火事オヤジがヴィラン連合に参加したようです (じoker)
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0時限目 始<はじまり>

伝説の犯罪者(?)をヴィラン連合に入れてみた。
あの冷めているようでそのくせ実に的確に真実を言い当ててるものの見方がいいですよね、葛西は。


 とある廃れたビル。その裏口から、帽子を被った中年の男が、煙草を咥えながら足を踏み入れる。入り口の横、下駄箱に隠された地下への階段を見つけると、男は躊躇することなく階段を降りていった。

 階段を降りきると、ドアの開いた部屋の奥から話声が聞こえてきた。

 

「ヒーロー殺し。掴まるとは思わなかったが、概ね想定通りだ」

 

「暴れたい奴、共感した奴……様々な人間が衝動を解放する場として(ヴィラン)連合を求める。死柄木弔はそんな奴らを統括しなければならない立場となる!」

 

 その声を聞き、男は不敵な笑みを浮かべた。

()()()……どうやらまだくたばっていないようで。おまけにくだらないことにご執心ときた」

 男の口から零れた小さな独り言。しかし、男がそこにいることも、聞こえるはずがないほど小さな独り言も、全てお見通しだったのだろうか。地下の部屋から即座にレスポンスがかえってきた。

「君か、久しぶりだね。元気そうでなによりだ」

 男がいる場所は部屋からは死角となっているために見えないはずだし、独り言も到底聞き取れないはずの距離がある。しかし、既に察知されているのなら、このまま顔を出さない理由はなかった。

 男は、地下室の入り口を潜る。

 そこは、窓一つない暗い空間だった。その中央の大きな椅子に大男が腰掛けているのが男には見えた。鼻から上の表面は削ぎ落とされたような傷跡に全面覆われており、目も、鼻も、耳もない。

 喉や頬にいくつものチューブが繋がれており、大男は、設備に生かされているような余命幾ばくも無い重体にしか見えない。

 しかし、そんな状態でありながらも、男の目から見る限り大男からは衰えというものはほとんど見て取れなかった。

「アンタよりも、コンマ一秒でも長生きすることだけが今の俺の望みなんでね。アンタが先にくたばってくれないと困りますぜ。……それで、今度は何を企んでいるんです?」

 そう言うと、男は脇に挟んでいた週刊誌を取り出した。見出しは、『ヒーロー殺しの肖像』

「『ヒーローとは見返りを求めてはならない自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない。現代のヒーローは英雄を騙るニセモノ。粛清を繰り返すことで世間にそのことを気づかせる』か……()()()。相変わらず、(ヴィラン)だの英雄(ヒーロー)だのと下らない論議で」

「くだらない論議か。実に君らしい考えだね。世間はヒーローの定義だの何だのと勝手に盛り上がっているようだが」

「個性を悪用する犯罪者を『(ヴィラン)』なんて大それた名前で呼ぶこと自体に、俺みたいな冷めた人間は違和感を覚えますね、バカバカしい。犯罪者は無個性だろうが没個性だろうが関係なくひとくくりに犯罪者。仮にその犯罪者の中で大げさな名前を使って区別される存在があるとすれば、それは並外れた悪意を持つ者ですかね……そう」

 男は、小さな光が灯る煙草の先を大男に向けた。

「貴方のような」

「フフフ。私よりも長生きしたいというささやかで、だいそれた夢想家でありながら、その根本は生粋のリアリスト。私をその能力ではなく悪意とやらで測ってくれる相手はオールマイトか君ぐらいだ……相変わらず、そんな矛盾が面白いね、流石は伝説の犯罪者、()西()()()()

 ヒーロー殺し“ステイン”の主張を一蹴した男に対し、大男は口角を僅かに吊り上げた。

 

 

 

 

 ――男は考える。

 

 あの方と初めて出会ったのは、およそ10年ほど前のことだった。

 当時の男は、居場所を探していた。犯りたいことがあった。我慢できない欲望があった。犯罪者としての花道を探していた。

 そして、あの日。あの人に連れられた男は出会ってしまった。

 

 初めてだった。

 いっしょにいるだけで吐き気がこみ上げてきて、胸糞悪くて生きているのもイヤになって。

 それでいて、一度知ったら離れられない。

 プライド、トラウマ。そして、恐怖。人であれば誰しも持っている心の隙間に巧みに入り込む計り知れない『悪』のパワー。

 あの方を一言で称するとすれば、正しく『悪』のカリスマとしか言い様がない。

 

 男は魅入られた。

 火以上に惹かれた存在に。

 犯罪者の王たるその姿に、畏怖に、在り方に。

 

 しかし、その悪を体言する『絶対悪』はもはやこの世にはいない。

 

 今自身の目の前にいる大男も、かつては世紀の大悪党として君臨していた揺ぎ無い悪であり、男の知る限りではあの方に次ぐほどの犯罪者である。しかし、全盛期のこの大男ですら、あの絶対悪には遠く及ばないだろうと男は確信していた。

 さらに、今の大男はNo.1ヒーロー(オールマイト)との戦いの末、往時の能力は失われ、生命維持に機械を頼る死に損ないでしかない。

 犯罪者の王にして、最強最後の犯罪者。

 そう思っていたあの方が死んでもなお、自分はこうして生きている。それが男にとっては拍子抜けだった。

 かつては、あの方よりもコンマ一秒でも長く生きてみるのも悪くないと男は思っていた。全ての命は、あの方よりも早く死ぬだろうと信じていたからだ。

 ところが、地球上で最も長生きするだろうと思っていた男は、この世のものではない怪物の手によって葬り去られたため、男のささやかで、ちっぽけで、それでいて大それた願いは叶うことととなった。

 そして、あの方も、あの方を討ったあの怪物もいなくなり、■■■■■も姿を消しておよそ四半世紀。

 善と悪のバランスが取れすぎて面白くないこの世界で、ようやく出会えたあの方に次ぐ大犯罪者がこの大男。

 ホンモノの悪を知るからこそ、物足りないと感じることもあるが、それでも彼が知る限りにおいては絶対悪の次点に彼はいる。

 だからこそ、男はこの大男よりも長生きしてみたいなどという冷めた大望を抱かずにはいられないのである。

 

 

 

 

 

 

「貴方も貴方ですぜ。今のこの世界では誰よりも強く、誰よりも『悪』を往く貴方が、引退を決め込んでいるってのも面白くない。どうして、あのガキなんかに入れ込むのか。アンタの個性なら、まだまだやれることはたくさんあるはずでしょうに」

「ワシも同感だ。出来るのかね、あの“子ども”に」

 大男に付き添っていた髭を生やした老人が言った。力はあるが、その使い方も、タイミングも分からない子ども。それが、老人にとっての死柄木弔という少年であり、到底、目の前の男の後を継ぎ得る人間には見えないと老人は考えていた。

「正直、あの子供には期待できん。ワシは先生が前に出たほうが事が進むと思うが」

 目がないのに、視線を向けられたことに気づいたように顔を傾ける先生と呼ばれた男。

「ハハ……では早く体を治してくれよドクター。私にできるのであれば、それも悪くないからね」

 ドクターと呼ばれた男は溜息をつく。

「無茶を言う。ワシにも出来ることとできないことがあるわい。“超再生”を手に入れるのがあと5年早ければなぁ……!傷が癒えてからでは意味のない期待外れの個性だった」

「また贅沢なことを。個性なんて一つだけでも好都合(ズル)いもんですぜ」

 心底残念そうな表情を浮かべるドクターと、苦笑する男。しかし、それに対し先生と呼ばれた男は飄々とした口調で答えた。

「いいのさ!彼には苦労してもらう!次の“僕”となる為に」

 口と、その周りの筋肉しか動いていないのにも関わらず、付き合いの長い男には分かった。今、この先生と呼ばれた大男は見たものを戦慄させる、邪悪な笑みを浮かべていると。

「あの子はそう成り得る歪みを生まれ持った男だよ」

「アンタを超える『悪』に成り得ると?」

「ああ、断言しよう。しかし、彼は未だ蕾にすぎない……君風に言うのであれば、種火だ。経験という燃料を投下すれば、きっととても大きく綺麗な大火となる」

 そして、大男は初めてその顔を――本来であれば目があるだろう部位を葛西の方に向けた。

「どうかな。君さえよければ彼をサポートしてくれないかい?そうすれば、君も僕が彼に期待をする理由が分かると思うよ」

()()()。貴方の頼みとなれば、やってみるのも悪くないですかね……それに、貴方がそこまで期待するのであれば、俺も一犯罪者として見届けさせてもらいますよ。あんたを超える悪が、どんな世界を作るのかを。そして、俺のようなチンケな一犯罪者が、その世界でどんな風に生きるのかを」

「楽しみにするといい。きっと、面白いものが見れるだろうから」

 そして大男は椅子を静かに傾け、虚空に向き直る。

「今のうちに謳歌するといいさオールマイト。“仮初の平和(茶番)”をね」

 

 

 

 

 




個性に頼らない最悪のヴィランを考えた時、最初に脳裏を過ぎったのが葛西でした。


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1時限目 接<めんせつ>

 普段は煙草を燻らせる中年男と、適当に飲食する痩せた少年、それと靄のようなものを纏う男性しかいない(ヴィラン)連合のアジトに、この日二人の参加希望者と彼らを仲介したブローカーが訪れていた。

 

 

 

「生で見ると……気色悪ィなァ」

「うわぁ手の人!ステ様の仲間だよねぇ?ねぇ?私もいれてよ!(ヴィラン)連合!」

「……黒霧、こいつらトばせ」

 

 

 

 ――オール・フォー・ワン。貴方、見誤ったんではないですかい?

 

 

 

 男が死柄木弔のサポートにつけられてからまだ数日しか経っていない。しかし、その数日で男は半ば死柄木弔という少年を見限りつつあった。

 

「俺の大嫌いなものがよりによもってセットできやがった……餓鬼と、礼儀知らずだ」

 

 お前さん、鏡を見てからその台詞をいいなさいな。という言葉が男の喉まで出かかったが、煙草の煙を吐き出すことでそれを誤魔化す。

 こういうとき、煙草は便利だと男は思う。

 何か吐き出したいものがあるときも煙草の煙と一緒に吐き出せば色々と誤魔化すことができるし、周囲に漂う煙は喫煙者に対する注意を僅かながらに緩和してくれるからだ。

 一方、内心をごまかしながら静かに見守る男とは対照的に、大物ブローカー『義爛』の仲介によって(ヴィラン)連合を訪ねた二人の参加希望者に対して弔は苛立ちを隠せないでいた。

 そもそも、ここ数日弔の機嫌は最悪だった。保須市の事件では、ステインと彼の主張に対して世論の注目が集まっているのに対し、弔が投入した脳無への注目は、まさに添え物程度であったからだ。

 自分の目論見が外れ、自分が世間に相手にしてもらえず、何かと気に喰わなかったステインが注目されているからといって機嫌を悪くし、戦力の増強という次の一手に必要な判断を見誤る。

 このような小物が(ヴィラン)連合のトップであることが露見すれば、たちまちこの組織の株は暴落するに違いないと男は確信していた。 

 

「まぁまぁ……折角ご足労いただいたのですから、話だけでも伺いましょうよ死柄木弔。それに、あの大物ブローカーからの紹介ですから、戦力的にはまず間違いないと見ていいでしょう」

 黒霧が弔をどうにかなだめようとする。

 生ガキのお守は大変だと男は思う。かつてのあのお方の最も信用された五本指も癖のある犯罪者ぞろいだったが、サポートの手間も弔ほどではなかったし、彼らの手筈は中々のものだった。サポートのやりがいがあるのがどちらなのかは言うまでもないと男は思っていた。

「葛西さん。貴方もボーっとしていないで、手伝ってください」

()()()……悪ィな。おっさんが少年たちの会話に口挟むのは場違いかと思った」

 窘めるような黒霧に対し、男はいつもどおりの飄々とした態度を崩さない。

「葛西。今回ばかりはお前は正しかった。お前に何か言われる筋合いは俺にはない」

 弔の言葉に、男女を連れてきた義爛が眉を顰める。

「葛西?……なるほど、あの伝説の犯罪者、葛西善二郎か!?懐かしいビッグネームじゃねぇか。本当に久しぶりにその名を聞いたが、まさか生きていたとはな」

()()()。俺はただの寂しい中年さ。伝説の犯罪者なんて過大評価だと思うぜ?」

 この時、義爛は表面上は心底驚いたような態度をとっているが、実際は(ヴィラン)連合に対して若干の不信を抱いていた。

 葛西善二郎といえば、一昔前の(ヴィラン)業界では伝説とまで言われていた犯罪者だった。

 全国に指名手配され、燃やした建物も焼き殺された被害者も数知れず。おまけに刑務所すら大火を起して脱走したという逸話まであった。

 しかし、その葛西も表舞台から消えて四半世紀が経とうとしている。また、彼の姿が最後に目撃された事件の際には、警察に追い詰められた葛西が逮捕されることを良しとせずに重傷を負ったままビルの倒壊に巻き込まれたとことが確認されていた。

 本人が生きているのかも怪しいし、生きていたとしても当時とほとんど変わらない風貌であることはありえない。

 商売であるからこそそれを指摘せずにおべっかをつかうが、義爛はこんな怪しい男を組織のトップのサポートにすえなければならない(ヴィラン)連合の人材不足は深刻だと分析していた。

「黒霧さん、あんたのところも中々順調にいい人材を集めているようだな。先に期待が持てそうだ」

「ええ、まぁ……」

「それで、俺のことよりもそこの嬢ちゃんと兄ちゃんの自己紹介をお願いできないか?」

 話を振られて、最初に自己紹介を始めたのはセーラー服の少女の方だった。

「トガです!トガヒミコ!」

「名も顔もメディアが守ってくれちゃいるが、連続失血死事件の容疑者として現在進行形で追われている娘だ」

 超常黎明期に起きた能力者のプライバシーの侵害、謂れの無いバッシングなどの人権侵害を受け、この国では犯罪者以外の情報を当人の許可無く情報発信することは法律で固く禁じられている。

 トガの場合も、警察が容疑者としてマークしてはいたものの、逮捕にいたる決定的な証拠もなかった。そのため、メディアはこれまで彼女の情報を発信することはできなかったのである。

「生きにくいです!生きやすい世の中になってほしいものです!」

「ステ様になりたいです!ステ様を殺したい!だから入れてよ弔君!」

「意味が分からん。破綻者かよ」

 男は珍しく弔と意見が一致したと思った。弔のサポートも中々面倒だが、このJKはさらに輪をかけて面倒なタイプだった。

「……会話は一応成り立つ。きっとやくに立つよ」

「会話ができても、意思の疎通ができてねぇよ」

 イラついた様子でそう溢した弔の言葉を聞き流しつつ、義爛はトガの隣に立つ男の紹介を始めた。

「次はこちらの彼だ。目立った罪は犯していないが、ヒーロー殺しの思想にえらく固執している」

 義爛に紹介された男は、身体中に火傷らしき爛れがある不気味な男だった。

「今は荼毘でとおしてる。ヒーロー殺しの意思を全うするためにここにきた。……が、不安だな。この組織に本当に大義はあるのか?それに……」

 荼毘は弔から視線を後ろにずらした。

「葛西善二郎。ホンモノか?」

「…………」

「葛西善二郎は俺が生まれる前に表舞台から消えたはずだ。お前は亡霊か?それとも名を騙る別人か?」

 荼毘に疑惑の目を向けられた男に、義爛やトガの視線も集まる。

 何も言わないが、弔でさえ男に意識を向けていた。

「俺は俺だ。でかいスケールの思考ができない、どこにでもいる運動不足なしがない中年に過ぎねェよ。それに、俺が何をすればアンタの疑念を晴らせる?」

「…………」

 荼毘は答えない。元々、彼は証明を強く望んでいたわけでもないし、伝説の犯罪者と称された葛西善二郎という男に対する興味も、さほどあるわけではない。ただ、名を騙る偽者をホンモノだと信じ込んでいるおめでたい組織ではないかと考えただけであった。

()()()。火にかけたオヤジギャグのレパートリーの数以外に何の自慢もないおじちゃんには大それたことは期待せず、若い兄ちゃんたちで好きなようにやりな」

 葛西善二郎を自称する男が、自身を戦力として期待するなと明言する。

 この男が伝説の犯罪者のネームバリューを使って表立って組織を動かそうとする人間ではないと察した荼毘は、それ以上の追及はしなかった。

 この男がただのしがない中年として振舞い続けるのであれば、別に正体が誰であろうと大した問題ではないと考えたからだ。

「……まぁいい。ともかく、ヒーロー殺しの意思は俺が継ぐ」

「どいつもこいつもステインステインと……」

 元々、ステインの件で気が立っていた弔の前に現れた、ステインに大きく感化された参加希望者。それは怒りで燃える弔の心に新たな燃料を追加するようなものだった。

「良くないな……気分が。良くない」 

 

 ようやく腰を上げた弔だが、その顔に浮かぶのは新たな仲間を歓迎するときに見せるような表情ではないことは一目瞭然だった。

 

――流石に、これは止めますかね。

 

 流石にこれ以上癇癪を起されてはまずいと判断した男は、弔が二人に向けて手を伸ばすよりも先に動いた。ジャケットのポケットに入れていた手を引き抜くと同時に、弔とトガたちの間に炎の壁が出現する。

 突如目の前に現れた炎に、弔も彼の攻撃を迎撃しようとした荼毘とトガも動きを止める。

 しかし、彼らの視界を塞いだ巨大な炎の壁は一瞬で消滅。彼らの注意が自分に向いたところで、男はパンパンと手を軽く叩いた。

 

「沸点が低いぜ小僧共。()()してないで一度落ち着いたらどうだ?」

 

「葛西、邪魔をするな……」

 邪魔をされた弔は苛立ちを隠さない。そこに、黒霧がフォローに入る。

「落ち着いて下さい、死柄木弔。貴方が望むままを行うのであれば、組織の拡大は必須です」

「組織づくりで好き嫌いに拘るなとは言いませんがね。多少の齟齬や反抗は許容するぐらいの余裕を見せましょうや。それぐらいの器を見せるのが大事を成す人間には必要ですぜ」

「…………」

 弔は不服らしく、未だに険しい目つきで男を睨みつけている。それを察したのか、黒霧が弔の耳元で何かを囁いた。

「……利用し…………彼……全て…………」

 黒霧の説得が功を奏したのか、弔はひとまず手を下ろす。しかし、彼は結局納得することができなかったのか、不貞腐れるようにトガたちに背を向けてアジトの裏口へと足をすすめる。

「うるさい……」

「待ちましょうや、まだここから話が」

「うるさい!!」

 止めようとした男の言葉を振り払い、弔はアジトの裏口をくぐり、姿を消した。

 

 

――オール・フォー・ワン。あんたが見込んだ後継者とやらにはもう()()()がついてますぜ

 

 

 男は溜息をつく。

 まさかここまで聞き分けがないとは思わなかった。サポートをするのはいいが、子守りをするだなんて聞いていないと男が思ったのも無理もないだろう。

「仕方がねぇな……黒霧さんや、ここはアンタにまかせるぜ」

「申し訳ありません、葛西。弔をよろしくお願いします」

()()ッ。お坊ちゃまのことはお任せ下さいってか?」

 

 男もまた、後ろに手を振りながら弔の後を追って裏口へと消えていった。

 

 

 

 

 




葛西が弔を止めたときに使った炎のタネはニトロセルロースのしみこんだ紙片です。
簡単に言えば、マジックとかで使うフラッシュペーパーですね。


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2時限目 会<であい>

 木椰区ショッピングモール。

 県内で最多店舗数を誇る巨大商業施設だ。

 期末テストを終えたばかりの雄英学園一年A組の生徒達は、林間合宿を目前に控え、息抜きと林間合宿の準備を兼ねてショッピングをするためにここを訪れたのである。

 そして、そこで緑谷出久は思いがけない相手と遭遇していた。

 

 

 

 

 

「俺と(ヒーロー殺し)と何が違うと思う?緑谷……」

 親しげに歩み寄ってきた相手の正体は、かつてUSJを襲撃した(ヴィラン)連合を名乗る組織の一員、死柄木弔。警戒を解いていた出久は、首に手をかけられるまでそれに気づくことはできなかった。

 弔は自分の組織の新メンバーの面接の途中でアジトを抜け出し、気の向くままに歩いた末にここにたどり着いていたのである。

 そして、のどもとに凶器(能力)を突きつけられながら、出久は死柄木弔の質問について考えさせられていた。

「何が……違うかって……?」

 死柄木弔と、ステイン(ヒーロー殺し)。やっていることは似たようなものだと出久は思う。

 どちらも、ヒーローの命を狙って暴れまわっており、出久の知る限りでも多くのヒーローが彼らの襲撃により死傷していた。

 しかし、こうして両者の行いについて考えさせられたことで、出久の頭には二人の違いが浮き彫りになる。

「…………僕は……お前のやったことも、やりたいことも、理解できないし、納得できない……」

 でも、と一言置いて、出久は続けた。

ステイン(ヒーロー殺し)がやったことは……納得はできなかったけれども、理解はできたよ。僕も、ステイン(ヒーロー殺し)も……始まりはオールマイトだったから…………」

 出久の脳裏に過ぎったのは、脳無から彼を庇った満身創痍のステイン(ヒーロー殺し)の姿。そして、USJにて玩具に飽きた子供のように目の前にあるものをほったらかしにして帰ろうとした死柄木弔の姿が続いて過ぎる。

「僕はあの時、助けられた。少なくとも、ステイン(ヒーロー殺し)は壊したいが為に壊していたんじゃない。だから、お前のように徒に投げ出したりはしなかった。やり方は間違っていたけれども、理想に生きようとしていたんだと……思う」

 出久の口からでた答を聞いたその瞬間、弔の態度が豹変する。

「ああ……何かスッキリした。点が線になった気がする。何でヒーロー殺しがむかつくか……何でお前がうっとうしいか、分かった気がする」

 首に添えられた弔の手を通して、出久は恐ろしいほど冷たい感情を感じる。寒気が走り、精神が震える。

「始まりはオールマイト……そう、全部オールマイトだ」

 弔の顔に浮かぶのは笑み。それも、底知れぬ狂気を孕んだ恐ろしい笑み。

「いつ誰が“個性(凶器)”を振りかざしてもいいこの世界でこいつらがヘラヘラ笑って過ごすことができるのも、全部オールマイト(あのゴミ)がヘラヘラ笑ってるからだよなぁ」

 出久の首を掴む弔の手にも力が入り、彼の気道を塞ぐ。

「救えなかった人間などいなかったかのように!!ヘラヘラ笑っているからだよなぁ!!」

 たまらず、出久は首を絞める手をはがそうとするが、個性(ワンフォーオール)を発動しない状態では彼の手にこもった力には敵わない。

「ああ。話せてよかった!いいんだ!ありがとう緑谷!」

「ぐ……」

「俺は何ら曲がることはない!」

 このままでは死ぬ。それを頭ではなく身体で理解した出久は、個性(ワンフォーオール)を発動して強制的に彼の手を引き剥がそうと試みる。しかし、彼が個性(ワンフォーオール)を発動させようとした瞬間、弔が小さく口を開いた。

「っと暴れるなよ!死にたいのか?民衆が死んでもいいってことか?ヒーロー候補生?」

 その言葉に、発動させかけていた個性(ワンフォーオール)を引っ込める。しかし、それでも状況が好転するわけではない。首を絞められた出久は目前に迫った自身の死に対して何ら手をうつことができなかった。

 

 ――このまま死ぬわけにはいかない。

 

 出久は酸素が欠乏し、苦しくなる中で事態を打開する方法を考える。個性(ワンフォーオール)を発動すればこの手を引き剥がすことはできるだろうが、当然弔も個性を以て応戦するだろうから、同時にこの場所は戦場となる。

 周囲には無警戒な多数の民間人。ここが戦場となれば多数の死傷者が出ることは避けられない。

 民間人を危険に晒す決断ができない出久は、苦しみながら周囲を見渡し、打開策を見出そうとする。そして、自身にジーンズのポケットに入っている携帯電話の存在に気がつく。

 

 ――誰か、頼む

 

 画面を見ることも出来ない中で必死に携帯を操作し、自身の窮状を伝えようとするが、苦しさは次第に増し、視界もないことから操作に集中できない。

 万事休すかと出久が思ったその時、ベンチに腰掛けている二人の頭上から男の声がした。

 

 

 

 

 

「そう()()するなよ、お坊ちゃん」

 

 

 

 

 

 その声に反応したためか、弔の手に入っていた力が緩み、圧迫されて塞がれていた出久の気道が再び外気へと通じる。出久は思い切り息を吸い込み、同時に彼の首にかかっていた手を引き剥がして弔から距離を取った。

 呼吸を確保したとはいえ、先ほどまで首を絞められていた出久は慌てて呼吸したためか、激しく咳き込んでいる。しかし、そんな彼を尻目に、弔は声をかけてきた帽子をかぶった男に訝しげな視線を向けた。

「……葛西。お前が一体なんのようだ」

「それは俺の台詞ですよ。お坊ちゃん、あんたはこんなところで油売って何してんですかねェ。ここで騒ぎ起している暇があったら、さっさと面接の続きやっちゃいましょうや」

「……あんたの指図を受ける理由はない」

「ここにいるのはそこの生徒だけじゃないんです。それに、そいつ今お友だちに連絡しましたぜ。流石に十何人いるヒーローの卵相手にするのはおじちゃんみたいな中年にはキツイ運動でね。労わってくれないものですかねェ?」

 弔が視線を出久にやる。拘束から抜け出した彼は同時に増援が不可欠だと判断し、かつて保須市の事件の際にクラスメイトに一斉送信したメールを再送信していたのである。

 あの時のメールが再送信されたということは、出久がピンチにあるということに他ならない。既に、ショッピング中だった彼らは出久と分かれたこの広場に向けて動き出していた。弔が周りを見渡すと、人ごみの中でチラホラとUSJで見かけた生徒の姿が見えた。

「ここは出直した方がいいでしょう」

「……いいだろう」

 弔は帽子の男に連れられてその場から立ち去ろうとする。だが、立ち去ろうとする彼の前に、出久が立ち塞がる。

「このままお前を帰すわけにはいかない……!!」

「おいおい、少年。ここはお互いのために手を引いておくのがいいと思うんだが。周りの一般人にも被害を出したくないだろう?」

「……お前達がこのまま何もせずに立ち去るっていう言葉を鵜呑みにはできない。周りの人が犠牲にならない保障だってないんだ」

()ャハハハ!!そりゃあ、それも正論だな。だがまぁ……こんな中年と駄々っ子を相手にするよりも、世の中にはもっと楽しいことが沢山あるんだぜ、少年」

 帽子の男は、自分たちの背後に陣取った数人の生徒を視認すると、ポケットの中に入れていた何かのスイッチを押した。

 それと同時に、木椰区ショッピングモールのあちこちで爆発音とともに火柱が立ち昇る。

「イッツア(ショウ)タイム!」

 突然の轟音と立ち込める黒煙、さらに、あちこちで上がる火の手。出久たちがそれらに気を取られていた一瞬の隙に、弔たちはパニックになって逃げ惑う民衆の中に紛れ込んでしまう。

 出久は一瞬追跡するべきかと考えたが、優先すべきは人命救助であることは明らかだった。彼は個性(ワンフォーオール)を発動させ、人ごみの中に消えていく弔たちに背を向けて火柱が立ち昇った方角へと向かおうとする。

 

「では、また()を改めて」

 

 帽子の男の飄々とした言葉に歯噛みしながらも、出久は壁を蹴り群集の上を飛び越えつつ進んだ。



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3時限目 知<しる>

お気に入りが気がついたら4倍以上になってる……
こんな拙い文章でこれだけの好評価……流石葛西さん、愛されてますね。


『白昼のショッピングモールで発生した火災は、完全に鎮火した様子です。発生から三日に亘って周囲を熱し続けた炎の姿も、空を覆い尽くすほどに広がった黒煙の姿ももうありません。ショッピングモールの半径300m圏内の住民に出されていた避難勧告も解除されており、事件現場近くには我が家の無事を確認するために多くの住民が戻ってきています。今回の火災は非常に大規模なものでしたが、駆けつけたレスキューヒーロー『GOGOV』や『メ組』『バックドラフト』による懸命の救助活動と消火活動によって多くの命が救われました』

 

 

 

 定食のメインである焼き鮭の香ばしい香が立ち込める警察署の署内食堂。

 そこで、激しく燃え上がる炎と、天高く立ち上る竜のような黒煙を映し出すテレビ画面を塚内はじっと見つめていた。

 彼は、警察においてヴィラン関係の犯罪を専門に担当する部署に所属している捜査官だ。

「塚内刑事」

 テレビ画面を見つめていた彼を現実に引き戻したのは、髪には白髪が混じる定年間際の男だった。

「呉内さん?」

 塚内に声をかけた男の名は、呉内煉治郎。放火や失火などの調査を専門にしている刑事である。呉内は僅かにテレビ画面に視線を向けてから、塚内の耳元で囁いた。

「この事件の犯人(ホシ)について話がある」

「心当たりがあるんですね?」

「ああ」

 塚内は周囲を見渡して聞き耳を立てている者がいないことを確認すると、声を潜めながら呉内の耳元で囁いた。

「それは、葛西善二郎のことですか?」

 呉内は自身の考えが見透かされていたことに僅かに驚きの表情を見せた。しかし、なんということはない。呉内の神妙な表情から、塚内は彼が目星を立て、わざわざ自分に伝えるほどの人物を即座に割り出したというだけのことである。

「物証か、証言があったんだな?」

「ええ。今回の火災で、一般人の避難誘導に当たった雄英高校の生徒さんから話が聞けましてね」

 塚内は先日、事件現場に居合わせた雄英高校の生徒たちに行った事情聴取のことを思い出す。

 ヒーロー殺しの事件でも関わった少年、緑谷出久のTシャツは煤によってよごれ、身体のあちこちには軽い火傷が残っていた。事情聴取をする一時間前まで、彼と彼のクラスメイトたちは突然の大火災にうろたえる人々を救助し、安全な場所へと誘導していたのである。

 時には崩れた瓦礫の山を突破し、また時には炎の中に取り残された人々を救うために黒煙の中に飛び込んで走り回ったのだろう。一時間あまりの救助活動によって、未だに成長途中である少年少女の体力が枯渇してしまったのも当然である。

 そして、本職のレスキューヒーローが駆けつけたところで彼らは現場から離脱。ショッピングモールの最寄の警察署に塚内が連れてきたというわけだ。

 (ヴィラン)連合の幹部とショッピングモールで接触した緑谷出久は、そこで二人の人物を目撃したと証言している。

 一人は、先のUSJ襲撃にも顔を見せた死柄木弔。そして、もう一人は弔が葛西と呼ぶ四〇代半ばほどと思われる煙草を吸う男。

「葛西という名前、どこかで聞いた気がすると思ってデータベースを漁っていたら、その男に辿りついたというわけです」

 だが、あくまで目撃証言から推察される容疑者でしかない。彼が聞いた葛西という名前も、死柄木弔がそうであるように、本名である可能性が低い。

「しかし、呉内さんはどうやって葛西に辿りついたんですか?」

 呉内は塚内と違って今回の事件の捜査には参加していない。雄英高校の生徒の証言もなく、一体どうやってこの男にまで辿りついたのか塚内には分からなかった。

「決まってるだろう。あんなことができる犯罪者は葛西善二郎だけだからだ」

 呉内は拳に力を籠めながら語る。

「今回の事件は、結果的に東京ドーム三個分の敷地を焼き尽くすほどの大火災だった。しかも、業界では指折りの精鋭レスキューヒーロー『GOGOV』や『メ組』、『バックドラフト』が鎮火と人命救助に尽力したにも関わらずだ」

「犯人が周到に準備をしていたということですか。しかし、そう考えるとあの場で死柄木弔が出久君と接触した理由が分かりません。敢えて目立つようなことをする必要なんてありませんし、大火の準備をしていることが露見する可能性だってあります」

「いや違う。あれは、計画的な犯行なんかじゃねぇ」

 呉内の口から出た言葉に、塚内は首を捻る。

 しかし、塚内がその言葉の真偽を問う前に、呉内は説明を始めていた。

 呉内は放火等の犯罪を取り扱って三〇年の大ベテランだ。こと放火に関する考察では、右に並ぶものは多くはない。十分に参考になる意見だと塚内は考えていた。

「精々が一部店舗全焼の放火騒ぎで終わるはずだった火災が、実際にはショッピングモールの大半を焼き尽くす大火となった。それは何故だと思う?」

「犯人がしかけた発火装置の威力が大きく、かつ可燃物をいたるところに予め配置していたからでは?」

「違う。確かに、出火元はガスを扱う飲食店を中心に、可燃物を取り扱っている店ばかりだった。しかし、発火の原因となったものはどれも小型の爆弾にすぎない。いくら周囲が可燃物だらけだったとはいえ、普通なら火の手はここまで大きくはならないはずだ」

 塚内は黙って呉内の解説に耳を傾ける。

「火災が激しくなった原因は、酸素の供給にある。いくつかある可燃物を取り扱う店の内、実際に火元となった店はそう多くない。しかし、その火元となった店はどれもショッピングモールの設計上空気が多く流れ込みやすいところにあった。おまけに爆弾はご丁寧に天井部分にしかけられていて、天井部分にも空気を供給する孔があったために建物の火の巡りがはやくなるという現象がおきていたと考えられる」

 さらに、呉内は続けた。

「もしも、発火地点の選定が意図的に――火災をより大規模にするためにされていたとするならば、その選定に関わった人間は、よほど火に精通しているとしか思えない。俺の知る限りで、即興の場当たり的な放火でそんなことができるのは葛西ぐらいだ」

「即興?待って下さい。あの大火が場当たり的な犯罪ですって?呉内さんの言うとおり、これが空気の流れや可燃物の配置までを考慮した犯罪であるならば、かなり周到な下調べをしていたと考えるべきでは?」

 呉内の説明を聞き、今回の犯行が並大抵の犯罪者にできるような所行ではないことは塚内にもなんとなく理解できていた。しかし、これだけの犯罪が場当たり的なものだったという呉内の考えには驚きを隠せない。

「空気の流入を考慮した発火点の選定ができる犯罪者ならば、被害者の退路を絶つために可燃物を増して犠牲者ももっと増やすこともできたはずだし、それこそ徹底的にショッピングモールを焼き尽くすこともできたはずだ。実際、計画的な犯行にしては、使われた機材が少なすぎる。これだけの被害を出す犯罪を平然とする犯罪者が、犯罪で加減をするなんてことは俺には考えられない。手加減したのではなく、準備不足で最低限のことしかできなかったか、あまり大きな火事となれば都合が悪くなる事情があったか。ここからは完全に俺の推測だが、葛西はその死柄木って男の離脱を支援するためだけに今回の大火を計画したんじゃないのか?だから、事前からの準備ではなく即興の工作で今回の大火を引き起こした」

 塚内に戦慄が走る。

 もしも呉内の推理が正しければ、今回の事件の犯人は時間の余裕さえあればもっと大規模な大火を起せるということになる。これほどの被害を出した大火災が、ただの逃亡のための目くらましにしか過ぎないというのはとても恐ろしい想定だった。

「俺が初めて刑事(デカ)として捜査した事件(ヤマ)がこいつの事件だった。ビルを次々と放火してな、一瞬の内にビル全体を業火で包み、それを倒して六の文字を形作る。俺の三〇年の刑事人生の中で、あれほど火のことを知り尽くした凶悪犯は他にいなかった。だから、即興でこんな犯罪をやってのけるやつは葛西以外に思い浮かばなかった。断言してやる、犯人(ホシ)は、葛西善二郎だ」

 力強い口調で呉内は断言した。

「しかし……もしも葛西だとすれば、年齢が合いません。戸籍によれば、ヤツは既に六〇代半ばのはず。出久君が目撃した男の特徴とは一致しませんし、そもそも葛西善二郎は……」

「死んでいると言いたいわけだな?」

「ええ」

 葛西善二郎は、二五年前に警察に逮捕される寸前まで追い詰められている。塚内の権限ではその事件の詳しい経緯を探ることはできなかったが、葛西の最後についての記録は辛うじて閲覧することができた。

「二五年前、葛西は警察の精鋭部隊に追い詰められ、炎上したビルの倒壊に巻き込まれてから消息不明となっています。現場の状況から考えるに生還は絶望的なはずです」

「だが、現場検証では死体も見つかっていない。ならば、生きている可能性だって十分にある。だからな……」

 呉内はそこで言葉を切り、かつて塚内が見たことないほどの険しい表情を浮かべながら忠告した。

 

「塚内、心してかかれよ。葛西は並の犯罪者とは一味も二味も違う。お前が今まで追いかけてきた(ヴィラン)なんぞとは比べ物にならない悪意を抱いた、超一流犯罪者(メジャーリーガー)だ」

 

 呉内の忠告を聞いた塚内は、自身が知る限りで最も凶悪で冷酷非道な犯罪者――オール・フォー・ワンの姿を思い描いた。

 おそらく、呉内の口ぶりや過去の記録から推察するに、葛西善二郎もまた、オール・フォー・ワンに匹敵するであろう巨悪に違いない。

 (ヴィラン)連合に集いつつある脅威の存在に、塚内は焦燥を抱かずにはいられなかった。




呉内さんのモデルは、あの二時間ドラマの帝王が演じる某刑事モノの主人公です。


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4時限目 二<なんばーつー>

『しゃらくせぇ!』

 数多の警察官と数人のヒーローが力尽き、炎に覆われている姿が見えた。

 その後ろには、彼らを炎で包んだ下手人がいる。

『この葛西善二郎様を捕まえようって考えてるなら、熱量が足りなすぎるぞ小僧共!!』

 男は、これが過去の光景であると即座に気づく。

 幾度も見た、自分がヒーローとしてデビューしたころの夢。初めて(ヴィラン)に屈した時の夢。

 そして、自らの宿敵、葛西善二郎と初めて相見えた時の夢。

「そこまでだぁ!!」

 夢の中で男は叫んだ。

 男は自らの個性を使い、葛西に炎を放った。しかし、葛西は直線的な軌道を描いて迫ったその炎を僅かに身を逸らすだけで回避した。

『なんだ、大層な個性を持っていながら火の使い方も知らねぇ生ガキじゃねぇか』

 葛西は、自分のことを知っていたようだ。炎を放ったのが自分だと知って、嘲笑うかのように口角を吊り上げた。

『炎ってのは面白れぇし、かつ魅力的だ。そんな単調なただ炎を放つだけなんていう使い方なんて、もったいねぇ』

「その火を、人を傷つけ、自分の欲望のためにだけにしか使わない貴様が何を言うか!!」

()()()……年長者からのアドバイスは素直に聞いておいた方がいいぜ。火ってのは猫みたいに気まぐれなところもあるからな』

「黙れ!!貴様に教えてもらうことなぞない!!何故なら、貴様はここで捕まえられるからだ!!」

 地面を力強く蹴り、燃え盛る瓦礫の山を乗り越えながら葛西に迫る。

 それに対し、葛西は二本のビンを投げつけてきた。

 ビンの口には、火のついた白い布が巻きつけられている。

 火炎瓶だと男は即座に判断した。そして、自分の上空を通過するような弧の軌道を描いていることも理解した。

 自分には絶対にあたらないし、よしんば自分にあたりそうになったとしても、火の個性を持つ自分に対して火炎瓶など効果は無いに等しい。しかし、それでも彼は火炎瓶を自身の炎で焼き尽くすべきだと考えた。

 何故なら、彼の後ろには倒れ伏した警察官やヒーローの姿があったからだ。火炎瓶の描いている軌道は、彼らに向かっていた。自力で逃げるだけの力を持たない彼らには、たかが火炎瓶でも致命的な脅威となる。

「姑息な!!」

 男は迷うことなく炎を火炎瓶に対して放った。出力は最大。ビンごと焼き尽くすだけの熱をもって放たれた炎は、狙い通りに火炎瓶を直撃した。

 その直後、彼の目の前の景色は真っ赤に染まり、身体が何かに浮かされるような感覚を覚えると同時に視界は暗転した。

 

 

 

「オォォォオオ!?」

 男は布団を跳ね除けて身体を起した。

 背中は汗でぐっしょり濡れており、汗で濡れて張り付いたシャツが不快感を増大させる。

「夢か……そんなことは分かっている」

 何故今日に限ってあのころの夢を見たのかも分かっている。

 それは、昨日の昼のこと。珍しく警察にいる塚内から連絡があり、二人っきりで重要な話をしたいということだったので、夕食を共にしたのだ。

 そこで明かされたのは、先日の木椰区ショッピングモールの大火の容疑者が、必ず己の手で捕まえると誓った宿敵だということだった。

 

 あの日のことを思い出す。

 液体の入ったビンに、その口に火のついた白い布。葛西の投げたソレは典型的な火炎瓶の姿だった。

 しかし、その正体は全くの別物。

 色つきのビンと思っていたものは耐圧特殊容器で、その中身の液体は液化石油ガス。

 布はビンの口には入っておらず、あくまで周囲にまきつけてあっただけで、火炎瓶に見えるように擬装しただけだったのだ。

 それを見破ることもできずに放った最大出力の炎は、瞬時に容器ごと中の液体を加熱させた。

 そして、ビンは爆発。想定以上の爆風と熱を喰らった男は重傷を負い。男が守ろうとした警察官らはこの時の衝撃波によって亡くなった。

 

 あの時、自分たちの身に一体何が起こったのかは、搬送先の病院で警察の現場検証の結果を伝えられた時に知った。

 

 通常、液化天然ガスなどの常温常圧で気体になる物質は、高い圧力を加えることによって液化させられた状態で容器に保管されている。このような液化した物質を保管している容器が加熱された時、容器内の液体は沸点(通常の一気圧の状態でのもの)より十分に高い温度まで加熱され、同時に圧力も上昇する。

 容器が内部の液体の圧力に耐え切れなくなって破裂した場合、容器内の圧力は同時に大気圧にまで低下する。

 この時、容器内の圧力は大気圧に戻るために液体は瞬時に突沸、さらに液体が気体になることで爆発現象を起こす。

 俗に言う、BLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)というものだ。

 この現象の恐ろしさは、爆発の際に生じる衝撃波にある。

 すさまじい速度で迫り来る爆風によって呼吸が困難となり、さらにその爆風の中には人体にとって有害なガスが多く含まれている。

 BLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)の影響範囲にいる人間は呼吸ができずに酸欠となり、さらに有害なガスを吸い込むことで中毒を発生することで死に至るのである。

 軍隊などで使用されているサーモバリック爆弾もまたBLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)の原理が応用された兵器であることからも、その危険性が分かるだろう。

 

 結局、あの時自分は完全にあの男の術中に嵌っていたとしか言えない。

 そして、今でもあの時の失敗から己は抜け出すことができないでいる。

 炎系統最強と言われる『ヘルフレイム』という個性を持ちながら、同じような炎系統の個性を持つと思われる(ヴィラン)に敗れたことで、当時若手のホープとして期待されていた自分の株は暴落した。

 さらに、この時負傷した警察官やヒーローの回収よりも(ヴィラン)の確保を優先した判断がそもそもの誤りであり、それが結果として多くの犠牲者を出すことになったとして責められることとなった。

 当時の自分の判断が甘かったことは彼自身も認めている。敵が、炎の魔術師と呼ばれる炎を知り尽くした犯罪者であることを知りながら、たかが火炎瓶だと油断した結果があのザマだ。同期筆頭株であったオールマイトとの差が縮められず、功を焦っていたところも否定できない。

 汚名を返上するため、それからの自分は前にも増して様々なことを学び、ヒーローに求められる判断力等を養うことで次第に信頼を回復していった。

 一方で、葛西善二郎を自分の手で捕らえることで一度に名誉挽回を狙うことも怠ってはいなかった。しかし、不幸なことに自分にはその機会は二度と訪れなかった。

 忘れもしないあの日。警察は当時葛西が起していた連続テロの手口から、次に葛西が起すテロの現場を特定し、罠を張り巡らすことで葛西を追い詰めた。

 ところが、ビルの屋上に追い詰められた葛西は逃げられないことを悟っていたのか、上層階で爆発を起こすことでビルを崩壊させるという行動に出た。葛西はビルの崩落と同時に発生した大火災の中に消えた。

 事件後の検証の結果、死体こそ見つからなかったものの、葛西が生きていることを示す資料は一切出てこなかったので、警察は被疑者死亡という形で事件の幕を引いた。

 結局、自分には、二度と葛西を捕まえるチャンスが巡ってこなかった。

 

 思えば、あの事件での失態と、その容疑者をついに自身の手で捕まえられなかったことが今の自分の地位を決定付けたのかもしれないと男は思う。

 

 永遠のNo.2。

 

 No.1(オールマイト)がそれに相応しい不動の男ということもあるが、この時の失態が、自分の生涯に亘るマイナス評価の一因であることも否定できない。

 

 

「待っていろ、葛西……善二郎ォォオ!!」

 No.2ヒーローエンデヴァー(轟炎司)は宿敵の名を叫び、その瞳に闘志を燃やしていた。




自分は物理はからきしなので、BLEVEの理論とかに間違いがあってもそっとしておいてください。


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5時限目 兆<きざし>

 (ヴィラン)連合のアジト。

 閉店した酒場を再利用したこの場所は、数年ぶりにかつての賑わいを取り戻していた。

 普段この場所に入り浸っているヘビースモーカーの中年と、駄々をこねる子供と紳士ぶった保護者以外に、一〇名ほどはいるだろうか

 

 ――そこそこの人数は集められたようだな。

 

 男は、紫煙を吐きつつこの場に集まった者を見回した。

 そこそこに名を知られた犯罪者もいれば、名を知らないものもいる。ただ一つだけ共通しているのは、只者ではない身のこなしが何気ない仕草からも感じられることである。

 彼らは全て、弔が集めた(ヴィラン)連合の新規参入者だ。

 木椰区ショッピングモールであの少年と話して以来、弔は変わったと男は思う。無論良い方向へだ。

 きっと、目的のために準備を整え、目的のために苦行に耐える。それができるようになったからだろう。

 まぁ、これらは学業でろうが趣味であろうが仕事であろうが必ず必要となるもので、それを身につけ実践することなど一般的な人間であればごく当たり前のことだ。そのため、変わったからといって今更褒めるようなことでもないとも男は考えているのだが。

 

「よく集まってくれた。同志たち」

 弔がメンバーたちの前に立った。

「俺たち(ヴィラン)連合の最終目標は『問い』だ」

 弔はメンバーの前で語る。

「俺たちは社会に問いかける。ヒーローとは何か、正義とは何か」

 けして大きな声ではない。人類史上最悪の世界大戦を引き起こしたかのチョビ髭の総統閣下のような、聴衆を熱狂させるような手腕があるわけでもない。

 聞かされている男から見れば退屈極まりない演説だった。

 かといって、男もここで野次を飛ばすほど人間ができてないというわけでもない。男は内心で早く終わって欲しいと思いつつ、煙草の煙を愉しむことで気を逸らすことにした。

「社会は、市民はどうあるべきなのかを社会全体に考えさせる。俺たちの行動は全てそのための布石となる。そのために――」

「ゴチャゴチャしたのはいらねぇよ、リーダーさん」

 しかし、退屈を感じていたのはどうやら男だけではなかったらしい。弔の演説に茶々を入れたのは、粗暴な態度を隠そうともしない筋肉隆々の巨漢だった。

「俺はヒーロー殺しの掲げたものや、あんたらの大義なんてどうでもいい。俺がここに来たのは、俺が満足できる環境があるっつーからだ」

「同感だね。僕は僕の目標のためにここにいるんだ。君の目標と僕の目標は違う。利害が一致してるから協力するだけさ」

 巨漢の言葉に、ガスマスクをつけた小柄な男も同調する。

 

 ――まさかここでキレたりしないよな、お坊ちゃんよ。

 

 一応あの出会いをきっかけに成長してはいるが、以前の態度から察するに弔がここで癇癪を起す可能性は低くなかった。心配になった男は、さりげなく弔の表情をうかがう。

 しかし、男の予想に反して弔の表情は全く変わっていなかった。

「それは知っている」

 弔は荼毘と、蜥蜴顔をした男、さらにサングラスをかけた大柄の男へと視線をやる。

ヒーロー殺し(ステイン)の望みを、大志を果たそうとするヤツがいる」

 続いて、弔は視線を茶々を入れてきた巨漢と、ガスマスクをかぶった小柄な男、全身黒尽くめの男に向けた。

「私怨、欲望……理由はそれぞれだが、個性を使って暴れたいやつが、復讐をしようとするやつがいる」

 最後に、弔は男とトガに視線を向ける。

「動機も思想もさっぱり理解できないが、この組織に協力する意思を示してくれるやつがいる。……が、俺はお前達全員がこの組織で可能な限り自分たちの成すべきこと、成したいことを達成できるようにするつもりだ」

 そう前置きすると、弔は傍らに立つ黒霧へと視線を向けた。

 弔が何を求めているのか黒霧は即座に理解し、自身の個性を用いて取り出したホワイトボードをカウンターに置いた。そこには、地図らしきものと猿轡と手錠をつけられた目つきの悪い少年の写真が貼られている。

「次の俺たちの目標は、雄英高校ヒーロー科――ヒーローの卵たちの合宿だ。そこを襲撃し、混乱に乗じてこの少年――爆豪勝己を誘拐する」

「ヒーローの卵とはいえ、ガキ一人誘拐することに何の目的がある?」

 発言したのは、これまで沈黙を保ってきた蜥蜴のような顔をした男だった。

「ステインは偽者のヒーローを粛清することで己の理想を実現しようとした。そのガキは確か、体育祭で見たヒーローの何たるかを理解していない見どころのないヒーロー気取りだろう。そいつを粛清するならまだ分かるが、誘拐というのはどういうことだ?矯正するのだとしても、大義に比してやることのスケールが小さすぎないか?」

「別に、ヒーローの卵に手をだすことそのものが目的と言うわけじゃない。最初に言ったように、(ヴィラン)連合の目的は問いかけることだ。彼を誘拐することにはスカウトの側面もある、けれどもメインは」

「本当の狙いは世間へのアピール――雄英高校の管理体制に不備があり、そこに勤めるヒーローたちにも不適切な点があったと思わせることで、世間におけるヒーローの印象を悪化させる。それにより、昨今のオールマイト一人に頼りきりの社会におけるヒーローについての論議をマスメディアに発信させ、既存のヒーローたちにも己が所行を振り返らせる――そんなところか?」

 弔の発言に口を挟んだのは、荼毘だった。

 口を挟まれたことに多少思うところがあったのか、先ほどよりもわずかに弔の口調がぶっきらぼうなものとなる。

「ああ、そうだ。俺たちの大義はあくまで問いかけることにある」

「それで、具体的な襲撃のプランはどうなってる?」

「計画の実働部隊――開闢行動隊には、俺と黒霧、葛西を除く全員に参加してもらう。最初にマスタードのガスでフィールド全体を覆い、各人はその混乱に乗じて生徒とプッシーキャッツ相手に暴れてもらう。ただし、こちらはあくまで陽動と時間稼ぎが主目的だ。目的を果たしたら即撤退できるだけの余裕をもって動いてもらえれば、細かい注文は出さない。トゥワイスはイレイザーヘッドとブラドキングの相手をしてもらう。お前の個性なら、実力差のある相手を足止めすることも難しい話じゃないだろう。誘拐の実行犯はMr.コンプレスに任せる」

「指揮系統はどうする?お前が出てこないというならば誰が指揮を執るんだ?」

「荼毘、お前を開闢行動隊の指揮官とする。撤退までの指揮は全て任せる。目標さえ達成できるのなら、やりたいようにやってくれてもかまわない」

「襲撃時は、私の個性で皆様を転送します。目標を確保したら、あらかじめ指定した座標まで来てください。そこでゲートを広げて皆様を回収する手筈となっています」

 

 ――戦略的目標は悪くはねぇか。

 

 男は、今回の作戦に一定の評価を与えていた。

 これは新規参加メンバーの個性を把握した上での、適切な人員配置であろう。

 初手のガスマスクのガス散布はフィールドをこちらの優位なものに変えることができる。相手がヒーローの卵とはいえ、敵の数も質も侮れない以上、相手を可能な限り弱体化することは戦術的にも重要だ。

 そして、誘拐の実行役には拘束という一面でみればこれ以上ないほどに適した個性を持つMr.コンプレス。まともに相手をすれば不利になることは免れない実力者であるプロヒーロー、イレイザーヘッドとブラドキングの押さえ役には消耗しても惜しくない戦力であるトゥワイスの複製人間。

 戦術的には十分合格と言えるだろう。

 戦略的な目標も、これまでのオールマイトを殺すというシンプルでそれ以外のことは何も考えていないような目標から、マスコミや社会などに目標達成によって与える影響を意識したより高度なものとなっている。

 しかし、戦略的な目標を考えるにはいささか遅かったとも男は思っている。

 先の雄英高校の実習施設USJの襲撃もあり、雄英高校の危機管理体制は向上している。あの一件が雄英の評判に陰りをつけたという点を考慮しても、標的の危機感を煽ることや標的に場数を踏ませたこと、そして捨て駒とはいえこちら側の戦力を多数失った点を鑑みるに、戦略上悪手でしかなかった。

 襲撃が成功しようがしまいが『襲撃された』という事実だけで雄英高校はダメージを受け、(ヴィラン)連合は判定勝ちを得られるのだが、過去の経験から標的が襲撃に備えていればそれだけこちら側の犠牲も大きくなるのが道理だ。

 弔からすれば今(ヴィラン)連合に残っている自分たちもまた捨て駒なのだろうが、USJ襲撃時の駒に比べれば遥かに優秀で代替の中々いない人材が多い。

 陽動だけならUSJの時のチンピラのような雑魚でもできるのだから、先手を取るガスマスクと誘拐実行役のMr.コンプレス、担任教師の足止め役のトゥワイスと指揮官の荼毘以外の人材は温存するのが正しい選択だろう。

 警察とて無能ではない。現場に投入されたメンバーの身元と個性が特定されれば、対策を打ってから逆襲に出るだろう。相手に自分の手札を容易に曝け出すことなぞ、悪手でしかないと男は考える。

 

 ――まぁ、どうせお坊ちゃんからの信用もない俺はお留守番だ。ちょっと成長したお坊ちゃんのリーダーっぷりを安全圏から観戦させてもらうとしますか。

 

 しかし、既に自分は今回の作戦には不参加で高みの見物だと高を括っていた男に不意に弔の視線が向けられる。

 自分が頼まれる仕事なんぞ何もないと、目の前の会議を他人事のように考えている男に、弔は顔を覆う手に隠された口角を吊り上げながら言った。

 

「葛西、お前は開闢行動隊とは別行動で陽動をしてもらう。何、昔やった派手な遊びをもう一回やってもらうだけだ。お前なら他愛のないことだろう?」

「はい?」

「木椰区ショッピングモールでお前の顔と能力は割れているんだ。それならば陽動として派手に動いてもらってプロヒーローの注目を集めてくれた方が都合がいい。伝説の犯罪者の手腕、期待している」

 

 ――面倒くせぇなおい

 

 男は弔からの単独行動指令(無茶振り)に愛想笑いを浮かべつつ、内心で毒づいた。



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6時限目 道<ろじ>

 ――男は考える――

 

 

 

「ハァ?何だコリャ?」

 太陽が完全に沈み街が闇に包まれたころ、男は人通りの少ない路地を歩いていた。

「光彩認証に指紋認証……高々タバコ一箱買うのにそこまでするか?」

 男は、弔から頼まれた仕事の前に最後の一服をしようとしたのだが、その時持っていた愛用の煙草『じOker』の残りは一本であることに気づいた。景気づけにここで最後の一本を吸うよりも仕事終わりの一本にとっておきたいと考えた男は、少々不満はあるが景気づけの一本は市販の煙草ですまそうと最寄の自動販売機まで赴いた。

 煙草購入者専用成人識別カードがあれば自動販売機でも問題なく煙草を購入できるだろうと思っていたが、彼の見つけた自動販売機は国民番号カードで認証しなければ煙草が購入できないタイプの自動販売機だったのである。

 実は、煙草の専売企業の思惑とは裏腹に煙草購入者専用成人識別カードの普及は進まず、さらに未成年の煙草の購入も減らなかったため、打開策として専売企業は自動販売機の認証機能は国民に広く普及していた国民番号カードでの認証へと切り替えたのであった。

 国民番号カードであれば発行時に光彩認証と指紋認証、DNA提出が義務付けられているため、より確実に本人確認ができ、かつ誰もが所持しているため普及率も問題ないというのも切り替えの要因の一つだと言われている。

「市販の銘柄で我慢しようかと思っていたが……今はこんなのになってやがんのか」

 光彩や指紋を誤魔化す方法がないわけではないが、生憎今の彼はそのための道具を持ってはいないし、運転免許証(偽造)以外の身分証明書なぞ普通は持ち歩かない。男は煙草の購入を諦め、仕事終わりの一本も諦めることにした。

「は~あ……。せちがれぇ!」

 仕事帰りに近くのコンビニにで市販の銘柄でも買って、愛用の一本はアジトに帰ってからゆっくり楽しめばいいと考えた男は、マッチを擦り最後の一本となった煙草に火をつけた。

 肺に煙が染み渡り、頭が冴えてくるような感覚を男は感じていた。しかし、煙草一本が灰になるまでの小さな幸福の時間も長くは続かなかった。

「あ――――ッ!」

 突然男に掴みかからんとする勢いで迫ってきたのは、派手な服装をした女性だった。顔中に何かを塗りたくって醜い物を隠しているかような濃い化粧に、センスの悪い派手な服。典型的な見苦しい中年女性だ。

「アンタ!!今煙草吸ってたわね!?屋外喫煙は犯罪よ!!」

「あ、ああ。悪かったよ、場所移るから……」

「移動すればそれで終わりじゃないのよ!!問題は私の健康を害したってことよ!!」

 中年女性はなおも凄まじい剣幕で男を怒鳴りつける。

「煙草の煙はね、喫煙者が吸う煙より煙草の先から出る煙の方が毒性が高いの!!お前の寿命が減ろうが知ったこっちゃないけど、アタシはこれで寿命が三年は縮んだわ!!どうしてくれるのよ、私の三年を返しなさいよ!!悪いですめば警察もヒーローもいらないわよ!!」

「いや、そこまでは」

「私はね!!無添加食品を態々高い金出して買って、ジムにも定期的に通って、人間ドックだって毎年受けてこの健康を保ってるのよ!!私がそれだけのことをして守っている健康を害した罪をあんたはどう償うつもり!?」

「ひとまず話を」

「人が話している時に遮るんじゃない!!そんなことも分からないのか!?何て無礼なヤツなの!!お前、なんていう名前!?」

「おばさん、だから」

「まずは自分はバカだと腹の底から大声捻り出して謝りなさいよ!!そっちが先だってどうして分からないの?善良な一般市民の命を削ってヘラヘラしてるようなバカですみませんでしたと謝ってから口を開きなさいよ、このバカ!!」

 半ば宥めるのを諦めかけている冷めた男の態度とは違い、中年女性の怒りはさらにヒートアップする。

「いい!!アタシが死んだらお前に殺されたって警察に通報させるからね!!全部お前のせいだからね!!喫煙者は犯罪者!!人の健康を害し、寿命を削る殺人鬼よ!!禁固なんて……いいえ、死刑すら生ぬるい!!一族郎党市中引廻しの上打首獄門にしなければ!!」

「おいオバサン」

「一一〇番通報しないと!まずこの男から速やかに射殺されなければならないわ!!」

「聞けって」

「おまわりさーん!!今私の健康がそこのバカのせいで殺されましたァ!!即刻射殺してくださーーい!!」

 ここに至り、男はことを穏便に済ますことを諦めた。

 これから仕事をするということもあってなるべくトラブルを起すことは避けたかったが、相手がここまで常軌を逸しているとなれば他に方法はない。それに、流石にこれは温厚な男をしてイラつかせるには十分だった。

 男は決断を下した。

「落ち着けよババァ」

 男は全く躊躇することなくギャーギャー喚き続けていた派手な中年女性の頭を鷲掴みにし、そのまま顔面を自動販売機に叩きつけた。自動販売機のガラスケース部分は勢い良く叩きつけられた女性の顔によって粉砕された。

 さらに、男はガラスケースのあったところにめり込んでいた中年女性の頭を引き剥がす。鼻の骨でも折れたためか鼻からは絶え間なく血が滴り落ち、砕け散ったガラス片が刺さったままの顔面は血で真っ赤に染まっていた。

「は……ふひゃ……はふへ」

 まだ女性には意識があったらしく、顔がガラスケースから引き離された隙に助けを求めて逃げ出そうとする。しかし、それを大人しく見逃すような男ではない。

「静かにしな」

 女性の頭部を掴んでいる男は、再度暴れる女性の顔を粉砕されたガラスケースに叩きつける。鈍い音が路地に響き、女性は一瞬身体を痙攣させた末に動かなくなった。

「高々煙草の副流煙程度で人は死にゃしねぇよ。金に物を言わせて色々と努力されているようだが、残念なことにそんなものは長生きとはほとんど関係のないものだ」

 男は動かなくなった中年女性を地面に投げつけ、その首に足をかける。

「お隣の国を見てみろよ。アホみたいに化学物質が垂れ流された下水を飲んでと排気ガスで色まで変わった空気を吸って、何が原料かも分からない食品や農薬まみれの農作物を食べ続けてきた世代がバリバリ元気で老後を迎えてらっしゃるじゃねぇか」

 男は足に力を入れ、一気に踏み抜いた。ゴキという鈍い音と同時にこれまで僅かに漏れていた中年女性の息遣いが止まる。

「悪ィな。確かにアンタを殺すことになっちまったが、警察に通報してやれねぇんだ」

 

 ――無駄な時間を使っちまったな

 

 男は既にモノとなった中年女性や、特に理由もなく破壊された自動販売機を一瞥して目的地へと向かおうと踵を返した。しかし、そんな彼を呼び止める声があった。

「待て、そこで何をしている」

 呼び止めた男は、全身を樹皮のようなもので覆った奇怪な姿をしていた。当然、その正体は即座に看破される

「ただものではないようだな……」

「オイオイ、プロヒーローのご登場か、シンリンカムイ。こんな夜に油売ってるなんて中々暇そうじゃねぇか」

 シンリンカムイは地面に横たわる女性と破壊された自動販売機を見て状況を即座に理解した。

「大の大人が非力なご老人になんということを。我が相手になろう」

「いや、これは正当防衛なんだが……見逃してくれねぇか、ヒーローさんよ」

「それはできない相談だ。大人しくお縄についてもらおうか、先制必縛――ウルシ鎖牢!!」

 シンリンカムイから伸びる樹は即座に男に絡みつき、その動きを封じる。そのスピードと正確性はまさに若手実力派の評判にも恥じない見事なものだった。

 しかし、全身の自由を奪われたはずの男の口調は余裕そのものだった。

「防火ジェルか。なるほど、自分の弱点もキチンと把握して対策を打っているわけだな」

 男は、自身を捕縛する樹木から漂う僅かな匂いからその臭いの正体とその狙いを即座に看破した。

「……貴様」

 シンリンカムイは警戒感を顕にする。この耐火ジェルは、自身の個性とは相性の悪い火系統の個性を持つ(ヴィラン)対策として試験的に導入したばかりで同業者ですらそのことを知るものはほとんどいないはずだった。

 それを見抜いたということは、この男は独自の情報網を持つか、優れた洞察力を持っているということに他ならない。どちらにしても、油断なら無い危険な相手だとシンリンカムイは判断した。

「何故分かるかっていいたげな顔だな。いいぜ、教えてやるよ」

 男は唯一動く首を回して視線をシンリンカムイに向け、そして不敵な笑みを浮かべる。

「専門……いや、弱点だからさ」

 その直後、男の手から噴出した炎がシンリンカムイの全身に襲い掛かった。男が自身と相性の悪い火系統の個性の使い手であることにシンリンカムイは驚きを隠せなかった。

「炎!?しかし、知っているはずだ!!私の身体には耐火ジェルが……!?」

 耐火ジェルがあれば、自身の身体が燃え出すことはない。多少強引だが、拘束を強くすれば相手の個性発動も抑えられる――そう踏んだシンリンカムイはさらに拘束を強くしようとするが、そこで予想外の事態に困惑することとなる。

「バカな……何故、()()()()!?」

 普通であれば、個性によって生み出された炎はそれが何か可燃物に引火しない限りは長くはもたない。また、炎が出ている時間が短ければ短いほど、何かに引火するリスクは小さくなる。

 シンリンカムイの耐火ジェルは、その炎が自身に燃え移るまでの数十秒に耐えるための装備だ。速さと正確性を突き詰めてきた自身の個性ならば、引火するまでの間に相手を無効化できるという自信もあった。

 しかし、何故か一瞬放射されただけの炎は自分の身体に引火し、全く消える気配がない。

「貴様……一体何をした!?」

 シンリンカムイの問いかけに、同じように炎の熱に当てられているはずの男は飄々とした表情を崩さずに答える。

「ナパームって知ってるか?昔々の戦争で、人も建物も森も焼き尽くすために作られた兵器でな。極めて高温で燃えるし、さらに燃焼時間も普通の燃料よりも長くなるように増粘性や可燃時間を増やす為に様々な化学薬品が添加された油脂焼夷弾の一種だ。人体や木材につくと親油性のせいで中々落ちねぇし、水をかけても消化は困難だ。消そうにもガソリン用の消火器が必要になる……って聞ける状態じゃねぇか。人に問いかけておきながら失礼なやつだなオイ」

 男が話している間もシンリンカムイの全身を覆う炎の勢いが衰えることはなく、熱傷が彼の身体を甚振る。

「グ……ぐ、うぁぁああ!?」

 全身を炎に包まれたシンリンカムイは、ついに無念と苦悶を滲ませた叫びをあげながら力尽きる。それを見届けた男は身体にまきつく樹を外し、さらにそこから火が燃え移った上着を脱ぎ捨てることで脱出した。

「ん?……」

 気がつけば、いつのまにか煙草の火が消えてしまっていたことに男は気づく。紅く変色しているところからして、先ほどの中年女性の血でも付着したのだろう。

 男は咥えていたタバコを燃える上着に近づけ、再度煙草に火を灯す。

「チッ……」

 どうにか再着火には成功したが、炎と立ち上る煙でそろそろ誰かがここに駆けつけるころだと男は判断した。男は燃える上着を中年女性の顔にかぶるように狙って投げ捨てた。

「いずれ、お前らも知るだろうよ。()()()と同じ時代に生まれなかったというだけで、俺たちは長生きできることが保障されているんだってことをな」

 男は、最後に燃えるシンリンカムイと男の燃える上着を被せられて炎上中の中年女性を一瞥した。

「さ……じゃあ始めるとしますか」

 

 煙草を燻らせつつ、男は何事もなかったかのように炎が灯り明るく照らされた路地を後にした。

 

「おじちゃんもいっちょいいところ見せちゃうぞぉ」




こんなババァ相手にしてれば葛西さんじゃなくてもキレます。私でもキレます。


シンリンカムイに使った火炎放射器の燃料は、史実アメリカ軍のナパームBに近い性質になるように調合をほどこしたものを使っているという設定です。


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7時限目 描<えがく>

東京のとあるビル。昼間はそのビル内にオフィスを構える企業の社員でごった返していたのだが、既に日も沈みビルの中で光が灯っているのは警備員が泊り込む一室だけとなっていた。

「全く……こんなビルに夜中に態々忍びこむやつなんてそうそういないだろ。監視カメラだけで十分じゃねぇか。面倒くさい……」

 もっとも、そう言いながらも彼は先ほどまで誰も見ていないことをいいことに監視カメラすら見ずにイヤホンをつけながらゲームをしていたのだが。

 愚痴を言いながら見回りの準備をするこの男の名は藤田貫市。

 以前は起業していたのだが、このとおりのいい加減な性格が災いして借金だけが残って会社は潰れた。その後様々な職を転々とした末にこのビルの警備会社に短期のアルバイトで採用されたという経歴の持ち主である。

「どいつもこいつも俺の意見を理解できない、話にならないヤツばかりだ……道案内一つでも話のつうじないヤツが多すぎる……ん?うお!?」

 藤田は警備員室から一歩踏み出した途端に足元を滑らせ、しりもちをついた。

「痛!?何だこれは!?」

 藤田は尻餅をついた際に地面についた手に奇妙な感覚を覚えた。

「油……か?ったく、どこのどいつが溢しやがったんだ!!」

 もしも彼が真面目に勤務していたならばこの数分前にビルの全ての配管で同時多発的に燃料が噴出した音に気づき、そのことを会社に連絡するなどの適切な対応を取れたのかもしれない。

 また、この時点で周囲を確認して油が警備員室前だけではなくフロア中に撒かれていることを確認し、その異常さに気づいたかもしれない。

 しかし、それらは全てもしも(IF)の話である。

 そもそも、この警備員が勤務態度も真面目で誠実に仕事をこなしていたとしても、何れ彼を襲う運命からは逃れられなかったことには違いはない。

 何故なら、バチっという何かが炸裂したような音を聞いた直後、彼のいたビルは全フロアから同時に出火し、瞬く間に燃え盛る塔へと変貌を遂げたからである。

 燃え盛る塔の内部にいた藤田は、最後に視界全てを覆う真っ赤な奔流が自身に迫り来る景色を見て、永遠に意識を失った。

 

 

 

 

 

 藤田という男が永遠に意識を失ってからおよそ一時間ほど経過したころの(ヴィラン)連合のアジト。つい先日まで多くの人間が集まっていたが、今日は黒霧と弔の二人しかいない。彼ら以外の(ヴィラン)連合のメンバーは雄英高校の合宿地へと既に旅立っていたからである。

「予定通りならそろそろ、目標を確保して回収地点へと移動を始めているころでしょうね……しかし本当に彼らだけで大丈夫でしょうか?」

「うん。今回は俺の出る幕じゃない。ゲームが変わったんだ」

 黒霧の問いかけに対して弔は気楽に答えた。

「これまではRPGで、装備だけは充実していたけど、実質は初期ステータスでラスボスに挑んでた。だけど、本当に俺がやるべきだったのは戦略SLG(シュミレーションゲーム)だったんだよ」

「パーティとしてではなく、組織としての戦いということですね」

「そうさ。俺は指し手(プレイヤー)であるべきで、使えるコマ(キャラクター)を使って格上の勢力を切り崩していく。その場の戦いだけ見ればいいんじゃない。手持ちの全ての要素を勝利のために計算づくで使ってくのが、俺のやるべきことだ。そして、その為にまず超人社会にヒビを入れる。」

 弔は変わった。考え方が変わり、目的のために必要なことを段階を追って実行するということを知った。

 黒霧は、素直にその成長が好ましいものだと感じていた。

 ただ、計画に自信を持ちすぎている点だけは気になっていた。計画を綿密に練ったから大丈夫だという考えは過信でしかない。しかし、それを素直に指摘して聞き入れるほど弔は器量は大きくないことは彼も理解している。

 こういう時は、後で葛西にそれとなく指摘してもらうのがいい。開闢行動隊が許容範囲内の失敗をしてくれれば、きっと嫌味混じりに指摘してくれるだろうと黒霧は期待していた。

「開闢行動隊の奴らが失敗しても成功してもどっちでもいい。そこに来たって事実だけでヒーローを脅かすからな」

「捨て駒ですか……」

「バカ言え!俺がそんな薄情者に見えるか?奴らの強さはホンモノだよ。向いてる方向は皆バラバラだが、頼れる仲間であることには変わりは無い。ただし、葛西を除いてな」

「葛西を信用されていないのですか?」

「あんな胡散臭いやつを信用できるか。あいつに関しては、何故ここにいるのかが全く分からないわけだからな。まぁ……今回も仕事はきっちりこなしてくるだろうからその点だけは評価するが、それでも重要な仕事を任せる気にはなれない」

 葛西が胡散臭い男であることは、黒霧も承知している。ただ、オール・フォー・ワンは葛西について色々と知っているようだから、全面的な信用まではできずとも最低限の信用ぐらいは置いてもいいと彼は考えていた。

 それに、あれでいて葛西は真面目だと彼は思う。少なくとも仕事は不備もなくこなすし、時に意見を出すこともあるが、それもまた核心をつくような重要なものだ。場の空気が悪くなったところでガス抜きができるあのコミュニケーション能力も、我の強い面子が揃っているこの組織では欠かせないものだった。

 弔にも、葛西を全面的に信じろとは言わないが、ある程度の信頼を寄せるべきだと彼は思う。弔がムキになるだろうからこの場では言わないが、組織を運用する以上はあのような人材の使い方も学んでいってほしいと黒霧は密かに考えていた。

法律(ルール)や道徳とやらで雁字搦めの社会で抑圧されているのはこっちだけじゃない……開闢行動隊はきっと成功するだろうさ。それに、葛西だってやってくれると思っていることには変わりない」

 そう言うと、弔はテレビをつけた。

 そのチャンネルでは、普段ならば視聴率一ケタ台で何故打ち切られないのか不思議な長寿であること以外にとりえのないつまらないバラエティー番組を垂れ流しているはずだったが、今日は重苦しい空気のスタジオから緊急ニュースを報道していた。

 

『東京都港区で大規模なビル火災が同時に複数で発生しました!!』

 逼迫した口調でアナウンサーは手元の原稿を読み上げている。

『警察等によりますと、午後八時頃、港区にある若尾ビルほか三棟のビルが同時に出火し、火は瞬時にビル全体に燃え移ったとのことです。その後、熱によってビルが倒壊し。現在も燃焼は続いているとのことです』

 画面はスタジオから、現場上空のヘリコプターからの空撮映像へと切り替わる。

『現在の、現場上空の映像です。空からも、倒壊してなおも燃え続けているビルの姿が確認できます。炎上して倒壊したビルがまるで漢数字の『六』を描いているようにも見えます。過去に、このような炎上して倒壊したビルを使って数字を描く今回の犯行の同様の手口を繰り返していた元全国指名手配犯、葛西善二郎容疑者との関係についても、現在のところ警察からの発表はありません。この火災による死者、行方不明者などの情報もまだ確認中とのことで、未確認情報ではありますが、倒壊したビルに取り残された職員と、倒壊に巻き込まれた家屋に住んでいた数十人ほどの行方が分からなくなっているとの情報も入っています。また何か情報が入り次第、このスタジオからお伝えしてまいります』

 

「これだけ派手にやれば、(ヴィラン)連合が動いていると奴ら(ヒーロー共)は考えるはずだ。そして、俺たちを追っているやつらも手がかりを集めて現場へと駆けつける……当然、こっちにヒーロー共が集まるほど合宿地への増援は遅れることになる。失敗してもどうでもいい仕事だが、結果は上々だ」

 弔は、画面の中で灯る『六』の火文字を見て口角を吊り上げた。




葛西さん「フィーバータイムの始まりだ!!」


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8時限目 報<ほうこく>

一ヶ月も空いてしまった……うん、戦略ゲーに嵌りすぎると時間の感覚がなくなりますな。


「ただいま戻りました」

 残業から解放されて自宅にようやくたどり着けた社畜のような気のぬけた口調と共に男はアジトのドアを開けた。

 男を出迎えたのは、アイスコーヒーを啜る弔と、空になったグラスを磨く黒霧の二人だった。二人は明らかに戦闘をこなした直後のボロボロの男に声をかける。

「おいおい、ただのパフォーマンス帰りにしては随分くたびれてるじゃないか。伝説の犯罪者様も年か?昔と同じことすら疲れるようじゃな」

「やっぱ若いころのようにはいかないもんでね。ヘマうっちまいました」

「貴方が怪我を負うとは、一体なにが?」

 黒霧は所々焼け焦げてボロボロになった衣服を纏う男に問いかけた。

「いや、煙草買いに行ったところでシンリンカムイに出くわしましてね。どうにか倒せたものの、中年にはキツイ運動でしたね」

 男がさらりと流したプロヒーローの名に黒霧は驚きを隠せなかった。

 シンリンカムイといえば、若手の中でも実力派として知られる次世代のホープである。かのヒーローの個性は植物系のため火の個性を持つ男は相性の点では優位であるが、それでも容易に下せる相手ではない。

「あのシンリンカムイを……」

「ふん、お前の個性との相性を考えれば、負ける方が恥だろうが」

 感服した様子の黒霧に対し、弔はぶっきらぼうな態度を崩さない。

 しかし、男にとっては弔の態度の裏に男に対する不信、対抗心とでも言うべきものがあることを見透かすのは難しいことではなかった。

()()()……それで、そちらの首尾はいかがでしたかい?」

 男は先ほど、弔のリクエストに沿って都心で大規模な火災テロを起してきた帰り道だ。しかし、男のテロは陽動に過ぎない。男の犯行が成功したとしても、本命の作戦が成功しなければ今回の計画は完全に失敗となってしまう。

「マスキュラーとムーンフィッシュが捕縛されましたが、他のメンバーは別のアジトに既に撤退していますよ。これから標的の圧縮を解くので、そこであらためて捕縛しないといけませんから」

「そりゃよかった、安心しましたぜ。周到な計画の賜物ですな」

 本命の方は上手くいっているらしいとの報告を受け、男は僅かに口角を吊り上げた。

「ふん、ここまで綿密に準備しておけば、失敗する方がどうかしてる」

 気に入らない相手の鼻を明かしてご満悦なのか、弔は僅かに自慢げな表情を浮かべていた。

 

 

 

 ――しかし、成長したとはいえまだまだ犯罪者としては三流の域をでねぇな

 

 男は口での賛辞とは裏腹に、一応は上司である弔に対して、内心ではかなり辛辣な評価をしている。

 確かに、今回の作戦は中々考えられた作戦であると言ってもいいだろう。

 葛西善二郎という大犯罪者を彷彿とさせる犯行を行うことでヒーローの注意を都心に釘付けにし、その隙をついて雄英高校の生徒を拉致する。

 目標を立て、それを実行するために敵戦力を分散、さらに注意を別のものにひきつけ、その隙に我の全力を投入する。合理的な判断である。

 ガスという特定の道や能力がなければ対処の難しい大規模攻撃に始まり、連携を引き裂きつつの各個撃破という点も評価には値する。

 しかし、歴戦の犯罪者である男からすればこの作戦は落第と評価するものだった。

 男のかつての同志、ヴァイジャヤであれば森を利用して不可視、無臭、遅効性のガスで生徒たちの動きを封じ、その上で目標を拉致しただろう。態々煙状のガスを使えばこちらがガスを使っていますよと公言しているようなものである。

 獲物を確実に仕留める鉄則は、こちらの手を可能な限り察知されないように隠蔽することにある。マスタードの能力をもう少し詳しく検証し、彼の能力では不可視の毒ガスを発生させられないと知った時点で別の毒ガスを準備すべきだっただろう。

 Mr.コンプレスの個性ならば森全体を覆うほどのガスの詰まったボンベを運搬することも難しくないだろうし、黒霧の個性を使えば設置場所も思うがままだ。少なくとも、この点に関してはいくらでも作戦の精度を向上させる余地があったのにそれを怠った。これは犯罪者としては大きな失点である。

 投入した戦力が捕縛されたという点も大きな失策である。

 ムーンフィッシュとマスキュラー、どちらもサイコキラーの傾向のある犯罪者である。自身の欲望に促されるがまま短絡的に犯行に及ぶタイプで、端的にいえばオツムの足りない暴れん坊とでもいうべきものだ。

 犯罪者としての優劣はその個人の戦闘能力や生まれ持った個性なんぞでは決まらない。その優劣は頭脳から抽出される悪意によって決まる。

 オツムのないサイコキラーなんぞ、ただの鉄砲玉にしか使えない。そんな犯罪者にはどうせ引き際を見誤って自滅する未来しかないからだ。

 ただ、鉄砲玉として使い潰すにしてももっと使い道はあっただろう。学生相手の鉄砲玉ではなく、非力な一般市民が多数いる戦場で大暴れさせるだけでも、ヒーロー側の注意をひきつけ、さらに一般人に多くの被害をもたらすことができる。バカとハサミは使いようというやつである。

 鉄砲玉であるというところまでは弔も理解していたし、用途は間違っていなかったが、投入する場所、タイミングは致命的な失策だったといわざるを得ないと男は考えていた。

 さらに、鉄砲玉であるあの二人に対して(ヴィラン)連合の情報を教えすぎていた点も致命的だ。

 鉄砲玉はいつかは掴まるという前提であり、捕まった時に漏れる情報は最小限になるようにしておかなければならない。それができないのなら、情報を吸い出される前に始末する。

 しかし、弔はそのどちらも怠った。

 態々現時点での(ヴィラン)連合の全ての実動戦力を集めて作戦会議や自分たちの大義や目的などを語り、各員の交流に関しても全く関与しなかった。鉄砲玉には過ぎる情報を与えていたのだ。

 さらに、ムーンフィッシュらが捕まったという事実に対しても、特に動こうとする気配はない――つまりは、口封じをするつもりもないと男の目には見えた。

 別に漏れてもいいような情報しか彼らは持ってないとでも思っているのだろうか、だとしたら想定が甘すぎるにもほどがあると男は思う。

 出身や趣味嗜好、名前や性格、外見や個性などといった情報は、一つでも漏らすべきではない。この国の警察はこの国において最も優秀な探偵だ。メンバーの情報を洗いざらい調べ上げてくるのも時間の問題だろう。

 アジトやメンバー構成、組織形態などが暴かれれば、組織の存続の危機になりうる。それに対して弔は無頓着としか言いようがないと男は思った。

 

 ――そして何より、この小僧(ガキ)()()()()()西()()()()という存在を見誤った。これは致命的な失策だな。

 

 男が思う、弔の最大の失策は、男に都心でビルを炎上、倒壊させて文字を刻めという命令だった。

 弔にしてみれば、かつて葛西善二郎が行った犯行を彷彿とさせることでより多くのヒーローの注意、警戒をひきつけることができるという判断だったのだろう。陽動作戦としてみれば、これは間違ってはいない。

 しかし、弔は六を意味する名を持つ男とその一味がこの国と国民に刻み付けた恐怖と、その尖兵となった炎の達人が刻んだ数多の業を甘く見すぎていた。

 確かに、彼の思惑は成功した。ただし、その一方でこの国の国民にはかつての惨劇の記憶と、新たなる惨劇の予感が湧き上がった。

 人々は思うだろう。()()恐ろしい存在が復活したと。

 その衝撃は、(ヴィラン)連合が世間にもたらす不安とは隔絶したものだ。

 人々は(ヴィラン)連合ではなく、復活したあの存在にこそ恐怖を覚え、不安を募らせることになる。(ヴィラン)連合の今後の活動のインパクトも相対的に薄くなり、組織の大義を果たすという点でも支障が出かねない。自分たちの世間における印象を自分たちの手で薄める結果なぞ、失策としか言いようがないだろうと男は思うのだ。

 また、今回の犯行は警察の警戒心を跳ね上げ、間違いなく彼らを本気にさせる。

 かつて新しい血族をも追い詰めたその力量を発揮されれば、まだまだ三流犯罪者でしかないトップが率いる知名度だけはある新興犯罪者集団なんぞさほど時間もかかることなく追い詰められるに違いないと男は確信していた。

 

「いくぞ、あの生徒をひとまず捕縛する」

 弔は黒霧が開いたワープゲートを潜り、姿を消した。

「葛西さん、貴方もご一緒してください。爆発物の扱いに慣れている貴方がいた方が捕縛もスムーズにいくでしょうし」

「はいはい、もう一仕事頑張りますよ」

 

 ――小僧(ガキ)警察(やつら)の熱量を見誤ってると痛い目を見るぜ。ヒーローなんかよりも、本気になった警察(やつら)はよっぽど手ごわい。ま、どうせ忠告しても聞きはしねぇだろうがな

 

 男は敢えて何も言うことなく、拉致した生徒を連れ出したアジトへと繋がったワープゲートを潜った。



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9時限目 官<けいさつかん>

篚口が変換で出ない……


 警察庁、警視総監室。

 警察組織のNO.3の執務室の前に、二人の男が並んでいた。

 大柄な体格の男と、対照的にほっそりとした体型の男だ。

 大柄の男の名前は筑紫候平。警視庁の刑事部長である。学生時代は柔道をしていたためか、体格は非常にガッシリとしている。現在でもトレーニングを欠かさず行っているので、多少の衰えはあれども体型にはあまり変化はない。

 対して、ほっそりとした体型の男の名は篚口結也。警視庁情報犯罪課課長であり、日本有数の腕前を持つハッカーでもある。

 

「久しぶりだね、筑紫さん」

「お前も呼ばれていたのか、篚口」

「そりゃ、あんな事件が起きたら呼ばれるでしょ」

「相変わらず、フランクな口調だな。また『正しい礼儀作法』でも見直すか?」

「カンベンしてよ……ありゃ洗脳だって」

「その洗脳も僅か一年で効果を失ったみたいだがな……さて、おしゃべりはこのぐらいにしておくか」

 男たちは軽口をやめ、扉の前で姿勢を正した。

 

「失礼します」

 筑紫がノックをし、扉を開いて一礼して中に足を踏み入れた。それに続き、篚口が入室する。

「よく来た。用件は分かっているな」

 部屋の奥、窓際にもうけられたデスクに腰をかけている男が口を開く。

「例の、都心のビル放火事件ですね」

「その通りだ」

「こっちでは全国の監視カメラの情報を収集してる。都心部のものに限れば、後二時間もすれば解析が終わるよ」

「……口のきき方は相変わらずだな、ひぐち」

「笛吹さんも、堅物なところは代わってないよね」

「ふん……色々と言いたいことはあるが、生憎時間がない。本題を続けるぞ」

 

 この部屋の主の名は、笛吹直大。

 かつて世間を震撼させた連続爆弾魔ヒステリアを逮捕し、あの葛西善二郎と葛西が所属する組織を追い詰めたという経歴を持つ、警視庁のトップに立つ男――現警視総監である。

 

 彼と筑紫、篚口との縁は古い。

 日本中を揺るがしたHAL事件、都心を狙った未曾有の大規模連続テロ事件といった四半世紀前の歴史的大事件も彼らが一丸となって取り組んだ事件の一つである。

 当時はまだ将来有望なキャリア官僚と、特例措置として公務員をやっているハッカー上がりの捜査員に過ぎなかった彼らだが、四半世紀もの時は彼らを出世させ、能力と経験に相応しい肩書きと絶大な権限を与えていた。

「あのような犯行ができる犯罪者は葛西善二郎しかいない。そして、あの火文字……血族が再び動き出した可能性が高いだろう」

 笛吹が切り出したその言葉に、筑紫も僅かに表情を堅くする。

 シックス。それはかつて日本中を震撼させ、多数の犠牲者を出す未曾有の大殺戮を繰り返した犯罪史上他に例を見ない大犯罪者である。

 戦争や内戦による大量殺戮(ジェノサイド)は歴史上少なくない例が報告されているが、国やそれに準ずるような政治的な目的を持つ組織でもない犯罪組織を指揮して天災にも匹敵するほどの被害を出した例など、シックス率いる新しい血族による一連のテロ以外にはないだろう。

 もしも、このシックスと新しい血族が活動を再開したとなれば、四半世紀前の悪夢が再びこの国で繰り返される可能性が高い。それは、この国の治安を守る警察からすれば到底看過できるものではなかった。

 だからこそ、笛吹は事件の発生の報を聞くと同時にかつて共にシックスと戦った二人を総監室へと呼び寄せたのである。

「筑紫、捜査チームの準備状況はどうなっている?」

「現在、特別捜査チームの人選中です。明後日にはチームを発足できるかと」

「待てん。明日までにチームの人選を纏めろ。細かな経歴や能力、人格は態々資料を取り寄せて調べんでもかまわん。お前が知る限りで問題ないと思う人材を集めろ。どうしても人が足らないならば、その時はこいつを使え」

 そう言って笛吹はデスクからファイルを取り出して筑紫に手渡した。

「私が知る限りの優秀な捜査官たちのリストだ。問題児や厄介者、組織にすらそぐわない異端者などもいるが、少なくとも能力は申し分ないし、新しい血族の内通者である可能性は低いと私が保証しよう」

「へぇ、笛吹さん、準備がいいね」

「シックスが死んだとはいえ、血族という組織が完全に崩壊したという保障はどこにもなかった。それに、葛西の生死もついに確認できなかったからな。いつやつらが活動を再開してもいいように、使える捜査官は常に一定数確保していただけのことだ」

 淡々とした笛吹は説明するが、常に一定数の警察官を新しい血族に対する捜査員候補としてマークし続けることなど、簡単なことではない。警視庁の警察官でも三〇万人を超えるのだ。その中で使える人材をリストアップし、さらに可能な限り彼らのバックグラウンドを探るとなると、かなりの時間と労力を必要とするはずだ。

 警視総監も暇ではないだろう。しかし、笛吹は激務の合間を縫い、常に血族への備えを怠らなかった。そのことからも、笛吹が血族に対して並々ならぬ警戒を抱いており、それは血族の首魁が死した今なお変わるものではなかったことがわかる。

「筑紫、これがあれば明日にはチームが組めるな?」

「はい。……お手数をおかけしました」 

「捜査チームの指揮はお前に任せる。令状が必要なら私に言え。証拠不十分でも構わん、お前が必要だと思うのなら遠慮なく請求しろ。後は私がなんとかする」

「はい」

 筑紫は見事な敬礼で笛吹に応える。そして、笛吹は篚口に視線を向けた。

「篚口、責任は俺が取る。全力でやれ」

「え?いいの?グレーじゃなくてギンギンのブラックなところまでやっちゃうけど?」

「この際法律上の白黒に拘っていられる余裕はない。それに、お前が案じることはない。お前達のような汚い存在の扱い方や処分方法はあの時に覚えさせられたからな」

「散々な言い草だよね。長い付き合いなのに」

「腐れ縁の間違いだろ。全く、お前の保護者を押し付けられて私がどれだけストレスを感じていたか……」

 あのころの心労でも思い出したのか。笛吹は米神を押さえ、眉間に皺を寄せていた。

「ま、胃痛と頭痛は管理職のお友達だからしょうがないよね」

 カラカラと篚口は他人事のように笑う。

「いや~やっぱ偉くなるってのもいいもんじゃないや」

「安心しろ篚口。お前も来年の人事で念願の中間管理職だ」

「へ?」

「私も目をかけてきた甲斐があった。まぁ、精々なれない職務と残業を頑張ることだな」

「そ、そんな~~」

 項垂れる篚口。しかし、隣に立つ筑紫はそれを全く気にすることなく笛吹に尋ねた。

「笛吹さん、そういえばあの“探偵”には連絡を取ったのですか?」

 探偵という言葉に、笛吹の眉が僅かに反応した。

「お前の言う探偵があの女のことを指すのなら、既に連絡済みだ……業腹だが、使えるものは何でも使わねば奴らには太刀打ちできん」

「彼女は、今どこに?」

「探すのに手間取るかと思ったが、案外簡単に見つかった。ヤツは今アメリカにいる」

 そう言って笛吹が筑紫に手渡したのは、印刷された電子新聞の記事だった。英語で書かれた記事だが、キャリアである筑紫にとって英語はできて当然のもの。日本語訳がなくともスラスラと読むことができた。

「世界ホットドッグ早食い選手権……日本人選手が連覇記録更新?」

「あ~、あいつならやりそうだね。というか、負ける姿が思い浮かばない」

「ヤツはアドバイザーとして捜査本部に非公式に参加させる予定だ……筑紫」

「はい」

「ヤツに出前を好き勝手にさせるなよ」

「あ~、前は二〇万近く笛吹さんが自腹切ったんだっけ」

「不用意な許可を出すことの愚かしさを思い知らされた。高い授業料だったがな……しかし、もしも捜査が行き詰ったなら、その時は私があの女の飲食費を出してやる。食費分の働きはするだろうからな。背に腹は変えられん」

 

 そう言うと、笛吹は席を立って窓から見える景色を見下ろせる位置に立った。

 

「かつて、二度も貴様等を取り逃がした。だが、警察を舐めるなよ。今度こそ、我々の手で引導を渡してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻 アメリカ ロサンゼルス

 

 ステーキハウスの一席に、まるでバベルの塔が如く空になった器が積み重なっている。

 周囲の人間は一体何が起きているのか、好奇心から近寄る。漏れ聞こえてくる声が観衆の聞きなれた英語ではなく、さらに声の高さからして、女性らしいことも彼らの好奇心を刺激した。

 そして、塔の影からその向こうにいる建設者を除き見た彼らは驚愕した。この塔の建設者は、細身の東洋人の女性だったからである。

 どんな圧縮率でこれだけの料理が彼女の胃の中に納まっているのか、東洋の魔術か何かかと思わせるほど、その女は大量の料理を食べていた。

「う~ん、やっぱり本場の米国産牛肉(アメリカンビーフ)のステーキはボリュームがあっていいよね~。サイズも最初から大きいやつを出してくれるし、チマチマとお肉を食べるのは性に合わないから助かるなぁ」

 その時、女のバックから携帯電話の着信音が響いた。

「うん?吾代さんから?」

 女は電話を肩と頭ではさみつつ、食事を続けながら応答する。

「もしもし?どうしたの吾代さん」

『どうしたもこうしたもねぇ!!ポリ公からの直々のお仕事だ!!』

「え~。まだ本場のロブスターも食べてないのに……」

『え~じゃねぇだろ!!大体、四〇超えたおばさんがんな気色悪い声だすな!!ロブスターはこっちで手配するからとっとと空港へ行け!!チケットも手続きも全て済ませてある!!』

「分かりましたよ……あ、ロブスターは二〇匹ね。後バッファローウィングも一〇人前、食後のデザートのアップルパイも一〇人前用意しといてくださいね、機内食も一〇人前積み込んどいて下さい!!じゃ!!」

『はぁ!?おい、こらたんて』

 女は携帯の電源を切ると、再び目の前の皿に向き直る。

「まだ後二〇人前あるしなぁ……しょうがない、ちょっともったいないけれど、早食いするしかないなぁ」

 

 

 その一六分後、女はステーキハウスを後にする。当然のことながら、食べ残しは肉の一欠けらもなかった。



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10時限目 補<つかまえた>

お久しぶりです。
死穢八斎會編をどうしようかと悩んでいるうちに気づけば早四ヶ月……未だにどうするか決まっていませんが、とりあえず切りのいいところまで書いてみて、後はその時になってから考えましょうかね。


「只今戻りました」

 

 黒い靄のようなワープゲートを潜り、7人の男女がシックなバーへと姿を現す。

 半分近い面々は傷を負ったり、泥にまみれており、その姿からは彼らが簡単ではない仕事を終えてきたことが分かる。

 

「上手くやったな」

 弔の賞賛に荼毘が答える。

「ご注文どおり、爆豪ってガキを連れてきた。これでいいんだろ?」

「いやいや、最後の最後でショウに邪魔が入ってしまった。俺もマダマダかねぇ」

 仮面をつけた男、Mr.コンプレスはそう言うと、掌をかざした。手を握り、再度開かれたその掌には、ビー玉程度の大きさの球体。一瞬で何も握られていなかったはずの掌から現れたその玉の中には、こちらを凄まじい形相で睨みつける少年の姿がある。

「上出来だ、荼毘」

 弔は顔を覆う掌の隙間から見える口角を吊り上げた。

 

――自分の作戦が初めて思い通りの結果になって、ご満悦ってところか?

 

 嬉しそうな表情を顕にする弔の隣、愛用の煙草を燻らせる男の心は、その場にいる誰よりも冷めていた。

 ヒーローの卵を拉致するだけの仕事だ。とはいえ、弔なりに費用対効果を考え、大義を果たすには効率的な策を考えたことは事実だろう。だが、まだまだ甘さが抜けていない。それが男の今回の作戦に対する評価だった。

 

「ところで、荼毘。マスキュラーとムーンフィッシュが捕まったのは聞いていたが、マスタードはどうなった?」

 出撃時にはいたはずの三人がいないことに気づいた男の問いに対し、荼毘は淡々と応えた。

「マスキュラーは多分、あの緑谷ってガキにやられたんだろう。ムーンフィッシュも他の生徒にやられたみたいだな。マスタードも、ガスが晴れたタイミングからの推察だが、こちらが目標を確保する前にやられたと思う」

「だから、置いてきたと?」

「囮を回収するような余力はなかった。このガキ一人連れ去るのも余裕なんて無かったな。思っていたよりも、生徒も先生も場数を踏んでいて手ごわかった」

「まぁ、生徒っつったって、あれだけ襲撃に晒されれば耐性がつくし、強くもなる、か」

「葛西、何が言いたいんだ。作戦は成功しただろうが」

 暗に、自分のこれまでの失敗が雄英学園の生徒達を鍛えさせ、マスキュラーらが敗退し捕らえられる一助になったと指摘されたと思ったのだろう。弔の口調には僅かに棘があった。

「いえ、想像以上に梃子摺ったなと思っただけですよ」

「フン、あいつらは囮だ。あいつらが引き際も誤って捕まるのも、想定には入っているからこのアジトにも黒霧のワープゲート経由でしか連れてきたことはない。大した情報が聞きだせるはずはないな」

 自信ありげに説明する弔に対し、愛想笑いを浮かべる男。

 

――アンタのこれまでのお粗末な作戦の皺寄せがなければ、たかが学生程度にやられる連中じゃなかっただろうに。それに、暴れるしか能のないマスキュラー(バカゴリラ)ムーンフィッシュ(無計画殺人鬼)と違って、マスタードはオツムはともかく、優秀な駒だった。ヴァイジャヤには及ばずとも、使い道は無数にあったはず。まだまだ、戦略ってヤツが分かってねぇな。

 

 男にしてみれば、弔の言い振りは想定が甘いにも程があった。

 確かに、マスキュラーやムーンフィッシュは遅かれ早かれ切り捨てる必要はあっただろう。下手に手元に置いていても我欲を優先して暴走する可能性は棄てきれないし、それが作戦の実行に大きな障害となることも容易に想像できる。

 だが、たかがヒーローの卵に拿捕されるような雑魚ではなかったはずだ。如何に素質があろうと、数で優っていようと、半年に満たないような訓練で彼らを相手に死者を出さずに勝利するなど、エンデヴァーの息子のような特殊な事情のあるものや、それこそ天賦の才を持ったものは例外として、普通の一五、一六の少年少女にできるはずがない。

 ましてや、彼らはここ数日の特訓で疲労を少なからず蓄積させている状態だ。コンディションは万全とは到底言いがたい。その状態での突然の強襲となれば、緊張、恐怖が身体を強張らせ、判断力を鈍らせる。こればかりは戦闘経験を積まない限りは克服できないものだ。

 本来の力を発揮できず、敗北するのが必然であった少年少女に勝利を与えたのは、USJ襲撃とステインとの対決の経験に他ならない。弔は生徒たちを強くしていたのに気づかず、彼らの戦闘力を過小評価していたというわけだ。

 その結果、(ヴィラン)連合は二人の戦闘員を失った。ただ失ったのではない。無為に失ったのだ。おそらく、彼らは仲間の情報もボロボロと口にするだろう。そこから警察が(ヴィラン)連合の構成員の身元を割り出し、彼らのデータを街中の防犯カメラの映像と照らし合わせ、足取りを辿る。骨格、顔、歩容などの認証システムはこの四半世紀で飛躍的な進歩を遂げており、それを活用するための仕組みも整備されているため、彼らの捜査の精度はとても高い。

 ()()()をたった数日の調査で窮地にまで追い込んだこの国の警察の力をもってすれば、早ければ明日にでもこのアジトまで踏み込んでくるかもしれない。それが成功すれば、弔の考えていた雄英とヒーローに対する世間の目を厳しくさせるという当初の目的は良くて七割ほどしか達成できなくなるだろう。

 男は最悪の想定として、ここまで考えざるをえなかったのだが、弔の中では、爆豪という少年を拉致した時点で作戦は成功となっていた。後は成果を待つだけと思っているのだろうが、反撃を受けてこちらが大打撃を受ければ成果も削られることには気づいていない。

 結果から見れば、ここでマスキュラーを投入したのは 悪手だったのだろう。生徒たちの能力を過小評価し、マスキュラーらに過ぎる情報を与えたという二点が弔の失策だ。

 戦闘力のみを期待するのであれば、脳無だって彼らと同等の力を期待できるだろうし、こちらの命令に対する従順さを考えれば脳無の方が断然に駒として優秀だ。加えて、仮に脳無が捕まったとて、彼らから得られる情報など皆無に等しい。せいぜい、解剖して得られる生体的なデータぐらいなものである。生徒たちの戦闘力と、マスキュラーの持つ情報という点を考慮していれば、脳無を投入するのがベストだったと男は思う。

 オールマイトを抹殺するぐらいの成果を挙げていれば、ヒーローと警察の逆襲を受けたとて世間に与えるインパクトは前者の方が遥かに上だが、今回のような規模の成果であれば、逆襲を受ければ損益が逆転することだってありえる。目標を達成した後、失敗した後のことまで考えるのが作戦というものだ。

 

「それに、人のことを言える立場か?お前だってシンリンカムイに犯行前に見つかるヘマを犯し、しかも倒したとはいえ、苦戦してボロボロにされたんだろうが」

「シンリンカムイ?葛西ちゃんが戦ったの?」

 長髪にサングラスをかけた大柄の男、マグネが意外そうな表情を浮かべながら男を見やった。

「煙草を買いに寄り道してたら偶然出くわして、つい()っとなっちまってこのザマだ。中年には若いモンの相手は厳しいな」

 実際、男は反省していた。運が悪かったとはいえ、あのシンリンカムイを相手に派手に戦ったのだ。下手をすれば周囲に他のヒーローも駆けつけ、自分の姿が見つかる可能性もあった。万全を期すならば、逃走用の着替えでも用意しておいて、何かあった時に着替えるくらいの備えをしておくべきだったのだろう。

 防犯カメラがなく人目のあまり無い道はあらかじめ逃走経路として全て頭に叩き込んでいたが、だからといって絶対に人の目に触れないわけではない。ボロボロで焦げ臭い服を着た男が誰かの目に留まる可能性は十分にあったのだ。

 男もまた、偶然が重なったとはいえ、警戒を怠っていたという反省はしていた。元々弔に一々駄目出しをするつもりがないのもあるが、男は自分にはその資格もないと思っていた。

「伝説の犯罪者の評判に偽り無しね。あの若手ナンバーワンを返り討ちにするなんて」

「……それに対して、俺はあのふしだらな女に翻弄される体たらく。ステイン様の遺志を継ぐものとして恥ずかしいな」

 マグネに続き、スピナーも男を賞賛する。

 男が認められている様子を見たからか、弔からは先ほどまでの上機嫌さが消える。

「……っち、まあ、いい。Mr.コンプレス、捕らえた生徒を解放してくれ」

「構わないが、いいのか?絶対彼は暴れるぜ?」

「この密室で、この人数差があれば取り押さえるもできるだろう。お前の能力が解除されたら、すぐに全員で取り押さえる。手錠と拘束具は手配済みだ。まずは、気絶させればいい。それほど難しいことじゃない」

 弔からの指示を妥当だと見たのだろう。Mr.コンプレスは何も言わずに部屋の中央に立って爆豪を捕らえている玉を右手で掲げた。それに合わせて、彼を包囲するように他のメンバーが陣取って警戒する。男もまた、この部屋の唯一の出入り口である扉の前に立ち塞がった。

 体育祭での成績や、拉致実行時の激しい抵抗からも、爆豪という少年の戦闘力が油断ならないものだと、ここにいる誰もが理解していたからだ。圧縮が解除された一瞬で反撃に出ることも十分に考えられる。だから、囲んで、確実に彼の意識を刈り取る必要があった。

 

「三、二、一でいくぞ。三……」

 トガはナイフを取り出し、姿勢を低くする。スピナーもその隣で刃物の塊のような武器を構えた。

「二……」

 マグネは身の丈ほどもある鈍器を構え、トゥワイスはその後ろでいつでも加勢に入れるように備える。

「一……」

 荼毘と黒霧は自然体。だが、自分たちのところに来たならばいつでも迎え打てるように備えている。彼らの後ろで椅子に座る弔は、自分の出る幕はないと思っているのか、深く腰掛けている。

「ゼロ!」

 Mr.コンプレスが能力を解除すると同時に走り出すトガ、マグネ、スピナー。先ほどまで誰もいなかったはずのコンプレスの眼前に現れた少年に向かって彼らは飛び掛る。だが、その直後彼らを襲ったのは視界を焼かんばかりの閃光と、一〇〇kgはあろうかというマグネの巨体をも押し留める爆風だった。

「ガッ!?」

 部屋にいたメンバーは突然の閃光と爆風で一瞬であるが動きを完全に封じられた。そして、解放された爆豪はその隙を逃さない。最初の爆発の勢いをそのままに、この部屋の唯一の出入り口であるドアに向かって突進する。

 誰もが一瞬、何が起こったのか理解できないでいるが、ドアの前に陣取っていた男だけは先ほどの閃光と爆風が意味するものを理解していた。そして、爆豪の狙いも一瞬で看破する。

「どぉぉけぇ!!」

 爆風で加速した爆豪がその右手を男に向けて突き出す。直後に爆豪の右手から男の顔面に向けて爆炎が放たれる。だが、男は全く避ける動作を見せなかった。男が行ったのは、僅かに俯き、爆炎を帽子に当てただけのこと。爆炎は帽子を半壊させるが、男の皮膚には熱以外は殆ど届かなかった。

 しかし、それは爆炎から顔面を守ると同時に、男の視界を大幅に狭めることにもなる。当然、その隙を逃す爆豪ではない。彼は視界を奪われた男の横をすり抜け、その背後のドアのノブに手をかけようとする。だが、ドアノブまであと数cmまで迫ったところで、爆豪は突然脇腹に激しい衝撃を受けて吹き飛ばされる。

「悪ぃな、そこは通行止めになってんだ。諦めな、爆発小僧」

 爆豪を吹き飛ばしたのは、男の膝蹴りだった。男は視界を封じられながらも爆豪の動きを完全に読み切り、その針路に膝を叩き込んだのである。

「クソジジィがぁ……!!」

「おいおい、確かに俺ァ中年に両脚突っ込んでるミドルだが、更年期にはまだ早ェえよ。流石にジジイ扱いはカンベンしてくれ」

「やかましい!!そこを退いて殺されるか、立ち塞がってブッ殺されるか、好きな方を選びやがれぇ!!」

 爆豪は再度、男に向かって飛び掛る。それを迎え撃つ男。そして、二人の腕がクロスする瞬間、爆豪は両手から爆発を放った。

 しかし、その直後、爆豪は床に勢いよく叩きつけられる。額を激しく床に打ちつけたためか、歪む視界と不確かな平衡感覚。肺から一挙に空気が押し出され、喉が詰まるような感覚。

 何が起こったのか、彼には理解できなかった。うつぶせのまま両腕を捻りあげられた爆豪に理解できたのは、ドアの前に立ち塞がっていた男の声だけだった。

「初手の自爆は、まぁ悪くねぇ。戦力差を理解していて、脱出という最終的な目標のために、リスクを理解して判断したんだろ?」

 彼とて愚かではない。この人数差で全員を制圧することは不可能に近い。特に、自分を拘束していたあの仮面の男に関しては、触れられるだけで終わりだ。だから、まず優先すべきは脱出だと判断していた。だからこそ、彼は解放された直後に自爆という手札まで切った。

 火傷を負ったが、代わりに近くで構えていた三人の動きを封じることができた。そして、周囲の敵が怯んだ隙を突いて一直線で脱出口であるドアを目指した。戦術に関しては弔よりも遥かに上を行っていると男は評価する。

「だが、相手が悪かったな」

 爆豪を拘束していたのは、男だった。手首を押さえられた爆豪は抵抗できなかった。彼の爆発は掌の汗腺から分泌されるニトロの特性を持つ液体を起爆させるものだ。だから、手首を押さえられれば、爆発の向きを変えられない。完全に詰みだった。

「てめぇ……!!」

「掌から爆炎を放出する際、身体は当然反作用の法則で反動を受ける。対人戦でそれを使うとなりゃあ、上半身のしなりと、下半身の粘りで反動を上手く受け流さなけりゃいけねぇ。その点、お前さんは中々上手くやってると思うぜ」

 爆豪は身体が動けば殺してやると言わんばかりの形相で男を睨む。

「だが、爆発の規模が読めれば、それを最大限に活かすタイミングも分かる。それが分かれば、後は身体のバランスをちっと崩してやれば自爆させられる」

 元々頭の回転の速い爆豪は、男の口ぶりから、男がやったことを大体理解していた。男は、爆豪が汗を起爆させるタイミングを完璧に読み切って、爆発の直前に爆豪の手首をいなし、爆発のベクトルを僅かに変えさせた。

 さらに、男は爆豪に脚払いをかけ、反動を受け止めるはずの足元を崩す。

 爆発の反動を受け流しきれずにバランスを崩した爆豪を転ばせるには、少し彼の手首を引っ張るだけで事足りる。後は、額を床に打ち付けた爆豪の背後から両手首を押さえ、背中を脚で踏みつければ拘束は完了だ。

「けどな、爆発は俺の専門だ。研鑽が足りねぇぞ小僧」

 爆豪の首筋に打ち込まれる打撃。おそらく、男以外の何物かの手刀だろうか。爆豪の意識は暗闇へと墜ちていった。



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11時限目 糧<きょうくん>

お久しぶりです。


 (ヴィラン)連合のアジトからほど近い神野駅前のパチンコ店。

 雄英高校から拉致した生徒を軽く捻って昏倒させた男は、煙草を補充するという名目で(ヴィラン)連合のアジトを抜け、一人パチンコに興じていた。

 黒霧からは早急に戻るように言われていたが、男には黒霧の言葉に素直に従う義理はなかった。弔も自分が呼ぶまでは戻ってこなくていいと吐き捨ていた。

 愛用の煙草を燻らせながら玉を弾いていた男は、ポケットに入れていた携帯電話が震えていることに気が付き、画面を確認した。

 今しがた受信したメールには、発信者の名はなかった。本文も「入ります」の一文のみだったが、男はこの一文ですべてを理解した。

 画面を一瞥した男は吸いかけの煙草を灰皿へ圧しつけ、銀玉で満たされている手元の箱を見やった。

 下皿の出玉を電子情報にして記録するタイプのパチンコ台が普及している中、男はあえて昔ながらの下皿に玉が出るタイプの機種を選んでいた。

 男は、パチンコは玉が溢れんばかりのドル箱を積み上げるのが醍醐味だと思っている。だから、現代の主流となっている出玉が数字でしかあらわされないタイプの機種には見向きもしない。例えドリンクホルダーやひじ掛けがなくとも、下皿に出玉がたまる機種でなければ座らないというのが男の考えだった。

「この台は悪くない放火と思ったんだが」

 この空間にいる人々は、鼓膜に断続的に叩きつけられる電子音に耳を塞がれ、目の前の玉と釘から目を離せなくなっていた。当然、彼らの周囲への注意は散漫となる。隣でこの台はもうダメだと見切りをつけて席を立とうとしている男が、つい先ほどのニュースで(ヴィラン)連合のメンバーの一人として取り上げられていたことにも彼らは気づかない。

「チ……湿気てんな」

 男の手元には両手で運べるだけの玉しかない。店員をその場に呼んで男は玉の入った箱を手に景品交換コーナーへと向かい、玉と交換した小さな金のチップと缶コーヒーを手に店を後にする。

 店の近くにある問屋で金のチップを現金に換金するが、負けた男の表情は渋いものだった。

「クソみたいなババァに絡まれるわ、負けるわで嫌な()だな」

 

 

 

 店を出ると同時に男は帽子を深くかぶり直し、目の前のビルの壁面に設けられたオーロラビジョンへと視線を移した。

「よくやる」

 男は手に持っていた缶コーヒーのプルタブを引き起こし、中身を一気に呷る。

 

『これは、先ほど行われた雄英高校の謝罪会見の映像です』

 

 オーロラビジョンに映るのは、背広を着た二人の教師と、服を着こんだネズミの姿。

 

『この度――我々の不備からヒーロー科1年生27名に被害が及んでしまった事、ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を怠り、社会に不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした』

 

 雄英高校の謝罪会見。かのNo.1ヒーロー(オールマイト)No.2ヒーロー(エンデヴァー)をはじめ、数多くのヒーローを世に排出した名門高校の謝罪会見が夜のニュースのトップとして扱われるのも当然のことだった。

 担任教師のイレイザーヘッド――マスコミ嫌いで有名な彼が頭を下げた時には、たかれたフラッシュが画面を支配した。

 日ごろから雄英高校への取材を徹底的に拒否され、取り付く島もなかった鬱憤を晴らすかのように、記者たちはここぞとばかりに教師たちを責め立てる。真実の追求とやらをお題目に立てて誹謗中傷を行うことを生業としている記者たちが、ただ教師たちが非を認めるコメントを取りたいがために何度も似たような質問を繰り返す光景を見ていた男は、薄く笑った。

 やがて画面は雄英の記者会見の映像から、スタジオへと移りかわる。報道番組の司会を務める白髪の老人は、向かい側に座る中年の女性に意見を求めている。

 

『コメンテーターの井関さん、この雄英高校の会見をどのようにご覧になりますか』

『そうですね、雄英に本当に生徒を預かっているという意識も、危機管理能力もなかったのでは?あのイレイザーヘッドなんて生徒を何人も退学にさせているそうじゃないですか。そんな心ない人間が本当に生徒のことを案じているのか、信じられるものではありませんね。イレイザーヘッドに教師の資格がないというのが一般的な日本国民の認識ですよ』

 

 ――今のところはあの坊ちゃんの狙ってたとおりの絵が撮れてるわけだ。さぞかし鼻高々だろうな。

 

 男は、あのバーで自慢げに今の社会の矛盾を捕えた子供に解説する弔の姿を幻視する。

 弔が作戦前に勿体ぶりながら今回の作戦の戦略的目標と題し、自身の狙いについて男らに説明していた。

 第一段階として、繰り替えされた雄英高校への襲撃と、防げなかった生徒の拉致という結果をもって、無責任で流されやすい世間がヒーローを非難するという構図を作り上げる。

 そして、拉致された生徒を奪還できないヒーローへの不信が広がったところで、第二段階として拉致した生徒を(ヴィラン)連合の仲間として実践に投入。ヒーローを育成するはずの雄英高校から(ヴィラン)が排出された事実は、ヒーローに、そしてそれを治安維持のために用いる社会制度そのものに不信感を抱かせることになる。

 弔自身は癪に障るのか敢えて説明しなかったが、ヒーロー殺し(ステイン)の逮捕により世間に広く認知されるようになった「英雄回帰論」もまた、弔の目標達成に大きく貢献することになるだろう。

 

 これまでの弔の行った作戦は、オールマイトを殺すためにオールマイトが教師を勤めている雄英高校の授業を襲撃するだとか、ヒーロー殺し(ステイン)への嫌がらせのために脳無を投入するといった作戦の結果が目標達成とイコールというよく言えばシンプルな、悪く言えば捻りのないものばかりだった。

 しかし、弔が自分たちのやるべきことはそもそもRPGじゃなく、戦略SLGだなどと零していたことを男は黒霧から聞いている。そして、既に目標は達成したものと考えている。

 

 ――ゲームなら一度達成された目標がスコアになる。けどな、そこからさらにひっくり返せるから現実(リアル)なんだ。

 

 男は、この会見を行ったヒーロー達の思惑を察知していた。

 

『現在、警察と共に捜査を進めております。我が校の生徒は必ず取り返します』

 

 前提として、このような会見でヒーロー側が「捜査は順調に進んでおります」などと馬鹿正直に言うことはまずない。自分たちの捜査状況を秘匿することが、(ヴィラン)側に対するアドバンテージとなりうるからだ。

 ただ、(ヴィラン)側が自分たちに追跡の目が向いていないという自信があり、かつヒーロー側が捜査が進捗している具体的な結果を出せていない場合、(ヴィラン)側の心理として多少なりともヒーロー側の捜査が難航しているという印象を抱くのは不思議ではない。

 おまけに、今回は事件発生からこの会見まで一日しか時間が経っていない。このことも(ヴィラン)側に油断を抱かせる。

 そして、その油断をヒーロー側は突く。

 

 ――警察から得た情報をもとに誘拐された雄英高校の生徒の居場所を突き止め、精鋭部隊をもって突入。生徒を保護すると同時に、(ヴィラン)連合の中心メンバーを一網打尽か。悪くない。けどまぁ、やはりヒーロー共は生温ィな。

 

 しかし、男はそんなヒーロー側の思惑もすべて看破していた。遠からずヒーローの突入があることを察知したからこそ、男は(ヴィラン)連合のアジトであるバーから抜け出したのである。

 No.2ヒーロー(エンデヴァー)を筆頭にNo.4ヒーロー(ベストジーニスト)No.5ヒーロー(エッジショット)が動いていることは男の協力者によって、男の知るところとなっていた。このタイミングでヒーローランキング上位のヒーロー達が一斉に動く理由は、雄英高校の生徒奪還以外には考えられない。

 男からしてみれば、ヒーロー達の捜査能力は御粗末なものだった。犯罪者を捕縛する能力はかつての警察の実働部隊をも上回るだろうが、ただそれだけとも言えた。

 

 警察による広範囲に亘って迅速かつ綿密に行われた調査と、逃走ルートを完全に遮断する完璧な包囲網。通常、警察がこのような大規模な動きをすれば当然葛西の部下達の知るところとなっただろう。しかし、常識を超える少人数の調査によって調査も包囲網も血族に全く察知されることなく実行できたならば、伝説の犯罪者、葛西善二郎を追い詰めることだってできた。

 自分たちの動きを悟らせないことこそが、犯罪者を追い詰める側に求められる大きな要素の一つであるが、男からしてみれば、ヒーロー達の動きは隠密とは言い難いものだった。

 ヒーローは基本的に活動範囲を限定していることや、メディアへの露出や世間からの注目が大きく一挙手一投足がSNSに書き込まれることから、その動向が見えやすい。調査は警察の仕事の部分が大きいということもあるが、ヒーローには調査や臨場を隠密に行う意識が乏しい。

 ヒーローたちの行動の隠匿は、社会の表で暴れる(ヴィラン)相手であれば十分であっても、悪意を研ぎ澄ませた本物の犯罪者相手では不十分だった。

 

 

 

 ――贔屓の生ガキのピンチだ。さて、どうするんだオール・フォー・ワン。

 

 

 

 男は神野駅前のオーロラビジョンに背を向け、アジトの一つがある歓楽街方面へと足を向けた。

 

 

 

 




葛西さんと言えばパチンコ

玉足りなくてとなりのドル箱山のように積み上げてるじっちゃんから一掴み玉を借りるところまでがお約束。


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12時限目 焦<あせる>

 横浜市神野区の繁華街。度々衝撃波が襲ったため、この一帯も一部は半壊している。そこで一人、煙草を咥えて佇む男の持つスマートフォンの画面には、上空の報道ヘリが捉えた数百m先で繰り広げられている戦闘の模様が映し出されていた。

()ャハハハ!!やっぱりこうなったな。警察(ヤツ)らを甘く見すぎなんだよ、クソガキ」

 爆豪を捕縛して眠らせた後、自宅まで煙草を取りに行くと言って男はアジトを後にし、つい先ほどまでパチンコに興じていた。

 男はアジトの場所が警察に察知されるのが時間の問題だと考え、危険を回避するために一人だけ脱出したのである。アジトに残った面々をも欺いた理由は、言っても弔の機嫌を損ねるだけだったし、そもそも彼らに対して仲間意識というものを男が抱いていなかったということもある。

 唯一黒霧には仲間のサポートで苦労させられている様子にシンパシーを感じていたが、下手に助けて余計な苦労を背負い込みたくないという思いから見捨てていた。

 それからおよそ二時間でこの騒ぎ。これは間違いなく警察にアジトを突き止められ、突入された結果だろう。男の懸念は男の予想よりもかなり早く現実のものになった。

「しかし、結局は俺も警察(ヤツ)らの熱量を見誤っていたってことか。まだまだだな、俺も」

 先ほどの雄英高校の会見での校長の発言も恐らくは(ヴィラン)連合を油断させるための罠。全て計算づくでの突入と生徒奪還だったと見ていい。完璧だと思っていた計画をここまで見事にご破算にされた弔の顔を見てみたい。男はそう思った。

「これまでの失敗のツケを払わされて絶対絶命……んでもって保護者に泣きついたってところだな。生ガキだとは思っていたが、まさか親離れすらできてねぇとは思わなかった」

 そして、No.1ヒーロー(オールマイト)と対峙する黒づくめの大男。()()()と悪の覇権を争った正真正銘の悪にして、(ヴィラン)連合の後見人、オール・フォー・ワンがそこにいた。

 オール・フォー・ワンが出てきたということは、弔がそこまで追い込まれたということ。しかも、今回は返り討ちにあったのではなく、こちらが襲撃を受けたのだ。どちらが優位かは言うまでもない。

「毎度毎度あの子供の尻拭いとは……オール・フォー・ワン、やっぱアンタは衰えた」

 男はスマホを懐にしまい、咥えていた煙草を灰皿に押し付けて屋外喫煙スペースから退出する。

「けど、まぁ……このままの展開だと、つまらねぇな」

 帽子を深く被りなおし、男は轟音の響く戦場へと脚を向ける。

 

「もっと燃える結末(オチ)を用意してやりますか……()()()!」

 

 

 

 

 

「……おかしい」

 

 雄英生徒誘拐事件捜査本部。そこに詰めていた笛吹は、次々と上がってくる情報の全てに目に通していた。しかし、そこには笛吹が最も欲していた情報は全く出てこない。

「葛西はどこだ……?」

 (ヴィラン)連合のアジトに突入した際、そこにいたのは黒霧という男に、首謀者の死柄木弔、雄英合宿襲撃に姿を現したメンバーのみ。事前の情報で、(ヴィラン)連合に合流していることが分かっていたはずの葛西善二郎の姿はどこにもなかった。

 雄英高校の襲撃と同時刻に行われた都内でのビル放火事件や、その直前におこった若手ヒーローシンリンカムイが襲撃された事件から察するに、葛西が(ヴィラン)連合の中でも単独行動を取っている可能性は高いことは分かっている。しかし、突入時に(ヴィラン)連合の主要メンバーが集まっていたことを考えれば、その場にいる可能性が高いはずである。

「現場での聞き取りの結果、葛西らしき人物がこのアジト近辺に頻繁に姿を現していたことは確認できたのですが……」

 筑紫も葛西がいないという想定外の事態に険しい顔をする。

「あそこに葛西が出入りしていたことは事実。だが、突入のタイミングであいつだけがいない、ということか」

 

――内通者か?いや、ならばどうして葛西だけがいない?

 

 笛吹の脳裏を過ぎったのは、敵に情報を漏らしている内通者の存在。かつて、新しい血族と戦った際にも、警察内部の内通者の手によって捜査本部は大きな痛手を被り、笛吹自身も笹塚という悪友を失っている。同じ徹を踏むことだけは避けなければならない。

 雄英の教師陣と、特別講師しか知らないはずの合宿場所を襲撃された件といい、こちらの情報を知る術を(ヴィラン)連合は持っていると笛吹は確信していた。

 しかし、もしも内通者がいるのならば、葛西以外のメンバーが全員残っているというのも不自然だった。

 偶然席を外していた。そう言うのは簡単だが、彼らを相手にして、都合の悪い推測を「偶然」などという陳腐な言い訳で看過するわけにもいかない。葛西が現在進行形で新たな犯罪の準備を進めているために別行動をしている可能性もあるのだから。

「血族と(ヴィラン)連合の繋がりは何か分かったか?」

「いえ。当時の資料を洗いなおしてみましたが、シックスの関連企業や犯罪履歴からは繋がりは確認できませんでした。事件後の残党の足取りも調べましたが、国内では何も発見できませんでした」

 筑紫の報告を聞いた笛吹はわずかに顔を顰めた。

「……ヒーロー共はあの(ヴィラン)連合の名目上の頭目である子供と実質的頭目であるあの男、後は脳無とか言われる改造人間の確保に血眼になっているが、あの組織の本当の脅威を理解できていない。少なくとも、葛西はあの組織の中で二番目に優先しなければならない目標だ。なのに、その足取りも何もつかめないとは。手詰まりだな」

 

――こんなときに、あのアホそうな探偵ならば意外とすぐに結論を導き出せるのだろうな。

 

 あの女探偵との付き合いは、もう二五年にもなる。当時女子高生だった彼女も、四〇代だ。高校卒業後は世界各地を飛び回り、探偵としての業績は世界でもトップクラスと言ってもいい。

 今回の事件も、新しい血族が絡んでいることもあってアメリカでフードファイトに興じていた彼女に協力を要請した。既に日本に到着していることは、警察に届けられた機内食サービスの領収書から分かっているが、空港到着後の彼女の足取りは分かっていない。

 しかし、笛吹は彼女のことを全く心配してはいなかった。

 HAL事件の時も、彼女はそうだった。傍から見れば、彼女がそんな頭脳明晰な、小説などに出てくるような切れ者の名探偵には見えないだろう。しかし、彼女はああ見えて人の心をとても深く理解している。そこから事件解決の糸口を掴み、解決へと導くのだ。

 きっと、今もどこかで人間離れした胃袋を満たしているか、人知れずこの一連の事件の真相に迫っているのだろう。

 

――まぁいい。葛西のことは後だ。ヤツラを縛り上げることができれば自ずと葛西の居場所を知る手がかりも手に入る。

 

 笛吹は意識を切り替え、現場の状況がどうなっているかこの捜査本部の設けられた一室の隅にいる連絡係に確認を求めた。

「神野区の避難はどうなっている?」

「現在、現場に駆けつけた警官が住民の避難誘導をしていますが、未だに住民が残っているようです。オールマイトの見物客などの野次馬が集まり始めているらしく、彼らの避難にも梃子摺っています」

「ヒーロー見たさの野次馬か、忌々しい。では、誘拐された少年は?」

 筑紫は首を振った。

「未だ保護したという情報は入っていません」

「結局、オールマイト頼みか……いつからこの国の警察は無力な(ヴィラン)引き取り係に成り下がった、いつから、警察は犯人を捕らえられない組織にまで落ちぶれた」

 笛吹の嘆きに、筑紫は返す言葉がなかった。

 脳裏を過るのは、かつての新しい血族との闘い。警察官としての誇りと、責務を守るために戦い抜いた日々。あのころの自分たちにあった熱意は冷めていないと筑紫は思っている。しかし、警察という組織にあのころの熱はあったかと言われれば、首を横に振らざるをえなかった。

 犯人逮捕はヒーロー任せで、警察が担うのは根気が要求され、華々しい成果として認知されない地味な捜査ばかり。

 確かに、国家権力を背景にした警察機構は一般市民にはない捜査権を有している。しかし、現行犯であれば逮捕権は一般市民にも存在するのだ。その権利を限定的に拡大する形で認められた国家機関としてのヒーローという制度は、警察から牙を抜いていったと筑紫は感じていた。

「かつて女子高生探偵の捜査に助けられてきた我々が言うのも憚られるが、今の警察の現状は情けないとしか言いようがない。」

「笛吹さん……」

「分かっている」

 自分たちの会話が聞かれればこの現場の士気を下げることぐらいは言われずとも笛吹は理解している。だからこそ、顔の前で手を組んで筑紫にのみ聞こえる大きさに声を抑えていた。本来であれば場所を選ぶべき発言であるが、問題になる可能性は低いとはいえ、このような場所で零してしまったことに対し、笛吹は自分の制御できない感情の揺らぎを自覚した。

 葛西の動向が一向に掴めないことに対する焦りと、犯人確保を自力で行えない警察の無力さに対する怒り、そして、かつての警察の力を知るが故の失望。

 筑紫もまた、笛吹の胸中が理解できた。笛吹と違って表に出ていないだけで、筑紫も思いは同じだった。

 しかし、現状を憂う彼らの意識は連絡員の絶叫じみた大声で現実に引き戻された。

 

「脳無捕縛部隊からの連絡途切れました!!」

 

「生徒保護部隊も新手の襲撃を受けています!!」

 

「歓楽街方面で大規模な爆発があったとの報告が!?」

 

「ベストジーニストが重傷!?」

 

 たて続けに入る想定外の事態を知らせる報告に、捜査本部の警察官たちもどよめいた。ヒーローランキングトップ5のうちの4人を動員した作戦ということもあって、彼らは成功を確信していたのだろう。

 笛吹は狼狽する捜査員たちを前に声を張り上げた。

「狼狽えるな!!まずは現状の把握からだ!!敵の人数、構成、こちらの被害を最優先で纏めろ!!」

 笛吹の一喝で捜査本部は落ち着きを取り戻した。しかし、笛吹の額によった皺はより一層深くなっていた。




シンリンカムイがいなかったことから、原作よりも少し連合メンバーの捕縛に時間がかかったという設定です。
なので、警察にも突入後の状況が少し詳しく把握する余裕がありました。


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