もしも友沢が投手を諦めるほどの天才の親友がいたら・・・ (八百屋財団)
しおりを挟む

出会いと始まり

初投稿です。どうぞお手柔らかにお願いします。


20YY年

 

 

 

春、それは出会いと始まりの季節。

 

リトルリーグチーム「アクアホエールズ」が使用しているグラウンドでも、新たな出会いと始まりがあった。

 

現在ホエールズはそれぞれに合わせた練習中である。

 

「ねえねえ」

 

「ん?なに?」

 

「さっき何か変化球投げてたけど、あれな~に~?」

 

そう質問するのは茶髪でタレ目な少年。グローブからしてピッチャーのようだ。

 

「スライダーだよ」

 

「すらいだ~?」

 

「そ、見てて」

 

そう言って構える金髪の少年。小学生とは思えないほどきれいなフォームである。

 

彼が放った白球は途中で滑るように曲がり、見事投球用ネットに食い込んだ。

 

「す、すごーい!」

 

「へへ、まあね♪」

 

おそらく初めてスライダーを見たのであろう。

直球が滑るように曲った事を茶髪の少年は驚きを隠せなかった。

そしてその驚き様を見て、金髪の少年は得意そうに笑った。

 

「今の変化球教えてよ!」

 

「いいけど難しいよ?」

 

「大丈夫!頑張れば出来る気がする!」

 

最初の緩やかな話し方はどこに行ったやら。

興奮した茶髪の少年はハキハキと話して、金髪の少年に教えを乞うた。

 

「じゃあ教えてあげるよ。え~と・・・」

 

「あ、もしかして名前覚えてないの~?」

 

「ごめんごめん、チームメイト多すぎて覚えてないんだ」

 

変化球を教えてもらう事になり、落ち着きを取り戻した少年たちは改めて自己紹介を始めた。

 

「僕の名前は雛壇祭(ひなだんまつり)。ポジションはピッチャーだよ」

 

「僕は友沢亮。同じくピッチャーだよ」

 

少年二人は互いの自己紹介の後に固い握手を交わした。

 

「「これからよろしくね!」」

 

 

 

後にこの出会いは「伝説の始まり」として多くの人に語られる・・・

 

 

 

数年後の現在。20XX年

 

 

 

春、それは出会いと始まりの季節。

 

帝王実業高校の校門前で並ぶ三人の少年も、新たな出会いと始まりを求めてここ来た。

 

「ここが名門・帝王実業か・・・」

 

三人の中で最初に口を開いたのは金髪の少年。

某芸能事務所に所属してても可笑しくないほど美少年で、纏う雰囲気からクールな印象を与える。

 

「な~んかワクワクするよね~、ここ来るの二回目だけど~」

 

次に口を開いたのは三人の中で一番背の低い茶髪の少年。

ふわりとした茶髪とタレ目。穏やかな雰囲気を持つ優しそうな少年だ。

 

「下見時にも思ったけどさ、やっぱ校訓とか校風とか厳しそうだよな。女子生徒とデートとかしたら怒られるかな~」

 

最後に口を開いたのは三人の中で一番背の高い黒髪の少年。

 

如何にも高校球児だと言わんばかりの黒髪の丸坊主。

小さい目に三枚目の雰囲気や発言からお調子者のように感じる。

自身の「明るい高校生活計画」に一抹の不安を感じている。

 

「はぁ・・・まったくお前は。学校についてまず心配するのが女子と仲良くなれるかとは・・・」

 

「まあまあリョウくん、ノリくんが女の子好きなのはいつもの事だし」

 

リョウくんと呼ばれた金髪の少年———友沢亮は親友の平常運手に呆れる。

 

「いやいや人生には潤いが必要だって!お前もそう思うだろ、マツリ」

 

ノリくんと呼ばれた黒髪の少年———奥居紀明は呆れ顔の親友に持論を主張しつつ、もう一人の親友に同意を求める。

 

「ん~?僕は今は野球だけでいいかな~?そう焦る必要もないし~」

 

マツリと呼ばれた茶髪の少年———雛壇祭は至ってマイペースで答えた。

 

「俺も今はそんな余裕も無いし、特に必要としてないな」

 

「か~!これだからイケメンは許せねえ!中身は天然とアイドルオタクのくせに、なぜオイラがモテないだ!?」

 

「そ~やって大声で妬むからじゃないの~?」

 

友沢の答えに奥居が嫉妬し、雛壇は正論を述べた。

クールな友沢、お調子者の奥居、穏やかな雛壇。

これまでのやり取りから三人は昔からの友なのが見てわかる。

 

「さていつまでも雑談をしてるわけにはいけないな。クラス分け見に行くぞ」

 

「また三人一緒のクラスだといいんだけどねえ~」

 

「オイラは別クラスがいいな、クラスの女子の人気が取られちまうぜ~」

 

奥居の「明るい高校生活計画」は、前提としてクラスに自分以上のイケメンが居ない事としている。

だが奥居自体が別にイケメンではない、良くも悪くも中の中といったところ。

本人は成功する事を一切の疑ってないが、この計画は最初から頓挫している事になる。

なので友沢は辛辣な言葉で友に無駄な努力と希望を抱かないようにした。

 

「安心しろ、俺たちが居なくてもお前の扱いは大して変わらない」

 

「ヒデェなおい!」

 

「ノリくんにはノリくんの魅力があるってことだよ~」

 

言い方は悪いがこれは友沢なりの思いやりである。

実際どんなクラスであろと、奥居のクラスでの扱いは「明るくて面白い人気者」に固定される。

過去9年間全てに置いてそのポジションを維持してきたベテランだ。

見方を変えればクラスの殆どから一定の評価を貰える魅力の持ち主とも言える。

その魅力を正しく理解している雛壇は、友沢の分も含めてフォローを入れた。

 

「なんだよ~オイラの魅力に嫉妬か?クラスの人気者に嫉妬か亮?ん?」

 

何を勘違いしたかここぞとばかりにどや顔する奥居。

 

「馬鹿の事言ってないで、いい加減クラス分け見に行くぞ」

 

スタッスタッスタッ・・・

 

「置いてくよ~?ノリく~ん」

 

スタッスタッスタッ・・・

 

奥居のどや顔を無視して先に進む友沢、どや顔してる奥居を不思議そうに見ながら後をついていく雛壇。

 

「っておい!っちょ置いてくなって!」

 

スタッスタッスタッ・・・

 

その二人を急いで追いかけていく奥居。

 

 

 

後に「伝説の黄金三世代」と呼ばれる世代の真ん中。

「友沢世代」を代表する天才達の伝説はこの日から始まった。

 

 




オリジナル設定① 天才オリ主 雛壇祭 モデル選手が三人いるオリ主。名前の元ネタは漫画キャラ。
オリジナル設定② 友沢のリトルリーグ時代という過去の捏造。これから先も独自設定の過去が出てきます。
オリジナル設定③ 何故か仲間入りしてる奥居。天才設定。コメディー担当。
オリジナル設定④ 帝王実業高校共学化。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

先輩と同級生

やったことのないパワプロの情報収集大変でした。サクセスキャラは複数作品出るからある程度情報集めないと下手に新キャラ出せれない・・・


20xx年 4月1週

 

帝王実業高校のグランドには、新入生も含めて全ての部員が集められていた。

今日この日から野球部の活動は解禁されるのだ。

 

「うわ~。流石に全員集まると凄い数だね~」

 

「おおよそ60人前後か。・・・この中でレギュラーに成れるのは数人だけだけどな」

 

「野郎の数を数えたって意味ないって!そんな事よりかわいい女子マネが何人いるかが重要だ」

 

広いグランドに多くの部員が集まってる状況に、

雛壇は素直に驚き、友沢は冷静にレギュラー争いの過酷さを判断し、奥居は女子マネを探していた。

 

「おい、あの三人って・・・」

 

「マジかよ、あいつ等まで帝王に来たのか・・・」

 

周りをキョロキョロする三人を見かけた瞬間、一部の新入部員がざわつきはじめる。

三人は慣れた様子で周りからの視線を無視する。

 

雛壇祭、友沢亮、奥居紀明。この三人はシニア出身者の間では有名人なのだ。

 

「今年は新入生だけで30近く来たからね、こんなに多く来たのは初めてだよね」

 

「もっとも毎年半数以上が退部しているがな」

 

様々な思いで周囲を見回してた3人に、二人の部員が話しかけてきた。

ユニオームの柄から上級生だと思われる。

 

一人は色白の肌に青い髪を後ろに流した細目の少年。人の好さそうな笑顔を浮かべている。

もう一人は帽子を目深に被り、帽子の影から鋭い眼光を光らせている少年。

 

「先輩たちはどなたですか~?あ、僕は雛壇祭です~。ポジションはピッチャーです~」

 

突然上級生に話かけられても至ってマイペースで自己紹介する雛壇。

 

「おっとこれは失礼。僕は蛇島桐人、二年生で()()()()()だ。ポジションはセカンドだよ、よろしくね」

 

「我は山口賢。二年生でここ帝王実業のエースだ!」

 

蛇島は丁寧に自己紹介し、山口は威圧感全開で答えた。

 

「友沢亮。ポジションはショートだ」

 

「奥居紀明!ポジションは外野っすよ~」

 

雛壇の隣にいた二人も流れで自己紹介を交わした。

 

「まさか去年の夏の甲子園で()()()4()まで連れてい行った功績で、例外的に一年で帝王のキャプテンになった「天才」にいきなり声をかけられるとは思わなかったですよ」

 

「いや~僕なんて他に適任が居なかったから、キャプテンになれたようなものだよ」

 

友沢は蛇島の功績を賞賛するが、どこか皮肉を感じる言い方である。

対して蛇島は一見する謙虚に見えるが、実際は現在の三年生を見下した言い方であり、プライドの高さと腹黒さが見え隠れしている。

 

「山口さんの噂も聞いてるっすよ!帝王事業高校歴代最高の()()エースって!まだ二年生なのに凄いですねえ~」

 

「フン、当然だ。今の三年など帝王野球部ではお荷物にすぎない」

 

目上のエースを前にしてヨイショする奥居。

だが山口は傲慢不遜に振る舞い、堂々と先輩たちを貶す。

 

それを聞いていたであろう三年生達は山口を睨むが、それだけで何もしてこない。

ここは帝王実業高校。完全実力主義の野球部である。

蛇島や山口が居なければ、甲子園に出場する事すら厳しいのは事実であったからだ。

 

「・・・ん~?」

 

若干空気が悪い中、マイペースを貫く雛壇は山口を不思議そうに見つめていた。

 

「全員!注目!」

 

各々が好き勝手喋っているグランドに大きな声が走り、全員が整列し注目する。

 

「よし全員集まっているようだな。吾輩が帝王野球部の監督。守木独斎だ」

 

まるでどこぞの独裁者のような容姿をした男である。ただしこう見えて選手思いだったりする。

 

「そして僕がキャプテンの蛇島桐人だよ」

 

蛇島は人の好さそうな笑顔で選手たちを見る。

 

「(うひゃ~厳しそう~)」

 

奥居は監督を見た瞬間そう思ってしまった。口に出さない当たり良識はあるようだ。

 

その後監督の演説がしばらく続いた。

 

「それではマネージャーを紹介する」

 

監督のその言葉に新入部員達が沸いた。かわいい女子マネを期待するのは男の性なのだ。

 

「2年生の瀬久維佳織よ。よろしくね新人ちゃんたち♡」

 

ルージュ色の髪にスタイルの良い体。女子高生とは思えないほど色香に満ちた少女である。

彼女が名乗った後、「パチリ」とウィンクするだけで歓声が上がる。

 

「うひょ~セクシ~♡」

 

奥居は彼女を見た瞬間そう思ってしまった。口に出す当たり正直のようだ。

 

その後もう一人のマネージャー兼二軍監督代理の丸田刀矢の紹介もあったが、

翌日には一部を除きほとんどの新入部員が彼の事を忘れていた。哀れなり丸田。

 

ちなみにだが帝王野球部ではプロ同じく二軍制を採用している。

一年生で二軍監督代理を任されている丸田は実は凄いのだが、

誰も特に気にしなかった。哀れなり丸田(二回目)。

 

「これより練習前の準備運動に入る。二人組を作ってまずはキャッチボールから始めよ」

 

その言葉を聞いた後マネジャー及びスタッフ達が選手たちにボール配り始める。

ある種当然のように佳織の所には長蛇の列が出来ていた。

代わりに丸田の所にはほとんど部員が並んでなかった。哀れなり丸田(本日三回目で猛打賞達成)

 

「ちょっといいかな?」

 

「ん~なんですか~?」

 

友沢と奥居が組んでしまい余ってしまった雛壇の元に一人の部員が話しかける。

藍色の髪の眼鏡を掛けた落ち着いた雰囲気の少年だ。

 

「君、ピッチャーだろ?キャッチボールの相手をして欲しいんだ」

 

「なるほど貴方はキャッチャーですね。よろしくお願いしま~す」

 

そして二人はキャッチボールを始めながら互いに話していく。

 

「僕は日下部卓也。守備にはちょっと自信があるキャッチャーだよ。よろしくね」

 

「僕は雛壇祭。全てに自信のあるピッチャーですよ。よろしくね~」

 

「ははっ、いきなり全てに自信があるって言うなんて。雛壇くんは自信家なんだね」

 

「ピッチャーは自信家の方が向いてますから~。それに日下部さんはちょっと謙虚過ぎますよ~」

 

二人は和やかに話しながらキャッチボールを続ける。

 

 

 

これが雛壇祭の最高の女房役。日下部卓也との出会いであった。

 

 

 

「次!その場で柔軟始め!」

 

今更言うまでもないが、体の柔軟性はあらゆるスポーツに置いて最重要と言ってもいい。

関節が柔らかいかどうかでパフォーマンス性に大きな違いが表れ、けが防止にも繋がる。

 

だが彼らはまだ高校生。当然体が硬い子もいるわけで・・・

 

「痛い痛い痛い!!そんな強く押すなよ!!」

 

「す、すす、すいませーん!!私、不器用でして!!」

 

新入部員の中で声が上がる。開脚前屈で背中を押しすぎたらしい。

 

「頼むぜ与志~。練習始まる前にケガとかシャレになんねーよ」

 

「はい!すいません!以後気を付けます!!」

 

前屈してる方は特に印象に残らない容姿だが、背中を押してる方は違った

赤い髪に鍛えられた大きな体に大きな顔。

ただしその見た目に相反して口調はとても気弱で腰が低い。

 

「ふ~ん」

 

そんな与志を見ながら、雛壇だけはどこか意味深に笑っていた。

 

柔軟が終わるとそのまま筋トレを行い、それが終わればランニングが始まった。

 

「全員!止まれ!」

 

監督の合図で部員全員が止まる。

ここまでの流れが帝王野球部における練習前の準備運動だ。

本来ならこの後個別練習なり全体練習なりが始まるのだが、今回は違うようだ。

 

「準備運動ご苦労。誰一人へばってなくて結構。もっともこの程度でへばっていたら退部させていたがな!」

 

名門野球部である帝王野球部には、最低限の体力すら無い者を受け入れる気はないのだ。

 

「これより三日後に開催される、帝王野球部名物「新入部員歓迎紅白戦」の説明を行う」

 




オリジナル設定⑤蛇島が既にキャプテン。養老孝はバッターとしてもキャッチャーとしても使えないのでリストラしました。
オリジナル設定⑥山口が同世代。そして左腕に転向。詳しくは友情タッグイベントで明らかになるかも?
オリジナル設定⑦佳織が帝王に入学。原作ではおそらく別の学校だと思われる。ぶっちゃけこの人の為に帝王を共学化させた。
オリジナル設定⑧日下部が帝王に入学。作者は彼が登場する作品をプレイしてないが、動画などでキャラは把握している。設定と能力が好みなので、悩んでた主人公の女房役に採用。やったね!卓ちゃん!念願の正捕手だよ!
オリジナル設定⑨与志剛志が帝王に入学。佳織が入学するので彼も採用。投手か野手か、同級生か後輩か最後まで悩んだ。結局は野手で同級生に落ち着いた。
オリジナル設定⑩新入部員歓迎紅白戦。詳しくは次回。王道野球を描きたかった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紅白戦準備とスラッガー

今回は完全に説明会。次回は互いの戦力分析等で、次々回がプレイボールの予定。


「し、新入部員歓迎紅白戦?」

 

奥居は聞きなれない単語にオウム返しをしてしまう。

 

「そうだ。ここ帝王野球部に入部してくる奴らは、中学時代に何らかの成績を残した者が多い。中には即スタメンも張れる奴もいるかもしれない。本来なら貴様ら新入部員は全員二軍スタートなのだが、この紅白戦で好成績を残した者は昇格定期試験を飛ばして即一軍入りさせ、場合によってはスタメン入りもあり得る。またこの試合で低成績でも退部にはせんから安心しろ」

 

「・・・・・・・・・」

 

監督の説明で新入部員達は一度静まり。

 

「うおーーーーー!!!」

 

一斉に歓声が沸いた。

 

「マジか!?マジか!?」

 

「この試合で活躍するだけで一軍入り!一年でスタメンも夢じゃない!」

 

「低成績でも退部じゃないんだ。安心して挑めるぜ!」

 

「よっしゃー!オイラの伝説はここから始まるぜー!」

 

破格とも言える昇格条件に新入部員の多くは歓喜する。ちなみに最後の発言は奥居だ。

 

「・・・浮かれてるな」

 

「悪い傾向だね~。()()()()何だろうけどね~」

 

多くは歓喜した。しかし一部の聡い少年たちはこの試合の別の意味を読み取っていた。

友沢は楽観的すぎるチームメイトに呆れ、雛壇は変わらぬマイペースで意味深な発言をこぼす。

 

「喜ぶのもそこまでにしとけ貴様ら。これよりワシらは上級生達を連れて一軍グランドに向かう。詳しい試合説明は丸田から説明がある。しっかりと聞くように」

 

そういうと監督は上級生をすべて連れて一軍グラウンドに向かった

 

 

 

「それでは皆さん詳しく紅白戦の説明をさせていただきます」

 

丸田は監督から預かった書類を片手に説明を始める。

要点をまとめると以下の通り。

 

・試合場所は一軍グランド。

・五回までやる。五点差でコールドあり。

・上級生チームこと白組は現在の帝王野球部スタメンメンバー。

・新入部員チームこと赤組は選抜メンバーがスタメン。

・赤組及び白組は事前に調べた情報を利用し、相手チームへの偵察を禁じる。

・日程は三日後の午前10時プレイボール。

 

「ではここまでで何か質問はありませんか?」

 

丸田は淡々と説明を終わらせ、質問を集める。

 

「は~い」

 

まずは雛壇が手を上げる。

 

「では雛壇さん」

 

「この三日間で僕たちは何をするんですか~?」

 

三日間とは絶妙な期間である。

十分な対策をするには時間が足らず。

付け焼き刃をするには足りる期間だ。

 

「いい質問です。この三日間で皆さんは能力測定とオーダー決めをやってもらいます。ここで測った結果は紅白戦後に監督に報告するので、皆さん全力でやってください。」

 

「わかりました~」

 

「他には?」

 

「はい」

 

次に手を上げたのは日下部だ。

 

「では日下部さんどうぞ」

 

「相手スタメンチームの情報が欲しいんだけど」

 

チームの指令塔であるキャッチャーにとって相手チームの情報は重要だ。

ただし最近だとそういう「頭脳派キャッチャー」が減っているのは悲しい事である。

 

「それは明日のオーダー決めの時に話します」

 

「それなら分かったよ」

 

「時間も押してるので最後に一人どーぞ」

 

「はい!」

 

最後に手を上げたのは奥居。

 

「・・・では奥居さんどうぞ」

 

丸田は少し嫌そうな顔をする。何を言うのか予想がついてるからだ。

 

「向こうのチームには瀬久維さんがいるけど、こっちには女の子はいないの!?」

 

「居ないです」

 

丸田、安定のセメント対応。予想通りの質問であったからだ。

 

「ちくしょーめ!」

 

「それはあなたじゃなくて監督でしょう。いいから能力測定しますよ」

 

むなしい叫び上げる奥居をよそに、丸田と新入部員達は準備を始めた。

 

 

 

能力測定は5つの分野に分かれる。

フリーバッティング(打力)、ノック(守備力)、100m走(走力)、遠投(肩力)。

そして実際にバッターとピッチャーとキャッチャーを揃える実践練習である。

 

フリーバッティング

 

ピッチングマシン「球青年」が放つ10球をどれだけ打てるかという練習。

「球青年」は130~140km/hのストレートと変化の低いカーブ,スライダーを放つ。

 

「貰ったー!」

 

カキーーーン!

 

奥居 10球10安打2本塁打でパーフェクト。

 

「甘いな!」

 

カキーーーン!

 

友沢 10球10安打4本塁打でパーフェクト。

 

「打撃も得意だよ!」

 

カキーーーン!

 

雛壇 10球8安打

 

「あの三人は凄いな、僕もアレだけ打てればな・・・」

 

日下部 10球4安打

 

「くそー!亮に負けちまった」

 

「10球勝負だからな、俺が有利なルールだった」

 

「打率だけならノリくんのが上だしね」

 

友沢に負けて悔しがる奥居とフォローする雛壇。

他の新入部員を突き放す好成績を残した3人は、まだまだ余裕そうである。

 

「ん?亮くんノリくん」

 

「なんだ?」

 

「どうかしたか?」

 

「あの人・・・・」

 

二人を呼んだ雛壇は一人の人物を指さす。

赤い髪に鍛えられた大きな体に大きな顔。

ただしその見た目に相反して口調はとても気弱で腰が低い。

柔軟で力を入れ過ぎた少年、与志剛志であった。

 

「亮くんよりもホームラン打つよ」

 

「何だと?」

 

普段の伸びきった言葉でなく、短く確信を持った言葉である。

その言葉を聞いた友沢は自然と与志への視線を強める。

三人が注目する中、ピッチングマシーンは球を放つ。

 

「フンッ!!!」

 

カッキーーーーーン!!!

 

与志 10球6安打6本塁打

 

「ふう・・・」

 

フリーバッティングを終えて一息、そんな与志の元に三人が近寄る。

 

「お見事。豪快なフルスイングだったぜ!」

 

「え?あ、どうも」

 

「全球フルスイングで6割とは、間違いなく天性のスラッガーだな」

 

「あ、ありがとうございます?」

 

突然奥居と友沢の二名に称えられて困惑する与志。

 

「お疲れ様~。僕は雛壇祭。ポジションはピッチャー。よろしくね~」

 

「えーと、与志剛志です。ポジションはファーストと外野です。よろしくお願いします」

 

変わらずマイペースで自己紹介をする雛壇。

話の主導権を握るのが上手いのかもしれない。

 

「友沢亮。ポジションはショートだ」

 

「奥居紀明。ポジションは同じく外野だ!」

 

さっきと同じく自己紹介する二人。

 

「ところで与志くんはどこの中学で野球やってたの?あれほど凄いスイングなのに全然噂を聞かないけど~?」

 

「いや私は」

 

「そこの四人!次はノックに移りますから早く移動してください!」

 

雛壇の質問に対して与志が答えようとしたが、二軍監督代行の丸田が移動を急かしたため、この質問の答えを知るのは紅白戦の後である。

 

 

 

与志剛志。後に歴代帝王野球部の最強のスラッガーの一人に数えられる人物であるが、

今は体は大きく気が小さい、探せばどこにでもいるような少年である。

彼の才能が完全に開花するのはもうしばらく先の出来事である。

 




オリジナル設定⑪新入部員歓迎紅白戦による昇格。紅白戦については次回についても書きますが、「即戦力を一軍入りさせる」も理由の一つです。プロならともかく、アマで金の卵を二軍で時間かけて煮るのはナンセンスです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ミーティングと目標

日付が変わる前に書き上げたかった・・・(´・ω・`)


帝王野球部第二ミーティングルーム

 

帝王野球部に与えられたミーティングルームに、

新入部員総勢29人(マネージャー込)がこの部屋に集められていた。

 

紅白戦に置ける紅組監督を任された丸田は、

全員が集まっていることを確認してからホワイトボードの前に立った。

 

「ではこれから中学時代の成績と昨日の能力測定の結果を元に、明後日の試合のオーダー決めと対策を練りたいのですが・・・」

 

丸田はとある一点に目を向けると言葉を止めた。

 

「・・・はぁ」

 

わざとらしくため息を吐き

 

「いつまで落ち込んでるんですか奥居さん?」

 

ズーンっと効果音が付きそうな程落ち込んでいた奥井に聞く。

 

「負けた・・・完敗だ・・・リードが鬼すぎる・・・」

 

実践練習での奥居の相手は雛壇と日下部のバッテリー。

成績は10球無安打6三振。

文句のつけようがない完敗である。

 

「まああのバッテリーは初見だとかなり厳しいな。相性が良すぎる、さらに奥居も油断してたしな」

 

流石に見てられなくなったか、一応はフォローをいれる友沢。

 

友沢 10球3安打3三振

 

「なんか・・・ごめんなさい私も打っちゃって・・・」

 

あまり落ち込み具合に、とりあえず謝ってしまう与志。

 

与志 10球1安打1本塁打8三振

 

「当てられるだけマシだろ~」

 

「そうそう俺らなんて酷いもんだぜ~」

 

完敗故にいっそ清々しいと割り切る事にしたその他の新入部員。

 

雛壇と日下部のバッテリーを相手にしたその他の新入部員 10球無安打10三振

 

「いや~日下部君のリードに助けれまくりだよ~」

 

「いやいや雛壇君の変化球とコントロールがあってこそだよ。・・・これが一流か(ぼそっ」

 

思わぬ好成績に上機嫌の雛壇と日下部。

ただし日下部は何か思うところがあるようだ・・・。

 

そのまま和気藹々とお喋りを続ける部員達。

しかし本来なら今は会議の時間のため・・・。

 

「いい加減にしないと適当にオーダー決めて提出しますよ」

 

当然丸田がキレかけた。

 

「「「「「ごめんなさい」」」」」

 

入部以来初めて新入部員一同の心と言葉が一致した。

 

 

 

 

「ではまず白組戦力について説明します。」

 

そう言って丸田は2枚の写真をホワイトボードに張り付ける。

 

「上級生なだけあってスタメンの総合力では白組が勝ってます。特に特筆すべきはこの二人です。エースの山口賢先輩と、4番にして「帝王」の蛇島桐人先輩です。」

 

「「帝王」?蛇島先輩はキャプテンじゃねないのか?」

 

「その通りです日下部さん。ここ帝王野球部では最強=帝王=キャプテンという法則が成り立ってます。部内最強の選手が「帝王」の座に君臨出来るです」

 

日下部は素直な疑問を質問し、丸田は質問を丁寧に返した。

この時奥居は自分の時との対応の違いに少しショックを受けるが、今は関係ないので置いておく。 

 

「エースの山口先輩は左投げで世にも珍しいマサカリ投法の使い手です。140km後半のストレートに、プロでもいないレベルの落差を誇るフォーク。あとたまにカーブを使います。」

 

「マサカリ投法とは・・・珍しいですね~」

 

「・・・投球フォームの珍しさで言えば雛壇さんも変わらないと思いますが?」

 

「僕は憧れの選手を真似ただけだよ~。投手なら誰もが通る道だね~」

 

「まあいいでしょう。山口先輩はストレートとフォークの組み合わせて、一年生でありながら甲子園ベスト4まで登りつめた怪物です。決して油断なさらぬように」

 

丸田の説明でミーティングルームの空気は重くなる。

果たしてこの怪物の球を打てるのか?

ここにきてようやく部員達は自分たちの考えが楽観的であった事に気が付いた。

 

「次に「帝王」の蛇島先輩について説明します。ポジションは二塁手で、走攻守全てに優れたオールラウンドプレイヤーです。特に守備に関してはプロクラスと言われ、右翼方向のヒットはほぼ出ないと思ってもらって構わないです。打撃も一級品でアベレージヒッタータイプですね」

 

「うちのチームなら俺か亮みたいなタイプか」

 

「その通りです・あなたはまともな発言も出来るのですね」

 

「ヒドイぞおい!」

 

丸田の説明に奥居は真面目な感想を出すが、

今までが今までなだけに扱いが悪かった。残当。

 

「さすが全国ベスト4のチーム。簡単には勝たせてくれなさそうだな」

 

「まあ最後は僕らが勝つけどね~」

 

改めて相手チームの強さを再認識して気を引き締める友沢。

その強さを聞いた上で勝利宣言する雛壇。

 

「お、お二人はあの説明を受けて、なぜそこまで余裕なのですか?相手は上級生で全国ベスト4のチームなのですよ?」

 

説明を受けてむしろやる気を出してる二人に与志が問う。

最初にどもったあたり、まだ完全には打ち解けられてないようだ。

 

「それは」

 

「当然」

 

「決まってるじゃん!!!」

 

友沢、雛壇、そして奥居は言葉を繋げ、

 

「「「目標は全国優勝だからだ!!!」」」」

 

声を揃えて「夢」を語った。

 

「そのために()()()4()()()()()()に止まってられん」

 

「少なくともそのチーム以上の相手が3チームはあるんだよ~」

 

「ここで負けてちゃ、そいつらにも勝てねえってわけだよ!」

 

「「「だから勝つ!絶対にな!」」」

 

それが三人の目標の為に必要だから。

だから彼らが宣言するのだ。

 

「ははは、そこまで熱く語られては退けませんね。私も微力を尽くします」

 

三人の情熱にまずは与志が共感し、

 

「僕も付き合わせてもらえないか、打つのは苦手だけど、出来る事はあると思うんだ」

 

続いて日下部も共感し、

 

「俺も俺もー」

 

「お前らばっかにカッコつけさせるかよ」

 

「皆で勝とうぜー」

 

他の新入部員全員が共感した。

 

「(黄金時代の幕開けとはこのようなものかも知れませんね・・・)」

 

一人冷静に話を聞いて丸田も、口に出さなくとも共感はしていた。

 

「よっしゃー!皆!紅白戦勝つぞー!」

 

「何でお前が仕切るんだよノーヒット野郎(笑)」

 

「うるせーお前らも一緒だろうがー!」

 

「「「ワハハハ」」」

 

最後に奥居が仕切ろうとするが、茶々入って出来ず、部屋は笑いに包まれた。

 

「では最後に俺が。紅白戦勝つぞ!」

 

「「「オー!!!」」」

 

「何で亮の時はやるんだよ!」

 

「器の差じゃない?」

 

「ゴッフッ!?」

 

今度は友沢が仕切り、皆がそれに乗った。

奥居はそれに文句を言うが、親友の辛辣な言葉で沈められた。

 

 

新入部員歓迎紅白戦の紅組。

彼らは「夢」を胸に、青春を満喫していた。

 




友沢のキャラがなんか違うかもしれませんが、親友二人と付き合ってノリが良くなったと思ってください。

次回はプレイボールと書いたな。アレは嘘だ。
ごめんなさい。書いてたらなんか予想以上に書きたい展開が増えたので、プレイボールは次々回になります。・・・たぶん。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雪辱と帝王

本日はお休みなので急ピッチで書き上げました。これが感想ブーストか・・・


雛壇たちが新たに決意を固める30分程前。

 

帝王野球部第一ミーティングルーム

 

帝王野球部に与えられたもう一つのミーティングルームに、

2・3年生部員総勢32人(マネージャー込)がこの部屋に集められていた。

 

帝王野球部監督を任せらている守木監督は、

全員が集まっていることを確認してからホワイトボードの前に立った。

 

「これよりミーティングを開始する。全員!起立!」

 

ガタッ!

 

監督の号令で部員全員が一斉に立ち上がり姿勢を正す。

 

「よろしくお願いします!」

 

「「「よろしくお願いします!!!」」」

 

蛇島の号令で部員全員が大きな声を張る。

 

「よし!全員!着席!」

 

ガタッ!

 

最後に監督の号令で再び席に座る。

紅組とは違い何処までも統率された動きであった。

帝王野球部の厳しさを表し、同時にチームとしての一体感を感じさせる。

 

「さて今回の新入部員歓迎紅白戦だが・・・、はっきり言えば今年の紅組は()()()()

 

話し始めた監督の顔は険しいものだった。

監督は3枚の写真をホワイトボードに張り付ける。

写真の上には赤文字で「重要人物」と書かれていた。

———そこには与志や日下部の写真は無かった。

 

「友沢亮、奥居紀明、そして雛壇祭。今年の紅組はこいつらが中心と言っていい。今年入部した他の奴らは大したデータ(成績)は無かったからな」

 

「まずは友沢亮。走攻守と全てに優れたオールラウンドプレイヤー。特にバッティングに関しては飛びぬけてると言っていい。アベレージヒッターとパワーヒッターの両方の特性を持っており、状況によって使い分けられるという天才だ。瀬久維、資料を配れ」

 

「はい」

 

マネージャーの瀬久維は資料を配り始める。

 

「配られた奴から資料を見ろ。奴のシニア時代の成績だ」

 

部員全員が配られた資料を読み始めた。

 

「嘘だろ・・・」

 

「コイツ本当に中学生かよ」

 

その成績に驚き、数名の部員が声を漏らす。

 

「驚くのはまだ早いぞ。ページを捲れ、次は奥居紀明だ」

 

監督の言葉に部員達は次のページを捲った。

 

「奥居紀明。友沢と同じく走攻守と全てに優れたオールラウンドプレイヤー。特に盗塁及び走塁技術に優れている。典型的なアベレージヒッタータイプだが、先頭打者本塁打を打った事もある。打点・本塁打では友沢が上だが、打率・盗塁数では奥居が上だ。もし奥居が居なければ友沢は中学で三冠王に成れたかもしれないな」

 

監督の言葉が終わると、ミーティングルームに重い空気が流れる。

二人の成績はどう見ても中学生レベルでは無かったからだ。

 

「さてここまでが()()だ」

 

「「「「!?」」」

 

監督が再び開いた口から出た言葉に、部員全員が例外無く驚く。

 

「先の二人も大したものだが、こいつに関してはもう一段上だ」

 

そう言って監督は一枚の写真を指す。

 

「雛壇祭。右投げで中学生でありながら最速145kmのストレートを投げる。変化球はスライダーと縦に落ちるスライダー、通称Vスライダーを使う。どちらも変化量・キレともに超高校レベルと言っても良い。またスカウトからの情報によると、少し投球フォームが独特らしい。さらにこいつを語るうえで外せなのは・・・」

 

一度息を吸い、改めて口を開く。

 

「シニア最後の試合でノーヒットノーランを達成した。しかもその試合は四球数0だった。事実上完全試合未遂と言っていい」

 

監督のその言葉で空気はさらに重くなった。

シニアでノーヒットノーラン及び完全試合未遂。これはまだいい、

甲子園で怪物と呼ばれるピッチャーはそういった経験を積んだ者は多い。

だが最大の問題は怪物級の投手に、二人の天才打者が加わった打線が同じチームである事だ。

 

「さてここまでの説明で貴様らも気づいただろう」

 

説明を終えた監督は選手たち全員を見渡す。

 

「今回相手するのは新入部員という生ぬるい相手ではない。間違いなく甲子園出場を果たせるチームと互角と言って良い。決して油断することなく迎え撃つぞ」

 

監督は雛壇達新入部員を正しく評価してた。

この紅白戦は優秀な新入部員を早々に上げる試験でもあるが、

同時に格下相手に足元をすくわれないように、

スタメンの気を引き締めるために行われるのだ。

 

「大丈夫ですよ監督。僕たちは帝王野球部、最近まで中学生だった奴らに負けるつもりはありません」

 

重い空気が続く中、口を開いたのはキャプテンの蛇島だ。

 

「その通りだ、夏と春の大会で我らは全国優勝を果たせなかった」

 

次に口を開いたのはエースの山口。

 

「アンドロメダ学園のエースは引退し、雪辱を果たせなかったが、あかつき大付属の黄金世代は今年が最後なのだ。最も仕上がった奴らを倒してこそ我らが最強だと示せるのだ!」

 

普段と変わらぬ尊大な態度で仲間を鼓舞する。

 

「そうだそうだ!」

 

「一年何かに負けられるか!」

 

「帝王の厳しい練習の成果を見せてやるぞ!」

 

山口の鼓舞に呼応し、重い空気が流れてたミーティングルーム「に闘志」が宿った。

 

「(男の子よね、こんなに熱くなれるんだから。まあそこがカワイイのだけどね♡)

 

マネージャーの瀬久維は部員達の「熱さ」が羨ましく、

そしれ愛らしく思え、笑顔になってしまった。

彼女は見た目だけでなく、内面も成熟してるようだ。

 

「よし貴様らのやる気は分かった。中学で好成績を残して天狗になっている奴らに、全国最強クラスの帝王の強さを見せてやれ!」

 

「「「はい!!!」」」

 

最後に守木監督の激励でチームは一丸となった。

かつて雪辱を果たす為に彼らは負けてやるつもりなど無いのだ。

 

 

新入部員歓迎紅白戦の白組。

燃える「闘志」を抱き、彼もまた青春を満喫していた。

 




オリジナル設定⑫アンドロメダ学園の設定改変。具体的には大西が既に強化済みで山口の二歳年上になってます。山口の左腕転向が早まったためこうなりました。ちなみに大西と山口は原作通り知り合いです。
オリジナル設定⑬あかつき黄金世代が友沢達の二歳上に。これにより猪狩達が主人公たちの一歳上になります。つまり雅ちゃんが主人公たちより年上扱いに・・・

次回はいよいよプレイボール!

追記

ちょっと抜けてた文があったので足しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

メンタルと危機

試合展開めっちゃ悩んだ。だけど案外書いて内に思いつくものなんやねって。


帝王野球部一軍グランド

 

帝王野球部に与えられた一軍グラウンドはプロチームのグランドこそ及ばないが、

アマチュアが扱うグランドの中ではトップクラスの設備を誇っている。

ただしそのグランド内に入れるのは一軍選手及び指導者。そしてスカウトである。

唯一の例外として「新入部員歓迎紅白戦」のみ二軍選手も入る事が出来る。

 

新入部員歓迎紅白戦。

この紅白戦には三つの意義がある。

 

一つ目は即戦力の一軍入り。

設備と指導力、対戦相手にチームメイトもハイレベルな一軍で早期から育てるという事。

 

二つ目はスタメンの意識を高める。

スタメンに座ってるメンバーに新戦力をぶつける事で、ポジション争いを意識させる。

また格下相手への慢心癖や油断をしないようにするという事

 

そして三つ目は新入部員の()()()()()()である。

この紅白戦は紅組には一切のデメリットはない。

出来なくても仕方ない、出来たら幸運と努力の結果だと思う。

そうゆう状況に陥ると人は慢心する。故に普段の実力さえ出せない。

たださえ戦力的に劣っているというのに、慢心でさらに劣化する。

歴代の紅白戦の勝敗はほとんどが紅組の惨敗という形で終わる。

この紅白戦で結果を出せなかった、、或いは出場すら出来なかった二軍選手。

彼らはそのまま二軍で三年を過ごしたり、野球部をやめてしまう者も多かった。

彼らは実力よりもメンタルが弱かった。だから()()された。

 

スポーツに限らず、あらゆる競技においてメンタルの強さは重要である。

特にチームプレイは周りの感情に左右されやすい。

苦境で一人が諦めれば、他の人間の心境にも諦めがよぎるのだ。

故に紅白戦は選手の実力だけでなく、苦境や好機に対する精神の強さを測る試験なのだ。

 

ただしこの紅白戦には一つの欠点がある。それは—————

 

 

 

「これより新入部員歓迎戦を始める。両チーム、礼!」

 

「「「宜しくお願いします!!!」」」

 

挨拶のあと、両チームともにそれぞれの位置へと動く。

 

「雛壇君」

 

「は~い」

 

先攻後攻を決めるじゃんけんの結果、後攻になったためベンチに戻ろうとした雛壇に蛇島が話しかける。

 

「君達は中学では大した記録を残したみたいだけど、高校ではそれは通じないという事を教えてあげるよ」

 

口調こそ丁寧だが、それは挑発であった。

 

「それは勝利宣言ですか~」

 

「ハハハ、そうなるかもね。少なくとも僕は全打席ヒットを打つつもりだけどね」

 

「そ~ですか~」

 

雛壇はいつもと変わらぬ笑顔と、穏やかな雰囲気を纏っている。

 

「なら蛇島先輩には()()で投げますね」

 

一瞬だけ真剣な顔をし、ベンチへと走っていった。

 

「本気で投げるか・・・(生意気だなアイツ・・・)」

 

蛇島は普段と変わらぬスマイルを張り付けたまま、

内心では少し苛立っていた。

 

 

 

 

「プレイボール!」

 

主審の言葉で試合は開始された。

 

マウンドにいるのは当然白組エースの山口。

対する紅組一番バッターは奥居だ。

 

「さてまずはお前から打ち取ってやる」

 

「おーおー、こえ―こえ―」

 

マウンドに上がった山口は普段の倍増しで威圧感を放っている。

そんな山口に対して奥井は軽い口調であった。

 

「まずはこれだ」

 

山口は投球姿勢に移る。

大きく足を上げ、腕を足の裏に隠れるよう地面ギリギリまで下げ、そこから振り下ろすに投げる。

その姿はまるでマサカリを振り下ろすように見える事から・・・。

 

「うっ」

 

バシンッ!

 

「ストライークッ!」

 

マサカリ投法と呼ばれた。

内角の球を見逃し、ワンストライク。

 

「なるほど、こりゃすげーな」

 

「どうした怖気づいたか?」

 

「まさか~、次は当てますよ」

 

「やってみろ!」

 

軽い問答を交わした後再び投球姿勢に移る。

 

「(確かに速いけど、祭に比べればやりやすいぜ)」

 

山口が放ったストレートを、

 

「そこ!」

 

カキンッ!

 

奥居は二球目で捉えた。

 

「何!?」

 

驚きの表情を見せる山口。

打球は投手の横を抜けてセンター前ヒットとなった。

 

「っち。本当はもっと球数削りたかったんだけどな」

 

「ナイス~ノリく~ん」

 

苦々し気な表情を浮かべる奥居。

彼としては一番バッターらしく相手の球を入念に調べたかったようだ。

しかしベンチからは賞賛はあがった。

この紅白戦は五回までの短期決戦な為、一点の重みが多きいのだ。

 

「さてそれじゃあ予定通り行こうか」

 

続いて紅組二番バッターは日下部。

 

「フン!」

 

山口は先ほどいきなりヒットを打たれたせいか、先ほどより投球に力が入っている。

 

「うわっと!?」

 

バシンッ!

 

山口の剛速球の前に日下部はバットを振り回し、腰が引けて倒れてしまった。

情けない姿だろう、しかし仕事はこなしてた。

 

「随分と情けな「里崎!早く投げろ!」!?」

 

「しまった!」

 

白組捕手の里崎は二塁へと送球する。

山口が投げると同時に奥井は一塁を走り出していた。

 

「遅すぎるってーの」

 

しかし里崎が投げだした時にはすでに奥井は二塁に到達してた。

奥居の俊足と日下部のスイングアシストでノーアウト二塁。

 

「うまく行ってよかったです」

 

日下部は一仕事終えたという表情でバッターボックスに戻る。

 

ノーアウト二塁。この状況で二番バッターが行うのはほぼ間違いなく。

 

「もう一仕事行きましょうか」

 

日下部はバントの構えをした。

 

「ッチ!」

 

小賢しいと言わんばかりに山口は剛速球を投げる。

それと同時に内野陣も前進する。完全なバント対策だ。

ただし同時に奥井も走り出す。

 

「残念はずれです」

 

そう言って日下部はバントの構えを解き、ボールを打ちに行く。

 

「バスターだと!?そんな小細工で我の球が打てるか!」

 

驚きながらも怒る山口。

 

「ええ打てませんよ」

 

空振りながらも笑う日下部。

 

バシンッ!

 

ボールがミットに収まる音が響く。

 

「後はサードに・・・って何!?」

 

里崎はサードに球を投げようとするが、すでに奥居は到着していた。

 

「これぐらいは余裕だぜ」

 

「日下部君ナイスアシスト~」

 

余裕そうに笑う奥井を睨みながら、

山口はミーティングルームで見た奥井のとある記録を思い出した。

 

奥居紀明 シニアの試合にて歴代最多となる、一試合で8個の盗塁を決めた「韋駄天」。

 

「中学レベルだと侮りすぎていたか・・・」

 

山口は自身の過ちを戒め、投球をやり直す事にした。

冷静になった山口相手とスクイズ警戒する内野陣。

日下部はあっさりと打ち取られてしまい、ワンアウト三塁。

 

「さてまずは一点だね~」

 

次に迎えるはクリーンナップ。三番雛壇の打席である。

 

 

 




紅白戦は3~4話の予定。一回の文章量が少ないから長くなる。執筆時間が欲しい(切実)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エースの意地と魔球フォーク

(花粉症が)辛いです。春が好きだから。


帝王野球部一軍グランド

 

帝王野球部名物である新入部員歓迎紅白戦。

現在の状況は0-0のワンアウトランナー三塁。

三番雛壇の打席である。

 

「よろしくですよ~」

 

「フン!」

 

好機を前にして余裕綽々という表情の雛壇。

それとは対照的に危機に瀕している山口だが、その表情は歪んではいなかった。

 

「もう慢心はせん」

 

追い込まれたことで逆に冷静さを取り戻した山口は、

投球姿勢に移り、球を投げた。

 

バシンッ!

 

「ストライークッ!」

 

外角低めに投げられたストレートを雛壇は見逃す。

 

「・・・」

 

雛壇は無言で再びバットを構える。

明るくお喋りな雛壇には珍しく真顔で無言だ。

 

「(我の球で怖気づいた?いやそれはあり得ん)・・・フン!」

 

雛壇の反応を気にしながらも球を投げる。

投げられた第二球のコースは内角高めのストレート。

その球を雛壇は・・・

 

「駄目ですね」

 

思いっ切り引っ張った。

打球はレフト方向に大きく飛び、

 

「ファール!」

 

ホームランかと思う程の特大ファールとなった。

 

「山口先輩」

 

「なんだ?」

 

バッターボックスから雛壇は山口に語り掛ける。

 

「あなたの決め球はフォークボールだと聞いてます。なのにここまで投げた球は全てストレート」

 

「・・・」

 

メットの下から見せる表情は心なしか怒っているようだ。

 

「いい加減出し惜しみは止めましょうよ、じゃないと次は場外まで飛ばしますよ?」

 

雛壇は怒っていた。たとえこの試合が公式戦とは違う試験的なモノだとしても、

クリーンナップ相手に手を抜くという事は、一人の「エース」として許せなかった。

 

「すまなかった、どうやらまだ慢心してたらしい」

 

「いえいえ良いですよ~。本気の勝負の方が楽しいですし~」

 

山口は自身の行いを素直に反省し、雛壇もいつもの口調に戻った。

 

「ならば打ってみろ、これがプロレベルのフォークだ」

 

山口は投球姿勢に移る。

大きく足を上げ、腕を足の裏に隠れるよう地面ギリギリまで下げ、そこから振り下ろすように投げる。

マサカリ投法。かつての大投手の決め球もフォークであった。

 

「フンッ!!!」

 

投げられた球は先ほどのストレートよりも球威があるように見えた。

どうやら本当に本気になったらしい。

その本気を感じ取り、雛壇も宣言通り大振りする。

 

投げられた球は途中までストレートと同じ軌道を描き、

打者の手元で地面擦れ擦れまで急降下した。

 

「こ、これが・・・」

 

バシンッ!

 

「ストライークッ!バッターアウトッ!!」

 

雛壇はその球を打てず空振り。

 

「覚えておけ、これが帝王の「エース」の力だ!」

 

山口は誇らしく笑った。

 

 

 

 

 

「ごめん亮くん、打てなかった。」

 

「気にするな祭。あのフォークを引き出してくれただけ十分だ」

 

落ち込みながらベンチに戻る雛壇と、

親友を励ます友沢。

 

「悪いが先制点と祭の敵を取らせて貰うぞ」

 

「リョーウ!あのフォークマジでやべーぞ!」

 

もう一人の親友の忠告とも激励とも、

どちらとでも取れるような取れないような言葉受けて、

少し苦笑いしながら打席に立つのは四番友沢。

 

「安心しろお前も雛壇と同じく打ち取られるだけだ」

 

挑発をしながらも山口は投球姿勢に移り、投げる。

 

「なっ!?」

 

バシンッ!

 

「ストライークッ!」

 

初球から内角高めにフォーク。

高いボールゾーンからストライクゾーンど真ん中に落ちた球は、

本来なら簡単に打てた球だったが、見逃し。

様子見で一球無駄にした形となった。

 

「どうした打たないのか?」

 

「・・・次は当てますよ」

 

山口の挑発を受けるも冷静に受け流す友沢。

 

「フン!」

 

今度は外角やや高めに投げられた第二球。

 

「っ!(このフォーク、()()()()()()()!)」

 

バシンッ!

 

「ストライークッ!ツー!」

 

またもフォークで、今度は空振り。

カウントはツーストライクツーアウト。早くも追い込まれてしまった。

 

 

 

 

 

紅組ベンチ

 

「そんな、あの友沢が追い込まれるなんて・・・」

 

「やべえよ・・・」

 

「友沢が打てないんじゃ俺らも打てないじゃん・・・」

 

絶対的四番である友沢が打ち取られそうになって、

ベンチにいるチームメイトが騒ぎ始める。

 

「・・・凄いですねあのフォーク」

 

「僕も落ちる球使いますけど~、あそこまで大きく変化しないですね~」

 

そんな中、日下部と雛壇は冷静に情報を集めていた。

 

「実際に打席に立ったけど~、あのフォークに関しては一言だけ言えますね~」

 

「・・・それは?」

 

最初に山口のフォークを受けた雛壇はとある結論に至った。

そしてその内容を日下部は問うた。

 

「あのフォークは初見じゃ絶対打てません。まさに「魔球」ですね」

 

 

 

 

 

「さてこれで終わりだな」

 

山口は投球姿勢に移る。紅組の好機を潰す為に。

 

「(わかっていても打てない。なんだこのフォークは!?()()()()()()()()()())」

 

焦る友沢にかつての苦々しい記憶が一瞬だけ走るが、

今は思い出に浸る時間もなかった。

 

「フン!」

 

山口が投げた第三球の軌道はまさかのど真ん中。

ストレートならこのまま真ん中を突き進み、

フォークならストライクゾーンギリギリまで急降下する。

 

「(狙いはストレートだ!)」

 

二者択一。友沢が選んだのはストレート。結果は・・・

 

 

 

 

 

バシンッ!

 

「ストライークッ!バッターアウトッ!!チェンジ!!!」

 

投げられたのはフォーク。

まさかのど真ん中、まさかの三球連続フォーク。

山口の意地に軍配が上がった。

 

「これから先、お前たち一年に一点もやらん!」

 

完封宣言を堂々と言うその姿は、名門野球部の「エース」に恥じない姿だった。

 

 

 

 

 

「すまん打てなかった」

 

「気にしないで、まだ次があるよ~」

 

「そうだぜ、ここで抑えて、次のオイラの打席でドカーンと一発決めちゃうよ」

 

「・・・ありがとう二人とも」

 

 

 

 

 

「プレイボール!」

 

主審の言葉で試合再開。

一回裏、マウンドに上がるは紅組エースの雛壇。

 

対する白組一番バッターはセンターのレギュラーの赤星だ。

 

「行きますよ~」

 

「(なんだこいつ、本当にあの成績を残した投手なのか?まるで覇気を感じねえぞ・・・)」

 

いつもと変わらぬ穏やかな雰囲気を纏いながら、

雛壇は投球姿勢に移る。

 

テイクバックが小さく腕の振りが速い、

ややトルネード投法気味のノーワインドアップでで投げるその投法は、

一見すると特徴的には見えない。だが・・・

 

「え?」

 

バシンッ!

 

「ス、ストライークッ!」

 

低め外角に投げられた球を見逃し、ワンストライク。

 

「あのフォームは!?」

 

一見するとそれほど特徴的に見えないフォーム、

その秘密にいち早く気づいたのは山口であった。

 

「(コイツ!山口より速い!?)」

 

バシンッ!

 

「ストライークッ!ツー!!」

 

今度は外角高め、同じくストレート。あっという間にツーストライク。

 

「山口君、何か知ってるのかい?」

 

「雛壇のフォームはまさしく伝説の選手のものだ」

 

蛇島の問いに、山口は額に汗を流しながら語る。

 

その選手は数々のメジャー強打者を三振に打ち取った。

優れた制球力と多彩な変化球を使い分け、

ついには日本人初のリーグ優勝決定シリーズMVPに選ばれた。

その投球フォームは目の肥えたメジャー記者でさえ、

「Deceptive(幻惑的)」と称される。

 

バシンッ!

 

「ストライークッ!バッターアウトッ!」

 

「す、スライダー」

 

山口が語る中も試合は進んでいる。

最後は内角低めにスライダーで空振り三振。ワンアウトとなった。

 

「まずは一人。そして・・・」

 

穏やかな雰囲気を纏い、笑いながら雛壇は、

 

「先に言っときますけど、僕も一点たりとも先輩たちにあげるつもりはないですよ~」

 

完封宣言をした。

 

 

 

雛壇祭。

右投の本格派。

投球フォームは現役メジャーリーガー、上原浩治の投球フォーム。

 

 

 




オリジナル設定⑭雛壇祭のモデル レッドソックス時代の上原浩治と「Mr.FULLSWING」とう漫画に出てきた「雛壇祀」がモデルです。あと一人モデル選手がいますが、出てくるのはかなり先だと思います。

雛壇の投球がどう凄いのかは詳しくは次回で。
昔ジャンプで連載してた「スモーキーBB」という漫画を思い出しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

才能と努力

遅れましたが更新です。
どれだけ遅れても失踪する気はないです。遅筆ですいません。


帝王野球部一軍グランド 白組ベンチ

 

「上原浩治のフォームだって・・・」

 

「そうだ」

 

確信を持って答える山口と、その答えを聞いて汗が流れる蛇島。

 

「あのフォームはとにかく球の出所が見づらく、実際よりも格段に速く見える」

 

「でもそれだけなら君のマサカリ投法も似たようなものじゃ・・・」

 

()()()()()()()()()()()()()んだあのフォームは」

 

蛇島の問いに答えたのは、打席から帰ってきた赤星。

 

「信じられねえあいつ、最初のストレートと最後のスライダーが()()()()()()()()()()()

 

名門帝王の一番バッターを務めているだけあって、赤星は非常に眼が良い。

それ故にたった一度の打席でその凄さを理解した。

 

「たださえ見えにくいフォームに加えて、変化球の区別がつかないだと・・・」

 

「幻惑的か・・・」

 

山口の静かなつぶやきが、ベンチ内に響き渡った。

ベンチ内に沈んだ空気が流れ始める。

しかしその沈んだ空気を変える人物がいた。守木監督である。

 

「何を意気消沈しとるか貴様らわ!」

 

守木は腹の底から声を出す、その声はグランド内に響き渡ったため、

思わず打席に居る二番ショート井端もビクンとしてしまう。

 

「あのマウンドに立っているのは誰だ!メジャーリーガーか!?違うケツの青い一年だ!()()()()()()以上攻略法などいくらでもある!沈んでる暇があったら一球でも多く観察せんか!」

 

「・・・」

 

「返事はどうした!!!?」

 

「「「「「は、ハイッツ!!!!!」」」」」

 

沈みかけたベンチに一気に熱意が戻って来た。

名将とは勝てるための手を打ち、勝つ者を指す。

守木独斎は間違いなく名将の器だった。

 

「(これで最低限勝てる条件は揃ったな、しかし・・・)」

 

監督は選手たちを熱く鼓舞しながらも、冷静に雛壇を観察していた。

 

「(上原のフォームは彼の何十年の努力の結果と言ってもいい。()()()()()()()()()()、才能だけであのフォームを真似するのは無理だ)」

 

上原のフォームは球の出所がとにかく見えづらく、そして腕への負担の少ない。

しかし投球フォームというのは非常に難しいものである。

ほんのわずかな腕の位置のズレ、重心の位置が生み出す投球の差は雲泥である。

上原のフォームもほんの少しのズレで、幻惑の効果が切れてしまう。

努力する天才上原が生み出したフォームは、天才の才能だけで真似できる程安くはない。

 

「(それをあの年でほぼ完全に真似ている。・・・あの穏やかさの裏にどれほどの練習が隠れているのやら・・・)」

 

監督はマウンドにいる雛壇を、深く観察する事にした。

 

 

 

 

 

「(なんか辛そうな顔してるなこの人・・・)行きますよ~」

 

「何としても蛇島まで繋げなくちゃ・・・」

 

マウンドの上で余裕の表情をしている雛壇。

対するは三番サード新井。

状況は一回裏、カウントはツーアウト。

 

「ッフ!」

 

「・・・」

 

 

バシンッ!

 

「ストライークッ!」

 

まずは外角低めにストレート。新井はそれを見送りワンストライク。

 

「(データによると新井さんはよく見てから振るバッター・・・なら)」

 

日下部は新井の様子を観察しながら返球し、マウンドの雛壇にサインを送る。

サインに頷き、投球姿勢に移る雛壇。

 

「・・ッフ!」

 

「・・・・・!?」

 

 

バシンッ!

 

「ボールッ!」

 

第二球は外角高めにスライダーでボール。

 

「(今の・・・若干投げるテンポが遅かった?)」

 

「(今のを振りませんか、本当に冷静に見てくるバッターみたいですね)」

 

日下部はサインを送る。

 

「ッフ!」

 

「・・!?」

 

ブンッ!

 

バシンッ!

 

「ストライークッ!ツー!」

 

第三球は内角高めにストレート。思わず空振り、ツーストライクワンボール。

 

「(今度は返球してから投げるまでのテンポが速い。追い込まれた。)」

 

「(振ってくれましたね。なら次はアレで仕留めましょう)」

 

日下部はサインを送る。そのサインに対して雛壇、

 

「(え?・・・日下部君意外と大胆だな・・・)」

 

一瞬驚きながらも頷く。そして投球姿勢に移り、

 

「ッフ!」

 

さっきよりも速いテンポで投げた。()()()()()()()()()()()()()()

 

「(さっきよりテンポ速い・・・って、ど真ん中だと~!?ええい!破れ被れ!)」

 

カキン!

 

完全にタイミングが狂った状態で打った球は、

大きく浮き上がりピッチャーフライ・・・

 

「あ、()()()()()。ノリくーん、とって~!」

 

かと思われたがフラフラとピッチャー頭上を軽く超え、

 

「何やってんだよ~祭~」

 

テキサスヒットとなった。

 

「あれ?今のってそこまで飛ぶものだっけ?」

 

感触的にはピッチャーフライだと思ってた新井も、

一塁に到達してから疑問に感じた。

本人も予想外の安打となった。

 

「これはチャンスと思ってもいいのかな?」

 

打席に立つのは帝王野球部の四番。セカンドのレギュラー蛇島である。

 

「どうでしょうね~」

 

雛壇は普段と変わらぬ穏やかな雰囲気を纏いながらも、

少しばかり挑発的な笑みを浮かべている。

 

「悪いけど打たせてもらうよ(その余裕ある顔を歪めてやる)」

 

対する蛇島は爽やかな笑顔を雛壇に向けている。

しかし内面は爽やかさの欠片もなかった。

 

「(雛壇くん、まずはこの球で・・・)」

 

「(りょうか~い)」

 

日下部のサインに雛壇が頷く。先程のテキサスヒットは特に気にしてないようだ。

雛壇が投球姿勢に移る。相手四番に送る第一球は、

 

シュッ、カクン。

 

本日初使用のVスライダー。内角低めを狙い撃つが・・・、

 

「甘い!」

 

カキンッ!

 

「なっ!?」

 

打たれた。本日初使用の落ちるスライダーを打たれた。

思わず声が出る日下部。自分なら絶対に打てないと思って投げさせた球なのだから。

しかし普段しない初球打ちでタイミングがズレたせいか、

打球はレフト方向に切れてファール。

 

「ヒットにならなかったか・・・。しかしなかなかいい球だったよ」

 

レフト方向に転がった打球を蛇島は残念そうに見送るも、

雛壇の方に向き直り、

 

「山口君のフォークに比べると棒球と同じだけどね」

 

爽やかな笑顔で挑発した。

 

「Vスライダーなんてカッコつけてるけど、フォーク以下だよなー」

 

「フォームはメジャー級でも、変化球はリトル級ってか?」

 

「所詮シニア程度のレベルか・・・」

 

蛇島の挑発に触発されてか、白組ベンチからヤジが飛んでくる。

監督は注意も罵倒もせずにいる。雛壇の精神力を測るためだ。

 

「・・・」

 

ヤジを受けて凹んだのか、雛壇は帽子を目深に被りうつむいてる。

 

「すいません、タイムお願いします」

 

「わかった、タイム!」

 

雛壇が落ち込んでいると思い、日下部はタイム申請した。

落ち込んだ投手を励ますのは女房役の捕手の役目だ。

タイム受けてナインがマウンドに集まる。

 

「大丈夫かい雛壇君?」

 

「うん・・・大丈夫・・・」

 

明らかに反応がおかしかった。

その様子を見て他のナインも声を掛ける。

 

「元気出せって雛壇」

 

「大丈夫だって、お前以上の投手なんていないよ」

 

「俺らだってフォローするからよ!」

 

「・・・なあ亮」

 

「・・・言うな奥居」

 

・・・なぜか友沢と奥井は少し離れて微妙な顔をしていた。

 

「雛壇君、さっきのテキサスヒットもファールも、全部僕のリードが悪かった。本当にすまない」

 

「・・・日下部君のリードは間違ってなかった。僕が悪かった・・・」

 

「そんなことは・・・」

 

「だからっ!」

 

雛壇は俯いてた顔をばっと上げる。上げた顔は普段と変わらぬ優しい笑顔だった。

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

穏やかな雰囲気はどっかに行き、全身闘志に溢れ、

優しい笑顔の後ろに仁王が立っていた。

 

「「「やる気に溢れていらっしゃるーーー!?」」」

 

「祭・・・相当負けず嫌いだからなー」

 

「挑発に乗りやすいのが難点だな」

 

「ええ・・・」

 

「ま、まあピッチャー向きの性格だね・・・。凄く意外だけど・・・」

 

闘志に燃える一人。

予想外の変化に驚くの四人。

親友の負けず嫌いにため息を吐く二人。

突然の展開についていけないのが一人。

一応フォローを入れる一人。

マウンドの上は中々カオスだった。

 

 

 




雛壇は表面上は穏やかで優しそうに見えます。しかし内面はかなり負けず嫌いです。
具体的には作戦的に必要だと感じても、強打者相手に敬遠とか絶対しません。

ちなみに奥井と友沢が微妙な顔をしていたのは、背中の仁王が見えていたからです。

奥居「絶対凹んでねえわアレ」

友沢「むしろ闘志に溢れてるな、仁王も見えるしな」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仁王と「キレ」

今回はコメディに挑戦。クスリとも笑っていただけたら、最高の励みです。


帝王野球部一軍グランド マウンド

 

「フフフ、やっぱ名門の四番なだけあって凄いね、蛇島先輩」

 

マウンドの中心に居る雛壇は笑顔である。普段と変わらぬ笑顔だが・・・

 

「フフフ、絶対三振させる!」

 

背中には仁王が立っていた。どう見ても阿形と吽形だ。

二柱とも物凄い気迫を発している。

 

「おい、どうなってんだこれ・・・。てかなにアレ?スタ〇ド?」

 

「キャラ変わりすぎだろ・・・。近距離パワー型?それとも群体型?」

 

「笑うという行為は本来攻撃的な(ry」

 

普段の雛壇からは考えられないほど、闘志に溢れた姿に困惑する紅組レギュラー。

普段の雛壇は「温厚」が服を着てるような穏やかな少年なのだ。

間違ってもこんなシグ〇イとかジ〇ジョとか、

絵柄が濃いキャラではないのだ。ないのだ(二回目)。

 

「あ~・・・、まあ大丈夫だと思うぞ」

 

困惑している空気の中で口を開いたのは奥居。

 

「今の祭は言うならば()()()()()みたいなもんだ。この状態で祭が負けた事はほとんどねえよ」

 

「まあ挑発されてやる気が満ちたと思えばいいさ」

 

奥居が確信をもった口調で説明し、友沢がそれに付け加えた。

 

「そ、そういう事でしたか・・・」

 

「まーお前たちがそういうなら大丈夫だな」

 

「そうだな」

 

奥居達の説明で与志を含む複数は納得したようだ。

 

「雛壇君、本当に大丈夫?」

 

「大丈夫!大丈夫!!絶対三振に打ち取る!!!」

 

「本当に大丈夫かなあ~・・・」

 

やる気満々の雛壇を見て、レギュラー一同は正位置に戻ろうとした。

 

「あ、ごめん日下部君、ちょっと待って」

 

「ん?どうしたの?やっぱり何か不安でも・・・」

 

しかし日下部だけは雛壇に呼び止められる。

因みに雛壇は仁王はそのままだが、笑顔は崩れて普通の表情だ。

仁王はそのままだが。

 

「次に投げる球だけど、———を投げたい。というか———で抑えたい」

 

「ええ!?それは本気かい!?」

 

「ごめん、無茶なお願いだと思うけど、今回は譲れないんだ」

 

「・・・」

 

「お願い」

 

悩む日下部に、グローブを脇に挟んで両手で拝む雛壇。

仁王は拝まない、彼らは拝まられる側だからだ。

 

「分かったよ。元々は僕の采配ミスが生んだ展開だからね、今回は君に従うさ」

 

「日下部君・・・ありがとう」

 

雛壇は日下部に感謝を伝えた。

先程とは違う、自然な笑顔だ。

 

 

 

 

 

「プレイボール!」

 

主審の言葉で試合が再開される。

 

「さて・・・次は遠くまで飛ばさせてもらうよ(・・・雛壇の後ろに何か変なのが見えるような・・・気のせいか?)」

 

「・・・」

 

再度挑発する蛇島。しかし今の雛壇には通じなかった。

やる気はもう充分満ちたのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(ストレートか!しかも同じコースとは・・・舐めやがって!)」

 

蛇島は狙い撃つ。来る球が分かっていれば強打するのは容易い。

しかし蛇島の予想は外れる。

 

「ッフ!」

 

「・・・!?」

 

雛壇は第二球を投げた。そしてそのコースに蛇島は驚いた。

 

「(ば、馬鹿な!?)」

キュルルルッ、カクンッ!

 

 

ボールはバッターの手元で変化し、急降下した。

投げたのはストレートではなくVスライダー。

全く同じコース、全く同じ球種で、

 

ブンッ!

 

バシンッ!

 

「す、ストライークッ!ツー!」

 

四番を空振りに打ち取った。

 

「(何だ今の球は・・・本当に一球目と同じなのか?)」

 

全く同じコース、全く同じ球種。だが別物だった。

速度が違う。変化量が違う。何よりも「キレ」が違った。

蛇島が困惑してる間にも、雛壇は投球姿勢に移り終えていた

 

「ッフ!」

 

「・・・!?」

 

雛壇は第三球を投げた。そしてそのコースにまたも蛇島は驚いてしまった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ふざけやがって・・・」

 

思わず声に出る。取り繕う余裕もないほど怒りに染まっていた。

蛇島は確信した。この球は落ちると。そしてバットを振る。

どのタイミングで曲がるか、どれだけ落ちるかはさっき確認した。

あとは捉えるだけ、()()()()()()()()()

 

キュルルルルルルッ、カクンッ!!

 

「(!?、さっきより「キレ」が増して)」

 

ブンッ!!!

 

バッシンッ!!!

 

ボールがミットに収まる音が響く。

時が止まったように辺りが静まり返る。

 

「・・・・・す、ストライークッ!バッターアウトッ!!チェンジ!!!」

 

主審の言葉がこの打席の勝敗を告げていた。

 

「ありえない・・・何だ今の球は・・・」

 

蛇島は信じられないものを見たという顔をしている。

投げられた三球。一球を投げる事に「キレ」が上がった。

今までの投球が手を抜ていた?その可能性はある。

だがもしそうでなかった場合、

即ち二球目三球目は、通常時より「キレ」を上がったという事だ。

 

変化球の「キレ」を生み出すのはボールの回転数だ。

回転数が多ければ多いほど、より「ノビ」や「キレ」がある球になると言われている。

だが回転数を上げる事はそう簡単な事ではない。

握力や手首の強化、何百回という練習の果てに得る独特の感覚。

そういった地道な練習の果てにようやく得られるものなのだ。

 

ではその球の「キレ」が精神の変化で、通常時より上がるのかと言えば不可能ではない。

精神状態次第でパフォーマンス性の変化幅は大きく変わるが、

低下ならともかく、上昇だと限度はあるのだ。

普通に考えてどれだけ高揚しても、

平均140キロ代のピッチャーがいきなり160キロの球は投げれないし、

暴投を繰り返すピッチャーがボール一個分単位の制球はできないのだ。

もし「キレ」を精神の変化などで能力が上げられるとしたら・・・、

 

「(僕以外には手を抜いていたのか・・・。そうでなければ・・・)」

 

練習の果てに、本番で本来の実力が出た努力家か、

 

「・・・化け物め」

 

努力という過程を省略する「天才」だけである。

 

 

 

 

 

帝王野球部一軍グランド 紅組ベンチ

 

「・・・」

 

雛壇は帽子を目深に被りうつむいてる。

仁王は休んでいる雛壇の両隣に立っており、

未だ周りを威圧していた。

そのため雛壇の半径2メートル以内に空きスペースが出来ていた。

 

「おい、いつになったら戻るんだアレ」

 

「まさか・・・試合が終わるまでずっとあんな感じ?」

 

「てか狭いよ、もうちょい寄ってくれ」

 

「い、嫌だよ。アレに近づきたくない・・・」

 

「マウンドの時は饒舌なのに、ベンチでは無言なのが怖い・・・」

 

端に逃げたチームメイト達がヒソヒソと話をする。

しかしそんな雛壇に話しかける勇者がいた。

マネージャーの丸田である。

 

「お疲れ様です雛壇さん。とりあえず水分補給でもどうぞ」

 

「・・・」

 

丸田はドリンクを手渡し、雛壇は無言で受け取る。

 

その時である。

 

今まで周りに威圧を振りまいてた仁王の姿がだんだんと薄くなり、

ついには完全に消え去った。

心なしか消える際に、仁王の顔が少しだけ和らいだように見えた。

 

「あ~スッキリした~。あ、丸田君ドリンクありがと~」

 

バッ!と顔を上げた雛壇はいつもと変わらぬ笑顔であり、

先程とは違う、いつもの穏やかな雰囲気を纏っていた。

 

「良く分かりませんが、戻ったようで何よりです」

 

雛壇の突然の変化を目の前にしても、丸田は冷静に返した。

丸田は大物なのかも知れない。後に紅組全員がそう思った。

 

未だ突然の変化に対応できず固まってるチームメイトが居る中、

奥居と友沢が開いていた(避けれれていた)雛壇の両隣に座る。

 

「無事・・・還って来たか・・・」

 

「何を悟ったような顔で言ってるんですかあなたは」

 

「ああ・・・本当に良かった・・・」

 

「友沢君まで!?」

 

「いや~山口先輩への意趣返しが出来て良かったよ~」

 

「あなた本当にマイペースですね!?」

 

事の張本人を含めた親友トリオのボケを捌く丸田。

 

「後に彼のツッコミ芸は帝王野球部の伝説に・・・」

 

「残しませんからね!というかどこに向かって話してるのですか奥井君!」

 

奥居のボケに適度に対応する丸田。

意外と仲が良いのかも知れない二人であった。

 

 

 

 

新入部員歓迎紅白戦。序盤はどちらもヒット一本は出るも得点に至らず、

0—0で二回へと移った。

 

 




闘志モード

主人公・雛壇の闘争心に火が付いた状態。
全ての能力が上昇し、
青の特殊能力が金の特殊能力に変わる。

ただし投球に柔軟性が欠ける。
今回だと打たれたコースに打たれた球種のみで三振を取ろうとする。
頑固で意地を張ってる状態なので、キャッチャーとの話し合いで抑えるのは無理。
この状態になると「劇的な勝利」か「劇的な敗北」しかない。

イメージ的には栄冠ナインの選手ごとの固有コマンドみたいな感じで、
急激に能力と技術が上がるのを、
小説で書いて見たらどうなるんだろうと思って、書きました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。