくよ〜…《禁忌「クランベリートラップ」》 《禁忌「カゴメカゴメ」》

 

「!!」

 

大量の弾幕が押し寄せてきた。このままきたらベジータは躱せるがこの位置だと後ろの美鈴たちにあたってしまう。

 

「ちっ………クソッタレがーーー!!!」

 

 

 

ベジータの咄嗟のバリアーにより美鈴たちは無傷だった。しかし──

 

 

「こっちだよッ!」

 

ベジータはフランのパンチをモロに食らってしまった。そしてよろけたベジータをフランは見逃すはずもなく絶え間なく殴ってくる。

 

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははッッッ!!!!!」

 

笑いながら殴っている姿はまさに『悪魔』である。

 

そして最後にフランはベジータを蹴り飛ばした。壁にぶつかり、壁ごと崩れ落ちた。

 

「ふぅ、すぐに倒れちゃったお姉様よりは楽しめたかな…じゃあ続き始めよっか、お姉」

 

 

言ってる最中にベジータに殴られてフランは吹っ飛ばされた。壁を突き抜け、先程のベジータの様になっていた。

 

「っ痛…なんで…」

 

「…あれでオレを殺したつもりか?」

 

血を吐き捨てながらそう言った。

 

「へぇ…生きてたんだね。人間のくせになかなかタフだねお兄さん」

 

「タフ…?違うな。キサマのパンチが弱かっただけだ」

 

そういうとまたフランが殴りかかってきた。

 

 

「じゃあもっと試してみなよッ!」

 

フランは思いっきり床を蹴り、助走をつけて全体重を乗せたパンチをベジータに繰り出した。しかし。

 

 

 

 

「フンッ」

 

「…なん…で?」

 

フランの全力の一撃はベジータに軽く受け止められてしまった。そして動揺したフランの隙をついてベジータは蹴りを入れた。

 

「がはッ…!」

 

フランは膝をついた。

 

「…終わりか?」

 

「まだッ!!!」

 

フランのパンチをベジータは次々と簡単に躱していく。

 

 

 

 

「お嬢様…お守りできなくて申し訳ございません…」

 

「咲夜さん!大丈夫ですか!?」

 

起き上がってレミリアに謝罪する咲夜を心配する美鈴。

 

「構わないわ。相手はフランだから…仕方ないわ」

 

「しかし…なぜフランは肉弾戦にこだわるのかしら…いくらフランでもあの男相手に肉弾戦は不利のはず」

 

この少しの戦いを見ただけでレミリアはベジータの実力を見抜いていた。

 

「これはあくまで武闘家の私の勘ですが…妹様は自分の渾身のパンチを簡単に受け止められたことが気に食わなかったんだと思います。だからあえてそのパンチでベジータさんを倒そうとしているのかと…」

 

 

その通りだった。

 

フランは気に入らなかったのだ。

たかが人間ごときに軽々と自分のパンチを受け止められたことを。

 

 

「なるほどね…あの子にもプライドがあった、ということかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくらやろうがキサマの拳ではオレを倒すことはできん。オレどころか他のやつすらな」

 

「はぁ…はぁ…なんで…」

 

フランは疲労しきっていて、肩で息をしている。

 

「キサマはパンチを当てる瞬間にわずかなブレーキをかけている。…無意識の内にな」

 

「ブレーキ…?」

 

「ああ、キサマの心がかけたブレーキだ。…人を殺さぬ様にしているものだ」

 

「…私は人をいっぱい殺してきたわ…」

 

「それをキサマは楽しんでいたのかもしれんが…心の奥底では殺したくなかったはずだ」

 

「…ちがう」

 

「オレとの戦いでもキサマは心の底から殺そうとしていない。そんな偽物の拳で何を倒す?何を殺す?」

 

「ちがう」

 

「恐らくレミリアってやつとの戦いでもキサマは」

 

「ちがう!!!!!」

 

フランはベジータの言っていることに耐えられなかったのであろう。声を荒らげ、怒りを露わにしている。

 

「そんなこと思ってない!私は殺すつもりだった!そしてお姉様も!お姉様は私の事なんてどうでもいいのよ!私なんて死んでもいいのよ!」

 

「それは違います妹様!!!」

 

咲夜がフランに向かって叫んだ。

 

「お嬢様は…妹様を傷つけないように…攻撃をモロに当てないようにして妹様を止めようとしていただけです!妹様を…妹様を誰よりも思っているのはお嬢様です!!!」

 

「……」

 

レミリアは黙って見つめている。

 

「嘘よ…そんなの嘘よ…」

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!!」

「妹様!!!」

 

フランの気がどんどん高まってきた。もうフランは自分の力をうまくコントロールできていない。

 

 

このままでは気が膨張し切ってしまい、館そして中の全員の命が危ない。

 

 

 

「こいつ…まったく!本当に手間のかかるガキだぜ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、第12話でした。

前回が短かかったので長めにしようとしたら思ったより長くなりました。
あとシュインシュインみたいな擬音っていらないですかね?ドラゴンボール感を出したくて入れてるのですが迷走してる感がすごいです。

ではここらで終わります。お疲れ様でした。


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【第13話】決死の作戦

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

春休みの内にたくさん投稿したいです。



 

 

「嘘…嘘よ………そんなの嘘よ…!」

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

これ以上考えられなくなったフランは感情に任せてすべての力を解放した。否、考えられなくなったのではなく、考えることを放棄したのだ。

 

「妹様!!!」

 

「フランッ!!!」

 

「待ってくださいお嬢様!」

 

フランに近付こうとするレミリアを美鈴は間一髪で止めた。

 

「でもこのままじゃフランが!」

 

いつも冷静なレミリアがかなり取り乱している。フランの事が心配なのである。

 

「私たちにはどうしようもできません…ベジータさんに任せるしか…」

 

「さっき会ったばかりのあいつを信頼しろと?そんなの無理に決まってるじゃない!」

 

「…確かに無理かもしれません。でも!それでもお願いします!妹様を…フラン様を止められるのはもうベジータさんしかいません!!!」

 

「……」

 

いつもとは違う強い口調の美鈴をみたレミリアは不思議に思った。

 

「随分あいつを信頼してるのね…武闘家としてなにか思うとこがあるのかしら?」

 

「…そうかもしれません。」

 

「咲夜、こあ。下がるわよ。」

 

「お、お嬢様…よろしいのですか?」

 

「ええ、あいつに…ベジータに任せるわ。 …私が信頼してる門番の美鈴が信頼してるんだもの、それで十分だわ」

 

「お嬢様…ありがとうございます!」

 

「ベジータさん…お願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランの気はどんどん高まっていく。しかしベジータは冷静に状況を確認していた。

 

「…感情に任せてすべての力を解放するつもりか。さて、どうしたものか…」

 

正直ベジータもどうしたらよいかわからなかった。力を解放する前にフランに攻撃して止める手ならあるが、その分強力な攻撃になるため、フランが無事では済まないかもしれないからだ。

 

「自分の周りだけのバリアーならオレにダメージはないだろうが…他の奴らが消し飛ぶかもしれん」

 

ベジータは周りを守りながら戦うことの難しさを改めて感じた。

 

「カカロットなら… チッ!!」

 

「カカロットは関係ない!オレがどうするべきかを考えろ!」

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

考えがまとまらない内にフランの気は最大限にまで高まった。

 

「クソッ!この館はどうしようもない!とりあえず広い範囲にバリアーを…」

 

「そうか…この手があるか!」

 

「ベジータさん!何を!?」

 

 

 

 

「消えちゃえぇぇぇぇぇ!!!」

 

「今だッ!!!」

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

館全体に響く重い爆発音が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケホッケホッ…」

 

「い、一体何が…」

 

美鈴や小悪魔は煙でむせながら何が起きたかをよく理解できていない。

 

 

「フラン!!!」

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

「手間かけさせやがって…」

 

 

ベジータは膝をついた。身体も服もボロボロになっていて、満身創痍という感じだ。

 

 

 

「お兄さん…?これは…私が…?」

 

「キサマに必要なのは…力をコントロールすることと…話し合いだ…」

 

「フランッ!」

 

フランの元にレミリアが駆け寄る。

 

「お姉様…私…」

 

「…馬鹿ね。あとでお仕置きよ」

 

「うん…。」

 

「最初っから…そうし…や…が…」

 

 

言い終わる前にベジータは倒れ込んだ。

 

 

 

 

「ベジータさん!」

 

美鈴は急いでベジータに駆け寄る。

 

「咲夜、美鈴、こあ。急いでベジータを運びなさい!」

 

 

「彼は…紅魔館の…私たちの恩人よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、とりあえずこれで…」

 

美鈴たちは3人で協力して、客間のベッドまで運んだ。

 

「お、重かったですね」

 

「ベジータさん…大丈夫でしょうか?」

 

「大丈夫じゃないかしら」

 

 

カツカツと靴の音をさせながら紫色の髪をした女性がゆっくりと現れた。

 

 

「パチェ…あなた今までどこにいたの?」

 

彼女はこの紅魔館の図書館を管理している魔法使いのパチュリー・ノーレッジである。

 

 

「ごめんなさいね。ずっと見ていたんだけど、もしベジータがフランを止めることができなかった場合の事を考えて結界をはろうとしてたんだけど…」

 

「どうやら…無駄だったみたいね」

 

ベジータの方を見ながらパチュリーは言った。

 

「ところでフランは?」

 

パチュリーは咲夜に聞いた。

 

「力を使い切ったからでしょう…今は寝ておられます」

 

「そう…」

 

「それで、ベジータはどうやってフランを止めたの?」

 

「これは恐らくだけど…結界…いやバリアーと呼ぶのがいいのかしら。その類のものをはって止めたんだと思うわ」

 

「バリアー?でもそれなら私たちや紅魔館が無事では済まなかったんじゃない?」

 

「普通はそうね。でもベジータの場合は自分だけの周りにバリアーをはったんじゃないわ」

 

「あの…どういう事でしょう?」

 

美鈴は話に上手くついていけてなかった。

 

「ベジータは紅魔館と周りの私たちに被害が及ばないように自分とフランを包み込むようにバリアーをはったの。…フランの力の解放の瞬間に距離を詰めたのはそのせいよ」

 

「そ、そんなことをしたら…」

 

「そうね。つまりベジータはフランの攻撃をゼロ距離でくらったことになるわね」

 

「!!!」

 

美鈴は信じられなかった。あの攻撃をあの距離からくらってこのケガで済むベジータを。

そしてこんなことを一瞬で躊躇いもなくする勇気を。

 

「これが最善策だと考えたんでしょうね…。とりあえず今は彼が起きるのを待ちましょう」

 

「そうね。勝手に永遠亭に運んだら何か言い出すかもしれないし」

 

「では私がベジータさんをみています」

 

美鈴がそういい出した。

 

「お嬢様も少し休まれないと…」

 

「わかってるわ。確かに少し疲れたわね…」

 

「では私は妹様の様子をみてきます〜」

 

「じゃあ美鈴、ベジータが目覚めたら知らせて頂戴」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

「……ん…」

 

「ベジータさん!お目覚めになられましたか」

 

「美鈴…オレは…」

 

「ベジータさん…私を…」

 

 

 

「紅 美鈴を弟子にして下さい!」

 

ベジータの言葉を遮り、美鈴は唐突に言い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、第13話でした。

レミィは別に意識してなかったのに勝手にカリスマ溢れるキャラになっちゃいました。
これこそが彼女の本当のカリスマなのかもしれません。
ではここで終わります。お疲れ様でした。


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【第14話】ベジータ師匠

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

悪いものでも食べたのか…お腹が痛いです。


「私を…この紅 美鈴を弟子にしてくださいッ!!!」

 

思わず大きな声で言ってしまった。

 

「…それが今起きた怪我人に対する第一声か?」

 

ベジータは正直な感想を言った。

 

「あ…いや、えへへ…」

 

やれやれ…とベジータは息を吐いた。そして答えは…

 

「何を思って言ったのかはしらんが…オレはキサマを弟子にするような気は無い」

 

「えっ…」

 

答えはNOだった。

 

「オレはこの幻想郷に戦いにきた。それは己のためにだ。他の奴などどうでもいい、オレはオレのために闘う」

 

これはベジータの本音だった。ベジータは自分が強くなることを第一に、いやそれだけしか考えていないので他人の事などに構っている暇などないからだ。

 

「それにオレは他の強い奴らとも戦わねばならん。いつまでもここで油を売ってる暇などない」

 

理由もつけて完璧に断ったのだが美鈴は諦めない。

 

「お、お願いします!私も強くなりたいんです!紅魔館の門番として…まだまだ私は実力不足です。だから今以上に強くなってお嬢様たちをお守りしなければいけないんです!」

 

「知った事か、そういうのは自分1人でやるんだな」

 

ベジータは美鈴をグンと突き離す。

 

「……」

 

美鈴は少し考えたあとこう言った。

 

「…怖いのですか?」

 

「なんだと?」

 

「ベジータさんが私に修行をつけて、私がいずれベジータさんを追い越してしまうのが怖いのですか?」

 

美鈴は賭けに出た。こう言えばベジータが「そんなことありえるか!いいだろう!」と言ってくれると思ったからだ。

しかしこの発言で1番まずいのはプライドを傷つけられたベジータが怒ってしまうことだ。

 

怒って帰ってしまえば弟子にしてもらえないどころか、これからの関係すら危うくなってしまう…ということだ。

しかし、普通に頼んでも絶対に無理と考えた美鈴はこう賭けに出たのだ。

 

 

 

しかし、ベジータの答えは美鈴の予想を外れていた。

 

 

 

「…ああ、そうかもな」

 

「!!」

 

プライドの高そうなベジータのこの発言で美鈴は今日1番驚いた。

 

「…オレにはライバルがいる。オレとそいつが最初に会ったとき、オレの方が奴より強かった」

 

ベジータは身の上話を始めた。

 

「だが…激しい修行や戦いの末、奴はオレを超えやがった…圧倒的強さを誇る、王子である…このオレをだッ!」

 

「(王子…?)」

 

「無論、オレも修行を怠った事などない。しかし、オレは遂に奴を超えることはできなかった」

 

「もうオレは奴の事を追いかけはしない。…ただ純粋に自分の限界を知りたいがために修行をしていた」

 

「だが、最後にたった1つのチャンスが生まれた。それがこの幻想郷だ。ここでの修行があればオレは奴を超えることができるかもしれん。…その点だけあの女には感謝している」

 

ところどころ説明が足りないところがあり、わからない点もあったが、ベジータの言いたいことは大体は美鈴に伝わった。

 

「おれは無意識に感じているのかもしれんな。また『追い越される』ことの恐怖を。自分がどんなに修行しても敵わない高みに登られることを」

 

ここが異世界ということもあってかベジータは心の奥底の本音を口に出していた。元の世界の者には口が裂けても言わないだろう、美鈴には心を少し許した証拠であった。

 

ここまで話を聞いた上で美鈴はもうベジータに弟子入りすることは諦めていた。ここまで覚悟を持って強くなりたいベジータをみて、自分に構ってる暇なんてないと悟ったからだ。

 

「すいませんベジータさん、私はあなたの事をなにも知らなかったのにあんな生意気な事…」

 

「なぜ謝る」

 

「えっ?」

 

「どうやらオレは丸くなりすぎていたらしい…こんな考えをもっちまうようになるとはな」

 

「このベジータ様ともあろうものが小娘にこんな情けない事を言っちまうなんてな」

 

「…超えられたからなんだ。オレがさらなる高みに登ればいいだけだ!」

 

さっきまでのベジータが戻ってきた気がして美鈴は安心した。

 

「さっそく修行をするか。…キサマも手伝え」

 

「……え?いいんですか!?」

 

「気を使える奴と修行した方がいいと思っただけだ」

 

「オレはしばらくここで修行をすることにする。邪魔をせんと約束するならキサマにも修行をつけてやらんことはない。…嫌ならいい。1人でやるだけだ」

 

「や、やりますやります!これからよろしくお願いします師匠ッ!」

 

「次そう呼んだら殺す!」

 

「はい師匠ッ!」

 

「………」

 

そう言うと2人は外に出て修行を始めるのであった。

 

 




はい、第14話でした。

こんなベジータも…たまにはいいよね?

これから先の話があまり見えてこなくてクオリティが下がるかも知れません(下がりようない)
それでも一生懸命考えますので次からもよろしくお願いします。


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【第15話】門番として

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

ドラゴンボール超で魔人ブウ勝ちましたね。再生能力は健在のようです。


 

 

 

「よし、今日も修行をするぞ」

 

「はい師匠!」

 

あれから10日ほど経つ。ベジータは美鈴と修行を繰り返している。紅魔館の恩人であるベジータを、レミリアは歓迎した。泊まるところや食べるものが無かったベジータに色々提供してあげたのだ。

 

「まずは組手からだ、全力でこい!」

 

「いきます!はぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

「お、今日もやってるわね」

 

館の中から紅茶を飲みながら、レミリアは二人の修行風景を眺めていた。

 

「あれ以来美鈴がやけに活き活きとしてますし、ベジータに美鈴を任せて正解だったみたいですね」

 

「そうね。門の前で修行してるから誰も侵入者は来れないし、いい事だわ」

 

「ただ…」

 

「食事よね。あんなに食べるなんて…」

 

その通りである。サイヤ人は食事の際に大量に摂取するので作る方が非常に大変なのである。

 

「もう慣れましたわ。でも残さず食べてくれるので作るこちらもみてて嬉しくなります」

 

咲夜は笑いながら言った。

 

「ならよかったわ。これからも沢山作ってあげて頂戴」

 

「かしこまりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はこれくらいにするか」

 

「はぁ…はぁ…はい…」

 

「ほう?今日はぶっ倒れないんだな」

 

「もう…慣れました…」

 

「(こいつ…飲み込みも早いし、度胸もある。どこまで伸びるか楽しみになってきやがったぜ)」

 

「今日の修行は終わったかしら?」

 

「さ、咲夜さん…肩を…肩を貸してください…」

 

「嫌よ。泥だらけで汚いわ」

 

咲夜は汚物を見るような目で断った。

 

「……」

 

美鈴は下を向いて落ち込んでいる。

 

「咲夜、今日は特に腹が減ったぞ」

 

「はいはい、今日も沢山作っているわよ。でもその前に!」

 

ベジータも美鈴も ?という顔をしている。

 

「お風呂に入ってきなさい!そんな汚い格好でお嬢様の前に行くのはダメよ!」

 

「チッ、仕方ねぇ。行くとするか」

 

そう言ってベジータは先に行った。

 

「あなたも早く行くのよ?私は夕食の準備をしておくわ」

 

ベジータに続いて咲夜も戻った。

 

「……体が動かないよぉ…」

 

美鈴は疲れ果てた体を引きずりながら向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この館には男はオレだけのはずだが…なぜ男湯があるんだ…」

 

ベジータは不思議に思った。

 

「…そろそろ他の奴とも戦わねばいかんな。ずっとここにおる訳にもいかん」

 

「しかし美鈴をどうするか…あいつの修行もまだ途中だ。中途半端にするのもな…」

 

湯に浸かりながらベジータは考えていた。

 

「…よし、こうするか。…しかしレミリアが許可を出すとは思えんな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして夕食。

 

「ガツガツガツガツガツガツガツガツ」

 

 

 

 

「今日はいつにも増して勢いが凄いわね…」

 

ダイソンのような吸引力で目の前の料理を食べていくベジータ。

 

「あははっ!私もしよーっと!」

 

「妹様!ダメです!」

 

フランもベジータのマネをしていたら咲夜に怒られた。あの一件以来、フランは他の者と同じように生活をしていた。

 

「え〜いいじゃん別に〜」

 

「妹様は急いで食べると喉に詰まるかもしれませんよ?」

 

「あー、そうかー」

 

たわいもない話が続いていく。

 

 

 

すると扉が開いた音がした。風呂から上がった美鈴が入室したのだ。

 

 

 

「あ、もう食べておられたのですね」

 

中々体の動かなかった美鈴はみんなより少し遅れて到着した。

 

「美鈴おそーい!」

 

「すいません妹様」

 

「早く座りなさい」

 

レミリアが美鈴を見ながらそう言った。

 

「はい」

 

美鈴も席に着き、夕食を食べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お腹いっぱーい!」

 

そして全員が食べ終わった。そしてその後すぐ口を開いたのはベジータだった。

 

「オレは明日、ここを去る」

 

「え?」

 

 

皆が一斉にベジータの顔を見る。

 

 

「随分早かったわね、例の強い奴らと戦いにいくってやつ?」

 

「ああ、少し長居をしたからな」

 

「でも美鈴との修行もまだ終わっていないんでしょ?」

 

「ああ、まだ教え残してる事も沢山ある」

 

「じゃあ…」

 

 

ベジータはレミリアの顔をじっと見つめた。

 

 

 

「だから美鈴も連れて行こうと思っている」

 

「!!」

 

美鈴は驚いた。ベジータと旅をしに回る事で、自分は更に強くなれる…と思ったらなんだかワクワクしてきた。しかし…

 

「…それは無理じゃないかしら?美鈴がいなくなったら紅魔館を守る門番がいなくなるわ」

 

パチェの言ったことはその通りだった。そして美鈴もそれをよくわかっていた。紅魔館を守る門番として強くなりたい美鈴が、強くなるためにその門を離れることは本末転倒ではないかと思ったからだ。

 

「……」

 

「…たしかにそうですね。私は他の仕事があるし、妖精メイドには荷が重いし…」

 

ベジータもこの段階ではレミリアに断られると思っていた。しかしレミリアの答えは…

 

「いいわ、行ってきなさい美鈴」

 

「レミィ?」

 

レミリアの答えはOKだった。

 

「たしかに門番が居なくなるのはアレだけど…それより私は美鈴の成長をとるわ」

 

「あなたはこの紅魔館の門番なのよ?その門番が次々と門を破られるなんてマネはしないわよね?」

 

「お嬢様…」

 

「ただ、今と何も変わらない状態で帰ってきたら許さないわよ?時間をあげるんだから…うんと強くなって帰ってきなさいっ!」

 

「ありがとうございますッ!」

 

「…フッ」

 

「私も行きたーい!!!」

 

「貴女はダメよ」

 

「ぶーぶー!」

 

 

 

こうしてベジータの旅に美鈴が加わることになった。これからベジータと美鈴は誰と、どんな戦いをするのか見ものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、第15話でした。そして2章はここで終わりです。

「私も行きたーい!」
「貴女はダメよ(他の東方龍球伝と被るから)」
『誇り高い王子が幻想入り』とても面白いです。はやく次の話でないかなー…

あと、ここからの話はまだ全然考えていません。もし、ここにいってほしいとか、この人と戦わせてほしいなどというコメントがありましたら是非コメントお願いします。できる限り尊重したいと思います。

では第15話、そして2章が完結です。お疲れ様でした。


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【第16話】共に旅立ち

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

行き詰まってる感は結構あります。



 

 

 

「……」

 

夕食を食べ終わった後、これからの旅に必要な物を準備し終わり、あとは寝るだけ、というところまで来たのだが美鈴は中々眠れないのでベランダに出て星を眺めていた。

 

「ほんとにコレでよかったのかな…」

 

「いいに決まってるわ」

 

「ひゃうん!?」

 

突然横に現れた咲夜にビックリした美鈴は腰を抜かしてしまった。

 

「さ、咲夜さん!いるならいるって言ってくださいよ〜!」

 

「だって今来たんだもの。ノックしてもでてこないし」

 

美鈴は はぁーっと溜息をついた。

 

「それより早く寝ないと明日起きれないわよ?寝坊でもするもんならベジータの性格からして置いてかれちゃうわ」

 

「そ、それはわかっているのですが…眠れないんです」

 

「貴女が眠れないなんて槍でも降ってきそうね」

 

咲夜の冗談にハハハと軽く笑っていた美鈴であったがすぐに暗い顔になった。

 

「ほんとに旅について行くべきなのか…かといえ私の実力不足は事実。弱い門番など不要…私はどうすれば…」

 

「悩んでる理由が私にはわからないわね」

 

「えっ…?」

 

「お嬢様は許可を出してくれたわ、そして行きなさいと。それで十分だわ」

 

「私たちにはお嬢様が絶対よ。全てはお嬢様のため。…貴女はそうではないのかしら?」

 

「いえ!そんな事は…」

 

「貴女が強くなるのは紅魔館のため、そしてお嬢様のためよ。何も気にせずに行ってきなさい。私もできる限り貴女の仕事をフォローしとくわ」

 

「咲夜さん…ありがとうございます!」

 

「なら早く寝なさい。寝坊しても起こさないからね?」

 

そう言い残して咲夜は部屋から出ていった。

 

「ありがとうございます…」

 

小さくそう呟いた美鈴は寝るためにベッドに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌朝

 

 

「世話になったな」

 

「それはこっちの台詞よ。お腹がすいたらいつでもいらっしゃい。たくさんの料理を用意するわ」

 

「フッ、次はこの紅魔館の食材を食い尽くしてやる。覚悟しておくんだな」

 

「 それはやめてちょうだい…」

 

今回の2週間足らずで紅魔館の食材はかなり減っていた。ベジータの底なしの食欲を紅魔館の連中は軽く恐怖していた。

 

「それでこれならどこにいくの?」

 

パチュリーがそう聞く。

 

「決めていない。強い気のやつを見つけて戦うだけだ」

 

「き、決めてないんですか…行き当たりばったりですね」

 

こあは苦笑いしながら言った。

 

「美鈴も頑張ってきなさいよ。置いていかれないようにね」

 

「大丈夫です!皆さん、この紅 美鈴は必ず今よりもっと強くなって帰ってきます!そして紅魔館の門をどんな者からも守るので…待っていてください!」

 

敬礼しながら大きな声でそう言った。

 

「じゃあ行ってきなさい!」

 

美鈴は一礼した。ベジータは人差し指と中指をビシッと立てて挨拶をした。そしてその後2人は飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもフランは来なかったわね。起きれなかったのかしら?」

 

「ああ、それはね…」

 

パチュリーにレミリアが説明しようとしたその瞬間──

 

 

「あーーーーーー!!!!!」

 

大荷物を抱えたフランがやってきた。

 

「あらフラン。おはよう。いい朝ね♪」

 

レミリアはニッコリとした笑顔である。対照的にフランの顔は不機嫌丸出しであった。

 

「妹様…その大荷物は?」

 

「私も行こうと思ったのに…お姉様!嘘の出発時間を教えたわねッ!」

 

「だってこうしなきゃあなたは一緒についていこうとするでしょ?それはダメって言ったわよね?」

 

「だからって…もぉーーーーー!!!」

 

フランは寝転がりながら手と足をバタバタさせている。

 

「嘘を言うなんて最低よ!!!それでも紅魔館の主なの!?このアンポンタン!!!」

 

「アン…どうやらやっぱりお仕置きが必要のようね…!」

 

「なにー!?望むところだー!!!」

 

 

 

 

 

2人は睨み合い、バチバチとした殺気を露わにする。

 

 

 

 

 

「はぁ…また始まった…」

 

「お嬢様!!妹様!!お、落ち着いてください!!」

 

「《禁忌「レーヴァテイン」》!!」

 

「《神槍「スピア・ザ・グングニル」》!!」

 

二人とも臨戦態勢に入った。

 

「お嬢様〜!妹様〜!」

 

「ベジータさ〜ん!美鈴さ〜ん!帰ってきてくださ〜い!!!」

 

こあの声は2人に届くことはなかった。

 

 

 

紅魔館は今日も平和なようだ。

 

 

 

 




はい、第16話でした。

そして『一体いつから第2章が終わったと錯覚していた…?』
あそこで終わるのは中途半端と思い、16話まで2章にさせてもらいました。すいませんでした。
次からは第3章の始まりです。3章も頑張って書くので応援よろしくお願いします。

では2章はここで終わります。お疲れ様でした。


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【3章】強さとは
【第17話】戦闘力測定不能


この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

最近無性に絵が描きたいです。誰かアドバイスください…


 

強い気を探しながら飛んでいたベジータと美鈴。

急にベジータがスピードを落として止まったので同じように美鈴も止まった。

 

「どうしたのですか?」

 

「……気をうまく探れん」

 

「えっ?」

 

ベジータは飛んでいる最中遠くにいる強い者の気を探っていたのだが、いつものようにうまく探れない。

前に慧音といた時に、霊夢達の気を遠くから探し当てる事ができていたことから、ベジータはこの原因は力の封印をしたからではないかと推測できた。

 

「(紅魔館にいた時は遠くの気を探ることはしなかったからな…チッ!あの女め!つくづく面倒をかけやがる!)」

 

「ベジータさん?」

 

「なんでもない。キサマを連れてきてよかった」

 

「…というと?」

 

「今のオレには訳あって遠くにいる者の気を探ることはできん。だからキサマが気を探れ。オレを強い奴がいるところへ案内しろ」

 

「……」

 

「どうした?早くしろ」

 

「は、ははは…私も出来ないんです。こんなに遠くの人の気を探ったことなどなかったもので…」

 

「……」

 

美鈴は笑いながら頭をかいていた。こんな初歩的なこともできないのか!とベジータは言おうとしたが美鈴には恐らく使う機会は無かったのだろうと思ったので言うのをやめた。

 

「…とりあえず行くぞ!」

 

「は、はい!」

 

結局行き当たりばったりになった2人。

2人はとりあえず大きな山に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある山。

 

 

「完成だ!!!」

 

少女が1人で何かを作っていてたった今完成させたようだ。その少女は青色の髪、青色の服、そして青色の長靴と全身青色であった。

 

「ふふふ…これを作るのには苦労したよ!」

 

「名前は…そうだな、『戦闘力測定機』とでもしようか!」

 

「かなり正確な数値がでてくるはずだ…上限はどこまであるのかね?試してみたいなー!そうだ!八坂様で試してみようかね!」

 

少女がウキウキとしているとそこに1人の鴉天狗がやってきた。

 

「にとりー!」

 

茶色で癖のあるロングヘアーをツインテールにしている少女が現れた。

 

「はたて様…また何か用でも?」

 

にとりは先ほどまで満面の笑顔だったとは思えないほど嫌な顔をしてはたてを見る。

 

「そんな嫌な顔しないでよ!用っていうのはコレ!」

 

はたては携帯を取り出した。

 

「また壊れちゃったから直して?」

 

「またですか…私も色々と忙しいんですけど…」

 

何度目かわからないほど、はたてはにとりに携帯を直させるのであった。しかも直させるだけ直させてあとはさよならなのでにとりはいい加減嫌になっていた。

 

「きゅうり食べながら泳いでるだけじゃーん!」

 

キャハハと笑うはたてに対し、にとりの怒りのボルテージは更に上がっていた。

 

「(せめて金払えや!!)」

 

そんなにとりの心の愚痴が溢れた瞬間、その場に2人の武闘家が現れた。

 

 

 

 

 

 

「なんだこいつらは。」

 

「さ、さぁ…?」

 

「!!」

 

はたては美鈴を見ながらこう言った。

 

「あなたは紅魔館の…?」

 

どうやらはたては美鈴のことを知っているようだ。

 

「え?あ、はい!紅 美鈴と申します!」

 

その瞬間はたての目が光った。いい記事を書けると思ったのだろう。

 

「あなた紅魔館の門番でしょ?なんでここに… っ!!」

 

「?」

 

「まさか…クビになったの!? え〜!かわいそう!」

 

「えぇ!?いやそんな事は…」

 

「吸血鬼ってやっぱり冷たいのね〜!ずっと雇ってた門番をクビするなんてひどいわ!」

 

「…お嬢様はお優しい方です。それに私はクビになんてなっていません!」

 

美鈴は少しムッとした表情で言った。レミリアを馬鹿にされた事に少し腹がたったのだ。

 

「あれ?そうなの?ごめんなさい!私勘違いしちゃって!」

 

はたてもすぐに謝る。決して悪気があって言ったことではないとわかっていた美鈴はすぐにはたてを許した。

 

一方はたてもコレじゃ記事にできないとガッカリとした…その瞬間ベジータの姿が目に入った。

 

「あなたは?見かけない顔だけど…誰?」

 

はたての軽いノリにベジータも苛立っていた。

 

「人のことを聞く前に、自分のことを話したらどうだ小娘!」

 

「(こっわ…)」

 

 

はたてとにとりはビクッと体を揺らして一瞬だけ恐怖した。

 

 

「ごめんなさい。私の名前は姫海棠はたて!新聞記者よ!」

 

「新聞記者だと…?」

 

新聞記者について良いイメージがないベジータははたてを警戒し始めた。

 

「そう!あなたのことを色々知りたいわ!聞かせてもらえないかし」

 

「断る」

 

はたてが言い終わる前にベジータはそう言い切った。

 

「お願い!あなたのことを知りたいの!」

 

「二度も言わせるな。断ると言ったはずだ」

 

 

 

 

 

 

にとりは話の流れについていけず傍観していた。

 

「あの人間なんか強そうだな…そうだ!」

 

にとりは先ほど作り上げた『戦闘力測定機』をあの人間で試そうと思った。

 

「よっと、さぁてあいつの戦闘力はどのくらいかな?」

 

「おねがーい!あいつに負けたくないのよー!」

 

「そこまで言うなら…」

 

ベジータは気を解放した。

 

「!?」

 

3人は驚愕した。

 

「……」

 

「10万…30万…80万…ま、まだ上がるっ!? うわっ!」

 

 

 

 

ボン!と音がたった。

 

100万を超えたあたりから『戦闘力測定器』は爆発した。

 

 

「取材がしたいの言うのなら…オレを倒してからにするんだな!!」

 

 

はたてはベジータに圧倒されていた。

 

「……きょ、今日のとこは引き上げるわ!またくるからね!」

 

そしてはたては逃げるように引き上げて行った。

 

「チッ!どこの世界にもあんな奴はいるみたいだな!」

 

「すごい…!」

 

ベジータの強さを知っていた美鈴であったが、今の一瞬でその強さを再確認した。

 

「……」

 

「おいキサマ!キサマが今つけていたものは…」

 

「……」

 

「聞いているのか!!」

 

「私の……」

 

 

 

 

 

 

 

「私の発明品がー!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 




はい、第17話でした。

にとりとはたての関係がよくわからないので、すごく違和感のある回だったと思います。
そして当たり前のように壊れるスカウター…

ではまた次にお会いしましょう。お疲れ様でした。


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【第18話】脅し

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

ドラゴンボール超みててやっぱり悟飯は前髪があった方がいいんじゃないかと思いました。


 

 

「私の発明品がー!!!!!」

 

にとりはブルブルと震えていた。にとりの作った『戦闘力測定機』ではベジータの戦闘力を測りきれなかったのだ。

 

 

 

 

 

「なんてことを…まだデータとか全然取ってないのに…」

 

「しかしなぜ…この人間の戦闘力が高すぎて壊れたのか?…いやでもタダの人間にそこまでの力があるとは思えないし…」

 

にとりはずっと1人でぶつぶつと呟いている。

 

「こいつ何を1人でぶつぶつと…」

 

「師匠、いまつけていたものって何なんですか?」

 

「ああ、恐らくスカウターのようなものだ」

 

「スカウター?」

 

美鈴には聞いたこともないものだった。

 

「平たく言えば戦闘力を測るものだ。オレも昔は使っていた」

 

「戦闘力…強さですか」

 

「そういうことだ。だが幻想郷のやつらは能力が厄介なやつもいるからな。スカウターの戦闘力だけ信じて戦っても意味はない」

 

「相手の力を知りたけりゃ自分で戦う方が早いだろう」

 

この世に強さを測るものが存在するなんて…と美鈴は思った。そして知りたかった。自分とベジータの差を。

しかしたった今壊れてしまったのでその夢は叶わない。

 

「おいキサマ、今のはやつはどこで手に入れた?」

 

ベジータがにとりに問う。

 

「…今のやつ?」

 

「惚けるな!スカウターの事だ!」

 

「…ああ『戦闘力測定機』のことか。

私が作ったんだよ。他人の強さを測りたくてね」

 

「何?キサマがだと?信じられんな」

 

疑惑の眼差しをにとりに向けたベジータ。そう簡単にスカウターを作ることができないことを知っているからだ。

 

「本当だよ。こういう発明品を作るのが私の生き甲斐だしね。さっきの人も壊れたものを直してもらうために来てたんだよ」

 

誤解されないようににとりはちゃんと説明した。

 

「チッ、ならいい。行くぞ美鈴!」

 

「ま、待ってくれよ!」

 

山の奥に行こうとしたベジータ達を止めるにとり。

 

「なぜ山に入るんだ?それとアンタたちは何者なんだ?」

 

「……」

 

「あっ…」

 

先ほどのベジータのはたてのやりとりを思い出したにとりは自分から自己紹介した。

 

「私は河城にとり。見ての通り河童さ、よろしくね盟友」

 

「その盟友とはなんだ?」

 

「人間と河童は古くからの盟友なのさ」

 

どうでもいいことだったのでベジータはこれ以上追求しなかった。

 

「…オレはベジータだ」

 

「改めまして、私は紅魔館で門番をしています、紅 美鈴と申します!」

 

「そうか2人ともよろしく」

 

「で、話を戻すけどなんで山の奥に…」

 

 

「強い奴と戦うためだ」

 

「強い奴?たしかに八坂様達は強いと思うけど…アンタの言う通りに戦ってくれるとは思えないなぁ。他を当たったらどうだい?」

 

「キサマは他に強い奴の事を知ってるのか?」

 

「え?いや知らないなぁ…」

 

「……」

 

ベジータはにとりがなんだか怪しいと思った。サイヤ人の勘が働いたのだろう。

そしてベジータがとった行動は…

 

 

 

「え?」

 

 

 

「!!?」

 

ベジータはにとりに向かって手をかざし、エネルギー弾を撃とうとしていた。

 

「……」

 

それを止めずに美鈴は無言で見つめていた。

 

「えぇ!?ま、待ってくれよ!一体どういうことだ!?」

 

「強い奴の事をキサマは何か隠している。…本当の事を言わねえと頭が吹き飛ぶぞ」

 

「待って待って!?本当に何も知らないんだ!」

 

「…そうか、ならば吹き飛べ」

 

エネルギー弾の放つ光が更に強くなる。

この瞬間、にとりはベジータの目を見た。冗談ではなく本気である事に気付いた。

 

「わ、わかった!話す!話すよ!」

 

にとりがそう言ったらベジータは手を下ろした。

 

「手間掛けさせやがって!最初からそうしやがれ!」

 

「(よかった…)」

 

美鈴がベジータを止めなかったのはベジータは絶対に撃たないと思っていたからだ。決して本気じゃないというわけではなく、にとりが何かを隠していると確証があったからこそ『本気の脅し』ができていたのだ。

 

しかし美鈴自身もベジータの意図を完全に読み取ることはできなかったのでハラハラしていたのには違いないが。

 

「…鬼だよ」

 

「鬼だと?そいつはどこにいるんだ?」

 

「個人の名称じゃないんだ。地底にチラホラいると思うよ」

 

「その鬼とやらでも特に強い奴は?」

 

「……」

 

「……」

 

「わかった!わかったから!手を向けないでくれ!」

 

ベジータが手を向けようとした瞬間、にとりは話し出した。

 

「2人いるんだ。1人目は一本角で、いつも星の模様が入った赤い杯をもっているよ」

 

「赤い杯…」

 

「そして2人目は…」

 

「………二本角の小さな鬼だよ」

 

「それだけか?」

 

「うん…これ以上は本当に勘弁してくれ。二本角の鬼は普段はどこにいるかわからないんだけど、前ここに来た時に地底に遊びに行こうって言ってたから今は地底にいるんじゃないかな」

 

「…そうか。わかった」

 

「地底に行くのかい?」

 

「ああ、だがその前に」

 

「?」

 

「山の奥だ。不思議な力を感じる…行って損はないだろう」

 

「…もう止めないよ。だけど気をつけてね。何があるかわからないからさ」

 

「ああ、キサマには感謝している」

 

「よし…行くぞ美鈴!」

 

「はい!」

 

ベジータはにとりに礼を言った後美鈴を連れて山の奥へと進んでいった。

 

 

 

「行っちゃったよ…大丈夫かねぇ…」

 

にとりは不安でいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、はやくここまで来い!強者よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、第18話でした。

今回のベジータの脅しはブウ編で悟空が界王神様にやったやつを意識して書きました。
あの時の悟空はかっこよかったです。

ではここで終わります。お疲れ様でした。


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【第19話】守矢神社の神

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

一部の高校生の皆さんは今日卒業式だったみたいですね。卒業おめでとうございます。
私も去年卒業したのですが一年経つのがあっという間でした。


 

ベジータと美鈴は山の奥から感じる不思議な力の元へと向かっていた。

 

「デカイ気が2つあるな。相当強いみたいだな」

 

「あれ?もうわかるようになったのですか?」

 

ベジータは先ほどまで遠くにある気を読み取ることができなかったのに、デカイ気が2つあると言い出したので美鈴は不思議に思った。

 

「違うな。恐らくもうすぐそこにいるらしい」

 

遠くの気を探れるようになったわけではなく、気自体がもうすぐそこにあったから読み取ることができたようだ。

 

 

 

そう言いながら進んでいるとひらけた場所に出た。そこには神社が建っていた。

 

「これは…前行った魔理沙達がいた場所みたいなところだな」

 

「たしかに博麗神社みたいですね」

 

ベジータも美鈴もこの建物は博麗神社に似ていると思った。

 

「……」

 

「…何をジロジロ見てやがる!さっさと出てこい!」

 

「え?」

 

 

「……」

 

「流石ですね。完全に気配を消していたのにこんなに早く気づかれるとは思っていませんでした」

 

 

木の影から緑色の髪をした少女が現れた。すぐに見つかったことに対して多少驚いている様子だ。

 

 

「フンッ、オレには見つけてくれって言ってように思えたがな」

 

「(気づかなかった…)」

 

謎の気づかなかった美鈴はまだまだ自分は修行不足だと思い、拳を握りしめた。

 

 

 

 

 

「よく来たな、強者よ!」

 

神社の上の方から声がした。そしてその者はそこから飛び上がってベジータ達の目の前まで来た。

 

「待っていたぞ!私が思ってたよりは少し遅かったがな」

 

「キサマは…」

 

「か、神様ですよ師匠!」

 

「(師匠…か。弟子をとるような者には見えなかったがな)」

 

「その通りだ。私の名前は八坂神奈子。その妖怪の言う通り神だ!気負わず普通に接してくれればよい」

 

神奈子はそう言ったのだが元々ベジータは誰に対してもごく一部を除いて接し方は同じなので言っても意味はない。

 

「じゃあそちらの方は…」

 

「あっ、いえ!私は諏訪子様ではなくて…」

 

「おっと紹介が遅れたな!こいつは東風谷早苗。この守矢神社の巫女だ。仲良くしてやってくれ。

もう1人いるんだが今は出かけていてな。帰って来たら紹介しよう」

 

「その必要はない」

 

「む?」

 

「キサマはオレが来ることをなぜか知っていたみたいだな。じゃあなんのために来たのかも知っているんだろう?」

 

「し、師匠…」

 

「我らと戦いにきた…だろう?」

 

「その通りだ。オレはここに戦いにきた。…もう1人の紹介などどうでもいい。キサマら2人を倒したらオレは他のとこにすぐ向かわねばならんからな」

 

ベジータの言葉に凄みが増していく。早苗も神奈子もベジータが本気で言っているということに気づいていた。

 

「(す、すごい闘気…)」

 

「(やれやれ…聞いていた通りかなりの戦闘マニアみたいだな)」

 

「残念だが…それは無理だ」

 

「なんだと?」

 

「お前とは戦えない、と言っているんだ」

 

「……キサマの意見などどうでもいい。こんな山まで来ておいて戦わずに帰るなどできるか!」

 

「師匠!さすがにそれは…」

 

「キサマは黙っていろ!」

 

ベジータは興奮していてとてもいうことを聞きそうに無い。

 

 

「ふむ…お前はなんのためにここにきたんだ?」

 

「二度も三度も言わせるな!戦うためだ!」

 

「じゃあなんのために戦うのだ?キサマほど力の持ち主…我らと戦っても大した楽しみにもならんだろう。それとも今より更に強い力を求めての修行のつもりか?」

 

「キサマ…何が言いたい」

 

「この幻想郷に力を求めて来たはいいが…ここでハッキリ言ってやろう。恐らくお前はこのまま戦い続けても大したパワーアップはできない」

 

神奈子はそう言い切った。

 

「……」

 

ベジータは黙って聞いている。

 

「か、神奈子様…」

 

「元の力が強すぎるお前は身体的な強さをこれ以上上げることは厳しい。ただ闇雲な戦っているようじゃ尚更だな」

 

「…言いたいことはそれだけか?」

 

「…何?」

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

 

 

 

ベジータは気を解放した。

 

 

「きゃあっ!?」

 

「だ、ダメです師匠!」

 

「……」

 

 

 

「黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!オレはこれ以上強くなれないだと!?それを決めるのはオレ自身だ!キサマ如きに何がわかるッ!」

 

「そこだ。お前の唯一の欠点とも言えるな。精神的にムラがありすぎる…」

 

「神奈子様!もうそれ以上は…!」

 

早苗も止めようとするが神奈子は止まらない。

 

「怒って何が変わる?もっと心に余裕をもって戦うことはできんのか?」

 

「黙れぇ!」

 

ベジータは大声を上げ怒っている。今にも手を出しそうである。

しかし、次の神奈子の一言によってベジータは冷静さを取り戻した。

 

 

(スーパー)サイヤ人3…お前が求めているものはそれだろう?」

 

 

「!!!」

 

「スーパー…」

 

「サイヤ人3…?」

 

早苗と美鈴が揃って言った。

 

「我らはお前と戦うことはできんがそのスーパーサイヤ人3とやらにお前を近づけることはできる」

 

「……」

 

「今更なぜきさまがそれを知っているのかは問わん。だが、それは本当なんだろうな」

 

ベジータは完全に冷静さを取り戻し、気を鎮めていた。

 

「ああ。こんなところで説明するのもなんだ、もうすぐ日も落ちるし中で話そう」

 

「ああ。それと…ベジータだ」

 

「ん?」

 

「オレの名前だ。それより腹が減った。説明したらメシを用意しろ」

 

「はっはっは!お前は実に面白いな!」

 

先ほどのような険悪なムードはもう無くなっていた。

 

「わ、私は紅 美鈴と申します!ベジータさんの弟子です!よろしくお願いします!」

 

「美鈴か、確かお前は紅魔館の住人だったな」

 

「は、はい!」

 

「そんなに堅くならなくてもよい。早苗!」

 

「はい、夕食ですね!今すぐ作ります!」

 

早苗は夕食を作るために走っていった。その早苗を美鈴が呼び止める。

 

「早苗さん!私も手伝います!」

 

「え?でも…」

 

「師匠はたくさん食べるので…私なんかでも少しは役に立つと思います!」

 

「そうですか。じゃあお願いします!」

 

美鈴と早苗はニコニコしながら神社の中に入っていった。

 

「さて、我々もいこうか。話す事もたくさんあるようだしな」

 

「ああ」

 

 

ベジータは詳しい話を聞くべく、神奈子についていった。

 

 

 

 




はい、第19話でした。

早苗と美鈴は何としても絡めたかったのでこういう形にしました。

ではここで終わります。お疲れ様でした。


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【第20話】神と賢者

この小説はドラゴンボールの東方projectの二次創作です。

急いで書いたので誤字があるかもしれません。


 

 

 

「よっこらせっと…まぁ座ってくれ」

 

神社の中に入った神奈子とベジータ、そして美鈴。

 

「さっきも言ったが、何故キサマがそこまで色々と知っているのかは聞かん…どうせあの女から言われたんだろう?」

 

「…ご察しの通りだ」

 

あれはベジータが幻想郷についてから間もなくの頃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔今日もいい天気だね〜カエルの私からしたら川で水遊びでもしたい気分だよ〕

 

〔最近は快晴が続いているな…どれ、たまには雨にでもしてみるか?〕

 

神奈子とこの守矢神社の神の1人である諏訪子が話をしていると急に空間からスキマが現れた。

 

〔おやおや…これは珍しいお客さんだね〕

 

〔御機嫌よう、神様たち〕

 

〔幻想郷の賢者様が何の用だ?またなにか問題を起こすつもりなんじゃないだろうな〕

 

〔あ、あなた達に言われたくないわよ…〕

 

 

〔でも用はあるわ。まずはこれを見て頂戴。〕

 

 

 

 

紫が手を差し出した先には大きなスキマが生まれ、何かが写し出されている。簡単に言うとTVのようなものになっているのだ。

 

〔へぇ〜、あなたの力ってやっぱり便利だねぇ〕

 

しばらく待っていたら映像が動き出した。

 

〔こ、これは…!〕

 

〔なんという…!〕

 

諏訪子も神奈子もそれをみて驚愕していた。2人がみていたものというのは界王神界で孫 悟空と魔人ブウが戦っているところだった。

 

〔違う世界で少し前まであっていた戦いよ。少し長いけど最後までみて頂戴〕

 

 

 

 

 

少女鑑賞中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人は孫 悟空とみんなの元気によって作られた元気玉によって魔人ブウが倒されるところまでみた。

 

 

〔…こんなに驚いたのは長いこと生きてきた中でも初めてかもしれないね〕

 

〔うむ…強さ、これほど純粋で濁りの無い強さがあるとはな。正直口が塞がらないな〕

 

終わった後も2人はまだ驚きを隠せていないようだった。

 

〔それで、これを我らにみせてどうするつもりだ?まさかこの者たちと戦えと?〕

 

〔いえ違うわ。貴女たちにお願いしたいのは…〕

 

〔彼…ベジータを強くしてやって欲しいの〕

 

スキマの中の映像に映ったベジータを指差しながら紫はそう言った。

 

〔どういうこと?まさか彼はいま…〕

 

諏訪子は何かを察したように言った。

 

〔ええ、今この幻想郷にいるわ。私が連れてきたの〕

 

〔…正気か?無いとは思うがもしこやつが暴れたら我らではどうすることもできんぞ〕

 

〔大丈夫よ。さっき彼の力を制限させてもらったし、恐らく彼は暴れたりしないわ〕

 

〔…〝恐らく〟ではいかん。それにこやつのこともまだほとんど知らない中でとる行動ではない。八雲紫…いささか軽率すぎるぞ。幻想郷の賢者たるものがそれで本当にいいのか?〕

 

〔そうだね…八雲紫、あなたの目的は何?〕

 

〔…軽率なのは承知。できることなら私だけでやりたかったけど…それは無理みたいだから貴女たちに頼んでるの〕

 

紫は無言で頭を下げている。しばらく経ったあと、はぁ〜と溜息を吐きながら神奈子が口を開く。

 

〔わかった。彼を強くしてやればいいんだな?〕

 

〔神奈子?〕

 

神奈子は了承した。理由こそは言わないものの、ここまで真剣に八雲紫が頼むということは只事ではないと思ったからだ。

 

〔…感謝するわ〕

 

〔だが肝心なのはこやつの強さだ。元々があれほどの強さならばこれ以上の伸びしろはあまりないように見えるが〕

 

〔スーパーサイヤ人3〕

 

〔む?〕

 

〔先ほど魔人ブウと戦っていた孫 悟空という者がなっていた姿よ。彼らはサイヤ人という種族で強さを自在に変えることができるの。…そしてスーパーサイヤ人3とはその最終段階。ベジータはそこまで辿り着いてないわ〕

 

〔なるほど…つまりこやつをスーパーサイヤ人3にしろ…と〕

 

とっさに理解した神奈子はそう答えた。

 

〔理解が早くて助かるわ〕

 

〔むぅ…肉体的な強さの限界に近い。後は…精神的な強さってことかな?〕

 

〔私もそう思ったのよ。だから貴女たちの所へきたの〕

 

〔精神的…か。それなら命蓮寺とかの方がいいのではないか?〕

 

〔ダメよ…明らかな修行みたいなものになったら彼は絶対言うことを聞かないわ。ましてや自分より力が下の者からなんてね〕

 

 

〔修行という形ではなくアドバイスのような事をしろというわけか。中々難しそうだな〕

 

〔彼は天才だから少しのキッカケでもあれば絶対に変わるはずよ〕

 

そう言った紫はスキマを開いた。

 

〔私もまだやることがあるから行くわ。……お願いね、2人共〕

 

 

 

〔いっちゃったね。これから何が起きるんだか…〕

 

〔…うむ〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

などというやりとりがあったのだ。その時守矢神社にいたのは神奈子と諏訪子だけで早苗はこの事をもちろん知らない。ただ、強い人がくる、ということだけを神奈子から聞いていた。

 

 

「さて、本題に入ろうかベジータ。スーパーサイヤ人3の事だが…今のお前ではなる事は厳しいだろうな」

 

「それはなぜだ」

 

「断言は出来ない。だが、1つの可能性としてありえるのは…お前の精神的な弱さだ」

 

「精神的な弱さだと?くだらん、そんなわけあるか」

 

ベジータはこれはありえないと思った。むしろ精神的な強さだけなら悟空を凌いでいるつもりでさえいた。

 

「待て待て、最後まで聞け。別にお前が心の中では敵を怖がってるとかそういう話じゃないんだ」

 

「当たり前だ。敵はどんな奴だろうが徹底的に潰す。怖がってる暇などない」

 

「…そこだよ」

 

「何…?」

 

「お前は常に全力だ。それは悪いことではない…だが、スーパーサイヤ人3になるときはその全力さが仇になっていると思うのだ」

 

「…詳しく話せ」

 

あまり理解できていないベジータが説明を求めた。

 

「スーパーサイヤ人3というのはエネルギー効率が物凄く悪い。戦わなくても変身しただけでどんどん力をもっていかれるだろう」

 

「あの孫 悟空という者は戦いながらどこか心にゆとりを持って戦っている。だからあのスーパーサイヤ人3を持続させることができている。……そのゆとりというのがミソだな。あそこまで強い相手と戦いながら心にゆとりを持つなどという事は簡単ではない」

 

「…それほどスーパーサイヤ人3というのは凄まじいものなのだ。……今話した話は全て私の推測だ。実際に直接みたわけでもないから確実に正しいわけではないが…大まかなところは合っているだろう」

 

「…なるほどな」

 

ベジータは妙に納得していた。確かに今までの悟空の戦い方を見れば自分よりゆとりを持っているようにみえた。だからこそ戦いを楽しむことができていたのかもしれない。

 

「だからベジータ、お前は精神的な弱さ…いや、精神的なムラを無くせば今よりもっとつよ」

 

 

 

 

急に勢いよく襖を開いた男がした。そこから現れたのはエプロン姿の早苗だ。

 

 

「夕食が出来ましたよ!お二人共!」

 

 

「……これ以上は夕飯の後だな」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この夕食時に神奈子は知ることになる。ベジータの弱点が精神的なムラだけではないということを。




はい、第20話でした。

次の話で神奈子はベジータの胃袋が大きすぎることに気づくでしょうね…

では次の話で。お疲れ様でした。


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【第21話】倒す力と守る力

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

風邪でもひいたのか喉が痛いです。


 

「これは……早苗、一体どういうつもりだ?」

 

神奈子の目に映っていたのは数十人前はあると思われる凄まじい量の料理だった。いまからここで宴会を始めると言われてもなんの不思議もないくらいの量である。

 

「その…美鈴さんがこれくらいはいるって…」

 

なんとも信じがたい話であったが、とりあえず早苗は美鈴に言われた通りに食事を用意した。

 

「すいません、師匠にはこのくらいないと…」

 

 

 

「フッ、中々作ったようだな。腹が減ったからオレは食うぞ」

 

にわかに信じられなかったが神奈子もとりあえず座った。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「す、凄いですね…」

 

「もう見慣れちゃいました」

 

 

 

「はははっ!何もかも規格外みたいだね!」

 

 

「むっ?」

 

「諏訪子様!遅かったですね!」

 

 

新たに少女が現れた。この中の誰よりも幼い見た目でありながらも、内に秘めた〝気〟は神奈子に似ているようにベジータは思えた。

 

 

「ちょっとね……やあいらっしゃい2人とも」

 

諏訪子はベジータと美鈴と目を合わせた後そう言った。

 

「私の名前は洩矢諏訪子。見えないかもしれないけど神様ってやつだよ」

 

「紅魔館で門番をしています!紅 美鈴です!今はベジータさんの弟子です!よろしくお願いします!」

 

「ベジータだ」

 

よっこらせと座った諏訪子も一緒に夕飯を食べだした。

 

「ベジータに聞きたい事がいくつかあるんだけど…」

 

 

「ヒヒタイホト? ホォレハナンラ?」

 

「待て待て、口の中の物を飲み込んでから喋れ」

 

神奈子は腕組みをしながらベジータに向かって言う。

 

「………」

 

「ちゃんと噛めよ…」

 

 

「それで聞きたいこととは何だ?」

 

「う、うん…これは単に気になっただけなんだけど、なんで弟子をとったのかな?って思ってさ」

 

「えっ?」

 

美鈴が心配そうな顔で諏訪子を見る。

 

「あ、いやいや弟子をとるのが悪いとかそういうことではないよ。ただそういうタイプには見えなかったのにどうしてかな?って思っただけさ」

 

「……」

 

「こいつがオレに似ていたからだ」

 

「純粋に強さだけを求める。その気持ちが伝わってきたからだ。それ以外の理由などない」

 

「へぇ…じゃあもう一つ聞くけど…ベジータにとって“強さ”とは何?」

 

「なんだと?」

 

「そのままの意味だよ」

 

ベジータは目を瞑った。そしてしばらくしたら目を開けて答えた。

 

「決まっている。“強さ”とは他者を寄せつけぬ圧倒的な個々の力だ」

 

「…それがベジータが思う“強さ”か。いかにもって感じだね」

 

「ああ、だがこれが真実だ。何者にも覆すことはできん。力のある支配者がいたら力のない者はそれに従わなきゃならん。ふざけた世界だぜ」

 

「……」

 

「だからオレは強くなる。オレはオレの思うように生きるためだ。そして…」

 

 

 

ベジータの話は途中で終わった。その後なぜか奥歯をギリッとさせて悔しそうな顔をしていた。

 

「なるほど、ベジータらしいといえるな」

 

「そういうキサマはどう思うんだ?」

 

「む?そうだな…早苗、お前はどう思う?」

 

「わ、私ですか?」

 

「そうだね、早苗の意見を聞きたいな」

 

「………」

 

しばらく考えた後、早苗はこう答えた。

 

「〝強さ〟とは…大切な人を守ることのできる力…ですかね」

 

「…なに?」

 

少しイラっときたかのようにベジータは早苗を見る。

 

「まぁ待て、続けなさい早苗」

 

「は、はい。私…たまに考えることがあるんです。もしとんでもなく強い敵が幻想郷に攻めてきたらどうしようって」

 

「その時に一番最悪なパターンを考えたら……失礼ですけど、神奈子様や諏訪子様がやられちゃうことだと思うんです。自分はまだしもお2人が死んじゃったら私……」

 

「……」

 

神奈子も諏訪子も黙っている。

 

「だから私は欲しいんです。1人でとはいいません。みんなと協力してでもいい」

 

「私はどうなってもいい…だけど大切な人だけは絶対に守り通す…そんな力が!」

 

 

「…早苗」

 

 

「…フンッ!そんなものは綺麗事でしかない!そんな敵が現れたら自分が倒す!それが実行できるくらい圧倒的な力を手に入れればいいだけだ!」

 

ベジータが言うことも勿論正しい。何も〝答え〟は一つとは限らないのだ。

 

「倒す力と守る力か…正反対のようでもそれは同じ力だ。まぁこれ以上考えると力とは何かなんてことまで考えなきゃいけないから一旦ここまでにしようか」

 

 

「その通りだ。倒すにせよ守るにせよ必要なのは力、すなわち強さの事だ」

 

ベジータがそう言った。

 

「確かに2人が言っていることは同じような事だね。でも決定的に違うところもある。それは…個人の強さと協力した強さって事だね」

 

「協力だと?仲間など時には足枷にしかならんこともある。そんなものに頼って戦うなどオレはゴメンだ」

 

「……」

 

美鈴は黙って聞いている。

 

「じゃあ…試してみるかい?」

 

「試すだと?」

 

「うん。私達3人と…ベジータでさ」

 

「私と神奈子から早苗に力を送ることができる。これは協力して戦うことだ。そして個々の力のベジータと勝負さ!」

 

「す、諏訪子様!!?」

 

「諏訪子…さすがにそれは…」

 

早苗も神奈子もやはり心配のようだ。

 

「勝てるとは思っていないよ。ただベジータにも知ってもらいたいんだ。協力することの大切さをね」

 

「フッ、面白い!ならば見せてもらうか…キサマらの協力した強さとやらをな!」

 

 

話がまとまりつつあった中、誰も予測してない言葉を美鈴が放った。

 

 

「あの…」

 

「私ッ!師匠の代わりに戦いますッ!」

 

「「「え?」」」 「は?」

 

「弟子として…“強さ”というものを師匠の代わりに示してみせます!」

 

「「「「………」」」」

 

「め、美鈴さん?」

 

「美鈴…おまえ…」

 

「あははっ!さすがベジータが弟子にとるだけはあるね!」

 

「こちらとしては歓迎するけど…ベジータはどうする?」

 

「……」

 

迷っていたベジータだったが、すぐに答えた。

 

「いいだろう。キサマが戦え美鈴」

 

「いいのかベジータ。あんなに戦いたそうだったではないか」

 

「精神的なムラとやらがなくならないとこれ以上は変わらないんだろう?だったらいま戦おうが無駄だ。無駄な戦いをするなら成長のために美鈴に戦わせる方がいい」

 

「意外としっかり考えてるんだね〜」

 

「意外だと?」

 

おっと、と言いながら手で口を塞ぐ諏訪子。

 

「その代わり時間をよこせ。キサマらが協力するとなると今の美鈴では辛いだろう。そうだな、1週間…1週間あれば美鈴はキサマらを倒してみせるだろう」

 

「ちょ、ちょっと師匠!それはいくらなんでも…ていうか勝敗は関係ないんじゃ…」

 

「どんな戦いであろうと勝つ!…オレの弟子ならそう肝に銘じておけ!」

 

そんな…と思う美鈴であったがこれ以上は何も言わなかった。ベジータが1度言ったことを訂正するわけないと思ったからだ。

 

 

「美鈴さんと戦うのですか…せっかく仲良くなれたのに…」

 

「何を言っておる。私も諏訪子も戦った後にこういう仲になれたのだぞ?」

 

「そうだよ。2人も戦った後に今以上の仲になれるといいね」

 

早苗は神奈子と諏訪子の言うことに納得した

 

「しかし早苗。先ほど言っていたな。自分はどうなってもいい、と」

 

「あ、はい…」

 

「…2度と言うなよ。お前も私たち2人からみたら“大切な人”なのだからな」

 

 

 

神奈子の言った後に少し涙目になりながら早苗は、はい!と大きく返事をした。

 

 




はい、第21話でした。

実はこっそりと3章の題名を変えています。それはあの題名のままにすると3章が長くなりすぎると言う理由から変えることにしました。なので、あの題名は4章やら5章やらから出すことにします。

ではここで終わります。お疲れ様でした。


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【第22話】(スーパー)サイヤ人

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

私事ですが、先日にやっと車の免許を取ることができました。去年の9月からだったのでホントにやっと、という気持ちでした。


 

 

 

諏訪子の提案から1週間後に早苗と美鈴が闘う事になり、そのためにベジータと美鈴はここに留まり、修行をする事になった。

 

修行1日目。

 

 

 

 

「さぁ、始めるぞ。時間はわずかしかないからな」

 

朝早く起き、守矢神社から少し離れたところで2人は修行する事になった。

 

「師匠、本当に私は早苗さんに勝てるのでしょうか…」

 

美鈴は暗い顔をしている。目の下にクマができ、あまり眠れていないようだった。

 

「勝てるのか、ではない。勝つんだ!誰であろうとな」

 

「それはわかっているのですが…相手は早苗さんと神様お二人です。少し分が悪いと思うのですが…」

 

「だからなんだ。相手が複数だろうが1人で倒す!仲間の助けなど求めようとするな。…大体キサマが戦いたいと言い出したんだろうが」

 

「そ、それは…」

 

美鈴は『戦いたい』とは言ったが、『勝てる』とは言っていない。ベジータはどんな戦いであろうが勝つことが絶対なので美鈴は勝つことを強いられてしまった。

 

「わかりました…はじめましょう」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ…次いきます!」

 

「…やめだ」

 

「えっ?」

 

「午前の修行はこれで終わりだ。何か食って午後の修行に備えておけ」

 

まだ1時間も経ってなく、まだまだ昼というのには早すぎる段階でベジータは午前の修行は終わりだと言った。

 

「そんな、まだ早いですよ?もう少し…」

 

「2度も言わせるな。終わりだ。神社に戻れ」

 

「しかし…」

 

「戻れと言っている!さっさと消えろッ!」

 

「!!!」

 

「…はい。」

 

小声で返事をしながら美鈴は守矢神社に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神社の前では早苗が箒をもっていた。早苗たちは特に修行などをこの1週間にするつもりはないみたいである。

 

「ふんふんふーん♪…アレ?」

 

鼻歌を歌いながら掃除をしていた早苗はこちらにトボトボ戻ってきた美鈴を見つけた。

 

「美鈴さん、午前の修行は終わったんですか?」

 

「………」

 

「? どうかしたんですか?具合でも…」

 

早苗が心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

「…いえっ!お腹が減ったので帰ってきたんです!腹が減っては戦はできぬって言いますからね!」

 

美鈴はあえて元気そうに振る舞った。早苗に無駄な心配をかけたくなかったからだ。

 

「なんだそうだったんですか!待っててください、今から何か作りますんで!」

 

「あ、いや…」

 

 

「おっと、ここにいたのかい2人共!」

 

タイミングよく諏訪子が現れた。

 

「諏訪子様?どうされたのですか?」

 

「いやね、2人に買い物に行ってきてほしいんだ。ほら、ベジータっていっぱい食べるでしょ?」

 

「買い物なら私1人で大丈夫ですよ?」

 

「いやいや、2人で行ってくれ。量も多いだろうし…美鈴、いいね?」

 

「…わかりました」

 

諏訪子は何か意図があって言ってるんだろうと美鈴は感じ取った。

 

「そうですか…じゃあ美鈴さん!お昼までにパパッと済ませちゃいましょう!」

 

しかし早苗はなにも怪しいと思っていない。とても素直な子である。

 

 

こうして諏訪子は早苗と美鈴を買い物に行かせた。

 

「やっと行ったか。…いささか頼み方が強引ではなかったか?もっとやり方があっただろう?」

 

早苗達が見えなくなった後、神奈子は諏訪子の前にでてきた。

 

「ちょっと強引くらいでいいんだよ。それより私たちも早く行こう」

 

「ああ、そうだな」

 

そう行った後、2人は山の頂上付近へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

美鈴と別れた後、ベジータは山をさらに進み、大きな崖の前まで来た。あと一本踏み出せば落ちてしまうというくらいの距離である。

 

 

「………」

 

目を瞑り、ただひたすら立っている。

 

「……何の用だ、キサマら」

 

目を開けた後に言った。

 

「あらら、バレちゃった」

 

「流石、というべきか」

 

岩の陰から神奈子と諏訪子が出てきた。

 

「邪魔だ。ここから消えろ」

 

「〈神奈子、こう言ってるけど…どうする?〉」

 

「〈去るわけにはいかん。…それにしても物凄いほどの集中力だ。これは一朝一夕でできるものではないな〉」

 

「ベジータ、我らがここにきたのは見たいものがあるからだ」

 

「後にしろ、今は修行中だ」

 

「いやにピリピリしてるねぇ…美鈴のことかい?」

 

「キサマらには関係のないことだ」

 

キッパリと言う。話している間も神奈子や諏訪子とは目を合わせずに前だけを見ている。

 

「精神的なムラを無くす修行なんだろうけど…そんなにピリピリしながらしててもなにも変わらないんじゃないかな?」

 

「なん……」

 

言い返そうとしたがベジータはとどまった。そして、ふぅ〜と息を吐いた。

 

「用とはなんだ?」

 

「お、いい感じに肩の力が抜けたな。その調子で修行を積めばムラは無くなるだろう」

 

「フン、今は戦闘中ではないからだ。それより早く話せ」

 

「そうか、我らがここにきた理由は…」

 

(スーパー)サイヤ人を見にきたんだ」

 

神奈子と諏訪子がそう言った。

 

「なるほど…オレの力を測りにきたということか。しかし戦うのは美鈴だ。今更オレの力などどうでもいいだろう。」

 

「いやこれは単なる好奇心だよ。ベジータの(スーパー)サイヤ人を映像越しではみたけど生では見たことないからね」

 

諏訪子の言葉は建前で、本当はいざという時にベジータを自分たちで止めることができるかを試しにきたのである。

映像とは違い、生で見ることで力をより正確に測りにきたのだ。

 

「フン…まぁいいだろう。じゃあいくぞ!」

 

「ああ」

 

「いつでも!」

 

 

「(闘争本能は出したまま気を高める…しかし心は鎮める)」

 

「(こうかっ!)」

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「「!!」」

 

「……」

 

 

ベジータは(スーパー)サイヤ人になった。『力の封印』をした後、初めて(スーパー)サイヤ人になったが、自分の思ったよりずっと制限されていることに気づいた。

 

「…これが(スーパー)サイヤ人」

 

力を封印した…か。あやつもよく言ったものだ。これでは封印してもしてなくても変わらないではないかと、神奈子はベジータには聞こえないように呟く。

 

正直神奈子は力の封印をした後のベジータであれば幻想郷の強者数人程度で止められると踏んでいた。しかし予想を大幅に上回ったあげく、さらに上の力があるとわかっているので結論的にベジータを止めるのは無理だと確信した。

 

「すごい…!」

 

諏訪子の感想はシンプルだった。映像では見たのだが実物で見るのではまるで違う。底なしとも思わせる力がミシミシと伝わってきた。そして神奈子と同様自分たちでは絶対に敵わないと感じた。

 

(スーパー)サイヤ人の状態じゃ精神的なムラはあまり感じないな…やはり全力を出し、力が拮抗した相手と戦う時こそでてくるのだろうな」

 

「…もう戻るぞ」

 

 

ベジータは元の状態に戻った。

 

 

「格下と戦ってもベジータなら何も感じずに倒しちゃうだろうしね」

 

 

「チッ!じゃあどうすればいい!ここで実力が近いやつと戦えばいいってことか…!?」

 

「焦るな、こういう事は焦ってはダメだ。…地道にいくしかないかもしれんな」

 

「……」

 

ベジータは奥歯を噛みしめて黙り込んだ。何一つ前進できてないことに苛立ちを隠せずにいた。

 

 

「…カカロットは何年もかけてやっとできたと言っていたな…オレは絶対に1年以内に習得してやる…!」

 

ブツブツと呟いていた。苛立ってはいるものの悲観しているわけではないようで2人は安心した。

 

 

「それより美鈴と喧嘩したみたいだね。何があったの?」

 

「喧嘩だと?オレは気合が入ってないやつが何をしようと無駄と思っただけだ。だから午前は早く切り上げて気持ちを切り替えさせようとしただけだ」

 

「…その時なんといったのだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そんな言い方したら傷つくに決まっているだろう。まったく、美鈴は暗い顔をしていた訳がわかったよ」

 

「美鈴だって女の子なんだよ!もっと優しくしてあげなきゃ!」

 

「うるさい!これがオレのやり方だ!嫌なら弟子を辞めればいい、それだけだ!」

 

 

神奈子も諏訪子も頭を抱える。

 

 

 

するといきなりベジータの腹が鳴った。

 

「オレは腹が減った。昼飯を食いに戻るぞ」

 

「あの2人は買い物に出かけたからまだ帰らないよ?」

 

「じゃあ神社にある食べ物を何か食うとしよう」

 

そう言ったらすぐに飛んでいった。

 

 

「…ホントに自由奔放というかなんというか」

 

「幻想郷がベジータ中心に回っているみたいだね…」

 

 

2人は困った顔を見合わせてそう言った。

 

 

 

 

 

 

そして早苗と美鈴は買い物をするべく人里へ向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 




はい、第21話。

ベジータは自己中心的だと思いますけど家族とかある一部に対してだけ優しい心をみせるのがやっぱりいいなと思います。
鳥山先生いいキャラ作るなぁホントに…

ではここで終わります。お疲れ様でした。


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【第23話】紅 美鈴の憂鬱

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

細く、長く続けていきたいです。


 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

腹が減ったベジータは守矢神社に帰って何かを食べようとしていたのだが、いちいち戻ってくるのが面倒だと思い近場で何か食べられるものを探していた。

 

「クソッタレ!何も無えじゃねえか!」

 

しかし思い通りにはいかなかった。食べられそうな草やキノコをいくら探しても見つからないのだ。

 

「川や池などを探すしか………誰か来るな」

 

川などで魚を採ろうと考えていたら何者かが近づいていることに気づいた。

 

ヒューーン!

 

ザッ!

 

「どうも!清く正」

 

「あっちにありそうだな…」

 

ザッザッザ

 

ヒューーン!

 

「……」

 

着地した瞬間に話しかけたのだが完全に無視されてしまった。しかも自分の真横を横切った後、ベジータは何も言わずに飛んで行った。

 

 

 

 

「…チッ、ここにも無いか。こうなると河童がいたところまで戻るか…いやそこまで戻るなら神社に帰った方が早そうだな」

 

ヒューーン!

 

「…む?」

 

再び何かが近づいてくる気配がする。

 

 

ドカーーン!

 

 

天狗が物凄いスピードで着地した。土煙が舞い、着地した場所は大きな穴が開いていた。

 

「どうも〜!!!清くぅぅ!!?」ガシッ!

 

天狗が喋っている途中にベジータは右手で顔を掴んだ。掴んだというより喋れなくするように挟んだという方が正しいかもしれない。

 

「ゴホッ!ゴホッ!…キサマ、オレに殺されにきたのか?」

 

「い、痛いでぇす!離しゅてきゅだしゃい!」

 

涙目になっていたので仕方なく離してやった。

 

「痛たた…いきなり何なんですか?」

 

「こっちのセリフだ!あんなスピードで落下してきやがって!」

 

「落下では無いです!芸術的な着地といってください!あ、私の名前は射命丸文です。清く正しい新聞記者です!お見知りおきを!」

 

胸を張りながらちゃっかり自己紹介した。

 

「そんなことは聞いていない。オレはもう行くぞ」

 

「ちょっと待ってください!…先ほど感じた大きな力の持ち主はあなたですよね?」

 

「…だったらなんだ。」

 

「お願いします!しゅ」

 

「断る。」

 

即答した。相手が新聞記者であることからベジータは何をお願いさせるのか既に知っていたからだ。

 

「まだしゅ、しか言ってませんよ!」

 

「どうせ取材だろう。昨日も他の奴に言ったがな…オレは取材を受ける気など無い」

 

「ほお〜、はたてと会ったのですか。しかしはたても一度断られたくらいで諦めるとは情けないですね〜」

 

見ていてとても腹の立つ笑顔で文は言った。もちろんはたては一度断られたくらいでは諦めなかったのだが説明が面倒だったベジータはこれ以上何も言わなかった。

 

「ほう、キサマならこのオレをなんとかできるとでも言うのか?」

 

「もちろん!」

 

胸を張りながら文は答えた。

 

「ほう…なら行くぞ!」

 

いきなりベジータは構えた。

 

ポーヒー!

 

ベジータの手から気弾が放たれた。

 

 

「…え?」

 

 

ズドーーン!!

 

 

気弾はすごい勢いで奥の木にぶつかって爆発した。

 

 

 

 

「な、何をするんですか!!」

 

「……(こいつ、避けやがった!さっきの落下してくる時といいとんでもないスピードをもってやがる!)」

 

「攻撃に決まっている。これは戦いなんだからな」

 

「戦い!?」

 

驚きながら空中にいた文は地上へ降りてきた。

 

「いや…あの会話の流れからなぜ戦いになったのですか!?」

 

「オレはその女に言った。取材をしたいのなら“このオレを倒してからにするんだな”と。キサマはオレをなんとかできると言った、つまりオレに勝てるということではないのか?」

 

「……」

 

な、なんて戦闘馬鹿なんだ…と文は心の中で呟いた。文は別にベジータと戦うつもりはないし、ましてや勝つつもりなど全くない。ただ別の方法でベジータを説得しようと考えていただけなのである。

 

「違いますよ!戦うつもりなんてないです!」

 

「ならオレはもう行く。いつまでもキサマと遊んでいるヒマなど…」

 

 

 

グゥ〜!

 

 

 

 

すごい音がベジータの言葉をかき消した。お腹の音である。

 

 

「確か名前は…ベジータさん、でしたよね?私こんなものを持っているのですが…」

 

「……!!!」

 

文の手には袋に包まれた箱があった。明らかにお弁当箱である。

 

「き、キサマ…このオレ様をもので釣ろうなどと…」

 

「ふふ…お茶もありますよ?」

 

左手でヒョイと水筒も見せる。

 

「……」

 

「取材…受けていただけますか?」

 

「……5分だけだ」

 

「十分です♪」

 

 

 

 

ニッコリしながら文は答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、美鈴と早苗は食材を買いにいくために人里へ向かっていた。

 

「へぇー!吸血鬼ってもっと怖いかと思ってましたけど優しい人なんですね!」

 

「はい。お嬢様も妹様もお優しい方々です」

 

美鈴と早苗はお互いの身近な関係者について話していた。優しい“人”ではないのだがそのまま話を続けた。

 

「私は紅魔館の門番としてはまだまだ力不足です。だから師匠と修行をすることになったのですが…」

 

「……」

 

美鈴はまた暗い顔をした。先ほどの修業中に何かあったんだろうと早苗は感じ取った。

 

「美鈴さん、さっき何かあったんですよね?何があったのか聞かせてもらえませんか?」

 

「でも…」

 

美鈴は躊躇った。この暗い気持ちを早苗にまで移したくなかったからだ。

 

「私ってそんなに頼りなさそうですか?これでも一応神様ですよ!…助言の一つくらいしたいです!」

 

「早苗さん…」

 

早苗の気持ちが伝わった美鈴は正直に話した。

 

 

 

 

 

 

 

中華説明中

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むむ、なるほど。そんなことがあったのですね」

 

美鈴は全部説明した。全部といってもそんなに話すことはなかったのだが。

 

「これは師匠が私のことを見限ったのではないかと思って…」

 

「…美鈴さんって思ったより繊細なんですね」

 

「えっ?」

 

「見限ったのなら午後からの修業はしないと思うし、ベジータさんは美鈴さんに関わろうとはしないと思います」

 

「それはそうですけど…」

 

「ああっ!もうっ!ネチネチしてますね!」

 

急に立ち止まった早苗は美鈴の前で仁王立ちした。

 

「ひゃ、ひゃい!?」

早苗がいきなり大声を出したので美鈴はビックリした。

 

「ちょっとネガティヴすぎです!ベジータさんは今の美鈴さんでは修行をしても無駄だと思っただけだと思います!」

 

「だから気分転換させに神社に戻らせたんですよ!そこまで深く考える必要はないです!」

 

「…私が暗い顔をしていたから」

 

「それと気持ちの問題だと思います。勝てるかわからないと思いながら修行しても意味がないと思いますしね」

 

「美鈴さんは美鈴さんらしくしてればいいんです!ベジータさんもその美鈴さんだからこそ私たちに勝てると確信したんですから!」

 

右手の親指の裏をピッと見せながら早苗は言った。そして語り終わった後、はっ!と素に戻った。

 

「す、すいません!何も知らないくせに私っ!」

 

アタフタと慌てている。

 

「いや、ありがとうございます。早苗さんのおかげで吹っ切れることができました!私は私らしく…修行に取り組もうと思います!」

 

美鈴は早苗に礼を言った。その時の顔はさっきのような引きつった笑顔ではなく満面の笑みだった。

 

「よかったです!じゃあ時間も無くなってきたしそろそろ行きましょうか!」

 

「はい!……それにしても“思ったより”繊細っていうのは少し傷付きました…」

 

ガッカリしながら美鈴は言った。

 

「あ、いや、違うんです!あれは!」

 

冷や汗をダラダラ流しながら早苗は弁解しようとしている。

 

「ふふ…冗談です!行きましょうか!」

 

もうさっきまでの美鈴ではなく、いつもの美鈴に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…これくらいですかね。…あれ?早苗さん?」

 

人里に着き、大量の食材を買った2人。気づくといつの間にか早苗がいなくなっていた。

 

「美鈴さーん!こっちです!」

 

少し離れた所から早苗は手を大きく振っていた。美鈴も早苗がいるところに近づいていった。

 

「お団子屋さん…ですか」

 

早苗がいたところは団子屋だった。ここに寄って行こうということであった。

 

「寄り道なんていいんですか?お二人になにか…」

 

「いいんです!息抜きっていうのは必要ですからね!」

 

そういってお店の人に話しかける。

 

「すいませーん!お団子2本ずつ下さい!」

 

「はいよ〜、ありゃお嬢さんたちかわいいねぇ。1人1本おまけしとくね〜」

 

「えー!全然そんなことないですよ〜♪ありがとうございます♪」

 

なんか慣れてるな…と美鈴は思った。

 

 

「よいしょっと、じゃあ食べましょうか!」

 

2人用の席を見つけ2人は座った。お店の中は家族連れのお客さんなどでいっぱいである。美鈴は妖怪なのだが見た目は人間と変わらないので誰も気づかない。

 

「そうですね、じゃあいただき…」

 

 

 

 

 

「オラァ!よこせやァ!!」

 

急に男の粗い声が響いた。

 

「な、なにするんですか…ああ!誰か捕まえてー!!」

 

「ん?何事ですか?」

 

団子を食べていた早苗が何かに気づいた。恐らく強盗がお店のお客さんの荷物を奪ったのだろう。

 

「!! 早苗さん!私たちの荷物を見ててください!」

 

そういった後美鈴は強盗を猛スピードで追いかけた。

 

「ちょ、ちょっと!美鈴さーん!?あ!団子がァァァ!!!」

 

 

 

 

 

早苗の声は既に美鈴には届かなかった。

 

 




はい、第23話でした。

人里治安悪すぎぃ!!と思いましたがストーリーのためには仕方ないのです。 人里は犠牲になったのだ…

ではここで終わります。お疲れ様でした。


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【第24話】駆ける美鈴

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

だんだんと暖かくなってきましたね。


 

 

「め、美鈴さーん!?」

 

美鈴は強盗を追うべく、一目散に走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…へへッ、ここまで逃げれば誰も…!」

 

強盗は走っている途中で誰も追ってきてないか振り向いてみた。そしたら信じられないものを目撃した。

 

「待ちなさいッ!!!!!」

 

「なッ!?」

 

スラッとした体型の女性が物凄いスピードで追いかけてきた。かなりの速さなのでこのままではすぐ追いつかれてしまう。

 

「な、何なんだあいつは!!人間のスピードじゃねえぞ!!」

 

このままじゃ追いつかれるの思った強盗は細い路地に入っていった。

 

「!!」

 

 

 

「なるほど考えますね…でも!」

 

美鈴は目を瞑った。そして強盗の気を探った。

 

「…あっちですか。では先回りです!」

 

気を探ったことによって相手の位置を正確に把握した美鈴は、恐らく相手が向かうであろう場所を予測し、そこへ先回りした。

 

 

「よし!ここを抜ければもう大丈夫のはず…!」

 

大きな直線を走っていたら何かが仁王立ちしている姿が見えた。

 

「!!?」

 

「やっと追いつきましたよ…!」

 

そこには美鈴が腕組みしながら立っていた。

 

「お前…なんで…」

 

「先回りしたんですよ!どうせこの先の森へでも逃げ込もうとすると思って!」

 

「さあ!盗った荷物を返しなさい!素直に返せば痛い目に遭わないで済みますよ!」

 

「ケッ!女1人に何ができるってんだ!」

 

男は懐からナイフを取り出して美鈴に向けた。

 

「…素人がそんなもの振り回したって私には届きませんよ。最後の忠告です。ナイフを捨てて荷物を返しなさい!」

 

「誰がてめえの言うことなんて聞くかよ!死にたくなけりゃとっとと消えろ!」

 

「……馬の耳に念仏、ですね」

「なら…かかってきなさい!」

 

左手をクイクイっと動かして相手を挑発した。

 

「なめんじゃねえぞー!!!」

 

男はナイフで美鈴に斬りかかってきた。しかし美鈴は動じずにナイフを躱していく。

 

「フンッ!」

 

「がはッ…!」

 

美鈴の正拳突きが隙だらけの男の腹部に突き刺さった。男は膝から崩れ落ち、腹を押さえながら倒れた。

 

「…手加減しました。貴方ではどうやっても私には勝てません」

 

「美鈴さーん!!!」

大荷物を抱えながら早苗が走ってきた。

 

「早苗さん!」

 

「はぁ…疲れましたよ。強盗は…倒したみたいですね!流石です!」

 

腹を押さえながら倒れている強盗をみて早苗はそう言った。

 

「こんな事は許されないですからね」

 

そう言いながら強盗が落とした荷物を拾い上げる。しかしその瞬間!

 

「…クソガァァ!!!」

 

強盗が最後の力の振り絞り、美鈴に向かってナイフを放り投げた。

 

「!!」

 

「美鈴さんッ!」

 

 

ナイフの切っ先は美鈴の左目めがけて飛んでいった。しかし美鈴はそのナイフを左手の人差し指と中指を使って受け止めた。

 

「なんだと…!」

 

「ここだッ!」

 

受け止めたあと一瞬で間合いを詰め、首の後ろをチョップした。強盗は泡を吹きながら気絶した。

 

「こんなもの…ウチのメイド長と比べたら止まっているも同然ですよ。…これに懲りたら2度とこんな事はしない事ですね!」

今の光景を見た人々は唖然としていた。しかしすぐ歓声が起こった。

 

 

 

「す、すげぇ…すげぇぞ姉ちゃん!」

 

「カッコよかったわよー!」

「正義の味方だー!」

 

 

 

 

 

 

拍手の嵐が美鈴を包み込む。あちこちから美鈴を称える声が聞こえ、美鈴はそれに少し動揺していた。

 

 

 

「美鈴さん!凄かったですよ!」

 

「い、いや…私は当然の事をしただけで…」

 

美鈴は顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。

 

「はやく荷物を返しに行きましょう!わ、私は先に行ってますね!」

 

歓声に耐えられなくなった美鈴は急いで団子屋に向かった。

 

「ま、またこの荷物を1人で持っていかないといけないんですか…皆さん、この人のことは頼みました!」

 

 

倒れている強盗を他の人に任せ、大荷物を持って早苗も団子屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にありがとうございました!何かお礼を…」

 

「いえいえ!私が勝手にやった事なので!」

 

美鈴は取り返した荷物を団子屋にいたお客さんに返した。

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…流石にこの荷物で往復はキツイですね…」

 

「あ、早苗さん…すいません!」

 

「ど、どうって事ないですよ!でもそろそろ帰らないといけないですね…」

 

「そうですね。」

 

「お団子はまた今度ですねー」

 

実は美鈴が強盗を追いかけようとした時に、テーブルを飛び越えていったのでその勢いで団子が全て地面に落ちてしまったのだ。早苗は1つ食べたのだが結局美鈴は1つも食べられなかったのだ。

 

「お姉ちゃん〜これあげる〜」

 

「え?」

 

荷物を返した人の娘さんであろうか。その子から美鈴は1本の団子を差し出された。

 

「でも…いいんですか?」

 

「うん!にもつとりかえしてくれてありがとー!」

 

「…こちらこそありがとうございます!」

 

そう言いながら美鈴は女の子から団子を受け取った。

 

「こっちのお姉ちゃんにもあげるー!」

 

「え?私もいいんですか!?ありがとうございます!!」

 

早苗にも団子を渡した女の子はお母さんの元へ帰っていった。

 

 

「いい事をした後は気持ちがいいですね〜!」

 

「そうですね!」

 

「何かのために戦う美鈴さん…ホントにカッコよかったです!」

 

「そんな事…」

 

美鈴はまだ恥ずかしがっている。

 

「…でも、今度の勝負は負けませんよ!」

 

「私こそ…負けませんよ!」

 

お互いに意気込んだ後に2人は笑った。そして帰る前に貰った団子を食べるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美鈴達が団子を食べる少し前、文はベジータに取材をするため、お弁当と水筒を渡した。そしてベジータは一目散に食べ始めた。

 

 

 

「よし!では食事中に失礼ですが…まずベジータさんは何処から来たんですか?」

 

「……」

 

「あの…ベジータさん?」

 

「……」

 

 

 

「(ダメだ…食べ終わるのを待つしかないわ…)」

 

食事中のベジータに何を言っても無駄だと思った文はベジータが食べ終わるのを待つことにした。

 

 

 

 

 

 

水筒の中のお茶までベジータは綺麗に飲み干した。 

 

 

「ふう…まあ腹の足しにはなったな」

 

「結構あったのにすぐ食べ終わりましたね」

 

「このくらい間食としても少なかったがな」

 

「そ、そうですか…おほん!では質問タイムと洒落込みましょう!」

 

文はペンのメモ帳を持って張り切っている。

 

「まずはベジータさんは何処から来たのですか?」

 

「他の世界だ」

 

「ということはベジータさんは外来人、ということですか?」

「だろうな」

 

文はメモ書きしながらなるほど!と相槌しながら聞いている。

 

「この幻想郷にはどうやってきたのですか?」

 

「知らん。変な空間に入ったらそれがここだった。それだけだ」

 

ベジータの受け答えは少々雑であるが、文はそれでも気にせず続ける。

 

「帰りたい、とは思わないのですか?」

 

「帰りたい…か。 今のまま帰ってもオレはオレのライバルを倒すことはできないだろう。奴を超えるまで…オレは元の世界に帰ることはできん」

 

「ライバル…ですか?本当にあなたより強い人が存在するんですか?」

 

「ああ…肉体的な強さも、心の強さも…な」

 

「随分とその人を認めているんですね」

 

「フンッ、気にくわない奴だがな!」

 

 

そう言うとベジータはスタっと立ち上がった。

 

 

「オレもまた修行に戻る。じゃあな」

 

 

「ちょっと待ってください!」

 

「最後に1つだけ…あなたはその〝ライバル〟とやらを超える自信はあるのですか?」

 

飛び立とうとしているベジータを止め、文は言った。

 

「…カカロットなど1つの壁でしか無い!覚えとけ、オレは全世界で1番強くなる男だッ!!!」

 

そう言い切った後ベジータは飛んでいった。

 

「全世界で1番強く…ですか」

 

 

 

「覚えておきますよ…メモ帳ではなく、心に刻んでおきます!」

 

そう言って文はパタンとメモ帳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベジータは文と別れた後、最初に美鈴と修行していた所へ来た。

 

「……」

 

ベジータは目を閉じて瞑想している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈地球もろとも宇宙のチリになれーーーっ!!!〉

 

 

 

 

 

〈オレは…超ベジータだ…!!!〉

 

 

 

 

 

〈キサマはオレの更に上をゆく天才だ…!いつまで経ってもその差は変わらなかった…!〉

 

 

 

 

 

 

〈さらばだ…ブルマ…トランクス…そして…カカロット…〉

 

 

 

 

 

 

〈キサマなんぞにやられてたまるか…!オレは戦闘民族サイヤ人の王子ッ!ベジータだァァァ!!!〉

 

 

 

 

 

 

 

今までの戦いを振り返るベジータ。どの戦いも死闘であった。とても心にゆとりをもつことなどできなかった。

 

でも…いまならできる気がする。そうベジータは思い始めていた。

 

 

 

 

「…きたか」

 

 

「師匠…修行を始めましょう!

 

目を開けるとそこには買い物から帰ってきていた美鈴が立っていた。

 

「フン、気持ちの切り替えはできたようだな…!」

 

「はい。…時間をかけてしまってすいません!」

 

「気にするな…それより、時間が惜しい…さっさと始めるぞ!」

 

「はい!」

 

 

 

 

再びベジータと美鈴の修行が始まった。

 

 

 

 

 




はい、第24話でした。

地面に落ちた団子をみて絶望する早苗を想像したら笑えました。

ではここで終わります。お疲れ様でした。


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【第25話】最後の仕上げ

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

来月からは今のペースが無理になるんだろうなぁ


 

 

 

午後の修行を始めてもう何時間たったか覚えていない。辺りは真っ暗になっていて、その暗闇の中にベジータと美鈴がいた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

美鈴は体力を使い切り、膝をつき、両手を地面につけていた。

 

「今日はここまでするぞ美鈴」

 

「いえ…もう少しお願いします!今すごく状態がいいんです!」

 

「フラフラのくせによく言いやがる。じゃあ最後にもう一回かかってこい!」

 

「はいッ!」

 

立ち上がった美鈴は再びベジータに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

最後の一滴まで体力を使いきった美鈴は仰向けになって倒れていた。

 

 

「ふぅ…こんなもんか。 生きてるか?」

 

さすがのベジータもそろそろ疲れが見え始めた。基本的な体力も制限されているらしい。

 

「…………なん…とか…」

 

ボロ雑巾みたいになっている美鈴のそばにベジータが近づき、手をかざす。

 

 

ポォォォォォォォ…

 

 

「…あれ?体が動くように…」

 

美鈴は立ち上がった。手も足も先ほどより軽いようだ。

 

「オレの気を分けてやった。あのままだと守矢神社まで辿り着くのには1日はかかりそうだからな」

 

確かにあのままだと相当な時間を食っていたかもしれない。ベジータが抱えて連れて行くこともできたが、あいにくそんなにお人好しではない。

 

「じゃあ帰るぞ。…今日のメシも楽しみだ。と、その前にオレは行くところがある。お前は先に戻っていろ」

 

ヨダレが垂れそうになったが腕でちゃんと拭き取った。その後ベジータは美鈴より先に飛んでいった。

 

「やっぱり師匠は凄いなぁ…こんな長時間修行したのにアレだけしか疲れないなんて」

 

本来の力なら汗ひとつかかないと知ったら美鈴はどんな反応をするのだろうか。それ以前に力を封印していることすら美鈴はまだ知らない。

 

「…私は少しでも師匠に近づきたい。そのためにはどんな修行もやり遂げてみせる!」

 

拳をギュッと握りしめた後、美鈴は守矢神社に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数日経つ。ベジータと美鈴の修業は明日が最後になる。ベジータは無性に夜風に当たりたくなり、神社の屋根に登った。今日は雲一つなくよく星が見える。

 

「何の用だ」

 

「よっこいせっと。やれやれ、また気付かれたか。ずっと周りに気を配ってるのか?」

 

出てきたのは神奈子だった。右手で杯を、左手で酒を持っている。

 

「どうだ一杯。星を見ながら呑む酒も格別だぞ?」

 

「いらん。明日も朝早くから修行をするつもりだ。そんなものを呑んだら起きるのが遅れるかもしれんからな」

 

「なんだ、つまらないな」

 

そう言いながら神奈子は酒を注ぎ、杯の中の酒を一口で呑み干す。

 

「くぅ〜!…で、どうだ?修行は順調か?」

 

美味しそうに酒を呑みながらベジータに聞く。

 

「まぁまぁってところだ。元々あいつは筋が良い。明後日の対決までにどこまで伸びるか見ものだな。 ただ…」

 

「ただ? 何かあるのか?」

 

「あいつの戦いは視覚に頼りすぎている」

 

 

神奈子は、ベジータの言った事が理解できないといった顔しながら首を横に傾げる。

 

「それがいけないことなのか?」

 

「いけないわけでは無い。しかし美鈴は他の奴にはできない〝気〟を操ることができる。気を使って相手を攻撃したり、防御したり、相手の〝気〟を探ったりなどだ」

 

 

「それは戦闘において美鈴が相手より有利になる〝長所〟だ。ここまでは良い。…問題は奴がその長所を上手く引き出せていないという事だ」

 

「ふむふむ」

 

「飛んだり気弾を撃ったりという当たり前のことはできている。しかし奴は戦闘中に敵の位置を〝気〟で探ったり、自分の中の〝気〟を高めて爆発的に戦闘力を上げたりすることができていない、ということだ」

 

「爆発的に戦闘力を上げる…ベジータのようにか?」

 

 

神奈子は真っ先に『(スーパー)サイヤ人』を思い浮かべた。

 

 

「まぁ、後者は簡単にできるものではないかもしれん。それより前者だ。美鈴の奴、まだ明るい時には反応できていた攻撃も、空が暗くなり見えにくくなった時には反応がだいぶ遅れていた」

 

「なるほど。それが視覚に頼りすぎている、という事か。確かに暗くなれば反応が遅れるのは当然のことだ」

 

「ああ、奴には〝気〟で相手の位置を読み取ることができるはずだ。だがあいつはそれをしていない。相手より有利になれるはずの長所を自分で潰してしまっているということだ」

 

この事に関してはベジータもしょうがないと思っていた。

美鈴はベジータがくるまでは〝気〟を使うことのできる者と戦ったことはなかったし、師と呼べる者もいなかったので習うことはなかったのだ。

 

「じゃあ明日は?」

 

「ああ、美鈴には〝気〟を読み取ることができるようになってもらう。…幸い普通の時には〝気〟を探れるようだしな。だが戦闘中の場面で使えんようじゃ話にならん」

 

「なかなか大変そうだな…早苗との対決の日をもっと後にするか?」

 

簡単には出来そうにないと思った神奈子はベジータにそう提案した。

 

「一度言ったことは取り消さん。…こんなもの1日あれば十分だ」

 

聞いた瞬間、神奈子は酒をこぼしそうになった。

 

「い、1日!?それはいくらなんでも…」

 

「やるさ。あいつならできる」

 

星を見ながらそう言う。ベジータは美鈴が本当に成し遂げることができると確信している。

 

「フッ、さすがは師匠だな。 ほっ」

 

神奈子は酒を持ちながら立ち上がった。

 

「私はもう寝る。…お前も明日のために早く寝ろよ」

 

そう言い残し、下へジャンプした。

 

 

 

「師匠、か…」

 

そう呟いたベジータはそれ以上何も言うことなく下へ降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー修業の場ーーー

 

 

「おはようございます師匠!昨日もぐっすり眠れましたよ!」

 

疲れからか美鈴は毎日ぐっすり眠れるようになっていた。やる気に満ち溢れている顔をしている。

 

「フン、常にそんな顔をしてやがれ。それより始めるぞ」

 

「はい!ではいきます!」

 

美鈴が構える。いつも通りベジータと組手をするつもりだ。

 

「待て。今日はこれを付けろ」

 

「…これは?」

 

美鈴は白い布をベジータから受け取った。

 

「これで目隠しをしながら戦えということですか…わかりました!」

 

「やけに素直だな」

 

「昨日寝る前に考えていました…師匠は私にスピードを合わせて戦ってくれている。しかし私の攻撃は当たらないし、師匠の攻撃には反応が遅れることがある…それはなぜかと」

 

急に美鈴が語り始めた。思ったより頭を働かせているようだ。

 

「…で、キサマの答えはなんだ?」

 

「それは私が 〝気〟をうまく探れていないから、という結論に至りました。目で捉えてからでは遅いのです!もっと…もっと前から〝気〟

で相手の動きを捉えることが大事なんです!」

 

「……」

 

ベジータは内心で感心していた。ただがむしゃらに戦っているように見えて頭ではしっかり考えている。改めて美鈴は戦いの才能があると感じた。

 

「フンッ!口で言うなら簡単だ!やれるもんならやってみるんだな!」

 

 

「はいッ!」

 

 

 

布で目隠しをした後、美鈴は組手をするべく構えた。

 

シュンッ!

 

シュンッ!

 

大体の位置は把握できているようだったが、大分大雑把な攻撃である。

 

「はぁッ!」

 

ドンッ!

 

「ぐっ…」

 

ベジータの蹴りが美鈴に当たる。

 

「かはっ…」

 

「急にくらったら受け身も取れんだろう。ダメージもいつもより多いはずだ」

 

「そ、そうですね…しかし私は」

 

 

ポーヒー!

 

 

「!!」シュンッ!

 

 

ドカーーン!

 

 

「痛てて…」

 

急な出来事だったので美鈴は反応が遅れてしまった。直接気弾に当たることはなかったが、避けた先の木に頭をぶつけてしまった。

 

 

「話の途中には攻撃しないと思ったか?」

 

「急にスパルタですね…望むところです!」

 

 

ベジータと美鈴の修業は続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美鈴さんたち遅いですね〜。もう昼過ぎなのに」

 

早苗は美鈴とベジータのために作っていた昼食を見ながらそう呟く。ベジータの分はとても昼食とは思えない量である。

 

「修業最終日だからね〜気合入ってるんじゃない?」

 

トコトコとやってきた諏訪子が言った。

 

「んー、でもお腹が減ったら力が出ないかもしれないですし…私オニギリにしてお二人に持っていきます!」

 

早苗はそう言った後オニギリを作るために手を洗った。

 

「やめておけ。修業の邪魔になるやもしれん」

 

「あ、神奈子様…」

 

「腹が減ったら自分達で帰ってくるだろう。余計な真似はしないで待っておこう」

 

「…わかりました」

 

 

「お二人とも…頑張ってください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数時間後、ベジータと美鈴は朝からずっとぶっ続けで修業をしていた。集中力が異常に高まった美鈴はベジータの動きが見えるようになっていた。天才的な速さである。

 

「(見える…師匠の動きがよく見える!)」

 

 

「…美鈴、目隠しを取れ」

 

「え?」

 

言われた通りに美鈴は目隠しをとった。辺りはもう暗くなり始めていた。

 

「え?もうこんなに暗く!?…まだお昼くらいかと思ってました…」

 

「そんな事だろうと思ったぜ。とりあえず一旦終了だ。神社へ帰るぞ」

 

「え?そんなこれからですよ!暗くなってきたからこそ今までの修業の成果を出せるんです!」

 

シュババと空に正拳突きをする美鈴。まだまだやる気のようだ。

 

「オレの言うことが聞けないのか?」

 

「でも対決は明日だし…限界までやりたいんです!」

 

「……」

 

ベジータは真剣な目で美鈴を見る。

 

「…わかりました!帰りましょう!」

 

美鈴はベジータの言う通りにした。意味もなくベジータが早めに修業を切り上げるわけないと思ったからだ」

 

「オレはまた行くところがある…先に帰っていろ」

 

そう言ってベジータは飛んでいった。

 

 

「師匠…何を考えているんだろう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美鈴が守矢神社に帰った後、少し時間をおいてベジータが帰ってきた。夕食を済まし、風呂に入り、後は明日のために寝るだけというとこまできた。

その頃、美鈴は縁側で星を眺めていた。

 

「…明日のためにこの1週間頑張ってきたんだ。絶対…絶対に勝つ!」

 

そう意気込んでた途中にベジータがやってきた。

 

「おい美鈴、ちょっとこい」

 

「あ、師匠」

 

ベジータに言われるまま美鈴はいつも修業をしている場所までついてきた。

 

「あの師匠…一体何を?」

 

「これを食え」

 

「…これは?」

 

ベジータが美鈴に渡したものは〝仙豆〟と呼ばれる豆であった。形はそらまめによく似ている。

ベジータは『精神と時の部屋』に入る前にカリン様のところへ行き、頼んで5粒ほど貰ったのだ。

 

「いいから食え」

 

「わかりました…」

 

美鈴は仙豆を恐る恐る口へ運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これは!!」

 

仙豆を食べた美鈴はかなり驚いていた。それは体力や気が自分の限界値ギリギリまで回復していたからだ。

 

「フンッ、驚いただろう。これは仙豆といって体力や気が回復するものだ」

 

「こんなものが存在するなんて…」

 

 

「準備は出来たな」

 

「え?」

 

ベジータは徐に持っていたリモコンのようなもののスイッチを押す。すると。

 

 

「!!?」

 

美鈴は言葉が出なかった。スイッチを押したら、地面が割れ、木がなぎ倒され、鉄の壁のようなものが出てきた。その壁は何十mの高さにもなり、屋根もできて空を覆った。

 

結果的にそれはドーム状の特訓施設のようなものになった。

 

 

「ま、魔法だ…ぱ、ぱ、パチュリー様の仕業ですか…?」

 

「魔法?何を言っている。これはあの河童に作らせただけだ」

 

ベジータは少し前ににとりの元へ行き、これを4、5日で作るように言ったのだ。

もちろんにとりは無理だと言ったのだが、無理ならキサマを消しとばすと脅され、作るしかなかったのだ。

 

 

「あの野郎…なかなかいいものを作りやがる。 さぁ中に入るぞ」

 

「は、はい…」

 

 

入ったら中は真っ暗だった。外よりも暗い状態である。

 

 

パチっ!

 

 

そう思っていると照明がついた。辺りを見渡すとかなり広く、頑丈な作りになっていることがわかった。

 

「すごい…にとりさんこんなのを作れるなんて」

 

 

 

「…美鈴」

 

はい?と言いながら美鈴は振り向いた。すると───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はああああああッ!!!!!」

 

 

 

 

 

「えっ!?」

 

 

ベジータの気がみるみる膨れ上がる。

 

 

 

 

「なっ………!?」

 

 

 

 

 

「………」

 

 

ベジータはスーパーサイヤ人になって美鈴を指差した。

 

 

 

 

 

「1週間の仕上げだ。このオレに…攻撃を当ててみろッ!」

 

 




はい、第25話でした。

4、5日の間にとりは一睡もしないまま完成させたようです。そしてその後静かに息を引き取ったそうな…(嘘です!全て嘘です!)

ではここで終わります。お疲れ様でした。


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【第26話】全力の拳

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

戦闘シーンはやはり大変です。


 

 

「1週間の仕上げだ。このオレに…攻撃を当ててみろッ!!」

 

 

スーパーサイヤ人になったベジータは美鈴を指差しながら言った。その威圧感は今までのベジータの比ではない。

 

 

「し、師匠…それは…」

 

美鈴はスーパーサイヤ人の事に驚きを隠せていない様子だ。

 

「これはスーパーサイヤ人だ。オレはサイヤ人という種族で戦闘力を大幅に上げることができる」

 

「スーパー…サイヤ人?」

 

初めて守矢神社にきた時に確か神奈子が口に出していた気がする。

 

「さっきも言ったが…これが最後の仕上げだ。この1週間の修行の成果を見せてみろ」

 

「スーパーサイヤ人になった師匠に攻撃を当てろと…しかし随分と甘いですね。攻撃を当てるだけでいいんですか?」

 

美鈴はなぜベジータがそんな甘い条件を出したのかわからなかった。いくらパワーアップしたベジータといえ、今の自分なら攻撃を当てる事だけならいうほど難しいものではないと思っていたからだ。

 

「甘いのはキサマのほうだ…」

 

 

ベジータが気を高めながら鋭い目で美鈴を睨む。

 

「!!」

 

ベジータの気がどんどん上がっていく。今まではずっと気を押さえていたのだが、馬鹿なことを言ってる美鈴の意識を変えるために、あえて上げたのだ。

 

 

 

 

「あ…ああ…」

 

美鈴は目の前のベジータの圧倒的な力に気圧されて言葉が出ない。

 

 

「…何か勘違いしているようだから教えてやろう」

 

「オレが紅魔館に居ついていた10日間ほど、そしてこの1週間、合わせたら十数日だ。オレはキサマをみっちり鍛えた。無論オレは手を抜いていないしキサマも抜いていなかった」

 

黙って美鈴は聞いている。

 

「しかし…その程度で本当に強くなったつもりか?」

 

「そんな事は…」

 

「以前よりパワーアップした事は認めてやろう。気の扱い方もだいぶ上手くなった。たがオレからしたら蟻が羽蟻に変わった程度だ」

 

「蟻ですか…」

 

「ああ」

 

「……」

 

 

美鈴は少しムスッとした表情である。この顔は初めてベジータと戦った時以来の顔である。

 

「そう言われたくなかったら…かかってこい。いっとくが夜明けまでに攻撃を当てられなかったら早苗と戦う事は許さん。それにこれからの修行もせん、紅魔館へ帰ってもらう」

 

「わかりました。夜明けまでなんてかかりません。…はあぁぁぁぁぁ!!!」

 

美鈴も気の高めた。とても今までの美鈴とは思えない力だ。

 

「私も師匠に全ての力を見せていたわけではありません…すぐ終わらせてもらいます!」

 

美鈴は構える。重心を下にして、右腕を下げて左腕を上げている。ベジータにはどこか見覚えある構えだった。

 

「…さっさとこい」

 

 

「やあぁぁぁあ!!!」

 

美鈴はベジータに向かって攻撃を仕掛けにいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

にとりの作った巨大な特訓施設の外に神奈子がいた。神奈子は中で2つの大きな力がぶつかり合っているのを感じていた。

 

 

 

「余程心配と見えるわね」

 

「…八雲紫か、何の用だ」

 

スキマの中から紫が現れた。扇子を口に当てていつものように薄く笑っている。

 

「中でベジータと紅魔館の門番…紅美鈴が戦っているようね。明日の対決のための最後の修行ってところかしら?」

 

「はぁ…なんでもお見通しなのか。相変わらず気持ち悪いな」

 

「やん、そんな事言っちゃダメよ」

 

「それより何のためにきた?これは美鈴の修行であってベジータはそれに付き合っているだけだぞ」

 

紫は神奈子と諏訪子にベジータがスーパーサイヤ人3なれるようにしてほしいとは頼んだが、美鈴は何も関係ない。

 

「それはどうかしら?…あの子、紅美鈴がベジータから学ぶ事はたくさんあると思うわ。しかしその逆も私はあると思うの」

 

「…というと?」

 

「ベジータも紅美鈴から学べる事もあるってことよ。戦闘の技術以外のことでね」

 

紫の言い方はいつも遠回りな言い方なので神奈子はよくわかっていない。

 

「もったいぶるな、一体それはなんだ?」

 

「私たちが知っても意味がないでしょ?…まぁ強いて言えば貴女達が言っている『戦闘のムラ』についてとかかしら」

 

「それをベジータが美鈴から学べると…?私にはそうは思えないな」

 

「まぁ『今』とは言わないわ。いずれあの子がベジータに良い影響を与えてくれればそれで良いわ」

 

「……」

 

沈黙が2人を包む。虫の鳴き声だけが森に響く。

 

「それを確かめるためにお前は此処へ来たということか。で?」

 

「え?」

 

「お前は美鈴の奴がベジータに良い影響とやらを与えることができると思うのか?」

 

真剣な顔をしながら紫は神奈子を見ていた。そしてしばらくしたらまたフフッと笑い出した。

 

「当然よ、彼女は彼に似ているもの」

 

彼?と神奈子は聞き返す。

 

「それは誰だ?」

 

「フフ…誰かしらね」

 

意味深な笑みを浮かべた後、紫はふわぁ…と欠伸をした。

 

「 もう眠くなっちゃった。私はそろそろ帰るわね。」

 

「もう帰るのか?2人の修行が終わるまで待たないのか?」

 

神奈子がそう言っている途中に、紫は目をこすりながらスキマを開いた。

 

「あと何時間かかるかわからないもの。貴女も明日のためにはやく寝たほうがいいわよ」

 

「ちょ、ちょっと待」

 

「じゃ、またね〜」

 

神奈子の声を上書きする様に挨拶をし、紫はスキマでその場から消え去った。神奈子の大きなため息が静かな森に響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、あの子は似ているわ…だからベジータに大きな影響を与えてくれると信じてる」

 

 

 

 

 

「彼…孫悟空のように」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…クソッ!」

 

美鈴が真っ直ぐベジータに殴りかかる。このような光景をベジータも何百回もみていた。あれから何時間も経ったが、美鈴の攻撃がベジータに届く様子はない。

 

「はぁッ!」

 

「ガハッ!」

 

ベジータは美鈴の後ろに回り込み、背中を思いっきり蹴った。美鈴は回転しながら壁へ激突した。少し血を吐き、苦しんでいる。

 

「フン…やはりこの程度か。以前にも言ったがキサマはやはり『期待はずれ』だな」

 

「……くッ…」

 

美鈴は起き上がった。すでにかなりのダメージを食らっているが、諦める気配はない。

 

「やめるならやめていいぞ。向かってくるなら手加減はせん。…どうする?」

 

ベジータの気は先ほどと比べて全く落ちていない。むしろ戦うにつれて高まってきている。

 

「や…やめるもんか…絶対に!」

 

「フン!潰さないように蟻を踏むのは力の加減が難しいな。まぁいい、潰れてしまえばキサマがその程度だったというだけだ」

 

「い、言わせておけば…はあぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

美鈴は連続気弾を撃った。いわゆるグミ撃ちである。しかしベジータは動じずにスッと右手を出す。

 

 

 

 

 

「『ビッグ・バン・アタック』」

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

ベジータのビックバンアタックは大きさこそ小さいものの高密度な技であり、美鈴の気弾を簡単に貫いた。そして。  

 

 

「(し、死ぬ…!)」

 

 

 

 

 

 

 

ドーム内で大爆発した。美鈴に当たる寸前でベジータが自ら爆発させたので直接当たってはいないが物凄いダメージである事は違いない。

美鈴は倒れ込んでいて全く動かなくなった。

 

 

 

 

 

スーパーサイヤ人を解いたベジータが美鈴の元まで近寄る。そしてもうこれ以上は無理だと確信した。

 

「(…ここまでか、とりあえず…)」

 

 

 

 

 

「なにッ!?」

 

仙豆を取り出そうとしていたベジータの足首を美鈴が掴んだ。ベジータはすぐ様その手を払いのけ距離をとった。

 

「(こいつ…!)」

 

「…まだですよ…まだ終わってない…終わらせないッ!」

 

だがどう見ても美鈴は満身創痍である。

 

「フッ、中々しぶといな。だが…」

 

「そんな状態であろうがオレは一切手加減はせん!」

 

再びスーパーサイヤ人になったベジータ。

 

「次が私の正真正銘最後の攻撃です…この拳に…全てをかける!」

 

 

「やあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

美鈴の気がどんどん高まる。

 

 

 

 

 

「(この力…なるほど、肉体的にも精神的にも追い込まれた美鈴の本当の力というべきか)」

 

「面白い……だが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ…!」

 

気を高めている途中の美鈴にベジータのパンチが繰り出される。

 

「…隙だらけだ。どんなに気を高めようが攻撃する前にやられては意味がない…これからは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また…捕まえましたよ…!」

 

「なにィ!」

 

 

パンチを食らい倒れこむかと思った美鈴がベジータの右腕を思いっきり掴んだ。

 

「(こいつ…ただ気を高めていただけじゃなく、自分の腹が隙だらけとオレに思わせてそこへ攻撃させるように誘導しやがったのかッ!)」

 

その通りである。そして美鈴はベジータのパンチを食らう瞬間に気を腹部の方に集め、防御したのだ。

 

 

「残りの力は…拳にッ!!!」

 

「終わりだァァァ!!!」

 

 

残りの力を全て込められた右の拳で、ベジータのアゴを狙った。

 

 

「くっ…なめるなよーっ!」

 

ベジータも瞬時に左手でガードした。

 

 

 

「(勝つ!絶対に勝つ!私は…私はッ!二度と負けられないんだ!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『龍拳』!!!」

 

 

 

 

 

 

 




はい、第26話でした。

『潰さないように蟻を踏むのは力の加減が難しい』というのは他の漫画で出てきた好きなセリフです。かっこいいセリフなので使っちゃいました。

ではここで終わります。お疲れ様でした。


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【第27話】秘策

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

少し間が空いてしまってすいませんでした。


 

 

 

気力も体力もほとんど残っていない。美鈴を動かしているのは1つの〝意思〟だけである。

 

 

残りの力を全て込めた右の拳でベジータの顎を狙う。しかしベジータの左手で止められる。

 

「負けられない…もう私は負けるわけにはいかないんだァァァ!」

 

 

「『龍拳』!!!」

 

「っ!!」

 

美鈴の拳を左手で防いだベジータだったが、その瞬間に美鈴から凄まじいほどの気を感じた。

 

 

「く、クソォォォォ!」

 

「はああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

美鈴の拳はベジータの防御を貫き、顎へクリーンヒットした。そのあとベジータは吹っ飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やった…」

 

 

全ての力を一滴残らず使い切った美鈴はその場に倒れて気絶した。

 

 

「フン…本当に大した奴だ」

 

倒れ込んだベジータだったがすぐに起き上がった。そしてスーパーサイヤ人を解いた。

 

 

「最後の一撃…本気にならなければやられていたかもしれんな」

 

あの一撃はベジータにとっては拳というよりデカイ龍が襲ってきたかのような感覚であった。

 

「戦うたびに強くなる…キサマもサイヤ人とは別の戦闘民族なのかもしれんな」

 

ふぅ…と一息ついて地べたに座り込むベジータ。すると、入り口の方から〝気〟を感じた。

 

 

 

 

「む?」

 

「流石のお前でも疲れたようだな」

 

やってきたのは神奈子だ。救急箱のようなものを手に持っている。

 

 

「フッ…そうだな」

 

「お?お前にしては素直だな」

 

 

珍しいと思った神奈子が笑いながら言った。

 

 

「美鈴を連れて帰ろう。こんな硬い床で寝させるのも可哀想だ」

 

「ああ。それと…そいつの用はないぞ」

 

ベジータは神奈子がもっている救急箱を指差す。

 

「なぜだ?」

 

「説明するのが面倒だ。それより…帰るぞ!」

 

「ふふっ、そうだな」

 

ベジータは美鈴をおぶって出口に歩いて行った。神奈子はそんなベジータが微笑ましくてまた笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「…ん…?」

 

日差しが眩しい。ここはどこなのだろうか。むくっと起き上がった美鈴はまだ寝ぼけているようだった。

 

「……あっ!」

 

美鈴は思い出したかのようにパッと立ち上がった。しかし異変はすぐに現れた。

 

「いっ…」

 

「痛ったーーい!!」

 

身体に凄まじいほどの痛みを感じ、尻餅をついてしまった。

 

「き、筋肉痛でしょうか…痛すぎて全く動かない。どうしよう対決は今日なのに…」

 

 

美鈴が頭を抱えていると、誰かの足音が聞こえてきた。その足音はどんどん大きくなっていき、すぐに襖が開く音が聞こえた。

 

「フンッ、やっと起きたようだな」

 

勢いよく部屋に入ってきたのはベジータだった。口をモグモグさせながら何かを食べていた。

 

「し、師匠…おはようございます。あの…身体が動かなくて…」

 

「当たり前だ。一滴残らず全ての力を使い切ったのは初めてだったようだしな」

 

そう言いながら袋に手を突っ込み何かを探す。

 

 

「仕方ねぇ、これをやる」

 

「それは昨日の…ピーナッツ?」

 

「仙豆だ」

 

もらったこと自体は覚えていたが名前までは流石に覚えていなかった。そしてベジータが美鈴に仙豆を渡そうとすると、再びすごい勢いで足音が聞こえてくる。誰が来るのかは2人とも大体予想できていた。

 

 

 

「美鈴さん大丈夫ですか!?」

 

案の定やってきたのは早苗だった。美鈴の事が心配であったのですぐに駆けつけたのだ。

 

「あ、はい。大丈夫です!」

 

「よかったぁ!!」

 

笑顔になった早苗は美鈴に抱きついた。

 

 

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッッッ!!!」

 

筋肉痛だった美鈴は早苗に急に抱きつかれ、死にそうなほどの痛みに襲われた。

 

「…おい、死ぬぞ」

 

「はっ!すいません美鈴さん!」

 

美鈴はガクガクと痙攣しながら大丈夫です…と小さく答える。

 

「まったく情けない奴だ!さっさと食え!」

 

ベジータは美鈴に仙豆を食べさせた。

 

というよりは無理矢理ねじ込んだ。

 

 

 

 

「ん〜!完全復活ッ!」

 

「えぇ!?」

 

仙豆を食べた美鈴は先ほどの瀕死状態から一変し、いつもの元気な姿になった。早苗は何が起こったかわからずに驚いている。

 

「今のは薬ですか…?まぁ何はともあれ元気になってよかったです!」

 

過程はあまり重要視しない早苗は、結果的に美鈴が元気になったことだけを喜んだ。

 

「オレはメシに戻るぞ」

 

「すいません師匠。朝御飯の最中だったんですよね?」

 

「何を言っている、もう昼だ」

 

「えっ!」

 

それを聞いて窓から外を見る。太陽の位置を見る限り確かにもう昼になっているみたいである。

「ほんとだ…」

 

美鈴はなんだか時間を無駄にした気分になってしまった。

 

「少し時間を取る。対決は夕方からだ」

 

 

 

それだけいってベジータは戻っていった。

 

「すいません早苗さん。時間を夕方に遅らせてしまって…」

 

少し悪い気がした美鈴は早苗に謝った。もちろん早苗はその事で美鈴を責める気はさらさらないようだ。

 

「いいんですよ!時間なんて!…でも」

 

座っていた早苗がスタっと立ち上がって出口の前まで行った。

 

「勝負は絶対に負けませんから!」

 

 

闘争心を露わにした顔でそう言って部屋から出て行った。早苗も神奈子と諏訪子の力を借りる以上は、負けられないのだろうと美鈴は思った。

 

 

「さて、夕方までなにをしようかな…お腹はいっぱいだし」

 

仙豆を食べたことにより美鈴の腹は満たされていた。

 

「…そうだ」

 

何かを思いついた美鈴はまた森へ向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ〜、仙豆っていうのを食べたら美鈴が一気に元気になったんだ」

 

「そうなんです諏訪子様!ほんと凄かったです!」

 

美鈴以外の4人は昼御飯を食べていた。早苗はさっきの出来事を神奈子と諏訪子に話していた。

 

「ふむ…急激な回復作用のある薬…いや薬はではないか。その豆をベジータはどこから手に入れたのだ?」

 

 

「カリンとかいう猫の仙人みたいなやつから貰っただけだ。快く5つもくれて助かったぜ」

 

ニヤッと悪い顔をしたベジータをみて3人は察した。

 

 

ああ…脅したんだな…と。

 

 

「オレも最初に食べたときには……」

  

 

「ベジータ?どうしたの?」

 

 

急にベジータが黙り込んだ。立ち上がり、どこかを見つめていた。

それを変に思った諏訪子がベジータに話しかける。

 

「いや、なんでもない」

 

「(美鈴の奴…森へ行ったのか)」 

 

ベジータは美鈴の気が動いていることに気づいた。何処へ向かうのかはわからないが行くとこといえば森にある特訓施設ぐらいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

食べ終わったベジータはなにも言わずに立ち上がり、何処かへ向かった。

 

 

 

 

 




はい、第27話でした。

次の話から美鈴VS守矢の神ということになります。
ではここで終わります。お疲れ様でした。


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【第28話】激突 紅美鈴VS東風谷早苗

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

スペルカードルール?知らないですね…


 

 

涼しい風が吹いている。夕方になりかけ、暑く照っていた陽も弱くなっていた。早苗、神奈子、諏訪子は一足先に神社の前で戦いの準備をしていた。

 

「いよいよか…早苗、言っていた通りにこの対決には基本的にはお前と美鈴が1対1で戦う。しかし、もちろん我らはお前に力を借す。…くれぐれも無茶はするなよ」

 

神奈子は念のために早苗にもう一回説明した。

 

「任せてください!美鈴さんには悪いですが…守矢の力を示すためにも本気で勝ちにいきます!」

 

ニッコリ笑っている早苗。気負いというものは一切なく、むしろやる気に満ち溢れている。

 

「うーん…ホントは軽い気持ちで勝負なんて言ったんだけど…まさかこんな事になるなんてねぇ…」

 

まいったねーと頭をかきながら笑っている諏訪子。しかしもちろん心配している面もあるようだ。

 

「うむ、しかしここまできてやはりやめようとは言えんだろう。あの2人はやる気満々みたいだしな」

 

「そりゃわかってるよ。とにかく神奈子の言った通りに無茶だけはしないでね早苗」

 

はい!と早苗は返事をした。

 

「…きたな」

 

 

 

 

 

神奈子が見ている先には、こちらに真っ直ぐ飛んできているベジータの姿があった。

 

 

 

「……」

 

地面に降りてきたベジータは何も喋らずに腕組みをしている。

 

「美鈴は…一緒じゃないみたいだな」

 

「お待たせしました」

 

 

ベジータが到着してすぐに美鈴も現れた。

 

「きましたか…美鈴さん」

 

「(いつの間に…)」

 

神奈子はすぐ近くまで来ていた美鈴の気配を感じ取ることができなかった。

 

「(…中々面白いものが見れそうだ)さあ、役者も揃ったことだしそろそろ始めるとしよう」

 

「「はい!」」

 

美鈴も早苗も同時に返事をした。

 

「一応のルール確認だ。この戦いは殺し合いではない…なんてことは言わなくてもわかってるだろうが…」

 

「勝ち負けは、そうだな…攻撃を受け、10秒以内に立てなかった時、それと完全に気絶した時、それと自分で負けと認めた時、この3つにしようか」

 

10秒以内に立てなかった時というのは言うなればノックダウンした時ということである。しかし、ボクシングなどと違い、立ち上がるだけでよく、ファイティングポーズを取る必要はない。

 

「10秒以内に立てなかった時…ですか」

 

「まぁ多少厳しいルールではあるがこれもお前たちの身を守るためだ。理解してくれ」

 

ルールについて少し不満があったと思われる美鈴に、神奈子はちゃんと説明して納得させた。

 

「じゃあ暗くなる前に始めよっか。私たちは下がるよ」

 

そう言い神奈子と諏訪子は下がっていった。ベジータは下がる前に美鈴に近ずき一言かけた。

 

「お前はお前の戦いをしろ。オレにこの1週間は無駄だったと思わせるなよ」

 

それだけいってベジータも神奈子たちのところへ歩いていった。

 

「師匠…私は絶対勝ちます!」

 

目を瞑りながら小さな声で美鈴は勝利を誓った。

 

 

 

 

 

 

 

「美鈴さん…私もお二人の力をお借りして戦います。それが何を意味するか、わかりますよね」

 

「……」

 

「絶対に負けられないということです!」

 

先ほどまでニコニコしていた早苗だったが、その顔からは闘志しか感じられなくなった。

 

「…それは私も同じことです。私が負けるとそれは師匠が負けたのと同じ。だから私は絶対に負けられません!」

 

「フフフ…心地よい闘志だな2人共。若さを感じるな」

 

「なんか神奈子ババくさーい」

 

ニヤニヤしてる神奈子に向かって諏訪子は変なものを見る目でそう言った。

 

「う、うるさい!とりあえず始めるぞ!」

 

「じゃあ…始め!!!」

 

神奈子のデカイ掛け声と共に戦いは始まった。

 

 

 

 

「行きますよぅ!」

 

先に仕掛けたのは早苗だった。まずは美鈴と距離を置き、遠距離から弾幕で攻撃をした。

 

 

「ふっ、はっ」

 

美鈴は弾幕の1つ1つを見極め、素早い動きでかわしていく。

 

「いい動きですねぇ美鈴さん!じゃあこれはどうですか?」

 

「っ?」

 

 

「《秘法「九字刺し」》!」

 

美鈴の行動範囲にデカイ結界が出現した。その結界は美鈴を囲むように迫ってくる。

 

「(これは…まずいッ!)」

 

 

 

結界と結界通しがぶつかり、大爆発を起こした。美鈴は間一髪で攻撃をかわしたが、避けた先にまた弾幕が向かってきており、直撃した。

 

 

「がはッ…!」

 

隙だらけの瞬間に食らったのでダメージは大きかった。

 

「連続してこんなにすごい技を…すごい集中力ですね…」

 

 

 

 

「ん〜最初の一発ももちろん当てるつもりだったんですけどね。やはり発生が遅いのが玉に瑕ですね」

 

美鈴と違い早苗は余裕そうな顔をしている。自信家な早苗は自分が負けるとはこれっぽっちも思っていない。

 

「随分と余裕ですね…じゃあ次はこちらから行きますよ!」

 

 

「《彩符「彩雨」》」

 

早苗のように大量の弾幕で美鈴は攻撃した。しかし早苗は余裕で弾幕を避ける。

 

「じゃあこれで…!」

 

 

 

地面に向かって力強い気弾を放つ。周りには土煙が舞い、相手の姿をまともに目で確認することはできない。

 

「今だッ!」

 

美鈴はこれを狙っていた。目で見えなくても美鈴には〝気〟で相手の位置を正確に読み取ることができるようになっていた。

 

「……」サ

 

「!!」

 

「くっ…!」

 

しかし美鈴の作戦は思うようにいかなかった。早苗は土煙が舞うと、無理に突っ込まずに美鈴とは逆方向へ下がっていったのだ。

 

「ほっと、…美鈴さん、悪いですけどこの戦いでは貴女の思うような戦いはさせませんよ。ましてや肉弾戦なんてね」

 

「……」

 

早苗はこの戦いで1つ作戦を立てていた。その作戦というのは徹底的に遠距離から攻撃する、というものだった。

 

肉弾戦が得意な美鈴に、肉弾戦が得意ではない、むしろ苦手な早苗が勝負に挑むと勝ち負けは見えている。だから早苗は美鈴とは距離を取り、得意な遠距離攻撃で肉弾戦を避けているのだ。

 

「じゃあそろそろ決めますよ!お夕飯も作らなきゃいけないですからね!」

 

そう言うと早苗は右手をスッと挙げた。

 

 

 

 

 

「さぁ行くぞ!」

 

「うん!」

 

神奈子と諏訪子の気が高まる。そして同時に早苗の気もどんどん上がっていく。

 

「…なるほど、これがキサマらの言う〝協力〟というやつか」

 

神奈子と諏訪子から早苗にどんどん力が送られる。先ほどの早苗とはまるで別人のようだ。

 

 

「早苗さんの気…ただ大きいだけじゃない。神奈子さんと諏訪子さんの気も混じっている…!」

 

そう、今の早苗には3人分の気が混じっている。文字通り“別人”である。

 

「さぁいきます!《奇跡「白昼の客星」》!!!」

 

「…これは」

 

 

早苗の頭上にはキラキラと光る何か出現した。

 

「夕方なのに…星?」

 

「はああッ!!!」

 

「!!?」

 

早苗が右手を振り下ろすと、その星からレーザーが飛んできた。構えていた美鈴もかわすのでいっぱいいっぱいだ。

 

「この速さッ…威力ッ…師匠より…!」

 

「…終わりです」

 

 

 

1つのレーザーでもかわすのがやっとだったのに、4つの星からそれそれ4つのレーザーが美鈴目掛けて飛んでいった。

 

「なッ…!?」

 

「美鈴さん、終わりですッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すごい音と煙が舞う。

 

 

「…相変わらず物凄い威力だな」

 

「うん…美鈴は…」

 

力を送り切った神奈子と諏訪子には少し疲れが見えていた。2人は今の一撃で勝負は決したと思っていた。いや、その2人どころか技を放った早苗ですらそう思った。

 

「私が見てくる」

 

神奈子が美鈴の様子を見にいくために一歩前に出た。するとパッとベジータの右手が神奈子を遮った。

 

「…なんのつもりだ?ベジータ」

 

「それはこっちの台詞だ。…勝負の邪魔をする事はオレが許さん」

 

そう言って右手を引っ込めた。そして先ほどのように腕組みしてまっすぐ前を見ている。

 

「まさか…!」

 

神奈子も前を見る。早苗の一撃によって舞っている土煙が晴れてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「…美鈴さん」

 

 

美鈴は技を受けたところから一歩も動いていなかった。かなりのダメージを負いながらも、右腕と左腕をクロスしながら早苗をジッと睨んでいる。

 

「あの野郎…一回見ただけで覚えやがったのか」

 

普通に防御しただけなら勝負は決まっていただろう。早苗の一撃はそれほど凄まじいものだった。しかし、美鈴はかつてベジータが紅魔館で使った〝バリアー〟を参考にし、自分の技として昇華していた。

 

 

しかしバリアーを使ったとはいえ、最終的には壊れてしまったので多少のダメージしか軽減できなかった。美鈴はすでに満身創痍なのだが、勝ち誇った顔をしてこう言った。

 

「早苗さん、今のが貴女の最高の技なら私の勝ちです」

 

ピクっと反応した早苗。真剣な顔をしていたがすぐにニヤッと笑った。

 

「それはどうですかね…でもこれだけは言えますよ美鈴さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女に〝奇跡〟は起こらないんですよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、第28話でした。

早苗強すぎィ!と思う方へ、神は強いんです。決してストーリーの都合とかじゃないです。……嘘です、本当にすいませんでした。

ではここで終わります。お疲れ様でした。


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【第29話】強大な力

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

今回短いです、すいません!


 

 

 

「貴女に〝奇跡〟は起こらないんですよッ!!!」

 

美鈴をビシッと指差して言った。つまり早苗は、美鈴は自分には勝てないと言っているのだろう。

 

「〝奇跡〟ですか…確かに私にはそんなもの起こらないかもしれません。でも、それでも私は負けるわけにはいかないんです」

 

美鈴の目には光が灯っている。まだまだやる気満々である。

 

「そうでしょうね。しかしやる気だけじゃ力の差は埋まりませんよ」

 

「……」

 

もちろん美鈴もそんな事はわかっていた。正直今の早苗と美鈴の間には大きな差がある。

 

「それに貴女は満身創痍のはずです。次こそ決めますよ!」

 

 

「《祈願「商売繁盛守り」!》」

 

早苗はたくさんのお札を取り出し、放り投げた。お札は早苗の力を纏い、美鈴に攻撃しに向かった。

 

「ふっ!」

 

 

美鈴は先ほどのように真っ直ぐ避けるのではなく、ステップを使い、不規則な動きでお札をかわしていく。

 

「くっ!すばしっこいですね!」

 

いくら早苗であろうと、お札のすべてを追尾性にして早苗に向かわせる集中力を保つ事は至難の技である。そしてその集中力が仇となった。

 

「(今だッ!)」

 

 

 

「!?」

 

お札に集中力を注ぎ込んでいた早苗は、ステップを変え右足に体重をかけて一気に距離を詰めてきた美鈴に反応するのが遅れてしまった。

 

「ま、まずい!」

 

「はぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 

「あぶなッ…」

 

美鈴のパンチを早苗は間一髪かわすことができた。しかし、攻撃はそれだけでは終わらなかった。

 

「はッ!」

 

 

 

パンチをかわされた美鈴は、すぐに体重移動をして早苗にの背中に回し蹴りを食らわせた。これは美鈴の体の柔らかさが無ければできない技だろう。

 

「ぐっ…!」

 

早苗は体勢が崩れ、地面に膝をつく。

 

「はぁッ!」

 

 

 

美鈴の攻撃は終わらない。さらに早苗に向かって気弾を連射した。

 

「!?…くそ!《神籤「乱れおみくじ連続引き」》」

 

早苗はすぐに起き上がり、おみくじ爆弾で相殺しようとする。

 

「はっ!」

 

気弾とおみくじ爆弾がぶつかろうが近づいた時、美鈴は腕をクンッと動かす。すると気弾はみんな軌道が代わり、早苗の後ろに回り込む。

 

「なッ…!」

 

「早苗さん。さっきの…お返しです!」

 

 

 

早苗は美鈴の気弾をモロに食らってしまった。

 

 

 

 

「さ、早苗ッ!」

 

「……」

 

諏訪子と神奈子は心配そうに観戦していた。勝負の勝ち負けではなく、純粋に早苗の事が心配なのだ。

 

 

 

 

 

「……さて、これからだな」

 

そんな中、ベジータだけが冷静に戦いを分析しているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この技はさきほど習得したんです。あまりに単純な技なので同じ相手に2度は通用しないと思いますが…そうですね、『操気弾』と名付けましょうか」

 

美鈴は先ほどの昼から夕方の間にこの技を完成させた。名前もどんな技かも何処かで見た事があるような気がする。

 

 

 

 

フラフラしながら早苗は立ち上がった。どこか不気味な雰囲気を醸し出している。

 

「…やはり立ちますか早苗さん。立ってくるなら私は手加減はしません!」

 

「……」

 

「早苗さん、貴女には弱点があります。それは1つ1つの技が強力すぎるという事です。確かに普通の妖怪相手なら一撃で勝負は決まるでしょう…しかし、今みたいに戦いが長引くと体力や集中力を消費しすぎて一気に不利になってしまいます!」

 

これに関しては観戦していた3人もわかっていた。技が強力なのはいい事なのだが、それゆえ技を出す時にすごく力を消費してしまうのだ。

 

「では…決めますッ!」

 

美鈴は再び早苗と距離を詰める。早苗は下を向いて距離を取ろうとはしないようだ。

 

「この一撃で…終わりだッ!」

 

 

美鈴が右腕一本に全ての気を注ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『龍拳』!!!」

 

まるで龍のように凄まじい威圧感を放つ拳が早苗に向かっていく。これで勝負はついた…とその場にいた誰もが思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにッ…?」

 

誰よりも早く状況を把握できたのはベジータだった。美鈴の最高の技とも言える『龍拳』を早苗が受け止めたことに驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

「…え?」

 

ベジータの反応とは少し遅れて美鈴も状況を把握した。あのベジータすら防げなかった『龍拳』を早苗が止めた…それも片手で。

 

 

 

 

 

 

 

 

「消え…ッ」

 

 

 

 

 

 

「がっ…!」

 

 

目にも止まらぬ速さで美鈴の後ろに移動した早苗は、渾身の拳を美鈴の頬に食らわせた。とても肉弾戦が苦手な者が放つパンチの威力ではない。

 

 

 

 

 

 

「は、速い…目が追いつかない…!」

 

 

早苗は物凄いスピードで美鈴の周りを飛ぶ。

 

 

 

腕へ、脚へ、背中へすごいスピードでパンチを繰り出す。

 

「くっ…」

 

 

「《秘術「忘却の祭儀」》

 

「!?」

 

打撃と共に結界を使って美鈴の行動範囲を狭める。

 

「こんなもの…気で…!!!」

 

 

「がはっ…!」

 

気で周りの結界を吹き飛ばそうと美鈴だったが、その一瞬の隙をついて早苗は回し蹴りを入れた。先ほどの美鈴のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ねえ神奈子、アレ…」

 

「ああ…まずい事になったな…」

 

諏訪子と神奈子は今早苗に起こっている現象について何か知っているようだった。

 

 

「アレはどういう事だ」

 

ベジータは2人に聞いた。

 

「初めて早苗に我らの力を貸した時、どのくらいまで力を貸したらいいのか我々はわからなかった。だから限界までその時は力を貸したんだが…」

 

「私たちの力を得すぎた早苗は…あまりに力が強大すぎて暴走したんだ。それ以降は力を貸しても早苗がその力を全て使うのでは無く、コントロールして使ってたんだけど…美鈴との戦いでその力を全て使ってるみたいだ」

 

「暴走…か」

 

 

 

今の早苗には苦手だった肉弾戦も、神奈子の力で強化されている。恐らく美鈴と互角、いやそれ以上だろう。

 

 

 

 

「…ここが正念場だぞ、美鈴」

 

 

 

それでもベジータは勝負に水を差すようなことはせず、美鈴を信じて見守っていた。




はい、第29話でした。

28話で「いい動きですねぇ、美鈴さん!」って台詞があったのですが、見返したら「いい質問ですねぇ!」と池上彰みたいになってて1人で笑いました。

ではここで終わります、お疲れ様でした。


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【第30話】最後の一撃

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

少し間が空いちゃいました。


 

 

 

 

 

「む…?」

 

神奈子が手を出す。すると手のひらには一粒、二粒と水が落ちてきた。

 

「雨…か」

 

神奈子も諏訪子もこれからどんな結末になるかはまったく予想できない。それほど美鈴と早苗の戦いは凄まじいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(よくわからないけど…今の早苗さんはさっきまでとはまるで別人…!恐らく今までの戦い方では通用しない…)」

 

安全圏と思われる場所まで距離を取り、次の一手をどうするか考えていた。

 

「……」

 

 

 

考えてる途中に早苗が間合いを詰めてきた。

 

 

 

組み手となり、パンチやキックを避けたりガードしたりしている。はたからみたら互角に見えるだろう。

 

 

「(くぅ〜…!なんて重い攻撃!モロに食らったらほんとにまずい!)」

 

しかし早苗は楽に美鈴の攻撃を受け止めているが、美鈴の方は早苗の重い攻撃を手や足でガードする時に完璧に受けきれてなく、少しずつだが確実にダメージを受けていた。

 

 

「このままじゃダメだ!」

 

美鈴は再び距離を取り、右手に気を込めた。

 

「はああああ!!!」

 

「『操気弾』!!! いけッ!!!」

 

先ほどと同じように気弾を3つ作り、早苗めがけて飛ばした。

 

「……」

 

また距離を詰めようとしていた早苗であったが、3つの気弾が向かっていることに気づいて瞬時に離れた。

 

 

 

「……」

 

気弾は凄いスピードで早苗を襲っているが、早苗自身は胃にも介さず避けていく。しかしいくら早苗でもかわすのが精一杯で反撃の余地はない。だから考えた。

 

「……はッ!!!」

 

 

「なッ!?」

 

早苗は右手に気を込め、気弾を3つ作った。そしてそれを自分に襲いかかってくるものに向かって飛ばし相殺した。

 

「『操気弾』を見ただけで…少しショックです」

 

 

「……」

 

戦えば戦うほど早苗の凄みは増している。もはや早苗の姿をした〝何か〟だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雨が……よし、これは好機…!」

 

ポツポツと降っていた雨だったが、いつの間にかザーザー降りになっており、美鈴にとってはチャンスが訪れた。

 

 

 

「ふー………いきますッ!!!」

 

大きく息を吐いて脱力した後、美鈴は早苗に向かっていった。明らかに肉弾戦を挑むつもりだ。

 

 

 

 

「また…肉弾戦?でも今の早苗相手だったら…」

 

諏訪子が心配そうに美鈴を見守る。もはや勝ち負けなどどうでもよく、2人が無事でいてくれればいいと思っていた。

 

「フッ…どうだろうな」

 

しかしベジータはわかっていた。美鈴の“狙い”が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!はっ!はっ!」

 

早苗の周りを高速で移動し、囲むような動きで翻弄していた。ジッと待っていた早苗はその動きに痺れを切らし攻撃を仕掛けた。

 

「うっ…!」

 

「!! はああッ!!!」

 

 

「ぐ…」

 

早苗は美鈴のカウンターを受けて膝をついた。しかし一瞬で立ち上がり再び攻撃をしようとする。

 

「無駄です…!」

 

美鈴はまたも細かい動きをして、目で捉えにくいようにする。そしてパンチをしてきた早苗にカウンターの蹴りを食らわす。

 

「 …かは…」

 

 

今の蹴りは早苗の背中に綺麗に命中し、そのまま倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

「な、なんだ?急に美鈴が優勢になったが…」

 

「どういうこと?まさか早苗に何かあったんじゃ…」

 

2人はこの状況をまるでわかっていない。

 

「雨が美鈴に味方しただけだ。」

 

ベジータが答えた。しかしその言葉を2人は理解しきれていない。

 

「どういうこと?」

 

「早苗を翻弄するために美鈴はちょこまかと動きまわっていやがるが…その時の美鈴の目を見ておけ」

 

「…目?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ…」

 

先ほど蹴りで大ダメージをもらった早苗だったが、立ち上がりまた美鈴に向かっていった。

 

しかし結果は同じ事だった。

 

「はッ!!!」

 

「かは…」

 

美鈴は先ほどのリプレイのような動きをしてフィニッシュは正拳突きを早苗に食らわせた。そして転がるように早苗は地面に倒れた。

 

 

 

 

なぜ急に美鈴が優勢になったかというと、普通このひどい雨の中で戦うとなると目に雨が入り視界が悪くなってしまう。もちろん早苗も例外ではなく、高速で動く美鈴を捉えるためにこの雨の中目を見開いて戦っていた。

 

そのため強い雨が目の中に入り、その痛みで普通のまばたき以外も目を瞑ってしまう隙ができていたのだ。しかし美鈴は…

 

 

 

 

「諏訪子、今の見たか?」

 

「うん。美鈴…“目を瞑って戦っていた”」

 

「やっと気付きやがったか」

 

 

 

そう、美鈴は“目を瞑って戦っていた”のだ。美鈴はベジータとの修行で目で見なくても〝気〟で相手の位置を正確に読み取ることが出来るようになっていた。だから目を瞑ったまま攻撃を避けたり、したり出来ていたのだ。

 

 

「なるほどな。まさに修行の成果が出たってわけか」

 

「ああ…今の美鈴はいつも通り戦えている。早苗がさっきまでの戦いをできていないだけだ」

 

「(このままだとこの勝負…美鈴に分がある…このままだとな)」

 

やむどころかどんどん激しくなる雨を見てベジータはそう思ったが、早苗の目を見て何処か言い知れぬ悪寒を感じていた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…し、しぶとい…」

 

3回も全力のカウンターを食らわせたのに早苗はまだ立ち上がる。

 

「…………5分」

 

暴走したと思っていた早苗が急に話しだした。

 

「え…?」

 

「……美鈴さんの動きを私がじっくり観察し出して経った時間です。

…わざと攻撃を仕掛けてカウンターを食らったのもその観察のせいですね」

 

「わざと…?」

 

「そしてまた5分…これがなんだかわかりますか?」

 

そう言いながらパチッ…と目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごふ…!!?」

一瞬で早苗が目の前に現れ、美鈴の腹にパンチを食らわせていた。

 

「……“今から貴女が私に倒されるまでの時間です”」

 

 

ズガンッ!と蹴りを入れた後美鈴は空中に舞う。その美鈴に追撃を加えるべく早苗は飛んだ。

 

「んんッ…!」

 

美鈴は空中で受け身を取り向かってくる早苗のために構えた。そして2人は高速でパンチの打ち合いになった。

 

 

 

「当たらない…なんで…」

 

先ほどのように目を瞑って美鈴は攻撃していたが、全く当たらない。むしろ早苗の攻撃を食いっぱなしだ。なぜ当たらないか確認するために一度目を開いた。

 

「!!!」

 

美鈴は驚いた。その瞬間に隙ができ、早苗の蹴りで地面に吹っ飛ばされてしまった。

 

「ぐっ…早苗さん…貴女、まさか〝気〟を!」

 

「そういう事です…次、いきますよ。構えてください」

 

「く、くそっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もう何が何だかわかんないよ。神奈子、わかりやすく説明して?」

 

「ふむ…神といってもなんでもわかるわけではない。諏訪子、お前にわからんなら私にもわからんさ」

 

2人は完全にお手上げ状態だった。

 

「ベジータ〜どういう事〜?」

 

「………」

 

 

 

「あ、あの小娘……」

 

「ベジータ?」

 

「……美鈴が1日みっちり修行して会得した技を…早苗は5分足らずで完成させやがった」

 

「え?」

 

「目を瞑っていた美鈴と戦うことによって何かを感じ取りやがったんだ。そしてそれをすぐさま会得した」

 

「そんなことができるのか?」

 

「(出来る筈がないッ!全く〝気〟を使えない状態から数分で目を瞑り気を完全に読み取って戦うだと?ふざけやがって!)」

 

 

実は早苗はこの戦いまで全く気を使えないわけではなかった。この1週間で美鈴に少しだけ教わり、基本の基本くらいは出来るようになっていた。だがそれでも素人同然には変わりはない。

 

「さっきの戦いぶりもみるに…なるほど、早苗は〝天才型〟のようだな」

 

天才という一言で片付けることなど出来ないのだが、こう言葉で説明することしかできなかった。

 

 

「だがこれで条件は互角…美鈴、腹をくくらねえと負けるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈍い音が響く。早苗の拳が美鈴の腹に突き刺さった音だ。

 

「〝気〟を読んで戦うというのはやっぱり難しいですね。これをずっと続けていたなんて…さすが美鈴さんです」

 

「あの時貴女に少しだけ〝気〟について習っておいてよかった。まさかこんなに早く使う時が来るなんて…」

 

「……」

 

美鈴は声を出せない状態になっていた。立っているのに意識があるのかないのかするわからない。

 

「本当に…本当に貴女は強かった。お二人の力がなければ絶対勝てなかったです」

 

「もう動けないでしょうけど…とどめを刺させてもらいます」

 

 

 

 

 

 

 

「早苗ッ!?」

 

「よせ早苗ッ!!!勝負はもう…」

 

2人が止めようとするがまたもやベジータがその2人を止める。

 

「美鈴は立っている。意識もかろうじてあるだろう。だから勝負を止めることは許さん」

 

ギリッと歯を食いしばって神奈子はベジータの肩をドンッ!と押した。

 

「いい加減にしろ!!!今の早苗は手加減などできん!!!今度こそ本当に死ぬぞ!!!」

 

薄情ともいえるベジータの態度に激昂し、神奈子は声を荒らげる。しかしベジータはそれを胃にも介さずに、ただ前だけ見つめていた。

 

「黙って見ていろ」

 

「いつまでだ…?美鈴が死ぬまでか!?こんな戦いで弟子を命の危機に晒そうとするな!貴様は間違っているぞベジータ!」

 

「……〝誇り〟を馬鹿にするのなら、オレは誰であろうが殺す」

 

「自身の〝誇り〟のために美鈴を見殺しにするのか!」

 

「神奈子!落ち着いて!」

 

「はぁ…!はぁ…!」

 

ここまで神奈子が取り乱したところを見るのは長年一緒にいる諏訪子すら初めてのことだった。

 

「…神奈子」

 

「なんだ!」

 

「誰が〝オレの誇り〟なんて言った?」

 

「…なんだと?」

 

「見ろ」

 

ベジータが見つめているところを神奈子も見る。するとそこには先ほどまで死んだ魚のような目をした美鈴ではなく、強く、光の灯った目をしている美鈴がいた。

 

「美鈴……」

 

「オレが言ったのは…〝美鈴の誇り〟の事だ。あいつはまだ戦える。…だからあいつの邪魔をして〝誇り〟と〝プライド〟を傷つけるようなことは許さん」

 

「……」

 

「ベジータ…」

 

 

「次の一撃で決まる。…よく見ておけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨はいつの間にかやんでいた。まるで2人の決着を見届けようとするように。

 

 

 

「早苗さん…次が私の正真正銘最後の一撃になります」

 

「奇遇ですね美鈴さん…私もですよ」

 

戦いが始まる前みたいに2人はニヤッと笑った。2人の中で巡る感情があるのだろうか。

 

「さっき美鈴さん言ってましたよね。『今のが貴女の最高の技なら私の勝ちです』と。その通りですよ。でも…」

 

スッと右手をあげると、早苗の頭上に先ほどとは比べ物にならないくらいの大きさの星が出てきた。

 

「…威力は桁違いですよ」

 

先ほどはいくつかにまとめて撃ったのだが、これから撃つのはその全てを1つにまとめて破壊力を増したものである。

 

「すごいですね早苗さんは。そんなすごい技を編み出して…私なんか師匠の真似しかできない」

 

美鈴は右手を早苗に向かって出した。

 

「でもこれが…私の〝秘策〟であり〝最後の技〟です」

 

美鈴の気が高まる。今日1番、いや美鈴の今までの生涯の中で1番だろう。

 

 

 

 

 

 

「「いきますッ!!!」」

 

2人の声が重なり合った。技を同時に撃ってその威力で勝負を決するつもりだ。

 

「はああああああッ!!!これで終わりだッ!!!」

 

 

 

 

「《奇跡「白昼の客星」》!!!!!」

 

ドでかい星から早苗が全ての力を注ぎ込んだレーザーが放たれた。

 

 

 

 

 

「負けない…!絶対に勝つんだ!!!」

 

 

 

 

「『ビッグ・バン・アタック』!!!!!」

 

早苗と同じように全ての力を注ぎ込んだ一撃が放たれた。

 

「美鈴……」

 

 

 

そして2人の技はぶつかり合い…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

 

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝負はついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケホッケホッ!…勝ったのは…?」

 

 

爆風の中神奈子は目を凝らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

「………」

 

「2人とも…立ってる?」

 

諏訪子がそう言った刹那。

 

 

「うっ……」

 

ガクッと美鈴が片膝をついた。

 

 

「早苗の勝ち…?」

 

 

 

 

 

「やっぱり美鈴さんは強い…ですね」

 

「お二人共…すみま…せ………ん…」

 

バタンと早苗が倒れた。まるでこの事を言うためだけに立っていたかのように満足そうだった。

 

 

倒れた早苗を見た美鈴は最後の力を振り絞り立ち上がった。そしてベジータに向かってニコッと笑った。

 

 

「私…勝っちゃいました…!」

 

 

「フンッ……神奈子、結果はどうした?」

 

 

「…ああ、そうだな。この勝負」

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅美鈴の勝ちだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、第30話でした。

早苗戦はっていうか守矢編はこの半分くらいの内容で終わらせるつもりだったのですが、結構長くなっちゃいました。

ではここで終わります。お疲れ様でした。


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【第31話】欠点

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

感想欄で、次から新章ですとぬかしてたくせに実はまだです。
次の回から新章になります。すいませんでした。


 

 

「この勝負…紅美鈴の勝ちだ!」

 

 

 

「やっ……た…あ…」

 

勝負に勝てた喜びを噛みしめる前に、美鈴は早苗と同様に力尽きて気絶してしまった。ベジータはその美鈴にゆっくりと近寄った。

 

「貴様にしては…よくやったな」

 

素直に褒めることができないベジータ。その言葉自体、今の美鈴には届いていないかもしれない。

 

 

「早苗っ!」

 

諏訪子も早苗に近寄り、肩を貸してあげようとした。しかし諏訪子の身長では早苗を支えることは難しいので、結局後から来た神奈子が早苗に肩を貸してあげた。

 

 

「早苗…よくやった。お前は守矢の誇りだよ」

 

「ほんと…早苗!よく頑張ったね!」

 

2人は早苗に労いの言葉を贈った。気を失っているので恐らく聞こえていないだろうが、心なしか早苗は満足そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後神社の中に入り、気を失っていた2人を部屋に寝かせた。

 

「ふぅ、こんなものだな」

 

「2人とも…ゆっくり休んでね」

 

布団を2つ並べて、2人はぐっすりと寝ていた。

 

 

「美鈴は今まで以上の気だった。早苗には関しては貴様ら2人の力を自分の力としていた…大した才能だな」

 

「ああ、早苗には光るものがある。これからもっと修行を積んで守矢を支えてほしいものだ」

 

 

「それにしても…」

 

「ん?」

 

「腹が減ったな」

 

ベジータはチラッと諏訪子の方を見た。諏訪子はそれが何を意味するかわかっていた。

 

「ははは、わかったよ。2人が眠ってるから作る人がいないしね。私が作ってくるよ。」

 

「すまないな諏訪子」

 

そういう神奈子に手を振りつつ、諏訪子は部屋から出て行った。

 

 

外はすでに暗くなっていた。もう完全な夜である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベジータ…先ほどはすまなかったな。お前達2人の気持ちもわからないで私は怒鳴り散らしてしまった」

 

「気にするな」

 

ベジータはこう言っているが、神奈子はまだ申し訳ない気持ちでいた。

 

「それより…神奈子、貴様はこの戦いをみてどう思った?」

 

ベジータは不意に神奈子に聞いた。

 

「どうって?」

 

「思った通りに答えてみろ」

 

 

神奈子は少し考えてから口を開いた。

 

「私がいうのもアレだが…かなり高いレベルの戦いだったと思うぞ」

 

「そうか…」

 

神奈子はベジータが何を言いたいのかわからなかった。

 

「…そういうベジータはどう思ったのだ?」

 

 

神奈子がそう言うとベジータは黙り込んだ。しかし少ししてから口を開く。

 

「〝勿体無い〟オレにはこれしか思い浮かばない」

 

神奈子が想像していた答えと全く異なっていた。

 

「勿体無い…?どういうことだ?」

 

 

「この幻想郷には…強い奴が多い。なにかしら能力を持っていたり才能を持った奴が多いという事だ」

 

「それだけに…〝この程度〟の力しか出しきれていないことが勿体無いということだ」

 

 

ストレートな感想を言った。

 

 

「…なるほど。確かにお前からしたら〝この程度〟と言われてもしょうがないな」

 

「別に皮肉で言っている訳ではない。ここの連中には確かに貴様の言う光るものというものがある。…修行を積めば更に高みに上れるだろう。しかし…」

 

ベジータは言葉を詰まらせた。ここまで聞くと神奈子もベジータの言いたいことがわかった。

 

「なるほど…確かに幻想郷の連中は修行などをするタイプじゃないな。ベジータが言いたいことはつまり平和ボケしてるって事だろう?」

 

「…ああ。貴様らは幻想郷に敵がやってくることは考えないのか?」

 

世界が違うのだからベジータの世界とこちらの世界では色々違うのだろう、とわかりながらも聞いた。

 

「まぁこの幻想郷には結界が…いや、確かにお前のいう通り平和ボケしているのは確かだ。顔が上がらないな」

 

「…まぁいい。世界自体が違うのだからな。ここはオレ達の世界とは違う…だが」

 

「ん?」

 

「フッ…安心しろ。もしそんな敵が現れても…こいつが倒すんだからな」

 

ベジータはビシッと美鈴を指差した。

 

「美鈴が…」

 

「ああ。このオレ様が修行をつけてやるんだ。どんな敵でもこいつ1人でなんとかできるほど鍛えてやる」

 

はっはっは!とベジータは笑った。人に修行をつける楽しさのいうものを自覚はせずとも感じているのかもしれない。

 

「フフ さすがだな。…それはそうとベジータ。」

 

「なんだ?」

 

「なぜ美鈴がお前の代わりに戦いたいと言ったか…わかるか?」

 

「戦いたかったからだろう」

 

「……」

 

初日にも思ったが、やはりベジータは戦闘マニアだと神奈子は思った。

 

「ま、まぁそれも少なからずあるかもしれんが…お前が前に言ったよな? 〈仲間など時には足枷にしかならんこともある。そんなものに頼って戦うなどオレはゴメンだ。〉とな」

 

「ああ」

 

「恐らくだが…これが気になったのではないか?」

 

ベジータは黙り込んだ。

 

「…どういうことだ?」

 

 

ベジータは神奈子か何を言っているのかよく理解ができていない。

 

「……」

 

 

「…なんた?」

 

「…なんでもない。つまり美鈴が『今の自分は師匠の足枷にしかならない』と思ったのではないかという事だ。だから美鈴は今より強くなり、お前と対等になりなかったんじゃないか?」

 

「…なるほどな。あいつ、一丁前な考えを持つようになりやがって」

 

「まぁいいさ。よしっ」

 

胡座をかいていた神奈子がスッと立ち上がった。

 

「何処へ行く?」

 

「諏訪子の元だ。1人では時間がかかるだろう。私も手伝ってくるから2人を見ていてくれ」

 

 

神奈子は部屋から出て言った。

 

 

 

 

 

 

「(…やはりな。ベジータの弱点とまではいわないが〝欠点〟を見つけた)」

 

「(あいつは…“弱い者の気持ち”がわからないのだ。1番ではないものの常にトップクラスの力を持っていた故…か)」

 

「(それがスーパーサイヤ人3になる鍵とは思えないが…もう我らがどうこうするべきではない…か。八雲紫め、無理難題をよこしよって)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー次の日ー

 

 

 

ベジータは守矢の3人にもうここを去ることを伝えた。

 

「もういくの?」

 

「ああ。世話になったな」

 

「美鈴さん、身体は大丈夫ですか?」

 

早苗は自分より美鈴の心配をしていた。

 

「大丈夫ですよ!それより早苗さんだって…」

 

ニコニコとしながらお互いの心配をし合う2人。

 

 

「ベジータ、美鈴を頼むぞ」

 

「フッ、お前はいつから美鈴の親になったんだ?」

 

「1週間も暮らしたんだ。もう娘も同然さ」

 

「なんか神奈子ババくさーい」

 

たまらず諏訪子が突っ込んだ。

 

「う、うるさいぞ諏訪子!」

 

 

「…じゃあオレ達は行く。じゃあな」

 

「ああ。…いつでも戻ってこい」

 

「皆さん!少しの間、本当にありがとうございました!」

 

 

そう言った後、2人は飛んで行った。

 

さよーならー!という声がいつまでも2人には聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山を降りた2人はこれならどうするか決めかねていた。数日前ににとりから地底の話を聞いていたのに、2人はそのことを完全に忘れていた。

 

「師匠、これから何処へ行くんですか?」

 

「そうだな…よし!」

 

ベジータは何か思いついた。

 

「貴様はあっちへ強い奴を探しにいけ。オレはこっちを探しにいく」

 

遠くにある気が探れないベジータ達は、とりあえず2人別れて探そうという事になった。

 

「なるほど…それで見つけたらどう知ら」

 

「さっさと探すぞ。できるだけ強い奴をな」

 

「え?ちょっ」

 

「じゃあな」

 

 

 

 

 

 

美鈴の話に耳を傾ける事なく、ベジータは猛スピードで飛んで行った。

 

「…見つけてもどう知らせればいいのか」

 

はぁ…と肩を落とした美鈴もベジータとは逆方向に飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今のやりとりを上空にいた2人が見ていた。

 

 

「紫様。本当に彼女を…?」

 

「もちろん。行くわよ藍」

 

 

 

 

「紅美鈴に接触するわ」




はい、第31話でした。

ここで三章の終わりとなります。なんだか無駄に長い気がしたのは気のせいでしょうか。

ではここで終わります。お疲れ様でした。


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【4章】龍球の世界へ
【第32話】異世界


この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

やっとこさ4章へ突入です。


 

 

「強い人って…師匠と対等に戦える相手なんて幻想郷どころか別の世界にもいないでしょ…」

 

何も聞かずに別方向に飛んでいったベジータに対し、軽く愚痴のようなものを美鈴はこぼしていた。

 

 

「師匠も変なところでズレてますよね〜」

 

また一つ愚痴をこぼした。

 

 

 

 

「でも戦いに関しては〝天才〟 それは貴女もわかっているでしょう?」

 

 

「!!?」

 

独り言のつもりの愚痴に、誰かが返答した。

 

 

「…誰ですか!そこにいるのはわかってます!」

 

不意なことだったので美鈴は一瞬動揺した。しかしすぐに気を引き締め、構えた。

 

 

 

 

 

変な空間から女性が2人出てきた。

 

 

「はぁい、初めまして…『紅魔館の門番』紅美鈴さん」

 

出てきたのは幻想郷の賢者である八雲紫と紫に仕えている八雲藍だった。

 

 

「!! 貴女はスキマ妖怪…何の用ですか?」

 

紫を見た瞬間、美鈴はいつもより警戒した。

 

「…なんでそんなに警戒してるのかしら?」

 

「良くないことが起きそうだからです!」

 

「………」

 

前の神奈子達といい、紫は周りに、自分がどう思われてるのかが最近気になるようになっていた。

 

「ちょっと待て!」

 

2人の会話に藍が突然割り込んだ。

 

「確かに紫様は普段グータラしてるし、いつも何も言わずにふらっと出かけるし、どこか抜けてるところもあるがッ!無意味に悪さを起こそうなどという事は決してしないッ!」

 

ドンッ!と一歩前に出て藍はそう言った。

 

 

「藍…それはフォローのつもりでしょうけど…全然なってないわ…」

 

 

紫はゲッソリとした顔をしてそう言った。

 

「えっ!? あっ すいません紫様!!!」

 

 

「(何この人たち…)」

 

美鈴は目をポカンとして2人を見ていた。

 

 

「コ、コホン! …とにかく、紅美鈴さん。私は貴女に頼みたいことがあるの」

 

話を戻すために紫は真剣な顔をした。

 

 

「頼み?私に?」

 

 

 

 

 

 

「そう。貴女には…『ベジータがいた世界』に行って欲しいの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………チッ!」

 

 

ベジータも美鈴同様に飛んで探していたのだが、いつまで経っても強い者など見つからない為、一旦地上へ降りた。

 

 

「気が探せないことがこんなに不便とはな…」

 

降りた場所をキョロキョロと見渡す。しかし辺りは木しかない。ここは森のようだ。

 

「しかも霧が凄くて前が見えづらいな。 …苛々させやがって」

 

 

「とりあえずここを抜……!なんの真似だきさまら」

 

 

突然森に巣食う妖怪たちがベジータに攻撃を仕掛けてきた。しかしベジータは難なくその攻撃を躱す。

 

 

「ハッ…見ろよ、人間だぜ…」

 

「馬鹿が!食っちまうか…」

 

 

ゾロゾロと集まってきた。どうやらここは溜まり場らしい。

 

 

「オレはキサマらの様なゴミに構っている暇はない。死にたくなければさっさと消えろ」

 

そう言い放ち、妖怪たちに背中を向けて歩いて行った。

 

 

「逃げられるわけねぇだろ! 死ねぇぇぇッ!」

 

一匹が素早い動きでベジータに近寄り、殴りかかった。

 

 

 

 

 

 

何かが千切れる音がした後一気に血飛沫が上がる。その場にいた妖怪どもは甲高い声で笑っていた。 そんな中、一匹の妖怪が目を凝らして状況をよく見ていた。

 

「お、おい!!よく見て見ろよ!!」

 

「なんだうるせ……え?」

 

 

ポト…ポト…と血が滴り落ちる。しかしその血はベジータのものではなかった。

 

 

 

 

ベジータに襲いかかった妖怪は倒れた。

 

「どうやら死にたいらしいな」

 

 

ベジータが何かを投げた。 その〝何か〟はコロコロと妖怪たちの方へ転がっていく。

 

「これは…!」

 

それはさっきベジータを襲った妖怪の“首”だった。

 

 

「てめえ…いつ…」

 

 

 

 

 

また何かが千切れる音がした。そしていつの間にベジータは妖怪たちの中心へ来ていた。 …一匹の首をもったまま。

 

「なッ!!?」

 

 

 

「フンッ…」

 

今度は頭を握りつぶした。血飛沫はベジータの顔や身体にかかった。

 

「こいつ…化けもんだァ…」

 

ようやく妖怪たちは気づいた。自分達では何をしようがベジータに傷一つ付けられないどころか触れることすらできないことを。

 

 

「キサマら…運が良かったな。オレは良心的でな…敵を痛ぶったりはせん。 …楽に殺してやる」

 

強者が見つからないことや、霧で周りが見えにくいことなどでベジータは苛々していた。 …いや例え気分が良かったとしても攻撃を仕掛けた時点で妖怪たちの運命は決まっていた。

 

「ま、待ってくれ!俺たちは…!」

 

 

「言い訳なら閻魔にすることだな」

 

 

 

 

そう言った瞬間、超スピードで襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ゴミどもめ。更に苛々させやがって」

 

 

周りは血の海と化していた。気を使って殺そうと考えていたが、〝ある事〟を確認するために肉弾戦で片付けたのだ。

 

「このままにする訳にはいかんな」

 

 

 

 

バラバラにした妖怪たちを消し去るために気弾を撃った。それにより妖怪たちは跡形もなく消え去った。

 

「フンッ、無駄な時間だったぜ。はやく……!」

 

「誰か来るな…」

 

近くに気を感じたベジータ。何者かが近寄って来ることを察した。

 

 

「……っ!」

 

何者かはそこにベジータがいる事に気付き、咄嗟に隠れた。

 

 

「隠れても無駄だ。さっさと出てこい」

 

「!!…………」

 

 

 

 

現れたのは金髪の少女だった。

 

 

「…何の用だ。」

 

黙りながらもじっとこちらを睨んでいる少女に問いた。

 

 

「何の用ですって?こっちが知りたいわ。アレは何?」

 

少女は指差した。その指差した方向にはベジータが気弾であけた大穴があった。

 

「ゴミを始末しただけだ」

 

「ゴミ…まさか妖怪たちの事?妖怪だからって簡単に殺していいとでも思ってるの?」

 

少女は頭の回転が早く、すぐに理解した。

 

「そんな事はどうでもいい。キサマはオレと口喧嘩をしにきたのか?文句があるならかかってこい」

 

ベジータは少女を挑発した。雑魚妖怪たちとは違い、大きな気を感じたからである。

 

「文句なんてないけど…アンタのその態度が気に入らないわ!」

 

少女の周りに人形が現れた。どうやらその人形を使って戦うらしい。

 

 

「(…おもしろい)さっさとかかってこい」

 

 

「痛い目見せてあげるわ!」

 

少女がベジータに攻撃しようとした瞬間…

 

 

「アリス!!!」

 

 

 

聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

「あら?聞こえなかったかしら?じゃあもう一度言うわね」

 

 

「貴女には『ベジータがいた世界』に行ってほしい…と言ったのよ」

 

 

もちろん聞き逃した訳ではない。単に美鈴の理解が遅かっただけである。

 

「師匠がいた世界…ですか?」

 

「ええ、薄々感づいてると思うけど…彼は外来人よ。」

 

「師匠が…」

 

もちろんそう思わなかったわけではない。

 

「確かに…〝この幻想郷〟とか〝ここでの修行はチャンス〟とか言ってましたね」

 

「彼は私がこの幻想郷へ送り込んだの」

 

「なっ…そんなこと! ……なるほど」

 

一瞬疑ったがすぐに納得した。確かに紫の『境界を操る程度の能力』を使えば可能だと思ったからだ。

 

「ふふ…こんなこともできちゃうのよ、私の能力は」

 

「それでは…なぜ師匠をこの世界に?」

 

「え〜?そこまでは教えられないわ〜」

 

笑いながらそう言う紫。その笑顔を見て美鈴は少しイラっとした。

 

 

「では…なぜ私を師匠の世界に?」

 

「それはもちろん貴女を強くしてあげるためよ。今よりもっと強くなりたいんでしょ?」

 

「それと別世界へ行くことがなんの関係が?」

 

フッと紫は軽く笑った。

 

 

「貴女を更に強くする事が出来る人を知っているわ。今より段違いにね」

 

「!!」

 

嘘ではない。紫の目を見てそうわかった。

 

「そうですか。 …しかし、私は師匠の元で強くなりたいんです。他の人の元でなんか…」

 

 

 

「対等になりたいんでしょ?」

 

 

不意にそう言った。

 

 

「…なんですか急に」

 

 

 

「貴女はベジータを信頼し、尊敬している。それは私にもよく伝わるわ。 …けど貴女はそこで終わるつもりはないんでしょう?」

 

 

「つまり?」

 

 

「貴女はベジータと対等になりたいのよ。足なんて引っ張りたくない。背中を任せて一緒に戦えるほどに…ね」

 

「………」

 

心の中を見透かされているような気持ちだった。

 

 

「だけど今のままじゃ貴女は一生かかってもベジータに追いつく事は出来ない。…断言するわ」

 

「だから貴女のいう方から強くしてもらい、師匠に追いつけるようになれと」

 

「そうよ」

 

「…解せませんね」

 

美鈴には腑に落ちない点があった。

 

「なぜ貴女が私にそこまでする?それを聞かないと私は首を縦には振れません」

 

「………」

 

「………」

 

2人は数秒間見つめ合った。

 

「詳しくは言えないけど…これからの幻想郷のため、とだけ言っとくわ」

 

「……」

 

「…わかりました」

 

正直これだけでは全く理解できなかったが、紫にもなにが事情がある事ということを考えて、決断した。

 

「感謝するわ、美鈴」

 

そう言いながら前に手をかざし、スキマを開いた。

 

「この中に…」

 

 

「先に言っとくけど…私はその人にも会ったこともないし、その人が貴女を修行をつけてくれるとも限らないわ。

それにあちらの世界の者に幻想郷のことは他言無用…それでもいいかしら?」

 

 

「大丈夫です!なんとかしてみせます!」

 

 

美鈴はやる気に満ちた溢れた顔をしている。

 

 

「あっ!でも名前だけでも教え」

 

 

その瞬間、足元にもスキマができた。

 

 

「 えっ!? な、これ!?」

 

 

「ベジータのことは私に任せて。頃合いを見たら迎えに行くわ」

 

 

「ちょっ!?」

 

 

「じゃあ…いってらっしゃい❤︎」

 

 

 

 

わぁぁぁぁぁ…という叫び声が消えると共にスキマも消えた。

 

 

 

「まったく…紫様、また無茶をなされて…」

 

「いいのよ、これくらい強引で」

 

 

 

 

 

「さあ…どうなるかしらね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛ぅ……あれ?ここは?」

 

真っ黒な世界が広がっていたと思ってたらいつの間にかスキマが開いて地面に落ちた。

 

「森…ですかね…ていうか名前も顔を知らないのにどうすれば…」

 

「!!!」

 

「誰か来る! ……それも相当強い!」

 

凄いスピードで何かが近づいてきている事がわかった。

 

そしてその者は美鈴の元に辿り着いた。

 

 

 

 

「あれぇ?おねーちゃんこんな所で何やってるの?」

 

美鈴の元へとやってきたのはまだまだ小さい子供だった。

 

「…貴方は?」

 

 

「ボク? ボクは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「孫悟天だよ!」

 

 

 

 

 

 

 




はい、第32話でした。

美鈴が龍球入りというのは他の作品でやってみたかったのですが、これからの展開なども考え、この『ライバルを超えるために幻想入り』にブッ込んでみました。

タイトル詐欺じゃないか!と思う方もいるかと思いますが、あくまでベジータが中心である事は変わりませんので、ご了承ください。


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【第33話】悟天の実力

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

アニオリだったか原作にもあったのかは覚えてないですけど、スーパーサイヤ人の悟天の蹴りを食らって平気だったチチってやっぱり凄い…



 

「アリス!!!」

 

急に大声が聞こえた。ベジータはこの声に聞き覚えがあった。

 

「キサマは…博麗の巫女」

 

やってきたのは霊夢だった。

 

「はぁ…そういえば自己紹介してなかったわね。私は博麗霊夢よ」

 

以前あった時に魔理沙とは自己紹介したのだが、霊夢とはしていなかったのだ。しかしベジータからすれば名前などどうでもいい。

 

「何の用だ」

 

「そうよ、何の用かしら」

 

ベジータも少女も霊夢に対しピリピリしているようだった。

 

「ア、アンタ達こそ何するつもりよ。ピリピリしちゃって」

 

 

「この女がオレに文句があるようだ」

 

くいっとアゴを少女に向ける。

 

「だから文句なんて無いって言ってるでしょ!アンタが無意味に妖怪を消し飛ばしたりするから…!」

 

「ふぅ〜ん…」

 

霊夢はなんとなく状況を理解した。

 

「ベジータ、それって自分を襲ってきた妖怪を消し飛ばしただけでアンタからは何もしてないんでしょ?」

 

「えっ?」

 

「当たり前だ。あんな雑魚共に構っている暇はないからな」

 

「……」

 

少女は勘違いしていた事に気付き、顔を真っ赤にしていた。

 

「で、でも!そんな格好でそんな好戦的だったら勘違いしても仕方ないでしょ!」

 

確かに返り血まみれのベジータは、はたから見たら『やばい奴』である。

 

「…なぜそんなに顔を赤くしているんだキサマは」

 

「赤くなんてしてないわよ!う、生まれつきよ!」

 

少女の声はどんどん大きくなる。

 

「はいはい、そのへんにして頂戴。とりあえず喉が渇いたわ。アリスの家まで行きましょ」

 

「はぁ…はぁ…そうね」

 

少女は声を出しすぎて息切れしていた。

 

「待て、オレも行く」

 

「なんでアンタもくるのよ!」

 

「体を洗うためだ。 キサマ…さっきあんな勘違いをしたんだ。シャワーくらいは貸せ」

 

ぐぬぬ…と少女はしばらく迷ったが、腹を決めた。

 

「まぁ…いいわ。そんな格好で森をウロウロされても困るし。それと!」

 

「なんだ?」

 

「アリス・マーガトロイドよ!キサマはやめてもらえるかしら!」

 

そう言って早足で先に歩いて行った。

 

「随分偉そうな奴だな」

 

「(アンタが言うな)ほら、私たちも行くわよ」

 

 

アリスに続いてベジータと霊夢も歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美鈴は紫のスキマで、森のような場所へ飛ばされていた。見覚えはまったく無く、確かに異世界に来たという雰囲気は感じていた。

そんな美鈴の元に1人の少年が現れた。美鈴はその少年を見た瞬間にこう思った。

 

 

〝そんな馬鹿な〟

 

 

なぜそう思ったのかというと、その少年の〝気〟が信じられないほど大きかったからだ。

 

「あれぇ?おねえちゃんこんなとこで何やってるの?」

 

 

「…貴方は?」

 

 

「ぼく?ぼくは…」

 

 

「孫悟天だよ!」

 

 

 

少年はそう名乗った。今の所敵意などは感じられない。

 

 

 

「孫…悟天さんですか」

 

「うん!おねえちゃんは?」

 

悟天が名前を聞いてくる。悟天自身も美鈴を警戒してる気配はない。

 

「私は紅美鈴と言います。悟天さん、ここがどこだかわかりますか?」

 

訊きたいことは山ほどあるのだが、まずは状況を確認するのが先決だと思った美鈴はそう悟天に言った。

 

「ここ?ここはパオズ山だよ?」

 

「パオズ山? なるほど…悟天さんはなぜここに?」

 

「色んな食べ物がいっぱいとれるからだよ!」

 

 

案の定聞いたことない場所だった。やはり此処は美鈴がいた世界とは別の所のようだ。悟天はよく此処に来るのだろうか。

 

 

 

「おねえちゃんはどこから来たの?」

 

「え?」

 

なんとも答えづらい。いきなり異世界から来たと言っても信じる者など普通はいないからである。

 

「私は…その…今よりもっと強くなりたくて!遠い遠い国からきたんです!」

 

「へぇーそうなんだ」

 

「そうなんです。ハ、ハハハ…」

 

随分と曖昧な答えであったが、悟天がこれ以上追求してこなかったので事なきを得た。しかし強くなりたくて来た、というのは本当のことである。

 

「悟天さんはこの近くに住んでいるのですか?」

 

「そうだよ!あっちから来たんだ!」

 

悟天は自分が来た方向を指差して言う。こちらもなんとも曖昧な答えだ。

 

「そうですか…ではもう1つ、悟天さんは武術か何かをやってらっしゃるのですか?」

 

訊きたかった質問をした。なぜこう訊いたのかというと、まず悟天が道着を着ていたからである。なにもやってないのならこんな格好はしないだろう。

 

そしてもう1つは、悟天の〝気〟の大きさが尋常ではないからである。タダの子供がこれ程まで研ぎ覚まされた〝気〟を持つことはあり得ないからだ。

 

「うん!やってるよ!」

 

「やはりですか…では最後に1ついいですか?」

 

「えーまだあるの?」

 

最後にもう1つだけ訊こうとすると、悟天は明らかに嫌そうな顔をした。

 

「なにかご都合でも?」

 

「ボク、おかあさんに魚とキノコを採ってくるように頼まれてるんだー。早くしないと怒られちゃうよ」

 

悟天は悟天の母、つまりチチに晩御飯に使う魚とキノコを採ってくるように頼まれていたのだ。最初はちゃんと真面目に魚とキノコを採ろうとしていたのだが、パオズ山にいるトカゲなどを見つけてついつい遊んでしまっていたので、時間が無くなっていたのだ。

 

「なるほど、そうでしたか…じゃあこうしましょう!」

 

「え?」

 

「私と悟天さんが戦い、悟天さんが私に勝つ事ができれば私も魚やキノコを採ることに協力しましょう」

 

「ほんと!?やったぁー!!」

 

悟天は飛び上がって喜ぶ。

 

「ただし! …私が勝てば最後の質問に答えてもらいます!」

 

美鈴はそう条件を出した。正直なにが今1番気になっているかと言うと、それは悟天の実力である。

自分と互角…もしかしたらそれ以上の力を持っているかもしれないと感じたからである。

 

「わかったよおねえちゃん!」

 

「理解が早くて助かります。 …では始めましょうか!」

 

 

2人は一度距離を取る。

 

 

「じゃあ…かかってきなさい!」

 

そして美鈴の掛け声で勝負は始まった。

 

 

「いっく…」

 

悟天は開始そうそう右足に体重を乗せた。そして

 

 

「よーーーーー!!!!!!」

 

 

「なッ!!?」

 

凄まじいほどのスピードである。悟天のパンチを間一髪で交わした美鈴はバランスを崩した。

 

 

「よっ!」

 

「ぐっ…!」

 

悟天はよろけた美鈴の横腹に躊躇なく蹴りを入れる。その威力は軽いものではなく、美鈴は10メートル程吹っ飛ばされた。

 

 

「がっ…げほっげほっ!」

 

数秒間息ができなくなるほどのダメージだった。とても小柄な少年の攻撃とは思えない。

 

「(ゼッ…0の状態から…100のスピードに持っていくまでが速すぎるッ…それにこの蹴り…)」

 

 

「おねえちゃん大丈夫?」

 

「!? くっ!!」

 

「わっ!」

 

悟天は驚きながらも美鈴のアッパーを軽々と躱した。

 

「(い、いつの間に…!)」

 

美鈴は戦いでは常に集中力を最大限にまで高めている。今の蹴りを食らった後も、常に悟天の動きには細心の注意を払っていた。しかし

 

「まったく反応…できなかったッ!」

 

悟天がいつの間に自分の目の前に来ていたことにまったく気づかなかった。それが悔しくてドンッと地面を思いっきり殴る。その右手からは血が出ていた。

 

「お、おねえちゃん?ホントに大丈夫?」

 

悟天は様子が変わった美鈴を心配している。だがその余裕が美鈴は気に入らない。美鈴は、悟天は自分より格段に強いことに気づいてしまったからだ。

 

 

「孫悟天ッ!!!」

 

急に名前を呼ばれたので悟天は一瞬ビクッとした。

 

 

「本気でこい…!私も本気でいくッ!!!」

 

明らかにさっきまでの美鈴と今の美鈴は違う。

なんで急に美鈴が変わったのかまったくわからなかったが、悟天に出来ることは1つしかなかった。

 

 

「…わかった。 じゃあ思いっきりいくからね、おねえちゃん!」

 

 

 

そういって悟天も気を高め始めた。

 

 

 

 




はい、第33話でした。

悟天が悟空と同じくらい貪欲に修行に励んでいたらどんな風になったんでしょうね。

ではここで終わります、お疲れ様でした。


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【第34話】洗礼

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

相変わらずの内容カルピス。


 

「本気でこい…!孫悟天ッ!!!」

 

美鈴は、悟天は今の自分より数段上の実力だという事に気付いた。だがベジータの弟子としてここで諦めるわけにはいかない。全身全霊をかけて臨むつもりだ。

 

 

「おねえちゃんの気が…ドンドン上がっていく」

 

「いきますッ!」

 

 

今度は美鈴から悟天に攻撃を仕掛けた。パンチ、キックを繰り出し、組手が続く。

 

 

 

「うっ…」

 

美鈴の激しい気迫と手数により、悟天が若干押されてきた。

 

「たああッ!」

 

組手の中に悟天の一瞬の隙を見つけ、すぐさまそこに蹴りをいれる。悟天はなんとか左腕で防いだが、後方に吹っ飛ばされた。

 

「むう…」

 

「よく防ぎましたね!だけど…」

 

手をスッと前に出す。

 

「え?」

 

「『ビッグ・バン・アタック』!!!」

 

「!?」

 

美鈴の手から高密度の気弾が放たれた。悟天もさすがに受けきるのは無理と判断し、ギリギリでかわした。

 

 

ズドーーン!!!

 

 

気弾は悟天の後方にあった岩崖にぶつかった。

 

 

「くっ…よくかわしましたね!」

 

「……」

 

悟天は驚いていた。それは気は自分よりだいぶ劣っているが、技を繰り出す時だけは自分と同等以上の力を発揮しているからだ。

 

「おねえちゃん…すごいね」

 

「…すごい?私がですか?」

 

悟天は自分より強いのに何故か美鈴は嫌味的なものを感じなかった。悟天の目をみたら本気で言っていることがわかる。

 

 

「うん。なんて言えばいいのかな…わかんないや!」

 

笑顔で言った。美鈴は悟天のことを素直な子なんだなと感じた。

 

「じゃあ…ぼくも本気でいくよ!」

 

「望むところです!」

 

 

「ふぅ…はああああああッ!!!!!」

 

先ほどよりもさらに集中して気を高める。

 

「さすがですね悟天さん。まだ若いのにここまで… 」

 

「こ、ここまで…?」

 

「え…? ま、まだ上がる…!!?」

 

 

 

 

 

 

 

「これがぼくの本気だよ!おねえちゃん!」

 

 

「………」

 

美鈴は開いた口が塞がらなかった。それもそのはずである。

 

「? おねえちゃんどうしたの?」

 

「な…なんで…」

 

「え?」

 

「なぜ貴方がスーパーサイヤ人に!?」

 

美鈴は2つの事に驚いていた。まず1つ目は悟天がスーパーサイヤ人になった事だ。

 

「なんでって言われても…わかんないや」

 

「わかんないって…まぁそれは一旦置いといて…特に気になるのが!」

 

 

「貴方…本当に何者ですか?正直に言いますけど…」

 

「私が出会った者の中で、間違いなく〝1番強いです〟」

 

 

隠さずにちゃんと言った。そしてそれは真実である。メイド長の咲夜より、紅魔館の主のレミリアより、前戦った早苗より…そして

 

 

「悔しいですけど…私の師匠よりも…貴方の方が強いです」

 

 

認めたくなかったが、〝美鈴の知るベジータ〟よりも悟天の方が強い事は戦わなくてもわかった。

 

「なんか照れるなぁ…」

 

悟天は恥ずかしそうに頭をかく。

 

「だからこそ…私は貴方を倒したい!!!」

 

グッと構え直す。先ほどのように頭に血が上っている状態ではなく、今の美鈴は心身ともに充実していた。

 

「ぼくもおねえちゃんを倒したい!いくよ!」

 

 

「(勝てるのかではない…勝つんだ!)」

 

ベジータに言われた事をここで思い出し、自分に言い聞かせる。

 

「いきますッ!はあああ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美鈴が気合を入れて悟天に攻撃を仕掛けようとした。しかしその瞬間にドスンという鈍い音がし、それと共に意識が遠のいていく。

 

 

「……え…?」

 

先ほど前10メートルほど離れていた悟天が、いつの間に目の前にきていた。

 

何もされてないはずなのに体が動かない。美鈴は立っていられなくなり、膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

「ぼくの勝ちだね!おねえちゃん!」

 

 

 

悟天のそんな言葉を聞いた後、美鈴は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方そのころベジータは、返り血でまみれた体を洗うためにアリスの家にきていた。

 

 

シャワーを浴びたのはいいが、血まみれだった服をもう一度着るわけにはいかずベジータは困っていた。

 

 

「おい女」

 

とりあえず脱衣所の外にいるアリスを呼んだ。なんとかさせようと思っているのだ。

 

「うるさいわよ!あと女って呼ばないで!さっきちゃんと名乗ったでしょ!」

 

「なんでもいいから服を用意しろ」

 

「聞きなさいよ! …まぁいいわ、そこのタンスを開けてみなさい」

 

「タンス…ここか」

 

ベジータは言われた通りにタンスを開けてみた。そしてその中にはベジータが先ほどまで着ていたのと同じ服が入っていた。

 

「キサマ…何故これを」

 

「後で話すわ。とりあえずさっさと着替えなさい」

 

よくわからなかったベジータだったが、とりあえず着替える事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方コーヒー飲めるの?」

 

「ああ」

 

着替えた後リビングにきた。そこにはアリスと霊夢が座っており、ティータイムを楽しんでいた。

 

「何故キサマがこの服を持っていた?」

 

「アンタがシャワー浴びている間に作ったのよ!感謝しなさい!」

 

「フンッ…一応礼を言ってやる」

 

「一応ってなによ一応って!」

 

アリスは怒るがベジータはまったく聞いていない。

 

「霊夢といったな、何のためにこんなところまできたんだ?」

 

「こんなところって何よ…」

 

アリスがベジータに突っ込む。

 

「んー?別にー?アリスがいつも暇そうにしてるから遊びに来てやっただけよ」

 

お菓子をボリボリ食べながら霊夢は答える。

 

「アンタ達本当に上から目線ね…霊夢に至ってはご飯を食べに来てるだけでしょ」

 

「ん?メシがあるのか」

 

ピクっとベジータは反応した。

 

「な、なによ。まさかアンタも霊夢みたいに集るつもり?」

 

「集るって言うな」

 

守矢神社に出る前に随分食べて来たのだが、少し動いてしまったせいでまた小腹が空いてしまったのだ。

 

「フンッ、仕方ないから晩飯まで残ってやるか」

 

「そうね、私も仕方なく残ってあげるわ」

 

2人ともすごく上から言った。アリスは2人にイライラが止まらない。

 

「(こいつら…!)まぁいいわ。じゃあその代わり2人で魚とか薪とか

持って来て頂戴」

 

晩御飯まで時間があったため、アリスはベジータと霊夢にそう頼んだ。

 

「えー…お客さんは労わりなさいよ〜」

 

ぐで〜っとしたまま霊夢は言う。

 

「文句言わないで!さぁ!早く行きなさい!」

 

「チッ…仕方ない、行くとするか」

 

コーヒーを飲み終わった後、ベジータは立ち上がった。そのベジータをみて霊夢も溜息を吐きつつ立ち上がった。

 

「よしよし、それでいいのよ。いっぱい食べたいならいっぱい魚釣って来てね」

 

「フン、嫌というほど持って来てやる。行くぞ霊夢!」

 

「はいはい」

 

 

 

ベジータはあまりやる気のない霊夢を連れて外へ出ていった。




はい、第34話でした。

2つの場面をかくのってほんと難しいです。
では終わります、お疲れ様でした。


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【第35話】違和感

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

活動報告では既に言っていたのですが、実は第1話の冒頭に挿絵を追加しました。よかったら見てください。


 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーーー

ーー

 

 

 

 

「……あれ…」

 

美鈴はベットの上で目を覚ました。なぜ今まで寝ていたのかを起きたばっかりの美鈴にはまったくわからない。

 

「ここ…どこ?」

 

辺りを見回すとどうやらここは室内であることは間違いないのだが、ここがどこかはまったく身に覚えがなかった。

 

「参ったなぁ…… っ!!!」

 

 

「そうか…私は負けたんだった…」

 

頭が大分冴えてきたところで美鈴は思い出した。それは悟天との勝負に負けたことである。悟天に負けた悔しさよりも、まったく手も足も出なかった自分への情けなさが心に響いた。

 

とりあえず美鈴は立ち上がってキョロキョロと周りを見渡した。部屋のドアを開け、廊下に出るとどこからかいい匂いがした。

 

「いい匂い…こっちかな」

 

美鈴は匂いのする方へ歩いていった。そしてそこは案の定キッチンで、女の人が1人で料理を作っていた。おそらく夕食の準備であろう。

 

「ん?ああ目が覚めたか」

 

「あ、あの私…」

 

美鈴は思わずタジタジする。

 

「いんだいんだ。とりあえずコレ運んでけろ」

 

「え? あ…」

 

美鈴は女性から料理の乗った皿を渡された。

 

「腹減ってるだろ?まずは飯を食ってからだ」

 

「すいません…」

 

美鈴はとりあえず皿を受け取り、テーブルまで運んでいく。

 

「おめぇどっから来たんだ?しらねぇ顔だけど」

 

「………えっ!私ですか?」

 

色々考え事をしていたので反応が遅れてしまった。

 

「…他に誰がいるんだ?」

 

女性は腕組みをして顔をムッとする。

 

「で、ですよね!すいません!」

 

美鈴は慌てて謝る。

 

「それで、どっから来たんだ?都じゃねえんだべ?」

 

皿を運んでいた美鈴の足がピタッ止まった。そして美鈴は「私は…その…」と言葉を詰まらせた。

 

 

「…まぁいいだ。言いたくないもん言わせてもしょうがないしな」

 

なんとなく深い事情がありそうだったので、女性はそれ以上追求しなかった。

 

「すいません。自分勝手で…」

 

「いいっていってるだ。それより悟天を呼んできてくれねぇか?今は外で薪を割ってるはずだべ」

 

「悟天さん…はい、わかりました」

 

 

 

 

 

そう言われて美鈴は外に出た。すると薪に向かって仁王立ちしている少年の後ろ姿が見えた。

 

 

「アレですね」

 

 

少年は薪に向かって「よっ」と言いながら手刀を打ち込む。すると薪は綺麗に真っ二つになった。

 

 

「悟天さん」

 

「ん?ああ!お姉ちゃん、目が覚めたんだ!」

 

悟天は振り向き、美鈴の心配をしてくれた。その心配が美鈴を少しだけまた情けなくさせた。

 

「気絶した私をここまで運んでくれたのは悟天さんですよね?本当にすいませんでした。魚とキノコを採る約束をしていたのに…」

 

「あ!そういえばそんな約束してた!すっかり忘れちゃってた!」

 

悟天は「まぁいいや!」と気にしていない様子である。

 

「お母様…ですよね。呼んでいらっしゃいますよ。夕食の時間みたいです」

 

「うん!わかった!」

 

返事をしつつ割った薪を集めて持ち上げた。それを美鈴も手伝い、薪棚まで持っていく。

 

「悟天さん…負けといて何なんですけど…1つ聞いてもいいですか?」

 

「また質問?なに?」

 

今度は嫌そうな顔をされなかったので美鈴は少しだけホッとした。

 

「私と貴方…つまり悟天さんは戦いました。そして私が敗れた。全力を出し切ったのにです」

 

「うんうん」

 

「その時…私に少しでも脅威を感じましたか?」

 

「きょういって……なに?」

 

「え?ああ…じゃあ私に怖さを感じましたか?」

 

悟天は黙り込む。そして目を瞑って考えた。

 

「ぼくは…お姉ちゃんを怖いとは思わなかったなぁ」

 

当然である。あの魔人ブウをみてきた悟天にとって、美鈴は〝怖い〟と思える対象にはならない。

 

「そうですよね」

 

返ってくる答えは分かっていたのでそれほどショックではなかった。

 

「でもお姉ちゃんが 『孫 悟天!』で叫んだ時はビックリしちゃったよ!」

 

そう悟天が言った。美鈴に対するフォローなのかどうかわからないが、美鈴は思わずフッと笑った。

 

 

「つまらないことを聞いてすいません!早く戻りましょうか。お母様が待ってますよ!」

 

「うん!ぼくもうお腹ペコペコだよ〜!!!」

 

そうして雑談しながら2人で戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー幻想郷ー

 

 

「はい、ベジータ」

 

魚を採りにきていたベジータと霊夢。川に着くと霊夢はベジータに竿を渡した。

 

「何だコレは」

 

「何って…釣竿。魚を採る道具よ。まさか知らないの?」

 

フッと霊夢は鼻で笑いながら答えた。

 

「そんなことは知っている。オレが言いたいのはなぜこんなものを使うのかって事だ」

 

「はぁ?魚を採るのに釣竿を使うのがおかしいってこと?」

 

「ちがう。こうすれば…」

 

そう言いつつ川に向かって手をかざす。だが…

 

 

「……!?」

 

 

「…なによ。なにも起こらないじゃない」

 

「……」

 

ベジータは黙って掌をずっと見つめる。

 

「? まぁなんでもいいわ。私は薪を集めるからアンタちゃっちゃと魚釣ってね」

 

そう言い残し霊夢は他の場所へ飛んでいった。

 

 

 

 

 

「どういう事だ…」

 

 

ベジータが先ほどやろうとしていた事は、川の水面に向かって気弾を放ち、その反動で魚を打ち揚げるというものである。

しかし、手をかざし、いつものごとく気弾を撃とうとしても上手く撃てなかった。

 

「チッ…」

 

もう一度気弾を撃つために手を向けた。さっきと違い空へ向かって。

 

「……」

 

 

「…はああああッ!」

 

 

 

今度は先ほどより気を強く高め、気弾を撃った。軽く撃ったつもりの気弾はベジータが思っていたより大分パワーがあり、空中で大爆発を起こした。その衝動で近くの木にいた鳥がバタバタと飛び去っていく音が聞こえた。

 

 

「なにがどうなっている…まるで〝別人の気〟を操っているみたいだ…」

 

ベジータはいつも通りに気を操れていない。いつもは無意識に操っているものが、強引に引きずりださなければパワーを発揮できないようになっていたのだ。

 

「これまでとは悪化のスピードのレベルが違いすぎる。考えられるのは…あの女か」

 

実はベジータは、このもどかしさの予兆は前から感じていた。守矢神社で美鈴に修行をつけているうちから、何か自分に異変があるとは思っていたが、その時は特に影響も出なかったので放っておいた。

 

そして先ほど妖怪たちを始末した時も気弾を放ったのだが、大きな違和感を覚えなかった。しかし今、今までの違和感とは違う、まるで別人の体を動かしていると思わせるほどの違和感がでてきたことに驚きを隠せなかった。

 

「面倒な女だ。 …だがいまのオレにはどうすることもできん。何か策を…」

 

そう考えていると猛スピードで霊夢が戻ってきた。

 

 

「アンタなに考えてんのよ!まさかアンタの目的は幻想郷を吹っ飛ばすことじゃないでしょうね!」

 

すごい剣幕で上から言い放った。しかし霊夢が怒るのも無理はない。ベジータが放った気弾の威力は、あの短時間でかなりベジータから離れていた霊夢ですらすぐに気づくほどだったのだ。

 

「フン…そんな事をして何になる。 力のコントロールが上手くいかないだけだ。」

 

「コントロール?ああ…紫がアンタの力を制限したのに関係があるのね」

 

「恐らくな。この力に慣れないとオレはここらを吹っ飛ばしてしまうかもしれん」

 

ベジータがニヤリと笑いながら霊夢を見る。勘が鋭い霊夢はベジータの意図を感じ取っていた。

 

 

「私と戦って完全にコントロールできるようにするつもり?…面白いわ。実をいうと私もアンタの力を確かめたかったのよ。…でも短時間でそんなことできるのかしら」

 

ベジータの意図というのは、力をコントロールできるようにするという理由を使い、霊夢と戦うことだった。理由にすると言っても、このままじゃまずいと思ったので、力をコントロールできるようにならなければいけないというのは本当のことである。しかしこんな時でも戦うことを最優先に考えるのは実にサイヤ人らしい。

 

「短時間だと?何故そう思った」

 

「…ふんっ」

 

霊夢は霊力を高める。無風だったこの場が、霊夢の周りだけ風が軽く吹いていた。

 

「アンタは強い。それはアンタが魔理沙と戦っていた時から知ってるわ。だから……」

 

 

 

「手加減する余裕がないってことよ」

 

 

 

ドンドン霊夢の霊力は上がっていく。底が見えないほどのポテンシャルである。

 

 

「(こいつ…フンッ、まさか早苗以上の〝天才型〟がいるとはな)」

 

早苗を見た時も相当な才能を感じたが、霊夢は間違いなくそれ以上のモノをもっていた。

 

「キサマが本気を出せばすぐに決着がつくと…ククク…」

 

ベジータは笑う。 不気味なほどの存在感を醸し出しながら。

 

「何かおかしいことでも言った?」

 

 

「そいつは自分自身で気づかせてやる。心配するな…すぐに終わらせてやる!」

 

霊夢を指差しながらベジータはそう言った。

 

 

「上等よ…私と魔理沙を一緒にしない事ね…!」

 

 

霊夢も臨戦態勢に入り、深く構えた

 

 




はい、第35話でした。

美鈴と話していた女性というのはもちろんチチなのですが、絵も声もない状態だと口調のせいもありすごく男っぽいですよね。
脳内変換されるとありがたいです。

ではここで終わります、お疲れ様でした。


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【第36話】サイヤ人の王子VS博麗の巫女

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

ついに梅雨に入りましたね。暑くないのは嬉しいですけど通学が大変すぎる…


 

 

 

「私を魔理沙と一緒にしない事ね…!」

 

霊夢が集中する。すると霊夢の体から肉眼でも捉えられるくらいに霊力が溢れ出しているのがわかった。

 

「さて…やっと此処でオレの期待に応えられそうな奴が出てきたな」

 

ベジータもパキパキと指を鳴らして霊夢を見つめる。ベジータほどの戦闘経験があればリラックスしながらでも集中力を限界近くまで高められる。

 

「戦う前に聞かせて頂戴。 …ベジータ、アンタ本当に何者なの?違う世界から来たってことしか私達は知らないけど…一つだけ確信してることがあるわ」

 

「ほう、それはなんだ」

 

ベジータは霊夢に聞き返す。

 

 

「それはアンタが沢山の修羅場を潜り抜けてきただろうってことよ」

 

「ただ強いだけじゃそんな威圧感は放てない…アンタが何のために、何を守るために戦っているのか、それを聞きたいのよ」

 

 

「……」

 

ベジータが黙る。そんなことを聞かれたのは初めてだったからだ。

 

「オレはオレの誇りのために戦う。それがオレの…サイヤ人の宿命だ」

 

ベジータはそう答えた。〝誇り〟それはベジータが何よりも大切に思っているものだ。〝誇り〟のためなら何を犠牲にしても構わない。たとえ自分の命であっても…と考えていたのだ。だがそれは〝昔〟の話である。

 

〝誇り〟よりもベジータには大切なモノができてしまった。しかしこの霊夢とのやりとりでは口に出さなかった。

 

 

「〝誇り〟ね。 まぁアンタが言っていることもわからなくはないけど…でも、もしその〝誇り〟とやらで幻想郷を滅茶苦茶にする時が来たら…私は躊躇なくそれを砕くわ」

 

 

「ほう…どうやって」

 

「アンタが変な気を起こす前に教えといてあげる。上には上がいる事をね。それをアンタを倒すことによって証明するわ」

 

霊夢の集中力は最大にまで高まった。さっきまでアリスの家でダラけていた者と同一人物とは思えない。

 

「キサマこそわかっていないようだな。まあいい。キサマのようなエリートには1度知るべきものがある。それは…〝圧倒的敗北〟だ!」

 

「さぁ!きやがれッ!」

 

 

「フンッ!そっくりそのままお返しするわッ!いくわよッ!」

 

「《霊符「夢想妙珠」》!」

 

「!!」

 

霊夢は様子見と言わんばかりの攻撃を繰り出してきた。複数の陰陽玉がベジータの周りに広がり、ベジータに向かってくる。

 

その弾幕を見ながらベジータは高速で移動し、回避する。しかし追尾しながらベジータに向かってついてくるので、完全にかわしきれてはいない。

 

「ほらほら、逃げるだけじゃ私には勝てないわよ。それとも逃げ回るのがアンタの戦い方なのかしら?」

 

「…ぬかせ」

 

避けきることは不可能だと思ったベジータは先ほどよりずっと高く飛び、周りへの被害が出ない事を確認した。

 

 

「はあああああッ!!!」

 

そして気を全力で解放し、向かってきている弾幕を消し飛ばした。ベジータの周りにゴオオオ!と凄まじい音が響いた。

 

 

「この程度の攻撃でオレにダメージを…」

 

ベジータは下にいた霊夢を見下しながら言った…つもりだった。

 

 

「こっちよ!」

 

「!!」

 

 

 

 

霊夢の凄まじい蹴りがベジータの腰へクリーンヒットした。ベジータはまったく受け身を取れずに地面に向かって吹っ飛ばされた。

霊夢の先ほどまでの弾幕と挑発は、ベジータの隙を作るための囮だったのだ。

 

「まだよ!」

 

 

 

吹っ飛ばされたベジータに向かって、霊夢は追撃の弾幕を撃つ。

 

 

 

「!!」

 

地面で受け身をとった後、ベジータはでかい気弾を放った。その気弾は霊夢の細かい弾幕を打ち消した後、全く威力を落とさずに霊夢に向かったが、ギリギリかわされた。

 

 

「まさかとは思うがそれは攻撃なのか?」

 

「言ってくれるわね」

 

 

「今度はオレからいくぞ」

 

そう宣言し、構える。霊夢はこの構えに見覚えがあった。

 

「(これは…魔理沙と戦った時の)」

 

 

「くらえ! ギャリック砲ー!!!」

 

 

ベジータの全身から凄まじい気攻波が放たれた。その放たれた直後、霊夢はある違和感を覚えた。

 

 

「くっ!《宝具「陰陽鬼神玉」》!」

 

霊夢は青く巨大な霊力弾でギャリック砲を迎え撃とうとする。 だが…

 

 

 

「なん…って威力なの!」

 

 

ギャリック砲の威力は凄まじく、あっさりと押され返された。霊夢は間一髪のところでギャリックの射程から脱出したが、ベジータの追撃の蹴りをくらい森へ吹っ飛んだ。先ほどのベジータと同じ光景のようである。

 

 

「はぁ…か弱い女の子相手でもあいつ容赦ないわね」

 

霊夢はケロっとしながらパタパタと服をはたき、立ち上がって再びベジータの元へと飛んだ。

 

 

「今の蹴りをくらって平気な顔をするとはな。とことんムカつく奴だぜ」

 

「フン…それはアンタが〝手加減〟してるからでしょ?」

 

 

ピクッとベジータは反応した。

 

 

「手加減だと?」

 

「アンタは攻撃の強弱が激しすぎるわ。さっきのビームみたいな弾幕はとてつもない威力だったのに、今の蹴りは正直いって魔理沙より弱いわよ」

 

「……」

 

「まぁそれが紫のしてた『力の封印』ってやつに関係してるのは確かなんだろうけど…アンタも相当な面倒ごとに巻き込まれたみたいね」

 

「…フン」

 

「何はともあれ今のアンタは〝バランス〟が悪いわ。力んでたって私には勝てないけど…それでも続ける?」

 

「……」

 

ベジータはブツブツと呟きながら何かを考え込んでいる。

 

「まぁアンタがやめるわけないか」

 

霊夢は短時間しかベジータと一緒にいてなかったが、ベジータの性格は大体把握していた。

 

 

ベジータはとりあえず頭の中で考えていることを整理した。

 

「(…この戦いでわかったことがある。今のオレの力は〝オレでない誰か〟に操られている。無論オレ自身も力を引き出そうとすればできる…しかしその誰かと同時に力を引き出そうとすると思うようにいかなくなる。まぁ十中八九あの女のせいだろうがな)」

 

 

 

 

ベジータが思っていることをわかりやすく説明すると、今ベジータの力を引き出せるのはベジータだけではなく、もう1人の『誰か』がいる。

ベジータだけが力を引き出そうとすると、もちろん10割の力を発揮できる。しかし『誰か』と同時に力を引き出そうとするとそういうわけにはいかない。

 

先ほどベジータがギャリック砲を撃ったときは、ベジータのみが力を引き出したため10割の力を発揮できた。

しかしその後の蹴りはもう1人の『誰か』と同時に引き出したため、ベジータは2割ほどしか引き出せなかった。なぜベジータが2割ほどしか出せなかったのかというと、ベジータが『誰か』より気が小さかったからだ。

要は綱引きのような状態になっていて、気の大きいほうが力をより引き出せるということだ。

 

 

 

「(これは『力の封印』をしたとはいえ、オレが気の大きさであの女より劣っているということだ。あのクソ女め、オレと初めて会ったときは気を抑えてやがったのか)」

 

 

「…さっきからブツブツと何を言ってるの?めんどくさいからそろそろ終わらせるわよ」

 

 

「簡単なことだ」

 

「は?」

 

「簡単だと言っている。何やら小細工をしたみたいだがオレには関係ない。要はオレが一方的に力を引き出せるようになればいい」

 

「どういうこと?」

 

「つまり…こういうことだッ!!!」

 

 

「はあああああああッ!!!!!」

 

 

 

「っ!!?」

 

一瞬でベジータの気が限界を超えていく。それを霊夢もなんとなく感じていた。

 

 

「…スーパーサイヤ人になればオレがあの女に劣ることなどありえん。いつも通りに戦えるということだ」

 

「……」

 

ベジータはスーパーサイヤ人になった。スーパーサイヤ人になれば戦闘力も爆発的に上がり、『誰か』に力を引き出される心配がないからである。

 

「これでゴチャゴチャ考えずに済む。さっさと終わらせるぞ霊夢」

 

先ほどまで集中を切らしていた霊夢は一気に集中力を戻した。

 

 

「はぁ…スーパーサイヤ人…ね。なんかまだ隠してそうと思ったけどまさかここまでとはね」

 

「戦意喪失したとは言わせんぞ」

 

 

「戦意喪失?バカ言わないで。むしろ…」

 

 

 

 

「面白いじゃない」

 

 

 

 

霊夢がニヤッと笑う。普段霊夢は戦うことに関して楽しさなどは求めてないが、ベジータの純粋な〝強さ〟を見て、普段騒がない血が騒いでしまった。

 

「ふぅ…はあああああ…!」

 

深く息を吸い、はいた。すると霊夢の霊力がさらに上がっていく。先ほどまでは本気ではなかったようだ。

 

「いくわよ!」

 

 

 

霊夢はお祓い棒を取り出し、武器として使うつもりだ。

 

「《霊符「夢想妙珠」》!!!」

 

ベジータの前方に5つの霊力弾を放つ。1つ1つの大きさがベジータの体くらいあり、追尾性もしながらベジータを襲う。

 

「追尾しやがるのか。… はああッ!」

 

 

高速で避けていたベジータがいきなり止まり、バリアーを展開した。5つの霊力弾はバリアーに弾かれ、下にある森へバラバラになりながら落ちていった。

 

 

「ハナから効くとは思ってないわよ!」

 

霊夢は地面に足をつけた。霊夢と同じようにベジータも下へ降りてきた。

 

「《神技「八方鬼縛陣」》!」

 

 

「!!!」

 

 

霊夢が地面に手をつくとベジータの周りに結界が出現した。離れなければ確実にダメージを食らうだろうと理解した。

 

 

「チッ…」

 

結界から急いで離れようとした瞬間…

 

 

「ほっ!」

 

「!!」

 

お祓い棒で霊夢が攻撃してきた。恐らくベジータがどのように動くのか計算していたのだろう。

 

「無駄だッ!」

 

霊夢の一撃を右腕で防いだ。お祓い棒は木でできたものだが、霊夢の霊力が込められているので、ベジータの思っているよりだいぶ重い攻撃だった。

 

霊夢のお祓い棒での攻撃は、ベジータに一瞬の隙を生んだ。そして霊夢はそれを見逃さなかった。

体を捻り、ベジータの胸に蹴りを入れたのだ。虚を突かれたベジータは何を抵抗できずに後ろへ吹っ飛んだ…先ほどの結界の元へ。

 

「なッ…!」

 

 

 

 

ベジータが吹っ飛ばされた直後に結界が大爆発を起こした。

爆発する直後まで近くにいたため、霊夢自身も多少ダメージを食らってしまった。

 

 

「くっ…でもベジータは…」

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

大爆発を起こし、煙を上げていた場所を見ていたら、前から気弾が飛んできた。

 

 

 

 

「ぐはッ…!」

 

気弾は霊夢の肩に当たった。スピード重視の1発だったため大きなダメージはなかったものの、一瞬霊夢の隙を作るのにはそれで十分だった。

 

 

「食らいやがれッ!『ビッグ・バン・アタック』!!!」

 

 

霊夢が今食らった気弾とはわけが違う。まともに食らえばそれで終わるほどの威力があることは一瞬でわかった。

 

 

「に、二重…」

 

霊夢は上体を立て直し、技を出そうとするが…

 

 

(間に合わなッ…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日1番の爆発音が鳴り響く。本来のベジータの攻撃としては物足りない威力であるが、確実に、霊夢に大ダメージをあたえたと確信した。

 

 

「はぁ…はぁ…チッ!手こずらせやがって!」

 

先ほどの霊夢の技はベジータといえどかなりダメージを食らってしまったようだ。

 

 

あたりには風が吹き、どんどん煙が消えていく。ベジータはそこに霊夢が倒れていると思っていた。

しかし…

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

「きさま…どうやって…」

 

 

霊夢は無傷でそこに立っていた。無傷といってもさっきの1発を食らわなかっただけで、それ以前のダメージは残っている。

 

 

 

 

「夢想天生…」

 

そう呟いたと思ったら霊夢は空気のようにフワッと浮き上がった。

 

「(なんだこれは…見えているのに、まるで霊夢が〝存在していない〟ような…)」

 

 

先ほどの霊夢とは明らかに〝異質〟だという事にベジータは気づいていた。

 

 

 

「やっぱりアンタは強い…けど私は絶対に〝負けないわ〟」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、第36話でした。

あれ?この2人ただ適当に理由つけて戦いたいだけじ(ry
今回は設定が複雑すぎるのと、私の説明力の無さもありかなり分かりづらかったかもしれません。質問などはネタバレにならない限り答えるつもりなのでじゃんじゃんお願いします。
後この設定はNARUTOをほんのちょっと意識しました。分かる人には分かると思います。(笑)

ではここまでです。お疲れ様でした。


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【第37話】根比べ

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

私の説明力が無さすぎて言いたいことが伝わらない可能性が大きいです(涙目)


「紫様!」

 

八雲紫の式神である八雲藍は、紫をみながら心配していた。

 

「大丈夫よ…まさかスーパーサイヤ人になってここまで気が上がるとは思ってなかっただけ」

 

紫は幻想郷に強力な結界を張った。その結界はベジータの〝気〟で作られており、現在幻想郷に張られている結界よりも丈夫なものだった。

 

 

「この指輪に貯めてた〝気〟で結界を作ろうとしたのはいいけど…まさかこれほどまでの力が必要になるとは思わなかったわ」

 

バラバラに壊れている指輪をみてから紫は呟く。

 

紫は『力の封印』時に指輪に貯めた気で結界を張ろうとしたが、その結界を紫では扱うことができなかったのだ。

 

しかし指輪にはベジータの〝気〟が込められている。

なので紫はそのベジータの〝気を操り〟結界を作って幻想郷に張ったのだ。つまり、溜めていた〝気〟の大部分で結界を作り、後の部分の〝気〟で結界を張ったのだ。

 

そして指輪には2つの効果がある。

 

1つはベジータの〝気を〟蓄える(・・・)こと。

そしてもう1つはベジータ自身の〝気〟を指輪をはめた対象者が操れる(・・・)ようにすることだ。

 

操れるといっても力を引き出せるのはより〝気〟のデカイ方だ。『力の封印』をしていて、かつ普通の状態のベジータなら紫の方が〝気〟が大きく、力を引き出すことができる。

しかしスーパーサイヤ人となれば話は別だ。当然の如く紫よりベジータの方が〝気〟がデカイため、紫はベジータの力を使えなくなったのだ。

 

そしてベジータがスーパーサイヤ人になった衝撃に耐えられず指輪は壊れてしまった。力が均衡していたのならこうはならなかっただろう。

 

「紫様…これで彼はもう…」

 

「ええ。『力の封印』をしてはいるけど…これで正真正銘ベジータを止めることはできなくなったわ」

 

遅かれ早かれこうなることはわかっていたので、それほど衝撃的なことではないと紫は思った。

 

同時に藍もあることに違和感を覚えていた。

指輪をはめ、ベジータと〝気〟で力の引っ張り合いをしていた紫に対してである。

いくらベジータがスーパーサイヤ人になったとはいえ、こんなにも一方的になるはずがない。要するに紫の力はこんなもの(・・・・・)ではないとわかっていたのだ。

 

 

「……彼は大丈夫なんですか?無茶な戦いをしていそうですけど」

 

 

「相手は恐らく霊夢だから大丈夫…だといいわね…」

 

 

よくよく考えると不安しかない…と紫は今気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢想天生…」

 

霊夢が小さくそう呟くと、ふわっと少し浮き上がった。心なしか先ほどより霊夢が透明質に感じた。

 

 

「………」

 

今までとは雰囲気がまるで違う霊夢をみたベジータは、2、3歩後ろに下がり様子を伺っていた。

 

ベジータほどの戦闘経験があれば、相手がどんな技を使ってもすぐさま対応できるので間を置く必要はない。しかしそのベジータですらも何も考えずに突っ込むのは躊躇うほど、今の霊夢は〝異質〟であった。

 

 

「どうしたの黙り込んじゃって。怖気ついた?」

 

霊夢はまたベジータを挑発する。しかし決して油断をしているわけではない。状況を冷静に把握していた。

 

 

「一応聞くが…どんな能力だ?」

 

「……さあね。お高くとまってる誰かさんの鼻をへし折る能力とかどう?」

 

「…フンッ」

 

自分の能力を意味なくペラペラと喋る者などいるわけない。

 

 

「はあああああッ!」

 

 

霊夢は自分が動くまで動かないと察したベジータは、気を高めまっすぐに向かっていた。

霊夢とあの少しでぶつかると思ったところで高速で後ろに回り込み、うなじにめがけてパンチを繰り出した。

 

 

 

「っ!!?」

 

 

確実に当たると思った拳は、霊夢に当たることはなく空振りとなった。

もちろんベジータが目測を誤ったなどということではない。

 

 

「…無駄よ。アンタの攻撃はもう当たらないわ(・・・・・・)

 

「(攻撃が…すり抜けた…)」

 

 

ただ単にパンチが当たらなかった訳ではない。まるで煙のようにすり抜けたのだ。

 

 

「はああッ!」

 

今度は霊夢に向かって気弾を放った。

 

 

しかし───

 

 

「無駄だっての」

 

 

 

当たらない。

 

気弾は霊夢をすり抜け、後方に聳え立っていた大きな木にぶつかって小爆発を起こした。霊夢はその光景を当然のように見ている。

 

 

 

 

「気弾はダメか」

 

「気弾()よ。殴ろうが蹴ろうが今みたいな弾幕だろうが私にはもう当たらない」

 

『夢想天生』とは霊夢の技であり、霊夢自身が不透明な透明人間になり、どんな攻撃すらも当たらない。すなわち無敵になるものである。

 

 

「(どんな技かは大体想像がつく。だが対策ができるかといったら微妙だな…面倒だぜ)」

 

考えながらも再び霊夢に向かって攻撃を仕掛ける。しかしパンチもキックも霊夢には当たらない。

 

「はッ!」

 

ベジータの攻撃がすり抜ける中、霊夢はカウンターを仕掛ける。ベジータの隙を見つけそこへ蹴りを入れたのだ。

 

 

「ぐっ…きさま…」

 

「…今みたいにアンタの攻撃は当たらないけど私の攻撃はアンタに届く。わかったでしょ?私は無敵なの」

 

夢想天生を解いた霊夢がベジータと距離を置いて言った。

 

 

「無敵だと?」

 

「ええ。だってそうでしょ?事実アンタは私に手も足も出てない」

 

「なめやがって…これからだッ!」

 

 

気を高め超スピードで霊夢に向かう。しかしどんな攻撃を当たるわけはなく虚しくすり抜ける。

 

「しつこいわよッ!」

 

「っ!!」

 

 

霊夢はベジータの腹に拳を入れた。そして軽くフラついたベジータに大量の弾幕を撃った

 

ベジータは至近距離であったことから防御もままならずまともに食らってしまった。全身から煙が出ており、服は若干焦げていた。アリスが見たら絶対に怒るだろう。

 

 

「諦めなさいよ。これ以上やったところで結果は変わらないわよ」

 

 

「ククク…諦めるだと?それなら死んだほうがマシだ」

 

「(確かにあの技を使った霊夢に攻撃を当てる手段はない…なら〝あの一瞬〟を狙うしかねえ!)」

 

会話をしながらベジータは考えついた。霊夢の倒し方を。

 

「こんなことで死んで何になるのよ。潔いほうが身のためだと思うけどね」

 

「フン…くだらんな」

 

 

「…はぁ。アンタ元の世界でも───」

 

「(今だッ!!!)」

 

 

右足に全ての体重をかけ、超猛スピードで霊夢との距離を詰めた。

ベジータは霊夢が〝夢想天生を解く瞬間〟を狙っていたのだ。

 

ベジータが見る限りでは夢想天生はすごく体力や気、霊夢でいえば霊力を消費する。だから会話が長くなれば一旦解く可能性が高いと思っていたのだ。

 

霊夢を倒すには夢想天生を解き、僅かに油断しているこの一瞬で決めるしかないと考えたのだ。

 

 

 

「!?」

 

しかしベジータの渾身の拳が貫いたのは空であった。霊夢はまるでベジータがこうする事を知ってたかのようにかわした。

 

 

「…惜しいわね。

 

 そして流石だわ。アンタなら気づくと思った…この一瞬の隙を」

 

 

「クソッ……」

 

ベジータはパンチをかわされた後、目で霊夢を追った。すると自分の真上で今まさに攻撃を繰り出そうとする霊夢の姿が見えた。

 

 

「《夢想封印》……

 

 

  終わりよ…!」

 

 

ベジータの周りに色とりどりの光弾が出現する。先ほどのパンチは一撃で決めようとしていたので、振りが大きくなり隙が生まれていた。防御も回避も間に合わないタイミングである。

 

 

「こ………いつッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

光弾はすべてベジータに命中し、大爆発を起こした。先ほどの『ビッグ・バン・アタック』に勝るとも劣らない威力だった。

 

 

「…夢想天生」

 

霊夢は念のために夢想天生を発動させながらベジータに少しだけ近づいた。

 

 

「正解よ。私を倒すには夢想天生を発動していない隙に倒すしか方法はない…けどその隙はあってないようなもの」

 

「隙がその1つしかないなら、私自身そこに意識を持って戦えばいいだけの話。…むしろアンタみたいな勘のいいやつはそこを突いてくるとわかってるから、かわしてカウンターを狙うこともできるのよ」

 

霊夢はベジータが〝一瞬の隙〟に気づくと思い、わざと夢想天生を解除した。そしてベジータが狙ってくるのはわかっているので、それをかわしてカウンターの『夢想封印』を食らわせたのだ。

 

ベジータにはその一瞬は霊夢の隙だと思っていたが、霊夢からするとそれは〝ベジータの隙〟を生み出す囮にすぎなかったのだ。

 

 

「…それにしても思ったよりアンタのスピードが速くて焦ったわ。力を制限してなかったらわかっていてもかわせなかったでしょうね」

 

霊夢はわかっていればどんな攻撃ですらかわせると確信していたが、ベジータのスピードが速すぎて若干焦ったのも事実であった。

 

 

 

「……」

 

「…アンタほんとに化け物ね。今のを食らって立ち上がるなんて」

 

 

砂煙が舞う中ベジータは立ち上がった。スーパーサイヤ人もまだ解けてはない。

 

 

「センスと勘だけで戦っていると思えば…割と頭を働かしているようだな」

 

ぺっと血を吐き、口を拭いながら言う。致命傷というわけではないようだ。

 

「こっちのセリフよ。 …さて、どうするつもり?どうせ諦めないんでしょ?」

 

「ああ。寧ろこれからが本番だ」

 

妙にベジータはやる気になっていた。

 

「よくわかんないけど…お腹減ったからそろそろ終わらせるわよ!」

 

先ほどからはカウンターしかしなかった霊夢が、今度は自分からベジータに攻撃する。

バシッバシッと大きな音を立てながら組手になるが、ベジータはあくまで霊夢の攻撃を防ぐだけで、まったく攻めてはいない。

 

「どうした?終わらせるんじゃなかったのか?」

 

「しつ…こいッ!」

 

 

 

連続の弾幕がベジータを襲う。ベジータからすれば簡単にかわせるスピードであったが、あえて腕でガードした。

 

 

「フッ…」

 

ベジータがニヤリと笑いながら霊夢を見る。しかし自分からは決して攻撃を仕掛けようとしない。

 

 

 

時間だけが過ぎていく。

 

 

何度も何度も同じことの繰り返しだ。霊夢が攻め、ベジータが守る。ガードしているとはいえ、ベジータには着実にダメージが蓄積している……が、表情に焦りが見えるのは霊夢の方だった。

 

 

 

「はぁ…はぁ…フンッ!攻撃をしなきゃ一生私には勝てないわよ!」

 

「…それはどうだかな」

 

 

すると突然にベジータは木の棒を拾い、地面に線を引いた。

 

 

「……なんのつもり?」

 

「これが間合いだ。オレがきさまを一瞬で倒せる距離というものだ」

 

 

勝ち誇った顔で答えるベジータ。霊夢はその意味がよくわからなかった。

 

 

「……? 攻撃が当たらないんだから間合いも何もないでしょ。忘れたの?私には夢想天生が………」

 

 

霊夢の言葉が途中で詰まる。

 

 

そう、ようやく気付いたのだ。

 

 

 

「やっと気づきやがったか」

 

「アンタ…まさか…」

 

 

「夢想天生って技は確かにどうやっても攻撃が当たらねえ。だからこれを使っている時に狙っても仕方ない。だからきさまを倒すには夢想天生を使っていない状態の時しかない。

 だからオレはまずこう考えた。きさまをどうやって普通の状態に戻すか…とな。その中で考えた策はきさまの〝スタミナ切れ〟だ」

 

 

ベジータは先ほどまでの戦いで、夢想天生は霊力と体力をすごく消費するものだとわかっていた。どちらかと言うと、超サイヤ人というよりは悟空の使う界王拳に似ている様なものだと。

 

 

「スタミナが切れれば夢想天生(それ)を解除せざるを得ない。しかしこの作戦で懸念されるのは…」

 

 

「私がちょくちょく夢想天生を解除して体力と霊力を回復させること…でしょ」

 

 

「その通りだ」

 

 

霊夢はちょくちょく夢想天生を解除させていたのは油断していた訳ではなく、霊力や体力の回復に努めていたからである。たとえ一瞬解いただけでもかなり回復できていることにベジータは気づいていた。

 

 

「ちょこまか回復されてたらスタミナ切れなどいつになるかわからん。だからオレはきさまに〝意図的には〟夢想天生(それ)を解除させないことにした」

 

先ほど霊夢が夢想天生を解除した時に、ベジータが超猛スピードで攻撃した時にはかわされたが、その時にベジータはわかった事がある。それは、霊夢が夢想天生を解除した瞬間に〝攻撃を当てられる距離〟である。

 

先程は距離が割とあって避けられたが、さらに近づけば霊夢では反応ができないので、絶対にかわされない一撃を食らわすことが可能になる。だから霊夢は夢想天生を解いて回復することはできない。

 

夢想天生を使っている内はしっかりと間合いを守り、霊夢が夢想天生を解除した瞬間に一撃で勝負を決めるようにする。

 

一見アホらしい作戦だが、ベジータにはそれが出来る。いや、例え出来なくても無理矢理やろうとする。霊夢にはそれがわかっていた。

 

 

「その為の間合いって事か…私の攻撃から避けずにわざと食らっていたのもその間合いから離れないためね」

 

「きさまが回復させようと夢想天生(それ)を解除したら、その瞬間にオレがきさまを倒す。回復させないならさせないでいい。スタミナ切れを待つだけだ」

 

「………」

 

 

「言っとくがオレは2度とこの間合いから離れることはない…きさまを倒すまではなッ!」

 

 

ベジータにとっても霊夢を倒すにはもはやこの方法しかない。しかし、勝ち方がたった1つだけとはいえ存在しているのなら、それはもうベジータが戦いを支配できるということだ。

 

「…私がアンタから全力で離れようとしても、ピッタリくっついてるから無理ってことか」

 

「ああ」

 

 

超サイヤ人になったベジータは霊夢より遥かに疾い。それは直線のみならず、横にも斜めにも同じ事だ。霊夢が全力でベジータの間合いから離れようとしても、霊夢のスピードでは不可能だ。どのように逃げてもベジータがピッタリとマークするだろう。

 

 

「フフフ…まるで恋人ね」

 

 

軽い冗談を吐く余裕もあるかと思えばそうでもない。

正直こんな方法で〝追い詰められる〟とは霊夢は思ってもみなかった。

 

 

しかしベジータのこの作戦にはいくつか欠点もある。

 

 

「でも正気?私から離れないってことは全ての攻撃をうまくかわせない。つまり至近距離で食らうって事になるってことよ。さっきのダメージもあるし…アンタそれに全て耐え切るつもり?」

 

その通りである。霊夢から離れられないということは大きく移動して弾幕をかわすことも、一旦距離を取り呼吸を整えることすらできない。

先ほどの『夢想封印』を再び食らう可能性も大きくなる。

 

 

「そんなことはわかっている。それでもやるだけだ」

 

「やっぱり正気じゃないわ…」

 

 

霊夢の顔には先ほどにはなかった焦りが感じられる。反対にベジータは不気味に笑っていた。

 

 

「博麗霊夢…根比べといくか」

 

 

ベジータの目は本気である。そして絶対に勝てるとか確信している目でもあった。

 

 

「こいつ…ッ」

 

 

霊夢は歯をギリッとさせながらベジータを睨んだ。

 

 

 




はい、第37話でした。

霊夢が戦いを楽しむってあんまりなさそうですよね。

ではお疲れ様でした。


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【第38話】決着

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

梅雨はジメジメしてて嫌いです。


 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

霊夢の顎から汗が滴り落ちる。肩で息をしており序盤の余裕は一切無いといった表情だ。

 

「……」

 

森の中で戦っていたベジータと霊夢。その2人の戦いは持久戦となっていた。霊夢の夢想天生が切れるのが先か、それとも狭い範囲で霊夢の攻撃を受け続けているベジータがやられるのが先か。

 

…しかしはたから見たらどちらが有利であるかは一目瞭然だった。

 

 

「どうした。こないのか?」

 

 

「………」

 

ベジータはこう言っているものの、すでにわかっていた(・・・・・・)

 

 

「アンタってつくづく嫌味な性格してるわね…」

 

そして暫く黙り込み、一呼吸置いて口を開いた。

 

「…参ったわ。私の…負けよ」

 

 

そう言いながら夢想天生を解いた。いや、解ける寸前に負けの宣言をしたのかもしれないが、それは霊夢にしかわからない。

 

 

「…ふう。慧音の言ってた通りに中々の実力を持っていたみたいだな。オレが幻想郷(ここ)で戦った中でも1番と言っていいだろう」

 

ベジータはスーパーサイヤ人を解いた。肉体的にも精神的にも幻想郷に来て1番疲れたかもしれない。

 

「あいつを知ってるの? というかそんなこと言われても全然嬉しくないわ。 …それより無駄に動いてお腹すいちゃった。帰ろっと」

 

霊夢は再びアリスの家に戻ろうとする。しかしその霊夢の肩をベジータがガシっと掴んだ。

 

「乙女の肩を急に掴まないでくれる?… なによ」

 

「キサマ…なぜ修行をしない?」

 

ベジータが真剣な目で聞いてくる。何か変な考えを持って聞いているわけではない。純粋な気持ちで聞いたのだ。

 

 

「はぁ?なぜって…めんどくさいからに決まってるでしょ。前にも言ったけど、私はめんどくさいことはしない主義なの」

 

そっぽを向いて腕を組みながら答える。

 

 

「それほど才能を持ちながら強くなりたいとは思わないのか?今よりさらに高みへ登れる可能性を捨てるのか?」

 

「別に。私は今の自分で満足してるから」

 

「…オレが敵だとしたらどうだ?」

 

霊夢は、はあ?といった顔をする。何を言ってんのアンタ、と言わなくても伝わるくらいだ。

 

 

「この戦いはあくまで互いの〝腕試し〟だった。だからオレはキサマをどうこうしようとする気は無い」

 

「だがオレが本当の敵だとしたら…キサマはオレに殺されていた。キサマが何か奥の手などを隠していなければな。それでいいのか?」

 

 

ベジータが言っていることはあくまでたらればの話である。これに近い話を神奈子とも以前していた。

 

 

「…その時はその時ね。私の運がなかったってところじゃない?そんな来るかわかんない時なんかのために、修行なんてやってらんないわ」

 

「フンッ!随分と楽な暮らしを送ってきたようだな!」

 

皮肉を込めて返す。なぜベジータが少し苛立っているのかというと、これほどの才能を持ちながら、霊夢に向上心がないからである。

 

別に霊夢に限った話ではない。元の世界でもベジータの周りには、トランクス、悟天、悟飯といった才能溢れる若者がいる。しかし、その3人からもベジータもしくは悟空と同じくらいの向上心は感じられない。

 

ベジータは悟空のように、これからの地球を守ってほしいなどと若者に求めているわけではない。ただ単になぜそれほどの才能を持ちながら、誰よりも強くなりたいという気持ち、向上心を出さないのかと甚だ疑問に思っているのだ。

 

 

「私からすれば逆に何でそんなに頑張るの?って思うくらいだわ」

 

「なに…?」

 

ベジータはピクッと反応する。

 

「だってそうじゃない。確かに修行をすれば今よりは強くなれるかもしれないわ。でも強くなって何がしたいの?アンタは最強になって何をするつもりなの?」

 

霊夢の言っていることも分からなくはない。自分の世界に、自分が全く敵わないほど強いバケモノがやってくるなど普通の者は考えないだろう。ましてや幻想郷の住人は。

 

ベジータの性格からして、世界を支配するなんて答えではないと思っていたが、どんな答えが返ってくるか霊夢は割と興味はあった。

 

 

「くだらん質問だな。最強になってなにをしたいか、ではない。〝最強になること〟自体に意味があるんだ」

 

「最強になる…ね。じゃあその最強になるとやらの定義はなに?何をしたら最強になれるの?」

 

「決まっている。それは…」

 

ベジータの言葉が止まる。一瞬悟空の顔が頭に浮かんだからだ。そして同時に思った。

 

 

〔オレはこんな所でなにをしている…?〕

 

 

そもそもこの幻想郷には遊びに来たわけではない。強くなるために来たのだ。

今の霊夢とのやりとりを全て放棄して飛び立ちたい気分に襲われたが、神奈子の言葉を思い出し踏みとどまった。

 

「(焦るな…気持ちにゆとりを持て…!)」

 

ふぅーと大きく息を吐いた。霊夢は首を横に傾げながら返答を待っていたのだが…

 

 

「ハラが減った。戻るぞ」

 

ベジータは霊夢の質問スルーして言い出した。

 

「はぁ!?私の質問に答えなさいよ!」

 

「キサマに話したところで何になる」

 

ベジータのツンツンした態度に霊夢のイライラが募る。

 

 

「アンタって本当に自分勝手ね…」

 

しかし逆に潔すぎて怒る気にもならない。

 

「そんな元気があるなら修行をするんだな。文句があるならオレを倒してからにしろ」

 

「…上等ね!待ってなさいよ!修行でも何でもしてやるわ!」

 

これを聞き、くいっとベジータの口角が上がる。

 

「修行はしないんじゃなかったのか?」

 

「…アンタを倒すまではやってやるわ。覚悟する事ね。この私ならちょっと修行するだけでアンタなんて余裕で追い越すから」

 

霊夢の決意が表情からよく伝わってくる。めんどくさがり屋といっても霊夢はやる時はやるのだ。でないと異変解決などするはずもない。

 

「ククク…おもしろい!今度はオレも本気を出させてもらおう」

 

 

あーだこーだ言いながら2人は意気投合しつつあった。そして2人は共に帰ろうとしたが…背後からただならぬ殺気を感じた。

 

 

「…ア、アリス?」

 

恐る恐る霊夢は振り返る。すると鬼の形相でこちらを睨みつけているアリスの姿があった。

 

 

「アンタ達…ひとの頼みごとを無視してなに遊んでんの?」

 

「フ、フン!遊んでいたわけではない!」

 

確かに遊んでいたわけではないのだが、アリスからしたらそんな事はどうだっていい。

 

「へぇ…じゃあもちろん魚は釣ったし薪も集めたんでしょうね?」

 

「さ、さあ…?ベジータが集めたんじゃない?」

 

「ッ!! きさま!!!」

 

霊夢は目線を外しながらベジータに責任転嫁する。しかしアリスにはそんな事通用しない。

 

「人が折角夕食の準備してあげたのにアンタ達は…」

 

「うるさい!今からすればいいだけだろう!」

 

アリスの説教に嫌気がさしたベジータは釣竿を持って歩いていく。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 

「霊夢!キサマはさっさと薪を集めてこい!オレは魚を釣ってくる」

 

「はいはーい」

 

キーキー言っているアリスを置いて2人はそれぞれの場所に向かう。その途中ベジータは、アリスのことを少しだけブルマに似ているなと思っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー龍球の世界ー

 

 

 

「ほら!たんと食べろ!腹減ってんだろ?」

 

「わあ…!美味しそう!」

 

テーブルの上には美鈴が見たことのない料理がたくさん並ぶ。中にはトカゲらしきものもチラホラあった。

 

「いっただっきまーす!」

 

「い、いただきます!」

 

手を合わせてから料理をいただく。見た目が美味しそうな料理はやっぱり美味しかった。

 

「これすっごく美味しいです!」

 

美鈴は笑顔でそう伝える。それを聞いて女性もニッコリと笑顔になる。

 

「これも食べてみろ?」

 

そう言い、トカゲのような生物がのっている皿を渡される。

 

「え…えっとぉ…」

 

「どうした?遠慮しなくてもいいぞ?」

 

夕食をいただいている身として断るわけにはいかない。美鈴は意を決して謎の生物を、恐る恐る口に運ぶ。

 

 

「どうだ?」

 

「……お、美味しい!」

 

見た目と反して味はすごく美味しかった。ゲテモノほど美味しいと何処かで聞いたことはあったが、美鈴は少しだけそれを信じるようになった。

 

「そうだろ?」

 

「はい!あの…ところでえっと…貴女に聞きたいことがあるのですが…」

 

「チチ。おらの名前だ」

 

女性はまず自己紹介をした。チチという名前らしい。

 

「あ、私は紅美鈴と申します!」

 

「ボクは孫悟天だよ!」

 

悟天とは既に自己紹介したのだが、なぜか場の空気を読んでもう一回自己紹介をした。

 

「お二人共よろしくお願いします!ところでこの家にはお二人で住んでいられるのですか?」

 

「………」

 

 

チチはジーッと美鈴の顔を見てくる。

 

 

「あの…私の顔に何かついてます?」

 

「おめえそのかたっ苦しい喋り方なんとかならねえのか?」

 

チチは美鈴のカチカチの敬語が気に入らないみたいだ。

 

 

「え?ああすいません。じゃあ言い直します」

 

「ここには2人で住んでいるんですか?」

 

「………」

 

少し砕けた言い方だが、敬語である事は変わらないので再びチチはジーッと美鈴の顔を見つめる。

 

「あ…あはは…」

 

「…まあいいだ。ここには4人で住んでるべ」

 

「4人ですか?あとの2人は?」

 

美鈴はもう夜になりかけている時間帯なのに、あとの2人は帰ってきていないことが気になった。

 

「悟飯はなんか学校の研修ってやつで暫く帰ってこないべ」

 

「学校…?寺子屋みたいなものかな…それで悟飯さんとは?」

 

「悟飯っていうのはボクのお兄ちゃんだよ!」

 

「あっお兄さんですか。ではもう1人は────」

 

 

 

 

 

 

 

美鈴は急に黙り込んだ。いやそうではない。言葉が出せなかった(・・・・・・)のだ。

 

 

 

 

〔なんだ…この気はッ………!!?〕

 

 

 

ガタッと席から立ち上がり、入り口のドアを見る。

 

 

 

「お姉ちゃんどうしたの?」

 

 

「何かが…くるッ!」

 

 

 

 

悟天との会話中に美鈴は感じてしまった。自分達の元へとだんだんと近づいてくる、考えられないほどデカイ気を。

 

 

 

普段、美鈴は遠くにいる者の気を感じる事はできない。誰にも習っていないし、しようとしなかったからである。

 

しかしその美鈴ですら感じてしまうほど大きく、純粋な強さが伝わってくる気であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドアが開き、そのデカイ気をもった者が家に入ってきた。

 

「帰ったぞ〜!すっかり遅くなっちまった!」

 

 

「………」

 

実際に見てみると先ほどよりさらに気が大きく感じた。だが、近くにいて悪い気は全くしない。まるで大きな森に護られているような安心感すらあった。

 

「悟空さ!何やってたんだ!もう飯食ってるぞ!」

 

「いや〜わりいわりい!…ところでおめえは誰だ?」

 

 

どうやら彼がこの一家の父親らしい。顔は悟天にそっくりで、武闘家だという事は体つきを見れば1発でわかる。

 

 

「はじめまして、私は紅美鈴といいます」

 

若干緊張しながら美鈴は名乗った。そんな美鈴がおかしくて男はハハハッ!と笑った。

 

 

 

「オラは孫悟空だ!美鈴、ヨロシクな!」

 




はい、第38話でした。

悟飯を居ないようにした訳は、悟空の強さをより表したかったからです。原作では悟飯の方が悟空より一回り強かったので…悟飯ごめんよ…

ではお疲れ様でした。


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【第39話】孫悟空

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

魔理沙は犠牲になったのだ…


 

 

『孫悟空』と男は名乗った。それを聞いてまず美鈴が思いついたのは、自分と名前の系統が似てるなぁといった子供並みの感想だった。直後になぜ悟天の時はそう思わなかったのか疑問に思う。

 

「ご、悟空さん…すいませんお邪魔しています」

 

美鈴の脳内の中とは違い、現実では思った通りに声が出ない。悟空の気に圧倒されているというわけではなく、ただ単に緊張しているだけだ。

 

「気にすんなって!それよりチチ、オラもうハラペコペコだぞ〜!」

 

美鈴が居ても普段通りの振る舞いをする。悟空は人によって態度を変えることはないからだ。

ポンと美鈴の肩を叩いた後、悟空は沢山の料理が並ぶテーブルに歩いていった。

 

「まったく悟空さは…悟天!おっとうのメシ作るから手伝ってくれねえか?」

 

「わかったー!」

 

すでに大量の料理が乗っているにもかかわらず、チチはさらに料理を作る準備を始める。悟天はいつものように、チチの手伝いをする形になった。

 

テーブルには料理を心待ちにしている悟空と美鈴の2人きりとなった。

 

 

 

 

 

 

 

「(…………きっ…気まずいッ!!!)」

 

美鈴は猛烈な気まずさに襲われた。確かに知らない男と急に2人きりになったらそうなっても致し方ない。そうならなかったのは今まで1人だけだ。

 

 

「………」

 

悟空はジーッと美鈴を見ていた。先ほどのテンションから見るに明るい性格だと思っていたが、話しかけて来たりはしてこない。

 

 

「(な…なにか話題を………そうだ!)」

 

何か閃いた美鈴が口を開いた。

 

 

「悟空さんはどんな仕事をしているんですか?」

 

美鈴は思い出したのだ。以前、パチュリーの図書館で読んだ『初対面の人と親しくなるには』という本で見た内容を。

外の世界ではどんな仕事をしているか聞いておけば、とりあえずそこから何か話を広げることができる。と書いてあったのだ。

 

 

 

しかし今回は〝聞いた相手〟が悪かった。

 

 

「ん?オラ働いてねえけど…」

 

「あっ…」

 

 

美鈴は本能的に感じた。〝終わった〟と。何に関して終わったのかすらわからなかったが、とりあえずそう感じたのだ。

 

 

「まったく!恥ずかしいから自分からそんなこと言わねえでけろ!」

 

ドンッと料理を強く机の上に置いたチチが嘆く。

 

「ハハハハハッ!でもオラ聞かれたから答えただけだぞ?」

 

「(ほっ……)」

 

なんとか笑い話になってよかったと、美鈴は心の中で胸を撫で下ろした。プリプリ怒りながら再び料理を作りにいくチチの姿が、美鈴には天使に見えていた。

 

 

「そういうおめえは何をしてんだ?」

 

今度は同じ質問を悟空が美鈴にした。答え方は本には載っていなかったので一瞬考えたが、よくよく考えるとすぐに答えは出て来た。

 

「私は門番をしています」

 

「門番?」

 

悟空が首をかしげる。この世界では門番は珍しいのだろうかと思いつつ、また考えた。

 

「あっ、えっと門番っていうのは…主のいる館に、侵入者が入らないようにする者のことです」

 

わかりやすく説明した。悟空はおお〜と若干嬉しそうにしながら聞いていた。

 

「門番なのにこんなトコに来てていいのか?」

 

ん?と疑問に思った悟空が問う。確かに門番なのに門を守ってないというのはおかしいので、当然といえば当然の質問である。

 

「………」

 

それを聞くと、美鈴は何かを思い出しうつむいた。悟空も何かあるんだなと素早く察し、これ以上は何も言わなかったが、美鈴から口を開いた。

 

 

「私は…敗れたんです。門番として絶対に勝たなきゃいけなかったのに…ある人に敗れました」

 

「それに…その人は実力の全てを出し切っていなかった。手加減されていたのに…相手にもならなかった…」

 

「私は強くならないといけない。なので今は私を倒したその人(・・・・・・)と一緒に修行の旅に出たのです。 …いつかその人さえも倒せるくらいに強くなるために…!」

 

美鈴は本音をさらけ出していたため、ところどころ敬語ではなく素の話し方になっていた。それがさらに美鈴の本気さを感じた。

 

 

「…そうか。おめえも強くなりたいんだな」

 

「悟空さんもですか?」

 

「ああ!オラも強くなりてえ!宇宙にはオラよりもっともっとつえー奴がいるだろうからな!」

 

宇宙規模で戦いのことを考えている者など滅多にいないだろう。悟空からはなんというか美鈴、いや幻想郷にいる者とはスケールの大きさが違った。

 

 

「悟空さん…お願いがあるのですが」

 

美鈴は確信した。この孫悟空が、間違いなく〝紫が言っていた者〟だと。そうなればもう頼むべきことは決まっている。

 

「なんだ?」

 

「私に…修ぎょ」

 

 

 

決心した美鈴が悟空に何かを言っている途中に、ドーーン!という音がその声をかき消した。チチが再びテーブルに料理を置いた音である。

 

「おお〜!!!うまそうだな!!!」

 

悟天がちょくちょく運んでいたのもあり、テーブルの上には先ほどとは比べ物にならないほど料理が並んだ。

 

「いっただっきまーす!」

 

悟空は手を合わせてから料理にがっつく。あのベジータとも勝るとも劣らない勢いだ。

 

 

 

「ふぉほぉられめーりん?なんふぁいいたいふぉとあっふぁんじゃねーふぁ?」

 

よくわからないが、恐らくは「ところで美鈴、なんか聞きたいことあったんじゃねーか?」と言っているのだろう。口の中に料理をかきこみすぎて、リスみたいな顔になっていた。

 

「いや…後でいいです!」

 

 

なんとなく悟空に親近感を覚えた美鈴も、再び料理に箸をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー幻想郷ー

 

 

「だからぁ〜!アンタ強すぎなのよ!」

 

「うるさい!これがオレのやり方だ!」

 

 

ベジータと霊夢は釣竿を使い、魚を釣っていた。魚を捕るのはベジータの役目だったのだが、霊夢が薪を集め終わってベジータのところに来ても、まったく釣れていなかったから手伝っていたのだ。

 

魚を釣る際に、ベジータは竿を引く力が強すぎて、竿から糸が切れてしまうのだ。

 

 

「どうでもいいけど早く釣ってくれない?」

 

 

アリスは座りながら2人の釣りを見ていた。

いや、釣りというよりもアリスには漫才か何かに見えていた。

 

「まったく信じられない!釣りの1つもできない男がいるなんて!」

 

「こんなことできて何になる。キサマは女としてもっと気品さでも兼ね備えたらどうだ」

 

「気品さが金になるのかしら?」

 

 

グチグチと言い争いをしながらも霊夢は魚を釣っていた。しかしベジータには釣れる様子がない。

 

「(なぜだ…ッ!なぜ霊夢に釣れてオレには釣れない…?)」

 

心底どうでも良さそうに振舞ってはいるが、ベジータとしてはこんなことでも他人に負けたくはない。なぜ魚が釣れないか必死に考えていた。

 

「あっまた釣れた」

 

「…チッ!」

 

霊夢はまた魚を釣った。霊夢がドヤ顔でこちらを見てきているので、ベジータは絶対に目線を合わせないように水面だけを見ていた。

 

 

「(殺気がこもりすぎているからか?いやそんな事は…)」

 

ベジータは色々と考えていた。そして一度逆転の発想をしてみた。

 

 

〝むしろ霊夢が釣れすぎじゃないか?〟

 

 

確かに釣りは忍耐とよく言われるが、明らかに霊夢は釣れすぎである。〝俺が釣れなすぎている〟のではない〝アイツが釣れすぎなんだ〟

そう思ったベジータは横目で霊夢をチラッとみてみた。すると…

 

「!!!」

 

 

 

「《夢想天生》………」

 

 

「きさま!!!」

 

 

急にベジータが大声を出す。その場にいた霊夢とアリスは一瞬ビクッと驚いた。

 

 

「いきなり何よ!もーちょっとでまた魚が釣れてたのに!」

 

夢想天生を解いた霊夢が怒る。

しかしベジータはまったく気にしていない。

 

「そんな技を使いやがって!ちゃんと釣りやがれ!」

 

霊夢は夢想天生を使い、自分の存在感を消し、魚からの警戒を全く無としていたのだ。危機感のない魚は霊夢の竿にあっさりかかったので、霊夢は簡単に釣れていたのだ。

 

 

 

「はぁ?別に私がどう釣ろうと私の勝手でしょ。悔しかったらアンタも夢想天生やってみれば?」

 

「クソ…小娘め! 」

 

確かに勝負しているわけでもないので、霊夢は何もおかしくはない。

 

 

「………」

 

再び黙って釣りを始めた。しかしベジータは目を瞑り、気を消して自分の存在感を消した。

 

「(おっ…)」

 

霊夢もこれは中々いい感じね、と思いつつもベジータを横目で見ていた。

 

 

「(夢想天生なぞ使わんでも気を消せばいいだけの話だ)」

 

集中力をすべて竿に集めていたベジータ。いつ魚が食いついてもいいように構えていた。

 

 

 

 

 

 

「(きたっ!)」

 

 

やっと魚が釣れた。

 

 

 

 

 

と思っていた。

 

 

 

 

 

「よう!久しぶりだなベジータ!」

 

ベジータの肩にパシッと誰かが手をつきながら挨拶をする。以前戦った霧雨魔理沙である。

 

竿一本に全ての集中力を注ぎ込んでいたベジータは、真後ろまで来ていた魔理沙に全く気づいていなかったので、驚きのあまり竿を握りつぶしてしまった。

魚は当たり前のように遠くへ逃げて行った。

ベジータの手はプルプルと震えている。それに気づいた霊夢とアリスは何かを察したかのような表情をした。

 

 

 

「………」

 

 

「ん?どうした黙り込んで」

 

先ほどのように大声をあげたりはしないベジータ。その静けさが霊夢とアリスには逆に恐ろしかった。

 

 

「そ、それじゃあ私たち先に帰るから…」

 

 

霊夢とアリスは〝ここにいてはいけない〟という危機感を覚え、すぐさま帰っていく。

 

 

「お、おいおい!どこへいくんだよ!」

 

「地獄だ」

 

え?魔理沙は一瞬耳を疑った。

 

「地獄?何を言ってるんだ?」

 

 

「キサマこそいいのか?それが〝遺言で〟」

 

 

 

「急ぐわよアリス!」

 

「え、ええ!」

 

気づくと2人は全速力でベジータから遠ざかっていた。

 

 

「どうしたん」

 

 

「くらいやがれーーーーっ!!!!!」

 

 

怒り狂ったベジータは、魔理沙にむかって凄まじい一撃を放つ。

 

 

 

 

「えええええッ!!!??? なっ! た、助けっ」

 

 

 

 

 

 

 

逃げながら霊夢とアリスはこう誓った。

 

 

 

『絶対にベジータを怒らせてはいけない』と。




はい、第39話でした。


後半はバイトの休憩中にかいたので誤字脱字あるかもしれません(日常茶飯事)

ではお疲れ様でした。


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【第40話】不安

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

ついに40話です。お気に入りも80人を超えました。皆様いつもありがとうございます。
ついでに言うと、作者は感想や評価も大好物です(小声)


 

ー幻想郷ー

 

 

ベジータから無慈悲な一撃を受けた魔理沙は、アリスの家に戻った後手当てをされていた。

 

何がなんだかわからないまま攻撃を受け、何も説明されずに治療だけされているこの状況、ハッキリ言って異常である。

 

「……」

 

魔理沙はムスーッとしながら頬っぺたにテープを貼られる。手当てをしているのはもちろんアリスだ。

 

「いっ痛てて!もっと優しくしてくれよ!」

 

「何言ってんの。はい、これで終わり」

 

アリスは手当てが終わったあと魔理沙の頭をポンと叩いた。

 

「だから痛いって!全身筋肉痛になったみたいだぜ…」

 

テープを貼られた頬を撫でながら魔理沙は嘆く。

 

「アンタも馬鹿ね。状況判断ができないからそんな事になるのよ」

 

霊夢の言葉に魔理沙が素早く体ごと反応した。

 

「はぁ?私が悪いのか!?」

 

霊夢に向かって魔理沙は叫ぶ。全くもって納得できていない様子であった。

 

「そうね…それが原因の3%くらいかしら」

 

霊夢の代わりにアリスが顎に手をつけながら答える。

 

「……残りの97%は?」

 

なんとなく答えがわかった魔理沙。しかし念のために問う。

 

 

「「ベジータの機嫌よ」」

 

霊夢とアリスは口を揃えて答えた。2人でタイミングを計っていたわけではないが、自然とタイミングがマッチしてしまったのだ。

 

 

「こんな馬鹿げたことがあるか!まるで災害じゃないか!」

 

答えを聞いてもやっぱり魔理沙は納得できない。もし霊夢とアリスが魔理沙と同じ立場だったとしても、魔理沙と同じように納得できないだろう。

 

しかし、相手は〝あの男〟 納得せざるを得ない。

 

「そうね…まぁ運が悪かったってだけじゃない?」

 

「運が悪かったら挨拶しただけで弾幕を食らうのか?」

 

魔理沙が言っていることはさっきから正論なので霊夢は何も言い返せない。

 

「まあまあ。でもあれほどの弾幕でこの程度しか食らわないなんて修行した甲斐があったじゃない」

 

「修行?アンタいつの間にそんな事してたのよ」

 

アリスが笑いながら口を滑らすと、霊夢はそれにすぐ反応した。それにビックリした魔理沙はアタフタしたながら周りを見る。

 

「馬鹿!それは秘密の話だったじゃないかアリス!」

 

「あ、あら?そうだったかしら…」

 

簡単に口を滑らしてしまったアリスは必死に惚ける。口に手を当ててオホホ…と苦しく笑った。

 

「別にアンタが修行しようと私には関係ないからいいじゃない」

 

「違う!別に霊夢に知られたくないわけじゃない!アイツに…」

 

 

ガシっと何かを掴む音がする。

 

言ってるそばから〝アイツ〟は現れた。

 

 

「ほう…修行をしただと?詳しく聞かせてもらおう」

 

 

そう。〝アイツ〟とはもちろんベジータの事である。魔理沙はベジータの顔を見た瞬間、はぁ〜…と大きくため息をついた後アリスを睨んだ。

 

「エヘヘ…とりあえずご飯にしましょうか…」

 

 

気まずくなったアリスは夕食の準備をしに、逃げるようにキッチンへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー龍球の世界ー

 

 

 

「ぷはーーー!!!食った食ったーーー!!!」

 

孫一家と共に食卓を囲んでいた美鈴は、悟空の驚異的な食欲に驚いた。ベジータもそうだが、『サイヤ人』とは一体何処に料理を詰め込んでいるのだろうか。

 

「あの…先ほどの話の続きなんですが」

 

「おっとそうだったな。で、なんだ?」

 

食事が終わり、美鈴が早速本題に入ろうとする。悟空も真面目に聞いてくれそうな雰囲気だったが…

 

「ところでおめえこれからどうするんだ?」

 

「えっ?」

 

チチが2人の話に水を差す。ワザとではないのだろうが美鈴にとっては間が悪かった。

 

チチをスルーするわけにもいかず、仕方なく答えようとした。が…

 

 

「(アレ?そういえばどうしよう…)」

 

 

美鈴は何も考えていなかった。今まではベジータがいたため何とかなっていたが、今はもう1人である。紅魔館から出た時も、簡単な荷物を持って来ただけで、テントなどの野宿用の道具は持ってきていない。

 

〔私泊まるとこないんです!泊まらせてください!〕

 

 

とは言いづらい。既に食事までもらった挙句、こんなことをお願いするのは図々しいのではないかと思ったからだ。

 

「……」

 

どうすればいいのかわからなくなった美鈴はまた黙り込んでしまった。

正直、これは美鈴の悪い癖である。

 

「…はぁ。おめえホントわかんねえ奴だな。いいだ。しばらくウチに泊まってもいいぞ」

 

美鈴を気遣ったチチはしばらく此処に泊まってもいいと言ってくれた。それに対し遊び相手ができたと思った悟天は喜ぶ。

 

「いいんですか?」

 

「いいも悪いも…年頃の女子(おなご)を野宿させるわけにはいかねえだろ。悟空さ、別にいいだろ?」

 

「ああ。オラは別に構わねえぞ」

 

少しツンツンとした言い方であるが、チチの優しさは美鈴にちゃんと伝わっていた。

 

「よし!じゃあ決まりだ!美鈴、皿洗手伝ってくれねえか?」

 

「は、はい!」

 

話が終わった後、テーブルの上に乗っている大量の皿を洗うために2人はキッチンへ向かった。悟天にはチチがいつもよりどこか楽しそうに見えていた。

 

「おとうさん、おかあさんなんだか嬉しそうだね!」

 

「ハハハ!確かにそうだな!」

 

いつも男たちに囲まれているチチ。もしかすると美鈴のことを娘のように感じているのかもしれない。

悟空にも2人がなんだか楽しそうに皿洗いをしているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。これで終わりですかね」

 

皿洗いが終わった後も、美鈴は率先して家事を手伝っていた。しかし頑張りすぎて時間がかなり経ってしまった。

 

「美鈴、風呂に入っていいぞ」

 

「あ、はい」

 

先に風呂に入っていたチチ。濡れた髪をタオルで巻いている。

 

「あのう…悟空さんは?」

 

「悟空さ?もう寝たんじゃねえか?」

 

美鈴達が皿洗いをしていた最中に、既に悟空は悟天を連れて風呂に入っていたので、もう寝ていてもおかしくはないだろう。

 

 

「そうですか…わかりました!」

 

美鈴は風呂へ向かうのではなく、なぜか外へ向かおうとしていた。

 

「どこへいくんだ?」

 

「ちょっと夜風にあたりに!すぐ戻って来ます!」

 

「そうか。お湯が冷める前に風呂に入るんだぞ」

 

「わかりました!」

 

いい返事をした後、美鈴はドアを開けて外へ出た。

 

 

 

 

 

「うわぁ…!」

 

なんとなく空を見上げてみると、たくさんの星々が輝いていた。周りは真っ暗だったが、星の光がだけで随分明るかった。

 

 

「……んん〜!!!」

 

美鈴は背伸びをした。身体が随分と重く感じる。今の美鈴は肉体的にも精神的にもかなりきているだろう。異世界へ来たのだからそれもそのはずである。

 

「師匠は今頃何をしてるのかなぁ。そういえば私、師匠に何も伝えてないけど…まあ紫さんが言ってくれるか」

 

美鈴はベジータと紫の関係性を何も知らない。なのでそう言ってくれると信じていた。が、紫はいちいちそんな面倒くさいことをするはずはない。

 

「師匠のことだから私のことなんて考えずに修行してるだろうな。あの人のストイックさは並みじゃないから…」

 

ベジータのことを考えるとどんどん不安になってくる。美鈴が修行だとして強くなったとしても、ベジータがそれ以上に修行していたら…差は縮まるどころか大きくなってしまう。

 

「……はっ!」

 

そう考えていたら自然と空に拳を放っていた。拳だけではない。蹴りも続いて繰り出した。夜風に当たるだけのはずだったのに、美鈴はいつの間にか1人稽古をしていた。

 

「ふっ! ……はぁッ!」

 

体を動かしている内は何も考えなくてもいい。唯一美鈴が不安を感じなくてもいい時間だ。

 

 

 

「よっ!美鈴」

 

「え?」

 

稽古をしていたら後ろから声をかけられた。悟空である。

 

「悟空さん寝てたんじゃ?」

 

「ハハッ!つええ気を感じてな…おめえやる気満々だな」

 

ぐっすりと寝ていた悟空だったが、美鈴の不思議な気を感じて起きて来たのだ。

 

「…悟空さん」

 

稽古の手を止め、体ごと悟空の方を向いた美鈴。そしてカクッと体を90°に曲げて頭を下げた。

 

「私に修行をつけてくださいッ!」

 

「ああ!いいぞ!」

 

「…え?」

 

随分とあっさりOKを出されて、美鈴は一瞬戸惑った。が、すぐに弾けるような笑顔を見せた。

 

「本当ですか!」

 

「ああ!オラだって修行相手ができてうれしいぞ!オラももっともっと強くなりてえからな!」

 

やった!と美鈴は拳を握る。すると安心感からか、ガクッと膝が崩れ尻餅をついた。

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい大丈夫です」

 

「おめえちょっと疲れてっぞ。修行は明日の朝からだな!」

 

悟空は美鈴に手を差し伸べる。美鈴はその手につかまり、よいしょっ!と言いつつ立ち上がった。

 

「オラまた寝るから…美鈴もはやく寝ろよ〜」

 

そして悟空は再び家の中へ戻っていった。美鈴も、もう一度やった!と小声で呟いてから家へ戻った。

 




はい、第40話でした。

本当に40話もやったのかってくらい内容が薄いですね。でもこの小説を書くことが私の最近のモチベーションでもあるので、これからも頑張りたいです。

ではお疲れ様でした。


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【第41話】修行開始

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

はやく夏休みきてくれ…


 

 

ー孫家ー

 

 

 

「………」

 

 

明日の朝から修行だと悟空に言われた美鈴は、風呂に入った後すぐさまベッドに入り眠ろうとした…が

 

 

「………寝れない」

 

遠足を心待ちにしている小学生のようだった。

 

ベジータに修行を受けてもらう前日はすぐ寝て、すぐ起きることができていたが…ここは紅魔館ではない。いつもと違う場所ということもあり中々寝つけなかった。

 

「寝れない時は…羊を………」

 

美鈴は有名な『脳内で羊を数える』という方法を試すことにした。普段何処でも立ってでも寝られる美鈴にとって初めての試みとなった。

 

「ふう……羊が1匹…羊が2匹…羊が3匹…」

 

目を瞑り、ひたすらと羊を数えていく。こんな事で本当に安眠できるのかと思いつつ、50匹を超えたあたりから何か変わっていった。

 

「羊がーーーー………」

 

「おいきさま…何をやっている」

 

「え?師匠…?」

 

何故か美鈴の前にベジータが現れた。腕組みをしたまま仁王立ちしており、とても不機嫌そうな表情だ。

 

「何をやっているのかを聞いているんだ」

 

「いや…羊を数えているのですが…」

 

「……」

 

ベジータの表情はどんどん曇っていく。

 

「そんなヒマがあったら修行したらどうだ?」

 

「いやでも…」

 

 

 

 

 

「!!」

 

ベジータは美鈴に向けて手を差し出す。差し出すといっても差し伸べているわけではなく、手のひらを美鈴に向けているのだ。

 

「し、師匠…?一体何を…」

 

「『ビッグ・バン・アタック』!!!」

 

 

「なッ、なにをッ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「りゅ、りゅうけーんッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美鈴はベジータに向かって拳を突き出した…つもりだった。

 

 

「…アレ?」

 

 

 

「……何やってんだおめえ」

 

 

部屋のドアを開けたまま悟空が変なものを見る目で美鈴を見ている。日差しが眩しく、鳥がチュンチュン鳴く声が聞こえる。どうやら朝みたいだ。

 

 

「はぁー…早く寝ろって言っただろ?朝メシできてっぞ!」

 

「いやその…すいません」

 

悟空は美鈴の謝罪など聞く前に戻っていってしまった。ハラが減っていたのですぐにでも食べたかったのだろう。

 

 

「…全然寝た気がしない」

 

二度寝をしたい気持ちに襲われたが、そこはぐっと我慢して起き上がった。そして支度をした後、悟空たちの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 

「随分ねぼすけさんみたいだな」

 

いきなりチチが毒を吐く。まるで嫁姑の関係みたいだ。しかし美鈴の事を嫌いというわけではないということはわかっていたので、悟空、悟天、美鈴の3人は笑って聞いていた。

 

「おねえちゃん今日ボクと遊ぼ!」

 

美鈴が席につくと一目散に悟天が言ってくる。悟天にとっては美鈴は遊び相手には丁度いいらしい。

 

「あ、私はですね…」

 

「ダメだぞ悟天。美鈴は父ちゃんと修行をするんだ」

 

昨日のように口の中に料理を詰め込みながら悟空は悟天に言う。しかし昨日と違ってはっきり言葉が聞き取れた。

 

そういえば朝だというのに昨日の夕食となんら変わらない量の朝食が用意されていた。

しかしそれも悟空と悟天の前にあっさりと消えていく。

 

 

「なんだ?悟空さ、こいつと修行するのか?」

 

「ああ!美鈴はきっと強くなれっぞ!オラはそう思うんだ!」

 

悟空ほどの男にそう言われるのは嬉しい。が、正直期待されすぎるのも美鈴にとってはプレッシャーになる。

 

「……」

 

今からの修行を期待、楽しみ、緊張など、胸に様々な思いを抱きながらも、黙ってモグモグさせながら美鈴は料理を胃に運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うし!ごちそうさま!」

 

「ご馳走様でした!」

 

きちんとテーブルの上にのっている皿を空にした後、悟空は立ち上がった。それを見た美鈴も同じように立ち上がり、いつでもいけます!と言わんばかりの顔をしていた。

 

「じゃあ行くか!」

 

悟空と美鈴は外へ出た。しかし家の近くで修行をするわけではない。

 

「美鈴、オラについてこい」

 

悟空は走って何処かへ向かう。シュババと音を立てながら、地面、岩を駆け、凄いスピードで風を切っている。

 

「うっ…速い!」

 

悟空は凄いスピードで走っているが、美鈴がついていけないほどではない。これも修行の一部であると感じた美鈴はなんの文句も言わずに悟空の背中を追いかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、ここでいいか」

 

悟空と美鈴は家からかなり離れた場所に来た。しかし悟空も美鈴が駆けるスピードが速かったため、時間はそれほどかからなかった。

 

周りには建物や、森などの自然もない。あるのはゴツゴツの岩だけだ。いかにも〝修行場〟らしい雰囲気が漂っていて、美鈴は更にワクワクした。

 

「あのう、悟空さんはいつもここで修行を?」

 

「いやあ いつもってわけじゃねーぞ。別に家でも修行できるしな!」

 

悟空からしたら〝修行〟というのは何も特別なことではない。『食って寝て修行をする』という毎日の生活サイクルの1つなのだ。

 

「なるほど。そして悟空さんに1つ聞きたいのですが…」

 

「ん?なんだ?」

 

此処に来てからなんだか質問攻めだなと自分でも思いつつ、美鈴は悟空に聞こうとする。

 

「悟空さんは『サイヤ人』なんですか?」

 

ずっと気になっていたことだ。昨日に悟天と戦った時、悟天の髪は金色に変わっていた。もちろん暴走ではなく、自分の意思でなっていた。

 

そしてそれは幻想郷でみた、ベジータの『スーパーサイヤ人』と全く一緒だった。見た目だけではなく、戦闘力が爆発的に上がるという点も一致した。

 

そして悟空の答えは

 

 

「ああ、オラサイヤ人だぞ。地球育ちだけどな」

 

「(地球育ち…?)」

 

答えが返ってきたことにより、新たな疑問も生まれた。しかし肝心なことはわかった。

 

悟空はベジータと同じ『サイヤ人』であると。

 

「なんでおめえサイヤ人の事知ってんだ?」

 

「えっ?いやその…風の噂で!」

 

ニコッ!と美鈴は笑う。それをみて悟空もニコッと笑った。悟空も馬鹿ではない。明らかに美鈴を疑っている様子だ。

 

「そ、それで修行はまず何から始めるんですか?」

 

美鈴は怪しまれていることに気づいていたので、すぐさま話題を変える。

 

「そうだな……よし!まずは手合わせしてみっか!」

 

悟空はまず美鈴と手合わせをすることに決めた。特に順序を立ててやろうとは考えていない。とりあえず美鈴と戦ってみたいという思いが、悟空にそう言わせたのだ。

 

「…お願いします!」

 

美鈴も同じ気持ちだった。悟空と戦ってみたいという思いで胸が一杯だった。

 

しかし同じ気持ちであっても、悟空と美鈴では微妙に違う。悟空は、美鈴に今まで戦った者とは違う〝何か〟を感じていた。正直に言うとただ〝珍しいもの見たさ〟なだけである。

 

一方美鈴は、悟空から感じる底なしの〝強さ〟に興味を惹かれていた。闘志を表に出さなくてもわかる、百戦錬磨の実力だ。それほどの実力者は、異世界を含めこの世に何人といないだろう。

 

 

「じゃあ…かかってこい!」

 

「はいッ!」

 

真剣な顔で構えた悟空に美鈴は向かっていった。

 

 

 




はい第41話でした。

もう41話ということに驚きを隠せないです。

ではお疲れ様でした。


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【第42話】格上

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

今回からタグにW主人公を加えました。だってベジータの出番が…


 

 

ー龍球の世界ー

 

 

美鈴と悟空は修行をするべく、ひらけた場所へ移動した。

 

修行の第1レッスンはとりあえずお互いのことを知るための手合わせ、つまり〝組手〟をすることになった。

 

悟空は「よいしょっ」と声を出しながら屈伸したり腕を伸ばしたりして準備体操をしている。〝気〟を読まなくても、鍛え抜かれた身体は服の上からでも十分にわかった。

 

 

「じゃあ始めるか!」

 

 

準備体操を終えた悟空はニッコリと笑って美鈴を見る。戦うことを楽しみにしているのは言わずとも顔に出ていた。

 

悟空が構えたのを見ると、美鈴も同様に重心を低くして構えをとった。

 

「じゃあ…かかってこいッ!」

 

 

 

「はいッ!」

 

 

開始の合図ともとれる悟空の言葉にハッキリと答えた瞬間、美鈴はいつも戦う時のように、右脚に体重をかけて真っ直ぐに向かっていった。

 

格上相手に真っ直ぐ向かうなど無謀すぎる。

しかし、この戦いでは〝勝つこと〟が第1目標ではない。〝力を見てもらうこと〟が第1目標なのだ。

 

が、美鈴は忘れてはいない。

師匠であるベジータはこう言っていた。

 

 

『どんな戦いであろうが勝て』

 

 

強くなりたい者への真理である。どんな負け方であれ負け続けたら、人は〝負け癖〟がついてしまう。

それも格上と戦う時こそそれは顕著に表れる。

〝しょうがない〟 〝無理だ〟 このようなマイナス思考は思っているだけで動きを鈍らせ、隙を作ってしまう。達人同士の戦いならば、その隙で決着することもあるだろう。

 

だからこそベジータは美鈴にそう教えたのだ。表面的な強さだけではない。

心の芯から美鈴に強くなって欲しいと願っているから。

 

 

「はぁああああッ!」

 

 

 

 

 

悟空に向かって真っ直ぐに拳を突き出した。しかし悟空はそれを何事もないかのようにあっさり躱した。

 

このパンチが避けられることは想定内。

美鈴は身体を捻り、回転蹴りをくらわそうとした。

 

 

 

これも当たらない。

考えが見透かされているのだろうか。それとも身体能力に差がありすぎて、後手に回られても関係ないのか。

 

考えたところで攻撃が当たるわけではない。美鈴には連続で攻撃をし続けるしかなかった。

 

 

今度は弾幕を交えつつ攻撃を仕掛ける。が、依然美鈴の攻撃が当たる気配はない。

 

悟空は涼しい顔をし、時々笑顔を見せながら〝全て〟躱していた。

 

 

「こんなもんでおしまいか?」

 

地面にいる美鈴を、6、7mほど空中へ離れている悟空が言った。腰に手を当て、まだまだ余裕だということは誰の目にも明らかだった。

 

 

「まだですよ…ハァァァッ!!!」

 

 

美鈴は体全体に力を入れ、気を高める。どんどん気は大きくなっているが、悟空はあまり嬉しそうな顔をしていなかった。

 

 

「ふぅ…とりあえずこれが私の全力です!」

 

 

先程とは別人のように美鈴の気は膨れ上がった。

しかし、それでも悟空は退屈そうな顔をしている。

 

 

「…どうした?こんなもんか?」

 

 

美鈴はピクッと反応する。

悟空は決して美鈴を煽っているわけではない。つまり〝本心〟で言っているのだ。全力を出し切っている美鈴にとって、もちろん嬉しくはない言葉である。

 

 

「これから見せてあげますよ!」

 

 

その瞬間、美鈴は超スピードで悟空の後ろに回り込んだ。そして悟空のうなじめがけて蹴りを入れた。

 

先程とは違い、確実に攻撃は決まった。しかも急所に。

悟空は蹴っ飛ばされ大きな岩にぶつかり、岩は崩れ落ちた。

悟空の姿は見当たらない。

 

もちろんこれで勝負が決まったとは微塵も思っていない。しかしここで攻撃を途切れさせるのは勿体無いと思い、追撃の弾幕を撃ち込んだ。

 

 

既に土煙で前がよく見えなかったが、弾幕によりさらに土煙が舞ってしまった。

しかしこれでこそ美鈴の戦い方ができる。そう、〝気〟を読んで戦うのだ。

 

 

 

「…なかなか動かない。まさか今の一撃で?」

 

 

しばらく待ったが悟空は出てこない。まさか今のでかなりのダメージを負ったのか?と思いつつ、近づこうとしたその刹那。

 

 

「油断すんなッ!」

 

「!?」

 

 

 

 

気付かずうちに背後にいた悟空からパンチを浴びせられる。パンチは美鈴の背中にクリーンヒットし、先ほどの悟空のように美鈴は大きな岩に突っ込んでしまった。

 

岩は悟空がぶつかった時より派手に崩れ落ちた。ぶつかった衝撃が今の方が大きかった、つまり悟空の攻撃の方が強かったのだ。

 

 

「……ぐっ…」

 

 

 

美鈴は背中を右手で抑えた。岩にぶつかったダメージよりも当然悟空のパンチの方がダメージはデカい。

 

 

「(なんてパンチ…いやそれよりも…)」

 

 

〝どうやって背後に回り込んだ?〟

 

 

当然の疑問である。

 

あの時、悟空は確実に美鈴の見ている先、要するに直線上にいたはず。

土煙が舞っていたからそれに紛れ、回り込んで攻撃したというのが1番可能性が高い…が、それは相手が〝普通〟の者の場合だけである。

 

 

美鈴はただの達人ではなく、〝気〟を読んで戦うことができる。だからあの時悟空が密かに回り込もうとしたならば、美鈴はすぐにわかる筈であった。

しかし、あの時悟空の〝気〟は完全に吹っ飛ばされた岩のところから感じた。回り込んだという線は消えたと言っていいだろう。

 

 

「……」

 

 

美鈴は立ち上がった。目を見る限りまだまだやる気である。

そしてまた考えた。

 

 

この一瞬で美鈴は考えられる可能性を〝3つ〟思いついた。

 

1つ目は悟空が美鈴が反応出来ないほどの超高速移動で回り込み、攻撃を放った事である。

3つの内でも1番現実的な方法であった。

 

 

2つ目は自分の〝気〟だけをその場に『置いたまま』にし、土煙に紛れ密かに回り込み、美鈴が〝気〟に注意している内に攻撃したというものだ。

つまり、悟空が自分の〝気〟を自分から発するのではなく、完全にコントロールし、カモフラージュに使ったという方法である。悟空なら可能性がなくもない。

 

 

そして3つ目は咲夜のような時間を止める能力を使ったか、時空を歪める能力を使ったか、はたまた瞬間移動などという技を使う方法である。

 

 

美鈴が考えた結果はこの3つの例が出てきた。しかし考えたところで問題がある。

 

それは2つ目以外は〝今の〟美鈴では対処が不可能だという事だ。

2つ目ならばカモフラージュに警戒し、できるだけ視界を悪くせずに戦えば事なきを得るだろう。

 

しかし1つ目だったら、全力状態の美鈴が全く反応出来ないなら手の出しようがない。今はわざと回り込んで攻撃をしてくれたものの、正面から顔に攻撃されたらその時点で終わっていた。

 

3つ目も咲夜ならともかく、悟空は身体能力が美鈴に比べて圧倒的に高い。そんな者が〝時間操作〟や〝時空操作〟、〝瞬間移動〟など使うものなら反応できるわけがない。

今のように寸前で声を掛けられなければ絶対に気づかないだろう。

 

 

 

「…どうすればッ」

 

 

考えれば考えるほど〝勝機〟は遠のいていくような気がした。しかし考えなければ最低限の対処もできない。

 

 

「どうした美鈴。まだまだやれんだろ?」

 

 

「…もちろんです」

 

 

ギリッと歯をくいしばる。何もできそうにない自分への苛立ちで胸が一杯になった。

 

 

「…ゴチャゴチャ考えんな。オラはおめえの実力がみてえだけだ」

 

 

確かに考えたくはない。ベジータとやる稽古のように、がむしゃらに突っ込んでいきたい。

しかしそれでは格上の悟空には勝てない。美鈴はどんな戦いでも勝たなければいけないのだ。此処へ来て2度も負けるわけにはいかない。

 

戦いに関しては真面目な美鈴には、ベジータの言葉は大きな〝枷〟となっていた。

 

 

「いきますッ!」

 

 

「(…なんかしてくるな)」

 

 

悟空の思った通りに美鈴は何かをするつもりだった。右手に気を集中させたかと思えば、そこから気弾を作り出した。3つ、4つ、5つと美鈴の右手からはボンボンと気弾が出てきた。

 

 

合計5つの気弾は、1つ1つの大きさがハンドボールくらいであり、気弾はそのまま悟空に向かうのではなく、美鈴の周りをフラフラと飛び回っている。

まるで意思を持っているかのように。

 

 

「ハハハッ! 中々おもしれえことすんなあ」

 

 

「すぐに笑えなくなりますよ!…ほっ!」

 

 

笑いながらも感心していた悟空に、美鈴は向かっていく。悟空もすぐに集中を取り戻し構えた。

 

 

美鈴は気弾を身に〝纏っている〟といっていいだろう。そのまま悟空に向かってパンチを繰り出す。

周りの気弾が気がかりな悟空はそのパンチを受け止めず、先程みたいに躱そうとした。

 

 

「はああああッ!」

 

 

その瞬間、案の定5つの気弾が悟空に襲いかかる。しかしこうなる事を見越していた悟空は冷静に1つ1つ気弾を素手ではたき落としていった。

 

その途中にさらにパンチを繰り出すが、それすらも悟空は左手でガードする。そして右手で最後の1つもはたき落とそうとした瞬間…

 

 

「(ここだッ!)」

 

美鈴は小さく指をクイッと動かした。その瞬間、先ほど悟空に岩へ吹っ飛ばされた際に仕掛けておいた〝6つ目〟の気弾が地面から現れた。

 

 

「…!!」

 

 

左手は美鈴の攻撃のガード、右手は5つ目の気弾のガードで手がいっぱいである。地面から真っ直ぐ腹に向かって6つ目の気弾が襲いかかってくる。もうダメだ…

 

 

 

 

 

 

とは思わない。

 

 

孫悟空だからだ。

 

 

 

 

「効かねえぞーーーッ!」

 

 

 

 

「くっ…!」

 

 

悟空は瞬間的に気を爆発的に高めた。するとその衝撃により、気弾は消滅し、美鈴も少し後方に飛ばされた。

 

この技は『爆発波』といって気を高め一気に爆発させ、その衝撃で相手にダメージを与える技である。

 

 

〝気〟を爆発させるのだから当然楽な技ではない。体力や〝気〟を消費するし、何より発動後の隙が大きすぎて相手が初見でなければそこを狙われてしまうからだ。

 

しかし美鈴とは初めて戦う相手。だからこの技は結果的には使用として良かった。

 

 

 

 

 

 

 

と悟空は思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと見つけました…悟空さんの〝隙〟を」

 

 

「いっ!?」

 

 

既に美鈴は悟空の背後に回り込んでいた。右手を真っ直ぐ悟空に向け、技を出す態勢に入っていた。

美鈴の先程までの技はこの技のための餌だったのだ。

 

 

 

「いきますッ!」

 

 

「『ビッグ・バン・アタック』!!!」

 

 

 

高威力かつ高密度な球体の気功波が悟空を襲う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…へへッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー幻想郷ー

 

 

 

「だからー!私は修行なんかしてないって言ってるだろ!」

 

 

魔理沙の声がアリスの家に響く。ここは森の中だが、もしここが村や町なら迷惑もいいところだ。

 

 

「ほう、ならばさっきの話はなんだ?修行をしたとオレは聞いたが」

 

「…ああーそうだよ修行しましたよ!それがなんだ!?」

 

魔理沙は何故か逆ギレする。しかしベジータはそんな事はどうでもよく、ニヤリと口角を上げた。

 

 

「オレに負けたのが悔しかったようだな」

 

「べっ別にベジータは関係ないさ!私が修行したかったから修行しただけだぜ!」

 

 

なんとなく恥ずかしくなった魔理沙はテーブルの上に置いていた帽子を取り、深くかぶった。

 

魔理沙の反応からするにまだまだベジータには追いついていないようだ。そもそも追いつくのかどうかが甚だ疑問ではあるが。

 

 

「悔しさはとっておけ。それはキサマ()を成長させる〝何か〟になるかもしれん」

 

ベジータは魔理沙の後に霊夢の方も振り向いた。この言葉は2人に向かって贈った言葉なのだろう。

プイッとそっぽを向いたが、霊夢のことだ。ちゃんと伝わっているだろう。

 

「…負けないぜ、次こそは。 首を洗って待ってろよ!」

 

「フッ、期待しないで待っておいてやろう」

 

 

この幻想郷にきてから、ベジータもどこか変わったと自覚していた。

 

ベジータは関わりがある者以外は、弱い奴など興味がなかった。しかし、この幻想郷にきてから以前とは変わったのだ。

明らかに自分より弱い者に対しても、〝戦いたい〟と思うようになっていた。

 

それはこの幻想郷には不思議な力を持つ者が多いことも理由ではあるが、それ以外にも何かを感じるようになった。その〝何か〟までは自分の中でもモヤモヤとしていてハッキリとはわからない。

 

 

 

しかし本当に変わったのは、ベジータが〝変わったことに嫌悪感がない〟ことだ。

今まではたとえ変わっていたとしてもそれを認めたくなかった。

幻想郷にきてからは違う。ベジータは『新しい自分』を見つけ始めていた。

 

 

「そういえばベジータは何しにここにきたの?」

 

 

本来の目的をアリスからの質問で思い出した。

霊夢と戦えた時点でこの森にきた甲斐は既にあったが、サイヤ人の血はこんなものでは物足りないと騒いでいる。

 

 

「強い奴と戦うためだ。 …アリス、キサマはどうだ?」

 

 

もはや強い者でなくても良い。

ベジータはそう考えつつあった。

 

 

 

「遠慮しとくわ。お気に入りの服が破けたら困るし……って!!!」

 

「アンタその服…また破けてるじゃない!」

 

 

 

先程までは気づかなかったが、ベジータの服はまた破けていた。

ところどころ焦げており、ボロボロになりつつあった。

 

 

「それがどうした」

 

 

 

 

「それがどうしたって…アンタその服どうするつもりよ」

 

 

「また作るだけだ。 …きさまがな」

 

 

当たり前のような態度。

当たり前のような表情。

 

アリスは怒りを通り越して泣きたくなっていた。

 

 

 

「はぁ…まあいいわ。夕食の後に作ってあげる」

 

それでもアリスは服を作ってくれるみたいである。

バカ親切な魔法使いだ。

 

 

「それよりアリス、お腹空いたわ。はやく準備してちょうだい」

 

「そうだぜアリス、腹が減ったら戦はできないぜ!って言うだろ?」

 

 

 

「うるさいわよ!大体運ぶだけなんだからアンタ達も手伝いなさいよ!」

 

 

紅白、白黒共に動く気配はない。

 

 

「フッ…」

 

 

家族以外でここまで居心地のいい場所へ来たのは、ベジータは初めてである。それもこれもアリスがブルマに若干似ているからであろうか。

 

 

「…悪くない」

 

 

ベジータは3人に聞こえないようにそう呟いた。

そして霊夢と魔理沙と同じく、アリスに夕食の準備を急かした。

 

 




はい、第42話でした。

折角幻想入りしてるので、〝新しいベジータ〟というのは大袈裟ですが、皆様が見たことのないベジータの一面を見せたいです。

ではお疲れ様でした。


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【第43話】鬼

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

眠たい時に書いたり編集したりしてると、自分が考えてる展開とは全く違う事を寝ぼけて書いたりしてしまうことがあります。

自分で読み直して何が言いたいんだこれ?と…
なので変なとこや矛盾点を見つけた場合教えて貰えると凄くありがたいです。


 

 

ーアリス宅ー

 

 

テーブルの上にはとても4人分とは思えないほどの料理が並んでいた。肉、魚、キノコなど、使える食材は全て使ったのだろう。

 

食卓を囲んでいたのはアリス、霊夢、ベジータ。そして先程会った魔理沙だ。

ベジータの物凄い食欲に3人は驚き、目が点になっていた。

 

 

「ほ、ほんとによく食べるのね。沢山作っておいてよかったわ」

 

 

アリスはほっと胸をなでおろす。

が、ベジータは食べながら思っていた。

 

〝まだまだ足りん〟と。

 

 

「凄いなベジータ。お前の強さの源は食欲か?

だったら私も食べるぜ!」

 

ベジータの真似といわんばかりに、魔理沙も料理を口にかきこむ。

しかし当然魔理沙とベジータでは、噛む速さも飲み込む力も胃の大きさも違う。

ゴホッ!ゴホッ!とすぐにむせてしまった。霊夢は「馬鹿ね」と言いながらも魔理沙の背中をさすってあげた。

 

 

「フンッ、食欲が有ろうが無かろうが強い奴は強い。弱い奴は弱い」

 

「先に言ってくれよ…」

 

 

ベジータに涙目になっていた魔理沙が言い放つ。

 

 

「それにしてもこんなに食べなきゃいけないなんて不便ね」

 

 

元の世界にいた時は不便という思いはなかった。

カプセルコーポレーションにいれば大抵のものはすぐに手に入るからである。

もっともベジータはあまり物欲などはなかったのだが。

 

しかし幻想郷ではそういう訳にはいかない。これまでは運良く食事など面倒を見てくれる者が多かったが、これからはどうだろうか。

 

アリスに面倒を見てもらう訳にはいかない。もちろんベジータ自身もずっとお世話になろうとは思っていない。

その気になればベジータは自給自足もできる。それに紅魔館で、テントや寝袋など最低限野宿に必要なモノは貰っていた。

魚や兎など捕まえれば腹も満たすことはできるだろう。

 

 

「キサマこそ不便そうだな。まえ神社を見た限りだと随分貧しそうな雰囲気だったが?」

 

「う、うっさいわよ!」

 

 

それでもやはり元の世界に比べれば不便であることは違いない。

が、ベジータはいちいちそんな事は口にはしない。弱みとは言えないほどの小さな弱みでも見せたら、霊夢がつけこんでくると思ったからだ。

だからあえて自分の話題をすり替えて霊夢のことをついたのだ。

 

 

「それにしても貴方どうする気?強い人を探すって言ってたけど」

 

 

ダラダラと口喧嘩になりそうな雰囲気があったので、アリスが話題を切った。

 

 

「そのままの意味だ。探して戦う。それだけだ」

 

「……」

 

 

呆気にとられる3人。

それもそのはずだ。今まで何人か戦い好きという者には会ったことあるが、ここまでの者は初めて会ったからだ。

 

 

 

「人生楽しそうねアンタ」

 

「……なんだと?」

 

 

軽い冗談のつもりだった霊夢の言葉に、ベジータが反応を示した。

明らかに苛ついているのは眼を見ればわかる。

 

霊夢にとっては何気ない一言だったと思うが、ベジータからすれば冗談には聞こえない。

ベジータの過去はとても綺麗な過去とは言えない。むしろ地獄だ。

今でこそ『家族』がいるものの、今の幸せだけでは過去を清算することはできない。

 

 

「お、おい…謝れよ霊夢!」

 

「なんで私が…」

 

 

魔理沙がヒソヒソとベジータに聞こえないようにそう言うが、霊夢の安いプライドはそれを許さない。

このままじゃまたベジータが〝キレる〟

3人はそう思ったが…

 

 

「それはキサマらの方だろう」

 

「…アレ?」

 

 

意外にもベジータは怒らなかった。

いちいち過去を思い出す必要はないし、思い出したくもなかったからだ。

 

 

「怒らないみたいね」

 

「あーよかったわ」

 

「ふぅ…危うく夕飯が大変な事になるとこだったぜ」

 

 

何故かまだ3人はヒソヒソと喋っていた。

それが気に食わないベジータは魔理沙に向かってゆっくりと手を出す。

いつも気功波を打つ時のように。

 

 

「な、なんで私だけ!?」

 

「…チッ!とにかく戦えればそれでいいんだ!」

 

 

出した手をサッとベジータは下げた。

勿論こんな所で撃つつもりは無い。

 

 

「アンタほんとに戦い好きなのね。まるで鬼…」

 

 

何かを思いついたように霊夢はアッと声を上げる。

 

 

「ベジータ、アンタ強い奴と戦いたいなら『地底』に行けば?

どうせ行くところもないんでしょ?」

 

 

『地底』 と霊夢は言った。

ベジータはそれに聞き覚えがあった。

 

 

「地底…そういえば誰かがそんなことを言っていたな…」

 

「誰かって誰だ?」

 

「知らん。もう忘れた」

 

 

実際は顔と話した内容はちゃんと覚えていた。忘れたのは名前だけだ。

しかし説明するのが面倒だったので、忘れたとベジータは魔理沙にウソをついた。

 

 

「で、鬼とやらは強いのか?」

 

 

ベジータが一番気になることはコレだ。

自分が戦って楽しめる相手であるかどうか、これが最重要事項なのだ。

 

 

「強いんじゃない?ま、行ってみればわかるわよ。もし萃香がいたらよろしく言っといて」

 

 

「スイカか。フンッ、変な名前だな」

 

 

「「(アンタが言うな)」」

「(お前が言うな)」

 

 

3人は心の中で意気投合した。

あくまで心の中だ。当然口には出さない。

 

 

「(確かあいつは1本角だの2本角だの言っていた。その内の1人かもしれんな)」

 

 

ベジータはワクワクして笑みがこぼれた。

すぐにでも行きたい気持ちに襲われたが…

 

 

「アリス、おかわりだ」

 

「まだ食べるの!?」

 

 

出発は明日の朝と心の中で決めた。

 

 

「(鬼だか魔人だか知らねえが…

待っているんだなッ!)」

 

 

と口をもぐもぐさせながら、ベジータは思っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー修行場ー

 

 

 

 

「……なんで?」

 

 

渾身の一撃を放った後、美鈴は信じられないといった表情をしながら前を見る。

相手の〝気〟を探る必要などない。爆風が舞った後に1人のシルエットが見えていた。

〝その影〟は右腕をグルングルン回しながら爆風が晴れるのを待っていた。

 

 

「今のはけっこう効いたぞー!」

 

 

もちろんその人物は孫悟空だった。

傷といった傷も全く見当たらない。顔にも余裕が見られる。

 

 

「…なんで…ですか?」

 

「ん?」

 

「なんで…効かないんですか!?」

 

 

戦闘中に、それもその戦っている相手自体に聞く言葉ではない。

ないのだが、〝聞かずにはいられない〟

口が勝手に開いてしまうのだ。

 

 

「オラは〝効いた〟って言ったんだぞ?」

 

 

確かに悟空はそう言った。

しかし美鈴はそれを納得していない。

 

 

「逆に問いますが、

悟空さんがいま自分のできる〝最高の一撃〟を放ったとして、受けた相手が笑顔で、それも無傷で出てきて〝効いた〟と言われて信じますか?」

 

 

美鈴の問いに悟空は顔を歪める。

暫くしたら参った、と言わんばかりに笑い始めた。

 

 

「わりいな美鈴。ホントは全然効いてねえ」

 

「…でしょうね。

なぜ効いてないのかを私は知りたいんです」

 

 

折角の手合わせだ。解らないことは是非知っておきたい美鈴は、詳しく悟空に聞く。

 

 

「…おめえが弱いからじゃねえか?」

 

 

「……」

 

 

しかし予想していた答えとは違っていた。

 

美鈴は〝悟空が〟何かをしたから技が効いていないと思っていた。

しかし実際は悟空は何もしていない。ただガードしただけだ。

それで効いていないということはただ〝美鈴が〟弱いだけであるのだ。

 

 

「今更私が弱いことなど否定はしませんが…貴方も相当おかしいですね。今の技は悟天さんですら避けたのに」

 

「なんだ、美鈴おめえ悟天と戦ったのか」

 

 

もちろん悟天は全力ではなかった。

美鈴もそれはわかっていた。

 

 

「はい。ちなみに勝敗はわかりますか?」

 

 

なんとなく気になった美鈴はそう言ってみた。

しかし悟空の答えはもちろん…

 

 

「悟天だろ。おめえじゃ逆立ちしたって悟天には勝てそうにねえ」

 

「…そうですよね。しかし私がーーー」

 

 

「オイ!」

 

 

悟空の大声は美鈴の細い声をかき消した。

先程のように笑顔ではない。真っ直ぐで真剣な眼だった。

 

 

「ブツブツ言ってねーでかかってこい!

それとももう終わりにすっか?」

 

 

話ばかりの手合わせに嫌気がさしたのだろう。

悟空はあまりこの戦いを楽しそうにはしていない。

 

 

「すいません…ではいきます」

 

 

気を高めて美鈴は悟空に向かっていく。

パンチ、蹴り、それに弾幕も交えるが悟空はアッサリ躱していく。

 

 

「(…やっぱり当たるわけない。私の攻撃なんて)」

 

 

「ゴチャゴチャ考えんなッ!」

 

 

美鈴が若干不貞腐れながらやっていたことは悟空も感じ取っていた。

しかし中断はしない。攻撃もしないで美鈴の技を全て躱していた。

 

 

「美鈴…闇雲に攻撃しても当たんねえぞ。

相手の〝気〟を読みながら戦わねえと」

 

 

ベジータにも同じことを言われた気がする。

すると美鈴はふと考えた。

 

 

「(私…〝成長していない〟?)」

 

 

 

 

 

なんのために自分はここに来たのだろう。

 

 

 

 

 

師匠のベジータのため?否。

 

紫に頼まれたから?否。

 

 

 

 

 

「私は…私のために此処へ来たんだ。

強くなるために…

こんな所で何をウジウジと……しているんだッ!!!」

 

 

 

「吹っ切れたみてえだな」

 

 

悟空はまたニヤッと笑った。

ここから(・・・・)は楽しめそうと思ったのだ。

 

 

 

 

 

「絶対に………」

 

「負けるもんかーーーッ!!!」

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

地面が美鈴の〝気〟と共鳴し、音を立てながら震え上がる。

美鈴の〝気〟自体も限界だと思われていた先程よりも大幅に上がっていく。

 

 

 

「(なんでだ…なんでかはわからねえけど…

 

こいつから〝魔人ブウ〟に似た〝気〟を感じる!)」

 

 

とんでもないことである。

美鈴から魔人ブウに似た〝気〟を悟空は感じた。

確かに悟空は魔人ブウを倒すときにこう言った。

 

 

〝今度はいい奴に生まれ変われよ〟と。

しかしそれにしても生まれ変わりなら早すぎる。まだ一年も経ってないのにそんな事はありえない。

 

 

「(美鈴は魔人ブウの生まれ変わりなのか?

………いや…これは魔人ブウじゃねえ……これはなんだ……!?)」

 

 

「惚けないでください…いきますよ悟空さんッ!」

 

 

答えを考えていた悟空は先程より隙ができていた。

しかしそんな悟空を倒した所でしょうがないと思った美鈴は、悟空に声をかけた。

 

 

「わりいな美鈴…ゴチャゴチャ考えてんのはオラだったみてえだ」

 

 

 

「はああああッ!!!」

 

 

悟空も〝気〟を高めて美鈴を迎え撃とうとした。

 

 

スーパーサイヤ人にはなっていない。通常の状態だ。

しかしもはや悟空が全力を出そうが出そうまいが美鈴には関係ない。目の前の敵を倒すしか美鈴はできないのだから。

 

 

 

 

「はッ!」

 

「たああッ!」

 

 

 

両者は真っ直ぐぶつかり合い、

 

 

 

勝負はついた。




はい、第43話でした。

この小説を始めたばっかりの時に、1人の読者様から案を頂きました。採用しようとしていたのですが、話の展開場ずっと出せなくてモヤモヤしていました。しかしここで出すことができてよかったです。

ではお疲れ様でした。


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【第44話】ライバル

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

何故か眠い時にかきたくなってしまったので、何いってんだこいつ。
って文があるかもしれません。


 

 

「………」

 

 

「……かはッ…」

 

 

 

悟空と美鈴。

凄まじい程の〝気〟を纏った2人の拳はぶつかり合ったように見えたが実は違う。

 

2人は同じように真っ直ぐ突き進んだが、美鈴は最初から最後まで自分の出せる全力のスピードで悟空に向かっていった。

しかし悟空は違う。あの状況でも冷静に相手の動きを観察し、美鈴と同じスピードで向かっていった…途中までは。

 

悟空は美鈴の拳が自分の拳とぶつかりそうになった瞬間、急加速して美鈴の懐に潜り込んだ。美鈴の拳は空を貫き、一方悟空の拳は美鈴の腹に突き刺さった。

 

 

本来ならば見えなくなるくらい吹っ飛ばされる筈だったが、悟空が直前で拳の勢いを殺したため、むしろ拳に腹がひっつく形で美鈴は崩れ落ちた。

 

 

「おっと」

 

 

倒れる美鈴の方を悟空が受け止めた。

美鈴は意識を失う寸前だったが、舌を噛み、なんとか1人で立とうと必死になっていた。

 

 

「無理すんな。今のはこたえただろ?」

 

 

「くッ…!」

 

 

足をガクガクさせながらも悟空の両肩に自分の両手を置き、無理やりに立ち上がった。

フーッ!フーッ!と荒く息を吐いていた口からは、強く舌を噛みすぎたからか血が出ていた。

 

 

「美鈴、とりあえず座れ。

よっと。ほら、オラも座ったぞ?」

 

「………はい」

 

 

 

 

本心ではない。もちろん美鈴の本心はまだ戦いたいという気持ちでいっぱいだ。

しかし美鈴には見えなかった。

 

〝自分が悟空に勝てるビジョン〟が。

 

 

「ちょっとは楽になったか?……おめえが師匠ってやつにどんな戦い方を教え込まれてるかオラにはわからねえ。わからねえけど…

ホントにそれがおめえに合ってんのか?」

 

「…!」

 

 

「確かにおめえからは絶対に負けたくねぇ!っていう気合は伝わってくる。でもそれはあくまで気持ちの問題だろ?体は限界なのに無理しちゃいけねえ。

ベジータには合ってるかもしれねえけど…ハッキリ言うぞ。美鈴、おめえにはその考え方は合ってねえ」

 

 

話の内容ももちろん解っていた。しかし美鈴には悟空の『ベジータ』という発言のせいで一瞬他の事が頭から消えてしまった。

 

 

「やはり悟空さんは師匠…ベジータさんを知っていたのですか」

 

「ああ。ちょっと前にベジータの〝気〟が消えてさ。死んだとも思えねえし…『精神と時の部屋』に入ったんかなって思ったんだ。ミスター・ポポが入り口直したって言ってたしな。

あれ?デンデだっけ?まぁそれはいいか!」

 

 

話に全く説明を入れないため、美鈴は悟空が何を言ってるのかわからなかった。

しかし悟空は容赦なく話を続ける。

 

 

「だからそん中でおめえとベジータが修行してたんじゃねえかなって思ったんだ。なんとなくおめえの戦い方や技がベジータと似てんだ」

 

 

美鈴の戦い方や技がベジータに似ているのは、もちろんベジータに習ったからだ。それは間違いない。間違いなのは…

 

 

「『精神と時の部屋』って…何ですか?」

 

「え?」

 

 

美鈴がベジータと『精神と時の部屋』で修行をしたという事だ。

 

悟空の推測は近いものもあったが、根本がおかしい。

そもそも全く接点のないベジータと美鈴が、何故『精神と時の部屋』で修行をしているのかというところがまずおかしいのだ。

 

 

「確かに私はベジータさんと修行をしていました。戦い方を学び、悟空さんは私には合ってないと言いましたが、戦いに関する姿勢のようなものも」

 

「やっぱりか」

 

「ええ。しかし『精神と時の部屋』…ですか?そんな場所へ行った記憶は…」

 

 

ないに決まっている。事実行ってないのだから。

 

 

「う〜ん…じゃあおめえたちは何処で」

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

突然変な音が鳴り響き、美鈴は辺りを見渡した。

しかし周りには何もない。不思議と悟空の顔を見ると、悟空はケラケラと笑っていた。

 

 

「ハハハハハ!わりい!オラの腹の音だ。

丁度いいからメシにすっか!美鈴、ウチに戻ろうぜ!」

 

 

清々しいほどの笑顔だ。

先程まで天才的な戦い方をしていた者とは思えない。大事な話だったのだが、悟空からしたらメシを後にしてまでの重要事項ではないようだ。

普段からあまり隙のないベジータとは反対だと美鈴は悟空を見て感じた。

 

「すいません…まだお腹が痛くて。悟空さん家に戻って食べてきてください」

 

 

ものの数分前に凄まじいパンチを食らったのに、すぐにメシなど食べられるわけない。

美鈴はとりあえずもう少しこのままでいたかったのだ。

 

 

「大丈夫か?…よし!チチに弁当作ってもらうから待ってろよ!」

 

「え?いやお構いなく…」

 

「すぐ戻ってくっからな!」

 

 

そう言い残しものすごいスピードで家に戻って行った。もしかすると戦ってる時より速いかもしれない。

 

 

「なんなのあの人は…」

 

 

溜息を吐きながら独り言を呟いた…つもりだったが、

それは独り言にはならなかった(・・・・・・)

 

 

 

「ベジータの〝ライバル〟よ♪」

 

「ひっ…!」

 

 

急に声が聞こえて反射的に後ろに振り向いてしまった。

美鈴の前に現れたのはもちろん紫だった。

 

 

「はぁーい美鈴♪調子はどう?」

 

「…紫さん」

 

扇子を口の周りに持ってきて、クスクスと笑っている。

そんな紫に対し、美鈴は妙な気持ちになった。

言葉にするのなら『なんかムカつく』だろうか。

 

 

「女の子がそんな言葉遣いじゃだめでしょう?」

 

「いや何も言ってないですけど…」

 

 

地べたに座っている美鈴のすぐ近くにある岩に、紫は腰を下ろした。

 

 

 

「それより…悟空さんが師匠のライバルって本当ですか?」

 

「あら、ちゃんと聞こえてたの?ボケーッとしてたから聞いてないと思ったわ♪」

 

「はぐらかさないでください!」

 

「……」

 

 

美鈴はいつになく真剣な眼だ。

そんな真剣な美鈴をみると、紫はなんだかニヤニヤが止まらなかった。

 

 

「本当よ。 …悟空(こっち)がどう思っているかは知らないけどね」

 

 

ベジータは悟空の事を間違いなく『ライバル』と思っているだろう。

『ライバル』というのは超えるべき壁そのものだ。

どんなに強くなろうがその壁を超えることができなければなんの意味もなさない。

 

一方悟空はベジータの事を『ライバル』というよりは『仲間』として見ている方が大きいだろう。そのことは勿論紫も知っていたのだが、あえて(・・・)美鈴には詳しく話さなかった。

 

 

「そっか…悟空さんが師匠のライバルなんですか」

 

「何か思うことでもあるの?」

 

 

美鈴が何かを考え込んでいる顔をしていたので、紫はそう聞いてみた。

 

 

「いや別に…」

 

「…当ててあげましょうか?」

 

「えっ?」

 

紫は扇子をパンッと閉じた。

そしてクルッと後ろを振り向き、空を見上げた。

 

 

悟空()とベジータでは〝力の差〟が大きすぎる。

とてもライバルと呼べるほどではない。

 

…なんて考えてたんでしょう?」

 

 

ドキッと美鈴は反応した。

それは自分が考えていた事を紫が完璧に当ててみせたからである。

 

動揺している美鈴を見た紫はまたクスクスと笑う。

 

 

「そんな事…」

 

「なんで隠そうとするの?貴方がそう思っている事はお見通しよ。

…それとも師匠であるベジータに気でも使っているのかしら?」

 

「……」

 

 

図星である。

美鈴は感じていた。何をかというと、それは悟空とベジータの実力についてである。

両方と戦ってみた結果、明らかにベジータよりも悟空の方が実力が上とわかってしまった。

ベジータは悟空をライバル視している。ライバル視している相手が自分より強かったとしても別におかしなことではない…が美鈴はそれ以前の問題だとわかってしまった。

 

ベジータと戦った時は、確かに底の見えない相手だと感じた。

今の自分では勝つ事は厳しいと。

スーパーサイヤ人を見た時は恐ろしいとすら思った。。しかし同時に〝負けたくない〟という気持ちを生まれ、自分の闘争心はグンと上がっていった。

 

 

 

一方悟空は〝強すぎる〟

 

今戦ってみてわかったが間違いない。

技、戦術、経験、全てにおいて美鈴とは勝負にならない。

それに悟空はまだ全力ではない。限界を超える力を全く出さずにあの強さだったため、美鈴は悟空に勝ちたいとは思わなくなってしまった。

 

例えるなら『神』

 

誰も神相手に勝とうとするものは居ない。

そう、雲の上の存在であるのだ。

 

 

 

…と両者を比べた結果、悟空とベジータでは相手にならないとまで美鈴は思ってしまった。

 

勿論ベジータが弱いという訳ではない、悟空が〝強すぎる〟のだ。

 

 

 

 

「図星みたいね。

貴方すぐ黙り込むから分かり易いわ」

 

「ほぼ初対面みたいなものなのに、わかったように言わないでください」

 

 

プイッと美鈴はソッポを向く。

その瞬間先程パンチを食らった腹部がズキズキと痛んだ。

 

 

「あらあらごめんなさいね。

…でも確かに、貴方からすると初対面かもしれない。

けど私は貴方のことをずっと見ていたわ」

 

「えっ!」

 

「大体居眠りしてたけどね」

 

 

紫は幻想郷の賢者だ。

常に幻想郷の様子を見ている。人や妖怪が変な事を起こさないかなど注意深く見守っているのだ。

 

 

「ストーカーですか」

 

「違うわよ!」

 

紫は鋭いツッコミを入れる。

まぁそう言われても仕方がないのかもしれないが。

 

 

「もうっ…!じゃあそろそろ行くわね」

 

 

頃合いだと思った紫は立ち上がった。そして手を前に差し出す。

するとそこからいつものスキマが現れた。

 

 

「悟空さんに会っていかないのですか?」

 

「別世界の住人同士が干渉するのはNGよ。

貴方とベジータは例外。 わかった?」

 

「…例外の基準は?」

 

 

 

「…私の気分♪」

 

 

少し間を置いて答える。とんだ賢者である。

 

 

「最後に聞いてもいいですか?

…紫さんは悟空さんと師匠の事を私より知っているんですよね?

じゃあ悟空さんが師匠の事をどう思っているか教えてくれませんか?」

 

 

美鈴も立ち上がった。そして先程からずっと聞きたかった事を聞いた。

これほど力の差がありながらベジータは悟空の事をライバルだと言っていた。じゃあ悟空はどう思っているのか、それを知りたかったのだ。

 

 

勿論紫は全ての答えを知っている。

 

しかし

 

 

 

 

「本人に聞いてみれば?

またくるから答えを聞かしてね」

 

「あ!ちょっと!」

 

「バイバーイ♪」

 

 

 

逃げるようにスキマでそこから消えていった。

美鈴は紫がその事について知っているとわかっていた。

わかっていたからこそ何故隠すのかわからなかった。

 

 

「はぁ…」

 

 

そう溜息を吐き、仰向けに寝っ転がった。

そしてそのまま雲ひとつない青い空を細目で眺めていた。

 

 




はい、第44話でした。

実際悟空ってベジータの事を具体的にどんな風に思ってるんですかね。私は『仲間』とか『友』とかだと思いますけど、殺そうとした相手にそう思えるってすごく器が大きいですよね。

ではお疲れでした。


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【第45話】感謝

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

ついに夏休みが終わってしまいました。冬休みー!はやくきてくれーっ!


 

 

空は青い。

 

 

住んでいる世界は違えど、それは間違いない。

なぜ青いのだろう?青じゃなければならなかったのだろうか。

むしろ青いからこそ空なのだろうか。

 

 

 

 

 

「……あーーーー……」

 

 

仰向けに寝っ転がっていた美鈴は、意味なくそんなことを考えていた。

 

 

「……………んっ」

 

 

また意味もなく手を空へ向ける。当然自分の手は空まで届くことはない。

 

 

「なんで太陽さんはこんなにも輝いているのかな…」

 

 

不意に口から溢れた。意識してなくても勝手に思った事が声になってしまうのだ。

 

しかしそんなことわかる筈もない。恐らく一生考えたところで美鈴が知ることはないだろう。

 

 

 

 

だがそれは悪い事であるのか?

否、悪い筈がない。

 

人であろうが妖怪であろうがわからない事など当たり前のように存在する。むしろ大きく考えるのならばわからない事だらけだろう。1人、もしくは1匹の人や妖怪が知り得る知識などたかが知れている。

 

 

 

「ほんっと…わからない事ばっかりね」

 

 

すぐ近くまで来ている悟空の〝気〟を感じ取った美鈴は、「よいしょ」と上体を起こした。

そして手をつき地面から立ち上がり、服についた土と砂を手でパタパタとはたいた。

 

 

 

「遅くなっちまったな」

 

 

昼食をとるために一旦家に帰っていた悟空が戻ってきた。

悟空のことだ。昼も大量の食事をとってきたことだろう。

 

 

「いやいや、思ってたよりずっと早かったですよ?」

 

「そうか? …ほら、弁当だ!もう食べられるだろ?」

 

 

悟空は風呂敷に包んでいた弁当とお茶を美鈴に渡した。女性の昼食にしてはなかなか量が多い。

しかしそれ以上に美鈴は気になる事があった。

 

 

「はい大丈夫です。ありがとうございます。

…それよりなんで悟空さんもお弁当を?」

 

「ははは!美鈴が弁当食ってる間に色々聞きたいこともあるし、オラも弁当作ってもらったんだ!」

 

 

先程家で昼食をとってきたにもかかわらず、悟空はまた弁当を開けて食べ始めた。

美鈴の弁当も大きなものだったが、悟空のは重箱で、5段も積み重なれていた。

 

美鈴はそんな悟空を見てやはり常識外れな男だと再認識した。

 

 

 

「…とりあえず、頂きます」

 

 

美鈴も地面に胡座をかいて座った。

そして布に包まれていたお弁当箱を開ける。するとその中には色とりどりの料理が詰め込まれていた。

 

 

「うわあ…美味しそう!」

 

 

箸を手に取り、まずは唐揚げを口に運ぶ。

程よく温かく、歯で噛みきると肉汁がブワッと溢れ出した。見た目通りに味もすごく良い。

 

 

「チチさんって料理が凄く上手いんですね。

憧れるなぁ…そういう女性」

 

 

美鈴も女だ。肉体的な強さも勿論だが、こういう女性らしい事も出来るようになりたいと思っているのも本音であった。

 

 

「ああ!チチは料理がすごくうめーな!

毎日毎日めいいっぱい作ってくれっぞ!」

 

 

主婦というのは当然毎日料理を作る。

が、チチの場合は作る量が桁違いだ。

 

悟空、悟天、今は家に居ないが悟飯も居る。並大抵な者では毎日料理を作り続けることはできないだろう。

 

 

「へぇ〜…主婦ってすごいんだなぁ…」

 

 

感心しながらも料理を口に運びモグモグさせる。

悟空も話しながらモグモグと噛んでいるが、噛む回数は美鈴の10分の1くらいだ。

 

 

「そうだ、そういえばオラ美鈴に聞きたい事があるんだけどさ」

 

 

食事の手を止めて悟空が言う。

 

 

 

「はい、なんでしょう?」

 

「おめえ、どっから来たんだ?」

 

 

 

「……私はとある田舎から此処へ来ました。

悟空さんのような強い方に修行をしてもらって強くなりたかったからです」

 

 

チチからも同じ質問をされた。あの時はチチが途中で聞くのをやめたからなんとかなったが、悟空相手にはそういうわけにはいかないと思い、適当な嘘をついた。

 

 

 

「ちがう、そうじゃねえ」

 

「…そうじゃない、とは?」

 

 

「おめえはこの世界(ここ)の人間じゃねえ。

そもそも人間かどーかもわかんねーけどな」

 

 

 

 

 

「…どういう事ですか?」

 

 

美鈴はそれを聞いて少し黙った。

が、すぐに返答する。ずっと黙りこんでいたら怪しまれると思ったからだ。いくら悟空といえど異世界から来たとは言えない。

 

 

「わかんねえか?おめえが嘘ついてるって事だ」

 

「………」

 

 

また美鈴が黙り込む。悪い癖だ。

 

 

「もっかい聞くぞ。おめえはどっから来たんだ?」

 

「………(う〜…助けて紫さん!)」

 

 

美鈴の心の声はもちろん紫に届くことはない。

心が折れそうになり、事情を話そうとしたその瞬間。

 

 

「まっ、別にいーけどな!」

 

「は、はえ?」

 

 

悟空はにっこりと笑った。

 

 

「別におめえがなんだろうがオラには関係ないしな」

 

 

確かにそうだ。でも気にならないのだろうか。

 

『話さなければ修行をつけない』

こう言えば美鈴は言わざるを得ない状況となったのに。それを言わなかったのはそれを思い浮かばなかったか、はたまた優しさなのかは悟空しかわからない。

 

 

「す、すいません…」

 

「何謝ってんだ?それより早く食って修行するぞ!」

 

 

悟空は止めていた箸をまた動かし、料理を食べだした。

 

美鈴は悟空に出逢えたことを感謝しつつ、箸を進めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!じゃあ始めっか!」

 

「はい!」

 

 

修行をするとは言え何をするんだろう…

そう美鈴は思っていた。単なる組手なのか、それとも強力な技の伝授なのか。

なんにせよワクワクが止まらなかった。

 

 

「あ!そういえば悟空さん、さっきの組手で気になった事があったんですけど」

 

「ん?なんだ?」

 

 

 

「私が悟空さんを岩まで吹っ飛ばした後、一瞬で私の後ろに回り込んだじゃないですか。

アレはどうやったんですか?」

 

 

戦闘中も気になっていた。

戦い終わった今、冷静に考えてもやっぱりわからない。

 

 

「ああアレか。

アレは『瞬間移動』だ」

 

「瞬間移動?」

 

「ああ。瞬間移動ってのはな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ってやつだな」

 

「………」

 

 

美鈴は言葉が出なかった。

改めて自分はとんでもない化け物と戦ったのだと実感した。

 

 

「凄い…凄すぎますよ悟空さん!

お願いです!私にも瞬間移動教えてください!」

 

「えっ?」

 

 

悟空は瞬間移動を仲間に何度も見せた事があるが、教えてくれと言われたのは初めてである。

なぜこんな便利な技を皆が悟空から教わらないのかというと、それはこんな高度な技を自分が出来るわけないと思っているからである。

 

しかし美鈴は笑顔で聞いてくる。

もちろん美鈴も簡単な事ではないとは重々承知しているが、それよりも『やってみたい』という気持ちの方が大きいのだ。

 

 

「うーん…教えてもいいけど、時間がかかるだろうからなぁ…一旦置いとこう」

 

「わかりました!」

 

 

美鈴はハキハキしている。

もうなんでもいいから教えてもらえればいいと思っているのだ。

 

 

「…美鈴、おめえなんか修行をつけてほしいっていうか、ただ技を教えてもらいたいだけなんじゃねえか?」

 

 

 

「い、いやそんな事ないですよ?ハ、ハハハ…」

 

 

図星か。と悟空は確信した。

 

 

「なんかおめえよくわかんねえ奴だなぁ…」

 

「エヘヘ…」

 

 

「…よし決めた!

とりあえずオラはおめえに技を教えねえ!」

 

「はい! ……え? ええええええ!??」

 

 

威勢良く返事をしたが、すぐに冷静になった。

 

 

「何故ですか!?」

 

「美鈴、おめえは技に頼りすぎてる。

なまじ強い技を覚えちまったせいでな」

 

 

確かに美鈴はベジータの『ビッグ・バン・アタック』を覚えたら、それに依存する戦い方になってしまった。

相手が相手だという事もあり、仕方ないといえばそうなのだが。

 

 

「それはそうですけど…やっぱり技っていうものは大事じゃないですかぁ…」

 

 

右手と左手の人差し指をくっつけたり離したりしながら、涙目で悟空に訴える。

 

 

「オラは別に技を使うなって言ってるわけじゃねーぞ?オラからは教えないって言ってるだけだ」

 

「え?」

 

「美鈴、ちょっと離れてろ」

 

 

唐突に悟空が言う。

美鈴は言う通りに5歩程度下がった。

 

 

「ふぅ…」

 

 

「(…!? 空気が変わった…!!!)」

 

 

悟空の周りの空気が一瞬にして変わった。

 

 

「『界王拳』ッ!!!」

 

 

 

「なッ!?」

 

 

凄まじい勢いで悟空の〝気〟が上がっていく。

スーパーサイヤ人と似ているが根本が違った。

 

 

 

「ふう、これが界王拳だ」

 

「…凄い。凄いですよ悟空さん!

私さっきから凄いしか言ってませんが、それほど凄いのです!」

 

 

美鈴の真っすぐの気持ちは嬉しいが、正直これくらいで凄い凄い言っているようじゃこの先少し心配だと悟空は思った。

 

 

 

「これを私に習得しろと言っているのですね!」

 

「いやちげえぞ!オラからは教えねえってさっき言ったばかりだろ!」

 

 

1分前の事も忘れていた美鈴。

それほど悟空の『界王拳』が凄かったのか、それとも美鈴が抜けているだけなのか。

 

 

「そういえばそうでした!

…それでは何故それを私に見せたんですか?」

 

「はぁ…」

 

 

悟空は溜息しながら『界王拳』を解く。

そして腕組みしながら説明に入る。

 

 

「界王拳はな、体力をかなり消費するんだ。

だから使った後にどっとカラダに負担がくる」

 

「ふむふむ」

 

「だからおめえにはあんまし合ってねーと思うんだ。

恐らく美鈴が界王拳を使っても負担が大きすぎてカラダがまともに動かねえだろうな」

 

 

『界王拳』は悟空すらも使った後にはカラダに負担がくる。そんな技を美鈴が使うものなら自殺行為にしかならないと悟空は考えたのだ。

少なくとも今のまま(・・・・)なら。

 

 

「まさか…」

 

 

何かを察したように美鈴が声を出す。

 

 

「へへっ 多分おめえが思ってる通りだ」

 

 

ゴクリと美鈴が唾を飲む声が悟空にも聞こえる。

 

 

 

 

「美鈴!おめえは今から界王拳をアレンジしてみろ!

 

おめえだけの界王拳をつくるんだ!」




はい、第45話でした。

皆様お久しぶりです。色々と忙しかったり忙しくなかったりして投稿が遅れてしまいました。
次はできるだけはやく投稿したいと思ってるので、よかったら読み続けてください!

ではお疲れ様でした。


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【第46話】大きな壁

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

早めに投稿できて良かったです(*'∀'*)ゞ


 

「………」

 

 

 

美鈴は自分流の『界王拳』を生み出すべく、あれから修行に励んでいた。

修行といっても激しい動きはせず静かに、そして黙って立っているだけだ。

 

 

「ふぅ…」

 

 

一呼吸おいたら美鈴は目を瞑った。そして自分の中にある〝気〟を徐々に(・・・)()げていく。

 

 

「(美鈴の〝気〟がドンドン昇がっていく…集中力は大したもんだな)」

 

 

感心しながら見守る悟空。

悟空は大きな岩の上に登っており、胡座をかきながら見下ろすように美鈴の修行風景を眺めていた。

 

 

 

「(徐々に〝気〟を昇げて…その後一気に……………

……………………爆発させるッ!)」

 

 

「っ!!」

 

 

ピクッと悟空が反応した。

 

 

「はあああああああッ!!!!!!」

 

 

 

 

美鈴の〝気〟を昇がったと同時に大地が揺れる。

小さな台風のようなものが巻き起こったほどだ。

 

 

「…ダメだ」

 

 

しかし思った通りにはならない。

自分のイメージとは全く違う。

 

 

「美鈴!最初からなんてできねーのが当たり前だぞ!

でもそのできなかった一回を無駄にすんな。できなかった一回を見直すことで成功につながるからな!」

 

「…はい!」

 

 

悟空もアドバイスはしてあげるが、それ以上のことはしない。

美鈴が自分1人で成し遂げなければいけない事だと思っているし、

それとただ単純に美鈴がどんな新化を遂げるか興味があったからだ。

 

 

「(今んとこはただ〝気〟を昇げているだけだ。けどこっから美鈴がどうなんのか…へへっ オラも楽しみだ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

あれから数時間経った。

美鈴はひたすら同じことを繰り返していたが、何も掴めてはいない。

ザッと膝と手を地面につき、肩で息をしている。顔を下げた事によって、汗が顎から滴り落ちた。

 

 

「うっし!今日は終わりにすっか!」

 

 

初めは岩に座って美鈴の修行を眺めていた悟空であったが、どんどん暇になっていき、最終的には1人で筋トレをしていた。

 

 

「はい!」

 

「お?やけにいい返事だな。

何か掴めたのか?」

 

 

修行を始めたときよりも美鈴は清々しい顔をしていた。

なんというか迷い、悩みを吹っ切れた。そんな感じの顔だ。

 

 

「いえ全く…でも、なんででしょうね。

なんか今まで以上に私は強くなれる、そんな気が全身から感じるんです。もっともっと修行をしていたいです!」

 

「そうか…でも無理はしちゃいけねえぞ。

おめえはオラやベジータみたいにカラダが強くねえからな」

 

 

妖怪といえど戦闘種族のサイヤ人ほどカラダは丈夫ではない。

無理をして早く技を習得しようとすればするほど、それが遠のいていくことは悟空には解っていた。

 

 

「もちろんわかっています。

でもなんだか悔しいですね………私もサイヤ人ならよかったな。

というかサイヤ人って他にいるんですか?」

 

 

ベジータに質問していたら地雷だったかもしれない。

まあ今更ベジータも引きずってはいないだろうが。

 

 

「星ごと滅んじまった。いや、滅ぼされたって言い方の方が正しいんかな?」

 

「え?ほ、滅ぼされた?

だ、誰に…?」

 

「フリーザっちゅう悪い奴にな。

オラとベジータとその仲間達は生き残ったんだ」

 

 

なんでそんな事を軽く言えるのだろうと不思議に思う美鈴。

無理もない。悟空にとっては惑星ベジータなど全く思い入れはないからだ。

しかしだからといってどうでもいいわけではない。星を滅ぼされて死んでいったサイヤ人達の嘆き、悲しみは悟空にも容易に想像できる。

 

 

「その仲間達と悟空さんとベジータさんは今現在地球に住んでいるという事ですね。いやはや…まさかサイヤ人とは別の星の生命体だったなんて…」

 

 

美鈴が驚くのも当然だ。つまり美鈴からみたら悟空達は宇宙人なのだから。

 

 

「いや、ベジータの仲間は2人とも死んじまった。

だから純粋なサイヤ人、だっけ?それはオラ達2人しかいねえんじゃねえかな」

 

「あっ…すいません…」

 

 

残り2人のうちの1人が悟空達の手によって、そしてもう1人がベジータの手によって殺されたと知ったら美鈴はどんな反応をするだろうか。

 

 

「謝んなって!さっ 帰ってメシにしようぜ!」

 

「…はい」

 

 

 

いつもみたいに悟空はニッと笑い、雰囲気を明るくしてくれた。

 

2人は瞬間移動で家に戻り、夕飯の手伝いをしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあああああ………」

 

 

 

美鈴が再び〝気〟を高めた。

美鈴は具現化された〝紅い気〟を纏っている。悟空の『界王拳』よりも暗く、不気味な光沢を放っていた。

 

 

「(美鈴のやつ、恐ろしいスピードで成長してんな。

ただもうひと押し…後もうひと押し足りねえ)」

 

 

あれからひと月が経った。

美鈴は悟空の予想をはるか上回るスピードで成長していたのだ。

 

今の美鈴は体力の消耗を限りなく抑え、それでいて通常の『界王拳』にも勝るとも劣らない新技を編み出す一歩手前のところだ。

 

 

「くっ…はあッ!」

 

 

それを美鈴もよくわかっている。

ここまで来れたのは圧倒的な速さなのだが、あと一歩、ちょっと手を伸ばせば届きそうなところで届かないこのなんとも言えない気持ちがもどかしいのだ。

 

 

「…ダメ元でやってみっか!」

 

 

何かを決心した悟空が美鈴を呼びつける。

それに気づいた美鈴が小走りで悟空に駆け寄った。

 

 

「はい、なんでしょう?」

 

「今からオラと組手だ」

 

「組手ですか?しかしまだ技が完成して…」

 

「わかってる。だからだ」

 

 

悟空の顔が真剣になる。

ひと月前に組手をして以来、いやあの時よりも気合いが入っているようにも見える。

 

 

「わかりました…!ではいきます!」

 

「おう。本気でこいよ美鈴。

………オラも本気でいく!」

 

 

みるみる悟空の〝気〟が高まる。

そして悟空は〝気〟を解放した。

 

 

「…はッ!」

 

「いっ…!?」

 

 

 

 

 

 

美鈴が驚愕する。

 

 

 

「金色の髪…これが悟空さんのスーパーサイヤ人…」

 

 

シュインシュインシュインと静かに音を立てている。

目つきもなんだか悪くなったような気がする。悟空はスーパーサイヤ人になったのだ。

 

 

「さぁ…いくぞ美鈴!」

 

「はいッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー1分後ー

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

「ここまでだな」

 

 

美鈴は地面に大の字で倒れ込んでいる。一方悟空は息すら乱さずに美鈴を見下ろしていた。

 

 

「ふぅ… 美鈴、強くなったな」

 

「…まだまだです」

 

 

「(マズかったかな…)」

 

 

悟空はスーパーサイヤ人で戦い、追い込むことによって美鈴が技を完成させる事を期待していたが、そう上手くいかなかった。

むしろ絶対的な差を見せられた美鈴のモチベーションを下がったかもしれないと慌てていた。

 

 

「(恐らく美鈴は元々オラには勝てねえと思いこんでる。

そのオラが追い込んでも美鈴の引き金を引くのはできねえ…か)」

 

 

ベジータのように半殺しにする覚悟があれば話は別だったかもしれないが、まだ知り合ってひと月、それも女性をそこまで追い込めるほど悟空は非情ではない。もちろんベジータも美鈴のためを思った行動であった事には変わりないが。

 

 

「ちょっと疲れただろ?休憩するか!」

 

「いえ!」

 

「…ん?」

 

 

美鈴がユラっと立ち上がる。

修行を続けるつもりだ。

 

 

「おいおい無理すん…」

 

「? どうしました?」

 

 

美鈴が無理をしているようには見えない。

むしろ楽しそうな顔をしている。

 

 

「ははは…なんでもねえ!

オラちょっと昼メシ持ってくる!」

 

「いつも思うのですが…わざわざ飛んでいかなくても瞬間移動で行けばいいのでは?」

 

 

悟空は毎回毎回家まで全力で飛んで行っている。

瞬間移動を使えば体力を使うこともないのに、と美鈴は常々思っていたのだ。

 

 

「これも修行だ! じゃあ行ってくるぞ!」

 

 

そう言いながら悟空はすごいスピードで飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへへ…美鈴はこんくらいでやる気を無くす奴じゃなかったな!

オラばっかり慌てちまって…バッカだなー!」

 

 

美鈴はモチベーションを下がったりしない。むしろ上がったのだ。

しかし悟空は知らない。組手の相手が他でもない悟空だからこそ、美鈴のやる気が上がった事を。

 

悟空は全力ではないにしろ、本気で美鈴に向かっていった。それが美鈴は何より嬉しかったのだ。

強大な力を見せびらかすのではなく、大きな壁として立ちはだかったのだ。すると美鈴はこう思った。

 

 

 

 

〔この人()超えたい!〕

 

 

 

悟空の強さは敵にやる気を無くさせる強さではない。

こいつを、この人を、この者を超えたい、と。そう思わせる強さなのだ。

 

 

 

「とはいえ美鈴はもう技を覚えてもいい頃だ。

なんか考えねえとなぁ。正直さっきの考えは良かったと思うけど何が悪……………ん?」

 

 

腕組みしながら高速移動している悟空。

何かを思いついたように急ブレーキをかけた。

 

 

「オラ自分で言ってたじゃねえか。美鈴はオラには勝てねえと思ってる…勝てねえでいいのはオラが美鈴の敵じゃないから。だから美鈴は本気になれない。つまり…………」

 

 

珍しく悟空が戦闘以外で頭を働かせている。

頭の中がこんがらがって痛くなりそうだが、これも美鈴のためだ。

 

 

「…そうだ。そうだよ!ははーっ!なんだ簡単な事じゃねえか!

よーーーし!さっそく頼んでみっか(・・・・・・)!」

 

 

「やっほーーーーーっ!」

 

 

自信があるのだろうか。何かを思いついた悟空は嬉しそうにしながら家に向かって飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

悟空が飛んで行った後、美鈴は再び集中力と〝気〟を高めていた。

その途中、もう見えないくらい離れている悟空の声が聞こえた気がした。

 

 

「どうかした?」

 

「いや、悟空さんの声が聞こえた気がし…ってうわあッ!?」

 

 

存在が神出鬼没、八雲紫が美鈴の後ろの岩へ座っていた。

 

 

「毎回毎回面白い反応ね。まさか練習してる?」

 

「してませんッ!」

 

 

いつも通りにニコニコしている紫。

何をしに来たんだろうと美鈴は一瞬思ったが、用がなくても来るのが紫なのだ。

 

 

「ホラホラ、修行を続けて?」

 

「わ、わかってます! ………貴方がいたら集中できません。

休憩です!」

 

ザッと地面に座り込む美鈴。

前と同じような風景だ。

 

 

「修行、頑張ってるみたいね。キツイ?」

 

「ええ。キツイけど…でも楽しいです!」

 

 

「…そう。安心したわ」

 

 

 

すると紫がスキマを開く。

もう帰ろうとしていた。

 

 

「え?も、もう帰るんですか?」

 

「ええ…私に此処はキツイ(・・・)わ。

じゃ、頑張ってねー」

 

 

来て2、3分で紫は帰ってしまった。

美鈴はポカーンと前を見続ける。

 

 

 

「…私何か悪い事でも言っちゃった?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ースキマの中ー

 

 

 

「ふぅ…あの凄まじい〝気〟の名残り…孫悟空ね。

私程度じゃあの場に長時間居られないわ。幻想郷(こっち)に住んでいる者ほとんどが…ね」

 

 

「………」

 

 

 

「紅美鈴………楽しみね」

 

 

 




はい、第46話でした。

今更ですが、30000UAありがとうございます!
これからもよろしくお願いします。


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【第47話】ピッコロ大魔王復活?

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

私事ですが、先日誕生日を迎えました。今1番欲しいプレゼントは『単位』です(泣)


 

 

「はぁーっ!食った食ったー!」

 

 

〝何か〟を思いついた悟空は、とりあえず家に帰ってきて昼食をとっていた。自分が考えていることに余程の自信があるのか、ニヤニヤしながら頬張っていることをチチは不思議に思っていた。

 

 

「ずいぶんとゴキゲンだな悟空さ。何かいいことあっただか?」

 

「まあな!…っとこれが美鈴の弁当だな?持っていくぞ」

 

 

机に置いてある弁当を取り、人差し指と中指を自分のデコに持ってきた。

『瞬間移動』をするのだろう。

 

 

「………お、あったあった!じゃあ行ってくる!」

 

 

 

 

 

 

誰かの〝気〟を見つけた悟空は、『瞬間移動』でその者の場所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

大きな建物の屋上。そこには1人の青年が立っており、何か考え事をしていた。

 

ここは見渡す限りの都会。右を見ても左を見てもビルが並んでいる。下の道路からは車の音や、女の子のキャッキャ騒ぐ声が聞こえてくるが、集中している青年の耳には入っていないだろう。

 

 

 

「どうしたの?悟飯くん」

 

 

 

そう、その青年の名は孫悟飯という。孫悟空とチチの息子である。

話しかけてきた女性は悟飯の友人のビーデル。ビーデルは地球を救ったと言われているミスター・サタンの実の娘だ。

 

 

「…感じるんだ。強い〝気〟を。

1ヶ月くらい前から…ずっと」

 

 

悟飯は学校の長期研修が始まって少しした頃から、ある違和感を覚えていた。

それは急に家の近くに〝異質な気〟が出現した事だ。

 

最初はまた新たな敵が現れたのかと思った。駆けつけようとも思ったが、家には悟空がいる。強いといっても悟空の相手になる程ではない。なので自分が行くまでもないだろうと考えたのだ。

 

 

 

「……そんなに強いの?」

 

 

心配そうに悟飯に聞く。気になるのも無理はない。ビーデルはあの魔人ブウを見てきたのだから。

 

 

 

「いや、脅威になる程じゃないと思う。それに多分だけど敵じゃないと思うんだ。1ヶ月間ずっと滞在してるってことは…もしかしておとうさんに修行をつけて貰ってるんじゃないかな」

 

 

悟飯の予想は当たっていた。

 

 

「悟空さんに?なるほど…その人が気になるの?」

 

 

悟飯が黙り込む。1度目を瞑って、再び開けたかと思うと同時に口も開いた。

 

 

「成長速度が〝異常に速い〟んだ。昨日まで荒々しかった〝気〟が今日には落ち着いている…ただ抑えているわけじゃない。まるでおとうさんとボクが……」

 

 

「…え?」

 

 

「ハ、ハハハ…なんでもないよ!」

 

 

〔まるでおとうさんとボクが、精神と時の部屋で修行をした後みたいだ〕

 

 

悟飯はそう言おうとしたがやめた。途中まで言いかけてなぜやめたのかは悟飯自身もよくわからなかった。

 

 

「なにさ急に…あっ!もうこんな時間!悟飯くん、わたし先に行くわよ!」

 

「え?あ、うん…」

 

「悟飯くんも早くきなさいよー?」

 

 

最後に一言伝えて、ビーデルは屋上を去って行った。お昼の時間ももうそろそろ終わりだ。

 

 

「さて…ボクも行こうかな」

 

 

悟飯もビーデルに続いて戻ろうとした。

その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ!悟飯!」

 

 

『瞬間移動』で悟空が現れた。

 

 

 

「お、おとうさん!?どうしたんですか?」

 

 

悟空が何も用がなく来る筈もない。ニッとした笑顔に、悟飯は嫌な予感を感じていた。

 

 

「悟飯、おめえに頼みたい事があるんだ」

 

「頼みたい事?」

 

「ああ。頼みたい事ってのはな………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なるほど。オリジナルの『界王拳』を会得するために、ボクにその…紅美鈴さんという人と戦ってほしいと」

 

 

悟空なりにわかりやすく説明した。しかしまだ肝心なことを伝えていない。

 

 

「そうそう!頼む悟飯!」

 

「なぜボクなんですか?おとうさんが戦えばいいんじゃ…?」

 

 

急に悟空が真顔になる。そんな悟空を見た悟飯は何か事情がありそうだ、と感じた。

 

 

「たぶんだけど…美鈴は身内に対しては本気になれねえんだと思うんだ。あいつは感情によって力が爆発的に変わる。 …怒りによってスーパーサイヤ人を超えた悟飯、おめえみたいにな」

 

「………」

 

 

「だからおめえに〝敵〟として美鈴の前に現れてほしいんだ。 …美鈴が技を会得するために」

 

 

身内が相手だと美鈴は本気になれない。だから〝敵〟を演じることによって、美鈴を本気にさせよう。

というのが悟空の考えた案だったのだ。

 

 

 

「おとうさんの考えはわかりました。しかし今ボクは学校の研修で忙しくて…」

 

 

勿論悟空の気持ちはよくわかったし、その紅美鈴という女性にも手を貸してあげたい。

しかし、今悟飯は大事な時期だ。時間はいくらあっても足りない。

 

 

「心配すんなって!おめえならなんとかなるさ!

それに……」

 

「それに?」

 

 

 

 

 

 

「おめえの、あのおかしなカッコ!グレートサイヤマン…だっけ?

あれ〝悪役〟にピッタリじゃねえかーっ!」

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 

 

「ん?どうした悟飯」

 

 

 

悟空は知らない。自分が全速力で地雷を踏みに行ったことを。

 

 

 

 

「おとうさん。言っておきますけど…」

 

「お、おう…?」

 

 

 

悟飯の凄まじい威圧感に、悟空はおもわず後退りしてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「グレートサイヤマンは正義のヒーローですッ!!!

どんな事情があろうともッ!悪人の真似事なんてできませんしッ!やりたくもありませんッ!!!」

 

 

 

「いっ…いいいいい!?」

 

 

 

町中に聞こえたのではないかと思わせるほど、悟飯の声は大きく響いた。

下の道路でたくさんの車が、あまりの声のデカさに衝突しそうになったくらいだ。

 

 

 

「ご、悟飯…?」

 

 

「お昼休みも終わりなのでッ!失礼しますッ!」

 

 

 

ドスドスドスと大きな足音を立てながら、悟飯は下へ降りて行ってしまった。戦闘以外でこんなに怒る悟飯を見たのは、悟空ですら初めてだった。

 

静まり返った屋上に、悟空だけがポカーンと置いてけぼりにされた。

 

 

 

 

「お、オラなんか悪いこと言っちまったかな…」

 

 

しかし自覚はない。前の天下一武道会から思っていた事を口に出しただけなのだ。

 

 

 

「〝はんこうき〟っちゅうやつかな…それにしても参ったなぁ…」

 

 

 

さっきの調子だと、日を改めても悟飯はやってくれないだろう。

 

 

 

「うーん…悪人か………っ!

そっかベジータに!!!……そういやあいつ居ないんだったな…」

 

 

 

悪人と考えると、悟空からしたらベジータしか思い浮かばない。しかしベジータがいたとしても絶対にやってくれないだろう。

 

 

 

「………」

 

 

悟空は真剣に頭の中で考えてみる。クリリンやヤムチャなどに頼もうとも考えだが、美鈴の潜在能力的に、十分な力の差がある者に頼みたかったからやめておいた。

 

 

 

 

「あーーーーッ!!!いるじゃねえかピッタリのやつが!!!」

 

 

 

ずっと黙っていた悟空が適任を見つけたらしく、大きな声をあげた。今度こそは大丈夫という確信を持ちながら、再び『瞬間移動』でその者の場所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー神殿ー

 

 

 

「ふッ!はぁッ!」

 

 

ここは神殿。カリン塔の上部に存在する、ぽっかりと浮いた神聖な建物である。

そこにはピッコロが1人で修行をしていた。

 

 

魔人ブウとの戦いでは、ピッコロは戦力としては役に立てなかった。

悟天とトランクスがフュージョンした戦士『ゴテンクス』がブウと戦った際にも、時間切れで元に戻った時に、悟飯が駆けつけてくれなければあっさり殺されてしまっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーっ!ピッコロ大魔王(・・・)!」

 

 

「……何を言ってる悟空」

 

 

『瞬間移動』で現れた悟空。そして急に変なことを言い出した。

 

 

 

 

「修行中か?」

 

「ああ。それより悟空、ベジータの事なんだが…」

 

 

ピッコロはベジータが『精神と時の部屋』に入った事を知っていた。

しかしピッコロはおかしいと感じたことがある。ベジータがいつまで経っても出てこないからだ。

 

 

「ああ。それもちゃんと説明する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。近頃きさまに接近してきた紅美鈴という女が、ベジータと何か関係がある…と」

 

「らしいな。まぁ詳しくはオラにも教えてくれねえんだけど」

 

 

 

ピッコロは腕組みをして考える。

 

 

「その女に関してはオレも気になっていた。きさまが修行をつけてやってるんだろう?」

 

「ああ!その事に関してなんだけどな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悟空は先程悟飯にした説明をピッコロにもした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なッ!なんでオレがそんな事をしなけりゃならんのだッ!」

 

 

 

当然の反応である。

 

 

 

「頼むよピッコロ。おめえしかいねえんだ」

 

 

 

「ふ、ふざけるな!…大体、その紅美鈴とかいったか?そんな素性もしれない奴に修行をつけることすらオレは反対だ!」

 

「いいか?悟空。そいつはベジータの居場所も、自分が何処から来たのかも言わないらしいな?もしかしたら…そいつがベジータを殺った可能性だってあるんだぞ!」

 

 

 

確かにピッコロの言うことも一理ある。自分が何処から来たのかも言えないくらい怪しい相手に、修行をつけてやる必要性がない。

 

 

 

「…かもな。でもピッコロ、おめえベジータがそんな簡単にやられると思うか?」

 

「あくまで可能性の話だ。オレもベジータがやられるとは思ってない」

 

 

「それによ…ベジータは『精神と時の部屋』から出てこなかったんだろ?」

 

「ああ…………っ!」

 

 

ピッコロが何かに気付いた。そのピッコロを見て悟空もニヤッと笑った。

 

 

 

「…紅美鈴とか言う女が『精神と時の部屋』に入り口(・・・)から入ったとも思えん。オレが気づかないわけない」

 

 

 

この事からある可能性が浮かび上がった。

 

 

 

「まさか…あの女、〝別の次元〟から来たと言うことか?魔人ブウやゴテンクスが次元の壁に穴を開けたみたいに?」

 

 

そう、入り口から入っていないということはそう言う事になる。しかし魔人ブウやゴテンクスでようやく小さな穴が開く程度なのに、美鈴がそんな穴を開けられるとは思えない。

 

 

「ん〜…それはどうだろうな。オラは多分美鈴は他の世界から来たんだと思うけど、次元の壁に穴を開けて来たとは思えねえな」

 

「何故だ?」

 

「そもそも他の世界…つまり異世界から穴を開けて来たとしても、『精神と時の部屋』にいけるとは限らねえだろ?」

 

 

その通りだ。次元の壁に穴を開けたとしても、『精神と時の部屋』に辿り着く可能性など限りなく0に近いだろう。

 

 

 

「オラは…多分なんかの能力を使って『精神と時の部屋』に来たんだと思う。そしてベジータをあっちの世界に連れていった」

 

「なるほど…だがあの女にそこまでの能力があるとは思えんが…」

 

「オラも思わねえぞ?でも美鈴の仲間って可能性はあるだろ?美鈴の仲間がベジータを連れていった。そして美鈴がベジータに修行をつけてもらい、何故か美鈴をこっちの世界に送ってきた」

 

 

 

悟空の考察は当たっていた。今日はよく頭が働く日だ。

 

 

 

「仮に悟空の考えが当たっているとしよう。だがそしたら何のためにそいつらは動いているんだ?」

 

 

1番肝心な問題だ。これに関しては悟空もよくわからないので答えようがない。

 

 

「わかんねえけど…まあいいじゃねえか!

それよりさっきの話、引き受けてくれるんか?」

 

「な!?悟空!!

お前そこまで考えついているのにまだ修行をつけてやる気か!?」

 

 

強引に話を戻す悟空。直前の話をなかったかのように話す悟空にピッコロが驚く。

小さい可能性だが、異世界の住人がこの地球を攻めてこないとも限らない。美鈴を強くする事がこの地球の脅威になる…とまでいかないが、そんな嫌な予感をピッコロは感じ取っていた。

 

 

「あたりまえだろ?美鈴はもっと強くなる。そんな美鈴をオラは見てみてえんだ」

 

 

「………」

 

 

悟空は美鈴が何か隠していることを知っている。が、だからと言って怪しいとは思わない。

人には言えないことだって当然美鈴にもある。そんなどうでもいい事より、強くなった美鈴を見たい。ただそれだけなのだ。

 

 

「全くきさまという奴は………

仕方ない……いいだろう。引き受けてやる」

 

 

「ほんとか!?サンキューピッコロ!」

 

 

「フッ…オレ様はピッコロ大魔王だ」

 

 

割とノリのいいピッコロ。

 

何かあっても悟空がいる。悟空ならなんとかしてくれる。そんな安心感をピッコロもやはり感じていたのだ。

そもそも異世界の住人が攻めてくるなんて可能性などほぼ無いだろう。

 

 

 

「今から戦えばいいのか?オレはその女になんの感情もない。殺してしまっても文句を言うなよ?」

 

 

「…うん、そんくらいの気持ちできてくれ。

戦うのは明日だ。夜になったらまたここにくっから、そん時に色々と決めようぜ!」

 

 

そう言いながら悟空は『瞬間移動』のポーズをとった。

 

 

 

「あ、悟飯のグレートサイヤマン?の衣装一応いるか?」

 

 

「きっ、着るかあんなモノッ!」

 

 

全力で否定するピッコロ。そもそもピッコロならそのままの見た目で十分悪人っぽいので大丈夫だろう。

 

 

 

「そっか!じゃあなピッコロ!頼むぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

満足気な表情をしながら悟空は行ってしまった。ピッコロはふぅ〜…と息を吐いて上を向く。

 

 

「あれ?今悟空さんが来てませんでしたか?」

 

 

建物の中からピッコロに似た者が出てきた。彼はデンデと言って、この地球の『神』である。

 

 

「…しらんぞ」

 

 

「え?」

 

 

「どうなってもしらんぞ…!」

 

 

今更になってちょっとだけ後悔をしたピッコロなのであった。




はい、第47話でした。

できればこの話で戦うところまでしたかったのですが、長くなってしまったので次の話に持ち越しです。

ではお疲れ様でした。


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【第48話】胸の内

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

何が言いたいのか自分でもよくわからない話になりました。ぶっちゃけストーリー的には進展はないので飛ばしても大丈ゲフンゲフン

そういえばお気に入りが150人突破しました。これからもより一層頑張るので応援よろしくお願いします。



 

 

 

 

 

 

「よし!今日はここまでにすっか!」

 

 

「は、はい…」

 

 

 

ピッコロと話をつけて来た後、悟空は美鈴の元へと戻っていき、いつも通りに修行を眺めていた。

もちろん悟空から教える事はない。ただ見ているだけだ。

 

 

 

「疲れたか?」

 

 

「まぁ…流石に」

 

 

いつもならここで強がってみせるのだが、そんな余裕もない。

身体的にはもちろん、なぜ思うようにいかないのかという精神的な疲労感も溜まりに溜まり、美鈴は悟空が思っている以上に疲れていた。

 

 

「美鈴ッッッ!」

 

 

急に悟空が大きな声を出したので、丸まっていた背中がビシッと伸びた。驚きすぎて声も出ない。

 

 

 

「………はい?」

 

 

何が起こったか冷静になって考える美鈴。しかし何もわからないのでとりあえず返事をする。

 

 

「…ハハハハハ!なんでもないさ!」

 

 

悟空はケタケタ笑いながら美鈴の肩をポンポン叩く。美鈴は首を捻りながらも笑っていた。

 

やはり笑顔は大事だ。キツイ時、辛い時こそ笑顔。それができればなんの苦労もないのだが、人からの影響ならば笑う事もできる。その為なら例え今のような無意味な行動でも良いだろう。過程より結果が大事なのだ。

 

 

「そうだ!今日バーベキューすっか!」

 

「え?」

 

 

唐突に提案した悟空。いつだって悟空はそうだ。

しかし夕食について悟空が決めるのは珍しい。それはチチに出されたものならなんでも美味しく食べるからだ。

 

 

「なんだ?バーベキュー嫌か?肉好きだろ?」

 

「はい!大好きです!」

 

 

美鈴も肉は大好物だ。バーベキューが嫌な筈もない。先程より笑顔で答える。

むしろ最初からこう言ってればよかったと悟空は思い、またケタケタと笑った。

 

 

「むぅ…女の子がお肉を大好きじゃいけませんか?」

 

 

「いやいやそうじゃねえんだ。

 

んじゃちょっと早いけど帰るか!」

 

 

悟空は美鈴に手を差し伸べる。『瞬間移動』をするのだ。

美鈴も差し伸べられた手に自分の手を重ねる。すると「ピシュンッ!」とした音が耳に響いたかと思うと、いつの間に見知った家の前に着いていた。

 

 

 

「(…どういう原理なの?)」

 

 

もちろん『瞬間移動』についてだ。しかし考えたところで美鈴にはわからない。悟空も口で説明は出来ないのではないだろうか。

 

 

「じゃあ用意するか。

チチーっ!今日バーベキューすっぞー!」

 

 

悟空は大声でチチを呼びながら中へ入っていく。中へ入っていくなら大声で呼ぶ必要はないのでは?と美鈴は小さく呟いたが、悟空には既に聴こえなかった。

美鈴は悟空に続いて家の中に入る。

 

 

 

 

「…え?」

 

「え?じゃないだ。鉄板がないからバーベキューはできないぞ」

 

 

どうやらこの家にはバーベキューで使う鉄板がないらしい。だからバーベキューはできないとチチが言っている。

 

 

「うーん困ったなぁ… あ、そうだブルマに頼んでみっか」

 

「ぶ、ブルマ?」

 

 

ブルマというのは悟空の友人だ。ブルマは大金持ちなので大抵のことはなんとかしてくれる…というのが悟空の認識だ。

 

 

「またブルマさんに頼むだかー?なんだか悪い気がするな」

 

「大丈夫大丈夫!じゃあ行ってくる!」

 

 

また悟空は『瞬間移動』の構えを取る。

 

 

 

「あっ」

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーカプセルコーポレーションー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃっ…!びっくりしたぁ…どうしたの孫くん」

 

「…な、なんでついてきたんだ美鈴!」

 

 

 

悟空が『瞬間移動』をする瞬間に、美鈴は悟空の道着を掴み、一緒についてきてしまったのだ。

 

 

「あの…何かお役に立てるかもと…」

 

「お役に立てるかもって…」

 

 

悟空は内心すごく焦っていた。それは美鈴がベジータと関係しているからである。

ブルマも、さすがにベジータがいつまでも帰ってこない事を気にしているだろうと思ったからだ。

 

 

「そっちの方は?まさか弟子?」

 

 

「いえ私は…」

 

「あ、あはは!まあそんなもんだ!

それより鉄板をもらいにきたんだけど持ってねえか?バーベキュー用の!」

 

 

ベジータの話題を出させないように悟空は必死になっていた。

もしブルマが、美鈴とベジータが何か関係しているだろうとわかったら、しつこく言ってきて面倒になるかもしれないからだ。

 

 

「何よ急に…まあ孫くんはいつも急だけど。

 

バーベキュー用の鉄板ね。ちょっと待ってて頂戴」

 

 

悟空の家とは比べ物にならないくらい広い家だ。きっと鉄板も沢山あるだろう。ブルマは部屋から出て、心当たりがありそうなところへ向かった。

 

 

「はぁ………よかった…」

 

 

一安心した悟空は、部屋の隅にあるいかにも高価そうなソファーに座った。

 

 

「フフ…やっぱり悟空さんは面白い人ですね」

 

 

おめえのせいだよ…と悟空も愚痴を一つこぼしたかったが、ここはグッと堪えた。

 

 

 

 

「孫くーん!そういえばベジータの事なんだけどー」

 

 

「!!?」

 

 

何かを思い出したようにブルマは帰ってきた。

そして考えられる最悪の状況で、最悪の質問がブルマの口から出る。

 

 

「……」

 

 

「(……あれ?)」

 

 

しかし悟空の思っているようにはならなかった。ベジータについて美鈴とブルマが話し出すかと思ったらそうはならなく、美鈴は黙ったまま下を向いている。

 

 

「…どうしたの?孫くん」

 

「え?いやなんでもないぞ!ベジータがどうした?」

 

 

「いやね、ベジータが全然帰ってこないのよ。すぐに戻るから心配するなーとか言ってたくせに…なんかトランクスもパパの〝気〟を感じないって言ってるし」

 

 

美鈴は黙って聞いている。ブルマの方は見ずに足元だけを見ていた。

 

 

「ねえ孫くん。〝気〟を感じないってことは、ベジータは死んでしまった…とかじゃないわよね?

そんな事…ないよね?」

 

 

だんだんブルマの声が震えてきた。

やはり心配なのだろう。今まで溜めてきたものを悟空に明かしたら、それは目から涙となって溢れてきた。

 

 

「…心配すんなブルマ。ベジータは生きてるに決まってるだろ?

〝気〟を感じねえのも『精神と時の部屋』に入ってるからさ」

 

「でも…あまりにも遅すぎるわ!『精神と時の部屋』ってそんなに長くは入れないんでしょ?」

 

 

 

「『精神と時の部屋』は一回修理したらしいんだ。だからそん時にデンデ達が何時間でも入れるようにしたみたいだぞ」

 

 

悟空は嘘をついた。

確かにデンデが『精神と時の部屋』を修理した際に、今まで入った日数は全てリセットされた。

しかし、それでも時間制限は前とは変わらない。つまりベジータは48時間しか入ることはできないのだ。だから何時間も無限に入ることなど理論上不可能なのだ。

 

それでも嘘をついたのは、ブルマを安心させたかったからだ。

ベジータは生きてる。それは悟空も信じている。要らぬことでブルマを不安にさせたくはない。

 

 

「そ、そう…ごめんなさいね急に。

待ってて!すぐ探してくるから!」

 

 

涙を服の袖で拭いたあとブルマはニコッと笑った。少しは役に立てたかと思った悟空もにっと笑う。

 

しかしそんな2人の笑顔を見た美鈴は、なぜだか心が痛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

あれから数分経った。ブルマはまだ戻ってきておらず、悟空はずっと無言のまま座っていた。美鈴も黙ったまま、悟空の横にちょこんと座っている。

 

 

 

「聞かねえのか?」

 

「…何をです?」

 

 

 

「ブルマの事だ。あいつがベジータって言った時、おめえすごく動揺してたぞ」

 

 

顔には出さずとも悟空にはわかる。

〝気〟と〝勘〟で。悟空の勘はよく当たるのだ。

 

 

「私は自分の素性もロクに話さない女です。

そんな私は師匠…いえ、ベジータさんの事を聞ける立場ではないでしょう」

 

 

聞ける立場ではない、と美鈴は言った。つまり聞きたいのを我慢しているのだ。

ブルマとベジータの関係、此処でのベジータはどんな感じなのかと。もちろん恋愛感情ではなく、純粋な興味だ。

 

 

「そっか。じゃあこっからはオラの独り言だ。聞き流してもらってもいいぞ」

 

「ブルマはベジータの嫁さんだ。子供もいて、トランクスっていうんだ。悟天と仲良しでなあ、あいつもつええぞ」

 

 

 

 

「家族…ですか」

 

「おめえは家族いねえのか?」

 

 

美鈴に家族はいない。確かに紅魔館のレミリア達がそれに近いものではあるかもしれないが、言っては悪いが所詮他人だ。本物の家族とは似て非になるものだろう。

 

だから血の繋がった家族の特別さは、どうあがいても美鈴にはわかることはない。これから10年、100年、1000年あるいはそれ以上の月日が経とうともわかる日は来ない。

 

 

「はい。 …でも、大好きな人達がいます。

私は彼女達を守るために強くなりたいんです。守るために……」

 

 

「…どうした?」

 

 

 

 

 

〔〝強さ〟とは…大切な人を守ることができる力…ですかね〕

 

 

 

 

 

守矢神社に行った際に、東風谷早苗が言った言葉を美鈴は思い出した。

あの時ベジータは綺麗事だと言っていたが、決して否定はしなかった。つまりベジータは知っていたのだ。

 

〝守りたいものがあるなら強くなれる〟 と。

 

 

守りたいと思う気持ちが、あればあるほど強くなれるのではないか?

そう思った美鈴は、先程まで修行をしていた疲れなどもう忘れていた。一目散に修行したかった。今なら何かが掴めそうな気がしていた。

 

こんな事をしている場合じゃないと思った美鈴は立ち上がろうとした…が、急に悟空が手を自分の頭の上にポンと置いてきた。

そして暫くしてから悟空は口を開いた。

 

 

「それは違うぞ、美鈴」

 

「……!」

 

 

悟空の急な言葉で我に返った。そして今自分が思っていることに対し、〝違う〟と。確かに悟空はそう言った。

悟空は適当な事を言う人ではない。美鈴もそれを知っていたため、何が違うのか非常に気になった。

 

 

「何が違うのですか?師匠だって家族がいるから強くなれたんじゃ…もちろん悟空さんも!やはり守りたいものがあれば…私には沢山あります!もっともっと強くなれるはずです!」

 

「確かに守りたいモンがあればその分強くなれるかもしれねえ。

けど、オラが言ってんのはそこじゃねえ」

 

 

「…え?」

 

 

「オラ前に言っただろ?おめえにベジータみたいな修行の仕方は合ってねえって。

おめえは適度に休んで、ゆっくりゆっくり時間をかけていったほうがいい。もしこのままカラダを追い込んで修行をしていっても、おめえは大して強くはなれねえ。自分のカラダを守れてねえからな」

 

 

「………!!!」

 

 

完全に盲点だった。美鈴は周りの事ばかり気にしていて、自分の事を見失っていた。

悟空に言われた貴重なアドバイスも、自分自身で潰すところだったのだ。

 

 

「私は…馬鹿ですね」

 

 

此処へ来てから学ぶ事ばかりだ。しかし悪い事ではない。むしろ美鈴にとっては非常に有難い。

 

 

「焦る気持ちもわかる。でも一緒に頑張ろうぜ美鈴!」

 

「…はい!」

 

 

「あらあら、師匠から有難いお言葉でも貰ったのかしら?」

 

 

美鈴の威勢のいい声はブルマにも聞こえていた。手にはピカピカの鉄板があった。

 

 

「お!あったのか!さすがブルマだなー!」

 

「当たり前でしょ!ドラゴンボールを探すよりずっと楽だわ。

それより結構重いから早く持って頂戴」

 

 

悟空の代わりに美鈴が鉄板を受け取る。するとまたまた悟空は『瞬間移動』の構えをした。

 

 

「じゃあ帰るぞ美鈴。サンキューブルマ!またなんかあったら行くからな!」

 

「はいはい、いつでもいらっしゃい。

それと…美鈴ちゃん、修行頑張ってね」

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

別れ際にブルマがピースをしてくれた。美鈴はそれにお辞儀で返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、悟空、チチ、悟天、美鈴の4人はバーベキューを楽しみ、終わった後に風呂に入り、そのまま寝たのだった。

 

 

 

悟空を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー神殿ー

 

 

 

 

 

 

「む、遅いぞ悟空。もう夜中ではないか」

 

「わりいわりい。じゃ、作戦会議ってのを始めるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、第48話でした。

次の話こそはピッコロ大魔王戦になると思います(自信なさげ)
ではお疲れ様でした。


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【第49話】殺し合い

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

お久しぶりの投稿です。


 

 

 

 

「………………ん…?」

 

 

 

美鈴は何か小さな違和感を覚え、目を覚ました。

ここはベッドの上。バーベキューを楽しんだ後、風呂に入りそのまま就寝した。

しかし今日はいつもより早く目が覚めた。何か嫌な予感がしたからである。

 

 

「なんだろう…」

 

 

とりあえず美鈴は寝間着からいつもの華人服に着替え、家の外に出た。

 

辺りは少しずつ明るくなっていた。美鈴は外に出た後、目を閉じ周囲の〝気〟を探った。何故と言われてもわからない。強いて言えば本能がそうさせたのだろう。

 

 

「……あった!」

 

 

するとすぐに大きな〝気〟が見つかった。もちろん悟空のではない。その〝気〟はここからあまり近くはない。美鈴が感じ取れる〝気〟の範囲は前より確実に広くなっていた。

そしてそのまま〝気〟の方向へ向かおうとする。急に目が覚めた理由がその〝気〟の持ち主だろうと考えたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

すると急に『何者か』の〝気〟が急に燃える様に上昇し始めた。

 

 

「えっ……? な、何を…!」

 

 

 

 

 

「うわッ!?」

 

 

 

木が揺れる。地面が割れる。距離があるとは言え、ここは安全ではない、むしろ危険な場所になった事が美鈴にはわかった。それほど相手の力量は大きい。

 

 

 

「…急がないと!」

 

 

 

恐らく相手の力は自分より上だ。美鈴は相手の力量を測るのがあまり上手くないため、『自分と比べて』でしか相手の強さがわからない。

それでも悟空より上という事はないだろう。確実な勝利を求めるならば悟空と共に行くべきだ。しかしそれをしないのには理由があった。

 

まず悟空が家に居ないことだ。

悟空はたまに朝から何処かへ出かける事がある。適当に修行をして、その後朝ご飯の食材を採りに行くのだ。しかし今日は幾ら何でも早すぎるという疑問も残る。

 

そしてもう1つは自分のためだ。

美鈴が感じ取るに、『何者か』は敵である可能性が高い。その敵と戦う事で自分をさらに高めたいという気持ちがあるのだ。

 

 

 

「……」

 

 

いつものように颯爽と地面を駆ける。自分の中でドクンドクンと大きく、いつもより早いリズムで心臓が鼓動しているのが聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!」

 

 

そして見えた。『敵』と思わしき人影の元へ。

いや人と言えるのだろうか。それ(・・)は白と黒っぽい色を基調としたカラダをしており、頭は長く、背中から戦闘において邪魔ではないかとまで思わせる出っ張りがあった。そして大きなたらこ唇がなんとなく不気味さを醸し出していた。

 

 

「(〝気〟を消さなきゃ…!)」

 

 

まずは相手の様子見をしようと、美鈴は〝気〟を消して岩陰に隠れた。

 

 

「……ハァー!力もちゃんと確認できたし…人間どもを皆殺しに行くか。ここにはもう用はねえな」

 

「(み、皆殺し!?)」

 

 

ハッキリとわかった。こいつは〝敵〟だと。

自分が何とかしなければいけないと美鈴は決心し、敵が後ろを向いた瞬間に飛びかかった。

 

 

「フハハッ!死ねぇいッ!」

 

「なッ…!」

 

 

 

 

「痛っ…」

 

 

敵は後ろを振り向いたかと思ったらすぐにこちらに振り向き、手からビームのようなものを繰り出した。美鈴はその攻撃を間一髪で避けたつもりだったが、頬にかすり、血がボトボトと出ていた。

 

 

「ほう、今のを避けるか。まさかあいつらの仲間か?」

 

「はぁ…はぁ…!?」

 

 

相手の言葉が耳に入らない。それもそのはずだ。

美鈴はこれほどまでに〝純粋な殺気〟を向けられたことがなかった。手合わせとも違う、修行とも違う、これは殺し合いだ。

 

今まで格下の妖怪からの殺気は何度も向けられた事があった。しかし今は違う。格上からのなんの混じり気のない殺気がこれほど身に突き刺さるとは思ってなかった。

自分の成長のためと思っていた先程までの甘い考えは既に消えていた。

 

相手が一瞬本気になった時の〝気〟は今自分がどうこうできるレベルではないと判断でき、今美鈴の頭にあるのは、この敵相手にどう〝生き延びるか〟

ただそれだけだった。

 

 

「(でも私がここで逃げたら他に犠牲者が出る…やるしかない…!)」

 

 

それでも戦意喪失をしたわけではない。今自分が何をやるべきか、そういう事は冷静に考えることが出来る。

そう、時間稼ぎだ。悟空が来るまでの間、この敵を此処で足止めできればそれはもう美鈴の勝利と言っていいだろう。

 

 

「なに黙ってん…だよッ!」

 

 

相手が真っ直ぐ突っ込んで来る。美鈴程度の相手にいちいち策を講じる必要がないと判断したらしい。

素早いパンチ、キックを繰り出すが、美鈴は思ったより対応できていた。パシッパシッパシッと攻撃をいなすように躱していく。

 

 

「(やれる…闘える…!)」

 

 

思っていたほど絶望的な力の差ではないようだ。もちろん今までの美鈴だったら相手にもなっていないだろう。その美鈴がまともにやり合えているのは間違いなくベジータ、悟空との修行の賜物だ。

 

 

「ハァッ!!!」

 

 

先程不意打ちとして使ってきたビームをまた使ってきた。しかし集中力が最大限にまで達してる美鈴には当たらない。

 

 

「フンッ!」

 

「チッ…ィィィッ!」

 

 

隙が出来た相手にすかさず蹴りを入れる。大きなダメージにはならないものの、確実に効いていることがわかる。

 

 

「ちょこまかしてんじゃねえぞハエがッ!」

 

 

敵は怒りの蹴りを繰り出す…が、そんな大振りで当たるわけはない。美鈴は基本避けるのに専念していて、攻めは確実にいける時だけ、という作戦を立てていた。その作戦は大当たりで、相手を苛立たせることによって大振りの技を使わせ、さらに攻撃するチャンスを生んでいた。

 

 

「ハエではありません。紅美鈴と申します。以後お見知り置きを」

 

 

戦い始める前の美鈴とは違う。完全にいつもの美鈴に戻っていた。右脚を曲げ左脚だけでピンと立ち、右手を下げて左手を上げる、美鈴の得意な構えだ。その構えで相手を迎え撃とうとしている。

 

 

「へへッ…」

 

 

その美鈴を見ながら敵は不気味に微笑んだ。

 

 

 

「プイプイ…」

 

 

急に敵がそう言った。何かの呪文か?と美鈴は警戒を怠らない。

 

 

「オレの名前だ。聞き覚えはないか?」

 

「ないですね、全く」

 

「そう身構えるなよ…オレはお前の仲間だぜ?」

 

 

そう敵は言った。あるはずもないそんなことに美鈴は騙されない。

 

 

「愚かですね。私はそんな事で騙されたり…」

 

 

 

「ベジータ」

 

 

 

 

「……え?」

 

 

『ベジータ』と確かに敵は言った。聞き間違えるはずもない。自分の師匠の名なのだから。

 

 

 

「オレはベジータの仲間だ。仲良くしようぜ」

 

 

「…貴方が師匠の仲間?そんな筈は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵がニヤッ…と笑った後に鈍い音が響く。敵のキックが美鈴の腹にモロに入った音だ。

 

 

 

「が…がはッ…!」

 

 

動揺していた美鈴は相手のキックに反応できず、受け身すら取れなかった。敵はガクッと崩れ落ちる美鈴の顔面にさらに蹴りを入れた。すると美鈴は数十メートル先の岩まで吹っ飛ばされた。

 

 

「ギャハハハハハッ!やっぱりあいつらの仲間だったのかよ」

 

 

敵はすぐに吹っ飛ばされた美鈴との距離を詰める。美鈴はまだ立ち上がれない。

 

 

「言ってみるもんだなぁ…いいか?ベジータってのは…

 

〝オレを殺したヤツ〟だ。そんな野郎の名前を覚えてて何になるかと思えば…使えるもんだな案外と」

 

 

ベジータは直接プイプイに名乗ってはいない…が、宇宙船での悟空達の会話を聞いている時に覚えたのだ。

 

 

「これは〝殺し合い〟だぜぇ?油断したお前の負けだな」

 

 

プイプイの言う通りだ。これは試合でも何でもなく、殺し合いだ。油断した方が死ぬ…殺し合いとはそういうものだ。

 

 

「ベジータって野郎にも見せてやりたいぜ…仲間をぶっ殺される所を…」

 

「……」

 

「…意外だな。立ち上がるとは…」

 

 

美鈴は立ち上がった。まるでこれ以上敵に話させないように。

 

 

「……すな…」

 

「ああん?」

 

 

 

 

 

 

 

「貴様が師匠の名を口にするなッッッ!!!」

 

 

 

 

真紅の〝気〟を纏った美鈴が怒りの表情で怒鳴ってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー神殿ー

 

 

時は美鈴と『敵』が出逢う少し前の頃。

 

 

 

 

「悟空!おい起きろ悟空!」

 

「なんだよピッコロ…もう朝か?」

 

 

肩をユサユサと大きく揺らされて起きる悟空。無理矢理起こされて微妙に不機嫌だったが、ピッコロからすればそんな事はどうでもいい。

 

 

「いいからしっかりと目を覚ませ!

…急にデカイ〝気〟が出現した。きさまの家の近くにな」

 

「!! …ほんとみてえだな」

 

 

頭をボリボリと掻きながらも悟空はしっかりと目を覚ました。

そして目を瞑りその〝気〟を細かく探る。

 

 

「あれ?こいつ…あん時の…」

 

 

悟空は謎の者について知っているような様子だった。

 

 

「知っているのか?悟空」

 

「おめえも知ってるはずだ。

うーん…よし!ちょっと待っててくれ!」

 

 

すると悟空は額に指を当てる。『瞬間移動』をするつもりだろう。

 

 

「お…やっぱかなり遠いな」

 

「おい…」

 

 

 

 

 

 

 

有無を言わせずに悟空は何処かへ行ってしまった。

しかし1分ほどしてすぐに神殿に帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃじゃーん!コレなーんだ!」

 

 

帰ってきた悟空の手には見慣れない水晶玉があった。悟空はそれをニヤニヤしながらピッコロに渡す。

 

 

「こ、コレは…!」

 

 

水晶玉に『謎の者』の姿がバッチリと映っている。コレがあれば戦況を現場に行かなくても把握することができるのだ。

 

 

「へっへーん!界王神のじっちゃんに借りてきたんだ!コレ便利だよな〜!」

 

 

この水晶玉は以前悟空が界王神界にいた時、ゴテンクスと魔人ブウとの闘いを「みたい」と行った際に老界王神が出してくれたものだ。これがあれば遠くであっている闘いを見ることができる、それを思い出した悟空は界王神界まで行って借りてきたのだ。

 

 

「き、きさま…界王神界というのはそう簡単に行き来できるものでは…」

 

「細かいことは気にすんな!ほら、美鈴が着いたみたいだぞ」

 

「……」

 

 

水晶玉など使わずとも実際に行けばいいだけだろう、とピッコロは言おうとしたがやめた。もちろんそんなこと悟空もわかっているだろう。それをしないのはその気がないだけだ。

つまり〝美鈴に任せている〟のだ。

 

悟空は闘うことが好きだ。しかし誰かと誰かが闘っているのを見るのも勿論好きだ。見た後に自分も闘いたくなることもしばしばだが。

 

 

「!! こいつ…プイプイとかいう奴じゃないか」

 

 

水晶玉に映った者をよく見ながらピッコロが言う。

そう、美鈴と対峙していたのは以前悟空達と闘ったプイプイという者だ。

あの時はバビディに洗脳されていて、額に『M』の文字があったのだが今は無くなっている。

 

 

「プイプイ?わりいオラ名前まではおぼえてねえな」

 

「オレも直接会った訳じゃないからあくまで恐らくだがな」

 

 

ピッコロはプイプイと実際に会った訳ではないのだが、遠くから見ていた時に、バビディがあの者の事をプイプイと呼んでいたのを思い出したのだ。勿論ピッコロ以外は聴き取れなかったのでこの事はピッコロしか知らない。

 

 

「でもおかしいよな…あいつなんで生きてんだ(・・・・・)?」

 

 

これが問題なのだ。プイプイはあの時確かにベジータが消し飛ばした筈だ。それも跡形もなく。だから生きている筈がない。

 

 

「いやよく見ろ悟空。輪っかがあるぞ」

 

「え?…あ!ホントだ!オラに前あったのと同じやつだな」

 

 

ピッコロの指摘により、悟空はプイプイの頭の上に輪っかがあるのに気づいた。

この事からプイプイはやはり生き返ってない事がわかった。

 

それでも疑問は消えない。なぜ死人であるプイプイが下界にいるのかということだ。

 

 

「よくわかんねえな…」

 

「悟空…まずいかもしれんぞ。今までオレやきさまが倒した悪人が一斉に下界に降りてきたりしたら…」

 

「うーん…たしかにやべえかもな。ベジータもいねえし」

 

 

プイプイだけなら何のことはない。しかしセルや魔人ブウなどが地球へ来たら大変なことになってしまうかもしれない。その事に2人は焦り始めていた。

 

 

〔恐らくその心配はないだろう〕

 

 

急に何処からか声が聞こえる。2人にはこの声に聞き覚えがあった。

 

 

「界王さま!ちょうど良かった、聞きてえことがあるんだけど…」

 

 

〔わかっておる。お前たちの言いたいことも。

先ほど閻魔に聞いたが、他の悪人たちが抜け出す様子はないらしい。だから今のところは心配いらん〕

 

 

「へ〜 抜け出せるもんなんか地獄って」

 

 

〔そ、そんなわけあるかッ!何かの時空の歪みでそちらに偶然飛ばされたんだろう〕

 

 

確かにプイプイで抜け出せるものなら、フリーザやセルはあっさり出ているだろう。

 

 

「時空の歪み?なんだそりゃ」

 

 

〔わしにもわからん!…気になるのはプイプイが地獄から消える時に一緒にいた奴はこう言っとったらしい。

 

謎の空間に吸い込まれた(・・・・・・・・・・・)ようにみえた…と」

 

 

「…時空の歪みとか謎の空間とかオラよくわかんねえぞ。くわしく説明してくれよ界王さま」

 

 

〔ばかもの!わしにもわからん事くらいあるわッ!とにかく他の悪人が地球に行くことはない!ならばお前たちがすべきことはわかるな?ピッコロ〕

 

 

悟空では話にならないと思った界王がピッコロに話を振る。確かにその判断は正しい。

 

 

「プイプイを地獄へ連れ戻す…か」

 

 

〔その通りじゃ!わしも忙しい!頼んだぞお前達!〕

 

 

そう言い残し界王の声は聴こえなくなってしまった。

 

 

「地獄へ連れ戻すたって…どうすりゃいいんだ?」

 

「…それは後から考えればいい。

そんなことより悟空、気づいたか?」

 

 

え?と悟空はピッコロが言いたいことをわかっていないようだった。首をかしげる悟空を見たピッコロは、ゴホンと咳払いした後に答える。

 

 

「いま界王様は〝謎の空間〟と言っていたな。昨日きさまが言っていたのと同じ可能性があるのではないか?」

 

「…あ!」

 

 

「…紅美鈴とかいう女をこっちに連れて来た能力と〝謎の空間〟とやらが同じならば…さらに目的がわからなくなるな」

 

 

ギリッとピッコロは歯をくいしばる。わからない情報だけがどんどん増えていくことに苛立ちを隠せない。

 

 

「まぁ…それも後で考えようぜ。今はプイプイ相手に美鈴がどこまで闘れるかみてみてえ。ピッコロ、おめえの出番が取られちまったな」

 

「フンッ…その割には死にかけてるみたいだが、本当に行かなくていいのか?」

 

 

ピッコロは腕組みをしながら水晶玉を見る。それは丁度美鈴がプイプイに顔面を蹴られた所だった。

 

 

 

 

 

 

 

「美鈴…限界を超えてみろッ!」

 

 

しかし悟空は美鈴を信じて見守るだけなのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、第49話でした。

ピッコロ大魔王戦と言ったな?アレは嘘だ。
…展開を変えて申し訳ないです。考えた結果こうすることに決めました。
あと、「ここおかしいんじゃね?」と思われた時に報告してもらうとありがたいです!(誤字報告はよくあります)

ではお疲れ様でした。


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【第50話】言葉の鎖

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

お待たせしました。そしてやっとこさ第50話です。節目のこの回は自分なりに書きたいことを書けたかと思います。


 

 

 

 

────カラダが熱い。

 

 

頭のてっぺんから足の指先まで熱を感じる。

しかし実際にカラダが燃えているわけではない。自分自身にも詳しくはわからないが、強いて言うなら〝魂が燃えている〟…そんな感覚だった。

 

 

敵が目の前にいて、自分を殺そうとしている。勿論美鈴もそれはわかっている…が、それでも何故か前に突き出した自分の右手を眺めてみた。

右手からは今まで見た事ないような異質な〝気〟が視える。紅く、それでいて黒い〝気〟だ。

 

恐らくこれは何の力のない人間でも視る事ができるだろう。もし私がその立場だったらきっと不気味に思うに違いない、と美鈴は冷静に考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「…なんだそりゃあ。変身か?」

 

 

 

 

 

変身?側から見ればそう見えるのだろうか。

自分ではまるで紅美鈴という妖怪の基盤そのものが新しくなったかのように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

美鈴は構える。いつものように。

ベジータや悟空に教わったモノではない。気付いていたら覚えていた構えだ。

 

そのいつも通りの構えに、プイプイがビクッと大袈裟に身構えた。先程と様子が違うように見える。

 

 

 

「はッ…!」

 

 

足にグッと体重を乗せて、相手に向かって真っ直ぐと蹴りかかった。格上の相手に真っ直ぐ向かうなど無謀に近い筈だが、不思議とそうは感じなかった。

 

恐らく相手はこの蹴りを躱すだろう。なので美鈴は相手の動きを見つつ、躱した先へさらに攻撃を仕掛けるつもりでいた。

が、相手は避けない。もう1、2メートル先まで来ていたというのに。

 

 

 

 

否。

 

 

避けないのではない。避けられなかった(・・・・・・・・)のだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガッ……!」

 

 

「…!」

 

 

 

美鈴の左脚は、プイプイの腹部に音を立てて突き刺さった。

この事にプイプイだけでなく美鈴自身も驚いており、2秒ほどの硬直が生まれた。

 

その硬直のあいだにプイプイが苦しみながらも反撃するが、美鈴はそれをあっさりと躱す。

プイプイの反撃がスローモーションのように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー神殿ー

 

 

 

「悟空。これがきさまが昨日言っていたやつか?

ふむ…確かに界王拳に似ているな」

 

 

「……」

 

 

水晶玉に写っている美鈴を見ながら、ピッコロは悟空にそう言った。ピッコロは今の美鈴が先程までとは違うこと、つまりオリジナルの『界王拳』を完成させたと思っていた。

 

 

「経験値は十分。あとは実践だけだった。

成程、きさまの言う通りに紅美鈴にはトンデモない才能があったと言うことか。無事『擬似界王拳』を習得できてよかったではないか」

 

 

「いやあ、どうだろうな…」

 

 

「……?」

 

 

 

この時に悟空の様子が思っていたのと違った事に、ピッコロは違和感を覚えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は再び戻って岩場へ。

 

 

 

「なんだお前…急に…疾くなりやがって…!」

 

 

「私が…疾く?」

 

 

 

その実感は無い。むしろプイプイが遅くなったのではないかとすら疑うほどに。

しかし実際蹴りに反応できなかったのを見ると、プイプイの言う通りなのだろう。

 

 

「かあッ!」

 

 

今度はプイプイから攻撃を仕掛けて来た。

しかし美鈴は、その攻撃を食らうビジョンがまるで見えなかった。

勿論舐めているわけではない。舐めているわけではないのだが、当たる気が微塵もなかった。

 

 

「ハッ!」

 

 

また重い音が響く。

 

 

「……お…ぇ…!」

 

 

カウンターで正拳突きを食らわせた。モロに入り、プイプイは膝から崩れ落ち、血と唾液の混じった変な液体を地面に吐いた。

 

プイプイはもう戦えそうな状態ではない。そんなプイプイを見下ろした美鈴。その眼にはまだまだ闘志が篭っていた。

 

 

形勢が完全に逆転した。もはや勝つのは不可能だと考えたプイプイは、ギリっと歯を食いしばり「許してくれ」と小さく呟いた。美鈴に聴こえるか聴こえないかのギリギリのラインだ。

 

しかしそれで本当にプイプイが降伏するかどうかはわからない。先程のように罠の可能性もあるだろう。

 

 

 

 

〈…いいでしょう。早く消えてください〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美鈴はそう言おうとした(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────時は昔に遡る。

 

 

 

 

 

〈はッ!〉

 

 

〈がはぁッ…!〉

 

 

 

 

場所は門番である自分の領域、紅魔館の門の前だ。

紅魔館には恐ろしい吸血鬼が住んでいる…と噂になっているが、そんな事は関係ないと言わんばかりに妖怪は度々攻めてくる。

 

しかしそんな魑魅魍魎(ちみもうりょう)どもを紅美鈴は簡単に追い返していた。

 

 

 

〈この紅魔館に攻め入るとは…命知らずですね〉

 

 

〈く…クソ…頼む、見逃してくれ…〉

 

 

〈ええ。私は元々貴方などどうでもいいので。

早く消えなさい。本当に殺されたくはないでしょう?〉

 

 

 

 

何度こんなやり取りをしたか憶えてはいない。

美鈴は敵の命乞いに耳を貸さなかった事はない。相手の命を()る事にこだわりはないからだ。

 

なので、害意のなくなった敵を追い詰める事はしない。美鈴の強さを知った敵も再び紅魔館へ攻め入る事はなくなる。それで良かった。

 

紅魔館の門番たる紅美鈴は、その役目を果たすことができていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの男が来るまでは────

 

 

 

 

 

 

 

 

〈それにしても強いですね貴方。戦闘センスも弾幕の威力も桁違いです〉

 

 

〈そうか。お前は期待はずれだがな〉

 

 

 

初めて負けた。

いや、厳密に言えば生まれてこのかた何度も負けた事はあるのだが、あそこまで手も足も出ずに負けたのは初めてだった。

 

悔しかった。手から血が出そうになるくらい思いっきり拳を握りしめた。負けるというのはこういう事なのだと、改めて実感した。

 

しかし負けた事以上に悔しかったのは、相手に〝憧れ〟を抱いた事だった。

自分の求める究極の〝武〟 それをベジータ()は持っていた。

 

 

 

〈私を…この紅美鈴を弟子にしてくださいッ!!!〉

 

 

弟子入りを懇願した。無論、恥は承知の上だった。しかし自分が求めるものの先を行くには、恥やプライドなど障害物でしかない。そんなものは今のうちに捨てておきたかった。

 

 

 

快く…ではなかったがベジータは紅美鈴の師匠となってくれた。

ベジータの元で修行を続けていく内に、〝技〟以外に大事な事を学んだ。

 

〝心〟だ。

 

 

 

美鈴が弟子となり、修行を始める前にベジータは美鈴にこう言った。

 

 

 

〈強くなりたいなら甘さを捨てろ。容赦無く()は殺せ〉

 

 

〈……〉

 

 

ゴクッと美鈴は生唾を飲んだ。

ベジータと美鈴は闘ったが、殺されはしなかった。美鈴はどのようなラインからが敵なのだろうと疑問に思ったが、それは殺意ある敵か否かという事だったのだろう。

 

 

 

〈オレはきさまのように甘っちょろい奴を知っている。まったく…反吐がでるぜ〉

 

 

チッと舌打ちをしながらベジータは目線を外す。

ああ…その人と何か因縁があるんだな…と美鈴は心の中で呟いていた。

 

 

ベジータの言う事は全て理にかなったものだ。その中でも先程の言葉は1番印象に残っていた。

しかし自分に甘さなどは無い…とその時は思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(コレだ…コレが私の甘さ…)」

 

 

早く消えなさいと言おうとした口を右手で咄嗟に塞いだ。プイプイ(こいつ)は逃したところで自分が有利になると思った途端に、また襲いかかって来るだろう。その時に後悔をするのは他の誰でもない美鈴自身だ。

 

今は自分の方が強いとわかっている。

なんて事はない。相手の首を折るだけで勝負は決まる。別に殺しを今更怖いとも思っていない。

 

 

「いや、貴様は殺す」

 

 

先程あれだけ痛めつけられたのだ。その怒りに任して身を委ねればいい。その決心しつつ、〝気〟を込めた右腕をプイプイに向ける。

 

 

「ヒッ…」

 

 

プイプイは怯みきっている。

今、美鈴はどんな表情(カオ)でプイプイを見ているのか知りたくはなかった。

 

 

「貴様を…」

 

 

「やめてくれぇ…」

 

 

「………ッ!」

 

 

 

もはや赤子の手を捻るくらい簡単な筈だ。なのに美鈴の右腕は先程から動かない。

無抵抗の敵を殺そうとするのに、これだけの勇気が要るとは知らなかった。そして知りたくもなかった。

 

 

 

「…私は…甘さをッ…!」

 

 

 

 

 

強くなりたければ───殺せ。

眼に見えない言葉の鎖に、美鈴は囚われていた。

 

 

 

 

「……! ぐッ…あああッ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────カラダが熱い。

 

 

 

 

 

先程とは比べ物にならない程に。

 

あまりの熱さに悶える美鈴。自分の腕を視ると〝気〟はさらに紅く、そして黒く染まっていた。

カラダは少しでも熱を逃がそうと、蒸気となって外へ出ていた。

 

 

 

 

 

「熱ッ…なんだお前はァ!」

 

 

 

プイプイは腹を右手で抑え、美鈴から離れる。明らかに異常が起きていることはわかっていたが、熱が凄すぎて手の出しようがない。

 

 

 

 

 

「ううう…師匠…私は…」

 

 

髪を掻きむしっていた美鈴が手を止めた。そして前に目線を向ける。もちろんプイプイにだ。

その眼にはもう光は消えていた。

 

 

 

「ヒィッ…!!!」

 

 

不気味すぎる紅の瞳に、プイプイは腰を抜かす。

その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プイプイに向かって美鈴が超スピードで向かっていった。

殺す気という事は誰の目にも明らかだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無理を…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美鈴の全力の拳はプイプイに当たる事はなかった。

当たる寸前で止めた?否、止められたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しなくてもいいんだぞ、美鈴」

 

 

 

 

「…悟…空さん…」

 

 

 

 

 

シュインシュインと音を立てながら、文字通り光の疾さ、いやそれ以上だろう。そんなスピードでスーパーサイヤ人となった孫悟空が現れた。

悟空は間一髪のところで右手で美鈴の一撃を止めた。昨日まで白く細かった美鈴の腕は、焦げて煙を出していた。

 

 

 

そんな美鈴の腕を掴んだからか、悟空の手からも煙が出る。が、それを全く気にしない悟空は目にも留まらぬ疾さでプイプイに手刀を撃って気絶させた。

 

 

 

「何を………ッ!!!」

 

 

その後悟空は一瞬で美鈴の後ろに回り込み、同じように手刀で気絶させた。

 

美鈴が気絶すると、紅く、黒い〝気〟も消え、体温も戻っていった。

 

 

 

「わりいな美鈴…」

 

 

悟空は美鈴を仰向けに、優しく地面に寝かせてあげた。それからすぐにピッコロが現れた。

 

 

 

「悟空!…間に合ったのか」

 

 

「ああ…ギリギリな」

 

 

言いたい事は山程ある…が、ピッコロはあえて黙っていた。

悟空も心なしか少し悲しそうな顔であった。

 

 

「オラはこいつをとりあえず界王さまのとこへ連れていく。ピッコロは美鈴を見ててくれ」

 

 

そう言った悟空はすぐに『瞬間移動』で消え、その場にはピッコロと気絶した美鈴だけが残った。

 

 

 

「…紅美鈴。きさまは…一体何者なんだ」

 

 

 

 

 

聴こえないであろう美鈴に向かって、ピッコロが小さくそう呟いた。




はい、第50話でした。

第50話…ここまで長かったようで短かったですね。小説を書き始めた頃、ここまでいくとは思っていませんでした。
これからも間が空くとは思いますが、皆様に楽しんで頂けるように尽力しますので、どうか宜しくお願いします。

ではお疲れ様でした。


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【第51話】紅美鈴という存在

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

皆さま、新年あけましておめでとうございます(遅い)
この『ライバルを超えるために幻想入り』もそろそろ1周年になりそうです。今年も頑張って書くのでよろしくお願いします。


 

 

ー神殿ー

 

 

 

「…ひとまずコレでいいか」

 

 

ピッコロは気絶している美鈴を神殿まで連れてきた。悟空が帰ってきてから移動しても良かったが、悟空には『瞬間移動』があるので別に構わないだろうと思ったのだ。

 

 

「……」

 

 

美鈴の腕は先程より元に戻っている様子だったが、まだ黒く、若干の煙を出していた。

初めに水晶で見た時と大分印象が変わっている。

 

 

「待っていろ。今デンデを呼んでくる」

 

 

恐らく聴こえていないだろうが、ピッコロは声に出して美鈴に伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー5分後ー

 

 

 

「すいません、お待たせしました。では行きましょう」

 

 

デンデは少しやる事があったようで、ピッコロはそれがひと段落するまで待っていた。

それも終わり、ピッコロは美鈴についてデンデに説明しながら歩いていた。

 

 

 

「なるほど…ボクに、その紅美鈴さんという方を治してほしいという事ですね」

 

 

「ああ、すまないな」

 

 

「いえ構いませんよ」

 

 

 

デンデは神さまであるが、だからと言って人を上から見たりはしない。優しい心の持ち主なのだ。

 

 

 

「にしても異世界から…ですか。それは気になりますね」

 

 

「まだ確定したわけではないがな。オレと悟空がそう思っているだけだ」

 

 

そう言いながら2人は外へ出た。が───

 

 

 

 

 

 

 

「いま…せんね」

 

 

「…!」

 

 

そこに美鈴の姿はない。確かにピッコロは、今自分が向いている先の地面へ美鈴を寝かせた筈だ。

しかしその事実を否定するかのように、小さな風の音だけがそこで響いていた。

 

 

 

「帰ったのでしょうか…」

 

 

「いや…先ほどまで小さな〝気〟を感じていた。お前と話している時は会話に集中したからわからなかったが…」

 

 

 

ピッコロはふと目を瞑る。そしてすぐに目を開けた。

 

 

 

「それで〝気〟を上手く隠したつもりか?紅美鈴!」

 

 

「…ッ!」

 

 

ピッコロは左を向いた。その先には大きな柱がある。

 

 

「…なぜわかったんですか。完璧に〝気〟を消していた筈です」

 

 

「…なに…?」

 

 

柱の後ろから、美鈴がピッコロとデンデに警戒しながら出てきた。

その美鈴を見たピッコロは目を見開いて驚く。それもその筈だ。怪我が完治していたからだ。

 

 

「まさか〝気〟以外に相手の位置を探る術すべが…」

 

 

 

「…そんな事はどうでもいい。きさま…どうやって怪我を治した?」

 

 

ピッコロからするとそれが1番気になる。デンデを待っていた時間と、美鈴の元へ戻る時間を合わせてもまだ10分も待っていない。なのに美鈴の姿は元に戻っていた。

怪我が治っただけではない。衣服も元通りになっていた。

 

 

 

「…怪我?なぜ私が怪我を………ッ!」

 

 

ポカンとしていた美鈴だったが、急に顔が引き締まった。何かを思い出したのだ。

 

 

 

「あいつッ!あいつはッ!?」

 

 

美鈴はキョロキョロしながら〝あいつ〟とやらを探す。眼にはまだ怒りが籠っているように見えた。

 

 

「あいつ?プイプイの事か。あいつは地獄へ戻っただけだ。それより…」

 

 

「ピ、ピッコロさん!?」

 

 

「──!」

 

 

ピッコロの〝気〟がドンドン膨れ上がっていく。ピッコロの強さを感じとった美鈴は驚きながらも構えた。

 

 

「きさまには聞きたい事が山ほどある。正直に言うつもりがないのなら…力づくで言わせてやろう」

 

 

「……私も貴方達に聞きたいことがあるんですよ。山ほどね!」

 

 

美鈴も撃退体制に入る。目の前の者が先程のプイプイより格段に強いことをわかってはいたが、何故だか負ける気がしなかった。

 

そして一瞬気持ちが緩んだのだろうか。美鈴の口元がニヤッと動いた。しかしその瞬間にピッコロの拳が美鈴の腹へクリーンヒットし、後方へ吹っ飛ばされた。

 

 

「がッ…!?」

 

 

美鈴は何が起きたかわかっていない。ピッコロが消える瞬間も、パンチを繰り出した瞬間も、そしてそれが腹に当たる瞬間すらも確認できなかった。

 

 

 

「なッ…痛ぅ……!」

 

 

右手で腹を抑えつつ、美鈴は立ち上がった。ピッコロは美鈴を見下ろすようにして見ている。

 

 

「…フン。敵意満々といった(ツラ)だな。オレが憎いか?」

 

 

「…ははッ 別に憎くなんてないですよ。ただ貴方には負けたくない。それだけです」

 

 

抑えていた右手を腹から離し、再び構えた。先程のように油断した構えではなく、全力時の構えだ。

 

 

「ならば抵抗して見せろ」

 

 

「(悟空…まだ帰ってくるなよ。これが1番手っ取り早い…!)」

 

 

これがピッコロなりの決断、そして行動であった。

やはりピッコロは紅美鈴という存在を受け入れられない。信じられない。

 

 

 

 

 

「ふぅ……行きます!」

 

 

1度深呼吸をして美鈴は集中力を高めた。そしてすぐにピッコロに向かっていく。

 

 

「やあああああッ!!!」

 

 

そして鋭く疾い攻撃を連続で繰り出す。が、ピッコロには当たらない。すべて躱すか捌かれていく。

 

 

「くっ…」

 

 

このままではラチがあかないと思った美鈴は、一旦後ろに下がって体制を立て直す。

 

 

「この人強い…持久戦でいくしか…」

 

 

「つまらん作戦で体力を使うな。どうせ無駄に終わる」

 

 

「え…!?」

 

 

美鈴は頭で考えていたことがいつの間にか声に出ていた。しかしそれはあまりに小さな声だったので、この距離で聴き取られたことに驚いてしまった。

 

 

「(耳…良すぎでしょ!…まさか心を読まれてる?じゃあ考えたって仕方ないか…!)」

 

 

ピッコロは心を読む事などできない。だから美鈴の一方的な勘違いだったのだが───

 

 

「はあぁぁぁぁ…!!!」

 

 

「ほう…〝気〟が充実していく…」

 

 

 

それが逆に美鈴を吹っ切らせてしまった。美鈴の集中力は先程の比ではない。

 

 

「(なるほど…悟空が気にするのもわかる…)

ㅤㅤいくぞ紅美鈴。集中しろ、かつてないほどにな」

 

 

そのピッコロの言葉によりさらに美鈴は集中した。どんな攻撃がきても今なら大丈夫。

 

 

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤそう思っていた(・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「え……」

 

 

 

美鈴は空を見ていた。

腹が痛い。先程のように。

 

気付いたら横たわっていたのだ。

 

 

 

 

「終わりか?」

 

 

ピッコロの声で正気を取り戻す。恐らく自分は相手の攻撃を受け、反応できないまままた吹っ飛ばされてしまったのだろうと理解できた。

 

 

 

「ぐ…はぁ……ッ!」

 

 

あまりの痛みに立ち上がることが出来ない。顔は汗でびっしょりだ。しかし本当に気になるのは腹の痛みではなく───

 

 

 

 

 

「(()えない()えない()えない()えない───!!!)」

 

 

相手の動きがまるで見えない。万全であり最高の状態の自分ですら、攻撃が入る瞬間すら捉えることができなかった。

 

 

──疑問。

 

──屈辱。

 

──焦燥。

 

──憤怒。

 

 

色々な感情が美鈴のカラダを巡っていく。

 

 

 

 

 

「…そのまま聞け。紅美鈴、オレ達はきさまが異世界から来たことを知っている。だが何のために来たのかはわかっていない…そしてきさまはそれを言おうとしない。

わかるか?オレはきさまを怪しんでいるのだ。

…悟空がきさまをどう思っているかは知らんがな」

 

 

「……」

 

 

悟空の名をピッコロが口に出した。だとするなら恐らくピッコロは敵ではない。彼の言葉からはプイプイの時と違い、真っ直ぐな気持ちを感じられた。嘘ではないだろう。

いま自分がここで素直に事を説明すれば、ピッコロは拳を収めるはずだ。もう闘う理由はない。

 

しかし美鈴は自分が好きで黙っているわけではない。紫と約束したのだ。幻想郷のことは〝他言無用〟と。

説明をしようとすれば幻想郷の事を言わなければならない。それだけは駄目と美鈴はわかっていた。

 

 

 

「確かに私は怪しいかもしれませんね。でも…ッ!言えませんね…信じてくださいとしか」

 

 

ピッコロの言い分もわかる。あちら目線でいえば自分は怪しい存在だ。そんな者を野放しにする方がおかしな話である。

そうわかっているからこそ美鈴も辛かった。

 

そして美鈴はグッと膝に手を置き、体重をかけて立ち上がった。

 

 

「…何が可笑しい?」

 

 

美鈴は笑っていた。しかし今の笑みは先程のような油断・慢心の類でないことをピッコロは感じた。

 

 

「随分と懐かしい気がしましてね。貴方が…」

 

 

〔私の師匠にほんの少しだけ似ていて…〕

 

 

美鈴はそう言おうとしたがやめた。これをベジータが聞いたら怒るかとしれないと思ったからだ。

それにしても本当に懐かしい気がした。会わなくなってもう何十年も経ったかのような…そんな感覚だった。

 

 

「さあて。次…行きますよッ!」

 

 

 

意味深な笑みを浮かべつつ、美鈴はピッコロに向かう。

頭の中をフラットにし、今自分ができる闘いをしようと決めて。

 

 

 

「(面白い…!)はぁッ!」

 

 

それに応えるようにピッコロを少しだけ笑っていた。傍観していたデンデは、ピッコロが少しずつ美鈴のペースに引きずられているように思えた。

 

 

 

凄まじい攻防が続く。しかし互角とは到底見えない。汗びっしょりではぁはぁ息を吐く美鈴と、全く呼吸が乱れていないピッコロだったからだ。

そんな状況でも美鈴は攻撃する事と、笑う事をやめない。

 

 

 

「どうした?威勢だけで何も変わっていないが」

 

 

「それはッ!貴方がッ!強いからですよッ!

私だって一生懸命やってるんですッ!」

 

 

美鈴は勝ち負けより以前に、何故だか少しだけ楽しくなってきていた。

美鈴だけではない。ピッコロもそうだ。ここ最近純粋に闘いを楽しんだ覚えがない。フリーザ、人造人間、セル、魔人ブウとの闘いをピッコロは、純粋に楽しめていなかった。

 

こんな気分は…悟飯に修行をつけていた時以来の気がした。

 

 

 

「…紅美鈴、これはどうだ?」

 

 

距離を取ったピッコロが人差し指と中指を額にもっていった。美鈴はそのまま不思議そうに見ていると───

 

 

 

 

「──!!!」

 

 

 

凄まじいほどの〝気〟が指先へ集まっていく。美鈴はこれがピッコロの奥義であると直感的に感じた。

 

 

 

「(私じゃこれを受け止めるのは不可能…!かと言って躱すのも難しい。ならば……)」

 

 

 

 

 

 

────迎え撃つしかない!

 

 

 

 

 

 

「はああぁぁぁぁッッッ!!!!!!」

 

 

 

美鈴は残った〝気〟、体力、精神力を全て次の一撃に懸ける事に決めた。

恐怖はない。あるとするならば、それは勝負から逃げようとする自分の心の弱さにだ。

 

これほどまでに、真っ向から勝負を仕掛けてくれる相手に出逢える事はそうそうない。その相手に応えずに何が武闘家か。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うけてみろ──!『魔貫光殺砲』!!!!!」

 

 

「これで…決める!『ビッグ・バン・アタック』!!!!!」

 

 

 

 

 

2つの奥義が今ぶつかり合う───!!!

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、第51話でした。

なんかこの小説ではいつも美鈴がボコボコにされてる気がするんですけど気のせいですかね…
予定では次の話で章の区切りとなる予定です。

ではお疲れ様でした。


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【第52話】そういう男

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

『ライバルを超えるために幻想入り』も1月の最後をもちまして1周年となりました。ここまで続けてこられたのは皆様のおかげです。
これからもどうか宜しくお願いします。


 

 

美鈴の『ビッグ・バン・アタック』とピッコロの『魔貫光殺砲』はぶつかり合った。高威力の技のぶつかり合いは、美鈴にとって守矢神社で早苗と戦った時以来だ。

 

 凄まじい熱、音、圧が美鈴に降り注いだ瞬間、大爆発が起こった。丈夫な作りになっている神殿ですら一部分が崩れ去るくらいの。

 

 

 美鈴は爆風に吹っ飛ばされ、まだ壊れてなかった柱に背中からぶつかった。痛みはあったが、そんな事より舞い上がった煙の先を見ていた。

 

 

 

 

 

 ───信じられない。

 

 

 その者は技の反動、爆風を物ともせずに腕を組んだまま立っていた。そう、もちろんピッコロだ。

 

 

 

 結果的に2つの技は相殺しあったが、全ての〝気〟と体力を使い切った美鈴は、尻餅をついて立ち上がることすら出来ない。

 一方のピッコロは、あれ程の技を放ったにも関わらず、眉の1つも動かさない。息も乱していないどころか、先程よりも冷静になっているように見える。

 

 

 

 何故───?

 

 

 いや、答えは既にわかっていた。

 

 

 

 

 

「は、ははは… 全力、ではなかったみたいですね」

 

 

 

 そういう事である。

 

 ピッコロが美鈴と同様に目一杯の〝気〟、そして体力を使っていたのなら、ああなってはいなかった。美鈴ほど疲労はないにしろ、息の1つくらいは乱していたはずだ。

 

 ピッコロは周りを見渡す。神殿の様子が気になっていたのだろう。ピッコロ自身もここまでやるつもりはなかったのだ。

 

 

「フン きさまの負けだな。紅美鈴」

 

 

「そうですね。でもまあ本当の事は言えませんから煮るなり焼くなり好きに…」

 

 

 

 

 急にデカイ〝気〟を感じ口を閉ざす美鈴。

 そう、悟空だ。プイプイを界王星に運んでいき、そして帰ってきたのだ。

 

 

「終わったみてえだな」

 

 

「やはりワザと来なかったのか…いくらなんでも遅すぎるとは思っていたが」

 

 

 確かに悟空は、美鈴とピッコロが戦い始めてすぐの頃にはもう神殿へ戻ることができていた。しかしあえてそうしなかったのは、ピッコロの考えも十分に理解できているからだ。

 

 

『美鈴の存在は危険』

 

 

 事情を知れば誰だってそう思う。悟空本人ですら少しはそう思っている。

 それでも美鈴を側に置いている理由は、いつか強くなった美鈴と戦ってみたいと思っていたからだ。

 しかしそれは悟空のエゴ。いくら強く、何度も地球を救ってきたからといって、自ら地球を危険に晒すのは良くない事はわかっている。

 

 だからピッコロを止めなかった。ピッコロは自分よりも地球の事を真面目に、深く考えている。そのピッコロが美鈴は本当に危険で、こちらの世界に留めていてはダメだ。という結論に至ったならば、素直にそれに従うと決めていたのだ。

 

 それが美鈴を殺す事になれば全力で止めに行く準備はできていた。が、ピッコロがそこまでしない事もちゃんと知っていた。

 

 

 

「で、ピッコロ。美鈴はどうだ?」

 

 

「……」

 

 

 この悟空の問いには色々な意味が含まれている事を、ピッコロはすぐに感じ取った。

 

 そしてピッコロの答えは────

 

 

 

 

「フン! きさまが言っていたほど大した事はない。たとえ何かをしたとしてもいくらでも対処できる!」

 

 

「…え?」

 

 

「へへッ…!」

 

 

 

 これはピッコロなりの承認だった。神のデンデを差し置いているのはともかく、これはピッコロが、いや地球が紅美鈴を一時的に(・・・・)受け入れたという事だ。大袈裟な言い方だが、それほど〝異世界同士の交わり〟は危険で犯し難いものなのである。

 

 

「紅美鈴、今は認めよう。きさまの存在と…強くなりたいという向上心を。

 だが忘れるな。きさまがもし何かをしでかそうとするのなら…容赦無くオレが殺してやろう」

 

 

「は、はいッ…!」

 

 

 口元は笑っていたが決して冗談ではない。ピッコロにはその覚悟も力も備わっている。

 

 

「だがまあ…悟空、こいつの事はきさまに任せよう」

 

 

 それでもピッコロがカバーしきれない可能性もある。あくまで1番大事なのは悟空だ。悟空はそんなつもりないかもしれないが、監視役として美鈴を見なければならない。美鈴もそれは重く理解している。

 

 

「ああ。わかってるさ」

 

 

 これらは全て悟空が美鈴と戦いたいからという前提がある。

 そこまでして程戦う理由があるか?とピッコロは訊かない。ピッコロだけではなく、美鈴、デンデ、そして戦いの最中にいつの間に居たミスター・ポポも。理解しているからだ。

 

 

 何を?

 

 

 

 

 孫悟空が『そういう男』だという事に。

 

 

 

 理屈ではない。サイヤ人とはそういう生き物だ。

 

 

 

 

 

 

「悟空。もしオレが紅美鈴を殺そうとしたらどうするつもりだったんだ?」

 

 

「そりゃあ もちろん止めるさ。けど、おめえがそこまでするわけねえって信じてたけどな」

 

 

 お互い顔を見合わせてフッ と笑うが、すぐにピッコロは後ろを向いた。

 

 

「オレ相手ならすぐに止められるというわけか。相変わらずムカつくヤツだぜ」

 

 

「そうじゃねえけどよ〜」

 

 

 悟空は笑いながら答えるが、美鈴はここで笑ったら殺されるんじゃないかと冷や汗をかいていた。

 

 

「それはともかく…悟空。ではオレが紅美鈴を殺さないにしろ、存在を許さないといったらどうするつもりだった?きさまになんとかできる範囲を超えていると思うが」

 

 

 これにはピッコロも興味があった。あちらからの〝気〟を感じないので『瞬間移動』でも行く事はできない。

 考えられる可能性はただ1つ…

 

 

「ああ!神龍(シェンロン)に頼んでみようかと思ってさ。美鈴を元の世界に戻して、そしてついでにもうあっちからこっちへこれねえようにしてくれ〜って。そうすりゃ同じような事も起きねえだろうしな!」

 

 

「やはり神龍か…しかしいくら神龍でも異世界への入り口を閉ざすなんて事が可能なのか?」

 

 

「どうだろうなぁ…誰かの能力で入り口を作ってんだろうけど、まあ頼むだけ頼んでみてダメだったら他を考えりゃいい。てか 結局美鈴が居ていいならこの話は関係ねえさ」

 

 

「(悟空さん…意外と鋭い…)」

 

 

 美鈴は内心ドキドキしながら聞いていた。この2人、特にピッコロはかなり頭が回るからだ。

 

 

「まあそうだが…」

 

 

 しかし予防線は張っておかなければならない。

 今では考えられないがもし美鈴が自分、さらに悟空に匹敵する力を持ったなら、戦うより今悟空が話した通りに追放した方が早い。

 …と考えておいた方がいいが、悟空が戦いたがるだろうから考えるだけ無駄とピッコロは思い至った。

 

 

 

「あのー…」

 

 

「ん?なんだ美鈴。腹減ったのか?」

 

 

 確かに力を使いきり腹が減っているが、美鈴が言いたいのはそんな事ではない。

 

 

「異世界への入り口を閉ざすって、ししょ…ベジータさんが帰ってこれなくなるのでは?」

 

 

 

 美鈴がこちらへ来られたのは、八雲紫の『境界を操る程度の能力』のおかげだ。だから、恐らく入り口を閉ざす事など不可能だとは思うが、美鈴が一言も言及していない『異世界がある』という2人の考えは当たっているので一応聞いてみた。

 

 

「はははッ!そういやベジータの事すっかり忘れてたな!

 まあそれも神龍に頼めばいいんじゃねえか?」

 

 

「そ、そうですか…」

 

 

 

 

 神龍というものがよくわかっていない中、ベジータについてすっかり忘れていた悟空を、ベジータ本人が見たら絶対に怒るだろうなぁ…と美鈴はしみじみ感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──幻想郷──

 

 

 

 

 ベジータはアリスが作った夕食を平らげた後、そのまま眠り、ついに出発の朝が来た。向かう先は当然『地底』である。

 

 まだ辺りは薄暗い。しかしベジータはその中1人で朝の稽古をしていた。

 

 

「ふッ! はあッ!」

 

 

 上半身は裸で、少し汗をかいていた。恐らく辺りが真っ暗な時からしていたのだろう。

 1人黙々と稽古をする中でも、コソコソと周りをうろつく影はいち早く察知できた。

 

 

「このオレを相手に〝気〟を抑えたくらいでバレないと思ったか?魔理沙!」

 

 

「…!流石だな…」

 

 

 木の影から魔理沙がひょこっと出てきた。ベジータの見よう見まねで〝気〟について特訓してきたのだが、完全に消す程にはまだ至ってはいなかったようだ。

 

 

「何しにきた…とは言わん。眼を見ればわかる」

 

 

 魔理沙の眼は闘争心で燃えていた。まるで獲物を狩る時の獣のようだ。ベジータ標的しか魔理沙にはもう見えていない。

 

 

「ふふふ…やっぱりお前は凄いなベジータ。

 私はお前に負けて死に物狂いで修行した。短期間だけど、本当に努力した。なんでそんな事したかって?もちろん…負けたのが悔しかったからさッ!」

 

 

 負けたあの時は表情に出さなかったが、魔理沙はあの時かなり悔しい思いをしていた。全力で戦わない相手に負けることがこんなにも情けなく、悔しい思いをするとは思わなかった。それを知ることができたという点ではベジータに感謝をしている。

 

 

 

 

「『力の封印』をしているんだったよな…でももちろん手加減なんてしないぜ!それがお前の望みだろ?」

 

 

 

「ククク…やはりリベンジか。ああ、もちろん手加減なんてしなくていい。いや…むしろそんな事したらぶっ殺すッ!」

 

 

 

 

 リベンジに燃える魔法使いと、それを返り討ちにせんとするサイヤ人の戦いが、再び始まろうとしていた───!




はい、第52話でした。

「オレはこの時を──ずっと待っていた!」

ということで久々のベジータでした。
この話をもちまして4章の終わりです。次からは5章となりますが、悟空や美鈴達の話もちょこちょこ挟んでいくので、よろしくお願いします。

ではお疲れ様でした。


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【第5章】危険な存在
【第53話】天才ならざる者


この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

やっとこさ第5章の開幕です。


 

 

 

 ベジータと霧雨魔理沙、双方とも不気味な笑みを浮かべながら向かい合っていた。ベジータが初めて幻想郷に来た日と同じように。

 

 あの時の魔理沙はベジータに対して特になにも思っていなかった。しいて言えば『ああ、また外来人が来たのか』くらいで、まさか自分とは比べ物にならないほどの実力者などとは考え至らなかった。

 

 しかし今は違う。チャレンジャーは自分だと理解している。その中で、魔理沙は冷静にベジータを分析しようとしていた。

 今ベジータは上半身が裸になっており、逞しい筋肉を露出している。この筋肉からしてまず普通の者とは思えない。筋肉があれば強いという事でもないのだが、ベジータのこの筋肉は長年鍛え上げて来た成果だという事に魔理沙は気づいていた。

 

 

 

 

 ───しかし、ここまでだ。

 

 

 

 眼で見ただけの情報などたかが知れている。1度戦った事があるといっても、あの時のベジータはとてもじゃないが実力を出し切ってはいない。魔理沙の分析はここでストップした。今の所は、だが。

 

 

「(〝アレ〟は最初からは使えない…先ずは様子見からだ!)」

 

 

 魔理沙は戦いながら分析を進めると決めていた。ひとつひとつの攻撃から、何か自分が有利になれるようなモノを探し出そうとしていた。

 

 

 

「構えろ魔理沙、いくぞ」

 

 

 

「…ッ! 疾ッ…」

 

 

 言われた通りに構えたその刹那、ベジータの姿が消えた。それを魔理沙は眼で捉えきれなかったが、背後に回ったベジータの影だけが眼に入り、ギリギリで攻撃を躱す事ができた。

 

 一瞬、ほんの一瞬だ。

 避けるタイミングが早過ぎたら攻撃の軌道をずらされて倒されていた。逆に遅過ぎたらそのまま攻撃を喰らい、倒されていた。

 運が良かった魔理沙はその2つの危機を回避し、5m、10mと距離をとり直した。

 

 

 

「(あッ…危なかった… 『力の封印』だって?そんな影響何処にあるんだ!)」

 

 

 あまりの疾さに魔理沙は眼を見開いて驚く。以前より確実にベジータは疾くなっていた。いや、ベジータが疾くしていたのだ。今のベジータは、あの時よりも霧雨魔理沙という人間に対し、『戦うべき相手』として認識を強めている。その認識の強さが、スピードを疾めさせていたのだ。『力の封印』をした分、本気になってもすぐに勝負がつくことはないとベジータはわかっている。

 

 つまり以前のベジータは〝全力だったが本気ではない〟が、今のベジータは〝全力ではないが本気〟であるのだ。魔理沙が驚くのも無理はない。

 

 

「…この程度で面を食らっていてオレを倒すとは笑わせる。きさまはこの程度なのか?」

 

 

「!! ……何言ってるんだ。まだまだこれからだぜッ!」

 

 

 

 今度は魔理沙がベジータに襲いかかった。大量の弾幕をベジータの全方位へ撃ち込み、ベジータが避けきった先へと猛スピードでちかよった。

 

 

「喰らえッ! 「恋符《マスタースパーク》!!!」

 

 

「フン」

 

 

 

 虚をついた攻撃のつもりだったが、ベジータはそれを見透かしていたと言わんばかりに悠々と躱した。

 その瞬間、魔理沙に小さな動揺が生まれたことをベジータが見逃すはずもなく、背中へ蹴りを入れて吹っ飛ばした。

 

 クルクルと回転しながら魔理沙は木にぶつかり、その際に頭を打って倒れ込んだ。自慢の帽子もヒラヒラと風に揺れながら地面に落ち、勝負が決まったかと思われたが、魔理沙はすぐに立ち上がる。

 

 

 

「へ、へへ…まだだぜ!」

 

 

 額からポツポツと落ちる血を袖で拭きながら、魔理沙は笑っている。そんな魔理沙をベジータは面白くなさそうに見ていた。

 

 

 

「きさまではどんなに修行しようが、オレにリベンジなど不可能だ」

 

 

「…へぇ、なんでだよ」

 

 

 珍しく断言をしたベジータに対し、魔理沙が問う。

 

 

 

「身体能力の差だ。ハッキリ言ってやる。きさまはオレが幻想郷で見てきた奴の誰よりも基本能力が低い。吸血鬼と言っていたレミリアやフラン、ましてや同じ人間の霊夢や早苗と比べてもきさまのそれ(・・)は大幅に下回っている」

 

 

 正直に答えれば魔理沙は絶対にいい顔をしないとわかっていながら、ベジータは容姿なく答える。そしてさらにこう続ける。

 

 

「きさまがさらに奥の手ともいえる技を残していようが、その程度の身体能力ではオレに勝つことはできん。それが超能力であろうともな」

 

 

「……」

 

 

 魔理沙は黙って聞いている。怒っているのか落胆しているのかはわからないが、理解はしているようだ。いや、ベジータに言われる前から、魔理沙はちゃんとこの事を理解していた。

 

 

 

 〝自分は天才ではない〟

 

 

 

 常々そう思っていた。

 

 確かに人という範囲で見れば相当な実力者に違いないが、それも霊夢や早苗と比べると一回り、いや二回りほど見劣りする。

 魔法使いという範囲でも見ても、アリスやパチュリーといった上位互換のような者がいた。

 

 その分魔理沙は魔法について勉強し、知識を蓄えいろんな技を編み出した。しかしそれは所詮『普通の人間が放つ魔法』に過ぎず、技のクオリティーに自らのスペックがついてこなかったのだ。

 

 頑張って鍛えている時期もあった。しかし基本スペックは生まれつきのものが大部分に関係しており、中々上がらなかった。そんな魔理沙を嘲笑うわけではないが、常に一緒にいる霊夢はとても人間とは思えない高スペックだ。霊夢自体は何も苦労をせずに持ち合わせていたその身体能力を、魔理沙は時に嫉妬する事もあった。が、人間は皆平等ではないという事をわかっていたため、その気持ちを表に出すことはなかった。

 

 が、そう心では思っていても納得はできない。

 しかし努力しても変わらないことから、次第にその気持ちが冷めつつあった。さらには今の力のままでも『異変解決』をできることはわかりきっていたので、最近はあまり気にしなくなっていた。

 

 

 

 

 

「諦めないぞ…私は。ここで諦めたら格好がつかないからな」

 

 

「…往生際の悪い事だ」

 

 

 出逢ってしまった。

 幻想郷(ここ)で。上手く表現できないが、簡単に言えば〝負けたくない〟と思う相手が。

 ただ強いだけでこう思わせるのは不可能だ。大事なのは強さの〝質〟 戦闘という点において、これ程までに研ぎ澄まされた『力』を見せつけられた魔理沙は、冷めつつあった思いを再び憶いだした。

 

 しかし、憶いだした所で身体能力を急に上げることはできない。そこで魔理沙は別のベクトルで考え始めた。

 

 

「確かに私は霊夢みたいに身体能力は高くない。だけど…私には魔法がある(・・・・・・・・)!」

 

 

「いったはずだ、その魔法もオレには通用せん」

 

 

 魔理沙はニヤリといつもみたいに笑いながら、さっき落ちた帽子を拾い深く被った。

 そして右手に持っていた『ミニ八卦炉(はっけろ)』を自分の胸に当てて大きく深呼吸した。

 

 

「まさか…きさま…」

 

 

「ベジータ、私ははじめからお前にはマスタースパークは通用しないとわかっていた。いや、マスタースパークどころか私の魔法全てがな!

 だから私は…これで…自分を強化する(・・・・・・・)ッ!」

 

 

 

 ミニ八卦炉が小さく輝いたと思った瞬間、放出された光で魔理沙を包み込んだ。

 自分で自分にマスタースパークを打ち込んだのだ。その際にベジータは感じ取った。今のは魔法と〝気〟を織り交ぜたモノであるという事を。

 

 

「こいつ…」

 

 

「さぁ、さっさとやろうぜ」

 

 

 

 包み込んでいた光が消えたと思ったら、その中からさらに輝いている魔理沙が現れた。

 ベジータはその魔理沙を見て、ニヤリと笑いながら構えたのだった。




はい、第53話でした。

魔理沙の泥臭さは好きです。もちろんベジータも。

ではお疲れ様でした。


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【第54話】金色の戦士VS金色の魔法使い

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

いよいよ四月。新しい生活の始まりですね。


 

 

「さぁ、さっさとやろうぜ」

 

 

 自分に向かって『マスタースパーク』を撃ち込んだ魔理沙。普通ならただの自爆行為に過ぎないが、目の前の魔理沙にはそんな様子は見られない。

 ところどころ癖っ毛のように跳ね上がった髪、光り輝いているが決して眩しくはない〝気〟、そして〝気〟以上に輝いて見える眼光。その全てが、今の魔理沙は先程の魔理沙とは違うという事を表していた。

 

 

 

「なるほど…それがきさまの出した答えか」

 

 

 魔法と気。その2つを混ぜ込み、魔理沙は新しい境地である『気魔法(きまほう)』というものを作り上げた。なんとも単純なネーミングだが、それ故にわかりやすい。

 

 ベジータは光り輝く魔理沙が、自身たちの『スーパーサイヤ人』と若干重なって見えた。あくまで見た目だけの話だが。魔理沙は『自分を強化する』と言っていたが、その内容についてまだ理解はできない。

 確かに〝気〟は先程の数倍大きくなったが、それだけではまだ今の自分には届かない。それがベジータには気がかりだった。

 

 

「構えろベジータ。そろそろ行くぜ?」

 

「チッ…大口を叩きやがって!」

 

 

 トントントンっと小ジャンプをしながら、魔理沙は構えている。金色の〝気〟は揺れる魔理沙と共にユラユラと不気味に動いていた。

 

 ベジータは魔理沙に言われた通りに構える───はずもなく、予備動作をほとんど無しにして、一瞬で魔理沙の後ろに回り込んだ。それも最初とは比べ物にならないほどのスピードで。

 だが、今の魔理沙には()えていた。ベジータのパンチを左手で上手く捌き、さらに腹部へ蹴りを入れた。

 

 ベジータはその蹴りを食らい後方へ吹っ飛んだ。しかし魔理沙には、ベジータに殆どダメージがないことをわかっていた。蹴りの威力で吹っ飛んだのではなく、ダメージが減らすために自ら後方へ下がっていたからだ。これはベジータの戦闘経験があって成せる技だろう。

 

 

「フン…少しはマシになったようだな」

 

「驚くのは…これからだぜッ!」

 

 

 今度は魔理沙から仕掛ける。

 右へ左へとステップを踏みながらベジータに近づいていく。魔理沙が地面を踏むたびに、地面がブゥゥン!と反応していた。

 

 迎え撃つベジータは、両手を前に出し『気弾』を連発する。だが魔理沙は目にも留まらぬ『気弾』の嵐にも全く引かず、小さな隙間をくぐり抜けベジータの前に出た。

 

 そして両手を前に出し右手首と左手首とピタッとくっつけ、手をパカっと開けた構えをとる。まるでベジータの『ファイナルフラッシュ』のように。

 

 

 

 

「食らいやがれ!『マスターフラッシュ』!!!」

 

 

 

 

 凄まじい轟音と共に、激しい光がその場を包み込む。同様に光輝いていた魔理沙自身ですら眩しくて目を瞑ったくらいだ。

 

 

「(これならッ───!)」

 

 

 手応えあった、と魔理沙は右手の拳を握り締めてガッツポーズをした。

 

 これで倒し切れたとは思っていないが、ある程度のダメージは与えられたと確信していた。それ故のガッツポーズだ。

 

 しかし相手は百戦錬磨のベジータ。一瞬の油断が命取りになるとわかっていた魔理沙は、すぐさまガッツポーズした手を前に出し、構えた。光と爆風の中からくる奇襲に気を張っているのだ。

 

 

「……」

 

 

 爆風が晴れた。魔理沙は集中力を最大限にまで高める。

 

 

「……(妙だな)」

 

 

 魔理沙はある異変に気付いた。

 

 それは中々光が消えないからだ。それは自分の撃った『マスターフラッシュ』の威力を物語っているのもあるが、それにしても未だに眩しいのはおかしいと考えたのだ。

 この状態での『マスターフラッシュ』は練習として何度か放ったことがあるが、ここまで眩しさが持続したことは一度もなかった。

 

 

「……まさか!」

 

 

「その…まさかだ」

 

 

 

 シュインシュインシュインと聞き慣れない音が響く。

 するとその光の中から自分と同じように光り輝く男が現れた。金色の髪、そして金色のオーラを纏ったベジータがそこに立っていた。

 

 明らかに先程までとは違う。胸を突くような嫌な予感を、魔理沙は肌で感じ取っていた。

 

 

「…すごいな。これが(スーパー)サイヤ人ってやつか」

 

 

 魔理沙は霊夢に『(スーパー)サイヤ人』のことを聞いていた。

 しかしそれはあくまでそういう存在があるというだけで、具体的な事は聞いていなかった。いや、聞いていないというより聞いても霊夢が答えてくれなかったのだ。その時は、どうせいつもみたいに説明するのを面倒くさがったんだなと思っていたが、そうではないと今確信した。

 

 

 独特な雰囲気。

 圧倒的な威圧感。

 研ぎ澄まされた闘志。

 

 

 この全てが言葉で表せる代物ではない。実際に目で見ないとその本質が理解できないものだった。

 

 

「独学だけど…私も〝気〟を使ってるからわかる。ベジータ、お前はとんでもなく強い」

 

「当たり前だ」

 

 

「まあ当たり前なんだけどさ…それでも強いんだよお前は」

 

 

 魔理沙は本当に当たり前のことを繰り返す。内心興奮しているのかもしれない。

 

 

「フンッ…なんだ何が言いたい?」

 

 

 魔理沙は手で顔を覆い、そしてそのまま顔を下に向けた。敵を前にして、それも自分相手にとっているその余裕をベジータは気に入らず、一撃で終わらせようと動こうとしたその刹那、魔理沙の様子がおかしいことに気づいた。

 

 

「何を笑っていやがる…」

 

「いやぁ…そんなに強いお前を倒せるのが嬉しくてな」

 

 

 魔理沙は笑っていた。ククク…とまるで可笑しいものでも見るように。

 理由はわからないが、魔理沙はベジータに勝てると確信していたのだ。

 

 

「くだらん過信だ。本当に勝てると思っているならお笑いだぜ…オレが一瞬で終わらせてやる!」

 

 

 ボゥッ!と〝気〟を高めたベジータが、魔理沙に向かって飛んでいった。本当に一撃で決める気のようだ。魔理沙はカッと目を見開いて横へ大きく動いて回避した。

 ベジータは動いた魔理沙を見逃さず、すかさず距離を詰めて攻撃しにかかる。

 凄まじい威力の打撃だが、魔理沙は打撃を受ける場所に『気魔法』を込めてなんとか防ぐ。しかしそれでもベジータが押していることには変わりない。

 

 

「痛ぅ〜…!」

 

「(こいつ…なんだ?)」

 

 

 確かに魔理沙は先程自分を強化し、攻撃力、防御力、スピード共に段違いになった。カラダに負担がある強化法だろう。

 しかし、それすらも(スーパー)サイヤ人になったベジータには及ばない。それを魔理沙自身わかっているだろうからこそ、ベジータは魔理沙の余裕の理由がわからない。

 

 

「チッ…食らいやがれーっ!」

 

「なッ!?」

 

 

 攻撃を繰り返してる内に、魔理沙に大きな隙ができた。その隙をベジータは突いた。

『気功波』を放ち、魔理沙はそれをモロに食らって物凄い勢いで吹っ飛んだ。魔理沙は森の中心部に存在する湖に、大砲のような音を響かせながら落ちていった。

 

 ベジータは魔理沙を吹っ飛ばした後、すぐに湖まで追って魔理沙の様子が見る。彼女は「ゲホッゲホッ!」と水を吐きながら陸へ上がってきているところだった。

 

 

「はぁ…はぁ…さすがの私も今のは死ぬかと思ったぜ…」

 

 そう言いながらも魔理沙は笑みを浮かべている。反対にベジータにイライラが隠しきれていない表情だ。

 

 

「魔理沙!まさか…きさま手を抜いているつもりじゃないだろうな!」

 

 

 そうとしか思えない。いや、もう1つ可能性があるとしたらそれは魔理沙が見栄を張っているという事だ。スーパーサイヤ人になった事により、実力が違いすぎると思った魔理沙が見栄を張っていると考えたら、可能性はなくもない。

 

 

「手を…?馬鹿言うな!私はいつだって本気だッ!」

 

 

 魔理沙は本気で怒る。これを見る限り手を抜いていると言うわけでもなさそうだ。ベジータはさらに訳がわからなくなってイライラが止まらない。

 

「もういい!これで終わりだッ!」

 

 

 怒ったベジータは空中に飛び、ある程度の高さから魔理沙を見下ろした。そして右手を下にいる魔理沙に向け、〝気〟を高め始めた。『ビッグ・バン・アタック』を撃つつもりだろう。

 

 下にいる魔理沙もこの攻撃はまずいと感じ取っていたが、カラダが重くて動かない。

 

 

「ここら一帯吹き飛んでしまえーっ!!!」

 

 

 そしてベジータの『ビッグ・バン・アタック』が放たれた。勿論全力ではない。全力だと魔理沙どころか、だいぶ離れた所にあるアリスの家まで吹き飛んでしまう威力になるからだ。

 だから今の魔理沙がダウンするくらいの威力で放った。それでも凄まじい威力であり、魔理沙が今まで見たことのないほどの攻撃という事には違いないのだが。

 

 動けない魔理沙は迎え撃つ事もせずに、魔法を使ってバリアーを張って攻撃を凌ごうとした。しかしベジータの攻撃はあまりにも強く、大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フン…くたばりやがったか」

 

 

 爆風が晴れるとそこには倒れ込んでいる魔理沙の姿があった。もう金色の光を放っていないが勿論生きている。そう手加減したからだ。

 仰向けになった魔理沙の側にベジータが寄り、抱えようとしたその瞬間───

 

 

 ズドンと大きな音が響く。鈍い音だ。その音の正体は───

 

 

「ぐ…あああ…!」

 

「油断…大敵だぜッッッ!」

 

 

 拳打。

 

 魔理沙の拳打がベジータの腹を襲った。不意を突かれたベジータは膝をつき、その隙に魔理沙がベジータのこめかみに蹴りを入れて吹っ飛ばした。

 

 

「はぁ…はぁ…ホントに…間に合ってよかった(・・・・・・・・・)

 

 

 魔理沙はユラッとバランスを崩しながら立ち上がった。満身創痍なのは間違いないようだ。

 

 

「きさまぁ…!その〝気〟は…!」

 

 

 尻餅をついたまま、ベジータは気づいていた。

 魔理沙の〝気〟がさっきの光り輝いていた状態より何倍も膨れ上がっていた事に。その見た目は先程のように黄金の光は消えていたが、白く薄い光を僅かに帯びていた。

 

 やっと気づいたか、と魔理沙もベジータに向かってニカっと笑う。

 

 

「そうだ!さっきの光ってた状態はまだ完全な状態じゃない!いわば〝充電中〟みたいなもんだ!」

 

 

 光り輝いていた状態の魔理沙でも、既に強くなっていた事は確かだった。しかしそれはあくまで〝途中過程〟のようなもの。完全な状態になるには時間が必要だったのだ。

 しかし魔理沙は今までこの完全な状態になった事はなく、どれほどの時間を要するのかもわからなかった。だからあえて(・・・)ダメージを受け、自分を満身創痍にする事で〝カラダを急がせた〟のだ。

 

 

「へ、へへ…悪いな。私みたいな凡人には時間がかかるんだ…!だけど…これからだぜベジータ!」

 

  「魔理沙…!」

 

 

 なんとも不便な強化方法だ。

 自分を『気魔法』で攻撃しスイッチを入れ、敵からの攻撃を食らい充電する。こんなもの完全に強化する前に倒されてしまう可能性の方が高い。

 

 だからこそだ。

 だからこそ魔理沙の本気が伝わってくる。一か八の賭け。ベジータに勝とうとするならそれくらいはやらなければ太刀打ちができないと考えていたのだ。

 

 勿論、充電中の状態で倒すことができればそれが一番良かったが、それはベジータが(スーパー)サイヤ人になった瞬間に諦めた。格が違いすぎたからだ。

 あの笑みもベジータをイライラさせ、大技を出させるための囮にすぎなかったのだ。もっとも一つ間違えたら自分がそれで倒されていたが。

 

 

 欲を言うなら───

 

 魔理沙は今の不意打ちでベジータを倒したかった。そして「戦闘中に油断をするな!」と言いたかったが、ベジータが想像以上にタフなのでそれは叶わなかった。

 

 

 

「さあ!さっさと…おっと、かかってこいよ!」

 

 

 魔理沙はもうフラフラだ。カラダは強化できたが、いかんせんダメージを負いすぎた。どんなに強くてもダメージを負ったら戦えなくなるのは当たり前だ。

 

 

「ククク…そこまでやるとはな」

 

「そこまで…だと?」

 

 

 ベジータがフラフラとしている魔理沙を鼻で笑って挑発すると、魔理沙は眉間にしわを寄せてベジータを睨む。

 

 

「わかってないな…ここは幻想郷だ。お前は外来人だからわからないだろうけど…お前みたいな奴はここには居ない。だからお前が帰ったら私はこの気持ちを誰にぶつければいい…?」

 

 

 魔理沙の声は震えながらも力が篭っている。ためていた本音を吐き出しているのだ。

 

 

「ベジータ、お前にとっては私は数ある戦いの1つなんだろうけど…私にとってはこれは間違いなく生涯最高の戦い(・・・・・・・)なんだッ!全部を出し切って何が悪いッ!」

 

 

 魔理沙は感じていた。

 

 もうこんな戦いは一生味わえないと。ここで妥協したら死ぬまで後悔すると。死ぬ前に『あの時ああすればよかった』と思うような人生はまっぴら御免だ。

 

 霧雨魔理沙は今を全力で生きる〝普通の人間〟なのだから。

 

 

「…いいだろう」

 

 

 ベジータは小さくそう呟いた。魔理沙はその言葉が何を意味するのかわからない。

 

 

「オレの全力をみせてやろう…!」

 

 

 命を賭けて本気で向かってくる魔理沙に、何か思うことがあったのだろうか。ベジータはカラダの力を抜き、静かに前を見据える。前、つまり魔理沙だけを。

 

 

 

 

「はああああああッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 風のように静かだったベジータの〝気〟が、急に嵐のように爆発した。地面は割れ、木はなぎ倒され、湖の水は震えている。

 

 

 

 

 そして次の瞬間───

 

 

 魔理沙は目の当たりにした。

 (スーパー)サイヤ人を超えた(スーパー)サイヤ人を。




はい、第54話でした。

実はこの戦いは予定にはありませんでした。しかし、ベジータと魔理沙という存在に近しいものを感じ、急遽入れる事にしました。後悔はしてません。

ではお疲れ様でした。


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【第55話】願った拳

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

だんだんと夏が近づいてきましたね。


 

 

 

 

 

 魔理沙の率直な感想は───驚愕。

 

 

 

 ただそれしか浮かばない。

 

 

 目の前に立ち塞がる〝史上最強〟と思っていた敵が、更に限界を超えた。放っている〝気〟は先程よりも深く、濃く、そして圧倒的に大きい。もはや別人とすら錯覚してしまうほどだ。

 

 その圧倒的な男は、静かに魔理沙を睨むように立っている。構えを取っているわけでは無いが、ほんの少しの隙もない。動きたいのに動けない。どこから攻めたらいいのかも、魔理沙にはちっともわからなかった。

 

 

(スーパー)サイヤ人を超えた…(スーパー)サイヤ人…ッ!」

 

 

 

『限界を超える』という言葉はよく耳にする。努力に努力を重ねた者がその境地に辿り着く。しかし更にその限界を超えるとなると、努力だけでは叶わない。生まれ持った才能がモノをいう世界となるのだ。

 つまり魔理沙ではどんなに努力しようが一生辿り着く事のない境地。それを自分で理解しているからこそ、今のベジータに対して嫉妬の感情を知らず知らずのうちに持っていた。

 

 才能のない自分が、エリートを倒してみせる。

 魔理沙の、その手始めがベジータだった。初めて、絶対に勝ちたいと思える相手に出逢った。初めて、絶対に負けたくないと思える相手に出逢った。初めて、ああなりたいと憧れた(・・・)相手に出逢った。

 

 しかしその憧れは、段々と嫉妬に変わっていった。それはカラダでは理解(わか)ってしまうからだ。ベジータを超えることはできない、と。

 修行をし、僅かであれど実力がベジータに近づくほど理解(わか)ってしまう。何故実力が近づいてるのに、超えることはできないと思うのかは魔理沙自身もわからない。わからないが、この根拠のない感覚は何故か絶対的な自信があった。

 

 

 それでも魔理沙は構える。

 

 ここで退くことは出来ない。退いたら自分のやってきたことを、全てリセットするようなものだから。

 構えた魔理沙を見てもベジータは微動だにしない。反対にベジータが纏っている黄金の〝気〟だけが暴れており、なんとも手を出しづらい状況だ。

 

 カラダは既に満身創痍。

 それもその筈。魔理沙は限界を超えたからだ。いつ、このか細い意識が途切れるかわからない。いつ膝から崩れ落ちるかわからない。いま魔理沙のカラダを支えているのは骨、筋肉ではなく〝闘志〟だった。

 

 

「はぁぁぁぁぁッ!!!!!」

 

 

 内なるパワーを目一杯に込め、ベジータに向かっていく。全体重をかけて地面を蹴った右足から、まるで雷鳴のような轟音が響いていた。音だけではなく、魔理沙自体も雷鳴の如きスピードだった。あまりの疾さに頬の肉がほんの少し切れたくらいに。

 

 これが当たらなければ───負ける。

 

 そう確信しながら〝気魔法〟を右腕に集め、生涯最高の一撃を繰り出そうとする。

 

 

 

 

 ()たれ!

 

 

 直撃(あた)れ!!!

 

 

 命中(あた)れッ!!!!!

 

 

 (あた)れッッッ!!!!!!!!

 

 

 

 そう願うように突き出した右腕は───

 

 

 

 

 

 

 

 届いた。ベジータの顔面に。

 

 血が飛び散る。真っ赤で真っ黒な血が。人間が限界を超えるとこうなるのだろう。

 

 

 そう、(まさ)しく人間の。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウソ…だろ?」

 

 

 魔理沙の全てを込めた一撃はベジータに届いた。

 

 が、それだけだ。

 

 

 

「確かに届いたな。だが───

 

 ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤそれがどうした(・・・・・・・)?」

 

 

 

 

 

 魔理沙の一撃を顔面に食らってなお、ベジータは眉1つ動かさない。それどころか直撃した場所から一歩も後退しておらず、まるで胃にも介してない様子だった。飛び散った血はベジータの顔から出ているものではなく、魔理沙の拳から出ていたのだ。

 

 

 魔理沙は感じた。ベジータの右腕に凄まじい〝気〟が集まっていくのを。しかしそれを耐える力もなければ、ベジータの顔面から拳を離す力すら残っていない。

 

 

「かん……へへッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここで魔理沙の意識は途絶えた。

 

 

『完敗だよ』

 最後にこう言いたかったのだろうが、それすら叶わず口元を緩めることしかできなかった。しかしベジータにはしっかり通じていただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────

 

 

 

 

「貴方、意外と甘いのね」

 

「…アリスか」

 

 

 勝負が決したその直後、アリスがゆっくり歩きながら向かってきた。倒れている魔理沙の前で女の子座りをし、膝に魔理沙の頭を乗せて『膝枕』の体勢をとった。そして無理をしすぎて、若干焦げてしまった魔理沙の金色の髪を、手でゆっくりゆっくりと()かし始めた。

 アリスも戦いの全てをみたわけでは無かったが、魔理沙が相当無理をしているということだけは理解していた。

 

 ベジータは(スーパー)サイヤ人2から通常の状態に戻ると、地面にゆったりと座り込み、魔理沙の状態を確認した。勿論、死んではいない。気絶しているだけだ。

 

 

「息一つ乱してないんだから…魔理沙が報われないわ」

 

「そんな事などどうでもいい。それよりオレが甘いとはなんだ?」

 

 

 アリスが現れて第一に発した言葉『甘い』。それをベジータは気になっていた。

 

 

「別に。ただ最後の一撃を食らわせなかったからそう思っただけよ」

 

 

 そう、ベジータは最後の一撃を放たなかった。

 

 

「フンッ…食らわせる前に魔理沙(こいつ)が気絶しただけだ」

 

 

 プイッとそっぽを向くベジータ。そんなベジータを可笑しく思ったアリスはふふっと笑った。

 

 

「それにしても霊夢を起こさなくてよかったわ。魔理沙が2度も負ける所なんてみたくなかっただろうし」

 

「……」

 

 

 座ったそばだったが、ベジータは立ち上がった。帰るつもりのようだ。

 

 

「家に戻るの?じゃあ魔理沙をおぶって頂戴」

 

「甘やかすな。これで…自分で歩けるだろう」

 

 

 ベジータは魔理沙の肩に手を置き、自分の〝気〟を分けてやった。しかし、それでも魔理沙の目は覚めない。

 

 

「私は〝気〟ってやつのことを詳しくは知らないけど…〝魔法〟と〝気〟という2つの力は、本来相容れない存在なのかもしれないわね」

 

 

 その通りである。

 

 大きな力を合わせても、それは単純な足し算、掛け算にはならない。下手をすればマイナスの力になるし、成功しても魔理沙のようにデメリットが大きな力になってしまう。

 逆にベジータの(スーパー)サイヤ人にはデメリットらしきものはない。単純ながらもそれがベストなパワーアップなのだ。その点がベジータと魔理沙の最大の違いだった。

 

 

「チッ…手間のかかる奴だ」

 

 

 口ではそう言いつつも、優しく魔理沙を背負ったベジータはアリスと共に家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ベジータ、ねぇ… あたいじゃ力尽くは無理そうだね。あの方に相談しようっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

『カラダが軋むように痛い。瞼すら開けられない程に』

 

『しかしその痛みには、なんの嫌悪感もなかった。むしろ充実感を覚えるくらいに清々しい。勝負には負けたが、自分が全力を出し切った上で、それより更に相手が強かっただけだ』

 

『このままゆっくりと気持ちよく寝ていたい気分だったが、そういうわけにもいかない。頑張って目を開けてみた』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん?」

 

 

 魔理沙の目の前には見慣れない変な岩があった。こんな肌色の岩、見た事がない。

 ずっと眺めていると意識がハッキリしてきて、自分のみているものが岩ではないことに気がついた。

 

 

「せ、背中ぁ!?」

 

 

 このゴツゴツしたものが背中だとはにわかに信じられなかったが、それでも間違いない。魔理沙はベジータにおんぶされていたからだ。

 

 

「あら?もう起きたの。意外とタフなのね」

 

「アリス…?あれ此処は?」

 

 

 魔理沙は周囲を見渡すと、そこはまだ森の中だった。まだ家に帰っている途中だったのだ。

 

 

「まだ帰ってる途中よ。それより…貴方負けたわよ?」

 

 

 可愛い顔に似合わずに、アリスはズケズケと魔理沙にそう言った。しかしそのアリスの言葉に、魔理沙はムキにはならない。「そうだな」とだけ言って、ベジータの背中に顔を埋めた。

 

 

「(…ちょっと意地悪だったかしら)」

 

 

 アリスは少し反省して、自分の頭をコツンと叩く。

 

 

「……」

 

 ベジータも何とも言わない。そのまま3人は何も語らずに、アリスの家に辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────

 

 

 

「おかえり。 …遅かったわね」

 

「あら霊夢、起きてたの?」

 

 

 家に着くと、ベジータは魔理沙をソファーの上にボフっと下ろした。魔理沙はそのまま横たわり、ブツブツと何かを呟きながらぐったりしている。

 

 霊夢は珍しくエプロンを着ていて、朝ごはんを準備していた。この匂いは味噌汁の匂い。恐らく和食を作った様子だ。

 

 

「まあね…」

 

 

 霊夢はチラッと横目で魔理沙をみるも、魔理沙はそれに気づくことすらなく、ひたすら独り言を呟いてた。

 

 

「はぁ…アンタねえ!」

 

「メシを食うぞ」

 

「え?あ、ああ… わかったわ」

 

 

 魔理沙に対して何か言いたげな霊夢だったが、ベジータが席に座って朝食を要求したので、そのまま何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食を大量に平らげたベジータは、漸く『地底』に向かうことにした。




はい、第55話でした。

漸く、漸く、漸く次の話から『地底』に行きます。此処まで長引かせて申し訳ないです。

ではお疲れ様でした。


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【第56話】初めて

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

今回誤字があるかもしれません!もし発見した時には優しく教えてもらえるとすごく助かります!


朝食を食べ終わったベジータは、いよいよ『地底』へと向かう事にした。色々と回り道をしてきたが、やっと〝本命〟へと向かう事ができる。

 

 軽い荷物だけ背負い、出発しようとするベジータを見送るためにアリス、魔理沙も家の外まで来ていた。そして霊夢は地上にある入り口までベジータを案内する事になった。

 

 

「貴方のせいで私の1ヶ月分の食料が無くなっちゃったわ。まったく…」

 

 

 見送る際にアリスがそう軽い文句のような冗談を放つ。アリスは小食な上に一人暮らしなので、魚などを先程釣ってきたがそれでも足りずに色々とベジータが食べ物を漁っていたからだ。しかし本気で嫌がっているわけではなく、むしろ大勢でワイワイと食事を出来たのを楽しんでいた様子だった。

 

 そんなアリスにベジータはほんの少しだけ口角を上げて笑ってみせた。その際にチラッと魔理沙の方を振り向いたが、やはりまだボーッとしている。

 

 

「アンタさあ…最後くらいなんかビシッと言えないわけ?」

 

 

 みかねた霊夢が魔理沙に声をかける。しかし魔理沙はまだ覇気のない顔をしている。負けたのがショック、いやベジータの本気に手も足も出なかったのがよほどショックだったのだろう。

 しかし何も言わずのままは良くないと思ったのか、魔理沙は「頑張れよ」とだけ言い残して先に家に入ってしまった。魔理沙は負けず嫌いな性格だが、一旦折れると立て直すのに時間がかかるタイプなのだ。

 

 

「魔理沙ったら…まあいいわ。ベジータ、私は貴方が地底で何をやろうかわからないけど…面倒事だけはやめて頂戴ね」

 

「フン…約束はできんな」

 

 

 アリスは最後に手を振って見送ってくれた。

 

 

 出発する前にベジータはアリスに、魔理沙へこう伝えろと言い残した。

 

 

 

『戦いに終わりなどない。いつでも挑戦を受けてやる』と。

 

 

 これはベジータなりの魔理沙への激励だ。ベジータも魔理沙がいつまでもこのままでいるとは思っていないが、立ち直りが早ければ早いほど長く修行ができる、と魔理沙に気付いて欲しかったのだ。

 

 

 その意図が恐らく伝わったのか、ニヤニヤしながら横を歩いている霊夢と一緒に『地底』への入口へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オレは…なにをしている…?』

 

 

 霊夢と向かっている最中、ベジータはそんな事を考えていた。

 

 自分は自分の為にここへ来たはずだ。しかし気づけば幻想郷の連中と深く関わっていた。美鈴、魔理沙など、時間こそ少ないがこのベジータとの関わりは一生忘れる事はないだろう。

 

 しかし───違う。

 

 

 ベジータはそんな目的の為に幻想郷へと来たわけではない。自分の限界を超え、更には『孫悟空(ライバル)』を超えるために幻想郷へとやって来たのだ。他人に構っている暇などない。

 

 

 しかしベジータは美鈴を連れ出した。それは修行相手が欲しかったからだ。だがそれだけではないというのもまた本音。美鈴は鍛えればものになる、そう感じたベジータは美鈴を連れて行こうと決めたのだ。

 幻想郷にいる人間、妖怪は元の世界の者より魅力的かつ個性的な存在が多い。ベジータや悟空のようなざっと言えばいわゆる〝力押し〟のタイプは少ないが、魔法などの特殊能力をもった者にはベジータも多少興味を惹かれていた。

 

 

 戦いだけに限った話ではない。ここの連中はベジータと話が合う。元の世界の人間は取るに足らない者ばかりで、ベジータにとっては無価値なモノに過ぎなかった。しかしここにはベジータと大きな力の差はあれど同じ〝強者〟同士であり話がそこそこわかる者も居た。そのせいもあり幻想郷は居心地の良い場所でもあった。

 

 

「……」

 

 

 ベジータは強く歯をくいしばる。同時に固い拳を限界まで握りしめた。

 

 怒りだ。自分自身への。

 

 ベジータは幻想郷を居心地が良いと場所だと、そんな想いを知らず知らずのうちに持っていたことに怒りを隠せない。

 修行はカラダを鍛える為だけではなく、精神を鍛える為でもある。しかしこんなぬるま湯では何も変わらない。むしろ衰退していくのみだ。

 

『カカロットを超えたい』

 

その強い気持ちがほんの少し、ほんの少しでも弱まってしまえばその時点でベジータの成長は終わる。それがベジータにとってどんなに恐ろしくどんなに耐え難い事は本人にしかわからないだろう。

 しかし神奈子や諏訪子も言っていた通りに、(スーパー)サイヤ人3になる為には心のゆとりが必要で、ただがむしゃらに修行をしてもこれ以上強くならない事はわかっている。なので今こうして各地を周り、何かのきっかけを掴もうとしている。

 

 ベジータの〝想い〟と限界を超える為の〝手段〟

 その2つは決して交わらない。修行と思えないような修行はどんな重力トレーニングよりもベジータにとっては過酷だった。

 

 

 

 

 

「何怖い顔してるの?ほら着いたわよ」

 

 

 色々と考えていたらいつの間にか『地底』への入口にたどり着いた。入口というよりもただの縦穴だ。しかしその長さは尋常ではなく、底が全く見えない。それに真っ黒で入ってしまえば視界は暗黒に包まれるのはまず間違いない。ベジータはなんとなくこの穴に既視感を覚えていた。バビディの宇宙船である。

 

 普通の人間なら、入口の端に立っただけで頭がおかしくなるだろう。それほど此の先は〝異質な世界〟であるというをこの場所へと立った者に思わせる力がある。

 

 

「ここか…フン、面白い」

 

 

 しかしあいにくベジータは普通の人間などではない。この程度でおかしくなるはずもなく、すぐさま穴へジャンプしようとするが慌てて霊夢がベジータを止める。

 

 

「ちょっと待って!」

 

「…なんだ霊夢」

 

 

 いきなり穴に飛び込もうとするベジータに霊夢は非常にビックリしていた。まだ言いたいことがあったようだ。

 手を胸に当て、深呼吸して息を整えてから真っ直ぐな瞳でベジータを見る。

 

 

「ベジータ。此の先は恐らくアンタが初めて会うような奴が居るわ。性格的にも能力的にもね。まあそいつはアンタと戦う気なんてさらさらないと思うけど」

 

「…それで?」

 

「そいつとはなんというか…会わない方がいいわ。アンタとそいつは相容れない。そんな気がするから」

 

 

 これは霊夢の勘だ。

 

 しかし、彼女の勘はよく当たる。気持ち悪いくらいに。そしてそれは悪い勘であればあるほど。

 

 本当は行かせたくないと思っているに違いないが、止めたところでベジータが地底に行くのをやめるわけないと思っているので何も言わなかった。

 

 

「フン…気に入らなければぶっ飛ばす。それだけだ」

 

 

 そう言い残してベジータは一瞬で飛び降りた。霊夢はすぐさまもうすぐ見えなくなるであろうベジータを上から見つめて

 

 

「萃香にボコボコにされてきなさーい!」

 

 

 と大声で叫んだが、それがベジータへと伝わったかは定かではない。

 

 

 

「厄介なことにならなきゃいいけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢から別れて少し経った。しかし今だに底まで辿り着かない。左を見ても右を見ても見えるのは暗闇だけ。それは視えているというのだろうか。

 

 

「チッ…」

 

 

 痺れを切らしたベジータは体勢を変える。今までは頭が上で足が下のいわゆる〝落下〟の体勢だったが、いつまで経っても底へと辿り着かないので、頭を下にして足を上に向ける。つまり戦いの時によく使う〝降下〟へと移ったのだ。

 

 そのままベジータは猛スピードで下へ降りていく。そうしているとすぐに空気の流れの異変に気付いた。これは底がもうすぐそこであるということに間違いなかった。ベジータはスピードを緩め、やっと視えた地面へとゆっくり着地した。

 

 

「ここは…」

 

 

 何もない。暗く、広いはずの空間なのにやたら窮屈そうに感じるこの場所には、地上との雰囲気とは真逆だった。

 このままここに立ち尽くしていても仕方がないので、ベジータは歩き出す。飛んでもよかったのだが、何が起こるかわからないのでとりあえず歩くことにした。

 

 そしてすぐに目の前に何かがみえた。橋である。そしてさらにその先には村、いや都市と言った方が正しいのかもしれない。そのようなものが存在した。

 

 離れていてもわかる。なにやらその場所は活気付いている。それも異常なほどに。

 

 

「あそこか…」

 

 

 とりあえず行くべき場所を決めたベジータ。そして巨大都市に向かおうとして橋を渡ろうとした瞬間────

 

 

「まったく…ついてないわ」

 

「っ…!」

 

 

 急に暗闇の中から少女が現れた。その少女はゆっくりとベジータの元へと近づいてくる。何を考えているかわからないような表情をしながらも、目だけは冷静にベジータを見つめていた。

 

 

「今は旧都で何かやってるらしいわ。そのせいで家に居ても騒がしくて読書に集中できない。どうせみんな旧都に集まってるんだから、誰も此処には居ないと思って外に出たのに…」

 

 

 彼女はガッカリしながら橋の先を見る。あの都市は『旧都』と呼ばれているみたいだ。しかしベジータにはそんな事どうでもいい。

 

 

「そんな事知るか。退け、オレはその先に用がある」

 

「用?旧都へなんの………」

 

 

 唐突に少女が黙り込んだ。そして大きく両目を見開いて驚愕の表情でベジータを見つめる。

 

 

「貴方…心が無いの?」

 

 

 震えた声で彼女は問う。その意味がベジータにはわからないし、わかる必要もない。

 

 

「オレはきさまと遊んでいるヒマなどない。その旧都とやらに行かせてもらう」

 

 

 ベジータが強引に進むもうとするも、彼女はベジータの前に立ち塞がった。そして睨むほどベジータを強く見つめ、何か気づいたようにフッと笑う。

 

 

「違うわね…心が無いわけじゃない、読みにくいだけ。でもこんな事…初めてだわ」

 

「きさま…邪魔をするなら消し飛ばすぞ」

 

 

 さすがにベジータでも本当に消し飛ばす気はない。ただ邪魔な事は変わりないので、少女を本気で脅そうとした。

 

 しかし彼女にはわかっていた

 

 

「脅しは私には効かないわ。へぇ…旧都で『強い奴と戦いに来た』のね」

 

「…なに?」

 

「『スイカとかいう奴と戦う』…ああ、萃香の事ね」

 

 

 彼女はベジータの思っている事をズバズバと当ててくる。ベジータは直感した。これは考えている事を予想しているのではなく、正に〝心を読んでいる〟のだと。

 そうであれば先程の『貴方…心が無いの?』という一言にも納得がいく。

 

 

「理解してくれたようね。とりあえず自己紹介をしましょうか。

 

 私は古明地(こめいじ)さとり。貴方が思っているように、私は他人の心を読むことができるわ。何故か貴方の心は集中してもぼんやりとしか読み取れないけど」

 

「心を……」

 

 

 ここでベジータは先程の霊夢の言葉を思い出す。

 

 

『ベジータ。此の先は恐らくアンタが初めて会うような奴が居るわ。性格的にも能力的にもね。まあそいつはアンタと戦う気なんてさらさらないと思うけど』

 

 

「なるほど。きさまが霊夢の言っていた…フン、残念だな霊夢。これ(・・)は初めてではない」

 

 

 心を読まれた体験、それは最近にもあった。界王神の時だ。

 

 

「霊夢の言っていた? …やっぱり読みづらい。まず貴方は誰?戦いに行く目的はなに?そもそも人間?」

 

 

 さとりと名乗る少女はベジータに旧な質問攻めをした。普段は心を読めばこんなこと聞かなくてもわかるのだが、ベジータの心は何故か読みづらく、集中しても少ししか読み取れない。だから普通に会話で聞こうとした。

 

 

「オレはベジータだ。別に目的など必要ない。ただ戦うためにオレは幻想郷へと来た」

 

「……そう。貴方は外来人なのね。なら…今すぐ帰りなさい」

 

 

 ベジータが外来人だと察したさとりは、唐突に帰るようにベジータへと促した。

 

 

「タイミングが悪かったわね。今の旧都は昔みたいに盛んになっているわ。萃香達が起こした変な祭のようなせいでね。今あそこは血の気の多い連中が群がっている。外来人がそんな所に行ってみなさい、ノリで殺されるわよ貴方」

 

「……」

 

「萃香達が何をしたいのかわからないけど、妖怪や鬼にはなんともなくても貴方のような人間には正に〝地獄〟よ。萃香に会う前に凶暴な輩に襲われてしまうわ。だから今日は帰りなさ───」

 

 

 さとりが止めているにも関わらず、ベジータは一瞬でさとりの後ろに回り込み、橋へと足を踏み出した。さとりは何があったかわかっていなく、急にベジータが消えた事にビックリしていたが、すぐに後ろへ振り向いた。

 

 ベジータは橋の上からさとりを見下ろす。

 

 

「ククク…なるほど地獄か」

 

「…何がおかしいの?」

 

 

 ベジータが笑っている事を不思議に思うさとり。集中して心を読もうかと思ったが、最初の時のように全く読み取れない。

 

 

「オレは遅かれ早かれ地獄に行く事になっている。それが今だというだけだ。まあ…このぬるい世界を本当に地獄と呼ぶのなら…の話だがな」

 

 

 そう伝えた刹那、ベジータの姿は消えた。さとりはどういう事かわからずに唖然として立ち尽くしている。

 人の心をこんなにも読みたいと思ったことは、『覚妖怪』にとって初めての経験であった。

 




はい、第56話でした。

ついに地底へ… そしていきなりさとりへと出会うなんて霊夢はビックリしてるでしょうね。

ではお疲れ様でした。


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【第57話】恐ろしい人間

この小説はドラゴンボールと東方Projectの2次創作です。

いよいよ夏到来、ですね。正直夏は苦手です。


 

 橋を渡った後、ベジータはさらに旧都の中心へと向かっていた。足を進めるにつれ、中心部からはさらに熱気と狂気さが伝わってくる。

 今のベジータは遠くにある〝気〟を感じ取ることができないが、それでもわかることがある。それはこの熱気と狂気のさらに中心に、2つの大きな力があるという事だ。恐らくこの2つの中1つが霊夢が言っていた『萃香』という者だろう。

 

 幻想郷の住人は〝気〟の大きさでいえば大したことはないが、〝潜在能力〟を含めれば話は別だ。ここの連中は普通で考えられない程の能力を秘めている。元の世界にも〝超能力〟を使う者はいたが、〝気〟という概念を消して、純粋な能力だけをみたら此方の方が上だろう。

 

 

 だからこそベジータには興味がある。どんな形であれ〝強さ〟を持っている相手であればそれはベジータの相手だ。倒さなくてはならない標的であり、その経験がさらに1番の好敵手を倒し得る牙となるかもしれない。そのためにここにやって来たのだ。

 

 

 

「……」

 

 

 そのまましばらく歩いていると建物が見えていた。建物といってもベジータがいま住んでいる『カプセルコーポレーション』のような近未来的なモノではなく、和風の建物が多い。暗闇の中、提灯のようなもので灯りをともしているこの場からは如何にも〝出そう〟な雰囲気がある。

 

 

 

 

 

 

 そしてやはり出た。

 

 真っ直ぐに歩いているベジータに歩み寄って来る妖怪が。いやこれは妖怪といっても普通の妖怪ではなく、一度ベジータが地獄に落ちた時に見た『鬼』と類似していた。カラダは赤くはなく、薄い茶色のような色だが、頭のてっぺんにツノがあったのでベジータはそう判断した。

 大きさはベジータの1.5倍ほど。しかし腕も足も太さはベジータの倍以上はある。普通の人間がみたら腰を抜かしてしまうだろう。そう、普通の人間ならば。

 

 

 

「……」

 

 

 鬼はベジータの前で立ち止まり、驚愕の顔をしながら見下ろしている。反対にベジータは鬼の顔は全く見ずに、ただ前だけを見据えていた。

 

 

「驚いたぜ…地底(ここ)に人間が現れるとはな。そして運もねえな。俺は人間が嫌いなんだ。この意味がわかるか?」

 

「……」

 

 

 やはりこの鬼の反応から察するに、地底は人間があまり立ち入るような場所ではないようだ。無理もない、こんな所に用がある者などいるはずがない。

 鬼からは殺気を感じる。しかしベジータは動じない。話に耳を傾ける事すらもしない。

 

 

「おい!独り占めは良くねえなぁ」

「地上の人間か…?」

「珍しいな…喰ってやろうか」

 

 

 殺気を感じ取った他の鬼達がぞろぞろと集まってきた。そして全員ベジータの前に立ち並ぶ。大きさはやはり皆ベジータより格段にデカく、カラダ付きも凄い。大勢の鬼が並ぶその姿は側から見ると圧巻なものだ。

 それでもベジータはこの鬼達から何も感じない(・・・・)。確かに見た目の威圧感はあるが、地上で見た魔理沙、美鈴、早苗、霊夢とは全く違い、ベジータにとって戦う価値すらもない存在であることがわかっていた。

 

 

「今すぐ失せろ」

 

 

 1匹の鬼とも目を合わせずに、ベジータはそう言い放つ。これは彼にとって最大級の優しさだ。昔なら有無を言わせずに1匹残らず虐殺していたベジータだったが、今は無意味な殺しはしない。ただ、邪魔をするなら殺す。それが今のベジータのスタンスなのだ。

 

 しかし鬼達は目を見合わせて大笑いした。たった1度のチャンスを鬼達は棒に振った。いや本人達はそう気づいてはいないかもしれないが、結果的にはそうなるだろう。

 だがその判断をベジータは何も思わない。本当に興味がないからだ。この鬼達を殺そうが殺すまいが、ベジータには関係ない。一瞬で片付けられるから面倒だとも思わない。

 

 

 ベジータはこの鬼達を殺そうと決めた。

 

 が、鬼達が急に肩を震わせ、歯をガクガクさせながら怯えきっていることに気づいた。右手に〝気〟を込めはしたが、そもそも〝気〟という概念を知らない鬼達が今ので怯える事はおかしい。

 

 そしてもう2つ気づいた。それはいつの間にか自分の背後に知っている〝気〟が現れたこと。そしてもう1つは、いま鬼達の目線が自分へと集まっていないことに。

 

 ベジータは振り向くと先ほどの小さな少女、『古明地さとり』がポツンと立っていた。鬼達と比べるとさとりのカラダなど小さなものだが、ベジータにはさとりの方がよっぽど大きく感じた。

 

 

 

 

 

 

「……そう、私は『悪魔』なのね。でもまあ…その悪魔より『怖い人間』に殺されたくなければ早く消えた方がいいわ」

 

 

 さとりはそう小さく呟いた。か細く、本当に小さな声だ。『悪魔』などと恐れられていることを少し哀しく思っているのだろうか。

 鬼達は皆、一瞬でその場から離脱し、いつの間にかここから少し離れた場所に野次馬の如く集まっていた妖怪達も、一目散にこの場を後にした。

 少し前まで鬼達の下品な笑い声で五月蝿(うるさ)かったこの場所も、さとりの一言により一瞬で静寂に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか久し振りだわこの感覚。わかってはいたけど、ね」

 

「きさま…なぜついてきた」

 

 

 一度橋の前で別れたはずだったが、さとりはいつの間にかベジータに追いついてきた。

 

 

「話の途中だったでしょう?…まあ、今となっちゃ無意味な話だったけれど」

 

 

 さとりはベジータの強さに気づいたようだ。たった一瞬だけ〝気〟を込めただけだったが、それ以上にあるモノでさとりはベジータの強さを計り取っていた。

 

 

「私がいうのもなんだけど、貴方恐ろしいわね…あんな殺気を放つなんて」

 

 

 そう、殺気だ。

 さとりはベジータの殺気を感じ取り、ベジータの強さがわかった。鬼達はベジータの殺気を感じる前にさとりを見たので怯えていたが、もしさとりが来なかった場合、殺気を感じ取る前に既に死んでいただろう。

 殺気を感じる速度、それは反射神経にも関係する。つまりさとりも相当な実力者であることがわかった。しかしそんなさとりですらもベジータに恐れおののいている。

 

 

「……」

 

「人の身でありながら自分が敵と判断したものに、一切の躊躇いもなく激しい殺意を抱く。これは生物を100や200を殺したところで身につくものじゃないわ。貴方本当に何者なの?」

 

「ククク…〝敵〟だと?」

 

 

 真剣な表情をしているさとりに対し、ベジータは可笑しなものを見るような顔で笑う。

 

 

(きさまは蟻の事を敵と判断した事は有るのか?)

 

 

 さとりは集中して心を読むと、ベジータはこう言っていた。しかしそれは驕り、慢心の類ではなく、圧倒的な自信から来ていることも感じ取れた。

 

 

「私の事はスルーしたのになぜ鬼達は殺そうとしたの?」

 

「きさまからは殺気を感じなかった。だがあのザコどもからはそれを感じた。それだけの事だ。

 自己防衛、それは生きていくために必要な事だろう?」

 

 

 違う。

 

 それは嘘だ。

 

 

 口ではそう言っていたが、ベジータにとって戦うという事は〝守る〟ことや〝防衛〟するものではなく、単なる〝暴力〟でしかない。元の世界では最近は自重していたが、今はそんな気分ではない。ここは常に戦場であり、血が騒いでいる。そう、サイヤ人の血が。

 

 

 

 危険。この人間は危険だ。

 

 下手をすれば何匹もの死体が積み重なるだろう。いや死体すら残らないかもしれない。とにかくこのまま野放しにしてはならないと、さとりは思った。

 だが自分がどうこうできるレベルではないともわかっている。しかしそれでも何かをしなくてはこの地底が大変な事になるとまで悟った。

 不幸中の幸いにも会話は通じる。上手く立ち回ればなんとかこの暴れ馬を諌める事が出来るかもしれない。そう考え、さとりは決心した。

 

 

「ついてない、そう言ったけど撤回するわ。むしろ私はついてる」

 

「どういう意味だ?」

 

「さあ、どういう意味かしらね。心を読んでみたらどう?」

 

 

 自分がなんとなくあの橋の前に来ていなかったら、自分の知らない間に地底が大変な事になっていたかもしれないと思うとさとりはゾッとした。

 もちろんベジータは心を読む事ができないので、さとりの心情は全くわからない。

 

 

「フン…オレはもう行くぞ」

 

 

 関わるのが面倒だと思ったベジータは、先へ進もうと歩き出した。しかし、その後ろからカツンカツンと靴の音を鳴らしながらさとりがついてくる。

 ベジータはすぐに振り向くと、さとりはピタッと動きを止めた。再び歩き出したらまたさとりがついてきて、振り向くとやっぱりピタッと動きを止めた。

 

 

「おいきさま…どういう事だ?」

 

「私は貴方について行く。案内役だと思ってくれてもいいわ」

 

 

 さとりは無表情のまま、少々イライラしているベジータにハッキリとそう伝えた。




はい、第57話でした。

初期のベジータに比べると鬼なんて本当に可愛いものかもしれませんね…

ではお疲れ様でした。


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【第58話】唐突な別れ

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

【本当にあった怖い話】
ライバルを超えるために幻想入り、7月下旬から9月中旬までの夏休みで投稿できるのがこの1話だけ………

申し訳ないですm(_ _)m


 

 

 

 ──龍球の世界──

 

 

 悟空と美鈴が共に修行をし始めてさらに3ヶ月が経った。毎日毎日欠かさず行った修行の末、美鈴はついにオリジナルの『界王拳』を習得したのだった。

 

 本当に毎日修行三昧だ。悟空とだけではない。研修から帰ってきた悟飯やいつも暇を持て余している悟天とも。

 

 朝から修行を始め、昼前に畑仕事の手伝い。昼ご飯を食べたらまた夜まで修行。夜ご飯を食べたら次はチチの手伝いなど、1日1日が濃いものであったが美鈴はそれに充実感を覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はこれくらいにすっか!それにしても美鈴、随分と上手く界王拳を使いこなせるようになったな〜 すげえぞ!あの技も順調みたいだしな!」

 

「はぁ…はぁ…ありがとうございます!」

 

 

 悟空はいつものように美鈴の頭を撫でる。美鈴もエヘヘと笑いながらいつものように喜んだ。

 

 

 ───今日も充実した日だった。

 

 

 そのまま帰ってお風呂に入り、その後5人で夜ご飯を食べ、チチと話しながら皿洗いをし、あとは寝るだけだった。身体も疲れおり、いつもならすぐに布団に入る彼女だったが、今日は夜風に当たってから寝る事にした。

 

 

 すでに寝巻きの美鈴だったが、いつもの華人服に着替えて外に出る。

 

 

 

 

 

「今日も1日……頑張ったなぁ……」

 

 

 グッと身体を伸ばす。そして何も遮る物のない空を眺める。星々がキラリキラリと輝いていて、まるで今の美鈴の心境を表しているかのようだった。

 

 なんとなく深呼吸をし、空に一言申す。

 

 

「明日も頑張るぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御免なさいね。それは叶わないわ」

 

 

 

 星々が輝く空を見ていた美鈴だったが、いつのまにかその雰囲気をぶち壊す妙な空間が出現した。その空間からは君の悪い目玉がいくつも浮かんでおり、ギョロギョロと美鈴の顔を舐め回すように見ている。

 

 

「ゆ、紫さん!?」

 

 

 現れたのは幻想郷の賢者、八雲紫だ。しかしいつものように現れたと思ったら床に着地する事はなく、空間から上半身だけを出して美鈴を見ていた。なんだか品定めをするような眼で。

 

 

「叶わないって…どういう事ですか?」

 

「話は後。まずは場所を変えましょう。ここだと恐らく気付かれるわ。言ったでしょう?異世界の者同士の干渉はタブーだと」

 

 

 紫がパチンと指を鳴らすと、美鈴の身体はスキマに囚われた。そして目の前が真っ暗になり、すぐに明るくなったと思ったら───

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……いつもの場所?」

 

 

 そう、いつも悟空と修行をしている場所だ。改めて見ると激しい修行の末に空いた穴でどこもかしこも凸凹になっている。

 

 

「そうよ。ここまで離れて、さらにスキマから出ないならさすがの孫悟空でも気付かないでしょう」

 

 

 紫がスキマのまま、地に足をつけないのはそういう理由(ワケ)だ。そしてこの世界にやってきたのにも勿論理由がある。

 

 

「美鈴、今すぐに幻想郷に帰ってもらうわ」

 

「……え?」

 

 

 美鈴の頭の中が真っ白になった。今すぐに幻想郷に帰れ、と。

 

 いくらなんでも急すぎる。こんな事を言われてすぐに「はい」と言えるわけがない。

 

 

「そんな事……」

 

「勝手だとはわかってる。けどこれ以上は不可能なのよ。

 私の能力も完全無欠じゃない。いつまでも異世界の者をこちらに存在させるのは不可能なの。貴方の士気を下げたくないから黙っていたけど……もうこちらに居られる時間は30分もないわ」

 

 

「………そんな………」

 

 

 顔を落とす美鈴。紫も慰めてあげたいが、自分の都合で動かしている美鈴に、自分がどんな声をかけてあげたらいいのかわからなかった。

 

 

「……そして、別れの挨拶もしないでちょうだい。時間は無いし、何より貴方は彼らに説明できない。そして恐らく名残惜しくて別れられなくなる」

 

「……」

 

 

 全部紫、いや幻想郷の都合だ。美鈴は何も悪くはなく、何も知る由はない。ただ紫の言う通りに動くだけ。

 

 美鈴の目には涙が溜まっていた。長い様で短かったが、美鈴は此処で沢山の事を学んできた。その感謝の気持ちを全く伝えられないまま、自分は此処を去ってしまう。そして2度と来る事はない。純粋に悲しかったのだ。

 

 

「……本当に御免なさい。私を恨んでもいいわ」

 

「……いや、いいんです。紫さん、貴方のおかげで私は悟空さん達に会うことが出来ました。これは私の……一生の宝物です」

 

「───!」

 

 

 罪悪感でいっぱいだった紫であったが、今の一言に胸が軽くなった気がした。自分のしている事は最低だが、全て幻想郷の為。孫悟空に身も心も成長させられた紅美鈴を幻想郷に連れて帰るのが紫の使命なのだ。

 

 

「じゃあ……ッ!!」

 

 

 急に紫の目つきが鋭くなったと思ったら、スキマだけ残して紫自身はその場から別のスキマで消えてしまった。そしてその紫と入れ替わる様に誰かが現れ、目を潤ませている美鈴の前に立っていた。

 

 

「よっ!美鈴!」

 

 

 

 

 

 そう───孫悟空だ。

 

 

 

 

「あっ…あう……」

 

 

 もう会えないと思った者が急に目の前に現れ、美鈴は思う様に声が出ない。

 

 

「半べそかいてどうしちまったんだ美鈴。最期に挨拶くらいしてくれよ」

 

「えっ……なんで最期だって……」

 

「さあ、オラにもよくわかんねえんだ。でもおめえの顔とそのヘンなスキマみたいのを見てそう思ったんだ。これでコッチに来たんだろ?おめえは」

 

「……ふふ、あはははは!」

 

「いッ!?な、なんだ急に!?」

 

 

 

 美鈴は笑った。声を上げて笑った。この人は、最期の最期まで鋭い人だと。修行中、何度も組手をしたが1回も勝てなかった、その理由が今わかった気がした。

 

 悟空は、ヘンな奴だなぁと美鈴の頭を撫でながら同じ様に笑ってくれている。いつもの様に温かい顔で。

 

 

「けど、残念だなぁ……強くなったおめえと1回くれえフルパワーで戦ってみたかったんだけど。まあそれは仕方ないさ」

 

「悟空さんのフルパワーなんて……私、一瞬で吹っ飛んじゃいますよ?」

 

「そうでもないさ。おめえが───」

 

 

 2人の会話を邪魔する様に、浮いていたスキマが大きくブレだした。その次の瞬間に、少しずつだがドンドンと大きさが小さくなっているのを確認できた。これは、もう紅美鈴がこの世界に存在していられないというコトだと2人同時に理解した。

 

 

「……まだまだ話していたいですけどここまでのようです。悟空さん、本当に今までありがとうございました。3人によろしく言ってもらえるとありがたいです。それと───」

 

 

 美鈴がスキマに近づきながらもう一度振り返って、悟空の顔をしっかりと見る。

 

 

「こちらの事情で色々と黙っていてすいません。ピッコロさんにも言われましたが、私は怪しまれて当然の身。そんな私をこんなに、こんなに……」

 

「泣くなッ!!!」

 

「ひゃ…ひゃいッ!」

 

 

 もう泣かないと決めていたのに、美鈴の目からは大粒の涙が零れ落ちそうになった。しかしそれも悟空の気迫のこもった声のおかげでなんとか耐え、無理やりに笑顔を作る。

 

 

「へへへ!笑ってる顔の方が似合ってるぞ美鈴!」

 

「悟空さん……本当にありがとうございました!!!」

 

「ああ!またな(・・・)、美鈴!」

 

 

 

 美鈴は右手で手を振りながら左手でスキマに触れる。すると物凄い勢いで美鈴はスキマに吸い込まれて消えてしまった。

そう、紅美鈴という存在がこの世界から消えてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────────────

 

 

 

 

 

 

 

 ──旧都──

 

 

 

 

 ───全く、やりにくい。

 

 

 ベジータは心の中でそう思った。思っただけではあるが、覚妖怪である古明地さとりにはそれもしっかりと伝わっているだろう。いや、伝わってほしくはなくとも勝手にさとりの方から読み取られている。

 

 案内役だと彼女は言ったが、それは違う。これは監視だ。もちろんベジータは心を読めるわけではないが、さとりの意図に完全に気づいていた。

 彼女はカツカツと靴の音を立てながら、ベジータの少し後ろを歩き続けている。ベジータにはさとりが何を考えているかわからない上に、さとりはベジータの考えている事がわかるので正直鬱陶しいったらない。

 

 

「そんなに鬱陶しい?私が思っている事を教えてあげましょうか?」

 

「いらん世話だ。それよりきさま、オレの心は読めないと言っていたのになぜ読めているんだ」

 

 

 正確には、『読みにくい』とさとりは言っていた。少しだけ後ろを向きながら歩くベジータの問いに、さとりは表情1つ変えずにこう答える。

 

 

「さあ?〝慣れ〟かしら。これだけ一緒に居たんだからそうかもしれないわね」

 

「……オレときさまはまだ会って数十分だが?」

 

 

 今まで一定のリズムで歩いていたさとりが急に足を止めた。すると手を口に当てて黙り込んでしまった。決して吐き気を催しているわけではない。

 

 

「どうした」

 

「……いえ別に。ただ、地霊殿(ウチ)のみんな以外とこんなに長く居たのは久しぶりと思っただけよ」

 

 

 ベジータにはさとりが何を言っているのかわからない。〝長く〟とはどういう意味だ?と。しかしさらに問うことはしない。ベジータはさとりのコトを知るために地底に来たわけではないからだ。

 

 

「奇妙なヤツだなきさまは」

 

「ふふ…お互い様でしょう?」

 

 

 それ以上は何も喋ることはなく、2人はさらに奥にある中心部に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 

 

 さとりと一緒に向かっていた際、ベジータの周りには先程居た鬼のような者たちには全く会わなかった。

 理由はわかる。さとりに畏怖しているからだ。先程の発言といい、鬼達から恐れられていることといい、さとりは何やら〝普通では無い〟ようだ。いや、普通の少女がこんな場所に居る筈もないのだが。

 

 

 

 

 そんなコトを考えている内に、2人は辿り着いた。旧都の中心部へ。

 

 

 

 

 ───弾けるような熱。狂気。コレを色としてイメージするのならどす黒い赤だろう。

 

 デカイ鬼や妖怪達から凄まじい声が聴こえてくる。それも1匹や2匹ではない。数えるのが馬鹿らしく思える程の数だ。

 そんな有象無象達が暴れ出さない理由、それはこの場に初めて来たベジータにもハッキリわかる。それは、有象無象のさらに中心にいる2人の実力者に従っているからだと。

 

 

「まさに地獄のような光景ね。嫌になるわ」

 

「先に行くぞ」

 

 

 え?とベジータの顔を見ようとしたさとりだったが、1秒前までそこに居たベジータがもうそこには居なかった。見失ったのだ。

 するとその刹那、頭上に凄まじい力を感じた。さとりは顔をあげると、そこには遥か上空にベジータの姿を確認できた。飛んだ、というよりは跳んだのだ。

 

 

 いや、あり得ない。さとりもかなりの実力者だが、ベジータが跳躍の最高到達点に達するまでその姿を追うことすらできなかった。

 

 

「ホントに…化け物ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上空に跳び上がったベジータ。その目的は全体を見渡すためだ。鬼や妖怪達はただバラバラに散らばっているわけではなく、何かを囲むように集まっていた。

 

 

「アレは…武道会場か?」

 

 

 旧都の中心、そしてさらにその中心部には天下一武道会やセルゲームで見たような武道会場が存在した。しかしその大きさはその2つの比ではなく、その何倍もある大きさだった。

 そして会場の真ん中に大きな〝気〟を持つ2人がいた。ベジータはその2人に向かって真っ直ぐ急降下していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「萃香!」

 

「ああ、やっと(・・・)来たようだね…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 ──龍球の世界──

 

 

 

 美鈴と別れたあと悟空はその場に座り込み、星を眺めていた。

 紫は此方の世界からは視えないスキマを開きながら孫悟空の様子を見ていた。表情からは何を考えているのかわからない。修行相手が減って悲しい?つまらない?そんな事すら全く読み取れなかった。

 

 いつまで経っても微動だにしない悟空に痺れを切らし、紫もそろそろ幻想郷に戻ろうとしたその刹那────

 

 

 

「おめえ、誰なんだ?」

 

「────ッ!!!」

 

 

 

 確かに、悟空はそう言った。

 

 目線を空から変えずに。しかし若干の警戒は感じられる。間違いなく、孫悟空は八雲紫の存在に気づいていた。

 

 

「フフ、フフフフフ……」

 

 

 もはや隠れる意味は不要。そう思った紫は静かに、そして、ゆっくりとスキマから現れ、地面へと足をつけた。

 

 

「おめえは……」

 

「こんばんは、孫悟空。いえ……宇宙一の男。

 

   私は八雲紫と申します」

 

 

 悟空は若干驚いてはいるものの、大して動揺はしていなかった。むしろ未知なる発見をした子供のように頬を緩ませている。

 

 

「やっぱりな」

 

「やっぱり?それはどういう意味かしら?」

 

 

 

「おめえ、界王神界でオラとベジータがブウと戦ってた時にみてたヤツだろ?」

 

 

 

「────……どの時点でお気づきになって?」

 

 

 

「元気玉を作ってる時だ。アレは集中しなきゃできねえからな」

 

 

 

 まさか、まさかそこまで気づかれているとは、紫は夢にも思っていなかった。あの戦いの最中になぜわかったのか。凄まじい集中力と鋭すぎる勘を持っていてもあり得ない。

 

 いやあり得ない事はあり得ない。現に孫悟空は八雲紫の存在に気づいていたのだ。

 

 

 

「さすがですわ。では……死んでもらいますね」

 

「……!」

 

 

 

 紫の魔力、そして〝気〟が急にあがっていく。背後からは大きなスキマがいくつも出現し、そこからさらに魔力が溢れるように紫色の光となってどんどん紫に降り注ぐ。武器と思える扇子を広げ、紫は完全に臨戦態勢へと入った。

 

 これが大妖怪たる八雲紫の姿。幻想郷でもトップクラスの力の持ち主である。

しかしそんな力をみてもなお、孫悟空は動かなかった。

 

 

 

 

「芝居はやめろ。おめえはオラには勝てねえ……おめえほどのヤツならそれがよーくわかってる筈だ」

 

「………やはり、さすがですわね♪」

 

 

 地面が震える程の魔力と〝気〟を放っていた紫だったが、あっという間に元に戻った。いくら力で相手を脅かそうとしても相手が悪い。いや、それ以前に悟空は紫から全く殺気を感じなかったので手を出そうとしなかった。未来から来たトランクスと初めて会った時と同じ事だ。

 

 

「紫、おめえは美鈴をどうしたいんだ?」

 

「……私は貴方にお礼を申し上げます。紅美鈴を心身ともに強くしてくれた事、そして魔人ブウを倒した事の2つに対してで御座います。いつかまた、逢うことができるその時まで……ご機嫌よう」

 

 

 

 紫は悟空の質問に全く答えずに、またスキマを使って闇に消えていった。




はい、第58話でした。

本当はもう少し書きたい内容などあるのですが、それらを全て書くと完全にだれてしまうと考えて、少しだけ端折る事にしました。完結させる事が第一ですよね。最後まで頑張りたいと思います。

ではお疲れ様でした。


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【第59話】鬼の誇り

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

久し振りなので文章に違和感があるかもしれません……


 

 

 

──地底──

 

 普段は騒がしい様子を見せない旧都も、今日はいつもと違った。其処彼処からザワザワと喧しい。それはこれからここで何がが始まるということを感じさせていた。

 

 そして旧都の中心地にある、まるで武道会場のような場所に伊吹萃香(いぶきすいか)、そして星熊勇儀(ほしぐまゆうぎ)は立っていた。何かを待つように。

 

 

 何を───?

 

 

 

 

 ───それは強者をだ。

 

 

 

 2人は宙を見上げると、一目見るだけで幻想郷で生きる者ではないと感じ取れる程の異質な男がいた。その男は萃香と勇儀の姿を見つけると、真っ直ぐに急降下してきた。

 

 コツッと響く音を立て、〝サイヤ人の王子〟ベジータはリングの上に着地した。

 

 

「やあ遂に来たね、旧都へようこそ。私は萃香でこっちの大きいのが勇儀さ。ヨロシク」

 

 

 最初に口を開いたのは萃香だ。ニヤけながら手に持っていたひょうたんで酒を飲みながらベジータを見ている。まるで品定めでもするように。

研ぎ澄まされた筋肉は大したものだと思っていたが、それ以前に萃香はベジータの目が印象的だった。戦いを求める、戦いに飢えている、そんな獣のようなベジータの目を。

 

 

「きさまらがこの雑魚どもの大将というわけか。しかしこのリングはどういう事だ?」

 

 

『雑魚ども』とベジータが言った瞬間にピクッと勇儀が反応するも、萃香がそれを左手で制す。ベジータは別に挑発しているわけではない。ただ単に周りの奴らには興味すらないだけだ。

 

 

「祭りの為だよ。私達はこの旧都で新たな催し物を始めようとしているだけさ。そしてベジータ、私達はお前を待っていた」

 

「……」

 

 

 何故萃香と勇儀が自分の事を知っているのかわからないベジータだが、今までも同じような事が何回もあったので最早気にしない。

 

 

「私は…『地底一武道会』というものを開催する事にした!主催者はこの私。どうだい?面白そうだろう?」

 

「……」

 

 

『地底一武道会』

 

 

 それを開催すると宣言した。萃香が高らかに笑うと、周りの百鬼達もそれに応えて盛り上がる。しかし勇儀だけが腕組みをしながらため息をついて浮かない顔をしていた。

 

 

「いいのかい萃香。スキマ妖怪の言うことを聞かなくて。そもそもこのフィールドもスキマ妖怪が用意したモノじゃないか」

 

 

 そう、この2人も守矢の神奈子、諏訪子のように紫からベジータの事を頼まれていたのだ。『彼を強くしてやって欲しい』と。

 

 

「なあに。鍛えるなんてまどろっこしい事をするならこうした方が早いじゃないか。それに勇儀、知りたくはないのか?他の世界の強者である彼がどれくらいの力を持っているのかを……」

 

「それはそうだけど……」

 

 

「ほらねっ!決まりさ!旧都一武道会開催決定!トーナメント式にしようか。さて、待ってくれよすぐに決めるからさ」

 

 

 ひょうたんをグルグル回しながら萃香は嬉しそうに笑っている。自分が主催の祭り事を開催するのが楽しみで楽しみで仕方のない様子だ。

 

 

 

 しかし、その雰囲気は一変する。

 

 

 

 

「きさまらは……勘違いをしている」

 

 

 ベジータがそう呟いた。と同時に彼の周りから爆風が起こった。地面にヒビが入り、ほんの一瞬だけ地底全体が揺れた。

 

 

 

「うわあああああッ!」

 

 

 リングを囲んでいた百鬼達はその爆風に耐えきれず、ほぼ全員が吹き飛んでしまった。間近にいた萃香と勇儀は急な事に目を見開いて驚いたが、飛ばされる事なくその場に立ったままだ。

 

 ニコニコだった萃香も一瞬で真剣な表情になり、勇儀も何が起こるかわからないので身構えている。

 

 

「勘違い、とはなんだい?ベジータ」

 

 

 笑みを浮かべながら萃香は問うが、笑っているのは口だけだ。目は全く笑っておらず、むしろ怒っているように見える。

 

 

「オレはきさまらの遊びに付き合うつもりなど……ないッ!」

 

 

 

「───!」

「───!」

 

 

 ベジータの髪が金色に輝く。(スーパー)サイヤ人になったのだ。(スーパー)サイヤ人になったベジータは並々ならぬ威圧感を放っているが、常に薄暗い地底の中では更に一際目立っている。

 もちろん(スーパー)サイヤ人について聞いていた萃香達だったが、いざ目にすると最初は言葉が出なかった。吹き飛ばされた百鬼達もベジータの様子が先ほどとは変わっている事に気付き、無言で興味の目線を送っている。

 

 

「失せろ」

 

 

 ベジータは右腕を目線の高さまで上げ、手を開く。しかしその向きは萃香達のいる正面ではなく、自分の右側へ。すると一瞬で〝気〟が溜まり、エネルギー弾が放たれた。

 

 

「ちょ…ッ!」

 

「心配ないさ勇儀。当てるつもりはないらしい」

 

 

 大勢いた妖怪達は一斉に逃げ出す。ようやくベジータの危険度を感じ取ったらしい。幻想郷に来てからはナリを潜めているが、その本性は悪魔なんて生易しいものではない。数分前まで歓声に包まれていた旧都がいつのまにか恐怖の叫び声しか聴こえなくなっていた。

 

 

「クク……『地獄』か。全く笑わせやがる。妖怪だの鬼だの、期待外れだな。きさまら2人を含めて」

 

「ベジータ、貴方……」

 

 

 ほとんどの観客が消え、リングに1人の少女がゆっくりと上がってきた。さとりだ。こうなる事はわかっていたが、あまりにも展開が早すぎてさとりはついていけない。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 地面にぺたんと座り、ひょうたんに入った酒を萃香はガブガブ飲み始める。ちょこちょこさっきから飲んではいたが、今はもう話す時以外は常にひょうたんに口をつけている。酒は美味しく飲むものと萃香はよく言っているが、恐らく今はそうではない。無理矢理にでも酒を流し込まないと、今すぐにでもベジータに襲い掛かりそうだからだ。

 

 勇儀は初めからこんな事になりそうな気が薄々と気付いていたが、もちろんベジータの事は気に入らない。静かにされど強くベジータを睨む。

 

 そしてベジータも2人を迎え撃つ用意はすでにできていた。

 

 

 

 

 

 

 このまま3人の乱闘になる……かと思われたが───

 

 

 

 

 

 

「ふぅ〜………さすが紫の連れてきた男だ。面白いねぇ。面白いよ。人間風情でよくもまあここまで生意気に……」

 

 

 爆発すると思った萃香がなんとか留まった。その冷静さが逆に恐ろしいとさとりは感じる。

 

 

「さてと、ベジータ。改めて聞こうじゃないか。お前は私の計画をめちゃくちゃにした挙句、何がしたいというんだい?」

 

「オレはきさまらと戦いにきただけだ。地底一武道会?トーナメント?笑わせるな。時間の無駄だからさっさと2人でかかってこい」

 

 

 萃香と勇儀の目を見てベジータは言い放つ。

 

 鬼という種族は誇り高い生き物だ。その中でも勇儀と萃香は他の鬼の比ではない。その2人に向かって『2人でかかってこい』などとは侮辱以外のなんでもない。

 

 

「いい加減にしな……そこまでいうなら力の差を教えてやろうじゃないか」

 

 

 明らかにベジータは自分たちを下に見ている。勇儀はその事に怒りを覚え、殴りかかろうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまでは計画通りかい?ベジータ」

 

「……なんだと?」

 

 

 勇儀とベジータが交戦する寸前で、ゆっくりと立ち上がりながら萃香がそう言った。はじめのようにケラケラと笑っているが、すでに酒には全く手をつけてなかった。

 

 

「お前の目的は戦う事。だからとりあえず相手を挑発しとけば相手がそれに乗って目的を達成できる。そうだろう?まあ、相手を下に見るような話し方は生まれつきなのかもしれないけどね」

 

 

 その通りなのだ。

 

 ベジータの目的は相手と仲良くする事ではない。戦う事だ。理由など適当に作れば良い。だからワザと挑発するような事をしているのだ。別に観客が居ようとどうでもよかった。しかし回りくどい真似をするのが1番ベジータにとっては面倒だ。だから手っ取り早い方法を取ったのだ。

 

 

「だとしたら、なんだ?」

 

「喜びなよ。お前の望み通りにしてやろう。しかし───」

 

 

 

 

「ッ!!」

「ッ!!」

 

 

 萃香の周りに竜巻が巻き起こる。側にいた勇儀とさとりはすぐさまリング外に飛んで離脱した。一方ベジータは黄金の〝気〟で竜巻をかき消した。しかし今のは攻撃でもなんでもなく、ただ萃香が力を込めただけだ。

 

 赤い〝気〟のようなものが萃香を包み込む。単純な大きさだとここにいる誰よりも小さい萃香だが、威圧感も相まってここにいる誰よりも大きく見える。

 

 

「全て無しにしようベジータ。お前を鍛えるとか…その他諸々の感情は全て無しだ。今から始まるのは───虐殺。遥か昔から行われてきた、鬼による人間の虐殺だ」

 

 

 見た目だけを見ると萃香はただの可愛らしい少女、だった。先程までは。

 

 しかし今は違う。今の彼女はまごう事なき『鬼』だ。

 

 

 

「つまり殺し合いか。フン、幻想郷(ここ)は生温い奴ばかりで飽きていた所だ」

 

 

 ベジータも殺る気になる。2人の殺気がバチバチとぶつかり合い、戦闘派ではないさとりにはその場にい辛い空気となった。

 

 

「(あの2人……本気だわ)」

 

 

 2人の心を読んださとりはそれを気づいている。いや、心を読まずとも、あの2人の表情(カオ)を見れば誰もがわかるだろう。

 

 もうこの戦いは誰にも止められない。此処には紫もいない。いても止められない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ……始めようか。鬼を舐めるなよ、人間───!」

 

 

 誇り高い2人の正真正銘の〝殺し合い〟が始まった。




はい、第59話でした。

皆さま、お久しぶりでございます。本当に……
ですが死なない限り失踪は絶対しないです。最後までよろしくお願いします。


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【第60話】プライド

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

言いたい事は後書きに書きます。


 

 

 

 

「さぁ……始めようか。鬼を舐めるなよ、人間───!」

 

 

 

 小柄の鬼が、殺気の籠った真紅の瞳でそう言い放った。しかし、実際には小柄であろう萃香の身体は、纏っている妖力…萃香の〝気〟と言ってもいいだろう。その〝気〟によって、ベジータには何倍にも何十倍にも大きく見えた。

 

 

 

 ああ……そういえば『初めて』だな。

 

 

 

 ベジータは誰にも聞き取れないくらいの小さな声でそう呟いた。

 

 

 何が?

 

 何が初めてなのか?

 

 

 

 それは、『本気の殺気』を向けてくる相手に、幻想郷で初めて出逢ったという事だった。

 

 

 ここは生温(なまぬる)い。

 

 ベジータがそう思っていたのは、ベジータに匹敵するような相手が幻想郷には居ないからという理由ではなく、『自分を殺そうと』敵意または殺意を籠めて向かってくる強者が居ないから、というのが正しい答えだった。

 

 

 

 霧雨魔理沙。

 

 紅美鈴。

 

 フランドール・スカーレット。

 

 博麗霊夢。

 

 

 今まで戦ってきた人、あるいは妖怪や吸血鬼は確かに強者と言えるだろう。しかし、違う。

 

 4人が聞けば怒るかもしれないが、ベジータにとって今までの幻想郷での戦いは〝本物の戦い〟ではない。それは何故か?それは───

 

 ───『死』というものには程遠いから。

 

 

 幻想郷に来てから初めて拳を交えた強者は魔理沙であった。あの時はベジータが魔理沙をアッサリと倒したが、仮に逆の結果になっていたら如何だろうか。

 魔理沙がベジータを追い詰め、仮に…無論仮にだ、倒したとする。すると魔理沙は間違いなくこう言っただろう。

 

 

 [みたか!これが私の力だ!外来人、これに懲りたら無謀な戦いはするものじゃないぜ?]

 

 

 これで───終わりだ。

 

 

 戦い、といってもここで終わり。此処から先などこの戦いには存在しないのだ。生意気だからと戦闘不能になった相手を痛めつけたり、ましてやトドメを刺すなどと。

 

 紅魔館の門番、紅美鈴との戦いでも魔理沙と同じように終わるはずだ。フランに至ってはベジータが戦闘不能になった途端に興味が消え、すぐに存在すら忘れてしまうだろう。

 そして最後に霊夢。しかし霊夢も同じである。倒した後に適当に悪態を吐き、それで終わる。

 

 これは幻想郷という世界の甘さでもあり、優しさでもある。

 

 

 

 

 

 違う。絶対に違う。認めんぞ…オレは絶対に。

 

 

 

 と、心の奥底ではそう感じていた。ベジータにとっての戦いとは『死』と隣り合わせになっているものだ。生まれた時からそうであり、だからこそサイヤ人という種族はここまで絶大な力を得ることができた。

 

 見方を変えれば、最初に人里で遭遇した妖怪や、アリスと出会う前に森で遭遇した妖怪との戦いの方がよっぽどベジータらしいと云える。しかし一瞬で消し炭にしてしまったので、ベジータの心を満たすものには到底なり得ない。

 

 

 

 

 

 

 そんな生温い戦いを続けてきたベジータだからこそ、この地底でなんの淀み、曇りのない殺気を向けてくる鬼・伊吹萃香と出逢えたことに、いま心から感謝をしていた。

 

 

 

 

 

 

「はああああああ…!!!」

 

「──!」

 

 

 ベジータがさらに〝気〟を高める。それにより地底全体が揺れる。武闘会場にはヒビが入り、端の部分から少しずつ崩れ始めた。萃香は光り輝くベジータから一瞬も目を離さず、待っていた。それは攻撃の機会を、ではなく───

 

 

「……それが全力かい?ならそろそろ殺していいかな」

 

「…!!!」

 

 

 ベジータの〝気〟がさらに荒々しく上がった。萃香の挑発に苛立ったからではなく、萃香の言葉が挑発ではないと感じ取ったからだ。

 

 

「きさま……」

 

 

 そして漸く、今の状態(・・・・)のベジータの限界まで〝気〟が高まった。すると、その瞬間───

 

 

 

 

「……!」

 

「え…消えた!!?」

 

 

 武闘会場の場外に居た古明地さとり、そして星熊勇儀というたった2人の観客。その2人は、一瞬後に何が起きるか分からないベジータ、そして萃香というそれぞれの世界の強者代表と言っても過言ではない2人の戦いから目を離さずに見ていた……のだが、それでもベジータの姿を見失ってしまった。

 

 

 疾いッ───!と萃香が思ったその刹那、ベジータは自分の真後ろにいた。しかしその思考に身体は付いていかず……

 

 

「だぁああッ!」

 

「ぐあぁッ…!」

 

 

 ベジータの右拳が萃香の後頭部をクリーンヒットした。萃香はその衝撃によりベジータが元居た方向に吹っ飛ばされたが、すぐに体勢を立て直してベジータの姿を確認しようとした。

 

 しかし、ベジータの姿は既に消えていた。

 

 

「馬鹿な…消え…がッッッ!!!」

 

 

 再び後ろを取られた萃香は、腰にベジータからの膝蹴りを浴びせられた。先程と違ってまともに受け身を取れなかった萃香はコンクリートでできた地面に思い切りぶつかり、ものすごい勢いで転がっていった。正式な大会ではないため場外負けという概念はないが、このままだと確実にリングアウトになってしまう。

 

 萃香はそれを嫌ったのか、鋭利な爪を使って転がりの回転を止め、なんとか静止できた。

 

 

 1つ…

 2つ…

 3つ…

 と、萃香は息を吐いて呼吸を整えた。時間にすると1秒にも満たないものであったが、ベジータが追撃の準備をするのには十分すぎた。前方から青白い光が見える。すると萃香がこれから何が来るのか確認をする前に、ベジータから掌の3、4倍ほどの大きさの気弾が1つ放たれた。

 

 

 

「萃香ッ!!!」

 

 

 勇儀の声と同時に気弾は大爆発を起こし、辺りは煙で何も見えなくなった。しかしスーパーサイヤ人になっているおかげで、場外に居る2人からはベジータの居場所は簡単にわかった。

 

 

 

「こ、ここまでなんて…」

 

 

 さとりが小さくか細く言葉を溢した。

 

 ベジータの実力が相当なものだとは感じ取っていたが、まさかここまでとは思ってなかった。初めて覚り妖怪という自分自身以外の生物に恐れを成した。同時に自分の無力さを改めて実感した。

 

 ベジータは私がどうこうできる領域を完全に逸している──と。さとりは元々戦闘派の妖怪ではないが、最早そんなレベルではない。現に幻想郷でもトップクラスである萃香が今のところ手も足も出ていない。

そう、今のところ(・・・・・)はだが。

 

 

 

「ふーーーーーん。そうかそうか、そうなんだ」

 

 

 煙が晴れると共にそんな声が響く。萃香にしてはだいぶ低い声で。

 

 

「萃香!」

 

「フン……」

 

 

 ベジータはまた萃香を睨む。

 

 萃香はほとんど無傷だった。転がった際に服が少々破け、顔がコンクリートに付着していた僅かな土により汚れてはいたが、外傷は全くない。それがベジータには気に食わない。

 

 

 あれで無傷だと?どんなカラダをしてやがる。

 

 

 口には出さない。萃香の減らず口が返ってくるとわかっているから。しかし本当に疑問に思っていた。いくらなんでも今の攻撃で無傷はあり得ない。パンチと膝蹴りはまだわかる。しかしその後の高密度であったあの気弾を受けて無傷なのはおかしい、と。

 

 

「なるほど…これはお前の能力に関係ありそうだな」

 

「へぇ………見かけによらずに頭はそこそこキレるようじゃないか。まあそうでないとね……お前には『必要ない』んだから!」

 

 

 

 

 

 

 

「─────!」

 

 

 ベジータは集中した。

 

 幻想郷に来てからも、戦いではどんな場面でも集中していた。

 

 そして今、どのくらいの集中をしたのかというと。

 

 

 

 

 

 

 今までの比ではない程に。

 

 

 この感覚をベジータは知っている。

 

 

 

 

 まるで自分がスーパーサイヤ人になるように……抑えてた力を引き出す感覚だ。

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間。

 

 

 

 

 

 萃香は消えた─────

 

 

 

 

 

 

 

 ─────そして現れた。

 

 

 

 

 

 拳だけが。

 

 

 

「あぁッ…?」

 

 

 

 至近距離で轟音が響いた。その瞬間、自分の身体は大きく加速した。その際に、加速方向が前なのか後ろなのか、はたまた右なのか左なのかベジータにはわからなかった。

 

 

 何かにぶつかった。そこでベジータの意識がハッキリとした。まず、第一に驚いたのは顔面が燃えるように熱く、痛い。これほどまでの痛みは幻想郷では当然味わったことがない。

 

 

 

 オレは顔面を殴られたのか。と理解した。

 

 

 

 理解したと言っても半信半疑だった。しかしそうとしか考えられない。ベジータは萃香に殴られて飛ばされ、場外にあった大きな岩にめり込んだのだ。だから顔面だけではなく後頭部も痛むのだ。

 

 萃香の姿が消え、急に巨大な拳が現れたと思ったら、よくわからないまま殴られて飛ばされた。簡単な話だ。

 めり込んだ岩から目線を萃香に戻す。ここから武闘会場まで距離にして50m程だろうがもっと長く感じた。

 

 萃香はベジータと目が合うと、挑発するように笑った。鋭利な八重歯が丸見えになるように。

 

 

 

「このオレを…なめやがって───ッ!!!」

 

「だああああああああ───ッ!!!」

 

 

 

 叫び声と共にベジータはまた光り輝いた。めり込んでいた岩は全体で20m程はある巨大なものであったが、ベジータの怒りの〝気〟によってすべて粉々になった。

 

 真っ直ぐに萃香に向かっていくベジータ。光のようなスピードで。すぐに辿り着き、殴りにかかる。

 

 

「はああッ!」

「かああッ!」

「だりゃあッ!」

 

「フンッ!」

「はああッ!」

「やああッ!」

 

 

 ベジータと萃香が殴り合う。ノーガードというわけではない。守れるところはしっかり守り、その上で相手の隙見て攻撃する。初歩であるが究極な攻撃だ。

 

 手数ではベジータが押している。現に攻撃がまともに当たっている回数は萃香よりベジータの方が多い。

 

 しかし萃香に効いている様子はない。

 

 

 

「フンッ!」

 

「がッ……」

 

 

 

 萃香の拳がベジータの腹にクリーンヒットした。ベジータは腹を抱えて膝から落ち、チャンスと思った萃香はベジータの画面に蹴りを入れた。先程のように吹っ飛びはしなかったが、ベジータはコンクリートの地面に叩きつけられた。

 

 

「きさ…ま…急に強くなりやがって…」

 

 

 ベジータは今思っていた事を正直に口にした。気弾を撃つまでと撃ってからの萃香の〝気〟が別人のように違うからだ。

 

 

「いやぁ…ベジータ。お前があまりにも生意気すぎてスイッチを切り替えるのを忘れてたんだよ。ほら、私って幻想郷でもトップクラスに強いから、普段からコレだと遊びで誰かを殺しそうだからさ」

 

「…!」

 

 

 

 萃香が言っていた───

 

 お前には『必要ない』んだから!

 

 

 

 力を抑える必要がない…という事だったのだ。萃香は普段から、幻想郷にきていたベジータのように力を抑えて戦っていた。つまり、今ベジータが萃香にやられているのは、純粋に力の差なのだ。

 

 

 

「ベジータ。お前は私達を馬鹿にしすぎた。この罪は許されないよ」

 

 

 ベジータを見下ろしながら睨む萃香。普段はツノが生えてる事以外は人間の子供の様だが、今の萃香は誰がどう見ても鬼にしか見えない。

 

 

 だが、それがベジータのプライドに火をつけた。

 

 

「ふ、ふはははは!」

 

 

 笑いながらゆっくりと立つベジータ。萃香はそこに追撃を入れるつもりだったがやめた。いや、やめざるを得なかった。ベジータの様子が先ほどはあまりにも違っていたからだ。

 

 

「私、何か面白いことでもいったかね」

 

 

 萃香は少しベジータと距離を取り、そう言った。

 

 

「罪…罪だと…?くだらん…」

 

 

 

「そんなものなど…今更1つ増えたところで何も変わらん。なにせオレは極悪人だからな」

 

 

 ベジータが嗤う。悪どい顔で。

 

 

「……!」

 

 

 ベジータの〝気〟がさらに充実していく。魔理沙との戦いでだいぶ〝気〟を使っていたため、さっきまではフルパワーには程遠かったのだ。1秒毎に強くなっていくベジータ。しかし場外から見ていたさとりは、そんなベジータよりも萃香の方が気になっていた。

 

 さとりは、萃香の表情の変化に気づいていた。今ベジータを見ていた萃香の表情は初めて見るものだった。驚きの表情というのが近いかもしれないが、もっと近く厳密にいうと───

 

 

「あの萃香が……〝恐れた〟……!?」

 

 

 一瞬。ほんの一瞬。いやもっと短い時間かもしれないが、確かにさとりにはそう思えた。距離があるので萃香の心は読めないが、間違いないと断言できるほどに。

 

 

 

「ベジータ……喜びな。お前を人間としてじゃなくて、1つの化け物として殺してあげるよ」

 

 

 萃香自身もベジータを〝恐れた〟と言うことに気付いていた。その悔しさから思い切り歯を食いしばり、拳を握りしめ、ベジータを睨んだ。一瞬かそれ以下の時間だとしても鬼が人間に恐れるなどあり得ない。そう考えたからこそベジータを人間以上の対象に変えた。

 

 もっとも、妖怪でも鬼でもないベジータがハマる枠などない為、化け物というカテゴリーに収まったのだが。

 

 

「バカを言うな。たった今やっとフルパワーになった所だ……」

 

 

 ベジータはゆっくりと両手を腰の高さまで持っていく。足もちょうど良いくらい開き、バランスの良い構えになった。

 

 萃香、さとり、勇儀の3人は気付く。今ここからがこの戦いの本番になるということに。

 

 

 

 

「さあ!殺してやる!伊吹萃香ッ!」

 

「やれるもんならやってみなッ!化け物ッ!」

 

 

 

 2人の強者が今、再びぶつかり合う───




はい、第60話でした。

殆どの方が私とこの小説を忘れてることかと思いますので自己紹介から。どうも破壊王子です。

まずは謝罪を。
更新が1年も空いてしまい、本当に申し訳ありませんでした。本格的に就職活動なりを行なっていて、全然小説を進められませんでした。全く時間がないというわけではなかったのですが、就活しながらちょくちょく書くよりもしっかり終わらせてからの方がいいと判断しましたのでここまで時間がかかりました。今思えば一言言うべきでした。

コレからも時間が大量にあるというわけではないですが、就活が落ち着きましたので少しづつ再開できれば良いなと思います。

前にも言いましたが完結は絶対にするつもりなのでみてる方がまだいらっしゃいましたらご安心ください。




次の話もよろしくお願いします。


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【第61話】似ている2人

この小説はドラゴンボールと東方projectの二次創作です。

間が空かずに投稿できました。


 

 

 

『鬼と人間』

 

 

 普通であれば戦いになどならないだろう。鬼からの一方的かつ無残な一撃で人間など砕け散ってしまう。

 

 

 

 しかしどうだ。

 

 

 この人間は全力で顔を殴っても死なない。それどころか凄い形相で向かってくる。面白い。実に興味深い。

 萃香は、そんな想いをここ数分の立ち合いで持つようになった。ベジータという〝普通〟とは大きくかけ離れた人間に、気付かないうちに惹かれていっているのだ。

 

 

 互いがフルパワーになり、楽な姿勢で2人は見つめ合う。プライドを汚された怒りや、好敵手に出逢えた喜びなど様々な感情が生まれているが、そんなものは考えない。相手を倒す為には不必要な感情だからだ。それほど萃香とベジータは互いに高い評価をしていた。

 

 

 

「先に動くのは……どっち?」

 

 

 実際に戦っている2人よりも、それを見守っているさとり達の方が緊張していた。なにしろ、ただの拳がミサイル顔負けの威力を誇っている2人だ。フルパワーになった今、どちらも頑丈とはいえ一撃で勝敗が決してしまっても不思議ではない。

 

 さらに心配な事もある。

 恐らく、いや間違いなく攻撃力が幻想郷トップレベルの2人の戦いが長引くことでもあれば、旧都が無事では済まないと言うことだ。充分な広さ、頑丈さである旧都であれど、この2人なら絶対に安心とは言えない。

 

 

 他にも心配な事はあるが、さとりがそんな事を考えていると、遂に2人が動いた。どちらが先に動いたのか? 

 

 

 

 違う。

 

 

 

 

 同時にだ。

 

 

 

 

「だああああああッ!!!」

 

「はああああああッ!!!」

 

 

 

 互いに動く瞬間がわかっていたかのように、全く同じタイミングで両者は殴り掛かった。助走たっぷりでぶつかり合った2人の拳は、触れた瞬間に爆発音が響いた。地面は抉れ、崩れ始める。

 

 いやそんな事は誰の目にも入っていない。注目すべきはぶつかり合った2つの拳。ぶつかり合って数秒経つが、どちらも拳を離そうとはしない。違う、離せないのだ。

 

 

「互角ッ!?」

「互角ッ!?」

 

 

 さとりと勇儀は声を荒げて驚く。双方ともの拳の威力が全くの互角だったからだ。

 

 

 

 

 このオレと……互角だとッ!!! 

 

 

 ぶつかり合っている中、ベジータはそう悔しがった。何年も何十年も鍛え上げてきた己の身体。その身体で放った右拳が、細腕で見た目少女の萃香と互角である事に苛立たない筈は無い。無論、萃香が鬼であり只の少女では無いことを頭ではわかっているのだが、本能が納得いかなかった。これは、以前に人造人間18号と戦って敗れた時の気持ちと類似していた。

 

 一方、ベジータと全く同じ事を萃香も思っていた。鬼である自分が人間であるこいつに、と。こちらも本能が納得できないのだ。

 

 萃香とベジータ。

 2人は相手の事を高く評価してはいるが、それ以上に評価している者がいる。

 

 

 

 それは───自分。

 

 

 ベジータはベジータ自身を。

 萃香は萃香自身を。

 

 

 この2人は誰よりも己の事を評価、信頼している。先程さとりがベジータに対して感じ取った事だが、それは決して驕りや慢心の類ではなく、絶対的な自信からきているものだ。

 

 

 

 〝オレが負けるはずない〟  

 

 〝私が負けるはずない〟

 

 

 この2人はよく似ている。高いプライドを持っているところもそっくりだ。それを2人に言ってもまず間違いなく否定するだろうが、第三者からすればそう見えるだろう。

 

 

 

「はああああ…………!」

 

 

 しかしその均衡も崩れ始める。

 

 ベジータは〝気〟を右腕に集中させる。元々黄金の光を帯びていた右腕はさらに強い光を発するようになった。すると徐々に、徐々に、ベジータの拳が萃香の拳を押し始めた。

 

 

 驚愕の表情をする萃香。

 

 私が人間に劣っている? そう思っている事は、誰の目から見ても明らかだった。

 

 

「ぐっ……ふはは!ふははははははは!」

 

 

 声を上げて笑う萃香。自分が追い込まれているにも関わらず、甲高い声で笑い続ける。

 

 

 

 

 しかし、すぐに笑い声は止まった。

 

 

 

 

 そう。遂にベジータの一撃により、押し飛ばされてしまったからだ。

 

 

 

 

 倒されたわけではなく10mほど後退しただけなのだが、ある意味この戦いで1番のダメージを負った萃香。

 

 その一瞬の放心をベジータは見逃さない。高速で萃香との距離を詰め、打撃攻撃を繰り出す。今は右腕だけに〝気〟を集中させているわけではなく、いつもの様に平均的に纏っていた。

 右、左、左、右、右、左、右、と。数えるのが馬鹿らしくなるような手数とスピードで嵐のような攻撃をしていくベジータ。萃香は歯を剥き出しにして笑ってはいるが決して余裕なわけではない。

 

 激しい攻防の末、遂に萃香のガードが弾かれて無防備になった。ベジータはその隙に萃香の腕を掴み、3回転して勢いをつけ、壁に向かって放り投げた。萃香は受け身も取れずにモロにぶつかり、激しい音を立てて壁は崩れ落ちた。

 

 

「ビッグ・バン……」

 

 

 萃香に向けてベジータは手を向ける。すると掌が光り始め、巨大な気弾が生まれた。ベジータは幻想郷でいくつか気弾を放ってきたが、この大きさは今までの比ではない。魔理沙に向けて撃ったものとも根本が違うレベルの高密度さだ。

 

 

「──!」

「──!」

 

 

 傍観していた勇儀とさとりが、一目散にその場から離れた。それもその筈。ベジータの、次の一撃。その破壊力を肌で感じ取ったからだ。自分達とは真逆の方向に手を向けているベジータだが、今の場所だとその衝撃の余波で無事では済まないと即理解したからだ。

 

 

「き、旧都が……」

 

 

 

 

「アタック……!」

 

 

 

 

 

 

 金色のベジータが小さくそう呟くと、まるで小さな太陽の様な気弾は萃香の居た場所に放たれ、大爆発を起こした。

 旧都、いや地底全体が揺れる一撃であったが、さとりの思っている程の被害は出なかった。それはベジータが手加減をしたからというわけではなく、高密度ゆえに爆発範囲もそれ相応の広さになったからだ。しかしそれは威力が低いというわけではない。むしろ逆だ。爆発範囲が狭いからこそ、その範囲内では絶大な破壊力を誇っている。モロに食らったのであれば鬼と言えども〝死〟は免れない。

 

 

 

 しかし萃香は死ななかった。

 

 

 死なないどころかダメージも食らってはいない。当然だ。ベジータの背後に萃香は移動していたからだ。

 

 

 

「なるほどな。今もさっきもこうして避けたわけか」

 

「なんだって……?」

 

「きさまの能力は、空気の様なものにカラダを変化させられるものだ。それを使ってさっきも今も攻撃を躱したんだろう?眼では追いきれなかったが……きさまの〝気〟は捉えた。どうだ、違うか?」

 

 

「……」

 

 

 沈黙。それが答えだった。

 

 

『密と疎を操る程度の能力』

 

 

 それが萃香の能力だ。あらゆる物の密度を自在に操る能力。萃香はその能力を使い、自分の姿を霧に変え、ベジータの攻撃を避けていた。ベジータはそれを空気と判断していたが正確には霧である。

 

 萃香は自分の能力を知られたくはなかった。ベジータならば相手の能力を理解したらすぐに対応できるとわかっていたからだ。 

 打撃の攻撃中には使わず、弾幕つまり気弾の攻撃中だけにしか使わなかったのは、爆風に紛れて霧になれば能力を知られる可能性は低いと考えていたからだ。それでもいつかは必ずバレてしまうとは思っていたが、こんなに早くバレてしまうとは想定外だった。

 

 

「バレちゃあしょうがない……じゃあやっぱりコレしかないね」

 

 

 萃香は常に身につけている三つの分銅を振り回し始める。赤色で三角形のもの、青色で四角形のもの、黄色で球体のものと、三つ全てが違う種類の分銅だ。

 

 

「やあああッ!」

 

 

 分銅を振り回したまま武器として萃香は突進していく。拳打や蹴りをしていくと分銅も一緒になってベジータに襲いかかる。が、分銅の動きはあくまで萃香の動きと連動しているので、萃香の動きを見切っているベジータには当たらない。

 常日頃から身につけている萃香よりも、ベジータの方が分銅の動きを上手く予測できていた。これは莫大な戦闘経験による〝直感〟によるもの。

 

 

「フンッ!」

 

「ぐあッ……」

 

 

 隙をついたベジータの蹴りが萃香の腹に突き刺さる。まともに入ったため、苦しそうな顔をして顔を歪める萃香。そんな事にはお構いなしにベジータは何発も追撃を加え、遂に萃香からダウンをとった。先程と違い、打撃でかなりのダメージを与えていた。

 

 

「終わりか?」

 

「ベ、ベジータぁ……!」

 

 

 悔しくてベジータを睨みながら見上げる萃香、そして対照に見下ろすベジータ。現段階では完全にベジータが押していた。

 

 

「な、何故だ?何故能力を使わないんだ萃香!?アンタが能力を使えば倒せるだろう!?」

 

 戦いの巻き添えにならない様に、勇儀とさとりはかなり距離をとって見守っていた。そこで勇儀が疑問に思ったのは、何故萃香は〝攻撃時に能力を使わないのか〟というものだった。

 先程迄は能力がバレてしまう心配があったので自重していたが、今は既に知られているので関係はない。『密と疎を操る程度の能力』を使い、霧になって相手の混乱を誘ったり、身体を巨大化させ、破壊力を増大させて戦うなど、萃香にはいくつも手がある筈。

 

 なのに何故それをしない?というのが甚だ疑問であるのだ。

 

 

「いや……使わないんじゃなくて使えないのよ。いや、更に正確に言うと、使っても意味がない(・・・・・・・・・)んじゃないかしら」

 

 

 勇儀の横で2人の戦いを分析していたさとりが、険しい顔をして呟く。勇儀はさとりの言葉の意味がわかっていない様子。

 

 

「私が知っている限りだと、この場合だと萃香は2つの戦い方ができるわ。

 

 1つ目は霧になって混乱を誘う戦法。

 2つ目は萃香自身が巨大化する戦法。

 

 あくまで私が知っている限りだけど、1対1だとこんな戦法が考えられる」

 

 

 さとりが考えた2種類の戦法は、直前に勇儀が思いついた戦法と全く同じものだった。

 

 

「普段、萃香が能力を使う際に起こるデメリットはないわ。発動させるのに体力を使い過ぎるだとか、体力が少ない状態だと使えない、とかね。だから使わない、もしくは使えない可能性が存在すると仮定するならばそれはつまり……」

 

「ああッ!もう!回りくどい言い方をするねえアンタも!物事をもっと簡潔に述べたらどうだい!」

 

 

 さとりには、思った事を全て口に出して考察する癖があり、それに苛ついた勇儀が答えを簡潔に頼んだ。さとりは勇儀の顔を見て溜息を吐き、直ぐに目線を戦場へと戻した。睨み合っていたベジータと萃香は再び殴り合っている。

 

 

「安心して。答えは簡単よ。つまり──

 

 その2種類の戦法がベジータ相手には通用しないからよ」

 

 

「何だって!?」

 

 

「ベジータの〝勘〟は鋭すぎる。萃香が霧になろうとも簡単に気配を察知してしまうわ。打撃系の攻撃は通じないとしても、ベジータにはあの超威力の弾幕がある。アレを全方向に向けた衝撃波を放たれれば、いくら霧になった萃香であれどタダでは済まないわ。だから萃香は霧状にならないのよ」

 

 さとりの言葉に付け加えるとすれば、霧になれば打撃技を通用しないにしろ、全方向の攻撃だと流石に命中してしまう。その際に、霧になった身体だと防御が出来ないため、萃香に大きなダメージが通ってしまうのだ。

 

 

「じゃあ巨大化は!?」

 

「それはもっと簡単な問題じゃないかしら。萃香の巨大化は攻撃の破壊力が増す反面、身体の面積が広くなるから勿論攻撃を食らいやすくなるわ。一度その話を萃香自身ともしたんだけど、防御力が増幅するわけではないそうよ。そう考えると、ベジータ相手だとリスクがあまりにも大きすぎる」

 

 

 さとりの話は全て仮定である。なのでそれが正しいのかさとり自身にもわからなかったが、実際は───その通りだった。

 

 

「はあああッ!」

 

「ぐ……やあああッ!」

 

 

 依然としてベジータが押している。

 

 萃香は自分の能力を使ったとしても、ベジータを倒し切れるとは考えていなかった。いや、考えられなかった。どう攻めても自分が追い込まれていく図が嫌でも頭に浮かんでいく。苦し紛れの弾幕を放ってもベジータはそれを手で弾いていく。その際に目線を萃香から外す事はないので、誘導にもならない。元々萃香は肉弾戦に特化した鬼である為、弾幕の威力は大してなく、無駄の大きい攻撃になっていた。

 

 

「……フンッ!」

 

「──!」

 

 

 遂には打撃系だけではなく、気功波までもが萃香に直撃した。その威力は、食らって暫く立ち上がれない萃香をみれば誰でも察しがつく。霧になって躱すこともできたタイミングだが、萃香の気持ちが切れていたのか、それは間に合わなかった。

 

 

「ぐああ……ッ!ま、負ける……?この私が……?」

 

「終わりだな。伊吹萃香」

 

 

 トドメの一撃を刺さんと、ベジータが跪いている萃香に手を向ける。そして、先程と同じ様な気弾が掌から出現した。『ビッグ・バン・アタック』を撃つつもりだ。

 

 勇儀はそれに気付き、全力で止めに走った。一方さとりは動かない。否、動けなかった。ベジータの圧倒的な威圧感と殺意を目の当たりにして、脚がすくんでしまったのだ。

 

 

「こ、殺すつもり……本当に……」

 

 

 心を読んだわけではないが、さとりは肌でそう感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 負ける。

 

 

 

 鬼である私が。人間であるベジータ(こいつ)に。

 

 

 

 

 

 

 負ける。

 

 

 負ける。

 

 

 負ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ない」

 

 

 

「……なに?」

 

 

 地面に向かって小さく呟いた萃香に、ベジータが訊き返す。

 

 

 

「負け……ない。負けない。負けない。負けない」

 

 

「……」

 

 

「負けないッ!負けないッ!負けないッ!負けないッ!負けるはずがないッ!私がッ!この私がッ!人間(お前)なんかにッ!!!」

 

 

 

 気持ちが切れてしまったと思われた萃香が、『負ける』という概念を頭からかき消し、体力を振り絞って立ち上がった。いま立ち上がれたのは、鬼という種族の誇りのおかげだ。

 

 

「私が勝つッ!私がッ!ベジータ(おまえ)を殺してッ!勝つッ!」

 

 

 萃香のあまりの気合いに、駆けつけようとした勇儀も脚をすくませていたさとりも声が出せない。

 

 しかし、目の前にいる男は違った。

 

 

 

「やれるものならやってみるんだな…このオレを殺せるものなら殺してみろッ!!!」

 

 

 ベジータの〝気〟が更に上がる。そして充分に溜まった『ビッグ・バン・アタック』を放とうとした。その瞬間。

 

 

 

「────ッッッ!!!?」

 

 

 身体全体が締め付けられる感覚に襲われた。苦痛。こんな苦痛は生まれてこの方初めてだった。どんな攻撃よりも身体が苦しくて痛い。主に頭が。

 

 

 

 

「うう……あッ…… ああああああああッ!!!!!」

 

 

 

「ベジータ!?」

「ベジータ!?」

 

 

 ベジータは頭を抱えて膝をついた。しかし痛みは増すばかりだ。さとりや勇儀だけではなく、対峙していた萃香すら何が起こったのかわからない顔をしていたが、そんな事はどうでもよかった。

 

 

 

 今が好機(チャンス)だ、と。

 

 

 萃香は跪いたベジータに破壊力満点の攻撃を加える。一撃一撃がクリーンヒットし、ベジータは大量の血を吐く。

 

 明らかにベジータの様子がおかしい事は気付いていたが、今は『殺し合い』の途中であり、大きな好機(チャンス)である。この隙を見逃すわけにはいかない。

 

 

 ベジータもなんとか攻撃を止めようとするが、あまりにも身体が痛んでまともに動けない。萃香の攻撃よりも謎の痛みの方がダメージが大きい様子だ。

 

 

「う……」

 

 

 遂には(スーパー)サイヤ人を解いてしまった。すると、身体が少しだけ楽になった。〝気〟を高めれば高めるほど謎の痛みは大きいとわかった。

 

 

「はは……はははははッ!!!」

 

 

 しかしそうすると萃香が止められない。いくら痛みが小さくなったといえど、通常の状態で勝てる相手ではない。

 

 

「はあ……はあ……ッ! きさ……きさまァ……!」  

 

 

 ボロボロになり血だらけのベジータ。かなりの重症だが、眼はまだ死んでいない。今日一番の眼光で萃香を睨む。

 

 

「睨んだってダメさ……これで……

 

 

 

 終わりだッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 萃香から渾身の一撃を込めたトドメが放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、その一撃は空を切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眩しい。

 

 

 

 真っ暗だった地底とは思えないほどの眩い光が、急にベジータを包む。いや、ベジータだけではない。萃香。勇儀。さとり。旧都にいた4人全てを青白く、清らかな光が包み込んだ。

 

 

 

 

 まるで、場所が変わったかの様に。

 

 

 

 否。

 

 

 

 まるで、ではなく事実変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 4人は一瞬にして地底から地上へ移動していた。ベジータはこの場所に見覚えがない。和風の作りである大きな建物が、綺麗な桃色の桜の木に囲まれて来客を静かに待ち構える様に建っていた。

 

 

 

 

「ここは……何処だ」

 

 

 誰よりも早くベジータが口を開く。すると建物の中から見覚えのない女性が現れた。

 

 

 

 

「此処は『白玉楼』 亡霊・西行寺幽々子に頼んでこの場をお借りしました」

 

 

 女性、というよりは霊夢や魔理沙のような少女だ。緑の眼をベジータに向けながら歩み寄ってくる。その眼は一言でいうと〝警戒〟しているようだ。ベジータは、この少女から他の者とは違う〝気〟を感じていた。

 

 

 

「きさまは……」

 

 

 

「自己紹介がまだでしたね。私は……四季映姫(しきえいき)

 

 大悪人ベジータ、貴方を〝裁き〟に来ました」

 

 

 

 




はい、第61話でした。

少しずつ物語は動き出していく…んですね

では、お疲れ様でした


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【第62話】罪

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

月1で更新できればいいかなと思ってます。


 

 

 

「自己紹介がまだでしたね。私は……四季映姫。

 

 大悪人ベジータ、貴方を〝裁き〟に来ました」

 

 

 

 

 幻想郷に来てから、ベジータは様々な者と出逢った。人、妖怪、魔法使い、吸血鬼、神、そして鬼など。元の世界よりも不思議な存在が幻想郷には多い。

 

 そして、新たに現れた『四季映姫』と名乗る少女。彼女からは特に〝普通ではない〟雰囲気を感じられる。

 

 

「オレを裁くだと?」

 

「ええ。なにか問題でも?」

 

 

 彼女の言っている事がよく理解できないベジータ。いや、それだけではない。何故地底に居た自分達が一瞬で地上へと移動したのか、白玉楼とは一体なんなのか。そして、先程自分の体を襲った痛みは何だったのか。次から次へと理解出来ない事態が起こり、ベジータは苛々し始める。そして──

 

 それはベジータだけではない。

 

 

「ちょっと待ちなよ閻魔様……一体何のつもりだい?いくらアンタでも私達の『殺し合い』を邪魔しようってなら容赦はしないよ」

 

 

「(閻魔…?あいつが?)」

 

 

 萃香は剥き出しだった殺意を抑えてはいるが、全身から溢れ出ている怒りは隠し切れていない。萃香、ベジータと2人とも満身創痍ではあるがまだ決着がついたわけではない。途中で茶々を入れられて心底不満そうな表情(カオ)だ。

 

 萃香の言葉により何もわからなかったベジータが1つだけわかったことがある。それは、この四季映姫と名乗る少女が『閻魔』だということだ。そうだとすれば、「裁きに来ました」という言葉にも合点がいく。

 

 

「そうですか。容赦ない…と。それは具体的にはどうするつもりです?」

 

 

「なあに簡単だよ。まずアンタから片付けるって話さ…!」

 

 

「萃香ッ!!!」

 

 

 今の萃香は冷静ではない。それはその場にいた映姫、勇儀、さとり、そして同じく苛ついていたベジータまでもが感じ取っていた。いくら鬼とはいえ、閻魔に楯突いたらこの先どうなるか。それを知らない萃香ではないが、もう止まらない。止まれない。

 

 

 今にも暴れ出しそうな萃香。標的はもはやベジータではなく、完全に映姫へと移った。思いっきり地面を蹴り、攻撃を加えようとしたその寸前。

 

 

 蝶々だ。

 

 青、桃色、そして黒と。様々な色の蝶々が目の前に蝶が現れて、萃香の視界を隠す。

 

 しかし、たかが蝶々。手で軽く払い退けようとした───が、腕が動かない。いや、腕だけではなく身体全身が動かない事に気がついた。

 

 

 

 

 

 

 

「《死蝶(しちょう)華胥の永眠(かしょのえいみん)」》」

 

 

 

 

 

 

 

「………ッ!……幽……子…!」

 

 

 

 

 身体が全く動かないまま萃香は膝から崩れ落ち、力なく倒れ込んだ。そして、それと同時に白玉楼の奥から誰かが現れた。

 

 

 

「ごめんなさいね萃香。少し寝ていて頂戴。夢でも見ながらね。

 

 …それがどんな悪夢(ユメ)になるか私にはわからないけれど」

 

 

 何処からともなく飛んできた蝶々。そして意識を失い倒れた萃香。その原因は、新たに現れたこの女性だとベジータは確信していた。女性はゆっくりゆっくり歩いていき、映姫の隣に立つ。

 

 

「萃香ッ!おい萃香ッ!……萃香に何をした!」

 

 

 勇儀が倒れた萃香の元まで駆け寄り、何度も身体を揺らすが萃香は動かない。さとりも同じように駆け寄り、萃香の様子を見た。

 

 

「大丈夫よ勇儀。気を失って寝ているだけ。もっとも…こんなに静かな寝顔は初めて見たけれど。まるで〝死んでいるような〟…ね」

 

 

 今の萃香はさとりの言う通り気を失っているだけだが、肌は普段よりも白く、身体は冷たく、呼吸も鼓動も僅かしかしていない。まるで死人のようだ。

 

 しかしそんな状態の萃香よりも、現れた女性の方がベジータには気になっていた。

 

 

「(何だこいつは…本当に生きていやがるのか?)」

 

 

 女性は今の萃香よりもよっぽど白く、まるで大きな人形のような見た目だ。絢爛(けんらん)な服装や桃色の髪、そして大きな桃色の瞳が、肌の色をより白く透明質に魅せている。

 

 そんな女性はベジータから言わせれば、萃香よりも断然死人に見えた。

 

 

 

「貴方がベジータ……なのね。

 

 ご機嫌よう。私は西行寺幽々子(さいぎょうじゆゆこ)白玉楼(ここ)の主よ」

 

 

 先程映姫が言っていた西行寺幽々子とはこの女性の事だったのだ。映姫が幽々子に頼んでこの場を借り、ベジータを裁くと言った。

 

 

「……きさまの事などどうでもいい。それよりもう一度聞いてやる。このオレを裁くとは一体どういう事だ。返答次第ではタダではおかん」

 

 

 目線を幽々子から映姫に移し、ベジータはそう言い放つ。相手がこの世界の閻魔だという事を理解しているが、萃香同様に戦いを邪魔されてフラストレーションが溜まりに溜まっている。

 

 そして白玉楼(ここ)に来るまでに襲われていた謎の身体の痛み。アレもこの2人のどちらかのせいであれば、ベジータはこのまま黙っている事などできない。

 

 

「口を慎みなさい。これ以上罪を増やしたいのですか?」

 

 

「……」

 

 

 

「……!ま、待ってベジータ!もう少し話を……」

 

 

 

 白玉楼(ここ)に来てから、さとりの能力は一気に薄まった。原因はわからない。薄まったとは、つまり心の中の声を聴きにくくなったのだ。ベジータだけに限らず幽々子や映姫も同じように。

 ベジータに関しては地底にいる時からそうであり、白玉楼(ここ)に来てからはさらに読みにくくなっていたのだが、『今の一瞬』だけはハッキリと読み取れた。

 

 

『もういい』────と。

 

 

 

 まともな返答をしない映姫に対し、ベジータはそう思った。この4文字が何を意味するのかさとりには簡単に理解でき、直ぐに止めようとした。

 

 が、自分の手に負える相手じゃない事もわかっていた。ベジータの肩を掴もうとすると、その姿は一瞬にして消え、さとりの目線の先には何者も居なくなった。ベジータは映姫に向かって行ったのだ。

 

 

 

「待っ……───」

 

 

 何があろうと自分では止められない事がわかったさとり。

 

 もう駄目だ、そう諦めた瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……驚いたな。本当に殺す気じゃないか」

 

「───!」

 

 

 ベジータが映姫に向かって伸ばした拳は届く事はなかった。それは突として現れた少女に止められたからだ。その少女は真正面からではなく横から現れ、ベジータの手首を握っている。

 

 あまりに急な事だったのでベジータも驚いていたが、それをお構いなしにそのまま映姫に殴りかかる。

 

 

「ぐ…!下がってッ!」

 

 

 少女がベジータの怪力を一瞬止めた隙に、映姫と幽々子は小ジャンプをして後方へ下がり、距離を取った。ベジータの前には名も知らぬ少女だけが残る。

 

 

「なんて力だ…これでも全力じゃないんだろう?純粋な力じゃ私はお前に勝てそうにないな」

 

「なんだきさまは」

 

 

 少女は右の手首をヒラヒラと動かしながら呟く。映姫や幽々子と同様にこの少女にも見覚えがない。

 

 

「妹紅!大丈夫か?」

 

「ああ、なんともないよ慧音」

 

 

 さらにもう1人奥から女性がやってきた。その少女は、ベジータが幻想郷に来てから初めて出会った上白沢慧音(かみしらさわけいね)だった。妹紅と呼ばれる少女共に此処へやってきたのだ。さすがのベジータも彼女の事は覚えていたらしく、ほんの一瞬だけ鬼のような形相が静まったが、直ぐに元に戻った。

 

 

「…久しぶりだなベジータ。まさかこんな形で再会するとは思ってなかったよ」

 

 

 心底残念そうな表情(カオ)をする慧音。ベジータが何故こんな事をするのか、何が目的なのか何一つわからないが、唯一わかる事は話し合いでどうにかなりそうな雰囲気ではないという事だけだった。

 

 

「慧音。きさまも邪魔をする気か?」

 

「邪魔ではない。とりあえず落ち着いてくれ」

 

「慧音、下がった方がいい…彼は危険だ」

 

 

 ベジータの纏っている圧倒的な〝気〟を感じ取ったのかそうでないのかは定かではないが、妹紅は慧音の手を引いて5歩ほど後方へ下がった。

 

 

 

「……なに?」

 

 

 今ここにいるのはベジータ、さとり、勇儀、眠っている萃香、そして映姫、幽々子、妹紅、慧音の8人。の筈だった。

 

 しかし知らずに知らずのうちに、どんどんと新しい〝気〟が増えている事にベジータがようやく気付いた。

 

 

 

 

 

 

「どういう事だベジータ!見境をなくしたのか?」

 

「よくわからないけどただ事じゃなさそうだね。私達がこれを見過ごすわけにはいかない」

 

 

『守矢神社の二柱』

 

 八坂神奈子と洩矢諏訪子。

 

 

 

「まったく…言った側から騒ぎを起こさないでよね」

 

 

『博麗の巫女』

 

 博麗霊夢。

 

 

 

「冥界か。ここなら日傘は必要ないわね」

 

 

『紅魔館の主』

 

 レミリア・スカーレット

 

 

 

「はい、お嬢様」

 

 

『紅魔館のメイド長』

 

 十六夜咲夜。

 

 

 

 5人が新たにやってきて、ベジータの前に立つ。まるでこれから戦うかの如く。

 

 

「次から次へと…」

 

 

 ベジータは舌打ちをしながら一人一人を睨みつける。妹紅以降にやってきた者は全員ベジータと面識があるのだが、今までのベジータとは『違う』事に気がついていた。

 

 

 

「私が呼んだのですよ。いざという時のために。貴方はまともに話を聞くタイプではなさそうですからね」

 

 

 下がっていた映姫が再び前に出る。そして怪訝(けげん)な顔をベジータに向け、一つ息を吐いてからまた口を開く。

 

 

「ベジータ。貴方の罪についてお話ししましょう。

 

 貴方の罪は…『殺人』 です。身に覚えがあるでしょう?」

 

 

「……くっくっく……」

 

 

 ベジータの罪は『殺人』と映姫が語る。その一言により場の空気が更に凍りつく───が、当の本人であるベジータだけがそれを聞き、我慢できないように嘲笑う。

 

 

「…面白い事を言ったつもりはありませんが」

 

 

「身に覚え…だと?笑わせる。『殺人』など、オレにとっては息をするのと何も変わりはしない」

 

 

 悪どい顔で答えるベジータに、映姫はさらに不機嫌そうな表情(カオ)をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かがおかしい(・・・・・・・)

 

 そんな違和感を初めに覚えたのはさとりだった。

 

 

 さとりはベジータと出会ってからまだ間もない。故に、彼の事など大して知りはしないのだが、それでも『今のベジータ』が『先程までのベジータ』と少しだが確実に異なっている事に気付いていた。

 

『今のベジータ』とは白玉楼(ここ)に来てからのことであり、『先程までのベジータ』というのは地底で萃香と戦っていた時までのことだ。

 

 

 映姫に向かって圧倒的な殺気を放っているから?

 

 少し違う。

 

 殺気自体は萃香に向けても放っていた。問題は殺気の質だ。萃香相手の時は自分の圧倒的な力で捻じ伏せたい、と。その延長が相手の死になるのだ。

 しかし映姫相手には違う。ベジータは映姫と戦いたいとは思っていなく、気に入らないから殺す、と。微妙ではあるが根本が全く違う殺気だったのだ。

 ベジータ自身、自分がそんな殺気を放っていたとは気付いていないだろう。他の者も同様だ。この中でさとりだけがそんな違和感を覚えていた。

 

 

「(ベジータは決して我を失っているわけではない…しかしこの変わりようは何…?)」

 

 

 さとりは考える。

 

 

 白玉楼の環境のせい?

 

 これまでの旅の鬱憤がたまたま此処で爆発しただけ?

 

 

 

それとも───

 

 

 

「(…………誰かの能力…………?)」

 

 

 

 しかし答えはわからない。考えれば考えるほど謎は深まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっといいかしら」

 

「何でしょうレミリア・スカーレット」

 

「みんな知ってるでしょうけど、私も人を殺した事はあるわ。いや、私だけでなく他の妖怪だってそうよ。なのに何故ベジータだけ罪に問われるのか、それを聞かせてもらえないかしら」

 

 

 次はレミリアが一歩前に出て、ベジータの擁護をする。

 

 新たに現れた5人、そして妹紅と慧音はベジータが話を聞く前に暴れ出さないかという映姫の懸念の元に呼ばれたのだ。しかし、ベジータが罪に問われている理由はまだ誰1人として聞いてはいない。

 

 そして、ゆっくりと深呼吸をしてから映姫は語り始める。

 

 

「貴方達は皆、〝無意味な殺し〟はしない。それだけです」

 

 

「……? それはベジータも同じでしょう?正当防衛、つまり自分の身を守る為に相手を殺す事があっても、何もしない相手を殺める事はないわ。ベジータも私達も同じよ」

 

 

 映姫の言葉に首を傾げながらレミリアは答える。そしてその場にいたほとんどの者がレミリアの言葉に賛同する様に頷いた。

 

 

「いえ、貴方達とベジータは同じではない。絶対に。レミリア・スカーレット、貴方は彼の本当の姿を知らない」

 

「…どういう事よ。何が言いたいのかわからないのだけれど」

 

 

 レミリアはまた首を傾げる。先程から映姫は遠回しな言い方をよくするので他の者も話の内容をよく理解できていない。意地悪からこういう言い方をしているのではなく、性格上の話し方だ。

 

 

 

 

 

 本当の姿。

 

 

 さとりにはこの文脈が引っかかった。本当の姿とは恐らく外見の話ではなく、内面の話と仮定する。それは此処にいる映姫以外の全員に知り得ないもの。それはつまり───

 

 

「問題があるのは今のベジータではなく…元の世界(・・・・)のベジータ。ということ?」

 

 

 白く小さな手を口に当てたまま、まるで探偵のようにさとりは映姫に訊ねる。それを聞いた神奈子、諏訪子、霊夢、慧音はハッと何かに気付いた。

 

 ベジータは外来人であり、違う世界から幻想郷へやってきた人間だ。つまり幻想郷へ来るまでのベジータは誰も知らない。知っているとしても閻魔である映姫くらいである。本来であれば閻魔であれど他の世界など知る由もないのだが、本人のこの口ぶりだと全てを把握しているようだ。

 

 他にいるとすれば、能力を使い他の世界を〝盗み見た者〟や、その者から〝見せられた者〟

 

 該当する者がいる筈だ。〝盗み見た者〟とは能力を使い、ベジータ達のいる世界を見ていた『八雲紫』

 

 そして〝見せられた者〟とはベジータが守矢神社に辿り着く前に、八雲紫の能力によって映し出された映像を観た『八坂神奈子』と『洩矢諏訪子』である。

 

 

 よって、映姫。紫。神奈子。諏訪子の4人は幻想郷に来る前のベジータを知っている。しかし、神奈子と諏訪子に至っては界王神界で魔人ブウと戦っている悟空とベジータの映像、それも一部を観ただけであり、ベジータの本当の姿を見たとは言い難い。よってまずこの2人は除外と考える。

 

 残るは映姫と紫だが、紫は『境界を操る程度の能力』がある為、見ようと思えば見れるだろう。しかし本当に見たかどうかもわからない上、この場にはいないので紫も一旦除外と考える。

 

 そうなると、ベジータの本当の姿を知っているのは映姫だけという事になる。

 

 

「その通り。幻想郷に来てから、ではなく来る前から貴方は既に大罪人なのですよベジータ。地獄なんて生温(なまぬる)い…存在を消して当然。それほどの罰があって然りの貴方をなぜ裁かないのか、貴方の世界の閻魔は一体何を考えているんでしょうね。

 

 そして…貴方を此処へ(いざな)った賢者。彼女も同罪です」

 

 

「……」

 

 

 ベジータは黙って聞いている。その沈黙が、地底にいるよりも何倍も何十倍も恐ろしいとさとりは肩を震わして感じていた。

 

 

「ちょっと待って。結局問題があるのは元の世界のベジータなんでしょ?じゃあ今のベジータには関係ない話じゃない。昔は昔。今は今よ。ベジータも紫も裁かれる(いわ)れはないわ」

 

 

 紫まで裁きの対象に入り、霊夢も黙ってはいられない。普段よりも少し強めの口調で物申す。相手が閻魔であろうと彼女にとっては関係ない。

 

 

「やれやれ。ベジータから幻想郷を守る為に貴方達を呼んだのに、結局はそちら側につくのですね。まあ良いでしょう。口でも言っても納得しないのは想定済みです」

 

「何を……ッ!」

 

 

 映姫は言い終わると同時に、懐から何かを取り出した。攻撃されると思った霊夢は即座に反応して後退したが、映姫にそんな気はない。

 

 

「何もしませんよ。ただお見せするだけです…ベジータ()の罪を!」

 

 

 映姫の持っていた手鏡が光り出し、そこから白玉楼の壁に向かって光が一直線に伸びた。光が当たっている壁に映像が映し出される。

 

その映像とは─── ベジータの過去。すなわち、元の世界の光景だった。

 




はい、第62話でした。

一つの場面に登場人物を沢山出すと、小説を進めるのは大変難しいです。自分の未熟さを進めていて痛感しました。

ではお疲れ様でした。


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【第63話】史上最悪の異変

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

皆様、あけましておめでとうございます。今年は去年よりは沢山投稿したいです。


 

 浄玻璃(じょうはり)(かがみ)

 

 

 映姫の所有物であるその手鏡は、『罪人』の過去を映し出すという能力を持つ。つまりベジータの過去だ。

 

 

 

 鏡によって映し出された映像には、見慣れない土地、見慣れない服装の人々、そして見慣れない建造物が存在していた。それらは、幻想郷の住人()から見ると明らかに〝この世界のもの〟ではないということを感じさせた。

 

 しかしその中で唯一見覚えのある人物が映像の中央に立っていた。そう、ベジータだ。

 

 

 時は悟空たちがバビディの宇宙船に乗り込んだ後、悟飯がダーブラと闘うも決着はつかず、その直後にベジータに異変が起き、急にバビディの能力により天下一武道会へ戻ってきた頃だった。

 

 武道会場の中央には悟空、ベジータ、悟飯、界王神。そして明らかに場違いな2人を合わせて6人が居たが、幻想郷の住人()はベジータにしか見覚えはない。

 

 

 

「これが……ベジータの世界?これは一体どういう状況なの?」

 

 

 さとりがそう呟くと、場にいる者のほとんどが首を傾げる。

 

 無理もない。何かを話している様子はわかるのだが、その声までは浄玻璃の鏡に届かない。武道会場ということもあり、彼らのいる中央の四方には大量の観客席があり、それも満員だ。歓声が聴こえるわけではないが、何かにざわついている様子でその声が邪魔になっていた。

 

 

「言い争いしてるみたいね」

 

 

 ベジータの不機嫌そうな顔、そして大きく動く口を見て霊夢はそう判断した。いつも眉間にシワを寄せているベジータだが、この時のベジータはいつもよりも怒っているように見える。そして霊夢には、なんとなくだがこのベジータに違和感を覚えた。まるで口に出していることが、目の前にいる人達以外に言っているような……と。

 

 どんな話をしているかはここに居るベジータ本人に聞けばわかることなのだが、とてもではないがそんな雰囲気ではないため、誰もそうしなかった。

 

 

 

 

 

 ふと、映像の中のベジータが手を向けた。向けた先は幻想郷の住人()には見覚えのない見覚えのない山吹色の道着の男。

 

『まさか……』と全員が思ったその時。

 

 

 

 

「なッ……!?」

 

 

 

 

 予想していた通りに、ベジータは相手に向かって攻撃を加えた。全員、それを呆然としながら見るしかなかった。

 

 予想していたにも関わらずに、全員が言葉を失うほど呆然とした理由は───

 

 

 

 攻撃の威力だ(・・・・・・)

 

 

 

 ベジータが涼しい顔をしながら繰り出した気功波もとい弾幕は、防御した男でもその威力ゆえに弾くのが精一杯だった。しかしそれも方向を上手く変えられたわけではなく、真後ろの観客席に向かった。観客席を爆発しながら貫いた後も、武道会場の外にある建物を襲って行き、その被害は甚大なものとなった。

 

 

 勿論、観客席は満員だった。先程までは。

 

 それがたった一撃、たった一瞬で一部が塵と化したのだ。

 

 

 

 

 生き残った観客たちは事態の深刻さに気づき、ほぼ全ての人が大慌てでその場を離れ始める。恐怖からの悲鳴が武道会場を包み込んでしまった。

 

 

 

「……」

 

 

 それと比べ、幻想郷の住人()は言葉が出ない。ベジータのあまりの攻撃によって。

 

 

「100……いや、200人は死んだわね。たった一撃で……」

 

 

 一番早くに口を開いたのは霊夢。状況を冷静に把握していた。200人もの命が一瞬にして消し飛んだ。その状況を見ても、霊夢は『ベジータにも何らかの理由があったに違いない』と思っていた。いや思いたかった。

 

 しかしどんな事情があろうとも、これから自分がベジータを真っ直ぐに信用できる自信を持てなかった。他の者もそうだ。今見た映像は、そう思わせるに十分な残虐性の面を感じることができたのだ。

 

 そんな事を考えていると、ベジータはまた自分の右方向に手を出し、同じような弾幕を放った。その威力は先程と勝るとも劣らないものであり、逃げ遅れた観客は一瞬にして塵となった。

 

 

 その攻撃により爆風が巻き起こり、その中でベジータは悪どい表情をしながら笑った。この場にいる者の中でさとりだけが、ベジータが若干無理をしているように見えた。

 

 

 

 

 

「……もういいでしょう」

 

 

 映姫は浄玻璃の鏡を閉じた。

 

 映像とはいえ、人が死ぬ光景だ。映姫もできれば見せたくなかったに違いないが、それでも見せたと言うことはそういうことだ。現に、先程までベジータを擁護していた連中も、多少なりとも疑念を持つようになった。

 

 

 

「言っておきますが今の映像は世界の時間軸の差はあれど、大して昔の話ではありません。むしろ最近の話です。さて……貴方達はまだこのベジータを擁護するつもりですか?」

 

 

 映姫の言葉に誰もが俯く。しかし、ベジータ本人は他人にどう思われているかなど元より興味のない話である。

 

 

 

「待て!」

 

「……何でしょう上白沢慧音さん」

 

 

 俯いていた者の中から慧音が声を上げる。そしてベジータの方に歩き始めた。妹紅の静止の声掛けに耳を貸さず、遂にはベジータの目の前までやってきた。

 

 2人は互いに見つめ合う。慧音からは若干の緊張と不安の様子が伺えるも、顔を左右に2回振って雑念を振り払った後、また真っ直ぐにベジータを見つめた。

 

 

 

「私は今の映像で見たベジータが本当のベジータだとは思えない。ベジータ、確かにお前は気性が荒いかもしれない。過去に色々あったのかもしれない。それでもお前は〝悪い奴じゃない〟 私は……いや私達はそう思うんだ」

 

 

 慧音がベジータと関わった時間などほんの微々たるものだ。されどベジータを信じる気持ち、信じたい気持ちが慧音にはある。

 

 

「…………」

 

 

 慧音、いや此処にいる映姫、幽々子、妹紅、勇儀の4人を除く全ての者が力強く頷いた。つまり、一瞬の疑念はあったものの、ベジータを信じたのだ。そもそもその映像が事実なのか、ベジータは自分の意志で動いているのか、など疑わしい部分も多くある。それら全てを無視してベジータを裏切る事はできない。

 

 

「慧音」

 

 

 ベジータは慧音に向かってゆっくりと手を伸ばす。握手のポーズだ。自分の思いが通じたと安堵の表情を浮かべる慧音であったが、すぐにその異変に気付く。差し伸べられた握手に応えようとこちらもと右手を出すも、その瞬間にベジータの手の形が変わる。

 

 この手は何を意味するのかと脳が理解する前に、慧音はこの光景に既視感を覚えた。どのような場面でコレ(・・)を見たのか。

 

 

 何処だ?一体何処だ? 

 

 答えはすぐに出てきた。

 

 

 

 

 それは────

 

 

 

 

 

 

 ────あの映像の中だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「慧音ぇぇぇッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 冥界では聞き慣れない、激しい爆発音が鳴り響く。桜が散るか散らないか程の、かすかな風の音をも聴こえるほど雑音のない世界である為に、この爆発音は〝異常〟が起きたと改めて認識する事ができた。

 

 

「……ッ!」

 

「……」

 

 

 霊夢、さとりはあまりの事に声が出ない。映像を見た時と同じだ。そしてそれはその2人だけではなく、神奈子と諏訪子、レミリアと咲夜の4人も全く同じ反応、表情(カオ)である。

 

 

 

 

 ベジータは慧音に向かって攻撃を放った。ベジータがいつも〝気功波〟と言っているものだ。カラダから溢れるパワーを手から放出するものであり、その攻撃は真っ直ぐに進み、白玉楼の一部を貫き爆発を巻き起こした。

 

 

「慧音ッ!しっかりしろ慧音ッ!」

 

 

 攻撃の直線上に居た慧音は、妹紅の間一髪の救出により直接ダメージを食らうことはなかったが、救出した際に地面に頭を強くぶつけ、気を失ってしまった。妹紅がベジータを信じていなかった分、常に身構えていたので何とか慧音を助ける事ができたのだ。

 

 燃え上がる炎のような紅い瞳を細め、強くベジータを睨む妹紅。そのまま殴りかかりそうな鬼気迫る様子であったものの、気を失った慧音を此処に置いておくのは拙いと思ったのか、彼女を抱き抱えて何処かへ消えていった。慧音の避難を優先させたのだ。

 

 その妹紅を見た勇儀は、同じように気を失っている萃香を連れて、危険領域であるこの場から離れた。

 

 

 

「妖夢……!」

 

 

 建物が壊された事に関しては何の怒りも示さなかった幽々子だったが、中に待機させていた妖夢の事を思い出し、彼女の安否を確認しに足早に屋敷の奥へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄金の〝気〟をカラダから溢れるほど放出し、小さな台風のように場を強く荒らすベジータ。(スーパー)サイヤ人になり、脱力をしながら前を見据える。

 

 

「きさまらは何もわかっていない」

 

 

 白玉楼に来てから口数の少なかったベジータが、自分から口を開き始めた。その声から感じられる彼の心情は、怒りの類ではないのだが、その場にいる全員が固唾を飲んで身構えている。

 

 

「『お前は〝悪い奴じゃない〟』? 

 

 くだらん事をぬかすな。オレは〝悪〟だ。今までも、そしてこれからもだ。きさまらとは違う」

 

 

 そう言っているベジータの目は、皆が知っているものではなかった。

 

 

 冷たい。まるで溶けない氷のように。

 

 

「ベジータ……貴方」

 

「さっきの映像のオレは操られているとでも思ったか?だとしたらお笑いだぜ。あれはオレの〝意志〟だ。言ったはずだ……オレにとって殺人など、息をするのと何も変わりはしないと」

 

 

 心哀しげに呟くさとりに、無慈悲な本音を告げる。これでもう、幻想郷の住人()が信じていたもの、信じたかったものが静かに崩れ落ちる。

 

 

 

「オレが間違っていた。修行?心のゆとり?くだらん。所詮、きさまら程度に教わる事など何もない。何一つだ」

 

 

「……それで、お前はこれからどうするつもりだ? 幻想郷での修行をやめようとするのは勝手だが、元の世界への帰り方は見つけたのか?八雲紫に頼み込んで帰らせてもらうなんて方法を選ぶお前ではあるまい」

 

 

 神奈子のいう事はもっともだ。

 

 例え次元に穴を開けようとも、元の世界に上手く帰り着く可能性など僅かだろう。

 

 ベジータが紫のような超特殊な能力をこれから身に付けるか、それとも無理矢理次元に穴を開けてそこへ飛び込み、僅かな可能性に賭けるか今はこの二択しかない。

 

 しかし、そもそも次元に穴を開けられるほどの力を持ってないベジータが、今はさらに『力の封印』をしている状態である為、現状自ら帰る方法は皆無と言っていい。

 

 

「……そんな事はきさまらを1人残らずぶっ飛ばした後に考えればいい」

 

 

 言い終えると〝気〟の解放をするベジータ。萃香との闘いから僅かしか時間が経っていないにも関わらず、激しく熱く、そして重い闘志が場にいる全員のカラダに針のように突き刺さる。

 

 

『闘いは避けられない』

 

 

 ───と誰もが思った。

 

 

 

 

「本当に……闘うしかない、の?どうすれば……どうすれば……」

 

 

 武闘派ではないさとりは、この緊急事態をどうすれば武力以外で治められるか、を頭をフル回転して考える。しかし、嫌でも闘いしかないという気持ちが脳裏に浮かんでしまう。

 

 こんな場所でベジータと幻想郷の強者が闘りあえばどうなるかなど無知な子供でもわかりそうな話だ。

 

 

 

 

「無駄よ。さとり」

 

 

 さとりが頭の中を張り巡らせていると、誰かが右肩に優しく手を置いてきた。自分の右側を振り向くと、そこには霊夢が立っていた。霊夢は左手に軽く力を入れ、ゆっくりとさとりを後ろに下げ、反対に自分は前に出た。

 

 その顔は覚悟を決めた顔であった。さとりはその顔に見覚えがある。その顔は───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝異変解決をする時の霊夢〟だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこんなに早く再戦できるとは夢にも思ってなかったわ。

 

 またアンタと……いや、あの時とは違う。今回は本当に本気よ」

 

 

「そうしろ。死にたくなければな」

 

 

 

 以前も互いに向かい合った2人だったが、今回はその空気が違う。

 

 重い。誰も口を挟めない。2人の間にはそんな空気が漂っている。

 

 

 

「アンタ、前に言ったわよね?『誇り』がなんとやらって話。今回もその誇りってやつで動いてるんでしょうけど……言ったはずよ。

 

『その〝誇り〟とやらで幻想郷を滅茶苦茶にする時が来たら……私は躊躇なくそれを砕く』と。それが───今よ」

 

 

 

 

 お祓い棒を右手に、お札を左に持ち、それらを交差し構える。赤と青の霊力がカラダの中から溢れ出し、霊夢のカラダ全体を包み込む。

 

 

 

「さあ……行くわよ」

 

 

 

 〝幻想郷史上最悪の異変〟を解決すべく、巫女が立ち向かった。




はい、第63話でした。

この『ライバルを超えるために幻想入り』も間もなく3年目を迎えます。ここまで続けられたのはいつもご愛読してくださる皆様のおかげです。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

では、お疲れ様でした。


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【第64話】本気の巫女

この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

あけましておめでとうございます。


 

 

 

 

 

「いやぁ四季様、いくらなんでも私達には荷が重すぎるんじゃ……」

 

 

 赤い髪、赤い瞳、大きな背丈、そしてそれらの個性を差し置いてさらに人目を集めそうな巨大な鎌を肩にかけた少女が、頭を掻きながら映姫に言う。

 

 

「何ですか小町。貴方が気になるからと私に言ってきたんでしょう」

 

「それはそうなんですけど……」

 

 

 呆れ顔の映姫の側でまた頭を掻きながら少女は狼狽えている。

 

 

 彼女の名は小野塚小町(おのづかこまち)

 

 四季映姫・ヤマザナドゥの部下であり、種族は死神である。

 その可愛らしい見た目だけを見れば、誰もが死神だとは思わないであろうが、彼女が常に持っている大きな鎌を見れば納得せざるを得ないだろう。

 

 

 

 

 

 昨日の事だ。彼女は休憩もといサボり中に森でブラブラしている所、白黒の魔法使い・霧雨魔理沙を発見した。

 

 声を掛けようと右手を上げた瞬間、凄まじいスピードでもう1人現れ、2人は拳をぶつけ合い、そのまま再び超スピードで向こうへ行ってしまった。

 

 そのもう1人こそがベジータだった。

 

 小町は2人の戦いを眺めている内に、ベジータという存在が幻想郷にとって危険かも(・・)しれないと言うことを察知し、戦いが終わるまで傍観した後、映姫に報告をしたのだ。

 

 

 

「貴方の言う通り、このベジータという者は危険よ。直接会いにいって裁きを下す必要があるわ」

 

 

 浄玻璃の鏡で全てを見た映姫。これほどの罪があり、さらには外来人であるベジータを閻魔である映姫が放っておく筈がない。

 

 

「確かに腕が相当なのは確かですけど、さっきは浄玻璃の鏡で見た過去の彼のようなドス黒くて悪い感じには見えなかったんですよねぇ……もう少し様子を見るべきでは?」

 

「小町、この様なケースは一手遅れるだけで取り返しのつかないことになるわ。幻想郷の為にも私たちが動かねばならない」

 

 

 映姫の発言、行動は正義感の為だ。しかしそれは誰かに認めてもらいたいわけでも、褒めてもらいたいわけでもなく、幻想郷の為。

 

 己の立場からするとそれは当然ではあるのだが、彼女はその気持ちが他の閻魔よりも強い。

 

 

 良くも───そして悪くも。

 

 

 

「しかし直接会ったところでどうするおつもりですか?自分で言うのもアレですけど、私じゃ彼を取り押さえられませんよ?」

 

 

 小町はベジータと魔理沙の闘いを最後まで見届けた。それはつまり、ベジータの(スーパー)サイヤ人2を見たということだ。

 アレほど生体エネルギーに満ちた人間を小町は初めて目撃した。驚愕、そして同時に自分ではどうする事もできないという敗北感を味わった。

 

 

「地獄でも……見た事ない。あんな生き物は」

 

 

 目線を外しながら先程の感覚を思い出す小町。その際、肩を震わせている事に映姫は気付いた。

 

 死神である小町にここまで言わせ、若干ではあるが恐怖感を植え付けるほどの実力の持ち主。映姫は覚悟を持って決心した。

 

 

「小町、貴方にそんな重荷は背負わせないわ。貴方の役目は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ……行くわよ」

 

 

 お祓い棒を右手に、お札を左に持ち、それらを交差し構える。赤と青の霊力がカラダの中から溢れ出し、霊夢のカラダ全体を包み込む。

 

 

 

 

 

 小町の役目。

 

 

 それは能力を使い、幻想郷の強者を映姫の指定した場所に連れてくるという事だった。霊夢はもちろん、レミリアと咲夜、神奈子と諏訪子、さらには妹紅や慧音など。

 

 そして奇しくも妹紅以外はベジータと面識のある者達が集まった。

 

 

 

 

「覚悟はいい? ベジータ、私はアンタを止めるわ」

 

 

 ブラウンの瞳で睨みつけながら霊夢はそう言い放つ。魔力は徐々に上昇していき、完全な臨戦態勢へと突入していった。

 

 

 

 金色の〝気〟を己を周りに放出させながらベジータは霊夢の目をジッと見つめる。

 

 いつどの瞬間に飛びかかってくるかと集中して身構えている霊夢には、この時間がまるで永遠(とわ)のように思えた。

 

 

「……何よ。怖気付いた?」

 

 

 いつまで経っても動かないベジータ。そんな彼に痺れを切らした霊夢が以前闘った時のように軽いを挑発する。

 

 

「オレを〝止める〟と?」

 

「……は?」

 

 

 開口したベジータの言葉がよく理解できなかった霊夢は、戦闘中と言うことを一瞬忘れ、いつもの様な返答をしてしまった。

 

 

「オレを〝止める〟と言ったか?」

 

 

「……何よ。私じゃ無理だって言うの? 随分な自信───ッ!!!」

 

 

 

 返答中に金色の風が霊夢に襲いかかる。

 

 1、2、3とバックステップをした後、霊夢は超スピードで後方に下がり何とか金色の風から逃れた。

 

 

 

 急な攻撃────だと思った。

 

 

 しかしそれは攻撃ではなく、ベジータが荒らげたただの〝気〟である事に直ぐに気づいた。恐らく自分が言った事に対して、ベジータの気に障ったのだろうと即理解して、先程の倍くらいの距離をとった場所へ着地した。

 

 再びベジータの目を見る。すると、彼の目からは怒りに満ちたような、それでいて失望したような感情を読み取れた。

 

 

 

「この期に及んで〝止める〟だと!? 生ぬるい事を抜かすな! 

 

 オレを殺しにこいッ! 粉々になるまで攻撃してこいッ! 

 

 甘い考えを捨てろ。でなければ……

 

 そうなるのはお前だ博麗の巫女(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 霊夢だけではなく、その場にいた映姫以外。つまり神奈子、諏訪湖、レミリア、咲夜、そしてさとりが思わず唾を飲み込んだ。

 

 同時に、自分達が思っているよりもよっぽど大変な事態であるという事を改めて理解した。

 

 

 神奈子と諏訪湖は、目はしっかりとベジータに向けながらも小声で何かを話し始め、咲夜は盾の様になってレミリアの前に出た。

 

 

 

 

 

 

「だぁれがアンタの言うことなんて聞くっての。

 

 私は私の好きなように闘う! それだけよ!」

 

 

「夢想天生───!」

 

 

 

 

 今まで以上に集中しながら霊夢はそう呟き、霊夢は夢想天生を発動した。

 

 以前のように薄っすら半透明になり、攻撃を全く受けない状態になった。

 

 

 

 しかし、夢想天生は一度ベジータに破られている。そんな技をいきなり出すというのは普通に考えれば無謀で有るのだが、そんな悪手を霊夢がする筈もなく────

 

 

「これは……」

 

 

 前とは違い周囲に八つの陰陽玉が出現し、それらが霊夢を守るように回っている。

 

 一目見てわかった。以前の夢想天生、いや博麗霊夢は本気ではなかったという事に。

 

 

「人の事を甘いだの言ってるけど、自分はどうなの? 

 

 アンタ、もう私に勝てないわよ(・・・・・・・・・・)

 

 

 冷たい目をしながら、3メートルほど浮いてベジータを見下しながら霊夢はそう宣言する。

 

 その言葉がハッタリでも慢心でもない事に他でもないベジータだけがわかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あと少し……」

 

 

 2人の闘いを見つめながら小さな声でそう呟いた映姫。

 

 

 その映姫の言葉が聴こえていたさとりはその意味を考えたが、今この瞬間に理解するには至らなかった。




はい、第64話でした。

皆様お久しぶりです。
私の今年の目標は『去年よりも1話でも多く投稿する』です。

ではお疲れ様でした。


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