sunny place 〜彼女の隣が私の居場所〜 (律乃)
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挿絵

全ての挿絵をアナログで描いております。


【SAO / ソードアート・オンライン】

 

 

 

●SAOアバター戦闘着

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

○説明○

イケメンというよりも優しい"陽菜荼/カナタ"となっております。

 

服装は橙の羽織に黄檗(きはた)の長着、黒の襦袢(じゅばん)姿となっており、色塗りをパステルで塗ることにより彼女の優しい雰囲気を表していると自負しております。

 

 

 

 

●SAOアバター寝間着

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

○説明○

凛々しいというよりも穏やかな"陽菜荼/カナタ"となっております。

 

このイラストはSAOのゲームというと【添い寝イベント】が有名であり、醍醐味(だいごみ)だと作者は勝手ながら思っているので描いてみたいと思い、描きました。

 

服装は和柄をあしらった橙の甚平(じんべい)姿となっており、影を色ペンで他を色鉛筆で塗っておりますが、肌を紫ペンで塗ってしまったのでやらかしてしまった感がありますが見てもらえると嬉しいです(笑)

 

 

○添い寝イベントのセリフ部分○

⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔

 

カナタ「どうした、寝れない?ほんの少しくらいならあたしが話し相手になってあげるからさ、ほら話してみ」

 

〜雑談後〜

 

カナタ「そういう時はーーって、今更だけど、君の前でこんな格好してるのをシノにバレたら、矢の雨が降りそう……」

 

カナタ「笑ってないで、君も手伝ってよ。君も当事者なんだからさ」

 

カナタ「そうそう、当事者。シノの怒りの一撃は本当に痛いから死ぬ気で逃げなよ……あはは、そんな震えないでも大丈夫ってば。あたしが君を守るからーーってこのセリフもシノに聞かれたら、不味いな…。だから、笑わないでって」

 

カナタ「そうだね。もう寝た方がいいかもね、明日は色々忙しそうだし」

 

カナタ「あぁ、おやすみ……相棒」

 

⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔

 

 

 

 

 

 

【OS/オーディナル・スケール】

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

○説明○

 

オーディナル・スケールをプレイするときの戦闘着を身につけているカナタ/陽菜荼のミニキャラとなってます。

 

一生懸命描いたところは、不敵な笑みと左右非対称の服装です。

まだまだ下手っぴな私の絵ですが、少しでも読者の皆さんにオーディナル・スケールでのカナタの姿を思い浮かべていただけると嬉しいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【PA / プロジェクト・アリシゼーション】

 

 

 

 

●ルーリッド村・幼少期

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

○説明○

 

幼少期らしく子供らしく愛らしい"陽菜荼/カナタ"となっております。

 

服装は橙のカッターシャツの上に黄緑色のスカーフを羽織っており、イラストで力を入れたのは可愛らしく感じるように輪郭を丸くし、目も同じように丸々にしたことです。

 

 

 

 

 

●セントラル上級修剣士

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

○説明○

優しいというよりもカッコいい"陽菜荼/カナタ"となっております。

 

このイラストは私が『見たいなぁ〜』と思っており、描いたのがセントラル修剣学院の上級修剣士の制服を着ているヒナタです。

先に言っておきますときっと皆さん心の中で『なんだこのイケメン!?』って思います。

 

前が和やか系でしたので、今回は小悪魔っていうか…悪ガキ風してやろうと鉛筆を走らせた結果がコレです。

どうやらうちのヒナタは浮かべる表情が違うと雰囲気がガラッと変わってしまう生まれつきの女たらしのようです(笑)

 

つきましてはヒナタが着用してる上級修剣士の服についてのご説明をさせてもらいます。

まず、リーナ先輩も着用していた通りで上級修剣士の女子生徒はみんなロングスカートがオーソドックスなのかなぁ……と思って、ヒナタに着せたんです。そしたら、ヒナタが『ヒラヒラが絡みついて、動きにくいわ!!』ってメリ…メリメリってロングスカートの袖を剣で引き裂いてしまいましてね……ということで、ロングスカートはミニスカートへと。そのミニスカートの中が見えないように黒いスパッツを履いているってわけです。

 

この世界ですら枠にとらわれない自由奔放さ…誰に似たのかしら……あっ、私か(笑)

 

また、両端に描いてあるイラストは陽菜荼の大好物である『オムライス』『はちみつれもん』です。

大きなオムライスの上で寝ているのは、陽菜荼のミニキャラである『ひなたん』です。

 

 

 

●整合騎士(侍)/カナタ・シンセシス・サーティワン

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

◎説明◎

カナタが愛刀である《泉水(せんすい)》の《完成支配術》の神髄《記憶解放》を行なっているシーンを切り取ったものです。

整合騎士となったカナタの服装はベルクーリさんのように和服を基調となっており、その着物の色はイメージカラーであるオレンジ色です。

そのオレンジ色の着物が色んな色になっているのは、泉水が記憶解放をすることによって刀身が光り輝くので、その光が反射したものだと思っていただけると嬉しいです。

 



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人物紹介ーProfileー
香水 陽菜荼 / カナタ


本作の主人公である香水 陽菜荼とカナタのプロフィールです。

と書きつつ、私が時折ストーリーを考えるの見直したり、これまでの設定を見直すのにまとめたものとなってます。

読者の皆さんに見やすいように書いていこう思いますので、どうかよろしくお願いします。


【現実 / リアル】

 

【名前】

香水 陽奈荼 / 読み方:カスイ ヒナタ

 

【誕生日】

2009年 10月 10日

 

【外見】

癖っ毛の多い栗色の髪に、空のように澄み渡った蒼い瞳を持っている。顔つきは、母親似で整っている。体格も母親似でほっそりしていて…詩乃曰く、触れれば折れてしまうと思うくらい細い。

ちなみに、髪は母親似で瞳は父親似。

 

【性格】

基本、マイペースでお調子者だが…ガサツかつ面倒くさがり屋な為、料理は出来ても掃除は出来ない。そこから、詩乃からは矛盾の塊で出来ていると言われている。

しかし、本人は特に気にしてないが、大切な人が傷つけられたり、困っていたりすると手を差し伸べずにはいられないほどお人好しであり、世話焼き。行動が必要とあれば…自分が傷ついてもいいので行動する。

また、昔母親に冬の夜に捨てられたことにより、暗いところと寒いところが苦手。

そして、本人は無自覚だが…平気で歯が浮くようなことを誰に対しても言ってしまう。そのセリフで、相手が赤面しても理由がわからないという天然なたらしの一面もある。

 

【両親】

父親 : ■◾︎■■・■■■■

母親 : 小清水 小菜荼/読み方 : コシミズ コナタ

育ての親 : 香水 ■■

 

【趣味】

写真を撮ること、主に、風景や空を撮っている。

 

【日課】

詩乃に今日撮った写真を見せる。詩乃と共に寝る際に、手を握ってもらうこと。

そして、毎朝"ハチミツれもん"を作って飲む事。

 

【好きな食べ物】

オムライスが唯一無二なくらい好き。その他は揚げ物なのが好き。

 

【嫌いな食べ物】

苦いもの、魚貝類。

 

【好きなもの】

刀や着物など和装をこよなく愛する和人間。

 

 

 

 

 

 

 

【SAO / ソードアート・オンライン】

 

【アバターネーム】

kanata/カナタ

 

【容姿】

癖っ毛の多い栗色の髪。真っ直ぐ見つめられると吸い込まれそうになる蒼い瞳。顔立ちは整っており、どちらかというと美人系統。体つきは華奢で、腕は触れれば折れてしまいそうなほどに痩せ細っている。

 

【服装 】

●戦闘着

黄檗(きはだ)色の長着を萱草(かんぞう)色の袴へと入れている。そして、長着の上には、橙の羽織を重ねている。

●寝間着

和柄があしらってある橙の甚平(じんべい)

 

【武器】

刀⇒小竜景光(こりゅうかげみつ)

小太刀⇒有楽来国光(うらくらいくにみつ)

 

【ユニークスキル 】

二天一流(にてんいちりゅう)

 

 

 

【小太刀スキル技名】

 

月兎(げつと)

属性 : 突

HIT : 1

タイプ : 単独

消費SP : 50

熟練度 : 0

効果 : 無し

内容 : 小太刀を前に突き出すだけの技。

 

八咫烏(やたがらす)

属性 : ■

HIT : ■

タイプ : ■

消費SP : ■

熟練度 : ■

効果 : ■

内容 : ■

 

月虹(げっこう)

属性 : ■

HIT : ■

タイプ : ■

消費SP : ■

熟練度 : ■

効果 : ■

内容 : ■

 

嫦娥(じょうが)

属性 : ■

HIT ■

タイプ : ■

消費SP : ■

熟練度 :■

効果 :■

内容 :■

 

玉蟾(ぎょくせん)

属性 : ■

HIT : ■

タイプ ■

消費SP : ■

熟練度 : ■

効果 : ■

内容 : ■

 

仙娥(せんが)

属性 : ■

HIT : ■

タイプ ■

消費SP : ■

熟練度 : ■

効果 : ■

内容 : ■

 

繊魄(せんぱく)

属性 : ■

HIT : ■

タイプ : ■

消費SP : ■

熟練度 : ■

効果 :■

内容 :■

 

虧盈(きえい)

属性 :■

HIT :■

タイプ :■

消費SP :■

熟練度 :■

効果 :■

内容 :■

 

烏兎(うと)

属性 :■

HIT :■

タイプ :■

消費SP :■

熟練度 :■

効果 :■

内容 :■

 

 

 

【二天一流スキル技名】

 

忍冬(すいかずら)

属性 :■

HIT :■

タイプ :■

消費SP :■

熟練度 :■

効果 :■

内容 :■

 

茉莉花(まつりはな)

属性 :■

HIT :■

タイプ :■

消費SP :■

熟練度 :■

効果 :■

内容 :■

 

紫雲英(げんげ)

属性 : 斬

HIT : 3

タイプ : 多数

消費SP : 100

熟練度 : 100

効果 : 防御力DW 出血

内容 : 小太刀を敵へと突き刺し、引き抜き…振り向きざまに刀を切り裂くという技。

 

篝火草(かがりびそう)

属性 : 斬

HIT : 4

タイプ : 多数

消費SP : 120

熟練度 : 150

効果 : 暗闇L2

内容 : 左右に持った武器を敵の上からで振り下げて…一歩下がると、左右に持っている刀と小太刀を前にいる敵へと突き刺すという技。

 

君影草(きみかげそう)

属性 : 斬

HIT : 2

タイプ : 広範囲

消費SP : 70

熟練度 : 50

効果 : 低スタン

内容 : クルッと左右に持っている武器を振り回すだけの技。

 

麝香草(じゃこうそう)

属性 :■

HIT :■

タイプ :■

消費SP :■

熟練度 :■

効果 :■

内容 :■

 

馬酔木(あせび)

属性 :■

HIT :■

タイプ :■

消費SP :■

熟練度 :■

効果 :■

内容 :■

 

緋衣草(ひごろもそう)

属性 : 斬

HIT : 8

タイプ :奥義

消費SP : 200

熟練度 : 300

効果 : 攻撃力UP

内容 : 左手に持つ刀を辻斬りの形に動かし、右手に持つ小太刀を右上から左下へと動かす。そして、両方の手を横へとスライドし…上へと持ち上げて、真ん中を斬り裂き…左右へと開くという技。

 

天竺牡丹(てんじくぼたん)

属性 : 斬

HIT : 12

タイプ : 秘奥義

消費SP : 280

熟練度 : 500

効果 : 攻撃力UP 防御力UP

内容 : 刀を左上から右下へ、小太刀を右上から左下へと移動すると…クロスした両手を左右へと思っ切り振り切る。その場をクルッと回って、小太刀を横一線に動かすと…振り返ると同時に右上から左下へと斬りつける。垂直線に刀と小太刀を動かすと…相手の足元を足で払い、相手の胸へと両手に持つ刀と小太刀を突き立てると…小太刀は下へ、刀を上へと動かす。そして、刀で斬りつけながら…前を向くという技。

 

 

 

【ALO / アルヴヘイム・オンライン】

 

【アバターネーム】

kanata/カナタ

 

【容姿】

癖っ毛の多い桃銀髪の髪の上にはちょこんと橙色の小さい帽子が乗っかっている。そして、その下には蜜柑(みかん)色と檸檬(れもん)色で固められた和服風な戦闘着を着ている。

 

【種族】

音楽妖精族(プーカ)

 

【戦闘スタイル】

歌で自分と味方を強化しつつ、プーカの小柄な体格を生かし、敵の周りを動き回りながら…愛刀で強力なカウンターや攻撃をお見舞いする。

 

【武器】

■■

 

 

【カナタのOSS】

 

鬼魅呀爲(きみがため)

 

内容 : まず、戦いの歌なるもので自身と仲間を強化している最中に、火・水・風・土・闇・聖の魔法の光線を放つ。その光線を対処している敵の後ろへと這い寄り、ズタボロな敵へとトドメを刺すまでに愛刀を振るう。

 

 

 

愛虜(らぶ)

 

内容 : マギアで自分と味方の魔法の効果を倍増させ、続けて自分の周りに虹色の魔法の球で出現させ…刀を振ったら、前にその七色の魔法の球達が手当たり次第に飛んでいく。

 

 

★■■

 

内容 : ■

 

 

 

 

【GGO / ガンゲイル・オンライン】

 

【アバターネーム】

Kanata/カナタ

 

【容姿】

真っ白なショートヘアだが、うなじの所だけ少し長め髪を縛ってあり、瞳は現実と同じで(あお)色。

雄々しい顔立ちで肌や少し焼けている。

細マッチョという感じで、焼けた肌にはしっかりと筋肉がついている。

身長は170〜180㎝。

 

【衣装】

真っ赤なロングコート(左側に、橙の"亀甲花菱(きっこうはなびし)""菱菊(ひしぎく)"のツートン模様がある)

真っ赤な長ズボン(ロングコートと違い、右側に橙のツートン模様がある)に黒いワイシャツ。

足元には黒いブーツを履いており、首には真っ白なマフラーをつけている。

 

【メイン】

通常 : アサルトガンorサブマシンガン

奥の手 : ???

 

【サブ】

ハンドガン

 

【戦闘スタイル】

ALO・プーカで培ったひたすら避け、強烈なカウンターを決めるスタイルを貫く。故に耐弾アーマーは基本装着しない。

 

【アバターイメージ】

『Fate/stay night』の『アーチャー』

 




●陽菜荼の幼少期の軌跡●

0歳・・・山奥の家にて生まれる。この家は、無人だったところを父親が見つけ、勝手に住み込んだもの。
⬇︎
三ヶ月・・・両親が警察に捕まり、母親が育てられる精神で無かったため、一時的に施設へ
⬇︎
2歳・・・母親と暮らし始めるが、母親が自分を見るたびに怯えているのを見て、心を痛める。
⬇︎
4歳・・・母親と冬の夜を散歩中、人目のつかないベンチにて母親に捨てられる。のちに、冷え切って意識を失っているところを親切なおじさんに助けられ、病院にて一命を取り留める。
⬇︎
5歳・・・体調が回復し、自分を助けてくれた親切なおじさんと共に暮らし始める。
⬇︎
小学校3年・・・仕事を辞めたおじさんと共に、朝田家の隣へと引っ越してきた。その時、詩乃と対面し、すぐに意気投合する
⬇︎
小学校5年・・・詩乃にとって、忘れられない郵便局での事件が起きる。病院に入院する詩乃を見舞う
⬇︎
小学校6年・・・件の事件によってイジメられる詩乃を庇い、クラスメイトと喧嘩。その後、クラスメイトとの溝が深まる。
そのことで、詩乃と初めてと言えるくらい大喧嘩をする。
⬇︎
中学校2年・・・詩乃と共に、近くの中学校へ入学した。二年の時に、一年の男子に告白されるがよく考えた後に断る。
⬇︎
高校1年・入学時・・・嫌がる詩乃を嘘泣きで騙し、一緒に東京の高校へ入学。その際に、遠藤らと話すが気が合わず。その後は忠告だけ、詩乃にし、彼女らのことは全部任せていた。
⬇︎
高校1年・入学から三週間後・・・遠藤らが自宅へと侵入。嫌に思いつつももてなすが、その後に自宅を遊び場に使われ、写真でその場にいる人を脅し、追い出すことに成功。だが、遠藤に恨まれる。
⬇︎
高校1年・入学から五週間後・・・遠藤らに復讐され、自分の過去を校内に張り紙される。その際に、遠藤にトラウマを抉れ、逆上して遠藤を押し倒して暴行した為、退学へ。
退学になった夜に、詩乃の言葉で救われ、彼女に好意を持つ
⬇︎
就職・最初の休み・・・朝ごはん中に詩乃へ告白して、両想いが判明し、恋人同士へ。その後、昼に詩乃の定期健診に付き合い、共にメディキュボイドでVRMMOへログインした際にソードアート・オンラインへ


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史録ーmain-
1章001 私の幼馴染


ソードアート・オンラインの中で一番好きなキャラクターのシノンの過去が、一人のオリジナルキャラクターによって救われたらいいなぁ〜って思って書いたのが、この小説の主な理由です。

駄作だと思いますが、宜しければご覧ください(礼)


私、朝田 詩乃(あさだ しの)には幼馴染がいる。

 

付き合いにして、7年。

しかし、7年の付き合いでも、私は彼女を深くは理解してない……いや、理解させてくれない。彼女は多くを私には語らないが、その割りには私の問題に首を突っ込んでくるのだ。自分の事は教えないクセに、他人の関わって欲しくない所には土足でズカズカと踏み込んできては救い出してくれる。本当に腹立だしいことこの上ないが仕方がない…彼女のマイペースっぷりは筋金入りで、自分のペースを崩すことは何があってもないし、乱そうとしようにも乱すことはできないのだから…

 

γ

 

ちゅるちゅると小鳥が囀る声を聞きながら、私は幼馴染が玄関から出てくるのを待つ。

 

「いやぁ〜詩乃。悪いねぇ、いつも」

 

そう言って、玄関の前にある壁に背中を預けている私へと軽い感じで右手を上げる少女に、私は鋭い視線を向ける。

癖っ毛が酷い栗色の髪に、透き通った空のように蒼く大きい瞳。適度に整った顔立ちは年相応の幼さが残るものの、成長すれば美人と言われること間違い無しである、いや既に彼女は美少女と属されるものではあるが……。ほっそりした体躯は脂肪というものが存在してないのでは?と思える程に華奢で、よく小説で表現されるーー触れれば折れてしまうーーという表現が適切なような気さえもする。そのくせ、私よりも身長が高いのだから、本当に憎らしい。

なので、つい私は彼女に意地悪を言ってしまう。

 

「悪いと思ってるなら、もう少し早く起きることが出来ないの?あなた」

「あはは、それは無理っぽいわ」

 

しかし、私がいくら意地悪をしても彼女のペースを崩すことは叶わず、その結果として私はいつも通りに彼女に鋭い視線を放つことで、彼女を狼狽(うろた)えさせることがやっと叶うのだ。

 

「………」

「あはは……ごめんって〜詩乃〜。だからさ、その目は怖いからやめよ、マジで」

 

本当に弱り切った声でそう言う彼女に、私は溜め息をつき、肩をすぼめる。

 

「…………はぁ〜、まぁ、いいわ。あなたって出会った頃から、そうだったし」

「慣れてくれたようで嬉しい限りだよ、詩乃」

「慣れたんじゃなくて、慣れさせられたんだけどね…」

「ちょっと…それって、まるっきりあたしが悪いみたいじゃん」

 

私に突っかかってきそうな勢いで、迫ってくる彼女をうっとおしそうに押し返しながらも、私は彼女に向き直って柔らかく微笑むと

 

「みたいじゃなくて、そうなのよーーまぁ、それよりもおはよう、陽菜荼(ひなた)

「うん、おはよう、詩乃」

「朝ご飯は持った?忘れ物はないわね…早くしないと、鍵を閉めるわよ」

「あぁ、無いよ。朝ご飯のパンはしっかりと持った、ほらね」

 

ヒラヒラと彼女用に買い置きしてある袋に入ったサンドイッチを振るのを横目で見ると、安心して鍵を閉める。

そして、振り返るとサンドイッチの袋をめりめりとあけて、もう既に口いっぱいに頬張っている彼女に小さく嘆息(たんそく)しながらも、ご飯を食べることに一生懸命な彼女の左手を右手で掴んで引っ張る。

 

「ほら、行くわよ、陽菜荼」

「ふぁい、ひの」

「食べるか返事するか、どっちかにしなさいよ、たく…」

 

たまに世話のかかる妹のようにも思える彼女の手を引っ張りながら、私は高校へと向かった。

 

 

γ

 

私には幼馴染がいる。

 

飄々(ひょうひょう)としているかと思えば、世話焼きで自分が傷ついても人の為に行動出来る人。

しっかりしてるかと思えば、夜一人で寝れないなど甘え坊な一面がギャップだと思う人。

いつも頭がゆるそうな発言を平然と言ってのけるくせに、こことぞという時は頭が切れる不思議な人。

料理は出来るが掃除などは壊滅的な所や、出すと数え切れないほど、彼女は矛盾の塊で出来てるような人だ。何故、それが出来て、これは出来ないのか?と思うことは多々ある。

 

そんな矛盾の塊で出来てる彼女の名前はーー香水 陽菜荼(かすい ひなた)

 

そんな変わり者の彼女が私の隣へと越してきたのは、私が小学校三年になった頃で、ピンポーンという呼び出し音に、あのいつもの訪問販売者かと警戒心を抱きつつも恐る恐る扉を開けた記憶がある。

 

開けてみてもびっくりはしたのだがーー

 

「え〜と、家の人は居ないのかな?君だけ?」

「……」

 

ーー開けた先に立っていたのは、ほっそりと痩せ細った男性とその後ろに隠れる癖っ毛の多い栗色の同い年くらいの少女で……、私は思いもよらない訪問者に困惑した。

なので、男性に話しかけられた時は思わず睨んでしまった。そんな男性は私の態度に少女のそれによく似ている癖っ毛の多い髪をかくと、私が睨んでいる理由が分かったようで隣に(そび)え立つ家へと視線を向ける。

 

「今日からあの家に引っ越してきた香水っていうものです。これはつまらないものだけど、家の人と一緒に食べてね」

「……ありがとうございます」

 

男性から丁寧に包まれた物を受け取ると、一応頭を下げる。そんな私に男性は嬉しそうに笑うと、自分の後ろへと隠れている男性の娘と思しき少女を前へと突き出した。

 

「ほら、陽菜荼。あいさつして」

「……かすい ひなた…よろしく……」

「えぇ…と、あさだ しの……こちらこそ、よろしく……」

 

互いにぎこちなく挨拶した私たちは、その時はまだ、互いに目の前にいる少女が自分の心から信頼できる親友になるとは思いよらなかっただろう…




感想と評価をどうかよろしくお願いします、では!!



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1章002 不思議な人

時間が空いてしまいましたが、二話目更新です。

ヒナタとシノンの友情が全面に出せるように書いたので、宜しければご覧ください(礼)

※お気に入り登録11名と感想を一件頂きました!本当にありがとうございます!!


※※※一部、文章を変えました


私には幼馴染がいる。

 

彼女と私が仲良くなったのは、割と早めで私がその理由を考えてみると、私達二人は互い、共通点が多かったというところだろうか。

例えば、両親のどちらかが居ないとか、人と群れるのが苦手というか…群れること自体を不毛(ふもう)と考えているところとかと大きなところを挙げれば、この二つが主だろう。他にも細かいところを挙げれば、数え切れないが……だから…いや、なので、私たちは親友へと慣れたのかもしれない。群れたくはないが、別に一人で居たいわけではない…そんな面倒くさい私たちは、互いに家庭の事情が分かっている二人で居ることを選んだのだった。変な詮索をさせるのも嫌だったし、何よりも私はーー彼女・陽菜荼(ひなた)といる時が学校という外の世界で一番、落ち着けたから……まるで、その名前のように日向にいる時のように暖かく居心地のいい空間を作り出してくれる彼女は、母といる時と同じくらい安心できる私の居場所だった…。もちろん、彼女が私をどう思っていたのかは、分からないが……あの事件の後でも、こうして変わらずに私の側に居てくれる彼女には感謝してもしきれない。

なので、いつかは彼女にちゃんとお礼を言いたいと思っている…

 

 

γ

 

 

モグモグと卵がたっぷり入ったサンドイッチを食べる陽菜荼の手を引きながら、高校へと道を歩いていくと校門が見えてきた。私は横を見ると、今だにモゴモゴと口を動かしている幼馴染に溜息を付く。

 

「陽菜荼、着いたわよ」

 

そう言って、手を話すと陽菜荼はゴクンと喉を鳴らして、飲み込むと私へと笑いかける。

 

「あんがと〜、詩乃」

「本当にありがとうって思ってる?」

「あはは、思ってるって」

 

あははと笑ながら、上履きを取り出す陽菜荼に私はジロ目を向けるが、ゴーイングマイウェイの陽菜荼はそれには気づかずに、教室へと向かって行く。その後に続く私はいうと、そのマイペースっぷりに呆れを感じなが、それぞれの席に座る。すると、同時くらいにキーンコーンカーンコーンと授業の始まりを知らせるチャイムが教室に鳴り響き、さっきまで騒いでいた生徒達がバァッと散らばり、自分の席へと座る。

最初の授業はどうやら、世界史らしい。私はスクールバックから世界史のノートと、教科書と資料集を取り出す。

 

「今日は○×ページから、始める」

 

世界史を教えてくれる先生の言うとおりに、そのページを恐る恐る開くと、そこに広がっていたのは普通のページをそっと肩をなで下ろす。

そんな私の左横には、陽菜荼が腰掛けている。退屈そうに腕組みをしては、パラパラと関係ないページを開いている。

そのやる気の感じられない態度は今に始まったわけではないが、もう少しやる気を出して見たらどうなのだろうか?陽菜荼は覚えもいい方だし、体力の方も平均よりかは上だったはずだ。頑張れば、私よりもかなり上にランクを上げれると思うのだが…何故か、陽菜荼はそれをしようとしない。まるで、計算しているようにさえも思えるほどに、私のランクの二つ上か、一つ下かをキープしており、私は密かに陽菜荼の器用さに戦慄を覚えている。

そんな下さないことを考えながら、世界史の教師が黒板へと書き写していく文字をただただ機械のようにコピーしていく。

 

「詩乃」

「何よ、陽菜荼」

 

そんな中、聞き慣れた声が私の耳に聞こえてきた…そちらへと視線を向けると、やはり栗色の癖っ毛の多い髪と空のように透明感の溢れる大きい蒼い瞳が特徴的な幼馴染が私の方を見ていた。

今、開いている教科書をトントンと右手の人差し指で小突くと小さく呟く。

 

「詩乃、次のページ見ない方がいいよ」

「へ?」

「だ・か・ら…次のページは見るな、いい?」

「……」コクコク

「よし、いい子」

 

一瞬、何を言われているか分からなかった私だが、陽菜荼がもう一度同じ言葉を有無を言わせない雰囲気で言うのを見て、小さくうなづく。でもーー

“ーーいい子……って、いい子って何よ!私はあなたの子供なの!?”

という思いを抱いてしまったのは、仕方がないことだろう。しかし、それよりも気になることがあったーー

“ーーでも、どうして…次のページがダメなのかしら…”

そう心に問いかける私に、陽菜荼は口パクで『■■』と言うと、小さくこう囁いた。

 

「………嫌いでしょ?」

「ッ……ごめん、ありがとう、陽菜荼。迷惑かけるわね」

 

陽菜荼と口パクで次に描かれているであろうあの銃を無意識に思い浮かべてしまい、一瞬吐きそうになるのを何とか耐える。そんな私に、陽菜荼は申し訳なそうな顔をする。

 

「迷惑なんて思いやしないよ。詩乃の事を頼むって、詩乃のお婆ちゃん達に言われちゃったし……。それにーー

 

ーー友達なんだから、助け合うのが同然でしょう?それに、あたしが詩乃の力になりたいし」

 

そう、平然と言ってのける陽菜荼がなぜか眩しく思える。陽菜荼はいつだってそうだ。もがいても足掻いても抜け出せない泥沼からいとも簡単に私を救い出してくれる…

 

「じゃあ…そうだな、香水、次の文章を読んでくれ」

「!?はい、えーと……どこですか?」

「また、聞いてなかったな…香水。○×ページの五行目からだ」

「あぁ…そうですか、本当にすいません…」

 

癖っ毛の多い栗色の髪を照れたようにかくと、陽菜荼はゆっくりとそのページ、文章を読んでいった。

 

 

γ

 

 

私、朝田 詩乃には幼馴染がいる。

 

彼女は私なんかよりもかなり強い精神力、行動力を持っている。その精神力と行動力は普段は発揮せずに、眠ったまんまになっているが…彼女が大切だと思っている人の悪口や危機に陥った時には、彼女は自分が傷つくことも(いと)わずにその大切な人の為に行動する。

実際に、私もその精神力と行動力に助けられた者だったりする…。

だが、その彼女の勇気ある行動を話す前に、私は私の犯してしまった罪を話さなくてはいけないだろう。私の人生を変えたあの事件の事を……




次回はあの事件のことを書きたいと思います、では!


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1章003 忌まわしい過去と優しいヒーロー

大変、お待たせいたしました。お気に入り登録28名の方、本当にありがとうございます!

そして、今回はかなり長めですが、どうか最後までご覧ください、では!


私は父の顔を知らない。

それは文字通り、容姿も知らなくては性格も知らない。それは私が物心つく頃には既に、父親という存在を証明するものが無かったからだろう。写真もなければ、アルバムも無かったし、動画というものは無かった。

それは、母が父が写っているもの、父が存在したといえるものを軒並みに焼き尽くしたからだ。しかし、母も好き好んで、そんなことをしたわけじゃない。

もし、母の心を壊してしまった出来事を語るのであるのなら、父の死こそが母を壊してしまったものなのだろうーー

 

 

ーーそう、だから、私が母を…守らなくては、と思うのは仕方がないことなのだ。

母が私をどう認識してたのかは分からない…分からないが、彼女は私に多くの愛情を注いでくれた。そんな母を、たった一人の家族を、大切な人を守りたいと思う事は間違っているのだろうか?

あの時、私が母のことを考えて、してしまった事はーー間違っていたのだろうか……?

 

 

…………もう、分からない…全てが

 

 

γ

 

 

私の母は儚く傷付きやすい少女だ。ただただ、平穏と静寂のみを欲するそんな生活の中でも、母は私を可愛がり愛してくれた。そんな母を守りたいと、母の助けになりたいと初めに思ったのは何歳の時だっただろうか?多分、物心がつく頃には、私は母を守りたいと思っていたのだろう。

 

 

だから、あの事件が起きたのはある意味、必然だったのかもしれない……

 

 

そんな私の人生を大きく変えることになるあの事件が起きたのは、私が小学校五年になった時だった。

11歳となった私だが、相変わらず彼女ーー陽菜荼以外のクラスメイトとは、仲良くなれずにいた。毎日、陽菜荼と共に図書室に通いつめている成果、成績は二人揃ってよくも対人関係については陽菜荼はごく普通で私は壊滅的であった。

そんな私はどうやら、外からの干渉に敏感らしかった。私の上履きを遊び半分で隠した男子生徒を本気で殴り、鼻血を出さした事もある。その後は、陽菜荼に促されるままに謝ったが、心の底では反省なんてしてなかった。陽菜荼が私を止めなければ、大喧嘩になっていたことさえある。そんな私に陽菜荼も手を焼いているようだったが、気が収まらない私はそんな陽菜荼の事もうっとおしかった。しかし、そんな感情を抱いたことを、私は恥じることになる。

 

 

 

そして、その日はやってくる……

 

 

 

その日はとても晴れた土曜日だった。

母と私は近所にある小さな郵便局に来ていた。母が書類を受付の人に出している間、私は近くにあるベンチに座り、プラプラと足を動かしながら、持参した本を読んでいた

 

「〜♪〜〜♪」

 

鼻歌交じりに本のページを捲ると、チリンとお客さんが入ってきたことを知らせる音が鳴る。思わず、顔を上げてみて眉をひそめた。

 

“このおじさん、なんかおかしい…”

 

それが現れたお客に私が抱いた第一印象だった。

灰色っぽい服装に身を包んだ痩せこけて、片手にボストンバッグを持った男。男の瞳は黄ばんだ白目の中央で、深い穴のような真っ黒な瞳がせわしなく動いていた。これは、のちに聞いた話だが、男はこの郵便局に来る前に覚醒剤を打っていたらしい。だから、あの深い穴のように見えたものは、単に瞳孔が異常に膨張していたのだろう。

そんな男は、私の母が居るところへと向かうと、何かの手続きをしていた母を突き飛ばす。母はショックのあまりにその場に固まり、私はその理不尽に怒りを覚え、立ち上がる。大声で、あの男に文句を言おうとした時には、男は次の行動に移っていた。カウンターに置いたボストンバッグから、黒光りするものを取り出すとそれを近くに立つ男性局員へと向ける。

 

“え…?あれなに、ピストル?いや、おもちゃ?ううん、あれはーー”

 

それが良くテレビやドラマなどで見ていた強盗だと分かったとき、私の血の気は引いたと思う。そんな私には構わず、男は枯れた声で喚く。

 

「この鞄に、金を入れろ!」

 

某然とする局員たちに男は続けて言い放つ。

 

「両手を机の上に出せ!警報ボタンを押すなよ!お前らも動くな!!」

 

そんな男の視界から離れた所にいる私は迷う。

 

“こういう時どうすればいいの?外に助けを呼びに行った方がいい?でもーー”

 

今だに、床へと倒れて動けないでいる最愛の母を置いていく事なんて、私には出来なかった。判断に迷い、無情にも時間だけは過ぎ去り、窓口の男性局員が札束を男へと差し出した時だったーー

 

キィーーンと、耳が痺れるような破裂音が聞こえると、私の目の前に金色の筒ーーもっと言えば、金属製の金ぴかと光る筒が転がっていた。顔を上げて、辺りを見渡すとカウンター向こうに立つ男性局員の白いワイシャツが真っ赤なシミを作っているのに気付き、恐ろしさのあまりに息を短く吸い込む。バタンと鈍い音が聞こえ、あの男性局員がカーペットの上に倒れているのに気付き、両手をギュッと握りしめる。そんな私のみみに男の怒鳴り声が聞こえてくる。

 

「ボタンを押すなと言っただろうがぁ!!糞がァ!!」

 

しかし、その怒鳴り声は裏返り、拳銃を持つ右手はよく見るとプルプルと震えているように思えた。

 

「おい、そこのお前!こっち来て金を詰めろ!」

「ヒィ……」

 

男が拳銃を向けた先には、固まる二人の女性局員が居た。

 

「早く来いよ!!」

 

二人は帯びたように、首を横に振るのみで動くことはなかった。そんな二人に苛立ちを積もらせながら、男はガンガンとカウンターを蹴り、カウンターへと拳銃を向けるが、しゃがみ込んでしまう局員たちに、男は遂に客用スペースへと向き直った。

 

「早くしねぇともう一人撃つぞ!!撃つぞォオオ!!!」

 

そう言った男が次のターゲットに選んだのは、私のお母さんだった。その瞬間、私は男に飛び掛かった。

 

“私が母を守らなくてはーー”

 

ただそれだけの行動ーー信念により、男の右手首をへと噛みついた私は、悲鳴を上げた男によりカウンターの側面に叩きつけられたが、気にしない。男が痛みのあまりに落とした拳銃を無我夢中で拾い、奇声を上げて、拳銃を私から奪いに来る男を遠ざけようとし、私は引き金を引いた。

 

「あが……」

 

悲鳴をあげて、後ろへとよろめいた男のグレーのシャツの腹部に赤いシミが広がるのを見て、唖然とする男が私へと飛びかかってくるのにまた引き金を引いた私だが、その衝撃から後ろにあるカウンターへと背中を打ち付けてしまう。しかし、それでも動きを止めない男に私は、3度目となる引き金を引きーー

 

「………」

 

おでこの真ん中に穴を開けて、倒れこむ男の息がないか確認にする。もう既に、引き金を引いた衝撃により両肩や両腕はギシギシと痛み、涙が溢れそうだったが、その痛みよりも私はある感情の方が優っていた。

 

“守ったーーお母さんを、私が!”

 

最愛の母を守れたことが何よりも嬉しくて、私は母のいる方へと振り返り、その瞳に映る色に絶望した。

最愛の母は明らかに、私へと恐怖と脅えを浮かばせていた。それに導かれるように、下へと視線を向けるーーそして、今だにしっかりとグリップを掴んでいる小さな両手とどろりとした赤黒い液体の飛沫に私は目を見開き、悲鳴を上げた……

 

 

その後の事は、正直よく覚えていない。

紺色の制服を着た大人たちに言われるままに、赤く点滅する白と黒に塗装された車へと乗せられ、その時に右肩の痛みに気付いて、恐る恐る近くにいる大人へと訴えて、今度は真っ白くて大きな車へと乗せられたこと。病院のベッドで繰り返して、女の警察官に同じ質問を聞かれたこと。母に会いたいと訴えても、叶えてもらえなかったこと……上げれば、数え切れないがそのどれもが叶うことはなく。この事件の後の生活が、その前の生活に戻ることもなかった……

 

 

γ

 

 

その事件の後、学校へと戻った私に待ち受けていたのは地獄だった。

 

「殺人者〜」

「うわァ、やめろよっ!血がつくだろっ、この人殺し!」

「人殺しっ♪人殺しっ♪朝田は人殺しっ♪」

「……」

 

もう、限界だった。

彼らは私のものに触ろうとはしない、そして私という存在がないように振る舞う。正直、慣れていたし、集団生活にも慣れていなかったので良かったーー良かったのに…。

 

“私はいつから、こんなに弱くなったのだろう…”

 

彼らに、ゴミを触るように自分のものを触られたり、隠されたり、踏まれたりされるのが我慢ならなかった。担任の先生も当てにはならない。彼らも私には関わり合いたくないのだから…。

俯き、私の周りをバカ騒ぎするクラスメイト達がただただ立ち去るのを黙って待っているとーー

 

「下らない奴ら」

 

ーーその時、凛とした声が教室に響いた。

 

「そんな事で、自分と詩乃を判別して、勝手に優越感に浸ってると……ハァッ、ほんと下らなっ」

 

隣を見ると、陽菜荼が私を取り囲んで、大騒ぎをしていた男子や遠くであざ笑うように、こそこそ話をしている女子たちに鋭い視線を向けている。

そんな陽菜荼の態度が気に入らなかったのか、一人の女子生徒が陽菜荼の机の前まで来て、逆に陽菜荼を睨みつけた。

 

「何?香水。あんた、この人殺しの肩を持つっていうの?」

「……」

 

女子生徒の言葉を横を見て、無視を決め込む陽菜荼にその女子生徒は遂に頭に血が上ってしまったようだった。陽菜荼のカッターシャツを掴み上げる。

 

「無視してんじゃあないわよっ!!」

「痛いんだけど。何をそんなに怒ってるの、椎名。本当の事、言われたからって頭に血を上らせてるの?そんなにカリカリしてると彼氏さんに嫌われちゃうよ〜、あっ…ごめん。彼氏さんとは、昨日別れちゃったんだっけ?」

「あんたね……っ」

「事実だろッ!いい加減、離せよッ!!」

「!?」

 

女子生徒の襟首を掴んでいる手を払いのけると、陽菜荼は周りの人を睨みつける。

 

「もう一度言うよ。君たちは実に下らない、下らない奴らだよ……。

詩乃の事をろく知ろうともしてないのに、そんな物事だけで詩乃を勝手に決めつけて、傷付けて……安易な優越感に浸っている。愚かで実に下らない、あぁ、下らないな。君たちは詩乃の事を分かろうとしたことがあるか?一度もないだろう?何故、あんな事をしなくてはいけなかったのかって、考えたことはあるか!?ないんだろうッ!!?

無いのにーー

 

ーーそんな下らない理由で、あたしの親友をイジメナイデクレルカナ?

 

 

私も初めて聞く陽菜荼の低い声に、周りのクラスメイト達は震え上がり、私や陽菜荼から遠ざかる。そんなクラスメイト達を一瞥すると、陽菜荼は更にドスを効かせた声を上げる。

 

「もし、同じ事をしたら分かるね………、もう次はないから…ーー分かったなら、さっさと帰りなッ」

『ヒィイイイ』

 

一目散に帰っていく生徒達の中で私はポカーンと陽菜荼の方を見ていた。そんな陽菜荼はというと、深くため息を着くと、いつも私へと見せる笑顔を浮かべると、私のバックを私へと差し出す。

 

「フゥ……。じゃあ、詩乃、あたしたちも帰ろうか?」

「うん…陽菜荼」

 

“流石に、陽菜荼にも…涙を流してたなんて、知られたくない…”

 

我慢ならずに、俯いて涙声で陽菜荼の隣へと並ぶと、袖で涙を拭い、陽菜荼を見上げる。この頃から、陽菜荼の背は止まることを知らずに伸び続けて行くのだった。

そんな陽菜荼は私の方をちらりと見ると、頬を染めて、あらぬ方向を見る。

 

「……」

「何を黙ってるの?陽菜荼」

 

そんな陽菜荼の行動に疑問を抱いた私が質問すると、陽菜荼は参ったように頭をかくと、ソッポを向き ボソッと何かを呟いたあとに、私の方へと振り返るとはにかむ。

 

「ん〜、そうだね………流石に、今の詩乃が可愛すぎるって言ったら、幻滅されるよな……」

「?」

「何でもないよ、詩乃。それよりも早く帰ろう、お父さんが心配してるかも」

「ふふふ、そうね。陽菜荼のお父さんって心配性だもんね」

「まぁ、それがいいところなんだけどねぇー。もう少し、あたしの事も信用してくれたっていいのにさー。詩乃もそう思うでしょう?」

「思うときはあるけど…おじさんはおじさんなりに、陽菜荼の事が心配なんだよ」

「……、………そうかね」

「そうだよ、きっと」

 

私の声にも、首を傾げる陽菜荼に笑いながら、私たちは帰路を歩いた……




というわけで、おしまいです。

不安に思っている点は、シノンの小学校の制服ってカッターシャツだっけ?という点です。
あと、シノンがいじめられて、涙を流していたってシーンは読者の皆様の意見が分かれるところではないか?と個人的に思っております。


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1章004 本音と本音のぶつかり合い

大変、お待たせいたしました…本当にすいません。もう少し更新スピードを上げられるように頑張ります。

そして、お気に入りが45名になっていて、驚いてしまいました。本当に“え……うそぉ……”みたいな感じでして。
評価の方にも、8と6っていう勿体無い評価を頂いて嬉しい限りです!!

多くの方に読んで頂いている事に、深く感謝致します(礼)




私の幼馴染は強い精神力と行動力を持っている。それは普段は眠っているが、大切な人を守ろうとする時などに使われるなど、私もその精神力と行動力に助けられた人の一人である。

 

彼女のその強さは、彼女の生活の何処から建築されて行くのだろうか?

私には、それが分からない。だって、彼女は私に多くを語らないから……

 

しかし、私だって思うのだ。

私の事をもう少し、頼ってくれてもいいのに……と。

彼女に守られてばかりではなく、今度は私が彼女を救いたい。彼女の力になりたいとーーしかし、その私の願いはまだまだ叶いそうにない…

 

 

γ

 

 

私を庇って、クラスメイトたちを脅した陽菜荼はあの放課後の出来事から私と共に、クラスメイトたちに避けられている。その避けるクラスメイトの中には、陽菜荼が私以外に初めて出来た友達も含まれていて……

 

“私なんか構うから、陽菜荼まで…”

 

初めての友達グループだったその子たちは、私たちが通ると顎で私たちを指差し、一目散に私たちから逃げる。

 

「うん、でね」

「うんうん、それ見た!面白かったよね〜」

「私ね、あの人が犯人だと思うんだよ〜」

「えー、絶対違うよ〜、あの人は……って」

「どうしたのよ」

「ん、香水と朝田」

「あぁ〜、本当だ。道開けよ」

「うん」

 

それは、彼女たちだけではない。

クラスメイトたち全員が私たち通るたびに、パァ〜と散らばり、私たち通り終わると何事もなかったように話し出すのだ。

私は陽菜荼に申し訳なさと私がいる方へと巻き込んでしまった罪悪感で、陽菜荼の隣で歩く時も下ばかり見ていた。

 

「……香水って変わり者だよね〜」

「……そうそう、あんな人殺しの事構うなんてさ〜」

「……まぁ、実際 香水自体も何考えてる分かんない奴だしさ〜」

「……そうだな、まぁいいんじゃねぇ。人殺しと不思議ちゃん同士で仲良くやればっ」

「……そうそう」

 

そのヒソヒソ話の後に続くのは、小馬鹿にしたような下卑た笑い声だ。

 

“陽菜荼は…不思議ちゃんなんかじゃない。陽菜荼は勇気がある人なんだ…私なんかよりも。増してや、あそこでコソコソ話なんかしてる奴らよりも、ずっとずっと多くの勇気を持っていて…その勇気を周りにいる困った人へと使うことが出来る人なんだ。それがどれほど大変な事なのか、あそこにいる人たちはそのことの重要性が分かっているだろうか?いや、分かってないだろう”

 

そんな無知で人を陥れることしか、考えてない人達になんで陽菜荼は陰口なんかを言われているのだろうか?

理由なら、分かってる。

 

“全部私のせいなんだ……私のせい…”

 

そんな輩に、陽菜荼が陰口を囁かれているのは、全部私のせい。なので、私は下を向き、陽菜荼のカッターシャツの袖口を掴んでーー

 

「ーーごめんね…陽菜荼。ごめんね…私のせいで…っ」

 

罪悪感の強さから溢れそうになる涙を堪えつつ、そう呟く私に陽菜荼は突然立ち止まると私の方へと振り返る。

 

「意味が分からないな」

 

ポツンと呟かれた一言に、私は下を向いていた顔を上げて、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、陽菜荼の顔を見た。

そんな陽菜荼はというと、透き通った空のような蒼い瞳を此方へと向けて、不愉快そうに眉をひそめている。

 

「え?」

「だ・か・ら。詩乃がなんで、あたしに謝ってるのかが分からないって言ってるの。アンダースタン?」

「アンダースタンって……。陽菜荼こそ、分かってるの!?陽菜荼は私なんかを庇ったせいで、みんなから避けられているのよ!」

 

陽菜荼の小馬鹿にしたような態度に、つい血が上ってしまい、大声が出てしまう。周りにいる違うクラスの生徒や先生達が、何事かと好奇心に溢れた視線を向けてくるが私たちと分かると、何事無かったように散っていく。

 

「ほら、見てよ。違うクラスの子たちや先生までもが、私たちが存在してないかのように振舞っているのっ!

私はそれをどうとも思わないけど、陽菜荼は違うでしょう!?陽菜荼はあっち側の人じゃない!なのに、なんでこっち側の人のように扱われているの!?

 

私はそれが許せないのッ!!!

 

陽菜荼は優しい人なのに……私なんかを助けてくれたのに……こんな扱いなんて無いのよ…ぅっ、うぁあああああん」

「ちょっ、詩乃!?なんで、怒ってたかと思うと泣くのさ!?あたしの方が意味がわかんないよっ!」

「うぁあああああん」

「もう泣くなら、屋上行こ?あそこなら、誰も来ないしさ。あたし達が授業休んだところで、誰も咎めないだろうからさ。

ほら、泣いてないで行くよ。目を開けて、瞑ってたらさ。階段に躓くよ」

「うっ、ぅっ……うん、分かった……っ」

 

怒っていたかと思っていたら、突然泣き出した私に陽菜荼は困惑した様子だったが、私が泣き止まないと分かると屋上に続く階段を私の手を引いて、登り出す。

 

 

γ

 

 

「いやぁ〜、授業サボって、屋上とか割とロマンだよね〜」

 

屋上に配置されているベンチへと腰掛けた私へと、隣に腰掛けた陽菜荼がハンカチを差し出す。それを受け取って、涙を拭く間に陽菜荼はパタパタとはしたなく脚を動かしている。

 

「ロマンって」

 

私が問いかけると、陽菜荼は空を見上げて語り出した。

 

「ロマンだと思わない?

だってさ、本当はあたし達以外にも人がいるのにさ〜。こんなに静かでさ、まるでこの世界にあたしと詩乃しか居ないような感覚になんない?こう、ドキドキするっしょ!?」

「陽菜荼らしくない、その回答」

「あのぉ〜詩乃さん、本気で怒るよ」

 

素っ気ない私の返事に陽菜荼が睨みつけてくる。その後はどちらともなく、笑いあった。

ひとしきり、笑った私たちは深呼吸して息を整えると、陽菜荼が私の方を向いてきた。しかし、私はそんな陽菜荼の視線から逃れるように、視線を下へと向ける。

 

「いやぁ〜、笑った笑った。

さて、それじゃあ、詩乃が知りたがっているであろう話でもしようかね」

「……」

「何、身構えてんのっ、対した話しないしさー。詩乃があたしの話を聞きたくないのは分かるけどさ〜、でも一つだけは言いたいし、伝えたいんだーー

 

ーーだからさ……あたしの顔を見てよ、詩乃

 

詩乃に後ろ向きなんて似合わないって。いつか、あたし言わなかった?」

「いっへない」

「そう、それは残念……って、ブ〜ッ!!」

 

私の頬を両手で掴んで、無理矢理、前へと向けさせた陽菜荼は私の顔を見て、ブッと吹き出す。それに腹立てた私は陽菜荼の両手を剥がすと、陽菜荼を睨みつける。

 

「……陽菜荼は、私と居て楽しいの?無理してない?」

 

私が考えに考えた質問に、あっけらかんとした感じで答える陽菜荼にカーッと血が上ってしまい、ついに思ってもないことまで言ってしまう。

 

「楽しいよ、なして?そんな事聞くのさ、変な詩乃〜。

第一に無理なんかしたことないし、詩乃と一緒居たいっていうのが、あたしの本心だしさ」

「ッ、本当に本心なの?陽菜荼は私に同情してるだけじゃないの」

「ーー」

「何も答えないって、さっきの私の言葉に肯定ってわけね。やっぱり、そうなのね。陽菜荼は同情で私とーー痛ぁ…?え?陽菜荼…?」

 

左頬にヒリヒリとした痛みが広がる中、私は痛みよりも目の前にいる陽菜荼の頬を流れる透明な雫に言葉が出なくなる。右手が上がっているところを見ると、頬をビンタされたのはどうやら事実らしい。

 

「詩乃は今まで、あたしの事をそう思っていたんだね、びっくりだよ。全く、見くびられたものだよな。

ねぇ、詩乃…あたしも言いたいことがあるんだ、いい?」

「……何よ」

 

涙を乱暴に拭った陽菜荼は、私を睨みつける。その瞳には、純粋に怒りの炎だけが燃えさかっており、私は戸惑う。彼女と出会って、そんな感情を私は今まで向けられたこともなかったのだから。

 

「さっき言ったよね?あたしはあっち側の人間で、詩乃はこっち側の人間だって、あの意味が分からないんだけど、詳しく説明してよ」

「説明しなくても分かるじゃない、そのままの意味よ」

「だから、それがわかんないって言ってんのっ!!分からず屋だな!!詩乃が言う、そのままの意味って何さ!?あたしが詩乃を邪険に扱うあんな情念の腐り切った輩と同じとでも言いたいわけなのか!?どうなのさ、詩乃、答えてよ!!」

「……」

 

そこで、私は私の罪に気づいた。

 

“私は私の価値観を、陽菜荼に押し付けていただけなんだ…。勝手にあっち側とかこっち側とか決めつけて、陽菜荼はそうするべきって思って……でも、陽菜荼はそんな事望んでなくて……。

陽菜荼が望んでいるのは、もっと単純なものなんだ……”

 

ポロポロと溢れてくる涙が頬を濡らすが、頭に血が上ってしまった陽菜荼はそれくらいでは収まらない。

いつもは優しく穏やかな色を帯びている蒼い瞳が一瞬で赤く染まる。恐らくそれは、陽菜荼が私に対する怒り…私の一言で彼女はそこまで怒り、私へとそのまるで研ぎ澄まされた刃物のような視線を向けているのだ。

その鋭い視線が私の心の深いところを(えぐ)り、傷付ける。

 

“一瞬でも陽菜荼を疑った私自身を殴ってやりたい”

 

「何、黙ってるのさ!!あたしは聞いてんの!?あたしはあっち側の人間なの?それとも、こっち側の人間?」

「……ひくっ」

「何、泣いてんのさっ。まだ、詩乃の口から答えを聞いてない。さぁ、答えて。あたしはどっちの人間なの?」

「ぅっ……ひなっ、た……はどっちの人間でもない…わ…」

「……何?人間ですらないとでも言いたいの?詩乃」

 

陽菜荼の冷たい声が鼓膜を通り、私の深いところへと突き刺さる。

首を横に振る私に、陽菜荼は眉を顰めると視線だけで先を促す。

 

「……陽菜荼は、あっちでもこっちでもない。私の大切な親友よ」

「……そう、ならあたしがあんなに怒ったわけも分かるよね?」

「うん。さっきはごめんなさい、陽菜荼が同情なんかで人を判断してるわけないものね。私がバカだったわ、頭に血が上っていたからって、あんな事を…平気な顔をして言うなんて……」

 

下を向く私の頭にポンと手を乗せた陽菜荼が、よしよしと私を頭を撫でる。そして、私がチラッと陽菜荼の方を見ると、頬をかく。

 

「あぁ〜うん、あたしも悪かったよ。あんな感情をぶつけるような事言ってさ。

でも、それだけは言っとくよ。あたしが詩乃の傍に居るは同情なんかじゃない…、もっと単純な気持ちだよ。詩乃の傍が楽しんだもん、楽しいから傍に居たいし、助けたいって思う。誰だって楽しくて居心地いい方を選ぶものでしょう?たまたま、それが周りに受け入れなれなかっただけ、ただそれだけなのに。詩乃ってくだらない事で悩むんだね、もっとあっさりしてるかと思ったのに」

「あっさりしてなくて、悪かったわね……私だって、大切な親友が陰口を囁かれていたら、止めたいって思うものなのよ」

 

プク〜と頬を膨らませる私に陽菜荼は爆笑。

 

「ぁ〜、やっぱ、詩乃の傍が一番落ち着くし、楽しいわ〜。今日も凄く笑わせてもらったし」

「それはどうも」

 

陽菜荼はふいに、私へと顔を近づけてくる。突然迫ってくる整った顔立ちに、私は息を止める。そんな私に、陽菜荼はニコ〜と輝く笑顔を浮かべると

 

「詩乃はどうよ、あたしと居ると、安心する?」

「するっ、するから顔を離しなさいよ」

「いや、これは嘘をついてないか、調べるためだから」

「意味わかんないわよっ!!」

 

どうにか、陽菜荼を剥がした私に陽菜荼はニコニコと絵がを浮かべたままに右手を差し出した。

 

「んじゃあ、これからもよろしく、親友」

「えぇ、よろしく、親友」

 

その握手の後に響くチャイムに、私と陽菜荼は屋上を後にして、教室へと向かった…




どうしよ…やらかした感じしかしない…。

でも、ケンカシーン入れたかったんですっ


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1章005 相談しあえる仲

感想を書いていただいて、冷静に本文を読んでみたところ…中学時代の話書いてないわっ!ということに気付きまして…、読んで頂いている皆様への謝罪の気持ちで書かせていただいたのが、この話です。

本当にすいませんでした…


そして、今回はかなり短いめです。


私の幼馴染は性格的には残念なところが目立つが、それ以外は完璧と言わずとも、人々が思い描く理想像には限りなく近いであろう。

 

透き通った空のように大きな瞳は見る者全てを惹きつけるであろうし、顔立ちも幼さこそあるものの、整っている方であろう。それに加え、その場を盛り上げるムードメーカーというのだろうか?

そういう役割も彼女は補っていたため、まぁ…その年頃の男の子は彼女に惹かれるのは当たり前といえば、当たり前なのかもしれない…

 

しかし、ならば、毎回毎回私へと報告してくるのは…一体、何の嫌がらせなのだろうか?

うっとおしいし、やめて欲しいのだが…まぁ、それくらいの相談には乗ろう。その倍くらい、私は彼女へと相談しているのだから……

 

 

γ

 

 

小学校を卒業して、近くにある中学校へと進学した私たちはというと、相変わらず クラスメイト達から避けられていた。なので、小学校の頃と変わらない生活を送っていたのだが…中学校二年となったある日の事。

 

「ねぇ、詩乃ってさ。一年生の田崎って子知ってる?」

「何よ、唐突に…」

 

小学校の頃から、利用させてもらっている屋上には小学校と変わらない景色が広がっていた。

なので、私たちは早々と屋上に居座り、居場所を作ったのであった。放課後は必ず利用させてもらっているベンチに座って、時間を潰しているとふいに陽菜荼が私へと問いかけてきた。

そのいつになく真剣な表情に、私はびっくりしつつも陽菜荼へと視線を向ける。陽菜荼は照れた様子で、ポツリポツリと話し始める。

 

「いやぁ〜、詩乃が日直の仕事をしてる最中に呼ばれちゃってさ…。言われるがままに着いて行ったら、告られて…どうしようかと……」

「ーー」

「あの〜、詩乃さん?」

 

“はぁ?イワレルガママニツイテイッタラ、コクラレテ?”

 

余りにも、衝撃的な出来事にフリーズしている私へと右手を目の前で振る陽菜荼。そんな陽菜荼の肩を掴んで、私は声を荒げる。

 

「知らない人に着いて行ってはダメと教わらなかったのっ!?」

「いやぁ…詩乃こそ何言っての…、後輩なんだら知らない人じゃないでしょうに…」

 

呆れ顔の陽菜荼に、私は興奮気味に問い詰める。

 

「一年生の田崎なんて知らないわよ。陽菜荼、騙されてるんじゃないの!?」

「いやいや。学校中の嫌われ者のあたしに誰がそんなサプライズをーー」

「ーーそのサプライズかもしれないじゃないっ」

「いやいや。詩乃が何故にそんな興奮してるのか…あたしには分からん」

 

私の質問に、終始呆れ顔の陽菜荼は両肩を掴む私の手を外すと私の背中を撫でる。

 

「少しは落ち着いた?詩乃」

「えぇ、まぁね」

「で、どうしたらいいと思う?」

 

可愛らしく小首を傾げて尋ねてくる陽菜荼に、私は絶句して…溜息を着くと静かに答える。

 

「……陽菜荼の好きにしたら?」

「あら、割と冷たい回答だわ。あたしの親友」

「正論でしょう?それ以外になんて言えばいいのよ…、私が断りなさいって言って、断るとも思えないしね、あなた」

「あはは……」

 

そう言って、横を流し見ると苦笑いを浮かべる陽菜荼の表情が見える。私の鋭い視線から逃れるように、視線を泳がせる陽菜荼。

 

「まぁ、これだけは言っておいてあげる。

その田崎って子が真剣に告白してきたんだから、陽菜荼も真剣に答えるべきね」

「……そうだね…」

 

私の言葉にコクンと頷いた陽菜荼は、その後 真剣に考えて出した答えは結局、付き合えないとお断りしたらしい。それはどうしてなのかと、私が陽菜荼へときいても、陽菜荼がその理由を答えることはなかった…




変な終わり方ですが、これで中学時代お終いです


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1章006 嘘泣きが得意なめんどくさがり

お待たせいたしました、今回は短めです。

何故か、書いていると百合展開へと発展してしまうんです…純粋に友情を書きたいだけなのになぁ…(笑)
百合ってタグ入れた方がいいかなって、今本気で悩んでいる私です。

お気に入り登録・60名となりました!本当にありがとうございます!!
ゆっくりと更新して行きますので、どうかよろしくお願いします(礼)




※多くの方に感想を頂き、改善した点があります。

①本作のタイトルが、他の作品とタイトルが似ている為…タイトルを返しました

②この#6で、間違えていたところを書き直しました。

本当に至らぬ点ばかりで…申し訳ないです(汗)

以後は、こういうことがないようにしたいと思いますので、これからも応援の程をよろしくお願いします(礼)


※※4/23〜誤字報告、ありがとうございます!



私の幼馴染はガサツで、面倒臭がり屋である。

例えば、彼女は料理は得意であるが掃除が苦手というのは…多分、いや確実にこの性格ゆえであるだろう。彼女の面倒くさがりは度を過ぎていて、彼女をほって置いたら、部屋中がゴミだらけになるほどである。彼女曰く、自分が必要としているものを効率良く手に入れる為に構築されたポジションとの事であるが…はっきり言おう、な訳あるか‼︎と

 

しかし、彼女の性格を知っている私からして、この面倒くさがり屋を直すことは絶対に出来ないであろう。ならば、私はこれまで彼女に迷惑を掛けてきた分、彼女の世話を引き受けよう。それで、彼女への恩を返せるかどうかは分からないが……

 

 

γ

 

 

中学校生活の約三分の二を終えた今日この頃。

私と陽菜荼は、いつもの如く屋上に居座っていた。二人して、いつかのときに大喧嘩したベンチへと腰掛けて、昼ごはんを食べるのが日課となっていた。

そして、日課となっている屋上のお昼ご飯を食べ終えた私たちは、自然と卒業後の話へと花を咲かせていた。

 

「いやぁ〜、もう卒業って早いもんだねぇ〜、詩乃」

「えぇ、そうね」

「なんか、素っ気ないな、今日の詩乃。まぁ、いつもの事だし、いいけどさぁ〜。

ちなみに、詩乃はどの高校に行くつもり?」

「私は働くつもりよ。お爺ちゃんとお婆ちゃんにはまだ言ってないけど」

「ふーん、そう……えぇえええええ!?!?」

 

陽菜荼が問いかけてくるのを、淡々と受け答えしていると左耳からつんざくような声が聞こえてきた。私は、左耳を押さえて、その声がした方を睨むと空のように透き通った大きな瞳をまん丸にした幼馴染が凄い勢いで、私の両肩を掴んできた。

 

「なんで!?」

「なっ、なんでって…?」

 

私の答えが余りにも衝撃的だったのか、陽菜荼はユサユサと無意識に私の身体を揺さぶりながら、自然と私へと顔を近づけてくる。

 

“なんなのよ、もう”

 

彼女から漂ってくる異様な熱意と、いつもの行為に呆れと戸惑いを隠せない私はグイグイと近づいてくる陽菜荼の顔をあちらへと押し返す。

最近になって気付いたのだが、どうやら顔を近づけてくるのが、彼女マイブームらしく……私としてみれば、幼馴染といえど気恥ずかしいのでやめてほしいと思っている。

 

「あたひといっひょのこうひょうひってくれるひゃないの。こにょ、うらひりもにょお」

「何言ってるのよ。言葉噛みすぎてて、意味が分からないわよっ」

 

私が顔を押さえつけているにも関わらずに喋るので、正直に彼女が私に何を伝えたいのかがよく分からない。私がつっぱっている両手を離すと、私へと倒れこんでくる陽菜荼。そのまま、抱きついてくる陽菜荼に私は終始困惑。

 

「……ぅっ、ぅぅ……」

「……」

「ぁああああ」

 

固まったままの私にグイグイと近づいて、更に強く抱きついてくる陽菜荼は、終わりには泣き出してしまう。

 

“泣きたいのは私の方よ…”

 

全く、意味がわからない。本当に意味がわからない…。身に覚えないし、何ゆえに泣かれているのかも見当がつかない。

 

“でも、珍しいわね”

 

そう、彼女がここまで涙を流しているところは見た事が私に無かったのだ。本来なら、立場が逆なのだが……何故か、今は陽菜荼が私の胸へと顔を埋めて泣いている。

流石にここまで泣かれると罪悪感に苛まれるので、私は陽菜荼の癖っ毛の多い栗色の髪へと右手を乗っけるとゆっくりと撫でる。

 

「陽菜荼…私が悪かったわ…。だから、泣き止んでよ…ね?」

「……いや、詩乃が高校行くって言うまで、大泣きする…」

 

“え…、そんな子供みたいなタダをここで……?”

 

彼女がタダをこねることも余り無いのだが…、どうやら私の就職希望が余りにもショックだったらしい。しかし、私としてみても、このまま泣き続けられると精神的に参ってくる。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、いきなり大声を上げて泣き出す陽菜荼。

 

「うっああああん」

「ちょっ、何、突然大声で泣いてるのよ!」

「ぁああああん」

「分かったわ、分かったわよ!どうせ、お爺ちゃんとお婆ちゃんには反対されそうだったし、高校に行くわ。だから、泣きやーー」

「ーーやったぁ♪大好きだよ、詩乃」

 

“オイッ”

 

満面の笑みで私から顔を上げた陽菜荼の頬には、一筋も雫が通った道が着いていなかった。

どうやら、私はまんまと彼女の嘘泣きに騙されたらしい。ガクッと肩を落とす私に、陽菜荼はしてやったりといった感じで笑っている。パタパタと両脚を動かして、下を向いている私の顔を覗き込んでくる。そんな陽菜荼を睨みつける私は、深く溜息をつくと、こくんと頷く。

 

「女に二言は無いからね、詩乃っ♪」

「……はぁ…、陽菜荼が行くところに一緒に行く……でいいかしら?」

「充分だよ、あたしが勉強を教えてあげるからさ。二人で必ず、受かろうね〜」

「えぇ…、出来る限りのことはするわ」

 

やる気満々の陽菜荼と、シブシブと言った感じで高校を目指すことになった私の受験生活が始まった…

 

 

γ

 

 

結果的に言うと、私と陽菜荼は第一希望としていた東京の高校へと受かったのであった。

私が家に帰って、それを告げると、お婆ちゃんとお爺ちゃんは喜んでくれたが…その瞳に一瞬だけ、複雑な色が浮かんだのを私は見逃さなかった。

 

東京へと向かう当日、荷物をまとめているとお婆ちゃんが私の部屋へと来た。ゆっくりと片付いていく部屋をさみしげに見たお婆ちゃんは、ポツンと呟く。

 

「本当に行ってしまうのかい?詩乃」

「うん…心配しないで、お婆ちゃん。陽菜荼も一緒だもの…大丈夫よ」

「そうね、陽菜ちゃんもいるものね…」

 

お婆ちゃんは、近くにある物を手に取ると

 

「これはこっちのダンボールかね?」

「うん、そうだよ。ありがとう、お婆ちゃん」

「二人でした方が早いもの」

「うん、そうだね」

 

お婆ちゃんのおかげで、片付いた荷物と共に私は新たな生活を送ることになるマンションへと向かう、幼馴染と共に……




変な終わり方?


しかし、原作でもこんなやりとりがあったのではないかなぁ〜って私は勝手に思ってます(笑)


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1章007 遠藤さんと香水さんの出逢い

今回の話は、遠藤たちとの絡みを書いてます。それと、初となるヒナタ視点で、話が進んで行くので…そこもお楽しみに。

※お気に入り登録・81名、本当ありがとうございます!!


9/19〜感想にて、文章を矛盾をご指摘いただき、直させていただきました(礼)



私の幼馴染は写真を撮ることが好きだ。

 

本人曰く、父親の影響との事だったが…私はおじさんがカメラを構えているところをあまり見たことない。だが、運動会などたまに見るおじさんのカメラの構え方が妙に熱が入っているように見えることから、彼女の言っていることもあながち間違っていないということだろう…

だって、カメラを構えている時のおじさんの表情はキラキラと輝いていたから。まるで少年の頃に戻ったみたいにキラキラと目を輝かせながら、シャッターをきるおじさんの姿は私から見てもカッコいいと思ったし、それなら彼女がカメラを好きになるのも分かる気がすると思った。

 

そんな彼女を隣で見ているのも私は好きだし…彼女が撮った写真を見るのを、今の私のちょっとした日課となっている…

 

 

γ

 

高校に入学して、数週間後が過ぎたある日の事。

いつも通り、あたしが教科書やノートをスクールバックへと入れている隣で、あたしの幼馴染がある女子高校生たちと雑談をしている。チラッと横目で、その様子を見ると幼馴染の相手を品定めするように見る。

左から小、中、大と並んでいるこのクラスメイトはこの高校に来てから出来た最初の友達?だ。?マークがついてるのは、あたし自身がこの三人のことを胡散臭く思っているからだ。

彼女らのグループは、この高校でもかなり上位にランクインしていて、クラスの中でも権力はある方ではないかと思ってる。そんな彼女らが何故に、あたしらみたいな存在感薄い者へと拘るのか…?本当に疑問だ…、にしてもーー

 

“ーー相変わらず、化粧濃いな…この三人。都会の女子高校生ってのは、こんな感じなのかね…”

 

このグループのリーダー格の少女が黒々としたアイラインとラメ入りの口紅が彩る唇を見ていると、思わず顔がこわばる。

 

“詩乃はよくこんな人達と、平然と話せるよなぁ”

 

顔つきも化粧の仕方も、まるでギャルみたいで…あたし自身あまり相手したくない分類の人達である彼女らは。

それに比べて、あたしの幼馴染である朝田 詩乃は飾らない美しさがあるとあたしは思う。

焦げ茶色のショートヘアに、同色の大きめな瞳。いつの間にか、かけるようになった黒縁の眼鏡の存在もあって彼女のどこにでもいそうな…もっと言えば、少し地味な学生といった感じだ。

だが、よく見れば彼女の魅力に気付くはずだ。あの遠藤たちを仮にバラと例えるならば、詩乃は山の中にひっそりと咲く山桜みたいな感じだろうか?

ふとした瞬間に浮かべる憂いの表情や、呆れ顔に時折胸が高鳴る。

 

“まぁ…そんな事本人にいったら、確実に怒鳴られるだろうけどね…”

 

「ねぇ、陽菜荼」

 

そもそも、あの遠藤グループ自体がおもしろくない。

前に幼馴染とともに、彼女たちと遊んだが面白くなかった。殆どはあのグループの○○は○○とか、悪口ばっかりだったし、ファッションも拘りがあるかと思えばありもしない。

その一件で、あたしは彼女たちと一緒にいる時間が無意味であることを思い知った。

 

「ねぇってば、聞いてる?陽菜荼」

 

しかし、幼馴染はそうは思わなかった様子だった。まぁ、無理もないだろう。あの事件を知らないあたし以外の初めての友達なんだから…。なので、彼女たちとの事は幼馴染に任せている。

 

“それに…あたし自身嫌だけどね、化粧とか。あれで懲りたし…”

 

前に彼女たちに、面白半分に化粧をされたことがあった。彼女たちは嬉しそうにしていたが、鏡を見たあたしはそのセンスのなさに愕然とした…。まぁ、一番の理由は洗い落とすのが面倒だったというのだが……。

苦笑いを浮かべるあたしの肩を誰かがトントンと強めに叩くので、そちらを見ると不機嫌な顔つきになっている幼馴染がおっかない視線を眼鏡越しから送っている。

 

“ありゃ…、あたし…やらかした?”

 

「やっと気づいたかしら?陽菜荼」

 

焦げ茶色のレーザービームから逃れるように視線を泳がしながら、ごまかすようにワザと明るい声を出す。

そんなあたしの様子に、幼馴染は「はぁ…」とため息を着くと、もう一度説明してくれる。

 

「まぁね。で、どうした、詩乃。やけにおっかない顔してるけど」

「あなたが遠い目をして…私の声を無視するからでしょう?遠藤さん達とカラオケに行くんだけど、陽菜荼はどうする?」

「あたしはいい。写真部の活動があるし…詩乃だけ楽しんでおいで。あっ、お土産とはいいからね」

 

“なんか、こいつら…裏がありそうで嫌だしね…。詩乃にも、部屋には入れるなっていつも言ってるし、問題ないでしょう…”

あたしはスクールバックを持って、席から立ち上がると冗談を言いつつ、あの三人組へと視線を向ける。

すると、なぜかニヤニヤと不気味な笑みを浮かべているのに気付く。首を傾げるあたしに幼馴染の呆れ声が聞こえて、冗談とノリで幼馴染に抱きつこうとすると跳ね除けられてしまった…。

 

「カラオケに行くだけなんだから…お土産なんて買えないでしょう。コロッケかメンチカツあたりでいい?」

「さすが、詩乃!!あたしの事分かってる〜〜。大好きっ。愛してる〜よ〜〜詩乃〜」

「はいはい。それより早く行かなくていいの?部活動」

「おっ、そうだった!じゃあね、詩乃」

 

 

戯れもそこそこにその場から立ち去ったあたしは、のちにこの時取ってしまった自分の行動を後悔することになる。

あの時こうしていればと、後悔してもしきれない…

 

 

γ

 

 

詩乃と遠藤たちがカラオケに出かけた日から、その数週間後。

部活動を終えたあたしがドアを開けると、私服に着替えた詩乃が出迎えてくれる。だが、何故か違和感を感じる…と思い、下を向いてみるとーー

 

「ただいま〜」

「あっ、おかえりなさい。陽菜荼」

 

“ーー知らない革靴があるな…”

 

「ん、ただいま、詩乃」

 

知らない革靴三つに、嫌な予感を感じながらも部屋に入ってみると…そこに広がる光景に愕然とした。

 

「おかえり、香水」

「「お邪魔してまーす」」

「……」

 

“おいおい、マジかよ”

 

小さなリビングは三人組により占領されており、あたしはおろか、詩乃の座るところが見当たらない。

 

“てか、どんだけ買い物してるんだよ、こいつら…”

 

カーペットに広がる衣服や化粧品の数々に、あたしは曖昧な笑みを浮かべると隣にいる詩乃の腕を掴んで、一旦リビングから退室する。戸惑っている詩乃に近づいて、小さく問いただす。

 

「……なんで、こいつら入れたの…。あたし言わなかったっけ?こいつらだけは入れるなって」

「……だって、見てみたいって言われて…断れなくて…」

 

弱り切った感じでそう言う詩乃に、あたしはため息をつくと詩乃から離れる。

 

「……はぁ…、まぁいいけど」

 

あたしは着替えるために、部屋へと入っていく。

 

「ごめんね、前じゃまするよ〜」

 

あたしの着替えがあるタンスの前にいる人を、どうにかどかすと着替えを取り出して、どかしてしまった人へと頭を下げる。

 

「あっ、ごめん」

「いいよ、あたしこそごめんね。それより遠藤たちさ〜。なんか食べる?今なら好きなもの作ってあげるよ。味の保証はしないけどね…」

 

わざと明るい声を出して、そう言うと、遠藤たちが黄色い声を上げる。それを心の底ではウザいと思いつつ、彼女たちの機嫌を損ねないように頷いてみせる。

 

「マジで!?」

「うん、マジマジ」

「よっ、香水。太っ腹!!」

「そうそう、太っ腹でしょう?あたし」

 

これも詩乃のためと、あたしは着替え終わるとエプロンを装着して、遠藤たちが注文していく物を作り出す。

どんだけ食うんだ、こいつらとあたしが思う程に食べた遠藤たちは満足したような様子で帰っていった。

 

“うぅ…、約三時間くらい…料理作ってた……”

 

「あぁ…疲れた…」

「なんかごめんね、陽菜荼」

 

腕と足の痛みからベッドに寝転がるあたしに、そう言う詩乃は本当に申し訳なさそうな感じであった。それに頭をかきながら、起き上がると詩乃があたしを一瞥する。

 

「まぁ、いいって…。これも友達付き合いだからさ」

「そんなこと言って…。陽菜荼、遠藤さんたちのこと嫌ってるじゃない」

 

あたしの隣へと腰掛けた詩乃は、不機嫌そうにそう言うと少し頬を膨らませる。その様子にあたしは肩をすぼめせる。

 

「バレてた?」

「バレバレよ。陽菜荼、露骨(ろこつ)すぎるもの」

「ぅぅ……」

 

そんなに顔に出ていただろうか?

そう思うと、うまく隠せていたと信じていたあたしが間抜けすぎて、顔から火が出るほどに恥ずかしい。顔を隠して、恥ずかしがるあたしに詩乃は肩を上下に動かすと

 

「…私にはバレバレだったけど。遠藤さんたちにはバレてないと思うわよ、陽菜荼のポーカーフェイスは凄いものね」

「…その言い方だと褒められている気がしないな…。それより、本当!?あいつらにバレてない?」

「えぇ、私が知る限りね」

「よかった〜」

 

安心したように息を吐くあたしに、詩乃は問いかけてくる。

 

「なんで、遠藤さんたちのこと嫌いなこと、隠そうとしてるの?陽菜荼ってそういうのって、嫌なハズなのに」

「それは…あたしのせいで、詩乃にようやく出来た友達がいなくなると思うと居た堪れなくて…」

「あなたのその言い方も…腹が立つものだけどね…。でも、陽菜荼ーー」

「ん?」

「ーーありがとうね」

 

その時、詩乃が見せてくれた笑顔をあたしは一生忘れることが出来ないだろう…

あたしはドクンドクンと心臓が脈打つのを聞いて、詩乃から視線をそらすとゆっくりとベッドに横になって、真っ赤に染まっているであろう顔を隠すように、布団を上まで持ち上げる。

 

「陽菜荼?」

「寝る」

「もう?」

「ん」

「そう、おやすみ」

「おやすみ」

 

詩乃がベッドから離れるのを感じて、心臓へと手を置くとまだドキドキしているのを感じる。

 

“どうしちゃったんだ…あたし…”

 

こんなにドキドキするなんて…、まるで詩乃にーー

 

“まさかね…”

 

自分が例を上げたそれを鼻で笑うと、あたしはこのドキドキを収めようと、眠りについた…




すいません、また、変な終わりですね…


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1章008 その少女が願ったのはーー(遠藤side)

この回は、遠藤さんの心境を書いたものです。私が考えた遠藤さんの心境なので、読者の皆さんと違うところもあるかもしれませんが…どうか、最後までご覧ください(礼)

*この話はこれから先の話も含まれており、ネタバレ要素があります。

そういうのが嫌いな方はお手数ですが…第一章を全部ご覧の上でこの話を見てください。


これはある少女の話ーー〈人よりも目立ちたいと願い、他者からは特別な存在になりたかった〉その少女は、ある日を境にその欲求を果たせなくなる。その理由はとても簡単であって、少女よりも魅力的な人物が現れたからであった。

 

香水 陽菜荼(かすい ひなた)

「はぁい」

 

担任となる男性教師が呼ぶ声に、間延びした声で立ち上がったその人物は、少女の目から見ても美しく感じられた。癖っ毛の多い栗色の髪に、大きく空のように透き通った蒼い瞳。適度に整った顔立ちは、憂鬱(ゆううつ)そうな色が浮かんでいる…だが、その憂鬱そうな表現さえも彼女の魅力を引き出す一つの材料となっていた。その証拠に、立ち上がった彼女を見て…多くの者が見惚れているような吐息を漏らしている。

 

「はぁ…美人だな…」

「本当にいるんだな…、あんな美人…」

「……」

 

その後も、彼女に向けられる視線が減ることもなく…むしろ、増えていくのであった…

 

 

γ

 

 

その少女は自分よりも注目される者が許せなかった。

すなわち、あの〈香水 陽菜荼〉という存在自体が少女にとってイレギュラーであり、正直消えて欲しい存在であった。あの忌まわしい存在にデレデレする周囲を見ていると、イライラしたし…無意識で彼女の後を追っている自分自身にも苛立ちを覚えた。

 

「はい、これ。君のでしょ?君のポケットから落ちた気がしたから」

 

教室の入り口から、少女が最も憎むアルトよりの声が聞こえてきた。遠くにいる少女から見ると…どうやら彼女は柱の影になって見えないが、誰かに何かを手渡しているようだった。整っている顔立ちを微笑みの形に崩して、優しい声音でそう話しかけている彼女に、柱の影にいる誰かが礼を言おうと口を開こうとしているのがわかった。

 

「あっ、かすっ…ありが…」

「陽菜荼ぁ〜、何してるの?早くしないと、置いていくわよ」

 

だが、その誰かの声も彼女の隣にいつも居る焦げ茶のショートヘアーに黒縁眼鏡という出立ちの女子生徒の声によって消される。女子生徒の声に、ハッとしたような表現を浮かべた彼女は柱に隠れている誰かに右手を上げると、申し訳なさそうな表現を浮かべてからその場を離れようとする。

 

「あっ、ごめん、友達が待ってるから。じゃあね!ちょっ、待ってって 詩乃!」

「…ッ。香水!その、ありがとな!」

 

駆け出していく彼女の後を追って、飛び出してきたこの男子生徒がどうやらさっきから聞こえてくる声の主なのだろう。後ろからだから見えないが、声からして…その顔を真っ赤に染めていることだろう。

 

“チッ、あんな女の何がいいってのよ…。あたしの方が数倍魅力的だっての…”

 

少女に対する嫉妬心や妬みが徐々に心へと募っていく。鋭い視線を向ける少女に気づかない彼女は、その男子生徒から声をかけられて振り返ると、もう一度ニッコリと笑って…その場を後にした。

 

「ん、次は落とさないようにね。せっかく、カッコいいハンカチ持ってんだからさ」

 

彼女がいなくなったその場に残るのは、放心状態のあの男子生徒とその男子生徒の友達と思える男子で、放心状態の男子生徒へと呼びかけている。

 

「ーー」

「行っちまったな…」

「……」

 

無意識で受け取ったハンカチを鼻へと持っていこうとする男子生徒に、その男子生徒の友達が引き気味でつっこむ。

 

「おい、匂いとか嗅ぐなよ。いくら、親友でも…そんな変態には、俺引くからな」

「嗅がねぇよ!」

 

呆れ顔を浮かべる友達に、男子生徒が大声をあげる。その後も、喧嘩みたいな口論が続く。

 

「どうだか。お前、入学時から香水に一目惚れだったもんな〜。あれはお前みたいな凡人には、届かない高嶺の花だよ。見てみろ…、香水が通った後に振り返らない奴が居ねえもの」

「うっせーよ!絶対、振り向かせてやるって。さっきのも、手応えあったし!」

「おっ、頼もしいことで」

「そういうお前はどっち派なんだよっ」

「俺?香水と朝田でってことか?」

「そうだよ。あの二人なら、断然 香水だろ?」

「……俺は…朝田かな」

「マジかよ!あんな地味な奴のどこがいいんだよ!」

「地味じゃねぇーよ!朝田、眼鏡外したら…すげぇ美人だったんだからな!俺、見たし!!お前も1度、じっくり見てみろよ!俺、タイプだったし!!」

「お前も、俺のこと言えないじゃん」

 

そうつっこんだ男子生徒は彼女から受け取ったハンカチを大事そうにしまう。その様子を見て、少女は思った。

 

“なら、あの香水 陽菜荼を自分のグループに取り込めば…また、同じように注目されるんじゃないか?”と

 

そう、考えた次の日には…少女は香水 陽菜荼たちへと声を掛けた。「友達にならない?」とーー

 

 

γ

 

 

少女のその言葉を喜んでくれたのは…香水 陽菜荼ではなく、いつも隣にいる〈|朝田 詩乃《あさだ しの〉〉という女子生徒であった。普段の様子と異なりノリが悪い彼女と違い、朝田 詩乃はノリがよく…少女にとって有効な駒となりうる存在であった。

 

「香水は?」

「陽菜荼は…こういうの嫌いだからね。極度の面倒くさがりだから」

「へ〜、そうなんだ。意外」

 

朝田 詩乃から聞き出す彼女の情報はどれも少女の心に溜まったどす黒い感情を溶かしていった。だって、学校で受け取る彼女の印象と朝田 詩乃から聞く彼女の印象は異なっていたから…

 

“ふ、そんな事も出来ないなんて…香水って対したことないんじゃない”

 

いつしか、少女の心は醜くどす黒い嫉妬心や妬みといった感情ではなく…敵うはずないと思っていた相手を心であざ笑える昂揚感(こうようかん)で満たされていた…

 

 

γ

 

 

その昂揚感を味わうために、少女はいろんなものに手を出し始めた。

あの忌まわしい〈香水 陽菜荼〉がやらないであろうことを片っ端から全て…そう全て体験して、あの〈香水 陽菜荼〉を見下してやるんだとーー。

 

「あれ?この子、美人じゃん。紹介してよ〜」

 

しかし、少女の携帯にある画像を見ながら…そう言う金髪の柄の悪そうな男に、今まで培ってきた昂揚感が全て破壊されるのを感じた。

だが、だからといって…男たちの頼みを無下(むげ)にすることもできず、少女は朝田 詩乃がトイレに行っている隙に…鍵を盗んだ。その盗んだ鍵で、合鍵を作り…男たち共に、彼女たちを待った…。

待っている間に彼女たちの部屋を改めて、しっかりと見たが…生活感があまり感じられない質素なものだった。しかし、彼女たちの部屋に飾ってある写真はどれも仲良さそうな彼女たちが写っており、今更ながら…少女は彼女が大事にしている朝田 詩乃が、彼女ではなく自分たちを優先していたことに気付いて、そこに僅かな優越感を感じた。

 

「ここはあたしと詩乃の家だよ。決して、あんたらの家なんかじゃない」

 

そう言い放つ香水 陽菜荼の後ろで、怯えたような表情で少女たちを見ている朝田 詩乃を見た瞬間に少女の中にある何かが壊れた……

 

少女は自分自身を壊した香水 陽菜荼に復讐すべく…彼女の過去を調べ尽くし、学校中にばら撒いた。そして、今まで向けられたことのない感情を向けられた時に、あの昂揚感が湧き上がってきた。涙をポロポロ流し、感情のままに…少女を殴り続ける香水 陽菜荼を見ながら、少女・遠藤は心の中でこう思った。

 

 

ーーざまぁみろ、と

 




というわけで、遠藤さんの心境でした。
あんな事をしでかした遠藤さんですが、根っから悪者ってわけじゃないと思うんですよね(微笑)
まぁ、彼女をあそこまでの悪人にしてしまった私が言うのも間違っている気もしますが(苦笑)

なので、そんな彼女がもう少し今の性格よりも違うものだったら…もしかしたら、ヒナタといい関係をきずけていたのやもしれません。


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1章009 遠藤さんと香水さんの衝突

タイトル通り、遠藤さんたちとの関わりの終わりですが…遠藤さんはこの話の後にもまだ出ます(笑)
彼女たちほど…悪役に適した人はいない!と私は思ってますので(笑)



そして、前の回のヒナタがシノの笑顔に見惚れるところですがーー
私が考えるシノって、あまり笑わない子だった気がするんです。いえ、苦笑いとか…微笑みとか、微かなものは浮かべるが、ちゃんとした笑顔はあまり見たことないかな?って個人的に思いましてーーヒナタがシノの笑顔(ちゃんとした)に惚れる形をとらせていただきました。

幼馴染でも…シノの笑顔(ちゃんとした)を見れるのは、珍しいということでーー


※お気に入り登録・91名ありがとうございます!そして、10というもったいない評価…本当にありがとうございます(礼)

※4/1〜間違えているところを直しました


あたしの幼馴染は、父親の顔を覚えてないらしい。

 

それは、幼馴染・詩乃が幼い頃に交通事故にあって、父親を亡くしたからとの事だった。その事故で母親は心を病んでしまい、詩乃の父親との思い出ごと写真や動画を焼いてしまったが、それでも彼女は幸せだろう…。母親に愛情を注がれて、ここまで育てられたのだから…

 

と、幼馴染の話はここまでにして、あたしの話をしよう。このまま、幼馴染の話をしていたら…嫉妬とか嫌な気持ちに心が支配されそうだから…。まぁ、といってもあたしの話もそんなにいい話では無いんだがーー

 

ーーあたしは幼馴染と違い、両親の顔を覚えている。……いや、一人は覚えさせられた…と言うべきか。まぁ、そんなことはどうでもいいだろう。

そんな両親から、あたしが貰ったものは…愛情とかいう暖かいものではない。もっと冷たくて醜い感情だ…その感情をあたしは幼い頃からぶつけられ、育ってきた、主に母親に。

だから…なのかもしれない。幼馴染と彼女の母親が仲睦まじく本や話をしているのを見ると…胸がギュッとなる。

 

ーー何故、あたしの母親はあんな風に接してくれなかったのだろう?

 

朝田家にお邪魔している時に、いつも心に抱いていたあたしの疑問だ。まぁ、そう思ってしまうのもあたしが特殊な生まれ方と、育て方をされたせいだと思い、幼馴染にも周りの人にもそれは問わなかったが……今でもふとした瞬間に思ってしまう。

 

ーーあたしの母親はあたしにとってどういう存在なのか?あたしは母親にとって、どういう存在だったのだろうか?

 

と…

 

まぁ、間違いなく、後者はうっとおしい存在か嫌な過去を思い出させる存在だろう。問わずとも分かる。

だって、母親があたしを見る目は恐怖というか…怯えを常に抱えていたのだから…。

だから、母親が耐えられなくなって、ああいった行動を取ってしまったのは納得してるし、責める気なんであたしにはそもそもないーー

 

ーーでもね、ママ。あたしは信じてたんだよ…あの日、ママが帰ってくるって……

 

 

 

γ

 

 

 

遠藤たちを自宅に招いて、手料理をご馳走した数週間が経ったある日の事。

あたしは写真部の活動によって、幼馴染とは別時間に自宅のマンションへと帰宅した。

 

“今日は…どんな晩御飯かなぁ〜”

 

などと考えながら、二階へと続く階段を登りきり、いよいよ 部屋というところで見知った顔を見つけた。

焦げ茶色のショートヘアに、同色の大きな瞳をかたどるのは黒縁眼鏡だ。どこか儚げな雰囲気を漂わせる少女はどこからどう見ても、あたしの幼馴染こと朝田 詩乃であった。まぁ、幼馴染を見かけるのは不思議ではないだろう、彼女と一緒に暮らしているのだから。だが、しかしーー

 

“ーーなんで?ドアに耳なんて押し付けてるんだ?”

 

「……」

 

幼馴染の不自然な行動に、眉をひそめながら、あたしは詩乃へと近づく。

驚かせないように、静かに声をかける。すると、詩乃は何故か 両目に涙を溜めて、あたしへと抱きついてきた。それを受け止めるように両腕を広げる。

 

「…詩乃?」

「陽菜荼!」

「うおい!?詩乃……?どうした、部屋入んないの?」

 

あたしの問い、詩乃はどこか震えているようにも思える身体を動かして、あたしたちの部屋へを指差した。

 

「知らない人がいる」

「はぁ?」

 

“シラナイヒトガイル?”

 

そんなん嘘だろう…と、詩乃をバカにしたように笑うと、鋭いレーザービームが放たれた。

 

「嘘だと思うなら、陽菜荼も耳をドアに押し当ててみなさいよ。私の言ってることが間違いじゃないって思うわ」

「わかったよ…、そんなに怒鳴らなくてもさぁ…」

 

詩乃に言われるがままに、ドアへと耳を押し当ててみると確かに数人の話し声が聞こえてくる。それに混じり、見知った甲高い声が聞こえ、あたしは怒りから両手を握る。

 

『あはははっ!!』

『これ、JKの部屋っしょ?マジで飾りっ気ないなぁ〜』

『それは言ってはダメですよ〜』

『私たちも思ってるけど、言ってないのに〜』

 

“マジかよ……人の部屋に男連れ込むとか何やっての、あいつら…”

 

あまりの怒りで、プルプルと震える両手をそっと誰かの両手が重ねられる。重ねられた方へ向くと、不安げにあたしを見つめる幼馴染の顔があった。

そんな表情を見ながら、あたしは心でため息を着く…

 

“だから、こんな奴らとはつるむなって言ったのに…”

 

出会った頃から、ずっとあたしが言ってた不安がここに来てから現実のものとなってしまった…

 

“写真部の合間をぬって、あいつらの弱み探しへと精を出しててよかったな…”

 

スクールバッグから愛用しているデシタルカメラを取り出すと、不安そうな詩乃を後ろへと下がらせるとドアへと歩み寄る。

 

「陽菜荼…?」

「……」

 

トントンと強めに叩いたあたしは、ガチャンとドアを開けて、ヅカヅカと奴らがいるであろうリビングへと歩いて行く。

そんなあたしに詩乃は戸惑いを隠せないようだった。

 

「お邪魔しまーす」

「陽菜荼!?」

 

部屋に入ってみると、ガラの悪そうな男性が数人座っていた。部屋に入ってきたあたしを下卑た視線で舐め回すように見てくるのには、流石に鳥肌が立った。なので、徹底的に無視を決め込む。

 

「ヒューヒュー。すげぇ美人じゃん」

「……」

「ねぇねぇ君。なんて名前?

確かぁ〜、詩乃ちゃんか、陽菜荼ちゃんだよね〜。どっちかな〜、あっお兄さん、わかっちゃったかもー。君、詩乃ちゃんの方?」

「……」

「無視はひどいなぁ〜、お兄さんたち好意的に話しかけてるのに〜」

 

そう言って、左手首を掴んでくる男を一瞥すると、不機嫌そうに腕を振って、男の手を離そうとする。

が、やはり 大の大人と女子高校生では力に差が生まれるのであろう。全然、振りほどけなかった。

 

“よりにも寄って…左手か…。利き手なのに…”

 

自分の何も考えずに行ってしまった行動に後悔しつつ、今だに左手首を掴んでくる男へと冷たく低い声を出す。

 

「すみませんが、汚い手で触れないでくれますか?」

「…はぁ?」

 

あたしの声に、周りにいる男たちの表情が険しいものへとなる。だが、手を汚く思うのも感じるのも、事実なので偽る気もこちらとしてみればさらさらない。

なので、あたしはさっきよりも冷たい声で周りに座る人たちへと言い放つ。

 

「聞こえなかったんですか。あたしは離してくれないかって言ったんですけど?

離してくれないなら、警察に電話しますよ。それと、速やかにあたしの部屋から出て行ってくれませんか?お仲間達と一緒に。あっ、ついででいいんで、その子らも一緒にお願いします。正直、うっとおしいんで」

 

あたしの言葉に、遠藤たちを含めた部屋にいる者たちが笑い出す。

 

“何がそんなに面白んだろうな…”

 

こっちは至って、真面目に訴えているのにその態度は余りにも失礼ではないだろうか?

 

「あはははっ、友達を追い出すとか。君って酷い子なんだねー」

 

涙を拭って、そういう人たちにあたしはこれ見よがしにため息をつき、手に持っているデシタルカメラの画面を彼らが見えるように向けた。

 

「……はぁ…、あたしは穏便に済ませようとしてたんですけど。出て行かないなら、仕方ないですね…これ見てください」

「「「ーー」」」

 

そこに映るのはーー何か、白い粉を含んだり吸ったりしている彼らであった。

 

“まぁ、この白い粉は…この反応から察するに。麻薬って、とこか”

 

「おい、どこでそれをーー」

「ーーどこって、あたしよりもあなた達の方がよく知ってるんじゃないんですか?

あっ、そういえば…こういうのもあるんですけど〜、見ます?」

 

デシタルカメラを奪おうとする男たちから逃れるように、遠藤たちの近くへと来たあたしは、彼女らにも同様にある写真を見せる。

 

「「「ーー」」」

 

そこには、彼女らのあられのない姿とこの場にいる男たちの仲間と思える者が映っている。

あたしはその写真を見ながら、ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべる。

そんなあたしに遠藤たちは、苦虫を噛み潰したような顔をするとあたしを睨みつける。だが、あたしはどこ吹く風である。ヒラヒラとカメラを動かしながら、三人組を流しみる。

 

「いけないと思うんだけどなぁー、売春なんてさー。これバレたら、親にも学校にも居られなくなるでしょう?あんたら」

「ッ」

「いやなら、出て行ってくれないかな?ここはあたしと詩乃の家なんだーー

 

ーー決して、あんたらの家なんかじゃない

 

「……行きましょう」

 

遠藤たちが腰を上げて、連れの男たちと共に部屋を出て行くのを見て、心でため息を着く。

 

“……ふぅ〜”

 

なので、遠藤があたしの横を通り過ぎる時に言ったこの一言が妙に気になったーー

 

「ーー……覚えてろよ、香水」

「?」

 

遠藤たちが立ち去った後、詩乃が入ってきた。飛びつくように抱きついてくる詩乃にびっくりしつつも、怖い思いをしたので仕方ないか…と思い直して、ゆっくりと身体を離す。

 

「陽菜荼!!怪我…してない?心配したのよ!」

「大丈夫だよ、こんくらい。手首強く握られたくらいでさー、他は対したことないし」

「手首強く握られたの!?見せて」

「……だから、大丈夫だって…」

 

詩乃がカーペットへ座るように言うので、あたしは呆れたように断るが、それでは彼女の気が済まないらしい。

そのあと、あたしは大人しく彼女の治療を受けた……

 




次はヒナタの過去を書くつもりです


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1章010 君には知られたくなかった過去

大変お待たせいたしました。

遠藤さんたちとの因縁?の戦いの最終決戦です!クズへとランクアップした遠藤さんたちがヒナタに向けて、どんな復讐を行うのか?ヒナタはそれに屈してしまうのか?

果たして、最終決戦は以下にーー


途中、お見苦しい表現もあるかもしれませんが…最後まで読んでいただければなぁ〜と思います。


※お気に入り登録・96名!ありがとうございます!!感想の方も三件も頂いて、嬉しい限りです(礼)
これからもよろしくお願いします!


その日、あたしは母と一緒に雪が降る夜道を歩いていた。真っ暗な空からふらふらと揺られながら、降りてくる雪の結晶がまだ幼かったあたしには綺麗に思えた。

なので、その綺麗な結晶を捕まえようと思って、夜空へと手を伸ばす。

 

「あっ…きえちゃった…」

 

だが、その白い綿毛みたいなものは、あたしが近くで見るよりも早くに溶けてしまう。掌に残る水滴に、あたしは難しい顔をして、再度チャレンジするが……

 

「むぅ〜、とれない…。つまんない…」

 

結果としては、失敗に終わってしまったのだった。あたしは頬を膨らませて、俯くと積もり始めた地面の雪を蹴飛ばす。暫くすると、雪を蹴飛ばすのも飽きて、あたしは母の方を見上げた。

 

「……」

 

癖っ毛の多い背中まで伸びた栗色の髪に、同色の切れ長な瞳。桜色の唇は薄く、背丈はほっそりと長い。

ーー子供のあたしから見ても、母はとても美しかった。

母と街を歩けば、本当に数人が振り返るし、そんな母の子供ということがとても誇らしかった。

だが、時折母が浮かべる疲れたような表情だけは好きになれず、その日もそんな顔をしている母が心配になり、母へと声をかけた。

 

「ままっ!」

 

あたしは遠い目をして、なかなかこっちを見てくれない母と繋いでいる手を強く下へと引っ張る。

すると、一瞬はっとしたような表情を浮かべた母は淡く微笑みながら、あたしへと問いかける。

 

「……なあに?ひなちゃん」

「まま、つかれてるの?あたま、いたいの。それともおなか?」

「ふふ、大丈夫よ、ひなた。あなたは本当に優しいのね」

「えへへ」

 

母が繋いでない方の手で、頭を撫でてくれるのがくすぐったく、あたしは目を細めて笑う。母は暫く、あたしを撫でるとまた前を向いて歩き出した。

 

ーーその時、母は何を考えていたのだろうか?

 

前を向いて歩く母は決意と複雑な気持ちを瞳へと漂わせていた。あたしはそれを理解するにはまだ幼かったし、理解していても母を止めようとは思わなかっただろう。

 

ーーだって、母の苦しみを。母がどれほど思い悩んでいたのか…ずっと近くで見ていたのだから……

 

そして、その時が来る。

母はあるベンチの前で立ち止まると、あたしの目の高さまで腰をおって、あたしの目をまっすぐみるとそっと肩へと手をおいてくる。

 

「ひなちゃん。ママね、少し忘れ物をしちゃったみたい。すぐに戻ってくるから、ここで待っててくれる?」

「ん、あたしまってる」

「ごめんね…すぐに戻ってくるからね…」

 

そう言って、立ち去っていく母の表情はなぜか罪悪感で染まっていて、今思えばあの時の〈ごめんね〉はあたしを捨てて行ってしまうことに関してだったのかもしれない。

そうとも知らず、幼いあたしは律儀に母を待ち続けた。ベンチに座り、プラプラと脚を動かしながら、もう帰ってこない母を待ち続ける。

 

「はぁ〜はぁ〜。まま、おそいなぁ…」

 

母が歩いていった道の方へと視線を向けながら、もう既に手の感覚が無くなりつつある両手へと息を吹きかける。スリスリと両手をすり寄せながら、帰ってくるであろう母を待ち続けたあたしはその後、親切なおじさんにベンチの上で意識を失っているところを見つけられて、急いで病院へと運ばれた。

医師曰く、もう少し遅ければ命を失っていたかもしれないと。

その他にも、なんやら色々と難しいことを言っていたがあたしには理解できなかった。けど、あたしは自然と理解したことがあった。

 

“ーーあぁ、あたし…ままにすてられちゃったんだ…”

 

と。

 

 

まぁ、そんな理由があり、あたしは暗いところと寒いところが苦手だ。幼馴染には、よく呆れられるが夜のトイレとかも一人ではいけない。本当に…情けないことだ……と思う、我ながら。

 

 

 

γ

 

 

 

遠藤たちがあたしたちの部屋へと男を連れ込んだあの事件から数週間が経つが、遠藤たちはあたしと詩乃へと何もしてこない。

 

“まぁ、しようとしたところで返り討ちにするんだけど…”

 

そんなことを思いながら、高校の生徒玄関へと入ると、複数の突き刺さるような視線を感じる。そちらの方を見ると、さっと周りの人があたしから視線を外す。

 

“なんなんだ…?”

 

嫌われることには慣れているし、こういった視線も慣れているつもりだった。しかし、そういった視線とは違う気がした。

あたしと何かをチラチラと交互に見ては、距離を取るように後ろへと下がる。

 

“意味がわからんな…なにをみ…て………”

 

周りの人たちの視線を辿り、何かを探り当てたあたしはそれを見た瞬間に凍りついた。

 

【香水 陽菜荼は殺人鬼の娘】

 

とデカデカと大きなマジックペンで題されたその張り紙には、古い新聞のコピーが貼られているようだった。その新聞の見出しを見た瞬間、あたしはその張り紙に向かって走り出す。

 

「陽菜荼?ちょっとっ、陽菜荼どこ行くのよ!」

 

背後から幼馴染の声がするが、気にしてられない。

 

“あの張り紙を外さなくてはいけない!”

 

そんな責任じみた思いが湧き上がり、張り紙を毟るように剥がしにかかる。

周りの人たちから見れば、今のあたしの行いは奇行に見えるだろう。だが、それでもかなわない。大切な人にあの事件を知られるくらいならーー

 

“見ないで詩乃みないでし乃みないでしのみなイデシノミナイデシノ”

 

うわ言のようにそれだけを思い、自分の過去を隠すように貼られていた張り紙を毟り取ったあたしは、それを拾おうと手を伸ばした時ーー

 

「○○村…殺人事件……?」

 

ーー凛としつつもどこか幼い感じを思わせる声が震える声で、あたしが知られたくなった事件の見出しを一番あたしが見られたくない人に読まれてしまった。

震えるように上を見上げたあたしを黒縁眼鏡の奥から焦げ茶色の瞳がいろんな感情を浮かばせて見ている。

 

“ーー知られてしまった”

 

詩乃にーー知られてしまった…。あたしの過去を、母の過去をーー

 

「ーーで、詩乃…」

「ひ…なた?」

 

詩乃から張り紙を奪い取って、自分の胸の中へと抱え込んで廊下へとうずくまる。

 

「そんな……ないで……の」

 

“そんな目で見ないでよ…詩乃。あたしをそんな目で見ないでよ…っ…そんな目で見ないでよ…。お願い、見ないで……ままーー”

 

ガタガタと身体が震えるので、両手で二の腕をさする。

 

“怖い怖い怖い怖いこわいこわいこワイコワイコワイ”

 

ママがあたしを見る目がコワイ、コワイ。このままじゃあ捨てられる。捨てられる…ママと居られなくなる。

 

「まま…ままっ」

 

そんなあたしの様子に詩乃はしゃがみ込んで、震え出すあたしの背中を撫でる。

 

「陽菜荼、大丈夫よ。だから落ち着いて、ね?」

「……で、………ないで…しの…。……で…まま……」

「私はあなたをそんな目で見たことなんてないわ。だから、落ち着いて。ほら、深呼吸。出来るでしょう?」

「すぅ〜、はぁ〜」

 

詩乃の言う通りに、深呼吸したあたしはゆっくりと顔を見上げると、淡く微笑む詩乃の顔がある。そんな幼馴染の顔を惚けた表情で見るあたしの耳へと、もっとも憎むべき者の声が聞こえてきた。

 

「ふふふ、どう?香水、あんたが知りたがっていたママのこと調べてあげたわよ〜。お気に召したかしら?」

 

あたしはその声がする方へと振り向くと、ニヤニヤと卑しい笑みを浮かべている女子生徒を睨みつける。そんなあたしの視線に女子生徒の方は気にしてないようだった。

 

「遠藤ーーッ!!」

「ちょっと、何怖い顔してんのよ。大好きなママとパパのことをみんなに知ってもらえて良かったじゃない」

 

詫びる気もないその言い方に、あたしは立ち上がるといつものように憎まれ口を叩く。そんなあたしの憎まれ口を明るい感じの笑い声で打ち消した女子生徒・遠藤はポケットから何かを取り出すとあたしの前へと放り投げた。

 

「人の過去を勝手に暴いといて、白々しいと思うだけどね。あたしはそんなこと、あんたに頼んだ覚えないけど?」

「ふふふふっ」

「何がおかしいのさ…」

「いえ?これを見ても…香水が同じことを言えるかしらと思ってね」

「……」

 

あたしは前に投げられた写真と何かをメモったような紙を交互に見た。

 

メモったような紙には次のようなことが書かれていた。

『わたしはあの子が恐ろしかった…。あの子を見ているとっ、あの男の顔が浮かんできて……。あの蒼い瞳がっ…とても怖いんです…。だから、わたしはあの子をーー捨てました。後悔はしてません…あの子とこのまま一緒にいれば、わたしの気が狂ってしまいそうでしたから』

 

「……」

 

“ナンダコレ…。コウカイシテナイ?キガクルイソウ?”

 

確かにそのメモを書いたであろうその人は、写真の中であたしの見たことない笑顔を浮かべて、可愛い赤ちゃんを抱っこしていた。その隣には旦那さんらしい人が映っている。

 

“ホント…ナンダコレ……。アタシ…シンジテタノニ……”

 

その人は癖っ毛の多い栗色の髪を腰まで伸ばしており、同色の切れ長の瞳が幸せそうに細められている。

そう、その人とはーー紛れもなく、あたしのママその人だった。

 

「…あはは……あはははっ…」

 

瞳から流れる透明な雫が頬を濡らしては、廊下を汚していく。

 

“滑稽だな…。もうとっくに諦めたはずなのに…こんなに涙が出るなんて…”

 

笑いながら泣くあたしに遠藤はニンヤリと笑いながら腕を組んで、見下ろす。

 

「あんたのママとやらもバカな女よね。産みたくないなら産まなきゃいいのに、あんたみたいな悪魔みたいな子をさ〜。犯人に脅されてたからって…逃げようと思えば逃げられたでしょうに。ホント、バカな女よ。あんたのママはね」

 

その言葉にあたしの何かが壊れた。

ゆっくりと立ち上がると、今だにようようと何かを言っている遠藤の右頬をおもっきり殴る。

 

「……何よ、なんかいうこーーがぁ!」

「ママの悪口を言うなぁーーッ!!」

 

あたしは遠藤へと馬乗りになり、感情のままに彼女を殴る。そんなあたしを止めようと、詩乃が後ろからあたしを引き剥がそうとするが、暴れるあたしによって断念。

 

「陽菜荼!?何してるの!やめて!お願いだからっ」

「離せ!離せっ!こいつが!!ママの悪口言うんだ!あたしの悪口は許せてもママの悪口はーー」

「ーーそのママに裏切られたんでしょうが。今だにあんな女を庇ってなんになるのよ。親が親なら子も子ね」

 

遠藤が吐くその言葉に、あたしの頭の血が沸騰するくらいに煮えたぎる。

 

「ダマレ」

 

冷たい声で、そういったあたしは無表情で彼女を殴り続ける。殴っている途中で、血が流れたり、歯が折れた気がするがそんなの気にしない。ただ、ひたすらにあたしのママを侮辱したこいつを排除するためだけに拳を握る。

 

「がぁっ、やめ……わたしがわる……っ」

「ーー」

「ひなたっ」

「何してるんだ!離れなさい!!」

 

騒ぎに駆けつけた先生によって、遠藤から引き剥がされたあたしは暴れるともう一度遠藤へと跨り、拳をその頬へと埋める。

が、それもすぐに同じ先生に邪魔されて、三発ほどで終わってしまった。

 

「うっさい!こいつがっ、こいつがママの悪口をッ!!」

「何を言っているんだ。こら、暴れんじゃない」

「うっさい!離せよ!!離せ!!こいつがっ!こいつがっ!!」

「あぁ、分かったから…校長室でゆっくり聞くから。いいからきなさい」

「ッ!?離せよぉおおおお!!あぁあああああ!!!」

 

数人がかりで、あたしは校長室へと連行されーーそこであたしは退学を言い渡された……




途中で出来た張り紙↓


【香水 陽菜荼は殺人鬼の娘】

『○○村殺人事件』

12月24日、○○村で当時16歳の少女の家へと強盗が押し入った。強盗は少女をリビングにあった椅子へと縛り付けて、その前で次々と少女の家族を殺害。衝撃のあまり、声が出ない少女を今度は強姦し、そのまま少女を誘拐して今だに逃げ回っている様子。


『○○村殺人事件で行方不明だった少女発見』

○○村殺人事件で、行方不明となっていた少女が犯人と共に身柄を確保された。少女の他にもう一人、産まれて間もない乳児も見つかり、この乳児は状況と本人らの証言から犯人と少女の間に出来た乳児と判明した。少女は深い心の傷をおっており、暫くはその治療に専念ために乳児は一時的に施設へと預けられる。


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1章011 告白

続けて、更新です!

前の回が回だったので、こちらは百合要素をふんだんに盛り込みました。かわいらしいヒナタにご注目!

今回は詩乃視線となってます。


幼馴染が退学を言い渡されたその日の夜、私の幼馴染はベッドの上で膝を組んで、晩御飯も食べなかった。

私のその様子に困り果てていると、ぽつんと呟くような小さな声が聞こえてきた。

 

「わかってた…薄々気付いてたんだよ…ママがあたしの事捨ててたこと…」

 

その震えるような声に彼女が涙を流していることに気づいた私は、幼馴染・陽菜荼の隣へと腰掛ける。

近くで見ると震えているのが分かる。幼い頃の彼女もこのように毎日、隠れるように涙を流していたのだろうか?

 

“私と初めて会った時も…もしかして、この事を思い悩んでいたの?”

 

そう思うと、普段は頼もしく思っていたその背中が壊れ物のように繊細なものに思えてきた。

いつか思っていたこの人の力になりたいという願いが、ここで叶えられる気がした。静かに涙を流しながらも語り出す陽菜荼を私はじっと見つめる。

 

「でもね…心の中ではずっと信じてたんだ…いつか、あたしを迎えに来てるって…。………でも、それはあたしの思い上がりだったんだね…ママが……あたしを迎えに来るわけ…ないのにっ。バカだなぁ…あたし……」

「……」

「し…の……?」

 

震える身体を包み込むように、私は陽菜荼を抱きしめる。びっくりしたような声を出して、やっと前を向いてくれた陽菜荼の潤んだ蒼い瞳を見ながら、私は誓う。

 

「私はいなくならないわ、あなたの前から」

「へ?」

 

“何よ、その反応…もう少し喜んでくれてもいいじゃない”

 

陽菜荼の鳩鉄砲を食らったような顔を見て、少し頬を膨らませながら、もう一度ハッキリと彼女に言う。

 

「私はいなくならないわ。陽菜荼の前から、絶対に。

だってあなたを残して何処か行くのって不安だもの」

 

そう意地悪を言ってみると、陽菜荼が不満そうに私を見つめてくる。そんな陽菜荼に向けて、首を傾げつつ尋ねると、陽菜荼が不満そうに呟く。

 

「……」

「何よ、不服?」

「……不服じゃないけどさ〜、もう少し言い方…」

「…そうね、少し意地悪だったかしら」

 

そう言って、微笑んでみせると陽菜荼の頬がなぜか朱色に染まる。その様子のままに、はにかんでお礼を言ってくるので、こちらも頬が赤く染まってしまう。なので、照れ隠しに思っていることと違うことを言うと、陽菜荼が潤んだ瞳で私を見上げてくる。

 

「ん、すっごく。今日の詩乃は…なんか、優しいのか意地悪なのかわかんない…。けど…あんがとね、色々と」

「私もおじさんから陽菜荼のことが頼むって言われてるからよ」

「……」

 

“うっ…何よ、その子犬みたいな目…”

 

「もう、何なんなのよ」

「……いや、本当にそれだけ?あたしのことは…どうとも思ってないの?詩乃は」

 

再度、捨てられた子犬みたいな目でそう聞いてくる陽菜荼に私は弱ってしまう。

 

「ッ。……だから、そんな目で見ないでってば……」

「……悪いって思ってるなら…今日、一緒に寝て」

「寝る?いつもしてるじゃない」

「……ぎゅっと…抱きしめて、寝て欲しい……ダメ?」

 

“うっ…だから…その目でーー”

 

結局、その目に負けてしまい、私は陽菜荼をぎゅっと抱きしめて眠りについた…

 

 

γ

 

 

高校を退学になってしまった陽菜荼は、しばらく経ってから仕事を探しに、街を歩き回った。そして、見つかった仕事場で、働き始めた数日後の休日の朝のことだった。

 

「詩乃、少しいい?」

 

朝ごはんを食べていた陽菜荼が私へと真面目な声音と表情で向き直ってくる。その真剣な表情に、思わず私も箸をおくと向き直る。

 

「何よ、その真面目な顔つきは陽菜荼らしくないわよ」

「ひどいな…あたしだって真面目な時くらいあるのに…」

 

そう言って、傷ついたように言う陽菜荼に悪いことしたかな?と思う私はとても次の瞬間に言われた言葉を理解することが出来なかった…

 

「詩乃、好き」

 

小さく呟かれたそれに私は眉を顰める。

 

“詩乃、好き?”

 

向かいに座る陽菜荼の視線がお皿の上のウィンナーに向いていることから。

私がウィンナーを好きなのか?と問われたかと思ったので、ジト目で陽菜荼を見る。

 

「ウィンナーがってこと?私も好きだけど…その質問と陽菜荼の真剣な表情に何か関係あるの?」

「なんで、ウィンナー?あたしが言いたいのはーー」

「ーーもしかして、目玉焼きをくれとか言うんじゃないんでしょうね。あげないわよ」

「いや、違うけどさ。あたしが言いたいのはもっと違うことで…」

「コロッケとか?メンチカツ?あっ、もしかして…いなり寿司とか言うんじゃないんでしょうね。今は節約しないといけないのに…そんなワガママは陽菜荼でもダメよ」

「いや…違くて。ううん、その三つも好きなんだけどさ。そんなのよりももっと好きなんだ…詩乃の事が」

「……へ?私」

 

まるで漫才のような会話の後に、すらっとされた告白に私は目を丸くする。そんな私に陽菜荼は小さく嘆息すると、続ける。

 

「さっきからずっと言ってるでしょうに…。はぁ……詩乃はもっと人の話を聞くべきだね、本当」

「……そのセリフはあなたには言われたくないわね…」

 

私の呆れ声に陽菜荼は肩をすぼめると、私をじっと見つめて言う。耳まで真っ赤にしているところが、とても可愛らしかった。

 

「まぁ、そんな事よりも…もう一度言うよーー

 

ーーあたしは詩乃が好きなんだよ、もちろん一人の女性としてだよ

 

まぁ、あたしも女なんだけどさぁ〜」

「……」

「えっと……詩乃さん?なにか反応してくれると嬉しいんだけど…」

「…ふふふ、神妙な顔して何を言うかと思えばそんな事なのね」

 

おかしそうに笑う私に陽菜荼が顔真っ赤にして怒る。なので、その言葉を遮るように言葉を重ねる。私がずっと彼女に対して感じていた気持ちを。

 

「そんな事って、あたしなりに考えーー」

「ーー私も陽菜荼のことが好きよ。昔からね」

「……ッ。そうか…なら、あたしと詩乃はずっと前から相思相愛なんだね!なんだ〜」

 

私の言葉に更に真っ赤に顔を染める陽菜荼は、安心したように息を吐くと、私へと近づいてくる。陽菜荼のその行動にびっくりしつつも待ち構えると、そっと私の両手へと自分の両手を重ねてくる。

 

「じゃあ…ねぇ、詩乃…」

「な、何よ…」

 

陽菜荼から漂ってくるタダならぬ雰囲気に、身構えると陽菜荼が繋いだ手をギュッとしてくる。そして、上目遣いで私を見ると尋ねてくる。

 

「…キスして、いい?」

「ッ!?」

 

その申し出に私はピクリと身体を震わせる。そんな私に陽菜荼は再度聞いてくる。あの子犬のような視線に、私は断れずに睨むように陽菜荼を見る。

 

「ダメ、かな?詩乃」

「っ。そんな目で私を見ないでって……弱いの知ってるでしょう」

「なら、良いんだね。目を閉じて、詩乃」

 

だが、陽菜荼にはそんな抵抗は通じない。

 

「ちょっ、いいなんていーーん…」

「ん…」

 

慌てふためく私の唇へとゆっくりと自分のそれを重ねていった……




というわけで、シノとヒナタが恋人同士になりました。早かったかな?


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1章012 その時の約束は永久に

恋人になった二人は果たして、どんな約束をするでしょうか?
所々、お見苦しい表現などがあるやもしれませんが…最後まで、読んでいただければと思います。では!!

※この話は凄く短いです

4/29〜誤字報告、ありがとうございます!


不意打ちを食らって、陽菜荼と口付けをしている詩乃はゆっくりと唇を外されると…深く深呼吸をして、すぐ目の前にある空のように透き通った蒼い瞳を睨みつける。しかし、それくらいでこの少女のペースを崩すことなど出来るばすもない。

 

「……私は嫌って言ったのよ、分かってる?」

「でも、して良かったでしょう?」

 

唇をとんがらせる詩乃に、ニカっと笑ってそんな事を言う陽菜荼を詩乃が両手で突き飛ばす。胸元を突き飛ばされて、後ろによろめきながらも陽菜荼は上機嫌な感じで頬を染めて、恥ずかしがる詩乃をからかう。

 

「っ。知らないわよ!」

「あははっ!詩乃は恥ずかし屋さんだね〜。そんなに恥ずかしがることなんてないのに〜、あたし達恋人同士なんだからさ」

「っ、そうかもしれないけど…。私には私のペースというものがあるのっ。陽菜荼のペースは、私には早すぎるのよ」

 

詩乃の鋭い指摘に、陽菜荼は小首をかしげるとまた一歩ずつ、ベッドに縋っている詩乃へと近づく。

 

「そうかな?」

「そうよ」

「……」

「何よ」

 

突然無言になって、ギュッと抱きついてくる陽菜荼に詩乃が目をパチパチとさせる。力強く抱きついてくる陽菜荼の身体が小刻みに震えているのに気づいた詩乃が陽菜荼へと問いかける。

 

「ーー」

「陽菜…荼……?」

 

陽菜荼は一つ深呼吸をすると、ゆっくりと語り出す。偽りのない本当の気持ちを吐露する陽菜荼の言葉をただ黙って聞く。

 

「なんかね…凄いスピードで詩乃の事をもっともっと好きになっていってる……。はっきりいって…こんなの初めてだよ。生まれて初めての体験なんだよ…本当に…。

詩乃が浮かべてくれる表情の一つが、あたしに向かって言ってくれる言葉の一つがね。どんなものよりもキラキラ輝いてみえてる…。どれもあたしにとっては大切な宝物なんだよ…、あたしはそんな宝物をもっと増やしていきたいって思ってる…」

「……」

「……でもね、そう思えば思うほど…怖いんだよ…。昔…そうだったからかな?無意識に…人を好きになることを、大切に思うことをセーブしてる気がする…」

「……」

 

陽菜荼は詩乃の右肩から顔を上げると、焦げ茶色の大きな瞳を見つめる。詩乃から見て、その蒼い瞳は何かを恐れているかのように揺らめいていた。感情の波を立てながら、縋るようにギュッと左腕の服を掴む陽菜荼をただ詩乃は慈愛に満ちた瞳で見ていた。

 

「…でも、もう…セーブしなくていいんだよね?あたし、詩乃の事を好きにーーもっと大好きになってもいいんだよね?」

「ふ。…もちろんでしょう?私だけこんなに好きなのなんて悔しいじゃない。もっと好きになってもらわないと困るわよ」

 

にっこりと微笑んで、まるで幼子のように服を掴んでいる陽菜荼の癖っ毛の多い栗色の髪を撫でる詩乃。そんな詩乃をなおも不安げに見つめる陽菜荼。

 

「っ…詩乃は本当に…、あたしの前からいなくならない?あたしをあんな目で見ない?それがっ、それだけがッ。……とても怖い。怖いんだよ…」

「バカね…そんな事を心配してもしたりないでしょう?そんなに心配しなくても…私は大丈夫よ、私は絶対にあなたの前からいなくならない。嫌って言っても、側に居続けてあげるわ」

「…ん…、ありがとう…詩乃……」

 

体重を預けて、自分へともたれかかってくる陽菜荼を詩乃は力強く抱きしめる。ゆっくりと背中を撫でると、陽菜荼が甘えてるように身をさらに寄せてくる。

その体勢が何分…何時間続いただろうか。ギシっというベッドが軋む音で、互いに顔を上げた二人はジッと互いを見つめ合う。

 

「詩乃…」

「陽菜荼…」

 

そして、互いの名前を呼び合い、自然と唇が磁石のように近づいていく…

 

「「ん…」」

 

…互いの気持ちを、好意を相手に伝えるためだけに唇を合わせる。今は目の前にいる人だけに意識を集中していくーー貪るようなキスを数分間した後、ゆっくりと唇を離した陽菜荼は詩乃を見つめながら、胸の中にある誓いを口にする。

 

「あたし、詩乃のことを守るよ。あの事件から、詩乃を傷つけようとする者から守る」

「なら、私はそんな陽菜荼の力になるわ」

 

詩乃の言葉に、陽菜荼が小首をかしげるが詩乃が首を横に振る。そんな詩乃を暫く、複雑な表情で見ていた陽菜荼はゆっくりと身体を離す。

 

「あたしの力?もう充分になってると思うけど?」

「まだなれてないわよ…まだ全然」

「……そう、か。でもね、無理だけはしないでね?」

「それは陽菜荼もでしょ?」

「ん、そうだね。……さて、朝ごはん食べようか?」

「ええ」

 

その後、二人は楽しく朝ごはんを食べて…病院に行く為の準備をした……




この話の詩乃は気づけないでいたでしょうね。まさか陽菜荼があんなにプレイボーイ?になるなんて…(笑)


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間章 新しい世界へ

今回の話はかなり短いです。

ので、読んでいて、もう終わってしまったか。と思われる方も多い思います(苦笑)




互いの気持ちを相手に伝えたその日の昼、私は定期に通っている病院へと足を踏み入れていた。いつも一人で通っている病院だが、今日はもう一人どうしてもということで、着いてきている。

そのもう一人ーー癖っ毛の多い栗色の髪に、透き通る空のように大きく蒼い瞳が特徴的な幼馴染は嬉しそうに私の手を握りながら、物珍しそうに辺りを見渡している。その様子に思わず、嘆息をつきそうになるが…

 

“…そういえば、陽菜荼って幼い頃からあまり病院に行ってなかったわよね…”

 

ならば、このはしゃぎようも仕方ないかもしれないかな?と思いながらも、はしゃぎすぎて違うところへと行こうとする陽菜荼の手を引っ張って、自分の方へと近づける。

 

「へぇ〜、あそこなんだろ〜」

「ちょっ、陽菜荼っ。こら、離れない。迷子になるでしょう」

「はーい」

 

と怒ると、元気良く返事を返す彼女に母性を感じてしまうのは何故だろうか?

 

“いつもなら、立場が逆なんだけどね”

 

私のピンチには必ず駆けつけてくれるヒーローみたいにカッコいい彼女はどこへやら、今まで甘えられなかった分を埋めるかのように、思いを伝えた後に甘えてくる彼女を世話が焼ける子供のように思いながら、彼女の手を引いてズンズンと歩いて行く。

 

「ほら、行くよ。こっちだから」

「ん」

 

 

γ

 

 

私の後をちょこちょことついてきた陽菜荼が、別室にあるあるベッドへと視線を向けて驚いている。

 

「おぉ〜、これがメディキュボイド?あれに詩乃、いつも入ってんの!?いいなぁ〜!!」

 

蒼い瞳に映るのは、白いベッドの上に大きな機械が設置されているもので、それを《メディキュボイド》という。VR技術を医療用に転用した世界初の医療用フルダイブ機器で、他のゲーム機よりも安全かつより高度なフルダイブが出来るとやらでテレビに取り上げられていたのを見た。私としてみては、それでこの病気・PTSDを克服できるとは思ってないので…あまり乗り気ではない。

が、私の幼馴染はこのはしゃぎっぷりから想像できるように、その手のものが好きである。本人曰く、ミーハーではないとの事だったが、話題なれば何でも欲しがるところを見ると、やはりミーハーなのでは?と思ってしまう。

メディキュボイドに対して、想像以上に興奮している幼馴染の手を引っ張って、無理矢理その場から離れさせる。

 

「好きで入ってるわけじゃないんだけどね…。それより、騒がないの。黙って、ついてきて」

「はーい」

 

二人で受付の人に言われた場所に向けて、トボトボと歩いていると、向こう側から担当医らしき男性が歩いたきた。

 

「朝田 詩乃さんかな?」

「はい、今日はよろしくお願いします。万里先生」

「うん、よろしくね。そっちの子は?」

「あっ、詩乃…じゃない…朝田さんの付き添いの香水です」

「香水さんですか。では、こちらへと」

 

その後、医師から私の病気に対する様々の効果やらを説明された後、いよいよメディキュボイドに入るというところで、隣に座る幼馴染が勢い良く手をあげて、先生へと意見する。

 

「詩乃が入るなら、あたしもしたいです!」

「陽菜荼!?ちょっと…」

「いいけど、それなら香水さんも診察しないとね」

 

みたいなノリで、陽菜荼までメディキュボイドへ入ることになってしまった。そんなに簡単に入れていいのか?と思ってしまうが、陽菜荼が一緒だと思うととても心強いと思うので、これはこれで良かったのかもしれない。

 

「それじゃあ、朝田さん。香水さん、じっとしていてくださいね」

 

メディキュボイドへと横たわった私たちは、先生たちの指示により、VRゲームへと身を投じた…

 

 

γ

 

 

「えーと、名前?」

 

あたしは、周りが真っ暗な空間の中に一人立っていた。さっきまで、隣で寝ていたはずの幼馴染の姿はそこにはなく、かわりにただ終わりの見えない真っ暗な闇があたしを360度包み込む。

そんな闇の中、あたしは突然現れたウィンドに向かって、頭を悩ましていた。

 

“普通にヒナタで…いや、今からゲームするんだから。自分の名前はまずいよなぁ…うーん、うーん”

 

悩んだ結果、あたしがそこへ入力したのは【Kanata】という文字だった。女の子にしてみれば、変わった名前だがこれ以外思いつかなったので仕方がない。その後も、性別や表示などの細かな設定を終え、あたしは幼馴染が待つであろう場所へと向かおうとした時だった。

 

「よいしょ、よいしょっと。流石、VRっ。動きやすーーへ?」

 

調子に乗って、ぴょんぴょんとジャンプしながら走っている最中にぽっかりと大きな七色の光が目をおかしくさせる穴が現れたのだった。運悪く、そこへとジャンプしたあたしはそのまま その穴の中へと落ちていった……




次回からホロウ・フラグメント編の始まりです!

ここから、どんどん原作キャラと関わっていくつもりなので、お楽しみ!では!!


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2章001 金髪の少女と黒ずくめの少年との出会い(カナタside)

ホロウ・フラグメント編へと突入しましたが、皆さんにお知らせをさせていただきます…。
本作のメインヒロインの詩乃さんですが、暫くの間は登場致しません…、タイトルと原作の内容を知っている方ならお分かりになられるかもしれませんが…皆さんのお察しの通り、そういうことです。

なるべく、早く二人を再会させられるように頑張っていきたいと思います!


そして、ヒナタ編となるこの回は〈ホロウ・エリア〉というところを攻略する話となっております。



※お気に入り登録・107名 ありがとうございます!

4/5〜誤字報告四件、ありがとうございます(礼)
本当に読みづらい上に、誤字ばかりで申し訳ないです…。こんな私の作品ですが、完結まで付き合っていただけると嬉しいです(礼)


4/7〜感想にて、ご指摘がありましたので…ご指摘されたところを直しました。



ーーー少し補足ーーー

〜ヒナタのSAOでのアバターについて〜
・アバターネーム【Kanata/カナタ】
・服装は、ファンタジー感を出しつつも和服ーー和風SAOでリーファ/直葉が着ている服のオレンジ色バージョンと思っていただければと思います

ーーーーーーーーーー


七色の光が眩しい穴の向こうには、緑色が美しい森林が広がっていた。周りを見ると、青と水色のグラデーションが美しい空が続いておりーーん?そ、ら?

あたしはそこで眉を顰める。

空が横を見ると広がってるって、なんかおかしくないか?まるで、空を飛んでるみたいーーいや、落ちてるのか?

そこまで考えて、下を見ると目を丸くした。

 

“って…えっ?うっおおおお!?”

 

落ちてんじゃん落ちてんじゃん落ちてんじゃんっ!!

どんどんと近づいていく森林に、あたし自身の死を決意する。しかし、ダメで元々の気持ちでフサフサしてそうな木の上に落下出来るように、空中を泳ぐ。

 

“良しっ、この辺りがいいな。あとは運任せ”

 

次の瞬間、視界が真っ黒に染まった…

 

 

γ

 

 

「……どうやら無事だったみたいだね、あたし」

 

あんな高いところから落ちたというのに、少し痛いと感じる程度で済んでいるところを見ると、流石VRMMO…ゲームの中というべきか。

でも、もうあんな怖い思いはしなくないなぁ…と密かに思ったあたしであった。

 

“しっかし、何処だここ?”

 

辺りを見渡してみると、生い茂る草木に、鮮やかな色を付ける花たちがあちらこちらに生えていた。近くに咲いている花を見ると、どこかファンタジーっぽい……ということはーー

 

“ーーいつの間にか…何かのVRMMOにログインした…のか、な?”

 

じゃないと、色々と説明がつかないもんね。あたしのこの服装も和服みたいだけど…どことなくファンタジーっぽいし…、ということは最近流行っている〈アルヴヘイム・オンライン〉の中なのだろうか?しかし、なぜ そのゲームへとーーそこまで考えて、ふと 見知った雰囲気がないことに気付く。

 

“そういえば…詩乃は?詩乃がいないっ”

 

見知った焦げ茶色のショートヘアがないことに、あたしは焦る。そして、ここに来る前に彼女と別れたままだったのに気づき、痛む身体に鞭打って立ち上がる。

 

“早く詩乃と合流しないと”

 

なぜか、そう思ってしまった。どうしてそう思ったのかはわからない。でも、早く彼女と合流しなくては彼女ともう二度と会えない気がして……

そんな不思議な思いに追われるままに、その場から更に奥へと進もうとした時だったーー

 

「ーーあんた、誰?」

「!?」

 

首筋に当たる冷たい感触に、あたしの背筋が凍る。

なんとか動かせる目で、突きつけられているものを見てみると磨き上げられた鉄の表面があたしの顔を映し出している。

 

“へ?へ?あたし…剣首筋に当てられてんのっ!?”

 

軽くパニック状態に陥りかかるあたしの首筋へと、剣を更に突きつけながら、背後から冷たい声が聞こえてくる。

 

「…早く答えて。あんたは誰?あいつらの仲間なの?」

「あっ、あたしはカナタって言って、君の敵ではないよ。ここに来て間もないし…第一、君のこと知らないし…」

「ここに来て間もない?どういうこと?」

 

いやぁ…どういうこと、と言われましても…それが事実ですので…。それにあたし自身、混乱しておりますので…とそこまで思ったところで、ゾクンと何か嫌な予感が全身を駆け巡る。

 

“なんだあ…れ……”

 

あたしへと刃物をつきつけている金髪の少女の後ろに、ピカッと何かが光っている。それが大きな鎌だと分かると、あたしは金髪の少女へと抱きついて、それを交わす。

 

「危ないっ!」

「!?」

 

“ふぅ〜、なんとか…あれに当たらずに済んだかな?”

 

「…なんで?」

「?」

 

真下から聞こえる困惑を多く含んだ声に、あたしはそちらへと視線を向けると、あたしを見上げる空色の瞳と重なり合う。その瞳には色々な感情が波を立てているように、あたしには思えた。

 

「…どうして、わたしを助けたの?わたしのカーソルがあんたには見えてるんでしょう?」

 

“かっ、かーそる〜ぅ?”

 

何?そのかーそるって、あたし知らないんだけど…と思っていると、押し倒す形になっている金髪の少女の上にあるひし形の物体に気づく。

 

“あっ、もしかして…これがそのかーそるってやつ?”

 

そのひし形を塗りつぶすように、雄黄色と橙のグラデーションが鮮やかに色をつけている。

それと金髪の少女の表情には何か見覚えがあった。何かに怯えるような…それを必死に隠そうとしているようなそんな悲しい表情。

そんなに、このかーそる?を見られるのが嫌だったのだろうか?そこまで、恥じるような…隠すようなものではないと思うけど。そればかりか…あたしは普通にーー

 

「ーー綺麗だと思うけど。あたしの好きな色だし」

「……」

 

へ?何その鳩が豆鉄砲食らったような顔、あたし悪いこと言った?

と金髪の少女の反応のなさに、困っていると件の少女がクスっと微笑む。

 

「ふっ。オレンジカーソルを見て、綺麗なんて…あんた変わってるね」

「そっ、そうなんですか?」

「そうだよ。普通の人なら、もっとわたしの事をけいべーー危ない!」

 

今度は金髪の少女に押し倒され、その上を通る鎌を見て、呑気に話している場合ではないことに今更ながら気付いた。そう思ったのは、金髪の少女も同じらしく あたしの右手を握ると走り出す。

 

「とりあえず、ここは逃げるよ。カナタ」

「え?はっ…って、早!?そんな早くはしれなーー」

「カナタなら大丈夫だよ」

「……」

 

“そのあたしに対する信頼はなにゆえ!?”

 

疾風の如くスピードで、森林を駆け抜ける金髪の少女がこちらを振り返って言う言葉に、あたしはただただ驚くばかりである。

さっきまで敵意丸出しだった金髪の少女の態度が、今じゃあ完璧に緩和されている。あたしのどの言葉で、彼女がここまで心を許しているのか分からないが、もうこの金髪の少女に襲われることはもうないだろう。それだけが、今のあたしが唯一安心できる出来事であった。

そんな金髪の少女に引っ張られて、森林を走っているとやはりここがどこなのか?と疑問が浮かんできてしまう。

 

“…き、聞いていいよね?”

 

前を走る金髪の少女へと問いかけようとした口を開いた時には、足元に根をはっている根元へと右脚が引っかかっていた。ぐらっと傾く視界に、あたしはやってしまった…と苦笑いを浮かべるしか出来ない。

 

「あの、そもそも ここって…うわぁ!?」

「へ?」

 

金髪の少女の唖然とした声が聞こえたかと思うと、あたしは根元に躓き、突然現れた真っ黒い何かにぶつかっていた。ぶつかった衝撃で、真っ黒何かとあたしが後ろへと弾かれる。

 

「カナタ!?」

「ぐふっ」

「うおっ!?」

 

ゴロゴロと転がって、起き上がったあたしが見たのは真っ黒い服装で身を包んだ少年と金髪の少女が剣を重ねあっているところだった。

 

“うわぁ…火花まで出ちゃってるよ…”

 

白熱する二人の対決に、蚊帳の外のあたしはいうと完全に傍観者的ポジションで眺めていると、そんな二人の後ろから例の鎌が姿を現すのを見て、二人へと声をかける。

 

「あのー、後ろに何かいますよ!」

「「!?」」

 

あたしの呼びかけに、後ろへと振り返った二人は全く同じ動作で後ろへと飛び去った。そして、姿を現した大きなモンスターを見て、全身黒い少年が呟く。

 

「スカルリーパーだと!?」

 

“すかるぅりーぱーぁ?”

 

またわけわからん単語が出来たぞ…。ここまで、次元の違う単語が出てくると頭が痛くなってくる。

ていうか…すかるりーぱーだっけ?なんだそれ、聞いたことないぞ…。そんな名前のもの。

ん、ひょっとして…それってこのムカデの胴体に骸骨の頭をくっつけてるこの化け物の名前なの?そうなの?

 

あたしのモヤモヤに答えることなく、その骸骨頭のムカデへと武器を構えた黒髪の少年はあたしたちの方へと向くと、声をかけてくる。

 

「おい、そこの君たち。一時休戦としよう、まずこいつを倒さなくてはな」

「……」

 

少年の言葉には答えずに、黙って骸骨頭のムカデへと武器を構える金髪の少女にあたしは苦笑を浮かべる。

 

“返事してあげなよ…。困ってんじゃん…黒い人”

 

あたしと同じく苦笑いを浮かべる少年には、あたしが金髪の少女の代わりに返事する。そして、やる気満々の彼らにあたしはあることを伝えなくてはいけない。

 

「あっ、はい。それでいいと思います…で、その…非常に言いにくいんですんが…。あたし武器持ってないんです」

「「ーー」」

 

“うわぁ…二人して変な奴みたいな顔してる…”

 

胸がっ、胸が痛い。それと罪悪感でいっぱいですので…どうか、その呆れたような表情はやめて下さいぃ…お願いしますから。だって、仕方ないじゃん。ここに来て、間も無くでこんな大きいモンスターと戦う羽目になっちゃったんだもん!

縮こまるあたしへと、少年が右手を横に振って、何かを操作するとあたしの目の前に半透明なウィンドが現れる。

 

「なら、これを使いなよ。丁度余ってたし、要らないからさ」

「あっ…ありがとうございます」

 

“この黒い人、優しいな…”

 

名前も知らないあたしへと無料で武器を提供してくれる心やさしき少年に頭を下げながら、送られてきた武器へと視線を向けた時にあたしは固まった。

 

【太刀】

 

“ぅん?”

 

「右手をスライドして、一番上のボタンの武器のところにさっきあげた奴を挿入したら使えるようになるから。

それまで、こいつは俺らが食い止めるからっ!」

 

戸惑っているあたしのことも知らずに、少年は例のすかるりーぱーとやらと刃を交えていた。

 

“あのぉ…あたしそもそも、この武器の使い方も…ここでの戦い方も知らないんですが…”

 

「カナタっ、早く!もたないっ」

 

固まっているあたしへと、今度は金髪の少女の声が飛んでくる。もう、ここまでくれば仕方がないっ、腹を括ろう。

 

“あぁ〜っ!!もうぉっ、なんとかなるでしょうっ!!”

 

やけになりつつ、少年に言われた通りに右手を動かす。そして、現れたメニューに驚きつつも、一番上にある【EQUIPMENT】というところを押す。

 

“えぇ〜と、この【MAIN】ってとこに入れたらいいのかな?”

 

恐る恐るそこへと入れてみると、さっきまで存在してなかったものがあたしの右腰横へと確かに存在を現していた。その右へと視線を向けると、黒い鞘から顔を出す赤紫色の柄が顔を出していた。

その柄へと左手を添えて、鞘から刀を抜き取る。すると磨き抜かれた刀身があたしを映し出していた。

 

“…よしっ、いこう”

 

少年からもらった黒い刀を構えながら、あたしはすかるりーぱー?が待つ戦場へと走り出した…




今回の話でカナタ(陽菜荼)が手に入れたもの

・金髪の少女からの信頼
・【太刀】という名の刀を手に入れた


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2章002 初めての戦闘(カナタside)

今回はタイトル通りに、ヒナタが初の戦闘を行うところです。はっきり言って、上手く書けた気がしないです(苦笑)

ですが、一生懸命 書いたので宜しければご覧ください(礼)


※お気に入り登録・186名!評価を新たに三つ付けて頂きました!どれも高評価で…感謝と申し訳なさでいっぱいです。

4/6〜ご指摘を受けたところを直しました。
また、ヒナタのレベルと武器に関しては、もう少しほど勉強してから直させていただきます。

→黒髪の少年からもらった刀を【太刀】へと変更しました。
そして、ヒナタのレベルは変わらずにレベル72ということでお願いします。



ーーーちょっと補足ーーー

・ヒナタの成長スピードが尋常でないのは、そうしないとこのホロウ・エリアで生き残れないかな?と思ったからです。



不自然に思われる方がいらっしゃるなら、直しますので…感想などにお書き下さい。


「ふっ」

 

ムカデみたいな身体に髑髏の顔がついたモンスター・すかるりーぱーへと、あたしは黒い少年から貰った【太刀】で斬りかかる。

しかし、あたしの与えるダメージは微々たるもので…殆どは全身を黒で染めている少年と、金髪の少女によってスカルリーパーのHPが削られていっている。

 

“防御とかは二人に任せて、あたしは焦らずに確実に攻撃を仕掛けていこう”

 

そう、決意を新たにして刀を構え直して、スカルリーパーの骨で出来ている脚へと斬りかかる。

 

「はぁっ!」

 

すると、スカルリーパーがあたしの存在に気付いたらしく、右の鎌を振りかざしてくるスカルリーパーの攻撃を手に持つ刀で迎え撃つ。

 

「はぁあああッ!」

 

振り下ろさせる右手の鎌に合わせて、自分の太刀を上へと振り上げて…

 

カッキン

 

という音とともに、左腕に軽い衝撃が走る。すかるりーぱーはというと、右手の鎌を弾かられたことにより、胴体のところがガラ空きになっている。

 

“二人がやってることを、見よう見まねでやったけど…上手くできたぁ…”

 

想像していたよりも、上手く出来て…嬉しさと安堵から溜息が出る。

 

「カナタ、すごい!」

「ナイスっ!君、スイッチ!」

 

“すっ、すいっちぃ?”

 

金髪の少女と黒髪の少年の賞賛が聞こえた後に、黒髪の少年があたしに向かって何を言っている。

すいっちぃ?何それ…どっかにボタンでもあんの?

 

「カナタ、後ろへ飛んで」

 

少年の言葉に戸惑っていると、金髪の少女が指示を出してくれる。その通りに、後ろへと飛び去ると代わりに前に出た少年が両手に握った剣を淡い水色の光で染めて、ガラ空きとなっているスカルリーパーの胴体へと右左斜め、前々と多数の角度から剣を埋めていく。

 

「こっこう?」

「うぉおおお!デプス・インパクトぉおお!!」

「シャアアア!?」

 

その攻撃によりスカルリーパーのHPは赤いゾーンへと突入して、あたしの攻撃であと四回くらいで倒せそうなくらいのHPが残る。

だが、スカルリーパーもHPが残り少ないということが分かっているのだろう。細長い身体をぐるっと一回転させる全方位系の攻撃に出て見たり、やたらめったに近づいてくる者たちをその両手についている鎌で襲っていく。

 

“くっ、このままじゃあキリがないっ!”

 

「ふっ、あぁあああ!はぁっ!」

 

襲いかかってくる細長い身体を後ろに下がって避けるとあたし自身、最速と思えるスピードでスカルリーパーの懐へと駆け出していく。途中、襲いかかってくる鎌をなんとか防ぎ切り…

 

【施車】

 

黄緑色の光がまたあたしの刀身を包み込むと、あたしはスカルリーパーの身体へと斬りかかっていく。思っ切り上へと飛び上がりーー

 

「はぁあああっ!!」

 

ーー飛び上がった勢いと共に、刀を振り下ろした。すると共にスカルリーパーは水色のポリコンへと成り果て、軽やかな音を立てて、青い空へと登って行く。

 

「はぁ…はぁ…、っ…」

 

前にピコンと現れるウィンドには、レベルがいつの間にか72に上がっていたことを知らせてくれた。それを左手で操作していると、後ろから黒髪の少年の声が聞こえてくる。

 

「はぁ…はぁ…なんとか、倒せたな…」

 

あんなに強かった少年たちでも疲労を感じているらしく、声に先ほどまでの元気がない。そんな中、金髪の少女がさっきまで戦っていたモンスターの名前をつぶやく。

 

「…スカルリーパー。こんなモンスター、見たことない」

「75層のボスに似ていた」

「フロアボスがどうしてこんなところに…」

「だけど、ステータスはかなり弱く設定させれてた。じゃないと、三人では倒せなかったよ」

「ーー」

 

“うわぁ…専門用語がバンバン出ちゃってるよぉ…”

ななじゅうごそう、ふろあぼすっていうのに加えて、すてーたすとは…あぁ、頭が痛い…。今日で何回目の頭痛だろうか。

そんなあたしの肩を、誰かがポンポンと叩く。そちらへと振り返ると、黒髪の少年がにっこりと笑っていた。

 

「君もお疲れ様。ナイスファイトだったぜ」

「あぁ、どうも」

 

曖昧に答えるあたしに、黒髪の少年は金髪の少女へと視線を向ける。

 

「で、俺はあまりしたくないんだけど…さっきの決着する?」

「……」

 

“だから、答えてあげなよ…”

 

何も答えずに口を閉ざし続ける金髪の少女へと、あたしは視線を向けると、小さく嘆息して言葉を紡ぐ。

 

「…あたしとしては。…武器をもらった恩人を殺そうとは思えない。だから、ここは引き分けってとこで、どうかな?」

「カナタがいいなら、わたしに異論はない」

「あぁ、俺もそれでいいぜ」

 

“そのあたしに対する信頼はなんなの?!逆に怖いよ!”

変わらずに、あたしへと絶対なる信頼を寄せてくれる金髪の少女にあたしは戸惑いしか感情が浮かばない。

そんなあたしの複雑な表情に気付かずに、黒髪の少年があたしへと右手を差し出してくる。

 

「じゃあ、改めて…キリトだ。よろしく」

「あたしはカナタです。キリトさん、さっきはこの武器ありがとうございました」

「いいって、で…そっちは?」

「…フィリア。あんたは驚かないの?わたしのカーソルを見ても」

 

握手を交わすあたしたちの一歩引いたところに立っている金髪の少女もといフィリアが、黒髪の少年・キリトへと問いかける。

フィリアのその問いに、キリトは静かに答える。

 

「ああ…オレンジだな」

「だったら分かるでしょう。なんで、普通に話しかけてこられるの?」

 

何処か苛立っているようにも…怯えているようにも聞こえる冷たい声で、キリトへと問いかけるフィリアがなぜかあたしは気になった。

 

“ん?こんな雰囲気を漂わせている人を…あたしは知ってる”

 

だが、それは誰だったのか?肝心なところが思い出せない。

 

「それは気にはなっていたけど、それどころじゃなかったし。それに、聞いて答えてくれるのか?」

「……いいわ。……わたし、人を殺したの」

「!?」

「……」

 

“…なるほど、だから…あたしとキリトを遠ざけようと…”

 

強がろうとするその様子が、なぜかあたしが一番大切だと思っている幼馴染と重なったーー

 

“ーー…全く、このフィリアって人もうちの詩乃も素直じゃないんだから”

 

そんな事で人を決めつけるほど、あたしは人を腐らせたとは思ってないし、偏見も持ってない。この世界でオレンジカーソルとやらが何を意味してるのか なんて、あたしには分からないし偉そうなことを言おうとも思わない。でも、あたしがそうであったように、進んで一人で居ようと思う人はまず居ないだろう。誰だって、孤独は怖いもの。

 

“なのに、なんでこの人は一人になろうとしてるんだろう”

 

一緒に居たいと願うなら、居たらいいし…あたしとしてみても一緒に居て欲しい。

 

“まだ、教わってないことがいっぱいあるしね…”

 

「だから、わたしには関わらない方がいい。カナタも…その人と一緒に行くといいわ。今までありがとう」

 

だが、それを伝える前にフィリアは踵を返して、森林へと姿を消してしまう。呼び止めようにも、フィリアが身に纏う青い戦闘着がすごいスピードで遠ざかっていく。

 

「フィリア、まっーーあぁ、行っちゃった…」

 

取り残されたあたしに、隣に立つキリトが声をかけてくる。キリトの問いに答えながら、少年へとある頼みをしようと向き直る。

 

「君はグリーンなんだな。フィリアと知り合いなのか?」

「いえ、さっき会ったんです。その…」

 

しかし、キリトもあたしの言いたいことが分かったらしく、ニコッと笑うと首を縦に振ってくれる。

 

「言わなくても分かるぜ、カナタ。フィリアを追おう!」

「はい!ありがとうございますっ、キリト!」

 

キリトへと頭を下げながら、あたしたちはフィリアの後を追いかけた…




ヒナタにユニークスキルを付けようか、どうかと迷ってます(苦笑)


※ヒナタが【施車】を使えるのは、ちゃっかり習得していたからです。


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2章003 謎の紋様(カナタside)

前回の回は読者のみなさんに、ご迷惑をお掛けしてしまって…本当にすいませんでした。私もまだまだ勉強不足ということがわかりました…

今回もおかしな点があれば、お申し付けください(礼)


4/8〜誤字報告ありがとうございます!
4/26〜間違った表現を直しました(礼)


※お気に入り登録・215名。評価は二人の方につけていただきました、本当にありがとうございます!


森林を抜けたところに、探し人の後ろ姿があった。

遠くを見つめている瞳は水色で、風にそよぐのは短く切りそろえられている金髪。身にまとっている戦闘着は青いフード付きマントに、黒と水色を基調としたものとなっている。

そして、それで連想される人はただ一つーー

 

「ーーフィリア、見つけたー!」

 

見つけられたことが嬉しく、その感情のままにその人めがけて飛びついていく。

 

「へ?この声って…カナタ?って、うわぁああ!?」

 

あたしの声に気づいたのか、金髪の少女ことフィリアが振り返る。そして、その先には両手を広げて飛び込んでくるあたしがいてーーそうなると、この状態になるのが必然的というべきだろう。

芝生の上に寝そべるフィリアの上にあたしが覆いかぶさる形で、問題があるとしたら…フィリアの胸に顔をうずめていることだろうか?しかし、女性同士であるし、今はフィリアを何が何でも捕獲しないといけなかったので…まぁ、良しとしよう。

 

「いや〜、探したよ、フィリア。でも、見つかってよかった〜」

 

フィリアの胸元から顔を上げて、にっこりと彼女へと笑いかける。すると、驚きでまん丸になっている水色の瞳が見える。

パクパクと唇を開いたり閉めたりした後に、何かを耐えるように唇を噛み締めると冷たい声が鼓膜を擽る。

 

「カナタ…なんで、着いてきたの?あの人と一緒に行ったんじゃなかったの?」

「フィリアを置いていけないよ。フィリアはあたしの命の恩人で、大切な仲間の一人だもん。

それともフィリアは…あたしのこと、仲間って思ってないの?あたしはフィリアと仲間として、もっと一緒にいたいよ……ダメ、かな?」

「っ」

 

“あれぇ?なぜ、顔を真っ赤にしてるの?”

急に真っ赤になったフィリアに、あたしは眉を顰める。そんなあたしたちのじゃれあい?を近くで見ていた黒衣の剣士・キリトが咳払いをすると、意見を言ってくれる。

 

「あぁ〜っ。まぁとりあえず、立ち上がったらどうかな?君たち」

 

確かに、彼のいうとおりかもしれない。フィリア自身、何に対してか顔を真っ赤にして、水色の瞳には諦念の色が浮かんでいるので逃げることはもうしないだろう。

フィリアから離れて、起き上がると、フィリアへと手を差し伸べて起き上がるのを手伝う。

後ろに立つキリトへと向き直ると、小首をかしげる。

 

「さて、これからどうするんだっけ?キリ」

「どうするも何も、カナタが追いかけたいとーーキリ!?」

「ん、キリトはキリでフィリアはフィー。あたしが考えた二人のニックネーム、いいでしょう?」

 

あたしが名付けたニックネームに驚くキリトだが、それも一瞬でフィリアの方へと視線を向けてしまう。

 

「いいかどうかは、置いといて…フィリア、君はここがどこなのか知っているのか?」

 

“置いとかれてしまったっ”

ナチュラルに話題をそらさせてしまったあたしは、ガックシと肩を落とす。その様子に、近くにいるフィリアがクスクスと笑い声を漏らす。

 

「ふふふ」

 

“笑われたっ!?”

オーバーリアクションを取るあたしを置いといて、二人はこの世界の情報交換を行うらしい。

にしても、もう少しかまってくれてもいいのではないだろうか?この世界の人たちはこういうものなんだろうか…いや、あたしが単にバカというか…悪ノリしすぎるだけかもしれない。

ならば、ここは真面目にキリトたちの話を聞くべきであろう。あたし自身、ここがどういうVRMMOなのか分かってないのだから。

 

「それに関しては知らない。わたしも一ヶ月前にここに飛ばされてきて…生き残るのに精一杯で、ろくに探索なんてしなかったから」

「一ヶ月前っ!?もしかして、ここって《クリスタル無効エリア》なのか!?」

 

“…くりすたる、むこうえりあ〜ぁ?”

また、新しい専門用語が出てきてしまった。多分、これからもこういった用語が出てくるのだろう。

なぜか、そう考えると…自然と苦笑いを浮かべてしまう。そんなあたしに対して、キリトは焦ったように右手を横にスライドすると、そこに現れているであろうウィンドをみて、ため息を着く。

 

「なんだ、普通に使えるじゃないか…」

「ここは階層とかは分からなくなってるけど、メッセージやアイテムは普通に使える」

「そっか…なら、転移結晶も…。よしっ、使えるな…」

「……」

 

キリトとフィリアの二人が話している横で、あたしもキリトと同じくウィンドを開く。

えーと、右手にあたしのレベルや攻撃力、防御力っていう基本的なものが書かれていると…そして、左手には【MAIN MENU】と書かれている下にズラーと項目が書かれていいて、上から順に……。

とウィンドを探る作業に没頭していると、冷たい声が聞こえてくる。

 

「幾つかあるし、君たちにもーー」

「ーーいらない、遠慮する」

「……」

 

“うわぁ…すげない。うちの詩乃もこういうとこあるけど…”

フィリアのズバッとした物言いに、キリトは気を取り直してこちらへと問いかけてくる。

だが、キリ…あたしにはそのてんいけっしょうやらがわからないんだ…

 

「カナタもいらない?」

「……あぁ〜、それって何に使うの?」

「「ーー」」

 

“だから、その目はやめてってぇ…”

あたしが二人の視線から逃れようと、目を泳がしていると…

 

「そういえば、カナタ。あんた、ここに来て間もないって言ってなかった?」

 

ナイスアシストで、話を進めてくれるフィリアには本当に感謝だ。フィリアの声に、キリトが眉を顰める。

 

「来て間もない?」

「フィーのいうとおりで、ここに来たのは…今日が初めてで…。ここに来る前に、友人と一緒にメディキュボイドに入って…他のVRゲームで遊ぶ予定だったんだけど…」

「メディキュボイド?カナタ…どこか、悪いのか?」

「あははっ、そんな深刻なものではないよ〜。ほんの少しほど寒いところと暗いところが嫌いでね…」

 

キリトはあたしの目に影が差し掛かったのを敏感に感じ取ったらしく…黒い髪をかきながら、謝ってくれた。その様子には、流石にこちらも罪悪感を感じてしまう。

 

「なんか、悪かったな…変なこと聞いて」

「いやいや、吹っ切れたはずなのに…まだくよくよしてる、あたしも悪いしさ…と、話が逸れたね。

VRゲーム内で一旦、その友人と待ち合わせることになってね。その待ち合わせ場所に行こうとしたら、突然 大きな落とし穴にはまっちゃって…驚く間もなく、気づいたらここの空の上に来ていたってとこかな」

 

あたしの話を聞いた後、キリトは何かを思い出すように小声で何かをブツブツつぶやいている。しばらく、そうして考えているとあたしへと向き直ってきた。

 

「なるほど…、大きな穴か。確か…スグがそんな事は言ってたな…ということは………シノンが落ちてきた状況と同じってことか?しかし…どうして、そんなことが起きてるのか…ユイに聞いてみる必要があるな…。

しかし、カナタの話が本当なら、このままでいるのは生死に関わるかもな。まず、カナタはこのVRMMOの中なのか分かるか?」

「いえ、全く…」

「全くか…、ならこれでも分かるだろう。ソードアート・オンライン、通称SAO」

「! デス…ゲーム……」

「そう、ここはあのデスゲームの中なんだ。そして、この世界で一番大事なのは…この世界で死んでしまうと現実世界の自分も死んでしまうってことなんだ」

 

“そうか…ここがあの…”

キリトの声を聞きながら…呆然とそういうことを考える。なるほど、嫌な胸騒ぎがしたのは…そういうことだったか。ん?なら、詩乃も!?このデス・ゲームの中に!?だとしたら…そうだとしたら…、こんなところで呑気に話をしている暇では…っ。でも、何も情報なしで捜すのは…。そこで、視界で詳しい説明をしてくれた黒衣の剣士が目に入った。彼なら、知っているのだろうか?

 

「キリ。すみませんが、シノ…っていう名前のプレイヤーを知ってる?さっき話した友人がそのシノって子でーー」

「ーーシノ?シノンなら知ってるけど…」

「シノン?そのプレイヤーは女性で、髪の毛の色が焦げ茶でどこか冷たい雰囲気…というか、大人びた感じではない?」

「あぁ、俺の知ってるシノンもそんな感じの子だ。それとーー」

 

あたしが言う詩乃の特徴に頷いたキリトはあたしに聞こえる程度の小さい声で訪ねてくる。

 

「ーーちなみにだけど、カナタのいうシノって子のリアルネーム…じゃない、現実の名前は朝田 詩乃であってる?」

「そう!それ、詩乃だよっ。キリ、すごいね…詩乃の本名まで分かっちゃうなんて…。詩乃が教えたの?」

「ん、まぁ…そんなとこかな。………カナタにあった方が、シノンの記憶が戻るかな?」

 

キリトはあたしから離れると、また思案する表情になる。あたしはというと、安堵からその場に座り込みそうになってしまう。

 

“しかし…よかった…。詩乃…無事だったんだ…”

 

もし、詩乃に何かあったらと思うと…あたしはあたしを保っていられるか不安になる。多分、自分を大いに責めることだろう。あの時、詩乃と合流していれば…とかあげると数え切れなくなる。しかし、どうやら…シノもといシノンはこのキリトと知り合いになって、多分 安全なところにいることだろう。

 

「…その…、カナタ…俺からも質問いいか?」

「ん?どうぞ」

 

なぜか、神妙な顔になっているキリトを訝しく思いながら、キリトの質問へに答えていく。

 

「こんなことを聞くのは…マナー違反だけど、カナタとシノンってどんな関係なんだ?」

「どんな関係?んー、さっき話したとおり…友人だよ」

「えぇ〜と、そういう意味じゃなくて…。もっと具体的な…そうだな、例えば家族ぐるみの付き合いとか家が近くとか…実はいとこ同士とかさ。何かないか?」

「なるほど、そういうこと。んー、そうだね…幼馴染とかいろいろあるけど、あたしにとってシノは大切な人だよ。シノもそう思ってると思う」

「大切な人?家族みたいに親しいとか…そんな感じか?」

「まぁ、それもあるけど…文字通り、大切な人だよ。それ以上でもそれ以下でもない、あたしにとってね」

「……大切な人か」

「ん、大切な人…ってフィー?」

「ーー」

 

しかし、何故キリトはこんな羞恥心を煽る質問ばかりをあたしへと聞いてきたのだろうか?もしかして、詩乃になにか?いや、この少年に限ってそれはないか…少し、不安な気持ちもあるが、彼を信じようと心に決めると、後ろから強い視線を感じて振り返る。

そこには、さっきのさっきまで置いてけぼり状態だったフィリアの姿があった。少し不機嫌な感じがするのは、置いてけぼりにしていたからだろうか?

ここは謝っておいた方がーーと思った時だった、そのアナウンスが聞こえたのは…

 

『〈ホロウ・エリア〉データ。アクセル制限が解除されました』

 

“ほろう・えりあ?あくせるせいげん…解除?”

 

ホロウ・エリアというのは…もしかして、今ここにいるところの名前なのでは?

だとすると、エリアというくらいだから…ここもSAOのーーアインクラッドの中というわけなんだろうか?

 

“んー、ますます謎になったな…ここ”

 

だが、異変というのはそれだけにとどまらなかった…。

さっきのアナウンスに驚くキリトの右手のひらに、何か光るものが現れる。

 

「なんだ?今の!?」

「キリ、それ」

「へ?」

「その、手に浮かんでいる紋様…カナタ、あんたも」

「え?うわぁ!?なにこれ」

 

フィリアに指摘され、あたしにもその光るものが浮かび上がっていることに気付く。そして、あたしとキリトの掌に浮かび上がったのは、何か羅針盤のような紋様だった。

それを見たフィリアがあたしたちを見て、驚愕の声を上げる。

 

「あんたたちって一体何者なの?」

「いや、どういう意味だよ…それにこれって」

「わたし…よくは分からない。でも…カナタ、その紋様良く見せて」

「うわぁ!?フィーぃ?」

 

突然、フィリアに紋様が浮かんでいる方の手を引っ張れ、まじまじとその紋様を見られる。

 

“なんか…そう、まじまじ見られると…恥ずかしいな”

 

顔が近い所為か、フィリアの吐息が手のひらにかかり、くすぐったい。しかし、それもすぐであたしの手のひらを離したフィリアが、あたしたちを見る。

 

「やっぱり…、この紋様と同じものが浮かんでいるところを知っている」

「なら、そこに行ってみるしかないか。さっきのアナウンスと何か関係があるかもしれない。フィリア、案内してもらえるか?」

「別にいいけど…そんなに簡単に信じていいの?オレンジ……レッドを」

 

“また、そんなことを…”

 

そんなこと、あたしもキリトも気にしてないのに…という意を込めて、あたしはフィリアへと微笑むと、キリトへと振り返る。

 

「フィーはそんな悪い人とは思えないよ。それはキリも思うことでしょう?」

「あぁ、さっきも助けてくれたしな。それだけで十分信用出来るよ」

「…ふふふ、あんたたちってよっぽどお人好しか、よっぽどバカよね」

 

クスクスと笑うフィリアの言葉に、あたしは自分の頭を掻きながら答える。

 

「そうかな。バカは認めるけど…」

「カナタもそんなところ認めるなよ」

 

“あれ?…返事のチョイスミスった?”

 

キリトにつっこまれ、あたしは苦笑いを強くする。そんなあたしたちを見ていたフィリアは振り返ると、あたしたちへと声をかける。

 

「まぁ、いいわ。案内してあげる、行きましょう」

「ん」

「あぁ」

 

走り出すフィリアの後をあたしとキリトが追いかける…




詩乃が、フィリアに抱きついてるヒナタをみたら…激怒するでしょうね(笑)
そんな詩乃を見たい気もしますが…ヒナタのことを考えると遠慮したいですね(苦笑)


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2章004 謎の少女との出会い(シノンside)

ヒナタの方が一旦、区切りがついたので…この作品のメインヒロインの詩乃の視点からの話を書いて行こうと思います。こちらは、階層攻略を中心に書き進めて行きます。

そして、今回は最初ということで、かなり短めです。では、どうぞ!

※お気に入り登録・224名!評価を新たに二名の方につけていただきました。本当にありがとうございます!

そして、誤字報告ありがとうございます!


「陽菜荼、遅いな…。もしかして、道草とかうってるんじゃないんでしょうね」

 

架空空間にあるベンチへ腰かけて、もう10分くらい経つが…幼馴染の姿が見当たらない。いくら、辺りを見渡しても、癖っ毛の多い栗色の髪が見つからない。

この空間は白を基調としていて、本来はカンセリングをするために使われているらしい。メディキュボイドを使用する患者がVRMMOへログインする前に、一旦ここで説明を受けて、そこからやっとVRMMOへとログインすることができるそうだ。

それは決定事項であり、他のメディキュボイドでログインした陽菜荼も迷わずに、私が今腰掛ける所まで一直線で来られるようになっている…はず、なのだがーー

 

“ーーまさか、待ちきれなくなって…先にログインしたとか?いえ、それは…だとしたら、本当に道草を…”

 

ベンチから立ち上がり、陽菜荼を探しに行こうと一歩踏み出した時だった。それが現れたのはーー

 

「ここは探して行った方がーーへ?」

 

ーー下を向くと、ぽっかりと空いた穴を色付けるように様々な色が目に眩しい光を放っている。そこへと、身体が沈んでいくのを感じて、私は手を伸ばす。

 

「いやっ、待って…陽菜…荼……」

 

いつも私のピンチに駆けつけてくれる彼女は姿を現すことはなく、私は眩しい光が円を描くように回る穴へと落ちていった……

 

 

τ

 

 

ドンッ。そんな衝撃によって、目を覚ました私は見知らぬ場所にいることに目を丸くする。

草木が生い茂っているところを見ると、どうやらここは森林のようだけど…。でも…私、なぜ森林にいるの?

 

“……。だめ、思い出せない…”

 

「痛たたぁ…」

 

そんな声が真下から聞こえ、私はそこで誰かを下敷きにしていることに気づいた。慌てて、身体をどかすと、そこから金髪をポニーテールした少女が身体を起こす。私の方へと振り返ると、ニコッと笑う。

 

「びっくりしたぁ。いきなり、ぶつかってくるから」

「ご、ごめんなさい。怪我はない?」

「大丈夫、大丈夫。あたしもあんなところに立っていたのが悪いんだし…。ん〜?そういえば、あなた何処から来たの?」

「何処って?」

 

不思議そうな顔をして、私へと問いかかる少女に私も眉を顰める。

 

「あたし、耳はいい方だから。物音がしたから気づくはずなんだけど…あなたがあたしにぶつかった時、音がしなかったように思えたから」

「……」

 

“どこ?私はどこから…ここに来たのだろう…。ッ…ダメ、頭がグラグラして…っ”

 

頭を押さえて苦しみ出す私に、少女が心配そうにこちらを見ては謝る。

 

「大丈夫?ごめんね、あたしが余計なこと聞いたから…」

「いえ、私こそごめんなさい。私…ここに来る前後のこと、覚えてなくて。思い出そうとすると、頭がクラクラして…モヤがかかったようになって、何も思い出せないの」

「へ?」

 

少女は唖然とすると、驚いた顔のまま問いかけてくる。

 

「じゃあ、ここがどのゲームの中なのか?分かってないの?」

「げーむ?」

 

首を傾げる私に、少女は身振り手振りで教えてくれるが私にはどれも聞いたことがなく、小首を傾げ続けるのみである。

 

「あー。ここはね、〈ソードアート・オンライン〉っていってVRMMOで、現実に近いのはーー」

「ーーキリトくん、あそこ」

 

そんな声に遮られて、後ろへと振り返った私たちが見たのはーー全身を黒で染めている少年と全身を白と赤で染めている少女であった……




さて、詩乃と少女が見た二人組とは?


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2章005 不思議な夢と林檎のシロップ漬け(シノンside)

シノ編の二話目ですね。
前から時間が経ったので、あらすじを簡単に書くと…見知らぬ森で目を覚ました詩乃が出会ったのは、金髪をポニーテールにしている少女で…その少女にこの世界のことを教えてもらっていると背後から声が聞こえて、そこには真っ黒い服で身を包む少年と、赤と白を貴重とした服で身を包む少女でーー
となってます。

果たして、詩乃と少女が出会ったのは…その二人は誰なのか!?

今回は、長めとなってます。では、ご覧ください。

※お気に入り登録・244名ありがとうございます!

4/13〜誤字報告、ありがとうございます!!


振り向いた先に居た少年と少女を見た瞬間、私の横にいる少女が声を漏らす。

 

「……お兄ちゃん…?」

「「「お兄ちゃん!?」」」

 

少女が漏らした声に、その場にいる全員が驚きの声を漏らす。金髪をポニーテールにしている少女は、黒髪の少年へと歩み寄ると、その黒い革手袋に包まれた右手を両手で握り揺さぶる。

 

“え?おにい…ちゃん?この全身、黒の怪しい男の人の妹なの?この人”

 

一人、置いてけぼり状態の私はポニーテールの少女と黒髪の少年を交互に見る。

その少女の横に立つ腰まで伸ばした栗色の髪が特徴的な少女も私と同じ反応をしている。

 

「え?へ?何?なんかイベントが始まった?」

「多分、そうだろう。よくあるだろう?突然、現れた妖精が、自分の事を兄と慕ってくれるっていうーー」

「ーーちっ、違うよ!お兄ちゃん!!」

「NPCとは思えない名演技ね」

 

“うん、私もそう思うわ”

 

栗色の髪の少女の意見に、私も心の中で頷く。それくらいポニーテールの少女の演技は、危機を迫るものがあった。そんな中、一人だけ黒髪の少年だけ冷静だった。ポニーテールの少女の手をほどくと

 

「すまない。俺は君のお兄ちゃんじゃないんだ。大体、現実の俺の妹はこんなに胸は大きくないーーグハッ」

 

“それはね…そんなことを言ったらね…。私でも殴るわ”

 

そんなセリフを平然と言ってのけるところを見ると、この少年は乙女心というものをあまり理解していない様子だ。頬を殴れた少年に、非難の眼差しを向けていたポニーテールの少女は首を横に振るとーー

 

「ーー二年も経てば色々変わるよ!それに…これはアバターなんだから、現実のサイズと関係ないの!それより、久しぶりにあって言う言葉がセクハラっ!?

と、話が逸れてる。直葉、桐ヶ谷直葉っ。お兄ちゃん、聞き覚えあるでしょう?」

「「…きりがやすぐはぁ?」」

 

私と栗色の髪の少女の声が重なる。目を丸くする女性陣2人に対して、黒髪の少年はポニーテールの少女をまじまじと見ると震える声で問う。

 

「…スグ?もしかして…本当にスグ、なのか?」

「そう!直葉っ。信じてくれた?」

 

黒髪の少年のその声に、パッと花が咲くように明るい笑顔を浮かべるポニーテールの少女。そんな少女に、黒髪の少年は首を横に振る。

 

「いや、にわかには…」

「もう!なんで、そんなに疑り深いの」

「だって、スグがこの中に居るわけがないだろ」

「「……」」

 

“これは…暫くかかりそうね…”

 

現実で兄妹かもしれない黒髪の少年と、ポニーテールの少女の口論が続く中…いつの間にか、私の前に背中まで栗色の髪を伸ばした少女が歩み寄ってきていた。

しゃがんで、私の目線になると警戒心をあらわにする私に微笑みかける。

 

「ねぇ、あなたは…スグ、ハちゃん…のお友達?」

「いいえ、さっき出会ったの」

 

栗色の髪の少女の問いかけに首を横に振ると、少女が突然右手を差し出してくる。その右手をじっと見ているとーー

 

「ーーわたしの名前はね、アスナっていうの。良かったら、あなたの名前を教えてほしいんだけど…いいかしら?」

 

“名前…。私の…なま、え…”

 

思い出さなくちゃ。この親切な少女に報いるために…、私の名前を…思い出さなくちゃ。名前…私の名前…。っ!思い出した、私の名前はーー

 

「ーー私の名前は…詩乃、朝田 詩乃」

「そう、アサダシノさん…ん?それって、リアルネーム…現実の名前でしょう?アバターネーム…」

「あばたーねーむ?」

 

小首をかしげる私に、栗色の髪の少女・アスナが何かを考えるように少し黙ると、直ぐに私を見て 右手を横に振って見せる。

 

「……そうね。えーと、右手をこうして横に振ってみて。そして、ウィンドウが出てきて…そこにあなたの名前が書いてあるはずだから」

「こ…う?わぁっ!?何これ…えーと」

 

“【Sinon】?”

 

アスナの言っていたところに書かれている文字をたどたどしく読みあげる。

 

「シ…ノン、それが私の名前みたい」

「シノンかぁ〜、いい名前だね」

 

そう言って、微笑むアスナの表情が誰かと重なり…頬が熱くなる。

 

「シノン?」

 

“誰かって…誰よ”

 

私の方を見て、不思議そうな顔をするアスナに苦笑いを浮かべる。

私は一体、アスナと誰を重ねたのだろうか?その誰かさえ、私は覚えてないのに…

 

「いえ…なんでもないわ。それよりよろしく、アスナ…さ、ん?」

「アスナでいいよ〜。で、あっちはどうなってるかな?」

 

アスナが視線を向けた先には、ニコニコと輝くような笑顔を浮かべるポニーテールの少女となぜか疲れたような表情を浮かべている黒髪の少年の姿があった。

 

「シノン、立てる?」

「ええ、ありがとう」

「ふふ、どういたしまして」

 

差し伸べられたアスナの手を掴み、立たせてもらうと二人の元へと歩いていく。三人の一歩下がったところから、話の成り行きを見ていると…黒髪の少年・キリトから視線を感じる。

 

「どう?これで信じてくれた?お兄ちゃん…」

「うぅ…、スグだ…。スグで間違いない」

「今、リーファだよ。あたしのアバターネーム」

「あぁ、よろしく…リーファ。で、あっちにいるのがーー」

「ーーアスナです。よろしくね、リーファちゃん」

「はい、よろしくお願いします」

「…」

「えーと、そこにいる子は?」

「シノンだよ、キリトくん」

 

そう言って、私を引っ張るアスナに促されるままにキリトとリーファへと頭を下げる。

 

「…よろしく、キリト…リーファ」

「ああ、よろしくな、シノン」

「えー、シノンさんっていうんですか!記憶戻ったんですね」

 

リーファの放ったその言葉に、アスナとキリトがそれぞれ違った反応を見せる。キリトはその黒い瞳を驚きで染めて、私を見ている。アスナに至っては、さっき私と話をしていたので、大体は予想がついていた様子だった。そんな二人に、私はさっきリーファに話したことを話す。

 

「…私…、ここに来た前後のこと覚えてなくて…、アスナ達に会う前に…リーファにここの事教えてもらってたの」

「えぇ〜、スグが…」

「ふふん♪」

 

得意げに胸を張るリーファに、キリトは呆れたような表情を浮かべる。そんなキリトへアスナが声をかける。

 

「ねぇ、キリトくん」

「あぁ、なら…俺たちと一緒に居た方がいいよな。リーファ、シノン…俺たちについてきてくれないか?」

「うん、わかった」

「えぇ、わかったわ」

 

キリトとアスナに連れられるままに、町の宿屋へと案内され…そこで、キリト達の仲間を紹介され、自己紹介した。

 

その自己紹介のあと、真剣な表情を浮かべたキリトに様々なことを教わった。

まず、ここがゲームの中の世界ーーソードアート・オンライン、通称SAOの中だということを。そして、このゲームは他のゲームと違い、プレイヤーのHPがゼロになると現実の自分も亡くなるということ。そんな、まさかと信じられないような表情を浮かべる私は、周りに座る人たちの表情を見て、それが事実だと理解した。

その後も、いろいろなことを教えてもらったが…全てが最初に聞いた。この世界で命を落とすと、現実の自分も命を落とすという言葉によって、意味をなくし…左耳へと抜けていった。

 

 

γ

 

 

キリト達に拾ってもらって、数日が過ぎたある日。私はベッドに座り、空を眺めていた。

 

「…」

 

“なんか…空を見てると、落ち着く…。なんでだろう…”

 

その問いは、今朝見た夢のせいだろう。

真っ黒い影に追われている私を助けてくれた癖っ毛の多い栗色の髪の誰か。私の方へと振り返ったその人の顔を黒いクレヨンで塗りつぶしたように真っ黒で…しかし、その人に手を繋がれると落ち着いたし…追いかけてくる真っ黒い影も怖くなかった。

 

(…詩乃のことは…あたしが守るよ)

 

その夢を思い出しながら、私は何度目かとなる問いを自分自身に問いかける。

 

“夢で見たあの人、私の知ってる人なの?……あなたは誰なの?”

 

わからないっ、わからない…思い出せない…。思い出さなくてはいけない人のはずなのに…、大事な部分は抜け落ちていて…夢の中に現れた人を思い出すことはなかった。

そんな私の部屋に、遠慮がちに叩かれたノック音が響く。

 

『シノンさん。シリカです、今 時間いただいてもいいですか?』

 

“??? シリカ…私に、何か用かしら?”

 

ドアの向こうに聞こえる幼さを含む可愛らしい声の主に気づき、私は眉を動かす。

 

「どうぞ」

 

私の声で、鍵が外れたドアから水色の小竜を連れた小柄な少女が姿を現す。私は入ってきた小柄な少女・シリカへ微笑む。

 

「失礼します。シノンさん、具合はどうですか?」

「んー、まあまあね」

「そうなんですか…。でも、すぐに思い出せますよ」

「えぇ、ありがとう」

「きゅるるっ!」

 

シリカの問いに答えた私へと、シリカの周りを飛んでいた小竜が飛んでくる。驚きながら、抱きとめて…触り心地のいい水色の羽毛を撫でると気持ち良さそうに「きゅる…」と鳴く。

そんな小竜・ピナの突然の行動に、シリカがソファーに座る私の隣へと座ると、ピナを叱る。

 

「あっ、ピナ!シノンさん、驚いてるでしょう!?」

「きゅるる…?」

 

私の太ももの上に丸まり、うとうとしていたピナがシリカの怒鳴り声に首を傾げている。そんな二人の様子に、心が癒されている気がする…。

怒っているシリカに微笑むと、ピナを撫でるのを再開する。

 

「シリカ、私なら大丈夫よ。それに…ピナを見てると、なんか落ち着く気がするの…」

「ピナをですか?ここに来る前に…そういうゲームをしていたんでしょうか?」

 

大きく赤い瞳に?マークをいっぱい詰めて、シリカが出してくれた案に首を振りながら…、寝息を立てているピナを見る。

 

「ううん、そうではないの。正しくいうと、ピナの色に落ち着くの」

「ピナの色?」

「ピナの羽毛って、水色でしょ?なんか…この色見てると、勇気付けられるというか…安心しちゃうのよ。…色一つで落ち着くなんて、おかしいわね…私」

「そんなことないですよ!それって、シノンさんの記憶が戻り始めているってことなんですからっ。

そういうことなら、ピナのこと…お願いしていいですか?」

「ええ」

 

“ここにいる人たちは…本当に優しくて、暖かい…”

 

最初の頃、距離を取ろうとしていた自分がバカみたいに思えてくる。

 

「そう、シリカ。私に何か、用事があったんじゃないの?」

「あっ、そうです!シノンさんに味見してもらいたくて」

「?」

 

右手をスライドして、ウィンドウを出したシリカが何かを操作している。

 

「〈林檎のシロップ漬け〉です」

 

ボタンを押して、オブジェクト化した物はーービンに所狭しと詰め込まれている真っ赤なリンゴに、何かドロっとした物がリンゴが漬かるくらいまで入れてある。

机の上に置かれているビンを見て、隣に座るシリカを見る。

 

「…これ、シリカが作ったの?」

「はい、少しでも経験値を稼いで…キリトさんの役に立ちたくて…」

 

頬を朱色に染める少女に、私は困った表情を浮かべる。

 

「なら、私が食べちゃったら…意味がなくなるんじゃあ」

「少しなら大丈夫ですよ。それに、シノンさんも一緒に作ってみませんか?あたしが、教えてあげますし…それに、これなら町にいても、経験値稼げますし、コルも…えぇと、それから…」

 

しどろもどろになって、いろいろな利点を述べるシリカにクスッと笑う。どうやら、彼女は彼女なりに、私のことを気にかけてくれているらしかった。

 

「そうね…。何もしないで、部屋に篭ってばかりだと…気が紛れないものね…。………ありがとう、シリカ」

「?何か、言いましたか?シノンさん」

「いいえ、なんでもないわ。なら、少しだけ頂くわね」

「はい、どうぞっ」

 

シリカから貰った林檎のシロップ漬けを口に含み、その甘さに頬を綻ばせる。

 

「おいしいですか?」

「えぇ、美味しいわ。シリカも食べてみたら?」

「そうですか?なら…一口だけ…。ん〜っ!!おいしい〜っ」

「ね?これは…手が止まらなくなるわね」

「はい、そうですね…」

 

その後も、ビンの中にあるシロップ漬けになっているリンゴを口に運び続けた私たちの前には、空っぽになったビンが数分後に残っていた。

隣で空っぽになったビンを見て、青くなっているシリカに微笑むと私はあることをお願いする。

 

「…」

「ねぇ、シリカ。私にもこのリンゴのシロップ漬けを教えてくれないかしら?」

「はい!喜んで」

 

その後、どちらからともなく笑い声が部屋に響き渡たった…




と、いうことで16話が終わりました。

もし、ヒナタが今のシノンとシリカの仲の良さを見たら、嫉妬しますかね…いえ、ヒナタさんはこれくらいじゃあ嫉妬しないかな(笑)


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2章006 射撃スキルと出会い(シノンside)

さて、今回はタイトル通りの話となっています。シノンの心境をうまく書けたか、不安ですが…よろしければご覧ください。

この話は、前の話の三週間後くらいをイメージして書きました。


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4/14〜誤字報告、ありがとうございます!


“えぇーと、この角度でこうして…前に突き出す”

 

【lmmortal Object】に設定されている町外れの木へと、〈短剣〉スキル【アーマー・ピアース】を叩き込む。

 

「ふっ!」

 

右手に持ったクロス・ダガーの刀身を黄緑色の淡い光が包み込むのを見て、あとは身体に染み込んだモーションに任せてーー次の瞬間、凄まじい効果音とエフェクトが発生する。それを見て、ソードスキル特有の硬直が解けたのを感じて、近くにあるベンチへと座り込む。

 

“さて…これで、この【アーマー・ピアース】って技は100%出せるようになったわね。他のスキルも…この技ほどじゃないけど…八割くらい出せるようになったし…”

 

ベンチに座って足を組むと、右手を横へスライドする。

 

“…スキルポイントも溜まっただろうし…、新しいスキルでも習得しようかしら”

 

すると、ウィンドウが開くので、右側にある【MAIN MENU】の欄にある【SKILL】を押す。

すると、そこに広がるスキル習得ツリーなるものから、一番上にある〈短剣〉スキルの熟練度を見て…眉を顰める。

 

“ん〜、101.7かぁ…。んー”

 

どうやら、短剣の新しいスキル習得については諦めざるおえないらしい。私は、脚を組み変えて 肩を上下に動かすと、気を取り直して…他に私に習得出来そうなスキルはないか?と、下へとスライドする。そして、一番下にいつの間にか現れていたスキルを見た瞬間、首筋にまるで氷を突きつけられたような感覚に陥る。

 

「…【射…撃……ス、キル】……っ?」

 

〈射撃〉の二文字を視界に入れ、その言葉を理解した瞬間…感じるはずのない冷や汗を感じて、目の前がふにゃふにゃに歪み始める。

 

「はぁ…はぁ…」

 

自分でも異常と思えるくらいの反応を見せる身体に戸惑いつつ、私は胸に手を当てて、どうにか自分自身を落ち着かせようと深呼吸する。そんな私の耳へと、見知った声が聞こえてきた。

 

「シノのん?」

「あら、シノンじゃない。どうしたの?」

「アスナ…リズ。なんでもないの、心配しないで」

 

胸に当ててた手を下ろすと、声がした方へと淡く微笑む。そんな私を心配そうに見つめるのは…栗色の髪を腰まで伸ばした少女で、はしばみ色の瞳が純粋な心配の色だけで埋め尽くされてる。白と紅の二色を使った特徴的な戦闘着を揺らして、私の近くへと歩いてくると覗き込んでくる。

 

「心配しないでって…そんな顔してるんだもの、心配になるよ シノのん」

 

栗色の髪の少女・アスナの横にもう一人の少女・リズベットが歩いてくると、首を縦に振る。その際に、桃色のショートヘアが揺れる。

 

「アスナのいうとおりよ、シノン。何か悩んでいることがあるなら…あたしたちに言ってみなさい」

「……」

 

“二人に聞いていいものなのだろうか…?いえ、ここは…。誰に…相談すれば…”

 

「「ーー」」

 

うつむいて黙っている私に、アイコンタクトをかわした二人が私の両手を摑む。二人のその行動に驚いて、前を向くとニッコリと笑う二人の顔がある。

 

「ねぇ、シノのん。少しいい?」

「ちょっ、アスナ!?」

「そうそう、たまにはパッと楽しまなくちゃね」

「リズまで!?どうしたのよっ、二人とも」

「「まあまあ」」

「なんで、そこだけ息が合うの!?逆に怖いわよっ、私は今からどこに連れていかれるのよっ」

 

その後、アスナとリズに引っ張られるままに色んな店へ案内され、そこで色んな買い物をして…最後に立ち寄った店のある商品棚へと視線を向けた瞬間…そこに置いてあるものに視線が釘付けになったーー

 

ーー木で出来ているのだろう…その木をピンっと貼った線が仰け反らせている。

そう、それはどう見ても…【弓】であった。

 

“もしかして、射撃って…そういうこと?”

 

そう考えれば、前に無理をいって連れて行ってもらった層で弓を使って戦っていた敵がいた気がした。

 

“なら…私も使えるってこと?あのスキルを習得したら?”

 

そこまで考えた私は、なぜかこの〈弓〉と【射撃スキル】との出会いが運命のように思えた。

 

「…」

「シノのん、何かいいのあった?」

「へぇ〜、弓ねぇ。うわぁ…結構な値段するわね…」

 

弓を凝視して動かない私へ、誰かが抱きついてきた。その衝撃に後ろを向くとはしばみ色の瞳が此方を見返してくる。そんな私とアスナを見て、苦笑浮かべていたリズベットが私がさっきまで見ていた弓を眺めている。そして、そこに書かれている値段に渋い顔をする。

 

「…あの〜、おじさん。この〈弓〉くださいな」

 

そんなアスナの声に、私は驚いた顔をするとリズベットが笑う。

 

「アスナ!?」

「アスナ、半分ほど…あたし出すわよ」

「リズまで、そんなの…悪いからっ」

「いいってものよ、シノン。今日一日、あたしたちがシノンを連れ回しちゃったんだし…」

「うん、シノのんの時間を潰しちゃったんだしね〜」

 

そんな二人は、私が止めるのも聞かずに…〈弓〉を購入して、私へとプレゼントとしてくれる。その〈弓〉を受け取った時に、この〈弓〉をずっと大切に使っていこうと心に決めた私であった…




と、シノンが【射撃スキル】と【弓】を手に入れたところで…この〈シノ編〉は一旦、終わりです。

次回は、前に書いた〈バッカスジュース〉イベントみたいな息抜きの話を2、3話書いた後に〈ヒナタ編〉を書き進めていくつもりです。


そして、ここから先は雑誌コーナーとなっております。
この小説を書かせていただいている最中に、シノンのキャラソンを聞いているのですが…〈RELIEF BULLET〉って曲がとても泣ける曲で…(涙)
シノンの気持ちもよく書かれているし…声優さんの歌い方も涙を誘います。この曲のような展開には、私の小説はならないかもしれませんが…原作以上とはいいませんが、それくらい感動できる話をかけたらなぁ〜と思っております、では!!


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2章007 記憶を取り戻すトリガー(キリトside)

シノンとカナタの二人にも、唯一出会っているキリトがどんな役割を果たされるのか?そして、シノンの記憶は戻るのか?
その二つに注目して、ご覧頂ければなぁ〜と思います。それでは、どうぞ!

※お気に入り登録・246名!評価者・13名ありがとうございます!

4/17〜誤字報告ありがとうございます!
4/26〜間違った表現を直しました(礼)


「ふぅ〜、なんとか倒せたね、キリ」

 

アナウンスによって、用意された試練をなんとか突破した俺たちは其々に称え合う。このホロウ・エリアなるものに召喚された時に知り合った仲間へと視線を向けると、俺はそれぞれの利点を上げる。

 

“フィリアの身のこなしは流石ってところだよな…。しかし、そのフィリアにも負けず劣らずに…このカナタっていう子もすごい”

 

どっちかというと、扱いづらい刀を完璧に使いこなしている。いつの間にか、ソードスキルまで習得しているし…。うかうかしてると、俺も抜かれるかな?と苦笑を浮かべながら、右手を上げてくる癖っ毛が多い栗色の髪の少女・カナタへとハイタッチする。

 

「あぁ、そうだな。カナタもお疲れ」

 

そんな俺たちへと、先に道を確認に行っていたフィリアが手招きする。

 

「二人とも早く。こっちだから」

「了解!」

「おう!」

 

手招きするフィリアの元へと走っていき、そのフィリアが案内するところに行くと…そこには、俺の身長数倍くらいある黒い石板が配置されていた。その石板に刻まれている紋様は、確かに俺たちの手に現れた紋様に似通っていた。

その謎の石板へと歩み寄りながら、カナタが隣に立つフィリアへと問いかける。

 

「ここがフィーの言ってた球体の入り口だね。これに手をかざせばいいの?」

「えぇ、ためして見て」

「ん」

 

頷いたカナタが紋様をかざすと、石板に刻まれている紋様が光だす。

 

「おっ、紋様が光ってる。フィリアの言っていたのは当たっていたみたいだな」

「流石とれじゃーはんたーぁ?だね!」

「まぁ、わたしもこの球体の中には入ったことないんだけど…」

「なんか如何にも秘密基地みたいな感じだよね!」

「あぁ、俺もそう思うぜ。行こう」

 

喜ぶ俺ら2人の後を苦笑を浮かべているフィリアが付いてくる。そして、そんな温度差の激しい三人組が転移されて、着いたのは真っ暗な部屋に無数の眩い光が通っている何かの管理室みたいなところだった。

 

「おぉ〜、すごい」

「目の前にモニタリングされてるのは…、このホロウ・エリアか?」

「調べてみる?キリト」

「あぁ」

 

一人、はしゃいでいるカナタの隣で俺らは頷きあい、其々に持ち場へと走り出す。そして、隅々まで…このホロウ・エリアとは何なのか?と元のアインクラッドへ戻るための手がかりを探すために、いろんなボタンを押す。そんな俺へと近づいてきたカナタが問いかける。

 

「キリ、なんか分かりそう?」

「今んとこ、なんもな…」

「ねぇ、二人ともこっち来て」

「「!?」」

 

後ろからフィリアの声が聞こえて、そちらへと走って行くとそこには見慣れたものが配置されていた。フィリアがそれを指差しながら言う。

 

「これって、転移門でしょ?」

「あぁ、確かに!すごいぞ、フィリア。これで帰れる!」

「帰れる…よかったね」

 

俺のセリフに、水色の瞳が少し影が差すのを見て…俺とカナタは眉を顰める。

 

「フィリアは嬉しくないのか?」

「そう見える?」

「んー、見えなくもないけど。フィーは一緒に帰らないの?」

「わたしは帰らない…だから、あんたらだけで帰ればいいよ」

「んー」

「そうだな、フィリアの言葉に甘えて…俺は一旦、帰らせてもらうーー」

 

そっけなくそう言うフィリアに、カナタは何かを考えるように腕を組む。俺はというと、その言葉に甘えさせてもらうことにした。

 

“正直、ポーションやら回復結晶が心もとなかったんだよな…。帰って、買い足しに行かないと…”

 

俺は転移門へと歩き出すと、振り返って カナタへと問いかける。

 

「ーーカナタはどうする?」

「んー、あたしもフィーとここにいるよ。だから、キリ ごめんだけど、シノンによろしく伝えといてくれないかな?」

「おう、任せろ!そうだ、カナタ」

 

俺はカナタを手招きすると、近づいてくるカナタの耳元で囁く。

 

「念のために、カナタのリアルネームじゃない。げんじつのなまーー」

「ーー香水 陽菜荼だよ、キリ。ちなみにキリは?」

「ふ。即答なんだな…。躊躇われるかと思ったのに…ちなみにだが、俺は桐ヶ谷和人だ」

「なるほど…。それでキリトね…」

「カナタもな」

「お互い様ってわけだね」

「あははっ。だな」

 

互いに、似た感じでアバターネームを決めたことがわかって、どちらともなく笑ったところで…カナタが真剣な顔を作って、俺を見てくる。

 

「それとキリ。これもシノンに伝えてくれるかな?」

「ん?なんだ」

「あの時に約束したことは、必ず守るからって」

「あの時?」

「ん…」

 

 

γ

 

 

その後、俺は転移門から元のアインクラッドにある〈アークソフィア〉へと戻ってくることができた。転移門を出たところで、俺を探し回ってくれていたみんなと出会い、これまでの出来事を報告して…俺は最後に、ある人物の後ろ姿を見つけて呼びかける。

焦げ茶色のショートヘアがふわっと揺れて、振り返ったクールな印象を受ける少女・シノンへと頼まれた伝言を伝えるために。

 

「なによ、キリト。今度は私をナンパする気?」

 

腕を組んで、不機嫌そうに振り返ったシノンに俺は首を横に振る。

 

「違う違う。シノンに伝えておきたいことがあってさ…、ちょっとそこまでいいか?」

「いいけど…、やっぱりナンパなんじゃない」

「だから、違うって」

 

近くにあるベンチへと腰掛けた俺たちは、シノンが視線で話を促したことから俺は決心して話すことにした。

 

「俺が〈ホロウ・エリア〉ってところに行ってたことは話したよな?」

「えぇ」

「そこで、二人の少女にであったことも話したよな?その二人の少女の一人が…シノンの知り合いだったんだ」

「わたしの?」

 

目を丸くするシノンに、俺は頷く。

 

「カナタって子なんだけど…、リアルでは君の幼馴染って言ってた」

「わたしの…幼馴染…」

「ここまでで何か思い出せそうか?」

「いいえ、ごめんなさい…。まだ何も…」

 

力なく首を横に振るシノンに、俺も首を横に振る。

 

「いいんだ。俺でも、これだけの情報じゃあ思い出せないと思うから。だから、彼女の現実の名前を聞いてきた。彼女の名前は…香水 陽菜荼って言ってた」

「!?」

 

俺がカナタのリアルネームを言った途端、シノンの肩はピクリと動く。見開いた瞳が左右に揺れて、まるで何かを思い出そうとしているだった。

 

「そして、カナタがシノンに伝えって欲しいって」

「カナタさんが…私に?」

「うん、カナタはこう言ってた。どんなに離れていても、あたしはあの時の約束を忘れたことはないし、必ず守るからって」

「…あの…と、き?」

「ああ、あの時…の約束…。あたしがシノを守るっていう約束、忘れたって言わないよね?ってさ。それと、続けて、こんなことも言っていたぞ。シノがあたしの力になりたいって言ってくれたことが嬉しかったよって。でも、だからって無理はしないでってさ。シノは頑張りやさんだから…無理しそうで、そこだけが心配だからさって…俺もすごくシノンに無理をさせるなって釘を刺されたよ」

「ーーぁ」

「シノン?」

 

俺がカナタの伝言を伝え終えると、シノンが顔を両手で覆って…身体を震わせている。覆っている両手の隙間からポロっと落ちた透明な雫に、俺はあのシノンが涙を流していることに驚いた。

俺らのパーティーで、誰よりも大人びていて…あまり感情を表に出すことがないあのシノンが涙を流している。俺はそこで、カナタが言っていた〈シノはあたしにとって大切な人〉って意味が分かった気がした。予想でしかないけど、シノンとカナタは俺らの知らない…知りたくもないと目を背けるであろう出来事をここまで二人で力を合わせて、乗り越えてきたのだろう。

俺はシノンが泣き止むまで、黙って待っているとシノンが身体を起こす。裾で涙を拭うと、俺へと頭を下げる。

 

「ごめんなさい…、突然涙を流しちゃって…。でも、さっきの話を聞いて…色々、思い出せたわ。ありがとう、キリト」

「いいさ。俺もシノンの記憶が戻る手伝いができて良かった」

「ねぇ、キリト。その質問していい?」

「あぁ、俺に答えられることならな」

「陽菜荼は…、カナタは…元気だった?」

「うん、元気だったよ」

「そう」

 

俺の答えに、遠くを見るような目をしたシノンは俺へと向き直ると

 

「それじゃあもう一つだけ。今の私のレベルでは、カナタのいるところに行くことは出来ないのよね?」

「ん、残念ながらな…」

「いいのよ。いつか、強くなってから迎えに行くから」

「その前に、カナタのことだから…帰ってきそうな気がするけどな」

「確かに、そうかもね」

 

そのあと、俺とシノンは笑いあい、宿屋へと戻った……




ということで、シノンさんの記憶が戻りました。よかったですね(笑)
これもキリトさんの活躍によるものです!さすが、キリトさん!ということで、次回からはそんなキリトさんも記憶が戻ったシノンさんも現れずに、フィリアさんとホロウ・エリアに残ったカナタさんの話を書いていきます。
もしかしたら、新しい登場人物が現れるやもしれません、お楽しみに(笑)


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2章008 小太刀スキル出現(カナタside)

さて、お久しぶりのヒナタ編ですが…果たして、どうなっているのか?
頃をいうと、キリトがアークソフィアに戻って、半年くらい経った頃の話と思ってくれたらいいです。




「…ょっと、カナタ、起きてっ」

 

ゆさゆさと強めに身体を揺すられ、薄っすら目を開けるあたしを金髪をショートヘアにしている少女が呆れ顔を作って見ている。

ぼやけてみえる金髪と水色の瞳をみつめながら、あたしはその呆れ顔を作っている少女の名を呼ぶ。

 

「ん…ぅ?……フィーなの?」

「逆に聞くけど、私以外に何に見えるのよ」

 

背中に抱きついた状態で身動きもしないあたしを剥がそうとしている金髪の少女・フィーことフィリアは水色の瞳の奥に燃える怒りの炎に気づき、あたしはフィーに抱きついていた両手を外すと、目をこすりながら起き上がるとフィーが尋ねてきた問いに答える。

 

「ん〜?フィー以外に?

………うん、そうだね〜ぇ…フィー以外には見えないや。フィーはいつだって、可愛くて綺麗で優しいもんね。うん…そんなフィーを間違えるなんてあり得ないよ…」

「なっ、〜〜ッ!!」

 

眠たそうに目をこするあたしから、素早く顔を背けたフィーの横顔が真っ赤に染まるのを寝ぼけ眼で見てしまい、心配になる。なので、そっぽを向くフィーの顔を覗き込もうとするとーー

 

 

「フィー、顔が赤いよ?熱あるの?」

「ーーないからっ!それより、準備は出来た?そろそろ攻略いくわよ」

 

なぜか、フィーに怒鳴られ、あたしはしぶしぶ フィーから身体を離すと…まだ眠たいが、気合を入れるために自分の頬を叩く。そんなあたしへと、まだ頬が赤いフィーが話しかけてくる。

しかし、あたしはというと…大きなあくびをしており、フィーの質問のほとんどを聞き取れないでいた。なので、聞き返すとフィーがなぜか、ムッとした表情を浮かべる。

 

「…ちなみにだけど、なんで私に抱きついてたの?寝る前は、離れたところに寝てたでしょう?」

「ふぁ〜ぁ、なあに?」

「……ッ!なんで、私に抱きついて寝てたのって聞いたのよっ。バカカナタ!」

 

“なぜ?あたしは…理不尽にもバカって言われているのだろうか?”

 

バカとフィーに怒られたことに、釈然としないあたしは少しムス〜としながら答える。

 

「…それなら簡単だよ。さっきまで《短剣》スキルの熟練度を上げてたんだから。で、ついさっきにコンプリートいたしました!」

 

えっへんと胸を張るあたしに、フィーは空いた口が塞がらない感じで、あたしを見ている。

 

「そして!フィーにもうひとつ、発表があります!ジャジャーン」

 

あたしは右手を横にスライドして、ある武器をオブジェクト化するとフィーの前へと差し出す。フィーはそれを手に取ると、眉を顰める。

 

「カナタ、これって?短剣よね」

 

フィーが右手に持っている小さな刀を見て、あたしはチッチッと首を横に振ると、フィーからその小さな刀を受け取る。

 

「違うよ、小太刀っていって…刀の小さいバージョン。そして、この武器専用のスキルも先ほど出たばかりなのです!」

「!?」

 

驚くフィーに、あたしは先ほど覚えたソードスキルを繰り出す。

 

【月兎】

 

薄黄色の光を真っ黒い刀身が包み込み、覚えたてのモーション通りに前へとその刀身を突き出す。その瞬間、凄まじい効果音とエフェクトが薄暗い辺りを照らす。

そのソードスキルに、フィーは呆れたような表情を作るとひとつ嘆息する。

 

「全く、私が寝ている間にどこに行って、そんなものを手に入れたのやら…。そのソードスキルの名前は?」

「ん、《小太刀》スキルっていってね。基本的なモーションは短剣と同じ動きをするみたい。所々、違うところもあるけどね…」

 

苦笑いを浮かべるあたしに、フィーが小さくつっこむ。

 

「逆にないと困るでしょう…。それより、カナタもう少し寝る?」

「ん?なんで?」

「さっきのと、《短剣》スキルコンプリートで…私が起こす三十分くらい前に寝たって感じでしょう?そんなんで、攻略なんて無謀よ」

 

確かに、フィーのいうとおりかもしれない。だが、かといって…一人で寝るのも気恥ずかしいもので……

 

「はぁ…、私も一緒に寝てあげるから。これでいいでしょう?」

「わーい!あんがと、フィー」

「どういたしまして。………普段はあんなかっこいいっていうか、歯が浮くようなセリフを吐くくせに…こういうところは子供なのよね…。本当に…狙ってやってるのか…やってないのか…」

 

ボソッと、何かをつぶやくフィーにあたしが小首をかしげる。

 

「フィー、なんか言った?」

「いいえ、なんでもないわ。本当に、もう少しだけだからね」

「ん、わかってる…。おやすみなさい…」

「うん。おやすみ…カナタ」

 

フィーに、そう念を押されて…あたしは眠りについた……




誰か〜、ヒナタさんの暴走を止めてください〜!!(笑)
こんなところをシノに見られたら…って思うと、わぁっ!?矢が飛んできてーー次回に続く!



ーーちょっと、補足ーー

・小太刀【有楽来国光】
斬撃 出血+12 SKLL発動+15 回数10
ダメージ値 931 間隔 102 AGI+26


・《小太刀》スキル
カナタが出したエクストラスキル。発生条件は《刀》スキルと《短剣》スキルのコンプリート

ーーーーーーーーーーー


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2章009 それは誓い 前編(カナタside)

今回の話は、オリジナルストーリーなので…間違っているところがあるやもしれません。ので、おかしな点とか気になる点があれば…ご感想をお願いします(礼)

5/2〜間違っていたところを直しました。

5/2〜誤字報告、ありがとうございます!!



一眠りした後に、フィーことフィリアと共に、遺跡城へと

足を踏み入れた途端…あたしはどうやら、迷ってしまったらしい。

 

“んー、ここ…あたし、通ったよね?”

 

キョロキョロと辺りを見渡しながら、部屋に続く廊下を歩いていると冷たいものを首筋に突きつけられる。

 

「君は誰だい?なぜ、ここにいる?」

「……」

 

“…あぁ〜、デジャブ…”

 

唯一、動かせる目で首筋に当てられているものを見ると、いつかの時のように…刀身が磨き上げられた片手直剣が首筋に当てられており、あたしは人知れず…溜息をつく。そして、遠い目をすると、いつかもこのように誰かに襲われたことを思い出していた。

そんなあたしの様子に痺れを切らしたのか、片手直剣を押し付けてくる何者かは、アルトよりののんびりとした口調で、もう一度 あたしへと問いかける。

 

「答えて、君は誰?」

「…あたしはカナタ。君の敵ではないよ」

 

いつの日かも、こんな風に答えたなぁ〜と考えていると…あたしへと剣を突きつけていた何者か、恐らく少女が動揺で震える声で訪ねてくる。

 

「!?カ…ナタ……。さっき、君はカナタって言ったのかい?」

「? そうだけど…」

「っ。君、逃げーー」

 

そう答えたあたしから、慌ただしく剣を外した少女は…あたしから離れようとして、息を飲んだ。

少女の視線の先にいるものに、あたしは眉を顰める。

 

「ーー何か見つけてこいとは言ったが、とんだ拾いもんをしたもんだな〜、ルクスぅ〜」

「ぁ…」

「ッ」

「おいおい、嬢よ。そんな怖い顔してたら…兄弟が悲しむぜ〜」

 

黒いポンチョを揺らしながら歩いてくる男の声音、目ぶかく被れた顔からチラチラと覗く顔には、見に覚えがあった。どうやら、それは黒いポンチョの男も同じだったようで…少女に捕まったままで居るあたしをニヤニヤと笑いながら、見てくる。あたしはその男から顔を背けると素っ気なく言う。

 

「ふん。あんな人を父と思ったことは一度もない」

「ありゃ〜、これが反抗期ってもんかねぇ〜、参った参った。兄弟はあんなに嬢のことを心配してたってのにさぁ〜。まぁ、いいさ…。嬢には、暫くの間…大人しく俺のところに来てもらうってことでさ、ルクス。そのまま 嬢を捕まえてろよ」

「ーー」

 

黒いポンチョの男に命令されて、震えながらもその命令通りに動く少女から逃れようと暴れるあたしだが、少女の方が力が強いのか…はたまた、必死なのか…少女から逃れようとしようにも、逃げれなかった…。

変わらないスピードで近づいてくる黒いポンチョの男を睨みつけながらも、暴れるあたしの耳に見知った声が聞こえてくる…

 

「くっ、嫌に決まってんだろ!誰がお前なんかのところなんかにーー」

「ーーカナタ〜!!何処にいるの〜?カナタっ!!」

「と、お仲間さんか?」

 

黒いポンチョの男が振り返った先には、息を切らしているこちらを睨んでいる金髪碧眼の少女がいた。少女が息をするたびに、揺れる青いマントを動かして…黒いポンチョの男たちに向き直った少女はこう言い放つ。

 

「あんたら、誰?カナタを離して」

「ーー」

「聞いてるの?カナタを離して」

 

ジッと金髪碧眼の少女・フィリアことフィーを見たまま、微動だにしない黒いポンチョの男が次の瞬間、ニンヤリと不気味な笑みを浮かべる。

 

「あんた、誰かと思ったら…オレンジプレイヤーのフィリアじゃあねぇーか。なんだよ、おめぇ…あんなことしときながらぁ、嬢を取り込む気だったのかよぉ。人間ですらないデータの分際でさぁ〜〜〜〜〜」

「…ぁ…ぁぁ……」

「でーたぁ?」

 

首を傾げるあたしに、黒いポンチョの男はニンヤリと笑いながら…顔を強張らせるフィーへと一歩一歩近づいていく。そして、固まるフィーを思いっきり、蹴飛ばすと…床に転がるフィリアのお腹を踏みつける。

 

「がぁっ、っ…」

「おらおら、なんか抵抗してみろよ〜。最初の威勢はどうしたよぉ〜。ン?」

 

抵抗しないフィーに飽きた様子で、最後にフィーの身体へと凄まじい一発を蹴り入れた黒いポンチョの男の行動に、怒りの限度が超えたあたしは取り押さえている少女へと怒声を浴びせる。

 

「離せっ!離せって!!あたしはフィーをっ。フィーを助けないといけないんだぁ!!」

「ーー」

「聞いてるのか!?離せって言ってんだろ!!」

 

荒れ狂うあたしに、黒いポンチョの男は自分の数メートル先に寝そべっているフィーとあたしを交互に見て…あることを思いついたような表情を浮かべると、腰にある剣を取り出す。そして、無抵抗に寝転がっているフィーを突然 手に持った武器で斬りつける。

 

「オマエェエエエ!!!」

「ふ、嬢はこの人殺しがそんなに大切なのか?」

 

あたしの表情を楽しむように、フィーを斬りつけていく黒いポンチョの男を睨みつけると…あたしは一瞬、緩んだ少女の束縛を外すと…フィーと黒いポンチョの男の間に入り込む。黒いポンチョの男は、突然 現れたあたしにびっくりしたような表情を浮かべると…視線だけで、さっきまであたしを取り押さえていた少女を見る。男の濁った瞳に映るその少女の外見は、白銀のウェーブのかかったロングヘアに、垂れ目の瞳は床を見つめていて…ガタガタと震えている。

 

「おやぁ?なんで…嬢、こんなところにいるのやらぁ?やはり、ルクスは役立たずかぁ〜。まぁ、いい…」

 

ニヤニヤとわざとらしい笑みを浮かべる黒いポンチョの男へと、刀を構えながら言う。

 

「フィーを傷つけたこと、後悔させてやる」

「後悔?嬢は面白いことを言う〜。この世界には、殺していい人間ってのが存在するんだ。そいつらを一人、葬ったくらいで…誰が俺を裁くってんだぁ?」

「人間とか…人間じゃないとか、そんなの何の意味も持たないよ。第一、あたしがお前みたいな奴の言うことを信じるわけないだろう?フィーが人間でなかろうが、あろうがそんなの関係ないっ。

あたしはフィリアを信じてる!!それは出会った頃から今に至るまで変わらないし、これからだって…その信頼が変わることはない。これは約束っていうか、誓いだよ。その誓いに、過去の行いとか関係ない!関係あるのは、今のフィリアが何したいかだよ」

 

あたしは振り返って、フィーの方を見ると問いかける。

 

「ねぇ、フィー。フィーはどうしたいの?あたしといたいの?それとも…こいつに屈する?」

「わたしは…カナタと……っ、居た…い……」

 

涙を流しながら、そう言うフィーにあたしは頷いて…フィーを守るように、愛刀を構えると黒いポンチョの男に鋭い視線を向ける。そんなあたしに、黒いポンチョの男は終始呆れ顔を作っていた…

 

「OK。フィーなら、そう言ってくれるって思ってた」

「ククク…困ったもんだなぁ〜、嬢も。なら…嬢よ。俺と一勝負しないか?」

「勝負?」

「ああ、俺が勝ったら 嬢は俺の言う通りにすること。嬢が勝ったら…そこに転がってる二人の事は嬢に任せるさ。いい条件だろ?」

「ふっ、屁理屈を。でも、それで二人をあんたから救えるんなら…あたしはする!あんたをキルッ!」

 

そう言って、手に持った武器を構えた黒いポンチョの男にあたしは手に持った愛刀をギュッと握りしめて、走り出した……

 




次回は、黒いポンチョの男との決戦

久しぶりのイケメンヒナタ回ーーこんなヒナタに惚れない人はいないですよ(笑)
普段はだらけているが、決める時は決めるーーそれが香水 陽菜荼という子なのです!


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2章010 それは誓い 後編(カナタside)

後編の更新です!
黒いポンチョの姿との決戦から始まる今回ですが…戦闘シーンが上手く書けた気がきません(涙)なので、他のシーンで楽しんで頂ければなぁ〜と思います。では、どうぞ!

5/4〜誤字報告、ありがとうございます!


黒いポンチョの男が振り上げてくる友切包丁を寸前で交わすと、ぴょんぴょんと後ろへと飛んでから、距離をとってから刀を構える。チラッと左端に浮かぶ自分のHPと相手のHPを見比べて、その差に思わず苦虫を噛んだような表情を浮かべる。そんなあたしの様子に、黒いポンチョの男は手に持った友切包丁を空いた方の手でポンポンと叩くとニンマリと笑う。

 

「っ」

「嬢よ。さっきからにげってばっかじゃねぇ〜かぁ〜〜〜〜。俺はよぉ〜、飽きてきちまった…。こんな腰抜けが兄弟の娘ってのが残念だ」

「残念で何よりさ。あたしは元から、あの人の娘でいるつもりなどない!」

 

刀を握り変えると、黒いポンチョの男の懐へと潜り込んで…ソードスキルを叩き込む!

 

【辻風】

 

水色の輝く刀身が黒いポンチョの男の身体を切り裂く寸前に、ガラ空きとなっている横腹へと男の拳が埋まり、後ろへと転がる。そして、肺に入った空気を吐き出すように息を吐くとゆっくりと立ち上がる。

 

「がぁっ」

 

“クソ…っ、さっきので…HP、黄色になった……”

 

殴れた横腹を押さえながら立ち上がるあたしに、黒いポンチョの男は薄気味悪い笑みを浮かべる。

 

「ククク…。なぁ、嬢よ。俺は言ったはずだぜぇ。嬢が俺に勝てるはずなどないと…」

「あたしは…っ。まけ…な…ぃ……。誓いを…っ、フィーを苦しめたあんただけは何が何でも許す訳にはいかない!」

「やれやれ、参ったもんだなぁ〜。しっかしよぉ〜、嬢のHP 黄色じゃねぇーかぁ。それに比べて、俺はまだ緑。これは勝負が決まったんじゃねぇーか?」

 

黒いポンチョの男の浮かべる笑みの中に、明らかな余裕に此方も苦しまぎれと思われるかもしれないがニヤっと笑う。

 

「随分 余裕だな。まだ、勝負が終わったわけじゃないだろ?」

「ふ、口だけは立派だなぁ。いいぜぇ、きてみな」

「……ふぅ〜」

 

深く深呼吸して、意識を全てを目の前にいる黒いポンチョの男へと向ける。

 

“あたしはこの男をーーヴァサゴをキル…。フィーを苦しめたこの男をコロスッ!!”

 

変に力が入っていた柄を、今は自然な状態で持てている。全ての感覚が機能してる気がする…黒いポンチョの男・ヴァサゴの息遣いや手に持っている友切包丁などに視線が自然と行き…ヴァサゴが次どのように動くのか、その先までもが頭の中でシミュレーション出来ている。

 

“ーーイケる、今なら”

 

「…いい表情じゃあねぇ〜かぁ〜〜っ!そうこなくっちゃなぁ〜〜〜。さぁ〜嬢っ!本気の殺し合いってのを楽しもうぜぇ〜〜〜!!イッツ・ショウ・タ〜〜〜〜イム〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

 

ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべて、楽しそうにあたしを見てくるヴァサゴをあたしは一瞥して、冷たい声音で言い放つ。

 

「殺し合いって、お前を殺してもいいのか?あたしは容赦しないぞ」

「嬢に出来るのかよぉ〜。俺を殺すってことはーーそこに居る奴らの仲間入りってことだぜぇ〜〜〜」

 

ヴァサゴの視線の先にいるのは、ウェーブのかかった白銀の髪に垂れ目の同色の瞳を持つ少女と金髪碧眼の少女でどちらも此方の勝負がつくのをただ黙って見ている。あたしはそちらへとチラッと見ると、ヴァサゴへと向き直る。

 

「別に構わない。それで、あんたを後悔させられるのなら…。あの二人の負担が少しでも減るなら…」

「嬢は仲間思いんなんだぁ〜。あぁ〜っ、虫唾が走るぜぇ〜〜ー。これ以上は話してても、俺は嬢を理解出来そうにないから…。なら、そろそろ始めるか〜」

「あぁ」

 

短く返事したあたしは先手を仕掛けることにした。ヴァサゴへと走りより、もう一度【辻風】のモーションを思い浮かべる。

 

「考えてることがバレバレだっての!」

「ふん」

 

友切包丁を横払いしてくるヴァサゴの攻撃を交わしたあたしは、低い位置から【辻風】を放つ。水色の刀身がヴァサゴの身体を右下から左上へと赤い線を作る。

 

「がぁ!」

「そこ!」

 

身動きの取れないヴァサゴの身体に、続け様に【羅刹】を放つ。真紅の刀身が横一文字にヴァサゴの身体を切り裂き、モーションによってその身体へと拳を埋めて、両手で持った刀で今度は左上から右下へと切り裂く。

 

“しっ!相手も黄色!!”

 

HPが黄色になったヴァサゴは、スタンから回復した様子でさっきまでの表情と違い…余裕のない表情であたしにきってかかる。あたしはというと、そんなヴァサゴの攻撃を交わしつつ、確実にカウンターを決めていく。

 

“何をそんなに焦ってるんだか…悔しいけど、まだあんたの方がHP上だっての”

 

友切包丁の攻撃をヒョイヒョイと交わして、藍色の光の放つ刀身を×マークに動かしていく。凄まじい藍色の光と効果音の後に…顔を抑えているヴァサゴの姿がある。

 

「くっ…」

「前見えなくなるっしょ?面白いよねぇ〜、この暗闇って」

「ちっ。さっきまでの嬢とは違うようだなぁ〜」

 

そう呟いたヴァサゴは手に持った友切包丁を握りしめると、あたしへと切りかかってくる。目が見えてないばすのヴァサゴだが、あたしの交わす先がわかるように友切包丁があたしを追ってくる。

 

“ヤバイッ…このままじゃ”

 

もうソードスキルを一撃食らうと、勝負の赤いゾーンへと入るところまで追い詰められたあたしは捨て身の攻撃を実行することにした。

 

“負けないっ!負ける訳にはいかないっ!”

 

「はぁーーーッ!!!」

 

【羅刹】

 

真紅の光が刀身を覆う前に、ヴァサゴの懐へと潜り込み…それを叩き込む。その際に、友切包丁が右横腹を掠めたが…気にすることはないだろう。

目に見えて減るヴァサゴのHPに、心の中でガッツポーズをして…友切包丁を振り回すヴァサゴから距離を取ると、この刀スキルで一番最高のソードスキルをヴァサゴに叩き込むために、攻撃を交わしながら駆け抜ける。

 

「あと少しだなぁ〜、嬢。この勝負 貰うぜぇ〜〜」

「それはこっちのセリフさ」

 

互いの愛武器が淡い光を放つ中、あたしとヴァサゴは相手へとおそらく最後になるであろうソードスキルを放つ。

 

「いっけぇええええ!!!」

「うぉおおおおおお!!!」

 

互いの叫び声が廊下に反響しては次の瞬間に聞こえた効果音によって、もみ消された……

 

 

γ

 

 

“チッ…仕留め損ねたか”

 

あたしはヴァサゴから距離を取ると顔をしかめる。そんなあたしの一m先には友切包丁を持っていた手が無くなっているヴァサゴの姿がある。

 

「…これは俺の負けというやつか」

 

愕然とした様子でそういうヴァサゴに、あたしは刀を向けながら言う。ちなみにヴァサゴのHPは赤いゾーンの最後の方まで来ており、あたしはギリギリ黄色いゾーンである。

 

「負けって認めたくないなら、最後までする?でも、覚悟だけはしておくんだな…次は、確実にあんたをあたしが消すってことをさ」

「ふ、あははっ!流石、親子ってとこかぁ〜。だからこそ、俺は兄弟や嬢に惚れるんだよぉ〜」

「ふん、あんたの感想とか欲望なんか正直どうでもいい。それと、あの人と一緒にさせること自体不愉快なんだよ、やめてくれてもらえるかな?」

 

吐き捨てるあたしに、ヴァサゴは苦笑いを浮かべるとこれ見よがしに肩をすぼめる。

 

「相変わらず、気の強ぇーこったぁ。まぁいいさ…、約束は約束だ。そこの二人は嬢の好きにすればいい」

「ふーん、〈は〉ね。〈も〉の間違いじゃないのかな?フィーとこの子はどうでも良くても…あたしはまだあんたには価値があるってことか。光栄と思うべきかな?」

 

冗談っぽくそう言うあたしに、ヴァサゴは背筋が凍る笑みを浮かべると舐めるようにあたしを見つめてから、その場を離れていった。

 

「…まぁ、嬢の好きなように取ればいいさぁ〜。じゃあ、俺はここを立ち去るぜぇー。今の嬢なら俺を断ち切ることも出来そうだしなぁ〜〜」

「あぁ、そうしないためにもさっさと行きな」

 

黒いポンチョの姿が完全に消えると、あたしは深く深呼吸をすると…金髪碧眼の少女・フィリアことフィーの元へと歩み寄る。

 

“ふぅ〜、終わったか…”

 

「フィー、ごめんね。待たせちゃったね」

 

そう言って、目の前にしゃがみ込むあたしを信じられないものを見るような顔で見ているフィーにあたしは心配になる。

 

「ーー」

「フィー、大丈夫?あいつに殴れたとこ、痛くない?」

 

心配になるあたしを今にも泣き出しそうな表情で見てくるフィーに、あたしは微笑むと力こぶを作って見せる。

 

「………かなた…」

「そんな顔しなくても大丈夫。あいつには勝ったからさ。まぁ、随分 ギリギリだったけどね?」

 

苦笑いを浮かべて、おどけて見せるあたしにフィーが突然、抱きついてくる。ギュッと抱きついてくるフィーに、驚きと苦しさを感じながらも…その華奢で小刻みに震えている背中を安心させるように優しく撫でる。

 

「カナタッ!」

「うお!?フィー…苦しぃから…。あと、あんま抱きしめすぎるとさ…あたしのHPがね。無くなーー」

「ーー凄く怖かったっ。カナタが…負けちゃったら…って……思うと凄く怖くて…っ。…それで、負けちゃった後のこと嫌でも考えちゃって…。……わたし、カナタが居なくなったら……っ、また、一人に…なっちゃう…それが怖い…怖いよぉ…カナタぁ〜…」

「ふ、そんなの心配しなくてもいいよ。フィーがあたしの方が勝つって信じてくれてたんだもん…負けるわけないじゃんか、あたしは普段あんなんだけど約束は守るやつなんだよ?それに、あたしはフィーを絶対一人になんてさせないーー不安なら…今、ここで指切りしよ?」

「うん」

 

右手の小指を差し出すフィーにあたしの右手の小指を絡めると、上下に動かす。

 

「「ゆーびきり、げんまーん…嘘ついたら はりせんぼーんのーますっ。指切った!」」

 

小指を離したあたしは、フィーの水色の大きな瞳を見ながら言う。

 

「もう一度言うよ、フィー。あたしはどんなフィーでも、フィーのことを信じてるし…信用してる。そして、フィーを一人になんてさせないーーだからさ、早くこんなとこ 二人で抜けだそ?」

「うん!」

 

頷いたフィーにハイポーションを渡すと、あたしはフィーから離れたところにいて…まだ、ガクガクと身体を抱きしめて震えている白銀のウェーブのかかった少女へと歩み寄ると、しゃがみこんで…驚かせないように声をかける。

 

「えーと、君の名前を聞いてもいいかな?」

「…私の名前は…ルクス」

 

ビクッと肩を揺らした後に、恐る恐る視線を此方へと向けてくる少女・ルクスにあたしはにっこりと笑う。

 

「へぇー、ルクスか〜。ん、いい名前だね…あたしは名乗った通りにカナタだよ、呼び方は好きなようでいいよ〜。カナタとかカナとかね。んじゃあ、これからよろしくね、ルー」

「はい、宜しく…ん?ルーって?」

 

左手を差し出すあたしの手を恐る恐る握ったルクスに、あたしは満面の笑顔を向ける。

 

「ルクスだからルー、可愛いでしょう?」

「うん、可愛いって思うよ。そのありがとう、カナタ」

「どってことないさ、こんなこと。それより、ルー震えてる。あいつに悪いことされた?」

 

今だに小刻みに震えるルーの左手にあたしは心配になる。しかし、ルーは力なく首を横に振ると弱々しい笑顔を浮かべた。

 

「なんでもないよ。もうクセなもんだから」

「ん〜、そっか…。なら、そのクセが直るようにしないとね」

「直らないよ。多分、これは私の弱さからくるものだから…」

「なら、一緒に強くなってこ?」

「へ?」

 

垂れ目をまん丸にするルーに、あたしは癖っ毛の多い栗色の髪をかきながら言う。

 

「あたし、まだまだ弱いんだ…。だからさ、一緒に強くなっていこうよ!あたしはルーを見て学べるし、ルーもあたしを見て学べるでしょう?これってさ、一石二鳥とかいうやつじゃない?」

「ふふふ、そうだね」

 

やっと微笑んでくれたルーに、安心しているといきなり右手首を掴まれる。

 

「ーー。ほら、行くよ…カナタっ」

「ちょっ…フィーって。ルーもおいで」

「うん、カナタっ」

 

なぜか、怒った様子でそう言ってズンズン歩いていくフィーにあたしは戸惑いつつも、置いてけぼりのルーへと呼びかける。ルーは頷くと、あたしたちの後をついてくる。しかし、フィーはその様子をチラッとみると…さらに歩みを早くする。

 

“ちょぉ!?”

 

「痛い、痛いから…フィーっ!HPが!あたしまだ、ポーションしか飲んでないから!」

 

あたしの必死の訴えで、やっと歩みを止めてくれたフィーの不機嫌な表情をあたしは盗み見て…しばし、眉をひそめていた……




というわけで、黒いポンチョの男ヴァサゴもといPoHとの決戦後終わりました。


そして、フィリアさんがヒナタハーレムへと入会いたしました。本作では、初めての入会者となりますね…(笑)これから、ドンドン増えていくので…フィリアさんには今のうちに、ヒナタとの思い出を作って欲しいですね〜


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2章011 それは俺の獲物だぁ(????side)

これからの展開をどうしようかなぁ〜と考えた結果…もう一つ難関欲しいなぁ〜と思い、この人を登場させてしまったわけです…(汗)

後悔はしていませんが、やってしまった感は否めないかもです…(苦笑)


※この話は???が前回のPoHとカナタの戦いを見ているという所です…




5/19〜誤字報告、ありがとうございます!


“なんだぁ〜、あの女”

 

最初に俺があの女を見かけた時に感じたのは、そんなことだった…

スゥ〜と細められた青い瞳は静かな闘志と殺意が浮かんでおり、自然と力が抜けた太刀筋はオーラが立ち昇っていて、女の手元で光る刀は女の意思を宿しているように見えた…

 

“やべぇ〜、ここに立ってるだけで鳥肌が立ってくるって感じはよぉ〜っ!!!ゾクゾク…、そうゾクゾクする……。あぁ〜っ、俺はなんであそこにいねぇ〜んだ!”

 

俺がいるべきそこには、黒ポンチョに身を包む俺と瓜二つの男が居る。その男も…いや、〈アインクラッドの俺〉も女から発せられるオーラの違いをヒシヒシと感じて、喜んでいやがる…チッ、代われよなぁ!!

 

“その女は俺が殺る。殺すっ!!!痛ぶって…惨めに泣き喚くその姿をこの目で拝んだその末に殺してやる…。殺してやりたい…”

 

「…いい表情じゃあねぇ〜かぁ〜〜っ!そうこなくっちゃなぁ〜〜〜。さぁ〜嬢っ!本気の殺し合いってのを楽しもうぜぇ〜〜〜!!イッツ・ショウ・タ〜〜〜〜イム〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

「殺し合いって、お前を殺してもいいのか?あたしは容赦しないぞ」

 

蒼い瞳が目の前にいるアインクラッドの俺を一瞥する。その目力に…発せられる殺意に俺は身震し、歓喜の笑みを浮かべた。この女は俺にとって最高の…本当に最高の獲物と書いてTargetだぜぇ。

 

「嬢に出来るのかよぉ〜。俺を殺すってことはーーそこに居る奴らの仲間入りってことだぜぇ〜〜〜」

 

そんなTargetをこんな腑抜けたことを抜かすアインクラッドの俺が相手するなんて…くそぉっ、つまらない展開だぁ〜、これ以上は見なくても結果など分かるーー

 

“あぁ〜、今だけアインクラッドの俺になりたい気分だぜぇ〜”

 

ーー結果はあの女の勝ちだろう。

そして、その俺の予想は当たり…腑抜けのアインクラッドの俺はその場を無様に逃げ去っていった。その姿は俺とは思いたくないほど…情けなく惨めなものだった。

 

“あれが俺かぁ〜?”

 

…考えただけで、反吐が出る。あんな奴と一緒にするなぁ〜、目の前であんな最高のTargetを前にして負けた挙句ノコノコと逃げ延びるなんて俺じゃねぇし、coolでもねぇ〜。本来の俺なら…もっと上手く、あの女の弱みを握るはずだ…

 

「フィー?何をさっきから怒ってるのさ?」

「怒ってない!」

「怒ってるよぉ…。ねぇ、ルー?」

「え…あぁ、そうだね…。フィリアはおこーー」

「ーー」

「ひぃ!?」

「こら、フィー!ルーは入ったばっかなんだから…そんな目しない!」

「……何よ…、あんな約束したくせに…。もう破るつもりなの…カナタは……。………わたしはただ、カナタと一緒に居たい……隣に居たいだけなのに……」

「??? フィー?」

「……知らない」

「えぇええ!?あたし、悪いことした!?」

「うるさい」

「………フィーが急に怖い…」

「………あはは…」

 

ワイワイと賑やかな声を響かせる3人娘の中にいる橙の和服姿の少女・カナタへと視線を向けた深緑色のポンチョの男・PoHは薄気味悪い笑みを浮かべるとニンヤリと嗤う。

 

“まずは…女の両端にいる奴らを誑かすことから始めるかぁ〜。クッククク…楽しみだなぁ〜!嬢…いや、カナタぁ!!

 

ーーアインクラッドの俺では味わえなかった本当の恐怖…本物の殺し合いってのさぁ〜、この俺が教えてやるよぉ!”

 

 

 

 

 

「さぁ、さぃぃぃこぉぉぉぉおうのpartyの始まりだぜぇ〜〜〜〜。イッツ・ショウ・タイ〜〜〜〜ム〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

その叫び声は、暫くの間 誰もいなくなった廊下に響いては床へと沈んでいった…




次回は、こちらも久しぶりの〈シノ編〉を書こうと思います!


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2章012 幸運の蒼(シノンside)

久しぶりのシノ編、すごく淡々と進みます…。そして、シノはある決意をしーー

本編をどうぞ!


そして、今日…評価者の数を見たら…何と、20名となってました!!目が丸くなりました…。まさか、こんなに評価者させるとは思ってなかったので…(汗)

本編の方も他の所も…ゆっくりですが、更新していくので…どうか、よろしくお願いします(礼)



5/30〜誤字報告、ありがとうございます!


今日は、アスナとリーファと共に82層にある〈深き地へ至る崖廊〉へ攻略しに来た。80層から、攻略組として前線のチームとして加わったその時は意気込んでいた。

 

“この弓で、少しでも皆の負担を減らし…いつかは、ヒナタの元へと…”

 

しかし、直ぐに 私は攻略組の皆にとって足手まといなのではないか?と思い始めた…。私の戦法は、遠くから狙い撃ちが最善であり…それ以外は、弱点としか言いようがない。一応、腰には短剣を備えているものの…引き抜くまでに、懐に入られて…強烈な一発を食らえば、体勢を整えることも叶わない。

それを嫌という程、思い知らされたのが…今日のこのゴブリンキングと他の子分ゴブリン達との戦闘だった。アスナとリーファがゴブリン達を引きつけてくれる間に、遠くへと向かい…そこからゴブリンキングだけを狙撃する。

 

「はっ!ふっ」

 

あと、ちょっとで倒せる所までいったゴブリンキングへ矢を向けている途中で…優しくも凛とした声が響いた。その声の主は、親友となったアスナのものだった…。何事かと思い、そちらへと視線を向けると、はしばみ色の瞳とバッチリ視線があってしまった。

 

“ん?何で…アスナ、私の方向いてるの?”

 

「シノのん!!危ない!」

 

そんな切羽詰まったような声が耳へと入って来た時には、もう遅かった近づいてきていたゴブリンシャーマンのソードスキルをその身に受けていた。

 

「へ?がっ!?」

「シノンさん、このっ!」

 

ソードスキル特有の衝撃に、私は床へと転がり…そんな私に追い打ちをかけるようにゴブリンシャーマンが近づいてくる。そんな私とゴブリンシャーマンの間に、黄緑色の何かが割り込み…そのゴブリンシャーマンを一撃で仕留めてしまう。

 

「っ…」

「大丈夫ですか!シノンさん…これ、ポーションです」

 

立ち上がろうとする私へと手を差し伸べてくれるのは、どうやらリーファらしい。リーファの手を借りて、立ち上がると…丁度、ゴブリンキングがポリゴンの欠片へとなっていた…。

 

「ごめんなさい…リーファ、アスナ」

 

頭を下げる私に、アスナとリーファが首を横に振り…優しく微笑む。

 

「いいですよ、気にしないでください。シノンさんの弓のおかげで、さっきのゴブリンもあたしの一撃で倒せたんですし…」

「そうだよ。それに、シノのんも疲れたんだよね?今日はここまでにして、帰ろうか?リーファちゃん」

「そうですね。あたし、お腹が空いちゃいました〜」

「じゃあ、帰ったら…何か、作ってあげるね」

「わーい!あたし、すごく楽しみです!」

 

私を励ますように、明るく振舞ってくれるのが逆に辛い。

 

“私のせいだ…”

 

私があそこで、あのゴブリンの攻撃を避けてさえいれば…もう少し、攻略を進められて…その結果 このアインクラッドの皆が早く現実へと帰れるかもしれないのにーー。

気付くと、ギュッと弓を握っていた…。この弓を手に入れた時は…私も、力になれると思ったのに…

 

“私って…無力だな…”

 

その夜、私はジィ〜とステータスを見ていた。レベルは今日の攻略のおかげで、2レベル上がって…Level90。しかし、こんなのではダメだ…まだ、足りないっ。こんなんじゃあ…いつまで経ってもーー

 

“ーーヒナタのところへと行けない”

 

「…ヒナタ…。私、あなたが居ないと…弱いままだよ…」

 

ギュッと、膝を抱えて座る自分の肩を抱き、小さく呟いたその声は、この世界に来てから一番弱く…儚いものだった…

 

 

γ

 

 

次の日は、シリカに誘われて…商店街をショッピングする。前を歩くシリカのツインテールがピコピコと揺れるのを可愛く思いながら…進んで行くと、ある店に置かれているある品に目を奪われる。

まるで引き寄せられるように、その品へと歩いていく私にシリカが眉を顰める。

 

「ーー」

「シノンさん、どうしました?」

 

尋ねてくるシリカの声も何処か遠くから聞こえてくるような気がする…。

シリカはそんな私の視線を辿り、その品を赤く大きな瞳で捉えた瞬間 歓声を漏らした。その赤い瞳に映るのは…一枚のマフラーだ。蒼く染められただけで…ちょっとした刺繍しかないそのマフラーが、何故か気になる。

 

「わぁ〜、綺麗な蒼ですね〜」

「…この蒼」

 

“ヒナタの瞳の色に似てるなぁ…。

 

あぁ…そうか、彼女の瞳に似てるから…こんなに気になるんだ。私が辛い時に、いつも味方でいてくれた…優しい蒼い瞳ーー

 

「…あの、これ…ください」

 

ーーそう思っていると、自然とそのマフラーを購入していた。

そのマフラーを装着してみると…勇気付けられている気がした…。(シノなら…出来るよ)とヒナタの声が聞こえてくる気がする…

 

“うん、ヒナタ。私、もっと強くなる。だから…、私に力を貸して”

 

昨日買った蒼いマフラーを右手でギュッと掴み、心の支えとしている恋人を瞼に思い浮かべて…

 

「よし!」

 

私は、83層のダンジョンへと足を踏み入れて行った……

 




といった感じで…シノンさん、独断で最前のダンジョンへと潜ってしまいました…(汗)
ヒナタさんが心配していたことが…現実に…。シノンさんはどうなってしまうのか…!?

次回をお楽しみに、です!


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2章013 あなたは…誰…?(シノンside)

さて、独断で最前線のダンジョンへと向かってしまったシノンですが…彼女は無事に皆の元に帰ることが出来るのか…?それともーー

本編をお楽しみください(礼)


5/30〜誤字報告、ありがとうございます!


83層の迷宮区に足を踏み入れた私はまず《強欲なる盗人の王国1階》で、私の身長の三倍…いや、五倍くらいある大きなキノコのモンスター・ファニーキュップ三匹との戦闘を繰り広げる。

 

「シャアァアア!!」

「ふっ!」

 

私目掛けてパンチしてくるファニーキュップの一体の攻撃を地面に転がるようにして避けると、すぐに弓を引いて…ソードスキルを放つ。弓ソードスキル【タイム・オブ・スナップ】は弱体能力を持っており…、習得したその時からよく使っているソードスキルだ。

 

「!?!?」

 

パリンというポリゴンの音が聞こえたので…さっきのソードスキルで、一体は始末できたらしい。

 

“よし!この調子で…”

 

私は、弓から短剣へと武器を変えると…残り二体へと切りかかった…。

 

「ふぅ…。何とか…勝てたわ…。やっぱり、三体を一気に相手っていうのはきついかも…」

 

次の階へ向かう階段を上がりながら、ポーションを口に含む。すると、酸っぱいような…甘いような微妙な味が口に広がり、私は眉を顰める。

 

“良薬は口に苦しっていうものね…。ポーションも薬なのだから…こんな味がして、当然なんだけど…もう少しどうにかならなかったのかしら?”

 

思わず、そんな事を考えながら…足を進めて行くとどうやら、次の階へと着いていたらしい。《強欲なる盗人の王国2階》は、敵の配置がそれぞれ一人ずつで…殆どがゴブリンソードマンやゴブリンシャーマンなどが多かった、ので…遠くから弓で攻撃して、近づかれる前に倒してしまうということも出来た。

最後の部屋にいるゴブリンアーチャーをソードスキル【ヘイル・バレット】で倒すと、「ふぅ…」とため息をつく。右手を横にスライドして…ステータスを見ると、Levelが三つ上がっていた。

 

“Level…93…か。ダメね…まだまだ…”

 

こんなのじゃあ、またキリト達の…足を引っ張ってしまうに違いない。それに、もっと接近戦の練習をしなくては…一人でも、この迷宮区を攻略出来るほどに強くならないとーー私はあの人の…あの子の力にすらなれない。

 

“だから、もっと…もっと強くならないと…。もっと…もっと、敵を倒して…レベルを上げて…。いつかは、ヒナタの元へ…”

 

お守りの蒼いマフラーをギュッと握りしめ、私は次の階へと続く階段を踏みしめるように上がる。

 

「…ヒナタ…。あと少しで…そっちに行けるよ、私…」

 

小さく呟き、次の階へと足を踏み入れると…最初に小部屋が見えた。どうやら、その小部屋から上の道に行くか…右の道に行くかを決めるらしい。

 

“ん…、どっちがいいのかしら?”

 

悩んでいると、右側の道の奥に赤い何かが見える。右側の道へと歩いていくと…中央に立っている柱をグルグル回るように、大きな斧を持った牛型モンスターが居た。頭上に浮かぶ名前を見ると…どうやら、オークジェネラルというらしい。

 

“赤い帽子に…赤い服ね…。なんだか、本当の人間みたい…”

 

グルグル回るオークジェネラルから離れたところに陣取った私は、真っ黒な牛の顔を怒りで歪ませ…ギラつく赤い目を忙しなく動かしているオークジェネラルへと視線を向ける。赤いカーソルに浮かぶレベル表示は103というものだった…。

 

“Level103か…。10レベルも上だけど…挑戦してみる価値はあるわよね…?”

 

レベル10も上の相手を敵に回していいものか…?しかし、さっき階段を登っている最中に私は思った筈だ…。もっと強い敵と立ち回れるほど…強くなりたい…と、なら もう迷うこともないではないかっ。

 

「よしっ!私なら…大丈夫!……ヒナタ、見ててね」

 

私は、既に癖になりつつある蒼いマフラーをギュッと握りしめると…右肩から弓を引き取ると、私よりもずっと大きいオークジェネラルへ向けて…ソードスキル【タイム・オブ・スナップ】を放った。

 

「がァ!?」

「命中。動きながら…矢を放つ…ッ!」

 

ソードスキルが命中したオークジェネラルのHPが少しばかり減るのを見て、その場から離れてから…すぐに狙撃する。

 

「やっぱり…。レベル差が激しいものね…通常攻撃だけじゃあ、減らないか…っ」

 

近づかれては離れて攻撃を数十回繰り返した末に、漸く HPが黄色へと変わった。

 

“よし!ここで畳み掛けるっ!!”

 

矢が淡い光を放ち、ソードスキルの【ヘイル・バレット】が発動すると…複数の矢がオークジェネラルの大きな身体へと突き刺さり、目に見えて…HPが減る。

 

“あと…少しね、ここであのスキルをーー”

 

ソードスキル特有の硬直状態が解けると、すぐ様 ソードスキルを放つために矢をつがえる。

 

「ーーぐァあああ!!!」

 

近くで、そんな声が聞こえた時には…もう何もかもが遅かった…。振り回される斧の風圧に体勢を崩し、その無防備な身体にソードスキル【アルティメット・ブレイカー】が叩き込まれる。

 

「ぐっ…はぁッ…」

 

エフェクトの衝撃波をまともに食らった私は、肺に溜まっていた空気を吐き出し…後ろに迫ってきたもう一匹のオークジェネラルの攻撃を防御するために、短剣を構えるが…全ての攻撃をさばきれるわけなく…二発程、受けてしまう。

 

「ぐォおおお!!!」

「ッ!さばきれな…」

 

体勢を立て直し…後ろへと飛んで、二匹から距離を取ると…ハイポーションを取り出し、口に含む。チラッと左上に浮かぶ自分のHPを見ると…緑に戻った様子だった。

 

“だからって…油断は出来ないわね…。ハイポーションはさっきので、あと一つになってしまったし…ポーションに至っては…あと三つ…”

 

それに比べて、相手のHPは一匹が赤いゾーン。もう一匹はフルHPときた…

 

“少し…分が悪いかしら?でも…やるしかないのよね!”

 

短剣を仕舞い、矢をつがえ…赤いゾーンのオークジェネラルを狙い撃ちする。追いかけてくる二匹からは距離を保ち…あと少しで、赤いゾーンのオークジェネラルを倒せそうと思ったその時だった…

 

「がァああ!!」

「ぎュるる!!」

 

“嘘…。なんで、こんな時に…モンスターポップ…”

 

私の下がった場所に、二匹のオークウァーリアが姿を現して…その二匹から距離を取ろうとした時に、後ろから来ていたオークジェネラルの攻撃を背後から食らう。

 

「ぐァああ!?」

「しまっーーがァッ!?」

 

前に転がる私に群がる二匹のオークウァーリアと二匹のオークジェネラル。慌てて、腰から短剣を取り出して…赤いゾーンのオークジェネラルを攻撃したが…もう既に遅い。次から次へと叩き込める攻撃を避けれるわけもなく…袋小路にあった私のHPはみるみるうちに赤いゾーンへと向かっていく

 

「っ…」

 

こうなった時に取らなくちゃいけない行動は分かってる。敵の隙を見て、安全なところまで逃げるとそこでポーションや結晶…HPが回復するものを使う。そして、体勢を整えてから…反撃へと向かう。

そう、分かってはいるのだ…しかし、身体が動かない。まるで、そこに根を張ったように…両足が迷宮区の深緑色した道へと張り付いては離れないのだ。

 

“お願い…離れてっ。私、こんなところで死にたくない…っ”

 

しかし、想いとはうらはらで…身体が私の言うことを聞いてくれるわけもなく…あと一撃食らったら、HPが0になる時には地面に腰を下ろしていた…。そして、昨日買った蒼いマフラーを目の前へと持ってくると、ピンチになると必ず助けてくれるヒーロー的な存在の恋人を思い浮かべる。心の中で、呪文のように繰り返しで唱える…“助けて”と

 

“…こんなところで死にたくないっ。ヒナタに会えないまま…死ぬなんて…”

 

「助けてぇ…陽菜荼ぁ…っ!」

 

両手で蒼いマフラーを握りしめて、ギュッと両眼を瞑るとーー

 

「うぉおおおおおっ!!!」

 

ーーそんな叫び声が聞こえたかと思うと…パッリンパッリンとポリゴンが砕ける音が聞こえてくる。ゆっくりと目を開けると…目の前が青白いポリゴンの欠片で埋め尽くされた。突然の出来事に、ポカーンとしていると…ポリゴンの先にいる人影がこちらに向けて歩いてくる…。

 

「ーー」

 

しかし、舞う複数のポリゴンが邪魔で、肝心の顔が見えない…。

ポリゴンの隙間から覗くその人の特徴は、橙の羽織に折れてしまいそうな程に華奢な両手に掴まれているのは刀と…もう一方は…短、剣だろうか? にしては…長いような…

 

“…あなたは…誰…?ポリゴンが邪魔で…顔が見えないよ…”

 

大事に両手で握りしめていた蒼いマフラーを力無く膝の上に置いてから…、その人が来るまで…夢心地の感覚で待つ。そしてーー

 

「やっと見つけた…シノン」

 

ーー凛としたアルトよりのその声に導かれるように、上を向いた私は助けてくれた人物を視界に収めると目を丸くした…




次回は、シノンと駆けつけてくれた誰かとの話ーー








ーーではないんです…、ごめんなさい…(汗)そして、もう一つ残念なお知らせで…シノ編はこれでお終いです。

というわけで、次回はヒナタ編をお送りします。此方も、シノ編程に荒れると思うので…よろしくお願いします(礼)


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2章014 巧妙な罠(カナタside)

今回のヒナタ編はあの時明らかにならなかった???の罠にハマってしまった三人から話が始まります。
三人は、???の罠から無事に脱出することができるのか!?

それでは、本編をどうぞ!



ーちょっと補足ー

フィリア、ルクスは親しい人のホロウ・データで、難易度のダンジョンへと突き落とされ…カナタはそんな二人を探している最中に、寄った部屋に潜んでいたPoH本人の武器で斬りつけられて…麻痺状態になってしまいました…(汗)

そんな話が前にあり、本編が始まります(礼)



6/2〜誤字報告、ありがとうございます!


“クソっ!騙された…っ”

 

ダンジョンの床に横にさせられているあたしは、唇を噛み締めると…左上にある自分のHPを見る。すると、あたしのHPのところに麻痺マークが付いている。

そんなあたしの周りには…もう二人の人影がある一人目は、この部屋の入り口付近を陣取ってる深緑色のポンチョ姿の男。そして、二人目は麻痺により身動き出来ないあたしを監視するように、虚ろな垂れ目がこちらを向いている。

 

“…まさか、こんな罠に騙されるなんて…”

 

二人を探すのに、焦っていたとはいえ…入り口の近くに人が潜んでいることぐらい察するべきだった。自分の迂闊さがここに来て…こんな事態を引き起こしていることに、あたしは歯がゆく感じる。

 

「おい、ルクス。そいつ、見張っとけよ」

「…はい」

 

深緑色のポンチョ姿の男から飛んできた指示に素直に頷いた白銀のウェーブのかかった髪と垂れ目が特徴的な少女は、あたしが自分の方を見ていることに気づくと短く尋ねる。

 

“…この人は…ルーの〈ホロウ・データ〉との事だったけど…確かに似てる。虚ろな目以外だけどね…”

 

「…何?」

 

短く、何処か淡々とした感じにも聞こえるその声にあたしは今まで思っていたことを聞く。

 

「あんたは、ルーの〈ホロウ・データ〉なんだろ?こんな事に加担して…心が苦しくないの?」

「ふ。無意味だぜぇ〜、嬢。そいつは、俺のいいなりだぁ〜」

 

割り込んでくる腹立たしい声は無視し、虚ろな瞳でこちらを見つめてくるルーことルクスと瓜二つの少女へと再度問いかける。だが、帰ってきた答えは期待しているものとはかけ離れていた…

 

「お前には聞いてない。ここに居るルクスに聞いてる…。ねぇ、君は苦しくないの?」

「…分からない。苦しいとか…そんな事…」

「ほらなぁ〜」

「黙れ。お前の声なんか聞きたくない」

「お〜ぉ〜、怖い怖い」

 

ニヤニヤと薄気味悪い笑顔を浮かべて、あたしからわざと距離を取るそいつの行動がいちいち、あたしを苛立たせる。だが、今はこの腹立たしい男から情報を得るしかない…あたしは小さく空気を吸い込むと、入り口の付近にいる深緑色のポンチョ姿の男を一瞥して低い声で問いかける。

 

「お前は…あたしをこんなとこに閉じ込めて、麻痺させて…どうするつもりだ?ルーとフィーを何処へやった?」

「嬢のお友達ならぁ〜、そうだなぁ〜。嬢が思っている通りになってるかもなぁ〜。いや、もっと酷いことに…下手すれば、くたばってるかもなぁ〜」

「キサマァアアアア」

 

“くたばってる…だと!?やっぱり…こいつが二人を…っ!!”

 

あたしは怒りで目尻を釣り上げると…動かないからだに力を加える。そして、何とか立ち上がると男へと近づいていく…。

そんなあたしを見て、深緑色のポンチョ姿の男・PoHが嬉しそうに口笛を吹く。

 

「ひゅ〜。その目だよ、その目。もっと、俺を楽しませてくれぇ〜」

「ふん、そんな事 知るかっ。それよりもそこをどいてくれないかな?あたしは、二人を助けに行かないといけない」

 

睨みつけるあたしをニヤニヤした不気味な笑みを浮かべながら、入り口の付近で友切包丁をパンパンと叩きながら…部屋を出て行こうとするあたしを邪魔する。

 

「そんなこと言って、はいはいそうですかって俺様が従うと思うかぁ〜?嬢…いや、カナタよぉ〜」

「…お前は、ヴァサゴの〈ホロウ・データ〉なのか?なぜ、あたしを狙う?」

 

右腰から愛刀を抜き取ると構える。そんなあたしに、不気味な笑みを強めながら…PoHがトボけたような声を出す。

 

「おいおいぃ〜、そんなに質問攻めさせても答えられないぜぇ〜。俺は〈ホロウ・データ〉なんだからなぁ〜」

「今更、白々しいな。さっきまで、流暢に会話してたじゃないか…あたしと。なんだ?苦しくなったからとか言って…逃げるのか?」

「逃げねぇ〜よ、俺はただ あんたとマジの戦いをしたかったんだからなぁ〜」

「マジの戦い?」

 

眉を顰めるあたしに、PoHは少しため息をつくと…あたしに問いかける。その問いに、前の戦闘を思い出したあたしは吐き捨てる。

 

「あんたなら分かるだろうぅ〜?俺様と一回戦ったあんたならさぁ〜」

「…殺し合い…てか。するわけないだろう、そんな巫山戯たこと」

「そういうと思って…あの二人をあんなところに入れたんだ。早く助けに行かないと…あの二人が死んじまうぜぇ〜。二人を助けに行きたかったんなら…ここに居る俺様とルクスを殺していけ」

「くっ、卑怯なことを…」

「戦闘を避けようとしても…ダメだぜぇ〜っ!さぁ、ルクス そいつをコロセ」

「…はい」

「チッ」

 

PoHの指示で、斬りかかってくるルクスの斬撃を愛刀で防御する。防御に徹するあたしに、ホロウのルーは無慈悲に片手直剣ソードスキルを叩き込んてくる。

 

「…」

「っ!クソォっ」

 

ソードスキル【ホリゾンタル】からの【スラント】。次から次へと休む暇なく叩き込まれるソードスキルの雨は、あたしに反撃する余地も与えない…。

 

“まぁ、あったとしても…あたしは躊躇っちゃうな。さっきだって…躊躇ったし…”

 

ようやく出来た隙に愛刀を薙ぎ払い…ホロウのルーから距離をとったあたしは入り口の辺りで傍観者を決め込んでいるPoHへと怒声を投げかける。

 

「お前、卑怯だぞ。あたしを殺したいんなら…お前が来い!」

「あんたのHPかルクスのHPが赤になったら…入ってやるよ。それまで、精々 頑張りな」

「くっ」

 

そういうPoHの瞳は、捉えた獲物をどう料理しようか?と考えている蜘蛛のようだった。

 

“なるほど…あたしは、蜘蛛の巣にまんまっと引っかかった蝶々…いや、虫といったところか…?”

 

舐めた真似をしてくれる、恐らく相手はあたしがルクスを攻撃出来ないと分かって…この対決をやらしている。

 

“…ッ!だからって…あたしも負けるわけにはいかないんだよ!”

 

「はぁあああっっ!!!」

 

迫ってくるルクスに向って、愛刀を構えると…刀身が淡い水色に光る。刀ソードスキル【辻風】、低いスタンと出血効果がつくこの技を使えば…少しはこのホロウ・ルーも動けなくなるだろう…。中腰に構えて、走ってくるホロウ・ルーに向かって 【辻風】を放つ。だが、見え透いたそんな技が相手に通じるわけもなく…横腹に蹴りを加えられるとあたしは床を転げた。

 

「ーー」

「…っ」

 

“こんな子供騙し通じるわけないか…”

 

よろめきながら、立ち上がると…愛刀を構える。そんなあたしの動きをしばらく見ていたホロウ・ルーは、痺れを切らしたらしく…片手直剣を軽く振ると、凄まじいスピードで近くに駆け寄ってくる。

 

「来ないのかい?いくよ」

「…っ」

 

放ってくるスキルと攻撃を何とか、防御しながら…あたしは隙を見つけては、反撃しようとするが…身体がうまいこと動くことがなく、見る見るうちにHPが緑から黄色へと下がっていく…。

唇を噛み締めるあたしを感情が消えた垂れ目で見つめるホロウ・ルーの攻撃の嵐が止むことは無かった…。

遠くで、そんな二人の決闘を見ているPoHはニンヤリと嗤う。

 

“やはり、あの女は…あの垂れ目の女に似たデータを殺すことはできない…。そうと分かれば…、この決闘の決着は付いたも当然だ…”

 

恋い焦がれるほど、思っていたあの強敵の呆気ない最期を想像したPoHはため息を着く…。まぁ、仕方がない…、所詮 あの女はその程度だったということだろう…。そんな弱い者を相手するまでもない、ここであの女が悔しそうな表情を浮かべて…死ぬのを見るとしよう。

 

「さて、割とこっちは…早く決着がつきそうだなぁ〜。あの二人の方はどうなったか…?順調に死んでてくれば…嬉しいんだがなぁ〜」

 

PoHの呟いたその声は、鉄と鉄が奏でるカッチーンカッチーンというその音に掻き消されていった…




次回は、そんなホロウ・PoHの罠にハマってしまったフィリアさんとルクスさんを書きます(礼)


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2章015 強敵との戦闘を越えて(フィリア&ルクスside)

ホロウ・PoHの罠に嵌められたルクスとフィリア。二人は果たして、無事にこのダンジョンから脱出することが出来るのか!?それともーー

本編をどうぞ!


※ルクフィとはルクスとフィリアを略したものです



6/2〜誤字報告、ありがとうございます!


「はぁ…はぁ…」

 

薄暗い通路を走り抜けて、私は一息つくと辺りを見渡す。私の数メートル先にある部屋からは、モンスターが武器を引きずって歩く音やドッシンドッシンといった足音が聞こえてくる。

 

“…ここは一体、何処なんだろう?カナタや本物のルクスとも離れ離れだし…。それに…ここまで暗いと、どこに行ったらいいか分からないわ”

 

壁に寄りかかり、腕を組んで考え込む私の肩を誰かがトントンと叩く。その瞬間、腰にある短剣を引き抜き…その誰かに向けて、刀身を向ける。

 

「ッ!?」

「やぁ…フィリア」

 

向けた先には、両手を上げた白銀のウェーブのかかったロングヘアーと同色の垂れ目に、何処かのほほ〜んとした雰囲気が漂うこの少女には見覚えがあったーーというか、さっきまで安否を心配していた仲間の一人のルクスに違いない。

しかし、さっきの出来事から…目の前にいるこのルクスが本物かどうかが分からない。疑いの視線を向ける私に、ルクスは少し傷ついた表情を浮かべる。

 

「…ルク…ス…、よね?本物の…ルクスよね?」

「…私だよ。なんで、そんなに疑うの?………まだ、信用されてないかなぁ…」

「ルクス、ちっ違うの!今のあなたが私の知ってるルクスって事は分かったよ。でもね、私…あなたに突き落とされて、ここに来たのよ」

「へ!?私、フィリアにそんな事しないよっ。それは多分ーー」

「ーーえぇ、この世界のルクスって事ね」

「凄いね、二人とも。もうそんな事が分かったんだ」

「「!?」」

 

突然、響いたその声に私とルクスは同時に振り返る。そして、その声の主をルクスが視界に収めた瞬間…目を丸くして…身体を震わせる。

そんなルクスを見て、優しく微笑むのは背中の真ん中まで明るく茶色の髪を伸ばした少女で、可愛らしい顔つきと左側についている大きな花の髪飾り、頭の先からチョロンと伸びるアホ毛やらが更に彼女を子供らしく思わせる。何処か翳りのある赤く大きな瞳も彼女が可愛らしく思える要素なのかもしれない…。

そんな少女は、私たちの近くまで歩いてくるとルクスに向けて、右手を軽くあげる。

 

「へ…なんで…」

「やぁ、ルクス。久しぶりだね…って、言っても ここに居るあたしはあなた達の言う通りで〈ホロウ・データ〉…その名の通り、本物のあたしをデータ化したAIなんだけどね。さっきは突き落としちゃったりしてごめんね…、ルクス。本当は、こんなことしたくなかったんだけど…。あの子…この世界のルクスを人質に取られちゃって…ついね」

 

両手を顔の前で重ねて、可愛らしく舌を出して…頭を下げる少女にルクスは震える声で問いかける。その問いに答えた少女は、可愛らしく小首をかしげる。

 

「教えて、ロッサ。あの男…PoHは何を考えてるの?」

「…あなたが尊敬する人の抹殺。…って言ったら、分かる?」

「!?」

「待って。あいつは…カナタを殺すために、こんな大掛かりなことをしてるってこと?なんで!?」

 

少女…ホロウ・ロッサの答えに私は叫ぶ。だって…そんなのおかしいっ。

 

“たった一人を罠…殺すために、多くの人を巻き込むなんて…”

 

「あの男が行う殺しに理由なんてないよ。自分が面白おかしく感じる展開に持ち込めたら最高。あの男にとって…あなた達がここで亡くなって、あのカナタって人の心が壊れて…自分の望む展開になれば、なんだっていいんだよ…。それで、あたしが死んだって…ルクスが死んだって…ね」

 

肩をすくめたホロウ・ロッサは、その虚ろな瞳に何処か怒りの炎を浮かばせた。そんなホロウ・ロッサの様子にルクスは低い声で問いかける。

しかし、ルクスの問いかけにホロウ・ロッサはニッコリと微笑むと首を横に振る。

 

「…だから、君は私たちを邪魔するの?ロッサ。あの男の言いつけ通り…」

「まさか、逆だよ。あたしの願いはただ一つだもん。こっちのルクスと最後の瞬間を一緒に居たい。…だって、ルクスってば。いつも深刻そうな顔してるんだもん…どうにかしたいって思うじゃない?」

 

ホロウ・ロッサの言葉に、頬を朱色に染めるルクスを可愛らしく思いつつ…私もホロウ・ロッサに習い、ルクスをからかう。すると、ホロウ・ロッサも乗っかってくれる。二人して、ルクスをからかうとルクスが遂に耐えきれなくなり…その場を早足で脱出する。

 

「ふ。わかるよ、ロッサちゃん。ルクスって、辛気臭いもんね〜」

「あっ、あなたも同じなんだね〜。お互い苦労するね〜」

「ね〜」

「っ!?フィリア!ロッサ!今はそんな事言ってる場合じゃ無いよっ!カナタ様を助けに行かないと」

「あっ、照れてる?ルクスってば、可愛い〜」

「照れてない!もう…行くよ!」

 

一人、ズカズカとこのダンジョンの出口に向かって歩いていくルクスの先の方から、何故か知らないが…嫌な予感がする。肌に取り付く粘っこい嫌な雰囲気に、私はルクスが向かって行った方を見ると小さいがピカッと何かが光る物が見える。

 

“…!?何この威圧感…”

 

それが片手直剣と気づいた瞬間、私はルクスに向かって叫ぶ。ホロウ・ロッサも同じ思いらしく…彼女はルクスの手を掴もうと、ルクスへと走り出す。

 

「ルクス!危ない!!」

「ルクス!横!!」

「!?」

 

私達の叫び声に気づいたルクスが、横から伸びた斬撃を素晴らしい反射神経でサッと構えて防御すると私達の所まで下がる。すると、さっき ルクスへと攻撃を加えた襲撃者が姿を現す。

 

「ーー」

 

“…え…嘘ぉ…”

 

短く切りそろえられた黒い髪に、男性にしては大きめの黒い瞳はナイーブな顔つきによって…少年らしさと少女らしさの両方を出している。そして、全身を黒の一色で統一し…剰え、両手に持っている片手直剣までもが黒という徹底っぷりーーここまで、真っ黒なプレイヤーは一人しかいない。

 

「…キリト?」

「…まさか、〈黒の剣士〉キリトさんまで…ホロウ・データ化されてたなんて…」

 

驚愕する私たちは、怪しいオーラをたちのぼらせるホロウ・キリトの攻撃に備えるように…其々の愛剣を構える。そんなホロウ・キリトを見つめながら…ホロウ・ロッサが憎らしく吐き捨てる。

 

「あの男、考えてることが酷いね。あたしだけじゃあ…信用なかったのかなぁ…。それとも、はなからあたしもろとも殺す気だったか…?ルクス!え…と、フィリアちゃん?

その黒い人を倒さないと…ルクス達の大切な人までは辿り着けない」

「うん、分かった!ロッサちゃんっ。ルクス、行ける?」

「うん、いつでも…っ。正直、あの〈黒の剣士〉に勝てるかどうかは分からないけど…」

「弱気なのは、ルクスの得意分野だもんね〜」

「ロッサっ!それは酷いよ!!」

 

最初に、ホロウ・ロッサがホロウ・キリトへと細剣スキル【リニアー】を打ち込む。だが、それはホロウ・キリトの防御により…対した、攻撃とまではいかなかった。そんなホロウ・ロッサに向けて、攻撃しようとするホロウ・キリトに向けて…次は、ルクスが片手直剣スキル【スラント】を放つ。しかし、それもホロウ・キリトの左手に持った片手直剣により攻撃を阻まれる。

その後も隙あらば、攻撃を仕掛けるが…見事な反射神経により、逆にこちらがカウンターを喰らい、HPを深く持っていかれる。だが、そんな攻撃しては攻撃させるという攻防戦の結果…ホロウ・キリトのHPを三分の二まで削ることが出来た。しかし、そこまで向かう途中で使ったポーションとハイポーションの数は正直いって…数えたくもない。

ホロウ・キリトから距離を一旦取った私達は、最後の作戦会議を行う。

 

「流石、キリトだね。強い…っ」

「でも、負ける訳にはいかない!カナタ様も今、頑張ってる筈だから!」

「二人とも!畳み掛けるよ!ルクス、少しでいいから…あの人の隙を作って!」

「了解だよ、ロッサ!」

 

ホロウ・ロッサの指示に、ルクスが素早く反応して…二刀流スキルを使うホロウ・キリトとの攻防を繰り広げる。お互いの片手直剣が重なり合う度に、火花が飛び…辺りを少し明るくする。私達も加わった三十分近い攻防戦の後、ルクスの片手直剣スキル【バーチカル・スクエア】を受けたホロウ・キリトが麻痺状態に陥る。

 

“ここ!”

 

私とホロウ・ロッサはお互いの愛剣を其々の色に染めながら、ホロウ・キリトへと其々の武器の奥義技を繰り出す。

 

「やァああああ!!!」

「うォおおおお!!!」

「いっけェえええ!!!」

 

短剣スキル奥義技【エターナル・サイクロン】、片手直剣スキル奥義技【ファントム・レイブ】、細剣スキル奥義技【フラッシング・ペネトレイター】。其々の刀身がホロウ・キリトの身体を斬り裂き…ホロウ・キリトは力無くその場に倒れると、その身をポリゴンへと姿を変えた…。天井に向かって…飛んでいく青白いポリゴンを三人で見送った後、ホロウ・ロッサに連れられるままに…カナタが囚われているという部屋の前に辿り着いた。

ホロウ・ロッサが振り返ると、私たちへと問いかけてくる。

 

「こっちだよ、フィリア、ルクス。この先に二人の大切な人が居るよ。準備はいい?」

「うん、今度は私がカナタを守る番だもん」

「私は大丈夫だよ、ロッサ。私は、カナタ様を信じてるから」

「うん、じゃあ…開けるね」

 

ホロウ・ロッサは扉に手をかけ、勢い良く その扉を開け放った……




ということで、次回はいよいよ…ホロウ・PoHとの最終決戦です!ルクスとフィリアは間にあったのでしょうか?カナタとホロウ・ルクスとの対戦の結果は…?
次回をお楽しみにです!



そして、久しぶりの雑談コーナーです。
私、ずっと前に『ロスト・ソング』『ホロウ・リアリゼーション』『ソードアート・オンラインvsアクセル・ワールド 千年の黄昏』を買ったのですが…

つい先日、『千年の黄昏』をクリアしました(微笑)最後の最終戦で凄く手こずり…私はつくづく、デュエルが苦手なんだなぁ〜と思いました…(汗)
そう考えると…キリト達やハルユキ達の凄さが分かります…。私がもし、あの世界に行っていたら…真っ先に死んじゃいそうですから…(涙)

そして、そんな『千年の黄昏』ですが…沢山のいい一枚絵が有りました(笑)まだ、全部は見れてないのですが…その中でも心に乗っている一枚絵が二枚ありまして…。

その一枚絵の一つ目が…パドさん、あきらさん、シノンのイベントで現れた一枚絵で。
この時のシノンの可愛さはどんなキャラクターよりもすば抜けてました!(笑)頬を染めて、水色のしっぽを逆立てて…一生懸命、二人のセリフにツッコミを入れてるシノンが最高に可愛すぎて…っ(興奮)
このイベントのシノンのセリフは何回も再生しては…一人、ニヤニヤしてた記憶があります(笑)

そして、二つ目はメイドさんの皆のイベントシーンが好きでしたね(笑)
一枚絵も可愛らしかったんですが…、セリフ最中の皆のメイドさん姿が可愛らしすぎました!!(興奮)
個人的には、AWチームで好きだったメイド服は黒雪姫先輩で…SAOチームでは、シノンも良かったんですが…リズさんのメイド服のデザインが好きでしたね(笑)


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2章016 ホロウ・PoH(カナタside)

さて、いよいよ このホロウ・エリアでの話もあと少しです!今回も戦闘シーンは自信がありません…(微笑)ですが、一生懸命 書いたので…楽しんでもらえればなぁ〜と思います(礼)




6/4〜誤字報告、ありがとうございました!


ー少し補足ー

カナタのユニークスキル『二天一流(にてんいちりゅう)

このSAOの中で、攻撃力が一番高いプレイヤーへと送られるユニークスキルで…刀と小太刀出なくては使えない。その為、カナタはいつも腰に小太刀を下げています


「ーー」

 

変幻自在に角度を変えて、攻撃してくる片手直剣を愛刀で迎え撃ちながら…チラリと左上に浮かぶ自分のHPを見てみると、黄色のゾーンから丁度赤いゾーンへと移行したところだった。

 

“クッ。このままじゃあ…キリがないっ!そればかりか…あたしが死ぬことになる。このルーには悪いけど…あのユニークスキルを使って、決めさせてもらう!”

 

あたしは苦虫を噛んだような表情を浮かべると、いつも右腰に装備してある小太刀へと手を伸ばそうとしたところで…ホロウ・ヴァサゴが居る扉が勢いよく開く。近くにいるホロウ・ヴァサゴが目を見開く中、あたしの元へと三人の人影が走り込んでくる。その中の二人には見覚えがあった…今の今まで、安否を心配していた仲間たち…ルーことルクスとフィーことフィリアだ。そんな彼女らの近くにいる右側に大きな花の髪飾りを付けた可愛らしい雰囲気を漂わせているこの少女は誰だろうか…?

 

「カナタ様っ!」

「カナタっ!」

「くっ、ルー!?フィー!?なんで!!」

 

三人の乱入にも気付かずに、あたしへの攻撃を続けるホロウ・ルーに向かって…あたしが見たことがないその少女が大きな声で呼び止めた。その少女の声に、ホロウ・ルーは攻撃の嵐を止めると…ゆっくりとした動作でその少女へと振り返ると、まだ翳りがある垂れ目を大きくすると片手直剣を床へと落とすと少女へと抱きつく。

 

「ルクス!やめて!!」

「ーー!?…ロッサ…?」

「あたしは無事だよ。だから、その人を攻撃するのはやめよ、ね?」

「…ロッサ!」

 

攻撃をやめて、右側に大きな花の髪飾りを付けてる少女へと抱きついて…涙を流すホロウ・ルーを見て、ホロウ・ヴァサゴが舌打ちする。そして、あたしへと向き直ると手に持った友切包丁を構えると走り出す。

 

「ちっ、余計な真似を…あのボブっ。まぁ、いい。ここまでHPが減ってしまえば…あとは簡単だぁ〜。シネッ!カナタァアアアアアア!!!!!」

「させない!」

 

カッキーンと鉄と鉄が合わさる音が聞こえ、あたしの前にふわっと白銀の長い髪が舞う。それがルーの物だと気づいた頃には…あたしは後ろへと右手を引っ張られ、胸にピンク色の結晶を押し当てられていた。

 

「!?。おい、ルクス。どういうつもりだぁ〜?まさか、助けてやった恩すらも忘れたかぁ〜?」

「…私が今、心から仕えたいって思ってる方はカナタ様だけだ…。それに…何故、私の過去をあなたが知ってる」

「そんなこと…これから死ぬ奴に教える筋合いはないな!」

「ふん!」

 

一気にHPが緑のゾーンまで向かったのを見ると、あたしは目の前にいる金髪碧眼の少女・フィーへとお礼を言う。だが、そのお礼の後に呟かれたフィーの呟きが聞き取れず…あたしはフィーに怒鳴られる。

 

「カナタ、こっち。はいこれ、ヒール!」

「ぁ…ごめんね、フィー。大切な結晶使わせちゃった…」

「これくらい大丈夫よ。……結晶よりも…私はカナタの事が大切だもん…」

「???フィー、さっきはなんて?聞こえないよ」

「…なんで、大事なところが聞こえないのよっ。バカカナタ!」

「えぇええ!?なんで、怒られてるの!?」

「もう、くだらないことしてないで行くよ!ルクスの助っ人に行くよ」

 

不思議そうな顔をするあたしを見て、呆れた表情を浮かべるフィーはあたしへと手を伸ばすと起こしてくれる。フィーが背中を叩いて、気合いを入れてくれるので…あたしは胸を叩いて、刀を左手へと…小太刀を右手に持つと、ルーとホロウ・ヴァサゴが闘っている所へと向かった。

 

「あぁ!任せて!!もう部様な姿は見せない…。ここまで、小癪な手をとったんだ…。あたしは、あいつを絶対に許さない!!」

「そのいきだよ!カナタ」

「ん!」

「くっ!」

「ルー、スイッチ!」

「はい、カナタ様!」

 

ホロウ・ヴァサゴの友切包丁を上へと弾くと、あたしは両手に持った刀と小太刀でホロウ・ヴァサゴの身体を引き裂いた。横になぎ払った愛刀達を、今度は淡い光を刀身へと浮かばせると怒りの表情で顔を歪ませるホロウ・ヴァサゴの身体を斬ると…後ろへと下がる。すると、ルーとフィーがそれぞれの武器を輝かせると、ホロウ・ヴァサゴに向かって…ソードスキルを放った。

 

「ぐっ…、ふ…。卑怯と言ってたわりに…カナタぁ〜。貴様も卑怯だなぁ〜」

「…お前の口から聞きたくないけどなぁ…。でも、ここにいるそれぞれがお前に怒りをぶつけたいと思っていたって事だな。まぁ、日頃の行いの差だな…」

「ふ…。まぁ、いい…。さぁ、最後のPartyといこうぜぇ〜〜〜」

「あぁ」

 

あたしは、やけっぱちになって友切包丁を振り回すヴァサゴの隙をつき、このユニークスキルの奥義技をその身体へと叩き込む。二天一流スキル奥義技【天竺牡丹】、白い淡い光を放つ刀身がホロウ・ヴァサゴの身体に赤い線を数多に作り出し…その身体をポリゴンへと変えさせた…。

 

「っ…負けたか…。でも、これで終わりというわけじゃない…。せいぜい、俺から逃げ回ることからだなぁ〜」

 

そんな不気味な最後のセリフを呟いた後に、ポリゴンへとなったホロウ・ヴァサゴから背を向けたあたしはフィーとルーへと向き直る。

 

「…さて、これからどうしようか?」

「元凶は倒したんだし…ここを出るヒントくらいあってもいいのにね」

「ここに来る途中で、フィールドは殆ど 回ったからね。あと、回ってないところといえば…」

「…あそこか」

 

あたし達は、短い作戦会議を終えると…今まで助けてくれた二人にお別れをして…最後のダンジョンへと向かった……




ということで、次回は強敵として…あの人の登場です!その人との対戦で勝てるのか!?お楽しみにです(礼)

そして、明日の更新はお休みとさせてもらいます…。次回の更新は日曜日を予定してます。では!!


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2章017 三人の絆と不穏なメッセージ(カナタside)

今回のかなり、長めです(汗)
戦闘シーンも迫力あるように書いたので…良ければ、ご覧ください(礼)

では、本編をどうぞ!!


6/6〜誤字報告、ありがとうございます!


(あお)碧い床に、白い光が伝う壁が薄暗い廊下に浮かぶと何処か、幻想的な気がする。あたしは場違いと思いながらも…溜息を着くと呟く。

 

「本当に、綺麗なところだよね〜。ここって」

「そう言いながら、あさっての方向に行かない!こっちだからっ」

「あはは…ごめんね〜、フィー」

 

違う方向へと向かおうとするあたしの左手を掴むと、自分の方へと引き寄せてくれる金髪碧眼の少女・フィーことフィリアに頭を下げると、その頬が何故か 赤く染まる。

 

“何故、お礼を言っただけで…そんなに照れるんだろ?フィー…”

 

あたしは小首を傾げつつ、フィーに連れられて…神秘的な通路を進むとある部屋へと辿り着く。先頭を歩いていたルクスことルーが、白銀のウェーブの罹ったロングヘアーを揺らして振り返ると、あたしたちを止める。部屋にある私の右手に浮かぶ不思議な紋章と同じ模様が刻まれている石板を指差すと…小声で話しかけてくる。

 

「カナタ様、フィリア。準備はいい?あの石板、見ての通り…敵に囲まれて、一筋縄ではいかないみたい」

「ルーの言う通りだね。さて、気合い入れていこう!」

『オォー!!』

 

あたし達は其々の愛用している武器を構えると石板に群がる敵たちを倒していった…

 

 

γ

 

 

石板を触れて向かった先には…ピンクの螺旋を描く柱があり、それに近づくと不思議な空間へと飛ばされる。半透明な板の上に三人で呆然として立っていると…夜空のような空間から全身を白と赤、黒の三色で決めている竜のような姿をしたモンスターが現れた。まるで、ガーディアンみたいな成り立ちに、赤い爪が付いている手の下にある赤く光る剣に…あたしは目を輝かせると興奮気味に言う。

 

「うわぁ〜、カッコいい〜!何、こいつ!スゲェ、カッコいい!!」

「アホなの、あんたは!少し危機を感じなさいよ!」

「カナタ様、構えてください」

 

ハイテンションのあたしに、他の二人は呆れたような表情を浮かべると冷たい声で指示する。そんな二人へと振り返ると、あたしは左手に刀を持ち…右手に小太刀を持つと構える。

 

「心配しなくてもいいよ、フィー、ルー。あたしがふざけてる時は…基本、楽勝で勝てる」

「自信満々だね、カナタ様」

 

ルーのそのセリフにあたしは胸を叩くと、ニカッと笑うと二人を守るように一歩前へと踏み出す。

 

「だって、あたしとフィー、ルーの三人でこのラスボスと闘うんだよ?あたし達の強い絆と連携に勝てる敵なんて居ないよ。それに…二人を攻撃なんてさせない。二人を守るって約束したし…誓ったからね。だから、攻撃宜しくね♪フィー、ルー」

「ッ。あんたって…なんで、そんなにカッコづけるのよ、もう!」

「それがカナタ様の素敵なところだよ、フィリア」

「そうね。……本当に…無駄にカッコいいんだから…」

 

呆れ声でそう呟いたフィーの声の後に、頭上に【オカルディオン・ジ・イクリプス】と書かれた竜形モンスターは、あたし達のいる場所から離れると黒い玉を放ってくる。

 

「ルー、フィー!離れて!!その玉に触れると…体力を持ってかれる!」

「了解!」

「うん、カナタ様」

 

其々、黒い玉を避けながら…近づいてくるオカルディオン・ジ・イクリプスへと走り寄ると、ソードスキルを放つ。

 

「はぁあああ!!!」

「やぁあああ!!!」

「うぉおおお!!!」

 

其々の愛用している武器の刀身が淡い光を放ち、オカルディオン・ジ・イクリプスの身体に紅い切り傷を付けて行く。最初にあたしが二天一流スキル【紫雲英】でその身体を切り刻みにいく。【紫雲英】は、防御力DWの効果と刀スキルや小太刀スキル特有の出血効果も追加されるので…割と使い勝手がいい。真っ正面で、ソードスキルを放つあたしの右側からオカルディオン・ジ・イクリプスに近づいたフィーが短剣スキル【トライ・ピアース】を放つ。このスキルも高命中の上に、AGI低下効果を敵に付けることが出来る優れものである。そして、最後に攻撃したルーの片手直剣スキル【メテオ・ブレイク】は重攻撃技なので、三人合わせて…四つあるHPの一番上を全部減らせることが出来た。

 

「がォおおお〜ッ!?」

「口が開いた!二人とも離れて…何か、来るかもしれないッ!!」

「うん、分かった。離れるね!」

「ルーも」

「うん、カナタ様」

 

二人ともが離れたのを確認すると、あたしもその場を離れて…様子を見る。そして、オカルディオン・ジ・イクリプスが空気を吸うのを見て…眉を顰める。

 

“空気を吸うか…?相手は竜形モンスターだから…空気を吸うって事は…。…ヤバッ!?”

 

ブレスの準備行動と分かったあたしは、その場から急いで離れるとその瞬間…あたしの居た場所が真っ白な光のビームで覆われた。それに冷や汗をかきながら…攻撃をする為に、オカルディオン・ジ・イクリプスへと近づく。

 

“二人を援護するために…あたしが一番、ヘイト値を稼がないと”

 

左手に持つ刀を辻斬りの形に動かし、右手に持つ小太刀を右上から左下へと動かす。そして、両方の手を横へとスライドし…上へと持ち上げて、真ん中を斬り裂き…左右へと開くーー二天一流スキルの奥義技で二つある内の一つ、奥義【緋衣草】…この奥義技には、攻撃力UPという効果が付いているので実にありがたい。

凄まじいエフェクトと効果音の後、オカルディオン・ジ・イクリプスの三つのHPを全部削ると、離れようとする敵へと左右から二つの影が近づいてくる。青いマントをはためかせながら…走ってくるフィーは同じく、左から走ってくるルーに向けて叫ぶ。

 

「ルクス、合わせて!」

「分かった、フィリア!」

 

其々の愛剣が淡い光を放ち、オカルディオン・ジ・イクリプスの身体へと短剣と片手直剣が変幻自在に動き回り、紅い線を作っていく…短剣スキル【シャドウ・ステッチ】と片手直剣スキル【バーチカル・スクエア】によって、麻痺状態に陥ったオカルディオン・ジ・イクリプスへと追い打ちをかける。

 

“ナイス!援護、二人共!!”

 

二人の連携に心で拍手を打ちながら、白い光を放つ刀と小太刀を【天竺牡丹】の形へと構えるとーー

 

「これで決めさてもらう!痛いかもだけど…悪く思わないでね?」

 

ーー刀を左上から右下へ、小太刀を右上から左下へと移動すると…クロスした両手を左右へと思っ切り振り切る。その場をクルッと回って、小太刀を横一線に動かすと…振り返ると同時に右上から左下へと斬りつける。垂直線に刀と小太刀を動かすと…相手の足元を足で払い、相手の胸へと両手に持つ刀と小太刀を突き立てると…小太刀は下へ、刀を上へと動かす。そして、刀で斬りつけながら…前を向くと、背後でパッリンというポリゴンの欠片が砕け散る音が聞こえた。

途端、流れるアナウンスに…思わず、張り詰めていた息を吐く。

 

“ふぅ…終わった…”

 

あたしへと歩み寄ってくるフィーとルーの身体がアナウンスが流れた後に、動かなくなる。動かなくなった二人に慌てるあたしの前に現れたのはーー

 

[《システムガーディアン》の討伐を確認。最終シークエンスに移行]

「な…に…?」

「うごか…ない…」

「フィー!?ルー!?どうしたの!?」

 

ーー肩まで切りそろえられている癖っ毛の多い栗色の髪、そして 翳りのある蒼い瞳は大きい。橙の羽織は身動きする度に揺れ…左右に持っている刀と小太刀は、不気味な光を放っている。

 

“…!?あたしやん!?”

 

不穏なオーラを漂わせて、虚ろな表情を浮かべているのは…瓜二つの他人、というわけではなく…明らかにあたし自身だった。

 

「え!?なんで…あたし!?すごい!もろあたしじゃん!!オォ〜、よく出来てる!!」

「カナタ…」

「カナタ様…」

 

ホロウ・データのあたしを目の前にはしゃいでるあたしに、二人は呆れを通り越して…心配の表情を浮かべていた。その表情はどこか可哀想な子を見るような憐れみを含んだもので…あたしは苦笑いを浮かべると二人へと声をかける。

 

「二人揃って…そんな目で見ないでよ…。至って真面目…あたし、真面目だからさ…」

「どこが真面目よ…」

「思っ切り、はしゃいでたよね…?」

「うぐっ」

 

二人の冷静のツッコミに息を詰める私は…微笑むと、ホロウのあたしが構えてるように構え直す。

 

「心配しないでよ、二人共。…あたしは勝つ。絶対に…フィーの為、ルーの為…あっちで待っていてくれるキリ達のためにも…。そのために、この二天一流スキルをものにしてきたんだから…ここで負けたら、男が廃るってね」

「カナタ様は…女なのでは?」

「あはは…なら、女が廃るだな。さて…」

「ーー」

 

ルーのツッコミにへらへらと笑ったのを最後に顔を引き締めると、あたしはホロウのあたしを睨む。

 

[《ホロウ・エリア》実装テスト、最終シークエンス開始します。なお、テスト終了後《ホロウ・データ》のアップデートが開始されます]

「ふーん、ということは…あいつ、知らぬ間に…こんな面倒なことやってやがったのか…巫山戯てやがるな…、たく。あいつの思い通りになるのも、させるのも嫌だな…。ここは意地でも勝ってやる。

 

ーーかかってきな、あたし」

「…」

 

くいくいと手招きするあたしに、ホロウのあたしが二刀を振りかざしてくる。いきなり、二天一流スキル【君影草】を放ってくる。クルッと左右に持っている武器を振り回すだけの技だが、当たると低スタンという効果がつく。

 

“くっ…流石、あたしってとこか!だが…それくらいで、あたしに勝った気になるなってなッ!!”

 

「ッ!はぁーッ!!」

 

身体を逸らして…何とか攻撃を避けたあたしは、その波動で二天一流スキル【篝火草】を放つ。左右に持った武器を敵の上からで振り下げて…一歩下がると、左右に持っている刀と小太刀を前にいる敵へと突き刺すという技だが…効果が暗闇L2というものがつく。しかし…ホロウのあたしも素晴らしい反射神経で、あたしの足を払うと両手持った二刀を突き立ててくる。あたしはくるくると床を転がると…なんとか、その攻撃をさせると…立ち上がる。

 

「ーー」

「なかなか…強いじゃん、あたし。流石ってとこかな?でも…君とあたしでは、背負ってるものが違う…」

「ーーッ!」

「くっ!はぁッ!!」

 

無言でソードスキルを放ってくるホロウのあたしの攻撃を防御で受け止めると、その華奢な身体へと蹴りを入れる。僅かに体制を崩したホロウのあたしの隙を逃がさない。

 

“ここで決める‼︎”

 

奥義技ソードスキル【緋衣草】。白い光を放つ刀身が華奢な身体へと紅い線を作って行き、HPを三分の二持っていく。衝撃で後ろへと飛ばされるあたしへと…眉をひそめながら、“動け動け!”と身体へと呼びかけて…体を動かす。

 

“くそ…重ッ!”

 

硬直状態を無理矢理動かしているんだ…それは重いはずと思いながら、その身体へと最後のスキル放つ!

 

「天竺牡丹ーーッ!!」

 

白い光を放つ二つの刀身がホロウのあたしの体を引き裂き…その身体を青白いポリゴン片へと変化させた時には、胸に何とも言えない気持ちが湧いた。

 

“…フィーもこんな気持ちだったのかな…?”

 

目を瞑り、天井へと登っていったもう一人のあたしの事を思い、目を開けると…アナウンスが流れ、身体が動かなかったフィーとルーの身体が動けるようになった。

 

[ホロウ・データのアップデートが高位ユーザー権限により停止されました]

 

あたしへと歩み寄ってくる二人へと振り返ると、下を指す。恐らく、この下にお目当てのコンソールがあるはずだ。

 

「さて、行こうか?二人とも」

「うん、カナタ」

「カナタ様、こっちです」

「ん」

 

フィーとルー共に、下へと向かうと碧い床を進み…コンソールに触れて、操作すると…アナウンスが流れ、エラーを解除する。

 

[エラーが解除されました。エラーの種類はデータの重複。原因は…]

 

「よし、これで…みんな、元通りだね!」

 

あたしがフィーとルーへと視線を向けると、二人共のカーソルが緑に変わっていることに安堵する。

 

「これも、カナタのおかげでね。ありがとう」

「いやいや、みんなのおかげだよ。あたしは何もしてないよ〜」

「いえいえ、カナタ様は本当に凄い方だよ。あのホロウのカナタ様を倒しちゃうなんて」

「…まぁね、あたしは約束は守る主義だからね〜。…ん?メッセージ…だ」

 

目の前にメッセージが来たことを知らせるウィンドウが開くのを見て、あたしの右にいたフィーが問いかける。

 

「誰から?」

「…キリからだね…。何々」

 

キリことキリトから届いたメッセージには、以下のことが書かれていたーー

 

ーーシノンが今朝早く、一人で出掛けたっきり帰ってこない。今、仲間たち総出で探し中

 

“はぁ…?シノン…詩乃が行方不明?一人で出掛けたっきり…?帰って…こ、ない…?”

 

何これ、凄く嫌な予感がする…。冷たい手で心臓や肺を握られているような…不思議な感覚が続く。目の前がボヤンとしてくる…脳裏に浮かぶのは、最悪の事態ーー目の前で詩乃の身体が青白いポリゴン片へと変化して…泣き叫んで、そのポリゴン片へと手を伸ばし、掻き集めるあたしの手をすり抜けて…天井へと吸い込まれていく詩乃だった…ポリゴン片ーー

 

“…やだよぉ…やめてよ…なんで、そんなものを想像するんだよ…あたし!詩乃に限ってそんなこと…”

 

でも、ここはそういう世界なんだ…HPが無くなると自分の命もなくなる。あたしは…詩乃が死んでしまったら…耐えられるのだろうか?それの衝撃に…

 

“…そんなこと、想像したくもない…。行かなくちゃだ…”

 

「カナタ…?どうしたのよ、顔色が悪いわよ?」

「…フィー、ルーごめんね。あたし、先に行かなくちゃ…。詩乃が…行方…不明って…。あ

「カナタ様…?しっかり!歩ける!?」

「…行かなくちゃ…行かなくちゃ…行かなくちゃ…行かなくちゃ…イカナクチャ…」

「ちょっ、ちょっと…カナタ!そんなフラフラでどこに行くのよ!」

「ーーシノノトコ…イカナクチャ…。ヤクソク…シタンダカラ…」

「「……」」

「だから…ごめんね、二人共。先に帰ってるから…」

 

あたしは、頭の中に浮かび続ける最悪の事態のシーンを頭を振って、振り払うと…凄まじいスピードで管理区の迷宮を駆け抜けると、アインクラッドへと向かった……




次回はもう一話ほど短いものを書いた後、いよいよ…詩乃と陽菜荼の再会です!長かった…(涙)

しかし、本編はまだ続きます(礼)レインさんやまだ、登場してない皆さんが登場したから…息抜き編を書き進めて行こうと思います!では!!


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2章018 カナタへの想い(フィリア&ルクスside)

今回は短めです!そして、タイトル通り…二人がカナタに対して、どう思ってるのか?を書きました。

それでは、本編をどうぞ!


6/6〜誤字報告、ありがとうございます!


橙の羽織を追いかけるように、走り出した私たちは忽ちにその華奢な背中を見失った。神秘的な雰囲気が漂う碧い通路に立ち止まり、傍らに立つ白銀の髪にウェーブが掛かっている何処かぽわ〜んとおっとりした雰囲気を漂わせている少女・ルクスへと話しかける。

 

「カナタ、早い。もういっちゃったのかな?」

「そうかもね。でも…あんなに慌てた様子のカナタ様、初めて見たよね?」

 

ルクスも立ち止まると、私へと振り返って…微笑むとさっきまで追いかけていた少女の事を話す。

 

「うん。私達の前じゃあ…ヘラヘラ笑ってるもんね、カナタって」

「あははっ。だね!それがいつものカナタ様だ」

「でも…そんなカナタがあんな様子になるってことは…」

「あっち側で大変な事が起きてるんだろうね…。もしくは、カナタ様の大切な人が…」

 

“カナタの大切な人か…”

 

ルクスのその言葉によって蘇るのは…『シノノトコ…イカナクチャ…』と言っているカナタの青ざめた顔だった。私達の前では、おちゃらけていたあのカナタがあそこまで…顔を青ざめさせて、何かに取り憑かれたように…ふらふらと管理区へと歩みを進めていた。

恐らく、カナタにとって…その『シノ』という子は自分の命よりも大切な人なんだろう…。さっきの様子で、なんとなくそんな気がした。

 

“…なんか、悔しいなぁ…”

 

この世界では、私の方がその『シノ』という子よりも多く、カナタと一緒に居たのに…カナタの気持ちは一瞬も此方へ向くこともなく、ずっとその『シノ』という子へと向いている。

 

“そういえば、そのシノって…。あのメッセージの下に書かれていたシノンって子よね…?多分…”

 

キリトのメッセージの一番下に…いつも一言だけ、『シノンより』というものが添えられていた。それを読んでいる時のカナタの表情はとても穏やかでーー

 

“ーームゥ…カナタの事、考えてると腹が立ってきた…”

 

「…」

「フィリア?なんか怒ってる?」

「ーー」

「どうしたの?」

 

小首を傾げて、こっちを見てくるルクスを見て…ふと、思ったこの子はカナタの事をどう思っているんだろうと…

 

「ルクスはカナタの事、どう思ってるの?」

「へ!?わ、私!?」

 

慌てるルクスをまっすぐ見つめながら、私は質問を続ける。

 

「ルクスって、カナタの事好きなの?それとも、尊敬してるだけ?」

「ど、どうしたの?フィリア?私は…カナタ様の事を尊敬してるだけだよーー」

 

私から視線をそらして、頬を赤く染めながら…そう呟くルクスに安心する。しかし、続いた言葉に私はその安心をぶち壊された。

 

「ーーでも…どうしてかな?最近は、カナタ様の側がとても落ち着く気がする。話していると楽しく思うし…ずっと、側に居たいなぁ〜って思う。不思議だね?フィリア」

「……」

「フィリア?」

 

どうやら、ルクスもカナタの魅力にとらわれてしまったらしい…。

このはと鉄砲を食らったような顔をしているが、恐らく…ルクスは恋愛というものを知らないだけだろう。それを知れば…強敵になるかもしれない。

 

“最初の目標は、私を意識させるかなぁ…?”

 

そうこうしているうちに、管理区に戻ってきたらしい。転移門へと歩み寄ると…ルクスへと振り返る。

 

「さて、ルクス。いよいよ…アインクラッドだね」

「うん、なんか緊張するね」

「…うん…。良しっ、それじゃあ行こうか?」

「うん…行こう、フィリア」

 

私達は転移門へと足を踏み入れた…




こうして、ルクスさんとフィリアさんも無事、アインクラッドへと帰ってこれました(微笑)

本当に良かったですね!!



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2章019 涙と再会(カナタ&シノンside)

ヒナシノ編ーーついに、カナタとシノンが再会します(涙)
長い道のりでしたが…ここまで書けたことを嬉しく思います(微笑)



そして、ここまで…ハチャメチャな内容ながらも飽きずに読んでくださった多くの読者の皆様ーー

本当に、ありがとうございます(礼)

これからもこの本編は今まで通りに、ハチャメチャな感じで進むと思いますが…完結まで、応援の程をよろしくお願いします(微笑)



では、本編をどうぞ!




6/6〜誤字報告、ありがとうございます!


深緑色の通路を駆け抜けながら、あたしは周りを見渡す。しかし、目当ての人影は見当たらず…あたしは、次の階へと進む階段をかけていく。

 

“どこ?どこにいるの!?詩乃!!”

 

最愛の恋人の顔を思い浮かべながら、ただ無事でいてくれるだけを祈る。三階へたどり着いた瞬間に僅かだが…声がした気がした。

左側にある大きな部屋から聞こえたその声には身に覚えがあったーー

 

「…なたぁ…っ!」

 

ーー凛とした大人びた声ながらも、幼さを帯びている…聞いていると胸が締め付けられるそんな声。

 

“間違いない!この部屋に詩乃がいる!”

 

そう確信したあたしは部屋へと走りこみ…部屋の隅で何かを取り囲んでいるモンスターの群れに、二天一流のソードスキルを叩き込む。

“詩乃ォオオオ!!!”

 

「うぉおおおおっっ!!!」

 

二天一流スキル【忍冬】。二つの刀を横にスイングさせるだけの技だが、一刻も早く、あの群れを囲まれている誰かから離さないといけない…そんな使命じみた事を思いながら、両手に持った二刀を振るう。

水色の光を放つ二刀を横へとスイングし…当たらなかったモンスターへと硬直が溶け次第、追撃した。それだけで、モンスターの群れを葬れたあたしは…荒く息をしながら、歩みを進める。

 

“……君なんだよね?そこにいるのは。あたしは間に合ったんだよね…?”

 

舞い上がる青白いポリゴンの欠片の中、床にへたり込んでいる赤と黄緑、黒を基調とした複雑な服を着ている少女の近くまで歩いてきたあたしは込み上げてくるものを押さえつけながら、震える声で呟く。

 

「やっと見つけた…シノン」

「ーー。…ぅっ…なんで…?」

 

呆然とした様子でこちらを見上げてくる焦げ茶をショートヘアーにしてる少女・シノン…詩乃の黒い布に覆われた胸へとピンクの結晶をやや乱暴に押し付けるとそれを口にする。

 

「…ヒール…っ」

 

そんなあたしの様子を暫し、ぼぅ〜と見つめていた詩乃ことシノンは驚きを隠せない声で呟く。

 

「…なんで…ここに居るの?…ヒナタ…」

「…っ!」

「きゃあっ!?」

 

シノンのHPが緑へといったところを見ると、あたしは顔をぐしゃっと歪めるとシノンの背中へと両手を回す。

啜り泣きながら、あたしはシノンの身体を強く抱きしめ続ける。心の中で、ずっと繰り返すのは“生きててくれてよかった…間に合ってよかった…”の二つのフレーズだけだ。

 

「…シノこそ、なんで…こんなところにいるのさ?あんだけ、言ったじゃんか…っ。無理だけはしないでって…何で、約束…破るのさ…ぅぅ…っ…」

 

シノンの左肩に顔を埋めて、安堵の涙を流すあたしにシノンは小さく囁いてくる。焦げ茶の大きな瞳は、まだ驚きから立ち直ってないらしい…あたしはそんな焦げ茶の瞳を至近距離で睨みつけながら、声を荒げる。

 

「…ヒ…ナタ…?泣いてる…の…?」

「泣くに決まってるじゃんかッ!凄く心配したっ!!凄く慌てた!!転移門から今まで出したことないくらいのスピードを出して、ここまで来た!!それは、シノが死んじゃうかと思ったからっ!!!

シノ…なんで、こんな事をしたの…。キリから聞いたんでしょう?ここはHPが無くなったら…本当に死んじゃう、デスゲームの中なんだよ…?ちょっとした油断や慢心が命取りになる…。あたしもその事は心得てる…。シノは違うの?」

「…知ってる、それくらい。でも…私、あなたの力になるって…言ったのに、何一つ力になれなくて…。だから、強くなろうって思ってーー」

 

シノンの弱々しい言い訳を遮り、あたしは今まで出したことがない大きな声を出す。

 

「ーー居てくれるだけで力になってるんだよ!!!!!近くに居なくても…隣にいなくても…シノが待っていてくれるっ!!!そう思うことで…あたしがどれだけ救われたか、知ってる…?

…なんで、そんなことすらも分からないの…っ。無理して…シノが居なくなっちゃったんじゃあ…意味ないじゃんか…っ。…あたしを一人にしないって…約束したじゃんか…っ!もう…忘れたの…?詩乃…」

 

シノンはあたしの心の声を受け止めると、そのほっそりした掌であたしの癖っ毛の多い栗色の髪を撫でてくれる、その心地よさにシノンへと身を委ねるあたしを逆に抱きしめてくれる。

 

「…ごめんね、陽菜荼。私が馬鹿だった…。一人にしないって…約束したのよね。それを破る所だった…ごめんなさい…」

「…シノ…」

 

謝るシノンの声につられるように、上を向くあたしへと微笑むシノン…詩乃は今まで一緒に過ごしてきたどんな彼女よりも美しく魅力的であった…なので、あたしがそんなシノンに吸い寄せられてしまうのは仕方ないことであって…

 

「…だから、これはお詫び。ん…」

「!?」

 

シノンの唇があたしのそれへとぴったり重なり合い、今まで会えなかった分を埋めるように…抱き合いながら、目の前にいる人物だけに意識を集中させ…愛情をぶつけていく。

 

“大好き、愛してる。これからもずっとずっと”

 

そんな気持ちを込めて、数分間唇を合わせ続けたあたしたちは数秒間、空気を求めるように息を吸い込むと…どちらかとなく微笑みあう。そんな中、あたしはある事実を思い出し、頬を赤く染める。

 

「…シノからとか、初めてだね。なんか…嬉しいなっ!これで一週間…いや、一ヶ月頑張れる!!」

「そう?キスくらい…いつでもしてあげるわよ」

「本当!?」

「えぇ」

 

そう言って微笑むシノンへと抱きつこうとした時にはもうシノンに変化が起こっていた。

何か一点を見てしまったシノンが頬を真っ赤に瞬時に染めるとあたしから離れる。

 

そんなシノンの様子にあたしは軽く傷つきながら、後ろから響く声に何と無く状況は把握できていたのだった。

 

“弓と矢を構えたとこから…キリ辺りが心配してきてくれたのかな?”

 

『ぉ…』

「ぁ…、あんた…いつから…っ」

「えーと、シノンがカナタにキスした所からかな?」

「…ッ!」

「待て待て、シノン!ここでそれはヤバイ!!」

「シノのん。これはね…わざとじゃないだよ。シノのんと…そこにいるカナタさんを心配して、来た結果であって…」

「そう…。なら…」

 

“?キリ以外にもなんか知らない声がする…?”

 

そう思い、後ろを振り返ったあたしを見つめるのは大勢の老若男女で…その大勢の顔をじっくり見つめ、あたしは近くに立つシノンへと問いかける。

 

「えっ…と、シノン。この人たちは誰かな?」

 

その問いにシノンはあたしを立たせると答える。

 

「それは帰りながらにしましょう、ね?」




凄く久しぶりのイケメンヒナタ回とイケメンシノ回!そして、感情のままに…シノを怒るヒナタは此方も久しぶりに見た気がします(微笑)
ヒナタは怒るっていうより…シノに甘えるってイメージですからね〜(笑)やっと、再会出来たので…ヒナタのシノへと甘えがエスカレートしていくことでしょう!あと、無自覚たらしも…!

自己紹介の様子は、息抜き編〜一竿風月〜にて、書こうと思ってます。

それでは、次回をお楽しみに、です!






そして、雑談コーナーですm(._.)m

今回の雑談は…日曜日に更新した【三人の絆と不穏なメッセージ】に関する雑談なんですがーー

話の内容が内容だった為か…(^_^;)
その日、寝てる時に何故か…シノンの救出が間に合わなかったIFストーリーが浮かんできてしまいまして…(汗)

簡単なあらすじをご紹介するとーー
シノンを助けるために、あの部屋へと足を踏み入れた瞬間に…カナタの目の前でシノンが亡くなってしまいます。それによって、頭に血が上ったカナタは…シノンの仇となるモンスターを狩り、シノンを救えなかった自分を責め続けます。責め続けた末に、カナタは自分の身を省みない自暴自棄な特攻を攻略やボス戦の時に繰り返すようになります…、そして 宿屋でも何故か 食事を口にしようとしないようになります。口に含んでくれるのは…ポーションやハイポーションとかの薬品のみ。
段々と、やつれていくカナタの変わりように…かつて、冒険を共にしたフィリアやルクスは無理矢理にもカナタに食事を食べさせようとするが、失敗に終わり…他の仲間たちの作戦も失敗に終わるが…
ある日、カナタが一人でふらっと出掛けた街で…とある歌い手と出会いーー


ご覧の通り…明らかに、こっちのIFストーリーのカナタは病んでます。そして、シノンさんが好きな方にはオススメ出来ない代物となってます…(汗)

ですが、もし…あらすじに興味を持ってくれた方がいらっしゃるなら…外伝みたいな感じで書いてみたいなぁ〜という気持ちがあります(^ω^)
ヤンカナタ、少しですが…見てたい気をしますし!そんなカナタを癒せる人が現れるのかも…気になりますね〜(微笑)



ということで、以上!雑談コーナーでした〜m(_ _)m


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2章020 自己紹介 前編

1日遅れてしまいましたが、更新します。本当に申し訳ないです…。

さて、今回の話は台本式にしていた[自己紹介]をリメイクしたものです。長くなりそうだったので、前編と後編で二つに分けての更新となってます。

まずは前編の更新です。今回はお笑い要素が多めなので、読者の方に笑っていただけると嬉しいと思います。

では、本編をどうぞ!


シノンとあたしを迎えにきてくれた大勢の老若男女はなんと、あの真っ黒な服装をこよなく愛する我が親友ことキリトが集めた仲間たちだそうで…それを愛する恋人殿から聞かされたあたしの顔を見せてあげられるのならあげたい、目がもう見事な円を描いていたことだろう。

 

“え…、え…マジっすか?

この世界って女性プレイヤーの層が少ないんですよね?ね?なんで、キリのとこだけそれが逆転してんの?バクってるの、キリ(そこ)だけ?”

 

なんて、失礼な事を思ってしまうほどに…あたしは驚きのあまり挙動不審になりかけていた。

だが、敵が現れれば…それとこれとは話が別で…キリトたちが武器を構える前に前のめりに駆け出し、先陣切って敵に殴り込み…いいや、辻斬りを行なっていく。

 

「ふん!はあっ!うっしゃー!!あたし、最高ー!!最強ー!!いぇーーい!!!」

 

バッサバッサと一振り、二振りでモンスターを葬る度にテンションが可笑しい方面に全力疾走しているあたしに援護に回ろうとしていたキリトを含めたアインクラッドチームは苦笑い。だが、それに気付かないあたしは辺りをポリコン片で埋め尽くしながら、左手には刀を持ち、もう一方には一回り小さな刀を持って…10メートル先にいるモンスターを指差し、ニコニコと笑いながら、難関ダンジョンを共に潜り続けていた心しれた仲間たちへと問いかける。

 

「ねぇ!ねぇ!あそこにもいるんだけど、倒しに行ってもいいかな?フィー、ルー」

 

その問いに対しての答えは、あたしが想像していたものよりも嬉しくなく痛いものだった。

 

「このおバカ!」

 

ニコニコ笑顔のあたしに駆け寄ってきたフィリアは走ってきた勢いのまま、右拳をあたしの頭へとねりこませる。

 

「いだ!?」

 

スナップを効かせた右げんこつによって、暴走状態だったあたしを見事鎮圧してみせたフィリアは迷いのない動きであたしの右腕を自分の左腕でがっしりホールドすると、その様子を見ていたルクスもあたしの右腕へと自分の右腕を絡めてみせた。

 

「そうですよ、カナタ様。今はその衝動を抑えてください」

「くっそー、離せー!!は・な・せー!!あのモンスターがあたしに倒して欲しいって言ってるんだーー!!」

「そんなわけないでしょう、ほらこっちだから。脚を動かす」

「フィリアのいう通りですよ、カナタ様。脚を動かさないとこけちゃいます。ほら、皆さんが待ってますし、早く行きましょう」

「ぬわぁ〜〜!!」

 

大暴れするあたしはそんな二人に連れられて…ううん、半ばひきづられながら…キリトのお仲間さんが経営している酒場まで来ていた。そして、貸し切り状態の酒場を右側をキリトが統べるアインクラッドチームが集結し、左側ではあたしを中心としたホロウ・エリアチームが集まる。

そんな中、あたしは不機嫌そうに頬を膨らますと両脇にいる二人を睨む。あたしに睨まれている二人はやれやれと肩を上下に動かす。

そんなホロウ・エリアチームの中に広がる不穏な空気を感じ取ってか、キリトがあたしの様子を伺うような仕草を取る。

 

「ーー」

「え…と、なんでカナタは頬を膨らませているんだ?」

「気にしないで、キリト。これも一種の病気だから」

「私たちが強引に連れてきたんで怒っているんですよ。本当はもう少し戦っていたかったらしくて…この酒場に連れてきてからずっとあの調子でして。すいません」

「あはは…俺もその気持ち分からないでもないからな…」

 

フィリアとルクスの説明を聞いて、頬をかくキリトがあたしへと話しかけてくる。

 

「おい、カナタ。そろそろ機嫌直せよ、気分転換に自己紹介しようぜ」

「…じゃあ、それが終わったら…ダンジョン攻略付き合ってくれる?」

「あぁ、任せろ!」

「ありがとうっ!」

 

お礼を言い、駆け寄ってくるあたしに両手を広がるキリト。周りにいる誰もがそのキリトへとあたしが抱きつくものと信じていた。だがしかし、そのキリトに抱きつく寸前で交わしたあたしはそのまま後方にいる愛する恋人殿へと飛びつく。

 

「きゃあ!?」

 

突然、抱きつかれた恋人殿は今まで聞いたことがないような可愛らしい声を上げる。その声にムラムラ…いや、いけない衝動に駆られるのを我慢しようと背中へと両手を回すとギュッと彼女の華奢な身体を抱き寄せる。抱き寄せた際にどさくさに紛れて、首筋や胸元に顔を押し付けるのはどうかご愛嬌と思って許してほしい。

 

「久しぶりのシノの匂い…落ち着く…」

「ヒナタっ!ちょっ、くすぐったいから、やめ…って、アバターに現実世界の私の匂いがするわけないでしょう!」

「あたしのシノ愛を見くびってもらっては困る。シノから漂うどんな些細な香りやシノが立てる些細な音なら何千キロ先だろうと嗅ぎ分けたり、聞き分けられる自信あるもの」

 

そう言って、胸を張るあたしに最愛なる恋人殿が引いていた。

何を引くことがあるのだろうか?それだけ、あたしはシノが大好きってことなのに。

 

「怖い、怖いから!?嬉しいを通り越して、恐怖しかないわよ、それ!」

 

そんなあたしたちのやりとりに寸前で交わされたキリトはガクッ肩を通す。それをジッと見ていた周りの人たちは同じ仕草で呆れると桃色のショートヘアーにそばかすが愛らしい少女がキリトへと話かける。

 

「何やってんのよ、あんたたち…。今はそんなコントしてる場合じゃないでしょう」

「だな。シノンとカナタもそろそろ」

 

キリトにそう言われ、シノンがあたしへと優しく語りかけるがあたしは首を横に振ると彼女に尚更強く抱きついた。

 

「えぇ、ほらヒナタ。あとでゆっくりと話をしましょう?ね?」

「やー」

「いやって…」

 

困った顔をしているシノンを見て、暫し成り行きを見ていたフィリアとルクスが顔を見合わせると慣れた手つきでシノンからあたしを引き剥がすと揃って、アインクラッドチームに頭を下げていた。

それに右手を軽く振って答えたキリトは周りを見渡すと酒場に響く声で言った。

 

「じゃあ、改めて自己紹介としようか」と。




久しぶりにシノンさん愛を爆発させるヒナタ。
最近の話は内容が暗かったり、変なクエストを受けて小さくなったりとシノンさんとの絡みが少なかったからですね…書いていて、懐かしい気持ちになりました(笑)

これから先もこうして、二人がただイチャイチャする話は暫し書けそうにないので…読者の皆さんも今回の話などで補給を(笑)


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2章021 自己紹介 後編(ホロウ・エリアチーム)

大変…大変お待たせしました(土下座)
また、前の更新で多くの評価とお気に入りに登録して下さった多くの読者の皆さま、本当にありがとうございます!

しぃ〜かし、キリトさんの所が周りと違い、女性プレイヤーの層が違う…バグってるって入れた途端、コレとはーー皆様、ほんとキリトさんが好きですね(笑)
いや、久しぶりのカナタ&シノンのやりとりに萌えたって人達が…入れてくれたってことも…?それとも、キリトをからかうカナタに一票ってのも…?(思考)

まぁ、どっちにしろ…私の小説を読んでいただきありがとうございます!
本当はひとまとめにして更新しようと思っていた後編ですが、色々余分なシーンを注ぎ込んでいたら…軽く8千くらいいきそうだったので、分割して更新します!

では、最初のホロウ・エリアチームの自己紹介をお楽しみ下さい!!


あたし・キリト・シノンによるコントと書いて茶番劇が終焉を迎え、あたしたちはやっと本題となる自己紹介をすることとなる。まずは数が少ないあたしたちのホロウ・エリアチームからとなった。

 

“つぅーわけで…”

 

一歩前へとあたしは進み出ると右腰と左腰へと吊るしている愛刀たちを撫でながら、自分の特徴を話す。

 

「さっきは色々とすいません。キリトとシノン以外の方は初めまして…あたしはカナタっていいます。戦闘は主に右腰に吊るしてるこの刀で戦って、敵が強かったり多かったりするとこの小太刀っていうのも使います。俊敏力と攻撃力には自信あるので…前線ではアタッカーとして活躍できると思うので、どうかこれからよろしくお願いします」

 

頭を下げるあたしに同じように頭を下げてくれるアインクラッドチームの皆さん。そんな中、キリトだけがあたしが腰から下げている二つの刀を見て、複雑そうな顔をしている。

 

「なぁ…カナタって、二刀流なのか?」

「へ?…あぁ、違うよ。あたしのは二天一流といって…キリトの二刀流とは違うんじゃないかな?」

 

確かにキリトの二刀流とあたしの二天一流は似てはいるが、ゆにーくすきる?だっけ?その名前も発動する技も違うのだから、まったく別物と考えていいだろう。

 

「そっか…。でも、俺以外この世界で二つの武器を使っている奴とか居なかったからさ。カナタはこれからも人気者になるかもな?」

「ふーん、そういうものかな…?」

「そういうもんさ」

 

ふむ、キリトの方がこの世界では先輩なので、その同情の表情とその言葉に心の片隅にでも潜めておこう。と、それよりも…キリトの周りにいる女性陣たちの後ろから熱視線を感じるのですが…ーーそして、その熱視線の先にあるのは…えっと、真っ赤なバンダナに無精髭を生やした和服姿の好青年…?さん、だよね…多分。その好青年の視線があたしの胸やウエスト、お尻ら辺をガン見し続けているんですが…あれは好青年っているのでしょうか?ただの変態さんなのでは?

 

(いやいや、初対面の人になんて事思ってんの、あたし!あのキリの仲間だよ?そんな悪い人居るわけない)

 

そう、あたしが思い始めた頃にその好青年さんが前に進み出るとガシッとあたしの二の腕を掴んだ。突然のことになんの反応もできないあたしの前にけたたましい警告音と赤い文字が点滅する。

 

「ーー」

「そ、その?」

「ちょいと腕を触らせてくれ」

「…へ?ちょっ…くっ」

 

(ちょ、ちょっと…くすぐったい…っ)

 

揉み揉みと二の腕を揉む好青年さんが何やら小さい声でボソボソと呟いている。

 

「マジかよ…こんな細いのに、あんな重い刀を軽々と一振りして…小太刀だったか?あれも重いんだろうな…にしても…すべすべだな、つぅーか何ヶ月ぶりだよ。こうして、生身の女に触ったのって…くっ、うゔ…」

 

揉み揉みとあたしの二の腕を掴んでいる両手がいやらしい手つきになり始め、無精髭を生やす顔が喜びの涙に濡れつつある頃、突如としてあたしの目の前からあの好青年の姿が無くなった。

 

(ヘ?ナニゴト?)

 

びっくりするあたしはキョロキョロと辺りを見渡し、地面に伏せる好青年とその好青年を氷の如き鋭く冷めきった目で見つめる恋人殿に何故か冷や汗が止まらない。それはどうやら、あたしの黒ずくめの親友もらしく…キョロキョロと忙しなく視線を漂わせて、あたしを視界に収まると助けを求めてくる。

 

「キリト、アレが逃げないように捕まえておいて」

「い、いや…シノン、捕まえておいてって…」

「何よ、その何か言いたそうな顔。別に取って食おうなんて思ってもないわよ」

「いやいや、今のシノンにそれを言われたら冗談に聞こえないから!な?カナタ」

 

冷や汗をだらだら垂らしながら訴えてくるキリトをすげなく切り捨てようと思うが、キリトがそれを許してくれない。ガシッと掴んでくる右手首と必死な顔にあたしはため息つきつつ、シノンの暴走を止めるために策を練る。

 

「ちょ、ちょい!なぜ今あたしの名をを呼ぶ!?面倒事押し付けないでよ。今のシノンを相手するのは流石のあたしも無理」

「そんなこと言わないでくれ、お前だけが頼りなんだ!このままじゃ、クラインが物理的な意味で死を迎える!」

「死を迎えるって…シノ、あの好青年に何をする気なの…?そもそもあたしも慣れてないって…現実(リアル)でもここまで怒ってるシノ見たこと無いってのに…」

 

そう言いながら、ぽりぽりと癖っ毛の多い栗色の髪をかきながら、シノンのところまで歩くとギュッと彼女を抱きしめる…その際に彼女から漂う甘い香りにくらっとしかけるが、しっかりしろと心に喝を入れるとびっくりした様子のシノンを間近で見つめながら、優しく語りかける。

 

「へ?カナタ」

「…怒らないで、シノン。シノンのおかげで変なところ触られなかったんだから」

「…でも、クラインのやつ。わ…私のヒナタをいやらしい手つきでべたべたと…これが許せるわけないでしょう?」

 

(ふむ、確かにそれは怒りたい気持ちになるのも分かる)

 

もし、あたしとシノンの立場が逆なら間違いなくあたしが怒り狂っていただろう。だがしかし、友のお願いを無下にするほどにあたしは人を腐らせた気もない。

華奢な背中へと回していた左掌で彼女の焦げ茶色の髪を撫でる。そのサラサラの髪が指に絡まるたびに鼻腔を擽ぐるシャンプーの香りに酔いしれそうになりながらもあたしは優しい手つきでシノンを抱きしめ、頭を撫で続ける。

 

「許せないかもだけど、気にしないで。ああいうの慣れてるし…ね?」

「気にするわよ。だって、ヒナタは私だけのものだもの…他の人に触れて欲しくないし、触られて欲しくない」

 

そう言って、あたしを見上げてくるシノンが余りにも会いらしく、あたしは込み上げてくる私欲を理性という蓋で押させつけながら、彼女へとニカッと笑う。

 

「あたしが心から信頼してるのも愛しているのもシノン…シノだけだよ。その事実だけは何があっても変わらない。もしかして、シノは違ってたり?」

 

そう茶化してみるとシノンがぶんぶんと首を横に振る。

 

「ううん、私もそうよ。ヒナタのことを一番信頼してるし、愛しているわ」

 

そう断言してくれるシノンが愛おしく、更に強くギュッと彼女へと抱き着くと恐る恐る彼女もあたしの背中に手を回してくれる。

そんなピンク色オーラ全開のあたし達を遠目に見ていたキリト達が声をかけてくる。

 

「あぁー、そこのカップルさん?」

「ん?」

「ッ!!?」

 

声をかけてくるキリトを視界に収めて、ここがまだみんなの前であることを知ったシノンは瞬時に顔を赤らめ、あたしから身を離すと何事もなかったように腕を組む。そんなシノンの照れ隠しにニヤニヤしているとガシッと掴まれる襟首に首が締まり、あたしは息苦しさからもがく。

 

「そろそろ、抱き合うのをやめて…自己紹介に戻りたいんだけど」

「というわけで、カナタはこっち」

「がは!?ふぃ…ふぃりあさん、ぐるじい…です」

 

半強制的に陣地へと戻されたあたしが身体をたたみ、咳き込む中、フィリアの淡々とした自己紹介が聞こえてくる。

 

「私はフィリア。トレジャーハンターでいろんなダンジョンに潜ってるから足は引っ張らないと思う、よろしく」

 

アインクラッドチームが個々に頭を下げる中、何故かフィリアさんがあたしとシノンに冷たい視線を向けてくるのですが…あれはなんですか?何が不味いことでも…はっ!?もしかして…あたしがフィリアやルクスの存在を忘れて、はしゃいじゃったから怒り爆発なのですね!なるほど、後でフィリアには謝っておこう。

そう思った矢先、フィリアがチラッとあたしを見るとボソッと呟く。

 

「別に私やルクスの存在を忘れていたことを怒ってるわけじゃないから」

 

(な!あなたはエスパーか)

 

あたしの心の内が分かるとは…!と驚愕と尊敬が混ざった眼差しをフィリアに向けている。その眼差しを呆れたように見た後、フィリアが何が言っていたが周りの雑音と声の小ささにあたしの耳までは届かなかった。

 

「…バカ」

 

相変わらず、不機嫌なフィリアにあたしが眉をひそめる中、ルクスが前に進み出ると軽く頭を下がる。

 

「私の名前はルクス。カナタ様とフィリアと比べるとまだまだだけど、みんなよろしくね」

「因みに、ルクスはあたしの愛弟子」

 

そう言って、ルクスの白が掛かった銀髪が撫でるとフィリアがボソッとあたしの秘密を暴露する。

 

「その愛弟子に叩き起こされるなんて情けない師匠ね」

「し!しぃー、フィー。それは内緒」

「あはは…」

 

そんなあたしとフィリアのやりとりを苦笑いでみているルクスをアインクラッドチームに見せたところであたしたち、ホロウ・エリアチームの自己紹介が終わった…




シノンさんの『誰にも触れて欲しくない、触れられて欲しくない』というセリフ…なんだか、今更感がありますよね。だって、これから先からヒナタ無双が始まるんですから…(乾いた笑い)

あの頃のシノンさんもヒナタも若かったのです…また、今回も読みにくく申し訳ありません…(土下座)


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2章023 互いに好きな所(カナタ&シノンside)

久しぶりに会った二人は、何を話すのか?お楽しみにです!

それでは、本編をどうぞ!


アインクラッドチームとホロウ・エリアチームが其々に自己紹介を終えた後、シノンはカナタを誘い、噴水のある公園へと来ていた。近くにあるベンチへと並んで座った二人は、暫く無言で黙っているとーー

 

「……」

「……」

 

ーーカナタがベンチの上に無造作に置かれているシノンの右手をギュッと握りしめる。驚くシノンの焦げ茶の瞳を見つめながら、カナタはトーンを低めた声で呟く。

 

「…カナタ?」

「…ずっと、シノに触れたかった。シノ…会いたかった」「私もずっと、ヒナタに会いたかった。ヒナタの声を聞きたかったのよ」

「あたしもだよ。あはは、やっぱり…あたし達って、息ピッタリだよね?」

「えぇ、そうね」

 

互いに笑いあいながら、ただ繋いでいた手を恋人繋ぎへと変える。互いの指と指を絡めて、ギュッと握りしめると今まで会えなかった時の寂しさが消えていくように思えた。暫く、掌から広がる互いの暖かさを感じていると、シノンがカナタへと問いかける。

 

「ねぇ、ヒナタ。私、ずっと聞きたいことがあったんだけどいい?」

「ん?いいよ」

「ヒナタって、私を助けてくれた時にキリトみたいに二つの剣を持っていたわよね?あれは何?」

「あぁ、あれ。…あれは、『二天一流|にてんいちりゅう|』っていうユニークスキル」

「ユニークスキル!?ヒナタ、いつの間にそんなものを取得してたの?」

「ん〜、いつの間にか スキルツリーに出てた。そういうシノこそ、あたしに隠してるスキルがあるんじゃない?助けた時、弓を持ってたよね〜?」

「あれはヒナタと同じようなものよ。私のは『射撃』スキーー」

「ッ!?」

 

自身のユニークスキルを説明しようとするシノンの両肩へと、いきなり両手を置いたカナタは目を驚愕でまん丸にするシノンへと問いかける。

 

「さっき『射撃』って言った?」

「えぇ、言ったけど…」

「大丈夫なの?シノ。そんな言葉を口にして…あの出来事を思い出しちゃうんじゃあ…」

「ふふふ、大丈夫よ、ヒナタ。心配しないで」

「心配しないでって…。手が少し震えてるよ?本当に、大丈夫?」

「震えてるのは…少し風が寒いからじゃないかしら?本当に大丈夫よ。あの出来事はこのお守りのおかげで思い出さないもの」

「?」

 

シノンが自身の首に巻かれた蒼いマフラーをヒラヒラと揺らすと、にっこりと笑う。一方のカナタはシノンのその仕草が意味指すことが分からず、首を傾げる。

 

「その《蒼》は、私の大切な人の瞳の色よ。私が辛い時や現実から逃げ出したいと思った時に、何処からともなく現れて…私を救い出してくれる、そんなヒーローみたいな人の優しい瞳の色」

「!?」

「やっと分かった?」

「…シノってば、照れ臭いことするね」

「だって、このアインクラッドでも現実でも…私を助けてくれる人はヒナタだけだもの。それは何があっても変わらない事実だわ。…私が抱えきれなくなったものを一緒に背負ってくれて、私の歩幅に合わせて、隣を歩きながら寄り添ってくれるーーそんな優しくてカッコいい人…この世界に来てからも、私はヒナタしか知らないわ」

「ーー」

「ヒナタ?」

「…チュッ」

「!?」

 

頬にいきなりキスするカナタにシノンは目を丸くする。そんなシノンを抱き寄せながら、カナタは耳元で囁く。

 

「急に愛おしくなるようなことを言われても反応出来ない。あたしもシノと同じ気持ちだよ…。シノは、あたしの過去を知っても、離れていかなかった。ママみたいに…突然、居なくなるようなこともしなかった…っ、泣きじゃくるあたしをギュッと抱きしめて、背中を撫でてくれた。こんなあたしを好きって言ってくれた」

「…」

「シノのおかげで、あたしの世界はあの夜から動き出したんだと思う。冷たく凍ったあたしの心をシノが溶かしてくれたんだよ…」

「…ヒナタも照れ臭いこと言ってるじゃない」

「シノから言い出したんだよ?」

「ふふふ、そうね」

 

ギュッと抱きしめてくるカナタの背中へと両手を回したシノンは、カナタの胸元へと顔をうずめる。すると、カナタから伝わってくる香りや体温が心地よく感じられた。

 

“ヒナタの香りって…なんで、こんなに落ち着くのかしら?”

 

自分よりも華奢な身体からは、その名に恥じないお日様の香りが漂っていた。

前に、本人に「何か香水を付けてるか?」と尋ねたことがあるが、不思議そうな顔をした時にカナタは首を横に振ると「いいや、何も」と簡単に答えた。あまりにも素っ気なく答えるものだから、少しばかりムカッとしたが…本人に悪気はないと怒りを抑えたものだ。

目を閉じて、スリスリとカナタの胸元へと甘えるように顔を摺り寄せるシノンのショートヘアーを優しく撫でながら、カナタはシノンへとある質問を投げかける。

 

「…ねぇ?シノ」

「なに?ヒナタ」

 

胸元へと顔を押し付けながら、そう答えるシノンの息が肌を撫でて、カナタはくすぐったそうにブルブルと身体を動かした後、その質問をシノンへと聞く。

 

「あたしのどこが好き?」

「……。はぁ!?なんで、そんなベタな事を聞くのよ。今更でしょ!?」

「いやぁ〜、なんとなく?今まで聞けなかったしさ〜」

「聞けなかったしさ…って、もうっ」

 

顔を上げて、カナタを睨むシノンに癖っ毛の多い栗色の髪を撫でて、曖昧に笑うカナタを見て、深くため息をついたシノンは短く答える。

 

「全て」

「へ?」

「だから、全て。

癖っ毛が酷い栗色の髪の毛や私を優しい眼差しで見つめてくれる蒼い瞳。力強いのに、何故かほっそりした腕や弱々しそうに見えて逞しい身体とか…全て、好きよ。ヒナタの全てを愛してる」

「あはは…あんがと」

 

照れたように、シノンから視線を逸らすカナタを一瞥するのは、耳まで真っ赤にしたシノンだった。

 

「ちょっと、私だけ言わせて…自分は逃げる気?」

「あたしは言わなくても分かってるでしょう?」

「ーー」

「ん。言う、言うよ!」

 

シノンの鋭い視線に耐えきれなくなかったカナタが、シノンへと向き直ると真剣な眼差しで言う。

 

「あたしもシノの全てが好きだよ。

焦げ茶の短い髪ももちろん好きだし、素朴だけど綺麗な顔立ちも好き。凛々しいけど、幼さが残った声も…クールなところが多いけど、あたしのことを一番に考えてくれるそんなシノをあたしは愛してるし、これからもずっと大好きだよ」

 

カナタの告白を聞いたシノンは、真っ赤な顔を更に赤く染めながら…ベンチから立ち上がると、宿屋へと向かおうとする。そんなシノンの右手を利き手で自分の方へと引っ張った。そうすると、バランスの崩したシノンがカナタへと倒れてくるのは必然でーー

 

「きゃっ」

「ーー」

 

ーー倒れてくるシノンを上手に抱きとめたカナタは、びっくりしてるシノンの唇へと自分のを押し当てる。目を丸くして、無意識に離れるようとするシノンを強く抱きしめて、動きを封じたカナタは目を閉じるとシノンの唇を貪る。

数分後、唇を外した後に待っていたのは…シノンの鋭い視線だった。カナタは硬い表情になりながらも、にっこりとおどけたように笑う。

 

「ーー」

「キスしていいって、シノが言ってくれたから」

「…だからって、こんな人目に付くところでする必要なかったんじゃない?」

「…だって、したかったんだもん…。ダメだった?」

「うっ」

 

捨てられた子犬のような目で見てくるカナタにシノンは何も言えなくなり、押し黙ると…深くため息をつく。

 

「……二人きりの時と誰も周りにいない時なら、いつでもしていいから…。私も…嬉しかったから…」

「ん!シノ、大好きっ」

 

弾けたような笑顔を浮かべて抱きついてくるカナタに、シノンはやれやれといった感じに肩を竦めると、何処か嬉しそうに微笑んだのだった……

 

 

ー完ー




ということで、久しぶりとなるヒナタ&シノのラブラブトークでした〜(o^^o)

やっぱり、この二人はお似合いの二人ですね!書いてると、改めてそう思ってしまいます(^◇^)
固い絆で結ばれた二人はこの先何があっても大丈夫でしょう!もちろん、ヒナタハーレムの入会者が増えても!正妻の位置はシノンさんで揺るがないんですからっ!(^ω^)

しかし、改めてですが…ヒナタはシノが好きで好きでたまらないですね(笑)ここまで、大好きすぎると…ヒナタハーレムに入会者してくれてる皆さんへと気持ちが向かないのでは?と不安になるほどです…(汗)
誰か、このヒナタの価値観を変えてくれる人は現れるのでしょうか?現れてくれたらいいですね…そしたら、改めて ヒナタハーレムが本当の意味で起動するような気がします。

そして、この二人の話となるとーーしょっちゅう、キスシーンになるので…Rー15タグつけた方からいいかな?って真剣に考える作者でした(o^^o)

ではでは( ̄^ ̄)ゞ


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2章024 紫の女性と情報屋(カナタside)

今回の話は、タイトル通り…あの方とあの方が登場します!そして、本編では…あの人とあの人が思わずラッキースケベにあってしまいーー

本編をどうぞ!


6/12〜誤字報告、ありがとうございます!


カナタ・キリト・フィリア・ルクスの四人は、今日 84層の迷宮区の攻略へと来ていた。しかし、イキイキとした様子で攻略してるのは約二名で…他の二名は、バーサーカーみたいに敵をバッサバッサと倒していく約二名を呆れた表情で見ていた。

 

「カナタ!そのアントコマンダーは俺が貰ったぞ!」

「チッ。なら…あたしはそっちのハニーマイトを!」

 

黒の疾風と橙の疾風が《暴食の寝座1階》の隅々まで駆け巡り、競うように…蟻型モンスター達をポリゴン片へと変えていく。黒の疾風は両手に持ってる二つの剣で、モンスター達を斬り裂き…橙の疾風は、基本 左手に持った愛刀を振りまわしては モンスター達を斬り裂いて行った。ここまで、一方的な攻撃…いや、ここは殺戮と言うべきなのだろうか? が続くと、倒されていく蟻型モンスター達が可哀想になってくる…。

 

「おーい!フィー、ルー!早くこっちにおいで〜」

「早くしないと置いていくぞ〜!」

 

最後のモンスター達を倒したらしい疾風達は、次の階が待ちきれないらしく…仔犬のようにブンブンと右手を振っている。そんな疾風…二人の様子をやれやれと言った感じで、フィリアは隣を歩くルクスと共に眺めている。ルクスは、苦笑いを強くすると…こそっとフィリアへと話しかけてくる。それにフィリアも頷く。

 

「なんだか、あの二人は似た者同士なのかもね」

「そうかもね、あんな戦闘狂ばっかりだったら…このゲーム、もう終わってるかもしれないからね」

「あはは」

 

フィリアはルクスと笑い合いながら、次の階に行きたくてウズウズした様子の二人の元へと歩いていこうとしたその時…階段のところで休んでいたらしい人影がキリト達めがけて歩いてきた。その人影は、薄紫の短い髪に 紫色で統一された戦闘着を身に付けた謎の女性だった。キリトに向けて、親しげに話していたかと思うと…キリトの傍らにいるカナタを見つめて、にっこりと微笑む。

 

「あっ、キリト!それと…」

「ん?」

「キリトのお友達?あなた、すっごく可愛いねぇ〜」

 

そう言って、カナタを抱きしめた謎の女性の豊満な胸元へと顔をうずめるカナタは…苦しそうに、両手をパタパタさせていた。そんなカナタと謎の女性の行動に、フィリアとルクスは。片方は心配そうに眉をひそめて…もう一方は、親の仇みたいな感じで目を細めると…カナタとその謎の女性を剥がしにかかる。

 

「むぎゅ〜っ」

「大丈夫!?カナタ様っ!」

「ちょっと、あなた!カナタから離れなさい!」

 

ルクスがカナタに声をかけている間、フィリアはカナタの腰へと両手を回すと自分の方へと引っ張る。しかし、謎の女性の力が尋常じゃないほど強く…また、フィリアの後ろに引っ張る力も強い為、カナタは柔道で決め技をされた時にトントンと畳を叩くみたいに、謎の女性の背中を叩いたが…カナタの奪い合いで必死の二人はそんな小さなヘルプに気づくわけもなく、綱引きは激しさを増していった。そんな二人の間でオロオロしてるルクスと、二人を止めようと声をかけるキリト。そんなキリトの呼び掛けに応じた謎の女性・ストレアがパッと抱きしめていた両手を離したもんだから…カナタとフィリアは二人して、後ろへと倒れこんだ。

 

「おいおい、二人とも落ち着けよ…。カナタが可哀想だろ?ストレアも突然、抱きつく癖は直した方がいいと思うぞ」

「んー、もう少し ギュってしたかったけど。キリトがそう言うなら仕方がないねぇ〜。はい!」

「ちょっ…そんないきなり離したら…」

「ぷぱっ!やっと、解放され…って!?なんで、あたし…後ろへと倒れていってんの!?」

 

騒がしい音が聞こえた先にあったものは…思わず、目を瞑りたくなる様なものだった。その証拠に、ルクスとキリトは気まずそうに両手で目を覆い…ストレアは、目を丸くさせていた。

 

「ん…」

「ン!?」

 

後ろへと倒れこんだ二人は、重なるように倒れ込んだ際にーーフィリアはカナタの胸元へと両手を添えてしまい、カナタはフィリアの唇へと自分の唇を重ねてしまった。そんなカオス状態を引き起こしている二人も、状況が飲み込めてないらしく…暫く、至近距離で目をパチパチさせあっていたが…。

カナタとキスしてるという状況に、脳が思考処理を超える速度で運動して…カナタはその倍くらいの動きで、フィリアの上から下りると…座って、こっちを見つめてくるフィリアに頬をゆでダコのように染めて、蒼い瞳に涙を溜めると何度も何度も土下座をして謝る。

 

「ごっ、ごごごごご…ごめんねっ、フィー。あたし…っ」

「ーー」

 

そんなカナタの様子をフィリアは心ここに在らずの様子で見つめる。ボヤーンとした視界で見えるのは…今までみたことないくらい顔を真っ赤に染めたカナタでーー

 

“ーーへ…?カナタ…照れてくれてる?頬、赤いし…”

 

どうやら、フィリアの最初の目標である《自分を意識させる》は思わぬ形とはいえ…達成したらしい。コツンコツンと迷宮区の床に頭をぶつけ続けるカナタを何とか止めて…キリト達は最後の迷宮区探索を始めた…

 

 

γ

 

 

結局、ボス部屋まで84層を攻略したカナタ達は後ろからの響き声に、眉をひそめる。

 

「ん?君は?」

 

振り返った先には、全身を茶色に染めてる金髪の女性が居た。頬のところに、鼠のような髭があるのは…わざとなんだろうか?

そんな風に、カナタが思っているとキリトがその謎の女性の横に立つと左手の親指で指しながら…謎の女性の説明をしてくれる。

 

「カナタ、フィリアにルクス、ストレア。こいつが前に話してた情報屋のアルゴだ。アルゴの情報は正確でな、俺やアスナ達も利用させてもらってる」

「キー坊、褒めても何も出さないゾ」

「俺は事実を述べてるだけであってだなっ」

 

ニヤニヤと笑いながら、キリトをからかっているアルゴに説明を受けた三人が問いかける。

 

「じゃあ、私たちも知ってるってこと?」

「まぁーナ。何故か…キー坊の周りには噂の絶えない連中が集まるからナ〜。例えば、そこの青い服に金髪のお嬢さんはトレジャーハンターのフィリアだロ?」

「!?なんで…わたしの名前…」

 

アルゴが一瞥して、カナタの右横にいるフィリアを見ると…観察するように、フィリアの顔を見つめる。

 

「この世界でトレジャーハンターを名乗る者は多く居ないからナ〜。ごく最近では、レアアイテムもゲットしたそうじゃないカ。でも、不思議なんだよナ…そのレアアイテムはカップルで身につけてないと発動しないんダ、あっそうカ〜 そこにいる《蒼目のさむーー」

「ーーダァ〜〜〜っ!!」

「うわ!?何さ、フィー 突然、大きな声だして…」

 

余計な事を口走りそうになるアルゴを大きな叫び声で遮って…フィリアは荒く息しながら、アルゴを睨みつけた。その水色の瞳には〈余計な事は言うな!〉と書かれていた。アルゴはそれに肩を竦めると…今度は、カナタの左横にいるルクスへと視線を向ける。

 

「そこにいる白銀の長い髪のお嬢さんも中々の実力と聞いてるよ、ルクス」

「わたしの名前。そうか、フィリアの名前を知ってるなら…わたしのことも知ってるか?でも、わたしの情報なんて集めても得にはならないと思うよ?」

「そう…謙遜するのはよくないゾ、ルクス。あんたはそこいやの攻略組よりも腕がタツ。ここまで、あんたが実力を付けれたのは…そこにいる《蒼目の侍》様の指導がよかったノカ…もしくは、もともとあんたが自分の実力を隠し持っていたカ、ダナ」

 

ルクスはアルゴのセリフに首を横に振ると、穏やかに微笑むと左隣に立つカナタへと視線を向ける。その視線に尊敬とは違う色が混ざっているのに、気付いたアルゴはルクスの情報をもう一度整理するべきだな…と思った。

 

「アルゴさんの仮説だと…前の方が合ってるよ。わたしは、ここにいるカナタ様のおかげで…ここまで強くなったんだから」

「…ナルホド、覚えておくヨ」

「じゃあ、次はあたし!」

 

元気良く右手をあげるストレアに、アルゴは困った顔をする。

 

「…残念だガ、お嬢さんは分からないナ」

「そっか〜。あたしはストレアっていうんだっ」

「成る程、ストレアか…。こっちもしっかりと覚えておくヨ」

 

ストレアからカナタへと向けたアルゴは、キリトにしていたようなニヤニヤとした笑みを浮かべる。その笑みに、カナタは眉を顰める。

 

「そして、最後が色々と噂の絶えない《蒼目の侍》カナタだナ」

「噂の絶えない?あたしが?」

 

“あたし、その噂とやらに全然…身に覚えがないんだが…”

 

「あア…色んなのがあるゾ。そうだナ…例えば、女性なのに女性に異常モテてるとカ。本領を発揮したら、実力が…《黒の剣士》を超えるとカ。…とっておきは、《黒の剣士》よりも女たらしって噂だナ〜。攻略組の女性プレイヤーやら《アークソフィア》にいる女性をとっかえひっかえらしいじゃないカ」

「…もしかして、カナタって…わたしやシノン以外も?」

「…流石、カナタ様。英雄色を好むっていうからねっ」

「…俺よりも…?俺よりもって何だ?」

「…うん、みんながあたしの事。ろくな目で見てないことだけが分かった、その噂たちで」

 

其々がアルゴのセリフにコメントした後、アルゴがニヤニヤと微笑むと…カナタへと手を差し伸べた。

 

「にゃハハハ。そんなカナタ…いや、カー坊はキー坊よりも難儀になりそうだかラ…オレっちが手伝ってやるヨ」

「あ…うん、よろしく…」

 

その後、宿屋に戻った四人はゆっくりと今日の疲れをとった…。約一名ほど、眠りにつけない者が居たが…それはまた今度の話で…




フィリアとのラッキースケベでのキスから…アルゴに聞いた自分に関するロクでもない噂の数々ーー今日は恐らく、ヒナタにとって、とても疲れた日となったことでしょう(微笑)

次回は、84層のボス戦か85層での話を書こうと思ってます(礼)


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2章025 アントクイーン&アルベリヒ戦(カナタ&シノンside)

今回は、タイトル通りの話となってます!

では、本編をどうぞ!


*簡潔に書きすぎたかもしれません…(汗)



6/16〜誤字報告、ありがとうございます!


「…」

「…ヒナタ、緊張してる?」

 

84層のボス部屋の前での最後となる作戦会議の途中、ちょんちょんと肩をつつかれ…あたしはそちらへと視線を向ける。すると、隣に立っている赤黄緑黒の複雑な服を身につけている幼馴染・シノンが心配そうにこちらを見つめている。髪と同色の焦げ茶の瞳を見つめ返しながら…あたしは、目の前にそびえ立つ重々しい扉を見つめて…小さく苦笑意を浮かべる。そんなあたしに、シノンは優しく微笑むと…そっと手を繋いでくれる。

 

「それはね…。初となるフロアボス戦だし…前衛任されたし…。あたし、攻撃力だけ強いだけなんだけどな…」

「大丈夫よ。私はヒナタなら出来るって信じてるもの」

「その言い方って…なんか、お母さんっぽいね。…そだね、任せられたことはちゃんとしないと…それに、あたしはシノのことを信じてる」

「任せて。ヒナタの背中は私が守るわ」

「あぁ、あたしもシノの背中を守るよ」

 

繋いでいた手をギュッと握りしめて、離すとボス部屋へと足を踏み入れた。その途端、中央にいたボスモンスターが侵入者に向けて、牙を向く。

 

「シャアアア!!!」

 

84層のボスモンスターは、どうやら女王蟻をイメージしているらしい。あたしの10倍近くあるピンクの胴体に、背中の方には大きな羽根が生えている。頭上に浮かぶ名前を読むとこう書かれていたーー

 

「ーーアントクイーンか。…みんなの攻撃の邪魔はさせない」

 

あたしは、右の腰から刀と小太刀を引き抜くと…最初に攻撃する。アントクイーンの正面へと走りより、その顔面に向けて…全力のソードスキルを放つ。

 

二天一流スキル【紫雲英(げんげ)】。防御力DWと出血効果有りの優れもののこのソードスキルは、よく愛用している。二つの光を放つ刀身をアントクイーンの顔面へと埋めたあたしへとアントクイーンは、怒りの声をあげて…鋭く尖った紅い瞳を向ける。あたしは、アントクイーンの攻撃を避けながら…出来る限り、タゲを自分へと向けるために…硬直から抜けると、そのピンクの巨体へとソードスキルを叩き込む。攻略組総勢の攻撃より、アントクイーンのHPが最後の段の三分の二となる。

 

“ぼちぼちかな?”

 

あたしは後ろを振り返ると、今まさに矢をつがえようとしてるシノンへと視線を向ける。バッチリあった視線で交わすのはアイコンタクトだ。

 

〔シノ、一緒にソードスキルいける?〕

〔任せて、私はいつでもOKよ〕

〔ん、じゃあ…3・2・1のタイミングで〕

〔分かったわ〕

 

頷きあい、其々の武器を掴んで…其々、3・2・1と数えると、あたしとシノの武器が淡い光を放つ…シノの無数の矢がアントクイーンの身体を直撃する寸前に、あたしの二刀が紅い筋を作り出す。

 

「はァアアアア!」

「ッ!」

 

二天一流スキル【天竺牡丹】を放った瞬間、愛刀を鞘へと納める。その瞬間、パリンと青白いものが天井へと登っていった……

 

 

 

γ

 

 

84層のボスを倒し、85層の攻略を進めていたある日、あたしはシノンと共にアークソフィアの街を歩いていた。転移門がある公園に、見知った白と赤の騎士服と黒い戦闘服を見つけて…あたしは、小走りでその2人の元へと向かう。相手の方も、あたしの足音で気付いたらしい。

 

「あっ、カナちゃんとシノのん〜」

 

白と赤の騎士服が特徴的な親友・アッスーことアスナがニコニコと微笑みながら、右手を振ってくれる。

 

「ん?キリに…アッスー、どしたの?こんなとこで…」

「今度、攻略組に参加したいってギルドが居てね。そのギルドマスターの人とこれから会うの」

「俺は、そんなアスナの付き添いだな」

 

そんな2人の横へと並びながら、あたしはアスナへとニコニコする。満面の笑みを浮かべるあたしの隣に並びながら、やれやれと肩を上下に動かすのは…シノンである。

 

「へぇー、どんな人かなぁ〜。あたしも見てみたい」

「カナタが見たいって言うなら、私もお邪魔するわ」

「ふふ、キリト君と二人が居てくれたら…とても、心強いよ」

「…どうやら、来たみたいね。あの派手な装備をした人じゃない?アスナ」

「んー、そうかも」

 

シノンが指をした方には、前髪を上へと持ち上げた金髪にまるで貴族のような騎士服を身につけている男性がいた。横一列へと並んでいるあたしたちを見た男性は、深く頭を下げながら…キリトの横に並ぶあたしを視界に収めた瞬間、背筋が凍るようなねっちこい笑みを浮かべた。

 

「お初にお目にかかります、アルベリヒと申します。おやおや…これは…ふふふ…」

「?」

 

“なんだ…この人、なんでさっき…にやりとした?あたしの方を見て…”

 

向けられたあのねっちこい笑みの不気味さに、あたしは心の底から悪寒と生理的な嫌悪が湧き上がる。おもっきり、顔をしかめるあたしに…隣にいるシノンは苦笑している。そんな中、アスナが謎の男性・アルベリヒへと話しかけている。

 

「初めまして、血盟騎士団副団長のアスナです。今日はよろしくお願いします」

「噂はかねがね聞いております。《閃光》のアスナさん、いやはやお美しい限りです。もしかして、現実ではご令嬢なのでは…と、こっちの世界ではリアルの話はタブーでしたね。ふふふ」

「はぁ…」

 

あたしの親友に対しても、あのねっちこい笑みを浮かべるこのアルベリヒという男に対してのコメントを、ボソッとシノンへと呟く。シノンは、あたしの横腹を小突くと…あたしを嗜めるような口調で囁く。

 

「…あたし、こいつ嫌いだな…」

「こら。そんなこと言わないの…っ。折角、攻略組に参加してくれるって言ってくれてるんだから。アスナが言うには、相当の実力者なんだから。ヒナタの負担もーー」

「ーーそんなん、あたしが今よりも数倍頑張ればいいだけの話でしょう?それに…こいつは、なんか信用ならない…。こんな変な奴入れても…皆の輪を乱すだけだよ…」

「…ヒナタ?」

 

冷たく吐き捨てるあたしを不思議そうな目で見ている。そんなシノンをチラッと見たあたしは、苦笑いを浮かべて肩を上下に動かすと…アルベリヒとアスナ達の会話を黙ってきく。

 

「と、そちらの方々は?」

「はい、ここにいる三人は今回はオブサーバーとして居てくれる…」

「キリトだ。主にソロで攻略してる…よろしく…」

「おぉ!《黒の剣士》様でしたかっ!そして、他の方は…」

「あぁ、あたしは…」

「存じておりますよ、《蒼目の侍》様。《黒の剣士》様と肩を並べるほどにお強いと聞いております。そして、その隣にいらっしゃるのは…《狙撃手|スナイパー|》のシノンさんですよね?」

「ーー」

「カナタだけじゃなくて、私の事も知ってるんだ」

「はい、存じておりますよ。お二人のコンビネーションは、向かう所敵なしとか…。数々の危機をお二人の力で切り抜けてきたと聞いておりますよ」

 

“…やっぱり、こいつ…”

 

何故、キリの事は知らないのに…あたしだけでなく、シノの事を知ってるんだ?キリを見る目とアッスーを見る目…、シノを見る目とあたしを見る目…どちらも似ている気がする。あたしとアッスー、この男は…何を企んでいるんだ?

 

「さて、では…今回はどうしましょうか?我々の力を見ていただけたら、攻略組の皆さんともわだかまり無く接しられると思うのですが…」

「はい、そうですね。では…御手数ですが、わたしとデュエルをーー」

「ーー待って。あたしがアスナの代わりにお相手するよ」

「カナちゃん!?」

「「カナタ!?」」

 

前に出ようとするアスナを退けて、前に出るあたしに周りの人たちが目を丸くする。意外そうな顔しているアルベリヒに、あたしは片眉を上げてきく。

 

「おやおや、《蒼目の侍》様直々ですか?」

「…不服?」

「いえいえ、私の実力で《蒼目の侍》様の相手が務まるか少々不安なんです」

「そんな謙遜はいいよ。…君の出せる全力で、あたしを打ちのめしてみな。まぁ、無理だろうけどね」

「…っ!いいでしょうっ、ぼくの実力を見せてあげますよ!」

 

“おいおい…いきなり、キャラが壊れてるんだが…”

 

わざと怒られるようなことを言ったあたしもあたしだが、怒りでさっきまで演じてた役くらいは最後までする。それを忘れるくらい怒り狂ってるってことだろうか?さっきので…?

右腰から刀を引き抜こうとしているあたしの左腕を掴んで、後ろへと引っ張ったのはどうやら、キリトらしい。耳元で囁いてくるキリトに、あたしはニンヤリと笑うと両手で刀を構える。

 

「おい、カナタ…」

「…キリ、こいつが怪しいこと見抜いてるんでしょう?」

「…あぁ」

「暫く、時間は稼ぐ。あとは頼んだ」

「勝手言うぜ、こいつ」

「あはは、それはお互い様でしょう?」

 

刀を構えるあたしを見て、そう聞くアルベリヒにあたしは右手をくいくいと手前に動かす。

 

「いいですか?」

「いつでもいいよ。どっからでもかかってきな」

「ッ!」

 

走り寄って、片手直剣をあたしへと振り下ろすアルベリヒの斬撃は確かに重い。だがーー

 

「ふん!はぁッ!!」

「!?」

 

全体重をかけて、押さえつけてくるアルベリヒの攻撃を左手を下に下げることで…回避すると、その無防備な背中に向けて刀を振り下ろす。だが、それはあと寸前で交わされてしまう。そして、また攻撃。

 

“…弱い。そんなへっぴり腰の攻撃が当たるかっての!”

 

数十分間、戦ってみたが…このアルベリヒという男は弱い。武器の使い方もなってないし…振り方もなってない。隙は沢山あるし…ソードスキルも放ってこない。

 

“そろそろ、決めるか…”

 

ワンパターンの攻撃で、振り下ろしてくるアルベリヒを避けると…その身体へと全力のソードスキルを叩き込む。よろめくアルベリヒの剣を叩き落としてから、その首元へと刀を突き立てる。

 

「ジ・エンド。君の負けってやつだ」

 

刀を鞘に納めるあたしを睨みつけて、アルベリヒは幼子のようにダダをこねる。そのダダを受け流しながら、冷たく言い放つとアルベリヒは立ち上がり、あたしを指差しながら…走り去っていった。

 

「くそっ!こんなのまぐれだ!この僕が負けるわけがない!なんか、ズルをーー」

「ズルなんてしないさ。あたしはあんたみたいな最低な奴にはなりたくないからね…」

「くっ!《蒼目の侍》!お前はのちに、僕を陥れたことを後悔することになる!それまで、精々 今の生活を満喫してろ!」

 

走り去るアルベリヒを呆れ顔で眺めながら、あたしは振り返って肩を竦める。

 

「…なんだ、あいつ…。最終的に、結果すら聞かずに…あたしを罵倒して去るとか…何をしに来たんだ」

「カナタ、大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫。この通り…ね」

「流石だな、カナタ。それにしても…」

「変な人だったね」

 

その後、そのアルベリヒの事を注意するようにと…集まったみんなへと話した……




というわけで、アルベリヒ戦でした(汗)

私、この人が嫌いですね〜(⌒-⌒; )下手すると、あのPoHより嫌いかもです…あのねっとりした笑み…うぅっ…っ!思い出しただけでも…悪寒が…

次回は、このアルベリヒの部下さんとある人との話です。そのある人とは…一体、誰でしょうね(≧∇≦)

では、次回をお楽しみに、です!


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2章026 痴漢とヒーロー(カナタ&リーファside)

今回は、ちょっと後味が悪くなる話かもです。内容はタイトル通りで…ヒーローとは誰か?

本編をどうぞ!

6/15〜間違っていた文章の一部を直しました(礼)

6/16〜誤字報告、ありがとうございます!


アークソフィアの裏路地に、三つの人影がある。二人は同じような出で立ちの男性で、もう一人はポニーテールにしてる金髪に白、黄緑色が特徴的な戦闘着を身に着けている少女であった。そんな少女の背後へと回り、暴れようとしている少女の身動きを封じた男性達はニヤニヤとポニーテールの少女・リーファをいやらしい視線で見る。その男性プレイヤーたちの下卑た視線に、嫌悪を感じたリーファが後ろにいる男性へと大声で注意する。

 

「やめてください!怒りますよ!」

「別に怒ってもいいぜぇ〜」

「げへへ。にしても…どんだけ立派なものぶら下げてるんだよ〜」

 

目の前にいる男性の視線が自分の胸元へと向かったのを見ると、リーファはいよいよ表情を嫌悪と恐怖で歪めると、前から伸びてくる男の手を避けようと身体を揺らす。だが、それによって…上下に変幻自在に揺れるリーファの胸に男たちは鼻の下を伸ばし、気持ち悪い笑みを浮かべながら…前の男がリーファの胸へと触れた。

 

「ッ!」

「おォ〜、ヤベェ〜。ボインボインで、柔らかいんだが〜」

「〜〜ッ」

 

リーファは目の前にいる男と後ろにいる男を睨んで、男たちの束縛から逃げようとするが…がっしりと身体を掴まれていて、逃げようにも逃げられない。そんなリーファの顔を覗き込んだ後ろにいる男は、ニヤニヤとした笑みを強くすると…リーファのストッキングの中へと手を入れようとする。

 

「なになに?リーファちゃん、顔を真っ赤にさせて〜。そんな顔で睨まれても、興奮するだけだぜぇ〜。んじゃあ、俺は下の方を触らせてもらおうかなぁ〜」

 

“なんで、あたしの名前…”

 

男が自分の名前を知ってることに驚きつつも、とにかく 男たちの暴走を止めなければ…自分はさらに酷い事をされるかもしれないという恐怖から声が震える。

 

「やめっ、やめてくださいっ!」

 

リーファの涙声に、後ろの男はヒューと口笛を吹く。そして、涙が溢れそうになるリーファの頬から目頭の部分を舌で舐めとると、リーファの耳元で囁く。その声の後に続くのは…嘲笑だ。男たちの嘲笑を聴きながら、リーファはギュッと目をつぶる。目をつぶっていれば、早くこの淫行も終わるだろう…。

 

“早く終わって…早く終わって…”

 

呪文のように、そう唱えるリーファの下腹部を後ろにいる男が摩り、ゆっくりとその手がストッキングの中へと向かっていった…

 

「こんな谷間見える服とストッキングみたいなズボンを履いてるのが悪いんだろ?別にいいじゃないか〜、減るもんじゃねぇ〜し」

「ーー」

「ボスにも、《閃光》と《蒼目の侍》以外は好きにやっていいって言われたもんなぁ〜。なんで、あの二人はダメなんだろうな?あの二人の方が上玉じゃね?」

「ーーッ」

「へぇ〜、じゃあ、今からそのボスを懲らしめに行くから。君たちのボスとやらの居場所を吐いて欲しいんだけど」

 

突然、響いたアルトよりの凛としたその声にその場にいた全ての者が驚いて…淫行しようとしてる手がピタッと止まる。だって、今の今まで男たちの後ろには誰も居なく…気配すらも感じなかったのだから…。だが、その一瞬の隙を闖入者は見逃さない。右腰から素早く抜き取った刀でリーファの胸を揉んでいた前の男の頭目掛けて、思いっきり刀をフルスイングする。

 

「「!?」」

「ふんっ!」

 

フルスイングされた刀に当たる前に、何かの壁によって守れた男だが…その衝撃を受け流すことはできず、そのまま 数メートル先へと身体を横たわらせる。

前の男がいなくなったおかげで、リーファは自分を助けてくれた人物を視界に収める事ができた。自分を羽交い締めにしてる男を睨む瞳は蒼く、肩近くまである癖っ毛の多い栗色の髪。橙の羽織に、黄色とオレンジを基調とした和服。触れれば折れてしまいそうなほど細い左腕は、愛刀を握りしめて…此方へ刀身を向けている。

 

“…カナ、タ…さん…”

 

「がァッ!?」

「…ッ」

 

そう、リーファを助けに来てくれたのはカナタであった。カナタの迫力に手を離した男の束縛から逃れたリーファは、両手を広げるカナタの胸へと飛び込む。

 

「そうそう、その子から離れてね。おいで、リー」

「カナタさんッ!」

「よしよし、ごめんね…。もっと、早く駆けつけるべきだった…」

 

さっきまで味わっていた恐怖からガタガタと身体を震わせるリーファを優しく抱きしめたカナタは、その金髪を柔らかい手付きで撫でる。リーファへと囁かれるその声は、さっきまでの気迫はなく…いつものカナタのものであった。

 

「おい、行くぞ…」

「あぁ」

 

二人の隙を見て逃げようとする男の前へと素早く移動したカナタは、右腰から小太刀も引き抜く。構えるカナタの背後には赤鬼が笑っているようだった。腰を抜かす男たちに笑いかけながら…カナタの二刀が淡い光を放つ。

 

「おっと、そんな簡単に見逃すわけないだろ?あたしの大切な仲間を辱めた罰はちゃんと受けてくれるんだろうな」

「ヒィイイ」

「そんな怖がらなくていいよ。そんな痛いことはしないからさ…。君たちの言う上玉の内の一人に成敗されるんだ、光栄に思うんだな」

「ぎゃああああ!!?」

 

男たちの悲鳴は、その後 暫く続くこととなる…

 

 

 

γ

 

 

 

地面へと寝転がっている男たちから離れたカナタは、リーファへと歩み寄ると頭を下げる。カナタの謝罪を両手で遮るリーファだが…カナタは気が収まらないらしく、そんなリーファへと問いかける。

 

「リー、ごめんね。怖い思いさせちゃったね」

「…いえ、あたしも油断してたのが悪いので…カナタさんのせいでは…」

「いや、やっぱり…リーの心の傷は癒ないもの。そうだ、今から楽しめのクエストを受けに行こうか?」

「へ?」

 

目を丸くするリーファに、カナタはニコニコと微笑みながら…問いかけ続ける。

 

「楽しいクエストかかわいいものが出るクエスト。リーはどんなのが好き?」

「あたしは可愛い動物が出るのが…」

「しっ!なら、決定だね!ほら、善は急げだ。いこ、リー!」

「わっ、カナタさん…引っ張りすぎですよ!」

 

“…カナタさんって、少し子供っぽいのかな?”

 

クエストを受けられる掲示板に向けて走っていくカナタの後を、苦笑いを浮かべたリーファが続いた…




ということで、リーファさん…ヒナタハーレムへご入会手前です(o^^o)
いえ、もう入会してるやもしれません!ハーレム要員二人目、この後もどんどんと増えていく予定ですので…お楽しみに、です!


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2章027 歌姫と蒼目の侍 前編(カナタside)

さて、今回はお待たせいました!あの人の登場です!!

ですが、今回は容姿だけで…名前は出てきませんが、この本編では初となるカナタとの絡みをお楽しみにです♪

では、本編をどうぞ!


6/16〜誤字報告、ありがとうございます!


80層のカーリアナの街並みを眺めながら、隣にいる金髪をポニーテールに括っている少女・リーファへとカナタは視線を向ける。さっきのさっきまで、クエストクリアのために…この80層のフィールドを駆け回っていたので、カナタは疲れを飛ばすために…「ん〜っ」と背伸びする。そんなカナタの様子を見て、クスッと笑うリーファは普段の無邪気な様子からは想像出来ないくらい大人の雰囲気が漂っていた。カナタはスゥ〜とリーファから視線を逸らすと問いかかる。

 

「…ふぅ〜。すっごい遊んだ〜」

「すっかり暗くなってしまいましたね。カナタさん、アークソフィアに戻りますか?」

 

リーファの問いかけに、首を横に振ったカナタは…リーファへと尋ねる。リーファも頷き、カナタは心配するであろう…みんなへとメッセージをしようと、ウィンドウを開く。

 

「あたしはここで休もうと思ってるよ。リーは?」

「あたしもカナタさんと一緒でここで休むことにします」

「OK。だったら、みんなにメッセージを送って…。あっ、シノにも晩御飯は要らないからってメッセージしないと…」

 

小さくそう呟くカナタに、リーファは眉を顰めるとこう思うーー

 

“ーー晩御飯?…カナタさんとシノンさんって、同居してるのかな?”

 

顎へと指を押し当てながら、「ん〜」と考えるが答えがなかなか出て来ない。確か、自分の記憶が正しければ…カナタとシノンは其々の部屋を使っていたはずだ。同居するにも…一部屋一部屋が狭かったはず…。なのに、何故…晩御飯?

 

“って…あたし、なんでこんなにもカナタさんの事を気にしてるの!?”

 

チラッと隣で、メッセージを打つのに夢中なカナタの横顔を盗み見て…ドキッと胸が高鳴るのを感じて、頬を染める。そんなリーファに、カナタは丁度 メッセージを送り終えたのか…可愛らしく小首をかしげると質問する。

 

「? リー、どしたの?」

「いえ、なんでもありません。それでは、宿屋を探しに行きましょう!」

 

パッチリと黄緑色の瞳と蒼い瞳の視線が交差する中、リーファは素早くカナタから視線を逸らすと…宿屋を探すために後ろを振り返るが、カナタの意外な言葉に向きを素早く変えるとつっこむ。

 

「ん、そういうのはリーに任せる」

「任せちゃうんですか!?」

 

つっこむリーファに、カナタはウィンクしながら…顔の前に両手を重ねる。そんなカナタに、リーファは苦笑いを浮かべると…宿屋を探しに向かう。

 

「ん、任せちゃう。あたしが探しに行っちゃったら…絶対、料金が高いものになりそうだもん。だから、リー お願いね」

「…分かりました。なら、ちょっと探しに行って来るんで…ここで待っててもらえますか?」

「えっ、あたしも行くよ〜」

「いいですよ。今日は、あたしがカナタさんに頼りっぱなしだったので…これくらい、させてください」

「じゃあ、リーのご好意に甘えるよ。ここで待ってればいいんだね?」

「はい!では、行ってきますね!」

 

リーファを見送った後、カナタは近くにあったベンチへと腰掛けると…ウィンドウを開いてアイテム欄を整理する。すると、その時に遠くから音楽のような音色が聞こえてきた…。

 

「〜♪」

 

“綺麗な歌声だな…”

 

目を閉じて、耳をすませてみると…そよ風のような優しい音色に合わせて、可愛らしい…澄んだ声が混ざっているのに気づく。現実にいた時は、あまり音楽とか聞かなかったが…この流れている曲はずっと聞いていたい気がする。カナタは閉じていた瞼を開くと、歌声がする方へと視線を向ける。そして、リーファが歩いていった方を見ると…歌声がする方へ歩いていく。

 

「リーはもう少し帰ってこないと思うし…、少し聞きにいこうかな?」

「〜♪」

「こっち…。この広場か…」

「〜♪」

 

カナタはその歌声に導かれるように、そっちの方向へと歩き出すとーーカーリアナの町の離れにある噴水に腰掛けて、手に持ったギターのようなものを鳴らしながら…目を閉じて、静かに唄ってる一人の少女の姿があった。その少女の前には、多くの人ざかりができており…一番、後ろの列にいるカナタには、歌っている少女が時折 見えるくらいであったが…少女の歌声と歌詞に自然と疲れが取れていく気がする。

 

“へぇー、上手だな。

 

閉じていた目を開けた少女の瞳は髪と同じ色の薄焦げ茶色で、夜風に揺れる腰まで伸びたさらさらの髪は電柱の光の下できらきらと輝いていた。頭の上には、ちょこんと可愛らしい羽がついた帽子が乗っかっており…手に持った楽器を鳴らすとゆさゆさとワイシャツの上にボロボロなマントが揺れた。そして、人影の隙間から見えた下の服装はどうやら短パンに…ニーソックスを履いてるらしい。

今度は、うってかわってノリノリな感じの歌を唄う少女をながめながら…カナタは少女の顔をジッと見る。

 

“…この子…誰だろ?見たことが…無いな…”

 

攻略組の人達とはそれなりに顔見知りなので分かるが…こんな少女はみたことがなかった気がする、ということはこの少女は下の階からごく最近に来て戻れなくなってしまった人なのだろうか?

 

“…でも、すごいよなぁ〜。こんな人前で、堂々と唄えるなんて…”

 

尊敬の眼差しを少女へと向けていると…観客を見渡していた少女の薄焦げ茶色の瞳と目があってしまった。その途端、少女の歌声と音色がピタリと止まる。カナタを見つめたまま、ピクリとも動かない少女に周りの観客がざわめく。

 

「ーー」

「あれ?どうしたの?」

「もう終わり?もっと聞きたかったのに〜」

 

ざわめく公園の中、少女はカナタから視線を外すと真っ赤に染まった頬を隠すように…後ろへと振り返り、そのまま走り去ってしまった。

 

「〜〜ッ!」

「へ?」

 

少女が立ち去った公園の中、あんなに多くいた観客たちは瞬く間にいなくなってしまった。そんな公園にポツンと立ち尽くすカナタは、少女が立ち去った方向へと走り出した……




ということで、歌姫との出合いを果たしたカナタですが…その歌姫には逃げれてしまいました(^_^;)その歌姫とは、誰なのか…?なんで、逃げたのか…?

理由は後編にて、明らかになります!


明日は、更新 休みます(^_^;)少し用事がありまして…、次回の更新は虹章となると思います。ではでは(微笑)


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2章028 歌姫と蒼目の侍 後編(カナタside)

お待たせしました!後編の更新ですっ(o^^o)

さて、逃げてしまった歌姫とは誰なのか?なんで、歌姫は逃げてしまったのか?

本編をどうぞ!


6/21〜間違っていたところを直しました

6/22〜誤字報告、ありがとうございます!


カーリアナの街を一人の少女が駆け抜けていく。夜風に頭の上に乗っかってる帽子の羽根とボロボロのマントがはためき、さらさらと少女の薄焦げ茶色のロングヘアーが揺れる。

走りながら、少女は何かを気にするように後ろを振り向きながら器用にかけていくと疲れたのか…近くにあったベンチへと腰を下ろす。

 

「はぁ…はぁ…。ッ…」

 

激しく上下する胸元へと右手を添えて、少女・レインは先程 出会った人物を思い出していた。

夜風に揺れるのは、癖っ毛の多い栗色の髪と羽織っている橙の着物。こちらを見つめる瞳は、ジッと見つめていると吸い込まれてしまいそうなくらい美しい光を放つ蒼でーー

 

“ーー好きになってしまった…。初めて会った…初めて見た人に…”

 

そこまで考えて、レインは頭を左右に振る。その仕草は、まるでさっきまで考えていた自分の考えを追い払おうとしているかのようだった。

しかし、レインの目論見は件の人物により邪魔されることになる。小さく呟くレインの言葉を遮って、はにかみながら…レインへと話しかける人物にレインは固まる。

 

「…ううん、そんなわけーー」

「ーーやっと、見つけた。君って、足が速いんだね」

「ッ!?」

「隣いいかな?」

「あ…その…。どうぞ!」

「あはは、あんがと」

 

肩をピクッとするレインの驚きっぷりに、クスクス笑いながら…その人物はレインの横へと腰掛けた。改めて、人物ーー彼…なんだろうか?を見てみると、レインよりも身長は10cmか5cmくらい高い。華奢な身体を黄・橙系統の和服で包み込み、袖からは触れれば折れてしまいそうな腕が覗いている。此方をニコニコと笑いながら見てくる顔つきは、綺麗系で…総合的に美男子というところだろうか。

 

「君はなんで、さっきあたしから逃げたの?」

 

レインは顔を覗き込んでくる美男子?・カナタから視線を逸らすと…小さくカナタの問いに答える。

 

「それは…」

「?」

「…ぼれ…して…」

「聞こえないよ」

「一目惚れ…。君に一目惚れしてしまったんです」

 

レインの告白に目を丸くするカナタは、頬を染めつつ…グイグイと距離を詰めてくるレインに頬をかく。

 

「君は好きな人がいるの…かな?」

「そうだね…。確かに、あたしには大好きで大切な人がいる」

「そっか…。君、カッコいいもんね〜。じゃあ、その人の下は?」

 

カナタに好きな人がいることにがっかりした様子のレインは、何かをひらめいたように顔を上へとあげると…カナタへと問いかける。

 

「下?」

「その人が一位なら…二位は誰なのかなぁ〜って」

「二位…?二位…」

 

腕を組んで考えるカナタへと、レインが爆弾発言をする。

 

「もし、居ないなら…わたし、君の二位にエントリーしてもいいかな?」

「へ!?それって…愛人…ってこと?」

「そうかも…。でも、それでもいいんだ…。

一位じゃなくてもいい…。ちょっと、わたしの事を気にしてるくらいでいいから…。君の側…ううん、隣に居たいの」

「えっと…それは…」

「ダメ…かな?」

「ーー」

 

頼み込むレインとさっきまでのやりとりを頭の中で繰り返しながら…カナタは頷くと、レインを連れて…リーファが待つ待ち合わせ場所へと向かった…

 

 

 

γ

 

 

 

一日、カーリアナに泊まった三人は、レインをみんなに紹介するためにエギルの店へと向かった。隣に立つレインを指差しながら、カナタがレインの自己紹介を行う。頭を下がるレインに、エギルの店に集まったみんなも頭を下げる。

 

「ということで、レインだよ。みんな、宜しくね」

「宜しくね、みんな」

『よろしく』

 

みんなが頭を下げる中、若干二名ほどカナタを睨むものがいた。カナタは、その若干二名から視線を逸らして苦笑いを浮かべると…隣に立つレインへと話しかける。

 

「そうだ、他にみんなに言っておきたい事ある?レイ」

「ん〜、そうだね…」

 

考え込むような仕草をしたレインは、隣に立つカナタへと突然 抱きつくと満面の笑顔を浮かべて…みんなに宣言する。

 

「私、カナタ君の愛人になります!」

「ちょっ、レイ…っ」

 

爆弾発言するレインの耳元へと囁くカナタに、レインは小首をかしげる。

 

「カナタ君、二番目のエントリー引き受けてくれたよね?」

「いや…そうだけどさ…。こんな大勢の前で…そんな事ーー」

「ーー流石、カナタね。もうこんな可愛い子を手懐けてるんだ…」

「ひゃあう!?」

 

近づくカナタとレインの間へと割り込んだ金髪碧眼の少女・フィリアの目が笑ってない不思議な笑顔を視界に収めた瞬間…カナタはフィリアから漂ってくるオーラにガタガタと震える。

 

「さて、カナタ。二番目ってどういうことかな?」

「いや…どういうことと申しますと…」

 

弱ったように呟くカナタと遠くにいる焦げ茶色のショートヘアーの少女・シノンを交互に見たフィリアはレインが抱きついてない方へと抱きつくと戸惑うカナタへと不敵に笑う。

 

「二番目ってシノンの次ってことよね…。なら、この世界に来て以来ずっと一緒にいるわたしの方が二番目を獲得するに相応しいわよね?カナタ」

「フィー!?なんで…フィーまで抱きついてくんの!」

 

左右の腕をレイン・フィリアに掴まれてしまったカナタは、周囲の痛い視線を一身に受けながら…此方を複雑な表情で見ている愛弟子の名前を呼ぶ。

 

「…むー」

「ルー!助けてぇ〜」

 

しかし、愛弟子は何かを悩むような仕草を浮かべて…結果的に、カナタが望んでない方向へと動いてしまう。小さく呟いて、決意の表情を浮かべたルーことルクスは後ろからカナタへと抱きつくと、カナタに密着するためにプニプニと自身の胸元をカナタの後頭部へと押し付ける。

 

「……私もカナタ様の隣に立ちたい。そのためになら、二番目の女でも…愛人にでもなる…!」

「なんで、ルーまで抱きついてるの!それに、柔らかいの!柔らかいのがあたってるから!!」

 

頭を抱えるカナタへと正面から抱きつくのは、こちらも決意の表情を浮かべたリーファである。頬を赤く染めながら、レインの時と同格くらいの爆弾を大きな声で放ち…シノンが右手を横にスライドして、弓と矢をオブジェクト化したのを認知したカナタは、首を横に高速で振る。“それだけはご勘弁を”という気持ちを込めてのものだったが…シノンの何処か冷たい笑顔を目のあたりにした瞬間、カナタは自身の命がここまでと知る。

 

「あたしもカナタさんの二番目の彼女…愛人になりたいです!」

「リーまで、なに爆弾発言してるの!」

 

しかし、この場にスアことストレアが居てくれたおかげで…カナタは命拾いをする。四人の女性に抱きつかれているカナタを見て、“面白そう”と判断したストレアは残りの女性メンバーを連れて…カナタへと抱きつく。

 

「わ〜、楽しそう!アスナ、リズ、シリカもしようよ!シノンもほら!」

「ちょっ」

「ちょっ…ぐふ…」

 

カナタの姿は大勢の女性陣の波へと埋れていった。助けを求めて、左手を空に向けてパタパタと振るカナタを遠くから見ている男性陣とアルゴはそれぞれにコメントすると、この騒ぎが終わるのをただジッと見ていた…

 

「くぅーっ、羨ましい限りだぜ!カナタよっ。なんで、おめぇとキリトばっかモテるんだろうなぁ〜」

「俺もか?」

「キー坊は自覚なしカ。まぁ、カー坊もだがナ」

「おいおい、お前ら。騒ぐんならーー」

「ーー助け…むぐ…ぐはっ…。もう…しにゅ…」

 

空へ向けてまっすぐ伸びていたカナタの手がコテっと力なく折れて女性陣の中へと埋れていった…




ということで、ヒナタハーレム一気に入会者が増えました(o^^o)

もともと、加入していたフィリアさんに…出会って、すぐに入会されたレインさん。レインさんの挑発?に乗ってしまったルクスさんにリーファさん。他の方々は、後々ということで…(微笑)

そして、歌姫・レインさんが逃げた理由ですが…単純に、あの場の空気に耐えられなかった…。と、カナタに見つめれて恥ずかしかったのだと思います(o^^o)
わかりにくかったので…補足です!

次回からは、長らくお休みしていた【息抜き編】の方を集中的に更新したいと思います!私、息抜き編で『おままごと』のイベントを書いてみたかったんですよっ(o^^o)
ですが、人数が…ですからね…(汗)どうしようかなぁ〜と迷っているところです(笑)

それでは、最後まで読んで頂きありがとうございます(礼)


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2章029 カナタとルクスの過去話 前編

こんばんわ。
また、火曜日でも…キャリバー編でもなくて、すいません…(大汗)

キャリバー編も残すところ、あと3話となりました。
ので、メインストーリーへと入る前に…予習編といいますか、抜けていたところを補充するために…この話を書かせてもらいました。

その抜けていたものはというと…主人公の過去またはルクスさんの過去を書き忘れていたところがあるので…そう言ったところを補充出来ればと思っています!

今回は辛い話となりますが…本編をどうぞ!


『陽菜荼。お前は魂ってどこにあると思う?』

 

そう言い、あたしの生えかけた栗色の髪を撫でながら…父は問う。

 

“…?”

 

だいたい、生後数ヶ月しか経ってない赤子にそんな事を聞いても答えられるはずがない。

ふっくらした頬を揺らし、首をかしげるあたしを見て…父は鮮やかに笑う。

 

『きっと、お前の魂も甘いんだろうな…小菜荼(こなた)の様に』

 

無垢な蒼い瞳と無機質な光を放つ蒼い瞳が互いを吸い込もうとしていくかの様に、ひかれあい、見つめ合う。

その後ろでガタガタと震えている癖っ毛の多い栗色の髪を腰まで伸ばした少女を置き去りにしてーー

 

 

γ

 

 

「マスター。オムライスとジンジャーエール」

「お前はここに来て、それしか頼まないな…。オムライスは作れるが、ジンジャーエールはないぞ」

「んじゃあ、らしいもので」

「了解。その代わり、蒼目の侍様行きつけの料理店っていう宣伝は任せたな」

「はいはい、それはマスターの腕次第ね」

「ちっ、つれねぇーな。蒼目の侍様はよぉ〜」

 

そう舌打ちして、自分の仕事場へと向かうマスターはこう見えても歴とした攻略組であったりする。

哀愁漂う二段腹を真っ白なエプロンで包み込み、黙々と料理を作っていくマスターの癖っ毛の多い髪を見つめながら…ふと、現実世界に置いてきてしまった育ての親を思い出してしまう。

 

“…父さん、ご飯とかちゃんと食べてるかな”

 

あの時、あの人が拾ってくれなければ…今のあたしは居ないであろう。いいや、ここに存在するしてなかったかもしれない。

なんか柄にもなく、辛気臭くなってしまったらしい。

パリパリと癖っ毛の多い栗色の髪をかくと、小さく背伸びする。

 

“さぁーて、いつまでも入り口に立ってるわけにもいきませんし…いつもの席に座っていましょうか”

 

通い慣れた名店ーーマスター曰くーーのカウンター席の一番左端へと腰掛け、あたしはついさっきまで見ていた夢の続きを思い出す。

あの今にも壊れてしまいそうな山小屋で暮らしていたのは、生まれてから三ヶ月という短い期間だったが…その三ヶ月の中で起こってきた出来事。その三ヶ月で囁かれてきた言葉は安易に思い出せる。

 

その囁かれてきた言葉の中で一番頻繁に耳にしていた言葉はーー《Soul、即ち魂》であった。

 

Your soul will be so sweet(君の魂は、きっと甘いだろう)

 

怯える母を押さえつけながら、あの男は何度も何度もそう囁き…母を汚してきた。

泣き叫ぶあたしの世話と…いつ如何なる時も嫌といっても襲いかかってくるあの男に精神的にも…肉体的にも母は参っていたのだろう。

そんな母があたしに嫌気がさして、あたしを捨てたことを誰が責められるか…否、誰も責められはしない。

そして、母を襲う時に呟いていたあの男のセリフは何を思って、囁かれていたのだろうか…?

 

「…今更、そんなことを考えても知るよしないか…」

 

小さく鼻で笑い、大人しく注文の品が来るのを待つ。その間も考えるはあの男と仲間たち。

 

“…ちっ、なんであんな奴らに頭を悩ませないといけない”

 

しかし、あの【PoH】という名でこの世界にログインしているあの男は間違いなくーーヴァサゴ・カザルスであった。

あの時、去り際にヴァサゴはあたし見て…ニンヤリと笑った。身の毛もよだつあの不気味な笑みを浮かべて、あたしを見つめてきたのだ。

それが意味することはただ一つだろう。

 

“あの男のことだ…。あたしを手中に収める為なら、どんな手でも使ってくるであろう”

 

「へい、お客様。そんな険しい顔をされると他のお客さんが怖がるんですが?」

「どーも。怖がるも何もお客様なんて来ないっしょ、こんなとこ」

 

どうやら、あたしは知らぬ間に酷い顔を浮かべていたらしい。

注文の品を運んでくるマスターに左手を軽くあげて答える。そして、黒いお盆の上に転がってるスプーンを左指でつまみ上げ、ボソッと皮肉を言う。

 

「こんなとこに毎日といっていいほど通い詰めてる常連さんはどこのどいつかなぁ〜?」

「ぐっ…ちょっとばっかし、オムライスが上手いからって調子に乗るんじゃないっ!」

「いやいや、そんなワンポイントな料理だけ出来ても…こっちは儲からないからな」

 

右手を横にブンブンと振って否定するマスターにあたしはニンヤリと意地悪に笑う。

 

「んだと思って、シノとかルーとか連れてきてあげてるんじゃん」

「その節はどうも。あのお二方以外にも…蒼目の侍様ご一行は当店の数少ない収入源にございます」

「でしょうでしょう」

 

深々と頭を下げてくるマスターにニヤニヤ笑いながら、あたしは好物のオムライスを一口ほうばる。

その途端、ふっわふわな卵が口いっぱいに広がり、その後を追いかけるようにシンプルな味付けが美味しいチキンライスが胃袋へと収まっていく。

黙々とスプーンを口へと含みながら、にっこりと幼子のように笑うあたしにマスターは片眉をあげる。

 

「んで、今日はそのお嫁さんはどうした?もしかして、夫婦喧嘩の真っ最中か?」

「…シノはアッスー達と攻略中。ついでにリトが集めたいっていってた素材を集めて帰るんだってさ。だから、今日は一人」

「そうかいそうかい。皆さん、仲良くっていいことでーーん?おい、カナタ。お前、その左薬指にはめてるのって…」

 

マスターがあたしの指の一点を見つめて、ポカーンとしてるので…あたしはナニゴトと眉を潜めて、その視線を追うと…そこにはキラリと光る銀色の輪っかがあり、あたしはパクっとオムライスを食べながら答える。

 

「…ん?あぁ、これ。結婚指環っすよ」

「いやいや、結婚指環っすよ…じゃねぇーよ!誰とした!!いつした!?なんで、俺に言わなかった!?」

 

カウンターからごっつい両手が伸びてきて、あたしの肩を揺さぶる。それをめんどくそうに追い払ったあたしはマスターの問いに淡々と答えていく。

 

「マスターには、そーなるから言わなかったんすよ」

「いや、言うべきだろ!お前のことは娘のように俺は思ってるんだぞ!」

「頼んでません」

「頼んでなくても思うのは勝手だろ!」

「いらぬお節介は嫌われるもとですよ?」

「このお節介は誰かさんから受け継いだものだからな。さーて、随分話をズラしてきたわけだが…お相手さんはどちらさん?」

「ちっ…マスターも言ってたでしょう、お嫁さんって」

 

小さく舌打ちするあたしの答えに、マスターにニヤニヤした笑みを浮かべてくる。そんな笑顔を見ながら、あたしは心の中で思うのだ。

 

“あぁ…うざい”と

 

「へぇ〜、ついにシノちゃんと結婚かぁ〜…ん?おい、この世界って同性婚認めてないだろう」

「マスターも聞いたことくらいはあるでしょう?【祝福の儀式】って」

「あぁ…あのややめんどくさいクエ」

 

食べ終わった口元をハンカチで拭いながら、ジンジャーエール風味の飲み物を一口飲み、マスターとの雑談を続ける。

 

「そのややめんどくさいクエを3日前にしたばったりなんすよ」

「あぁ、だから新婚さんと…って、こらこら話を逸らすんじゃない!なんで、そのクエをすることにしたんだ?」

「……シノがしたいって言うから」

「へー、ほーん、あの蒼目の侍様もお嫁さんの前では弱いと?」

「…そういうことです。あまりにも形が欲しいっていうから仕方なく受けて見て…クリアしたら、無事結婚出来たってわけです」

「しかし、あのクエも受けるのは男女のカップルくらいだろ?カナタとシノちゃん、よく目立たなかったな」

 

長引きそうなマスターとの雑談に肩を上下に動かすと、ジンジャーエール風味の飲み物を一気飲みする。

 

「そうでもないっすよ。システムエラーによって、結婚システムがゆるゆるになってるみたいなんですよ…」

「マジかよ…」

「マジっす。実際、ここに証拠が居ますから」

「あはは…、だな。よーし、新婚な蒼目の侍様にはこれからも頑張ってもらわないといけないからな。ほれ、これサービスだ」

 

そういって、あたしの好物を3品取り出すとマスターをキラキラした目で見つめると…親指を立てて、マスターがこう言う。

 

「出血大サービスだからな。今度は夫婦揃って、うちに来てくれ」

「了解っす、マスター!」

 

ビシッとマスターへと敬礼して、あたしは大盛りに積まれた二皿目となるオムライスへとがっついた……




………すいません、過去話を書こうと思ったら…惚気話と雑談が多くなってしまいました。

後編はお二人の過去話の話を書きますので…(汗)

しかし、本編を進めていない間にちゃっかりと結婚してしまってるヒナタとシノさんって………


そして、そのシノさんが大活躍する予定のキャリバー編なのですが…火曜日に更新できないかもです…。
余裕があれば、来週のどこかに更新したいと思っていますm(_ _)m




そういえば、再来週には【フェイタル・バレット】が発売となりますね(*´∇`*)
それに合わせて、次々と新しい情報が入ってきて…公式サイトを見ながら、主人公をどんなキャラに育てようかなぁ〜と思案してます(微笑)
多分ですが、前の後書きで書いた通りで…私のことなので、超攻撃よりのものとなることでしょう…。
代わりに、相棒となるアファシスは回復に専念してもらう形になるかなぁ〜(笑)
大概、無謀な特攻に出で…撃たれ死ぬのが多いでしょうから^_^

さて、そんなフェイタル・バレットも添い寝イベントがあるのですね!
複雑なのは…シノンがキリトモードでなければ、添い寝イベントが発生したいということですかね。
どうせなら、自分でカスタマイズした主人公と添い寝したかったです…シノンと…(しょんぼり)

個人的に主人公の方のストーリーの方を優先しようとしてるので…シノンとの添い寝はまた、遠くなりそうです…(苦笑)




また、最近ですが…【コード・レジスタ】の方を始めました。
シノンさんは二枚手に入ったのですが…、何故かガチャるとシリカちゃんかアスナさんのお二方が出てくるのです…。
お二方とも好きなキャラですので…いいのですが、やっぱりシノンさんかアリスさんが欲しいものですね(*´∇`*)



では、長くなってしまいましたが…読者の皆様お体にお気をつけて


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2章030 カナタとルクスの過去話 後編

前編から読んでくださっている方は…薄々と気づいていらっしゃると思うのですが…この話がこれからのストーリーの道しるべといいますか…核心をついていく話となってます。

ので、時折この話を見返しながら…メインストーリーを読んでいただければと思いますm(_ _)m



小学校二年になった春。

そよぐ風に桜の花びらがひらりひらりと舞う中、あたしは一人帰路を急いでいた。

 

『お父さん、今日早いって言ってた』

 

その頃から、あたしを拾ってくれた人ーーその頃からおじさんからお父さんへと変わったーーと二人暮らしをしていたあたしは交互に料理当番っていうものをしていた。時折、あたしが続けてする場合もあったが…まぁ、お父さんが勤めている仕事を思えば、割り切れるものであった。

 

『確か、卵とレタス…他にハムとかもあったはずだから…』

 

家に着くまでにある程度の献立は立てておこうと脚をがむしゃらに動かしつつも頭もフル回転させる。

なので、あたしは小道の脇から現れたその人物に気付くのが遅れてしまったのだろう。

小さな石橋を渡りきったその時、視界の右側から真っ黒い何かが現れた。ギョッとして立ち止まるあたしがゆっくりと上を向くと、黒いフードをねぶかく被っている大柄な男性(?)が目の前に立っていた。

 

『こんにちわ、お嬢さん』

 

そう声かけられたかと思ったら、あたしは次の瞬間口元を覆われ…一週間後に家の前で倒れていたらしい。

らしいというのは、あたし自身その一週間の間の記憶が全くなく、今までどこで何をしていたのかも分からずーーーなので、なんで自分の家に多くの藍色の服を着ている大人たちがいるのか?自分がなんでその大人たちに代わる代わる質問されているのか?と幼心に不思議であった。

だが、真っ赤に腫れた両眼からポロポロと涙を流し、あたしを強く強く抱きしめるお父さんの姿を見た瞬間…自分はこの人に迷惑をかけてしまったのだと思い、あたしの方からもギュッとお父さんへと抱きついた。

 

そんな出来事が起きたぐらいからだろうか…?

あいつらの姿を遠目に見かけるようになったのはーー。

 

それに……時々、こんな言葉が頭に流れるんだーー《感情も記憶もからっぽになったお前は…果たして、人間なんだろうかな?》と…

 

 

γ

 

 

パクパクとマスターが奢ってくれた料理を平らげていくあたしが耳にしたのは、ガラガラっと扉が開く音であった。

それにスプーンを咥えたまま、振り返ったあたしが見たのは…腰の辺りまで緩やかな波を打っている白銀のロングヘアーを揺らし、同色の垂れ目へと安堵の色を浮かべている少女であった。

予想してなかった人の登場に首をかしげるあたしへと少女がフード付きの黒ポンチョと腰に巻いているクリーム色のレースを揺らし…いいや、ワインレッド色の薄手の長袖に包まれた大きく実った二つの膨らみも揺らしている。あたしは何故か、こっちへと歩いてくる少女を見てはいけない気がして、素早く顔を背けると少女が到着するのを待つ。

 

「カナタ様、探しましたよ。ここにおられたんですね」

「ルーこそどうしたの?」

「…どうしたのって…。今日は見ていただきたい技があって、早めに稽古をしようってことになったんじゃないですか」

「…あ…」

 

少女・ルクスのその指摘にあたしは今の今までその約束を忘れていたことをルクスに悟られないようにしようとしたが、ルクスは幼さが残る輪郭をプクーと膨らませるとあたしを睨む。

 

「やっぱり、カナタ様忘れていたんですね…」

「いや、忘れていたってわけじゃあ…」

「…そのご飯を食べた後でいいので、私の稽古手伝ってくれますか?」

「…あぁ…、ごめんね、ルー」

 

そんなこんなでご飯をかきこみ、あたしはルクスと稽古に勤しむ。

まず、まず簡単なストレッチから始め、毎日欠かさずしている素振りの後はその日によってやることが違う。二人でレベルを上げるためにクエストを受けてみたり、デュエルをしてみたり…と殆どはルクスの発言に任せている。

そして、今日はデュエルとソードスキル上げに稽古を当てることになり、無事その稽古が終わった後…あたしはくるりと後ろへと振り返るとルクスへと声をかける。

 

「…ねぇ、ルー。今から時間あるかな?」

「はい、ありますけど…」

「なら、あそこのベンチまでいいかな?」

 

ベンチに座り、あたしの方を見てくるルクスに淡く微笑みながら、あたしは重たい口を開く。

 

「ルー、今から話す話は誰にも話したことがないものなんだ。だから、もし聞き終えた後も誰にも話さないで…どうか、ルーの心の中にしまっていてほしい」

「…」

「…約束、してくれる?」

「…はい、カナタ様がそういうのであれば」

「…そう、あんがとね」

 

そう言い、淡く笑ったあたしは自分の過去を彼女へと包み隠さずに話した。

産まれたのは今にも壊れそうな山小屋の中でその中はいつも母のすすり泣く声で満ちており、父はそんな母の精神や肉体を私欲の限りを尽くして、汚していたこと。

そして、実の父が警察に捕まったが…仲間の助けにより、刑務所から逃げ出したとニュースで聞き、そのニュースを見た後から優しかった母の様子が激変し、ある日突然ベンチに捨てられてしまったこと。

捨てられてしまった後は拾ってくれた記者のおじさんと共に暮らし始めたが、ある日を境に実の父と半端に会うことが多くなり、おじさんが心配して…田舎の一軒家へと引っ越してくれたこと。

その引っ越した先にシノンがいて、仲良くなっていくうちに彼女に惹かれたことなどなど。

 

余すことなく自分の過去を話したあたしはずっと下を向いていた視線をルクスへと向ける。そのルクスはというと…眉間や顎にシワがよっており、涙が溢れるのを耐えているようだった。

そんなルクスを小突いたあたしはいつもの調子で明るい声を上げる。

「と…いうわけで、あたしの話はお終いかな」

「ーー」

「もう、やだな、ルー。せっかくの美人さんなのにそんなしかめっ面してたら人が寄ってこないよ?」

「ですが、カナタ様…」

 

そう言って、もうすでにうるっとしている白銀の瞳に浮かぶ感情を読み取ったあたしはどうやら、ルクスはあたしがさらわれた時の記憶が思い出せないという内容に衝撃を受けたことを知り、あたしは自分のことではないのにうじうじしているルクスを見て、大きな声を上げる。

 

「…あぁ、もう!いいんだってば!思い出せない記憶ってことは…あたしにとって忘れたかった記憶なのかもしれないしさ…。それに……あんな奴らとの思い出なんてこっちから願い下げだよ」

「……」

「って、ことで…あたしの赤裸々話を聞いてしまったルクスさんも胸に溜め込んでいるものを吐き出さなければならないというわけなんですよ」

 

ニンヤリ笑うあたしにルクスがこてっと首をかしげる。そんなルクスの垂れ目をじぃーと見つめたあたしは静かに語りかける。

 

「へ?」

「…前…ホロウ・エリアでホロウ・PoHに捕まっていた時…ルー助けに来てくれたよね、フィーと一緒に」

「…へ、あぁ…はい…」

「その時、隣にいたあの大きな花の髪留めを付けていた女の子って…ルーの大切な人だった?」

「ーー」

 

押し黙るルクスを見て、あたしは微笑む。

僅かに渦巻く白銀の感情の渦を見ながら、あたしはスゥーと視線を逸らす。

 

「やっぱり…その顔からして、こっちのあの子はもう…いないのかな?」

「……っ、はい…」

「……そっか。……辛い思いさせちゃったね、ルー」

「いえ、あんな形でしたが…ロッサ……あの子と出会えたことは私にとっての幸せです。それに…あの子の思いも聞けましたし…」

「そう言ってもらえると…あたしも嬉しい」

「ーー」

「…まだ、あたしに伝えたいことがあるんじゃない?その顔つきは…。いいよ、ルーが話したくなるまで待ってる…」

 

そう言って、にっこりと笑うあたしへとルクスが震えた声で話し出す。それをあたしは相槌を打ちながら聞く。

 

「…カナタ様は《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)という名前のギルドは知ってますか?」

「あぁ…知ってるよ、アッスーから聞いた。あいつがそこのリーダーなんだってね」

「……実は私、そこの……。……っ」

「ルー、辛いなら言わなくたって大丈夫だよ。言いたいこと分かるから…」

 

ルクスの辛そうな声を遮ったあたしは上を向くと、ルクスと最初に会った日を思い出すように瞳を閉じる。

最初に会ったあの時のルクスは今のように感情を表に出している感じがしなかった…しなければ、酷いことにあうから従っているって感じだった。

 

“それに…あの尋常じゃないくらいの震え方…”

 

果たして、ルクスはあいつに何をやらされていたのだろうか?

 

「…へ?」

「初めて、ルーと会った日のこと覚えてる?」

「…へ…?はい…」

「なんとなく気づいてた。ルーがあいつと行動してたから…あいつのギルドに入っていたのかなってね」

「ーー」

「でも、だからって、ルーをあたしが嫌うことなんてないよ。だって、ルーが好き好んであいつと行動してるとは思えなかったし…何より、今のルーはあたしの大切な愛弟子だからね」

「…カナタ様」

 

閉じていた瞼を開け、ルクスへと振り返ってニカッと笑ったあたしへとルクスが泣きそうな顔を見つめてくる。そんなルクスから視線を逸らしたあたしは左手の人差し指で腰に巻いているレースを指差す。

 

「それにいつも腰にクリーム色のレースを巻いてるのはそういうことでしょう?あのギルドに入った人って体のどこかに笑ってる棺桶のタトゥーを刻まれるってアッスーに聞いたし、だから…その下にタトゥーがあるのかと…」

「…なっ」

 

ルクスは必死にレースを抑え込むとあたしを睨んでくる。それには流石のあたしも苦笑いを浮かべると左手を横に振る。

 

「…そんな必死に隠さなくてもあたしはそのレースをめくるようなことはしないって」

「…そうですね。…そのカナタ様、最近和服を着た小さな女の子って見ませんでしたか?武器はカナタ様が腰につけている小太刀もしくは忍刀だと思うのですが…」

 

ルクスがいう特徴の少女は今の所、攻略組でも見たことはないのであたしは力なく首を横に振る。

 

「…ん?いいや」

「…そうですか」

「なあに?その子もルーの大切な人ってとこ?」

「…はい、ラフィン・コフィンにいた時に知り合った子なんです。私の…数少ない友達でしたから…」

「…見つかるといいね」

「はい!あっ…でも、グウェンは…私のことを許してないかもしれないですけど…」

「そうかな。意外と本音と本音でぶつかりあったら、分かり合えるかもしれないよ?って…あの黒の剣士様って言いそうじゃない?」

「ふふふ、はい、キリトさんならいいそうです」

「つーことで、あたしもそのグウェンって子を見つけたらルーにメッセージ飛ばすね」

「はい、よろしくお願いします」

「…んんっ!はぁ…」

 

小さく背伸びして上を向くと小さな星みたいなものが真っ暗な闇に浮かんでいた。それをぼんやりした感じで見つめているとルクスが声をかけてくる。

 

「…カナタ様はなんでシノン様にも話してない話を私にしようと思ったんですか?」

「……、なんとなく…ルーとあたしって似てる気がしてね。それと…ルーにならみんなの事を任せられるって思ってね」

「カナタ様、あまり縁起でもないことは…」

「…そうだね」

 

“…それまでにあいつとの決着を付けとかないと”

 

と思わず漏れそうになった言葉を飲み込み、あたしはあと十になった層の攻略を頑張ろうと小さく意気込むのだった…




というわけで、主人公とルクスさんの過去話…ちゃんと書けた気がしないですけど…お終いですm(_ _)m


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原作ーOriginal workー
001 現実での女子会


大変お待たせ致しました!

この話は、あのデスゲームをクリアしたら後の女性メンバーの女子会を書いたのものです!

読みにくいかもですが…読んでいただければと思います!

では、本編をどうぞ!


二階へと上がる階段を四人の少女たちが登っていく。

一番先頭を登るのは、焦げ茶色の髪をショートヘアーにしてる少女・篠崎里香で、横を歩く茶色い髪をツインテールにしてる少女・綾野珪子へと話しかける。

 

「ここがカナタとシノンの家なのね」

「本当に二人暮らししてたんですね」

「何よ、珪子。ショックうけてるの?」

「なっ!?そんなわけないじゃないですか!」

 

先頭の二人が仲良く戯れながら登っていく中、後ろを歩く二人・結城明日奈と桐ヶ谷直葉も仲良く話しながら、足を動かしていく。

 

「陽菜ちゃんと詩乃のん、どんな部屋に住んでるのかな?」

「前にカナタさんに聞いたら、狭いところって言ってましたよ」

「へぇ〜。なら、わたしたちがお邪魔してもよかったのかな?」

「そうですね…。よかったんでしょうか…?」

 

しかし、迷っていた時間も僅かで…あっという間に件の二人の部屋へと辿り着いてしまった。四人は互いの顔を見渡すと、呼びたし音へと人差し指を添える。ゆっくり、力を加えると…

 

ピンポーン、という音が部屋の中で木霊する。

 

そして、その呼び出し音が部屋に響いて、数秒後。ドアの向こうからドタドタと足音が聞こえて、ギィーと独特の扉の音が聞こえて、中からひょっこっと癖っ毛の多い栗色の髪が姿を現した。

 

「おお、四人ともいらっしゃい。割と早かったね〜」

『……』

 

ニコニコ笑顔で出迎えてくれたのは、この部屋に暮らしているあのデスゲームを生き抜いた戦友、二人のうちの一人、香水陽菜荼であった。

空のように透き通った蒼い瞳が横並びで並んでいる四人組の全員の顔を眺めてはにっこりと微笑んだ。そんな陽菜荼の様子に四人はじわじわと頬が赤くなっていく。

そんな四人の様子に眉を顰める陽菜荼だったが、そんな陽菜荼の様子も四人の視線には入ってない。

その証拠に里香は隣にいる珪子へと耳打ちしている。その横にいる明日奈と直葉も同じように陽菜荼を見ては意見を述べている。

 

「……ねぇ、珪子。これって」

「……陽菜荼さん、寝起きみたいですね」

「……陽菜ちゃん、顔を洗ってたのかな?前髪だけ結んでいるのが可愛いね」

「……はい、陽菜荼さんが可愛いです」

 

上にある四人のコメントの通りで、陽菜荼は寝起きらしかった。

空のように透き通った蒼い瞳はどこか眠たそうにとろ〜んとしており、普段は目元近くまで伸びている癖っ毛のある栗色の前髪は黄色いヘアゴムで結ばれており、天井に向かって伸びていた。そんな前髪や適度に整った顔から雫がポタポタと玄関のコンクリートへと落ちているのを見ると…四人のコメント通り、陽菜荼は寝起きかつさっきまで顔を洗っていたらしかった。

 

「ん?どしたの、みんな。あたし、変な格好してるかな?」

 

自分を見たっきり身動きしない四人に陽菜荼は頭をかく。そんな五人へと幼くも凛とした声音がかかる。四人がそちらへと視線を向けると陽菜荼の向こうから黒縁メガネを付けた焦げ茶のショートヘアが特徴的な少女・朝田詩乃が呆れたような表情を浮かべていた。

 

「陽菜荼。陽菜荼がそこにいるから、みんなが入りたくても入れないでしょう。のけてあげなさい」

 

その呆れ顔は同居人へと向けているらしく…当の本人は、前にいる四人へと自分を指差して問う。

 

「へ?あたし?」

 

四人も特に嘘を付く必要もなく、首を縦に振る。動きを止めていたのは、それだけではなかったのだが…今はその意見に頷いていた方がいいように思えた。

四人の肯定に「そっかそっか」と言いながら笑って横にのける陽菜荼の脇を四人が部屋へと入っていく。

 

「みんな、いらっしゃい」

『お邪魔しまーす』

「どーぞどーぞ。狭いとこですが」

 

詩乃と陽菜荼に案内されて、リビングへと腰を下ろした四人は残りのメンバーを楽しくお話ししながら待つのであった…




次の話も間を開けずに更新できればと思います。

ではでは( ´ ▽ ` )ノ


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002 現実での女子会

連続更新です!

今回の話ですが…ヒナシノの惚気あり、陽菜荼の意外な趣味が書かれてます。そして、他のメンバーの皆様はまだ到着されません…もう暫くのお待ちを…(礼)

では、本編をどうぞ!

*今回は長めです


まん丸なテーブルへと、里香・珪子・明日奈・直葉を案内した陽菜荼は四人を詩乃へと任せて、キッチンで自分はガチャガチャとお客用のコップをお盆へと並べている。

ガラッと冷凍室を開けた陽菜荼は均等に六人分へと氷を入れると、お盆とジュース数本を持って、リビングへと姿を現す。

そんな陽菜荼へと里香が茶々を入れる。陽菜荼はケラケラと笑うと力こぶを作ってみせる。

 

「ちょっと、陽菜荼!あんた、さっき起きたばっかなんでしょう?そんな重いの持って大丈夫なの?なんでもないとこで転ばないでよ」

「大丈夫、だいじょーぶ!これくらい、いつもしてることだし」

 

里香の横へと腰を下ろした陽菜荼はみんなのコップへとお好みのジュースを注いでいく。四人へと手渡しでジュースを渡すと、詩乃のマグカップと自分のマグカップを持つと再び立ち上がる。キッチンへと向かう途中で、詩乃へと振り返ると首を傾げて問いかける。

 

「詩乃もいつものでいい?」

「ええ」

「うん、りょーかい。少し待っててね」

 

アイコンタクトと『いつもの』という言葉で通じ合う二人は確かに長い間二人で過ごしてきたことを安易に想像出来た。四人はそんな二人をある者は羨望な眼差しで見つめ、ある者は眼差しに暖かい光を讃えて見つめていた。

何かキッチンがガチャガチャと何かを操る音が聞こえてくる中、明日奈が隣に座る詩乃へと問いかける。そんな明日奈へと意地悪な笑みを浮かべて、わざと曖昧に答える詩乃。

 

「詩乃のん、いつものって?」

「明日奈もそのジュースを飲んでみたらいいわ。とっても美味しいのよ」

「?」

 

可愛らしく小首をかしげる明日奈へ向かって微笑む詩乃へとキッチンから帰ってきた陽菜荼が詩乃へと右手に持ったマグカップを手渡す。

 

「はーい、詩乃。お待たせ」

「いつもありがとう、陽菜荼」

「いえいえ」

 

詩乃からのお礼を照れ臭そうに笑って、向かい側へと腰を下ろした陽菜荼は一息つくようにマグカップの中に入っている液体を体内へと流し込む。

 

「陽菜荼さんは何を飲んでるんですか?」

「んぅ?これ?」

 

左横に腰掛けている珪子が問いかけてくるので、陽菜荼はマグカップを机へと置くと珪子へ中身が見えるようにそちらへと傾ける。薄茶色の液体の中へと透明な氷がプカプカと気持ちよそうに漂っている。

中身を見ても分からなく、小首をかしげる珪子へと陽菜荼は中身がなんなのかを説明する。

 

「あたしがブレンドしたココアだよ。詩乃はコーヒーだけど…」

「もしかして、あんた。詩乃が飲んでるコーヒーもブレンドしたの?自分で!?」

 

里香が驚愕したように言うのを見て、陽菜荼は頭をかきながら問いかける。

 

「ん、だね。里香とアッスーが飲んでるのは市販のだけど。直葉と珪子が飲んでる赤いジュースはしそジュースって言ってね、昔父さんに習ったものなんだ」

「そうなんですか!?このしそジュース、とっても美味しいです!」

「へぇー、陽菜荼さん、凄いですねっ!あたしも作り方覚えたいです」

 

珪子とその隣へと腰掛けている直葉が身を乗り出して褒めてくるので、陽菜荼は照れたように笑いながら、後で作り方を二人に教えることを誓う。

 

「あはは、いいよ〜。良かったら、持って帰るといいよ…アッスーと里香の分も分けておくね」

「うん、ありがとう、陽菜ちゃん」

「ありがとうね、陽菜荼」

 

明日奈と里香からのお礼もくすぐったいようで、陽菜荼は茶化すような口調で手のひらを上に向けた状態で胸に添えると丁寧腰を折る。そんな陽菜荼へと、詩乃は呆れた様子で素早くツッコミを入れる。

 

「いえいえ。お客様は全身全霊を持っておもてなすのが香水家の家訓ですので」

「全くっ、どこからそんな真っ赤な嘘が湧いてくるのよ…香水家にそんな家訓ないでしょう。おじさんがすごくおもてなしてくれるのは事実だけど…」

「あれ?そうだっけ?」

 

とぼけた感じでそういう陽菜荼を見て、他の四人も詩乃と同じように苦笑いを浮かべる。その苦笑いを見た陽菜荼はプクーと頬を膨らませると、時計を見てから立ち上がる。

キッチンへと向かう陽菜荼の後をごく自然な様子で追いかける詩乃を他の四人が呆然とした様子で見る。キッチンへの入り口で立ち話する二人は本当に仲のいいカップルのような雰囲気が漂っている。ようなではなく、事実はそうなので…今更ながら、居心地の悪さというものを感じ始める四人へと二人の会話が自然と聞こえてくる。

 

「さてっ!そろそろ、みんな来そうだし…あたしはご馳走作りへと精を出すとします」

「陽菜荼、私も手伝うわよ」

「いいっていいって、詩乃はアッスー達のお話し相手をしていてよ」

「でも…」

「あたし一人でも大丈夫だよ。それにいくら、アッスー達だからって、詩乃の手料理をご馳走するわけにはいかないからねっ。あれはあたし専用なんだから」

「もぅ、陽菜荼ってば…」

「詩乃、顔が赤いよ。いつも以上に可愛い、チューしたいくらい」

「チュー!?」

「あはは、なんて顔してるの?そんな顔してると本当にしちゃうよ?」

「なっ、バカ!していいわけないでしょう!?」

 

キッチンの入り口から聞こえてくる甘々な言葉のキャッチボールに四人は頬を淡く赤く染めると身を寄せ合って、会話する。

 

「……あの二人、あたしたちが居ること忘れてるんじゃないでしょうね」

「……忘れてないですよ、多分」

「……仲がいいことはいいことだよ…うん」

「……あたしもいいことだと思いますよ」

 

こそこそと四人で話をしているうちに、四人の視線は自然と近くにあるベッドへと…そして、その上に無造作に放り投げれている橙の着物を見て、すぐさま視線をそらす。恐らくであるが、その着物はさっきまで陽菜荼が着ていたねまーー

 

“あれ?もしかして…これって…”

 

顔を背ける四人。そんな中に陽菜荼との甘々な会話を終えた詩乃がリビングへと帰ってくる。そして、ベッドの上に無造作に放ってある物に気づき、キッチンにいる同居人へと注意が飛ぶ。

 

「あっ、陽菜荼!みんなが来るから、ベッドにパジャマ置かないでって言ったじゃない!」

「あはは、ごめんごめん。つい癖でね」

「もう〜」

 

詩乃がベッドに放ってある橙の着物を丁寧に畳むのを見て、居た堪れなくなった珪子と直葉は同時に立ち上がるとキッチンへと歩いていく。

 

“うぅ…落ち着かない…”

 

「あたし、カナタさんのお手伝いしてきますねっ」

「あたしも!」

 

珪子と直葉がたちあがると陽菜荼がいる方へと歩いていく。向かった先には、陽菜荼が手慣れた手つきで次々とご馳走を完成させていっていた。普段から料理する直葉の目から見ても、陽菜荼の手際の良さは目を見張るもので…ついつい、珪子と共に見とれてしまう。

そんな二人の気配を感じ取ったのか、陽菜荼が後ろを振り返ってくる。

 

「お?珪子と直葉、どしたの?」

「いえ、座ったまんまっていうのもなんだが落ち着かなくて…」

「あたしたちに何かお手伝いさせてくれませんか?陽菜荼さん」

「そんなこと気にしなくたっていいのに〜。それじゃあ、二人にお手伝いお願いしようかな。珪子はそこにあるサラダのドレッシング作りをお願いしていいかな?作り方は教えるからさ。それと、直葉はここにあるものを炒めててくれると嬉しいな」

『はい、分かりました』

「いい返事です。それじゃあ、作ろうか」

 

テキパキと時折、笑い声を響かせながら、楽しそうに料理する三人組をリビングから座って見ている三人は微笑みながら、三人組の話をする。

 

「こうしてみるとあの三人って仲良し三姉妹って感じだよね〜」

「確かにそうね」

「じゃあ、陽菜ちゃんが一番お姉ちゃん?」

「陽菜荼が?」

「確かに身長的にはそうだけど…精神年齢が若いからね、陽菜荼は…」

「詩乃のんがいうなら…そうなのかな?じゃあ、直葉ちゃんが一番上ってことかな?」

「そうね。直葉が上がいいでしょうね」

「その次が陽菜荼ね」

「珪子はやっぱり、一番下よね」

「うん、そうだね」「えぇ、異論ないわ」

 

陽菜荼に教わりながら、カシャカシャとドレッシングをかき混ぜる珪子へ三人は視線を向ける。その時、ピンポーンと呼び出し音が部屋へと木霊した……




ドレッシングをカシャカシャ混ぜる珪子もといシリカさんは可愛いと思うのですよ、うん。
そして、直葉さんが見惚れる程の手際の良さを発揮する陽菜荼。普段からダラけているのが嘘のようです(笑)

そして、そんな三人組を母親のような感じで見ている三人衆。私の個人的な意見ですが…この三人衆は将来、いいお母さんになりそうですよね〜(笑)

そんないいお母さんになりそうな三人ではないですが…あの三人が一緒に料理してたら、癒されますよ…(微笑)

では、皆様は暑い日が続きますのでお気をつけて…

ではでは( ´ ▽ ` )ノ


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003 現実での女子会

今週の火曜日、8月21日はこの小説のメインヒロインこと朝田詩乃さんの誕生日でした〜!
遅くなりましたが、詩乃さん誕生日おめでとうございます!!

そして、そんな詩乃さんの誕生日にまつわる話をオマケとして、この本編に載せておりますので…宜しければ、ご覧ください。

では、本編をどうぞ!


ピンポーンと呼び出し音が部屋の中で木霊する中、野菜を炒めていた陽菜荼が出来上がった料理を盛り付けている直葉へと声をかける。陽菜荼から声をかけられた直葉は菜箸を受け取ると野菜を炒め始める。

 

「直葉、これ見ててくれるかな?」

「はい、分かりました、陽菜荼さん」

「ん、任せたからね、直葉」

「はい、任せてくださいっ」

 

直葉に声をかけてから、玄関へと小走りで走っていった陽菜荼はガチャっと、年季の入ったドアを開けるとそこにはーー

 

「はいはーい」

 

ーー茶色いショートヘアーに水色の瞳が特徴的な少女・竹宮琴音とおっとりした雰囲気とふわりと緩やかなカーブを描くロングヘアーが特徴的な少女・柏坂ひよりが横に並んで立っていた。

そして、ドアの向こうからひょっこり顔を出している陽菜荼のラフな姿に二人は頬をほんのりと赤く染めると互いの両手をパチンパチンと何度も重ねあった。その際に、二人の手から響く効果音が廊下へと響き渡り、陽菜荼は苦笑いを浮かべる。

 

「ごめんね、遅れちゃった…って!?カナタ!?あんた、前髪あげてるの!?」

「あっ、本当ですね〜。カナタ様、すごく可愛いです〜」

「たくっ、この二人は…」

 

これ以上は近所迷惑になりかねないと判断した陽菜荼は、右手でコンコンとリズミカルに横に並んでいる二人組へと手刀を落としていった。

そして、手刀で頭を叩かれた琴音とひよりは眉を顰めると痛そうに叩かれた頭を抑える。そんな二人に視線を向けながら、陽菜荼は腰に右手を添えると怒ったような顔を浮かべる。

 

「いった〜」

「痛いですよ…」

「今のあたしはカナタじゃなくて…香水陽菜荼だって。だから、カナタじゃなくて陽菜荼って呼んでって言ったよね?このやりとり、何回やればいいのかな?」

 

陽菜荼の呆れ顔を見て、琴音とひよりは同時に頭を下げる。

 

「あはは、ごめんね、陽菜荼」

「ごめんなさい、陽菜荼様…」

「…ひよりはその様づけも直してくれればいいんだけど…まぁ、いいか。よし、二人とも入って入って。今、珪子と直葉に手伝ってもらって、ご馳走作ってるんだからっ」

「へ?そうなの?」

「それは楽しみです」

 

陽菜荼の脇を通って入ってくる琴音とひよりは、其々空いてるところへと腰を下ろす。そして、料理組とまだ着てない参加者を待つ間に楽しく会話を楽しむ。

そして、そんな二人・琴音とひよりが加わる前のリビングの様子が以下の通りだ。陽菜荼が琴音・ひよりへと手刀を落としている様子を遠くから見ていた三人は、明日奈と里香の間に挟まられ座っている詩乃の顔がだんだん険しくなっていくのを見て、すかさずにフォローを入れる。里香はポンと詩乃の背中を叩くと親指を立てると笑いかける。

 

「むー」

「大丈夫よ、詩乃。そんなに頬を膨らませなくたって…陽菜荼はいつだって、あんたにぞっこんなんだから。どーんと構えてなさいって、ね?」

「うんうん、里香の言う通りだよ」

「…えぇ、そうね…ありがとう、里香、明日奈」

 

明日奈と里香がフォローを入れていたおかげで、ことなきを終えたこの詩乃の嫉妬騒動だが、その二人との絡みはまだまだ序の口であった。

 

例えば、料理を終えた三人組・陽菜荼、珪子・直葉が出来上がった料理を運んでいる最中のこと。

 

「皆さん、お待たせしました〜!…わ!?」

「ちょっ!?珪子!?」

 

手に持ったサラダごと床へと、ペシャンとうつ伏せの状態で倒れそうになる珪子を陽菜荼が寸前のところで支える。それはもう拍手ものであり、詩乃の嫉妬心を大いに掻き立てるものであったーー簡単に言えば、ダンスのワンシーンを切り取ったような格好を二人はしていたのだから、それ故に二人の顔の距離がかなり近いーー。

右手で落ちそうになっていたサラダを器用に空中キャッチした陽菜荼は、左腕で傾いている珪子の身体を支えている。背中へと回している左腕によって、グッと距離が縮まった陽菜荼と珪子の距離はあと数センチ動けば、キスが出来そうなくらいでーー珪子は、その状況に目をグルグルと回す。しかし、陽菜荼は気にしていない様子みたいでーー

 

「ふぅ…、大丈夫?珪子」

「…あ…はい…」

「そっか、なら良かった」

 

ーーと言って、珪子を立たせてあげると陽菜荼はサラダを珪子へと差し出す。

 

「…そのありがとうございます…陽菜荼さん…」

 

頬を赤く染めた珪子が礼を言うのを聞いて、陽菜荼は少し呆れたような表情を浮かべると優しい声音で珪子へと話しかける。陽菜荼のセリフに頷く珪子。

 

「もう、なんでもないとこで転ぶなんて…ドジっ子なんだから、珪子は。慌てなくていいから。慎重に持っていける?」

「はい…いけます」

「ん、いい子」

 

珪子の髪をぐしゃぐしゃと、まるで姉が妹にするような感じで優しく撫でる陽菜荼。そんな珪子と陽菜荼を見ていた詩乃の頬が再度膨らんでいく、それも凄まじいスピードで…それを見て、両脇に座っている明日奈と里香が苦笑いを深くする。

 

「むーー」

「こっちに戻ってきて、陽菜ちゃんの無自覚たらしっていうのかな?それが強くなったよね…うん…」

「あはは、詩乃の嫉妬の数もね」

「あの頃よりも無駄に優しいしカッコいいからね、陽菜荼は」

「はい、この世界に帰還して始めてお会いした時に見た陽菜荼様が思った以上に大きくてびっくりしました」

「ひよりのいうとおりね。あたしもあの身長の高さにはびっくりしたわ…。ねぇ、陽菜荼〜。あんたって身長何cmなの?」

 

里香に呼ばれて、丁度料理を持ってきた陽菜荼は眉を顰める。そして、最後の料理を置いた陽菜荼は空いてる席へと腰掛けると里香へと向き直る。

 

「いきなり、どうしたのさ…里香」

「いやね〜、みんながあんたの身長を知りたいって言ってたから」

「あたしの身長って…みんなも不思議なものを知りたがるね。まぁ、いいけどさ…確か、身長は170…ん〜、2…?くらいだったかな?でもさ、そんなに大きくはないでしょう?」

『……』

「えっと…その沈黙は悲しくなるな…、ねえってば、みんな!なんでもいいんで、コメント下さいよ!お願いします!!」

『……』

「なんでみんな喋ってくれないのさ!そんなにあたしの身長がショックだったの!?」

 

陽菜荼の身長に度肝を抜かれたみんなは暫し、沈黙を保ち…そんな沈黙に耐えられなかった陽菜荼の悲鳴がみんなが正常に戻るまで続いたそう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜*〜オマケ〜*〜

 

『とある日の夏休みの事』

 

夏休み真っ最中、私は夏休みの勉強を終えると…最近ハマっている本を読む。

親友から勧められたその本は最初から私の心をがっしり掴んで離さず、もうこれで3回目となる程、この本を繰り返し読んでいた。その勧めてくれた親友はというと、夏休みの初日からお父さんと旅行へ行っている。

 

“おじさんも陽菜荼も写真が好きだからな…”

 

旅行へ出かける前に、親友はとてとてと私へと走り寄るとただ一言こう言った、『帰ったら、写真見せる』。その一言に私は頷き、親友を送り出したのだった。

 

“宿題してるかな…陽菜荼。陽菜荼って、ズボラだから…なんだか、忘れてそう。帰ってきたら、宿題写させてあげようかな…”

 

私はカンカンと照りつける太陽と青い空を見つめながら、今頃色んなところで楽しい思い出を作っているであろう親友へと思いを馳せる。

 

「…陽菜荼、元気かな…」

「元気だよ、詩乃」

「わ!?」

「…?」

 

突然響くアルト寄りの声に、私は大きな叫び声をあげて、声がした方へと顔を向ける。

すると、そこには大声を上げた私を不思議そうに見ている癖っ毛の多い栗色の髪と空のように透き通った蒼い瞳が特徴的な少女がいた。

その少女はさっきのさっきまで、私が思いを馳せていた親友の香水陽菜荼であった。

 

「もう陽菜荼!急に現れて驚かさないでよ!?…って、陽菜荼!?なんで、ここにいるの?」

「なんでって…さっき帰ってきたから。それとこれ、驚かせちゃったお詫び」

 

私の問いを淡々と答えた陽菜荼は小さい左手で掴んでいたものを私へと差し出す。それを両手を差し出して受け取った私はそれを見て、眉を顰める。

 

「?これって」

「栞」

 

私の問いに一言で答えた陽菜荼の言うとおり、それは栞であった。緑色を基調としたもので、端の方に数本花が描かれている。

それを見て、私はもう一度陽菜荼へと問いかける。

 

「…それだけ?ここに描いてる花は?」

「内緒」

「内緒って…」

 

呆れ顔を浮かべる私の隣へと腰掛けた陽菜荼は、私が読んでいる本へと視線を落とすと私を見てくる。

 

「これ、面白い?」

「うん、面白いよ」

「そっか。んじゃあ、あたしは帰ろうかな」

 

そう言って、立ち上がった陽菜荼は私へと向き直ると家に向かって帰ろうとする。

 

「へ?もう帰るの?」

「ん、お父さんに何も言わないまま来ちゃったし…。それに、お土産を近所の人に配らないといけないから」

「…そっか…」

「…」

 

残念そうな顔をする私へと、とてとてと走って近づいてきた陽菜荼は俯いている私の頭をよしよしと撫でると、優しい声音で話しかけてくる。

 

「…明日、約束した写真持ってくるから。じゃあね」

「うん、じゃあね」

 

そんな出来事があってから、数年後でも私はその栞を大事に使っている。私の誕生になると、増えていくその栞に描かれた花と同じ柄のプレゼントと共にーー

 

 

〜*〜完〜*〜




本当は、オマケは三本立てにする予定でしたが…時間上と文字上やむ負えず。他の二本も近いうちに公開出来ればと思います(笑)

オマケの時間軸は、小学校三年生の時の夏休みの時の話です。
そして、ごめんなさい!陽菜荼が詩乃へと送っている花に関しては、明日改めて…この下書きへと書こうと思います!お楽しみにです(笑)

次回は、まだ登場してないメンバーを出せればなぁ〜と思います。

ではでは( ´ ▽ ` )ノ






ーオマケ補足ー

陽菜荼が詩乃へとプレゼントした栞には、下の花が描かれていました。

・ヒャクニチソウ 【花言葉 : 深い友情】
・スターチス 【花言葉 : 変わらぬ心】
・ペチュニア 【花言葉 : 心安らぐ】
・アンモビウム 【花言葉 : 固い約束】

以上の四つの花ですが…花言葉の見てもらうとお分かりの通り、陽菜荼から詩乃へとメッセージが隠れております(o^^o)
読者の皆様なら解読出来る筈です!!

そして、これから先には余談なんですがーー
詩乃と付き合いだした陽菜荼なんですが…詩乃には気付かれないように、一本ずつ増やしていってるんです、花の柄を(笑)

その花というとーー【ひまわり】、【ブーゲンビリア】。その他のものは後々増えていくことでしょう(笑)

あえて、この二本の花言葉は書きません!
気になった方は調べてみてください。詩乃への愛情がたくさん詰まってますから(笑)
しかし、調べちゃった人は少し引いちゃうかもしれませんね…陽菜荼の愛に…(苦笑)

では、長々とすいませんでした(礼)

ではでは( ´ ▽ ` )ノ


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004 現実での女子会

最近の悩みは、[戦姫絶唱シンフォギア]の切ちゃんこと暁切歌ちゃんにハマりすぎてることと、最近涙もろくなったことです…

と、余談から始まった今回の話ですが…今回はやっとあのメンバーが参戦します!
そして、ついに始まる女子会ですが…そこは陽菜荼にとって、苦難ばかりで…(汗)

では、本編をどうぞ!!


陽菜荼の身長事件から長らく続いている沈黙を一つの効果音が破った。

 

ピンポーン、と控え目に部屋へ鳴り響くその音は…

 

まるで、その訪問者を表しているようで、みんなが苦笑する中、陽菜荼は何故かいじけていた。みんなが自分の身長にショックを受けたことにショックを受けてるようで、膝を抱えて、「どうせ、あたしは大きいですよ〜だ」とぶつぶつと呟いていた。そんな陽菜荼のモチベーションを元に戻そうと両隣に座っているひよりと珪子が言葉をかけ続けていた。

そんないじけている陽菜荼が出れるわけもなく、陽菜荼の代わりに、今度は詩乃が出る。

 

「はーい」

 

ガチャっと開けた先には、腰の辺りまで伸びた薄茶色のストレートヘアーに、同色の少し垂れ目の瞳が特徴的な少女が立っていた。少女の名前は枳殻虹架。この女子会の最後の参加者である。

 

「ごめんね、バイトが長引いちゃって…。…みんな…集まってるよね?」

「みんな、集まってそんなに経ってないから大丈夫よ。虹架も入って」

「うん、失礼するね…」

 

遠慮がちに、詩乃の脇を通り抜けて入った虹架をみんなが出迎える。そんな虹架をからかうように、里香が大きな声を出す。そんな里香をショックから立ち直った陽菜荼が嗜める。

 

「もう、虹架!遅いわよ!」

「ご、ごめんね…」

「もう、里香。虹架が悪いわけじゃないんだからさ。虹架、ここ空いてるよ」

 

ひよりとの間に空いている隙間をポンポンと叩く陽菜荼の横へと腰掛けながら、虹架は陽菜荼に礼を言おうとして、自分の失言に気付き、口を抑える。そんな虹架へと微笑んでから、陽菜荼が気にしなくていいの意を伝える。

 

「…あっ、うん…ありがとう…陽菜荼くーーあっ、ちゃん」

「言いにくいんだったら、くんのままでいいよ。ちょっと、複雑な気持ちにはなるけど…」

「ごめんね…陽菜荼くん…」

 

虹架の「ごめんね」を聞くたびに陽菜荼は苦笑いを深めていき、虹架の頭へとポンと手を置くとナデナデしながら、優しい声音で謝らなくていいと虹架を諭す。

 

「もうぉ〜ごめんねって。こっちに帰ってきてから、虹架って、ずっと謝ってるよね。そんなに遠慮とかしなくていいんだから、ね?」

「う、うん…」

 

陽菜荼に頭を撫でられながら、コクンと首を縦に振る虹架という光景はとても心温まるものであったが…周りにいるメンバーの視線が少しずつだが、穏やかではない方へと向かっていく。

その理由は二人の顔の距離感が普通よりも近いからだ。そして、何よりも二人を包み込む雰囲気がまるで恋人同士のような感じだったからだ。

彼氏が泣き出しそうな彼女を慰めているようにも見えるその光景に、陽菜荼の向かい側にいた本物の恋人・朝田詩乃の表情が目に見えて険しくなる。それを見ていた里香が助け舟を出す。

 

「そこのお二人さーん、そろそろやめないと詩乃さんの顔がとんでもないことになってるのだけど〜」

「ちょっ!里香!私、そんな顔してないわよっ」

「痛っ、痛いって詩乃」

「あはは、何やらかしたのさ!里香」

 

真っ赤な顔にした詩乃が里香をポカポカとグーで殴る。殴られている里香は痛くて声を上げるが、陽菜荼はそんな里香を見て、大笑い。里香は大笑いしている元凶へと文句を言う。

 

「あんたの無自覚たらしのせいでこっちは殴られてるのよ?わかってるのかしら、この女たらしは」

 

里香に文句を言われる意味が分からないと首を傾げる元凶に、里香は横を向いてボソッとマジのトーンで罵倒すると、それを聞いていた元凶が里香を指差して、みんなに問いかける。だが、みんなもその元凶が里香の言う通りだと思ってるので、ただ静かに首を縦に振る。

 

「?」

「これだから、このたらしは…」

「そこ、たらしたらし煩いぞ!みんなも思うでしょう?」

『…』

「何故、またそこで黙るの!?そして、なんでそこで首を縦に!?」

「それがみんながあんたに思ってることよ」

「今日一番のショックだよ…」

 

そんな事があり、いよいよみんなが全員集まったことで現実世界での記念すべき第一回の女子会が開催となる。

 

「さて、これでみんな揃ったわね。それじゃあ、始めるわよ!女子会!

ほら、陽菜荼。あんたが乾杯の音頭を取りなさいよ」

「えぇー!?あたし!?」

『…』

 

里香から指名された陽菜荼はキョロキョロと辺りを見渡して、みんながコクンと頷くのを見て立ち上がると、ポリポリと頭をかきながら、照れたように頬を染めながら音頭を取る。

 

「えーと、その…指名を受けた香水陽菜荼です。その…みんなと出会ったのは、今から一年前となりますが…あたしはみんなに会えてよかったと思います。本当にそう思います。ここにいるみんな、ここに来てない男性陣のみんなもあの世界で出会ったみんなも…あたしはみんなみんな大好きです!本当に大好きです!この気持ちに偽りはないです!えーと、何を言いたかったのか忘れたので…カンパーイ!!!』

『カンパーイ』

 

アタフタとスピーチしていた陽菜荼は最後はヤケクソになり、カンパーイと叫ぶ。そして、みんなのコップへと自分のカップをコツンコツンとぶつける。

陽菜荼の乾杯の音頭が終わると、陽菜荼・直葉・珪子の三人で作ったご馳走はあっという間にみんなの胃袋へと落ちていった。その三人がお皿を洗い終えると、里香が陽菜荼と詩乃へと問いかける。

 

「さて、それじゃあお楽しみのゲームをするわよ」

「ゲームって…」

「陽菜荼もきっと大喜びのものよ」

「…あぁ、どうしよう。その回答を聞いて不安しか浮かばなかったんだけど…」

「まあまあ。それじゃあ、陽菜荼、詩乃。ここに割り箸あるかしら?」

「んー?あるよ」

「なら、それをここにいる人数分出してくれるかしら?」

「OK」

 

ここに集まっているみんな分の割り箸を持ってきた陽菜荼へと、里香は割り箸の一つの先を赤く塗って欲しいとその他に番号をうってほしいと告げる。その通りに一つの割り箸を塗り、残りの割り箸へと番号を書いた陽菜荼は薄々とこれから行うであろうゲームが分かってきた。

そして、その割り箸を里香へと渡すと、いつの間に取り出していたのか分からない箱へと陽菜荼が手渡した割り箸を全部入れる。そして、ガシャガシャと左右に揺らして、割り箸をかき混ぜるとみんなへと差し出す。

 

「よし、これで準備は出来たわ。これから、みんなも知ってるであろうあの王様ゲームをするわよ。だけど、一つだけルールが違うわ。この王様ゲームはみんながどの番号を持っているか見れるわ」

『…』

「……」

 

目を輝かせている周りと違い、陽菜荼は一人思う。

“あれ?あたしの知ってる王様ゲームとなんか違う”と……




ということで、次回は王様ゲーム回です。果たして、どんな王様ゲームへとなるのか?
恐らく、大混乱となることでしょう…主に陽菜荼と詩乃が(笑)

最初に二人へと言っておきます、ご愁傷様です…(礼)

番号が見れるという斬新な王様ゲームの中で翻弄される陽菜荼をお楽しみに♪

ではでは〜( ´ ▽ ` )ノ


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005 現実での女子会

お待たせいましました!

今回は読者の皆様も楽しみにしていたであろう、あの王様ゲーム回です!

全員で9人の参加者となったこの女子会もいよいよ大詰めです!陽菜荼と共に一緒に残りを駆け抜けていきましょう!

では、本編をどうぞ!



今更ですが、参考になればと思い、並びをのせました(礼)
⬇︎
ーーーーー

九人の参加者の並び(右回り)は…

陽菜荼→珪子→直葉→琴音→明日奈→詩乃→里香→ひより→虹架

です。

ーーーーー

※8/29〜『愚民』→『迂愚|うぐ|』へと変更しました(礼)

そして、セリフの一部を変更しました(礼)




みんなが里香が差し出す箱から次々と、割り箸を引き出す中、陽菜荼も戸惑いつつも割り箸を引く。

 

“ふーん、8ね…”

 

陽菜荼は自分の番号を確認し終わると、里香が丁度みんなへと声をかけているところだった。

 

「さて、みんな。せーので札を見せるわよ。いっておくけど、最初の王様…なんか、王様って嫌ね。女王…?王女様はあたしだからね。はい、せーのっ」

 

里香が一人で呼び名を考えている間、陽菜荼はこう思う。“もう、どっちだっていい”と…。“王女も女王も文字がひっくり返っただけなんだから”…と、普段ならそんなひねくれたことを考えもしないのに、そんなことを思ってしまったのは恐らく、これから始まるであろう波乱を敏感に第六感が感じ取ったからであろう。

里香の「せーのっ」に合わせて、割り箸の数字をみんなに見えるように見せる陽菜荼達だったが…陽菜荼は敏感に、否応なく数名の視線が自分の番号を注目していることに冷や汗がなぜか背中を流れる。

 

『!』

「なるほどね〜。じゃあ、8番が王女様の好きなところを十個述べること!はい、8番早く言いなさい〜」

 

冷や汗が背中を流れる中、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべる里香は無情にも陽菜荼の番号を言う。そして、陽菜荼は勢いよく、里香を指差すと異論を唱えるが…それは理不尽な係を命じられそうになり、そのまま命令に従う。

 

「なして!?意味が分からん!!普通、王様ゲームって、王様?…いや、王女様か。その王女様と何番の人じゃなくてさ!何番と何番が丸々っていうのがオーソドックスだとおもーー」

「ーーそこの迂愚、煩いわよ!早く、命令に従いなさい!あと五秒を数えるうちに、命令に背いた場合は、ALOであたし専属の強化素材集め雑用係に任命するわよ!」

「何それ、理不尽以外のなんでもない!」

「ゴー、ヨーン、サーン、ニー」

「あぁ!?くっ…もうぉっ!

えーと、姉御肌なところ。仲間思いなところ。鍛治にかける思いが誰にも負けてないところ。自分に厳しいところ。ムードメーカーなところ。意地悪なところが多いけど、それ以上に優しいところ。なんだかんでいって、乙女なところ。あと、照れると可愛いところ…かな」

「うんうん。ほらほら、あと最後の10個目は何かしら〜?」

 

“もう全部言い終わったぞ…”

 

焦った陽菜荼は唇をぐっと噛み締めると、ニヤニヤしている里香を真っ直ぐに見つめると真剣な声音でその最後の答えを言う。その答えを聞いた里香はポカーンとしていたが。

 

「最後はそんな里香の全てが好きだよ」

「へ?」

「聞こえなかったの?仲間思いで、誰よりも乙女な里香全てがあたしは好きだよって言ったんだ。鍛治にかける思いが強いところも自分に厳しいところがあるから、あたしは自分の武器をーー唯一無二の相棒を、同じくらいそう思ってる里香へと託せる。それはあの世界に生きていた人も、ALOで暮らしている人も思ってることだよ。だから、そんな里香が大好きだよ。ここにいるみんなよりもあたしはそんな里香が大好きだよ」

 

大真面目な顔して歯の浮くセリフを言ってのける陽菜荼に、里香は瞬時に顔を真っ赤に染めると大きな声を出して、陽菜荼を指差す。だが、陽菜荼は首を静かに横に振ると真剣な顔のまま告げる。

 

「なっ!?あんた、バカにしてるの!?」

「バカにしてないよ、本当にそう思ってる。そう思ってなかったら、こんなこと言わない。それは里香が一番、しってるでしょう?」

「〜〜ッ!!?もう、いいわよ。十個クリア!次行くわよー」

 

最後に真剣な顔を崩して、微笑む陽菜荼から里香は顔を背けると全員から割り箸を回収する。その際、陽菜荼と里香へと…主に陽菜荼へと矢の如き視線が注がれていたが、陽菜荼は全力で真っ正面から視線を逸らす。このゲームに参加すると決めた時から何故か、真っ正面が見れなくなった陽菜荼であった…。

かくして、二回目の王様ゲーム元い王女様ゲームでは、陽菜荼は4番になり、王女様は琴音となった。

 

「そうね〜。四番が王女様ーー」

「だから、なして!?琴音まで里香の真似しなくてもいーー」

「そこの迂愚、煩いわ!今の王女様は私なの!私がルールなの!」

「そんな事をいう傲慢な王女様は誰にも支持されないと思うよ、あたし…。それと、琴音が変なキャラへとシフトチェンジしちゃってる気が…」

「じゃあ、その嫌われ者の王女様を四番が慰めてよ…」

「…へ?はい?」

 

自分なりの王女様になりきろうと思い、変なキャラへとなる琴音へとツッコミを入れる陽菜荼。そして、そんな変なキャラとなってしまった琴音王女様は、愚民元い陽菜荼へと横を向きながら…恥ずかしそうに命令する。それにアングリと空いた口が塞がらない感じの陽菜荼へとポンポンと自分の横を叩く琴音王女様。陽菜荼は大人しく王女様の命に従うことにした。

 

「その…居心地は如何でしょうか?琴音王女様」

「うん、凄くいいわ」

「はぁ…良かったです…」

 

陽菜荼の膝へと頭を乗っけている琴音の頭を撫でる。自分と同じくらい癖っ毛の多い髪の感触を味わうように撫でる陽菜荼へと気持ち良さそうに目を細めていた琴音が、目を開けるとチラチラとせわしなく陽菜荼を見る。

 

「ねぇ、陽菜荼…迂愚はさ」

「…なんで、迂愚と言い直したのかはあたしには理解できそうにないんだけど」

「まあ、いいじゃない、細かいことは。迂愚はこんな私のどこが好きなのよ」

「はい?」

「だから…里香ばっかり言ってもらえて羨ましいとか思ったんじゃないのよ。ただ、迂愚がどうしても私のいいところを言いたいって言うなら言わせてあげようかなって…」

「はぁ…」

 

“やっぱり、こうなるんだね…”

 

陽菜荼は自分に向けて突き刺さる視線を感じながら、琴音の頭を撫でながら告げる。

 

「…初心者のあたしを見捨てずにあそこまで育ててくれた優しさかな?一番は。あとは〜うーん、お宝に向ける情熱、かな。あと、戦闘で暴走気味のあたしを上手くフォローしてくれるところ…でどうでしょうか?王女様」

「そうね…もうひとーー」

 

琴音が何かを言いかける前に、里香が止めに入る。そして、陽菜荼と琴音を離すと箱を二人へと差し出す。

 

「ーーはーい、ストップ!ストッーープ!!それ以上はダメよ!これからなる王女様の楽しみがなくなるわ」

「それ以上って何!?あたし、これ以上何をやらさせるの!?」

「まあまあ、迂愚。黙って、この割り箸をひきなさいな」

「あんたもう王女様じゃないだろ!」

「迂愚様、落ち着いてください。ほら、怖いことなんてありませんから、割り箸をひいてください」

「まさかのひよりまで、あたしを裏切るの!?」

「陽菜荼…いいえ、違ったわ。迂愚、煩いわ。ひよりのいう通りにさっさと引きなさい。みんなが待ってるのよ」

「詩乃の迂愚が一番胸にくるよ…、うぅ…。はいはい、ひけばいいんでしょう!」

 

既に疲労困憊の陽菜荼を尻目に3回目の王様ゲーム元い王女様ゲームが開幕しようとしていた…




開始直後、波乱に巻き込まれる陽菜荼さん。そして、そんな陽菜荼さんへと矢の如き視線を送り続ける詩乃さん…。

本当に御愁傷様です…陽菜荼さん。恐らく、これから先もあなたは波乱へと身を投じることになるでしょう…(汗)

次回は、三回目、四回目、五回目をかけたらと思います。王様元い王女様は…果たして、誰でしょうね(笑)

ではでは〜( ´ ▽ ` )ノ


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006 現実での女子会

王様ゲーム元い王女様ゲーム編の二話目は、読者の皆様の想像通り(?)の波乱が波乱を呼ぶ展開となっております。もちろん、その波乱に巻き込まれるのはヒナタだけなのですが…(汗)

今回は、王女様ゲームの第三回、第四回、第五回を書いております。果たして、王女様は誰なのでしょうか?そして、ヒナタへと下される命令は?

本編をどうぞ!


ヤケクソになりながら、割り箸をひいた陽菜荼だったが、その割り箸に書かれていたのは赤く塗られた先っちょではなく、先っちょに黒いマジックで2という数字であった。それを見て、陽菜荼の表情が目に見えて悪くなる。しかし、だからといって、この王様ゲーム元い王女様ゲームが終わるわけはなく、無情にも里香の「せーの」が部屋へと響き、陽菜荼は泣きそうになりながらもみんなへと自分の数字を見せる。そして、今回の王女様は、珪子であった。

珪子は陽菜荼の数字をジッと見ると、恥ずかしそうに頬を染めながら、陽菜荼へと命令する。

 

「えっと…2番さんがあた…王女様を膝の上に座らせてください。そして、出来れば…王女様の好きなところとかも…」

「珪子王女様。どうぞ、こちらへと」

 

右隣にいる珪子のしどろもどろの命令を聞きながら、陽菜荼は一歩後ろに下がり、足を組むと、ポンポンと珪子を自分の膝の上へと招く。

最初と二番目の経験から抵抗しても無駄と悟った陽菜荼は、王女様の命令を素早く実行して、次の王女様ゲームへと進めることに重点を置いていた。それ以外のものは、もう最初の頃に捨てた。

ので、珪子が遠慮がちに自分の上へと座ると、そんな珪子の頭をごく自然に撫でる。その際に、珪子がもぞもぞとくすぐったそうに動くので、陽菜荼もくすぐったくなってしまう。

 

「その…失礼します…」

「珪子王女様、そんなにもぞもぞ動かれるとこしょごったいんですが…」

「あっ、ごめんなさい…」

 

上目遣いで陽菜荼の方を向きながら謝る珪子の髪の毛を優しく梳いながら、陽菜荼は柔らかい声音で珪子の好きなところを述べる。突然始まった陽菜荼のセリフに珪子の戸惑いは目に見えて深くなる。

 

「謝らなくていいよ。珪子は小さくて可愛いよね、毎日癒されてます」

「へ?あの…」

「ドジっ子なところもあるけど、それは人一倍頑張ろうと思っている証拠だとあたしは思ってる。だけど、ピナとの連携は珪子だけのものだから…大切にして欲しい。ピナと珪子が一緒に戦ってるところを見てると癒されるからさ…ね?あとは、ん〜、そんなひたむきで頑張り屋さんな珪子はこれからあたしなんかよりもずっとずっと強くなるよ。そうなったら、二人っきりでどっかクエストとかいこうね」

「…ありがとうございます、そうなれるように頑張りますっ!」

「ん、その意気だよ」

 

自分の膝の上で小さく意気込む珪子をナデナデしながら、陽菜荼は柔らかく微笑む。そんな二人を遠くから見ていた他のメンバーは、陽菜荼をジト目で見る。

しかし、陽菜荼は珪子を撫でることに夢中な様子でみんなから向けられている不本意な視線に気づくことはなかった。そんななんとも言えない雰囲気が漂う中、里香が突然大きな声を上げる。

 

「はーい!ストップ〜!!三回目はここまでよ。はいはい、珪子はすぐに陽菜荼の上からおりなさい」

 

陽菜荼の上に座っている珪子を指差しながら言う里香に従い、陽菜荼の上から降りようとする珪子を何を思ってか、後ろから突然抱きしめた陽菜荼はびっくりしてこっちを見てくる珪子へと問いかける。そのセリフに、珪子は瞬時に頬を赤く染める。

 

「えー、別にこのままでもいいよ〜。ねぇ?珪子」

「え?あの…陽菜荼さーーあっ、迂愚さんがいいって言うなら」

「珪子も琴音と一緒で言い直すんだね…地味にショック」

「……あたしはあんたを思っていってるのよ。あんたには、詩乃のどす黒いオーラが見えないっていうのかしら?」

 

里香は自分の右隣に座る焦げ茶色のショートヘアと黒縁メガネが特徴的な少女・朝田詩乃から漂ってくるどす黒いオーラをひしひしと感じながら、冷や汗が背中を伝う中、珪子を今だに膝の上に乗っけて、楽しそうに頭をナデナデしてる陽菜荼へと憐れみの視線を送る。恐らく、右隣に座っている少女が王女様へとなった時はこの場所は地獄と化すだろう…。

 

“陽菜荼…どんまいだわ…”

 

里香は密かにそう思い、四回目となるくじをみんなへと配る。

そして、四回目の王女様となったのは虹架。案の定、指名されたのは、もちろん五番の陽菜荼であった。

しかし、その使命は今までと比べて優しいもので、一緒に歌を歌って欲しいというものであった。珪子を右隣へと下ろした陽菜荼は緊張した様子の虹架へと向き直ると、その虹架の右手を握る。続けて、視線で合図をすると息を吸い込み、二人同時に歌い始める。

 

「「♪〜赤い糸で結ばれた二人を照らして この恋が終わることなく続くように…」」

 

陽菜荼は虹架と共に歌いながら、思う。

“確かに、今までよりも優しい命令だけど…”

出だしを見ての通り、虹架がリクエストしたデュエット曲があまりにも鬼畜であった。

しかし、それくらいでへこたれる陽菜荼ではない。もう前の命令でこれ以上のことをさっきまでしでかしているんだ、もはや恐れるものなどない!

陽菜荼は吹っ切れたように、虹架の薄茶色の瞳をジッと見つめながら歌う。虹架は恥ずかしそうに目を逸らしていたが、陽菜荼はジッと虹架を見つめる。

 

「♪〜「君のことは俺が守るから」」

「♪〜「あなたのことは私が支えるから」」

 

最後に差し掛かり、ギュッと強く手を握り締めると、最後のフレーズを歌い終える。

 

「「♪〜いつまでも ずっと 永遠に寄り添っていこう」」

 

歌い終わり、拍手と共に送られる胸を抉る視線に陽菜荼はトボトボと自分の席へと座ると、五回目となるくじを引く。そして、五回目の王女様は直葉で、言わずとも指名されたのは1番の陽菜荼であった。

 

「一番さんが王女様を後ろから抱きしめて欲しい…かなって、その…」

「これでいいかな?直葉」

 

命令を口にしてしまって、羞恥心が襲ってきてしまったようで、尻窄みしていく直葉のセリフを遮るように陽菜荼は直葉の後ろへと回るとギュッと抱きしめる。突然のことで、ビクッと身体を動かした直葉だったが、すぐに陽菜荼へと体を預ける。

そんな二人を見て、里香は呆れ顔を作りつつ言う。

 

「だんだん躊躇も何も無くなってきたわね、あんた」

「みんながあたしをいじめるからね!」

 

里香のそのセリフに頬を膨らました陽菜荼はそう叫ぶと、陽菜荼は五回目の命令を全うしようと直葉をギュッと抱きしめるが、その際にむにゅ、と左腕に触れるものがあり、陽菜荼はそれを確認するために下を向く。そして、その些細な振動でも揺れる年不相応に実った双丘。プルンプルンと揺れるそれを思わず、ガン見してしまう陽菜荼。

“にしても…大きいな…、いつ見ても…”

 

「あっ、あの…陽菜ーー迂愚さん、見つめられると恥ずかしいです…」

 

陽菜荼の視線に気づき、恥ずかしそうに身をよじる直葉。そんな直葉の言葉を夢うつつに聞きながら、陽菜荼はついにポロッとそれを言ってしまった。

 

「ごめんね、直葉。そんなにガン見するつもりはなかったんだ…、ただいつ見ても、直葉の胸って大きいな〜って思って…」

「〜〜っ!?」

 

陽菜荼の発言に、顔をゆでダコのように真っ赤に染める直葉。上目遣いで睨んでくるその顔を見ながら、陽菜荼はやっと自分の過ちに気づいた。だが、時は既に遅し。陽菜荼へと周りにいるメンバーが批判の視線を向けてくる。その視線に居たたまれなくなる陽菜荼は罵詈雑言を投げかけてくるみんなへと泣きそうな顔を浮かべる。

 

「わー。迂愚、さいてー」

「あたしも里香さんの言う通りだと思います!最低ですよ、迂愚さん」

「迂愚、最低よ、最低」

「迂愚様、最低です!女性をそんな目で見るなんて」

「迂愚くんがそんな人だとは思わなかった。最低だよ!」

「やめてよ、みんなでこんな時だけ一致団結して、批判してくるの!?」

「最低よ、陽菜荼。人として底辺だわ」

「詩乃はなんでこんな時だけ名指しで切りかかってくるのさ!」

「…うん、流石にさっきのは最低かな、迂愚ちゃん」

「今まで中立を保っていたアッスーまで、あたしを批判だと!?」

 

ガクッと崩れ落ちる陽菜荼から直葉を助けるように立ち回る他のメンバーに胸をグサグサと短剣で傷つけられ、陽菜荼は一人部屋の隅へと追いやられる。そして、里香は陽菜荼へと批判の視線を向けながら、くじを片付ける。

 

「この王女様ゲームはここでおしまいよ。どっかの変態な迂愚がよからぬことを企んでるかもしれないから」

「そうね、しまってしまいましょう」

「まだ、時間があるし…。もう少し、遊べるね。何する?」

「何かあるかしら?」

「………」

 

里香や他のメンバーの会話を聞きながら、陽菜荼は膝を抱えて思う。

“理不尽だ”と……




虹架とヒナタが歌ったデュエット曲は『赤い糸 feat.ハジ→』という曲です。
いい歌詞ですよね…、陽菜荼には鬼畜なリクエストですが…(汗)

そして、突然の終わりを迎えた王女様ゲームですがーーまぁ、理不尽ですよね、全くもって…(苦笑)
しかも、同性なのに、みんなからあんなに批判されるとは…もう、みんなの中ではヒナタは女性ではなく男性なのやもしれませんね(笑)

では、次回は新しいゲームの回となります。ヒナタは参加するかどうかはわかりませんね、みんなのご機嫌次第です(笑)

暑い日が続きますので、読者の皆様 お身体にお気をつけて。ではでは〜( ´ ▽ ` )ノ


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007 現実での女子会

すごい久しぶりに、こっちを更新しますm(_ _)m

新しいゲームですが…もしかしたら、あっという間に終わってしまうかもしれません(笑)

そして、そのゲームが終わった後にあるのは…陽菜荼にとって、天国なのか…それともーー?

本編をどうぞ!


*今回も読みにくいです


「……みんながしろっていたんじゃん…。…あたし、悪くないじゃん…」

 

と部屋の隅で一人膝を抱えて、むくれている陽菜荼には誰も目もくれず、残り時間を過ごすための遊びを探す。その時、押入れを探していた詩乃がみんなへとある物を差し出す。

それは黒と白の縞模様が特徴的なカードであり、そのカードを見たみんなは目に見えて、顔を明るくする。

 

「トランプでもする?」

「トランプ!へー、いいじゃない」

「はい、いいですね」

 

詩乃が持ち出した二つのトランプを見て、大騒ぎするみんなを膝を抱えながら見ている陽菜荼の顔はプクーとフグのように膨らんでおり、明らかにご機嫌が斜めと分かるものであったが…遠目でも、近くでも、その《あたし不機嫌なんです》オーラを醸し出す陽菜荼は明らかに幼い子供のようであった。

 

「………」

 

そんな怒っているのに可愛い陽菜荼へと視線を向けた里香は、プクーと膨れている陽菜荼をからかうような声音で言う。

その里香を指差して、立ち上がる陽菜荼へと里香はニンヤリと笑うとトントンと自分横を叩く。

 

「さて、このトランプゲームだけど、やっぱり賞品がないと楽しくないわよね〜。って、ことで勝った人は一日、陽菜荼を好きにできるってことでいいわね」

「いや、待て待て!なんで、またあたしが犠牲にならんといかんのか!」

「いいじゃない。減るもんじゃないでしょう?ほらほら、ここに来なさいな。新しい勝負が始まるわよ」

「減ってるよ!さっきまで、そこで膝を抱えていたでしょうが!あたしはやらん!」

「やらないと不戦敗であんたがまた罰ゲームとなるのよぉ〜?」

「〜〜ッ!!」

 

挑発的な里香の声に陽菜荼は立ち上がると、激怒で顔を赤くしながら里香と詩乃の間にドスンと腰を下ろす。プクーと膨れたままの陽菜荼の頬をツンツンと詩乃が突きながら、慰めるがそれくらいでは陽菜荼の溜まりに溜まった不満は発散できない。

 

「もう、そんなに怒らないでよ、陽菜荼。みんな、陽菜荼とゲームがしないのよ」

「…ふーんだ。そんなこと言って、またあたしをみんなで叩きのめすんでしょう?…嘘ばっかり…。詩乃もみんなも…だっい嫌いだ」

 

プイとみんなから顔を背けた陽菜荼がそういうのを聞いて、詩乃は肩をすくめ、里香や女子会参加メンバーは少しやりすぎたと反省した。

そして、反省した里香が発したセリフが以下の通りだ。それに素早くツッコむ陽菜荼。

 

「じゃあ、陽菜荼が勝ったら、ここにいるメンバー全員がキスしてあげるわよ。それでいいでしょう?」

「いいわけあるかっ!!何がどうしたらそうなるの!!あたしは平穏を求めてるの!!」

「何が不満なのよ。こんな美少女たちが代わる代わるキスしてくれるよ?あっ……もしかして、陽菜荼ってば…あたし達にそれ以上のことを求めてるの?わーやらしー」

「……もう、いいよ…好きにして……」

 

わざとらしく右手を口に当てて、そう言う里香に、もう既に疲労困憊の陽菜荼は疲れた様子で項垂れると…忽ち、トランプ三番勝負が幕を開けたのだった…

 

 

γ

 

 

最初の勝負はババ抜きで、結果は何故か詩乃のババをぬき続けた陽菜荼と、また何故かババが集まってきてしまったひよりによるタイマンとなった。

 

「んー、こっち…かな…?」

 

陽菜荼がぬく番となり、ひよりの顔色を見ながら、右左と左手を動かしていく。ちなみに、陽菜荼の手元に残っているのは♡A。

ということは、このどっちかが何かのace(勝利の札)であり、joker(敗北の札)であるということーー

 

“んー、マジでわからん…”

 

さっきまでの狼狽した姿とは裏腹で、陽菜荼の顔を見つめてニコニコ笑う作戦に出たひよりから外れ(joker)を探し出すことは不可能と判断した陽菜荼はヤケクソで引き、その手に握っていたものはーー

 

「………」

 

(…あらあら、怖い顔したピエロさんが玉乗りをしていらっしゃる…)

 

ーー外れ札(joker)であり、最後の最後でそれを引いてしまったショックで♡の当たり札(ace)を守りきれず、敢え無く、ひよりに敗北した陽菜荼はぐっと唇を噛みしめるが…

 

「ダウト。ごめんね、陽菜ちゃん」

「くっ…どうして…。完璧だったはずなのに…っ!」

「……いや、バレバレでしょう。あんた、ニヤニヤしてたじゃない」

「ふーんだ。里香とは話さない」

「あんた、根に持つと面倒くさい性格ね」

「ふーん」

「はいはい。始めましょう」

 

その後に続く、ダウトというゲームでは明日奈に名だしされ、嘘をついていた陽菜荼がみんなの出していたカードを引き取り、最後の最後まで集中攻撃された陽菜荼が結局負けとなり…

 

「……」

「えっと…ごめんなさい、陽菜荼さん…。あたし、本当は…」

「……ううん、いいんだよ…。珪子は何も悪くないもんね…。それより、優勝おめでとうね……」

「うぅっ、本当にごめんなさい!優勝してしまってごめんなさい!陽菜荼さんっ」

 

最後に残った神経衰弱に至っては、一個も札が取れず…かつてないほど落ち込む陽菜荼に優勝した筈の珪子が謝るという不思議な風景が広がっていた。

それには、流石に気の毒に思うみんなであったが…ルールはルール、守らなくてはならない。

トランプ三番勝負の景品となった『一日だけ、香水 陽菜荼を自由に出来る券』を受け取った珪子は、ひたすらものけのからとなった陽菜荼に謝りながらも、明日二人っきりでお出かけできることに心を踊らしていた……




というわけで、かなり駆け足でしたが……トランプ三番勝負終了です( ̄^ ̄)ゞ

結果は、ご覧の通りの散々な結果となってしまいましたが…陽菜荼にとって、いい意味でも悪い意味でも(恐らくコッチが多め)良い思い出が増えたことでしょう(笑)

さて、次回はトランプ三番勝負の景品となった、まぁ簡単にいうとデート券を獲得した珪子さんとの話となってます…

そして、恐らくそのデート回の前半、後半と分けて…この女子会編は終わりをなりますm(_ _)m

なので、あと二話楽しんでもらえればなぁ〜とおもいます( ̄^ ̄)ゞ




また、少しですが…雑談を…(汗)

次々と新しい情報が出てきている『フェイタル・バレット』ですが…

主人公は、キリトやシノンではないのですね(微笑)

自分でカスタマイズ出来るのは、とても魅力的ですよね!
…私がカスタマイズしたキャラは、陽菜荼みたいなバーサーカーみたいなキャラになっちゃいそうです…(汗)どうも、ガードって苦手なんですよね…(苦笑)

また、他のゲームオリジナルキャラも出てて欲しいですよね(笑)
みんな、それぞれ個性的なプレイスタイルになりそうです(笑)

以上、雑談でした〜(´∀`*)


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008 現実での女子会

また、すごく遅くなってしまいました…。

本当にすいません…(汗)

また、今回もかなり読みづらい話となっている可能性大です。

ですが、その文 甘々要素をふんだんに盛り込むつもりです…残念なのが、相手が詩乃さんじゃない事なんですよね…(汗)


※シリカさんこと珪子さんの家は、わたしのイメージとなってます。また、服装も…シリカさんってああいう系統似合う気がするんですよ(*´꒳`*)


西歴2025年11月15日土曜日。

秋も深まったその日の早朝、《綾野》という名札が掛けられている家では大騒ぎとなっていた。

二階から響くドタバタと慌てた様子の足音に、一階で優雅にコーヒーに口をつけていた男性が新聞紙へと視線を向けながら、近くに腰掛けているエプロンをつけた女性へと笑いかける。女性もカップを傾けながら、男性へと微笑みかける。

そして、二人はいつにまして騒がしく、どこか幸せそうにも思える愛娘の足音を聞きながら…ゆったりと流れる朝の時間を楽しんでいた。

 

両親がゆったりと朝ごはんを食べている中、VRの中では《シリカ》というアバターネームを使っている二人の愛娘・珪子はベッドから飛び起きると勉強机に座り、茶色い髪へと櫛をとおしていた。

愛用している蒼いシュシュでツインテールにすると、右左と首を捻っては変なところはないか?と確認する。じっくりと最終確認を終えた珪子は鏡の中の自分へとうなづくと、今度は服選びへと精を出す。

 

「…これでいいのかな。おかしくないかな?」

 

今きている服装は水色を基調として、白のフリフリがあしらわれているロリータ系統のワンピースで、頭の上にはちょこんとワンピースと同じ色のベレー帽が乗っかっている。

鏡の前でポーズを決める珪子は不安な表情を浮かべているが、母にも珪子はこの服が似合うとお墨付きを貰ったので、もう一度くるりと鏡の前で一回りして悪いことがないところがないことを確認の上、珪子は手提げを肩にかけると待ち合わせ場所へと向かいはじめた…

 

 

γ

 

 

待ち合わせとなった台東区御徒町の《ダイシー・カフェ》前には、既に待人の姿があり、珪子は駆け足でその人に近づくと大きく深呼吸して、上目遣いでその人を見る。

 

「…すいません、陽菜荼さん。待たせてしまいましたか?」

「ん?いいや、あたしもついさっき来たところだからさ。そんなにあわてなくたって良かったのに」

 

そう言って、ニッコリと笑ってくれる何気ない優しさにもドキッと胸が高鳴ってしまうのは、珪子が待人・香水 陽菜荼に好意を抱いている証拠であった。

ドキドキと脈立つ心臓に右手を添えながら、珪子は改めて陽菜荼の服装を見る。

癖っ毛の多い栗色の髪を後ろで緩く結び、黄色い布地に黒と白の線が入っているカッターシャツの上に橙のパーカーを羽織り、下は黒のチノパンを履いている。

ちょくちょく見かけるラフな服装よりもしっかりした服装に、もしかしたら陽菜荼もこのデートを楽しみにしてくれていたのではないか?という淡い期待と普段の10割増しでカッコいい陽菜荼の姿に珪子のドキドキ感が増している中、陽菜荼が視線を感じたのか、癖っ毛の多い髪を掻きながら照れ臭そうに答える。

 

「本当はもっとラフな格好が良かったんだけどね、詩乃がうるさくって…。デートをするんだから、もっとちゃんとした服装をしなさいって」

「そうなんですか…。その…とってもかっこいいです、陽菜荼さん」

「ん、あんがと。そういう珪子も可愛いよ。水色のワンピースも素敵だけど、あたしはベレー帽が可愛いと思うよ。珪子はおしゃれさんだね」

「…ありがとうございます…。その陽菜荼さんは、あたしの私服の中ではこのコーディネートが一番好きですか?」

「んー、そうだね。珪子の私服の中では一番好きなコーディネートかも。まぁ、珪子はどんな服を着ても可愛いと思うけどね。あたしはそんな珪子が羨ましいよ」

 

そう言った陽菜荼は珪子の頭を撫でると、街の方へと視線を向ける。

 

「さて、それじゃあ…まず、ブラブラとその辺を歩きましょうか?」

「あっ、はい!」

 

身体の向きを変えて歩きだした陽菜荼の後をとことこと付いて行こうとした珪子の視界へと細っそりした指が綺麗な左手が差し出される。

それに戸惑い、目をパチクリする珪子へと陽菜荼がきょとんとした様子で問いかけてくる。

 

「ーー」

 

“エ?コレハナンデスカ?”

 

「珪子、どしたの?手、繋がないの?」

「…ぃ…いいんですか?」

 

小動物のようにピクピク震えながら、陽菜荼の左手を握らまいか、握ろうかで悩む珪子へと陽菜荼が笑いかける。

 

「なんで、そんなにおっかなびっくりなの?これは、珪子にとってのご褒美なんだから。満喫しないとね?」

「で、ですが…」

「いいってば、詩乃にも許可貰ってるし。ほら、手を貸して」

 

陽菜荼の説得を聞いても躊躇する珪子の右手を少々強引に奪った陽菜荼はさも当然というように、珪子の右手へと自分の左手の指を絡める。

それにポカーンとしている珪子は内心、穏やかではなかった。

 

“えぇええええ!!!?恋人結びですか!!!?いいんですか!!!?陽菜荼さん!!!?詩乃さんという人がいるのに!あたしと!!?”

 

といった具合にテンパっている珪子の事など知る由もない陽菜荼は、珪子と繋いでいる左手の方を見ると心ばかしか頬が赤く染まっている珪子へと視線を向ける。

そして、申し訳なそうな声音で珪子へと謝ると珪子がブンブンと首を横に振る。

 

「冷たくない?珪子。あたしの手」

「いいえ、全く!」

「そっか、なら良かった。あたしって、冷え性でね。少し待ってる間だったのに、すっかり指先が冷えちゃって…。だから、ごめんだけど…珪子、暫くの間でいいからこうして暖めてくれないかな?」

 

そう言って、チラッと珪子の方を見て照れた様子で笑う陽菜荼にクリティカルヒットした珪子はテンパったまま、更にテンパった結果、ギュッと陽菜荼の左手を握ってしまう。

そんな珪子に苦笑いを浮かべた陽菜荼は遠くに見える自販機を指差すと二人でそこへと歩いていく。

 

「はっ、はい!こうですかっ」

「それはちょっと握りすぎかな?」

「ご、ごごごごめんなさい!!」

「大丈夫だよ。おっ、自販機発見!なんか、飲む?」

「えっと…陽菜荼さんと同じのがいいです」

「って事は、コンポタージュか」

 

自販機についた陽菜荼はポケットから折りたたみ式の財布を取り出すと二本のコンポタージュを購入する。

それを片手に持ちながら、陽菜荼と珪子のデートが始まったのだった…




前半、後半で終わらせるはずが…3話構成となりそうです。本当に皆様には迷惑かけます…

また、今更ですが…オーディナルスケールの要素を入れておけばと後悔する私でありました(汗)
何故かというと、カラオケのシーンでユナの歌を入れて見たいなぁ〜と考えておりまして…

なので、この話は書き直すかもしれないですm(__)m



近頃は、【まどろみの約束】【優しさの理由】【花咲く勇気】【Draft folder】などの素敵な曲に出会えることが多く…筆がいつもよりかは進みます。
なのに、こんなに遅いのは…どうしようもないですね(汗)


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009 現実での女子会

個人的には今回の甘々度は100%の内、80%くらい詰め込めたと思います!

なので、皆様も久しぶりにカッコいい陽菜荼にドキドキして貰えればぁ〜と思います!

では、今回も読みにくいかもしれませんが…本編をどうぞ!



※作者は東京に行ったことはなく、イメージのみで書いてあるため…多少おかしいところがあるやもしれません(汗)


コンポタージュを片手に街を練り歩いた陽菜荼と珪子が結局のところ行き着いたのは、待ち合わせに指定していた《ダイシー・カフェ》から徒歩30分のところにあるショッピングモールであった。

そこに立ち寄った二人は上の階から攻めていくことに決めたらしく、エレベーターへと乗り込む。

しかし、既に中に人が居たうえに二人の他にも10名ほど乗り込んだ為、エレベーターはキッツキツとなっていた。少し動けば、他の人の肩に当たるほどに狭いエレベーターの中で意識してボタンを押す向かい側の角を陣取った陽菜荼は珪子を他の客---万が一の痴漢対策---から守るように角へと押しやると、自分は壁へと右腕を置くと左手で珪子の華奢な背中を自分の方へと密着させる。

その際、珪子の鼻腔をシトラス系の酸味と甘みがミックスされた香りが刺激し、思わず上を向くと陽菜荼が珪子へと苦笑いを含めた複雑な笑みを浮かべていた。

 

「…うぅ…きつぅ〜…ごめんね、珪子。狭くない?」

「いえっ!ぜんっぜん、むしろどんとこいって感じです」

「ふっ…何それ。流石に珪子を押しつぶすなんてことはしないよ。ほら、この階で降りるから…右手貸して」

「は…はい」

 

余りの人の多さにエレベーターで最上階まで行くのを躊躇った陽菜荼は3階になった途端、珪子の右手を引っ張ってエレベーターから降りる。

人混みから解放された陽菜荼は珪子の右手を繋いでいる左手を恋人結びに変えると颯爽と歩き出す。

暫く歩くと雑貨屋さんや洋服屋などが現れ、自然と珪子の身体が陽菜荼よりも前々へと進み出す。目の前に広がる可愛い洋服やぬいぐるみ(宝の山)を見渡して、目をキラキラさせる珪子を見て、やれやれと陽菜荼はひっそりと肩を上下にさせた。

 

 

γ

 

 

「陽菜荼さん、見てください。これ、可愛いですよ!」

「んー?おっ、本当だね。可愛い」

 

エレベーターから降りて、すぐの雑貨屋さんへと足を踏み入れて…早2時間が経過していたが、珪子の好奇心はまだ満たさせることはなく…パタパタとあっちらこっちらに出向いては、ブラブラと頭の上に両手を組んで歩く陽菜荼へと見せに行っていた。

いつもの数倍キラキラした光を放つ紅の大きな瞳に見つめられ、陽菜荼は連れていかれたところにあるネックレスを見ていた。

何気ない感じで、無造作に吊るされたそのネックレスは確かに女子力皆無の陽菜荼から見ても可愛いデザインと言えた。

そのネックレスというのは、鉄で出来た鎖の先にリボンと猫の形を象った飾りが付いている。リボンが真っピンクなのも珪子の心をくすぐっているのかもしれない。

 

“ふぅ〜ん、一万ちょいか…。つぅーことは、にゃんこさんとリボンにはめ込まれているあのキラキラしたものは宝石かな?”

 

値段を見て、チラッと珪子の方を見た陽菜荼の視線に気づいてない様子で値段とネックレスを熱心に交互に見ている珪子の頭をワシワシと撫でた陽菜荼は、びっくりした様子で見上げてくる珪子へと笑いかける。

 

「そのネックレス買ってあげるよ」

「えっ…いえ、いいですよっ!?陽菜荼さんにそこまでして貰うわけには…」

「いいって、あたしが珪子に買ってあげたいんだから」

 

そう言って、抵抗する珪子からネックレスを奪った陽菜荼はあっという間に会計を済ませると、申し訳なそうにしている珪子の後ろへと回り込むとさっき買ったばかりのネックレスを付けてあげる。

そして、ネックレスを付けた珪子を見て、グッと左手の親指を立てた陽菜荼はドヤ顔で下のようなことを言う。

 

「ん!すっごく似合うよ、珪子!流石、あたしが見立てただけあるね!」

「そうですか?あたしには勿体無いような気がして…ならないんですが…」

「もう、珪子は遠慮深いんだからぁ〜。さて、そろそろ12時になるから…ご飯にしよ?」

 

陽菜荼がベタ褒めしても、やっぱり今の今まで奢ってもらってばかりと言うのが気がひけるのか…自信無げにそう尋ねる珪子の右手を握った陽菜荼はにこにこしながら、食堂へと歩いていく。

その様子から本当に気にしてないと感じが伝わってきて、珪子もこれ以上は気にせずに陽菜荼との折角の二人っきりのデートを楽しもうと小さく意気込む。

 

 

γ

 

 

「きたきた!オムライスあぁーんど唐揚げっ!!」

「陽菜荼さん、声が大きいですよ。みんな見てます」

「う…ごめん、どうもオムライスとなると興奮してしまう…」

 

同じ階にあった食堂で《オムから特大盛り》なるものを頼んだ陽菜荼はさっきまでの凛々しい雰囲気がすっかり幼い子供のような雰囲気へと成り代わっており、珪子は大好物を前にはしゃぐ陽菜荼へと小声で注意する。

珪子からのお叱りにしょんぼりする陽菜荼が可愛らしく、珪子はつい口元が緩んでしまう。

因みにそんな珪子が選んだのは《エビピラフ》なのだが、この食堂はサービスがいいのか…ワカメスープとちょこんと小さな皿でデザートまで着いてきた。それだけならいいのだが…量が多めときた。珪子は心の中で“これ…食べれるかな?”と密かに思い、汗を一筋流す。もちろん、その汗は食べた後に体重計に乗る際にも流れるであろう。

そんな珪子には目もくれず、陽菜荼は真っ赤なマグマと真っ白な湧き水が溢れ出す真っ黄色い山の攻略を進めていた。別の皿で付いてきた唐揚げもパクパクと美味しそうに食べていく陽菜荼の頬が赤と白に染まっていくのを見た珪子は思わず「ふふ」と笑ってしまう。

そんな珪子にキョトンとしている陽菜荼の頬を珪子が手に持ったおしぼりで拭いていく。

 

「陽菜荼さん、ほっぺたにソース付いてますよ。拭きますから、じっとしててくださいね」

「んっ、あんがとね、珪子」

「どういたしまして」

 

そこまでしたところで、珪子は自分がしでかした事に今更ながらあたふたし始める。

 

“はっ!?あたし、なんて事を!ひっ…ひひひ陽菜荼さんの頬を拭いてあげるなんて…っ!まるで、これって…こいびーー”

 

そこまで考えてしまい、珪子の顔がボッと一気に真っ赤に染まる。そんな珪子を見た陽菜荼がある事に気付き、珪子へと声をかける。

 

「…!珪子、左頬をこっちに向けて」

「へ?こ…こう、ですか?」

「ん、そうそう」

 

そう言って、珪子の左頬へと〈自身の顔〉を近づけた陽菜荼はパクッと珪子の頬についていたエビピラフのご飯粒を口へと含む。

その際に陽菜荼の唇が僅かに触れた左頬からその感触を感じとった珪子は余りにも突然起こったイベントに脳が思考するのを諦めて、フリーズ状態へと陥っていた。

そんな珪子の様子に首を傾げながらも、フリーズしてるとは気づかない陽菜荼は三分の一となった黄色い山を胃へと収めていった…




え?詩乃さんよりも珪子さんの方がヒロインっぽい?
いえいえ、何をおしゃっているのですかぁ〜、読書の皆様方。

この小説は詩乃さんがメインヒロインですよ?(´∀`*)

珪子さんの方がヒロインっぽいなんてあるわけ……な…い……(大汗)
…………うん、今回の話は少し陽菜荼をイケメンにしすぎたのと…甘々要素を入れすぎたかな?(苦笑)



そして、次回はもっと甘々になる予定なので…詩乃さんファンの皆様、本当に申し訳ありませんっ!!(汗)

オマケで…【オムライスデート】なるものを更新しようと思うので、どうかそれでご勘弁下さいm(_ _)m




そして、こっから先には独り言なんですが…

アリゼーションのアニメで《友永 朱音》さんと《水瀬いのり》さんが出演してくれないでしょうか…?
サブキャラでも構わないので…(汗)

saoでこの二人の方の声が聞きたいですっ!

というのが…saoファンとしての私の心の声だったります…(´∀`*)


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010 現実での女子会(完)+αオムライスへの愛

長かった《現実世界での女子会》も終わりを迎えました。ここまで読んでいただいた多くの読者の皆様、本当にありがとうございますm(_ _)m

今回も前回と引き続き、珪子さんとのデート回なんですが…甘さは前回と同じか、少なめかもしれません(汗)

そして、今回も毎回のごとく…読みづらいです、すいません…

また、最後にオマケもあるので…それもお楽しみにしていただければと思いますっ!!


では、本編をどうぞ!


「いっやぁ〜、食った食った」

 

そう言って、ポンポンと自分のお腹を空いている右手で撫でる陽菜荼へと何か言いたげな顔をしている珪子が右手を引かれて続く。

珪子の頬がまだ赤いことから、食堂での〈あの事件〉の衝撃から立ち直れてないと安易に想像がつく。

実際、まん丸な赤い瞳は薄っすらと涙の層を張ってあり、繋いでいる右手は珪子の羞恥心を表しているかのようで時折、小刻みに震えている。

 

“あぁー。少しやりすぎちゃったかな…?”

 

チラッと珪子を見た陽菜荼はそんな事を考えながら、用事が済んだショッピングモールを後にする。

 

そして、ブラブラと街を歩いている最中に珪子が“カラオケで歌いたい曲がある”と言っていた事を思い出し、陽菜荼は未だに立ち直れてない珪子を連れて、近くにあったカラオケ店へと入っていく。

個室に入り、先に着いて、歌を選び出した頃から珪子の調子が戻り…そのあとは珪子の独壇場となっていった。

 

「それが君の本音(ピュア)なとこ〜♪」

 

マイクを握り、ノリノリで歌う珪子の側で陽菜荼がマラカスをジャカジャカとリズミカルに鳴らしている。

時折、合いの手とハモリを入れながら、珪子が連続で5曲歌い終えると頭をぺこりと下げて、陽菜荼の隣に座る。

 

「…ふぅ」

「珪子、さいこぉー!珪子、ぷりてぃー!かわいいよぉー!!」

「ありがとうございました」

「おつかれ〜」

 

流石に5曲連続は疲れたらしく、珪子がタブレットを陽菜荼へと見せながら問いかけてくる。

それを苦笑いを浮かべて、やんわりと断った陽菜荼を見て、珪子が落ち込んだ様子で肩を落とす。

どうやら、自分ばかり楽しんでいるのが心苦しいらしい。

陽菜荼はそんな珪子の気を逸らそうと、さっきから疑問に思っていた事を問いかける。

それが珪子の趣味スイッチとなるとも知らずに…

 

「陽菜荼さんは歌わないんですか?」

「あたしはいいや。あんまし、歌とか好きじゃないし…」

「…そうなんですか」

「……。ごほん。えぇーと、さっき 珪子が歌ってた曲って何?」

「へ!?陽菜荼さん、知らないんですか!!」

 

身を乗り出して、問いかけてくる珪子の普段よりも興奮した様子に陽菜荼は身を引きながら…びっくりした様子で珪子の質問に答える。

身を引く陽菜荼に自分が身体を乗り出していた事に気付いた珪子は照れた様子で頬を赤く染めて、ボソッと呟く。

 

「お…急に食いついてきたね…。知らないのは事実だけど…」

「す、すいません…。ユナちゃんのことになると…あたし、どうも制御が効かなくて…」

「いいよ。それだけ、そのユナ…ちゃ、ん?

が好きって事だからさ。多分、珪子はあたしなんかよりも、そのユナちゃんとやらが好きなんだろうねぇ〜。いやぁ〜、それは焼けますなぁ〜。

なんか可愛い妹を取られたみたいで」

 

そう言って、癖っ毛の多い栗色の髪をかきながら、あははっと明るく笑う陽菜荼を見て、珪子が頬をぷくーと膨らませる。

赤い瞳も何か言いたげに陽菜荼を睨んだままであり、陽菜荼はその時自分が何か大きな過ちを犯した事を気づく。

 

「むぅ」

「え…と、あたしは何を間違えたんでしょうか?珪子さん」

 

そう恐る恐る伺う陽菜荼を一瞥した珪子はそのまま、そっぽを向いてしまう。

弱った陽菜荼はポケットからある物を取り出す。

 

“本当は帰り道で渡そうって思ったんだけど…”

 

そっぽを向いている珪子に近づいた陽菜荼は珪子の髪を結ぶ蒼いシュシュを取ると、包み紙から取り出したものをシュシュがあった場所へと結んでいく。

それには珪子も驚いたらしく、振り返ろうとするので陽菜荼が優しく声をかける。

 

「珪子、もう少し待ってね」

 

細っそりした指で珪子の髪を掬い、見慣れた手つきで髪を結んだ陽菜荼は蒼いシュシュを珪子へと返す。そして、カバンから手鏡を取り出すと珪子へと差し出す。

それを受け取り、それを覗き込んだ珪子が見たものはーーまん丸な赤い瞳を驚きの波で揺らし、茶色い髪を《蒼と白い布を基調に銀の小竜のキーホルダー》が着いたシュシュが結ばれている少女の姿だったりした。

珪子が身動きするたびに揺れる小竜はここにはいないデスゲームと化したあのVRゲームを生き抜いた相棒の姿によく似ており、自然と頬が緩む。

そんな珪子の姿を見て、機嫌が直ってくれてよかったと肩を通す陽菜荼へと珪子がそのシュシュに触れながら、問いかける。

 

「陽菜荼さん、このシュシュ。どこで買ったんですか」

「ショッピングモールだよ。珪子がウロウロしてる時にふと目に入ってね。珪子に絶対似合うって思ったんだ」

「ありがとうございます。このシュシュもネックレスも…」

「いいって。…!珪子、髪になんかついてるよ」

 

頭を何度も下がる珪子の普段の様子に、陽菜荼はひらひらと手を揺らしながら…何かを思いついた様子で意地悪な笑みを浮かべると、珪子の髪へと触れる。

珪子はびくっと肩を震わせながらも、陽菜荼がすることを受け入れている。

そんな珪子の前髪をかきあげた陽菜荼は意地悪な笑みを更に強くさせると、珪子のおでこへと《唇を落とした》のだった。

 

「#/&@!?#☆$€5÷$€6÷・=〆々〆」

 

ちゅっ、とやけに大きく響くリップ音に珪子の顔はみるみるうちに真っ赤になり、大きかった瞳はぐるぐると渦巻きを作り出す。そして、終いには、プシューと頭の上から湯気が溢れ出す。

そんな珪子の慌てふためきっぱりに、さらなるドッキリが成功したことを喜んだ陽菜荼はニヤニヤと笑いながら立ち上がるとそのまま、個室を出て行ってしまう。

そんなに陽菜荼の後を珪子が追いかける。

 

「さぁ〜て、珪子のいい顔が見れたので…お開きといたしましょう」

「なっ、陽菜荼さん!?待ってくださいぃ〜」

 

その後は、陽菜荼が珪子の家まで無事に珪子を送り終えると…自分ものんびりとマンションへと帰って行ったのだった。

以上で、珪子と陽菜荼の長かったような短かったような1日だけのゲームが終わりを迎えたのだった…

 

 

 

 

ー現実での女子会・完ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜+α・おまけ【オムライスへの愛】〜

 

無事、珪子とのデートを終えた陽菜荼はある事に悩んでいた。

それはここ最近、恋人かつ同居人の朝田詩乃と《あるデート》を行えてなかった事だった。

もちろん、それをやらなくては死ぬとかいうわけではない。むしろ、はっきり言ってしまえばしなくてもいいのだ。

 

だがしかし、陽菜荼は我慢の限界に達していた。

 

もっというと《ある成分》が不足気味であった…。もちろん、陽菜荼が生きて行く上で、一番大事で大切なものは詩乃である。それはこれからも今からも変わりはしない…。

そう、変わりはしないのだが…そんな詩乃と同様に、陽菜荼が心の底から愛情を注ぎ、元気をもらっているものがある…

 

それはーーオムライスである!

 

そう、オムライス。そこで呆れてしまっている人も是非聞いてほしい!

多くの人はたかがオムライスで、と思うであろう。だがしかし、陽菜荼にとってオムライスは週一…いいや、週七で食べておかないと元気が出ないものなのである。

例えば、マヨラーと呼ばれる人にとってのマヨネーズはかけがえないもの。唯一無二のものであるはずだ。それを持っていなければ、うずうずする人も居るであろう。

まさにそれなのだ、陽菜荼にとってのオムライスというものは!

あのトロッとした黄色い膜を破り、出てくる塩胡椒とケッチャップで味付けしたチキンライスは今まで見た料理よりも美しく、赤と黄色のコントラストがまたしても陽菜荼の目を引きつける。

そして、何よりもソースの種類の多さにびっくり仰天なのである。ケッチャップにクリームソース、きのこのあんかけなどなど…また、オムにぎたるものもあるらしく、陽菜荼はここ最近はオムライスのソース種類の制覇を目論んでいる。

それに合わせて、オムライスと同格ーーいいや、それ以上の恋人とのデートも合わされば、陽菜荼の幸せ度はMAXと安易に達することになる。

 

なので、陽菜荼はニコニコと笑いながら、タブレットを操っている詩乃へと後ろから抱きつく。

 

「というわけで、オムライスデート行こうよ!詩乃っ♪」

「いやよ」

「まさかの即答っ!?」

 

ガクっとベットへと倒れ、おいおいと嘘泣きを始める陽菜荼へと溜息をつきながら…詩乃が見ていたタブレットを置くと、何故嫌なのかを告げる。

 

「嘘泣きしても行かないからね、私。ヒナタの食欲とオムライス愛に付き合っていたら、私の胃が何回あっても足りないわ。

そんなに食べたいなら、私が作ってあげるから。それで我慢してちょうだい」

 

妥協して、それくらいならいいかなぁ〜と思い、発した言葉にさっきまでおいおいと泣いていた陽菜荼の顔色が一気に良くなる。

 

「…っ!!!ほ…んと?」

「ええ。だから、一緒に買い物に付き合ってくれる?陽菜荼が満足するくらいのオムライスを作らないといけないから」

「うん!荷物運びする!今すぐするっ!!」

「もう、そんなに引っ張らないで。楽しみなのはわかるけど」

 

詩乃の右手を恋人繋ぎし、早く早くとタダをこねる陽菜荼に詩乃は苦笑いを浮かべながら、リュックサックを担ぐ。そして、鍵を閉めると買い物へと向かったのだった…

 

 

γ

 

 

「ねぇー、まだぁー?」

「もう少しだから、待ってなさい……はい、どうぞ。陽菜荼」

「わーい!!詩乃のオムライスだぁー!!」

 

カッチャンカッチャンとスプーンを鳴らす陽菜荼へと苦笑いを浮かべながら、詩乃は出来上がったオムライスを差し出す。

トロッと溢れ出す黄色と白のマダラ模様の薄い膜に陽菜荼の顔がだんだんと明るくなっていく。そして、まだ湯気が立っている間からパクリと口に頬張ると、もぐもぐと美味しそうに顔を綻ばせる。

そんな陽菜荼の横へと腰を下ろした詩乃は丸机へと両膝を乗せるとパクパクとスプーンを動かす陽菜荼へと問いかける。

 

「美味しい?」

「んぅま」

「もう…何言ってるのか。分からないわよ。それに頬に卵付いてるし…ケッチャップも付いてるわよ」

 

時折、陽菜荼の頬を拭きながら…愛がこもったオムライスを作っていったのだった…




本編ですがーー遂にやってしまいましたね〜、ヒナタさんが…(大汗)
これは、バレた瞬間…ヒナタさんの命はありませぬな(笑)

本当は遊園地がいいなぁ〜と思ったんですが、カラオケにしました(笑)


また、オマケですが…殆ど、オムライス愛について、陽菜荼が語っていましたね。それくらい彼女はオムライスが好きなのです(*´∇`*)

そして、これは書いてなかったんですが…実は陽菜荼が平らげた10皿のオムライスの上には一文字ずつ、文字が書いてあったのですが…

その答え合わせはクリスマスの更新の時にでも…(微笑)

さてさて、どんな文字が書いてあったんでしょうね〜(*´∇`*)


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011 A man of high caliber

原作のキャリバー編の開始です。

現実での女子会と一緒に更新するので、またまたごちゃごちゃになってしまうかもしれませんが…それも私の小説での特徴ということで…(汗)

では、本編をどうぞ!

*今回も少なめとなってます


「すぅ…すぅ…」

 

愛用している橙色の甚平をはだけさせ、その下にある痩せすぎな肢体を一貫なく披露している同居人兼恋人な少女の相変わらずな寝相に、詩乃はやれやれと肩を上下に動かす。

 

“全く、この子の寝相の悪さだけは治らないものね…”

 

スヤスヤと気持ちよさそうに眠り続ける恋人の整った顔つきが見える位置に腰を下ろした詩乃は、ベッドの上に両腕を組み、その上に顎を乗せるとジィーと恋人の寝顔を見つめる。口もムニャムニャとさせている恋人が子供のように見えて、詩乃の口元が自然と緩む。

いつも自分を慈愛に満ちた暖かい色を浮かばせて見つめてくれる空のように透き通った蒼い瞳は瞼によって塞がれており、癖っ毛の多い栗色の髪はこっちに帰ってきてから彼女がめんどくさがって、散髪に行かないので、伸ばしぱっなしになっている。前髪が彼女の目にかかってるのを見て、詩乃は世話のかかる子供を見るように前髪をすくって後ろへと流す。

その際に、瞼は小さく揺れるのを見て、詩乃は恋人が起きたのを知る。まっすぐ見つめてくる蒼い瞳に詩乃はにっこりと笑って、話しかける。

 

「…んっ…?し…の?」

「おはよう、陽菜荼。起きれる?」

「れる、れる」

「着替えを持ってきてあげるから、二度寝はダメよ」

「…ん。分かってる」

 

ぽやーんとまだ眠たそうにしている恋人・陽菜荼に微笑みかけながら、詩乃は陽菜荼へと着替えを渡す。着替えている陽菜荼の側に座って、詩乃はタブレットを操作しては、いつも見ている《MMOトゥモロー》の記事へと視線を巡らせる。そして、今日の記事に書かれている【最強の伝説級武器《聖剣エクスキャリバー》、ついに発見させる!】に思わず呟いてしまう。

 

「…へぇ、キャリバー見つかったんだ」

 

そんな詩乃に後ろから抱きつきながら、陽菜荼がタブレットを覗き込んでくる。じゃれついてくる陽菜荼にも見えやすいように手元にあるタブレットを動かすと陽菜荼の蒼い瞳が記事を見るとその形いい唇をとんがらせる。

 

「詩乃、何見てるの?」

「これよ。この記事」

「あらあら、見つかっちゃったんだね〜。あたしと詩乃、和人と直葉、アッスーとユイちゃんで頑張ったのに」

「まぁ、見つかるとは思っていたけど…」

「こんなんならもう一回、あの時のメンバーで挑んだけばよかった」

「えぇ。ん…?陽菜荼、まだ見つかっただけみたいよ」

「え?マジ?」

 

記事を二人で再度見ると、存在は確認されど、入手まで入ってない様子で二人して、安堵からため息をつくとそれと同時に陽菜荼の携帯電話が鳴る。

 

「もしもし?」

『カナタ、シノンも暇か!?』

 

切羽詰まったようにも聞こえる和人の声を聞いて、詩乃と陽菜荼は目を合わせるとこれから始まる冒険に想いを馳せる…




かなりハイスピードとなりましたが、次回は最初のシーンに『トンキー』を助けたシーンを回想として書いて、いよいよ攻略です!

普段は、陽菜荼のALOでのアバターをどの妖精にしようかなぁ〜って思ってます。
候補はウンディーネ、サラマンダー、ケットシーの誰かにしようかなぁ〜って思ってます。

ではでは、次回会いましょう〜(*´∇`*)


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012 A man of high caliber

大変…大変お待たせしました( ´ ▽ ` )ノ

さて、ヒナタはどんな種族を選んでいるのでしょうか?そして、読者の皆様の予想は当たっているのでしょうか?
答え合わせは本編にて…

今回の話は、最初が『トンキー』と出会った時の状況をヒナタが回想してるシーンで、その下がリズベット武具店での一幕を書いております…

果たして、メンバーには誰が選ばれたのか…?ヒナタはどんな種族を選んだのか…?それを楽しみに、本編見ていただければと思います、ではどうぞ!


10/28〜誤字報告、本当にありがとうございます( ̄^ ̄)ゞ


あの不思議な形を持った邪神を見つけたのは、このALOを遊び始めて間も無くの頃だった。

レベルを上げるついでに、お遊びで世界樹まで行こうとなったあたし・シノことシノン・キリことキリト・アッスーことアスナ・リーことリーファ、そして世界樹までのナビをしてくれるナビゲーション・ピクシーのユーことユイちゃんの計六名で世界樹まで順調に進んでいたんだが…突然、巨大なミミズモンスター×2に絡まれてしまい、逃げようとしたあたし達を次々と飲み込んでいったミミズモンスターの消化管経由で地下世界ヨツンヘイムへと落とされてしまった。

そして、周りに広がる光景に唖然としたものだ。だって、そこにはこの六人でも到底敵うはずない巨大な邪神級モンスターがうろうろとフィールドを徘徊していたのだから…。

先行するあたしの“どうする?これ”の視線に、五人は一斉にあたしへと“逃げよう!”のサインを出す。それを見たあたしは深く頷き、【加護の祈り】を歌うと、自分たちが出せる猛スピードでフィールドを飛びまわり、やっと地上へと上がる階段へと差し掛かった時だった。

 

「カナタさん、見てください、あれ」

「ん?」

 

リーに指さされ、振り向いた先にはーー四本腕の人型邪神が、無数の触手と長い鼻を生やした象のような水母のようななんとも曖昧な邪神を攻撃していたのだ。それも、あたし達をここへと導いたあのミミズモンスターと同じ数で…。

固まるあたしの服を掴み、リーは真剣な表情で訴える。それに、あたしは背後にいるメンバーへと視線を向けると、それぞれの武器へと手を伸ばしたのだった。

 

「カナタさん、あっちのいじめられてるほうを助けてあげてください!」

「つっても…。どうする?キリ」

「俺からも頼むよ、カナタ」

「まぁ、いいんじゃない?」

「バックアップは任せて」

「やれやれ、あたしらのメンバーは血の気が多い人が多いようで…んじゃあ、みんな武器構えて!1、2、3、でつっこむ!」

『オォー!』

 

まず、あたしとキリで四本腕の人型邪神を近くにいる湖へと誘導|プル|すると、そこから先はトントン拍子で事が進み、あたしや他の仲間達があまり手出しをする事なく、象水母邪神なるものがこの勝負にて勝利を収めた。

その後、リーとあたしによって名付けられた『トンキー』『キーボウ』はあたし達を攻撃してこないばかりか、背中に乗せてヨツンヘイムの中央部まで移動してくれた。その後、サナギ経由で羽化したトンキーとキーボウは、あたし達を乗せて地上につながる天蓋の通路まで運んでくれた。

その際に、あたし達は見たのだった。天蓋の中心から、世界樹の根っこに包まれてぶら下がる逆ピラミッド型の巨大なダンジョンと、その最下部でクリスタルに封印されて輝く黄金の長剣をーー。

 

そんな出来事から三日ほど経ったある日、今回みたいにキリからあたしとシノへと電話がかかり、その日のメンバーで挑んだのだが、それがそれがやばかった…。

だって、トンキー&キーボウをいじめた四つの腕を持つ人型邪神がわんさかおり、その個人個人がありえないほど強かった。一発喰らえば、ジ・エンドのムリゲーに誰が挑むか…否、答えは誰も挑まないだ。静かに顔を見合わせ、もう少し強くなってからトライしようとなってお開きなったあのクエストだが、まさかこんな早くみんなと挑戦することになるとは思いもしなかった…

 

 

γ

 

 

そんな事を思い出しながら、イグドラシル・シティ大通りに看板を出す【リズベット武具店】に集まったみんなは、それぞれの役割は分かれ、あるもの達は買い物へと、あるもの達は武器がフル回復するまで待機組となり、あたしは後者の方で、四人で座れる大きなテーブルがある席へと腰掛けると、だらしなく背もたれにすがると大きなあくびをする。それを隣に座って見ていたもふもふな水色の羽毛を持つ小竜を膝の上へと乗せて、撫でている猫妖精族(ケットシー)の獣使いのシーことシリカは心配そうにあたしを見てくる。それに淡く微笑みながら、答えるとあたしの前に座る火妖精族(サラマンダー)の刀使いのクラさんことクラインが酒瓶を傾けながら、あたしへと絡んでくる。

 

「ふわぁ〜」

「カナタさん、大丈夫ですか?」

「ん…大丈夫だよ、ちょっぴり眠いだけ」

「おいおい、そんなんで攻略出来るかよ」

「まぁ、クラさんよりかは役に立つと思うよ?あたし、こう見えて前線任されてるし?クラさんこそ、あたしの足を引っ張らないでよ?」

 

絡んでくるクラさんに片眉を上げて、挑発するとクラさんは身にまとっている和服と同じくらいの真っ赤な顔になると、あたしの胸ぐらをつかもうとしてくる。それをひょいと交わすと追いかけてくるクラさんからあたしは逃げ回る。

 

「おいこら、カナタ!!お前、それどういう意味だ?」

「あはは〜、怒った怒った。クラさんが怒った怒った〜」

「こら!待て、カナタ!!今日という今日は許さねぇぞ!」

 

大騒ぎするあたしとクラさんへと、今まさに回転砥石でパーティ全員の武器を研いでくれているこの武具店の鍛冶妖精族(レプラコーン)の店主と、その横で同じく武器を研いでくれている赤い長い髪が特徴的なレプラコーンの二人が腰に手を置くと大きな声で注意してくる。

それにさっきまでばか騒ぎしていたあたしとクラさんはしゅーんとなると、とぼとぼと自分たちの席へと帰っていった。

 

「あんた達、騒ぐんだったら武器強化してあげないわよ!」

「カナタ君もクラインも静かにね」

「「は〜い……」」

 

席についたあたしは目の前にいるクラさんを睨む。それに酒瓶をもう一本取り出したクラさんが同じく睨むと、そんな二人の間を風妖精族(シルフ)のルーことルクスが仲裁に入る。

そんなルーの仲裁で落ち着いたあたしへと、シーの隣に座る影妖精族(スプリガン)のフィーことフィリアが話しかけてくる。

 

「クラさんのせいで怒られた…」

「いや、さっきのは間違いなくお前のせいだろ」

「まあまあ、二人とも落ち着いてよ」

「話は変わるんだけど…改めて、思うと、なんで、あんたってその種族にしたのよ。不思議でならないんだけど」

「へ?」

「だ・か・ら、なんであんたはプーカなんてマイナーなものにしたの?」

「あぁ…それね…」

 

あたしは呆れ顔のファーからゆっくりと顔を背けると、改めて自分の装いを見る。

いつもは栗色をしている癖っ毛の多い髪は少し桃色の入った銀髪へとなり、桃銀髪の髪の上にはちょこんと橙色の小さい帽子が乗っかっている。そして、その下には蜜柑色と檸檬色で固められた和服風な戦闘着を着ている。

そう、あたしは9ある種族の中から【音楽妖精族(プーカ)】を選んだのだった。だが、その理由はあまりにも恥ずかしく情けないもの上、絶対誰にも知られたくないのである。

おし黙るあたしへとキリもその話題に興味が湧いたのか、あたしの近くへと歩いてくる。

 

「確かに、それは俺も気になるな。なんでなんだ?カナタ」

「え〜、別にいいじゃん。ただ、プーカってどんなものかと思って選んだだけだって」

 

答えを渋るあたしの後ろから、今丁度帰ってきた買い物組へと加わっていたシノが、あたしが秘密にしていたかったそれをあっさりと暴露する。

 

「カナタ、嘘はよくないわよ」

「シノ…あたし、嘘なんて…」

「本当は私と同じケットシーがいいって言って、でもデザイン見たときに『こんなあたしに猫耳としっぽが似合うわけないだろッ!!』ってキレちゃって、適当に押しちゃった末にプーカになっちゃったんじゃない。私は見たかったのに、カナタのケットシー姿」

 

シノにそう言われてしまうと、胸が辛くなるが、こればかりはあたしでも譲れない。だって、考えて見てほしい…こんな男勝りなあたしに猫耳とかしっぽとか、女の子したものが似合うはずがない。してみて、みんなに笑われるよりかは、こっちの小柄だがプーカの方がまだマシというもんだ。

あたしは、ジィーと見つめてくるシノから視線を逸らすと、頬を膨らませる。そんなあたしを隣で見ていたキリが「あはは」と明るい笑い声を響かせると、あたしとシノンを交互に見る。

 

「ぐっ…いいのっ!あたしにあんなものは似合わない。まだ、こっちのプーカの方が性に合ってる」

「確かにな。シノンもカナタも二人揃って、セオリー無視して、自分だけの戦闘スタイルを確立しちゃったもんな。本来のプーカはウンディーネと一緒で、後衛で前衛のサポートに回るのが基本なのに…うちのプーカはガンガン前衛に突っ走っていくからな」

 

キリのそのセリフに、アッスーの隣にいた紫が入った黒髪に赤いバンダナをつけた闇妖精族(インプ)のユキことユウキがニコニコ笑いながら、キリのセリフに賛同する。そんなユキの言葉に更に頬を膨らませながら、言い訳じみたことを言う。

 

「あはは、カナタって本当に面白い人だよね。HPが低いプーカで前衛だもん。歌いながら、フィールドを駆け巡るプーカはカナタだけだよ」

「…むぅ、ユキのは笑いながら言ってるから本音じゃないでしょう。だって、折角自分と仲間達を強化できるのに…なんで、あたしは前線に行っちゃいけないのさ。HPが低いのは、敵の攻撃が当たらなければいいんだし、回復だって、歌で出来ちゃうんだから」

 

そんなあたしの言い訳を聞いたこの武具店の店主のリトことリズベットは呆れたような声音であたしとキリを見てくる。そんなリトの方へ向くと、その両腕には短剣、片手直剣に細剣などなどが積み上げられていた。そんなリトの後ろから同じくリトのサポートへと回っていたレイことレインが同じく両腕へと山盛り一杯武器を抱えて歩いてきた。

 

「カナタといい、キリトといい…あんた達二人はどんだけ、攻略したいのよ…」

「はい、みんな、武器全部回復したよ〜」

「おつかれ、リト、レイ」

「あんたとクラインが騒がなければ、もう少し早く終わったんだけどね」

「うぐ…ほんと、面目ない…」

 

レイから武器を受け取る際に二人へとお礼を言うと、帰ってきたのは上の文だ。全くもって、リトの通りなので、あたしはもう一度頭を下げる。

アッスー、シノ、リー、ユキが買ってきてくれた回復用のポーション類も其々受け取ると、ストレージへと入れる。

 

「みんな、今日は急な呼び出しに応じてくれてありがとう!このお礼はいつか必ず、精神的に!それじゃーーいっちょ、頑張ろう!」

『オーー!!』

 

ここで、あたし達のエクスキャリバー入手作戦が幕を開けたのだった…




さて、変な終わり方をしてしまいましたが…次回はいよいよ、ダンジョン攻略です!

そして、ヒナタが選んだ種族はなんとーー音楽妖精族|プーカ|でございました。
それもキレて、適当に押した末のという…なんとも情けない決め方でしたね。
武器は刀です。小太刀はまだ入手出来てないので…愛刀を歌を歌いながら、ブンブンと振り回しております。まさに、歌うバーサーカーです(笑)

また、『トンキー』の他に『キーボウ』という象水母邪神を仲間にしたヒナタ達ですが…
その二匹に乗る人は下の通りとなっております。

『トンキー』・・・キリト、アスナ、リーファ、リズベット、シリカ、クライン

『キーボウ』・・・カナタ、シノン、ルクス、フィリア、レイン、ユウキ

また、サポーターとして、ナビゲーション・ピクシーのユイちゃんを含めた13名にて…あのダンジョンを攻略したいと思ってます。


では、次回会いましょう、ではでは〜(*´◒`*)ノ”


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013 A man of high caliber

たいへん…大変、お待たせいたしましたm(_ _)m

今回の話は、長い階段を降りていくシーンです。

また、キャラの名前は、ヒナタの愛称となっているので…少し、いいえ、かなり読みにくいかもです!

なので、下にキャラ名と愛称の欄を書いておくので、読むときの参考となればいいなと思います( ̄^ ̄)ゞ

・シノン ⇒ シノ
・キリト ⇒ キリ
・アスナ ⇒ アッスー
・シリカ ⇒ シー
・リズベット ⇒ リト
・クライン ⇒ クラさん
・ユイ ⇒ ユー
・リーファ ⇒ リー
・フィリア ⇒ フィー
・ルクス ⇒ ルー
・レイン ⇒ レイ
・ユウキ ⇒ ユキ

では、長くなりましたが…本編をどうぞ!


マップに表示されないようなアルン裏通りの細い路地を総勢13名という大所帯で右左と進み、階段を上ったり下がったりとまるで迷路のような道を歩いていくと、その扉は存在していた。

見た目はなんの変哲もない円形の木戸であり、実際は開かない装飾的オブジェクトとしか思えないその扉は、大所帯の先頭にいるリーがベルトポーチから取り出した小さな銅の鍵が必要となる。

 

「…ふっ、わぁ〜〜…」

 

リーが鍵穴へと鍵を差し込み、開けてくれている間。あたしは口元へと左手を添えて、大きくこのアルンの大地の空気を吸い込む。その際、大きな口を開けてしまったのは、まぁ仕方ないことだろう。より多くの空気を吸い込む必要があったのだから…。

ゲームとは思えないほど、透き通った空気で肺を満たすあたしへと隣に立っていたキリとシノの同時に呆れ顔を作る。シノに至っては、膝であたしの横腹を小突いてくる。

 

「おいおい。今から攻略ってのに、大あくびする奴がどこにいるんだよ」

「もう、ヒナタ!しっかりしてよ。このパーティでは、前衛で貴重なプーカなんだから」

「ん!だいじょーぶ、大丈夫!キリもシノも任せといてって!あたしはそんなヘマはしない!!」

 

そんな二人へと綺麗な空気を肺に満たして、満足したあたしが自信満々にニコニコ笑って、二人へと。そんな二人の後ろで同じそうに不安そうな顔しているみんなへと親指を立てて答える。

そんなあたしをみて、みんなは心の中でこう思ったらしいーー

 

“ふ…不安だぁ……”と。

 

 

γ

 

 

開いた扉の向こうには、直径二メートル程のトンネルの床に造られている下り階段が現れる。そんな薄暗い階段を照らすのは、壁に掛けられた小さな青白い燐光(りんこう)に照らされているのみである。

そんな階段の一段目を降り始めたあたし達は早足で降りながらも、何分すぎても続く薄暗い階段に初めて挑むメンバーが目に見えて、嫌気がさしたような表情を浮かべていた。

 

「うわ、すごいねぇー、ここ」

 

そんなメンバーの中、あたしの後ろでアッスーと共に階段を降りているユキだけがどこかワクワクしているような声音で呟く。そんなユキの後ろにいるレイとリトの鍛冶妖精族(レプラコーン)コンビが渋い顔をして、まだまだ続く階段を見て囁き合う。

 

「リズベットちゃん、この階段って何段あるのかな?」

「さぁ?あたしにもわかんないけど…間違いなく、もう数百段は降りたでしょうね。降りても降りても階段って、軽く地獄だわ…」

 

そんな3人の話し声を聞き、あたしはクルクルと左人差し指を回しながら、答える。

 

「んー、それはアインクラッドの迷宮区タワーまるまる一個分とかキリ、アッスーが言ってたよ〜」

 

それに、前攻略しようと乗り込んだメンバー以外が苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。そんな表情を浮かべるみんなにコクンコクンとうなづきながら、あたしもこの階段を初めて降りたときの気持ちを思い出していた。

 

「あたしも最初はこの階段を降りた時は、みんなと同じ気持ちだったよ…。うん…長かった…」

「あの時のカナタ、すごい顔してたもんね」

「ん。でも、この道が一番最短なんだもんね!みんな、弱音を吐かずに頑張ろってこぉ〜!オォーー!!!」

 

自分で意気込み、自分で返事したあたしはハイテンションで階段を降りていく。時折、バク転やアクション俳優顔負けの技を決めながら、長い階段を降りていったあたしは最後の階段を降りた時には疲れていた。

攻略早々へたるあたしにシノが顔を覗き込みながら、優しく訪ねてくる。慈愛に満ちた藍色の瞳を見つめながら、あたしは淡く微笑む。

 

「あぁ…つかれた…」

「ヒナタがあんな馬鹿なことするからでしょう。みんな、あのアクロバットのおかげで楽しく降りれたのは事実だけど…。もぉ〜、これから、攻略なのよ?始まってすぐに死に戻りにとかは嫌よ」

「だって…あのまま、降りてても眠気がさぁ…」

 

薄暗いトンネルを抜けた先に広がるヨツンヘイムは極寒の地である。

顔の周りを舞う氷の結晶。分厚い雪や氷に覆われたフィールドは真っ暗であって、照明は氷の天蓋から何本も突き出す巨大な水晶の柱が導く地上の僅かな光のみ。その他にも、フィールドのあちらこちらに点々と邪神族の城や砦のところに青紫や黄緑色の篝火を焚いているが、それも地面と天蓋の間の距離が1キロくらいにあるので、あたし達のいる中央部からはフィールドをうろうろしているであろう邪神の姿を視認できない。

 

「あんなに寝てたでしょう?まだ、眠たいの?」

「…ん、眠い」

 

訪ねてくるシノへと欠伸を噛みしめながら答えると、あたしは真下にある底無しの大穴《ボイド》を覗き込む。あらゆる光をも吸い込むような大きな穴から視線を真正面へと戻すと、そこには無数に這い回る巨大な根っこーー地上のアルヴヘイムに屹立する世界樹の根ーーを抱え込むようにして、薄青色の氷塊が天蓋から鋭く突き出している。その逆ピラミッド、そこがこれからあたし達が挑もうとしている《空中ダンジョン》だ。

それを見つめているあたしへと、フィーが話しかけてくる。影妖精族(スプリガン)特有の真っ黒で染まった瞳は呆れが多く含まれている。まぁ、その表情をされるのも仕方ないだろう…。古くからの付き合いであるフィーはあたしの朝に弱いのは嫌という程知っているのだから…。

呆れ顔で窘められるあたしへと、クラさんがつっかかってくる。無造作に生えたヒゲを動かしながら、必要以上に近づいてくるクラさんへと不敵に笑いながら、含みのある言い方をわざとする。

 

「毎回の如く、どんだけ眠たいのよ、あんたって…」

「もしかして、お前ら。今朝までお楽しみだったんじゃないだろうな?このリア充どもめ!!爆発しろ!!」

「んー、それはみんなのご想像にお任せ、かな?」

 

そんなあたしの言い方に顔を真っ赤にさせて物申したいシノがあたしの和服をつかんでくる。そんなシノにも不敵に笑いながら、あたしは狼狽するシノの反応を楽しむ。

 

「なんで、含みある言い方するのよ!何もなかったでしょう!昨夜はっ」

「何も?…あぁ、シノはそうかもしれないねぇー。あの時のシノって、ぐっすり寝てたもんねー」

「え?何それ。私が寝てる時に、ヒナタってば、どんなことしてたの…?いいように、朝まで弄ばれてたの…?私の身体…」

「フッハハハハーーッ!!!それはどうかな?真実を知るのは、あたしのみってね!」

「…今度から、ヒナタより先に寝ないようにしないと。何されるか、わからないから…」

 

身体を抱いて、あたしから離れるシノをみて、満足そうに笑うあたしへとチョップを決めてから、キリが親指で自身の背後を指差す。

 

「相変わらずだな、そこのバッカップルは…。見ているこっちが恥ずかしくなってくる。それとそういう話は、レインやルクス、シリカとスグの前ではNGな。ほら、4人とも顔を覆って、真っ赤にしてるから」

「へ?」

 

キリに指さされた方を見ると、同じポーズを決めている四人の姿がある。真っ赤な顔して目を覆っているレイ、ルー、シー、リーの四人から次々と氷柱のような冷たさのあるセリフを受け取りながら、あたしは懲りずに軽口を開こうとするのをシノに邪魔される。

 

「ウゥ…カナタ君とシノンちゃんが…」

「あんなことやそんなこと…を…?」

「ハレンチですよ!カナタさんっ!そんなのあたしの知ってるカナタさんじゃないです!」

「シリカちゃんのいう通りですよ!そんないやらしいカナタさんはカナタさんじゃないです!」

「あらあら。なんか、一方的にあたしだけ攻められてる…なして?」

「それはそうでしょう。寝込みを襲うとか…普通の人はしないわよ…」

「マジすか!?でも、近くに可愛い顔してスヤスヤ眠るシノがいるんだよ!?それを見て、ムラムーー」

「それ以上はダメって、さっき言われたでしょう!このバカヒナタ」

「ムグムグ」

 

もごもごと恋人に口元を塞がれるあたしを見て、眠気が完全に飛んだと判断したこのパーティの総団長のキリが苦笑いを浮かべながら、あたしへと声をかける。

 

「あはは…ふざけてないでいくぞ、カナタ。みんなも準備はいいかな?」

「イェサー!総団長!」

「その元気は、これから現るモンスターへとぶつけてくれ、カナタ」

 

そう言った総団長(キリ)は、近くにいるリーへと声をかける…




中途半端なところで終わりましたが、あまり長くても読みづらいかなぁ〜と思い、ここで区切ります。

レインがリズベットを呼ぶ時って、「リズベットちゃん」と「リズちゃん」のどっちだったっけ?と思い、リズベットちゃんの方がレインらしいなぁ〜と思い、そちらへとしました( ̄^ ̄)ゞ

今回はギャグ要素を入れておきたいなぁ〜と思い、下ネタを多めに入れました…。
あぁ、R-15のタグくれた方がいいなぁ〜と、思う今日この頃でした(笑)

また、シノンのしっぽを掴むイベントは前攻略した時に済ませているので、今回は書きませんでした。その際に、ヒナタもシノンのしっぽをにぎにぎしたのは…秘密です(笑)


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014 A man of high caliber

長らくお待たせいたしましたm(__)m

私用も終わり、安心して…新年を迎えられそうなので、更新致します。

随分、空いてしまいましたが…これからは、キャリバー編を更新していきたいと思ってます。
此方の予定では10話くらいで、キャリバー編を終えられると思うので…それからは、今まで進めてなかった本編を進めたいと思ってます。

随分、空けてしまったので…もう一度、自分でも本編を見直してみることにします(笑)


では、長らくなってしまいましたが…本編をどうぞ!!


眠気を醒まそうと長い階段で余計なアクロバットを決めたあたしの体力が戻った頃合いを見て、あたしは黄緑がかかった金髪をポニーテールにしてる風妖精族(シルフ)ことリーファへと声をかける。あたしに声をかけられたリーファが首を縦に振るのを見て…あたしとリーファは同じ行動をしようとする。

 

「じゃあ、そろそろ呼ぼうか?リー」

「そうですね」

 

親指と人差し指をくっつけ、輪っかを作って、それを口元へと当てようとするあたし達へと先の方に葉っぱがついた枝を持った水妖精族(ウンディーネ)が声をかける。

声がかけられた方へと向くと、空色の髪を揺らしてスペルを唱えるアスナが居た。

そんなアスナの姿を見たあたしとリーファはアスナの意図を感じ取ると輪っかを唇に当てたまま待つ。

 

「あっ、待って。カナちゃん、リーファちゃん」

 

そして、暫くするとHPゲージの下へと小さなアイコンが点灯する。

アイコンが点滅し始めると…さっきまで寒かったのが嘘かのような感覚になる。まるで、上等なダウンジャケットを着込んだような感じを思わせるそれはーー恐らく、アスナが凍結耐性を上昇させる支援魔法(バフ)を使ってくれたからだろう。

 

「サンキューね、アッスー」

「どういたしまして」

 

柔らかく微笑むアスナへとお礼を言ったあたしはリーファへと視線を向けるとひんやりした空気を肺へと貯め、一気に外へと吐き出した。

 

ピュー、と高く口笛を吹き鳴らしたあたしとリーファの耳へと数秒後、さらさらとそよぐ風の音に混ざり、くおおぉー………んというモンスターの鳴き声が聞こえてきた。

目を凝らしてみると暗闇の中を二つの真っ白な影が浮上してくるのが見える。

近づいてくるそれを改めてみるとーー平らな魚のような、あるいはシャモジのような胴体を胴体の側面から四対八枚のヒレに似た白い翼が伸びている。体の下には植物のツタ状の触手が無数に垂れ下がり、片側三個ずつのクリっとした黒い瞳と長く伸びる鼻が付いている。

 

“うーん、改めて見ても不思議な容姿を持ったモンスターだこと”

 

某シルフが可愛いとおしゃっていたが…あたしはまだ、この象水母から羽化した奇怪かつ美しい邪神達の良さが分からない。

 

「トンキー!キーボウ!こっちだよぉーー!!」

 

だがしかし、あたしの呼びかけに「くおぉーん!」と返事し、こっちへと寄ってくるあの二匹のことを可愛いと思ってしまっている自分も確かにいるので…あたしがこの二匹のことをどう思っているのかは、また今度考えることにしよう。

 

「カナタ、早く」

「ん」

 

ボゥ〜とくだらない事を考えてしまっている間に速やかにキーボウの上へと飛び乗った仲間達に急かさせる形で飛び乗ったあたしはキーボウの頭を優しい手つきで撫でると、ぶら下がっている逆三角形ダンジョンを指差す。

 

「さて、キーボウ、あのダンジョンの入り口まであたし達を連れてってくれるかな?お願い」

「くおぉーん♪」

「ん、じゃあお願いね」

 

あたしの頼み事を聞いてくれたキーボウとリーファの頼み事を聞いてくれたトンキーが同じ動作で翼を羽ばたかせるのを見るとーーあたしはこれからの冒険に胸を高鳴られるのであった…

 

 

γ

 

 

「…はぁ…死ぬかもった…」

 

トンキーとキーボウによる急激なダイブになんとか耐えたあたしは冷や汗を拭うと…その下に広がる光景に目を疑った。

薄暗闇の中、三十人を超えるくらいの大規模なレイドパーティーが長い触手の上にお饅頭型の胴体を乗せて、その胴体へと長い鼻と大きな耳を付けたモンスターを攻撃していた。

 

“あれが…ここにくるまでに耳にした【スローター系クエスト】か?”

 

虐殺(スローター)系クエスト】

その名の通り、『○○というモンスターを○匹以上倒せ》《○○というモンスターが落とすアイテムを○個集めろ》など、こういうゲームではよくある類のクエストだ。

必然と指定された種類のモンスターを片端から狩りまくることになるこのクエストで、よく起こることといえば、POP…つまり、モンスターが再湧出する場所の取り合いというわけだ。

人いうものは、どこにいようと他者よりも優位に立ちたいと思うもの。もっというと…あたしやキリトのような《レア》などの文字に弱い根っからのゲーマーなどは、そのクエで手に入るものがレア武器などになると何が何でも手に入れようとしてしまうものーーそのような熱狂的なプレイヤー達が集まれば、モンスターが出現する場所の取り合いでギスギスしてしまうのは仕方がないことと割り切れるが…

 

“なんだよ、これ…”

 

このクエストに向かう前に聞いていたスローター系クエストの内容を予想していた上でも、あたしの視界に広がる光景は異様…不気味と言わざるおえないものであった。

 

まず、象水母型邪神モンスターを攻撃しているのが、種族混同なレイドパーティー30人の他にいること。

そいつの特徴は、大柄な土妖精族(ノーム)の身長の六、七倍させたような上背。フォルムは人間型なのだが、異様なことに腕は四本な上に顔に至っては縦に三つ並んでいる。肌の色は鋼鉄のように青白く、目は燃え上がる石灰のような赤。

身に覚えあるその姿は、出会った頃にトンキーとキーボウを殺そうとしていた人型邪神の一族だ。

鍛え上げられた各腕に握るはギザギザにカットされた剣達でーーそれを象水母型邪神の背中へと無慈悲に振り下ろされる。

悲痛な悲鳴を上げる象水母型モンスターへと眩いフラッシュ・エフェクトが立て続けに炸裂しては、プレイヤー達の刀や槍、矢などが象水母型モンスターのからだへと突き刺さり…体液を辺りへと散らす。

 

「…くっ!」

 

それ以上は見ていられず、唇をかみしめて前を向くと…そこには、恐らくあたしと同じような表現を浮かべている仲間達がいた。

 

「あれはどういうことだろう?誰かがあの人型邪神をテイムしたってこと?」

「いいえ、そんなことはありえないわ。邪神級モンスターのテイム成功率は、最大スキル値に専用装備で底上げしても0パーセントってシリカが言っていたわ。それにそんな都合よく憎悪値(ヘイト)が稼げるとも思えないだけど…」

「確かにシノンの言う通りだよね」

 

緩やかなウェーブがかかる青緑色が混ざった銀髪を風に遊ばせている風妖精族(シルフ)・ルクスの呟きを聞いた猫妖精族(ケットシー)が凛とした声で否定する。

鮮やかな水色のショートヘアから同色の三角耳を生やし、シャープなしっぽを左右へと素早く揺らしたシノンは形いい眉をひそめると、追加でさっきまで見ていた現状を冷静に分析した上でのコメントをする。それを聞いたあたしが頷くとーー同時、さっきまで見ていた方から「ひゅるるるるぅぅ……」と悲しげな断末魔が聞こえ、続けて膨大なポリゴン片を振りまき…

 

遂に、トンキーとキーボウの仲間が儚い命を散らしたのだった…

 

「…ぅっ」

 

チラッとトンキー側に乗っているリーファへと視線を向けると、細い肩を静かに震わせていた。そのリーファの頭上にいるナビゲーションピクシーのユイちゃんも深く俯いていた。

 

そんな二人から視線を逸らしたあたしへとさらなる驚愕が襲った。

 

それはというと、キーボウの仲間を狩った大規模レイドパーティーと四本腕巨人が戦闘にならないことだった。

普通は、状態がテイム、扇動、幻惑状態でないと…邪神クラスを操る、もしくは共闘することは出来ない。

なのに、その三つの状態でない四本腕巨人は「ぼるぼるるぅ!」と勝利の雄叫びを上げるとその足元で同じく小さくガッツポーズを取るレイドパーティーを引き連れて、新たなターゲットを探して向きを変え、歩き出す。

驚きのあまり、食い入るようにそのレイドパーティーを目で追うあたしの肩を誰かが叩く。そちらへと向くと、いつの間にか隣にきていたどちらかというと戦闘系鍛冶妖精族(レプラコーン)のレインがそのレイドパーティーとは違うところを指差していた。

 

「カナタ君見て、あそこ」

「…?」

 

真っ赤に燃える紅葉のような赤い髪を揺らし、革手袋が指差す方見たあたしは蒼い瞳を丸くする。

レインが指差した方には丘があり、その丘でも戦闘のエフェクト光が激しく明滅しおり、目を凝らしてみると…こちらも大勢いるプレイヤー集団と今回は人型邪神の方がニ匹になり、ワニのようなフォルムに多脚がついている邪神を共闘して狩っているではないか。

 

「意味が分からん…。こんな事ってあっていいのか?」

「カナタ、落ち着いて。今の私達じゃあ…あそこにいるキーボウの仲間達を助けられない」

「…だよね。…ん、あんがと、フィー。落ち着いたみたいだよ」

 

癖っ毛の多い桃いろの髪を掻き毟っていると、その手を何者かにつかまれる。

視線を向けると、肩まで伸びた影妖精族(スプリガン)特有の黒髪を風になびかせているフィリアが髪と同色の瞳を心配の色で満たして、あたしを見つめている。

 

掻き毟っていた手を見ると…これまたリアルに作り込まれている数本の桃色の髪の毛がある。

 

どうやら、あたしも知らぬ間に…大事な仲間と意識しているキーボウの同胞達を小癪な手により殺めていくプレイヤー達とあの四つ腕巨人邪神への怒りが積もりに募り、何も出来ない自分へと当たる事でそれを発散しようとしていたらしい。

 

未だに心配そうに見つめてくるフィリアへと淡く微笑むとあたしは今は、あのダンジョンに向かうことが先決と判断し、前を向く。

もちろん、ここで生まれた人型邪神モンスターへの積怒(せきど)をダンジョンに徘徊している人型邪神モンスターにぶつけようと思っているわけではない。断じてないっ!

 

「カナタはキーボウが好きなんだね。僕、カナタのそういうところ好きだよ」

「奇遇ね、ユウキ。私もよ」

「あはは、シノンも。カナタも素直になればいいのにね、キーボウ達を仲間って思ってて、リーファ以上にキーボウ達のことが好きって」

「えぇ、そうね。あぁ、見えて…カナタって、頑固だから。認めないでしょうね」

「もうバレバレなのにね。あんな顔してる時点で」

「ふふ、そうね」

 

後ろで、何だがキャッキャウフフしてる我が恋人殿と絶剣殿があたしにとって不本意な事を述べていらっしゃるが…この際、そんな事はどうでもいい!

 

まずは、この溜まりに溜まった怒りをーーあの人型邪神どもへとぶつけなければ…ッ!!

 

だが、あたしのその望みは暫く叶う事は無かった…。

 

なぜならば、トンキーとキーボウの背中の後ろーー誰も座ってないはずの空間に光の粒が音もなく漂い、凝縮しては…一つの人影を作り上げたからだ…




というわけで、次回はあの方々の登場です!

また、その方々との出会いの後は…あの牛達との戦闘が待っております。

そちらもお楽しみいただければと思いますm(_ _)m




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本作、【sunny place〜彼女の隣が私の居場所〜】ですが…今年の2月26日から始まり、今回の話を更新して…全部で85話となりました!

お気に入りもいつの間にか、406名となり…評価してくださった方も25名となり…
1話ごと自分の気分のままに書き殴っていた私の小説を多くの方に読んでもらっていることが嬉しくもあり…申し訳ない気持ちがしてなりません(大汗)

恐らく、他の方の小説と比べ…設定も構成もまだまだであり、ころころと話の芯がズレてしまうのが欠点なのですが…そういうところも含めて、私の小説なので…これからも自分らしく、ゆったりと更新していこうと思っております(礼)

また、こんな駄作へと暖かい感想を下さった多くの方にもう一度感謝と、お礼を申し上げます。
皆様のおかげで私も楽しく筆を取らせてもらい、元気を貰ってます!
いつも、本当にありがとうございます(礼)




そして、これから先は簡単なお知らせとなります。

来年からの更新は週ニを目標としていきます。また、新たな挑戦…といいますか、リクエストを頂いたので、この小説Rー18版も来年から更新していきたいと思っております。

百合系統のそういった話は書いたことが無いので…読者の皆様のご期待に添えるかは分かりませんが、精一杯そちらも書いていこうと思ってますので…

気になった方は、そちらもご覧頂ければ幸いと思います。




長々と書いてしまい、失礼致しました…

では、来年もこの【sunny place〜彼女の隣が私の居場所〜】をよろしくお願いしますm(_ _)m





【sunny place〜彼女の隣が私の居場所〜】作者・律乃
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015 A man of high caliber

あけておめでとうございますm(_ _)m

今年も【sunny place〜彼女の隣が私の居場所〜】と【R-18版】をよろしくお願いします!

と言いつつ…R-18版の方はまだ書いていませんので、もう暫くお待ちください…

では、本編をどうぞ!

*読みにくい上に長めですので…ご注意を。


トンキーとキーボウの背中部分の後ろ方面へと、突然現れたひとつの人影は女性であった。

それもどえらい美人ときて、あたしはあんぐりと口を開く。

そのどえらい美人さんの服装はローブふうで、背中から足許まで流れる波立つ金髪は鮮やかな光を放ち、優雅かつ超然とした美貌を放つ顔立ちとローブの上からでも分かる見事な曲線美を描く女体に色んな意味で目を奪われていると、あたしの頬をむぎゅ〜と捻るしなやかな両手があった。

手袋と呼ぶには頼りない深緑色のリボンで作られたそれがチラッと見えた事から、どうやらあたしは山猫系猫妖精族(ケットシー)殿にこのような仕打ちを受けているようだった。何故このような仕打ちを受けねばならないのか?些か、不満だ。

 

「ひゃい!ひゃいれす、ひのんしゃん」

 

いつになく本気で頬を引っ張るケットシー殿にやめるように…目頭に涙を溜めて訴えるが、ケットシー殿はにっこりと目だけが笑ってないという不思議な笑顔を浮かべると、あたしの目をじっと見つめてこう仰った。

 

「なぜ、私に頬を抓られるのか?ヒナタは胸に手を置いて、考えてご覧なさい」

「………。ひひえ、えんへん…わありまへん」

「へぇー、そうなの。残念だわ」

「ひゃい!ひゃい!ひゃいれすっ!!ひのんひゃんっ!!ひゃんま、ひゃんまれふはら!!!」

「いいえ、やめないわ。ヒナタが自分の罪に気付くまでは。

………………ヒナタばか。ヒナタが鼻の下を伸ばすからでしょ。ここにもっと素敵な女性(ひと)がいるっていうのに」

 

あたしは何処で何を間違えてしまったのか…?

我がパーティで弓使い(スナイパー)を務めるケットシー殿に前よりも強く頬を引っ張られ、あたしは悲鳴をあげる。

 

そんなあたしとシノンのはたから見れば、カップルのイチャつきへと視線を向けて…名乗って、無口になる《湖の女王》ウルズへと申し訳なそうに頭を下げるのが…腰で伸びた紫が掛かった黒髪に赤いカチューシャを付けている闇妖精族(インプ)ことユウキであった。

 

「……」

「…あの、先に話を進めてください。あの二人には、僕たちが責任持って、話をするから」

ユウキのセリフで事情を話し始めたウルズの話をあたしは頬を万力で引っ張られながら聞いていた…

 

 

 

γ

 

 

「ふん!ハァーーッ!!!」

 

音楽妖精族(プーカ)の小柄な体躯を活かし、自分の数百倍ある人型邪神モンスターの懐を駆け回ると振り下ろされるゴツゴツした剣を寸前で交わして、その振り下ろしてきた腕へとカウンターを決める。

 

「カナタ様っ!」

 

そこへと走り寄ってくる影がある。

薄暗いダンジョン内でも柔らかな光を放つ銀髪を揺らして走り寄るシルフの右手に持つ片手直剣が鮮やか光を放ち、腕へと片手直剣スキル【ホリゾンタル・スクエア】を見事に決める。

どうやら、あたしの愛弟子が駆けつけてくれたらしい。

 

片手直剣スキル【ホリゾンタル・スクエア】

ターゲットの周囲を巻き込みながら、正方形を描くように移動しては斬りつけると…最後に、範囲の広い攻撃を行う技であり、武器熟練度200で習得出来るそれはあたしの目から見ても使いやすいものであろう…と思えるものであった。なおかつ、HIT数が5というのが憎らしい。

 

あたしが使う刀スキルも使いやすいものはあるが…プーカ特有の歌と使用するときはアレンジを聴かせているため、我が恋人殿や仲間達にはカナタの太刀筋はデタラメすぎて、逆に扱いづらいとのご指摘を何度か承っており、故にあたしのOSSことオリジナルソードスキルは人気がない。

 

“刀スキルをMAXまでしたら…今度は、片手直剣を極めるのもまた一興かも”

 

迫ってくる剣を体を屈めて避け、チラッと愛弟子へとアイコンタクトを取ると、コクリと頷いてくれる。

最後に攻撃した愛弟子をダーゲットにすることしたらしい人型邪神へと愛刀を光らせたあたしが迫る。

 

「ぼうぼうぅ!」

「あんたの相手はあたしだよ。sunny placeへとご来店頂き、ありがとうございます。お客様♪ご注文は緋扇で宜しかったですか?」

 

刀スキル【緋扇】

右上からの斬り落としからの横切り、終わりがくるっと回ってからの左上からの斬り落としとなっているこの技は、あたしがよく使用している技だ。

単純にカッコいいから使っているというのもあるが…個人的に刀スキルの中でこれが最も使いやすいと感じているのが、主な理由だったりする。

 

緋扇を決めたあたしの脇から素早くダーゲットに走り寄る愛弟子が力任せな一撃を前に突進しながら繰り出す技【ヴォーパル・ストライク】を放つのを見て、ソードスキル特有の硬直が溶けたあたしはすぐ様攻撃モーションへと入る。

 

「はっ!」

「続けて、メインディッシュの当店オリジナルソードスキル・鬼魅呀爲(きみがため)にございます」

 

OSS【鬼魅呀爲】

あたしが生み出したこの技はMPの消費が激しいのと使った後に無駄に疲れるのを除けば、一撃必殺といっても過言ではない威力を持つものである。

 

まず、戦いの歌なるもので自身と仲間を強化している際に…敵には虹色に光り輝く無数の光線が降り注ぐ。その光線の対処や回避に集中しているであれば、後ろにご注意を。やっと光線が済み、気を休めているところへと今度は背後からやたらめったらに切り裂いてくる斬撃が光線でズタボロになっているあなたへとまた、降りそそぐことだろう。

 

ということで、上を見てもらってわかる通り…MPが減るのは魔法を良く使うから、無駄に疲れるのあたしが考えなしに刀を振り回して…敵に攻撃をするからというわけだ。

これを初めて、仲間達に見せた時には口々に「そんなんありかよ」とか「チートじゃんか」などなど言われたものである。

 

まぁ、これもプーカという種族を選んだからこそ出来る力技なので……あたしのこのOSSは初代で終わることであろう。

 

あたしOSSによりHPは大きく削られた邪神がよろめくのを見て、あたしは片眉を上げる。

 

「おやおや、お客様。さっきのでお腹いっぱいになってしまわれましたか?」

「え…と、まだデザートが残ってます」

「そうですよ。折角、わたくし達が微力を尽くして作ったデザートです故、どうぞ召し上がってからお帰りくださいませ」

 

ニンヤリと笑うあたしとは対照的に、あたしの小芝居に付き合う事になってしまった愛弟子は頬を朱に染め、恥ずかしそうに右手に持つ片手直剣と左手に持つ短剣を構える。

 

「…ぼうぅ…」

 

男のくせに情けない声を上げる人型邪神(おきゃくさま)へとあたしと愛弟子は無動作に振り上げた愛刀と愛剣を鮮やかな光りを纏わせるとーーその鍛え上げれた身体へと斬撃を与えていった…。

 

「またのご来店をお待ちしております、お客様」

 

そう言い、後ろを振り返ると…そこには、ポリゴン片が舞っていた。

それをしばらく眺めていたあたしは前を向くと、こちらの世界ではあたしよりも身長が高めな愛弟子を上目遣いで見る。

そんなあたしへと柔らかな笑みを浮かべるのが、我が愛弟子ことルクスである。

 

「お疲れ様です、カナタ様」

「ルーもサポート、あんがとね」

「いいえ、これくらいお安い御用です。最も私がサポートには入らなくても、カナタ様なら大丈夫だと思いますが…」

 

自信無く、そう呟く愛弟子へと少し屈んでとジェスチャーした上で、その銀髪を小さい手で撫でる。

 

「いや、そんな事はないよ。ルクスは充分強くなってる。いつ、師匠のあたしを抜いてもおかしくないくらいだよ」

「いえ…まだまだです。さっきの戦闘だって、カナタ様に助けられてばっかりでした」

 

“そんな事は無いと思うけどな…?”

他者に優しく、自分に厳しい愛弟子の姿勢は師匠たるあたしも見習わなくてはならいと思うところが多々ある。

気持ちよさそうに垂れ目がちな瞳を細めるルクスへと微笑みながら、あたしはこれからもっともっと強くなるであろう愛弟子へと声をかける。

 

「じゃあ、その日が来るのを楽しみにしてるよ、愛弟子のルクスさん♪」

「はい!いつかはこの剣でカナタ様をお守りできるくらい強くなってみせます」

 

そう言って、可愛らしく右手を握りしめるルクスを見て、微笑ましくなったところで…あたしはさっき湖の女王・ウルズから聞いた話を思い出していた。

 

ウルズが言った言葉通りに示し、尚且つ簡単に記すとこうなる。

 

まず、《ヨツンヘイム》も昔はあたし達が住む妖精の国《アルヴヘイム》のように、世界樹イグドラシルの恩寵を受け、美しい水と緑に覆われていた事。

ウルズとその妹さんは《丘の巨人族》と呼ばれる者という事。

そして、その丘の巨人族とその眷属ーートンキーやキーボウ達。その仲間を示すーーは、このヨツンヘイムで穏やかに過ごしていたらしい。

だがしかし、ある時ここよりも更に下層に位置する氷の国《ニブルヘイム》を支配する霜の巨人族の王《スリュム》がオオカミに姿を変えて、ここへ忍び込み、鍛冶の神ヴェルンドが鍛え上げれた《全ての鉄と木を断つ剣》エクスキャリバーを、世界の中心たる《ウルズの泉》へと投げ入れ、その剣は忽ち、世界樹のもっとも大切な根を断ち切り、その瞬間からヨツンヘイムはイグドラシルの恩寵を受けられなくなってしまったとの事。

また、かつての力を失ったヨツンヘイムへと王スリュム配下の《霜の巨人族》が総勢力で攻め込み、多くの砦や城を築いてはウルズたち《丘の巨人族》を捕らえ、幽閉して、王スリュムは《ウルズの泉》があった大氷塊へと居城《スリュムヘイム》を築き、このヨツンヘイムを支配した事。

辛うじて、ウルズと妹さんたちは凍りついたとある泉の底へと逃げ延びたが、ヨツンヘイムを取り返すほどの力は無い事。

ウルズたちを追いやり、ヨツンヘイムを支配するだけでは飽き足らずにこの地で生き延びるウルズたちの眷属を皆殺しにすれば、ウルズの力は完全に消滅し、スリュムヘイムを上層のアルヴヘイムへと浮かび上がらせることができるからとの事。

そんな事をすれば、アルヴヘイムが滅んでしまうのだが…王スリュムの目的はまさにそれらしい。

あたしたちの国・アルヴヘイムをまた氷雪で閉ざして、世界樹イグドラシルの梢まで攻め上がる事で…そこに実る《黄金の林檎》をその手中に収まるとこが目的との事。

ウルズの眷属たちがなかなか滅びない事に苛立った王スリュムが見た目がエクスキャリバーとそっくりな《偽剣カリバーン》を報酬にあたし達妖精の力を借りて、眷属を狩り尽くそうとしている事。

 

これは要らない情報かもだが、王スリュムは狡さこそが最大の武器であり、その王は眷属を狩り尽くそうと焦るあまり…自身の城の強化をゆるめてしまっているとの事だった。

 

 

【加護の護り】を歌い、みんなのスタミナが減らないように配慮しながら…あたしはさっきから議論を行なっているキリト達の後につづき、眉をひそめる。

 

“《神々の黄昏(ラグナロク)》か”

 

「しっかし、そんな事ってあり得るのかしらね」

 

もちろん、ウルズやユイちゃんを疑うわけでもないが…いきなり、そんな壮大な事を聞かされても反応に困るだけだ。

あたしは『純粋に楽しければいい』とか『仲間を傷つけられたから、やり返す』など…実に単純明快な思考回路を持っている。

 

故に今は、キーボウの仲間達を大勢で囲み、狩っていくという方法に出た霧の巨人族と、この状況を生み出した王スリュムをぶん殴ってやらなくては気が済まない。

 

と意気込むあたしの呟きを耳にした主にトレジャーハントに精を出している影妖精族(スプリガン)ことフィリアが顔をしかめる。

 

「ちょっと、カナタ。なんて言葉遣いしてるの、あんたにそんな気持ち悪い言い方が似合うわけないでしょう」

「あのフィリアさん?ダイレクトに気持ち悪いは胸にくるのでやめていただけませんか!」

「あんたが急に変な喋り方するからでしょう!今でもこの辺が痒くなるわ」

「ちょっとそれは言い過ぎじゃない!?」

 

いつに増して辛辣なフィリアさんにツッコミを入れつつ、扉の向こうから現れた黒い牛さんと金色の牛さんを一瞥し、ニンヤリと笑った。





本当は、あの二匹までいきたかったのですが…やむ終えず、ここまでにおきます(笑)

また、色々と話をへし折ってしまい、すいません…。へし折ってしまった話はこの後の話で書きたいと思ってます!
……書かないかもですが…


次回こそは、あの黒さん金さんが現れますので…お楽しみです!

あっ…でも、カナタさんのチートであの二匹もすぐにポリゴンへと変わることでしょう(笑)


ではでは、読者の皆様が素敵な一年を過ごせます事を祈り…後書きを終えたあと思いますm(_ _)m



1/3〜【R-18版】を更新しました。
宜しければ、ご覧くださいm(_ _)m


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016 A man of high caliber

大変、お待たせ致しましたm(__)m

今回は黒ミノタウロスさんと金ミノタウロスさんとの戦闘となります。
この二匹もまさかの瞬殺となってしまうのか…?それとも、まさかのカナタ達が苦戦となってしまうのか…?

本編をどうぞ!


薄暗いダンジョンの中、あたし達パーティとキリト達パーティは分かれて、其々の相手となる敵なる牛頭人身(ミノタウロス)と対峙していた。

本来であれば、瞬時に決着がつくものだと思っていた…だがしかし、その予想は反してーー

 

「クッソ!あの金の奴、物理耐性高すぎ!あの黒も魔法耐性ありすぎだし…こんなんどうしろっての!」

 

ーー絶讚苦戦中かつあたしはというと終始イライラしっぱなしであった。

 

何故、イライラしてるのか…?

それは上に書いていた通り、ミノタウロスが二匹居るから。

何故、二匹いるとイライラするのか…?

それは簡単。上にあるあたしのセリフに書かれている通りで…全身を真っ黒に染めているミノタウロスが有り得んほどに魔法耐久が付いており、もう一方の全身を金色に染めている方が攻撃耐久が付いているからだ。

そして、昔このミノタウロス達に何があったのか知らないが…この二匹はあたし達程に固い絆でむすばれているらしく、二匹のうちのどっちがピンチーーHPが真っ赤になるとーー相棒が駆けつけ、その相棒があたし達の相手をしている最中にピンチになった奴が瞑想ポーズを行い、やっとのこさで減したHPがぐーんと緑へと戻ってしまう…

 

以上が、あたしがイライラし…瞬時に終わるであろう戦闘を苦戦させている理由であった。

 

「ガルルルルゥ!」

「っ…そんな雑な攻撃に当たるわけないだろ!きんきらりん」

 

音楽妖精族(プーカ)特有の小柄な身体を生かし、迫ってくる金ミノタウロスの攻撃をフィールドを駆け回り、交わしたあたしは唇を噛み締めていた。

 

“こんなんじゃ…あっという間にリミットが来てしまう”

 

さっき金ミノタウロスの攻撃を回避している最中に、キリト達の方から『メダリオンがもう六割以上黒くなっている』と聞こえてきた。

 

【メダリオン】

《湖の女王ウルズ》から与えられ、今はリーファが首から下げているそれには綺麗にカットされた巨大な宝石が嵌め込まれており、さっきの発言からそのカットされた部分は今は六割以上が漆黒の闇に沈んで、光を跳ね返さなくなっているのだろう。

ウルズ曰く、あの宝石が全て暗黒に染まる時は地上にいる動物型邪神ーートンキーやキーボウの仲間達、又はウルズ達《丘の巨人》の眷属ーーが1匹残らず狩り尽くされ、ウルズの力もまた完全に消滅してしまい、あの霧の巨人族の王・スリュムの思い通りになってしまうらしい。

 

そんな事してはならない!断じて!!

こんな小癪な手を使い、あたしの大切なあの二匹の仲間を傷付けた…王スリュムを許すわけにはいかない!

例え、カーディガンやらカーディナルとかいうあのSAOを管理していたスーパーシステム様が許しても、あたしが許さん!!

 

自分の欲の為に国一つを小癪な手で滅す王が支配するそんな間違った世界、このあたしがぶった切ってやる。

 

“あぁ〜ッ!色々考えてたら、更にムカついてきた!”

 

「ふん!」

 

愛刀を光らせ、ソードスキルを打ち込むあたしを援護するように金ミノタウロスの頭上へと無数の矢の雨が降り注ぎ、ソードスキル特有の硬直を味わっているあたしの横を短剣をかまえたフィリアが影妖精族(スプリガン)特有な真っ黒な髪を揺らし、素早くダッシュし、すれ違いざまに標的へと上にえぐるような攻撃を行う技【ラピッド・バイト】をミノタウロスの逞しい肉体へと叩き込む。

 

「カナタ、イライラしないで!今、キリト達が黒を押さえ込んでくれてるから」

「そうよ、あんたが私たちのパーティでの頼みの綱人だから!」

「シノンにフィー、言われなくても分かってる!隙見て、ソードスキルか魔法をぶち込もうと思うけど…どうにもならん!」

 

援護してくれているフィリアとシノンには悪いが、全く持って隙がない。あの黒ミノタウロスへと近づけまいとしようとするが…やたらめったに振り回してくるバトルアックスにより断念せずにおれない感じとなってしまう。

 

“こっちでも魔法を積極にあげてるのは居ないし…。あたしも上げてはいるが…どれも威力は弱いし…”

 

かといって、ヒーラーがいるわけでもない。

簡単な回復魔法はみんな使えるが…アスナみたいな強力なものは誰一人とした習得してないので、あっちのパーティに比べ、こっちのパーティはゴリ押しパーティなのかもしれない。

しかし、何故か支援魔法や妨害魔法の方は充実しており…今のレインが【プロテクション】【シャープネス】をかけてくれている。

 

【プロテクション】は自身と仲間の防御力を一時的に飛躍的に高くさせてるもので、【シャープネス】はそれの攻撃力バージョン。

 

だかしかし、それくらいであの牛達の耐性を壊せるものではなく…

 

“いかんな…どうも、突破口が見つからない…”

 

手詰まりに、思わず奥歯をガリと噛み締めてしまう。そんなあたしを暫し見ていたユウキが何かを思いついたように、あたしの右手首を引っ張ると後方へと向かう。

その際にレインにも声をかけていたが…一体何を思いついたのだろうか?

 

「カナタ!僕、いいこと考えちゃった…ちょっといい?レインも、こっちきて」

「ちょっ、ユキ…!?」

「ユウキちゃん?どうしたの?こんなところに私とカナタ君を呼んで」

 

ユウキによって、部屋の隅へと連れてこられたあたしとレインは当人へと視線を向けると…まさかのウインクで返されてしまった。

いや、ユウキさん…ウインクではなく、答えを早くおっしゃってください。あたくし達の時間は限り少ないのですのよ?

 

「さっき言ったでしょう?いい事思い付いたって」

「ん、言ってたね。で、そのいい事って?」

「ここにいる三人には共通点があるでしょう?ほら、カナタもさっき使っていたでしょう?」

 

ニコニコと邪気を感じられない笑顔を浮かべてそうおっしゃる闇妖精族(インプ)様を見て、あたしは冷や汗が背中を伝うのを感じた。

あたしとレインがそれを口にすると、うん!と元気よく頷くインプ様にあたしは空いた口が塞がらない。

 

「…まさか…」

「OSS?」

「そう、正解♪僕たちのOSSって、威力抜群だし…ゴリ押し出るんじゃないかってね。ほら、魔法とかまどろこしいものって、僕とカナタって嫌いじゃない?」

 

“確かにそうですが…ユウキさん、それは無謀というものでは?”

 

もしOSSを使うのであれば、ユウキとレインはまだいいとして…あたしがもう一つ隠し持っているOSSはキリト側にも被害を与えかねない。とにかく、大規模なのだ。そんなものを容易く行うわけにはいかない!

 

だかしかし、アレを使うことを危惧しているのはどうやらあたしだけらしく。

隣にいるレインはくすくすと口元を隠して笑った後、あたしへとウインクしてくる。

何故、二人揃ってウインクしてるんですかっ!なんですか、流行りなんですか!

 

「あはは、ユウキちゃんらしいね。それにもし、私たちで仕留められなくても…カナタ君がいるしね、やって見てもいいんじゃないかな」

「ん…?……いやいや!流石のあたしもトドメをさせるほどのOSSはもう無いよ、鬼魅呀爲(きみがため)以外!」

「そうなの、カナタ君?まだ、アレが残ってると私思うんだけど…。もう一つと鬼魅呀爲は使っちゃったけど…、アレはまだ使ってなかったと思うから」

「そうそう、アレアレ。アレがあれば…僕たちの勝ちだって」

「そういうあなた達があの技を封印させたんですよ!?」

「だから、今日その封印を解き放つ時が来たんだよ」

「絶剣様が仰っている意味がわかりません!」

 

必死にこの無謀な賭けに出ようとする戦友達を止めようとするあたしから先に離れたこの賭けを提案した本人は、イキイキした様子でキリト達へと走り出していった。

そんなユウキの様子に愕然とするあたしの方を叩いたレインはこれまた素敵な笑顔を浮かべて、あたしへとエールを送るのであった。

 

「さーて、カナタも了承してくれたし…。僕、みんなに話してくるね!」

「ちょっ…あたしはやるとは一言も」

「カナタ君、頼りにしてるよ」

「…レイまで…」

 

“くそ!やるしかないってか”

 

アレを行なった後にくる精神的ダメージは想像するに凄まじいものと思うが…鬼魅呀爲もあともう一つもMPが足りてない故にアレしか使えない。

あたしは深くため息をこぼし、愛刀を握りしめる。

 

“アレを作り出してしまった時から…もう後戻りはできないと分かってた”

 

「さぁ、もうひと暴れしましょうか?相棒」

 

こうして、《黒ミノタウロスさんと金ミノタウロスさんをOSS所用者による一斉攻撃で纏めて倒してしまおう!作戦》が始まったのであった。

 

まず、繰り出していったのはユウキとレインであった。ユウキは黒ミノタウロスさん、レインが金ミノタウロスさんを相手して…自慢のOSSを存分に相手へと放っていた。

 

「いっけ!マザーズ・ロザリオォオオ!!」

「サウザンド・レイン!」

 

OSS【マザーズ・ロザリオ】

ユウキが生み出したこの技は、全てが前に突き出すものであり…また、それ故に強力なものでもある。

まず、前に突き出された刃先を避けられなかったならば…あとは怒濤のダッシュが待っている。十文字を描くような10連撃の後に続くトドメの強烈な一撃は…安易に黒ミノタウロスさんのHPを持っていく。

 

“これなら…黒の方は大丈夫だな”

 

だかしかし、やはりというか…金ミノタウロスさんの方はなかなかに手こずっているらしい。

無数に降り注ぐ青い剣をその身に受け止めても、金ミノタウロスさんのHPはまだ三割を切ったところ。

 

OSS【サウザンド・レイン】

レインが生み出したこの技は、本来ならば鍛冶として使う魔法を戦闘に取り入れた離れ業らしい。

まず、空間の狭間に自分が鍛え上げた最高傑作を潜ませ、レインの合図により…その最高傑作は無数にに群がり、やがて雨となり…標的に降り注ぐといった具合だ。

 

黒ミノタウロスさんの方はもう残り僅か、金ミノタウロスさんは半分を何とか切ったところで…あたしへとバトンがパスされる。

 

「あとは任せたよ、カナタ」

「カナタ君、お願い」

 

戦場から離れていく二人を見送ったあたしはアレを解禁した。

 

「んじゃあ、いっくよー♡えいっ」

 

OSS【愛虜(らぶ)

自分のことながら…こんなものを作り出した奴はアホなんじゃないかと思う。恐らく、徹夜続きで自分だけのOSS作りに熱中してしまい…眠たさも限界と来た時にやってしまったのだろう、このおバカさんーーいわゆる、あたしが。

 

この頭がおかしいんじゃないかと思う名前をしたOSSの内容も至ってシンプルで…

マギアで自分と味方の魔法の効果を倍増させ、続けて自分の周りに虹色の魔法の球で出現させ…『えい!』とあたしが刀を振ったら、前にその七色の魔法の球達が手当たり次第に前に飛ばし、敵のHPを減らしていくといった具合だ。

 

そして、何故か知らないが…この技を発動したあたしは当初のやらかしてしまったあたしへと成り代わり、その痛々しい言動を周りへと振りまく。自分でもウザいと思う甘ったるい声音で魔法の球でHPを削られ、フニッシュとして…刀を振り回したあたしにより、HPを削られたミノタウロスさん達は悔しそうな声を漏らして…天井へと登っていった。

 

「もう、これに飽きたら…おいたはダメだよ、牛さん達っ」

『ガルルルぅ……』

 

“ァアアアアア!!!!”

 

OSSも発動終わり、あたしは床へとへたり込む。

そして、顔を羞恥心で真っ赤に染めると…コツンコツンと頭を氷で出来た床へと叩きつける。

 

「死にたい死にたい死にたい死にたい…、今すぐこの羞恥心から解き放たれたい。あっ…今からあそこにいるモンスターさんの前に出ていっていいですか?」

「ダメに決まってるでしょ、カナタ。ほら、まだあと三層残ってるのよ、しっかり!」

「流石です、カナタ様!素敵なOSSでした」

「…もうしない、アレは永久封印する」

 

想像通り、羞恥心で精神面をズタボロにされたあたしは…暫し、シノンとルクスに励まされ続けたのだった…




前の後書きに書いたとおりとはなりませんでしたが…今回の戦闘でも大活躍(いろんな意味)だったカナタですが…

次回はやらかします!今回以上(笑)

いえ、やらかしてるのは…いつものことなんですけどね(大笑)


また、次回の更新は木曜日となってます。
内容は、今の今まで整理してなかった主人公のプロフィールとアバター、ユニークスキル、OSSなどなど…上の方に更新します。

そして、このあとの話は来週の火曜日を目標としてます!

→木曜日に予定していたプロフィールなどは、来週の火曜日の更新と一緒に投稿します。遅れてすいません…


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017 A man of high caliber

前の後書きで書いた通り、今回は主人公がやらかします。

何でとは言いません…やらかすとだけ、皆さんにお伝えいたします。

なので、どんな場面でやらかしてしまうのか…?楽しんでいってください!


思わぬ味方からの精神攻撃あったあたしは、シノンとルクスの励ましと…リーファが首から下げているメダリオンを目にしたところから“落ち込んでいる場合ではない!”と思い直し、キリトの頭の上に鎮座していらっしゃる新形のインテリジェント・カーナビも裸足で逃げ出すナビゲーション・ピクシー様へと視線を向ける。

そして、ピクシー様ことユイ様のご指示の元に、あたしたちは逆三角形の形をしたダンジョンの中を駆け抜ける。途中でレバーだの歯車だの踏みスイッチだのを駆使したパズル系ギミックがあったのだが…それもユイ様に掛かれば、ちょちょいのちょいである。

キリトから旧アインクラッドでは攻略の鬼と呼ばれていた水妖精族(ウンディーネ)様へと乗り換え、二人の指導者の元であたしたちは思考力ゼロでがっちゃんこがっちゃんことレバーやらを解除していく。

まるでオリンピック選手顔負けに動きまわるあたしたちを第三者が見たならば、最速クリアのタイムアタックでもしているかなぁ〜?と思ったに違いない、あたしだってそう思う。だって、可愛らしい声に習い、一糸乱れぬ整列をした軍団が決められた場所へと向かい、またしても一糸乱れぬ動きで「えいやー!」とレバーなどを引っ張るのだから…。

 

そんなタイムアタック並みのハードな攻略な際、様々なドラマが生まれたのだった。

その中でもあたしの心に残ったものは、重量系パネルギミックで《女性パーティの中でいちばん軽い者と重い者を出せ》というもので…まぁ、みんなの視線と自身でもそう思っていたところがあるあたしと、やや強引にみんなから指名されたリーファの二人で重量系パネルに乗ったのだがーーみんなの予想通りの結果となり、無事にギミックは解除されたのだが…乗らされた二人はまさに正反対の反応をしていた。

黄緑のかかった金髪を揺らし、男性パーティの二人とおまけなあたしへと強烈なビンタを放ったリーファはポロポロと涙を流しながら、ルクスへと抱きついていた。

 

「体重が重いんじゃないもん…!」

「うんうん、分かるよ、リーファ。リーファは全然重くなんかない」

「ルクスぅ……」

 

ルクスはポロポロと涙を流すリーファを慰めている中、あたしはヒリヒリ痛む右頬よりも感動に満ちた視線で自分のある一部へと視線を落としていた…。

 

「おぉ…あたしって、あんなに体重あったんだ…。もしかして…こっちが成長…中…?」

 

ペタペタと蜜柑と檸檬を基調とした和服系戦闘着の上から平らに見える二つのふくらみを触る。触って見て、思わず目を疑ったーーだって、幻想かもしれないが僅かに膨らんでいる気がしたからだ。

 

“…ん!やっぱり、そうなんだね!”

 

この胸の中には夢と希望がいっぱい詰まっているのだもの!

現実でも縦は伸びるが…こっちは増えず終いの伸びず終いであった。だが、それも今日までというわけだ!

 

“ここから夢にあふれた日々が始まるんだねっ”

 

じーんとそんな事を思っていると、襟首をがしっと摘まれ、後ろへと引きづられてしまう。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないから!こっちにくる!」

「ぐはっ!?くびっ、首がしまっております!シノンさん!」

 

一緒に乗った風妖精族(シルフ)様にはビンタを。何故か、頬を赤くした猫妖精族(ケットシー)様には首を絞められながら…あたし達は残りのボス部屋やらも、あたしの【鬼魅呀爲(きみがため)】やキリトの【スキルコネクト】により瞬殺して、予想よりも早く四層へとたどり着いたあたし達の目の前に反応に困る光景が広がる。

 

「お願い………。私を………ここから、出して………」

 

上の声が聞こえたのは、通路の右側に作られた細長いツララで作られた檻の中であり、その中には一つの人影があった。

床にしなだれているため、正確な身長は分からないが…これだけは言えるのが、あたしよりも大きい事。そして、我がパーティの中では、ウンディーネのアスナの身長とどっこいどっこいという事だろう。

また、その人物の特徴を述べるならば…肌は、降り積もったばかりの粉雪のように白くきめ細かい。背中へと流れる髪は深いブラウン・ゴールド。身体を申し訳ばかりに覆う布から覗く胸元のボリュームは、恐らくこの場にいるあたしを含めた女性メンバーの誰よりも膨よかであるだろう。なよやかな両手両脚には、無骨な氷の枷が嵌められている。

 

立ち止まったあたし達の気配を感じ取った謎の美女はびくりと肩を震わせると、青い鎖を揺らして頭を上げる。

 

上げた顔立ちはこのゲームでは珍しい、西欧風の気品溢れるものであり…同じ女性のあたしでも思わず見惚れてしまった。

そして、何よりもあたしを惹きつけたのは…女性が身に纏う儚さであった。触れれば、視線を外してしまえば…何処かに消えていってしまうような脆さが、あたしが心から愛しているある人物と被り…不覚にもドキッと胸が高鳴る。

 

「お願い……」

 

そんな美女がか細い声で助けを求めているのだ、これを助けないでなんとするっ!

そんな思いを抱くあたしと赤いバンダナを頭へと巻いている火妖精族(サラマンダー)の刀使いはふらりとその檻へと吸い寄せられる。

 

「おい待て、そこの二人」

「何、ふらっと檻に近寄ろうとしてるのよ」

「こんなの罠に決まってるでしょう?」

 

上のセリフはキリト、リズベット、フィリアが発したもので…捕まったあたしとクラインさんは顔を見合わせると小さく唸る。

 

「罠…なんだよな…?なぁ…、カナタ…」

「あぁ…うん…罠…なんだよね…?クラさん…」

「罠なんだろうけどさ…」

「それでも…罠と決まったわけじゃないからさ…」

 

往生際悪くそう言い、またしても檻の奥にある深窓の令嬢を心ここに在らずの様子で見つめるあたし達へと嘆息したキリトがちらりと自分の肩に止まるピクシーへも問いかける。

 

「この人はNPCです。ウルズさんと同じく、言語エンジンモジュールに接続しています。ーーですが、一点だけ違いが。この人は、HPゲージがイネーブルです」

 

【Enable】ということは、有効化されているということだ。普通のクエストに登場するNPCはHPゲージが無効化されており、ダメージを受けない。例外が、援護クエストの対象となっているか、あるいはそのNPCが実はーー

 

「カナちゃん、クラインさん、これは…」

「罠ですよ」

「罠だよ、カナタ様」

「そうだよ、しっかりして!カナタ君らしくないよ、こんな罠にかかりそうになるなんて」

「ほら、クラインも!僕たちは今、一刻も早くスリュムに行かなくちゃならないんだから」

「ーー」

「シノンさん?なんで、さっきから無言なんですか?」

「気にしないで、リーファ。今、胸の中にある黒い感情をなんとか抑え込んでいるところだから」

「そ…そうですか」

 

アスナ、シリカ、ルクス。レインにユウキ、リーファ、そして終いはもう既にお見せできない表情となっているシノンが立て続けて、檻に吸い寄せられるあたし達を止めようとしている。

だがしかし、あたしとクラインさんはそんなみんなから離れると揃って振り返って、思っていることを言う。

サラマンダーの刀使いは右手に愛刀を、プーカの刀使いは左手に愛刀を携えて。

 

「もちろん!わかってるよ!みんなが言いたいことも全部、全部」

「あの人が罠ってことも…そうかもしれないかもしれないってことも…」

「あの人を助けてしまって…それでこのクエストが失敗しちゃっても…」

「アルンが崩壊しちまっても…」

「それでも!!」

「俺たちはあの人をここに置いていくわけには行かないんだ!!」

「「それがあたし(俺)の生き様ーー武士道ってヤツなんだよ!!!」」

 

そこで叫んだあたしとクラインさんはそれぞれ持った愛刀で氷の檻を切り裂き、揃って囚われの令嬢へと手を差し出す。

 

「お嬢さん、お手をどうぞ」

「お怪我はないですか?」

「……ありがとう、妖精の剣士様たち」

 

既になりきっている二人の刀使いを遠目に見ていたみんなはなんとも言えない表情を浮かべている。そんなみんなから一歩後ろにいるケットシーの弓使いの表情はなぜか知らないけど…見てはいけない気がした、なのでみんなは全力で水色の髪を揺らしているケットシーから視線を逸らすと…囚われの女性へとデレデレしてる二人を見て、こう思ったそうな。

 

“あいつら…アホなのか、かっこいいのか分からんな…”

 

と。




というわけで、やらかしましたよ!遂に主人公が!!(大汗)

今まで滅多なことが無ければ…恋人のシノンさん以外には目移りしなかったあの主人公が初めて、目移りしました…(汗)

これはやばい状況です!最後の決戦が残っているというのに…

あぁ…主人公の命もここまでやもしれませんね…(大汗)


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018 A man of high caliber/ カナタとヒナ①

更新、1日遅れてしまいすいません…。

今回の話はタイトルを見た方は察していらっしゃると思いますが…今回は二つの話を合わせて、更新してます!

一つは火曜日に更新する予定だったキャリバー編。もう一つはR-18版の5話・後書きをご覧になった方はご存知かもしれませんが…この小説制作当時の主人公と今の主人公がばったりと会ってしまう話を書いて見ました。

いつもの如く、コロコロと視点が変わりますので…どうか、読むときにご注意ください。

では、本編をどうぞ!


火妖精族(サラマンダー)音楽妖精族(プーカ)の刀使いに両手を差し出され、それをしなやかな両手を添えて立ち上がった深窓の令嬢を視界に収めた瞬間、水色のショートヘアーに同色の三角耳を生やした猫妖精族(ケットシー)ことシノンは藍色の瞳を細めて、その令嬢を睨んでいた。もちろん、その横でデレデレとゆるゆるに緩みきった表情を浮かべている恋人も一瞥する。

 

“何よ…いつにも間にして、デレデレしちゃって…”

 

不機嫌に腕を組み、カツンカツンと氷で出来た床をブーツで蹴飛ばしては、いまだに深窓の令嬢の左手を強く握りしめ、下心ありありの表情を浮かべて…甲斐甲斐しく令嬢のお世話をしている恋人へと溜まっていく積怒を拡散していく。床を思えば、完全なる八つ当たりだとは分かってはいるが、現在進行形で溜まり続けているこの怒りを何やらかの形でどうにかしないと今にも肩に掲げている弓矢で恋人を撃ち抜いてしまいそうになる。

実際、今も刀使い達は普通の声音を無駄にカッコいいトーンに変えると緩みに緩みきっている顔をその時だけ引き締め、どっちがこの令嬢を入り口までエスコートするかを言い争いしている。

 

「お姉さん、一人で帰る?」

「あぁ、出口までちょっとばっかし遠いしな」

「もし、心配ならあたしが送っていくよ」

「いや、お前はこの攻略に必要な人材だからな…ここは俺がーー」

「ちょっ、クラさんばっかし、いい思いしようとしてるでしょう!」

「けっ、いっつも女の子に囲まれてキャッキャウフフしてるお前が何を今更言ってる。ここは俺に譲るべきだろ!」

「好きでキャッキャウフフしてるんじゃないし!みんなが勝手に寄ってくるんだって!」

「あぁ〜ぁ、いいよなぁ〜。女子にモテるやつはさぁ〜、俺も一度でいいから言ってみてぇーよ、そんなセリフ」

「じゃあ、ここで言えば?ほら、聞いてあげるから言いなよ。ほら、ほらっ」

 

顔を目一杯近づけ、醜い言い争いを続ける子供な刀使い達を前に…助けられた令嬢も困り果てている様子であった。そんな令嬢へと声を掛けるのが、キリトやユウキたちであり…令嬢もやっと助け船が来たと困り顔を綻ばせた。

 

「えぇ…と、あいつらは置いといていいですから」

「そうそう、あの二人。無駄に仲がいいんだから」

『仲なんか良くないわ!!』

「あははっ、そう言うところが仲が良いんだって」

 

同じタイミングで否定する刀使い達を見て、けたけた笑うはユウキだけであり…他のみんなは謎の令嬢・フレイヤの目的を聞き出すと、未だに言い争いをする刀使い達を置いて、スリュムが待つボス部屋へと歩いていく。

 

そんな中、水妖精族(ウンディーネ)特有の青みが掛かったロングヘアーを揺らして振り返ったアスナは、今まで不気味な静けさを保っている親友(シノン)へと恐る恐る声をかける。

 

「シ、シノのん…?」

「何?アスナ」

「リーファちゃんも言ったけど、さっきから無言だけど大丈夫?」

「えぇ、大丈夫よ」

「そう?」

「えぇ。今ならスリュムだろなんだろうと一撃で仕留められる気がするわ。それもこれもあそこで鼻の下を伸ばし続けてる色ボケのおかげだわ」

「あはは…そう…だ、ね…」

 

ニッコリと事情を知らない者が見たら、惚れ惚れしてしまうような美しい笑顔を浮かべて…そう答えるシノンにアスナは冷や汗をスゥーと流す。

後方でそんな話がされているとは気づいてない前衛を任されている刀使い達は又しても醜い争いを続けていた。

 

「ささ、床が滑りやすいですから…あたくしめのお手を取ってください、フレイヤさん」

 

とカナタがフレイヤへと手を差し伸べると、それを押しのけるようにクラインがフレイヤへと手を差し伸べる。

 

「なっ!フレイヤさんをエスコートするのは俺様の役目だっての!フレイヤさん、そんな奴の手を取る必要なんてないですよ。そいつは今までそんな事を言っては女の子を取っ替え引っ替えしてしたんですから。そんなナンパ男よりも、どうか わたくしめのお手を」

「ハァ〜ァ?どの口が言うんだ、この偽侍!!あんたの方があたしより酷いだろうがっ!!」

「んだと、てめぇ!お前の方が俺も酷いだろうが!!実際、あそこに並んでいる女子メンバー、お前が美味しく頂いちゃった後だろうが!」

「んなわけねーだろ、このクソ侍!!フレイヤさんが居る前でデタラメ言いやがって!あと、未成年者が多いパーティでそういう下ネタ言う奴は一生モテませーん♪」

「おうおう、そうかい」

 

ほっておいたら、取っ組み合いの喧嘩になりそうな雰囲気が漂っていたので…フレイヤが苦笑いを浮かべつつ、二人をなだめる。

 

「まあまあ、どうか落ち着いてください、剣士様方」

 

しかし、一旦血が上ってしまったものは何をどうしても下がらないらしく…しばし、廊下には二人が発する汚い言葉が流れ続けていた……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

【カナタとヒナ ①】

 

運命というのは不思議なもので、第三者から見れば些細な出来事でその人が進む道は大きく異なったものになり、全く違う運命を辿ることになる…それは大きく異なった道を歩んでいってしまったとある少女達が本来は出会うはずが無いのに、出会ってしまったという摩訶不思議な物語である。

 

その物語の事の始まりは、とある少女がこの世界へと迷い込んでしまったことからなる。

 

「……ぅぅ…。クー…さ、ん…どこにいるの?……私を…一人にしないでよ……」

 

その少女は困っていた。

突然、白い光に巻き込まれたかと思うと…見知らぬ街の中に居たこと。歩き回って、見知ったオブジェクトを見つけ、下の層に降りようと思ったが何故か降りれなくなってしまってること。どうしようかと思い、辺りをキョロキョロして知ってる人を探そうとしても…見知った人が居なかったこと。また、少女の心を一番不安にさせてるのは…唯一の心の拠り所となってる恋人の姿が何処を探してもない事であった。

 

「もう少し…探してみようかな…?でも…」

 

探すとしてもどう探せばいいか分からない故に、少女は小動物のように身体を縮め、キョロキョロと忙しなく辺りを見渡し、心細さからギュッと自分が着ている衣服を握りしめる。

そんな少女を見つめる視線が三つあり、こそこそと何かを話し合っているようだった。

 

「なぁ、あそこにいる奴って…蒼目の侍じゃね?」

「ん?違うだろう、蒼目にしては胸ありすぎだろ。それにあんな女子力高くねぇーだろ、あいつ」

「あはは、だな。でも、あの子。割といい感じじゃね?」

「あぁ、上玉だな。どうする?俺らで案内してやる?」

「いいんじゃね、やる事ねぇーし」

「あぁ、案内した後にたんまりご褒美も貰ってな」

 

ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる男性達は少女の前に歩いていくとわざとらしく優しい声音で話しかける。

 

「こんにちわ」

「……ッ」

「そんなに警戒しないでよ」

「そうそう、俺ら。君が困っている様子だったからさ」

「……わ、かりましたか…?」

「そりゃ、そんなにキョロキョロしてたらね」

「さっきから誰か探している感じだったけど…誰、さがしてたの?」

 

男性の一人のそう聞かれ、少女はギュッと唇を噛むと探している人を話す。

 

「クーさん…いいえ、クラインって名前のプレイヤーを探して居たんです」

「あぁ、クライン。それなら俺ら知ってるぜ」

「おお、ついてきな。クラインにあわせてやるよ」

「ありがとうございます!」

 

深く頭を下げる少女に男性達はニヤニヤと笑いながら、人目がつかないところへと歩き出す。小さい小道をギグザクに入れ込み、大きな広場に出た時に男性達は振り返ると…上目遣いに不思議そうにこちらを見てくる少女の容姿を確認する。

癖っ毛の多い栗色の髪を腰近くまで伸ばし、こっちを不思議そうに見つめるは空のように透き通った蒼い瞳。適度に整った顔つきは綺麗系統で、触れれば折れてしまいそうなほどに細い手脚が橙を基調した和服から色っぽく覗く。

 

「……なぁ、やっぱり…蒼目なんじゃ…」

「……いいや、違うに決まってるだろ。あいつのおっぱい、あんなに膨らんでたか?」

「……いいや、膨らんでねぇよ。…まぁ、細かいことはいいからさ。早いこと美味しく頂いちまおうぜ」

 

実際、目の前にいる少女がとある攻略組に似てることは否めない。だかしかし、だからこそ…男性達は内心盛り上がっていた。

あの攻略組にこんなことを仕掛ければ、返り討ちにしかねないからだ。奇襲に成功したとしても、いつも隣にいるあの弓使いに知られてしまえば…自分たちの命の保証がない。

故に、この激似の少女は男性達にとって神からの贈り物のように思えたのだった。

 

「あ、あの…」

「ん?どうした?」

「クラインさんはどこですか?私、一刻も早く…あの人にーー」

「あぁ、直ぐにあわけてあげるよ。君からの報酬をしっかり受け取った後に、ね?」

「……ほう、しゅう…?」

 

ニヤニヤした笑みを浮かべる男性達を見て、そこでようやく少女は自分が罠にはめられていていたことに気づいたらしい。勢いよく振り返り、逃げ去ろうとする少女の前に一人の男性が回り込む。

そして、その男性が少女のほっそりした手首を掴むのを見て…少女は大きな声を上げようとする。

 

「まあまあ、もう少し。ここにいなよ」

「…嫌です!私はクラインさんに会わなくては……」

「ふーん、あまり手荒な真似はしなくなかったんだけどね」

「いっ、むぐ…!?」

「はいはい、静かにね」

 

唯一助けを呼ぶ方法を奪われ、少女はぽろりと涙を流す。そんな少女を見て、ますます笑みを深めた男性達はそのゴツゴツした手を少女の柔肌へと伸ばそうとしてーー

 

「ぐは!?」

「ごほ!?」

「がは!?」

 

ーー綺麗なソードスキルを叩き込まれ、あまりの衝撃に気を失い…地面へと倒れこむ。

バタバタと自分の周りを取り囲んでいた男性達が地面へと伏せていくのを見て、少女は恐怖からの解放感に満たされ…その場にへたり込み、自分の前に差し出されたほっそりした左手を見つめる。

 

「お嬢さん、大丈夫?あいつら、この町でも名の知れた悪党だからね、今度からは気をつけなよ」

 

頭上から響くアルトよりの声に助けてもらったお礼を言おうとして、上を向いたところで…互いに固まる。そして、同じタイミングで息を呑み…呟く。

 

「……へ?あたし…?」

「……え?わたし…?」




まず、キャリバー編は次回はスリュム戦なのですが…予定ではカナタvsシノン戦となると思われます。
言わずもがな、原因はあの人のアレで…です(苦笑)

そして、淡々と進めてしまった制作当時の主人公と本編の主人公がばったりと会ってしまう話ですが…
えぇ、皆さんの言いたいことは分かりますとも…あの弱々しい奴、誰!?ってことぐらい(笑)
彼女も彼女で苦難の道を歩んできたのです…そして、その旅路で心許せる恋人に出会い、今はその人にベッタベタなのです(微笑)

まぁ、それは後々明らかにしていくとして…参考程度に、下に制作当時と本編の彼女の違いを書いてみますね…(微笑)

例) 本編/制作当時

一人称) あたし/私(わたし)

胸元) 年相応/大きく膨らんでいる

口調) 男勝り/丁寧

服装の色) 橙と黄を基調/橙と赤を基調

服装の違い) 首に黄緑のマフラー/左二の腕に赤い趣味の悪いバンダナ

利き手) 左手/右手

武器) 刀と小太刀/主に短剣。たまに槍

身長) かなり高め/年相応

恋人) シノン/クライン

※制作当時は、原作第1巻から書き進めていく予定だったので…シノンは登場しない予定でした。


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019 A man of high caliber

お久しぶりです。

この章の更新もお久しぶりですね。久しぶりすぎて、読者の皆さんも今どんな状況なのか分からないと思うので…簡単にあらすじの方を書かせてもらいます!

あらすじはカナタがフレイヤに一目惚れし、デレデレするカナタにシノンが怒り心頭という感じですね…。

さて、早速ボス部屋攻略となりますが、恐らくシノンvsカナタとなると思います…どっちが果たして勝つのでしょうか?

長めですので、ゆったりとお楽しみください(礼)

※読みにくいと思いますが、よろしくお願いします。


突然だが、みんなは夫婦喧嘩は犬も食わない、という(ことわざ)を知っているだろうか?

意味はなんでも喰らう犬も夫婦喧嘩には見向きもしないという意から転じて、夫婦喧嘩の原因となるのは大抵しょーもないものや一方的なものが多く、間に他者が入り取り合わないなくても時間が経てばそのうち元に戻ったり、仲直りしているからほっておけばいいというものらしいが、果たして俺の目の前で繰り広げられているこの状況はその夫婦喧嘩に適用されるのだろうか?

 

“まぁ、その答えは神のみぞ知る…って感じだろうな”

 

俺は《霜の巨人の王スリュム》が待機しているボス部屋の入り口付近に待機しつつ、このダンジョンのボス部屋で荒れ狂う二つの小さな人影へと呆れ半分感謝半分という何とも言えぬ感情を抱きながら眺める。

その何とも言えぬ感情を抱いているのは俺だけでなく、隣で同じく待機している水族妖精(ウンディーネ)特有の水色のさらさらとした絹の様な髪を揺らしながら、俺へと視線を向けてくるアスナも抱いているらしかった。

 

「ねぇ、キリト君。どうしようか?この状況」

「…アスナ。夫婦喧嘩は犬も食わないっていう諺があるだろ?」

 

俺はSAO(あの世界)でも愛用していた黒いジャケットに包んだ腕を組みながら、アスナへと話しかける。話しかけられたアスナは俺の言葉にうなづきつつ、視線を元に戻すとその美しい表情を曇らせる。

 

「そ、そうだね…。でも、これはその諺の夫婦喧嘩とは違うような」

「確かにな、この夫婦喧嘩に巻き込まれれば犬も俺らも命を落としかねない」

 

俺もアスナと同じ様に視線を元に戻すと今だに続いているうちのバカップルによる夫婦喧嘩の成り行きを見守る。

 

改めて、この逆ピラミッド型のダンジョン奥地にあったこのボス部屋がどんな内装なのかをざっと説明しよう。

俺らプレイヤーを取り囲む壁や今踏みしめている床はこのダンジョンで慣れひさしんだ青い氷が敷き詰められており、そこから視線を前に向ければ氷の燭台(しょくだい)があり、そこにはゆらゆらと不気味に思える青紫色の炎が揺らめいている。横にも縦にもただ広い空間にも天井はあるらしくそこには床や壁と同じ色をしたシャンデリアが並んでいる。そして、このボス部屋に入った時に俺らが目を暴れたのが左右の壁にどっさりと積まれた黄金の輝きーー即ち、金貨や装飾品、剣、鎧、盾、彫像から家具などなどありとあらゆる種類の黄金製オブジェクトであった。しかもそのオブジェクトがただ広い空間の奥の奥まで積み上げれているのだ。これに目がくらまない者が居ようか?否、居まい!俺もストレージを軽くさせていれば、嬉々としてその黄金を俺のストレージへと入れていた。

 

さて、ボス部屋の内装の説明はここまでにして、あの夫婦喧嘩はどうなっただろうか?

頼むからなるべく早く終わってくれないとこれからの事に差し支えるのだが……って、俺ら何もしてないのにスリュムのHPが4つうちの二つが無くなっているところなんだが!?って、どんだけ早いんだよ!?

 

「おいマジかよ、この部屋に入ってまだ10分くらいしか経ってないぞ…」

 

俺と同じくそのスピードに驚くクラインと違い、カナタ…キーボウに乗ってこのダンジョンに来たチームは驚くどころか、感心している感じがする。

 

「そういえば、カナタの鏡様倍返(カウンター)って」

「その名前の通り"鏡"の"様"ように技や魔法を反射して"倍返"しにする技って言ってましたもんね。あの時の得意げに笑うカナタ様カッコ良かったです」

「流石、カナタだね。僕教えてもらおうかな」

「私も教えてもらいたいな」

 

和やかムードのキーボウチームと違い、驚きに満ちるトンキーチームは今だにこの無駄に広いボス部屋で浮気という名の鉄槌を受けている音楽族妖精(プーカ)特有の小柄な身長を生かして、確実に急所を狙ってくる水色のショートヘアを揺らす猫族妖精(ケットシー)弓使い(スナイパー)から逃げ続けているカナタを茫然と見つめる。

計14の大小様々、色様々な瞳が自分を見ているのにカナタが気づくことはないだろう…何故ながら、カナタもスナイパーが放つ怒りの一撃を避けて、カウンターを決めるのに必死だからだ。

 

常に動いてないと狙撃させると思っているのか、カナタは基本動かないシノンと違い、凄まじいスピードで時折この部屋の主人なのに空気と化しているスリュムの巨体を壁にしたりして、なんとか生きながられているようだ。

 

“って…毎度のことながら、この二人はなぜここまで極端なことをしでかすか”

 

俺もアスナに怒られることがあるが、正座をさせられて、目の前で鬼神のように仁王立ちし、腕を組みながら、ニコニコと笑顔なのに笑顔じゃない摩訶不思議な笑みを向けられつつ、延々と小言を混ぜた説教をいただくのだ。時折、物理攻撃もあるがここまで酷いことはーー

 

「ーーキリトくぅ〜ん?今、何か私のことで良からぬことを思った?」

「いえ、滅相もありません!アスナさん」

 

カナタ&シノンの命を賭けたお仕置きという名の鬼ごっこを見ていたはずのアスナがいつの間にか俺の方を見ていて、俺は要らぬことを思っていた事を頭を振って忘れるとカナタ&シノンの逃走劇を見る。

 

 

 

τ

 

 

 

後ろから迫ってくるケットシー殿から放たれる音速を超えそうなくらい早い矢を視界に納めたあたしはギョッとしつつ、その矢に軌道から身体を反らせると左手に持った刀を構える。

 

「待ちなさいって言ってるでしょう、ヒナタ!」

「だから、そんな物騒なもん構えてるのに待てるわけないでしょうーー鏡様倍返(カウンター)っ!!」

 

ふん!っと刀を振り上げるあたしの刀身と矢が当たり、カチンと鮮やかな音とともに綺麗な軌道を描いて、突然始まったあたしとシノンの逃走劇に迫力…いいや、この部屋の主人となるスリュムもあたしとシノンを止めようとしていたが、シノンがスリュムを絶対零度の如く鋭き氷の刃のような視線で一瞥した上に放った、「私はヒナタと話がしたいの。邪魔をするっていうなら、あなたから始末するわよ」的なセリフは場違いだが、シノンさんマジクールって思ってしまった。あたしはそういう扉は持ってない…いいや、開いたことは沢山あるか。まぁ、その扉を持っている者が見て、聞いたものは嬉々としてシノンの矢の軌道に駆けていきたい程の魅力に満ちていた。満ちてはいたが、今のあたしにはその魅力にしたる猶予も残されてない。なぜならば、ひしひしとシノンから殺気をぶつけられているからである。ここまでの殺気をぶつけられたのは、現実世界でまだ付き合う前に大喧嘩した時以来である。あたしはその殺気から逃せる為に無駄に広い空間を駆け回る。足を止めることは許されない、止まればそこにあるのは死である。そう、今のあたしはマグロであると思い、駆け回り続けるあたしが技と共に放った矢はシノンからそのセリフを浴びせられてから棒立ちとなっているスリュムの巨体へと矢が練りこみ、HPが目に見えて減る。

 

“って、もう三段目になってるし!?そんなにあたしはあのスピードの矢を放たれていたのか…”

 

びっくりするあたしの右頬すれすれを掠めていく特殊矢…先がテカテカと光っていたから、あれは毒矢ってとこだろう。

 

“シ、シノさん…それはシャレにならん。ならんですよ…”

 

ヒリヒリと皮膚を刺激する殺気と先ほど後方に飛んでいった毒矢にもう冷や汗が止まらない。

あの毒矢…あたしの見間違いでなければ、あの先端に塗られてたのって麻痺するものだった気がする。

ということは、その矢に当たり、麻痺して氷で出来た床に倒れこむあたしにシノンが近づいてきて、ゆっくりと焦らす様に矢を放ち、死に怯えるあたしの表情を見て、にこにこ痛ぶり笑うシノンがーー

 

“ーーう、うわ…想像出来る…。出来てしまう…”

 

あの殺気と矢の放ち方からして、シノンがそうする可能性はありということだ。

 

“こ、こわい…あたしの恋人が怖いんだけど!?いつも以上にSっ気増し増しで怖いんだけどっ!!?”

 

もう、悪寒と震えが止まらないよ…殊更、シノンの矢を受ける事は出来ないんだけど。

二つ同時に迫ってくる矢を一つは鏡様倍返(カウンター)し、もう一つは必死に身を逸らして回避する…のを先読みされていたのか、回避するタイミングジャストに飛んでくる矢。

 

「んどりゃあ!!」

 

しかし、その矢はあたしの乙女らしからぬ掛け声と共に持ち上げられた愛刀に弾かれ、又してもスリュムの方に飛んでいく矢。

しかし、そのとばっちりにも似た矢を放ったあたしには汗に濡れたひたいを拭うと小さく息をつく。

 

「はぁ…はぁ…。っ…さっきのはマジでビビった」

「そうね、私もさっきので射止めたと思ったから。私もヒナタがあれを避けるとは思わなくなったから、びっくりしちゃったわ」

 

着物越しに押し付けられる鋭い刃の様な感触にあたしはさっき拭ったはずの冷や汗が止めどなく溢れてくる。

 

「…その声はシノンさんであらせられますか?」

「私以外誰に聞こえてるのかしらね?参考までに聞かせてもらいましょうか?」

 

ギギギッと壊れたカラクリ人形の様に後ろを見るあたしに女神の如き美しい笑顔で微笑む愛する恋人殿の姿が居た。

 

「チェックメイトよ、ヒナタ」

「…あはは……あははは………。はぁ……………」

 

苦笑いを浮かべるあたしは大きなため息と共に左手に掴んでいる愛刀を鞘におさめると美しい女神(シノン)に向かって、両手をあげると降参するのだった…




この章は予定ではあと3話〜5話で終わる予定で、この章の後はアリゼーション編となる予定なのでなるべく早くアニメに追いつきたいと思います!
次回は降参したヒナタの話とボス戦の最後を書きたいと思います。

さて、ここからは雑談となるのですが…ひとまず、9/30にアスナさん、10/4にシリカちゃん、10/7にキリトくんが誕生でした!改めまして、おめでとうございます!!
といいますか…10月誕生日多いなぁ…うちのヒナタも10/10が誕生日ですからねっ!
これはこれは10月誕生日チームで何かクエストを書いてみようかなぁ(笑)
これまたかなり遅くなりそうですが……(汗)

また、遂に10/6に『SAO アリゼーション』が始まりましたね!
簡単な感想を述べると、原作とは違う展開が多く盛り込まれており、フェイタルバレットのみんなとは違う衣装が見れたのが嬉しかったのと、フェイタルバレットのゲームオリジナルキャラの二人も現れましたし…、幼い頃のアリスやキリト、ユージオが可愛かった…(デレデレ)
また、何よりも嬉しかったのは、ヒナタが…形を変えておりますが、ヒナタがシノンの近くにいたことです!!
まぁ、シノンに踏みしめられておりましたが…それでも、私にはヒナタに見えました!

また、原作の時から思っておりましたが、いくらなんでも齢11才の子を紐で縛り付け、ドラゴンの首に吊り下げて、連れていくってあんまりだと思うんですよ…それがあの世界のルールだとしても、あれはあんまりだと思うんですよね…(汗)

とこんな感じですが、雑談を終わろうと思いますm(_ _)m


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020 A man of high caliber

なんとか間に合ったぁ…(大汗)

ひとまず、ハッピーバースデー、ヒナタ!!o(`ω´ )o

年はストーリーが進まないと取らないけど…君が生まれてくれたこの日に感謝を!!

ということで、かなり長めですが…ゆっくりと楽しんでください!

※二人の誕生日エピソードは簡潔に書きましたが、なるべく甘さをふんだんに詰め込みました!
読まれる際はブラックコーヒーをお供に読まれてください!

では、本編をどうぞ!!


ひんやりした青い氷が引き詰められた床に後ろ手に縛られることもなく、倒れこむ小さな肢体が特徴的な音楽族妖精(プーカ)・カナタに呆れや憐れみ、鬼胎(きたい)を含んだ視線を向ける中、そんな視線すら感じてないようにその小さな身体へとブーツをのせるのは、さっきまでそのプーカとこのボス部屋でお仕置きという名の命をかけた追いかけっこをしていた鮮やかな水色のショートヘアーからシャープな三角耳を生やしている猫族妖精(ケットシー)・シノンである。

 

“…あたし、何してるんだろ…”

 

シノンにブーツの踵の部分と全体を使い分けながら、小言も共に踏まれているあたしがこうして何も出来ずに無様に氷の床に倒れているのかというとシノンに捕まった後、チクッと橙の着物越しに麻痺する薬が塗られた(やじり)をアバターの背中に突き刺されたというわけだ。

 

「だいたい、貴女はいつもそうなのよ。私が目を離せば、知らない女性を連れてきたり、優しくしたりして…私がどんな気持ちでそれを見てると思うの」

 

“…ゔぅ…胸が痛い…。シノの小言が胸に刺さる…”

 

今の今まで溜め込んでいた憤りが破裂したのだろう、シノンが言い続ける小言に耳を傾けながら、あたしは長い時間かかりそうなシノンのお説教を早く終わられせるために態度も良くしようと今まで氷の床一点を見つめていた視線をシノンへと向ける。

 

しかし、今思えばそれがいけなかった。

 

そう、あの時のあたしはシノンの方見るべきではなかったのだ…だって、そこにはあたしにとっての楽園が広がっていたのだからーー

 

「……」

 

ーーまず初めに目に入ったのが、あたしのちっこい身体を踏みしめているシノンの細っそりしつつも健康的な筋肉がついている芸術的な脚、そしてその白い健康的な太ももへと食い込む黒いタイツ型の短パンとその下にある黒い輪っか。その更に上には緑色と黄色を基調とした弓使いらしい服装はこれまたSAO(あの世界)と同じくらいにセクシーであり、パックリと空いたお腹の部分にはその美しいお臍が丸見えでそのお臍を中心に薄っすらと縦筋が作られている。

そう、普段からのシノンの戦闘着はエロいのである…だがしかし、今のあたしの視線は地面側からシノンを見上げている。そして、シノンはいつもの怒りからあたしを踏みつけているイコール片足を上げているという事だ。脚を上げているということはそちらの方に重心が掛かる…掛かるということは、太ももや美尻へとヒットしている黒い短パンが食い込んでいるって事だ。

 

しかも、黒い短パンは布地が薄いものらしく、その短パンの下に履いているショーツの形が丸見えとなっているし、更にいうと筋もバッチリと目視出来る。

 

“あかん…これは絶景やわ…”

 

本来なら目をそらすのが常識なのだろう。だがしかし、その魅惑的なシワ達があたしの視線を引きつけてやまないのだ。なので、あたしは不躾に…普段はお目にかかれないローアングルからのシノンの姿にニヤニヤが止まらない。

 

「ねぇ、私の話聞いてる?」

 

そんなあたしの姿に疑問を覚えたのか、シノンが眉をひそめるとあたしを不機嫌そうに見下ろす。

見下ろしてくるシノンもこれまた中々に味があり、あたしの気持ち悪い笑顔が更に強くなる。

 

「聞いてる。聞いてるよ、でへへへ…」

「聞いてないでしょう、その顔は」

「聞いてるってば。そうだ、シノ、もう少し前のめりにあたしを踏んづけて」

「…へ?」

 

あたしの私欲まみれのリクエストと表情にいよいよ訝しがるシノン。しかし、そんなシノンなどには気に留めずに…あたしは私欲を満たそうと試みる。

 

「ほらほら早く。遠慮なんてしなくていいからさ、ね?」

 

身体を動かし、更にシノンの魅惑的なシワを凝視するあたしの視線を辿り、そして今の今まであたしが何を見ているのかに気付いたシノンが訝しがっていた表情を一瞬で激怒で染め、続けて羞恥に染めるとあたしの背中へと鋭い蹴りを入れる。

 

「なんでいきなりそんな事を……って、どこ見てるのよ!ヒナタ」

 

鋭い蹴りの後は素早くあたしの頭へとかかと落としを放ち、華麗な回し蹴りまでお放ちになられたうちの恋人殿が、その際に放った台詞が以下の通りである。

 

「こ…この変態プーカ!!人が真剣に説教しているっていうのに、そんな変なところばかり見て…少しは反省なさい!!」

 

シノンが怒鳴り声を上げつつ、あたしを蹴飛ばす中でもあたしはシノンのそこを凝視し続け、ダメージをまともに食らうことになったがシノンの知らないセクシーポイントや恥ずかしそうに頬を染めつつもあたしへと回し蹴りする姿にキュンキュンしたので、こういうお仕置きもいいなぁとあたしは麻痺か切れるまで終始ニヤニヤしたままだった。

 

 

τ

 

 

なんだか、スリュムはあたしとシノンの痴話喧嘩もとい夫婦喧嘩の尊き犠牲者となって、天に召されたらしい。

あたしはそれを聞くと心の中でスリュムのご冥福をお祈りした。そして、改めて思ったのは、シノンさんを怒らせてはいけないという事であった。

 

そんなシノンさんからのお怒りをその身に受けたあたしは今はメンバー総出でフレイヤさんの探し物を探していた。

 

がっちゃんこがっちゃんこ

 

と黄金の山を手でのけながら、あたしはフィリアと雑談していた。

 

「へ?つまり、フレイヤさんに惚れたとかじゃなかったの?」

「だから、そうだって。あたしの心は昔も今もブレずに一人の女性へと向いてますから」

 

そうひつこく聞いてくるフィリアにあたしは胸を張るとポンと胸を叩く。

 

「はいはい、ご馳走様」

「…聞いててその反応はどうかと、フィリアさん」

「あんたの惚気話は無駄に長いし、同じ事を続けて言ったりするから、聞いてるこっちが怠くなるの」

「…はい、ごめんなさい」

 

おさがりにそう言われれば、何も言えなくなる。

それ以降は無駄なことは口にせず、あたしもフィリアも黙って黄金の山からとあるもの…フレイヤさんの探し物を捜すために手を動かす。

 

「なんだか複雑だわ」

「その…気を落とさないでくださいね、シノン様」

「大丈夫よ、ルクス。心配してくれてありがとう」

 

そんなあたしのそばで黄金の山を掻き分けるシノンは顔を曇らせる。どうやら、一大事に自分を頼ってくれたのは嬉しいが、その頼る理由がこのメンバーの中で一番強烈な一撃を放つという意味から使われたというのが乙女心に傷ついたのだろう。

そんなシノンを宥めるルクスから攻めるような視線を向けられ、あたしはそっと二人から視線を逸らすとより一層黄金の山を掻き分ける。

 

「…しっかし、こんな山から黄金の金槌(かなづち)を探せって…少し無茶ではないかな?」

 

愚痴るあたしの向かい側にいたキリトへとリーファが声を掛けている。

 

「お兄ちゃん!雷系のスキルを使って!」

 

声を掛けられたキリトは一瞬戸惑った声をした上で右手の剣を大きく振りかぶると黄金の山へとその剣を突き刺した瞬間に青紫色のスパークが全方位へと疾走し、あたし達はそのスパークが止まっているところへと視線を向けると、そこに向かってキリトと共に走る。

 

「カナタ!」

「OK、相棒!なんも言わなくても分かってるって」

 

二人してがっちゃんこがっちゃんこ、と黄金の山を掻き分けてから探し出したさっき放ったスパークを帯びている細い黄金の柄と宝石をちりばめた白金の頭を持つ小さな槌…金槌を持ち上げ、フレイヤさんへと手渡す。

 

「はい、フレイヤさん」

「………ぎる…………」

「…へ?」

 

フレイヤさんから発せられたその声は明らかに彼女では無かった…むしろ、女の人でなく男性らしいハスキーボイス…って、えぇええええェェエエエ!!!??

 

「みな……ぎるうぅぅぅぉぉおおオオオオオーーーーーー!!!」

 

とハスキーボイスで叫び声をあげたうら若き女性…いいや、いつの間にか三メートル…五メートル……と大きくなっていき、腕や脚は最早大木のように逞しくなり、胸板も男性のように盛り上がり、右手に握られた金槌もまた持ち主に合わせてどこまでも大きくなっていき…フレイヤさんには無かった角張った頬と顎から髪と同じ色の長〜い、長〜いおヒゲが生えていた。

 

「…オッ…」

「サン」

「じゃん!?」

 

見事に重なる三人…あたし・キリト・クラインの声に振り返る元フレイヤさんだった巨人の姿を見たリーファとシノンが何か気づいたように声を上げる。

 

「"Freyja"から"Thor"になったということは…フレイヤさんは雷神トール?」

「そうです!この展開どこかで見たことがあると思いました!」

 

納得する二人とあの綺麗な女性がゴツい男性に変わり果ててしまった事によって驚きが隠せない三人組へと手に持った"雷槌(らいつい)ミョルミル"を小さくしたものを差し出すトールに更に微妙な顔をする三人組。

 

後々、シノンに聞いたのだが…トールが女神フレイヤに変装してスリュムの妻になると偽り、宴の席で何度もボロを出しそうになりつつも同行したロキの機転でやり過ごして、とうとうハンマーを取り戻すやその場にいたスリュム以下の巨人たちを片っ端から叩き殺すというほのぼの話と見せかけての残酷話を聞いたあたしは聖剣エクスキャリバーが突き刺さっている部屋へと続いている階段を降りながら微妙な顔をしたのだった…

 

 




というわけで、本編とエピソードはどうだったでしょうか?

二人のイチャイチャをなるべく詰め込まれたと思うのですが…読者の皆さんはニヤニヤ出来たでしょうか?

出来たのなら嬉しく思います!!



と、折角なので雑談を一つ…

メモリー・デフラグでアリス出ねぇ…(号泣)
アリスが欲しい…シノンも欲しい…でも、来ない…。

石を貯め直さなくては…


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021 A man of high caliber

お久しぶりです!
また、ハッピーハロウィンです、皆さん!

ハロウィンも終わりに近づいている今日この頃、皆さんはどのように過ごされているでしょうか?

私はごくごく普通の生活を送っております…(笑)


さてさて、今回の話は聖剣エクスキャリバーを引き抜こうとキリトさんが頑張るシーンです。
なので、陽菜荼は活躍しませんが…楽しく読んでもらえると嬉しいです!

では、本編をどうぞ!!

※短めです


「やっと付いたね」

「あぁ、そうだな」

 

あの大きい女神さんに頼まれ、トンキーとキーボウの仲間を助けたいが為に乗り込んだ逆ピラミッド型のダンジョンのボス部屋から続く階段を降りた先にあったのは…真円形のフロアの中央に、立方体の氷が鎮座してある。

その氷を取り込むように、計12人+1名が並び立つ様子は第三者からすれば圧巻であろう。

並んでいるあたしすらもそう思うのだから…と、並んでいるみんなを見て、惚けている場合じゃない。

 

あたしは左横に立つリーファへと問いかける。

 

「リー、ペンダントの光はどう?」

「小さい光が三つしか残ってないです。恐らくあと15分もないと思います」

 

まだ、余裕はあるけど…猶予はないと。

 

「これもそれもあたしがおふざけに全力疾走してしまった結果と……面目ない」

「分かってるならもうするなよ」

 

肩と落とすあたしの肩を呆れ顔のキリトがトントンと叩き、氷の内部に根付く細く柔らかそうな根元が繋がり、太くなっている根元を切断している黄金の剣の柄を握る。

キリトが掴んでいる剣の刃には小さなルーン文字が彫られており、眩い黄金の光を放つその長剣は垂直に伸びては氷の台座のかなり深いところまで突き刺さっており、キリトが掴んでいる握り(ヒルト)は黒革を噛み込んで作られており、柄頭(ボメル)には大きな虹色の宝石が輝いている。

 

その美しい長剣へと微笑みかけ、引き抜こうとするキリトの顔が瞬時に歪む。

 

「ぐっ…」

「キリ、どした?」

 

その歪む顔を見ながら、眉をひそめるあたしにキリトは踏ん張った表現のまま、答える。

 

「固く突き刺さってるのか…ビクとしないッ」

 

“マ…マジすか”

 

黄金の剣はあたしやキリトが思っているよりも深くに突き刺さっているらしい。しかし、このメンバーの中でその深く突き刺さった長剣を抜けるのはキリトしかいないだろう。

何故ならば、このALOというゲームはあたしたちが生死を共にしたデスゲーム・SAOと違い、筋力や敏捷力などの数値的ステータスがウインドウに明記されてない。なので、とある武器や鎧が今のレベルで装置可能かどうかの境界も曖昧で、"楽に扱えるから"とか"やや手応えがあるから"とか"体が振り回せる"とか"持ち上げるのも困難"などなど、プレイヤーの無意識というか…感覚に頼っているところがある。故に、明らかに自分に合ってない武器を鎧を使用し、逆戦略を落としているものを見たことがある。

だが、プレイヤーの感覚に頼っているといっても、ここはシステムが管理する仮想世界…だから、プレイヤーの筋力等を管理しているはずで…つまりそれは"隠しパラメータ"ということになる。種族や体格で決定される基本値が、スキルでのブーストやマジック装備のボーナス、支援魔法等で補われるというわけだ。もっというと、基本値だけ見れば、あたしが選択した音楽族妖精(プーカ)は一番ひ弱だろうし、キリトが選んでいる影族妖精(スプリガン)はクラインが選んだ火族妖精(サラマンダー)よりも劣る。

しかし、クラインは技のキレが身上の刀使いとして、スキルや装備の補正を敏捷力に振っている。かくいう、あたしもクラインより重い刀が好きで…この腰に吊るしてある愛刀もクラインに比べると重いのだが、あたしは選んだ種族上、攻撃も当たってはいけないという弱点(ハンデ)を伴っている故に筋力へと半、敏捷力へと半って感じに割り振っている。なので、"重い剣"と黒をこよなく愛するスプリガン殿と比べると必然的に筋力は劣る。

ということは、そのスプリガン殿が顔を歪めるくらいめり込んでいる黄金の長剣《聖剣エクスキャリバー》を台座から引き抜くことはここには誰もいないというわけだ。

 

それをみんな理解しているらしく、エクスキャリバーを引き抜こうと力を込めるキリトへとそれぞれ応援の声をかける。

 

「頑張って!キリトくん」

「ほら、もうちょっと!」

「頑張ってください、キリトさん!」

 

などなどと黄色い声援が狭い部屋の中響き渡り、あたしも戦友を応援しようと声を張り上げる。

 

「キリっ!この瞬間この時だけにその無駄に鍛えた筋力を使い切る時が来たんだよッ!!!」

「オイそれどういう意味だ!」

 

両手をエクスキャリバーで掴み、身体を極限まで反り返りながら、踏ん張るキリトがあたしの応援を聴き、キレ気味に振り返った時にその手に持っているのは黄金の長剣で---

 

「…あっ…」

「おーっ…」

 

---キリトは手に持った長剣をパチクリと見つめ、あたしはヒュー…と口笛を吹き、長らく沈黙が続いたのだった……




というわけで、何ともいえぬ所で終わった今回の話ですが……この何ともいえぬ話を含めて、あと4話くらいとなったこのキャリバー章ですが、アリゼーション編の1話にGGOのシーンやフェイタル・バレットのキャラが出演していましたので…私も簡単ながらも"死銃編""オーディナル・スケール編"を書かせていただきたいと思います。
出来るだけ早く…アニメに近づけるように更新できると思うので、よろしくお願いしますm(_ _)m

また、土曜日か日曜日に…キャリバー編の残りの話を連続更新しようと思ってます。
所々長い話もあるかもしれませんが、楽しんで読んでもらえるように書けたらと思います!

そして!!メモリー・デフラグの方でハロウィンアリスをゲットすることができました!!
いやぁー嬉しい!!
あとは☆6のシノンとレインちゃん、そしてシリカちゃんをゲットするのみです!!
それまでガチャらないと…(笑)


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022 A man of high caliber

連続更新となる1弾目となるこの話はイチャラブあり、ギャグありの話となります。
しかし、クラインさんが可哀想な目にも合います…クラインさんファンの方すいませんm(_ _)m

それでは、少し長めですが…本編をどうぞ!!


「いやー、キリには驚かされてばっかしですよ。あたしが罵倒した瞬間、喜びが爆発しちゃって剣を引っこ抜いちゃうとか…特殊な趣味ですな」

「いわれもない事実だッ!あと、やっぱりさっきのは応援じゃなくて、罵倒だったんだな。俺もカナタには出会ったその日から驚かされてばっかしだ」

「いやだな、もー。そんなに褒めても今のあたしに出せるものなんてないってば」

 

バシバシ

 

と無事黄金の剣を氷の台座から引き抜くことができた黄金に輝く長剣《聖剣・エクスキャリバー》を大事そうに持ちかかえるキリトの背中をニヤニヤしながら叩くあたしの頬をつねるのはいうまでもない我が恋人殿だ。

 

「…あなたという人はどうして謝ってすぐに真逆の行動に出るかしら?」

「ひゃい、ひゃいれふ、しのふぉんはん」

 

ぶにゅぶにゅ

 

と抓り上げられるあたしの頬は忽ちに悲鳴を上げ、捻られていることから半開きにされた口元から流れ出るのは情けない声である。だんだん強くなっていく抓りにあたしの頬が悲鳴を上げていく、シノンの両手をパチパチと叩くあたしが涙目になっていっているの見て、止めに入ってくれるレインとアスナ。

 

「シノンちゃん、そろそろ許してあげて。カナタくんも懲りと思うから」

「そうだよ、シノのん。カナちゃん、涙目だから、ね?」

 

二人に言われたのと見下ろしたあたしの空のように透き通った蒼い瞳を見て、パッと両手を離す。

 

「そうね。懲りたようだし、ここまでにしてあげようかしら」

「…ひゃかった…」

 

両頬を撫でるあたしの目に映ったのは、あたしとキリトのマヌケなコントにより引き抜かれて、音を立てて弾け飛んだ氷の台座から解放された、小さな木の根が空中に浮き上がったそれが、いきなり伸び始めた…いいや、育ち始めたのだ。極細の毛細管がみるみる下方へと広がっていき、バッサリ斬られていた上部の切断面からも新たな組織が伸び、垂直に駆け上がる。

 

“…へ?今度はナニゴトですか?”

 

鳩が豆鉄砲を食らったような顔を浮かべながら、あたしはその凄まじいスピードで融合していこうと大きくなっていく根っこ達に視線を送る中、上から凄まじい轟音が近づいてくる。

見上げると、あたしたちが駆け抜けてきた縦穴から、螺旋階段を粉砕しながら何かが殺到してくる。それも根っこであって…唖然とするあたしたちの目の前で正八角性の空間を猛烈な勢いで貫いてくる太い根と、台座から解放されたささやかな根が---七夕の日だけに一度しか会えない織姫と彦星のように---会えなかった日々を埋めるように、恐る恐る線先を触れ合わせ、忽ち絡まり、融合していった。

 

途端、これまでの揺れが震度1だったのに対して、今回の揺れは凄まじく、その揺れがスリュムヘイム城を呑み込んだ。

 

「きゃっ」

「シノ!」

 

衝撃波にぶらついて、尻餅をつきそうになるシノンをあたしの方に抱き寄せる。

小さいあたしでは抱き寄せたというよりも手繰り寄せたという方が正しいかもしれないけど、ひとまずシノンが尻餅をつかなくてよかった。

 

「ありがとう、ヒナタ」

 

引き寄せられたシノンはあたしから視線をそらすと何処か赤い頬を隠すようにお礼を言う。

 

「大切なシノンお嬢様を守るのは、お嬢様専属のナイトであるあたしの役目ですので」

 

お礼におちゃらけてみると、忽ち耳まで真っ赤にする、普段のクールな雰囲気に似合う鮮やかな水色のショートヘアーからシャープな三角耳を生やす弓使い(スナイパー)猫族妖精(ケットシー)殿の反応にニヤニヤが止まらない。今日はいつも以上に怒られている気がするけど、その分デレてくれるのでニヤニヤが止まらなくなり、遂いたずらしたくなる。

 

「…バカ」

「ごめん、聞こえなかった。ちゃんとあたしの目を見て言って」

 

背伸びして、シノンの頬へと小さな左手を添えて、正面に向かせるあたしを見て、さらに頬を赤くするシノンに薄く笑うあたし。

 

「そろそろやめてもらえると嬉しいんのだけど、そこのバカップルさん。あんた達、なんでこんな非常事態そんな簡単に自分たちの世界に入れるのよ」

「そうだぞ!リアルでもバーチャルでもお一人様な俺に対しての嫌味か!そのイチャイチャは」

「あたしとシノンのイチャイチャは今に始まったわけじゃないし。そもそもクラさんがモテないのは…クラさんが下心アリアリのだらしない顔して、女の子や女性に寄っていくから、みんなが逃げていくのでしょう。あたしとシノンのせいにしないでよ」

「そうね。私たちのせいにされても筋違いというものだわ」

 

リズベットのセリフには素直に従ったあたし達が自分のセリフにだけは鋭いカウンター付きの集中攻撃を仕掛けてきたのが許せなかったのだろう。

 

「なんで俺だけリズと反応が違うんだよ!」

「日頃の行いの差」

 

ハマる二人の答えに撃沈するクライン。

そんなクラインから視線を周りに向けると、さっきの衝撃波によって周囲の壁に無数のひび割れが走っており、城の塗装であった氷が次々と真下の《グレートボイド》めがけて落下していくのを見て、寒い筈なのに冷や汗が止まらない。

それはキリトの頭上を飛んでいたユイも出そうで、慌てた様子であたしとキリトにこのスリュムヘイムを離れるように指示を出す。

 

だがしかし、状況は既に時遅し。

 

「…!スリュムヘイム全体が崩壊します!パパ、カナタさん脱出を!」

「つぅーても」

「階段はもうな」

 

そう、この玄室に続いていた螺旋階段は上から殺到してきた世界樹本体の根っこのせいで跡形もなく吹き飛ばされてしまった。それにもと来たルートを必死に戻ったところで、空中に開けたテラスに出るだけだ。

 

なので、必然として方法は---

 

「あの根っこに捕まるっていってもね」

 

---玄室の半ばまで伸びる世界樹の根につかまることなのだが、あたし達が居るまん丸なフロアから天蓋に固定されている筈の一番下の根っこまでは十メートル近くあるだろう。とてもだがジャンプして届く距離ではない。

 

「どうするかね、総団長殿」

「あぁ、どうするか、副団長殿」

二人顔を見合わせては、んーっんーっと唸りながら、フロアと根っこを見上げる。

そして、そんな二人の姿に痺れを切らしたのか、趣味の悪いバンダナを頭に巻く火族妖精(サラマンダー)の刀使いは助走をつけるとピョーンと根っこに向かって一直線に飛んで行き---

 

「二人して何を躊躇ってやがる!こういうのをビシって決めてこその男だろっ!!みとけよ、そこの意気地なし無自覚女たらしチビ侍!!」

「ちょっ、バカやめろ、クライン」

 

---全く足りてないところで身体が沈んでいき、垂直に腰からフロアへとダァーイブを決めて、そのどしんという衝撃で---と、あたし達は後々まで信じてやまなかった---周囲の壁に一気にヒビが入り、唯一の支えを失ったフロアはそのまま落下していく。

爆風に身をまかせながら、あたしは首を横にふる。

 

「クラさんのそういうところがダメなんだってば…。あと、誰が意気地なし無自覚女たらしチビ侍か!」

 

落ちた状態で固まるクラインへと飛ぶ前に叫んだ言葉に対してツッコミを入れてから、あたしは落下の恐怖に打ち勝ちながら、グラつくフロアを歩くと怯えた様子で蹲るシリカへと近寄る。

 

「シー、あたしのところに置いで。一人よりも二人の方が怖くないでしょう」

 

汚名返上する為に飛んだつもりが、逆に「く……クラインさんのばかーっ!!」といういつにないシリカの本気(マジ)罵倒を浴びせかける事になったクライン。

あたしはそんなクラインへと視線を向けながら、しがみついてくるシリカの右手を握り、そしてシノンと共にその場に腰を落とす。

 

「それにほら、こうやって手を握ってたら怖くないでしょう」

「ありがとう、ございます…カナタさん」

 

礼を言うシリカに笑いかけながら、絶望的になったスリュムヘイムからの脱出にため息しかでない。

 

「とりあえず、誰かさんのせいで脱出が絶望的になったわけなのですが…どうしますかね」

「本当に困ったわね、だんだん地面が近づいてきてるし…これも誰かさんのせいね」

「はい、誰かさんのせいでです」

 

"誰かさんのせい"のところをわざと大きくするあたしとシノン、シリカにクラインの目に涙の膜が覆った。これは流石にやりすぎてしまったかもしれないが、アルヴヘイムの落下はマジモンに怖い。プレイヤーが妖精だからという理由からなのだろうが、落下する浮遊感というのだろうか…臓器が浮き上がるあの感覚がそのまま再現されているのだ、このアルヴヘイムは。

なので、クラインが集中攻撃されるのも無理ない、だってその恐怖の落下タイムをみんなへと提供したのはクラインなのだから。

 

あたし達13名は円盤にしがみつきながら、悲鳴を上げ続ける。

 

あたしの視界の端で、キリトがクエストに間に合ったことを喜び抱きつくリーファの後ろで器用に手に持ったエクスキャリバーをウィンドウに入れようと試みているのが見えるけど、今はそれどころじゃない。

 

耳元に鳴り響く爆風が怖いし、落下した後に何があるのかを考えると怖すぎて…もうチビりそうと思ったその時あたしの耳に僅かに

 

くおおぉぉーーー……ん

 

という聞き覚えのある鳴き声が聞こえた気がした……




クラインさんが可哀想…しかし、アルヴヘイムの落下は怖いですからね…これは仕方ないことです。
また、このキャリバー編でいつも以上にカナタとシノンのイチャイチャが書けて楽しいです!

さて、次回は助けに来たトンキーとキーボウに飛び乗る話と背中での会話となってます!




また、連続更新の時間ですが

○1弾目➖0:00
○2弾目 ➖1:00
○3弾目➖12:00
○4弾目➖13:00

となっております、あくまでも予定なので、時間が前後してしまったりするかもしれません。
また、文字数は基本3千〜4千くらいなるようですので、げんなりされるかもしれませんが…どうか、最後までみんなの勇姿を読んでいただけると幸いです。

では、2弾目でお会いましょう!


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023 A man of high caliber

2弾目である今回の話は1弾で話した通りで、助けに来たトンキーとキーボウに飛び乗る時の話と背中での話です。

では、本編をどうぞ!!


くおおぉぉーーー……ん

 

と微かな鳴き声はだんだんと近づいてきて、あたしは同じく鳴き声が聞こえてくれるらしいリーファと共に円盤の上に立ち上がる。その際にシノンにシリカのことを頼んで、器用に淵まで歩いたあたしが見たのは、周囲を取り巻く氷塊を器用に避けながら、飛来する象のような長い鼻にクラゲのような身体を持ち、四対八枚の翼を羽ばたかせているその白い物体は---

 

「キーボウぅーー!!!」

「トンキーーーー!!!」

 

---スリュムヘイムの入り口まで送り届けてくれた飛行邪神のトンキーとキーボウで、あたしとリーファが大声で呼びかけるともう一度、くおおぉぉーーー……んと答えるとゆらゆらと円盤へと近づいてくれる。そういえば、スリュムヘイムまで送ってくれたのはこの二匹であって、だから二匹が迎えに来てくれてもおかしくない。

 

のだが---

 

“---今の今まで忘れてたぁぁあああああ!!!”

 

恐らくそれはあたしだけではないだろう、13名+1名の誰もが。しかし、この絶体絶命な状況に助けに来てくれたのは正直嬉しい。嬉しすぎて、涙が頬を伝う。

なので、みんな立ち上がると思い思いに二匹へと両手を振るう。

 

「おーい、トンキー!こっちーこっーちー!!」

「キーボウ、こっちこっち。こっちだよー!!」

「トンキー、キーボウ。私たちを迎えに来てくれてありがとう!!」

 

とリズベットは叫び、ユウキは元気一杯に、フィリアはお礼を言いながら、アスナも二人と共に手を振り、レインとルクスは揺れる円盤が怖いのだろう、お互い手を取り合いながら、キーボウが近づいてくれるのを待ち、シノンに手を繋いでもらい胸にぎゅーと抱いたピナの水色の羽毛越しにおそるおそるシリカは顔を上けて、シノンの方を見上げて、見上げられたシノンは微笑むとやれやれとしっぽを振るうのだった。

汚名返上の為に大ジャンプを決めるはずが無理で、あたしとシノン、シリカの三人による追加精神攻撃によって白い灰となっていたクラインは二匹が迎えに来てくれたことを知ると上半身を起き上がると親指を立てる。

 

「カッコつけてないで。起き上がりなよ、クラさん」

 

親指を立てるクラインを起き上がられせると縦並びで現在落下中の円盤に五メートルの間を空けてホバリングするトンキーとキーボウへと次々と飛び込んでいる仲間達を見る。

 

まず、トンキー組の方に鼻歌交じりとも思えるほど無造作にふわりとジャンプし、無事トンキーの背中に飛び乗る。そして、こっちに両手を差し伸べると「シリカちゃん!」と叫ぶ。シノンは繋いでいた手を離すとシリカはコクリとうなづき、両手で子竜ピナの両脚を掴むとぎこちない助走の後に空中へと身を任せると両脚を掴まれているピナがパタパタとその小さな羽を羽ばたかせると主人をトンキーの背中へと導き、リーファの胸へと抱きとめられる。続けて、リズベットが「トリャアア!」と威勢のいい声と共に飛び乗り、更にアスナが流麗なフォームでロングジャンプを決める。やや強張った顔をしたクラインの背中をキリトとあたしがどつくと「うわぁあああ!」と情けない声をあげながら、なんとかトンキーの鼻でキャッチされるのだった。

 

キリトの事はひとまず置いといて、キーボウ組の方はだが…まず、ユウキが「僕一番乗りね」と楽しそうにピョーンと大ジャンプを決めると、続けてルクスとレイン共に大きく息を吸い込むとしっかりと助走した後に飛び乗るとお互い手を取り合ってぴょんぴょんと嬉しそうに喜んでいる。フィリアはお宝探しの時にアグレッシブな場面に会うことが多いのだろう、怖がるそぶりなく綺麗なフォームで三人の近くに飛び乗ると三人でぱっしんぱっしんとハイタッチする。シノンの方もフィリアと同じく度胸が据わっているらしく、空中でくるくる二回転する余裕すら見せて、ストンと着地を決めると四人とすました顔でハイタッチをする。

 

そして、残されたあたしとキリト+ユイであるが…

 

「キリ、それどうするの?」

 

あたしが指差す先には大事そうに抱えれたままの《聖剣エクスキャリバー》。それへと視線を落とすキリトも微妙な顔をしている。いや、微妙な顔をしてはいるが、本当はその胸にあるキャリバーを離したくはないのないだろう。あたしもその気持ちは痛いほどにわかる。だが、ここはそれを我慢してもらわないとならない。

 

キャリバーを捨てることに渋るキリトの右手を無理矢理引っ張って、助走を取る。

 

「キリ、ここはそれを手放して。必ずみんなで取りに来よう」

「くっ…わかったよ、カナタ」

 

助走の位置でコソッとキリトに伝える。

そして、二人で駆け抜ける際にキリトは真下へとキャリバーを放り、あたしはキーボウへ乗り込み、ぱちんぱちんと仲間達とハイタッチして、キリトと無事トンキーに飛び乗ったところで視界の端に映るのは、キラキラと輝き回転しながら視界の端を流れていくキャリバーを悲しそうに見つめるキリトであって、あたしはカキカキと栗色の癖っ毛を掻く。

 

“そんな顔されたら、捨てさせた方が気分悪いじゃん”

 

「…あたし、やっちゃったかな」

 

キリトにキャリバーを捨てされたことを後悔するあたしの肩を掴んで、退けさせたのは---鮮やかな水色のショートヘアーからシャープの三角耳を生やす猫族妖精(ケットシー)だった。

すれ違い様に、左手で肩から長大なロングボウを下ろし、右手で銀色の細い矢をつがえる。

 

「大丈夫よ、ヒナタ。そんな顔しないで」

「…シノ?」

「ここは私に任せて」

 

ウィンクをあたしへと飛ばして、続けて素早くスペルを詠唱し、矢が白い光を包む。

 

「---二百メートルか」

 

そう呟くと、四十五度ほど下方、彼方を落下するエクスキャリバーの更に下方に向け、ひょうっと射る。矢は空中に不思議な銀のラインを引きながら飛翔していく。

 

“これは弓使い専用の種族共通(コモン)スペル、《リトリーブ・アロー》…?”

 

《リトリーブ・アロー》というのは、矢に強い伸縮性・粘着性を持つ糸を付与して発射する。通常使い捨てになってしまう矢を回収したり、手の届かないオブジェクトを引っ張り寄せられる便利な魔法なのだが、糸が矢の軌道を歪めるうえに遠距離なんて…

 

正直、幾ら何でも、と思うだろう。

 

だがしかし、シノンなら…シノならやってくれると思う。

 

そして、その気持ちが通じたのか。はたまたシノンの腕が格上なのか…まぁ、恐らく後者の方が強いだろうけど。

そのシノンの腕によって、だんだんと黄金の剣と銀の矢が近づいていき、磁石のSとMがひかれあうよう---たぁん!と軽やかな音が発した衝突する。

 

「よっ」

 

衝突したのを見計らったかのように右手から伸びる魔法の糸を思いっきり引っ張った。

すると、黄金の光が、ぐうっと減速し、停止した後に、次いで上昇を開始した。そして、だんだんと光の点だったものが、みるみる細長くなり、剣の姿へと変わる。

 

そして、シノンが引っ張る魔法の糸の軌道に合わせて、落下する位置まで走ったあたしの腕へと落ちてくるエクスキャリバーを

 

「きゃーちっ!」

 

と声をあげながら、腕に抱える。

 

「って…ヤバっ!?お…もっ」

 

しかし、その重さにぐらつくあたしを支えるのは愛弟子(ルクス)である。

 

「大丈夫ですか?カナタ様」

 

両肩に両手を置き、見上げるあたしに微笑むルクスへとにへらと笑う。

 

「…あんがと、ルー。ルーのおかげで軽くなった」

 

二人で支えながら、トンキー組の方でなんだがワナワナしているキリト達へとあたしは右手を、ルクスは左手を振る。

そして、その途端、トンキー組とキーボウ組の背中で合唱するのが「シノンさん、まじかっけぇーー!!!」という10人+1人の叫び声であった……




ということで、あのシーンで終わったわけですが…私、あのシーンが好きなんですよね〜。
何回見ても、ついみんなと一緒に「シノンさん、まじかっけぇーー!!!」って叫んでしまいます。
また、その後のあのニッコリと笑ったシノンさんが可愛すぎてですね…(悶)

と話が逸れてしまった上に時間も多く空きますが…第3弾でまたお会いしましょう!


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024 A man of high caliber

第3弾となる今回の話ですが…遂に長かったこのクエストの終わりとなります。
みなさん、ここまでお疲れ様でした(礼)

カナタ達の最後の勇姿をご覧ください……では、どうぞッ!!


みんなからの賞賛を受けて、ピコピコと水色の三角耳と尻尾を動かす猫族妖精(ケットシー)とアイコンタクトで会話する。

 

"流石、シノだね。あたしはやってくれるって思ってた"

"ヒナタが泣きそうな顔してるんのだもの。恋人としてほっておかないじゃない”

"あはは、そんな顔してたかー。上手い具合に隠したつもりなんだけどな"

"私にはバレバレ。ヒナタってば、困った時とか誤魔化そうとしている時ほど癖っ毛を掻くんだから"

"ごもっともです"

 

無言で見つめ合い、ニコニコと笑い合うあたしとシノンの間にピンク色の雰囲気が漂い始めそうになった頃

 

「ごっほん」

「あはは、カナタ達って本当に仲良しさんだよね」

 

と、フィリアがわざとらしい咳をしたのと、ユウキが無邪気な笑い声をあげたのとトンキーとキーボウが声をあげたのがほぼ同時だった。

 

くおおぉぉーーー……ん

 

二匹が長く尾をひく啼き声を放ち、八枚の翼を力強く打ち鳴らして上昇する。つられて、上を見ると今回のクエストで最大最後のスペクタクル・シーンが今から始まろうとしていた。

地底世界ヨツンヘイムの天蓋中心に深々と突き刺さっていたスリュムヘイム城が、遂に丸ごと落下し始めたのだ。

ボロボロと砕けていくスリュムヘイム城は下の方は既に跡形もなく消え去っているが、まだ全体のフォルムは保っていた。今まで見ることができなかった逆ピラミッド型の上も全く同じサイズの構造体を隠していたようで、今あたしの目に映るのはスリュムヘイム城は正八面体となっている。

各班の長さは三百メートルってことは、上下の頂点間の距離は一辺三百メートルの正方形の対角線と等しいので、300×√2で424.26。東京スカイツリーの特別展望ロビーが四百五十メートルだからそれに迫るってわけだ。

 

“うわー、たっか”

 

よくそんなダンジョンをあんな短時間でクリア出来たもんだ。まぁ、それもこれも…黒をこよなく愛する影族妖精(スプリガン)殿の上にあるピクシー殿がいたからこそ成せた技であるわけなのだが…。

そんなくだらない事を思っていると、氷の巨城は遠雷のような轟音を響かせながら真下へと落下していく。風圧に耐えかねてか、崩壊の激しさも増していき、極地のクレバスほどもあるひび割れが下から上へと無数に走り、やがていくつかの大パーツへと分離する。

 

「なんだか勿体ないですね」

 

キャリバーを一緒に持ってくれている愛弟子が落ちていく巨城を見ながら、小さく呟く。それに答えるのは、フィリアとレインだ。

 

「…そうね。まだ、ゲットできてないお宝沢山あったと思うのに」

「うん。私も新しい剣と鍛治で使うインゴットとか欲しかったな」

 

二人ともあの世界を一時期ソロプレイヤーとして過ごしてきたのだ強い敵には惹かれるし、フィリアはトレジャーハンターとしての血が騒ぎ、レインは鍛治族妖精(レプラコーン)としての血が騒ぐのか、実に残念そうに落ちていくスリュムヘイム城を見つめている。

 

そんな二人の隣に立ち、赤いカチューシャを付けて、濃い紫色のロングヘアーを揺らして、ニコニコと笑っているのはユウキである。

 

「僕は楽しかったよ。出てくる敵の全てが強敵だったし、何よりもみんなと馬鹿騒ぎ出来たのが嬉しい」

「そそ。贅沢は言っては言えないよ、レイもフィーも。あたしとルーの手の中にあるこのキャリバーを持ち帰れただけでもいいと思うとしようよ」

 

ここはユウキに乗ろうとこくんこくんとうなづくあたしの横に並び立つこのキャリバーをゲットするために一担をかったケットシー殿は腕を組みながら、話に混ざる。

 

「レインもフィリアも何か欲しい武器やダンジョンがあればカナタを誘えばいいわ。きっと二人の力になってくれるばすよ」

「ん!任せてよ、二人には普段から世話になってるからね!」

 

そこまで言い、胸を叩いたから気付いたのだが

 

“あ、…あれ?あたし、お嫁さんに今ナチュラルに売られた?”

 

胸を叩いた状態で固まるあたしを見て不思議そうに小首を傾げるルクスになんでもないと手を振りながら、後でシノンを問い詰めようと思うあたしであった。

 

そんなあたしの視界の先で遂にスリュムヘイム城が崩壊し、そして天蓋近く萎縮していた世界樹の根が解放され、生き物のように大きく揺れながら太さを増していくのだった。散り散りだった根たちが身を寄せ合い、集まりながら、何かを求めるように真下へと突進していく。

 

大きくなっていく世界樹の根はかつてのグレート・ボイドを満たした清らかな水面に吸い込まれ、大波を立て、放射状に広がっていく。するとたちまちに広大な水面は網目のように覆い、先端は岸に達する。

 

それは女王ウルズが見せてくれたあの幻の風景にそっくりで…

 

「…良かったね、トンキー、キーボウ」

 

クエストは間に合ったと知ってはいたけど、こうして目の前で劇的な変化を見せられるとつい歓喜極まってしまう。この時をトンキーもキーボウも待っていたのだろう。今までスリュムの手下達に嬲られ、居場所や仲間を奪われ、惨めな思いをしたに違いない。その時感じていた悔しさがやっと晴れるのだ。

 

ウルウルと空のように透き通る蒼い瞳を潤ませるあたしへと優しく語りかけるのはシノンである。

 

「…ヒナタ。まだクエスト終わってないでしょう、ほら泣かないの。副隊長なんだからしっかりしないとね」

「ほら、これで涙を拭いて。カナタ君」

「あんなにキーボウとかトンキーのことを可愛くないって言ってたのに…結局は情にあついわよね、貴女って」

 

レインから貸してもらったハンカチで溢れる涙を拭きながら、呆れたように言うフィリアに文句を言ってやろうと思うが溢れ出る感激によってたちまちに言葉を失う。

 

「ちーん。だっ…て、トンキー、もキーボウも…きっと、スリュム達に悪いことされてて、それでもここまで…っ、頑張って…って、きたん、だよ?そう、思うと…もう、涙が…っ、じゅる」

 

すんすんと鼻をすすりながら言うあたしにフィリアに続いて、ルクスやユウキまでもがあたしの頭を撫でる。

や、やめろー!あたしは子供じゃない!この涙は嬉しい涙なんだ!

桃色の癖っ毛撫で回されるあたしはくしゃくしゃにされる癖っ毛がうっとおしく、涙を引っ込めるとまだ撫でようとするみんなを追い払う。

 

そんなほのぼのシーンがキーボウ組で繰り広げられている中、トンキーやキーボウ達の仲間が住んでいた世界は徐々に本来の形へと戻っていき---フィールドを覆っていた氷は溶けていき、そこから芽吹くのは鮮やかな緑が覆う草原だ。今まで感じていた肌寒い風は生暖かい風が頬を掠めていき、その春の日差しのような暖かいフィールドを徘徊するのはおまんじゅうのような胴体に長い触手を生やした象水母達や脚が沢山あるワニのようなもの、頭が二つあるヒョウのようなものなど様々な種類を持つ多数な動物型邪神達が地面や水面から止めどなく出現する。その姿にまたうるってしそうになるけど、なんとか耐えて…前を向くと同時に現れるのは、今回のクエストの依頼主である身丈が三メートルの金髪美人《湖の女王ウルズ》である。

 

「見事に、成し遂げてくれましたね」

 

そう言い、あたし達へと不思議な色を放つ青緑色の瞳を細めて微笑みかけるのはウルズはおぼろに透き通っていた前回と違い、明らかに実体化している。スリュムの手から逃げ延びるために隠れていたと言う泉から脱出したのだろう。真珠色の鱗が見える手足や先端が触手状に揺れる金色の髪、体を包むライトグリーンの長衣全てが陽の光を受けてキラキラと輝いている。

 

「《全ての鉄と木を斬る剣》エクスキャリバーが取り除かれたことにより、イグドラシルから絶たれていた《霊根》は母の元へと還りました。樹の恩寵はふたたび大地に満ち、ヨツンヘイムはかつての姿に戻りました。これも全てを、そなたたちのお陰です」

 

その言葉に正反対の行動を取る攻略チームの総団長と副団長。

 

「いえ…そんなことないです。俺らだけじゃあスリュムは倒せなかったし…トールやここにいる仲間達の力があってこそです」

「いえいえ、そんなことありますよ。あたし達ならあんな敵ちょっちょいのちょいですよ」

 

そんな異なるセリフにウルズが反応したのはキリトの方だった。

 

「かの雷神の力は、私も感じました。ですが……気をつけなさい、妖精達よ。彼らアース神族は、霜の巨人の敵ですが、決してそなたらの味方ではない……」

「味方じゃない…?それってどういう…?」

 

あたしの曖昧な質問はカーディナルの自動応答エンジンに認識されなかったのだろう。

ウルズは無言のまま上昇すると

 

「---私の妹達からも、そなたらに礼があるそうです」

 

そんな言葉とともに、ウルズの右側の水面のように揺れて、たちまちに人影が現れる。

身体は姉よりもやや小さい---といってもあたし達に比べる全然大きいのだが。

そんな人影は姉と同じく髪は金髪で、こちらは少し短く。長衣の色は深い青。顔立ちは姉を"高貴"と評するならば、彼女は"優美"と評するだろう。

 

「私の名は《ベルザンディ》。ありがとう、妖精の剣士たち。もう一度、緑のヨツンヘイムを見れるなんて、ああ、夢のよう……」

 

甘やかにそう言ったベルザンディはふわりと右手を振るう。途端、あたし達の目の前にアイテムやユルド賃などがざらざらーっと落下していき、テンポラリ・ストレージへと流れ込んで消える。

 

“もし、これが七人とか少人数ならあっという間にストレージが埋まっちゃうんだけど…。流石、13人ってとこか…あんなに流し込まれているのにビクともしない”

 

あんなに戦い、ユルド賃とかも稼いだと思うのに…まだ空きがあると言う恐ろしさ。

13人パーティーってすごいなぁ…とマヌケな事を思っていると、今度はウルズの左側につむじ風が起こり、3人目の人影が登場。

姉二人と違い、鎧兜姿の彼女はヘルメットと左右とブーツの側面から長い翼を伸ばしている。また、金髪は細く束ねられ、美しくも勇ましい顔を左右に揺らしている。そして何より驚くべき特徴があったそれは---あたし達プレイヤーと同じサイズなのだ。

 

そんな三女さんは凛と張った声で低く叫ぶと大きく手を上に持ち上げる。

 

「我が名は《スクルド》!礼を言おう、戦士達よ!」

 

そして、例になくアイテムやユルド賃が現れ、テンポラリ・ストレージに入っていく。しかし、ビクともしな色を13名のストレージ…本当に凄いな。

そうこうしていると、スクルドからの褒美も終わり、こんどはウルズが前に進みでる。

 

「---私からは、そのつるぎを授けましょう。しかし、ゆめゆめ《ウルズの泉》には投げ込まないように」

 

微笑みかけられながらそう言われたあたしとキリトが同時にうなづく。

 

「は、はい、しません!」

 

その反応にもう一度微笑み、ウルズの合図とともにあたしとルクスの手に抱かれていた伝説武器《聖剣エクスキャリバー》はすっと姿を消した。どうやら、あたしかルクスのストレージのどちらかに収納されてしまったらしい。あとでこっそりキリトにそれは渡すとして…あたし達へとクエストの報酬を終えた美女3人はふわりと距離を取り、声を揃えて言うのだった。

 

「ありがとう、妖精達。また会いましょう」

 

そのセリフとともに、視界の中央に凝ったフォントによるメッセージが送られる。クエストクリアを告げる一文が薄れると、三人は身を翻し、飛び去ろうとした。

 

しかしその途端、前に進み出たクラインは大きく空気を吸い込むと叫ぶのだった。

 

「すっ、すすスクルドさん!連絡先をぉおお!!!」

 

その叫び声を聞いたあたしは思った---アホか、と。そもそもNPCが連絡先を持ってるわけないだろう!?とかそうやってころころと変えたり、するから女子に嫌われるんだ!?などなど浮かんで消えるツッコミのどれを言えばいいのか分からずフリーズするあたし達の予想を超えることが起きる。

 

姉二人は素っ気なく消えてしまったのに、末っ子のスクルドはくるりと振り向き、あたしの目が悪いのか、面白がるような表情を使った後、もう一度小さく手を振る。

そして、振った掌から流れ出るキラキラと輝く光はクラインの方へと飛んでいき、すっぽりと手のひらに収まったのを見て、今度こそ戦女神様も姿を消し、後に残るのはスクルドからもらった物を大事そうに抱きしめるクラインとそんなクラインを見つめたまま沈黙する12名+1名で…そして、しばらく経った頃にリズベットが小刻みに首を振りながら囁くのだった。

 

「クライン。あたし今、あんたのこと、心の底から尊敬してる」

 

同感だった。全く同じ気持ちだった。

まさかNPCから追加で報酬をもらうとは……これもめげずに色んな女性へとアタックし続けているクラインだからこそなせる技だと思う。しかし、ここまで粘り強いのなら、何故女性にモテないのだろうか…やはり、あの下心丸見えの顔がいけないのだろう…。

全くもって不思議だと思ったところで、あたし達13人+1名の大冒険は終わりを告げたのだった……




ということで、無事完結したヨツンヘイムダンジョン攻略ですが…無事終わってよかった…(笑)
やり残したのは、ヒナタも私もギャグに全力疾走でマトモな戦闘シーンが書けなかったとかでしょうか。

さて、次回の話で終わりとなった今回のキャリバー編、楽しんでここまで読んでいただいていると嬉しいのですが…

では、第4弾で会いましょう!


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025 A man of high caliber(完)

第4弾となる今回は忘年会のシーンで、オリジナル会話が多めになるかもです(笑)

では、ここまでお付き合い頂きありがとうございます!

では、本編をどうぞ!!


午後2時過ぎ頃、台東区御徒(おかち)町の《ダイシー・ カフェ》の中、あたしは何だか持ってきた鞄をがちゃんごちゃんしている和人の背後から手元を覗き込むが、何をしているのか一切分からない。

 

「ねぇ、直葉。和人は何やってるの?」

 

それは詩乃も同じことに疑問を持っているらしく、直葉の手伝いをしながら、尋ねるよりも先に---どうやら準備を終えたらしい和人が小型ヘッドセットを装着して話しかけたことによって分かる。

 

「どうだ、ユイ、ユウキ?」

『……見えます。ちゃんと見てるし、聞こえます。パパ!』

『……僕の方もバッチリだよ、キリト。シノン、カナタのさっきぶりだね』

 

和人が操作するPCのスピーカーから右側からユイの幼さが混じる可憐な声が聞こえ、左側からは元気一杯って感じのユウキの声が聞こえてきて、あたしは改めて分からぬままに設置させられた機材を見る。

店内に設置したのは四つのカメラ、ノート型PC…あぁ、なるほど。そういうことか。

 

“いいお父さんしてるな、和人は”

 

ユイと架空(バーチャル)でも現実(リアル)でも一緒に居たいからと学校の授業コースで《メカトロニクス》ってのを選んだらしい。あたしも一応、《SAO生存者(サバイバー)》なのだが、諸事情で学校には週ニか一ほど通っている。なので、風の噂で聞いた和人のコースがまさかこんな事をするところだったとは---娘思いの親友へとずっとニヤニヤしているあたしに和人は気味悪そうに振り返ってくる。

 

「なんだよ、陽菜荼。そんなにニヤニヤされるとやりにくいのだが」

「べっつにー、ユイちゃん愛されるなぁーってね」

 

ニヤニヤ笑顔のあたしに何か言いたげな和人。

 

「言っとくけどな。これだけじゃないんだからな!カメラを持った小型化して、肩とか頭に装着できるようになれば、どこでも自由に連れていけるしな…」

「だからそれら全てユー仕様じゃん」

「ぐっ…」

 

反論出来なくなってしまったのか、口ごもるキリトにニヤニヤ笑顔を浮かべ続けている中、次々と今回はクエスト参加したメンバーが集まってくる。

貸切状態となるダイジー・カフェの机という机を重ね合わせて、店長を合わせた13人+2名の忘年会が始まったのだった。

 

それぞれのグラスにノンアルコールと本物のシャンペンに注がれて、それを利き手に持ったみんなは和人の超短めの音頭に、全員が大きく唱和した。

 

「祝、《聖剣エクスキャリバー》とついでに《雷槌ミョルミル》ゲット!お疲れ、2025年!---乾杯!」

 

かっちんかっちん

 

と、グラスとグラスが音を当てて、ぶつかり合い、そして一口グラスに注がれた液体を飲み干して、始まった忘年会なのだが、あたしはもうすでに目の前に並んでいるご馳走に目がいっているのであった。

 

受け取り皿にご馳走を詩乃に乗っけてもらい、あたしはそれをかきこむように食べていく。

それを見ていたユウキが一言「カナタってそっちでも食いしん坊なんだね」と楽しそうに言ってた。"も"って何?もって。あたしそんな食いしん坊じゃないよ、これは普通だよ。

とあたしは思っているのだが、みんなが味わって食べている中、あたしは三回目のおかわりとなっている。

 

“食い過ぎ…なのかな?あたし”

 

何だか不安になっていき、食べるペースが遅くなると忽ちに周りからお世話されるあたし。

 

「こら、ポロポロ落としすぎ」

 

と詩乃はあたしの太ももに落ちている僅かに落ちてしまったご飯粒などを拾ってくれ

 

「陽菜荼様、頬にソース付いてます」

 

と左隣に座るひよりにはハンカチで頬を拭かれ

 

「はい、陽菜荼くん。この唐揚げ、陽菜荼くんの好物でしょう」

 

ひよりと左隣にいる虹架からは大皿から唐揚げを受け取り皿に乗っけてもらい

 

「ほら、陽菜荼。肉ばっかしじゃなくて、野菜も食べなさい」

 

虹架から受け取り皿を受け取った琴音はサラダを綺麗に盛り付けてくれて

 

「魚も食べなさいよね。好き嫌いダメよ」

 

里香からはお母さんのように骨を取られた魚の揚げ物が一つほど受け取り皿にのけられ

 

「陽菜荼さん、喉乾きませんか?あたしが飲み物注いできます」

 

と、珪子には空になったグラスへとノンアルコールを注いでもらい

 

あたしの周りをせっせっと動く女性陣を見て思う。

 

“これって至れり尽くせりってやつなんじゃ”

 

やつなんじゃ…でなく、まさに至れり尽くせり状態なのだが、それをあたしが気づく事なく、その後も世話され続けるのだった……




という事で、最後の忘年会でみんなに世話をしてもらう陽菜荼……まぁ、これも彼女の魅力なのでしょうね。つい世話してあげたくなるっていうだらし無さ…みたいな(笑)

さて、今回の話で終わりを迎えたキャリバー編ですが…時軸がごっちゃごっちゃになっているため、最後のキャリバーのくだりはカットさせてもらいました。
カットさせてもらった理由は、まだシノンさんがGGOをプレイしてないことなっているからです。

また、からはGGO…死銃事件を書いていこうと思います。フェイタル・バレットに登場するメンバーも登場すると思うので…楽しみにしててください!

では、再来週お会いしましょう!


ー捕捉ー

○この平行世界での時軸の流れ(簡単なもの)


シノンと共にガーディアンの誤作動によりSAOへダイブ
⬇︎
SAOを無事100層までクリアし、現実世界へ
⬇︎
病院で険しいリハビリの末、シノンと共にマンションへ帰る
⬇︎
仲間全員が退院したので、ダイジー・カフェにて退院祝い
⬇︎
女子会
⬇︎
リーファは教えてもらい、ALOをプレイ
⬇︎
ヨツンヘイムを救うクエスト&エクスキャリバー獲得
⬇︎
GGO、シノンと共にプレイ
⬇︎
死銃事件に巻き込まれる
⬇︎
オーディナル・スケール

以上、簡単な時軸でした。


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026 ドッグファイト・バウト

SAOのスマホゲームをやらせてもらったイベントにて、書いてみたいなぁ〜と思ったもので、折角なので書かせてもらいました。

閑話編ということで…楽しんで読んでもらえると嬉しいです!

また、今回の話はヒナタの演説が主となってます。彼女の熱い想いを感じてもらえたら嬉しいです。

では、本編をどうぞー!!


ドッグファイト・バウト。

 

とある猫族妖精(ケットシー)の少女によって生み出されたその種族間サバイバルバトルである。

 

ルールはサバイバルゲームと同じように決められたフィールドで戦い合うというもの。

主なルールは相手をキルするのは禁止。HPが10%以下になった者は即退場で、闘いの停滞を無くすために、一定時間ごとに他のプレイヤーの居場所を教えてくれるアラードインフォというものがある。

 

上手い具合にここ最近始めたゲームの内容を埋め込んだ恋人と発案者である少女に敬意の念を送りながら、あたしは後頭部に組んだ両手を添える。

ザッと砂漠を見渡す。

 

“最初はめんどくさかったけど…。なかなか楽しそうじゃん、シー、シノ”

 

ニヤリと不敵に笑いながら、どうすれば音楽族妖精(プーカ)を勝利に導けるかを考える。

 

因みにドッグファイトは戦闘機の戦いって意味があり、飛行戦が可能なALOらしいと思い、バウトは試合という意味があり、ルールに基づいてという意味を込めていると発案者が言っていた。

 

“確か、このサラマンダー領はアイテムのドロップとか…あと、このフィールドだけのレア装備っての居るらしいな”

 

ということは、恐らくそのアイテムとレア装備を奪い合う戦争が近いながら起きるということだ。

そんな所へわざわざ、元々のステータスが少ないプーカが向かうのは、倒してくださいって言ってる様なものだ。

だからといって、この立っているのも怠いくらいに熱い砂漠にて有利に戦うにはレア装備をゲットするしか…それがダメながら、アイテムドロップを---

 

“---って思いたいけど、それはトレジャーハントが得意な影族妖精(スプリガン)の真骨頂だし”

 

そのスプリガンを種族と選択してるのが、黒をこよなく愛する我が親友・キリトに、まさにその"トレジャーハント"を本業にこのALOをプレイしているフィリアときた。思わず歯ぎしりしてしまうのはどつか許して欲しい。

 

“あの二人よりも上手くアイテムをゲットできるとは思えないし”

 

「さてさて…我が領主の為に勝利を送りたい所だけど」

 

難しいかもね、と苦笑いを浮かべているとトントンと肩を叩かれ、振り返るとあたしを見つめてくる薄ピンク色の瞳から幼いながらも既に美人の面影を覗かせ、プーカの特徴である小柄な体格を黄色と青系統で身に包んだこの少女は、現実世界ではこの仮想世界の研究をしている博士であり、このALOでは歌姫セブンとして超有名人である。そして、何よりもレインの妹という点にあたしは当時口をあんぐりしたものだ。

 

幼い彼女の功績よりも知人の妹という点に驚くあたしはつくづくおバ---っと、ここで落ち込んでいる暇はないな。

 

「くだらないこと考えてるわね…。随分の余裕なのね、プーカ(うち)のエースは」

 

皮肉気味にそう言われ、あたしはケタケタと笑う。

 

「あはは、またまた御冗談を。うちのエースはセンでしょ?あたしはただ、センが全力で戦えるようにサポートするだけだし」

「流石、鋼鉄の守護者(アシエ・ガルディアン)ってところかしら」

「お誉めいただきありがとうございます、姫様」

 

隣に立つセンことセブンにお茶目を出しながら、腰を折ってみせると、小さく「褒めてないんだけど…」って冷たい声が聞こえてきた。

なんも聞こえない、なんも聞こえないといい聞かせて、あたしは選ばれしプーカの勇者達へと振り返ると右腰に垂らしている愛刀を引き抜くと天に向かって高く伸ばす。

 

“今こそプーカの天下を取り戻さん!!”

 

「さあ、野郎どもぉ!あたしらは今まで種族の間で最弱と不本意な名誉を受け続けてきた!それで我らが領主ソンが思い悩んでいたか、見てきただろう!!」

 

あたしの呼びかけに口々に「あぁ、観てきたさ」「私達が弱いがために」と嘆く声が聞こえてくる。あたしはその声に深くうなづく。

視界の端でセンお姫様が呆れたような顔をしておられるが、あたし達の怒りはこれでは抑えきれないのだ!

あたしは愛刀の柄を強く握りしめる。

 

「そうだろう!そうだろうぉ!!今こそその屈辱を晴らす時が来たのだ!!!

誰がプーカは最弱と決めつけたッ!誰がプーカは歌だけと決めつけたッ!!誰がプーカは魔法だけと決めつけたッ!

そうかもしれない、それが事実かもしれない!!」

 

熱が入るあたしの演説に聞き入るプーカの勇者達。

熱が入るあたしの演説に苦笑いを浮かべるプーカの歌姫様。

正反対の反応…主に歌姫様の可哀想な子を見る目にはなかなかにくるものがあるけれど、あたしはやめない。

 

「だけども、それがどうした!?それがどうだというのだ!!

最弱でも軟弱でも我らはそれを改善する知恵を、能力を鍛えたっ!

それは何にも変えられない我らはプーカの財産であるッ!!

各々が努力をして、この決戦に向けて、最善の形で集うことが出来た!

さぁ、今こそ己が力を示せ!勇敢なるプーカの剣士たちよ!!魔道士たちよ!!奏者たちよ!!

さぁ、今こそ己が武器を構えよ!!剣を!刀を!槍を!弓を!杖を!

今こそ我らの長年の屈辱を果たさんッ!!」

 

天に向けていた愛刀を前へと向けると同時に始まる種族間のサバイバルバトルと同時に駆け出す他種族への挑発も兼ねて、不敵に笑ったあたしは大きく熱気を吸い込む。

 

吶喊(とっかん)!!!!!」

 

と砂漠に響くほどに叫ぶとそれに答えるくらいに大きな声がプーカの勇者達から湧き上がる。

 

『オオォーー!!!』

 

あたしはその勇者達の間を抜けると先人きって、砂漠を愛刀を構えながら走り抜けながら、背後へと指示を飛ばす。

 

「まず、それを取り戻すためにあたしは突っ込む!みんなは歌やドロップアイテムで戦力アップを!」

 

こうして、プーカの最強を奪還するためのカナタの戦いが始まったのだった…




さてさて、どの種族が勝つでしょうね(笑)
私はプーカを応援しつつもケットシーにも勝って欲しいんですよね〜♪

そして、プーカ領主であるソンさんはこの小説でのオリジナルキャラです。
そんなソンさんは女性で、子供っぽくかわいい容姿とは裏腹に姉御肌といいますか…男らしい人だったりします。なので、カナタと出会った瞬間、意気投合してしまいまして…良くソンさんの護衛をカナタが快く受けてたりします。

また、鋼鉄の守護者(アシエ・ガルディアン)っていうのはカナタの二つ目でして…なかなか攻撃が当たらない上に確実にカウンターを決めてくるので、そう呼ばれるようになったとか…流石、この小説の主人公ですね(微笑)




と、ちょっとした雑談でして…

メモリー・デフラグにて、和服のシノンとアリスをゲットしまして…今は彼女達の専用武器を集めようと石を貯めて、せっせと回しているのですが…アリスはあっさりと手に入り、シノンがなかなか手に入らない…(涙)
もう、二週目の第3ステップのところなんですけど…なかなかですね…(大汗)

しかし、必殺技のMPが100から90しか減らないというのは嬉しいですからね…!

それにシノンも専用武器を使わせてあげたいですし!さて、頑張って…石を貯めるとします!


また、アリゼーションではちょくちょくうちのヒナタがお邪魔してますねっ!(ニヤニヤ)
主にシノンに踏まれたり(橙のスニーカー)、すがられたり(橙のクッション)とかですが…こちらでもあまり変わらないですからね(笑)
次回からいよいよ、私のアリゼーションでの推しキャラ、ロニエちゃんが現れそうですねッ!

ロニエちゃん登場が今から楽しみで楽しみで仕方ないです!!
仕方ないんですが…あまりアリスが現れないのは悲しいですね……。彼女も好きなので…(涙)


と、語り出すと長くなりそうなので…ここで終わろうと思います!
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
夜風が涼しくなってきたので、身体を温めてお休みください(土下座)

ではでは〜(*´꒳`*)


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027 ドッグファイト・バウト(完)

さてさて、どの種族がこの初回ドッグファイト・バウトに勝利するのでしょうか?

どの種族が勝利するのか、想像しながらご覧ください。あと、所々読みにくいと思います。

では、少し長めですが…本編をどうぞ!!


「お覚悟ーッ」

「フン!」

 

片手直剣を振り下ろしてくる褐色の肌を持つ土族妖精(ノーム)の男性プレイヤーの鋭い斬撃を体を横にスライドしてから、あたしは左手に持っていた愛刀を振り下ろす。

 

「ぎゃあ」

「あれぇ〜〜」

 

あたしへと次から次へと襲い掛かってくるプレイヤー達の斬撃をダンスステップを踏むように避けて、確実にカウンターを決めては、あたしの周りに倒れこんでいく他種族のプレイヤー達の脱け殻…HPが10%残っているので、脱け殻とは言えないけど。

そんなくだらないことを思いながら、切りかかって来たら避けて、斬りかかるを延々と続けていると後方でサポートに回ってくれているプーカ(うち)の姫様がボソッと独り言を呟く。

 

「これは何かの時代劇なのかしら」

 

確かにこれは何かの時代劇と言われても仕方ない戦いだと思う。

あたしに斬りかかる前に律儀に「我は○○領の○○也。プーカ領、カナタお覚悟也」と言うのが当たり前となっている様で、あたしの周りがちょっとしたカオスな空間となっている。

 

まるで捨て駒のように溢れかえっているプレイヤーの戦闘着は選んだ種族よって代わってくる…髪や服装が赤基調なのは火族妖精(サラマンダー)鍛冶族妖精(レプラコーン)。青基調なのは水族妖精(ウンディーネ)。緑基調なのは風族妖精(シルフ)といった具合に服装によって、わざわざ名乗らなくてもどこの領はわかる。

 

“しかし、まさか仮想世界で時代劇が出来るとは思えなかった”

 

つい、口元を笑みの形に変えてしまうのは、あたしがよっぽどの"和"人間ということだろう。

 

“でも、好きな料理はオムライスなんだよな…。こういうところをシノは矛盾してるっていうのかな?”

 

まぁ、そんな事はどうでもいいとして…もう、参加者の三分の二くらい斬り捨てたと思うのだけども…。

明らかにプーカの有利なのだろうけども、このまとわりつく様な…なんとも言えない違和感というか、得体のしれないものに徐々に首を締め上げれる様なこの妙な感覚はなんなのだろうか?

 

“そういえば、ここまで斬り捨てた中にみんな居なかったな”

 

念の為に周りを見てみるとやはりみんなはいない。しかし、地面に伏せてるのって、赤や青、緑に茶色とか色とりどりだな。

 

“…あれ?”

 

色とりどりだ、な…?

そういえば、なんでこんなにも色とりどりなんだ?

この種族サバイバルバトルはそもそも各種族が協力するなんてないはずだ。何かの重要な理由がない限り------あっ…

 

「チッ!そういうことッ!!くそったれッ!!!」

 

あたしはあることを思いつき、悪態を吐く様に舌打ちすると襲い掛かってくるプレイヤー達をうっとおしそうに蹴飛ばすとセブン姫様とみんなに向かって走り出す。

 

「…なんでそこでライダーキック…。和が好きじゃないのか…」

 

なんか、後ろでそんな呟きが聞こえてくるけど、今は知らんッ!そんな些細な事に時間を割いている暇すらも惜しいんだから。

 

「姫様ァァアアアアアアアアアアアアアアアア」

「なっ!?カナタ!?」

 

うちの姫様は薄桃色の瞳をまん丸にしていた。

まぁ、そりゃそうか。自分に向かって血相を変えた仲間が猪突猛進の勢いで突っ込んでくるのだから。

しかし、姫様。今だからあたしのこの行いを許してほしい、あとプーカの勇者のみんなほんとごめん!!あたしが突進して押し倒せるのって、せめて二人しかいないから!!って…押し倒すと考えてる時点で犯罪者臭がする…。

 

つくづくあたしって---と考えていると黒いオーラが出てきそうなので、一旦ここで考えるのをやめて、今は姫様をお守りするのだけに集中しよう。

 

“もし姫様が酷い目にあったならば、イコールでスメラギ氏が激怒し、その怒り発散にあたしが使用されるだろう”

 

それだけは是が非でも避けたい。

 

「姫様、すいません!」

「ッ!?」

 

セブンに突進し、その場を離れた瞬間、降り注いでくる剣の雨にあたしが砂漠の上に押し倒している様な形になっている姫様が目をまん丸にしてる。

 

降り注いでいく剣の雨は器用にプーカの勇者達のHPを10%まだ削ると止む。

さっきのOSSはサウザンド・レイン。

本当は鍛冶に使う魔法を戦闘に用いた離れ業で作られたそのOSSを使うのは技名にも入っている通り、鍛冶族妖精(レプラコーン)領に属しているレインである。

 

“見た感じ…レインは居ないか”

 

ひとまず、姫様だけは救えた事に安堵の溜息をついて、真下にある姫様へと声をかける。

 

「姫様、怪我はありませぬか…?」

「えぇ、無いわよ…ありがとう…。……あと、顔が近い

 

なんだが、うちの姫様が苦笑いを浮かべていらっしゃる上になんか顔がほんのり赤い?

ハッ!?

もしかして、毒っ気の含んだ刃にでも触れてしまったのだろうか?

 

「ひめ、さ…ま…っ、すみません…っ。あたしが付いていながら…」

「死んでないわよ。オーバーね」

 

あたしはその言葉に安堵していると、姫様がなんか言いにくそうにモジモジしている。

どうしたというのだろうか?

 

「そうですか…ならばいいのです。姫様はあたしから離れぬように」

 

本当に離れないで。離れて、セブンが他のプレイヤーに斬り裂かれでもしたら、あたしがスメラギ氏に斬り裂かれるから。

 

「えぇ、分かったわ。だから…その…」

「…その?」

「もう少し離れなさい!顔が近いわよ!」

 

あぁ、なるほどそういうことか。

 

「…姫様は照れ屋さんなのですね」

 

ニヤニヤしながらそうお茶目を最大限加えて言うあたしに何かカチーンときてしまったのか、見惚れるほどの笑顔でゾッとする事を言う姫様は本当に怖かった。

 

「そう、カナタはその身体に最上魔法の全ての属性を受けたいのね」

「いえ滅相も無いです」

 

凄まじいスピードで離れたあたしは呆れ顔の姫様に起こされ、残る他種族の中でも実力者となる仲間達との戦いに身を投じた。

 

 

τ

 

 

「…な、なんとか勝ったぁ…」

 

へたり込むあたしへと最後の戦闘相手であるキリトとフィリアが抱き起こしてもらう。

 

「あはは、お疲れ様だったな、カナタ」

「まさか、最後は自分の腕を盾にするとは思わなかったわ」

「まぁ…HPが10%切らなかったらいいわけだし、前後に挟まれてしまったならばどうにもならないからね」

 

疲れたようにそういうあたしのこれまでの簡単な軌跡を書くと、まず最初に突っ込んできたのが火族妖精(サラマンダー)のクラインと水族妖精(ウンディーネ)のスメラギであって、あたしは愛刀で二人を相手しているときに姫様が自慢の魔法で二人のHPを10%へと減らし、続けてきた風族妖精(シルフ)のリーファ、ルクス。鍛冶族妖精(レプラコーン)のリズベットの三人はあたしを相手するよりも姫様の方をまず討ち取った方がいいと考え、リズベットがあたしの斬撃を耐えて、ルクスが攻撃するというスタンスの裏でリーファが姫様に近づき、討ち取ろうとしたときに駆け込むのは決死な表情をしたあたしで、あたしの後ろにはHPが10%以下となり、『こら、カナタ!それは卑怯じゃないの!』『カナタ様がそんな人とは思いませんでした』と悲痛な叫び声を響かせる二人がいた。そして、びっくりした顔をしたリーファがまず後ろに飛んで距離を取ると読んで、そこに向けて一撃を浴びせて…もう、一太刀をリーファに向けて振り下ろす前にあたしの体を貫くのは矢で、あたしはそこから乱闘に巻き込まれることになる。

リーファに怒涛の太刀筋を避けながら逃げる中、猫族妖精(ケットシー)のシリカ、シノンの援護攻撃に混ざり、闇族妖精(インプ)のユウキがニコニコしながら、乱闘に混ざって来る。リーファの鋭い太刀筋を避け、追い打ちをかけて来るユウキの太刀筋を避け、シリカのピナとのコンビネーションで放ってくる攻撃を飛んだり横に転がって避けたり、シノンの絶妙なタイミングで放ってくる矢を鏡様倍返(カウンター)で返したりとフル回転でアバターの身体を使いきり、何とか砂場の砂を顔にかかって蹴り上げ、顔をしかめるリーファとユウキへと刀スキルを叩き込み、シリカとピナはこの砂漠でも動き回れるレア装備をゲットした様なので、後回しにして、今は確実に鏡様倍返を決めて、シノンを撃破するのに専念し、シノンの矢が飛んでこなくなってから、あたしは決死の覚悟でシリカに突っ込み、無事撃破。

そこから土族妖精(ノーム)のエギルとストレアの二人の重い一撃を交わしつつ、その一撃で舞い上がる砂埃に苦戦しつつも鏡様倍返と刀スキルを組み込みつつ、攻めて攻め切って撃破し、その後は鍛冶族妖精(レプラコーン)のレイン。影族妖精(スプリガン)のキリト、フィリアとの戦いが待っており、二刀流のキリトとレインを相手にするのは疲れた。フィリアも懐に入り込み、絶対避けられない様な太刀筋を放ってくるし、キリトとレインは見事なコンビネーションで二つの剣を振り回してくるし…あたしは何とか歌いながら、フィリアを撃破し、運悪く足場の悪いところに足を踏み入れてしまったレインの隙を確実につき、キリトとの戦いに持ち込む前に姫様が抜群のタイミングで魔法を放ってくれたというわけだ。

 

「ああぁ…喉が痛い、ヒリヒリする…。あんなに歌を歌ったのは、初めてかも…」

 

喉を抑えながら、そう言うあたし。

姫様がサポートしてくれたとはいえど、足場の悪い砂漠をあんなに走り回ったのだ。

 

「あんなに過剰にあたしを守らなくても、あたしなら大丈夫なのに」

「姫様は何にも分かってないッ!御身に何かあればあの過保護ウンディーネにあたしが始末されるのですよ!?」

「所々、時代劇を挟んでくるのやめてくれる?何が言いたいのか分からないわ」

 

まず、姫様が無事で良かったというわけか…はぁ…もう疲れたよ。今日は早く晩御飯を食べてから、寝たい…って、今日は---

 

「…はぁ…」

 

---そういえば、今日はあの人に会う日だったな。

 

「折角勝ったのに、何辛気臭い顔してるのよ、カナタ!」

「ダッ!?」

「リズちゃん、叩く力強すぎるよ」

 

バッシンと背中を叩きつけられ、振り返るとそこにはリズベットとレインが立って居た。

 

「まぁ、そうだね。折角有言実行出来たんだから、喜ぶべきだよね」

 

この後の憂鬱な事は今は忘れよう。

今更、あの人に会っても何とも思わないのだから。




ということで、不思議なところで終わった今回の話ですが…次回のGGO編は陽菜荼が憂鬱と思っている人との待ち合わせから始まります。

短めの話となるかもですが、よろしくお願いします(礼)


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028 過去へと終止符を

GGO編の第1話となる今回の話は陽菜荼ととある人との会話文が主になっております。

あと短めだと思いますが、どうかよろしくお願いします。

では、本編をどうぞ!!


「…」

 

“あぁ…ムカつく”

 

自分から呼び出しておいて、何も言わないとか。

 

ガリガリと込み上げてくる怒りを口に含んでいる氷へと八つ当たりしながら、あたしはさっきから黙り込む正面の人へと視線を向ける。

 

「ーー」

 

あたしを弱々しく見つめてくる瞳は栗色であって、あたしの様に癖っ毛が酷い髪は瞳と同色で、うなじの所で緩く結ばれ前に垂らされている。顔立ちはどのピースも適度な形と場所に配置している。絶世の美女、傾国の美女と呼ばれてもうなづけるくらいの美しさを持っている上に、女性として出るべき所は出ているのに、それを支える身体は線が細いときた。触れれば折れてしまいそうな、風が吹けば飛んでいきそうなほどに細いその肢体を強張らせながら、桜色の唇を数回噛み締めた後にゆっくりと言の葉を吐き出す。

 

「…元気そうで良かったわ、陽菜荼」

 

やっと絞り出した第一声が他人めいたソレで、あたしはフンと鼻を鳴らすと皮肉気味に返事する。

 

「お父さんや幼馴染が良くしてくれるからね。何処かの誰かさんと違ってね」

 

あたしの皮肉に唇を噛みしめる女性は綺麗な顔を曇らせる。

 

「…ごめんなさい。そんなつもりは…なかったの…」

「つもりは無かった?真っ暗な…絶対零度の暗闇に置き去りにしておいて? あたし、あれ以降暗いところと寒いところが嫌いになったんだ」

 

まぁ、今はちょっとずつ克服していってるけど、という言葉を飲み込み、あたしは正面の女性を睨む。

 

「…ごめんなさい…っ…」

 

“イライラするっ”

 

学校でのあの出来事から、目の前にいる女性のことはきっぱり忘れようと決めたのに、ここ最近お父さん越しにあたしの前に今更現れてきて、折角忘れようと…努力してたのに、なんで今更あたしの前に現れるの?

ううん、こんな態度を…こんな事を思いたくなんかないんだ、本当は。

あたしも本当はママに会えて嬉しいって、ママとこうして話したかったんだって目をまっすぐ言いたかった。言いたかったんだけど…あたしに対して、何故か弱々しく接してくるこの女性の態度を許せるほどあたしは大人ではなかった。

 

「…貴女が私を許せないのは分かるわ。私はそこまでのことをしたんだから…」

 

そう言って、あたしを見てくる。まるで、腫れ物に触れる様に、何かに怯える様に。

 

“悪いって思ってるなら…そんな腫れ物に触れる様な態度してないで、もっとあたしへと踏み込んできてよ、ママ”

 

あたしのこの態度が悪いというのならば今すぐにでも直そう。どうせなおしても最初に会った時の様に、ママのオドオドした態度は直ることはないだろう。それに苛立つあたし自身も。

 

“あぁ、むしゃくしゃするッ!!”

 

こんな気持ちでママと話して居てもイライラと自己嫌悪が積もるばっかりだ。

バンッと勢いよく机に一万円札を叩きつけ、あたしは立ち上がる。

 

「陽菜荼…?」

「…お釣りはいらない。貴女はここでもう少しゆっくりしていけばいい」

 

呼び止めてくるママの声を無視して、ファミレスを飛び出したあたしがまず思ったのは。

 

“ママ…痩せてたな。ご飯、食べてるのかな…”

 

って事だった。

もう、あたしは溢れ出してくる自己嫌悪によって、自宅の前まで走り出すと髪の毛をかきむしりながら大きな声を上げる。

 

「ダァアアアアアアアアアアアアアアアア」

「部屋の前で奇声をあげないでよ、陽菜荼。ご近所さんの迷惑だし、何よりも変な噂が流れるでしょう」

 

後ろから響く凛々しい声にあたしはびっくりした様に振り返る。

 

「なんで、詩乃がいるの?」

「ここが私の家だからだけど?それとも私には出て行けとでもいうのかしら?この薄情者は」

 

オォ…絶対零度の視線があたしの心を氷の刃で八つ裂きにしていく。

あたしは慌てた様に両手を横に振る。

 

「違う違う!なんでこんなに早く家にいるのかな?って…みんなとドッグファイト・バウトの打ち上げをした後に、図書館行くって言ってなかったっけ?」

「私はただ本を借りにいっただけだもの。そんなに時間はかからないわ」

 

あたしの前を素通りし部屋の鍵を開けながら、詩乃は振り返りながらあたしへと話しかけてくる。

 

「それより貴女こそ、なんでこんな時間に家の前で奇声出してるのよ。今日は…その、お母さんと話してく--」

「--腫れ物に触る様に見てくるんだ、あの人」

「ーー」

 

詩乃が息を飲む声が聞こえてくる。

 

「…あの人にとって、あたしはやっぱり忘れない過去なのかな…?もう…あたしはあの人の---」

 

あたしの声を遮る様に、ギュッとあたしを抱きしめてくる。耳元で囁かれる声は優しさに溢れていて、つい涙が溢れ出そうになる。

 

「そんな事ない。そんな事ないから」

癖っ毛を撫でられながら、囁かれる声に嬉し涙を流しながらうなづいてみる。そして、突き刺さる複数の視線。

その視線から逃れるようにあたしと詩乃はそそくさと家へと入っていく。

 

そして、その日の夜、あたしを待っていたのは---

 

「ねぇ、陽菜荼。一緒にGGOをしない?」

 

---新しい冒険の始まりだった…




というわけで、ママへと素直に甘えられない陽菜荼の話でした(笑)
反抗期っ子ですね…、困った子です。早くママと仲良くなってくれたらいいのですが…残念ながら、次回からはGGO編なんですよね…(苦笑)

残る課題『ママとの仲直り』。始まる世界『GGO』。
二つの出来事に囲まれながら、陽菜荼は新しい章を駆け抜けていきます。
二つの出来事は無事解決するのでしょうか?
そういう面を含めながら、見守っていただけると嬉しいです。



と、アリゼーションの7話ですが…ロニエちゃんではなかったですね…完全に私の早とちりでしたね…申し訳ない…(大汗)

7話の感想ですが…あっという間に2年が過ぎ、成長したキリトくんとユージオくんの二人を見て嬉しかったですね。
また、ソルティリーナ先輩、思ったよりも凛々しくて可愛い声でしたね…(微笑)
そして、キリトくんとソルティリーナ先輩が戦っている時のシーンは汗水流しながら観ていました!

そしてそして、キリトくんが庭で育てていたあの青い花ってEPで映るあの花ですよね!多分…(自信がない)

また、EPの藍井エイルさんのアイリスの冒頭の歌詞『君が赤く燃える太陽なら 僕は夜に咲く青い花』の一文が大好きなんですよ!
ユージオくんとアリスちゃん…んー、さんかな(笑)
二人の関係性とかユージオくんの気持ちが上手く書かれていて、アイリスを聞き流しながら、この話も書かせてもらいました。

というわけで長くなりましたが、ここで雑談を終えようと思います。最後まで読んでいただきありがとうございます!


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029 過去へと終止符を

大変お待たせ致しました!

GGO編こと《デス・ガン》編の2話目です。
今回はフェイタル・バレットに登場したあの方々が現れますっ!!

果たしてどなたなのか?

読みづらいと思いますが、最後までご堪能ください。


それでは本編をどうぞ!!


『ねぇ、陽菜荼。一緒にGGOをしない?』

 

あの日、そう詩乃に誘われた時はGGOーー《ガンゲイン・オンライン》の事は正直いうとそこまで興味はなかった。いいや、興味すらも湧かなかったとでもいうべきか。

それくらいあたしにとってGGOというVRは蚊帳の外だった。その理由はあたし自身が"洋"よりも"和"の方をこよなく愛する和人間であったから、もう一つがそのGGOというVRゲームの内容によるものだった。

ガンゲイン・オンライン。通称、GGO。

銃と鋼鉄が支配する世界の中で、プレイヤー達は最強のガンマーとなる為に日々腕を磨くというのがそのゲームのコンセプトらしく、それ故にPVーープレイヤーキルというのが推奨されていて、敵モンスター以外にプレイヤー同士の決闘っていうのがあるらしい。

別にその事に対して、どうのこうのとは思わない。VRはALOでも推奨されてるし、プレイヤー同士で刺激し合うのは自分の能力の向上にも繋がるって勝手ながらあたしも思うのところはある。

ならば、何故あたしはGGOに対して、興味が湧かなかったか? それはGGOはSAO・ALOが剣や魔法をメインアームとしたように、GGOは銃をメインとしたからだ。

銃ーーその三文字だけであたしはとある小さな町で起こった強盗事件を思い出す。その事件であたしの幼馴染が失ったものはあまりにも多く、今でも時折その出来事を連想させるものに関わると彼女は身体が拒否反応を示す。

故にあたしは彼女が嫌がるであろうGGOなるものは頭にも入れてなかったし、これから先も関わる事はないVRだと思っていた。

 

しかし、あの日詩乃があたしの目をまっすぐと見つめて言った。

 

『私も過去に立ち向かいたいの』

 

という一言に込められた決意を、想いを尊重したいと思った。それとこれは詩乃には口が裂けても言えないのだが、淡く微笑む笑顔にわんつーけーおー、してしまったというか。

 

まぁ、そんなこんなで詩乃ことシノンと共にGGOを始め、GGOをレクチャーしてくれる友人にも出会え、二人で危ないダンジョンに潜り、レア武器を手に入れたりだとか、そんなこんなであったという間に三ヶ月ちょいが過ぎた。

 

そして、今日は《バレット・オブ・バレッツ》ーーBoBの第2回目の予選トーナメントが開催され、あたしとシノンはそこに出ることになっていて、このGGOをレクチャーしてくれた友人と別れ、それぞれの更衣室に向かい、さぁ服を脱ごうと服に手をかけた瞬間に右頬に強烈な痛みが走り、下に向けていた視線を上に向けてみたらならば……そこに居たのは、顔を真っ赤に染めたピンクの髪をサイドテールにし、髪と同色の戦闘着に身を包んだ潤んだ水色の瞳を持つ少女が立っていた。

 

ワナワナ震えている少女に叩かれたあたしは無言でウィンドウを操作して、少女とその後ろにいる彼女の連れと思われる二人組にも自分の性別を見せた。

大丈夫大丈夫、全然凹んでない。シノンもさっき別れた友人も最初はあたしのことを最初に見た時は男って思ってたしって……シノンはあたしのことは現実で知ってるんだから、何故"やっぱり?"的な疑いの眼差しをあたしへと向けたのだろうか、さっぱり分からん。

 

そして、それを見た少女は真っ赤だった顔を瞬時に青ざめさせ、続けて紅く染めて、最後に青ざめさせた。

次々と変わっていく少女に視界に収めつつも端には我が恋人は何故かあたしへと鋭い視線をおってらっしゃっる、全然意味わからん。

 

「ご、ごめんなさいごめんなさいっ。あたし、女の人だって分からなくて…それで、本当にごめんなさいっ!」

 

必死に頭を下げる少女にあたしは両手を横に振る。

 

「あぁ。いいって、いいって。普通は…っていうか、こんな女性いないもんね、うん…自分自身でもわかってるからさ…」

そう、目の前にいる彼女が間違えてしまうのもうなづけるのだ、あたしの今の容姿は。

《F九〇〇〇番系》

このGGOという世界に身を投じて、初めて手にしたアバターの番号がそれらしい、らしいっていうのはやけにしつこくアバターを売ってくれと頼んできたお兄さんが言ってた事だからあまり信憑性(しんぴょうせい)がないという点だ。

まぁ、そんなことはいいとして……このF九○○○番系は客観的に見てもどう見ても"男性"にしか見えないのだ、あたしも初めて自分自身を見た時は絶句したほどなのだから。

短めに揃えられた銀の髪はうなじの所で軽く結ばれ、現実と同じく蒼い瞳は彫りの深い凛々しい……いいや、いっそのこと雄雄しい顔にはめられている。背はこれまた現実と同じで170センチか180センチくらいで、細マッチョというのだろうか……安易な黒いTシャツから出ている焼けた肌には細いながらも筋肉がついている。

うん、改めて思うけど、こんな女性いないでしょうな…あはは…。

 

「……鼻の下ばっか伸ばして、ヒナタのバカ」

「ーー」

 

むぅ…鼻の下を伸ばした覚えも何もないのだが、うちの恋人殿が何かに機嫌を損ねていらっしゃる様子である。全くもって意味が分からん。

後でそれとなく理由を尋ね、フォローしつつ機嫌を取ろう。そうしないと、あたしが決勝まで生き残り、その相手が恋人殿だった場合、彼女の相棒である《PGM・ウルティマラティオ・ヘカートⅡ》によって始末されるであろう。

因みに《ヘカート》はギリシャ神話の冥界を司る女神の名前から取られているらしく、思わず"怖い時の詩乃にぴったり〜"と思ってしまったのもGGOを始めた理由と共に口が裂けても言えない。

 

兎も角、このひたすら謝り続ける少女をどうにかしなくては、外で待ってくれている友人(かれ)に悪いしーーごほん。

「まぁ、ここで会ったのも何かの縁だしさ。君と…その後ろにいる二人の名前も教えてくれないかな?

あたしはネームカードにもある通り、名前は《Kanata(カナタ)》で性別は《(フイメール)》ね」

 

それで、と隣に立っている水色の髪をショートにし猫のようなつり目がちな藍色の瞳を持つ小柄な少女をあたしは左手を向けて指す。

 

「彼女はあたしの友人の《Sinon(シノン)》で性別は見てわかる通りで《(フイメール)》。

さて、あたし達は名乗ったけど、君たちのことはどう呼んだらいいのかな?」

 

にっこりと笑うあたしの横から囁かれる恋人殿の氷のように冷たい一言。

 

「…………ヒナタって、女の子となると無性に優しくなるのね。この女たらし」

 

別に女の子だから優しく接してるとかじゃなくて、いつまでもここで駄弁(だべ)ってると彼に悪いでしょう?

彼律儀だから、あたし達が来るまでずっと待ってそうだしさっ!?

あと、最後の絶対零度の声音で呟かれた"この女たらし"は開いてはいけない扉を開けてしまいそうなので、もう言わないでください。

この胸の痛みとあの扉を開くのとどっちを優先すればいいか迷ってしまいそーーあれ? 詩乃がいつになく引いてる。

「ーー」

 

あと、だからなんで引きながらもそんな疑いの眼差しを向けてくるの……あたしはこの世界に来てからというもの、常に詩乃の側にいたでしょうが。

浮気? 的な行為を取って覚えもない、なのになんでこうも厳しくあられるのか……理不尽極まりない、いやこれも日頃の行いか。

 

「……マスター。ボク、この二人の名前どこかで聞いたことある」

「……そうかしら、マフー? ワタクシは聞いたことはないですよ」

 

なんかコソコソと後ろで話されているな、あの二人組は。それで、ピンクの彼女はというとーー

 

「ーー」

 

水色の瞳と可愛らしく整った顔立ちは惚けており、ボゥーーとあたしとシノンを交互に見た後、次の瞬間ズザザザーーッ!!? とあの二人組のところまで下がり、コソコソ話に加わる。

 

「……ねぇ、スキアにマフユ。あの人たちってもしかしてカナタさんとシノンさん?」

「……そうでしょうね。本人がそう言ってるですから」

「……クレハはもっと人の話を聞くべき」

「……って事は。スキアとマフユは知ってて、あたしを焚きつけたの!?」

「……マスターもボクも焚きつけてはない。クレハが勝手にあの人につっかかっていって、勝手に自滅しただけ」

「……マフーの言う通りですわね。クレハは勝手に自滅しただけですわ」

「……なんで二人揃ってあたしを責めるの!?」

 

なんかあの三人組、かなり話し込んでるみたいなんだけど……さてさてどうするか。

頭をかきつつ、もう既に戦闘着へと着替え終わっているシノンに引き続き、あたしも戦闘着へと腕を通す。

黒いTシャツを脱いで、黒いワイシャツにして上から赤いロングコートを着てから……赤い長ズボンを着てから、と。

 

そうこうしていると、あの三人組のコソコソ話は終わったらしく、三人が並んであたしの前に並ぶ。そして、目の前に差し出されるのはネームカード。

まずはあたしを引っ叩いたピンクの彼女の名前は《Kureha(クレハ)》で性別は《(フイメール)》。

 

その横にいる少女はそのクレハという少女に比べると、古風なお嬢様というか…大人っぽいクールな印象を受ける。

名前は《Skia(スキア)》、性別はもちろん《(フイメール)》。

肩を少し越すくらいの黒髪に凛々しい顔立ちにはまる切れ長な瞳は髪と同色で、女性らしい曲線美を描く身体を包み込むのはフリフリが多くあしらわれたゴスロリ衣装は膝下まであり、そこから覗く華奢な両脚も真っ黒なストッキングが包み込む。

 

そんなスキアと呼ばれる少女の一方後ろに佇むのは、黒い髪を肩のところまで伸ばしており、長めの前髪が同色の瞳を隠している小柄な少女で……真っ黒な彼女と違い、その小柄な身体をすっぽり覆う真っ白を基調としたフード付きパーカーを羽織っている。

そんな少女だけは他の二人と違い、ネームカードがないようだがーー

 

「ーーで、スキアさ、ん…? の後ろにいるその子の名前は?」

「マフユ」

 

あたしが聞いた瞬間、ボソッと呟かれるその真っ白な少女の名前。

余りにもボソッと呟かれ、余りにも声音の音量が小さかったために、思わず素で書き直してしまったが、そんな不躾なあたしをチラッと見た後に真っ白な少女は今度ははっきりと呟く。

 

「はい?」

「ボクの名前はマフユ。それがマスターがボクに付けてくれた名前」

「あぁ、マフユさ、ん…っておっしゃるんですね、はい」

 

今度はあたしが勢いよくシノンへと振り返り、ズザザザーーッ!!? とシノンへと駆け寄ると耳打ちする。

 

「……ねぇ、シノン。これって? なんでマフユってスキアのことをマスターって言ってるわけ? スキアにはそういう趣味があるわけ?」

「……一週間前くらいに大掛かりなアップデートがあったでしょう? そこで貴重なサポートAIであるアファシスが入手出来るようになったの。私とあなたは其々の都合で参加出来なかったけどね。

恐らく、マフユさんはそのアファシスなんじゃないかしら? 私の憶測でしかないけど」

「……流石シノ愛してるぅ!」

「……そんな安い愛してる。いらないわ」

 

あたしの愛してるをクールに切り捨てたシノンはマフユとそのマフユのマスターであるスキアを交互に見る。

その視線に気づいたのか、スキアはチラッとマフユを見た後でコクリとうなづく。

 

「シノンさんの視線の通りでございますね。ここにいるマフユはあのアファシスでございます、タイプも珍しいらしくてーー」

「ーーちょっ、スキア!?そんな事を言っていいの!?カナタさんとシノンさんがあのジョーみたいな人だったら」

「カナタさんはまだしも、シノンさんは誤魔化せそうにないですから」

 

やんわりと微笑むスキアに疲れたように頭を抱えるのはクレハ。

そして、あたしとシノンの方を見てくる。

 

「あたしはそのアファシスとやらに興味はないし、君たちが大事にしてるその子を盗もうなんて思わないよ」

「私もカナタと同じよ」

 

あたしとシノンの言葉に安心したように息を吐くクレハにスキアとマフユは首を傾げる。

どうやら、この二人はなぜクレハが安心しているのか分からないらしい、そういう天然なところが似ているのかもしれない。

 

「と、そろそろ行かないと。彼に悪いね」

「そうね」

 

あたしとシノンはうなづきあい、三人へと左手を差し出す。

その二人の掌ーーマフユをのけたスキアとクレハの掌があたしとシノンの二人の掌に重なり、四人は笑い合う。

 

「決勝で会おう」

 

こうして、第2回BoBが始まったのだった……




というわけで、第2BoBが始まったわけですが……今回初登場した人物と簡単となるでしょうが、シノンとカナタのことを書いて行こうと思います。
次回のBoB予選トーナメントの勝利者予想にお役立てください(ぺこり)



【GGOアバター早見表】
※イメージというのは、そのキャラを思い描く際に参考にしていただきたいキャラクターの事です。

◆Kanata/カナタ
#容姿#
真っ白なショートヘアだが、うなじの所だけ少し長め髪を縛っている。
現実と同じで蒼い瞳。
雄々しい顔立ちで肌や少し焼けている。
細マッチョという感じで、焼けた肌にはしっかりと筋肉がついている。
身長は170〜180㎝。
#衣装#
真っ赤なロングコート(左側に、橙の『亀甲花菱(きっこうはなびし)』『菱菊(ひしぎく)』のツートン模様がある)
真っ赤な長ズボン(ロングコートと違い、右側に橙のツートン模様がある)
黒いワイシャツ
黒いブーツ
真っ白なマフラー

#メイン#
通常 : アサルトガンorサブマシンガン
奥の手 : ???
#サブ#
ハンドガン

#戦闘スタイル#
ALO・プーカで培ったひたすら避け、強烈なカウンターを決めるスタイルを貫く。故に耐弾アーマーは基本装着しない。

#イメージ#
『Fate/stay night』の『アーチャー』


◆Sinon/シノン
#容姿#
鮮やかな水色のショートヘアー、輪郭を隠すように二つの房がある。
猫……豹を想わせるつり目がちな藍色の瞳。
人形のような愛らしさと美しさを持つ。
真っ白な肌。
小柄。
#衣装#
深緑のジャケット
白と黒のスーツ
真っ黒な短パン
真っ白なマフラー
深緑のブーツ
コンバットブーツ

#メイン#
スナイパーライフル
名/PGM・ウルティマラティオ・ヘカートⅡ
#サブ#
ハンドガン

#戦闘スタイル#
最長2000メートルからの狙撃、遠くからの狙撃を得意とする。


◆Skia/スキア
#容姿#
肩を少し越す程の黒髪。
少し切れ長な黒い瞳。
顔立ちは凛々しい。
身長は平均。
真っ白い肌。
大人っぽい雰囲気を漂わせる。
#衣装#
フリがたくさん付いた膝下まである真っ黒なゴスロリ衣装
真っ黒なタイツ
足首のところにベルトをする形をとる真っ黒なローファー
頭の上に白いフリルがついたカチューシャ
真っ黒な耐弾アーマー

#メイン#
ショットガン
#サブ#
アサルトライフル

#戦闘スタイル#
スキア()の名の通り、スピードを生かした獲物に張り付きまとわりつきつつ攻撃するスタイルを貫く。

#イメージ#
『魔法少女育成計画』の『ハードゴア・アリス』


◆Mafuyu/マフユ
#容姿#
肩にかかるくらいの黒髪
少しつり目がちな黒い瞳
顔立ちは可愛らしい系統
幼児体型
身長は小柄
#衣装#
小柄な体型を包み込むような真っ白なパーカー(FBのプレミアが着用していた色違い)
真っ白なスニーカー
真っ白な耐弾アーマー

#メイン#
グレネードランチャーorロケットランチャー
#サブ#
アサルトライフル

#戦闘スタイル#
マスターであるスキアが苦手とする遠距離からの攻撃を得意とする。遠距離からの攻撃と援護を得意とする。

#イメージ#
チモシーさん作『軌跡〜ひとりからみんなへ〜』の『狭山真冬』


◆Kureha/クレハ
#容姿#
ピンクの髪をサインテール
少しつり目がちな水色の瞳
適度に整った顔立ち
身長は平均
#衣装#
白とピンクを基調としたジャケット
黒いTシャツ
白のミニスカート
ピンクと黒のニーソックス
白いロングブーツ

#メイン#
ロケットランチャー
#サブ
ハンドガン

#戦闘スタイル#
ロケットランチャーにて小さな敵を粉砕し、強い衝撃を与える。



以上、GGOアバター早見表でした!!
※シノン以外のメンバーの武器はのちのち明かしていこうと思います。また、私が勝手に想像して書いたものもあるので、本編と違うものもあります。




【この話を更新するに至っての御礼】
今回、登場させていただいたオリジナルキャラ『"スキア"と"マフユ"』は、この小説を書き始める以前から仲良くさせていただいているチモシーさんから頂いた案によって完成したキャラクターです。
また、"マフユ"の方はチモシーさん作の『軌跡〜ひとりからみんなへ〜』の『狭山真冬』というキャラクターを許可を頂いて、私なりに彼女を描かせて頂いたものです。
この場を貸して、御礼申し上げます(土下座)


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030 過去へと終止符を

デス・ガン編である3話の更新です!

今回の話は、BoB第ニ回の予選トーナメントの前までを書いてます。
そして、次回はBoB予選トーナメントの決勝戦を書こうと思ってます。

それまでに、FBやり直しておかないとな…(笑)

では、本編をどうぞ!!


無事着替えを終えたあたしとシノンはスキア・クレハ・マフユの三人より先に更衣室を出て、早足で向かうのは恐らく律儀に待っているであろう友人の元である。

そして、予測通りで地下にある真っ暗闇に薄紫色の線が走る待機エリアのほぼ中央に立ち尽くしたままになっている銀色の髪をうなじのところで結び、男性にしては線の細い身体を迷彩スーツで身を包んでいる友人へと声をかける。

 

「やあやあ。おまたせしちゃったね、シュピーゲルくん」

「お待たせ、シュピーゲル」

 

軽く左手を上げてひらひらするあたしと軽く右手を上げるシノン。

声をかけたあたし達へと振り返り、中性的にある整った顔立ちに優しい微笑を添えて、笑みを返すのは友人のシュピーゲル。シノンにこのGGOを教えてくれた友人で、このGGOという世界をレクチャーしてくれた師匠でもある。

 

「シノンとカナタは今日は遅かったね、もしかしてーー」

 

お? シュピーゲルがなんだか知らないけどあたしを睨む……いいや、呆れたように見てきてるのか? 意味が分からん。

 

「えぇ、シュピーゲルの思っている通りよ。この子、やけに女の子ばっかりにモテるのだもの。困っちゃうわ」

「あはは、相変わらずだね、カナタ。あまりシノンを困られてはダメだよ」

 

むぅ…何故だ。何故なんだ……何故あたしばかり責められる。

あたしもシュピーゲルみたいな中性的優男のような感じになりたかった……こんな彫りが深くて、如何にもっていうアバターじゃなくて……いいや、ちょい待て。あたしのこのアバターも見ようによっては女性にーーうん、見えんですよね、はい。

黒いベンチに座り、項垂れるあたしの真横から聞き覚えのあるボソッとした声が聞こえてきた。

 

「へぇー、カナタって女の子ばかりにモテるの? 女の人なのに?」

「いや、モテたくてモテてるわけじゃあ……って、マフユ!?」

「?」

 

慌てふためくあたしへと小首を傾げて見つめてくるのは……小柄な体躯(たいく)をダボっとした真っ白なフードで包み込み、首を傾げたことによって肩まで伸びた黒髪と長めの前髪から少しつり目がちの大きめな黒い瞳が覗く。

その真っ黒の瞳を驚きで満ち満ちたまんまるな蒼い瞳が見つめ返す。

 

「……何をそんな驚いてるの?カナタ」

「いや、マフユは何故でここにいるのかなぁ〜ってね。スキアとクレハは? はぐれちゃった?」

「人を迷子のように言わないで欲しい。マスターとクレハは今着替え中と最終整備中。BoBに出場しないボクは特にすることがないから。マスターとクレハの活況の敵になるであろうカナタとシノンを偵察に来たというわけ」

偵察って相手に言っちゃって良いものだったかな…まぁ、マフユらしいと言えばらしいけど。

ぽんぽんと、一人分隣に座れるだけ空けるとマフユを手招きする。手招きされたマフユが大人しくあたしの隣に座るとシノンの横にちょこんと腰掛けるシュピーゲルを見て、コクリと小さくお辞儀する。

 

「そちらの人は初めまして。ボクの名前はマフユ。君は?」

「僕はシュピーゲル。シノンとカナタの友達で……って、もしかして、シノンが言ってたカナタがナンパした小さい子って、この子のこと? カナタ、流石にそれは……」

「こらこら!シュピーゲルっ!!あたしは一度も女の子をナンパしちゃいない!!それにあの子はあたしがナンパしたんじゃなくて、勝手にあの子から敵意を向けて突っ込んできたから、仕方なく……なんだその犯罪者を見る目は」

 

普段はシノンにもあたしにも優しいシュピーゲルがすっごく冷めた目で見てくる。そして、あたしの隣に座る恋人殿に至っては氷の如き絶対零度の視線を向けてくるし……何故(なにゆえ)、あたしはいつもこんな扱い。あぁはい日頃の行いですよね、分かってます。分かってますよ〜、だ。

 

“あぁ、なんか虚しくなってきた……あと、なんだかやる気もなくなってきた……”

 

「……カナタ?」

「ううん、なんでもないよ、マフユ」

 

心配そうに見てくるマフユににっこり笑ってみせると同時刻にあたし達の前に現れる見知った二人組。

右側に立つのは、肩を少し越すくらいの真っ黒な髪に真っ黒なゴスロリ衣装を纏う少女・スキア。そのスキアの隣を歩くのは、ピンクのサイドテールに真っ白とピンクのジャケットを身に纏った少女・クレハ。

二人組はあたしの横に座るマフユを見つけると嬉しそうに駆け寄ってくる。

 

「あ、居ましたわ。マフー、勝手に一人でどこに行ってはダメじゃないですかっ。心配したんですよ」

「あー本当居た!もうぉ、マフー、心配させないでよ……って、カナタさんとシノンさん!?」

 

マフユの隣にいる座っているのがあたしと気づき、びっくりするクレハ。

そのクレハのセリフでこちらに気づいたらしいスキアはやんわりと微笑み、丁寧にお辞儀する。そして、シノンの隣に座るシュピーゲルに気付くと、はて? といった感じで小首を傾げる。どうやら、シュピーゲルと会ったのか、会ってないのか思い出そうとしているらしい。思い出そうとしても、会ってすらないのだから思い出せないと思うのだが……そして、そんな天然なスキアの様子に呆れ顔のクレハ。

 

「まぁ、そこに立ってるのもなんなんだしさ。マフユの隣にでもどうぞ」

 

更に二人組空けると、"すいません"と言いながら腰を落とす二人へと話しかける。

 

「そういえば、二人はどこのブロック? あたしはCの15」

「私はOの31」

「僕はBの10だね」

 

あたしに引き続き、シノンがクールに言い、シュピーゲルが微笑みながら、自分が属するグループを伝える。

 

「ワタクシはシノンさんと同じでOの13ですわね」

「あたしの方はカナタさんと同じでCの36です」

 

スキアとクレハの所属するグロックを聞いて、ふむふむとうなづく。

 

「そっかー。なら、どちらも当たるとしたら、決勝ってことだね。良かった」

「良かったといいますと?」

 

小首を傾げるスキアにシュピーゲルが説明する。

 

「予選トーナメントは決勝まで行くことができれば、勝ち負けにかかわらずに本線のバトルロイヤルに出られるんだ。だから、二人とシノンとカナタが一緒に本線に揃っていける可能性はあるってことだね」

「せっかく知り合ったんだから、本線でも戦いたいじゃない? 見たところ、スキアとクレハも相当な実力者みたいだからさ」

 

そう言って、にやにや笑いながら身を乗り出して、二人の顔を見るあたしの横腹をつんつんしてくるのはシノンだ。

 

「そう言って。余裕かましてたら、足元すくわれるわよ」

「あはは、だね。と、そろそろ始まりそうだね」

 

いつの間にか、カウントダウンが10をきり、そしてーー

 

『大変長らくお待たせしました。ただ今より、第ニ回バレット・オブ・バレッツ予選トーナメントを開始いたします。エントリーされたプレイヤーの皆様は、カウントダウン終了後に、予選第一回戦のフィールドマップに自動転送されます。幸運をお祈りします』

 

ーーそんなアナウンスが流れ、忽ちあたしの体を青い光が包み込んだ……




というわけで、次回は予選トーナメントの決勝戦となると思います!!
そして、その後は本線を一、ニ話で書いて…いよいよ事件開始って感じですかね(微笑)

さてさて、いよいよ死銃事件なのですが……新川くんの扱いをどうしましょうかね(笑)
彼も薄々ながら、カナタとシノンの関係性に気づいているでしょうしね……うーん、しかし、新川くんがそれで朝田さんを諦めるでしょうか……まぁその辺も含めて、なんとかしましょう!なんとかするしかないでしょうっ!(ぐっ)

また、どうするか展開に迷っている事というとーーアリゼーション編のヒナタの扱いにも実は迷ってたりします(笑)
私がこれまで考えていた展開は、ヒナタはアリスと共に整合騎士になって、キリトくんとユージオくんの前に立ち塞がるって感じにした方がオリジナル性があって面白そうかなぁ〜って思ったんですが……アニメを見れば見るほど、セントリアの修剣学院でキリトくんとユージオくんと共に生活してるヒナタも見てみたかったりするんですよね(微笑)
あと、ライオスさんとウンベールさんはヒナタにはどんな意地悪をするのかなぁ〜という興味……また、橙色の上級修剣士の制服を着ているヒナタが見たいですね、純粋に。

まぁ、そんなこんなで、まだまだアリゼーション編の展開に悩み中なんですよねぇ……(微笑)




と、悩みのうちあけはここまでにして……ここから先は雑談コーナーとなります、例の如く長々と書くと思いますので…途中で読むのがめんどくさくなったら、高速スライドしてください!
また、アリゼーションの最新話を観てない方にはネタバレ要素が含まれております。
なので、ネタバレが嫌な方は高速スライドをよろしくお願いします(礼)








では、下にお進みください!!









まず最初に、アリゼーションのアニメの感想なんですがーーライオスさんとウンベールさんによるキリトくんとユージオくんのいじめが激しさを増していってますね……もう、見るに耐えないというか……大人ではないですけど、大人げないっていうか……なんというか(苦笑)

と、ライオスさんとウンベールさんの話はここまでにして……ロニエちゃんとティーゼちゃんですが、やはり二人とも可愛いっ!!(興奮)
初々しい雰囲気と愛らしい声・外見が相まって…あんな可愛い子達にお世話してもらってるキリトくんとユージオくんがほんと羨ましい!!

恐らく、10話はその二人が辛い間にあうと思うので……今から心の準備をしておかないと。




続けて、デス・ガン編を書くにあたって、『SAOⅡ』を見返しているのですが……改めて、私はどうしようもなくシノンが好きなんだなぁ〜と実感しました。
だって、シノンの仕草仕草可愛いですしっ!!カッコいいですし……もう全てが好きです!!あと、横顔が素晴らしいっ!!(大興奮)
そして、私はやはりGGO編がSAOシリーズで好きなんだなぁ〜とも(笑)

因みに、SAOⅡでの私の好きなシノンの横顔は『#02/氷の狙撃手』で、ダインさん達とネーム狩り専門のスコードロン分かる前に作戦会議している時のものですね!!
あの横顔はいいッ!!(大興奮)
気になった方は、お暇な時にでも見直した時に確認してみてください(微笑)



と、シノンの事で繋がると……オーディナル・スケールで、キリトくんと共闘するシーンの前で……シノンが登場した時に周りの人が騒めいてましたよね…、あと銃整備の人たちがシノンの指示で動いてましたし……オーディナル・スケールのシノンって何者なんでしょう?

確かにその道ではシノンの右に立つ人は居ないでしょうし……うーん、その道での有名人なのかな? きっと。




そして、最後となりますが……メモリー・デフラグでは『荒野に降り立つ白雪のガンナー』で☆6シリカちゃんをゲットしましたっ!
といいますか……アスナちゃんもシリカちゃんもこのサンタ衣装は可愛すぎませんか!?(大興奮)
こ、これはあかんですよ……アスナちゃんはセクシー路線ですし……シリカちゃんが上目でーーぐっ(鼻血を抑える)

もし、こんな感じでサンタシノンとサンタアリスが来たら……私、鼻血を吹き出しつつ、倒れてしまうかも(笑)




と、こんなところで雑談コーナーを終わります。
ここまで読んでいただきありがとうございますッ!!(。-_-。)


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031 過去へと終止符を

更新、遅れてすいません……(大汗)

詰め込みたいところまで詰め込んでいたら、ここまで時間が掛かってしまいました……ほんとごめんなさい。

さて、大変待たせてしまった今回は前回紹介されてもらった通りにBoB予選戦の決勝での話です。
戦闘シーン、盛り上がってもらえると嬉しいのですが……私自身まだまだですので…(笑)
余り手に汗流れないかも…

と、余り長くなるといけないので……それでは本編をどうぞ!!


【Kanata VS Kureha

準備時間 : 43秒

フィールド : 朽ち果てた高速道路】

 

真っ暗な空間の中、あたしは目の前にある大きなウィンドウに書かれている対戦相手の少女を思い浮かべる。

 

ピンクのサイドテール、可愛らしく整った顔立ちにはめられている水色の瞳にピンクと白を基調としたジャケット、黒いミニスカート、ピンクと白のニーソックス。どれをとっても彼女の可憐さを引き立てているとあたしは思っている。

そして何よりも彼女は今まで戦ってきたプレイヤーよりも闘志というか、実力的にも侮れない気がする……そういえば、この前も全身ピンク色の闘志丸出しのプレイヤーに砂漠フィールドで対峙したことがあった。

それが間違った形で我が恋人殿に噂と言う名の風によって伝わり、今のそのことで白い目を向けられているというわけだ。

 

とほほ…つくづくあたしは女難の相に悩まされるらしい。

 

とそんなくだらないことはよくて、今は対策を打たないと。

 

「…クレハは遠くからの攻撃も近くからの攻撃も得意っぽいよね」

 

ぽいではなく、そうなんだろう。

今まで相手によって、ランチャーかライフルかを選ぶ程度で彼女の基本的な戦闘方法にあまり変わりはない。

どっちの距離もそつなくこなしているように思えるし、あたしのような超至近距離タイプにとって、この手のタイプは一番扱いづらい。

 

(さてさて……どうしたものか)

 

どうしたものかも何かも侮れない相手だからこそ全力を出し尽くすべきだろう。

つまり今回の予選決戦はあいつを使用するというわけだ。

 

「まさかこんな早くコイツを使用することになるとは、ね」

 

あたしはゼロに近づく準備時間をただジッと見つめながら、カキカキと銀髪を掻く。

 

 

ττ

 

 

【Sinon VS Skia

準備時間 : 32秒

フィールド : 失われた古代寺院】

 

真っ暗闇な空間の中、私は目の前にある大きなウィンドウを見つめながら、対戦相手となる少女の事を思い浮かべていた。

 

真っ黒な肩を少し越すくらいの髪、凛々しく整った顔立ちにはめ込まれた髪と同色の切れ長な瞳、真っ黒なゴスロリ衣装、足元も真っ黒なタイツで決めており、唯一色が違うのは頭の上に乗っているフリルのついたカチューシャくらいだろう。

 

(これは困ったわね……スキアはその名の通り、影のように相手に音なく忍び込み、超至近距離からの攻撃スタイルを貫いている)

 

もし、近づかれたならば……私に勝機はないだろう。

私が得意とするのは超長距離からの狙撃。

 

ならばどうするか、それはーー

 

「ーーすぐに身を隠すしかないわね」

 

ゼロになった準備時間を見て、気を引き締めるべく大きく深呼吸をした。

 

 

ττ

 

 

【Kureha VS Kanata

準備時間 : 43秒

フィールド : 朽ち果てた高速道路】

 

真っ暗闇な空間の中、あたしは目の前にある大きなウィンドウを見つめながら、対戦相手の少女となる事を思い浮かべる。

 

銀色の短めの髪をちょこんとうなじのところで結び、雄々しく整った顔立ちにはまるのは空のように澄んだ蒼い瞳、赤いロングコートに赤い長ズボン、黒いワイシャツは砕けたように二つボタンを外している。

 

(うーん、カナタさんってスキアと同じスタイルなのかな?)

 

今までの戦闘は相手が撃ってくる銃弾をその巨体に似合わずにしなやかに避けると一気に距離を詰め、『お疲れさん』と言い放ったうちに手に持ったアサルトライフルで相手を撃ち抜くというのが主流のように思えた。

しかし、勝った後に浮かべる含みある笑みの裏に何かあるように思えて、まだ彼女をどのように攻略すればいいか決めかねている。

 

「うー、もう当たって砕けるしかないよね!!って……これだとマフーに砕けちゃダメでしょうって言われちゃうかも」

 

準備時間がゼロになったウィンドウを見つめながら、あたしはギュッと両手を握りしめた。

 

 

ττ

 

 

【Skia VS Sinon

準備時間 : 32秒

フィールド : 失われた古代寺院】

 

真っ暗闇な空間の中でワタクシは大きなウィンドウを見つめながら、対戦相手となる少女の事を思い浮かべる。

 

水色のショートヘアー、人形めいた可愛らしさを持つ顔立ちに猫を思わせる藍色の瞳、深緑色のジャケットに白い体に張り付くようなタイプのシャツ、真っ黒な短パン。

 

(やはり、先手必勝ですわよね)

 

あの巨大なスナイパーライフルで超長距離から狙撃されたならば、まずはワタクシに勝ち目はないだろう。

狙撃手(スナイパー)が放つ最初の一発だけは《弾道予測線(バレットライン)が分からないようになっているようでーー

 

(ーースピードの自身のあるワタクシでも見えない弾を避けるなんて事は出来ませんからね)

 

ならば、する事は一つしかない。

相手が狙撃出来る距離まで逃げるまでに、音を立てずに近づき、一気にHPを削る(息の根を止める)しかないだろう。

 

「マフー、見ていてくださいね」

 

準備時間がゼロになったウィンドウを見つめながら、ワタクシはその名のように真っ白な少女を思い浮かべ、微笑んだ。

 

 

ττ

 

 

「シュピーゲルは負けちゃったの?」

「ズバッと訪ねてくるんだね、マフユちゃんは」

 

真っ黒なベンチに淡い紫色の線が走る待機室に設置してある個室に二人年若い少年少女の姿がある。

真っ白なダボダボパーカーに身を包む少女・マフユにそう問われ、物腰の弱い優男のように思える少年・シュピーゲルは苦笑いを浮かべつつ、さっき始まった決勝が映る画面を見つめる。

つられて見るマフユが画面に映る自分の主人の姿を見て、無表情だった顔を淡いが笑みで綻ばせる。

 

「マスターもクレハも凄い。これならカナタやシノンにも勝てーー」

「ーーそれはどうかな?」

 

マフユのセリフを遮り、意味深に笑うシュピーゲルを真横で見るマフユが遮られたセリフの意味が分からないようで小首を傾げていた。

 

 

ττ

 

 

【朽ち果てた高速道路

決勝対戦 Kanata VS Kureha】

 

「さぁーて、クレハは何処かな〜ぁ」

 

トコトコとなるべく目立つ(・・・・・・・)ように道路の所々掠れている黄色い線の上をゆったりと歩く。

 

すると間も無くするとーー

 

「ととっと、と……おお、あそこに隠れているわけね」

 

ーー自分目掛けて、まっすぐ伸びてくる真っ赤な弾道…バレットラインが無数にあたしの身体を突き刺す。

あたしは飛んでくる弾丸を避けつつも少し頬を掠めたりしながら、その赤い線の先を見る。そして、その線の先にいるピンクサイドテールの少女を見て、ニンヤリと笑う。

 

「君にあたしと相棒(こいつ)を止められるのかな?クレハ」

 

そして、奥の手として出しておいた相棒を構えると、疾風を起こしながら、そのピンクサイドテールに向かって走っていく。

 

 

τ

 

「何よあれ!?」

 

今まで丸腰で自分に歩み寄ってきたカナタさんが出現させたのはーー鉄独特の無機質な光を放つ緩やかに反りがある刀身、カナタさんが掴んでいる所は黒いゴムが巻かれているようで……まさにそれは刀。

そう刀。

この銃と鯖、鉄臭い世界……"洋"で統一された世界に無縁の"和"を表すもの。

 

(あんなので斬られたひとたまりもないわ!!)

 

取り敢えず、新しく隠れられる場所をと思い、あたしが腰を浮かした時にはもう既に勝敗は付いていた。

 

「みーっけ、クレハ」

 

嬉しそうな声でそういい、あたしを自分の方へと引き寄せて、無抵抗なさせたカナタさんはあたしの首筋を無機質な冷たさを浴びる刀先を少し押し付ける。

それだけであたしは恐怖から両手に持っていたアサルトライフルをコンクリートへと落としたのだった。

 

「素敵な作戦だったけど、あたしと相棒を止めることは君には難しかったらしいね」

 

そういい、あたしが落としたアサルトライフルを手の届かないところへと蹴飛ばしたカナタさんはまだきっと気づいてない筈…アレをこの決勝前に装備した事を。

 

(お願い。気づいてないで)

 

そう祈り、腰へと両手を回したあたしはそこにある筈の拳銃(アレ)がない事に酷く動揺する。

 

「ッ、まだ……ってあれ?」

「腰にこっそり潜めていたのはこの拳銃かな?」

 

そう言い、ニヤニヤとあたしが装備していた拳銃を余裕な笑みを浮かべながらクルクルと回していたカナタさんに打つ手が無くなったあたしはゆっくりと身体の力を抜く。

 

「……う、そ」

「相手を取り押さえた時はまずは無抵抗化に勤しむべし、我が家の家訓」

「……もうなんなんですか、その家訓。さぁ、撃ってください。あたしの負けですから」

 

こんな場所なのに、この人は何処までも飄々としている。

きっとこの人にとって、あたしなどは雑魚の中の雑魚なのであろう。

そんな人と戦えた事にあたしは誇るべきかもしれない。

 

(これに決勝まで来たんだから…明日の決勝には出場出来るし)

 

そう思い、カナタさんに撃ってもらおうとしたあたしにカナタさんは困ったように頬をかくとギザな事を言う。

 

「あぁ、その事だけど……降参(リザイン)してくれないかな? ほら、クレハみたいな可愛い子切るのあまり好きじゃないし」

 

そう言い、照れたようにはにかむカナタの笑顔がクレハには眩しく思う。

 

(……これが更衣室に向かう前に、女性プレイヤー達が言ってたカナタ様スマイル)

 

確かに、これは惚れてしまうかもしれない。

 

「……リザイン」

 

あたしはカナタさんから視線を逸らすとボソッと呟く。

 

 

【Oグロック決勝戦 勝者 Kanata】

 

 

ττ

 

 

【失われた古代寺院

決勝対戦 Sinon VS Skia】

 

「取り敢えず、スキアから離れないと」

 

フィールドに転送された瞬間、私はすぐに近くの柱に身を隠すと素早く狙撃できそうな場所を探す。

 

(あそこ!)

 

よし、行こうと一歩前に踏み出し時だったーー後ろに違和感(・・・)を感じた。

このまま身体を起こしていると危ないと何かが叫ぶ。

 

(ーーッ!!)

 

「あらら、流石シノンさんですわね。さっきので確実に仕留めたと思いましたのに」

 

いつの間にこんな近くにスキアが居たのだろう。

 

「その真っ白なマフラー、シノンさんの雰囲気と良く合ってますわよね。ほら、逃げまどう子猫みたいで」

 

ということは、柱から私の白いマフラーが覗いていたということか。

ガリッと奥歯を噛みしめる、早く身を隠すことに気を取られて、風にヒラヒラするマフラーまでは気に留めてなかった。

 

「さて、そろそろ終わりにしましょう。そのヘカートではこの距離からの狙撃は無理でございましょう?」

「それはどうかしら。私だってただで負けるつもりはないわ」

 

腰からグロッケンを構える私にスキアは意外そうな顔をした後に面白そうに微笑む。

 

「そういう人、ワタクシ好きですわ」

「それはどうも」

 

こうして、超至近距離での戦闘が始まったのだった。

 

τ

 

「……ふぅ、なんとか勝てましたわ」

 

黄昏に染まる寺院に佇むのはただ真っ黒な少女・スキアで近くには鮮やかな水色をショートにしている少女・シノンが地面にふっしていた。

 

【Cグロック決勝戦 勝者 Skia】

 

忽ち浮かぶ文字を見ながら思うのは、シノンさんの闘いっぷりだった。

まるで超至近距離タイプとの戦闘に慣れているかのように身軽に攻撃を避け、時々放ってくる銃弾に大盤参ったものだ。

 

(もしかして、シノンさんが超至近距離タイプとの戦いに慣れてましたのって……)

 

その時、常にシノンさんの隣に佇む真っ赤なロングコートが思い浮かんだ。

 

(明日の決勝、やはりあの人が壁になりそうですわね)

 

そう思ったところで待機室に転送されたワタクシを出迎えたのは幼馴染のクルハだった。

両手を広げて、飛びついてくるクレハを受け止めながら、その後ろからついてくるマフーに笑いかける。

 

「おめでとう!!スキアッ。あんた凄いわよ!!」

「くっ、苦しいですわ。クレハ……っ」

「クレハ、締めすぎ。マスターの顔が青くなってきてる」

「え!? ごめんっ!スキア」

 

やっとクレハの抱擁から解放され、近寄ってきたマフーの黒い髪を撫でながら、見るのはさっきまで戦っていたシノンさんだ。

「ほら、おいでシノン」

「……カナタ…っ」

「ん、シノンはよく頑張った。頑張ったよ、ほんの少しだけスキアの方が強かっただけだから」

 

「ーー」

 

悔しそうに唇を噛むシノンさんに優しく微笑むカナタさん、そして黙って抱きついてくるシノンさんを優しく抱き締め、水色のショートへと手櫛を入れるカナタさん。

そして、そんな二人を離れたところで見ているシュピーゲルの瞳に走る黒い影にワタクシは眉ひそめるのだった……




あーはい、ヒナタは何処までいってもヒナタでした(笑)

洋の世界なのに……日本刀を振り回すヒナタって(苦笑)
どんだけ和が好きなんだよっ、とツッコミたくなると思いますが…私の中でヒナタはどの世界での日本刀を振り回していてほしいって気持ちがありまして…なので、今回のような形で相棒(にほんとう)を出現させた次第です。

さて、アリゼーションが始まってから、よく川原礫先生のツイッターやSAO公式ツイッターなどを拝見させてもらうんですが……その中で、礫先生が『SAOでは何故ああいう(強姦未遂などの)シーンが多いのか?』について理由を語られていた記事を見かけました。
その時、礫先生は『それは昔見たライトノベルの内容から』とおっしゃっていました。

その記事を見たときに『なるほど』と思ったのです。
確かに、私の小説ももろにそういう影響を受けてますしね(笑)
幼い頃…といっても学生時代ですね。その時に流行っていた、熱心に見ていたアニメというと『るろうに剣心』や『BLEACH』、『犬夜叉』や『結界師』などなどーーほら、どの作品も着物姿で刀…中には術の人もいますが、着用…使用して戦闘してます。
そして、うちのヒナタはどのVRでも日本刀や和をこよなく愛する少女…………もろ影響受けてますやん(大笑)

しかし、ヒナタ自身の天然女たらしっぷりはどの作品から抜き取ったのかは分からないんですよね……性格は私から受け継いだのに…何故ここまで超が付くほどのイケメンに進化してしまったのか…些か謎です(笑)


さてさて、アニメの感想ですが……遂にきてしまったあのシーンは思っていた以上にリアリティがあり、ティーゼちゃんとロニエちゃんは助かりましたが、心には消えない傷が生まれたのではないかと思います。

そして、遂に現れた『アリス・シンセシス・サーティ』。
幼い頃のアリスとはガラッと雰囲気が違いましたよね……。氷のように冷たい声音の中にも、幼い頃のアリスが見え隠れしていて………この後、ユージオくんとキリトくんがこのアリスとどのように関わっていくのかが楽しみですね(微笑)

さて、寒い日が続き…私は少々喉の方がやられつつありますが、読者のみなさまも喉や鼻水などにお気をつけてくださいね、ではでは〜(*'▽'*)


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032 過去へと終止符を

お久しぶりです。
そして、年末の挨拶が出来ずにすいません……(高速土下座)
多くの感想を頂いたこと、多くの人にこの小説を読んで頂いていること、多くの人にお気に入りをして頂いていること、多くの人に評価して頂いてる事に改めて感謝を示し、ヒナタの活躍と成長をこれからも見守っていただけると嬉しく思います(微笑)
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます!

ヒナタやシノンさん達、読者の皆さんがこの一年が素敵な一年となりますように( ´ ▽ ` )

さて、長くなりましたが……本編をどうぞ!

※今回は少なめで、後書きの方のほんのちょっとしたアンケート(?)を用意してます。
お答えいただけると幸いです(微笑)


【Bullet of Bullets 2 START!】

 

そんな文字が画面に現れると共にあたしは荒野を駆け抜ける。

 

“まず最優先はシノに出逢うこと”

 

と、その前簡単にこのBoBの説明をしてみると、参加者三十人による同一マップでの遭遇戦。

開始位置はランダムだけど、どのプレイヤーとも最低千メートル離れている。それくらい離れてないと、銃を使用しているこのゲームではあっという間に勝負がついてしまう。

なので、本戦のマップは直径十キロの円形となっており、山あり森あり砂漠ありの複合ステージだから、装備やステータスタイプでの一方的な有利不有利はなし。

 

つまり、このBoBは完全なプレイヤーの力によって勝負がつくということ。

 

“そんなん、ALOで完全不利な種族で延々と攻撃を喰らわないように過ごしてきたあたしに完全不利だよね”

 

「と、その前に……そこの人、もうバレてるよ。出てきたらどうかな?」

 

ズズッと、砂埃をあげて立ち止まると左手に持った日本刀でトントンと左肩を叩き、不適に笑うあたしに草むらから出てくるのは迷彩柄の細身の男が出てくる。

 

「やれやれ、バレちゃったか……流石、荒野の侍」

「こちらのあたしの二つ名はそんな名前な訳ね。まぁ……これが切り札だものね、そういう二つ名が出来ちゃっても仕方ないか」

 

あたしが肩をすくめた瞬間を見計らって撃ってくる卑怯な男のバレット・ラインに沿って日本刀を振り下ろしながら、音速で男に近づくと刀を振り下ろしたのだった。

 

 

ττ

 

 

【Kanata & Sinon side】

 

広い荒野に佇むあたしは横に立つ淡い水色のショートヘアーとマフラーを揺らし、右肩に大きなスナイパーライフルを担いでいる小柄な少女・シノンへと小首を傾げる。

 

「やれやれ、早速狙われているようだね。どうします? お姫様」

 

あたしが相棒(にほんとう)を左肩に乗っけるとトントンと叩く。

 

「貴女はいつもそうやって茶化して……それに私達が狙われているのは、貴女がそんな目立つコートを着てているからでしょう」

「こ、これはシノが似合うからって言ったからでっ!?」

「だからってこんな大事なところまで着てくることないじゃない」

 

やれやれと肩を竦めるシノンを流し目で見て、"困った困った"と苦笑いをする。

そして、シノンに向けていた視線を下に向けると笑みを強める。

たしかにあたしの服装は真っ赤なロングコートや真っ赤なロングズボンに真っ黒なワイシャツってーーこれは荒野の中や森の中でもバレちゃいますよね、こんなに赤いと。

 

「こんな時だからこそ愛の結晶を着るべきじゃない?ほら、必勝のルーティンのようなものみたいな」

「……何が愛の結晶、必勝のルーティンよ。いつも可愛い子や綺麗な子があればフラフラとその色香に付いて行くくせに」

「ふんっ!」

 

頬を膨らませるシノンに向かって飛んでくるバレット・ラインを日本刀で斬り捨て、背後に庇いながら苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「別にフラフラ付いて行ってるわけじゃないからっ!!時にワザとの時とかあるから!!」

 

頬を赤らめるあたしに向かって飛んでくるバレット・ラインを避けるとその飛んでくる先にいたプレイヤーをシノンの拳銃の銃弾が貫く。

その瞬間、あたしは音速でシノンを撃とうとしているプレイヤーを斬り捨てるあたしに親指を立ててくるシノンに同じく親指を立てて振り返りながらニンヤリ笑う。

 

「さぁ、あたし達の仲を君達は引き裂けるかな」

 

 

 

ττ

 

 

 

【Skia & Kureha side】

 

深い森の中、ワタクシとクレハは身を隠すように茂みに身を隠すと目の前に広がる半透明な地図の所々にある◎マークを押して、目当てとなる《Kanata》《Sinon》の文字が並んでいるのを見て、顔を見合わせる。

 

「やはりカナタさんとシノンさんは共に行動しているようですわね」

「スキアの読み通りね」

「えぇ、あの二人は共に行動を共にすることで最大の力を発揮しますわ。カナタさんの刀による"超至近距離"戦法……シノンさんのヘカートによる"超遠距離"戦法……戦法が正反対、信頼し合える仲だからこそできる戦闘……遠目に見ているだけでもパーフェクトですわよね」

「でも、それはあたし達もだよ」

「えぇ」

 

ピンクの髪をサイドテールにしている幼馴染のセリフにうなづくと勢いよく立ち上がり、其々の武器を先方にいる敵へと向けたのだった。





ということで、始まったBoB決勝戦ですが……勝利の女神はどのグループへと微笑むのでしょうか?
共に行動を共にする事にした《カナタ&シノンさんペア》《スキア&クレハさんペア》。
この二組はかなり強いですよ、其々のペアが其々の苦手な所を補っているのですからね…(微笑)

そんな彼女達の勇姿を最後まで見届けてもらえると嬉しいです!!


さて、前書きで簡単なアンケート(?)があるので、答えてくれると嬉しいとありましたが……このアンケートは私の活動報告にて【sunny place ー添い寝イベント案受付ー】というのがあるので、そこに答えて下さると嬉しく思います(微笑)

活動報告のタイトルを見て分かる通りで、読者の皆さんには私に描いて欲しいヒナタちゃんやその他オリジナルキャラ(あんま居ませんが(笑)で見て見たい添い寝のイラストを受け付けようと思ってます。 また、詳しいことは活動報告にて書かせてもらいます(土下座)



さて、長々とすいませんでした。
寒い日が続きますが、皆様お身体にお気をつけてください、ではでは(*´∀`*)


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033 過去へと終止符を

更新、大変遅くなりました…(汗)

番外編となるバレンタインストーリーを読んでいただいた方、大変ありがとうございます!
大変お見苦しいものだったと思いますが、楽しんで読んでもらえたならば…嬉しく思います。

さて、今回の話ですが…長かったBoB2の決勝戦のお終いとなってます!
個人的に注目してる読んで貰いたい箇所は【カナタ VS スキア】です。
超至近距離 VS 超至近距離 の闘い。
私の腕では手に汗握れないかもですが…出来る限り、手に汗出来るように書いていこうと思うので、楽しんで読んでもらえると嬉しいです!

では、本編をどうぞ!!


【Kanata & Sinon side】

 

第2回BoB。Bullet of Bullets 2。

その決勝トーナメントとなる特設フィールドは直径10キロの円形で、山あり森あり砂漠ありの複合ステージだから、装備やステータスタイプでの一方的な有利不有利はなし。

 

ということになっているが、あたしのような本来のGGOのプレイスタイルと真逆のプレイスタイルを持つ者にとっては常に銃戦は有利不有利に左右していると勝手に思っている。

砂漠はどう足掻こうと足元を掬われてしまうし、森林は銃弾を木々に隠れることで防げ、安易に敵へと近づけられて、切り捨てられる。

 

なので、あたしはどちらかというと砂漠フィールドよりも森林・廃墟フィールドを好むというわけだ。

それをよく知っている恋人殿はあたしよりも先にそのフィールドへと身を隠し、あたしの背を見事に守ってくれている。

 

「さて、そろそろサテライトかな?」

 

シノンに脚を吹き飛ばされ、あたしの個人的な鬱憤(うっぷん)によって切り捨てられた足元のプレイヤーに《《髑髏(どくろ)マーク》と白文字で《DEAD》と浮かぶのをみてから愛刀を鞘へとしまう。

 

「えぇ、そうね」

「んじゃあ、あそこで結果をみましょうか」

 

あたしは水色のショートヘアとサンドカラーのマフラーを荒風に揺らしている《冷酷なる狙撃手(スナイパー)》として名を轟かせている恋人・シノンと共に近くの茂みに入り込むと身を寄せ合い、《サテライト・スキャン》の受信端末を覗き込む。

 

「確認していくわね」

「あぁ」

 

黒い指穴手袋が半透明で作られた地図の上の至る所にある◉マークをタップしていく。

 

「ありゃありゃ、もうこんなに参加者少なくなったんだ」

 

地図に残っている◉マークはあたしとシノンを含めて、7名となっていて、その中にしっかりと《Skia》《Kureha》の二名の名前があることが気付き、あたしは密かに胸を高鳴らせる。

 

“どうやら、二人も…スキアは生き残っているようだね…”

 

腰にぶら下げた鞘の上から愛刀を撫でたあたしは更衣室で出会った三人組を思い浮かべて、"これは戦うのが楽しみだ"と頬を緩ませるあたしをシノンが間近から一瞥する。

 

「それはどっかの誰かさんが敵が現れる度にズバズバと刀で切り裂いていくからでしょう…。流石に可哀想になってくるわよ、あんなに一方的だと」

「ははは、あはは……はー、なんかすんません」

 

だってさ、シノンに近づこうとすればするほどに"待ってました!"って感じにプレイヤー飛び出してくるんだよ?モグラ叩きのように!

そんなの反射的に辻斬りのように通りざまに切り裂くよね!?

しかもあたしがダメならシノから先に始末しようとか流石に最低だとーーえ?なんなの、その顔!?あたし、当たり前の事してるよね!?恋人として当たり前の立ち振る舞いをしているよね?何が不満なの!?

 

「…貴女って人は…もう……。いい加減に、時代劇から離れるって事は出来ないの…」

 

疲れたように頭を抱えるシノンにあたしはグッと両手を握りしめるとブンブンと縦に振る。

 

「出来ない!!それは断じて出来ない!!あたしから和要素をぬければ、そこにあるのは単なるカナタという名の味気ない抜け殻としか言えない!!!」

 

あたしは興奮気味にそう語るのをうっとおしそうに退けたシノンが何故か頬を赤く染めた後にボソッと何かを呟く。

 

「あーはいはい。……………まぁ、それが貴女だものね。それに…私はそういう貴女だからこそ惹かれたと思うし……」

「…へ?なんか言った、シノ?」

 

しかし、余り小さい声だった為、あたしは眉をひそめるとシノンへともう一度問いかけて、何故か逆に怒られるあたし。

これ理不尽じゃないか…ほんと……。

 

「なんでもないわよ!!バカヒナタッ!!」

「えぇええええ!?なんで、あたしが怒鳴られているの!?」

 

"ふん!!"と壮大に不機嫌に鼻を鳴らしたシノンが茂みから抜け出していくのをあたしは冷や汗を流しながら、追いかけるのだった。

 

 

ττ

 

 

【Skia & Kureha side】

 

わたくしが広げているサテライトスキャン端末に浮かぶ地図にある◉マークをタップしていくピンクのサイドテールにピンク・白を基調とした戦闘着に身を包んだ幼馴染・クレハが森林フィールドで身を寄せあうように隣り合う◉マークをタップした時に浮かんだ文字《Sinon》《Kanata》の文字列を見て、わたくしへと笑いかける。

 

「遠目に見ておりましたが、あの二組を相手にするのを一筋縄ではいかないようですわね」

「あははは…確かにあの辻斬りは凄かったもんね。あんなの間近で放たれたら、あたし交わせるか分からないよ」

 

苦笑いを浮かべるクレハにわたくしも肩を持ち上げて、苦笑いを浮かべる。

 

「それはわたくしもですわ。あの太刀筋は避けられる気がしませんもの」

「そんな事ないでしょう。ほら、バカ言ってないで。あそこにいる人達倒しにいくよっ」

「あの、バカとは酷くありませんか、クレハ…」

 

勢いよく立ち上がり、岩から走り出たクレハの後を追い、アサルトライフルを構えたわたくしは引き金を弾き続けられながら、連発してくる銃弾の中を踊るように避けながら、プレイヤーへと近づく。

 

「な!なんなんだよ!お前!!?」

「ふふ、なんなんでしょうね?クレハ」

「了解よ」

 

わたくしの合図と共に飛んでくるランチャーの銃弾を目視すると尻餅をつくプレイヤーから離れる。

そして、忽ちそのプレイヤーに銃弾が飛来して、安易にHPをあっさり奪い、プレイヤーへと《髑髏(どくろ)マーク》と白文字で《DEAD》と浮かぶの確認してからクレハと合流するのだった。

 

 

ττ

 

 

【Kanata & Sinon side】

 

「斬るッ!!」

「ーーッ!!」

 

バンバン、カンカン、バンバン、カキン

 

両手に構えた日本刀で間近から放ってくる弾丸を弾き、真っ正面から飛んでくるロケットランシャーから飛んでくる弾丸を後ろに飛んでから、ブンッと横に振ってから腰を落として構えてからニンヤリと笑う。

 

「流石、スキアだね。これはあたしでも負けちゃうかもね〜」

「そう言いながら、後ろに行かせる気もわたくしにもクレハにも撃たれる気もないのでございましょう?」

 

お淑やかに"ふふふ…"笑うスキアがチラッとあたしの背後を見るのを確認して、片眉を上げたあたしは不敵に笑う。

 

「それは君達の頑張り次第さ。あたしだって、唯の人間だからね。超人ってわけじゃない」

 

そう言いながら、空いた手に持ったハンドガンを目の前にいる真っ黒ゴスロリ衣装に身を包む宿敵(スキア)でなく、後方で彼女をサポートに回っている相棒(クレハ)へと向かって、3発撃つ。

それを最初はポカーン呆気にとられた顔をして、見送ったスキアはすぐにショットガンを構えると確実にあたしの撃った3発を3発で空中爆発させると切れ長な黒い瞳をスゥーと細めてから、声音を冷たい低いものへと変える。

 

「ふん!…………さっきの危なかったですわね。目の前にいるわたくしではなく、後援のクレハを狙うとは卑怯ではございませんの?」

「それは君達もでしょう?さっきから時折、あたしでなくシノンを狙っている節を感じる事がある。残念だけど、君達に大切なシノンは触れさせないよ、指一本すらも…ね」

 

冷たい声を上げるスキアへとウィンクするあたしへと同じようにウィンクを返してくる。

 

「やはり、カナタさんの最大の弱点はシノンさんのようですわね。そこさえつけば、後は簡単に勝手に脆く崩れる…違いまして?」

「おーおー、言ってくれる。そこまで言ってくれるんだ…覚悟はできてるね?」

 

手に持った愛刀をブンと振るうが、そこにスキアの姿はなく、お返しとばかりに突きつけられる背中越しの無機質な光を放つ銃口が僅か揺れ、スキアが引き金を引いたことが安易に理解出来る。

 

“甘い!”

 

銃弾が身体を貫くよりも先に身を屈める事で避けたあたしへと今度はサブマシンガンを構えたクレハが突っ込んでくる。

 

“な…!?何故、サブマシンガン!?”

 

クレハは確か、ランチャーの他にサブとして用意していたものはハンドガンだった筈。

なのに、何故サブマシンガンをここでッ!?

 

「て」

 

“驚いている場合じゃないか…”

 

「捉えました!カナタさん!」

「…くっ」

 

思いっきり地面を蹴飛ばし、クレハが放ってくる銃弾を愛刀であしらいつつ、空いた手を軸に後ろへと宙返りしてから近くにある木へと身を隠す。

 

「……痛ぅ…」

 

“ちっとばっかし…クレハの食らっちゃったかな…”

 

苦笑いを浮かべつつ、後ろへと腰に用意してあったハンドガンを放つ。

 

「やはり不意打ちは無理なようですわね」

 

"ふふふ…"とお淑やかに笑う声が聞こえるのに、姿を闇に隠れて、目視することはできない。

彼女がアバターネームとして使用している"スキア"とはギリシャ語で"影"という意味を持っている。

影のように対象(ターゲット)の周りをつきまとい、生き絶えるまでひつこくまとわりつく(スキア)

それが彼女が得意とする戦法だった。

 

“しかし、超至近距離はあたしだって得意なんだよ…な!!”

 

陰があれば陽がある。

陽の後ろにはいつも陰がある。

それが(つい)となるものなのだから。

 

その名が故にあたしの後ろから離れることはできない彼女はーー。

 

“だから、あたしは前をまっすぐ向けて…ただハンドガンの引き金を引く”

 

バンバンとあたしは後ろから飛んでくる弾丸を身体を左右に揺らしてから避けつつ、左肩越しに構えたハンドガンを放つ。

 

「背中越しではわたくしに当てられたいでしょう?此方に身体を向いたらどうです?」

「そしたら、こちら側にあらわれるんだろ、(スキア)さん。こちら側には君の相棒がいるからね。…意地でもこちら側は譲れない」

 

その瞬間だけ後ろを向き、引き金を引こうとしているスキアの真っ黒い瞳をまっすぐ見て、ニンヤリと意地悪に笑う。

その笑顔に不審感をにじませるスキアはハッとした様な顔をした瞬間にはあたしは既にその場には居なく、代わりに転がっていたのは桃色と白色の戦闘着に身を包む少女が地面へと伏せており、その頭上には《髑髏(どくろ)マーク》と《DEAD》マークが浮かぶのを見て、苦々しく唇を噛み締め、スキアが親の仇のようにあたしを睨む。

 

「…くっ、わたくしの弾丸を弾くのでなく、敢えて避けて居たのはそういう事ですか…カナタァアアアアアア!!!!」

「やっとちゃんと名前で呼んでくれたようだね、スキア」

 

挑発するようにウィンクするあたしへとショットガンを放ってくるのを身を屈めてから、スキアに向かって鞘に収めていた愛刀を斜め上に向かって斬りあげる。

それを寸前に交わしたスキアが身に纏っている黒ゴスロリ衣装の胸元からお臍の辺りがぱっかりと開き、真っ白な肌が露見する。

 

「…こんな時になんのプレイでございますか、これは…?」

 

露見する肌…主に、年相応に実った胸元が作り出す谷間を恥ずかしそうにあたしから隠しながら、頬を赤く染めて、真っ黒い切れ長な瞳へと涙で潤ませるスキアにあたしはあたふたと慌てふためく。

 

「いやいや!何を言ってるっ!君は!!あたしは真剣で、プレイも何も!」

「…カメラが回っているのに…わたくしの胸元からお臍を敢えて、その愛刀で切り裂くなんて…これをプレイと言わずしてなんというのですわ!

今度は、わたくしを動けなくして…ゆっくりとわたくしのショーツを見るために、太ももに沿って愛刀でスリットを入れて……わたくしをカメラの前で美味しく頂くのでございましょう…?」

 

ムギュッと何かに怯えたように身をよじるスキアにあたしは口をパクパクする。

 

“なっ……”

 

「ちょちょちょ…ちょい待とう、スキアさん!?君は何か大きな勘違いをーー」

「ーー終わりよ(ジ・エンド)、ヒナタ♪」

 

大変綺麗な死刑勧告(ことば)が耳元で聞こえ、あたしは首筋へと氷に当てられたように一瞬で身体が凍りつき、ギギギ……ッと壊れたロボットのように、後ろを向いたあたしへと美しい笑顔を浮かべている冥界の女神がいた。

 

「し、シノンさんもまーーがぁっ!?」

 

引き金を引く音を聞こえた瞬間、あたしの身体は弾け飛んだのだった。

 

 

 

ττ

 

 

 

【Skia vs Sinon side】

 

側に転がる赤いロングコートに砕けたように二段ボタンを外した女性なのに強面な男性のようなプレイヤーの頭上へと《髑髏(どくろ)マーク》と《DEAD》マークが浮かぶのを見て、私は近くで"してやったり"と微笑みながら蹲る黒ゴスロリの衣装がよく似合うプレイヤー・スキアを一瞥する。

 

「……してやられたわ。カナタをああやっていじれば、私が怒りに身を任せて、彼女に鉄槌を下すって分かっていて、焚きつけたのね、貴女」

「えぇ、そういうことですわ。でも、わたくしだって恥ずかしくないわけないんですわよ。こんな大きく衣装を切り裂かれたんですもの…今だって、ほら…胸元がこんなにも見えちゃってますもの」

 

片眉を上げながら、胸元を私へと見せてくるスキアへと私が頬を赤らめる。

確かに、ぱっくりとお臍にかけて切り裂かれている…しかもかなり際どい感じで切り裂かれている。

 

「いいから!敢えて見せなくても!!」

「あら?別にいいではありませんか、わたくしとシノンさんは女の子同士なのですから」

 

ニコニコと笑いながら、私へとショットガンを突きつけるスキアの身体が次の瞬間、グラリと揺れ…ほぼ同時刻で私の視界も揺れる。

そして、忽ち響く銃撃音の中、私の視界は真っ黒に覆われたのだった。

 

 

τ

 

 

【第二回 バレット・オブ・バレッツ

WINNER

ゼクシード】

 

転送される時に目の前に浮かぶ、上の文字に小さく舌打ちする。

スキアにしてやられてしまった自分への自己嫌悪と恋人(カナタ)の仇を取らなくてはいけないという気持ちを優先させてしまい、冷静さと辺りへと視線を配るのを忘れていた。

 

“今回のBoBは反省するべきことばっかりだわ”

 

そう結論づけると共に、大会の最中だというのにスキアにあんな破廉恥な格好させたカナタへともう一度鉄槌をお見舞いしようと私は右手を握りしめるのだった。

 

「…カナタ、待ってなさいよ」




ということで、手に汗握れたでしょうか?

ほんとは【シノンちゃん vs スキアちゃん】も書きたかったんですけどね…ああいう形を取らせてもらいました。
理由は、誰だって漁夫の利を狙うでしょうし…薄塩たらこさんはまだしも、ゼクシードってなんだかそういうことしそうだなぁ…と勝手に私の中で思っていましてね(笑)



また、ここからはお知らせでしてーーーー私が更新を休み続けたのが、完全に悪いんですが…このままだと、アニメのアリゼーションに間に合わないと判断致しまして、誠に自分勝手なのですが…【フライング更新】ということで"交互か、こちらを中心的にか"アリゼーション編を更新していこうと思ってます。

タイトル名は【カランコエを添えて】です。

『カランコエ』とは花の名前でして、その花言葉は【"幸せを告げる""たくさんの小さな思い出""あなたを守る""おおらかな心"】
"たくさんの小さな思い出"というのは、キリトくん・ユージオくん・アリスちゃんが一緒に暮らしていた時の幼い頃の思い出を意味して…"幸せを告げる"はカナタも含めて、アンダーワールドに生きている人達に幸せを告げたいから。
"あなたを守る"は単にカナタらしいと思い、この花をタイトル名へと致しました。

まだ、仮のタイトル名ですので…名前を変えるかもしれませんし、変えないかもしません。



さて、皆様は【SAO アリゼーション 19・20話】をご覧になられたでしょうか?

私はビデオの方で繰り返し観ています(笑)

どの回も飽きなく繰り返し観ているのですが……改めて思うのは、私はどうしようもなくSAOキャラクター…いえ、どのアニメのキャラクターもですが…"横顔"好きなのだなぁ…と(笑)

例えば、16話の杖を構えながら、アドミニストレーターさんの攻撃から逃げようと後ろを向くカーディナルちゃんの横顔が可愛いと思いました。
そして、カーディナルちゃんって可愛いですね…私、見た目が幼い子が『〜じゃ』と言ったように古風な言い方をする子が大好きでしてね(照)

と、話が逸れました…。

19・20話のアリスちゃん・ユージオくんがあまりにも切なすぎて…(涙)
原作でもあそこのシーンは何度も見返したものですが…映像化になると、尚更切ないですね…。
ユージオくんがアドミニストレーターさんと共にベッドに倒れこむ前にティーぜちゃん・アリスちゃん(小さい頃)・キリトくんの声を遮断される時に現れた壁が三角柱になるのですが…アレがパイデティオモジュールなのですね…。

しかし、20話の元老が現れるシーンって…もしかしたら、アリスちゃんもあぁなっていたって事ですよね…。
幼少期の彼女は神聖術に長けていたようなので…キリトくんのセリフをそのままに取れば、そういうことに…なりますよね…。

また、これは私が変態だからだと思うのですが……チュゲルキンを見下ろすアリスちゃんの冷めた目に何故か興奮してしまい、あの箇所から終わりまでを繰り返し観てます(失笑)




さて、最後に変態的な事を言ってしまってすいません…。

では、長々と雑談に付き合わせてしまいすいませんでした…ではでは、次回の更新にて会いましょう。


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034 過去へと終止符を

こちらは久しぶりとなりますね。

内容を忘れてしまった方もいらっしゃると思いますので、簡単なあらすじをーーー

第二回BoBに参加するカナタとシノン。
女性更衣室で着替えているとそこに女性プレイヤー三人組が現れ、色んな誤解がありながらも意気投合する五人。
BoBの決勝で戦おうと約束し、ついに決勝戦。
カナタはシノンと協力し、スキアとクレハとの対戦に挑みますが、スキアとの一対一の対戦時にハプニングが起こり、それを知ったシノンにトドメを刺される事に。
リアルに帰ったカナタに待っているシノンの制裁とは…?

それでは、本編をどうぞ(リンク・スタート)


 

【陽菜荼・詩乃のマンション】

 

第2階BoBことBullet of Bullets 2が終わり、クールタイムを終えてから現実世界に帰ったあたしは少ししてから帰ってきた真横からの無言の圧にそっと体を起こす。

上半身を起こし、同居者の脚を誤って踏まないように注意しながらそっとベッドから降りる。

背中にヒシヒシと感じる有無も言わせない圧に負け、うるうると込み上げてくる涙をグッと飲み込み、小さなテーブルをそっと横に移動する。

そして、自ら作り出した空間へと正座して、ベッドの上の端に腰をかける彼女を見上げる。

 

「私が言いたいことは分かるわよね?」

 

「…はい」

 

右脚を組み直す恋人殿。

ラフな格好の短パンから覗く美脚へと視線を向け、ダボっとした裾からは絶妙に大事な部分が見えない。

あたしがそっと顔をあげると更に不機嫌になっている同居人がおり、あたしは瞬時に顔を引き締める。そして、それを待っていたかのように詩乃が淡々と小言を言うのをただ黙って聴いていた。

 

"……ぅぅ…なんでこんなことに…"

 

あたしはただ嵌められただけなのに……。なのに、何でこんなに謂れのない空想被害に遭わねば……。

 

「ね?聴いてる?」

 

「はい!聞いてます!詩乃さん!」

 

シュンと肩を窄めるあたしは脚を組み直してからも延々と続けられる小言を傾聴する。

そうしないと、時々「聴いてる?」といった怒声が混ざった問いかけを浴びせられるのだ。

 

あたしは自分自身に非がないと思っているが、詩乃にとってはそうじゃないようだ。

 

聞けば聞くほど、詩乃の言い分は理不尽な上に言いがかりだ。

やれ、大事な試合中に他の女の子に鼻を伸ばす(ケダモノ)だの。

やれ、女と分かれば、手当たり次第に侍らせようとする天然女たらしだの。

やれ、他の人が見ていると言うのに、女の子にエッチな格好をさせてニヤニヤしていた変態だの。

 

だから、最後は誤解だって何回言えば……そもそも、あたしがニヤニヤしたり、鼻の下を伸ばすのは詩乃だけだから!

 

「ーー」

 

うゔ……その"心底気持ち悪い"って視線が胸に刺さる……痛い……。

 

っていうか、あたしってそんな見境ない?

そうだと思うならば、とても悲しいのだが……あたしはいつも目の前の人(朝田詩乃)だけ見ているし、瞼を閉じて最初に浮かぶ姿は詩乃だ。これからの人生を一緒に歩んでいきたいと心から思っているのも詩乃だけなのに、何で分かってくれないのだろうか。

否。

いつもヘラヘラと笑いながら、どっか出かけたかと思えば、新しい女の子を連れ帰るあたしに最初から弁解の余地はないか……。

 

身から出た錆、自業自得とはまさにこの事か。

 

信じてくれないかもだけど、上で書いた事は本当なのに……うゔ……おのれぇ、日頃のあたしめ!!一生恨んでやるッ!!

 

「ーー」

 

長々と続くお説教を心ここに在らず状態で聴きながら、あたしはこれからどうするかと思案する。

 

まず、あたしを騙したスキアとはもう一戦叶うならば行ってみたい。そして、もう一つは騙し討ちのようになってしまったクレハとも出れば、一体一で戦闘してみたい。

強者との戦闘、それはどんな時でもゲーマーの心をくすぐる起爆剤なのだ。

 

「……」

 

しばらく経った後、プルル…プルル…とポケットの中に乱暴に入れてある携帯電話が振動するのを感じ、今だに文句言いたそうにしている同居人の顔を伺ってから静かに右手を挙げ、声を上げる。

 

「あの……詩乃、少しいいかな?」

 

「なに」

 

「あ…あのね…さっきから電話が鳴ってるんだ。出てもいいかな?」

 

「……」

 

顎でグイッと扉を指すのを見て、あたしは未だに不機嫌な彼女が電話に出ることを許してくれたのだと心の中で"ありがとう"とお礼を言い、痺れそうになる両膝へと無理矢理力を入れ、立ち上がる。そして、後ろに振り返り、詩乃へと声を上げる。

 

「それじゃあ、早く出て帰ってくるから」

 

今だにお怒りモードの恋人殿へと深く頭を下げたあたしは外に出ると携帯を取り出してから通話ボタンを押す。

 

「父さん?」

 

『陽菜荼か?』

 

「あたしじゃなければ父さんは誰に電話をかけたのかな?是非とも聞いてみたいものだ。やっと万年冬のお父さんに春が来るかもしれないからね」

 

『……その物言いは間違いなく私の娘だ』

 

「分かっていただいたようで何より」

 

クスクスと笑うあたしに吊られたように笑う電話向こうの父。

 

『さて陽菜荼』

 

「何?」

 

『……家に帰ってこないか?』

 

僅かな"間"に嫌な予感を感じたあたしは父の理由によってはこの電話を切るか切らないかで迷う。

自分で言うのもなんだが、昔からこういう予感は当たる方なのだ。

 

「どうして?」

 

『君に会わせたい人が居るんだ』

 

あたしの問いかけに予想していた返答をした父には心底がっかりしーーーー

 

「じゃあ、パス。電話切るね」

 

ーーーー耳から電話を外し、通話終了ボタンを押そうとするあたしの耳に父の叫び声が聞こえてくる。

 

『嘘!!それは三分の一で。本当は父さんが陽菜荼に会いたいんだ!!!!』

 

耳を外しでも聞こえるとは父はかなり大きな声を出しているのだろう。

若いとはいえど、これ以上は老いた父の身体には負担が大きすぎるだろう。

あたしはやれやれと思いながら、電話を耳へと添える。

 

「最初からそう言えば良いのだよ、父さん」

 

『陽菜荼。お前なーー』

 

父は呆れた声で溜息を吐く。

 

『ーー父さんが好きすぎるだろ』

 

「いやいや。父さんが陽菜荼の事を好きすぎるだよ」

 

ニヤニヤと笑いながら、そう言うあたしに父はまたしても呆れたように溜息を漏らしてから、時々メールでやりとりをするような内容を質問してくる。

 

『詩乃ちゃんとは仲良くしているか?』

 

「うん、仲良くしてるよ。でも、今日は少し喧嘩してる」

 

『そうか。帰ってくる前に仲直りするんだよ』

 

「うん、分かった」

 

淡々と答えるあたしに父は一息入れると真面目なトーンで尋ねる。

 

『生活は出来ているか?』

 

「出来てるよ。あたしも詩乃もアルバイトしてるし、父さんたちが仕送りしてくれてるからね。なんなら、仕送りの額を減らしてくれても良いよ」

 

『それは出来ないな。仕送りは俺が陽菜荼の父である事への責任だからな。陽菜荼が俺の手を離れるまで、その責任を降りるつもりはない』

 

「責任か……じゃあ、あたしが大人になるまで父さんに甘えられるだけ甘えるよ」

 

『ああ。そうさせてくれ』

 

父は一息ついてから尋ねる。

 

『いつ帰ってくる?』

 

「今日はもう遅いから。明日、家を出ようと思う。新幹線に乗って……家に着くのは、夕方か夜じゃないかな?」

 

そう言った途端、『夕方か夜か……心配だな……俺が迎えに……いや……それでは……』とボソボソと呟くのを聞いた後に父はハッとしたように訪ねてくる。

 

『詩乃ちゃんと帰ってくるか?』

 

なんだか、父の今の感じでは一緒に帰って欲しくないように思える。父は詩乃の事を知っているし、詩乃に対して負の感情は抱いてなかったように思える。よく詩乃を見て『詩乃ちゃんはいい子だな。陽菜荼も詩乃ちゃんを見習え』とよく言われたものだ。見習れと言われても具体的に何を見習れというのだろうか、指の垢を取ってきてくれたり、例を挙げてくれなくてはこっちとしてみれば訳が分からない。

と昔話は今のところは良くて、詩乃に来られてはいけない事とはなんだろうか?詩乃の実家絡みなのだろうか、それとも、今父の近くで心配そうに話の成り行きを聞いているあの人の事だろうか。

まー、どっちにしろ。

あたしの個人的な事で詩乃の予定を狂わせるわけにはいかないので、父には本当のことを告げる。

 

「んー。詩乃はアルバイトが明日くらいにあるから、無理じゃないかな?だから、残念だけど。あたし一人だけで帰るよ」

 

『残念ではあるが……分かった。待っているから。気をつけて、帰って来なさい』

 

そう言う父は心底ホッとしたような声であたしは明日、居るであろうあの人の事を思い浮かべてから億劫な気持ちになる。久しぶりに父に会えるのは嬉しいのだが……。

 

「うん、帰るよ。じゃあ、切るね」

 

『ああ、おやすみ。陽菜荼』

 

「うん、おやすみ。父さん」

 

電話を切ったあたしはお尻ポケットへと携帯電話を入れてから、背後にあるドアを開けて、中に入る。

 

中に入るあたしに視線を向けるのはベッドに座る詩乃で。

 

焦げ茶の瞳が"誰から?"と問いかけるのを見てから父から言われた事を簡潔に言う。

 

「父さんからの電話。明日、家に帰ってこいって」

 

「おじさんから?明日って急ね」

 

「なんだかあたしに会わせたい人が居るんだってさ。あと、父さんがどうしてもあたしに会えなくて辛いって言うから。明日から暫く帰ってくるよ」

 

「そう」

 

あの人の事は悟られないようにわざと明るい調子で言うあたしを見て、寂しそうな素振りを見せる詩乃の前に正座したあたしは彼女の手へと自分のを添える。

 

「心配しなくても大丈夫!あたしもアルバイトがあるし、この家を長く留守にしようとは思わないから」

 

顔を上げ、詩乃を覗き込みながら、にっこりと笑う。

 

そんなあたしのおでこにコツンと自分のおでこをぶつける詩乃。

幼くも丹精な顔立ちが至近距離にあり、どきまぎするあたしに小さな囁き声が耳へと流れてくる。

 

「……陽菜荼が帰ってくるまで、私留守番頑張るから。だから、早く帰ってきてね」

 

「……うん、早く……絶対帰ってくるよ。君が待つこの家に」

 

そう言ってから立ち上がろうとするあたしの背中へとボソッと投げかけられる言葉。

 

「………陽菜荼、お母さんとの話し合い頑張ってね」

 

反応しそうになるのを耐え、あたしはゴソゴソと里帰りの為の荷支度をはじめるのだった。




 035へと続く・・・・


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035 過去へと終止符を。

引き続き、本編をどうぞ(リンク・スタート)



【陽菜荼・詩乃のマンション】

 

夢。

諸説があるが、人間は普段の生活で起きた出来事や脳に蓄積したあらゆる情報を整理するために"夢を見る"と言われているらしい。

そして、夢そのものは脳内に溜まった過去の記憶や直近の記憶が結びつき、それらが睡眠時に処理され、ストーリーとなって映像化したものがそう呼ばれているらしい。

 

ならば、今見ているこの光景は夢現ってやつだろう。

 

幼少期。

あたしは自分の手脚で歩き回れるのが嬉しくて、楽しくて、よく動き回っていたものだ。

ハイハイが出来るようになればテケテケと机の下、廊下などなどありとあらうる所に行った。

自分で這って、開ける世界が輝いていて、この先にどんなものが待っているのだろうと高揚感・好奇心で満たされていたように思える。

 

『こんな所に居たのね、陽菜ちゃん』

 

あたしが何処かに這う都度、マ……母はギョッとしたように辺りを探し回り、見つけた時は困ったように微笑みながら、あたしを抱き上げてくれたものだ。

当時のあたしはやっと出た未知の冒険を妨害され、ご立腹だったと思う。だが、母はよくしてくれたと思う、我が儘放題、動き回るじゃじゃ馬のあたしの世話を。

 

『陽菜ちゃん、おいしい?』

 

そう言えば、あたしがここまでのオムライス狂者になったのは、独創的な料理を生み出す天才の父が引き取って、初めて作ってくれた料理がそれだった事。

もう一つは、母の得意料理だったからだと思う。

得意料理というか、当時の母はそれしか作れなかったのだと思う。あたしを身籠ったのが16歳で、恐らく料理などは簡単なものしか作れなかったのだと思う。

あの男が逮捕されてから、暫く経ってからあたしは母と暮らし始めた。小さなマンションの一部屋で必死にあたしを育てくれた母には感謝しかない。そう……感謝しかないはずなのだ。

 

「ーーた!」

 

強く揺さぶられる。

もう少しこの微睡に身体を委ねていたい。本音を言うと、父のところにいるであろうあの人に会いたくない。こんな夢を見てしまったから余計に。

 

「いい加減に起きなさい!」

 

引き寄せていたものをひっぺがされる。朝の空気がはだけている胸元、素足に触れ、寒気を感じる。それだけで微睡が消え、意識がゆっくりと覚醒していく。

 

「……ぅっ?」

 

「おはよう、陽菜荼。もう朝よ」

 

「……あ……さ…」

 

上を向く。そこには部屋着姿の詩乃が居た。しかも不機嫌顔。

って事は、やっぱり朝になってしまったのか……来なくてもいいのに……。

 

「あさ……あさだ……ぁ……。しのう……」

 

「清々しい朝なのに物騒ね。それと人の名前で遊ばないでくれる?幾ら陽菜荼でも怒るわよ」

 

「……ごめんなさい。わざとじゃないんです。許してください。この通りです」

 

速攻ベッドの上で流れるように土下座するあたしに詩乃の声音が優しくなる。

 

「わざとじゃないならいいけど。それよりもそれで顔を拭いて。朝ごはん食べましょう」

 

そう言って、投げられる濡れタオルを無意識に受け取ったあたし。

だが、気だるさから瞬きを何度もして、コテッと首を倒しそうになったところで朝ごはんを運んでいる詩乃から怒声が上がる。

 

「二度寝しない!さっさ起きる!」

 

「……にどねしてない。おきてる」

 

「それ、絶対起きてないでしょ。ほら、一杯。お水飲んで」

 

なんだか倦怠感がある上半身を無理矢理起こす。そんなあたしの寝惚けた様子に心配そうな、呆れたような表情を浮かべる詩乃はキッチンで蛇口を捻り、コップに水道水を注ぐ。それを溢れない程度に入れた詩乃はペタペタと歩いてくるとコップを差し出す。それを受け取ったあたしはひんやりした水でぼんやりしていた意識を一気に覚醒する。

 

「今日、おじさんのところに帰るんでしょう?」

 

「んー、帰る予定なんだけどね……」

 

のろのろとパジャマにしてる橙の甚平を脱ぐあたしへと問いかける詩乃。

大きめの焦げ茶の双眸がチラチラとテレビ横の時計を確認している。

どうやら、ナマケモノと大差ない朝モードのあたしでは予定している新幹線に乗れないと危惧しているのだろう。

 

「そう思っているのなら、さっさとこれを着る!」

 

「はーい」

 

間延びの声を出しながらもやはりやる気が出ない。

考えないようにしていても考えてしまう。父のところにいる母にどんな顔をすればいいのか、どんな事を言われるのか、考えれば考える程にめんどくさくなる。

 

「なに?まだ寝起きなわけ?」

 

「…………行きたくない」

 

ボソリと呟くあたし。一瞬、ポカーンとした後に頭を抱える詩乃。

 

「はぁ……貴女って肝心な時いつもそうよね。昨日は行く気満々だったじゃない」

 

「昨日のあたしと今日のあたしは違うのだよ、詩乃くん」

 

「そんな急に変わらないわよ。全くーー」

 

あたしの前まで来た詩乃がパチンとあたしの頬を叩く。

小さな掌で頬をクニクニされ、詩乃は自分の手で変な顔になるあたしにご満悦なのか、口元がふにゃふにゃしている。

 

楽しくなっているところ笑いが、そろそろ離してくれまいか?

割と本気めに叩かれた頬がヒリヒリと痛いから。

 

だが、詩乃は手を離そうとしてくれない。そればかりか、顔を近づけてからあたしを奮起させようとしてくれる。

 

「ーーしっかりしなさい、香水陽菜荼。私が好きになった貴女はこんなやわじゃないはずよ」

 

「……やわだよ。カッコつけてただけだよ」

 

「それでもいいじゃない。カッコつけてても、私の目には貴女がカッコよく見えた。

お調子者で煽てられたらすぐ乗せられちゃう脳筋。その癖に、肝心な所ヘタレで、弱気で、でもそれを周りに悟られたくなくて、見栄ばかり張る強がり」

 

おお……すらすらとあたしを褒めながらも罵倒する高度な技をよくやってのけるね、詩乃。でも、そろそろ泣いてもいい?あたしの精神HPはもうズタボロよ。

 

「そんな陽菜荼が私は好きよ」

 

「!」

 

「矛盾ばっかりで正直困らさせる方が多いけど、私はそんな陽菜荼が好き、大好きよ。陽菜荼は違うの?」

 

「……す、好きに……決まってるじゃないか……」

 

恐らく、今のあたしは顔が真っ赤になってるのだろう。

ふにゃふにゃしていた詩乃の唇がしっかりと笑みを作っているのだから。

 

だが、正直言ってもらえるのは嬉しい。すごく嬉しい。あたしも口元がふにゃふにゃしてしまう。

 

してしまうが、やはり気持ちが実家に帰ると向かない。

 

「なら、こうしましょう」

 

今だに踏ん切りがつかないあたしに痺れを切らしたのか、詩乃がとある提案をする。

 

「陽菜荼が今日お母さんと仲直りしないと」

 

「ないと?」

 

「私と別れることになる」

 

「…………へ?」

 

へ?へ?なんで?どうして?どうして?

 

ベッドから滑り落ち、詩乃にしがみつくあたし。蒼い瞳に涙を溜めて、見上げるあたしに困ったような笑みを浮かべながら、詩乃が言う。

 

「こうでもしないと貴女、おじさんのところに行かないでしょ。それとこれは決定事項だから。覆せないから。そんな捨てられた子犬のような目をしても」

 

クスンクスン。これでもダメなのかい?詩乃。

 

「だ……ダメ。それよりも朝ごはん食べるわよ」

 

この前涙目で訴えれば、押し切れるのでは?

 

「もしそんなことしたら、すぐにでも絶交だから。私は陽菜荼の為に心を鬼にしているの。それにいつまでもおばさんのことでウジウジしてる陽菜荼は見たくないから」

 

「うゔ……詩乃ぉぉぉぉ!!!!」

 

ガシッと抱きつくあたしを鬱陶しそうにしながらも受け止める詩乃の感触を身体中に染み込ませる。たぶん、数週間帰ってこれないだろうから……。その間の詩乃成分を補給しとかないと。

 

「はいはい。家を出るまでは甘えててもいいから。早く着替えて、ご飯食べましょう?」

 

「着替えさせて」

 

「それくらいは自分でしなさい」

 

ピシャリと叱られ、あたしはしぶしぶ私服に着替えて、ご飯を食べてから、何度も忘れ物がない事を確認してから後ろ髪を引かれながら、住んでいるマンションを後にし、実家がある○○県行きの新幹線へと乗り込んだのだった。




 036へと続く・・・・


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036 過去へと終止符を。

引き続き、本編をどうぞ(リンク・スタート)


 

【○○県にある○○駅】

 

○○県にある実家近くの駅に着いたあたしは旅行ケース、リュックを背負ってから改札口を出る。

 

「んーッ!!着いたー!!」

 

背伸びしながら、駅の入り口から出たあたしは実家に向かって、とぼとぼと歩き出す。

 

詩乃に送り出された時は日が上がり始めた頃だったのに、今では日光ではなく電灯が路頭を照らしている。

 

コンクリートに映し出される自分の影を踏みながら、ゆったりと歩いていく。ガラリガラリとスーツケースを引き、片側だけで支えてあるリュックをゆらゆらと左右に揺れながら夜道を歩いていく。

 

「…?」

 

不意に振動がお尻から伝わってきて、ピロリと後ろのポケットに突っ込んだままにしてあるスマホを取り出す。

 

ホームボタンを押し、電源を付けてみる。

 

そこにはメッセージアプリの通知があり、『陽菜荼、今帰ったのか?お父さんが迎えにいこうか?』の文字列が見えた。

 

"相変わらず心配性だな、父さん"

 

苦笑いを浮かべながら立ち止まる。そして、メッセージアプリを開く。

 

そして、キーボードで『うん、今帰ったよ。でも、心配しないで。人通りが多い場所をなるべく通って帰るから。だから、温かいご飯でも作って待ててよ』と文字列を打ち、メッセージを送る。

すると、すぐにつく既読の文字に思わず苦笑いを浮かべる。

あたしのメッセージが届くまで、そわそわと両手で携帯端末を握りしめて、うろうろする父の姿が脳裏に浮かび、苦笑ともにクスクスと笑みが思わずこぼれ落ちる。

「……ほんと、父さんって陽菜荼の事が大好きなんだから」

 

"さーて"と背伸びし、お尻のポケットに携帯端末を入れてから、とぼとぼと帰路を歩いていく。

 

真っ暗闇を照らす電灯はオレンジ色がかかり、暖かい気持ちにさせる。

 

穏やかな気持ちの中、夜道をのんびりと歩いていると真正面から歩いてくる人影があり、中央部を歩いていたのを脇にそれる。

 

そして、 会釈をしながら通り過ぎようとする人影があたしの顔を見た瞬間に立ち止まる。

 

「……もしかして、香水か?」

 

そう言って、立ち止まった人影は明らかに少年の形をしており、声も女性にしては低い方に分類していた。

いたが、自分自身が低い声質のため、相手が本当に男性なのか、女性なのか、判断が出来なくて……暗闇の中、目を凝らして、立ち尽くす相手の顔をまじまじと見る。

 

「もしかして、忘れたのか?」

 

忘れたのか?と言われても、あたしの中でリアルの異性の友達といえば、キリトにクラインさん、エギルさんの3人が主である。

他にも居たりはするが、上の3人に比べると親愛度が一定値を達しておらず、何処かよそよそしさが残る。

 

だからこそ、目の前の人物が会った時からフレンドリーすぎて、困惑しているのだ。

実家のある○○県にキリト達が居るわけないし、教えてもないのに居たら居たで怖いし……そもそも、実家の方では異性の友達とか居なかったはずだがーーーー

 

"ーーーーマジ分からん。こいつ誰だ?"

 

自分の顔を凝視したままで一言も発しないあたしに痺れをきたらしたのか、人影がヒントを与える。

 

「お前んとこの右隣の家。小学校の時はよく朝田、香水と俺でお日様組とか言われてた」

 

そこまで言われたあたしは目を見開く。

 

そして、目を丸くし、震える指で人影を指さす。

 

「お前!香川 夜か!」

 

「ああ」

 

そう言って、一歩前に踏み出してくる香川 夜は小学生の頃に比べると身長も体格も全てが変わっていた。

 

懐かしさに胸を熱くしながら、あたしは彼へと近寄ったのだった。




 037へと続く・・・・


■登場人物簡単紹介■

▶︎香川 夜:カガワ ヨル
主人公、詩乃の近所で暮らしている少年。
香水家の右隣の家の住民。
二人とは異なり、中学校・高校共に家の近くに進学している。


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037 過去へと終止符を


引き続き、本編をどうぞ(リンク・スタート)



 

【○○県、実家へと帰り道】

 

「本当に久しぶりだね、香川」

 

歩み寄ってくるあたしにつられ、香川も一歩前へと歩み出る。

 

橙の暖かな電灯の灯りがあたしと香川へと降り注ぎ、彼の短く切り揃えられた髪が夜風に揺られている。

温かな光に照らされる髪の毛の色は青の色素が入った黒。瞳も同色であり、ジィーーと見つめていると星々煌めく夜空を思わせる。

 

"しかし、近づくと高いな"

 

あたしは成人女性の身長を上回る高身長はあるが、香川はあたしと同格かそれ以上あり、目を見て話すのに見上げなければならない。

 

彼と共に学業に勤しんでいた時はメキメキと身長が伸びていったあたしに比べると低かったのに、見ない間にここまで伸びるとは……。男子、三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ、って事だろうか。本当、人の成長というのは凄いものである。

 

香川の急成長に感動しながら、彼の容姿をまじまじと見ているとそっと視線を逸らさせた後、横目で全身を見られている気配を感じる。

 

「ああ、久しぶり」

 

なにゆえ?今、視線を逸らした。あと、横目でまじまじ見るくらいならはっきり見ろよ。その熱視線隠しきれてないからな?

 

「香水は里帰りか?」

 

話題を晒す香川に怪訝そうな表情を浮かべながらもあたしの旅行ケース、肩にかかってるリュックをチラ見してから問う香川に向かって、リュックを揺らしながら答える。

 

「そそ。父さんが顔を見たいってね」

 

「香水のおっさん、心配性だもんな」

 

香川が苦笑している。

 

わかるぞ、香川よ。あんたの気持ちは娘であるあたしが一番分かる。

 

父の心配性は小学2年の時に起きたあたし誘拐事件ーー当事者であるあたしはその誘拐事件の顛末を忘れているのだが、それーー以降、激しさを増していった。

もう記憶の引き出しの奥の方にある出来事だが、はっきりと覚えている。父が人目も憚らず、わんわんと泣きながら、あたしを強く強く抱きしめてくれた事を。

それ以降、父は何かと理由をつけてはあたしの世話を過剰に焼くようになり、あたしのためにこの○○県に定住することになった。

定住した後は小学校の送り迎えは無くなったが、買い物や用事の時はあたしを連れ回すようになり、一人で留守番することは父が仕事から帰ってくる間を除けば無かったように思える。

 

「そーなんだよ。そんなに心配しなくとも上手くやってるのにさ」

 

「いやいや。上手くはやってないだろ。香水、整理整頓凄く苦手だっただろ。どうせ、今も直ってないんだろ?」

 

「グッ……お前、痛いところ突いてくるな。そういうお前こそーー」

 

いや、コイツ。男のくせに整理整頓は出来てたし、他のこともそつなくこなしてたな。あたし一人じゃ立ち向かえる敵じゃなかったわ。

 

「ーーいや、なんでもない」

 

「なんでもないのかよ」

 

呆れたように笑う香川を見て、あたしは異変に気づく。

 

まず、香川の背後の腰辺りを小さな手らしきものがあることに気づき、ギョッとしてから暗闇の中に目を凝らしてみる。

 

香川は髪質が硬いのか、母親である叔母さんの遺伝子を受け継いだのか、青みかがった黒髪をあそばせている。

その波打つ黒髪と同じものが腰のところであたしをチラチラと見上げている何者かにもあった。

肩のところで切り添えられている黒髪をサイドテールにしているその何者かは怯えが8割、好奇心が2割を含んだつぶらな左眼をあたしへと向けている。

 

"え、なに。この子"

 

「か……」

 

「か?」

 

「可愛いィィ!!!!」

 

突然、絶叫するあたしにピクリと肩を振るわせる小動物ちゃんは大きなお目目を忽ちうるうると涙目にし、より強く香川の足へとしがみついた。

 

その仕草さえもあたしの可愛いツボに突き刺さり、泣かせてしまって申し訳ないという気持ちとは別にこの可愛い存在と仲良くなりたいと思ってしまう。

 

「ねぇ……その小動物は?」

 

「しょうど……ああ、香水は知らないんだよな。紹介する。俺の妹の真昼だ」

 

香川の大きな手がポンポンと小動物こと真昼ちゃんの頭を撫で、うさぎの耳のようにサイドテールが揺れる。

 

"やばい。可愛すぎる"

 

「真昼ちゃんっていうのか〜ぁ。お姉ちゃんはね、香水陽菜荼って言うんだよ〜ぉ。よろしくね〜ぇ」

 

「香水、キモいぞ」

 

香川よ、指摘されんでも分かる。今のあたしは絶対キモい顔をしてる。顔面をデレデレと緩め、にしゃにしゃと下心ありありの笑みを浮かべていることだろう。やばいな、あたし。

 

このままではいかんとあたしはリュックをガサゴソと漁り、取り出したもので顔を隠してから真昼ちゃんへと裏声で話しかける。

 

「こんにちわ、真昼ちゃん」

 

「!」

 

お?食いつきがいいな。

 

兄の陰から出て、あたしの持っているぬいぐるみに夢中な真昼ちゃんと暫しぬいぐるみ越しで会話をしたあたしはひょいひょいと掌サイズのひよこを空いている手で増やしていく。

 

「たぬきさんすごい!ひよこさんがいっぱい!すご〜い!すご〜い!!」

 

ちょっとした手品に真昼ちゃんは大喜びでパチパチと両手で拍手してくれる。

 

なんだこれ、楽しいぞ。

 

幼女のはしゃぐ姿を見て、調子に乗ったあたしはパチンと指を鳴らして、ひよこの一つを飴玉にしてから真昼ちゃんの掌へと乗っける。

 

「はい、これ全部真昼ちゃんにあげる」

 

「……」

 

あたしが顔を出すと忽ち無口になる真昼ちゃんはあたしと兄の顔を交互に見て、兄がこくりと"折角だから貰いなさい"という意味を込めてうなづくのを見て、おずおずとあたしからたぬきのぬいぐるみ、もふもふひよこ数羽、飴玉を受け取る。そして、すぐに兄の後ろにかくれんぼしてしまう。

 

心の距離は開いたままか。

 

そう思い、立ち上がろうとするあたしに促されたのか、前へと出た真昼ちゃんが風が吹けば飛んでしまうような声音でお礼を言う。

 

「………ひ、ひなた……おねえ……ちゃん……あ、ありがとう……」

 

それだけ言ってから、またかくれんぼする真昼ちゃんにがっしりと心を掴まれたあたしは真剣な顔を作ってから香川に向き直る。

 

「お義兄さん」

 

「へ?は?お義兄さん?」

 

「妹さんをあたしにくれませんか?幸せにしますので」

 

「やらないよ。何考えるの、お前」

 

すごい冷めた視線を向けられたあたしだが、それくらいで真昼ちゃんを諦めるわけにはいかない。

 

「お義兄さん、あたしこう見えても働いているんですよ」

 

「はー、そうなの。で?」

 

「結構な蓄えありますよ?」

 

利き手の親指、人差し指で輪っかを作り、香川に見せるあたしに激昂する香川。

 

「急にゲスい話すんな!お前!それでもやらないよ!!」

 

「そっかー、やらないか。あたし、チャラいけど一途だから。真昼ちゃんが悲しむことはないと思うけどな」

 

「……いや、やらないから。何がそこまでお前を掻き立てるんだよ、怖いよ」

 

これ以上揶揄うと本格的に真昼ちゃんをあたしから遠ざけようと香川が動くかもしれない。

彼を揶揄うことで真昼ちゃんの警戒心を解き、兄の知人という事を知って欲しかっただけなのだが、これでは逆効果だろう。

それにあたしの一番はもう埋まっている。おふざけでこういう事は言うけど、本気で幸せしたい、ずっと一緒に居たいと思っているのは詩乃一人だけだ。

 

「って、うそうそ。ジョークというものだよ、少年」

 

「そ、そうなのか。びっくりさせるなよ。数年ぶりに会った幼馴染がロリコン好きの変質者なんて洒落にならないからな」

 

………。確かにそれは洒落にならないな。本当、やめてよかった。グッジョブ、あたし!!

 

しかし、香川がここまで揶揄い甲斐があるとは思わなかった。暇な時は香川家にお邪魔し、彼を揶揄うのもいい暇つぶしになるかもしれない。

 

そんな事を思いながら、香川兄妹と夜道を歩き、あたしはついに実家に到着したのだった。




 038へと続く・・・・


■簡単な登場人物紹介■

▶︎香川真昼:カガワマヒル
夜の妹。今年で小学校1年生。
人見知りが激しく、家族以外にはあまり懐かない。
ぬいぐるみや可愛いものは大好きな普通の女の子。


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038 過去への終止符を


引き続き、本編をどうぞ(リンク・スタート)



 

【香水家リビング】

 

香川兄妹と別れたあたしは実家の玄関先でドアノブを握ったり、離したりを繰り返していた。

 

実家には入りたい。入りたいのだがーー

 

"ーー今、ママの顔を見てどんなことを言えばいいのかわかんないだよ…"

 

栗色の癖っ毛を右手で掻きむしりながら、ウジウジと悩んで行動に出せないでいる自分に心底ガッカリして大きなため息をつく。

 

ほんとは逃げ出したい。逃げ出したいがその道の先に待ち受けるのは詩乃との交際解消だ。

それだけは死んでも嫌だ。だが、今実家に帰るのも嫌だ。

嫌と嫌が胸の中でグルグルと回っては足取りが重くなってしまう。

 

"いけない。いけない。弱気になってきてる。こんなんじゃダメだ"

 

頭を軽く振ってから、嫌なことばかり考えている思考を振り落としてから、この先に待ってる楽しいことを思い浮かべてみる。

そういえば、詩乃に荷物を持たされてから背中を押して玄関から押し出された時に詩乃が言ってたな。

 

『陽菜荼。私、バイトが終わったらGGOの中で待ってるから……だから、頑張ってきなさい』

 

その後は手を振る詩乃に手を振りかえしてから新幹線に乗った。

詩乃がここまで背中を押してくれているんだ。ここで逃げたら女が廃るってね。

 

後、なんでここまでママに会いたくないのかは、おそらく面と向かって"貴女なんか生まれてこなければ""いらない子"と言われるのが嫌なのだろう。今でもママのことが好きだから、やり直せるのならばやり直したいと思っているから。それを全面から否定されるのが辛いのだ。

 

でも、仕方ないよね。

 

「……詩乃が待ってるんだもの。しゃーない」

 

この後の話し合いで否定されようが、罵られようが耐えよう。その後のGGOの為に、詩乃に会う為に。

 

気合を入れるためにパチンと頬を叩いてからドアノブを思いっきり捻ってから中に入った瞬間、目の前が真っ暗になる。

 

へ?なに?

 

キョトンとしていると目の前の影にガシッと強く抱きしめられた。いきなりのことで対抗できなかったあたしは苦しくて喉から変な声が漏れ出る。

 

「陽菜荼ッ!!」

 

「ぐぇ!?」

 

くるしさで涙目になりながら、下を向くとそこには半べそをかいている父の姿があった。あたしは父から顔を上げると廊下の途中で手を上げたまま、固まっている癖っ毛のひどい栗色の女性を見た瞬間、ドクンと心臓が強く脈立つのを感じる。強張りそうになる表情を必死に耐え、女性へと声をかける。

 

「……こんばんわ、ママ」

 

「……こんばんわ、陽菜ちゃん」

 

変な沈黙がふってくる中、あたしは父を引っ剥がしてからリビングへと向かう。




 039へと続く・・・・


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039 過去へと終止符を


引き続き、本編をどうぞ(リンク・スタート)


 

【香水家のリビング】

 

あたしに呼びかけられ、呆然としているママの横を軽く会釈してから素通りする。

そして、ずかずかとリビングに向かって直進したあたしはずかっと椅子に座る。そこはこの家を出ていく前にずっと座っていた指定席であった。あたしは背もたれに寄りかかりながら、後から来た二人がどこに座るのか、を目で追う。

父はいつもならばあたしの目の前に座るのだが、そこに腰を落とすことなく右側に椅子を移動させてから座る。

そして、いつも父が座っている正面へとママが腰を落とすのを見て、あたしはまっすぐに彼女の顔を見つめる。

 

「それで?あたしはなんでここに呼ばれたのかな?」

 

にっこりと微笑むあたしから気まずそうに視線を逸らし、瞼を伏せるママの顔。

改めて、向き直ってママの顔や体型を見たが、やはり痩せている。記憶の中にあるママは太ってこそないが、ここまで頬や骨張った印象はなかった。痩せすぎの分類にははいっていたと思うが、標準に近かったと思う。 

 

それがどうしたら、こうなるのだろうか……。

 

あの雪の日、ママはあたしという足枷がなくなり、自由になったんじゃないのか?

自由になったくせに。なんで、被害者みたいな顔をして、あたしの前に座ってるんだ。

もしかして、あの時見捨てたことを後悔しているのか…?

もしそうなら、なんであたしを見捨てたりしたんだ。

 

"なんかムカつくな…ってダメだ。これじゃ、あの時と同じだ。冷静に自分の気持ちを言おう"

 

無意識に握りしめていた手を開き、何回も深呼吸を繰り返してからグーをパーにしてから黙ったままの母の顔をまっすぐ見つめ続ける。

 

沈黙が沈黙を招き、誰も一言喋らない状態で数十分続き、父が沈黙に耐えきれなくなったのか、あたしに問いかける。

 

「あの……陽菜荼、詩乃ちゃんはーー」

 

「ーー詩乃なら帰ってないよ。理由は電話で言ったよね?」

 

父には一度も視線を向けずに淡々と答え、あたしはまっすぐ彼女を見つめる。

 

「で?あたしはなんで呼ばれたの?」

 

「……」

 

何度もあたしをチラッと見ては唇を開こうとしては閉ざすを繰り返すママにあたしは短くため息を漏らす。

 

「……はぁ……。ママは喋りたくなさそうだから、あたしから言うね」

 

と一言入れてから、淡々と喋っていく。

 

「ママがさっきからあたしに返そうとしてるその一万円札だけど、それはファミレスでいっぱい食べてほしくてあげたものだから。持っててください」

 

あたしの方からでは見えてないとでも思ったのか、ママは見るからに狼狽する。

確かにママはコンパクトな鞄を膝の上に置いており、その鞄がどんな形で何色なのかはあたしには見えない。だがしかし、こっちを何度もチラチラ見ながら、何かを開いたり閉じたりしている動作をすれば、心当たりが有る者なら分かるだろう。

 

「あと、ママが今から何を言っても、あたしにとっての親は父さんだけだから」

 

そう伝えた瞬間、ママの両眼から透明な雫が零れ落ちた。




 040へと続く・・・・


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【☆】ハナビシソウ(希望)への咆哮(ほうこう)001

エピソード0の話となります。

遅くなってしまいましたが……

9/4・・・イーディスさん
9/30・・・アスナちゃん
10/4・・・シリカちゃん
10/7・・・キリトくん

そして、この作品の主人公であるカナタの誕生日が10/10となってます。

みんな、いっぺんとなってしまいますが……誕生日おめでとうございます!!!!!!!!



2026年4月––––––––。

拡張現実(Augmented Realify)型情報端末《オーグマー(Augma)》。

 

[ようこそ、オーグマーへ]

 

4月にSAO帰還者学校から配われた端末を右耳へとかけ、視界に映る画面を見つめる。

ウェアラブル・マルチデバイスのオーグマーは白いヘッドホンのような見た目をしたような外見をしており、《アミュスフィア》のようなフルダイブ機能はないが、覚醒状態の人間に視覚・聴覚・触覚情報を送り込み、現実空間に仮想アイテムや情報を投影することができる技術、ARを採用されている。スマートフォンの機能を拡張し、よりカジュアルに使える端末として、発売開始以降、絶大な人気を誇っている。

 

(そんな端末を無料(タダ)でくれるなんて……うちの学校は何を考えてるのやら……)

 

左端に書かれているデジタル時間を見てみると"8:15"と表示されており、いつもよりも1時間早く起きてしまったようだ。

 

「わぁ………」

 

大欠伸をし、むにゃむにゃと口元を動かしながら……オーグマーの機能について思い出してみる。

まずは"ARにより目的地へのルート案内""電車の乗り換えがスムーズに行えるようになる"。"TV""ゲーム"といった娯楽。"摂取した食べ物のカロリー計算"。"お店の割引券"といった生活に密着した便利な機能が多く詰まっている。実際、あたし自身もお店のクーポンや目的地へのルート案内はよく利用させてもらっている。

その次はTVの映像が立体的となり、映画からキャラクターがとびだしてくるといった視覚効果も可能。また自宅で登山している気分やフィットネス中に巨大な岩に追いかけられている映像を流すなど……日常に新たな刺激を与えることが出来る。

そうして、オーグマーの人気に一足かってるのはーーーー。

 

(《オーディナル・スケール(OROINAL SCALE)》)

 

現実世界の各所に出現するアイテムを集め、モンスター戦や対人戦でランクを上げていくゲーム。

ランキング・システムがあり、上位になるとゲームの枠を超えて、協賛企業からさまざまなサービスを受けられている。

また、世界初の《AR》アイドルであるユナがイメージキャラクターとしてゲームの人気拡大に貢献している。

 

(そういえば、この前シーとリーのカラオケにリトとルーと一緒に付き合った時に散々、そのアイドルの歌を歌ってたっけ……)

 

あたし自身、そういうのに疎いせいもあり、ノリノリな二人––––シーことシリカ。リーことリーファ–––––を呆けて見つめながら、他の二人––––リトことリズベット。ルーことルクス–––––と同じようにタンバリンを叩いてみたりしたのだが……やはり、あの時のあたしは場違い感が否めなかったと思う。途中からなんであたしここいるんだろ……と思ってしまったから。

 

そんな事を思いながら、毎朝の日課であるはちみつレモンを飲みながら、今日は何をしような〜とオーグマーを弄っているとピロンと軽やかな音と共にメッセージが飛んでくる。

 

[カナちゃん、おはよう]

 

どうやら、メッセージの送り手はアッスーことアスナなようだ。あたしのことを"カナちゃん・ヒナちゃん"というニックネームで呼んでくれるのは彼女しかいないだろう。

はちみつレモンをテーブルに置き、後ろにあるベッドへと背中を預けながら、キーボードに手を置きながら、メッセージを書いて送る。

 

[ん〜。おはよ〜、アッスー]

[あ……もしかして、カナちゃん、起きがけ?]

 

何故に分かった、アッスー。あたしの文面から今の眠気が滲み出ただろうか……?

 

[そうだね。つい20分前に起きた感じ]

[そうなんだ。メッセージ送ってしまってごめんね]

[全然。暇だったから、アッスーが話し相手になってくれて嬉しい]

 

ニコニコしてるかわいいスタンプもついでに送ってみる。

すると、安堵したスタンプと共にメッセージが送ってくる。

 

[そう言ってもらえてうれしいよ]

[メッセージの用事はOSの事?迎えに行こうか?]

[迎えにいくのは大丈夫。待ち合わせはいつものところでいいかな?]

[ん、いいよ〜。もう少ししたら行くから、待ってて]

 

メッセージを終えて、オーグマーを首にかけると多く背伸びをしていると背後かや氷よりも冷たい声が聴こえてくる。

 

「こそこそ。一体誰と仲良くやりとりしているのかしらね?」

「ヒィ!!」

 

背筋をピーンと立て、恐る恐る後ろを振り返ってみるとそこには見ただけで人を殺してしまいそうなほど冷たい視線をあたしに向けている恋人殿の姿があり、あたしは流れるようにカーペットの上に頭をつける。

某世紀末シューティングガンVRMMO、ガンゲイン・オンラインに身を宿しているアバターがショートヘアーよりも涼しやかで、ひんやりした瞳をもう見ることは出来ない。本音では恐ろしすぎて……ここは誠意を見せる事と言い訳に聞こえないように真実を伝えることしか。

震える声で何処から伝えるべきか………トントンとカーペットに頭を押し付けながら、しどろもどろになりながら恋人殿の鉄槌が出来る限り、軽く済むように言い訳を考えているとクスクスと軽やかな笑い声が聴こえてくる。

 

「ちちち、ちがうっ!?ちがうんです、シノンさんっ。これは……」

「分かってるわよ、メッセージ相手はアスナでしょ。本当、貴女ってよっぽどのお人好しかバカよね」

「そのセリフ、ずっと昔に聞いたことがある……恐らくトレジャーハンターに」

 

そんな事を言いながら、大きな溜息をつきながら顔を上げると今だにクスクス笑っている詩乃を見て、眉を潜めると困ったように苦笑いを口元に浮かべる。どうやら、今日の詩乃さんは意地悪さんなようだ。

 




ちょっと中途半端かもですが……1話目お終いです。
ちょっと意地悪なシノンちゃんを書きたいな〜と思い、書かせていただきました!(笑)






【SAO TGSin2020 生放送】では様々情報がありましたね!
私が特に気になったのは……リコリスの無料アップデート、有料アップデートでしたね!!
【古の使徒】シリーズの第一弾はどうやらシノンちゃん編だそうですね……!!(*≧∀≦*)
内容的にも、少し流れたPVも気になるもので……今からワクワクしてます!!!!
シノンちゃんどうなっちゃうのかな……もしかして死神に囚われちゃったり……?ダークな感じになっちゃうのかな……。
そして、その後にあるティーゼちゃん編、セルカちゃん編、シリカちゃん編も気になる内容で……特にシリカちゃん編の左上にあるドラゴンが気になったり……。焦っているシリカちゃんも可愛いですが、その上にあるのって……私の見間違いでなければ……ピが最初について最後にナがつく子ってぽいんですが……んー、今では全然分からないですよね…(汗)
シノンちゃん編も含めて、全部のアップデートが楽しみです!!頑張って、全部クリアしたいですねッ。

シリカちゃんといえば……前に日高さんが書かれていた案がIFで実装されますね!!
みんなめっちゃ可愛い!!!!なんだこれッ!!テンションめっちゃ上がるッ!!!全部欲しいけど……ゲットできるかな……?出来るといいな……。
個人的に、ラフな格好をしたシリカちゃんが一番好きです!!(//∇//)


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【★】カランコエを添えて001

私の身勝手な判断ですが…フライング投稿しなければ、アニメに間に合わないと思いまして…(大汗)

という事で、【★】が付いているものはアリゼーション編となってます。

また、多分間に合わないと思いますが、死銃編とオーディナル・スケール編が追いつけば、【★】を取り除こうと思います(敬礼)

では、記念すべきアリゼーション編一話目をどうぞ!!

※今回の話はかなり長めですので、ゆったりまったりしつつお読みください(敬礼)


【人界暦三七二年 七月】

 

“こんないい天気なのにな…。それなのに、外に出れないなんて…”

 

"なんて、もったいない…"と思えてしまうのは、あたしだけでなく、室内での《天職(てんしょく)》を授かった者では一度くらいは思うのではないだろうか?

"あぁ…、今洗濯物を干せば乾くのに…"とか"いい匂いがする花畑で昼寝したい"というのは"あたしだけか〜"と失笑しつつ、あたしは薄暗い部屋の中、太陽(ソルス)の光が差し込んでくる窓の外をただボゥーと見つめる。

 

“キリトとユージオ、頑張ってるんだろうな…。それにアリスも…”

 

こうやってボゥーとしていると、僅かに開いた窓から小刻みよくトントンと木を叩く小さな木こり達が奏でる音が聞こえてくる気がする。

ルーリッド村で生まれ育った幼馴染の三人。

一人は真っ黒なショートヘアに一見するという女の子に思えるような中性的な顔立ちをした細身の身体を藍色と水色を基調とした半袖長ズボン姿に身を包む少年・キリト。

二人は亜麻色のショートヘアに優しくどこかひ弱な印象を受ける黄緑色の瞳をはめ込んでいる整った顔立ちをしている水色と藍色を基調とした半袖長ズボン姿に身を包む少年・ユージオ。

三人は金色を溶かしたようなロングヘアを首の後ろで三つ編みにしてどこか勝気な光を放つ青色の瞳をはめ込んでいる恐ろしいほどに整った顔立ちをしている青いワンピースに白いフリルがついた白いエプロンを身につけた少女・アリス。

その三人とは安息日は村の中を駆け回ったり、村の外に探検に出掛けたりとかする仲であって、あたしが村の中で一番親しくしている友達…いいや、心友(しんゆう)と言える仲か。

 

そんな心友達を各々に課せられた天職を全うしようとしているのだ。

あたしもその心友達に負けないように、天職を全うするべきなのだろうけども……さっきからあたしの中にいる活発な腹の虫達がワンワン喚いているから本来の力が出ないのだ。

 

ググググゥ……と鳴るお腹の音を抑え込もうと両腕をお腹へと重なる。

 

「…ふぅ……腹減った…」

 

そう小さく呟いたあたしの頭を手刀でトンと軽く叩くのは、テヤンゲお婆さん。

彼女はあたしが今授かっている天職《布屋》…もっと具体的にいうと《羽織り機で布を朝昼で6枚織る》のお師匠さんといった所だろうか。

 

「カナタ、手が止まっていますよ」

「それは止まりますよ、テヤンゲさん。こんないい天気なのに…外に出れないなんて…。それにもう腹減った…力が出ないです…」

「全く貴女という子は…。そろそろアリスが来る時間でしょう、もう少し頑張るということは出来ないのですかっ」

 

白髪が入った焦げ茶色のロングヘアを首後ろでくくり、掘りが深い顔に皺が彫り込まれた顔を呆れで染めてから、テヤンゲさんはあたしの癖っ毛の多い栗色の髪を撫でる。

 

優しい手つきを撫でるテヤンゲさんを見上げながら、あたしは力なく甘ったるい声を出す。

 

「…頑張れないですよぉ〜…腹が減ってはなんとやらっていうじゃないですか」

「なんとやらじゃ分からないですよ…」

 

"はぁ……"と深いため息を漏らしたテヤンゲさんの声を遮るように元気よくトントンと扉を叩く音が部屋の中に響く。

 

『こんにちわーっ』

 

顔を見合わせるあたしとテヤンゲさんの耳にはっきりと聞こえてきたその声はあたしが今の今まで呼びに来てくれるのを待ち望んでいた人で自然と笑みがこぼれる。

そんなあたしの笑顔を見て、"やれやれ"と首を横に振ったテヤンゲさんは木で出来た年代を感じる扉をゆっくりと開けるとひょっこり顔を出す金髪のおさげと青いワンピース。

 

「こんにちわ、アリス。カナタを迎えに来てくれたのですか?」

「はい。カナタはーー」

「やっぱアリスじゃん!!んしゃあーーッ!!!(めし)の時間ッ!!さっさっとキリトとユージオのとこ行こよ、アリスッ!」

「ーー呼んでもらわなくても、パイの匂いにつられてきちゃいましたね」

 

満面の笑みでバスケットを持つアリスへと駆け寄ったあたしはテヤンゲさんへと頭を下げている彼女の右手首を掴むと勢いよく町はずれにあるギガスシダーが聳え立っている場所へと走って向かうのだった。

 

 

τ

 

 

「………楽しそうだね」

「………そうね」

 

もう二人の幼馴染の仕事場であるギガスシダーが聳え立つ草原に辿り着いたあたしとアリスは顔を見合わせる。

その理由は二人の幼馴染…キリトとユージオが何があったのか分からないが、お互いの横腹を擽りあって、和やかな雰囲気を醸しているからである。

 

「うぎゃっ、お前……それは、ひ、ひきょ……あはははっ」

 

キリトの笑い声を聴きながら思うのは、あたしも同世代の子と同じ職場が良かったという事だ。

 

“…キリトとユージオはいいよな…”

 

誰も監視する人が居ないのだから、こうやってサボっていても文句言われないし、何よりも楽しく仕事が出来る。

あたしだって今の職場や天職に不安があるわけじゃない、テヤンゲさんは良くしてくれるし、あたしの我儘だって叶えてくれる。

それにあたし自身もあまり我儘を言ってはいけないと思っているのだ、それくらいルーリッド村自体がそんなに景気のいい村ではないのだ。

働ける者は皆働き、作物や家畜の天命を削ぎ取ろうと絶えずやってくる日照りや長雨、害虫…俗にいう《闇神ベクタの悪戯(いたずら)》を防ぎきらなくては、厳しい冬を村人全員で越せなくなってしまうのだ。

そんな村の事情を知っていても、あたしはまだ11歳だ。

窓の外から楽しげな声が聞こえれば寂しくなるし、お昼ご飯にアリスやキリト、ユージオと共に過ごせば、その楽しかった気持ちがその後の天職の時間まで引っ張ってしまって、余計寂しく思えてしまうのは仕方ないだろう。

 

“ハッ!?ならば今、キリトとユージオがしている事をアリスとしたらいいんじゃないか?”

 

そうすれば"あたしも長年の…といっても一年とちょっとの寂しさも癒されるのではないか?"と考えたあたしはアリスの横腹へとゆっくり手を伸ばす。

 

「やめなさい」

「あだっ!?」

 

しかし、あたしの表情から悪巧みを汲み取っていたアリスは横腹を擽られる前に自分へと伸びてきた左手をペチンと叩いた彼女はすくっと立ち上がるとふざけあっている二人へと近寄って行くのだった。

 

「馬鹿な事を考えてないで、二人のところ行くよ」

「はいはい、アリスお嬢様の仰せのままに…」

 

その後を叩かれた左手を撫でながら、後に続くあたしの耳へとアリスが二人を叱咤(しった)する事が聞こえてくるのだった。

 

「こらーーっ!またさぼっているわねっ!!」

 

叱咤された二人は取っ組み合いを中断すると首をすくめて、恐る恐るアリスがいる方を振り上げる。

 

「うっ……」

「やべっ……」

 

そんなアリスの横からバスケットを持って、苦笑いを浮かべるユージオとキリトへと"よっ"と左手をあげたあたしよりも目の前のアリスのご機嫌とりをした方がいいと思った二人はアリスが雷を放つ前に言葉を紡ぐがそれが(あだ)となってしまう。

 

「さぼってないさぼってない!午前中の仕事はちゃんと終わったんだよ」

「そうそう」

 

ブンブンと首を縦に振る二人のシンクロする動作を見たあたしは今度はアリスを見ると壮大に大きなため息をついていた。

視線を向けられたアリスは鋭い視線で二人を一瞥した後に意地悪に笑うと

 

「仕事を終えた後で喧嘩する元気があるのなら、ガリッタさんに言って回数を増やしてもらった方がいいかしら?」

 

という爆弾発言を言う。

その爆弾発言を聞いた二人がお慌てになるのを見ながら、あたしは心の中で"アリスって末恐ろしい…"と思うのだった。

 

「カナタ、ブルーシート広げて」

「らじゃー」

 

あたしがブルーシートを広げた上にバレットから取り出した食材と飲み物をアリスが並べて行く。

ラインナップは塩漬け肉と豆の煮込みのパイ詰め、チーズと燻製肉(くんせいにく)を挟んだ薄切り黒パン、数種類の干し果物、朝絞ったミルク。

ミルクを除けば比較的に保存性のいい食べ物なのだが、降り注ぐ七の月の陽の光は容赦なく料理から天命を奪い去る。

ということは、もしものことがあるということで…あたし・キリト・ユージオのわんぱく食いしん坊ズが勢いよく料理に手を伸ばそうとするのを手で制したアリスは素早く料理へと《S》を描く。

そうして、出てくる窓の事を《ステイシアの窓》と呼び、この窓はステイシア神から授かっているこの世界に存在するありとあらゆるものの天命を見ることができる窓なのである。

 

その窓の書かれた天命を読んだアリスはお腹が空きすぎてフラフラしているあたしと忙しなくアリスと料理を交互にしているキリト・ユージオへと"どうぞ"と呼びかける。

 

「天命が尽きないように走ってきたんだけど…ミルクは十分、パイは十五分しか保たないわ。だから、急いで食べてね。あ、でもしっかり噛まないとダメよ」

 

長い待て状態を解放されたあたし達は目を輝かせると目の前の料理へと飛び付く。

 

「もうがっつきすぎだから…カナタ、こっち向いて。タレついてる」

 

ガブガブ黒パンとパイを食べていたあたしの汚れた頬をゴシゴシとハンカチで拭いてくれたアリスへとお礼を言う。

 

「あんがと、アリス」

「どういたしまして」

「カナタは本当に美味しそうに食べるよね」

 

ユージオからミルクを受け取りながら、あたしはニカッと笑う。

 

「アリスの料理はどれも美味しく、好きだよ。とと、その美味しい料理のお礼ってわけじゃないけど、みんなにあたしからプレゼントがあるんだ。右手出して」

 

ニコニコするあたしは顔を見合わせる三人の右手へとポケットから取り出したものを乗っける。

 

「……これは」

「……布切れ?」

「……でも、三つ編みにされてるわ」

 

キリトの掌の上には《真っ黒い三つ編みした細長い紐》が乗っかっており、ユージオの掌の上には《青と白の紐を三つ編みしたもの》が乗っかっており、アリスには《青と黄の紐を三つ編みにしたもの》が乗っかっており、三人はもう一度顔を見合わせた後にあたしを見てくる。

あたしは三人の視線を一気に受け、照れなさそうに頬を掻きながら答える。

 

「失敗しちゃった紐を貰って作ったもので…これはあたしも偶然の産物で出来たものだから何なのかは分からないけど…。なんかおしゃれでかっこいいって思ってさ…それにそれは、あたし達は四人でずっと一緒にいようって証でもあるからさ…」

「ありがとうな、カナタ」

「大切にするね」

「私も大切にするね」

「ま、喜んでもらえたようで何よりだよ」

 

笑顔でお礼を言う三人から照れ臭そうに横を向いたあたしはパクパクと黒パンを齧る。

そんなあたしを見て、キリト達が顔を見合わせてからクスクスと笑いあう。

 

「そういえばさ、なんで暑いと弁当ってすぐ悪くなるんだろうな…」

 

あたしから受け取った黒い紐を早速右手に巻いたキリトがアリスが悪いから早く食べるように言っていたパイを見下ろしながら、それとなくあたし達へと聞く。

 

「なんでって……。変なこと言う奴だなぁ…、夏はなんでも天命の減りが早いじゃないか。肉だって魚だって、野菜や果物もそこに置いていけばすぐ傷んじゃうじゃないか」

 

呆れたようにキリトへとそう言ったユージオへとキリトが更に問いかける。

 

「だからそれはなんでなんだよ。冬なら生の塩漬け肉を外にほっぼっいても何日でも持つじゃないか」

「キリト。それは冬は寒いからじゃないのかな……もぐもぐ」

 

あたしがもぐもぐと頬いっぱいに物を詰め込みながら、そう答えるとキリトが目を輝ける。

 

「そうだよ、カナタの言うとおりで食べ物は寒いから長持ちするんだ。冬だからじゃない。寒くすれば……弁当だって長持ちする筈だ」

 

目を輝かせるキリトの(すね)をユージオがつま先で軽く蹴る。

 

「簡単に言うなよ。寒くするって、夏は暑いから夏なんだよ。絶対禁忌の天候操作術で雪でも降らせる気か?次の日には央都の整合騎士がすっ飛んできて連れていかれちゃうよ」

「むぐむぐ……確かにユージオの言うとおりだよね。でも、キリトの考えそのものは面白そうだよね」

 

"ね?"と隣にいるアリスへと問いかけると今まで黙って話を聞いていた彼女が口を開く。

 

「えぇ、面白そうね」

「なっ、カナタはまだしもアリスまで何を言いだすんだよ」

 

"おい、まだしもってなんだ。まだしもって!なんか含みがある言い方だな"とユージオの言い分に何か言いたげに頬を膨らませるあたしには誰も目にもくれないで勝手に話が進んでいく。

 

「別に、禁術を使おうってんじゃないわよ。村をまるごとを寒くしようとか大げさなことかんがえなくても、例えばこのお弁当を入れる籠の中だけ寒くなればいいんでしょう?」

 

澄ました笑みを浮かべてそう言うアリスにキリトとユージオが顔を見合わせるとこっくりとシンクロした動きでうなづく。

確かに、村を全体ならまだしも小さな規模である籠の中でなら寒くするのなら出来るかもしれない。

 

「でも、寒くするっていっても何があるのさ……ごくり」

「夏でも寒いものなら、いくつかあるわよ。深井戸の水とか、シルベの葉っぱとか。そういうのを一緒にかごに入れれば、中が寒くならないかしら?」

「ああ……そうか」

 

ユージオが腕を組んで、考え込むのを見ながら、あたしはかぶりを横に振る。

 

「いい案だと思うけど、たぶん駄目だよ、それだと。井戸水は汲んで一分もすればすぐぬるくなっちゃうし…だから、壷に入れても駄目だと思うんだ。それにシルベの葉はちょいヒヤってするくらいでしょう?とても、アリスの家からギガスシダーまで、かごの中を寒く出来るとは思えないよ」

「なら、他に何があるっていうのよ?」

「んむんむ……んー、そうだね。氷とかどう?」

「どうって……カナタ、あんたねぇ……」

 

干し果物を一口口に含み、腕を組みながら考え込んだ末に出した答えを聞いて、アリスが"ほとほと呆れた"と言わんばかりに聞き分けのない子供を叱る母親のような口調で叱る。

 

「今は夏なのよ。氷なんか、どこにあるっていうのよ。央都の大市場にだってありゃしないわよ!」

「そうかな?あると思うよ、あそこから」

「あそこ?」

 

眉ひそめるアリスから何が感づいているキリトにウィンクした上でユージオへと視線を向ける。

 

「ほら、ユージオのお爺さんから聞いたことあるでしょう?《ベルクーリと北の白い竜》」

「おい、嘘だろ」

「チッチッチ、あたしはいつだって大真面目さ。あのお伽話ではルール川に氷の塊が流れてきたっていっていたじゃないか」

 

あたしの好奇心に溢れる視線から隣にいるキリト、アリスさえも同じ色を浮かべているのを見て、ユージオはがっくりと肩を落とす。

 

「確かに、カナタにしては悪くない考えね」

 

"にしてはぁっ!?だから、さっきからなんで含みのある言い方するのさ!"と静かに憤慨(ふんがい)するあたしはやる気満々のアリスへと視線を向ける。

 

「提案しておいてなんだけど、氷を取りに行くには障害があるんだよね、ほら村の掟がさ」

「だな。なら、またふりだしか」

「ちょっと待ちなさい。確かに、子供だけで北の峠を越えるのは村の掟で禁じられているわ。でも、よく思い出してちょうだい。掟の正確な文章は【大人の付き添いなく、子供だけで北の峠を越えて遊びに行ってはならない】よ」

「…えーと、そうだっけ…?」

 

キリトとユージオ、あたしは顔を見合わせる。

どうやらアリスは村の掟、正式名《ルーリッド村民規範》の全条文を一語一句、一字一句まで確実に暗記しているらしい。

ルーリッド村民規範は、村の子供達が教会の学校に通うようになるとまず覚えさせられるものであって、事あるごとに親などから"掟では""掟によると"と聞かされているので、完璧に覚えていると思ったのだが、どうやら上には上がいたらしい。

 

尊敬の眼差しをアリスへと向けているとアリスがごほんと咳払いをする。

 

「いいこと?遊びに行ってはいけない。それが村の掟が禁ずるところよ。でも、氷を探しに行くところは遊びじゃないわ。お弁当の天命が長持ちするようになれば、私たちだけじゃなくて、麦畑や牧場で働いている人達みんなが助かるでしょう?だから、これは仕事のうちと解釈するべきだわ」

「…確かにそうかもね」

「ああ、だな!仕事なんだから、北の峠まで行ったって構わないさ」

 

あたしとキリト、アリスがやる気満々で話し合いを重ねる間、ユージオは三人の話し合いを遮る。

昔から四人の中での引き留め役はいつもユージオなのだから。

 

「……でもさ、果ての山脈に行くのは、村の掟だけじゃなくて……あれ(・・)でも禁じられているだろう?たとえ峠を越えても、行けるのは山のふもとまでで、洞窟には入らないよ……」

 

ユージオがいう《あれ》とは《禁忌目録(きんきもくろく)》の事だろう。

《ルーリッド村民規範》でも《ノーランガルス北帝国基本法》よりも遥かに超える権威で広大な人界の民全てを支配する絶対の法。

その名の通り、《してはいけないこと》ばかりが配列されている。

教会の反逆や殺人、窃盗といった広範な禁忌に始まり、一年の魚や獣上限まで事細かに書かれているそうで……学校で教えられた禁忌目録の最初の欄には既に果ての山脈に行くことは禁じられていた。

 

“どっちにしてもふりだしってことか…”

 

そう思い、もう一つ干し果物を口に含んだあたしの隣で暫し考え込んでいたアリスが顔を上げるとユージオへと青い瞳を挑戦的にキラリと輝かせる。

 

「ユージオ。あなた、今度も禁止項目の文言が正確じゃないわよ」

「え……う、うそ」

「嘘じゃないわよ。目録に書いてあるのはこうよ。第一章三節第十一項、『何人(なんぴと)たりとも、人界を囲む果ての山脈を越えてはならない』……山を越えるということは、当然《登って越える》ってことだわ。洞窟に入るのは含まれないわよ。だいたい私たちの目的は山脈の向こうに行くかじゃなくて、氷を手に入れることでしょう。禁忌目録のどこを探しても『果ての山脈で氷を探してはならない』なんて書いてないわ」

 

そうまくし立てるアリスを更に止めようとするユージオの背中をあたしとキリトが思いっきり叩く。

 

「いっで!?カナタっ、キリトっ……なんなんだよ……」

「アリスがこう言ってるんだし、行こうぜ」

「そそ、村一番勉強しているアリスがこう言ってるんだし……何よりも行かないで後悔するよりも行って後悔する方がいいでしょ?」

「いや、後悔しちゃあ遅いんだよ……」

 

苦笑いを浮かべるユージオの肩を抱き、手首を掴むと

 

「じゃあ、次の休息日は白竜けんぶ……じゃなくて、氷の洞窟探しだ!」

 

とキリトが言うのに合わせて、ユージオの手首を持ち上げる。

 

「おー!!」

 

と拳を突き上げるのだった。




という事で、記念すべき一話はアリスちゃん・ユージオくん・キリトくんが登場しました。
次回は予定ではアリスちゃんが禁忌を犯すシーン、連れて行かれるシーンを書けたらいいなぁ〜と思っております。

さて、始まったアリゼーション編ですが……こちらも先が見えないですね…。
『その○』が下手すれば3桁いっちゃったり…とかは流石にしないですヨネ…(汗)
ともかく、なるべく早くアニメに追いつけるようにしたいと思います…先はかなり長いですが…(笑)



最後に、【メモリー・デフラグ】の『桃花のひな遊び』ガチャにてーー

本命のアリスちゃん。
アスナちゃん、直葉ちゃん

ーーをゲットする事が出来ました!(ガッツポーズ)

しかも、三人とも最初の10連(アスナちゃんは通常のガチャ。アリスちゃんと直葉ちゃんはアリスちゃんピンクアップガチャ)の時に来てくれまして……それが若干怖いです……反動が…反動が怖い……(ガタガタ)

私は是非とも、今後現れるであろう眼帯アリスちゃんやソルス神シノンちゃんをゲットしたいので…それまで、この運が持ってくれることを願いたいと思います!!


では、次回の更新にて会いましょう〜、ではでは〜(パタパタ)


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【★】カランコエを添えて002

カランコエを添えて、二話目です!

前回の補足なのですが……カナタがキリト君達三人にプレゼントしたものは【ミサンガ】となっております。

その事を掘り下げさせてもらいますと、そのミサンガの描写を入れたかったが為にカナタを布屋さんにしました(笑)

最初の頃はキリト君とユージオ君と共に木こりの予定だったのですが…彼女は女の子ですし、村長さんが彼女を木こりに任命するとは思えなくてですね…(汗)
本人はバリバリそういう力仕事とか喜んでしそうなんですけどね……(彼女はそういう子ですので)

"ならば、どうするか……?"と考えた時に思ったのは、"カナタとキリト君達だけが装備してあるアクセサリーとかあったらいいなぁ〜"という事でした。
アクセサリーは常に身につけているものですし…"ユージオ君に君は一人じゃないよ、いつだって君の隣にはカナタがキリト君がアリスちゃんが居るんだよ"という気持ちも込めまして、カナタにミサンガを三人へと送ってもらったいうわけです。

因みに、四人のミサンガのカラーは其々のイメージカラーとなってます。
カナタ➡︎橙
キリト君➡︎黒
ユージオ君➡︎青と白
アリスちゃん➡︎青と黄
といった具合です!

では、幼少期のエピソードである二話目をお楽しみください!
本編をどーぞ!!


【七月の三回目の休息日】

 

 

「……ふぁわ〜〜ぁっ」

 

村の小さな花壇に植えられている色とりどりの花びらを朝露が濡らしている頃、あたしは村はずれの古樹へと来ていた。

朝靄が晴れきってないころから家を飛び出してきたものだから、正直言うと眠くってたまらない。

なので、さっきから大きな欠伸を連発しているあたしの隣で村の方向を向いて、頬を膨らませているのは、北部辺境では珍しい黒髪に黒い瞳を持つ幼馴染・キリトである。

 

「……遅い!!何してるんだよ、アリスはっ!!」

「まあまあ、仕方ないよ、キリト。アリスは女の子なんだから」

 

自分もあたしともう一人の幼馴染を数分待たせた事を棚に上げて、ブツブツと毒づくキリトの横には苦笑いを浮かべた亜麻色の髪に黄緑色の瞳を持つユージオこそが件のもう一つ幼馴染である。

 

「でもさ、カナタは女なのに俺たちよりも早く着いてたぜ!なら、アリスだって出来るはずだ!」

「まぁ……そうかもだけど……。ほら、カナタは特殊なら女の子だから」

「確かに言われてみると特殊かもな」

 

“なんか凄い言われようされてるんだけど……あたし……”

 

"あと、特殊ってなんだよっ。特殊って!まぁ…自分でも時々、女の子らしくないって思うこともあるけどさ……"と人が眠気に耐えている中、好き勝手言ってくれる黒髪・亜麻色の髪の幼馴染を一瞥する。

すると、彼らの右手に固く結ばれている黒い三つ編みにされた紐と青と白い三つ編みされた紐をふいに見て、僅かに頬を緩ませる。

 

“ちゃんと付けてくれてるんだな……”

 

かくいうあたしも自分の利き手である左手首へと橙の三つ編みされた紐を身につけているのだが……。

チラッと自分の左手首を見るあたしへと歩み寄ってきたユージオが話しかけてくれるのだが、大欠伸をしていたせいで肝心な所が聞こえなかった。

 

「そういえば、カナタは僕が来るより前に付いてたね」

「……ふわぁ〜〜。ん…?なんか言った、ユージオ」

「カナタは僕より早く来てたから、いつ頃来てたのかな〜って」

「んーとね、多分10分前にはついてたと思うよ」

「「10分前ぇっ!!?」」

 

目をまん丸にして驚く幼馴染達に片眉を上げつつ、小首を傾げる。

"何を当たり前のことで驚いているのだ?"と。

 

「まさか、俺たちの中で一番朝に弱いカナタにそんな特技があるなんて……今年はベクタの悪戯が多いんじゃないか」

「君達ね……人を馬鹿にするのも大概にしないと痛い目見るからね……。ま、あたしだからそんなには怒らないけどさ。……多分、テヤンゲさんにいつも『仕事場には10分前には着いてないといけませんっ』と言い聞かされているからかな…、約束された時間よりも10分前行動するのが身体に染み付いちゃってるだと思う」

 

そう、あたしの天職である前任者のテヤンゲさんは時間に厳しい人で1分でも遅刻すると首根っこを鷲掴みされて、膝の上に乗っけられて、橙色のスカートを思いっきり捲られて、勢いよく上に上げられた掌があたしのお尻へと叩きつけられる。

 

「……テヤンゲさんのお尻叩きはスナップが効いてて、痛いだよ……。あれは世界を破滅に追い込む兵器だ……」

 

両腕を抱き、プルプルと震えるあたしは朝靄を掻き分けて、自分達へと駆け寄ってくる金髪に綺麗に洗濯された真っ白な前掛けを揺らしている影を指差す。

 

「ほら、キリトの待ち人が来たようだよ」

 

タッタと軽やかに青いワンピースを揺らして、あたし達の前に姿を現したキリトの待ち人ならぬあたし達の待ち人・アリスへと三人が同時に声を上げる。

 

「「「遅い!」」」

「あんた達が早すぎるのよ。全くいつまで経っても子供なんだから」

 

と澄まし顔でそう言ってのけたアリスはズンッとあたし達へと右手のバケットと左手の水筒を突き出して、無意識に受け取ったあたし達を従えると右手を天へと突き出す。

 

「それじゃあ……夏の氷を目指して、出発!」

 

ズンズンと軽やかな足取りで前を歩くアリスの後をあたし達はまるで家来のように小言を挟みつつ、着いていくのだった。




すいません(大汗)
ほんとは昨日中に更新する予定だったのですが……今日になっちゃいました……。



さて、21・22話の感想ですが……

まず、OPで涙が出ました(滝涙)
このタイミングでOPが変わるのは狡いッ!!ズルすぎるよっ!こんなん泣くじゃんっ!(涙)
しかもよくよく見ると、今後の展開となるキーも潜んでますし……ユージオくんが……っ、ユージオくんが……っ(涙)
しかし、最後の夕焼けの中で笑うアリスちゃんを見て思いました…『守りたい、この笑顔ッ』と!

キリトくんVSユージオくんの決闘のシーンは剣技のキレやキリトくんの身のこなしに白熱しましたし、何よりもキリトくんの『刃に込めた物は相手の魂にまで届く!俺はそう信じるっ!』のセリフがグサッと胸にきました。
また、所々三人の幼いシーンが挟まってくるのが切なくて…(涙)

三人VSチュゲルキンのシーンも白熱したのですが……私、どうしてもチュゲルキンの名前や声、姿を見るだけで笑みがこぼれちゃうんですよね…。
恐らく、きっと最初の登場シーンの『いけません〜っ!!いけません〜よ〜っ!!』の発音が良すぎたのと…性に忠実な所がなんとも憎めないからでしょうな…(微笑)

しかし、アリスちゃんにした事はカナタがきっとチュゲルキンに数十倍にして返してくれる事でしょうっ。それはそれ、これはこれですので。
あんな可愛い子をいじめるなんて許せない(怒)

最後に、カーディナルちゃんが現れてくれたのが良かったのですが……シャーロットちゃんが………(涙)
シャーロットを掬い上げて言った『この頑固者』から続くセリフの言い方が好きです…。
だがしかし、切ない…(涙)

アニメでのこの結末をカナタが加わる事でどこまで改善されていくのか…?
カナタはアンダーワールドでどのような日々を、運命を辿っていくのか…?
見守っていただけると嬉しいです(敬礼)


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【★】カランコエを添えて003

お久しぶりです…。

メモデフでは【眼帯アリスちゃん】が当たらなさすぎて、心がブルーに……

アニメでは【カーディナルちゃん・ユージオくん】が亡くなったことへとショックで心がブルーに……

それに加えて、アニメのアリゼーションの後半戦は10月からの放送ということで……前半戦が終わった時からSAOロスとなってます……


しかし、10月からスタートという事は……その間に、この小説を少しずつでも進めていけたらと思ってますっ!



では、幼少期エピソード3話のスタートとなります!!それでは、本編をどうぞ!!!


【北の峠】

 

「うお〜っ!?ここが北の峠〜ぅッ!?」

 

あたしは一人、小さな体躯を精一杯動かして、内から溢れ出す喜びの感情を爆発させていた。

洞窟を発見出来たことによる興奮で震える両手を胸に置きながらピョンピョンと辺りを跳ね回る。

その両脚が蹴飛ばすのは自然な形で削られたように思える岩肌であり、それは大きな口を開けているようにも思える果ての山脈の洞窟の奥まで続いているようだった。

歯のようにも思える天井から垂れ下がる岩で出来たつららを"なんか、かっけぇ〜っ!!"とキラキラと輝く空のように澄んだ蒼い瞳で見つめながら……あたしはふと、目の前に聳え立つ洞窟が何か恐ろしい何かのように思えた。

 

乱暴に削られた岩肌は窪んだ所が目のようにも見えるし…天井についた岩のつららは牙のようにも見えるし…それによくよく見れば、この洞窟って何かが大きな口を開けているのように見えないだろうか?

 

“んー、悪鬼?ゴブリン…なのかな?”

 

さっきまでピョンピョン跳ねていたのをやめて、あたしは腕を組むと左手の親指を(おとがい)へと添えると悩みこむ。

そんなあたしの耳に聞こえてくるのは、この洞窟目指して、共に歩いてきた幼馴染達の声であたしがそちらへと視線を向けると呆れ顔の亜麻色の髪に黄緑色の瞳を持つ少年・ユージオ、短く切りそろえた黒髪に勝気な黒い瞳を持つ少年・キリト、金を溶かしたような金髪を三つ編みにし好奇心でキラキラと光る青い瞳を持つ少女・アリスが一人勝手に洞窟へと駆け出してしまったあたしの近くへと走ってくる、頬をまん丸に膨らませながら。

 

「やっと追いついたよ、カナタ」

「ちょっと、勝手に一人で先々行かないでよ」

「カナタ、はしゃぎすぎた。全く、子供かよ」

「そのセリフ、そっくり君に返そうかい、キリト?それにあたしらはまだ子供だからね?」

 

幼馴染ズ…若干一名ほど大人ぶってる者が居るが、実をいうとそいつの方があたしよりとはしゃいでいたと思っている。

だって、みんなで一休みしようってことになった時にキリトの奴、近くの川の水が冷たかったことを証明しようとあたしの襟首を自分の方に躊躇なく引っ張った後に…あろうことか、レディの背中へとペトリと冷たい手を押し付けやがった。

 

あの時の恨み、今でも忘れておらーーぐへっ…!?

 

「アホなこと考えてなくて、さっさと入るわよ」

「ぐるじい…ぐるじいです…アリスお嬢様…っ」

 

ガシッと首根っこをアリスに掴まれたあたしはそのまま、ズルズルとひきずられてながら、洞窟へと入っていく。

ずっと首根っこを捕まえられていると首が絞まって、天命が減るというあたしの訴えに答えたアリスは手を繋ぐことで妥協してくれるらしく、今は"それいけ!ちびっ子洞窟探検団"の配列は一番最初をユージオ隊員でその後ろをアリスと仲良く手を繋いでいるあたし達女子隊員が続き、最後を頭の後ろに両手を組んだキリト隊員が配置されているというわけだ。

 

“はぁ……そんなに心配しなくても、洞窟の中を駆け回ったりしないのに……”

 

まるで幼い子供の手を繋ぐ母親のようにあたしの手を強く握り締めるアリスに苦笑を浮かべると、ふと頭に浮かぶのはここにくる前に頭上を飛んでいた白竜に乗った重そうな鎧で身を包む騎士を見た気がしたのだ。

なので、あたしは気だるそうに後ろをついてきているキリトへと質問を投げかける。

 

「ねえねえキリト」

「なんだ?カナタ」

「あたしさ。この洞窟に入る前に、洞窟の頭上を整合騎士っぽいのが飛んでいくのを見たんだけど……あたしらのルーリッド村って出来たばっかの時は、たまに闇の国悪鬼……《ゴブリン》だの《オーク》だのが山を越えて、羊を盗んだり子供をさらったりしてたんだっけ?」

「さっきキリトって呼びかけてたでしょう。なんで、私の方を向くのよ」

「いや、お嬢様の可愛らしい悲鳴が拝めるのではと思いましてね」

 

そう言って、ニコニコと意地悪な笑みを浮かべながら、自分の方を見てくるあたしへとふんとアリスは鼻を鳴らす。

 

「その話で私を怖がらせようなんてまだまだね。その話の最後はこうでしょう?央都から整合騎士が来て、ゴブリンの親玉を退治してくれたんでしょう?」

「ーー『それからというもの、晴れた日には、果ての山脈のずっと上を飛ぶ白銀の竜騎士が見えるようになったのです』』

 

キリトがそう村の子供なら誰でもが知っているおとぎ話の最後の一節を口ずさむを聞きながら、あたしは残念そうにため息をつく。

 

「つぅーことは、あの人影は見間違いだったのかな」

「だろうな。それより…なんか、肌寒くないか」

「そう?あたしはなんとも思わないけど」

 

あたしがそう言って隣を見るとアリスがユージオを呼び止めているところだった。

 

「ねぇ、ユージオ。ちょっと灯りを近づけて」

「へ?うん……」

 

ユージオは黄緑色の瞳をまん丸にするとアリスへと神聖術によって穂の所が明るくなった草穂を近づけるとそれに向かってアリスは息を吐き出す。

それによってもたらせる事は穂によって照らさせて、アリスの息が白い靄となっている所だった。

それを見たキリトは顔を強張らせると青色の半袖からはみ出した二の腕をさする。

 

「や、やっぱりかー」

「つまり、氷はちゃんとあるってわけだね。もうすぐって事かな?」

 

そんなことを言っていると目の前が大きく開かれた道が現れ、冷気が深みを増していくのを感じてたあたし達は顔を見合われるとその光に向かって走り出していくのだった。




という事で、次回はドラゴンの骨をカナタ達が見つかるところから始まります!

カナタが加わる事で変わっていくストーリーをお楽しみください(礼)


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【★】カランコエを添えて004

幼少期四話です(敬礼)

白竜の骨を見つけるところまで進めようと思います!

では、本編をどうぞっ!!!


【洞窟の中の大きく開けた所】

 

「おぉ〜っ!!?」

 

薄暗い通路の中を進んでいる中で目の前に広がった光に吊られるように走り出したあたし達を迎え入れたのは、 どこまでも広い…ただ広い空間だった。

ここが洞窟である事を忘れてしまうくらいに巨大な空間は町にある教会の広場を軽く凌駕(りょうが)している事だろう。

広い空間は円型に湾曲(わんきょく)されており、さっきまで歩いていたむき出しにされた岩肌の通路ではなく、薄青い透明な膜に分厚く覆われているようであった。そして、床面はさっきここなるまでに触れたルール川の源だったのかが納得させられる巨大な池…いいや、湖のようになっているのだが、驚くことに岸辺から中心部までカッチンコッチンに凝結(ぎょうけつ)しているのだ。

白い靄がたなびく湖のそこかしらからは、あたしの背丈の倍あるくらいの六角柱があちらこちらから突き出ている。

 

その柱へと歩み寄り、覗き見れれば…その大きさと美しさに心が感動で溢れるのが分かった。

その不思議な柱は、昔ユージオとキリトの天職の前任者であるガリッタお爺さんに見せてもらった水晶の原石のようだと思えた。

 

“でも、こっちの方がすごい綺麗…”

 

覗き込むあたしの顔を映し出す濃い透明な青い表面はユージオを握り締める草穂が放つ神聖術の光を吸収して、薄暗いドーム型の不思議な空間をぼうっと照らしている。

照らされた辺りを見渡してみると、この柱は中心部に向かうほどに数を増しているようで、そのおかげで真ん中が見通せない。

 

「……氷だ」

 

そう、氷。

周囲の壁も、足元の凍りつく湖も、この不思議な六角柱も何もかもが氷で出来ているのだ。

それに気づいた瞬間、あたし達は暫くその場に立ち尽くしていた。

 

きっちり、10分間。

肌寒さも忘れて、立ち尽くしたあたしの耳へとアリスのつぶやきが聞こえる。そのつぶやきに答えるあたしの声が震えているのは寒さでなく、こんなにたくさんの氷を見つけた事による興奮だと思ってほしい。

 

「……これだけ氷があったら、村中の食べ物を冷やせるわね」

「それどころか、暫くの間村を真冬にだって出来るよ」

「な、もっと奥まで進んでみようぜ」

 

キリトのその提案にあたし達はうなづき、中心部に向かって歩き出していった。

トコトコと歩いている中、思い出すのは《ベルクーリと北の白い竜》という町の子供なら誰もが知っている伝説だ。

ベルクーリが辿ってきた道をあたし達は歩いてきた…村の東を流れるルールの上流に向かい、見つけた洞窟へと足を踏み入れて、一番奥の大広場まで辿り着いた。

そこから先は、人界の東西南北を守護すると伝えられている巨大な白竜が居て、その足元に広がっていたのは大小様々な財宝でベルクーリはその中から一本の美しい剣を見つけ出して、どうしても欲しくなったその剣に触れて、とんずらしようとした時にーーというのが大体の伝説のあらすじだったと思えるが、ならばこの先に居るのは巨大な白竜という事になる。

 

“すっごいドキドキするな”

 

伝説でしか聞いた事ない白竜に会えると思うと溢れ出してくる好奇心が抑えきれない。

なので、ニヤニヤと口元を緩めるあたしはボソッと呟くとその呟きを聞いたユージオがあたしへと問いかけてくる。

穏やかな印象を与える黄緑色の瞳をあたしと同じで好奇心でキラキラと輝いている。

 

「……もしかしたら、この先に白竜が居たりしてね」

「カナタもそう思う?」

「というと、ユージオさんもそういう展開を期待してたりするクチですか?」

「まぁね。………財宝の一つでも持ち帰ったら、村長が天職を変えてくれるかもしれないし」

 

モジモジしながらそう言うユージオへとあたしはニヤニヤを強めるとアリスと繋いでない左肘で"この〜この〜"という意味を込めて、ツンツンと横腹を突く。

 

「ユージオくんはいつでも一途ですな〜ぁ」

 

チラッとアリスを見てたらそう言うあたしにユージオは顔を真っ赤に染めると声を荒げる。

 

「……なっ、バッ……そんなんじゃないからっ」

「照れなくたっていいじゃん、もう誰にだってバレてるんだからさ」

 

あたしに横腹を突かれているユージオはその為、先を歩くキリトが突然立ち止まった事に気付かなかったのだろう。

どっしーんとキリトの背中へと顔をぶつけたユージオは鼻頭を抑えながら、キリトを睨む。

 

「…突然、立ち止まるなよキリト」

「……なんだよ、これ」

 

しかし、ユージオの声が聞こえないように勝気な黒い瞳を驚愕(きょうがく)でまん丸にしたキリトの視線を辿ったあたしが見たのはーーーー

 

「……へ?なにこれ」

 

ーーーー骨の山だった。

 

全てが青い氷で出来たその骨は、硬質な輝きを放っており、まるで水晶のようにも思える。ひとつひとつが余りにも大きな様々な骨が重なり合うように身を寄せているので、あたし達の背丈を遥かに超える山になっていた。

その骨がなんの生き物のものかは、一つの骨でわかった。

大きく開いた眼窩(がんか)と細長い鼻筋、後頭部辺りに生えている二つの細長い…反り返った角のような突起物に迫り出した顎骨(がくこつ)には剣のような牙が無数に並んでいた。

 

つまり、この骨はーー

 

「ーー……白竜?」

「死んじゃったの?」

 

あたしとアリスが小さく囁くとキリトが近くにある骨を見る。

 

「あぁ、死んでるんだろうな。でも、普通に死んじゃったんじゃない、ほら」

 

そう言われ、指出されたものを覗き見ると表面に細長い線が複数が付けられており、よくよく見ると先の方が欠け落ちている。

 

「何かと戦ったということかな。……でもーー」

「ーー竜を殺せる生き物なんていないよね……」

 

あたしの疑問はアリスとユージオも感じているようだった。

《北の白竜》といえば、世界を囲む果ての山脈の各地に住み、闇の勢力から人界を守る、世界最強の善なる守護者の一匹だったばすだ。そんな生き物をどんな生き物が殺し得るというのだろうか…?

 

“…いや、これはーー”

 

しゃがみこみ、青い爪をなぞったあたしは蒼い瞳をまん丸にする。

人差し指でなぞった爪の表面は生き物で

 

「ーーいいや、これは生き物と戦って出来た傷じゃない。これは……もしかして、剣で出来た傷なのか……?つまり、この竜を殺したのはーー人間」

「……へ?でも、そんなことありえないわ。だって、央都の御前大会で優勝した英雄ベルクーリさえ逃げることしか出来なかったのよ。そこいらの剣士じゃ、そんな大そがれた事が出来るわけーー」

 

そこまで口走ったアリスは一瞬口を閉じると小さく息を吸い込み、畏れに満ちた声で囁く。

 

「ーーもしかして……整合騎士なの……?公理協会の整合騎士が、白竜を殺したの……?」

 

アリスのその呟きは余りにも大そがれていた。

だって、法と秩序の究極的体現者である整合騎士とは白竜と同じくらいに善の象徴であるのだから。

なのにどうして、人界の守護者である整合騎士が同じく人界の守護者である白竜を殺すのか…?

全くもってわからない。

 

「…キリト」

「俺だってわからない」

 

キリトへと視線を向けると首を力無く横に振るを見て。あたしは力無く目の前にある巨大な墓場を見つめるのだった。




次回は、ダークテリトリーのシーンを書こうと思います!

また、無理なく連続更新する為に約二千文字程度で書き進めていこうと思います!


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【★】カランコエを添えて005

ばんわー!

SAOロスを埋めるために、前半戦のアリゼーションを見直しながら…思うのは、10話のライオスとウンベールのあまりの酷さに嫌悪が周回回って、つい笑っちゃうってことですかね。
ほんと、このシーンどうしようかな…カナタ…(笑)

あと、カナタの側付きの子と先輩を誰にしようかと…んー、オリジナルの方がいいかもな…。
でも、原作キャラとも絡ませたいですもんね…んーと、悩みどころです(激悩)

と雑談を挟んでしまいすいませんでした!
では、本編をどうぞ!!!


【洞窟の大きく開けたところ】

 

暫く、目の前の白竜の骨が織り成す大きな墓場を見ている中、視界の端で猛スピードで走り出す藍色の風が見え、あたしがそちらへと視線を向ける前には彼と同じ天職を受けた彼の自他共認める親友であるユージオが亜麻色の髪を揺らしながら、彼の後へと続く。

 

「…!」

「キリトっ!何をしてるんだよ」

「あぁ、ユージオ。これを見てくれ」

「…あっ、それって!」

 

呆れ声を漏らしながら、まだ戸惑いで放心状態であるアリスを引っ張って、男性陣のところへと歩いて行くとそこには二人掛かりで何かを引っ張り出そうとしているヤンチャっ子が居た。

 

「何してるんだよ、二人とも…。あ、アリス、そこにコインあるから転ばないように気をつけて」

 

もしかしたら、善の象徴である白竜と整合騎士が対峙していたかもしれないという衝撃な事実に対面しているあたし達はこの世界の仕組みに触れようとしているのかもしれないのに。

それなのに、このヤンチャボーイズ達はその世界の仕組みという心震える題材よりも目の前の財宝の方に目がいってるらしい。

 

「本当に何してるの」

 

空のように透き通った蒼い瞳が周りにある氷のように冷たい色を含みつつあるのを感じたのか、ヤンチャボーイズは冷や汗を流しながら、あたしとアリスにも見えるように引き摺り出そうとしているナニカを見せる。

 

“…?それってーー”

 

そのナニカを見て、反応を返したのは今まで放心状態であったアリスだった。

まん丸な青い瞳を更にまん丸にするとヤンチャボーイズの近くへと今度はあたしの手を引きながら歩いて行く。

 

「ーーこれって…あの…ベルクーリのだよね?」

「…は? ベルクーリ?」

 

何故、この場面で英雄様の名前が出てくるわけ?意味がわからん。

そんなあたしのアホヅラを見たのか、アリスがため息をつきながら"やれやれ"と肩をすぼめる。

 

「もうっ。カナタって本当おバカなんだから」

 

おぉー…いきなり、アリスお嬢様におバカ判定されてしまった。

でも、なんでだろ。

アリスに"バカ"と罵倒されても、何故か嫌な気がしなくて…もっと欲しいって思えてきてしまう。ふむ、誠に不思議な感覚だ。

 

「なんか、カナタから邪な気配を感じるわ…」

 

急に顔を強張らせたアリスがあたしと繋いでいた手を離そうとするのを不思議そうにキョトンとした様子で見ているあたしを見たユージオはキリトと一緒に引っ張り出したナニカを指差す。

 

「あはは…。カナタ、よく見てよ」

 

よく見てみろって…言われてもなぁ…んーーっ。

ユージオが指差す方には一振りの長剣が転がっていた。

青白い革の鞘に、白銀色の柄を持つその長剣の柄の各所には精緻(せいち)な青い薔薇の彫刻が施されていて、あたしの目から見てもこの剣がどの剣が価値が高いものだということが判る。

 

“だがしかし、それだけであたしはこれをあの伝説で聞いたことはない”

 

「カナタも目をキラキラさせて、いつかは欲しいっていってたよね?」

 

そこまでヒントをもらったあたしは蒼い瞳をキラキラさせる。

 

「もしかして、これの剣がベルクーリが持ち帰ろうとした綺麗な剣…あの《青薔薇の剣》なの!?」

「だろうな。しかし、なんでこの白竜を倒した何者かはこの剣を持ち帰ろうとしないのだろうな」

 

今まで黙っていた黒髪黒瞳を持つ幼馴染・キリトとユージオがもう一度持ち上げようとするがその華奢な見た目から想像できないくらいに重いらしい。

 

「はぁ……駄目駄目」

「これ……おもいよ」

「そんなになの…?」

 

あたしもしゃがみこみ、持ち上げようとするがピクともしない。

っていうか、重ォオオオ!!?

血管が浮き出るほどに力むあたしにキリトが"あはは…"と笑う。

 

「俺らじゃ無理さ。きっと村まで運ぶのには三年か五年くらいはかかるんじゃないか?」

「……まあね。それにこの剣もだけど…他の財宝も……」

「……うん、持ち帰ろうとは思えないわね。なんだが墓荒らしのようだし」

 

そう結論づけたあたし達は目的通り、氷だけ持ち帰ることにした。

近くにある氷のつららに歩み寄り、その根元から新芽のように無数に伸びる小さな氷の結晶を靴で蹴飛ばすと、ぽきんと心地よい音と共に砕けた塊をアリスの殻になった藤かごへと詰めこむ作業を夢中で行ったあたし達はものの数分でカゴをいっぱいにすることが出来た。

 

「よい…しょ、っと」

 

掛け声と共にバスケットを持ち上げたアリスは腕の中にある光の群へと見入っている。

 

「…きれい。なんだか、持って帰って溶かしちゃうのが勿体無いわね」

「そうだね」

 

何処か薄暗い部屋の中で光るカゴの中のある氷はまるで一つ一つが水晶のようで幻想的だと思う。

しかし、近くにいるキリトはなんでもないように言う。

 

「それで、俺達の弁当が長持ちするならいいじゃないか」

 

キリトの即物的なセリフにしかめ面を作ったアリスはぐいっと黒髪の幼馴染へと籠を押し付ける。

 

「へ、帰りも俺が持つの?」

「当たり前じゃない。これ結構重いんだから」

「重いって、それならカナタと半分ずつ持ったらどうだ?」

「お?あたしを掛け合いに出すのか、キリト?」

「まあまあ。キリト、僕と交互に持って帰ろうよ。ーーそれよりもそろそろ帰らないと、夕方までに村に帰らなくなるよ」

 

確かにユージオの意見も一時ある。

ということで、一旦アリスとあたしで半分ずつ待つことにしたバスケットからキョロキョロと視線を辺りに向けると顔を見合われる。

 

「えーと、あたしらってどっちから入ってきたんだっけ?」

 

そう、中心部にあるあたし達を挟むように後ろと前で大きな穴が空いているのだ。

顔を見合わせたあたし達はそれぞれ思う入り口の方へと自信満々に指差すのだった。

 

 

 




次回は、ダークテリトリーを超えるシーンまで進みます。


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【★】カランコエを添えて006

幼少期六話です。

原作もこの小説もこの話から全ての歯車が狂い始めます。

そして、今回はキリのいいところまで書いていたら…文字数がいつもよりも長くなってしまいました…(汗)

なので、ゆったりとお楽しみください!

では、本編をどうぞ!!


【○○へと続く洞道】

 

あたし達は顔を見合わせた後にそれぞれ思う方に指差すがどちらも2対2だった為、結局はアリスお嬢様の"こっちの道が近いから"との理由から選ばれた道を今現在歩いているのだが……歩けど歩けど、出口は見当たらず。あたしは隣を歩く金髪をお下げにしている少女を見るが、忽ちに鋭い一瞥を返されたのであたしはまっすぐ前を向いて歩くことにしたのだった。

 

「…ん?なんか、ヒューヒューって聞こえない?」

 

不安になり始めた頃、地下水のせせらぎに混ざって何か他の音が聞こえてきたような気がして、雑談しているみんなへと"しぃー"と左人差し指を唇に押し付ける。

 

「あっ、本当だ」

「……風の音?」

 

そう確かに耳へと届いてくる音は高くなったり低くなったりする、物静かな笛のような響き。

 

“…確かに風の音だけど…夏の風ってこんなに何処か悲しげな音だったっけ?”

 

音を見つけたのはあたしだが、冷静に考えるとなんだがいつも聞いている風の音と何か違う気がして……それを言おうとしたときだった、ユージオが駆け出したのは。

 

「カナタと言う通りだ!風の音だよ!これ!!外が近いんだっ!こっちでよかったんだよっ、早く行こう!!」

「ちょっとこんな所で走ったら危ないわよ」

 

ニッコリと満面の笑顔を浮かべて駆け出すユージオの後に続くようにあたしとアリスも続き、その後ろには何処かうさんげな表情を浮かべているキリトが続く。

活き活きと走るユージオの背中を追いながら、思うのはこの大冒険をテヤンゲさんに話したら"どんな顔をするかな?"ということだった。

きっといつものように"女の子が泥だらけになって男の子と遊ぶものではありません!"などなど小言を頂戴すると思うが、最後はきっと穏やか笑顔を浮かべて、あたしの大冒険を聞いてくれることだろう。

“早く、テヤンゲさんに会いたいな”

 

そんなことを思いながら、小さな脚を動かしていると小さな灯りが前から見えてきて…あたしは微笑みをこぼす。

 

「やったよ!出口だよ!!」

 

そう言ってより一層スピードを早めるあたし達へとより強い風が舞い込んできて、その風を身に受けたあたしは背中がゾクゾクするような…身体中の毛穴が逆立つような不快感を感じ、目の前を走るユージオへと呼びかける。

 

「ユージオ!待ってよ!なんか変な気がするんだ」

「ーー」

 

しかし、ユージオは止まってくれる事はなく、遂に洞窟の出口に差し掛かった所でポツンと立ち止まっていた。

黄緑色の瞳が映し出す洞窟の外の世界はいつもあたし達が見ている風景でなく、見たことがない風景だった。

その風景の第一印象は"不気味な赤だな"だった。

そう、どこまでも赤いのだ。空はもちろん真っ赤なのだが、夕暮れで赤いというわけでない。だって、この真っ赤な風景にソルスの姿は見えないのだから。

なのに、空は熟しすぎた山ぶどうを布でこした時に現れる汁のようなーーあるいは、羊の血をぶちまけたような暗さを含む赤がどこまでもこの世界を包み込んでいた。

しかし、地面までもがその不気味な赤というわけではないようだった。赤ではないが、不気味なことには違いない。だって、墨で塗りつぶしたかように真っ黒なのだから、遥か遠くに見える山脈も近くに生えている木ですらも一切の色みをつけてない。

そして、あたしがきっと感じていた風は地面に僅かに残った枯れ葉をかきあげると木枯らしを吹かせては頬を乾かせる。

 

「……これって……ダークテリトリー?」

 

【ダークテリトリー】

公理協会の威光が及ばない場所、闇の神ベクタが支配していると言われる魔族の国。

 

村の古老が話していた物語でしか存在しないと思っていた世界があと三歩進んだ先にある。

そう思うと同時に浮かんだのは、昨日アリスが言うまでは忘れていた禁忌目録の第一章三節十一項《何人(なんぴと)たりとも、人界を囲む果ての山脈を越えてはならない》

 

「駄目だよ…これ以上進んだから……」

 

そう涙を含ませた声で一歩下がったユージオと同じように下がろうとした時だった。

ガッチンガッチン、と鉄と鉄がぶつかる音が突然響き、あたしは反射的に血色の空へと視線を向ける。

不気味な赤を背景に豆のような大きさの白いナニカと黒いナニカが交互に位置を変えながら、激しく重なり合う時に火花が現れては甲高い鉄の音が辺りへと響く。

 

その後に顔をしかめながら、あたしは豆のように見える二つの影を見つめ続ける。

ここからは豆のように見えるが、恐らく間近で見るとあたしよりもゆうに超える高さと長さを持っていると思える。そして、時々影が羽ばたいているように思えることからーー

 

“ーーあれはきっと……”

 

「竜騎士だ…」

 

あたしが結論づけると共に呟いたキリトの言う通り、あれは竜騎士だろう。

どちらも目を凝らせば、細長い首と尻尾を持つ白と黒の竜へと跨っており、両手に刀と盾を持った鎧で身を包んだ騎士の姿が把握(はあく)できる。

 

「白いほうが……教会の整合騎士かしら?」

 

アリスの呟きにうなづいたあたしは黒い方へと視線を向ける。

 

「そうだと思うよ。そして、あの黒い方が闇の軍勢の竜騎士ってところか……見た感じだと、互角かな……」

 

竜を巧みに使い、空中戦を繰り返す白と黒の騎士の戦術や繰り出す技、防御の崩しあいに大差は見つけられない。

 

「そんな……。整合騎士は世界最強なんだ。闇の騎士なんかに負けるはずないよ」

「それはどうかな?見たところ、剣技にあまり大差ないぞ。どちらも相手の守りを崩しきれてない」

 

そうキリトが言った瞬間だった。

まるでタイムリーにそのセリフを聞いていたかのように、白い騎士が竜の手綱を引くと大きく距離を取り、黒い竜が距離を詰めようと激しく羽ばたく。

両者の距離が縮まる前に鋭く回避した白い竜が首をぐぐっとあげるとまるで欠伸をするかのように大きな口を開けると牙の奥から青白い炎を一直線に迸り、黒い竜騎士の全身を包み込んだのだった。

鋭い風鳴りと轟音があたし達を遅く中、力無く空中を落ちていく黒い竜の隙を逃さないように、白い騎士…整合騎士はいつの間にか剣から赤と金が特徴的な長弓を引くとこれまた巨大な矢を放った。

炎の後を引きながら、狙い違わず、黒い騎士の胸を射抜いた大きな矢が突き刺さったまま、黒い騎士はドッシーンと、大きな音を立ててあたし達の前へと落ちてくる。

 

「……あっ」

 

小さな悲鳴を漏らすアリスとあたし達が見守る中で黒い騎士は苦しそうにもがき、上半身を起こそうとした。黒い胸当てに深々と突き刺さった矢を触り、真っ黒な鎧に包まれて、何も見えない瞳があたし達を見つめ、助けを求めるように力無く右手を此方へと伸ばしてくる。

 

「…あ…あ…」

 

その助けに答えようとしたのか、小さなつぶやきと共にアリスがのろのろと何かに引きつけられているかのように…一歩、また一歩と黒い騎士に向かっている。そう、アリスはーーダークテリトリーに足を踏みいれようとしているのだ。

それに気づいた瞬間、あたしとキリトは同時に彼女を止めるために叫び声をあげた。

 

「だめだ!」

「アリス!」

 

二人の叫び声に我に返ったようにピクッと肩を震わせたアリスがその場に止めようとしたのだが、足がもつれてしまい、小さな身体が前のめりに倒れこむ。

前に伸ばされたアリスの手はまるで未だに此方へと手を伸ばしている黒い騎士を助けようとしているかのようで……コマ撮りの写真のように、スローモーションに思える時間の中、あたし達は倒れこむアリスを掴もうとして、三つの手はどれも宙を切り、代わりに彼女の手に重なり合ったのは黒い騎士だった。

宙で重なり合う二つの手は互いに地面へと僅かな音を立てて倒れこむ。

 

「…ぁっ…」

 

倒れ込んだアリスのまん丸な青い瞳へといつもは天真爛漫で満たされている中へと絶望が混ざる。

アリスはただ転んだだけなんだ。そう、ただ転んだだけ。あたし達くらいの歳なら外で友達と遊んでいる最中に転ぶことくらいあるだろう、ステイシアの窓を開いてみれば、天命もきっと1か2くらいしか減ってない。

それくらいに些細なものなのに…今回は場所が悪いかった。

 

そう、倒れ込んだアリスは白い綺麗な手が触れているのだーーダークテリトリーの大地に。

しかし、片手丸ごと触れているってわけじゃない。ほんの2関節を触れさせているだけなのだ。

 

「…アリスっ」

 

三人でアリスを洞窟の中へと引き戻して、抱きおこすとアリスが身体が震わせてから、自分の右手を見つめる。

ふっくらした掌にはダークテリトリーへと触れていたところがまるで罪の証のように真っ黒に染まっていた。

 

「…わ……私っ……」

 

その黒い後を消すようにあたしは自分の手でアリスの手を拭って黒い砂を払い落としながら、ユージオが震える声で言い募る。

 

「だ、大丈夫だよアリス。洞窟から出たわけじゃない。ただ、ほんの少しだけ地面に手が触れただけだよ。そんなの、禁忌でも何でもない、そうだろ?そうだよね!キリト!カナタ!」

「……っ!?」

 

“なんだ?この気配…?”

 

誰かに見られているような、監視されているような気味悪い感覚。

いち早くその気配を感じ取ったキリトと共に辺りへと視線を走られるあたし達にユージオが下がるような声をかけてくる。

 

「おい、キリト、カナタ…なんか言ってよ」

「……キリト、そっちなんかいた?」

「……いいや、カナタの方はどうだ?」

「……あたしの方は何にも」

「何言ってるんだよ、二人とも」

「ユージオは何か感じない?こう、何かに監視されているような薄気味悪い視線を…」

「そんなの気のせいだよっ!それよりもアリスをーー」

 

"ーー連れて逃げよう、反対側に"へと言おうとしているユージオの肩を掴んだあたしが見てしまったのだ。

 

ーーーー天井のところにソレは存在していた。

 

水面のようにゆらゆらと揺れる紫色の円の中に浮かんでいるのは人の顔だった。

男とも女とも、若いとも老人とも分からないのんべんとした顔立ちは青白く、後頭部には髪の毛一本も生えてなく、まん丸に見開かれた両目からは感情は何一つ読み取れない。

そして、その両目がとられているのは、睨みをきかせているあたしでもキリトでもユージオでもなく、さっきまで拭っていたあたしの手を力無く掴んだまま、放心状態のアリスだということに気づいた瞬間、あたしはアリスを構うように彼女を胸へと抱くが奇妙な頭部にとってはそれは些細な抵抗ですらないようでガラス玉のような瞳は今だにアリスを捉えたままで口がゆっくりと開かれる。

 

「シンギュラー・ユニット・ディテクティド。アイディー・トレーシング…」

 

奇妙な声はさらに続く。

 

「コーディネート・フィクスト。リポート・コンプリート」

 

それだけ勝手に言った謎の頭部は紫色の円と共に姿を消した後に残るのは、木枯らしが吹く音と遅まきながらもさっきの奇妙な声が神聖術に似ているように思えて…あたしは素早くキリト、ユージオ、アリスの身体を見た後に自分の体を見ると、小さく息を吐く。

 

“今の所、変な術はみんなかけられないようだな…”

 

安堵するあたしが今だに胸に抱いたままのアリスの存在に気付いたのは、ギュッとあたしの橙色のシャツを掴んでいる感触からだった。

そっと目下を見て見ると小刻みに震えている金髪をお下げにしている幼馴染の姿がある。

あたしは彼女の右手に巻かれている黄と青を三つ編みにしている紐の上からギュッと彼女の手を優しく掴むとそっと彼女を抱き起こした後にキリトとユージオと共にルーリッド村へと小走りで走りかえったのだった。




次回は出来れば、アリスちゃんが整合騎士に連れていくシーンを書こうと思います。

んー、原作通り・アニメ通りに進めるのって大変ですね…(汗)
どこにカナタを差し込めばいいのか、時々迷ってしまう(笑)


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【★】カランコエを添えて007

連れていかれるところまで行こうとしていかなかったです…ごめんなさい(土下座)

代わりに、読書の皆様が期待しているであろう"カナアリ"を差し込んだから…許して…

このとーりだから(両手を胸の前に合わせる)


【ルーリッド村・カナタの自室】

 

ギシギシとあたしが身動きする度に木製で出来たベッドは真っ暗闇の中に音を響かせる。

夏という季節にしては心地よい室温を保っている寝室だというのに頬やおでこ、背中などにとめどなく脂汗が滲んでは寝間着として着替えた薄手の小さな体をすっぽり覆うTシャツへと大きなシミを付ける。

 

「……んーっ、んーー……」

 

べったりと背中に張り付く布地の冷たさに気持ち悪さを覚えたあたしは今まで寝よう寝ようと一生懸命瞼を閉じようと試みていたが、流石にこれ以上は我慢できそうにない。

 

“はぁ……。こっそり、外の空気吸ってるか…”

 

なので、このままでは寝るにも寝付けないと結論づけたあたしは薄いタオルケットを蹴飛ばして、上半身を起こす。

 

「……ふぅ」

 

小さなため息を一つついたあたしは「よっ…とッ!」と勢い付けると両手をベッドへと付けては両脚を浮かせるとピョーンとカーペットの上に見事着地を決めたあたしは汗がしみた寝間着を勢いよく脱ぎ捨てると代わりに普段着である橙のTシャツとスカートを着用する。

 

その後、抜き足忍び足で物音を立てずに外へとくりだしたあたしは日常的にはお母さん達やお婆さん達が井戸端会議に使用しているベンチへと腰掛ける。

 

“…はぁ、そよ風が火照った身体に心地いい…”

 

ベンチの背骨へと背中を預け、夜風へと癖っ毛の多い栗色の髪を遊ばせながら、気怠げに夜空を見上げる。

晴れた青空のように透き通った蒼い瞳へと映る星々は今のあたしの瞳には映らない。

映っているのは、あの時自分の手で払いのけた真っ黒な砂のような終わりの見えない底なし沼のような暗闇。

 

“……あの頭部は…一体何だったんだろう…”

 

ふと思うのはあの洞窟の中で出会った奇妙な頭部の事で、気掛かりなのはルーリッド村へと戻る道中、ずっとあたしの服を震える手で掴んでいた金を溶かしたような鮮やかな金髪を三つ編みにしている幼馴染の事だった。

 

ルーリッド村に帰った後はいつものような表情に戻り、重そうに両手で氷が沢山入ったバスケットをキリトから受け取った彼女はしばらくの沈黙後、にっこりと微笑むとこう言ったのだ…"明日のお弁当は楽しみにしててね。腕を振るうから"と。

そのセリフにいつものように"お腹空かして待ってる"とは言えなくて、その事が今になってちょっと後悔してたりしてる。

 

「……はぁ…」

 

“…明日も明後日(あさって)明々後日(しあさって)だって食べたいな…”

 

そんな願望にも似た事を思いながら、そろそろ帰って寝ようかなと腰を上げた時だった。

 

「……………」

「…カナタ?」

 

と鈴の音のような可愛らしい声だが隠しきれぬ天真爛漫さを含ませた声が聞こえたのは…。

あたしは上げた腰をベンチへと戻しながら、そちらへと視線を向けると思った通りの人物が立っていた。

 

「……その声はアリスお嬢様かい? こんな真夜中に外に出ていたら、村長さんにおこられちゃうよ」

 

そう言っておどけてみせるあたしへとムッと頬を膨らませるのは背中へと鮮やかな金髪を流した少女でどこまでも広がる青空のようなまん丸な青い瞳はまっすぐあたしを見つめたまま動かない。

そのアイコンタクトから話したいことがあると汲み取ったあたしがコクリとうなづくと彼女が側へと歩いてくる。

 

「それはあなたもでしょ。……隣いい?」

「お嬢様の御心(みこころ)のままに」

 

そう尋ねてくる少女・アリスへと不敵に笑い、クルクルと軽やかなステップを踏んで道化(どうけ)じみたコミカルな動きで一人分座れるように隙間をあけるとアリスへと左手を差し出す。

その左掌へと右手を添えながら、アリスがクスクスと笑う。

 

「ふふふ」

「…やっと笑ってくれたようだね」

 

アリスがベンチに座った後に続くように腰かけたあたしが顔を覗き込めながら、淡く微笑みながら呟く独り言に青い瞳をまん丸にするキョトンとしているアリス。

 

「…へ?」

「……アリスはいつも笑顔の方がよく似合うと思うよ、あたし」

 

その一言でやっとあたしの言いたいことが分かったように目を見開くアリスは"まいったな…"といったように苦笑いを浮かべるとあたしへと問いかけてくる。

 

「そんな深刻そうな顔してた?私」

「……んー、別れた時はそうとは思わなかった。でも、今のアリスはあまりにも強張っているからね」

「……はぁ……そう。カナタって人のこと見てないようでよく見ているのね」

「……あはは、すっごい貶されている気がする」

 

失笑しながら夜空を見上げるあたしの手へと自分の手を重ねるアリス。

 

「……ね、カナタ。私、どうなっちゃうのかな……」

 

重なり合う手から伝わってくる小さな振動からヒシヒシと伝わってくる不安を包み込むとにっこりと笑う。

 

「………だいじょーぶ。ユージオも言ってたでしょう?あんなの禁忌にすら入らないよ」

「……でも……っ、私……」

 

今に不安げなアリスの繋いでいる手をワザと自分の方に引っ張ると目を丸くしたアリスが胸へと倒れ込んでくる。

倒れ込んできたアリスの華奢な身体を抱きしめながら、彼女の右肩へと(おとがい)を載せて、耳元で囁きながら、不安を払い落とすかのようにポンポンと背中を優しく叩く。

 

「……カナタ…?」

「……大丈夫って言葉じゃあ不安だと思う。でも、心配しなくていいからね」

 

アリスの右手首に巻かれている黄と青の紐とあたしの左手首に巻かれている橙の紐を見つめながら、穏やか声音で言の葉を繋げる。

 

「……この紐は……あたし達が四人で一つって証なんだから。前に約束したでしょう?あたしとアリス、キリトにユージオは死ぬ時も一緒ってさ…その約束を果たすまで、この紐は外れないってことになってる」

「ただの紐なのに?」

「ただの紐なんかじゃないよ。この紐はあたし達の固い絆を表しているんだよ。だから、アリスが連れていかれるときはあたし達も一緒さ。その場にあたし達も居たんだから」

「………うん」

 

あたしの(おもい)を聞いたアリスもやっと落ち着いてきたようであたしの右肩へと顎を乗っけてくる。

その動作によってあたしの頬を擽る金髪へと手櫛を入れながら、髪の毛を優しく撫でる。

 

「それにあたしがアリスを一人なんてさせないよ」

 

そう、一人になんてさせない。

誰がアリスを連れていこうとあたしも彼女へとついて行く、それで処刑させようが何させようが別に構わない。

だって、あたしのことだから…きっと、そんな恐ろしい所にアリス一人で行かせてしまったことに後悔してしまうと思うから。

 

「……ね、カナタ。もうちょっとこのままでいい?」

「……ん、いいよ」

 

そううなづいたあたしは怒られない事をいいことにアリスの髪の毛へと手櫛を入れ続ける。

そんなあたしの拙い手櫛でも落ち着くのか、アリスが気持ち良さげに瞳を細める中、ボソッと呟く。

 

「……貴女って、不思議な人ね。ただ抱きしめられているだけなのに…心がポカポカしてくる……お日様なのような……ううん、この優しい暖かさはまるで日向(ひなた)みたい…」

「……そう…かな?」

 

そう小首を傾げるあたしにアリスがいつものように笑うと

 

「そうよ」

 

と言うのだった。




これまでの連続更新が効いているのか……メモデフで【トワイライト・キス アリスちゃん】が当たりました…(驚愕)

また、明日はユージオくんの誕生日であると同時にSAO第1巻が発売された日でもありますよね!!
なので、この連続更新を進めていこうと思うのですが……もしかしたら、間に合わんかもです(汗)


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【★】カランコエを添えて008

昨日 4月19日は"リーファちゃん"のお誕生日で

今日 4月20日は"レンちゃん"のお誕生日でしたぁ!!!

二人ともお誕生日おめでとうございます!!!!!

リーファちゃんもレンちゃんも大好きなキャラクターですから…是非とも誕生日限定エピソードを考え中なのですが……何を書きましょうかね(悩)

んー…一人一人書くべきか、それともGGOで二人同時に書くべきか……悩んでしまいますが、誕生日からあまり離れてない日にちに更新出来ればと思っています(敬礼)



さて、今回はいよいよ"あのシーン"を書こうと思います!
何回見直しても幼い子供をあんな風に吊るして連行するのは間違っていると思う作者でありました。

ということで、本編をどうぞ!!


【ルーリッド村・布屋】

 

“…なんだろ…なんか胸騒ぎする…”

 

カタンコトンと羽織り機を小さな脚で懸命に動かしながら、あたしはボゥーーと窓の外を眺める。

格別変わったところなどない。

窓から差し込む陽の光はいつものように暖かいし、ドタバタとタイルを蹴飛ばして走り回る子供たちの騒ぎ声は羨ましくもあるが微笑ましく思うし、僅かに開いた窓から流れてくるそよ風はいつものように実に心地よい。

 

なのに、どうして……こんなにも胸がざわつくのだろうか?

時々聞こえてくる小鳥の(さえず)りや羽音にピクッと身体が反応してしまうのはどうしてなのだろうか?

 

その理由を考えようと羽織り機へとのせている手と足を止めた時だった、コツンと手刀を後頭部を何者かに叩かれたのはーー。

ま、ルーリッド村の広場に面したこの小さな布屋に勤めているのはあたしともう一人……前任者であるテヤンゲさんしかいないのだから。

なので、間違いなくあたしの頭を叩いたのはテヤンゲさんで間違い無いだろう。

 

そこまで考えたあたしは涙が滲む空のように透き通った蒼い瞳を背後に立っている焦げ茶色の髪へと白髪を混ぜ、首の後ろで結んでいるテヤンゲさんを睨む。

 

「…ッ」

「…カナタ、手が止まっておりますよ。それに網目もまだらではないですかっ」

 

あたしの読み通り、背後におられた前任者殿は腰へと両手を添えて、"私怒っているのですよ"というオーラを出しており、逆あたしを睨んでくる髪と同色の瞳を前にして反抗を続けるわけにもいかず、いつもお尻ペンペンという躾を受けているあたしは眉間によっていたシワと細まっていた目を元に戻す。

そんなあたしがぬった布地を見下ろしたテヤンゲさんが小さく溜息を一つつく。

 

「……普段は悪ガキのように手がかかりますが、私が見てきた中で貴女が仕事をお粗末にしたことは一度たりともありませんでした…そんな貴女が今日はこの有様。

何かアリス達とあったのですか?」

 

険しかった瞳へと穏やか陽の光のような包み込む暖かさを含ませながら尋ねてくるテヤンゲさんに"あの出来事"を言ってしまってもいいのだろうか?

昨日起きた事、昨日の夜アリスと話した事、あたしが感じているこの訳のわからない胸のざわつきをーー。

 

しかし、もし言ってしまって……アリスやキリト、ユージオがちくったあたしの巻き添いをくらってしまったならば?

 

“そんなのダメだっ!やっぱりあたしで…あたし達でなんとかしないと…!"

 

そう結論づけ、心の中で小さく意気込むあたしを見て「ふ」と小さく笑ったテヤンゲさんはクスクスと笑う。

 

「カナタもそんな深刻な顔が出来るのですね。いつもお気楽な顔をしているのでそういうのは出来ないと勝手に思っていましたよ」

「て、テヤンゲさん!!」

「ふふふ。怒れるのですから…元気なのは元気なのですね」

 

そう言って、自分の指定席へと戻っていくところを見るとどうやらテヤンゲさんはあたしをからかうことによって元気付けようとしてくれたらしい。

 

“たっく…人がこんなにも悩んでいるっていうのに…”

 

しかし、テヤングさんにからかわれてた事が余りにも悔しかったあたしは頬をまん丸に膨らませて、クスクスと笑い続けるテヤングさんを睨む。

 

「あと少しでお昼になりますよ。きっとアリスがお弁当を持ってきてくれます。それまでにあと一枚布を完成させましょう」

「はーい」

 

そう返事した瞬間だった。

バタバタと大きな鳥のようなものが舞い降りてくるような羽音が聞こえたのはーーーー。

 

“…へ?羽音…?”

 

羽音で最初に連想できたのは昨日見た白銀の飛龍と真っ黒な飛龍だった。

しかし、こんな辺境のど田舎に飛龍を飛ばしてくる人などいるのだろうか?

そもそも飛龍を乗りこなせる人など公理協会の整合騎士くらいしか居ないのではないだろうか?

 

ーーちょ、ちょっと待って……飛龍……?……整合騎士……?

 

そんなワードが連想的に浮かんできて、最終的に浮かんだのはダークテリトリーの土に指先を触れさせてしまい顔を青ざめせているアリスの姿に、昨日小刻みに震えながらあたしにすがってきたアリスの姿だった。

 

“アリスゥッ!!!”

 

"アリスを助けなちゃ"という気持ちで頭がいっぱいになったあたしはテヤングさんが止まるのも押し切ってから外へと飛び出していた。

 

「…ぐっ…なんでこんな人が……前が見えない…っ」

 

何か珍しいものが来ているのか、ルーリッド村の広場は老若男女、年齢問わずの村人たちで埋め尽くされており、あたしは大人の肘に頬や背中、お腹を殴られながらも人混みを掻き分けて……やっとこさ、辿り着いた前列で見たのは、広場の北半分以上を占める巨体で太陽《ソルス》の光を跳ね返しては氷の彫刻みたいに冷たい印象を受ける。

その巨体を支える翼は両側に畳み込まれており、そこだけ血が流れているように真っ赤な無感情の瞳は広場を見下ろしている。

 

そして、見下ろされている広場の……いいや、竜の前に立っている騎士がいる。

 

村の誰よりも逞しく大きな体躯を磨き抜かれた重鎧を一部の隙間なく全身に着込み、関節部から覗くのは細かく編まれた銀鎖である。竜の頭部を用いた兜からはおでこのところに一本、両脇から二本大きな飾り角が伸びており、彫りの深い顔立ちを隠してしまっている。

 

“…何か見てる?”

 

その騎士は顔を横へと向け、何かを見守っているようにも思える。

その視線を辿ったあたしは目を丸くする。

 

“…村長…?それにアリス……なんで…?”

 

竜の首に巻かれた太い鉄鎖から続く先にあるのは革帯が三本平行に取り付けられ、鎖の上端は大きな輪になっている奇妙な拘束具をアリスの華奢な身体へと巻き付けている。

 

「……っ」

 

“…アリスっ”

 

父親に奇妙な拘束具を巻き付けられているアリスは強張った顔でグルリと辺りを見渡した後に前列にいるあたしを視界に捉えた後に強がったような表情を浮かべた後に"大丈夫だよ"と微笑んだ後、静かに前を向く。

 

「……っ!」

 

駆け出そうとするあたしの耳に聞こえるのは聞き覚えのある少年の叫び声だった。

大男三人に組み伏せられている小さな身体を包み込むのは藍色の半袖に長ズボン、そして男たちの隙間から見える黒いショートヘアはきっとキリトだろう。

 

「……ユージオ頼む!行ってくれ!」

 

大男を自分から引き剥がそうとしているようで大暴れしながら、横に棒立ちになっている水色の半袖に長ズボンを身につけている亜麻色のショートヘアを持つ少年・ユージオへとアリスを助けてくれと頼んでいる。

 

「ユージオ!せめて、こいつらをどかしてくれ!そしたら、俺がーー」

 

ユージオも助けようと震える脚を動かしながら、また一歩一歩とタイルを踏みつけているが右手をおさえたまま動かなくなってしまう。

そうしている間にも竜は飛び上がり、アリスの小さな身体が宙に浮く。

 

「ーーユージオ!」

「ユージオがダメならあたしが行く!」

「…カナタ…?」

 

キリトの悲鳴が混じった叫び声を遮り、あたしは大暴れするキリトを抑えるのに夢中な大人達の横を駆け抜け、勢いよくその場にしゃがみこむと今度は勢いよく立ち上がり、その動きによって作られたエネルギーを携えて飛び上がる。

 

「うりゃあアアア!!!」

 

“くっ…とどけっ!届いてくれ!!頼むから!!”

 

昨日の晩、アリスと約束したんだッ!!

"あたしがアリスを一人にさせないよ"と、"あたしがみんなに送った紐には死ぬときは四人一緒という約束を果たすまで切れないようにという(がん)が込められている"と!

 

キリトとユージオ。あたしとアリス。

 

二人組に暫くの間分かれてしまうけど、必ずいつか再会出来るとあたしは信じている。

ううん信じているじゃない……あたしがさせるんだ!アリスとキリト、ユージオという大好きな大切な心友(しんゆう)達が悲しむ姿は見たくないから、三人にはいつでもいい笑っていて欲しいから…。

 

「くっそぉおおお!!!」

 

だから、助走をつけて飛び上がったこの左手がアリスを吊るしている鎖に届いてくれさえすればーー

 

「ーーとどけ…とどけ…届ケェヨォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

喉が潰れるくらいに大きな声を上げたあたしの左手はみるみるうちに鎖との距離を縮めていき…そしてーー

 

「…くっ」

 

ーーガシッと鎖を掴んでいた。

 

驚く整合騎士や飛竜、村の大人たち…そして、とってもお世話になったテヤンゲさんの顔と驚きに満ち満ちているキリトとユージオの顔を見下ろしながら、全身に吹きつけてくる暴風に抗うようにあたしはアリスと共に人界の真ん中に大きく聳え立つ塔の中へと連行されていくのだった。




もう一話で現実世界へと戻ります!(敬礼)

久しぶりにシノンちゃんとの絡みを書くのかが楽しみで楽しみで仕方ないですし…!
何よりもゲームオリジナルキャラを何処まで出そうかと思うとワクワクしちゃってます(笑)


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【★】カランコエを添えて009

更新遅くなってしまいすいません(大汗)

会社の飲み会が立て続けに入ってしまって…更新するのに出来なくて…ほんとすいませんでした(土下座)

さて、いよいよ今回の話で"幼少期エピソード"がラストとなります!!

公理協会に連れていかれたカナタはアリスちゃんを守れるのか?

本編をどうぞ!!


【公理協会・地下牢】

 

「ーーッ!」

 

力任せに自分の方に右手首に繋がれている鎖を引っ張ってみると薄暗い牢屋の中にチャリンチャリンと甲高い鉄と鉄がぶつかって発生する音が響く。

その音を辿ってみるとどうやらこの鎖は壁へとはめ込まれているタイプなのだろう、連れてこられた時は乱暴に服や髪を掴まれて、抵抗する間も無くこの手錠をはめられたものだからここまでじっくりと観察は出来なかったが、こうして冷静に観察してみるとーー

 

“ーーほんとなんもないな、ここ…"

 

いや、何もないというわけでない。

実際にはあるのだ、今もこうして腰掛けている簡素なベッドに磨きぬかれたタイルに窓が一つ。

そんな暗い牢屋を照らすのは、外の壁へと無造作にはめ込まれている安易な松明。

 

「はてはて、こっからどうしましょうかね」

 

小さな脚を組んだ後に(おとがい)へと左指を添える。

 

“まず、さっきも試した通りであたしの力ではこの鎖をどうか出来るとは思えない。だからといって、ここで黙って殺されるのを待つのはごめんだ。

 

左手首に巻かれている三つ編みにしている橙の紐をギュッと掴んだあたしはどこかに抜け道はないかと辺りを見渡そうとして、目の前のベットに座るアリスがあたしをじっと見ているのに気づき、"どうしたの?"の意味を込めて、小首を傾げてみる。

 

「カナタって本当おバカよね」

 

すると帰ってきたのは上の素っ気ないセリフときて、あたしは苦い笑みを浮かべると目の前に座っていらっしゃるルーリッド村村長のご息女様に伺ってみる。

 

「あー、アリスさん…?今まで一言も喋らなかったと思ったら…身体を張って貴女様を助けに来た幼馴染に対して、その言い分は如何程(いかほど)かと?」

「だってバカはバカじゃない。誰も飛竜にしがみついて付いてこようなんて思わないわよ。もし落ちたらどうするつもりだったのかしら?」

 

いつものお姉ちゃんぶった口調で逆に説教されて、あたしは冷や汗を一筋流す。

 

「あーはい…落ちたらですよね……その節は大変お世話になりました……」

 

というのもあたしが落ちないようにとアリスが自分の肩へと両脚を乗せるようにと言ってくれたのだ。

飛竜が羽ばたくたびにおこす風と横から吹きつけてくる突風に早くも落ちそうで鎖にしがみつくのに必死だったあたしはその言葉に甘えたのだが……今思えば、あの小さな肩であたしを支えてくれていたのだ。きっと重かっただろうに…道中文句の一つも言わなく、あたしを陰ながら守ってくれていた。

なので、そこを突かれれば弱くなってしまうのだ。

 

あの時のことを思い出し、潔くぺこりと頭を下がるあたしにアリスは「くすっ」と笑うと表情を引き締めると

 

「………ありがとう、カナタ」

 

そうボソッとお礼を言うのだった。

余りにも小さいその呟きにあたしは鳩が豆鉄砲を食らったようなアホ面をアリスへと晒す。

 

「へ?」

「…夜の約束、守ってくれたでしょう?私を一人にしないっていう」

「いつもはだらずなあたしだけど大切な人との約束だけは守りたいからね!」

「だけはっていうのが気になるところだけど…………ありがとう、カナタ。貴女が一緒に来てくれて、とても心強いわ」

 

ニッコリ微笑むアリスから視線を逸らしたあたしの頬はアリス曰く真っ赤なりんごのようだったそう。

 

 

τ

 

 

その日から3日後のある日の事、あたしとアリスは牢屋を守る門番に乱暴に叩き起こされた後に整合騎士を伴って廊下をトボトボと歩いていた。

 

そっと後ろを見てみると燃えるような炎のように赤い重量感あふれる鎧へと腕を通している大男がある。

竜頭のような兜の下にはきっとその巨体に似合った強面な顔をしていることだろう。

 

そんな整合騎士から横へと顔をスライドすると怯えた様子のアリスお嬢様がいらっしゃる。

何故、怯えているかというと…恐らく、あたしたちの後ろにいる真っ赤な整合騎士殿が自分達を公理協会に連れてきた当人だからだろう。

 

捕縛してきた張本人が顔を出すのだ。きっとこの先に待つのは審問(しんもん)処刑(しょけい)

恐らく、審問とやらを上手くやれば処刑になることはないと思うのだが……それを決めるのはあたしではなく、人界の絶対管理者が決めるのだ。

その人が"首をはねろ"といえばそれが産まれたばかりの赤子だろうか平気ではねるのがこの世界というものだ。

あたし達平民…もっというとなんの権利も与えられてない子供に何が出来るというのだろうか?

 

“でも、それを理由に諦めるなんてことはしたくないよねっ”

 

そう、諦めずにいればきっとユージオとキリトが迎えにきてくれるはずだから。

 

だから、今は隣で泣きそうな顔をしているお姫様を安心させることに努めるとしよう。

それが今のあたしに出来る最初の事だろうから…。

 

「…カナタ」

「…大丈夫、だいじょーぶ。そんなに怖いなら、手でも握る?」

「…し、仕方ないわね。カナタがどうしてもっていうから」

 

こういう時でもお姉さんぶりたいのか、お得意のツンデレをご披露なされるアリスお嬢様にあたしは両肩を上下させると黙ってアリスお嬢様の右手へと左手を添えるのだった。

 

そんなやりとりから更に時間が経過し、あたし達は不思議な場所へと連れてこられていた。

 

“なんだここは…?”

 

それが初めてこの場所に来た時に感じた感想だった。

どこまでも白い広場の至る所にはカプセルのようなものが複数埋め込まれており、その中には正気が感じられない人の頭部が入っている。

真っ白な骨張ったその頭部は老若男女すらも分からない……幼い(あお)と青の瞳には恐怖としか映らなかった。

自分達が瞳を通して脳へと送り込んでいるこの光景は果たして"本当の事なのか?""誰かのイタズラではないのか?""あの頭部はあたし達と同じ人間というのか?"など疑問が生まれては驚きの海へと沈んでいった。

 

無意識にお互いの手を強く繋ぎなおすあたし達から顔を上げたあの真っ赤な整合騎士は奥からトクトクと歩いてきているまん丸なシルエットに声をかける。

 

「チュゲルキン閣下。例の子供達を連れて来ました」

「意外と遅かったですね。何をしていたのかとは聞かずにおいてあげましょうか。7号もう下がっていいですよ。お前はもう用済みです」

「…はい」

 

しっしっとおさがりに右手をふる目の前のまん丸なシルエットに頭を下げた後に真っ赤な整合騎士は姿を消した。

そして、残るのは目の前であたし達の顔をジロジロ不躾に見てくる赤と青の道化…ピエロじみた服装に身を包むふくよかな小柄なおじさんときた。

 

“えーと、このおじさんがあたし達を処罰するひ、と…?”

 

なんだよね?多分。

あの真っ赤整合騎士は消えちゃったし、残るのはこの小さなおじさんしかいないし…。

ならば、この弱そうなおじさんからアリスを守りきれば、あたしの勝ちということになるのだろう。

 

あたしは横にいるアリスをそっと後ろへと移動させるとキョロキョロとこっちを見てくる小さなおじさんを睨む。

 

「さてさて、どちらがアリス・ツーベルクですかね…と聞くまでもありませんでしたね。後ろにいる方がですか」

 

そんなあたしに臆することなく小さなおじさんはズンズンとあたしへと歩み寄るとムカつく笑みを浮かべながら下から顔を寄せてくる。

 

「それでお前はなんです?」

「なんですって何?あたし、なんですって名前じゃないけど」

 

同じように薄ら笑いを浮かべて軽口を叩いてみると間近にある真っ白な顔へとメキメッキと血管が浮かぶのを見て、"してやったり"とほくそ笑む。

 

「ふん!クソ生意気なガキですね、お前」

「お前って何ですか〜ぁ?あたしの名前はお前でもないんですけど〜ぉ。お・じ・さ・ん♡」

「クーーーーッ!!!?」

 

おぉ…いい歳して地団駄とはその服装に似合って幼児のようですな〜、こりゃ滑稽(こっけい)滑稽(こっけい)

 

「か、カナタ…」

「どしたの?アリス」

 

小さなおじさんイジメを満喫しているあたしの袖を弱々しく後ろへと引っ張るのはアリスだ。

その顔が青ざめている理由がさっきまで楽しんでいた小さなおじさんイジメでない事を願いたいが、そうにはいかないらしい。

 

「…そんなに怒られて大丈夫なの?その人、きっと偉い人なんでしょう?」

「…さぁ〜?きっと大丈夫なんじゃない?」

「…大丈夫じゃなかったらどうするのよっ」

 

アリスお嬢様とのコソコソ話を右耳ムギ〜ュで終わったあたしを見た地団駄おじさんはやっと自分の役割を思い出したのか、あたしの耳を掴むアリスを指差す。

 

「今はクソガキに構っている場合ではないですよ。

アリス・ツーベルク。お前は神聖術に秀でているそうですね」

「ーー」

 

耳を掴んでいた手を背中へと回し、ギュッとシャツを握りしめるアリスはコクリと素直にうなづく。

 

「その秀でた才能を無下にするのはもったいないという陛下のお優しい慈悲によりお前は整合騎士になれる権利を得ました」

「…整合騎士…?私が…?」

 

まん丸な青い瞳が更に丸くなり、今にも飛び出しそうにも思える。

 

「えぇ、これから整合騎士になる為に必要なとある術を唱えてもらいます。しかし、その術を唱えた後は今までの事を全て忘れてしまうことになります。別にいいですよね?」

 

ニンヤリといやらしく笑う小さなおじさんの言ったセリフにあたしもアリスも一瞬固まる。

 

“…え?整合騎士になったら今までの記憶が無くなるの?”

 

って事は、さっきの真っ赤整合騎士も整合騎士になる前はあたし達と同じ人間だったというこ、と?天界の使いなどではなく?

もしあたしの仮説が正しければ、人界に住む全民はこの公理協会に騙されていたということに…そして、その被害者は整合騎士ということになる。

 

と怒りで震えているあたしと違い、アリスは小さなおじさんの"今までの記憶を失う"のところを重要視したらしく、その青い瞳は溢れ出しそうなおけの水のように波紋を数回水面に広げた後に遂に溢れ出してしまった。

 

ポロポロと頬を流れる透明な雫を見ながら、ニヤニヤと笑っている小さなおじさんを見ているとさっき湧き上がってきた怒りよりも更に強い衝動に駆られ、小さなおじさんの首根っこを掴み、その真っ白な顔に一発拳を埋め込んでやろうと駆け出す。

 

「…ゔぅっ……お願い、忘れさせないで。私の大切な人たちを忘れさせないで」

「アリスを泣かすな!このちびちびじいさーーぐっハッ!?」

「カナタ!」

 

その襟首を鷲掴みにしてやろうとした時だった、あたしの身体が見えない壁に阻まれ、壁へと叩きつけられたのは。

肺に溜まった空気を外へと吐き出したから床へと倒れこむあたしをゴミを見る目で見るのは小さなおじさんだ。

 

「さてお前はどうしましょうかね?勝手に付いてきたお前の処分は私が全部担っていますからね」

「がばっ…ごっ…ほ…」

 

尖った靴をあたしの頬へと置いて、グリグリと踏みつけながらニタニタと笑う。

 

「さっきまでの無礼を謝り、私の靴を豚のように舐めるっていうのなら処刑は取りやめてもいいですよ〜?ほらほら、どうするのです?」

 

頬肉が歯に当たって痛い…くっそ…それにさっき吐き出した空気の分の空気を取り込めてないし、何よりこんな奴の靴を舐めるという屈辱を味わうくらいなら、このまま死んでもーー

 

「やめ……やめてくださいっ!」

 

ーーそんな事を思うあたしの耳へと涙声で懇願する可愛らしい声が聞こえてくる。

目の前に広がる青いドレスに白いフリルのついたエプロンの組み合わせを見て、あたしはあの小さなおじさんの脚にしがみついているのがアリスだと知る。

 

「この子はっ…私の…大切な…幼馴染なんです…っ。だから、許してください…っ!!この子は私を守る為に……私との約束の為に付いてきただけなんです…!!」

「それがどうしたというのです?このクソガキが私に無礼を働いた事は事実でしょう?なんです?このクソガキがしない代わりにお前が靴を舐めるというのですか?」

「それでこの子を……カナタを助けてくれるのなら……私は舐めます……」

 

“やめろ!そんな事するな、アリス!!”

 

こんな奴に媚びることなんてないっ!!顔を見てみろ!?こいつのことだ。きっと舐めさせた後にあたしも舐めなければ取り消さないというに決まってる!そんな奴なんだよ、このピエロおじさんはっ。

このおじさんにとってあたし達は単なる暇つぶしのおもちゃでしかないんだよ。

 

「ほーぅ?なら、その言葉が嘘じゃない事を早く証明する事ですね。じゃないとこのクソガキがどうかなってしまいますよ」

 

あたしの頬をグリグリと踏みしめてから脚にしがみついているアリスを見下ろした小さなおじさんの言葉に従い、青い袖に包まれた小さな腕から屈辱と恐怖や他の感情をかきかき混ぜて震える掌がタイルにつき、続けて両膝をタイルへとつけてから腰を持ち上げる。

 

「…っっ!!」

 

強く踏みつけられているせいで声が出せない代わりに首を横に振っているあたしへと淡く微笑んだ後にアリスはキュッと唇を噛みしめる。

そして、尖った黄色い靴へと幼さを残しつつも整っている顔を近づけると桜色の小さな唇からチロッと小さな舌が顔を出す。

 

“……やめ…て……アリス……。君がそんな事をする必要なんて……ないんだ……”

 

あたしの一時の感情に任せた我儘により降りかかっている大切な幼馴染への荼毒(とどく)に涙が止まらない。

しかし、そうしている間にもアリスの小さな舌は黄色い靴へと近づいており、あと1センチで付いてしまうと思った時だった。

小さなおじさん以外の声が聞こえたのはーー

 

「さっきからなんの騒ぎかしら?チュゲルキン」

 

ーーと不機嫌な声が聞こえた後に小さなおじさんはピクッと震えた後に声を裏がらせる。

 

「ーー!?へ、陛下ぁ!?今日はもうお休みになられたはずでは?」

「あなた達の声が大きくて、つい目が覚めしまったわ」

「申し訳ありませぬっ。私としたことが…この非礼はーー」

「ーー別にいいわ。それよりもチュゲルキン。その脚に引いているのは何かしら?」

 

恐らく、陛下という人の圧に押されたのか?

小さなおじさんはあたしの頬から靴を退けると数歩後ろへと下がる。

 

「…へー、あなた面白いわね」

 

そう言って、あたしの顔を覗き込んできた恐ろしいほどに美しくもどこか冷たい雰囲気を漂わせている女性はクスッと笑う。

 

「チュゲルキン。この子達は私が貰っていくわね」

 

そして、そう小さなおじさんに言うとあたしを抱きかかえ、アリスを呼ぶとどこ変わらない所へと歩き出すのだった。




これにて幼少期エピソードの完結です(敬礼)
あたしなりに考えたオリジナルが多めとなりましたが楽しんでもらえたでしょうか?

オリジナルすぎて…キャラが変わってないといいけど…(大汗)

因みに、チュゲルキンが整合騎士の真実を話したのは、シンセサイズすればカナタもアリスちゃんもチュゲルキンから聞いた事を忘れちゃうからです。
"今まで"という事は、その事実さえも含まれているのですから…。

さて、次回からはいよいよ久しぶりのシノンちゃんとの絡みです!!
久しぶりのシノンちゃんとカナタのやりとりが書けるのが楽しみな分、感覚を忘れてないか?不安だったり…(苦笑)







では、次回の話にてあいましょう!
ではでは〜(ぱたぱた)


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【★】カランコエを添えて010

更新、すっごい遅れました…すいません…(大汗)

今回はアニメ版でのGGOでPKスコードロンと対峙する所です!

久しぶりのシノンちゃん視点とみんなと登場シーンに緊張が絶えませんが……内容はあんまアニメと変わってません(笑)

なので、どのシーンでカナタが登場するのか、楽しみつつご覧いただければ嬉しいです!

では、本編をどうぞ!!


【GGO・深い森林の中】

 

2026年 6月27日 土曜日 PM9:00。

深い森林の中、ジャリジャリと砂をブーツを蹴飛ばす足音が背後から聞こえてくるのを感じとり、私はチラッと後ろを向くと交差しながら近づいてくる深緑色のフードを着用した顔を隠すようにゴーグルを着けた二つの人影がある。

 

「…ッ」

 

二人が交差する時にガチャガチャとアサルトライフルの保弾板を補充する音が響くのを左右に生える木々を利用し交わしながら、森林をこえた先にある広場に向かってただただ走る。

 

“ぬけたわ!”

 

「ーーッ!!」

 

ぬけた瞬間に振りむき様にヘカートを構えてからトリガーを前方の人物めがけて引くが綺麗に交わされてしまい、ヘカートを撃った衝撃で身体が仰け反っている私のひたいと左胸へと赤いバレットラインが突き刺さり、相手がトリガーを引くギィギィ…という音だけが辺りへと響き、私のひたいと右胸が撃ち抜かれる寸前、背後からガガガッと砂地を車が爆走してくるような音が聞こえ、つい笑みがこぼれる。

 

“ナイスタイミング!”

 

そう思った同時に私の前へと飛び出してくるデッキバンに麺を食らった様子の奇襲者達は一瞬ビックリ顔したのちに車のガラスを割ろうとするかのようにアサルトライフルのトリガーを引き続けては自分たちに向かって突っ込んでくるデッキバンを可憐に交わすがそれで彼らへの攻撃が止むことはない。

 

「全自動種子島だぜ」

 

デッキバンの運転席からひょっこり顔を出すのは私が"とある作戦"の為にGGO(ガンゲイン・オンライン)へと呼んだSAO(デスゲーム)からの友人・クラインで跳ねている髪に巻かれているのは黒と赤が混ざったバンダナにゴーグルを着けて、軽く巻かれたジャケットから右腕を出し《種子島》という名前のアサルトライフルを右方向へと逃げた奇襲者の足元を狙い、トリガーを引き続ける。

 

「RK野郎どもこれでも喰らえ」

 

デッキバンの助手席から顔を出すのはクラインと同じく"とある作戦"で呼んだSAOからの友人・リズベットでピンクに染めたショートヘアに濃いめのピンクのニット帽をかぶり、黄緑色の軍服を腕まくりし構えたショットガンが二発森林へと姿を隠す奇襲者を撃ち抜こうとするがしかし木を利用して交わされてしまう。

 

「やっやっやぁあ!!!」

 

リズベットの攻撃を避けた奇襲者は自分の身丈ある程の岩へと身を隠し、自分たちを追ってくるデッキバンへと攻撃しようとするが、デッキバンの上に配置されているガトリングガンを操作して追撃するシリカには構わないらしく、連発してくる銃弾を避け、身を隠す。

だが、シリカの攻撃の手は緩むことなく、ガトリングガンを左右に動かして深緑色のフードつきマントをはためかせては奇襲者を追い詰めようとした時だった…デッキバンに向かい、スモークが投げつけられたはーー。

 

「…くっそ」

 

デッキバンの視界を奪い、交代していく奇襲者を目視し、デッキバンの後ろに隠れている二人(切り札)を呼び、自分たちを包んでいた布を勢いよくはねのけて、奇襲者達が消えていった方へと駆け出していく黒いロングに黒の軍服を着込んだキリトと赤と白の軍服に身を包み、栗色の髪を後ろでお団子にしているアスナを見送った後に二人を援護出来る場所へと移動する。

 

「出番よ。援護する」

 

狙撃ポイントへ走りながらふと瞼に浮かんでしまうのは"後からログインする"といっていた恋人の顔だった。

このGGOという世界は銃がメインアームだというのに彼女はあのデスゲームから愛用している日本刀を振り続けている……といってもこの世界にフォトンソードという光剣(こうけん)はあっても日本刀というカテゴリーの武器はないので、彼女が使っている刀は一から彼女が手掛けた物となるので、"日本刀といってもなんちゃって日本刀"だと彼女はカラカラと笑いながらそう言っていた。

 

そんな事を考えながら、森林を走っていると丁度いい狙撃ポイントを見つける。そことは大きな根を生やすその木の周りは私の腰あたりくらいまでの高さを持つ雑草が生えていているので上手いように小さな身体を隠してくれるだろう。

 

“それではここで二人の援護をしましょうか”

 

そう結論づけた私は背に背負っていたヘカートの前の二脚と後ろの一脚を立ててから大きな根へと身を寄せて、スコープの蓋を開けると二人が追う奇襲者達の周りを見渡す。

 

“ん?さっき、あそこの岩光らなかった?”

 

そう思い、目を細めた時だったーーーー日の光に照らされてピカリッと光る大きな銃弾が見えたのが。

瞬間"スゥーー…"と深呼吸をするとその心拍数に合わせて挟まっていく着弾予測円(バレット・サークル)が最大限細くなった時に躊躇なくトリガーを引く。

 

パンと小気味良い音が響いた途端、みるみるうちに近づいていくヘカートの弾丸とPKスコードロンの一員が撃ったロケットランチャーの銃弾がキリトに当たる前に空中で重なり合い、やがて爆発するのを見届けてから振り返ってくるキリトへと微笑む。

 

“後はキリトとアスナに任せてもいいかしら?”

 

岩に隠れて二人に応戦しようとするPKスコードロンの一員達が撃ってくるアサルトライフルの銃弾をフォトンソードで切りながら近づいてはアバターの身体を真っ二つにする二人の闘いっぷりを見ているとやはりどうしても瞼の裏に浮かんでしまうのは彼女の姿だったりする。

 

“ふっ、私はどれだけ陽菜荼に会いたいのかしら”

 

ほんの3日間会えないだけで事あるごとに彼女の姿や仕草、言葉を思い出してしまうとは私はどれだけ彼女に依存して、彼女の温かい性格や優しさに甘えてしまっているのだろう。

少しは強くなった気がするのに、まだ彼女に甘えてしまっている自分を嘲笑っているとふと不快な感じが全身を駆け巡る。

 

“ーー!”

 

ゾワっと背筋を通しっていく不快なこのざわめきは敵が近くにいることを第六感が知らせているんだ。"具体的に言って"と尋ねられても答えることはできないけれども私の中にある第六感が告げている、近くに敵がいると。

 

“でも、どこ?”

 

スコープから目を外し、辺りを見渡してみても姿を現さないので今度は耳をすませようとした時だったーー

 

「ーー」

 

ーー後ろの茂みから銃口を向けられたのは。

見つけた時には既にトリガーは引かれており、自分のおでこ目掛けて伸びてくる銃道予測線(バレット・ライン)に沿って飛んでくる銃弾のみが刻々と私へと近づいてくる。

 

“ッ!!”

 

戦闘中、余計な事へと気を向けてしまった自分を恨みながら…近づいてくる銃弾を見開いた瞳で見つめていると私のおでこに当たる前に真っ二つに斬り裂く細長い物が目に止まらないスピードで目の前を通るのを唖然と見つめながら思うのはーー

 

“ーーあれ…?私…生きてる…?”

 

という事だった。

 

そんな突然の出来事に唖然としている私の耳に届くのはずっと聞きたかった私の好きなアルトよりの声が聞こえてきた。

 

「危ないところだったね、シノ」

 

荒風にはためく赤い革ジャンに色素が綺麗に抜けた真っ白な髪の毛、そして左手に握られている銀色に光る磨き抜かれた無機質な刀面をに映る自分まで見たところで私はきょとんとした顔で彼女を見上げる。だって、この戦闘に彼女が間に合うとは思っていなかったから……。

 

「…ヒ、ナタ…?」

「うん、随分待たせてしまったね、シノ姫様。藍色の目から涙が出ているようだけど…どこか怪我をしたのかな?それともこのおじさんに変なところ触られた?」

「…ふ、ふざけないで!この涙はそういう意味じゃないからっ」

「あらまー、久しぶりの再会なのに……シノ姫様ったら、あたしに冷たいこと冷たいこと。そんなに冷たいとカナタちゃん、泣いちゃうかも…」

 

しょんぼりするふりをしながら、アサルトライフルを構える軍服を着たPKスコードロンの一員へと左手に持った愛刀を向けた彼女・カナタが肩頬をあげるように不敵に笑う。

 

「さーて、うちの姫様を流せた罪をその身にたっぷり味わってもらうよ、おじさん」

 

そのセリフが言い終わると共にトリガーを引き、自分の身体に向かって飛んでくる銃弾を愛刀で切り裂いていくカナタ。

まるでダンスのステップを踏んでいるように軽やかに上半身を動かしては左手に持った愛刀が綺麗な一線を描いてはその軌道を飛んでいた銃弾が真っ二つに切り裂かれてはチリンと音を立てながら地面へと落ちていく。

 

「ふん!」

「……」

 

ある程度、銃弾を切り裂いた後にカナタは身を屈めてから一気に自分の間合いへと距離を縮めてから蒼い瞳へとマイナス0度の如く冷たい視線で見上げた後に左下から右上に向かって愛刀を振り上げていく。

その軌道に沿って身体を切り裂かれていくPKスコードロンの一員は何も言わないまま、ゴロンと真っ二つにされた上半身と下半身が転がる。

 

「………」

 

ポリゴンの破片となり消えていくPKスコードロンの一員を一瞥したカナタはフッと強張っていた表情を緩めると私へと右手を差し伸べてくる。

 

「立てる?シノ」

「ありがと、ヒナタ」

 

グイっと私を起こすと二人して森林を抜けると仲間達と合流を果たす中、カナタだけがみんなに"来るのが遅い!"と責められながら、何故か青空の一点をずっと睨んでいた。




ということで、お久しぶりの"カナシノ"どうだったでしょうか?
ハラハラとドキドキして頂けたでしょうか?

私の感想は久しぶりのシノンちゃん視点で話書くの難しい!!ですね(笑)
シノンちゃんにはこれからも活躍してもらうので、早く視点から書くのになれていきたいですね!

また、PKスコードロンの人が使っている銃の種類は、DVDを何度も見直してから私なりに判断して書いたものです。
アサルトライフルにロケットランチャー…見立てが間違えているのも多々あると思いますので"ん?これ違うんじゃない?"と思われた方は遠慮なく感想かメッセージにてご指摘頂けると嬉しいですし、私の勉強にもなりますのでどうかよろしくお願い致します(敬礼)



最後に、メモデフの方で子供のシノンちゃんとレインちゃんがガチャの方で登場しましたね!!(目がキラキラ)
私はもちろん引きました!そして外れました(滝涙)
ま…まーね…最近、二人との絡みなかったからね………うちの陣地に来てくれないのは………し、仕方ないさ……(精一杯の強がり)



さて、次回は随分遅れてしまいましたが"直葉ちゃん/リーファちゃん""香蓮ちゃん/レンちゃん"の誕生日エピソードをお届けしようと思います!

リーファちゃんは"オーディナル・スケール"編でのお祝い、レンちゃんは"ガンゲイン・オンライン"編でのお祝いを計画させていただいております。
どんな話になるか、楽しみに待っていてください!


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【★】カランコエを添えて011

すいません、長い間更新出来なくて……(大汗)

久しぶりの本編だったので、どう書けばいいのか迷ってしまいまして……ここまで時間が経ってしまいました……(汗)

すごく久しぶりなのでどこかおかしなところがあるかもしれませんが、最期まで読んでもらえると嬉しいです。

それでは、本編をどうぞ!!


【GGO首都 SBCグロッケンの酒場】

 

ビリヤード台に腰をかけて、足を組むと台に置いた右腕越しに黒い棒を構えると穴に向かって勢いよく棒を突き出す。

 

「ふっ」

 

すると、ガタンとボールとボールがぶつかり、ビリヤード台に取り付かれている穴へと吸い込まれるように4と書かれたボールが落ちていく。

 

「凄いです! カナタさん」

 

隣で嬉しそうに拍手するピンクと白の戦闘着を愛用して桃色の髪をサンドテールしている友人・クレハへと両手を突き出すとポンッとハイタッチを行なうと背後から近づいてくる全身を真っ黒なゴスロリ衣装に身を包んだ友人・スキアへと黒い棒を差し出す。

座っていた真っ赤なビリヤード台から飛び降りるあたしを出迎えるのはスキアの相棒で自称有能かつ高性能なAIであるアファシスのマフユだ。

 

「ほんとに凄い。カナタにこんな特技があったなんて、人は見かけによらない」

 

眠たそうに開かれた水色の瞳は長めの黒髪によって隠されており、パチパチと両手を叩いてくれてはいれるものの上のセリフ通り、彼女にとってマスターでもなんでもないあたしのプレイなんて些細なものなのだろう。実際、あたしがマフユに何をしても彼女は無表情を崩さないし口数も多くならない。

 

「えへへ〜、凄いでしょう? って、マフユさんのそれは遠回しの悪口で?」

「どう捉えるかはカナタ次第。それよりボクはマスターの技の方が見たい。やってみて、マスター」

「それ扱いされてる時点で馬鹿にされてるよね……」

 

時々、マフユのソルト対応が悲しく、必要以上に胸に来ることがある、本当どうしてだろうか……。

そんなあたしの心境を知ってか知らずかスキアはあたしの赤いジャケットをくいくいと引っ張るとビリヤード台を指差す。

 

「カナタさん、その技はどうやってなさいますの? こうですの?」

「ちゃうちゃう。スキアはまず肩の力を抜くことにした方がいいよ。ほら、リラックス〜」

 

スキアの真っ黒なゴスロリ衣装に包まれた細っそりした肩へと不躾に両手を添えたあたしを目ざとく見ていたのは我が恋人殿でその性格を表しているような鮮やかな水色の髪を揺らしてあたしに近づくとムギュと耳を摘まみ上げる。

 

「遅れて来た癖に何楽しく遊んでるのかしら?」

「すびまぜん、シノン様」

 

耳を引っ張られながら、半強制的にさっきまで座っていた席へと座らさせたあたしの隣に腰掛けているクラインが"ざまぁみろ"とニヤニヤ笑っているので思いっきりブーツで足を踏んでおいてからズズッとジンジャーエールを啜る。

因みに椅子の座り順はあたしから右にクライン、キリト、アスナ、リズベット、シリカ、シノンといったもので、その向かい側に座るリズベットにツンツンとツネを突かれる。

 

「ね、本当にあんたって遅れて来たの? シノンの説明だとまるでどっかの茂みからシノンがピンチになるのを待ってたみたいじゃない」

「いやいや本当にタイミングよくあの場所に駆けつけたんだって」

「本当に〜〜ぃ? なんだか怪しいわね」

「……何が怪しいってんだ……」

 

頭を抱えるあたしへとニヤニヤと意味深な笑みを浮かべているリズベットへとムスーと頬を膨らませながら見つめる。

 

「だって、シノンがピンチの時にカッコよく助けに入ったらいいところを見せられるじゃない。冷え切ってしまったシノンの中のカナタの評価を上げるチャンスじゃないかしら?」

「冷え切っているってなんだ、冷え切ってるって。そもそも、いいところ見せる前に仲間がピンチなんだから、カッコつけている場合じゃないでしょ」

 

そう言ってから"もうこの話は終わり"という意味を込めてから左手を横に振ってからジンジャーエールを啜る。

そんなあたし達の会話というか会議を聞いていたのか、さっきまでビリヤードを楽しんでいたスキア、マフユ、クレハが階段から降りてくるとあたし達の輪へとひょっこりと顔を出す。

 

「何の話をしてますの?」

「おう、スキアにクレハ、それにマフユか」

「こんにちわ、クラインさん」

「マスター。ボク、カナタの方に行きたい」

 

ひょっこりと顔を出すスキアの脇から同じく顔を出すクレハは揃ってクラインの隣に並んでおり、丁度クラインの目線の先に二人の胸元があり、顔には出さずともクラインの中でほんの少しほどやましい気持ちがあったのだろう…そのやましい気持ちを敏感に感じ取ったマフユはくるりと身を翻し、すぐ隣のあたしを壁にするような位置に移動するのを見届けた後は苦笑いを浮かべる。

 

"あたしってマフユの中で使い勝手のいい用心棒か雑用係なのだろうか?"

 

もしそういう認識ならば少し……いいや、かなり辛い。でも、まあ……どんなように認識されてようが助けを求めてくれたら、何があっても駆けつけようとは思う。だって、あたしにとってここに集まっている仲間達、そしてここに参加してない仲間達と一緒に体験した事はあたしにとってはかけがえないものだから。

 

「あらら。それではカナタさんの方行きましょうか」

「待って、ならあたしもカナタさんの方行くから」

「おいそれってないだろ……」

 

そんな湿っぽい事を考えているといつの間にかマフユのところへとスキアとクレハも集まっており、ガクンとクラインが落ち込んでいるのを見ていると流石に可哀想になり、ポンポンと背中を叩いてあげる。

 

「それで、皆で何の話をしているの? シノン」

 

あたしの隣へと移動した仲良し三人組はシノンへとさっきまで話していた事を尋ねる。

その質問にシノンは手に持っていたアイスコーヒーを机に置くと三人へと振り返ってからさっきまで戦っていた妙なスコードロンの話をするのを聞いてから、スキアは細っそりした指を顎に添えると形の良い黒い眉をしばしひそめてから話題に上がっているスコードロンを思い出そうと記憶の引き出しを開けていってから遂に思い出そうとしていた記憶を思い出すとスコードロンの特徴を言う。

 

「ここ最近でフィールドに現れるようになったPKスコードロンの話をしていたの。周りでも話題になっているでしょう?」

「あー、あのPKスコードロンですの。確かに有名ですわね、普通のPKスコードロンはアイテムやお金が目的なのに倒してもそれらを一切取らずにプレイヤーを襲い殺す事だけを淡々と行なっているらしいですものね」

 

淡々な口調ながらも苦々しい顔になるスキアにアスナはハッとしたような顔になると恐る恐る尋ねる。

 

「スキアちゃん達ももしかしてあったことあるの?」

「わたくし達は今のところはあった事ないですわね。それに狙われたところで其々ソロプレイには慣れてますもの、そんな簡単にやられはしないですわ」

 

不敵に笑うスキアの隣で大人しく話の流れを聞いていたマフユが気になることがあったのか、長めの前髪に隠れている眉をひそめる。

 

「もって事はアスナ達はそのスコードロンと戦ったことがあるの?」

「アスナ達は戦った事は今回が初めてじゃないかしら? 私とカナタはしょっちゅう鉢合わせちゃうけど」

 

そう言って、責めるような視線を左横から感じて、あたしはその視線から逃れるように宙を彷徨うと乾いた笑い声を浮かべる。

 

「あははは、そんな怖い顔しないでよ、マイスイートガール」

「貴女が余計な面倒事を増やしてくるからでしょう」

「……すんません」

 

シュンと肩をすぼめた時に視界の端にあった黒い塊が右隣へと傾いていくのが見えて、顔を上げると長い黒髪を揺らしてからキリトがアスナの肩へと頭を乗っけてからスヤスヤと寝息を立てている。

 

「……すぅ……すぅ……」

 

そういえば、あたしが"あの機械"から目を覚ました時に隣で同じようにテストプレイをしていたはずのキリトの様子がなかった……それに隣のシーン湿っているように思えた……これは憶測でしかないが、キリトはテストプレイの後に泣いていたのかもしれない。何に対して泣いていたのか? それはわからない、だってあの世界での出来事は現実(こちら)には持ってこれないのだから。

 

"でも、なんでだろ……あたし自身、あの世界に置いてけぼりにしてきたものがある……ような、気がする……"

 

それが大切なものだったのか、忘れたいくらいに嫌だったことなのか、それすらも思い出せない。

モヤモヤする気持ちごとこの問題を忘れようと試みているとあたしの名前を呼ぶ声が聞こえて、前を向くと心配そうな顔をしているシリカが居た。

 

「タさん……? カナタさん……?」

「……!」

「さっきからボゥーとしてますよ」

「…あはは、あたしもキリと同じで眠いんだろうね…」

 

実際眠いし、さっきから瞼重たいし……もうこうして話しているだけでも気怠く感じて、このまま机にふっしたい思ってしまう。

 

「もう〜っ、主要メンバーが二人揃って、体調不良なんてシャレにならないわよ」

「……あはは、面目無いっす」

 

カキカキと頭をかくあたしはログアウトしていくみんなを見送った後にシノンの用事が終わるのを待った後にようやく我が家の布団に潜ることが出来るのだった。




これまた久しぶりの登場のスキアちゃん、マフユちゃん、クレハちゃんの三人組。
変な口調なってなかったのか、心配ですが……個人的にはこの三人娘は書いてて楽しいのです(笑)
幼馴染だからこそなせる技といいますが、目と目で通じ合える仲っていいですよね〜(微笑)



最後に、この前Amebaさんにて【SAOシリーズ10周年記念】と約3時間特番がありましたねッ!!(うおおおおおおおおおおッ)

私は終わってから視聴させてもらったのですが……いやー、キャスト陣の皆さんの浴衣姿が眩しくって…… はぁ……やはり、和っていいですね……(しみじみ)
と、浴衣の話題は程々にして……肝心の内容についてですが、SAOファンからすれば嬉しい話題が盛りだくさんでしたね!

主な項目は【SAO1期、2期のキャスト陣が選んだ話数や他のところでの見どころと振り返り】【アリシゼーションの前半のキャスト陣の選んだ話数や他のところでの見どころ、そして War of Underworld最新情報】【10周年記念 SAO展 エクスクロニクル】の三つが主な内容で【松岡さんとヒロインでの二人っきりでの対話】というのもありましたね(微笑)

私が特に目を引いたのは【10月から始まるアリシゼーションの後半の新情報】【10周年記念 SAO展 エクスクロニクル】の事でしょうか。

まずは【アリシゼーション War of Underworld】のキービジュアルとPV どちらも凄い良かったですよね……もうテンションがマックスになりましたね〜♪ 映像綺麗だし、原作を読んでいる身からすればあのキービジュアルはね……また、前半が背景が青系統だったのが、後半は背景が赤系統なのですね……しかも禍々しい感じですもんね……あと、左上のあの人がね……あの人が、ね………とこれ以上書いてたら、ネタバレしちゃうと思うのでここまでにしようと思います(微笑)

続けて【エクスクロニクル】のコーナー説明はどのブースも魅力的でしたね!!
しかもバイノーラルマイクで録音したキリトくん、アスナちゃん、ユイちゃんの声が聞こえるんですよ!!絶対それだけでもテンションが上がりますね〜♪
また、小さい頃のアリスちゃんAIとお客様AIとの会話っていうのが心弾みますねっ。
他にもグッズもいいですよね……特に10周年記念のイラストが描かれているファイルのイラスト……アリスちゃんのドレス姿……特にスリットがかなりやばいところまで入っていることに目のやり場に困る一方、素足が綺麗だなぁと改めて思いました(微笑)


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【★】カランコエを添えて012

4月20日から更新を止めてしまい、すいませんでした(高速土下座)

こっちの更新は休む前から数えるとかなり久しぶりですね……。


忘れている方もいらっしゃると思いますので、簡単なあらすじを……

GGOで謎のPKスコードロンに遭遇したシノンとキリト君達は作戦通り、敵を追い詰めていくのだが……
その中、シノンちゃんが敵の罠にはまり、ピンチ!!
シノンちゃんにあと少しで銃弾が近づく中、遅れてきたカナタが乱入。
カナタの乱入後、撤退していくスコードロンを見送ったカナタ達は行きつけのバーにて……対峙したスコードロンについて、そこに居合わせたスキアちゃん達と意見を交わす。

今回の話はその後の話となってます。

久しぶりなので……文章が可笑しいかもですが、楽しんでもらえると嬉しいです…!


【詩乃・陽菜荼のマンション】

 

2026年 6月28日 日曜日。

 

あたしこと香水(かすい) 陽菜荼(ひなた)はマンションに鎮座してあるシングルベッドの上、恋人兼同居人の朝田(あさだ) 詩乃(しの)と並んで眠っている。

詩乃が落ちて身体を打たないようにあたしがリビング側で彼女が壁側……なのだが、何故か最近ではあたしの朝寝坊回数が多く、立場が逆になっている。理由は至って簡単で。あたしがリビング側だと窓側で寝ている詩乃の邪魔らしい……。無駄に縦に長い身体が跨ごうとするのに邪魔で踏んづけてしまうらしい………いや、そもそも無駄に縦に長い身体で邪魔とか酷くない……? それ、恋人にいうセリフ? 辛辣すぎない? と半ベソ気味に訴えてみるとーー

 

「え? いつものことでしょう? 今更でしょ」

 

ーーと真顔で言われた。

それ尚更酷くない? と号泣しながら喚くが……その後、詩乃に「ごめんね。意地悪してみたくなっちゃった」とちろりと舌を出しながら言われてしまったならば、許さないわけにはいかないだろう。だって、あの詩乃が意地悪に笑いながら、舌チロリだよ……めっちゃ可愛くね!?

 

「んーっ」

 

ということで、いつもの如く寝坊助した朝。開いた窓にポタポタと水滴がガラスへと張り付くのを横目に両腕を天へと突き出しながら、あんぐりと大きな欠伸をしながら立ち上がる。立ち上がった先にふらふらと覚束ない足取りでポリポリと髪の毛を掻きながら、リビングへと近づくと丁度朝ごはんを作っていた詩乃が振り返ってくる。

 

「おはよう、陽菜荼」

「おは〜、しの〜」

 

癖っ毛の多い栗色の髪をポリポリと掻き、橙の寝巻きの隙間からお臍の方へと手を入れ、ポリポリと痒いところへと爪を立てていく。

その様子を火を止めてみた詩乃は曇るからか愛用している黒縁眼鏡をしておらず……焦げ茶色のショートヘアーと同色のまん丸の瞳があたしをまっすぐ見つめてくる。が、視線が呆れを含みながら、髪の毛を掻いている右手とお臍をポリポリ掻いている左手へと熱視線が注がれる。

 

「もう、女の子なんだから。頭を掻いたり、お腹掻いたりしないの。ほんと、だらしないわね。貴女って。……顔、洗ってくるの?」

「んー……」

「それはそうと、また、寝ぼけて床や寝間着に水かけないでよ。掃除と洗濯大変なんだから」

「わーてるって」

「分かってないから言っーーちょっと、陽菜荼!」

 

一度詩乃の小言に捕まると日々溜まりに溜まっているのもを全部吐き出すまで離してくれなくなるので……いいところまで聞いてから戦略的撤退としよう。ふわー、ねむ〜。

 

「聞いてるの!」

 

まだ後ろから聞こえてくる詩乃の小言を大欠伸で消し去ってから脱水場へと入っていく。

左手で蛇口へと掌を載せるとクルッとひねる。そして、ジャージャーと凄い勢いで流れ出す水を掬うとパシャパシャと眠気が充満している顔へと押し付けていく。

だが、眠すぎて……両手が上がりきらないうちに器になっている液体からポタポタと足元、橙の甚平へとシミを作っていく。

 

“あ……れ? 腕が上がらない……”

 

両手で器を作っては顔に押し付けるのを繰り返しているとあたしの足元には水たまりができ、橙の甚平の下半身がびしょ濡れになる。

"こんなにびしょ濡れになって……また詩乃に怒られてしまうな……"と失笑していると背後から聞き慣れた大きな呆れ声が聞こえてくる。

 

「はぁ……もう……」

 

呆れ声の方へと振り返るとパッチンと頬を両手で叩かれる。

 

「目は覚めた? 陽菜荼」

 

頬を叩かれた激痛により覚醒された意識の中、困った表情を浮かべる詩乃の顔があり、あたしは自分が汚してしまった床と衣服の方を見る。

 

「嗚呼……自分がしてしまった罪もね」

「分かっているのなら結構よ。ちゃんと罪は償ってよね」

「OK。詩乃お姫様、仰せのままに」

 

舞台俳優のように大袈裟な礼をするあたしを両肩を上下させてからヒラヒラと手を動かしながら、リビングへと去っていく詩乃を見送ってから……あたしは顔を洗ってから、近くにある洗濯機へと濡れた甚平を投げ込んでから、床に出来た水たまりをタオルで拭き取る。滑らないように何度も拭き取ってから洗濯機に入れてからリビングに帰り、箪笥から私服を取り出す。

右手に掴んだのは変なロゴが付いたオレンジ色のTシャツ。左手にはダメージジーンズで……朝ご飯をテーブルに運んできている詩乃の視線も気にせず、着替えを実行していると再度呆れ声が聞こえてくる。

 

「貴女ってほんと同性なの?」

「失敬な。このたゆんたゆんな胸が見えんと申すか、朝田殿」

「貴女のって、私と同じくらいじゃない………」

 

顔を半分隠して、あたしの胸部へと視線を向ける詩乃へと身を乗り出してから胸部を強調してみる。

左右に突き出している乳房を震わせてみると詩乃の表情がみるみるうちに真っ赤に染まっていき、首と耳も紅く染まると爆発していく。

 

「触る?」

「触らないわよ!」

 

プシュ–––––––––ッと湯気が噴火するとパシンと思いっきり右頬をぶっしばかれる。

右頬を軸に周りの景色がグルングルンと回転しながら飛んだあたしはベッドの上で数回バウンドしたのち、気を失ったのだった……。

 

気を失ったあたしは思うーーやはり、うちの恋人殿は怒らせると怖いと………。




開始早々。下ネタ交じりですいません……。
最近は割とシリアスさんが居座っていたので、偶には…とギャグさんに来ていただいたのですが……楽しんでもらえたでしょうか?
ちょこっとだけでもクスと笑ってもらえてると嬉しく思います(微笑)



さて…
7/9にSAOテレビゲーム最新作【アリシゼーション リコリス】が発売され
7/11にSAOアニメーションの【アリシゼーションWoU】が放送開始となりましたね♪

私は9日にリコリスを購入してからはプレイさせてもらい、11日にアニメを見てからというものの……SAO漬けの日々を送られてもらってます…(照れ笑い)

アニメはアリシゼーション4クールの最後を飾るクールという事で……背景と演出は美しく、前々から言われていましたが……一つの映画を見ているように思えました。
特にリーファちゃんのHPが回復する時に大地に花が咲くシーンとか鳥肌が立ちましたッ(ブルブル)
また、ベルクーリさんVSベクタの対決なんて……鳥肌どころじゃなかったです……。ベルクーリさんのありすちゃんへの想いも泣けましたし、最後の力を振り絞って闘うシーンなんて……何度もリピートしたことか……。最後のアリスちゃんを膝枕してくれているシーンなんて号泣ですよ……そうか……ベルクーリさんはアリスちゃんの事を弟子ではなく、"娘"と感じていたのですね……。

一方のリコリスは原作ともDVD・Blu-ray初回特典の小説とも違う展開で私は大興奮でした!
ユージオくんが生きていてくれること、そして何よりもカーディナルさん?ちゃん?……ちゃんかな?ともかく、カーディナルちゃんが生きていてくれることがとても嬉しい!
また、オリジナルキャラのメディナちゃんも可愛いですからね♪
ネット上では様々な意見が飛び交っているようですが……私個人は大満足の作品だと思います!むしろ、アニメの放送を控えているのに……ゲームをここまでのクオリティで発売してくれたことに大感謝ですよ!!

そんなリコリスの内容はプレイなされている方のネタバレになるかもですので……あまり語りません(因みに私は4ー2まで進めてます)

ですが、一つだけーーシノンさんの戦闘着、いつものことながら…露出多すぎん…?(震える声)
美しいくびれにお臍、胸も角度によっては見えちゃってるし……ダァァァァァァ!!!!(歓喜の咆哮)
ファンとしては嬉しいけど、目のやり場に困る!!!!凄く困るッ!!!!だけど嬉しい!!!!なんだこの感情ォォォォ(大混乱)
特に角度によって見える胸元とか……下に履いている短パンから見える藍色のアレは何ィ!?ショーツ!ショーツなのかァァァァ!!!!上着から伸びているあの紐を切ったら下にひらりと落ちるのかァァァァ(興奮しすぎて変態用語を言いまくるど変態)
はぁ……落ち着け、落ち着くんだ律乃……スゥーーハァーーー。よし、落ち着いた……。

シノンさんの戦闘着以外では……そうですね。
アリスちゃんと街を歩く際に普通の気分の時に"手を繋ぐ"を選択した時の『い、いけません……』という声が好きだったりします……(デレデレ)
普段、凛々しいアリスちゃんが動揺する声と動揺している姿を思い浮かべると愛おしく思えます(微笑)

さて、このリコリス編はメインストーリーの方で書いていこうと思ってますので……更新はかなり後になると思います。
原作の話も原作でいこうと思います。
ですが……DVD・Blu-ray初回特典の小説でのIFストーリーではリコリスのオリジナルキャラのメディナちゃんを登場させようかさせまいかで迷ってたりします…(笑)


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【★】カランコエを添えて013

(アニメでシノンちゃんの見せ場があると聞いたので)初投稿です。


【ダイシー・カフェ】

 

窓際にある四人がけのテーブル。

背後から響くしとしとと雨露の音、瞼に浮かぶ細い路地裏の向こうを行き交う色とりどりの傘は何度見ても見飽きたらない。

 

「って、こらっ。寝ないのっ」

 

うつらうつら……と瞼の裏に浮かぶ風景に想いを馳せるあたしを小突くのは左隣に腰掛ける恋人殿だったりする。

あたしを固くたびに顔の横に束ねられている房が左右に揺れる度に催眠術にかかったように眠気が降ってきて、その眠気を追い払うためにこっちを見つめてくる髪の毛と同色の瞳を机に腕を組んだ上から見上げてみる。

アオリから不躾にジロジロと恋人殿を見ていると彼女と色んな世界で旅をし、その度に色んなトラブルに巻き込まれたことを思い出す。

 

死者数千人を出したデスゲーム、ソードアート・オンライン。略してSAOでは赤と黄緑、黒を基調とし、高すぎる露出度と"どんな風になってるの? "と純粋に思える戦闘服に身を包む弓使い(スナイパー)だった。

 

多種類の妖精達が暮らす世界、アルヴヘイム・オンライン。略してALOでは黄緑と黒を基調とした戦闘服に身を包み、扱い勝手が難しいロウボウを扱う山猫系猫族妖精(ケットシー)弓使い(スナイパー)だった。

 

銃と火薬の香りが充満する世紀末の世界、ガンゲイル・オンライン。略してGGOでは黄緑と黒を基調とした戦闘服を身に纏う狙撃手(スナイパー)だった。

 

拡張現実(AR)専用のゲームソフト、オーディナル・スケール。略してOSでは黄緑と黒を基調とした軍服に身を包む狙撃手(スナイパー)だった。

 

こうして思い返してみると詩乃ことシノンとは様々な世界を回り、その度に色んな問題に巻き込んでしまって、本当に申し訳ないと思うし、こんなあたしを支えてくれる彼女にはもっと感謝の言葉や態度を取った方がいいのかもしれない。

だが、今日ばかりは無理だ……朝に受けた右頬ビンタによる精神疲労が半端ない。もう少し寝かせてもらわないと回復できない……って事でお休みなさい。

 

「って、また寝てるし……陽菜荼、起きて」

「むー」

「頬を膨らませてもダメなものはダメだから」

「いいじゃんか。まだ朝誰かさんに右頬ぶっ叩かれた古傷が痛むんだから」

「なっ!」

 

わざとらしく右頬を摩ってみれば、みるみるうちに頬を赤く染めた詩乃はガタッと大きな音を立てながら、勢いよく立ち上がるとビシッとあたしを右人差し指を向けてくる。

チラッと右人差し指を見てみるとプルプルと小刻みに震えているところを見るとよっぽどあたしの愚痴りが効いたようだ。

 

「あ、あんたねぇ! それを言ったら、変な事言って私をけしかけたのは陽菜荼でしょ!!」

「あーあーきーこーえーまーせーんー」

 

愚痴愚痴と小言を言う詩乃の言葉を両手で覆い、顔を背けようとするあたしの顔をバシッと両手で鷲掴みにした恋人殿はグイッと無理矢理自分の方に向けさせると耳を塞いでいる両手をひっぺがそうと力む。

 

「耳を両手で塞ぐってことは聞こえてるんでしょう。いいから、聞きなさいッ」

「だから聞こえないってッ」

「聞こえないなら両手で耳を塞ぐ意味なんてないでしょう」

「日常で両手で耳を塞いではいけませんって法律はないでしょ」

「法律って……もうっ、あんたって人は……。

思えば、昔からそうよね……頑固っていうか、意固地っていうか……グレると自分の殻に閉じ籠って、こうやって子供じみた事をする。

いつも思うけど……貴女は私を困らせて、何がしたいのよ……」

 

壮大なため息と共に力んでいた両手を離した詩乃は疲れたようにテーブルの上で腕を組み、右腕を立てる。外に出るときは愛用している黒縁メガネをテーブルに置いて、目と目の間を親指と人差し指で摘んでいる詩乃の横顔はあたしとの言い合い、そして詩乃曰く"子供じみた事"の対応でドッと精神疲労を受けてしまったようだ。眉間をモミモミした後にアイスコーヒーを口に含む動作すら優雅さが欠けている。

その仕草に流石のあたしもやりすぎたと思い、謝ろうと思うが……心の中央部に居座っているあたしがこういうのだ。

 

“子供じみたって……そんな事をさせる詩乃が悪い”

 

と、どうやら詩乃の言う通りで……あたしはあたしが思うほどに面倒な奴らしい。だが、あたしはこういうやつだ。直す気もさらさらないし、今更直せるものでも無いだろう。

 

“だけど”

 

そんな面倒くさいあたしを詩乃(きみ)だけは見捨てなかったよね。

小学生の頃から頬を膨らませて何も言わずにいじけるあたしを見つけ出した君はいつも困ったような顔をした後にため息をつきながら、隣に腰を落として『私はこの本をここで見たいだけだから』って素っ気なく言ってから……何も聞かずにずっと隣に居てくれたよね。

無表情でどこか不機嫌そうにページをめくる君から伝わってくる体温はみんなが言うように"冷たく"なんかなかった。暖かくてホッとするけど……少しの風で消えてしまうくらいに小さなぬくもり……。

そのぬくもりにあの時のあたしはどれだけ救われていたんだろう……。

 

「………………詩乃。あたしは君のそういう所に惹かれたのかもしれないね……」

 

お節介焼きで、世話焼きで、素直じゃないけど優しくて、一人でいいって強がっているけど本当は寂しがり屋さんで、君が隠れて色んな事を頑張っている事をあたしはちゃんと知ってるから。

いつも愚痴愚痴と小言を言うけど……その全部があたしを思ってってちゃんと分かってるから……。

あの時もらったぬくもりに比べると全然少ないかもだけど……今度はあたしが君に返す番だ。どんだけ時間がかかってもゆっくりでも君に返していけるようにあたし自身努力していく。

だから、この面倒くさい奴をこれからもよろしくね。

 

そんな想いを込めて、はにかんでみせると怪訝そうな視線が返ってくる。

 

「?」

 

眉をひそめる黒縁眼鏡にははにかむあたしが映り、ガラスの向こうでは困惑と不機嫌が入り混じった焦げ茶色の瞳があたしを捉えている。

と思ったら、後部の方へと視線が向くのを見て、あたしもそっちの方を向くとレトロなドアを開けて、待ち合わせをしていた友人の一人、桐ヶ谷 和人がこっちに片手を上げながら入ってくる。

 

「カナタとシノンが喧嘩って珍しいな。外まで声が聞こえていたぞ」

 

カランと音を立てながら、入ってきた和人の一言に詩乃が青ざめ、あたしは無邪気に聞き手を振る。

 

「っす」

「よーす」

 

あたしの右横、詩乃の向かい側に腰をかけた和人に青ざめていた詩乃が抗議の声を上げる。

 

「キリト、遅いわよ」

「悪い悪い。久しぶりに電車に乗ってさ」

 

そう言って、カウンターであたし達のやりとりを黙って言いながら何故かニヤニヤしていた強面マスターへと「俺、カフェ・シェケラート」と注文してから、あたしと詩乃の机の上に置いてあるコーヒーカップやコップを見て、怪訝そうな顔をし、何度も詩乃の顔をチラ見するので……詩乃が不機嫌な顔つきになり、声を荒げる。

 

「キリト、あんた変な事考えているでしょ」

「いや……歩いてきたにしてはすごい喉が乾いたんだな……って」

 

和人の黒い瞳に映っているのは詩乃の前に並べてあるコーヒーカップとコップの二つ。

コップにはシュワシュワと水泡が小麦色の液体を泳いでは空中へと飛んでいき、コーヒーカップの中ではカランカランと氷が音を立てている。

そこまで見てから隣に座る恋人殿を見てみるとみるみるうちに顔を赤くし、あたしを指差す。

 

「ち、違うわよっ。このジンジャーエールは元はこの子」

 

紹介されて飛び出てジャジャーン。そうです、噂のあの子こと香水陽菜荼ちゃんです。

 

「辛いのとか苦いのとか嫌いなくせに。カッコつけて……『マスター。ジンジャーエール、辛口で!』って注文しちゃって、一口飲んで要らないからって私の方に押し付けてきたってわけ」

 

押し付けたとは酷い言いがかりだ。陽菜荼ちゃん、ぷんぷんしちゃうんだからね。

頬を膨らませてみるとかえってくるのは計4つの哀れんだ瞳、悲しいのなんのって……。

 

「………」

「……だ、だって……あんなに辛いって思わなかったんだもん」

 

あたしが出せるキャパ☆とした声で言ってみると詩乃はもう相手してられないとコーヒーで喉を潤していく。

 

「だもんじゃないわよ……」

 

嗚〜呼、また詩乃が不機嫌になった。キリトのせいだからねッ!!

 

「俺のせいかよ……」

 

和人へと抗議の視線を向けると詩乃に指を差される。

 

「言っとくけどキリトが4だとすれば6は陽菜荼だからね」

「あたしが6ッ!? 可笑しいだろぉ!! なんで、キリトに4もあげなければならない。10点で満点なら、10点をあたしに付けるべきだ!」

「それシノンにスッゴイ迷惑って思われているって事だからな!」

 

ふふふ、このあたし様はそんな瑣末なことに興味はないわ。重要なのはどれだけ詩乃に必要とされているか、ただそれだけなのだ!

故に、和人。済まないが、君には一点もあげられないのだよ……。

悔やむならばあたしの万能さを悔やむといい。

 

「ドヤ顔したり顔している場合じゃないと思うけどな……」

 

和人のそのツッコミも続けて、ドアを開けて現れた人物が立てるドアベルの音によって掻き消される。




シノンちゃんに感謝したりからかったり……日常回でも忙しない人ですね、陽菜荼は(失笑)

こんなめんどくさい奴ですけど、これからもよろしくお願いします、シノンちゃん。







15話は最初、シノンちゃんとアリスちゃんの会話で始まりましたね!
私はすごく興奮しながら観てました。
理由は二人とも推しキャラなんですけど……原作や他のイラストでも二人が隣になっているものってあまりないんですよね……。
なので、そういう面では嬉しい回だったんですけど………その後から怒涛でしたね……。

すごく気になるところで終わってしまったので、16話が楽しみであり……憎しみにとらわれないか、不安になってみたり……(笑)



リコリスの進行具合ですが、やっとこさラストバトル直前(6ー1)までいきました!
後はやり残した事をしつつ、レベ上げして、セントラル・カセドラルの最上階まで行くだけ。

ハァシリアン、てめぇだけはぜってぇ許さんッ!!!!


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【★】カランコエを添えて014

(サトライザーとヴァサゴに殺意を覚えたので)初投稿です。


【ダイシー・カフェ】

 

梅雨に入り、絶え間無く降り続ける雨により冷やされたコンクリートから蒸気が放出されている。

ジメジメと暑く、じっとりと汗が滲んでくる過ごしにくい季節ではあるが、テクノロジーの気配を一切排除した隠れ家的カフェの窓側に腰をかけ、大通りを通る色取り取りの傘が通るを見るのは嫌いではない……と詩乃が言っていたような気がする。

確かにこのカフェから眺める景色はあたしも嫌いではないし……このカフェの強面亭主とは古くからの知り合いな上、あまりお客が来ないのでばか騒ぎしてもお咎めなしなので……事ある毎にあたし自身もこのカフェへと足を運んでいる。

といっても、あまりばか騒ぎしていると亭主からの鉄槌が下るので……常日頃からどんちゃん騒ぎというわけにはいかないのだが……。

 

そんなどうでもいい事を考えながら、詩乃と後からやってきた和人をからかい、遊んでいるとガランとドアベルが音を立てて、もう一人の待ち人が姿を現わす。

人一人入れるくらいに開いたドアから覗くのはサラッと揺れる栗色のロングヘアー、雨露が滴る傘を近くにあるビール樽に差し込んで、闖入者は四人がけの三つが埋まっているテーブルへと満面の笑顔を浮かべると利き手を上げる。

 

「シノのん、ひなちゃん、こんにちわ」

「こんにちわ、アスナ」

「ちわー、アッスー」

 

左手をパタパタと横に振り、入ってきた闖入者こと結城(ゆうき) 明日奈(あすな)を迎え入れたあたしが正面に腰掛けるのを見つめながら、首を傾げる。

 

“そういえば、なんでアッスーがここにいるんだろ…”

 

この話し合い自体も詩乃に呼ばれ、付き添いとして付いてきただけなので……これから何を話し合うのかは聞かされてないのだ。

なので、ついマジマジと真っ正面に腰掛ける明日奈の整った顔立ちを見つめ続けてしまう。

はしばみと蒼の瞳が交差し続け、暫く経った後、クスクスも小ぶりな唇から澄んだ声が流れてくる。

 

「ひなちゃんってとても分かりやすいよね。キリトくんと同じくらい」

「ええ!? なんでそこで俺が出てくるんだよ」

「確かにキリトとヒナタってとても似ているわよね。何処からか女の子をナンパしてくるところとか」

「……」

 

“や、やばい……。からかいすぎたせいか……。言葉の端々に棘がある……”

 

明日奈に引き合いに出されてオーバーリアクションする和人。その和人とあたしを横目で見てから、サラッと身震いしてしまうくらい冷たいセリフを言ってのける詩乃様。

和人とあたしの喉からは変な声が上がり、明日奈は苦笑いを浮かべながら……ここに来た理由を教えてくれるのだった。




短いですが、この回はここまでで筆を置きます。





アニメ16話は手に汗が滲みましたね。
シノンVSサトライザーの対決は最初から発狂しそうでした。
サトライザーがシノンちゃんを抱きしめて、キスしそうになった時は本気で『サトライザーァァァァ!!!!」って叫びそうになりました。
ですが、ヘカートを心意の力で呼び出してからのシノンちゃんはマジカッコよかったです!

カッコいいといえば……シェータさん達を助けたリーファちゃんもマジカッコよかったですよね!
『こんな奴ら、何万人来たって返り討ちにするんだから』ってバッサバッサと敵プレイヤー達を倒していく姿はまさに剣士です!

ですが、その一方アスナちゃんの陣はヴァサゴの巧妙な罠にかかり、投降してしまいましたね……。
ヴァサゴは最後、キリトくんの前に立ち、ニンヤリしていましたが……一体何をする気なのだろうか……。

17話にして、遂にキリトくんが目覚めるのか!!?

その面を楽しみにしつつ、17話を観させてもらおうと思います。




リコリスは6ー2となり、絶賛レベ上げ中です。
他に報告することは、メディナちゃんとアリスちゃん、シノンちゃんのご褒美衣装の解放。
上の三名のエピソードクエストのクリア。
アリスちゃんとシノンちゃんと添い寝しました。


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【★】カランコエを添えて001 ※ネタバレ喚起(かんき)

何ヶ月も更新を休止してしまい、すいませんでした(高速土下座)

そして、更新初となる話はタイトルにもあるように【ネタバレ喚起(かんき)】とあるように、止まってしまっている話から随分と物語が進み、佳境となっているところとなっており、ネタバレ満載の内容となっています。

もう追いつくのは絶望的ですので、フライング更新でアニメ版まで追いつくように主筆し、止まっている話もサボった分、がんがん更新していこうと思ってます。

こんなにも待たせてしまった上に我が儘な事をしてしまい、本当にすいません(深く頭を下げる)

こちらはフライングですので、前書きと後書きは基本なしになり、アニメ【WoU】の感想は止まっている方にて書かせていただこうと思ってます。

最後の最後に『ネタバレは嫌だ』『のんびりでいいから、時間軸通りにストーリーを楽しみたいや』と思われる方はお手数ですが回れ右をしていただき、再開するのはもう少々お待ちください(土下座)

それでは、長くなってしまいましたが………アンダーワールドでのカナタの、そしてキリトくん・ユージオくん・アリスちゃんの最後の戦いを見守ってください。

では、本編をどうぞ(リンク・スタート)!!




ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)


 

【公理協会 100層《神界の間》】

 

人界暦三八〇年五月。

《神界の間》と呼ばれるその広場の天井はドームのようになっており、有名な画家に描かせたような美しいアンダーワールドの風景、そして三人の女神が描かれていて……その美しい壁絵を更に幻想的と思わせているのは、夜空に浮かぶ星のようにランダムに配置された無数のクリスタルのようなものだろう。

そんな天井に覆われた広い広場には本来ならば真ん中にポツンとワインレッドと黄金を基調としたダブルベッドが鎮座しており、そのベットの上には公理協会、そして人界を()べる《アドミニストレータ》が身体を休めているのだが……今はベッドのベの字もなく、ものけの空となった広場の中央、ヒヤリと無機質な冷たさを感じるホールへと白粉(おしろい)を付けた丸顔を擦り付け、全身全霊な土下座をしている赤と青を基調とした道化師のような服を着込んだ小太りな男がいた。

その男、チュデルキンは興奮かはたまた土下座している先で空中で優雅に足を組んでいる主人へとお願いをするという光景に緊張しているのか、震える声でもしっかりと自身の私欲を口にする。

 

「小生、元老長チュデルキン、猊下にお仕えした永の年月におきまして初めての不遜なお願いを申し上げたてまつりまするぅ!! 小生これより、身命を賭して反逆者どもを殲滅致しますゆえっ! それを成し遂げた暁には、猊下のっ! げっ、猊下のぉぉっ、尊き御身をこの手で触れっ、口付けしっ、い、い、一夜の夢を共にするお許しを、なにとぞ、なにとぞ、なにとぞ頂戴致したくぅぅぅぅぅぅッ!!」

 

“な……”

 

"何いってんだ、この小太り道化師(ピエロ)ッ!!? "という言葉すらも言えない程にあたしは口をあんぐりと開けたままにその場に硬直する。

開いた口が塞がらない––––その(ことわざ)はまさにこの事を言うのだろう。

 

「……ねぇ、アリ。アレ何言ってんの」

 

突然奇行に走る小太りピエロに対して思った感想を隣でチュデルキンとアドミニストレータの攻撃や術式の奇襲に備えて、《金木犀(きんもくせい)の剣》のグリップを利き手で握りしめている目が冴えるほどに美しい青と金色の軍服と鎧で華奢な体躯(たいく)を包み込んでいるアリスへと思わず耳打ちしてしまう。

 

「バカなの? いや、アホ……ううん、バホなのか。それも人界一に違いない」

 

ああいう人種ってどこにでもいるんだね……思わずあの二人を思い出してしまったじゃないかっ……あ、生理的な嫌悪のせいか、身体が既に拒否反応を起こしてる。

ゾゾゾ……と悪寒が背筋を走り抜け、眉をひそめるあたしを見て、既にチュデルキンへの拒否反応が出てしまっている事を感じ取ったアリスは同じく形の良い眉を心底嫌そうに潜めると耳打ちしながら、床にひたいを擦り付けて必死にアドミニストレータへとおねだりしている元老長を指差しているあたしの左人差し指へと右手を添えてからそっと下へと下げる。

 

「……カナタ。指を指してはいけません。あやつの愚さ……いいえ、あなたの言葉を借りるならば、人界一のバホが移ってしまいますよ」

「うわぁっ!? ばっちぃ……。アリ、えんがちょして」

「え、えんがちょ? この重なったところを切ればいいのですか?」

 

心底嫌そうにその場から飛びのいてから急いで右人差し指と左人差し指を重ねてから自分の方を振り向いてくるあたしの顔と重なり合う指先を暫し見つめた後、戸惑いがちにスットンと黄金の籠手(こて)に包まれた手刀が通るのを近くで見ているのはこういう時なのに緊張感がまるでない行いをするあたしの右横で並びあって、失笑を浮かべている黒い布地に微微たる白の布地、黄金の線が走る騎士服を着込んでいるキリトと青い布地に白い布地と線が走る騎士服を着込んでいるユージオ……そして、さっきから散々な言われような元老長であるチュデルキン、その人だ。

真っ白でまん丸な顔を激昂(げっこう)で染め上げ、真っ赤っかにしてからえんがちょした後でも今だに悪口をこそこそ……といっても聞こえるように言い合っているアリスとあたしを振り向きざまに指差す。

 

「30号、31号聞こえてますよぉ!! さっきから黙っておれば小生の事をアレやバホとよくも侮辱してくれましたねッ!」

「いや、誰だってあんたみたい(クズ)になりたくないじゃん……ばっちいし……やっぱ、ばっちいし……」

 

ぶらぶらと両手を振りながら、そう言うあたしのことがよっぽど気に入らないのだろう、まん丸な顔へと血管が浮き出ており、誰が見ても彼が忿怒(ふんぬ)している事が分かるだろう。

 

「き、貴様ァァァァ!!!! 猊下を裏切ったばかりか、元老長である私も裏切ると言うのかァァァァ!!! 出来損ないの人形の癖にッ!! 命令一つもろくにこなせない出来損ないの分際でェェェェェェ!!!!」

 

激怒に身を任せ、ホールに響き渡る程の子供じみた怒声を喚き散らすチュデルキンの叫び声をあまり聞きたくなかったあたしは両耳を塞ぐとふて腐れたように言う。

 

「あー、あー、うっさいなぁ、もう……。だからさっきからそうだって言ってんじゃん。それにあんたらの元に戻ってきた時からのあたしの心はいつも一つ––––」

 

塞いでいた両耳を下ろすと右腰にぶら下げていた《泉水(せんすい)》の柄を握りしめながら、宙で優雅に足を組み、こちらを見下ろしている人界の支配者を睨み、低い声を出す。

 

「––––ここにいる仲間達と一緒にあんたを討ち取る事だ、アドミニストレータ」

 

 


ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)






短くてすいません……(高速土下座)

続きは一週間後くらいに更新出来ればと思ってます………



ちょっとした補足。
泉水(せんすい)
カナタの愛刀。
刀身は半透明な青色で、所々ポコポコと泡が浮かんで空洞になっている。
属性は《癒し》––––そばに聳え立つ金木犀や周りに住まう村人達を癒した故 (詳しくは『アリス誕生日記念』の後書きにて記載)


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【★】カランコエを添えて002 ※ネタバレ喚起(かんき)

昨年は大変お世話になりました!!

今年もよろしくお願い致します!!!!




ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)


 

【公理協会 100層《神界の間》】

 

「……ふふ」

 

挑発するように愛刀の柄を握り締めたまま、こちらを睨みつけてくるあたしを見つめながら、人界の覇者であるアドミニストレータは背中へと流れる銀髪をふわっと舞い上がらせながら、足を組み直すとくすくす笑う。

その余裕に満ち満ちた笑みが気に入らなくて、食って掛かろうとした瞬間、今までずっと口を閉ざしていたちんちくりんピエロことチュデルキンが憤慨に染まった声で部屋中に響かせる。

 

「だっ、だまっ、黙らっしゃぁぁぁぁぁイッ!!」

「……」

「この半壊れの騎士風情ーー」

「ーーいや、あたし騎士じゃないし、侍だし……そこ間違えないでくれないかな…」

「「「……」」」

 

な、なんだよ……アリだけじゃなくて、キリやユオも"今気にするところそこかよ"って人を呆れような目で見るの。言っとくけどね、君たちやあそこにいる小太りピエロは騎士と侍が同じって思うかもしれないけど、あたしにとってはこれは譲らな………へ? あ? そんなこと分かってるから、とりあえず前を向けって?

 

ちょんちょんと"前を向け"というジェスチャーをするキリトに促せるままに前を向くあたしが見たのはまん丸お腹をたぽんたぽんと揺らしながら地団駄を踏んでいる頭でっかちな道化師の姿で真っ白い白粉を塗っているはずなのに真っ赤になっている。

 

“あらま…りんごみたいに真っ赤になってちゃって………あー、りんご食べたくなったわー”

 

抑えきれなくなってきた食欲に耐えているとそんなあたしの姿がより水油となってしまったようで"ふがふが"と息荒く地団駄したチュデルキンがビシとあたしを指差す。

 

「ーー貴様の意見など微塵も聞いてないのですよッ!! いいですかっ。お前もそこにいる金ピカ小娘もアタシの命令どおりに木偶(でく)人形なんですよ!! そんな木偶の坊が一丁前に心ッ!? 使命ィ!? 守護ォ!? 笑かせてくれますねぇ、ホォ––––ッホッホッホッホォ––––––––––ッ!!」

 

”あ、あの……あんまうちのアリスさんを挑発しないでくださる? "金ピカ"って言われた瞬間、ピキッて周りの空気が絶対零度以下になったからさ……”

 

実際、隣で同じく意味わからないことを口走りながら怒り狂うチュデルキンを見ているアリスの普段は暖かい光を讃えている青い瞳が氷塊のような冷たさへと早変わりし、桜色の唇が微かに形作る笑みはさっきまでの緊張感を吹き飛ばしてしまったようで……目の前にいるピエロへの怒りしかなかった。

 

“おいおい、どうするのっ。この鬼おこアリス様、あたしには止められんぞ……”

 

ガタブルと隣のアリス様から漂ってくる絶対零度の視線と静かに燃える瞋恚の炎に震えているあたしにチュデルキンは不敵に笑う。

 

「ガタガタと震えているということは貴様もようやくアタシのーー」

「ーーいや、あんたのことなんて微塵も怖くないから、勘違いしないで」

 

ふむ、なんだか上の文章だとツンデレっぽいな……と下らないことを考えていると

 

「ムッホォォォォォォォ!! この小娘どもがァァァァァァ!! このアタシに無礼千万ぶっこきやがった罰としてッ!! お前たちはリセットが終わったら三年は山脈送りだぁぁぁぁッ!! いや、その前にアタシのオモチャとして、色んなことをしたりさせてたりしてやるぅぅぅぅぅッ!!!!」

「丁重にお断りします」

「お断りしてんじゃね–––ぇですよ!!」

 

その後もガアガアとあたしとアリスにしようとしているあーんなことやこーんなことを言いつづけたチュデルキンでそれでどうやら怒りが幾らかは収まったようで空中に浮く主人へと振り返る。

 

「ふわあ……」

 

その主人はあたしたちの長いやりとりを傍観するのも疲れてしまったようで大きな欠伸をしていたが……。

 

「猊下、それで小生のお願いは……」

「……いいわよ」

「ホヒ?」

 

衝撃のあまり変な声を漏らすチュデルキンを見下ろすアドミニストレータのあらゆる光を跳ね返す鏡の瞳の中で侮蔑と嘲弄の色が揺らめき、言葉の意味を飲み込み喜びに打ち震えているピエロを一瞥しながら、瞳に浮かぶ感情とは正反対な、慈愛に満ち満ちた声で囁く。

 

「創世神ステイシアに誓うわ。あなたが役目を果たしたその時には、私の体の隅々までも、一夜お前に与えましょう」

 

その言葉がまったくの偽りであることはあたしだけではなく、横に並んでいる仲間たちでも見抜けたではなかろうか?

この世界で暮らし、この公理協会で暮らした数日間でもひしひしと感じていた違和感……それは恐らく、その世界の人間は、恐らく人工フラクトライトの構造的要因によって、自分より上位の法や規則を逆らえないということ。その法の中には、村や町のローカルな掟から、帝国基本法、禁忌目録、更には自ら神に立てた誓いも含まれている。

つまり、それらの原則は最高位の管理者たるカーディナルやアドミニストレータにも適用させていると考えられる……幼い頃、親に与えられた行動規範がいまも生きていて、カーディナルはティーカップをテーブルに置けず、アドミニストレータは人間を殺せない。

だがしかし、目の前で空中に浮くアドミニストレータは、自分が神への誓いにすら縛られないということをあたしの前で実証してみせた……いいや、この人はずっとそれを行なっていたか……。

 

“嘘、偽り……本当、真実……”

 

この世界に来てから、この世界に暮らす人々と触れ合っていて、ずっと胸の真ん中辺りがチクチクと痛むのを感じていた……そうか、この世界の人々は()()()()()()()()()あたしなんかよりも本当なのかもしれない……痛々しいほどに真っ直ぐで愚直なところとか……。

 

“なら、アドミニストレータへと感じているこの怒りは自己嫌悪、同族嫌悪って奴か……”

 

「カナタ…?」

「……あぁ、ん、大丈夫だよ」

 

顔を覗きこんでくるアリスに曖昧な笑みを浮かべてみせるとうつむき気味だった顔を前に向けると主人の偽りを見抜けずに喜びに打ち震えているチュデルキンの姿があり、両目から大量の涙…口元からは涎垂らし…喜びに震える声音で言葉を紡ぐ。

 

「おお……おおうっ…………小生、ただいま、無上の……無上の歓喜に包まれておりますよぅ…………もはや……もはや小生、闘志万倍、精気横溢、はっきり言いますれば無敵ですよぅぅぅぅぅッ!!」

 

ピョーンと床に向かって頭からダイブしたチュデルキンは両手、両足をパチンと勢いよく重ねるとホールへと大きな声を響かせる。

 

「シスッ! テムッ! コォォォォル!! ジェネレイトォォ、サァァマルゥゥゥゥ、エレメ––––––––––––––––ントオオオオゥッ!!」

 

続けて、ピーンと広げられた四肢の先にはボウッと熱を帯び、まるでルビーのように真っ赤に燃え盛る熱素が計20個くらい整形されており……あたしはキュッと唇を噛み締める。どうやら、そろそろ真面目に取り組まないと本気になった元老長殿を止めることも倒すことも出来ないかもしれない……と焦りを顔に出すあたしやキリト達を見ていた両眼が勝ち誇ったかのように細められ……続けて、その両目が暖炉で燃え盛る炎のように真っ赤に染まっていき……その瞳のすぐ目の前に指先にあるルビーの玉よりも大きなものが生成される。

 

「…あのピエロ正気か」

 

あのピエロは自分の両眼すらも端末として利用し、二十一個目と二十二個目の素因(エレメント)を作り出したのだった。

射出前の素因それ自体も、わずかはあるが属性に準じた性質のリソースを放散しており…指先数センチくらいに熱素を呼び出すくらいならば多少熱く感じるくらいで済むが、眼球の至近距離であれほど大きなものを保持すれば……無事で済むわけないのだが……実際、じゅうじゅうと両眼の周りの皮膚が音を立てて焦げ始める。

しかし、チュデルキンは熱さも痛みも全く感じてないようで……眼窩が黒ずみ、異様な凶相へと変貌を遂げた顔全体を笑みの形に崩すと甲高い声をあげる。

 

「お見せしましょォォォォォォゥ、我が最大最強の神聖術ゥゥゥゥ……! 出でよ魔人ッ!! 反逆者どもを焼き尽くせェェッ!!」

 

そう絶叫したチュデルキンは目にも止まらぬ速さで回転し、両指に作り出した二十の素因はすぐには変形することなく横に並ぶあたし達を攻撃するかのように頭上や顔の横を通り過ぎる。

と、チュデルキンとあたし達の間にある空間の間を高速で飛び回り…次第にルビー色に光る軌跡が、忽ち巨大な人間のかたちを描き出していくのを、あたしは愛刀の柄をギュッと握りしめながら、出方を見ていると……その宙へと描かれている人の形が作り出していく。

ちんまりした脚、でっぷりとまん丸に膨れたお腹、妙に長い腕、そして複数のツノが生える冠を載せた頭……その出で立ちはまるでチュデルキンをそのまま数倍に拡大したかのような、轟々と燃え盛る赤いピエロだ。

メラメラと燃え盛るそのピエロの身長は5メートルで……見上げる位置にある巨大な顔は作り出したものを用いているといえど残忍に思え、分厚い唇の隙間からチラチラと見え隠れする赤い舌、細長い吊り目を作る割れ目からは炎の巨人であるにもかかわらず凍てつくような冷気が放射されており……両手両足を振り回しながら、熱素でピエロを作り出したチュデルキンは最後に残る二つの素因を宿した両眼を、勢いよく閉じると…何もなかった空間にギロリとした瞳が出現し、殺意のこもった視線であたし達を見下ろす。

 

「アリ」

「…はい、カナタ」

「キリト達と一緒に後方で支援してくれるかな」

「もしかして、一人であの巨人を相手するというのですか…っ」

「危険って君もキリ達も言うと思う。でも、君の花達ではあの炎と相性が悪い。でも、あたしの泉ならあれくらいの火、消しとばせる」

「ですが……」

「大丈夫。無茶はしないようにするからさ」

 

もはやチュデルキン本人の魂が乗り移ったかのような巨大な炎の道化はとんがった靴を履いた右足をゆっくりと持ち上げると一歩前へと踏みしめ…それだけで湧き上がる熱発と地響きに癖っ毛を揺らしながら、何か言いたげなアリスごとキリト達を後ろへと無理矢理下がらせたあたしは愛刀を下から上に向かって一撫でする。

 

“今からかなり無茶すると思う……でも、泉水(きみ)とあたしならどんな無茶でも乗り越えられる…”

 

それにーー

 

「ーー……久しぶりの強敵にゾクゾクしちゃうよな」

 

ドクンドクンと高鳴る胸の高まりに自然と頬が片方だけ上がり、ニンヤリと笑ったあたしの問いかけに答えるかのようにポコッと泡を弾かせる愛刀を利き手で抜刀してからトントンと肩を叩きながら、右手でくいくいと挑発する。

 

「あたしと泉水で返り討ちにしてやるよ、でかいだけが取り柄の炎道化。だから、あんたからかかってきな」

 

その挑発によって迫ってくる炎の道化から背後にいる三人から守るように壁沿いに走りながら、式句を口にする。

 

「…《リリース・リコレクション》ーー」

 

この式句はこの世界《アンダー・ワールド》に存在する最大最強の闘技、武器の記憶を呼び起こし、超常の力を顕わす《武器完全支配術》の、更なる神髄(しんずい)ーー《記憶解放》。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

“泉が癒すだけじゃないってこと……分からせてやる”

 

「ーー包め、泉ッ!!」

 

自分の周りを高速でさらさらと流れていく水滴達が次第に自分へと集まってくるのを感じながら、あたしは自分に向けて振り下ろさせる右足へと両掌を向けた。

 

 


ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)






本編のちょっとした補足/カナタの《完成支配術》の神髄《記憶解放》について……

カナタの《泉水》は、元はアリスちゃんの金木犀が立っていた側で沸いていた""泉""となってます。
そして、完成支配術を行うと刃が小さな水滴達になって…その水滴達が雨となり、負傷者の傷口や身体に当たることによって忽ち回復することができます。
今回の話でカナタが水滴達を自分の方へと纏わせていたのは……泉の記憶解放を見て、カナタが考えた技となってます。
基本は後方支援で回復・サポートがこの章のカナタの役割なのですが……それで終わらないのが""香水陽菜荼""という子なのです!!




~*~*~*~*~*~

最後に、前書きでも書かせてもらいましたが……昨年は殆ど更新を休みがちで楽しみになさられている読者の皆様を待たせてしまうことになってしまいすいませんでした……(高速土下座)

今年も昨年のように休みがちになってしまうかもしれませんが……読者の皆様をあまりお待たせしないように、ゆったりと更新していこうと思います!

あと、すごくどうでもいいかもですが……今年の【(ねずみ)】年って……私の干支年なんですよね(てれてれ)

ですので、年女になる今年は、少しでも今までの自分よりもパワーアップしていきたいと思っていますので……これからもこの作品【sunny place 〜彼女の隣は私の居場所〜】と(わたくし)、律乃の事を共々今年もどうかよろしくお願い致します(土下座)

~*~*~*~*~*~*


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【★】カランコエを添えて003 ※ネタバレ喚起(かんき)

今回は第三者視点です。




ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)


 

【公理協会 100層】

 

カナタの全身が薄い水の膜で包まれたその瞬間、真っ赤に燃え盛る巨大なピエロの右脚が振り下ろされるのを見たアリスは内心焦っていた。

巨大な炎道化を作り出した元老長・チュゲルキンがこのような術を使える事自体も驚きだったが、それよりもカナタが使っている完全支配術は整合騎士として帰ってきた彼女の側に常に居たアリスも見た事がない。

だが、アリスの目から見ても力の差は歴然としていた……火と水。ならば、水が勝つのが必然であろう。

だがしかし、この世界での勝負はそれで力がついてしまうほど単純でないのだ。

その証拠に全身を泉の膜に包まれたカナタは自分の両手にのしかかるピエロの脚を支えるのに苦渋の表情を浮かべ、唇を噛み締めている。

 

「く……っ」

 

だが、その表情を浮かべたのもほんの一瞬でジュゥゥ……と音が聞こえ、両掌から蒸気を発生させながらも受け止めたカナタは両脚を曲げると思いっきり上へと突き出す事で火炎のピエロを自分から引き剥がすことができ、ピエロが体制を直す前にその場から離れる。

 

「……あ、危なっ。でも、それくらいであたしを止められると思うなよ」

 

強がりにも見える笑みを浮かべ、そう言いながら自分に向かって迫ってくるピエロの手や脚をひょいひょいと身軽に交わしたカナタは壁へと片脚を付ける。

 

「飛………べぇええええ!!!!」

 

片脚から放たれる莫大なエネルギーはカナタの身体を宙へと羽ばたかせ、両脚をバタつかせたカナタはこっちをポカーンと見てくる炎ピエロの頭へと鋭い蹴りを加えたカナタはそのままヒョイと飛来して、壁へと飛び乗ったカナタはもう一度ピエロに向かって飛び、今度はその大きな鼻を蹴飛ばす。

その攻撃だけでもピエロ……チュゲルキンを苛立たせるには効果があったようだ。

 

「ーー」

 

壁に向かっている最中に殴られそうになり、寸前で交わして地面に着手したカナタをアリスは不安げな表情で見つめる。

"無茶はしない"と言ってたが、彼女の中の無茶の次元はアリスの次元をとうに越えている。

"いつもその無茶でハラハラしているこっちの身にもなって欲しい"とアリスは思うが「ふぅ……」と息を吐く。

 

(しかし、カナタが折角時間を作ってくれたのです。私は私のするべきことをせれば)

 

今にもカナタのところに駆け出そうとしている自身を戒め、そう結論づけたアリスは今だ衝撃から立ち直れてないキリトとユージオへと振り返る。

 

「キリト、ユージオ。カナタが時間を稼いでくれている間に私たちは私たちのするべきことをしましょう」

「するべきことって……今の間にチュゲルキン本人へと攻撃を仕掛けるってことか?」

「そういうことです。ですが、剣の間合いにまで接近してはならない。きっと最高司祭様はそれを待っているのですから」

「待っているって……?」

 

ユージオの質問に対しての答えとばかりにアリスはこっちを気だるそうに見下ろしているアドミニストレータを一瞥し、聞き手に持った金木犀の剣をギュッと握りしめる。

 

「ーー吹き荒れろ、花たち!」

 

そう叫んだ途端、剣の表面が黄金に輝く花へと形を変え、ブンッと横に振るうアリスの剣筋通りに動く花たちはチュゲルキンを捉えたかと思えたが、カチンッと音が聞こえ、見てみるとチュゲルキンの周りを透明なシールドのようなものが出しており、アリスはギリッと歯を噛みしめる。

 

「…く」

 

もう一度ブンと横に振ったアリスの周りへと帰ってきた花たちが彼女の周りを回るのを見ていたキリトはアリスが言っていた意味が分かった。

黄金の花が当たる前、後方で寝そべっていたアドミニストレータが片手を気怠げに振った瞬間、シールドが現れたのだ。その瞬間はユージオを見ていたようで眉をひそめている。

 

「チュゲルキンだけを狙えばアドミニストレータが援護してくる……」

 

つまりアリスが言いたいことはこういうことだろう。

チュゲルキンを仕留めようと間合いに入れば忽ちアドミニストレータの術式が発動し、天命を全損しかねないと。

 

「なら、どうすれば……」

「くっ……ハァァァッ!!」

 

悩むキリトの耳に聞こえるのは一人炎ピエロに立ち向かうカナタの喉が壊れんばかりの悲痛な叫びだった。

そちらを見れば、彼女の水の塗装は所々剥がれており、剥がれた場所に攻撃を食らったのか、中には火傷の痕と橙の着物が塵になっているところもあった。

肩で息をしているところを見るとどうやら彼女自身、体力と共に武器完全支配術も限界に近いらしい。

 

「……」

 

だが、彼女は実に楽しそうに口元へと笑みを浮かばせるとこっちを見て、キリトの視線に気付くとニカッと笑い、"キリなら出来る! "と言わんばりに勢いよく親指を立てる。

こういう時でも笑みを崩さず、おちゃらける彼女の姿がかつてのSAOで彼女が身を投じていたアバターと重なり、キリトは苦笑いを浮かべつつも深くうなづく。

 

(分かったよ、カナタ)

 

カナタから激励をもらったのだ、ここで立ち上がらなければ……男が(すた)るというものだろう。

 

「すぅ……」

 

キリトの中には、旧SAO時代の自分ーー《黒の剣士》や《二刀流》などの二つ名を与えられたキリトという分身(アバター)を遠ざけたい、忘れたいという気持ちが根深く存在する。

その感情の源は自分自身でもよく分からない、英雄扱いされることへの忌避感、助けられなかった人や殺してしまった人たちへの罪悪感、どちらも当たっているような気がするし、まるで違う気がする。

しかし、これだけは言える。いかに嫌おうが《黒の剣士キリト》は確かにキリトの一部であり、今の自分を形づくり、力を与えてくれている。

 

それは恐らく、遠くで戦っているカナタも同じだろうーーあの世界で戦った《彼》《彼女》は今この場所にいる。

 

「……」

 

右手の黒い剣を肩の高さまで持ち上げ、完全な水平に構えると大きく後ろへと引く。左手は剣先に、掌をあてがう。

 

「トゥ!!」

 

キリトのモーションに気づいた様子のカナタはハッとした表情を浮かべると三人に近づけさせないようにより一層攻撃の幅を、テンポを早めていく。

 

この世界・アンダーワールドでのソードスキルは時にカナタやキリトの想像を超える力を発揮することがあった。

それは恐らく、この世界は行動が導く結果のかなりの部分をシステムによる演算でなく行う者の意志の力、イマジネーションが決定するからだ。

 

それをこの世界で暮らす人々は《心意(しんい)》といった。

 

すなわち、この世界でならば、旧アインクラッドではシステムによって厳密に規定されているソードスキルの威力や射程を、心意の力で拡張できるかもしれないーーーー。

だがしかし、逆を言えば、恐れや怯え、躊躇いなどのネガティブなイメージが技を弱体化させてしまうこともあるということだ。

 

しかし、その面はもう心配はいらない。

 

十五メートル先に大きな頭を床へと擦り付けたままのチュゲルキンから上を向けば、闘志に満ちた蒼い瞳と死闘を楽しんでいる相棒(カナタ)がいる。

彼女が背中を守ってくれているというだけで安心して戦える気がした。

 

「……ユージオ、アリス。ほんの少しでいい、あいつの視線を俺から晒して欲しい」

「分かりました」

「分かったよ」

 

そう答えたユージオとアリスは其々構える、ユージオはいつの間にか作っていた青く光る氷の矢を右手に。アリスは自分の周りを回っている黄金に光る花達を。

 

最初に動いたのはユージオだった。

カナタとチュゲルキンの攻防によって作り出された冷気リソースを素因(エレメント)に変えて作り出した氷の矢は青い閃光を放った。

 

「ディスチャージ!!」

 

短いコマンドと共に放たれた矢はまず轟々と燃え盛るピエロを迂回し、上昇する矢をぎょろりと焔の眼が追うとしようとするのを邪魔するかのように鼻先をカナタの右脚が蹴飛ばす。

 

「咲き誇れ、花たち!!」

 

だが、その威力によって瞳が見たのは自分を迂回した氷の矢が後方で寝そべっている最高司祭アドミニストレータへと飛んでいき、その矢に合わせるように黄金に光る花達が挟み撃ちをしようとしているところだった。

 

「猊下っ、御気をつけてくださぁぁぁいッ!」

 

チュゲルキン本体が驚愕で両目を見開き、頭ごとぐるりと全身を後ろに回しながら主人へと危機を知らせようと叫ぶ後ろ姿へとキリトの行動は早く、黒い刀身から伸びる血のような光が浴び、ゆっくりチュゲルキンへと伸びていく。

システムアシストがキリトの身体を動かし始める。同時に、前後に大きく開いた両足で、思い切り床を蹴り、その加速を回転力に変え、背中を経由させて右肩へと伝える。回転を再び直前運動に変換し、右腕と一体化した黒い剣を無防備な背中へと叩き込む。

 

ゴオッと耳元でなる轟音と、炎よりも濃い紅色の閃光がまっすぐに伸びていく……

 

片手直前《ヴォーパル・ストライク》はキリトが旧SAO時代に愛用していた技だ。

愛用していた理由は一撃が決まる威力、そして何よりも深紅のエフェクトが宙を貫くその距離にある、おおよそ刀身の二倍。

 

だが、キリトが撃つべき相手である元老長チュゲルキンは十五メートル先にある通常のヴォーパル・ストライクではまず届かない。

だからこそ、キリトはこの技の射程をイマジネーション……心意の力で五倍以上にも拡張させなくてはならない。

安易ではない。

だが、成し遂げなくてはならない。

キリトを信じ、火炎のピエロと激しい攻防を繰り広げ、所々劫火に身を焼いたカナタを、キリトを信じてチュゲルキンの注意を知恵を絞り咄嗟に作りだした連携技で払ってくれたユージオ、アリスの三人が寄せてくれている信頼に応えられずし……誰が剣士と名乗れようか。

 

「う……おおおおーーッ!!!」

 

故にキリトは咆える。

剣先から伸びる紅色の輝きに全身の力を込め、前へと突き出す。

だんだんと伸びていく剣先がただただ焦れったい。

 

(まだだ。まだ力を込めないと)

 

「オオオオオッ!!」

 

メキメキとこめかみが軋み、喉から出る声も熱を帯びていき……

 

 

 

 

 

そしてーーーーー。

 

 

 

 

 

 

「オオオオオッ!!!!!」

 

一人の少年が放つ雄叫び、そして渾身の技が聞こえてくる轟音に少年の近くにいた二人は目を丸くしながら見つめる。

 

少年だけでない、彼が持っている黒い剣自体が太く、重く、硬く、鋭い、怒りの声を響かせているようだった……。

 

アドミニストレータに氷の矢を息を吹きかけるだけで振り払われ、花の形をした刀身たちを気怠げに右手を振るうだけであしらわれた二人は轟音をホールに響かせながら、少年の全身を包み込んでいく眩ゆい光に目を細め、次の瞬間に目を丸くする。

 

少年の出で立ちが変化していたからだ。

 

さっきまで彼が身につけていたのは幾度の激戦によって傷んだ黒いシャツに同色の騎士服、ズボンだった筈だ。なのにそれがどういうことだろうか、光が身体を通りたびにそこから高い襟と長い袖を持つ黒革の外套がどことなく出現し、ズボンもまた細身の革素材に変わっていく……。

 

不思議な出来事はそれだけでは終わらないチュゲルキンをまっすぐ見つめるキリトの黒い髪がわずかに伸び、俯いている横顔を隠すと長い前髪から見える髪と同色の瞳が鋭利なものへと変わっていく。

ユージオ曰く、それは北の洞窟でゴブリンたちと戦った時よりも、ライオス・アンティノスの腕を斬り飛ばした時よりも、デュソルバートやファナティオ達と剣を交えた時よりも、鋭い眼光は……まるで彼自身が剣のようになってしまったようだった。

 

ユージオとアリスは彼が放つ紅い剣先を追う視線と共に主人の身の安全を確認し終えたチュゲルキンが頭を使い、身体を共の場所に戻した瞬間、チュゲルキンに浮かんだ感情はなんだったのだろうか?

自分の体を抉る血色の閃光を細い目で見て、貫いていく様子を見ていくその瞳に浮かぶのは恐らく恐怖ーー。

 

「おほおおおぉぉぉぉ………」

 

空気の抜けるような声がホールに虚しく響き、続けて本物の血飛沫が大量にチュゲルキンの胸から吹き、近くの床を汚していくのを見ていた細い目は力無く色を失っていき……直立していた身体はゆっくりと傾き、自らが作り出した鮮血の池へとぽちゃっと沈んでいく。

 

「……?」

 

壁へと張り付いているカナタへと右拳を埋めようとしていた巨大な火炎の道化師はでっぷり膨らんだ小さな胴体は大量の白煙へと変わり、眉を潜める蒼い瞳に映るニヤニヤした道化師の顔はやがて宙へと溶けるように姿を消すのを見送ったカナタの瞳に映るのは右手をだらーんと床に向かって伸ばし、さっきまで変わっていた革素材のジャンバー、ズボンが元の騎士服とズボンに戻っていく相棒(キリト)の姿で……カナタは口元へと敬愛を含む笑みを添えると「よっ」と床へと舞い降りる。

 

「カナタ!」

 

舞い降りた瞬間、今の戦闘中心配そうにこっちを見つめていたアリスが"もう我慢ならない"と言いたげに駆け寄ってこようとするのを右手を向けることで停止させ、ブンと左手を横に振ったカナタへと泉の水が雨のように降り注ぐ。

途端、淡い水色のエフェクトがカナタの身体を包み込み、火傷をして赤く腫れていた白い肌が忽ちに普段の彼女の肌へと変わっていく。

その様子を見ていたカナタは自分の身なりを見て、苦笑いを浮かべる。

 

「ありゃー、流石に着物までは無理だったか…」

 

所々焼けて黒いチリチリになっている橙の着物を見つめながら、苦笑いを浮かべながらも濡れた栗色の前髪を上へと持ち上げながら、アリスとユージオ、そしてキリトに合流したカナタ達四人をただただアドミニストレータは空中にて見下ろしていた……

 


ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)






原作主人公(ヒーロー)を支える、これぞ真の本作主人公(ヒロイン)

…………なの、かな?(笑)


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【★】カランコエを添えて004 ※ネタバレ喚起(かんき)



ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)


 

【公理協会 100層】

 

「ふぅ……」

 

さっきまでの特大炎の道化師との戦闘で多少本気モードになっていたらしく、知らぬうちに深いため息を漏らしてしまったあたしは癒しの効果を持つ泉の水によっておでこに張り付いた長めの前髪をかき上げながら、心友(しんゆう)たちのところへと歩いて行く。

その際にぽたぽたと栗色の癖っ毛から滴り落ちる雫が広いホールの床へと落ちていき、かき上げている髪の毛から乾いていくのを感じ、労いを込めて鞘へと《泉水(あいぼう)》をしまってあげると鞘越しに撫でる。

 

なので、あたしは気づかないでいた……泉水へと視線を向けているあたしへと猛スピードで近づいている黄金の疾風の存在をーー。

 

「カナタ!」

「ぐへっ…!?」

 

体当たりしてきた黄金の疾風ことアリスの青色の騎士服の上に装備されている黄金の胸当てに抱きつかれた際にカッキーンと頭をぶつけ、ガシッと背中へと両手を回された時は胸の形に盛り上がっているところに喉元が丁度きて、息が出来なくなるくらい抱き寄せられる。

泣きっ面に蜂とはこの事か、いやちょい待て。今顔にあっているのは胸当て。つまり、本来ならばあたしの顔に当たっているのはアリスの胸ということに…? 逆にそれは役得ではないだろうか……うん、もう酸素が足りてないのかもしれないな、こんな事を考えるなんて……。

 

「怪我はありませんか? 無茶をしないなんて嘘ではありませんかっ。あれは私の中では無茶に入ります! 肌は至る所火傷をしていましたし、着物もこんなに焼けているではありませんかっ。そもそも貴女という人はいつもこうも無茶ばかりするのです! その都度、私がどれだけしんぱーー」

 

背中に回してあるアリスの両手を解き、ひとまずあたしから離れてもらったから深呼吸するように訴える。

 

「ーーOK、アリ。一旦落ち着こ? ほら、深く深呼吸して……ふぅ、は––––ぁ」

「私はいつだって冷静です!! そういう貴女こそもう少し真剣に人の話を聞くことは出来ないのですか?」

「oh……ごめんなさい……」

 

(アリス様が怖いです……いつにも増して、怖いです。もう激おこを越して、鬼おこプンプン丸で怖いです。誰か代わってください。ここに立っていたくないんです)

 

という心の訴えは結局アリス様に届く事はなく、延々と小言を頂戴することになった。

やっとこさ、説教モードON状態のアリス様から解放されたあたしは力無く黒い剣の刃先を床につけながら、床を見続けるキリト。そのキリトにどう声をかければいいのか、悩んでいる様子のユージオの近くまで歩いていく。

 

「カナタ、無事だったんだ……ね…………」

 

あたしとアリスの気配に気づいたらしいユージオがこっちを見た途端、バフっと顔を真っ赤にさせてから真っ正面を見るのを不思議そうな顔で見送ったあたしは改めて自分の装いを見てみることにした。

 

あたし、カナタ・シンセシス・サーティワンの戦闘着は隣にいるアリス・シンセシス・サーティや他の整合騎士とは異なっている。

何処が異なっているかというとアリス達が騎士服の上に胸当てや小手等の防具で自分の身体を護っているのに対して、あたしの肢体には防具類は一つもなく、着ているものといえば橙色の着物だけでその下に"さらし"と黒いサポーターを履いているくらいだ。

叔父さん、ベルクーリ・シンセシス・ワンもあたしと同じような服装で青い着物と長ズボンを普段は着用しているのだが、戦闘時には流石に胸当てをつけている。

ならば、何故あたしは防具をつけないのかというと……あたしの戦法が"敵の攻撃を交わし、懐に潜り込んでからの一撃"という超至近距離での戦い方を得意としている。

相手の攻撃に当たらなければ、防具をする必要はないし、素早く交わすためにも機動性は確保しておきたい……って事で、あたしは橙色の着物、そして泉水以外は身につけないようになったというわけだ。

 

だが、どうやらその考え方が仇になってしまったようだ、今回は。

 

というのも、さっきの特大炎道化師もの戦いでチリチリになってしまった橙色の着物は防ぎきれなかった攻撃によりかなり際どいところにも穴が開いてしまったらしい。

例えば、胸の辺りは右胸の方に空いた穴からはさらしが見えちゃってるし、襟首のところに空いた穴からはさらしで出来た谷間が露出してしまっている。また、下半身の方も派手に穴が開いてしまっており、下に履いているサポーターと太ももが見えている。

 

ふむ、自分でいうのもなんだがこの格好はなんか痴女っぽいな……っていうよりもあたしのこの格好でユオは赤面したのか。

 

「ユオは想像通り、純真なチェリーボーイなんだね……」

「なんで生暖かい視線で僕が見られているのかな!?」

 

喚くユージオとニヤニヤとからかうように笑うあたし。

 

「カナタ、ユージオ、おふざけはそこまでにしてください。最高司祭様が何か仕掛けてくる様子です」

 

そういうアリスの険しい視線を辿り、今だ優雅に空気椅子をしている最高司祭・アドミニストレータが此方……いいや、自身が作り出した血の海に沈んでいるチュゲルキンへと華奢な左手を差し伸べているの視界に収める。

 

(何か仕掛けるつもりなのか!? まさか、治療術を……いいや、蘇生を……施すつもりなのか?)

 

ユージオの方を向いていた身体を正面へと向け、ギロリと鏡のようにあらゆるものを跳ね返す…無機質な瞳を睨む。

 

(いいや、アドミニストレータは完全な蘇生術を完成させてられなかったはず…)

 

整合騎士として帰ってきた時にリネル・シンセシス・トゥエニエイト、フィゼル・シンセシス・トゥエニナインという年端もいかない整合騎士に出会った事がある。

 

そんな彼女達と話をしていくうちに聞いたのは、目の前の最高司祭が行なった悪魔の実験の内容だった。

リネルとフィゼルを合わせた三十人の子供達はアドミニストレータが塔内にいる修道士と修道女に命じて作られたのだ、完全に失われた天命を回復させる《蘇生》神聖術の実験を行うためだけに。

 

思わずギリと奥歯を噛み締めてしまう、"こいつは人の事をなんだと思っているのか"と。

 

5歳という子供達に「お互いを殺し合え」とだけ命令して、ナイフを渡したのだ、こいつは。

本来ならば外でキャキャと元気一杯に走ったり、仲間達と泥遊びしたり、探検をしたりして、服を汚して、親に怒られる……それがあたしが信じて疑わなかった子供の特権であり、幸せだ。

そんな些細な幸せを、こいつは蘇生術の実験と評して、奪い、踏みにじった……。

 

目を瞑れば、当時のことをまるで他人事のように…誇らしげに、楽しげに話し合っている幼い整合騎士達の話し声が、表情が…聞こえ、浮かんでくる。

あの子達は早くアドミニストレータから飛竜と神器を貰い、戦闘に赴きたいと喜々とした表情で話し合っていた。

 

(でも、あたしはね。リル、フル)

 

君達には戦闘以外の幸せも感じて欲しいんだ。

産まれたその時から人を殺すことでしか存在意義を見いだせなかった……そうする事しか教えられなかった君達にも知って欲しい。戦う以外にも君達が心踊る出来事がこの世界には溢れていると……。

 

(ふ、我ながら柄じゃない事を思い、浸ってしまった……)

 

鼻で笑うあたしはもう一度目の前の銀髪の少女の出方を伺うと一切の感情が伺えない最高司祭の声がゆるりと流れ、続けて無造作に向けていた左手を横に振る。

 

「片付けるだけよ、見苦しいから」

 

途端、チュゲルキンの骸は紙の人形のように宙に浮かび、グシャという音ともに壁へと激突し、その下の床に落下して小さくわだかまる。

 

「……なんということを……」

 

隣でそう唖然と呟くアリスを見ることなく、あたしはただ最高司祭を、アドミニストレータを睨む。

チュゲルキンはあんたの為に命を懸けて戦ったんだぞ、あんたの為だけに。

それなのに、あんたはどうだ?

その骸を手厚く葬るのではなく、まるでゴミのように投げ捨てた……。

 

(やはりこいつはここで暮らす人を、自分を慕う人をなんとも思ってないっ)

 

睨み付けるあたしを見下ろし、口元に微笑を浮かべたアドミニストレータは無垢な美声をホールに響かせ、見えない寝椅子に体を横たわらせた姿勢のまま、ふわりと空中を移動し円形の広場の中央までくる。

 

「退屈なショーではあったけど、それなりに意味のあるデータも少しばかり拾えたわね」

 

さらっと風になびく薄紫色の光る銀髪をひと筋指先で払いながら、七色の光を放つ鏡のような瞳があたしを見据え、続けて今だ俯いたままのキリトを視界に収める。

 

「カナタもだけど、イレギュラーの坊や。詳細プロパティを参照できないのは、非正規婚姻から発生した未登録ユニットだからかな、って思ってたんだけど……やっぱり違うのね。あなたたち、あっちから来たのよね? 《向こう側》の人間……そうなんでしょ?」

 

囁くように投げかけられる言葉を聞いた途端、ユージオはキリトを、アリスはあたしを見つめる。

青い瞳と蒼い瞳に映るのは"あっち側ってなんのこと? "という疑問だろう。

 


ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)






もっとスピードを上げねば、間に合わないかもしれない……4月の後半戦のスタートに。


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【★】カランコエを添えて005 ※ネタバレ喚起(かんき)

第三者視点です。




ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)


 

【公理協会 100層】

 

“あっち? 向こう側……?”

 

最高司祭がそう言った瞬間、ユージオとアリスは自分達の一歩前に出て、空中椅子をして自分達を見下ろしている銀髪の少女を見上げ、睨みつけている黒髪の少年と癖っ毛が多い栗色の髪の少女の背中を不安げに見つめる。

 

ユージオが二年半前、初めて黒髪の少年・キリトと癖っ毛の多い栗色の髪の少女・カナタと最初に出たのはルーリット村の近くに広がっている森……厳密にいうと森の中に立つギガスシダーの近くだった。

その日、ユージオのルーリット村での天職"午前と(かわ)せて一日二千回ギガスシダーを叩く"の為にギガスシダーへといつも通り、斧を振るっていたユージオは森の奥から二人が出てきた時、二人は"ベクタの迷子"だと信じてやまなかった。

ベクタの迷子ーーそれは村の古老たちから伝え聞いてはいたが、闇の神ベクタが果ての山脈の向こうから長い腕を伸ばして、悪戯で人の記憶を消すのだと本気で信じていたのは、ほんの子供の頃だった。

人はあまりにも辛いこと、悲しいことが起きると自らその記憶を失い、時には命すら落としてしまうことがあるとユージオに教えてくれたのは前の刻み手であったガリッタ老人だった。

彼はずっと昔、水の事故で奥さんを亡くしてしまい、その時あまりにも深く嘆き悲しんだせいで奥さんの思い出を半分以上失ってしまったらしかった。それは命の神ステイシアの慈悲であり罰でもある、老人は寂しそうに笑った。

そういう出来事からユージオは、キリトとカナタにも同じ事が起きたのだろうと推測していた。

キリトは短く揃えられた髪の毛、瞳は漆黒で東域か南域の生まれだと思い、カナタは癖っ毛の多い栗色の髪、瞳は(あお)とこちら側の生まれだとユージオは思っていた。

その二人がどういう経緯で出会い、共に旅をし、ルーリット村まで記憶を失い、彷徨い続けていたのか……ユージオはそこまでの経緯は分からなかった。

だが、央都までの旅路や学院での日々の中でキリトとカナタに昔のことをほとんど訪ねかったのはキリトもカナタも故郷で何かとても辛く悲しい出来事が二人の記憶を奪った正体だと思っていたからだ。もちろん、ユージオの質問で彼と彼女が記憶を取り戻し、故郷に帰ってしまうのを恐れた、という理由も全くないとは言えないが。

 

だが、あまねく人界を見通す力を持つ最高司祭は、キリトとカナタの生まれた場所を、不思議な言葉で表した。

 

“向こう、側……”

 

それは果ての山脈を越えた先にある闇の国ダークテリトリーを指す言葉なのだろうか? 二人の誕生に携わっているであろう《アインクラッド流》なる剣技はそのダークテリトリーで作られた流派とでも言うのか?

 

“いや、待って”

 

アドミニストレータ、彼女はダークテリトリーの事も知っているはずだ。

何故なら、彼女の配下である整合騎士たちは自由に果ての山脈を越え、暗黒騎士たちと剣を交えているのだ。ならば、彼女がダークテリトリーの事を知らないわけがない、きっとどんな町が、どんな人々が暮らしているかさえも繊細に把握しているのではないか?

 

“なら、アドミニストレータが言う"向こう側"とは彼女の眼すら届かない”

 

この世界そのものの外側………闇の国を越えた、ずっとずっと向こう側にも世界が広がっているというのか? いいや、もしかするとその先に広がっている世界の事を……言っているの、か………?

 

途端、ユージオはギリッと頭が痺れるのを感じる。

もしかしたら、自分は世界の秘密に手が届くところまで知らぬ間に来てしまったのかもしれない。

ユージオは隣で同じように驚いているであろうアリス・シンセシス・サーティの横顔を見る。

彼女は蒼い瞳を極限まで広げられ、凛々しい横顔は驚愕に染め上げれていた。

 

“カナタ、最高司祭様が仰っていることは本当なんですか?”

 

アリスはただただカナタを見つめる。

その瞳には懇願の色すら浮かんでいる、出来れば否定してほしかった。

アドミニストレータによって記憶を奪われたアリスにとってカナタだけが自身の幼少期、故郷に繋がる架け橋のような存在だった。

どの村で彼女と出会い、どこで彼女と遊んでいたかは鮮明には思い出せない……だが、彼女と幼い頃から仲良くしていた、彼女が自分の辛いに側にいてくれた事は鮮明に思い出せる。

キリトによって語られた自分の過去にも薄っすらと身に覚えはあった……恐らく、近くに彼女が居たからだろう。

 

“あの時も、あの約束だって……私は貴女だから……”

 

そこでアリスはハッとした表情を浮かべる。

思えば、ここ最近のカナタはアリスが知っているような彼女では無かった。

この白亜の塔(セントラル・カセドラル)に記憶を失って戻ってきた彼女は幼少期に比べると不真面目さが際立っているように思え、いつも飄々とのらりくらりアリスの追及を交わし、アリス等整合騎士たちとの訓練などが終わると早々と何処かに姿を消すことが多々あった。大抵は九十五階《暁星(ぎょうせい)の 望楼《ぼうろう》》の端に腰をかけ、物憂げに空や目下にある街を眺めていたのだが……その時の物憂げで悲しそうな表情はもしかすると全ての記憶を取り戻していて、それでいて憂いていたというのだろうか……? この世界自体に。

 

“もしかして、キリトもカナタも最初から……?”

“カナタ、貴女は……”

 

そんなユージオとアリスの不安を掻き消すかのようにあっけらかんとした声がホールへと響く。

顔を前へと向けるとそこにはいつものように両手を後頭部にそえ、真っ直ぐアドミニストレータを見上げているカナタの姿があった。

 

「そうだよ、キリトとあたしは向こう側の人間だ。だけど、それがどうした?」

 

形良い片眉を上げ、自虐気味な笑みを浮かべながら再度アドミニストレータに近づくカナタへと鈴のような声が投げかけれる。

 

「あら、あっさり認めちゃうのね? 意外だわ」

 

両肩を窄め、歩みを止める事なく、今だ地面へと視線を向けているキリトの隣へと歩み出たカナタは吐き捨てるように言う。

 

「あんた、あたしの頭の中をアリス達と同じでほじくり回してんだろ? すぐバレる嘘をついて、あたしに、そしてあんたになんの利益がある?」

 

挑戦的なカナタの視線に臆する事なく、アドミニストレータは不敵に笑う。

 

「あなたのそういう賢明なところ好きよ」

「そりゃどーも」

 

ひらひらとどうでも良さげに左手を振るったカナタはズイッとキリトへと顔を寄せる。

キリトはその様子に気付いたようでカナタの顔がある方へと向くとそこには蒼い瞳へと慈愛の色を含ませた優しい表情を浮かべているカナタが居り、キリトはその優しさに甘えるように掠れ声を漏らす。

 

「……陽菜荼(ヒナタ)。俺……」

「……おいおい。ここでリアルネームは厳禁だぞ、和人(アイボウ)

 

ニカッと笑ったカナタはぐしゃぐしゃとキリトの黒髪を撫でた後に背中をポンポンと労わるように叩くとチラッと後ろを振り向き、ユージオとアリスを見る。

彼女の横顔には自分達を信じてくれという懇願のみが浮かんでおり、ユージオとアリスはコクンとうなづくと彼女は小さく"あんがと"と呟く。

 

「先に言っとくけど」

 

そう言いながら、前を向いた彼女の隣には同じようにまっすぐアドミニストレータだけを睨むキリトが居り、カナタは自分とキリトを親指でさすと苦笑する。

 

「あたしとキリトはあんたみたいな権限は持ってない。与えられているのはこの世界の人たちとまったく同じで同格だ。まー、その事もあんたなら知ってるんだろうけどね、アドミニストレータ……いいや、クィネラさんだったかな?」

 

不思議な響きを持つ名前で呼ばれた最高司祭の美貌からは微笑みがすっと薄れるがそれも一瞬でさっきよりも大きな笑みを真珠色の唇に浮かべる。

 

「カナタ……貴女、図書館のちびっこに会っていたのね?」

「はてはて、何のことやら…」

「ふふふ。私としたことが最大の汚点だわ。貴女のようなイレギュラーを興味本位で側に置いていたのも……私よりもあのおちびさんの事をいとも簡単に信じてしまう貴女、もね」

 

“ほうほう、最大の汚点とまで言うかね、人の事を”

 

カナタは形良い眉を最大限まで近づけて、アドミニストレータとの口論を再開しようとした瞬間、隣にいるキリトが声を張り上げる。

 

「カナタの判断は正しいだろう。俺だってカナタと同じ立場ならば迷う事なくあんたではなくカーディナルを信じる」

「坊や、私は今カナタと喋っているの。黙っててくれる?」

「俺だって向こう側の人間だ。話に混ぜてくれたっていいだろう? クィネラさん」

「……」

 

キリトの口から再度不思議な響きを持つ名前が流れ出た瞬間、アドミニストレータの笑みは少し翳るがそれもほんの一瞬だった。

 

「ならばあなたたち二人に聞くとするわ。あなたたちはいったい何をしに私の世界へと転げ落ちてきたのかしら? 管理者権限ひとつ持たずに? まさか、あのおちびさんのつまらない話を聞くだけではないのでしょう?」

「権限はなくとも、知っている事なら少しばかりある」

「へぇ。たとえば? 下らない昔話には興味ないわよ」

「ふーん、なら未来の話ならどうかな? 少しは興味沸くんじゃない?」

 

キリトは床に突き立てた黒い剣に両手を乗せた姿勢で、カナタは相変わらず緊張感が感じられない姿勢で、最高支配者と相対した。

二人の頬あたりに張り詰めたような厳しさが戻り、黒い瞳と蒼い瞳が鋭く光る。

 

「クィネラさん、あなたは、そう遠くない未来にあなたの世界を滅ぼす」

「クィネラさん、あんたは、そう遠くない未来にあんたの世界を滅ぼす」

 

同時にそう言ってのけた二人にアドミニストレータは口元に浮かぶ笑みを崩す事なく、より一層深めるのだった。

 

「……へぇ。私が? 私のかわいい人形たちを散々痛めつけてくれたのは坊や、それにカナタじゃない。坊やとカナタじゃなくて、この私が滅ぼすというの?」

「そうだ。なぜならあなたの過ちは、ダークテリトリーからの総侵攻に対抗するために整合騎士団を作り上げた……いや作ってしまったこと、それ自体だからだ」

 

恐らく過ちを指摘させることなど、支配者となって以来これが初めてであろう最高司祭は笑いを堪えるように唇に指先を触れさせ、肩を揺らす。

 

「ふふふ。いかにも、あのちびっこが言いそうなことね。あんな(なり)で男を籠絡するなんて、おちびさんも随分と手管を覚えたのねぇ。いっそ、不憫だわ……そこまでして私を追い落としたいあの子も、うかうかとそれに乗せられた坊やも」

 

細い喉が震え、"くっ、くっ"と笑い声を出すアドミニストレータへと更に言葉を重ねようとしたキリトの声を遮るのは凛とした声だった……。

 


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カナタがキリトくんのおかん化してる…(驚愕)





ここでちょっとした裏話〜

もしかすると私の他に投稿している作品を読んでくださっている方は『2月が私の誕生月』ということはもしかすると存じ上げているかもですが……その誕生日にまつわる裏話をここから披露しようと思います!

本作の主人公、香水陽菜荼の誕生日は【10月10日】なのですが……この誕生日を決めるにあたったのは、第一が"私が春夏秋冬では秋が好きなので、秋の季節"にしたかった。
第二は、私が誕生した時間が"10時10分"だったんです……ここまで読まれた方ならば『もしや…?』と思うかもですが、そのもしやなんです。
そう、陽菜荼の誕生日の10月10日は私の生まれた時間10時10分から来ているんです。


が。


この生まれた時間で最近衝撃的なことがあったのです……。

それはお母さんに『私の生まれた時間って10時10分だよね?』と聞いた時でした……。
お母さんは私の問いかけにキョトンとした後に『あなたが生まれた時間は10時10分じゃなくて、"10時12分"よ』と言いました。
そして私は目を見開き、『へ?』と。

今年一の驚きでした…。

そして焦りました…『マジかよ〜ッ。だったら、陽菜荼の誕生日、10月10日じゃなくて10月12日じゃんッ!?』と。

ということで、本当は陽菜荼の誕生日は10月10日じゃなくて10月12日だったんだよ〜


っていう裏話でした〜




木曜日に予定している更新ですが……もしかすると『妖狐の水浴び』をお休みして、此方を更新させていただくかもしれません(*´ー`*)


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【★】カランコエを添えて006 ※ネタバレ喚起(かんき)

原作本通り、進んでいきます。時折アニメ要素入ります(ごく僅か)




ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)


 

【公理協会 100層】

 

「お言葉ですが、最高司祭様」

 

キリトの声を遮った鋭く凛とした声の主は整合騎士アリスであった。

後ろで三つ編みで纏めてある金髪を一歩前に進み出る際に揺れ、きらっと月の明かりに反射して光り、それは正に目の前にいるアドミニストレータの艶やかな銀髪に対抗するかのようだった。

 

「きたるべき闇の軍勢の総侵攻に、現在の整合騎士団では抗しきれないとお考えだったのは、騎士長ベルクーリ閣下も、副長ファナティオ殿も御同様でした。そして……私も。無論、我ら騎士団は、最後の一騎までも戦い抜き散り果てる覚悟でしたが、しかし最高司祭様には、騎士団なきあと無辜(むこ)の民びとを守る手立てはおありだったのですか。よもやお一人で、かの大軍勢を滅ぼし尽くせるなどとお考えだったわけではありますまい!」

 

ホールへと響く騎士アリスの悲痛な叫びにアドミニストレータは笑みを薄め、少し意外そうな表情でじっと黄金の騎士を見下ろす。

ユージオも一歩前に出て、青いマントをはためかせているアリスの言葉に衝撃を受けていた。

整合騎士アリス・シンセシス・サーティ。

ユージオの大切な幼馴染、アリス・ツーベルクの体に宿る、仮の人格。

彼女は数日前に学院の大講堂でユージオの頬をしたたかに打ち据えたように、冷徹な法の執行者だった筈だ。あの時のアリス中にはかつてのアリスが持っていた沢山の感情も優しさも無邪気さも、とりわけ愛情は微塵も存在してなかったはずだ。

 

“筈なのに……まるでーー”

 

アドミニストレータを見据え、静かに憤る騎士アリスが発した言葉はまるでかつてのアリスがそのまま整合騎士として成長し、発したように思えた。

息を飲むユージオの視線に気づくことなく、黄金の整合騎士は床へとカァン! と音高く金木犀の剣を突き立て、再度言の葉を言い募る。

 

「最高司祭様、私は先刻、あなたの執着と欺瞞が騎士団を崩壊させたと言いました。執着とは、あなたが人界の民たちからあらゆる武器と力を奪ったことであり、そして欺瞞とは、あなたが我ら整合騎士すら深く謀っていたことです! あなたは我らを親から……妻や夫、兄弟姉妹たちから無理矢理に引き離し、記憶を封じておきながら、ありもしない神界より召喚したなどという偽りの記憶を植え付けた……」

 

そこで言葉を切り、俯いたアリスはすぐに背筋を伸ばすとより一層毅然とした声で続けた。

 

「……この世界を、民たちを守るために必要なことであったのなら、今は咎めますまい。ただ、どうして我らの、公理協会と最高司祭様に対する忠誠と敬愛すらも信じてくださらなかったのですか! なぜ我らの魂に、あなたへの服従を強制するなどという、汚れた術式を施されたのですか!!」

 

そう言いのけたアリスの適度に整っている横顔に一筋ポロリと内から溢れてくる感情に促されるように透明な雫が流れ落ちるのをユージオ、そしてカナタは見る。

青い瞳と蒼い瞳はだんだんと丸くなる、二つの瞳に満ちるのは複数の複雑な感情。

青い瞳は再会した時は全ての感情を失ったと思っていた彼女が見せる感情に戸惑ったから……蒼い瞳は常に冷静な彼女が今の感情を言の葉へと載せてぶつけてくれていることに喜びを感じたから………。

 

「あらあら、アリスちゃん」

 

しかし、アリスの氷のつららのように冷ややかで鋭い訴えを鮮やかな笑顔で応じたアドミニストレータの表情に罪悪感など微塵もない。

故に彼女は何処までも人界の支配者であり、リアルワールドに住まう者たちに似通うものがあるのだろう……。

 

“ふぅ……おちつけ、あたし。ここで怒ったってなんの意味のないだろ”

 

カナタは数回深呼吸してから再度空中を漂うアドミニストレータを睨む。

その蒼い瞳の奥に見え隠れする感情はここにいる誰も気付くことは出来ないだろう……。

 

「ずいぶんと難しいことを考えるようになったのね。まだたった五年……六年? それくらいしか経ってないのにね……あなたが造られてから」

 

冷淡な美声によって綴られる言の葉は微笑を含ませながら、ホールの中へと響き、カナタ達の耳へと流れ込んでくる。

 

「……私が、あなたたちインテグレータ・ユニットを信じなかった、ですって? ちょっとだけ心外だわ。とっても信頼してたのよ……歯車仕掛けで健気にカタカタ動く、かわいいお人形さんたちですもの。アリスちゃんだって、大事な剣が錆びたりしないように、こまめに磨いてあげるでしょう? それと同じことよ。あなたたちにプレゼントした敬神(バイエティ)モジュールこそ、私の愛の証だわ。あなたたちが、いつまでもきれいなお人形でいられるように。下民たちのように、下らない悩みや苦しみに煩わされずにすむように」

 

そう言い、薄紫色に光る三角柱をくるくると指先で回転させる、それは先程ユージオのひたいから抜き出した改良版の敬神モジュールだ。

敬神モジュールを見ていた鏡のような無機質な瞳がアリスを貫き、続けて黒髪の少年・キリトの横に佇み、こちらを見上げるカナタへと流し目を送る。

 

「かわいそうなアリスちゃん。きれいなお顔をそんなにくしゃくしゃにしちゃって。悲しいのかしら? それとも怒っているのかしら? ……私のお人形のままでいれば、そんな無意味な感情を味わうことは永遠になかったのに……でも、安心し–––」

 

真珠色の唇が言葉を紡ぐ前にガリガリと奥歯を噛み締めている瞋恚に満ち満ちた声が遮る。

 

「––––…………いい加減にしろよ」

「……カナタ」

 

金色の光沢を放つ鎧の上を流れ落ちていく透明な雫が床に落ちていく中、カナタは右手でギュゥと愛刀の鞘の形が壊れるほどに握りしめる。

 

「アリを……アリスを泣かしてるのはあんただろ」

「……」

 

ポタポタ……と静かになったホールへと響く水の音が聞こえる。

キリトはその音が自分の近くから響いていることに気付き、黒い瞳が見たのは(あお)い鞘を握りしめているカナタの右手から滴り落ちている鮮やかな赤色の液体で、白い手も床も赤く染まるの見てキリトが近寄ろうとするがカナタには目の前にいるアドミニストレータしか視界に入ってないようで、左手でポンと胸を押す。

 

「泣いている理由も全部リセットしてあげるから安心しなさい? ホント、ふざけんなよ…あんた」

 

吐き捨てるように言ったカナタの髪の毛、触れれば折れてしまいそうな程華奢な身体から赤色エフェクトが出ているように思え、髪の毛も逆立っているように彼女の後ろにいるユージオとアリスは思った。

 

「苦しみ悲しみ悩むが下らないこと? ふっざけんなッ!! それは人として当然の権利であり………自身を進化させる為に必要なことだ!」

 

ブンと愛刀を掴んでいた右手を横に振るカナタはギュッと自分の橙の着物を握りしめ、下を向く。

 

「人は悩み苦しみ、時折間違え…学んでいく。その学びが重要なんだ。あんたが造ったこの世界は確かに正しい。ああ、認めるよ。初めて、この世界に来た時にこの世界に住む人と触れ合った時にどれだけ自分が汚れているか思い知らされたよ……だけど、それだけなんだ。平行、停滞……何処までも真っ直ぐで曲がる事もない真っ白で綺麗な道。誰もその道に沿って歩んで行っている……いいじゃないかってあんたは思うんだろ? だけどなッ、その道に沿って育った人間の中にもどうしようもない奴がいる」

 

下を向くカナタの脳裏に浮かぶのは、ニタニタと自分を見て嗤うセントラル修剣学院で同級生だった二人の少年。

赤と黄色の上級修剣士を着たその少年はカナタの後輩達へと許されない行いをした。

きっと彼らが行なったその行いによって傷つけられた彼女達の心は癒されることは一生無い……。

 

「……な、貴族ってそんなに偉いのか? お金を周りよりも多く持っているだけで何でそんなに偉そうに出来る? お金が沢山あったら、怯えている女の子を無理矢理押さえつけて襲ってもいいっていうのか…ッ。そんなの………そんなの、可笑しいだろッ!!!! 確かにその人達は努力して、お金を稼いだのだろう…その努力を、頑張りを、否定する気はない。だけどなッ、一時の気まぐれで一生消えない傷を作る人が居るんだ……」

 

ギュッと更に強く着物を握りしめるカナタの背中が微かに震えている事を隣にいるキリトも、後ろにいるユージオもアリスも気付く。

 

「……そんな奴らを作っている事をなんで気づいてくれないんだ……。確かに今注意するべきは闇の総侵攻だ。あたしだってアリスと叔父さん…ベルクーリ閣下、ファナティオ副騎士長の意見には賛成だ。だけど、ここはあんたに譲って、あんたの秘策は頼るとする……だけど、残った人界に残る民は蓋を開ければ、腐っている奴らが主だろう」

 

そこで言葉を切ったカナタは真っ直ぐアドミニストレータを見据える。

 

「そんな人界残して何になる? あたし達整合騎士は、この公理協会は正義の為に、人界に住む人々を守る為にあるんだろう……? ここまで言えば、分かっただろう……あんたの世界は産まれたその時からおかしかったんだ。あんたは人々に停滞しか望まなかった…だけど、人々には進化が必要だったんだ。あんたの愛はそれだけ安っぽくてちっぽけって事だ」

 

着物を掴んでいた手を離し、さっきよりも濃い敵意を込めた蒼い視線を鼻で嘲笑ったアドミニストレータは片眉をあげる。

 

「ふふふ。いつもに増して詭弁ね? 私と話すときはいつも物静かであまり喋らないのに……」

「……大切な仲間が泣かされたんだ、あたしだって流石に怒る。それにあんたのさっきの言い方はアリスやあたしだけじゃない。……ベルクーリ閣下を侮辱しているッ! 確かにあたしはあんたを出し抜く為に演技をしていた。それによって多くの人の信頼を裏切っただけど…ベルクーリ閣下の貴女への忠誠は本物だ。何故、あの人の忠誠すらも鼻で笑い、貶す?」

 

今だ静かに憤る橙の着物を着た整合騎士の問いをアドミニストレータは歪んだ笑顔で答える、橙の整合騎士と金色の整合騎士が怒りで肩を揺らす返答で。

 

 


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今更だけど、アリスちゃんが歌う【Meaning the start】っていい曲だよね…!


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【★】カランコエを添えて007 ※ネタバレ喚起(かんき)

R2(にゃー)2(にゃー)/2(にゃー)2(にゃー)/2(にゃー)2(にゃー)2(にゃー)2(にゃー)

猫・ケットシー好きとして、この日、この時間に更新しないのは許せなかった…




ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)


 

【公理協会 100層】

 

「何故って……さっきも言ったでしょう? くだらないって」

 

そこで言葉を切ったアドミニストレータは腰まで伸びた銀髪をふわっと揺らす。

そして、挑発するように鼻で笑うとこちらを見上げているアリスとカナタを流し目で見ると口元を冷ややかな笑みで彩った。

 

「アリスちゃんもカナタも知らないようだから教えてあげるわね。一号…ベルクーリがその手の下らない話でうじうじ悩むのは、初めてじゃないのよ。実はね、百年くらい前にも、あの子は同じようなことを言い出したの。だからね、私は直してあげたのよ」

 

真珠色の唇からくすくすと鳥が囀るような声が漏れ出る。

 

“……笑っているの、か?”

 

漏れ出る声は楽しそうな色を含んでいた。滑稽で仕方ない、と。そう嘲笑っているのだ、最高司祭は。

やはり、彼女にとって"悩み・苦しみ・怒り"という感情は下らないものに片付けられるようだ。

カナタの想いも訴えも彼女の前ではそよぐ小風くらいにしか感じないようだ。煩わしいとすら思われない。それ程までにベルクーリの苦悩は、この公理協会に暮らす整合騎士・人達の苦悩は、この世界に暮らす人達の苦悩は彼女の言う通り"下らないもの"なのだろうか?

 

“そんな……わけないだろっ。なんで分かってくれないんだ…”

 

カナタは奥歯をガリッと音がするまで噛みしめる。

アドミニストレータ。この人界の、この公理協会の最高司祭。

彼女は確かに許されない事をした。彼女がした事は彼女の命をもってしても許されない罪なのかもしれない。

だが、そんな彼女だって人間だ。自分が今でも"下らない"と切り捨てている苦悩をポロリとベルクーリや他の整合騎士に漏らしていた事を知っている。

 

「ベルクーリの記憶を覗いて、そこに詰まってる悩みだの苦しみだのを、ぜーんぶ消してあげたわ。あの子だけじゃない……百年以上経ってる騎士は、みんなそう。辛いことは、何もかも忘れさせてあげたのよ」

 

“なのに、何でこの人はそんな事すらも忘れてしまっているのだろう……”

 

手を取り合いたい。わかり合いたいとさえ昔は思っていた。

だが、目の前のこの人に何を訴えようとも最早無理なのかもしれない。もう彼女は現実の世界の人々(カナタ達)と同様の人となってしまった。

ここに生きている人々を只のデータが集結したものだとそう割り切ってしまうほどになってしまった。そんな事はないのに……ここに暮らす人々は紛れもなく()だ。其々が感情を持ち、自身の生を全うしている。尊く美しい存在だ。それはきっと目の前のアドミニストレータ(このひと)も同じ筈だ。

ただこの世界のことを知りすぎてしまった。人の醜いところを育ててしまっただけに違いない。世界で一番悲しい人だ、彼女は。

 

“……優しすぎるだろうか。やはり、あたしは自分の気持ちを押し込んでもこの人をーー”

 

『らしくないわよ、陽菜荼』

 

カナタの脳内でいつの日か恋人に言われた台詞が流れた。

黒縁メガネの向こう側で此方を見つめる焦げ茶色の瞳が意地悪に挟まり、白い紐で括られた瞳と同色のショートヘアがふわりと揺れ、ちょんと鼻先を突かれたのは一体いつの頃だっただろうか。そういえば、その頃から下を向いているとちょんと鼻を彼女に突かれたっけ……。

 

カナタの口元に笑みが溢れる、それはいつも彼女が浮かべている余裕に満ち満ちた飄々としたものだった。

 

“ふふ。そうだよね、あたしらしくないよね。こんなに迷うなんてね。あたしはあたしのしたいようにする。それが今までもこれからもあたしがしてきた、していく事なんだから……”

 

あんがと、詩乃。君はやっぱり凄いね。

さっきまで不安だった気持ちが、君を想うだけで一瞬で消えちゃった……。

 

“もう迷わないよ、この世界に暮らす人達を救って。必ず君のいる世界に戻る”

 

カナタは再度ギュッと橙の着物を握りしめる。すると、其処には今まで感じてこなかった感触を感じる。

素肌に触れる無機質な光を放つソレはチュゲルキンの攻撃によって黒いチリチリになった着物の隙間から周りにいるアドミニストレータやキリト達の目にも映るーーーーーーー銀色の文字で刀と弓が描かれている蒼の宝石がはめ込まれたが中央にあり、小さな花が掘れた小さな銀色の輪っか。

それはいつかカナタが恋人に渡した結婚指輪。カナタとシノンを結ぶ絆の結晶だ。

 

「……やはり、あんたとは一生分かり合えないようだな、クィネラ」

 

分かり合えないのならば、伝わってくれないのならば、最早剣と刀を重ね合わせるしかない。

そうすれば自ずと伝わってくるだろう、カナタの気持ちが。

 

「……貴女も物好きね。ま、いいわ。貴女もアリスちゃんも壊れない程度に痛めつけてあげる」

 


ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)






前半のアドミニストレータさんは許せない存在だったけど、後半でベルクーリさんと話している時に"彼女が一番悲しい人"なのではないのかと思った。


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【★】カランコエを添えて008 ※ネタバレ喚起(かんき)

こっからオリジナルと原作が交わっていきます。
あと、これまでこっそりと立ててたフラグも回収していこうと思います。
後々(のちのち)どこがフラグだったのか、前の話を読んでみるのも良いかもしれませんね、この話を読んだ後に…(微笑)




ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)


 

【公理協会 100層】

 

「壊れない程度にあたしとアリを痛めつける? そんな事、あんたに出来んの?」

 

勢いよく右側から泉水(あいぼう)を抜き取り、とんとんと右肩を叩きながら、ふらりと穴が空いた橙の着物を揺らして不敵に嗤うカナタ。

ニヤリと片頬を上げて笑うカナタの胸元には無機質に光る銀色の輪っかが彼女を見守るように揺れており、その輪っかを鏡のようにあらゆる光を跳ね返す銀色の瞳は一瞥する。

 

(……物質転換? いいえ、見たところ何も転換されてないようだわ)

 

真珠の唇がひっそりと笑みを浮かべる。

やはり、目の前の少女は面白い。このまま、分解してしまうのは勿体無い。時間は掛かるだろうがゆっくりと心を開き、今度こそ少女を従順な人形へと作り変えよう。もちろん、彼女だけじゃない、目の前にいる青年、少女等も同様に作り変えよう。

銀色の少女は"くくく"と嗤う。今から楽しみで仕方ないのだ、青年、少女等が自分に従順に従う姿が。

 

「出来るわよ。私にはとっておきがあるもの」

「ふーん、ならしてみれば」

 

興味なさそうにそう言った橙の整合騎士は肩を叩いていた水色の刃を持つ愛刀をアドミニストレータへと向ける。

 

「でも、タダでやられるほどあたしらは弱くない」

 

一方は不敵に笑い、もう一方は見下すような笑みを浮かべ、互いを睨む癖っ毛が多い栗色の髪と銀髪の少女達から視線を横に晒すと完全に置いてけぼりを食らっている青年、少女等の姿がある。

 

一人は橙の整合騎士の隣に立っている黒い騎士服を着込んでいる青年、彼の短く切り揃えられた黒髪と同色の瞳には一種の呆れの色が浮かんでいる。

彼女と多くの世界を旅してきた彼は普段から彼女の自由奔放っぷりに振り回されているのだろう。だが、瞳の奥の奥、信頼の光が差すのも彼と彼女が様々な世界で培ってきたものなのかもしれない。

 

一方、その後ろにいる青い騎士服に身を包んでいる亜麻色の髪を短く切り揃えている青年と純金を溶かした金髪を三つ編みにしている少女の青と(あお)の瞳には戸惑いの色が多く浮かんでいる。

青年と少女は目の前でコロコロと表情を変える橙の整合騎士を見つめ、より困惑する。

さっきまで憤っていた彼女は次の瞬間、悩み苦しみを浮かべ、今はいつものように掴み所が分からない飄々とした表情にシフトチェンジしている。

 

「カナタ。一人で突っ張りすぎだ」

「お?」

「何だよ、人の顔をジロジロと…」

「キリってよく見るとめっちゃ可愛いんだね!」

「おまっ……今はそんな事は言ってる場合じゃないだろ……」

「こういう時だからこそ言うべき台詞でしょう。ほら、緊張が一瞬で消えたでしょう?」

「……代わりに頭が痛くなったがな」

「ちょい、それは酷くないかいっ」

 

ユージオとアリスは面を食らう、キリトをからかい、ケタケタと笑うカナタが二人には今だ宙に腰掛ける銀髪の少女と重なる。

異形(いぎょう)。異なる形。

人は自分達と異なるものをそう呼び。蔑み忌み嫌い恐怖する。自分たちと容姿が違うのが、相手の考えている事が分からないのが怖い。

きっと二人が感じているのはそういう恐怖だろう、こっちを振り返ってニカッと笑う橙の整合騎士に抱いている気持ちは–––––。

 

「さて、お別れの挨拶は済んだかしら?」

「お別れの挨拶なんて必要ないよ。必要なのはそっちでしょう」

 

そうきり返すカナタにアドミニストレータは"言ってなさい"と鼻で笑ってから高々に声を上げる。

 

「あなた達はとても幸運だわ。……喜びなさい。誰よりも最初に、あなたたちに見せてあげるから」

「見せる、何を?」

「術式よ。カナタとそこの坊や、そしてアリスちゃんが心配していたダークテリトリーからの総侵攻を食い止めるためのよ」

「食い止めるための……術式……?」

「私はね。このアンダーワールドをリセットさせる気も、況してや《最終負荷実験》さえも受け入れるつもりはないよ。そのための術式は、もう完成しているの。時間だけは私の味方だものね」

 

そこで言葉を切った最高司祭は"くすくす"と笑うと余裕に満ち満ちた表情で続ける。

この場にいるのは忠臣であるチュゲルキンを失い、わが身一つとなってしまった自身とその身を狙う四人の反逆者。自身の方が不利であるのは明白なのに、最高司祭……いいや、この世界の最高支配者は尚も余裕を崩さない。自身の方へと傾いている勝機が絶対揺るがないという自信。

 

「正直言うとね。騎士団はただの()()()だったのよ。真に私が求める武力には、記憶や感情はおろか、何かを考える力すらも要らない。ただひたすらに目の前の敵を屠り続けるだけの存在であればいい。つまり……人である必要はないのよ」

「……なにを、言って……」

「!?」

 

唖然とするキリトの声、その横でハッとした様子で辺りを見渡すカナタを無視して、アドミニストレータは左手を高く掲げる。

そこに握られているのは妖しく光る紫色の三角柱。ユージオのおでこから引き抜かれた、敬神(バイエテイ)モジュール。

 

「愚かな道化だったけれど、チュゲルキンも少しは役に立ったわね。長ったらしいこの術式を、最後まで組み上げる時間をつくってくれたんだもの。さあ、目覚めなさい、私の忠実なら(しもべ)! 魂なき殺戮者よ!!」

 

その言葉を聞き、ユージオは悟った。

自分を取り戻し、この部屋に戻った時にベッドの奥でかすかに響いていた術式。途轍もなく長く、詠唱を意思力で省略することもできない、そんな最高司祭にとっても最大級の神聖術。それが今発動しようとしている。ふさがなくてはいけない出来事であることは既に起こってしまっていたのだ。

 

「クッソ」

 

そう悪態を吐く橙の整合騎士。それを見下ろしながら、ニンヤリと片頬を上げた最高司祭は声高らかにその二文字を叫ぶ。

 

「リリース・リコレクション!!」

 

武装完全支配術の神髄(しんずい)

武器の記憶を解放し、どんな神聖術すらも超える力を引き出す、真なる秘術ーー。

その秘術を発動させる為の時間も余裕もカナタ達は彼女に与えてしまっていたのだ。

 

しかし、後方で黄金の整合騎士と共に宙を漂う最高司祭を見ているユージオの目には銀髪の少女の裸体しか見えず。眉をひそめる。

 

(……でも、アドミニストレータは何も持ってない)

 

"いや、最高司祭となると武器すらも召喚できるのか? いや、そんな事流石に最高司祭も出来ないはず……"考え込むユージオの耳に微かな、きん、きんと鉄と鉄が重なり合う音が聞こえる。

 

「……まさかっ!?」

 

勢いよく辺りを見渡したユージオの青い瞳が捉えたのは広大な広場を取り囲む何本もの柱。そこに取り付けられた…飾られていた黄金色に輝く大小様々な模造の剣が小刻みに震えていたのだった。

模造剣は最大のもので長さ三メルに及ぶものもあるだろう。この世界の支配者であろうとそんな代物は振り回さないであろうし、何より数が多い。三十。三十もの武器を完全支配する事がアドミニストレータに出来るのだろうか?

それに武装完全支配術は確か自分が使い込んだ一つの武器でしか発動できなかったはずだ。 自分の忠臣であったチュゲルキン、整合騎士達すらも只の道具しか思ってない最高司祭にそれ程多くの武器を支配できる事が出来るのだろうか…?

 

脳をフル回転させるユージオには目もくれず、次の瞬間、大小異なる剣たちは一箇所へと勢いよく飛んでいき、がきん、がきんと金属音を放ちながら接触し、組み合わさって、ひとつの巨大な塊を作り上げていく。ユージオはそれが、どこか人間に似た形であることに気付く。ずっと昔から遊びで作った人形のような……いいや、この姿は既に山脈を越えた先にあるダークテリトリーのもの……。

 

組み合わさったソレは中心を貫く太い背骨と左右に伸びる長い腕。下側にも脚も生えているが、これは人間の倍、四本という異様な形で成り立っていた。

容姿を見るに異様な巨人、怪物へと変化した剣たちに向けて、アドミニストレータが握られた敬神(バイエテイ)モジュールを差し伸べた。

 

"あの三角柱が、最高司祭の記憶解放術の要だ"とユージオが思うよりも先に二つの影が動く。視界の先で揺れるのは黒い騎士服と橙の着物。

 

「「ディスチャージ!!」」

 

二人が放ったのは数ある熱素攻撃術の中の一つ、《バードシェイプ》。標的を自動的に追いかける性能がある。

二人の指から放たれた炎の鳥は最高司祭を挟むように飛んでいき、その最高司祭は今は黄金の巨人に頭部を見ており、キリトとカナタの攻撃には気付いてない。

 

"これなら当たる"とユージオが思った瞬間、巨人がゆっくりと脚の一本を上にあげた刃に触れた途端、二つの炎の鳥は呆気なく消えてしまった…。

其方を見ることもなく、アドミニストレータはふわりと左手の三角柱を巨人へと放ち、紫の三角柱はたちまち巨人の背骨を構成する三本の剣の内側へと吸い込まれた。

吸い込まれた三角柱から漏れ出る紫の光がゆっくりと登り始め、人であれば心臓に位置するところで停止するとひときわ大きな光を辺りへと撒き散らした。

そして、丸みを帯びていた無数の剣がきんっ! と音を立てると鋭利な刃を得た。

 

くす、とアドミニストレータがほくそ笑むのを感じる。

 

その瞬間、ユージオは……いや、この場にいる四人の反逆者は最高司祭の術式が完成してしまったことを本能で感じた。

 

身長5メルある黄金の巨人は背骨や肋骨、二本の腕から四本の脚に至るまで、全て黄金の模造ーーいや、実剣で組み上がっている。

 

「……あり得ない……」

 

出来上がった巨人を見て、そう呟いたのはユージオの隣にいるアリスだった。

彼女の美しい横顔が、蒼い瞳が驚きで極限まで挟まり、小刻みに震えている。

 

「同時に複数の……しかも三十もの武器に対して、これほど大がかりな完全支配術を使うなど、術の(ことわり)に反しています。最高司祭様といえども、神聖術の大原則には従わねばならぬはず……いったい、どうやって……」

 

アリスの呟きはアドミニストレータにも届いていたのだろう、愉快そうに笑うと巨人へと視線を向ける。

 

「うふふ……ふふ、ふふふ。これこそ、私の求めた力。永遠に戦い続ける、純粋なる攻撃力。名前は……そうね、《ソードゴーレム》とでもしておきましょうか」

 

聞いた事がない神聖術に眉をひそめるユージオとアリスの耳に二つの呟きが聞こえてきた。

 

「剣の……」

「自動人形」

 

黒い剣士と橙の整合騎士が訳した単語はあっていたようでアドミニストレータはくすと小さく笑ってから二人へと話しかけている。

 

「ふふ。さすが坊やとカナタね。神聖語……いえ、エイゴに詳しいわね。騎士が嫌なら書記官にしてあげてもいいわよ。今すぐ剣を置き、非礼を謝罪し、私に永遠の忠誠を誓えば、だけどね」

「残念ながら、あなたが俺の誓いの言葉を信じてくれるとは思えないな」

「そそ。あたしに至っては一度裏切ってるわけだしね。念入りに記憶の消去とかしてくるんじゃないかな」

「それに……俺達はまだ、負けを認めたわけじゃない」

「坊やもカナタもその気の強いところは嫌いじゃないけど、でも、お馬鹿さんなのは頂けないわね。まさか、私のゴーレムに勝てる……なんて思ってるのかしら? 剣の一本一本が神器級の優先度を持つこのお人形に? 私が、貴重な記憶領域をぎりぎりまで費やして完成させた、最強の兵器に……?」

 

兵器。

その単語にユージオは聞き覚えがあった。

そう、確かあれは……副騎士長であるファナティオと戦った時に彼女か言っていたのだ。

千枚もの鏡でソルスの光を一点に集め、神聖術を使わずに超高温の炎を生み出そうとした。最高司祭はその試みを《兵器の実験》と言っていた、と。

アドミニストレータにとっての兵器とはつまり、神聖術を超えるほどの力を発揮する道具。

そして、目の前にいるこの歪な形をした巨人こそが彼女が追い求めていた兵器というわけなのか。

 

「さあ、戦いなさい、ゴーレム。お前の敵を滅ぼすために」

 

アドミニストレータの命令は喜びに満ちていた。

この命令をずっとしてみたかったと言っているようにホールに響く命令に黄金のゴーレムはぎし、ぎし…と鉄と鉄が擦れ合う音を辺りへと響かせながら、こちらへと歩いてくる無機質な巨人にユージオの歯はガタガタと震える。

それは恐怖なのだろう、心臓を氷を押し付けられたような本能に呼びかける恐怖。動かなくてはいけない、と頭では分かっているだが両足が床にくっついて動かないのだ。

しかし、そうしている間にもユージオ達の近くまで歩いてきたゴーレムは三本ずつの剣でできた両手を振り上げる。

その動作にいち早く反応したのはユージオの隣にいた騎士アリスだった。

 

黄金の疾風は果敢にも真正面からゴーレムを迎え撃つつもりなのようで

 

「やああああッ!!」

 

両手で握った金木犀の剣をアリスは全身を限界まで反らして振りかぶった。

その時点、キリトもまた動き始めていた。右斜め前へと飛び出し、ゴーレムの側面に回り込もうとする。

 

二人の行動にユージオはハッとする。

二人ともゴーレムに弱点があるすれば、それは背骨と四本脚の接合部、人間なら骨盤に当たる場所だと判断したのだ。だからとて、正面からの攻撃は危険すぎる。だから、アリスが囮となって、キリトがその箇所へと攻撃を放つ。

 

事前に何の相談もしてないのに、瞬時に連帯技を開始したキリトとアリスに感動の声と胸が締め付けられる気持ちになりながら、ユージオは二人の攻撃を見守る。

 

金木犀の剣がソルスの光にも似た眩い軌跡を描き、怪物の右腕もまた、迎え撃つように振り下ろさせーーーー金色に輝く大小の刃が激突した瞬間、戦闘と呼ばれるものは終わりを迎える。時間にしてわずか二秒。

アリスの金木犀の剣がーー《永劫不朽(えいごうふきゅう)》の属性を持つ神器のなかの神器が、ゴーレムの右腕に、あっけなく弾き返され、後方へ騎士の体が傾き、後ろに倒れまいと踏ん張るアリスの体めがけて、音速を超える速さでゴーレムの左の剣が突き込まれた。

アリスの細い背中から、凶悪なまでの巨大な剣の切っ先が現れ、真紅の雫を撒き散らした。長く美しい金髪が鮮血に濡れ、ふわりと宙へと流れた。

 

「ゴホッ……くっ………」

 

左右に分裂された黄金の胸当てが、瞬時に天命を失って粉々に砕け、騎士の右手から金木犀の剣が抜け落ち、床に転がった。

そして、最後にゴーレムの左腕が無造作に引き抜かれ、黄金の整合騎士は前のめりに倒れた。

たちまち、彼女から流れ出す鮮やかな赤い水たまりにユージオの震えは深まっていく。

 

「う……ああああッ!!」

 

そんなユージオの耳に響いたのは、悲鳴にも似た絶叫。

巨人の右横に回り込んだところだった黒髪の剣士は、両目に異様な光を浮かべ、右手に持っている黒い剣が鮮やかな青の光を放つ。

あれは秘奥義《バーチカル》。

背骨にはめ込まれた敬神(バイエティ)モジュールを破壊すれば巨人は動きを止めるだろう。だが、何メルもある背、そして分厚い刃に守られているそこに攻撃を与えるのは秘奥義でも不可能だろう。故にキリトが狙ったのは、ゴーレムの背骨と脚の接合部分だった。

剥き出しのあそこを狙えば、巨人は動けなくなり、背骨にはめ込まれている紫の三角柱を破壊できる。

そう考えたキリトの剣が動き始めたその瞬間、巨人もまた動き始める。上半身は背骨を軸として、猛烈な勢いで回転した。人間には不可能な動きで真横を向いた巨人の左腕が横薙ぎにキリトを襲った。

「くっ」

 

衝撃に耐えられず、キリトの体がぐらつく。すかさずゴーレムの左後ろの脚が繰り出され、無防備な懐へと吸い込まれる。

 

「……ごほっ」

 

キリトは真横に吹き飛ばされ、東側の窓に激突した。恐ろしいほど大量の鮮血がガラスを染めてから、黒い剣士はずるりと床に崩れ落ちた。

黒い騎士服を濡らしていく赤い血と床へと広がる赤い水たまりにユージオの足はいよいよ動かなくなる。

 

騎士アリスとキリトはいまや人界最強とさえ言える使い手だ。

敵が異形の怪物、《兵器》だったとしてもこんな風にやられない。やられるはずがない。

だから、すぐに起き上がって、目の前の巨人へと立ち向かうはず……。

 

だが、ユージオの願いはゴーレムがこちらに向かって歩いてくるぎし、ぎし…という不気味な音と"くすくすくすくすくす"と床へと倒れるキリトとアリスを見下ろし、愉快そうに笑うアドミニストレータの笑い声によって掻き消された。

 

"もう無理なのか""幼馴染であるアリス・ツーベルクを連れて、ルーリッド村に戻るという夢はここで砕けてしまうのか…?"とユージオが諦めかけていたその時、この場にはこの絶体絶命な状況を楽しんでいた者がいた。

 

“やれやれ、もう少し温存しておきたかったんだけど……アレをするとしましょうか”

 

「もう勝ち誇った気でいんの? クィネラさん」

 

そう言い、ニヤリと片頬をあげ、ホールへとアルト寄りの声を響かせるのは橙の整合騎士カナタ・シンセシス・サーティワン。

彼女は癖っ毛の多い栗色を揺らし、桜色の唇がいつものように不敵な笑みを浮かべるのをユージオの青い瞳は見る。

 

そうだ、キリトとアリスと肩を並べるほどに彼女もこの人界一の使い手だ。

かくいうユージオも彼女から複数の技を教えてもらった。彼女の突拍子のない剣筋ならばゴーレムと互角に……いや、無理だ。彼女と同じほどの強さを持っていた二人の剣士、騎士が呆気なく倒されたのだ。彼女もきっと彼らと同じような目にあってしまう。

 

「……カ、カナタ……」

 

自分の方に歩いてきていたカナタへと震えた声を漏らすユージオの頭をぽんぽんと叩いたカナタはニカッと笑う。

 

「大丈夫。あたしがやるだけのことをしてみるからさ。だから、ユオは後ろに下がってな」

 

肩をユージオの緊張を振り払うかのようにとんとんと優しく叩くカナタの笑顔を見ていると何故かこの絶体絶命な状況もなんとかなってしまうのでないかという甘い考えが浮かんでしまう。

"しかし、その考えに騙されてはダメだ!"とユージオはかんぶりを横に振ると離れていこうとする彼女の右手をギュッと掴む。

 

「……やるだけのことをするって何をするのさっ! アリスもキリトだって倒れてしまったんだよ。カナタだって……カナタだって倒されてしまうよッ」

「ユオは優しいな。あたしのこと心配してくれるんだね。でも、ノープロブレムッ!」

「ノープロブレム……って、今は巫山戯ている場合じゃ……」

「ノンノン、チェリーボーイ。あたしが巫山戯る時はいつもの勝利を確信しているその時だけさ」

 

もう一度ニカッと笑ってから右肩をチラッと見るとこっそり声をかける。

 

「ってわけで、シャーはあたしの万が一の時に備えて、ユオのところにいて」

『……カナタ』

 

ユージオの耳に艶っぽい女性の声が届く。聞いたことがない女性の声だ。カナタの知り合いなのだろうか?

訝しむユージオを蚊帳の外に、カナタと謎の女性の会話が進んでいく。

 

「あたしなら大丈夫。だけど……もしも二人みたいになった場合はユオをお願い。君の主人ならきっと絶体絶命をなんとかしてくれる」

『ええ、分かったわ』

「あんがとね」

 

カナタは短い会話を終えるとゆっくりとした足取りで赤い水たまりの上に横たわる黄金の整合騎士の元で歩み寄っていく。

その背中からぴょんと飛び降りて、ユージオの元へと飛んできたのは爪の先ほどしかない、漆黒の蜘蛛だった。

 

 

τ

 

 

キリトは全身を走る激痛に冷や汗を流していた。

肉体的痛みになれたつもりだった。だが、実際には何も克服してなかったことを知る。

 

キリトがルーリッド村にいた時、カナタとユージオと共に北の洞窟に足を踏み入れ、そこでダークテリトリーから侵入してきていたゴブリン達と対峙したことがある。隊長ゴブリンの蛮刀に左肩を斬り裂かれた時、あまりの苦痛のあまり……苦痛を感じる恐怖のあまり、足が竦み動けなかった。

おそらく、それはアミュスフィアが備えているペイン・アプソーバ機能によって痛みが取り除かれた世界で長時間戦っていたからだとキリトは悟り、このアンダーワールドでの自分が克服せねばならないのはこの"痛みによる苦痛"だと知った。

その体験以降、キリトは修剣学院でユージオとカナタとの稽古の時に木剣で叩かれた時に感じる痛みで脚を竦まないように自分を律してきた。その結果、整合騎士達との激戦の時は深い切り傷を負っても立ち止まることなく戦えた。このアンダーワールドでは手脚、胴体が分離されようとも天命がゼロにならない限り、完全治癒が可能だから……。

 

だがーー。

 

霞む視界に捉えるゴーレムにキリトは苦い顔をする。

アドミニストレータが作り出した《ソード・ゴーレム》なるものはこの世界の(ことわり)から一脱した存在だ。アドミニストレータが拘っていた攻撃力も威力もスピードさえも人間のそれよりも遥かに高い。

故にゴーレムが放つ横殴りの攻撃を防御したのはキリトでさえも奇跡だと思うし、ゴーレムの足によって斬り裂かれた上半身と下半身を分離された今、意思力があるのが不思議なくらいだ。

全く力が入らない下半身、上半身に広がる灼熱の暑さに歪む視界で辺りを見渡すとこちらへと背を向けて、黄金の整合騎士へと歩み寄っている橙の華奢な背中が見える。

黄金の整合騎士、アリスはきっとキリトよりも重症なはずだ。彼女はゴーレムの刃を正面から受け、胸を鋭利な刃が貫くのをキリトは見ている。心臓は逸れたようだが、血液の水たまりの量はキリトよりも多い。

 

“…?”

 

『……カナタ』

 

そんなキリトの耳に艶やかな調が届く。

ピクと黒い眉が動く。間違いない。これはシャーロットのものだ。賢者カーディナルが、情報収集のためにキリトに取り付けていた小さな蜘蛛の使い魔。

しかし、そのシャーロットが何故ここにいるのだろうか? キリトの記憶が正しければ、彼女は主人であるカーディナルから監視の(なが)(なが)い任務から解かれ、彼女が好きだという本棚の隅へと居たはず……。なのに何故、カナタのところにいるのだろうか…? そもそも、カナタとシャーロットは知り合いだったのだろうか?

 

キリトが疑問を抱く中、橙の整合騎士は赤い水たまりに沈むアリスへと優しい声音で何かを囁くと傍らに横たわっていた黄金の剣…金木犀の剣を右手で掴み、ゆっくりと立ち上がるのだった。

 

 

τ

 

 

「……ごめんね、アリ。君の金木犀の剣借りるね」

 

そう言ってから床に転がる金木犀の剣を右手に握りしめたカナタはゆっくりと立ち上がる。

そして、こちらへと歩み寄っていた黄金のゴーレムが動きを止めていることに気づき、巨人の後方でこちらを見下ろしている銀髪の少女へと一応お礼を言っておく。

 

「わざわざ待ってもらってすいませんね、最高司祭様」

「いいのよ。どうせすぐに決着がつくのだもの。何分、何秒待とうとも私には些細なことでしかないわ」

 

キリトとアリスを一瞬で葬れたことがアドミニストレータの自信(プライド)を頑固なものにしてしまったらしい。カナタは余裕を崩さないアドミニストレータを一瞥し、ギュッと泉水・金木犀の剣を握りしめてから大きく深呼吸を吸い込んでからニヤリと笑う。

 

「さて、そろそろ決着を付けると致しましょうか?」

「行きなさい、ゴーレム」

 

ぎしぎしと音を立て、カナタへと近づいていくゴーレムを蒼い瞳で見つめながら、カナタはグッと腰を屈める。そして、ぐわっと蒼い瞳を見開く。次の瞬間、喉を壊すほどの大きな声で吠える。

 

「リリース・リコレクションッ!!!!」

 

その術は武器完全支配術の神髄。

神髄には神髄で対抗しようというのだろうか? しかしならば、何故アリスから剣を借りる必要があったのだろうか? 武器完全支配術は心を通じあわせた武器でしか行えないもの……ならば、カナタは愛刀である泉水しか扱えないはず。金木犀の剣を借りてもただの飾りになりかねない。いや、借りたのは支配術を行う間ガラ空きになる懐を守ろうとして……? いや、そんなことはーー。

橙の整合騎士が行う行動はユージオの考えの右斜めをいく、延々と考えても答えなど出てくるわけがない。カナタという少女はユージオにとって出会った時からそういう存在だった。

 

「ハァァァッ!!!!」

 

身を屈め、両手に持つ刀と剣を持って、ゴーレムへと走り寄る橙の疾風へとたちまち音速を超える黄金の刃が迫る。それを端に取られた蒼い瞳とほぼ同時に水色の刃を持つ刀が淡い光を放ち、迫ってくる刃へと鋭い一撃を食らわせた。

刀スキル《辻風》

懐から一撃相手に食らわせるこの技をカナタは好んで使用していた。だが、その技でゴーレムの強力な一撃を受け止められるはずはなく…。

ガチャンッ! と大気を揺らす音がホールへと響き、一人と一体が起こす風はユージオの身体を叩きつけ、ぐらつく足元を耐えたユージオが見たのは数分前に見た光景だった……。

鋭い衝撃にカナタの細い身体をよろけ、その華奢な身体目掛けて無造作にゴーレムの右手が突き刺さり、橙の着物を引き裂く。

 

“あ、あ"………ぁ”

 

カナタならなんとかしてくれるなんてやはり甘い考えだったのだ。彼女になんと言われようとも止めるべきだった。今の自分達ではアレには勝てない、と。

 

ふふふふふふ……

 

絶望するユージオの耳に響くのは勝ち誇った笑い声。有利な立場から逆転。側から見てもユージオ達に勝ち目が残されてないことは明白だった。

 

ゴーレムに胸を刺され、下を向くカナタの表情はアドミニストレータでもユージオでも目視出来ない。長い前髪が邪魔をしているからだ。

だが、アドミニストレータにとって、それは些細なこと。誰も自身が生み出したゴーレムに勝てないと分かったこと。最大の邪魔ものであったカナタ、キリト、アリスの三人を戦闘不能に追い込めたことが何よりも喜ばしい。あとは後方で震えているユージオを倒すだけ……アドミニストレータの笑みが更に深くなる。

 

「……」

 

カナタと胸を貫いた黄金の刃がゆっくりと引き抜かれ、彼女の華奢な身体がぐらつく…。

完全に引き抜かれた瞬間、カナタはアリスのように仰向けで床へと倒れることだろう。橙の着物が鮮やかな血痕で色づく様をユージオは思い浮かべ、両脚の震えが強まっていく。そして、アドミニストレータは完全な勝利を確信して、真珠の口元に深い笑みをのぞかせ………青と鏡の瞳が見ている中、橙の整合騎士から遂に完全に黄金の刃が取り除かれた。

 

バシャッ!!!!

 

音を立てて、弾け飛んだのは液体。しかし、青と鏡が見たのは鮮やかな赤でなく半透明な橙。

"へ?"と驚きの声をあげたのはユージオとアドミニストレータのどっちが早かっただろうか?

驚愕する二人の前で忽ち半透明な橙の雫へと変貌した橙の整合騎士はパァン! と音を立てて、弾け飛ぶ。

すると忽ち、辺りが濃い霧に包まれ、甘い金木犀の香りがホールの中にたちこめる。

 

金木犀の香りがする霧の中、動く影を見てゴーレムは両手の刃を振るがそれは空振りと終わる。

 

“何処、何処にいるの? カナタはーー”

 

アドミニストレータが銀色の髪を揺らしながら、辺りを見渡していると真後ろからアルト寄りの声が響いた。

 

「何かお探しですか? 最高司祭猊下」

「!?」

 

声がした瞬間、本能が右に避けろと言い、アドミニストレータは勢いよく首を右へと避ける。

その瞬間、二つの刃が左肩を引き裂くのを見て、首から蒼の宝石がついた銀色の輪っかを下げている癖っ毛の少女が舌打ちしながら床へと落下していく。

ごと、とアドミニストレータの左腕共に床へと落ちた癖っ毛の少女を視界に収めたユージオは泣きそう顔をする。その少女は先程、ソード・ゴーレムに胸を引き裂かれた筈のカナタだった。

濡れる髪を揺らしながら、真珠の唇を噛み締めて、忌々しそうにこちらを見下ろすアドミニストレータへと片眉を上げて、答える。

 

「……香る(パルファン)(ヴァッサー)泉水(この子)金木犀(この子)の合体技さ」

 

とんとんと左右に持っている泉水と金木犀の剣で肩を叩いたカナタはこちらへと刃を振り下ろしているゴーレムに向けて、辺りにたちこもっていた霧を一箇所に集結させ、一つの半透明なので橙の水たまりを作る。その作った水たまりを攻撃を避けながら、ブンッと振るうとゴーレムの身体……弱点であろう足と足の接合部へとぶつける。だが、幾ら二本の神器が作り出す水たまりでもゴーレムを傷つけることは構わず鋭い刃が触れた瞬間、半透明な橙の水たまりは弾け飛び、ホールへと雨を降らせる。

 

「ふふふ。何? これは……技なのかしら? 目くらましになるかもだけど、それでは私のゴーレムには当たってないようだけど? もしかして、いい香りで私を楽しませてくれようとしているのかしら?」

 

アドミニストレータはほくそ笑む。

自分の左腕を切り落とした刃……恐らく水で出来た泉水で奇襲を狙い、攻撃したまでは良かった。だが、その時確実に自分を仕留めなくてはいけなかったのに…カナタはそれを失敗し、自分を危機に追い込んだ合体技もソード・ゴーレムの耐久性の前では薄っぺらい紙切れ同然だ。

やはり自分の勝利は揺るがない。さあ、焦ることもなく、橙の整合騎士が絶望する様を見下ろすとしよう。

 

「いや、これでいいのさ。今回のこの技はゴーレムも攻撃するものじゃない。クィネラ、あんたそうやってすぐ勝ち誇ろうとするから、足元をすくわれ、勝機を逃す」

 

だが、アドミニストレータの余裕な表情を一瞥したカナタは"ふん"と鼻を鳴らす。そして、静かに言った瞬間、橙の雨に打たれたキリトとアリス、そしてユージオの身体が忽ち淡い水色のエフェクトを見て、最高司祭は"まさか"とキリトとアリスを交互に見る。

するとキリトとアリスの周りにあった赤い水たまりは薄くなっていき、驚きに満ち満ちた二人が負っていた傷が塞がっていくのを見て、カナタの本当の目的を知る。

 

「こ、これは……」

「……カナタの泉の……」

「癒しの力……治癒か?」

 

そう、彼女は元からゴーレムを破壊するのではなく、ゴーレムに攻撃させることによって半透明な橙の水たまりを辺りへと弾け飛ばすのが目的だったのだ。ゴーレムの攻撃で致命傷を負ってしまった仲間、そして切り傷などで天命が減っている自分とユージオを治癒する為に。

 

「キリト、アリス! もう大丈夫なのかい?」

「ああ、心配かけたな、ユージオ」

 

キリトとアリスがユージオの元に集まるのを見て、カナタはニカッと笑う。

 

「もう分かってると思うけど…あたしの泉の力で二人を復活させること……。そして、あわよくば、あたしとユオの天命を回復させること」

 

そこで言葉を切ったカナタは自分へと振りかぶってくる黄金の右手を身を屈め、交わしてからその黄金の刃に乗っかるとアドミニストレータ目掛けて走り出す。

 

「数百年、数千年、寄り添った金木犀と泉は互いのことをよく知っている。互いの弱点を補っている。それを人は愛っていうんじゃないかな………ま、あんたにとってはそれすらも"下らない"ことなんだろうけどなッ!!!!」

 

吠え、飛躍するカナタを視界に収めるアドミニストレータの鏡の瞳が微かに揺れる。

 

「あり得ないっ。あり得ないわ!! この私が、ソード・ゴーレムがお前みたいなガキに負けるわけがない!!!!」

 

ヒステリックに叫ぶアドミニストレータを捉える瞳はいつもの秋空のような澄んだ(あお)ではなく氷のような冷たさを持った蒼だった。

 

「ーー終わりだ、アドミニストレータ」

「……くす」

「?」

 

自分の首へと迫るカナタの刃を見ても驚くどころか、愉快そうにくす笑うアドミニストレータに眉をひそめるカナタ。

だが、その理由は1秒後知ることとなる。

アドミニストレータの首まであと数センチと迫っていたカナタの刃は停止することになる。

理由は飛躍する彼女を横殴りするかのように黄金の刃が通り、唖然とするカナタを次の瞬間南の窓目掛けて振るい、キリトとユージオ、アリスが見ている中、彼女の華奢な身体はそよぐ紙のように呆気なく窓へと叩きつけられる。

 

「ゴホ……ッ」

 

肺溜まる空気を吐き出し、桜色の唇から血を吐き出すカナタの身体目掛けて、もう一度音速を超えたゴーレムの右腕が突き刺さる。

 

「ガハ……」

 

もう一度口から吐き出せる血の量、ゴーレムが刺しているところを見たキリトとユージオ、アリスの三人は本能的に理解してしまうカナタの天命は今まさに尽きようとしている、と。

 

「パルファン・ヴァッサー? 愛? そんなものにこの私が、私のゴーレムが負けるわけないじゃない」

 

無造作に刃を引き抜かれた橙の整合騎士はペチャと耳を塞ぎたくなるような水の音を響かせ、床へと伏臥位(ふくがい)で倒れこむ。

 

「……愚かな子。貴女こそ変な意地を張らず、私の人形であり続ければ、苦痛を感じる酷い死に方をしなくてよかったのに、ね」

 

アドミニストレータにそう呼びかけられる橙の整合騎士はもう動かない。

彼女から出るドロっとした赤黒い液体はゴポゴポと音を立てながら、彼女の生命を減少させていく……。

力無く瞼を瞑る白い横顔が青白くなっていくのを見ていくうちにアリスの中でナニカが音を立てて壊れていく。

 

「う……あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ!!」

 

悲痛な叫び声をあげながら、ソード・ゴーレムに青いマントをはためかせながら突っ込んでいく黄金の整合騎士の悲しみを表すかのように橙の花弁はごうごうと音を当ててながら激しく彼女の周りを回る。

そして、我を失っているアリスをサポートする為にキリトが走り出し、ユージオは震えて動かないでいる自分を情けなく思いながら、胸元にあるナイフを握りしめるのだった。

 

故に、この場にいるキリト、ユージオ、アリス。そして、アドミニストレータは気づかないでいた。

 

床へと倒れこみ、鮮やかな血を床へと広げている橙の整合騎士の血痕に濡れる着物の袖から見えている筈の銀色の輪っかが()()()()()()消えていること、をーーーー。

カナタが預かっていたアリスの剣が()()()()()()アリスの手に戻っていたこと、をーーーー。

 


ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)






彼女(カナタ)が巫山戯る時、勝利の女神、勝機のフラグは彼女達に既に微笑んでいるのかもしれない…



ふぅ……これでなんとか【WoUの2クール】が放送させる4月までに"WoU編"に入れそう……。
久しぶりに長文書いたよ……疲れた……(ぐでー)




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【★】カランコエを添えて009 ※ネタバレ喚起(かんき)

めっちゃ短いです…ほんとすいません……

イメージは《アリシゼーション編のOP》にて流れるソード・ゴーレムと戦闘を繰り広げているアリスちゃんとキリトくんです。
ですが、オリジナルが強すぎて…限界留めてないかも…ほんと、すいません…




ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)


 

【公理協会 100層】

 

複数の模造剣により作られたソレを最高司祭は《ソード・ゴーレム》––––"剣の自動人形"と名付けた。

剣の自動人形と呼ばれたそのゴーレムはアリス、キリト、ユージオ達がこのホームに入ってきた時に柱へと飾られていた模造剣によって作られている。

模造剣によって作られている為、その姿形は歪で端から端まで尖っており、黄金の光に光るゴーレムは最高司祭が記憶領域をぎりぎりまで費やして作ったものである。

その為、攻撃力、威力、スピード共にピカイチで人界の中で一番と名高い戦士、刀士であるキリト、アリス、カナタを瞬殺させるほどの力を持っている。

 

三人の中の一人、カナタが愛刀として使用している泉水は癒しの力を持っている。

激戦の中で使用した技によって(もたら)された癒しの力によって傷ついた切り傷を直したキリトとアリスは今、ペチャと嫌な音を響かせながら、ホールにうつ伏せで倒れているカナタを無情にも二回突き刺したゴーレムと対峙(たいじ)している。

 

「ハァァァァッ!!」

 

胸当てに大きな穴が空いている金色の鎧と藍色のマントを揺らしながら、ゴーレムに走り寄る黄金の整合騎士の感情を表していくかのようにビュンビュンと耳元で唸る花達が自分へと迫ってくるゴーレムの右腕を威嚇しているように思える。

しかし、絶対零度の氷の如き鋭く冷たい(あお)色の光を放つ瞳は目の前に聳え立つ巨人の瞳を捉えてはなさない主人は胸の中から溢れてくる怒りに身を任せているようでもう既に間近に迫ってくる刃に受け身をすることすらも忘れているようだった。

その様子を後ろからアリスを追い上げるように走ってきているキリトは歯を食いしばる。

 

(くそっ! 間に合えェェ!!)

 

右手に持っている黒い剣へと鮮やかな青の光が帯びていく–––秘奥義《バーチカル》。

この技によって一時とはいえど、一度は音速を超えるゴーレムの攻撃を防ぐことができた。あの時と同じことができるようことかどうかは分からない……いや、分からないではない。出来ないといけないのだっ。

 

黒い瞳はふとゴポゴポと赤黒い液体に濡れる橙の整合騎士を見つめる。

彼女がアドミニストレータの隙を見抜いて、自分達を癒してくれたのだ。

彼女がこれまでの自分の知恵を、経験を注ぎ込んだ合体技や騙しを繰り出してくれたのだ。

その頑張りをものの数秒、数分で無駄にしてしまうのは違う気がした。

 

(それにカナタだって、アリスが自分のせいで怒り狂っている姿は見たくないだろうからな…)

 

「ンァァ!!!!」

 

まっすぐ黄金の巨人へと走り寄るアリスへと迫っていたゴーレムの右腕と淡く光る青い刃が重なり合い、ホールへと爆風と爆音が響き渡る。

地面が揺れるほどの爆音によって身体がぐらつくのをぶんばりながら、無理矢理刃を受け流す。

 

「アリスっ!! 今は落ち着くんだ!!」

「……!」

 

キリトの叫びをうっとしそうに橙の花達で追い払ったアリスは地面へとのめり込む右腕に飛び乗ると黄金の剣を駆け上っていく。

 

「…くっ」

 

小さくなっていく華奢な背中を唇を噛み締めながら、アリスを払いのけようと左手を挙げるゴーレムへと黒い剣を突き立てる。

 

「……」

「お前の相手は俺だ」

 

自分の右腕を走ってくるアリスからくっると黒い剣を構え直すキリトへと軌道を変え、風を切るように自分へと迫ってくる左腕を寸前で交わしたキリトはもう一度刀身を淡い青へと変えていく。

今はただただ防御に徹し、アリスのサポートをしようとキリトは黒い瞳に強い意思を潜ませるのだった。

 


ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)






2020/2/26にてこの小説は三年目となりました。

読者の皆様、39(さんきゅー)です。


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【★】カランコエを添えて010 ※ネタバレ喚起(かんき)

引き続き、OPのところです。


すごく遅くなっちゃったけど……
4/9、アリスちゃん。4/10、ユージオくん、誕生日おめでとう!!!!

そして、今日4/19はリーファちゃんこと直葉ちゃんの誕生日です!
直葉ちゃん、誕生日おめでとう!!!!
私はリーファちゃんも直葉ちゃんもどっちも大好き派です!!




ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)


 

【公理協会 100層】

 

ソード・ゴーレムと最高司祭に名付けられた異物な巨人の右腕を駆け上がるアリスの表情には後悔が滲む。

 

(……カナタ…)

 

その名を持つ橙の整合騎士は今冷たいホールの上でゆっくりと生命を床へと流している。

ほんのりと色づいていた頬も真っ青となり、触れれば折れてしまいそうなほど華奢な身体は無残にも二つの致命傷を受けてしまった。露わになる背中や腹部から染み出す赤黒い液体を見た瞬間、頭が真っ白になり、気付けば走り出していた。

一発でいい、彼女が感じた痛みを、苦しみを、このゴーレムという名の怪物に味わわせてやりたいと思った。

知ってる。この怪物に痛みも苦しみも感じないということを、そう最高司祭様が設計したのだ。

 

右手に持つ金木犀の剣が。自分の周りを回る金木犀の花達がアリスを宥めようと音を立てるが今のアリスでは花達の奏でる音も耳障りな雑音にしか思えない。

 

そして、今までも胸を締め付けるのは深く果てしなく終わりの見えない後悔の念。

 

(間違いだった、何かも)

 

心のどこで慢心(まんしん)していたのだ、彼女ならば……と。

再開した時も整合騎士に戻った時もヘラヘラと笑い、巫山戯ながらも幾度の困難を軽々と乗り越えた彼女も今は居ない。いや、この世界から姿を消そうとしている。

 

全ては自分の浅はかな考えのせいで––––。

 

そうじゃないと人に言われても今のアリスには何も入ってないだろう。それほどにアリスにとってカナタの存在は大きなものとなっているのだ。

 

模造剣によって造られた歪な形をした黄金の自動人形、ソードゴーレムの足を駆け上ったアリスは飛来し、一撃入れるためにグルっと身体を回転させる。回転した分、上がった威力を鞘を持っている手に加える。

 

「う"お"お"お"お"」

 

細い喉から迸る叫び声は悲痛な色を含ませ、暗いホールの中へと響き渡り、アリスの元へと帰ってくる。

振り下がる鞘もアリスの怒りを表すように荒れる橙の花達もキリトの挑発から自分を攻撃しようとしているアリスへとターゲットを変えた歪な巨人の前ではそよぐ紙程度にしかならないのだろう。

 

宙を飛ぶ蒼い瞳は自分の花が僅かに巨人達へとヒビを与えた所と自分へと迫ってくるゴーレムの左腕を視界に収めた瞬間、防御することなく受けようとする。

 

蒼い瞳には諦めが滲んでいた。

 

少しヒビを付けられただけでも充分だろう。もういい、自分はよくやった。後は彼女と同じようにこの巨人に刺されて、彼女と同じ所へと行こう。

 

きっと彼女も……カナタもよくやったと言ってくれるはずだから……。

 

アリスの壊れている胸当てめがけて突き刺さろうとするソードゴーレムの刃にキリトは"やめろ! "と言わんばかりに黒い刀身を持つ剣で巨人の足を叩き、妨害しようとするが……そのくらいの妨害でソードゴーレムは止まるわけがなく、地面へと落ちていくアリスへと段々と刃先が迫っていく。

 

アリスが目を閉じ、キリトが喉を壊さんばかりに叫び、アドミニストレータが核心的な勝利に何度目となる笑みをこぼした瞬間、アリスの脳内で呆れたようなアルト寄りの声が流れる。

 

『アリらしくないな』

 

ハッと目を見開くアリスが見たのは、真っ暗な闇の中にぽつーんと呆れを滲ませる秋空のように透き通った蒼い瞳と癖っ毛の多い栗色の髪を襟首で小さく結んだ少女で何かを伝えるようにパクパクと口元を動かす。そして、自分のところに来ようとしているアリスの肩をポンと優しく後ろへと押し出す。

 

「エンハンス・アーマメントッ!!」

 

後ろに倒れていくアリスの耳に届き、瞳に映るのはキリトの後方でギュッと青薔薇の剣を握りしめて、地面へと突き刺している亜麻色の髪に碧の瞳を持った青年・ユージオの姿だった。

叫ぶユージオが突き刺した刃から無数の氷が現れ、アリスに突き刺そうとしているソードゴーレムの振り下ろさせる左腕の行く先を阻むように氷の壁ができる。

が、勢いの強い刃先がパリンと氷の壁を破壊し、自分へと向かおうとするのを、ユージオの支援……そして、カナタの励ましによって覚醒したアリスは寸前で交わすとストンとホールへと降り立つ。

 

「アリス!」

「……ユージオ」

「ーー」

「キリトもすいませんでした……」

 

駆け寄ってくるキリトとユージオにゆっくりと立ち上がったアリスは頭を下げる。

蒼い瞳にはさっきまでの怒りに身を任したような色は滲んでいない。蒼い瞳にはいつものように冷静沈着さが戻ってきており、さっきまでの怒りに身を任したような雰囲気は最早ない。

 

「……あの子…カナタが作ってくれた貴重な機会です。こんな風に散らしてしまうのはいけない。それは彼女の尊厳を、頑張りを踏みにじてしまうことになる。さっきまでの私はそんな当たり前のことに怒りで忘れていました」

 

数時間前の自分では理解できないことが沢山起きている。全てはカナタに、キリトに、ユージオに出会う事が出来たから。自分がただの人形ではないと、感情を持ちあわせていると普通の人間であることを教えてくれた。

 

前を向く蒼い瞳に諦めはない。代わりにあるのは強い意思だ。

その意思を向けられているアドミニストレータは不愉快そうに眉をひそめ、ソードゴーレムは横並びに立つ三人を始末しようと動き出す。

 

だから、アリスはキリトとユージオへと視線を向ける、助けを求めて。

 

「キリト、ユージオ。私に力を貸してください。私一人では悔しいですが、あのゴーレムを破壊する事も傷つける事も恐らく出来ないでしょう。ですが、私達三人なら–––」

「––––うん、倒せるかもしれないもんね」

「かもしれないじゃなくて倒すんだ。カナタの仇を取りたいのは、アリスだけじゃないからな」

 

そう言い、アリスは金色の刀身を持つ剣・金木犀の剣を構え、ユージオは淡い水色の刀身を持つ剣・青薔薇の剣を構え、キリトは黒い刀身を持つ剣を構えるのだった。

そして、互いにアイコンタクトを交わした途端、散り散りに走り出したのだった。

 


ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)



 

 




キリトくん、ユージオくん、アリスちゃんの三人の絆は固く、ゴーレムよりも強いのです!!


アリスちゃんとユージオくんの誕生日エピソード(じゃないかも)ですが、次の回に載せればと思っています! 長くなったら、一話一人になると思います。


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可能性ーpossibiityー
詩章001 運命の2020年9月■■日


今年、2020年の9月にあの事件が起こると知って、居ても立っても居られなくなったので……見切り発車(得意分野)のIFを始めていきます!

目標は【あの事件(郵便局事件)が起きない世界線】つまり【あの事件から詩乃ちゃん/シノンちゃんを救う】です。 

あの事件が起きないとシノンちゃんはキリト君、アスナちゃんと会えないけど……私の身勝手なエゴですが、シノンちゃんを救いたかった。泣いて欲しくなかった……いつでも笑って欲しいと思った。

故に、書きます!!

誰がなんと言うと、私は書く!

書くったら、書く!!

かk(くどい)


あの事件の正確な日時は、原作では【二学期に入ってすぐの、ある土曜日の午後(5巻、P142、最初の1行目から引用)】と書かれているので………候補は【9/5 9/12 9/19 9/26】。
シノンちゃんの誕生日(8/21)の一ヶ月後で近い、土曜日は【9/19】なのかな……と予想してたりするのですが……"二学期に入ってすぐの"なので、違うのかも……と(思案)

んー、取り敢えず【9/5】と仮定して、話を進めていこうと思います!



※この章の"詩"は"詩乃"の"詩"です。

※分岐はメインストーリー【1章ー3】です。


2020年9月■■日、こじんまりした郵便局内。

 

ーーバァン

 

鼓膜を震わせる高い破裂音が狭い局内で一瞬膨らみ、目を見開くあたしが見たのは自分の足元に転がる…残酷なほどに無機質な金色の筒、そして磨き抜かれた白いタイルを濡らす紅い血痕。

 

「––––ッ」

 

激痛に耐えるような……必死に息をしようと……生きようとしているかのように聞こえる()の声でーーーー。

 

”おとうさんっ!“

 

弾かれるように父の方を見たあたしが見たのは、床の上で放心状態である幼馴染みの母親を背後に守るように立ち回っている父の必死な血相、そしてーーーー。

 

”あ"……ぁ"……“

 

父が着ているワイシャツを内側から濡らす目が冴えるほど鮮やかな紅色。

いつも自分の頭を乱暴に撫でる大きな手から滴る紅い雫がさっき自分が見たタイルの上に弾け飛んでいた血痕と酷似している……否、()()()()と遅ながら、幼い脳が認識した瞬間、全身が震え……意識してないと過呼吸になっていき、視線が今も理不尽に暴れている中年の男から離れられなくなる。

 

「お前がぁぁぁぁ!!お前が悪いんだぞぉぉぉぉ!!俺を怒らせたお前が悪いんだ。俺にお前を撃たせたお前がぁぁぁぁ!!!!」

 

自分勝手な並べ、自分の都合の良いように解釈し、また父へと銃口を向ける男の元へと今まで椅子に腰掛けていた二つの影が同時に駆け出したのだったーーーーーー。

 

 

 

τ

 

 

 

あたし、香水(かすい) 陽菜荼(ひなた)が後に幼馴染み兼隣人となる《朝田家》の隣へと引っ越してきたのは……小学校3年、歳にして9歳になる頃だった。

お父さん…香水(かすい)陽太(ようた)に「隣人さんや近所さんに挨拶回りするから付いてきなさい」と急かされ、嫌々ながら……いや、自身の一箇所を見られることを恐れながら、ただただ息を潜めるようにお父さんの後ろを歩き、近所へと頭を下げた気がする。

 

「あら、可愛いお子さんですね。お嬢ちゃん、何歳?」

「…………9さい」

 

大人のマナーとやらの窮屈で退屈で苦痛な近所の挨拶回りの中でも一番嫌だったのは、香水家の左横の住宅に住むおばさん。

人当たりがよく、朗らかではあるが……口の軽さはピカイチであろうそのおばさんは井戸端会議の話題作りの為か、お父さんへと挨拶回りには関係ない私生活面やプライバシーを侵害する質問を口早に投げかけているのを律儀に答えるお父さんの右手を"もうつぎいこうよ"とぐいぐいと引っ張るあたしへとターゲットを変更してきた。

獲物を見つけた獣のように血走した目、鼻息が荒くなったのは個人的にはトラウマになるかと思った。

怯え、お父さんの後ろに隠れるあたしの視線に合わせて腰を落としたおばさんはにっこりと笑って、問いかけてくる質問を素直に答える。

 

「9歳ってことは、小学校3年生!? あら、うちの息子と同い年だわ〜」

「…………はぁ」

 

"うちの息子と同い年"と言われても正直どう反応して良いのか困る。あたしにとってはいらん情報だし、その息子やらを知らんし、そもそも知りたくもないし、はよ帰りたいし……そんなわけで父へと再度催促してみるが、父は何が嬉しいのかおかしいのかニヤニヤしてやがる。愛娘が他人に困惑されている様子を見て笑うなんて……あんたには娘へと愛情というもんが無いんかッ!!覚えとけよ、今夜の晩ご飯はあんただけ白米だけにしたる。

 

助け舟を出すばかりか、愛娘が隣人のおばさんに弄られている事を微笑ましい表情で見下ろす父への小さな復讐を考えているあたしの伏せているある一箇所を見た叔母さんは目をまん丸にする。

 

そして、決まってこう言うのだーーーー。

 

「あら、奥さんは外国の人なんですか?」

「綺麗な(あお)色の瞳ね」

「よく見るとお父さんにもあまり似てないのね。お母さんの血が強いのかしら」

 

 

その三つの質問を聞きながら、あたしの顔から表情が消える。 

 

 

––––奥さんは外国の人?

 

んなわけないじゃない!!

お父さん()()()()()()()()……。

あたしと()()()()()()()()()……。

 

 

–––––綺麗な蒼色の瞳?

 

綺麗なわけないじゃん!!

ニュース見てないの?!!

この忌まわしい目はあの男から受け継いだ瞳なんだッ!!

綺麗なんてもんじゃないッ!!

忌まわしくて汚らわしくて不愉快で……鏡を見るたびにあの男の血が……殺人鬼の血が半分流れているって真実を突きつけられて………最近"よくなんで、あたしは周りの人と同じじゃないんだろ"ってよく考える。

 

 

––––––お父さんに似てない。お母さんの血が濃い。

 

ある意味、合ってる。

あたしの容姿はママ似で瞳だけあの男から受け継いだものだから……。

だから、ママの遺伝子が濃いのは合ってるけど……。

 

だけども…………………。

 

"お父さんに似てない"が胸の……心の一番奥にある敏感なところをさすり、痛みを蓄積していく。

 

チクチクと痛む心が問いかけるのは"あたしってそんなに陽太お父さんに似てない? "と純粋無垢な……だけども、9歳という児童が受け止めるにはあまりにも重い。

その問いかけに答えるには自身の過去に向き合わなくてはいけないから………。

 

 

凍える冬夜の中、一人ベンチの放置された幼女の話を。

山奥の簡易な家のなかで産まれた一人の赤ちゃんの話を。

 

 

しなくてはいけないから……。

 

 

 

おばさんのテンプレと化した質問を()()()()()()()笑いながら、曖昧に用意された答えを言ってのけるお父さんに背中をトントンされるまであたしは気付いてなかった。

《朝田》という名札が掲げられた住宅の扉から顔を出し、こっちを睨んでいる同級生の女の子の姿を。

 

焦げ茶色のショートヘアーを揺らし、子猫を想起させる大きな髪と同色の瞳はあたしをただ見つめ、小さな両腕にはお父さんが近所に配っていた"つまらないもの"が重そうに乗っかっていた。

 

"え……だれ、このこ?おとなりさん?”

 

困惑し固まるあたしにお父さんは背中を再度ポンと叩くと彼女の前にあたしを突き出す。

 

「ほら、陽菜荼。あいさつして」

「……かすい ひなた…よろしく……」

「えぇ…と、あさだ しの……こちらこそ、よろしく……」

 

ぎごちない……今思い出しても笑えてくる初々しい挨拶。

目の前の焦げ茶色の瞳から視線を逸らす蒼い瞳……この時はまだ、あたしも。詩乃も。目の前に立っている相手が親友になるとは思いもよらなかったことだろう……。




相変わらずの読みにくさ……(苦笑)

すいません……(大汗)



メインでは詩乃ちゃん視点だったので、こちらでは陽菜荼視点。

郵便局事件は少しですが……変化を見せているのではないかと思います!




~登場人物のショート紹介~

香水(かすい) 陽太(ようた)
とある会社に所属する記者。
自身が掲載した記事から負い目を感じ、孤児となった陽菜荼を養子として引き取る。
引き取った後は男手で仕事と家事と奮闘するが、料理だけは上手に出来なく……なんとか食べられる料理になるのは《オムライス》。
彼の不器用さから基本的に料理は陽菜荼が務めるようになるが、彼が不格好だが作ってくれるオムライスは彼女の唯一無二の好物となる。

ウラビナシ
名前である陽太は"太陽"から(太陽をひっくり返すと陽太になることから)


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詩章002 気が合う仲?

二話目です。

今日の19:00〜 YouTubeで生放送がありますね♪
タイトルは【アニメもクライマックス!SAO残暑お見舞いスペシャル!】
どんな番組になるのか、今からとても楽しみです!


近所への挨拶回りを終え、「陽菜荼は疲れているだろ」と父によって復讐の場から遠ざけられたあたしはリビングに置いてある真新しい椅子に腰掛け、明日から通うことになっている小学校の準備をしていた。

というのも、この近所への挨拶回りの前に小学校には既に明日転校する手続きと挨拶に行っており……そこで対応してくれたら校長先生、担当となる教師も含めて、いい人そうでこれからの小学校生活を不安に感じることはなかった。

父は何度も「上手くやっていけそうか? 」と話しかけてくれたが、上手くやっていけるかやっていけないかという問題ではないだろう。"嫌だ"と幼児のように駄々をこねても、ここで暮らすことになったのだから……あたしはあたしの出来る範囲で父に迷惑をかけない程度にやっていくしかないだろう。これ以上、男手ひとつで育ててくれている父へと迷惑をかけるわけにはいかないから……。

 

そんな事を考えていると目の前に赤いケチャップがかけられた茶色の小山が差し出され……あたしはテーブルの上に広げていた教科書やノート等をランドセルに入れ、ソファへと置き、父が差し出すスプーンを受け取り、小さく"いただきます"と言ってから小山へとスプーンを突き刺した。

口に含める程の大きさにスプーンの上に小山を乗せ、マグマのように茶色い小山から噴き出ているように見えるケチャップを軽くつけ、口へと含む。

あむあむと口の中で噛んでいくと口内でそれぞれの素材がハーモニーを奏で始める。

あたしはそのハーモニーに思いよせ、頬を緩めながら、不格好なオムライスの山を胃へと収めていくあたしを見て、優しく微笑んだ父も自分用に用意したオムライスへと口をつけ始める。

 

 

話は断線してしまうが、父が作る料理は独創性に長けている。

父曰く"レシピ通り作っているのだが、不思議な力により不思議な味と見た目に変化してしまう"という必須の料理オンチ。

父が作り上げてきた料理オンチによって作り上げた武勇伝は数知れず、殆どの犠牲者はあたしとなっている。

というのも、父がママ……母に見捨てられ、孤児になったあたしを引き取ったのは20代後半。それもあと少しで30代になる手前だった。

あたしを受け取ると決意するまで、父は女性とお付き合いはすることはあったが"この人と……"と籍を入れたいと思う人は居なかったよう……。つまり、結婚した事ない独身男性が突如としてまだ物事が付いたばかりの幼女の""父親""になったのだ。きっと気苦労を、慣れないことも沢山あったことだろう……。

 

そんな父が初めて作ってくれたのが、今食べているオムライスだったりする。

オムライス、オムレツは子供ならば嫌いな子は居ないであろうメジャーなオカズを見よう見まねで作った父が当時のあたしに差し出したのが、目の前にあるオムライスと同格のものだった。

誤って落ちても壊れないプラスティック製の大皿に山盛りに盛り付けられたオムライスは母が幼い頃に作ってくれたオムライスとは似ても似つかないものだった。

真っ赤なチキンライスを包んでいるであろう薄い卵焼きは不気味なほどに茶色だったし、所々丸こげになっていて……当時のあたしは冷や汗がかいたものだ、"え……これ、たべものだよね……? "と思わず思ってしまうほどくらいに。

茶と黒が織りなす小山からはマグマのようなケチャップがふんだんにかけられ、破けた山肌からは同じように黒く焼けすぎた玉ねぎとグリンピース、サイコロ状の人参が顔を覗かせ……正面を向けば、心配そうにこっちを見てくるお父さんの姿……引くに引けないところまできたあたしはグッと利き手に握っている白いスプーンを握りしめ、思い切って一口、口に含み……そしてーーーー。

 

『おいしい……』

 

ーーーー舌の表面に広がるのは、焦げたところから感じる香ばしい味わいとケチャップが多めのチキンライスな味、そして茶色い薄い卵焼きから感じる魚介類の風味……。

 

そこで、あたしは気付いた。

父が作る薄焼き卵が何故、茶色いのかを………。

それは出汁を加えていたからかもしれない。

 

恐らく、チキンライスと薄焼き卵を単独で食べてもいいようにという心遣いからだろう……。

 

『あむあむ、んまい。おいしいっ』

『そうか、美味しいか? 良かった。落ち着いて、食べろよ』

 

安堵した様子の父に見守れながら、あたしはオムライスを掻き込んだのだった。

 

その出来事から味をしめてしまったのか。

父は料理オンチなのに、個人的なアレンジを加えるようになってしまった……。

どれもあたしを楽しませようと思って、アレンジしてくれているのだろうが……ここではっきりさせよう。父の料理はオムライス以外は味が極端だったり、薄かったり、相反する味が同時に存在もの等、気合を入れないと(しょく)せないものが多い。

 

故に強く思うのだーーーーあたしが料理をつくらなくては、香水家はいつか破滅してしまう、と。

 

 

オムライスエピソードを思い出しながら、料理マスターへと決意を新たにしているとお茶を一口飲んだ父がシワが増えた口元を綻ばせながら、話しかけてきた。

 

「良かったな」

「なひは?」

 

絶賛、オムライス掻き込み中のあたしは眉を潜め、父を見ると食べ物を口に含みながら、問いかけると怒鳴り声がリビングへと響く。

 

「陽菜荼! 物を口に含みながら食べてはいけないよ。女の子なんだから、はしたない」

「はいはい。はしたなくてわるうございました」

 

ごくんと飲み込み、ふてくされたように父へと返すと更に大きな怒鳴り声が鼓膜を揺るがすのを聞いて、あたしは眉を潜めるとひらひらと掌を振るう。

 

「陽菜荼!」

「とーさんのこごと は ながいし、おんなじことばっかだし、きいててもつまんない」

「つまんないってお前な……。これは社会に出た時にお前にとって必要だからと思って……おい、無視してご飯食べるな!」

 

お父さんの売り言葉を数倍で買い、言葉で返すあたしに頭を抱えるのを見てから父の小言通りにスプーンをテーブルに置き、両手を太腿の上に置いてから問いかける。

 

「で。なにがよかったの?」

「ああ。その話だったか」

 

そこで父もスプーンを置き、右隣へと視線を向けるとニッコリと微笑みかけてくるのを真顔で迎える。

 

「近所に気が合いそうな子がいて良かったなという話だよ」

「?」

 

キョトンとアホ面を晒すあたしの視線が右隣にいくのを見て、父は答えを出してくれる。

 

「お隣の朝田さん、出てきたのが陽菜荼と同じ歳くらいの子だったじゃないか。あの子も陽菜荼と同じ小学校に通うんじゃないか?」

「んー、どうだろうね」

「どうだろうねって……お前な……」

 

その後に続く"お前はもう少し周りに溶け込むように努力を……"という小言は考え事で消し去り、最後にあった焦げ茶色の子のことを思い浮かべる。

 

“あのこ、どこかいあつかんがあるんだよな……”

 

何かを一生懸命守ろうとしているかのような……周りを受け付けない、受け付けたくないという強い意志が感じられる。故に、あまり近寄りたくないという印象を与える。

 

とてもじゃないが、父の言う通り。"気が合う"とはとても思えない……。

むしろ、正反対な感じすら思わせる。

 

「ごちそうさまでした」

 

両手を合わせ、食べ終えた食器を重ねてから椅子から降りたあたしは軽く水洗いしてから水を張った桶の中に食器を入れてから、ソファに置いてあったランドセルを手に持ち、父へと振りかけると「おやすみ」と言ってから二階にある自分の部屋へと向かうのだった。

 

 

τ

 

 

翌日、あたしは転校することになった小学校の《3ねん》と書かれたプレートが吊るされている教室の黒板前に立っていた。

昨日会った教師に促されるままに黒板へと白いチョークで《香水 陽菜荼》と書き、縁へと置いてから振り返る。

一身に集まる視線から逸らしそうになる視線を無理矢理、前へと向ける。すると、あたしが座る予定となっているであろう空いた席の右隣、昨日会った焦げ茶色の子が退屈そうにあたしを見ているのに気づき、思わず頭の中に父の声がリピートさせるのは"近所に気が合いそうな子がいて良かったな""お隣の朝田さん、出てきたのが陽菜荼と同じ歳くらいの子だったじゃないか。あの子も陽菜荼と同じ小学校に通うんじゃないか? "という声。

父の言う通り、同じ小学校に通うことになっていたのはびっくりしたが……それだからと言って、気が合うとはまだ言えない。片膝をついていた髪と同色の瞳が蒼い瞳と交差する。その瞬間、彼女と親友になった光景が浮かんだが、頭を軽く振るい、浅はかな自分の考えを鼻で笑う。

 

"まさかね……“

 

「○○けんからひっこしてきました、かすいひなたです。よろしくおねがいします」

 

差し障りない決まったセリフを言ってのけたあたしはクラスからの視線を受けながら、お隣さんである朝田 詩乃の左隣の席へと腰を落とすのだった。

 

 




次回から詩乃ちゃんと関わっていく予定。



余談ですが……

キリトウィークを終えて、完全復活を果たしたキリトくんがカッコ良すぎるッ!!!!(//∇//)
【#18/記憶】は教室にいるキリトくんから始まりましたね。埼玉の実家へと帰る途中、交差点でアリスちゃんとすれ違い、電車の中ではユージオくんとすれ違いましたねーーーーそこで思ったのは"あーあ、ここのシーンとOPの冒頭シーンが交差してくるんだ"でした。
また、18は他にも見所がありましたね!
私が一番心に残っているのは【キリトくんが自分の心臓を掻き出そうとしているシーン】です……松岡さんの演技もあり、何度涙腺が崩壊したことか。"そんなこと言わないで""そんな事ないよ"って思いながら、話を見てました。
【#19/覚醒】はヴァサゴVSキリトくんでしたね。ここでもユウキちゃんやユージオくんが出てきてくれ……キリトくんやアスナちゃんの力になってくれました。
そんな#19で泣いたのは、雨縁と滝刳がサテライザーを迎え撃つシーンですね。雨縁ちゃんとアリスちゃんの絆が垣間見れ、涙腺が崩壊しました。
いよいよ、話も佳境。これから先どんな展開が待っているのか、楽しみにしてます!!

最後に、#17ではエイジくんとユナちゃんが駆けつけてくれましたね。まさか二人が来てくれるとは思いよらなかったので……すごく嬉しかったです!



続いて、リコリスですが……8/12にクリアしました〜♪
ネタバレになるので多くは書けないのですが……最後の最後まで泣きましたし、悲しい気持ちになりました。
メインストーリーでは救ってあげないな……


また、カナタの飛竜の名前ですが……決まりました!

焔永(エンエイ)】です。
(ほのお)(なが)く》となってます。

この名前にしたのは、カナタのリアルネームは《陽菜荼》。その中の《陽》から連想したのは《太陽》。太陽から連想したのは《日》《光》《火》。その火から《焔》となりました。
焔が永くというのは……《焔(太陽の光)が永く人界を照らして欲しいな〜》という願いを込めて。
この名前にしてしまいました。

カナタはもちろん、焔永の活躍も楽しみにしてて欲しいです!!


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詩章003 一匹狼同士

いちゃラブまではまだまだ時間がかかりそうです(笑)




「ね、次は音楽室でしょう。一緒に行こう」

「うんっ」

 

転校してきた当初は話しかけてくれていた同級生達の数も1日、1日経つ度に減っていき、窓からこっちを見ていた野次馬も激少し、家庭もろとも落ち着いてきた頃、あたしは次の授業で必要な音楽の教科書等を持ち、とぼとぼと一人廊下を歩いていた。

 

"うむ、みごとにハブられましたな“

 

"まーいいけど"と思いながら、前を歩く数名のグループが歩く方向へと歩き、窓から広がる青空を見つめる。

落ち着いたとはいえど、小学校の設備全てを理解しているというわけではない。音楽室や図工室、理科室等は未だに迷路か! ってツッコミたくなるほどに複雑だし、何よりも教室から歩く距離もあり、ぶっちゃけると怠い。

怠いと言っても周りにハブられているからというわけでは決してない。そもそもあたしからハブられるように仕向けたわけだし……そもそも夏休み寸前の7月中盤に転校してきた奴が転校初日で既に出来上がっているグループに属せるわけがない。遠くで父が"お前はいつもどうしてそうなんだ! もっと周りにーー以下省略"と嘆いている姿が目に浮かんだが、こればかりはあたしのせいではない。変な時期に転校させた父の方にも問題は大いにある。

故にあたしは群がらないし、あたしがあたしでいられる場所をのんびりゆったりと探していく予定である。

 

“?”

 

不意に、さっきから隣で揺れる焦げ茶色の房に目を惹かれ、隣を向くと同じようにクラスからハブられ、一匹狼を貫く同級生へと視線を向ける。

あたしよりも小柄な体躯を小学校の制服で包み込み、憂鬱そうに前を見て歩く視線は同級生というよりも目的地である音楽室のみを見つめている焦げ茶色の瞳。一歩踏み出す度に揺れる房は顔の左右で縛られているようで、ショートヘア共に空気が入る度にふさふさと揺れている。色は瞳と同じで焦げ茶色。

そこまで見て、あたしは何処かでこの子を見たような気がして、不躾にもマジマジと容姿を見つめる。

 

「……」

 

迷いなく目的地に向けて歩く姿勢……退屈そう、憂鬱そうに見えるが、同時に険呑感を周りに与える焦げ茶色の瞳ーーーーハッ!? って、この子、隣の朝田さんか!?

 

険呑感で相手を把握しているあたしもどうかしているように思えるが、この子は学校でもこの威圧感を周りに放出しているのか。

だとしても、この子は転校生とあたしと違い、1年から……もしかすると幼稚園、保育園から同級生と同じグループだったはずだ。

 

なのに、周りと属さないこの子はーー

 

“ーーもしかして、ハブられてるんのか? あたしとおなじように?”

 

「……なに?」

 

隣をジィーーと見つめ、隣人であり同じ一匹狼という孤独との戦いの道を歩く戦友の姿を誇らしげに見ていると低い声で要件を聞かれてしまった。

険呑さを帯びる彼女も今まで自分を見ていたのが、隣に越してきた転校生だったと把握したのか……態度を緩和させーーーーるわけもなく、より険呑さが増し、少し吊り上っていた瞳が細くなっていく。

 

「あー……」

 

ここで"別に"と答えてしまったならば、キツイ言葉が返ってくるのは確実だ。例えば"別にならジロジロ見ないで、この変態"とか……いや、同性をジロジロ見たくらいでなぜ変態と言われなくてはいけない。視姦しているわけでもないのに……。と、いけないいけない。話がズレてしまった。

この場合は相手が興味がある話題に持っていく方がいいだろう。って事は、さっきから大事そうに胸に抱いている本の事を話題に挙げてみるか。

 

「てにもってるそのほん、おもしろそうだね」

 

差し支えのない言葉で答えてみると隣人の表情からは険呑さは消えたが、代わりに驚愕の雰囲気が増していく。そして、無言であちらさんがこちらをマジマジと見つめてくる事態に陥った。この場合、あたしはどうすればいいのだろうか……代わりにマジマジ見ればいいのだろうか?

 

「……」

「あの………あさださん?」

 

だが、何分になっても返事が返ってくる事はなく……あたしは耐えきれず、彼女の名字を呼ぶ。

 

「……あなた、いかにものうきんそうなのに、このほんがおもしろいってわかるんだ。いがい」

「……」

 

隣人と交流を図ろうとして、話題作りをしようとしたら"脳筋"と罵倒されました。悲しいです………。

っていうよりも、そんなに運動にしか興味がないように見えるだろうか。まー、実際。勉強よりも運動……身体を動かす方が好きだったりするけれども……。

落ち込んでいるとツンツンと肩を突かれる。突かれた方を見れば、件の彼女が前を指差している。

 

「ついたよ」

「?」

 

前を見るとそこには《音楽室》と書かれたプレートが下がっている教室……どうやら、彼女との会話に夢中で知らぬ間に目的地へと辿り着いていたようだ。

スタスタと教室に入っていく彼女の背中を見送りながら、あたしは苦笑いを浮かべる。

 

"おとうさん。こんかいばかりはあたしのよそうのほうがあたるかもよ“

 

昔から父の直感はよく当たるのだが、今回ばかりは難しいかもしれない……。

そんな事を思いながら、あたしも音楽室へと脚を踏み入れるのだった。

 

 

 




スピードあげねば!


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詩章004 図書室の邂逅

この章では、メインで省いた話を書いていこうと思ってます。

メインとは少し違った話もあるかもですが……

ので、話の進み具合はゆったりかも…(笑)


「〜♪」

 

放課後、鼻歌を歌いながら、あたしは図書室へと来ていた。

来た理由は至極単純。図書室ならば、料理のレシピが載ってる参考書があるかもしれないと考えたからだ。

 

あたしはこれまでの努力を思い出し、涙を浮かべる。

父が根っからの料理おんちと判明してからの数ヶ月、転校する前の小学校でも図書室に向かっては料理のレシピが載っている参考書を開いては自由帳にレシピを書いたり、家では料理番組のレシピをノートへと記した。必死な眼差しで自由帳、大学ノートにレシピを写していくあたしを目撃した父が思わずおでこに手を当てて"熱でもあるのか? "と問いかけてくるくらいの形相らしい。

だが、仕方ない。これは香水家の存続に関わる重要な事なのだ。

あたしを育てる為に、記者という仕事を辞め、時間に余裕ができるスーパーのレジ打ち等をして働いてくれている父には感謝してもしきれないし、早く働ける歳になって父の負担を消してあげたいと心から思っている。だが、しかし。その感謝の気持ちとは別にこれ以上、父の激マズ料理を食べ続けられるのは我慢ならない。父の努力も理解してるし、あたしのことを考えてくれているのも分かる。分かるからこそ思うのだ、"頼むから……お父さんは包丁を握らないで"と。 

最近ではアレンジという新たな激マズスパイスも加わり、表情を消して、無で胃へと収めていかないと喉を通らないのだ。

そこまでいうなら、残せばいいだろうと事情を知らない人は思うだろう。あたしだって残せるのならば残したい。だが、残せない。だって、目の前で父が申し訳なそうな表情でこっちを見てくるのだ。父の淡い笑顔、普段の頑張りを見ていると残すのは、それらを裏切る行為のように思えて……あたしは笑顔は浮かばないが、無心で箸を動かしている。

 

”だけど、おとうさんにばれてるっぽいんだよね……“

 

包丁は握らないでとは強く思ったが、毎日毎日スーパーの余り物では身体に悪いだろうし……。

何よりもーーーー

 

『陽菜荼は俺とは違って、料理だけは上手だな』

 

ーーーー初めて作った料理を食べた父に頭を撫でられたときのセリフが脳内で流れる。

"だけは"と余計な文字が入っているものの、好きな……親愛している父に褒められるのは悪い気はしない。

なので、あたしは父曰く唯一の取り柄である料理を極めようと日々、精を出しているというわけだ。

 

レシピを記した大学ノートもこの町に来る前に三冊目へと突入しており、自由帳を含めれば……4冊目となる相棒を片手に、あたしはガラガラと人気(ひとけ)のない図書室の扉を開ける。

料理本が納められているであろう場所へと歩みを進めながら、父が喜ぶ姿を思い浮かべ、笑みを零す。

今日は父が遅くなると言っていた日なので新たなレシピを覚え、次の日の晩にでも作ってみれば驚いてくれるだろうし、何よりも喜んでくれるはずだろう。

 

「よいっしょっと…」

 

図書室に到着後、目に入ったレシピが載っているっぽい本を両手に持ち、ガラ空きの机に山積みにして、1ページ1ページめくっていく。

 

"んー、これでもないな……これも……"

 

目星を付けた全ての本をめくった結果、小学校の図書室ということか。大したレシピは載っておらず。殆どは今のあたしでも作れるものが主だったといっても……中には本格的な料理本もあったのだが、毎日毎日料理番組をチェックするあたしにとって、そこに書いてあるレシピは既にマイレシピの仲間入りを果たしているものだったのだ。故に、あたしは壮大なため息を吐きながら、レシピ本を元に戻そうとしたときだった。

 

「なにをみてるの?」

「!」

 

今まで誰もいないと思って油断していた中で突然背後から声をかけられ、ピクと肩を震わせながら振り返ってみるとそこには"そんなに驚かなくてもいいじゃない"とムスーとした様子の同級生かつ隣人さんの朝田 詩乃が立っていた。

大事そうに本を抱いているところを見ると彼女もこの図書室に本を探しに来たと見える。

 

“そういえば……“

 

今日の音楽室に向かう時も大事そうに本を抱いていた。

昼休みも本を開いている姿を目撃するし、彼女は根っからの文学少女なのかもしれない。

もう一度チラッと彼女が抱いている本の表紙と分厚さを見てみるが、料理本ばかり漁り、文学に関してはちんぷんかんぷんなあたしには読んでも理解できそうにない、読み出しても飽きてしまいそうな分厚さだ。

 

「ねえ、あなた。わたしのはなしきいてる?」

 

そんな事を思いながら、沈黙しているとズイと不機嫌な顔が近づいてきた。

ので、あたしは彼女に隣の席を譲る為に山積みにしていた本を退け、椅子を引きながら答える。

 

「え……あー、なにをみているかだよね。きみにくらべるとかわいいものだよ。はい、りょうりほん」

「りょうりほん?」

 

引いた椅子に腰をかける前に「ありがとう」と小さく呟いてから、腰を落とした彼女はあたしが差し出した料理本を一瞥してからこっちへと視線を向け、眉を潜める。

その表情は明らかに"不似合い"と思っている感じだった。不似合いなのはあたし自身もわかるし、ある程度周りの態度も理解しているが……ここまで明らかな態度をされると不機嫌になる。

 

「はいはい、あたしもふにあいっておもってるから。わらうならわらえばいいよ」

 

彼女に差し出していた料理本を手前に戻してから逆にムスーとしてみる。すると、真顔で彼女が問いかけてくる。

 

「なんでわたしがあなたのことをわらわないといけないの?」

「だって、きみもおかしいつておもってるんだろ。あたしみたいなやつにりょうりなんて」

 

実際、前の学校ではよくからかわれたものだ。

まー、からかわれたからといって激昂することもないし、当時は笑われる事よりも家庭をどうにかすることに必死だったから。周りの笑い声も気にならなかったが……。

何故か、目の前の隣人に揶揄われるのはムカついた。故に先手を打ってみたのだが、逆に質問されてしまった。

 

「べつにおかしいともおもわないし、わらわないわよ」

「?」

「だって、あなたがりょうりをおぼえるのって、おじさんのためなんでしょう」

「!」

 

動揺が瞳へと走る。彼女はどこまでうちの家の事情を知っているんだと、マジマジと隣を見る。

それを目敏く発見されたあたしは彼女が悪戯っ子のような笑みを浮かべるのを視界におさめた。

 

「まえ、おじさんがいえにはいるまえに"はぁー、きょうはひなた。おいしいってたべてくれるかな……"っていいながらはいっていったもの。てにはふたりぶんのしょくりょう。おじさんがりょうりするのはそのときしった」

「ーー」

「でも、おじさんがりょうりべたってかくしんしたのはあなたがみせてくれたりょうりほん。あと、さっきのひとりごと。それと、まいあさ あなたのたいちょうがわるそうだから……」

 

そこまで言ってから、"合ってる? "とこっちを見てくる彼女にあたしは両手を上にあげる。

言っていること全てが的を射ていて、反論する余地もないだろう。

 

「まさか、そこまでみぬかれているとは……あさださんはえすばーかたんていさん?」

「そんなわけないでしょう。ただのしょうがくせいよ」

 

ただの小学生が隣人の秘密を微々たるヒントから導き出せるものだろうか。

もし、本当に彼女が普通の小学生ならば、彼女レベルの鋭さを周りの同級生も持っているということだ。そうなれば、我が家の秘密が露見になってしまう……。

慄くあたしとは違い、彼女はあたしの左手の下にあるノートをトントンと人差し指で突きながら、問いかけてくる。

 

「そののーとは?」

「? あー、これはレシピをかきうつすためのもの。きたいじだけどみる?」

「いいの?」

「いいよ」

 

見られて困るものは書いたないし、何よりも彼女自身がこのノートに興味津々な様子だったので……見せてあげたほうがいいだろう。

そんなことを思いながら、あたしの殴り書きで書かれているレシピ本を小説を読んでいるかのように見ていく彼女の隣であたしは持ち出したレシピ本を返しに向かっていた。

山積みにされていたレシピ本を返し終えた頃、彼女もあたしの書いたレシピ本を読み終えたようであたしに大学ノートを手渡しながら、問いかける。

 

()()()はこのほんいがいにもレシピをのーとにかいてるの?」

「まーね」

「そうなんだ……」

 

そこであたしは眉を潜める。

あれ? さっきなんか違和感があったような……?

ナチュラルすぎて聞き流してしまったが……明らかに不自然だったところがあったような気がする。

それがなんだったのか、分からないまま……あたしは眉を潜め続け、腕を組んでいると椅子が引かれる音が聞こえる。

音がする方を見ると彼女が借りる予定の本を手に持ちながら、あたしの方へと向かい合っていた。

 

「ひなたはもうすこしレシピほんをみるの?」

「んー、どうしようかな。これいじょうはくらくなりほうだし、かえるよ」

「そう」

「よかったら、いっしょにかえる?」

 

そう言って、彼女……詩乃と共に図書室を後にしてからというもの、あたしと詩乃の仲はみるみるうちに縮まっていったのだった。

 

 

 

 

 




次回はいよいよかな……。




今日の24時からSAOの21話が放送ですね〜♪
ガブリエルとの対戦が終わり……あとの数話でロニエちゃんの話をするのかな〜とワクワクしてたりします。
何はともあれ、とても楽しみです!!


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詩章005 運命の日

ついにあの日を迎えます


二学期に入ってすぐの、ある土曜日の午後。

あたしはテレビと睨めっこをし、後でノートに書き写す事前提にチラシの裏側へと殴り書きをしていく。

 

『にんじんを微塵切りにし、ーーーー』

「うむうむ。にんじんを微塵切り……」

『そのにんじんを更にサイコロ状に切っていきます』

「なっ!? 更に小さくするのかッ!! 一体何の意味がッ!?」

『先生、このニンジンのサイコロ状になったにんじんをどうするのでしょうか?』

『炒めましょう』

「炒めるのぉぉぉぉぉぉ!!? マジかッ!!!!」

 

料理研究家の男性が縦に細かく切ったにんじんを横に向け、小さなサイコロになるように切っていくのを見て、殴り書きで書いた"にんじん微塵切り"の横に"更に小さく切る。サイコロ状"と書き足し、料理番組を見ているとは思えないハイテンションで一人ブツブツ言いながらメモを完成させていると。

ソファの後ろに誰かが立つ気配を感じ取った……といってもこの家にはあたしと父しか暮らしてないのだから、後ろに立っているのは父で間違いないだろう。

 

「それでは、またこの時間にーーーーピッ」

 

料理を終え、食べた感想を述べた所で決まり文句を言うアシスタントには悪いが、毎回聞いているので割愛して……あたしはクルッと後ろを向くと最初にあった時よりも目元や口元にしわが入って来たように思える父を見上げる。

 

「おとうさん、なんかよう?」

「ああ、この住宅地の近くに小さな郵便局があるんだ。そこまで付き合ってくれないか?」

 

(ゆうびんきょく……? べつにこれからのようじはないので、ついていってもいいが……)

 

何故に、あたしを連れていく意味が……?

普段の父ならば郵便局などの待ち時間が長い用事に連れていく事はあまりないのだが……一体どの風の吹き回しだろう?

 

「陽菜荼、オムライスが好きだろ? お父さん、仕事の帰りに美味しいオムライスを作るお店を見つけたんだ。郵便局の帰りに一緒に食べよう」

 

(ああ、なるほど……あたしとがいしょくしたかったわけか)

 

にしても、そんなにあたしは分かりやすい疑問顔をしていたのだろうか? 無関心というか……感情を読まれないポーカーフェースには自信があるのだが。

 

「これでもお前の父親だからな。娘が考えていることぐらい顔を見れば分かる」

 

そう言われながら、頭を大きな手で撫でられ、あたしはこそばゆい気持ちになりながら、メモを置くために自分の部屋へと駆けていく。

 

 

γ

 

 

暦の上ではとっくに秋に突入した今日は夏とは違い、上にカーディガンがパーカーを羽織ってないと寒く、あたしは部屋に戻ると勉強机の引き出しにメモを入れると壁に掛けてあったお気に入りのパーカーを羽織る。そして、机の上に置いてあった親友にオススメされた本を片手に持つとドタバタと父が待つ玄関に向かって階段を勢いよく駆けるのだった。

階段をかけるあたしを見て、父は「階段を走って降りるな! 脚を滑らせて、頭を打つぞ」と叱られてしまった。毎回のようにそう言われるが、今まで脚を滑らせた事はないし、それからも滑らせる事はない予定なのでそんなに心配しなくてもいいのに……と膨れながら、シューズを履いたあたしは父が差し出す左手へと自分の右手を添えるのだった。

 

すぐ近くといっても距離はあるようで、父がスーパーやアルバイトに向かう時に使う愛車へと乗り込んだあたしと父は郵便局に向かって出発するのだった。

父が運転する車の助手席に腰掛け、フロントガラスの中で流れていく景色を見ながら、あたしは父へと話しかける。

 

「おとうさんとふたりででかけるってひさしぶりだね」

「そうだな。それと陽菜荼……」

「んー?」

「お前が小説とは珍しいな。詩乃ちゃんに教えてもらったのか?」

「そ」

 

 朝田 詩乃。彼女とは家が近所でお隣同士というわけではなく、小学校の図書室で出会い、話をして、一緒に帰った事から意気投合し、夏休み中も互いの家や図書館で勉強したり遊んだりした。遊ぶといっても詩乃は身体を動かすのが苦手なようなので……互いの部屋の中でトランプやボートゲームをするくらいだったが。

 

(そういえば……)

 

「おとうさんはしのとあたしがなかよしになるってみぬいてたよね? なんで?」

「ああ……それは最初に会った時に詩乃ちゃんがお前の目を見た時に周りとは違う反応をしたからな」

「ちがうはんのう……?」

 

それは初めて知った。最初に会ったのって……確か挨拶回りしときだったよな? 詩乃、どんな顔してたっけ……? 目を晒していたか、それとも早く忘れたかった記憶だったのか……完全には思い出せない。脳内に記憶されているのは、漠然と"父と挨拶回り"をしたという引き出しがあるのみ。

 

「お前は見てなかったかもしれないが、詩乃ちゃんはお前の目を見て、感銘を受けていた」

「かんめい?」

「感動していたって言ったほうが良かったな」

「あたしのめで?」

 

今まで疑問や好奇の目に晒させる事はあったこの(あお)い目だが……確かに感動された事はない。そもそも感動する程の目だろうか……。

 

「お前は感動する程ではないというかもしれないが、お父さんはお前の目好きだぞ。今日の空のように蒼く、蒼く澄み渡った青空のような瞳……見ていると吸い込まれそうになる」

「おとうさんのナゾポエムのいみ、ひなた わかんない。もっとわかりやすくいって」

「おおい! 陽菜荼!」

 

渾身の例えを謎ポエムと呼ばれたのが恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にする父を横目にしながら……あたしは先日、詩乃に言われた事を思い出していた。

 

『わたし、ひなたのめ すきよ』

 

曇りのない真っ直ぐした目で顔色一つ変える事なく、"好き"という言葉を言ってのける詩乃に思わず赤面してしまい……震える声で「ばっかきゃやろう! そういうことばはすきなひとができたときにいいやがれ! ごかいするだろ!!」とか細い声で言い終わった後は彼女の顔を見ることが恥ずかしく、家へと逃げ帰ったという記憶が真新しい。

父以外の人に"好き"という言葉を言われ慣れてないせいか……思わず逃げ帰ってしまったが、今度こそはあたしが彼奴をからかってやる。静かな闘志を燃やしていると……どうやら、件の郵便局に付いていたようだった。

 

 

τ

 

 

小さな郵便局という事だけあり、局内にあるのはぽつんぽつんと緑色のソファが鎮座してあるのみで、他にあるのは郵便物を送るために書く用紙等が置いてある小さなテーブルがあるのみだ。

 

「陽菜荼、郵便局でお父さんは書類を書かなくてはいけない。時間掛かるが待てるか?」

「こどもあつかいしないでよね。それぐらいまてるもん。ひなちゃん、よゆうだし」

「いや、お前は充分子供だろ……自分のことをひなちゃんっていうくらいだから……」

 

と、いつも通りのやりとりを終えたあたしと父さんはそれぞれの目的地に向かって歩いていく。

その最中、見知った顔がソファに腰掛けているのに気付き、目を見開く。

 

「?」

 

相手も近づいてくるあたしに気づいたのか、読んでいた《トーハギン》というタイトルが書かれた表紙から顔を上げると眉を潜める。あの目はどうやら何故ここにあたしがいるのが疑問に思っているようだった。

短く切り揃えられた焦げ茶色のショートヘアー、同色の瞳は丸く可愛らしい印象を受ける。細身な身体を覆うのは、ピンクの線が入ったベージュ色のカッターシャツにワインレッド色の短パン。その短パンの下から覗くのは白いストッキングで……ピンク色のシューズを際立たせている。

 

「こんにちわ、しの。しのもおばさんまち?」

 

上記の条件を満たす存在はあたしは一人しか知らない。隣人にしてあたしの唯一の親友である朝田 詩乃、その人であろう。

あたしは詩乃の隣に腰掛けながら、父同じようにカウンターで書類を書いているように見える詩乃のお母さんを見ながら、尋ねる。

 

「そう。ひなたのほうはおじさんまち?」

「そそ」

 

焦げ茶色の視線が父の背中を収めるのを見ながら、勢いよく答えると詩乃の手元にある本の中身を見てみるが、相変わらず"本の虫"である彼女と"本の世界に入りたて"のあたしでは読むジャンルも月とスッポン、天と地の差があるらしい。

 

「ひなたもまちじかん、ほんをよむよていだったの?」

「うん、そう。きみにせっかくおしえてもらったからね」

「べつに。わたしがおしえたからってむりしてよまなくても……」

 

はて? 無理をした覚えもないもないのだが……だが、これは詩乃もあたしのことを見縊っているように見受けられるな。

以下にも脳筋みたいなあたしだが、友達に勧められたものを読みもせずに否定する事はない。そもそも、詩乃がオススメとして選んでくれるのは、あたしが好きだと思うジャンルなのだ。故に、この本もオススメされた日から少しずつ少しずつ読み進めては、これからの展開にハラハラさせられている。そのハラハラする展開を見る為に持ってきたのであって、無理はまったくもってしてない。

 

「むりなんてしてないよ。きみがおしえてくれるほんにはずれはないからね。このほんはつづきがきになって、ここまでもってきたんだ」

「そうなんだ」

 

ホッとした様子の詩乃はズイッとあたしの方に身を寄せるとあたしの手元にある本の中身を見ていく。

焦げ茶色の瞳が文章を追うのを見て、聴き手の指で読んだところを指さそうとした時だった。

 

自動ドアがキィと音を立てて、開いたのはーーーーーーーーー。

 

「………」

 

入ってきたのは、中年の男性だった。

灰色っぽい服装に片手にはボストンバック下げた痩せ型で猫背の男性が局内へと入ってくる手前、あたしと詩乃の視線が男性と重なった。

 

(このおじさんのひとみ、へんなの)

 

黄ばんだ白目の中央で深い落とし穴のような真っ黒い瞳が忙しなく左右に動き、軽く開いた口からは唾液が垂れては白いタイルを濡らす。

後で掃除する大変だなぁ、と思うより先にあたしは男のただならぬ雰囲気に恐怖を感じていた。全身の毛が逆立つような……これから良からぬことが起こるような……漠然とした不安な気持ち。

 

(おとうさん、まだおわらないのかな……)

 

そんなことを考えていると迷うことなく《振替・貯蓄》へと進むと並んでいるお父さんと叔母さんの間に割り込むように、叔母さんの肩に手を置くと思いっきり叔母さんを右へと突き飛ばす。

突然の事に声をあげることもできずに、恐怖で小さくなった瞳を小刻みに左右に揺らして、タイルの上に倒れ込む叔母さんに隣に座っていた詩乃が勢いよく立ち上がる。

恐らく、愛する母が受けた理不尽な暴力に抗議したくなったのだろう……あたしも父がそういう目にあったのならば、大声で抗議なりと、男の手を掴んで「おとうさんにあやまって」というだろう。だが、この男には上記のことをしても無意味、否。逆効果のように思えた。

 

「し、しの……いまはしずかに……」

 

なので、あたしは詩乃の右手を左手で掴むと座席へと引き戻す。

 

「ひなた! でもーー」

 

詩乃の声に被さるようにカウンターの上に乱暴に置いたボストンバックの中へと手を突っ込むと何かを掴んで姿を現した。

座席から見えたのは真っ黒い何か……その正体に気付いたのはーーーー。

 

「この鞄に、金を入れろ!」.

 

と叔母さんの受付をしていた男性局員にそれを突きつけた時だった。

局内の電灯の下で妖しく光るボディ……それには見覚えがあった警察や探偵が出てくるドラマで俳優や女優が待っているところを見た、あれはーー拳銃だ。

一瞬で庁内の温度が下がり、緊張感が立ち込める。男に拳銃を向けられている多くの局員達がとどめき、牽制する。

 

(うそだろ……あれはほんもの? にせものではないのか?)

 

だが、その考えはすぐに消える。

局内にある大人達の怯えたような顔、そして何よりも男の近くにいる父の必死な顔は見てまで拳銃をオモチャとは思えなかった。

 

「警報ボタンを押すなよ!!」

 

ガチャとトリガーへと男が手を置く音が局内に響く。銃口を向けられている男性局員の顔が強張るのを見ながら、あたしは詩乃へと視線を向けていた。

親友はこういう時でも肝が座っているようで、床に倒れている母と外を交互に見ている。どうやら、外に助けを呼びに行きたいが……母が心配で乗り出せないといったところだろう。

 

(じゃあ、あたしが行ったほうがーー)

 

「早く!! 金を入れろ!! あるだけ全部だ!! 早くしろ!!」

 

身を乗り出し、外へと走ろうとした瞬間、震える声で暑さ五センチくらいの札束を差し出した男性局員から束を受け取った瞬間、ーーーーーーーーー。

 

空気が膨らんだ。両耳がジンと痺れ、それが破裂音と気付くまでに時間がかかり、足元に転がってきた金色の、細い金属の筒を見て、呼吸が早まるのを感じた。

急いで前を向いた瞬間、カウンターの向こうでは男に札を手渡した男性局員が目を丸くし、胸元に両手を添えながら後ろに倒れ込む様子がくっきりと見えた。倒れ込む瞬間、白いワイシャツにわずかなに赤い染みが見えーー血がッ!? と身がすくんでしまう中でも男の怒声は局内に響いていた。

 

「ボタンを押すなと言ったろうがぁ!!」

 

銃を握った右手がぶるぶると震え、花火によく似た匂いが鼻をつく。

 

「お、おい、そこのお前! こっち来て金を詰めろ!!」

 

男が銃口を向けた先には一人の女性局員が立っていたが、恐怖のあまり身が硬って動かないのか……首を細かく横に振るだけで動こうとしなかった。

どんなに強盗に対する訓練を行なっていても、実際に放たれる銃弾を弾く方法はマニュアルにはない。

きっと気付いているのだ、男の言う通りにすれば……今度は自分がさっきの男性局員のようになると。

 

「早く来い!!」

 

だが、その態度が男を更に苛つかせていく。カウンター下を何度も蹴飛ばし、挟まった目がギロリと女性局員を見ては拳銃を持つ手が彼女や同僚へと向けられる。その瞬間、カウンターの向こうで悲鳴が起こり、局員達が皆、頭を抱えて、しゃがみ込む。

その様子にカウンターの向こうでは人を撃たないと判断したのか、客用スペースへと身体を半回転させた男は銃口を近くに倒れ込む女性へと向ける。

 

「早くしねぇともう一人撃つぞ!! 撃つぞォォォォ!!」

 

その女性とは詩乃のお母さんだった。

叔母さんは自身が受けた衝撃と現場進行形で進んでいる事件に身体が動かないようだったあまりにも大きな負荷に身を守る術もその場から逃げることも出来ないでいた。

 

「おかあさん!」

 

親友の声が上がり、男がトリガーを引こうとした瞬間、男の背後にいた父が男を羽交い締めにする。がっしりと掴まれた男は一瞬驚きで身動きを止める。どうやら、入ってきた瞬間から父の事は自然に入っていなかったようだ。

 

「こら、暴れるな。大人しくしろ」

「煩えぇぇ!! こんなところで終われるか!!」

 

ガッカリと男を拘束している父だが、必死に暴れる男が手にする銃により頬や頭を数回叩かれた瞬間、拘束が緩んでしまい……父の拘束を逃れた男は振り返るとトリガーへと引いた。

銃口から閃光が放たれ、音速を超えた銃弾が父の右肩を貫いては鮮血を辺りへと飛び散らしては緑のタイルを紅く染める。

 

「ぉ………ッ」

「キャアアア!!」

 

瞬間、悲鳴が上がり、頭を抱えていた局員達は完全に腰が抜けてしまったようでみんな床に座り込むだけで何もすることが出来ない。

その瞬間、詩乃は叔母さんのところに駆け寄ると叔母さんを安全なところへと避難させる。その最中もあたしは父の腕から流れ落ちる鮮やかな紅い液体に視線が釘付けになっていた。波が溢れて止まらない、幼心ながらに父をこのまま置いていけば命がなくなる事が分かった。

 

(いやだ……いやだよう……おとうさん……)

 

今の男は自分の計画を邪魔した父しか視線に入ってない。黄ばみ血走った視線が鋭く細まり、甲高い声が局内へと響き渡る。

 

「お前がぁぁぁぁ!! お前が悪いんだぞぉぉぉぉ!! 俺を怒らせたお前が悪いんだ。俺にお前を撃たせたお前がぁぁぁぁ!!!!」

 

意味わからない理屈を言いながら、もう一度父を撃とうとしている男に向かって気付くとあたしは走っていた。身をかがめ、頭が急所に入るように勢いよく体当たりをする。

瞬間、ドシンと鈍い音と頭へと強い振動が走り、男は前のめりに倒れる起き上がり、腰に抱きつくあたしの背中を何度も銃で殴りつけ、あたしが激痛に顔を歪めていると男の悲鳴が聞こえて来る。

 

「痛……このクソガキ!!」

「ん"っ…んっ……」

 

視線を上げると男が銃を掴んでいる手へとかじりついている親友の姿があり、齧り付いてくる詩乃を追い払うと腕を振り回した男により小さな身体はカウンターへと叩きつけられ、あたしは乱暴にパーカーを掴まれるとタイルに向かって投げ捨てられた。何度も殴られたせいで軋む身体は空気を吸い込むのも痛みを感じるだが、男が落とした銃だけは何としても男に渡していいものではないだろう。

 

(これだけまもらなくちゃ)

 

銃へと迫る男の手から拳銃を守るべく、抱きしめるように身をかがめて男の手に渡らないようにする。

だが、それでも男の力は強く、抱きしめるあたしの髪を掴み上げてはひっくり返し、胸に抱き寄せている拳銃を取り戻そうとグーに丸めた拳を頬へと埋め込み、お腹へも同じように殴りつけれるのをひたすら耐える。

 

「ひなたからはなれろ!」

「チッ!」

 

あたしを殴り続ける右腕を掴む詩乃を見てはイラついたように舌打ちした男が詩乃を殴ろうとした瞬間、あたしは思いっきり男の局部へと膝をめり込ませる。肘越しに男のアレの感触を感じ、顔をしかめながらもあたしを助けるまでに駆け抜けてくれた親友を守るべく更に力を込めていく。

 

「ぉ………ぉぉ………」

 

瞬間、男の顔色が変わり、膝かめり込んでいる局部を押さえながらタイルの上に倒れ込む。冷や汗を流しながら、声にもならない声を漏らし、目を限界まで細めている男から離れたあたしはカウンターへと声をかける。

 

「すいません。このひとのてくびをしびりあげるひもみたいなものないですか?」

「そ、それなら……俺のネクタイで」

 

 カウンターのすぐ近くにいた男性局員が立ち上がるとネクタイを解きながら、股間を押さえながら悶える男の両手首を後ろへ持ってくると暴れても解けないぐらいキツく締め上げてくれたのだった。

 




ということで、上手く臨場感を表せたかは分かりませんが……あの郵便局事件を違う店内で終わらせてることが出来ました。
これで少しでもシノンちゃんが救われてくれると嬉しいのですが…………







最後に、今日でSAOのアニメが終わりますね!
長かったアリシゼーション編の終わりにスタッフの皆さん並びにキャストの皆さんにはお疲れ様でしたと伝えたいですし……これでSAOのアニメ化が無くなるのかな……と思うと涙が溢れてくる。
劇場版でもOVAでもいいので……続いてくれるといいな……猫耳アリスちゃんがぬるぬる動くところ見たいよ……(涙)


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詩章・番外編 とある日の出来事(未来)

前の話から数ヶ月経ったある日の話です


「………」

 

薄っすら目を開けてみる。

 

まず目に入るのは……白い天井……。

この天井を見るとは()()()()()()()()()何回目となるのだろうか? 数えることも二桁を超えるところで億劫になってきた。いや、この世界に来たことで襲ってきた心細さ、孤独、絶望に比べれば、感じていた億劫も微々たるものだろう。

 

視線を横にすれば、深緑色のカーテンとサイドテーブル。きっと足元に広がるのは、長ソファー。長いテーブルが並んでいることだろう。

この宿屋を寝ぐらにしているので、木造箪笥の中には自分ともう一人、同居者のアイテムが沢山入っていることだろう。

 

暫く、ボゥーと覚醒する為に天井を見ていると視界の端で焦げ茶色の何かが揺れていることに気付く。

視線を其方へと向けると件の同居者が自分の胸元に顔を押しつけて寝ている姿だった。

 

「すぅ……すぅ………」

 

可愛らしい寝息を立てながら、甘えたようにギュッとパジャマを握りしめる。

焦げ茶色のショートヘアーが彼女が頬ずりする度に左右に揺れては鼻先と頬をくすぐり、こしょばゆい。目を細めながら、寝ている彼女を視界に収める為に少し体を枕の方に身体を引き上がる。肘で上に上がってから、スヤ……ァ、スヤァ……と健やかな寝息を立てている彼女の焦げ茶色の髪の毛へと右手を差し込み、後頭部を撫でる。

 

(この子とも長い付き合いになるな)

 

この子、この世界、ソードアート・オンライン(SAO)でのアバターネームは《シノン》。現実世界では《朝田詩乃》との出会いは、小学校3年の時に彼女の隣に引っ越してきて、それから同じ小学校の図書室での仲良くなり、互いの部屋や図書館で遊ぶようになり、その後も何度か交流を重ね、そして、ーーーーーーーーー。

 

「……ん?」

 

長い焦げ茶色の睫毛が僅かに揺れ、1ミリ1ミリと上がってきた目蓋から髪と同色の瞳にカーテンから差し込んでくる光によって宝石の琥珀のように光る大きな瞳が真っ直ぐ自分を見上げてくる。

琥珀の光を放つ瞳を見下ろしながら、さらさらときめ細かい糸のような髪の毛へと右手の指を差し込み、慈しむようにシノンの髪の毛を撫でる。白魚のような指先が眠そうに擦っては大きな欠伸をしている。

 

「……おはよう、ヒナタ」

 

「ん、おはよ、シノ」

 

ベッドの頭の辺りへと気怠げに背中を預けていると起き上がったシノンが太もものところに腰を落とす。

肩に両腕が添えられるとスッと身を寄せ、焦げ茶色の瞳が近づいてくるのを見つめながら、近づいてくる唇を迎える。

最初に触れるだけだった唇はうねり、貝が合わさるように唇と唇が重なり合い、お互いのぬくもりや感触を交換するように、貪るように、キスを続けていく。

 

(伝わってくる……シノの気持ちが……)

 

「ひな……た……ぁ」

 

甘えた声ですがるように自分の現実世界の名前(リアルネーム)を言う彼女が愛おしくて、ギュッと強く抱きしめると自分の同じ気持ちだと伝える為に後頭部を撫で、力が入っている唇の力を緩めるようにしてから小さかった隙間をゆっくりと広げていく。

詰まっていた目蓋が開き、舌を挿入してはシノの舌へと絡める。まん丸になった瞳が細まり、上下する舌を受け止めながら、互いの唾液が動き回る自分たちの舌により泡立てる。唇の隙間から唾液が頬が汚れるのも忘れて、キスに没頭していく。

 

「んっ……ぁ……ぅぁ………」

 

唇の隙間から漏れ出るシノの声が色っぽくて、もっと聞きたくて、空気を吸い込もうとする彼女の唇を覆い、より強く強く抱き寄せると絡み合う舌にだけ意識を集中していく。

一旦、何時間掛かったのか分からないまま、ゆっくりと唇を外したあたしとシノは身を外すと大きく数回深呼吸をする。

 

「……ぷは」

 

「はぁ……はぁ……」

 

赤い頬で熱っぽい息を吐きながら、お互いを見つめているとクスクスと笑い出す。

 

「ヒナタってキスが上手よね」

 

「それはどこぞのお姫様が毎朝毎晩キスを求めてくるでしょう。お陰で舌だけでチェリーの枝を結べるようになりましたよ」

 

「それって……私、関係あるの?」

 

「関係大有りでしょうよ………たく」

 

その後、まだ笑い合うともう一度キスするのだった。

 




なんだか……アダルトな雰囲気が流れているような……(苦笑)

でも、大丈夫。R18ではないバス!(大汗)

………た、たぶん………(滝汗)








ついに終わってしまいましたね…………アニメSAO、アリシゼーション編(涙)
全4クールという長い期間を駆け抜けたスタッフの皆様、そしてキャストの皆様、本当にお疲れ様でした(高速土下座)
最終話(#23)は見どころが多く、最初から最後まで楽しませていただきました!
中でも好きなシーンは、キリトくんの家族とアリスちゃんが会話するシーンですね。アリスちゃんの「お父様」に対して、リーファ(直葉)ちゃんが「お父様ッ!?」というところが一番好きです。
後は、200年後のアンダーワールドがメカメカしすぎていて……びっくりしちゃいました。が、あの時から200年経ってるんですもんね……それ程経っていたら、科学も文化も進化しているはずです。そこで思うのは、アドミニストレーターが人々に齎していたのはやはり停滞だったのだな……と。
そして、ロニエっぽい子とティーゼっぽい子(私は二人が何者かは知っていますが……アニメだけを見ている人にとってはネタバレになるので記載なし)が乗っていた機体の天井に掲げられた紋章(?)に"金木犀の花"が書かれているんですね!
後、最後の最後にキリトくんの横にユージオくんを登場させるのと、幼い頃のキリトくん、ユージオくん、アリス・ツーベルクちゃんを乗せるのは泣くッ!!これはあかんっ(滝涙)

最後の最後に、二刀流のキリトくんが登場したのは……アニメ化が決定した【SAO プログレッシブ】編への繋がりだと私は勝手ながら思ってます。
私の好きなプログレッシブの話は、ミノタウロスに追いかけられるアスナちゃんです(笑)


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詩章006 芽生える恋心

引き続き、本編をどうぞ(リンク・スタート)



 

「陽菜荼ちゃん。はい、昨日頼まれた新聞紙ね」

 

「あんがと、お姉さん!」

 

「どういたしまして。こらこら。読む前に血圧と体温を測らせて」

 

「はーい」

 

血圧や体温を計りに来てくれた看護師さんから今日付の新聞紙を受け取ったあたしはベッドの上でおじさん座りをする。

そんなあたしの周りをテキパキと自身の職務に全うする看護婦さんに血圧、体温を測ってもらったあたしは去っていく白衣の天使にパタパタと手を振ってから見送る。

そして、一人になったあたしは利き手で顎をもにゅもにゅと摘みながら、ふむふむとあの事件の顛末が書かれている新聞紙の記事を両手で広げてから、病院のベッドの上にテーブルを持ってきて、眺めみていた。

 

"なるほど、なるほど"

 

堅苦しい文字の羅列を紐解いていくと、どうやらあの犯人は無事警察に保護されたようだ。

あの事件を起こすにあたっての経緯やら、犯人の動機やら、長々と書かれていたが、あたしにとってはそんな事はどうでもいいのだ。

あの犯人はあたしのたった一人の大切な家族を、親友を、傷つけたのだ。万死に値する。だが、あたしにそんな権利はない。故に、犯人が自分の罪を認め、猛省してくれる事を心から祈るしかない。

 

コンコンと控えめなノック音が響き、ひょっこり顔を出す焦げ茶のショートヘアーに思わず口元が緩んでしまう。

 

「陽菜荼、居る?」

 

「居るよー」

 

軽く答えるあたしはしずしずと入ってくる詩乃へとチラッと見てから軽く手を振る。

詩乃は一歩病室に入り、キョロキョロと周りを見渡してから病室の隅のベッドにいるあたしに気づき、ハッとした表情をし、硬かった笑顔が柔らかくなる。

ベッドの上に座ってから新聞紙を広げてから読んでいるあたしに気づき、隣に来てから手元を盗み見る。

 

「何見てるの?」

 

コンコンと人差し指で記事を突くあたしに詩乃の表情が少し曇る。

恐らく、自分のせいで怪我をしてしまったあたしや父さんの思っているのだろう。

 

「……別に気にする事ないじゃん?」

 

チラッと彼女の顔色を見てから気にしてない風に呟き、違うページに掲載されてある四コマ漫画へと視線を向ける。

看護婦のお姉さんに頼んだのはあの犯人の事を調べる事とは別にこの四コマ漫画を見ることも目的だったりする。

最初は暇で暇で仕方ないので新聞紙を読んでいたのだが、この四コマと出会ってからあたしの新聞紙人生は輝き始めた。四コマというちょっとしたスペースでしっかり起承転結をつけた上であたしに笑いという最高のプレゼントをくれる。

この病院を退院した後もこの四コマは見ていこうと心に決めながら、詩乃と会話していく。

 

「陽菜荼?」

 

「詩乃んとこの叔母さんもあたしの父さんもあたしも詩乃も無事だったんだからさ。そこまで気に病まなくていいと思うよ」

 

「陽菜荼は物事を短楽的に見過ぎ」

 

「そうかなー?あたしはみんな無事、あのやばい人は捕まってお縄。はい、ハッピー」

 

四コマを見終えたので新聞紙をたたんでから、詩乃へと視線を向ける。

 

「でいいと思うけど」

 

「はぁ……私も見習いたいわ。あなたのその短楽な性格」

 

「褒めても何も出ませんぜ、お嬢さん」

 

「褒めてないわよ!」

 

そう言って、またため息をつく詩乃だが、口元には笑みが浮かんでいる。

 

うんうん。詩乃には深刻な顔よりも笑顔の方が似合うからね。折角可愛い顔してるのに、いっつもおっかない顔してるから。みんな誤解して近づこうとしないんだから。だから、いつもじゃなくてもいいから。笑顔を浮かべてくれたらいいな。

 

「……陽菜荼」

 

「んー?」

 

「私を励まそうとしてくれてありがとう」

 

そう言って、にっこりと笑う詩乃に一瞬惚ける。

 

後ろにあるカーテンから差し込む日光に照らさせている詩乃の表情がいつもよりも輝いていて、浮かべている笑顔も可愛くて綺麗で、あたしは胸がキュンと締め付けられるのを感じる。

 

急な運動をしてないのに息苦しく、目の前がチカチカし、頭が回らなくなる。

 

「そうやってバカ言ったりするのって、私を笑わそうしてくれてるんでしょう。それが勇気づけようとしてくれてるんでしょう。不器用なやり方だけど、私、いつも陽菜荼に助けてもらってるから。だから、言わせて。いつもありがとう」

 

詩乃が何かを言ってる。

 

言っているのだが、何も聞こえてこない。

 

でも、詩乃の顔をマジマジと見れなくて、そっぽを向いてからボソリと呟く。

 

「……べ、別に。詩乃を助けたくてしてるわけじゃないから。あたしが恩を着せたいからしてるだけだから。勘違いしないでよねっ」

 

「なんで急にキャラ変わってツンデレになってるのよ。ふふ……本当に馬鹿なんだから」

 

クスクス笑う詩乃の笑顔をあたしはしばらく黙って見て、あたしは胸の高鳴りが早まっていくのを感じる。

 

"嗚呼、あたしはこの人に恋心を抱いているんだ"

 

そう自覚したからといっても、今の関係を壊すことなんてあたしには出来ない。

 

あくまでも、あたしと彼女は家が近いだけの赤の他人なのだから。

 

扉からひょっこり顔を出し「また来るね」と言って、病室を後にする詩乃へと左手をひらひらと振る。

振り返してくれた事に胸がドクンとなるのを無理矢理抑え込み、あたしは彼女が置いていったオススメの本を引き寄せる。

肩肘をつけて、パラパラとページを捲るが肝心な内容は全然入ってこない。

 

「……あたし、詩乃の事好きすぎるだろ……」

 

へたりそうになるのを無理矢理耐え、あたしは全体重をベッドへと預け、これから詩乃とどう接していくか、自覚してしまった恋心をどう隠していこうかと頭を悩ませながらもあたしは暫く続いた入院生活を満喫したのだった。




 007へと続く・・・・




今日、この話を持ちまして、今作は総話数200話となり、5周年となりました。

1話目から応援してくださっている方、途中から本作を知って読んでくださっている方、他にも様々な方々がいらっしゃると思いますが、多くの方に本作を読んでいただいてありがとうございます。

1話に比べると少しは表現力も上がってきたかな?と思う今日この頃、本作はまだ続いていきますが、変わらずに応援していただけると嬉しいです。

これからもよろしくお願いいたします(深々とお辞儀)


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詩章007 モテ期

投稿の時間、あけてしまい申し訳ありませんでした。
色々とバタバタしてしまって、ここまで時間がかかってしまいました……

それでは、本編どうぞ(リンク・スタート)



 

モテ期。

人生の中で異様に異性に好かれる期間、それを略称したのがモテ期というらしい。

そして、厄介な事に。

どうやらそのモテ期とやらにあたしは該当しているようだ。

ほんと、厄介だ。

 

あの郵便局襲撃事件に巻き込まれてから、あたしは小学生時代をしばらく病院で過ごした。

その間、詩乃への恋心を自覚し、その後は彼女が訪れてくれる夕方の時間が何よりも楽しみになった。

ベッドの横の椅子に腰掛け、今日は学校でこんなことがあった、図書室で読んだ本が面白かったなど色んなことを話してくれる詩乃に時々相槌を打ちながら、彼女のまっすぐ見つめてくる瞳を受け止める。

焦げ茶色の瞳が窓から差し込む光に反射してキラキラと輝くのを綺麗だなと思ったり、一生懸命会話する彼女の姿が可愛く感じたり、時々見せてくれる笑顔が愛おしかったり……詩乃と触れ合う時間を過ごせば過ごすほど、胸に芽生えた恋の種が着々と花をつけ始めていく。

 

サラサラと揺れる焦げ茶色のショートヘア、伏せた瞼の端で揺れる大きなまつ毛、小さな唇。彼女の全てが愛おしくて、好きという気持ちが溢れてくる。

 

今すぐ、その華奢な身体を強く抱きしめて、驚く彼女の耳元で"大好き"と自分の気持ちを打ち明けたい。

 

でも、またねと去っていく詩乃にそれを実行することは出来ない。そんな勇気もない。出来ることといえば、無理矢理作った笑顔で手を振りかえすことくらい。

 

自分でも何がしたいのか、よくわからない。気持ちばかり先走り、考えがまとまらない。

自分の気持ちを打ち明ける事によって、詩乃が離れてしまうのが一番怖いし、あたしの為に引っ越しまでした父をこれ以上私的な事で迷惑をかけたくないという気持ちもあるのだ。

 

"このまま、あたしは気持ちを隠しかけるのだろうか"

 

去っていく詩乃の姿を窓から見ながら、溢れてくる好意に時間をかけて何重にも扉を閉めては、幼馴染という仮面を顔に貼り付ける。

 

何も感じないように。

何も反応しないように。

何もーーーー。

 

そう自分に言い聞かせ、詩乃と関わるようにした。

そうする事が正しいと信じて。

 

その後、病院生活を堪能したあたしは父と共に退院した。そして、地獄の補習続きの小学校生活を終えてから、近くにある中学校になんとか進学する事が出来たのだが……。

 

中学生になった途端、あたしは件のモテ期に突入してしまったのだ。

 

最初は入学式の次の日、放課後にいきなり知らない男子生徒に声をかけられて、"一目惚れがどうとかで付き合ってほしい"と言われた。あたしには恐怖でしかなかった。名前も学年も顔も見た事ない男子生徒にひとけのない所に連れていかれ、いきなりそんな事を言われたのだから。あたしは強張りそうになる顔を必死に真剣な顔にシフトチェンジし、"好きな人がいるので付き合えない"と素直に答えた。答えた後は残念そうな顔をする男子生徒に"だったら、友達なら"と言われ、友達ならと了承してメアドを交換した。

その後、知ったのだが、あたしに告白してきたその男子生徒は中学校では校内一のイケメンと評判の三年生だったようで、あたしは彼が好きな女子生徒達に仕返しという名のイジメをされる事よりも男子生徒の容姿に首を傾げていた。確かに目鼻はすっきりしていたが、イケメンだっただろうか?と。どうやら、恋というものをすると周りとの基準がズレてしまうようだ。いや、あたしは元々基準なんてバグっていたか。

そんな事を思いながら、学校生活を送っていたあたしは件の三年生のファンとやらにイジメを受けたが、それも受け流しているうちにいつの間にか終わって、その後は下駄箱や引き出しにラブレターが溢れかえるようになった。

手紙の封を開け、あたしのどこに惹かれたとかどれだけ好きかとか流し見した後は下の方に書いてある指定場所と指定時間に沿って行動しては"ごめんなさい。今、好きな人が居るんです"と言い、だったらと友達というのを繰り返す。男女問わず、アドレスの名前だけが増えていく日々にあたしはげんなりしていた。

 

「……陽菜荼。そろそろ、詩乃ちゃんが迎えにくるぞ」

 

「んー」

 

父が用意してくれた朝ごはんをもぐもぐしながら、生返事を返す。ことんと目の前に牛乳を置かれ、所々苦いトーストをミルクで流し込みながら、こちらも黄色の面積よりも茶色の面積が多めのスクランブルエッグをもぐもぐしていく。

 

急ごうとしないあたしに父さんはこりゃダメだと顔の半分を覆い、ピンポーンという呼び出し音に救われたような顔をする。

 

おいおい。いくら、あたしか朝で困らせるからってその反応は傷つくのだが。

 

そんな事を思いながら、玄関へと向かう父の背中へとむくれた顔をむけるあたしはいいよーだとグレながら、朝ごはんを片付けていく。そんなあたしの耳には玄関先での会話が入ってくる。

 

「おはよう、詩乃ちゃん」

 

「おはようございます、おじさん。陽菜荼は?」

 

「陽菜荼ならまだ朝ごはん。さっきまでこっくんこっくん船を漕ぎながら、食事を口に含んでいた」

 

「今日もですか」

 

「うん。ごめんだけど、詩乃ちゃん今日もお願いできるかな?」

 

「はい、いいですよ」

 

「別に詩乃に肝焼かれなくても、準備くらい自分で出来る」

 

驚く父の側をすり抜け、行ってきますと言ってから後ろをついてくる詩乃の前をずかずかと歩いていく。

 

学校に着いてからは好奇の目、好意の目、囁き声を素通りし、自席に着く。そして、ごそごそと引き出しを探れば、出てくるわ出てくるわラブレター。

 

「今日も手紙?」

 

後ろ斜めの席にスクールバッグを置いた詩乃が引き出しの中から取り出した三通の手紙を机の上に置き、疲れた顔をするあたしの肩から覗き込むように手元を見る。

 

「今日も多いわね。良かったじゃない」

 

「良くないよ。毎回フる度に胸がザクザクするんだって。人事だと思って……」

 

「だって、私には人事だもの」

 

「さいですか」.

 

はぁーとため息をつきながら、ホームルームが始まる前にちゃちゃと読んでしまおうと封を開けていくあたしは最後の一通に手を伸ばした時に一瞬固まる。

 

"香川 夜"

 

それはお隣さんの名前だった。

恐る恐る手紙を見るとそこには場所と時間の指定のみ書かれており、あたしは残り二通の手紙と共にリュックサックへと手紙を入れたのだった。




 008へと続く・・・・


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詩章008 昼休み


引き続き、本編をどうぞ(リンク・スタート)



 

三通のラブレターをスクールバッグに押し込んだ後、あたしは学業に勤しむことにした。学業は自分でいうのもなんだが、苦手に分類していると思う。

教科書を読み、教師が黒板に書く文章や方式などをノートに模写する。このことになんの意味があるのだろうか、とふと思ってしまうのだ。教師も重要だからこそ黒板に書いているのだろうが、それは元々教科書に書いていたものだし、あたしにとってはマーカー引いて赤ペンで書き足すくらいでいいじゃないかと思ってしまうのだ。

 

"まー、そんな捻じ曲がったことばかり考えているから成績が上がらなくて、父さんが涙を滲めることになるんだろうな…"

 

自分でいうのもなんだが、あたし自身頭の出来はいい方なんだと思う。

一度理解さえしちゃえば、後はすんなり入ってくるし、覚えたことは基本忘れることはない。

ないのだが……一度、疑問に思ってしまうとそこから先に進めなくなる。それがあたしの悪い点だったりする。

なんで二度手間をしなくてはいけないのか、めんどいなーと思ってしまったら最後。

黒板を取ること自体も億劫に思えてしまう。こんなことしなくても教科書さえ読んどけばいいんだろ?と反抗的な態度になってしまう。

 

"あー、まだ書ききれてないのに消されちゃった……。まーいっか、詩乃に見せてもらお"

 

そんな事を考えながら、見返した後に読み取れるか読み取れないか中間の文字を大学ノートにシャーペンを滑られているとキーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴る。

 

"さーて、昼休みになったな…"

 

一枚目のラブレターで指定された時間が昼休み、場所が中庭と書いてあった。

鞄から巾着袋を取り出し、近づいてきた詩乃に"後で合流する"伝え、早足で中庭へと向かう。

そこにはそわそわした様子の女子生徒がおり、あたしは一回立ち止まってから深呼吸してから彼女に近づく。

近づいてくるあたしに気づいた彼女が嬉しそうにはにかむのを見て、罪悪感が胸に満ちる。

その後、続く。彼女のたどたどしい告白を聞き、不安そうに揺れる瞳を見つめながら、深々と頭をさげる。

 

「ごめん。好きな人が居るんだ。だから、君とは付き合えない」

 

一体、何回、何十回も同じことを言って、断ったことだろう。

啜り泣きを聞きながら、淡々と上記の言葉を言うたびに胃がキリキリとする。

 

"もういいじゃないか…"

 

下げていた頭を上げ、涙を拭う女子生徒を見ているとそんな事を思ってしまう。

頑なに好きな人が居ると言い続けているけど、その人とはこの先どうこうなろうとは思ってない。ただ彼女の側で、彼女の力になれさえすればいい。そう考えているのならば、頑なに誰かを拒むのではなく、もう受け入れちゃってもいいんじゃなかろうか。

 

「わたし、もう行きますね」

 

「ああ……うん、ごめんね」

 

「いえ」

 

もう一度頭を下げてから立ち去る女子生徒の背中を見送ったあたしは深いため息を吐きながら、空を見る。

 

ゆったりと流れていく雲、どこまでも澄んでいる青い空を見ているとさっきまで感じていた痛みが引いていく気がして、しばらくボーォとしてみる。

 

「陽菜荼ってほんとモテるわね」

 

すると、トンと胸に何かが押しつけられ、あたしは声の主と共にびっくりした声をあげる。

 

「うわっ!?居たの!?」

 

「何よ。私が居ちゃいけないの?」

 

むくれた顔をする声の主・朝田詩乃にあたしは彼女に預けてあった巾着袋を受け取りながら、ひたすら謝る。

 

「いや違うって。あたし、詩乃にどこ行くか。伝えてなかったよね?なのに、ここに居るからそれにびっくりしちゃっただけで」

 

「確かに伝えてはなかったけど、陽菜荼が見ている時に手紙の呼び出しのところ流し読みしたから」

 

あんさん、人のプライバシー勝手に見たんかい。そりゃあかんやろ。

 

「何よその目。言っとくけど、私が見たのはそこだけだから。他のところは読んでないから」

 

いや、聞いてないけど……だとしても、流し読みしちゃああかんやろ。

 

頭の中で壮大にツッコミながらも彼女がこうして持ってくれたからこそ。お昼ご飯を余裕持って食べるのだ。そこは感謝しなければ。

 

「確か、ベンチあったよね。そこで食べる?」

 

「ええ、そうしましょうか」

 

彼女を伴い、一つのベンチに腰掛けてから弁当を食す。

ミニトマトに茹でたブロッコリー。卵焼きにタコさんウインナー。今日はメインにハンバーグを入れてある。日々によって、メインが魚になったりすることもある。

弁当当番は父が担当することもあるが、父が調理すると基本茶色になってしまうし、ただでさえ長い時間運転して職場に向かっているのであたしは父に少しでも長い時間寝てほしいので、基本あたしが早起きしてから弁当や朝ごはんを作り、起きる時間になるまでもう一眠りするのが日々のルーティンだったりするので、弁当を開けた時の感動というものはない。

やはり、弁当は誰かに作ってもらい、蓋を開けた時に入っているおかずに一喜一憂するというのが一つの醍醐味でもあるのではなかろうか。まー、あたしの勝手な考えだけど。

そんな事を考えながら、ハンバーグを食べやすいサイズに箸で切ってから口に含みながら、ちらりと詩乃が開けた弁当の中を見てみる。

 

"ふむふむ。ほうれん草のおひたしにごろごろ野菜の煮物。焼き魚にチーズ巻きささみ。素朴ながらも食べる人のことを考えてある鮮やかな盛り付け。そして、食欲をそそる香り。食後のデザートとしてか、そっと添えてある輪切りにしたバナナも憎らしい"

 

ごくりとハンバーグを飲み込み、続けて卵焼きを大口を開けて口内に迎え入れる。

 

「詩乃のはおばあちゃんが作ってくれてるんだっけ?」

 

卵焼きをもぐもぐしながら聞いてみると顔全面に"食べ終わってから聞きなさいよ"というセリフが書いてあり、あたしはごくりと飲み込んでから尋ねる。

 

「で?おばあちゃん?」

 

「そうね。おばあちゃんが作ってくれてるけど、お母さんも手伝って入れてくれるみたい」

 

自分の弁当を見下ろしながら、嬉しそうに微笑む詩乃にあたしも"そうか"と嬉しくなる。

 

あの郵便局事件にて、詩乃のお母さんは目立った怪我こそないが、見えない傷……心の傷の方は深かったようだった。

詩乃のお母さんの事は彼女から深くは聞いてない。触れてはいけないように思えたし、たまに詩乃の部屋に遊びに行った時に挨拶をした時にピクリと身体を震わせたことがあった。"ああ、この人は繊細な人なのかもしれない"と幼心に思った。あたし自身、触れてほしくない過去があるし、その頃のあたしはあまり人と関わりたくなかった。多数の人々と関わり、あれこれ詮索されるのを嫌っていた。ので、詩乃のお母さんはあたしにとっては繊細だけど優しい人という印象だった。あたしが通いなれた頃には少しだけど話をしてくれたし、ジュースやお菓子を持ってきてくれたりもした。

だが、あの事件後からお母さんは自室に篭りがちだと詩乃から聞かれた時は心配した。元々塞ぎがちだったと聞かされた時は更に心配したのだが、詩乃の弁当をおばあちゃんと共に入れてくれるまでに回復したのならば良かった。

 

「そういう陽菜荼は毎回自分で詰めてるのよね?」

 

「そーそー。自分だからさ。楽しみがなくて、まー、味に変わりはないんだけどね」

 

苦笑いしながら、そういうあたしをしばらく見ていた詩乃の口がゆっくりとひらく。

 

「ねぇ、陽菜荼。良かったらだけど、今度からわたーー」

 

詩乃が何かを言い終わる前にお昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り響き、彼女の声を遮ってしまう。

あたしはチャイムが鳴り終わった後に尋ねてみる。

 

「ーーさっきはなんて?」

 

「……なんでもないわ。早く食べて、教室に戻りましょう」

 

尋ねたあたしを一瞥し、少し怒ったように弁当を次々と胃におさめていく詩乃にあたしは"なんで、あたし怒られてんだ。理不尽だー"とへこみながら、弁当を食べ終わるために箸を動かし続けた。




 009へと続く・・・・


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虹章001 死ニタイ

この虹章は、本編の2章ー19の別ルート…ifストーリーとなっております(礼)
あのシノンの絶体絶命のピンチで、カナタの助けが間に合わなかったら…というifストーリーですので、シノンが好きな人やダーク…病んでるキャラが好きじゃない人にはオススメできません~_~;

それを踏まえた上で、この本編を見てもいいと思う方…どうぞ、ご覧ください(礼)



※少し分かりにくい書き方をしてるやもしません…すいません…(汗)



6/12〜誤字報告、ありがとうございます!


「カナタ、今日は部屋で休めよ、な?」

 

そう言って、全身を黒で染めてる少年・キリトがこの宿屋に戻ってくるまで…下を向いたままの橙の羽織が特徴的な少女・カナタへと振り返る。カナタはキリトの呼び掛けに、ごく僅かに首を縦に振ると…そのまま、心ここに在らずの様子で階段とは別の方角へと歩いて行く。そんなカナタの様子に、キリトは唇を噛み締めると悔しそうな表情を浮かべる。そんなキリトの肩を叩くのは…今の今まで、カナタと共に冒険してたフィリアとルクスだ。

 

「ーー」

「…ッ」

「キリト、ありがとう。わたしがカナタを部屋に連れて行くから…大丈夫だよ」

「…ごめんな、フィリア。…俺…何も出来なくて…」

「キリトさん、それは私たちも一緒だよ」

 

ふらふらと店から出ようとしていたカナタの左手を掴んだフィリアは、階段の方へとカナタを連れていく。階段の前まで来るとフィリアは立ち止まり、カナタへと問い掛けたその問いかけに、カナタはキリトの時のように僅かに頷くと…ゆっくりと登り出す。そんなカナタの様子に、フィリアもキリトのように唇を強く噛み締めた。

 

「部屋はこっちだよ…カナタ。階段、登れる?」

「ーー」

「…そう、気を付けてね」

 

俯いたままのカナタへと優しく語りかけたフィリアは、カナタの手を強く握り…気を取り直して、階段を伸ばし出した。そして、カナタの部屋の前まで来ると…ドアを開けて、カナタをベッドへと座らせる。

 

「ここがカナタの部屋だよ」

「ーー」

 

出て行こうとするフィリアの服の裾をギュッと握ると、振り返ってくるフィリアを上目遣いで翳りのある蒼い瞳で見つめるとちいさく呟く。不安げに見上げてくるカナタの癖っ毛の多い栗色の髪を優しく撫でたフィリアは、微笑むと下を指差す。

 

「…カ、ナタ?…どうしたの?」

「…寝れ…ない…。…一人…だ、と…」

「いいよ…カナタが寝るまで一緒にいてあげる。だから、少しの間だけいい?みんながカナタの事、心配してるから…報告と簡単な食事を持ってくるね。待ってて」

「ーー」

 

扉から出ていくフィリアの背中を見送ったカナタは、突然 両手をクロスさせて…震える身体を抱きしめた。硬くつぶった瞳の裏に映るのは…先刻の事ーー

 

 

ーーあの時、あの部屋に入った時…確かに、シノはまだ生きていた。何かを必死に叫んでて…あたしはシノを助けようとして……ーー…助けられなかった…。

モンスター達の隙間から、天井へと登っていく青白いポリゴン片を視界に収めた瞬間…あたしはあたしを見失った…。シノの仇であるモンスター達を片っ端から両手に持った刀と小太刀で斬り裂いていった…辺りが、ポリゴン片に包まれた瞬間…あたしは迷宮区の床へとへたり込んでいた。両手に持っていた刀と小太刀で今度は自分自身を傷付けた…何度も何度も、自然と痛いとか苦しいとか思わなかった…これは報い、シノを助けるとか守るとか大口叩いた挙句、辛い時に傍にいられず…助けを求めている時すら助けられず…自分の命よりも大切な恋人を守れなかった愚か者が受けるにふさわしい報い…罪の償い方なんだ。

 

“…このまま、死にたい…。シノのとこ、逝きたい…”

 

だが、その願いも闖入者達の邪魔により叶わないものとなった…。無心で自分自身を傷つけ続けるカナタを目のあたりにした瞬間、三人がカナタへと歩み寄り、その行動を止めにかかる。

 

『何やってんだよ!カナタっ!!』

『やめて、カナタ様』

『カナタ、ダメ!』

 

邪魔してくる三人を暴れて、振り払おうとするが…一人と三人では分が悪い。三人は暴れるカナタをどうにか、宿屋へと連れてくる事に成功した…

 

 

 

 

空想から目を開けたカナタは、目の前にいる存在に目を丸くする。焦げ茶色のショートヘアーに、赤黒黄緑の露出度が高い不思議な服、そしてこっちを見て微笑んでくれてるその素朴ながらも整った顔立ちに…カナタは、顔をくしゃっと歪めると…一歩また一歩と、その少女へと歩み寄った。

 

「し…の…」

 

カナタは小さくそう呟くと、その少女を抱きしめようとして…その少女は、カナタの腕をすり抜けるように、天井へと消えていった…。その瞬間、カナタは床へとへたり込み…頭を抑えると、見開く瞳を彷徨わせて…突然、大きな声を上げる。その声に驚いて、部屋へと入り込んだフィリアが見たものは…だらしなく両手を床へと投げ捨てて、乾いた笑い声を上げてるカナタの姿だった。淀んだ蒼い瞳には、生気を感じられず…部屋中に響く笑い声は何処か寂しげで、聞いてるこっちが胸が痛くなる。

 

「ァあああああああっ!!!」

「カナタ!」

「ァ…あっ、あぁ…あはははっ」

「ねぇ!どうしたの!カナタってば!!しっかりして、わたしの方を見て!!お願いだからっ!」

「あはははははっ!あはははははははははっ!」

「カ…ナタ…?何を笑ってるの…?」

「アハハハハハ!アハハハハハ!アハハハハハ!アハハハハハハハハ!!」

「カナタっ!」

 

壊れたように笑い続けるカナタを強く抱きしめたフィリアは、頬に透明な雫を二筋流すと…懇願するように囁く。しかし、フィリアのその囁き声も不気味な笑い声によって、掻き消された…。

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

「カナタ…。お願いだから、そんな悲しい笑い声を出さないで…。私の知ってる…あのお気楽なカナタに戻ってよ…」

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

「あの時のカナタに戻ってくれるなら…わたし、なんだってするから…」

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

「…かなた…っ…おねがいだから…ね…っ。こんなさみしいわらいこえをとめてよ…ね?」

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 

壊れた人形のように、狂った笑い声を出し続ける少女がつかれて…眠りつくまで、フィリアはその少女を強く抱きしめ続けた。

 

 

 

γ

 

 

 

その日の夜、カナタは一人 真っ暗な闇の中にいた。一寸先も見えないそんな暗闇の中、今は聞きたくもない憎らしい声がその闇の中、木霊する。

 

『あたし、詩乃のことを守るよ。あの事件から、詩乃を傷つけようとする者から守る』

 

・・・ウソつき、守れなかったじゃないか

 

『あたしは約束は守る主義』

 

・・・守ってないじゃないか。一番大切な約束を…

 

『そう、あたしは大切な人すら守れない役立たず。守る守るといって…出来もしない約束を交わして、大切な人を殺した…人殺し』

 

・・・その通りだ。あたしは役立たずで…この世界に居る価値すらないクズ…

 

『じゃあ、死ぬ?』

 

・・・いや、命を粗末にした死に方じゃあ…償えない…。詩乃以上に苦しんで…苦しみ抜いて、詩乃以上に辛い思いをしないと…死ねない。それがあたしに出来る…償い方だから…

 

『それで、罪が償えると思うのか?詩乃はすぐにでも…こっちへ来て欲しがってるんじゃないのか?大好きな詩乃を一人にし続けるのか?』

 

・・・あぁ、分かってる。…すぐにそっちに行くよ、詩乃…

 

 

γ

 

 

 

その日を境に、カナタは夜を寝れなくなったーー

 

そして、自分の事を大切にしようとしなくなった…。襲いかかってくるフロアボスや中ボスを防御なしの特攻で…攻めたおし、多くの攻略組…主にキリト達を心配させた。

 

そして、もう一つ キリト達を心配させているカナタの変化は…

 

「ねぇ、カナタ。一口でいいから、食べよ?オムライス、カナタの好物でしょう?」

「ーー」

 

宿屋の机に伏せるカナタへフィリアが問いかける。だが、カナタはフィリアの方を見るでもなく…身動きすらせずに、机に顔を押し付け続ける。カナタの態度に、フィリアは悲しそうな表情を浮かべながらもめげずに、カナタへと優しく語り続ける。

 

「味の心配なら大丈夫よ。アスナに手伝ってもらったんだから…」

 

そんなフィリアのセリフにやっとカナタが返事を返した。小さく掠れるようなその声に眉をひそめたフィリアは、もう一度カナタへと問い掛ける。

 

「…いだ」

「へ?」

 

カナタはゆっくりと身体を起こすと、濁った蒼い瞳でフィリアを見つめる。フィリアはそんなカナタを改めて見ると…胸を締め付けられる。

初めて会った時よりも彼女はやつれている…。ここはゲームの中だし、プレイヤーが操作してるのは現実の自分に似ててもアバターなのだ…なので、見た目に大差はない。だが、明らかに彼女から漂ってくるオーラというか…雰囲気が疲れているような…生きることをやめているような感じがする。

その証拠に、カナタはこんな悲しそうな表情で自分をバカにするような笑みを浮かべなかったはずだ…なのにーー

 

「…味がしないんだ…。何を食べても…よく噛んでも…。…唯一、ポーションやハイポーションとかだけが味がして…。ふふ…こんな状態なのに、あたしは生きたがってるんだな…卑しい奴…」

 

ーーフィリアは、カナタの両肩を掴んで自分の方を見るように促す。だが、カナタは俯いたままで…一向にフィリアの方を向かない。

 

「そんな事ないわ!誰だって…生きたいって思うのよっ!」

「…そんな事ないよ…フィー…。あたしは、死にたい…」

「じゃあ、なんで…カナタは攻略してるの?やっぱり、生きて帰りたいって思って…」

「そんな事…思ってないよ…。あたしは死ぬために…最前線へ向かってる。…普通に…飛び降りて死ぬくらいじゃあ…シノより苦しんでないもの…。最後は…モンスターに斬り割かれて、死にたい…。…そうしないと…ダメナンダ…」

 

掠れた声で、そんな事を言うカナタに…フィリアは泣きすがった。

 

「…そんな事しても…ッ。シノさんは喜ばない…むしろ、悲しんでるはずだよ!わたしがシノさんだったら、カナタに自分の分まで生きてて欲しいものっ!だから、お願い…カナタ、そんな事言わないで…。わたしたちと生きようよ…、ね?」

 

泣きすがるフィリアを力なく振りほどいたカナタは、淀んだ瞳でフィリアを見つめると…また、机へと顔を沈めた。

 

「…フィー、あたしは…もう、この世界で生きていく元気が無いんだ…。…この世界で生きてても…希望なんてないんだから…。もう…いい…?一人にさせて…」

「……。…ッ、…分かった…」

 

机へと伏せるカナタからフィリアは離れると、カナタは静かに呟く…

 

「…あぁ…死にたい…」

 

 

 

ー続ー




ということで、ダークカナタでした。
ifストーリーとはいえ、ここまで沈んだ様子のカナタを書くのは…かなり辛かったです…(涙)
尽くしてくれてるフィリアを悉く避けるカナタは、カナタじゃないようでしたね…(微笑)
早く元のカナタへと戻って欲しいです!

さて、次回はそんなカナタがある歌い手と出会うシーンです( ̄▽ ̄)
その歌い手とは誰なのか!?その歌い手はカナタにとっての希望となるのか…?

次回をお楽しみに、です(((o(*゚▽゚*)o)))




そんな本編の後に、続く雑談コーナーは少し明るめでいこうと思います!

私、この小説を書き始めて…SAOの関連の小説やコミックを集めているんですが…その中でも、面白かったコミックの紹介です( ^ω^ )

一つは【ガールズ・オプス】。
本作で登場してるルクスさんとシリカ、リーファ、リズベットが冒険する話です。ルクスさんの過去の話や、戦闘シーン…四人の友情は何度も読んでも感動しますし、面白いです(微笑)

そして、次のコミックが一番のオススメの【キリトの千夜一夜物語】というものなんですが…これがエロ面白んです!(興奮)
《ホロウ・フラグメント》での話が舞台で…キリトがアスナ達のヒロインから添い寝を攻められて、逃げまくるって話なんですが…何というか…何回目が分からないんですが、面白んですっ(≧∇≦)
基本的に、ユイちゃん視点で描かれてるんですが…ユイちゃんのゲーム内でのあのちゃっとダメなところとか、いい具合にストーリーに反映されてて…。他にも、みんなの普段見えない顔とか見えては…一人、勉強しつつ爆笑してます(微笑)


では、長くなりましたが…以上!雑談コーナーでした〜m(_ _)m


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虹章002 ひび割れた心に届く歌声

さて、今回は謎の歌い手さんが明らかになります!

本編を読みながら、誰かなぁ〜と推理しつつ読んで頂くとよりたのしく読めると思います!

では、本編をどうぞ!



6/12〜誤字報告、ありがとうございます!


カナタは机から顔を上げると、ゆっくりと立ち上がる。濁った蒼い瞳で周りを見渡すが、周りには誰一人居なく…カナタはフッと掠れた笑みを浮かべる。

 

“心配してくれてた…フィーにあんな事言ったんだもんな…。それは嫌われても…仕方ないか…”

 

ふらふらとよろめきながら、カナタは真っ暗になった街へと繰り出した。寝れなくなったあの日から、日課となってる夜の散歩はカナタに多くの出会いを齎してくれる。例えば、昼間などでは分からなかった…このアークソフィアの夜景が綺麗とか、夜しかやってない不思議な店とか…繰り出してみると、このアークソフィアは面白い不思議に溢れていた…。

 

“ってね…。死にたいとか…言ってる割に、未練タラタラなのかな…?あたし…”

 

俯きながら、トボトボと石畳みを歩きながら…思い出すのは、冷たく突き放してしまったフィリアの事だ。自分の事を考えて…アスナに料理を習って、好物を作ってくれた彼女の好意を自分は何も考えずに、踏みにじってしまった…。幾ら、日々の疲れで…気だるく億劫になっていたといえ、あれは流石に無かった…。

カナタは、自分の癖っ毛の多い栗色の髪を掻き毟ると…小さく溜め息をついた。

 

「…はぁ…、本当に自分が嫌になる…。でもーー」

 

自分の身体に泣きすがりながら…フィリアが言った言葉が、脳内で再生される。

 

『…そんな事しても…ッ。シノさんは喜ばない…むしろ、悲しんでるはずだよ!わたしがシノさんだったら、カナタに自分の分まで生きてて欲しいものっ!だから、お願い…カナタ、そんな事言わないで…。わたしたちと生きようよ…、ね?』

 

「ーーフィーは、そんな事を言ってくれるけど…。あたしは…そう思えないんだ…よ…。目を閉じたり…暇な時になると…必ずっていうくらい、シノのことを考える…。シノは…あたしを憎んでるって…。…だって…、たまに見る夢やあたしの前に現れてくれる…シノ、は…いつも…あたしを…にら、んでる…。ふふ…自業自得だよ、な…ふふ…。あんな事を…言っといて…、守れなかった…裏切り者…睨まれて…当然、だよな…ふふ…」

 

疲れたような笑みを浮かべながら、カナタは立ち止まると上を向く。夜空には、複数の光が輝いていた…。

 

“…でも…、それとフィーは関係無いよな…。あたしの感情を…フィーにぶつけちゃあ…いけない、よな…”

 

カナタはまた、下を向くと歩きだす。

 

「…明日…、フィーに謝ろう…。あたしが…悪いんだから…。そう…全て…あたしがーー」

 

そう呟いた瞬間、カナタの耳は微かな何かを聞き取った気がした…。もう一度、耳を済ませてみると…何か、子守歌みたいな…心が安らぐような曲が聞こえてくる。

 

「ーー〜♪」

 

“これは…歌声?”

 

カナタはその歌声に導かれるように、そっちの方向へと歩き出すとーーアークソフィアの町の離れにある噴水に腰掛けて、手に持ったギターのようなものを鳴らしながら…目を閉じて、静かに唄ってる一人の少女の姿があった。

少女の周りをみる限り、少女以外に人の姿はない。なのに、なんで彼女はここで唄ってるんだろうか?

カナタは、少女が腰掛けてる噴水の前にあるベンチへと腰掛けると…改めて、目の前にいる少女を眺める。

腰辺りまで伸びてるさらさらの髪は薄焦げ茶色で、目を閉じてる少女の顔立ちは幼さが残るものの…何処か、大人っぽい雰囲気がある。身につける服装は、吟遊詩人をイメージしてるのか…頭の上にちょこんと可愛らしい帽子を被り、ワイシャツの上にボロボロなマントみたいなものを羽織っていた。下は、どうやら短パンに…ニーソックスを履いてるらしい。

 

“…この子…誰だろ?見たことが…無いな…”

 

攻略組にも、こんな子は居なかった気がする…。カナタは目を閉じて、気持ち良く楽器を鳴らす少女の澄んだ歌声に…次第にウトウトとし始めた。コックンコックンと船をこぎながら…ゆっくりとベンチへと身体を横たわらせた。

 

「〜♪」

 

“…眠たい…”

 

「〜♪」

 

少女の歌声に混ざり、カナタの寝息が混ざる頃…近くにあった店の灯りが一つ、また一つと消えていった…

 

 

γ

 

 

少女は歌い終えると、目を開ける。そして、そこでベンチの上で眠りについてるカナタに気づき…少女の頬は即座に真っ赤に染まった。その赤さは、暗闇の中でも分かるくらいで…ドクンドクンと聞こえてきそうなほどに脈立つ心臓の鼓動は、ベンチの上で蹲って眠りについている少女に好意…恋心を持っている何よりも証拠だった。

 

“うそ…なんで、この人が…”

 

ドクンドクンとうるさい鼓動をどうにか、抑えつけて…少女はカナタへと歩み寄ると、その華奢な身体を揺さぶる。スヤスヤと寝息を立てているカナタに、恐る恐る声を掛けるが…カナタの瞳が開くことはなかった…。

 

「あの〜、ここで寝たら…」

「すぅ〜、すぅ…」

 

“どっ、どうしよう…。仕方がない…ここは…”

 

少女は迷った末、ある事を考えて…それを実行した…。

 

 

γ

 

 

視界が明るくなっているのに気づき、カナタは目をこすりながら…ゆっくりと身体を起こした。寝ぼけ眼で辺りを見渡すと、見知らぬ物が置いてあることに気付いた。そして、今の今まで寝そべっていたベッドが自分のではない事に気づき…このベッドの主を探して、その主が思ったよりも早く見つかった。

近くにあったソファに座り、こっちを見ていた腰まで伸びた薄焦げ茶色の少女がにっこりと笑いながら、歩いてくる。

 

“…?…ここは…”

 

「あっ、起きたんだね。おはよう」

「…ぁ…ん…おはよう。…ここは?」

 

少女の声が思っていたよりも可愛らしいのと、普通に挨拶されたことに…カナタは驚きつつ、少女へと頭を下げる。そして、さっきから疑問に思っていた質問を少女へとぶつけると…思っていた通りの答えが返ってきた。

 

「ここはわたしの部屋だよ。ごっ、ごめんね…勝手に連れてきちゃって…」

「…んぅん。君が謝ることはないよ…。あたしの方こそ…あんなとこで寝てごめんね…。君に…迷惑かけちゃった…。………ふっ、つくづく…あたしは…愚か者だ、な…」

 

淡く微笑みつつ、そう謝ると少女がジィ〜とカナタの顔を見つめる。カナタは眉をひそめつつ、少女へと小首をかしげる。

 

「ーー」

「…あたしの顔に何かついてる?」

 

尋ねてくるカナタに、少女は突然 焦ったような表情を浮かべて…頬を赤く染めつつ、早口でカナタへと質問を返した。

 

「うっ、ううん…何でも。ただ、その…なんであんなところに寝てたのかなぁ〜って思ってね」

「…あぁ…、君の歌声が聞こえてきたんだ。…澄んだ歌声で…ずっと聞いていたいって思って…彼処に座ってたら、いつの間にか…寝てた…」

 

カナタの答えに、少女は顔を更に真っ赤に染めると横を向いてボソッと何かをつぶやく。そんな少女にカナタは淀んだ蒼い瞳で見つめて、様子のおかしい少女を心配する。

 

「〜ッ」

「…どうしたの?…あたし、君が嫌なことを言っちゃったかな…?」

「…君はズルイよ、そうやって…わたしをどんどん虜にしていくんだから…」

「…へ?」

 

小首をかしげるカナタに、少女はひらひらと両手を前で振りながら…ドアへと指差す。少女が早口で言うセリフに、カナタは頷きつつ…立ち上がると、先導する少女の後を追いかける。

 

「なんでもないよっ!それより、君は仲間の所へ帰らなくてもいいの!?今頃、心配してるんじゃないかな?」

「…あぁ…そうだね…、君の言う通りだ…」

 

少女の宿屋の前で、カナタは少女に見送られながら…自分の宿屋へと歩いていこうとしていた。しかし、カナタはある事に気付いて…振り返ると、少女の目の前まで歩いてくる。帰ってきたカナタに、少女は目を丸くすると微笑みながら…カナタへと問いかける。

 

「気をつけてね」

「ーー」

「どうしたの?もしかして、忘れ物?」

「ううん、違うよ…」

 

カナタは、問いかけてくる少女に淡い笑みを浮かべつつ…照れたように、自分の髪を撫でながら…少女へと質問する。その質問に、少女はこっくんと元気良く頷く。

 

「…今晩も君の歌、聞きに来てもいいかな?」

「うんっ、もちろんだよ!」

 

満面の笑顔を浮かべる少女に、カナタは小さく微笑むと…少女へと頭を下げる。

 

「…ふ、ありがとう。…そうだ、助けてもらったのに…お礼も言ってなかったね…。助けてくれて…ありがとう…、あたしは…カナタって言うんだ」

「……うん、知ってるよ…。ずっと…見てきたんだから…」

「?」

 

ボソッと呟かれたその言葉に、カナタは少女を見つめる。翳りのある蒼い瞳でジッと見つめられて…少女は挙動不審に、視線を彷徨わせる。

 

「あっ、えっと!?カ、カナタか〜っ。うんっ!君にお似合いのかっこいい名前だね〜」

「…そうかな?…あたしは、そうは思わないけど…。君の名前は…?」

「わたしはレイン。レインって名前なんだ」

「…レインか…、君にお似合いの可愛らしい名前だ…。レイン…、…しっかり覚えておくよ…。じゃあ、また今晩」

「うんっ、またね〜」

 

ふらつきながら、自分の宿屋へと歩いていくカナタの背を見つめていたレインは小さくボソッと呟いた。

 

「…すごくやつれてた…。君に何があったの…?わたしは…それが知りたいよ…」

 

 

 

ー続ー




ということで…謎の歌い手さんは、レインさんでした〜(((o(*゚▽゚*)o)))

読者の皆様の予想は当たったでしょうか?当たっていた方には景品をーー



ーーということはありませんが…、代わりに この章の名前の由来を紹介しようと思います(微笑)

この章は【虹章】。そして、今日登場したレインさんの本名は【枳殻 虹架/からたち にじか】。
この章のヒロインは、今回の話を読んで頂いた通りに…レインさんにしようと思っています(^ω^)
と、いうことで…レインさんの本名の【虹架】の最初の文字をとってーー【“虹”章】としたわけです!なので、この章の名前から…謎の歌い手はレインさんでは!?と推理させた方も多いと思います(微笑)

そして、本編で登場したレインの服装ですが…仮なので、決まったわけでないんです(汗)しかし、吟遊詩人姿のレイン…想像してみたら、可愛くって…このままてもいいかなぁ〜とか、思ってみたり…(^◇^;)




そんなレインさんとの出会いを果たしたカナタですが…この先、どんな風にレインさんと仲良くなっていくのか?レインさんはカナタの闇を取り除けるのか?

次回をお楽しみに、です(礼)



そして、この【虹章】ですが…毎週土か日のどっちかに更新しようと思ってます!それ以外の曜日は、ゆっくりですが…メインの方を更新していこうと思います!


では、長くなりましたが…【虹章】二話、読んで頂きありがとうございました!
次の土曜日か日曜日をお楽しみに、です!ではでは〜ヾ(@⌒ー⌒@)ノ


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虹章003 恋夢

虹章、三話の更新です!

今回のタイトルは私の好きなアーティストさんの曲から名前を付けました。今回の話もその曲をイメージしたものとなってます(^ω^)

そして、今回はレインさんがカナタを好きになった理由も書かれているので…お楽しみに、です(^-^)/

では、本編をどうぞ!



6/20〜誤字報告、ありがとうございます!


「…これとかいいかもな…。…いや、こっちの方がいいか?」

 

アークソフィアの商店街で、癖っ毛の多い栗色の髪を肩まで伸ばしている少女が熱心にアクセサリーを見ている。少女が身動きする度に、ふわふわと橙の羽織が風に揺れて…遠くから見ているとその様子が一枚の絵のように思えた。

そんな少女・カナタの事を遠くから見ている人影がいた。狭い家と家の隙間からひょっこりと顔を覗かせるのは、ちょこんと可愛らしい帽子を頭に乗っけている腰まで伸びた薄焦げ茶色の髪が特徴的な少女・レインである。レインはカナタを見つめるとうっとりした様子で頬を染める。

 

“…あぁ…、やっぱり…カッコいいなぁ〜、カナタ君…”

こうやって、彼女の後を尾行するようになったのはいつの頃からだっただろうか?

 

“…そうだ。あの時…カナタ君に一目惚れしてから、ずっとこうしてるんだ…”

 

レインはカナタと始めてあった時のことを思い出していたーー

 

 

 

 

わたしがカナタ君と出会ったのは…一人で87層の迷宮区を攻略している時だった。最前線は、今よりも三層下の…自分のレベルでも安全だと思えたレベリングの場所。

最初は、順調だった。だが、何故かついてないことが続いた…一発で仕留められていたモンスターが仕留められず、反撃されて…その時に限って、モンスターがポップしてきたりとかついてなかった。そして、次第にわたしが優勢だった雰囲気がモンスター側へと移り…わたしはあっという間にモンスターへと囲まれた。囲まれてしまった後は、徐々にHPが削られていき…わたしは、その時に死を覚悟した。

 

『……』

 

このまま、誰にも知られずに死んでしまうのが…現実に戻れないまま、こんな暗いところで呆気なく亡くなってしまうのがとても怖かった…。まるで、このまま ここで死んでしまったならば…わたしという存在は空気となり、このゲームがクリアされてもわたし一人が誰にも認知されないまま…この世界に居続けるのではないか?

 

“わたしは…誰かの役に立てたのかな…?わたしは…誰かの記憶に残ることが出来たのだろうか?”

 

愛剣の片手直剣を握りしめ、せめて前にいるこのモンスターだけは道連れにしてやろうと振った時だったーー

 

『ふん!』

 

ーーわたしは助けられた…ある人の手によって。淡い光を放つ二つの刀がモンスター達を次々と葬り、二つの刀を右腰にある鞘へとおさめると…わたしへと歩み寄ってきた。

 

『…大丈夫?』

 

そう言って、手を差し伸べてくれたのがーーカナタ君だった。彼女を見たとき、わたしの時間は止まった。真っ暗な迷宮区の中、彼女だけが輝いて見えた。

わたしの方を見る蒼い瞳は、吸い込まれそうなくらい美しく…此方を淡い笑みを浮かべて見つめてくるその表情は何処か翳りがあるものの、それすらもわたしには魅力に思えた。

彼女を見つめたまま、某然とするわたしの身体へとピンク色の結晶を押し付けたカナタ君は、わたしから視線を逸らすと掠れた声音でわたしを注意する。

 

『…一人で…ここを起点にレベリングとか…危ない…。もっと、安全なところでした方がいい…』

 

アルトよりのその声は、掠れてはいるものの優しい色を帯びていた。それだけで、純粋にこの人はわたしの事を心配して注意してるんだと思えた。それがとても嬉しかった。

 

『危ないって…君も危ないよ…。こんなところで…」

『…あたしのことは…いいんだ…。ここには…友達の付き添いでね…。一人ってわけじゃない…』

『カナタ様、何処にいるの!?』

『カナちゃん、こっちじゃないのかしら?』

『…ほら、呼んでる…。じゃあね、君も転移結晶なりを使って…帰った方がいい…。疲れてるだろうからね…』

『…ぁ…』

 

後ろを振り返って、そのまま去っていくその人の名前をわたしはずっと後になって知ることになる。

 

【蒼目の侍】【死にたがり】【特攻侍】その他、まだまだ彼女の二つ名は存在する。

 

しかし、どの二つ名も正直どうでもよかった、わたしが知りたかったのは彼女の名前ーーアバターネームなのだから…。

 

『…カナタ…。…カナタ君…か…』

 

カナタ。

たった三つの文字にこれほど元気つけられるとは思わなかった。たった三つの文字がこんな愛おしいとは思わなかった。たった三つの文字にこんなにも胸が締め付けられるとは思わなかった。

 

カナタって文字だけで、こんなにも強くなりたいって…あの人の側に居たいって…欲張りになるとは思わなかった。

 

最初の頃は彼女の事を彼だと思っていた…だって、わたしを助けてくれた彼女はカッコよかったし、男の子にしか見えなかったから。しかし、彼女は男性のようにガサツな所もあるが…それ以上に、女性らしく繊細な人だ。

 

『…今晩、君の歌を聞きに行ってもいいかな?』

 

今朝、そう言ってくれた彼女の姿は今でも目を閉じれは、瞼に焼き付いている。これだけで、何日も頑張れる…頑張ろうと思える。彼女が褒めてくれた唄も頑張ろうと思う…一刻も早く、彼女に元気になって欲しいから。

 

 

 

 

 

 

「…すみません。これ、下さい…」

 

その声に、レインは回想から現実へと帰ってきた。どうやら、昔を思い出している間に カナタの買い物は済んでしまったらしい。支払いを済ませて、アクセサリーショップから出てきたカナタの後をレインは追いかける。

追い掛けて、辿り着いたのはとある酒場だった。カナタは、酒場の隅の席に腰掛けている金髪をショートヘアーにしている少女へと話しかける。カナタに話しかけられて、振り返った少女・フィリアの青いマントがひらりと揺れる。

 

「フィー…これ」

 

左手を横にスライドしたカナタは、掌にオブジェクト化したアクセサリーを目の前にいるフィリアへと差し出す。フィリアは水色の瞳を丸くすると…カナタと手に取ったネックレスを交互に見ている。カナタは、フィリアへと申し訳なそうな表情を浮かべると掠れた声で説明する。

 

「へ?…カナタが…わたしに?」

「…ん。…昨日、ひどいこと言っちゃったから…。そのお詫び…」

「ありがとう、カナタ。これ、大事にするね!」

 

ネックレスを見ながら、嬉しそうに笑うフィリアを眺めているカナタは淡く微笑みフィリアに笑いかける。

 

「ん。…フィーは、美人さんだから…絶対、似合うと思うよ…」

「ッ…、そう?」

「ん、あたしが保証するよ。着けてみて」

「…何よそれ。でも、カナタが見たいって言うなら、着けてみるわ」

「ん、楽しみにしてる」

 

微笑み合うカナタとフィリアは、遠くから覗いているレインには恋人同士に見えた。

 

“…それはそうだよね…。カナタ君、カッコいいもんね…。付き合ってる人くらい…”

 

落ち込むレインが、その場を離れようとした時だった。後ろから大きな声で名前を呼ばれたのはーー

 

「おっ、そこにいるのはレーちゃんじゃないカ。また、カー坊の後をつけてるのカ〜?」

「しぃー、しぃー!!そんな大声で話しかけないでよっ、アルゴちゃん!カナタ君にバレちゃうから!!」

 

ーー特徴的な口調で喋りかけてくる頬にヒゲのペイントしている女性・アルゴへとレインは素早く振り返り、人差し指を唇へと押し当てる。だが、反省の色が見られないアルゴが発したセリフにレインは冷や汗が流れるのを感じた。

 

「にゃハハハ。それはごめんナ〜。でも、もう手遅れ見たいダゾ」

 

トントンと肩を叩かれて振り返ると、呆れたような笑みを浮かべているカナタとそんなカナタの後ろで腕を組んで、自分を値踏みするように見ているフィリアの姿があった。

 

「…ふ。君はそんなとこに隠れて、何をしてるんだい?レイン」

 

二人から視線を逸らしながら、しどろもどろになりつつ、言い逃れをしようとするレインをニンヤリと不気味な笑みを浮かべたアルゴがレインの秘密を暴露する。

 

「〜〜ッ!?これは…そのっ…あの…」

「カー坊。レーちゃんはずっとカー坊の後をつけていたんだゾ。いやぁ〜、これが愛のちからカ〜。オネーサンは羨ましいヨ〜」

「ちょっ、言っちゃダメって言ってるでしょう!それに愛のちからって!そんなんじゃないから!」

「にゃハハハ。照れなくてもいいんダゾ〜、レーちゃん」

「照れてなんか…っ」

 

ゆでダコのように顔を真っ赤にさせて つっこんでくるレインをニヤニヤ笑いながら、アルゴがからかい続ける。そんな二人を見ているカナタとフィリアが静かなことに気付いたレインがカナタへと話しかける。

 

「ーー」

「あっ、あのカナタ君…これは…。アルゴちゃんが勝手に言ってることであって…わたしは…」

 

そんなレインの言葉を遮ると大きな笑い声がカナタから聞こえてきた。お腹を抱えて笑い転げるカナタの笑い声と笑顔は、この数ヶ月見ることが無かったカナタの本来の表情であった。

 

「ぷっ、ふはははははっ!!」

「カナタ?」

「ふふ…あはは…。ごめんね、突然 笑っちゃったりしてさ…。でも、おっかしくって…」

 

数分間、笑い続けたカナタは黙ったまま三人へと小首をかしげる。そんなカナタの疑問に答えたのは、フィリアであった。

 

「「「……」」」

「どしたの?黙っちゃって、三人とも」

「カナタがそうやって大声で笑うのは、久しぶりだったから」

「フィリアの言うとおりダナ。レーちゃんもカー坊の笑顔が見られて良かったナ〜」

「うん…良かった…。って、そんなんじゃないから!」

「にゃハハハ。照れなくてもいいのにナ〜。レーちゃんがカー坊を好きなのはバレバレなのダ〜」

「だから、言っちゃダメって!」

 

レインがアルゴの口を塞ごうとしてる中、カナタは暗くなりつつある空を見つめて小さく呟いた。そんなカナタを上目遣いで見つめるレインの頭をカナタが優しい手つきで撫でる。

 

「………そっか…。あたし、笑えるんだ…」

「カナタ君?」

「ふ。ありがとう、レイン。君のおかげだよ…」

「〜〜ッ!?」

 

頬を真っ赤に染めるレインを見ながら、フィリアがボソッと呟く。そのフィリアのセリフへとカナタが小首をかしげる。

 

「…やっぱり、カナタは女たらしね…」

「なんか言った?フィー」

「何でもないわ。わたしは先に、宿屋に戻ってるから」

「ん、分かった」

 

フィリアの背中を見送った後、カナタは約束通り…レインの唄を聴くために、レインと共に広場へと向かった……

 

 

ー続ー




ということで、三話お終いです(^ω^)
ともかく、まだ完全じゃないとはいえ…元のカナタに戻って良かったです(笑)やっぱり、カナタはお気楽というか…笑顔の方が似合ってます!

そして、私の今回の話で好きなシーンはアルゴさんとレインさんがじゃれあってるところかな…。あの二人意外といいコンビだと思うのです…はいっ(o^^o)

次回は、レインさんの唄から始まると思います。では、次の週の土・日に〜o(^▽^)o


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虹章004 フィリアとレイン

虹章も早くで四話となりました。そんな四話ですが…今回は、フィリアとレインが○○で直接対決します!
○○に入るものを想像しながら、ご覧ください(o^^o)

そして、今回はオマケというものもありまして…本編はかなり長めとなってます。

では、本編をどうぞ お楽しみ下さい!


6/26〜誤字報告、ありがとうございます!


「〜♪」

「……」

 

いつもの公園のベンチに座り、夜風に橙の羽織を遊ばせながら、カナタはベンチへと腰掛けて、目の前でギターのような楽器を弾きながら唄うサラサラの髪を腰の辺りまで伸ばした少女・レインの唄を聴いていた。目を閉じて聞き入るカナタに唄い終えたレインが問いかける。

 

「どうだったかな?カナタ君」

 

ゆっくりと目を開けたカナタは、コクっと頷くとレインに淡く微笑む。カナタの答えを聞いたレインは、頬を染めると恥ずかしそうにお礼を言う。

 

「…ん、やっぱりレインは上手だね。君の唄を聞いてるととても心が安らぐ…」

「そっか。えへへ〜、ありがとう」

 

レインの言葉を受け取ったカナタはベンチから立ち上がると振り返って、右手を軽く横に振る。

 

「…それじゃあ、あたしは行くよ。レインもゆっくり休んでね」

 

そんなカナタを呼び止めたレインだが、もじもじと両手を繋ぎ合わせたり外したりして…チラチラとカナタの方を見ては言葉を詰まらせる。

 

「待って!カナタ君」

「?」

「…その…」

 

そんなレインへとカナタは声を掛けると、レインは嬉しそうに頷いた。

 

「…また、明日 会いにくるよ」

「うん!待ってるねっ」

「…ん」

 

レインは、自分から離れていく橙色の華奢な背中をいつまでも見つめていた……

 

 

γ

 

 

その後、仲良くなった二人は同じ宿屋で暮らすようになった。もちろん、部屋は別々で。

カナタの隣へと引っ越してきたレインは、色々とカナタの世話を焼こうとしてくれる。しかし、前々からカナタの世話を焼いていた金髪碧眼の少女・フィリアからするとレインの存在はなかなか複雑な立ち位置となっていた。明らかにレインのおかげでカナタは元気を取り戻しつつある。そんなレインを敵視すればいいのか、そのままレインにカナタの事を任せればいいのか迷っていたそんなある日、ドタバタと階段を降りていくレインを目のあたりにしたフィリアもレインの後をついていく。

レインは興奮した様子で、利用してる酒場の右端に腰掛けている栗色の癖っ毛が多い髪と今は濁っている蒼い瞳が特徴的な人物へと詰め寄る。

 

「カナタ君、アルゴちゃんから聞いたよ!ご飯、食べてないんだって!?」

 

身を乗り出して、何処か責めるような心配するような口調で尋ねられ、カナタはその整った顔を困ったような感じに歪めた。

 

「…あぁ、ん…。食欲が無くてね…」

「こんなに細いのに、食べなきゃダメだよ!行き倒れちゃう!」

「? 大丈夫だよ。あたし、今までそんな事無かったし…」

「ダメなものはダメ!私がカナタ君に料理作ってあげるから」

「ん〜」

 

困ったように考え込むカナタを見兼ねて、フィリアは興奮気味のレインへと話しかける。しかし、カナタの事になるとレインは自分を抑えられないらしく、注意するフィリアを至近距離で見つめると早口で尋ねてくる。

 

「レイン、あまりカナタに無理強いしないで」

「フィリアちゃん。でも、フィリアちゃんもカナタ君の事このままでいいとは思ってないよね?」

「そうだけど…」

 

押され気味のフィリアを見て、カナタは肩を竦めるとレインへと話しかける。レインは嬉しそうに満面の笑顔を浮かべると、そのまま キッチンへと走っていこうとする。そんなレインとカナタを交互に見たフィリアは小さく不満を呟くと頬を膨らませる。

 

「…じゃあ、食べてみようかな?レインがそこまで言うなら…」

「……何よ、随分とレインにだけ甘いじゃない…」

「やった!!待っててね、すぐ作ってくるから」

 

キッチンへと向かおうとしているレインを遮るように、二つの人影が入ってくる。赤と白の騎士服が特徴的な人物・アスナと茶色系統の服装と頬をネズミのような髭のペイントがついている人物・アルゴがレイン・フィリア・カナタの三人を見ると眉を顰めるアスナとニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべるアルゴ。そんなアルゴのセリフに小さくつっこみながら、カナタが二人へと頭を下げる。

 

「あれ?フィリアさん、レインさん?二人して、どうしたの?」

「おやおヤァ〜?早速、モテモテだナ〜、カー坊」

「そんなんじゃないよ、アルゴさん。それと…アスナさん、おかえりなさい…」

 

頭を下げるカナタへと近づいたアスナはニコニコと笑いかけながら、他人行儀のカナタを責めるような視線で見る。その視線から逃れるように目を逸らすカナタの顔を覗き込みながら、アルゴがある提案をする。

 

「うん、ただいま、カナちゃん。もう〜、アスナさんじゃなくていいって言ってるのに〜」

「いえ、こればっかりは…」

「じゃア、カー坊。アーちゃんがいいと思うゾ」

 

ニヤニヤするアルゴに小さく頭を下げながらカナタが言う。頬を淡く赤く染めるカナタの頬をツンツン突きながら、アルゴはカナタをからかう。あるアルゴの行動を食い入るように四つの瞳が見つめる。その瞳に浮かぶのは、アルゴに頬を突つかれながら照れるカナタへの非難と羨慕の色がより濃く浮き出ていた。

 

「……アーさんでご勘弁ください…」

「にゃハハハ!カー坊も照れ屋さんダナ〜」

「「ーー」」

「照れてないよ、アルゴさん。アスナさん、あたしなんかよりもずっと強くて…綺麗な人だから…。そんな人を呼び捨てとか…ダメな気がして…」

「もう、カナちゃん、褒めすぎだよ〜」

 

カナタのセリフを聞いて、アスナは嬉しそうに頬を緩めると照れ隠しのためなのか、バシッとカナタの背中を叩く。カナタはそんなアスナの行動と自分の方を向いて不思議な顔をしてるレイン・フィリアに眉を顰める。

 

「「む〜」」

「?二人して頬を膨らませてどうしたの?」

「なんでもないよ」「なんでもないわ」

「???」

 

二人が怒るようにそっぽを向くのを、カナタは不思議そうに小首をかしげるのを見て、アルゴは微笑ましそうにそっぽを向く二人を見る。

 

“カー坊がアーちゃんばかり褒めるかラ…二人して嫉妬カ〜。可愛いナ〜”

 

「アルゴちゃんは何ニヤニヤしてるの?」

 

そんなアルゴをレインは一瞥すると詰め寄る。そんなレインに首を横に振りながら、アルゴはレインに問いかける。確か、レインは帰ってきた時には…キッチンへと向かおうとしていたので、何か料理するつもりだったのだろう。だが、その理由がわからない。

 

「なんでもないナ、レーちゃん。それより、二人は今から何をすんダ?」

「うん、カナタ君がご飯を食べてないって言ってたでしょう?だから、何か作ってあげようかと思って」

「アァ〜、レーちゃんがいつもオネーサンから買ってるカー坊のじょうほーー」

「ーーだから、言っちゃダメだって!いつも、口が堅いのに…なんでこういう時は軽いの!?」

「にゃハハハ。オレっちもそればかりは分からないナ〜」

「もうぉ〜」

 

頬を可愛らしく膨らませるレインにアルゴはごめんごめんと謝りながら、カナタの隣へと勢い良く腰掛ける。そんなアルゴに習い、アスナは料理する二人についていくと言う。

 

「それじゃあ、オレっちはカー坊と一緒にここで待ってるヨ」

「わたしは二人の作る姿を見ていようかな〜」

 

アスナに見られると思い、身構えるレインと安心したように頷くフィリア。そんな二人に微笑みかけながら、アスナは二人を連れて…キッチンの方へと歩いていった。

 

「アスナがいれば、変な味にはならないわね。お願いね、アスナ」

「アスナさんに見られての料理か〜。ぅう〜、緊張する〜」

「そんなに構えなくてもいいよ、ほら二人ともいこ?」

「「はい」」

 

三人が居なくなり、静かになった酒場の中、アルゴは隣に座るカナタへと視線を向けると話しかける。カナタはアルゴに話しかけられて、カナタもアルゴの方へと視線を向ける。朽葉色の瞳と濁っている蒼い瞳が交差する。

 

「カー坊?」

「…何かな?アルゴさん」

「…レーちゃんの唄はいいものダロ?」

「ん…上手だね、本当…」

 

そう呟いて頷くカナタは、まるでレインの歌を思い出そうとしているみたいだった。そんなカナタをジィ〜と見つめるアルゴは、カナタの些細な変化…感情を読み取ろうとしているようだった。そんなアルゴの視線には気付かずに、カナタは純粋に今まで疑問に思っていたことをアルゴへと尋ねる。

 

「そうだ。ずっと不思議だったんだけど、レインとアルゴさんはどういうお知り合い?」

「レーちゃんはお得意様だな。ある人の情報をよくオネーサンから買ってくれてるよ」

 

わざとらしくカナタの方をじっと見つめてそう言うアルゴに、カナタは濁った瞳を僅かに輝かせるとワクワクしたように言う。そんなカナタにアルゴは呆れたような表情を浮かべる。

 

「へぇ〜、ある人の情報か。アルゴさんから買ってまで欲しい人の情報か〜。どんな人なんだろうね?レインには悪いけど、知りたいなぁ…」

 

“何度もカー坊の前で言ってるんだけどナ…。カー坊もキー坊以上に鈍感なのかもしれないナ”

 

思った以上に手強い相手へと挑んでいるお得意様の恋路が実ることをアルゴは密かに願うと、気を取り直すようにカナタへと質問する。

 

「キー坊やアーちゃん達が心配していたガ、最近はよく寝れるカ?カー坊」

「ん、レインのおかげでね。彼女の唄や…側にいると不思議と心が安らぐ…」

「そっカ。良かったナ、カー坊」

「ん…」

「じゃあ、カー坊、もうひとーー」

 

アルゴがカナタへもう一つ質問しようとしていたその時、大皿を持った青いエプロンを身につけたフィリアがカナタの前へと料理を置く。

 

「ーーカナタ、お待たせ」

「フィーが最初なんだね。すごく美味しそうだよ…ありがとうね」

 

ムクムクと美味しそうな湯気が漂う真っ黄色な薄焼き卵の上に、赤いケチャップで大きな♥︎マークが書かれていた。薄焼き卵の下から現れた真っ赤な人参やコーン、グリーンピースが混ぜられたご飯を見た瞬間、カナタはこの料理がなんなのか分かった。

 

“オムライスか…。あたしの好物…”

 

「……フィーは、本当にあたしの事を分かってくれるな…」

 

小さく呟いたカナタはスプーンを持つと、その状態のまま固まってしまう。そんな様子のカナタを見て、フィリアはくしゃっと顔を歪めると、カナタの前から自分の作った料理を下ろそうとする。そんなフィリアの手を掴んで、カナタは首を横に振るとピクリとも動かない自分の左手を悲しそうに見つめる。

 

「…やっぱり、わたしの料理は食べたくない?」

「フィー、違うんだ…っ。すごく美味しそうなんだけど…手が進まなくてね…」

 

そんなカナタの左手からスプーンを取ったフィリアはカナタの右横へと腰掛けると、オムライスを一口サイズに掬う。そんなフィリアの行動に乾いた笑い声を出したカナタは申し訳なそうに首を横に振る。

 

「じゃあ、わたしが食べさせてあげる」

「…あはは、そこまでは流石に悪いよ」

 

しかし、オムライスを掬ったスプーンはカナタの口元へと運ばれてしまい、抵抗するカナタに恥ずかしそうに頬を染めたフィリアがオムライスへと視線を向けると、カナタを見つめる。そんなフィリアの行動にアルゴは驚き、レインにも同じことをさせようと心に決めさせた。

フィリアの視線に観念したカナタは口を大きく開ける。そこへと投入されるスプーン。パクッとスプーンを咥えたカナタの口からスプーンだけが取り出させる。

 

「いいから、じっとしてなさい。折角、作ったのに食べてくれないなんて…このオムライスが可哀想だわ。ほら、あーん」

「………おぉ〜、フィリアは大胆ダナ〜。レーちゃんにも、同じことをやらさせないとナ」

「…あーん。むぐむぐ…んっ!?」

「どう?美味しい?」

 

モグモグとオムライスを咀嚼した後、虚ろに開かれていたカナタの瞳がゆっくりと見開かれる。フィリアはそんなカナタの顔を覗き込みながら、ひやひやした様子で尋ねる。そんなフィリアに人差し指を立てながら、カナタはニッコリと笑う。満面の笑顔と褒め言葉を全面的に向けられたフィリアは顔をゆでダコのように赤く染めると、オムライスを掬い、カナタへと差し出す。それをパクッと咥えるカナタ。

 

「ん!フィーのオムライスってこんな美味しかったんだね。あたしはこれを食べずにいたんだね…。惜しいことしてた」

「そ、そうよ。だから、今日は残さずに食べてね、はい あーん」

「あーん」

 

フィリアにオムライスを食べさせてもらい、食べ終えたカナタへと次はレインが料理を持ってくる。目の前に置かれた料理にカナタは目を丸くする。

彫りの深い器の中、真っ赤なスープの中にキャベツやセロリ、じゃが芋や人参、お肉が味が付くまでじっくりと煮込まれている。

じっくりと見ても料理名が分からず、カナタは持ってきたレインへと尋ねる。

 

「レイン、これは?」

「ボルシチ。私が小さい頃に住んでた国の料理でね、とても美味しいんだ。…だから、その…カナタ君にも食べて欲しくて…」

「ん、ボルシチね。聞いたことない料理だ…。じゃあ、食べさせてもらうね、レイン」

 

もじもじとそう言うレインに、カナタは笑いかけると手に持ったスプーンで食べようと、ボルシチへとスプーンをつける。そこで左横にいたアルゴがカナタの左手を摑む。

 

「カー坊、ストップだナ。レーちゃん、オレっちの居たところに座るんダ」

「へ?なんで?」

「早くすんだヨ」

 

戸惑うレインの右手を掴み、強引にカナタの左横へと座らせたアルゴはいつの間にかカナタから奪っていたスプーンをレインへと握らせる。握らされたレインは戸惑いを全面的に押し出すと、アルゴへと視線で説明を求める。そんなアルゴは簡単にカナタとボルシチ、スプーンを交互に指差すとレインへと指示する。

 

「レーちゃん、あーんダ」

「えぇ!?あーん!?」

 

アルゴの思わぬ言葉に、顔を即座に真っ赤に染めるレインにカナタは苦笑いを浮かべると、レインへと話しかける。だが、レインは決心したようにスプーンを握りしめると、ボルシチへとスプーンを入れる。

 

「レイン…恥ずかしいなら、あたしが一人で食べるから…」

「ダメだよ。わたしもカナタ君に美味しく料理を食べて欲しいもの!これくらいの羞恥心あってないものだよ!」

「そっか…。なら、レインに任せる…」

「はい、カナタ君、あーん」

「あーんっ。もぐむぐ…ん!?」

 

レインが運んでくれたボルシチを咀嚼して、飲み込んだカナタはフィリアの時と同じくらいの笑顔を浮かべると、緊張気味のレインへと満面の笑顔が頷く。

 

「どう…かな…?カナタ君、お味は?」

「すっごく美味しいよ。始めて食べたものだけど…優しい味わいで、癖になるよ」

「そうかな?まだまだあるよ、はい、あーん」

「あーん」

 

カナタの満面の笑顔と褒め言葉を貰ったレインはボルシチのスープのように顔を赤く染めると、ボルシチを掬い、カナタへと差し出す。それをパクッと咥えたカナタは嬉しそうに笑う。

その後、ボルシチが空になるまでレインに食べさせてもらったカナタは口直しにと、シャーベットを作ったアスナにも同様に食べさせてもらうのだった……

 

 

 

ー続ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜オマケ『トレジャーハンターと情報屋の密談』〜

 

 

 

お腹いっぱいになったカナタは眠たくなったらしく、レインに連れられて、自分の部屋へと向かった。

そんな二人を複雑な表情で見つめる金髪碧眼の少女・フィリアへ茶色系統の戦闘着に身を包む女性・アルゴが話しかける。

 

「フィリアはカー坊が本当に好きなんだナ」

 

アルゴの問いかけに、フィリアは頷くと微笑む。しかし、その微笑みは何処かさみしげで、アルゴは眉を顰める。

 

「それはね、大好きよ。あの世界に囚われてからの付き合いだもの…長いものよね…。最初はお気楽でわたしの言うことを聞かなくて、ハチャメチャなことしでかすし…かと思ったら、可愛いところを見せてくれるしで…戸惑ったものよね…。でも…」

 

昔の出来事を思い出しながら話していると、不意に言葉を切ったフィリアは上へと続く階段へと視線を向けると悔しそうに顔を歪める。そんなフィリアへとアルゴが続きの言葉を促す。

 

「でも?」

「レインには敵わないな…。壊れてしまったカナタが変わり出したのって、レインに会ってからだもの…。わたしじゃあ、カナタをここまで元気に出来なかった…。あの子には…本当に感謝しかないわ。だから」

「だかラ?」

「そんなレインがカナタを好きなら譲ろうかなって思うのよ。その方がカナタも幸せになれるのかなってね。わたしは、カナタが元の元気なカナタに戻ってくれて、幸せになってくれれば…それだけでいいから…」

「ーー」

 

フィリアの最後のセリフに押し黙るアルゴに、フィリアはん〜っと背伸びするとキッチンへと走り出す。

 

「さて、わたしもアスナの所に行って…後片付けでもしようかな〜。アルゴ、独り言聞いてくれてありがとうね。じゃあ」

 

去って行くフィリアの背中を見つめて、アルゴは食事を終えた後にカナタが言っていた言葉を思い出していた。

 

『レインは不思議な人だよ。あたしの心を癒してくれたり、安らぎをくれたりする。でも、そんなレイン以上にあたしがお世話になってるのはフィーなんだ。朝が弱いあたしを起こしに来てくれたり、戦闘で突っ走り気味なあたしを上手にフォローしてくれてる。宿に戻ったら、あたしが部屋に戻るまで傍にさりげなく居てくれる…。…フィーのそんなさりげない優しさがあたしは好きなんだ』

 

そう言ってはにかんだカナタの表情は今でも瞼に思い浮かぶ。

 

“レーちゃんは不思議なのに…フィリアの優しさは好きカ…。カー坊の気持ちはレーちゃんの方に向いてるかと思ったらそうでも無いんダナ…”

 

階段の奥から見慣れたニーソックスが見えると、ゆっくりと階段を降りてくる。今、階段を降りているであろうお得意様にアルゴは小さく呟く。

 

「………レーちゃん、アタックしてる相手も強いが…恋敵も強敵ダゾ…」

 

 

 

〜オマケ・完〜




ということで、まず本編 ようやく本来のカナタって感じですよね^o^
みんなにあーんしてもらって目をキラキラさせて(濁ってはいますが)食べてるカナタはレインさん・フィリアさんにはとても眼福だったのではないでしょうか(≧∇≦)

そして、オマケですが…フィリアさんとアルゴさんの会話を書かせてもらいました^ - ^
改めて、カナタがフィリアさんとレインさんをどう思ってるのかを書きたいと思ったのと、フィリアさんの頑張りはちゃんとカナタに届いてる事を書きたいと思ったからです(⌒▽⌒)

あんなに目の前で好き好きというヒントを出されているのに悉くスルーしてる強敵・カナタと献身的な世話でカナタの心をがっしり掴んでる恋敵・フィリアさんの二人から、レインさんはこれから先、どんな作戦でカナタを落とすのでしょうか?

次回をお楽しみに、です( ´ ▽ ` )ノ


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平行ーparallelー
1章001 はじまるデスゲーム


大変、遅くなってしまいましたが…新しい章の更新です。こちらは本編と違い、百合要素はまったくありません…ノーマルな陽菜荼が主人公となる話です。

なので、本編とは大きく違う展開となり、内容となるので…どうか楽しみにしていてください!

では、本編をどうぞ!


2022年11月6日、日曜日。

その日、日本中…いいや、世界中が注目しているVRMMOソフトが発表されたーーそのソフトの名は《ソードアート・オンライン》。

 

果てしなく続く青空の中にぽつんと浮かぶ百層からなる浮遊城、その名を《アインクラッド》。

プレイヤーはその浮遊城・アインクラッドの中に入り、己の背中や腰に吊るしてある武器一本を頼りにフィールドを駆け抜け、上の層に続く通路を見出し、強力な守護をひたすら倒して…ただただその城の頂上を目指す。

ファンタジーMMOでは必然となりえている《魔法》なるものはその世界にはなく、その代わりに《剣技(ソードスキル)》というものが用意されている。プレイヤーが使用する武器に其々にそのソードスキルは用意されており、数も無限にあるとのこと。

しかし、そこで一つの疑問が生まれる。

何故、製作者は魔法というものではなく、わざわざプレイヤーが身体を動かさなくてはいけないソードスキルを作り出したのだろうか?魔法の方が手を掲げたり、杖を掲げるだけで火や水が出るものではないか。それに常に作られている魔法や種類を少なくすれば、制作側も手間暇をかける必要がないのにと………幼い私は浅はかにもそう思っていた。なので、私はテレビに映るそれを指差し聞いたのだ、父に。

 

『それはな、陽菜荼(ひなた)。このソードアート・オンラインでは己の体、己の剣を実際動かして戦うというフルダイブ環境を最大限に体感させたい為だと言っていたよ、このゲームの製作者がね』

 

父からそう説明された時には、私の視線はテレビに映っているソードアート・オンラインいう文字に釘付けになっていた。それは隣にいるお姉ちゃんも同じらしく…父はそんな私たちを微笑ましそうに見ていた…

 

 

£*

 

 

「諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない。

……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合ーーナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

……一瞬、何を言われているのかが分からなかった。あの紅いフードの奴は何を言ってるんだ?

ペラペラと悠長に流れるその台詞が同じ日本語とは思えなかった。でも、その中でも分かったことは一つだけあって…それはーー

 

「もう一度繰り返す。これはソードアート・オンライン、本来の仕様である」

「………う、そぉ…」

 

ーー隣で私の手をギュッと握りしめている姉の青ざめた真っ白い顔、小刻みに震える小さな掌…それらが繋がることはあの赤いフードが言ってることは事実ということであり、この世界では姉の命も私の命も腰や背中にぶらさせているこのちっぽけな刃物にかかっていること、自分の力量にかかっていること…薄い革手袋に包まれた小さく幼い掌へと視線を落とす。

 

“こんなちっぽけな手に掛かっているんだ…私の命が、お姉ちゃんの…いの、ちが”

 

チラッと左上を見てみれば、大小の黄緑の光る細長い棒があり…大きい方には【Arika】と私のアバターネームが書いてあり、その下には【Sirika】とお姉ちゃんのアバターネームが書かれている。

 

恐らく、その細い棒の下にはこう書かれていることだろう…252と。

そう、252とはあの黄緑の光る細長い棒の全体を数字化したものーーそこまで考えて、ぐっと唇を噛み締め、短パンを握り締める。そうしないと、今にも怒りでどうにかなってしまいそうだったからだ。

 

“ふざけるな…フザケルナッ!!”

 

そう思い、紅いフードを睨みつけようとする私の肩を力強く掴む者がいる。びっくりして、そっちを見ると赤い瞳へと涙の層を張っているお姉ちゃんの姿があった。

 

「ねぇ…アリカちゃん、嘘なんだよね?あの人が言ってること」

「………」

「あたしとアリカちゃん、二人でお父さんたちのところに帰れるんだよね?ね?」

 

何も答えず、ただ視線をそらす私と今だに続く紅いフードの説明にお姉ちゃんは意味で必死に耐えていたものがもろく壊れてしまったらしい。

そして、理解してしまったのだ…このデスゲームをクリアするしか、自分たちが助かる事は出来ないとーー

 

「い…いやぁあああ!!!!」

 

ーーそう理解してしまったお姉ちゃんは両腕で自分の肩を抱くと周りを巻き込みながら、その場へとへたり込む。私はそんなお姉ちゃんへと駆け寄り、お姉ちゃんが発したその悲鳴は広場を駆け抜け、忽ちに広場の中を反響するものとなる。

 

私はそんな人たちからお姉ちゃんを守るようにその自分よりも小柄な身体を強く抱きしめる。お姉ちゃんはそんな私の背中へと両手を回すと私の胸へと顔を押し付けて泣きじゃくる。涙で濡れる服など正直どうでも良かった…それよりも私には今ここでするべきことが出来たのだから…。

 

“この人だけは何があっても守りきろう。例え、私自身の命が砕け散り、この世界の空気と一体になったとしても…この人だけはあの人たちの元へと帰さなければならない。

 

……寒さしか知らないこんな私に温かさをくれた綾野家のみんな…

 

あの人たちを泣かせるなんてあってはならない事だ”

 

泣きじゃくるお姉ちゃんの身体をそっと自分から離すとその紅い瞳をまっすぐ見つめる。

 

「アリカちゃん…あた、し…」

「大丈夫、大丈夫だよ…お姉ちゃん…」

 

そう言いながら、現実のお姉ちゃんにそっくりなアバターの頬をなぞり、涙を拭う。

 

「アリカちゃん…あたしたち、どうなっちゃうの?ちゃんと現実に帰るのかな?怖い…怖いよ、アリカちゃん…」

「大丈夫、きっと現実に帰るから…お姉ちゃんには私が付いてるよ。絶対、二人で現実に帰ろうね」

「…うん」

 

泣きつかれてしまったお姉ちゃんの手を引きながら、私は手早く近くにある宿屋へと入る。

そして、ベットに横になった途端…眠りについたお姉ちゃんの小さな手を両手で握り締める。

 

「…お姉ちゃんは私が絶対守ってみせるから。この命が尽きても」

 

2022年11月6日、日曜日ーーその日の夜、私がこのデスゲームと成り果てたソードアート・オンラインでやるべきことが出来たのだった。

 

それはーー自分の身よりもお姉ちゃんの身を守ること、お姉ちゃんだけでも現実世界へと帰すこと。

ただそれだけが今の私がすべきことだった。

 

なので、私は次の朝…眠たそうに目をこするお姉ちゃんへとこう告げる。

 

「お姉ちゃん。私たちもこの街を出よう」

「へ…?」

 

紅い瞳をまん丸にしてびっくりするお姉ちゃんを可愛いと思いながら、私はお姉ちゃんへと自分の意見を言う。

 

「ここに居ても気が滅入るだけ…少しでも身体を動かしたほうがいいって思うんだけど…どう?」

「…無理だよ…街の外にはモンスターがいるんだよ?そのモンスターにあたしたちが立ち向かえるわけない…」

「そんな事ない。無理な訳ないでしょう」

「…アリカちゃん…?」

「私とお姉ちゃんの二人に勝てない相手はいない。それに…」

「それに?」

 

姉の手を握り、涙で濡れる赤い瞳をジィーーと見つめる。

 

「お姉ちゃんは私が守る…どんな敵からも。お姉ちゃんを一人になんかさせない、絶対に」

 

カッコ付けてそう言う私が可笑しかったのか、お姉ちゃんは口元を右手で覆うとくすりと笑う。その笑い声を聞いた私は頬を膨らませる。

 

「…ふっ」

「わ、笑わないでよ…私、真剣なんだよ?」

「…ごめんね、アリカちゃん。これは嬉しくて笑ったの…。うん、アリカちゃんと二人なら乗り越えられる気がする。それにあたしがお姉ちゃんなんだもん、あたしがしっかりしないとだよねっ」

「うん、そのいきだよ、お姉ちゃん」

 

ベットに座るお姉ちゃんへと左手を差し出し、私たちは第一層のフィールドへと飛び出す。

草原にいる一匹の青いイノシシが私の向けて、突進してくる…それを私は背に背負っている両手剣へと手を伸ばすとそれをイノシシへと振り下ろした




……しまった、手鏡のシーンを書くのを忘れておりました…。

まぁ、書かなくても…大丈夫…かな?(大汗)


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逸話ーepisodeー
001 カナタイフ・チャント


この話は劇場版【オーディナル・スケール】で来場者特典での小説【ホープフル・チャント】を元に作られてます。
なので、【ホープフル・チャント】のネタバレがありますので注意して読んでください(敬礼)

この【カナタイフ・チャント】の簡単なあらすじは……もしあの時、あの瞬間にカナタが現わせていたならば……あの悲劇は回避できていたかもしれない……ということで原作で亡くなったキャラの救済……っていうのはおがましいですけど、バットエンドをハッピーエンドにしていこうとするものです。

それでは、本編をどうぞ!!


浮遊城アインクラッド第四十層、迷宮区タワー二十三階……友人が所属している血盟騎士団、通称"KoB"の戦闘シーンに遭遇したのは単なる偶然だった。

 

このデスゲームへと偶然、幼馴染兼恋人の朝田詩乃と共にダイブしてからというもの、一人でーーこの世界では、それを"ソロプレイ"というらしいーーモンスターと対峙したり、攻撃を受けてもHPが減らない安全区画である町からはあまり遠出しない……したら、この世界のことや生き方を教えてくれた友人達に怒られてしまうので、通常はしなかったのだが、その日のあたしは町の近くでちまちまとドロップするモンスターを狩る事で地道にレベリングしたり、この世界に迷い込む前から興味があった"和"に関するドロップを服装と武器でゲットしたこともあり、テンションが高まってきたのだろう、恐らく。

こちらでもあちら(現実)でも苦手だった早起きを珍しくして、隣で寝ている恋人を起こさないように昨日ドロップした《橙花の羽織》と《一文字》を装備してから抜き足差し足で部屋を出てから颯爽と町の外へと走っていく。

 

「ふん!」

 

昨日ドロップした《一文字》は(つば)が無いタイプで刃先や刃文が黒みを帯びており、柄巻は黒と反対色である白を使っているという点であたしの好みのどストライクであることもあり、あたしはズバズバと昨日ゲットした愛刀(あいぼう)を嬉々としてモンスターに向かって振るい、フィールドのモンスターを一撃で葬れる快感に溺れ、調子こいてダンジョンへと足を踏み入れたのだった。

しかし、流石は迷宮区でフィールドで一撃でズバズバ倒せていたモンスターも交わして一撃、交わして一撃と繰り返して攻撃しないと撃破することが出来ない上に一太刀食らうとガバッと持っていかれる。思えば、当たり前のことだろう……あたしは性格上どうもガチャガチャと鎧やら盾やらを重々しいものを揺らしながら戦うよりは身軽といえば聞こえはいいが防具なしでモンスターの攻撃を交わして、懐に入ってからの一撃という戦う方を好む。ステータスでいうとVITよりかはAGIやSTRの向上を目指すタイプということだろう。

 

「……ふぅ…、もう何階上がったんだ? 確かーー」

 

好き好んでこの戦い方をしているのだが、こうも連続して続くと精神的な疲労が半端ない。

疲労から食らってしまったダメージを回復するために腰にまいているポーチから"ポーション"というHPが回復できる薬で満たされている便を取り出し、行儀悪く片親指で栓を弾いてからゴクゴクと中身を満たしていた液体を飲み下していくと階段をゆったりと登っていく。

 

「……ってか、何段あるんだよ、階段っ。戦闘で疲れてんのに、これでも体力削られるんだよな……」

 

と愚痴りながら"どうやら次の階に着いた"と思った瞬間だった、バコンッと何か重たいものが壁に叩きつけられる音が聞こえたのは。




という事で、短いですが……ここで一旦話をきろうと思います。

また、何故いきなりこの話を書こうと思ったかというと、今日が『ユナ/重森悠那』ちゃんの誕生日だからです!

劇場版での黒ユナちゃん、白ユナちゃんのデザインも大好きなんですが、SAOユナちゃんも負けないくらい大好きなので……そんな彼女を救いたかった、カナタと絡ませてあげたいという自己満足で書いている話ですので、アリゼーションと共にゆったりと更新していこうと思います。

拙い文章だと思いますが……アリゼーションと共に、こちらの応援もどうかよろしくお願いいたします(土下座)


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002 カナタイフ・チャント

この章もですが、更新次第がお久しぶりとなりましたね。

空いてしまった時間の間も応援してくださり、残ってくださった読者の皆様に心からのお礼を申し上げます。ありがとうございます。

これからも更新が遅れてしまうと思いますが、応援していただけると嬉しいです。

では、短いと思いますが……本編をどうぞ(リンク・スタート)


浮遊城アインクラッド第四十層、迷宮区タワー二十三階。

それが今、あたしが居る場所であった。

自分好みの戦闘着がドロップした上に愛刀も珍しいものが立て続けにドロップしたということで有頂天となりノリのままに一人で迷宮区へと脚を踏み入れ、絶賛苦戦を強いられている愚か者とはあたしのことをいうのであろう、とほほ……。

 

ドンッ!!!!!!

 

「!?」

 

“なんだ? さっきの音”

 

何かが壁にぶつかるような鈍い音が聞こえた後に何かが床に崩れ落ちていく重たい音が聞こえ、あたしは無意識に残りの階段を駆け上がると目の前にある光景に目を見開く。

 

少し空いてある広場の中、数名の赤と白の戦闘着に身を包んでいる人々がひしめきあっており、各々の武器や盾を構えている人々は苦痛の表情を浮かべており、素早く辺りを見渡してみると壁に衝突して倒れ込んでいる人もいる。どうやら、先ほどの重い音はあの人が壁にぶつかる音だったのだろう。

 

“純白と真紅(しんく)の騎士服……つまり、KoB"

 

血盟騎士団(KoB)》といえば、友人が副団長として所属している大型ギルドだと黒ずくめの友人が説明してくれた。

大型ギルドは他にもアインクラッド解放軍こと《軍》や《聖竜連合(DDA)》といったものがあるらしいのだが……ギルドというか、組織という堅苦しいものに向かない自由気ままな性格のあたしとしてみれば、教えられたとしてもあまり頭に入ってこないのだ。

 

まー、今はそんな事どうでもいいか……。

 

“んー、これは助けに入った方がいいのか?”

 

前に良かれと思って手助けした時に横取りだのなんだといちゃもんをつけられた事があったからあまり気が向かないのだが……だが、こうして様子を見ていると敵が壁に倒れている彼を狙っているように思える。

 

そこで思い出したのは、今攻略している四十層を徘徊する獄吏(ごくり)モンスターの一部にとある厄介なアルゴリズムの事だった。

 

「チッ。あのモンスター、《ブリィング》を持ってるのかッ」

 

ブリィング。

英語で《弱い者いじめ》を意味するその名のとおり、通常のヘイト値とは別に、倒れて動けないプレイヤーやデバフを食らったプレイヤーを狙う事がある。

 

そして、事があるに該当するのが、あの壁に倒れている男性プレイヤーって事だ。

 

そこで嫌なイメージが脳内に広がってくる。

のしのしと倒れている男性プレイヤーへと近づき、手に持った金棒を大きく振りかぶり、そのままの勢いで振りかぶる。ドンッと衝動が床を通り伝わり、天井に向かっていくのは淡いブルーのポルゴン破片。

 

「……あー、嫌な事考えちゃったわー。ほんと、いや」

 

額に利き手を添え、思い浮かべてしまった嫌なイメージを振り解くように軽く横に振ったあたしはそっと長年の相棒へと手を添える。

 

"救える命をみすみす見逃すなんて出来ないし……"

 

「……それにしたくないからね」

 

目に入る人全てを救いたいなんて傲慢なことは言わない。

自分にそんな才能がないくらいわかってるし、自分では正義のヒーローになれないくらいわかってる。

だが、だからこそ。自分は不恰好でも無様でも格好悪くとも立ち上がり、不器用なりに自分の出来る事を地道にしていくのだ。

 

それがきっと最善の道に繋がっていると信じて。

 

それに、倒れている人を見捨てるなんてカッコ悪い姿を幼馴染に見せるわけにはいかない。幼馴染にはいつでもカッコいい自分を見ていてほしいと思っている。まー、カッコいいかどうかは分からないが……。

 

だがしかし、そんな自分本位で自分勝手なカッコづけのために命をかけようというのだ、あたしは。

 

そんなあたしはきっととんだ大馬鹿者に違いないだろう。

 

「さーて、いっちょやりますか」

 

あたしは身を低くし、右腰にある鞘へと掌を添えると全力で走り出し、今まさに振り下ろそうとしている金槌へと狙いを定め、刀スキルを炸裂させるのだった。




次回の更新は その三 へ




ちょっとしたお知らせです。
何日かかるか、いつからするかはお伝え出来ませんが……章の整理と話の整理をさせていただきたいと思っております。
今しおりをしてくださっている方と多くの読者の方には多大なるご迷惑をおかけすると思いますが、無事に新しい並び替えと章の出来上がりを待っててもらえると嬉しいです。
では、次の回にて会いましょう!


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003 カナタ・イフチャント

お久しぶりの投稿です。

文字数は少なめですが、読んでいただけると嬉しいです!

それでは本編をどうぞ(リンクスタート)


「……ふぅ…」

 

タッタッタッタッと軽やかな足取りで鉄で出来た通路を走ったあたしはーーーー

 

刀スキル【施車】

 

ーーーー腰を低く落とし、グッと右腰に吊るしてある愛刀の柄へと左手を添えたあたしは低い位置から大きく息を吸い込み、無惨にも一発入れようとしている《ルースレス・ワーダーチーフ》の金棒を振り上げ「グルルル……」と奇怪な笑い声を漏らす。

 

だが、その笑い声はすぐに一人の闖入者に掻き消させることになる。

 

「はぁあああ!!」

 

カッキンッと耳障りな音が聞こえ、顔をしかめながら、自分に向かって振り下ろされる金棒と刃先がチリチリと火花が飛び散っては閃光を放ち、薄暗い迷宮の広場にて闖入者の姿を映し出す。

 

「なぁ……」

 

それは誰が呟いた声だったか、誰にも分からなかっただろう。

おそらく、誰も言葉を発することが出来なかったのであろう。

 

「………くっ」

 

唇を強く噛みしめる闖入者は短い栗色の髪を後ろで短く結んでおり、まっすぐ上へと見上げる蒼い瞳には真剣の二文字が浮かび、愛刀がじわりじわり少女の顔へと近づいてくるのを左だけでなく右手も添えた彼女がゆっくりと巻き返していく。

 

(チッ)

 

一方のあたしは両脚へと力を込めると力のままに押しつぶそうとしてくる《ルースレス・ワーダーチーフ》の金棒を押し出す為に両手を握り締め、ガリっと奥歯を噛みしめる。

 

「フッ!!」

 

小さな気合いの声で上へと押し出し、金棒を弾き返したあたしは恐らくびっくりしているであろう友人へと軽く右手を振る。

 

「カナちゃん!?」

「こんちわー、アッスー。あたしが暫くこのおっかないのの相手をするから。そこで軽スタンして怪我したお兄さんを回復させてあげて」

 

そう言いながら"格好の獲物を逃がすわけないだろ"と言わんばかりに再度金棒を横なぐりにしてくる獄史の攻撃を愛刀で地面へと逸らした後で尚も心配そうにこっちを見つめてくる友人へと振り返らずに短く答える。

 

「でもーーーー」

「ーーーー無理はしない。約束する」

 

アスナの声に自分の声を重ねたあたしは後ろで横たわっている男性から《ルースレス・ワーダーチーフ》を離れさせる為に両脚にグッと力を込めてから両手で柄を握りしめたあたしは刀スキルを発動する。

 

刀スキル【施車】

 

真紅に染まっていく刀身を思いっきりぐるっと自分を中心に突風を巻き起こしたあたしは一時だが、壁でスタンしている男性から獄史の距離感を離れさせる事に成功する。

その隙にアスナや他のKoBメンバーが男性を抱えて離脱し、あたしは獄史の行動に注意しながら見送り、じっとりと肌にへばりついてくる緊張感を「ふっ」と鼻で笑い、さっきまで居た階段に続く通路をチラリと見てからギラつく視線を浴びせてくる《ルースレス・ワーダーチーフ》を睨みつけるのだった。




004へと続く・・・

 


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004 カナタイフ・チャント

引き続き、お楽しみください!

本編をどうぞ(リンクスタート)


「……わかったわ。暫くの間、お願い」

 

そう言って、槍使いの男性の腕へと肩を回したKoBメンバー、こっちを見て来るアスナへと軽く返事した後で未だ未練たらたらな獄史へと視線を向ける。

 

「りょーかい」

さーて、お願いされてしまったからには……あたしも出来る限りをせねばならないだろう。

それにーーーー

 

「ーーーーキリも見てないで助けてよ、あたしだけじゃこれは荷が重い」

 

肩をすくめてから、さっきあたしが走り出した階段へと続く通路へとチラリと視線を向けたあたしの瞳に映るのは、壁に背中を預けてからこっちの状況を見ている心友へと声をかける。

声をかけられた心友は黒いレインコートを揺らし、黒いロングズボンをクロスさせ、ナイーブな印象を受ける短い黒髪をさらさらっと揺れている。

 

「俺が居なくてもカナタならそいつらくらい倒せるだろ」

 

意地悪にニンヤリと笑う少年へと苦笑いを浮かべたあたしはボソリと呟く。

 

「……えらく高くかわれたもんだ」

 

刀スキル【辻風】

 

無数の棘が生えた金棒から放たれる技を【浮舟】で受け止めてから衝撃からぐらついているルースレス・ワーダーチーフを見ながら、膠着状態が終わってから一歩後ろへ下がってから斬撃を食らわせた後で暫く傍観していた真っ黒い友人へと場所を変わる。

即ち、このSAOで最も基本的かつ必須のテクニックである《前後交代(スイッチ)》を使用したというわけだ。

 

「!」

「傍観するって割にタイミングピッタリなスイッチじゃん」

 

にんやりと笑いながら、あたしは目の前の心友へと声をかけてから体制を整えてから黒衣を好む友人・キリトの援護へと向かう。

 

「ふぅ……」

 

左手で強く握りしめた愛刀を軽く構えてから前から聞こえてくるキリトの声に従い、正面に向かいそうになるのを左へと向きを変更し、刃先からゆっくりと刃が真紅に染まっていく。

 

「カナタは左側から、俺は右側攻める!」

「りょーかい!」

 

刀スキル【緋扇】

 

キリトが持つ水色の光を放つ片手直剣とあたしが持つ真紅の光を放つ刀が左右から挟み込むように炸裂し、目に見えて《ルースレス・ワーダーチーフ》のHPを減らしていく。

 

「……手助けいたします!」

 

その後、一時戦場を離脱していたKoBメンバー、アスナが加わって、早3分後、強敵に思えた《ルースレス・ワーダーチーフ》は迷宮区の天井へと消えていったのであった。

 

KoBメンバーに向かって「HPを回復しておいて」と指示したアスナが輪から離れるのを視線の端で見ながら、背中の鞘へとブンッと片手直剣を振ってからおさめる黒衣の親友へと右手を掲げながら、右腰へと吊るしている愛刀を収めながら歩み寄る。




005 へと続く・・・


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005 カナタイフ・チャント

引き続き、お楽しみください!

本編をどうぞ(リンクスタート)


ひらひらと右手を振りながら、歩み寄ってくるあたしを長く伸びた前髪越しに見た黒衣の親友・キリトは口元へと柔らかい笑みを浮かべる。

 

「おつかれ、キリ」

「ああ、お疲れ、カナタ」

 

同じように笑みを返してから、歩み寄ってくるもう一人の栗色の親友へと右手をひらひらと振るう。

 

「アッスーもおつかれ」

「カナちゃん、お疲れ様。援護ありがとう」

「お礼なんていいよ。当然のことしたまでだし」

 

ふんわりと微笑んだアスナは次にキリトへと視線を向けると固い表情となり、あたしは二人の間に流れる微妙な空気感を感じ取り、珍しく気まずくなってから口ごもる。

 

"二人に何があったのか知らないけど……なんだがギスギスしてるんだよな…"

 

あたしにとって二人は大切な親友で二人が困っているのならは力になりたいと思うが、今回のこの出来事だけは当事者たちで折り合いを付けるしかないと考えているし……部外者が首を突っ込むことではないように思える。

 

「援護、感謝します」

「いや……どうせ俺もここを通る必要があったから。それにーーーー」

 

チラッとこっちを見てる漆黒の瞳越しに〈カナタが苦戦しているように見えたから〉といった色が浮かび、あたしは少し頬を膨らませる。

 

"あたしならキリが居なくても大丈夫だったし"

 

と見栄を張ってみても、本音をいうと彼が援護に来てくれないとかなり厳しいところが所々あったし……最終的に獄史の攻撃を的確に弾き返してくれて、こちらに風を呼び込んだのはキリトだ。ここは感謝するべきであろう。

 

「ーーーーキリ、ありがとう。正直危ないところもあったから、キリが来てくれて良かったよ」

「そうか?カナタなら大丈夫だったと俺は思うけどな」

「キリはあたしを持ち上げすぎだよ。あたしはそんな器用じゃない」

 

肩をすくめながら答えながら、この迷宮に潜ってからかなりの数を消費してしまったポーションを思い出す。

 

"やはり、あたしにはこの迷宮はまだ早かったって事かな"

 

疲れが滲んできて、攻撃を食らってしまい、ポーションが使っていたら手持ちのものをほとんど使い切ってしまった。

二桁くらいあったのに……もう一桁になってしまった。これは帰ったら確実にシノのお仕置きorお説教コース設定であろう。

 

"なら、キリと共に奥に進んだ方がいいかな…?"

 

あたしがこの先に進むべきか、それとも帰るべきか、を手持ちの回復薬の数を思い浮かべながら、脳内で計算している中、アスナとキリトの二人は会話を続けていく。

 

「……君は、まだこの先に?」

「ああ、そろそろボス部屋を見つけたいからな」

「そう……気をつけて」

「ありがとう、そっちもな」

 

どうやら、キリトはアスナとの会話を終えたようで身を翻してからチラリとあたしの方を見てくる。

長い前髪に向けられる視線は〈俺はこの先に行くけど、カナタはどうする?〉と聞いているようであたしはもう暫く考えた後でかんぶりを横に振る。

 

「キリ、ありがとう。あたしは一旦帰るよ。そろそろ帰らないとうちのお姫様が怒ってそうだから」

「シノンなら俺が出るときに"ヒナタ、どこ行ったのかしら?"とカンカンに怒ってから街の中を走り回っていたけど」

 

キリトの余計な一言で安易にシノがあたしを探し回っている様子が想像出来しまう。

 

きっと茶色いショートヘヤの2箇所が鬼のツノのように逆立ち、いつもは穏やかな色を浮かべている瞳が憤怒一色に染まっている事だろう。そして、利き手にはキリトに連れられて、偶然立ち寄った掘り出し物店にて見つけた弓をお持ちなのだろう…………。

 

"これ、帰った瞬間にあたし……矢に射抜かれて、ジ・エンドじゃね?"

 

「……やばい。一瞬で帰る気失せたわ」

 

一種で青ざめるあたしを見て、ニヤニヤと笑うキリトが黒いロングコートを翻して、迷宮区の奥へと消えていくのを見送って、取り残されたあたしはアスナから非難めいた視線と言葉を頂戴するのだった。




006 へと続く・・・


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006 カナタイフ・チャント

ご無沙汰しております、久しぶりの更新です。

いつものように文字少なめですが……楽しんでもらえると嬉しいです♪

それでは本編をどうぞ(リンク・スタート)


上階へと続く階段を登っていく黒いコートが見えなくなるまで、視線を向けていたあたしが真正面へと向き直るとそこにはどこか呆れたような顔をしたアスナが居た。

 

「カナちゃん、シノのんに内緒で飛び出してきちゃったの?」

 

「……あ、ぁはは……」

 

あたしの苦笑いで全てを察したらしいアスナが整った顔をムッとお怒りモードにシフトチェンジし、ミニスカートの両拳を置いてから、いつものようにお説教モードに入りかけたその瞬間、広場に怒声が響き渡る。

 

「もう、カナちゃーーーー」

 

「ーーーーおい、お前、なんでスイッチしなかったんだよ!?」

 

憤懣を隠そうとしないその声はどうやらさっきの軽スタンをして、壁に倒れていた槍使いのものらしい。

アスナは血相を変え、小走りで近づく所へと視線を向ける。

そこには無残に折れた十文字槍の柄を左手に握りしめた大柄の槍使いが、痩せたプレイヤーの襟首を右手で掴み上げている。

 

「やめなさい!」

 

割って入り、槍使いの手を離れさせるとアスナが痩せたプレイヤーの前へと立っている。

 

あまり見てはいけないと思いながらも、そちらへと視線を向けた際に瞳に映ったのは、力なく全身を脱力している少年プレイヤーだった。

少年と思いながらも、俯いている横顔から彼があたしやアスナよりかは年上のように思えた。

下を向いている為、波立つ朽葉色の前髪が彼の目元や輪郭を半ば以上隠れており、こちらからは少年の表情が伺えない。

 

そんな少年に向かい、アスナが振り返ってから何かを言っている。

小声の為、こちらからは何も聞こえなかったが、少年がアスナを一度見てから呟いた悔しそうな声だけがはっきりと聞こえた。

 

「……僕だって……前に出ようとしたんだ」

 

少年がもう一度俯いてから、自分のブーツを睨み付ける。

 

「でも、足が……どうしても、動かなかった」

 

それ以上話すことはないとばかりに口を引き結んでしまう朽葉色のプレイヤーから視線を逸らしたアスナ。

そのアスナへと視線を向けた血盟騎士団のギルドメンバーへと指示を行う血盟騎士団副団長殿の姿を見たところであたしはたゆたう。

 

(ぁ……これ、どうしよ……)

 

頭の中にあったプランでは、アスナの軽いお説教を聞いた後、彼女にお願いしてから血盟騎士団の精鋭達と共にダンジョンを出るつもりだった。

正直に言ってしまうと後先考えずにポーションを使ったせいか、手持ちが心許ないのだ。

なので、虎の威を借りる狐ではないが……トッププレイヤーとしての彼らの実力を借りつつ、ダンジョンを安全に抜けたかったのだが、今はそんな提案を言い出せる雰囲気ではない。

 

それに、あたしは個人的にアスナと仲良くしてもらっているが……血盟騎士団の副団長としての彼女とはどうかと言われるとこれまた微妙なのである。

 

アスナの指示により回復を終えたギルドメンバーが連携を組み直すのを茫然とした顔でしばし見てから、困ったように頬をカリカリと人差し指で掻いてからクルッと回れ右をする。

 

(しゃーない。一人で帰るか)

 

右腰に吊るしてある鞘へと軽く振った愛刀をしまってから、下へと続く階段に向かって歩いていくあたしの背中へと見知った声が投げかけられる。

 

「カナちゃん!」

 

「アッスー」

 

「一緒に帰りましょう」

 

「でも……」

 

そこまで言って、唇をつぶる。にっこり笑うアスナから後ろの血盟騎士団のギルドメンバーへと視線を向ける。

彼らは先刻の戦闘で消耗してしまったようで全体的に指揮が下がっているように思えた。

そんな彼らが今後の連続戦闘に耐えられるかは分からないし、力なく未だに俯いている朽葉色のプレイヤーへと突き刺さる無言の攻め立てる雰囲気が払拭されている様子は無い。

ギルドというのは連携が大切だ。一人が連携を無視した事で今回のように命の危機に陥るプレイヤーが現れる。故にギルドは連携を重んじなければならない。ギルドメンバーが誰一人欠ける事なく、攻略する為に。

だが……だからといって、あたしがそこまであの朽葉色のプレイヤーに対して、恨みの念を持っているかといえば、そうではない。否、きっとそれは他人事だからそう思えるのだろう。

あたしもあの大柄の槍使いのような立ち位置になれば、朽葉色のプレイヤーを許すことはできないだろうし……命令に背いた彼への重い処分を願ってしまう事だろう。

だが、あたしはどうしても朽葉色のプレイヤーの事が気になってしまうのだ。彼はきっと彼が思っているよりも殻をこじ開けさえすれば、強くなれるとあたしはそう思う。

 

(まぁ……こればかりはあたしがどうこう思っても仕方ないんだけどね……)

 

あたしは血盟騎士団というギルドの前ではただの通りかかったソロプレイヤーで赤の他人なのだ。それ故に何の権利も持たない。出来ることといえば、あの朽葉色のプレイヤーに下る処分が軽いものになることと……彼が殻をこじ開けてくれるのを願うことくらいだろうか。

 

あたしはそんなことを思いながら、彼らを一瞥し、少しだけ逡巡した後に「じゃあ、お願いしようかな」と答える。

 

あたしはアスナ達血盟騎士団に加えてもらうことで無事、ダンジョンから脱出することが出来た。

 

まー、先頭を先導して歩くアスナの隣に招かれてからは戦闘以外はずっと説教を受けていたのだが……。




 007へと続く・・・・

 



ユナちゃん役の神田沙也加さんが亡くなられましたね……

私は神田さんが演じられるどのユナちゃんも大好きでしたし、歌声も大好きでしたので……もうそのどれもが聞けなくなるのかと思うと胸が苦しいです。

心からご冥福を申し上げます。


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007 カナタイフ・チャント


今日はクリスマスイブですね。
にんやり出来るかは分かりませんが、百合・イチャイチャ要素は頑張っていれましたので、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

それでは、本編をどうぞ(リンク・スタート)




四十層の転移門広場でアスナと血盟騎士団のギルドメンバーと別れたあたしは身を翻す。

その一瞬、アスナに連れられている朽葉色のプレイヤーの沈んだ顔が視界に入る。

 

(今日の事を報告しにいくんだろうな)

 

栗色の友人が副団長として所属している血盟騎士団の本部は一層下に本部を移転したばかりとアスナから聞いたばかりだ。

なので、アスナがうっかり前にホームがあった二十五層を押そうとしていたのは見てみぬフリをしてあげよう。それが優しさというもの。しかし、しっかり者でパーフェクトに思えるアスナにもうっかりしてしまう可愛い瞬間があるのだな、と。そう思い、振り返った。

 

その瞬間ーーーー

 

「ヒナタ……?」

 

「……シ、ノ…」

 

ーーーー背後から聞こえた幼馴染の声にピクッと肩を震わせ、ギコギコと錆びついたロボットのようにぎこちない動作で振り返ったあたし。

 

蒼の双眸には、想像していた通りに幼馴染(シノン)が居た。

 

赤・黄緑・黒の三色で仕立てられた戦闘着が彼女が息を整えようとするたびに上下に僅かに動く。

剥き出しになった小さな肩を上下に揺らし、荒くなっている息を白い胸当て越しに利き手を添えてから整えている。

短く切り添えているショートヘアがそよ風に揺れ、両側で白いリボンで結んでいる房が波を立てている。

あたしを見つめる焦げ茶色の瞳は俯いているせいか、どんな感情が浮かんでいるのか、想像出来なくて……あたしの頬を一筋の汗が垂れる。

 

(こんなに早く見つかるとは……あーあ、なんの制裁が待っているのだろうか……)

 

ダンジョンの帰り道に一番最初に思いついた弓矢で串刺しだろうか。それとも、ありとあらゆる状態異常の矢を打ち込まれるのだろうか。それとも、弓矢で串刺しにされた後に短剣でめった刺しだろうか。どちらにしてみても、あたしの命はいくらあっても足りないだろう。

 

だが、そんなしょーもない事を考えるあたしに駆け寄ってきたシノンは予想外の行動に出る。

パッとあげた焦げ茶色の瞳を涙の層でうるっとさせてから小走りで近づくとドン!と両腕を広げて体当たりしてくる。

 

「ぉ……ぉ」

 

突然の事によろけそうになったあたしがグッと両脚の裏に力を込め、なんとか耐える。

そこから、状況を理解出来ないあたしは「ふぅ……」と息を吐いてからパニック状態になっている心を落ち着かせてから、腕の中にいる幼馴染の焦げ茶色の髪をなんとなく撫でる。

 

撫でた瞬間、ピクッと華奢な肩を振るわせたシノンがギュッと橙の着物を握りしめて、潤み小刻みに震えている声で攻め立てられる。

 

「……いきなり、居なくなるなんて……何考えているのよ……馬鹿ヒナタ……。私……怖かったんだから……心配……したんだからね……馬鹿……馬鹿ヒナタ……勝手に居なくならないでよ……馬鹿ぁ……」

 

涙で震えた声が耳朶に流れ込んだ瞬間、あたしは氷の手で心の臓を鷲掴みにされているような気持ちになった。

 

心配させてしまった……大切で愛おしいこの人を。

 

思い返せば、今日のこの日以外は安全圏でも戦闘フィールドでも行動を共にしていた。

あの日、紅いフードを根深く被ったゲームマスターである茅場昌彦によって《ソードアート・オンライン》はデスゲームと化した。

最初は『HPが全損すれば、現実世界の自分も命を落とす』なんて説明は現実味がなく、どこか御伽噺を読んでいるかのような他人事のように捉えていたように思える。

だが、真実はどこまで冷たく残酷にあたしへと現実を突きつけた。

 

そんなあたしを支えてくれて、いつでも傍に居てくれたのがーーーーシノだった。

 

『大丈夫よ。貴女の事は私が助ける。だから、貴女は私の事を助けて。2人で一緒に現実に帰りましょう』

 

彼女はそう言ってくれた。

赤フードが映し出した映像に偶然映っていた父の泣き顔を思い出し、1層の宿屋のベッドの上で体育館座りして、重ねた腕の上に頭を乗せてから両手をギュッと抱きしめるあたしを後ろから優しく抱きしめてくれた彼女のぬくもりは今でも忘れない。

 

そこからは助け合いながら、1層、2層、3層・・・・と2人で力を合わせながら、強くなっていた。

 

その間に色々あって、助けるが守るに変わっていって……より一層"2人で一緒"という約束があたしの中で大切なものになっていた。

 

なっていたはずだった……。

 

それなのに……あたしは……あたしという大馬鹿者は……一番守らねばならぬ約束を破ってしまった……。

 

(ごめん……ごめんね……シノ……)

 

顔は胸部によって隠されているが、小刻みに震える背中から彼女が泣いている事は安易に想像できた。

 

「シノ……」

 

優しく呼びかけると顔をあげる彼女の頬を撫でる。ピクッと小さな肩を震わせるシノン。頬を撫でている人差し指をおとがいへと添え、親指を頬へと当てる。潤んだ焦げ茶色の瞳が蒼の双眸を貫く。その瞬間、名前がつけられない不思議な気持ちに突き動かされる。グイッと力を込め、ぷるんとした小ぶりな唇を見つめた後に首の角度を変えてから、そっと重ねる。

 

「………ん」

 

ピクッと小さな肩が震え、胸部に添えてあっただけの両手のひらがムギュッと力がこもってから、スゥーーと力んでいた拳から力が抜けていく。

左手を彼女の腰へと回し、そっと引き寄せてから、重ねていた唇を少しだけ外してからもう一度くっつける。

くっつけた瞬間にぷるんとした感触が唇越しに伝わってきて、あたしはよりその感触を味わう為に唇をクネクネと動かす。

その度にシノンの瞑っている瞼が小刻みに揺れるのを可愛いと思いながら、最後にもう一度、唇の感触を感じてからそっと唇を外す。

 

近くには大きめな焦げ茶色の瞳があり、その双眸は何処となく不機嫌な雰囲気を纏っていた。

 

あれ?

 

と思っていると、硬く閉じていた小ぶりの唇が開いてから、ボソッと何かの文字列を発音する。

 

「……この街で一番高いケーキ」

 

ハイ?

 

「ケ・ー・キ。この街で一番の!!私が食べたいの!!」

 

はぁ…………

 

「それはあたしのキスよりも君が欲しいものなのかな?」

 

「ええ」

 

嗚呼……即答っすか。……そうすっか。……悲しい。……あたし、悲しいよ、シノ……。……シノにとってのあたしってケーキ以下なのね。嗚呼……でも、この街で一番高いんだから。安価よりかは高価だから。そこだけが救いかな。

 

「わ、私は悪くないでしょ。悪いのはヒナタの方!キスで誤魔化そうとしたんだもの!!私、勝手に行った事をまだ許してなんだからね!!」

 

両サイドの髪を猫の耳のように逆立て、真っ赤な顔でまくし立ててくるシノンにあたしはカリカリと人差し指で頬をかきながら、苦笑いを浮かべる。

 

「……そうだね。あたしはキスで誤魔化そうとした。それは認める。認める。けれども、それと同時にシノにキスしたかった事実も本当だよ。涙目のシノがとっても可愛かったから。こんなに冷たくなるまで探し回ってくれたんだね……心配してくれてあんがと、シノ。ずっと愛してる」

 

頬をそっと撫でるあたしをマジマジと見上げたシノンの頬が桃色から真っ赤へと染まっていく。

 

「……な」

 

開いていた唇がパクパクと音にならない言葉を発し、元々真っ赤だった顔は更に赤くなり、耳まで真っ赤になったシノン。

 

「…………私もヒナタの事、好きよ」

 

ボソッと呟くシノンの晒そうとする大きな瞳を見つめながら問いかける。

 

「好きだけ?」

 

「…………好きも愛してるも同じ意味でしょ」

 

そう言ってそっぽを向くシノンの耳は熟したリンゴよりも赤い。

本音を言うともっと恥じらうシノンの姿を間近で目に焼き付けていたのだが、これ以上揶揄うと本当に矢で刺されかねないので、彼女から身を離したあたしはシノンの小さな手を取り、主街に向けて歩いていく。

 

「さぁ、ケーキ食べに行こう。その前に刀のメンテをしてもいいかな?」

 

「……ええ、構わないわ」

 

柔らかい笑みを浮かべるシノンにあたしも柔らかい笑みを送った。




 008へと続く・・・・


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001 現実での女子会ifif(明日奈編)


お久しぶりです!そして、今回の話はifルートとなっております。

直葉の命令であの事件が起きなければ…とイメージして書いています。本編では、結局 王女様ゲームの王女様にならなかった陽菜荼・詩乃・明日奈・ひよりの4人がどんな命令を出すのか…どうか、お楽しみに♪

今回は、明日奈さんが王女様となります!

では、本編をどうぞ!!


※少し読みにくいかもです…(汗)毎度のことながら、本当に申し訳ないです…(汗)

そして、今回は短いです


9/12〜誤字報告ありがとうございます!


「あっ、王女様。わたしだ」

 

そう言って、割り箸が赤く塗られたものをみんなへと見せたのは…今の今まで、静かに事の顛末を傍観していた明日奈であった。そして、陽菜荼の手元にある割り箸には7と書かれていた。あからさまに、陽菜荼の表情が悪くなる。

だが、それで里香が待ってくれるわけもなく、運命の手元の札を見せる「せーの」というコールが響き、陽菜荼は渋々と割り箸の番号を見せる。

はしばみ色の瞳が自分を取り囲む割り箸を見つめ、渋い顔を浮かべる陽菜荼へと笑いかけるとその命令を口にする。

 

「んー、じゃあ、七番さんにお菓子を作るのを手伝ってもらおうかな」

「…アッスー…」

 

陽菜荼は泣きそうな顔で明日奈を見ると、差し出された明日奈の手を掴み立ち上がる。明日奈に手を引かれて歩く陽菜荼の目には、今の明日奈は女神に見えた。

 

“やっぱり、アッスーはあたしの親友だ”

 

そう、しみじみ思う陽菜荼であった。そう、今その時だけはーー

 

「陽菜ちゃん。こっち向いて」

「ん?何、アッスー」

 

ーー明日奈に名を呼ばれ、明日奈の方へと振り返った陽菜荼の口へと何かが差し込まれる。突然の出来事に目を丸くする陽菜荼は差し込まれた何かについた甘味を感じて、目の前にいる明日奈の顔を見つめる。

 

「!?」

「陽菜ちゃん、味付けはこれでいいかな?」

 

そう尋ねる明日奈はにこにこと女神のような笑みを浮かべており、その美しい笑顔から視線を逸らすと陽菜荼はそこで自分の口の中にあるものが分かった。

 

“へ?…これって…アッスーの…”

 

人さし指を陽菜荼へと差し出すように右手をあげる明日奈。そして、パクッと咥えている柔らかくも弾力のある感触から、どうやら陽菜荼は明日奈の人さし指を咥えているようだった。

そして、そんな二人をリビングから見ている女子会参加者メンバーからは悲鳴にも似た黄色い声が上がる。それと同時に、陽菜荼の背中を悪寒が雷のように走り抜ける。

 

“この視線は…詩乃…?”

 

背後から感じるドス黒いオーラに冷や汗をかきながら、陽菜荼は指を抜いた明日奈へと感想を述べる。

 

「…ん、いいと思うよ。流石、アッスーだね」

「そんなことないよ〜。陽菜ちゃんの方がわたしより、絶対上手だよ」

「いやいや。そんなことないよ」

 

首を横に振る陽菜荼。そんな陽菜荼を見て、明日奈はいいことを思いついたようにはしばみ色の瞳を輝かせる。明日奈の閃いた表情を見て、嫌な予感を感じる陽菜荼。そして、その嫌な予感は見事に的中することになるのであった。

 

「じゃあ、陽菜ちゃんのも味見させてよ」

「……」

「ねぇ?いいでしょう」

 

女神と見間違うほどの美しい笑顔を浮かべながら告げられたその言葉に、陽菜荼はこの後、同居者からどんなお仕置きを受けるか考えるだけで身体が震えてくる。

だが、今考えても、ここまでくるまでに色々やらかしている…。だから、何を恐れることがある!

 

“こんなこと考えたって…今更だよね…うんっ!”

 

陽菜荼は明日奈へと微笑みながら、手元にあるボウルの中にあるものを指ですくい、明日奈へと差し出す。

 

「はい、どうぞ。アッスー」

「…え…」

 

差し出された陽菜荼の人さし指を見て、明日奈が固まる。そんな明日奈に意地悪な笑みを浮かべながら、陽菜荼が声を低めて、明日奈へと問いかける。

 

「もしかして、あたしだけにあんな思いをさせて。自分は普通に味見させてもらえると思ってた?」

「…陽菜ちゃん、怒ってる?」

「ううん、全然。ただ、本当にアッスーに味見して欲しいだけ。ほら、あーん」

「…う、あーん」

 

可愛らしく口を開ける明日奈の口の中へと人さし指を入れて、陽菜荼が指を引き抜く。

 

「どうかな?」

 

と問いかける陽菜荼に、明日奈は少しだけ頬を赤く染めながら答える。

 

「うん、美味しかったよ…」

「そっか。良かった」

 

明日奈の意見を聞き、満足そうに笑った陽菜荼はその後、無事にデザートを作り終え、みんなの元へと戻っていった。その際、真正面から絶対零度のような極寒の視線を向けられ、心の中で涙を流す陽菜荼であった……




というわけで、陽菜荼の苦労はまだまだ続きます。本当に、ご苦労様です…陽菜荼。そして、みんなが帰った後に詩乃さんからどんなお仕置きを受けるのか…それも気になるところですね(笑)

次回はひよりさんと詩乃さん、出来れば 陽菜荼まで書ければと思ってます!(笑)
次回は恐らく、詩乃さんと陽菜荼のところで荒れる事でしょう…。

そして。続けて、これもお知らせなのですが…この【現実での女子会】ともう一つ、【エクスキャリバー篇】を書いたら、本編へと戻ろうと思ってます。
本当に転々として、申し訳ないです…(汗)




ここからは余談なのですが…
実を言うと…【エクスキャリバー篇】は書こうと決まってはいるものの、メンバーはまだ決まってないんですよ…。

アニメと原作のメンバーは【キリト・アスナ・リーファ・シリカ・リズベット・クライン・シノン、そして、ユイちゃん】という構成だったのですがーー

本編を見ていただけると分かる通り、原作よりもこっちはメンバーが多めとなってます。
みんなそれぞれ、強いですし…入れてあげたいんですが、トンキーに乗れる数が7名と決まっている以上、悩みますよね…(汗)

必然的に参加メンバーとなるのは…陽菜荼もとい【カナタ】は本編の主人公ですので、必ず入れるとして…。カナタがいるのに、詩乃もとい【シノン】が居ないのもおかしい気がしますし、私自身がシノンを絶対入れたいですから…入れるとして…
その他のメンバーで必須は【キリト・アスナ・リーファ】の三人ですよね。リーファが居ないとトンキーに乗れないですし、アスナは回復、キリトは戦闘で活躍してもらいたいですから…。そして、その五人をのけた他の2名は誰がいいのか…?悩むところです…

まぁ、まだ時間があるので、しっかり悩みたいと思います(笑)
では、まだ次回で会いましょう!ではでは〜(*´꒳`*)ノ


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002 現実での女子会ifif(ひより編)

お久しぶりの更新です。

なんで、こんなに遅くなったかは…ひよりさんの命令内容に悩みまして…(汗)

本当にすいませんでした…。そして、今回の話は少し読みにくいかもです…

では、本編をどうぞ!


陽菜荼と明日奈が作った特性パフェを食べ終わったみんなは、またしても陽菜荼にとっては地獄、みんなには天国の王女様ゲームを開催することになる。

顔を苦悶で歪めながらもクジを引いた陽菜荼は項垂れ、先が赤く塗られた割り箸を持っているひよりはあたふたとしている。そんなひよりの様子を見て、覚悟を決めた陽菜荼は心で泣きそうな顔になりながらもひよりへと番号を見せる。そして、案の定選ばれる陽菜荼は流石と言わざる得ない。

 

「…えっと、3番を持っている陽菜…いいえ、迂愚様、お願いします」

「うん、そこは言いかえなくていいからね、ひより。それと、あたしに何をして欲しいのかな?ひよりお嬢様」

 

名前を言い直すひよりに軽くツッコミを入れてから、おどけた感じでそういう陽菜荼へと恥ずかしそうに身をよじりながら、ひよりがその命令を口にする。

 

「…えっ…と…ですね、迂愚様」

「うん、ゆっくりでいいからね」

「…はい。…その、私を…ドキドキさせてくれませんか…?」

「うん、どんと任せて!…ん?さっき、ひよりなんて?」

 

ひよりの爆弾命令に、自信満々に胸を叩いて了承してしまった陽菜荼は今更ながらひよりへと問いかける。だが、頬を赤く染めたひよりは何も答えず、その代わり、周りにいるメンバーがマイナス一度くらいの視線で陽菜荼を見ている。そんなメンバーの中、一人だけがクスクスと笑いを含ませながら、陽菜荼へと話しかける。

 

「あらあら、陽菜荼ぁ〜。あんたもおませさんねぇ〜。それよりもよく詩乃の前でそれを了承したわね」

「あんたが主な元凶だかんな!あと、笑いながら言うんじゃない!」

「だって、これからもあんたに起こることを思うと…笑いしか出ないって…」

「くそっ…。あたしが王女様になったら、すんごい命令を出してやるんだからな!」

 

笑う里香を一瞥した陽菜荼はひよりへと近づくと、膝立ちなり、ひよりの右手を強く掴むと壁へと投げる。いきなりのことで、抵抗できなかったひよりは近くにある壁へと背中をぶつけると、自分を投げた陽菜荼を少し潤んだ目で見つめる。そんなひよりへと覆いかぶさるようにして、ドンと壁を叩いた陽菜荼はひよりを真っ直ぐに見つめる。

普段は優しさが溢れている、空のように透き通った蒼い瞳は今は全く別の感情に支配されており、目の前で震えているひより|獲物|をどう料理しようか、悩んでいる様子だった。

爛々と光る蒼い瞳に見つめられ、ひよりはその迫力に縮こまり、周りで見ている女子会メンバーは固唾を飲んで、二人のこの後の続きを見ている。

ジーーッと見つめられ、遂に我慢できなくなったひよりが陽菜荼へと震えた声で言う。だが、その声は最後まで言うことはできない。何故なら、陽菜荼の低い声が遮ったから…

 

「…う、ぐ…さ…」

「…うな」

「へ?きゃっ」

 

壁をまたドンと叩かれ、ひよりはビクッと肩を震わせる。そんなひよりへと陽菜荼が嗜虐心が満ち満ちている蒼い瞳を向ける。口元を軽く笑いの形にした陽菜荼はひよりの顎を軽く撫でる。

 

「あたしの名前はそんな名前じゃない。ちゃんと読んでくれないかな?ひよりの可愛い声であたしの名前を」

「…陽菜荼…様…」

「ん、よし。やれば出来るじゃないか、ひより」

 

ひよりの頬を撫でた陽菜荼がにっこりと笑う。だが、ひよりはさっきから悪寒が消えないでいた。このまま、陽菜荼とここにいたら、身の危険が危なそうでひよりは恐る恐る陽菜荼へと尋ねる。

 

「あの…陽菜荼様、いつまでこのままでいるんですか?」

「んー、いつまででも…とか言ったら、ひよりは困る?」

 

にっこりと普段とは違い、不気味に見える笑顔を崩さないまま、そう問いかける陽菜荼にひよりは困ってしまう。そんなひよりに更に顔を近づけながら、陽菜荼はひよりしか聞こえない声で囁く。

 

「…怯えているひよりって可愛いね。小動物みたいで…もっと虐めたくなる」

「…ッ」

「…ねぇ、ひより。今のあたしは怖い?ここから逃げ出したいって思ってる?思ってるなら、それを実行してもいいよ」

「…へ?」

「…まぁ、そんな簡単には逃さないけど」

 

そう低く言った陽菜荼の表情にひよりは見惚れてしまう。キリッと細くなった蒼い瞳から視線が晒せなくなる。薄く笑みを浮かべている陽菜荼は明らかにひよりをいたぶっているのはわかっているが、その整った顔をかたどるサディストな魅力に目を奪われ、ひよりは全身の力を抜くと陽菜荼へと身をまかせる。

そんな無抵抗なひよりに満足げに笑った陽菜荼は両手を壁へとつけると、ひよりへと顔を近づけていく。

 

「抵抗しないってことはいいってこと?本当に、ひよりのファーストキス、奪っちゃうよ?」

 

段々と近づいていく陽菜荼とひよりの唇があと1センチと言うところで、里香の停止の声がかかる。それに頬を膨らませる陽菜荼は普段の子供っぽい陽菜荼であった。

ひよりは振り幅の大きい陽菜荼の仕草にぽかーんとしている。そして、意識が戻ったひよりに言われて、陽菜荼は身体をよける。

 

「はいはい、ストッープ!それ以上はお隣が怖いからダメね。陽菜荼はひよりを席まで送って、早く自分の席へとつきなさいな」

「…なんか、理不尽。ここから、いいとこなのに…」

「陽菜荼様」

「…あぁ、ごめん。はい、ひより。いきなり、壁とか叩いちゃってごめんね」

 

頭を下げて謝る陽菜荼に、ひよりはさっきまで陽菜荼が浮かべていたサディストな表情を思い出しては頬を赤く染めていた。

 

「…いいえ、すごくドキドキ出来ましたし…。それに………陽菜荼様のお顔がすごく近くで見られて.、いい体験でした」

「ん?なんか、言った?ひより」

「いいえ、何も!ありがとうございました、陽菜ーーいいえ、迂愚様」

「だから、言い換えなくていいってば…」

 

苦笑いを浮かべながら、自分の席へと戻った陽菜荼へとあのゲームが牙を剥く…。果たして、次回は誰が王女様となるのか…?それは、神のみぞ知ることである…




久しぶりのドS陽菜荼降臨ッ!
たまに現れるからこそ、威力があるのです…うん(深く頷く)

次回は間を空けずに、陽菜荼と詩乃の話を交換できればと思います!


そして、久々の雑談コーナーです。

まず一つ目は、オーディナルスケールのキャラソンCDの事です!
もう、一言で言うなら…最高ォ!!!!!って叫びたいくらい良かったです(笑)

アスナ・シリカコンビの『Ubiquitous dB』ですが、もう可愛いの一言ですねっ!
アスナの美しい歌声はもちろん、シリカの『ピュアなとこ』にズキューンとハートを撃ち抜かれてしまいました…(笑)あの天使級な可愛さはヤバイですね…(汗)
あと、シリカの暴走気味(?)なところを上手くカバーして、ハマるアスナさんは流石と私は思いました!

リズ・シノンコンビの『Break Beat Bark!』は、もうカッコいいの一言ですねっ!
私が驚いたのは、リズが意外と高く歌ってた事ですね…もう少し低めでくるかなぁ〜って想像してたので、意外かつ可愛かったですね!そして、シノンは歌い方がカッコいい!!『パスワード』とか『ハッピー』の発音良すぎっ!だから、シノンファンはやめられないんだよっ!!みたいなノリでその後に続くユナの歌も車の中で聞いてました(笑)


二つ目は、ついに『GGO』を題材とした新しいゲーム【フェイタル・バレット】が予約開始となりましたね!
私はバッチリ予約しましたよ(グッ)
だって、シノンが大活躍する『GGO』なのですから…これはファンとして買わなくてばっ!と使命感に燃えてしまいまして…(汗)
そして、ガンゲイルオンラインから二人が参戦するそうですね。ガンゲイルオンラインも集めているので、とても楽しみです〜。あと、他のメインキャラクターがどんな格好でGGOに来るのかも楽しみですね!



三つ目は第三期となる【アリシゼーション】のアニメ化、また【ガンゲイルオンライン】のアニメ化、です!
アリシゼーションは、アリス役の茅野愛衣さんは私の好きな声優さんなので、アニメ化を今か今かと待ってました(笑)アリシゼーション編は私の好きなキャラクターが多く出演してるのと、ネタバレですが…アスナ・リーファ・シノンの三人の見せ所があるので、とても楽しみです!!
ですが、不安なところも…本編が長いので、かなり駆け足になりそうですよね、アリシゼーション編…(汗)もしかして、前編と後編で分けて…後編を劇場版という可能性も!?いえ、普通に四期って可能性もあるんですが…(汗)
ですが、最後のあのバトルシーンは劇場版で見たいですね…(遠い目)


長くなってしまいましたが、雑談コーナー以上です(礼)

不思議な天気が続くので、読者の皆様 お身体にお気をつけて…。
次回あいましょう、ではでは〜(*´꒳`*)ノ”


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001 カランコエを添えてifif

リコリスのイベントで、キリトくんとアスナちゃんがイチャついているのを見て……なんか書きたくなった……(大汗)

ififとついているのはベースをリコリスにしているからです。

原作だとイチャついている場合ではないと思うので……(笑)


ということで、シノンちゃんとイチャつきたかったという不純な理由で始まるifのifから始まるもう一つのストーリーを始めます!

本編をどうぞ(リンク・スタート)


※更新のペースは適当の気のいくままに…

※間違えていた箇所を直しました。


【対策本部・カナタの天幕前】

 

央都の中にある北セントラル修剣学院の敷地内。

広い庭の隅々に白い幕をはった天幕があちらこちらに鎮座している。数にして、10かそれ以上。

その中の一つ、校門の近くにある天幕列の一番端の前に少女が一人立っていた。

 

冷水を思わせる透明感のある水色の髪を揺らすたびに、顔の横で括っている房が揺れ、その房をくるくると弄るのは人差し指だけ空いている黒い手袋。

軽く伏せられ、タイルを見つめ続ける瞼を縁取る睫毛は長く髪と同色で、続くのは氷山の一角を思わせるほどに涼やかな印象を受ける藍色の瞳。

腕を組んでいる少女の小柄な身体を隠しているのは、彼女がこの世界…《アンダーワールド》へリンクする時に使用したハイレベルアカウント弓使い(ハンター)を用いた服となっている。

上半身は胸部を包み込む白い服に動きやすいようにデザインされた青のジャケット。左胸に当てられた黒い胸当て。それらに続くのは白いベルトやらが巻きついている雪を思わせる白い肌、形良いお臍が続く。

下半身は横にスリットが入った白い短パン。そこから覗く藍色のスリット。細っそりした脚を包み込む左右不対称のブーツ。

 

そのブーツでトントンと地面を突く事、約30分。

それでも天幕から待ち人が現れる様子は無く、青い少女・シノンは藍色の瞳を横にスライドすると入り口を見る。

 

“ヒナタ、遅いわね…”

 

「シノ、ごめんね。ばたついちゃって」

 

これ以上待っても埒があかないと入り口の白い布を掴んだ瞬間、待ち人が困った顔を晒しながら現れた。

肩にかかるまで伸びた癖っ毛の多い栗色の髪を後ろで動きやすいように束ね、入り口の布を掴んでいるシノンを見つめる瞳はシノンの藍色よりも蒼い。

 

“?!”

 

突然、現れた待ち人に藍色の瞳を大きくしながら布を離したシノンに待ち人・カナタは形良い眉を近づける。

 

「シノ、どした?」

「いいえ、別に」

 

カナタから投げかけられる純粋な疑問を数回の瞬きと素っ気ない声音で返したシノンはカナタが通れるように後ろに一歩下がる。

その好意に甘え、天幕から現れたカナタは大きく背伸びをするとシノンへと振り返り、にっこりと笑うのだった。

 

「それじゃあ行きましょうか」

「ああ」

 

シノンの後に続くカナタを横目で見ている藍色の瞳には僅かな動揺が滲んでいた。

理由は彼女が身につけている戦闘服が出会った時に着ていたものと異なるからだ。

 

“上級修剣士の制服かしら? いいえ、でもデザインが違うわね“

 

シノン達の横を通り過ぎる北セントラル修剣上級剣士……黒をこよなく愛する友人とその親友から聞いた話だと、色が付いた制服を着れるのはその中でも選ばれた数十名であるらしい。

その選ばれた数十名に友人・キリト。その親友であるユージオとメディナ。隣を能天気歩いているカナタも入っていたそう。

だが、今着ている服は横を通り過ぎる上級剣士の服とはまた違うし、デザインがそもそも異なっているように思える。

 

“デザイン的にはキリト達が着ている騎士服に似ているわね”

 

そう、上級剣士が身につけている制服のようにビシッとした印象を受ける彼女の服はキリト達が着ているような騎士服のように思えた。

猫の尻尾のように気のいくままに揺れる房が擦れているのは白い襟首、そこから続くのは彼女のリアルネームを表しているかのような明るい橙の布生地に水色の線が走る……腰に巻いているベルト、時々剣の紋章が入っているところも含めて、キリトの騎士服を橙にしたような服を彼女は身につけている。

異なっているところはキリトよりもダラシなく着こなしているところだろうか…。上から二個外している騎士服から覗くのは橙のTシャツ。足元を覆うまで伸びた騎士服を蹴飛ばす脚を包むのはスリットが入ったロングスカート。

 

そこまで見たところで頭上から笑い声が響く。

 

「あはは、突然こんな格好で来たらびっくりしちゃうよね」

「いいえ、そんな事はーー」

「ーーその顔が何かいいだけと言わないでなんというのかな」

 

シノンの前に駆け出したカナタは人差し指をシノンへと突き出す。

とんと眉の間を小突いたカナタは藍色の瞳をまっすぐと見つめる。

 

「ここ。さっきからシワが出来てるよ……たく、何十年君の幼馴染してるって思うのかな。あまりあたしの目を見くびらないでくれますかな、シノン君」

 

そう言って、自分が着ている橙の騎士服を左手の指で摘むと上下に揺らす。

 

「この服に着替えたのは小父(おじ)さ……ベルクーリ閣下からの命令でさ」

「別に。小父さんでも構わないわよ」

「いいや、小父さんは会議の時とかだけにする。アリスもあたしもシノンやキリト達と行動を共にするのならば、整合騎士の肩書きは邪魔でしかなくなるからね」

 

カナタのセリフを聞きながら、シノンは自分の胸がチクチクと痛むのを感じる。

それは何に対してか分からないまま、シノンはカナタへと相槌を打つ。

 

「そういえば、貴女ってアリスと同じでベルクーリさんの指導を受けていたんですって?」

「そうそう。その時の癖がやっぱり直らないんだよね…」

 

“まただ”

 

チクッと痛む胸を抑え込もうとした利き手を胸当て越しに押し当て、止まるように念じながら……カナタの話を聞いていく。

痛む理由には気づいていたが……それは個人的で仕方ない事だとシノンは心で吐き捨てる。

だが、揚々と語るカナタの出で立ちや話を聞いているとチクチクが増していく……。

 

「んで。話を戻すけど。そのベルクーリさんに言われたわけですよ。カナタの嬢ちゃんはもっと身分を隠すってことを知るべきだなってね」

「あー、なるほど。確かに貴女の戦闘服っていつも珍妙だものね。あの姿はこの世界の人では見たことがないわ」

「あはは、そんなにあたしって常に珍妙な姿してるかな……まー、シノの言った通りであってるよ。あたしの整合騎士の服……リアルでいうと和服を着ている人は村人も貴族もあまり居ないんだよね。なので、整合騎士の任務の時は和服。キリ達との任務、普段過ごす時は今着ている服って分けているわけですよ」

 

そう言うカナタは大きく背伸びをする。

 

「といっても、あまりこの服好きじゃないんだよね……」

「そう? 私はにあーー」

 

最初こそは驚きはしたが、彼女がビシッとした騎士服を着ているのは新鮮で目新しく、シノンの目から見ても彼女は騎士服でも似合っていると思う。

それを言葉にしようとした瞬間、背後から凛々しい声が二人の背中へと投げかけられる。

 

「ーーここに居ましたか、カナタ」

 

振り返る二人の目に映るのは、純金を溶かしたような金を緩やかに三つ編みにしている少女。

此方を見ている蒼の瞳はカナタを透き通る空と例えるならば、彼女は透き通った氷……いいや、澄み渡った湖と例えるべきか。

凛々しさを感じる蒼の瞳から視線を下に向けると重量感を感じる金の鎧や籠手、ブーツが太陽(ソルス)の光で一際眩い光を放っている。

ダラシなく着こなしているカナタと違い、しっかり首元までボタンを留めている蒼い騎士服、シミ一つないロングスカートからも少女の几帳面さ、生真面目さが垣間見えた。

 

「お? どしたの? アリ」

 

そんな少女・アリスに向かって放った一声がそれで。

アリスの蒼の瞳がより一層嫌悪さを増していき、細められる瞳からは威圧感すらも感じ取れる。

 

「どしたの? ではありませんよ、カナタ。今日は私と貴女で任務があるのですよ」

「にんむ?」

 

初めて、言葉を覚えた乳児のようにたどたどしくアリスの言葉を復唱するカナタにアリスはつめ寄る。

息をするのを忘れてしまうほどに凛とした美しさをのぞかせるアリスの美貌を間近で見られるのは眼福であるだろうが……全身から不機嫌さや威圧感等を放出しているアリスは高圧感は感じても眼福とは思えなかった。むしろ、冷や汗が出てくる……カナタは確かにアリスの後ろに般若を見た。

故に詰め寄ってくる興奮したアリスを落ち着けるために彼女の肩へと両手を添えるとそっと自分から遠ざかる。

 

「初めて聞きましたって顔をしないでくださいよ。私はちゃんと言いましたよ、昨日の晩に」

「分かってる。分かってるってアリス様。確か、東の方でモンスターが増えて、人害が出てるんだったよね。近衛兵では太刀打ちできないからってあたしとアリスが向かうんだったよね」

「そうです。分かっているのなら、準備をしますよ」

 

そう言って、金色の籠手が橙の騎士服を掴むのを捉えた蒼の瞳が困惑したようにアリスを見た後、隣に佇むシノンを見る。

計4つの蒼の瞳から発せられる視線を受けたシノンは利き手を左右に揺らす。

 

「私なら気にしなくてもいいわ。私との約束とこの世界の人たちの命なら天秤にかけるまでもないわ……それにその任務はカナタでしか解決出来ないのでしょう? なら、行ってあげて」

「ごめんね、シノ! 必ず埋め合わせするからっ」

「シノン、すいません。カナタをお借りします」

 

金の籠手に引っ張られるままに左手を顔の前に立てて、勢いよく頭を下げるカナタ。そのカナタを引っ張りながら、頭を下げるアリスへと笑みを浮かべる。

 

「アリスもカナタも気をつけてね」

 

カナタの天幕にかけていく二人の後ろ姿を見ていると数分後には初めて会った時に着ていた橙の和服に腕を通した彼女がアリスと共に飛竜の元にかけていく。

 

“まだ続いている……胸のチクチク……”

 

気にしたって仕方ない。

だって、この世界で二年間暮らしてきたカナタは自分が良くしてる《蒼目の侍》のカナタではなく……《整合騎士》のカナタなのだから……。

この世界で、人界の人々に、整合騎士の仲間から必要とされている彼女を独り占めするのは……きっと浅ましく惨めな事だろうし、きっとそんなことをすれば自分は後悔する事だろう……。

 

“だけど、少しでいいから。二人っきりでどこかお出かけしたいな……”

 

もう姿形も見えない橙の後ろ姿を思い浮かべながら、シノンは突然空いてしまった予定をレベリングと弓の修練に当てようと思い、外の草原に続く道に向けて歩いている時だった。

後ろから見知った声がして、タイルを軽やかに蹴って、自分に近づいてくる足音が聞こえたのはーーーー。

 

「シノン!」

 

振り返ったシノンの瞳に映るのは、黒い短髪を揺らして走ってくる友人だった。

白い襟首と裏生地に黒い布地、金色の線があしらわれた黒い騎士服。彼の筋肉質だが細い焼けた肌を包むのは同色のズボンで地面を蹴っているブーツも黒と……この世界でも黒をこよなく愛している友人に淡い笑みを浮かべたシノンは彼を出迎える。

 

「こんにちわ、キリト。これから街の外に出かけるの?」

「ああ。丁度、魔獣と《カラント》の討伐依頼が届いてな」

 

友人・キリトが口にした《カラント》は《カラミティ・プラント》の略称だったりする。

央都の中央に聳え立つ《セントラル・カセドラル》に突如生えた大樹《カセドラル・シダー》と関連するものと推測されている。

そして、カラントはかつてこの人界を支配していた最高司祭・アドミニストレーターの《心意》を纏っており……彼女に忠誠を誓っている整合騎士では切らないという仕様になっている。

つまり、カラントを切れるのは外の世界《リアルワールド》から来たシノンやキリト達。

右目の封印《871コード》を自力で解除し、アドミニストレーターと対峙したユージオとアリスの数名となっている。

 

“キリトの実力を疑うまでもないけど……”

 

カラント。そこから生まれ出る魔獣を相手するのは一人では厳しいだろう。

それに丁度修練に出かけようとしていたのだ。魔獣だけを狩るよりかはカラントも倒した方が人界のためになるだろう。

 

「そうなの。なら、私がご一緒しましょうか?」

「いいのか? だが……」

「大丈夫よ。カナタなら任務があるからってアリスと一緒に東に飛んで行ったわ」

「そうか。なら、シノンにもお願いしようかな」

「も?」

 

眉を細めるシノンはキリトの後ろから歩いてきている友人達を視界に収める。

 

「シノのんも一緒に来てくれるの?」

 

そう言って、ほわわんと笑うのは栗色の髪を腰近くまで伸ばし、優しい色をたたえたはしばみの瞳を細めている少女・アスナ。

白い騎士服の上から銀色の胸当てを着用し、ピンク色のスカートを揺らしている彼女に「ええ」と答えるシノンはキリトの後ろに立っている少年にも頭を下げる。

柔らかそうなカーブした亜麻色の短髪。彼の人の良さを表している碧の瞳から続くのは生真面目に首元までビシッと着こなした白の襟首に青……いや、水色の騎士服とズボンにブーツを着用した少年・ユージオはシノンを視界に収めると柔らかい笑みを浮かべる。

 

「シノン、今日はよろしくね」

「ええ、よろしく。ユージオ」

 

キリトが予め声をかけていたメンバー、ユージオとアスナにシノンを加えた四人はカラントが発生したと報告があった東帝国へ向けて、出発するのだった。




余談ですが……8/21は詩乃ちゃんことシノンちゃんの誕生日ですね……!!

どんなエピソードにしようか迷う……(思案)


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002 カランコエを添えてifif

この後、1時間後

本日の20時から バーチャルミーティング がありますね。

ゲストは、私の好きな声優さん、茅野 愛衣さんなんですよね…!!

私自身、参加したいのですが……どうしたら、クラスタ出来るのか分からないんで……。

竹達さんと同じように、イベントが終わった後に見させていただこうと思います…!!


【イスタバリエス東帝国】

 

相棒である飛竜がたてる風を浴びながら、橙と金の整合騎士が空を駆けていく。

橙の整合騎士、カナタ・シンセシス・サーティワンは利き手で手綱をしっかりと掴むと暴風によりはだけてしまっている橙の和服の胸部に当たるところを右手で鷲掴みにするとすっかり気味悪い色に染まってしまった空を見上げる。

 

“青い空を駆けるのは好きなんだけどな……”

 

今自分が駆けているのは紅い空である。

本来の身体がある世界……《リアルワールド》ではよく茜色に染まった夕焼けや雲を好んで、シャッターを切っていたが……同じ赤でもこちらの赤は温かみを感じない。どこか不気味な雰囲気で……ずっと見ていると血を想起させる。

 

「カナタ」

「?」

 

荒れる風によって乱れるゆる〜くカーブが掛かった栗色の髪を抑えながら、声がした方へと視線を向ける。

そこにはカナタの横を並行している金の整合騎士、アリス・シンセシス・サーティの姿がある。

彼女も飛竜がたてる風により紋章が描かれた蒼いマント、ロングスカート。太陽(ソルス)の光に照らされ光る金髪が波立ち、三つ編みにしているリボンの結び目が緩くなっていく。

暫し、蒼い瞳が交差し、両手でしっかりと掴んでいた手綱から右手を外し、金の籠手がある一箇所を指差す。

 

「あそこです。報告があったのは」

「んー?」

 

アリスが指差す場所を目を細めてみたカナタは蒼い瞳に映す。

《チエリア大採石場》と呼ばれている大きな窪みの底に生えた《カラミティ・プラント》。通称《カラント》から次々と魔獣が姿をあらわにしている。

赤黒く不気味な花から生まれた魔獣は《ノーランガラス北帝国》にて起こったとある出来事からーーその地で息耐えたものとなっている。

総合するとーーーーカラントは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

そして、今回の場合だと根付いているのが採石場で、その周りには竹林や森林が広がっている。

目下で近衛兵へと襲い掛かっているサソリ型や蜘蛛型の魔獣もこの地で倒されたものだろう……。

 

“さーて。いっちょやりましょうか!”

 

「りょーかい。近衛兵のみんなは怪我してるっぽいし、あたしが先に乗り込むよ」

 

相棒の飛竜の頭を撫で"ここで待ってて"と伝えてから、カナタは飛竜の背の上に立つ。

 

「先に乗り込むって、魔獣の量が多いですよ。無策で飛び込んでいくなんて無謀です」

 

下を見る蒼い瞳には底を埋めつく量の魔獣が映っている。

アリス自身、カナタの実力は痛いほどに分かっているし、無害の魔獣ならばここまで強く止めない。だが、あのそこでひしめきあっているのは猛毒等を持つサソリや蜘蛛がいるのだ。しかもあの量を一人でさばくのは難しいのではないだろうか……?

眉をひそめ、心配そうに自分を見ていくアリスにニカッとはにかむヒナタはトントンと右腰にさしている泉水(あいぼう)を叩くと左親指を立てる。

 

「どうにかなるって……あたしと泉水(この子)を信じなさいな」

「信じなさいな……って、カナタ、ちょっと待ってください!」

 

アリスの制止の声も聞かないままに底へと「いやっはーーぉ!!」と飛び込んでいくカナタ。

栗色の髪をはためかせ、鞘から勢いよく水色の刃を持つ愛刀を引き抜いたカナタは地面に着地した瞬間に力を込める。

 

「一撃で決めてやるよ」

 

片頬を上げたカナタが両手で握っている水の刃が光り輝き、大きく振り上げた刃を大きな衝撃波となり……大きな衝撃波がサソリと蜘蛛を葬っていき、地面に練りこんだ刃を引き上げたカナタは後ろ足を伸ばす。

 

「もう一発食らっとく?」

 

後ろ足近くまで刃を下げたカナタは前足に力を込めながら、刃を横なぐりする。

横なぐりによって作られた衝撃波によってカナタの周りから飛んでいく魔獣。

カナタを中心に空いた丸い円へと飛び込んでくる金の疾風にカナタのおでこを冷や汗を流す。

 

「あれだけ一人で突っ込まないでと言ったはずですが……」

「あはは……」

「言い訳があれば後で聞かせていただきます」

「……お……お手柔らかに……」

 

腰に置いていた金色の鞘から《金木犀の剣》を引き抜いたアリスに背中を預けると苦笑いを浮かべながらもカナタはアリスとは正反対の方向へと走り出すのだった。

 




カナタの相棒の飛竜の名前はまだ考えてないのです………

礫先生が前にTwitterに歴代の飛竜名前を乗せてくださっていたと思うので……そのツイートを見させていただきながら、考えようと思います。


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001 二人のクズと落伍者

アニメ9話[貴族の責務]と10話[禁忌目録]を見直してたら、なんか思い浮かんでしまった…(大汗)



【修剣学院・上級修剣士寮】

 

人界三八〇年五月十七日。

 

ユージオは練習用の木剣を利き手に握りしめながら、部屋を出る前にとぼとぼと力無く自室へと入っていった黒髪の相棒の姿を思い浮かべながら、彼が初等練士の時に言っていたセリフを思い出していた。

 

ーーーーこの世界では、剣に何を込めるかが重要なんだ。

 

黒髪の相棒・キリトはユージオに剣術を教える時によくそれを口にする。

 

ーーーーノルキア流やバルティオ流、そして俺たちのアインクラッド流の《秘奥義》は強力だ。発動のコツさえ掴んでしまえば、あとは剣が半ば勝手に動いてくれるんだからな。でも、問題はその先だ。これからは、俺とウォロの立ち会いみたいに、秘奥義と秘奥義をせめぎ合わせる勝負が増えてくるだろう。そうなったら、あとはもう剣の重さが戦いを左右する。

 

"……重さ"

 

キリトの言う重さとは単純な剣自体の重量を指す言葉でないことはユージオにも分かった。

 

キリトと戦ったウェロ・リーバンテインは騎士団剣術指南役の家に生まれたという誇りと重責を剣に込めていた。

ユージオが1年間傍付きを務めた先輩ゴルゴロッソ・バルトーは鍛え上げられた鋼の肉体から生み出される自信を剣を込め、キリトの指導生ソルティーナ・セルルトは研ぎ澄まされた技の冴えを込めていた。

そして、キリトやユージオ、もう一人の同郷者へと事あるごとに嫌がらせをしてくるライオスやウンベールは上級貴族の自尊心を剣の重さを変えている。

 

"なら、僕は何を剣へと変えればいいのだろう"

 

とぼとぼと考え事をしながら、建物の北側に設けられた階段を降りている最中に後ろからぽんぽんと肩を叩かれ、びっくりするユージオの鼓膜に響くのは自分への親しみを込めたアルト寄りの声でーーーー

 

「や。ユージオ少年」

 

ーーーーユージオは笑顔を浮かべながら後ろへと振り返る。

 

そこにはユージオの思い浮かべた人物が立っていた。

 

ユージオと同じように左手へと練習用の木剣ーーーー彼女の方は剣身が細く、キリトとユージオとは異なってはいるがーーーーを持って、ひらひらと右手を振っている少女の名前はカナタ。

彼女が件のライオスとウンベールに嫌がらせを受けているもう一人の同郷者である。

同郷者といっても幼い頃から暮らしていたというわけではない。今、自室で絶賛一夜漬けをしている黒髪の相棒と共に唐突に現れたのだ、故郷ルーリッドの南の方向に位置する森に三百年以上もそびえたっていた《悪魔の杉》という異名を持つギガスシダーの刻み手という天職を担っていたユージオの元に。

《ベクタの迷い子》として村で暮らし始めた二人と出会ってからユージオを取り巻く生活は瞬く間に変わっていた。

 

"キリトとカナタが居なかったら、僕は今でもギガスシダーへと斧を振っていたことだろう"

 

隣に並ぶ栗色の髪の親友を見て、自室に篭っている黒髪の相棒と思い浮かべてから心の中で"ありがとう"とお礼を言ってから、カナタへと話しかける。

 

「カナタも訓練」

「まーね」

 

いつものように軽い調子でそう言ったカナタはユージオの隣にいつも居る黒髪の剣士が居ないことに気づいてキョロキョロと周りを見渡す。

 

「キリは?」

「キリトなら一夜漬けしてるよ、明日の上級神聖術の試験のね」

「そっかー。キリは《凍素(とうそ)》が苦手だもんね」

 

苦笑いを浮かべるカナタの居室は三〇七号室つまり七番目の成績を修めたという事だ。

 

カナタのこの成績をキリト曰く彼女は手を抜いていたと言っていたが、実際はどうなのだろうか。

男であるユージオとキリトと異なり、カナタは女である。いくら、親しいとは言えど、ユージオやキリトと相部屋というのはやはり気まずいところがあるのかもしれないとユージオは思えてしまう。

実際、彼女は食事を食べる時や授業を受けている時、修練の時もキリトやユージオと共にするのはごく僅かで、殆どは同室の女子生徒や他の女子生徒と一緒に居るところをよく見かける。

 

だが、実質、カナタの心境はよく分からない。

 

ユージオの隣を歩くカナタは至って普通であり、男子生徒と並んで歩くことに羞恥心を覚えている様子は見えないし……かといって、女子生徒達に固執しているようにも思えない。

親しみやすい笑顔や態度とは裏腹にどっち付かずの絶妙な距離を保ち、ユージオやキリト、女子生徒達や他の生徒達から一歩引いた所で物事を見ているようなイメージをユージオはカナタへと抱いていた。

 

思えば、キリトとは同姓という事で何も気がれなく物を言えたり、スキンシップをはかれるのだが……カナタとは異性である事からか、どうもキリトのように接しられずにいた。

 

"今日はカナタについて何か聞いてみようかな"

 

チラリと栗色の髪の親友を見ながら、ユージオは人知れずに"今日、カナタに何を剣に込めているのか"を聞くという決意を固める。

 

そんなユージオの決意を知る由のないカナタが足裏を地面にくっつける度に波立つ癖っ毛の多い栗色の髪は後ろに一纏めにされており、まっすぐ前を見つめる蒼い双眸からは強い意志が伝わってくる。真っ白い上級修剣士の制服は所々アクセントとして橙をあしらっている。

 

真っ直ぐと前を見つめる双眸が光に反射し、キラキラと蒼く光るのを見ながら、ユージオは金髪の幼馴染を思い浮かべていた。

整合騎士によってセントラルカセドラルへと連れて行かれた幼馴染・アリスを連れ戻す為にユージオはこの央都まで来たのだ。

あの日、両足が地面に張り付いたかのように動けなくなり……助け出す事が出来なかったアリスを今度こそ助ける為に。

 

「?」

 

思わず、マジマジと見てしまったのか。

 

ユージオへと顔を向けたカナタが"何か用?"と首を傾げるのを首を横に振る事で答える。その後もカナタはしばし、ユージオを見ていたが修練場が近づいてくるとすぐに前へと視線を向ける。

 

そこには修練場に続く着替えの為の小部屋があり、それを通り過ぎたユージオは鼻につく不快な香料の匂いに嫌な予感を感じ、前を向く。

 

そこには、広い板張りのどん真ん中に陣取っていた男子生徒二人がユージオとカナタに気づいて振り向き、露骨な渋面を作った。

型の練習だったのか、一人が木剣を振りかぶったままで静止し、もう一人が手足の角度を調整中だったらしいが、二人ともわざとらしく動きで腕を下ろす。

 

"そんなことしなくても、君たちの技なんて盗まないよ"

 

そんな事を思いながら、チラッと隣を向くと苦虫を噛み締めたかのような顔を一瞬したカナタだったが、すぐに表情を押し殺すと修練場の中へと入ってくる。

 

「おや、ユージオ……修剣士とカナタ……修剣士、今夜は二人なのかな」

 

そう声をかけてきたのは、波立つ金髪を長く垂らして、逞しい長身をどぎつい赤の上級修剣士の制服に身を包んでいる男子生徒、ライオス・アンティノスである。

その横には灰色の髪へとべっとりと油を染み込ませて上に持ち上げ、薄い黄色の上級修剣士の制服に身を包んでいる男子生徒、ウンベール・ジーゼックである。

 

ライオスがわざとらしく《ユージオ》と《修剣士》の間を置いたのは、ユージオ達が姓を持たない開拓農民の出である事を。カナタの事は《ベルタの迷子》である事に非を言い立てているのだろう。ここは自分達のような貴族が通うべき所であって、何故学も地もない平民如きが同じ学生なのか、という。

 

「こんばんわ、アンティノス主席修剣士殿、ジーゼック次席修剣士殿。あいにく、キリト修剣士は外せぬ用があり、この場にはおりません。型の訓練中にお声掛けいただきありがとうございます。私とユージオ修剣士は角の方で修練を行いますのでどうかお気にならずに。型の練習を続けてください」

 

そこまで言ったカナタは深々と頭を下げてから、ユージオへと視線を向けてから修練場の奥を見て、もう一度ユージオを見てから歩き出す。

それは遠回しに"これ以上は貴方たちと話す事はない"と言っているような言い草であったが、ライオスとウンベールはいけすかない田舎者が自分達を敬い、頭を下げているのが堪らないのであろう。

忽ち、ニタニタと気味悪い笑みを浮かべるライオスとウンベールの横を背筋をピーンと伸ばし、通り過ぎるカナタの背中を見つめながら、ユージオは心の中で落ち込む。

 

"カナタもキリトも凄いな…それに比べて、僕は……"

 

黒髪の相棒と栗色の髪の親友がさっきのようにライオスとウンベールに嫌がらせをされた時に取る行動は異なっている。

栗色の髪の親友はさっきのように本心とは裏腹に場をかき乱さないよう丁寧な言葉遣いと遠回しな嫌味を含む言葉遣いで切り抜ける。

一方の黒髪の相棒は学院則違反ぎりぎりの線を見極める技術を屈して、挑発的に、反発的に言葉を発し、二人を追い払う。

そして、そんな二人と違い、ユージオはキリトのように学院則違反ギリギリを攻めて二人を追い払う事も、カナタのように丁寧や遠回しに嫌味を言ってのける度胸もない。

 

「ユオは丸太相手に型の練習?」

 

落ち込むユージオに気付いてない様子のカナタが丸太に向き直り、木剣を構えるユージオに話しかける。

 

「うん、今日はキリトは居ないからね。それにキリトが型の練習は意味ないからやめろって言ってたからね」

「あはは、キリらしいや」

 

ケタケタと笑いながら、カナタは何か思いついたかのように左手に持っている木刀を肩にぽんぽんに叩きながら、右親指を自分に向ける。

 

「じゃあ、折角だからあたしが剣術を教えてあげようか?」

「カナタが?」

「ん。教えるといってもキリトの片手直剣スキルじゃなくて刀スキルの方だけどね」

 

そう言ったカナタはユージオへと苦笑いを浮かべると「キリトに比べれると教えるの下手だけどね」と付け加える。

 

"カナタに聞こうと思っていたこともあるから丁度いいかも"

 

「……うん。それならお願いしようかな」

 

そう答えるユージオにカナタはにっこりと笑うとポンと右拳で自分の胸を叩く。

 

「ん、任せて」




002 へと続く・・・


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002 二人のクズと落伍者

引き続き、本編をどうぞ(リンク・スタート)


「少し下がっててね」

 

ユージオは栗色の親友からそう言われ、言われた通りに一歩後ろに下がってから彼女が繰り出す技を見ていた。

 

ーーーーカナタは良い意味でいい加減なんだ。

 

それはいつか、黒髪の心友(しんゆう)が言ってた栗色の親友に対する評価だ。

 

最初、キリトがそう言った時、ユージオは彼が何を言っているのか、理解出来なかった。

だが、故郷のルーリットから央都へと向かう道中、ユージオはキリトが言っていた言葉の真意を知ることになる。

確かにカナタの技の一個一個はキリト、ユージオに比べると乱雑で幼稚なものが多いように思えた。

踏み込みは一つ一つと毎回違い、構え方も決まったものがないように思えた。

技を放つ時は同じ動作なのだが、それに至るまでの動きは毎回毎回適当でいい加減である。

 

ーーーー毎回適当で幼稚。カナタの技はとても完成されているとは言えない。でも、それだけにモーションに入るまでの動作でどの技が来るかが分からない。

 

"確かにキリトのいう通りかもしれない"とユージオは丸太へと続けざまに技を放っていくカナタの立ち振る舞い、足運びを見ながらそう思う。

 

鼓膜を破れてしまうような破裂音。鮮やかな閃光がユージオの目へと電光が走らせる。大地を轟かせ、鼓膜を振動する暴風が頬にぶつかっては亜麻色の髪をさわさわと揺らす。

 

それを放つカナタはまるで水の流れのようにゆらゆらと掴み所のない足運び、身体運びで次々と技を放っていく。

実態のない。得体の知れない。不透明ながらも力強い動作にユージオは息をするのも忘れ、見入っていく。

 

キリトのように起動モーションに忠実で正確なわけではない。

確実さでいうとカナタの技はキリトにもユージオにも劣っているだろう。

だが、彼女はその劣えを技運びで補っている。

 

ユージオはどちらかというとキリトのように繰り返し鍛錬をし、身体に構えやモーションを叩き込むのだが……カナタは違うようだ。否、もう身体自体に染み込んでいるように思えた。

どんな体勢でも確実にモーションへと持っていける腕を、能力を、彼女は持っている。とても自分では真似出来ない。

 

(やっぱり、凄いな……。カナタもキリトも……僕には真似出来ないや)

 

カナタもキリトも唯一無二の物を持っているが、僕にはそれがない。

 

「ユオ?」

 

ユージオは自分の顔を不思議そうに見上げてくる栗色の親友。

蒼の瞳と碧の瞳が交差し、一瞬の逡巡の後にユージオはハッとしたような顔をする。

その顔にニマニマするカナタ。

 

「おやおや。これはユージオ剣士殿はしっかりと技を見ていなかったご様子。これは、もう一回、技をお見せした方がよいかな?それとも、(わたくし)めのようなちんけな技ではユージオ剣士殿の高貴なお目にも止まらないでしょうか?」

 

「よしてくれよ、カナタ」

 

ニヤニヤと笑う栗色の親友に困ったような顔を浮かべるユージオ。

カナタはクスクスと意地悪に笑いながら、近づいていた顔を遠ざけた後でトントンと刃先を木刀を叩く。

 

「ふざけてごめんね。でも、技の方は本当にそう思っているんだよ。どう?もう一回した方がいいかな?」

 

「……ううん。しっかりと技も見ていたよ」

 

「も?つまり技以外にも見ていたということ」

 

そう言って、両手を胸の前でクロスさせるカナタ。しばし、彼女の奇妙な行動にポカーンとしていたユージオだったが、瞬時に栗色の友人が何を勘違いしているかを想像し、パフっと顔から湯気を出しながら大きな声で間違いを正す。

 

「違うって!」

 

「やっぱりチェリーボーイは違うね。視点のつけ方が」

 

うむうむと勝手に納得するカナタにユージオがだんだんムキになっていく。

 

「だから違うって!それにチェリーボーイってなんだよ」

 

顔を真っ赤にするユージオにカナタはケタケタと笑う。

 

「ふふ。冗談だよ。ごめんね。ユオが面白い反応してくれるから、ついついからかっちゃって。しかし、ユオは本当に勉強熱心だよね。毎日毎日、技の稽古を欠かさないなんて。あたしは飽きっぽいから、とてもじゃないけど真似出来ないや」

 

腕を後ろに組みながら、クク…と自傷気味に笑うカナタ。そんな彼女の様子にユージオはいつか感じた栗色の友人がふと見せる裏側を見た気がした。黒髪の友人もだが、この友人もたまにこういった暗い表情を浮かべる。

 

「……そんな事ないよ。カナタもキリトも」

 

「そーかなー。あたしはキリトみたいに正確でもないし、ユージオみたいに愚直に一つのことを続けることもめんどくさくて、とても出来ない。何事も中途半端なんだ。だから、いつも怒られちゃう」

 

「怒られちゃう?誰に?もしかして、同室の娘?」

 

ユージオはカナタがぽろりと零した"怒られちゃう"というセリフに怪訝そうな声をあげる。

ユージオが知る限りだが、カナタへと怒声をあげる人物など居なかったように思えるが。

同室となった貴族の女子生徒や他の女子生徒たちとも仲良く話しているし、上手く立ち回っているように見えたのだが……。

やはり、自分の知らないところで彼女も何か苦労をしているのだろうか。

 

ユージオは笑顔から苦虫を噛み潰したかのような表情にシフトチェンジしているカナタを見つめる。

その瞬間、ユージオはやっとカナタの裏側が見えるような気がした。

 

「ああ……んー、まー。そんなとこ」

 

だが、そう簡単に見えるものでないらしく、渋い顔でそう言ったカナタはパッと表情を変える。そして、まだ悪戯っ子のような顔を浮かべて、ユージオへと視線を向ける。

 

「そんな事よりも。ユオ。さっきからあたしになにか聞きたそうだけど、何かな?」

 

「……え?」

 

ユージオははぐらかされてしまったと思う。

折角、この栗色の友人の本質的なところが分かるエピソードだったかもしれないのに……。

少ししょんぼりしてしまいそうになるのをグッと耐え、ユージオはこの訓練何処かで聞きたいと思っていた質問をカナタへとぶつけるのだった。

 

「カナタは剣に何を込めてるの?」

 




 003へと続く・・・・


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閑話ーsubー
001 バッカスジュースの嫉妬


この回は、しばらく記憶の失ったシノの話が続き…百合要素が不足することへのお詫びと、お気に入り登録・100名を突破したことに対する感謝の気持ちを伝えたくて書いたものです。

元となっている話は、この〈ホロウ・フラグメント〉の前の〈インフィニティ・モーメント〉であったイベントで、この回もそのイベントに沿って書いております。

そして、この話はヒナタとフィリアが76層の街へ帰ってきて、数ヶ月後をイメージして書いてます。

では、百合ん百合んなヒナタとシノンにキュンキュンして下さい!




※4/11〜誤字報告、ありがとうございます!




ーーーこの話で出る人物ーーー

◎カナタ/ 香水 陽菜荼
本作の主人公。
シノンとはリアルで幼馴染であり、恋人でもある。シノンのことを二人の時は『シノ』と呼び、再開した後はシノンに多いに甘えている。

◎シノン/ 朝田 詩乃
本作のメインヒロインであり、もう一人の主人公。
カナタとはリアルで幼馴染であり、恋人でもある。カナタのことを二人の時は『ヒナタ』と呼んでいる。再開した後に甘えてくるカナタには手を焼かれつつも、頼ってくれることが嬉しい様子。

◎キリト/???
シノンとカナタを助けてくれた凄腕の剣士であり、原作での主人公。
全身、真っ黒な装いから『黒の剣士』と周りの人から呼ばれている。実力はSAOの中で一番で、ユニークスキル『二刀流』の所有者。アスナとは婚約している。

◎アスナ/???
SAOの中で最強と名高い血盟騎士団の副団長を務めている。また、美しくも早く剣捌きから『閃光』の二つ名がある。実力は折り紙つきで、キリトと婚約している。

◎リズベット/???
アスナの親友で、鍛冶屋を営む少女。鍛冶への情熱は凄まじく、手加減も知らない。そのため、彼女の店へと足を運ぶ攻略組が多い。キリトへ片思い中

◎シリカ/???
このSAOで珍しいビーストテイマーの少女。彼女の周りには、いつもふわふわな水色の羽毛が特徴的な小竜・ピナが羽ばたいている。キリトへと片思い中

◎リーファ/???
キリトの妹で、現実で剣道を習っているため、実力は折り紙つき。ある事件で助けてもらったカナタへと恋心を抱く。

◎フィリア/???
『ホロウ・エリア』に閉じ込められていた少女。共に、死地を乗り越えてきたカナタへと恋心を抱く。

◎ユイ
キリトとアスナの娘を名乗る幼い少女。

ーーーーーーー


コンコンと部屋をノックする音が聞こえ、続けて、聞き慣れた声がドア越しから聞こえてきた。

 

『カナタ、少しいい?』

 

凛とした声の中に幼なさが混じっているーー間違いなく、詩乃の声だ。

 

“ん?シノ?”

 

こんな時間にどうしたんだろうか?

あたしからこの時間に彼女の部屋へ尋ねることは多々あるが…いや、毎日寝る前には彼女の部屋へとお邪魔しているが、その逆というのは本当に珍しい。

 

“なんか、急な用事でも出来たのだろうか?”

 

「どうぞ〜」

 

あたしの声で、ガチャと鍵が外れる音が聞こえて、ドアの向こうからひょっこりと焦げ茶色のショートヘアが姿を現す。同色の大きな瞳が此方を伺うように見ている。

 

“本当にどうしたのだろうか?”

 

彼女がこんな目をすることは稀で、あたし自身、今まで彼女と接してきた中で見たことない。まず、あたしよりも彼女の方が堪忍強いし、大人びている。そんな彼女が、こんな目をするとは一体、何が起きたというのだろうか?

 

「シノがあたしの部屋に尋ねてくるなんて、珍しいね〜。ほとんど、あたしが出向くのに」

「えぇ、そうね。ねぇ…ヒナタ、今から少し時間ある?」

 

彼女らしくないモジモジした感じで尋ねてくるシノに、いよいよあたしは心配になるが、顔を見た限り異常がないように見える。なので、あたしは頷くと答える。

 

「ん、あるよ。なくても…シノの滅多にないお願いだもん。何があったって付き合うよ」

「ッ、あなたって人は…もうっ。……誘おうか、迷ってた私がバカみたいじゃない…」

 

頬を真っ赤にして俯いて、何かをつぶやいているシノに首をかしげるあたし。そんなあたしの方を見て、シノは本来の彼女らしい表情になると、下を指差す。

 

「シノぉ?」

「…私のお願いは、下の酒場で限定メニューがでたらしくて、それをヒナタと食べたいって思ったのよ」

「へぇー、限定メニュー?どんなのだろう〜、メンチカツとかあるかな〜。すっごく楽しみ!早くいこ!シノっ!!」

 

椅子から立ち上がったあたしは、シノの左手を掴む。そんなあたしにシノは慌てた様子で注意するが、あたしの言い分に納得すると微笑む。

 

「ちょっ、ちょっとぉヒナタ。そんなに引っ張らなくても、メニューは逃げないから」

「でも、売り切れるかもしれないよ?」

「そうね、いきましょうか?」

「ん!」

 

あたしは掴んでいた手を、恋人つなぎへと変えると下の酒場へと歩いて行った……

 

 

γ

 

 

酒場の右側、一番奥の方の席に腰掛けているのが…白と赤を基調とした騎士服に身を包む、腰まで伸びた栗色の髪の少女・アスナと黒い戦闘着に身を包む黒髪の少年・キリトであった。

アスナは目の前に届いたパスタを口に含むと、笑顔を浮かべる。

 

「NPCレストランにしてはいいじゃない。すごく、おいしい」

「へぇ〜、アスナが言うんならよっぽどだな。それ、何?」

 

キリトも自分のパスタを口に含みながら、アスナへと問いかける。

 

「〈きのこのクリームパスタ〉だよ。キリト君もひとくち、どうぞ」

「ま、マジで?じゃあ、一口…」

 

アスナのパスタへとフォークを伸ばすキリト。そのキリトのパスタへとアスナも手を伸ばす。

 

「じゃあ、わたしもキリトくんのもらっちゃお〜」

「んっ!うまい…後を引くおいしさだ。もう一口…」

「ふふふ、いいよ。食べて…」

 

変わらずに、甘い雰囲気を醸し出す二人の対局線の席に腰を下ろしているのが…赤と黄緑色を基調とした戦闘着に身を包んだ焦げ茶色の少女・シノンと橙と黄色を基調とした戦闘着に身を包んだ癖っ毛の多い栗色を持つ少女・カナタである。

どうやら、二人もキリトとアスナと同じメニューを選んだらしかった。

 

「ん〜っ、これおいしいよ!シノ。一口食べてみる?あ〜ん」

 

ニコニコと満面の笑顔を浮かべているカナタが、シノンへと自分のパスタを差し出している。それを周りを気にしながら断ろうとしているシノンだが、カナタの言葉にとうとう負けてしまい、口を開ける。

 

「…ちょっ。それは…さすがに恥ずかしいからっ、やめて」

「大丈夫、大丈夫。誰も見てないよ、だから、あ〜ん」

「……あっ、あ〜ん。ん!あっ、おいしい…」

 

放り込まれたパスタを噛んだシノンは、目を丸くする。そして、そんなシノンを見たカナタが今度は自分の番といった感じで、親鳥から餌をもらうのを待つ雛鳥みたいに大きな口をシノンへと向ける。

 

「でしょ?だから、あたしにもシノのちょうだいっ。これは立派な物々交換ってもんですよ。あ〜んも同様にお願いします、シノさん」

「はぁ〜、最初からそれが目当てだったのね…。いいわ、その物々交換とやらに乗っかっちゃったのは、私なんだからね。はい、ヒナタ、あ〜ん」

 

嘆息を尽きつつも、シノンの顔には笑顔が浮かんでいた。まるで、手がかかる妹を世話するようにフォークをカナタへと差し出すと、満面の笑顔を浮かべるカナタに微笑みかける。

 

「ん。シノのもおいしいねっ、もう一口ちょう〜だいっ♪」

「はいはい。あ〜ん」

「あ〜ん。ん〜っ、おいしいっ」

「よかったわね、ヒナタ。じゃあ、今度は私の番ね」

「ん、はい。シノ、あ〜ん」

「あ〜ん」

 

こちらの席も変わらずに、甘い雰囲気を漂わせていた…

 

 

γ

 

 

そして、そんな二席が見える席へと腰をかけているのが四人の少女達だ。二席の様子を黙って見ていた少女達は、誰ともなく気まずそうな…羨ましそうな表情を浮かべる。

四人のうち、まず声を出したのは…四人掛けテーブルの前側の左側へと腰掛けている茶色の髪をツインテールにしている少女である。赤と黒の二色を基調とした戦闘着に身を包んだ小柄な少女の名前はシリカで、いつもは彼女の周りにふわふわな水色の羽毛がかわいいドラゴンが羽ばたいている。そのドラゴンの名前はピナといい、シリカの親友で大事なパートナーである。そんなパートナーの姿が見えないところを見ると、部屋の中で留守番をしてもらっているのだろう。

そして、そんなシリカだが、複雑な表情を浮かべて…二つの席を交互に見ている。

 

「…あの二組、仲いいですね…。キリトさんのところは当然と言えば、当然ですけど…」

 

そんなシリカの声に頷いたのは、シリカの隣に座る桃色のショートヘアとウェートレスみたいな服に身を包んだ少女・リズベットである。この四人の少女たちの中で、自分の店を鍛冶屋としてもっている。鍛冶屋としての誇りと腕は、確かで多くの攻略組が彼女の店へと顔を出している。

そして、そんなリズベットもシリカと同じというよりも呆れを多く含んだ表情で、二席を眺めている。

 

「でも、それ以上に向こうの方がイチャついてるわね…。周りにいる人たちが気まずそうで、少し同情するわね…」

 

そんなリズベットのどこか冷たい声にうなづいたのは、リズの向かい側に腰掛ける金髪をツインテールにしている少女である。白と黄緑色を基調とした戦闘着からは成長しすぎた二つの双丘が、彼女が身動きする度に上下に揺れる。そんな少女の名前はリーファで、彼女も苦笑いを浮かべながら…主に、カナタとシノンの方へと視線を向けている。

 

「あはは…、本当ですね。しかし、シノンさんとカナタさんって本当に幼馴染だけなんですかね?あの仲の良さは…それだけじゃないような…」

「なあに?リーファ、嫉妬?」

 

リズベットが意地悪な感じで、そう問うとリーファは顔を真っ赤にして否定する。

 

「ちちちちっ違います!べっ、別に気になっただけで…それ以外に下心なんて…」

「はいはい、わかってるわよ〜。気になっただけよね〜」

「絶対、わかってないですよね…その言い方…」

 

頬を膨らませるリーファの隣には、項垂れるように机に伏せている金髪をショートヘアにしている少女が腰掛けている。青と水色を基調とした戦闘着に身を包んだ少女は、羨ましそうにカナタとシノンが腰掛けている席へと視線を向けてはブツブツと呟いている。

 

「……もう、あんなに仲良くしちゃって…。いいなぁ…わたしも、カナタにあ〜んしたい…」

 

その呟きが聞こえたらしいリズベットとリーファが苦笑いを浮かべて、二席へと視線を向けては他の二人へと視線を向ける。

 

「…フィリアに至っては、嫉妬どころか欲望が出ちゃってるわね…」

「でも、そうですね…。あの二組…特に、カナタさんのところに入っていくのは疲れそうですね…。……あたし、あそこに入っていくほど勇気出ないし…、でも…あたしもカナタさんとあ〜んしてみたかったなぁ…」

「えぇ、あたしもあの二人の中には入りたくないわ。だから、あたしたちはあの二組をここから生暖かい目で見てあげましょう。それで異論ないわよね、シリカ、フィリア?」

 

そんなリズベットの言葉に、他の二人ーーシリカとフィリアがどこかトロンとした視線で大きな声を出す。そんな二人にリズベットとリーファが目を丸くする。

 

「いえ、異論あります!」

「うん、異論ありだよ!」

「シリカ?」

「フィリアさん?」

「あたしたちはおおいに異論ありありのましましですよ!」

「そうだよ!なんで、遠くから見ていないといけないの!」

 

異常なテンションの二人の元に置かれてある、ある飲み物へと視線を向けたリズベットが声を上げる。

 

「はっ。あんたたち、もしかしてバッカスジュースを飲んだのね!」

「バッカスジュースは、ステータスではなくプレイヤー本人の感覚信号を強化して、一定時間運動能力を増加させるアイテムです。ただ、信号強化状態がプレイヤーに擬似的な酩酊感を発生させてしまうので正式サービスには採用されなかったはずなのですが…」

「ユっ、ユイちゃん!?いつの間に!?」

 

突然、側に来ていた長い黒髪に、白いワンピースといういでたちの少女・ユイにリーファが驚きの声を上げる。

 

「このシステム異常で、なぜかレストランのメニューに並んじゃってるのよね……」

 

リズベットの声を遮って、フィリアがたんと机を叩いて、声を荒げる。

 

「そんなことより!!私たち、なんのために76層にいるって思ってる!?」

「いや…戻れなくなったからでしょ…」

「違いますっ!もう、ぜんっぜん違う!だから、お二人は甘いっていうんです!」

「そう!すっごく甘い!リズとリーファは甘すぎるよ!」

「どっ…どうします?リズさん…この二人…」

「えぇ、手につけられないわ…」

 

頬を染めて、怒涛の攻め口で二人を追い詰めて行くシリカとフィリア。リズベットとリーファは困った顔をして、顔を見合わせる。アイコンタクトで話し合った結果としては、〈まぁ、二人の好きなようにさせよう〉ということだった。

 

「受け身の姿勢でいてもなにも変わりません、もっと攻めなきゃだめですよ!花の命は短いんです!!」

「そうだよ!シリカの言うとおり、私たちはもっと攻めなきゃいけないの!じゃないと、いつまで経っても、意中の相手はこっちを向いてくれないの!」

「あたし、キリトさんのところに行ってきます!」

「わたしもカナタのところ、行ってくる!」

「え?あ…」

「行っちゃいましたね…」

 

そして、好きなようにさせようと二人をほっといた結果、二人はそれぞれの想い人のところへと向かってしまった。その後ろ姿を見ながら、リズベットとリーファは二人がいい戦果を持ち帰ってくることを願った…

 

 

τ

 

 

数分後、それぞれの席から帰って来た二人にリズベットとリーファが声をかける。すると、微笑みながらシリカとフィリアがそれぞれの戦果を報告する。

 

「…おかえりなさい。シリカちゃん、フィリアさん」

「で、戦果は?」

「〈クリームパスタ〉おいしかったです」

「わたしも食べさせてもらったよ。おいしかった」

 

その戦果に、ズコっと倒れるリアクションを取ったリズベットが、二人へと呆れた声を出す。

 

「なんであんたたちまで、食べさせてもらってるのよ!そうじゃなくて、キリトやカナタをかっさらってくるぐらいのことをしに行ったんじゃないの?」

「敵が硬くて…攻撃が通りません…」

 

そう答えたシリカの赤い瞳に涙が溜まる。その様子に、リズベットは頷く。

 

「まあ、だよね…。キリトのヤツ、かなーり鈍いから。で、フィリアの方は?」

「わたしの方は攻撃は通るんだけど…。トドメを刺そうと思うと…邪魔されるっていうか…懐に入るまでに、強力な壁によって攻撃が弾かれるというか……」

 

そう答えたフィリアの水色の瞳にも、シリカと同様に涙が溜まっている。そして、フィリアの答えにリズベットとリーファはある少女を思い浮かべて、苦笑いを浮かべる。

 

「ああ〜」

「……確かに、あのシノンさんから、カナタさんを奪うなんて無理ですよね」

「うぅ…、そういうこと…」

 

溢れそうになる涙を溜めつつ、シリカとフィリアはリズベットとリーファへと向き直ると

 

「ううう…みなさんっ。あたしたちはこの世界に数少ない女子同士」

「仲良くして行こうね…」

 

と言うと…シリカはリズベットへと、フィリアはリーファへと抱きついた。

 

「おー、よしよし…」

「フィリアさん、大丈夫ですか?」

「リーファ〜。わたし、頑張ったんだよ〜」

「はい、わかってますよ。フィリアさんは頑張ってましたよ」

 

 

 

 

 

ー『バッカスジュースの嫉妬』完ー

 




ーウラバナシー

・キリトとアスナの元へ向かったシリカですが、果敢に攻めるもキリトが鈍感なため…撃沈。しかし、キリトからもらったパスタは美味しかった様子です。

・カナタとシノンの元へと向かったフィリア。カナタはフィリアの顔が赤いことと目が潤んでいることから→熱がある→風邪と考え、おでこに手を添えて熱を測ろうとしたが……シノンのヤキモチによる攻撃・足踏みにより、手を引っ込める。その後も、フィリアが攻めてもシノンの邪魔により…撃沈。しかし、カナタからもらったパスタは美味しかった様子です。

ーーーーー

※このウラバナシは私が勝手に考えて、解釈したものですので…原作とは異なっております。


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002 バッカスジュースの嫉妬 +α

最初は前の話と同じですが…最後の方が展開が違いますので、前の話との違いを楽しみながら

ご覧ください、では 本編をどうぞ!



6/29〜間違っていたところを直しました



コンコンと部屋をノックする音が聞こえ、続けて、聞き慣れた声がドア越しから聞こえてきた。

 

『カナタ、少しいい?』

 

凛とした声の中に幼なさが混じっているーー間違いなく、詩乃の声だ。

 

“ん?シノ?”

 

こんな時間にどうしたんだろうか?

あたしからこの時間に彼女の部屋へ尋ねることは多々あるが…いや、毎日寝る前には彼女の部屋へとお邪魔しているが、その逆というのは本当に珍しい。

 

“なんか、急な用事でも出来たのだろうか?”

 

「どうぞ〜」

 

あたしの声で、ガチャと鍵が外れる音が聞こえて、ドアの向こうからひょっこりと焦げ茶色のショートヘアが姿を現す。同色の大きな瞳が此方を伺うように見ている。

 

“本当にどうしたのだろうか?”

 

彼女がこんな目をすることは稀で、あたし自身、今まで彼女と接してきた中で見たことない。まず、あたしよりも彼女の方が堪忍強いし、大人びている。そんな彼女が、こんな目をするとは一体、何が起きたというのだろうか?

 

「シノがあたしの部屋に尋ねてくるなんて、珍しいね〜。ほとんど、あたしが出向くのに」

「えぇ、そうね。ねぇ…ヒナタ、今から少し時間ある?」

 

彼女らしくないモジモジした感じで尋ねてくるシノに、いよいよあたしは心配になるが、顔を見た限り異常がないように見える。なので、あたしは頷くと答える。

 

「ん、あるよ。なくても…シノの滅多にないお願いだもん。何があったって付き合うよ」

「ッ、あなたって人は…もうっ。……誘おうか、迷ってた私がバカみたいじゃない…」

 

頬を真っ赤にして俯いて、何かをつぶやいているシノに首をかしげるあたし。そんなあたしの方を見て、シノは本来の彼女らしい表情になると下を指差す。

 

「シノぉ?」

「…私のお願いは、下の酒場で限定メニューがでたらしくて、それをヒナタと食べたいって思ったのよ」

「へぇー、限定メニュー?どんなのだろう〜、オムライスとかあるかな〜。すっごく楽しみ!早くいこ!シノっ!!」

 

椅子から立ち上がったあたしは、シノの左手を掴む。そんなあたしにシノは慌てた様子で注意するが、あたしの言い分に納得すると微笑む。

 

「ちょっ、ちょっと!ヒナタ。そんなに引っ張らなくても、メニューは逃げたりしないから」

「でも、売り切れるかもしれないよ?」

「確かにそうね。それじゃあ、早くいきましょうか?」

「ん!」

 

あたしは掴んでいた手を、恋人つなぎへと変えると下の酒場へと歩いて行った……

 

 

 

 

γ

 

 

 

「ん〜っ!!このオムライス、すっごく美味しいよぉ〜!最初は、オムライスにクリームソースをかけるなんて外道って思ったけど…これはこれでいけるっ!こんなに美味しいと、他のオムライスも食べてみたくなるなぁ〜」

「ふふふ、良かったわね、ヒナタ。私もヒナタに喜んでもらえて、誘ってよかったって思うわ」

 

下にある酒場の右端にある席に腰掛けているのが、肩までで切りそろえている癖っ毛の多い栗色の髪を首の後ろで結んで、華奢な身体を黄・橙系統の着物で隠している少女・カナタで、そのカナタの向かい側に腰掛けるのは焦げ茶色の髪をショートヘアーにして、赤・黄緑・黒の三色で構成させている複雑な戦闘着に身を包む少女・シノンである。

空のように透き通った蒼い瞳を子供のようにキラキラさせて、パクパクとトロ〜とした白いクリームソースが掛かっているオムライスを口いっぱい頬張っては、ハムスターのように頬を膨らませてはモグモグと咀嚼していくカナタの頬にクリームソースが付いてることに気付いたシノンは、口元を右手の甲が隠すとクスクスと笑う。そんなシノンに小首をかしげるカナタは、本当に自身の左頬にクリームソースが付いてることに気づいてない様子だった。

 

「むぐもぐ」

「あっ…ふふふ」

「もーぐむぐ?」

「ヒナタ、そのままじっとしていてね」

「?」

 

シノンはカナタに動かないでと指示すると、左頬に付いたクリームソースを手に持ったハンカチで拭きとっていく。吹かれている方の目を瞑っているカナタは拭き終わって、席に座ったシノンへとにっこり笑ってお礼を言う。

 

「はい、これで良し」

「えへへ〜♪あんがと、シノ」

「どういたしまして」

「ーー」

「どうしたの、ヒナタ?」

 

シノンが目の前に置かれているカルボナーラを食べようとフォークを手に持った瞬間、カナタがカルボナーラをじっと見ていることに気づいたシノンはカルボナーラを一口サイズに掬うとカナタへと差し出す。

 

「…シノ?」

「食べたかったのでしょう?さっきからチラチラ、私の見てるし…そういえば、ヒナタってパスタ類も好きだったものね。はい、あーん」

「あはは…。シノにはバレバレか…。…あーん」

 

カナタは癖っ毛の多い栗色の髪を照れ臭そうにかくと、差し出されたフォークをパクッと口に咥える。そして、モグモグと口元を動かすと目をまん丸にする。

 

「どう?美味しい?」

「んっ!んんっ!!」

 

蒼い目をまん丸にするカナタに微笑みかけたシノンの問いかけに、カナタは首を折れそうなくらいの勢いで首を縦に振る。そして、自分の分のオムライスを掬うとシノンへと差し出す。

 

「はい、これ。とっても美味しかったから…シノにお裾分け。あーん」

「ふふふ、ありがとう。頂くわね、あーん」

 

クリームソースの付いたオムライスを咀嚼したシノンは髪と同色の瞳を丸くすると、カナタへと話しかける。

 

「ヒナタの言ってた通りで美味しいわね、このオムライス。卵のトロトロ具合も丁度いいし」

「ね?こんなに美味しいと…自分で作ってみたくなるよねぇ〜」

「あと少しで料理スキルコンプリートしそうだから。味を覚えてる範囲で、また作ってあげるわよ」

「え!?本当!?あたし、シノのオムライス大好きだから…すっごく楽しみ!!」

 

子供のようにはしゃぐカナタを慈愛に満ちた表情で見ながら、シノンはカルボナーラをまた一口サイズに掬うとカナタへと差し出す。それをパクッと食べたカナタが、またシノンへとオムライスを差し出すのをーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー遠くの席で眺めている集団がいた。

甘々な雰囲気を漂わせて、自分たちの世界に入る二人は恐らく周りで気まずそうにしている人たちの事を目に入っていないことだろう。

 

「なんか、凄いな、あの二人」

「うん、そうだね。普通の友達って話だけど…もしかしたら、違うのかも」

「違うでしょう、それは。あんたたち以上のラブラブっぷりよ?あんたたちもあの二人に負けないくらいラブラブしないとっ」

「もう!リズゥ」

「ごめんって…アスナ。だから、そんな目で睨まないでって」

 

二人の方を見たまま、呆気にとられた様子の短い黒髪にナイーブな印象を受ける黒い瞳。そして、身につけてる服装も黒ずくめという少年・キリトは共にフィールドを駆ける相棒の意外な一面を見て、空いた口が塞がらないようだった。それは、隣に座る恋人の少女も同じなようで…キリトの言葉に頷きながら、二人のイチャイチャをはしばみ色の瞳をまん丸にして見ている。腰まで伸びた栗色の髪に、赤・白の騎士服が特徴的な少女・アスナの漏れ出た言葉に茶々を入れたのは桃色のショートヘアーにウェイトレスみたいな真っ赤な服装が特徴的な少女・リズベットである。リズベットの茶々を聞いて、頬を染めて茶々を入れた張本人を睨むアスナにリズベットはごめんごめんと両手を合わせる。

 

「しかし、凄いですね…カナタさん。オムライス、もう一皿食べるみたいですよ」

「シリカ、注目するのはそこかな?」

 

シノンと食べさせあいっこしているカナタはどうやら、一皿では足りなかったらしく…もう一皿、注文するとおやつを待つ子供のようにパタパタと足を動かしては…シノンにはしたないと注意されている。それを遠くの席から見ていた肩にふわふわの羽毛を持つ水色の小竜を乗せた茶色い髪をツインテールにしてる少女・シリカは純粋にあのほっそりした身体でオムライス二皿分食べれるのか?と不安に思っている様子だった。そんなシリカの不安に賛同しつつも、シリカの隣に腰掛けた白銀のふわふわとふるやかにカールしてる髪に、何処かトローンとした雰囲気を漂わせる少女・ルクスがつっこむ。そんなルクスの隣の席には、甘々な雰囲気の二人を呆れたような…羨ましそうに見つめる三人の姿があった。

 

「やっぱり、カナタさんとシノンさんは仲良いですよね」

「まぁ、あの二人だものね。これくらいは仕方ないわよ」

「でも、いいなぁ〜、シノンちゃん。私もカナタ君にあーんしたい」

「あはは、レインさんはブレないですね」

 

まず、ルクスの左隣にいるのが…金髪をツインテールにしてる少女・リーファで、黄緑色の瞳を二皿目のオムライスを幸せそうに頬張るカナタへと向けている。そんなリーファの隣にいるのが、青いマントに水色の戦闘服が特徴的な少女・フィリアで足を組み、机に立てた左手を頭を乗っけながら…ラブラブなシノンとカナタを見ては、呆れたような表情を浮かべる。そんなリーファとフィリアの向かいには、可愛らしい羽のついた帽子を頭にちょこんと乗っけた吟遊詩人みたいな服装が特徴的な少女・レインが腰掛けている。レインは、オムライスを夢中で食べているカナタをうっとりした様子で見ているとポロっと願望が漏れ出てしまう。それを聞いたリーファは、あははと乾いた笑いを浮かべて…レインを見た。

其々が其々に、仲間2人のラブラブっぷりに目を逸らして…目の前にある〈とある飲み物〉を口に含んだ瞬間、その集団の雰囲気がガラッと変わった。ガラガラと音を立てて、カナタとシノンのところへ向かう女性陣を、ただ一人その〈とある飲み物〉を口に含まなかったキリトが呆然とした様子で見る。

そして、何処か酔った様子の女性陣にキリトはこの飲み物がなんなのかを悟り…ゆっくりとそれを机へと置いた。

 

「まさか…店員のオススメのドリンクがバッカスジュースだったとは…」

「バッカスジュースは、ステータスではなくプレイヤー本人の感覚信号を強化して、一定時間運動能力を増加させるアイテムです。ただ、信号強化状態がプレイヤーに擬似的な酩酊感を発生させてしまうので正式サービスには採用されなかったはずなのですが…」

「ユっ、ユイ?いつの間に!?」

 

キリトの独り言にひょっこりと顔を出して説明するユイは、ひどくにぎやかになった右端の席に視線を向けると、キリトへと問いかける。

 

「パパはカナタさんやママ達のところに行かなくてよかったのですか?」

「あぁ、パパはいいんだ。ママ達も女性だけで話したいことがあるだろうしな。そうだ、ユイ。パパとあっちで遊ぶか?」

「わーい!じゃあーー」

 

ユイに連れられて、階段を登るキリトは相棒へエールを送る。

 

“カナタ…頑張れ”

 

と……

 

 

 

 

 

ーまさかの続ー

 




ということで、キリトさんがユイちゃんと離脱した今 ヒナタハーレムを邪魔するものは居ません!
さぁ、皆さん 存分にヒナタをデレされちゃって下さい!

それでは、次をお楽しみに、です(笑)


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003 バッカスジュースの嫉妬+α

さて、まさかの続編となってしまった+α編ですが…今回は酔っ払った女性陣がカナタのところに訪れるところから始まります。

キリトとユイちゃんが居なくなった今、カナタと彼女たちの間を邪魔するものは居りません!
さぁ、女性陣の皆さん ここまでデレデレされられた分の仕返しをカナタへと思う存分、ぶつけちゃってください!!(笑)

それでは、本編をどうぞ!!


「カァ〜ナタッ!」

「うわ!?」

 

後ろから突然抱きつかれて、癖っ毛の多い栗色の髪と空のように透き通った蒼い瞳が特徴的な少女・カナタは危うく、スプーンに乗っけている今度はきのこの入ったトマトソースのオムライスを落っこちそうになる。おっとと、とバランスを取りながら、なんとか落とさずに皿の上にスプーンを置けた際に思わず「ふぅ〜」と溜息をついたカナタは、右腕へと抱きつきながらスリスリと右肩に顔を摺り寄せる金髪碧眼の少女・フィリアへと微笑を浮かべながら、甘えてくるフィリアの頭を優しく撫でると注意するような口調で言う。

 

「もう、フィー。抱きついてきたりするのは嬉しいけど、今は食事中なんだから…。あんな思いっきり抱きつかれたら、流石に驚く。今度は声をかけてから、ね?」

「だって、今カナタにくっつきたかったんだもん〜」

「だってってーー」

 

“あれ?今日のフィー、なんか変だな?”

 

呆れたような口調でそこまで呟いたカナタは、頬を膨らませてこっちを睨んでくるフィリアの表情がいつもと違うことに気付く。いつもはしっかり者という雰囲気というか、凛々しい感じを受ける水色の瞳が今はとろ〜んとしている。眠たそうな感じで開かれた瞳の端には少しだけ涙が溜まっており…頬を赤く染めて、そんな瞳で上目遣いしてくるフィリアがカナタには妖艶に映った。小さく呼吸を繰り返す艶っぽい光を放つ桜色の唇に思わず視線が向いてしまい、ゴクリと生唾を飲んでしまう。そのまま、その光に導かれるようにカナタはフィリアの唇へと顔を近づけていきーーあと、一センチでくっ付くといった所でハッとしたように顔を離して、勢い良くフィリアから顔を逸らす。首を傾げるフィリアを視界の端に捉えながら、 カナタは首をブンブンと振る。

 

“いかん。あたし…今、フィーに何をしようと!?”

 

普段とは違う雰囲気を漂わせたフィリアに理性が一瞬で吹っ飛び、危うく恋人の前で他の女性とキスするところだった。カナタは胸に手をおき、心の中で“今度は惑わされない…惑わされない…”と念じて、フィリアへと向き直ろうとして、自分目掛けて近づいてくる大勢の女性陣にギョッとする。

先頭を切って、カナタとフィリアへと近づいたリーファは滑舌の回ってない感じでフィリアを怒ると、左腕へと抱きついてくる。驚くカナタへ密着しようして、ムギュと胸を押し付けてはフィリアと同じようにスリスリと甘えてくる。両腕を塞がれたカナタは、次々と現れる女性陣に忽ちに埋められていった。

 

「あぁ〜!フィリアさんずるいですよ!あたしもカナタさんに抱きつきたいです」

「リー?へっ、みんなどうしーー」

「ーーリーファやフィリアばかりずるいです。わたしもカナタ様に甘えたいです!」

「カナタさん、あたしも〜」

「えへへ〜。カナちゃんの匂いって…とっても落ち着く」

「アスナの言う通りだわ。この匂いは癖になるわね」

「あぁ!みんな、ひどい!私もカナタ君にスリスリする!」

「わっ!わわぁ!?」

 

驚きの声を上げるカナタの両腕にはフィリアとリーファが、思い思いに両肩へと顔を近づけては甘える子猫のようにスリスリと顔を摺り寄せている。そして、両膝の上にはシリカとアスナが乗っかっており、カナタの胸元に顔を押し上げてはスゥースゥーと香りを楽しんでいる様子だった。続けて、他のリズベット・ルクス・レインは後ろ側からカナタへと抱きついては、匂いを嗅いだり密着しようと身体を押し付けたりと思い思いの行動を取る。

そんな大勢の女性に囲まれて、ハーレム状態を満喫してるようにも見えるカナタは自分を取り囲む女性陣を見渡しは、冷や汗が一滴、二滴と頬を流れる。それくらい、カナタの置かれた状況は危ないものだった…。とろ〜んとした瞳と赤い頬で子猫のように甘えてくるみんなは、とても可愛らしくかつ妖艶だった。目で追わないと心に決めつつも、女性陣が取る一つ一つの行動が何故か色っぽく映り、自然と生唾を飲み込んでしまい…その都度“あたしは何をしてるんだッ!”と自己嫌悪と罪悪感に苛まれる。カナタはみんなから視線を逸らすと、ゆっくりと目を閉じて…考えをまとめる。

 

“あかん。これは非常にヤバイ状況だ…。みんな、目がとろ〜んとしてるし…普段は頼りになるアッスーもリトもこの状態。このままじゃあ、あたし 本気でみんなに食われかねないーーというか、その前にあたしの理性が壊れる!”

 

こうなったら、一番頼りにしてる恋人にこの状態を助けてもらうしかないと思い、カナタは目を開き、目の前にいる最愛の恋人・シノンへと懇願の眼差しを向けるがーー

 

「シノ助けーーって、居ないしッ!!!」

 

ーーさっきまでいた恋人の姿は無く、もぬけの殻となった椅子のみがこの騒ぎの中、物静かに鎮座してあった。カナタは、グッと泣きそうになるのを我慢して、暫くの間は女性陣に揉みくちゃにされていた。その際に思ったことは、シノンには決して言えないが思わざるおえなかった…

 

“シノの裏切り者ぉーーー!!!”

 

 

γ

 

 

一方、件のシノンはフィリアがカナタへと抱きつき、みんながこっちに向かっていることに気付いて、カルボナーラを手に持つと茶色のフードを被っている知り合い・アルゴの近くへと腰を落とすと、騒がしい右端の席へ視線を向けながら、カルボナーラを優雅に足を組んで口に含んでいた。そんな落ち着き払った感じのシノンを珍しいものを見るような感じで見つめているアルゴに、シノンは片眉を動かして、アルゴに問いかける。そうすると、アルゴは肩を竦めると騒がしい右端の席ーーシノンの恋人・カナタのいる席を指差しながら言う。

 

「シーちゃん、カー坊のところにいなくてよかったのカ?」

「えぇ、まぁね」

 

シノンは女性陣に囲まれて固まるカナタを見ながら、肩を上下に動かすとカルボナーラへと視線を落とす。そんなシノンの様子にアルゴは心底驚いた様子だった。

 

「驚いたゾ。シーちゃんはカー坊と片時も離れたくないのかとオネーサンは勝手に思っていたからナ」

 

カルボナーラをフォークでクルクル巻き取りながら、シノンは淡く微笑みながら、アルゴの問いに答えていく。確かに、最初の頃はカナタをフィリアやルクスなどに取られると思ったが、カナタはどんな事があってもシノンの事を愛してると言ってくれたし、一番に思ってくれていた。それはシノンも同じで、カナタの変わらない気持ちがとても嬉しかった…ので、あまりカナタを縛るのはやめようと決めていたのだった。カナタには、カナタの関係の築き方があるだろうし…この世界に来てから、判明されつつある〈無意識女たらし〉の件もこうも日常茶飯事だと相手につっかかるのも疲れるし、カナタもシノンを悲しませないように(?)行動してるようだし…まぁ、少し羽を伸ばすくらいいいかと多めにみている。

 

「…最初は取られるかもって不安にもなったけど。私はどんなカナタも愛してるし、信じているもの。だから、今はみんなにカナタを譲るわ」

「にゃハハハ。シーちゃんは優しいナ〜、そんなシーちゃんを恋人にしたカー坊は果報者だナ」

「まぁ、本当に浮気しようものなら…いくら、カナタでも許さないけどね。矢を身体中に突き刺さないと気が済まないと思うわ」

 

女性陣に囲まれて、赤く染まっているカナタを一瞥して、シノンは目の前にいるアルゴへとウィンクすると、もぐもぐカルボナーラを食べる。そんなシノンのウィンクに苦笑いを浮かべたアルゴは、シノンを怒らせないようにしようと心に決めると、再びカナタへと視線を向ける。

 

「にゃハハハ、シーちゃんは怒らせると怖いんだナ〜。オネーサンもシーちゃんを怒らせないように気をつけることにするヨ。しっかし、カー坊の姿が埋れてしまったが、あれはシーちゃんの中では浮気にならないのカ?」

「あの子は無意識に人を惹きつける魅力を持っているのよ…それも主に女性を。あんなの日常茶飯事だから…もう、見慣れちゃったわ」

「シーちゃんも苦労するナ。おっ、みんながカー坊から離れていくゾ〜」

「……」

 

アルゴの言葉につられるように上を向いたシノンは、最後の一口となったカルボナーラをもぐもぐと咀嚼しながら、事の成り行きをアルゴと共に眺める。

 

 

γ

 

 

シノンとアルゴに見られていることを知らないカナタは、女性陣の好き勝手な行動に悩まされていた。

例えば、アスナがカナタの胸元に顔をうずめて、カナタの匂いを嗅いでいると…ふとした疑問を口にする。それを聞いたみんなは、カナタへと顔を押し付けると匂いを一斉に嗅ぐ…それがくすぐったくて身じろぎするカナタ。そんなカナタを気にした様子もなく、口々にアスナの疑問へのコメントをする女性陣。

 

「カナちゃんの匂いって…お日様の匂いともう一つ甘いけど爽やかな匂いがするのよね?何の匂いかしら?」

「はい、何かのお花のような…そうじゃないような…。ん〜、果物の匂いなんでしょうか?」

「今の今までオムライスとか食べてたからじゃない?あたしにはわからないわよ」

「違いますよ、リズさん。オムライスの匂いも付いてますが…もう一つ、匂いが確かにします。…ん〜、あたしも好きな物の匂いなんですけど…なんでしょう?」

「ん〜、リーファも好きなものか?なんだろうね、私も一度はこの匂いを嗅いだ気がする…」

「私も嗅いだことあるわ、この匂い…。ここまで出てるのに…わからないわ」

「私も嗅いだことある。…フィリアちゃんと同じでここまで来てるのに…なんだろ?わからないのが悔しいな…」

「ちょっ…みんな…くすぐった…」

 

そのまま、思う存分匂いを嗅いだみんなだったが、結局匂いの状態が分からなかったのか…それとも、その匂いにつられて食欲がそそられてしまったのかーー1回大きく深呼吸するとタイミングを見計らったように、七人の小さな口がカプリとカナタの柔肌へと噛み付いた。

 

『かぷ』

「ひゃあ!?ちょっと、みんなでなにしてんの!!」

 

その七人の行動に痛みよりも先にゾクゾクと謎の電流が身体中を走り、これはヤバイと悟ったカナタは噛み付いてるみんなにやめるように呼びかける。それに応じたみんなは何故か頬を膨らましていたが、こればかりは譲るわけにはいかずに、カナタは心労から深くため息をつく。

 

「何って…カナちゃんを食べてる?」

「ダメでしょう!?普通に考えて!噛み付くとか何を考えてるの!?あと、背中に今だに噛み付いてるのレイでしょう?そんな行動はやめましょう」

「え、カナタ君が美味しかったから。もう一回、食べたいなぁ〜って…」

「欲望に忠実すぎ!!そういうところもレイの魅力だと思うけど、少しは自制しようね!!」

「えぇ〜」

「えぇ〜じゃありません!もう…はぁ……」

 

噛みつきはしなくなったが、今だに自由な行動をとるみんなへとカナタはお願いする。それに、不服そうなみんなはカナタの必死なお願いにしぶしぶと離れていく…

 

「みんな、聞いて欲しいんだけど。取り敢えず、あたしから離れよう。お願いだから」

『えぇ〜』

「えぇ〜じゃなくて、あたしもこのままだと身動き取れないしさ。離れてくれたら、個人的にみんながして欲しいことするから…この通り、お願いですから…離れてください」

『ーー』

「あんがと、みんな!」

 

弾けるような笑顔でそう言うカナタを見て、みんなの頬が赤く染まるのをーーみんなが離れたことに安堵するカナタは見逃し、遠くで騒ぎの成り行きを見ているシノンとアルゴはバッチリと見て…同時に肩を呆れたようにすくめる。そんな中、一息つくカナタの袖を引く者が居た。可愛らしい羽根つき帽子をちょこんと頭に乗っけた少女・レインは上目遣いで伺うようにカナタを見る。そんなレインの仕草に、ドキッとしつつもカナタはグッと理性を強く持つと、レインにニッコリと笑いかける。

 

「カナタ君、さっき離れてくれたら…個人的に、私たちのして欲しいことをしてくれるって言ってくれたよね?」

「あぁ、ん…だね」

「そのして欲しいことって…どんなのでもいいのかな?」

「?」

 

レインの薄焦げ茶色の瞳に映る変な期待の色に不思議に思いながらも、カナタは“まぁ、いいか”と頷く。

 

「ん、あたしに出来ることなら何でもしてあげるよ」

 

カナタの言葉に、女性陣がニンヤリと笑い…カナタは小首をかげる。この時のカナタはまだ、自分があんなことをすることになるとは思いもしなかっただろう…

 

 

ーまさかまさかの続ー




まさかまさかの続編となった今回の+αですが、本来はここまで伸ばす予定は無かったものなんです(微笑)
ですが、酔っ払ったみんなと正常運転(?)のカナタとのやりとりを書くのが面白くて…ついつい筆が進んでしまい、まさかまさかの続編となってしまったということです(o^^o)

さて、今回の話のカナタは酔っ払ったみんなに押され気味でしたが、次回もみんなの勢いに押されて…もしかしたら、押し流されて…あんなことやこんなことをしてしまうことしれません(^ω^)
それで、シノンさんに怒られてしまうかどうかは…まだ次回のお楽しみということで(o^^o)

ではでは( ´ ▽ ` )ノ


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どうしてこうなった…

今回の話は、あるプレイヤーの占いによって不幸?な目にあうヒナタが視点です。
さて、ヒナタが最後に迎えるのは…幸せか?それともーー


ーーー今回の登場する人物ーーー

カナタ、フィリア、リーファ、ルクス、アスナ、キリト、シノン

ーーーーーーーーーーーーーーー

※4/17〜誤字報告ありがとうございます!


「あの…フィー、そんなにくっつかなくても…あたしは大丈夫だから、ね?」

 

あたしは隣に腰掛ける、青と水色を基調とした戦闘着に身を包む金髪の少女へ困った表情を浮かべて話しかけると、金髪の少女がなぜか怒った表情を浮かべる。

 

「ダメだよっ、カナタ。カナタにもしもの事があったら、どうするの?」

「いや…でもさ、それを守ったからって…占い師が言ってたことにならないとは思わないんだけど…」

「もう、なんでカナタはそんなに占いに否定的なの?」

「……いや、否定的…ってわけじゃないけどさ…って、フィー だから近づきすぎだって!!」

「このくらい近づかないと…効果が現れないかもしれないでしょ?」

 

そう言って、さらに距離を縮めてくる金髪の少女・フィリアにあたしは何度目となる問いを心の中に流す。

 

“あぁ…どうしてこうなってしまったのだろう…”と。

 

フィーことフィリアが、こうなってしまったのは遡ること…一時間前のことだった。フィーに誘われ、消耗品・ポーションや回復結晶などを買い出しに行こうと立ち寄った公園にて、真っ黒なケープを被った変なプレイヤーに声をかけられたあたしはそのプレイヤーの言っていることを信用してなかったのだが、なぜか フィーの方がそのプレイヤーの言っていることに乗り気になってしまって…そのプレイヤーにあった後からこんな調子なのだ。

 

“あの…プレイヤーのこと、どっかで聞いた気がするけど…いい話じゃなかった気がするんだよな…”

 

なので、あたしはそのプレイヤーがあたしを占った結果を信用しなくていいとフィーを説得してるのだが、妙に熱がこもった水色の瞳から察せられると思うが…フィーはあたしにもしもの事があったらいけないからの一点張りで身体を離そうとしてくれない。むしろ…あたしの腕を抱いて、密着度を高めていく。ちゃっかり、抱いている手を繋いでいるところを見ると…このフィリアという少女は侮れない気がする。

 

“うぅ…誰か…助けて〜”

 

「……何してるんですか?カナタさん…フィリアさん…」

 

酒場の入り口から呆れているような…困惑しているような声が聞こえてくると思い、そちらへと視線を向けるとあたしたちの方へと一人の女性プレイヤーが近づいてくる。白と黄緑を基調とした戦闘着に身を包むそのプレイヤーは、黄緑色の瞳を笑顔がこわばっているあたしをジト目で見ている。

 

「あ…、リー」

「あっ、リーファ」

「フィリアさん、何してるんですか?カナタさんが困ってるじゃないですか。離れてくださいっ」

「ダメだよっ。こうしないと、カナタが不幸になっちゃうんだよ」

「?」

 

フィーの言葉に、小首をかしげるリーことリーファにあたしがフィーの説明に言葉を付け加える。

 

「朝にね、占い師からあたしが今日一日 親しい女の子と行動を共にしないと不幸になるって言われたもんだから。フィーの方がその気になっちゃって…」

「…なるほど……、それなら……ってわけですか…」

「へ?」

 

小さな声で何かをつぶやいたリーが、あたしの右側に座り…なぜか、フィーを止めてくれることもなく、右腕をフィーと同じように抱く。その際にムニュっと、何かが形を崩してあたしの身体へと押し付けられる。柔らかいそれの正体がわかった瞬間、あたしの頬が真っ赤に染まる。チラッとそちらの方を見るとーー

 

“ーーうわぁ…あたしの腕が埋まって…”

 

なるべく、リーの方は見たい方がいいな…。目のやり場に困るし、あたし自身が虚しくなるから…。それよりも、二人の暴走を止めないとっ。

 

「ちょっ、なんで…リーまであたしに近づいてくるの!?」

「だって、カナタさんにもしもの事があったら…お兄ちゃんじゃない。キリト君に迷惑がかかりますから…あたしが責任持ってカナタさんを不幸から守らないと」

 

“だから…そのもしもの事って何?!”

 

さっきから何度も出てきているもしもの事とは何なのだろうか?街にいれば、HPが減ることはないはずなのだが…

 

「いや…このまま、街で過ごしていれば…大丈夫だと思うからさ。一旦、離れよ」

「ダメだよ!」

「ダメです!」

 

“成してーー!?”

 

「街の中だといっても、安全ではないとお兄ちゃんが言ってましたよ!」

「そうそう、いきなりデュエル申し込まれたりするかもしれないんだし」

「いや…断るからさ…」

「取り敢えず、ダメです!」

「そう、ダメ!」

 

“もう…ダメだわ…”

 

あたしは二人を説得することを諦めて、成り行きに任せようと項垂れる。そして、抵抗する力がなくなったことをいいことに…更に、距離を詰めてくる二人に心の底で嘆息する。

そんなあたしたちの耳へと、アルトよりの声が聞こえてくる。アルトよりといっても…あたしやシノよりかは声に可愛らしさを感じる。

 

「カナタさま…?どうして、フィリアとリーファとくっついているのですか?」

「ーー」

 

そして、そんな声の主とあたしを呼ぶ特徴的な呼び方から…この宿屋へと次に帰ってきた人を理解したあたしは項垂れながら、そちらへと視線を向ける。

 

“…どうしよ…厄介な人が帰ってきちゃった…”

 

そこには、あたしの予想したとおり…白に近い銀髪をウェーブの罹った感じで腰まで伸ばしている少女が同色の垂れ目気味の瞳を大きく見開いている。

 

「や、やあ…ルー」

「ルクス、おかえりなさい」

「ルクス、おかえり〜」

 

軽く手を上げて、銀髪の少女・ルクスへと挨拶したあたしに、あたしの腕を抱いている二人もルーことルクスの姿を見つけたらしく、帰ってきたルーへと声をかけている。そんな二人へと、律儀正しく頭を下げるルー。

 

「あ、うん。ただいま、フィリア、リーファ。で、カナタさま、これはどういった状況なんですか?」

「んー、どういった状況っていうか…成り行きでこうなってしまったといいますか…」

「?」

 

あたしのしどろもどろの説明に小首をかしげるルーに、リーが説明してくれる。

 

「ルクス。カナタさんはね、今日1日こうやって女の子にくっついてないと不幸になるんだって」

 

“それの言い方だと、色々と誤解を招くんだけどーっ、リー!?”

 

「そうなんですか!?カナタさま?」

「あー、うん…占い師が言うにわね…。でも、街にいれば大丈夫だと思うって二人に伝えてーー」

「ーーなら、私にもカナタさまを不幸にさせない手伝いさせてください」

 

“どうしてそうなるの…。お願いだから…、これ以上 状況をややこしくしないで…”

 

意気込むルーに、フィーが抗議する。

 

「ルクスの場所ならないよ。両腕はわたしとリーファで埋まってるんだから」

 

抗議するフィーを爽やかに笑って、あたしの後ろへと回り込んだルーはそのまま後ろからムギュ〜っとあたしへと抱きつく。

 

「なら、私は後ろからカナタさまに抱きつくだけです」

「ーー」

「あ〜ぁ!ルクス、ズルい〜!」

「カナタさんも、鼻の下を伸ばさないでください!」

「いや…、伸びしてないけどさ…。その…衝撃が強くて…」

 

“本当、ルーといい…リーといい…、何を食べたら…こんなに大きくなるんだろう…”

 

後頭部に感じる二つの膨らみの感触を髪の毛越しに感じながら、あたしは自分のスタイルにいよいよ自信が持てなくなってくる。

そして、何よりもルー参戦により、なぜか白熱しているこの謎の張り合いも終わりを迎えることになる。突然、響いた二つの声に、あたしは今度こそこのカオス状態を脱することができると喜ぶ。

 

「何やってるんだ?」

「カナちゃん…」

「…キリ、アッスー…助けて…、お願い…この三人を止めて…」

 

帰ってきた二人の人影にあたしは助けを求める。三人に埋もれるような形になっているあたしを見て、呆れ顔が固まるのは…全身を黒の一色でコーディネートしている黒髪の少年と白と紅の二色で騎士服をコーディネートしている栗色の髪の少女で、なぜか二人とも呆れ顔から同情するような顔に早変わりするとーー

 

「ーーその…助けたいのはやまやまなんだが、カナタ…どうやら、何もかもが手遅れらしい」

「へ?」

 

黒髪の少年・キリトことキリの言葉に目を丸くするあたしの耳に聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

「キリトとアスナ?こんなところで何してるのよ?中に入らないの?」

「あ…シノのん…」

 

その凛々しくも幼い声を聞いた瞬間、あたしは余命宣告をされた気がした。

 

“あたしの命もここまでか…。短い人生だったな…”

 

心で涙を流すあたしに、その声の主は微妙な顔で固まる栗色の髪の少女・アスナことアッスーに眉をひそめて、そのアッスーの視線の先にいるあたしたちに表情を固まらせる。

 

「アスナ?なんで、そんな顔してーー」

「ーーやあ、シノ。おかえりなさい」

「……」

 

固まった表情のままから突然、にっこりと笑った声の主・シノンは逃げ遅れた三人とあたしを見渡すと

 

「さて、それでは。これはどういった状況なのか、説明してもらいましょうか?ヒナタ」

「…はい…」

 

あたしたちは椅子に並んで座り…その後、延々とシノンの説教を受けた…




結論、シノンを怒らせたらいけないということですね(笑)




そして、ここから雑談といいますか、補足したいと思います。
今回、初めて登場した【ルクス】という子ですが…オリジナルキャラではありません。彼女はSAOの〈ガールズ・オプス〉という漫画に登場する子でして…原作では、キリトに憧れている子となっています。この小説では、ある理由からカナタに憧れているーー好意を抱くようになっております。その話は、本編が進めているうちに現れると思いますので、お楽しみに(笑)
そして、なんでこのルクスという子を登場させようと思ったのかと思うと、単純に可愛い子だなぁ〜と私が思ったからです(笑)
シノンの気持ちになると、これ以上 ヒナタハーレムを作るのはどうかと思うのですが…、なぜかキリトには勝ちたいな〜と思い、彼女を登場させてしまったというわけです…。これ以上、可愛い子が増えるとシノンさんの苦労が凄いことに…(汗)
しかし、カナタさんにとって一番はいつだって、シノンさんなので…そこだけは、唯一安心できることかもしれませんね。


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001 あなたはどの○○が好きですか? 前編

本来、リクエストいただいたリズの話を書こうと思ったのですが…(汗)書いているうちに、せっかくなので この機会にリズさんに、カナタの新しい武器を作ってもらっちゃおう!みたい事になりましてーー今、至急でオリジナルストーリーを考え中です(苦笑)ベースとしては、キリトみたいな感じになると思います。なので、そのオリジナルストーリーが出来上がるまで…どうか、もう少しお待ちください(礼)

そして、今回の話ですが…下ネタとネタが多いです。クラインさんが絡むと…自然と、そんな話になってしまうんですよね〜ほんと、不思議(笑)
今回の話のあらすじをサクッと言ってしまうと…、クラインの『男なら、みんな女の人の胸が好き』という言葉を信じてしまったユイちゃんが、他の女性陣とキリト・カナタコンビを巻き込んで大暴れするっていうイベントがベースです。なので、百合百合な展開はおそらく皆無となるでしょう…、次の後編とともに 暫しユイちゃんの暴走に付き合っていただければと思います(礼)


ー登場人物紹介ー

カナタ、シノン、キリト、アスナ、リズベット、シリカ、ユイ、リーファ、フィリア、ルクス、クライン

ーーーーーーーー

*かなり短めです

**4/21〜誤字報告、ありがとうございます!


「くぅ〜っ、あの子の胸ボインボインで…かぁ〜っ!たんまんねぇ〜、な!そう思うだろ?キリト、カナタ」

 

いつもたむろっている酒場の隅の席に腰掛けて、周りに座る女性客の胸元へと視線を向けていた頭に赤いバンダナを巻いている男性・クラインが自分の前に座る二つの人影へと小声で話しかける。

 

「…いや、クラさん…。そもそも、あたしに聞く自体間違ってる」

「俺もカナタと同じ」

 

と、クラインの問いかけにそっけなく答えるのは…橙と黄色を基調とした和服に身を包む華奢な少女・カナタと、その隣で目の前のクラインに呆れた視線を向けている真っ黒い服で全身をコーディネートしている黒髪の少年・キリトである。

そんな二人の返事にクラインは信じられないって顔をして、二人を見る。

 

「お前らには欲ってもんがないのかよ。欲がよっ」

「いや…ないのかよって…、あたしも本来ならあっち側ですので…」

「俺はノーコメントで」

「くそ、どいつもこいつも。お前らはいいよなぁ〜っ!座ってるだけで、女の子が寄ってくるんだからよ〜」

「ひがまれても…。ね?キリ」

「そうだな」

 

一人盛り上がるクラインに、普段から女性と接する機会が多いためか 考えが冷め切っているカナタとキリトに歩み寄る人影があった。

その人影がこの後の展開を大波乱へと巻き込むのであった。クラインたちの机へと歩み寄った腰まで伸びた黒髪に白いワンピース姿の少女・ユイは、女性の胸を熱弁するクラインへと問いかける。

 

「クラインさんは、女性の胸部が好きなんですか?」

「うお!?ユー、いつの間に!?」

「ああ、好きだね。男なら誰でも好きだって思うぞ」

「ということは…、パパとカナタさんも好きってことですね?」

「いやいや、ユー、それは間違ってる。その認識は間違ってるよ!?多いに間違ってる!!」

 

なぜか、男性という枠に入れられてしまったカナタが一人納得しているユイへと大声で間違いを正している。そんなカナタの後ろから、ずらずらと買い物に出かけていた女性陣が姿を現せる。

その女性陣の先頭に立っていた焦げ茶色のショートヘアーに、なぜか露出度が高い黄緑と赤を貴重とした戦闘着に身を包む少女・シノンが騒いでいるカナタを叱る。

 

「何を騒いでるのよ、カナタ。店の人に迷惑でしょう?」

「いや、シノン…これはユーがーー」

「ーーユイちゃんのせいにしない。そんな人には、お土産あげないわよ」

「ぅぅ……はい…、ごめんなさい…シノン…」

 

シノンにそう言われて、シュンとするカナタに歩み寄るのが、赤と白の戦闘着が特徴的な少女・アスナである。アスナはカナタへと微笑みかけると…何かをオブジェクト化して、三人へと差し出す。

 

「あはは…。シノのんもそんなに怒らなくても…。はい、キリトくんとカナちゃんにお土産だよ。ユイちゃんにも」

「ああ、ありがとう、アスナ」

「わーい!アッスー、あんがと。大好き!」

「わーい!ママ、ありがとうございます!」

「〜っ」

「ーー」

 

カナタの何気ない一言で、頬を染めるアスナにシノンが目ざとく気づき…不機嫌そうな雰囲気を漂わせる。そんなシノンの様子に、やれやれといった感じなのは後ろからついてきた二人の少女たちだ。

右側に立っているのが、赤いウェイトレスみたいな服と桃色のショートヘアーが特徴的な少女・リズベットで、その横に立っているのが…周りを水色の小竜が飛んでいるビーストテイマーの少女・シリカである。

 

「あらら…、これはどういうことかしら?シノンの顔がだんだんと険しくなってきちゃったわよ。これはカナタが変なことか、また女の子でもナンパしてきたのかしら?」

「それだけならいいですが…、カナタさんちゃっかりしてますから。部屋にもう連れ込んでるのかも」

 

そんな二人の会話を聞いて、カナタへと冷たい視線を向けているのがその二人のさらに後ろをついてきた三人組でーー右から、水色と青の戦闘着に身を包む少女・フィリア。その次が、金色のポニーテールと黄緑を基調とした服を身につけている少女・リーファ。そして、最後に入ってきたのが…ふわふわと波立つ銀色の髪と垂れ目が特徴的な少女・ルクスである。

 

「カナタ…」

「カナタさん…」

「カナタさま…」

 

そんな三人組の冷たい視線に耐えきれずに、こそこそ話をしている二人を指差すカナタ。

 

「おい!そこの二人、こそこそと人聞きの悪いこと言わない!?いつ、あたしがそんなたらしみたいなことをーー」

「「「「「ーー」」」」」

「なっ、なんで…みんなしてそんな目であたしを見るのさ」

 

“自覚なしか…”

 

おそらく、カナタのそのセリフにその場にいた全ての人が思ったものであろう。

証拠に、張本人はキョトンとしている。そんな恋人の姿をみて、ため息をつくしかないシノンの肩をとんとんとリズベットが叩く。

 

「シノン、あんたも大変ね…」

「ありがとう、リズ。気遣ってくれて…」

 

そんな二人の姿に、カナタを責める視線が強くなる、主にフィリア、リーファ、ルクス辺りが。

 

「カナタはもう少し色々と自覚すべきだね」

「そうそう、もっと自分の事を見つめなおすべきです!」

「みなさんのいう通りですよ、カナタさま。みなさんに愛想をつかされる前に、ちゃんとご自分を見つめなおしてください」

「……」

 

“なんで…、あたし。こんなに責められてるんだろ…”

 

カナタは一人、理不尽だと心で嘆いていた。そんなカナタの隣で今まで黙っていたユイがついに口を開く。

その後に続くものが、混乱というものだとわかっていてもーー

 

「ーーカナタさん、パパ…さっきの話から言うと、お二人はどの胸部が好きなんですか?」

「へ?」

「カナタ?」

「ちょっ、ちょっと!ユー、とりあえず黙ろうか!」

「みんな、違うだぞ、これは…」

 

ユイが発した言葉に、周りにいた女性陣の視線が非難に変わるのを見て…キリトとカナタが慌てて、弁解しようとするが…ユイの暴走がそれで止まることなんてなく、更に加速していくのだった……

 

 

ー後編へ続くー




後編が本番ですので…、前編はここまでというで。さて、ユイちゃんはどんな暴走をしてくれるのか?後編が楽しみですね(笑)









ここからは、雑談コーナーです。
今回の雑談は、私が好きなキャラクターランキングという…正直、どうでもいいものですので…見ないで飛ばしていただいても構いません(笑)

さて、早速ランキングですが…原作だけのランキングと、ゲームオリジナルキャラだけのランキングの二つを載せたいと思います。



【原作だけのランキング】

一位 シノン/朝田 詩乃
二位 サチ
三位 ロニエ

【ゲームオリジナルキャラだけのランキング】

一位 プレミア
二位 レイン
三位 ストレア


となってます。みなさんの知ってるキャラは居たでしょうか?後編では、この雑談コーナーのランキングの解説をしたいと思います、では!!


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002 あなたはどの○○が好きですか? 後編

次回の続きで、後半戦の始まりです。暴走するユイに、困惑するキリトとカナタは果たして…最後にはどうなるのか?

ー登場人物ー

カナちゃんこと【カナタ】、シノのんこと【シノン】、キリこと【キリト】、アッスーこと【アスナ】、リトこと【リズベット】、シーこと【シリカ】、ユーこと【ユイ】、フィーこと【フィリア】、リーこと【リーファ】、ルーこと【ルクス】

ーーーーー

*今回は、セリフが多めです。

**4/22〜誤字報告、ありがとうございます!


「ふぐっ!?」

 

素早くユイの口を塞ぐカナタに、シノンの鋭い視線が心を抉る。カナタはしどろもどろになりながらも、この事態を招いた元凶の方へと振り返るが…そこはもう、もぬけの殻で…。瞬時に裏切られたことを悟る。

 

「…」

「ちっ、違うよ!シノン…これはね、クラさんがーーっていない!?」

「マジで!?クソ…あいつ。俺らを見捨てて…」

「キリトくんとカナちゃんには、後でちゃんと話を聞くとして。カナちゃん、ユイちゃんが苦しそうだから…手を離してもらってもいいかしら?」

 

今は居ないクラインへと、恨みの念を送るカナタとキリトを呆れたような怒ったような表情で見ているアスナは、苦しそうにしている愛娘の姿をみて、カナタに手をどけるようにお願いする。そのお願いに、カナタは苦しそうにしてるユイに気づき、すぐに手を離す。

 

「うっ…そうだね、ユーもごめんね…」

「いえ、大丈夫ですよ、カナタさん。それで、さっきの話の続きですが…パパとカナタさんはーー」

「ーーその話、まだ続くの!?」

 

話を戻そうとするユイに、カナタがつっこむのを見ていた周りの女性陣は何となくこの状況の原因に気づいた様子だった。

苦笑いを浮かべる二人を見て、リズベットたちがここにいないもう一人の犯人に気づき、意見を交わす。

 

「わたしは知りたいんです。何故、パパたち男性が女性の胸部にそんなに興味を惹かれるのかを!」

「キリ…どうするよ、これ」

「あぁ、逃げられない感じだな…」

「だいたい、話が見えてきたわね」

「はい、そうですね。多分ですが、クラインさんがカナタさんとお兄ちゃんに『男はみんな女の子の胸が好きだ!』的なこと言って…それを見ていたユイちゃんが」

「誤解してしまったってわけだね」

「困ったものですね、クラインさんも」

「ですが、これでカナタさまとキリトさんの誤解が解けたってわけだね。シノンさまは、カナタさまを許してあげたらいいんじゃないのかな?」

「そうね…ルクスがいうなら…。カナタも悪気があったわけじゃないんだろうし」

「はい、断じて!そのようなことはないです!」

「なら、いいとしましょうか?」

 

“ふぅ〜”

 

キリトとカナタは心でため息をつく、何とか窮地を逃げられたことに安心していると…、この状況に一人納得してないユイが二人へと問いかける。

 

「パパ、カナタさん…まだですか?決めましたか?もしかして、決められないのですか?」

「ユイ。俺らはクラインのいうとおりに胸が好きなわけじゃ…って、どこ行くんだ?」

 

カナタから視線で止めるように言われたキリトが、愛娘の暴走を止めようとするが…既に遅く、アスナの前に立っている。そして、その小さな手がおもむろに アスナの双丘へと伸びーー

 

「ーーママ、失礼しますね。えいっ」

「ちょっと、ユイちゃん…どこ触って…っ」

「一言でいうと…これはぷにぷにですね」

 

“ぷにぷにって…”

 

アスナがくすぐったさと羞恥心で、頬を染めている中…カナタがキリトへと問いかける。

 

「ぷにぷにってことは…適度な柔らかさってこと?」

「おっ、俺に聞くなよ!」

 

キリトもアスナ同様に頬を染めて、爆弾発言をしようとするカナタの口を塞ぐ。

 

「いや…キリ以外に誰に聞けばいいの?キリは毎晩ああやって、アッスーのそれを揉んーーふが!?」

「おおおお前は何を口走ろうとしてるんだ!?」

「キリトくんっ!」

「俺は何も言ってないぞ!カナタがっ」

 

アスナが涙目で、キリトを睨む中…ユイは次なるターゲットの前まで歩いていき、白い布地に包まれているそれへと手のひらを載せる。

 

「ママ、ありがとうございます。さて…次はーー」

「ちょっ、ユイちゃん!?やめっ…」

「リズベットさんのは丁度いい感じですね!」

「なっ…」

 

“丁度いいって…”

 

ユイの感想に、頬を染めるリズベットとキリトを交互に見ていたカナタはまたしても、爆弾発言をキリトへとする。

 

「丁度いいって…触り心地が?それとも大きさってこと?」

「だから、俺に聞くなって…」

「キリトっ!」

「だから、俺だけを責めるなよ…。カナタも何か言って…」

 

カナタとリスベットに挟まれて、キリトは完全に弱り果てる。そんな中、ユイと共に楽しんでいる様子のカナタがリスベットに近づこうとするのを、キリトが止める。

 

「へぇ〜、胸にも色々あるんだなぁ…。あたしもユイちゃんにあやかって…皆の触ってみようかな?」

「お前は、この状況をさらに悪化させる気か!?」

「うっ、嘘だって…そんな目で睨まないでよ、キリ…」

 

キリトに睨まれて、椅子へと座り直したカナタ。それと同じくらいに、ユイはリズベットから離れて…次なるターゲットとなるシリカの胸へと手を這わせていた。

 

「リズベットさん、ありがとうございます!次は、シリカさんですね」

「ちょっとぉ、くすぐったいよぉ…ユイちゃんっ…」

「シリカさんのも、ちゃんと柔らかですね!」

 

“ちゃんと柔らか…”

 

くすぐったそうに身をよじるシリカに、カナタは微笑む。その蒼い瞳に浮かぶ色の意味を理解したシリカは、カナタを睨む。

 

「………シー、良かったね」

「カナタさんのその表情が一番傷つきますよ!あたしだって…まだ、成長期なんですからっ」

「ん、だといいね」

 

生暖かい目で見て、無駄に優しげに微笑むカナタから逃れるようにシリカはキリトへと近づく。キリトは、シリカの頭を撫でてやると、悪ノリしてるであろう相棒を叱る。

 

「うっ、キリトさん〜」

「カナタ、あまりシリカをいじめるなよ…」

「いや、ついね。それもこれも、シーが可愛すぎるのが悪いんだよ。ほら、よく言うじゃない?可愛い子はいじめようって」

「それをいうなら、可愛い子には旅をさせよな?」

「あははっ、そうとも言う」

 

カナタの可愛い発言に、周りにいる女性陣の数名の表情が強張ったが…キリトとシリカへと視線を向けているカナタは気づけないでいた。そんなカナタへと冷たい視線を向けている一人、リーファへとユイが近づく。

 

「さて、次はリーファさんです!これは…すごい情報量の予感です」

「なっ、ユイちゃんっ…何して…」

 

“おお〜っ、小さな手が胸に埋まって…”

 

まるで紙粘土をこねる時みたいに、変幻自在に姿を変えるリーファのそれを見て…戦慄を覚えるカナタ。そんなカナタの視線に気づいたリーファは、頬を羞恥心で染めてから…キリトへとカナタの目を塞ぐようにお願いする。

 

「お、お兄ちゃんっ。カナタさんの目を塞いで!」

「おおう!カナタ、済まない!」

「ちょっ、キリ…なして!?あたし、女だってば!」

「わかってるけど、これ以上は見ちゃいけない気がするんだよ!」

 

愛妹のお願いに素早く行動したキリトは、自分も目をつぶると暴れるカナタの目を塞ぎ続ける。そんな二人の耳に、可愛らしい声が聞こえてくる。

おそらく、ユイが次なるターゲットの前へと歩いて行ったのだろう。

 

「ふぅ〜、堪能しました…。ありがとうございます、リーファさん」

「うぅ…、お嫁にいけないよ…」

「さて、次も…すごい予感です!ルクスさんです!すいません」

「ユ、ユイちゃん…っ、ん…くすぐ…」

「おぉ〜、これもかなりの情報量です!ですが…ルクスさんの方がリーファさんのより少し小さいんですね!」

 

“え…?あの大きさで…小さいの?”

 

目を瞑っている所為か、余計に二人の言葉や息遣いが聞こえてきて…否応なく、ユイが言った言葉を脳内でイメージする二人にリズベットの鋭い声が聞こえてくる。

 

「「……」」

「そこの二人、何を想像してるのかしら?」

「「してないしてない」」

 

目を開けた二人は、同期した動きをして首を横に振る。そんな二人を周りにいる女性陣が、非難めいた視線を送り続ける。

そんな二人が肩身を狭くしている中、ユイはフィリアの前へと進み出ると、逃げようとするフィリアの胸へと手を添える。

 

「なんだが、楽しくなってきました!次はフィリアさんですね!」

「わ、私はいいよ」

「ダメですよ、フィリアさん。それっ」

「ちょっ、やめ…」

「フィリアさんのは、手に収まりきらなくて…柔らかさも丁度いい感じですね!」

 

“収まり切らないか…”

 

ユイの言葉に、カナタが視線を天井に向けて…想像しようとするのをフィリアが止める。涙目で、キリッと睨んでくるフィリアに、カナタはブンブンと首を横に振る。

 

「カナタっ!想像したらダメだからね!」

「ししししないよ、してないっ。だから、まず…その目をやめようよ」

「カナタがいけないんでしょ」

 

カナタの側で腕組みしてるシノンがボソッと呟くと、そんなシノンに近づくのは…さっきまで、この場を乱していた張本人たるユイである。

それにいち早く気づいたシノンは、怪しげな光を放つ黒い瞳から逃れるように…一歩一歩後ろへと下がる。

 

「最後は…」

「…っ!?ねぇ、ユイちゃん…こんな遊びはやめましょうよ、ね?」

「遊びではないです、シノンさん。これは、立派な研究なんです」

「研究って…胸の大きさを測ることが?」

 

ユイから逃れようとするシノンと、シノンを追い詰めようとするユイの追いかけっこが終わりを迎え始めた頃、シノンが固まっているキリトとカナタへと助けを求める。

 

「はい、ですのでーー」

「ーーヒナタっ!キリトっ!二人とも見てないで助けなさいよ!」

「そそ、そうだな。カナタ行くぞ!」

「ーー」

 

その助けを求める声に、キリトがユイを止めようと椅子から立ち上がると…今だに椅子に座っている相棒へと視線を向ける。

彼女からの救援にはいち早く行動するカナタだが、今はなぜか蒼い瞳に妙な熱を浮かばせて、惚けたように…追い詰められているシノンを見つめている。

 

「カナタ…?」

 

キリトが普段と様子の違うカナタの肩を揺さぶる。それにハッとした様子で、キリトの方を見るカナタが申し訳なさそうに癖っ毛の多い栗色の髪を撫でる。

 

「……いや、ごめんね キリ。ついつい…シノ、見惚れてたよ。……なんか、シノが怯えている表情って、久しぶりに見るから。なんか、そそるものがあるな…と思って。……あれ?」

『ーー』

 

本日、何度目となるか分からないカナタの爆弾発言、爆弾に例えると核兵器くらいにもなる衝撃を持つそのセリフに…その場にいた者は、改めてこの華奢な少女に恐怖を抱いた。中には、恐怖だけに飽き足らず…悪寒が背中を走った人もいた。

周りにいる人が絶句している中、当の本人はというとキョトンとした様子でみんなを見回しては小首を傾げている。

 

「みんな?」

「みんな…、お前の発言にドン引きしてるんだよ。俺なんか、背中に悪寒が走ったぞ」

 

そんなカナタに最初に話しかけたのは、キリトであった。今だにキョトンとしているカナタへと冷静にツッコミを入れる。

 

「へ?あたし、そんな悪いこと言った?普通でしょ?」

「いやいや、全然普通じゃない」

「へぇ〜〜、またまたぁ〜。みんな、あたしをからかってるの〜?」

 

あははっと明るい笑顔を浮かべるカナタに、今度はリズベットが引き気味で話す。その後に続く人たちも、表情を強張らせていた。

 

「……からかってないわよ。今日という今日は、本気であんたにはドン引きよ」

「カナちゃん…。わたしもさっきの発言には…引いちゃったかも…」

「カナタさんって…そういう趣味の人なんですか?」

「…あの発言から、カナタって隠れSなの?」

「…隠れSって…。でも…そういうのもありかもーーって、あたし何をっ」

「…普段、あのようなトボけたことをされるのは…、それを隠すためのカモフラージュなんだね。流石はカナタさま」

「ヒナタ…。…私、ヒナタのことが時々分からなくなるの…」

「シ、シノまで…そんな目であたしを見ないでって…。ほら、ジョーク!ジョークってもんだからさ…」

 

やっと、さっきのセリフの重大性に気づいたカナタは曖昧な笑顔を浮かべて、弁解しようとするがーーもう、言ってしまったものはどうにもならずに残るのは…冷たい目をしたみんなしか残ってない。

カナタはその重圧に、涙を流しかけるがーーその一瞬をものにしたのは、背中まで伸びた黒髪を持つ小さな少女であった。

 

『ーー』

「うっぅぅ…」

「はっ、…今のうちです!えいっ」

 

固まっているシノンへと飛びついたユイが、シノンの胸を揉むのをじっと見ていたカナタの視線が次第に危ない方へと向かっていく。それに気づいた周りの人たちが、キリトへと指示する。

 

「へ?あっ…んぅ…ちょっ、ユイちゃん、だめ…っ」

「ーー。…ごくん」

「キリトくん!」

「キリト!」

「キリトさん!」

「カナタさんを抑えて!」

「カナタを抑えて!」

「カナタさまを抑えてください!」

「おう!!って…今日の俺、なんかこんな立場…」

 

今にも、シノンに飛びつきそうなカナタを羽交い締めにしたキリトへと、ゆらりと振り返ったカナタの淀んだ瞳にキリトは身体を震わせる。

 

「キリ、なんで邪魔するの?もしかして、斬られたいの?」

「怖ぁっ!?なんか怖いよっ、カナタ!?

じゃなくて…なんか、今のお前をシノンに近づけるのは、満場一致で危ないって判断したからだよ!大人しくしろって」

「あんなシノを見て…我慢しろなんて。そんなの生殺しじゃないか!」

「俺にはお前が何を言ってるのか、わかんないよ!!」

 

暴れるカナタを抑え込むキリトは、やっと終わった愛娘の暴走にどっと疲労感を覚える。そんなキリトの隣には…なぜか、涙をポロポロと流しているカナタの姿がある。

 

「は〜な〜せ〜!!」

「だから、ダメに決まってるだろ!」

「シノンさん、ありがとうございました」

「あぁ〜ぁっ!?ぅぅ…終わっちゃった…」

「やっと終わった…」

「キリトくん、お疲れさま」

「あぁ、アスナたちもな」

「結局、なんだったのかしらね…この騒ぎ」

「予想外の結果になっちゃいましたね」

 

キリトを労わる周りの人たちから、離れたところにいるカナタへと歩み寄ったシノンは頬を染めると…カナタの頭を撫でる。

 

「ぅぅ…」

「ヒナタ、そんなに泣かないで…ね?ヒナタが望んでくれるなら…私はなんでもするつもりよ?」

「…ほんと?」

「えぇ、本当よ。…その……あまりにも恥ずかしいものや姿は…ダメだけどね?」

「シ、シノぉ…」

「もう…よしよし。だから、泣かないで」

 

抱きついてくるカナタの頭を撫でるシノン。そんな二人を見ているうちに…なぜか、このユイの謎解明のために行った暴走がうやむやになっていったのだった……。まぁ、みんな…カナタの最後の爆弾発言のせいで…、本来の目的を忘れている可能性が高い気がするが……

 

 

ー完ー




なんだかんだで、ユイちゃんと共に暴走してしまったカナタでした(笑)カナタの爆弾発言には、みんなと共に凍りついてもらえたでしょうか?(⌒▽⌒)
しかし、カナタも暴走したのも悪いですが…シノンも悪いと思うわけですよ。何故か、あんな露出度の高い格好をしてるから…。あれは…カナタにも私にも毒ですね(苦笑)







さて、前回の続きで、雑談コーナーですが…下のランキングの説明をしたいと思います。
名前の横にある数字がそのキャラクターを説明している文章です。
……対したことは…書いてないんですけどね(笑)

【原作だけのランキング】

一位 シノン/朝田 詩乃・・・①
二位 サチ・・・②
三位 ロニエ・・・③

【ゲームオリジナルキャラだけのランキング】

一位 プレミア・・・④
二位 レイン・・・⑤
三位 ストレア・・・⑥


①の説明
原作だけのランキング一位は…この小説を読んでいただいている方ならご存知のシノンですね。彼女は、全てを含めた総合ランキングでも私の中で、一位を獲得しているキャラクターですね(笑)
私が、このソードアート・オンライン(以下 : SAO)を見始めたのは…確かアニメが放送された頃か、同じ作者さんが書かれている『アクセルワールド』という作品から見るようになった気がします。
その頃の私の好きなキャラクターは、二位のサチさんかアスナさんだったのですが…SAOの五巻を見始めた時、このシノンというキャラクターに一目惚れしました。私と同じ歳なのに…このシノンというキャラクターの波乱万丈の人生と、強くなりたいと願う気持ちに胸が締め付けられるような思いなりました。そして、いつしか私も…彼女のような強い人になりたいなぁ〜と憧れを抱き、今に至っているわけです…。私が彼女のようになれているかは…謎ですけどね(笑)
なので、SAO二期が決まったときは嬉しかったものですよ〜。あのシノンがイキイキと画面を動き回るんだーって、声優さんも好きな方でしたので…、ますますこのシノンというキャラクターが好きになりましたね(笑)


②の説明
原作だけのランキング二位のサチさんですが…、彼女を好きになったのはアニメからでしたね。好きな声優さんが声をされてるのもありましたし…、純粋に彼女には生きていて欲しかった…って、思いからですね。なので、時折…彼女が生きていたら、このSAOという作品はどうなっていたのかな?って思いを馳せています(笑)
そんな彼女を好きな理由ですが…一番は、彼女のアインクラッドが怖いっていう気持ちに共感したからでしょうか。もし、自分がその場所にいたら…サチさんのように怖がるでしょうし…理不尽さも感じるでしょう。なので、あのメッセージが胸にくるといいますか…涙もろくさせるんですよね……


③の説明
このロニエというキャラクターですが、SAOの最終章に登場するキャラクターなんです。
キリトの側付きをしてくる子なんてすけど…、もうぉ〜ね、可愛いんですよ!とにかく、可愛い!!健気といいますか…、この子も一目惚れした子ですね(笑)
なので、もし三期があるとしたら…どんな声が吹き込まれるのかな〜ってワクワクしてます(笑)


④の説明
このプレミアさんですが、ホロウ・リアリゼーションに登場するAIの子なんですけどね…。
まぁ、可愛い…と花より団子なところがなんとも(悶える)そして、AIが戦闘出来るっていう…システムに驚いた記憶があります。プレミアのHPがゼロになったら…頭の上に数字が浮かぶんですよね…。それを見て、やばっ!?って思って…彼女を助けるっていう戦闘を繰り返していた気がします。
そして、ストーリーを進めるうちに…自分の意思を学習していく姿が健気って思って…(涙)


⑤の説明
レインさんを好きな理由は、ただ一つ……妹を思う気持ちに感動したからですかね。なので、レイン・セブン姉妹のやりとり 私好きなんですよ(笑)
レインさん、いいお姉ちゃんしてるなぁ〜って思います。そして、現実でメイドさんってところもポイントが高いですよね〜。アバターの衣装も、メイドさんっぽいですしね(笑)
そんな彼女も、是非ともカナタハーレムに加わって欲しいものです。


⑥の説明
ストレアさんを好きな理由は…場を賑やかにしてくれるからですかね。悪気はないのに…彼女の提案により、キリトたちが波乱に巻き込まれるっていう…。ですが、決めるところ決めると言いますか…見てるところ見てるんですよね(微笑)
そんなムードメーカーかつみんなのお姉さん的な存在のストレアさんが私は好きです!


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003 あなたはどの○○が好きですか?+α 後編

この話は、後編のifバージョンとなってます。

もし、あの時にユイちゃんの最初のターゲットがアスナでなく、○○○だったならばーー。カナタは違う行動を取り、話は意外な結末を辿る…


※ifバージョンですので、途中まで…前の話と同じ展開です。
そして、今回も同様に百合要素はあまりないかもです…。本当にすいません(汗)


※※お気に入り登録・300名突破!そして、いつの間にか…評価者が16名に!そればかりか、10と評価してくださる方が四名も…っ。驚きと嬉しさと申し訳なさで…涙が止まらないです(涙)
誤字が多いですし…、所々抜けてるところも多い中…そのような評価をつけて下さった皆のために、精進していきたいです!




4/28〜あらすじと話の並び替えをしました。皆様には本当に迷惑をお掛けします(礼)


「ふぐっ!?」

 

素早くユイの口を塞ぐカナタに、シノンの鋭い視線が心を抉る。カナタはしどろもどろになりながらも、この事態を招いた元凶の方へと振り返るが…そこはもう、もぬけの殻で…。瞬時に裏切られたことを悟る。

 

「…」

「ちっ、違うよ!シノン…これはね、クラさんがーーっていない!?」

「マジで!?クソ…あいつ。俺らを見捨てて…」

「キリトくんとカナちゃんには、後でちゃんと話を聞くとして。カナちゃん、ユイちゃんが苦しそうだから…手を離してもらってもいいかしら?」

 

今は居ないクラインへと、恨みの念を送るカナタとキリトを呆れたような怒ったような表情で見ているアスナは、苦しそうにしている愛娘の姿をみて、カナタに手をどけるようにお願いする。そのお願いに、カナタは苦しそうにしてるユイに気づき、すぐに手を離す。

 

「うっ…そうだね、ユーもごめんね…」

「いえ、大丈夫ですよ、カナタさん。それで、さっきの話の続きですが…パパとカナタさんはーー」

「ーーその話、まだ続くの!?」

「わたしは知りたいんです!どうして、そんなにパパたちが女性の胸部に惹かれるのかを!」

「たちって…、だから…あたしは女で…。どっちかというと…そっち側の選ばれる方だと何度言ったら…」

 

話を戻そうとするユイに、カナタがつっこむのを見ていた周りの女性陣は何となくこの状況の原因に気づいた様子だった。

苦笑いを浮かべる二人を見て、リズベットたちがここにいないもう一人の犯人に気づき、意見を交わす。

 

「…なるほどね。だいたい、話が見えてきたわね」

「はい、そうですね。多分ですが、クラインさんがカナタさんとお兄ちゃんに『男はみんな女の子の胸が好きだ!』的なこと言って…それを見ていたユイちゃんがーー」

「ーー誤解してしまったってわけだね。それで、私たちが見えたからって…一人で逃げるなんて…」

「クラインさんのそれは今に始まったわけじゃないですが…。全く…困ったものですね、クラインさんも」

「ですが、これでカナタさまとキリトさんの誤解が解けたってわけだね。よかったね、カナタさま、キリトさん」

「そういうことなら仕方がないかな、ね?シノのん」

「そうね。そういうことなら」

 

女性陣の話を聞いていたアスナとシノンの視線が少し柔らかいものになるのを見てーー

 

“ふぅ〜”

 

ーーキリトとカナタは心でため息をつく、何とか窮地を逃げられたことに安心していると…、この状況に一人納得してないユイが二人へと問いかける。

 

「パパ、カナタさん…まだですか?決めましたか?もしかして、決められないのですか?」

「ユイ。俺らはクラインのいうとおりに胸が好きなわけじゃ…って、どこ行くんだ?」

 

呼び止めるキリトの声を無視して、確かな足取りで向かう先にいるのはーー

 

「へ?」

 

ーー赤と黄緑色の戦闘着に身を包むショートヘアーの焦げ茶色の髪を持つ少女で、髪と同色の大きな瞳が近づいてくるユイを呆然とした様子で見ている。

そして、固まるシノンの黒い布で包まれた胸元へと小さな手がゆっくりと伸びていき…あと、30cmでユイの指先がシノンの胸元に触れる瞬間…

 

「シノンさん、失礼しますね。えーー」

「ーーいくら、ユーでも…それだけは許せないな」

 

アルトよりの凛とした声が響き、シノンの胸元へと触れようとしていたユイの手を腕で妨害する者が居た。ユイが弾かれたように、そちらを見ると…普段は優しい光が浮かんでいる蒼い瞳が今は険しい色が浮かんでいた。

 

「なんで、邪魔をするんですか、カナタさん!」

「邪魔するよ、当然でしょう?だって…シノンの胸元は、いつだって あたしのものだもん!」

『ーー。はぁ…』

 

なぜか、キメ顔でそんな事を言ってのけるカナタに絶句し…呆れたようにため息をつく中、シノンだけが周りと異なる反応を見せていた。瞬時に色んな表情に変えて、最終的には羞恥が勝ったらしく…自分の横にあるカナタの黄色いブーツを、自分の黒いブーツで思いっきり踏みつける。

 

「〜〜ッ!!」

「ぃだぁーーーッ?!!」

 

シノンに足を思いっきり踏みつけられたカナタは、椅子から転げ落ちるように床へと転げると、痛みよりもシノンの行動にショックを受けたらしく…その蒼い瞳に涙をたたえて、腕を組んで見下ろしてくるシノンを上目遣いで見ている。

 

「なんで…なんでなの?シノ…」

「なんでって…考えれば分かるでしょう!」

「…わかんないよぉ〜。わかんないから…泣いてるんじゃん…」

 

小さくそう言うカナタに、シノンは目の端を釣り上げると声を荒げる。そんなシノンを相手にしているためか、カナタの声もだんだんと大きくなっていく。

 

「分からないこと無いでしょう!あんな言葉っ、みんなの前で言うなんて…恥ずかしいに決まってるじゃないの!前々から思ってたけど…あんたには、羞恥心ってものがないの!?」

「恥ずかしいって…、あたしはあたしの素直な気持ちをっ。シノを好きな気持ちを表しただけであって…」

「なんで、あんたはいつもそうなのよ!そういうセリフはもっと他のところで使うべきでしょう!!」

「そういうセリフって…ユーを止めるためには、そうするしかなかったでしょうが!あたしはあたしなりに考えて、シノを守ろうとしたっていうのに…っ」

 

カナタは涙をたたえていた瞳をキリッと細めると立ち上がり、シノンへと詰め寄る。シノンはそんなカナタにびっくりしつつも、迎えうつように…こちらもキリッと細めて、カナタを睨みつける。ここまで白熱してしまっている二人を止めれる者は、この場には居なかった…。

ヒートアップしていく二人の痴話喧嘩を、周りにいるものはただただ黙って見ている。

 

「そういうシノこそさ!みんなの前だと、急にカッコづけたくなるんだよ!

あたしと二人きりの時は、あんなに甘えん坊で可愛いのにさ!もう、みんなにバレてんだからさ。今更、カッコづけても仕方がないって、正直分かってよ!」

「何デタラメなこと言ってんのよ!私は甘えてないでしょう!甘えてきてるのは、ヒナタの方じゃない!!」

「いいや!シノの方が甘えてるねっ!すごい甘えてきてる!!断言できるね!」

「なら、言ってみなさいよ!!」

「言ってもいいけどっ!シノが恥ずかしくて…部屋から出られなくなっても知らないよ!!」

「そんな妄言」

「妄言かどうかはシノが決めるんだね!

そうだね…、今朝の出来事がいいかな?シノって…忘れやすいからさ」

「忘れやすいですって?」

「ああ、その証拠に朝の出来事をもう忘れてるじゃないか!今朝はシノの方がお寝坊さんで、起こすあたしをギュ〜って抱きしめてきてさ…『ヒナタぁ〜♡』って甘えてきて、あたしのことをなかなか離してくれなかったじゃないか!」

「なっ、そんな事をっ。私、言ってもないし…やってもないわよ!!」

「そんなの寝ぼけてるんだから…覚えてるわけないじゃん!その他にも、証拠が欲しいなら言ってあげるよ!ほら、あの時のシノが代表的でしょう!あたしもあれには驚いたし!あの後、振り返ったシノ 顔真っ赤だったもんね〜」

「ふん!」

「あだぁーーーッ!!!」

 

シノンは再び、カナタの足を踏みつけると…痛がるカナタの手を引いて、みんなの輪から離れるとそこで説教が始まる。だが、互いに頭に血が上った状態のため…説教というよりも、さっきの痴話喧嘩の延長線上な感じであったが…それを離れたところで見ていた女性陣は、互いに顔を見合わせる。

 

「…何やってんのよ、あの二人」

 

最初に口を開いたリズベットが、今だに店の隅で痴話喧嘩を続ける二人の少女を見て、ため息混じりに呟く。

 

「あはは…完全に二人だけの世界だね」

「あのお二人もですが…あちらも…」

 

乾いた笑い声を漏らすアスナの後ろに居たシリカの赤い瞳には、黒髪の少年が愛娘に責められている様子が映っていて…こちらもこちらで、解放されるのは当分先のことになるだろう。

 

「もう…何が何だか分かりませんね」

「うん、そうだね」

「私たちはこれからどうする?」

 

ルクスの問いに、とりあえずこの場を離れることにした女性陣は…アスナの部屋で恋バナに花を咲かせたそう……

 

 

ー完ー




+αを読んでいただき、ありがとうございます!

今回の話は、完全にヒナシノの痴話喧嘩メインの話となってしまいました(笑)カッコいいヒナタを書こうとしたのに…何故、こんな感じにーー(汗)

皆さん…、もうカッコいいヒナタは戻ってこないかもしれません(涙)

もちろん、息抜き編の話ですが…。そんな、ヒナタでも宜しければ…これからも応援宜しくお願いします(礼)





そして、この息抜き編のリクエストも引き続き…受付中です!
今回のような今まで更新した息抜き編のifバージョンでも宜しいですし、もちろん…好きなキャラクターとヒナタをもっとイチャイチャさせて欲しいっていうリクエストでも、なんでも構いません!

何か、リクエストがある方はどうぞ。【活動報告】の【息抜き編リクエスト】へと宜しくお願いします(礼)






そして、もう一つ 皆様へと報告があります。今日から少しの間、感想でご指摘があった《一章の話の改善》や《その話をもっと分かりやすくするために話を追加》。そして、前に頂いた《リズベットさんのリクエストのネタやを練る》や、《第二章以降のストーリーのネタを練るため》に…更新が遅くなったり、話が途中挿入されていることがあります。一応、新しく途中挿入して更新した話には【∽】など、分かりやすい目印をつける予定です!
なので、栞をつけていらっしゃる方などに迷惑をおかけすると思いますが、どうかご了承の程を宜しくお願いします(礼)


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001 おままごと


キリトの所がカナタになってるので、かなりオリジナル展開となると思いますが…お楽しみに頂ければと思います!

では、本編をどうぞ!!


ー補足ー

このおままごと編では、アスナとユイ・ギリギリ、アルゴはヒナタハーレムへと入会しておりません。ので、カナタにデレデレのみんなをお楽しみ下さい(o^^o)


シリカ「それでね。お母さん役の人とお父さん役の人と…」

 

ユイ「なるほどです」

 

シリカとユイのテーブルに一つの人影が近づいてくる。

 

カナタ「あれ?シーとユー?何してるの?」

 

シリカ「あっ、カナタさん。今、ユイちゃんにおままごとを教えてたんですよ」

 

ユイ「はい。おままごとはとても興味深いです」

 

シリカの隣へと腰掛けたカナタが興味津々の様子で聞いてるユイを見て、懐かしそうに笑う。

 

カナタ「懐かしいな。昔はよくお父さんに付き合ってもらってたよ。シノンとも少ししたことあるかな」

 

ユイ「カナタさんもしたことがあるのですか」

 

カナタ「ん、ちょっとだけね。だから、ここではシーが一番の経験者かな〜。ねぇ?」

 

シリカ「そ、そうですか?」

 

カナタ「ん。だから、先生。指導のほどをよろしくお願いしますね」

 

シリカ「はっ、はい!」

 

ユイ「じゃあ、私 おままごとやってみたいです!」

 

カナタ「おぉ〜!早速、実践って事だね。役割はどうする?」

 

シリカ「あたしがお母さーー」

 

ユイ「ーー私、お母さん役やってみたいです!そして、カナタさんがお父さん役で!」

 

カナタ「あははっ。あたしが?」

 

シリカ「確かに。あたしとカナタさんでは、カナタさんの方がお父さんっぽいですよね。じゃあ、あたしは二人の子供役ってことか…」

 

カナタ「?」

 

シリカ「……役だけでもいいから…カナタさんの奥さんっていうのも味わってみたかったなぁ〜」

 

ユイ「次は、シリカさんがお母さん役でお願いしますね」

 

シリカ「ありがとう!ユイちゃん!!」

 

カナタ「シー、どしたの?ユーの両手をガシッと摑んで…」

 

シリカ「な、なんでもないですよ!?さて、それでは始めましょう!」

 

カナタ「???」

 

 

γ

 

 

シリカ「パパ、ママ。おはよう」

 

カナタ「おはよう、シリカ」

 

ユイ「シリカちゃん、朝ごはんは目玉焼きとスクランブルエッグどっちにしますか?」

 

カナタ「ママ。私はスクランブルエッグの方で頼むよ」

 

シリカ「……カナタさんは朝はスクランブルエッグ派なんだ…。覚えとこ…」

 

ユイ「シリカちゃん?」

 

シリカ「あっ、パパと同じがいいです」

 

ユイ「はーい。スクランブルエッグですね」

 

カナタ「シリカ、隣へおいで。一緒に食べよう」

 

シリカ「はい…パパ…」

 

カナタ「ママの手料理は美味しいからね。ついつい食べ過ぎてしまうよ。あっ、ママ…私はパンが主食がいいな。シリカもパパと同じでいいかい?」

 

シリカ “すごい…カナタさん、役になりきってる…”

 

カナタ「シリカ?どうしたんだい?ボヤッとして」

 

シリカ「あっ、うん。あたしもパパと同じがいいな〜」

 

ユイ「はい、わかりました。じゃあ、主食は黒パンにしますね〜」

 

カナタ「あぁ〜、朝ごはんはまだかな〜♪」

 

シリカ「まだかな〜♪」

 

 

γ

 

 

シノン「カナタ…?」

 

アスナ「三人で何してるの?」

 

ユイ「あっ、ママ!」

 

カナタ「シノン!」

 

シリカ「今、三人でおままごとしてたんですよ。ユイちゃんがお母さんで、カナタさんがお父さん、あたしが子供役って感じで」

 

アスナがユイの隣に座り、シノンがカナタの隣に腰掛けると二人もおままごとに加わることになる。

 

アスナ「じゃあ、私とシノのんはシリカちゃんの妹って事だね」

 

シノン「なるほど。あとから入ってきたものね」

 

シリカ「へ?あたしがアスナさんとシノンさんのお姉ちゃんですか?」

 

シノン「えぇ、よろしくね。シリカお姉ちゃん」

 

アスナ「これからよろしくね、シリカお姉ちゃん」

 

シリカ「なんか、照れ臭いですね〜」

 

カナタ「じゃあ、再開ね」

 

 

γ

 

 

アスナ「ん〜!沢山、遊んだね。シリカお姉ちゃん、シノン」

 

シノン「そうね。砂場でお城を作ったり…」

 

シリカ「色んな所を探検したり、とっても楽しかったね〜」

 

アスナ「でも、暗くなっちゃったから…帰らなくちゃ〜。ママ、パパ、ただいま〜!」

 

シノン「ママ、パパ、ただいま」

 

シリカ「ママ、パパ、ただいまです」

 

カナタ「ん、おかえりなさい。三人とも」

 

ユイ「シリカちゃん、アスナちゃん、シノンちゃん、外から帰ってきたら手洗いをしましょうね」

 

三人『はーい』

 

カナタ “わぁ〜、すごく新鮮…”

 

カナタは、元気良く右手を上げて返事するシリカ、アスナ、シノンが微笑ましくなる。カナタは足を組み替えると、新聞とコーヒーを飲むフリをする。

そんな五人へと二つの人影が迫っていた…

 

????「何してるの…あんたら」

????「何してるんですか?カナタさん…それに皆さんも…」

 

 

ー続ー




さて、続けて 乱入した二人とは誰なのか!?次回をお楽しみにです!

ヒントは?の数です!ではではm(._.)m


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ヘアスタイル

大変、遅くなりました(大汗)

A man of high caliber は来週、更新致しますので…今回はこの話でどうか許して下さい…。



アスナ「あっ、カナちゃん」

 

攻略を終えて、宿屋へと帰ってくるとアッスーことアスナに引きとめられた。声がした方へと向いてみると、見知ったメンバーが集まって黄色い声を上げている。あたしは、みんながいる方へと歩いていくと問いかける。

 

カナタ「ん?みんな、集まってどしたの?」

 

ルクス「みんなで、ヘアスタイルの事について話していたんだよ、カナタ様」

 

愛弟子が説明してくれたが、その答えはあたしにとってちんぷんかんぷんだった。

 

カナタ“なぜ、今更…ヘアスタイル…?気にしたって…今更でしょうに…”

 

シノン「カナタのその顔は今更気にしてどうするのって顔ね」

 

全員『……』

 

そこにいるみんなからジト目で睨まれ、あたしは愛すべき恋人を睨む。その恋人はというと、肩を竦めて澄まし顔。そんなあたしを見て、リズベットがため息をつくと話を進める。

 

リズベット「カナタって本当、女子力ないわよね〜。だから…あんなにも同性にモテるのかもだけど…」

 

カナタ「うぐ…っ。あ、あたしだって…料理とか出来るんだからっ」

 

リズベット「それはリアルでしょう?ここじゃあどうなのよ」

 

カナタ「……」

 

フィリア「出来ないわよね」

 

ルクス「カナタ様が料理作ってるとこ見たことないからね」

 

カナタ「しっ、仕方ないじゃんっ!強くなるのに必死だったんだからさっ!キリが渡してきた刀とか扱いずらかったしっ!!」

 

ホロウ・エリアという難所を共に乗り越えてきた戦友二人からの集中攻撃にあたしは声を荒げる。そんなあたしを宥めようと愛弟子が歩み寄ってきたが、頭に血が上ったあたしを止めることは出来そうになかった。

そんなホロウ・エリア三人衆を見ていたアインクラッド組はなかなか終わりそうにない喧嘩を見て、ため息をつくとアインクラッドチームで話を進めることになった。

 

リズベット「まっ、そんなカナタのことはほっておいて。こっちはこっちで話をしましょうか」

 

アスナ「ほっておいてって…リズがけしかけたのに…」

 

リズベット「まあまあ、いいじゃない。細かいことは…」

 

レイン「…本当にいいのかな?」

 

リズベット「いいんだってば。それより、あたし、自分の髪の色変えようと思ってるのよね〜。アスナに弄られたっきり何もしてなかったし…」

 

アスナ「あはは!そういえば、わたしがやったんだった」

 

リズベット「あれから、変えてなかったしさ。そろそろ、イメチェンもいいかなぁ〜ってね」

 

レイン「そうだね。たまには、気分を変えたくなるよね〜。わたしもリズちゃんと一緒で色、変えようかな〜」

 

アスナ「そうだね……。う〜ん、わたしももう少し動きやすいように束ねようかな」

 

ユイ「えへへ。わたしは、パパに髪の毛をすいてもらうのが大好きです」

 

カナタ「へぇ〜、キリってそういうのやるんだね〜。ん、いいお父さんしてるね」

 

アインクラッドチーム『!?』

 

カナタ「どしたの?みんな、そんな変な顔して…」

 

リズベット「もう、話し合いはいいのかしら」

 

カナタ「あぁ…ルーとフィーに分からず屋って匙投げれた」

 

そう言って、あははと笑うあたしの後ろには…シンクロした動きが肩を掠めるフィリアとルクスの姿があった。そんなカナタへとシリカが話しかける。

 

シリカ「カナタさんは、髪型を変えないんですか?」

 

カナタ「あたし…?あたしは、う〜ん…敷いて言うなら…」

 

リズベット「瞳の色はダメよ」

 

カナタ「チッ。リトより先に言おうと思ったのに…」

 

リーファ「じゃあ、その瞳の色 以外で何か無いんですか?」

 

カナタ「ん〜、特には…。今の髪型で…満足だし…。戦闘で邪魔じゃなかったらいいんじゃない?別に…」

フィリア「なんだか、キリトみたいな考え方ね…あんた」

 

カナタ「あはは…、感染したのかも…」

 

フィリアに指摘され、あたしは苦笑いを浮かべる。

 

シリカ「じゃあ、カナタさん。一つ聞いていいですか?」

 

カナタ「ん?なあに?シー」

 

シリカ「カナタさんの好きな髪型って何ですか?」

 

リズベット「なぁによ、シリカ。あんた、カナタの好みで髪型変えようとしてるの?」

 

シリカ「さ、参考に聞いてみただけです!……もしかしたら、その髪型にしてみるかもですけど……」

 

カナタ「ん〜〜、あたしの好きな髪型ねぇ…。あたし、よくそういうの…よくわかんないけど、シーはシーの今の髪型でいいんじゃないかな…」

 

シノン「何よ、カナタ。あんた、ツインテールが好きなの?」

 

カナタ「違くて!シーの髪型の中では、その髪型が好きって話。前に、お泊まりにいった時はツインテールを下ろしてて、大人っぽくて…それもよかったけど…。ん〜、でも やっぱ、シーはツインテールの方がいいよ」

 

シリカ「〜〜っ」

 

アルゴ「カー坊は通常運転だナ〜。なぁ、シーちゃん」

 

シノン「えぇ、そうね…。でも、今頃はこういう展開にも嫉妬しなくなったのよ…。慣れって怖いわよね、ねぇ アルゴ」

 

アルゴ「にゃはは!だナ…。そんな、シーちゃんの気持ちを知ってか知らずか…カー坊は今日も女の子に囲まれてるナ〜」

 

シノン「…もう、こうなったら…流れに任せるしかないわね。ふぅ…」

 

何なら後ろで恋人の口から大きなため息が聞こえて来たような気がしたが…気のせいであろうか?

眉をひそめるあたしへと今度はレインが話しかけてくる。

 

レイン「じゃあ、カナタくん。私はどうかな?」

 

カナタ「レイ?ん〜〜、レイも今の髪型が好きだな…」

 

レイン「そう…?なら、このままでも…」

 

リズベット「ちょっと待って。カナタ、もしかしてだけど…見慣れているから、その髪型がいいって言ってるんじゃないでしょうね」

 

カナタ「…へ?そう…なの、かも知れない…」

 

フィリア「シリカもレインも真剣に聞いてるんだから。ちゃんと答えてあげなさいよ」

 

カナタ「ちゅーても。あたし…想像力とか無いし…」

 

リズベット「ふーん、なら決まりね。カナタの好みの髪型をみんなで探しましょうよ」

 

カナタ「いやいや、なんでそうなる」

 

フィリア「まぁ、いいじゃない。カナタもこれから暇なんでしょう?」

 

カナタ「暇だけどさ…めんどーー」

 

アスナ「カナちゃん、めんどくさいは無しね」

 

カナタ「ーー。はい…」

 

その後、カナタはノリノリな女性陣に連れられ…延々と髪型を聞かれていったのだった……




カナタの好きな髪型はショートヘアーです。

因みに私はショートヘアーも好きですが…最近はポニーテールにハマっています(笑)


次回は、A man of high caliber を更新しますので…よろしくお願いしますm(_ _)m


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意外と大変なカナタ世話係(アスナside)

この話はリクエスト頂いたアスナとの話となってます。ifストーリーというわけではないんですが…、私が考えられるヒナタの可愛さをふんだんに盛り込んだので…アスナと共にキュンキュンしてもらればと思います!

では、ご覧ください(礼)

*お気に入り嵐・250名 ありがとうございます!

4/18〜誤字報告、ありがとうございます!


「え〜と、ここでよかったわよね?シノのんの部屋…」

 

栗色の髪を腰のところまで伸ばしている少女・アスナは、焦げ茶色の髪をショートヘアーにしている少女・シノンから頼まれたある事を果たすために、彼女の部屋へと訪れていた。

 

そのある事とは…、シノンが出掛ける前まで時間を遡らなければならない。

アスナと婚約している黒髪の少年・キリトたちと共に、最前線を攻略へと向かうために早めに起きたシノンは、今回は苦手なモンスターが出るために攻略を休ませてもらっているアスナへと歩み寄ると話しかける。その髪と同色の瞳に詰まっているのは、沢山の心配事の様だった。

 

『アスナ。私が攻略から帰ってくるまで…カナタのこと、お願いできるかしら?』

 

そんな瞳で此方を伺いつつ、頭を下げるシノンに驚きつつもアスナは微笑んで、そのお願い事を承諾した。しかし、承諾したものの、そこまでカナちゃんことカナタが世話がかかるとはどうも思えない。

 

“でも、なんで そんなにカナちゃんのことが心配なんだろう?”

 

シノンがカナタのことを世話焼いているのは…、彼女たちと暮らしていれば、自ずとわかってくるものだし…時折、恋人のようなスキンシップを取るのも…彼女たちなりのコミュニケーションだと思い、アスナ的には微笑ましくもあったのだが…シノンの表情から、どうやら彼女の心配事はアスナの想像している以上に沢山あるようで、アスナは眉を顰める。

 

『うん、いいけど…どうして?カナちゃん、しっかりしてるし…わたしは、必要ないように思えるけど…』

『そうだといいんだけどね、本当はそうじゃないのよ。あの子…朝がどうしても弱くて、ね。他のところも、随分抜けてるところがあるし…一人で居させるのが、なんだが不安で…。

………それにほっておくと、またどっかから女の子を連れてくるかもしれないし……。………アスナなら、キリトがいるから…、フィリアやリーファよりかは大丈夫なはずだし…。ヒナタもそれを理解してるはずだから…、たらしみたいな事はしないはずよね……?でも…、アスナはヒナタのあれに耐えられるかしら?大丈夫よ…ね……?…アスナはしっかりしてるし、キリトので慣れてるはずだから…』

 

心配事を述べた後に、ブツブツと小声で何かを言ってるシノンにアスナは心配になり、その僅かにうつむいている顔を覗き込もうとする。すると、シノンはアスナの行動に気づき、淡く微笑むと頭を下げる。

 

『シノのん?』

『ごめんなさい、なんでもないわ。とりあえず、アスナになら安心して…あの子のこと任せられるから。お願いできるかしら?』

『うん、任せて!シノのんっ。シノのんが、帰ってくるまで責任持って、カナちゃんのこと面倒みるね!』

『えぇ、お願いね。夕方くらいには帰ってくるから…。それとあの子はまだ私の部屋で寝てると思うわ』

『うん、わかった。いってらっしゃい』

 

胸を軽く叩くアスナに、微笑んだシノンはキリトたちが待つ方角へと歩き出した…

 

“そこまで…、カナちゃん世話がかかるとは思わないんだけど…”

 

って、あの時は思ってたんだけど…これはシノのんも心配するばすね。

シノンに言われた時間になり、彼女の部屋へと足を踏み入れたアスナは、今だに布団を頭のところまですっぽり被り…眠りこけている塊に嘆息する。その塊の近くへと跪くと、ゆさゆさとその塊を揺さぶる。

 

「カナちゃん、起きて。朝だよ」

「ん…ぅ…」

 

しばらく、揺さぶっていると癖っ毛の多い栗色の髪が姿を現す。それに気づいたアスナは、その隙間へと手を入れると布団を剥がす。しかし、剥がそうとしようにも力が強く観念したアスナは、根気強く布団の塊ーーカナタを揺さぶり続ける。

 

「カナちゃん〜、起きて〜。朝ごはん、一緒に食べましょう?」

「ぅ…?」

 

“あっ、起きてくれた?”

 

アスナの気持ちが通じたのか、布団からこちらを見ている空のように透き通った蒼い瞳と視線があい、アスナは微笑む。

 

「…もぉうっ、しの〜ぉ、どこにいってたの〜ぉ?あたし、まってたんだよ〜ぉ」

 

“へ?ちょっ…”

 

甘えた声を出したカナタは布団から触れれば折れてしまいそうな二本の腕がアスナの肩を揺すっていた右手を掴むと、そのまま布団へと引っ張る。

突然の出来事に抵抗もできず…布団の中へとダイブするアスナを抱きしめたカナタは、甘えてくる子犬のようにスリスリと顔をアスナの胸へとすり寄せる。

 

「へっへっ〜♪しののにおい〜。いいかおりだね〜、おちつく〜ぅ」

「ひゃっ、ちょっと…カナちゃんっ。どこ匂ってっ、くすぐったいからっ」

「ん?し…の…?いつもとちがうにおいをつけてるのぉ?でも、こっちのにおいもあたしはすきだよぉ〜、へへ〜♪」

 

“もしかして、寝ぼけているの!?カナちゃん”

 

トロンとした瞳でアスナに甘えるカナタのセリフに違和感を覚えたアスナは、強く抱きしめてくるカナタへと呼びかける。

 

「カナちゃん、よく見て…わたしよ、アスナ。シノのんじゃないわ!」

「ん?あしゅな…?」

 

トロンとした目でアスナをジィ〜と見ていたカナタは、次第に蒼い瞳が大きくなっていく。そして、強く抱きしめていた力も緩み、頬が朱色に染まり始める。それを近くで見ていたアスナは思う。

 

“あっ、かわいい”と…

 

普段、戦闘時ではクールというか格好良さが目立つ彼女の滅多に見れない可愛さに触れた瞬間、アスナの胸は少しばかり高鳴った気がした。

 

「……あっ、ほんとだ…あっすーだ。あれぇ?しのは?」

「シノのんなら、攻略に行っちゃったよ。それより、カナちゃん…いつまで、その姿勢なのかな?わたし恥ずかしいんだけど…」

「ああ…、ごめんね、アッスー。つい癖で…すぐに離れるから…」

 

アスナから離れたカナタは背伸びして、アスナへと頭を下げる。

 

「ん〜っ!!改めて、おはよう アッスー。さっきはごめんね、突然抱きついたりして…」

「いいのよ。カナちゃん、寝ぼけていたんだし。いつも、ああやってシノのんと寝てるの?」

「ん、シノンも抱きついていいって言ってくれてるから。その方が落ち着くし…。あたし、暗いところや寒いところが嫌いだからね…あはは…」

 

癖っ毛の多い栗色の髪を撫でながら、苦笑いを浮かべるカナタに、アスナは微笑む。

 

「でも、わたしはうらやましいって思うよ。カナちゃんとシノのんの関係…、現実ではわたしの事を本当の意味で理解してくれる人はいなかったから…」

「…意外だな、アッスーってそういうの得意だと思ってた…」

「それほどでもないよ。それより、朝ごはん食べよう?」

「ん、わかった」

 

アスナの言葉に頷いたカナタは素早く着替えると、下の酒場へと降りていった…

 

 

γ

 

 

朝ごはんを食べ終わったアスナたちは、アークソフィアの街へ繰り出していた。

その目的は、シノンを驚かせるプレゼントか衣装(カナタが着る)を選ぶというもので…乗り気ではないカナタをアスナが引っ張っている。前方に見えたお気に入りの店を指差しながら、隣を見たアスナはそこに浮かんでいる表情に怒る。

 

「ねっ、カナちゃん。あそこの店とかどう?」

「……」

 

その表情とはウェ〜と苦虫を噛んだ時みたいなもので、おそらく女の子が浮かべるべきものではないだろう。そんな表情をしているカナタに頬を膨らませるアスナ。

 

「こらっ。女の子がそんな顔しちゃダメだよ。カナちゃん、折角の美人さんなのに〜」

「あたしよりアッスーの方が綺麗だって…。そんなことよりさ、あたしそういうの…別にいいのに…」

「ダーメっ。シノのんをびっくりさせるんでしょう?店でカナちゃんもシノのんのびっくりした顔を見たいって言ってたよね?」

「うっ、そうだけどさ…。わかったから…アッスーの言う通りにする」

「わかればよろしい。ほら、いくよ」

 

カナタはアスナに弱いところをつつかれ、うなだれるように撃沈する。うなだれるカナタの左手を握って、先をいくアスナはお気に入りの店の中へと入ると、商品が並んでいる商品棚へとカナタを連れてきたアスナは目の前にあるネックレスを指差す。

 

「これとかどう?カナちゃん」

 

アスナとネックレスを交互に見ながら、カナタは難しい表情を浮かべると頭をかく。

 

「ん〜、あたしにはそういうのわからないから…アッスーが選んでよ」

「もう〜、カナちゃんが選ばないとシノのん嬉しくないでしょう?」

 

頬を膨らませるアスナに、カナタは弱った様子で頷くと…アスナにアドバイスを受けながら、シノンが喜びそうなものを選んでいく。

 

「そうだね…。ん〜、これは効果があるし…これがいいかな?すみませーん、これ欲しいんですけど…」

 

無事、シノンへとプレゼントを買い終えたカナタはなぜか疲れた表情を浮かべていた。しかし、それくらいで女子のショッピングが終わるわけがなく…つぎの店を目指して歩き出すアスナに、カナタはあからさまに嫌そうな顔をする。

 

「それじゃあ、カナちゃん…次はあそこに行きましょう!」

「え〜っ、まだ行くの〜?」

 

まるで、タダをこねる子供のように宿屋の方へと歩き出そうとするカナタをアスナは何とか引き止める。

 

「いくのっ。宿屋に戻ってもすることないでしょう?わたしのいうことを聞いてくれたから、次はカナちゃんの言うことを聞いてあげるから」

「ほんと?」

「うん、ほんと。だから、いこ?」

「ん、わかった…」

 

アスナの条件を飲んだカナタは、その後…ヘタヘタになるまでショッピングに付き合わされるのであった…

 

 

γ

 

 

宿屋についたアスナたちは、酒場の椅子に座ったきり動かないカナタの為にと…アスナが酒場の厨房を借りて、何かを作っている。机に顔を伏せているカナタの鼻に、美味しい匂いが漂ってくる…ゆっくり顔を上げたカナタの目の前に、真っ黄色な薄焼き卵の上にデミグラスソースがかかっている料理が差し出される。

 

「はい、おまたせ。カナちゃん」

「わ〜っ!?オムライス?なんで…アッスー、あたしがオムライス好きなの知ってたの?」

 

大好物に満面の笑顔を浮かべるカナタに、アスナがホッとしたような笑顔を浮かべる。スプーンを差し出しながら、カナタへと話しかける。

 

「うん、シノのんから…カナちゃんはオムライスが好きだからって聞いたからね。作って見たよ、カナちゃんの好みがわからなかったから…わたしの好みで味付けしちゃったけど…」

「ううん、いいよ。作ってくれただけでも…うれしいよ。あんがとね、アッスー」

 

その時浮かべた笑顔が、まるで幼い子供のように無邪気でアスナの胸がまた僅かに高鳴り…母性をくすぐった。大口を開けて食べるカナタを見て、自然と笑みがこぼれていく。

 

「どう?美味しい?」

「ん〜っ、美味しいよ!アッスーっ、これすっごく美味しいっ!!お店のより美味しい!!」

「それは褒めすぎだよ、カナちゃん…」

 

カナタの褒め言葉に頬を染めるアスナは、オムライスをかき込むように食べていくカナタの頬に黄色と赤茶色のものが付いているのに気づいた。右手をスライドして、ハンカチをオブジェクト化すると、子供のようにはしゃいで食べているカナタの頬の汚れを拭き取っていく。

 

「あ、あっすーぅ?」

「急いで食べ過ぎだよ、カナちゃん。まだあるから、ゆっくり食べてね?」

「ん、わかった…」

 

自分の頬から汚れを拭き取ったアスナを見たカナタの蒼い瞳がキラリと意地悪な光を放つ。スプーンを置くと、自分の分を食べ進めているアスナを見つめる。そんなカナタを見て、小首をかしげるアスナだが…次の瞬間、カナタが放った言葉に赤面することになる。

 

「ねぇ、アッスー。アッスーはあの時、自分の言うことを聞いてくれたら…あたしのいうことも聞いてくれるって言ったよね?」

「うん、言ったよ」

「なら、アッスーにお願い事していい?」

「いいけど…、そのお願い事って?」

「それはねーー」

「それは?」

「ーーあたしの残りのオムライスを、アッスーにたべさせてもらいたいなぁ〜って、ダメ?」

 

可愛らしく上目遣いでそう言うカナタに、あんなことをいった手前断ることもできずに、アスナはそのお願い事を聞くことにした…。この後に、待っている修羅場の怖さも分からずに……。

カナタから残りのオムライスとスプーンを受け取ったアスナは、大口を開けているカナタの中へとオムライスを投入する。

 

「んっ!美味しいっ。アッスーにあ〜んしてもらえて、オムライスが数倍美味しく感じる!」

「そ、そうかな?でも、わたしもカナちゃんに喜んでもらえて…嬉しいよ、はい あ〜ん」

 

カナタの言葉に、頬を染めながら…困った表情を浮かべるアスナは、とりあえず オムライスを食べさせることに専念するらしく…カナタへとスプーンを差し出す。それをパクッと満面の笑顔を浮かべて食べるカナタの頬が、時折汚れると拭いてあげながら…アスナはカナタにオムライスを食べさせてあげていた。途中から、アスナ自身もカナタに食べさせることを楽しく感じており、ノリノリでカナタへと食べさせていると…ふと、カナタの後ろに見知った赤と黄緑色の戦闘着が見え、次に聞こえた声にアスナは完全に固まった。

 

「アス…ナ……」

 

焦げ茶色の瞳がアスナと目の前に座る癖っ毛の多い栗色の髪の少女を交互に見ており、その瞳に映る色が驚きから呆れへ、呆れから怒りへと変わっていく。それに気づいたアスナは、瞳と同色の髪を持つ少女・シノンへと言い訳しようとする。だがーーにっこりと、目が笑ってないという不思議な笑顔を浮かべたシノンから放たれるオーラに言葉を詰まらせてしまう。

 

「あっ、シノのん…。違うんだよ…これはっ」

「…大丈夫よ、アスナ。こんな事態になった全ての元凶に、私は心当たりがあるもの。さて…今日という今日は、どんな風に懲らしめてあげましょうかね…」

「し…シノのん…」

 

そんなシノンの変化に気づかない癖っ毛の多い栗色の髪の少女・カナタはアスナの視線に気づくと、その視線を辿って…後ろに立つのが誰なのかに気づくと、微笑む。そんなカナタに微笑みかけるシノンは、カナタを宿屋の外へと呼び出す。

 

「おかえりなさい、シノン〜」

「えぇ、ただいま、カナタ。少しいいかしら?」

「ん?別にいいけど…、今日のシノン…いつも以上におっかないね…」

「そうかしら?カナタの気のせいよ、それよりこっちに来て」

 

椅子から立ち上がって頭を下げるカナタに、アスナは忠告と無事を祈るしかできない…

 

「うん、いいけど…。アッスー、ごめんね?少し席を立つね」

「えぇ、カナちゃん」

「ん?」

「…気をつけてね」

「?わかったぁ?」

「カナタ、行くよ」

「あっ、今行くよ!シノっ」

 

外へと出たカナタは姿の見えないシノンを探しているようで、辺りをキョロキョロとしているがーー次の瞬間、自分目掛けて飛んできた矢に目を丸くする。

 

『ちょっ、シノ!?なんで、弓を構えーー危なっ!?』

『チッ』

『シノっ、さっき舌打ちしたよね!?だから、危ないって!やめっ、うお!??』

 

弓を構えて矢を放つシノンに、カナタは謝罪しながら…矢を避けたそう……

 

 

ー完ー




と、こんな感じで良かったでしょうか?

アスナさんはどちらかというと…お母さん的な立場で、カナタハーレムへと入会していただければと…思います。入会するかどうかは、アスナさん自身の判断なんですが……(笑)

そして、ついにシノさんに追い回させるヒナターーまぁ、仕方ないですよね…。今までが今までだったので…シノさんも堪忍の尾が切れてしまったのでしょう。

次回もつづけて、リクエスト頂いた話を書こうと思います。では!!


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001 ままだいすきっ!

火曜日ではないですが、皆さんこんばんわ!

まず、今回の話の簡単な説明をすると…ある出来事で容姿も記憶も4歳児になってしまったヒナタさんを新米ママレインさんが育てる話です。
ええ、それだけの話です…

純粋にママしてるレインさんが読みたかったのです…私が(笑)

なので、読者の皆さんは「また律乃がやらかしてる」みたいな感じで笑いながら…このepisodeは読んでください。

では、4歳児になったひなちゃんの可愛さにご注目しながら…本編をどうぞ!

※間違えていた部分を書き直しました


「ーー」

「すぅ…すぅ…」

 

朝、目を覚ますと隣で見知らぬ子供が寝ていました。

しかも、私のダボっとしたシマシマのパジャマをギュッと握りしめており、その容姿と相まって愛らしいです。

 

因みに、その子の容姿はというと…癖っ毛の多い栗色の髪を腰のところまで伸ばしており、ふっくらとした頬が年相応の幼気を残しながらも…既に整った顔立ちなのはこの子の両親がよっぽどの美形なのだと思います。

そこまで、この子ーー少女を眺めて…私は片眉を上げます。

 

“ん…?あれ、私…”

 

この子に似た人知ってるかも…と思った時、ぱちくりと瞼を持ち上げた少女が片目をこすりながら起き上がりました。

まだ眠たそうにうとうとしながら、私を見つめてくるまん丸な瞳は空のように澄んだ蒼色であり、真正面から少女を見ると…やはり、見たことある顔立ちで私は不躾と知りながらもまじまじと少女を見ます。

 

「…おはよう、まま」

「えっ…と、おはよう…」

 

しかし、それも少女のその一言で狼狽えてしまい…私は戸惑いつつも、淡く微笑みながら少女に朝の挨拶をします。そんな私をじぃーと見つめてくる少女はその幼さを残しつつも整った顔立ちへと苦痛の色で歪ませると…丁度もみじの葉と同じくらいの掌を恐る恐る私のお腹へと触れさせると円を描くように撫でます。

少女のその行動にびっくりしている私をチラチラと見上げてくる少女は小さく訪ねてきます。

 

「…まま、おなかいたいの?」

「え…と、その…」

「…それとも…また、ひなちゃんがわるいことしちゃった?だから…まま、おこってるの?」

 

そう言って、蒼い瞳をうるっとさせる少女を見て、流石に罪悪感に苛まれ、私は慌てて両手を振るとその小さな手を撫でます。

 

「ううん、君は悪くないんだよ。ただ、突然のことでわたーーママ、驚いちゃったんだ。ごめんね、ひな…ちゃん?」

「…まま、おこってない、ほんと?」

 

そう訪ねてくる少女の癖っ毛の多い栗色の髪を撫でながら、私は少女を安心させるようににっこりと笑いかけます。

 

「…うん、本当だよ。え…と、ひなちゃん。ママね、色々と混乱してるところがあるんだけど…質問してもいいかな?」

「ん、いいよ」

 

こくんと頷く少女ーーひなちゃんへと私は疑問に思っていることを何個か質問してみます。それに素直に答えるひなちゃんは私が言うのもなんですが…可愛らしかったです。

 

「まず、ひなちゃんのお名前を聞いてもいいかな?」

「お名前?こしみずひなた、だよ」

「へー、こしみずひなたちゃんで…ひなちゃんね。可愛らしいお名前だね」

「ん!ままがつけてくれたこのなまえ、ひなちゃんだいすき!」

「そっか…ひなちゃんって今何歳になったところ?」

「ひなちゃんよんさいになったよ」

「そう、4歳…」

 

そこで私の中に引っかかるものがあったのです。

それがなんなんなのか分からないまま、ひなちゃんへの簡単な質問タイムを終え…そこで私は気付きました。

ひなちゃんへと最初に質問した時に聞いた名前《こしみずひなた》の《ひなた》の三文字をどこかで聞いたことがある…それもひなちゃんによく似た人から直接聞いたのです、私が。それもごく最近に。

 

『ねぇ、カナタ君のリアルの名前ってどんなの?』

 

直球で質問する私に彼女は苦笑を浮かべながらも答えてくれました、私にとって意味のあるその名前を。

 

『ちょっ…この世界でリアルの話ってしちゃあダメって話でしょう?』

『…因みに私の名前は枳殻 虹架(からたち にじか)だよ』

『レイもやるようになったよね。はぁ…分かった。こっちに耳貸して』

『うんっ』

『あたしの名前は香水 陽菜荼(かすい ひなた)だよ』

 

そう、あの時彼女は私の耳元へ囁きました《かすいひなた》と。そうです、確かに言ったのです…彼女の現実(リアル)での名前は《かすいひなた》と。

 

それを踏まえた上で目の前にいる少女を改めて見てみると…腑に落ちる点がいくつもあります。

まず、こっちを見つめてくる大きな空のように澄んだ蒼い瞳は大きくなった彼女のままでしたし、腰近くまで伸びている癖っ毛の多い栗色の髪も肩近くまでに切り揃えているのをイメージすれば…彼女とそっくりです。

ということで、やっぱりこの子は私が想いを寄せているカナタ君ということになります…ですが、そうなるといくつもの謎が残るのです。

 

まず、なぜカナタ君が4歳児の姿になってしまい、記憶もその頃にまで遡ってしまっているのか?

次に、なんで私のことをカナタ君のお母さんと間違えてしまっているのか?

そして、最後にどうやって私のところに潜り込んだのか?の三つが主な謎と考えられます。

 

その謎解明へと精を出している私のパジャマの袖をくいくいっとひなちゃんが引っ張ります。ハッとして、ひなちゃんの方を見ると不安そうな表情をしてます。

どうやら、ひなちゃんへと心配をかけてしまった様子です。

 

「…まま?」

 

“この子がカナタ君?それを確かめるには…カナタ君のことをよく知る人に聞いてみるしか…”

 

心配そうにこっちを見てくるひなちゃんへと微笑みながら、私はひなちゃんの小さな肩へと両手を添えます。

 

「ひなちゃん、ちょっとママとお出かけしようか?」

「おでかけ?」

「そう、お出かけ」

 

ひなちゃんに合う服がなかったので、私が持っている服で一番小さい服をぶかぶかですが着てもらい、ひなちゃんを抱っこすると私は通い慣れた町の外れにあるお店へと足を踏み入れます…その店内に黄緑の複雑な服と蒼いマフラーをいつも着用している弓使いがいることを願いながら……




というわけで、次回は《かすいひなた》ちゃんのことをよく知るアノヒトへとアポします、新米ママのレインさんが(*´꒳`*)

そして、話がズレてしまうのですが…前に私の好きなヘアスタイルはポニーテールと思いますが、それには続きがありましてーー

リーファさんのような髪の長い子がするポニーテールも好きなのですが…私が好きなポニーテールというのが、フィリアさんのような感じの髪型の人が…しているポニーテールの方がもっと好きなのです!

もっというと、ショートヘアーの人が結ぶ必要がないのに結んでいるのが好きなのです。
それがポニーテールでもツインテールでもおさげでもサイドテールでも…なんでもとんどこいです(興奮)

というわけで…なんだかんだいって、私もヒナタさんと好みが似通ってるってことですね(*゚▽゚*)



次回の更新は火曜日か木曜日ですm(_ _)m
そして、最初が『episode8 後編』を更新し、その次が『キャリバー編』を更新出来ればと思ってます!


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002 ままだいすきっ!

毎回、感想を頂いている方から『レインちゃんはゲームだけのキャラなのは勿体無い』の感想を頂いたのですが…私もそう思います!

ゲームだけでなく…本編でもちらりと姿を出してほしいものです…(祈り)

さて、そんなレインさんが新米ママとして奮闘する話の2話となる今回の話ですが…ひなちゃんとなってしまったカナタの新たな一面が見れるかもしれません…

では、本編をどうぞ!


「こんにちわ」

「おぉー、こんにちわ、レイちゃん」

 

私は軽くマスターに挨拶をすると、店の中を見渡します。そして、カウンター席の一番左の席を空けた一個隣に腰掛けているお目当ての人物を見つけ出すことができ、私は安堵しながら…その人へと声をかけます。

その人は私の声に気づいて、蒼いマフラーを猫の尻尾のように揺らしながら振り返ってきます。

 

「シノンちゃん!」

「ん?あら、レインじゃない。どうしたの?」

 

淡く微笑みながら、自分の横の席を軽く引いてくれる彼女にお礼しながら、私は抱いているひなちゃんに気をつけながら腰を下ろします。そんな私の膝の上に向きを変えて、座り直したひなちゃんへと物珍しそうな視線を送っていたシノンちゃんの形良いまつ毛がぴくりと僅かに動きます。

それを見た私はごくりと唾を飲み込むとシノンちゃんへと声を問いかけます。

 

「シノンちゃん、この子に見覚えないかな?」

「見覚えも何も…その子ってひなーーカナタでしょう?随分と小さくなってしまった様子だけど…。全く、帰って来ないって思ったら…また、変なクエストを受けてしまったのね…」

 

シノンちゃんのセリフを聞き、私は思いましたーー“あぁ、やっぱり”と…。

いえ、この子の名前を聞いた時からカナタ君だとは確信していたのですが…心のどこかで割り切れない私というもの居まして、改めてカナタ君をよく知るシノンちゃんから答えを聞けて…良かったと思います…と、話が逸れてしまうところでした!

彼女に会ったら、聞いておきたい質問がもう一つあるのでした。

 

「シノンちゃん、もう一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「ええ、何かしら?」

「シノンちゃん、この頃のカナタ君に会ったことは?」

「いいえ、無いわね。私とカナタが最初に出逢ったのって…確か、小学三年の頃だと思うから…」

「そうなんだ…」

 

確かに、普通…というと誤解を与えてしまうかもしれませんが、あのカナタ君がシノンちゃんを目の前にして何も反応しないとは空から槍が降るくらい珍しいことなのです。それくらい私の目から見ても、二人はお似合いですし…ラブラブなのですから…。

なので、そんなカナタ君が小さい頃の記憶しか持ってないというハンディーを持っていながらも…大好きなシノンちゃんよりも私を選んでくれたことに小さな優越感を感じてしまっている私は嫌な女です、本当に。

 

「おいおい、お嬢さん方。うちの店はリアルを話し合う密会専用店じゃねーんだぞ」

「いいじゃない、マスター。今日は恐らく、私とレインくらいしかマスターの店に来ないはずよ。ということは、実質貸し切りってことじゃない。だから、もう一杯 コーヒー頼めるかしら?」

 

両脚を組み、不敵に笑うシノンちゃんのセリフにマスターも一本取られた様子でして…お気に入りの料理場に立つとシノンちゃんが頼んだコーヒーを淹れていきます。

そんなマスターを見ながら、シノンちゃんが私の方を見てきます。

 

「ちっ。まぁ…シノちゃんがいうものわかる気がするな。まぁ、いいさ。気がすむまで…密会していってくれ」

「ありがと、マスター。あぁ、そうだ。レインも何か飲む?」

「えぇ、いいよ。シノンちゃんにそこまでして貰うのは…」

「いいのよ。この子の面倒を見てもらってるんだし…それに…今回ばかりは私はこの子の力になれそうにないから」

「そんなこと…」

「まぁ、細かいことはいいから。カナタ…えぇ…と、ひなたちゃんも何か食べる?」

「ーー」

 

私の服の袖をギュッと握りしめながら、にっこり笑って話しかけてくるシノンちゃんの顔をジィーと見つめ、ちらっと私を見上げてくるひなちゃんへと私は優しく声をかけます。

 

「このお姉ちゃんはママのお友達なんだ。だから、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ」

「じゃぁ…ひなちゃん…ぉ、おむらいす、たべたぃ…」

「分かったわ。オムライスね。あと…あっ、マスター。はちみつレモンって作れる?」

「あぁ、作れるぜ。はちみつが多めがいいかい?」

「えぇ、多めでお願い」

「…ままは?」

「あ…私もひなちゃんと同じでお願いします」

「へい、少し待ってな」

 

そう言って、ひなちゃんの注文を終えたシノンちゃんが私へと視線を向けてきます。流石に、ひなちゃんの分だけでいいと思っていた私が軽く首を横に振りかけますが…くいっと袖を引くひなちゃんの潤んだ蒼い瞳の前では断るものも断れませんでした。

なので、奢ってくれるシノンちゃんに頭を下げながら…ひなちゃんの好みを知ろうと同じメニューを頼んでみました。

好みを知ろうというのは…この小さくなってしまったカナタ君を元に戻すまで、かなり時間がかかってしまいそうな気がしたからです。なので、一緒に暮らすのなら…ひなちゃんの好みを知っておこうと思っただけで…元に戻ったカナタ君にこっそり覚えた好みの手料理を食べてもらうとは思ってません、えぇ全く思ってません!

そこまで思い、ふと疑問が湧きました。なんで、シノンちゃんははちみつレモンをひなちゃんの飲み物に選んだのでしょうか?

 

「シノンちゃん、はちみつレモンって?」

「あぁ、実はね。毎朝、それを飲むのがカナタの日課なのよ。だから…もしかしたら、この頃からその習慣がついてるのかもってね」

 

私の方をちらっと見て、軽くウインクしながら優雅に足を組み直し、コーヒーを飲むシノンちゃんは本当に絵になると思います。

そんな人に私のようなものが戦いを挑むのは間違っているかもしません…出会った当初はなんとかなるとアタックを続けていましたが、カナタ君とシノンちゃんの間には私のようなものが割って入れない固い絆が確かに存在しているのです。

だから、今でも思うのです…この出来事は私に与えられた最初で最後の恋の神様からの贈り物なのではないのかと。

 

「…まま?」

「へ?あぁ、なんでもないよ、ひなちゃん」

 

そんな事を思いながら、ぼんやりしている私を心配そうに見上げてくるひなちゃんの癖っ毛の多い栗色の髪へと手櫛を入れながら撫でてあげると気持ちよさそうに目を細めます。

そんなひなちゃんと私を微笑ましそうに眺めていたシノンちゃんが何かに気づいた様子で私に話しかけてきます。

 

「カナタが着ているその服って、レインの?」

「…へ?あぁ…うん、そうなんだ。本当はひなちゃんの身体にあったものを着せてあげたいんだけど…子ども用の服って何処に売ってるのか分からなくって」

 

焦げ茶色の瞳に映るひなちゃんの服装は改めて見ても酷いものだと思います。

私のお下がりの赤いワンピースはたぼっとしており、今にも彼女の成長中な肢体が見えてしまいそうです。そのワンピースの下に何か着せてあげようと思ったのですが…持ち合わせがなく、やむおえなくこのワンピースだけで着てしまったのがいけなかった様子です。

一通り、ひなちゃんの服装を見たシノンちゃんは暫し、何かを考えるように眉をひそめると…メニューを開いて、ちらりと何かを見ると私たちへと微笑みかけてきます。

 

「なら、このお店の後に行く場所は決まったわね」

 

にっこりと笑うシノンちゃんを見て、私と膝の上にひなちゃんが同じタイミングで小首を傾げました…




というわけで…時折、カナタから漂っていた柑橘系の甘い香りは毎朝、はちみつレモンを飲んでいるからというわけです。

はちみつレモンって美味しいですよね…特にこの季節には(微笑)



さて、これからはお知らせです。
①このepisode9は毎週木曜、更新となります。
②今週の金〜日にかけて…ぐちゃぐちゃになってる話を整理したいと思ってます。
ので、見慣れた話が違うところにいってしまったりするかもしれませんが…どうか、ご了承下さいm(_ _)m



また、今日はいよいよ【フェイタル・バレット】の発売日ですね。
私はある理由によって…初プレイが土曜か日曜になると思いますので…今日、プレイする読者の皆さん 私の分まで楽しんでください!


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003 ままだいすきっ!

大変、お待たせいましたm(_ _)m

木曜日に更新するといって…遅れてしまって、ほんとに申し訳ないです。

そんな遅れてしまった本編ですが…食事シーンが主となってます。
では、本編をどうぞ!


「へい、お待ち」

「ありがとうございます、マスター」

 

カウンターの向こう側から伸びてきたマスターの両手からオムライスとはちみつレモンを受け取り、まずは膝の上に腰掛けるひなちゃんへと差し出します。

チラッと私の方を見るひなちゃんへと微笑むとひなちゃんは最初の方はキョロキョロしていましたが…目の前にあるオムライスの魅力に負けたらしく、ゆっくりと小さな左手でスプーンを掴むとパクっとオムライスを口に含みます。含んだ瞬間、ひなちゃんのすこし切れ目な蒼い瞳がみるみるうちにまん丸になり…かけこむようにスプーンを動かすひなちゃんはどうやら、マスターのオムライスが気に入った様子です。…とは言いましたが、本当はそんなに心配していませんでした。だって、大きくなったひなちゃんことカナタくんはしょっちゅうマスターのところに通っていたところは見たことがありますし…えっと、何が言いたいかと言いますと…人の好みは小さくなっても大きなっても変わらないものだなぁ〜と言うことです。

 

「ひなちゃん、美味しい?」

「ん…おひい」

「もう、お口に物を入れたまま喋ったら、はしたないよ」

「あむむぐ…ごめんなひゃい」

 

ひなちゃんが食べているのに話しかけてしまった私も悪いのですが、子リスのように頬を膨らませて、口の中にあるオムライスをのぞかせながら喋るひなちゃんは微笑ましく愛らしいのですが…やはりここはママとして注意するべきでしょう。

淡く笑いながら、ポロポロ零しながら食べるひなちゃんの頬についたケッチャップを拭いてあげながら…小さい膝の上にハンカチを置いてあげます。こうしておけば、もし服の上に落ちてもワンピースが汚れることはないでしょう。

 

そうこうしていると、どうやら私の分も出来た様子です。マスターにもう一度頭を下げ、隣に座るシノンちゃんへももう一度お礼を言います。

 

「はい、これはレイちゃんのね」

「あぁ…ありがとうございます。シノンちゃんもありがとうね」

「いいのよ。私もカナタに勧められて、マスターのオムライスを食べたんだけど…確かにオムライスだけは別格だったわ。食べて損はないばすよ」

「おいおい。シノちゃんまでそれは酷くないか?」

「ふふふ、冗談よ、マスター。マスターの料理はどれも美味しいわ」

 

マスターのむくれた表情が可笑しかったのか、シノンちゃんはクスクスと笑うとひなちゃんへと話しかけてきます。そんなシノンちゃんを暫し、ジィーと見つめていたひなちゃんは小さな声でお礼を言うのを微笑ましく思います。

 

「ひなちゃん、オムライスとはちみつレモンの味はどう?美味しいかしら?」

「……」

「?」

「…どっちもおいしい…。おねえちゃん…ありがとう」

「ひなちゃんはもうお礼が言えるのね、いい子だわ」

「えへへ〜」

 

シノンちゃんのほっそりした右手がひなちゃんの髪を撫でるのを見ながら、私もお言葉に甘えて…オムライスを一口口に含んでみます。

 

“んんっ!?何これ、美味しい!!”

 

口に含んだ瞬間、ポロっとほぐれる卵には淡くダシの味が付けられており…その卵の薄味が濃い味付けのチキンライスとまたあうのです、これが。なるほど、これはひなちゃんの手が止まらなくなるのも分かります。

ひなちゃんの頭を撫でていたシノンちゃんが私の表情から驚きを感じ取ったらしく、声をかけてきます。

 

「ね?マスターのオムライスは格別でしょう?」

「うん、そうだね!今度から時々食べに来なくちゃ」

「良かったわね、マスター。レインも来てくれるそうよ」

「あぁ、これで常連さんが増えたよ」

 

その後、私とひなちゃんが食べ終わるのを見計らって…マスターへとお金を支払ったシノンちゃんの後を追いながら、こっちへと手を振るマスターへ頭を下げる。ひなちゃんを抱え直し、シノンちゃんの隣に立つとどこへ向かっているのか話しかけます。

 

「それでシノンちゃん、ここからどうするの?」

「アスナのところへ行ってみようと思うのよ」

「アスナちゃん?」

「そう」

 

お腹がいっぱいになったおかげで眠くなってしまった様子のひなちゃんはウトウトと小船をかきながら…遂に我慢できなくなった様子で私の右肩の頭を乗っけて眠ってしまいました。

 

「アスナなら最前線のことが分かると思うし…何よりユイちゃんっていう娘が居るんだもの。服とかこれからの事とか何か相談に乗ってくれるばすよ」

 

シノンちゃんに連れられ、今度はエギルさんが切り盛りにして居る酒場へとやってくるともうそこには一人の少女が腰掛けていました。

全身を覆う白と赤と騎士服、腰近くまで伸びた栗色の髪はこっちへと手を振っている少女の動きに合わせてフサフサと左右に揺れている。

そんな少女・アスナちゃんへと手を振りながら…寝てしまっているひなちゃんを起こさないようにゆっくりと腰掛けます。そんなに私の隣に腰掛けたシノンちゃんが口を開くより先にアスナちゃんがひなちゃんへと視線を向けてきます。

 

「シノのんから来たメッセージを見た時もびっくりしたけど…本当にカナちゃん小さくなっちゃったんだね」

「ええ、そうなの。一体、どんなクエストを受けたのかしらね?」

「ふふ、そうだね。さて、カナちゃん…今はひなちゃんなんだっけ?その子の服だよね」

 

どうやら、シノンちゃんが前もってアスナちゃんへと状況説明と子供服の依頼を送ってくれたらしく…アスナちゃんはその形良い眉をひそめると真剣に相談に乗ってくれます。

 

「想像していたよりも随分小さいんだね…。心辺りがあるにはあるんだけど…その人は




凄く今更なんですが…このマスターですが、オリジナルキャラです…(汗)


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004 まま、だいすきっ!

この前の週の更新は間に合わなく…前の週の更新は風邪をひいてダウンしてました…(バタン)

今まで風邪をひいても長引いたり、高熱が出たりはしなかったのですが…今回の風邪は違いました…(汗)

何とか治ったので、更新をしました!
ほんと、毎回遅れてすいません…(あせあせ)


「困ったわね…」

「うん、困ったね…」

「…?」

 

蒼いマフラーをはためかせながら、シノンちゃんがその形良い眉を顰めます。そんなシノンちゃんを見ている私も同じような表情だと思います。そんな私たちを空のように透き通った蒼いまん丸の瞳が不思議そうに見上げてます。そんな瞳に視線を向けられないほどに私とシノンちゃんは困り果てていました。

なので、つい抱き上げている両手の力を緩めてしまい、私たちを不思議そうに見上げているヒナちゃんをずり落としそうになってしまいます。それに気づいた私は「よいしょっ」とヒナちゃんを抱き直した私はつい先程のことを思い出します。

 

『でも、私の知ってるその人はこの層より下にいるから…頼めないかも…。ごめんね、力になれなくって…何かいい情報がわかったら、レインちゃんにメッセージ飛ばすから』

 

そういうアスナちゃんは本当に申し訳なさそうで、私もシノンちゃんもそれ以上は何も言えず、とりあえず『子供服関連』のクエストがないものか?と転移門の近くにいるNPCに尋ねてみようということになり、とぼとぼと転移門がある広場に向かって歩いている時でした。

 

「あれ?そこにいるのはレインとシノン?不思議な組み合わせだね〜」

 

そう言って、ひょっこり建物の隙間から現れるのは薄い紫色の髪の毛をショートヘアーにしている女性で、私はすぐに彼女に気づき、名前を言おうとするのですが……

 

「あっ、ストレ・・・」

「わぁ〜ぁ!!レインが抱っこしているその子小さい〜、可愛い〜!預かってる子?」

「あ、うん、そ・・・」

「本当に可愛い〜、ね!ね!だっこしていい?」

「「・・・」」

 

“どうしよ…全然、私たちの話聞いてくれない…”

 

思わず、引きつった笑顔を浮かべる私の襟首を引っ張るヒナちゃんもどうやら、私やシノンちゃんの戸惑いを感じてしまっている様子です。

 

「…ま、ま…、このおねぇちゃん…ゃ…」

 

親…と言っても本当のじゃないけど、周りの人が醸し出している雰囲気というものに子供は敏感らしくて、私の腕の中にいるヒナちゃんも困り顔の私を見つめて、ニコニコ顔で自分に近づいてくるストレアちゃんを恐れている様子で、これはのちにストレアちゃんを見て、ヒナちゃんが逃げ出し…ストレアちゃんが悲しむようなことになりかねません。

そんなことにならないようにストレアちゃんに対する恐怖はここで絶っておかねばなりません、という事で私はヒナちゃんを抱き直すとその空のように透き通った蒼い瞳をまっすぐ見つめます。

 

「ヒナちゃん、このお姉ちゃんもママのお友達なんだよ。だから、そんなに怖がらなくて大丈夫」

「…ほんと?」

「本当本当」

 

ニコニコと笑って見せれば、ヒナちゃんも納得した様子でストレアちゃんの腕の中へと向かいます。しかし、開始数秒でヒナちゃんの顔が梅干しみたいな酸っぱいものを食べているような顔になってしまいました。

 

“あはは…ヒナちゃんもストレアちゃんのハグ攻撃には参ってる様子かな…?”

 

心なしか涙目になってきているまん丸な蒼い瞳に《たすけて、まま》と浮かんだ気がしまして、私はまだ足りなさそうなストレアちゃんからヒナちゃんを引き取ります。そして、抱き直すとダメ元でストレアちゃんにも聞いてみます。

 

「ねぇ、ストレアちゃん。この子が着れるくらいの服ってどこか売ってないかな?」

「うーん」

 

腕を組んで、悩むストレアちゃん。

暫くして、私の腕に抱かれているヒナちゃんを見るとコクリとうなづきます。

その仕草に首をかしげる私とシノンちゃんにもにっこり笑って、ストレアちゃんは衝撃の一言を繰り出すのです。

 

「売ってるのは知らないけど、その子が着れるくらいの服なら…あたし、持ってるよ」

「ーー」

 

“はい?”

 

思わず、目が丸くなる私とシノンちゃんにストレアちゃんはもう一度それを言います。

 

「だ・か・ら、あたし、その子が着れるくらいの服持ってるよ。ほら」

 

そう言って、ストレージから出してくれる可愛らしいフリルのついた淡い藤色のワンピースは確かにヒナちゃんにぴったりのサイズです。ぴったりすぎて、逆に怖いくらいに。

驚く私とシノンちゃんにストレアちゃんがこの洋服を何故作ったのかを教えてくれました。

 

「へへ〜、あたしって自分の部屋に置いてある小物とか作ってるんだ。その中にね、この子と同じくらいの大きさのクマのぬいぐるみがあってね、その子に着せようと思っていた洋服の余りなんだよ、これって」

 

“な…なるほど、ヒナちゃんくらいのクマさんのぬいぐるみ・・・・・デカッ!?”

 

恐らく、抱き枕用で作ったにしても…ヒナちゃんくらいの大きさは流石に大きいのではないだろうか…?

思わず、苦笑いの私と違い、シノンちゃんはその形良い眉をひそめ、腕を組むとボソボソと独り言をつぶやいていました。

 

「…なるほど、裁縫スキルを鍛えれば…そんなことも出来るのね。ということは、陽菜荼…カナタのぬいぐるみとかも作れたりするのかしら…?…そしたら、いつも一緒だし…寂しくもないかも…。それに縫い物って、神経が研ぎ澄まされそうだし…やってみる価値はありそうよね…?」

 

“シノンちゃんは私欲に忠実なのか、真面目なのか…分かんないや…”

 

その独り言を意識せずに全部聞き取ってしまった私は腕の中にいるヒナちゃんへと視線を向けます。

早速、ストレアちゃんに貰った淡い藤色のフリルのついたワンピースを着用したヒナちゃんは可愛かったです。私もぬいぐるみ作り、頑張ってみようかな?っと思ってしまいました。

 

「…まま、どしたの?」

「ううん、なんでないよ。服をもらったお姉ちゃんにお礼しようか?」

「ん」

 

ヒナちゃんにお礼を言われたストレアちゃんはニコニコと笑いながら、もう一回ヒナちゃんを抱っこしようとしましたが…ヒナちゃんが拒否した為、しぶしぶ自分の家に帰っていきました。

そして、今まで私をサポートしてくれていたシノンちゃんもどうしても手が離せない用事があるそうで…結果として、私とヒナちゃんだけとなり、特に何をすることもなかったので私たちも自分の家に向かって帰りました…




一番の難関だと思っていた服探しですが…まさかの助っ人登場で難なくクリア。

ヒナちゃんも喜んでくれて様子でレインさんも嬉しそうです(笑)

この話『まま、だいすきっ!』ですが…恐らく、全7話となると思うので…残り3話、皆様がドキドキハラハラ出来る展開を考えつつ、ヒナちゃんとレインさんに癒される話が書ければなぁ〜と思います(敬礼)


*R-18版は水か木のどちらかに更新します。もちろん、日曜日も更新します。
こちらも遅れて、すいません…汗


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005 まま、だいすきっ!

お待たせいたしました!

まま、だいすきっ!の第五話となるこの話から少しずつ話が動き始めます。
あと少しで終わりになる新米ママのレインさんの物語をお楽しみくださいm(_ _)m

※今回も読みづらいです


第76層主街区《アークソフィア》にあるとある強面亭主が営む酒場に二人の少女の姿がありました。

一人は白と赤を基調とした騎士服を身につけた少女・アスナちゃんで、彼女が身動きするたびに極上の絹のような栗色の髪がサラサラっと揺れます。

そんなアスナの隣にはワイシャツの上にボロボロなマント、その下に短パンとニーソックスを身につけている少女・レイン…私が居て、一生懸命隣にいるアスナちゃんの手元を見ています。

 

「えぇと…これをこう、なのかな?」

「違うよ、レインちゃん。この野菜はこう切るの」

 

まな板の上に転がっている玉ねぎみたいな野菜を睨みつけて、恐る恐る右手に持った包丁で線を入れていく私を隣で見ていたアスナちゃんが声をかけてきます。

私は線を入れる手を止めるとアスナちゃんの方を向きます。そんな私へと整った顔立ちを微笑みの形へと崩したアスナちゃんが私に見やすいようにゆっくりと玉ねぎみたいな野菜へと線を入れていきます。

手慣れた手つきによって、瞬く間に千切りになった玉ねぎみたいな野菜をじぃーと見つめた私はついさっきアスナちゃんがしてくれた動きを真似します。

 

「そっか、そうして…っと、出来た!」

「やったね、レインちゃん!この千切りが出来たら、あとは簡単だよ」

「うん、ありがとう、アスナちゃん」

 

そうアスナちゃんにお礼を言いつつ、思わずため息を漏らしてしまったのはどうか許して欲しいと思います。

というのも、この千切りをマスターする為に玉ねぎみたいな野菜へと線を入れること数百回…チラッと左横を見れば、大量に千切りされた半透明な野菜が山のように積まれていました。

 

“んぅ〜…、やっぱり1日でマスターは流石に無理かな?”

 

アスナちゃんが取り出したニンジンみたいな野菜と左横に積まれた野菜たちを交互に見て、私はもう一度心の中で大きなため息をつきました。

 

γ

 

なぜ、私がアスナちゃんに料理を習っているのか?それの理由を話すには数時間前の出来事を話さなくてはなりません。そして、その出来事というのはーー

 

「…まま」

 

ーー小さくなってしまったカナタくんことひなちゃんと暮らし始めて、三週間が過ぎたある日のことでした。

その日もひなちゃんと一緒に街を散歩しようと思い、部屋の中を動きまわす私へと近づいたひなちゃんがくいくいと袖を引っ張ります。

なにかな?と思い、振り返る私にひなちゃんは衝撃的なことを言います。

 

「ひなちゃんね、ままのオムライスがたべたい」

「…へ?」

 

聞き直す私の目をまっすぐ見つめたひなちゃんはもう一度それを言います。

 

「ままのオムライスたべたい。…だめ?」

「だ…だめってことはないけど…その、ね…」

 

空のように澄んだ蒼い瞳から視線を逸らした私は激しく動揺してました。というのも、私はこの世界を生き抜く為、戦闘スキルの方へと精を出しており、それ以外のスキルは本当に簡単なものを作れる程度のもの…そんな腕でオムライスという強敵に挑めば、忽ち返り討ちにあうというもの…だから、もう少し腕を上げた後に挑みたいのですが…

 

「ひなちゃん、今日は違うものにしようか?特別にオムライス以外にひなちゃんが好きなものを作ってあげる」

「ゃ…オムライスがいい」

「ほら、朝からオムライスは胃がびっくりするよ?」

「や!オムライスがいいのっ!」

「……」

 

一緒に暮らす中で今までそんなに我儘を言わなかったひなちゃんの始めての我儘に私は困り果て、一応今作れる料理をひなちゃんの前に出したのですが…

 

「ふん」

 

プカーと膨らませたまんまるなほっぺたと垂れ目がちな大きな蒼い瞳が少しつり上がっているのがひなちゃんが不機嫌な何よりの証拠でしょう。

私は不機嫌なひなちゃんに根気負けし、折角なら美味しいものを食べさせてあげたいと思い、料理スキルを完全習得(コンプリート)したというアスナちゃんに助けを頼んだというわけです。

 

まな板に乗っかる野菜や肉をフライパンへと入れながら、そう言うアスナちゃんへとうなづきながら、私もアスナちゃんと同じようにフライパンへと食材を入れます。

 

「あとは切った野菜と肉をフライパンを入れて、途中で卵を入れるだけだよ」

「うん、わかった」

 

“えーと、あとはタイマーを………”

 

フライパンの上に現れたタイマーを操作しようと右手をウィンドウに触れた時でした。ドッシーーンッ!!と私の身体に衝撃が走ったのは…

 

「ままっ!」

 

“あ、危ない”

 

その衝撃で危うく誤った時間を押すところでした。

安堵のため息をつき、下を向くとニコニコ笑顔のひなちゃんが居ました。

恐らく、さっきまで鬼ごっこでもしていたのでしょう。ストレアちゃんに貰った橙の着物が着崩れて、癖っ毛の多い髪が更にボサボサになってしまってます。

 

“あんな不機嫌だったのが嘘のよう…”

 

私はギュッと抱きついてくるひなちゃんの癖っ毛の多い栗色の髪を撫でると腰を折り、着物を直します。

そんな私たちの元へとまたしても闖入者が現れます。一人は真っ白なワンピースに腰まで届くほどに伸びた黒髪の少女・ユイちゃんで、もう一人が茶色い髪を赤い髪留めで結び、赤と黒を基調とした戦闘着に身を包む少女・シリカちゃんです。

二人はキョロキョロと辺りを見渡し、私にしがみついているひなちゃんを視界を収めると私の元へと駆けてきます。

 

「あっ、あそこにいました。シリカさん」

「もう、ひなちゃん。あたしたち凄く心配したんだよ」

「…まま、もっとなでなでして」

 

ひなちゃんのリクエストに答え、なでなでする私に二人は申し訳なそうな顔をしています。

そんな二人に気にしてないよという意味を込めて、笑顔を向けるとひなちゃんへと話しかけます。

 

「ひなちゃん。ママね、まだ用事があるんだ。だから、それが終わるまでシリカお姉ちゃんとユイお姉ちゃんと遊べる?」

「…うん」

「うん、いい子。じゃあ、お姉ちゃんたちのところに行こうか?」

 

そう言って、シリカちゃんとユイちゃんにひなちゃんを託し、私はオムライス作りを習得する為に精を出すのでした…




さて、レインさんはオムライスを習得出来るのでしょうか?
次回をお楽しみに、です!


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006 まま、だいすきっ!

お待たせしました!

閑談①の第6話となった今回からシリアスな展開となっていきます…といっても、読者の皆様ならどんな展開になるのかは分かるかな…?(笑)

では、本編をどうぞ!


「ふぅ…やっと出来た」

 

私はそう言って、一息つきます。

そんな私の隣には、サラサラの栗色の髪が絹のように綺麗なアスナちゃんで、本当に彼女には感謝してもしたりません。

 

(今度、アスナちゃんに何かお礼しないとな…)

 

私の不始末で大量に積み上がった野菜たちはアスナちゃんの機転でみるみるうちに頬っぺたが落ちてしまうほどの絶品料理フルコースに早変わりし、私はアスナちゃんがそのフルコースを作り上げると同時に渾身のオムライスが出来上がりました。

そして、そのオムライスを見たアスナちゃんはにっこりと同性の私もドキドキしてしまうほどに美しい笑みを浮かべるとこう言ってくれました。

 

「やったね、レインちゃん。これならひなちゃんも大喜びだよ」

「う〜…ん…、だといいんだけどね…」

 

アスナちゃんの言葉に曖昧な言葉を返してしまうのは、目の前に置かれた私渾身のオムライスにありました。

渾身とは言いますが、その形は理想していたオムライスの形と大きく異なり、扇型でチキンライスが誰も触ってないのにポロポロと溢れてしまっています。

それを見て、苦笑いを浮かべる私にアスナちゃんが励ましてくれます。

 

「きっと大丈夫だよ。だって、どんな形でもレインちゃんの愛情がこのオムライスには沢山入ってるんだから」

「うん、そうだよね!ありがとう、アスナちゃん」

 

何故か、アスナちゃんにそう言われると大丈夫な気がしてきました。

 

(うん、この不恰好だけど…このオムライスには私のひなちゃんへの思いや愛情が沢山詰まってるんだもん。きっと美味しいって言ってくれるばす)

 

そう考え、このオムライスをパクパクと子リスのように頬をパクッと膨らませながら、「まま、おいしい」と美味しそうに食べてくれているひなちゃんの姿が瞼を閉じれば、思い浮かんできます。

こうしてはいられない、早速ひなちゃんを呼びに行かなくては、と思った時でした…白い風が調理場に飛び込んできたのはーー

 

「た、大変です!ママ、レインさんっ!!」

 

ーー私たちの前で止まったその白い風は、なんとユイちゃんでした。

腰まで伸びた黒い髪を乱し、慌てた様子のユイちゃんにアスナちゃんが問いかけます。

 

「ユイちゃん、どうしたの?そんなに慌てて…」

「ひなちゃんが私達とかくれんぼしている時には謝って、フィールドに出しちゃったみたいで。シリカさんが探してくれているんですが…まだ見つからないとーー」

 

一生懸命説明してくれているユイちゃんの可愛らしい声がだんだんと遠下がっていく感じで、もし両手に私が何かを持っていたら…きっと、調理場の床に落っことしていたはずでしょう。

それくらいユイちゃんから聞かされた話は現実味がなく、だがしかしこのまま惚けていたら大事なものを失うことは確実でーー

 

“…ひなちゃんッ!”

 

「ッ!!」

「あっ、レインちゃん!!」

 

ーー私は調理場を抜け、フィールドに向かうために《アークソフィア》のタイルを蹴飛ばし、すぐに戦闘が出来ように愛用している片手直剣を腰に出現させました。

 

γ

 

「ゔうぅ…ま、まぁ…」

 

背中近くまで伸びた癖っ毛の多い栗色の髪を揺らしながら、少女は自分の橙の和服の袖を掴むと大好きなお母さんを呼びます。

 

お母さんが自分のためにと大好物のオムライスを作ってくれると時間退屈だろうからとお母さんの友達のお姉ちゃんたちに遊んでもらっていた少女はある事を思いつきます。

 

(ふふ…おねえちゃんたち、びっくりするかな…)

 

お母さんやお姉ちゃんたちに絶対行ってはいけないと言われていた町の外へと出てしまったのです。

ほんの些細な好奇心と遊び心で出てしまった町の外に広がっていたのは、少女が想像していた以上に少女の好奇心を刺激するものでありふれていました…綺麗に刈りそろえてある芝生、あちらこちらに咲き誇っている色とりどりの野花。また、自分の身長くらいの大きなハチ。鮮やかな青色の毛並みが凛々しいイノシシ。

 

少女は目を大きく見開くと走り出します、自分の見知らぬ世界へむけて。

 

「わぁ…!!」

 

近くの芝生に座り、野花をその小さな手で摘み取ります。その小さな手を懸命に動かき、作るのは冠です。

いつも自分の面倒を見てくれる大好きなママへ、いつもその細っそりした腕で自分を抱きしめる大好きなママへ、いつも自分に暖かい愛情を沢山くれる大好きなママへ、と冠を作っていきます。野花が無くなった時は移動して、冠作りに夢中になった少女は気づいたのでした。

自分が町から遠いところに来てしまい、周りにはおっかない蜘蛛がうろついていることに…少女は蜘蛛に驚き、丘の上に向かいます。

 

そしてーー

 

「シャアーーーー!!!」

「ひぃ……」

 

自分よりも三倍大きな蜘蛛が待ち受けており、その蜘蛛は突然現れた闖入者を排除しようと少女へと襲い掛かります。

その蜘蛛が襲いかかろうとしている闖入者はたった4歳の少女で、自分の身を守るすべすらも身につけてないのです。また、少女は驚きのあまりに腰を抜かしてしまった様子で地面へと座り込んでしまっています。

 

もし、ここに誰か居たならば…誰もが目を瞑るでしょう、それくらいに少女へと巨大蜘蛛は迫っており…もう数秒後にはその小さな命は無情にもアインクラッドの大気へと舞うことになるでしょう。

 

迫ってくる針のように尖った鋭い脚を見た瞬間、少女はギュッと目を瞑ります。そして、心の中で強く願います。

 

“たすけて、ままぁ…!!”と




ピンチなひなちゃん…果たして、彼女は助かるのでしょうか!?
そして、ひなちゃんを助けるために走っている新米ママ・レインさんはひなちゃんのピンチに間に合うのか!?

次回をお楽しみに


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007 まま、だいすきっ!

お久しぶりです…皆さん。
そして、ここまでお休みしてしまいすみませんでした(土下座)

そして、こちらもすごく久しぶりな本編更新となります。

久しぶりすぎて、読者の皆さんも展開がわからないと思うので…簡単なものを書かせてもらいます。
まず、陽菜荼が何故か幼児化してしまい、その陽菜荼をレインさんがお世話をしてくれることになります。新米ママとなったレインさんと陽菜荼のそんなほのぼのとした日常が続いたある日のこと、陽菜荼が『ままのおむらいすがたべたい』と駄々をこねてしまいます。その駄々に頭を悩ませたレインさんがアスナさんとオムライスを作っている最中に陽菜荼が勝手に街の外に出てしまいーー

から、この話が始まります。

では、短いと思いますが…楽しんで頂けたらならば幸いです。

では、本編をどうぞ!!


“はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…”

 

全力で走っているはずなのですが、町の外が走れば走るほど遠く感じます。気持ちばかり焦り、脚がうまく動かなくて、絡まってはアークソフィアの街へと敷き詰められているタイルへと全身をぶつけます。

 

「くっ…ひな、ちゃ、ん…」

 

アバターに擦り傷がつくことがなくとも衝撃による痛みはあります。

私は痛みに顔を歪めながらも立ち上がり、街の外へと走っていきます。

 

“お願い、どうかひなちゃんが無事でありますように”

 

 

 

τ

 

 

 

私が街を後にしてから早1分…アインクラッドの大気には青白いポリコン片が舞い散っていました。

 

「……」

 

そのポリコン片を見つめ立ちつくす私へとドッシーンと強い衝撃が身体へと走ります。

その衝撃が走った方へと視線を向けると…そこにいるのは、癖っ毛の多い栗色の髪を腰近くまで伸ばして、私が映る空のように透き通ったまん丸な蒼い瞳は涙の膜できらきらと輝いており、私にはまるでサファイヤのように思えました。

そして、私の戦闘着をギュッと掴む紅葉の葉のように小さな掌が震えているのに気付いた私は腰を折るとそっと泣きじゃくるひなちゃんを抱きしめました。

 

「ゔぅぅ…まま、まま…っ」

 

嗚咽交じりに私の名前を呼ぶ腕の中の小さな小さな暖かい命に愛おしさが溢れてくるのと同時に湧き上がるのが心配とこんな小さな彼女に怖い思いをさせてしまった事でしょうか。

私はそっとひなちゃんを離すと彼女を抱き上げる。

 

「…あっ、まま…」

 

抱き上げたひなちゃんのお尻の部分がびっしょりと濡れているのはきっとそういう事でしょう。

さらに泣きそうになるひなちゃんの頭を空いた手で優しく撫でます。

 

「大丈夫だよ、ひなちゃん。怖かったんだもんね…ママ、助けに来るのが遅くなっちゃってごめんね」

 

髪を撫でていた掌を後頭部に添え、私はひなちゃんを胸元へと抱き寄せると同時に私の後頭部に添えられる紅葉のような小さな掌はゆっくりと私の頭を撫でます。

 

「…まま、ないちゃやだよ…」

 

悲痛な声が耳元から聞こえ、私はそこでやっと自分自身が涙を流していることに気づきました。

 

「ひっぐ…ゔぅぅ…」

 

間にあったという安堵からでしょうか?

彼女の幼い心にトラウマとなる出来事を受け付けてしまった罪悪感からでしょうか?

もっと早く彼女を助け出せなかった事による自己嫌悪でしょうか?

きっと、この三つでもあり、三つ以外でもあるのでしょう。

 

「…まま、おなかいたいの?」

「ううん、違うよ。違うから大丈夫なんだよ」

 

強く抱きしめていた力を緩め、もう一度ひなちゃんを抱き直すと私は歩き出します。

 

そして、アークソフィアに辿り着いた私とひなちゃんは今まで懸命に探してくれていた仲間達へとお礼を言って回り、アスナちゃんと一緒に作ったオムライス、アスナちゃんが作ってくれたサラダやスープをひなちゃんとアスナちゃん、ひなちゃんを探してくれた仲間達と食べる事になりました。

 

「んまい」

 

パクパクと子リスのように頬を膨らませて、私の作ったオムライスを咀嚼するひなちゃんの頬に付いたケチャップをハンカチで拭きながら…今日も夜が更けていきました。

 

 

 

τ

 

 

 

“えぇ…と、これはどういう状況なんだろ?”

 

まず目を開けた先に広がるのは白い天井、そしてちらっと横を見ればあたしに抱きついて眠るさらさらとした茶色い髪をシーツへと広げ、ゆるくダボっとしたネグリジュを身につけた少女がいる。

 

“何故、レイがあたしの部屋に…?”

 

そこであたしは気づく。

可愛らしい小物やぬいぐるみ、そして壁紙もあたしが貼っているものとは違う…ということはーー

 

“ーーもしかして、あたしがレイの部屋に来ていた!?”

 

そう結論づけると動揺しすぎて、冷や汗とこれから訪れるであろう愛する恋人殿との矢の雨の中での逃走劇(おしおき)に苦笑いが止まらない。

 

“いかん、いかんぞ、これは…。どうすればいい?どうすれば、あたしは生き延びられる?”

 

頭をフル回転させて、恋人殿から逃げる作戦を練っていると身動きして、あたしの方へと更に顔を近づけたレイがそろそろ起きるのか、瞼をパチパチとつぶり、ゆっくりと瞼が完全に開く。

 

「おはよう…ひなちゃーー」

「あぁ、ん…おはよう、レイ」

「ーーひゃあああああああ」

 

乙女らしからぬ悲鳴を上げた後、レイは凄まじい動きでベッドから飛び降りるとあたしを指差す。

 

「な、なななんで、戻ってるの?ひなちゃ…ううん、カナタくん」

「なんで戻ってるのって?」

 

レイの問いかけに眉をひそめるあたしを見て、ある事を思いついたのか、また問いかけるレイ。

 

「もしかして、これまでの覚えてないの?カナタくん」

「…あはは」

 

唖然とするレイに苦笑いするあたし。

その後、レイに連れられてみんなのもとに向かったあたしはそこでこれまでの事を聞かされるのだった……




という事で、無事戻った陽菜荼ですが、この『まま、だいすきっ!』はもう少しと続きます。
ので、最終回まで楽しんでもらえたらと思います(礼)





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008 まま、だいすきっ!(完)

お久しぶりです!
また、更新が遅くなってしまいましたが…今回の話は長々と続いた『まま、大好きっ!』の最終回です。
本当にお待たせしました…(土下座)

久しぶりの大きくなった陽菜荼での視点なので…変な所が多めかもしれませんが、楽しんでもらえたら幸いです。

では、文字数が少なめですが…本編をどうぞ!


「絆クエスト…?」

 

第76層主街区《アークソフィア》にある強面亭主ことエギさんが経営している酒場で集まった顔馴染みにあたしはレイにこの酒場に連れて来られる時に思い出した出来事を身振り手振りで話していた。

 

そう、そのクエストを受けたのは、偶々出来た一人の時間の時に折角ならレベ上げでもしようかと立ち寄った森林にて如何にも怪しげな洞窟の先にその天使はいた。

石畳で出来た椅子に踏ん反り返り、白いワンピースから覗くほっそりした脚を組んだその天使は整った眉をひそめると入ってきたあたしを見て、目に見えてめんどくさそうな表情を浮かべて、更に深く椅子に腰掛けると膝を立てる。

 

なんだか、あたしがこんなに一生懸命説明しているのにリトやフィーから『まるでどっかの誰かさんにみたいな天使ね』なぞと不本意な会話が聞こえてくるが、敢えて無視しよう。うん、そうしよう。

 

というわけで、あそこでこそこそ話を続けているあの二人はほっておいて、あたしは話を進める。

 

『むぅ…、なんじゃ、人間か。珍しいのぅ、其方(そなた)ここに何しにきた?』

『いや、何しにきたも何も…あたしは興味本意で…』

『そうか、ならば立ち去れ。悪いことは言わん』

 

そう言って、しっしっと邪険に人をはらうその仕草…姿にーー

 

「ーー腹が立ってしまって、その天使が出すクエストを受けたと…はぁ…全く、貴女って人は変なところ短気なんだから…」

 

昔も今も心から愛している我が恋人殿は疲れたように右手をおでこに当たると首に横に振るとあたしの話を遮るとその話の結末を言ってしまう。

 

あ…、あの、シノンさん。あたしの話を遮り、結末を言ってしまうのは許せますが…その疲れたような表情だけは納得がいきまーーへ?貴女はもう少し振り回せる周りの気持ちを考えなさいって?少し言ってる意味が…はい、ごめんなさい。あたしが全て悪いですから、そんな半目で睨まないで、詩乃…。君にそんな目で見られ続けたら、あたし泣くから…泣いちゃうから…。はい…以後、善処(ぜんしょ)します、自分の言動に。

 

口答えではないのだが、反論しようとしたら愛する恋人殿から絶対零度の如き、見るもの全てを凍らせるほどに冷たい視線を貰ってしまった。受け取ったあたしはごく自然な動きで膝付き、美しい土下座を披露する。

そんなあたしとシノンのやりとりを見ていたアッスーやシーなどが呆れを含んだ苦笑いを浮かべる中、レイが恐る恐る声を上げる。

 

「その…なんで、そこからカナタくんは4歳児になったのかな?」

「それは4歳児のあたしがママ…お母さんの温もりに飢えていたからじゃないかな?絆クエストの説明には、今まで生きてきた中でトラウマに感じた出来事の再現って言ってたし…」

 

そこまで言ったところで、周りに座るみんな…シノまでもが暗い顔をしていることに気づく。

あたしは癖っ毛の多い栗色の髪を掻きながら、作り笑いを浮かべると暗い顔をやめるように訴える。

 

「や、やだなぁ〜っ、みんな揃ってそんな顔しないでってば!もう、終わったことだからさ!はいはい、この話はおしまい!」

 

パンっと両手を叩いたあたしは身を乗り出して、レイの方を見る。

 

「そんな事よりもさっ!レイは幼いあたしとの絆クエストを終えたわけだけどさ、何か変わった事ってない?」

 

キラキラと目を輝かせて、訪ねてくるあたしにレイは頬をほんのり赤く染めつつ、恥ずかしそうにあたしの問いに答える。

 

「その…私もカナタくんの二天一流(にてんいちりゅう)を使えるようになったみたい」

 

その言葉通り、レイはあたしの二天一流…というか、二刀流を使えるようになった様子だった。

これでレイも攻略するのに楽になるだろうと思うとあのクエストを受けてよかったと思うが…やはり、あの天使の行動は気に入らない。今度見つけたら、言動に気をつけろ!って一言言ってやろうと思う。




というわけで、いつもに比べて短めですが…『まま、大好きっ!』が終わりました!
レインさんが何故二刀流を使えるのか?を説明するにはどうすればいいのかなぁ〜と考えた上で書いたのがこの『まま、大好きっ!』です。ですが、一番の理由はママしてるレインさんが見たかったのです…主に私が。
そして、この話は後々の話に深く関わってくるものですので、どこに出てくるのか楽しみにしててください!



折角なので、雑談を少し…

SAOIFですが、やっと二層に行けました!
シノンが登場する9層までまだまだ…しかし、イベントにてシノンが登場して、ついニヤニヤしちゃいました!
マジシノンさん、かっけぇです!(大興奮)そんなシノンさんが私は大好きです!そして、誕生日お祝いできなくてごめんなさい(◞‸◟)
……陽菜荼の誕生日がこの月の10日ですので、重ねて彼女の誕生日もお祝い出来ればと思います…って、なんだか宣伝に…(笑)

そして、ついについにアリゼーション編が放送開始となりますね!!
キャストの皆さんや、茅さんと川原櫟先生のインタビューが載せられたりと…キャストの皆さんの心意気やどこに注目して見て欲しいのかが分かり、より一層アリゼーションが楽しみになりました!
ですが、まだロニエちゃんの声優さんはまだ明かされてないんですよね…誰がなるのかなぁ…。


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好感度ーFavorability ratingー
Leafa001 正夢?


今回の視点は、リーファとなってます。そして、今回の話でシノンさんはほとんど出番がありません。
そして、オリジナルの話なので…所々、おかしなところがあるかもしれません……。百合度もそれほどではないかもですが…どうぞ、ご覧ください。

そして、最後にお願いしたいことがあるので…そちらの方にもご協力のほどをよろしくお願いしたいと思います(礼)

※4/17〜誤字報告ありがとうございます!


ゆさゆさと誰かがあたしの身体を揺さぶっている。まどろみの中にいるあたしは、ウトウトした意識の中でその誰かの声を聞き取る。

 

『…ー、おきて』

 

“ん?この声って…”

 

微かに聞こえたくらいだが、聞き間違えるわけがない。あんなに恋い焦がれている相手の声なのだから…。でも、その人があたしの部屋に来ることは皆無に近いのに…なんで、あたしの部屋にその人が?

 

『っ!?カナタさん!!?ななななんで、あああたしの部屋にいるですか??』

『リー、なんではひどくないかなっ。流石のあたしもその言い草には怒るよ』

 

アルトよりの声に不機嫌さを所狭しと詰め込み、あたしへと迫る空と同じくらい澄みわたっている蒼い瞳が無言で文句をあたしに言っている。

 

“カナタさんも…こんな表情するんだなぁ…。なんだか、可愛い”

 

少し頬を膨らませている様子は、まるで幼い子供が両親に遊んでもらえなくて拗ねているような表情にそっくりなその表情を見ていると、自然と頬が緩んでしまう。

しかし、あたしのその表情を見たあたしの想い人・カナタさんはさらにその幼稚な怒り顔を強くする。

 

『リー?あたしは怒ってるんだよ』

『あっ、ごめんなさい。でも、あたしが混乱するのも当然と言いますか…。本当に…カナタさんがあたしの部屋にいる理由が見当たらないと言いますか…。こんなことして、シノンさんに怒られないんですか?』

 

あたしの質問に眉を顰めるカナタさんは、不思議そうな顔をして、あたしの顔を覗き込んでくる。蒼い瞳は心配そうに、あたしの黄緑色の瞳を見つめている。

 

『シノンって、シノの事だよね?なんで、シノの名前が今、ここで出てくるの?今はリーとあたしの話だよね?』

『へ?だって、シノンさんとカナタさんって付き合ってるんですよね?』

『…リー、本当にどうしたの?何処かで頭うったの?』

『うっ、打ってないですよ!カナタさんも十分、失礼ですよ!』

 

あたしが怒った声を出すと、カナタさんは笑いながら、あたしから身を離す。そして、ベットに座るあたしの隣に腰掛ける。

 

『あははっ、ごめん。でも、あたしもそんな意地悪は言いたくなかったんだよ。全ては大事なことを忘れちゃってる、リーが悪いんだと思うんだけどな〜』

『あ、あたしが悪いんですか?』

『うん、だって…あたしが付き合ってるのは、今目の前にいるリーファだもん。確かに、シノは幼馴染で仲良しなのは認めるけどさ〜』

『ーー』

 

“へ?カナタさん…今、なんて言ったの??”

 

アタシガツキアッテルノハ、イマメノマエニイルリーファって言ったよね……。へ?あたし、いつの間にカナタさんと?へ?へ?へ?

軽いパニック状態に陥るあたしの耳もとに、カナタさんが何かを囁く。あたしが弾かれたように、そちらを見ると蒼い瞳が意地悪な光を含んでキラリと光る。

 

『そんな忘れん坊なリーファには、あたしからお仕置きがあります』

『ひぁっ、か…なたさん…?』

『っ。……やばいなぁ…、怯えてるリーファもいいかも…』

『あ、あの…カナタさん?あたしに何をするんですか?』

『んー。忘れん坊なリーファが、あたしのことをもう二度と忘れないようにする為にね』

 

そういうとカナタさんはあたしへと顔を近づけて、あたしは近づいてくるカナタさんの整った顔にドキドキしながら、そのお仕置きの時を待っているとーー

 

『ん…』

『!??』

 

ーー頬に広がる柔らかい感触に、あたしの顔はゆでダコのように真っ赤になり、キスされた右頬を抑えて…口をぱくぱくさせる。しかし、そのぱくぱくした口からは、思っているような言葉が出ることはなかった。

 

『なぁっ、¥$€°×÷〆』

『あはは、何言ってるかわかんないよ、リー。それより、早く着替えておいで。あたしは先に下の酒場にいるからさ』

『は…はい…』

 

あたしの慌てふためきっぷりを堪能したらしいカナタさんは、ベッドから立ち上がるとひらひらと左手を振って、部屋から出ていく。

そして、取り残されたあたしはというとーー

 

『〜〜っ』

 

“シノンさん、よくこんなのに耐えられるなぁ…。あたしにはもう…心臓に悪くて…”

 

今だにドキドキしてる心臓を抑えながら、カナタさんの無意識?の攻めを動じずに対応しているシノンさんの偉大さに気づかされていた…

 

その後、いつもの戦闘着に着替えたあたしはカナタさんが待つ下の酒場へと階段をおりていくとカウンター席に座っている、橙と黄色を基調としている戦闘着を着用している癖っ毛の多い栗色の髪の後ろ姿を見つけて、その後ろ姿を追いかけるように小走りでカウンター席にいく。

 

『カナタさんっ』

『あっ。リー、横においで』

『はい』

 

あたしの声に振り返ったカナタさんが、隣のカウンター席を指差すのを見て、そこへと座る。そんなあたしへと声かけるのは、さっきまでカナタさんの陰で姿が見えなかった焦げ茶色の髪をショートヘアにしている少女・シノンさんであたしは心で少しがっかりして挨拶する。

 

『おはよう、リーファ』

『あっ…。おはようございます、シノンさん』

『リー、なんか頼む?』

『えーと、あたしは……。あたしもカナタさんが食べてるもので…』

『ん、了解。すみません、彼女にもオムライスセットを』

『かしこまりました』

 

店員さんへと注文したカナタさんは、あたしの方を見ると

 

『でも、本当にオムライスセットで良かった?』

『はい、いいんです。その…あたしも…カナタさんの好きなものを食べてみたいなぁ〜って思って…』

『そっ、そう。ん…ここのは、美味しいから…オススメだよ』

 

頬を赤らめて俯くあたしとカナタさんの隣で、わざとらしい咳払いが聞こえてくる。

 

『あの、そこのお二人さん。私もいるってこと、忘れないでくれるかしら?』

『なあに?シノってば、あたしがリーファに取られたからって嫉妬〜ぉ?』

『ーー』

『すいません、巫山戯ました。だから…その目はやめて…、本当に…怖いからぁ…』

 

ニヤニヤして、シノンさんをからかおうとしたカナタさんが、シノンさんの凄みをきかせた一瞥により…あえなく撃沈。すごいスピードで掌を返すと、ジト目で見てくるシノンさんに頭を下げつづけている。そんな二人の様子を見ていたあたしはこう思うのだった。

 

“あっ、いつも通りのカナタさんとシノンさんだ”と

 

…ということはあたしとカナタさんが付き合ってるっていうのは…事実であり、あんなに羨ましいと思っていたシノンさんの立場をあたしは手に入れたということになる。

なら、カナタさんと…あんなことやこんなことも出来るってこと?なぁっーー

 

“ーーあっ、あたしってば…なんてことを…”

 

『リーファ?顔が赤いみたいだけど、こいつになんかされたの?』

『シノンさん。幼馴染をこいつと呼ぶのは…関心しないといいますか…』

『彼女がいる身で、いろんな子を無意識でたらしこんでる色ボケを幼馴染に持った覚えは、私にはないんだけど?』

『すいません…、全くその通りです…。シノンさんに異論はありません』

 

足を組み直して、鼻で笑うシノンさんに返す言葉が見つからずに項垂れるカナタさん。

 

『まぁ、こんな奴のことはほっておいて。食べてしまいましょう、リーファ』

『あっ、はい…』

 

いつの間にか、あたしの前に運ばれていたオムライスセットを口に含んでみて、目を丸くする。

 

『どう?美味しい?』

『はい!すごく美味しいです!』

『美味しいですって、良かったわね、カナタ』

『わざわざ、報告ありがとう、シノン。それより、リーファのはデミグラスソースなんだね。あたしのはケチャップなのに……。む〜、ねぇ…リーファ』

 

シノンさんの掛け声で、気を取り直したらしいカナタさんがなんだか羨ましそうにあたしのオムライスを見ている。オムライスのあまりの美味しさに、夢中になってほうばっていたあたしはカナタさんの呼びかけにスプーンを止めて、隣を見る。

 

『なんですか?カナタさん』

『その…リーファのオムライスちょうだい?あたしのもあげるからさ』

『別にいいですけど…』

『じゃあ、あ〜ん』

 

こっちに向けて、大きな口を開けてくるカナタさんにあたしはフリーズする。

 

『こら、カナタ。リーファが困ってるでしょ、それくらい一人で食べなさいよ』

『あ〜ん』

『無視ね…ふーん、いい度胸してるわね、カナタ』

 

シノンさんの声に無視を決め込んで、変わらずに大きな口を開けてくるカナタさんの口へとあたしは皿から一口ほどオムライスをすくって、その口の中へとゆっくりとスプーンを近づけていく。

あと5センチ…あと1センチ…あとーー

 

 

γ

 

 

ーー差し込んできた日差しによって、目を覚ましたあたしはまだ重たい瞼をこするとさっきまで見ていたものが夢であったことに気づいた。

 

「ん?ここ……ああ…夢か…」

 

あと少しでカナタさんとあ〜ん出来たのに…と落胆しつつも、着替えようと思い、右手を横へとスライドする。そこに出てきたウィンドウの一番上にある【EQUIPMENT】を押して、服を着替えるために今来てる緑のパジャマを解除して、いつもの戦闘着をセットしようとした時だった。

トントンとノック音が聞こえたと思うと、そのドアの向こうからアルト寄りの声が聞こえてくる。

 

『リー?少しいいかな?』

「え?え?カナタさん?いいですよーーって、カナタさんダメっ」

 

さっきまで見ていた夢のせいで、変に動揺してしまってドアのロックを外してしまったあたしは慌てながら戦闘着をスライドしようとするのと、ドアから入ってくるカナタさんを妨害しようとして…その二つの行動を同時に行えるほど、器用なわけがなくあたしの身体はゆっくりと前のめりに倒れてしまう。

 

「リー!?何か…大きな音が聞こえたけど、だいじょ…」

「痛たた…。…!?」

 

ドアから入ってきたカナタさんが見たのは、下着姿で前のめりに倒れているあたしの姿で……カナタさんは数秒間、放心状態だったが…スゥーとあたしから視線を逸らすと部屋から出ていく。

 

「あー、ごめんね。あたし…下の酒場にいるからさ。着替え終わったら…話しかけてよ」

 

ドアが閉まった瞬間、あたしは羞恥心から顔を真っ赤にして…テンパって変な行動をとってしまったあたし自身に怒りを感じる。

 

「とりあえず…着替えよ…」

 

いつもの戦闘着へと着替え終わったあたしは、酒場にいるカナタさんへと声をかける。すると、なぜか顔が赤いように思えるカナタさんは、あたしを見て視線を一瞬そらすと微笑む。

 

「さっきはごめんね。変な時にあたしが声をかけちゃったからさ」

「いえ、カナタさんは悪くないんですよ。あたしが驚いちゃって…しちゃった行動なんで…」

「でも、あたしにも非があるしさ…。だからさ、リー…いまから、あたしとデートしませんか?」

「…!?!?!?」

 

“なっ、あっ…えぇえええ!?”

 

口をパクパクさせるあたしに、カナタさんが照れくさそうに癖っ毛の多い栗色の髪を撫でる。

 

「まぁ、デートっていっても…単にあたしの相談に乗ってもらいたいだけなんだけどね」

「相談ですか?」

「ん。最近、シノン頑張ってるみたいだからさ…。なにか、おくりものしたいなぁ〜って思ってね。あたしはそういうおくりものに関して、いつも迷ってばっかりだから…」

 

頬を朱に染めて、そうボソボソと呟くカナタさんの姿にあたしは心の底でため息をつく。

 

“あー、そういうことだと思ってましたよ…”

 

期待していたわけじゃないけど、もしかしたら…と心の中では思っていた分…ショックな気持ちが強い。

 

“シノンさんが羨ましいな…”

 

こんなにカナタさんに思えてもらって…、あたしは少しシノンさんにジェラシーを感じながら、感じてしまった自分の心を恥じた。

ので、せめてものお詫びということで、あたしは不安そうにあたしを見ているカナタさんに頷く。

 

「いいですよ、カナタさん。あたしで力になれるのなら」

「ありがとう!リー。すっごく嬉しいっ。じゃあさ、早速行こうか?シノンが帰ってくるかもだから…」

「えっ!?カナタさんっ」

 

右手であたしの左手をつかんだカナタさんは、そのまま商店通りに向かって歩き出す。商店通りについて、あたしたちはあちこちにある店を歩き回った。

そして、最後に立ち寄ったアクセサリー屋で見つけた子猫みたいなものをかたどったネックレスをあたしへと見せる。

 

「これとか、どうかな?リー」

 

“STR+12 命中+8 回避+6か…”

 

シノンさんのプレイにもあってる気がするし…、このデザインも可愛い。

あたしは、カナタさんへと頷くと

 

「可愛いですね〜。効果もあるみたいですし…、それにして見たらどうですか?」

「ん、そうしようかな…」

 

そう呟いたカナタさんは、それに決めたようで店員のNPCへと声をかけると、そのネックレスを購入する。

店先で待っていたあたしのところまで歩いてくると、

 

「今日はありがとうね、リー。おかげで、すごくいいのが手に入った」

「いえ、カナタさんのお役に立てたみたいでよかったですよ」

 

あたしがそう言うと、カナタさんは辺りを見渡して、あるものを見つけたらしく、そこを指差す。

 

「歩き回ったし、リー…すこし、あそこに寄っていかない?」

「あそこ?」

 

カナタさんに連れられるままに、そのお店に入って近くにある席へと腰掛けると、カナタさんが店員さんを呼ぶ。

 

「オムライスセット、二つで」

「かしこまりました」

 

注文を終えたカナタさんは、あたしの方を見ると照れくさそうに笑う。

 

「あたし、リアルでもオムライスが好きでね。よく自分でもオムライスを作っては食べてたんだ。シノ…、シノンにはよく呆れられていたんだけどね」

「そうなんですか…」

「ん、そんくらいオムライスにうるさいあたしの舌をうならせたのがここのオムライスセットでね。隣のメイドカフェのオムライスも美味しいって聞くけど…流石に、そこに行くのは気が引けるからね…。シノンに怒られそうだし…」

「確かに、シノンさん怒りそうですね」

「シノン怒るとおっかないから…」

「シノンさんを怒らせるようなことをするカナタさんが悪いんですよ」

「リーもみんなと同じこと言うんだね。全部、あたしが悪いってわけじゃないと思うんだけどな…」

 

その後、オムライスセットを食べながら…カナタさんと食事したあたしは宿屋に戻る途中で、噴水のある公園に立ち寄った際にカナタさんからブレスレットを受け取った。唖然とするあたしに、カナタさんは微笑みながら、あたしのブレスレットと色違いのものを見せてくる。

 

「今日はリーをいろんなところに連れ回しちゃったからね。せめてもの、お礼ってことでね…。それにほら、あたしとお揃いなんだよ」

「……」

「リー?」

 

心配そうに覗き込んでくる蒼い瞳に映っているあたしは、今どんな顔をしているのだろうか?多分、何かを我慢してるような…みにくい顔をしているだろう。

 

“この人は優しい…優しすぎる”

 

シノンさんが好きで、あんなに大事にしてるのに…なんで、他の人にまでこんなことをするのだろうか?こんな大切に思ってるみたいなことをされてしまうと…勘違いをしてしまう。

ゆっくりと顔を上げたあたしは、そんなあたしを見て目を丸くしてるカナタさんの頬へと唇を押し付ける。

 

「リー、なんで泣いてるの?もしかして…別のが良かっーー」

「ーーん…」

 

ゆっくりと顔を離すと、まん丸な瞳に驚きを多く含んでいる蒼い瞳を見て言う。

 

「りーぃ?」

「カナタさんは…優しすぎます。そんなに優しいと勘違いしてしまいます…。今日は楽しかったです、おやすみなさいっ」

「………。待って、リーファ」

 

あたしは、くるっと向きを変えると…自分の部屋へと走り出して行く……




ーーーウラバナシーーー

その後、カナタはリーファに謝るために部屋に訪れて…少しはなしをしたそうです。
そして、リーファはカナタからもらったブレスレットを大事に使っているそうで、この一件でさらにカナタが好きになったそう。

ーーーーーーーーーーー


※前書きが書かせていただいた皆さんにお願いしたいものというのは…、この息抜き編のことでして。
お恥ずかしながら…、百合ん百合んな案が出てこず、手詰まりな感じでして…そこで!みなさんの力をお借りしたいなと思った次第でして…

詳しいことは、活動報告の「息抜き編のリクエスト」をご覧ください。

みなさんの案、お待ちしております(礼)


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Leafa002 温泉に行こ? 前編

リーことリーファさんとの話となる今回は…まぁ、タイトル通りの話となります。果たして、カナタとリーファはどうなってしまうのか?

本編をご覧ください(礼)


※今回の話は短いです…



その日、リーファは消耗品となるポーションや回復結晶などを買い出しに商店街を一人歩いていた。ある程度、消耗品を買い終えたリーファは兄から教えてもらったオススメの店へと、掘り出し物を探そうと向きを変えたその時だった…

 

「あぁ〜!リー、こんなとこ居たっ!」

「ッ!?」

 

突然、後ろから響いたアルトよりの声に金髪をポニーテールにしている少女・リーファは肩をピクッと震わせると後ろに振り返る。すると、リーファが想像していた通りの人物の姿があった…。癖っ毛の多い栗色の髪をかきながら、はにかむその姿に胸が高鳴るのは自分が彼女に恋心を抱いているからだろう。

 

「あぁ〜、リー?どしたの〜?顔が真っ赤だよ」

 

ポケ〜と彼女・カナタに見惚れていると、カナタがリーファの顔を覗き込んでくる。それの行動に、更に動揺するリーファにカナタはニカッと笑うと的外れなことを言う。

 

「へ!?これは…その…っ」

「あははっ、そんなに慌てなくても大丈夫だよ。今日は暑いもんね〜。それで真っ赤なんでしょう?」

 

“むぅ〜、そういうわけじゃないんですけど…”

 

リーファが頬を膨らませていることも気付かずに、カナタはリーファに振り返るとニコッと笑って…リーファにとってある意味爆弾となりうるセリフを放つ。

 

「ところでリー、これから暇?」

「え!?ひ、暇ですけど…」

 

“こここれはデートのお誘い!?でも…カナタさんにはシノンさんが…”

 

内心でパニックを起こすリーファの返事を聞いたカナタは、安心したように微笑むと更にリーファをパニックさせるセリフを言う。

 

「良かった〜、正直断れるかもって思ってたから…。それでは…リー、今からあたしと一緒に温泉に行きませんか?」

「えぇええええええええ!??!!?」

 

リーファの驚愕した声が商店街に響く中、カナタだけがリーファがこんなに驚いている意味が分かっていない様子であった。驚きのあまり挙動不審になるリーファを不思議そうに見ているカナタが説明が足りてなかったことに気づき、リーファに説明する。その説明でリーファが更にパニックを起こすとも知らずに…

 

「あっ、リー。もしかして、誰かに見られるかもって不安になってるの?大丈夫だよ〜、今のところ その温泉の居場所を知ってるのはあたしだけだしぃ〜」

 

ニヘラと得意げに笑うカナタに、リーファはひたすらに“これって浮気…これって浮気…”と心の中で呪文のように唱えていた。確かにその光景は浮気であったーーカナタだけが知っている温泉に二人だけで行く。しかも温泉ということは…必然的に二人とも裸ということにーー

 

“あぁ〜、あたし…シノンさんに矢で撃たれるのかなぁ〜”

 

リーファは自分がカナタの恋人となる少女に矢を放たれる所を想像して、やっぱりこういう事は嬉しいけど駄目だと判断したが…リーファの判断は少しばかり遅かったーー

 

「んじゃあ、秘湯に向けてLet's go!」

 

ーーそう言って、リーファの右手をガシッと掴んだカナタが転移門に向けて歩いていくのを見て…

 

「ちょっ、カナタさん!これって…うわ、浮気になりますからっ!」

「浮気?なんで、リーと一緒に温泉に行っただけで浮気になるの?」

「だって…それは…っ、裸になるんですよ!あたしとカナタさんがっ!?」

「???あたしもリーも女の子なんだし…別にいいんじゃないかな?そんな細かいこと。あたしは見られても恥ずかしくないし〜」

「いえ、恥ずかしいとか恥ずかしくないとかの問題ではなくてですね…」

 

リーファは止めようと抵抗するが全てが失敗に終わり、カナタと二人きりとなる温泉旅がここで幕を開けた…

 

 

 

ー その2に続く ー




というわけで、リーさんことリーファさんとの二人きりの温泉旅が始まりました〜!
ヒナタは無自覚どころか…どうやら、浮気となりうる行動自体もあまり理解してないようです…(汗)まぁ、そうでなくては…ヒロインたちを軒並みデレさせてないでしょうし、多くのヒロインたちと約束や誓いも結ばないでしょうからね…(微笑)
この調子だと…ヒナタは恐らく 自分のハーレムが存在していること自体も理解してないかもですね(苦笑)


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Leafa003  温泉に行こ? 後編

リーファさんとの温泉旅、あっという間に終わりを迎えます(笑)皆さんの想像していた通りになっているのか…!?それとも……

最終回、ご覧ください(礼)

5/20〜誤字報告、ありがとうございます!!


「……」

 

白と黄緑の戦闘着に身を包む金髪をポニーテールにしている少女・リーファは一歩前を歩く橙の和服に身を包む癖っ毛の多い栗色の髪の少女・カナタと‘今だに繋がった’ままの右手を見つめていた。

 

“あぁ…あたし、何やってるんだろ…”

 

「ふふ〜ん♪」

「……」

 

右手から上を見上げれば、上機嫌に鼻歌を歌いながらズンズンとフィールドを進むカナタの姿がある。ニコニコと満面の笑顔を浮かべているその姿は非常に胸が高鳴るものであったが…リーファの気持ちは優れない。それもそのはずだろう、彼女は今 浮気と責められる行動を取っているのだから…。

カナタの鼻歌を聞きながら…ふと、リーファは思う。カナタはいつまで自分の手を握っているのだろうか?とーー

 

「ふふ、ふふ〜ん♪ふ〜♪ふ、ふ〜ん♪」

 

“ーーでも…いつまで、こうやって手を繋いで行くんだろ…?さっきからすれ違うプレイヤーたちの野次めいた視線が痛い…っていうか、あたしがカナタさんを止めなきゃだ!”

 

「あっ…あの、カナタ…さん…」

 

リーファの遠慮した声に振り返るカナタは可愛らしく小首を傾げている。最近自分にも見せてくれるようになった子供っぽい仕草と普段のカッコいい仕草のギャップにやられつつも…リーファはたどたどしく質問する。

 

「ん?何かな、リー」

「…いつまで、手を繋いだままなのかなぁ〜って…思いまして…」

 

リーファの質問に、難しい顔をして考えたカナタはあたふたするリーファへとにっこりと笑う。

 

「あぁ…、ん〜、そうだね…。目的地に着くまでかなぁ〜。手を離した途端、リー逃げそうだし…」

「に、逃げませんよ!」

「逃げるよぉ〜。リーとの付き合いも長いんだから、考えていることくらい分かる」

 

“ッ!…本当に…カナタさんってズルい…”

 

リーファは頬を染めつつ、逃げることやこの温泉行きを阻止することは出来ないと分かると…あとは時の流れに身を任せることにした。

 

「……分かりました…カナタさんについていきます」

「ん、それでいいと思うよ、リー」

 

二カッと笑うカナタに、リーファはもうひとつ疑問に思っていたことを聞くことにした。もう、どうせ回避出来ないのだ…それくらい聞いてもいいだろう。

 

「カナタさん、一つ聞いてもいいですか?」

「いいよ〜」

「なんで、シノンさんではなくて…あたしを誘ってくれたんですか?カナタさんって…こういうのって、シノンさんを真っ先に誘うじゃないですか?」

 

リーファの質問に、カナタは言葉を濁そうとするが…リーファの方をチラッと見ると溜息をついて、この温泉旅行の真の目的を話す。

 

「なんでって…。ん〜、確かにリーの言う通りで最初はシノンを誘おうって思ってたんだ。でもね…ある人が頑張ってる姿を見ていたら、その人と最初に行きたいなぁ〜って思っちゃったんだ」

「ある人?」

 

小首をかしげるリーファに、カナタは頷くと繋いでいた手を離すと素振りするような仕草を取る。

 

「リーがよく知ってる人だよ〜。毎晩ね、こうやって一人公園に出ては…素振りを繰り返してるんだ、その人。本当に頑張り屋さんなんだよ。そんな頑張り屋さんを応援したいって思うのは間違ってるのかな?」

「ーー」

 

“ウソぉ!?”

 

バレてた…。カナタや兄に少しでも近づきたいと、毎晩 片手直剣の素振りを繰り返しているのをバッチリと一番見られたくなかった人物に見られてしまっていた…

 

“あぁ…恥ずかしい…”

 

羞恥心から蹲るリーファの肩をトントンと叩いたカナタはニッコリと笑うと言う。

 

「そーいうこと♪あたしはリーが頑張ってる姿を見て…一緒に行って、温泉に入って…疲れをとって欲しいなぁ〜って思ったんだよ。なのに…リーってば、浮気とかわけわかんないことばっか言って、逃げようとすんだもん〜。あたしの作戦、終わったかな〜?って思ったもん」

「ご、ごめんなさいぃ…」

 

カナタの純粋な好意を別な意味に受け取ってしまったという羞恥心から、更にしょんぼりするリーファを引っ張り起こすとカナタは近くにある洞窟へと入っていく…

 

「さて、温泉もあと少しだよ。しっかり、楽しもうね〜」

「はい」

 

 

 

γ

 

 

 

カナタが入っていった洞窟の中には、温泉が広がっていた白く濁った水面に身を沈めたリーファはその丁度いい湯加減に思わず「ふぅ〜」と溜め息をついてしまう。そんなリーファのすぐ横には、カナタの姿があり…なぜか、その蒼い瞳は好奇心と衝撃でキラキラと輝いていた。その瞳の妙な熱にリーファはゆっくりと後ずさっていく。

 

「っ!?か、カナタさん…なんで、あたしの方に来るんですか?」

「まあまあ」

「いえ、まあまあではなくて…」

「リーはあたしに任せてくれればいいから…」

 

カナタの奇行に戸惑うリーファ。そんなリーファを追い詰めているということに…謎のゾクゾク感を味わっているカナタは遂に逃げ場のなくしたリーファの胸元へと両手を伸ばす。

もみもみとカナタがその情報量に驚いていると…顔を真っ赤にさせたリーファがカナタの両手を払う。カナタはそんなリーファに頬を膨らませる。

 

「ひゃあ!カナタさんっ!どこ触ってるんですか!!」

「どこって…リーの胸、だよ?ダメだったの?気持ちよかったのに〜」

「ダメですよ!何をやってるんですか!!それに…き、気持ちいいなんて」

 

カナタのその一言でパニックに陥るリーファに、カナタは更に身を寄せるとリーファの右手を自分の胸へと誘う。

 

「何をそんなに恥ずかしがってるの?あっ、自分だけ触られたのが嫌だった?あたしの触る?」

「ちょっ、カナタさん!?」

「んしょ…っと、どうかな?リーに比べて、小さいかもだけど…形はあたしの方がいいと思うんだよ〜。ね?」

 

右手越しに伝わるカナタの双丘の感触に、リーファの思考回路はショートしてしまい…目をクルクル回しながらも無意識にカナタの胸を揉んでいた。

 

「あわ、あわわ、あわわわ…」

「んぅ…リー、力が強いよ〜」

「わわわわわ、ご…ごめんな…」

 

“もう…ダメ…”

 

「謝らなくていいよ〜、あたしもリーの揉むから〜」

「ひゃあっ、やめ…やめて…」

 

その後、存分に温泉を味わった二人は…一人はぐったりとした様子で、もう一人はつやつやとした様子で帰って行ったのだった…

 

 

 

ー 温泉行こ? 完 ー




ということで、温泉に行こ?が終わりました〜。
まぁ、みなさんの想像通りの結果となりましたね…。結局、ヒナタには勝てないって事ですね…皆(笑)



リーファさんとの話は、あともう一話ほど書きたいなぁ〜と思ってます(礼)


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Sinon001 シノンはカナタをデレさせたい

この話を書こうと思った経緯は、単純にカナタが照れた表情を見てみたいなぁ〜と(微笑)
カナタもといヒナタがガチで照れるのはーーシノンしかいません!むしろ、シノンじゃなくちゃダメなんです!!
ということで、この話は…シノンがヒナタをガチでデレさせるために奮闘する話です(礼)


*すごく短いです。短すぎて、びっくりしちゃうくらい短いです。


その日、女性陣は一人の女性プレイヤーの部屋へと招かれていた。思いつめたような表情を浮かべるその女性プレイヤーの名前はシノン。そんなシノンを心配そうに見るのは、シノンの右からアスナ、リズベット、シリカ、ユイ、リーファ、アルゴ、ストレア、ルクス、フィリアの順番で座っている九人で、そんな九人をゆっくりと見渡したシノンがゆっくりと口を開く。

 

「みんなに相談したことがあるの」

『…ごくん』

 

みんなが生唾を飲み込んで、その続きを視線で促すと…シノンが重たい口を開く。

 

「私ねーー」

『ーー』

「ーーカナタをデレさせたいの」

 

ズコっと見事なリアクションを取るみんなに、当のシノンはキョトンとしてる。そんなシノンにため息をついたリズベットがツッコミを入れる。

 

「神妙な顔して何を言い出すかと思えば、そんなこと…。本当にあんたたちって仲良いわよね〜。性格まで似てきたんじゃないの?」

「…そ、そうかしら?」

 

リズベットの言葉を嫌味と別の意味で認識したシノンは、少し俯くと頬を朱色に染めてから柔らかく微笑む。

 

“照れたゾ!?” “あのシノンさんが照れる!?” “可愛いっ!可愛いよぉ!!シノのん〜!!” “これは破壊力があるわね〜”

 

シノンの照れた表情にみんなが心奪われている…その時、シノンはその照れた表情を不機嫌そうに変えるとスゥ〜と視線が細まる。

 

「なんか…みんなの視線が一気に腹立たしいものになったんだけど…」

「気のせいだよ、シノンさま」

「…そう?…でも、なんだか釈然としないわ…」

 

ルクスが素早くフォローに入ると、シノンは眉をひそめつつも、それ以上は追求しないことにしたらしい。小さく深呼吸すると、本題に入る。

 

「私がカナタをデレさせたいと思うのは、カナタが私をからかってくる確率が増えたからよ」

『ーー』

 

シノンの発言に、みんなは“あぁ〜っ”とカナタがシノンをからかって楽しむ姿が安易に脳内で流れる。それを見ながら、もう一つ思うのは“何を今更”である。カナタがシノンをからかうのは、今に始まったわけじゃなく…事あるごとに、いや 時間を見つけては…彼女はシノンへとイタズラしている。だが、そのイタズラもシノンへと愛情の一環とみんなが理解してるために殆どが二人の会話を受け流している。それに、さっきのシノンの照れた表情を見れば…シノンをからかいたくなる気持ちも分からなくもない。

だが、される方としてみれば、非常に悔しい思いをしているらしい。それはシノンの表情を見れば、一目瞭然で焦げ茶の瞳がメラメラと謎の炎で燃えさかっている。

 

「だって、私ばかり恥ずかしい思いをしてっ。あの子は平常心なんて悔しいじゃない。私は必ず、あの子に私以上の羞恥心を抱かせてみせるわ!」

『ーー』

 

シノンの決意を前にみんなはそれぞれの顔を見合わせる。正直、みんなはなぜここに呼ばれたのかがわからないらしい。そういうことなら、シノンが一人考えて…カナタをデレさればいいのではないだろうか?何故、私たち あたし達はここに呼ばれたのだろうか?それはこの場にいる者が考えたことであり、疑問に思っていることもあった。

なので、対象者としてアスナがシノンへと問いかける。

 

 

「それで、シノのん?わたし達は何をすればいいのかな?」

「みんなには、私と一緒にカナタをデレさせる作戦の案を出してほしいの」

『へ?』

 

 

シノンの言葉にびっくりしつつも、あのカナタが照れている顔を見てみたいとの事で…その後、それぞれに思い思いの案を出した女性陣たちは…シノンの健闘を祈り、その場を後にした…

 

 

ー その2へ続く ー




ということで、みんなが考えた作戦とは?誰の作戦で、カナタは照れてしまうのか!?

次回に乞うご期待です!!


さて、これからの話は単純に疑問に思ったことを書いたものですので…飛ばしていただいても構いません(笑)
私は、今はロスト・ソングをプレイさせてもらってるですけど…シノンの肌って尋常じゃない位白くないですか!?あれは…薄橙ではないですよね…?(汗)確実に白、ですよね?他のみんなは薄橙なのに…何故?シノンだけ???
あれは、ケットシー族の特徴なんでしょうか?シリカもみんなに比べると…白いですし…いや、でも領主様は白くないですよね??
まぁ、単純に製作したアバターの肌が尋常じゃない位に白かったと結論づければいいでしょうが…どうしても、気になりまして…。書いた次第です、では!!


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Sinon002 シノンはカナタをデレさせたい

シノンと女性陣が考えた最初の作戦とはーー?


※ 〜*はシノンと女性陣の会話です

5/13〜少しセリフを足すのとセリフを一部変えました(礼)


「ヒナタっ、起きて!朝よ」

「ん〜?もう少し〜」

「ダメに決まってるでしょ!ほら、起きるっ」

「むぅ〜、シノのケチぃ〜。なら、いつものして」

「はぁ…。あなたはそれがなくちゃ起きられないの?」

「ん、それで一日のシノ成分を補給してるんだから…」

「意味がわからないわよ、もう〜。…チュッ。………これで、いい?」

「ん、大満足」

 

シノンは隣で自分に抱きついて眠るカナタを揺さぶって起こしながら、昨日のやりとりを思い出していた…

 

 

 

〜*

 

アスナ『カナちゃんが照れる作戦ね…』

リズベット『意外と難しい議題ね…』

リーファ『んー、シノンさんが実行するならどれも効果がありそうなんですが…問題はあのカナタさんですからね』

アルゴ『リーファの言うとおりだナ。カー坊なら、シーちゃんからのアプローチには全て喜びそうだガ…シーちゃんの求める赤面まではいきそうにないからナ〜」

フィリア『んー?でも、カナタなら…シノンが好きって言ったら、一発だとわたしは思うよ!』

 

フィリアの言ったその一言にみんなが賛同して、最初のカナタでれでれ作戦の第一号は、それになったのだった。

 

 

〜*

 

 

簡単なキッチンの前に立ち、料理を行っている最中にシノンは作戦のおさらいと注意点を頭で再度確認して…完成した料理を手にカナタの元へと向かう。

 

“素直に好きって伝えるのが大事って…みんなが言ってたものね。恥ずかしいけど…ヒナタをデレさせるためだものっ、それくらいの羞恥心あってないようなものだわ!”

 

密かに意気込むシノンの決意など知らないカナタは、いつものように大あくびをしながら…シノンが作ってくれる朝ごはんをアイテム欄を整理しながら大人しく待っている。緑色のソファに座って、いつものようにウィンドウを操作しては難しい顔をしている。

 

「ん〜っと、この武器は倉庫に入れてOKと。こっちは使うから…」

「ヒナタ、少しいい?」

 

料理を置いたシノンはカナタの隣に腰掛けると、その空のように透き通った蒼い瞳を真剣な眼差しで見つめる。そんなシノンの様子に眉をひそめつつも、カナタはウィンドウを消すとシノンへと向き直る。

 

「ん?なあに、シノ?」

 

シノンはスゥ〜と息を吸うと、カナタへとついにそのセリフを口にする。照れずに、真剣に彼女に好意を伝えるーー

 

 

「ーー私ね、ヒナタの事が好きよ。愛してる」

「???あたしもシノのこと好きだし、愛してるよ?」

 

“あれ?反応が薄いわね…”

 

しかし、シノンの期待とはうらはらで…カナタはシノンを何を今更って感じで呆れた顔で見ている。そんなカナタの反応にシノンは焦る。

 

「ねぇ、ヒナタ。本当に私の事、愛してる?」

「へ?もちろんっ、愛してるよ!そうじゃなきゃ、毎朝毎晩 おはようのキスとおやすみのキスを要求しないでしょう?」

「ーー」

 

“あぁ…そういえば、この子って…。そういうのを要求してくるんだった…”

 

シノンは今さっきのやりとりを思い出すと苦笑いを浮かべる、そんな人に好きといっても無駄というわけだ。それなら、この作戦は失敗したということで確定だろう。

シノンはカナタから視線を逸らすと、アスナにメッセージを送ろうとウィンドウを開こうとした、だがーー

 

「ーー…シノ」

「!?」

 

いきなり、耳元でアルトよりの声が聞こえたかと思うと…目の前にはもう既にカナタの整った顔立ちがありーー

 

チュッ…

 

ーーと唇が合わさると、驚くシノンに体重をかけるようにのしかかってくるカナタ。そんなカナタと背もたれにサンドイッチにされてるシノンは目を丸くしながらも、激しさを増すカナタのキスを受け止め続ける。ようやく、唇が外れた時には、いつの間にかカナタがシノンの膝の上にちょこんと座っていた。

 

「どうやら、あたしのシノが好きって気持ちが伝わってなかったようなので…いつもより長くキスしてみました♪シノさん、ご感想は?」

 

にっこりと笑って、そんな事をいう恋人にシノンはさっきのディープキスで朦朧とする思考の中で答える。

 

「へ?…そ、その…ごちそうさま?」

「ふっ、何それ〜、キリみたいっ。でも、あたしはシノの真っ赤な照れ顔をより近くで満喫出来たのといつもはお預けの濃厚なキスが出来たので満足です♪」

「〜〜ッ!!?」

 

カナタのセリフに赤面するシノンに、カナタはシノンに抱きつくとその頬へとキスをする。嫌がるシノンに抱きついて、頬をすりすりしてはキスをするを繰り返すカナタをどうにか止めようとするシノンだが、ここまで興奮したカナタを止めれる者はまず居ない…

 

「あぁ〜ぁ、もうっ!今日のシノっていつもより可愛いねぇ〜。ギュッてしたくなる!ねぇ〜もっとキスもしていい?していいよね?!」

「ちょっ、ヒナ…くすぐった…っ。やめ、やめなさいって!」

「なして?あたしがシノにキスしたいんだもん〜。チュッ、チュッ」

「あんた、だんだんストレアに似てきてるわねっ!あんたがそんなんだから…ストレアがーー」

「ーーストレアは、あたしの娘だもん。似て当然でしょう?それに今はあたしとシノの話でしょう?ストレアは関係ないよ」

「だとしても…ッ!だから、離しなさいって!!」

「い〜ぃやぁ♪今日は満足するまで、シノに甘えまくるし…そして、キスしまくるよ。いつも、攻略頑張ってるんだし…それくらいのご褒美貰ってもいいよね?」

 

そう言う恋人の蒼い瞳が怪しい光を放つのを見て、いよいよ身の危険を感じたシノンはカナタの興味を逸らそうとするが…あえなく、それも失敗に終わる。

 

「ご褒美って!…なんで、私をソファに押し倒すのよ!?」

「この方がシノが逃げないかなぁ〜って…」

「待って、ヒナタ。まず、朝ごはんを食べまーー」

「ーーあたしの朝ごはんはシノだから。大丈夫♪」

「私が大丈夫じゃないっ、大丈夫じゃないから!!それに私、朝ごはんじゃないわよっ!」

「ん?朝ごはんじゃないなら…スイーツ?」

「意味がわからなーーん…」

 

その後、シノンはカナタに捕まり…カナタの溢れる愛情とキスの雨をその身に受け止め続けた…

 

 

 

〜*

 

その夜、シノンはアスナの部屋へとお邪魔していた。そこには、既にシノンの結果を聞くために…あの時集まっていた女性陣が席についていた。そして、そんな女性陣の期待に満ちた眼差しを受けながら、シノンが疲れたような声を漏らす。ザッと作戦の失敗とその後に起こった出来事まで話したシノンは疲れたような表情を浮かべる。

 

シノン「ってわけで…、今の今まで解放されなかったわ…」

女性陣『あぁ…、うん…。やっぱりね…』

 

そんなシノンに周りの女性陣は苦笑いを浮かべる。何故、苦笑いかというと…安易にその状況が想像できるからだ。カナタが嬉しそうにシノンに抱きついて、キスしてる様子がーー

 

フィリア「シノンの素直な好意は、カナタにとっては好物または私欲を引き出すトリガーってことね。カナタも強くなったのね…。誇らしいといえば誇らしいけど…強敵になったわね…」

リーファ「フィリアさん、なんかお母さんみたいな発言ですね…」

アルゴ「しかし…カー坊も困ったもんだナ。変なところが強化されたせいか、どこを攻めればいいのカ…オレっちもわからないゾ」

アスナ「あっ、なら…こういうのはどう?」

シノン・女性陣「どうって?」

アスナ「うん。シノのんがカナちゃんに……」

 

 

ー その三へと続く ー




果たして、アスナが考えた作戦とは!?そして、シノンさんの身体は持つのか!?

次回に乞うご期待!


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Sinon003 シノンはカナタをデレさせたい

大変、お待たせいたしました!その3の更新です!!

果たして、アスナが考えた作戦とは!?シノンはカナタをデレさせることが出来るのかーー?

それでは、本編をどうぞ!


5/29〜誤字報告、ありがとうございます!


「本当に、これで大丈夫なんでしょうね…この作戦…」

 

シノンは鏡に映る自分を見つめて、「ふぅ…」とため息をつく。それはそのはずだろうーー鏡に映る自分はこげ茶色のショートヘアからふさふさの三角耳を生やし、剰え 黒い半ズボンと黄緑色の服の隙間からはふさふさの細長いしっぽがシノンの意思とは無関係にしゅるりしゅるりと左右へと動く。

 

“これが可愛いを結集させたものって…言われたけど…。明らかに違うわよね…?”

 

そう、今の自分の姿は猫耳としっぽを付けたーー恐らく、可愛いではなく萌えを結集させたものだとシノンは思っている。

 

“まさか、自分がこんな姿をすることになるとは思わなかったわ…”

 

シノンは肩を上下させると、恋人が帰ってくるのを緑色のソファーに腰掛けて待つ。その間に、昨日の会話を思い出して…再度、作戦の重点をおさらいする。

 

 

〜*

 

アスナ『あっ、なら…こういうのはどう?』

シノン・女性陣『どうって?』

アスナ『うん。シノのんがカナちゃんに甘えるの』

ルクス『甘える?シノンさまがカナタさまに?』

アスナ『そう。シノのんって、私たちにもだけど…カナちゃんにもあまり甘えたことがないと思うの。だから、シノのんのそんな表情を見たら…流石のカナちゃんも照れるかな〜って思ったんだけど…ダメかな?』

シリカ『ダメというわけじゃないですが…、あのカナタさんにシノンさんが甘えるっていうのが…油に水を注ぐというか…。カナタさんの暴走を強めるといいますか…いよいよ、シノンさんの身に危険が…』

アスナ『あぁ〜、そうだよね…。ごめんね、この作戦は忘れて!また、みんなで一から考えよう!』

シノン『なるほど……甘えるね…。確かにいいかもしれないわね』

リーファ『シノンさん、やるんですか?危険ですよ、あのカナタさんにその作戦は…』

シノン『手がかりがないんだもの、なんでもやってみなくちゃ!それに…せっかく、アスナが出してくれた案だもの。無下にするなんて…私には出来ないわ』

アスナ『シノのん…。うん、絶対!成功させようね!』

 

〜*

 

その後、みんなと考えて…何故か、甘える=可愛いの方式が成り立ってしまい…終いには、こんな格好をしなくてはならなくなってしまった。

 

“まぁ…確かに、普通に甘えるよりかは…この方がいいかもだけど…”

 

「…ヒナタ、照れてくれるかな…」

 

前の作戦みたいな結果だけにはしたくない。少しでも、彼女を照れさせる手かがりを…あわよくば、この作戦で照れさせたい。だが、正直この作戦で、あのヒナタが照れてくれる様子が思い浮かばない…。

 

“まぁ…、悩んでいても仕方ないわよね…”

 

肩を上下に動かして、この作戦を成功させるために意気込んでいるとーー

 

「ーーただいま〜、シノ!」

 

噂をすればなんとやら、どうやら 彼女が帰ってきたらしい。声がした方へと立ち上がり、羞恥心を奥へと引っ込めて、自分の出せる最大の甘えた声で彼女へと抱きつく。

 

「おかえりなさい、ヒナタぁ〜」

「うおっ!?シノ…?どしたの?もしかして…さみし…かっ………た………。…ーー」

 

突然、抱きついてきたシノンに帰ってきたカナタは驚いた様子だったが…、目の前にピコピコと動く三角耳に視線を収めた瞬間 凍りつく。身体をすり寄せてきては、上目遣いでカナタを見てくるシノンにも無反応なカナタにシノンは頬を膨らませる。

 

「すごくさみしかったのよっ。今まで、どこで何をしていたの?今日はキリト達とダンジョン攻略してくるって言ってたわよね?」

「ーー」

「ヒナタ?私の話、聞いてる?」

「ーー、…あぁ…ん…聞いてるよ?今日はキリ達とダンジョンのボス部屋まで攻略しに行ってたんだ。だから、いつもより遅くなっちゃった…。ごめんね?シノ」

「本当にごめんって思ってる?」

「おっ、思ってるよ…」

「なら…その、キス…して」

「ーー」

 

シノンが頬を染めながらそう言ってくるのに、カナタは再度身体を固めると…ゆっくりと目を閉じるシノンの前髪へと左手を伸ばす。

 

「…シノ。キスの前にごめんね」

「へ?」

 

シノンに断りを入れてから、カナタの左手がシノンの前髪をかき上げると、右手で同じく自分の前髪を上げて…おでことおでこをくっつける。カナタの突然の行動に、今度はシノンが動きを固める。いつになく、真剣な眼差しでシノンを見つめてくるカナタに…シノンの頬がゆっくりと赤く染まっていく。

 

「…ヒ、ナタ…?」

「…ん、こっちは大丈夫っぽい。ステータスは…ん、こっちも大丈夫だな。ならーー」

 

ガッシっと肩をつかんでくるカナタにシノンは目をパチパチさせる。目を丸くさせてるシノンの顔を覗き込んで、カナタは表情を険しくさせると声を荒げる。

 

「ーーシノっ!!あれだけ、リーファとストレアの料理は口にするなって言ったでしょう!!どうして、食べちゃったのさ!!」

 

何を言われるかと身構えていたシノンにとってそのセリフは想像の斜め上を行き、何故かドッと疲れをシノンへと与えたのだった。なので、シノンはカナタを呆れた表情で見るとため息を着く。

 

「はぁ…?………あなたは何を言ってるのよ…っていうか、それはリーファとストレアに失礼でしょうが」

「だっ、だって…あたしの記憶の中であの二人の料理が凄まじかったし…酷い目にもあったから…」

「…だからって…。もう〜」

 

なんだか、あの発言のせいで…これ以上 この作戦を行ってもダメな気がする…それよりも心配させてちゃったみたいだし…。

何を言わずに、上目遣いで睨んでくるシノンにカナタは気まずそうな表情を浮かべると弱った声音で訪ねてくる。

 

「シっ…シノ…?もしかして、怒ってる…?」

「怒ってないわ。ただ、今の私の姿を見て…感想が欲しかったなぁ〜って思っただけよ」

「…感想…。ん、すごく可愛いよ。こう、ギュッとしたくなるくらい!」

 

そう言ったカナタはシノンへと抱きつくと、何かを思いついた表情を浮かべる。その表情に、シノンは身の危険を感じる。

 

「そうだ、シノ。さっき、キスしてって言ったよね?」

「言ったけど。いいわよ、ヒナタも攻略で疲れてるんだし…」

「全然、疲れてないよ。猫耳シノのおかげで、すっかり元気になったし。……それに…もっと、この可愛いシノを愛でたいし…」

「い、今っ。愛でたいって言ったわね!いいから、ヒナタの愛は充分 私に伝わってるから!」

「伝わってないよ。ほら、シノ 行くよ。無駄な抵抗はやめて」

「ちょっ…ヒナタっ。やめ…」

 

その後、前の作戦と同じような展開が広がったのであった…

 

 

 

〜*

 

次の日の昼、シノンは女性陣が待つ店へと足を踏み入れていた。既に、勢揃いの机へと近づいたシノンは空いてあった席へと腰掛けると、作戦の結果を説明する。

 

シノン「って感じで、失敗に終わったわ」

アスナ「あはは…、想像していた展開だけど…。今回は心配させちゃったんだね」

シリカ「全く分かりませんね、カナタさんの弱点」

ルクス「甘えと可愛い系は心配させる。クール系はいつものシノンさまだもんね」

リーファ「他にある系というと…。ん〜っ」

リズ「ここはもう敵に直接聞くしかないわねっ」

フィリア「聞くって…カナタに?気づかれない?」

ストレア「ん〜、大丈夫じゃないかな〜。パパ…カナタってそういうことに関して、鈍感だから」

アルゴ「だナ、カー坊なら大丈夫だと思うゾ」

リズ「なら、各自 敵から弱点を聞き出すこと!皆でカナタをデレさせるわよ!」

女性陣「オー!!」

 

〜*

 

ー その4へ続く ー




ということで、次回は皆がカナタから弱点…どの系統が好きなのかを聞き出します!果たして、カナタはどんな系統が好きなのか!!おたのしみに、です!!









そして、この琴瑟相和での案を皆さんに募集したいと思っております。何故、募集したいかと思うと…どうしても三人ほど、ストーリーが思い浮かばない方達がいて…(汗)

まだ、この琴瑟相和で出てきてないヒロインは、アスナさん・フィリアさん・アルゴさん・ストレアさん・レインさんの五名です。ユイさんは…どうしようかな〜って思ってます(笑)

そして、そのユイさんをのけた五名で案が浮かんでないのが…下の方が書かれているアルゴさん、ストレアさん、レインさんの三名で…。

アスナさんは、料理するための素材集めのストーリーにしようかなぁ〜と思ってて…フィリアさんはトレジャーハンターなので、お宝関係のストーリーがいいかなぁ〜って思ってます(礼)

で、この二人以外の三人はというと…想像できるものがなくて…(汗)
アルゴさんの原作のクエストは…確か、犬関係のものが多いですよね…?ストレアさんは…洋服で…。レインさんは…ん〜、歌?かな…

と言った具合で、思い浮かばないのです…。なので、読者の皆さんでこの三名の方の案を頂ける方がいらっしゃるなら、是非とも貰いたいです!

思い浮かんだ方は…活動報告の【息抜き編のリクエスト】までよろしくお願いします(礼)


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Lisbeth001 その武器の名は○○○○

長らくお待たせいたしました、リズベットさんのリクエスト回です。この回はその1とあるように…このリズベットさん回は暫く続きます。予定としては…4〜5話で終わる予定です。ので、それまで…どうか このリズベットさん回をよろしくお願いします(礼)

*5/1〜誤字報告、ありがとうございます!


ここは、76層のアークソフィアにあるリズベット武具店の店内にて、二人の少女が向かい合っている。手に持った道具で、カンカンと武器製作に勤しんでいるのが…この武具店の店主の桃色の髪をショートヘアーにしている少女・リズベットである。そのリズベットの右横にある椅子に座っているのが癖っ毛の多い栗色の髪と空のように透き通った瞳が特徴的な少女・カナタであるが…なぜか、その表情は駄々っ子のような表情になっている。

そんな表情の理由は、いたって簡単で…カナタがリズベットを呼んでいるのに、リズベットがこっちへと向いてくれないからである。作業を黙々と進めているリズベットにめげそうになりながらも、カナタはリズベットを呼び続ける。

 

「ねぇ〜、リト〜ぉ」

「ーー」

「ねえってば!少しはあたしの話も聞いてよ〜」

 

リズベットは一旦、手を止めると右横へと視線を向ける。そして、ため息をつくとカナタへと問いかける。

 

「はぁ〜、だから何よ、カナタ。さっきから煩くて、作業に集中出来ないじゃない」

「あはは…ごめんね、リト〜。でも、やっと リトの顔を正面から見ることが出来た気がする…。へへ〜♪なんだか、嬉しいなぁ〜」

 

にへらと砕けた笑顔を浮かべるカナタに、リズベットは無意識に自分の頬が赤くなるのを感じて、すぐに首を横に振る。瞬時に呆れ顔を作って、カナタを見ると問いただす。

 

「ねぇ、あんた。それ、素でやってんの?」

「素でって?」

「OK。無意識ってことがわかったわ」

「?」

 

小首をかしげるカナタに、リズベットが首を横に振る。そして、改めてカナタに向き直ると、カナタの要件を聞く。

 

「いいのよ、こっちの話だから…。で、さっきから あたしを呼んでるけど…用事は何かしら?」

「ん、リトにね。キリに作ってあげてたような武器をあたしにも作ってもらおうと思って…」

「作ってもらおうと思ってって……。カナタの武器だから…、刀だったかしら?」

「ん、そう」

 

“そんな表情されると…断るにも断れないじゃない”

 

リズベットの返事をニコニコと満面の笑顔で待っているカナタに、リズベットは覚悟を決めることにした。カナタへも首を縦に振ると答える。

 

「いいわ。カナタにも作ってあげるわ…、でもあたしの武器は他のよりも高いわよ?」

「ん、大丈夫!お金ならあるから!!」

 

元気よくそう答えるカナタに、リズベットは苦笑を浮かべざる終えない。

 

“そうと決まれば、早速 そういうクエストがないか。街に行きましょうかね”

 

作業を終えたリズベットは立ち上がると、カナタへと人差し指を向ける。

 

「さて、カナタ。分かってると思うけど…このあたしに武器をつくってもらうんだから。しっかり、素材集めから手伝うのよ」

 

意地悪のつもりで言ったその言葉を、カナタは真に受けて…左手でトンと胸元を叩くと、ニカッと笑う。

 

「ん、任せて!リトのことは、あたしが責任持って守るよ」

「〜〜ッ。あんたといい…キリトといい…、どうしてそんなセリフをサラッと言っちゃうのかしら」

 

カナタが発言したセリフが、黒髪の少年の言葉と重なり…リズベットは不覚にも頬を染めてしまう。その姿を見られないように俯くと、そんなリズベットを心配するカナタが顔を覗き込んでくる。

そして、間近まで迫った彼女の整った顔立ちに、思わずドキッと胸が高鳴りかけて…リズベットはカナタから距離を取る。

 

「リト、顔が赤いよ?大丈夫?」

「ッ!何でもないわよ。ほら、クエスト探しに行くわよっ」

「あっ、リトっ。待ってって!」

 

早足で店を出て行くリズベットの後を追うように、カナタが続く…

 

 

γ

 

 

「そこの若者たちよ」

「?」

 

もう殆どの場所を回り終わり、噴水がある公園で一息つこうとしていた時だったそのNPCに呼び止められたのはーー。

真っ黒なフードを目ぶかく被って、こちらを見ている人物の頭の上に浮かんでいるのが黄色いカーソルと気づいたカナタが、リズベットへと小声で相談する。

 

「この人、NPCだね。どうする?リト」

「ん〜、何か重要なクエストかもしれないし…やってみましょうか?」

 

リズベットがそう言うと、カナタが頷いて…真っ黒なフードのNPCへと話しかける。

 

「OK!あの…あたしたちになんか用ですか?」

「おお…。若者よ、私の話を聞いてくれるのか…」

「ええ」

 

その後、立派な白髭を生やした老人NPCの話を聞き終えたリズベットとカナタは何故か、どんよりと疲れた表情を浮かべていた。

 

「どんだけ話すのよ、あのNPCっ」

 

転移門に向けて、つかつかと怒りを込めて石畳を踏んづけて歩くリズベットに、カナタが苦笑いを浮かべて宥める。

 

「まあまあ、良かったじゃない。あのNPCの頭の上に金色のクエスチョンマークがついたんだからさ。きっと、成功したら…レアアイテムかなんかが手に入るよ」

「ええ、そうね。でも、あたし…話が長すぎて、結局何を集めてくればいいのか分かってないのよね」

「あはは…、殆ど自慢話みたいなもんだったもんね〜。でも、あたしの記憶が正しければ…二つ集めてこいって言ってたかな?」

「二つ?」

 

首を傾げるリズベットに、カナタが頷いて…二本の指を立てる。

 

「ん、まず最初に手に入れるのが…赤い龍に奪われた【ソーマ鉱石】。で、次が青い龍に奪われた【勇敢なる竜の光焔】じゃなかったかな?」

「あんた…凄いわね。よく覚えてたわね…、あたしにはそんなワードをあのNPCから聞いた覚えすらないわ」

「あはは…、最初の方にサラっと触れただけだからね。あとは、あのNPCの自慢話から…赤い龍と青い龍の居場所を割り当てるだけなんだけど…。流石に、そこまではね…。ごめんね、リト」

 

申し訳なさそうに謝るカナタに、リズベットが首を横に振る。

 

「いいわよ、カナタ。カナタのおかげで、二つの龍の居場所が分かりそうだから…。でも、確実ではないのよね〜。明日、改めて…集合ってことでいいかしら?」

「ん、あたしはいいよ。リトのやりやすい方で」

「じゃあ、明日ね」

 

カナタと別れたリズベットは、あのNPCの話を思い出しながら、候補となる場所を絞っていった……

 

 

 

ー その2へ続く ー




というわけで、リズベットさんとの素材集め探しが始まりました。はなして、この二人の旅の先に待つのは…何なんか?リズベットさんがヒナタハーレムに入会することはあるのか?

今後の二人に、乞うご期待です!(笑)




さて、ここから先はウラバナシといいますか…ヒナタさん制作秘話を話そうと思います(微笑)秘話って程の話じゃないんですけどね(苦笑)

まず最初に、この小説の初期設定では…主人公はヒナタさんではありませんでした。
最初の主人公は〈モニカ・ブルーアッシュ〉っていう、私がプレイさせていただいているスクールガールズストライカーズに登場する子なんですが…そのモニカという子を主人公にするつもりでした。ですが、彼女と本作のヒロイン・朝田 詩乃を引き会わせるのが…どう考えても難しく、あえなく断念。ですが、私はモニカとシノンのやりとりがどうしてもみて見たく…モニカの性格を受け継いだヒナタという主人公が生まれたというわけです(笑)
実をいうと、ヒナタの外見もモニカさんから貰ってるんですよ(苦笑)癖っ毛の多い髪とか、蒼い瞳とかも。写真もといカメラ好きというのも…モニカさんからですね。それ以外のヒナタさんの性格は…基本、私をモチーフにしてます。お恥ずかしながら…(笑)ガサツな所とか、ヒナタさんの好物は私の好物でもありますね〜(笑)なので、好物の話をしている時のヒナタのリアクションは、わたしのリアクションでもあるやもしれませんね…


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Lisbeth002 その武器の名は○○○○

大変遅くなりました(汗)
リトさんことリズベットさんとの〈二人きり〉の素材集めですが…今回は【ソーマ鉱石】を奪った赤い竜との闘いがあります!その戦闘中に起こるハプニングとは!?

それでは、本編をご覧ください(礼)


5/15〜誤字報告、ありがとうございます!


あの謎の老人NPCの話から、赤い竜の居場所を突き止めたリズベットは相棒となる少女がいる居場所をFRIEND LISTから探し出し、その少女がいる酒場へと足を踏み入れる。そして、カウンターのところで見知った橙の和服が座っているのを見て、小走りで歩み寄る。

 

「ここに居たのね、カナタ。探したわよ!」

「むぐ?」

 

リズベットはスプーンを加えたまま、振り返って小首をかしげる癖っ毛の多い栗色の髪の少女・カナタにガクッとコケる。そんなリズベットを見て、カナタの隣に座る焦げ茶のショートヘアーの少女・シノンがカナタを叱る。

 

「こら、カナタ!リズに失礼でしょうっ」

「いいのよ、シノン。あたしはカナタの事をこういう奴だって分かってるから」

 

リズベットはシノンに苦笑いを浮かべながら、そして二人並んで仲良く昼食を食べているシノンとカナタにニヤニヤとからかうような笑いを向ける。

 

「ごめんなさいね、リズ。カナタも悪気があるわけじゃないのよ」

「分かってるわ。それよりも〜、何よあんたたち。こんな真昼間からデート?」

「デデデデ、デート!?ち、違うわよっ!これはカナタが私の作ったものが食べたいからって言うから……」

「おお、思った以上に動揺しとる動揺しとる」

「してないわよ!それ以上言ったら、矢で撃ち抜くからね!」

「言わない、言わないわよ…」

 

リズベットにからかわれて、顔を真っ赤にして動揺しているシノンにカナタは顔を覗き込むと眉を顰める。心配げに声を掛けるが、昼食をモゴモゴさせたまま喋っているので…言ってることが分からない上に、橙の和服の上へとポロポロと食べかすが落ちていっている。それを見て、シノンはカナタを叱りながらも甲斐甲斐しく世話をする。そんな二人を見ながら、リズベットは深くため息をつく。

 

「むーぐむぐ、むぐ?」

「カナタは食べてから喋りなさいよ!行儀が悪いでしょう!もうぉ〜、ほら零してる…」

「あはは、シノンも大変ね〜。カナタ、それ食べ終わったら…約束の素材集めに付き合ってもらうわよ?」

 

リズベットが声を掛けると、スプーンを咥えたまま意気込むカナタにシノンの怒声が飛ぶ。

 

「むぐ!!」

「こらっ!食べたまま、返事しないのっ」

「あはは…」

 

その後、昼ご飯を食べ終わったカナタを連れて、転移門に向かう途中でリズベットは立ち止まるとカナタへ話しかける。

 

「あんたたちっていつもあんな感じなの?」

 

リズベットの問いかけに、首を傾げたカナタはさっきのシノンとのやりとりを思い出して…にっこりと笑って頷く。そんなカナタを見ながら、リズベットは密かにシノンがカナタの世話による疲労で倒れないか…本気で不安になる。

 

「ん?あ〜、ん。あんな感じだよ?」

「……シノンがいつか疲労で倒れないか心配だわ」

「???」

 

だが、隣で幼児のようにあどけなく小首をかしげるこの少女を見ていると、そんな心配をするのもバカらしくなる。あのシノンのことだ、上手にするであろう。そう考えたリズベットはカナタへと目的地を話す。

 

「まぁ、いいわ。カナタ、例の【ソーマ鉱石】なんだけどね。78層にある〈魔を孕む石窟〉にあることが判明したわ」

「おぉ〜っ!流石、リトだね。ちなみにどこの部分からそれを?」

「それはダンジョンに着くまでに教えてあげるわよ。さて、行くわよ」

「はぁい」

 

元気良く返事するカナタに苦笑いを浮かべながら、リズベットは78層の分かれ道の左側にあるダンジョンへと向かって歩き出す…

 

 

γ

 

 

ダンジョンに着いたリズベット達はオークウォーリアやフレンジーボブとの戦闘を経て、目的地となる赤い竜が住処としている奥地へと足を踏み入れた。岩の裏から全身を真っ赤に染めている竜を見る。

 

「あれが例の赤い龍ね。確かに真っ赤だわ」

「ん、だね。レベルも…なるほど、108ね。なかなか強いかも…」

 

そう呟くカナタは渋い顔を浮かべながら、赤い竜の頭上に浮かぶ文字を見つめる。そこには【Mutter dragon】と書かれていた。

 

「ん〜っ?ムッタードラゴン???面白い名前だね」

 

右の鞘から愛刀を取り出したカナタがそう呟くのを聞いて、リズベットが小さく咎める。そんなリズベットに振り返って、ニヤリと笑ったカナタはカウントする。

 

「面白いって…。あんた、それからそのムッタードラゴンに攻撃しかけるんだから…思い出し笑いとかでヘマしないでよねっ」

「OK、OK〜。んじゃあ、3・2・1で。行くよ?」

「…本当に大丈夫なんでしょうね?不安だわ…。あたしはいつでもいいわよ」

 

三本立てたカナタの指がゼロになった瞬間、カナタとリズベットはムッタードラゴンへとソードスキルを叩き込む。水色の刀身と藍色のメイスが赤い身体を傷つけた瞬間、ムッタードラゴンが悲鳴を上げて…【ソーマ鉱石】を手に入れるための戦闘が幕をきった…。

ターゲットのタゲをカナタがしてくれるため、リズベットは安心して攻撃出来た。四つあったHPがみるみるうちに半分になったその時…ムッタードラゴンの真っ黒だった目が怒りの色を含み、真っ赤に染まり 攻撃モーションも乱暴なものへと変わっていく。そして、後ろにいったリズベットに向けて、いきなり 尻尾を振り回すという攻撃に出たムッタードラゴンよりも早くそれに気づいたカナタがリズベットに指示するが、それは一足遅くムッタードラゴンの一撃を食らったリズベットの身体が後ろへと転がる。

 

「リト!危ないっ!?そこを離れてっ」

「何言ってるのよ!今、危ないのはそっちーーきゃあっ!?」

「チッ、だから離れろって言ったでしょうに!」

 

このダンジョンの敵を倒して、さっきレベルが105に達したリズベットにとってムッタードラゴンの攻撃は思ったよりも重く深いものだった。左上にあるHPを見ると、ムッタードラゴンの尻尾の攻撃だけで三分の一、HPが持っていかれている。しかし、ムッタードラゴンの新しく加わった尻尾の攻撃は威力が強いだけではないみたいだったーー

 

“え…、…何よ、これ…。身体が動かない…っ”

 

ーー全身に走る電撃のような痺れに、自身が麻痺したことを知った。そして、そんなリズベットの耳に入ってくるのはドッシンドッシンという体重が重いものが近づいてくるもので…それは必然的に、あのドラゴンを指すものだった。リズベットは何とか、距離を取ろうとするが…意思とはうらはらに身体はピクリとも動こうとしない。

 

“動いてよ!動いて…っ”

 

そんなリズベットに近づいたムッタードラゴンは、大きく開けた口から炎を吐こうとして…辺りの空気を吸い込む。その攻撃モーションを見て、リズベットは悔しそうに唇を噛みしめると目をギュッと瞑る。

 

“うそぉ…あたし、こんなところで死ぬの…?”

 

「がぉおお」

「っ」

「うぉおおおおお」

 

ドッシンと何かがリズヘッドへと体当たりをして、そのまま近くにある岩の裏へと身を隠す。ゆっくりと目を開くと…荒く息をする癖っ毛の多い栗色の髪の少女の整った顔が近くにある。

 

“へ?…カナ、タ……”

 

「ーー」

「ふぅ〜…、なんとか間に合った…。リト、大丈夫だよね?HPは…」

 

桃色の瞳を驚きで丸くするリズベットに、安堵のため息をつくと…心配に眉をひそめて問いかけるカナタ。そんなカナタと至近距離で見つめ合いながら…リズベットは目の前にある蒼い瞳を見ながら、こう思うーー

 

“ーーこんなに透き通った美しい瞳を見たことがないと…”

 

前に、女性陣だけで女子会を開いた時にカナタの瞳の色が綺麗と話題が出たが…確かにこれは綺麗、いや美しい。その大きな瞳は磨き抜かれたベニトアイトのようで、ずっと見ていると…スゥ〜とその魅力に引き込まれそうになる。

しかし何故だろう、じっと見ていると蒼い色の奥深くに光が届かなく影が差しているところがある…それが途轍もなく気になる。こんなに綺麗なのに…もったいない、そう思いリズベットはゆっくりとカナタの頬へと手を伸ばす。もっと近くでその影の正体を探るために、もっと近くでその魅力的な蒼い瞳を堪能するためにーー

 

「あぁ〜、リト?そんなに見つめられると恥ずかしいんだけど…」

 

ーーしかし、そんなリズベットの行動も遠慮がちに囁いてくるアルトよりの声により邪魔される事となる。邪魔された後に、冷静になった視界に収まるのは彼女の頬へと触れている自身の右手で……

 

「はぁ!?ご、ごめんなさいっ…あたしったら」

 

“あたしは何を?何を考えていたの?カナタの頬を無意識に触れようとして!?あ、あたしにはキリトっていう心に決めた人がーー”

 

右手を瞬時に引っ込めたリズベットは、さっきまで自身が無意識に行っていた行動による羞恥心で頬を染める。そんなリズベットにニヤニヤと見ているカナタは冗談めいた声音で言う。

 

「ーーいやいや、いいんだけどね。あたしも滅多に見れないリトの赤顔を堪能しましたので」

「〜〜ッ!いいからっ、早くあたしから離れなさいよ!!シノンに言いつけるからねっ!あたしに抱きついてきたって」

「はいはい、リト様の仰せのままに〜」

 

ひらひらと両手を揺らしながら、リズベットから離れたカナタは岩陰からムッタードラゴンの様子を見ながら、片手でポーションの栓を弾くとクビっと一気に飲み干す。その様子が黒衣の剣士と重なり…リズベットは自身の心拍数が早くなるのを感じる。

 

“あたし…、カナタにドキドキしてるっていうの?キリトとは違うのに…今まで比べたことすらなかったのに…”

 

「ーーリト、ポーションは飲んだかな?そろそろ、反撃に出るよ」

 

でも、そう言って振り返ってくる橙の和服姿の少女に胸が高鳴るのを感じて…リズベットは赤い顔を隠すように横を向く。

 

「…って、リト?顔が赤いけど大丈夫なの?」

「大丈夫よ。……たく、そうなったのは誰のせいだと思ってんのよ…」

「???」

 

首を傾げるカナタにリズベットはため息をつくと、メイスを掴む。

 

“あたしはカナタ自身にドキドキしてるの?それとも、あいつ…キリトとカナタを重ねて、ドキドキしてるの?今は分からなくてもいい…でもーー”

 

「まぁ、よくわかんないけど…いけるなら、いくよ!よし、今だよっ、GO!!」

「えぇ、倒しましょう!」

 

“ーーいつか、どっちか分かるといいわね…”

 

先に敵にかけていく橙の和服に身を包む少女の頼もしい背中を見ながら…リズベットはそう思う。

 

 

γ

 

 

無事にムッタードラゴンを倒して、【ソーマ鉱石】を手に入れたリズベットとカナタは並んで歩きながら…78層の転移門に向かっている途中でリズベットが遠慮がちにカナタへと問いかける。

 

「カナタのその…蒼い瞳ってさ…」

「ん?あたしの目がどうしたの?」

 

この世界でリアル…現実のことを聞くのはマナー違反だ。しかし、違反してもいいと思うほどにあの時に見た影が気になる…、リズベットは息を吸い込むとゆっくりと口を開く。

 

「その…現実の色なのかなって」

「あぁ…、ん…現実の色だけど…やっぱ、変かな?」

 

カナタはリズベットのその問いに苦虫を噛み潰したような顔をすると、悲しげな笑顔を浮かべる。そんなカナタにリズベットは聞かなければよかったと後悔しつつも…ここまで聞いちゃったんだからという気持ちで、更に質問を重ねる。

 

「いや、そんな事ないわよ!?た、ただね…現実なら…珍しいなぁ〜って思ってね…」

 

リズベットの問いに、カナタは視線を僅かに下に向けると小さく呟く。その瞳の奥には、静かに憎怒の色が浮かんでいる。

 

「……簡単に言うと父の方がね、アメリカ人なんだよ。この目はその父から貰ったもの…不本意なんだけどね」

「不本意?」

「あたし、あの人……父のこと、嫌いなんだ。あんな男の娘ってこと自体が気に入らない。だからね、正直…この目も好きじゃないんだ。だから、近いうちに栗色にでも染めようかなってね」

「そんなっ!もったいないわよ、こんなに綺麗なのに!!」

「へ?綺麗」

 

カナタのポカーンとした表情を見ながら、リズベットは思わず滑ってしまった自分の口を恨んだ。

 

“は!?あたし…また…っ。なんてこと言ってるのよ!カナタは嫌いって言ってるのに…”

 

「ぷっ、綺麗って…そんな事初めて言われた。シノンにも言われたことないのに…」

 

あたふたしてるリズベットを見て、カナタはプッと笑うと…嬉しそうに呟く。そして、リズベットに向かって問いかける。その問いはあまりにも失礼なものだったが…

 

「リトもあたしと同じで変わりもの?」

「あんたと一緒にはされたくないわね…」

「ごめんごめん、ジョークだよ。でも…少し、心が軽くなった気がする。あんがとね、リト」

「〜〜ッ!?…べ、別に…対したことしてないわよ……」

 

“そんなの反則よ…”

 

礼を言いながら、照れたように微笑むカナタの笑顔にリズベットは不意をつかれて、顔が赤くなるのを感じて…横を向くと早足で転移門へと向かう。

 

「へ?ちょっ、リト〜?おいてかないでって〜」

 

リズベットは暫く、カナタの方を見れなかった…

 

 

 

ー その3へ続く ー




というわけで、リトさんことリズベットさんとの素材集め旅ですが…リトさんがヒナタハーレムへと入会しかけですね〜(微笑)
そして、何気なくヒナタの秘密を知ってしまったリズさんですが…次回はどんな旅が待っているのでしょうか?

乞うご期待!!


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Silica001 可愛いもの好きな二人組

今回の話は、シーことシリカさんとの話になります。タイトル通りの話となります。ザッと、話を説明するとあるクエストに二人が挑戦するんですが…そのクエストが実は一筋縄ではいかないものでして…(笑)
これから先、二人に降りかかる災難とは…?


※5/17〜誤字報告、ありがとうございます!


いつもの酒場に四人の少女の姿がある。四人で座れるようになっている机に両手を重ねてその上に顔を伏せているのが癖っ毛の多い栗色の髪と橙の和服が特徴的な少女・カナタである。そのカナタの向かいに座るのが、桃色のショートヘアーに赤いウェイトレスみたいな服が特徴的な少女・リズベットである。リズベットは眠そうなカナタとその隣に腰掛けるこげ茶色のショートヘアーに赤と黄緑、黒で構成された複雑な服に身を包む少女・シノンを交互に見るとからかうようにニンヤリと笑う。机に伏せてるカナタの栗色の髪をツンツンと突きながら、意地悪な声音で問いかける。

 

「今日はいつにも増して眠そうね〜、カナタ。なぁに、今朝までシノンとラブラブだったのかしらぁ?」

 

だが、リズベットの思惑に引っかかったのはシノンだけでカナタに至っては頭をツンツンされてるにも関わらずに微動だにしない。

 

「なっ!?リズっ、そんなこと…」

「ん〜そんなとこ〜。うぅ…ねむぃ〜」

「って、旦那さんは言ってるわよ〜?シノン。ほら、恥ずかしがることなんて無いわ。吐き出しちゃいなさいよ!」

「本当にしてないわよ!」

「ずぅ…すぅ……」

「顔が赤いところを見ると怪しいわよ〜?」

「だからっ、違うって言ってるでしょう!?」

 

そんな三人を見て、穏やかに笑うのはリズベットの隣に腰掛ける栗色のロングヘアーに白と紅の騎士服が特徴的な少女・アスナである。カナタが相手にならないと思ったリズベットがシノンをからかうのを見て、白熱しそうになる二人の喧嘩を止めてから、寝息を立てているようにも見えるカナタを見つめる。

 

「ふふ、リズの冗談を相手しないなんて…よっぽど、カナちゃん眠たいんだね。リズも余り、シノのんをからかっちゃあダメだからね」

「分かったわ。ここでやめとく…これ以上からかうと矢が飛んできそうだし…」

 

リズベットの言葉通り、シノンがいつの間にかオブジェクト化していた弓をつがえるのを見て、慌ててアスナが止めに入る。

 

「ちょっと、シノのん ここで矢はやめようよ。他にお客さんが居るし…ね?」

「……そうね、誤って他の人に中ったりしたら迷惑かかるしね。でも…このイライラした気持ちは誰に当てればいいのかしら?」

「あはは…」

 

弓と矢をアイテム欄に入れたシノンはまだ釈然としないように眉をひそめている。そんなシノンの気をそらそうとカナタへと視線を向けたアスナはカナタが寝息を立てて寝ていることに気づいた。

 

「あら?シノのん。カナちゃん、寝てるみたいだよ?」

「え?本当。もう…カナタっ、こんなところで寝たら、店の人に迷惑でしょう?」

「Zzzz…」

「あはは…、完全に寝ちゃったね〜。どうしようか?カナちゃんが起きるまで、ここに居る?雑談でもしようか?」

「ごめんなさいね、二人とも」

 

その後、カナタが起きるまでの雑談が三時間くらいになった頃、バタバタと慌ただしい足音が聞こえて…三人が入り口へと振り返ると、水色の羽毛に包まれた小竜を連れてるビーストテイマーの少女がツインテールにしてる茶色の髪をぴょんぴょんと揺らしながら走ってくる。

ビーストテイマーの少女・シリカは肩を揺らしながら息を吸い込むと机に伏せたままのカナタへと声をかける。

 

「カナタさん!ここに居たんですねっ。それに…あれ?リズさんにアスナさんに、シノンさん…もしかして、何か大事なことを話してました?あたし…邪魔を…?」

 

確かにこの時間にこの三人が集まっているのは珍しいかもしれない、そう考えたシノンは穏やかに笑うと隣にいるカナタを指差す。

 

「いえ、この子が起きるまで雑談しようってことになってね。この子には朝から荷物とか意見とかを言ってもらったから…」

「あっ、買い物をですね…。それにそうですが、カナタさん寝てるんですね…」

 

肩を落とすシリカにリズベットがニンヤリと笑うと手招きする。その手招きと誘い文句に釣られそうになるシリカだが、寸前で踏みとどまるとリズベットが意外そうな顔をしてその頭を撫でる。

 

「えぇ、ぐっすりとね。あんたもこっちから見て見なさいよ。カナタのレア寝顔が見れちゃうわよ〜」

「それは魅力的……じゃなくてですねっ!」

「おぉ〜、この子にしては踏みとどまったわ。えらいえらい」

「リズさん、なんか酷いです〜」

 

リズベットを睨むシリカの周りを飛んでいた水色の小竜・ピナが左を向いて机に伏せているカナタの顔へと突然張り付く。そのピナの突然の行動に驚いたのはカナタだけではなく、周りにいた四人も驚きの声を漏らすとシリカはカナタからピナを引き剥がす。

 

「きゅるる!」

『あ…』

「……なんか、顔がやけにモフモフするなぁ〜って思ったら、ピナだったんだね。おぉ〜、視界が水色だ〜」

「あっ、ピナぁ〜っ!ダメだよぉ!カナタさん、ごめんなさい」

 

高速で頭を下げるシリカに自身の髪を撫でながら、右手を横に振るカナタは今更ながらシリカがここに居るに疑問を抱いた様子だった。そんなカナタにすかさずフォローを入れるのが隣にいるシノンだった。

 

「あはは、いいよいいよ。おかげで目が覚めたし…って、あれ?なんで、シーがいんの?」

「あんたに頼みたいことがあるんだって。わざわざ、走ってきてくれたのよ」

「そうなの?それはごめんね…寝てしまってて。それでシー、頼みたいことって?」

「はい、カナタさん。これを見てください」

 

自分のウィンドウを可視モードに切り替えたシリカがカナタへとあるクエストを見せる。その途端、カナタは前にいるシリカへと視線を向けると両手を掴んでその場に飛び跳ねる。二人して、その場にクルクルと回り続けるので周りの三人は興奮気味の二人を見て、唖然としている。

 

「やったね!シー。ついにっ!ついにあたし達の時代が来たんだねっ!」

「はい!カナタさん、あたし達の時代の到来ですよ!」

「こんなクエストを用意してくれるなんて…分かってるよね〜っ!カーディナルっ。憎いね〜っ!カーディナルっ!」

「さぁ、カナタさん。あたし達の時代のためにこのクエストへと向かいましょう!」

「あぁ、行こう!というわけで、行ってくるね!シノン」

「えぇ…、いってらっしゃい。あっ、シリカに迷惑かけるんじゃないわよ?」

 

入り口へスキップで向かっていた二人は、カナタだけ後ろに振り返って…唖然としている三人組の中にいる最愛の人へと手をパタパタと振っている。そんなカナタに気づいたシノンはカナタへ手を振り返すといつも言ってることを言う。

 

「心得てる!」

 

シノンの注意を胸を叩いて、返事したカナタはシリカとスキップしながら…転移門へと向かっていく。そんな二人が『ピナの装備♪ピナの装備♪』と鼻歌交じりに言ってるのを聞くと…二人が何にあんなに興奮していたのかが分かる気がする。

取り残された三人組は、そんな二人に苦笑いを浮かべつつ…その酒場を後にした……

 

 

 

ー その2へと続く ー




というわけで、シーさんことシリカさんとのクエストが始まりました〜。可愛いもの好きによる二人の旅路に待ち受けるのは何なんのか?

次回に乞うご期待です!


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Strea001 着せ替え人形 前編

今回の話は、タイトル通りの話となります。

カナタがストレアに捕まって、着せ替え人形にされてしまうのですがーー

普段見せないカナタや服装をお楽しみにです、では 本編をどうぞ!


6/26〜誤字報告、ありがとうございます!


「やぁ、スア」

 

右手を上げて、軽い感じでそう返事してくるのは…肩まで伸びた癖っ毛の多い栗色の髪を後ろで結んでいる華奢な身体を和服で包んだ少女・カナタである。そんなカナタに挨拶されたストレアは、改めてカナタの姿を上から下まで満遍なく見ていく。

黄・橙の二色を基調としている戦闘着と違い、カナタは今は私服として、自身の瞳と同じ色の袴を下に履き、上には若葉色の長着を身につけていた。戦闘着と違うところは、上に橙の羽織をはおってないことと、長着と袴の色が違うところだろうか。

 

“ん〜、新鮮。新鮮といえば…新鮮なんだけど…ん〜”

 

ストレアは、ふと思うーーこの人、カナタが和服以外の服を身につけたところを見たことがあるだろうか?と。

ストレアの見立てが正しければ、カナタはもっと可愛らしい服やカッコいい服も着こなせる気がする。

難しい顔をして考え込むストレアの顔を覗き込みながら、カナタがお気楽に笑う。今から、大変な一日が始まるとは露とも思ってないことだろう…その表情を見る限り。

 

「どしたの?スア。難しい顔なんて珍しいね」

「良し!カナタ、あたしについて来て!」

「へ!?ちょっ!?」

 

ストレアは、決心を固めるとカナタの右手首を摑む。そして、驚きの表情を浮かべるカナタを引っ張りながら…アークソフィアの街へと繰り出した…

 

 

γ

 

 

一軒目、主に洋服がメインに置かれているその店へと連れてこられたカナタはストレアの着せ替え人形のようになっていた。

 

「えーと、どうかな?」

「すっごくカッコいいよ!カナタ」

「…そ、う?」

 

ストレアが指差す服を取り敢えず試着してみるというスタイルで、今はオーソドックスな服装で青いジーンズに襟首がVの字になった黒いTシャツを着ている。

普段とは全く違う服装を身につけるカナタを見て、嬉しそうに両手を叩くストレアにカナタは苦笑いを浮かべる。

 

“これ…思った以上にVの字が深く入ってて…。少ししゃがんだだけで、見えそうなんだが…”

 

それもそのはずであるーー上に着ているこの黒いTシャツが思った以上にVの字が深く。普通にしているだけでも、カナタの谷間が少し露わになっている。その他にも、鎖骨やら黒いTシャツによりいつもよりも目立つきめ細かい白い肌など、カナタにも周りの人たちにも目の毒となりうる予想に溢れたそのV字Tシャツだが…ストレアは満足そうに、頷くと店員を呼ぶ。そして、唖然とするカナタの目の前であっという間に支払いを済ませてしまう。

 

“えぇーー!?”

カナタは、ニコニコと満面の笑顔を浮かべるストレアに詰め寄ると問いただす。

 

「へ!?それ、誰が着るの!?」

「カナタだよ〜、何言ってるの?」

 

カナタは青ざめた表情を浮かべると、ストレアに震える声で聞く。目立つのは、あまり好きじゃないし…あんな谷間が丸見えの服装なんかしてると、シノンやフィリア、最近は口うるさくなった愛弟子などに怒られかねない。それだけは、どうにか避けたい。

だが、カナタのそんな儚い願いもストレアの一言によって淡く壊れることになる。

 

「それって…家の時だけでいいよね?外でも着ないとダメ?」

「えーっ、せっかく似合ってるのに家ばっかりじゃダメだよ〜。休みの日や外に行く時は、これを着ないと〜。みんなやシノンもカナタのカッコいい格好見て、惚れ直すよ〜」

「あぁ〜、ん…だね…。もう、スアに任せる…」

 

これ以上、反論してもストレアには勝てないと思い知ったカナタはストレアに連れられて、二軒目の店へと向かった……




というわけで、ストレアさんと行くファッションショーの旅の開幕です(o^^o)

カナタは、ストレアさんのいうとおりで、可愛らしい服もカッコいい服も着こなせると思うのですよ!
なので、私は個人的に…初めて履くミニスカートに恥じらうカナタやビシッとタキシードかスーツで決める格好いいカナタが見てみたいですね(^ω^)
……あっ、でも…カナタにミニスカートって似合うのかな?…少し、不安…(汗)


そして、因みにですが現実世界のカナタ…ヒナタは、ラフな格好が好きでした。なので、今回着たような服装をわりとあっちの世界ではしていたので、今回のV字Tシャツ事件が無ければ…一軒目の店はヒナタには楽勝だったものだと思います。そして、スカートですが…ヒナタの時は、時折 着用することが有りました。ですが、あまり本人も自分に似合ってるとは思ってなかったらしく…殆どがズボン派でしたね(笑)


長くなりましたが、今回も読んでいただきありがとうございます!


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Strea002 着せ替え人形 後編

一ヶ月ぶりの更新となるでしょうか?
読者の皆様、本当にお久しぶりです(礼)

リアルが忙しかったのと、精神的にくる出来事がありまして…(汗)暫し、筆が乗らない状態が続きまして…本当にすみませんでした(^_^;)

そして、遅くなりましたが…私が一ヶ月以上あけた中で、恐れ多くも評価やお気に入り登録して頂いた読者の皆様、こんな駄作に暖かい感想を書いてくださる読者の皆様、本当にありがとうございますm(_ _)m

皆様の応援がとても励みになっております(o^^o)

そんな皆様のご期待に添えるように、頑張っていきたいと思います。


では、本編をどうぞ!!


※すいません、凄く単純に書いてるので…読みにくいかもです…(汗)


二軒目の店は前の一軒目と違い、女性らしい…フェミニン

な服が多く置かれているところだった。さっきの店で無駄な抵抗をしても効かないと悟ったカナタだったが、今回の店の場合は抵抗しないといけないと悟る。例が今この瞬間だ。カナタは今、ストレアの指差した服装を着てみて、後ろへと振り返る。

 

「…あはは、どうかな?」

「うん!すっごく似合ってる」

 

振り返った先には、ニコニコと笑っているストレアの姿があった。カナタは苦笑いを浮かべながら、近くにある鏡へと視線を送る。

 

“どう考えても、あたしにこれは似合わないだろ…”

 

カナタが今、試着しているのは可愛らしい花柄の真っ白なスカートの中へとゆったりした淡い水色のニットをしまっているという格好で…。

“可愛い…。うん、可愛くはあるが…これはあたしではなく、ルーやアッスーが着るべきものでだろう”とカナタは少なからず思った。なので、ストレアにこの店はやめようと声をかけようとするが、そこにはさっきまで着せ替えられていた服を買って、満面の笑顔のストレアが居た。カナタはガクッと肩を落としながら、心なしか軽い足取りのストレアの後を重たい足を動かしながら歩いていく。

やっとのこと、隣につくとストレアがカナタへと弾んだ声音で話しかけてくる。それを苦笑いを強くしながら、カナタが曖昧に答える。

 

「やっぱり、カナタは明るい色が似合うね〜。黒もいいかと思ったけど、白がいいね〜」

「あ…、ん…だね…」

 

“その白色が問題だと思うのだけど…”

 

そんな意見をルンルンなストレアに言えるわけもなく、カナタはストレアの隣をどんよりした雰囲気を漂わせて歩く。しかし、このファションショーの旅が終わるのは、これから数十時間後の事となる。

 

 

γ

 

 

三軒目は、スーツや男性物が多く置かれているお店だった。店の品揃えを目の当たりにして、肩を撫で下ろすカナタへと、ストレアが声をかける。

 

「カナタ。これを着てみてよ」

「ん、これを着ればいいんだね」

 

ストレアの指差しに、抵抗することなく従うようになったカナタはこのシステムにも慣れてきた様子であった。ストレアに指差したものを近くにあった試着室へと入り、装備を外して、その服を身につける。

 

“さて、これでいいかな?”

 

カナタがカーテンを開くと、その店で買い物をしていたプレイヤーたちが一斉に手を止めて、カナタを惚けた表情で見つめる。それに眉を顰めるカナタに、ストレアがカナタへと小物を差し出す。それを受け取ったカナタは、それを着用して近くにある鏡へと視線を向ける。

 

「はい、カナタ。これもつけてみて」

「??? 分かった」

 

“…なんだこれ”

 

鏡に映る自分の姿に、カナタは驚愕する。まず、癖っ毛が多い栗色の髪を後ろで結んでいるスタイルと空のように透き通った蒼い目に変わりはない。ならば、やはりストレアが選んだ服装に問題があるようだった。

華奢な体を包むのは真っ白なカッターシャツで、その上には黄土色のベスト、漆黒の燕尾服。白いTシャツの襟首をレモン色のネクタイでしめて、ほっそりした掌を真っ白な手袋の中へとしまっている。

 

“これって、執事じゃん!完璧執事じゃんッ!?”

 

カナタは嬉しそうに手を叩いているストレアへと詰め寄ると、その肩へと両手を勢い良く置く。カナタの動作にびっくりした様子のストレアにカナタは自分の服を指差しながら問いかける。

 

「スア、なんでこの服装をあたしにさせたの?」

「うん。カナタにね、この服がとっても似合うって思ったんだ!やっぱり、すっごく似合ってるね〜。流石、カナタだよ〜」

「………あんがと」

 

その赤い瞳にはキラキラと純粋な輝きで満ちていた。ストレアが心の底から喜んでいることを知ったカナタは、何度目となるか…ガクッと肩を落とすと、疲れた様子で俯くと掠れた声でお礼を言う。そんなカナタにストレアは嬉しそうに声をかけると、疲れた様子のカナタの右手首を掴むと店の中を歩き回った……

 

 

 

数時間後、店の前にはニコニコと満足そうに笑うストレアの姿とぐったりと疲れた様子のカナタの様子があった。

 

「もう、こんな時間になっちゃったね〜。カナタ、みんなのとこ、帰ろう」

「ん…だね…」

 

ズンズンとカナタの右手首を掴んで前を歩くストレアに、項垂れるようについていくカナタ。そんな二人がすれ違うたびに、振り返るプレイヤーたち。

振り返るプレイヤーたちから発せられる野次めいた視線に、カナタは今自分が着ている服を思い出して、ストレアを引き止める。

 

「ちょっ、スア、ストッープッ!」

「なに?カナタ」

「何じゃないよ!いつまで、あたしをこんな格好で居させるの!?」

 

ストレアがいつもの紫を基調とした戦闘着に身を包んでいる中、カナタは先刻の執事コーデを身に纏っていた。心なしか、頬を少しだけ赤く染めたカナタがストレアへと意見を言う中、ストレアだけはあっけらかんとしていた。

 

「えぇ〜。だって、その格好の方がカナタ、カッコいいよ〜」

 

“こっちの方がカッコいいって…”

 

カナタは冷や汗を一つ二つ流しながら、ストレアを説得しようとする。だが、帰ってきた返事は至極真っ当なもので。

 

「ですがね、ストレアさん。あたしは、こんな大勢の人に見られて恥ずかしいわけですよ」

「? カナタはいつも女の子に囲まれてるじゃん。何が恥ずかしいの?」

「………はい、ごめんなさい…。そうですね……」

 

スキップしながら、宿屋へと向かうストレアの後をトボトボとカナタが付いていく。そんな二人が宿屋の中へと姿を消すまで、プレイヤーたちの視線が消えることはなかった……

 

 

ー着せ替え人形・完ー




本編をご覧頂いた方なら、まず思うことでしょう…

ーー着替える前に気付けよッ、カナタさんッ!!ーーと。

私も正直、そう思います。
ですが、カナタも疲れていたんです…天真爛漫のストレアさんの振る舞いに…(汗)

なので、着替えた後に気づいたのは仕方ないことなんです……(´・_・`)

そして、こんな感じで終えてよかったのか?と思う中…これ以上は、話が考えられなかったです…すいません…(汗)

その埋め合わせというわけではないですが…執事カナタがまた、何処かの話に出現するやもしれません(笑)










そして、久しぶりということで雑談コーナーを(笑)

【オーディナル・スケール】、Blu-ray・DVD化するんですねッ!!おめでとうございます!!!(お祝いが、すごく遅くなりましたが…)

そんな【オーディナル・スケール】ですが、私はバッチリと予約しました(o^^o)

映画館で一回しか観れなかった【オーディナル・スケール】ですが…買ったら、何回でも観たいですね!
【オーディナル・スケール】はお気に入りシーンが沢山あったのでっ(笑)
それ故に、リーファの出番が少なすぎたのが…悲しかったですね。だって、リーファが活躍したところってあそこしか思い浮かばない…(涙)
ネタバレですが、キリトへと熱心に剣道を教えているリーファ/スグが健気に見えたのは私だけでしょうか…?あのシーンが何故か、哀愁が漂っていたような…。
ゴシゴシ、いえ、そう見えていただけかもですね(笑)

そんな【オーディナル・スケール・Blu-ray&DVD(限定版)】の特典CDなんですが…凄い豪華ですよね!?(大興奮)
だって、あの『Ubiquitous dB』をアスナ&シリカコンビが。『Break Beat Bark!』をリズ&シノンコンビが歌うんですよ!?ゼッッタイ、可愛いカッコいいに決まってるじゃないですかっ!!もっと言うと、アバターではなくて現実の自分で歌うんですよ?ヤバイですよね…(鳥肌)

そういえば、前やっていたSAOのスマホゲームで『シノンはあまり歌が得意ではない(間違ってるかもです)』と紹介されていた気がします。そんなシノンが、こうしてリズと共に歌うことになっていることに驚きと喜びを感じます。
あのシノンがリズ・アスナ・シリカの旧SAOガールズ達と共にカラオケや遊びに出かけている様子を見ると、ファンとしては嬉しく思います、純粋に(o^^o)
そして、戸惑いつつもリズと共に歌っているシノンの姿が微笑ましくも…。これは予想ですが、最後はノリノリなんでしょうね、シノンの事だから( ^ω^ )

そして、そんな女子会に陽菜荼が合流すれば、もっと凄いことになりますよ、これはもう(⌒▽⌒)
そんな日常も書いてみたいですね…時間と余裕があれば…(笑)



では、長くなりましたがこれにて。
暑い日が続きますので、読者の皆様、熱中症にお気をつけて。ではでは( ´ ▽ ` )ノ


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LLENN001 なんでこうなった!?

レンちゃん、誕生日おめでとう!!!!!!




あたしは今だ、目の前の状態に思考が追いついてなかった……。

 

頭が混乱している時はまずは状況整理だ。

今、あたしは半壊しているビルみたいなところにいる……いや、居た。そのフィールドは世紀末をイメージしており……並んでいるビルや建物は半壊していて、割れているガラスから外を見れば、人の血のように気味悪く思うほどに紅い空とその空から降り注いでくる光がガラスに当たり、オレンジや茜色の光に反射して、辺りを照らさなければ…近くにある瓦礫すら見えない。

 

実際、あたしの視界は暗闇に包まれており–––––

 

“–––––ん? なんだ? この感触……”

 

妙な感触を感じる視界にはどうやら何かが覆いかぶさっているのか、何も見えない上になんだか柔らかい……顔に当たるところが小さく上下にする度に呼吸音が聞こえてきて、上下する度に密着する部分から伝わってくるぬくもりは暖かく……どうやら、あたしの他にもう一人、この訳わからない状況に陥っているらしかった。

 

“ん?”

 

「な……」

 

失った記憶を補給する為に状況整理に精を出し、完全放心状態のあたしの耳にもう一人の驚きと羞恥……怒りに満ちた声が聞こえ、顔に当たっている感触が離れていく度に視界が開け………窓、いや穴から差し込む光に目を瞑ったあたしが視界を下げた瞬間、見たのは––––

 

“な……”

 

–––––可憐な顔立ちを真っ赤に染め、ケモミミがついたピンクの帽子を羞恥心で震わせ、少し暗めのピンクに色を変えた軍服に身を包んだ小柄な少女……いや、幼女が垂れ目がちな瞳に涙を溜めて、こっちを見下ろしていた。

 

あたしはこの空間にいたもう一人の存在があの《ピンクの悪魔》と知り、ゆっくりと目を閉じる。"ああ、終わったな…"と。あたしはこれから赤いジャケットに複数の穴を開けられて、HPが尽きたと言うのに…更に追い討ちをかけるように連射されながら…ゲームオーバーとなるのだろう……と想像し、まだ自分の上でプルプルと震えている少女・レンを見上げる。

 

夕焼けをバックとした砂漠が彼女のトレードマークとなっている"ピンク"に上手い具合に溶け込み、PKことプレイヤーキルを成功させていたことや彼女が登場した大会で活躍する様子を見て…付けられたのが《ピンクの悪魔》。

 

そして、そんなピンクの悪魔様とあたしは何やらご縁があるそうで……出会い頭にぶつかり、彼女の胸を思いっきり鷲掴みしてしまった時から幾度となく、彼女と鉢合わせれば、押し倒すが胸を触っている気がする…。

 

その度に激怒する彼女に"何度も自分はあなたと同じ女です"と説明しても、真っ黒に焼けた肌に流し目の蒼い瞳に細長な脚、長い胴体……一見しても二見、三見しても男性プレイヤーと間違われるこの容姿のせいで、今だピンクの悪魔様は今だあたしのことを女性プレイヤーと認めてくれない。

ま、この容姿を見て……誰がすんなり女性と思うか……とあたしも思うので、彼女が悪い訳じゃないのだが………って、そろそろ降りてくれないかなっ!

 

「……た」

「へ?」

 

どうにか彼女を自分から下ろそうと試みていると小さな声が聞こえてくる。一ミリ…一ミリ…と動かしていた身体を止め、ピンクの悪魔様を見上げる。

するとそこには愛用の真っピンクに染め上げているアサルトライフルの銃口をこっちに向けているレンの姿があり、あたしは最早鉄板となっているこの展開に苦笑しながら、どうにか逃げ出せる方法はないかと辺りを見渡してみる。

 

–––––!

 

すると、何かを吠えながら、トリガーを引こうとしているレンの背中側……穴が空いているところからキラキラと光を放つものが自分たち目掛けて飛んでくるのが見え、目を凝らしてみて…それが銃弾だと気付いた瞬間、あたしは素早く上半身を起こし、目を丸くしているレンを抱きしめると横穴が空いている方に向けて、飛躍していた……。




~2~へと続く…

めっちゃ短くてすいません……(大汗)

こちらもゆったりと書き進めていこうと思います…!


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Lux001 ダンジョンでの出来事

リクエスト頂いたルクスさんとの話です。私なりにルクスさんの特徴を考えた結果、やっぱり…ダンジョン攻略かな!と。
なので、この話は84層にあるダンジョンをヒナタとルクスが攻略するという話です(礼)

そして、本格的に話が動くのはその2からなので…今回の話はあまりご期待に添えたものではないかと(汗)その代わりといってはなんですが…ヒナシノのやりとりが前半にありますので、そちらで百合要素を楽しんでいただければと思います(微笑)

それでは、遅くなりましたが…本編をお楽しみください(汗)


5/6〜誤字報告、ありがとうございます!


「はぁあ〜」

「こら、アクビしないの!そんな顔をしてる人には、せっかく作った朝ごはんあげないわよ?」

 

大きな口を開けて 眠そうに右目をこすっていると、あたしの左に座っている恋人に横腹をどつかれる。少し不機嫌そうに、そちらへと視線を向けると呆れた表情を作っている焦げ茶色の髪をショートヘアーに同色の大きめな瞳を持つ少女が腰をかけている。その少女の名は朝田 詩乃、アバターネームはシノン。現実ではあたしの幼馴染であり、恋人でもある少女である。そんな恋人の呆れ顔に不服なあたしは頬を膨らませて、シノの方へと反抗的な視線を向ける。

 

「だって〜、眠いんだもん。仕方ないじゃん…」

 

呆れ顔を微笑へと変えたシノンが、あたしの前に朝ごはんを差し出しながら言う。

 

「まったく、もうっ。ヒナタって、本当に朝が弱いんだから。でも、今日は寝てはダメよ。今からルクスと84層のまだ行ってないダンジョンを攻略してくるって、昨日言ってたじゃない」

「ぁ…」

 

“マズイ、忘れてた…”

 

小さく声を漏らすあたしに、ジト目を向けてくるシノンが僅かに俯くあたしの顔を覗き込んでくる。あたしは全力で首を横に振ると、それを見たシノが肩を上下に動かすと朝ごはんへと視線を向ける。

 

「もしかして、忘れていたんじゃないでしょうね?」

「なっ、忘れてない忘れてない!ちゃんと覚えてる!約束大事!」

「……必死なところを見ると怪しいけど…。まぁ、いいわ。今日はそういうことにしといてあげましょう。でも、ヒナタ 約束したことはちゃんと覚えていることよ。ルクス、すごく楽しみにしてたんだから。それに…私はヒナタには、人を裏切るような行動をとって欲しくないもの」

「ん、わかった…。ごめんね、シノ…」

「分かったならいいわ。ほら、朝ごはん食べちゃって。約束の時間まで、あと少しなんだから」

「はぁい」

 

間延びした返事をしたあたしは、シノが作ってくれた朝ごはんへと手を伸ばす。今日の朝ごはんはあたしの大好物のオムライスである。朝からオムライスはキツイ気もするが…あたしの恋人・シノ曰くヒナタとキリトにこのアインクラッドに住む人たちの命が掛かっているとの事で、そんな人が朝からパン一つとかではダメと怒られて、今ではシノに朝ごはんを全面的に任せている。

あたしはシノ手作りのオムライスをスプーンで掬って、口に含むと頬を綻ばせる。

 

「ん!おいしいぃ〜っ!美味しいよ!シノ!!」

「ふふ、そう?私もヒナタのその笑顔を見られて頑張った甲斐があったわ」

「あたしもシノみたいなお嫁さん貰えて嬉しいよ」

「なっ!?およめっ…さっ…。まだ、違うでしょう!」

 

あたしのお嫁さん発言に慌てふためくシノを見て、あたしはさっきの横腹をどつかれた仕返しが出来たと満足して、更にシノの可愛い表情を見るために彼女をからかう。

 

「あははっ、そんな顔を真っ赤にしなくてもいいじゃん。本当、シノって可愛いね〜。大好きだよ〜」

「そんなとってつけたような大好きもらっても嬉しくないわよっ。ヒナタ…あんた、私をからかってるの?」

 

シノの視線が細まるの見て、あたしはニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながら、更にからかうことにする。

 

「まっさかー。あたしはただ可愛いシノを愛でてるだけだよ?」

「それを世間ではからかってるっていうの!」

「あはは、そうとも言う〜」

「……本当に分かってるのかしら、この子…。あぁ…、なんかドッと疲れた気がするわ…」

 

そう隣で呟くシノに、あたしは心の中で少しからかいすぎたかなぁ〜と思ったのであった……

 

 

γ

 

 

待ち合わせの噴水の公園前に、見知った白銀のウェーブのかかったロングヘアーを見つけたあたしはその人物へと笑顔を浮かべて歩み寄る。

 

「ルー!」

「あっ、カナタ様。おはようございます」

 

あたしの声に気づいたその人物は振り返ると、礼儀正しく頭を下げてくる。あたしも彼女へと左手をあげて、挨拶する。

 

「ん、おはよう〜。よし!じゃあ、早速 84層へと出発しよう!」

「はい!」

 

その後、ルクスことルーと共に84層にある抉られた岩洞へと辿り着いたあたしはさっそくそのダンジョンを攻略することにした。

茶色い岩洞を歩きながら、あたしはルーへと話しかける。

 

「いやね〜。キリたちと攻略した時は、あたしは上の岩洞担当だったからね、こっちには来たことがないんだ」

「そうなんですか?私も初めてです」

 

恥ずかしそうにそう言うルーに、あたしはニコッと笑いかけて力こぶを作る。

 

「そっか〜。お互い、初めてだから。慎重に行かないとだね!それじゃあ、ここのダンジョン攻略 がんばろ〜!」

「はい!カナタ様っ」

 

元気良く頷くルーから視線を前に向けると、丁度その先に黒と焦げ茶色のシマシマに鋭い顎を持った赤い瞳を持つアリ型モンスター《Ant Worker Lv88》を見つけて、右腰から愛刀の江雪左文字を取り出し構える。ルーもあたしの行動に敵を発見したことを察して、腰から片手直剣を取り出して構える。そんなルーに近づき、小声でタイミングを伝える。

 

「1、2、3で斬りかかる。OK?」

「はい、いつでもOKですよ。カナタ様」

「ん、じゃあーー」

 

あたしは左手の人差し指、中指、薬指を立てるとゆっくりとおっていく。そして、最後となる人差し指をおると刀スキルの【卯月】を発動する。隣を見るとルーも片手直剣のソードスキルを発動しており、二人の刀身が赤い目を持つアリ型モンスターの胴体を切り裂いた……

 

 

 

ー その2へ続く ー




ということで、ルクスさんとのダンジョン攻略開始です!果たして、二人のこのダンジョン攻略はどうなるのか?とても楽しみですね〜。

そして、前半にあったヒナシノのやりとりは最近、メインヒロインとしてのシノンの立ち位置が霞みかけてるなぁ〜と……。もちろん、私の中です。更新した二話は、フィリアさんとのやりとりが多くて…(当然なんですが…)危うく、フィリアさんがメインヒロインみたいな立ち位置にいるような感覚に陥り、そのように書き進めてしまいそうになるんです…トレジャーハンター恐るべしです(汗)
なので、ヒナシノのやりとりが無性に書きたくなり…入れた次第です。ので、読んでる皆さんが少しでも楽しんでいただければなぁ〜と思ってます。

そして、次回からはカッコいいヒナタと可愛いルクスが見れるばすなので、乞うご期待です!では!!


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Lux002 ダンジョンでの出来事

ルクスさんとのダンジョン攻略の二話目です。今回、本格的にルクスさんとの絡みが見れると思うので…楽しみにしててください(礼)

少し補足すると、この話のルクスさんはヒナタさんに好意と尊敬を抱いています。ヒナタのようになりたいと願い、時折 ヒナタに稽古をつけてもらっています。なので、シノさんとも仲良しなんですね〜(笑)


「はぁっ!」

 

茶色の岩洞を颯爽と駆け抜ける二つの人影がある。一人は右手に片手直剣を持つ白銀のウェーブの罹ったロングヘアーの少女で、垂れ目がちな髪と同色の瞳を今は鋭く細めて 前方にいる黒と藍色のアリ型モンスターへと斬りかかる。片手直剣スキル【スター・Q・プロミネンス】を発動し、血色の刀身がアリ型モンスター/Ant Soldierの身体を引き裂く。アントソルジャーの頭の上にあるHPバーが黄色まで下がったところで、ソードスキル後の硬直から回復した白銀の髪を持つ少女がアントソルジャーの攻撃を交わしながら、もう一度ソードスキルを叩き込む。黄色い刀身に引き裂かれたアントソルジャーの身体が水色のポリゴンへと変わったその時、白銀の髪を持つ少女の後ろからパチパチと拍手する音が聞こえる。ゆっくりと少女が振り返ると、ニコニコと満面の笑顔を浮かべているもう一人の少女の姿がある。

 

「おぉ〜っ、流石 ルーだね。この調子だとあたしの出番いらないかな?」

 

そう言って白銀の髪を持つ少女・ルクスを褒めるのが癖っ毛の多い栗色の髪と空のように透き通った蒼い瞳を持つ少女である。右腰に吊るしてある愛刀は抜いておらず、どうやらさっきの戦闘は全部ルクスに任せる予定だったらしい。ルクスは満面の笑顔を浮かべる少女・カナタの褒め言葉に頬を染めながら、自信なく答える。

 

「何を言ってるんですか、カナタ様。私なんてカナタ様に比べたら…まだまだ……」

「あははっ!ルーはもっと自信を持つべきだね〜。ルーは絶対、あたしなんかより強くなると思うものっ。そう確信できる何かがあるってあたしは思うよ。さぁ〜て、それじゃあ奥まで行こうか?」

「はい!カナタ様っ」

 

小さくそう答えるルクスに、カナタは彼女の背中をぽんと軽く叩くと右腰から愛刀を抜き取る。そして、広場の前まで来ると右手を広げて ルクスを止めると小声で話しかける。

 

「おそらく、そこの広場に中ボスがいるみたいだよ。今までと雰囲気が違うからね」

「確かにそうですね…、なんか嫌な空気が肌へと絡みついてきます」

「そういうことっ。だから、気を抜かずに行こう!」

「はい!」

 

互いの愛剣を構えた二人は顔を見合わせると、広場へと駆け出す。手始めに広場の前にいる二匹のAntlionへとそれぞれのソードスキルを叩き込んだ二人は手分けして、一匹のアントライオンを相手することにする。カナタは中ボス側のアントライオンを。ルクスはもう一匹のアントライオンを相手している。

 

「ふん!」

 

正面と背後で敵に囲まれながら、カナタは身体に染み込んだ身のこなしで二匹のサンドスモークを交わしては、その無防備な身体へと【卯月】を放つ。目に見えて、アントライオンのHPが減るのを見たカナタは、後方で同じくアントライオンと戦闘を繰り広げているルクスへと視線を向ける。こちらも安定した立ち回りと回避で確実にソードスキルでHPを削っている。

 

“ルーの方は敵のHPが赤か。流石ってとこかな”

 

「よっと」

 

アントライオンの前足の攻撃を交わしたカナタは、低い位置で【辻風】を放つとそのままの体制で、アントライオンへと斬りさくと、HPが0になったアントライオンはポリゴンの塊へと姿を変えて、岩壁へと吸い込まれていった。

 

「ふぅ…。次は、と」

「ぎゅるる!!」

「ふっ、少しは休ませろって!」

 

襲いかかってくる背後の敵を左手に持った刀を振り向きざまに斬りつけると、ぴょんぴょんと後ろへと飛んで 適当な距離を保つ。襲いかかってきたアントライオンに似たモンスターへと視線を向ける。すると、必然的に頭上に浮かんでいるHPと名前が見えて、そこにはこう書かれていたーーHM“UsurPer Of Nest Vorladung”と。

それを見ながら、カナタは眉を顰める。

 

「綴りからフォーアラードゥングって読むのかな?これ。ん?フォーアラードゥング??」

 

“キリに教えてもらった敵の名前ってこんな名前だったっけ?違うよね?キリは、確かマーベスクって言ってた気がする…。なんで、名前が違うんだ?それにさっきから感じるこの嫌な予感って…”

 

フォーアラードゥングが繰り出すアソッドダウンを刀で弾いて回避したカナタは、フォーアラードゥングに近づくと弱点であろう大きなお腹を愛刀で斬りつける。すると、悲鳴じみた声を上げるフォーアラードゥング。

 

「ふっ、はぁっ!中ボスなんだから、これくらいで根を上げないでよねって!」

 

前足を右左と動かして、カナタを攻撃しようとするフォーアラードゥングの攻撃をひょいひょいと交わしたカナタはその顔に向かって、血色した刀身を叩き込む。

 

「ぎゅるるる…」

「?なんだこの攻撃モーション…見たことなーー」

 

HPが黄色いゾーンに入ったフォーアラードゥングは、今まで見たことがない攻撃モーションを取り始める。何かを唱えるように口をパクパクしながら、前足をパタパタと動かす。遠目から見れば、何かの踊りのように見えるが…なぜか、その異様な踊りから漂ってくる粘っこい空気にカナタは左手に持った刀を強く握りしめるとフォーアラードゥングを睨む。そして、さっきまで考えていた違和感とこの気持ち悪い感覚の正体に気づいた瞬間、カナタは弾かれたようにフォーアラードゥングから距離を取る。

 

“フォーアラードゥングって確か、ドイツ語で召喚って意味だった気がする…。ならば…この攻撃モーションと謎の嫌な予感にも納得できるっ!くそっ、なかなか痛いところを突いてくるじゃないか”

 

しかし、この状況を知らない者が一人いたーー。

 

「カナタ様っ!」

「!?」

 

ウェーブの罹った白銀の髪を揺らしながら、顔色を変えて、フォーアラードゥングから距離を取るカナタに近づいてくるルクスにカナタは叫び声を上げる。

 

「ルー、ダメ!そこから逃げて!!あたしのところに来てはダメだッ!!?」

「へ?なんででーーわあ!?」

 

だが、時は遅く…攻撃モーションを終了させたフォーアラードゥングはその攻撃の対象をカナタではなくルクスへと向けた。カナタへと走り寄るルクスの足元に大きな蟻地獄が現れては、ルクスの身体を忽ち飲み込んでいく。それを見ていたカナタは、ルクスへと走り寄ろうとするが蟻地獄と共に新たに召喚されたアントライオンに行く手を阻まれる。

 

「クソ!ルーっ!」

「ギュルル」

「チッ、邪魔だっての!」

 

ルクスが落ちていった蟻地獄を取り囲むように召喚されたアントライオンの攻撃を避けながら、常に腰へと装備している小太刀へと右手を伸ばしたカナタはそのまま抜き取る。そして、ルクスが消えていった蟻地獄へと身を投じる。

身を投じて辿り着いた先には、アントライオンやアントワーカーとアントソルジャーに取り囲まれているルクスの姿があった。左端に小さく表示させてるルクスのHPが黄色から赤に変わった時、カナタの中にあった何かが外れた気がした…。

 

「貴様らぁああ!ルーから離れろぉおおおお!!!」

 

手に持った刀と小太刀が黄緑色に光を放ち、表情を変えたカナタがルクスを取り囲む敵へと走り寄り、ソードスキルを放つと荒れ狂うように刀と小太刀を振り回していく。蒼い瞳は鋭く細められ、その瞳は激怒で染められており…普段は蒼い瞳が今だけはその瞳が赤く見えた。

 

“カナタ…さ、ま……”

 

ありったけのソードスキルを放ち、次々と敵をポリゴンの塊へと変えていくカナタをルクスはただ呆然と見つめていた……

 

 

γ

 

 

 

「ーー」

「……」

 

ルクスを取り囲んでいた敵がものの三分でポリゴンの塊へと姿を変えて、漂うポリゴンの真ん中に立つ橙の和服を着た少女がゆっくりとルクスの方へと振り返ると、その顔をくしゃっと歪ませる。

 

「生きて…る、よね?ルー」

 

震える声でそう尋ねる少女・カナタにルクスは頷くと微笑む。

 

「はい、カナタ様が守ってくれましたから…」

「そっか…良かった…。っ、本当に良かった…」

 

そう呟いたカナタはギュッとルクスへと抱きつく。目を丸くして驚くルクスには構わずに、その華奢な身体をルクスへとグイグイ近づけると、ルクスの左肩に顔をうずめて泣きじゃくる。

 

「怖かった…ルーのHPが無くなったらって思うと、頭の中真っ白になっちゃって…。ルーを守らなくちゃって思って…っ、そのあとはがむしゃらだったよ…ごめんね、ルー。ごめんね、怖い思いさせちゃって…。本当にごめんね…ぅぅ…」

「…カナタさま…」

 

ルクスも戸惑いつつも、カナタを落ち着かせようとその華奢な背中を撫でると震えていたカナタの身体が少しずつ収まっていく。だが、収まらないものがあったーー

 

“カカカカ、カナタさまが私に抱きついて。なななな、涙流して?!”

 

ーーそれはルクスの心拍数であった。

好意と尊敬を抱いている少女の突然の行動に、ルクスの思考回路は崩壊寸前で、顔はゆでダコのように真っ赤に染まっていた。しかし、そんなルクスのパニック状態に気づいてないカナタは何を考えたのか更に身体を密着させるとルクスの耳元で囁く。

 

「ルー、ごめん…もう少しいいかな?。なんかね、安心したら力が抜けちゃったんだ…。もう暫く…肩、借りるね…」

「?!」

「本当に少しだけだから…、寄りかからせてね…」

 

そう言って、ルクスへと体重を預けるカナタはゆっくりと目を閉じる。そんなカナタに、ルクスはカッチンコチンに固まる。さっきの涙と寄りかかってくるカナタの服越しに感じる体温を感じた瞬間、ルクスの思考回路は完全に崩壊してしまい…キャパオーバーした脳からはプシュ〜と白い湯気が出ているようにさえ見える。

 

“#@☆¥$%○*€$¥”

 

パニック状態のルクスはもう何を考えているのかさえ分からなくなり、無意識にカナタの背中へと両手を回してしまう。そして、そんな状態が三分ほど続いた後、カナタはゆっくりとルクスから身体を離して…ルクスへとにっこり微笑む。

 

「あんがとね、ルー。おかげで元気になれたよ」

「ーー」

 

固まって動かないルクスに、カナタは眉をひそめつつも立ち上がるとルクスへと右手を差し出す。しかし、ルクスはその差し出される右手を見つめたままで動く様子はない。

 

「さて 取り敢えず、安全なところまで移動して…って、ルー?」

「ひゃい」

「ぷっ、ひゃいって…そんな返事する人、あたし初めて見たよ。ほら、立ち上がれる?行くよ」

「はいぃ…」

 

カナタに手を引かれながら、安全エリアへと辿り着いた二人は床へと座り込む。そして、どちらともなくため息をつくと…今後のことを考える。

 

「さて…困っちゃったね〜。隠しダンジョンってことは間違いないんだろうけど…、帰り道がわからなければ帰れないし…ん〜」

「ーー」

 

隣でぶつぶつと考え事を言っているカナタの右手は今だにルクスの左手を握っており、ルクスは自然に繋がったままの両手をジィと見ている。

 

「どうすっかな…。一応、ここは安全エリアに指定されてるみたいだから…ここで休んでから…明日、攻略ってとこかな?…と、その前に心配するだろうから…みんなに連絡」

「ーー」

「チッ、無理か…。みんなに迷惑かけちゃうな…、迷惑かけないためには…一刻も早く攻略すべきなんだけど…。ルーが疲れてる感じだし…」

「……」

 

カナタは黙ったままのルクスの表情を覗き込もうとして、今だに繋がったままだった両手に気がついて離す。

 

「あはは…ごめんね、ルー。あたし、そういうこと気づかないからさ〜。嫌になったら、言ってね」

「嫌なんてそんな。むしろ、私の方がこんなに幸せでいいのかって…あわわ、私は何を口走って…。でも、幸せなのは事実で、今日のカナタ様のことを可愛いなんて思えてーー」

「ぁ〜あ、ルー ごめん。早口で何言ってるのかわかんないよ。もう少しゆっくり言ってくれるかな?」

「なっなんでもないですから!!」

 

顔を真っ赤に染めて、そういうルクスにカナタは小さく注意する。

 

「うお!!?突然、大きな声出さないでよ」

「ご…ごめんなさい…」

 

しょんぼりするルクスに、カナタは笑いかけるとその顔を覗き込む。

 

「あははっ、そんなにしょんぼりしなくていいよ。さて、ルー 今日はここで休もう?」

「ここでですか?」

「ん、ここで休んで、明日頑張ろう〜。ということで、少し待っててね〜、こうなることを想定して…そういったものを確か買ったはず〜」

 

右手をスライドして、おそらくアイテム欄を見ているカナタはそれを見つけて、オブジェクト化したものを見たルクスは隣にいるカナタを見る。

 

「あっあの…カナタ様っ…これは?」

 

ルクスの視線に、カナタは髪をかきながら言う。

 

「ご、ごめんね…。そういえば、あるのあるけど…あたしって今ごろ、キリと攻略してて…一人分しかそういうの買ってなかったんだった。嫌なら…あたし、壁に寄りかかって寝るからさ…」

「いえ、そんな…カナタ様のなんですし…私がーー」

「ーーそんなのダメだよ!なら、こうしよ?二人で寝ようよ。狭いけど…充分、寝れるばず」

「へ?」

 

カナタの発言に目を丸くしたルクスはその後、簡単な食事をとり、眠れない夜を迎えたのであった……

 

 

ー その3へと続く ー




と、大変なことになってしまったヒナタとルクスですが…、はっきり言って…今回の話での二人は恋人みたいでしたね…(汗)
仲間思いが強すぎるのも考えものですね…、これはシノさんから見たら確実に浮気に入りますよね?あぁ…帰った時に、矢が飛んでこないことを祈るのみですね…


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誕生日ーbirthdayー
メイド喫茶なのになんであたしだけ執事なんだ…?(レイン誕生日記念)


こちらは2019年の【レインちゃん】の誕生日を記念して作った話となっております。

ドキドキはあまりないかもしれませんが…カナタとレインちゃんの誕生日限定のエピソードを楽しんでもらえると嬉しいです!

では、本編をどうぞ!!

※あいも変わらず展開めちゃくちゃだけど許してね(土下座)


【自宅マンション】

 

西暦2026年 6月 21日 日曜日。

窓から差し込む日の光とそよ風の心地よさにあたしはスーイスイッと気持ちよく眠りの海を泳いでいるときにBGMとして聞こえてきたのがいつも起きる時に使っているアラームだと気付き、続けて昨日"とある事をあるプレイヤー"と約束した事を思い出して、あたしは急いで眠りの海から覚醒する。

 

「すぅ……すぅ……」

「……ん?」

 

覚醒して気がついたのはなんだか左側が暖かく柔らかいで、目をゆっくりと開けて、左側へと視線を向けると見えたのが焦げ茶色のショートヘア…そして前髪の奥に見える長い睫毛に縁取られた少し垂れ目がちな瞼とすやすやと寝息を部屋へと響かせている桜色の唇に思わず笑みが溢れる。

 

“詩乃より先にあたしが起きるなって珍しいことがあるんだな”

 

あたしに抱きつくように眠りにつく詩乃の焦げ茶色の髪をよしよしと手櫛してから少し背伸びする。

 

「ふわ〜ぁ……さーて、どちらさんからのお呼び出しかな?」

 

頭またに置いてあったスマホを左手で掴み、目の前に持ってくると気怠げにホームを開くと電話のマークがついた所をタッチすると着信履歴を確認する。

そして、その着信履歴に《虹架》という二文字を見つけるとかけ直してみると二回"プルルゥ……"と呼び出し音が聞こえた後に可愛らしい声が聞こえてきた。

 

『もしもし』

「もしもし」

『眠たそうな声だね、陽菜荼くん』

 

『クスクス』と可愛らしい笑い声が聞こえた後に申し訳なさそうな色を全面に出して問いかけてくる虹架へとケラケラと笑う。

 

『もしかして、ついさっきまで寝てたのかな?』

「流石、虹架だね。ご明察だよ」

『ごめんね、まだ眠いのに早い時間に起こしちゃって……」

 

左側で寝ている詩乃を起こさないように静かに左手でスマホを支えながらベットから降りたあたしはまずは洗面所へと向かう。

 

「いいっていいって。昨日約束したもんね、明日の虹架のバイトをあたしも手伝うって」

『でも、本当にいいの? 今日って日曜日だから、シノンちゃんとデートの約束とかーー』

「ーー 一緒に暮らしているからね、あたしは毎日がデートだと思ってるし……詩乃も虹架が困っているのならそっちに行ってあげてっていうと思うよ」

『うん、そうだね……。あと一時間後に迎えに行くね』

「了解!」

 

元気よく返事してから電話を切ると眠気を追っ払う為にバシャバシャと顔を洗い、近くに置いてあるタオルで顔についた水気を拭いた後に冷蔵庫を開けてから左人差し指で顎をトントンと叩きながら朝御飯の献立を頭に思い浮かべてから材料を取り出すと食べやすいサイズに切っては炒めていく。

 

「……んっ? あれ? 陽菜荼?」

「おはようさん、詩乃。朝御飯、丁度出来た所だよ」

 

眠たそうに右目を越すしながら身体を起こす詩乃へと箸を渡しながら、出来たての朝御飯と日課のはちみつレモンを飲んだ後に歯磨きした後にタンスから適当にワイシャツと短パンを取り出すあたしへとコーヒーを優雅に飲んでいる詩乃が問いかけてくる。

 

「…今日は虹架のお手伝いだっけ?」

「そうだよ」

「……貴女はどの世界でもモテモテね」

 

“なんか嫌みの要素がそのセリフにより深く入っているように思える…”

 

肩をすくめるとチビチビとコーヒーを飲む詩乃の前にしゃがみ込んでニコッと笑いかける。

 

「早めに帰ってくるから、その後にどっか遊びに行こう」

「えぇ、そうね。そろそろ冷蔵庫の素材を補充しないと」

 

その後、詩乃へとパタパタと手を振ってからマンションから出た後に虹架と待ち合わせをしているところに向かい、合流した後に虹架がバイトしているメイド喫茶へと向かう。そして、虹架によって店長に目通しされたあたしは今顔から冷や汗を流しているのだった。

 

「ふーーん」

 

“何がふーーんなのだろう……”

 

さっきからあたしの周りをぐるぐる回るだけで何も言ってくれないし、しきりにふむふむうなづくだけで怖いんですけど!? 虹架もそこで微笑んでなくてあたしを助けてよ!?

 

知らない人を全身を舐めるように見られること、実際の時間は30分、体内時計では3時間という永遠とも思える時を過ごした後にやっと変な緊張感を抱くそこから解放された。

 

「貴女はこれね」

「…………へ?」

 

ニコニコ笑顔の店長さんから渡されたのは白いカッターシャツにピンクのネクタイ、茶色のタキシードに長ズボンという四点セットで……目の前で目をまん丸にしている虹架が着用している茶色のオーソドックスで可愛らしいヒラヒラが実に女の子らしいメイド服ではなく、あたしの手に持たされているのは明らかに"執事服"だった。

 

「いやいやっ!?ちょっ、まっ 待ってください、店長さんっ。あたしが今ここにいるのはメイド喫茶ですよね!?」

「? そうだけど」

 

“何でそこで不思議そうな顔をする〜ぅ?”

 

あたしがしたいんだけどその顔! 後、さっきから虹架がソワソワ落ち着きなーーって他のメイドさんも落ち着かなくなってきたなッ! なして!?

 

「ここにいる子たちもこれから店を訪れてくれるお客様も貴女のその姿を期待しているのよ」

「ーー」

 

そんな事言われて、周りの全員(虹架も含む)がうなづいちゃったなら仕方ないじゃん。

 

“しゃーない、やるかっ”

 

でも、周りがメイド服なのに一人だけ執事って……なんか浮いてる気がするんだけど……と予想していた男装路線にガックシとしながらも頭の中で想像したメイド服姿の自分が余りにも似合わないと思った為、"まー、こっちの方があたしらしいか"と結論づけながら、カッターシャツとタキシードへと腕を通していく。

 

「ふぅ……思えばきっちりした服ってGGOでしか着た事ないな」

 

ま、GGOもきっちりとしているがあたしの着崩しのせいでだらしなさを相手に伝えてしまうのは性格上仕方ない事だろう。

 

「あっ、陽菜荼くん。着替え終わったんだ」

「まー、ネクタイの締め方とかはGGOでも現実でもやったしね」

「って言ってる側からネクタイを緩めないの。私たちは接客業なんだから、いつもみたいにだらしなくしたらいけな……い……………よ……………………」

 

と言い、爪先立ちをしてグイッとピンクのネクタイを直してくれている虹架の顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。

 

「さんきゅー、虹架」

「ど、どういたしまして」

 

プイっとあたしから顔を背けた虹架の茶色の髪から覗く耳が真っ赤になっているのを見つけたあたしはそっと小首を傾げると仕事の内容を説明してくれている虹架の話を一生懸命聞いた後に早速実践となったのだがーー

 

“何でこんなことに……”

 

「私はこのメイドさんオススメふわとろオムライスが食べたいな」

「なら、あたしもそのオムライスにするわ」

「あたしも食べたいです」

「なら、私も」

 

ーーあたしのメイド喫での初めてのお客さんはあたしのお嫁さんと愉快な仲間たちでした。

 

「誰が愉快な仲間たちよ!」

「お客様。他にもお客様がいらっしゃいますので声を小さくしてもらえるでしょうか?」

「なっ……それはあんたが変なことを考えているからでしょっ」

「変なこととはどんなことでしょうか? ぼく、お客様の言ってることがわかりません」

 

澄まし顔をしてみると里香がヌグググ……と悔しがっているのが分かるのでしてやってりとほくそ笑むのを見上げるのはツインテールを青色のゴムで結んでいる珪子である。

 

「陽菜荼さん、この店では一人称が"ぼく"なんですね! かっこいいです」

「店長さんの意向でね。執事なのに"あたし"っておかしいから"ぼく"にしろって……」

 

“そういう細かいところは気にするのに、なんでメイド喫茶で執事服を着せたんだろ……ま、メイド服に未練はないけど……”

 

そんな事を思いながら、心しれた仲間たちの注文を取っていると熱視線を感じて、そちらをみるとうちのお嫁さん……ではなくて恋人殿が黒縁メガネ越しに鋭い視線を向けていた。なので、恋人殿へと問いかけてみると

 

「ーー」

「あーと、詩乃さん?」

「……なんでもないわ」

 

と勢いよくそっぽを向かれた。

 

“今日って本当ついてない……”

 

変な店長には絡まれるし、突然来た恋人殿や仲間たちからはよく分からない態度されるし、注文されるし……しかし、それも後少しで終わると自分に奮い立たせると次に来たお客さんへと教えられた通りに頭を下げる。

 

「おかえりなさいませ、お嬢様」

 

そのお客様の後に数十人対応した後にやっとあたしは執事服から解放出来ると思ったのだがーー

 

「陽菜荼くんさえ良ければ一緒に写真を撮って欲しいの」

 

ーーと顔を真っ赤にした虹架に呼び止められ、一緒に撮った写真を眺めてみるとよっぽど早く執事服を脱ぎたかったのか…あたしの顔が強張っていた。




ということで、レインちゃんの誕生日エピソード おしまいです!

レインちゃんの誕生日っぽくない内容となってしまいましたが……満足してもらえたかな?(苦笑)
また、メイド喫茶行った事ないので、想像で書いちゃいましたが……これでいいのかな?(苦笑)

最後に、余談なのですが……レインちゃんは陽菜荼と撮った写真を待ち受けにしているそうですよ。また、『虹架の誕生日だからあたしのできることなんでも一つ叶えてあげるよ』という陽菜荼の言葉にレインちゃんは『毎週1回、二人っきりでクエストしたい』とお願いしたそうです(微笑)
地味に思えますが、毎週1回 好きな人と二人っきりになれるって幸せなことですし、嫌なことがあってもその日のために乗り越えられそうですよね(微笑)


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001 とある日の騒動(ユウキ&レン誕生日記念)

遅くなりました(大汗)

GGOでの誕生日エピソードとなる今回は"レンちゃん"と"ユウキちゃん"の誕生日をお祝いするエピソードとなっております。

あいも変わらず、ハチャメチャな展開になると思いますが、最後まで楽しんで読んでもらえるように書いて行こうと思うので……どうかよろしくお願いします!

本編をどうぞ!!


【SBCグロッケン】

 

2026年 5月 23日 土曜日 PM 10:02。

朝の10時からの呼び出しというのは、実を言うと朝が弱いあたしからすれば拷問に近いものだと思っている。ま、そう思い、タイムリーにその愚痴を口から吐き出してみたら、きっとあたしの周りにいる恋人や友人が口うるさく説教してくるだろう。

 

“でも、眠いもんは眠いもんな……”

 

そう思い、口を一文字にしようとした時には既に遅くて、あたしは真横に依頼人が居るというのに大欠伸をしてしまう。

 

「ふっわ〜ぁ……」

 

赤い指空き手袋が覆われた左掌を口元にあてがいながら、乙女らしからぬ喉元が覗き込めそうなくらい大きな口を開けて、大欠伸をしているあたしを見上げるのは今回ご指名いただいた依頼人である。

大きな欠伸をかますあたしの横顔を見上げるのは、まん丸な赤い瞳でGGO特有の荒風に遊ばれている腰まで伸びた髪の毛は鮮やかな紫色で年相応の可愛らしい顔立ちは純粋な驚きに満ち満ちている。そんな可愛らしい表情から視線を下ろせば、少女特有の未成熟な肢体を身体のラインがはっきりとわかる紫色の戦闘着に真っ赤なホットパンツを履き、黒いニーソックスが白く細っそりした美脚の形を行き交う通行人へと見せつけている。

 

“あとは白い太ももがニーソックスに押されて、プニってなっているところが魅力だよな”

 

あたしの同居人かつ恋人の朝田 詩乃ことシノンは現実(リアル)では肩を出す服を着たり、スカートを履くことはあれど露出度は高くなくスカートもミニというよりもロングを好んでいるように思えるのだが、VR(こちら)の詩乃はどの世界のアバターでもだがセクシー路線に走りすぎな気がする。確か、SAO時代の服装も下の方の胸が見えていたり、殆ど……いいや、基本真っ黒な下着姿っていうあたしにとっては目の保養……げぶんげふん、けしからん戦闘服ばかり着用していたように思える。

なので、あたし自身恋人殿のけしからん戦闘服によってセクシー路線の服装には免疫力がついたようにも思えるのだが、どうもニーソックスや太ももに絡みついている紐みたいな装備品によってプクッと膨らんでいる太ももなどをみてしまうと……こうっ、ドキドキしてしまう……。

 

「うわー、大きな欠伸。そんなに早く、僕、カナタのこと呼び出したかな?」

 

“あたしは本当何やってるんだろうな……”

 

そう言って、あたしを見上げる赤い瞳には純粋な疑問の色しか浮かんでない。

なのに、あたしはこの可愛らしくも頼もしい友人かつ依頼人・ユウキの太ももへといかがわしい視線を送ってしまった。

 

“これは反省すべきだな”

 

ユウキとの用事が済んだら、詩乃に頼んでニーソックス履いてもらって、このドキドキとともに受け止めてもらおう。

というで、いつものごとく誤魔化そう。

 

「へ?あぁ……この欠伸はいつものことだから気にしないで、ユウキお姫様」

「いつものことってそんなにカナタって毎日眠いの?ま、確かにカナタはいつも欠伸しているイメージだけど……」

 

そこまで言い、何故かクスクスと笑い出すユウキの頭をポンポンと撫でる。ポンポンに"さっきまで太ももへといやらしい視線を送ってしまいすいませんっ"という思いを込めて。

しかし、された側とすれば"何故か頭を撫でられているのか"分からないわけで、案の定ユウキがキョトンとした表情で問いかけてくる。

 

「……えーと、なんで今ポンポン?」

「いや、これからよろしくねって意味の」

「ん?んん?そう……よく分からないけど……」

 

“ん……だよね、あたしも自分が何を言っているのか分からない”

 

その後は、ユウキに連れられるがままに《グロッケンの酒場》を横切り、《総督府》まで連れてこられたあたしはそこで宿敵に会うのだった……。

今日、ユウキに呼び出されたのは〈自身のレベリングと所有武器を強くさせる為の素材集めに付き合ってほしい〉と事だったので、総督府で適当なクエストでも受けようかという事になり、入り口付近に備えてあるタッチパネルをユウキの意見を取り入れながら、クエストのボタンをポッチリポチと押していると背後から可愛らしい声が聞こえてくる。

 

「あーー!!」

 

嫌な気配を感じとり、まるで錆びついたからくり人形のようにギッギッと後ろへと向くとそこには想像通りの子がいた。

あたしを指差す手袋の色はピンク––といっても、女の子らしい真っピンクというわけでなく、明度を落とすために茶色を混ぜたくすんだ色−–で150センチにも満たない華奢な体躯をこれまたそのピンクで染め上げているばかりか、その子は全身をそのくすんだピンクで染めているのだ。そう、愛用している銃すらも。

 

「お客様、ここはお子様だけの来店をご遠慮させていただいております。保護者様をお連れになって、またのご来店をお待ちしております」

 

これ以上この子に関わり、面倒ごとに巻き込まれたくないと思い、あたしは咄嗟に総督府に配置されているNPCのモノマネをして、あたしと真っピンクな子を交互に見ているユウキの手首を掴んで、深いお辞儀をした後にスタスタと総督府から出ていく。

しかし、同じ手では騙されないようで……パッサパッサと肩までのところで切り添えている焦げ茶色の髪の毛を揺らしながら、スタスタと歩くあたしの前に飛び出る。

 

「って、同じ手に二度と引っかかるか!あんたはスタッフでもなんでもないじゃん!」

「ちっ、騙されなかったか」

 

横を向いて舌打ちした後に白い髪をカキカキと掻きながら、目の前に仁王立ちしている真っピンクな子・レンへと問いかける。

 

「今日は何の用?一昨日みたいに不意打ちするならそのピンクを隠せるところにした方がいいよ」

「う、うるさい!!あと、そのめんどくさそうな顔が更にイライラするっ!あの砂漠の時も一昨日だってわたしの胸を鷲掴みにしたくせに!!」

 

レンがそう口走った瞬間、興味津々にあたしとレンの顔を見て、会話へと聞き耳を立てていた妖精の国では《絶剣(ぜっけん)の二つ名で知られている最強プレイヤーから表情が抜け落ち、あたしを見上げる視線に次第に冷たさが増していく。普段、元気ハツラツなユウキに冷たい視線を向けられるのってかなり精神的にくる。

 

「ーー」

「あ〜、ユウキ、さ……ん?ウィンドウをお開きになって、何をなさるおつもりですか?」

「シノンにカナタが小さい子相手に欲情してたって報告しとこうと思って……」

「いや誤解!!やめて、報告しないで!!報告されたら、間違いなくあたしに未来はない!!」

 

ユウキの腰に抱きつき、なきじゃくりながら懇願するあたしを冷たい視線で見続ける。

 

「ロリコンカナタに明日なんてなくていいんじゃないかな?ここで許しちゃったら、リアルで犯罪を犯しそうだし」

「違うからっ!!あたしがピンクな妄想するのはシノンだけだから!!」

「へー、シノンという人が居ながら、あんな小さい子に手を出したんだ?」

「弁解する余地すらない!?」

 

その後もあたしはひたすら弁解して、最後の最後にユウキがクスッと笑ったことから今までのやりとり全てがたちの悪いジョークだった事を知るのだった。




今回の話で気をつけたのは、レンちゃんの口調とユウキちゃんを小悪魔な感じにしてみたことです。

あと、作中のニーソックスや太ももに巻いてあるベルトの太ももがプニってなった所が好きというのは私の趣味です。
好きなんですよね、プニってなったところ……可愛いといいますか、思わず押したくなるというか……。はい、変な事を喋っちゃいましたね……すいません……(大汗)


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002 とある日の騒動(ユウキ&レン誕生日記念)

今回でレンちゃん・ユウキちゃんの誕生日記念エピソードが終わりです。

しかし、かなり短めですので…あまり満足出来ないかもしれないですが、楽しんで読んでもらえると嬉しいです!

では、本編をどうぞ!


【SBCグロッケン】

 

タチの悪いユウキのイタズラに引っかかってしまったあたしは今だに目の前に居座る《ピンクの悪魔》と呼ばれている150㎝にも満たない小柄な肢体を真っピンクというよりも少し茶色が混ざったピンクの軍服で身を包んだプレイヤー・レンへと溜息まじりに話しかける。

 

「はぁ……それならレンもあたしらと一緒に来る?」

「くるって?」

 

“だから、なんでいちいちあたしにつってかかるんだ……”

 

折角可愛らしい顔立ちをしているというのに…あたしが話しかけた瞬間に剣呑な顔つきになるから、横を通る野次馬達が顔を青ざめているじゃないか。

あたしではレンの相手は無理だと判断したのか、今まであたしの一歩後ろでなりゆきを見ていたユウキが人懐っこい笑顔を浮かべて、腰を折るとレンへと話しかけている。

 

「ボクとカナタでこれからクエストをする予定なんだ! クエストの最中や素材集めの時はカナタはきっとエネミーの方に注意がいってるから後ろから狙う絶好のチャンスだと思うんだ。ねぇ? カナタ」

「あぁ、そうだね………ん? ねぇ、ユキ。さっきなんて言った?」

 

あたしの聞き間違いで解説違いではなければ、ユウキのその言い方だと"あたしがクエストや素材集めに夢中になっている時に後ろから狙い撃て"と聞こえるのだけど? ねぇ、間違いだよね? ユキはそんな悪魔みたいな考え方を敵へと教えたりしないよね? 塩を送らないよね?

 

「わかった。わたしも貴女達と一緒にクエストと素材集めする」

「ってうおおおおい!! あんたはそれでいいのか!?」

「あんたに仕返し出来るならなんだっていい」

 

“レン……君のあたしへの怨みはそこまでつのっていたのか……”

 

呆れよりもあたしがそれほどまで彼女を辱める行為を行っていたことに慄き、同時に今度からは出来る限り周りをよく見ようと思うのだった。

そう、だった……つまり、過去形なのだ。起こってしまった出来事はどうしようも出来ないし、過去を巻き戻すためのタイムマシンなんてあたし達が生まれ落ちたこの世界に悲しきことかな……まだ存在しない。

故にあたしの目の前で繰り広げられている悲劇は巻き戻せはしない。

 

「……っ」

「……あー、えー、うー」

 

ぽちゃぽちゃと水滴があちらこちらに滴り、青い発光色を放つ水溜まりが出来ている湿った洞窟でユウキが使っている武器を強化する為にある素材をドロップするエネミーが出現するとの事で、あたしとユウキ、レンは其々自分の相棒を抱きしめて、ヌルヌルと湿っている岩道を走り抜けていた。

のだが、前方から突然現れたエネミーの群れに気を取られてしまい、足元にあった水溜まりの溝につま先を引っかかってしまったレンが水溜まりに尻餅を付かないように庇ったのだが、運悪くあたしが咄嗟に手をついた所もヌメっており、右腕に支えていたレンと共に水溜まりへとダイブした上にあたしはレンを押し倒す形でその成長期も迎えてないであろう僅かな膨らみを持つ双丘の右側へと手を添えていた。

 

「ーー」

「おー、いー……」

 

下にある水溜まりのせいで濡れて、ピンクの軍服から下に着込んでいる下着が薄く透けて見える可愛らしい容姿を持った幼女の胸を鷲掴みにした上にのしかかっている巨体を赤いロングコートで隠した焼けた肌を保つ見た目男性がいる……はたから見れば、かなりの犯罪臭が漂っている空間をあたしは自らの手で作り出していた。

 

“ハッ!? 殺気ッ!?”

 

プルプルと震えているレンから転がるように逃げたあたしを追いかけるように銃弾が岩道を傷つけ、修羅の笑顔を見せている絶剣様の低い声を響かせた。

 

「あ行の発音練習? レンにこんなことしておいて、よくふざけられるよね」

「なっ!? ユキ、本当に危ないから! 撃つの禁止ッ!」

 

躊躇いなく銃を撃ってくるユウキの攻撃を交わしながら、両手をクロスして無闇な殺生を止めるように伝えるのだが、目の前であんな光景を見てしまった絶剣様を止められる者はここには居ない。

 

「撃つの禁止って言ってもカナタは撃たれてもいいことをしてる事自覚ある?」

「いやいや、不可抗力だから!? 手が滑ってしまってのだから」

「不可抗力なら女の子の胸触っていいの? そんなの可笑しいよね?」

「やはり弁解の余地なし!?」

 

その後、あたしは数分前に頂戴した『背後から撃てばいいよ』のセリフ通り、背後から響く銃弾に当たってしまい、あたしの亡骸は無残にも洞窟の入り口に転がるのだった。




という事で、終始ギャグ展開で終わってしまったユウキちゃんとレンちゃんの誕生日記念エピソード。
やはりこれだと私自身も読者の皆さんに申し訳ないので、時間が空いた時に【レンちゃん・ユウキちゃん・レインちゃん】の三人娘に加えて、カナタかシノンちゃんのどちらかを付けた話を書こうと思います。
すっごい時間かかっちゃうと思いますが、待っていてくださると嬉しいです!(土下座)

また、次回から中断していたアリシゼーションの本編を書き進めていこうと思います!(敬礼)
ゆったりしたら、10月まであと3か月しかない……早いな……(軽く絶望と目眩)


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001 化けくじらとドリーム(リーファ&リズベット誕生日記念)

【☆】は【オーディナル・スケール】の話となっておりまして・・・・ハナビシソウには"希望""希望のもてる愛"という意味が・・・・咆哮には"猛獣たちがほえたたえること"という意味があります。

このタイトルにさせていただいた理由は、私がオーディナル・スケールというストーリーは全体を通して"希望のもてる愛"の話だと思ったからです。確かに、エイジくんも重村博士もユウナちゃんを守れなかった気持ちに苛まれています。しかし、重村博士が作り上げたオーグマーは多くの人に希望を与えたと思っているのです。VRがまだ怖い人にもARは馴染みやすかったのではないかと勝手ながら思っています。

最後にほえたたえることで連想したのは、其々の思いや後悔によってぶつかり合うキリトくん達とエイジくん・重村博士の事です。
信念と信念のぶつかり合い……みんな個々に思うことがあって、叶えたい願いがあって、ぶつからないといけないことがある。
よくアニソンなどで"君以外何もいらない""君さえ居ればいい"などといったフレーズを目にしますが、私は痛いとはそのフレーズを見て痛いとは思いません!!
だって、そこまで何かを・誰かを好きなる事、何かに熱中できることは素敵な事だと思いますし、『私は○○が好き!』と断言できることは簡単なようで難しいことですからね、人前だと特に…

って、長々とこっぱずかしい事を話しちゃいましたね(照)

今回はフライングの上に誕生日記念エピソードの上に続きます!!
理由は私が構成に手間取っていたのですぐ近くにリズちゃんの誕生日とユウキちゃんの誕生日が迫っているのです!それなら一緒にお祝いしないとじゃないですか!!?
ま、私が早く更新しなかったのが完全に悪いんですけどね……(苦笑)

ということで、誕生日記念エピソードの一話目です!どーぞ!!


【台東区御徒町の《ダイシー・カフェ》】

 

西暦2026年4月19日 日曜日。

彫りの深い顔の上に巨体という強面亭主がいるカフェにてあたしは待ち人を待ちつつも不躾に大きな欠伸をしていた。

 

「…ふわぁ……っ」

「おいおい蒼目の侍さんよ。待ち合わせにうちを利用するだけして何も頼まないのか?」

 

カウンター席の一番左端に腰掛けて、黒光りした机へと両膝をついてダルそうにしているあたしへとカフェの亭主が呆れ顔をしながらメニュー欄が書かれている表を差し出してくるのを見てから強面を見上げる。

 

「…エギさん、これは頼まないといけない系ですか?」

「何度も同じことを言わせるな」

 

プクーーッと頬を膨らませてからメニューを上から下まで見てからボソッと呟く。

 

「…オムライス、はちみつレモン」

「うちには無い。他のメニューは?」

「その二択のみ!あたしに他の選択はないッ」

 

両腕を組んでから横をプクッとさらに膨らませるあたしに亭主はやれやれと頭を抱えてから「少し待ってな」と言ってからカシャカシャと心地よい卵をかき混ぜる音を耳にしながら、あたしは机の上に何気無しにおいてある片耳ヘッドホンを見下ろしてから白いフィルムを指先でなぞる。

 

AR(拡張現実)型情報端末《オーグマー》

 

久しぶりに出たSAO帰還者学校にて貰ったこの端末は現実世界に仮想の情報やアイテムを視覚・聴覚・触覚情報を送り込ませている技術・Augmented Reality(AR)を採用していると確かに説明書に書いてあったような気がする。

 

“…えーあーる…か…”

 

久しぶりに出たSAO帰還者学校でいきなりオーグマーを無料配布された時はびっくりしたし、家に持ち帰って詩乃と一緒に店内で買った時の値段を見た時は更に驚愕しだけれども…どうやら、あたしは拡張現実よりかは仮想世界…VRの方が向いているようだ。

断じて、真っ黒をこよなく愛する親友のように運動が苦手とかめんどくさいって理由ではないのだけれども……どうも勝手というか、身のこなしに迷ってしまう。

 

“これは仮想にどっぷりハマりすぎたかな…”

 

そう思いながら、苦笑いを浮かべていると目の前にほっかほかの湯気が立ちのぼる大皿が置かれる。顔を上げるあたしに強面亭主はスプーンを差し出すのを受け取りながら、ごく自然な動作で口へととろっとろな半熟卵が乗っかっているまるで磨き抜かれたルビーのように赤く美しく色付けされたチキンライスを口に含む。

 

「ほらよ。侍さん」

「どーもどーもです」

 

“んまい!!”

 

真っ赤に色付けられた白米はまるでその一個一個がルビーのように光り輝き、それを口に入れた瞬間にピリッとブラックペーパーと塩気が舌を刺激したかと思うとトロッと黄色と白のコントラストが美しい半熟卵がマイルドに、優しくチキンライスを包み込んでは味覚へとピリッとした刺激とプラスして甘味を感じさせてくれている。

 

“これだからオムライスってやめれない!!”

 

頬や唇の端に半熟卵を付けながら幼子のようにはしゃぎながらオムライスをかきこむあたしにエギルさんは机の上に素っ気なく置かれているオーグマーをツンツンと突く。

 

「これってオーグマーだよな?陽菜荼使わないのか?」

「んー、そんなに頻繁には使わないかな。みんなの付き合い程度に使う感じ」

「へぇ、意外だな。陽菜荼の事だから幼子のように外でタッチペンをブンブン振ってるように思えたがな」

「…エギさんひどいですよ」

 

ぐびぐびとキンキンに冷えたはちみつレモンを胃へと流し込んでいると背後から可愛らしい声が聞こえてきた。

 

「陽菜荼さん、すいませんっ。遅れました」

「いーや、気にしなくていいよ。あたしもさっきしたところだし…エギさんにオムライスとはちみつレモンを奢ってもらったところだし」

 

トントンと自分の横へと叩いてから慌ただしく走ってくる直葉が腰を下ろすのを見届けてから目の前にいるエギルさんへと意地悪な笑みを送る。

 

「なぁ、この!奢りなわけあるか!ちゃんと金を払え!無理して作ってやっただろ!?」

「あははっ。ジョーダンジョーダンっすよ、エギさん♪さっき意地悪をされたので倍返しって奴です」

 

強面な顔から冷や汗を流しながら、慌てふためくエギルさんを見て、してやったりほくそ笑んでから隣に座る直葉へと頭を下げる。

 

「あたしの方こそごめんね。折角の休日なのに」

「いいえ。本当に気にしなくていいですよ、陽菜荼さん。あたしは休みの日は基本道場で竹刀を振るっているか、ALOにログインしているだけなので」

「そう?直葉がそういうなら気にしないけど…気乗りしないなら言ってくれていいからね?」

 

本人がそう言っているのだからしつこく言うのはくどいと思われると思うが、やはり折角の休日に呼び出してしまったと思うと気が引けてしまう。

ので、あたしは直葉が無理をしてないかを確かめるために青みが掛かった黒い瞳を見つめながら言うとキレよくブンブンと両手を振り、顔を真っ赤に染めている直葉の顔が垣間見える。

 

「気乗りしないなんてないです!………それに休みの日に待ち合わせってデートって気がするし…」

「ん?なんかいった、直葉?」

「なんでもないです!それよりも今からどこに参加するんですか?」

 

なんか向こうでエギさんが頭を抱えているけどどないしたんだろうか?

それに直葉も顔が真っ赤だし……ふむ、今の状況が分からぬ。あと、直葉が小声でなんか言ってた気がするのだけれども……声のボリュームが小さすぎて聞き取れんかった。

 

“ま、いいか”

 

"小さく言うって事は聞かれたくない事なんだろうし"と結論づけたあたしは左手首に付けてある腕時計の時刻を確認してから短パンのポケットから小さい財布を取り出すとエギルさんへと代金を渡す。

 

「ほい、エギさん」

「はいよ。きっちり代金だな」

「……」

 

どうやらさっきの倍返しによってこのダイシー・カフェでのあたしの信用がガタ落ちしてしまったらしい。

ふむ、過剰なカウンターとイタズラは今後しないように心掛けよう。

と心掛けても、エギルさんのリアクションは大変面白おかしいので頻繁にあたしはイタズラをしていく事だろう。

 

「んっ……しょ!」

 

勢い付けてカウンター席から飛び降りたあたしは左手を直葉へと差し出す手とあたしの顔を交互に見た直葉は嬉し恥ずかしそうに頬を赤く染める。

 

「さて、そろそろアレが現れる時間になりそうだね、直葉いこうか?」

「はい…」

 

ちょこんと乗せられた直葉の右手をキュッと握り、椅子から起こすとそのまま入り口に向かって歩いていく最中に後ろを向いてからパタパタとエギルさんへと手を振る。

 

「エギさん、ご馳走様!今度は詩乃とオムライスを食べにくるね〜♪」

「お前はオムライス以外を食え!シノンが頭を抱えていたぞ!」

 

“嗚呼ーぁ嗚呼ーぁきーこーえーなーいー”

 

なーんもきーこーえーなーいーぃ。

 

「エギルさん、あたしからも陽菜荼さんに言っておきますね」

「頼んだな、リーファ」

 

知らんぷりをするあたしにエギルさんと直葉が苦笑いを浮かべて、あたしの知らぬ間に二人の間に約束事が結ばれたのに気付いたのはそれから数分後のことだった。




久しぶりにオムライス食べてる陽菜荼書いたな…(しみじみ)
オムライスをパクパク食べている陽菜荼はやはりこともっぽい(笑)

と、オムライスといえば…陽菜荼を書かせてもらうようになってからオムライスの事が好き……いいえ、好物になりましたね(笑)
陽菜荼を書く前の好物はコロッケや春巻などでしたが、今はそちらよりもオムライスの方が好きになったかな…(笑)

なので、オムライスの描写の力の入れようは陽菜荼の心境が六割、私の気持ちが四割となってます!(笑)



あと、SAOとは関係ないのですが……正座して待っていた【通常攻撃が全体攻撃の二回攻撃のお母さんは好きですか?】のアニメ放送が7月から、ラジオが6月から……そしてなんと!!パーソナリティが茅さんって事でテンションがおかしい方向にいってます!!!!!
他にもキャスト欄を確認した所、すごい顔ぶれが揃っててビビりました…(汗)

また、7月からといえばSAOと同じく応援している【戦姫絶唱シンフォギア】の五期が始まりますからね…!!!!
シンフォギアの暁 切歌ちゃんは茅さんが演じていらっしゃるキャラの中で一番大好きなキャラですので……もう、もう……ね……色んな気持ちが溢れてくるッ

私が知っているのは二作品ですが……大好きな茅さんのお声がたくさん聞けると思うともう既に気持ちが高ぶってしまいます!
この気持ちをこの小説にぶつけていかないとな(笑)


最後に、ここまで私の雑談に付き合っていただきありがとうございます!!
私はやはり推しキャラや自分が作ったキャラ…オリ主を贔屓して書いてしまう節があるので、そういう面を少しずつでいいので直していきながら…陽菜荼を男女問わず色んなキャラと絡ませていけたらと思っております。

朝晩・昼の温度差が激しいですが、どうかお身体を壊さないように気をつけてください(礼)

ではでは〜(ぱたぱた)


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002 化けくじらとドリーム(リーファ&リズベット誕生日記念)

こんにちは!

今日は"リズベットちゃん・里香ちゃんの誕生日"となっております!!
誕生日おめでとうございます!!!!
面倒見が良く姉御肌なリズちゃんが私は大好きです!!!!

今回は木曜日からの続きの話となっており、話の内容は《オーディナル・スケール》をプレイする前に移動しているシーンとなります!

それでは本編をどうぞ!!


【《ダイシー・カフェ》の前】

 

ダンシー・カフェから出てきたあたしは直葉の手を引きながら、橙を背後に無数の黄色い線が入っているデザインの自転車へと跨がると直葉の方へと振り返ってからトントンと後部を叩く。

 

「失礼します」

「どーぞどーぞ、狭いとこですが」

 

冗談を言いながら、直葉が座る前にそっと籠に入れていた小さなクッションを置く。

そして、ギュッとあたしの腰へと手を回してくる直葉へと振り返ってから「しっかりつかまっててね」とニカッと笑ってからハンドルへと両手を添える前に右手に持っていたオーグマーを左側に持ち上げるとそのまま左耳へと穴の空いた部分をはめ込む。途端、ピロロンと起動音と共に無機質なアナウンスが聞こえてくる。

 

〈ようこそ、オーグマーへ〉

 

視界に広がる画面の中央の上に表示された時間を見れば"11:21"をチラッと見る。

 

「えーと。まずはどこに行ってみようか?」

「んー、《両国公園》はどうですか?」

「了解!すごく揺れるよ」

 

ペダルへと右足を乗っけると左足で勢いよくコンクリートを蹴飛ばすと《両国公園》に向かい、自転車をこきだす。隣を車が通り越していくのを見送りながら、左右に揺れる後部から落ちないようにギュッと抱きしめてくる直葉の背中越しにでもはっきりとわかる二つの膨らみから伝わる柔らかさに思わず"おぉ…ぉ……"と意識が持っていかれそうになる。

 

“にしても、何を食べたら…こんなに大きくなるんだろ…”

 

あたしの胸は大きくもなく小さくもなく……ま、平均的な方だと自負しているが、直葉の胸元はやはり平均的な女性の二回りくらい大きいのではないだろうか?

 

“って、ちょっ……直葉、そんなに抱きついてきたら……っ”

 

胸の感触が……やばい……っ!頬が…っ、頬が……思わずニヤけーーーーハッ!殺気!!?

 

「陽菜荼さん?どうしました?」

 

周りを見渡すあたしに直葉が眉をひそめながら小首を傾げてくるのを苦笑いで返した後に背中に感じる圧倒的な情報量を持つ二つの柔らかい膨らみから意識を晒すために話題を振る。

 

「にしても、エギさんも詩乃も他のみんなだって"オムライスを食べ過ぎるな"や"そんなに食べるんなら作ってあげない"やら意地悪ばっかしてくる…。好きなものをたらふく食べることが人にとっての幸福だってあたしは考えるのに……」

「あはは。でも、あまり偏りすぎはいけないとあたしも思いますよ。陽菜荼さん、基本オムライスとはちみつレモンだけじゃないですか、野菜も食べないと」

「むー、オムライスの中にも野菜入ってるよ。にんじんたまねぎグリンピース」

「それだけじゃあ全然栄養価偏ってますよ、添えにサラダも食べないと」

「ぷー」

 

空気を両頬へと注いでまん丸にするあたしを見て、直葉がクスクスと笑う。

 

「そんな我儘言ってると詩乃さんに愛想尽かされちゃいますよ、陽菜荼さん」

「なぁ……それは嫌だから、サラダか野菜ジュース飲む」

「はい、それがいいと思います」

 

話がひと段落し、後少しで目的地に着くところでピロロンとメッセージ受信音の後に視界の中央と左端に表示させる名前は《リト》とあり、あたしは瞬時に直葉と共に連絡していた少女の姿を思い浮かべ、ツゥーーと一筋汗が流れる。

 

〈ちょっとカナタ!あんたどこにいるのよ!待ってる間にケーキ二個も食べちゃったじゃない!!〉

 

続けて送られてくる怒りマークがたくさん付いたスタンプに冷や汗が止まらない。

 

「やば……。里香とも約束してたの忘れてたわ……」

「え!?大丈夫なんですか!それ!」

「大丈夫じゃないかも……里香、すっごい怒ってるみたいで……種類の違うおこスタンプを数秒越しに送ってくる」

 

視界に埋まるおこスタンプに苦笑いと冷や汗が止まらない上に早く彼女の所に行かないと"あんたのせいで余分に取っちゃったカロリーどうにかしなさいよ!"などなど理不尽な小言を貰いかねない。

 

「立ち漕ぎするからもっと揺れるけどごめんね、直葉」

「あ、はい!しっかり掴まってますね」

 

背中から腰へと膨らみが移動したのを感じて力強くペダルを更に強く漕ぐのだった。




ということで、次はリズちゃんと待ち合わせて、《オーディナル・スケール》をプレイする話となると思います!

カナタは何のために二人を呼んだのかも明らかになっていく思うので、楽しみにしててください!!


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003 化けくじらとドリーム(リーファ&リズベット誕生日記念)

こんばんわ!

今回でオーディナル・スケールまで行こうと思ったのですが、前の話が想像以上に長くなってしまい…そこまでいけませんでした、すいません……(大汗)

ということで引き続き、移動中の話となります!

それでは本編をどーぞ!!


【《両国公園》へ向かう途中の信号機】

 

里香からメッセージでおこスタンプが延々と送られてくるのを視界に収めながら、赤信号で止まった際に恐らく何処かのファミレスに居るであろう里香へと〈《両国公園》に向かってるから来て〉と〈繰り返し土下座をしているスタンプ〉とともに送ったところ、〈OKと親指を立てているスタンプ〉が送られてきた。

 

“ふぅ……ひとまず、これで最小限のお説教コースからは逃れたかな”

 

安堵から肩を落とすと直葉がひょっこりと肩越しに話しかけてくる。

 

「リズさん、分かってくれました?」

「ん。OKとは来たけど。これは恐らく、公園に着いた瞬間に大目玉だろうね。約束忘れちゃったし…集合場所も変えちゃったしね」

 

テヘッと舌を出して肩をすくめるあたしを見て、顔色を変えた直葉は身を乗り出す勢いであたしに顔を近づけるとまくし立てる。

 

「カ、カナタさんは悪くないですよ!!元を正せばあたしが約束時間に遅れたのが悪いからでーー」

 

“なるほど……全ては遅刻した自分が悪いんだから。リトに怒られるのも自分が怒られるべきだ”

 

あの黒をこよなく愛する親友もだが、この兄妹(きょうだい)は他人に優しすぎる気がする。いや、あたしの周りにいる友人達は他人に優しすぎるのか。

 

“あたしは本当に恵まれているな…”

 

しかし、今回のことはあたしに明らかに()がある。リトと約束していたのを忘れていたのはあたしだし、直葉とリトとの待ち合わせ場所を一緒のところにしなかったのもあたしの責任だから。

故に直葉の好意に甘えることは出来ないっ。

 

でも、折角心配してくれてるんだから…お礼は言った方がいいよね。

 

そう思い、心配そうにこちらを見上げてくるスポーツ少女らしく肩のところで短く切りそろえてある黒髪へとポンと右掌を置くとなでりなでりと優しく撫でる。

 

「ーーリーは本当に優しいくていい子だね。将来、いいお嫁さんになりそうだね。リーが大人になっても貰い手がいないなら、あたしが貰っちゃおうな」

 

冗談めいてそう言ってみると真っ白だった頬がみるみるうちに熟した林檎のように真っ赤になり、続くのが呂律が回ってない驚きで満ち満ちた可愛らしい声だった。

 

「……おおおおお嫁さんッ!?カカカカ、カナタさんの!?」

「なーんてね。もし、リーを貰ったらキリにすごいガミガミ言われそうだし…何よりも詩乃にあたしがお仕置きと評して八つ裂きにされちゃう」

「あはは……ですよね」

 

“あれ?思ったよりも残念そうな顔?”

 

残念そうにあたしから密着していた身体を離していく直葉に眉をひそめながら、赤から(あお)へと変わった信号と共に地面を蹴って、もう目の前にまで来ていた《両国公園》に向けて足と自転車をがむしゃらに動かしたのだった。

 

 

τ

 

 

キーーッと音ともに《両国公園》に着いたあたしと直葉に駆け寄ってくるのは勝気な瞳に活発そうなそばかすが特徴的な少女・篠崎里香であり、あたしが直葉と共に呼び出して、ついさっきまでおこスタンプをあたしへと送ってきていたその人である。

 

「おーそーい!!何してたのよ!あんた!」

 

動きやすいコーデで身を包んで、"あたし怒ってますよ"というジェスチャーで腰へと両手を添えている里香へと自転車を押しながら近づいたあたしは左手を顔の前に立てると軽く上下に振る。

 

「ごめんごめん」

「もうごめんじゃ……ってリーファ?」

「こんにちは。リズさん」

 

あたしの謝りでは怒りが収まらない里香があたしの襟首を掴もうと一歩近づいた時に後ろに佇む直葉に気がついた里香は驚愕した様子であたしと直葉を交互に見た後にニンマリと意地悪に笑う。

 

「あーぁ、なるほどね〜、ふーん。……これはシノンに知らせておかないと」

「何を勘違いしているんだ、この人は……」

 

きっとロクでもないことを考えているであろう里香に呆れ顔を浮かべるとポケットに突っ込んでいたタッチペンの紐を手首に通してから取れないように留め具をしてからギュッと白い筒を握ると同時に時刻が"13:00"を示す。

 

「「「オーディナル・スケール起動!!!」」」

 

こうして、あたしのとある店のクーポンをゲットする為の戦いが始まったのだった。




次回こそは、戦闘シーンを書こうと思います!!

また、次の更新日は【22日(水)】となってます。

もう暫く、誕生日エピソードにお付き合い頂けると幸いです(敬礼)


最後に、間に合えばですが…この話の最後のエピソードに《オーディナル・スケール》での戦闘着に身を包む陽菜荼を書こうと思います!
等身大は時間的に無理だと思うので、ミニキャラでお披露目できればと思ってます!


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004 化けくじらとドリーム(リーファ&リズベット誕生日記念)

こんばんわ!

今回は《オーディナル・スケール》をプレイするところです!
ドキドキハラハラ出来る戦闘シーンとなるように書いたので楽しんで読んでもらえたら嬉しいです!!

それでは本編をどうぞ!!


※作者は東京にあまり行ったことがないので、風景の描写は曖昧となっておりますので、あらかじめご理解頂けるようよろしくお願い致します(敬礼)


【《両国公園》】

 

《オーディナル・スケール》

電磁波による視覚情報入力に加えて、先端のカメラが視覚を検知し、現実空間に仮想アイコンなどを表示させているというのがオーグマー……拡張現実(A R)の仕組みらしい。

そして、オーディナル・スケールというのはそのオーグマーを使用してプレイする最新のゲームの事であり、システムは現実世界の各所に出現するアイテムを集めたり、モンスター戦や対人戦でランクを上げていき、ランキング・システムを導入されており、上位にランクインするとゲームの枠を超えて、協賛企業からさまざまなサービスを受けられるというのが貧乏性であるあたしにとっては最大の魅力であると勝手ながら思っている。

 

“今回のイベントでポイントをゲット出来れば、あのクーポンはあたしの手に!!”

 

逸る気持ちを抑えることが出来ないままに〈 13:00 〉と時計がその数字を指差した途端、段々と変わっていく風景を目の当たりにしながら、チラッと目下を見てみると私服が戦闘着へと早変わりしていた。

左手に握りしめている刀は新古境のように研ぎ澄まされた刀身と緩やかなソリが美しく、柄は橙と黒の紐で巻かれている。そんな刀身に映すあたしの戦闘着は黒を基調に橙の和柄があしらってある忍者が身に纏っているような身軽重視な和装となっている。

 

「さて、カナタ。攻略はどうする?」

 

とあたしに問いかけてくるリトことリズベット/里香の戦闘着はというと、体のラインがはっきりとわかる軍用制服のようなものでピンクを基調に黒と黄色の線が入ったその戦闘着は腰のところにベルトがあることから恐らくワンピースのようになっているのだろう。そして、あたしの利き手の方にはピンクの線が入った銀色の小さな盾がほっそりした腕へと巻きついており、その反対側には頭部くらいの鉄が付いているヘイスを握りしめている。

 

「んー、つぅーってもね。あたし達ってみんな最前線組だしね…」

「確かにそうですね。あたしは片手直剣ですし、カナタさんは刀、リズさんはメイスですからね」

 

とあたしと里香の会話に入ってきたリーことリーファ/直葉の戦闘着は里香の色違いなようで白と黒を基調に青緑色の線やベルトが付いている軍服のようなデザインのワンピースに黒色のタイツとワンピースと同色のブーツを履いていて、右手には青緑色の線が入った片手直剣を握りしめている。

 

「ダメじゃないっ!」

 

直葉が指摘した通りに完全前線ゴリ押しチームの面々を確認した後に喚く里香の肩にポンと手を置いたあたしは一足早く敵に向かって走り出す。

 

「大丈夫、だいじょーぶ!あたし達なら勝てるさ!!」

 

ニカッと笑って、敵に向かって駆け出すあたしの後を追う里香が「もうどうなっても知らないわよ!」と言い、直葉は里香を宥めている様子を視界の端に収めながら、あたし達の他に参加しているプレイヤーと敵の名前を見る。

 

“ふむふむ。今回の敵はクジラのような…化け物ようなものみたいだね”

 

成人男性が二人入るくらいに大きな口を開けて、そこから水色の光るビームを吐き出す敵の名前は《cetus(ケートス)》。確か、くじら座の元になったバケモノの名前がそんな名前ではなかっただろうか?

 

「ッと!ふん!!」

 

ビームを左に体を傾けることでさせた後にALO(アルヴヘイム・オンライン)音楽妖精(プーカ)で培ったプレイスタイルをここでも披露しようとグイグイと身をなじりながら、ケートスの懐に近づこうとした時だった、僅かな段差に足元を取られて、ズサーーッ!!! とケートスの目の前にダイブしたのは。

 

“あ…ヤバ……”

 

と思ったところで時は既に遅し。

パチクリと今起こっている状況を整理しようとしている蒼い瞳とニヤァとしてやったりとほくそ笑む紅い瞳が交差しては大きな牙が生えた口が開き、その奥からチカチカと火花が飛び散っている光が集結しているのが目視しながら、あたしが思うのは"あ〜ぁ、これであのお店のクーポンをゲット出来ないまま終わってしまった"ということだった。

 

段々と大きくなっていく玉を見つめて、開始数分でゲームオーバーになってしまう自分を嘲笑っているとゴスンと鈍い音が近くから聞こえたかと思うとまるで漫画の一コマのようにビューーンと飛んでいくケートスの姿を見て、目を丸くしているあたしの視界に映るのは呆れ顔をしたそばかすが可愛らしい少女の顔であった。

 

「あんた!バッカじゃないの!どんくさいことしてるんじゃないわよ!ここはALOじゃないのよ!」

「あはは……面目ない、リト……」

 

里香に抱き起こされたあたしはポンポンと軽く服を払うと愛刀を構える。

 

「そんなことでクーポンゲットできるのかしら?」

「さっきのは小手調べだよ。本番はここからさ!」

 

そういうあたしへとケートスが挑発するように紅い瞳をキラリと輝かせた。




次回も同じく《ケートス戦》をお送りします!


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005 化けくじらとドリーム(リーファ&リズベット誕生日記念)

遅くなってすいませんでした……(高速土下座)
前の週に本当は更新する予定だったのですが、高熱を出してぶっ倒れてしまって……読者の皆様には大変迷惑をおかけします……(汗)
知らぬ間に評価者の数が【32名】にお気に入りになされた方が【572名】という恐れ多い数になっており、さっきから震えが止まらんです……申し訳なさが頂点を突破してしまって……。

亀のようなゆったりとした更新もなると思いますが、応援をこれからもしていただけると嬉しいです(微笑)

それでは前の話で予告していた通りで《化けくじらことケートス戦》の決戦です!
手に汗は駄作なので流れないかもですが、楽しんで読んでもらえると嬉しいです!
では、本編をどうぞ!!


【《両国公園》】

 

「ふっ! はあっ! はぁあ!」

 

時計の針が〈13:00〉と指して、何時間が過ぎただろうか?

5つあったHPゲージが半分となり、黄緑色が黄色く色づいた時から化けくじらの左右に1つずつの合計2つしかなかった瞳が額にひときわ大きな瞳が加わり3つへと変貌を遂げ、続けて起こった現象は自分に近づいてくる敵をデタラメな攻撃で撃墜していくというものだった。

 

「ふっ、よっ……と! ほっ」

 

ケートスがデタラメに攻撃を仕掛けてくるのを愛刀で弾いたり、身体を左右に動かして避けたりしながら、攻撃の手が止むのを待ってみるのだが中々どうして止めるどころかスピードが増していく。

 

「くっ……おっも……」

 

真ん中で存在感を放つ大きな目の上にはいている小さな角が3つ編みのように連なり大きな角となっている所から放たれる重い突きをなんとか横にズラしてから勢いよく後ろに飛び退けるとツゥーーと流れる汗を拭う。

 

「カナタさん、大丈夫ですか?」

 

軽快な足音が聞こえ、横を見ると青緑色の線が入った軍服のようなデザインをして黒と白を基調としたワンピースと大きく実ったむなもーーってあたしはどこを見ているんだ!!? 助けに来てくれた、リーファに失礼だろ!! と自然と身体が上下に動くたびに激しく存在感を放つ胸元を見てしまった自分へと叱咤(しった)する。

 

「カナタさん、本当に大丈夫ですか? さっきから顔を赤くしたり青くしたりしてますけど……」

「心配無用。それよりもリー、このくじらの弱点ってどこかな?」

「あたしもそれを探っているんですが、どこも鉄のように硬いんですよね……」

 

そう、リーファの言う通りでこの化けくじらは全身を鉄で包んでいるかのように硬いのだ。どれくらいの硬さかというとあたしの愛刀をフルスイングして与えられるダメージはHPゲージを一ミリ減らす程度なのだ……今更思うけど、よくHPゲージを半分まで減らせたものだ。

 

「はてはてどーしたものか」

 

誰に言うでもなく呟いたセリフを耳聡く聴いていたのはタンクと混ざり、ケートスの攻撃を防いでいたリズベットで……なんかズカズカと歩いてきている。

 

あたし、リズベット様の逆鱗に触れたのかしら……?

 

「あんた達ね! いつまでも駄弁ってなくて戦いに参加しなさいよ!! タンク役って辛いのよ」

「あはは、わーてるって」

「わーてるって……じゃないわよ!!」

 

プンスカプンスカしているリズベットを宥めながら、固まっているあたし達に向かって突進してくる化けくじらの攻撃を横にスライドしてかわしながら、下から持ち上げるように愛刀を化けくじらの鼻先を斬り上げながら、持ち上げる事で生じた遠心力を利用してクルッと回ってから横にまっすぐな線を引く。

 

「ガァガァァァ!!!!」

 

悲鳴をあげるケートスを見て、ニンヤリと笑ったあたしは後ろに首だけ向けると身をかがめてケートスへと追撃しようといる頼もしい友人へとさっき知り得た化けくじらの弱点を伝える。

 

「リー! こいつの弱点は鼻先みたい! さっき斬り裂いた時にHPが目に見えて減ったから」

「分かりました! そりゃあ!!!!」

 

あたしとすれ違いざまに愛剣を振るったリーファの剣筋は鋭く一振り一振りが重く、日々剣道に打ち込み、リーファが陰ながらに努力してきた勲章のように思えた。

 

“ま、だからってあたしも負けてられないだけどね!!”

 

リーファの横へと走りより、立て続けの攻めに思わず仰け反ったケートスを立て続けに攻め立てる。

 

「リー、畳み掛けるよ!」

「はい、カナタさん!」

 

立ち替わり入れ替わりするあたしとリーファ、そして好機と思った勇敢なるプレイヤーの手によって遂に赤い所まで追い詰められた化けくじらは最後の抵抗とばかりに、身体を巨大化させたばかりでは飽き足らず何も生えてなかったツルッとした表面に当たったら絶対痛いと分かるトゲトゲを出すと風船のように丸々になると一角に集まっていたプレイヤーへとボーリングの玉のように転がり出した。

 

「ヤバっ!?」

 

その一角にいたあたしはクルッと地面を転がって身を交わした後に後ろを見るとそこにはまん丸くじらボーリングのピンとなりなぎ倒させれて、忽ちにHPが減り、ゲームオーバーになった数多のプレイヤー達がいた。

そして、そのプレイヤー達の二の舞にならないように固まらないように散らばっていくプレイヤーの1人があたしを見ると鋭い怒鳴り声を上げてくる。

 

「カナタ! あんたが蒔いた種でしょう、どうにかしなさいよ!」

「いやいやっ。どうにかしろと言われてどうにか出来るほど、あたし器用じゃないからねッ!?」

 

リトはあたしのことを超人かなんかと勘違いしているのだろうか?

だがしかし、あたしが真っ先に化けくじらの鼻先をぶっ叩いたのは確かに事実だ。故にリズベットの言う通りにあたしがこのボーリング玉と化したこのまん丸くじらをどうにかするとは筋というものだろう、中々に酷ではあるが。

 

“ここはリトの言う通り、種を蒔いたものとして責任を取らなくちゃな”

 

「っしゃぁ!! いっくぞーー!!」

 

大声をあげて、やる気をひねり出したあたしはグッと身を屈めると一気に化けボーリングくじらへと駆け寄ろうとして突進してくる玉を愛刀で、寸前で弾いてから身を翻してくじらを追撃する。

 

「仮想で磨いた回避スキル。君にあたしが捉えられるかな?」

 

“音速とまでは言えないけど……あたしの脚はこっちの世界でも早いんでね!!”

 

刀で弾いては身を翻して切り裂く、弾いては切り裂くを延々と続け、時折銃の支援を受けながら……〈13:00〉に始まった《化けくじら(ケートス)戦》はその二時間30分後に終焉を迎えたのだった。




んー、リズちゃんの口調でこれでよかったっけ?(悩)

長かった誕生日エピソードも次回にておしまいです!!長い事お待たせしてしまいすいませんでした(土下座)

次回から【更新日は毎週金曜日】を予定しています。
予定なので……一日早かったり遅かったりしてしまうと思いますが、どうかよろしくお願いいたします!!




最後に、余談なのですが……

なんとッ!!!

【原作SAO21巻がラノベ売り上げランキング1位】に輝きましたね!!!!!!
おめでとうございます!!!!!!!

SAO21巻を買ったみんなは表紙のアリスちゃんの猫耳……ケットシー姿につられたのかな……?
それとも、29p〜30pにかけて書かれているケットシーアリスちゃんがケットシーシリカちゃんに襲いかかったサラマンダーのPK集団に激怒して、悪鬼の如く罵ったというエピソードーー【アリス様PKを説教で泣かせる伝説】につられたのかな……?

もちろん私はどっちにもつられました!!
だって、シノンちゃんもでしたが、ツーンと凛々しくクールな印象な子に限って猫耳つけるんですよ?NEKOMIMIですよ……?(震え声)

そんなん買わないわけにはいかないでしょっ!!!!(グッ)

そして、いつかアニメ化するときは【アリス様PKを説教で泣かせる伝説】のシーンをリピートしようと思います(胸に強く思う)
あんな美人な上に美しい声を持つケットシーにお説教されるなんてご褒美のほかないでしょう!!(暴走する変態作者)

しかし、茅さんの声でその説教シーンを想像すればするほどに、アリスちゃんに説教されるのってご褒美ですよね……カナタを説教させようかな……(どうしても説教されたい変態作者)



【メモデフ】の《☆6一体確実ガチャ》では眼帯はつけてないんですが……アリスちゃんが当たりました!
その後も順調に無料ガチャにてシノンちゃんもリーファちゃんを当てていってます!!
そして思います……やはりシノンちゃんは可愛くてカッコいい、と……(満足した顔)


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006 化けくじらとドリーム(リーファ&リズベット誕生日記念)

長かったリーファちゃん&リズベットちゃんの誕生日エピソードの最終話となります!

なるべくドキドキできるシーンを入れられたと思うのですが……んーあまりドキドキできないかもしれませんが楽しんでもらえると嬉しいです!

それでは本編をどうぞ!!


【とあるファミレス】

 

化けくじらことケートスを討伐した後、あたしとリーファ/直葉とリズベット/里香と共に両国公園近くのファミレスへと来ていた。

透明なカップへと水を注ぎ、お盆に三つほど置いて、あたし達のところへと持って来てくれる店員さんへと懐と相談しながらメニューを決めて、そのメニューと共に届いたジュースを利き手で持ったあたし達はついさっきまで続いたケートスを無事討伐出来たことと自分達への労いの念を込めて、お互いのコップへとカッキンカッキンと鳴らす。

 

「ケートス討伐お疲れ様ーー!!」

「お疲れ様です」

「お疲れ様〜」

 

グビッとキンキンに冷えた柚子入りジンジャーを喉を鳴らしながら、半分くらい飲み干したあたしは"くっぱー"と口を左の甲で拭うと向かい側で赤とオレンジ色のツートンカラーの飲み物を優雅に飲む里香をジィーーと見つめる。

 

「何よ……陽菜荼……」

 

あたしの視線に気づいた里香はうっとおしそうに横目で見てくるのを身を乗り出したあたしはニッコリスマイルで出迎えると最大限の甘えた声を出して尋ねる。

 

「ねぇ、里香が頼んだやつってなぁに?」

「まさか、あたしのが美味しそうに見えたらって一口貰おうとか思ってるんじゃないでしょうね」

 

"呆れた"と全面に出してもそう言う里香にもう一度微笑むと小さく口を開くあたしへと里香はスッと自分の方へとコップを引き寄せる。

 

「そのまさか。一口ちょーだい」

「そんな声出してもあげないわよ」

「なっ、ケチだな……ほら、あたしのもあげるからさ」

 

そう言い、あたしが薄っすらゴールド色から柚子色へとグラデーションをしているコップを差し出すと深いため息をと共にやっとコップを差し出してくれた。

 

「どんだけあたしのを飲みたいのよ……はい」

「さんきゅー」

 

里香が差し出したコップにささっているストロー(・・・・・・・・・・・・)をパクっと咥えたあたしは美味しそうにチューチューと吸うとゴクリッと喉を鳴らす。

 

“赤いのがさくらんぼで、橙がマンゴーか……ん、うまい!”

 

「…なっ」

 

おや? 里香の顔がさくらんぼみたいに真っ赤になってる……もしかして、さっきまで飲んでいたさくらんぼ要素が溢れ出してきてしまったのだろうか? いや、そんなことないか。

考えてみても里香が顔を真っ赤している理由が分からなく、小首を傾げたあたしへとさっきまであたしが咥えていたストローと柚子入りジンジャーへとついささっているストローを取り替えた里香が声を荒げる。

 

「ん?」

「ん? じゃないわよ!あんた、ストローくらい。自分のを使いなさいよ!」

「へー。面倒いし、里香ので良くない?」

 

なんでわざわざ里香のストローとあたしのストローを取り替えないだけでそんなに怒られなくてはいけないのだろうか? 本当に意味が分からん……かったるし……なんでそんなことに気を張らなくてはいけないだろうか? 里香が口をつけたからって取り替える理由にもならんし……本当、よう分からん。

 

「はぁ……あんたのそういうところにシノンは頭を抱えてるのよ……少しは分かってあげなさいよ……」

 

なんか里香がドッと疲れているような顔をしてらっしゃるけどどないしたんだろうか?

取り替えたストローであたしの柚子入りジンジャーを一口飲み干した里香が目を丸くして"え、なにこれ……美味しいんだけど……"と小声で呟くのを聞いて、してやったりとほくそ笑むあたしの左腕をちょんちょんと突いてくるのでそちらを向くと両手で包み込んでいるコップをこちらへと差し出しながら問いかける直葉の姿がある。

 

「陽菜荼さん、あたしのも飲んでみます?」

「おーぉ、いいの! さんきゅー」

 

直葉が差し出してくれた卵色の半円のものの下にしゅわしゅわと泡を吐き出している黄緑色のジュース……メロンジュースにささっているストローをくわえようとして思いっきり里香に頭を叩かれる。

 

「痛いな、里香。なんだよ……」

「なんだよじゃないわよ、さっきと同じことを繰り返すのかしら?」

 

目が笑ってない笑顔でそう問われ、あたしは震え上がりながら直葉のストローとあたしのストローを取り替えてからメロンジュースを飲むと真横の直葉へとはにかむ。

 

「直葉のメロンジュースも美味しいね!」

「陽菜荼さんの柚子入りジンジャーも美味しいですね。あたし、お兄ちゃんがよくジンジャーを飲むから、つられて飲んだりするんですけど……このジンジャーは初めて飲みました」

「ほのかに漂う柚子の香りと……ジンジャーの苦味と柚子のほんのりした酸味が合うんだよね」

「はい、とっても美味しいです!」

「だよね〜」

 

そんな感じで里香と直葉の頼んだジュースを分けてもらいながら、今回のケートス戦での反省会をしていると店員さんが予定通り(・・・・)にお盆に載せた黄色い衣を着た真っ赤なライスが特徴的な料理・オムライスを持って来てくれるのをニコニコ笑顔で二人がオムライスを口に含むのを待つ。

 

“さーて、どっちが先に食べるかな?”

 

あたしのニコニコ笑顔に何かを感じとってるような里香は訝しがりながらも白と黄色のトロトロな衣をスプーンで突き破り、真っ赤なチキンライスまで掬うと恐る恐る口に含む。

 

「びっくりしたわ……これは美味しいわね」

「本当です、卵がふわふわでとっても美味しいです」

 

満足そうに目の前のオムライスを食べていく二人をニコニコを通り越してニヤニヤとした笑みを浮かべるあたしに里香は眉をひそめるとさっきから感じる違和感に気づいたそうでオムライスとあたしの顔を交互に見つめている。

 

「なんであんたが幸せそう……ってもしかしてこのオムライスってーー」

「ーーそう! あたしがここのファミレスさんに頼んで作った手作りオムライスなのだ!」

 

えっへんと胸を張るあたしに里香はポカーンと口を開け、直葉は何故か頬を真っ赤に染める。

 

「トイレが長いから何かしてると思ったらそんな事を……」

「どう? かなりいい出来でしょう?」

 

あたしもパクリと口に含むあたしへと直葉が問いかけてる。

 

「なんで陽菜荼さん、わざわざ手作りオムライスを?」

「あたし、将来お料理屋さんになりたいんだよね……オムライスもだけど他の料理も作るのは好きだからね」

 

ニコッとはにかむと直葉もニッコリと笑ってくる。

 

「なるほどね……その夢のためにあたしらをダシに使ったってわけね」

「言い方ッ。まー、その通りなんだけど……」

 

苦笑いを浮かべるあたし達はオムライスを食べ終わるとそのファミレスを後にしたのだった。




ということで長かったリーファちゃん&リズベットちゃんの誕生日エピソードのおしまいです!!
余談なのですが……陽菜荼ちゃんがリーファちゃんとリズベットちゃんへの誕生日として用意したのは【手作りオムライス】だけでなく【盛り付けられたお皿&スプーン】も送ったそうです。
更に余談なのですが……【盛り付けられたお皿には二人の誕生日花が、スプーンには二人の誕生日石】がつけられていたそうですよ♪
因みに、二人の誕生日プレゼントを買うために…二人に会う前にこっそり順位を上げていたそうですよ、陽菜荼(微笑)


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木漏れ日と約束(アリス誕生日記念)

更新、遅れました…!
今後の展開を考えていたり、アニメを見返していたら…こんな時間になってました(大汗)

しかし…まさかアリスちゃんの誕生日が4月9日だったなんて……(驚愕)

ちょ、ま…ユージオくんと1日違いじゃないですかっ!!?

ユージオくんは作中にて木剣を貰ってましたが、アリスちゃんはユージオくんとキリトくんに何を貰ったんでしょうね?
すっごい気になる…(目を輝かせる)

さて、今回の話ですが…ユージオくんのエピソードがネタバレしたので、こちらでもがんがんネタバレしていこうと思いますっ!

※4月9日からかなり遅れての更新となってしまい、すいません…(大汗)

作中にて"あの時の約束"が点滅しているのはカナタがその約束を後少しで思い出しそうでありながらも思い出せないという曖昧な事を表情する為です(敬礼)


【雲上庭園・丘の上】

 

人界380年 5月 24日。

生い茂る葉っぱの間から木漏れが降り注ぐ中、丘の周りを流れる小川のせせらぎに身を委ねながら、あたしはのんびりと本日の訓練で疲れた心体を休める。

 

(…いい天気だよな)

 

背後にある金木犀(きんもくせい)の幹に背中を預け、上を見上げれば、ガラスで姿までは見えないがポカポカ暖かい光を天界へと注いでくれる太陽(ソルス)がこの上にあるのだろう。

ガラス越しに降り注ぐ(めぐみ)の光を全身に受けながら、あたしは左耳から聞こえてくる健やかな寝息に思わず頬を緩める。

 

「すぅ…すぅ…」

 

(…普段は凛々しい顔つきのアリも寝ている時は年相応な愛らしい顔になるんだな)

 

チラッと左側を見れば、あたしに寄りかかり左肩に顔を乗っけてスヤスヤと寝息を立てているアリスを起こさないように肩にかけるだけにしてある琥珀(こはく)色の羽織(はおり)をかけてあげる。

 

「いくら陽の光が暖かいからってこんなところで寝てしまったら風邪を引くだろ」

 

てか、そもそもあたしたち整合騎士は風邪を引くことがあるのだろうか?

"んーっ、んーっ"と(おとがい)に右手を添え、悩んでいると「…んっ」と妙に色っぽい声が聞こえたかと思うと切れ長な瞼に象られた長い金色のまつ毛がゆっくりと開き、ぷるっと潤った桜色の唇が震え、澄んだ鈴の()のようなに(おと)に乗せて、あたしの名前を呼ぶ。

 

「…カナタ…ですか?」

「ん。あたしだよ」

「…私は…寝ていたのですね」

 

目をこすりながら、身を起こすアリスが身動きするたびに華奢な身体に絡みつく黄金と青色の鎧がかっちんかっちんと鉄と鉄がぶつかる音が微かに聞こえる。

 

(…しかし、こんな重そうな鎧をつけながら…よくあんなに身軽に戦えるよな)

 

よく叔父さん…ベルクーリ閣下に見てもらいながら、アリスと剣の打ち合いをすることがあるのだが、見かけの重々しさには想像できないほどのスピードで一気に自分の間合いに入られてしまい、彼女の花たちに多々なる切り傷を負わさせるのが大体のあたしの負け方となっていた。

 

因みにあたしはアリスや他の整合騎士殿とは違い、叔父さんのような身軽な服装を好む趣向がある。

理由は恐らく、あたしの愛剣…いいや、愛刀が。あたしの戦い方が相手の懐に潜り込んでからの一撃必殺という超至近距離タイプだからだと思う。

 

そんな下らない事を思いながら、アリス…いいや、首元を守っている青の部分と女性らしい曲線美を描く金色の胸当ての部分を見ているとアリスが不思議そうに問いかけてきた。

 

「…私の方をジィーと見てどうしたのですか?カナタ」

「…へ?あ……ん、アリはすっごい美人だからずっと見てられるなぁ〜って思ってね」

 

流石に同性とはいえど"胸をジィーと見ていました"などとは言えるはずはなく、あたしはキョトンとしながら口からでまかせを言う。

 

「…カ、カナタ…っ。な、何をいってるんですかっ!?」

 

(おぉ〜っ、面白いほどに顔が真っ赤になっておりますな)

 

きめ細かい美しい白い頬を真っ赤へと瞬時に染めたアリスはあたしからプイッと顔を背けるとわざとらしく咳をこむ。

 

「ごほん。それよりもなんで私は寝ていたのですか?」

「へ…あぁ、君の金木犀とあたしの泉に陽の光を注いでいる間に世間話をしていた時にうとうととね」

 

もうちょいレアデレアリスを見ておきたかったと思いながらもそれを口にすると後で練習試合の時に数十倍になって返ってくるに違いないと苦笑いを浮かべる。

そして、アリスの方に向けていた視線をあたし達を優しく包み込んでくれている金木犀の木と丘の周りを流れている透き通った小川へと視線を向ける。

 

あたしの視線を辿った後に自分に掛かっている琥珀色の羽織を見た後にあたしへと問いかけてくる。

 

「…そうですか。それと…これはカナタのですか?」

「まあね。君が風邪引くといけないから」

「私たち整合騎士は風邪は引かないのではないですか?」

「そうかもだけど、念には念をね」

 

そこまで話したところでアリスの右手首に巻き付けられている古びた布を見つめ、淡く微笑む。

 

「それまだ大事にしてたんだ。もうボロボロだから捨てればいいのに」

 

細い手首に巻かれた卵色の何かの破片であろう布は記憶を失う前(・・・・・・)のあたしが整合騎士になりたてのアリスと共にダークテリトリーからの侵入者と対峙した時に巻いていたマフラーの一部だそう。

アリス曰くその時のあたしは今のアリスよりも超絶強くかっこよかったそう……ふむ、女性なのにかっこいいとはなかなか複雑な気分だが、不思議とアリスに言われるのなら悪い気はしない。

 

「そうはいきません。これは私にとって大切なものなんですから」

「そんなに?」

「ええ、この布は初めてカナタが私を守ってくれた…小さい頃の約束を守ってくれた証なのですから…」

 

大事そうに卵色のマフラーの一部を抱きしめるアリスへと恥ずかしそうに頬をかくあたしはどうやら記憶を失う前に色々と彼女へとギザったらしいセリフを吐いていたようで、時折その事を話題に上がられるたびに穴があれば入りたくなってしまう。

のだが、他の整合騎士達からよく言われるのは"今のカナタとそんなに大差ない"との事。

 

“あたし…そんなに普段からギザったらしいの…?”

 

意識してないし、周りのみんなとあまり変わらないと思うのだけども…。

そんなどうでもいい事を考えているとアリスが思いつめたような表現を浮かべて、あたしの両手を握ってくる。

鉄越しでも伝わってくるアリスの手の温もりと真剣な眼差しについつい身構えてしまう。

 

「そこでですが…!!カナタっ」

「…ん?何」

「あ…あの…と、きの約束はまだ有効なのですか?」

 

声を裏返らせながら問いかけてくるアリスが言う"あの時の約束"に残念ながら見覚えない。

なので、言いにくそうにその約束の内容を尋ねるあたしにアリスがハッとした表情を浮かべる。

 

「えっと…アリスさん、あの時の約束と申されますと…?」

「…えっ、あっ…っ、その…っ」

「その?」

 

小首を傾げるあたしを見ながら、そのあの時の約束とやらを思い出しているのか、頬を瞬く間に真っ赤に染めたアリスはスクッと立ち上がる。

 

「なんでもありませんっ」

 

怒ったようにそう言うとスタスタと歩き去ってしまうのだった。




次回から通常の更新に戻ります。

さてさて、記憶が失う前のカナタはアリスちゃんとどんな約束を交わしたのでしょうね?

そして、作中にて出た通り、整合騎士になったカナタの愛剣ならぬ愛刀はアリスの金木犀の側にあった"泉"が古い姿となっております。
リソースは【生命の癒し】と他は考え中となってます(微笑)

なぜ"癒し"かというと、近くに立つ金木犀や草木、村人へと潤いを与え、その命を癒したといえると思うので……こんな回のカナタは援護に回ることが多くなりそうです(微笑)


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砥石を君へ(ユージオ誕生日記念)

なんとか間に合った…(汗を拭う)

まずは

ユージオくん、誕生日おめでとうーーぉ!!!!!

いつもの穏やかで優しい君に癒され、アリスちゃんに一途な所にキュンキュンし、どんどん強くなっていく君に勇気をもらっていました。

そんなに君が生まれてくれたこの日に感謝を!!


その感謝の気持ちを込めて…今回の話は誕生日エピソードとなってます。
ドキドキはしないと思いますが……ユージオくんとカナタのやりとりに"くす"と笑ってもらえると嬉しいです!


では、本編をどうぞ!!


【修剣学院・上級修剣士寮】

 

人界暦380年4月10日。

その日、あたしは心友(しんゆう)達の部屋へと来ていた。

大の大人が座ってもゆったりとくつろげるくらいに大きなソファに勢いよく腰掛けたあたしは腕を組むと勢いよく毒づく。

 

「あぁ〜ッ、あの貴族たちマジムカつくっ」

 

頬を憤怒でプク〜と膨らませ、思い出す度に湧き上がってくる生理的に無理な嫌悪感を床をブーツで蹴飛ばす事により発散する。

 

とある出来事から終始(しゅうし)激おこぷんぷん丸モードなあたしを見て苦笑いを浮かべるのは、明日の授業で習うところを教科書を見て真面目に予習しているルーリッド村からの知り合い…いいや、今では心友という仲になった青年・ユージオである。

 

鮮やかな青色のセントラル修剣学院の上級修剣士が着用している制服へと腕を通す心友は彼の性格がそのまま出ているような物静かな…穏やかな顔立ちへと苦笑いを滲ませるとあたしへと問いかけてくる。

 

「カナタがそんなに怒るなんて珍しいね。そんなに酷いことをされたのかい?あの二人に」

 

ユージオが指差す二人の人物は恐らくあたしと同じだろう。

やらしく曲がった金髪にニヤニヤと薄気味悪い強張った顔に真っ赤な上級修剣士の制服を身につけた首席のライオス。

青い髪をオールバックにし、やらしく型ばった顔立ちに真っ黄色な上級修剣士の制服を身につけた次席のウンベール。

どちらもあたしがこの学び舎に通いだしてからというもの…性格的にも外見的にも生理的にうけつけない人物なのだがーーその人物に今日、あたしは最も堪え難い辱めを受けたのだ。

これは誰かに聞いてもらわないと怒りが収まらない。

 

「それが聞いてよ、ユオ!」

 

身を乗り出すあたしを前に苦笑いを浮かべるユージオ、そのユージオにその出来事を話そうとしたそのときだったーー。

コンコンとドアをノックする音が聞こえ、入ってくるのは初等修剣士の制服に身を包む三人の少女達で緊張した面持ちで入ってきたかと思うと、ソファで向かい合うあたしとユージオを見て頬を瞬時に染めている。

しかもよくよく見るとみんなの口元に両手を可愛らしく添えて、コソコソと小声で話し合っていらっしゃる。

はてはて、一体何が彼女達の好奇心をくすぐっているのだろうか?

 

「……あっ」

「………?」

 

小首を傾げるあたしと違い、ユージオは彼女達が何を誤解しているのかにいち早く気付いたようで、自分の方へと身体を突き出しているあたしの肩へと手を置くと自分から遠ざける。

その仕草で自分が今のどんな状況なのかを知る。

二人がけのソファに座っているユージオは両手に教科書を持っており、そのユージオの右側にあるソファに腰掛けているあたしが机に両手を置いて、彼に向かって身を乗り出しているのでーー多分だが…彼女達が立っている位置から見るとこれから接吻(せっぷん)しようとしているように見えるのではないだろうか?

 

だから、彼女達が入った瞬間に頬を赤く染めたというわけか。

 

「お〜ぉ、なるほど…あたしとユージオができちゃって…これからも接吻しようとしているように見えたというわけか…」

 

ふむふむ、と一人納得したようにうなづくあたしにユージオは終始頬を赤く染めて声を荒げる。

 

「何。冷静に状況解析してるんだよ!まずはティーゼ達の誤解を解く方が大事でしょ」

 

ユージオのあまりの慌てふためきにあたしの意地悪心が刺激され、ニンヤリ笑うとあたしは爆弾を落とす。

 

「そう?あながち、間違ってないでしょ。だって、あたし達って乳繰(ちちく)りあった仲じゃん」

「ちちく……ッ!!?」

 

彼女達の顔の赤さとユージオの慌てふためき具合が加速していく中、あたしは一人この混沌(カオス)を満喫していた。

 

「みんなっ、カナタのは嘘だからね!」

「へー、あたしの胸をあんなに、激しく揉んだのに?」

「胸をもん……!!?」

 

おーおー、フレとロニは耳まで真っ赤に染めて、テゼに至っては驚きすぎて卒倒(そっとう)しかけてる。

 

「はぁ……ほら、みんな見て。カナタが実に楽しそうでしょう?こういう時はカナタの掌で転がされている時なんだよ」

 

そう深いため息をついたユージオがあたしを指差すと三人揃ってあたしを見てくる。

そして、ニヤニヤと堪え切れない笑顔をこぼしているあたしを見て、やっと自分たちがあたしの掌で転がされていたのに気付いて、羞恥で頬を染めながら、視線をカーペットへと向ける。

そんな三人へと左手をあげてながら、謝るあたしに疲れたようにため息をつくユージオ。

 

「からかっちゃってごめんね、みんな。みんなの反応がウブ可愛くて…ついつい意地悪したくなっちゃってね」

「もうちょっと反省の色を見せてもいいんじゃないか、カナタ」

「反省も何も乳繰りあったのは事実だしね…」

「もうカナタぁ!!あれは不可抗力だって何度も言ったじゃないか!」

「あははっ。ユオってば、からかうと面白いね」

「もう…」

 

あたしから視線を逸らしたユージオへと胸の前に腕を置いたティーゼがいつものように報告をする。

それに続くようにあたしへとフレニーカがいつものように報告してくれるので、(ねぎら)いとして頭を撫でてあげる。

 

「カナタ上級修剣士殿、ご報告します。本日の掃除、滞りなく完了致しました」

「おつだよ、フレ」

「あっ…」

「ほれほれ〜、可愛い奴め。ここが弱いのだろう、ほれほれ〜」

「フレニーカが困っているだろ。やめろ!」

「ぐがぁ…」

 

乙女の命である髪をワシャワシャと乱しながら、髪の毛を撫でるあたしへと天誅(てんちゅう)が下る。

 

「ティーゼもフレニーカもご苦労様。今日はこれで二人とも寮に帰ってもいいからね」

 

そこまで言の葉を紡いだユージオは一番端に立っているロニエを見ると苦笑いを浮かべる。

 

「ごめんね、ロニエ。あいつにはいつもの清掃が終わるまでに帰ってこいって言ってるんだけどね」

 

そこまで言った所で件の青年が窓から入ってくるのを頭を抑えながら見ていたあたしは三人が件の青年ことキリトから貰ったパイを嬉しそうに抱っこして帰った後、あたしは制服のポケットを探るとパイを齧るユージオへととあるものを差し出す。

 

「…これは?」

 

自分の掌に乗っかっているネックレスの先に青いザラザラした石が付いているものを不思議そうに見ているユージオへとあたしはそれがなんなのかを説明する。

 

「それは砥石っていってね。剣の切れ味を保つ為に使うものなんだ。ユオの布、もうボロボロだったでしょ?だからさ、折角なら長く使える方がいいかなーって思ってね」

 

そこで言葉を切ったあたしは嬉しそうに掌に乗っかる砥石を見つめるユージオの横顔を見つめながら、穏やかな声音でお祝いの言葉を言う。

 

「それに今日はユオの誕生日だし…これまでお世話になったお礼も言えなかったからね…。だから、これまでも今からもよろしく頼むね、心友」

「…うん、僕もよろしくね。カナタ」




ということで、ユージオくん誕生日記念のエピソードどうだったでしょうか?

この作中で出たライオスとウンベールから受けた堪え難い辱めと乳繰りあった出来事は後々明かしていこうと思います。

また、ネタバレきちゃいましたが…カナタのお側付きはフレニーカちゃんとなってます。
ウンベールのお側付きは考え中ですが……女の子がいいですよね、やはり…。


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001 この景色を君と(シノン誕生日記念)

シノンちゃん、誕生日おめでと〜!!!!!

クールだけど乙女なところがあって、ツンケンしているけど意外と姉御肌なシノンちゃんが私は大大だーい好きです!!!!

毎年毎年、お祝いのストーリーを書くことが私の楽しみだったりします(照)

来年も再来年もお祝いを続けていきたいと思います!

シノンちゃん、改めておめでとうございます!!!!

君が生まれていてくれたこの日に祝福をッ!!


それでは、前フリが長くなってしまいましたが……誕生日を記念したストーリーの始まりです。

※めっちゃ短いかもしれません……(大汗)


【対策本部・シノン天幕内】

 

央都の中にある北セントラル修剣学院の敷地内。

だだぴっろい敷地の中にあちらこちら張ってある白い天幕の一つでひっそりと約束が交わされていた。

 

カーテンのようになっている左右の白い布を広げて、入ると(たたみ)が10畳程敷き詰められるほどの広さを持つ天幕内が拝める。

人によっては様々な小道具や家具を置いていたりするのだが……殆どが前もって設置してある《寝具(ベッド)》。読み書きをする為の《勉強机(テーブル)》。普段着や戦闘着が入っている《衣装棚(タンス)》。中央にセンス良く敷いてある《敷物(カーペット)》が主である。

 

が、約束を交わされている天幕内は主だっている家具の他に……数冊の本と一輪の花が飾れている花瓶が入っている小棚が鎮座してあった。

そして、この天幕の主人ことシノンは寝具に腰をかけると敷物の上に腰をかけている闖入者へと視線をむける。

 

「デート?」

 

寝具に腰をかけ、一流の職人が手がけたかのように美しい曲線美を描く右脚を左脚の上に重ねてから、シノンは蒼い刺繍が美しい敷物の上に腰を落とす橙の整合騎士を見返す。

怪訝そうに眉をひそめる藍色の瞳には満面の笑顔を浮かべるカナタの姿が映る。

出会った当初から着用している和服は…《デスゲーム》と呼ばれている《SAO (ソードアート・オンライン)》でドロップした和服から選び続けているトレードマークの橙。腰のところには水色の帯、右腰には蒼の鞘に収められている愛刀が天幕の淡い光の中でも水色の光を放つ。

胡座をかいて座る彼女の襟首からは蜜柑色のTシャツが覗いている。

シノンが出会った当初は何も下に着てなかった彼女だが……シノン、そして同期の整合騎士による強い説得により渋々ではあるが、下にTシャツを着てくれるようになった。

 

(此処に来て、もう数ヶ月は経つ筈なのに……やっぱり慣れないわ)

 

この《アンダーワールド》では自分よりも年上の彼女は《リアルワールド》よりも伸びたゆ〜るくウェーブしている栗色の髪を襟首のところで緩く束ねている。歳を重ねるたびに、カナタは彼女の母親に瓜二つになるようで……幼さを感じていた輪郭はスッとなって、美麗という言葉がしっくりくる美人と成長している。そんな彼女の秋空を思わせる蒼い瞳が自分を映している。

 

聖水を思わせる透明感のある水色のショートヘアーは身動きするたびに、顔の横で束ねている房と共に揺れる。

瞬きするたびに微かに揺れる睫毛は髪と同色で、その下にある藍色の瞳は涼しさを通り越して、氷山の一角を思わせる。

その下に続くのは青いジャケットに白いシャツの下には白いベルトや青いベルトがあるのみで、形良いお臍が丸見えになっている。下半身を隠すのは、短い丈の白い短パンで正面からは下まで下がっているチェックから青い布地が丸見えになっている。

女性らしい曲線美を描く美脚は重なって、白と蒼のニーソックスとブーツが左右に揺れてる。

揺れているといえば、左腰に巻いている蒼い布も入り口から入ってくるそよ風により…滝のように揺れている。

 

「そそ。二人っきりでデートしよ」

 

結び目が猫の尻尾のように上下するのを見下ろしながら、シノンは不気味な程に上機嫌でニコニコしているカナタを怪しむ表情で見つめる。

 

「変な事を考えてないでしょうね」

 

ボソッと呟かれたシノンの呟きにカナタはガクッと肩を落としてから訴えるような表情でシノンを見上げる。

 

「あたしが上機嫌なのがそんなに不気味なのかい? 恋人殿よ」

「ええ、不気味ね」

「即答ッ!?」

 

オーバーリアクションを取るカナタの実に残念そうな顔にシノンは寝具から敷物の上に移動すると彼女の両手を取る。

 

「それにデートは今日じゃないとダメなの?」

「ダメだけど……もしかして、予定入ってたりする?」

「ええ。午後からアスナ達とね」

「そっか……」

 

最初の頃に比べると格段に肩を丸めると「アッスー達との約束なら仕方ないよね……」と小さく呟いてから、シノンの両手を外そうとしていたカナタの沈んでいた蒼い瞳が徐々に光を灯していく。

 

「そっか……そうだよねッ」

「何? 何がそうなの?」

()()から予定があるのなら……午前中にデートすればいいじゃない」

 

名案とばかりに曇り空が一気に青空になるかのように晴れやかな笑顔を浮かべるカナタを見つめながら、シノンは一言だけ呟くのだった。

 

「ゑ?」



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大好きを君へ (カナタ&シノン誕生日記念)

ⅰ. 詩乃side

 

最近、マンションでの同居者かつ恋人の香水陽菜荼が冷たい事に不満と寂しさを感じていた。

朝早く起きるなり、何処かへ出掛けしまい、出かけたら出掛けたらで夜遅くにならないと帰ってこない。

 

それがここ数ヶ月続いているのである、これが心配じゃないはずがない。

 

しかも今日は何よりも一緒にいて欲しかった日ーーひとり静かな部屋の中、詩乃はベッドへと背中を預けながら、壁へと無造作に貼り付けているカレンダーに大きく赤い丸がついている"21"の数字から上を見上げるそこには8月と書いてあった。

そう、8月21日とは詩乃の誕生日である。

 

「…陽菜荼…何処行っちゃったのかしら?」

 

観ていたタブレットを疲れたように机へと放り投げ、ベッドへと後頭部を載せると白い天井を見つめると右手首を覆う。

 

「…陽菜荼…、さみしいよ…」

 

右手首を覆う瞳の端から流れる透明な雫に気付くのは、この部屋には誰も居ない…

 

 

 

ⅱ. 陽菜荼side

 

カシャカシャ、と歯ブラシで歯を洗いながら、あたしは眠たそうに目を擦る。

そして、チラッと壁に掛かっているカレンダーを見るとそこには"10月"と書かれている文字と大きく赤い丸で囲まれている"10"という数字。

 

“あんな前から準備したのに…まさかここまで時間がかかるなんて…”

 

参ったなぁ…とガシガシと頭を掻き、橙の甚平のポケットから取り出すソレは本来なら8月21日に渡す予定だったものーーそして、その予定を外れた事によって、知らぬ間に広がってしまった同居者との溝。

ここ最近朝から晩までとある事に気を回していた成果、全然彼女との時間を確保できなかった。そのことが彼女にとっても苦痛だったらしい。

 

陰る整った横顔にあたしは薄っすらの汗を掻く。

 

“…なんとか渡して、仲直りしないと”

 

そう思い、そう考えてから数時間後何も出来ずに夜になった。

 

あたしはベッドに腰掛け、淡々と晩御飯を作る詩乃の後ろ姿を見つめる。

そして、目の前に差し出されるオムライスにあたしは前のめりになる。

 

「もうそんなに慌てないの、オムライスは逃げないから」

 

そう言って、スプーンを差し出す詩乃にお礼を言いつつ、オムライスを口に運んだあたしはニコニコと笑みを浮かべる。そして、そんなあたしの隣に腰掛けた詩乃が寄りかかってくる。

 

「…食べる?」

「…いらない」

オムライスを一口掬い、寄りかかってくる詩乃へとスプーンを差し出す。だが、そのスプーンを見て、首を横に振る詩乃が更に身を寄せ、甘えたようにスプーンを持っていない右手の指を絡めてくる。

 

“…今日はやけに甘えてくるし、積極的だな”

 

スプーンを皿へと置き、左手でぽんぽんと頭を撫でる。

 

「…今日は甘えてくるね、どうしたの?」

「…どうもしないわ、ただ…」

「ただ?」

「…今日は何処にも行かないでほしいって思ったから」

 

大きく潤んだ焦げ茶色の瞳を見つめながら、あたしは甚平のポケットへとしまいこんでいたソレを詩乃へと差し出す。

 

「?」

「開けてみて」

 

驚く詩乃にあたしは淡く微笑む。

 

「…これはーー」

 

震える手で開かれた藍色の布に覆われた小さな箱の中の中にあったのはーー蒼の宝石がはめ込まれたが中央にあり、鉄の輪っかに小さな花が彫り込まれていた。

 

それを手に取った詩乃にあたしはツンツンと蒼の宝石を突く。

 

「この宝石の中を見てみて」

「…こ、こう?」

「ん」

 

焦げ茶色の瞳が蒼の宝石を覗き込むとそこに広がっていたのは、蒼い宝石に刻まれていたのは銀色の文字で刀と弓のシルエットが描かれている。

 

「…そ、の…あの世界から帰ってから何も君にあげられなかったからさ…その、あげたかったんだ…結婚指輪」

 

ジィーーと覗き込む詩乃を横目で見ながら、あたしは照れたようにそう言うと、覆いかぶさってくる詩乃に口元を覆われる。

 

酸素不足で薄れていく視界の中、あたしが思うのはーーやっぱり、今日の詩乃は積極的だな、だった。

 

 

次の日、あたしと詩乃は常日頃から刀と弓のシルエットが描かれている蒼い宝石をはめ込まれている結婚指輪を首からかけるようになった……

 



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君に教えるとっておきの場所 (リーファ誕生日記念)

雲ひとつない晴れた青空の下、仮装世界(VRMMO)内ではリーファと呼ばれている桐ヶ谷直葉は立ち漕ぎを始めた少女のそよ風に乱れる癖っ毛と行く先を見つめる蒼い瞳を盗み見し、頬を赤らめ、振り落とされないようにしっかりと少女の細い腰へと抱きつく。

そして、抱きついた腕から伝わってくるぬくもりと鼻をくすぐる甘酸っぱい香りに益々頬を赤らめながら思う、なんでこんなことになっているのだろう…? と。

 

事の始まりは午前9時頃、桐ヶ谷家に一人の少女が訪れた事から始まった。

ピンポーンと家中に響く呼び出し音に寝起きの直葉はしょぼしょぼしながら、ドアの鍵を開けて、そこに立っている人物を視界に収めた瞬間、藍色が混ざった黒い瞳をまん丸にする。

 

「おはよーさん、直葉。今から時間あるかな?」

 

直葉が驚いている人物とは左手をひらひらとさせ、秋空のように透き通った蒼い瞳を細め、桜色の唇の両端を上へと上げ、癖っ毛の多い栗色の髪を揺らしながら、親指を立てて後ろを指差す少女。仮装世界(VRMMO)内ではカナタと呼ばれている香水陽菜荼であった。

 

SAO、デスゲームと呼ばれたVRMMOからの知り合いである陽菜荼は一見すると少年に見える中性的に整った顔立ちをしており、性格もいつも飄々と掴み所がない。だが、困っている人や仲間を見ると助けずにいられないお人好しだったり、気遣いができる人だったりする。

また、彼女を説明するのに必要なのは天性の人たらしという事だ。お人好しや気遣いをした後に無駄にかっこいいセリフを恥じらいもなく言ってのけてしまうのだ。

その人たらし能力により彼女に憧れたり、想いを寄せたりする人は後を絶たず……今では現実世界でも仮想世界でも彼女のファンクラブなるものがあるそう。

 

そして、そんな彼女に密かに想いを寄せているのは直葉も同じで……彼女に心に決めた人がいるということは知っているが、出来る限りでいいので側に居たいと思っている。

 

思っているのだが……まさか、その想い人がいきなり自宅に訪れて、その人からお誘いがくるとは思いもしないだろう。

故に、直葉がアタフタするのは当たり前で、目の前の陽菜荼を凝視としながら、自分は何をするべきなのか、どんな行動を取るべきなのか、と固まっていると後ろから声が聞こえてくる。

 

「ふわ〜ぁ、スグ? ん? そこにいるのは陽菜荼?」

 

ポリポリとお腹をかきながら、階段を降りてきたVRMMO(仮想世界)内ではキリトと呼ばれている桐ヶ谷和人は玄関先で固まる妹とその妹に向けていた視線をこちらに向けてくる戦友の姿に黒い瞳を丸くする。ダラとしたTシャツに入れていた手を下ろした和人に名前を呼ばれた陽菜荼はひらひらと右手を振る。

 

「おはよーさん、和人。今日1日、御宅の直葉さん借りてもいいかな?」

「え? ああ、別にいいけど……」

「よっしゃ!! 和人からの許可も得た事だし、直葉お嬢様、少しだけわたくしめの戯れにお付き合いいただけないでしょうか?」

 

その場に片足をタイルに付け、直葉の右手を取った陽菜荼のキザな誘い方に和人は呆れ顔を浮かべ、直葉は耳と首まで真っ赤に染める。

 

「あ、ああああ、あのっ! 陽菜荼さんっ」

「なんですか、直葉お嬢様?」

「お誘いは嬉しいですし、受けたいのですが……その、少しだけ待ってもらえませんか? この服で外で出るのは恥ずかしくて……」

「ふふ。そんな事ですか……どうかわたくしめの事はお気にならずに。直葉お嬢様のお気の済むままにお召し物を選んできてください」

 

小首を傾げながら立ち上がる陽菜荼へと勢いよく頭を下げた直葉は勢いよく階段登るのを見届けた陽菜荼へと和人が近寄ってくる。

 

「陽菜荼って偶に変なキャラになるよな。それってシノンの前でもするのか?」

「シノの前でもよくするよ。偶にしすぎて、強烈な回し蹴りとかビンタを喰らうけどね。まー、全部シノの照れ隠しって思って、受けるようにしてる」

 

そう言いながら、ケタケタと笑う陽菜荼に和人は呆れたように笑う。いや、中には本気でやめてほしいと思っているのもあるだろうと……しかし、言った所で陽菜荼が真実と取ることはないだろう。

ならば、ということで直葉が戻ってくるまでに暫く世間話という名の攻略話をしていると勢いよく階段を駆け下りてくる直葉が姿を現し、和人は二人を見送った後に背伸びしながら、キッチンへと姿を消した。

 

τ

 

いつものように愛用している自転車の後部へと座った直葉は陽菜荼に抱きつきながら、これからどこに向かうのかと少しだけ前方を見てみる。

自転車を立ち漕ぎしている所と先が見えないところを見ると陽菜荼はどうやら急な坂を登っているようだった。行き先も今何処を走っているのかすら分からない。

だが、自転車が立てる風によりひらひらと直葉が抱きしめているウエスト辺りまでめくれ上がるTシャツから覗く形良いお臍、甘い香りがする栗色の癖っ毛、真剣な眼差しで自転車を漕ぐ優しい光を放つ蒼い瞳、腕から伝わってくるぬくもり、それら全てを今だけは自分だけが独占出来ているのが嬉しかった。

 

(ありきたりでずるい子かもしれないけど……)

 

この時間が永遠と続けばいいと直葉はギュッと陽菜荼に抱きつきながら、思うのだった。

 

しかし、当たり前のようにそういう時間ほどあっという間に過ぎていき、陽菜荼は最後の一漕ぎと右脚を力む。すると、直葉の目の前に光が舞い込む。

 

「とーちゃく! ひやぁー、つっかれたー」

 

そう言いながら、自転車から降りた陽菜荼は目を丸くしている直葉へと微笑みかけながら、左手を差し出す。

陽菜荼の左掌に手を置きながら、降りた直葉の目に映るのは一面鮮やかな小さな花をつける黄色い絨毯、その周りを淡い桃で色づく立派な木々が並んでおり……陽菜荼は自転車の籠からリュックを取り出し、目の前の光景に見入って動かないでいる直葉の手を引きながら、黄色い絨毯の中へと入っていく。

そして、絨毯の先にあったのは大きな滝がある崖で……その崖の彼方此方に生えている山桜が透き通った滝水の水面(みなも)に映り込み、後ろに広がる光景と共に幻想的だ。

 

「綺麗なところですね…」

「でしょ? サイクリングしている時に偶々見つけちゃったね、一番最初に直葉に見せたくて…」

 

そう言って、照れ臭そうに頬をかく陽菜荼の横顔を見ていたら、直葉は自然と彼女の腕を引っ張り、自分の方に引き寄せていた。

幻想的な、美しい風景てテンションが上がってしまったのかもしれない。『一番最初に直葉に見せたくて……』というセリフに気持ちが舞い上がっているのかもしれない。……ううん、一番は照れ臭そうに笑う陽菜荼の横顔と幻想的な風景が直葉の目には息を呑むほどに美しかった。

 

(あたし、何してるのかな……)

 

陽菜荼のびっくりした顔が近づいてくる間、冷静になろうとしている自分も居れば。『陽菜荼さんでもびっくりする顔するんだ、可愛い』という感想を抱く自分も居る。

だんだんと近づいてくる陽菜荼に直葉は微笑みかけながら––––––

 

「「ん……」」

 

–––––––驚きながら振り返ってくる陽菜荼の桜色の唇へと自分のそれを重ねる。

 

重ねる時間は僅か3秒。

だが、外した後も自分の唇には陽菜荼の感触が残っているし、僅かに甘酸っぱい味もするように思える。

 

(あたし、陽菜荼さんとキスしちゃった……)

 

実感すればするほど自分がしでかしてしまった出来事に耳まで真っ赤になってしまうが、そんな直葉よりも凄かったのは陽菜荼だった。

左甲を自分の唇には押し当てながら、直葉を凝視する蒼い瞳は潤み、白い肌が熟したリンゴのように赤くなっている。

普段は何をしても涼しい顔を浮かべている陽菜荼の赤顔に直葉は今日、ここに連れてきてもらってよかった。そして、色んな陽菜荼の表情を見れてよかった。勇気を出して行動してよかったと思うのだった……。

 



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とある夏祭り(シノン誕生日記念2021)

お久しぶりの更新となります。

今回の更新はタイトルにもある通り、本日8月21日はシノンこと朝田詩乃さんの誕生日です!!おめでとうございます!!!!

去年の誕生日はしっかりお祝いできなかったので、今年は去年の分までお祝いの気持ちを詰め込んで書かせていただきました。

時間軸は【史録ーmainー】の2章のところです。

簡単な話の内容は
ソードアート・オンラインというデスゲームに捕られた二人はある日、開催された夏祭りを満喫するというものです。

本作に登場する夏祭りは私が勝手に作ったものですので、原作に比べると穴だらけのガバガバ設定やもしれません。
そういうのが許せない方は回れ右してもらえると嬉しいです(敬礼)

それでは前振りが長くなってしまいましたが、誤字脱字、中には文章が可笑しいところもあると思いますが……最後まで読んでいただけると嬉しいです。

※総文字数は1万4千ちょいです。
自分の好きな曲を聴いたり、何かおやつなりと摘みながらでくつろぎながら、読んでいただけると嬉しいです(深々とお辞儀)

では、本編をどうぞ(リンクスタート)!!


「夏祭り?」

 

あたしは隣に座る恋人殿の顔をまじまじと見つめる。

 

「そ。夏祭り」

 

あたしを真っ直ぐ見つめる瞳は焦げ茶色で儚さを感じながらもその奥には芯の強さを感じさせる。僅かに小首を傾げる仕草で肩に掛かっていた房がさらさらっと音を立てて揺れ、糸のように細かい髪の毛一つ一つに窓から差し込む夕陽の光が当たる。凛々しさと可愛さが同時に存在しているかのような輪郭が夕暮れに照らされ、艶っぽく光る小ぶりの唇まで見たあたしは(ほお)けたようにマジマジと何かを喋っている彼女を見つめる。

あたしにはまるで一枚の完成された絵画のように目の前の光景が思え、息をするのも忘れるほどに彼女の姿に心を奪われる。

何度も見ても、綺麗だと思うし、可愛らしいと目の前の存在を思う。

 

そして、ふと思う。

やっぱり、あたしはシノの事がどうしようもなくなるくらい好きなんだ、と。

 

込み上げてくる愛おしさをグッと堪えながら、シノから送られてきたメッセージへと視線を落とす。

 

そこにあったのは、簡単な参加条件が載っていた。

まず、夏祭り限定のフィールドは浴衣を着用する事で出現するとの事。

街中を歩いていたら、提灯の温かな灯りがともり始め、次の瞬間にはフィールドに到着しているらしい。

そして、そのフィールドでは夏祭りには定番である。出店が連なっているようだ。例を挙げるならば、射的、たこ焼き、リンゴ飴、かき氷とかだろうか。

流石、現実(リアル)をとことん追求して作られたアインクラッドというべきか。

こういうイベントにも手を抜かない辺り、開発者である茅場晶彦の強いこだわりが垣間見える。

 

「この世界でもあるんだって」

 

だがしかし、この世界に身を投じてから戦闘狂に白車がかかってきているあたしはというと、そういうイベントものは限定商品とかがあるのならば飛びつくのだが、それ以外はあまり行きたいとは思わない。

娯楽の為にそういうイベントを楽しむのならば、少しでも新着で現れているクエストをしたいし、レベルを上げたり、素材集めをしたいと思ってしまう……。

 

だが、それは利己的というものだ。

 

シノが緊張しながらもこうして誘ってくれているのだ。

その日くらいシノに付き合うくらいバチも何も当たりはしないだろう……。

 

"それにあたしもシノと出かけたかったし…"

 

「それでシノはその夏祭りに行きたいって?」

「ええ、駄目かしら?」

 

そんな伺うように、上目遣いで聞かれてしまった暁にはさっきまで思っていた「あたし興味ないから、シノだけで楽しんでなよ」という考えは口が裂けても言えまい。

なので、あたしはあまりの破壊力ににやけそうになる口元へと力を総動員し、普通の形にした後にお誘いへの返答する。

 

「あたしで良ければ、ご一緒させていただきます、お姫様」

 

手を取り、手の甲にキスをしようとした瞬間、その手が勢いよく振り解かれ、続け様に捲し立てるような声が聞こえる。

 

「そういうのいらないからっ」

 

あたしはシュンとしながらもそっぽを向くシノの焦げ茶色の房から見える耳が真っ赤に染まっているのを見て、思わずニヤッとしてしまう。

普段から口数が少ないクールなキャラとして仲間たちに定着しているシノも少しからかうだけでここまで照れてくれるのだ。その様子が普段の彼女とのギャップで可愛いし、その表情を見せてくれるのがあたしの前だけっていうのがとても嬉しい。

 

「なに、ニヤニヤしてるのよ」

「いや、シノって可愛いな〜って思ってね」

 

そう言った瞬間、「なっ…」と顔をさらに真っ赤にさせて、理不尽だと思える強烈なシノパンチが顔面に炸裂したのは想像するまでもなかろう。

 

 

≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠

 

 

夏祭り当日。

 

あたしはシノとの待ち合わせ前に前もってお願いしていた衣装を取りにアスナことアッスーの元を訪れていた。

といっても、第76層以下に行けないシステムエラーが起こってからはというと、皆、主街区《アークソフィア》にある宿屋を使っているので、目的の相手に会いに行くのに徒歩何十分もかからない。

 

"それにアッスーはあたしが泊まっている宿屋の住人だからね"

 

そんな事を思いながら、宿屋となっている廊下を進み、アッスーの部屋を数回ノックしてみる。

だが、彼女が部屋にいる様子もノックが開く様子もなく、暫くその場で思案する。

 

"んー、もしかして、下のカフェに朝ごはん食べに行ったのかも…"

 

なら、自分も下に向かうべく、(きびす)を返す。

いつまでも廊下で突っ立っていても邪魔なだけだし、無言で部屋の前で立っていても不審者っぽくて嫌だしな。

そんな事を考えながら、とぼとばと下の階へと続く階段を降りていき、店内を見渡したあたしは6人が座れる机が縦に3列並んでいる中の真ん中の列に腰をかけて、朝ご飯を食べている目的の人物を見つける。

朝ごはんを食べる人々の中でも目立つ白と赤を基調とした騎士服を着用し、腰まで伸びる栗色の髪をさらさらと揺らしながら、優雅にフォークで皿に乗っているパスタを口に含むアッスー目掛けて、人波をかき分けて近づいたあたしはにっこりと笑いながら利き手をひらひらと動かしながら挨拶をする。

 

「アッスー、おはよ〜」

「おはよう、カナちゃん」

 

あたしの声ににっこりと笑いながら、挨拶を返してくれるアッスーの隣に腰掛ける赤いメイド服のようなデザインの戦闘着を着用している少女が不満げな声を漏らすのを聞いて、あたしは苦笑いを浮かべながら彼女達へと挨拶する。

 

「ちょっと、アスナだけ挨拶?」

「ごめんって、リト。わざとじゃないだ」

 

利き手を縦に数回振り"申し訳ない"というジェスチャーをしながら、6人掛けのテーブルに腰掛けている人物へと視線を向ける。

まず、アッスーの横に腰をかけるのは鮮やかなピンクのショートヘアーに同色の瞳を持つ少女・リズベットことリトである。

彼女はこの76層にも《リズベット武具2号店》を出してくれており、あたしも含めて多くの仲間が彼女の店の常連である。あたしに至っては愛刀の一方は彼女に作ってもらったわけだし、武器のメンテナンスは彼女以外には任せられなくなってしまった。

 

「おはよ、リト」

「おはよう、カナタ。あんたにしては早い起床なんじゃない?」

「あはは…ちょっとした用事があってね」

 

ヘラヘラと笑いながら、答えてからアッスーとリトに挟まれるように食事をとっている白いワンピース姿に腰まで伸びた黒髪が特徴的な少女・ユイことユーへと挨拶する。

ユーはキリトことキリ、そしてアッスーの娘である。

そんな彼女はデスゲームを管理しているカーディナルの開発者がプレイヤーのケアすらもシステムに委ねようと、あるプログラムを試作。それのプログラムの名前が《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》、MHCP試作一号、カードネーム《Yui》。つまり、ユーはAIというわけだ。

 

"まー、だからなんだという感じだけどね"

 

AIだから、機械だから、といっても彼女は親友達の娘だ。それにもう彼女はあたしの大切な仲間だ。それだけで彼女を信頼する理由や彼女の為に行動する理由にしては充分だとあたしは思う。

 

「おはよ、ユー」

「おはようございます、

「ユーはリトと違って良い子だね」

「ちょっと、それはどういう事よ!」

 

おお、藪蛇だったか。次に行こう。

 

ぷんぷんと憤怒しているリトの前に腰掛けるのは、黄緑と白を基調とした戦闘着に長い金髪をポニーテールにしている少女・リーファことリーである。

彼女は現実世界では剣道を極めているようで、その腕はVR空間だからといっても衰えはしない。実際、彼女に剣技にはいつも助けられているし、頼りにさせてもらっている。

そんなリーはどうやら現実世界ではキリの義妹(いもうと)との事。時折、キリの事を「お兄ちゃん」と呼んでいる場面を目撃する事がある。仲も良好なようで、一人っ子のあたしからするととても微笑ましく思う。

 

「リー、おはよ」

「おはようございます、カナタさん。カナタさんは朝ごはん、食べました?」

「そういえば、食べてなかったな…。後で食べさせてもらうよ」

 

にっこりと答えてから、リーの横でこちらを見上げている少女へと視線を向ける。

腰まで伸びた緩くウェーブした銀髪に垂れ目がちに開かれた瞳、黒と緑を基調としている戦闘着に身を包む彼女の名前はルクスことルー。

あたしの愛弟子でもある彼女だが、正直剣技を教えることもないくらい強い。教えた事はしっかり次の日には仕上げてくるくらい真面目な彼女の事を頼もしく思いながらもいつか越えられるのではないかと不安に思ったりもする。

 

「おはよ、ルー」

「はい、おはようございます、カナタ様。今日、用事があるのですか?」

「ああ」

「そうなんですか。今日は稽古をつけてもらえるって楽しみにしてたんですが……」

「あー!そうだったね。ごめんね、ルー。この埋め合わせは必ずするから!!」

「良いですよ。カナタ様も用事があるでしょうから。また、暇な時に稽古してください」

 

そう言って、ふわりと柔らかく微笑む愛弟子にあたしは心の中でわんわんと泣いていた。そして噛み締めていた。あたしは本当に優しい愛弟子を持った、と。

 

そのルーの横に腰をかけているのは、茶色の髪を赤い髪留めでツインテールにし、赤と黒を基調とした戦闘着に着用している少女の名前はシリカことシー。

彼女の頭の上で寛ぐふわふわの水色の毛並みに赤い瞳を持つ小竜の名前はピナ。

ピナはシーの使い魔であり、シーはビーストテイマーと呼ばれているようで……あたしもシーとピナの連携にはよく戦闘でお世話になっている。シーはよくもっと強くなってお役に立ちますと言ってくれるが、あたしとしてみれば彼女はもう既に役になっている……ううん、その言葉に適切ではない。戦闘になくてはならない存在である。

 

「シー、おはよ」

「おはようございます、カナタさん。今日は用事があるって言ってましたが、どこかに行かれるんですか?」

「ああ、シノと夏祭りに行くんだ」

「シノンさんとですか……」

 

あれ?なんか一瞬で元気が無くなったような……これはあたしなんかやらかした?

ルーの時も完全に約束を忘れていたし、あたしが忘れているだけでシーとも何か大切な約束を交わしたのかもしれない……。

 

"ルーもだけど、シーにも後でフォローしとこ"

 

と密かに胸に留めながら、改めてアッスーに向き直るとなんの用件で自分のところに顔を出したのか、察していたらしく、ウィンドウを操作してくれており、あたしも彼女から受け取るべくウィンドウを操作する。

 

「カナちゃん。お願いされたもの、もう出来てるよ」

 

そう言って、送られてきた衣装にあたしはウィンドウを消してからもう一度改めてお礼を言う。

 

「あんがと。でも、ごめんね。アッスーも層の攻略とかレベル上げとかで忙しいのに頼んじゃって」

「いいのいいの。カナちゃんにはいつもお世話になってるし、何よりも服作りが好きなの。だから、頼んでもらえて嬉しかったよ」

 

申し訳なさそうに眉を顰めるあたしへと言葉を投げかけるアッスーは本当にそう思っているのだろう。

アッスーの笑顔からは疲れのような負の感情は読み取れない。

あたしは申し訳なさそうな顔を笑顔へとシフトチェンジしてからアッスーと会話を繰り広げる。

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ。そういえば、アッスーはキリと行くの?夏祭り」

「うん、キリトくんがたこ焼き食べたいって」

「パパとママと夏祭り、とても楽しみです!」

「そっか、ユーも行くんだね」

 

それもそうか。ユーはキリとアッスーの娘だもんな。

キリも愛娘にねだられたならば、嫌とは言えまい。

というか、話を聞く限りではキリの方が夏祭りに乗り気のようだ。

シノの話を聞いて、一瞬でもレベルアップの事が頭に過ぎってしまったあたしはキリの爪の垢を煎じた方がいいだろうか。否、キリの場合は食い気が強いだけだから……爪の垢を煎じる必要はないか。

 

あたしはユーの頭をなでりなでりと撫でてあげながら、優しく語りかける。

 

「夏祭りの出店は美味しいものや楽しいのが多いから。折角だから、パパにいっぱい甘えたらいいよ」

「はい!」

 

嬉しそうに笑うユーから視線を上げると突き刺さる4人からの視線にあたしはたじろぐ。

 

「いいわね〜。夏祭りに恋人と行ける人は。あたし達なんて行く相手がいないわよ。ねぇ、リーファ?」

「そうですね。………本当はあたしもカナタさんも行きたかったな」

「私もカナタ様と行きたいです、夏祭り」

「………」

 

なんか胸にグサグサ、ナニカが突き刺さる。すごく胃が痛い。

あと、シーの無言が一番心に痛い?!目も若干据わっているように思えるし……本当、後でしっかりフォローしよ。

 

しかし、夏祭りは恋人同士ではないと訪れられないとは記載されてなかったような……

 

「そんなに行きたいなら、4人で行けばいいんじゃーーーー」

「ーーーーはぁ……あんたって馬鹿で鈍感な上に人の話をほんと聞かないわね。あたし達のセリフのどこを聞いたら、そんな言葉が出てくるのよ」

 

何故か責められた。

あと、馬鹿で鈍感は失礼だろ!!

 

頬を膨らませるあたしをチラッと見たリトは小さく嘆息をつくと揶揄うように言葉を投げかけてくる。

 

「まー、いいわ。それよりもシノンとの久しぶりのデートなんでしょ、楽しんできなさいよ」

「久しぶりって事は………いや、あるか」

 

揶揄うように言われたので、思わず売り言葉に買い言葉をしそうになったが、改めて考えてみるとリトの言う通りで久しぶりだったかもしれない。

シノはシノでアッスー達とクエストやレベルアップに取り組んでいたし、あたしはあたしでキリ達と最新のクエストや層の攻略に力を入れていたので……部屋で話す事はあったけど、ゆっくりデートを行う時間は作れなかったように思える。

 

「シノのん、カナちゃんとのデートが楽しみにしているみたいだったから」

「楽しみに?そうかな?」

 

シノパンチを食らった後から数日は至って普通なシノだったように思えるが……しかし、アッスーがそういうのならばそうなのだろう。

 

「そうだよ。だから、カナちゃんは今日一日、シノのんの我儘をしっかり聞いて、エスコートしてあげる事」

「はい、わかりました。アスナ先生」

「うん、よろしい」

 

その後、ひとしきり笑った後にあたしはアスナ達と共に朝ご飯を一緒に取り、彼女達にお礼を言ってから後にした。

その後、自分の部屋に戻ってから用意してもらった衣装へと着替える。そして、姿見に映る自分を見つめた後に眉を八の字にする。

 

「うわー、なんというか……こういうのも似合ってしまう自分が怖い」

 

何を言ってるのか、自分でも分からなくなりながらもそろそろ待ち合わせの時間になりかけているのに気づき、自室から飛び出して、待ち合わせの場所へと急ぐ。

 

 

≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠

 

 

待ち合わせの場所には既にシノが到着しており、あたしは振り返るシノの浴衣姿に息を呑みながらも駆け寄る。

 

「シノ、とっても似合ってるね」

 

やっと口にしたあたしの蒼い瞳に映るのは、漆黒の生地に橙と水色の大輪の花が模様があしらわれている浴衣で帯は純白色。

キュッと閉まっている帯の上に乗っかるように膨らんでいる双乳、襟首から覗く後ろの髪の毛を結っている白い首筋と相まって、普段の彼女とは違う妙な色気があり、あたしはただ呆然と彼女を見つめる。

その視線に不安になったのか、シノが整った眉を細めながら、浴衣の袖を握りながら、身を捩る。

 

「そうかしら?派手じゃない?」

「心配する事ないよ。何度でも言うけど、とっても似合ってる。でも、似合いすぎてて、変な虫が寄ってこないか、不安だからしっかり手を繋ごうね」

 

そう言って、左手を差し出すあたしへと自分の右手を添えながら、シノがボソッと何かを呟く。

 

「……………そんなに心配しなくても、私は貴女しか見てないから。他の人に言い寄られても無視するわよ、バカヒナタ」

 

あまりにも小さな声に耳に届く前に掻き消され、あたしはシノを見つめながら尋ねる。

 

「へ?なんか言った?」

「なんでもないわ、鈍感カナタ」

 

鈍感って酷くないか、鈍感って。ってか、なぜ今鈍感?

リト言われたが、あたしの何が鈍感なのだろうか……?

 

首を傾げるあたしの服装を上から下まで見たシノがそう言ってくるのを聞き、あたしも自分の服装を改めて見ながら苦笑する。

 

「そういうヒナタは随分とちゃんとしているのね」

「んー?あー、あたしはこういうのに疎いし、裁縫スキルは上げてないから、アッスーに頼んだけど、何故かこうなっちゃったんだよね…」

 

そう、あたしの今の服装は簡単にいうと書生さんなのだ。

オレンジ色の襟なしのカッターシャツを下に着用し、その上に真っ黒い長着を着込み、その下は灰色の袴という出立ちなのだが、本当なんでこうなってしまったのだろうか。

 

"そういえば、頼みに行った時にアッスーの他にも居たよな…"

 

恐らく、作っていく中でその時に開かれたのであろう女子会で出たアイデアを詰め込んだんだろうな……。

 

"フィリアとかレインとかユウキもあの場には居たし…"

 

4人で和気藹々(わきあいあい)と意見を言っている姿を思い浮かべながら、あたしの姿を見たままで固まっているシノへとポーズを決めて、感想をもらう。

 

「どう?似合ってる?」

 

ニヤリと笑いながら、そう聞くとシノは暫し再度あたしを上から下まで見た後に沈黙し、ボソッとそっぽを向きながら答える。

 

「ええ。似合ってると思うわよ」

 

あっけらかんと言って、会場に歩いていこうとするシノの耳が赤く染まっているのを見て、どうやら気に入ってもらっているようだと安心しながら早足で出店に行こうとするシノの横に並ぶ。

 

二人してとばとばと歩いていると提灯の灯りが左右に灯り始める。

 

赤提灯から漏れ出る淡い光があたしとシノを照らし、薄っすらと土の道を照らす姿は幻想的で、夏祭り特有の非日常感に胸が無意識に高鳴るのに気づく。

 

繋いでいる手をより強く握り締め、シノの歩幅に合わせながら、幻想的な提灯の間をとぼとばと歩いていく。

 

すると、暗かった道の先から淡い光と祭囃子が聞こえ始め、光に近づくにつれ、NPC達の活気づいた呼び込む声が聞こえてくる。

 

「プレイヤー多いね」

 

夏祭り専用のフィールドに着いた最初のあたしの感想はそれだった。

行き交う人々の殆んどはNPCかと思いきや、よくよく見ると攻略戦で知り合った人達やアークソフィアの街中ですれ違ったプレイヤー達が思い思いの浴衣を着込み、出店で買ったのであろうイカ焼きやたこ焼きのような物を頬張っている。

 

「そうね」

 

そう言いながら、既にどの出店から回ろうかとキョロキョロしているシノの手を引き、すぐ近くに聳え立つ綿あめの出店に並んだあたしは困惑している様子のシノへと笑いかける。

 

「折角だから全部回ってみようよ」

「でも」

「いいからいいから。あたしに任せなさい」

 

もともと、この夏祭りでのデートにかかる出費は全部あたしが出そうと思っていたし……キリではないが、あたしも夏祭りの出店に出ているものが現実のものに近いのか、とても気になる。

それに舌を唸らすものがあるならば、今度折角上げている料理スキルの訓練の為に味の再現をしてみてもいいかもしれない。あたしには一から醤油等を自分の舌だけで再現した頼れる料理の先生が居るのだから。

それにキリ達とつるんで、76層やそれ以降のクエストを軒並みクリアし、最新のクエストが更新されれば、そこに足を運んでクリアしたり、最前線で層攻略したりと……常に動き回り、モンスターを狩っている戦闘狂なあたしは無駄にコルがあるのだ。

コルというのは、この世界の通貨で端的にいうとお金である。コルを稼ぐには戦闘フィールドに現れるモンスターを倒す。その他にはクエストを行ったり、生業をするかである。あたし達の仲間で言うと、リト等がその生業に当てはまるだろう。

で、あたしはその中でもフィールドでモンスターを倒す。クエストを行うというのを仲間が呆れるほどに行なっている。

故に、コルが無駄にあるのだ。なので、その無駄にあるコルをこんな風に使うのもアリだと思うのだ。

シノには普段からお世話になっているし、きっとあたしが気づかないだけで寂しい思いをさせてしまっているのように思えるから。

 

「貴女がそこまでいうならお任せするわ」

「あんがとね、シノ」

 

呆れたような顔でそう言いながら、嬉しそうに口角を僅かに上げながら、繋いでいる手へと身を寄せてくるシノと共に綿あめを受け取ったあたしは柔い雰囲気を漂わせているおじさんNPCに"2つ下さい"という意味でピースを作ると次の瞬間、ウィンドウへと綿あめが表示させる。

 

どうやら、この専用フィールドに配置されているNPC達はお客のジェスチャーでも汲み取れるように設定させているようだ。

通常のNPCならば、そのクエストになるように特定のセリフを言わなくては次の段階に進めなかったり、段取りを踏まないといけないのだが……こうもガヤガヤしていると声が聞こえないだろうし、何よりも店の人とジェスチャーでやり取りするっていうのがなんだか夏祭りっぽくて、あたしの口元が綻ぶ。

 

そんな事を考えながら、ウィンドウをタップし、現れた綿あめの一つをシノへと渡し、もう一方へと視線を向ける。

淡くピンクに色づいたふわふわの細く伸びた飴の繊維を巻きつけている割り箸の質感、綿あめのふわふわ感、顔を近づけると漂ってくる甘ったるい香りまでも現実そのものであたしは大きな口を開けるとふわふわの天辺にかぶりつこうとその瞬間ーーーー

 

「はい、ヒナタ」

「へ?」

 

ーーーー真横から差し出される綿あめをマジマジと見つめ、きょとんとするあたしを見て、呆れたようにシノが言う。

 

「貴女が言ったんでしょう?ここにある出店を全部回るって。ここから見てもまだ何十軒もあるみたいだし、その(たび)に二人で食べていたらすぐにお腹いっぱいになるでしょう?」

 

"そういわれてみれば、それもそうか"

 

シノがいう通り、あたしの目から見てもずらっと並んでいる出店は何十軒もあるし……先が見えないところを見るともしかすると何百軒にも及ぶのかもしれない。

その中には金魚すくいや射的、宝探しなど食べ物関係ではないものもあるかもしれないが……それは少数派の方だ。つまり、多数は食べ物関係であるということ。

アバターの体型は変わらないとはいえ、空腹感も満腹感もあるのが、このソードアート・オンラインというデスゲーム。

 

"無限に食べられるわけではないというわけか"

 

シノもだが、あたしも食が細いというわけではないが、あまり食べる方ではない。

つまり、この数の出店を全部(しょく)すには二人で一つの物をシェアするのが丁度いい量なのかもしれない。

 

あたしは口に含みそうになった綿あめをウィンドウへと入れようと試みるとすんなり入り、あたしは驚く。

 

"ここで買った食べ物、ストレージに入るんだ…"

 

だが、《綿あめ》と表記させた欄の下にある賞味期限は普段のものよりも短く。この夏祭りフィールド限定感が一気に増す。

 

「食べないの?」

 

横から差し出されている綿あめをチラッと見て、少し不安そうな声で尋ねてくるシノに一旦考え事を脇に置き、あたしの方に傾けてくれているピンクに染まる雲へとかぶりつく。

 

「食べるよ」

「じゃあ、あ〜ん」

「ん〜〜ーーッ!?」

 

パクッと口に含んだ瞬間、口内の熱で解けていく飴の繊維が舌に触れた瞬間、ダイレクトに脳へと伝わってくるのが甘味で、次に浮かんでくるのは懐かしさであった。

子供の頃に父に連れて行ってもらい、食べさせてもらった綿あめ、あの時の味そのものであった。

 

「美味しい?」

「ん!ん!」

 

目をキラキラさせながら、何度もうなづくあたしにシノはクスっと笑ってから小さく口を開いて、はむと綿あめを咥え込むと一瞬で顔が(ほころ)ぶ。

 

「…美味しい。綿あめ、そのものだわ」

「だよね!口に広がる甘みとかまんまでびっくりしちゃった」

 

そう言いながら、ガブっと大量の綿あめを胃袋に納めていくあたしを見て、シノは呆れたような顔を浮かべる。

 

「そんな食い気張らなくても、ほとんどヒナタが食べるといいわ」

「え?でも、シノも美味しいって言ってたじゃん。食べなよ」

「そんな事言いながら、もう半分以上の綿あめを食べてしまったのはどこの誰でしょうね?」

 

痛いところを突かれ、押し黙るあたしを見て、クスクスと笑うシノは繋いでいる手を引っ張ると次の出店へと歩いていくのだった。

 

その後、あたし達は右の列から向かいの左の列へと行き、その横に並び、向かいへと向かうという動作を繰り返しながら、夏祭りという独特の空気感を、出店で売られている催し物の懐かしさに触れながら、少しノスタルジーになりながらも楽しんでいた。

 

「子供の頃に訪れた夏祭りもこんな感じだったわよね」

 

あと少しになった出店を見つめながら、感傷に浸るシノが食べようと左掌に持った舟器の上に乗っかっている円球状の物を右手に持っている爪楊枝で刺して、口に運ぼうとしているのを横からパクリと奪い、途端シノに行った意地悪を責めるかの如く、口内に広がる熱さに忽ち涙目になり、パクパクと口の中に空気を取り込むあたしにシノは形の良い眉を顰めると心底呆れたとばかりに小さく嘆息する。

 

「はふはふ……ふ〜〜ぅ……ふ〜〜ぅ……」

「もう、さっきのたこ焼きさんでも同じ事してたじゃない」

 

呆れ顔をしているシノは自分が持っている舟器へと視線を落とす。

大きめな焦げ茶色の瞳に映っているのは、天然の木で作られているベージュ色の舟器の上で美味しそうな湯気を立てている円球。その円球の表面は薄橙、鮮やかな黄緑、目を引く赤があり、上部にはドロっとした濃い焦げ茶色が付いており、その上には細い薄橙が湯気に合わせて踊っており、美味しそうな緑色がパラパラと彩りを添えている。

つまり、あたし達はたこ焼きを食べていた。

 

この夏祭りに出されているたこ焼きは見た目も味もあたしが現実に食べた事のあるものであった。

 

口に含み、舌に触れた瞬間に拡がるのは熱さだけではない。

まず、上部にはけでたっぷりと塗られたソースの強いパンチの効いた味、かつおぶしや青のりの味が舌に広がり、その次に食欲をそそる焼き目がついた生地、本来の味が伝わってくるのだ。赤しょうがの酸っぱい味、鰹節で味付けされている生地へと噛みついた時にどろりと口内に流れる生地にまたしても熱さで苦しめられながらもやはり求めてしまうのは、ソースと鰹節風味の生地が織りなす黄金比が素晴らしすぎるからだろう。

 

"まさか、ここまで完成されたたこ焼きが食べられるなんて……"

 

きっとこのフィールドに居るであろう黒を好む相棒へと想いを馳せながら、あたしは心の中で彼とハイタッチしていた。

 

そんなあたしをチラッと見ながら、シノは残っているたこ焼きを爪楊枝で刺して、持ち上げると「ふぅ……ふぅ……」と息を吹きかけ、よく冷ましてからあたしへと差し出す。

 

「でも、最後の一個」

「私は今回の夏祭りでヒナタから沢山のものを貰ったからいいのっ。いいから、早く口を開けなさい」

 

そう言いながら、半ば強引にあたしの口へと最後のたこ焼きを放り込んだシノは申し訳なさそうな顔をしながらたこ焼きをもぐもぐしているあたしを見上げながら、くすくすと笑う。

 

「貴女って本当不思議な人よね。私が食べようとしたら、横から奪って食べたくせに。私があげたものは申し訳なそうに食べるのだもの」

「ほお?」

「ちゃんと口の中にあるものを飲み込んでから喋る事」

 

そう言いながら、歩いているとシノが持っていた舟器がパリンと小さな音を立てて、淡い色のポリゴン片になり、宙へと舞うのを見届けたシノはあたしへと何か言いかけた瞬間、その言葉に被せるようにアナウンスが流れる。

 

『夏祭り専用のフィールドにお集まりのプレイヤーの皆様、もうすぐ花火が打ち上がります。追加された小山フィールドへとお集まりください。繰り返します。夏祭り専用のフィールドにおあーーーー』

 

"ほう、花火とはまた風流な"

 

夏祭りといえば、やはり屋台。そして、夜空に打ち上がる花火がまず思い浮かぶであろう。

 

「花火?」

「打ち上がるみたいだね、見てく?」

 

眉を顰めるシノへと問いかけると彼女は暫く逡巡した後にコクリと首を縦に振る。

そんな彼女と繋いでいる手を強く握りしめ、新たに追加されたという《小山》フィールドを探していると集まっていたプレイヤー達が一方向に向かって歩き出す。

どうやら、彼ら彼女らが向かっている方向に追加されたフィールドがあるみたいだ。

 

「シノ、あっちみたいだよ」

「そう」

 

"?"

 

そっぽを向き、素っ気なくそういう彼女は何かを隠しているように思える。

無意識に左脚の方へと視線を落としているし、先程から彼女の歩くスピードが遅くなっていっているように思える。

これはもしかしなくてもそうだろう。

 

「ヒナタ?」

「シノ」

 

突然、立ち止まるあたしに不思議そうな声をあげる彼女の足元へと跪き、下駄を履いている素足の指が赤くなっているのに気付く。

 

「はぁ……」

 

"夏祭りフィールドだからこういうところもリアルなんだろうけど、作り込みすぎだよね。にしても、ここまで赤くなるまであたしに言わないなんて……シノも困った人だよ"

 

今の中で色々と湧き上がってくる小言をため息で外へと吐き出したあたしは不思議そうなシノに自身の背中を向けると首だけ彼女の方へと向ける。

 

「気づかなくてごめんね、シノ。下駄で長距離歩いたもんね」

「いいえ、私の方こそごめんなさい。ヒナタがせっかく付き合ってくれたのに」

「そんな気にする事ないよ」

 

残念そうな顔で俯くシノの顔を見て、思い出すのはアスナの言葉である。

『カナちゃんは今日一日、シノのんの我儘をしっかり聞いて、エスコートしてあげる事』とアスナ先生からありがたいお言葉を授かったのだ。これを生かざるして、このデートが成功とはいえまい。

 

あたしの背中に乗るのに躊躇しているシノは花火は見たいと思っているが、あたしに迷惑かけてまで見るのはどうかと考えているのだろう。

ならば、ここはあたしがその想いを言葉として引き出すべき役割を引き受けるべきであろう。

 

「シノ」

「なに?」

 

顔だけではなく、彼女の方へと身体ごと向いてから自分の中で穏やかだと思っている声音で彼女へと語りかける。

 

「シノはさ。あたしにおんぶされて、花火を見るのが自分の我儘だって思っているかもしれないけど、それは大きな間違いだよ」

「……え?」

 

目を丸くする彼女に向かって、ニコッと笑ってから言葉を続ける。

 

「あたしが君と、シノと見たいんだよ、花火。だから、これは君の我儘じゃなくてあたしの我儘。

だから、付き合ってもらうよ、強引にでも」

 

そう言いながら、何か言いたそうなシノへと近づいてからお姫様抱っこをするとそのまま歩き出す。

 

「ちょっ、ヒナタ!」

 

人混みとすれ違う度にプレイヤーからの視線を感じ、シノは羞恥心で顔を真っ赤してから構わずに坂道を歩き続けるあたしの襟首をクイクイと引っ張り、止まるように促す。その促している姿が余りにも可愛くて、じっーと見ていると理性が崩壊しそうだったのであたしは彼女から視線を逸らすと構わずに人々が歩いていっている方向へと暫く緩い坂道を歩いていると次の瞬間、森から抜け………目の前に広がるのは、赤提灯から溢れる淡い光が織りなす幻想的な夜景が一望できる場所にぽつんと木製のベンチが置かれており、あたしはそのベンチへとゆっくりシノを座らせてあげながら、周りを見渡す。

 

"見る限りじゃあ、あたしとシノだけがここに居るみたい"

 

つまり、小山の森に入った小道を上がっている途中で個別に用意されたこのフィールドへと案内されるまたは転送させるって感じだろうか。

などと考え事をしているあたしの癖っ毛の多い焦げ茶色の髪へと利き手を置いたシノはなでりなでりと撫でながら、お礼を言う。

 

「ヒナタ、今日は私の我儘聞いてくれてありがとう」

「ーーーー」

 

にっこりと笑いながら、そうお礼を言う彼女があまりもいじらしくて可愛らしくて、あたしは最後の理性の壁が音を出てて崩れていくのを感じながら、自分を見つめる焦げ茶色の瞳をまっすぐ見つめながら、彼女の頬へと左手を添える。

 

「シノ」

「なに?」

 

自分の方を向く彼女の頬へと利き手を添え、僅かに開いている小ぶりの唇に向かって自分の唇を近づけていく。

あたしの行動に一瞬驚いたように動きを止めたシノだが、唇が近づくにつれ、ゆっくりと瞼を閉じ、押し付けられる唇を迎え入れてくれる。

 

「んっ……」

 

くぐもった声がぶるんと潤った唇の隙間から聞こえ、耳朶に届いた瞬間、あたしの理性はもう跡形も無く忘却の彼方へと消え去っていた。

空いた手は背もたれに置き、頬に添えていた掌を後頭部へと添えたあたしは一旦唇を外した後はシノの唇に吸い付くように自分の唇を押し付ける。

自分の唇から伝わってくるぷるっと潤った小ぶりの唇の感触は柔らかく、何十分でも触れ合っていたいと思わせたが……そんなに肺活量があるわけもなく、あたしは数十秒唇を触れさせたら離すを何度か繰り返し、広がってきた唇の隙間へと舌を捻じ込む。

 

「んっ!?」

 

舌を挿入した瞬間、ピクッと肩を震わせてから顔を背けようとするシノへとより一層密着したあたしは逃げようとする彼女の舌へと自分のを重ね合わせる。

互いの唾液が混ざり合い、ぐちゃりとやらしい水音が結合部から流れ出してはあたしをディープキスという行為に没頭させる。

 

「んぁっ……ぁっ……」

 

重なり合った唇の隙間からくぐもった甘い声が漏れ出て、あたしの耳朶に届く度に此処にはシノとあたしの二人しか居ないのだと思い知らさせる。

耳を澄ませれば、ガヤガヤとした喧騒が聞こえているがそれはほんの僅かで、結合部から漏れ出るやらしい水音等で掻き消されているあたしからしてみるとあってないようなものに思えた。

強引に舌を絡まるあたしに抵抗していたシノがゆっくりと抵抗する力を抜き、徐々に自分からも動いてくれるのを感じながら、あたし達はただただ目の前の存在から伝わってくる感触、ぬくもりに求め、強く互いを抱き寄せては、ディープキスに没頭していた。

 

「んっぁ……」

 

苦しくなった一旦外して、またくっつけるを飽きる事なく繰り返すあたしがより一層のめり込んでいく度に受け入れているシノがキュッと長着を握りしめた瞬間、ヒュルルル〜ドンッ!!と大地を震わせる爆音が聞こえ、閉じていた瞳を開けたシノが手を突っ張るが、中途半端で止められる程にあたしの理性が残っているわけもなく、角度を変えながらもディープキスを繰り返し、動かなくなったシノの舌を上に下にと絡めたあたしが満足したように唇を外した頃には夜空には色とりどりの花火が咲き誇っており、あたしはやらかしてしまったと冷や汗を流す。

 

そして、覚悟を決めて、真正面を見るのとそこには不機嫌そうな恋人殿の顔があり、あたしはしょんぼりとする。

 

「……ちょっと。最初の花火、見れなかったんだけど」

「ご、ごめん……」

 

唇を外した瞬間、小言を言われ、あたしは肩を落とすがクスッと笑うシノがチュッと再度キスをしてくれ、トントンと隣に座るようにベンチを叩くのを見て、あたしがそっと座ると左手へと右手を重ねる。

 

「来年もまた夏祭りに来ようね」

「来年と言わずに夏祭りが行われるたびに二人でいきましょう」

 

それは毎年、シノがあたしの隣にいてくれると言う事だろうか。

それはとても魅力的な事だと思った。

だが、それと同時にこの人を必ず現実の世界に帰さないといけないと言う使命感が胸に溢れてくる。

 

隣で打ち上がる花火を見つめる彼女の横顔を盗み見ながら、あたしは胸に溢れてくる暖かい気持ちが漏れ出ないように胸へと自分の掌を添えると繋いでいる手をより強く握りしめ、最後まで花火を見終わったあたしはシノと共に宿屋に戻ったのだった。




というわけで、今年のシノンちゃんの誕生日エピソード、それにてお終いです。
本当は後日談としてR指定の方も書こうと思ったのですが……時間的に間に合いませんでした。
ですが、この話の後日談であるR指定は書き上げたいと思っておりますので……後々お知らせさせていただきます。


さて、ここからは雑談なのですが………遂に来年、2022年にSAO事件があった年を迎えるのですね。
まさか、そんな貴重な年月日に立ちあげるとは……感無量というか……言葉が出てこないくらい感動してます!!!!

今年の10月30日に劇場版『プログレッシブ 星なき夜のアリア』が公開なされますし……ますます、勢いを増していくSAOをこれからも全力で応援したいと思います!!!!



最後の最後までグダグダで申し訳ありません。ここまで読んでいただきありがとうございます(深々とお辞儀)

くどいかもだけど、シノンちゃんハッピーバースデー!!
君が生まれてくれたこの日に感謝を。
そして、来年も君の誕生日をお祝いさせて欲しいです。


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ちっちゃな約束(カナタ誕生日2021)

ここまで連続投稿を読んでくださってありがとうございます(深々とお辞儀)

この話で本作の総話数が190となりました。

キリのいいところまで更新できた事と本作の主人公・カナタの誕生日を無事お祝いできた事を嬉しく思います。

それでは、本編をどうぞ(リンク・スタート)


【セントラルカセドラル】

 

人界三八〇年十月十日。

 

アリス・シンセシス・サーティは稽古の時間をサボり、またいつものように何処かへと姿を眩ませた癖っ毛の多い栗色の相棒を探し回っていた。

 

(もしかして、ここかと思いましたが……違うのですね。ということはーーーー)

 

ーーーーアリスは九十五階《暁星の望楼》へと続く螺旋階段を登っていく。

 

カッカッカッと磨き抜かれた金色のブーツが石畳で出来た階段を彼女の生真面目な性格が露わになっているかのような足取りで登っていく。

背筋をスッと伸ばし、規則正しく太ももを上げる高さもきっちりと揃えたアリスが最後の一段を登り終えた瞬間、目的の人物を見つけ出すことができた。

 

四方の壁をとっぱらって見通しのよくなった部屋の北にその人物はいた。

そよ風に髪の毛を遊ばせ、後ろにいる柱へと背中を預けながら、目下に広がる街を見つめるその眼差しは前髪がかかっているせいか、何を考えているのか全く読み取れない。

 

「カナタ、こんな所に居たのですか」

 

アリスの声に振り返った女性の名前はカナタ・シンセシス・サーティワン。

振り返った際に癖っ毛が多い栗色の髪が目に入りそうになるのを左指で耳にかけた彼女の首の後ろで小さく一纏めにした房が波打つ。目下に広がっている北側の街…そこに建っている修剣学院を見下ろしていた視線がまっすぐ自分へと注がれるのを感じながら、アリスが腕を組んでみせると彼女は苦笑いを浮かべながら、気だるそうに壁へと全体重を預けながら、左手をあげる。その仕草で彼女が着用している橙を基調とした着物が風にはためく。

 

「や、アリ」

 

左手をあげるカナタに歩み寄るアリスの蒼いマントと共に風が吹くたびにパタパタと栗色の癖っ毛が小波を立てる。襟首の後ろに短く結んでいる小さな房が左肩に垂れ、どこかアニュイな雰囲気を感じる蒼の双眸が近寄ってくるアリスを視線に収めた瞬間、本来の彼女を思わせる飄々としながらもどこか掴みづらい色が表に出てくる。

 

「今日もいい天気だね」

「そうですね。隣いいですか?」

「どぞどぞ、狭い所ですが」

 

ポンポンと自分の前を叩くカナタの行動にアリスがボソリとつっこむ。

 

「この場所は貴女の所有物では無いでしょう……。ここはカンセドルに住んでいる者、皆のものです」

 

呆れた声で嗜めると「あはは、これは失敬失敬」と反省の色が見えない笑顔を浮かべたかと思うとすぐに表情が読み取れない顔へと変わっていく。

 

「––––」

 

軽く伏せられた瞳が目下へと向かうのを横目で見ながら、アリスは胸が騒めくのを感じた。

 

「……」

 

ズキズキと何か見えない手で心の臓を掴まれているような……じっとりと嫌な汗にしめる背中も頭の中から離れない漠然とした直感のようなものがカナタの横顔を見ていると訴えかけてくる。

 

今ここで手を伸ばし、彼女を引き止めて居ないとーーーー

 

彼女が何処か知らぬ場所へといってしまう、と。

 

「––––」

 

故にアリスは無意識のうちに目の前にあるカナタの橙の裾をギュッと人差し指と親指で軽く摘むのであった。

 

摘まれたカナタは暫く鳩が豆鉄砲を食らったかのような…素っ頓狂な顔をしていたが、そっと左腕を上へと持ち上げる。

 

「……あ、アリス様?この手はなんなんです?」

 

そう言って袖の端を人差し指、親指を摘んでいる自分の利き手を持ち上げられ、顔を真っ赤にするアリスが自分から気まずそうに顔を逸らすのを見て、カナタも同じように気まずそうに頬を掻く。

 

「い、いいえ……その……」

「その……?」

「変だと思うかもしれませんが、ただこうしてないと……なんだか、貴女がどこか遠い場所に行ってしまうような気がして……」

「あははっ、何言ってんの。あたしがアリの隣から居なくなるわけないじゃん」

 

あっけらかんと笑いながら、歯の浮くようなセリフを難なく言ってのける彼女の声とは裏腹に細まる目からは真意が感じ取れない。

 

だから、不安になったアリスは自分でもどうかしていると思ってしまうせりふを言ってのける。

 

「……なら、今度は貴女から手を握ってください」

「……はい?」

「聞こえなかったのですか?あ、貴女から私の手を握ってほしいと言ったのです」

 

そう言って、手を差し出すアリスに鳩が豆を食らったカナタは驚きのあまりか、とんでもないことを言ってのける。

 

「お……ぉ……いきなりのデレリス様ですか?」

「一発殴って差し上げましょうか?」

「いいえいいえ。けっこーです!けっこーでございます!喜んで手握らせていただきます、アリス様」

 

そう言って、ギュッと手を握りしめるカナタの手から伝わるぬくもりが純金製の籠手から伝わってきて、アリスは自分からして欲しいと言った手前、やめて欲しいと言えずに微妙な沈黙が続く。

 

「手を握るのってなんか思ったよりも照れるね」

 

そう言って照れ笑いするカナタから視線を逸らしたアリスはボソッと呟く。

 

「手を握るくらいで照れるなんて、カナタも可愛いところがあるのですね」

「ほう?そういうアリス様は何故その言葉をこっちを見ていってくださらないでしょうね?」

 

顔を逸らすアリスの頬を人差し指でツンツンするカナタの指先をペチンッと叩いたアリスの反撃を「痛い!!!」と大袈裟なオーバーリアクションを取るカナタの左手首には橙の紐を三つ編みにしているもの…ミサンガが揺れている。

 

「そのミサンガ、まだ大事にしているのですね」

「そうだね…。…………まだ、あの二人が……約束が……果たせてないからね…」

「カナタ?」

「ううん、なんでもないよ。そうだね、あたしにとってこのミサンガはとても大事なものなんだ。それに前にも言ったでしょ。このミサンガにはアリとあたしの大切な約束が詰まってるって」

 

そう言いながら、左手に結ばれているミサンガを持ち上げたカナタはニコッと笑う。

 

「だから、その約束が果たされるまではこれは切れないよ。絶対にね」

 

そこで言葉を切ったカナタの視線が自分の右手…もっと詳しくいうと右手首に注がれるのを感じたアリスもその視線を追ってみるとそこにはカナタのミサンガと色違いのものが結ばれている。

 

「そういうアリもミサンガ大事にしてるんでしょ」

「ええ、まぁ」

 

そう答えたアリスにとってこのミサンガは苦い気持ちになるものであった。

昔、カナタから貰ったというのは、薄っすらと覚えているのだが……それ以外の事は鮮明に思い出せない。

昔とはどれほど前の事だったのか、そもそもこのミサンガを貰ったのが整合騎士となった後か、それとも天界に居る時だったのか……何もかもが思い出せない。

まるで最初からその約束がなかったかのように……その部分だけを乱暴に型抜きで取り除いたかのように、ぽっかりとそこだけが空白なのだ。

カナタには鮮明に見えているであろう風景がアリスには白い絵の具で塗りつぶしたかのように……どこまでいっても真っ白の色のない世界で。

彼女と同じものが見たいと願っても、それはもう届かない願いなのだろうと薄々と気付いてしまう。

 

「……」

 

アリスはミサンガから視線を逸らすと目を伏せる。

カナタが大事だと言っている約束を思い出せない自分が憐れに思えて……アリスは少し眉を顰めると僅かに感じる違和感に胸の奥がギシギシと痛みをおびはじめ、嫌な考えに苛まれる。

 

ここまでカナタが言っている大切な約束を思い出せない私は別人なのではないか?偽物なのではないか?

カナタと約束を交わした自分の方が本物……本当の私なのではないか?

 

"それなら……今この心体(からだ)を動かしている私は一体誰なのでーーーー"

 

「ーーーー心配ないよ、アリ」

「カナタ?」

「君は覚えてないかもしれないけど、あたしがその約束を覚えている。その代わり、君はあたしの知らない事を覚えてくれている。……だから、今はそれで良いんだよ」

 

静かなトーンで言いながら、アリスの掌へと自分のを添えたカナタはアリスを覗き込むように身体を前のめりにする。

 

「それに思い出せないって事は案外大事じゃない約束かもしれないじゃん?」

 

ニカッとそう言ってのけたカナタに元気付けられ、お礼を言いそうになったアリスは開きかけた口を一回つぶる。いつものような口調でカナタを戒める。

 

「つまり、貴女が私との稽古を忘れて、色んなところに行ってしまう放浪癖は私との約束をそこまで大事に思ってないという証拠なのですね」

「……ぅ」

 

アリスからの思わぬ反撃を食らってしまい、カナタの喉からグゥと変な音が鳴り、冷や汗がうっすらと流れはじめたカナタは下手くそな口笛を吹きながら立ち上がる。

 

「それじゃあ、アリス様が折角呼びに来てくださったので、いつもの訓練をしましょうか」

 

そう言ったカナタは座っているアリスへと振り向くと掌を差し出す。

 

「アリ、行こ?」

 

差し伸べられた掌へと自分の掌を添える。

 

「ええ、行きましょう」

 

カナタに立ち上がらせてもらったアリスは自分を引っ張る橙の背中を見つめながら、彼女が見ていた風景をもう一度振り返ってみる。

 

そこには何にも変わらない街並みがあって……

 

アリスはそよ風により乱れた髪を耳へとかけながら、下の階に向かって歩いていくカナタの後ろ姿へと続く。

 

アリスがさっきまで見ていた視線の先にあるのは、円型の上級修剣士寮で……そこから亜麻色の短い髪と水色の上級修剣士の制服、漆黒の短い髪と黒色の上級修剣士の制服を揺らしている二人の男子生徒が現れ、じゃれあう二人の手首にも色違いのミサンガが揺れている事をアリスは知らない。




という事でいかがだったでしょうか?

今回の世界線は今は何処とは今は言えませんが……後々、どうしてこうなってしまったかはいつかの話にてご説明出来ればと思っております。

それでは、次の更新にてお会い致しましょう。



最後に、陽菜荼、お誕生日おめでとう!!!!!!!


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行事ーeventー
【クリスマス・2017年記念】ニコラスの再来 前編


読者の皆様、メリークリスマス、ですm(_ _)m

今年も大好きなアニメに囲まれた幸せなクリスマスを過ごせそうです(笑)

さて、今回はヒナタ達のクリスマスを描きたいと思います。
前編、後編と分かれておりまして…大変、申し訳ありませんが…後編はクリスマスが終わった26日が予定更新日となっております。

では、ヒナタ達がどんなクリスマスを過ごしているのか…?
少し覗いてみましょう(´∀`)


「んで、今日そのニコラスやらが出るって?」

 

あたしは今、イグドラシル・シティ大通りに看板を出す【リズベット武具店】へと来ていた。

あたしの隣にはこの武具店の店主・リズベットことリトが腰掛け、その向かいには 水妖精族(ウンディーネ)のアスナことアッスーがおり、その隣にはピクピクとふさふさの三角耳を動かしている猫妖精族(ケットシー)のシリカことシーがいる。

着々、開かれるこの女子会の参加者はここにいる四人を含めて、約11名…我らパーティは男女比率でいうと、ダントツ的に女子の比率が高い。

故に、時折…こうしてみんなで集まっては女子会を開いている。

 

そんな女子会の一幕であたしは気になったワードを横に座るリズベットへと尋ねる。

 

「そうそう、今日って12月24日でしょう?」

「夜の24時っていうかなり遅い時間帯にあるんだけど…キリトくんがいうには、一人で挑むにはかなり強いらしいから」

「へぇ〜、そんなに強いんだ、そいつ」

 

そう呟いて、目の前にいる紅茶を一口含んだあたしへとアスナが笑いかける。

 

「うん、当時のキリトくんが初めてHPの赤いゾーンまで行ったらしいから」

「そういう事なら、みんなでそのクリスマスイベントをしてみたらどうかって…キリトさんと話になって」

「クリスマスまでみんなでゲームってのもいいかもね。クラさんとか特に寂しそうだし」

「カナタさん、流石にそれは言い過ぎですよ」

「だって、事実でしょう?職場が同じだからって、事あるごとに突っかかってきて…あたしも疲れてるんだよ…」

「「「あぁ…」」」

「まぁ、どんまいよ、カナタ」

 

リズベットのその一言で終わりを迎えたこの女子会は、それぞれ担当に指名された人へとコンタクトを取っていた…。

『今日、一緒にクリスマスイベントを攻略しないか?』とーー

 

 

 

【背教者ニコラス】

それが今回挑むことになったクリスマスイベントのボスの名前らしい。

既に、そのボスを攻略済みのキリトとこキリ曰く…あのサンタクロースを醜悪したような容姿で、その姿に似合った強さだったそう。

ますます、そのニコラスとやらと対峙したくなった…といってしまったら、いよいよあたしも末期のゲーマーなのだなと実感させられる。

 

自分よりも強いボスを自分が出せる知恵と能力で打破するというのは…ゲーマーのあたしからしてみれば快感とも言える感覚であった。

それに友も加われば…更に楽しいという気持ちも加わる。

 

さて、話は戻るが…そのニコラスやらが出現する12月24日となっている。

もっと言うと、このニコラスやらは実装された頃からこの日になると出現していたそうだ。

だがしかし、なぜあたし達はそのニコラスに挑戦しなかったのか…?

 

その経緯は下の通りとなっている。

 

あたし達が遊んでいる次世代飛行型MMO《アルヴヘイム・オンライン》ーー通称・ALOへとアインクラッドが実装されて、早二年その中でより多くの出来事があり、その苦難を心しれた友ともに慌ただしく駆け抜けてきた。

その為、このようなイベントなどには不参加だったのだが…今年なんとか、こういったイベントに参加できるらしい。

だって、誘った全ての友が二言で「OK!」と返事してくれ、それが嬉しくもあるが…我がパーティはクリスマスイブというのに…リアルでは大切な人と過ごす事もなく、みんなでゲームと言うのがなんとも色んな意味で寂しくはあるのだが…まぁ、そう言うことは抜きにしても…みんなでどんちゃん騒ぎ出来るのは楽しい。

 

と言うのが、あたしこと香水陽菜荼が感じていることである。

 

「とか言って、本当はニコラスの財宝に目が眩んだんでしょう?」

「詩乃ぉ〜、そんなにべもないようなこと言わないでよ」

 

頬を膨らますあたしから視線をプイッと横にズラしたこのマンションの同居人かつ恋人の朝田詩乃から漂ってくる黒々したオーラにあたしは冷や汗をたらりと垂らす。

どうやら、今回のクリスマスイベント参加を勝手に決めてしまったのがお気に召さなかったらしい。

いつになく不機嫌オーラを醸し出す恋人へとあたしは身振り手振りで参加したかった理由を伝えるが、子供のように唇をとんがらした詩乃により真っ二つに切り落とされる。

 

「だって、事実じゃない。私がいない間にそんな事を勝手に決めるなんて。

…………今日だけは二人っきりで居たかったのに…」

「し、詩乃も喜んでくれるかなぁ〜って思ったんだよ…。最近、忙しくてさ…ALOを一緒に出来なかったでしょう?こういう時しかさ、ゆっくりプレイ出来ないしさ…それにさ、そのニコラスって奴めっちゃ強いんだって!それは攻略しなきゃって…燃えるじゃん!?」

「ほら、結局は陽菜荼の都合なんじゃない」

「だから違うって。あたしは純粋に詩乃と…」

「もういいわ。ほら、約束時間になるから…ALOにダイブしましょう?」

「…ん」

 

あたしは詩乃の隣に身体を滑り込ませると愛用していているアミュスフィアを装着し、チラッと横にいる詩乃を見るが…相変わらずに機嫌は斜めのご様子だった。

だって、いつもはこっちを見てくれるんだよ!?それがなんて事でしょう…あたしがいる方へと背中を向けた詩乃は小さくコマンドを口にする。

 

「…リンクスタート」

「…リンク、スタート…」

 

何故、詩乃が怒っているのか…?

理由も分からないまま、あたしはニコラス攻略へと性を出すことになった……




さて、攻略の開始直前から詩乃さんの機嫌を損ねてしまったヒナタですが…終わる頃には、二人は仲直りできているのでしょうか?

気になる後編は12月26日を予定しております、それまでどうかお待ちを…m(_ _)m


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【クリスマス・2017年記念】ニコラスの再来 後編

クリスマス記念の話、後編となります。

そして、恐らく…ニコラスさんは瞬殺になることでしょう…(苦笑)
誰の手によってかは…敢えて言いません(笑)

また、相変わらずの読みにくさなので…お気をつけください(笑)


指定された場所へと、少し…いいや、随分とご機嫌斜めな山猫系猫妖精族(ケットシー)ことシノンを引き連れて向かうと、もうそこには連絡をつけていた仲間達が既に揃っていた。

その中の一人、頭の先からつま先まで真っ黒な影妖精族(スプリガン)ことキリトへと左手を軽く上げる。あたしとシノンに気づいたのか、キリトと他のメンバーも口々に声を上げる。

 

「やぁ!キリ、みんなも攻略よろしく!」

「あぁ、カナタもよろしくな」

 

その場にいる全メンバーに挨拶を済ませたあたしは、キリトの案内によって…【背教者ニコラス】が出現するモミの木へと向かい、捻じくれった巨木の前でイベントボスが出現するまで、準備運動などを行なっていた。

 

 

さて、このクリスマスイベントのボス・背教者ニコラスが現れるまでに…今日、集まってくれたメンバーを紹介することにしよう。

 

まず、風妖精族(シルフ)をアバターにしているリーファとルクス。水妖精族(ウンディーネ)をアバターにしているアスナ。猫妖精族(ケットシー)をアバターにしているシノンとシリカ。影妖精族(スプリガン)をアバターにしているキリト。鍛冶妖精族(レプラコーン)をアバターにしているリズベットとレイン。

そして、音楽妖精族(プーカ)をアバターにしているあたしことカナタ、計8人での攻略となる。

本当は、他にも誘ったのだが…急用があるとやらで来れなくなってしまった。

まぁ、本来はその急用チームの方がいいのだが…、意外な人までもがその急用チームだったので…あたしはびっくりしている。その人の事をこんな風に思ってしまったら、また職場でちょっかいをかけられてしまうが…〈あの〉クラさんに急用があるとは、明日は大雪にならないものかと、心配になるあたしであった…

 

「ガァルルル」

 

そんなくだらない事を考えている間に、どうやらイベントボス・背教者ニコラスが現れたらしい。

真っ白な雪の結晶が舞う中、漆黒の夜空から奇妙な形をしたモンスターに引かれた巨大なソリが姿を現した。それが変な形のモミの木のてっぺんへとたどり着くと、そのソリから真っ黒な影がドッスンと大きな音を立てて、沢山の雪煙を上げて着地する。

雪煙が晴れた後、改めてそれを見ると…キリトが言っていた事が分かった気がした。

腕が異常に長く、前屈みの姿勢の為…もう既に先は地面へと付いていた。せり出たおでこの下は暗闇で、小さな赤い瞳がギロギロとその暗闇の中で光り輝く。頭の下半分からは捻れた灰色のひげが長く伸びていて、下腹部まで届いている。

そして、この日をイメージしたような服装ーー赤と白の上着に同色の三角帽子をかぶっていて、右手に武器となる斧。左手には財宝が眠ると呼ばれている大きな頭陀袋(ずだぶくろ)をぶら下げていた。

 

「おぉ…現れたらしいね」

 

キリト曰くサンタクロースを醜悪したようなデザインのニコラスへと「ヒュー」と口笛を吹いたあたしは腰から刀を取り出すとゆっくり構える。

そんなあたしをまず、ターゲットにすることに決めたのか…ニコラスがこっちを見てくる。その真っ赤な瞳を見つめて、ニンヤリと笑うあたしをなんのリアクションもなく…見つめてくるニコラスの威圧にあたしは冷や汗を流す。

 

「ーー」

「…?」

 

“なんだろ…そこはかかとなく、嫌な予感がするのだが…”

 

ジィーーーーーーーと穴があきそうなほどに見つめてくるニコラスから距離を通ろうと後ずさったあたしへと、やっとモーションを取るニコラス。

 

「ガァルルルっ!」

「うお!?なんか、あたしだけに突進してくるっ!?」

 

ポイポーイと両手に持っていた斧と頭陀袋を地面へと放り投げたニコラスは目の色を文字通り変えて、あたしへと突っ込んでくる。

その突っ込み具合とニコラス自体から漂ってくる怪しげな雰囲気に生理的な悪寒を感じたあたしは巨大な両腕からあの手この手を使って逃げまくる。

 

ニコラスから逃げるのに必死なあたしとは違い、離れたところから二人の鬼ごっこを傍観しているキリト達は悠長に話し合いを行なっていた。

 

「えっと…これはいったい、なんだんだ?」

「さぁ?何かしら。随分とカナタにご執心の様子だけど…」

「カナタさんにだけ向かっていってますね」

「カナちゃんが最初に攻撃したってわけじゃないものね」

「カナタ様の何が…ニコラスを惹きつけているのだろうか?」

「うーん、可愛いからってわけじゃないですよね」

 

一通り、案を出しても結論に達しなかったキリト達は自分達の周りを飛ぶ小妖精(ピクシー)へと視線を向ける。みんなの視線を感じたナビゲーションピクシーのユイが小さく頷くと、〈何故?ニコラスがカナタだけを追い回すのか?〉を調べ始めた。

数分後、調べ終わったユイがその小さな口を開く。

「調べてみた結果、あの背教者ニコラスはパパが挑んだ時から数段難易度が上がっているのと…色々な設定も追加されたようです」

「へぇ〜、どんなのだ?」

「まず、今まで参加したプレイヤーがニコラスを見ても良い反応を示さなかったためーーサンタクロースというのは、小さい子供に好かれる=小柄なプレイヤーを中心に狙うように設定されたらしいです。それでもウケなかったので、小柄かつ中性な顔立ち、もしくはイケメンなプレイヤーを狙うように設定されたようです。それからは設定が変わってないので、創作者が満足するような反応が見れたと思われます」

『ーー』

 

“なんとマイナーかつ…うちの主力メンバーを潰しにかかるタチの悪い趣味なんだ…”

 

ユイの説明を聞き終えたみんながそう思う中、あたしは迫ってくる右手を刀で斬りつけて逃げると…未だに微動にしないみんなへと叫び声を上げる。

 

「んなことはいいからっ!!誰か、ヘルプに来てよ!!」

「まぁ…カナタには、囮になって貰って…ここにいるメンバーで全力で攻撃が最善の攻略だなぁ…。尊き犠牲はどの攻略でも必要だよな…」

 

キリトは思う。

あの時よりも更に難易度が上がっているのであれば…誰か一人に敵を引きつけてもらって、ここにいるメンバーで総攻撃した方が手っ取り早いのでないのか?と。

それを思っての案だったのだが、得体の知れない恐怖から必死に投げまくるあたしにとってその案は地獄へと落ちろと言われているような感覚だった…楽しいクリスマスが一転、恐怖と嫌悪のクリスマスになったあたしは大きな声でキリトへとツッコミを入れると迫ってくる左手を横に飛んで逃げると素早く立ち上がり、後方へと逃げる。

 

「意味が分からんわぁーーっ!!!」

 

その後も誰かが助けて来てくれるというのはなく…私にとって苦痛な鬼ごっこが役2時間にも達し、ヘトヘトなくあたしよりも上手だったニコラスによって、フィールドの端へと追い詰められたあたしは後ろを振り返るとガタガタと震える。

 

「あっ!しまっ…」

「ガァル…ル…フフフ…」

「ひぃ!」

 

知らぬ間に追い詰められていたあたしを改めてみて、ニタニタと気色悪い笑みを浮かべるニコラスに…あたしは心の底から恐怖と嫌悪にガタガタと歯を鳴らしているところへと…そのニコラスの頭へと三本の矢が突き刺さる。

ニコラスと共に矢が飛んで来た方を見ると…そこには、真昼間にはお見せできない表情を浮かべている我が恋人殿が愛弓を構えていた。

 

「誰がその子に触っていいなんて言ったのかしら?このニセサンタ」

「…シノ」

「…ガルル」

「その子は私の所有物なの。欲しければ、私を倒してからになさい」

 

そんな事を仰る我が恋人殿に一つだけ言うことがあるのならーー何故、もっと早く助けに来てくれなかったっ!?という事だけだろう。

 

「ヒナタ、立てる?」

「…ん、ありがと。…シノ」

「どういたしまして」

 

ニコラスから怯えるあたしをいとも簡単に救出した我が恋人殿ことシノンは、あたしへと可憐なウインクを決めるとその後も見事な身のこなしで迫りくるニコラスの追撃をーーあたしを構いながらーー交わし、精確かつ迅速なカウンターをニコラスへと決めると…瞬く間にニコラスのHPが減っていく。

そんなシノンの見事な戦いっぷりに戦慄するのは、守られているあたしだけではないだろう。遠くで武器を構えている我が友達も同じ事を思っているらしく…時折、隙をみては攻撃を仕掛けているみたいだが、シノンのカウンターや攻撃の方がHPを確実に減らしているらしかった。

黒を好む親友がシノンのことを山猫系狙撃手(スナイパー)などと言っていたが…あながち間違えではないだろう。だって、ターゲットを見据えて…スゥーと細まる藍色の瞳はキラリと光り、ニンヤリと笑う口元からは八重歯が覗く………うん、なるほど、確かに山猫だっ!

 

“あらあら、うちのシノンさんたら、変なスイッチが入ってしまったみたいだわ”

 

などと…柄にもない言葉を使って、この驚きを現していると…シノンが天高くに弓を構え、複数の矢を放つ。それは見事な円を描き、ニコラスへと降り注ぐ。

 

「ジ・エンド。あなたは自分の力量と己の愚かさをもっと知るべきだったわね」

 

などと言って、弓を肩へと担ぐ…うちの狙撃手(スナイパー)さんへと多くの拍手が鳴り響く。それを恥ずかしそうにくねくねと水色のしっぽを動かしながら応じたスナイパーさんを含めた全員へと真っ赤な紙と緑色のリボンでラッピングされたプレゼントが配布される。

 

「これが財宝?」

「みたいね」

 

それを隣にいる今回のMVPへと問うと、肩をすくめて同意された。

意を決して、そのプレゼントをタッチすると中から光り輝く指輪が現れる…。

 

“おぉ〜!凄い綺麗”

 

と感想を抱いていると、ひとりでに左手の薬指へとはまってしまった。それに驚くあたしへと群がる我がパーティメンバー。

 

「えっ…と…、みんなしてどうしたのかな?」

 

あたしのその問いかけにニッコリと笑ったパーティメンバーたちは口を揃えて、こう言ったのだった…

 

『どうもしませんよ。ただ、カナタさんの結婚しようと』

 

 

のちに聞いた話、あの指輪は結婚“ごっこ”が出来る指輪らしい。

はっきり言うと、結婚したプレイヤー達と同じようなシステムを友達同士で出来るようにした指輪らしい…なんて、紛らわしいものをーーと思ったが、まぁ…不機嫌だったシノンか機嫌を直してくれたのならば良かったと割り切るあたしであった……

 

 

ークリスマス記念・完ー




今回は、ヒロインなヒナタとヒーローなシノンを書かせてもらいました…!
たまには、こういうのもいいですね〜(笑)

戦闘シーンはへし折ってしまいましたが…キャリバー編ではしっかりと書かせてもらいますので…それで、ご勘弁をm(__)m



また…30日くらいまで、私用によって更新を休みたいと思ってますm(_ _)m

楽しみにされている方、本当に申し訳ないです…


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【クリスマス・2018年記念】It has a kind heart in Xmas 前編

メリークリスマス〜、読者の皆様っ♪(まだ、イヴですが)

皆様はこのクリスマスどのようにお過ごしでしょうか?

私は普段と変わらないコタツでぬくぬくなのんびりとしたクリスマスを過ごしております。

さて、今回の話ですが、オリジナルのクリスマスクエストを書いてみました。
そのクエストに参戦するのは【カナタ・キリトくん・シリカちゃん】の三名です。
……この三名の組み合わせ、見覚えありませんか?(微笑)

何故この三名なのかは、本編でも書いております。

では、本編をどうぞ!!!

※作中では少し早めに12月25日となってます。


本日は12月25日。

世の中は赤・緑・白の三色が光り輝き、至る所でイルミネーションが街並みを彩っている筈だろう。

そして、そんな聖なる夜には恋人たちが愛を語らうのは、昔も今もそう変わりはしないだろう。

故に、あたしも恋人と愛を語らおうとした。いいや、厳密にいうとしたかったのだがーー

 

『私は今日、バイトだからALOにはログインできないの』

 

ーーとバッサリと切り捨てられてしまった。

普段なら百発百中の甘えるように後ろから抱きつつ、猫撫で声で期間限定のクリスマスイベントに誘ってみたら、冷たくあしらわれた。

まるで氷のような冷たさで若干涙が溢れてきた。

 

『仕方ないでしょう。クリスマスの時給って高いのだもの』

 

恋人と時給どっちが大事なの!?

普通は恋人の方でしょ!なんでなの!!

 

『なるべく早く上がらせてもらうから、ね? その後、二人で大きめのクリスマスケーキを食べましょう』

 

ってなわけで、詩乃に言い包まれる中、あたしは仲間を携帯を片っ端から鳴らしまくり、どうしても諦めきれなかったクリスマス限定クエストに参加してくれる心優しい仲間を募集したその結果あたしの呼びかけに答えてくれたのはーー

 

「ばんわー、キリにシー」

「こんばんわ、カナタ」

「こんばんわ、カナタさん」

 

ーーひらひら手を振りながら、あたしへと近づいてくる真っ黒をこよなく愛する親友ことキリトと猫妖精族(ケットシー)特有の三角耳をぴこぴこ揺らし、胸に抱きしめた水色小竜のピナと共に現れたシリカであった。

 

「三人か……」

「三人ですね……」

「三人っすか……」

 

って、この三人って前に誕生日の月が同じだねと話した三人だね。

 

「確かにそうだな。俺は10月の7日が誕生日で」

「あたしが10月4日ですね」

「んで、あたしが10月10日と……三人とも誕生日の日にち近いし、格別仲いいのはそういうことかもね」

「そうなのか? そういうの関係なしで俺は仲良いだろ」

「まぁ、そうだけどさ。ここは流れとして、そうだなって言ってモチベーションを上げとくとこでしょ?」

「いやいや、とくとこでしょ? って言われてもな」

 

ノリがいつにも増して悪いキリトはあそこに置いておいて、何故交互にあたしとキリトを見て渋い顔をしているシリカの右手を通りすがりに握りしめる。

 

「か、カナタさん!?」

「キリはあたしが誘ったクエストをあんま楽しみじゃないみたいだからさ。せめてシーと二人で楽しもうと思ってさ。……ダメかな?」

 

あたしが自然と指と指を絡めて握りしめる両手をまじまじと見ているシリカは顔を真っ赤に染めながら、恥ずかしそうにボソッと答えてくれる。

 

「は、はい……カナタさんがそう言ってくれるのなら」

「サンキューッ!!シー!!愛してるーぅ!!」

「ああああ、愛してるぅ!? かかかか、カナタさんがぁ!? あたしを!?」

 

シリカが更に顔を真っ赤に染めると何かがキャリーオーバーしてしまったのか。

プシュウウウ、と真っ白な湯気を顔から勢いよく吐き出すと、フラッと後ろへと身体を傾けたのだった。

 

 

τ

 

 

後ろに倒れそうになったシリカを小さい身体でなんとか支え、意識を取り戻した所でクエストを発注してくれるNPCが出現すると言われるモミの木へとトテトテと歩いていくことものの数分後、目的地にある古びたベンチに腰掛けているNPCを目視した途端、あたしたちは数秒沈黙した。

 

何故なら、そのNPCがあまりにもあの有名人にそっくりだったからだ。

もう、そっくりさんとかじゃなくて、その人ではないだろうか?

 

そんなNPCの容姿が以下の通りだ。

真っ赤な三角帽子の先っちょと(ふち)には白いふわふわしたものがついており、真っ白な立派なおヒゲに包まれた顔たちは人当たりの良さそうな優しい雰囲気漂うおじさんであった。

そのおじさんのふくよかなボディを包み込むのは三角帽子と同色で、こちらも縁には白いふわふわとあったかい飾りが付いている。そして、お臍辺りのところには真っ黒なベルトがまかれており、長ズボンも真っ赤で足元には真っ黒なブーツを履いている。

 

“なんとまー、オーソドックスなサンタさんなこと”

 

教科書通りの、誰がどう見てもサンタって思うであろうそのNPCは名前も《Santa(サンタ)》だった。

思わず、おい運営やる気あるのか!? と思ってしまった。

まぁ、ツッコミは後にして……とりあえず、サンタのおじさんからクエストを受けましょうと思い、あたしは困った様子のサンタさんに話しかける。

 

「こんにちは、おじさん。何かお困りごとですか?」

 

とあたしの質問から始まったサンタのおじさんの困りごとは以下の通りだ。

 

今日は子供達が楽しみにしているクリスマス当日なのだが、今でのプレゼント準備の時に足をくじいてしまい、配れそうにない。だから、代わりにプレゼントを配ってくれる人を探している、と。

 

なんというか、不運なサンタさんだと思う。

 

「なら、そのプレゼントをあたし達が配ってあげますよ」

 

そう微笑むあたしにサンタのおじさんは嬉しそうに微笑み、涙ぐみながら両手を握ると黄金の?(クエッション)マークが(ビックリ)マークへと変わる。

 

サンタさんから受け取ったクリスマス限定のイベントの名前は【It has a kind heart in Xmas】。

 

“んー? "It has a kind heart"……?”

なぜ、"優しい心を持って"なんだろう?

あー、もしかして優しい心を持って、NPCの子供達へとクリスマスのプレゼントを配ってほしいという意なのだろうか。

 

まぁ、今はクエストのタイトルの事はいいとして……クエストの内容を細かく説明すると、まずはサンタのおじさんからクエストを受けると【ダビデの町】というこのクエストだけ限定フィールドへと転送され、その際にあくまでもプレイヤーはNPCの子供達にとってのサンタさんという事でランダムにそのプレイヤー似合ったサンタコスの着用を求められる。

そして、サンタコスを着たプレイヤー達はダビデの町…横の広さ5㎞、縦の広さ1㎞という長方形型のフィールドの一番右端にある【モミの聖木】という大きなモミの木から下に広がるダビデの町に住まうNPCの子供達のところへと【物音を立てずに】【NPCの子供達に見つかる事なく】クリスマスプレゼントを届け終えないといけないらしい。

家の数は25軒とやや少なめだが、何回も物音を立てたり、NPCの子供達に見つかって【強制的にスタート地点に転送】されているプレイヤー達がかなりの数いると思う。

 

それもこれも、みんなあの奇妙なベル型モンスターのせいだろう。

中途半端な攻撃を加えあれば忽ちに『リンリン♪』と可愛らしい音が夜空に響き、NPCの子供達が起きてしまい、ありとあらゆる窓が開いては口々に近くにいたプレイヤー達を指差し始め、『あーサンタさんだぁ!』と舌足らずな声でそう言われてしまえば、強制スタート地点という事だ。

そのめんどくさいベル型モンスターの容姿は、古びた金色のベルに如何にも悪人のような三角目に大きく開いた口からは鋭く尖った八重歯が覗いている。総合でいうと、ベルを悪人に擬人化したようなデザインのそのモンスターの名前は《Wallop》だそう。

 

なんとまぁ、これまたツッコミたくなるような名前をおつけになられて、と思いながらもあたしはソワソワと自分のサンタコスを見ては落ち着かなくなる。

 

“まぁ、そんな事はどうにかするとしてーー”

 

「ーーなんかレアすぎて怖い。なんか波乱来そうで怖い」

 

そう、あたしが今までソワソワと落ち着きがなかったのは……足元がいつにも増して、スウスウするからである。

 

「自分で自分の格好見てレアって言うなよ、カナタ」

「いや、レアでしょう。あたしにミニスカートサンタさんコスだよ? 普段なら短パンかキリと同じ服装になるところなのさ!?」

 

呆れ顔のキリトに言われて、喚いてしまうあたしのサンタコスは赤い肩出しキャットフード付きのジャンバーに胸元を隠すくらいの最小限の白いシャツ。なので、お臍は丸見えで下に履いている赤いミニスカートもキュートに白いハートマークなんぞ刺繍してあるし、よく見ると猫耳のところもハートマークだ。

と話を戻して、スカートの下は緑色のニーソックスに黒い革靴。そして、何故か首元には緑色のネックウォーマーというなんとも言えない格好となっている。

 

“うゔ…何故、楽しいはずのクリスマスにこんな恥ずかしい姿をせねばならん”

 

肩もお臍も太ももも外に露出してしまっている……クリスマスを尊重する赤・白・緑よりも肌色が多いという衝撃さにあたしは慄き、同時にキリトへと羨望の視線を向ける。

 

キリトのサンタコスは、黒い髪が端から覗く赤い三角帽子に端に白いふわふわのついた赤いジャケットに赤い長ズボンに黒い革靴。如何にもサンタクロースといった服装が今だけは羨ましい。

 

「カナタさん、キリトさん。静かにです、あのベル型モンスターにバレちゃいます」

 

後ろで騒ぐあたし達に「しぃー」と人差し指を立てて唇に押し当てるシリカのサンタコスは、あたしと同じ感なのだがこちらの方がまだ露出は少なめとなっている。あたしはカーディナルの気に触ることをなんかしたのだろうか?

さて、話を戻して……シリカのサンタコスは上はあたしと同じ感じで、下が緑色の短パンに白のタイツ。ツインテールにしている髪飾りはリースとなっていて、所々に隠れトナカイがあるので遊び心もくすぐられる。なのだが、何故あたしだけこんなに肌が外へとーー

 

「ーーカナタさん、見つかっちゃいました」

 

どうやら、あたしはこのクエスト中は羞恥心に打ち勝たねばならないらしい。

 

あたしは愛刀を構えるとキリトと共に今まさに鈴の音を響かせそうとしていた《Wallop Le : 45》に向かって走り出したのだった。

 

「っ!!分かった。キリ、左右で挟み込もう!」

「OK!カナタ」

 

地面に積もる雪をかきあげながら、ベル型モンスター越しに交差するあたしとキリトの刀と剣が閃き、そしてーー

 

「シャアアアアーー!!!!」

「うっさいわ、鈴。《緋扇》!!」

「これでお終いだ。《ホリゾンタル・スクエア》!!」

 

ーーすら違いざまに切り裂かれていくWallopがポリゴンになったところを見て、あたしはキリトへと親指を当ててると近くに建っている家にタッチするとプレゼントを選択すると、クエストクリアまで後10軒となった……




というわけで、始まったクリスマスクエストですが……ちょっと補足させてもらいます。
このクエスト限定の地図には其々配らなくてはいけない子供達の家が"家のマーク"で記させており、プレゼントを配り終えると明るく色づくようになってます。
しかし残念な事に作中でNPCの子供達に見つかって、『あっ、サンタさんだー』と姿を見られてしまうと強制的にスタート地点に戻ると共に地図で折角配り終えた家も真っ黒になってしまいます。
時間制限はないのですが、中途半端に攻撃すると"リンリン♪"鳴るベル型モンスターやちょっとした物音で目が覚めてしまう好奇心旺盛なNPCの子供達によって何十回も強制的にスタート地点に戻されたプレイヤー達もかなり多いようです(大汗)
頭も使いますし、精神も使いますし、何よりも忍耐力が鍛えられるクエストだと思います。

そして、このクエストはIt has a kind heartなのです。

その意味が分かるのは、24日の午後17時に更新する後編にて判明すると思います(微笑)

では、後編にて出会いましょう〜ッ!


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【クリスマス・2018年記念】It has a kind heart in Xmas 後編

メリークリスマスです、読者の皆様〜♪

さてさて、前編からの続きとなる今回のクリスマスクエストですが……ヒナタ達は無事クリア出来るのでしょうか?

では、本編をどうぞー!


浮き足忍び足で【ダビデの町】を駆け抜ける三つの影を視界に収めた厄介なベル型モンスターである《Wallop Le : 36》がNPCの子供達をその可愛らしい鈴の音で起こす前に、三人の影から一人離れた音楽妖精(プーカ)の刀使い・カナタが愛刀を光らせるとベル型モンスターへと斬りかかり、忽ちにモンスターはポリゴンへと化す。

 

「ふぅ……これで鳴らされることはないな」

 

あたしはポリゴンとなり、夜空へと舞い上がっていくベル型モンスターの厄介さを身をもって数分前に味わって以降、このWallopの攻略はあたしとキリトが担当することになった。

それを見て、落ち込んでいる薄焦げ茶色の髪をツインテールもその房からぴこぴこと三角耳も元気なくシュンとなっている猫族妖精(ケットシー)の頭をポンポンと撫でたかったのだが、身長的に届かなかったので背中を撫でる。

 

「カナタさん、キリトさんごめんなさい。あたしの攻撃が中途半端だったから……折角、あと一軒でクリアだったのに」

 

そう、数分前にスタート時点に戻ってしまったのはシリカとピナのコンビネーションでの攻撃がほんの少しだけ威力が少なかったということであの不気味な容姿からは想像できない可愛らしい『リンリン♪』と音が真夜中のダビデの町に響いてしまい、忽ちに近くの家の窓が開き、『あー、サンタさんだ!』と子供に指さされてしまい、ゲームオーバーって感じだ。

だがしかし、それに関しては仕方なかったとしか言えないだろう。

あたしもキリトも数体を同時に相手にしている時にソードスキルが一、二回スカってしまって、冷や汗をかいてしまった事は多々あった。

それに比べて、シリカは戦闘となると大暴れするあたしとキリトの二人をサポートしつつ、一体を相手してくれてたのだ。そんな頑張り屋さんなシリカに誰が文句を言えよう。否、誰も言えないし、あたしが言わせない。

 

「大丈夫。大丈夫ってば、シー。ほら、このバクバク感を長く味わえるって思ったらなかなかに(おつ)なものですぞ。なかなかに癖になるものがありますしな」

「なんで変な口調になってるんだよ、カナタ。シリカも気にしなくていいからな。カナタも俺もこのクエストのドキドキ感に癖になりつつあるしな」

 

ニカっと笑い、ぽんぽんとあたしがしたかったシリカの頭を撫でるといった行動は親友が代わりにしてくれた。

背中と頭を撫でられ、擽っそうに目を細めらシリカの赤い瞳が前を見つめたまま、固定させる。

その視線を追ってみると、そこにはスタート時点である【モミの聖木】の近くにある森の入り口付近に大きな真っ赤な鼻を持つ小動物が顔を覗かせているのだ。

 

「ピャッ!? ピャッ」

 

近づいたあたし達を怯えたように見上げるその小動物の特徴はまず顔の三分の二くらいの大きさを持った真っ赤な鼻。続けて、まん丸で(つぶ)らな黒い瞳、ひょうたん型の輪郭の上にの方にはぴこぴこと動く耳があり、首にはシリカの髪飾りと同じ感じのリースがはめられており、そこから続く胴体はこれまた愛らしいほどにまん丸でその胴体を支える脚までまん丸ときた。

 

“まさか、ここでこんな可愛いシカさんに会えるなんて”

 

その愛らしい外見を持つ赤鼻のトナカイならぬシカさんにデレデレなあたしとシリカと違い、キリトの方は考え込むようにジィーーとシカさんを見つめたままブツブツ何やら言っている。

 

「可愛いね、シー」

「はい、可愛いですね」

「こんな所にシカ? もしかして、これは何かの隠れクエストのギミックなのか?」

 

考え込んでいるキリトはほっておいて、シカさんに手を伸ばすあたしとシリカを交互に見つめながらも怯えたように身体を振るわせながら、興味はありそうだが近づこうとはしない。

その様子に少なからず胸を抉られながら、これは仕方ないと立ち上がろうとしたあたしにシリカのボソッとした呟き声が聞こえてくる。

 

「この子、何に怯えてるんでしょう?」

「んー、なんだろね」

 

カキカキと頭をかくあたしにジィーーとシカさんを見ていたキリトがその答えを提示する。

 

「きっとその子、何処かで仲間とはぐれちゃったんだろうな。そして、運悪くこの町の子達に見つかって……だろうな。胴体のところとか耳のところに泥や切り傷がある」

 

キリトの言う通りで、この子は野生にしても不自然なつき方をしている泥や切り傷がある。

 

“まったく、全然いい子してないじゃないか"

 

まぁ、この町に住まうNPCの子供達は年齢にして3〜12歳だったから、その若さ溢れる好奇心がこの可愛らしいシカさんに刺激され、そのふわふわな毛並みや丸みを帯びた身体で遊んでしまったというわけだろう。

 

“ッ、一瞬うらまけしからん!”

 

と思ってしまったあたしこそが本当の悪い子だろう。

 

さてさて、理由は判明したのだが、ここまで怯えているのをみるとそのもふもふを堪能する事は難しいだろう。

 

「ーー」

「シー?」

 

立ち上がり、後にしようとするあたしやキリトと違い、シリカは怯えたように震えるシカさんを見つめたまま動こうとしない。

呼びかけるあたしの声にパクッと肩を震わせたシリカはおずおずと振り返りながら、お願いしてくる。

 

「カナタさん、キリトさん。あたし、やっぱりこの子の事助けてあげたいんです。こんなに傷付いて、痛そうですし……本当はこの子も人の事が好きなんだと思うんです」

 

きっと反対されると思っているのだろう、胸の前にギュッと握りしめて不安そうなシリカにあたしとキリトは顔を見合わせるとニカっと笑う。

 

「もちのろんさ」

「俺たちでその子を助けてあげようぜ」

 

 

 

γ

 

 

 

「あの子の好物が生えるっていうモミの木はあの木ですかね?」

「だろうねッ!!」

 

問いかけるシリカにうなづきながら、あたしはその木に向かって渾身の《辻風》をお見舞いするのだが、その渾身は空回りとなる。

 

「およ?」

「カナタさん、横です!!」

「って、がはっ!?」

 

シリカに言われた方を見るとすでに時遅し、赤くつり上がった三角耳に不気味な色合いを醸し出している紫と黒のグラネーションをしたモミの木のモンスターがいて、そのモンスターが無造作に振り下ろされた右腕……いいや、右幹があたしのお腹へとクリティカルヒットして、グルグルと砂と雪を巻き上げながら、森の中を高速逆でんぐり返しする。

 

「へー……見た目に似合ったレベル設定らしいじゃん」

 

ぽんぽんと砂埃を払い落としたあたしは久しぶりに手応えある戦闘出来そうな予感に口元のニヤニヤと心臓のバクバクが止まらない。

 

そんなあたしのところへと駆け寄ってきたキリトは今にも駆け出しそうなあたしをチラと見た後に交互に攻撃しようと提案してくる。

 

「カナタ、行けるか?」

「大丈夫よりも先にそれ言ってくるキリはもう少し女心を考えた方がいいと思うけどね」

 

軽口を叩きながら、愛刀を構えるあたしにキリトは弱ったような笑みを浮かべながら、両手に持った剣を同じように構える。

 

「カナタなら大丈夫って信じてるからだよ。それにカナタは心配より先にそう言って欲しいだろ?」

「物は言いようって感じ?」

「なんでそうなるんだよ…っ」

「まぁ、キリの言い分はだいだいあってるけどね」

「結局はそうなのか」

 

ガクッと肩を落とすキリト。

そして、今まで緊張した面持ちで右手に持った短剣を握りしめる主人の緊張を少しでも和らげようと水色のもふもふな毛並みを頬へと擦り付ける子竜を撫でながら、その緊張した面持ちが和らいでいく。

 

「ありがとう、ピナ。あたしがしっかりしないとだよね」

「きゅるるぅ!」

 

ギュッと唇を噛み締め、カクンとあたしへとうなづいてくるシリカに笑いかけながら、あたしは50m先にいる化け物モミの木を一瞥する。

 

「あいつを倒して、あの子を助けよう!さぁ、もうちょい踏ん張っていこう!吶喊(とっかん)ッ!!」

「おうッ!!」

「はいッ!!」

 

あたしの叫び声に答えるように叫んだ二人に合わせる形で、あたしも駆けていく。

 

 

 

 

 

「おりゃあ!!」

 

愛刀を大きく振りかぶり、斜め上から下に切り裂きながら、後ろから両手に持った剣を光らせる二人へと道を上げるべく、あたしは一旦後ろへと下がる。

 

「喰らえッ!!ジ・イクリプスぅうううううう!!!!」

「はぁああ!!ライトニング・リッパーぁああああああ!!!!」

 

二刀流スキル最大奥義《ジ・イクリプス》と短剣スキル最大奥義《ライトニング・リッパー》によって、四つあったHPが最後の欄に移り、目に見えて化けモミの木が怒りの表情を浮かべる。

 

「シャアアアア!!!!」

「やらせないよ、この化け木」

 

二人を薙ぎ払おうとする幹を愛刀で受け止め、力が緩んだ所で上に弾き飛ばしたあたしは心なしか唖然とした表情を浮かべる化けモミの木にニンヤリと片頬を釣り上げる笑みを浮かべるとあたしの手持ちで最大級の威力を持つOSSを発動する。

 

「さて、これで終わらせてもらおう、鬼魅呀爲(きみがため)ぇええええええ!!!!」

 

真っ暗闇の中浮かぶ六つの光線が化けモミの木の不気味な色合いの身体を突き刺し、目に見えてHPを減らしていく。そんなモミの木に瞬時に近づいたあたしは愛刀をがむしゃらに振り続ける。

 

「おらおらおらおらおらおらおら!!!!」

 

この鬼魅呀爲は相手のHPがゼロになるまで、攻撃の手は止まらない。

光線、斬刀により削られ、減っていくHPに邪悪なモミの木は最後の最後で情けない声をあげるとポリゴンの破片へと姿を変えたのだった。

 

「お疲れ様、二人とも」

「カナタさんもお疲れ様です」

 

愛刀を腰に吊るした鞘に収めながら、ヒラヒラと左手を振る。

 

「相変わらず、えげつないOSSだよな。鬼魅呀爲って」

 

右拳を出してくる親友へと左拳を押し当てながら、減らず口を言う。

 

「そういうキリのスキルコネクトもなかなかにエグいと思うけど?」

「あれはお前も使えるだろ…っ」

 

狼狽えるキリトにウンウンとうなづきながら、あの厄介なベル型モンスターが居ないか、辺りを見渡す。

 

「どうやら、この森はスタート時点に近いせいか、物音が村に聞こえないようになっているようだな」

「そーだね」

 

“まぁ、そうなってくれてないとあのレベルの強敵を三人で倒しきれないよね……”

 

あのフィールドで、プーカ特有の歌を歌って子供達に見つかった知り合いのプレイヤー見て分かる通り、あのダビデの町は物音一つ立ててはいけないようになっている。

そんな厳しい条件の中でさっき化け物モミの木《Dark Abies Firma Le : 107》と対峙しろなんてありにも酷すぎる。

 

「さて、さっきのヤツを倒した時にドロップしたアイテムをあの子にあげに行こうか」

「はいっ」

 

そう言って笑うシリカの年相応の可憐な笑顔は不覚にも可愛いとあたしは思ってしまった。

 

 

γ

 

 

「はいどうぞ、これ君の好きなものでしょう?」

 

ドロップしたアイテムをオブジェクト化して、にっこりと笑いながらまん丸シカさんに話しかけるシリカ。

シリカと好物を交互に見ていたシカさんは最後は好物の方につられてしまったらしく、ちょこんちょこんと歩み寄ってクンクンと鼻を鳴らした後にカプカプと好物であるドングリを食べ始めた。

 

“まさか、好物がドングリとはね……”

 

美味しそうにモグモグ食べるまん丸シカさんの愛らしさを見ているとつい頬が緩んでしまう。

しかし、次の瞬間緩んでいた頬が強張ることになる。

 

何故ながら、まん丸チビチビだった愛らしいシカさんがモグモグする度にその身体は発光し始めて、一回り二回り三回り十回りに大きくなっていくシカさんに三人は唖然と口をあんぐりさせる。

 

そして、発光していた身体が光り終わるとそこに現れたのは赤鼻のちびシカさんではなく赤鼻のトナカイさんだった。

さっきの愛らしさのかけらもなくなった凛々しい顔立ちにしっかりと筋肉がついた胴体、ふわとした尻尾におでこには立派な角が生えており、いきなりの成長期にあたし達は驚いから立ち直れない。

 

「ピャッ!」

 

そんなあたし達をツンツンと優しく角で突いてくるトナカイさんの奇行にあたしは眉をひそめる。それはキリトも同じようで二人して小首を傾げ続ける。

 

「お、お?」

「ど、どうしたらいいんだろうな?」

 

そんなダメダメな二人と違い、シリカはトナカイさんが伝えようとしている言葉が分かるそうで嬉しそうにトナカイさんへと抱きついている。

 

「僕がプレゼント手伝いに付き合ってあげるって言ってくれてるんです。ありがとう、トナカイさん」

「ピャーッ」

「うふふふ…助けてくれたのでお互い様だ、そうですよ。なんだかこの子、カナタさんに似てますね」

 

“お、おーぉ? そうなんだろうか? 自分では分からないけど”

 

シリカにナデナデされているトナカイさんを見つめて、小首を傾げる。

まぁ、シリカが似てるっていうんだから似てるのだろう。トナカイさんに似てるって言われてもなんだか複雑だけど……。

 

「んー、ここは身長順に乗り込みます?」

「まぁ、それが妥当だろうな」

 

キリトと乗り込み順をザッと決め、キリトに乗せてもらい、トナカイさんの首に巻いているリースをギュッと掴んだあたしに続けて顔を真っ赤に染めたシリカが遠慮がちにお腹のところに両手を回すと最後にキリトもシリカに断りを入れてから、シリカの身体に抱きついたのだった。

 

出発する前にチラッと後ろを見たら、シリカが赤リンゴのように顔を真っ赤に染め、赤い瞳はグルグルと渦を巻いていて、そんな様子のシリカにお腹に回していた両手がいつ離されてもおかしくないと思ったあたしはお腹に回していた両手を離すリースを握られ、その上にあたしの小さな手を添えた。

 

“よしよし。これならシーが両手を離して、キリも一緒に落下ってことはないでしょう”

 

満足げにうなづくあたしの後ろに居たシリカは原因不明のキャリオーバーを起こしプシュー、と蒸気を吐き出すとキリトへと倒れこむ。

 

その後、トナカイさんの手伝いもあり、空中散歩しながら優雅にプレゼント配りという現実世界では体験できないロマンティックな体験であっという間にプレゼントを配り終えたあたし達がどうやらこのクエストの一番乗りだったらしい。その上に空飛ぶトナカイという隠れクエストもクリアしたからその報酬もらえるそうで、あたし達は『おーほほほほ。よくやってくれたね、優しい妖精の子供達。これはおじさんからのクリスマスプレゼントだよ』とドサっと報酬がウインドウに流れ込んできて、報酬を貰った後も唖然とするあたし達が助けた赤鼻のトナカイさんに乗ったサンタのおじさんが『merry Christmas』と立ち去るまで、あたし達はあんなに大変だったこのクリスマス限定クエストがあっけなく終わってしまったことに頭が回らなかった。

 

しかしーー

 

【It has a kind heart in Xmas

クエストクリア】

 

ーーという文字が目の前に浮かび、あたしは唖然としつつ、キリトとシリカへと視線を向けてる。

 

「シャア〜〜ッ!!!!」

「クエストクリアだってさッ!キリ、シー」

「はい、はい。よかったです、クリア出来て」

 

涙目の三人で長かったこのクリスマス限定クエストのクリアを抱きついて、喜んだのだった……




さて、無事クリスマス限定クエストをクリアした三人に一つだけ言いたいです。
ほんとお疲れ様、ログイン後はゆっくり身体を休めてね、と(微笑)

しかし、シリカちゃんにはこのクエストはいい思い出になったでしょうね〜。
だって、SAO随一のモテ男であるキリトくんとSAO随一の天然女たらしであるカナタに挟まれることなんて滅多にないことですよ(笑)

さて、そんな三人が貰った報酬は後々明かしていくとして……カナタ&シノンさんのクリスマスなのですが、大きなケーキを持って帰ってきたシノンさんを出迎えたカナタが我慢出来なくなってしまったらしく、戸惑うシノンさんをそのまま美味しく頂いちゃったようです(笑)
どんな時でも甘々な二人のクリスマスはそのまま過ぎていったようですが……私はのんびりとクリスマスの終わりを待とうと思います(笑)

こたつぬくぬく……あぁーぁ、あったかいなぁ……(●´ω`●)


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【クリスマス記念2021】cross Xmas ~first part ~

2021年のクリスマス記念のシナリオです。

楽しんでいただけるかは分かりませんが、最後まで読んでいただけると嬉しいです!

それでは、本編をどうぞ(リンク・スタート)


暦の上では師走。

その師走も早いもので1に差し掛かったと思えば、一気に25日まで駆け抜けてしまった。

今年は初雪が早く、10日になった途端にぱらりぱらりと白い綿毛のような雪の結晶が灰色の空から舞い落ちては、一夜のうちに屋根や路面を純白に染めてしまった。

 

「……おぉ、真っ白」

 

街並みが見える窓際から下を見下ろすあたしは一面の銀世界を蒼い瞳に映し出しては子供のようにはしゃぐ。

喋るたびに息が真っ白くなるのを視界に収めながら、視界に映るのはガラスに映る自分の出立ち。

まず、目を引くのは鮮やかなオレンジ色のボアジャケット。その下には真っ白い無地のTシャツ。下はジーンズ。

きっとすれ違う人からしてみたら、寒そうな格好だろうが……ボア生地が熱を逃さないので、少し動いただけでも暖かいのだ。

それに出かける時はこのコーディネートの上にマフラーをつけようと思っているので、防寒対策はバッチリであろう。

 

そんな事を考えながら、街並みを見ているあたしの背中を人差し指でツンツンと小突かれる。

 

振り返るとそこにはこのマンションの同居人兼幼馴染である朝田詩乃が不機嫌な雰囲気を漂わせていた。

外出する時に着用する黒縁メガネ越しに絶対零度に近い視線をひしひしと受けたあたしはそっと窓際から離れると大人しく彼女の元へと歩いていく。

詩乃が起こっているのは、恐らく、待ち合わせ時間がもうすぐ訪れるというのに悠長に窓の下に広がる風景を見ているあたしに怒りを覚えたのだろう。そんなに怒らなくても……と思うが、こんな真冬に外で人を待たせるのは人としてどうかと思うし、ここまで時間が押してしまったのは完全に朝に弱いあたしのせいなので、詩乃が不機嫌になってしまうのも仕方ない。

うん、あたしが完全に悪いから。悪いって認めるからさ。だから、そんなに睨みつけないでおくれ、詩乃…。

因みに、そんな彼女の服装はミリタリーのコート。その下に無地の黒いTシャツ。その下はジーンズ。首には白と橙のマフラーを巻いている。

 

「陽菜荼。そろそろ、行きましょう。待ち合わせに遅刻するわよ」

 

「ああ、そうだね。行こうか」

 

差し出される黒と深緑のマフラーを受け取り、急かさせるようにマンションを後にしたあたしは滑りやすくなっている階段をそっと降りていく。

手を繋いでいる詩乃に合わせるように階段を降り切ったあたしはとぼとぼと待ち合わせ場所に向かって歩いていく。

歩いている最中、クリスマス一色になった街並みに見惚れて立ち止まりそうになるのを後ろからグイグイと押されたあたしはようやく約束した場所へと着く。

 

「ーー」

 

待ち合わせ場所には既に待ち人が立っていた。

 

宙を舞う雪の結晶を捉えているのは蒼い瞳。斜め上を向いているかんばせからさらさらと音を立てて滑り落ちるのは純金を溶かしたかと思うほどに美しい金髪。その金髪は後ろで三つ編みになっており、彼女が身動きする度に白いリボンで結った髪が揺れる。

服装の方は、金髪には雪の結晶を模したカチューシャ。ポリゴン製の素肌を隠すのは、暖かそうな毛糸の白いニット。蒼色のミニスカート。黒いタイツを合わせている。首にはミニスカートと同色のマフラーをしている。肩には神代博士に持っていきなさいと言われたのか、夜空をモチーフにしたポーチ。携帯端末を持っている。

 

そんな金髪の待ち人の姿に一瞬見惚れてしまったあたしを詩乃が八つ当たり気味に後ろからグイっと押すので、あたしは顔面で雪道にダイブしそうになり、寸前で踏みとどまった先に大きな音が辺りに響く。

その音であたしと詩乃が来たことに気づいた金髪の待ち人、アリス・シンセシス・サーティはかんばせをあたしへと向け、叱責する。

 

「遅いですよ、カナタ。お前には5分前に到着するという考えがないのですか」

 

えーと……アリス様?怒りの矛先はあたしだけですか?隣に詩乃が居るんだけど、そちらは何もないんです?

 

そう言って、詩乃に視線を向けるあたしを心底呆れたといった表情で見てくるアリス様。

 

いや、その反応は可笑しくない?言いがかりならやめてほしいんですが。プンスコプンスコ。

 

「はぁ……自堕落なお前の事です。どうせ、シノンが起こしたのに『もう5分…』などと言って、寝坊したのでしょう。その後も寒いからなどと色々言い訳をして、着替えなかったり、顔を洗わなかったりとここまで来るまでにシノンを困らせていたのでしょう。そのような事、言葉にせずとも、普段のお前を見ていれば分かります」

 

ピッシャリとあたしの自堕落なところを言い当てるアリスの攻めてくる視線から目を逸らしたけどあたしは苦笑いを浮かべる。浮かばなければ、やってられなかった。

 

(グッ……確かに寝坊はしたし、寒いからと詩乃が出してくれた衣服になかなか腕を通さなかったけれども……)

 

ここまで的確に言い当てられるとは思わなかった。

 

普段のあたしってそんなにだらしない?ここまでだらしないのは冬だけでしょう。だって、冬ってお布団が恋しくなる季節なんだよ!?きっと、それはあたしだけじゃなくとも多くの人が思っていることだと思うよ!?それにお布団も"そんなに焦らなくてもいいじゃない。もう少しゆっくりしていきなさい"って包み込んでくれているんだよ!?それは甘えなくてはお布団に失礼というものじゃない!?

 

「「ーー」」

 

そこの二人、呆れながらシンクロしながら、うなづくんじゃない!!

あたしはおかしな事は一つも言ってない。

ほら、そこの君もそう思うだろう?

 

「アリス、行きましょう」

 

「ええ、行きましょうか、シノン」

 

ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

 

お互いの顔を見てから、あたしを放置する事をアイコンタクトで決定した二人は揃った動作で回れ右をすると歩き出す。突然、置いて行かれたあたしはそんな二人の後を顔を真っ赤にしながら追いかけるのだった。

 

「シノン、この飾り付けは何ですか?」

 

「これはイルミネーションよ」

 

「いるみねーしょん……ですか?」

 

「ええ」

 

そんなあたしには目もくれずに仲良く街並みのイルミネーションを見ていく二人の姿の少し後ろを歩いていくあたし。蒼い双眸には詩乃にイルミネーションとはなんなのかを説明してもらっているアリス。そんなアリスにイキイキと説明している詩乃。そんな二人の二人の姿が映っており、瞳の奥に少しの嫉妬心を抱きながら、あたしはジーンズの後ろポケットへと手を伸ばす。

掌には携帯端末があり、あたしはその画面をチラッと見ながら、24日に届いたメールの内容を思い出していた。

 

ーーーーこの世界に来たからというもの。ラースの研究室から出てないアリスに気晴らしをさせてあげたい。

 

一昨日届いた神代凛子博士からメールの内容を簡単に書くと上のような感じだったように思える。

あたしと詩乃に連絡する前には和人、明日奈にもしたそうだが……残念ながら、二人とも予定があるとのことだった。

二人が駄目ならばと神代博士がアリスの気晴らし相手に選んだのが、あたし達だったというわけだ。

普段はクリスマスイブ・クリスマスの2日に時給が高いからとバイトを入れている詩乃も今年は偶然シフトを入れてなく、あたしも仕事ではなかったので……折角ならばと神代博士の願いを叶えることにした。

 

詩乃からイルミネーションの事を聞いたアリスは蒼の瞳をきらりと光らせる。そして、綺麗に飾られた街並みを見ながら、ボソッと呟く。

 

「綺麗ですね……」

 

そう言い、遠くの空を見るアリスの瞳には恐らく、彼女の故郷であるアンダーワールドに居る妹・セルカを映し出しているのだろう。

 

寂しげな横顔をそっと見ながら、いつかは分からないが、必ず彼女達姉妹を会わせてあげたいと心の中で思いながら、これからどこに出向こうかと考えていると急に先行していた二人が止まる。

 

「陽菜荼。前向いて」

 

「あの人だかりは何でしょうか?」

 

「……んー?」

 

詩乃とアリスの問いかけに俯いていた視線を真っ正面へと再調整し、アリスが指差す人だかりを見てみる。

 

そこには何もない空間を見つめる人々がおり、そんな彼らをよくよく見てみると耳へと白いモノ……オーグマーを付けているように思えた。

 

「詩乃、オーグマー付けてみて」

 

詩乃にそう言いながら、自分も肩掛けリュックからオーグマーを取り出したあたしはそこで異様な光景を目撃するのだった。




 002「second part」へと続く・・・・



アリスさんの口調が少し不安……(大汗)


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【クリスマス記念2021】cross Xmas ~second part ~

物凄く遅くなってしまいましたが……今年も作者共々この作品をよろしくお願いいたします。

2021年は終わってしまいましたが、冬はまだ続いていますので……冬が終わるその前にこの話を書き終えたいと思っております。

この作品で登場するゲームは私が勝手に考えているものですので、原作や関連アプリに比べると設定が穴だらけとなっております。

そういうのが許せない方は回れ右をよろしくお願いいたします。

それでは構わない方はそのまま最後までご覧いただけると嬉しいです。

それでは、本編をどうぞ(リンク・スタート)


 

ナニカに群がっている人々が耳にオーグマーを着けていたのが見えたあたしは小柄のリュックからオーグマーを取り出し、装着し、起動させる。

 

起動音が鳴った後に画面がAV空間へと早変わりする。

 

そして、あたしは人混みの方へと視線を向けた時に絶句する。

 

「詩乃も付けてみて」

 

詩乃にも着用を促し、一緒に人混みの方を見てみると彼女もあたしと同じく、絶句している。

 

仕方ない。

誰だって、目の前の光景を見てしまったならば、絶句するはずだ。

 

「カナタ、シノン、二人とも黙ってどうしたというのです?」

 

絶句しているあたしと詩乃の側に立つアリス様は一言も喋らない両脇により一層困惑を深めていく。

 

「あぁ……」

 

アリス様はオーグマーを着けてない。

故に、あたしと詩乃が困惑してしまっている目の前の状況が分からないのだ。

 

まず、あたしと詩乃同様にオーグマーを着けている人盛りはビルとビルの間にできた小道みたいな、ちょっとした広場へと視線を向けている。

 

その視線の先にあるのは、どうやら《Xmas》イベントのようだった。

 

言われてみれば、今日は師走に入ってから数えて25日目。

街の中はイルミネーションが至る所で輝いている。赤、緑、白の三色だけじゃなく、様々な色で飾り立てては街を華やかにしている。

ふらっとコンビニ、スーパーに寄れば、誰もが耳にし、口ずさんだ事があろう某Xmasソングがベビーローションで流れ続けている。

そればかりか、Xmasというイベントを盛り上げようとしているのか、店の前でトナカイやミニスカの服装をしている店員さんまでいる。

 

そして、このXmasイベントでもそのコスプレは例外ではないようだ。

人混みから視線を逸らし、封鎖している道路の脇に立っている警備員さんの方を見ると案の定、トナカイや赤い三角帽子を被っていた。

被っている警備員さん達もどこか満更そうなので、本人達が楽しければ、別にいいかと再度人混みに視線を向ける。

 

人混みの先にあったのは、赤・緑の光で区切られた二つのフィールドであった。

各フィールドの大きさはテニスコート一つ分。

手前が緑で奥が赤といった感じ。

 

その区切られたフィールドの中では各三人のプレイヤー達が居る。

プレイヤー達は各自選んだ獲物でフィールドの内に反映される敵を倒している。

このイベントに登場する敵は恐らく一般から募集したのだろう。如何にも幼児であろうクレオンモンスターを皮切りに可愛い系からグロデスクなプロ級モンスターまで様々現れていた。

 

それを身をかわしながら、攻撃していくプレイヤー達の頭の上には三つの(くろまる)がある。

その●はフィールドの色がそのまま頭上にある感じである。

赤フィールドなら赤の、緑のフィールドなら緑の

不意を受けてモンスターの攻撃を受けたプレイヤーの●が一つ減ったところを見ると三つある●が消えたところでそのプレイヤーはゲームオーバーといったところだろうか。

 

フィールド内をランダムに出現するモンスターは各自プレゼントを持っている。

そのプレゼントも色によって、点数が決まっているようだった。

赤い表紙に緑のリボンのプレゼントは1点。

白い表紙に緑のリボンのプレゼントは3点。

銀の表紙に緑のリボンのプレゼントは5点。

金の表紙に緑のリボンのプレゼントは10点。

時々、全部銀のプレゼント、金のプレゼントが現れるのだが、それはレアなようで得点も一気に跳ね上がる。

銀のプレゼントが50点。

金のプレゼントが100点。

といった具合に。

中には、倒すのと運ぶのが大変だが点数が高い特大プレゼントもあるようで、それぞれのプレゼントの点数に0(ゼロ)が2つ付く。

 

そして、そのプレゼントを回収する袋が四つ角に置かれている白い袋のようだった。

 

そこであたしは緑のフィールドのプレイヤー達がよく《オーディナル・スケール》で出会う顔見知りであることを知る。

彼、彼女達は最初こそは「流行ってるから…」でプレイし始めた新参者だったが、最近では立ち回りや獲物の使い方も覚えて、ベテランプレイヤーとして名を馳せていたのだがーーーー

 

赤のフィールドの上に表記された1227に比べて、緑のフィールドは525と半分以上差をつけられていた。

 

そして、時間制限である10:00はあっという間に過ぎ、残りの1:00に差し掛かっていた。

 

(ーーーー惨敗だな)

 

そう、誰がどう見ても緑の負けが目に見えていた。

緑が今から立ち直っても、残りの1:00で追い越せる点数差ではない。

 

「……陽菜荼、凄いわね」

 

「ああ、あの子達ね」

 

そして、その緑に大きな差をつけて、圧勝している赤のプレイヤー達があたし達が困惑している元凶だったりする。

 

そう、赤いフィールドの中で暴れ回る三つの人影はXmasを全身で表していた。

一人は《ミニスカサンタ》。もう一人が《赤鼻のトナカイ》。そして、最後の一人が何故か《雪だるま》となっていた。

 

《ミニスカサンタ》の娘は長い黒髪を三つ編みにした上で円を描くように二つに結んでいる。髪飾りには二つの鈴が揺れ、その脇には小さな葉っぱが付いている。その円は深紅のリボンで固く結ばれており、身動きするたびに上下に揺れ、チリンチリンと軽やかな音を辺りへと響き渡る。

白い綿が付いている袖無しの上着は真紅でボタンなどがふわふわの白で出来ている。下に履いているミニスカートは赤い線が入っており、黒色のハイソックスも相まって、彼女の女性らしさをぐっとUPしている。

両手には綿毛の白い手袋は暖かそうで首に巻いている白いふわふわのマフラーもとても柔らかそうで肌触りが気持ちよさそうである。

 

《赤鼻のトナカイ》の娘は癖っ毛が多い金髪がフードからはみ出ている。

焦げ茶色の上着、下着はボア素材かのか、遠目から見てもふわふわで肌触りが気持ちよさそうだ。

焦げ茶色の長袖には端にもふもふな真っ白な綿毛が付いており、首の下には深紅のリボンが装備されている。その長袖にはフードが付いており、円らな黒い瞳。深々と被っているそのフードの頭のてっぺんには二本の枝分かれしたツノがくっついており、小さな垂れ耳が身動きするたびにぴこぴこと揺れる。

下に履いているのは焦げ茶色の短パン、お尻の部分には小さなシッポが左右に揺れる。カボチャズボンの先にあるのは、細っそりした脚を包み込むのは茶色のストッキング。足元には黒い長靴である。

 

《雪だるま》の娘は日が当たるが水色に光る銀色の髪の毛がフードから溢れている。

真っ白い上着、下着はトナカイの娘と同じくボア素材のようで、遠目から見てもふさふさと気持ちよさそうである。

純白な長袖にはもふもふの綿毛の袖があり、胸元のところには拳ぐらいの黒綿毛が2つ付いていた。襟首には真紅のリボンが揺れている。

深々と被られているフードには黒の円ら瞳。鮮やかな橙の筒は恐らく人参の鼻であろう。何処か、気怠そうに見えるまつ毛や口元も相まって、チャーミングだ。

下に履いているのは、真っ白い短パンで袖には綿が各箇所に飾れている。ふわふわの袖から覗く脚は細く、真っ白いストキングに包み込まれている。足元には黒いブーツを履いている。

 

そして、それぞれ持っている武器も使い手があまり居ない事から、野次馬達・あたし達の注目を受けているようだった。

 

ミニスカサンタの娘が持っているのが《円月輪(チャクラム)》。

こちらは名前にもあるように鋭利な刃が円状になっている投擲(とうてき)武器である。

指にチャクラムを引っ掛け、敵に向かって投げて攻撃するのが一般的なようだが、ミニスカサンタの娘は大中小と様々なチャクラムを時と場合によって使い分けているようだ。

フィールドの敵が少ない時は大きいチャクラムで攻撃し、敵が大きくなった時は小さなチャクラムに持ち上げて投擲。中のチャクラムは援護の時に使用しているようだった。

 

赤鼻のトナカイの娘が持っているのは《大鎌》。

こちらは説明するまでも無く、細長い棒の先に幅広い鋭利な刃が付いているあの鎌である。

鎌というのは使いにくそうなイメージがあるのだが、彼女は普段から使い慣れているのか、身体の一部であるかのようにブンブンと大鎌を振り回している。

振り回してはいるが、ミニスカサンタの娘や雪だるまの娘が大鎌が当たる事はない。赤鼻のトナカイの娘が上手く立ち回っているのか、はたまた、後の二人が彼女の邪魔にならないように立ち回っているのかは早くてよく分からない。

 

チャクラムと大鎌といえば、あたしと詩乃が囚われる前のデスゲームでは使い手が居たようだ。

チャクラムは黒髪の友人・栗色の友人共々知り合いだったようで、元鍛冶屋だった使い手へと戦闘やり方……チャクラム専用のソードスキルの修得のした方を伝授したのは黒髪の友人なのだとか。

大鎌の方は栗色の友人の知り合いのようだったが、そこはあまり触れてはいけないと思って、あたしからは聞いていない。

 

話を戻して、最後の雪だるまの娘だが、上の二人と違い、彼女は何も持っていなかった。

そう、己の拳、脚を武器として立ち回っていた。

独特な構えからくりだされる鋭い突き、蹴りは吸い込まれるように敵の急所に入っては1、2発で敵を倒していた。

赤チームの野次馬に居た顔見切りが言うには彼女が何も持ってないのは「…今こそ師匠達のお教えで身についた力を見せる時」と言い、誰もが知っているであろう某有名カンフー映画の構えを始めたとか。最初の方は"なんだ、モノマネか"と嘲笑っていた者たちも彼女が技を繰り出すたびに考えを正したとか……その顔見知り曰く"彼女はモノマネの天才だ"とか。

いやいや、あのカンフー映画の技をそのまま扱える娘なんているわけないじゃない……と思っていたが、あたしもその考えを改めた。

技を繰り出す前の某仕草も彼女はしっかり再現し、酔っ払い特有の千鳥脚も見事再現していた。あの娘は本当に10代なのだろうか。

 

その後、顔見知りと数回会話を交わしたあたしは詩乃とアリスのところへと帰る。

顔見知り、今目の前で行われている事を総合するとーーーこのXmasイベントの内容は赤と緑のフィールドで対戦をし、より多くプレゼントを回収した方が勝利。その場に残り、敗北した方のチームが待っているチームと交換、そして勝利したチームと対戦ーーというのを延々と繰り返しているようだった。

そして、総合得点や連勝記録によって、このXmasイベントを開催した運営から送られるプレゼントの豪華さが変わるのだとか。

 

そのイベントで勝利し続けているチームがあの赤チームというわけだ。

 

赤チームの上に浮かんでいる表へと視線を向ければ、赤い文字で《連勝数:4連勝》《総合得点:53247》と記してあり、その下にデカデカと《得点:12650》と書いてある。

 

もう、赤チームが勝つ事は決まっているようなものなので、緑チームのやる気が感じられない。

そして、ここにいる野次馬たちは赤チームの活躍にどよめくが、戦おうとは思わないらしい。

それはそのはずだ。赤チームの連携は長年連れ添ったソレでつけ入れる隙が全くなく、プレゼントの収穫もスムーズ。互いが互いの立ち回りを理解し、ゴタつく事なく、其々の役割を全うしている。

それは遠目に見ているあたしにも分かった。

 

分かったからこそーーーーそれだけにあたしの闘志に火がついた。

 

それはもうメラメラと。

 

ここ数年、ありとあらゆるVRゲームに浸かり続けたあたしは根っからのゲーマーとなってしまったようだ。

ゲーマーたる者、強者を倒してなんぼというものである。

自分が今まで磨いてきた能力全てを出し切り、強敵を打ち倒す。

その過程が大変であればある程に心の中に広がる達成感が違ってくる。それを味わってしまえば、もう後には戻れない。

 

そっと隣を向く。

すると、二人共、あたしと同じ顔をしている。

 

やれやれ、うちのパーティーメンバーはこうも血の気が多いのだろうか。

そのおかげで日々刺激的な日々を過ごさせてもらっているのだが。

 

(よし!あの娘たちに目にもの見せてやる!)

 

意気揚々と空いた緑のフィールドに向かうあたしはガシッと背中に背負っている小さなリュックを掴まれ、あたしはその反動で首が絞まり、激しく咳き込みながら、いきなりリュックを掴んだ不届き者に一言文句言ってやらねば!と勢いよく後ろに振り返るのだった。




 次回、third partへと続く・・・・


~少し補足~
気づいていらっしゃる方も居ると思いますが、サブタイトルの「cross」は「クロスオーバー」のクロスとなっております。
クロスオーバー先については私からは公言しませんので、各自で想像していただけると嬉しいです。(タグには「時々、クロスオーバー」とつけておきます)
また、クロスオーバー先の登場人物達の服装は二人は公式さんのイラストのまま(その中の一人は少しだけアレンジを加えました)
もう一人は私が勝手に考えた服装となっております。


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【クリスマス記念2021】cross Xmas〜third part〜


引き続き、本編をどうぞ(リンク・スタート)



 

「ぐぇ」

 

あたしは鼓膜に届いた情けない声が自分のものである事に気づくのに時間を労した。

理由を述べれば、グイッと後ろに引っ張る力が想像しているよりも強く、本当に死にそうになっている事。引っ張っている本人が全然手を離そうとしてくれない事。

 

「アリス。陽菜荼が死にそうになってるから、手を離してあげて」

 

脳へと運ばれる酸素が本格的に少なくなってきた時、パッと手を離された。

 

「え……?すいません」

 

離された途端、あたしは自分の首元を押さえる。

そして、必死に酸素を取り込み、失った酸素を補給し終えたあたしはバッと振り返ると力一杯に怒鳴る。 

 

いけない事をしたら怒るのは子供であれ、大人であれ、当たり前のことなのだ。

そう、これ断じて、これは腹いせではない!!

 

「げほげほ。死ぬか思ったわッ!!誰だよッ!!肩掛けリュック掴んだのッ!!」

 

鬼の形相で振り返り、喚き散らすあたしに不自然に右手を上げたままのアリスがかんばせを曇らせる。

 

あんたか!あんたなんだな!あたしのリュックを掴んだ不届き者は!!

 

「ご、ごめんなさい。お前がそんなに苦しむとは思わなかったのです」

 

目に見えて、シューンと落ち込むアリスにあたしは首を撫でて、更に攻めようと口を開こうとして、視界の端にいる詩乃を見る。

 

「ーー」

 

黒縁メガネ越しの視線が痛い。

そこまで怒らなくてもいいでしょう? って視線が痛い。

ぐっ……詩乃にあの目をさせると弱い……。あたしも言い過ぎたところあるし、素直に謝ろう。

 

「……その……今度から気をつけてくれたらいいから。責めてごめんね。それよりもアリはなんであたしを止めたの?」

 

「いえ、私に責があったのは明らかです。カナタが謝ることではありません。カナタ、ごめんなさい」

 

折り目正しく頭を下げるアリス。

彼女の生真面目さ、言い方が悪くなると堅物さはこういうところでも現れるようで、さらさらと宙を舞う金髪を見ながら、あたしは両手を左右に勢いよく振る。

 

「いやいや、いーていーて。あたしが強敵との戦いに夢中で二人を置いていっちゃったのは否めないし」

 

おいそこ。それもそうかって表情はなんだ。さてはあんさん、あまり深く反省してないな?あたしなら乱暴に扱ってもいいって思ってるな。これでもあたしとて花も恥じらうか弱き乙女なんですよ。

 

「ごほん」

 

おい、ごほんってなんだ。明らかに誤魔化そうにしてるな!

 

プクーと頬を膨らませるあたしから視線を不自然に逸らしたアリスは近づいてくる詩乃へと視線を向ける。

 

「私、カナタ、シノンの三人であの赤い枠にいる者達と戦うのは賛成なのですが……その……私、持ってないのです」

 

「え?」

 

「ですから、持ってないのです。カナタやシノンが持っているものを」

 

そう言って、あたしと詩乃の耳にかかっているものを指差してから金の房を耳にかけるアリスの動作にあたしはやっと気づいた。

 

アリスがさっきから訴えたかったのはーーーー オーグマーの事だったのだ。

 

あたしは無言でさっき掴まれたリュックの外側のポケットを開き、そこから折り畳んであった物をアリスの掌へと押し付ける。

 

「はい、どぞ」

 

「……これは?」

 

「これですよ、アリス様」

 

トントンと左耳に装着しているオーグマーを小突く。

 

「これはカナタのですか?何故、2個も同じ物を……」

 

そこで言の葉を止めたアリスの碧い瞳があたしを貫く。

 

そこに憐れみ・呆れの色を添えて。

 

やだな〜、アリス様〜。何でもかんでも人を疑うのは良くない思考ですよ。

 

ねえ、詩乃?

 

「一回無くしたことがあるのよ、陽菜荼って。普段から大雑把というよりも物ぐさだから、すぐポイポイって部屋のあるところに放っちゃって」

 

ちょっとぉぉぉぉ!!!!なんで、バラすのぉぉぉぉ!!!!

 

おお……見る見るうちにアリスの顔が険しくなっていく。

 

これの視線は一部の性癖持ちには刺さるのだろうが、あたしには痛みしかない。

 

そういえば、あの世界……アンダーワールドでもよく彼女にこうやって怒られたものである。

 

やれ、脱いだものは畳なさい。

やれ、手巾は持ったか。忘れ物はないか。

やれ、衣服はしっかり着なさい。

その他多数。

 

あの時と同じ事を言われるあたしの成長の無さには困った物だが、こればかりは仕方ない。幼い頃からついたこのズボラさは治そうにも治せないのだ。

 

そんな事を思い、懐かしさに想いを馳せながら、あたしはアリスが持っているオーグマーを指差し、自分のつけているものを人差し指でトントンとする。

 

「あたしが今付けているのはSAO帰還学校で無料で配布されたオーグマー。それでアリスが手に持っているのが、あたしが自腹で買ったオーグマー。

詩乃の言った通り、無料で貰った方のオーグマーを無くしちゃって、困り果てた末にオーグマーを買って、その日の晩に無くしたはずのオーグマーがテレビと物入れの隙間に居た」

 

いやー、忘れ物って探している時には見つからないものだよねー。

 

あはは、あははとお気楽に笑うあたしにアリスの険しい顔は変わらなくただ一言だけ口にする。

 

「やはりそうですか」

 

やはりって……やはりってなんーーーーいえ、なんでもなんです。

 

アリスに一瞥されたあたしは口を閉ざす。

 

「だから、いつも物は整理しないとあれほど言ったではありませんか」

 

から始まったお説教にあたしは肩身が狭くなっていく。

 

うゔ……アリス様のご忠告痛み入ります。

って、あたしって最近人に怒られてばかりだ……。

でも、そろそろ行かないと赤チームさんが待っておられます。

 

「ーーまだ、言い足りませんが……今はこれまでしておきましょう」

 

やっと解放されたと喜ぶあたしの耳にはしっかり届いていた。

 

「……この試合が終わった後に言えなかった分も言わせてもらいますからね」

 

というアリスの呟きを。

 

あたしはとぼとぼと歩いていき、そんなあたしと後に続く二人を赤チームの娘たちは興味津々で見ていた。




 次回、forth part

次回からやっと戦闘です。
次回の戦闘回を加え、もう一話でこの話は終わりにしようと思っております。
それまで暫しお付き合いくださると嬉しいです(深々とお辞儀)


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【バレンタイン・2018年記念】チョコっと大変な一日

今回のバレンタイン記念の話となってます。

出来る限り、読者の皆様がニヤニヤ出来るような展開を書いていきたいと思っているので、どうかよろしくお願いしますm(_ _)m


2月14日。

その日は女性たちにとって特別な1日であり、勝負の1日でもある。

ある者は大切なあの人へのチョコのデザインを一生懸命考え、またある者は日々お世話になっている人々へと渡すチョコを考え、またある者は親友や友達に渡す為のチョコを作る為に買い出しへと出かけていくのであった。

 

γ

 

そんな世界中が桃色やハートに染まるそんな日、ある人物はまるで台風のように速攻で自身の仕事を終わらせると…まだ仕事をしているみんなへと勢いよく頭を下げる。

 

「んじゃあ、お先に失礼します!」

 

その人物が頭を上げると肩にかかるくらいまで伸びた癖っ毛の多い栗色の髪がふさっと宙に舞い、いつもよりも空のように蒼い瞳がキラキラと輝いているのは…久しぶりに同級生たちに会えるからなのかもしれない。

そんな人物こと香水陽菜荼(かすいひなた)へとみんなが労いの声を上げる中、一人髪へと真っ白なタオルを巻いている男性・壷井遼太郎(つぼいりょうたろう)が皮肉交じりに嫌味を言う。

 

「あぁ〜、いいよなぁ〜モテる奴は。今からあの小さい鞄いっぱいにチョコ貰いやがるんだろっ!モテ男は爆発しろ!!」

 

それを聞いた陽菜荼はニヤニヤと遼太郎へと歩み寄ると右手をポケットへと突っ込む。

 

「はいはい、あたしはモテ男じゃないですし、それだと性別違いますから。それにあたしは誰になんと言われようが詩乃一筋ですから、そこはお間違えなく」

「けっ。実際、そのシノンさんからも貰い、シリカやリズやルクス…くぅーっ、なんでキリトやお前ばっかしモテやがるんだ!」

「はいはい、そんな遼さんにはこれを差し上げます。チョコが貰えなかった日数が年齢と同じな遼さんのせめてもの慰めにお使いください」

「…なっ…」

 

ポカーンとしている遼太郎の掌へとあるものを置くと踵を素早く返し、怒鳴りつけてくる遼太郎や他の仕事仲間へともう一度頭を下げる。

普段はあまり使わない女子更衣室へと入ると手に持った手提げ鞄から《sao帰還者学校》の制服を取り出した陽菜荼は自分の作業着へと手を掛けながら、目の前に丁寧に畳まれて置かれている制服を見て…思わず、頬が緩んでしまう。

 

“…まさか、こんなに早く終わらせて貰えるなんて思わなかったなぁ〜。詩乃やみんな驚くかなぁ…”

 

別に仕事自体が嫌というわけではないが…仕事を一緒にしている人達は自分よりも年上なので、やはり気疲れしてしまう。だがしかし、社長が善意ではじめてくれたこの制度は陽菜荼にとっても息抜きかつ楽しみの一つとなっている。陽菜荼自身、どんなに強がっていても…精神はまだ10代のままで年相応に孤独を感じていたりするのだ。

 

“さーて、制服だけど…こんな感じでいいかな?”

 

今すぐにでも飛びましていきたい気持ちを抑え、陽菜荼は制服が着崩れずれてないか鏡の前でくるっと回ると首を縦に振る。

 

「よーし!バッチリだね」

 

水色が入ったカッターシャツや胸に結んだ赤いリボン、ブレザーの代わりに羽織っている橙のカーディガン、腰やお腹にかけて締め付けるような特徴的なスカートのどれもシワはなく、曲がってもない。

陽菜荼は鏡の中の自分へも微笑むと更衣室のドアを上げるーーそして、そこから…いいや、もう陽菜荼にとって長い長い日は幕を開けてしまったのかもしれない…

 

「あれ?香水さん、もう上がりなの?」

「あっ…そうなんです」

 

陽菜荼がドアを開けた先に居たのは、複数の女性作業員で制服姿の陽菜荼を好奇心と好意を多く含んだ瞳で見つめてくる。それを苦笑いを浮かべながら、受け答えをしていると女性作業員はみんなハッとした様子であるものを差し出してくる。

 

「香水さん、これ私が作ってみたんだ。食べてみてくれる?」

「あっ、私も作ったんだよ」

「私も!」

 

と代わる代わる差し出されてくるチョコを受け取っていると忽ち、両手がチョコでいっぱいになり…陽菜荼はそんな女性作業員たちへと頭を下げながら、両手いっぱいになったチョコをどうしようかと途方に暮れていると…前方から大きな溜息が聞こえてくる。

陽菜荼が顔を上げると二人の少女の姿があった。

右側に立っている少女の外見は癖っ毛が多い金色の髪をショートヘアーにし、水色の瞳を少しつり目にしている。私服はラフな格好で青色のパーカーに刀がデザインされた白いTシャツ、黄色いミニスカートを着込んでいる。

もう一方の少女はというと…フリの入ったシンプルなデザインのワンピースの下にエレガントな白いシャツを着ている服装と華奢な肩や背中へと流れる薄焦げ茶色のロングヘアーと同色の垂れ目な瞳から…押しの弱いお嬢様って感じがする。

どちらも見るからに私服なのを見ると…どうやら、陽菜荼がここを通るのを待っていたらしい。

 

「あれ?琴音と虹架、こんなところでどうしたの?」

 

両手いっぱいにチョコを持ちながら、陽菜荼が二人の少女ーー竹宮琴音(たけみやことね)枳殻虹架(からたちにじか)へとトコトコ近づいていく。

近づいてくる陽菜荼へと呆れたように声をかけるのは琴音で、隣にいる虹架はというと薄焦げ茶色の瞳をまん丸にしている。そんな二人へと陽菜荼はというと苦笑いを浮かべる。

 

「相変わらず、モテるわね…陽菜荼。あんたって」

「もうこんなに貰って来ちゃったの?陽菜荼くん」

「えへへ…うちの先輩たちって押しが強い人が多いんだよ」

「そんな陽菜荼へ袋を恵んで上げるわ」

「はい?」

 

琴音が右手に持った紙袋を差し出すのをポカーンとした様子で見つめる陽菜荼へと今度は虹架がバックから丁寧にラッピングされたハート型の包みを差し出す。

 

「私も陽菜荼くんにチョコ上げるね。いつもありがとうって気持ちと…その…すーー」

「虹架も私もチョコの方にメッセージ書いてるから。それを読んで、チョコを食べた後は必ずメールすること。分かった?」

 

有無を言わさない威圧感が琴音から伝わってきて、陽菜荼はこくんこくんと頷くと…琴音は満足そうに笑うと虹架の左手首を掴むと陽菜荼から離れていく。離れていく際に琴音の顔が真っ赤になっていたのは恐らく、陽菜荼の見間違いであろう。

 

琴音から貰った紙袋へとチョコ入れると…みんなが待っている学校へと足を運んだのであった……

 

γ

 

「はぁ…つっかれたー」

「ーー」

 

学校も終わり、その帰り道…陽菜荼は両手に携えた紙袋からチョコをチラつかせながら…隣を歩く恋人と共に、同居しているマンションへと入ると制服のままバタンとベットへと倒れ込む。

そんな陽菜荼を見て、何か言いたそうな詩乃はチラリと恋人が貰ってきたチョコの数に頭を抱えそうになる。

無駄にカッコ付けたり、色んな人へと分け隔てなく優しく接するのはいいことなのであるのだが…少しは断ったり、自分だけにその優しさを向けてくれたりはしないのだろうか?

そこまで考え、詩乃は首を軽く振る。

 

“まぁ…それがこの子のいいところなのかしら…?”

 

「わぁ〜、見て見て。詩乃!」

「何よ、陽菜荼」

「これ、珪子がくれたんだけどね〜!すごく可愛いんだ!ほら、この子猫とか子竜とかよく出来てる!」

「ーー」

「うわー!虹架のも凄いっ!ほら、オムライスみたいな形してるんだよ!?あれ…し…の……?」

 

しかし、詩乃はその言葉を聞いた瞬間 さっき思ったことが間違っていることに気づく。だって、目の前で貰ったチョコを見て、騒ぎまくっている陽菜荼(このバカ)は一度….いいや、何回も痛い目に合わなければ分からないらしい。

詩乃は立ち上がると見上げてくる陽菜荼に向かって…冷蔵庫の中に入れてあったあるものを取り出し、おもっきり振りかぶり…綺麗なフォームで投げつける。

投げつけられたものがひたいに当たり、涙目になって睨んでくる陽菜荼からプイッと顔背けた。

 

「痛ァッ!詩乃、流石にカッチンコッチンに冷えた箱を投げつけるのは無しだと思うんだよ!?」

「ーー」

「もしもし詩乃さん?聞いてます?」

 

無視を決め込む詩乃に陽菜荼は頭を抱えかけ、自分の脇に落ちた箱から覗くものを見つけて…バツが悪そうな顔を浮かべると何かを思いついた様子で目を輝かせる。

 

“本当は…貰った後に渡そうって思ったんだけど…。仲直りするには…これが思い浮かばない!”

 

愛用している小さなリュックサックから小さい小箱を取り出した陽菜荼はそれを開きながら、詩乃へと近づく。

 

「…詩乃、まだ怒ってる?」

「ーー」

「口を開かないってことは怒ってるってことだよね。ごめんね」

「…本当にそう思ってる?」

「思ってるよ。だから、こっち向いて」

「……いや」

 

小さく否定する声を上げる詩乃へと陽菜荼が困ったような声を上げる。

 

「参ったなぁ…。あたしが詩乃を好きな気持ち、愛してる気持ちに嘘偽りはないのに…」

「ならなんでーーんんっ!?」

 

勢いよく振り返ってきた詩乃の唇へと陽菜荼は自分のそれを重ね合わせる。そして、腕をつっぱり離れようとする詩乃を強く抱きしめた陽菜荼は詩乃の唇を舌でこじ開けるとあるものを詩乃の口内へと放り込む。

 

“甘くて…どこかほろ苦い…これってーー”

 

詩乃が答えを出すより先に陽菜荼の舌が詩乃の口内を暴れ、それによって放り込まれたそれは掻き回され…情熱的に重ね合う陽菜荼と詩乃のキスによって溶かされ、ほろ苦い風味に粘っとした甘みを加えていったであった…。

数分間、その味を味わった詩乃はようやく離れた陽菜荼へとぼんやりした視線を送る。そんな詩乃へと微笑みかけながら、陽菜荼はもう一度サイコロ型の茶色い物体を口に含むと詩乃へと覆いかぶさる。

 

「はぁ…はぁ…」

「…ん」

 

ベットへと倒れ込む詩乃が陽菜荼が制服の強く握りしめる様子とベットが軋む音だけが…部屋の中に響き渡った……。




かなり淡々と書いてしまい…本当にもうわけないです…。飛ばしてしまったみんなのシーンは個別に更新致しますので…このバレンタインだけはシノンさんとヒナタさんをイチャつかせてあげてください(笑)

そして、最近になって思うのですが…うちの小説とゲームの中のフィリアさんって…口調も性格も違うって…(汗)
うちのフィリアさんって…クールとツンデレ要素が強くなってしまったんですよね…これも私の腕が至らぬせいかもですね…(微笑)


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【バレンタイン・2019年記念】NEKOMIMI奮闘記 ー前編ー

更新、一ヶ月近く開けてしまってしまいすいませんでした…(高速土下座)

そんな久しぶりの更新はメインからはすっごい脇に逸れて…バレンタインの話となります。
本当は【過去へと終止符を】の方を進めた方がいいと思うのですが…どうしても私の中の『猫耳アリスちゃん&猫耳シノンちゃん、猫耳シリカちゃん』が力合わせてクエストを頑張るという話がどうでも書きたくて書きたくてうずうずして仕方なかったのです…!

今回の話は『過去へと終止符を』からかなり進んだ未来のバレンタインの話もなります。

私がどうしても見たかったNEKOMIMI三人娘が頑張ると姿を守っていただけると嬉しいです(敬礼)

では、本編をどうぞ!!


ー御礼ー

【sunny place R18版】で多くのリクエストを頂き、ありがとうございます!!(高速土下座)

リクエストの話もメインストーリーもこちらのsunny placeと共に休みなく更新出来ればと思うので…リクエストなされた方々、もう少しばかりお待ちいただけると嬉しいです!

また、R18版は暫くリクエスト消化期間という事で…リクエスト消化に努めていきたいと思っております!!

なので、メインストーリーを楽しみになされている方、もう暫くお待ちください(土下座)


2月13日。

街がカカオの甘い香りに包まれて…その香りを纏わせた人々がひっそりと想いを寄せる人に、お世話になっている人に、普段仲良くしている人に、純粋に普段頑張っている自分へのご褒美、へとチョコを渡し貰うそんな日・バレンタインを翌日に迎えているのが、この13日である。

 

多く人がせかせかとチョコの用意をしているそんな日の朝、とあるマンションの部屋では一人の少女がちんまりしたこたつに入り、赤みがかかった板へと顔を押し付けていた。

 

「はぁ…………」

 

"参ったわね…"

 

そう思いながら、深いため息をつくのは…短く切り揃えた焦げ茶色のショートヘアーに同色の大きめな瞳に度が入ってない黒縁メガネがトレードマークの少女・朝田 詩乃である。

 

詩乃は力なく押し付けていた顔を横に向けると机の上に転がる首からいつも下げている指輪を何気なく見つめる。

この指輪はこのマンションに一緒に住んでいる恋人から彼女の誕生日に贈られたものでーー彼女曰く結婚指輪だそうで、この指輪には様々な仕掛けが隠れており、一つ挙げるとすると普段付けているだけだと蒼いだけだと思われがちである宝石は実は中を覗き込んでみるとそこには銀色で刀と弓の絵が浮き上がるようになっている。

刀と弓ーーそれは不慮の事故でデスゲームと化してしまったSAOを共に駆け抜けてきた愛武器(あいぼう)

その二つと共に駆け抜けてきたSAOでの生活は彼女にも詩乃にもいつまでも大切にしていたい思い出として胸にいつまでも閉まってある。

 

と、詩乃がとある事で悩むあまり湿っぽい思い出を思い出していたそんな時、カタンと硬いものが当たる音と机を小刻みに揺らす振動が詩乃の頬へと伝わる。

顔を上げる詩乃にその名のように明るい笑顔を浮かべるのは詩乃と共にマンションに住んでいる同居人かつ恋人の香水 陽菜荼である。

 

「はい、どーぞ。詩乃の好きなブラックコーヒー。要らないかもだけど、ミルクとシュガーここに置いとくから」

「えぇ、ありがとう…陽菜荼…」

 

陽菜荼から受け取った黄緑色のカップになみなみと注がれた焦げ茶色の液体から漂う爽やかな香りを楽しんだ後に一口口に含む前にお礼を言う詩乃の向かい側に"よっこらしょ"と乙女らしからぬ掛け声と共に腰を落とした陽菜荼も一口橙のカップに注がれた液体…漂う柑橘系等の香りから恐らく彼女が毎朝の日課として飲んでいるはちみつレモンであろう。

 

「で、何をそんなに悩んでおいでなんです?うちの愛しのプリンセスは」

 

コトンとカップを置いた陽菜荼はにっこりと微笑むと思い悩む詩乃の事を覗き込む。

詩乃はカップ越しに彼女の顔と胸元にさりげなく光っている蒼い宝石が入った指輪を見た後に視線を横にそらす。

 

「貴女のところの姫様はセブンでしょう?今は現実(リアル)なのだから、アルヴヘイムと勘違いしないでよ」

「この家での姫様は詩乃だし、あたしにとってのプリンセス…姫様は現実(リアル)でもVRでも詩乃ただ一人だけだもの。それは未来永劫変わる事ない事実だよ」

 

と言い、ニッコリと爽やか笑顔を浮かべる陽菜荼から視線を逸らして横を向いた詩乃の焦げ茶色の髪から覗く耳まで不覚にも赤くしてしまった詩乃は横目でなんで詩乃が照れているのか分かってない陽菜荼を一瞥する。

 

“全く…こういう事を恥ずかしげもなくいうんだから…”

 

そんなさりげない優しさでいつも私を助け包み込んでくれる貴女への日頃のお礼と誰にも負けない愛情を伝えるために送ろうと思っているチョコを何しようかで悩んでいるとは流石に言えないだろう。

 

「…なんでもないわよ。それより陽菜荼 貴女、確か今日虹架と明日奈と10時から待ち合わせしてるって言ってなかった?」

「…へ?あぁ!!ほんとだ!!もうこんな時間っ!?アッスーと虹架に怒られるぅ!!」

 

ゴクゴクと勢いよくはちみつレモンも胃へと流し込み、詩乃が目の前にいるというのに恥ずかしげもなくスパーンスパーンと寝巻きとしている橙の甚平をベッドへと投げ捨てた陽菜荼は箪笥から適当に出した洋服を着込んでから慌ただしく靴を履くと振り返り、パタパタと詩乃へと手を振る。

 

「晩御飯までには帰るから」

「えぇ、いってらっしゃい。虹架と明日奈に子供みたいに駄々をこねて、困らせてはダメよ」

「分かってる……って、詩乃はそもそもあたしのこと何歳だと思ってんの」

「さぁ、何歳でしょうね〜?それよりも時間」

「あぁ、もう!帰ってから問いただすからね!」

 

バタンとドアを閉めて駆けていく背中へと手を振りながら、詩乃は頭を抱える。

 

“うーん、あの子って甘すぎるのもあまり好きじゃないのよね…。だからと言って苦すぎるのも駄目…”

 

詩乃の友達である篠崎 里香には"陽菜荼なら詩乃が作ったものなら下手でも上手でも喜んで食べるわよ"と呆れられながら言われたものだが…折角のバレンタインで贈る特別なチョコだ。誰だって大切な人には喜んで美味しく食べてほしいと思うものだろう。

 

“オムライス型……いいえ、きっとこのアイデアは他の子が考えているはず……”

 

陽菜荼が飛び出していってから数十分間、思い悩み続ける詩乃の携帯がピロリンと鳴る。

携帯を開いてみるとどうやら差出人は綾野 珪子からでメールの内容から"《アップデートされた際に表れたケットシー領限定のバレンタインクエスト》を一緒にしませんか?"というお誘いのように思える。

 

“…?ちょっと待って、ケットシー領限定のバレンタインクエスト…?"

 

ケットシー限定ということは、プーカをアバターとして選択した陽菜荼では獲得できない賞品をアルヴヘイム内だがゲット出来るということだ。

VRでは限定物に滅法弱い陽菜荼ならきっとその賞品をプレゼントすることができれば、喜んでくれるはずだ。

 

そう、考えた詩乃はベッドに投げ捨てられた陽菜荼の寝間着を畳みつつ、珪子へとメールを送信するのだった、一緒にクエストをクリアしようと。

 

 

τ

 

 

数分後、詩乃ことシノンはケットシー領の指定された場所の近くにあるベンチへと腰掛けて、優雅に脚を組んでいた。

 

“さて、ここが待ち合わせって話なんだけど……ってーー”

 

キョロキョロと辺りを見渡していると、見慣れた金と青のコントラストが似合う少女が横切り、シノンは声を上げる。

シノンの声に立ち止まり、踵を返して眉を潜めているのは紛れもなくシノンが思い描いている少女であった。

 

「ーーアリス?」

「おや?シノンもシリカに呼ばれたのですか?」

 

そう言い、シノンへと凜とした美貌を崩して微笑む少女の名前はアリス。

陽の光を一身に受けて黄金に輝く背中まで伸びた金髪、サファイアを思わせる大きめな青い瞳。

彼女の故郷であるアンダーワールドで"アリス・シンセシス・サーティ"と名乗っていた整合騎士次第を思わせる黄金の鎧から覗く青い生地というフル装備状態の彼女を暫し見ていたシノンは腰を上げると一歩横へと移動する。

 

「いつまでも立っているのも辛いでしょう、私の横で良ければ座る?」

 

そう言い、一人分座席をあけるシノンにアリスがお礼を言いつつ、腰を落とすと不意に尋ねてくる。

 

「今日はカナタは居ないのですか?」

「えぇ、アスナとレインと共にお出掛けだそうよ」

「そうですか。久しぶりに会えると思っていたのですが…用事があるのなら仕方ないですね」

 

残念そうに目を伏せるアリスの姿を見て、シノンは彼女に宣戦布告された事を思い出していた。

シノン次第、アンダーワールドでアリスとカナタが過ごしてきた日々は最後の方しか知らない。彼女とカナタがその世界で何を感じ、何を成し遂げてきたのか…そして、何故アリスがカナタへと想いを寄せているのかも分からないのだ。

しかし、アリスとカナタが過ごしてきた日々もカナタへの想いもアリスには負けない自信がある。

 

“私だって負けないわ”

 

そう、負けないためにも今年のバレンタインはなんとしても成功させないといけないのだ。

 

小さく意気込むシノンをアリスは小首を傾げて、見つめていたのだった……




という事で、シリカちゃんはちょっと出ただけでですが、一旦話を切らせてもらいます。
シリカちゃん、悪気はないんだよ…ただ、貴女が登場する部分まで書いてしまうと…五千文字以上いきそうだったから…やむおえなく…だから…
MORE DENしてしまってごめんなさい…!(大汗)

次回はバレンタインに間に合いそうにないので、バレンタインを過ぎてしまうかもですが…金曜日か土曜日のどちらかで更新させてもらうと思います(敬礼)

あと、出番が少なかったシリカちゃんへと出番を多く使ってあげたいですね(微笑)



さて、雑談なのですが……北海道で開催されている【snow festival 2019】とアリゼーションがコラボされていますね!

私は残念ながら行けそうにないのですが…限定グッズのアリスちゃんとシノンちゃんの可愛さ…そして、限定カフェのメニューが美味しそうで行きたくなってきてしまいました(笑)

因みに、限定グッズのみんなが来ている服の中でダントツ的に好きなデザインはアリスちゃんですね!
私、フードとかベレー帽とか被り物に滅法弱くてですね……もう、限定アリスちゃんに釘付けになってしまいました(照)
しかし、シノンちゃんのジャンバー(?)にマフラーというシンプルなスタイルも捨てがい……うん、やはりシノンちゃんとアリスちゃんはいいですね…(赤顔)

と、お二人の話はこのままにして……みなさま、この限定グッズのユージオくん可愛すぎません?(小声)
一瞬、女の子かと思いましたよ、私…(笑)

話を戻して…いつかは北海道行きたいな……(願望)
かやのみでも茅さんと39期生の方々が行かれて、ワインやチーズを味わっておられて……ワインは飲めないかもですが、チーズは食べたいと思っていまして……(照)


また、2/19からローソンとアリゼーションがコラボされるそうで…こちらなら私も応援できますので…シノンちゃんとアリスちゃんは必ず入手します!
出来れば、キリトくんとアリスちゃん、ユージオくんも欲しいな…(願望)


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【2019年・バレンタイン記念】NEKOMIMI奮闘記 ー後編ー

遅くなってしまい、すいません!!(高速土下座)

急いで更新しようと思ったのですが…溜まっていた用事を済ませていたり、風邪を引いてしまって…身体が重く、気怠くて…なかなか筆が進まず、このような日での更新となりました(汗)

それでは、ケットシー三人娘が頑張る様子を見守っていただけると嬉しいです!

では、本編をどうぞ!!


「シノンさーん、アリスさーん、お待たせしましたー」

 

トタトタとタイルを蹴る軽やかな足音の後を追うようにパタパタと小さな羽音が聞こえて、シノンとアリスはそちらへと視線を向ける。

 

二人が視線を向けた先に居たのは、茶色のツインテールから可愛らしい三角耳を生やして、大きめな赤い瞳を持ち、藍色と黒を基調とした戦闘着に身を包む少女・シリカだった。

トタトタ走るご主人様の周りを飛び回るのは水色の羽毛を生やしている小竜・ピナであって、シノンは肩で息をするシリカの肩にとまるピナへと話しかける。

 

「こんにちは、シリカ。ピナ」

「きゅるるるぅ」

「随分、遅かったですね。何かあったのですか?」

 

ベンチから立ち上がった二人は小走りが走ってくるシリカを出迎える。

肩で暫く息した後に、顔を上げたシリカはニッコリと出迎える二人へと笑いかける。

 

「お二人が来るまでに少しでもクエストの情報を集めてようと思っていたらこんな時間になってしまいました」

「そうなの。ありがとう、シリカ」

「シリカ。それで集めてきた情報で何か得られたものはありましたか?」

「はい!クエストの名前は《バンばんbanバレンタイン》でーー」

 

“《バンばんbanバレンタイン》ってなんとも”

“安易でファンシーな名前なのでしょうか…”

 

苦笑いを浮かべる二人に小首を傾げたシリカは首を戻すとクエストの説明を始める。

 

「ーーそのクエストが発注するにはケットシー領内のとある店にいるNPCに話しかける事が条件です。

そのクエストは時間制限はなくて、クエストクリアで貰える賞品は短時間クリアやクリア順位によっての変動はなく、全てのプレイヤーに同じものが配布されるそうです」

「ふーん、なるほど。それならゆっくりと攻略出来るわね」

 

シリカの説明をおとがいに親指と人差し指に当てていた聴いていたシノンのセリフをきったシリカは表情を少し歪める。

 

「そうなのですが…」

「そうなのですが?まだ何かあるのですか?シリカ」

「はい。既にクエストをクリアされた人から聞いた話ですと…なんだか呆気なさすぎて、限定クエストというよりも初心者クエストみたいだったって」

「と言いますと、それは正常なルートとは違い、隠しルートが設定されているという事ですか?」

「うーん、あたしもそればかりはなんとも…。ですが、クエストクリアでゲット出来るチョコは頬が落ちるほど美味しいかったですよ」

 

シリカの幸せそうな表情からどうやら彼女はその情報をくれた人からそのチョコを分けてもらったようであり、二人はシリカの表情を見て…ごくりと唾を飲み込む。

そして、三人は同時に癖っ毛の多い桃色の髪をしたプーカを思い浮かべていた。

きっと、そこまで美味しいチョコならば彼女も喜んでくれるのでは無いかと。

 

“そんなに美味しいの…?それならヒナタもーー”

“そんなに美味しいものならば、カナタもきっとーー”

“そんなに美味しいチョコなら、カナタさんもきっとーー”

 

「喜んでくれるかしら」

「喜んでくれるのでしょうか」

「喜んでくれるんですか」

 

重なる声にハッとした三人は顔を見合わせるとクエストを発注してくれるNPCの元へと向かうのだった。

 

「それではあたし達も行きましょうか」

「えぇ」

「はい、参りましょう」

 

 

τ

 

 

NPCからクエストを受けた三人は限定フィールドに来ていた。

辺り一面、砂糖菓子によってつくられた芝生や木の葉っぱは緑色のグミであり、木の茶色い幹はロールケーキで作られており、芝生に生えた色とりどりの花たちはどうやら飴菓子のようだった。

 

そんなメルヘンチックな風景に不似合いな真っ黒いで骨ばった体躯に同色の厳つい顔に先っぽが三つに割れた黒い槍。

某スプリガンに負けず劣らずの真っ黒なモンスターの名前は【Sugar devil】

恐らく、名前と外見から虫歯菌を運営側はイメージしたのだろうがーー

 

“ーーこれはあまりにもリアルすぎないかしら…”

三白眼は真っ赤に充血し、ギラつく口元からは八重歯が覗く。

 

「これは最初に対戦した時は子どもでも大人でも泣いちゃうじゃないでしょうか」

 

愛用するダガーを構えながら、表情を強張らせながら冷や汗を流すシリカのセリフにシノンはうなづく。

 

「同感だわ、シリカ…」

 

別に悪魔や幽霊に関してどうこうと思うことはないが、このリアリティは流石にないと思う。

こんなファンタジーなフィールドにしたならば、そこに登場するモンスターもファンタジーな外見に……いいや、ファンタジーだからこそこのリアルが必要なのか?

 

「ふん!」

 

sugar devil level:20の外見に困惑を隠せないシリカとシノンに対して、アリスは躊躇なく虫歯菌系モンスターを切り裂いていく。

 

「私は整合騎士としてダークテリトリーから人界に侵入してくるゴブリンなどと対峙したことがありますから」

 

涼しい顔をして、sugar devilの槍スキル《トリプル・スラスト》を交わして、無防備な黒い体躯へと片手直剣スキル《シャープネイル》を叩き込む。

 

「ぎゅるるる…」

 

不気味なうめき声をあげて、薄青いポリゴン片になったsugar devilをはねのけるように次から次へとsugar devilが押し寄せてくる。

 

「シリカ、合わせて」

「分かりました!ピナ、行こ!」

 

sugar devilが放ってくる《スピン・スラッシュ》を小柄な体躯を生かして、身をかがめることで交わしたシリカが骨ばった身体へと、短剣スキル《ラビット・バイト》を叩き込む。

 

「ピナ!ライトニング・ブレス!!」

 

ピナが放つ光のビームによってよろけたsugar devilへと《スターダスト・エクサ》によって降り注ぐ矢の雨でHPで削られて、ポリゴン片となって空へと舞っていくのを三人で見上げる。

 

そして、ウィンドウを開いて、NPCにとってきてほしいと言われた素材が揃っていることを確認したシノンは其々、愛剣をしまう二人へと話しかける。

 

「確かに呆気ないわね。これであのNPCに頼まれた素材は全ての揃ったのよね?」

「えぇ、シリカので最後ですね」

「後はこの素材を渡して、チョコを貰うだけですね」

「えぇ、そうね」

 

sugar devilの見た目には驚かされたけど、levelはどれも10〜40と熟練者にとっては味気ないものだった。

確かにこれが限定イベントだとすればかなり味気ない。

 

“もしかしたら、これはシリカの読みがあっているかもしれないわね…”

 

ぴこぴこと水色のショートヘアーから飛び出ている三角耳と黒い短パンから覗く尻尾をブンブンと振りながら、考え込むシノンが辺りを見渡しながら、シリカがいっていた隠しルートの手掛かりを探そうと辺りを見渡す。

 

“ん?思えば、なんでこのクエストはケットシー限定(・・・・・・)なのかしら?”

 

平坦なフィールドに出てくるモンスターはリアリティを求めすぎた虫歯菌系悪魔でレベルはどれも低めの設定。

 

“そのどこに私たちケットシーの特徴を生かせるものがあるのかしら?”

 

ん?ケットシーの特徴を生かす攻略ーー何故かこのワンフレーズが引っかかる。

 

“でも、なんでこんなにも引っかかるのかしら”

 

これ以上考え込んでいても自分だけでは答えが出ないと思ったシノンは自分の肩にとまり、じゃれつくように頬へと小さな顔を押し付けてくるピナの羽毛を優しく撫でているシリカへと問いかける。

 

「ねぇ、シリカ。このイベントってなんでケットシー限定(・・・・・・)なのかしら?」

「…へ?それはケットシー領でしか発注出来ないからじゃないですか?」

 

まん丸な赤い瞳を更にまん丸にしてキョトンとした様子で答えるシリカにシノンはブンと尻尾を振るうと引っかかっている所をいう。

 

「それはあるかもしれないけれども…この難易度と平坦なフィールドならどの種族でも攻略出来ると思わない?

わざわざケットシー限定って付ける運営側の意思が汲み取れないわ」

「確かに……シノンの言うことも一時ありますね」

 

凛とした美貌を備えた顔にはめ込まれたサファイアを溶かしたような澄んだ青い瞳を伏せながら、アリスはシノンと同じように辺りを見渡してヒントを得ろうとする。

 

「…ケットシーである私たちでしか出来ないこととは何なんでしょう?」

「うーん、目が良いってことでしょうか?」

 

ピナを撫でる手を止めて、眉を潜めて…ケットシーの特徴をいうシリカにシノンが首を横に振る。

 

「それはないんじゃないかしら。見た感じ、フィールドは真っ平らな様子だし…さっきフィールドの一番端まで来ちゃったもの」

「……ですよね。他にはーー」

「きゅるるるぅ」

「ーーこら!ピナ、くすぐったいからっ…やめっ…あははっ」

 

シノンとアリスとだけ話して、自分の事を構ってくれなくなったご主人様にピナが自分も構って欲しいとスリスリと自分の身体を擦り付ける。

頬を擦るピナの羽毛がくすぐったいのか、シリカが笑い声をあげながら、身をよじる。

 

可憐な少女が小竜とじゃれ合う姿は実に微笑ましい光景で、攻略中だというのについ張り詰めていた気持ちを緩めそうになってしまう…いいや、なってしまうというよりもなっているだろうか。

実際、アリスはシリカとピナがじゃれあっている様子を見て、険しい表情を柔らかく穏やかなものへと変えているのだから。

しかし、そんなアリスと違い、シノンはそんな二人を見つめたまま、固まっている。

そんなシノンに眉を潜めたアリスが心配そうに顔を覗き込みながら問いかける。

 

「シノン?」

「…ねぇ、アリス。ケットシーってモンスターをテイム出来るわよね?」

「? えぇ、私やシノンはしていませんが…ケットシーはモンスターを心を通わせることが出来ると唯一の種族ですね」

「よね…そうよね……やっぱり、そうだわ!私が今まで引っかかっていたのは…それなんだわ!!」

 

水色の三角耳と尻尾を嬉しそうにピコピコブンブンと振りながら、シノンは嬉しそうに微笑む。

 

「それと言いますと?」

 

嬉しそうなシノンに眉を潜めるアリスは金を溶かしたような三角耳と尻尾を力なく振るっている。

 

「テイムよ。きっとこのイベントではテイムモンスターが必要となる隠しルートがあるはずだわ」

「へ?テイムですか?しかし、その条件ならシリカが満たしてますよ?なのに、何も変化が起きない…テイムモンスター以外にも条件があるのでしょうか?」

「うーん、今のところは何とも言えないわね。もう一度フィールドの隅々まで行ってみる?」

「えぇ、地道に探していきましょう」

 

そう結論づける二人へと言いにくそうに歩み寄ってくるのはピナとじゃれあっていたシリカである。

 

「シノンさん、アリスさん。きっと二人が話している隠し通路ってあそこに現れた洞窟だと思います」

「へ?」

「え?」

 

シリカが指差す方には、確かに洞窟が出現しており…二人は顔を見合わせた後にシリカを同時に見つめる。

その視線にシリカは自分の周りを飛び回るピナを見ながら、困ったような表情をする。

 

「ピナがその木に生えている果物を食べちゃったら…その岩に大きな穴が空いちゃいまして…」

「ふふふ」

 

困ったような表情をするシリカのセリフを遮るのはシノンの笑い声である。

 

「シノンさん?」

「いえ、何でもないわ。あんなに悩んでいたのに…出現条件がこんなにも簡単なものだったなんて」

「えぇ、そうですね。あんなに悩んでいたのが可笑しいです」

 

シノンの笑い声につられるようにアリスもクスクスと笑い、そんな二人につられるようにシリカとピナも笑い声をフィールドに響かせるのだった。

 

 

τ

 

 

「ここがこのダンジョンの最深部なのでしょうか?」

 

黒光りするダンジョンの壁を伝いながら、小さなろうそくによって照らされて光るダンジョンの奥に光る通路を見ながら、アリスがシノンとシリカへと問いかける。

 

「えぇ、ここに来るまでに倒してきた敵はどんどんと強くなっていっているもの」

「そうですね。ダンジョンの作りからそろそろ終わりだと思います」

 

二人のセリフにうなづいたアリスは右手に持つ片手直剣を構えるとダンジョンの最深部へと足を踏み入れたのだった。

 

そして、そこに広がっていた……正しくいうと、恐らく最深部であろう大きな窪みにドデーンと佇んでいる焦げ茶色のつるっとした身長100メートルくらいのモンスター。

名前を【sweet sugar slime】

名前から分かる通り、俗にいうスライムから飛び出てきた触手によって…脚を絡みとられて、宙づりにされるシリカ。

 

「きゃあああ!?」

 

甲高い悲鳴を響かせながら、ブンブンと短剣を振るうシリカを助けようとスライムの周りを飛び回るピナ。

 

「ピナ!シリカから少し離れて!矢を放つわ!!」

 

シリカから離れたピナのちょっと隙に《スパークル・シュート》をシリカの足首を掴んでいる触手を貫いた矢によって解放されて、落ちてくるシリカを抱きとめたアリスはシリカを地面へと下ろす。

 

「シリカ、大丈夫ですか?」

「はい、ありがとうございます。アリスさん」

「きゅるるるぅ」

「ピナも心配してくれてありがとう」

 

肩にとまるピナを撫でるシリカが短剣を構えると共にアリスが片手直剣を構える。

そして、そんな二人へと飛んでくる触手を光る矢が貫き、矢の衝撃によって怯むスライムへと続けて、淡い光を放つ片手直剣と短剣が光を放ち、つるーんとした身体へと斬撃をくわえる。

 

「はぁあああ!!!!」

「やぁあああ!!!!」

 

そんな二人の衝撃に弾かれたスライムへと光る矢が突き刺さり、矢を放ったシノンへと伸びてきた触手をアリスが片手直剣を弾き、懐に走りこんだシリカの短剣を煌めき、スライムの身体を貫き、シノンの矢がスライムの頭上から降り注ぎ…目に見えて、HPが減る。

 

「一気に決めます!シノン、シリカ揃えてください」

「分かりました!」

「了解」

 

片手直剣が煌めき、スライムに向かって剣先を構えたアリスはスゥーと息を吸い込むと煌めく剣先をスライムを切り刻む。

激しい突きの末に強烈な一撃を放つスキル《ノヴァ・アセンション》

 

「参ります」

 

ラストの一撃によって削れるHPを見ながら、今度はシリカがスライムへと走り寄る。

パタパタと自分の周りを飛ぶ小さな竜とその主人へと抵抗とばかりに触手が飛んでくるの触手に乗ったり身を縮めながらしながら、避けたシリカの短剣が淡い光を放ち始める。

 

「行くよ、ピナ」

「きゅるるるぅ」

 

ピナが放つ小さな光の線がスライムを貫き、シリカの手に持った短剣がキラリと光を放つとスライムの身体を複数の角度から切り込むスキル《ライトニング・リッパー》

 

「シノンさん、今です」

「ありがとう、シリカ」

 

シノンがギュッと弓を引くと矢をつがえる。

鏃が光るのを見ながら、シノンがスライムへと狙いを定めると矢を放った。

放った矢が光の線のようになり、スライムの身体を貫く。

 

「これで……へ?」

「終わりましたね……はい?」

「きゃあああ!?なんかベタベタします、これ〜ぇ」

 

シノンが貫いた矢でどうやらスライムのHPを全損させる事が出来たようなのだが、この隠し路の主人は普通のモンスターと違い、弾け飛ぶという事で消滅を示した。

弾け飛んだスライムだったものは何故か焦げ茶色から真っ白へと変わっただけでなく、さらなるとろみをくわえて…ダンジョンの壁や自分を倒した者たちへと降りかかる。

 

顔や髪の毛、防具や戦闘着へと絡みつく真っ白くどろっとしたスライムだったものを気持ち悪そうに顔をしかめながら、取っていこうとするアリスが険しい顔をする。

 

「もうなんなのですか、これは…っ。外そうにも外れないじゃないですか」

「きゅるるるぅ……」

「ピナもかかっちゃったんだね」

 

自分の肩にとまり、気持ち悪そうに羽につく白く粘ったしたものを身震いで取り除こうとするピナだが、結果はアリスと同じようだった。

そんな二人+一匹と違い、顔にかかる白く粘ったしたスライムだったものを乱暴に吹いたシノンがスライムが居たところに山盛りにされたアイテムへと歩み寄ると二人へと振り返る。

 

「二人共、見て。どれも超がつくほどのレアアイテムが揃ってるわ」

「なんでシノンはそんなにも冷静なのですか。スライムが身体中に張り付いているのですよ」

「…風変わりなあの子と付き合ってるけどね、こういったクエストによく付き合わされて…びしょ濡れになったり、ベタベタになったり、燃やされたりとか日常茶飯事だから。きっと慣れちゃったのね、私」

 

そう言って、横顔へと影を落とすシノンから安易に普段から彼女が恋人であるプーカの刀使いに振り回させているのかが想像がつく。

 

「…その、大変ですね…シノン」

「…カナタさん、"レア""期間限定"の文字に弱いですもんね。あたしが持ってきたレアクエストの情報を伝えた瞬間、あたしの手を引っ張って、クエストが発注されるところまでダッシュでしたもの」

 

懐かしい思い出を思い浮かべるように、目を細めるシリカの肩へと勢いよく両手を置いたアリスはぐいとシリカへと顔を寄せる。

 

「それは本当ですか、シリカっ」

「へ?あ、はい…。殆ど、カナタさんが敵をバッサバッサと嬉々として倒していって、あたしとピナはその後をついて行くって感じでしたけど」

 

シリカに寄せてきた顔を引っ込め、顔を引っ込めたアリスが今度はボソボソと独り言を呟き出す。

 

「………なるほど。レアクエストを持っていけば、カナタと二人きりになれるのですね…。しかも合理的に手を繋げるなんて……盲点でした。……プーカ領に会いに行くときは、レアクエストを探してからいきましょう」

「…程々にしなさいよね、あの子も貴女も。今から二人が物凄いスピードでクエストをクリアしていって、運営が涙目になるのが安易に眼に浮かぶもの」

 

両手を握りしめ、もう既にカナタとクエストに行く気満々のアリスへと苦笑いで釘をさしながら、シノンは目の前の山になっているアイテムの山に浮かぶボタンを押す。

 

こうして、最後はスライムまみれとなってしまったが、充実したバレンタインクエストが終わりを迎えたのだった。




やばい…めっちゃ私のイメージでアリスちゃん書いちゃったけど…これで良かったのかな…?(汗)

しかし、シノンちゃん・アリスちゃん・シリカちゃんが力合わせて戦う姿っていいですね(微笑)
思えば、三人が選んだケットシーの隣にあるのはプーカ領ですからね(微笑)
そういう点では、キリトくんのスプリガンとアスナちゃんのウンディーネの領も隣り合ってますものよね(微笑)
これは偶然なのか…はたまた、必然なのか…?
上の例は必然ですね!
原作の4巻を眺めている時に『プーカってケットシーの隣なんだ』と驚いた事を覚えていますし…原作キャラ・ゲームオリジナルキャラにプーカプレイヤーがあまり居なかったですし…何よりも小さい子が自分の背丈くらいの日本刀を自在に操りながら、敵を滅するサムライ系女子っていうのが私の中で激アツでしてねっ!
是非、陽菜荼にもさせようと思っていたのですよ(笑)

また、今回のバレンタインの話は【ケットシー三人娘が頑張る姿がみたい】と又に…【三人へと何かかけたいな】という私の変態じみた考えから書いたものでした。
我ながら、その二つの考えからここまでの長編を書き上げるとは……びっくりしちゃいますね、本当(笑)
しかし、二つの目的はちゃんと達成出来たので…私はもう満足です…(達成感に浸る私)

最後に、陽菜荼は三人から貰ったレア装備に飛び上がるほど驚き、アリスちゃんが持ってきてくれたレアクエストを早速二人で攻略しにいったそうですよ(微笑)


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【バレンタイン・2020年記念】L.O.V.E. 前編

いいタイトルが浮かばんかった…(大汗)

今回はカナタとアリスちゃんの二人での攻略となります。

急いで書いたんでめっちゃ短いです。

本当すいません……(大汗)


2月14日。

バレンタインデーと呼ばれるその日は前日からチョコがよく売れ、女性達がどんなチョコレートにするべきか試行錯誤し、本命チョコと呼ばれるものを勇気を出して相手に渡すそんな日。

街を歩けば、甘ったる香りや雰囲気があっちこっちから漂うそんな日。

そう、世の中では多くの女性達が一大イベントを迎えようとしているそんな日、あたしはあいも変わらずVRMMOへとログインしていた。

VRMMOの名前は《アルヴヘイム・オンライン》。通称《ALO》。

妖精達が住む世界をイメージしているその世界では、あたしは楽器の演奏や特殊スキル《歌》を使うことが出来る《音楽族妖精(プーカ)》と呼ばれるアバターを使用し、武器はSAOから変わらず日本刀となっていて、一部のプレイヤーからは《鋼鉄の守護者《アシエ・ガルディアン》》や《切り裂き歌侍》など散々な二つ名を頂戴しているよう……っていうか、《切り裂き歌侍》ってなんだよ。あたしがいつ切り裂いたってんだ。失礼しちゃうよなー、たく。

 

“大体、切り裂かれたくなければ…あたしに勝負を挑むなってんだ”

 

プーカ領に備えてあるベンチに深く腰掛け、あたしのことを《切り裂き歌侍》っていうヘンテコ二つ名で呼んでいった《火族妖精《サラマンダー》》のプレイヤー達のことを思い浮かべながら、こみ上げてくる怒りを発散する為にぶんぶんと小さな脚をはしたなく動かしている。

と、あたしの呼び出しを快く承諾してくれた待ち人が小走りで駆け寄って来ていた。

 

「お待たせしました、カナタ」

凛とした声が大気を揺らし、彼女の純金を溶かしたかのようなお下げ髪がふわりと宙を舞い、白いカチューシャの端からは申し訳なさそうに垂れ下がる三角耳が、青いワンピースからは金色の尻尾が見え隠れするのをボゥーと見ている。

と、胸に右手を添えて息を整えている彼女の蒼い瞳へと申し訳さそうな光が浮かぶのを見て、あたしは"気にしなくていいよ"という意を込めて、ひらひらと左手を振る。

金髪の《猫族妖精(ケットシー)》殿は変な所生真面目なのは出会った頃から変わらない。

 

「ううん、あたしもさっき来たとこだから。全然待ってないよ、アリ」

 

自分が無理を言って付き合ってもらっているんだ、数十分、数時間待つのは当たり前って思っているし、何よりも待ち人・アリスのような美人さんが一人ベンチに腰掛けていたら良からぬ輩に付きまとわれかねない……。まー、アリス様の事だからそういう輩には彼女特製のお説教とお仕置きコースが待っているのだろうが……。

 

“アリのお説教ってなかなかくるもんね……”

 

あたし自身も幾度となく彼女のお説教を受けたことがあるがかなり辛い。

まずは土下座をしなくてはいけない雰囲気が辛い。続けて、淡々と毒舌、そして正論を加えながらのお説教が辛い。脚は痺れるし、心は疲弊するしでフルコースが終わった後は五年くらい寿命が縮んだ気がするもの。

 

“まー、何はともあれ”

 

「それじゃあ、早速行こうか?」

「はい、参りましょう」

 

あたしはベンチから飛び降りると何時ぞやの時のように戯けた様子でアリスへと聞き手を差し出し、その手へと何処か嬉しそうな表情をしたアリスが聞き手を添えたのだった…。




次回はもっと長めに書きます!

また、火曜日・木曜日の更新をサボってしまいすいませんでした……(大汗)





ちょっとした雑談です!

すき家とのコラボは、第2弾は私用で行けなかったんですが……今回の第3弾は初手からシークレットを当てました…。
ビビりました………(大汗)
この調子でシノンちゃんのみのファイルを私に…私に与えてください!神様ッ!!!!(高速土下座)

また、abecさんのイラストが収録されたお菓子では見たことがない"砂漠でのイラストカード"が当たりまして……暫く、手前にいるシノンちゃんとラクダ乗っているアリスちゃんをガン見し続けました。
やっぱりabecさんのイラストはいいです……色使いが素敵ですし、何よりも何時間見続けていても飽きがこない(●´ω`●)


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【ホワイトデー記念】2.5時間のデート〜始まり〜

何週間ぶりの更新…かなり腕は落ちてると思いますが、どうかそこは目をつぶっていてください(汗)

ということで、本編ではない上にすごく今更感がありますが…ホワイトデーの話をどうぞ!


 

3月14日、雲一つ浮かばない快晴と呼ばれる青空が広がる

中、とあるマンションに住む少女はその空のように澄んだ蒼い瞳といつもは比喩されるそれを今日はどんよりと曇らせていた。どんよりしているのはどうやら瞳だけではないらしく…年がら年中だらけている寝間着もいつも以上に乱れており、橙の襟首から綺麗なお椀型の形を保つ双丘によって作られた谷間が覗き、このマンションに一緒に住んでいる少女の同居人・朝田 詩乃(あさだ しの)はため息をつきながら、身を乗り出して…少女の乱れた寝間着を整える。その間も少女は身を乗り出す詩乃の顔をぼぅ〜と見つめたまま、沈黙を保っていた。

 

「ーー」

「何、朝から深刻そうな顔してるのよ…折角の天気が台無しになるでしょう。ほら、笑顔見せる」

 

数秒後、着崩された橙の甚平の裾を手繰り寄せ、本来の形へと整えた詩乃はこっちを見つめたまま、微動だにしない同居人かつ恋人・香水 陽菜荼(かすい ひなた)の頬をぶにゅ〜と引っ張る。

だがしかし、陽菜荼は詩乃に頬を引っ張られているにも関わらず、詩乃の焦げ茶色の大きな瞳を心ここに在らずな感じで見つめたままで…詩乃は頬から両手を外すと陽菜荼へと声をかける。

 

「ーー」

「ちょっと、陽菜荼?私の話聞いてる?」

 

コツンコツンと机を叩いて、陽菜荼の注意を引こうとした詩乃の思惑は的を打ったのだが…陽菜荼の底無し沼のような瞳を前に思わず、身を引いてしまう。

それくらい陽菜荼の蒼い瞳は雨雲に覆われており、固く結んだ唇から漏れ出るアルト寄りの声もどこか気怠げで…詩乃から机の一点へと視線を変えた陽菜荼が問いかけてくる。

 

「…………ねぇ、しの」

「な、なに?」

 

思わず引いてしまった身体を元に戻した詩乃が陽菜荼のボリュームが低い声を聞き取るためにもう少し前へと身体を押し出す。

 

「…………貰ったものはお返しすべきだよね?」

「ええ、まぁそうね」

「…………それが被っていても…お返しはすべきなんだよね?」

「それはそうでしょう…って、先から何の話をしてるの?」

 

いまいち陽菜荼の質問の意味が汲み取れない詩乃がそう問いかけると…陽菜荼の表情が更に暗くどんよりと曇っていく。

 

「……………今日ってホワイトデーだよね?」

「あっ、確かにそうね。もしかして、私へのプレゼントに悩んでるとか?」

 

もしそれでここまで悩んでくれているのならば、願ったり叶ったりだと詩乃は陽菜荼へと茶化すように言ってみるが…帰ってきたのは今までと変わらない掠れた声であった。

 

「………それも死ぬほど悩んだけど…それ以上に深刻なんだよ…!もうどうすればいいんだ…!」

 

そう言って、ガチャンと机へと倒れこむ陽菜荼に詩乃は眉をひそめる。目の前にある癖っ毛の多い栗色の髪へと指を差し入れ、手櫛をしながら…項垂れる陽菜荼へと優しく声をかける。

 

「深刻ってそんなに深刻なことなの?」

「……………ん」

「私にお手伝いできること?」

「…………無理かも」

「ふーん、そうなんだ」

 

陽菜荼のそのセリフに何故かイラッとしてしまった詩乃はにっこりと笑うと手櫛していた指をギュッとするとそのまま上へと持ち上げる。その動作によって、激痛が走った陽菜荼は顔を上げると…にっこりと可愛らしい笑みを浮かべる詩乃を睨む。

 

「痛痛痛痛痛痛痛いッ!!髪の毛が抜けるっ!?」

 

数本抜かれた髪を抑えながら、涙目になった蒼い瞳へと強い怒りを浮かべながら、陽菜荼は涙に濡れた声で非難の声を上げる。

 

「もぅひどいよ〜、詩乃ぉ〜。この歳で頭がつるつるになるとか悲しいことなんだよ?」

「ふふふ、ごめんなさい。でも、実力行使した甲斐はあったでしょう?」

 

涙声に涙目の陽菜荼がおかしいのか、詩乃が口元を手で覆いながらクスクスと笑う。そんな詩乃を睨みながら、陽菜荼は頬をプクーとふくらます。

 

「詩乃さんはあたしのこの不機嫌な顔のどこからそう思われるのです?」

「その不機嫌な顔の方がいつもの…いいえ、私の大好きなカッコいい陽菜荼だわ」

「なっ!?」

 

まっすぐ陽菜荼を見つめながら、そんなことをのたまう詩乃。そんな詩乃から視線を逸らして、しどろもどろになる陽菜荼を見て…してやったりとニンヤリ笑う詩乃に陽菜荼は再度机へと伏せると小さく呟く。

 

「あら?どうしたの、陽菜荼。顔が赤いわよ?」

「……その不意打ちはずるい」

「いつもあなたが仕掛けてくるから今日こそは私からって思ったのよ。でも、これで憂鬱な気持ちは晴れたでしょう?」

「あぁ…ん」

「なによ、煮え切らないわね」

 

そう言う詩乃に観念したのか、陽菜荼が今まで悩んでいた原因を包み隠さずに話す。

バレンタインデーにみんなからチョコを貰い、その返しをみんなに尋ねたところ…揃って二人っきりのデートがいいと言われた事。それも全員聴き終えた後に不可能なことに気づき、どうすればいいのか悩みに悩んでいたこと。

それを聞いた詩乃の反応はというと肩を上下に揺らすと頭を抱える。

 

「…なんで二人目で気づかなかったのって聞いてもいい?」

「…ん。みんな…と言っても、レインとフィリアは別だよ。他のみんなはね…チョコを貰うときに一緒に聞いたんだよ…」

「それで気づくのは遅れたと?」

「…はい…」

 

項垂れる陽菜荼を見て、肩をもう一度すくめた詩乃は携帯を取り出すとメールをみんなへと打つ。

そして…このメールから慌ただしいホワイトデーが幕を開けたのだった…




ということで、かなり淡々と書いてしまいましたがーー簡単に説明すると、チョコの返しをみんなが揃って二人っきりのデートがいいと言われ、それを二つ返事で返していたら大変な目にあったって話です…

これは詩乃さんが呆れるものわかる気がします(苦笑)

どうか、陽菜荼さんにはこれからの各ヒロインとのデートでカッコいいところを見せてほしいものです(o^^o)


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【ホワイトデー記念】2.5時間のデート〜リズベット・前編〜

大変長らくお待たせいたしました!

2.5時間しか猶予がないデートの開催です!
最初のお相手はリズベットさんこと篠崎里香さんで…果たして、どんなデートになるのでしょうか?

また、かっこいい陽菜荼は見れるのでしょうか?
それらにご注目しながら…本編をお楽しみください!


「ふぅ〜、もうすっかり春ね」

 

そう言って、腰掛けているベンチの近くに咲いている黄色い小さな花を満開に咲かせている菜の花を見ている少女の外見はいかにも活発そうな雰囲気が漂っていた。

焦げ茶色の髪は肩の近くで切りそろえており、前髪は長いのか、左右にヘヤピンを着けている。髪と同色の瞳は勝気で、適度に整った顔立ちにはそばかすが愛らしく頬へと付いている。

そんな少女が身につけている服装は藍色のジーンズに上は黒いシャツの上に淡い桃色のワイシャツで…ガジュアルな仕上がりになっている。

 

“ちょっと素っ気なかったかしら?まぁ、相手はあの陽菜荼だもんね…あっちの方があたしよりも酷いか”

 

自分の出で立ちを再度確認し、待ち合わせをしているとある人物の服装を勝手に想像する。

 

“陽菜荼のことだから…普通にダサいパーカーか橙のシャツとか着てきそうね…。流石に甚平は着てこないでしょうね…多分”

 

度々、お邪魔させてもらっている部屋着から彼女は恐らく、女の子らしい服を一着も持ってないと少女・篠崎 里香(しのざき りか)はそう踏んでいた。

 

“さてさて、あたしの予想は当たっているかしら…?”

 

γ

 

あれから早いもので5分が過ぎて…より一層暖かくなる春の朝。

そよぐ菜の花や蕾が膨らんできた桜へと視線を向ければ、穏やかな気持ちになるのだが…そんなうららやかな春の中、里香はイラっとしていた。

右手にはめている腕時計へ視線を落とすとそこには朝の9時を三分過ぎたところに針が表示されており…里香は公園をキョロキョロと見渡し、いまだに姿を現さない約束の相手へと怒りを募らせていく。

 

チクタクと針が音を奏でる度に募っていく怒りの砂が三分一ほど容器を満たした頃、やっと里香へと近づいてくる足音とアルト寄りの声が聞こえてきた。

 

「お、いたいた。里香、おはよう」

 

声音から反省の色は見られない=(イコール)遅刻しても何でも思わないデートだったということ…もっと掘り下げれば、彼女にとって自分は何にも思われてない存在ということ…

 

“冗談じゃないわよ!あたしがこの日をどれだけ楽しーー”

 

「あの里香さん、突然固まってどうなさいました?」

 

里香が溜まりに溜まった怒りをぶつけようと振り返った先には、一人の少女が立っていた。

肩の近くで切りそろえられている癖っ毛の酷い栗色の髪、こっちを見つめてくるのは空のように透き通った蒼い瞳。

そんな少女が身につけているのは真っ白いワンピースで服の上からでもその華奢な身体つきが手に取るように分かり、そのラインを隠すためになのか、淡い橙のカーディガンを身につけている。

 

そんな約束の相手の姿に里香は掴みかかりそうになるくらいに前のめりなり、相手を問い詰める。

 

「ちょっと、陽菜荼!折角の快晴を曇り…いえ、槍を降らせてどうするのよ!」

「それは流石に言い過ぎでしょうよ、里香さん。まぁ、そう言いたくなるのも分かるけど…」

 

突っかかってくる里香をどうどうと落ち着かせるような仕草をする約束の相手・香水 陽菜荼(かすい ひなた)へと里香はため息まじりに尋ねる。

 

「で、本当にどうしたのよ」

「あぁ、これ」

 

自分の服装をチラッと見た陽菜荼は照れ臭そうに癖っ毛へと指を絡める。

 

「折角のデートだしね。多少のおめかしは必要でしょう?」

 

そう言ってはにかむ陽菜荼の姿が一枚の有名な画家が仕上げた極上の人物画のようで…里香はそんな陽菜荼から視線を逸らすと憎まれ口を叩く。

 

「えぇ…本当に馬子(まご)にも衣装ね」

「だから、言い過ぎだって!」

 

「もぉ…」と腰へと手を当てると、気を取り直すように顔を横に振る。

そして、気持ちを切り替えたのか…里香へと左掌を差し出す。

 

「折角なので…手でも繋ぎます?お嬢さん」

 

そうおちゃらける陽菜荼へと里香はおずおずと自分の右手を差し出す。

 

「あんたがどうしてもっていうなら繋いであげなくもないわよ」

「うちのお嬢さまがおやさしい方で何よりですよ。では、お手を拝借(はいしゃく)

 

なんの躊躇いもなく、指を絡める陽菜荼に里香は顔を羞恥心で染めながら、陽菜荼を怒鳴る。

 

「ちょっ!?指が絡まってるからっ」

「あらあら、里香お嬢様どうなさいました?お顔が真っ赤ですよ?熱があるやもしれませんね…どれどれ、おでことおでこを重ねて、熱を図りまーー」

 

ニヤニヤ顔でおでこをくっつけてこようとする陽菜荼を里香は目力をMAXにして睨みつける。

 

「それ以上、悪ふざけをするなら…シノンに言いつけるからね」

「はいすいません。里香がガチで照れるなんてレアで可愛くてつい調子に乗りました、すいません」

「ふん、分かればいいのよ」

 

そう言いつつ、今だに里香の頬が赤いのは陽菜荼と恋人繋ぎをしている以上にさっきの会話で不意に放たれたある言葉によるものであった。

 

“可愛いなんて…お世辞でも言うもんじゃないわよ”

 

どうせ、他の人にも同じ調子で言っているに違いないとドキドキと脈立つ心臓を無理矢理鎮め、前を向いた時だった。

隣を歩く陽菜荼が無言で里香を見つめてくるのだ。

 

「……」

 

“な、何かしら?”

 

戸惑う里香へとゆっくり伸びていくのは陽菜荼の左手でーー

 

「ーー」

 

ーー自分の髪に触れた瞬間、ギュッと目を瞑る。

そして、その手が滑るように自分の頬へ来るのを想像して、待っていた里香だが…代わりに聞こえたのはパチンという何かを外す音で…

 

「想像通り。やっぱりこのヘヤピン、里香に似合うや」

 

ニカッと笑う陽菜荼の手元にはさっきまで里香が付けていた愛用しているヘヤピンで…

 

「それ、里香へのプレゼントだから…大切にしてやってね」

 

ヘヤピンをポケットへとしまいながら、里香は強くなっていく鼓動をなんとか抑えていた……




大変、まことながら…このsunny placeの更新日を4月から毎週金曜日のみとさせていただきます。
因みにR-18版は毎週日曜日、更新となってます。

その金曜日に調子が良ければ、連続で更新をしているかもしれませんし…してないかもしれません…。

また、四月か五月から原作当時の陽菜荼を書こうと思います。
こちらは百合要素皆無のものとなっているので…シノンさんファンの方、大変申し訳ございませんm(_ _)m
代わりにですが…本編と同じくらいに読者の皆さんに愛されるキャラにしていこうと思っているので…よろしくお願いしますm(_ _)m


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【2020年初夢記念】妖狐(ようこ)の水浴び001

【sunny place】関連の初夢で見たのがこの内容だったんだ………
なんで、こんな内容を見たかは分からない………




初夢ということで【すき家コラボ】で"七福神をモチーフにしたみんなのファイル"、読者の皆様はゲットなされましたでしょうか?

私はカレーセットを注文させていただいて、ゲットしたのは【ユウキ】ちゃんでした〜♪

本音を言うと、アリスちゃんが欲しかったけど……ユウキちゃんでも嬉しい!!!!(((o(*゚▽゚*)o)))

っていうよりもSAOのみんなはみんな大好きだから、どのキャラが来ても私にとっては大事な大事な宝物なのです(●´ω`●)

ユウキちゃんファイル大切しよ…(保管っ保管っ)



また、1/29から始まる第2弾からは、本命であるシノンちゃんが来ますからな……しっかり運を貯めとかないとっ(ふすふす)

その前にアリスちゃん、来てくれるかな……(不安)




和風VRMMO 《アスカ・エンパイア》

"百八の怪異"イベント概要

 

・当イベントでは、関東エリアに実装される新たな街《あやかし横丁》を起点に、一年を通じて百八つのクエストを順次配信していく。

 

・計百八個のクエストは、以下の三種に分類される。

 

○百物語

ユーザーが《ザ・シード》を用いて制作した投稿作品。

 

○七不思議

各提携企業とのタイアップクエスト。多数参加型の大規模なものを想定。

 

○大詰め

イベント最終週に配信予定。詳細は部外秘とする。

 

ユーザー投稿のクエストに関しては、投稿作の傾向からいくつかのトラブルが予見される。対応中の事例に関する問い合わせはエラー検証室・虎尾(とらお)まで。

 



 

「ふーん……」

 

(百八の怪異、ね……)

 

あたしはベッドへと上半身を預けると両手に持ったタブレットを体育座りしている太腿へと乗っけると画面に映し出されている内容へと目を通す。

因みに、このタブレットは借りているマンションに一緒に暮らしている同居人兼恋人である朝田詩乃とシェアしているもので、色合いやカバーがシンプルな色合いなのはあたしと詩乃の好みである。

好みといえば、同居しているこの部屋に余り家具が置かれてないのと色合いが白や黒なのはお互いが余り華美(かび)なものを好まないからなのかもしれない。

 

「陽菜荼、何を見てるの?」

「んー?」

 

噂をすればなんとやら、ベッドの上で雑誌を読んでいた詩乃がタブレットを見ているあたしの背後へと膝立ちで歩いてくると両肩へとほっそりした掌を添えてからズイッと身体と顔を寄せてくる。

右頬を擽る焦げ茶色の房から微かに漂ってくる甘い香りと背中にプニッと当たる二つの膨らみにクラッとしそうになり、このまま続けられると理性が保てない気がし抗議しようと振り返った瞬間、真横に真剣な様子であたしの手元にある画面を見つめる詩乃の横顔があり、長年見続けているとはいえど…つい見惚れてしまう。

身動きするたびに頬を掠める焦げ茶色の房、その真横には幼さを残しつつも凛と整っている顔立ちがあり、目下にある画面を見る為に下を向いている髪と同色の瞳、縁取(ふちど)られた長い睫毛も合わせて……間近で見ているあたしの目には一枚の絵を見ているように思えた。

俯いている瞳、表情の一つをとっても美を感じることは出来ないかもしれない…だが、ずっと見ていたいと思えるものが確かにある。

息をするのも忘れ、ジィ––––と彼女の横顔を見つめているとどうやらあたしの視線に気づいたらしい恋人殿が白かった頬へと朱を添え、弱った声で抗議してくる。

 

「ねぇ。そんなにまじまじと顔を見つめられると流石に恥ずかしいんだけど」

「あ、ごめん。今日の詩乃がいつもの一億倍増しで可愛いからキスしたくなった」

「は?」

「だから、キス……して、いい?」

 

"何を言ってるのか分からない"といった感じで眉を顰めて訝しげにこっちを見つめてくる詩乃の頬へと聞き手を添えるとゆっくりと顔を寄せていく。

 

「バ………」

 

近付いてくるあたしの顔……瞳を見つめる大きめな瞳が驚きから揺れるのを見つめ返しながら、ぷるっと潤んだ桜色の唇にあと数センチが近づけると思った瞬間、唇が震え……ギュッと左手が握りしめられたかと思ったら、自分の右頬に向かって音速を超えたスピードの何かが炸裂する。

 

「バカじゃないの!!」

「あべしっ!?」

何かとは詩乃の左手のようで渾身の右ビンタの威力は半端なく、ふらっと体がフラついて、そのまま放たれた威力のままに机の端へと頭をぶつける。

 

(ゔぅ……痛い……頭も心も……)

 

今日一のキメ顔で迫ったら、思いっきり強めの右ビンタを食らった……最愛の恋人に……。ショックすぎて、暫くは立ち直れないかもしれない……。

 

「そ、そういうのは……晩御飯食べて、お風呂は入ってから寝る時にすることでしょうっ」

 

と思ったが、どうやら恋人殿は単に恥ずかしがり屋ならしい。

スクッと体を起こし、ベッドの上に座っている詩乃を見上げてみるといつもは知的な印象を受ける顔立ちが真っ赤かに染まっており、瞳が潤み、ギュッとシーツを掴んでいる両手から見るにさっきの発言も詩乃自身恥ずかしかったらしい。

 

「えへへ……」

「な、なによ……」

「何にも」

 

(ツンデレデレ詩乃様、最高で至高。生涯愛してます!)

 

色々と軋み痛むけれども、さっきのツンデレデレでここ最近足りてなかった詩乃成分を補給出来たし、新たに一生この子の側に居たいという誓いをたてられたで結果オーライとしよう。

 

「それよりも! さっき見てたのって何?」

「ああ、これね」

 

今度はお巫山戯無しで背後にいる詩乃に見えるようにタブレットを傾けると間近にある焦げ茶色の瞳が文章を読み、ぱちぱちと瞬きをする。

 

「アスカ・エンパイアの新しいイベントの告知…?」

「そ。面白そうだし、やってみようと思ってね」

「本当に貴女って和に目がないのね……」

 

そう言って、呆れた顔をする詩乃を見上げながら、にっこり笑うあたしがアスカ・エンパイアの新しいイベント《百八の怪異》の攻略に身を投じ、新たなクエストの攻略の為に知り合いを呼んだのはその出来事から数日後の事だった……




かなり序盤ですが、ひとまずここで話を一旦区切ります。

久しぶりに、ひなしの書けて楽しかった……

読者の皆様に少しでも二人のイチャつきが伝わればいいのですが……(大汗)



この話はかなり長くなりそうなので、更新が止まっているアリシゼーションと共に更新出来ればと思ってます(敬礼)

次の更新の時にはアリスちゃんファイルゲットのお知らせば出来ればと思います!!


ではでは〜(*´ー`*)


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【2020年初夢記念】妖狐(ようこ)の水浴び002

家族の協力の元、すき家コラボファイルの【アリス】ちゃんをゲットすることができました!!

はぁ……ほんとかっこ可愛い……もう何時間だって見ていられる……

アリスちゃん、好きだ……(しみじみ)


【和風VRMMO《アルカ・エンパイア》】とあたしが出会ったのは、全くの偶然であった。

その日、代わりばんこに行なっていた晩御飯の担当が詩乃であったり、晩御飯の間にお風呂を沸かそうとしていたらもう沸かしてあったり、いつもと同じようにお風呂に入ったはずが早く上がってきてしまったり、と……そういう偶然が重なって出来た空き時間、ベッドに縋り、キッチンから漂う芳しいに鼻を刺激され、お腹の虫がぐうぐうとなるのを必死に耐えている為に頭を拭く。

 

そんなあたしの目の前にあるテーブルの上に置かれていたのが同居人兼恋人とシェアしているタブレットでーー。

 

「……」

 

あたしは何気無しにそのタブレットを手に取り、"まぁ、ひっかからないだろう…"と思いつつ、検索してみたのだ、『和風VRMMO』と。

 

そして、検索に引っかかったのが…さっきから話題に出ている《アルカ・エンパイア》。

 

"和"の一文字に目の色を変え、嬉々としてダンロードするための準備に取り掛かるあたしを見て、苦笑いを浮かべて呆れる恋人を尻目に早速ダンロードしたあたしはその世界に足を踏み入れた途端、一瞬でその世界の虜になり、詩乃や他のみんなが呆れる理由が分かったような気がした。

 

気がしたが……だからと言って、今の自分を偽る気はない。

だって、胸を張って"好きだ"と言えるものを、時間を忘れて何かに没頭出来るものがあるってことは素敵な事だとあたしは思うから。

そして、あたしにとってのソレは『和』だったという事。そう、ただそれだけの事なのだ。

 

 

 

τ

 

 

 

「ここまで暗いと眠くなってくるよな……ふわぁ…」

 

初回からどハマりし、他のVRMMOの合間を縫って、《剣士》の入門を上げやレア装備、レア武器を集める為にぼちぼちログインしていたあたし自身も心待ちにしていた大型アップデート《百八の怪異》に合わせて追加されたフィールドが、今あたしがとことこ大欠伸をしながら歩いている《あやかし横丁》という所だ。

 

このアルカ・エンパイアの首都は《キヨミハラ》という所なのだが……そこのモチーフは飛鳥浄御原宮。その時代近い平城京、平安京となっている。

煌びやかな塗装が張り巡らさせていた貴族の屋敷や仏教建築がひしめきあう首都と違い、今回の出現したフィールド・あやかし横丁は江戸の城下町をモチーフにしており、派手さを感じられない庶民的な木造建築がひしめき合っている。

 

あたし的にキヨミハラよりはこちらのあやかし横丁の方が落ち着いた雰囲気、飾らない感じが好ましいなどが……このあやかし横丁という名前には"現世から外れた街"という意味が込められているらしく。

 

冒頭であたしが愚痴った通り、リアルタイムが真昼間だろうが、朝日が昇ろうが、こちらの世界は常に夜で日が差すことはなく…何故かよく分からないが、その真っ暗い雲に覆われた隙間から鬼の顔が覗いていたり、足元のぬかるみから真っ青な腕が蠢いていたり、道の脇に備えられている木の塀の模様が人の顔に見えたり時々ソレが変わったりと……あたしの知人ではアッスーあたりがこの横丁に訪れた瞬間悲鳴をあげて、気絶してしまうほどにそういう演出に今回力を入れているらしかった。

 

(シノと横丁探検した時も凄かったよな……)

 

半強引にログインしてもらった恋人殿の手を握りしめ、意気揚々と横丁の名所である首吊りの桜や河童の堀、黄泉の地下道などを試しに巡ってみたのが色んな意味でびっくりしたし、アッスーをこの名所達に連れて行ってはダメだと思った。

 

「入店手続きいいかな?」

「にゃっ」

 

そんな横丁だが、中には愛らしいものもあったりするそれがこの《化け猫茶屋》というところなのだが、この店舗も運営さんのカラクリが仕込まれていたりする。

そのカラクリというのはインスタンスショップシステムというもので……このシステムは横丁にある多くの店舗に導入されており、導入した理由は雰囲気を守る為に、過度の混雑を避けるのが狙いとか。

 

肝心のインスタンスショップシステムとは見た目は一つしかない店舗であっても、その内部はコピーされた複数の店舗に分けられていて、訪れた客は次々とコピーされた別の店舗に転送されていくのでいつまで経っても混雑は来ないという画期的なシステムなわけで…落ち合わせの場合には、店頭でフレンドリストから入店手続きをすれば同じ空間に入れる。因みに、追加料金を払って貸し切りにし、オフ会ならぬオン会の会場にしている例も珍しくない。

 

かくいうあたしも今回は先にいているであろうフレンドがいる場所へと入店手続きを行い、転送してもらう。

 

そして、現れる畳の部屋へととことこ歩いて行くとそこにはお目当ての人達が既に到着していて…向かい合って、お茶や甘味を食べている二人の人物へとあたしはニカッと笑いながら、片手を上げながら近づいていく。

 

「や。スア、レイ。おまたー」

「おまたーではありませんわ。呼び出しておいて、ご自身が一番遅いとはどういうことですの?」

 

そう言って、わらび餅を口に含み、「すす…っ」とお上品に緑茶をすするのは《GGO(ガンゲイル・オンライン)》からの知人である《スキア》である。

背中まで伸びた黒髪を赤いシュシュで緩く結んで、前へと垂らし、こっちを睨む切れ長な瞳は髪と同色。女性らしいメリハリのある肢体は紅と黒を基調とした上衣と袴を着込んでいる。

そんなスキアだが、最初に出会った時と比べるとこちらのスキアもあまり大差はなく、漆黒の上衣の端からは可愛らしいピンク色のひらひらが見え隠れしている。

 

「まあまあ、スキアちゃん、カナタくんもたまたま用事が入って遅くなっちゃっただけだと思うから。そんなに怒らないであげて」

 

そんなスキアの向かいに腰掛けているのがデスゲームと呼ばれている《SAO(ソードアート・オンライン)》からの知り合いである《レイン》。

背中まで伸びた茶色い髪は前のめりになることでさらさらと揺れ、困ったようにスキアを見る垂れ目がちな瞳は髪と同色。あたしよりも情報量が凄そうな二つの膨らみを抑え込むのは(あか)を基調とした袴と白い小袖を着込んでいる。

 

「この通り。ごめんってスア。ほら、あたしの肉球饅頭あげるから、もう許してよ」

 

そう言いつつ、激おこ状態のスキアの隣へと腰を落とすあたしの服装は橙の着物と琥珀色の袴を着込み、肩へと薄い橙にほんの少し緑色が入った羽織を掛けているって感じである。

 

「カナタさんが思われているほど怒っていませんわ。ただカナタくんの人を待たせたというのに詫びない態度に苛立ちを覚えてしまっただけですの」

 

そう言いつつ、あたしの肉球饅頭を一口含むスキアからレインへと視線を向けたあたしはニッコリ笑うと饅頭を一個差し出すのを受け取ったレインが一口噛り付いて、目に見えて表情が緩むのを見ながら、あたしは二人を呼び出した要件をようやく持ち出すことにした。

 

「ーーーーレイとスアは《妖狐(ようこ)の水浴び》ってクエストを知ってるかな?」

 

そう尋ねるあたしの顔を見て、二人が顔を見合わせるのを見て、あたしはそのクエストの内容を説明するのだった……




ちょっとした補足〜

三人の役職は……

カナタは《侍》

スキアちゃんは《忍者》

レインちゃんは《戦巫女》

となってます!


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【2020年初夢記念】妖狐(ようこ)の水浴び003

今回も次回と続けて会話シーンなのでめっちゃ短いです



「ーーーーレイとスアは《妖狐(ようこ)の水浴び》ってクエストを知ってるかな?」

 

ニッコと笑って尋ねるあたしをまじまじと見つめた後、顔を見合わせたスキアとレインは形良い眉を顰めながら、互いに質問を重ねていく。

 

「…《妖狐の水浴び》? レインさん、知ってまして?」

「ううん、私は聞いた事ないかも。その様子じゃあスキアちゃんも聞いた事ないんだ?」

「ええ、(わたくし)はあまりこちらにはログインしておりませんので…」

 

そう言うスキアをまじまじと見つめる。

嘘でしょ、あまりログインしてないのに……上位職の《忍者》ってどんな裏口入門を利用したの、スア!?

流石のあたしもそれにはひーー

 

「ーー…あの、その目は流石に失礼でしてよ、カナタさん。あまりと言うのはGGOに比べて、という意味でして……こちらはカナタさんに誘われてお付き合い程度にしているだけですし、何よりもあっちにはマフユが居ますから。GGOのログインが多くなるのは必然というものですの」

「あ、あはは……デスヨネー。やだなー、スア。さっきの視線は冗談に決まってんじゃない」

「どうかしらね」

 

"失敬失敬"と癖っ毛の髪を撫でるあたしへと氷の如し視線をお見舞いするスキアは暫く経って深くため息をつく。

 

「全く人をなんだと思っておりますの、あなたという人は」

「何って……頼りになる仲間、かな。あたしの知り合いの中で戦闘に長けている…あたしにも引けを取らないって言ったら、スキアだろうし…同じ戦法を使ってるから攻撃を合わせやすいし…」

「!?」

 

“お? スキア様が赤顔なされてる……”

 

怒ったり恥ずかしがったりと忙しそうなスキアへと視線を向けていると正面から邪魔するように可愛らしい咳払いが聞こえてくる。

ので、そちらへと視線を向けるとレインがこっちを不機嫌そうに見つめていて……あたしは"はて?"と首を傾げる。

 

「ごほん。それでカナタくん、さっき言ってた《妖狐の水浴び》ってどんなクエストなのかな?」

 

不機嫌そうだった表情があたしが正面を向いた瞬間、跡形もなく消え去り、代わりに残るのは愛らしい笑顔だ。

 

“……ほんとなんだったんだ…”

 

女心と秋の空っていう諺があるが、今のレインの心はそれなんだろうか……ふむ、やはり分からぬ。

分からないものはいくら考えても分からないという結論に至ったあたしは"ふふん"と得意げに鼻を鳴らす。

 

「ああ、《妖狐の水浴び》はね……」

 

そして、クエスト《妖狐の水浴び》を概要を順を追って、説明していく。

《妖狐の水浴び》というのは"百八の怪異"の中の"百物語""七不思議""大詰め"でいうと"百物語"に該当する。

百物語……ユーザーが《ザ・シード》を用いて制作した投稿作品。

随時更新していくといわれている作品の中の一つであるそのクエストが発生するのは、とある銭湯との事。

老夫婦が切り盛りするその銭湯は町の中央に位置し、朝から晩まで多くの客がごった返す人気の銭湯なのだが…困った事に真夜中になると人ならざる者が湯に浸かりにくるようで…不気味に思ったおじいさんがある日、その者が浸かっている時に扉を開いてみて、見てしまった……月夜に光り輝く銀毛を湯船につけながら、ウトウトと小舟を漕いでいる妖狐をーー。

 

「「……」」

「あれ? お二人さん、なんで固まってるの…?」

「内容が至って普通だったから、逆にびっくりしちゃって…。私、てっきり《かごめかごめ》みたいな感じかと思ってたよ」

「ああ…」

 

レインが言わんとしていることがわかった。

内容が至って普通という事は、これまで更新されてきたイベントの内容がホラー好きには堪らない、中にはホラー好きでもトラウマになってしまうほどのクオリティのものがあるらしい。

というのもあたし自身、これまで更新されてきたクエストは全部回っているのだが…余りにも気合が入った演出にあまり感じたことがない恐怖というのもを感じ、あまりおふざけはしないでおこうと本気で思った。

 

「…それでカナタさんはなんでそのクエストをやりたいのですの?」

「その妖狐を退治したから、この百八の怪異限定のスキルと職業が手に入るから!」

「やっぱりそういうことですのね…」

 

当時を思い出し、ブルブルと震えているあたしへと質問したスキアは想像していた通りの返答が返ってきて…頭を抱えている。

 

“頭を抱えるほどのことを言ったかね、あたし…”

 

スキアの行動に不満が爆発しそうなあたしを「まあまあ」と宥めたレインは近くを歩いていた三毛猫の店員さんを呼び、会計を済ませると三人並んで、クエストが発行される銭湯まで歩いていくのだった…。




次回、戦闘!


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【夏記念】祭りだぁ!花火だぁ!尾行だぁ! 〜前編〜

久しぶりの更新がそんなふざけたタイトルのもので本当ごめんさい…。
また、更新をお休みしている間に私の作品へと多くの方がお気に入りと評価を付けて下さったこと…心から感謝申し上げます、本当にありがとうございます(土下座)

と、今回の話ですが…タイトルの通りの話となっておりまして、ALOでの夏祭りでシノンさんがカナタを尾行し、彼女が同姓にモテる理由を探るってものです。

というわけで…本編、どうぞ!


うららやかな木漏れ日が心地よい今日この頃、あたし・香水陽菜荼はALOにてすっかり常連となってしまった小洒落たカフェにて、同居人かつ恋人の朝田詩乃…このALOではシノンというアバターネームを持つシャープな三角耳とこの季節に見ると涼しく思う水色の細長いしっぽを揺らした猫族妖精(ケットシー)殿とゆったりと楽しくお茶を飲んでいた。

 

「ふぅ…、やっぱりこのアイスコーヒーって美味しいわね」

 

優雅に脚を組み、その黒い張り付く短パンから覗くスラッと美しい曲線美を描く肉づきのいい脚を惜しげもなくあたしや周りの客へとアピールしているケットシー殿が一口含むのが、砂糖やミルクを一切入れてないアイスコーヒー。

あたしは澄ました表情でその黒く…光の当たり具合によって茶色に見える飲み物を自分の体内へと流し込んでいく恋人殿を見て、ちょっと顔を歪めてしまう。

 

「そう?あたしには苦いだけだけど…って、よくシノってそんなの飲めるよね?」

 

選んだ種族上白と黒のタイルが敷き詰められている床へと脚が付かないあたしがパタパタはしたなく脚を動かして飲むのが、はちみつレモン。

上に書いてある会話文から推測している通り、私は苦いものは嫌いだ。くどいようだが、あんな口や顔がシワだけになるものをよく好んで飲んだり食べたり出来るものだと私は尊敬の眼差しでシノンを見つめる。

 

「慣れたら美味しいものよ?一口飲んでみる?」

 

あたしの尊敬の眼差しを受け、普段はクールな表情を浮かべている整った顔立ちを微笑に崩した恋人殿が差し出す黒い液体とカランコロンと音を鳴らす正四角形の氷が揺れるグラスをあたしは嫌そうにシノンへと押し返す。

 

「いい、要らない。そんな苦いの」

 

押し返されたグラスを見て、微笑を失笑に変えたシノンは諭すような呆れたような口調であたしへと語りかけてくる。それを頬を膨らませて、聴いていたあたしはグレたようにそんな恋人殿へと言い返す。

 

「あなたって子供の頃から変わらないわね…。将来のために少しは好き嫌いとか直したらどう?」

「いいもん〜。あたしには心優しい恋人が用意してくれる美味しいご飯があるもん〜。だから、そんな我慢して苦いものを食べる必要ーー」

 

しょぼくれたあたしのいうセリフを遮って、シノンがにっこりと見惚れるくらい美しい笑顔であたしにとって地獄へ落ちろっと言われているような言葉を平然と口にする。

 

「ーーなら、その心優しい恋人が丹精込めて作ったゴーヤチャンプルは美味しく食べられるのね?」

「そんな殺生なぁ…っ!!」

 

泣き喚くあたしを見て、満足したのか恋人殿はクスクスと口元を隠して笑うとむくれるあたしへと謝罪を口にする。

 

「ふふ、嘘よ。私がカナタの嫌いな物を作るわけないじゃない」

「意地悪なシノ…嫌い…」

 

笑いながら謝罪するシノンから視線を逸らし、あたしは怒っているんだぞっという意味を込めて、頬を水風船のように膨らませる。

そんなあたしの頬を右人差し指で小突きながら、シノンは左手を横にスライドし、ウィンドウを出すとある記事をあたしへと見せてくる。

 

「だから、ごめんさいって言ってるじゃない。意地悪したのは悪いって思ってるわ。だから、はい」

「ん?」

 

シノンに差し出された記事をささっと読んだあたしはウィンドウの後ろにある藍色の瞳を見つめると首を傾げる。首を傾げる理由は何故、恋人殿がこのALOという世界の中で現実世界でお馴染みのイベントこと夏祭りに誘ってくるのか…?意味が分からなかったからだ。

 

「何故、謝罪が夏祭りなの…夏祭りなら現実で二人で行こうって約束してるじゃん」

「もう、ヒナタってロマンがないわね。現実とこのALOでは同じ夏祭りでも催し物が違うかもしれないじゃない。食べ物だって、この世界でしか食べられないものが売られていると思うの。だから、一緒に回しましょう?」

 

何故かにこにこと上機嫌なシノンへとあたしは思いっきり面倒くそうな表情を浮かべる。

このゲームの世界まで来て、夏祭りとか意味が分からない。あたしがこの世界にログインする理由はただ一つーー

 

「ーーまだ見ぬレジェンド級武器に腕の立つ強敵達、そして難関ダンジョンがあたしを待っているから、でしょう?ヒナタの考えている事だもの、私には手に取るように分かるわ」

「ふぐ…っ」

 

思っている事を恋人殿に言い当てられ、あたしは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると…シノンが攻める時はここと判断したのか、つらつらと言葉を並べる。

 

「いつもヒナタの事を優先してあげてるでしょう?だから、この日くらいは私の用事に付き合ってもいいと思うのよ。ねぇ、お願い」

「………シノ、そこまで言うなら…行く……」

「ヒナタならそう言ってくると思った。ありがとう」

 

可愛らしく微笑むシノンから念押しとばかり、日付と当日は普段着ではなく新しい着物を着る事と言われ…こうして、あたしはALOにて最愛なる恋人殿と夏祭りデートをする事になったのだった…




と、前編はいつものようにカナタ&シノンさんがイチャイチャするだけの話(笑)
でも、この二人がイチャつく話ってスラスラ書けるんですよね〜…(微笑)


折角なので、雑談を…
4月からスタートした『ガンゲイル・オンライン』ですが…読者のみなさまを見られましたか?
そんなガンゲイル・オンラインですが…私は少し見逃した回があり、もしかしたら出ていたかもしれないのですが…本作のヒロインことシノンさん…名前だけでしたね…(涙)原作にて、ちょろっと出ていたので…もしかしたらって思ったんですが……しかし、それを差し引いてもレンちゃんとビトさんがカッコよかった…(溜息)
また、藍井エイルさんの流星も良かったんですよねぇ〜…こちらもきっと終わりまでやってくれるはず!!なので、二期まで原作を読みながら、心待ちにしてます。

10月からは、いよいよアリジゼーション編のスタートですね(微笑)
キノの旅で有名な監督が手掛けるとの事で、一期や二期と違い、作画を温かみのある可愛らしいタッチなので…今から楽しみですよ!

SAOIFでは、遂にシノンさんが現れましたね!
しかし、私はまだ一層…(失笑)
これは…頑張って進めないとなぁ…。シノンさんとの絡み見たいし…(笑)

というわけで、以上雑談コーナーでした(。・ω・。)


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息抜ーbreak timeー
001 オムオムパーティ(珪子編)


毎週欠かさずオムライスを食べてないと元気になれないほどにオムライス大好きっ子な陽菜荼がただただヒロイン達と相棒達、知り合い達とオムライスを食いまくる文字通りブレークタイムな話です。

最初のお相手は【綾野珪子/シリカ】ちゃんです。

理由は【WoU】編が始まって以来のラジオの最初のゲストがシリカちゃんの中の人こと日高里菜さんがだったことと、一生の不覚でシリカちゃんの誕生日をその日にお祝い出来てないので……そのお祝いも一緒にできればと思ってます。

それでは、シリカちゃんとオムオムデートする陽菜荼をご覧ください。

本編をどうぞ(リンク・スタート)!!


あたしは現実世界に帰ってきてからなんとなく切らずにいる癖っ毛の多い栗色の髪の髪の束を指先でクルクルと弄りながら、透き通る青、そして遠くに見える目を惹く赤、黄、茶色のコントラストを優しく照らす秋空の太陽を見上げては目を細めながら、冷たくなってきた澄んだ空気を吸い込む。

 

「すぅ……」

 

“随分、寒くなったもんだな……”

 

首に巻いた琥珀(こはく)色のマフラーを緩く首に巻いているせいか、隙間から風が入ってきて寒いのでしっかり直してから、橙のダウンジャケットの前を止めようとしていると右横からトタトタと軽やかな足音が聞こえてきて……あたしへと遠回りに待ち人が到着した事を知らせる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

下に向けていた顔を上に向けてみるとやはりそこには待ち人である綾野珪子。

で、セーラー服のような水色のワンピースの上に寒くないようにか、青いカーディガンを羽織って、足元は黒いレギンスに茶色いブーツを履いている。

 

“ちゃんと使ってくれてるんだ……”

 

ワンピースの胸元を抑えながら、走ってきて荒くなった息を整えている珪子の茶色い髪の毛を束ねているのが白と青のシマシマに巻き付くように銀色の猫と小竜が顔を出しているシュシュだと気づいた瞬間、思わず頬が緩んでしまった。プレゼントしたものをこうして大切に使ってもらえるのは正直言って……いいや、かなり嬉しい。

 

「や。珪子。こんにちわ」

「……こ、こんにちわ、陽菜荼さん。そ、その……またせちゃ––––」

 

申し訳なさそうに謝罪を口にしようとする珪子の唇に触れるわけにはいかないので、自分の唇へと左人差し指を押し当てて、無理矢理セリフを切ってから、"本当に気にしてないから"という意味を込めて、ウインクする。

 

「そういうの無し、ね。あたしが無理言って珪子に付き合ってもらうんだから、待つのは当たり前って思ってるから」

「……は、はい」

 

まだ何か言いそうな珪子の服装を改めて、上から下まで見てから首元が寒そうだと思ったあたしは首に巻いてたマフラーを解くと一歩前に出てから珪子に近づいてからキョトンとした様子の彼女の首を絞めないように少し緩めに巻いてあげる。

 

「それよりもその格好だと寒いでしょ。このマフラー貸してあげる……っていうか、あげるよ。最近忙しくて、珪子の誕生日をお祝いできてなかったから」

「そ、そんな……いいですよっ」

 

あたしに巻かれるまで微動だにしなかった珪子だが、流石にマフラーを貰っては……あげたあたしの方が寒くなり、風邪をひくと思ったのか、折角巻いたマフラーを解こうとする珪子へと肩掛けリュックに突っ込んだままにしてあったネックウォーマーを見せつけながら、スパッと首に巻いてから。

 

「気にしなくていいよ。ほら、こんな事もあろうと……ほらっ! あたしにはこのウォーマーがあるんだから。それともあたしのお古は誕生日プレゼントにならないかな……?」

「…い、いえ……。その……とっても嬉しいです……」

 

今だに解こうとしている珪子の手を優しく解いてから、再度巻き直してあげると赤くなっていく頬を隠すようにマフラーに埋もれていく珪子の頭をとんとんと撫でる。

 

「喜んでもらえたようでよかった。それじゃあ、そろそろ行こうか」

 

ポンポンと撫でていた手を差し出すと珪子が戸惑いがちに掌を乗っけてくれるのでニカッと振り返って笑うとギュッと指と指を絡めてから意気揚々と歩き出す。

 

「秋もだいぶん深まってきて、冬に近づいてきたよね……」

 

空いた方の手でネックウォーマーを首元まで持ち上げてから、喉が渇いたので自販機を探していると隣の珪子がやけに落ち着きがないことに気づく。

ふむふむ。首に巻いてある琥珀色のマフラーを首元まで持ち上げようか悩んだ末に空いた手でギュッと掴んでから口元……ではなくて、鼻のところに持っていくとスンスンと空気を吸い込む音が聞こえ……ありゃ? そうかと思ったら、顔を真っ赤にしてからマフラーを下に下げたかと思ったら……チラッと俗にいう恋人繋ぎをしている自分達の手を見てから……もう一度顔を真っ赤にしてから……視線を目の前のマフラーに向けてから、もう一度空いた手がマフラーへと伸びてきて………んー???

 

“ふむ……珪子が何をしたいのかがよく分からない上にやけに挙動不審なのが気になる”

 

まるで、はしたないと分かっていても好奇心に負けてついつい気になる人の匂いがついているものを嗅いでしまう……みたいな。

 

“まさか、ね”

 

あの真面目で頑張り屋な珪子に限ってね……おっ。あそこにおわすは自販機殿ではありませぬか、久方ぶりですな〜。

 

「てね。どれどれ、あのコンポタはあるね。確か、クーポンも……あるある」

 

首にかけてあるオーグマーを起動させてから溜まっていたクーポンでコーンポタージュの小さいペットポトルのようになっているタイプのを二本購入すると今だに謎の動きをしている珪子の頬を押し付ける前に自分の頬で実験してから大丈夫と判断してから彼女の真っ赤に染まった頬へとズイとコンポタを押し付ける。

 

「ひゃああ"っ!?」

 

素っ頓狂な声を出す珪子にしてやったりとほくそ笑みながら、こっちを涙ぐみながら睨んでくる視線から感じながら、ガチッと小刻み良い音を聞きながら蓋をあげると中に溜まっているコンポタを胃へと流し込む。

 

「……あ、美味しい」

「えへへ、でしょ? 他のマーカーのコンポタも好きなんだけど、このメーカーが一番好きなんだ。牛乳とコーンがお互いを引き立てあっているように計算され尽くされた黄金比が素晴らしくてね」

「……ふふふ」

 

各メーカーのコンポタの違いを熱弁するあたしが面白かったのか、珪子がくすくすと見上げながら笑うので照れを隠すために頬をかく。

 

「陽菜荼さんは本当にコーンポタージュが好きなんですね。前に奢って貰ったのもそうでしたから」

「確かにそうだったね。ついつい自販機でコンポタ見つけちゃうと買っちゃうんだよね。無意識に買っちゃうってことは好きってことなんだろうけどね」

 

そう言っている側からキャッシュレスでコンポタを二本買うあたしを見て、もう一度くすくすと笑う珪子へと振り返ってから尋ねる。

 

「珪子もなんか飲む? ついでだし、あたし奢るよ」

「そんないいですよ」

「まあまあ、ご遠慮なさらずに。ここはわたくしめを立ててくださいませ、珪子お姫様」

 

そう言っておどけてみせると珪子はおずおずと言った様子でコンポタの隣にあるオニオンスープというのを指差すのでガチャンと押すと入り口から出てきた暖かい缶を差し出すと目的地に向けて、ぶらぶらと歩き出す。

 

「ふぅ……生き返った……」

 

手に持っていた分を飲み干したあたしはほかほか笑顔を浮かべながら、隣でちびちびと大事そうにオニオンスープを飲む珪子の歩幅に合わせて歩きながら、人通りが多くなってくると小さな肩に手を添えてからスッと人が多くない方に誘導しながら、まだある道のりを見つめながら暫し考える。

 

“んー、あんま車道に近づけさせるのは気がひけるしな……でも、人混みの方は男性が多いしな……ふーむ’

暫し思案した結果、車道側あたし寄りを進んでもらうになり、あたしはあたしと離れた位置を歩いている珪子の手を握ると思っていたよりも冷たいことに気づき、暖めてあげようという善意とそうした方がもっと近くに寄ってくれるはずという効率を優先した結果、あたしは珪子と繋いだ手を自分のダウンジャケットの右ポケットへと突っ込んだのだった。

途端、突っ込まれた珪子はあたしの読み通り、近くにはやってくれたが、びっくりするほど顔を真っ赤にして、赤い瞳を涙ぐませるので慌てて突っ込んでいた手を引っこ抜く。

 

「ご、ごめんね。そんなに嫌だったとは知らなくて……」

「いえ、こちらこそごめんなさいっ。陽菜荼さんが謝ることはないですよ。びっくりさせちゃいましたね……この涙は陽菜荼さんのことが嫌とかじゃなくてその幸せの方の涙で、幸せすぎて、あたしどうにかなっちゃうのかもって思って……」

 

“ほーぉう? 幸せの方の涙?”

 

よく分からないけど、ポケットに手を突っ込むのは嫌じゃないなら店に着くまで入れておこうか……珪子の手、まだ冷たいし……。

「嫌じゃないなら良かった。まだ目的地まであるし……一行に秋風が冷たくなったからあたしのポケットに珪子の手入れとくね」

 

今度は珪子に断りを入れてから、ポケットに繋いだ手を入れてからしばらく進んだ先の角を曲がったところにあたしの目的地があった。

 

「ここが陽菜荼さんオススメのオムライス専門店さんですか?」

「そそ。ここのオムライスは目が飛び出ちゃうほど美味しいから、珪子に是非食べて欲しかったんだ」

 

説明しつつ、店内に入ると週4ペースで通うあたしは店員さんや店長さんの中でも常連さんという称号を得ていたようで「いつもの場所で、いつものオムライスですね。お連れの方はどうしましょう?」と親しげに注文を取ってくれるのでニコニコしながら、受け答えをしてから珪子といつも座っている四人がけの窓際の席に腰掛けたあたしは肩掛けリュックとダウンジャケットを隣の席に置いてから大きく背を伸ばす。

 

「ふわ〜ぁ……」

「大きな欠伸ですね。昨日寝れなかったんですか?」

「うん。少しALOの方で色々あってね……」

 

あははと照れ笑いを浮かべていると目の前に頼んだオムライスが顔を出す。

あたしはオーソドックスなオムライスの横に唐揚げとスープがついているもので珪子はこの店自慢のデミグラスソースがかかっているオムライスで……あたしは注文したものが揃ったのを見届けてから、スプーンを両手で持ってから「いただきます」と呟いてから、まずはケチャップが付いてない黄と白が一種の有名な画家の作品のように美しいコントラストを見せつけてくる生地とその下にある赤いチキンライスを掬い上げてから、すかさず口内に導くと自然と幸せが溢れてくる。

 

「あむふむ………美味しいね、珪子っ」

「そうですね。って、陽菜荼さん、頬にケチャップ付いてますよ」

「そう言う珪子こそ頬にデミグラスソースが付いてるよ」

 

そう言われて、珪子は頬を真っ赤に染めてから近くにある紙ナプキンで頬を拭こうとしてからあたしの頬へと付いているケチャップを暫し見つめた後、自分の頬についているであろうソースの場所へと視線を向けてから、何か小さな声で何か呟いてから席を立つ。

 

「け、珪子?」

 

何か思いつめた表情でこっちに近づいてくる珪子にピクッと肩を震わせたあたしの方へとズイと身を寄せた珪子は自分の頬とあたしの頬をくっつけてから自分のスマホでガチャリと撮る。

 

“え………と、これはどんな状況?”

 

その後、自分の撮った写真を真剣な様子で見ていた珪子は満足したように身を寄せていた身体と頬を離していく様子を黙ってみていたあたしは向かい側で突然上機嫌になった珪子がさっきまでくっついていた場所に触れてみる……そこには微かに彼女の残り香とぬくもりが残っていた。頬をくっつけることに必死になって、あたしの腕へと小さいながらもしっかりと柔らかい双丘の感触……そして、うなじや癖っ毛に触れていった彼女の茶色い髪から漂っていたシャンプーの甘い香り……それがやけに嗅覚や触覚に染み付いては離れない。

向こう側でにこにこと笑顔を浮かべながら、オムライスを頬張る珪子から視線を逸らしながら、ボソリと呟く。

 

「……本当になんなんだ」

 

呟いた後、正面へと視線を戻すと幸せそうに食べる珪子の姿に些細なことはいいかという判断になり、自分のオムライスを胃へと収めていく。

 

“うん、やっぱオムライスは最高だな”

 

 

 

τ

 

 

 

綾野珪子は上機嫌だった。

密かに想いを寄せている香水(かすい)陽菜荼から別れて、自分の自宅に到着した珪子は父と母に挨拶をしてから自分の部屋へと駆け上がると着替えも程々にベッドに飛び込むとスマホを取り出してから、つい先程陽菜荼のオススメのお店で撮った写真を眺める。

 

“どうしようどうしよう”

 

バタバタと両手を前に突き出してから興奮と他の別の感情によって真っ赤に染まりきった顔を隠すようにベッドに押し付け、湧き上がってくる羞恥心や達成感があわさった不思議な感情をパタパタと両脚をベッドに叩きつけることによって発散していく珪子に近づく影があった。

ニャーニャーと甘い声をあげながら、スリスリとベッドに横たわる珪子の身体に自分の小さな体躯を擦り付けながら、珪子の頬へとたどり着いたその影はこの部屋のもう一人……いいや、もう一匹の住人、猫のピナだ。

 

「ピナ。どうしよう……あたし、大胆なことしちゃったかも………」

 

件の写真が写っているスマホから両手を離した珪子は今更になって自分がしでかした事の重大さに気づいてしまった様子で事情を知らないで首をかしげるピナを胸へと抱きとめる。

 

「……突然あんなことしちゃって、あたし……陽菜荼さんに嫌われちゃったかも……でもでも、折角二人っきりでお出かけしたんだから………これくらい、いいよね………」

 

ニャー、と返事するように鳴き声をあげるピナの撫でながら、珪子は微笑む。

 

「……ふふふ。ありがとう、ピナ。そうだよね……折角だもんね……」

 

その後、珪子は部屋着に着替えた後に食事をするために一階へと降りていき……部屋に残ったピナは珪子が置いていったスマホの画面を見つめる。

 

ピナが見つめる先には–––––––キョトンとした様子で右頬にケチャップを付けている陽菜荼と頬を真っ赤に染めながらデミグラスソースが付いている右頬を押し付けている珪子で……二人の頬が押し付けられることによって、重なったケチャップとデミグラスソースは綺麗な綺麗な♡マークを作っていた。

 

 

〜珪子編・完〜




何気にこの二人の距離感というか、関係性って私好きなんですよね(微笑)

因みに、私は牛乳の分量が多いコーンポタージュよりもコーンの分量が多いコーンポタージュの方が好きです(照)


簡単に【WoU】の感想ですが………アリジゼーション編の後半戦も作画が綺麗すぎる(見惚れ)
秋の美しい感じや空気が済んだ感じとかがしっかりと表現させれている上に……原作を読んでいる身からすれば、この章は始まりから終わりまで胸が張り裂けそうなんですよね……。
その言葉通り、一話から六話最新話見たり、見返したりして何度涙が溢れたことか……………。
今までのシーンで一番好きなのはアリスちゃんがロニエちゃんとティーゼちゃんへと自分が整合騎士になった経緯を話すところです、あのシーンは原作でも何度も読み返しては涙がポロポロ出たシーンですので……。
自分達が過ちを犯さなければ、キリトくんとユージオくんは公理協会に連れていかれてしまうことはなかったのにとあの時からずっと自分達を責めていた二人の気持ちを思うと胸が苦しくなりますし……そんな二人を励ます暖かい言葉を贈れるようになったアリスちゃんの成長はキリトくんとユージオくん無しでは起こり得なかった出来事だと思うので。
あと、アリスちゃんが副団長殿に嫉妬するシーンも好きなシーンの一つだったりします、嫉妬アリスちゃん可愛いですよね(デレデレ)

また、多くの読者の方は勘付かれていらっしゃると思いますが……陽菜荼のパパさんがかなり前から登場しちゃいましたね(笑)
パパさんの有名な名台詞『Your soul will be so sweet(君の魂は、きっと甘いだろう)』が放送で流れたので多くの読者の方は『は!? へ……こいつが父親なの?』と思われたかもしれません……ですが、答え合わせはまだ気づかれてない読者の方もいらっしゃると思いますのでもうしばらく先という事で……。
しかし、パパさんの幼少期のエピソードは何度も読み返しましたが……映像化するとさらにエグい。あそこまでパパさんサイコだったとは……いや、あの人はあの頃にはもう完成してたか……(大汗)
また、パパさんの幼馴染の声をアリスちゃん役の茅さんが声を当てていらっしゃったのもなるほど……と思いました。

あと、個人的にサテライザーとシノンの戦闘シーンがもう少しあってもと思ったんですが……あのシーンは後々にも現れますし、それように表現を取ってあるのかな?(思案)

最後の最後に、WoU編のDPを歌われている【LiSA】さんが初登場で今年の【紅白歌合戦】に出演させるそうで………それを知ってから『うっしゃぁーーー!!!!!(ガッツポーズ)』と大きな声を上げてしまったのは秘密です(笑)

LiSAさんの楽曲はどの曲も大好きなので……今からワクワクが止まらないですっ。




では、長々となってしまいましたが……ここまで読んでいただきありがとうございます(土下座)


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特別ーspecialー
1周年記念001 本物はどーれだ?


今週の26日でこのsunny placeは一周年となりますm(_ _)m

ここまで長く続けられたのも応援してくださる多くの読者の皆様、暖かい感想を書いてくださる皆様、沢山の評価を付けてくださった皆様のお陰です。

これからもはちゃめちゃな展開が続くと思いますが…暖かい眼差しで本作主人公の陽菜荼ことカナタの活躍をご覧になっていただけたらと思いますm(_ _)m

では、長くなってしまいましたが…1周年記念特別イベントをどうぞ!


「ッ…みんなして、そんなにジロジロ見ないでほしい…にゃん」

 

あたしはそういうと胸元から太もも半分くらいを包む薄っぺらい白い布をギュッと掴む。

そんなあたしを物珍しげに見つめてくるのは計22個の様々な形を持つ瞳で、共通しているのは普段よりも輝いてみえる視線の中に好奇心を多く含んであることだろうか。

そんな視線たちから逃れようと身体をよじるあたしの隣へと並び立ち、肩を組んでくるのは赤い鍛冶服に桃色のショートヘヤーが特徴的な少女・リズベットである。

 

「そんなに恥ずかしがらなくたっていいじゃない。ここには女子しか居ないんだから」

「ーー」

 

そう言って、ぽんぽんと背中を叩いてくるリズベットをあたしは睨む。元を辿れば、この人があんな事を言いださなければ…あたしはこんな状態になることはなかったのだから…

 

 

γ

 

 

なぜ、あたしがリズベットを憎むことになっているのか…?

それを解き明かすのには、時を二時間ほど前に巻き戻す必要がある。

 

その日、最近行動を元にすることが多くなった黒い服装が好きな親友と共にクエストにでていた。クエストも無事終わり、帰りながらレベルアップでもしようかという話になったその時…あたしへと簡潔な文章が乗ったメッセージが届いた。

 

《いつもの酒場で待つ。30分以内に来られよ》

 

親友と一緒に読み終えたあたしは小首を傾げると指定された場所へと向かい…今、大勢の女子に囲まれているという不思議な状況にある。

それもみんな仁王立ちに腕組みときている…はっきり言ってなんでこんな目にあってるのか?原因が思いつかない…。

 

困った表情を浮かべるあたしへとリズベットが低めの声で問いただしてくる。そんなリズベットの方へと体の向きを変え、正面になるように座り直したあたしはリズベットから注がれる切れ味抜群の冷たさを含む視線に肩をすぼめながら、力なく問われることを素直に答える。

 

「さて、カナタ。自分がなんでこんな状況にあってるのか?わかる?」

「いえ、存じ上げません…」

「そう。あくまで自分の罪を認めないというのね」

 

“…話が見えてこないんだが…”

 

眉をひそめるあたしへと今度はリズベットの隣にいる金髪のショートヘアに少し切れ長な水色の瞳が特徴的な少女・フィリアが声をかけてくる。

 

「カナタ。あんた本当に覚えてないの?」

「ないのと申しますと?」

「はぁ…これは完全にダメね」

「ーー」

 

肩を竦めて、首を横に振るフィリアには流石にカチーンときたあたしはフィリアとリズベットを一瞥して、この理不尽な状況へとせめてもの抵抗として、頬を膨らませる。

そんなあたしの姿を見て、水色の髪を背中まで伸ばしている少女・アスナが打って変わって優しく問いかけてくる。

 

「もう、リズもフィリアちゃんもカナちゃんで遊びすぎたよっ!カナちゃん、本当に覚えてない?」

「全然」

「本当に?よく思い出してみて…今日リアルの方でシノのんと何かをするって約束したでしょう?」

「んーっ?」

 

アスナに言われ、腕を組み…朝の出来事を思い出そうとするが何にも思いつかない。

 

“…今日もいつものように詩乃に布団を引っ張られて…渋々起きた後に…朝ごはんを食べて……。その後、詩乃に頼まれて….買い物に行って…、その最中に携帯に和人から電話があって…それからは二人でクエストしてたし…。それまでも何も変わった様子なんて…何にも…”

 

唸りながらも答えが出せないあたしへと今度は淡い焦げ茶色の髪をツインテールにし、そのツインテールから同色の三角耳を生やしている少女・シリカがヒントをくれる。

 

「カナタさん、本当に覚えてないんですか?今日、カナタさんにとって大切な日なんですよ」

「大切な日?」

「はい、そうです。因みに今日は何月何日かは知ってますよね?」

 

鮮やかな金髪をポニーテールにしている少女・リーファから問われた質問に答えた瞬間…あたしの頭に電流が走った。

 

「何月何日って…それは10月とお…ハッ!?」

 

弾かれる様に左横に立っているクールな印象を受ける水色の髪をショートヘアーにしている少女・シノンへと振り返り、地面へと速攻で頭を擦り付ける。

 

「…やっと気付いた?」

「ほんますいません。悪気はなかったんです…ただ、自分の誕生日に鈍感なだけであって…」

「………今日だけは二人っきりで居れるって思ったのに」

 

ふてくされた様にそう小声で言う水色のシャープな三角耳がカッコいい猫妖精族(ケットシー)へとあたしは何度も本気の土下座を捧げ、そんなあたしの肩を掴む者がいた。

 

「そんなカナタにチャンスをあげるわ。これをズバッと当てられれば…シノンも機嫌を直してくれるはずよ。今から出てくる料理からシノンが作ったものが隠されているわ…それを当ててごらんなさい。ズバッと当てられたら、シノンもあんたを惚れ直すわよ」

「ーー」

 

えっへんと胸を張って、意味わからんことをおっしゃる鍛冶妖精族(レプラコーン)様にあたしはジト目を向ける。

 

「何よ、その目は」

「えっと…流石にそれは無理じゃないでしょうか?ここはゲームの中ですし…」

「へー、あんたのシノンに対する愛情はそんなところなの?ゲームだからって…毎日食べている手料理が当てられないとかいうの?」

 

片眉を上げて、挑発してくるリズベットにあたしは左手を顔の前で横に振る。

何を当てられて当たり前って態度を取っているか分からないが…流石のあたしもそれは無理というものである。確かに毎日恋人(シノン)が作ってくれる料理を当てられないというのは如何なものか…と思うが、ここは架空の空間かつ架空の材料を使ったもので作っているのであるそんな物をいくら舌が覚えているからと言って当たるなんてーーあたしは勝てないってわかっている勝負は挑まないと決めている。

 

「いやいや、当てられないでしょう…。こっちはリアルに出来ているからと言っても所詮ゲームの中ですし…。だからと言って、シノンに対する気持ちはいつも真剣だよ」

「だからこそやるべきでしょう?その気持ちを証明するために」

「いやいや、なぜそうなる」

「やってみたいとわからないでしょう!カナタくん」

「そうだよ、カナタ様!」

「なんでそんな時に限って煽ってくる!?あんたらなんなんの!?」

 

野次を飛ばしてくるルクスとレインへと振りかえりながら、大声をあげると左横を見る。そこには愛すべき恋人の姿があり、いつもは凛々しい光を放っている藍色の瞳が何故かうるっとしている…その理由は恐らく、あたしが今年は二人っきりの誕生日会を開こうという約束を破ったからーー

 

「あぁ〜もう!やればいいんでしょう!やれば!!」

 

ーーヤケクソになりつつ、バンと机を叩いたあたしがそう言った途端、周りにいる女性陣がニンヤリと笑う。そんな怪しげな笑みに気づかないほどにあたしはシノンの涙に精神的なダメージを食らっていた…

 

 

γ

 

 

「じゃあ、まずはこれね」

 

そう言って出されたメニューはオムライスの次に大好きな料・コロッケみたいなものであり…ご丁寧に乗っけてある皿がそれぞれ違う。

右から順に特徴を言ってくと、赤いお皿の上にちょこんと乗った小判型のそれは少し焦げ目が強い気がする。青いお皿は理想的なキツネ色なのだが、シノンが作ってくれるものに比べると小さい…気がする。緑色のお皿は形はシノンが作ってくれるものなのだが、やはり揚げ具合が違う気がする。そして、最後に残った黄色の皿は正にいつも食べている…作ってもらっているものであった。

 

“だが。これを問題に出してくるってことは…黄色はひっかけって可能性が高い…。かといって…赤は無いな…”

 

んーっ、んーっと唸りつつ…赤から一口サイズに割り、口に含むと肌触りがいつもよりも固い気がして…味わうとやはり塩っぱい気がした。

 

“というわけで…赤は無し”

 

その後も四つのコロッケを味わい、あたしが結果としてシノンが作ったコロッケと選んだのは緑色のお皿のであった。形がシノンのものだったのと味がいつもの食べ慣れているものだと感じたから選んだのだがーーあたしの答えを聞いたシノンは少しだけ悲しいそうな表情を浮かべて…自分が作ったものを指差していった。

 

「私が作ったコロッケは緑と黄色よ」

「…はい?」

 

聞き返すあたしにリズベットはこう言うのであったーー誰もシノンの料理が一つとは言ってないわ、と。

出鼻をくじかれたあたしはその次も調子が出ず不正解。その次は大好きなオムライスだったからか…正解をやっとこさ獲得し、3問という短いクイズは終わりを迎えたのであった…。

 

散々な結果を残したあたしにリズベットは呆れた表情を浮かべながらこう言う。

 

「まさか全問正解かと思ったら…二問も不正解なんて……。あんた、本当にシノンのこと好きなのよね?」

「好きだし、愛してる!なんで疑われるかじたい不服ですっ!だいたい、シノンが作った料理がひとつじゃないとか…小癪すぎるでしょう、あんな手を使われたら…あたしじゃなくたって間違えるって」

「はいはい。間違えたのは間違えたんだから…罰ゲームね。さーて、どんなのにしましょうかね〜?」

 

そう言って、ニンヤリ笑うリズベットの表情に冷や汗をかき…そこから部屋に連行されたあたしは罰ゲームとして、一枚のバスタオルを渡され、理不尽にも着用後から可愛い語尾で過ごす事を命じられた。

初めは抵抗していたあたしもみんなから発せられる無言のプレッシャーには耐えられず…渋々バスタオル一枚の姿になり、現在進行形でみんなから好奇心の視線を向けられているというわけだ。

 

「にしてもカナタ、あんた意外と胸をあるのね〜」

「ッ…リズベットお姉ちゃん、どこ見てるにゃん!」

「いやね、どこって…こんな格好してたら自然とそこに目がいっちゃうでしょう」

「エ、エッチなリズベットお姉ちゃんは大嫌いにゃん!」

「…なんていうか…これはいけない気持ちになるわね…」

 

凛々しい光を放つ蒼い瞳は羞恥心で涙に覆われ、頬も朱色に染まっており…命令によっていつもよりも高い声を意識して出しているあたしを見ていたリズベットが視線をゆっくりと逸らすと…深呼吸をして、あたしを見てくるとじゃれついてくる。

じゃれついてくるのは別に構わない、だがしかし…どさくさに紛れて胸を揉もうとしてくるのはやめて欲しい!

 

「…やめっ…」

「そんな弱々しい声を出すと更にいじめたくなるぞ〜」

「…なっ!そこはや!」

 

背後から私を抱き寄せ、抵抗するあたしの手を巧みにかわしながら…胸へとたどり着いたリズベットがお遊びで揉んでくるのをこしょばゆく感じて…逃げようとした時だったあたしがカーペットに足をとられたのはーー

 

「にゃ!?」

「ちょっ!?」

 

ーー倒れ込んだあたしに覆いかぶさるように倒れたリズベットの顔がバスタオルが外れたあたしの胸へと埋まっている。

これは流石のあたしもテンパり、胸に両手を添えながら顔を上げるリズベットの頬を思いっきりビンタするのであった…

 

「にゃ…にゃ…いにゃーーん!!」

 

γ

 

 

パッチーンと気持ちいい音を響かせて、リズベットから逃げ出したあたしは自分の身体を抱きしめ…リズベットを睨みつける。

 

「…む」

「少しじゃれただけじゃない。そんなに怒らなくたって…」

「へぇ〜、少しじゃれただけね」

「…!?」

 

リズベットのセリフに被さるように囁かれたその氷のような冷たさを含む言葉にリズベットは震え上がる。ゆっくりリズベットが後ろを振り返ると…藍色の瞳をメラメラと怒りの炎で燃やしているシノンが立っており…リズベットは慌てたようにまくし立てる。

 

「待ちなさいシノン。本当にわざとじゃないのよ?これは不可抗力っていう…」

「問答無用!」

「ひぃ!」

 

その後、シノンはリズベットを追って…部屋を出ていってしまい、あたしはというと…二人が帰ってくるまで…ジロジロとみんなに見られ続けたのであった……




以上、本物どーれだ?でした!

結果的にリズベットさんとイベントになってしまいましたね……^ - ^
そんなリズベットさんも結果的に嫉妬したシノンさんの怒りを込めた一撃を食らってしまうという…

こんな終わり方をしてしまったこの話ですが…読書の皆様話は楽しんでいただけたでしょうか?
少しでもクスッと笑ってもらえたら…嬉しく思いますm(_ _)m


また、次回の更新日は2月24日を予定してますm(_ _)m


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1周年記念002 ドッキリから始まる恋というのはあるのだろうか? 前編

昨日と引き続き、一周年記念となるこの話は…タイトル通りの話となっております。

簡単なあらすじは、シノを含めた女性陣がヒナタへとドッキリとして選んだのは『仲のいい異性から告白された場合、彼女がどんな反応を取るか?』というもので…その仕掛け人として選ばれたのは同じ職場で働くクラインでありました。
果たして、ヒナタはクラインからの告白にどんな反応を取るのか…?そして、クラインに春は訪れるのか…?
後者は限りなくゼロに近いですが……本編をどうぞ!

*後編は明日更新いたしますm(_ _)m


「ーー」

 

あたし、香水 陽菜荼は暫し目の前で起こっている出来事を整理するのに…時間が掛かっていた。

目の前には右手をこっちへとまっすぐ伸ばして、深く腰を折っている雑に伸びた髪へとタオルを巻き、無精髭を生やしている好青年は同じ職場の同僚・壺井 遼太郎(つぼい りょうたろう)さんで別の世界ではクラインまたはクラさんと呼ばれている男性でーーという説明はひとまず、置いといて。

 

“なになに?あたし、狐にでも抓られてる?”

 

狐に抓られていなければ…この人はあたしにこう言ったんだ、『陽菜荼。俺と付き合ってくれないか?』と。

その後に続く言葉も安易に思い出せる…『陽菜荼に詩乃さんって人が居るのは分かってる。だけど、俺は本気でお前と付き合いたいんだ!この気持ちに嘘はねぇ!最初はチャラいし俺より女子にモテるしでイカすかなぁ奴って思ってたんだ…だが、それは違った!だって、職場のお前とALOのお前は違ったから!ALOでのお前は頼りになる奴だけど…職場でのお前はどこか頼りない感じで儚いって思ったんだ…今にも折れてしまいそうなその背中に背負っているものを俺も一緒に背負いたいって思ってしまったんだ…。こんな俺だけど…この手を取ってくれないか?陽菜荼』

 

身振り手振りでそう言ってくる遼さんを前に一歩後ろに下がりかけて…そこで顔の異変に気付いた。

突然吹いた風にカサカサと音を立てる緑が茂っている植木や葉っぱに当たった風があたしの頬に当たり…あたしはそこで頬が暖かくなっていることに気づく。

 

“〜ッ!!”

 

何、顔を赤くしてるんだっ!あたし!?相手はあのクラさん、あの遼さんだぞ!?絶対、誰かに言わされているに違いない!こんなドッキリに動じてたまーー

 

「ーー陽菜荼、やっぱり俺じゃあダメか?」

「……」

 

真っ白なタオルによって上に挙げられた前髪が風にそよぐ中、そう呟く遼さんはどこか頼りなく見え…あたしが支えてあげなきゃって思えてしまう何かがあった。

 

「…すぅ…はぁ…」

 

大きく空気を吸い込み、瞼を閉じて…きっちり数えること10秒。ゆっくりと瞼を開けたあたしは不安そうにこっちを見てくる遼さんへとにっこり微笑むと…その答えを口にする…

 

 

γ

 

 

“たく…妙に落ち着かねぇ〜な”

 

俺は両腕を組み、カツンカツンと地面を蹴飛ばしながら…目の前にあるウィンドウを見つめ、そこに映る自分の姿を見て…おかしいところが無いか?とバンダナによって上に挙げた前髪を意味なく弄ってみる。

 

“まさか、こんなことになっちまうなんて…”

 

思い出すのは3日前のこと。

シノンさんやアスナ、リズなど大勢の女子に頼まれた時は断ろうと思っていた。だがしかし、俺自身あいつがどんな表情を浮かべるのか気になったし…何より一握りの奇跡にかけてみたかったというもの嘘ではない。

 

その日、どこか不機嫌そうなあいつを会社の裏に呼び出し、俺は深く深呼吸するとそれを口にする。

数秒後、付き合ってくれと言った俺の右手を掴み、あいつはこう言ったんだ…『そんな事ないです…こちらこそよろしくお願いします』と。

びっくりする俺へとあいつは握りしめた指をを俺の指へと絡めると『安心してください。詩乃とは今日別れます…二股なんてしませんよ』

ちろっと舌を出し微笑むあいつを呆然と見つめていると…グイグイと手を引っ張られたのだった。

 

その後、心ここに在らずの状態であいつ…陽菜荼をマンションへと送り、俺は俺のマンションへと向かう。ベットへと腰掛けると…何気なしにポケットから取り出した携帯を開くと一件のメールが届いており…開くとそこには【大好きな遼さんへ】という題名が打ち込まれており、そこに続くのは【今日遼さんに好きって言われて…とても嬉しかったです。ついさっき、詩乃と別れたんですよ…。なので、これからのあたしは遼さんただ一人のものですよ♪といっても、あたしみたいな子供が遼さんと釣り合うとは思えないんですけどね…】という文章、それをぽやーんと眺めた後、目を覆った俺は深いため息をつく…。

 

『ちくしょー。俺の彼女が可愛すぎるぜ…』

 

と呟いてしまったのは…思わず漏れてしまったものなので、どうか許してほしい。

というか、あんな文章を送られて…悶絶しねぇ男がいるかっての!

 

あのメールは厳重に消えないように設定した後に…時々、眺めてニヤニヤする為の道具となっていた。

そんなニヤニヤしてしまうメールを読み返していると…後ろから声が聞こえてくる。

 

振り返るとドタバタと慌ただしい足音の後に見慣れた栗色が見えた途端、俺は動きを止める。

走り寄ってくるのは…明らかに陽菜荼だ。

だがしかし、服装や雰囲気がいつもと違うーー栗色の肩まで伸びた髪は緩く首の後ろで結んでいるし、華奢な身体に纏わりつく衣服がまた違う。襟首がVになっている淡い水色のTシャツ、その上に膝辺りまで長さがある蜜柑色のカーディガン。引き締まった肉つきが魅力的な脚が時折覗くのがダメージスキニーである。

いつものラフな格好より大人の女性って感じに落ち着いた雰囲気が流れる陽菜荼に見惚れてしまった俺はポカーンと口を開きかけながら…陽菜荼の到着を待った。

 

「遼さん!」

「!?」

「すいません…大分待たせてしまいましたか?」

 

はぁ…はぁ…と息を整えながら、こっちを上目遣いで見てくる切れ長な空のように透き通った蒼い瞳から思わず、視線を逸らしそうになって…俺は思わず、男の性であるものをガン見してしまった。

前屈みで呼吸を整えているからか…深く空いたV字からブラジャーで締め付けられている二つの膨らみが織りなす谷間が覗く。ALOで愛用しているアバターよりも僅かに熟れているように思えるそれは俺が想像しているよりも熟れているらしく…不覚にも呼吸に合わせて、上下に動く谷間から目が離せない。

 

“なっ!こいつ、意外と大きい?”

 

不躾にそんなことを思った俺の視線に気づいた陽菜荼は俺へとジト目を向けると小さく非難の声を浴びせる。

 

「………遼さんのえっち」

「!?」

「初めてのデートだっていうのに、あたしの胸ばっかり見て…そんなに女の人の胸が好きなんですか?」

「そんなに好きってわけじゃ…」

 

いいどもる俺に陽菜荼が意地悪に笑う。

 

「分かってますよ、遼さんは大きな胸が大好きな変態さんですもんね〜♪」

「!」

「なんてね」

 

そういって、俺の右二の腕へと抱きついた陽菜荼は自分の二つの膨らみをそれに押し付ける。それによって、変な声が漏れそうになる俺を見た陽菜荼はその蒼い瞳へと不安の二文字を浮かばらせる。

 

「ーー」

「どうです?あたしだって、遼さんの好みの女性になろうって努力してるんですよ…?」

「…努力しなくたっていいじゃねーか。…その、俺は…そのままのお前に惚れたんだからよ…」

「遼さん…っ」

 

左頬をぽりぽりと掻きながらそう言う俺のクサい台詞に嬉しそうに笑った陽菜荼に連れられ…俺の初めてとなるデートが幕をあげた……




さて、読者のみなさんはこの展開を想像できていたでしょうか?
もう既にラブラブなクラインとヒナタですが…ここで終わる程sunny placeは甘くはないのです…

というわけで、後半戦は2月25日に更新となっておりますm(_ _)m


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1周年記念003 ドッキリから始まる恋はあるのだろうか? 後編

大変、お待たせしました。
クラインとヒナタのラブラブデート後半戦ですっ!!
とその前に…シノンとドッキリを仕掛けた皆さんによる会話がありますので…それもお楽しみください( ̄^ ̄)ゞ

では、本編をどうぞ!

*前回同様読みにくいやもしれません…


イグドラシル・シティ大通りに看板を出す【リズベット武具店】のお客様スペースの片隅、一人の猫…猫妖精族(ケットシー)が机へと顔を伏せ、しょんぼりとその淡い水色の三角耳・フサフサのしっぽも垂れ下がっているのを正面から見ていたアスナは慌てたように声をかける。

このような状況でない時は実に愛らしい光景なのだが…アスナやその他にも彼女を慰めるために集まった者たちは其々バツの悪そうな顔をしている。

それもそのはずだろう…だって、彼女がここまで塞ぎ込んでしまうような出来事を引き起こしてしまったのは自分たちにも原因があるのだから…。

 

「ーー」

「シ…シノのん、大丈夫だよ…!カナちゃんも本気であんな事を言ったわけじゃあ…」

「そんな事ないわ…。だって、昨日別れを切り出されたんだもの…」

「え?」

「それ本当なの!?シノン」

「えぇ…」

 

フィリアの質問に力なく答えた水色のケットシーことシノンは何かを思い出すように宙を見つめると…ぽつんぽつんとその時の状況を話す。

 

「晩御飯を一緒に食べている時ね…。突然、箸を置いて真剣な顔をしたかと思うと…『ねぇ、詩乃…あたし達別れない?』って…」

 

藍色の瞳が波打つのはシノンが涙を流さないようにしているからだろう。

 

「私がね…『どうして?』って聞くと…あの子がこう言ったの…『詩乃より好きな人が出来たんだ』って…ぅっ…」

 

遂に溢れ出してしまった涙を隣に座る同じ種族のシリカに拭いてもらい、背中を左隣に座るルクスに撫でてもらいながら…シノンが別れ話を切り出された時の状況を包み隠さず話す。

 

「私だって冗談って思ったの…でも…『冗談なんかじゃないよ。あたしは真剣に言ってるんだ』って…。最後には…『ごめん…。あたし、詩乃のこと飽きてしまったんだ…』って…その後、お風呂に入っていったんだけど…あの顔は真剣だったわ…」

「あらあら…」

「それでそのプレイボーイ…いいえ、プレイガールは何処(いずこ)に?」

 

シノンの話を聞き終えた周りがそれぞれの表情を浮かべる中、リズベットが表情を怒りの一色で染めると…シノンへと元恋人の場所を聞く。

それに形良い水色の眉を顰めたシノンが今朝の事を思い出し、それを告げる。

 

「さぁ?今日やけにおめかししてたから…今頃、クラインとデートでもしてるんじゃーー」

「ーーじゃあ、それをこっそり覗いてみましょう」

 

そう言って、不安そうなシノンを真っ直ぐ見つめたリズベットがギュッと怒りで震える拳を握りしめると言う。

 

「今の今までシノンしか目に入ってなかったあのカナタがクラインに恋するなんてありえないわ。絶対、裏があるはずよ…その裏を必ず暴いてみせるわ!シノンの為にも!」

 

というわけで…リズベット達によるカナタの裏を暴く為の尾行が始まったのであった…

 

 

γ

 

 

そんな女性陣たちが密かに着いてきているとは気づいてない遼太郎と陽菜荼はというと…カップルのデートで定番であろう遊園地に来ていた。

 

到着するまで遼太郎の腕にしがみついていた陽菜荼は遊園地が近づいてくるとその身体を外していき、今では完全に遼太郎から離れてしまっていた。

もう少し二つの膨らみの弾力を味わっていたかった遼太郎からすれば寂しくはあるが…待ち合わせた時からずっと指が絡まったままである右手へと視線を向けては思わずニヤけてしまいそうになる。

 

というのも、今まで気にも留めてなかったがーー陽菜荼という少女は美少女もとい美人という種族に属するらしい。

確かにこっちを見つめて微笑む蒼い瞳は切れ長だし、彫りが深く思う適度に整った顔立ち、華奢だが遼太郎と並び立つ程にある身長からしても…彼女が普通の女の子ではないと分かる。

 

しかし、そんな事は遼太郎にとっては些細な事であった。遼太郎が何よりも嬉しく思うかつニヤけてしまう事というのはーーすれ違う人達…主に男が必ずというくらい振り返り、陽菜荼と遼太郎を交互に眺め、悔しそうにその唇を噛みしめる様子を何度も目撃していたからだ。

今までは遼太郎がその立ち位置であった…だがしかし、これからは違うのだ…!

 

「?」

 

チラっと隣を見ると不思議そうにこっちを見上げてくる少女…いいや、彼女…ガールズフレンドの姿がある!

それも街を歩けば振り返り、世の男性が一度は触れてみたい話してみたいと思う美少女が自分の彼女なのである。

 

“くぅ〜、長かった…。長かったぜ…この至福のひと時が!”

 

苦労の日々を思いだし、溢れそうになる涙に気づかない陽菜荼は遼太郎の手を引くととある乗り物を指差す。陽菜荼が指差す方を見た遼太郎は苦笑いを浮かべる。

 

「あっ!遼さん遼さんっ、あたし今度はあれに乗りたいです」

「おいおい、そんなにジョットコースターは乗れねぇーよ」

「もう〜。遼さん、もうへばってしまったんですか?」

「んな事言って…俺、朝からなにも食ってなくて…お腹が空いてさ…」

「はいはい、分かりました。なら、今度はあそこでランチにしましょう?」

 

そう言って、陽菜荼が遼太郎を引いていったのは売店であり、慣れたように注文する陽菜荼にメニューを任せた遼太郎はそれを受け取ると空いた席へと腰掛ける。

席に着いた途端、陽菜荼がチラっと遼太郎の方を見るとカスタードとケッチャップが多くかかったソーセージをあむっと咥える。それだけならいいのだが…何故かチロチロとカスタードやケッチャップを舐めとる赤い舌から視線が外せなくなりそうになり…遼太郎はそこで周りから自分と同じくらい注がれている熱い視線に気づく。

 

“本当はもっとやって欲しくはあるが…ここは彼氏として注意すべきだな”

 

ごほんとわざとらしく咳払いした遼太郎が今だに妙にエロい食べ方をしている陽菜荼へと声をかける。

 

「…あむ」

「陽菜荼さんや陽菜荼さんや」

「なんです?」

「なんです?じゃねーよ!なんて、食べ方してるんだお前ってやつは」

 

呆れ顔な遼太郎をキョトンとした表情で見てくる陽菜荼を見る限り、悪意は無いらしい。

 

「…え?だって、ソーセージやチョコバナナはこうやって食べた方が男性は喜ぶって…」

「お前はどんなものから学習してくるんだ…。頼むから…次からはそういう事はしないでくれ」

「でも、実際遼さんも興奮したでしょう?」

「しねーよ!バカ」

「ちぇ…それは残念」

 

そう言って、頬を膨らませる陽菜荼と共にランチを終えた遼太郎はその後、陽菜荼のリクエストに答えて遊園地内にあるジェットコースターを全部制覇し…ヘトヘトになったので近くのベンチ腰掛けていた。もちろん、隣には陽菜荼の姿がある。

夕日が落ちかけている空を見上げている彼女の横顔があどけなさが残っているものの美しく見え、遼太郎はごくりと唾を飲み込む。

 

「陽菜荼」

「りょ、うさん…?」

 

ピクッと華奢な肩を震わせ、遼太郎を上目遣いに見つめる陽菜荼に胸が高鳴る。陽菜荼が呼吸する度に僅かに震える桜色の唇がやけに眩しく見え、肩に置いた両手が震える。

 

「……キキキキ、きしゅしていいか?」

「……ふ。…はい、いいですよ。その…場所が場所なので…あまり激しいのは困るですけどね?な〜んて…」

 

こんな時なのに、そうおちゃらける彼女に魅了されつつある遼太郎は緊張した表情でゆっくりと桜色の唇へと自分のそれを近づいていきーー

 

“なんか…柔らかいけど、これは弾力がありすぎないか?”

 

ーー想像していたよりも固い陽菜荼の唇に眉を潜める遼太郎の耳へと穏やかな声が響いてくる。

 

「ごめんなさい、遼さん。あたしの唇は詩乃専用の物なので…流石にこればかりはあげられません」

 

閉じていた目を開ける遼太郎は目の前にある空のように透き通った蒼い瞳を呆けた表情で見つめる。そんな遼太郎へと慈愛の色を潜ませて、優しく微笑む陽菜荼の左掌に唇を押し付けている遼太郎はさぞかし、間抜けな顔をしていることであろう。

実際、間抜けな顔をしていたらしい…陽菜荼は遼太郎のその顔を見て、満足げにニカッと意地悪に笑うと立ち上がる。

 

「さぁーて、遼さんの間抜けなお顔と…やっとコソコソと隠れて、あたし達の後をつけていた元凶さん達が顔を表したところなのでーータネアカシとちょっとしたお説教タイムといきましょうか?」

 

振り返って、物陰から姿を現している女子メンバーと俺を交互に見て…そう言ってのけた陽菜荼の表情は今まで見たことないくらいに怒りに満ちていた。

 

 

γ

 

 

エギルが営むカフェに連行された遼太郎と詩乃たちは其々、椅子に腰掛けるとカウンター席に腰掛ける陽菜荼を見つめる。

 

「…さて、まずどこから話しましょうか?」

『ーー』

「そうだね、あたしがいつ気付いたか…から言おうか」

 

不敵笑い、目の前にあるレモンスカッシュを口に含んだ陽菜荼は行儀悪くカウンター席へと膝をつくとそのカウンター席の後ろに並んで座る全員を見渡す。

 

「気付いたのは最初からだね。茂みから珪子のツインテール普通に見えてたし…何より、遼さんの告白受けた時に茂みの中から詩乃の殺気が伝わってきたからね…」

「…ごめんなさい」「…だって、まさかokするとは思わなくて…」

 

しょんぼりする珪子と詩乃をうんうんと満足げに見た陽菜荼は遼太郎へと視線を向ける。

 

「そもそも、遼さん自身があたしのOKを信じてない様子だったし…OKの後にみんなが隠れている方を振り向いていたでしょう?あれはあたしじゃなくてもバレます」

「何よ。じゃあ、クラインが全部悪いんじゃない」

「そこ、反省はしておいでです?」

「はいはい、してるわよ」

 

陽菜荼から鋭い視線を向けられ、里香ははいはいとめんどくさそうに言うと流石にそれにはカチーンときたらしい陽菜荼が里香へと近づき、身を乗り出す。

 

「ってゆうか。里香でしょう?こんなくだらないことを思いついたの」

「なんで、あたしって決めつけるのよ」

「あたしが知る限り…君しかこんな事を思いつく人が居ないから!以上!」

「へー、あんたの中のあたしのイメージってそうなの。ふーん、今度から武器の製作や修理する時友人価格で五割り増しね」

「だからなんでそーなる。はぁ…もういい…」

 

そこまで言い合い、陽菜荼は疲れたように溜息をつくと…困ったように癖っ毛多い髪を掻き、まだ衝撃から立ち直ってないこの場で唯一の男性の前へと歩いていくと深く頭を下げる。

 

「えっと…遼さん、本当にすいません。いくら里香たちへの復讐だからと言って…遼さんを騙してしまうような事をしてしまって…」

「………陽菜荼」

「はい」

「一つ聞いていいか?俺の事を好きって…愛してるって言ったあの言葉は本物か?それとも偽物か?」

 

感情が抜け落ちた瞳を向けてくる遼太郎から視線をそらした陽菜荼は無情にも遼太郎へと真実をつきつける。

 

「…昔も今もあたしが心から愛しているのは詩乃ただ一人です。彼女以上に好きになる人はこれから先も居ないでしょう」

「……ッ!」

 

それを聞いた遼太郎は突然立ち上がると勢いよく外へと飛び出していく。その頬が夕陽に照らされて光っていたのは…誰にも知られたくない出来事である…




前編を読み、なんか私の書き方や展開に違和感を感じた読書の皆様…いい感をお持ちです!
このsunny placeはそんなに甘くはないのです…^ - ^

最初から全てを見抜き、ここまでのことをしでかすヒナタの演技力たるや…あんなにダラけているの嘘みたいに思います…(汗)
そんなヒナタの手のひらで踊らされていたクラインやシノンたちは本当に気の毒です…彼女は敵に回すとめんどくさい人種かもしれません…(大汗)

さて、明日でいよいよこの小説も1周年を迎えます!
多くの方に応援していただいていることにもう一度、感謝致しますm(_ _)m




ここから先はお知らせなのですが…

R-18版もご覧の読書の皆様は知っていらっしゃると思いますが…このsunny placeは製作当時は百合ものにする予定はありませんでした。

そんな製作当時のsunny placeを見てみたいというご意見を頂き…製作当時とは大いにかけ離れていますが、それに近いものを作成することが出来たのですが…本編と同じくらいの長編になる可能性が大になりまして…

本編が落ち着いてきたら…もしかしたら、外伝の方にそれを更新するかもしれません…m(_ _)m

最近知ったのですが…クラインさんってクールなお姉さんキャラが好きなんですよね〜。その外伝を書き始める時はそれを意識しつつ…ヒナタを書ければと思っております( ̄^ ̄)ゞ

なので…キャリバー編のヒナタは書き直すかもしません…!



また、明日26日の更新から3月中盤くらいまで更新をお休みさせてもらうことになるかもしれません…、本当に申し訳ないです…(大汗)


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1周年記念004 みんな大好き

“まだかなぁ〜♪まだかなぁ〜♪”

 

丸テーブルに腰掛け、あたしはキッチンへと視線を送り続ける。がっちゃんがっちゃんとはしたなく手に持ったスプーンでテーブルを叩いてしまうのは大目に見て欲しい。

 

だってッだってッ!身体が疼くのだ…アレを求めて!!

 

透明になるまで炒められた甘みを持った玉ねぎ。可愛らしくサイコロ状に切りそろえられたにんじん。彩りに加えられたグリーンピース、その三つを均等に混ぜた真っ白いご飯。そのご飯にたっぷり混ぜられるトマトケッチャップ…その上に乗っけられるのが個性光る薄焼き卵。

その薄焼き卵を破り、真っ赤なチキンライスを口に含んだ瞬間…あたしはこの世に産まれでた事を感謝するのだ。

いいや、幼いあたしにこの素晴らしき料理を教えてくれたママに感謝すべきであろう。

 

そんなくだらない事を思っていると腰まで伸びた栗色の髪を揺らし、はしばみ色の瞳と桜色の唇に微笑みを添えたアッスーこと明日奈があたしの大好物・オムライスを持ってきてくれた。

 

「ひなちゃん、お待たせ〜」

「!!」

 

目の前に置かれたオムライスの上にはオーソドックスにケッチャップがかけられており、そのオムライスの端にミニトマトやブロッコリー、レタスが添えられているのは明日奈なりにあたしの健康面、今日1日のカロリーを心配した上の配慮であろう。

だがしかし、そんな配慮にもお礼が言えないほどにあたしは真っ赤な溶岩が噴き出る黄色い山に釘付けであった。それもだらしなく、涎が垂れてしまうほどに……。

 

「そんなに待ちきれなかったの?涎が出てる…ジッとしててね、今拭くから」

「…ぅっ」

 

そんなあたしを見て、笑った明日奈は手に持ったハンカチであたしの頬を拭うとスプーンを差し出す。それを受け取ったあたしは早速オムライスを掻き入れようとして、明日奈に止められる。

 

「はい、いいよ。熱いから…ふぅーふぅーしてから食べるんだよ?」

「ん!ん!」

「なんだか心配だなぁ〜。陽菜ちゃん、スプーンを私少し貸して」

「…?」

「ありがとう」

 

そう言って、明日奈は目の前にある黄色い丘を一口サイズに掬うとそれに息を吹きかける。

 

「ふぅーふぅー。はい、あーん」

「あーん」

 

その後もまるで親鳥に餌を分け与えられる雛鳥のようにあたしは明日奈からオムライスを食べさせてもらっていた。そんなあたしと明日奈の背後からため息交じりの声がかけられる。

 

「…ちょっと明日奈。陽菜荼をあまり甘やかさないで」

「ごめんね、詩乃のん。陽菜ちゃんがどうしても待ちきれなそうだったから…つい」

「だからって…もう。陽菜荼も陽菜荼よ、そんなに頬を膨らませて…折角みんながあなたの為に作ってくれたんだから…味わって食べないとでしょう?」

 

そう言って、テーブルに置かれる詩乃(こいびと)のオムライスには明日奈同様にちょっとしたサラダと半分にしたコロッケ。そして、何よりも嬉しく頬が緩んでしまったのはオムライスの上に大きく♡マークが書かれていたことで…思わず、ニヤニヤするあたしを見て…恥ずかしいと思ってしまったのか、素早く♡マークをスプーンで消した詩乃が明日奈同様にオムライスを食べさせてくれる。

 

「はい、陽菜荼。あーん」

「あーん」

「陽菜ちゃん、私のも食べれる?」

「あーん」

 

両脇から差し出されるスプーンの上には大好物のオムライス…あたしは微妙に味の違う二つのオムライスを胃袋に入れていきながら、こう思う。

 

“ぅー、なんか…あたし…今、ここで死んでもいいかも…”

 

特になんとも思わなく、ふっと思った事をこうして実行してくれる仲間たちに感謝しながら…次に持ってきてくれたオムライスも雛鳥のように食べさせてもらう。

 

γ

 

「ふぅ〜、ぽんぽん」

 

そう言って、ぽっこり膨らんだお腹を撫でていると里香から大きなため息が聞こえてくる。

 

「それはそうでしょう、あんだけあったオムライスを一人でペロリと食べてしまうんだから…」

 

そう言って、あたしはこの中に収まっているオムライスたちを思い出す。

まず一つ目、明日奈作のちょっとしたサラダつきのオーソドックスなタイプ。続けて、ちょっとしたサラダとコロッケが添えてある♡マークが書かれた詩乃のオムライス。その次がひより作の焦げ目が香ばしかったオムライス、珪子作の可愛らしく星型の人参と小竜が書かれたオムライスに直葉作のオーソドックスだけど何処か癖になるオムライスが続いた。その後は里香作の唐揚げやコロッケが添えられたもの、琴音作もコロッケや唐揚げが添えられており…その添えられているもののも作った人によって違うことがわかり、いい勉強となった。最後の虹架作のオムライスに大きく何か文字が書かれていたのだが…覚えようとする前に詩乃同様に塗りつぶされしまい…真っ赤な顔をした虹架にスプーンをねじ込まれた。

 

虹架のオムライスを食べ終わり、明日奈と詩乃、直葉が急遽作ってくれたというケーキをみんなで食べ終え…あたしは使ったフライパンや皿を仲良く洗っているみんなへ視線を向けながら…つい、眠ってしまい…起きた時には枕元に沢山の誕生日プレゼントが置かれていた……




という事で…お誕生日の日に女子に囲まれ、あーんをしてもらうーーこれは男冥利もとい女冥利に尽きるのではないでしょうか(笑)

キャリバー編の後から更新する本編はシリアスな展開が多くなっていくと思いますので…どうか、よろしくお願いします。



また、一周年記念日に100話という節目を迎えられたこと…ここまで長くこのsunny placeが続けられたのも暖かい感想をくれる皆様、厳しくも暖かい評価をくれる皆様、私のどうでもいい世間話を笑いながら見てくださっている皆様のお陰です(礼)

そんな節目の後に長い休みを取らせてもらうのは心苦しいのですが…今週から忙しくなりそうでして、度々更新を休ませていただく日が多くなるかもしれません…(大汗)

そんなsunny placeと私ですが…これからもどうかよろしくお願いしますm(_ _)m

ーー2017年2月26日、《sunny place〜彼女の隣が私の居場所〜》作者・律乃ーー







陽菜荼「これからもあたしの活躍に期待しててよね♪愛する詩乃の為、大好きな仲間の為にガツーンってカッコよく決めていくからさ」

詩乃「もうっ…そんな事言って…。2章の最後、あなたって記憶やかんじーーむぐ!?」

陽菜荼「ちょっ!?詩乃さん。君、なんて事くちばってるの!?それはネタバレ!言っちゃいけないやつだから…ッ!!ほら、あそこに真っ青な顔した作者さんが居るでしょう!?」

詩乃「私の目には陽菜荼しか映らないわ、今も昔も…これから先も、ね?」

陽菜荼「うお!?なんか、詩乃らしからぬストレートな物言いにドキッてしてしまったけど……作者さん、大丈夫なんです?心なしか頬が濡れてるような気が…」

律乃「気にしたいでください…。これは涙から汗が出ているだけなんです…。これからの陽菜荼さんのことを思うと…汗が止まんなくって…3章の初めには、実の父に監禁され…酷い動画を延々と見せられーーもご!?」

陽菜荼「あんたまで何くたばってるのさ!!それも3章っていう…みんながハラハラドキドキするであろう冒頭を!!」

〜しばらくお待ちください〜

陽菜荼「全く…あの二人は…。

ともかく、ここまでsunny placeを読んでくれてる読者のみんな…いつも応援、あんがとね。いや…ここはありがとうかな?

まぁ…これから先、あたしが歩んでいく道は険しいものになると思う…だけど、詩乃とならーーみんなとなら…乗り越えれると思ってる…。
いいや、乗り換えてみける!だから…これからもあたしの生き様を読んでくれると嬉しいな…なーんて…。

ごほん…らしくないことは言うべきじゃないということで…

困っている人を助けるのが…あたしの武士道ーー生き様だ!!ってね…これからもみんな、よろしく!」


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