リバースフラッシュが走る (バケツ頭)
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第1話 リバースの誕生

前々からオリ主にヴィランをやりたかったんですよ!
(原作開始一年前に変更しました)


私の話を理解する前に重要な事がある。それはあり得ないことを信じること。出来るかな?ハハッ、分かった。先ずは何から話そうか………そうだな、私が死んで神様に会った時の話から始めよう。

 

 

 

私が神様に会ったのは仕事の帰りに漫画喫茶へ寄ろうとした時だった。私は後ろから迫るトラックに押し潰されたんだ。当然の事だが私は死んだ。そして走馬灯なんかも感じる事なく逝ったんだ。驚くのはここからさ。トラックに潰された後目を開けるとそこにはスーツ姿の美しい女性が立っていた。

 

 

「初めまして、針村さん。私は貴方達の言う神に値するものです」

 

「…………正気か?君が神だって言うのなら何かして見せてくれ」

 

いきなり神だと言う人間は大抵イかれてる。するとその女性が指をパチンと鳴らすと私の手にカクテルが入ったコップが収まっていた。まさか……何か科学で説明がつくはずだ。こんなの、あり得な

 

「あり得るんですよ、神ですから。貴方は少し疑いすぎですね」

 

「君が神様だと言うのは分かったが私は何故こんな所にいるんだ?ガンツ的な事をさせるつもりか?」

 

「いいえ、貴方には選択肢が二つあります。一つ目、貴方はこのまま自我もろとも消滅する。二つ目はアカメが斬る!の世界に転生する。さあ何方を選びます?」

 

こんなの一択だけじゃないか、と言いたい所だがアカメが斬るだと?あんなにキャラが死ぬ世界に行ったら私など直ぐに死んでしまうぞ。かといってこのままじゃ消滅するし。

 

「安心してください、ちゃんとあの世界でも生きれるように貴方には特殊能力を与えます」

 

「…………人の心を読むのは止めてもらえないかね。それと特殊能力をくれると言ったな?私が望む力をくれるのか?」

 

「ええ、貴方が望むなら。但し限度がありますのでそれは注意してください」

 

「特殊能力か………と言うことは私は強制的に原作介入するのかな?」

 

「そうなりますね」

 

ならば私はフラッシュの力が、と言いたい所だがヒーローに殺しは御法度だ。それに彼らの名前を汚すことになる。それならば私はヴィランであるリバースフラッシュになろうじゃないか。苗字も針村だからドラマ版の方に妙に親近感を感じていたんだ。

 

「決まった、私にリバースフラッシュの力をくれ」

 

「ですがヴィランのリバースフラッシュで良いのですか?」

 

「構わないよ」

 

「分かりました。それではスーツはCW版で宜しいですか?」

 

「そうしてくれ」

 

「では今から貴方の体に雷を落としますが死にませんので安心してください」

 

安心してって…………いや待て雷だと!?確かに原作でもフラッシュは雷に打たれ化学薬品にぶつかっていたが神ならもう少し別の方法があるかと思っていたよ。神はトンカチを取り出し空高く突き上げた。するとトンカチに雷が蓄積されていく。

 

「それじゃ行きますよ」

 

そして神は私にトンカチを向け十分に溜まった雷を一気に放出した。雷は私に向かって一直線に放たれ私に命中した。雷がぶつかった私は叫び声を上げることなく気絶した。

 

「…………ふう、これでよし。それにしてもアメコミ好きの上層部も趣味が悪い。アメコミのキャラをアカメが斬るに介入させろだなんて」

 

 

私は目を覚ますと知らない天井だった。あれは夢だったのか?夢にしてはやけにリアルだったな。私は重たい体を起こして窓を開けた。しかし私は窓を開けて自分の目を疑った。何故ならば外は私の知っている世界とは全く違う物だったのだ。馬車が主流で何処か古臭く感じた。

 

「まさか……あれは本当だったのか?」

 

私はふと左手を見てみると中指にリバースフラッシュのリングが嵌められていたのに気づいた。気になった私はリングに触れると中からリバースフラッシュのスーツが飛び出してきた。

 

「前々からこの技術に興味を持っていたがこれは凄いな」

 

試しに私はスーツを着てみた。ジャストフィットだ。着た瞬間安いコスプレではなく本物だと実感した。言う事は私には今スピードフォースが宿っているのか?試しに私は手を振ってみると案の定視覚では確認できない程に振動した。間違いない、私はスピードスターになったんだ。

 

「そうと決まれば早速この力になれないとな」

 

私はベッドの近くに置いてあった服をリバースフラッシュのスーツの上から着込んだ。そしてこの世界の通貨であろう物をいくらか手にし必要なものは全て持った。そしてこの部屋を後にした。

 

部屋を出るとようやくこの場所について理解することが出来た。此処はどうやら宿屋らしい。それに聞くところによると犯罪者や悪人たちで溢れかえっているらしい。

 

「それとこれをソーン様に渡せと」

 

チェックアウトした私に店の主人は一通の手紙を手渡した。その手紙の封を開けると差出人は神からだった。ソーンって私のことか?

 

 

 

貴方の状況について報告します。時間枠は原作開始一年前くらいです。リングについてですが貴方にしか反応しません。それとスーツの出し入れは同じ所を触ってくれれば瞬時に収納できます。後一つ、貴方の名前なのですがこの世界に合わせてイオバード・ソーンとしときました。それでは頑張ってください。

 

 

 

早速原作介入させる気満々だな。イオバード・ソーンか、私的にはハリソン・ウェルズかと思ったが。私は部屋を出て路地裏に入った。さてと此処なら思いっきり走っても大丈夫だろう。

 

「学生時代は一番遅かったが」

 

少し疑心暗鬼だった私だが走り出すとそんな感情は直ぐに無くなった。私はゆっくりと走り出したつもりだが、私の体は目にも留まらぬ速さで移動していたのだ。そしてあっという間に端の壁際まで迫っていた。フラッシュは壁を駆け上がることもできる。私はぶつかる直前足を壁にかけ体が落ちる前にもう一歩突き出した。そしてこれを繰り返すうちにいつの間にか壁を駆け上っていた。建物の屋上まで駆け上ると私は走るのをやめ止まった。

 

「…………ハハッ、これは素晴らしい!」




イオバード・ソーン/リバースフラッシュ(36)
アメコミとアニメ好きだった針村は突如トラックに轢かれ死亡した。そして神にアカメが斬るの世界に転生しないかと言われ転生した。前世は科学者でフラッシュに憧れていたが強制的に原作介入する事を知りフラッシュの名前を汚したくなかった彼はヴィランのリバースフラッシュを選びスピードフォースを得た。スーツはドラマ版の物で自己修復してくれる優れものだ。容姿はハリソン・ウェルズを若くした感じ。


次回、第2話 遭遇


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第2話 遭遇

一通り能力の確認を終えた私は近くのバーに寄って一杯やっていた。現状は超高速で移動できる以外に体を高速で振動させ姿をブレさせることや喉を振動させて声を変える事、壁を駆け上がる事と水の上を走れる事くらいだ。まだタイムトラベルや物体のすり抜けなどは出来ない。まだその域のスピードに達していないという事だろう。

 

そうそう、まだスピードフォースについて何も話していなかったね。先ずはフラッシュという作品について説明しよう。フラッシュはDCコミックのヒーローだ。フラッシュはスピードフォースと呼ばれる運動エネルギーで満ちた異次元空間にアクセスし、運動エネルギーを引き出して高速移動を可能にしている。高速移動の他にも物体のすり抜けや超人的な代謝に竜巻を起こしたり、機械を使えば多次元への移動も可能となる。そして何と言っても時間旅行ができる。

 

しかしチートレベルの能力なんだが弱点はある。例えば摩擦の怒らない場所では力が発揮できない。故に氷系統の敵とは相性が悪いんだ。フラッシュも宿敵であるキャプテンコールドに何度も追い詰められていた。

 

そして超人的代謝を持つ私が酔えるほどの酒はこの店には置いてないようだ。この店の酒じゃ酔っ払うことが出来ない。

 

これからどうしたものか。原作介入とは言ったもののまだ一年ある。この能力があるとはいえ人殺しなんかとは無縁の私に人を殺すことが出来るだろうか?私がこの力を望んだのは憧れでもあったが同時に自己防衛の為もあった。こんな殺伐とした世界で能力無しじゃ1ヶ月ともたないだろう。私としては原作通りにナイトレイドに任せたい所だが、いざとなれば覚悟するしかない。

 

「そこのおにーさん!なーにさっきから一人で難しい顔してんだよ?」

 

すると一人の女が私に話しかけてきた。グラマラスなボディーにセクシーな服装、髪はボサボサで顔は美人の部類に入るだろう。間違いない、彼女はナイトレイドのレオーネだ。そう言えば彼女はスラムの出だったな。だからこの場にいても不思議ではないが。私はコップに入った酒を一気に飲み干した。

 

「少し考え事をしていてね」

 

「それこの店で一番度数が強いんだぞ?」

 

「私には生憎効かないようだ。私はイオバード・ソーン、最近この街に来た科学者だ」

 

「よろしくイオバード博士!レオーネだ、ここで会ったのも何かの縁、今日はとことん飲もうぜ!」

 

数時間後、レオーネはすっかり泥酔してしまった。しかし彼女と飲むのも中々楽しい。流石に泥酔しているとは言えナイトレイド関連の話は何もボロを出さなかったがこれは流石と言える。酔っ払ったレオーネは私の首に腕を絡ませてくる。年頃の女性なのに無防備すぎやしないか?

 

「ヒック!もーーなんでイオはそんなにお酒え強いんだ〜?」

 

「そういう体質でね。そろそろ会計してくれるかな、私が出すよ」

 

「え、良いのかい旦那?結構良いお値段するよ?」

 

「そうなると思って余分に持って来たよ」

 

私は所持していた財布から言われた額を支払った。今ので財布の半分はいかれた。今手元にあるのはこの財布だけだし今日みたいにあまり贅沢は出来ないな。私は随分と軽くなった財布をしまい店を後にした。

 

「うぃ〜、もういっけんいっとく?」

 

「家まで送るよ、君の家はどこだ?」

 

「家?いいーって!いいーって!一人で帰れるからぁ」

 

そんなレオーネは千鳥足で森の中へと消えていった。この森も原作で描かれてた通りだが正確な位置を知っておきたい。私はカッターシャツのボタンを外しスーツを曝け出した。そしてズボンも脱ぎ去りスーツだけの姿になった。着ていた服は草陰にでも隠しておこう。

 

『行くとしようか』

 

「だ、誰かー!!」

 

私がマスクを被り体を高速で振動させて森へ足を踏みいれようとしたその時、突然近くで悲鳴が聞こえた。あの叫び声は只事じゃなささそうだ。とりあえず行ってみよう。

 

叫び声がする場所に向うとそこには眼鏡をかけた白衣の男性が足から血を流し倒れていた。その前にはゴリラのような危険種が唸り声をあげ威嚇していた。こ、この男性は!

 

『…………マーティン・シュタイン?』

 

「な、何故私の名前を?」

 

マーティン・シュタイン教授。DCのヒーローファイヤーストームの傍だが何故彼がこの世界にいるんだ?それより足の怪我、この危険種にやられたのか。危険種は唸り声を上げてこちらを威嚇している。今の今私の全身は高速で振動させている状態だ。それなりに打撃力も上がっているはず。

 

「グオオオオッ!!!」

 

危険種は勢いよく飛びかかってきた。危険種が腹部を見せた瞬間私は鋭い一撃を腹部へと叩き込む。腕が危険種の腹に食い込む。危険種の臓物の生暖かさが手に伝わってくる。私は危険種から手を戻し血を拭った。危険種はたった一撃で動かなくなってしまった。まさかこれ程の力があるとは……

 

「あ、ありが」

 

私はシュタイン教授に礼を言われる前にその場を立ち去った。そしてその場から少し離れたところに向かいリングにスーツを収納した。それから私はシュタインがいる場所に戻った。私のシークレットアイデンティティは極力明かさないようにしよう。

 

「う……足が」

 

「どうかしましたか?」

 

「あ、ああ危険種に襲われて足をやられた」

 

私はマーティンに肩を貸し家まで送ることにした。シュタインの家は帝都から離れた山にポツンと立っていた。そして家の前にある看板にはスター診療所と書かれていた。成る程、この世界のシュタインは医者か。それとスター診療所とはまた狙っているとしか思えないんだが。

 

「ここだ……私の診療所だ」

 

「とりあえず私が手当をしましょう。道具は何処に?」

 

「父さん一体どうしたの!?」

 

中に入ると教授の娘さんが私達を出迎えた。彼女何処かで………そうだ、確かケロロ軍曹に出て来たアリサ・サザンクロスに瓜二つだ。私は思わず彼女の容姿に見入ってしまった。本当に美しい女性だ。

 

「危険種に、襲われているところをこの青年に助けてもらったんだ」

 

「道具はこっちにあるわ!」

 

シュタイン教授のお嬢さんに道具のある場所を教えてもらい簡単ではあるが教授の手当てをした。傷は浅いみたいだったが数日は安静にしとかないと。

 

「ありがとうイオバード。見事な治療だ。医療の心得があるのかね?」

 

「私は科学者なんですが一応医療関係も勉強しました」

 

「父さんもう寝ないと、傷が癒えないわよ?」

 

「ああ、そうだな。イオバード、君も今日は泊まっていってくれ」

 

 

「お茶はいかがかしら?」

 

「頂くよ」

 

アリサは一仕事終えた私にお茶を出してくれた。この世界にはパソコンはおろか電気すら通っていない。しかも水洗トイレなども皆無だ。はぁ、そう考えると中々不便なものだ。まるで原始時代にタイムスリップしたみたいだ。

 

「ありがとう。見ず知らずの父さんを助けてくれて」

 

「困った時はお互い様だからね。君はお父さんと二人暮らし?」

 

「ええ、あなたはどうしてこの街に来たの?」

 

「私は………まあ当てもなく旅をしている。行き先も何も決めずにね」

 

「ねえ……もし良ければ父さんが治るまで代わりをしてくれない?」

 

「私が君のお父さんの代わりに医者を?私は応急処置が出来る程度だよ?」

 

「それでも構わないわ。父さんが治るまでここにいて」

 

「…………分かったよ。出来る限りの事はしよう。

 

 

次の日、私は怪我しているシュタイン教授の代わりを務める事となった。とはいえこの世界の医療技術ではかなり出来ることが限られてくるがそれでも何とかしないとな。まあ無免許だが法律云々を機にする必要もないか。そもそもこの世界にも医師免許は存在するのか?

 

「頑張ってみるか」

 

同時期、天界のとある会議室では。

 

「スピードフォースで帝都軍相手に無双でもするのかと思ったら、ただの意気地なしとは」

 

「ああ言うタイプの性格を変えるには悲劇がうってつけだ」

 

「その件に関しては手配済みだ。それと帝都軍辺りも少し強化しておいてやるか」

 

「具体的にはどうするつもりだ?」

 

男はファイルから男女が写った写真を数枚取り出した。それらに写っている人物は全て非道な犯罪を犯し死刑執行されたもの達ばかりだ。

 

「アメコミに欠かせないものそれは…………ヴィランズだ」

 

「ローグスを作るわけか…………最高だな」




次回、第3話 続かない幸せ


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第3話 続かない幸せ

注意、ネタバレになりますが今回の話は主人公の大切な人が死にます。それでも良いという方だけご覧ください。














「はい、これでもう大丈夫。頑張ったご褒美だよ」

 

私は幼い金髪の少女の手当てを終えるとカバンから自家製のアメ玉を手渡した。少女は嬉しそうにアメ玉を受け取った。私は子供の治療をする時は必ずアメ玉やお菓子を持って来ている。

 

「ありがとうソーン先生!」

 

「ありがとうございます、ありがとうございます!」

 

「後は安静にしておいてください。それとこれを食後に服用してください」

 

私がスター診療所で働き始めてから早くも一年近く経とうとしていた。私は前世で得た知識でシュタイン教授の診療所を手伝っていた。この半年で私はシュタイン教授に新たに医療技術を教えてもらった。シュタイン教授はドラマでもそうだったが本当の天才だ。彼の話を聞いているだけで本当に勉強になるよ。

 

「そういえばご主人は何をなされているんです?」

 

「軍人なんです、それで中々帰って来ることが出来なくて。あのもし宜しければ今度私の主人も交えてご飯を一緒にどうですか?お礼もしたいですし」

 

「実は明日には帝都を離れるんです。でもお誘いありがとうございます、また機会があれば妻と一緒に来させていただきますね」

 

「ええ、ぜひ来てくださいね」

 

本日の診療を終え私は文字通り走ってで自宅へと戻る。帰宅時間は僅か数秒、スピードフォースを得て良かった点の一つが遅刻をしなくなったということだ。自宅の診療所に着くと私は毎度の如く摩擦で火が起こった靴を消火した。こればかりはどうにもならないものだな。一体いくつ靴や服を買い直さなければならないんだ?

 

「ただいまアリサ」

 

「お帰りなさい、あなた♪」

 

私は家に帰ると我が愛する妻の頰に軽くキスをする。一番な変化はやはりこれだろう。実はアリサと私は結婚したんだ。私が診療所で生活するようになった一ヶ月後に交際を始めそこからは正にほんの一瞬で結婚まで行ったよ。その時に私が前世の記憶を持っていることやスピードフォースのことについても話したんだ。最初は戸惑っていたが直ぐに納得してくれた。因みにだが新婚旅行でアトランティスを訪れた際には走っていった。船に乗って行くよりは速い。

 

更に今アリサのお腹には新しい命が宿っている。私とアリサの子だ。この世界では性別が分かるのは生まれてからだが男の子ならバリー、女の子ならジェシーにするつもりだ。承知の通りだがこの名前はフラッシュとジェシー・クイックから取ったものだ。

 

「あら、またお腹を蹴ったわ」

 

「本当か!元気に生まれてきてくれるといいな」

 

「私も初孫が楽しみだよ」

 

だがこんな幸せの中で私はある事だが気がかりだった。幸せすぎてつい先月までは忘れていたが、もうじきアカメが斬るの原作が始まる頃だ。だとすると帝都はもうじき荒れ始めるだろう。私には家族ができた、家族を守る為なら何だってする。

 

「なあアリサ、この子も生まれることだし新しい地に行かないか?」

 

「え?いきなりどうしたの?」

 

「今帝都には不穏な空気が流れている。この街は危険なんだ、この子を育てるためにも安全な場所に行こう」

 

とその時扉を何かが激しく打ち付ける音が聞こえた。私は念のため、リングに手をかけいつでもリバースフラッシュになれるよう身構えた。この世界では開けた瞬間にグサリという事は良くあるんだ。私が扉を開けると外には傷だらけの男が扉の前に座り込んでいたのだ。

 

「た、頼む。助けてくれ」

 

「かなりの重症だな。さあ入ってくれ」

 

私は男に肩を貸し診察室まで案内した。診察室のベッドに寝かし私とマーティンは彼の治療を始めた。なんて傷だ、一体何と戦ったのやら。

 

治療が一通り終わり男はベッドで眠っていた。話を聞くのはまた後日にした方が良さそうだな。それと彼の新しい治療施設も見つけないといけないし。

 

しかし次の日朝起きると男はベッドの上から居なくなっていた。朝早くに出ていったようだ。少なからずだが机の上には治療費が無造作に置かれていた。まあいいか、どうせ今日でこの街を離れるんだ。今日はやることが沢山あるぞ。先ずは今まで受け持った人たちに挨拶回りからだ。全てが終わったら海を越えた向こうの大陸にあるキーストーンシティへ向かう。

 

 

その頃、イオバードに助けられた男は深くフードを被りある場所に向かっていた。彼は帝都の警備隊本部に向かっていたのだ。警備隊本部に到着すると警備隊長の一人に声をかけた。

 

「何の用だ?」

 

「実はですね。スター診療所で革命軍の男が出入りしているのが見えて、もしかしたら革命軍と繋がっているのかと思って」

 

「それは本当か!?前々からあの一家は胡散臭いと思っていたが」

 

「へっへっ、楽しみにしてるぜ。リバースフラッシュ」

 

男はそのまま路地に入り姿を消した。

 

 

すっかりと遅くなってしまった。今日1日で私が今まで受け持った患者達の所に行き挨拶に回っていた。病気が長引いている人には私が作った薬を処方しておいた。それらの薬の作り方も紙に写して知り合いの医者に手渡した。これで心置きなく帝都を離れることができる。

 

「ただいま。アリサ?今帰ったよ?」

 

声を張って呼びかけるが返事は返ってこない。それに家の中が嫌な位に静かだった。私の脳裏に最悪の状況が浮かび上がる。私は急いで家の中に入った。更に奥の診療室に入るとそこには血まみれのシュタイン教授が倒れていた。

 

「教授……マーティン!?マーティン!!」

 

「うう………イオ、バードか?」

 

「一体何が!?ア、アリサは何処だ!?」

 

「…………昨日助けた、男性が革命軍の一人で、それを助けた私達も革命軍のメンバーだと思われ…………娘を…助けてやってく、れ…………」

 

そのままマーティンの体を揺さぶるが反応はなかった。マーティンは私の腕の中で息を引き取った。そんな………しかしマーティンの死を悲しんでいる時間はない。

 

「アリサ!!」

 

アリサを探しに帝都にある全ての警官隊の本部を捜索した。しかし、アリサは何処にもいなかった。その後数時間全ての拷問施設や刑務所などを捜索したがアリサが見つかることはなかった。居場所を知っているとすればレオーネか。急いでいつもレオーネが顔を出している酒場へと走った。案の定酒場のカウンターにはレオーネの姿があった。

 

「よおイオバード!今日帝都を出ていくんだって?寂しくなるよ」

 

「レオーネそれどころじゃない!アリサが、アリサが連れていかれ!帝都中を探したが見つからないんだ!」

 

「何だって!?本当に全部探したのか!?」

 

「ああ、でもこれ以上心当たりが」

 

「マティスの所は?」

 

「マティス、バートン・マティスの事か?」

 

バートン・マティス、帝都の富豪の一人であまり良い噂を聞かない人物だ。それに私と結婚する前からアリサにアプローチをかけていたらしくストーカーの域だ。私とアリサが結婚してからはそんな事無くなったが彼奴が手を回したのなら納得がいく。

 

その上バートン・マティスはDCコミックのヴィランであるドルメイカーでもある。同性同名なだけかもしれないが、ドルメイカーと同じ性格をしているのならば警戒しなければならない。かなりの狂人に違いないからな。

 

「マティスの家に行ってくる」

 

「ちょっと待てよ!あんた一人で行く気か!?私もいくよ!」

 

「いいや、これは私の問題だ。私が決着をつける」

 

私はリングを操作しスーツを取り出す。そして空中に飛び出るスーツを身に纏う。これを身につけるのは久しぶりだ。この私の義父を殺し妻を誘拐した奴には必ず報いを受けさせてやる。地獄が天国だと思えるくらいにな。

 

マティスの屋敷に足を踏み入れると屋敷の扉の前には二人の護衛が警護していた。右にいる護衛を気絶させ左側の男の目の前に立ちふさがる。男は突如現れた謎の人物に震え怯えていた。

 

『アリサはどこだ!!』

 

「な、なんだお前!?どうやってここに!?」

 

私は声にドスを効かせて問い詰める。怯えた男を突き飛ばすと尻餅をついて地べたに座り込んだ。私は間髪入れずに男を立たせ壁に追いやる。そして手を超高速で振動させ胸に手を当てた。手はゆっくりと男の体をえぐっていく。徐々に胸に手が食い込んでいくため男の痛みは壮絶なものだった。

 

「あがあっ!!や、やめろ!!やめてくれええ」

 

『答えろ!ここに連れてこられた妊婦は何処だ!?』

 

「ち、地下室だ!!頼むもうやめてくれ!!」

 

男を殴り気絶させ私は直ぐさま地下室に向かった。しかし地下室に入った私は自分の目を疑う。私は愛する妻の姿を見て絶望の淵に立たされた。足から力が抜けたようにそのまま地面に座り込んだ。アリサは全裸でお腹には縫い合わされた傷跡があり妊婦とは思えないほどに細くなっていた。そして口からは少しだが樹脂のような物が垂れていた。そんなアリサはガラスの箱のようなものに閉じ込められていた。そんなアリサからは生気が微塵も感じられなかった。

 

「アリ、サ……ハァ、ハァ、そんな……アリサァ」

 

「美しいと思わないか?」

 

そんな私に声をかけてきたのはアリサと私の子供を殺したバートン・マティスだった。奴はアリサの事を執拗以上に好意を寄せており私と結婚した後もそれは変わらなかった。マティスは私の隣に来て語り始めた。私はマスクをしている上体を振動させているので正体はバレていない。

 

「警備隊の上層部とは古い知り合いでね、少しの金を積んだら彼女を私にくれたんだよ。腹のなかの子供は私が取り出してペットの犬にやったよ。あんな汚物、私には必要ないからね。赤ん坊を取り出された彼女は半狂乱状態になったから、一生私のものにするために人形に作り変えたんだ。この後、彼女の元夫をここに招待して絶望を味あわせてから殺してやるつもりさ」

 

マティスは指をパチンと鳴らす。すると部屋の外で待機していた護衛たちが部屋に入ってきて私を取り囲む。その数からして大体20人くらいだろう。マティスが護衛たちに指示して私を捉えるように命令する。

 

「どこの誰だか知らんが殺してしまえ」

 

「最後に一つだけ聞く………腹の子供の性別は?」

 

「ハッ!命乞いでもすると思ったらそんな事を…………まあいい冥土の土産だ。女だったよ、けどまああんな汚物興味ないがな」

 

護衛達が私に手を差し伸ばした次の瞬間、護衛達は全員首を折られ地面に横たわっていた。一瞬の出来事にマティスは自分の目を疑った。

 

もうだめだ。これ以上我慢する事なんて私には出来ない。こんなサイコ野郎を生かしたまま罪を償わせるのが本当のヒーローならば私はヒーローになんてならなくていい。たとえ悪党や犯罪者と呼ばれようが構わない。このクズだけは殺さなければならない。

 

『来い、マティス!』

 

 

マティスを連れて来たのは帝都から遥か離れた場所にある湖だった。湖に着くと私は腕を振動させマティスの右腕と左足を切断した。断面から血が溢れ出しマティスはその場に倒れこむ。四肢をもぎたい所だがそれで死なれては困る。こいつにはもっと苦痛を与えてから死んでもらう。

 

「ぎゃあああ!!!痛い、たずげて」

 

私はマスクを取りマティスに正体を明かした。マティスの顔から血の気がサーっと引いていくのがわかる。私はマティスの目線に合わせその場に屈み込み頭をつかんだ。

 

「お前ソーンか!?」

 

「ご名答だ、さてこれからお前には私の友人のディナーになってもらう。安心しろ、上手くいけばこの事も忘れるさ、その後にもう一度殺すがな」

 

「一体何の話だ!?こんな事してタダで済むと思ってるのか!?」

 

私は切断した足と腕を拾い上げ湖に投げ入れた。湖の水が赤く染まりしばらくすると水面には一つの巨大な背びれが現れ始めた。背びれは徐々に此方へと向かってくる。背びれの正体は人間とサメを足したような姿をした怪物だった。

 

「ソーン、ヒサシブリダナ。メズラシクエモノヲモッテキテクレタカ」

 

彼の名はキングシャーク、私が帝都に来て半年後に出会った。彼は元々海に住んでいたが住処を追われこの湖に身を潜めていた。そしてこの湖に迷い込んだ動物を食べていたのだ。彼は原作とは違って狂人ではない。それ故、人間達とも仲良くしようとしたが見た目のせいで恐れられ怪物扱いされた。

 

本当は人間を食べたいらしいが動物で我慢しているのだと言う。私はリバースフラッシュとしてシャークの討伐に出かけたがその話を聞いて、1ヶ月に一度巨大な危険種を討伐しシャークに渡すことで人間を襲わないように約束をこじつけた。私が討伐をやめた理由はまだ彼が人間を襲って食べていないことだ。そんな彼を殺すのは間違っていると思ったからだ。

 

「な、なんだこの化け物は!?」

 

「私の友人のキングシャークだ。シャーク、こいつを食べても良いがゆっくりとだ。体の部位が無くなっていく痛みを味わいながら殺せ」

 

「オマエニシテハボウリョクテキダナ。ナニカアッタカ?」

 

「アリサと娘のジェシーが殺された」

 

「ナルホド……ソレナラヨロコンデ」

 

「さっき言ったことをそのまま返してやろう………絶望を味あわせてから殺す」

 

「や、やめろ!!来るなあああ!!!」

 

その後一晩中湖にマティスの悲鳴が響き渡っていたことは言うまでもない。奴の最期は何とも惨めなものだった。胸まで食べられたと言うのにまだ息していたのだ。だが心臓を食べられた瞬間、奴は痙攣を起こしそのま死に至った。初めて喰らう人間の肉をシャークは味わいながら湖へと戻っていった。

 

「シャーク、これを機に人を襲うなんて事はやめてくれよ」

 

「ワカッテルヨ、ソレトアンタモオキノドクニナ」

 

「…………ありがとう」

 

帝都から遠く離れた荒地にソニックブームと振動が巻き起こる。黄色い閃光が縦横無尽に駆け回っていた。私は過去に遡るためひたすら走り続けた。過去に戻ってもう一度やり直す。そうすれば時間軸が変化し今とは別の世界、アリサやマーティンが生きている世界に変わるはずだ。時間軸を変えたらまずいのは分かっているがそんな事をどうでもいい。私の家族さえ生きていればそれで…………

 

アリサ…………始めてキスしたのは夜だった。シュタイン教授が先に寝ている中私とアリサで星を見に行った。星をただ眺めているだけだったが幸せだった。その夜キスしただけでなく初めて愛し合った。私が経験した人生の中で一番の日だった。

 

 

 

 

「あ、また流れ星……願い事しないとな」

 

「フフ、貴方そんなロマンチストだっけ?それで何をお願いしたの?」

 

「君の隣に居たい、今も……この先も」

 

「イオバード…私も貴方の側に居たいわ」

 

「アリサ……」

 

二人の顔が近づき深い口づけを交わす。そしてアリサにのしかかるように抱きしめた。そして互いの服を脱がしその後、私達は野外にも関わらず深く愛し合った。私の元の世界なら通報されるレベルだがこの世界なら問題ないだろうし、それにこの時間帯は誰もここに来ない。

 

「愛してるわ………イオバード」

 

 

 

 

そんな事を思い出しているられるのも束の間、アリサの遺体がふと脳裏を過ると私は動揺し足元がフラついた。そしてそのまま派手に転けてしまった。後一歩という所でいつも成功しない。もう既に挑戦は1000回目を迎えようとしていた。だが、いつまでやっても過去に遡ることが出来ない。これでもスピードが足りないのか。

 

「クソ…………あああああ!!!」

 

私は自分の無力さに腹が立ち地面を殴る。ポタポタと涙が溢れ拳に落ちていく。アリサ…………アリサ………何故私の家族がこんな目に合わなければならないんだ。何が地上最速の男だ、家族すら守れないなんて。私は遅すぎた………私のせいだ…………

 

 

 

 

 

その瞬間イオバードの中で何かが音を立てて崩れていった。

 

 

 

 

 

いや違うだろ?何故アリサやマーティンが殺されなければならないんだ。もっと早くに行動を起こすべきだったんだ。過去に戻ることが出来ないのなら…………今出来ることをやるだけだ。帝都に蔓延る本当の悪に制裁を与える。悪には死をだ…………

 

 

次の日、帝都の裏の悪人の半数が何者かの手によって殺された。その手口からして最近巷で話題になっているナイトレイドでの仕業ではない事は明白だった。全員胸を貫かれているが凶器は見つかるどころか何を使い殺害されたのか分からなかった。

 

最近帝都では悪人を狙った殺しが多発している。頭に銃弾を撃ちこまれた者、電撃で感電死させられた者、氷漬けにされた者、焼き殺された者までいる。そして胸を貫かれたものも同様に。とにかく帝都では悪人狩りが増え続けているのだ。

 

「また殺されたか?」

 

「ああ、これで21人目だぞ」

 

「一体何が殺したんだ?」

 

「誰が、だろ?今帝都中を黄色いボヤッとしたものが駆け巡っているって噂だ」

 

「例の黄色い閃光のせいだとでも?」

 

男がタバコの吸殻を地面に落とすと吸殻の火がオイルに引火して稲妻のマークを作り出した。これと同様のものがすべての殺害現場で見つかっていたのだ。

 

「これでもまだ信じないか?」




次回、ナイトレイド


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