鎮守府に勤めてるんだが、俺はもうダメかもしれない (108036)
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ネタバレ注意

これは本作主人公の設定や、艦娘のキャラ付けなどを忘れないようにメモったものです。
本編に生かされるものもあれば、裏設定となるものもあるでしょう。
そもそも、やっぱ変えようと消えたり増えたりするかもしれません。
それをご承知の上、知らない方がいいと思ったら見ない事をお勧めします。
もちろん本編でこういう背景があってっていうのは説明しますんで。
追加した艦娘のキャラ付けに関しては完全に予定です。こうなるかも、という程度で物語の進行上別の性格の方が良ければあっさり変えます。
今の私が持っている艦娘への印象のようなものと思った方が良いのかもしれません。
また、これは建物の骨組みのようなものです。どうやって成り立っているか、これからどうなるかを予測させる壮絶なネタバレを含みます。注意です。


主人公スペック

砲撃 :不可、よって雷装、対空、対潜は0に等しい

→近接戦闘(主人公の火力):素手か近接武器で殴るか切るか。当たれば人型以外はほぼ一撃大破、人型(ヲ級タ級など)は中破か大破、姫級まで来ると文字どうりボコボコにしてどうにか倒せるといった具合。しかし艦娘ではないので轟沈に至れない。演習仕様と言えばわかりやすいかも?

 

 

回避:5年間戦場で磨き抜かれ、チートの身体能力も合わさって一種の奥義のような領域にまで達している

いわゆる極振り、動けない場合以外の状況であればまず当たらない

 

 

 

耐久:常人から見れば化け物そのもの。

艦娘から見れば戦艦クラスと同等。

それでもどうにもならないときには意地と根性メーターもある。

治癒力も上がっているため幾度直撃を受けても死なず、地獄の5年間を乗り切った。

 

 

 

装甲:装着不可

 

 

 

運:マイナスに届くレベル

 

 

 

 

普通に死んで転生。

身体能力強化のチートを貰い、ファンタジー異世界でヒャッハーしようとした所、艦これの世界に転生した。

しかも転生した時期が悪く、艦娘がまだいない時点での深海棲艦との戦いに(ほぼ自業自得の勘違いで)身を投じ、生還確率小数点以下という驚異の戦場で5年間戦い続けた。

ファンタジー世界でヒャッハー出来るほどの能力は貰っていたものの、マッハで飛んで来る砲弾が痛く無い筈もなく、幾度も死ぬ思いをしている。

 

スパルタ軍隊教育によって部下や上官に対する口調が一貫して硬く、刺々しい。

激戦を幾度となく経験しているため、平和な状態でいるとどうしても気が抜けてしまい疲れたような表情をしている。

眩しく光るものは銃撃や砲撃を連想してしまう為苦手。

よって普段は軍帽を目深(まぶか)にかぶり、口元以外が見えにくい。

 

 

単純でおバカな所がある(脳筋とも言う)

しかし、バカでも正解を覚えるほど現場経験を多くこなした為、作戦立案は理にかなっている事が多く、状況判断も正確で指揮能力は高い。だが、それも自身が置かれた事のある状況に限り、大人数指揮での大規模作戦となるとからっきしである。逆に絶望的な状況下での突破戦や撤退戦、防衛戦の指揮には目を見張るものがあり、総合的な評価で言えば中の上といった所。普段はそんな状況になる前に必ず嗅ぎつけて撤退する為、ほぼ日の目を見る事のない能力である。

 

 

脳筋である割には凝り性であり、作戦書や指令書の中身に必要と思った項目については余計な物まで精密に書き入れる。

顔はハイライトが消えた目と、消えない隈によって印象は悪い。正直怖い。

 

戦闘ではチート身体能力でのゴリ押しと豊富な戦場経験のみが普段の取り柄だが、回避だけは別次元。ひとえに生きる為、我武者羅に行動した末に獲得した能力である。

回避するために必要な反射神経、動体視力、目の良さ、勘がずば抜けている他、砲撃、銃撃に対してのフェイントのタイミングや避ける方向、咄嗟の判断なども回避の時だけは神がかっている。

また戦場での精神ストレスが原因なのか、普段の言動と思考が剥離しかかっている部分がある。

 

自身のチート(身体能力の強化)故、力技でいけそうだとそっちを優先してしまう傾向があり、そこが脳筋だと呼ばれる原因になっている。

戦場では援軍が来るまで、来ないなら相手が引くまで粘る事が常となっていたため、また、そういう方法で此れ迄を突破し続けた為、その経験から物事は耐えればいつか良い方向へ進むものと信じている。雲外蒼天、辛くとも現状維持で座右の銘の通りに耐え忍んだのはこの部分が影響してのことなのかもしれない。

 

 

 

艦娘(逸話)←他にあったら感想でお教え下され!

キャラ付けに影響する....のかもしれない

 

龍驤(元一航戦)

綾波(鬼神)

ぽいぽい(悪夢)

神通(6000発)

雪風(直撃砲弾不発)

飛龍(我ハ健在ナリ)

霧島(最新鋭と殴り合い)

島風(爆撃魚雷全回避)

伊19(10km偏差雷撃)

長門(原爆に2度耐え切る)

 

まるゆ(大和に敬礼。その後沈みかける)

 

 

 

キャラ付け

 

 

狂犬夕立

憂鬱の榛名

天才金剛

思慮深き霧島

日々精進 比叡

古強者龍驤

親愛なる鳳翔

虚気平心不知火

悲劇の長門

輝く瑞雲 日向

不動の神通

アイドル那珂

忍者川内

仁者妙高

軍曹那智

爆炎の羽黒

餓狼足柄

鬼神綾波

暴食の赤城

【一航戦】加賀

不屈の飛龍

愛されし雪風

疾走島風

スナイパー伊19

主人公吹雪

大天使叢雲

純愛の大井

思考する北上

苦労人電

頼れる雷

レディ暁

揺るがぬ響

幸薄扶桑

不幸山城

怒れる天龍

暗中飛躍 龍田

兵士木曾

記者青葉

抱擁の愛宕

罵倒の高雄

【摩耶様】

教官利根

シスコン筑摩

ヒャッハー隼鷹

My lovely angel ぼのたん

かしゅみママ

わっしょい漣

今日は何の日 子日

早熟の初春

止まぬ雨 時雨

忠犬朝潮

寝惚け眼望月

深みの伊168

オリョクル伊58

御洒落熊野

処女鈴谷

震える矢矧

武士武蔵

艦隊決戦主義 大和

風読みの大鳳

陸戦武装 あきつ丸

常識人 大淀

妖艶なる如月

にゃしい睦月

あらあら荒潮

生存者まるゆ

華麗なるぷっぷくぷー

理性の球磨

野性の多摩

眠りの加古

 

 

 




ま え が き ふ え た よ !←ここ重要
こんな設定考えるのは好きなのに書くとなるとどうにもね...
皆さんも小説書きましょう!
んで書いたら教えて下さい、無言でブクマしときます。



金欠鬼さん、誤字報告ありがとうございます!


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1話 これまでのプロローグ

ちょっと俺の話を聞いてくれないか?

 

先ず最初に、俺は死んだ。

んで神様に会って、転生した。

 

ここまではテンプレだ、力も貰っててっきりファンタジー世界に飛ばされるもんだと思ってた俺はTUEEEEEEEEしようと意気揚々としてた。

 

 

だが生まれた先は....艦これの世界だったんだ。

 

 

ちょうど中学3年の受験期の頃だった。

なんだ現代に生まれたのか?と思いながらテレビをボケーっと眺めてたらニュースで、政府が謎の敵戦力を「深海棲艦」と命名!なんて大真面目に報道してるんだもん。

 

そん時の衝撃ったら無いね。

 

 

そっからちょっと考えて、どうせならこの世界を楽しもうと思った俺はおかしくないとおもう。

 

深海棲艦の襲撃で軍は人手不足だと散々CMで流してたし、楽に入れるだろう、ゲームやってた限りじゃ提督って指示出す以外やることなさそうだし、楽じゃん。

 

 

そんな気持ちでいた俺が馬鹿だった....

 

前世の記憶があるから勉強なんて楽勝!そんな風にかまけてた俺は実際勉強は他よりも抜けて出来ていた。

 

だがよく考えてみてくれ。

ただ少し勉強が出来る程度で、コネもない俺がホイホイ階級上げて司令官になんてなれるか?

 

無理だ。ありえない。

しかしこの時の俺は自身が提督になると信じて疑わなかった。

 

俺は転生で調子に乗ってたんだ.....

 

さらに言えば俺は根底の部分から間違えていた。

入隊当時は未だ艦娘は「配備されておらず」持ち場が襲撃されたら生還確率数%の絶望まっしぐらな時期だったのだ。

 

もう艦娘がいると勘違いした、前世の記憶があるが故の失態だった...

 

その事実にやっとこさ気付いた時にはもう遅かったがな。

 

勿論そんな時期だから水兵にはなれたよ?

 

 

これまた勿論エリートコースの提督じゃなく一般水兵としてなぁ!!

 

 

最下級二等兵から提督への道なんて遠すぎる......そう落ち込む俺への艦娘未実装のお知らせ。

 

しかも沖に出るとやられるから海軍なのにほとんど海岸沿いで陸軍と共に戦うことになってたしな。

なんだこれ陸軍と変わらねぇよ!

 

人生オワタ...とかなり沈んだけどもそっからが地獄だった、と続くわけじゃあない。

 

 

俺が神様に願った力は身体能力の超強化。

だからインドア派の俺でも体育会系の奴が伸びるほどの訓練でピンピンしてた。

 

まぁそのせいで俺だけ訓練が増えたが。

 

 

騒がしいけどノリのいい仲間、厳しいけど優しい上官、そして理不尽な訓練。

 

 

やっとこさこの世界を現実として見れてきた俺からしてはこの時期が一番輝いていた。

 

 

半年の訓練を終えて配属されてからも、いく先々で気のいい奴が多かったし、力があればこそ深海棲艦との戦闘でも逃げ回ってなんとか生き残れた。

 

 

仲間や友人の死に枕を濡らす夜もあったし、その悲しさを中2的発言で紛らわそうとした痛い時期もあったけど、それも乗り越え、近頃はやっと安定したと言える期間に入ってきた。

 

 

そんな時だ.....俺に地獄への招待状が届いたのは.....

 

 

ちょうど配属から5年経ち、艦娘の実用化が進んで人の身じゃ見回り警戒くらいしかやる事が無くなってきたある日。

数少なくなった同期の殆どが出世して、偉くなっちまいやがって....って思いながらひとり酒をしてた時のことだ。

 

休日だってのにいきなりかかったお呼びだし。

 

何故かいつも敬語な上司から突然の転勤命令。

 

 

「き、君は提督になりたかったんだってね? い、いや、ですよね?」

 

 

「は?」

 

 

何でも、入隊希望の志願所にそう書いてあったらしい(忘れてた)

入れ替わりが激しい現場職に長いこといて、と言ってもたった5年くらいのもんなのだが。

その苦労が報われたかと、俺にもやっと出世の道が開けたのかと思ったが、それはどうやら違うらしい。

 

 

なんでも、提督になるには『妖精さんに好かれやすい』というなんとも抽象的な資格が必要なのだが、検査の結果、俺がそれに引っかかったとのこと。

 

 

最初俺は喜んだ。

前世の画面越しじゃなく既に艦娘は実際に見た事があったし、それは画面で見てた時よりもずっと魅力的に見えたからだ。

 

あんな子たちに囲まれて仕事するのが悪い筈がない。

 

 

ルンルンで未だ残るかつての仲間達に自慢の電話して、事務の仕事を勉強して、キャッキャウフフな展開とは行かぬまでも、むさ苦しい男達の職場よりは花があるであろう生活に期待を膨らませてた。

 

 

だが配属初日から俺の期待は、いやうぬぼれだな...

 

人類の前線を担う艦娘たちを率いる提督職が楽な筈無かったんだ....

 

 

 

先ず、提督は俺だけじゃ無かった。

一つの鎮守府の筈なのにいたのは2人の先輩。

 

入った初日からロクに見学も出来ず、仕事を回された。

 

 

これが力仕事だったならまだ俺は耐えられただろう。

チートがある俺は、幸運が重なった事もあるが身一つであのレ級をボコした事もあるのだ。

 

だが現実は非情だった。

書類系の仕事に慣れていない俺は初日から大幅に勤務時間をはみ出てやっと終わらせ、衝撃の事実を耳にする。

 

この程度でこんなに時間がかかるのか?

明日からはもっと増えるぞ、と。

 

 

そっからの俺の生活習慣は以下の通りである。

 

朝5時起床

深夜2時まで書類仕事

3時まで破損した装備や艦娘の入渠情報のチェック&取り纏め&報告書の提出

4時まで鎮守府内の清掃やその他諸々の自由行動

4時30分時就寝

 

 

驚異の睡眠時間30分

残念な事にこれは冗談じゃない。

そして食事時間が無いのも比喩じゃない。

 

しかもこれ、ほぼタダ働きなのだ。

理由としては以下の通り。

 

 

艦娘達や整備士の妖精達(これだけは原理がサッパリわからん、特秘事項となってた)がそれぞれの現場で見つけた艦娘たちの鎮守府の不満点などまとめて持ってくるのだが、前線で働いてた俺としては戦う彼女達の仕事の過酷さが解るし、出来るだけ叶えてやりたい。

 

だが先輩2人はどうしても資金を節約したい。

これも解る。

深海棲艦の襲撃は定期的な訳じゃない。

立て続けに複数の場所が襲撃される事もあるし、海域解放の為の運用費もバカにならないのだ。

 

いざという時の為に資材用の資金を残しておきたいってのも当然の話だ。

 

そんな無理を承知で掛け合ってみたところ、彼らは言ったのだ。

 

そんなに叶えてやりたいなら自分で出したらどうだね?、と

 

 

正直言って悩んだ。

 

 

いつ死ぬかわからない前線働きだったし、悔いを残さぬ様にと出来るだけ使い切る様にしていたため、貯金はあまり無い。

 

となると、切り崩すべきは提督としての給料。

前世でリーマンしてた頃から見れば目がくらむような額ではあるが、鎮守府の設備の充実などに使うぶんにはちと心許ない。

 

それは無理だ...と言いかけた瞬間、思い出してしまったのだ。

前線働き、仲間達と言い合った上官の不満。

 

いい奴ばかりとは言ったが、悪い奴がいなかったわけでも無い。

 

極限状態の中において未だ保身と守銭に走る上官を見て、こんな奴にはなりたくないなと言い合った。

 

今でも詳細に思い出せる、懐かしき仲間達との記憶。

 

言葉を交わした手前、それは約束とも取れるのでは無いだろうか。

 

そんな事を思い出してしまった俺には、もう身銭を切らないという選択肢は消えてしまった。

 

どうにか生きていく限り最低限の賃金が残されるか計算し、艦娘達の要望を叶えた。

 

 

ドックの拡張、空調設備の充実、装備の開発資材....ets...

 

だがいくら神様から貰った力で俺が頑丈だからと言って、エネルギーが足りなきゃ痩せるし食事ができなきゃその内倒れる。

 

 

生きるために叶えてやれない要望だってある。

その場合の説明を行うのは当然決定を下した俺であり、艦娘達との好感度は現在最悪と言っていい。

 

でも一旦は絶対先輩2人に無理ですかねと確認を取ってるし、そこでダメと言われたら普通は却下な物まで拾ってやってるんだから俺が怒られる筋合いは....

 

いや、これは言い訳だな。

俺も過去に思った事でもあるし、艦娘達の怒りももっともだろう。

 

 

あっちは命をかけているのだ。

せめて鎮守府での扱いは高ければならない。

 

第一身銭切ってるのを艦娘達は知らないのだから。

 

何故か。

それは許可された案件は先輩どちらかの名義で出され、却下したものだけが俺名義で出るからだ。

 

当たり前だ。

最終的に先輩方のどちらかのハンコが無ければ実行そのものが出来ないのだから。

 

 

なんで言わないのかって?

言う暇があると思う?

 

そんな事する暇あったら書類片付けるし、艦娘達の反応から信じて貰えるとは思えない。

 

あくまで俺の過去の思い出への執着という事だ...理由はそれだけじゃない。

憧れ...と言うべきか、俺の過去の上官達も俺らの為に身を削ってくれていた。

 

もちろん俺たちには言わずに。

俺も後で気付いたことだ。

 

あの時から部下を持つようになったら、俺もあのような人で在りたいと本気で思えたいい人達だった。

 

俺は提督になって日が浅い下っ端ではあるが、あの人たちの様な思いやりのある上官でありたい。

たとえ部下にどう思われようとも、だ。

 

 

それに働くようになれば、上司を立てるのは普通だし。

 

部下の手柄は上司の手柄。

元日本の企業戦士としては常識レベルだ。

 

 

....と最初の方は意気込んでいたんだが、近頃はこれらの決意すら揺るぎつつある。

もう既に言わないのは意地を張っているからだと、馬鹿なことだと自分でも言える。

 

だが先輩方の仕事はもっと厳しいんだろう。

 

それとなく聞いてみて帰ってきた返事は全くの予想外。

 

「俺たちはその倍やってるッ!」

 

この倍って...鎮守府の提督は化け物か!?

それで鎮守府内をぶらぶらするだけ時間が余るって、もうあんたら人間の稼働速度軽く超えてんじゃ....

 

 

さすが人類の生命線を担う指令塔なだけはある。

 

だが俺はそうはなれない....

 

 

神様から貰った力があってもこの速度なのだ。

俺の本来の体のスペックからは既にもう逸脱しまくってる。

 

もう限界だ...

だが、自分からは辞められない。

 

仲間達に自慢した手前、どうしても自分からは辞表を出せない。

 

 

だから最近では責任問題になりそうな事があれば全部自分が責任を持ちますので、と言って辞めさせられる口実を自分で作りに言ってる。

 

俺を気に入らないのであろう艦娘達が俺の部屋の書類を漁って何か証拠を掴もうとしてるのも気付かぬふりしてるし。

 

 

不正はした覚えはないけど、俺でも気付かないような不正で俺を追い出してくれるかもしれないっつー期待を込めてる。

 

失敗しそうだなぁ、と思った作戦は途中から自分が指揮を持ちますっつって着々と敗北の実績を積んでる。

 

まぁ艦娘が死なない範囲で。

 

 

これのせいで艦娘からの罵倒は増えたが、正直この仕事を辞めれるならどうだっていい。

 

あんたなんか辞めちゃえば良いのよ!

っていう言葉に

だったらお前が辞めさせろよクソッタレ!

って返しそうになった俺はもう提督としてどうなんだろうか。

 

しかしもう時間がない。

 

ここ一週間はついに仕事中に意識が落ちる事件が発生した。

もう力で誤魔化せる限界を突破したのだろう。

 

 

ろくに飯を取らずにほぼ不眠不休で半年も働けば普通は死ぬ。

 

ブラック企業もビックリだろう。

今の俺ならどこでもやっていける気がする、もちろん鎮守府以外で。

 

毎日やってる鎮守府内の掃除を無くせば些か楽になると思い、2日に一回に減らしたにも関わらず、体の不調は治らない。

 

 

一回病院に行くべきだろうか?

だが休みなんか無いし....

 

いや、待てよ?

この際倒れてしまえば1日病院に行くよりももっと仕事を合理的に休めるんじゃないか?

 

そう思い、近頃はさらに根を詰めて働いている俺である。

 

 

そして今日も俺の視界を埋める書類の山。

ククク、俺の限界は近い....

 

 




生まれる世界を間違えた提督とか、ヤンデレ鎮守府とか、勘違い物とか色々好きな物ををぶっ込んでみようと書き始めました。
終わりが想像できていないので十中八九エタりますが、それまではよろしくお願いします。

暁陸さん誤字報告あざます!


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2話 解放

 

 

只今3時20分

仕上げた案件を先輩方の部屋へ持っていく。

 

今日はちっと遅くなっちゃったな。

ここ最近は出撃が増えて、大本営への報告書も書かなきゃだからなぁ...

 

 

自分の背丈より高くなった書類の山を自分でも器用だなと思えるくらいのバランスで歩く。

 

ともすればコミカルなギャグ漫画でありそうな光景だ。

 

身体的能力の強化はこんな所でも役に立つ。

 

 

部屋の扉を足で開けると、珍しく明かりが点いており、先輩方2人が此方を見つめる。

 

おっとこりゃまずったか?

足で開ける所見られちったよ。

 

.....ま、これでクビにされるなら願ったりかなったりなんですけどね。

 

それにしても、起きてるなんて珍しい...

先輩方も今日は時間かかったのかな?

 

なんせ俺の倍だもんなぁ...

俺ならとっくに死んでるっつーのに、スゲぇよ、ほんとに。

 

「夜分遅くにすみません。

...失礼、既にお休みになられたものだと

朝方に出直した方が良いでしょうか?」

 

 

「....良い、そこに置きたまえ」

 

おお寛大、流石先輩。

 

 

今にも崩れそうな書類の山を先輩の机に起き、安定させる。

 

「では、失礼しました...」

 

(今日は掃除をサボって寝よう)

 

そう考えて部屋を出ようとすると、先輩方に声をかけられる。

 

「待ちたまえ」

 

「はっ!」

 

1、2、3と軍隊仕込みの回れ右をして振り返り、休めのポーズ。

 

 

 

こういう時は大体重要な作戦やら案件やらを任せられる。

あはは、楽しみだなぁ。

 

次失敗したらどれだけ退職に近づくだろう?

 

 

いや、できる限り手は尽くすよ?

でもまぁ、俺の力不足ってーのは仕方ないよね(ゲス顏)

 

今の俺は退却するしか頭に無い。

 

 

まぁ進撃命令も俺に出せって言われれるんだけれどもね。

 

まぁそんな時は別回線で物分りのいい艦娘個人にそれらしい理由をつけてバレるバレないのギリギリの命令を飛ばしてる。

 

ちょっとわざと被弾してくんね?とか、ちょいと航路ズラしてちょうだい?とか...ね

 

ふふふ...ばれたら免職だろうなぁ!

あはは!早く気づいてくれよ!!

 

心の中でニヤニヤしつつ、顔には出さずに待っていたが雰囲気が伝わったのか、いつもより強目の口調で怒鳴る様に言われる。

 

 

「ッ!次の海域攻略戦にて、貴様を指揮官として命ずる!

海軍将校としての誇りを持って確実に任務を遂行せよ!」

 

おお!つまり全責任が俺にあるわけですね?やったーー!!

 

たーいきゃく!たーいきゃく!

俺の頭の中で退却コールが反響する。

 

 

「作戦区域の書類だ!

当日までに作戦と準備を整えておけ」

 

もう片方の先輩が紙切れを渡してくれる。

 

んー....こ、これは!

 

いい...とてもいいものだよこれは!

 

 

全力投入なら戦力は五分五分、いや、普通にやれば成功は確実なラインだ。

 

下手をしなければ、ねぇ...ヒヒヒ

 

いやぁ...2週間後が楽しみですねぇ

 

「現地には君も同行して指揮してもらうことになる。」

 

前言撤回、全力でやる。

俺だって仕事はやめたいけど、死にたい訳じゃない。

 

 

俺も出るってんならここまで痩せた体の調子も戻さなきゃだし、作戦も考えなければいけないし、これらに加えて通常の業務も。

 

嬉しくて血ぃ吐きそう。

 

 

いっそ通常業務サボるか...?

 

いいや、それは出来ないな

誰かに手伝って貰うとか...いや、手伝ってくれそうなやつが....

 

あ、んんー...いるっちゃいるけど、うー.....

 

 

どうだろ、手伝えんのかな?

 

って、いやいや出撃で疲れてる艦娘に書類の整理で追い討ちって、悪魔の所業じゃねーかよ。

 

ありえねぇよ、俺だって深海棲艦との戦闘から帰ってきてさらにこれとか耐えらんねぇもん。

 

 

くっそー....やるっきゃねーか。

 

 

「どうしたのかね?

顔色が悪そうじゃないか?」

 

 

おおう、心配して下さるんですか先輩。

 

でも大丈夫っすよ、あれを2倍こなすあんたほど苦労しちゃいないですから。

 

 

「いえ、全身全霊でお受けします」

 

 

「よろしい!

だが君も出撃に向けての準備もあるだろう。

通常業務の書類などは私達が受け持とう」

 

 

「は?」

 

え?今なんて....?

 

 

「君の仕事を私達が君の出撃までの間受け持つ、と言っているのだよ。」

 

 

「........」

 

 

ウソ、マジ...で?

 

「ふん、わかったらさっさと行きたまえ。

私達にもやる事があるのでな」

 

 

「了解...致しました....」

 

 

促されるままに外に出る。

足取りは自室に向かってはいるが、俺の頭はただ先ほど言われた言葉の意味に理解が追いつかず、反復し続けていた。

 

「受け持つ受け持つ受け持つ受け持つ受け持つ受け持つ受け持つ受け持つ受け持つ、受け持つ.....?」

 

ボソボソとなんども繰り返し、やっと通常の思考回路であれば一瞬で出せたはずの答えに辿り着く。

 

 

「あの書類の山を見なくていい?

5時間きっちり寝れる?

普通にご飯を食べられる?

お外に出られる?」

 

 

普段抱いていた渇望が、とめどなく溢れ、それを実行できるのだという実感から、歓喜に変わる。

 

「仕事をしなくてもいい!!?

ヤッタァァアァアアアアアアウワァぁァアアああああ!!!」

 

 

自然と足は駆け出し、早速人間離れした跳躍力で自室へと突撃し、先ずは人間の三大欲求の一つ、睡眠を思う存分貪ることにした。

 

 




主人公は気づいていませんが、作戦開始が2週間後に迫った状態なのに白紙の状態から主人公のような部下に丸投げする鎮守府はこの世界でも一般的ではないです。


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3話 宣言

「あ゛〜よく寝た、マジで」

 

久々にしっかり寝たと言える時間睡眠をとれた俺は、昨夜からのルンルン気分もそのままに食堂に向かっていた。

 

もうすでにお昼時であるので、朝食と言うよりは昼飯なわけだが。

 

 

それにしても本当によく寝た。

普通に兵隊やってた頃から見ても中々取れたもんじゃない睡眠時間であるのだから、あれだけ寝たのはいつ以来だろうか

.....故に俺は忘れていたのだろう

 

俺がこの鎮守府でどのような扱いを受けているかを....

 

何を作ろうかな?などと考えながら扉に手をかけ、ゆっくりと横に引き、一歩踏み出した瞬間......瞬く間に静寂に包まれる食堂。

 

突き刺さるような視線、視線もやらない完全な無視、困ったようなはわわという声の三通りの反応を受け、俺も自身の失態を恥じていた。

 

 

(あー!やってしまった!

普段食堂使うの深夜で誰もいないから油断してしまった...)

 

未だ仕事後に飯を食べる元気が有り余っていた頃に何回か利用した経験があった食堂だが、勿論誰もいない食堂で料理を作るのは自分自身だった。

 

 

そんな利用の仕方をしていたが故に、飯時はここが皆の憩いの場だということを失念していたのだ。

 

そんな所に憎い相手が現れれば何かしら食事の邪魔になる事は間違いない。

 

 

だが今更引くわけにもいかない。

尚更不自然だし。

 

カツッカツッと皆の食事の音が一切せず、何故か俺の靴の音の方が響いてるような気がするけど気のせいにちがいない.....はぁ...

 

 

...っていやいや、こんな事くらい今まであまりあり過ぎる日常だったじゃないか。

 

別に落ち込むことはないよな。

でもみんなの食事を邪魔するのは悪いからなぁ

 

次からは気をつけ...あ!そういえば間宮さんの作る飯初めてじゃんよ!

 

 

やっべ、テンション上がるわ

 

 

「かけうどんを頼む」

 

安い、簡単、ひもじい

そんな値段のかさばらないただのうどん、かけうどん。

 

トッピングは自由自在、好きなように調整できる俺の大好物だ。

 

 

「は、はい...お待ち下さい....」

 

そう言いつつ、どこか戸惑った様子で調理に取り掛かる補給艦。

 

 

おー、今から作るのか...スッゲェ楽しみ

 

思い返せば久々の栄養補給なのだ。

楽しみになるのも無理は無い

 

 

「....ちょっとあんた!」

 

静寂を切り裂き、食堂に叫びの救世主現る。

 

 

声の主を見てみれば、予想どおり叢雲だ。

 

テーブルに右手をバンとつき、左手を胸元で握りしめ、まさに怒ってますと体全体で表しているその姿も最早、見慣れた物だ。

 

 

 

怒るときはいつもこれなので、この格好で怒鳴られた回数は両手両足では足りない。

 

で、あるからして、湧き上がる感情もある程度達観した気持ちであり、どうしても向ける視線が気怠げなものになってしまう。

 

 

「どうした、叢雲」

 

 

「あんたいきなり食堂に来てどういうつもり!?

仕事をしない提督に出す食料なんて無いのよ!」

 

 

ただの沈黙よりは怒鳴り声があったほうがまだマシだとは思う。

だが叢雲よ...よりにもよって仕事をしないと来たか....

 

 

唯一鎮守府にきて上手くやれていると感じられていたアイデンティティーを否定され、さしもの俺も胸から何かが込み上げるが、先輩2人の仕事量を思い出す。

 

そうだ...あの二人合わせて俺の4倍やってんだった...

 

確かにあの二人に比べれば俺の提督業などあってないような物だろう。

 

そう思うと一気に怒るに怒れなくなってしまい、なんだかやるせない気持ちになる

 

 

だが、よくよく考えれば食堂を出る良い機会なわけだし

 

 

そうだ、この言い分に従ってこの針の筵から出るってのもいいよな

 

そうしよう

 

 

「そうか、了解した」

 

 

まるで初めからそうするつもりだったかのような見事な回れ右を決め込み、足早に食堂を去る。

 

またしても栄養補給の場を失った腹をさすりつつ、廊下を歩く。

 

 

「ハァ...せっかくの間宮さんの飯が食えると思ったのに....

残念ですなぁ、妖精さん」

 

コクコク、と首を上下に振りながら俺の周りを飛行して漂う妖精さん。

 

 

転生してからもこの歳まで童貞を守り続けた俺にはついに妖精が見えるように....というわけではない。

 

今俺の目の前には実際に妖精さんはいるし、艦これをプレイしているなら知らない人はいないだろう。

 

 

だがこの妖精さんは建造や開発の際にいる妖精さんではなく、応急修理要因...いわゆるダメコンの妖精さん達だ。

 

何故俺がダメコン妖精さんと懇意にしているかというと、それは着任当時にまで遡る。

 

 

まだ着任数日で、昼間に設備を見て回る余裕があった頃、解体場を見学していた時だ。

驚くべきかな、恐れ多くもダメコンが解体されようとしていたのである。

 

元提督(今もだけど)の視点から見れば完全なる発狂物だ、選択肢は止める、阻止する、保護する、の3つしか存在しなかった。

 

 

後で先輩提督二人にそれと無く聞いてみた所、なんでもこの世界ではダメコンや女神はゴミと同等のような扱いをされているようだということが判明した。

 

偶に海域制覇の際に発見されるが、効果も知られておらず、ただおかしな格好の妖精たちの集まり、解体すれば微々たる資材に還元されるだけのハズレ、とだけしか認識されていないのだ。

 

 

取り敢えずこれ以上破棄されても堪らないし、解体命令が出次第俺の方に持ってきてもらうよう解体妖精さんに話をつけてある。

 

もちろん職権乱用で。

 

これもバレれば横領で軍法会議デスねぇ、うへへ

 

最近はそっちが本命...ん?誰か後ろから来てるな....

 

 

「提督さん提督さん!

昼間に会うのは珍しいっぽい!」

 

 

おっと、夕立か

 

この鎮守府の中で気兼ねなく俺に話しかけてくれる数少ない艦娘の一人だ。

 

ある夜背後から

「みんなを困らせる提督さんは...いらないっぽい?」

 

とかって声と共に飛びかかってきたのを捕獲してからお持ち帰りして、朝までの短い時間もふり倒してからは仲良し?な関係を築けている。

 

あん時は色々溜まってたからなぁ...

あの耳っぽい髪型見てたら辛抱堪らんかった

 

よく勝てたなって?

まぁチート持ち&実戦経験アリだから、多少はね?

 

夕立が本気の艦娘装備してたらわからんかったけど。

 

 

「何してるっぽい?

やっぱり仕事っぽい?」

 

 

「暫く仕事はない

次の作戦までの間、あの二人が受け持つ」

 

 

「じゃあ遊ぶっぽい!?

夕立もいくっぽいー!!」

 

 

ぽいぽいーっと言いながら抱き付いてくる姿はじゃれてくるお犬様を連想させてとても微笑ましい。

 

 

あ、そういえば口調だけどね、なんかね、いやね、上官の教育でね、なんだか部下の前だとこうなっちゃってね

さらに私生活でもたまに出るようになってきちゃってね

なおんねぇんだよ....ふぇぇ...

 

しかもキッツイんだよなこの口調。

今夕立かわいいなぁ...って思いながらの会話だからまだ柔らかいけど、他の奴とかと普通に喋るとぜってぇ険悪ムードになるんだもんな。

 

ま、昨日みたくハイテンションだと普通に戻るけど

 

表情は変える元気(栄養)が無いから変わんないんだけどね。

 

だからいくら微笑ましくても真顔。

........真顔で美少女を撫で回す二十代前半...いや、まだ犯罪臭はしない...よな?

 

 

「そうか」

 

声だけ聞けば一言返すだけの素っ気無いような感じに聞こえるかもしれないが、俺の右手はしっかりとぽいぽいの頭を撫でくりまわしている。

 

わっしゃわっしゃワチャワチャなでりなでりと、無駄にチート能力も駆使した高速撫でくりだ。

 

 

体は正直、はっきりわかんだね。

 

 

「て、提督さんッ、いつもより激しいッ、っぽい!!?」

 

 

そりゃそうだろう。

もふり好きで前世では抱き枕無くして寝れなかった俺がひっさびさの快眠で冴え渡っているのだから。

 

次の作戦のこともある、ここでモフモフ成分を補充しておかないと...うへへ

 

 

「ちょ、ていとくさッ、やめっ、あ...」

 

 

「ああ、わかった」

 

すっと手を離す。

これ以上やるとセクハラで訴えられかねない。

 

別にそれで退職でもいいんだけど、解雇の理由がセクハラでってのはどうにも良くないからなぁ

 

 

ま、辞められるならそれでもいいんだけどね

 

 

「.......提督さん、今日はいつもより元気っぽい。

何かあったっぽい?」

 

 

「次の作戦は私が指揮を執る事になった」

 

 

「それ本当っぽい!?

提督さんやっと一人前っぽい!?」

 

 

それだと俺が一人前じゃないみたいじゃないか...

成人もしてるし、お前ほどの水兵はいないって太鼓判押された事も有るんだぞ!....って言ってやりたいけど、今この口には入力制限がかかっている為文字数の多いことは言えねぇ

 

栄養が...足りねぇんだ....

 

 

「鎮守府に着任した時点で私は提督だ」

 

 

「部下に認められない司令官は司令官じゃないっぽいー!」

 

 

おうおう心に刺さるぞこんちくしょう

夕立はこういう所があるから心臓に悪い

 

 

「....ああ、実は私も自身を提督だとは思っていない」

 

これは実は前々から思っていたことで、俺が退職に向かおうと決意した際に完全に固まった気持ちだ。

 

おそらく、金輪際何が起きようとこの認識は変わる事は無いだろう。

 

 

「じゃぁあなたは誰っぽい?」

 

 

そんな夕立の問いかけに、俺は自信たっぷりに、誇りさえ感じさせる物言いで告げた。

 

 

「ただの一般兵卒だ」

 




この世界の妖精さんは喋れない設定です。あと、艦娘の装備は多分これじゃないか?と予測で名前が付けられているという設定にして、ダメコンが知られていない状況を作ったのは一様理由があります。
お楽しみに...そこまで続くかなぁ

はぁ...誰か読んでくれっかなって不安になってその日にまた投稿しちゃう私のメンタルの弱さよ....



昼間に合うのは➡︎昼間に会うのは、に直しました
クウヤさん、誤字報告ありがとうございます!

突き刺さるよう視線→突き刺さるような視線、に誤字修正!
THE FOOLさんありがとうございます!


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4話 運動

今回は連日だけど、次から書いてある分が無くなるまでは3日か4日おきくらいの投稿ペースにして、続き書くのに追いつかれないよう頑張ります。追い付かれちゃったら不定期で......
なにぶん初投稿なので、微調整で頻繁に改稿したりしますが許してくだされ!





その後付いてくると言った夕立は「なんて奴と一緒にいるんだ!べらぼうめー!」とかって叫ぶ人に引っ張られてって別れた。

 

クソっ俺が何したってんだ!べらぼうめー!

 

 

だがこれは好都合だ。

久々に体を動かしたい気分だったけど、訓練中を他人に見られるのはどうにも恥ずかしくて嫌だったし。

 

...着任半年で艦娘と他人同然ってのもどうかと思うってのはわかるが、言うな...俺もわかってっから

 

 

作戦を現地で取るってんだし、この辺もいよいよ改善していかなきゃいけないか....

 

努力はしようかな、無理だと思うけど

 

 

まぁ、そんな事より今は体を動かそう

 

燦然と並ぶ装備の中から刀のような形状をした物を一本抜き取る

 

しっかりと握り込むと、懐かしい「武器」の重さに、栄養が足りてない顔も思わず綻ぶ

 

 

ここは訓練室だ

艦娘達の練度を向上させる為に作られた物だが、今はほぼ誰も使ってはいない

 

何故なら訓練室は鎮守府内のここと鎮守府前の海に二つあるからである。

 

 

鎮守府内のここは小さく、限られた訓練しか出来ないが、もう一つの海の方は規模も大きく海にあるがゆえにより実践に近い状態で訓練が出来る。

 

艦娘達はここに来る理由が無いのである。

 

 

なのでここは全くと言っていいほど人がいない場所だ。

 

 

ただ稀に真夜中に「マイクチェックの時間だオラァ!!」と声が聞こえるという噂もあるが、さて...そいつは一体何島なんだろうな

 

 

簡単に言えば武器も弾薬も充実し、誰の目にもつかずに訓練が出来る俺の理想が詰まった素晴らしい場所だって事だ。

 

 

ヒュンヒュンと馴染ませるように少し振る。

訓練兵の際に銃剣やら剣道やらやったが、実戦に出る内にほぼ我流になってしまっている俺の動きに規則性は無い。

 

対峙する物の動きに合わせて自由にあてるだけだ。

 

 

そんなだから切る、と言うよりはぶっ叩いている、の表現の方が正しいのかもしれない。

 

この刀形状の武器にもこだわりは無く、艦娘仕様の物で壊れにくいから使っているだけ。

他にも艦娘が使っている接近戦用の武器は殆ど手に馴染ませている。

 

 

なんでかって?

 

いや、なんてったってこれらの武器無けりゃ俺生きちゃいなかったからね。

部品を回して貰ってたってわけさ。

 

 

前も言ったかもだけど、俺の一兵卒時代はまだ艦娘はいなくて...いや、正しくは開発段階とされてて、もちろん艦娘が持つ装備諸々もそうだったわけで。

 

そんな時にも奴らは問答無用で攻め入ってきたし、なら戦っていたのは当然俺ら下っ端で前線に出る奴らだ。

 

 

何回も迎撃したり防衛したりしてたんだけど、そんな中チート持ちな俺は思ったんだ。

 

壊れねぇ鈍器がほちぃ...ってね。

 

 

人間が一人で持てるような火器じゃダメージは無いし何かでどつこうとしても、チート持ちの筋力的にも敵さんの装甲の硬さ的にもその武器の方がもたない。

 

だから接近されたら逃げるしかない訳だけど、どうしても逃げ切れない状況も存在するんだよ、困ったことに。

殆どが陸戦だったとはいえ、こちとら海軍。

それこそ海上なんかがいい例だ。

 

 

そうなると自然に俺は素手で戦うしかなくなるんだよね。

 

 

戦いに出て暫くはそれでも運良く生き残れてたけど、それこそ限度がある。

 

実際に何度も死にかけたし。

 

何か深海棲艦にも通用する武器が欲しい...そうした旨をダメ元で当時の上官に提出した所、何やら怪しい返事が帰ってきた。

 

 

ちょっと今開発中の兵器の試作品があるんだけど使ってみる?質問とかは一切受け付けないけど

 

 

勿論こんな文ではないけど、内容をかいつまんで説明すればこんな感じだ。

 

軍だとやっぱこういう事もあるのか、と一人納得しながら是の方向で返事を返すと、送られてきたのは見覚えのある形状のそれら。

 

天龍のものらしき剣、雷、電が持つ錨等などなど。

 

もうこの時点で何を開発中か俺は分かっちゃった訳だけど、あんまり興味もなかったので放置した。

あの呼び出しがあるまで俺はもう提督になるだなんて思っていなかったし、頑丈な武器であればどうでも良かったしね。

 

 

んな事もあって、艦娘の装備のあれこれは大体分かっている。

見た感じだと、これも俺が持ってた試作品とあんまり違いは無いかな。

 

今ぱっと持ってみただけだけど、重さも大差はない。

やっぱり、艦娘と共に完成品で出てくるもんなのかな?

 

地味に工廠行った事ないから建造された時の云々はわからねぇんだよな....

 

 

あ、あと俺が使えたのは近接系の武器だけで艤装の類は動かせなかったから使った事はない。

ってか砲撃とかも使えた事がない。

 

やっぱそこら辺は艦娘じゃないとダメな理由がなんかあるんだろうと思う。

まぁあれで殴るならそれもできん事は無いとは思うが...流石にね?

 

それに海でのみ見つかる希少な兵装もあるらしく、それは流石に回された事はない。

多分だけど、ダメコンもそうなんだろうな....有用性が気づかれてるかそうでないかってだけで。

 

 

 

「ハッ、いやに懐かしい...な」

 

 

 

おいマイマウス、無駄口で栄養消費してんじゃねーよ。

 

ただでさえ飯食ってねーのに、鍛える分の養分も消えるじゃねーかよ。

 

 

待て待てイラつくともっと栄養が飛ぶ、クールに行こう、クールに。

 

 

...おし、落ち着く意味も込めて、プログラム行っとくか。

 

 

ピッとボタンを押すと、がしゃがしゃと天井から吊り下げられる幾つもの大型機銃。

 

沢山ある訓練プログラムの中で、これは回避の項目だ。

今回赴くのは指揮官としての勤めから。

ならば、これから始めるのが良いだろう。

 

船で行くつもりではあるが....もしもの場合は『アレ』も出し渋ってはいられない。

できれば使いたくはないけどな.....

 

 

実戦により近く、乱戦仕様のそれはこちらの避けられるルートを全て潰し、かつランダムに傾いて俺を見つめている。

 

さぁ、軽く回していくか。

 

コントロール室から本格的に訓練所に足を踏み入れ、そのまま進む。

 

そして何の考えもなく、軽くもなければ重くもない、いつも通りの足取りで。

始まりの合図であるスタートラインに踏み出した。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

〜〜鎮守府前の演習場にて〜

 

 

「ねぇ暁、どうしてみんなは鎮守府内の訓練所を使わないんだい?」

 

 

幾多も出ては消えてゆく的に誤差なく正確に風穴を開けてゆく響は、同じく隣で海を駆ける暁に疑問をぶつけてみた。

 

自らの練度を上げるための大切な訓練の最中とはいえ、その効果は実践とは程遠いものである。

 

その為か、今日はなんとなくやる気が出ずにいたのだ。

そう、降って湧いた深い考えもない疑問が訓練の重要度を上回るくらいには、今日はやる気が出なかった。

 

 

砲撃の爆音の中では聞き取り辛かったのか、内容を聞き直しながら暁は的を撃つ手を止めた。

 

 

「え?なに?なんて言ったの?」

 

 

「鎮守府の中にある訓練所の事だよ。どうしてみんなが使わないのか知りたいんだ」

 

もう一度同じ内容を復唱し、今度こそ聞き取ったであろう暁が語り出そうとした所で

 

 

「何の話なのです?」

 

2人が手を止めたのを不思議に思った電が、話に参加してきた。

 

 

第六駆逐隊で縁もある彼女らは仲も良く、訓練も同じように3人で参加していた。

 

もう一人の第六駆逐隊のメンバーである雷は未だ鎮守府にはおらず、いつかまた四人で揃うことが今の3人の目標だった。

 

 

「もう一つの訓練所のことね

響が何でみんな使わないのかって」

 

 

「理由はあるのかい?」

 

 

そうした質問に、帰ってきた反応はそれぞれ予想していたとおりの物だった。

 

電は「あー、あそこか」とでも言うような表情をして、暁は満足げな顔で語り出そうとしている。

 

情報を受け取るべく響は、暁の声に耳を傾けた。

 

 

「あそこはね、この鎮守府が建てられる時に練度の高い艦娘用にって作られたらしいわ。

でも、その頃実際に練度の高い艦娘がいなかったから訓練プログラムの調節を間違っちゃって、危ないからみんな使わなんだって」

 

 

「ならみんな使わない、じゃなくてみんな使えないのか」

 

 

「そうね!

レディーもそう思うわっ!」

 

誇るように、むふーと胸を張る暁。

 

 

「ありがとう暁、理解できたよ」

 

 

「なんてことないのよ!

だってレディーなんだから!」

 

 

先程よりも更に満足げな暁に「うん、そうだね」と返し、頭ではさらに出てきた疑問に思考を傾ける。

 

 

(調節を間違った、ってそこまでの物なのかな?

何人かは使ってそうなものだけど)

 

 

長門、不知火、金剛四姉妹、一航戦...パッと思い当たるだけでも、今現在練度が高い人達はそう少ないわけでは無い。

 

そんな人達ならこの鎮守府近海の訓練所の設備では満足出来ないだろう事は容易に想像できる。

 

だからこそ、今度は最古参の一人である電に質問を投げかける。

 

 

「でも、誰か一回くらい使わなかったのかい?」

 

突然話を振られてはわわ...と慌てる電だが、いつもの事なので黙って待つ。

 

やがて話す内容を構築し終えたのであろう電が語り出す。

 

 

「そ、それがですね、使った人達が軒並み大破しちゃって...それから正式に使用禁止になったのです...」

 

 

「なにそれ!?

それは知らなかったわ....」

 

 

思わず、といった様子で暁が声を漏らすが、響も同じ心情であった。

 

 

高練度の艦娘を大破させる訓練場など、正直言って想像出来ない。

 

 

「何故か反撃機能がついているのです。

実弾仕様で、対深海棲艦用の連装砲や機銃が幾つもあって...訓練の為に作られたとは思えない代物...とのことなのです」

 

 

「深海棲艦用のかい?

艦娘の訓練所に?」

 

 

「なのです...」

 

 

馬鹿な、そんな感想が浮いて出るのも仕方がないくらそれは馬鹿げた事だ。

 

艦娘の攻撃以外でも深海棲艦にダメージを与えようと研究に研究を重ねられて作られた現代兵器の数々は、しかし威嚇と牽制には使えるものの撃破に至るまでの物はまだ確認されていない。

 

だがそれでも艦娘に直撃すれば痛いでは済まないようなものばかりであったはずだ。

 

 

そんなものを使うなど、訓練を実弾で行っている事と同義である。

 

 

「そ、そんなの無理よ...」

 

 

「そうだね...」

 

嫌な想像をしたのか少し震えながら言葉を漏らす暁に、響も同意する。

 

 

だが響達は知らない。

 

その訓練所で今まさに通常の人間であればかするだけで肉片に変わる弾丸を避け続ける男がいる事に。

 

そしてその人物がこの鎮守府の司令官の1人である事に。

 

さらにはその事実を近いうちに知る事に。

 

 

響達は知らない...今、まだこの時点では。

 




いったい誰を基準にして訓練所は作られたんでしょうかねぇ...いやぁ、わかりませんねぇ...
お次は提督が疲れを癒しにお風呂に行きます。
お風呂、お風呂ですよ提督諸君。
何かあるといいですね。






はぁ...第六駆逐隊に予定通りのこと喋らせるのって思ったより難しいですね....
いや、書いてるの自分なんですけどね?
持て余すというか、ひとりでに喋り始めちゃうと言うか
説明しにくいので、皆さんも小説書いてみてください(真顔)


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5話 風呂場の巡り合わせ

今後の設定的に叢雲に執務室で怒鳴られてるとおかしいのでしれっと食堂のところ変更入れました!

んでもって、前提条件の設定と勘違いを早く並べ終えるために今日は2話連続で投稿します。(今回で追いつくわけじゃないけど)


「ぶぅえくしょい!

あ"〜、風邪かぁ....?」

 

久々の訓練プログラムでいい汗かいたと思ったらこれだ。

 

口調も元に戻ってるって事は、もしかしたら本当に風邪ひいたのかもしれん

 

 

まぁ兎にも角にも今は風呂だ。

 

一汗かいたあとは風呂と相場が決まっている。

 

 

ってな事で現在風呂に向かってるんだけれども...いやー、参ったね。

 

体が鈍り過ぎてやばい。

 

 

思うように動けないわ体に力が入らないわ弾道の読みを間違えるわでもう散々な目にあった。

 

これまでも生き延びてきたわけだし回避には結構自信があったんだが、それも挫けそうだわ。

 

早急に体を元に戻さねば、今度の実戦で痛い目見ること間違いなしなレベルだこれ。

 

 

作戦まで2週間、間に合うかねぇ...いや、間に合わなきゃマジで死ねるから死ぬ気で頑張るんだけどさ。

 

 

そんな感じで落ち込みながらもお風呂場に到着。

 

男女と書かれたのれんで二方向に別たれているまるで温泉といった感じの外観の風呂は、実質中の構造も和風な温泉風に作られている。

 

だが女湯はもちろん艦娘専用で『入渠』を行って傷を癒す為のものであるため、その実見えない壁の中は機械がぎっしり詰まったハイテク風呂になってはいるが。

 

んでもって追加で拡張も行ったので、女湯は結構でかい。

 

 

しかし男湯はほとんどの場合提督しか使わないため、その規模は小さな物だしハイテクなんぞとは無縁の普通の風呂だ。

 

まぁそれでも一人で使うには十分な広さがあるため、俺はこの風呂が好きだった。

 

広過ぎず、だが決して狭くはない。

程々に、という言葉がが当てはまるだろう。

一人で入っていても寂しく無いぐらい、ちょうど心地いい空間の広さだったのだ。

 

執務で忙しかったこれまでも風呂だけはよっぽどのことがない限り入っていたし、それが1日の癒しだったとも言える。

 

 

それが今、時間を気にせず好きなだけ堪能できるのだ。

そう思うと何もしていないのに何かを成し遂げたような感慨深い気持ちになり、涙が滲みそうになる。

 

 

表情はどうにも変わらないが、目ん玉はうるうるの濡れ濡れだ。

 

もしかしたら鼻水も出てるかも。

 

やべぇ、号泣しそう。

 

 

流石に艦娘達も利用する風呂の前で号泣と言うのも如何なものかと足早に暖簾をくぐり、脱衣所で速攻早脱ぎを披露し、そのまま風呂にドボン。

 

そのままゆっくりと力を抜き、仰向けで浮上して目を瞑った。

 

 

俺以外誰もいない浴槽は水の音以外は全くの無音で、そんな空間が俺の心をじんわりと癒していく。

 

心地いい。

 

艦娘の怒号も、汚物を見るような視線も、大量に積まれてはさらに増える書類も、終わりの見えない現状も、今この瞬間はそれらから解き放たれている。

 

 

作戦が終わればまたそんな日々に戻るが、今現在書類からは解放されているわけだ。

 

一個の作戦のあれこれなど日々の書類の量に比べれば軽い軽い。

鉛と羽くらいの差がある。

 

なればこの2週間は実質休暇のような物だ。

 

 

きっと神様か何かが与えてくださった充電期間に違いない。

 

しっかり休みながら体を鍛えて飯も食って、二週間後には健康になって作戦を迎えよう。

 

そして絶対生きて帰ろう。

 

 

決意新たに、俺は深い深い精神統一の闇に意識を落とした。

 

 

.....寝たとも言う。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

〜脱衣所〜

 

 

「どうしましょう....」

 

鳳翔は困っていた。

 

出撃もなく、入浴目的で風呂に来る艦娘もいない夕方手前。

 

 

女湯のついでに男湯も掃除しておこうと脱衣所を訪れた先で珍しくも誰かが脱ぎ捨てたであろう服を見つけたのだ。

 

それも提督達がいつも着ている軍服である。

 

 

この時点で頭に浮かぶ可能性は3人しかいなくなったわけだが、その内2人は先程鎮守府内で見かけた所だ。

 

 

ならばもう答えはひとつしかない。

そしてその答えが鳳翔を困らせていた。

 

 

他の二人については鎮守府内での評判はそう悪いものではない。

 

建設が終わっても長らく明確な司令官というトップがいなかったこの鎮守府に配属された初めての提督があの二人だ。

秘書艦を取らず、2人で鎮守府の運営を行っていたもののあまりうまくいっている様子も無く、改めようとする気もないように見え、最初の一ヶ月は皆不安に思っていた。

 

だがもう一人の提督が来てからは置かれた状況からか、少なくとも以前よりはとても上手くやっている。

 

 

その努力が現れている箇所を紹介するならば、あの綿密に作られた...「作戦メモ」と題されたあの指南書は外せないだろう。

簡単に言えば、通常の作戦指令書とは別に配られる異常時のマニュアルのような物だ。

 

驚くべきはその完成度である。

 

それがどんな不測の事態であっても、戦場でのありとあらゆる事情に対して対処法が事細かく記されており、その全てが実戦で試せば「なるほど」と思える合理性のある物ばかりなのだ。

 

まるで実際にその状況に陥った事があるかのような視点から述べられているその作戦メモは、ただ読むだけでもためになると艦娘達の中で評判だった。

 

そこまで書く必要があるのか、という状況のものさえある。

だがそれがあの提督二人のやる気を示しているようにも思え、しかし状況が状況なだけに艦娘達は苦笑いしつつも、毎回提督からの指令書を密かに楽しみにしていた。

 

指揮も作戦メモ以上の事は無いが、今の所大きな失敗も無く轟沈した者も一人もいない。

 

事前に細かい対処法が示された書類が配られ、その対処法が正しく効力を発揮したからだと言える。

 

 

普段はダメだが仕事はやればできる、人間としてはともかく提督として頼れる、これが2人への評価で、皆一定の信頼を彼らに寄せていた。

 

 

しかしもう一人はといえば、その評価は地に落ちていると言っていい。

 

 

最初の一ヶ月は先の2人がそのような状態であった為、もう一人提督が来ると聞いて艦娘達は期待した。

 

これは大本営が二人の状況を見て、この2人を正すために今度は有能な提督を送り込んだのではないか、と。

 

 

そんな期待は着任当日から脆くも崩れ去った。

 

訪れた提督は若かった。

若過ぎた。

 

 

どう考えても20代前半、ともすれば十代に見えない事もない。

 

この年齢で、この大規模な鎮守府で提督をする事が何を示すか。

簡単な事だ、コネとしか考えられない。

 

しかもこの年齢でコネを持っているとすれば、それが親類であろう事も想像に難くない。

 

どれだけ有能であっても、妖精との相性という絶対的な条件から年若い提督が増えているとはいえ、それは立ち上げたばかりの小さな鎮守府だけの話だ。

大きな鎮守府にここまで若くして提督業に着くなど普通ありえない事であり、大本営も認める筈がない。

鎮守府の数にも限りがあるのだ。

軍人として経験を積んだ人物から提督となるのが当たり前であり、実際前者の2人も中年に片足突っ込んでいる。

 

 

しかし現に大本営からの指令で彼はこの鎮守府に着任している。

 

ならば当然、普通でない入り方をした事になるだろう。

 

 

 

さらに着任早々彼は自室から出てこなくなった。

自身の部下にあたる艦娘達への挨拶も無しにだ。

 

しかも他の2人の提督曰く、自室に篭るばかりで提督としての職務を放棄しているというのだった。

 

 

それだけではない。

艦娘は限りなく人に近い存在であり、性別として女性である。

それも今まさに花も恥じらう年頃の乙女達である。

 

無骨な鎮守府で、生きていくために最低限必要な物以外にも欲しいものが沢山ある。

 

 

我慢している物もあるがどうしても欲しいものも、勿論ある。

 

だがそんな時に限って彼は自室から出てきて否と述べるのだ。

 

 

この鎮守府の戦果は客観的に見ても悪くは無く、近頃は演習でも負けなしだ。

 

大本営からの資材供給も金銭的な支援もきっと多い筈。

 

 

艦娘個人の要求する小物などそれほど値が張るものでは無い。

支給される資金と比べて見れば米粒にも足らないようなものだ。

 

それを拒む理由とは何か?

そもそも何故2人ではなく彼が否と言うのか?

 

悩む艦娘達に2人の提督はぼそりと漏らした。

鎮守府の資金輸入は今現在彼が握っているのだと。

考えられるのは割り振られた資金を自らの物としている事、つまり横領かもしれない....と。

 

 

本人が聞けば「ふざけるなぁぁぁあああああ!!」と吠えたろうが、事情を知らない彼女らからすれば如何にも妥当だと思えてしまう証言で、実際この鎮守府の過半数はこの考えをすんなりと受け入れてしまった。

 

 

 

故に幾人かの艦娘が、2人へ大本営への報告をとアプローチをかけたが、2人からの返事は「できない」というものだった。

 

 

指揮を取る際は敗北か撤退ばかり。

仕事をせず、艦娘達に顔も見せない。

報告できる問題ならば、幾らでもある提督の調査に、何故か「踏み込めない」と。

 

それは圧力がかかったのかと問えば、2人は口を閉ざして答えなかった。

 

それを沈黙の肯定であると彼女らは受け取り、この事がさらに艦娘たちの想像を加速させた。

なるほどそんな存在に睨まれては、サボっていれば命に関わる。

下手に轟沈者を出して大本営に睨まれるような事があれば、その圧力の元がどのような行動をするのか。

2人も仕事をするわけだと。

 

 

そしてこの鎮守府での彼の評価は、引きこもって仕事をせずに鎮守府の資金を横領し、その利益が損なわれる場合にだけ動く「犯罪者」となったのである。

 

 

もちろん艦娘達もそんな状態を良しとしたわけではない。

 

しかし地位の高い繋がりがあるというなら、逆らえば即刻解体し、それをもみ消しするという事もあり得るだろうと彼女らは考えた。

 

だから誰も表立ってその横領の事を口にしない。

 

一部気の強い幾人かは逆にその状況に正義感を駆り立てられたのか、彼に対して言葉でも強く当たるが、殆どは軍人として恥ずかしく無いのかと視線を向けるか無視かの二通り。

 

 

そんな状況を打破する為にこれまた一部の艦娘は決定的な証拠を見つけ、大本営に直訴しようと動いているが、彼がまだ鎮守府にいるところを見れば成果はまだ上がっていないのであろう事は想像に難くない。

 

 

 

そんな彼が今、目の前の風呂に入っているのだ。

 

服は急いでいたのか脱ぎ捨てられている。

 

 

他の二人なら片付けて洗濯して干して、の流れになるのだが、こういう人物は腫れ物だ。

触ればどんな反応が返ってくるかわからない。

下手な事をして何か気に触れたら...という考えも浮かぶ。

 

横領云々に関しては鳳翔しかり半信半疑な艦娘も少なくは無いとはいえ、年若く、滅多に顔を見せないのもまた事実。

 

噂はよく流れては来るが実際に見かけた事も殆どなく、面と向かって話をしたことなど唯の一度もない。

 

 

どの様な人物なのか確証を持てないのだ。

それだけにやはり困ってしまう。

 

 

どうしたものかと判断に迷う内に....

 

 

 

ーーーー風呂場からの扉が開いた。

 

 

 




この話の話は正直苦しいと思わなくもない。
元があんまりに辻褄合わなかったから勘違いってより騙されてる風味に寄せたけど....急ごしらえだから「え?ここ言ってたのと違うじゃん」ってのがあるかも
でもなぁ....丸ごと変えるってなるとあれなんだよな。
矛盾でイライラさせちゃうだろうけど、緩めにご指摘ちょうだいな。


んでもって、どうやら艦娘からの態度がキツイのは、提督が思う理由とは違うようですねー。意外ダナー(棒)


そして誰得な提督のラッキースケべとただの設定説明で終わった今回。
説明長いから飛ばしたよって人もいるかもですね。
私も小説読むときはたまにやっちゃいます。

次の投稿は1分後です。


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6話 風呂上がりと勘違い

え、何これ

風呂で寝ちゃって、上がったら鳳翔さんが俺の脱ぎ散らかした服の前にいるとかどういう事よ...

 

...あ、そーか

脱ぎ捨ててあったから回収してくれようとしてあったのかな?

 

 

でも何で男湯に、ってかここ男湯よね?大丈夫よね?

い、いや、考えないようにしよう...

 

まぁ...取り敢えず声かけだ、なんか固まってらっしゃるし。

 

「どうした?」

 

しっかしあぶねぇ...

タオル前に持ちながら出たから見えなかったろうけど、もうちょいでアウトよアウト。

 

公然わいせつ待った無し。

 

 

.........動くに動けねぇなこれ.....

 

 

「...洗濯に出しておこうかと思ったのですが」

 

前世のゲームの中でなら、誰にでも穏やかな微笑を浮かべる鳳翔さん。

マジキュート、大人の包容力を感じるね。

 

でも鳳翔さん、今めちゃくちゃ顔強張ってまっせ。

知ってたかい?

そんな顕著に反応が出ると俺の涙腺が緩んじゃうんだぜ。

 

んー、やっぱり服か。

....別に断る理由も無いよな、頼んどこう。

 

 

「そうか、なら頼む」

 

 

そう返答すると、はいと軽く頷きつつ脱ぎ捨てた提督服を拾う鳳翔さん。

 

やっぱりみんなのお母さん。

家事やってんだね。

 

関わり合いあんまりないから実感なかったなぁ。

 

 

でも嫌われてる筈の俺の服もしっかり回収してくれる辺り、分け隔てないというか...優しい云々よりかは大人だなぁって思うよね。

 

あー、いいなぁ鳳翔さん。

事務的な会話でもいいからお喋りできる様になりてぇよ。

 

仕事してると気にならないってか気にしてる暇が無いけど、こう...暇になるとコミュニケーションが取れる相手が欲しくなっちゃうからね、人の心ってのは仕方ないね。

 

 

じーっと視線を向ける俺を不審に思ったのか、鳳翔さんが問いかけてくる。

 

 

「どうされましたか?」

 

 

どうと言われれると言葉に詰まるな...どうしよう?こうしよう!

 

って秘策が特段ある訳でもなく。

 

んー.........

 

...取り敢えず愛想笑いして褒めとこう、うん。

こう、無理やり頬の端を持ち上げれば笑って見えない事も無いだろ。

 

 

「ハッ、世話焼きだなと思ってな。

流石は世界初の航空母艦だ、その性質も母というわけか」

 

 

「いえ...好きでやっている事ですので」

 

 

おお、すげぇ綺麗に笑うなぁ....

なんか、俺まで嬉しくなっちゃう笑顔だわ。

今ならもっと自然に笑えそう!

 

本当に好きでやってんだろうな。

本心でそう思って世話がやけるってのは、やっぱりお艦だからか。

よしよしもっと褒めてやらねばなるまいて!

 

 

「謙遜することはない。

戦場では熟練した技術を持って敵を叩き、若き芽をつませない。

鎮守府内においては艦娘に対してのフォローで精神安定に貢献する。

受け入れてくれる存在がいる、甘えさせてくれる時間があるということが精神に与える影響は存外に大きいものだろう。

これは純粋に評価できる事だ、誇るといい」

 

 

「......」

 

 

褒めれてるよな?

おかしな所ねぇよな?

なんだかこの口調褒めるのが難しくて...

 

まぁ今回はしっかり褒めれてるよな

めちゃくちゃ喋ったぜ?

さらには笑顔付きだぜ?

足りぬ栄養はたいて作った恐らくきっと素敵な笑顔。

 

完璧でしょ。

 

ふ、やりきったぜ(全裸)

 

 

「...私がしたい事をやっているだけですから」

 

失礼します、そう言い残してぱっぱと脱衣所から出て行ってしまう鳳翔さん。

 

照れ隠しかな?

そんなわけねぇか。

 

 

うごごご...何処を間違えたんだ(全裸)

 

はぁ....服着るか。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ッ!!?」

 

 

絶句、まさにその言葉が当てはまる状態に鳳翔は陥っていた。

 

 

ちょうど彼が出てきたこともそうではあるが、彼女がいつも通りの分け隔てない笑顔を浮かべられずに顔を強張らせた理由は彼の体にあった。

 

 

(なんてこと.....)

 

軍人とは思えない程痩せた彼の体には、これまた軍人であっても有り得ない程の古傷が刻まれていたのだ。

 

一つや二つではない。

命に関わらないと言えるほど小さい傷でもない。

 

 

どれもこれも致命傷かそれに準じる規模の物ばかりだ。

 

(虐待....尋問....いえ、これは違う)

 

一瞬考えてその可能性を否定する。

 

傷の場所や大きさを見れば彼を殺そうとしてつけられたものであるのは明白だ。

いたぶるような範疇は完全に超えている。

 

 

ならば何故...どうして...この傷は一体何処で誰に?

 

余りに予想外すぎる状況と、それに対するショックで思考は完全に固まってしまっていた。

 

 

そんな中、目の前の彼からの声が届く。

 

 

「どうした?」

 

 

呼びかけに対しハッと意識を浮上させ、思考もまた動き出す。

 

 

「...洗濯に出しておこうかと思ったのですが」

 

なんとか反射的に返事を返し、取り繕おうとするも表情に出た動揺を隠すことは出来ない。

 

 

「そうか、なら頼む」

 

 

そんな鳳翔を気にした風もなく、彼は返事を返した。

その感情の読み取れない濁った目は、しかし寸分の迷いなくこちらを見つめている。

 

普段は軍帽を目深く被り、見えない彼の目は自身の古傷をまるで意識の他にあるように振る舞う姿と相まって原始的な恐怖を感じさせた。

 

 

その恐怖を断ち切るように鳳翔は目を逸らし、服を回収することだけに意識を集中する。

 

艦娘として古株であり、艦娘達の母と言われるほど長い間、まだ艦娘が比較的少なかった最初期から鎮守府に席を置く鳳翔。

 

 

当然戦歴も長く、現在はほぼ引退しているような扱いである。

 

して、大破した経験も、轟沈しかけた事さえ両手両足では足りない。

その鳳翔から見ても彼の体は異常だったと言えば、どれだけ彼の傷跡が常識から逸脱したものかわかるだろう。

 

 

だが、それだけならまだ鳳翔ここまで表情を強張らせる事はなかった。

傷跡のついた経歴を質問し、その会話の中で彼の人となりを見極め、それに相応しい返答を選べただろう。

 

普段から物腰柔らかな鳳翔には大抵の人は好意的だったし、そうで無くとも何かしら反応さえあれば豊富な人生経験が行く先を示してくれていた。

 

鳳翔自身相手を思いやる行動や言動を普段から心掛けているため、これまではどんな相手でもそんな方法が通じていたのだ。

 

 

だが、この提督においてそれは通じなかった。

 

声かけから返答まで提督が返した反応はまさに無。

表情に変化は無く、声色は平坦。

殆ど裸だというのに羞恥の色もなく、唯一見えない秘部も偶然手に持ったタオルの向きで見え無くなっているといった具合だ。

 

常識的には考えられない話である。

唯一の反応であると言える返答も、まるで機械的で人間味が微塵も感じられない。

 

 

普通にそんな奴鳳翔でなくとも怖くて当然である。

 

まぁ本人はそんな表情で見つめている自覚は全くなく、怖がらせようとは微塵も思っていないが。

 

 

しかし、そうとは知らない鳳翔が抱く感情は、提督の知らないところでただただ肥大化されていく。

 

そう、ただ見つめられるだけでも。

 

 

 

(見られて...いますね...)

 

 

微動だにしない眼前の恐怖対象の瞳は、会話を終えて尚、こちらに向けられていた。

 

ピシリと石のように動かぬ体とは裏腹に、その瞳だけを鳳翔の動きに合わせてぎょろりぎょろりと動かして。

 

 

 

(耐えられない...)

 

向けられた瞳には意味があるのだろう。

何かしらの感情もあるのかもしれない。

 

そう汲み取れはするものの、感じる威圧感がただ声をかけるだけの、それだけの行為を邪魔していた。

 

額に汗がにじむ。

手は随分と前から震えていた。

 

だが、それでも。

 

 

(逃げてはいけない...ッ!!)

 

 

ここでの選択を間違えれば、きっと何かが終わってしまうのだと。

そしてそれは自身の生命の存続に直結しているのだと。

長年の戦歴から鳳翔は直感し、最後にズボンを拾い上げて提督の前に居直った。

 

 

(まだ、あの子達の背を見ていたい...あの子達の歩く様を!その行く先を!!)

 

 

思い浮かぶ教え子達の姿。

その存在が、鳳翔にただ恐怖する事を止めさせた。

恐怖と対峙する決意と覚悟を抱かせた。

その姿、性質はまさしく、そしてただしく母であった。

 

震えを強引に止め、目と目を合わせ、鳳翔は問うた。

ともすれば深海棲艦と対峙するよりも覚悟を込めて。

 

眼前の恐怖に抗うために。

 

 

「どうされましたか?」

 

 

一度の静寂。

果たして本当に声は届いたのだろうかと不安になる程不気味な沈黙の間。

 

だが瞳はこちらを見つめている。

底無しのように、何もかも飲み込んでしまいそうな両眼で。

 

逸らすわけにはいかない。

 

今、それだけは絶対に出来ない。

 

 

例えここで朽ちることになったとしても、両目を逸らすことは無い。

例えどのような仕打ちを受ける事になろうとも、恐怖に流される事だけはしない。

 

ここに、私は抗ったのだと。

決して、屈しはしなかったのだと。

 

 

あの子達に恥じぬように。

あの子達の先輩として、胸を張れるように。

 

 

決意は遥か昔から。

覚悟は今もこの胸に。

 

子に恥じぬ母であろうとする鳳翔の、信念の形。

 

 

全てが固まったのち、恐怖は笑んだ。

にやり笑った。

 

言葉を放つ。

にやり、不気味に笑んだまま。

 

 

「ハッ、世話焼きだなと思ってな。

流石は世界初の航空母艦だ、その性質も母というわけか」

 

 

皮肉だ。

嘲るような笑顔抜きにしても、それを理解できる簡単な言葉遊びだ。

 

鳳翔もこの位ならば言われ慣れている。

返す言葉もすぐに出る。

 

嘲りではあるが提督にも表情が出ている。

皮肉ではあるが言葉を交わしている。

 

ただ静寂に包まれていた先程よりも、数段容易に返答を返すことが出来た。

 

 

「いえ...好きでやっている事ですので」

 

謙遜の答え。

定番の返しだ。

 

 

皮肉とすら受け取らないその返し方は、鳳翔の包容力のある完璧な笑みで完成度を増す。

 

 

卑しい思考の持ち主ならば気圧されるような眩しい笑みに対して、提督もさらに笑んだ。

 

 

「謙遜することはない。

戦場では熟練した技術を持って敵を叩き、若き芽をつませない。

鎮守府内においては艦娘に対してのフォローや精神安定に貢献する。

受け入れてくれる存在がいる、甘えさせてくれる時間があるということが精神に与える影響は存外に大きいものだろう。

純粋に評価できる事だ、誇るといい」

 

 

鳳翔は拳を握り締める。

 

その通りだ。

そうやって生きてきた。

唯それだけを貫き通し、それが自分にできる最良だと信じてきた。

 

 

それを言い当てて、だと言うのに。

 

男の表情に、言葉通りの意味は無かった。

嘲っていた、先程と同じように。

 

いや、格段に笑みを深めて。

 

今、その瞳は鳳翔の中のその生き方でさえ見通して。

それを誇れとさえ語りながら。

それでもなお、笑ったのだ。

 

 

守る為に戦う事を、次の世代を見守る事を、その決意の重さを、全て。

 

 

 

 

「...私がしたい事をやっているだけですから」

 

 

呟き、足早に浴場から廊下へ。

駆け足で自室へと。

そうでなければ、もうあの場に立ってはいられなかったからだ。

 

 

自身に向けられたどんな言葉にも、これまで信念を曲げた事は無かった。

 

否定も、罵倒も全て受け入れて進んできた。

 

 

嘲笑を受けた事が無いわけではない。

無意味なことだと笑われたこともある。

しかし、それらは全て兵器に心があるものかと、艦娘をモノであると考える故の言動だった。

 

 

奴は違う。

彼の目はそうは言っていない。

モノを見る目ではなく、一個人を見る目で。

 

『私』ではなく、『私の誇り』を、嘲った。

 

 

視界がボヤける。

頬をつたいかけたそれを拭う。

 

 

(なぜ貴方はそれを笑うことが出来るの....?)

 

 

あるいは物理的に胸を貫かれたならば、鳳翔は耐えただろう。

一寸も目を逸らすことなく、光が見えなくなろうとも、前を見続けられただろう。

 

しかし、自らの人生とも言える行いに、まるで「そんなものか」と。

 

ただの一笑であったからこそ、それに揺らいでしまったのだ。

 

夕方に差し掛かったこの時間、人通りが少なかった事は鳳翔にとって幸運だっただろう。

 

だが、彼女は折れてはいなかった。

歩んだ道のりの長さが、過程で得た輝きが、彼女の心を折らせることなく、彼女を支えていた。

 

この程度で折れるには、刻んだ歴史の量が違う。

決意し、乗り越えてきた苦難の数が違うと。

 

 

「見ていなさい」

 

 

呟く。もはや涙は止まっていた。

 

 

「あなたが笑ったそれがどんな重さを持つか」

 

 

凛とし、もはやその足取りに揺らぎはない。

 

 

「私が見せてあげます」

 

 

また一つ、決意がここに刻まれた。

 

 

この時点でもしも、この提督が鳳翔の勘違いのほんの一欠片でも気付く事が出来ていれば、事態は変わっていたに違いない。

 

 

不器用な言葉で、刺々しい口調で、どうにかそれは違うんだと伝えようとする提督と。

そんな彼を理解した鳳翔の2人の物語が。

 

『もしも』の向こうで、始まっていたのかもしれない。

 

 

失われたチャンスに、だがきっとまたそれは訪れる。

 

 

どんな選択であれ、2人は未だそこにいて。

着実に未来へと進んでいるのだから。

 

 




ていとくの いあつが みだれる !



もしかすれば。
不器用な言葉で、刺々しい口調で、どうにかそれは違うんだと伝えようとする提督と。
そんな彼を理解した鳳翔の2人の物語が、始まっていたのかもしれない。
↑いいなと思った人、自分で書き始めてもいいのよ?(小声)


活動報告にも書きましたが、私生活が忙しい時期に....ってか私の性格的に忙しいからこそ投稿に手を出し始めたんですが、感想を返す時間が取れなくなるかもしれません。
忙しい限り投稿に問題はないんですが、流石に一度に2つの行動を取れるわけでは無いですからね。
でも見てはいると思うので、なんかあったら感想の書き込みは遠慮なく。
意外に返す時間もあるかもしれないですしね。


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7話 月見酒

いろんなご指摘をいただきまして、やっぱり設定甘いよなぁと赤っ恥なお腹へっぽこです(名前IDになってるけど)
また黒歴史を増量したかと思いはしますが、一様考えてる分は書き切ります!

んでもって失敗は次に活かしますよ!
なので、次何か書き始める時は設定を感想で募集しようかと思います。
自分だけじゃやはり想像力というか、そう考えるとそうだよなぁという客観的な部分が足りないと今回痛感致しましたので。

意見....くれますよね?(震え声)

では今回も2話投稿していきます!
早めに書いて勘違い(じゃないって言われちゃったけど、確かにそうかもしれない)を解消しましょう!
そっからの話は、皆さん胃を痛めなくても読めるかと思いますので!


ここはどこだ?

お れ の へ や だ !

 

 

という事で、自室...もとい仕事場である第二執務室に帰ってきた。

ちなみに先輩方が使ってるのが第一ね。

戻ってくるついでに、作戦に必要な企画書等々先輩方から頂いておいたが....なんだか顔色が悪いようだった。

 

大丈夫なのかな?

まぁ今の俺に先輩方を案じていろいろやるほど余力は無いんだが....あまりにも体調悪そうだったら仕事....いや、それに関しては厳しいや....

 

 

ま、経過を見るとしますか。

実際に悪いのかもわからんしな。

 

 

さて、もう直ぐ日も沈み始めるこの時間帯は艦娘達が鎮守府に帰還する時間帯でもある。

 

体を動かすのをやめて戻って来たのはそれが理由だ。

そんな時間に俺が廊下をうろついてちゃあな...ま、良い事にはならんでしょってこと。

 

 

自室に引っ込むに限るって事よ。

 

 

ってなわけでヒッキーになっているわけだが...正直暇だ。

いきなりやる事がなくなったせいか、なんかそわそわするしなぁ

 

んー...今日は丸一日休んどくつもりだったけど、作戦ねっとくか。

ちょうど貰って来たとこだしな。

 

暇だとなんか不安で仕方ねぇわ。

仕事のしすぎかな...

 

 

重要書類専用の引き出しを鍵で開け、資料を並べる。

 

一通り眺めつつ、はぁ...と、ため息をつくと、提督はブツブツと呟き始めた。

 

 

えーっと、大規模作戦区域へと向けて移動中の敵艦隊を妨害せよ...だっけか

いや...妨害も何も進路的にうちにも襲撃来るでしょ。

 

でも偵察が?いやこんだけのわけ...

うわぁ...これにちょっかい...それより守りを...だな....

 

 

ふぅむ。

 

 

これあれか。

今回の作戦にうち参加してないのがあるのか..んー、参加しとくんだったなぁ

 

沖合から近海にかけてっと...海図と地図どこやったかな...お、あったあった。

えっとぉ?...こりゃあれだ。撃破は無理だな...でも大規模作戦はいつも通りこっちが押してるから...奴さん加勢に急ぐかな?

 

でも俺らの鎮守府も邪魔だし妨害されてるのが目に見えてるとなると、まぁ分けるよね

 

だからこそ、全力でやれば五分ってとこなんだけど...

 

あ、そうだ!

こっち出張ってきた別働隊つついて『妨害しました』って言い張ろう!

うん、それが良い。

 

うちの戦力だけじゃそれくらいが限度だし、評価は下がってみんなも安全。

まさに一石二鳥じゃないか。

 

即行引いて守りに徹すれば...まぁ、鎮守府壊滅とはなるまい。

粘れば別働隊も引くでしょ...あくまであっちの援軍として来てんだから

 

 

「....なんとかなるか」

 

うん、なりそうではある。

正直現地で指揮する意味も感じられないけど...なんかややこしい事情でもあるのかな?

 

でもこれ鎮守府防衛戦になりそうだし、どっちにしろできることはやらなきゃいけない状況にはなってたんだな。

 

 

指揮権があるって事は、あいつらの命預かってんだもん。

下手は打てんわ。

 

でもこれだと鎮守府総出になりそうだな....

大人数となるとバラバラに指示出すの苦手なんだけどな。

損害出さないためって言うと、まぁしゃあないか。

贅沢は言ってられないな。

 

 

じゃあ、作戦仕込むか。

お、ここの岩礁って確か....ああ、やっぱり姫がいた跡地か。

 

姫級がいた泊地...過去にもう攻略し終わった所だ。

 

ちょうどいいところにある。

そこを起点に出撃して航空爆撃、釣れたら砲撃で適当に遅滞戦闘をしながら引かせて....潜水艦で雷撃。

本当に援軍がこれだけで、この進路ならこれでいけるはずだ。

敵にも空母がいた場合は対空値高いやつに頑張って貰おう。

 

 

『突出せずに』それだけ厳命しておいたら後は守るだけだ。

釣れないなら航空機で好き放題ボコボコにすればいいし、それだけでおしまい。

 

そっちの方が妨害しましたって言い分通りやすいかもな。

後は確認できた分だけでも、作戦海域に進んだ深海棲艦を報告して....報告作業俺なのかなぁ。

 

何回もおんなじ事書いてめんどくさいんだよなぁあれ。

通信ログとか、記録とか....はぁ。

 

 

いやいや、後のことは今は止そう。

それよりもこれ...偵察情報だよなぁ.....。

 

海図と偵察情報を照らし合わせて見てみる。

よく索敵されているとは思う。

どこの艦隊かはわからないが、よくやったもんだ。

 

しかし....

 

「気になるな....」

 

 

多分俺だからこそ、そう思うのだろう。

深海棲艦との戦いで、最初は自分の命のために。

途中からは、味方を逃すために。

敵の眼前で逃げ回る事は日常茶飯事だった。

 

 

「俺だったらこう避けるだろうな」

 

 

呟き、海上のルートをつつーっと指でなぞる。

予測の範疇をでない所だが....。

 

 

 

取り敢えず考えたとこ文章にしとくか。

んで明日か明後日にでも先輩方ん所に持ってこう。

 

 

まずは、このルートなぞって追加索敵お願いから.....

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「ふぅ...」

 

 

やぁーっと終わったぁ...。

頭使うのしんどいんよなぁ。

 

 

時刻を見れば、既に10時ごろに差し掛かっている。

まだ早いな、と思ってしまうのはいつもの書類処理のせいか。

いや、実際10時だとまだ夜もふけてはいないか。

 

散らかった資料をガッサリと大雑把にまとめ、別の引き出しにまとめてしまおうと開ける。

 

 

すると、引き出しの奥に光る瓶。

 

 

「おお?」

 

 

もしや。

そう思って引きずり出してみると、やはり。

 

 

「そういえば忘れてたなぁ...」

 

 

ここに来る時、こっそりと持ち込んだ、ウィスキーやブランデー、日本酒や芋焼酎などの酒の類がボロボロと。

 

大人な艦娘達と仲良くなったらあわよくば、じゃなくてもストレス発散にと買い込んで持ってきたが、まぁ...知る通りそんな暇は無かったわけで。

 

 

どれも市販品の安物だが、俺自身が酔うために度数は高めの代物だ。

身体強化の影響か、代謝も上がってるみたいで低いやつだと全然酔えないんだよなぁ。

 

 

ふと窓を見れば、今宵は満月。

 

 

さらにはこれまでの生活リズムの所為で眠くない、とくれば...やる事は一つ。

 

 

「飲むか」

 

 

港の海沿いで波の音を聞きながら...いいねぇいいねぇ!

 

どうせもう艦娘とは飲めやしねぇんだし、ストレス発散に使っちゃおう。

 

 

この時間だと大抵の奴は寝てる筈だし...

 

 

「ほんとにいねぇよな?」

 

 

廊下をチラッと覗く。

こんな時にぽいぽいに来られても困るし...え?いる筈がない?

 

いや、それが偶にいるんだよなぁ...

ぽいぽい以外にも遅くにフラフラと出歩いてる奴らが何人か。

 

 

居酒屋鳳翔にいる奴らやら、夜戦バカやら...その中で特に注意すべき奴は...

 

 

「あら〜、どうしたのかしら〜?」

 

 

...龍田、こいつだ。

 

 

「どうしたとはなんだ?龍田」

 

 

「珍しいじゃないですか〜

この時間に出歩くなんて、何か御用事でもあるのかしら〜?」

 

 

待てよ落ち着け。

扉から出てるのは半身だけ。

酒は通路側からは見えない片手に持ってるし、なんの問題もない。

 

 

「出歩く、と何故言い切れる?

私は様子を見ていただけだ」

 

 

「様子を見るのはやましい事があるからじゃないのぉ?

見られちゃいけない物があるって言ってるようなものですよ〜?」

 

 

 

その通りですはい。

まぁバレるよな....

 

 

 

「気配を感じただけだ

そしてそれは気のせいでは無かった

貴様がここをうろついていたのだからな」

 

 

「私は今通りかかった所ですよ〜?

他の娘じゃないかしら」

 

 

「ふん、どうだかな」

 

 

「酷いわぁ提督...信じてくれないの?」

 

 

困り顔の龍田さんあざとかわい...じゃねぇ

このままどうにかお帰り願うんだよ。

 

 

「行動を鑑みろ

暗い中をわざわざ遠回りする必要が何処にある?

お前の自室も鳳翔の居酒屋も、第1執務室もここからは離れていたはずだが?」

 

 

「ただ気分が向いただけですよ?」

 

 

「ほざけ

私が憲兵に通報する前に消えることだな」

 

 

 

「もぅ...今日はご機嫌斜めなの?」

 

 

「いい加減にその口を閉じろ

そんなに懲罰房がお望みか?」

 

 

 

「あらあら怖いんだから、仕方ないですねぇ」

 

 

またね〜と手をフリフリさせて去る龍田さん。

かわいい。

 

俺にも態度を変えずに接してくれる艦娘の一人ではある...が、どうにもきな臭い。

理由があって俺に近づいてるっぽいんだよな。

 

 

あんまり上司二人とも仲良くしてなさそうなんだがなぁ。

それなのに、やけに俺にはグイグイくるわけよ。

 

会う事自体は稀なんだが、やれなにしてるの?今日の予定は?手伝う事ある?と結構な食い気味具合だ。

周りからの俺への感情も相まって異質なことこの上ない。

正直なところ、殺されるんじゃないかとうっすら思うくらいには俺も不気味に思ってる。

 

でもお話しするのは嫌いじゃないんだなこれが。

前世じゃ好きな艦娘だったしな。

 

 

それにしても今日は何だったんだろう?

なんかの証拠集めとかか?

鉢合わせなきゃ気付かないフリしてやれたんだがな...

今なんか重要書類預かってるか?

...いや、業務おやすみしてんだしあるわけないわな。

作戦書は見られても敵さんにチクるわけでもあるまいし。

 

 

「うーん、まぁいっか」

 

 

この部屋に今あるもんで艦娘に見られて困るもんは何にもない。

さっきも言った通り、深海さん側にチクられるほどの事がない限りは別に漁られても構わんわな。

 

あ、お酒は別ね。

 

 

「よし...」

 

 

さぁさ準備が整いましたよ。

夜も更けていい感じだ。

月見酒と洒落込もうじゃないか。

 

 

あ、もうちょっともってこ....

 

 

◇◇◇

 

 

「あ゛ー、うめぇ」

 

 

カラン...と、また瓶を空にする。

既に足元には空瓶が散乱しているが、気にせず次の瓶を開ける。

 

 

とても静かで良い夜だ。

あまり雲もなく、星も月もよく見える。

 

 

「んっんっ...ふぅ...」

 

 

ラッパ飲みで胃に流し込み、一息つく。

もとより安物だ。

美味いとは言っても、味を楽しむ気はさらさら無かった。

 

 

「クソッタレな状況に安い酒、景色だけは綺麗とくれば...5年前の大侵攻思い出すな...」

 

 

艦娘がいない時代にあった最初の深海棲艦の大攻勢。今では皮肉を込めてイベントと揶揄されるそれ。

その頃までは、点々と姿を現しては暴れて消えるだけの存在であった深海棲艦。

未知の生命体である深海棲艦を、まだ追う側だった人類が追われる側に押し込められる原因となった戦い。

 

退けば民家

行けば砲撃

そのままいたら航空爆撃と酷い目にあった日々を思い出す。

 

思えば随分と時間が経ったものだ。

ふいに酒瓶を掲げてみる。

 

あの時は確かこうやってーーーー

 

 

「ん、ああ...そうか」

 

 

何かが足りない。

そう感じた自分に、俺は即座に答えを返す事が出来た。

 

 

「あいつら、いねぇんだもんな」

 

 

共に酒瓶を掲げた面々は誰だったか。

どんな顔をしていたか。

朧げだった記憶だが、掘りかえすのはそう難しくない。

やろうと思えば、今だって一人一人を水面に浮かべる事ができる。

 

 

趣味が合わなかった。

話題が合わなかった。

性格が合わなかった。

戦場に立たなければ会話したのかさえ怪しい奴もいた。

 

だが、命を預けあった仲間だった。

愚痴り、皮肉り、罵声を浴びせあってしかし、危機を乗り越えた仲間たち。

 

 

今、一体いくらが生き残っているのだろうか。

 

 

大侵攻だけではない。

数えきれない程の戦場を、数えきれない程の仲間と駆けた。

 

だが生きてる者はといえば、指折るばかりだ。

 

 

「ったくいけねぇよなぁ

暗くなっちまってまぁ、こりゃいけねぇよ」

 

 

感傷に涙を流す時期はもう過ぎたとはいえ、ただ懐かしむには早すぎる。

 

 

だから男は、いつもの言葉を口にする。

 

 

「眠れよ兄弟。

俺もすぐに行くからよ」

 

 

酒を一気に呷る。

 

そうして、水面に映る戦友達に笑いかけた。

 

 

「土産話は期待しろよな。

俺よぅ、提督になったんだぜ」

 

 

水面の友と、酒と月。

結局朝になり、日の光で目覚めるまで彼はそうして座っていた。

 

無防備に眠る彼を艦娘の誰かが見ていたならば、もしくは彼に訪れる厄災に、道連れとなっても良いという艦娘が増えていたのかもしれない。

 

 

鳳翔の時のように、無理に作り出したものではない。

軍人としての鉄仮面では無く、そう一個人として。

彼は屈託なく、朗らかに...そして、温かく、笑ったのであろうから。

 

 




正直酒飲む所いるかぁ?と投稿時点で思う私です。
過去の自分の考えがわからない時って、たまにありますよね。

さぁもう一個!
皆さん大好きな夕立が出てきますよ!


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8話 寝起きとぽいぬ

二話連続投稿です!
前の話を見てない方はそちらからどうぞ!
(6番レジへどうぞ!)←幻聴


っべー寝過ごした。

 

って思ってダッシュしたけど俺って今仕事無いのよな。

執務室戻って書類無くてムンクになってから気づいたわ。

このセルフドッキリ心臓に悪すぎるだろ。

 

 

「やることねぇ...」

 

 

と、なれば一気にやることが無くなってしまう。

焦って飛び起きたせいで眠気も飛んでしまい、鍛錬を積もうにも今の時間に出れば廊下で誰かと出くわしてしまう。

 

 

とくれば何をすべきか。

 

目覚めからの順当な人間の生活をなぞるならば...やはり食事か。

 

はぁ...食事か...

 

 

昨日は食堂に行って食べようとしたが、実はこの部屋にも食べられるものが無いわけでもない。

 

ない...のだが....

 

 

「またこれか...」

 

 

部屋の隅のダンボールから銀色の入れ物を取り出す。

雑に巻かれたラベルには、無骨な保存食の文字。

 

 

ひらけた中身は...ああやっぱり。

 

 

「やっぱりパンか...」

 

 

代表的な保存食の1つ、乾パンである。

食費を切り詰めるために、陸軍勤の友人からほぼタダで廃棄処分行きのものを譲って貰っているのだ。

 

ここ半年、これで生きてきたと言ってもなんら過言でもない真実である。

実質0円のパンに感謝していないわけではない。

これがあるだけでマシなものだと理解もしている。

普通に食っても完食に1分かからないお手軽さは、時間のない俺が真に求めるべきものだ。

 

しかしだ。

さすがに半年もおんなじパンばっかりだと飽きも来る。

 

 

「むぐむぐ....ッ!?

ゴホッ!ゲホッ!」

 

 

さらにはこのパン、当たり前だが凄く喉が乾く。

そこが地味に食欲を削る要因でもある。

 

 

「み、水...んっ、んっ、....ハァ」

 

 

最近じゃパン食うくらいならもう飯いらないかぁなんて思ったりもしてしまう始末。

けど今は作戦を控えた大事な時期だ。

 

食わねば。

 

 

 

もそもそ....もそもそ....

 

 

 

やっぱり喉が乾くな....

保存用の水って硬水っぽい味であんま好きじゃないんだよな....

 

書類が山のようにあったり、空から砲弾が降り注いでりゃそら不満も何もないんだけど。

こんなに平和な朝ごはんだとなぁ、足りないものに文句も出るわ。

 

 

 

「おはようっぽいーー!!」

 

 

ーーーードグシャ!!

 

 

訂正、文句なくなったわ。

静かな朝飯ほど恵まれた物ってないよな。

 

 

「提督さん!遊ぶっぽい!!」

 

 

うお!あぶねぇな!

机越しに飛びつくと椅子が保ちませんって!

 

 

「ここのドアはその方向に開かなかった筈だが?」

 

「こっちにも開いたから両開きっぽい!」

 

 

 

もはや開きっぱなしなんですがそれは...

あ、金具外れてる。

 

 

 

「これでも食べていろ」

 

 

「なにこれパンっぽーーーむぐ」

 

 

喋る夕立の口に缶に入っていたもう1つを押し込む。

食べ進めるたび表情が不満気に変わっていくが、撫でると些か持ち直す。

 

かわええ。

 

 

 

「提督さん、これ不味いっぽい」

 

 

 

直球だねキミィ

 

 

「保存食だ。緊急の場合は食べることになるのでな、味に慣れておけ」

 

 

「....提督さん、盗み喰いっぽい?」

 

 

「馬鹿なことを言うな。そんな訳あるか」

 

 

ジトーっと半目になる夕立。

お、この顔意外に好きかも。

 

 

「なんか怪しいっぽい」

 

 

「何故そう思う」

 

 

夕立は何故か俺のとこ寄って来るよなぁ。

撫でまくったのは確かだけど、撫でられた人全員に懐いていく訳でもあるまいに。

 

....いや、夕立ならあり得るか。

ぽいぬだしな。

 

 

まぁ普通に考えりゃ『アレ』のせいなんだろうけど...それならおんなじ艦娘同士でやりゃいいだけだし.....

 

 

でも、なんだかんだ言っても可愛い子と喋るのは楽しいな。

そんな感じで鼻の下をのばしていた俺はしかし、夕立の次の発言でピシリと固まることになる。

 

 

「だって提督さん、鎮守府のお金も取ってるってみんなが言ってたっぽい」

 

 

「.....は?」

 

 

ふぇ!?

待て待て、今何つった?

 

 

「なんだと?誰がだ」

 

 

「だから化粧品なんかにお金が回らないんだーって熊野さんとかが言ってたっぽい?」

 

 

「待てそれは...」

 

 

なんじゃそら。

心当たりなさすぎんよ。

 

化粧品とかっつったらあれか。

この前女所帯なんだから鎮守府の経費で落とせんかどうやらって来てたやつか。

 

そんなん断られたからお前が金使ってんだろってちょっと暴論すぎやしないか....

 

 

あ、

 

 

「ふむ?」

 

 

周りをあんまり気にしない夕立でも俺に言って来るってことは結構みんなに浸透してる情報って事だろ?

 

 

これ.....おいしくないか?

 

 

 

もちょっとほっとけば、

 

艦娘「こんな提督辞めさせろー!」

大本営「じゃけん調査しましょうね〜」

俺「見たけりゃ見してやるよぉ!」

大本営「すごく...何も無いです」

艦娘「は?(威圧)」

大本営「もう無茶苦茶だよぉ!」

大本営「この辺にぃ...閑職あんだけど...やってかない?」

俺「ああ^〜いっすね〜」

 

 

ってなもんで一件落着...いいゾ〜これ

 

 

よし、ほっとこう。

可能性のない話ではない。

 

 

「ふん、そう思うのならそれで良い」

 

 

「否定しないっぽい?」

 

 

「放っておけばいいというだけだ。何を言ったところで聞きはしないだろうからな」

 

 

実際そうだろうしな。

よしよし、終わりのビジョンが見えてきたぞ

なんだ俺にも運が向いてきたってのか?

 

生まれてこのかたついてないことが多すぎたからな。

ここら辺で幸運ってやつも機能してもらわないと困るってもんだ。

 

 

「ふーん...それでいいなら私は何も言わないわね」

 

 

あ、ぽいって言わなくなった。

 

夕立の目が怪しく光る。

抱きつき、首元に回していた手で、優しく顔を撫で始める。

 

 

「その代わり...最高に素敵なパーティーしましょ?」

 

 

包み込むように動いていた手が突如顔をガッチリと掴む。

 

やっぱり『アレ』か。

 

 

「ぶっ!?」

 

 

強引に頭突きをかまし、怯んだところを襟元掴んで投げ飛ばす。

 

あっぶねぇ。

いきなり首折りにくるんだもんな。

 

 

投げられた夕立は、器用に空中でクルクルと体制を整え、此方を向いて着地する。

鼻に当たったのか、鼻血が出ている。

 

 

やりすぎた?

 

 

一瞬そう思うが、こいつはそうは思ってないらしい。

 

 

目が、口が、体が、気配が。

『喜んでいる』という感情を前面に押し出し続けているからだ。

 

もっと、もっとと。

餌を強請る犬のように、次の応酬を求めている。

 

 

隠すつもりも無いのだろう。

 

 

これまでの経験からわかる。

待ちきれなくなれば、直ぐにでも飛びかかってくるのだろうと。

 

 

まぁ、つまりあれだ。

 

夕立とその...仲良しな関係を築けてるっていうのは....

 

 

「て゛い゛と゛く゛さ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!!!!!」

 

 

こういう事も含めてってことだ。

 

 




わいの中の夕立のイメージってこんなんなんや....許せ。
史実も特徴的ですよね。夕立って。
皆さんの中の夕立ってどんなイメージなんでしょうか?

よければ感想でもメールでもお聞かせくださいな。


ついに(全然期間経ってねぇ)追いつかれたか....出来るだけ早い目に書くのでご容赦くだされ....。
実習がマジ忙しいんですが、書くのは休憩がてらなんで着実に進みはしてます。エタりは今のところしませんが、遅れる事はあるかと思うので、そん時はこいつ死んでんだなぁと思って頂ければ大体あってます(白目)


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9話 ちゃん呼び

書いてたパターンがボツになった時のあーっという感じ。
きっと皆さんにもあるはず。
そんなパターンは後書きへシュゥゥゥーッ!!!
超、エキサイティン!

では今回もどうぞ!


 

「ふぅ.......」

 

 

「んぅ....提督さぁん.....」

 

 

気持ち良さそうにすぴーっと眠る夕立。

衣服は乱れ、隣に立つは息を切らした俺こと提督。

艦娘である彼女は女で、もちろん俺は男だ。

 

この場面だけ見れば完全に事案だが、周りの部屋の状態を考えれば恐らく冤罪だという言葉に納得して頂けるだろう。

 

舞い散った資料。

砕けた壁時計。

ボロボロになった提督服。

 

 

随分散らかしたなぁ夕立......

 

 

大層暴れまわったが、今回はどうやら最後の投げが効いたらしい。

頭を打ったのか昏倒したっぽい。

 

 

....寝言言ってっから寝てるだけかもだが。

随分安らかに寝ていらっしゃる。

 

 

 

「ぽいー......」

 

 

ここですぴーと言わないのはやはり夕立故か。

いいなぁ....

 

 

「だらしのない顔だな」

 

 

 

心にもない事言うのな俺の口。

普通に可愛いだろうが。

 

だが、ずっと眺めている訳にもいかない。

そろそろいい時間だ。

 

 

 

夕立をソファの上に置いて.....っと。

 

 

 

さぁ、俺もそろそろ訓練場行くか。

 

 

 

.....その前にドア直さなきゃな。

 

 

 

 

工具箱どこやったっけか。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

服を着替え、廊下を歩く。

艦娘達も朝食を終え、出撃している時間帯だ。

この訓練所に行くついでに、作戦書を提出してしまおう。

 

 

それにしてもなんだ...物作りって難しいよな。

ドア直すのめちゃくちゃ時間かかったわ。

ネジ回して直すってのがめんどいのなんのって。

 

不器用ってのは治らんなぁ....

昔からそうで、友人達にもよく言われたっけ。

 

手でぶっ刺しゃ直るだろって強引にやったらネジ一個潰しちゃったし。

不器用云々で思い出してたからか、一瞬これだから脳筋はって叫ぶ友の顔がフラッシュバックしたわ。

 

そんな頭悪くないと思うんだけどな....。

 

 

 

なんとか直したけど、あれじゃあ次強引に開けたら本格的にお逝きになるだろうな。

 

自作で直した分愛着が湧いたから大切に使いたいもんだが、不意のこともあるからな。

 

夕立とか....あと夕立と...夕立もだな。

他の艦娘?

 

ハハッ、部屋には何でか入って来ないんだよなこれが。

外歩いてると怒ってくるのにな....

 

 

いや、バレないように入ってる奴はいるな。

 

 

あれ誰なんだろう。

さっきもだけど部屋出るときに視線も感じるし、張り込んでるやつがいるのは確定なんだ。

誰かは絶対入ってる筈だが、俺と鉢合わせた事は無いからな。

 

 

俺なら気に食わない上官とか絶対殴り込みに....いや、ありえないか。

 

 

上官には上司の、部下には部下の仕事があるんだ。

下手すりゃ命を落とす戦場でのこと。

自分の命を思えばこそ、俺たち部下を上手く動かそうとする筈だ。

 

食い違いが見えても、その観点の違いを思えば納得することもある。

 

 

同僚達にはよく頭が悪いだとか、脳筋だとか言われたが俺だって頭はついてるんだ。

流石に「気にくわねぇ。ぶっ殺してやる!」とはならん.....かったようん。

 

イラっときても、やっぱ良い人じゃんって事の方が多かったしな。

 

 

 

さ、思い出話もこれくらいにして、昨日の書類提出しちゃいますか!

仕事は早く済ませるに限る。

 

 

それにここの先輩提督達は確認作業が早いんだ。

パッと見て、次にはもう「わかった下がれ」だもんな。

 

 

一瞬だよ一瞬。

びっしり文字が詰まった書類であれなんだから恐ろしい。

 

俺でも5秒はかかるのにな....

ま、有能な上官を持ったってのは嬉しい限りだけど。

あんまり会話はないけど、能力があるってのは純粋に尊敬できる所だわ。

 

 

仕事見てないだろって?

 

 

いやいや。

ある程度大きな鎮守府なんだし、なんか問題があれば絶対に大本営から憲兵が視察に来るはず。

それが来ないって事は上手くやってるって事なんだろ。

 

 

まさか新任の俺に仕事過剰に押し付けるなんて事はしないだろうし。

嫌がらせにしても、それで監査が入ってバレりゃ首が飛ぶのは先輩2人なんだから。

 

命がけの嫌がらせとか、流石にまともな神経だとできないと思うが....まぁあんだけ仕事多いとな?

怪しんだ事もある。

 

 

 

まぁ杞憂(?)だったんだが。

 

 

 

「失礼します」

 

 

第一執務室の扉を開く。

いつも書類で両手塞がってたから一瞬足で開けそうになったわ。

 

危ない危ない。

 

 

「....チッ!」

 

 

入ってすぐの舌打ち先輩。

 

 

配置は執務机に太った先輩。

その横に痩せた先輩。

 

そんな2人の正面に榛名ちゃん。

 

 

そしてその後ろに入ってきた俺。

 

 

 

なんか空気が張り詰めてらっしゃる。

俺、タイミング間違えたかな?

 

一瞬ノックしなかったからかって思ったけど、何もここまで空気が死ぬ事無いものな。

 

 

 

状況から見るに、榛名ちゃんがなんかやらかしちゃったっぽい?

いや夕立の真似じゃないが。

 

 

できれば庇ってやりたいがな......

 

 

榛名ちゃん。

心の中だけのちゃん呼びだが、実際他の艦娘達よりは仲良いんじゃないかと思う。

 

 

俺の書類仕事自体は手伝ってくれないけど、先輩方とか各施設への伝達伝搬をしてくれる艦娘だ。

ここの先輩提督達の秘書艦みたいなもんなんだろう。

 

でも「秘書艦なのか?」って聞いたら「違います!」って全力否定してた。

先輩たちエェ.....

 

 

そして何より、俺の先輩提督達への誤解を解いてくれた人物でもある。

 

正直ほんとに倍やってんのかよ....と最初は信じてなかった部分があって、それを榛名ちゃんに聞いたら

 

 

「...ええ......本当に....取り組んでおられます」

 

 

って泣きそうな顔で言ってたからな。

消え入りそうに、迷うように言葉を止めながら言うわけよ。

力になれない自分への罪悪感のようなものが、俺でもわかるくらいに見え隠れしてたからなぁ。

 

心配してんだろうな....榛名ちゃんにあんな顔させるなんて、罪な男だよ先輩は。

 

秘書艦否定も照れ隠しなんだろうな。

 

 

どっちの提督なんだろうかって考えると、結果の闇が深そうなので考えないようにしてる。

 

数少ない先輩達に対する心配事の1つだ。

 

 

 

「作戦書類に関しての事なのですが....艦娘を下がらせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 

情報漏洩を防ぐのは基本だよなぁ!?

部屋探られてんの放置してる俺が言えた事じゃ無いかもだけど。

 

真面目な子なんだから、ここらで見逃してあげましょうや。

そんな意思を込めて、先輩提督達を見つめてみる。

 

 

届け、この思い!

 

 

 

「クッ......下がれ!」

 

 

「は、はい!」

 

 

半ば叫ぶようにして退出を命じる太った先輩。

ビクッと反応して部屋を出て行く榛名ちゃん。

 

 

ありがとよ先輩。

この借りはどっかで返すから期待しててな。

 

 

でもまずは仕事のお話。

 

執務机に歩み寄り、作成した作戦計画の紙を目の前に置く。

 

 

 

「追加索敵を求めます」

 

 

 

このお願いが通るかどうか.......

 

 

 

 

 




次の投稿は3月中旬になるかも.....すまぬ。


そして癒し回を作ると言ったな....あれは嘘だ(デデン!)

いや今回はボツになったのでここに貼っときます.....
もしかしたらどっかで使うかもしれないので、そん時はこっから消して本文に移る時が来るのかも。

夕立が眠ってなければこうなってたってパターンです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ボツ話 夕立セラピー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「んぅ...提督さぁん...」

物欲しげな表情で見つめる夕立。
んもう!かわいいなぁお前は!


わっしゃわっしゃと撫で回してやると夕立がキャーと言いながら喜ぶ。

ハッハッハ!
もっともっと撫でてやろう!


肉体言語での話し合いが一息ついたら、いつもこれだ。

あーかわええ。
ああ^〜心が満たされるんじゃ〜


「だらしのない顔だな」


「提督さんが上手過ぎるっぽいぃ〜」


そりゃそうだろう。
動物好き舐めんな。
どこが嫌がってどこが好きか、一度撫でりゃぁわかんだよ。

ほらここか?ここがええのんか?


「ふゃぁぁ......」


心が...心が....喜んでる.....
まじ夕立セラピスト。

最高のアニマルセラピー...いやヒューマセラピー?
いや、名称なんてどうでもいい。
ただぽいぬは素晴らしいってことだ。


「満足したならそろそろ帰れ」


マイマウスめ、本心でもない事を...


「どうしてっぽい?」


「お前が散らかした部屋の片ずけをしなきゃならんのだ。服の着替えもな」


夕立が大層暴れまわったせいで部屋は確かに散らかっているし、提督服も裂けたり千切れたりしてボロボロだ。

でもいいじゃないか。
この笑顔に勝るものなし!


「提督さんが投げるからっぽい!」


「ならなんだ?殴ればよかったのか?」


「むぐぐ...そ、そうっぽい!別に人間の提督さんが殴っても痛くも痒くも...」

でもそろそろ夕立も出撃とか仲間とのお付き合いとかあるだろうし、離してあげよう。


ああでもこの元気の源を離すなんてこと...


「出来るわけないだろ!」


でも離さなければならないジレンマ。
しょうがない。
一回ぎゅっとしたら今日は諦めよう。

ほらぎゅーーーー.......。


よし、大丈夫。
これで作戦頑張れる。

ん?


「どうした?」


顔赤くないか夕立。
なんだ?ここはテンプレどうりに風邪か?って聞くべきなのか?


「な、なんでもないっぽいーーー!」


うぉう...走り去っていった。
子供は風の子元気な子とはよくいったものだな。
夕立はなんだか元気すぎて闘争心持て余してっけど。


さぁ、俺もそろそろ訓練場行くか。



.....その前にドア直さなきゃな。




工具箱どこやったっけか。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

以上!

でもさらに夕立が去った後に、


「ふ、生娘が」


いやマイマウス、お前童貞だからな?



って入れとこうか迷って結局入れなかったボツ話のボツもあります。
こういう思いつきはのは別の展開で活かしたいけど...小説書くって難しいからね、しょうがないね。





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10話 憂鬱の榛名


本編の前に、とある体験談を1つ。

〜ある日の朝〜


俺(....ん?ケツのあたりがネチョってる?まさかこの歳になって...)さわさわ


手「血でべっちょべちょやで」


俺「エ?」


時計「バイトまであと15分だぞオラァン!?」


俺「」



酷い目にあいましたが、こんな朝の日も偶には良いか(?)と思う今日この頃。
どうもお腹へっぽこです。

今回は榛名の回想が主な話です!書くの難しかったし、もっと上手く書けるだろと思う気持ちもありますが....まぁ後々この方が良いと思ったら修正入れます。
ではどうぞ!




 

〜鎮守府の廊下にて〜

 

 

 

「はぁ.....はぁ....」

 

 

走る。あの部屋から一刻も早く離れる為に。

動け。自らの罪を遠ざける為に。

止まるな。罪悪感に追いつかれるぞ。

 

 

心が嘯く。

 

 

「.....ッ」

 

 

不意に転ぶ。

涙が滲む。

 

 

なんでこんな事になってしまったのだろう?

 

 

榛名は自身へ問いかけた。

 

 

始まりは偶然に起きた事だった。

3人目となる提督が訪れる前の事だ。

 

あの頃、鎮守府を纏める仕事が上手くいっていない提督2人に対して、皆は不満を漏らしていた。

 

 

ならばと。

 

仕事が出来ないならば支えてあげなくてはと。

姉様達がいる鎮守府をもっと良くしようと。

 

不満で溢れる皆の顔を、笑顔に出来たならどんなに素晴らしいだろうと。

 

 

思い立った榛名は第一執務室を訪れ、そして目にしてしまう。

 

 

執務机の上に放り出されたとある記録を。

明らかに数字が改ざんされたそれを。

 

それがどういう意味なのか、気づいてしまった直後、背後に感じる気配。

 

 

言えば姉妹を解体するぞと。

揉み消しは容易な事なのだと。

上層部に繋がりがあるのだと。

 

2人のその脅しは、榛名に対して絶大な効果を持っていた。

 

自分ならそれで構わない。

 

 

だが自分が原因で他の人物に。

それも大好きな姉妹に害が及ぶなど、きっと可能性の話だけでも榛名は躊躇うことだろう。

 

しかし目の前の2人の行動を見ていれば、必ずそれが行われてしまうであろう事が理解できてしまった。

 

榛名に向ける「兵器ごときが」という言動が、時折振るわれる暴力が、艦娘に害を与えることになんの躊躇いもないことを教えてくれたからだ。

 

 

補佐の名目で半ば秘書艦のような立場に置かれても、真実それは監視の為で。

さらには同じように金剛型の解体を餌にして、榛名を悪事に加担させ始めた。

 

不満に、疑問に皆が思い、いずれ正しい「横領」という答えにたどり着くその前に。

やんごとなき行動であるのだと皆に流す、共犯者としての、裏切り者としての役目。

 

始めに皆に笑顔をと思い立った榛名が、この行動に心を痛めぬ筈もなく。

しかし幸か不幸か、バレてしまえば姉妹の命がと必死になっていた榛名の演技は完璧で、それこそ姉妹でさえ気が付かなかった。

 

 

悪事を手伝い、偽の情報をそれとなく仲間達に流し続ける日々。

だが、榛名もただ従っていた訳では無い。

どこか、何かに穴は無いかと模索を続けた。

実際に実行可能なのでは無いかと思う手段も幾らかあった。

 

しかしこの行動が露見して姉妹の誰かを、もしくは皆を失ってしまうのでは無いかと。

 

準備の段階で頭をよぎるその考えを榛名は振り切れず、結局何も出来ずにいた。

 

 

そんな状況に訪れたもう1人の提督。

 

 

この状況に訪れた彼を、2人が邪魔に思わない筈がなかった。

 

 

仲間に引き込む考えは最初から無かったらしく、初日から大量の仕事を押し付けていた。

提出が遅れれば、不満を漏らせばそれを理由に辞めさせるつもりだったのだろう。

 

 

しかし彼は優秀だった。

 

 

「書類仕事は初めてなのだがな」と漏らした彼は、それでも段ボール箱が埋まる程の書類をその日に終わらせ、変わらぬ表情で2人にこう言った。

 

 

「思ったより多いのですね」

 

 

明らかな挑発だ。

 

 

この時点で、榛名は内心喜んでいた。

彼が正しい提督たらんとするならば、きっとこの現状を打開してくれるだろう。

冷や汗が出る威圧感も、恐ろしいその目もむしろ頼もしく思えた程だ。

 

 

しかし助けを求めようとした榛名に突き刺さる宣告。

苛立った様子の彼らは榛名を引きずるように隠し部屋へと連れ込み、こう言った。

 

 

「お前をいつも見ているぞ」

 

 

言い訳をする榛名に、2人が見せた鎮守府内のあらゆる場所の映像。

 

艦娘の行動は逐一鎮守府内のカメラで補足され、誰が何処で何をしているのかが完全に把握されている。

抜け穴など存在しないと得意げに2人は語り、それが証拠にとこれまで榛名がしようとして断念した計画をつらつらと並べ立てた。

 

 

「対艦娘の反乱防止の為の機能がこの鎮守府にはあるのだよ。次はない」

 

 

そう言われ、念押すように金剛姉妹の解体をチラつかされ、榛名の心は折れた。

 

 

もう、今はどうしようもない。

そう言って自分を納得させた。

 

 

榛名の行動が従順になったことをきっかけに、目下邪魔な存在である彼に対して2人の行動はエスカレートしていく。

 

 

提督として管理しなくても良い仕事まで彼に押し付け、

ただでさえ多い提督としての仕事も二重に書かなければならない手間をかけさせ、

さらには運営予定を出撃予定から資材の数値、資金の出入りまでを書類に算出させ

そしてそのズレが出るたびに予測を1から手書きでやり直させるというこじつけじみた苦行を課した。

とても個人にやらせる物では無い。

 

 

それでも彼は黙々とそれをこなし続けた。

 

 

疑問に思わない筈は無いのに。

こんな事、しなくても良いとわかっている筈なのに。

 

 

なぜ?どうしてこんな事を?

 

 

今の自分の状況も、提督2人の行動も、彼の考えも、全てが榛名にはわからなかった。

 

 

しかし、そんな状態がただ続くだけだったならば、榛名はまだ報われぬ自身に向ける感情だけで、ここまで強い罪悪感など抱かずに済んでいたであろう。

 

そうだ。

あの出来事がなければ。

彼を、理解してしまわなければ....

 

 

彼がそんな状況になり、まだ間を置かぬある日。

 

いつものように2人に呼び出された榛名は憂鬱な気分のまま、扉を開けようとして聞いてしまう。

 

内側から聞こえるその声を。

 

 

 

「....どうにかならないのでしょうか。彼女らは海上で日常的に命をかけて戦っているのです。鎮守府内での肉体的、精神的療養のためにも必要な事だと愚考いたしますが」

 

 

「愚考だと自身でわかっているなら案を取り下げ給え!現に今問題が起きている訳ではないだろう。資金の節制が第一だと言ったばかりだが?」

 

 

「理解しております。しかし、ここの鎮守府の特性上、練度の高い艦娘が多い今は例え1人でも轟沈などすれば戦線維持に支障をきたします。日頃のストレスや疲れが些細なミスに繋がり、戦場ではそれが致命傷の元となるのです。どうか、どうかもう一度考え直しては頂けないでしょうか」

 

 

「知った風な口をきくな。予測の域を出ない案に出す金は無い」

 

 

「ですが」

 

 

「黙りたまえ。そこまで言うなら自分の資産から出せば良いのではないかね?」

 

 

「それは....」

 

 

「真に奴らの為に必要だと論じるのなら、捻出できて当然だろう?その為に君の資金を運用すると言うなら、許可を出そうじゃないか」

 

 

「....」

 

 

「ふん。もういいだろう。君と違って私達はやる事が多いのでね。さっさと下がりたまえ」

 

 

 

この会話を聞いた榛名は血が出るほど手を握りしめていた。

 

それは何故か?

 

 

きっとこの状況に置かれる前の榛名ならば、おそらく予想は簡単だ。

自分たち艦娘の為に上官へと意見した彼に感謝の念を抱き、力になれない自分が悔しかったからだろうと簡単に言い当てる事が出来る。

 

その怒りは自らへ向けられ、それをバネに問題解決へと邁進したことだろう。

 

 

だが、今。

仲間たちに嘘を突き続け、理不尽な境遇に置かれ、心が摩耗した榛名では、その予想は正解とは言い難い。

 

いや、榛名は怒りを抱いていたという一点においては正解と言えるのだろう。

 

 

その向けられる先が、感謝される筈だった彼だという点を除けば。

 

 

 

(そんなに、そんなにお金が大事ですか!?)

 

 

もう2人に対しての反抗心が折れてしまった榛名には、感情を向ける先が彼しかおらず。

自分の資金でやれと言われ、言い淀んだ彼にこそ、榛名は憤ってしまった。

 

 

自らの境遇の原因である金、何故自分だけがという感情。

その矛先を、強引に彼女は見つけてしまったのだ。

 

 

結局そうか。

人間というものは何よりもお金が大切なのか。

その為には、他人がどうなろうと構わないというのか。

 

それはすぐに消えゆく一時の感情だった筈だった。

 

そのような人ばかりでは無い。

頭ではしっかりわかっていて、だがそう思わなければやっていられないような。

そんなどうしようもない怒りの感情。

 

 

そしてその行動も、一時の物の筈だった。

 

鎮守府内の改善希望の案を今集めているのだと、皆に流して一斉に提出する....仲間想いの皆々は、嬉々として皆の為にと大掛かりな回想案を描いてくれた。

 

ドックを拡張すれば痛みに耐えながら入渠の順番待ちをする仲間が減る。

空調設備を充実させれば、せめて出撃していない間は皆快適に過ごせる。

装備が充実すればまだ練度の低い艦娘が沈む確率も減らせる。

 

もちろんどれも決してはした金では叶えられるものではない。

嫌味な行動だとわかってはいた。

だが止まれはしなかった。

 

 

どうせ出来ないんだろう。

どうせ自分を優先するんだろう。

どうせ人間なんてそんなものなんだ。

 

ただその思考の肯定の為、行った一計。

 

しかし知っての通り。

 

彼は自費で叶えたのだ。

艦娘達が提出した希望を。

 

 

そんな訳は無い。

何故だ何故だと問う内に、次こそはと躍起になって。

 

いつしか榛名は率先して彼を貶めるようになった。

 

 

彼の手柄は全て伝わらぬよう隠蔽を行った。

きっとこれ以上叶えられないであろうとわかっていても希望案を持って行った。

彼の話は何もかも、悪い方向へと捻じ曲げて噂として流した。

提督2人に命じられるがまま、今度はそれを自ら望んで実行し続けた。

 

 

だが.....それでも。

それでも彼は正しくあり続けた。

 

皆に罵倒され。

体は瘦せ細り。

寝る時間も無いほどの書類に忙殺されて。

 

 

それでも。

 

辞めることも、不満を漏らす事もせず。

誰に当たり散らす事もなく。

怒りを抱くそぶりさえ見えない。

むしろ汚名を自ら被りながら、あの2人の無茶な作戦指揮のフォローに回るようにさえなっていった。

 

 

姿形は変わり果て、その身に纏う威圧感すら消え去って。

何故何故と未だわからぬ榛名にこそ、彼はある日に言ったのだ。

 

 

「大丈夫か?」と。

 

 

「顔色が悪いぞ」と。

 

 

「辛いなら休め」.....と。

 

 

入渠により体調に関係なく健康状態を維持できる艦娘に、病気なんて概念は無い。

肉体的な疲れはないに等しいそんな状況で、あるとすれば精神的な消耗のみだ。

 

それすらも休みたいと思うだけ、顔色が悪くなる以外に影響が出ようはずもない。

 

 

そんな私を、今にも倒れそうな彼が。

私よりもずっと酷い状況にある彼が。

 

 

私を「心配した」のだ。

 

 

何故?

 

食べるものにさえ困っているのだろう。

寝る時間さえ無いことも知っている。

 

そこまで追い詰められた状況で、何故?

 

 

 

わからず、榛名は自室で泣いた。

 

小さく、押し殺すように泣く。

ぶつける感情の先まで無くしかけて、誰にも相談など出来ず。

壊れかけた榛名の心は、しかし直ぐに救われる。

 

 

 

震える背中を抱きしめた、長女金剛によって。

 

 

 

 

「大丈夫。大丈夫デスからネ....」

 

 

 

泣き出してはいけない。

怪しまれる素振りを見せてはいけない。

頭ではわかっているのに。

優しく頭を撫でる金剛に、榛名が耐えられる訳もなく。

 

 

わんわん泣いた。

金剛に縋り付き、声を枯らして涙を流した。

 

 

そして、やっと思い出したのだ。

何も聞かず、ただ寄り添ってくれる姉に。

 

 

それが「優しさ」であるという事に。

 

 

きっと、彼も同じなのだ。

きっと、彼も優しいだけで。

 

 

 

だから自分だけならと耐えているのだ。

自分が頑張れば良い話なのだからと。

 

 

結局、自分はそれを、認めたく無かっただけなのだと。

人間に絶望できていれば、彼らはそういうものなのだと、そう思えれば彼への行為も正当化できた筈だったから。

 

 

そうやって、そこまで来て。

やっと榛名は理解して。

 

やっと、自分のしたことの重さに気付く。

 

 

追い詰められた自分を差し置いて、私を心配してくれるような相手に対し、いったい私は何をした?

今の彼の状況は、誰の所為だ?

 

 

そんなこと、もう、分かりきっているだろう。

 

............全部、私の所為ではないか。

 

 

過去は変わらず。

取り返しなど着く筈もない。

 

かつての自分の思考に立ち戻り、元々何よりも優しい榛名だからこそ、その事実は重くのしかかる。

 

 

だが、改めることは出来ない。

その影響を受けるのは我が身ではなく、姉を含めた他の姉妹なのだから。

 

 

姉妹を大切に思うなら、このまま彼を貶めなければならず。

彼に報いろうとするならば、姉妹の誰かを、または全員を切り捨てることになる。

 

 

天秤の針の真ん中で、やはり榛名は踏み出せず。

だが時間が過ぎれば過ぎるほど、『現状維持』と、そういう形で榛名は彼を貶める。

 

 

姉妹に傾く針の上、だが彼の端々に見える優しさが、榛名を掴んで離さない。

 

 

提督2人に呼び出された際、間に入って私を庇うこと。

艦娘において軽視されがちな疲労度を考えた出撃表。

撤退の為に、自らの名を貶めることに躊躇のない指揮。

 

そうした部分にふと見つけ、その度榛名は選択を迫られる。それでもやはり、榛名は選べない。

 

 

ごめんなさいと心の中で呟いて、姉妹の為だと自分を誤魔化す。

 

 

理解できないと逃げて、それで間違った筈なのに。

そうわかっているというのに。

 

 

 

また今日も、心を痛めて逃げ去るばかり。

 

 

 

「榛名は....一体、どうすれば.....」

 

 

もう幾度目かもわからない、そのセリフを呟いて、歩く榛名の様子を見る者はおらず。

 

だがその姿を評する言葉を当てはめるならば、きっと誰もがこう言うだろう。

 

 

もう限界という言葉こそが相応しい、と。

 

 

 

◇◇◇

 

 

〜1時間後の通路にて〜

 

 

あーあ、追加偵察ダメだったかぁ。

通るかどうかは五分五分だと思ったんだが、確証はないって時点でダメだって言われちったよ。

 

まぁ仕方ないか。

 

 

索敵があって、大体の数がわかってるだけまだマシだよな。

深海棲艦が神出鬼没だった昔に比べりゃ、良くなったって思うことにしとこう。

 

 

先輩2人が機嫌悪そうな時に入っちゃったのもちょっと不味かったのかもなぁ。

でも榛名ちゃん、基本的にいい子だし....

何より、いつも顔色悪くて病弱っぽいから庇ってあげなきゃってなっちゃうんだよなー。

 

そりゃ日常的に命のやり取りしてりゃあ俺みたいなチート持ちでないと艦娘でも辛いって事なんだろうな。

 

 

あー、でもいると思うんだけどなー。

あのルート。

 

 

....いや、過ぎたこと言っても仕方ないか。

 

 

それより今は体を動かそう。

何より生存が一番だし、その為には体を慣らしておかないとな。

 

 

んで、それが終わったら今日は.....

 

 

.......艦娘と関わってみるか。

 

命令無視されても困るからな。

いやマジで。

 

 

俺の指揮より上手く立ち回ってくれるならそれで良いんだけど...そこはやっぱり関わってみないとどれだけ考えて動けるかとかわからんし。

 

 

はぁ....憂鬱だわ。

 

 




19日はまだ中旬....セーフ、ですよね.....ダメ?

上記前書きの通り超難産な話でした。
こう思ってるって終着点は決まっているのにキャラの思考を書けば書くほどズレてって....やっぱ他視点って苦手だわい。
いやはや、ままならないもんですな。

どっかで書いた通り追いつかれてからの投稿は不定期な訳ですが、月2から週1くらいで書ければ良いなぁと思ってます。
では次の話でまた!


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