真剣で神槍に恋しなさい! (むこうぶち)
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第一話:結城竜胆の日常

俺、結城竜胆の朝は早い。

 

「ふっ!はっ!」

 

他の修行僧より早く起き、朝一で槍の素振りをする。わざわざ誰もいないこの時間にやっているのは、まぁ・・・・アレだ、あんまり他の連中に頑張ってる姿を見せたくないからだ。特別な理由なんて無い、強いて言うならその方がカッコいいからだ。

百回事に柄の持ち方を長め、中程、短めと変えながら突き上げ、払い、巻き、回転を繰り返す。投槍、柄や石突での打撃、そこからの関節技の連携などをイメージトレーニングを踏まえ繰り返していく。

 

本来、こう言う事は無心で行うのが一番である。だが俺の頭の中には一つの欲求が去来していた、そう・・・・

 

『必殺技が欲しい』

 

まだそう言うのは早い、とか言われそうだけどさ?俺だって男の子だぜ?年齢詐称とかよく言われるけど、それでも男の子なんですよ。まぁ、どこぞの戦闘狂とは違って自制心あるし?師匠が教えてくれるまで大人しく待つけど。

 

―――

 

他の修行僧たちが起床、朝のランニングを始めるので参加・・・・しようと・・・・

 

「やぁオハヨウ!竜胆」

「おはようございます、ルー師範代」

 

した俺に声をかけてきたのが、ルー・イー。この川神院に二人いる師範代の真面目な方、丁寧な教え方と熱心な態度から修行僧からの人気は高い。真夏でも真冬でもジャージ姿で、少しばかりネーミングセンスがアレな人。

 

「今からランニングかイ?」

「はい、他の人といっしょに行こうと思ったんですがね」

「アー、今からと言うところで申し訳無いんだが・・・・」

「・・・・いつもの、ですね。わかってますって」

 

非常に申し訳なさそうな顔のルー師範代を見ていると、無下にもできず。俺は諦めてため息をつきながら、川神院内にある居住区画へと向かうのだ。

 

―――

先に訪れたのはとある部屋、ここには俺の幼馴染・・・・まぁ腐れ縁的な奴がいる。

 

「起きろ百代、時間だぞ」

 

幼馴染で腐れ縁、とは言え相手は一応女子だ。女子とは思えぬほど暴力的で強くて女子力低い代わりに男子力が高かろうが、一応は女子だ、大事な事だから一応二度言っとくぞ。先ずは部屋の外から、襖を軽めに叩いて声をかけてみる・・・・が、案の定返事はなく寝息だけが聞こえてくる。

 

「・・・・ったく」

 

ため息を一つ、してから襖を開けて部屋へと入る。寝巻きを半分はだけさせて口からよだれを垂らして寝ているのが川神百代、幼馴染にして腐れ縁。一応は一つ年上なのだが付き合いが長いせいか、お互いそこらへんは気にしなくなっている。既にこの歳で川神院の総代候補への話も上がっているほどに才能と実力を持っていて、いずれは『武神』と呼ばれるのでは無いかと言われている程だ。が性格は先も言ったとおりであり、現総代もそこら辺が不安だそうな(主に異性関連)。

 

「さて」

 

今の俺には三つの選択肢がある。一つは物理的にたたき起こす、ただしこれは寝ぼけた百代に反撃を受ける恐れがある。一つは諦めずに声をかけ続ける、この場合は起きる確率が限りなくゼロだ。となれば最後の一つか。

 

「おい百代、とっとと起きろ・・・・じゃないと」

 

百代の耳元にまで顔を近づけ、俺は魔法の呪文を呟いた。

 

「お前の前髪をストレートにするぞ」

「うわぁああああっ!!やめろよぉおっ!!」

 

百代は普段、前髪をクロスさせているのだがこれをストレートに直されるのを極端に嫌がるのだ。だがこの起こし方でも注意が必要である、物理的に起こすよりも攻撃される可能性が高いのだ。だが寝ぼけている時の百代の攻撃は読めないが、意識がハッキリしてて混乱してる分、こっちの方がまだ読めるわけで・・・・

 

「どぉおっ!?」

 

っと、俺に拳が飛んでくる。最近は慣れたから何となくでタイミングを察知し避ける事もできるようになったが、少し前までは避け損ねて殴り飛ばされる事も多々あった。

 

「何するんだっ!」

「前々から言ってたが・・・・こっちのセリフだぁああああああ!!!」

 

―――

あの後、百代と少々じゃれあいと言う名の殴り合いをしてから今度はもう一人の部屋へと赴く。中からは高いびき、今度起こすべき相手は男なので今度は遠慮なく襖を開け放つ。

 

「起きろクソ師匠、時間だ」

「あぁ?・・・・二日酔いなんだよ、後二時間は寝かせろや・・・・」

 

発言からしてダメ人間なこの男が、俺の師匠であり川神院のもう一人の師範代である釈迦堂刑部だ。見た目通りに不真面目だが実力は世界でも指折り、でも教え方が適当なうえ荒いので修行僧からの人気は低く、ルー師範代と育成方針でぶつかる事もしばしば。まぁぶつかれる、と言う事はそれなりに信念持って教えてると思うんだが。

 

「バカ言ってんじゃないよ、アンタ自分をなんだと思ってんだ。立場わきまえろ・・・・」

「へーへー、ったくテメェは俺の親かなんかか」

「ともかく、昼間の鍛錬はサボっても構わんが朝一の鍛錬ぐらいしっかりやってくれよ」

「わーったよ」

 

才能の塊、とでも言うべきなのだろう。百代と同等か、下手をすればそれ以上の素質があるのに努力を嫌う。それ故にハッキリとした格上相手だと師匠は負ける、同格でも相手の方が技量が上なら危うい。だが師匠は未だそれに気づいていない、格下・・・・と言ってしまえば失礼だが、ルー師範代あたりが師匠に勝つ事があれば。それは師匠にとって奮起する材料となると思うのだが・・・・

 

―――

「オラオラオラァッ!!休んでる暇ぁねぇぞっ!!」

「っ!ぉおおおおおおおっ!!!」

 

朝のロードワークを終え、朝食後は何時も師匠との組手だ。師匠は必要最低限しか技を教えてはくれない、一度だけ理由を訪ねた事があったがそれは思っていたよりも理にかなった回答だった。

 

『あのなぁ、オメェの専門は槍。俺の専門は素手、そもそも畑違いなんだよ。そのオメェに色々俺の技ぁ手当たり次第に教えたって仕方ねぇだろうが、だから適性見てピンポイントで教えるつもりなんだよ』

 

実際、教えてもらった素手の技は両手で足りるぐらいだ。後はトコトン組手、来る日も来る日も飽きるまで組手。実戦に勝る鍛錬は無し、ひたすらに釈迦堂刑部と言う格上に挑み続ける日々。っつーか何でこの師匠(オッサン)朝は二日酔いでーとか言ってたクセに組手になるとアホみてーに元気になるんだよ!

 

「捌ききって見せろぉ!川神流『無双正拳突き・乱れ打ち』ぃっ!!」

「んなろぉおっ!!『百華』!!」

 

師匠が繰り出すのは奥義にまで昇華させられた正拳突きの連打、それに対抗するのは俺が五年と言う期間で妙技にまで進化させた連続突き。片っ端から繰り出された正拳突きを迎撃するが、次第に体力と集中力の限界が訪れ、こちらの突きが精彩を欠く。

 

「うぉおおおおおおゲフゥッ!!?」

 

とうとう、捌ききれなかったうちの一発がボディに直撃し視界がグルグルと目まぐるしく移り変わり最後には上下逆さまの状態で静止する。静止はしたがそれでも全ての輪郭がボヤけている、どうやら壁に激突したっぽい。

 

「前よか速度も威力も上がってきたが・・・・やっぱまだまだ体力不足だな、とは言えあと五年もしたら分からねぇな」

「んにゃろう・・・・五年後にぜってーぶっ飛ばす」

「へへっ、やれるもんならやってみな」

 

と、凄まじく見るものをイラッとさせる笑顔で言われた。ので訂正する、五年なんて言わねぇ。年内にぶっ飛ばしてやる、俺の精神を安定させるためにも。

 

「りーん♪私と組手だ!」

 

毎度のことながらフェードインして来る百代、組手だと?ハッ・・・・・

 

「無理」

 

師匠とやりあった直後な上に、最後に直撃もらった俺がまともに動けるワケ無いだろう。お前ら川神一族みたいなバケモノスペックじゃないんだぞ?俺。耐久度は高くても腕の方が動かんよ、マジで。

 

「釈迦堂さーん、ちょっとは手加減してやってくださいよー。私にまで回ってこないじゃないですか」

 

前半だけ聞けば、後輩に甘い先輩がコーチに抗議してるだけだ。が、後半を聞くとただのイジメにしか聞こえない。

 

「アホか、手ぇ抜いたら修行にならねぇだろうが。ただでさえ技のレパートリー少ねぇんだから基礎鍛えるしかねぇだろ」

 

そして師匠がまともな事言ってる、もしかして明日は雨か槍かな。まさか・・・・星殺しが降ってきたりしないよな!?

 

「・・・・百代、コイツ連れてって好きにしていいぞ?」

「ちょっ!?」

「はーい、行くぞっ!リンっ!」

「待っ!助けて総代っ!私刑(リンチ)されるぅっ!!」

 

こういう時は師匠は当てにならない、ルー師範代ですら苦笑いしている、きっと子供のじゃれあいぐらいに思ってるんだろう。だが俺がコイツ相手に互角に戦えるのは寝起きの色々と雑な時だけ、まともに眼が覚めたコイツと戦えるワケ無い!そういう事で、この川神院で最大の実力者で権力者である総代へとたすけを求める。

 

「ふぉふぉふぉっ」

 

川神鉄心、川神院総代であり見るからにヨボヨボなのにめっちゃくちゃ強い爺さん。ちょっと色ボケしてたり、お茶目だったりするが現役でも最強クラス。その総代が、スゥーと流れるような動きで右手を前へと突き出し親指をピッと・・・・そう、いわゆるサムズアップで。

 

「頑張れ!」

「ザケンなクソジジイィイイイイイイイッ!!!」

 

俺に、味方はいない。

 

―――

 

「マジで死ぬかと思った」

「むしろアレだけやって無傷な方がおかしいと思うんだけどな、私は」

 

そうか?

 

「無双正拳突きをガードして、星殺しは受け流して、致死蛍当たってもノーダメって」

 

うん、聞けば聞くほど自分でもおかしいと思えてしまう。あれ?もしかして俺、人外の領域に足を踏み入れてる?

 

ソンナバカナ。




というわけで改訂後第一話でした。

こんな感じで途中まではまぁ、ほぼほぼ加筆修正の領域に留まります。竜舌蘭の話ぐらいまではですかね?その後からちょいちょい話を変えていきます、竜胆君もステータス更新されます、マジで。


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第二話:釈迦堂刑部は思い返す

今日も今日とて私刑と言う名の組手が終わった、アレ絶対イジメだよね?

 

『んじゃあ何時もどおりやるぞー』

『オラ来いよクソ師匠!』

 

そう言ってまずは師匠と組手だ、何時もどおりな暴力的な拳の嵐。そこにお得意の気弾、リングを追加された隙の無い攻勢でボッコボコにされる。

 

『オー、頑張ってるネ!たまには違う相手と戦うのモ、悪くは無いと思うヨ!』

『えっ!?ちょっ、ま!!』

 

呼吸が正常になりかけた頃に、ルー師範代が登場からの強制戦闘。途中まではまともに拳で打ち合ってたのに、気が付いたらストリウムファイアーでガードを崩されバーストハリケーンで上空にflyaway。

 

『あー!ズルいぞー!!』

『おぇあ!?』

 

息も絶え絶え、既に限界寸前の状況でラスボス百代乱入。真紅波紋疾走(ルビー・オーバードライブ)で滅多打ちにされたあげく、無双正拳突きで壁にめり込み。

 

『ふぉっふぉっ、精が出るのぉ』

『いやぁああああああああ!!?』

 

裏ボス降臨、妙にはしゃいでる総代との延長戦に突入。顕現使うのはいいさ、持国天あたりなら絶対命中だけで威力そんなにないし。でもはしゃぎ過ぎて摩利支天と毘沙門天使うのはどうかと思うんだ、総代の姿が見えねーし気が付けば真上から巨大な闘気の足。どんな詰みゲーだっての・・・・

 

「あ゛ー・・・・」

 

午後からは完全フリータイム、確か百代も師匠と組手するって言ってたし俺を引きずり回す存在がいない。ゆっくり昼寝でもして体力回復を・・・・

 

「りーんっ!どーこだーっ!!」

 

させて貰えそうにも無い、おかしいなー。あのバケモノ(百代)、師匠と午後から組手するってウキウキしてなかったか?

 

「ここにいたのかっ!返事ぐらいしろよなー」

「お前に呼ばれると九割方厄介事なんだ、返事もしたくなくなる」

「むぅ・・・・まぁいい、イキナリですまないが私といっしょに山門まで来てくれ」

「えー・・・・嫌dおふっ!?」

 

嫌だ、と答えようとした途端に俺の首が絞まる。見れば百代の手が、俺の胸ぐらをつかんでいる。え?

 

「さぁ行くぞっ!!」

「ちょっヤメ・・・・痛いっ!削れてる!ぶつかってるぅううう!!」

 

石畳がっ!砂利がっ!庭石がっ!

 

――――――

百代に引きずられ、満身創痍で山門にたどり着くと同い年ぐらいの男子とものっそい見覚えのある二人が、そこにはいた。

 

「一子・・・・と忠勝、か?」

「兄貴?」

「お兄ちゃんっ!」

 

一子と忠勝、俺が数年前までいた孤児院で本当の兄妹同然に接していた・・・・そう、家族だ。俺は、百代に引きずられた痛みすら忘れて立ち上がり二人へと駆け寄る。ずっと心配だったのだ、俺が師匠に拾われ孤児院を離れて二年後にはあの孤児院が閉院したと言う話が聞こえてきた。他にも孤児院で育った家族はいたが、この二人とは特に親しく、特別と言っても差し支えのない存在だったから・・・・無事里親が見つかったのか、他の施設にたらい回しにされたのか、里親が見つかったとして良い人なのか、心配事が尽きなかった。

 

「お前ら本当に、元気そうで良かった良かった」

「兄貴こそ・・・・まさか同じ川神にいたなんてな」

「うん!ビックリ!でも嬉しい!」

 

俺が一番上の兄だとすれば、つっけんどんだが面倒見の良い二番目が忠勝、やんちゃで忙しない末っ子が一子、と言う三兄弟的な感じだったわけだ。師匠や総代に頼み込んで方々を探してもらったがなかなか見つからず、せめて元気でいてくれと思ったものだが・・・・灯台下暗し、逆にここまで近いところにいるとは思っても見なかった。

 

「あの、話・・・・進めてもいいかな?」

 

少しばかり、申し訳なさそうに二人といっしょに来た男子が言葉を挟んでくる。そう言えば存在を忘れてた、二人と一緒に来たと言う事は友人なのだろうし。

 

「ああ、悪い。話を進めてくれ」

「じゃあ・・・・」

 

男子、直江大和が二人を伴ってここに来た理由は喧嘩の助っ人だった。発端は俺達小学生には良くある遊び場をめぐっての争い、上級生たちが人数を頼みにして直江らが遊んでいた遊び場を強制的に奪い取った。で、それに納得が行かなかった直江たちは荒事に向かない一子ともう一人を隠れさせてゲリラ戦的な喧嘩で奪い返す寸前まで行ったそうだ。だが直江たちの事が心配で様子見に来た一子が捕まり、人質にされて成す術なく反撃され、しかもこいつらのリーダーは耳にコンパスで穴を空けられたらしい。よく見れば、直江も忠勝もところどころに青あざが。

で、まぁ一番こっ酷くやられたはずのリーダーが反攻を企てるが頭脳労働担当の直江がそれに反対。しかし今のままでは静止を振り切って行きそうであり、そこで考えついたのが川神院の娘で強いと噂がある百代に助っ人を頼むことだった。

 

「成程、事情は分かった。その話を受けるのもやぶさかじゃないが・・・・条件がある」

 

ん?今の話で出てきた奴らは百代が最も嫌う手あいだ、引き受けるまでは予想ができていたがまさか条件をつけて来るとは。

 

「私は確かに総代の孫だが門下としては下っ端でな、思う存分こき使える舎弟が欲しかったんだ」

 

うん、それはそうだけどさ。俺に対するアレで思う存分じゃ無かったの?お前は直江に何をさせる気だ?

 

「だからお前、私の舎弟になれ!」

「・・・・分かりました、よろしくお願いします姉さん!」

 

百代は眼がキラキラ輝いてるなぁ・・・・直江は、多分大したことはないと考えてるんだろうが・・・・それは甘いと思うぞ。

 

「ゆーびきーりげーんまん、うそついたーらうでのなかでなぶりごーろす!指切った!」

「・・・・ゑ?」

 

嘘ついたら嬲り殺しってどんだけー、そして直江よ。例え大したことのない契約だとしても、契約書はちゃんと読まないとな。

 

「それで、リンも来るだろ?」

「当たり前だ、弟分がひどい目にあわされたんだ。ヤキ入れてやる」

「お前さー、年々釈迦堂さんに似てきて無いか?」

 

師匠に?冗談じゃない、武術家としては尊敬する箇所が幾つかはある。だが日常生活にあってアレほど手本にしちゃいけない大人と言うのも珍しい。だってさ、ほっとくと同じ服を何日も着てたり、三食梅屋の豚丼だったり、二日酔いなんてのはザラだ。あんなダメ人間の手本のような人に似てきてるだと?断じて否だっ!

 

「ともかくだ!今はコイツらのことだろ?」

「ん?それもそうだな・・・・リンは槍は要らないのか?」

「いらんだろ、ガキ同士の喧嘩に。ってか槍まで使ったら師匠はともかく総代にヤキ入れられるハメになる」

「私は?元々拳だぞ?」

「ヤキ入れられんじゃね?」

 

不公平だーっ!とか叫んでる百代を放置して、俺は絶望と不安がまぜこぜになった表情の直江へと向き直る。

 

「まぁ弟妹分が世話になってんだ、キッチリやることはやってやる」

「あ、あぁ・・・・」

「百代の事は・・・・まぁアレだ、スマンが諦めろ」

「\(^o^)/」

 

直江が攻撃対象になってくれれば、少しでも俺への私刑が緩和されると信じたいんだ!

 

 

side 釈迦堂刑部

 

ったく、ガキみたいにはしゃぎやがって・・・・ってアイツガキだったな、たまに俺よりしっかりしてやがるから忘れる時があるぜ。

 

「釈迦堂、何かイイ顔をしているネ」

「あ?」

 

突然、となりで一緒になって竜胆たちを見ていたルーがそんな事を言い出しやがった。

 

「うむ、親の顔をしておるよ」

 

ジジイまでんなこと言い出しやがる、親の顔だ?俺がぁ?

 

「初めはの、少し心配じゃったんじゃよ。親に子らしい扱いをしてもらえず、半ば修羅に生きておったお主がイキナリ子供を一人引き取ると言い出したんじゃからのう」

「・・・・」

「じゃがそれは杞憂じゃったと、最近思うんじゃよ。現に竜胆の存在はお主に良い影響を与えとる、触れれば全てを傷付けるようなオーラを持っていたのじゃが和らいどる。しかもそれでいて最近は武も洗練されてきておる、知っとるぞ夜中に一人で鍛錬しとるの・・・・竜胆と二人、正しく親子じゃのう」

 

アイツにだけは情けねぇ姿は見せらんねぇ、普段はともかく戦うことだけはと。そう思ってこっそり夜中に鍛錬は確かにしてた、が・・・・何でバレてんだ、ルーもニヤニヤしてやがるって事はルーもしってるってことじゃねぇか。

 

最初、アイツを見つけたのはアイツがいた孤児院の近くの原っぱだ。あの時俺は昔馴染みから護衛を依頼されてて、んで空いた時間で散歩してたらアイツがそこにいた。不格好だったが長い棒を槍に見立てて突きの練習をしてた。ガキが何やってんだか、って思ったんだよな・・・・見た感じじゃあ特に才能があるわけじゃねぇし、と最初はスルーしたんだ。

 

『お、若ぇのが頑張ってるじゃねぇか・・・・いいねぇ、俺ぁああいうの好きだぜ』

 

それから一ヶ月後。昔馴染みが、あの原っぱの近くを通りがかった時にそんな事を言い出した。季節は既に冬に差し掛かり、雪もちらつくってのに・・・・あのガキは、まだ棒を振っていた。一心不乱に、俺らから見られていることにも気づかないぐらい集中して。

 

『けっ、才能があるようにも見えねぇ。誰があのガキに教えてるんだかしらねぇが・・・・下手にデケェ夢を見る前に、現実を教えてやれって思うがね』

『努力出来ることは才能だろ?そいつを否定しちゃあ・・・・いけねぇよ』

『へーいへい』

 

そんなやり取りをして半年、気温も上がり夏本番と言う頃に。俺は再びそこを訪れた、あんな言い方はしたが妙に気になったんだよな・・・・あのガキのことが。

 

『おぅボウズ、ちょっとオジさんと話しねぇか?』

 

やっぱりあのガキは、同じ場所で同じように棒を振っていた。

 

『良いですけど』

『あんがとよ、毎日毎日一生懸命に棒を振ってるが誰に武術を教わってんだ?』

『誰にも、振り方は見て覚えました』

『ほぉ・・・・あ゛あぁ゛っ!?』

 

見て覚えた、ってこのガキぁ言うがそんな簡単な話じゃねぇ。綺麗な右半身中段でのあの構えは、才能があって、適格な指導者がいて、それでもおいそれと身につくものじゃねぇ。それを見て覚えた?しかも誰も教えてない?

 

『おまっ・・・・』

『俺は孤児だから、道場に通いたくてもお金払えないし』

 

開いた口がふさがらない、とはこういうことなんだろうな。どうやら俺はとんでもねぇ見誤りをしてた、才能が無いなんてとんでもねぇ。相応の環境で、実力者が鍛え上げたなら・・・・大化けするぞ、このガキ。

 

『何で・・・・鍛錬してんだ?』

『んー・・・・自分のルールを護るため、かな』

『なんだそりゃ』

『俺の父さんが、死に際に言ってたんだ・・・・「強さとは自らに課せられた掟を貫けること」って』

 

言わんとしてる事は分かる、だがその言葉だけを芯として鍛え続ける。それは・・・・既に常人の域を超えてやがる、俺だったらとっくの昔に折れてるわ。

 

『なぁボウズ、俺と一緒にこねぇか?』

『え?』

『実はオジさん、川神院ってところで師範代やってんのよ』

『川神院は知ってます、オジさんスゴい人なんですね』

『おぅ、でだ・・・・俺はお前に才能があると思うんだ、だから俺と一緒に川神院に来て鍛えてみねぇか?』

 

ガラじゃ無いのは分かってる、それでも俺はコイツを育てたくなった。今ならジジイが俺を川神院に連れて来た気持ちも分かる、才能を腐らせて終わりにしたくねぇ。

 

『俺は・・・・強くなれますか?』

『そりゃあボウズの頑張り次第だな、だが俺は全力で鍛えてやるぜ?』

『・・・・行きます』

 

そんなやり取りから僅か一週間、普段なら絶対にありえねぇがジジイとルーに頭を下げて協力を取り付け、ボウズ・・・・結城竜胆の保護者となるべく東奔西走して、今があるわけだ。

 

「あぁ、そうだな・・・・」

 

認めてやるよ、アイツは俺の息子だ・・・・ゼッテーアイツの前じゃ言わんけどな、ハズいし。




第二話でした。

早速お気に入り登録をしてくれた方がいました。本当にありがとうございます。


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第三話:覚醒、始まる

最近、師匠が気の扱いを教えてくれるようになった。

 

「使えるといろいろ便利なんだぜ?身体能力の強化は当たり前、練度が上がれば発勁、いずれは俺らみたいに放出する事も出来るようになるさ」

 

との事だった、えーっと、なんだっけ?フォースを信じろ的なアレだったっけ?え、違う?・・・・ああ、あれだろ?『八門遁甲の陣』、え?惜しいけど違う?・・・・まぁ、それはともかく。最近、組手以外に新しい修行が足された。今まさにその修行の最中なのだが・・・・

 

「射てぇっ!!」

「竜胆殿、お覚悟っ!」

「いたぞぉっ!!」

「ヌァアアアアアアアッ!!!」

 

逃げるのは俺一人、それ以外の全修行僧が鬼の鬼ごっこ。俺に有効打が入ればタッチ成立、制限時間は半日。どうしてこんな突拍子も無い修行が成立したかといえば、師匠が総代に提案してそれが通ってしまったからだ。

 

『ってわけなんだよ、槍メインだが基本は棒術だから対集団戦も学ばせなけりゃならねぇだろ?で、こういうのを思いついたんだが・・・・』

『ふむふむ、面白そうじゃのう・・・・』

『最近の釈迦堂は冴えてるネ!だが修行僧を乗せるにハ・・・・』

 

総代と師範代二人が真面目に、色々と考えまくった結果。この修行で俺にタッチを成立させた修行僧には金一封、年間を通してスコアを記録しトップだった修行僧には更にご褒美、と・・・・一応俺の場合は年間通して無傷で抑えきれば褒美が出るらしい。

 

「んなろおっ川神流・・・・『大車輪』っ!!」

 

長柄武器を回転させその遠心力を攻撃へと転化する大技、本来は薙刀で行う技だが師匠が槍でも出来る、と言って教えてくれた技だ。その技を横薙ぎに放ち、一斉にかかってきた数人をあるいは吹き飛ばし、あるいは後退させる。

 

『うぉおおおおおおっ!!川神流っ!『天陣』っ!』

「ちょっ!?」

 

何でこんなところで陣地防衛の極技とかつかってんの!?

 

『殺れぇえええええええっ!!!』

「字がおかしいだろうがぁあああああああ!!!」

 

天陣で逃げ場のなくなった俺に一斉に飛んでくる矢、鉄球、手裏剣、投槍、投銭、投げナイフ、チャクラム、etc・・・・明らかに殺気のこもったそれを片っ端から叩き落としていく、甲高い金属音が延々と鳴り響く・・・・っつーかどんだけ隠し持ってんだコイツラ!

 

「かかってきやがれコンチクショーっ!!」

 

やってやらァ!!

 

 

side 川神鉄心

 

しかし良くあれだけの攻撃の雨嵐を捌ききるもんじゃて、いくらワシやルー、釈迦堂とて純粋な身体能力一つでアレを捌ききるのは至難の業じゃ・・・・ちゅうか『天陣』は無しじゃろ、どんだけ金一封が欲しいんじゃアヤツら。まぁ、既に竜胆の持つ『眼』は壁を越えておる、梁山泊の者が持つ『異能』にも匹敵する武器となるじゃろう。

 

「釈迦堂、お主・・・・竜胆のアレに気づいとったのか?」

「つい最近、だけどな・・・・アイツ、俺との組手中に俺で隠れて見えなかったはずの飛んできた矢を叩き落としたんだよ・・・・叩き落とした瞬間に俺が殴っちまったけどな」

 

分かっとったなら止めてやれば良いじゃろうに・・・・じゃがこの修行のおかげで竜胆の「眼」の正体が分かった、それに気付いた釈迦堂にもビックリじゃが。

 

「お主、意外と教える才能があったんじゃなぁ」

「うるせぇよ」

 

昔は、ただ修行僧を打ちのめし覚えたけりゃ勝手にしやがれ。みたいな感じじゃったが、竜胆へ教えているのを見ると竜胆に潜在しておった才能を見抜き、発見するなりそれを伸ばすのに適した修行法を編み出す。

 

今回の鬼ごっこだってそうじゃ、タッチの条件を有効打とする事で逃げる竜胆は最初こそ危うかったものの今ではまさしく開眼し滅多な事では有効打どころか掠りすらしないようになった。

 

竜胆の『眼』は達人で言う『制空圏』だ、達人が気と経験を用いて行うそれを竜胆は視野の広さと勘の良さだけで再現しておる。もしそこに、気での探知が加われば?経験が加われば?答えは単純、竜胆の眼が届く範囲内全てが竜胆にとっての絶対支配領域に変化する。あとはその支配領域をカバーするだけの武器が備われば、竜胆は・・・・

 

「そろそろ別の弟子、取ってみたらどうじゃ?お主に教えを受けたいという修行僧もチラホラと出ておるぞ?」

「勘弁、分かってんだろ?俺は竜胆だから教えられてんだよ、それ以外なら・・・・ちょっと特殊な奴の方が良いな、周囲に馴染めねぇような奴のほうがよ」

 

言い得て妙かもしれんな、竜胆とてぶっちゃけクセのある方じゃ。そのクセのあるところを見抜いたからこそ、他の修行僧とは違う形で鍛えておるんじゃろうし。

 

「ふぉふぉふぉっ・・・・若い世代が台頭してくるのは、いつ見ていても楽しいものじゃ」

 

釈迦堂も、ルーとてまだまだ伸びてくるじゃろう。そして今、更にその下からモモや竜胆ら若き世代がその片鱗を見せてきておる。ワシとてまだまだ現役のつもりじゃが・・・・ふぉふぉふぉっ、もしやするとワシが引退するのも・・・・そう遠くは無いのかも知れんなぁ。

 

―――――――――

 

「そろそろオメェだけの武器、ってのが必要かもな」

 

今日の修行も無事?終わってから、師匠が言い出したのはそれだった。

 

「まぁ言うなりゃあオンリーワンの必殺技、ってなところだ。俺のリング、ジジイの顕現がそれだな」

「あぁ・・・・」

 

成程ね。わかりやすい説明で助かる、確かにカッコいいよね必殺技。

 

「ちょっと考えて最近練習してるのはあるんだよ」

「ほぉ・・・・ちょい試しに見せてみな、今は他に誰もいねぇんだ。失敗したって俺が全力で笑うぐらいだ」

 

笑うんかい、まぁ確かに。師匠に見せなけりゃアドバイスも貰えないし、ものは試しだ。

 

「行くぞクソ師匠っ!!」

「来やがれクソ弟子ぃ!!」

 

―――――――――

 

数秒後には俺は青空を見上げていた。

 

ってか容赦無さすぎだろこの大人。俺の二つあった必殺技(仮)を避けて、真っ向から叩き伏せて、挙句の果てに鳩尾に一発で動きを止められ、顎の一撃で浮き上がり、トドメに額への降り下ろしで地面に叩き付けやがった。

 

「オメー」

 

俺を覗きこむ師匠の顔は笑ってた、が。

 

「ハハハハハッ!!!」

 

心の底から笑ってた。

 

何時も見せる他人を小馬鹿にするような笑いじゃない。まるで子供が新しいオモチャでも見つけた時のような、そんな笑い方。

 

「やっぱスゲーぜオメーはよ!!」

「は?」

「こうしちゃいらんねぇ!新しいメニュー組んでやる!あと早朝訓練は俺も加わるぜ!」

 

ゲッ!?バレてたの!?超ハズカシーじゃねぇかよ!!でもだ、師匠がここまで言うって事はそれなりの期待が持てる技だったって事だよな。なら・・・・

 

「ったく、ならちゃんと朝起きろよクソ師匠!」

 

師匠を信じてやってみるだけさ。

 

 

side 釈迦堂刑部

 

「おヤ、楽しそうだね釈迦堂」

 

取り敢えずアイツを基礎鍛練に戻らせて、中庭で修行のプランを練っていた俺の前に現れたのはルーだった。

 

「あぁ、楽しいぜ。見ろよこれ、竜胆がやったんだぜ?」

 

上着を脱げば、左脇腹には横一閃に走る傷が。右腕にも青アザが幾つか出来ていた。

 

「なんト!?これを竜胆がやったのカ!!」

「あぁ、ひょっとするとと思ったがコイツは想像以上だ。アイツは化けるぜ、俺やお前も飛び越えて、百代すら倒してジジイの領域に届く!!」

 

昔は他人の面倒なんざ見たって何の意味もねぇと思ったもんだ、だが竜胆を育てはじめてようやくジジイやルーの気持ちが分かったぜ。確かにコイツぁ楽しい、弱ぇヤツらと試合するよか、いやもしかしたら強いヤツらと試合してる時よりもな。

 

「ルー、今なら俺ぁお前の言ってた武に必要な『心』の意味が理解出来るぜ」

 

『武』に必要な『心』とは折れぬ事、奇しくも竜胆が言ってた『自らに課せられた掟を貫き通す事』ってのがその通りだ。確かに竜胆の『心』が折れてねーから俺の出す若干無茶な修行についてこられる。

 

「私も最近では力不足を痛感していル、私もお前も、共にまだまだだと言う事だネ」

「ったく、ガキどもに追いつかれないようにしなけりゃならねーなんてなぁ」

 

昔の俺なら、もし竜胆と出会ってなけりゃ、もし竜胆を引き取ってなけりゃ、こんな事は言わなかった。よくも悪くもアイツが俺を変えた、だがまぁ・・・・少なくとも悪かねぇ。ルーだってネーミングセンスは最悪だがコイツの中にも学ぶべき事は多いってもんだ。

 

「ルーよぉ、オメーも一人ぐらい直弟子取ったらどうだ?色々、面白ぇぞ?」

「そうだねェ、私もそろそろ考えてみようかネ」

「おぅやれやれ」

 

本当に、ガラじゃねぇ。




第三話でした。

早くもお気に入り登録が三桁目前、本当にありがとうございます。

前作からの変更点その一、奥の手が二つになりました。


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第四話:半世紀後の約束

たまの修行休み、俺は最近入ったとあるグループと良く遊ぶようになった。

 

「行くぜ行くぜ行くぜぇえええ!!」

 

風間翔一、グループのリーダー。凄まじく奔放で、最初はコイツがリーダーで大丈夫なんだろうか?とも考えたがコイツだからこそ、このてんでバラバラなチームがまとまっているんだと最近は理解してきた。

 

「キャップ!パス回せって、脇からリンが来てるぞ!」

 

直江大和、通称『軍師』。頭が良い、と言うよりは要領が良く実質的なチームのまとめ役。ちょっと中二病が入ってるが基本、気の良いやつで今では一番仲が良いかも知れない。

 

「きゃうんっ・・・・痛いぃ」

 

岡本一子、俺の妹分。昔と変わらず泣き虫だが、ちょっと内気だった性格は明るい方に矯正されている。忠勝が言うには翔一や大和のおかげらしい、俺はもう少し違う要素もあったと思うがな。

 

「大丈夫か一子、あんま無茶すんな」

 

源忠勝、俺の弟分。前々から世話焼きだったが、全体的に危なっかしいメンバーたちのせいかそれに磨きがかかっている。一子にはちょい甘さ多めだが・・・・?

 

「俺様がいるんだぜ!キャップを止めてやるぜぇええっ!!」

 

島津岳人、バカ。バカだが仲間思いの良い奴・・・・なんだが、妙に女子の前で息が荒くなったりするから女子からの人気はかなり低い。モテたいと言っているが・・・・その息の荒さを何とかしなけりゃ無理なんだろうなぁ。

 

「そういう事言ってるとロクな事にならないって、何で学習してくれないんだろう」

 

師岡卓也、ツッコミ担当。地味でおとなしいが広い見識と一部深い知識を持っている。皆に対するストッパー要員としても期待はしたいが・・・・勢いに押し切られやすいからちょい期待度は低め。

 

「うっし、ここで俺がパスカットを・・・・」

 

そして俺、結城竜胆。大和曰く『盾役』らしい、何に対してかは明言されていないが俺も明言しない、だって俺も大和を盾にしてるし。

 

「『スーパー百代』ぉ・・・・」

 

最後に川神百代、言わずと知れた俺の腐れ縁で大和曰く『矛役』。文字通りチームに降りかかる(喧嘩を売る)火の粉(上級生)を払う役目。

 

「ちょっと待て!それはぁっ!?」

「『スライディングキーック』!!!」

「キックは反そげぶぁあっ!!?」

 

これで八人、他人は俺達を『風間ファミリー』と呼ぶ。俺達自身も名乗っているが。

 

一ヶ月前に大和に請われて上級生をボコった俺と百代、一子の強い嘆願もあり風間ファミリーへの仲間入りを果たした。百代が翔一からリーダーの座を奪おうとしたり、それを咎めた俺が翔一と一緒にボコられたり、まぁ色々とあったが今では立派な?風間ファミリーのメンバーである。

 

何時もの原っぱに集まって、皆で遊ぶ。それだけなのだがそれが妙に楽しい、コイツラといっしょだと退屈しない。

 

―――――――――

 

「なぁなぁ、この草スゴくでかくないか?」

 

何時ものように原っぱで、何で遊ぼうかと相談している時に、翔一が突然そんな事を言い出した。

 

「そう言えば・・・・そうだな、他よりデケェな」

 

他の草が俺たちと同じぐらいの高さなのに、翔一が指さしたソレは大の大人と同じぐらい・・・・いや、それ以上の高さがある。

 

「せいちょうきってやつなんじゃねぇの?」

 

さすが岳人、発言がバカっぽい。だが成長期か、人間にだって成長期があるんだから植物にだってあるのかね?

 

―――――――――

 

更に一ヶ月経つと、流石にこの草の異様さに皆が気づき始めた。既に平屋建ての家を超えるぐらいの高さにまでなってきている。

 

「ねぇねぇ、この草もう5メートルは超えてるよ!?」

 

と思わず叫んだのは卓也だ、みんなの気持ちをきれいに代弁してくれた。

 

「ある日ワン子の姿が消えた・・・・」

 

と、突然岳人が語り始めた。ちなみにワン子、と言うのは一子のあだ名だ。

 

「するとこの植物がワン子の身長分、伸びていた」

「ギャーっ!!怖いわぁ!」

「テメェゴラァ!!ナニ人の妹怖がらせてんだぁ!?」

「ゴメンなさいっ!!」

 

ったく、一子を怖がらせるなんて何考えてやがんだ。

 

「ある日、岳人の姿が消えた」

 

今度は翔一か、なんだ?今度は岳人の身長分伸びるのか?

 

「するとこの植物が花をつけた時、そこには岳人の顔が!」

『キモッ!』

「気色悪い事言うんじゃねぇよ風間っ!」

 

っと、思わず本音が出ちまったじゃねぇか。見ろ、忠勝ですらデレが無しでツンじゃねぇか。岳人が絶望的な顔をしているがキモいものは仕方無い、だって岳人だし。

 

「しかしなんだろうなぁ・・・・確かに気になって仕方ねぇが・・・・」

「迷う必要なんてない」

 

草のてっぺんを見上げて、考え込んでると百代がとなりに並んでドヤ顔してる。

 

「分からない事は聞けば良い」

 

・・・・もっともだ、百代のクセに。だが一体・・・・

 

「・・・・すぅ」

「おーい皆、一回耳ふさげ」

 

OK、何をしようとしているかは理解した。分かる人に聞く、それが確実だ。

 

「ボケはじめのー!ブルセラじじぃーっ!!」

 

周りの空気を震わせたんじゃなかろうかと思うぐらいの大声、すると・・・・

 

「モモ!お前良い度胸しとるのぅ!!」

 

総代登場、皆が「エェー」って顔しているがこのバケモノ一族はこれがデフォなんだよ。

 

「まぁ落ち着いてくださいや総代、実はですね」

 

とまぁ、呼び出した主旨を伝えるとマジマジとその草を見渡す。

 

「こりゃリュウゼツランじゃのう、今風に言うと『せんちゅりーぷらんと』と言う奴じゃ。数十年に一度しか咲かん珍しい花じゃよ・・・・確か以前に咲いとった時期からすると・・・・一週間もせんうちに咲くんじゃないかのう」

 

総代の言葉に最も眼を輝かせたのは翔一だ、まぁ確かにロマンだよな数十年に一度しか咲かない花が、丁度咲くと言うのだ。そんなイベントを見逃すメンバーでは無く、咲いたら集合写真を撮ろう!と言う話をして、この日は解散したのだ。

 

ちょっと、一瞬だけ見えた人影は気になったがな。

 

―――――――――

総代が言っていた日の前日、日本を台風が直撃していた。激しい雨が窓に打ち付けられ、ただでさえボロい川神院の建物全体がギシギシと軋んでいた。台風で吹っ飛ぶんじゃないか?と心配したら総代がいざとなれば気で建物を護るから大丈夫と言っていた・・・・さすがは川神一族、パネェ。

 

「この雨風じゃあ下手すりゃポッキリ、かな」

 

あんだけ皆で楽しみにしていた写真撮影だが仕方あるまい、そう思っていた時だった。

 

「竜胆、キミに電話だヨー!」

 

廊下の方から聞こえた声、すぐさま受話器を受け取ると電話の主は大和だった。

 

「どうした?」

『リンっ!急いで何時もの原っぱまで来てくれ!!』

「・・・・はぁ!?」

『キャップたちがリュウゼツランを護るんだって!危ないって言ってもきかないんだ!リンと姉さんの力が必要なんだよ!』

 

とりあえず、ため息を一つ。無茶をする連中だとは分かっていたがここまで無茶をするとは・・・・だが、やっちまったもんは仕方ねぇ。ならば今はどれだけ被害を最小限に抑えるかを考えなけりゃならねぇ。

 

「しゃあねぇ、俺と百代が到着するまで無茶はすんな。翔一は何か用意してんのか?」

『何も!勢いだけで飛び出してったから!』

「分かった、道具もこっちで準備してく。忠勝はどうした?」

『先に向かわせた!無茶しないように見張ってって!』

 

良い判断だ、忠勝の言う事なら一子はおろか翔一も聞くだろう。岳人も卓也だけでは抑えきれないが翔一と一子が踏みとどまれば一緒に踏みとどまってくれるだろう。

 

「大和も直ぐ迎え」

『あぁ!』

 

受話器を静かにおけば、音も立てずに廊下を駆ける。無茶ばかりしやがる弟妹分たちを、手助けするために。

 

―――――――――

ゴンッ×3

 

「いってぇ!?」

「きゃうんっ!?」

「んがっ!!?」

 

とりあえず、真っ先に突っ走ったであろう翔一、一子、岳人の三人にゲンコツを落としておく。

 

「ったく無茶しやがって、今度こういう真似したら顔面にグーだ」

 

三人とも心配させた事はわかっていたんだろう、痛みで涙を浮かべながらも揃って頷く。

 

「さてと・・・・さっさと済ませるぞ、大和と忠勝が中心になって保護作業は進めろ!百代!」

「ああ、分かってるさ」

「んぁ?誰かいんぞ?」

 

俺達が暴風雨を乗り越えリュウゼツランのところまでたどり着くと、そこには人影が一つ。

 

「椎名!なんでここに!?」

「こんな時になんで出歩いてやがる!!」

 

翔一と、大和は知っている顔らしい・・・・二人が語気を荒げて問いかけた、単純に心配したんだろうなぁ。だがまぁ翔一は人の事言えないからなー?

 

「み・・・・皆、この花咲くの、楽しみにしてた、みたいだったから・・・・でも、嵐が来て、それで・・・・」

「聞いてたのかよ」

「お前関係無いだろ、危ないからけーれ!」

 

翔一が呆れたように声を上げれば、岳人が正論を言うが・・・・岳人、お前もだからな?

 

「ったく、どいつもこいつも・・・・今更一人で帰したって危険だ。人手が多けりゃそれだけ速く終われる、手伝え椎名・・・・頼むぜ百代」

「分かってる、私を誰だと思ってる?一人増えたって守りきってみせるさ」

 

普段なら茶化すところだが、今はその姿が頼もしい。俺はこっそり道場から持ってきたレプリカの槍を肩に担ぎ、百代は拳と拳を打ち合わせ空を見上げる。時折、瓦やら樹の枝やら吹き飛ばされたモノが強風に身を任せ空を舞っている。忠勝、一子、卓也が俺と、大和、翔一、岳人、椎名が百代と、それぞれロープで繋がれた状態で作業を始める。

 

「ウラァッ!!」

「ハァッ!!」

 

七人の作業に支障が出ないように、出来る限り動きを最小にして槍と拳で飛来物を叩き落とす。しっかしまぁ、百代は喜々としているなぁ。単純に自然災害から仲間を護る、と言う状況に興奮しちゃってんだろうが・・・・。

 

―――――――――

あの後、全員無事で作業を終えると俺と百代で手分けしてメンバーを家へと送り返した。ちなみに川神院に戻ると総代とルー師範代から半端無く説教された・・・・師匠は笑いながら「ガキのうちしかヤンチャは出来ねぇんだからイイじゃねぇか」って言ってた、その後に影で「今度からそういうヤンチャするなら俺も誘えよ、保護者がいりゃ色々楽だろ?」なんて言ってた、きっと心配してくれたんだろう。うん、めっちゃ楽しそうな顔してたけど心配してくれてたのに違いない。絶対そうだ、「俺も嵐の中で遊んでみてぇんだよ」とか言ってたのもきっと気のせいだ!

 

「何か・・・・フツーだな」

 

翌日、台風一過の晴天。無事に咲いたリュウゼツランを前に、皆が言いたくても空気を読んで言わなかった事を翔一が空気も読まずに言いやがった。

 

「言うなよ!?」

「そこは言わないでよ!?」

「空気読め」

 

思わず俺と卓也がユニゾンツッコミをしてしまったじゃないか。しかも忠勝までツッコミを・・・・お兄ちゃんちょっと嬉しいじゃねぇか。

 

「ほら写真撮るんだろ?集まった集まった」

 

岳人の母である麗子さんが、カメラ片手に呼びかけてきた。じゃあ集まろうか・・・・と言うところで、視界の片隅に椎名の姿が見えた。

 

「翔一」

「ああ、大和!キャップ命令だ、椎名を連れてこい!」

 

こういう時だけ空気が読める翔一が、大和に影に隠れていた椎名を連れてくるように命令して大和が渋々ではあるが椎名を連れてくる。椎名を入れて九人、思い思いのポーズを取ってリュウゼツランの前に並び写真を撮った。

 

次に咲くのは五十年後、またその時に揃って撮ろう。

 

そんな約束を、九人で交わす―




第四話でした。

気がつけばお気に入りが二百に、本当にありがたいですね。


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第五話:大和、起つ

「リン、少し相談があるんだ」

 

大概、皆で集まる原っぱに最初に来るのは俺だ。その後がまばら、最後に来るのは忠勝、一子ペアか岳人、卓也ペアのどちらか。なわけなんだが、今日は珍しい事に俺より先に大和が来ていた。しかも相談、と来たもんだ。

 

「まぁ、俺で良けりゃ聞いてやるよ」

「ありがとう、実は・・・・」

 

相談、と言うのは一人の女子の事だった。

 

そう、ついこの間一緒に竜舌蘭の保護を手伝ってくれた椎名の事だ。彼女はいじめられっ子だ、今までクラスが一緒になる事は無く、接点もほとんど無かったため正確な現状を理解しているわけでは無いがかなり陰湿なモノが多いと聞く。直接的な接点が出来た先日以降、それとなく気にするようにしてあまりエスカレートするようなら助け舟を必要最低限は出しているが俺はそこまでだ。ぶっちゃけ、直接助けを求められていないから、俺はお節介にならない範囲で手を出すだけだ。

 

大和は今年は同じクラスになった、ついでに翔一と岳人も。実際、目の当たりにしたのは大和も今年が初めてだったらしい。少し前までは、関わらないようにしていたらしい。ファミリーの仲間の事もある、下手に動けば特に気の弱い一子や卓也を巻き込むと思ったらしい。だがつい先日、関わりを持ってしまった。時折、他に人気が無いところで二人で本の話をしているのを俺と百代が見ている。・・・・別に?面白そうだと思ったりしてないよ?弟分に春が来た!とかそんな事は言ってないからね?

 

でだ、大和は見過ごす事ができなくなってきたらしい。子供の目線で見ても、自殺しかねない状況に椎名は追い込まれているらしい。だが、それでもチラつくのは俺らの事だった。椎名を助けようとする事で迷惑をかけるんじゃないか、と思っているようだ。

 

「ったく・・・・テメーはどうしたい?椎名を助けたいんだろ?」

「そうだよ、だがそれで・・・・」

「俺たちはそこまで頼りねーか?」

「!?」

「降りかかる火の粉は百代(アイツ)が払う、理不尽な報復があれば俺が護ろう」

 

遠くから駆けてくる翔一や一子、その後ろを着いてくる忠勝に手を振りながら言葉を続ける。

 

「だから仲間を信じて思うがままに動け」

 

 

―――――――――

 

その翌日、大和と翔一が体中に青あざ作りながら椎名を連れて来た。

 

「俺は椎名を助けたい!」

 

結局、我慢できずに助けに入ったらしい。と言うのも椎名が世話をしていたクラス飼育の金魚をヒーターを弄って死なせたのだそうだ、そしてそれを複数人で囲み椎名のせいだと言う。誰が最初に椎名を泣かせるかを競おう、大和を誘ったヤツがそういったんだそうだ。

 

「俺は予め言ってた通りだ、お前がやる気なら俺はやってやる」

「弟が人助けをしようとしているんだ、手伝わない姉はいない!」

 

俺と百代はもちろん、椎名を助ける要になるので参加する。

 

「イジメとか良くないわよね、なんで皆そんな事するのかしら」

「まぁ・・・・良いんじゃねぇか?」

 

一子と忠勝も賛成する。

 

「うん、僕も賛成」

 

卓也も賛成する、が。たった一人、反対の意を示した。

 

「俺は嫌だぜ!コイツを助ける理由がねーよ!!」

 

岳人は・・・・多分、一子や卓也の事を心配したんだろう。大和や翔一、忠勝は以外と喧嘩慣れしている、岳人自身は小学生離れしたパワーを持っている、だが戦う力が無いのが一子と卓也だ。だから・・・・

 

「ここでコイツを庇ったらますます女子との距離が開いちまう!」

 

仲間思いなんだと、これは照れ隠しなんだと、俺は思いたい。

 

「なんとも、思わないのかよ」

「そうとは言ってねぇだろ?でもそれはそれ、そいつを助けてやる理由がねぇよ」

 

正論だ、確かに正論なんだが・・・・

 

「なんかさぁ・・・・小せぇな、ガクト」

 

珍しく大和が喧嘩腰だ。普段ならガクト抜きで動く、とか言いだすんだろうが・・・・。元々、色々と言いたい事はあったのかも知れん。仲間内の喧嘩なんてのは止めてしかるべきなんだが、今回は翔一も百代も俺と同じ考えのようだ。二人も止める気が無いなら俺もとめずに見守る方向で行こうか。

 

「はぁ?俺が小せぇだぁ?ならお前はどうなんだよ大和!生意気言ってっと軽く捻るぞ!?」

 

あ・・・・

 

「おい」

「がっ!!?」

 

先に殴ったのは大和だった、ガクトが信じられないモノを見る眼で大和を見る。

 

「今なんつった?『軽く捻る』って言ったよな?そっか、お前は俺をそう(・・)見ていたのか」

 

比較的短い付き合いだが分かった事がある。普段は知性派気取って厨二臭いセリフも吐く大和だがその実、かなり熱い性格をしている。んでもって一方的に、上から目線で舐めた態度を取られるのが一番嫌いだ。だからこそ、岳人のセリフが逆鱗に触れてしまったのだろう。

 

そして岳人はこれを機に口の利き方と言うのを学んだ方が良いな。例え本当に相手が格下だとしても、それを怒らせたりすれば『こうなる』事がままあるもんだ。まぁ、岳人は痛い目みないと覚えないことの方が多いしな。

 

―――――――――

 

数分後には大和も岳人も地面に倒れ伏していた。痛み分け、とは行かないが岳人が根負けしたようなものだ。

 

「ぜー・・・・ぜー・・・・」

「お前、思ってた以上に根性あんのな・・・・悪かった」

「分かれ・・・・ば、良い、ん・・・・だよ。分かれ・・・・ば」

 

息も絶え絶え、と言う言葉がよく似合う状況ながらも二人は笑みを浮かべていた。

 

「ったく、ほれ。治療してやるから起きろ」

「ああ、ありがとう」

「えー、俺様は女子に治療して欲しいぜ」

 

素直に礼を言う大和と文句を言い始める岳人。

 

「そうか、『女子』が希望か。なら頼むぜ、百代」

「ああ、任せろ」

 

にっこりと微笑む、何も知らぬ者が見るならば歳相応、いやそれ以上に綺麗な美少女の笑みに見えるのだろう。だが実際を知る者は十中八九、『何かがある』と予感、否、確信している。

 

「川神院に伝わる秘孔を突いて一発快癒させてやろう」

「百代、お前それ・・・・この間失敗して人体模型を破裂させたアレだよな?」

「―――!!?」

 

岳人が声にならない悲鳴を上げている。

 

「まぁいいさ、差し当たっての問題は椎名の事だろ?とは言っても対策は簡潔、椎名が俺らの仲間に入った事を喧伝してまわれば良い」

「「けんでん?」」

「要するに声高々と言って歩く、ってぇ事さ」

 

川神小では百代と、不本意ながら俺は『手を出してはいけないバケモノ』扱いになっている。俺とか川神一族に比べたら可愛いもんだって、川神一族がライオンなら俺は柴犬だぜ?まぁそこはともかくだ、その百代と俺がいると言う事で風間ファミリーに喧嘩を売ってくるヤツは少ない(いないわけでは無い、県外遠征してくる不良とかいるしな)。庇護するには最も適している、ので俺らの身内になったって事をおおっぴらに広げるわけだ。それでもまぁ、信じない奴らがいればちょっくらお話(物理)をするだけだしな。

 

「んでもう一つ、椎名自体の意識改革だ」

 

イジメはイジメる方の性根にも問題はあるが、イジメられる方の意識にも問題はある。椎名の場合は諦観していた、自分が我慢をすれば良いだけなのだと。やり返せるだけの『力』は持っていたのにやり返さず、また状況を改善しようともしていなかった。

 

「ってわけで大和、任せた」

「あぁ!」

 

イジメる方の性根は治しようが無いから捻じれ曲がったアホどもは俺らが物理で処理するとして、椎名の意識を変えるには誰かが付きっきりで世話を焼いてやるのが一番だ。この場合、最初に椎名を助けようと手を伸ばした大和が適任と言えるだろう。まぁ、若干の懸念が無いわけでも無いが心配しないでも良いだろう。

 

「教室にいる時ゃ大和と翔一、下校時は必ず百代を連れてけ。世界最高水準の防犯ブザーだぜ?」

「ああ任せろ、撃退から病院送りにするまでキッチリこなしてやる」

「やりすぎたら前髪ストレートにすんぞ」

 

前髪を抑えながらガクブルしてる将来の武神(笑)。まぁともかくだ、流石の百代も同世代相手なら手加減するだろう。だから百代が手加減と言う枷を外し始める歳上、例えば「俺の兄貴は有名なワルなんだぜ!」とかで呼ばれるレベルを相手にするのが俺だ。ああ言う歳上である事とか、あとは人数を頼みにして来る奴らとか百代は超が付く程嫌いだからな。

 

「椎名、何かあったら俺とか大和とか・・・・そうだな、卓也に相談してみると良い」

「え?僕?」

 

卓也は特別頭が良いわけじゃない、成績も中、頭の回転もまずまずと言ったレベルだ。だが思慮深く、知識は浅く広く、卓越した回答は返ってこないが万人が納得する回答を返してくれる。

 

「なぁなぁ、俺様は?」

「椎名が手を出されそうになったら身を呈してガード、要するに肉壁だな」

「そんな役目ばっかりかよ!?」

 

空気を読めない時は読めないが変なところで読める岳人は自然と空気を和ませる事がある・・・・癒し効果のある筋肉とか誰得って話だが。まぁ、気は紛れるよな。

 

「その他もろもろ足りんところは忠勝と一子に任せるぜ」

「あぁ、分かった」

「任せてよ!」

 

そして達人の域で空気が読める忠勝と、忠勝に十割手綱を握られているムードメーカー一子にカバーをさせる。うん、俺が思っている以上の布陣だなコレ。

 

「さーてと、んじゃまぁいっちょやりますか」

 

ここから約三ヶ月の月日を重ね、俺たちは椎名が風間ファミリーに加わったと言う話を信じないバカに説得(物理)を続け、それでも信じず歳上を呼び出すアホを制裁し障害を排除。それと同時に椎名に対し意識改革を施し、結果として椎名に対してのイジメを無くす事に成功する。だが・・・・

 

「大和、大好き(ぽっ)」

「なんでだァああああ!!?」

 

まぁ、ちょっとした人間関係の変化もあったが誤差の範囲内としておこう。




第五話でした。

お気に入りがあっという間に三百を突破しました、マジでありがとうございます。

で、前作からの変更として竜胆と小雪との絡みが無くなりました。でも安心して下さい、小雪のファミリー入りは前作と同じで確定してますんで。ただ時系列はズラしますが。

いよいよ次回、第六話:竜胆、身売りされる(仮)です!


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第六話:竜胆、身売りされる

side 釈迦堂刑部

 

最近、俺の弟子・・・・っつーより川神姓のガキが一人増えた。

 

川神一子。

 

ああ、ウチのバカ弟子の妹分だよ。そいつの里親だったバーさんが亡くなってな、俺もたまにメシご馳走になってたから葬儀には出たんだがよ。んでそのバーさんの親戚だっつー野郎が一子を引き取るって言い出したんだが・・・・コイツが、なんつーかな。俺だって真っ当な人間じゃねぇ、って自分でも思うがその俺が見ても「コイツは拙い」と思わざるを得ないようなヤツだった。典型的なアル中、常に赤ら顔で手の震え、ヤクでもやってんじゃねーかってぐらい眼は焦点が合ってねぇ。何より一子を見ている時の眼、アレはあの年頃のガキに向けて良い眼じゃねぇ。「欲望の捌け口」として見ている眼だ。

 

それで動いたのが百代と竜胆、それに忠勝と大和の四人だったってわけだ。ジジイを説得し一子を川神院で養子として引き取る事を承諾させ、忠勝の里親の宇佐美と大和のオヤジの二人による法的機関への根回しにより思ったよりもつつが無く一子は「岡本一子」から「川神一子」になった。そこまでは良かったんだぜ?俺だって竜胆の親みてーなもんだ、ヨソのとは言え、見知ったガキがあぶねーヤツのところに行くのを回避出来たわけだし。問題はその後だった。

 

『釈迦堂、責任を持って一子の面倒も見るんじゃ』

 

一子が川神院の修行僧になりたいって言い出しやがった。まぁ、百代や竜胆みてーな傑出した才能は今のところ見えねぇが竜胆みてーなパターンもある。竜胆から聞く限りじゃ根性はあるみてーだし、悪くはねぇんじゃねぇかって言ったらジジイがんな事言い出しやがった。

 

『モモも竜胆もお前の弟子じゃろ、二人に多分に影響を受けたみたいじゃしのう。それに兄姉が一緒じゃと少しは気楽だと思うんじゃよ』

 

正確に言うなら百代は直弟子じゃねぇ。だがまぁ、結果として俺はOKを出しちまった。百代や竜胆に頭ァ下げられたのもあんだけどよ、それ以上にあれは反則だろうよ。

 

『頼みます』

『お願いします!釈迦堂さん!!』

 

忠勝と一子の二人が揃って頭を下げてきたのだ。俺ァこういうのに弱いんだよなァ。あぁ、きっと遠くの方で百代と竜胆がハイタッチしてたけど気のせいだと思うんだがよ。

 

んでまぁ、結局一子を見てやる事になったんだが・・・・ここでもう一つの問題が出やがったんだ。

 

「おい竜胆、ちょっと道場裏来い」

 

―――――――――

 

一子の問題も片付いてさぁ、久しぶりに修行に精を出すぞ、と思っていた時の事だった。

 

「おい竜胆、ちょっと道場裏来い」

 

師匠のその一言を受け、俺の取るべき対応は。

 

「誰かぁ!!助けて!!カツアゲされるぅう!?」

「テメー!?」

 

師匠は慌てる、だが良く考えてくれ。どう考えても「ちょっと体育館裏来いよ」っていう常套句にしか聞こえねーじゃねーか。

 

「テメーが俺をどう思ってるかは良く分かった、だがちげーよ。ちょいと込み入った話をするから周りに聞かれたくねーだけだ」

「なら最初からそう言えや」

 

ったく、あんまりにもリアルに想像しちまったじゃねーか。

 

「で?込み入った話ってなによ?」

「まぁぶっちゃけな、俺がお前に教えられる事ってねぇんだわ」

「職務怠慢宣言かクソ師匠」

「いや、マジな話でよ。基礎能力も百代と渡り合えるレベル、技術だけなら百代以上、気の量も扱いも上々。元々川神院の技があわねぇってのもあるんだろうけどよ、こっから先はテメーが地力で道を開拓するしかねーんだわ」

 

まぁなんとも、聞いてみりゃまともな話だった。

 

「そこでだ、良い話があるんだがよ」

「聞くだけ聞く」

 

このクソ師匠の良い話ってのは九割九分裏がある。なにも知らなかった頃の純粋無垢な俺が騙されたのは片手じゃ済まされんのだ。

 

「俺の知り合いがよ、若い腕利きを探してんだよ。仕事柄、そいつに気に入られれば世界各地を回れるし色んな相手とやり合う機会も増える。ってぇ事はオメーの武術の幅を拡げるチャンスだと思うんだがよ」

 

ふむ、確かに、だ。俺の弱点ァ手数の少なさだ。なんでも師匠に言わせりゃ俺と川神院の技ってのは基本的に相性が悪いらしい。その中でも辛うじて使えるモノだけを俺は教えてもらった、が・・・・

 

「それ、割と長い話だよな?」

「あぁ、二、三年ぐれぇだな」

 

長いな。それでも・・・・俺は・・・・

 

「連れてけよ、その知り合いの所によ」

「潔いじゃねぇか」

「ったりめーだろ、俺は強くなるんだからよ」

 

何も変わりはしない。川神を離れる事もあるだろう、仲間たちと一緒にいられない事も必然増えるだろう。そこをわずかばかり懸念した、だが直ぐに俺はそれを振り払った。決して長い付き合いとは言えない、一年やそこそこの付き合いだ。それでも、ちょっと離れ離れになった程度じゃ俺とアイツ等の関係は変わらない、と断言出来る程度には互いを知っているつもりだ。

 

「今も昔も変わりゃしねぇよ、何一つ」

「そうかよ、なら明日には予定付けるぜ」

「あぁ、頼む」

 

 

―――――――――

 

翌日、師匠に連れて来られたのは世界でも有名なとある場所。

 

「なぁ師匠、来る場所間違ってねぇか?」

「間違ってねぇよ」

 

だってさぁ、天下の『九鬼財閥極東本部ビル』だぜぇ?師匠とか絶対縁ねぇじゃん?無関係なんて生易しい表現じゃ済まされんよ。

 

「どんな知り合いだよ」

「昔スカウトされたんだよ、ガラじゃねぇって断ったけどな」

「あー」

 

分かる分かる、ガラじゃねーっつか、天地がひっくり返っても有り得ねぇ。むしろなったら指差して大爆笑してやる。ってかよ、ヒシヒシと嫌な予感がして来やがった。

 

「珍しく時間通りに来たな、釈迦堂」

「っ!!?」

 

反射的に、だった。身を翻しつつ間合いを取り、拳を構えた。刹那に感じた身を突き刺すほどの闘気、横っ面への上段蹴りを『リアルに幻視』してしまう程の気。武芸の達人は相手に触れずとも気を以て相手を制する事が可能だ、と聞く。眉唾だと、思っていたがこうして体感してしまえば認めざるを得ない。『それはありえる』のだと。

 

「ほぅ・・・・」

 

金髪の老人・・・・老人?偉丈夫とはこうあるべきだと言わんばかりのガッシリとした体格。執事服な理由はイマイチ分からないが先の闘気を発したのは間違いなくこの人、て言うか眼が明らかにカタギじゃねぇんだけど。

 

「小手調べ程度に気を当てて見たのだがな、思っていた以上に良い動きをする」

「だろ?」

 

随分親しげに話してるが・・・・まさか、師匠の言う『知り合い』ってこの人の事なのか?

 

「俺の名はヒューム・ヘルシング、『ヒュームさん』でも『ヘルシング卿』でも好きに呼べ」

「結城竜胆っす」

 

取り敢えず自己紹介を返す、とこの爺さん・・・・ヒュームさんと取り敢えず呼ぶ事にしようか。そのヒュームさんが嗤う。本来、笑うと言う表情は攻撃的な意味合いを持つと言う。そんな雑学が脳裏に現れる程度に、ヒュームさんの笑みは逆に怖かった。

 

「喜べ赤子、貴様は『九鬼家従者部隊試験雇用制度』のテストケースの一人として選ばれた」

「・・・・質問、その『九鬼家従者部隊試験雇用制度』ってなんすか?」

「貴様や釈迦堂のようなヤツのための制度だ」

 

俺や師匠?共通項は武術家、ぐらいなもんだが・・・・

 

「一芸に秀でてはいるが従者としての適正が不明な者に対し一定期間の教育を施し、その適正の有無と程度を測り規定水準を満たせば従者部隊として、満たさねばそれ以外の適職を紹介する。というのが大まかな概要になるな」

 

ふむふむ、成る程。つまりだ・・・・

 

「要するに身売りじゃねぇかゴラァッ!!!」

「んがっ!?」

 

取り敢えず師匠の顎にアッパーぶちかまして気は晴れた。

 

「だが、一つ条件がある」

 

だよねー。いくら実力が指折りで、一応は川神院師範代って肩書きを持つこのクソ師匠の紹介だっつっても即OKってワケはねーだろ。

 

「今後、この制度を正採用する場合の事も考えれば生半可な者を選ぶわけにはいかん。無論、貴様以外の者もそれ相応の篩をかけてある」

 

うん、これはバトるパターンだな。誰が相手だろうなぁ、ぶっちゃけヒュームさん以外だったら誰でも・・・・

 

「そこでだ、貴様のウリである戦闘力を測るために・・・・俺と、戦って貰おうか」

 

まぁ、アレだ。予想ついちゃっていた事とは言え、納得しきれんもんはしきれん。と言うわけで、俺はこのセリフを言おう。

 

 

人生オワタ\(^o^)/




第六話でした。

とうとう今作も来ました身売り回。そして次話、VSヒューム。『戦わなければ生き残れない』ってフレーズを私は思い出しますね。

そしてお気に入り登録三百突破、本当にありがとうございます。

それを記念して、と言うわけではありませんが前作でもありましたFate/風ステータスを今回も作ってみました。

クラス:ランサー
真名:結城竜胆
性別:男
属性:混沌・中立
身長/体重:155(180)cm、50(85)kg
地域:日本

筋力:C+(A) 耐久:A(A+++) 敏捷:B(A)
気:B++(A+) 幸運:E(E+) 宝具:D(B)

クラススキル
対魔(気)力:B(A)
騎乗:C(B)

( )内が原作開始時のステータスになります。前作と比べてもびっくりするほど高水準、だが幸運値は安定のE。物語の進行と共にステータスは更新して行きます。


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第七話:最強と戦う

死刑宣告から僅か数分、九鬼家極東本部ビル前には人集りが出来ていた。ヒュームさんは零から999まである従者部隊の序列零位、言うなれば従者部隊のトップにして最強である。うーん、つまりアレだ。野球でいうなら監督兼選手で四番のエースピッチャー、って感じだ。大体合ってる?え?微妙に違う?師匠の説明だとそんな感じだったんだけど。

 

「フハハハハハハッ!!」

 

何故か俺の隣で仁王立ちして笑っているのが九鬼英雄、九鬼財閥の跡取り息子。ヒュームさんと俺が戦う、と聞いて見物に来たのだそうだ。んで、さっきちょっと話をしたんだが・・・・

 

「フハハハハハハッ!!気に入ったぞ!必ずやこの試練を突破せよ!」

 

って感じで妙に気に入られてしまった。

 

「ほれ竜胆」

「おぅ」

 

師匠に頼んで持ってきてもらったのは槍、川神院で鍛錬用に使っていたモノだ。最初は九鬼側で用意する、とは言われたのだが矢張り使い慣れたモノの方が良いと思ったわけだ。んでパシらせた。

 

「それではこの勝負、従者部隊序列三番。クラウディオ・ネエロが立ち会いを務めさせて頂きます」

 

そう言って前へと進み出たのはTHE執事、って感じの人だ。デキる、ヒュームさんや師匠程極端に強いわけじゃない、だが相当デキる。

 

「気絶などによる戦闘続行不能、及び両者のギブアップ宣言のどちらかを以て勝敗を決します。両者準備は宜しいですね?」

「あぁ」

「応っ!!」

 

槍を構えた俺に対してヒュームさんは胸元の蝶ネクタイに手をかけ、残る片手をフリーにしている。油断も慢心も欠片とて感じられない、アレが素なのだろう。

 

「始めっ!!」

 

何時もの俺は『待ち』が基礎にある。後の先、俺が槍の真骨頂である『変幻自在の取り回し』を活かしてのカウンター狙い。まぁ、これが通じるのは修行僧と百代ぐらいなもんだ。つまりは同格か格下、もしくはちょい上、程度までしか通用しないんだよなコレが。だからこそ、『待ち』は無し。と言うか後手に回れば確実にやられる、ならば取るべきは一つ。

 

「最初からトバすしかねーだろ」

 

先手必勝、慣れねぇやり方だが前に出るしかねぇだろうよ。何よりヒュームさんが見てぇのは『コレ』なんだろうしな。

 

「『槍製・飛槍十本』っ!!」

 

奥の手その一、『槍製』。言ってしまえば気で槍を作る技で、手数が必要な時や槍を持っていない時のための技。そのバリエーションの一つが『飛槍』、『槍製』で作った槍を飛ばす技であり牽制、もしくは複数本を生成し面制圧に使用するわけだ。今、タメ無しで作れる十本をヒュームさんめがけて放った・・・・が。

 

「フンッ!!」

 

オイオイ、当たり前のように蹴りで砕ききったぞこの人。ある程度は想定してたけどさ、だがそれでもわずかな隙は作り出した。ならやるしかねぇだろうよ。

 

「『飛龍一閃』っ!!」

 

純粋な突き、だが最短の軌道を描くその一閃は未だ俺の求むる領域には至らないがそれでも現状の俺にとっては最速にして最強の一撃だ。

 

「・・・・フッ」

 

俺が隙だと思っていたモノは俺が思う程の隙では無かったようだ。危なげなく避けられた、一撃を放つために総力を注ぎ込んだ俺にはここから打つ手は今は無い。

 

「結城竜胆、貴様は既に『こちら側』に片足を踏み入れた」

 

妙に、全てが遅く感じられた。その全てを遅く感じる時の中で、眼前に迫るヒュームさんの回避不可の蹴り。

 

「『見事』、だからこそ上を知り高みを知れ・・・・『ジェノサイドチェンソー』っ!!!」

 

衝撃、そして俺の意識は途絶えた。

 

 

 

side 釈迦堂刑部

 

「良くやった、バカ弟子」

 

倒れ行く竜胆があの爺さんから引き出した『二言』は、並の武術家じゃ引き出せねぇ。壁越えをしてなお、その中でも一定水準を越え、認めさせなければ引き出すことが出来ねぇ。それをアイツは十●歳にしてやり仰せやがった、価千金ってところだ。

 

「おい釈迦堂」

「どうだ、俺の弟子はよ?」

 

俺が爺さんにそう問いかければ、珍しく笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「今はまだまだ赤子だ、それでもだいぶマシな赤子ではあるが・・・・五年だ。五年後、アイツがお前や鉄心に集中的に鍛えられ、場数を踏めばもしやと。そう思わせる程の才気の片鱗を俺は垣間見た。まず間違いなく揚羽様以上、いや・・・・百代以上かも知れんな」

「んじゃそのアンタを越えるために三年ぐらい頼むわ」

 

俺の言葉に、ちょっと驚いた表情を見せやがった。

 

「良いのか?」

「良いも悪いもねぇよ、元々アイツと川神院の技は相性が悪いんだよ。それに川神院にいちゃ対外試合にも不自由、となりゃアンタのところで色々とやらせてもらった方がよっぽど良い経験にならぁ。それに・・・・俺はアイツの親代わりみてーなもんだからよ、親ならガキのために色々考えて当たり前だろ?」

「変われば変わるものか・・・・触れれば全てを傷つけるナイフ、いやそんな可愛らしいモノではなかったな。まぁ、そんな悪ガキが今では親としての振る舞いをしている」

「へっ、丸くなってつまんねぇ、ってか?」

 

爺さんは、眼を閉じゆっくりと首を横に振る。

 

「むしろ以前の、獣のようだった頃よりも洗練されている。良い影響を受けているようで何よりだ」

 

そこまで言えば、爺さんは踵を返し雇い主の方へと歩いていく。

 

最近、よく言われるようになったな。

 

「さて・・・・とだ」

 

ジジイに報告して、色々やってもらわにゃならんな。

 

―――――――――

 

眼が覚め、眼に映ったのは見慣れない天井だった。

 

「眼は覚めたか」

 

寝かせられていたのはベッドだ、しかもそこらのホテルよりも立派な部屋。と言うか起き抜けに心臓に悪いなオイ、ヒュームさんが尊敬に値する人物なのは何となく察せるがそれでも顔は怖いんだよ。

 

「さて、完膚なきまでに敗れた気分はどうだ?」

「思っていたより悪くはありませんよ、足りないモンも見つかった事ですし」

 

『槍製』の脆さ、技の拙さ、足さばき、etc・・・・

 

「後ぁ足りないモンを補うように鍛錬に勤しむだけです」

「そうか」

 

着いてこい、と視線で促され、ベッドを出てヒュームさんの数歩後ろをついて歩き出す。

 

「先ず結果だが合格だ、特筆すべきは俺の『ジェノサイドチェンソー』を真っ向から受けて一時間程度で眼を覚ますタフさ。なんだが・・・・貴様、『視えて』いたな?」

「・・・・まぁ、『眼』には自信があるもんでして」

 

だからこそ、あの『鬼ごっこ』やら『私刑(リンチ)』を耐えてきたわけでだ。

 

「なる程な、あの一瞬で打点をズラすとは良い『眼』を持っている。加えてあの気で槍を作る『気の総量』と『気を操る技術』、活路を見出すべく死地と知りながら俺の間合いへと踏み込んでくる『胆力』。何より最後の一突きには貴様の全てが詰まっていた・・・・が、その反面速度が足りん。体捌き、足捌きで上手く誤魔化してはいるが俺にはバレバレだ」

 

そうなんだよな、単純な速度が足りないんだよ。だからこそ、回避はあくまでヒュームさんが言ってる体捌き、足捌きのみ。速度が無いから見切られたらそれで終わり、フェイントやっても足が遅いから効果薄めだし。小手先だけの技じゃあ限界があるのは俺も分かってるんだよな。

 

「そこを鍛えるのも俺の役目だろう、そこは安心しろ」

「お手柔らかに、って事でひとつ」

 

ヒュームさん程の実力者に鍛えて貰えるなら願ってもない事だ。

 

「ここだ、入れ」

 

そう言ってヒュームさんが扉を開ける。

 

「フハハハハハッ!ヒュームの『ジェノサイドチェーンソー』を喰らってなお一時間で復活するとは凄まじいタフさだな竜胆!!」

 

待ち受けていたのは英雄、他数名の執事とメイド。さっき立会人をやった爺さんもいる。それにチラホラと私服の人とかもいるが・・・・

 

「竜胆様、先ずは合格おめでとうございます。我ら九鬼家従者部隊は貴方を歓迎致します」

「暫くは同僚になるんですよね?なら客用の対応は無用じゃありませんかね?」

「いえ、正式に雇用になるにはまだ数日あります。それまではお客様として扱わせて頂きます」

 

成る程、流石は徹底してるね。

 

「これより同じ制度で部隊入りする同僚と、担当者の紹介。それと雇用契約書等の書類関係の話に入らせて頂きます」

 

そう言って爺さんがテーブルの上に差し出したは分厚い冊子。具体的に言えば鈍器としての使用も可能なんじゃないか、と思えるぐらいには分厚い。

 

「・・・・これは?」

「雇用契約書でございます」

 

思わず周囲の、多分俺と同じで試験雇用制度で雇われたであろう人達を見回す。全員が揃って遠い目をしていた、と言う事はこの爺さんの茶目っ気のあるジョークとかじゃあ無いわけだ。

 

「そちらは後ほど読んで頂ければ、先ずは担当者と同僚を紹介していきましょう」

 

さてさて・・・・どうなることやら。




第七話でした。

気が付けば888件、ビックリしました。マジで。

前作でも活躍した『槍製』は出ましたが、まだもう一つの奥の手は出ません。未完成なため実戦での使用は早期、と竜胆が判断したのが理由となっております。

そして次回から九鬼家従者部隊編に突入しようかと思います。


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第八話:日常は非日常へ

ながーいながーい説明会を終え、これから共に働く同僚たちと互いに境遇を嘆き、川神院に戻ってもう一発師匠をぶん殴ってから俺は報告のために金曜集会へと参加していた。

 

「いいなー、いいなー、いいなー!!」

「お前ね、他人事だと思って好き放題言ってくれるじゃねぇか」

 

矢張りか、ヒュームさんと戦った時の事を話して食いついてきたのは百代だった。

 

「おかげさんで俺は来週から執事をやるハメになっちまった」

 

そう、執事である。ヒュームさんという世界でも三指に入る実力者に教えを請えるのだから代償としては安い、のだがそれと納得できるかどうかはまったく別の問題である。

 

「んー」

 

俺を見て首を傾げ、何かを考えているのは京だ。俺たちの仲間に入り、直接的、間接的両方のイジメが無くなって以来、徐々に性格も改善されつつある。途中で大和に惚れる、と言うアクシデントは発生したがそんなものは安い代償だ。むしろ好きな異性がいる、と言う事は様々な事柄に対する原動力となり得る。今後に期待、と言う事だ。

 

「どうした京」

「似合いそうだな、と思って」

「ハァ?」

 

自慢じゃねぇが似合うとは思わんぜ?何せ自慢じゃねぇがあの師匠の弟子だ。あの師匠よりはマシだが暮らしてきた環境(川神院)の関係上、それなりに非常識な自覚はあるんだ。

 

「んなわけねぇだろ?なぁ・・・・」

 

周囲を見回せば、何故か全員が首を縦に振っている。

 

「で?どうだったんだよ、そのヒュームって爺さん。ウチのジジイのライバルだった、って聞いたぞ?」

 

いつもならこうやって突っ込んでくるのはキャップなんだがな、ヒュームさんが総代のライバル、と知って百代が興味津々になってしまっているわけだ。

 

「どうもこうもあるかよ、牽制で撃った技を真っ向からブチ抜かれて、一番威力のある技をあっさり避けられて蹴りの一発でKOだ」

 

俺の説明を受けた全員が信じがたい事を聞いた、と言わんばかりに眼を見開いた。

 

「「「「「リンがぁ!?」」」」」

「リン兄が!?」

「・・・・兄貴がかよ」

 

何この反応、なんだと思われてんの俺?

 

「ジジイの毘沙門天の直撃喰らっても「殺す気かっ!!」って叫んでたのに、私ですらアレをまともに食らえば少しの間は動けないんだぞ?」

「ルー師範代のストリウムファイヤーが直撃しても「熱ぃ!?」で済むのはリン兄ぐらいよ」

「釈迦堂さんに多摩川で水切りの石みたいに吹き飛ばされても次の瞬間には釈迦堂さんにアッパーかましてるし」

「ダンプに跳ねられてもむしろダンプの方が壊れてたじゃん、ほら轢かれそうだった猫助けた時」

「ビルの屋上から落ちた下級生を助けた時なんか地面は陥没したけど平気だったしね」

「この間ビルの看板が落下して直撃でも平然と歩いて帰ったって俺は聞いたぜ」

 

・・・・おかしいな、聞けば聞く程自分でもバケモノじみてると思えてきちゃうぞ?

 

「つまりは俺なんかよりずっとずっと上にいるバケモノ、ってぇ事さ。今の状態じゃ百代、お前でも無理だ」

「無理か」

「俺とお前のタッグでも無理だね、それぐらい差がある」

 

俺の言葉に百代が真面目な表情になる。

 

「だがアッチは全盛期を過ぎたジジイ、こっちは今から全盛期の若者だ。『若さ』と『成長度』が俺たちの武器、だが・・・・まぁ悠長にしてらんねぇわな。引退されちゃ勝ち逃げされたも同然だ、だから百代。俺とお前、それにこの世界の何処かにいる同年代の連中でよ、ジジイどもにキッチリ引導渡してからご退場願おうや」

 

続けて紡いだ俺の言葉に、周りの全員がポカーンとする。が直ぐに百代が大声を上げて笑いだした。

 

「ハハハハハハハハハッ!!!そうだな!お前でも一蹴されたとか聞いてしまってちょっと心が萎えてた。そうだよな、私たち若者がジジイどもを引退に追い込むぐらいじゃなきゃな!」

「俺はそのために川神院を離れてヒュームさんの下に行く、『敵を知り己を知れば百戦危うからず』ってわけだ。才能に胡座かいて腕ぇ鈍らせたりすんなよ百代」

「それはこっちのセリフだ、執事業に精を出しすぎて武術を疎かにするなよ」

「それこそ、だな。あのヒュームさんの前でそんなマネがデキるとも思わねぇ」

 

俺たちの『何時もの』やり取りを見た皆が、次々に言葉を紡ぎ始める。

 

「本当にずるいぞぅ!!俺も来月からカンボジアに探検しに行くけどよ!!」

「ちったぁ勉強しやがれお前は」

 

何時も皆の先頭に立つリーダーの翔一。

 

「キャップもそうだけどたまには戻って来いよ」

「ああ、善処はするぜ。善処は」

 

そんな翔一の脇を固めて皆に指示を出す大和。

 

「まぁ・・・・なんだ、風邪引くなよ」

「お前もな」

 

最近『オカン』と呼ばれ始めた愛すべき弟、忠勝。

 

「なぁなぁリン、綺麗なメイドのお姉さんとかいたら・・・・」

「まぁ・・・・検討しとくよ、でもせめてお前が高校ぐらいになってからな」

 

たまに空気も読めるバカ、岳人。

 

「頑張ってね、リンなら上手くやれると思うよ」

「おぅ、岳人の勉強面は任せるからな」

 

岳人の世話役兼ツッコミ担当の卓也。

 

「アタシもこれから頑張るわ!」

「おぅ、怪我すんなよ」

 

愛すべき妹であり妹弟子にもなった一子。

 

「がんば」

「オメーもな」

 

コミュ障気味なのが気になる新入り京。

 

そして・・・・

 

「強くなれ、そして私を越えてみせろ」

 

幼馴染にして最強の好敵手、百代。

 

「バカも休み休み言え」

 

俺が必ず越えるべき壁の一つ、だから・・・・

 

「テメーなんざ軽く飛び越えて頂点に挑んでやらァ」

 

俺が言うべき言葉はこれしか無いのだ。

 

「・・・・お前さ、本当に釈迦堂さんに物言い似てきたな?」

「マジでか!?」

 

ちょいヘコんだ。




第八話でした。

お気に入り登録も気が付けば四桁間近、お気に入り登録してくださってる皆さんありがとうございます。

そしてまぁ、改定前と同じでここは短めですね。変更点があるとすればパワーが上がったぶん弄られるシーンがなくなった事でしょうかね。そして耐久性能は改定前よりさらに上昇。そろそろ竜胆ランサーのスキルとか宝具とか考えておこうかと思う今日このごろ。

次回から短いですが九鬼編突入です。


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第九話:九鬼での日常

「だーかーらァ!まずはその言葉遣いを何とかしろっつってんだろうがァ!!」

「ファック!テメーに言われたかねぇんだよ!××潰すぞ!!」

「竜胆もステイシーも落ち着いて下さい、どっちもどっちです」

「まるで猿の喧嘩みたいでシェイラちゃんマジウケます(笑)」

「・・・・・・・・やれやれ、だ」

 

俺が従者部隊の試験雇用制度で入隊(で良いんだよな?)してから二ヶ月が経過した。心根は優しいであろう上司と厳しくも祖父的な感覚で接してくれる師匠と十割純正スパルタな師匠にありとあらゆる面で教えを受ける毎日。

 

でだ、今日は何をしているかと言えば俺と同じ制度で入隊した同僚たちとの勉強会だ。俺たちはそれぞれに秀でた面を認められ選ばれたわけで、月二でこうやって集まりそれぞれが講師となって色々な事を教えあうわけだ。因みに今日が四回目、入隊者の五人のうち四人が外国人。で九鬼財閥は日系企業と言う事で俺が講師となり正しい日本語の使い方を教えている。元傭兵に元暗殺者、元マフィアと職業柄(?)最低限の日本語は使えるみたいだが丁寧語や謙譲語、敬語などになると言葉遣いに不安が残るわけだ。

 

「取り敢えず李さんは文句無しでOKだ、エルヴィンもまぁ良い」

「ありがとうございます」

「当然だ」

 

李・静初。中国人で元暗殺者。九鬼財閥当主である帝様を暗殺しに来た暗殺者だったがクラウディオさんにより捕縛、その後にスカウトされると言う異色中の異色の経歴を持つ。表情の起伏は少ないが、他者の心の機微を読む事に長けている。担当教官はクラウディオさん。

 

エルヴィン・シュタイナー。ドイツ人で元はアメリカに拠点を置いていたマフィアの一員。元々所属していた組織と九鬼財閥が敵対、全面戦争に入った際に真っ先に遭遇したのがヒュームさんだったらしい(ご愁傷様としか言えない)。僅か数分の交戦の末「気に入った」、の一言で捕縛。組織は壊滅、行く宛も無ければ組織への忠誠心も大して無かったためスカウトに応じたとの事。担当教官は序列六番のリカルド・ランバルディさん。

 

「だがステイシーとシェイラ、てめーらはダメだ」

「ファック!!」

「ステ公と一緒とかありえねーです!」

 

ステイシー・コナー。アメリカ人で元傭兵。『血まみれ』のあだ名を持つ元傭兵で、銃器類を使用した戦闘技術は高い、がそれ以外はアウト。かなり口が悪いので、今日の日本語の勉強会だって七割ぐらいは彼女のために開いているようなものだ。担当教官はヒュームさんで、よく床やら壁、画面端に叩きつけられているようだ。

 

シェイラ・コロンボ。ブラジル人で元傭兵。『毒蜘蛛』の異名を持ち、体内で毒を生成、散布、放出を自由自在にデキる特殊体質だとか。毒物の知識と対処法はピカイチ。担当教官は序列四番のゾズマ・ベルフェゴールさんと九番の鷲見さん。体質故に二人の教官を付けられているわけだが、フランクに接しすぎてちょいちょい某有名コント番組みたいな頭になっている。実はネット界屈指のネットアイドルとしての顔も持ち合わせている。

 

ちなみに俺だが担当教官は序列五番のニコライ・ドラガノフさん。単純な戦闘力だけなら従者部隊中二番目、現在空席の一番、更にはその先のヒュームさんのいる零番に最も近いと言われている人だ。人格的にもかなり常識人だと俺は思う。

 

ちなみに全員の共通の上司は忍足あずみさん。序列十二番で風魔だかの忍里出身との事で、この人と戦うと分身、変わり身、爆弾、ありとあらゆる投擲武器を駆使してくる。うん、投擲技術だけなら川神院の修行僧より強い。従者としての技術も若手ではピカイチ。公私、と言うよりは英雄様や九鬼一族とその他での対応の使い分けが半端ない。

 

「おい」

 

何時の間にか開かれていた扉の隙間、そこから聞こえてきた声に全員が固まる。

 

「赤子どもがピーチクパーチクと」

 

五人がそろって、錆びついたブリキ人形のようにそちらへと視線を向け・・・・

 

「煩いぞ」

 

―――――――――

 

「あー、痛かった」

「ヒュームに蹴られてそう言える若手はお前ぐらいなもんだぜ?」

「だな、普通は半日は起きれねぇぜ?」

 

午後からは書類仕事、で俺は担当教官のニコライさんと上司のあずみさんと三人で書類仕事中。李さんとエルヴィンはリカルドさんと英雄様の姉、揚羽様の護衛。ステイシーとシェイラはヒュームさんとゾズマさん、鷲見さんによる地獄の基礎鍛錬コース中。

 

「まぁ、頑丈さだけは鍛えられましたんで」

 

ハハハハハ、生まれて十三年。そのうち八年を川神院(バケモノの巣窟)で過ごしてきたんだぜ?あのまま川神院でもう十年も修行してたら耐久性能EX(規格外)に到達出来ていた自信がある。

 

「ニコライさん、これ字ぃ間違ってますぜ?」

「何?マジか?」

 

そう言って書類を一枚戻す。とは言え誤字があるとしても下手な日本人が作る書類より余程上出来だと思うんだけどね?よく知らんけど。ちなみに俺の仕事だがニコライさんとあずみさんの書類の誤字修正である。いや、中学生に難しい書類とか作れとか言われても無理だし?

 

「しっかしよくもまぁクセが強いのが五人も同時に集まったもんだ」

 

まぁなぁ。身売りされた俺にあずみさんを笑いに来て強制入隊させられたステイシー、帝様を暗殺しようとしたら捕まってスカウトされた李さん、その能力を危険視され管理するために入隊させられたシェイラ、敵対していたマフィアからスカウトされたエルヴィン。うん、志願入隊がゼロ名ってある意味凄いよね?

 

「その中でも一番異質なのは間違いなくテメーだけどな」

「そうだな、傭兵、暗殺者、マフィアなんて社会の裏で生きてきた連中とああやって仲良くやってる。全く関わりのない、表の世界で生きてきたガキが、だ」

 

そういやぁそうだった、俺の同僚って全員裏稼業なんだよな。

 

「そのくせ戦闘力は随一・・・・いや、それどころか正規の従者部隊の中でも十指には入るだろうよ」

「だな、アタイとしちゃあテメーにとっとと上位にアガってもらえりゃ万々歳なんだがな」

「まだ気が早いでしょうよ、半年で試験は完了。その時点での働きを見て序列も割り振るんでしょ?」

 

『従者部隊試験雇用制度』で入隊するとだ、正式入隊になった時に序列が優遇されるそうなのだ。まぁそもそもこの制度に選ばれる時点で相応に特筆されるべきスキルを備えているのだ。ならば研修さえ終えたならば序列下位から、なんて非効率な事をせずにしかるべき立場で能力を発揮してもらうのが妥当なんだろう。

 

「まぁな。だが俺だけじゃなくヒュームやクラウディオ、ゾズマにリカルドもそうだ。俺たちはそれぞれの『弟子』に期待してんのよ、予感めいた確信ですらある。『二年以内に俺たちの弟子は二桁代にまで昇ってくる』ってな」

「・・・・一桁は譲らないんすね」

「当たり前だ。それにお前は一度辞めるんだろう?」

 

そう、俺に関しては四年。まぁ高校二年に上がる頃合で一度辞める事が決まっている。川神院出身、しかも『あの釈迦堂刑部』の弟子であると言う事もあり引く手数多らしい。でだ、まだまだ若く社会経験の少ない俺の進路をここで決めてしまうのは勿体無い、せめて高校か、その先の大学ぐらいまでを経験してから決めろと。

 

まぁ要約するなら『一度しか無い学生時代、しっかり謳歌して来い』って気遣いなわけだ。ありがたい事にな。

 

「ええ、まぁ。帝様や局様からの気遣いってヤツです」

「破格の待遇だな。まぁ、それに対する応じ方から人となりを見ようとしているのかもしれないがな」

 

強かで中々に意地の悪い試し方だ。義理堅いヤツなら間違いなく九鬼に残る、もしくは時が来れば迷わず九鬼に戻るだろう。そうでなくとも、よほどの恩知らずで無けりゃ他所に行くなんて選択肢は取り辛くなる。それでも広い視野を持つ人間なら多少なりとも迷いはするが他に行く選択肢を取れるだろう。まぁこの場合、他に行くと言う選択肢を選ぶまでの有り様をも見ているのだろうが。

 

「そう言えば英雄様が週末からヨーロッパ方面に飛ぶ、でだ。アタイとニコライ、テメーが護衛に指名された」

「妥当だろうな、あまり多くは連れてあるけん。この三人でならば攻め、遊撃、護りを振り分けられる」

 

そう、つい先日パスポートまで取らされたんだよな。その理由が海外出張。専属従者となればほぼ確実に主と共に世界各地を渡り歩くし、専属でなくとも実力があれば状況次第では世界各地を飛び回るハメになる。ちなみに俺たちの研修期間が終わるとゾズマさんはアフリカ方面、リカルドさんはそれに連携すべく南ヨーロッパへの支部へと異動になるらしい。

 

まぁ今のところは俺は英雄様に気に入られているためか英雄様の外国行きに付いて行く事が多い。それでも中学生、と言う立場から他の九鬼一族から比べれば日本にいる比率は高いわけだが。

 

「ヨーロッパって英語だけでいけましたっけ?」

「いけない事は無いが可能な限りは各国語も覚えとけ」

「了解っす」

 

『生涯に勉強は付き物』なんて言葉を聞いた覚えがあるが正しくその通りだ。特に世界規模で動く九鬼財閥では各国語の読み書きが必須となってくる、従者部隊で専属ともなれば主人に恥をかかせぬように、また場合によっては通訳も兼任する場合もあるわけだ。

 

「あ、あずみさん。これ形式違いますよ」

「は?」

 

俺が渡したとある書類を見てあずみさんが目を丸くしている。俺は棚から前年度の書類を引っ張り出し、あずみさんの前へと並べる。

 

「これが前年度のヤツ、でこっちが今あずみさんが作ったヤツ。んでほら、こことここが違うでしょ?」

「あ・・・・」

「ほぅ・・・・」

 

あずみさんが呆気にとられ、ニコライさんが関心したように声を漏らす。

 

「確かこれミス・マープルへの提出書類ですよね?このままだとかなり突っつかれますよ?」

「ああ・・・・悪い、助かった」

「竜胆、どうして去年の書類と違うと?」

「え?全部見たんですよ、この部屋にある書類を片っ端から」

 

俺の言葉に二人が揃って呆然とした表情をして、周囲を見回す。

 

「「これを全部!!?」」

「はぁ・・・・」

 

俺、何かやったか?

 

 

side ニコライ・ドラガノフ

 

「あ、あずみさん。これ形式違いますよ」

「は?」

 

そう言って竜胆があずみに差し出した書類をチラ見すれば確かにそうだ。

 

「これが前年度のヤツ、でこっちが今あずみさんが作ったヤツ。んでほら、こことここが違うでしょ?」

「あ・・・・」

「ほぅ・・・・」

 

棚からファイルを取りだし提示する、とそれは紛れもなく昨年度のモノ。

 

「確かこれミス・マープルへの提出書類ですよね?このままだとかなり突っつかれますよ?」

「ああ・・・・悪い、助かった」

「竜胆、どうして去年の書類と違うと?」

「え?全部見たんですよ、この部屋にある書類を片っ端から」

 

は?全部?そう聞いて俺は思わず周囲を見回す、あずみも同じ事やってたが・・・・全部!!?

 

「「これを全部!!?」」

「はぁ・・・・」

 

コイツ、まぁ理解してなくて当然か。だがこの部屋、九鬼財閥創設期からのありとあらゆる書類が保管されていて高校とかの図書館ぐらいの広さがある。『パンドラ』やマープルの婆さんの『星の図書館』にも情報は保管済みだが従者たちが閲覧しても問題無いものがここにある。わけなんだが、それでもぶっちゃけ多い。俺みたいな古参やあずみみたいな優秀な若手でも、それこそマープルの婆さん以外は完全に記憶はしていない。だがコイツはさも当たり前のように『それ』をやってのけた。

 

「コイツぁ・・・・」

 

間違いなく逸材だ、『どっちか』はいても『どっちも』はそうそういない。あー、でも確か研修込で四年契約だしなぁ。外堀内堀を今からガチガチに埋め立てするか?そしたら・・・・

 

「悪い、そのまま二人で続けててくれ」

 

何か言おうとしたあずみと唖然としてる竜胆をおいて、俺はケータイを取り出し廊下へと。

 

「おぅ、俺だ俺。ちょっと話があるんだが・・・・」

 

大魚は逃がさない主義なんだよ、俺はよ。




第九話でした。

リアルで忙しかったため投稿が遅れて申し訳ありませんでした。

竜胆は書類仕事もデキるヤツなんです。瞬間記憶とか完全記憶とかまでは行きませんが記憶力は相当良いです。ただし覚えてる内容は割とテキトーなのでどーでも良い事も覚えてたりします。

次回もまだまだ九鬼編だよ!(え~?ホントにござるかぁ?)

そう言えば間も無くお気に入り登録千件。皆さん本当にありがとうございます。


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第十話:九鬼財閥にて

季節は冬、良くも悪くも常に騒がしい九鬼極東本部は何時も以上に騒がしくなっていた。年に一度の恒例行事とでも言うべき日・・・・そう、『冬のボーナス支給日』である。

 

九鬼財閥の、特に従者部隊のボーナスは完全歩合制。そこには悲喜交々、様々なエピソードがあるわけで。

 

「ファック!?なんでオメーよりアタシの方が少ねーんだよ!」

「そこはシェイラちゃんの方がステ公よりも能力が上だった、って事で」

「アァ!?」

 

「ふむ、こんなものか」

「あれれれれぇ?何でエル君の方が俺よりボーナス多いのよ?」

「リコさんが不真面目すぎるだけでは?」

 

同僚同士でボーナスの多寡をめぐって揉めたり、部下の方がボーナスが多い事を理由に絡む上司がいたり・・・・うん、後者はマズイでしょうよリカルドさん。

 

そして・・・・

 

「先に伝えておくがな、お前にはボーナスの現金支給は無い」

 

ニコライさんから伝えられたのはその一言だった。

 

「まぁ本来なら学生ですしね、それは別に構いませんが」

「だが信賞必罰はしっかりしなけりゃならん、そう言うワケでお前には現物支給をする事になった」

 

そう言ってニコライさんは指を鳴らす、と2mほどの長さの包みを従者三人がかりで抱えて入室して来た。

 

「受け取りな、それが九鬼財閥からお前の働きへの対価だ」

 

受け取ると、ズシリと重みがある。うん、これを運んできた従者たちが「オイオイ、俺たち三人がかりで運んできたモノを一人で!?」とか「川神院産の従者はバケモノか!!」とか「九鬼財閥の技術力は世界一ィィィィィィ!!」とか叫んでるが気にしないでおこう。

 

それを包んでいた布を取り払う・・・・と。

 

「『槍』ですか」

「釈迦堂刑部から話を聞いてな、なんでも本来の適正は槍だと言うじゃないか。でだ・・・・帝様やヒューム、俺や他数名で協議の結果で作られたのがその槍だ」

 

重量は相当なモノだ、だが取り回しに問題は無さそうだ。基本的な身体能力も、力の活かし方も年月を重ねれば身についてくるだろう。そこを考えて見れば、しっくり来るんじゃなかろうかと思う。

 

「銘は『陽炎』」

 

形状は直槍、刃の身幅はやや通常のモノよりも大きめ。長さは石突から穂先までで約2mで、柄は黒。刃が僅かに赤みがかっているのが特徴と言えるだろう。槍と言うよりは斬る事も出来る分、矛に近しいかも知れないが俺としてはその方が良い。取り回しに幅が出るからな。しかし・・・・

 

「これ、普段は使えないですよね?」

「まぁそうだな、状況を限定しての使用を許可していく事になるわけだが・・・・」

 

嫌な予感がする。たった一年弱の付き合いだが、一桁代のジジババが面倒事を俺に投げつけてくる時には何故か全員が決まってこう言う笑い方をする。

 

「お前には中国に飛んで貰う」

「厄介事、なんですよね?」

 

無言で頷いたニコライさんが懐から書類を取り出し、こちらへと差し出してくる。それを受け取り、読み始める。

 

「チャイニーズマフィア、ですか」

「あぁ、無謀にも挑んできてな・・・・クラウディオが行ってるから楽勝、な筈だったんだがな」

 

クラウディオさんが行ってて手間取る、と言う事は相手側に相当な実力者がいる、と言う事か?

 

「『梁山泊』が絡んできた、ヒュームとゾズマは帝様とアフリカ、リカルドはヨーロッパ方面の根回し中、俺は他の一桁代が不在だからここを動くわけには行かん。現在フリーに動かせて、尚且つクラウディオの要望を満たせるのがお前だ、と言うわけだ」

 

『梁山泊』、噂で聞いた事はある。『水滸伝』の百八の英雄の名を代々冠し続けてきた傭兵集団であり、その多くが『異能』持ちであると言う事。また総じてレベルは高いが、その中にも壁越えやそれに準じる戦力が揃っていると言うのだから厄介な事この上無い。

 

「直ぐに行きますか?」

「悪いな、ただクラウディオと相性が悪すぎるヤツがいたらしくてな」

「?」

 

大抵の、それこそヒュームさんや爺さん、師匠やルー師範代、百代みたいな壁越えの中でもトップクラスでもなけりゃクラウディオさんなら相手に出来るはずなんだがな。あの人の『糸』を操る技術はちょっとやそっとの実力差を覆せるぐらいに汎用性に富み、高い制圧力を誇る。だからこそ、あの人が手を焼く相手と言うのがあまり思いつかないんだが・・・・

 

「炎を操るヤツがいたんだそうだ、さすがのクラウディオでも糸そのものを焼かれちまうと厳しいモノがある」

「・・・・」

 

炎、炎・・・・か。

 

「どうした?」

「いえ、直ぐに準備済ませて出ます」

「ああ、屋上にヘリを呼んである。三十分後に到着だ」

「了解」

 

受け取った『陽炎』を布に包み直し、肩に担いで部屋を出る。

 

「何かのヒントぐらいには、なるかも知れねぇな」

 

 

 

―中国・九鬼財閥大連支部―

 

「序列六百九十九位結城竜胆、着任しました」

「良く来てくれました竜胆」

「竜胆、お久しぶりですね」

 

大連支部に到着した俺を出迎えてくれたのはクラウディオさんと正式にクラウディオさんの部下になった李さん。恐らくだが他の人員は敵方の監視やらなんやらで手が離せないのだろう。

 

「しかし梁山泊を雇うとは、奴さん手段を選ばずに来てますね」

「ええ、世代交代をしたばかりだと言う話ではありますが何れも一騎当千。流石に相性の悪さと数の暴力には・・・・流石に抗い切れませんでした」

 

珍しく苦笑を浮かべるクラウディオさん。常に必ず余裕を持っている、もしくは実際は余裕が無くとも余裕の笑みを崩さないクラウディオさんが顔に出すと言うのは非常に珍しい事だ。

 

「以前にも梁山泊と戦う機会はありました、ですが目に付く限りほとんどの席次が入れ替わっていましたね」

「注意すべき相手は?」

「・・・・三人」

 

クラウディオさんがピッ、と指を三本立てる。

 

「林冲、武松、楊志・・・・卓越した槍術、炎を操る、総てを模倣する、と言った感じでしょうか」

 

『異能』持ちがほとんどを占めると言われる梁山泊だ、林冲に関してもネタが割れてないだけで必ず何かあるのだろう。

 

「竜胆、貴方には武松の相手を。楊志の相手は私がします」

「『模倣』ですよね?大丈夫なんですか?」

「ええ、ですが彼女が模倣するのはあくまで『技』。私の『糸』や貴方の『槍術』のような『技術』は盗んでもあまり意味が無いそうです、彼女の獲物は双剣ですし」

 

成る程。確かに双剣持って『糸』を操る技術やら『槍術』をマネたところで意味はない。間合いも、手さばきも全く違う武器なのだから。

 

「林冲はどうするんですか?」

「エルヴィンを呼んであります、作戦当日に現着するとの事です」

 

となれば李さんが他を指揮する形か。まぁ若手組でも将来を有望視されてるし、あずみさんの代わりを務める事もあるぐらいだから能力的には十分だ。また、エルヴィンも年齢は俺と同い年だが裏世界の曲者たちを相手に渡り合ってきた実力者だ。

 

「んじゃまぁ、エルヴィンが到着し次第、ってとこですかね?」

「ええ、そうなりますね。九鬼の名を背負う以上、二度の敗北は許されません」

 

それに無言で頷く俺と李さん。・・・・無言で頷いちゃうあたり俺もだいぶ染まって来てんなぁ。

 

ともかくだ、一丁やっちまいますか。




第十話でした。

お気に入りが気付けば千件の大台を突破、本当にありがとうございます。

今作の竜胆君は真面目な(?)槍兵です。そして何の気なしに梁山泊登場、もしやこれはフラグ?

次回は竜胆&従者部隊VS梁山泊、メインのカードは竜胆VS武松。


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第十一話:『焔』と『炎』

エルヴィンと俺、そして数名の従者。角一つ曲がると目的のビルの裏口がそこにある。

 

『竜胆、エルヴィン、李・・・・準備は宜しいですか?』

「いつでも行けます」

「右に同じく」

『はい、問題ありません』

 

今回の作戦はシンプル、かつ古来より有効である事が証明されて来た『囮作戦』だ。囮はクラウディオさんと李さんが率いる従者五十名の部隊、そして俺とエルヴィンが率いる十名の部隊。本命は昨日、ヒュームさんが急遽送り込んできたとある従者が務める。梁山泊勢を俺らが抑え込み、その間にマフィアの親玉をその従者が捕る。梁山泊は傭兵、雇い主さえ抑えてしまえば戦闘を中止せざるをえず、そうすれば無理にやり合う必要はないと言うわけだ。

 

俺たちは裏口担当、表が囮で俺たちが本命、と見せかけるのが狙いなわけだ。

 

『では作戦を開始します、各自手筈通りに』

 

クラウディオさんの合図と共にこちら側の十名が同時に走りだす。

 

「さて、俺たちは貧乏クジか否か?」

 

不意に、そんな事を言い出したエルヴィン。俺は行先に視線を向けたまま、言葉を返す。

 

「んなもん決まってんだろうが」

 

後続に停止の合図を出し、足を止める。立ちはだかるのは二人の少女と複数の兵たち。

 

「どれを選んでも貧乏クジだよ、こんなもん」

 

ビルを挟んだ向こう側から爆発音が響く。向こうも面倒事になってるみたいだ。

 

「ここからは通行禁止だ、去れ」

 

そう声をかけてきたのは槍を携えた少女の方、俺は『陽炎』の包みを解きながら返す。

 

「ソイツは無理な話だ、俺たちもお前らも『仕事』だろ?なら互いに『退く』って選択肢はあり得ない・・・・違うか?」

「その通りだな・・・・リン、お前が優しいのは分かるがこういう事だ」

 

もう一人の少女が、手のひらに炎を発して前へと進み出る。

 

「成る程、コイツが俺の相手らしいな。エルヴィン、そっちは任せるぜ?」

「お前に限っては大丈夫だと思うが・・・・下手を打つなよ」

 

そう言ってこちらに右の拳を突き出してくるエルヴィン、俺も空いた左の拳を突き出す。

 

「他人の心配する前にテメーの心配をしな、それに俺の勘じゃあ場合によっちゃあの槍使いの嬢ちゃんの方が『面倒』だ」

「お前の勘は当たるから困る・・・・」

 

俺は笑いながら、エルヴィンは苦笑しながら、突き出した拳をぶつけ合う。

 

「散開!!」

「各自予定通りに行動を起こせ!!」

『はっ!!』

 

俺とエルヴィンの掛け声で全員が一斉に駆け出した。

 

―――――――――

 

「ったくよぉ、これって労災適応されんのかね?」

 

炎と言うのは旧くから人の営みを時に支え、時に脅かし続けてきた存在である。『燃える』なんて一括りに言うが、それが人体に及ぼす影響は相当なモノだ。炎そのものが持つ『熱量』による傷は癒え難く、『燃焼』することにより発生した『煙』は視界を奪い、『一酸化炭素』は『呼吸』を奪う。

 

「さぁな・・・・九鬼の就業規則などは知らないからな」

「だよなァ」

 

武松、と名乗ったこの少女。のっけから俺を周囲から引き離すように動いていた。まぁ俺もその方が『やり易い』と言う事もありそれに乗ったわけだが・・・・まぁ見事に罠に嵌められちまったってわけだ。パッと見じゃあ気づかなかったが木造の廃家や廃棄された製材所、燃えやすいモノが大量にある。しかも周囲を川に囲まれていたり、大きめの道路が走っていたり、類焼の危険性を抑止するようになっている。必要以上の被害を出さないための配慮ってわけだ。結果として・・・・辺り一帯が文字通り火の海になってるわけだが。

 

「・・・・まァなんだ、誰かが見てる気配も無ェ。だからさァ、ここで見たモノは口外すんなよ?」

 

未完成な技だし、『奥の手』だから。下手に見られて広められちゃあ、つまらんことになるからよ。

 

「!」

 

『陽炎』を地面に突き立てとく。まぁアレだ、未完成だから武器に『纏う』とか練習してねぇし、失敗して壊したら半端無い罪悪感に苛まれそうだし。

 

「んじゃま、第二ラウンドと行こうや」

 

俺の両手には揺らめく『黄色い炎』。

 

「一つ言っとく、俺の炎はかなり熱いぜ?」

 

 

side 武松

 

今回の任務は九鬼従者部隊との戦闘。本来ならばなるべく事を構えたくない相手ではあったが仕事だ、やむを得ないと言う事で可能な限りの戦力を投入することになった。一度目の侵攻は実力者である序列三番のクラウディオ・ネエロを私、リン、楊志の三人がかりで抑え込む事で退却へと追い込んだ。

 

二度目、今度は人材を増員して来た。あまり名が知られていない者が多かった、があの序列三番が連れて来た人材なのだから相当な実力者なのだろう。私とリンが相手をするのは日本人とドイツ人の二人組、どちらも同じぐらいの年頃だろうか。片方は素手、片方は槍、定石通りならばリンが素手のドイツ人を、私が槍の日本人を相手にするのが常套手段だろう。

 

「ここからは通行禁止だ、去れ」

 

リンが、警告を発する。だが・・・・

 

「ソイツは無理な話だ、俺たちもお前らも『仕事』だろ?なら互いに『退く』って選択肢はあり得ない・・・・違うか?」

「その通りだな・・・・リン、お前が優しいのは分かるがこういう事だ」

 

当然。相手からの返答は『否』、ならば取るべき対応は自ずと決まってくる。二人が後方の仲間へと指示を出し、向かってくる。矢張り私に向かってくるのは槍の方のようだ。相当に強い、本気を出さねばまずやられるだろう。だがここで本気を出せばリンや、他の仲間にも被害が出る。少しづつ、相手を釣り出すように動く。

 

「竜胆さん!!」

 

相手にも、目端が利く者がいるようだ。失敗か?そう、思ったのだが・・・・

 

「気にすんな!分かってんだろ?」

 

・・・・どうやら、相手も私を釣り出すのが目的だったようだ。初めて会った相手だと言うのに、阿吽の呼吸のように私が走り出し、それを相手が追いかけてくる。互いにわかっている、だから移動中は手を出さない。例え、私の用意したフィールドに誘い込まれていると分かっていてもあちらは手を出してこない。

 

数分後、私たちは廃棄された製材所へと来ていた。木造の建物が多く燃えるモノが多い、その代わり周囲を大きな道路や水路に囲まれていて必要以上に延焼したりはしない。私に明らかに有利なフィールドだ。

 

「さぁ、ここなら邪魔は入らない」

「ここなら有利に戦える、の間違いだろ?」

 

矢張り分かっていてついてきたのか、よほどの粋狂者か、或いは・・・・

 

「ならば参る・・・・『烈火球』!」

 

私が大量に生成し放った火球を、相手は槍で、槍で間に合わなければ掌打と蹴りで弾いていく。その動きはあくまで基本に忠実、徐々にこちらの火球の熱で体中に火傷、服も焦げていく。

 

「ったくよぉ、これって労災適応されんのかね?」

 

ふと、相手はそんな事を言いだす。こちらのほうが圧していると言うのに、あちらの顔には未だ余裕が垣間見える。

 

「さぁな・・・・九鬼の就業規則などは知らないからな」

「だよなァ」

 

不敵な笑みを浮かべるその姿に、心なしか悪寒を覚えた。これは・・・・そうだ、炎を満足に操れなかった頃に野生の熊に殺されかけた時。あの時に酷似した感覚だ。

 

「・・・・まァなんだ、誰かが見てる気配も無ェ。だからさァ、ここで見たモノは口外すんなよ?」

 

僅かに芽生えた悪寒が、急速に膨れ上がる。

 

「!」

 

槍を地面に突き刺すと、その両手から『黄色い炎』が発せられた。

 

「んじゃま、第二ラウンドと行こうや」

 

いるとは思っていた、世界を探せば自分と同じで炎を操る者はいるのだろうと。

 

「一つ言っとく、俺の炎はかなり熱いぜ?」

 

だがまさか、こんなところで出会うとは思っても見なかったのだ。しかし、私の発する炎とは色が違う。色の違いがなんだ、と思うのだが嫌な感覚は払拭出来ない。

 

「・・・・来い」

 

それでも引き下がれないんだ。

 

 

―――――――――

 

「・・・・来い」

 

多分、俺の『焔』に嫌な予感を覚えたんだろ?なのに逃げる事もせず、立ち向かう事を選んだわけだ。その予感は正しく、その判断は本来は正しくない。戻って下っ端にエルヴィンを押し付けて、その上で二人か、もしくはそれ以上の人数で俺を圧潰すべきだった。

 

「それ、生来生まれ持った『異能』だろう?だからこそよぉ、理解し研磨する事を忘れちゃいかんよ。『槍製一本・焔星』」

 

気の焔で生成したのは一本の槍、穂先を地面へと掠らせればアスファルトが焦げる。

 

「オラァ!油断してんじゃねぇぞ!!」

「っ!」

 

ニコライさん直伝の『縮地』で間合いを詰め、連続の突きを繰り出す。

 

「馬鹿な・・・・」

 

無表情の中に初めて見えた焦り。まぁ、焦るだろうよ。同じ炎でガードしたにも関わらず、そのガードを貫通して自身に焔によるダメージが入ってんだからよ。両腕にいくつか火傷が出来てるぜ?

 

「知ってるか?火ってよ、熱量が上がると色が変わる。赤から黄色、黄色から白へとな」

 

「今は黄色い焔で限界だからよ、これが俺の最大の技だ」

 

「喰らいな・・・・『焔蝗(えんこう)』」

 

以前の俺の技で一番威力のあった『飛龍一閃』、あれを剛の技とするならコイツは柔の技。

 

ゴォッ!!!?

 

「っ!?ぁああああああああああああ!!!!」

 

焔の槍は相手に当たったと同時に相手へと燃え移り、まるで大地を覆い尽くす(いなご)のように相手の全身を焔で包む。

 

「寝とけ」

「ガッ!?」

 

少しの間、焔の熱さと痛みでのたうち回っていた武松。歩み寄ってその顎を蹴りの一発で打ち抜く、とその身を蝕んでいた焔が消える。仕組みは簡単、俺の焔は相手の気を喰らって燃え盛る。つまりは気が練れない状態になるか、スッカラカンになるかのどっちかで消えるってわけだ。

 

「あー、でも燃費悪ぃなこれ」

 

問題があるとすれば一発打つだけで俺の気が半分ぐらい無くなるってことかな?理想形としては最低限の火種で相手の気を燃やし尽くすって感じなんだけどよ。しかも格上相手だと俺が気に乗せた『蝕む』性質が無効化されんだよね、これ。

 

『竜胆、聞こえるか』

「ああ、聞こえるぜ」

 

胸の内ポケットにしまっていた無線機からエルヴィンの声が響く。

 

『作戦は成功だ、梁山泊の大多数も降伏。負傷者手当のため従者部隊も梁山泊勢も一度大連支部に収容するそうだ』

「了解だ、こっちも決着ついたから今から行く」

『了解』

 

通信を切ると、俺は武松を抱き上げる。

 

「さて・・・・行くか」

 

戦いは終わったのだ、治療してやらにゃあな。




第十一話でした。

マジ恋小説を書いておきながらなんですが・・・・やっぱり戦闘描写は難しいですねw
とは言え、改定前と同様、竜胆君は火属性を習得してます。前より近接寄りになった分、技もそっちよりになっていくとは思いますが。
現時点では火力、自在性共に武松よりやや上、と言った感じになります。
そう言えばヒロインに武松と楊志をいれてください、と言う直談判(!?)がありまして。で・・・・「その手もあったか!?」って感じで武松がヒロイン候補に躍り出ました。・・・・楊志?楊志は梁山泊系ヒロインをいじると言う大役があるのでヒロインには出来ませんよw

と言うわけで次回、竜胆と武松の絡みはもうちょっと続きます。


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第十二話:梁山泊と

さて、戦いで最も大変なのは?事前準備?戦闘中?いや・・・・戦後処理だ。

 

あの戦闘の後、林冲、武松、楊志の三名、他数十名の兵を捕縛した俺たちはそれを材料として梁山泊を交渉のテーブルに付かせることに成功した。クラウディオさん曰く、今回マフィアと事を構えた理由の一つがこれだったらしい。日本へ人材を求めていた梁山泊、中国での地盤を磐石としたかった九鬼財閥。利害の一致により、互の分を超えない程度に協力体勢を取る、と言う方向で話がついたらしい。

 

で、だ。

 

皆が事後処理に追われる中、大連支部の一室で俺は林冲、武松、楊志の三人に囲まれていた。

 

「で?どういうつもりだ」

「少し、私たちの話を聞いて欲しい」

「既にそちらの上司には話を通してある」

 

クラウディオさんが許可を出したか。ならそれなりに意味がある事、なんだろうな。

 

「私たち梁山泊が『異能』持ちを集めていると言う事は知っていると思う」

 

俺は無言で首を縦に振る。ヒュームさんからその話は聞いた事がある、楊志の『模倣』もそれだし武松の『発火』もそれだ。李さんやステイシー、シェイラにエルヴィンも『異能』持ちだと言っていたな。シェイラの『毒』はそれだとハッキリ分かるが後三人がどうなんかね?

 

「結城竜胆、貴方には『董平』『劉唐』、二星の才能が見られる」

「序列三番が言うには貴方は試験的な雇用期間、とも聞く」

「・・・・で?まさか梁山泊に来い、なんて言う気じゃないだろうな?」

「当たらずとも遠からず、って感じかな」

 

ここで楊志がようやく口を出してきた。

 

「まぁつまりさ、キミが将来就職先を選ぶ時に梁山泊を選択肢に入れて欲しいって話。それと引き入れるためにこっちも動かせてもらうからよろしく、って話」

「成る程ねぇ・・・・」

 

しかし『董平』と『劉唐』ねぇ。確か『双槍将』と『赤髪鬼』だっけか?この席次の決め方ってどういう基準なんかね?逸話とかそんなんか?

 

「まぁ、考えるだけ考えとくさァ」

 

元々、そのための仮採用なわけだし?最近序列がヌルヌル上がってるけど。気のせいだと思いたいけど。

 

「話は済んだようですね」

 

扉を開けてクラウディオさんが中へと入ってきた、この人タイミングを見計らってんじゃねーかってぐらいタイミング良く入ってきたりすんだよな。「簡単な事でございます」の一言で済ますし。

 

「早速で申し訳ありませんが竜胆、貴方には次の仕事(オーダー)です」

「了解、どっちに飛べば?」

 

そう言えば最近、俺の仕事って荒事多いよな?とすればゾズマさんのアフリカか、リカルドさんの南ヨーロッパか。どっちにしろ面倒事しかないな。

 

「日本に戻ってもらいます」

 

意外なお言葉が飛んできた気がしたな、これ。はねやすめをしろ、とかそんな感じか?

 

「詳細の内容は帝様とヒュームから伝えられるでしょう」

 

んな事は無かった(確信)。面倒事確定じゃねーかよ。

 

「それと今回の功績で昇格が確定しました、歴代最速での五百番代突破ですよ」

 

クラウディオさんから手渡された封筒、ゆっくりと開封し中身を開く。

 

『序列六百九十九位結城竜胆を本日付で序列四百八十位に任命する』

 

とだけ書かれていた。本当にスピード出世だな、俺。研修期間終了直後が七百六十二位、そこから二年半でコレだもんな。最早囲い込みのための作為的なモノまで感じないでも無いが・・・・うん、無いな。そこら辺は完全実力主義で公正さを欠かないのが九鬼財閥だ、そこに疑う余地はない。

 

「何て言うか・・・・本当の意味での実力主義なのだな、九鬼財閥は」

 

感心からか、そんな事を口に出したのは武松だ。

 

「梁山泊は違うのか?」

「ああ、梁山泊はそもそも『異能』が無ければ席次を得る事すら出来ない」

 

まぁ、それがウリの傭兵集団なんだから当たり前っちゃ当たり前だが・・・・

 

「「勿体無い」」

 

俺とクラウディオさんの言葉が被る、と思わず二人で顔を見合わせて笑う。確かに『異能』に分類されるような能力は希少であり有用性も高い、だが人の真価とは『異能』だけではない。『異能』に該当するような力を持たずとも『才能』と『能力』を秘めている可能性がある。その最たる例がクラウディオさんだったりニコライさんだったりするわけだ。え?俺とかヒュームさん?何か知らんがステイシーとシェイラに『人外』のカテゴリーで一括りにされたな。・・・・まぁ、その後に二人揃って画面端に叩きつけられてたが。

 

「どうです?クラウディオさん、梁山泊の中でも『異能』をもたない事を理由に席次が貰えない連中を引き抜いてみるってのは」

「一考の価値はありますね」

 

俺とクラウディオさんの会話に驚きを隠さないのが林冲、平静を装いつつも動揺が見え隠れしているのが武松と楊志。

 

「それ、目の前で堂々と言う?」

 

口を開いたのは楊志だ。

 

「何か問題があるか?何も席次持ちを引き抜こうってわけじゃねぇ、おたくらで『資格無し』と判断した奴らを貰い受けようと思ってるだけだぜ?」

 

梁山泊や俺ら従者部隊みたいに序列、席次がハッキリしている場所でその末席にすら座れないってのは『お先真っ暗』『将来性皆無』って宣言されてんのと同じだ。『異能』まで至らないだけで『才能』があるヤツってのは探せば結構いるもんだ。一兵卒で終わらせるのは勿体無いだろ、それ。

 

「日本にゃ『捨てる神あれば拾う神あり』って言葉があってな、どうだ?いっちょ紹介しちゃくれねーかぃ?」

「「「・・・・」」」

 

梁山泊の三人が顔を見合わせる。

 

「九鬼に行けば、道が開ける者が増えるだろうか?」

 

そう、最初に口を開いたのは林冲だ。

 

「少なくとも梁山泊にいるよりはな」

 

梁山泊の『異能』至上主義よりも九鬼の完全実力主義のほうがまだ可能性はあるだろう。梁山泊にいる、と言う時点で少なくとも一定以上の能力は持っているわけだし。

 

「お願いする」

「リン!?」

「・・・・何を言ってるか分かってる?リン」

 

林冲を咎める武松と楊志、まぁ言うなれば自ら仲間を売るような行為なわけだしな。

 

「『異能』が開花せず先が見えない、私はその苦しみを『良く知っている』。だからこそ、救いがあるなら、救いを望む者がいるなら・・・・私はそのチャンスを掴んで欲しい」

 

人に歴史あり、林冲には林冲なりの事情と思いがあるらしいな。

 

「ただし条件がある」

「聞こう」

「一つは当人の同意を得る事、一つは勧誘の交渉の場にはこちら側から必ず誰かを付ける」

「ふむ・・・・」

 

一つ目は当然だ、無理矢理引き入れても意味は無いからな。だが二つ目は・・・・まぁ、ある種の不正防止かな。在らぬ誹謗中傷、あからさまに金銭や待遇をチラつかせて、と言うのを防ぐためだろう。まぁそこが落としどころか。

 

「承った」

 

そう言う交渉はヒュームさんやクラウディオさん、リカルドさんの仕事だ。俺が出来るのはここまで、って事でだ。

 

「んじゃあクラウディオさん、あとはお任せします。俺は戻る準備をしなけりゃならんので」

「ええ、良い余暇を」

 

部屋を出て、まずはあてがわれた部屋へと歩き出す。

 

「しかし・・・・帝様とヒュームさんからの仕事、って」

 

嫌な予感しかしねぇが、まぁ仕方あるめぇよ。やれるだけ、やってみますかぃ。




第十二話でした。

半月近くダラダラと書いた挙句このザマ。駄菓子菓子、次回で九鬼財閥編は終了(改訂しても短いモノは短い)。本編に突入すればイケルはず(((゚Д゚)))ガタガタ

と言うわけで次回で九鬼財閥編は終了です。


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第十三話:新たなる非日常へと

「「「フハハハハハハッ!!!」」」

 

さて、九鬼一族に囲まれると言うこの混沌(カオス)な状況。どういう事でしょうかね?

 

今日は休暇、って事で自室でダラダラしてたんだが・・・・

 

『我、降臨!』

『我、顕現である!』

『フハハハハハハッ!入るぞ竜胆っ!!』

 

長女揚羽様、次女紋白様、長男英雄様と言うジェットストリームアタックが炸裂。声を聞いた途端にビシッと立って頭を下げちまう辺り、俺は最早社畜人生まっしぐらな気がしないでもない。

 

「で、無礼を承知でお尋ねいたしますが・・・・どのような用向きで?」

 

でだ、三人揃って特有の高笑いを続けてたんだが・・・・そろそろ話を進めねば状況は動かない、って事で先を促すことにしてみた。

 

「おお!忘れるところであった!」

 

そう言って、英雄様が一歩進み出る。

 

「竜胆よ、今回我らはお前を正式に九鬼財閥へと勧誘しようと思って来たのだ」

 

懐から何やら大量の人名が書かれた書類を取り出し、机の上へと置く。

 

「半月後には期間終了、一度九鬼を離れて・・・・と言う話ではありませんでしたか?」

 

それが最初の約束だ。自分で行くべき道を選び取れ、と言うのは帝様の言葉だったと思うが。

 

「うむ、だがな竜胆よ。近頃は梁山泊や曹一族からもお前は勧誘を受けているであろう?ならば唾を付けておくくらいは良いであろう?」

 

ああ、そう言う事もあったね。曹一族ってのは梁山泊と長年競り合ってる傭兵集団で近年じゃ世界でも一、二を争ってる集団なんだが。少し前に梁山泊と共同任務に就いた時に曹一族の筆頭格である史文恭ってのとやり合ったんだよ、そしたらそれ以来、ちょくちょくちょっかいをかけられるようになっちまってなぁ。

 

「それに心配せずとも良い、今回は父上の許可を得て参ったのだからな!」

「フハハハハハハッ!母上からの許可も得てあるぞ!」

「うむ!」

 

英雄様からは最初から気に入られてたんだよな、時々「同年代の友人として我と接せよ!」とか言われて遊んだりしたしな。

 

確か長女の揚羽様とはヒュームさんに引き合わせられたんだよ、同じくヒュームさんに武術を教わる以上兄弟弟子になるから、とか言ってな。しかも揚羽様も俺が百代と幼馴染、と聞いて余計に興味を持ったらしい。知らなかったんだよ、揚羽様と百代がライバル関係だったとかさ。

 

『フハハハハハハッ!お前が百代の幼馴染か!』

 

普段の百代はどうだ、とか。どんな相手と戦った、とか。まぁ色々話をしているうちに「我を姉と思うが良い!」って言われるようになったんだよな。

 

次女の紋様とは付き合いは一年ぐらい前だろうか、そう・・・・帝様とヒュームさんの仕事を引き受けるべく梁山泊と戦ってから日本に戻ったアレだよ。帝様まで出てきて直々に何を頼むのか、と身構えていたら紋様の専属を引き受けてくれ、と頼まれたんだ。紋様は揚羽様、英雄様の異母妹、それを気にしてか必要以上に気張っていた印象があった。

 

『我は・・・・我は、母上と・・・・』

 

局様は、心中複雑であり紋様とは常にどこか距離を空けている印象があった。ヒュームさんやクラウディオさんがそれを気にしつつ手を打っていたのも知っていたし、俺が口出しするような問題でも無いと言うのは分かっていた。だが紋様が、部屋で寂しそうにそうつぶやいたのを聞いた俺は止まれなかった。

 

『局様の心中はお察しします!それでも、それでも紋様と向き合って下さい!今の紋様にとって『母』は局様お一人なのです!!』

 

俺に親はいなかった、師匠がオヤジ替わりみたいなものではあった。姓は違う、互いに口にも出さない、それでも俺と師匠は親子だった。そこには見えない確かな繋がりがあった。『親』と言う存在はそれだけ大事なのだと、俺は思う。だからこそ放って置けなかった。

 

そこから局様と紋様の間でどんなやり取りがあったかは分からない。だが数日後には、『母』として振舞う局様と『娘』として振舞う紋様の姿が見られるようになった・・・・もっとも。

 

『主のために行動しようという気概は認める、だが・・・・無礼を働いた分の制裁は、必要だよなぁ?』

 

その後にヒュームさんにボコられたが。

 

まぁそのへんも関係あっただろうか、三人からは妙に気に入られてしまっているのだ。

 

「それに竜胆よ、多くの従者たちも署名を求めたらサインをしてくれた」

 

それがこの書類ってわけか。俺は何気なしに一枚目を拾い上げ、そこに連なっている名前を見て思わず眼をこすった。

 

「この署名には我ら三人を筆頭として父上、母上」

 

だよね、えらく豪快なのと達筆なのが一番上に並んで書かれてるもんね。

 

「従者部隊からヒューム・ヘルシング」

 

既にここで意外なんですが。

 

「忍足あずみ、ミス・マープル、クラウディオ・ネエロ、ゾズマ・ベルフェゴール、ニコライ・ドラガノフ、リカルド・ランバルディ、エルヴィン・シュタイナー、ステイシー・コナー、李・静初、桐山鯉、シェイラ・コロンボ、他八十六名が今回の署名へと名を連ねている」

 

どんだけー。

 

一桁代の実に七割、他二桁代もいるし三桁でも有望株が揃ってる。

 

「それだけ皆がお前を仲間として認めている、と言う事だ」

「で?考えてはくれぬか竜胆。お前が引き続き専属を引き受けてくれれば我も安心なのだが」

 

ずいっ、と近寄ってくる揚羽様と紋様。この二人、こう言う時はイキナリ接近してくるんだよなぁ。

 

「そう言う契約です、ってのもありますがね。自分で可能性を閉じるようなマネはしたくないんですよ。だからこそ当初の予定通り、暫くは九鬼を離れて世間を見つつ、考えて行先を考えようと思います。何分・・・・やり残した事もありますので」

「ほぅ?やり残した事?」

 

俺の言葉に、今度は三人が揃って覗き込んでくる。

 

「武神打倒・・・・他諸々ですかね」

 

百代は倒したいさ、だがそれ以外にも・・・・この四年近くでいろんな奴らと戦った。武松、林冲、楊志たち梁山泊の精鋭、欧州の猟犬・・・・まだ見ぬ実力者ってのがもっともっといるはずだ。俺はそいつらと戦ってみたい。って、師匠とか百代の事笑えねぇなコレ。

 

「それで満足がいったら、って事でお願いしますよ」

 

俺の言葉を聞き、三人が顔を見合わせ満足げに頷く。

 

「それでこそ引き入れ甲斐があると言うものよ!」

「うむ、我ら九鬼が求めるのはそう言う向上心がある人材だ」

「ならば心ゆくまでやり通すが良い!」

 

笑って許可の言葉を出してくれる。ったく、九鬼の一族ってこう言うところ反則だよねぇ。人を惹き付ける魅力、っつーか覇気、っつーか。それが揃いも揃って半端ねーと来たもんだ。

 

もし九鬼に戻らねーとしても、この主たちに恥じない結論を出さなけりゃあな。

 

 

―――――――――

 

 

さて、余談ではあるが・・・・俺の部屋は若手従者たちの溜まり場になっている。四年で一度辞めると言う事が決まっていたから俺の私物はほとんど無い、着替えと本ぐらいなもんだ。でだ、従者の、序列がそれなりの人間に与えられる部屋ってのは結構広いんだが。俺の部屋の場合、必要最低限の荷物しか無いもんだから空きスペースが大量にあるわけだ。でそれを聞きつけた上司からのストレスを溜め込んでいる若手たちが俺の部屋に夜な夜な集まり、愚痴ったり、飲んだくれたり、情報交換したり、色々とやるわけだ。

 

「竜胆、マンハッタン」

「ししょー!マティーニを下さい!」

 

そして、その愚痴を聞いたり、のんだくれを介抱したりしていたらある日、何時の間にか俺の部屋にカウンターキッチンとバックバーが増設されていた。俺がちょっくらエジプトで謎の宗教団体と戦っている間に、だ。しかもヒュームさんやクラウディオさん、ニコライさんも一枚噛んでいたらしく半月の間、従者部隊御用達のバーに修行に出され、マスターのスパルタ教育の末に合格を出され、こうやって従者たちに酒を提供することになっている。

 

で、今日はエルヴィン・・・・最近ではエル、と呼ぶようになり組む事も多くなった相棒ともう一人だけを呼んであとは『準備中』の札を提げといた。

 

「あいよ・・・・と言いたいところだがエル、シルヴィ、お前ら未成年だろうが。テメーらの国でどうだったかは知らんがここは日本、日本の法律に従えや」

「ふむ」

「え~!?ししょーのケチー!!」

 

シルヴィ・・・・シルヴィア・バレットは俺の直属の部下で、一応弟子ってことになる。とは言っても教えたのは従者としての基本と、ちょっとした護身術。だったんだが、超が付く程の感覚派であり学習能力が異様に高いコイツは見る見る間に序列が繰り上がり、入隊して半年で七百代と俺やエルよりも昇格が早い。だが仕事外ではこの通りである、外面に騙されてか若手の男性従者から人気は高いが実際はこんなもんである。

 

「・・・・矢張り、去るのか」

「ああ、元々そう言う話だったしな。それに・・・・『そうする必要』もできたしな」

 

エルの言葉に俺は頷きながら言葉を続ける。

 

「少々、不穏な動きがあるみたいでな」

 

元々、帝様は実力さえあれば多少の人格的不備は不問にしてしまう大雑把さがある。そのせいもあってかミス・マープルを筆頭として暗躍しそうな連中をそれなりに抱え込んでしまっている。俺が九鬼を一度離れるのをこれ幸いと、その辺りのアレやコレやをニコライさんから頼まれているわけだ。

 

「わざわざ俺とコイツを呼びつけるからには何かあるとは思ったが・・・・俺が見ておくべきはミス・マープルか?」

「それもだ、が・・・・『最上幽斎』を特に、との事だ」

「・・・・」

「え~、アタシあの人嫌いなんですけど」

 

俺だって好かねぇよ、特にアイツの眼。何考えてるか全く読めやしねぇし。

 

「お前らなら信頼出来るから頼んでんだ」

 

今回の一件、動いているのは俺とニコライさんだけ。必要に応じて仔細を伝え、協力を要請する事は許可されているが人数を可能な限り絞る事が条件として指定されている。九鬼に入って以来、最も多く組んで仕事をして、最も気心の知れているエル。普段の様子とは裏腹に口は堅く、ここぞという時の判断に長けるシルヴィ。本来ならステイシーや李さん、シェイラ辺りも引き入れたいところだったが前者二人は最近昇格したばかりで忙しいため、後者一人はゾズマさんのところに出向しているため断念した。他にもあずみさんも考えたが、英雄様の専属と言う立場上、動きに制限がかかってしまうと言う理由から省いた。

 

「まぁ、承った」

「信頼出来る、って言って貰えるならやれるだけやりますけどねぇー」

 

最も信頼すべき相棒と弟子が任せろ、と言ったのだ。九鬼内部の事は任せて、俺は外で出来る事をやりつつ、新たな非日常へと身を投じるとするかね。

 

幼馴染どもと過ごす、騒がしく暇をしない非日常へと、さ。




第十三話でした。

竜胆の弟子枠で登場しました新キャラ『シルヴィア・バレット』。重要、とまでは言いませんがちょいちょい出番のあるキャラになります。ユルくてグダグダだがやるときゃやる、そんな子です。ちょっとだけやる気がある弁慶みたいな感じですかね。

ともあれ、次回から原作時間軸に回帰します。

次回、第十三話『武神VS神槍』


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第十四話:懐かしき友

「しっかしまぁ・・・・よくこんな所を見つけたもんだぜ」

 

皆が中学に上がった頃、京が親の都合で引っ越すことになった。京の都合だけで川神に残るわけにもいかず、皆で思案した結果『金曜集会』を開くことになった。と、俺は聞いている。発起人は翔一、毎日は無理でも週一なら大丈夫だろう?と提案したそうだ。リーダーとして成長している事が分かって俺はちょっと安心したがよ。

 

それでだ、一年程前だろうか。大和が情報を集め、忠勝が交渉し、この廃ビルの警備と清掃、整備を引き受ける事を条件に借り受けているのだそうだ。

 

「おぅおぅ、懐かしい『気』ばかりだな。幾つか見知らん『気』も感じられるが・・・・話で聞いてた新入りってとこか」

 

陽気な初夏の太陽を思わせる明るい気が一つ、清流のような静かさと刀剣のような鋭さを併せた気が一つ。どちらも見知らない・・・・はずなんだがな、後者の方は似たような気を知ってるんだよなァ。

 

「・・・・また一段と強くなってはいるが、ちょい荒れ気味だなオイ」

 

今回の目的、否・・・・標的の気を感じれば思わずそんな言葉が口を突いて出る。

 

『川神百代に一撃入れて来い、それが最後の課題だ』

『あと正体悟られんなよ』

 

ヒュームさんとニコライさんから出されたそんな課題に、思わず閉口しかけながらも「はい」と返事をした俺は偉いと思う。え?偉くない?マジで?

 

ちなみに今現在、その基地の屋上で待機中だ。気配を消してな。え?どうやって消してるかって?『チキチキ!第一回従者部隊大鬼ごっこ大会in富士樹海!』で覚えたんだよ。逃げるは三十以下の若手従者、鬼はヒュームさん、怖ぇよ。途中までは気配消して逃げてたんだけど最終的には気力に限界が来たからエル、李さん、ステイシー、シェイラの同期組と手ぇ組んで連携で逃げたんだよな。ステイシーとシェイラを犠牲にして。

 

「翔一、大和、忠勝、一子、京、岳人、卓也・・・・皆も元気そうだしな・・・・」

 

さてさて、取り出したるはボイスチェンジャー付ガスマスク。コイツを装着して、パーカーのフードを被る。九鬼時代にもらった革手袋をはめて、槍は無し、『槍製』と打撃だけで行こうか。

 

「オラ、とっとと来いよ・・・・百代」

 

消していた気を、爆発させるかのように、開放した。

 

 

side 川神百代

 

「しっかし最近は立て続けに面白い事ばっかり起きるなー!!」

 

キャップがいつもどおり、テンション高めにそんな事を叫んだ。まぁそうだな、まゆまゆが入学し、クリが転校してきて、ひと悶着はあったけど二人がファミリーに本当の意味で加わって。だがそれでも、私の心はどこか渇きを訴えている。強者と戦いたいと、血湧き肉躍り、互いの命を削り合うような戦いを、心のどこかが望んでいるんだ。

 

「俺はさ、もっともっと面白い事が起きそうな気がしてんだよ!!」

「やめろ翔一、オメーが言うと本当に起きそうで困る」

 

キャップはあの頃からあまり変わらない。いや、それでも色々と成長は見せていると私は思う。主に職人技的なスキルが。最近じゃ時折、ゲンに誘われて代行のバイトをしたり、川神書店の店長の頼みで商店街関係の仕事を手伝っているのを目撃してる。

 

ゲンは最近じゃ『アイツ』の代わりにファミリーの調停役に回る事が多くなった。武力自体はそこそこ、だが代行業での経験からか、いざという時の対応力はファミリーで一番かも知れない。家事スキルの高さ、オカン属性への極振り、私ですらゲンには逆らえない時がある。

 

「そうだぞキャップ、後始末に回るゲンさんの気持ちも考えろ」

「ゴメン!ゲンさん!!」

「テメーもだ大和!!」

 

大和は軍師と言う立ち位置は変わらないが、最近はキャップに毒されている気がする。基本的なスタンスは変わらないが、キャップに対して甘い。前ならキャップを諌めていた場面でもキャップの無茶ぶりを最大限許容する案を出したりする事が多くなった。

 

「アハハハハ!!ホントバカよねー」

「そう言えばワン子、この間のテスト・・・・」

「(((゚Д゚)))ガタガタ」

 

ワン子はあの頃から変わらないまま、天真爛漫に、純粋無垢に育ってくれた。ファミリー全体での教育の、正確に言うならゲンの教育と大和、京の調教の賜物だと思う。

 

「ハッハッハ!ワン子はバカだからなぁ」

「ガクトも他人の事言えないからね?」

 

ガクトも昔と変わらない気がする。まぁ、パワーと耐久力は中々だ。『アイツ』とは比べるべくもないが、それでも常人の域じゃトップクラスだろう。

 

モロロは思慮深く、慎重な性格になった。以前は臆病とも思っていたが、仲間のためなら必要なら身体を張る勇気も持ち合わせている事がよくわかった。

 

「ガクト×モロ・・・・(*´Д`)ハァハァ」

 

京は内向的で周囲に壁を作る性格は以前より改善されつつある。その交友関係の中心が腐女子なのは問題だと思う、だが少し前に『アイツ』にメールをしたら「m9(^Д^)プギャー」って返ってきた。ちょっと殺意が沸いたのは内緒だ。

 

「犬はバカなのか」

「アンタに言われたくないわよ!!」

 

クリとは最初はひと悶着あった。だが今では本当の意味でファミリーになれた、と私は思っている。真面目系かと思ったら実はアホっ子属性に極振りだったしな。

 

「はぁ・・・・お茶が美味しいですね」

「だろう?」

 

唯一のどかなのはここか。

 

まゆまゆは京とは別方向のコミュ障だ。それでもちょっとは改善されてきたが、笑顔を作ろうとすると凄まじく強張る。そして強い、間違いなく壁越え、しかもあの剣聖黛十一段の娘、いつか戦ってみたいと思う。

 

マスコットのクッキーは九鬼財閥からワン子へと贈られた奉仕ロボだ。ワン子に惚れた九鬼英雄がワン子へと修行の手助けにと贈ったがワン子は勤勉な性格、結果として日常生活に手助けが必要なキャップへと所有権が渡ってしまった。

 

『アイツ』はまだ戻らない、そろそろ戻ってきたっておかしくないのにな。

 

「あ、そう言えば・・・・」

 

不意に大和が、ケータイを取り出して・・・・

 

「リン、戻って来るってさ」

「「「「「えぇえええええええ!!?」」」」」

「いよいよか」

「直接会うのは久しぶりだよね」

 

イキナリの発言に思わず私まで叫んだじゃないか。

 

「来週アタマで編入して来るってさ、で明日に島津寮に入るらしいから荷物の運び入れと買い物を手伝って欲しいってさ。ゲンさんとガクトは必ず、他は都合が付けば手伝ってくれって」

「ほうほう・・・・」

 

なら私も手伝いに入って速攻で片付けを済ませ、そしたらアイツの四年分の成長を見なけりゃな!いやいや、戦う相手がいなくてつまらないとかじゃないぞ?ただ幼馴染としてだ、その成長を確かめるのが義務みたいな?

 

「だったら明日の夜は島津寮でリンの復帰記念パーティだ!!ゲンさん!まゆっち!美味い料理を頼むぜ!!」

「まぁ兄貴が戻って来んだ、やってやるさ」

「私で良かったら・・・・ああ、でも料理がお口に合わなかったりしたらどうしましょう!?」

 

うんうん、明日が楽しみだなー♪リンと戦った上にゲンとまゆまゆの手料理を食べれるとは・・・・

 

「「「!!?」」」

 

突如発せられた爆発的な闘気に、思わず上を見上げたのは私とまゆまゆ、そして京の三人。

 

「どうしたんだモモ先輩」

「誰かが屋上にいる・・・・まゆまゆ、京、ここを任せたぞ」

「モモ先輩は?」

 

キャップの問いかけに答え、歩き出した私を呼び止めたのは京だ。

 

「ちょっと、やり合ってくる」

 

 

 

 

なんかさ、下からモノスゲー勢いで登ってきてね?多分これ、まともに階段登らないで壁ジャンプしてるか?壁壊すなよ?

 

「おいおい、まるで獣のような眼をしているぞ川神百代」

 

開け放たれた扉・・・・のネジが数本飛んだのは見なかった事にしよう。だが、眼は爛々と光を放ち、つり上がった口角、放たれる気、その総てがまるで餌を目の前にした猛獣を思わせてしまう。ゾズマさんの語り口調を真似ようとちょっとばかり集中していたのが幸いしたか、そうでなけりゃ思わず素になりそうだった。

 

「はははっ、強そうな相手が突然現れたからな。最近はあまり強い相手がいなくてな、お前は・・・・退屈させないでくれるんだろう?」

「さぁな、ただでやられてやるつもりも毛頭ありはしないが」

 

川神流・・・・の構えは直ぐにバレるから。

 

「ほぅ?あまり見ない構えだな」

「戦いは独学で学んだものでね」

 

九鬼での修練の日々で俺が身につけた、ありとあらゆる相手に対して『対応力』を極限まで突き詰めたのが今の構えだ。

 

『最初から全力を出すのは格上か相応の覚悟を以て挑んで来た者だけだ』

 

と言うヒュームさんの教えに従い、編み出した通常戦闘用とも言える構え。攻守兼用、槍の使用は当然の事ながら本来の武器では無い刀剣、鞭、投擲武器、暗器などを使う事も想定している。仕事であったとある壁越えの戦い方を参考にして編み出した。

 

「覚悟しろ川神百代、私の『槍』はお前の『慢心』を突くぞ」

 

マスクの中で、俺は思わず笑みを浮かべる。

 

「ハハハハハッ!良いぞ、そう言う威勢の良い相手は大好きだ!」

 

百代も、分かっていて笑みを浮かべる。

 

相手が俺だとは分かっていないだろう。

 

だが四年越しの戦いだ。

 

「推して参る」

 

いっちょ気張ってみますか。




第十四話でした。

お気に入りも千三百を突破しました、亀更新な上に駄文なこの作品をこんなにもたくさんの人に読んで貰えると言うのは嬉しい反面、毎回更新するたびに緊張してしまいます。

さて次回は謎のマスクマン(竜胆)VS川神百代の対決。四年越しの戦い、互いの道を歩み互いに成長を遂げた後の四天王、その激突の結果は?

次回!『神槍再臨』をお楽しみに!!


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第十五話:武神と神槍

「『川神流・無双正拳突き』ぃ!!」

「『重撃・藤牡丹』!」

 

奥義にまで昇華された正拳突きと前蹴りの激突、ガキィン、とか肉体同士の衝突じゃありえない音が鳴ってるのは気のせいだと俺は思いたい。ってかいい加減俺だって疲れるぜ、技と技がぶつかり合う事十七回、技では無いが拳を交える事(俺は半分以上蹴りだが)数えきれず。

 

ってかこっちの脚が限界だよ。パワーは四年前の比じゃねぇな、拮抗しているように見せかけてこっちが反動で押し返されてるし。スピードも直線だと完全に負けるな、その代わり小回りは効かないみたいだが。耐久度はこっちが余裕で勝ってるな、二、三発ぐらい迎撃しそこねて直撃もらったけどほぼノーダメだし。まぁもっとも・・・・

 

「強いなお前!『瞬間回復』っ!!」

 

こっちがどれだけ掻い潜ってぶち込んでも、それを全回復してしまうようなチートに昇格してしまったようだ。ただ打ち合い始めてから感じていた、奇妙なまでのガードの甘さの理由がこれで分かった。どれだけのダメージを負っても回復出来る、そんな『慢心』が生んだガードの甘さだ。今の俺じゃあまだ無理だが、本気のヒュームさんや総代なら、回復させる暇を与えずに一撃で気絶、戦闘不能に追い込む事も可能だろう。

 

「全く、呆れる程のバケモノスペックだ」

 

んで、少なくとも今の俺じゃあその攻略法は使えない。トップクラスレベルの攻撃力は無いし、なんやかんやで俺と百代の総合力はどっこいどっこいだ。パワー対テクニック、スピード対防御力、一撃の重さは百代が、当てる手数は俺が、まったくもって真逆な状況と来たもんだ。

 

「『飛槍三十本・五畳槍衾』!!」

 

とは言えこのままじゃジリ貧だ、勝つには攻めなけりゃならない。『飛槍』の耐久度は普通の槍よりやや強いぐらいだ、百代なら苦も無く全弾を打ち落とすか防ぎきるかするはずだ。俺に必要なのは百代がそうする『時間』だ。

 

「っ!?面白い技だな・・・・『無双正拳突き・乱れ打ち』ぃっ!!!」

 

いやいやいや、あんだけ威力がある一撃を連打するってどんだけだよオメー。俺の連撃がマシンガンだとしたらコイツのはガトリングか?ったく、パワーがあるのに回転数もあるって卑怯だよなァ。

 

「『煉獄発勁』」

 

俺の右手を包む気の焔、色は「白」。相当な高熱だが、今のコイツにダメージを与えるならこれぐらいしなけりゃ通らないと見た。だからこそ、この一撃に関しては加減も無用。槍無しで放てる、最大の一撃を叩き込む。

 

「テメーも武神ならよ、真っ向からコイツに打ち勝ってみやがれぇっ!!!」

「!?」

 

距離を詰めるべく駆け出しながら、俺はそう叫ぶ。口調が素に戻るが構うものか、どうせこれで通じなけりゃ降参するだけだ。そう思っていれば、百代もさらに笑みを浮かべる。

 

「良いだろう!来い!!」

 

受けた、なら俺は・・・・

 

「『飛穿・白煌(びゃっこう)』!!」

 

本来なら槍の技だが、『ここまでは』素手でも再現出来る。川神流で言う『無双正拳突き』に『遠当て』の要素を組み込んだ技だ。とは言え、放たれた拳圧にも焔の気は付加されるのでダメージは大きく、拳圧を作り出す拳そのものが直撃すればその威力は相当なものになる。俺の打撃技で最速にして最強、文字通りの『最高火力』だ。

 

「ハハハッ!!良いぞ、こう言う戦いを私は待っていたんだ!!」

 

百代もそう叫び、『真っ直ぐに』突っ込んできた。・・・・まさかとは思うけどさぁ、本気で真っ向から受けきった上で『瞬間回復』でリカバリーして殴る、とかそんな事考えてねぇよな?

 

「っ!!熱いなぁ・・・・『瞬間回復』っ!!」

 

本当にやりやがった、気の焔の熱量は擬似的なもので本物の半分以下の熱量しかない、とは言え白色の焔だ。体感温度は300°Cを越えている筈、俺としては焼ける痛みからの気絶か、或いは動きが鈍る事を期待したというのに。俺の『白煌』を受けきる間中、常時瞬間回復を使い続けた上で痛みにも耐えて突撃して来やがった。・・・・まぁ確かに、傷を治せても痛みまで消せるわけじゃねぇだろう。痛みそのものに耐える訓練ってのも、併用しなけりゃ意味がねぇわな。

 

「はぁあああああああっ!!!」

 

振り上げられる拳、こりゃマズイね。

 

だから俺は・・・・

 

「何のつもりだ?」

 

俺の顔面から僅か数ミリで止められる拳、俺は両手をバンザイの状態。つまり。

 

「降参だよ降参、ったく・・・・ここまでゴリ押しされるとは思いもよらねぇよ」

 

やっぱ槍無しだと俺はこんなもんか。ヒュームさんとニコライさんに鍛えられ、それなりに出来るようになったつもりではいたが本職(打撃屋)にはかなわねぇか。

 

「お前・・・・まさか」

「気づくのが遅ぇんだよ、バカ野郎」

 

百代が拳を下ろす、と俺はマスクを取り外し、フードを外す。

 

「ただいま」

「・・・・お帰り」

 

思わず、どちらからでもなく拳を突き出しぶつけ合う。

 

 

―――――――――

 

「いいなー!いいな!!ーいいなー!!!」

「テメェ他人事だと思って好き勝手言ってんじゃねぇよ」

 

あの後、百代と共に皆と合流。帰還の挨拶を済ませ、九鬼での従者生活と言う土産話をしていたら、色んな連中と戦った話になった瞬間に百代がメッチャクチャ食いついてきた。

 

「こちとら死ぬかと思ったんだぞ!?」

「良いじゃんかよー!九鬼の零、五、六番の辺りなんて壁越えとして有名だろ!しかも伝説の傭兵集団梁山泊と曹一族とかー!ずるいずるいずるい!!」

 

勘弁してくれよ。さっきまで冒険だらけでズルい、と騒いでいた翔一と綺麗どころに囲まれてズルい、と騒いでいた岳人を(物理で)宥めたばっかりなんだぞ?

 

「しかしアレだな、一子はかなり強くなったんじゃねぇか?」

「え?本当!?」

「ああ、発せられる気を見りゃ直ぐ分かる」

 

褒めながら頭を撫でていると、犬耳と尻尾を幻視してしまった。仕草がより犬っぽくなってる気がする、そう思って周りを見渡せば大和と京が揃って眼を背けた。犯人はキサマらか、まぁ犬っぽい妹も可愛いから許すが。

 

「岳人は・・・・アレだな、思った以上に筋肉つけてきたな」

「おぅ!軍師のアドバイスを聞いて鍛え続けたんだぜ!」

 

一つだけでいい、『これだけは負けない』と言う長所を持て。流石は大和、的確で分かり易いアドバイスだな。少なくともパワーだけならかなりなモンだな、負けてやるつもりはねーけど。

 

「忠勝、苦労かけたな」

「いや、兄貴が無事に戻ってきたんならそれで良い」

 

忠勝も鍛えてんのか?雰囲気からしてかなり喧嘩慣れしている気もする。それとオカンオーラが四年前より増加してる、ほら今も空いた茶碗に直ぐお茶注いでるし。

 

「大和もご苦労さん」

「リンが戻ってくるんならだいぶ楽になるだろうし」

 

大和は・・・・なんでだろうな、テンションちょい高め?具体的には翔一にちょっと近しい気もするが。だが俺たちと会話しながらちょいちょいケータイを弄っている、人脈を大事にしている、とは百代からのメールで聞いていたがそれ関係かな。

 

「で?何でお前は女装してんだ?」

「聞かないで・・・・」

 

卓也は気が付けば女子の制服を着させられていた。うん、普通に可愛いなオイ。金取れるぞ、いや良い意味で。

 

「お前も割と元気そうだな」

「うん」

 

京。多少は明るくなったな、俺がいなくなる前に比べれば相当明るくなった。そう言えばこの間、百代に「京のコミュ障はどうだ?」って聞いたら「うん、まぁ・・・・大丈夫」って微妙な返事が返って来た。まぁ、大丈夫って言うからには大丈夫なんだろうが。

 

「そうだ、今度仕事で知り合った冒険家紹介してやるよ翔一」

「ホントか!?色んな話が聞けそうだぜ!!」

 

翔一は全くと言っていいほど変わらないな、まぁそれでも百代から聞いた話だとリーダーとしての成長はしているらしい。それと内申総捨てで就職希望に『冒険家』と書いたらしい。意外とイケルんじゃねーかと、思ってしまう。

 

「クッキーも相変わらずだな」

「竜胆も元気そうで何よりだよ」

 

気配で察知出来ないわけだよ、俺も存在を忘れていたこのタマゴ型ロボはクッキー。九鬼財閥が開発し、英雄様が一子に贈ったご奉仕ロボ。とは言え俺の勤勉な妹は日常生活での手助けは必要性皆無、そこで日常生活の必要性大な翔一に移譲されたそうだ。ちなみにテスト運用で俺とあずみさんが担当しているので、製造当時からの顔見知り(?)でもある。

 

「お前らも大変なグループに入ったもんだ、退屈しねぇだろ?」

「あぁ、色々とあったが仲間になれて良かったとハッキリ言えるぞ!」

 

クリスティアーネ・フリードリヒ、通称クリスは最初金曜集会に案内された時に価値観の相違で揉めたらしい。大和が身を呈して解決に導いたらしいが。だがまぁ少し話しただけでもわかるが根は単純で優しい、どちらかといえば一子に近しい性質を持ってるかも知れない。

 

「まさか竜胆さんとお会い出来るとは思いもしませんでした」

「俺だって由紀江ちゃんがこっちに来てるとは思いもしなかったよ」

 

黛由紀江、由紀江ちゃんとは二年前ぐらいに知り合ってた。クラウディオさんの伝手で由紀江ちゃんの父親、『剣聖十一段』黛大成さんと試合をした時に。一週間、その教えを受けると言う事で滞在し、由紀江ちゃんとは再戦の約束もしている。妹の沙也香ちゃんも元気だろうかねぇ?

 

「お前本当に修行してたのかよ~!?まゆまゆみたいな美少女とは知り合いになってるし!!」

「してたよ!?マジで殺されるかと思ったんだぞ、舐めんな!!」

 

百代は何故か女好きになってた。いや、昔から男勝りだし?女子力は最低だが男子力は最高だった、だが百合に走る事もなかろうに。と思ったんだ、本気で。大和と忠勝の愚痴を聞けば借金癖もあるらしいし、そこらへんも矯正してやらにゃあな。

 

「ま・・・・取り敢えず」

 

一つ咳払いをすれば視線が集中し、静まり返る。

 

「こうやってまた戻ってきたんだ、また宜しく頼むぜオメーら」

 

「「「「「お帰り!!!」」」」」

 

また始まるんだ、こいつらとの日常が。




第十五話でした。

主人公補正なんてなかったんや、そう言わざるを得ないような結果。槍を使えば格上とも渡り合えるが槍が無ければギリ壁越えクラス、それが今作の竜胆君。

んでもっていよいよ原作時間軸突入、と言う事でFate/風ステータス更新です。

クラス:ランサー
真名:結城竜胆
性別:男
属性:混沌・中立
身長/体重:180cm、85kg
地域:日本

筋力:A 耐久:A+++ 敏捷:A
気:A+ 幸運:E+ 宝具:B

クラススキル

対魔(気)力:A:星殺しだってへっちゃらさ!(((゚Д゚)))ガタガタ

騎乗:B:無免だけど一通り運転出来る!気がする!

固有スキル

頑健:EX:風邪?なにそれ?

魔(気)力放出『焔』:A:俺の焔はちょっと熱いぜ?(`・ω・´)ドヤァ

専科百般:A:やろうと思えば大体出来る、大体な。

戦闘続行:EX:戦えるうちは負けじゃねぇ、何度でも俺は立ち上がる!

心眼(偽):A:見える、見えるぞっ!!


となりました。あいも変わらず嫌がらせ仕様としか言えない気がする。

次回から原作時間軸に突入していきます!


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第十六話:東西交流戦

「東西交流戦の開催を宣言するっ!!!」

 

転校して僅か三日、川神学園はイベントが多い、とは聞かされていたがまさか僅か三日目にして遭遇するとは思わねーよ。んでだ、川神学園学長を兼任してる総代が宣言した『東西交流戦』ってのは総代の高弟の一人、俺や百代からすれば大先輩にあたる鍋島正が学長を務める天神館学園との学年別対抗団体戦って話だ。各学年百五十名づつを選出し、大将の撃破か、或いは制限時間終了時の両校の被害状況による判定のどちらかで勝敗を決する、ってわけだ。

 

で、放課後になり場所は屋上。東西交流戦で学園中が沸く中、俺のところには来客が来るわけで・・・・

 

「フハハハハハハッ!!!竜胆よ、此度の東西交流戦。お前に我の補佐を任せる!!」

 

英雄があずみさんを引き連れて現れたと思えば、そんな事を言い出したわけでだ。ちなみに英雄とは一旦、九鬼を離れる事が決定した時に「そうなれば立場は対等、うむ!学園では良き友となれそうだな!」と友人認定、タメ口を強要されるという訳の分からない命令がそこにあったのだ。

 

「そいつは断らせて貰いますよ」

 

って言った途端、あずみさんが後ろでメンチ切り始めたから俺は直ぐに弁解をする。

 

「俺ぁ川神学園に来て高々三日、どういう奴らがいるのか分からなけりゃ、他の連中だって俺の事を知らない奴が殆どだ。そんな奴が補佐に就いたって命令は通りにくいし、何より不協和音の元になる。そう言うワケで今回は俺は一兵卒として働かせて貰うよ」

 

補佐、ってのは副官だったり、参謀だったり、軍師だったり。そのいずれにも手足となる将兵の数、実力を把握し適切な運用が求められ、またそれを心がけねばならない。今の俺は転入三日目、しかも長い付き合いである風間ファミリーのメンバー相手ですら今の実力を計りそこねている。そんな状況では指揮に回っても成果は出せない確立が高く、また今言った通り不和の元にしかならない。

 

「ふむ、考えての事ならば仕方あるまい。だが間違いなく二年の最大戦力は貴様だ、頼りにさせてもらうぞ!!」

「あぁ分かってる、俺の立ち位置を確立するためにも見せつけなけりゃならんからな」

 

現状の俺は評価不明の転入生、って立ち位置なわけで。しかもF組とS組の妙な対立のせいでぶっちゃけ英雄とあずみさんと他一部を除いたS組の奴らからかなり格下に見られているってわけだ。俺自身がそんなのは癪だし、元とは言え九鬼の従者が舐められたんじゃ示しがつかねー・・・・ってか多分、放置しててバレたらヒュームさんとかリカルドさんが俺を始末しに来る(切実)。

 

「出来る限りの事はやるさァ」

「うむうむ・・・・あずみ、人払いを」

「はっ!」

 

満足げに頷いていた英雄が、ふと何かを思い出した様子であずみさんに人払いを命じる。

 

「ニコライから話は聞いた、外部側の協力者として手を貸してくれるそうだな」

 

『何の』、とは英雄も言わないし俺も言わない。だがお互いに『何に』ついてかは分かっている、だから話を続ける。

 

「元々乗りかかった船だ、お前だって動いてるんだろ?」

「うむ、こちらでも内外問わず信頼出来る者に助力を仰いでいる最中だ」

「お互いが違う形で別々の方向からアプローチをかける、今はそれしかねーわな」

 

最低限の情報共有はする、だが指揮系統そのものは別々で、互いの人員も互いに晒さない。それはどちらかに何かがあった時のための対処の一つであり、一網打尽にされる事を避けるための最低限の配慮。

 

「・・・・大扇島と本土を繋ぐ地下通路」

「何?」

 

唐突な俺の呟きに、眉を顰める英雄。

 

「四年間、何度も何度も通ったあの通路。俺は一つの違和感を感じた、それを信じるか信じないかはお前次第だが・・・・よーく調べてみな、あずみさんかニコライさん辺りに動いて貰えればなんとかなるんじゃないかな?」

「うむ、お前程の実力者の感じた違和感だ。それだけでも人を動かすには十分だ、近日中に手配する事にしよう」

 

最初は感じなかった違和感だけどさ、やっぱ年数見てれば感じてしまうような違和感なんだよな。音の反響、見た目の違和感、そして『数百の気配』。

 

「ま・・・・その辺も東西交流戦を終えてから本腰入れる事にしようや」

「うむ!その通りだな!」

 

――――――――――――

 

「リンを姉さんクラスだと仮定して・・・・」

「仮定じゃなくて良いぞー、リンは間違いなく私たちと同じ領域に足を踏み入れている」

 

その日の夜、東西交流戦開催を受けて秘密基地に集合した風間ファミリー。二学年の軍師の一人に指名された大和はテーブルの上に戦場の予定となる廃工場地帯の地図を広げ、明日の全体会議に向けて作戦や部隊配置を立案していた。ちなみに地図を用意したのは俺、個々の戦力を比較的正確に把握している百代や各種方面に経験値がある忠勝、幅広い知識を持つ卓也がアドバイザーになっている。翔一と一子は爆睡、岳人は筋トレ、京はお茶くみ、で残るのは俺と由紀江ちゃん、クリスの三人になったわけで。

 

「竜胆殿はあっちには参加しないのか?」

「何分、川神学園的には新参者なわけだし。今回は下手な口出しは無し、総大将や軍師の指示で思うがままに暴れるだけさ」

「わ、私もお友達を作るべく頑張りますっ!!」

 

由紀江ちゃんは・・・・良い娘なんだよなぁ、家事全般パーフェクトで成績優秀、可愛いしスタイル良いし、性格も古き良き大和撫子って感じで引く手数多なんだが・・・・意識して笑おうとすると何故か表情が強張って怖くなるんだよな。アレだ、目の前でやられたら無言で財布を差し出しそうになるような顔だ。高校生活の目標は『友達百人』らしい・・・・うん、ちょっと泣けてきた。今度九鬼関係の知り合いを紹介してあげよう。

 

「しかしここまで大規模なイベントを開くとは・・・・」

「あー、まぁ割と昔っからこんな街だったと思うがな」

 

クリスも根っこは素直で良い子だ、ちょっくら融通が利かない事もあるがそこら辺も風間ファミリーに入る事でだいぶ緩和されてきている、と言うのは忠勝の言だ。ドイツ軍中将の娘であり、妙なカリスマ性まで持ち合わせているからこう言うイベント向きかも知れない。ちなみに父親のフランク中将とは九鬼時代に面識があり、つい先日も市内で遭遇し「娘の事を、頼むよ」って凄まれた。あれは「余計な虫が付かないように監視しておいてくれ」って意味合いなんだろうなァ。

 

「だがまァ、総代もああ見えて教育者だ。俺ら学生にとって経験になると踏んだからこそ東西交流戦の開催に踏み切ったんだろう」

 

ノリで決めてる部分も割合が大きいとは思うが、それでも何らかの利点があるからこそやっているハズだ。

 

「まぁ一度しか無い学生生活だ、思うがままに楽しむのが正解だ、と俺は思うね。だからこそこういったイベントには一切手を抜かない、抜かないからこそ面白みってモンは出て来るんだからよ」

 

『本気を出してムキになってやるからこそ、遊びってのは面白いんだよ』とは帝様の教えだ。至言だと思うね、本当の意味で楽しむには本気になるのが一番。

 

「それに・・・・」

 

チラッと百代へと視線を向ければ、珍しく真面目に大和へのアドバイスに集中している。昔のアイツなら壁越えが相手側にいない、と知った時点でやる気なんざ無くしそうなもんだが。そこらへんは成長してる、ってことかね。

 

「あそこの幼馴染、他数名からちょっくら挑発されてよ」

 

今や『武神』と呼ばれる幼馴染や。

 

『槍を使えリン、使えば今のお前なら・・・・確実に私と同等の実力がある、私の勘がそう言ってるんだ』

 

九鬼での師匠その一や。

 

『鍋島の教え子共も中々の赤子だが、俺の弟子でもあるお前ならば無傷で切り抜けるぐらい、出来るよなァ?』

 

九鬼での直属の上司だったり。

 

『まぁ学生の範疇で楽しめば良いんじゃねぇか?でもアレだ、負けたら殺す』

 

クソ生意気な弟子とか。

 

『え?ししょーがそこら辺の学生なんかに負けるわけないじゃないですか?負けたら?本部ビルの屋上で裸踊りしてやりますよ!・・・・ところで裸踊りってなんですか?』

 

 

 

『久しぶりのテメーの実力をじっくり観察してーからよ、まぁ思いっきり暴れて来いやバカ弟子』

 

父親代わりの師匠とかから。

 

「まぁ、ちょっと本気出す事にしてっからよ」

 

だからまぁ、無様は晒せない。

 

だからちょっと本気で行く。




第十六話でした。

竜胆君の「ちょっと本気出す」宣言。前作でもそれなりに一般兵相手に無双していた竜胆君、果たして今作ではどうなる事やら。

と言うわけで次回から東西交流戦突入。次回!「真・竜胆無双」!


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第十七話:竜胆、考察する

東西交流戦は全三日間、各学年対抗で行われる。川神学園学園長である総代と天神館学園学長である鍋島さんの二人で話し合った結果、一日目は一年、二日目は三年、最終日に二年、と言う形で落ち着いたらしい。何でも双方自信満々だったのが二年で、ならそこまで言うなら最終日に、となったらしい。

 

さて、今日はその三日目。初日、二日目は両方共に色々な意味で悲喜交々な結果となっている。

 

初日一年生の部。全体的な戦術レベルは五分、双方の練度もほぼほぼ互角、由紀江ちゃんがいる分で総合力的には川神学園側が有利かと思われた。だが由紀江ちゃんを別働隊として敵本陣を奇襲させる、それは良い、戦術的にも悪くは無い手だ。相手側に突出した戦力がいないんだから由紀江ちゃんが迂回している間に敵本陣周囲の戦力を釣りだし、手薄にすれば効果は相乗されるだろう。・・・・だが、何故か由紀江ちゃんの迂回中に一年の総大将が手勢を引き連れて突出。どんな狙いがあったか定かでは無いが袋叩きにあって敢え無く壊滅。

 

二日目の三年生の部。百代と言う超級戦力を抱える川神学園側が圧倒的に有利であり、他にも一芸特化な人材が豊富なため川神学園の有利は崩れず。それに対抗するために天神館が取った手段は通常とは違う意味での集団戦術、『天神合体』。百五十人、いやもしかしたら実はそれ以上の人数が合体し一体の巨人の姿を成す妙技、画面越しに見学していた男子生徒の過半数がテンションアゲアゲになり、気が付けば川神学園、天神館の両男子生徒が肩を組み天神館側の応援をするという異常事態が発生していた。だがそれでも一人一人は中堅クラス、それが合体したところでバケモノに敵う訳は無く『星殺し』の一撃で瓦解。その光景に肩を組み合っていた男子のほぼほぼ全員が涙し、膝を付いた。あとは辛うじて直撃を免れただけの天神館生徒を川神学園側が一方的に掃討するだけだった。

 

ここまで一対一、勝敗は奇しくも両校自信満々で最終日に回した二年生対決に委ねられる事になったわけだ。

 

 

 

「ったく、三年は予想通りだが一年は何やってんだよ」

 

一年総大将のバカな判断により一昨日の夜は俺と大和とゲン、京、クリスら島津寮メンバーで由紀江ちゃんを慰めるために色々とやったもんだ。翔一は寝させといた、アイツたまに素で他人の心をグッサリ刺すような言葉のチョイスをするからな。

 

「フハハハハハハッ!!そう言ってやるな、そのおかげで我らにまで出番が回ってきたのだ!」

 

本来、俺の配置は遊撃兵だったのだがあずみさんが別件で今日は不参加。なので九鬼寄りで、このイベントに公然と参加出来る人選、と言う事で昨晩俺に連絡が来たので本陣詰めで英雄の護衛と言う事になっている。英雄は総大将であり、その防備に俺が付けば攻めに兵数を回せると言う事で大和ともう一人、2-S所属の軍師葵も同意してくれてこの配置が成立している。

 

「まァな。だが一番の激戦になるのは俺らだ、お前がそうやってふんぞり返ってるからには・・・・」

 

戦場となるであろう方向を一度見てから、俺は再び英雄へと視線を戻す。

 

「信頼出来る連中がそれなりにいる、って事なんだろうがよ」

「うむ、紋がいれば勧誘するであろう人材が数多いる!」

 

成程ね、局様の影響を受けて人材マニアになっている紋様が勧誘するレベルが揃ってるとなれば、まぁ本陣奇襲とかされなきゃ出番はほぼほぼ無いってわけか。

 

「フッ、出番が無いのではないか、と思っている顔だな?」

「・・・・そこまで顔に出てたか?」

「いや、カマをかけただけだ」

 

なんてこったい。

 

「出番は直ぐにあるだろう、我が保障してやる」

「・・・・だろうな」

 

良く考えりゃ鍋島さんの教え子で、しかも西方十勇士なんて肩書きまでつけた連中が相手なんだ。奇襲、伏兵、暗殺、狙撃と何でもやってくる可能性は大だ。さっきから数回、爆発が起きてるみたいだが・・・・

 

「早速お出ましかい。お前ら!ここは任せたぜ!!」

 

本陣警護の連中の返事を待たず、俺は近くの配管を足場にして高所へと駆け上がっていく。登り切ると同時に飛んできたのは手裏剣、空いた手に握っていた槍でそれを叩き落とし、直ぐに体勢を整える。うん、なんつぅか見た目からして「忍者です」って感じだった。もうちょっと世を忍べよ、あずみさんみたいに別人格並に忍べとは言わんからよ。

 

「初っ端から奇襲たぁ、随分と余裕の無ぇ戦い方をするじゃねぇの?」

「・・・・鍋島館長から同学年に壁越えがいる、と言う情報を得ていた。最大戦力と見て間違いない、だから攻め手に回るだろうと軍師が読み我らも同意しての奇襲だったが」

「読み違えたなァ?御宅の軍師。俺は入学して一週間、実力を知るのも一部の連中。攻め手に加えるにゃ不確定要素だし拠点防衛でも同じ、なら総大将護衛の一人として置いとくのが無難。使えるヤツならしっかり護るし、使えなかったとしても多くの兵が詰めてる本陣ならば何ら問題は無い、ってぇワケさ」

 

槍の持ち手を短めにする、忍者相手には距離を取るのが一番。変わり身、分身、投擲武器と何でもアリなのはあずみさんで経験済みだ。

 

「名乗り合いでもするかィ?」

「西方十勇士が一人、鉢屋壱助」

「・・・・本当に名乗るとは思わなかったよ」

「我ら忍もこのままでは廃れて行く、故に名を売り、有用性を世に伝えねばならんのだ」

「世知辛いんだなァ・・・・川神学園、結城竜胆だ。まァ、ちょっくら俺の手柄になってくれよ」

 

俺の言葉に、鉢屋は無言で忍者刀を構える。二刀流のあずみさんと違って一本だけを逆手で持つ、ある意味正統派とも言えるか。

 

「だがよ、忍者が正面切って戦うとか舐めてんのか?」

 

あずみさんだって奇襲が失敗すれば退く、まぁあの人退きながら爆弾やら閃光弾やら煙幕やら投げたうえでさらにクナイや手裏剣で弾幕張ってくるもんな。よしんば接近戦をするとしても煙幕や閃光弾で視界を奪ってから、コイツみたいに無策で正面からやり合うマネはしない。

 

「無論、無謀は承知。だが俺が一分一秒を稼げば・・・・」

『おっしゃぁ!!敵本陣に一番乗り!報奨金アップやぁあああああ!!!』

「と言う訳だ」

 

成程ね、奇襲が成功するなら良し。それが成らないならば、鉢屋を抑るために手薄になった総大将を突貫してきた部隊が叩くと。

 

「んじゃ言い直すぜ、初っ端から本陣狙いの策ばかり。テメーらの軍師は俺らを舐めてんのか?」

 

視界の端で本陣護衛兵の中からSクラスの柔術使い、不死川が悠々と敵将に向かって進み出てるのが見えた。まぁ、勝てるだろ。相性も悪くねぇし、実力も五分五分。実力が互角なら相性が場を左右する、なら不死川が上手くやるだろ。

 

しかし本当にやる気あんのか、って話だ。本陣狙いの奇襲や突貫、なんてのは本来なら終盤に、しかも劣勢な場合に盤面を覆す手段として用いるモノだ。通常、こう言う部隊を運用しての戦いは局地戦を積み重ね、徐々に優位性を確保し、補給を切る事と連携を断つ事こそが肝要だ、と梁山泊の呉用には教わった。その方が損害を抑えやすいのだ。それに前線での有利を取れば俺や百代、由紀江ちゃんみたいな特記戦力は前に出ざるを得ない、そんな時こそ本陣攻めが効果を発揮する。だと言うのに・・・・

 

「分からん、あの女の考える事は御大将を含め誰一人として理解出来ん。だがその判断が大きく間違っていた事は無かった、だから皆従うのだ」

 

人格や考えを理解、評価されるのではなく実績だけを見て是とするか。

 

「そうか、なら直接当人に聞く事としよう。向こうも・・・・ケリはついたみたいだしな」

「!」

 

チラッと俺が下へと視線を移し、下では不死川が両手を挙げて勝利の喜びを全身で表している。アレもクリスと別方向のアホっ子だからなぁ・・・・

 

「っまだ勝機はあるっ!!」

 

そう言って、飛び上がる鉢屋。俺を躱して英雄を討ち取ろうって算段か。まぁ、それしかないわな。彼我の力量差を見て、俺と戦ったら万に一つすら無いと判断、そうなれば隙を突いて突破、イチかバチかで予定通り総大将の首を取りに行く。それが今の状況ならベストだろう、『実行出来るんなら』だけどな。

 

「『飛鷹』」

 

だが前だけ見すぎだ。『壁越え』じゃなけりゃ、お前ぐらいの実力があれば反応出来るんだろうが・・・・

 

「『穿爪撃』っ!!!」

 

俺は『壁越え』なんだよ。

 

「!?ぐぁあああああああっ!!?」

 

なんの事はねぇ、飛び蹴りさ。ただ・・・・百代の使う『無双正拳突き』と同じで『奥義』にまで昇華した飛び蹴りだがな。反応出来ずにモロに喰らい、地面へと叩きつけられた鉢屋。・・・・やり過ぎたな、白目剥いてんじゃねぇかよ。

 

「英雄!前線の戦況はどうなってる!!」

 

さて、どう出るかね。

 

「こちらが有利だな!今し方、西方十勇士のうち五人を討ち取ったと言う報告が入ってきた!だが向こうの総大将の行方が知れんようだ!!」

「分かった、俺も前に出るが構わんか!?」

「うむ!前線に出ていた一子殿とマルギッテの隊が負傷者多数により下がってくるとの事だ!それで本陣の備えは十分であろう!!」

 

成程ね、なら俺も気兼ねなく行けらァ。

 

「なら遠慮なく前に出る!!」

 

狙うは最初っから一つ。

 

『大将首』さァ。

 




第十七話でした。

うーん、戦闘描写が如何にも短いような・・・・難しいなァ。

次回はVS石田!どうなるんですかねぇ、作者ぶっちゃけまだ何も考えておりません。なので今からノリと勢いで書きます(真顔)。


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第十八話:神槍VS雷帝

「・・・・もう一回聞いて良いか?葵」

 

本陣を離れた俺は要所防衛についていた忠勝、翔一、岳人のところを順番に回り、最後に詳細な戦況を尋ねるために参謀部隊を訪れていたのだが・・・・

 

「えぇ、ですから直江君は単身戦場へと向かいました」

 

イケメン四天王(エレガンテ・クワットロ)』と呼ばれるだけはある、ハーフ系イケメンの葵はにっこりと、ただちょっと寒気を、具体的には妙に俺の尻とかに視線を注がせながら微笑んでそう答えた。まぁこの際、そこには眼を瞑ろう。

 

「ったくあのバカ野郎・・・・」

 

回避能力こそ高いがそれ以外は素人もいいところな大和が、戦場に単身突っ込んで無事なワケねぇ。一般兵程度なら何とでも出来るだろうが残る十勇士と遭遇しようものなら勝目なんざ皆無に等しい。

 

「指揮系統に異常は無ぇか?無ぇんならこのまま頼むわ」

「えぇ、お任せ下さい。貴方はどうするのですか?」

「頭脳労働担当のクセに敵陣突入したバカ野郎を連れ戻しに行く」

 

ったく、普段は結構正確な読みを持ってるクセに感情が昂ぶったり焦りが出てくると途端に読みの精度を落としやがる。それさえなけりゃ呉用よりも軍師としての技能が上回るってのによ。

 

「分かりました、それと情報ですが敵方の西方十勇士の内、貴方が倒した鉢屋、不死川さんが倒した宇喜多、マルギッテさんが倒した大友、椎名さんが倒した毛利、準が倒した尼子、ユキが倒した長宗我部、仔細不明ですが龍造寺も倒し、大村も倒れた・・・・と伝令が入りました。残るは総大将の石田、副将の島の二名、それに加えて相手側の軍師」

 

そう、かなり投げやりな作戦を立てた軍師だ。古来から敗走するフリをして敵を釣る、と言う戦術は存在するが将八人の欠落はやりすぎだ。

 

「油断せず間断なく攻め立てろ、終始気を抜かせないようにな」

「ええ、そこは抜かりなく」

 

 

―――――――――

 

「どういう状況だコレはよォ」

「りっ、リン!!ナイスタイミング!!!」

 

大和の気を辿り、途中で一子と合流しつつ来てみれば。大和と対峙していたのはスーパーサ○ヤ人と明らかに同年代には見えない男。多分、コイツらが総大将の石田と副将の島か。

 

「まぁこれに懲りたら無茶なマネはしねーこった、で・・・・選手交代だ西の総大将さんよ」

 

見たところ、全体的な能力値を底上げするタイプの技と見た。しかも電撃属性のオマケ付き、こりゃあ壁を越える事ができたなら百代にとって『良いクスリ』になるんだがな。

 

「川神学園の将が一人結城竜胆、お相手仕ろうか」

「フハハハハハハッ!!!貴様はバカか!?なぜ俺が貴様との一騎打ちを受けねばならん!!」

「受けざるを得ない理由を付け加えてやろうか?俺は川神学園の二年じゃ一番強い、そして時間切れを狙うアンタらにとっちゃ最も邪魔だし最も討つべき存在だと思うぜ?」

「・・・・ふむ、続けてみろ」

「最高戦力である俺を討ち、それを喧伝すれば残るこっち側の戦力は当然萎縮する。辛うじて攻めを敢行したとしても俺を倒した相手、と言う先入観が邪魔をして思うがままに動く事は出来ない。もし活路があるとすればそこだと思うんだが・・・・どうだ?」

 

少考し、石田がゆっくりと刀の切先をこちらへと向けた。

 

「敵ながら理に適った物言いだ、例えそれが俺を一騎打ちへと引きずり込むための詭弁だとしてもそうせざるを得ないと思うに十分だ・・・・何より」

 

石田の身を包む雷光がさらに輝きを増してやがる。気分が反映されるってか?しくじったかな。

 

「確かに貴様は強い!大将としての努めを果たそうとする理性よりも一人の武人として貴様と刃を交えたいと願う本能が俺の中で勝っているのだ!!」

「良いツラ構えじゃねぇか・・・・一子ォ!そっちの副将は頼む、お前よりちょっと格上だぞ?」

 

俺の言葉を聞いた一子が、いつものように笑顔を浮かべて薙刀を握り締める。

 

「大丈夫よ!そう言う相手と戦って、それで倒してこそ強くなれる!お兄ちゃんそう言ってたじゃない」

「だな。んじゃあ気張ってけ!勝ったら大和が焼肉奢ってくれるぞ!!」

「俄然やる気が出てきたわ!!」

 

大和の「え!?ちょっ・・・・!!」とかいう声が聞こえてくるが気にしない気にしない。

 

「『煉獄武侠』」

「何っ!?俺の『光龍覚醒』と同じ技だと!」

「ちょっと違うな、まぁ源流が同じの可能性は大だと思うが・・・・」

 

正式名称は『川神流・生命入魂』。細かい理屈は忘れたが、まぁ生物を模した気を全身に纏い、その特徴と最大の武器を得る、って感じだったと思う。俺が着目していたのは全身に気を纏う、と言う点。この技をヒントに、偶然か必然か対を成すように俺が編み出した焔の気を全身に纏う『煉獄武侠』と石田の雷の気を纏う『光龍覚醒』。

 

「どんな偶然かは知らんが・・・・良い、実に良いぞ!同系統の技を使っての戦いならば地力の差がハッキリと出ると言うものだ!!」

 

そう言いながら、達人の使う『縮地』にも近しい速度で接近してきた石田の上段からの振り下ろしを槍で受け止める。

 

「あぁ、そうだなっ!!」

 

鍔迫り合いになる前にと槍を払えば、石田は直ぐに距離を取る。

 

「・・・・久しいな、俺より格上と戦うと言うのは。同年代では松永ぐらいのものだったか・・・・」

「へぇ・・・・分かってて応じたのか?」

「言っただろう?大将としての『理性』より武人としての『本能』が勝ったのだと」

 

あー、あるある。立場とか、状況とか、力量差とか、そんな面倒なモノを全部かなぐり捨ててでもコイツと戦いたい、コイツに勝ちたい、って強すぎるぐらいの思い。願望って言っても良いかも知れない。それが石田にとって俺だった、ってワケだ。

 

「イイぜ、来いよォ!今この一時だけは!!何もかも忘れようぜ!!」

 

 

 

side 明石夕凪

 

この東西交流戦と言う催し物にボクは乗り気じゃ無かった。作戦なんか立てたって、ハッキリ従うのは尼子と鉢屋ぐらい。毛利と大友、島が申し訳程度に従い、残りはまずこちらの思い通りになんて動いてくれない。だからぶっちゃけ適当にやり過ごすつもりだった。ボクを信頼して動いてくれる尼子と鉢屋には申し訳ないんだけどね。

 

「鉢屋さんの奇襲失敗!敵方の被害は無し!!」

 

ボクはそんな報告を疑った。被害無し?鉢屋は忍として非常に優秀な部類に入る。仕事として引き受ければ仲間相手とて容赦せず、依頼は必ず果たす。ボクはそんな鉢屋をプロフェッショナルとして信頼していた、だがその鉢屋が奇襲を失敗、その上手も足も出ずに一方的に打ち負かされたのだという。直ぐに、ボクはその相手の情報を集めさせた。

 

結城竜胆

 

報告でその名が上がってきた。作戦会議をした時に館長が要注意人物として推していたヤツだ。興味が沸いてきた。次々と十勇士敗走の報告が入ってくる、正直ここから反撃しきれる策は無い。せめて十勇士がもうちょっとこっちの言うことを聞いてくれればどうとでもできたんだろうけどね。

 

「どうしましょう!?」

 

と、ボクの護衛って名目でいる同級生に聞かれる。期待を込めた五対の視線が向けられたんだけど、どうしましょうも何も戦力が削られすぎてどうしようも無いもんねぇ。

 

「適当に逃げときなよ、いくらなんでもここから挽回出来るような策をボクは持ってないからさ」

「明石さんはどうするつもりで?」

「ちょっとね、大一番を見に・・・・かな」

 

そう言ってボクが移動し始めれば、他の五人も追従してくる。まぁそれが無難だよねぇ。

 

「ねぇねぇ、アレなんだと思う?」

「・・・・電撃、は御大将でしょうが」

「それと拮抗、いや圧している炎は一体・・・・」

 

移動し始めて間もなく見えてきたのは迸る電撃と、それを飲み込むように渦巻く白い炎。

 

「アレは・・・・件の特記戦力じゃないかな?でなければいっしーを相手に優位に戦えるヤツなんてそうそういないだろうしねぇ」

 

性格はアレだし、直ぐに慢心するが『いっしー』こと『石田三郎』は紛れもない実力者だ。表に出たがらない『アイツ』を除けば間違いなく十勇士最強、壁越えまで間もなくといったところだ。気を雷に変換する力とその力を使っての剣術はぶっちゃけてバカに出来ない。

 

だが、そのいっしーの電撃を飲み込むように暴れるあの白い炎はシャレにならない。まるで天を駆ける龍のように踊り狂う白炎、触れた鉄管や貯水タンクが中身の水や液体ごと溶かされ、蒸発し、気でガードしてるいっしーも徐々に火傷が増えつつある。

 

当然、それだけでは無く白炎を操る結城竜胆自身の能力も『壁越え』確定なのだろう。というか、いっしーの電撃を真っ向から食らってもスーパーアーマー状態で踏み込んで突きを繰り出してる。秀美ちゃんの自称スーパーアーマーと違ってあれはホンモノだろう。

 

本来なら、天神館の勝利を考えるならここで仕掛けるべきなんだろうけど・・・・

 

「もっと、もっと見せてよ・・・・」

 

今はこの二人の戦いから、目が離せないんだよ・・・・




第十八話でした。

後の『神槍』結城竜胆と『雷帝』石田三郎の初対面&初対決の回でした。戦闘描写に不安アリアリでもう・・・・((;゚Д゚)ガクガクブルブル

そして新キャラ『明石夕凪』。改訂前の『甲斐宗延』ポジションのキャラになります。性別女だけどヒロイン候補には入ってません。

さて、次回は東西交流戦決着。そして・・・・

次回!『なんでそーうなるのっ!?』をお楽しみに。


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第十九話:横槍(刀?)

「やるじゃねぇかよ、えぇ?」

 

いやー、思ったより石田が強くて張り切りすぎた。近くの貯水タンクとか鉄管とかめちゃくちゃ溶けてんじゃねぇかよ、大和と一子が巻き込まれないようにはしていたが・・・・ってか人増えてるし、一子と島が戦い止めて観戦モードだし。

 

「想像以上だな結城、館長と差があるのは踏んだ場数の差と思っていた。だが同い年の貴様がそこまで強い、となればそれ以外の何かが俺には足りないのだと自覚せざるを得ない」

「こっちだって想像以上だったよ、何度かキメるつもりで出した攻撃が上手く決まらなかったからな」

 

属性付きの気を使った強化、と言えば殆どが思い浮かべるのが単純な追加効果だろう。石田の電撃なら『麻痺』、俺の焔なら『延焼』と言った感じだ。だが実際はそこだけには収まらない。使用者が何を思い浮かべ、その技を開発したか、或いは使用したかでまた違ってくる。石田の場合は雷の『速度』を思い浮かべているのだろう、時折、瞬間的に俺を上回る速度を出す。俺の場合は『熱量』に比重が置かれている。直接触れた場合の殺傷力もそうだが、発せられた熱気は気候条件さえ揃えば相手から正常な思考を奪い、脱水症状からの熱中症を人為的に引き起こし行動不能にする事も可能なわけだ。だからこそ、俺たちは技に対する理解と、その力を正確に把握する事に努めなけりゃならないってわけだ。

 

「だがまァ、そろそろケリつけようや石田三郎」

 

これは一応、学園の行事である。夜間に行われていると言う事もあり、川神学園側は翌日の授業に、天神館側は修学旅行に、それぞれ支障が出ないようにと配慮され制限時間を設けられている。本来、天神館の総大将として石田はここで時間を可能な限り稼ぐべきなのだろう。この圧倒的劣勢でも、制限時間めいっぱい逃げ切れば引き分けとなる。なるが、それじゃあつまらないしこれまで倒れてった連中のタメにもならない。

 

「そうだな、決着をつけるとしよう結城竜胆」

 

そして、石田もその結論に至ったらしい。となりゃあ半端な技で相手をしちゃあ失礼になるわな、未完成だが『あの技』で受けて立ちますか。

 

「我流奥義・・・・『焔桜』・・・・?」

「奥義!『紫で」

 

『陽炎』の穂先から吹き上がる桜の花びらを模した焔と、刀から迸る紫色の雷撃。共に必殺の一撃を繰り出すべく訪れた、一瞬のタメ。

 

気づいたのは俺だけだった、石田の背後にあるこの戦場内で1、2を争って巨大なタンク。そこを駆け下りてくる影が一つ、疾い。止める間もなく、声を上げる暇すらも無く、気が付けば地面にキスでもするんじゃないかというところまで駆け下りてきたソレは衝突寸前で速度を更に上げ、軌道を無防備な石田の背へと。

 

「んぐはぁっ!!?」

「あ」

 

物の見事に袈裟懸けに切り捨てられた。俺は唖然とした、一子も大和も、島も、お互いの兵も、全員が唖然とした。石田を切り捨てたのは川神学園の制服を着た少女だった。少女はゆっくりと体勢を立て直し、ゆっくりと周囲を見回す。ツー、と冷や汗を一筋垂らし、少女が口を開いた。

 

「もしかして・・・・義経はもの凄い横槍を入れてしまったのか?」

「あー、まぁアレだ。俺もコイツもこの戦いの主旨を忘れて戦ってたからな・・・・問題はねェ、あー!だから泣くな泣くな!!」

 

周囲の微妙な雰囲気を感じ取ってしまった少女は、やってしまった、と言わんばかりに顔を青くして涙を浮かべ始めた。うん、アレだ。一子と同じだ、もの凄い小動物系のオーラが見えるんだ。こっちが悪いわけじゃない、なのにもの凄い罪悪感に苛まれるんだよ。

 

「ま、取り敢えず大将首獲ったのァおたくだ。ウチの制服着てるって事は仲間には違いねぇんだから、勝鬨の一つでも挙げてくれや」

「良いのだろうか」

「構う事ぁねぇ、俺が責任取っから思いっきりやってくれ」

 

ちょっとだけ、躊躇う素振りを見せたが意を決し、刀を持った方の手を掲げ、高らかに宣言する。

 

「では・・・・天神館の総大将を討ち取った!!川神学園の勝利だーっ!!!」

 

 

―――――――――

 

あれから話を聞いたんだが、どうやら例の少女は名を『源義経』。九鬼が秘密裏に進めてきた『武士道プラン』で誕生したクローンとのこと。本来は週明けに転入予定、見学の一環として上空からヘリで観戦していたら血が騒いで思わずヘリからダイブ、そのまま俺と戦っていた三郎を敵総大将に間違いないと見当を付けて奇襲、切り捨て、となったそうだ。

 

「横槍が入って決着はつかなかった、だが!次こそは俺が勝つ!首を洗って待っていろ、竜胆!!」

「おぅ、何時でも相手になるぜ三郎」

 

翌日、福岡へと戻る天神館の生徒を見送りに川神学園側からも結構な人数が来ていた。戦いを通じて育まれる友情、と言うヤツだろうか。俺だって昨日の夜、色々と言葉を交わして、三郎とは今じゃ互いに名前で呼び合うしなぁ・・・・

 

「じゃあ大友さん、メール待ってるね」

「ああ!」

 

うん、一部違うな。お前いつの間にジゴロになっちまったんだ、影から京がハンカチ噛んで呪詛撒き散らしてんじゃねぇか。怖ぇよ。

 

「ん?」

 

筋肉を褒め合う岳人と長宗我部、情報交換をし合うモロと大村、怪しい物品のやり取りをしてる福本と鉢屋、交流を深め、別れを惜しむ。そんな中で三郎とは別の、俺を品定めするような視線。辿ってみれば女子が一人、なんだろう、市松人形を思い浮かべちまうな髪型とか雰囲気とか・・・・

 

「っ!?」

 

寒気。

 

蛇のような、獲物を見つけ、舌なめずりしつつもその味が最も熟成するのを待っているような。我慢しきれなくて、それを俺が寒気として感じ取ってしまっているわけだ。

 

「結城竜胆君、だよね?」

「ああ」

 

っと、考え事してたら思いっきり接近された上に声をかけられてた。

 

「ボクは明石夕凪、天神館の『軍師』です」

 

コイツがだと?あの投げやりな作戦を立てた?

 

「キミの言いたい事は分かるさ、今だから白状するけどかなりあの作戦は投げやりだった」

「・・・・」

 

三郎が無言で睨みつけている、まぁ、だろうな。ここまで堂々と白状してくるようなヤツは初めてみた。

 

「おっと、ボクを恨むのは筋違いだぜいっしー。ハルちゃん(尼子)といっちゃん(鉢屋)を除けばキミらは殆ど指示を聞いてくれないだろう?そんなヤツらのために真面目に一から十まで策を立てよう、なんて殊勝な性格をボクはしていないのさ」

 

成る程、まぁ分からんでもない。上司が部下を信頼し、その言葉に耳を傾ければ部下は上司のために全力を尽くす。だが上司が部下を信頼せず、その言葉に耳を傾けなければ部下は上司のために働こうとは思わない。九鬼時代は良い上司に恵まれたからだいぶやりやすかったが・・・・。

 

「さて、本題だがキミに興味が湧いた。・・・・あぁ、勘違いしないで欲しいが異性としてでは無い。キミと言う『人間』に興味が湧いた。だから来週から川神学園に転入する事にしたから、ヨロシクねー」

 

イキナリだなオイ。岳人が「美少女キター!!」とか叫んでるが他は概ね、まぁ翔一が「面白くなりそうだな!!」とか言っているけど殆どの連中が唖然として・・・・ああ、訂正。岳人と肩組んで百代が「美少女キター!!」って合唱してやがる。

 

「まぁ、理由とか色々と言いたい事と聞きたい事はあるが・・・・」

 

 

 

「宜しくな、明石」

「ああ、ヨロシク頼むよ」

 

なんにせよ学び舎に仲間が増えるのは良い事だ。




第十九話でした。

三郎が義経に倒されるのもデフォですよね。今作の三郎は現時点で壁越え半歩手前ぐらいになってます。油断と慢心を捨てれば壁越え以外の相手は全て完封できます、捨てれば、ですが。

さて、次回から日常に戻って改訂前にもあった編入パレードです。


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第二十話:騒がしくなる日常

俺の川神学園生活二週目は『波乱』の一言に尽きる。

 

「待ってくれ兄貴!!俺に、俺に『飛槍』の秘奥を教えてくれ!!」

「待てよ竜胆!!わっちともう一辺勝負しろって!!」

 

那須与一。東西交流戦最終日に出会った乱入者、義経と同じ『武士道プラン』のクローン。顔はイケメン、中身は大和の古傷を抉るような厨二病。どうやら九鬼の従者連中から俺の話を聞かされていたらしく、また俺の使う『飛槍』が大いに好奇心を刺激し、アイツの求める『何か』に触れてしまったらしく。転入初日から俺を『兄貴』と呼び慕い、『飛槍』を教わりたいと詰め寄られる日々である。・・・・一部女子から妙な視線が増えた気がするのは気のせいだろう、京が「竜胆×与一・・・・ハァハァ///」とか言ってたのは絶対気のせいだ。

 

史進。何故か転入してきた梁山泊メンバーの一人。九鬼時代に仕事で組む事はあったが、それも数える程。どうやら百代と同レベルのバトルマニアらしく、学園内の九鬼、川神院関係以外の実力者たちをひたすら打倒した末に対戦相手に困って俺のところまでたどり着いた。今の俺は九鬼でも川神院でも無く、命令に抵触しないと言うことで挑んできたようだ。林冲と武松から頭を下げられたので断るに断れず、派手な爆炎をバラ撒く『飛槍・焔天』で目くらまししてからアッパー一閃。で、それ以降もの凄い勢いで付き纏われ始めた。

 

「与一が自ら話しかけるなんて・・・・竜胆君は凄いんだな!」

「その代わり特殊な趣味の子たちからの視線が増量中だけどね」

「でも与一君と仲良くしてくれそうだし、一安心かな?」

 

源義経。一子とクリスと林冲を足して三で割ったような純粋で、真面目で、涙もろい子。だが真面目さが過ぎるのか、それとも『源義経のクローン』と言うプレッシャーに気負っているのか。『源義経』であろうとして必要以上に自分を精神的に追い詰めている感が否めない。そこらへんも周りの連中と協力してフォローしてやるべきなんだろう、ってかヒュームさんとゾズマさんとミス・マープルに囲まれて「可能な範囲で矯正を試みろ」って言われたし。

 

武蔵坊弁慶。一応、主従としての立ち位置は弁え義経を立てるべき時は立てるが普段は義経()を弄り倒し、与一(同僚)をパシらせるただの飲兵衛。常に学年総合三位以内をキープするという条件を付けてまで、川神水の携帯許可をもらうと言う生粋の飲兵衛。壁越え確定であるが、ヘタをすれば腕力だけなら百代を上回る可能性すらある。

 

葉桜清楚。クローン組の一人ではあるのだが、唯一正体を公表されていない。ミス・マープルが隠す、と言う事は相応の理由があるんだろうが・・・・。清楚という名の通り、今まで川神学園にはいなかった大和撫子と言うことで人気急上昇中。中庭にある総代の花壇の世話をしていたり、図書室でさまざまな書籍を黙々と読む様を見ていると文人系の偉人が元になった可能性は高い・・・・んだろうが。違和感があるんだよな、微妙な違和感なんだけどさ。

 

「うぅ・・・・すまない竜胆、史進が迷惑をかけてしまって・・・・」

「最近はアイツも盧俊義の才能があるのではないか、と思っている」

「あー、ありそうだねぇ」

 

林冲。今回転入してきた梁山泊組のリーダー。リーダーなのにイマイチ日常での統率力が無く、史進や公孫勝の行動に一喜一憂し、楊志に下着を獲られると言う立場は変わらないようだ。だが身のこなし、技術に関しては以前と比べ格段に上がっているだろう。

 

武松。梁山泊組、公孫勝の保護者。身内に激甘、他はビジネスライク、クールビューティーな外面で既にファンクラブが出来ている。同じ炎系の気の使い手、って事で時間が合う時は九鬼時代から引き続き一緒に鍛錬をしている。まぁその中で俺は『熱量』、アイツは『自在性』にそれぞれ方向性を確立していったワケだが。梁山泊組で最も距離感が近しいのは間違いなくコイツだ。そうそう、コイツは甘味で釣れる、マジで。

 

楊志。梁山泊組である意味一番の問題児。女子のパンツをコレクションする事に最早命までをも賭けており、またその道の半ばで散るならば本望、と声を大にして宣言する程。そのクセ実力は壁越え中堅クラス、なんでもかんでもコピーする異能で百代の瞬間回復、由紀江ちゃんの剣撃、ルー師範代のバーストハリケーンなどさまざまな技を習得済みとのこと。俺の技?使いどころが難しいから無理、って・・・・ちょっと泣きそうになったのは内緒だぜ。

 

「ふむ、竜胆には人を惹き付ける何かがある、と言うことだな」

「なにあれ、どこのエロゲの主人公?」

 

九鬼紋白。英雄の妹、未だに『紋様』の呼び方が抜けない、ってか抜いたら串刺しにされる。公孫勝とは仲が良いようで、ちょいちょい公孫勝に連れられてゲーセン巡りをしているのに遭遇するようになった。最近は数日前に行われた転入生歓迎会での大和の手腕を非常に気に入ったようで、大和の案内で川神市内の人材紹介ツアーを行っているらしい。

 

公孫勝。梁山泊組最年少で相当希少な異能持ちだ、としか聞かされてない。あとニート。元々末っ子体質とでもいうべき甘えんぼだったらしいが、それに輪をかけて武松がもの凄い甘やかしているため拍車が掛かっているらしく、林冲あたりは将来引きこもりにならないだろうか、と心配していた。なので紋様と言う友達ができた時には武松共々本当の姉のように喜んでいたのが記憶に残っている。

 

「ほぉほぉ、あれが結城竜胆君か・・・・」

「おや、燕姉さんも彼が気になりますか?」

 

松永燕。関西から転校、『納豆小町』として目下売り出し中のアイドル。壁越えクラスの実力を持っていて、手合わせ、と言う名目で百代と戦った時はありとあらゆる武器を駆使し互角の戦いを繰り広げた。正直、何を考えているか分からないところがあるので苦手だ。商魂逞しく、既に学食に松永納豆を卸し、更には休み時間、放課後問わずに納豆の行商をしている姿が目撃されている。

 

明石夕凪。天神館からの転校生で、松永先輩の従妹と言う事が発覚。コイツも正直何を考えているか分からないが、松永先輩に付き合わされて行商の手伝いをしている姿も目撃されている。ルックスが良いもんだから、最近では松永先輩と二人セットでファンクラブが結成されており、また松永先輩もグループ活動を視野に入れるために勧誘しようとしているらしい。

 

これにヒュームさんを入れて都合十三人の転校生、と言う訳だ。

 

 

―――――――――

 

で、放課後。俺はヒュームさんに呼び出されたんだよ、体育館裏に。これがそこらのヤンキー程度ならどうとでもするがヒュームさんとか恐怖だよ、恐怖。

 

「俺も暇では無いから単刀直入に話をする・・・・紋様のことだ」

「紋様の?」

「ああ、通常・・・・紋様の護衛には俺かクラウディオのどちらかが必ず付く、そうでなくても一桁代の誰かが代理を務める」

 

だろうな。英雄のように戦闘力が高いあずみさんみたいなのを専属にするか、揚羽様みたいに当人の戦闘力が高いならばあまりそのへんの心配はいらないわけだ。しかし紋様は自らの研鑽と、若手従者たちの育成を兼ねて専属を決めず、その時その時で手が空いている者が一時的に専属としての仕事をしている。つまり一桁代でローテーションを組むことによるカバーにも限界があるわけで・・・・

 

「それでも一桁代が護衛につけない場合は貴様が登下校、就学中の護衛を努めろ。貴様なら・・・・俺の期待を裏切らない、と確信してのことだ」

「過分な期待、とも思いますがね。まぁ、やるだけの事はやります・・・・が」

「分かっている、だが貴様のように純粋な戦闘力で一桁代に追従出来る者が殆どいないと言うのも事実だ」

「エルじゃダメなんですかね?」

 

エルは壁越えとまではいかない、だが三郎レベルと互角以上にやりあえるぐらいの実力はあるはずだ。

 

「ヤツは武士道プランに伴う川神市内の警備強化の責任者になっている、紋様の専属には駆り出せん」

「成る程ね・・・・」

 

タイミングが悪ぃね、ホント。

 

「そういうことだ」

 

スッ、と姿を消すヒュームさん。

 

「エルが市内の警備強化責任者・・・・ねぇ?」

 

武士道プランはミス・マープルの管轄だ。十中八九、桐山がそう言う責任者とかに出張ってくると思っていたんだが・・・・。何かに感づいてエルの自由を奪いに行ったか?そうするとそのうちニコライさんも動きを封じられる可能性も出て来る、となると・・・・

 

「ったく・・・・嫌な性分だ、疑い始めたらキリがねぇってのによ」

 

それでもやらなけりゃならねぇ。一応、九鬼の人間だしよ。

 

「出たトコ勝負はのぞむところだ」




第二十話でした。

与一に懐かれ、史進に付きまとわれるのは改訂前と変わらず。紋様とまさるは既に仲良し、燕さんと夕凪が従妹と。

人間関係がごっちゃになりつつある、でもまだ恋愛パートには入らない。

次回から数話日常回でも挟んでから項羽覚醒とかやろうかなーとか考えてます。


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