剣が君の為に在るのは間違っているだろうか (REDOX)
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プロローグ
すべての始まり


 お久しぶりです、初めましての方は初めまして。前々から書くかも書くかもと言っていたロキ・ファミリアIF√です。本編の方が行き詰っているので、息抜きに書いていました。


 それは偶然だったのだろう。偶々頼まれた仕事、偶々故障した荷台、偶々訪れた村。そこに誰かの意図が介在していたわけもなければ、自分で進んでその状況に陥ったわけでもない。

 だが、言葉にするのは恥ずかしく、そんな言葉で形容するのは夢想家(ロマンチスト)のようで私にはほとほと似合わないが、私は結局その言葉に行き着くだろう。

 

――それは、きっと運命だった

 

 日が昇ったばかり、身体を引き締めるような朝の寒さの中私は君と出会った。朝靄が辺りを包み込み、まるで世界に二人だけのように感じながら、私は君と剣を重ねた。それは、私にとって――そして願わくば君にとっても――今までにない衝撃だった。

 

――金色の君

 

 澄み切った空気を纏い、放つ剣閃は正に風。思わず見惚れた、思わず手を伸ばしてしまった。今まで感じたことのない感情、今まで感じたことのない衝動。何かが私を衝き動かした。剣を振るう、いつもと変わらないその行為は、君と向かい合っているだけで何か特別なもののように思えた。

 世界が彩られていく。鈍色だった世界が、金色に。金色に染まった世界が、鮮明に。

 

――君は、私が求めていた人だ

 

 恋は盲目なんて、誰が言ったのだろうか。違う、全く違う。だって、自分の視界はこんなにもひらかれた。自分の世界はこんなにも広がった。何時までも君と斬り合っていたいと思った。たった数日、たった数時間、それが私に許された時間だったにも関わらず。

 その時間が永遠になれば良いと思った。一生、剣を重ね、視線を合わせ、高めあっていく、そんな未来を願ってしまった。

 

 美しかった、その生き様が。強さを求めるそれは、まるで獣。

 美しかった、その剣閃が。強さを求めるそれは、まるで鉄。

 美しかった、その金の瞳が。強さを求めるそれは、まるで黄金。

 獣のように敵を求め、鉄のように冷徹に剣を振るい、それでいて人々が夢見る黄金のように輝く――そんな君に心が打たれた。

 

 剣を重ねる毎に、感情が溢れそうになった。笑みは我慢できなかっただろう、でも君も笑っていた。楽しそうに、本当に僅かだけど口角を上げていた。それを見て私は更に嬉しくなった。ここにいる、目の前にいる。

 自分の剣を受け止めてくれる誰かが、自分の剣を理解してくれる誰かが、自分の剣を認めてくれる誰かが――目の前にいる。

 それを愛おしいと思わず、どうしろと言うのか。

 

 「強くなりたい」と言った君に、私は「ああ」と答えた。それが、きっと私が吐いた最初の嘘だった。だって、もうその時点で私が強くなることよりしたいことができてしまっていた。結果的に強くはなるだろう、しかしそれは今までとは決定的に何かが違う。

 一つの出会い、一度の剣戟、一重の感情、一人の少女――たったそれだけで、私の剣は変わってしまった。それが良いことだったのか、それとも悪いことだったのか、きっと神すら知らないだろう。

 

 

――ああ、きっと私は君に恋をした

 

 

 




閲覧ありがとうございます。
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 さて、投稿してしまいました。こちらは本編より一話を短めに書いていますが、何分定期的に書いているものではないので更新速度には期待しないでください(元々遅いですが)。一応注意としては、原作前からの開始となるので原作の続きによっては設定等の齟齬が起こるかもしれません。


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いざ、君に会いに

『待っていてください』

 

 その時、私に恥じらいという感情はなかった。別段人と話すことが得意だった訳でもなく、気の利く台詞で女性を口説いた経験も勿論なかった。しかし、思い返してみると、やはりあの時の自分は少しおかしかった。

 それだけ、必死だった。

 

『戻ったらすぐに向かいます』

 

 あの美しさを、忘れることなどできはしない。だから、追い求めることにした。自分の都合、そして彼女の都合を考えると、どうしても自分が追う立場になった。だが、それで良い、それが良い。私はきっと、追われるより追う方が性に合っている。

 求道とは本来、そういうものだ。

 

『君の元に、向かいます。だから待っていて――――』

 

 剣への求道が、あの邂逅で変わった。ある人、一人の少女に対する衝動――剣を振るうとどうしたって彼女の姿がちらついた。私の行動は、結果としては変わらなかった。剣を振るうという日常、その生き方は変えようがなかった。

 しかし、剣を求めるその過程、剣を振るうその中身、剣を志すその心は変わった。

 

『――うん』

 

 彼女の答えに、私は思わず綻んだ。何時まで経っても、きっと自分はその時の彼女を忘れはしないだろう。朝焼けに染まったあの変哲もない村で見た、自分が恋をした彼女の私を見る金色の双眸。表情に変化はなかったが、その瞳が確かに私を捉えていた。

 

 

 

 

「おい兄ちゃん」

「……はい」

「そろそろ着くから用意しときな」

「やっと、ですか」

「おうよ、長旅ご苦労さんだ。しかし、その甲斐があることは俺が保証するぜ」

 

 髭面の男の顔を寝起きに見るというのは慣れたものだ。老師に気絶するまで稽古を付けてもらった時など、起きたら大抵老師が覗き込んでいた。時折、老師の孫である白髪赤目の少年が覗き込んでいたが、どちらにしろ髭面の男に対して嫌悪は感じなかった。

 まあ、見るなら美女の方が良いと思ってしまうのは男の性というものだろう。髭面の男に言っても同意してくれるに違いない。

 

「あれが、オラリオ」

「はっはっは、驚いたか?」

「ええ……あんなに大きい壁は初めて見ますから」

「中に入ったらもっと驚くぜ? まず、滅茶苦茶人が多いからな。田舎から来た奴は大抵それで参っちまう。早めに宿を取ることだ」

「ご忠告ありがとうございます」

 

 髭面の男、と何時までも呼ぶのは失礼だろう。彼は私が乗せてもらっていた行商人の荷馬車の御者だ。とは言っても、故郷からずっと乗せてもらっていたわけではない。行商人は村から村、街から街へと移動するが、滞在日数もそれなりにある。できるだけ急いでいた私は村や街に着く度にそこを発つ行商人と交渉をして最短日数でここまで来た。

 目の前にいる御者とはここから程よく近い街からの付き合いだった。それでも、オラリオ出身だったからか私に親切にもオラリオに関する様々な事を教えてくれた。

 料理が美味い酒場、居心地が良い宿屋、行ってみるべき観光名所、本当に話題は多岐にわたりそれを私に語る御者の男は聞いているだけでオラリオが好きなのだと理解できた。

 

 世界で最も熱い街、人々を魅了して止まない世界の中心――迷宮都市『オラリオ』。

 

 都市全域を囲む巨大な壁は今まで人より家畜の方が多い田舎で育った私にとっては人の造った建造物には見えなかった。それが丸っと都市を囲んでいるというのだから驚きだ。一体どれほどの労力を必要としたのか、考えるだけで途方もない。

 そして、その中心に聳える白亜の塔。ここ数日間、見晴らしが良ければそれはずっと見えていた。遠くからではその大きさを実感することはできなかったが、近くまで来るとその巨大さが分かる。ありえない、あれは人の手だけで作れるものじゃない。

 

白亜の塔(バベル)はなぁ……ありゃ別格だな。オラリオくらいの壁なら他にも見たことはあるが、ありゃここにしかない。下から見上げると首が痛くなるくらい高いぞ」

「神々が初めて落ちてきた場所、【崩落の塔】バベル……」

 

 オラリオに来るにあたって、老師がまず私に説明したのは神々についてだった。

 千年前、そんな途方もないくらい昔の話だ。神々は天界での生活に飽き、私達の住む下界へと降りてきた。その最初の場所がバベルだったらしい。元々あった建物は木っ端微塵、今ある白亜の塔(バベル)はその後再建されたものらしい。

 なにはともあれ、神々が地上へと降り立って娯楽を探した。超越存在(デウスデア)である神々は永遠の時間を生きる存在だ、大抵の娯楽は堪能し尽くしていた。だが、彼等は見つけた。下界にしか存在しない、極上の娯楽――それこそが、下界に住まう存在達だった。

 

 神々は子供と呼び、まるで親が子を愛するように私達に接した。神々は自分の【ファミリア(家族)】を作り、眷属(子供)を受け入れていった。加わった眷属に今まで下界に存在しなかった神々の奇跡『神の恩恵(ファルナ)』を与えた。

 それは、人々の可能性を無限大に広げる奇跡だった。人々の経験を【経験値(エクセリア)】として可視することができる神々はそれを使い眷属を強化できる。重い物を持てば筋力が、走れば敏捷が、殴られれば耐久が、そんな風にして人は人の限界を越える術を得た。

 

 それから千年、神々はまだ下界に飽くことなく住んでいる。無限の成長、無限の可能性、無限の挑戦に挑む眷属達を見守り、それを至上の娯楽としている。永遠であるが故に、命ある私達を神々は愛した。

 『神の恩恵』を得た者を、私達はこう呼ぶ――冒険者、と。

 

 冒険をしろ、この世界を――未知がある限り人々は歩み続ける、未開がある限り人々は進み続ける。冒険者達よ、常に最前線(フロンティア)を往け。それが、神々からの最初にして最後、そして究極の挑戦だ。

 とは御者の談であった。随分熱の入った説明だったので、もしかしたら昔は冒険者に憧れていたのかもしれない。

 

「兄ちゃんは冒険者になりに来たんだろ? どこの【ファミリア】に入るか決めたのか?」

「そうですね、決めたというか……元々、その【ファミリア】にいる知人に会いに来たんです」

「ほう、どの【ファミリア】だ? 俺は大抵の【ファミリア】なら分かるぞ?」

 

 やはり御者のオラリオ愛は留まるところ知らないようだ。彼等自身が有名だと言っていたので、着いてから探そうと思っていたが、ここで情報を得られるのであればそれに越したことはない。私は御者にその【ファミリア】の名前を告げた。

 

「【ロキ・ファミリア】」

「おお! 凄えじゃねえか兄ちゃん、あの【ファミリア】に知り合いがいるなんて」

「まあ、偶々ですよ」

「だが【ロキ・ファミリア】ならすぐ分かるはずだ。黄昏の館って場所に行けば知り合いにも会えるだろうぜ!」

「黄昏の館ですか。何から何までありがとうございます」

「良いってことよ! ま、兄ちゃんがもし有名になったら俺が連れてきたって自慢するからな!」

 

 調子の良いことを言う御者に私は笑ってしまった。自分が有名になる、そんなことは全く想像できなかった。確かに故郷では腫れ物のように扱われることもあったし、気味が悪いと思われることもあった。そういう意味では有名だったかもしれないが、オラリオで有名になることは難しいだろう。

 なにせ、冒険者達の生活は戦闘の上に成り立っている。剣の腕が少しばかり立つ私ではそこまで目立たないだろう。

 

 オラリオが迷宮都市と言われるその所以は、その地下に存在する広大な迷宮(ダンジョン)にある。無限に怪物(モンスター)を産み出す宝の山、というのが冒険者達の認識だ。とにもかくにもダンジョンは金になる。それ相応の危険はあるが、それはそれ、富と名誉のためなら冒険者達は命を懸ける。

 ちょうどバベルの下に入口があるらしい。

 

「その時は遠慮なく宣伝にでも使ってください」

「お、言質は取ったぜ?」

 

 豪快に笑う御者とそれからも他愛もない、しかし私にとっては大変ためになるオラリオの話をしながら数十分後には壁の目の前に到着していた。オラリオに入ろうと並ぶ行商人や旅人の長蛇の列に加わり待つこと三十分ほど、私の乗っている荷馬車の番がきた。

 

「次の者!」

「はいよ、通行許可証です。後、こっちは一緒に連れてきた冒険者志望の少年です」

「確認した、行ってよし。そちらの少年は待ってくれ」

 

 御者は門の前に待機していた黒い制服を来た男性――おそらく御者が言っていた都市管理機関(ギルド)の人間――に通行許可証なる物を見せていた。私のことを簡単に説明してくれたのはありがたかった。

 

「じゃあな兄ちゃん」

「はい、ここまでありがとうございました。話もたくさん聞けてよかったです」

「はっはっは! 何、俺も話し相手には飢えているのさ!」

「それは、よかった。では、お元気で」

「おうよ! 兄ちゃんも頑張れよ! ほどほどにな!」

 

 御者は荷馬車を連れてオラリオの中へと消えていった。あまり剣以外に楽しみがない私が、オラリオを楽しみに思えたのは髭面の御者のおかげだろう。感謝してもしきれない。

 

「さて、冒険者志望で間違いないな?」

「はい。何か手続きが必要ですか?」

「いや、少年みたいなのは日に何百何千と来るからそんなことしてたら日が暮れちまう。背中を見せてくれるだけで良い」

 

 そう言って男は露出させた私の背中にランプのようなものをかざした。なんでも『神の恩恵』に使われる『神の血(イコル)』に反応するらしいと御者が言っていた。オラリオは冒険者の出入りに関しては厳しいのだと言う。そのための検査だろう。

 

「反応なし、入ってよし!」

「ありがとうございます」

「冒険者志望にしては礼儀正しい! 頑張れよ!」

 

 想像通りというか、当然のことなのかもしれないが、冒険者という連中は荒くれ者が多いようだ。男の発言からもそれは分かる。しかし、礼儀には礼儀をもって接するのが当たり前だ。老師は剣だけではなく、剣士としてどうあるべきかも私に教えてくれた。

 何事にも真摯で向き合う、それが大事だと言っていた。その分野に関して老師はあまり教えることがないと言っていたが、私は子供である私に対しても真摯に修行を付けてくれる老師を見てこう育ったのだと思っている。

 

「また随分と若いのが来たな」

 

 門を通り抜けようとすると、街の中から外へと向かう人物に声をかけられた。褐色の肌に無精髭を生やした男性だった。肩の部分に象の顔を象った紋章を付けていた。なんとも個性的(ユニーク)な見た目だ。

 

「ん? ああ、これはうちの【ファミリア】のエンブレムでな。俺の趣味じゃないぞ?」

「なるほど、納得です」

「なかなか肝が座ってるな坊主」

 

 男は笑いながら私の肩を叩いた。本人もあまり格好の良いものとは思っていないのだろう、私の発言を咎めることはなかった。そして私は男の発言で確信する。目の前の褐色の男は冒険者に違いない。

 男は私を上から下までじっくりと見て、一つ疑問を発した。

 

「剣を挿してるが、体格にあってなくないか?」

「ああ、これはお守りみたいなものですよ」

 

 私の腰には一本の剣(サーベル)が携えられている。半年前、彼女と別れる時に貰ったものだ。私も彼女に持っていた剣を渡した。彼女の方が私より年下だった上、体格は男の私の方が幾分か大きい。彼女の剣が今の私にとって小さいのは、仕方のないことだ。

 

「剣をお守りってのは、まあ、いいのか?」

 

 確かに剣とは本来何かを斬るための武器だ。お守りとして持っているだけというのはその本来の用途とはかけ離れていて、剣の本懐を遂げられていないと言えるだろう。

 

「勿論使えますよ。でも、大切なものなので」

「……女から貰ったのか?」

「……ええ、まあ」

「ほほう!」

 

 何故かその部分に食いついたその男に近くにいたギルドの職員が「ハシャーナ、新人にちょっかいかける暇があったら働け」と苦言を呈した。男、ハシャーナさんはそれを笑い飛ばし私と会話を続けた。職員はうなだれたが、いつものことなのか気にしていない様子だった。

 

「その女、どこに行けば会えるか分かってるのか?」

「ええ。黄昏の館に行けば会えると、ここまで連れてきてくれた御者に教えてもらいました」

「黄昏の館って言うと【ロキ・ファミリア】か。案内してやろうか?」

 

 流石にそれは許せなかったのか職員は機敏な動きでハシャーナさんの腕を掴んで引き止めた。笑いながら私はその光景を眺めていたが、流石にそこまでしてもらう訳にはいかない。

 

「いえ、大丈夫ですよ。道行く人に聞けば分かるでしょう、有名らしいですし」

「それもそうだな。ま、頑張れよ!」

 

 何を頑張れと言ったのか分からないが、私は応援してくれたハシャーナさんに向けて手を振りながら今度こそオラリオへと足を踏み入れた。




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オラリオ初日

 門を通り抜けると、そこはまるで異国のようだった。いや、それ以上だろう。異世界、その言葉が最も相応しいかもしれない。御者の男が忠告していた通り、通りには人が溢れかえっていた。今までも故郷から飛び出てそれなりの数の街を見てきたが、ここは比ではない。

 人の量も、そして人々の活気もオラリオの方が圧倒的だ。

 

 それに加え、まるで祭りのような雰囲気を私に感じさせたのはひしめく人々の様々な見た目だろう。私と同じ一般的に人間と言った時想像する見た目のヒューマン、獣の耳や尻尾が目立つ獣人、長く尖った耳と見目麗しい外見が人の目を引くエルフ、大人でも子供のような体躯の小人族(パルゥム)、ずんぐりした体付きにも関わらず筋肉隆々なドワーフ。

 見渡すだけで、今まで見たことのある種族は全部網羅していた。しかし、そのすべてが一堂に会する光景は世界広しと言えどこのオラリオ周辺だけだろう。

 

「…………」

 

 何も言葉が発せず立ち止まる。そんな私が珍しくとも何ともないのか、私のことなど気にせず通り過ぎていく。行き交う人々は種族もさることながら、職業も様々だ。

 露天を営んでいる男性店主、何かの店の呼び込みをしている獣人の女性、荷物の配達をしている小人族の少年。そして、武器を携えて通りを歩く冒険者達。

 これが、世界で最も熱い街かと柄にもなく私は感動のようなものを覚えた。御者から話を聞いていなければ感動ではなく戸惑いを覚えただろう。

 

――ぐぅぅ

 

 呆けている私の目を覚ましたのは腹の鳴る音だった。考えてみるとオラリオに近付いてから数時間、御者の話をずっと聞いていて何かを食べていた記憶がない。自分の感情とは関係なく身体は正直であると実感した。

 では何か食べようと、私は人の流れに乗って通りへと足を運ぶ。来てすぐに店に入って食事をするというのも何か勿体無い。せっかくなので屋台で何か買って歩きながら食べようと思った。

 

 歩きながら何を食べようかと見渡しているとふと何か、今まで感じたことのない何かを見た。私は、惹かれるようにその何かへと近付いていった。幸いなことに、それは何か揚げ物の屋台で買い物をしていたのでついでに食事もしよう。

 

「らっしゃい、ご注文は?」

「ここは何を売ってるんですか?」

「おや、もしかしてオラリオは初めてかい?」

 

 気の良さそうな小太りな店員が私の言葉から察したのだから、この屋台で売っている揚げ物は有名なのかもしれない。それなら、私の感じた違和感に感謝だ。

 

「はい、今入ってきたばかりで。空腹のところ、この屋台が丁度目に入ったので」

「そりゃあありがてえ。オラリオでの初めての食事だ、適当なもんは出せねえな!」

「それで、ここは?」

「おうよ、ここはオラリオに数多くあるジャガ丸くんの屋台だ! だが、ただのジャガ丸くんと侮るなよ? 門の近くのこの場所を勝ち取るために俺が試行錯誤を重ね、人々に認められた最高のジャガ丸くんだ!」

 

 そう言って店員は私に紙に包まれた『ジャガ丸くん』という揚げ物を手渡してきた。一言お礼を言ってから私はそれを受け取った。

 揚げたてのそれはまだ熱く口を付けることに戸惑いを覚えたが、期待に満ちた店員の目が向けられていたので私は恐る恐るかじりついた。

 

「あっつッ」

「だははははは、んなのあたりめえだろうが!!」

「はふ、はふふ」

 

 口の中で冷ますように空気に触れさせて、私は漸くその食べ物を味わうことができた。潰した芋に衣をつけて揚げた、それは簡単な料理だ。中の芋には香辛料の良くきいていて癖になる味が口の中に広がり、ごろっと入っていた肉が空腹だった腹に満足感を与えた。

 

「どうよ?」

「美味しいです」

「ありがとよ! 何ならもっと食うか?」

「はい、と言いたいところですが、少し味が濃いので一日一個までですね」

「おっちゃん、ウチはもう一個や!」

 

 もう一つ勧められ断った私に続き横にいた何かが声をあげた。店員は元気よく返事をしながら熱せられた油から揚げたてのジャガ丸くんを取って、何度か油を切ると紙に包んで手渡した。

 私の視線は、自然とその手渡された先にいた何かに注がれた。

 

「ん? なんや?」

「あ、いえ……凄く失礼になると思うんですが、一つ聞いてもいいですか?」

「ウチにか? まあ、ええけど」

 

 黄昏時を思わせる朱色の髪を後ろで束ね、細い瞳は少し開かれ質問をしてきた私を見ていた。今まで見たことのない部類の見た目、どこかずる賢そうな顔立ちは彼女を思い出させるほど端麗だ。青と黒の服は、ヘソや脚を大きく露出させている。

 

「貴女は、何ですか?」

「何って、あー、なるほどなあ……オラリオは初めて言うてたし、そかそか」

 

 しかし、そんな見た目とは関係なく私は彼女を目で追ってしまった。圧倒的とも言えるような存在感、今まで感じたことのないほど人を惹き付ける何かを感じた。強いとか弱いとか、美しいとか醜いとかそういった価値観で計れるものではない、何か。

 彼女は私の失礼な質問に、納得して特に嫌悪を抱くこと無く答えてくれた。むしろ、彼女はどこか楽しんでいるようにも見えた。

 

「ウチは神やで」

「神、貴女が……そうか、貴女が神か」

「おお! 今のええな! もっかい言って!」

「え? えっと、貴女が神か」

「うほおお、何かめっちゃええで!! なあおっちゃん!?」

 

 私の言葉に何故か興奮した女神が店員に同意を求めた。店員は笑いながら「良く分からんがそうですね」と返していた。神と人とでは価値観が違うと御者の男も言っていたが、なんとなく彼が言わんとしていたことは理解できた。

 だが、そうか。目の前の彼女が天界からやってきた超越存在(デウスデア)、永遠を生きる神々の一柱か。であるなら、その存在感にも納得がいった。根本からして存在が違うのだから、そこに違和感を覚えてもなんら不思議ではない。

 

「ん? んん?」

 

 目の前の女神が私の腰に挿してある剣を見て首を傾げた。またしても身長に合わないことを指摘されるのかと思ったが、彼女は予想外なことを言った。

 

「その剣、自分の?」

「え、ええ。あ、いや、元は私のではないですけど。貰ったものです」

 

 見ただけでその女神はその剣が私の物ではないと見抜いた。最早それは洞察力とか推理力とかそんな次元のものではないように思えたが、それが神たる彼等の所以なのかもしれない。

 

「……ははーん」

「どうかしましたか?」

「いんや、別に。あ、おっちゃんお代置いとくで。こっちの子の分もついでにな」

「え、いや、あの」

「ええって、ま、ウチからの餞別と思っとき」

 

 餞別とは何に対する餞別なのか、私にはさっぱり理解できなかった。もしやオラリオに初めて訪れた人間にジャガ丸くんを奢るのが習わしなのだろうか。

 そんな馬鹿馬鹿しいことを考えている内に、細目の女神は屋台から離れようとしていた。

 

「じゃ、またな――」

「あ、あり」

「――()()()

「が……え」

 

 お礼を言うために去っていく彼女の方を向こうとしていた私は、投げかけられた言葉で固まってしまった。彼女との短い会話を振り返り、そして自分が間違っていないことを確かめた。

 私は一度も彼女に名前を告げてはいないのだ。

 

「どうした、坊主?」

「いえ、神って凄いんだなと思っていただけです」

「そりゃ凄えに決まってるだろ。なんたって神だぜ?」

 

 説明になっていない説明に、私は何故か納得してしまった。()()が神か。確かに存在感からして人とは違う。今さっき神という存在を知った私ですら、無意識に彼等を自分より格上の存在であると認識してしまうほどまでに、強大だった。

 

「さて、私も行くとしますか」

「お、どこか行きたい場所でもあるのかい?」

「ええ、ここまで連れてきてくれた御者の方に宿は早めに取っておけと言われたので、今晩の宿を探そうかと」

「なら、俺のおすすめがあるが聞いてくか?」

「是非」

 

 それから屋台の店主は私におすすめの宿を何件か教えてくれた。何故オラリオ在住の店主が宿に詳しいのか疑問ではあったが、聞いてみると私のようにオラリオに初めて来る客が良くやってくる関係でそういった情報に詳しくなったと言っていた。

 オラリオは冒険者の盛んな街であると聞いていたが、商売人達も逞しく熱意を持って仕事していた。

 

 

 

 

 

 

「あれが、黄昏の館か」

 

 その後、屋台の店主に勧められた内最も近かった宿『夕日亭(トワイライト)』へと趣きすんなりと一室を借りることができた私は、宿の女将に【ロキ・ファミリア】の本拠である黄昏の館の大まかな場所と特徴を聞いて散策することにした。

 オラリオの門を通ったのが正午を少し過ぎてくらいだったが、屋台で喋り宿を取り、少しゆっくりした後歩き回っていたらもう夕方になっていた。

 

「大きいですね」

 

 遠目からでもその建造物は認識できた。周辺の建物より頭一つ、否、頭三つくらい突き出ている。幾つもの塔が重なり合い、まるで揺らめく炎を見ているような感覚に陥る。屋根は赤銅色で、最も高い塔の先端は今落ちて行く日を二つに割るかのようにそびえ立っている。

 そのせいだろう、一番高い塔の上ではためく道化師の旗が本当に燃えているようにすら見えた。

 

「まあ、目印が大きいのは良いことですが……さて、どうしますか」

 

 あれだけ目立っていれば道に迷ってもすぐに方向を確認できる。その派手でありながら、どこか美しくもある黄昏の館を眺めながら少し悩む。今は既に夕方と言っていい時間帯だ。勿論、まだまだ人々は活動しているだろうが、果たして【ロキ・ファミリア】に訪問をするのに適している時間かどうかは定かではない。

 

「そう言えば、入団ってどうすればいんですかね……?」

 

 オラリオに来て浮かれていたのか、私は根本的なことを知らなかった。数多くの【ファミリア】があるのだから入団方法なんてものは色々あるだろうが、流石に訪問して主神に直談判するなんてことは一般的ではないだろう。

 となると、行くべき場所は決まった。

 

 

 オラリオは上空から見るとダンジョンとその上に聳え立つバベルを中心とした円形の街だ。中心から東西南北に四本、そしてそれぞれの中間にもう四本のメインストリートが外へと伸びている。それぞれの地域には特色があり、一般人が集まりやすい場所、冒険者が集まりやすい場所、鍛冶師等の職人がたくさんいる場所など色々あるらしい。

 これもここまで乗せてくれた御者の男から聞いた話だ。

 

 そして、こうも言った。オラリオの華である冒険者達が最も利用するメインストリートは北西のメインストリートだ。その通り沿いには武器屋、道具屋、酒場等の冒険者御用達の店が数多く並んでいるかららしい。

 しかし、その中でも一番利用される施設が白い柱で作られた万神殿(パンテオン)――ギルド本部である。

 

 ギルドとはダンジョンの管理機構であり、オラリオの運営を一手に引き受けている機関のことだ。数多の【ファミリア】の冒険者の情報を保存管理し、必要であれば罰則等もギルドが課すことになっている。一応ギルドも一つの【ファミリア】のようなものらしい、と御者は言っていたが説明はあまり聞いていなかった。

 取り敢えず、冒険者のことはギルドに行けば分かる、それが今重要なことだ。

 

 ダンジョンから帰ってきたばかりで装備をそのまま身に付けた冒険者、休みだったのか私服で来ている冒険者、それ以外にも冒険者にギルドを通して依頼をする一般人等、多種多様な人物がそれぞれの用事でギルド本部に訪れる。

 人があまり多くなかった故郷では祭りの日でもこれほど人は集まらない。

 

 私はそんな人混みの中、受付に並ぶ長蛇の列の先頭にいた。数十分は並んでいたので、今は混雑している時間帯なのかもしれない。

 

「次の方どうぞ」

 

 受付担当者に呼ばれたので私は列の先頭から受付へと向かった。

 

「本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 私の担当をしてくれたのは赤い長髪の狼人(ウェアウルフ)の女性だった。薔薇のような赤色だなと、数回しか見たことのない花の色を想起させる髪色だった。

 他の受付にも少し視線を走らせると受付の殆どが女性、しかも視線を走らせただけで全員が美女美少女であることが分かるほどだった。

 

『オラリオの華が冒険者なら、ギルドの華は受付嬢だ』

 

 と御者が言っていたことを思い出し、納得した。

 

「ギルドのご利用は初めてでしょうか?」

 

 明らかに年下の私にすら敬語で応答されるとどこかむず痒いが、それが彼女の仕事であるなら私が口出しするようなことではない。私くらいの冒険者というのも、それほど珍しくないのかもしれない。

 

「はい、初めてです」

「分かりました、では所属している【ファミリア】とご自身の指名をこちらにご記入ください」

「いえ、まだ冒険者じゃないんです」

 

 冒険者が利用する施設であるからには、冒険者であるという前提で仕事をしていてもおかしくない。ここには入門の時に使っていたような冒険者かどうか判断する便利な道具もないのだ。

 私の言葉を聞いて、受付の女性は私の要件を半ば理解したようだった。

 

「まだ、ということはこれから【ファミリア】をお探しになるということでしょうか?」

「そんな感じです。実は入りたい【ファミリア】は決まってるんですが、入団ってどうすれば良いんですか?」

「入団方法は様々です。主神のスカウトのみの【ファミリア】もあれば、随時入団を受け付けている所もあります。因みにご希望の【ファミリア】をお伺いしてもよろしいでしょうか」

 

 やはり、予想していた通り入団方法は特にこれといって定められていないらしい。私は自分の入りたい【ファミリア】を彼女に告げた。

 

「【ロキ・ファミリア】です」

「……かしこまりました。只今資料を持ってくるので少々お待ち下さい」

 

 僅かな間が入り、彼女は席を立った。受付の奥、恐らく各【ファミリア】に関しての資料がまとめられている棚へと向かいファイルを一つ持って帰ってきた。

 

「こちらが【ロキ・ファミリア】に関しての資料となります」

 

 ファイルを開いてすぐのページにその情報は載っていた。『頻度:不定期』『募集要項:特になし』『形式:不明』と、たった三行で私の知りたいことがまとめられていた。

 

「えっと、これは?」

「【ロキ・ファミリア】の主神である神ロキの気まぐれ、ということです」

「……」

「実技試験から主神及び幹部陣との面談の時もあれば、順番を逆にした時もありました。面談だけの時もあれば、実技試験に筆記試験まで重ねた時もあったそうです。後は、本当に稀ではありますが宝探し、十人連続じゃんけん勝ち抜け大会等の方法も採用したことがあるとかないとか」

 

 絶句と言うべきか、頻度ならまだしも形式までもが気まぐれということには驚いた。

 まさかいきなり躓くことになるとは思っていなかった私はつい黙り込んでしまった。受付の女性は申し訳無さそうな顔をしながらファイルを閉じた。

 

「一応ではありますが、【ロキ・ファミリア】は主神のスカウト等による入団実績もあります。もし【ロキ・ファミリア】に知人等がいるのならそちらも検討してみてはどうでしょう」

「知り合いですか……いるにはいるんですが」

「何か問題があるのですか」

 

 知人がいると私が口にすると彼女は途端に明るい表情になった。それを演技でやっているのか、それとも素でやっているのかは分からないが、私はつい申し訳なく思えてしまった。

 私は、その知人に頼る気などまったくないのだ。

 

「いえ、その知り合いが女性なんですけどね。流石に最初から頼り切りというのは、その、何と言いますか」

「……」

「あまりに格好悪いでしょう?」

 

 彼女と同じ戦場に立ちたいという想いは強い。しかし、最初の一歩目くらいは、自分の脚で歩かなければ情けないにも程がある。

 

「あ、要件はこれだけです」

「お力になれず申し訳ありません」

「いえ、凄く助かりました。もしかしたらまた来るかもしれないので、お名前聞いてもいいですか? 私はアゼル・バーナムと言います」

「ローズ・スピナと申します、冒険者様」

 

 冒険者様という呼び方に僅かな違和感を覚えながらも、私は一度小さくお辞儀をした。

 

「ありがとうございました、ローズさん」

「いえ、お力になれず申し訳ありませんでした。またのご利用をお待ちしております」

 

 綺麗なお辞儀をして私を見送るローズさんに背を向けて私はその場を去った。特に解決策が思い浮かぶこともなく、『夕日亭』まで戻ってきた。女将がオラリオ初日はどうだったかと聞いてきたので、ぼちぼちと答えておいたのは強がりだった。宿の食堂で夕飯を食べ、私は早々に寝ることにした。

 そして、前途多難なオラリオ初日は終わった。




閲覧ありがとうございます。
感想や指摘等あったら気軽に言ってください。

 ローズさん、一応原作に登場するキャラクターです。名字は分からなかったので適当に付けました。
 気が付くと未だに原作何年前なのか、アゼルとアイズの年齢とか書いてなかったです。そろそろ文中に出したいですね。

 一応活動報告の方でも言ったのですが、ソード・オラトリア8巻の内容が過去の話みたいなので、その内容によって書き直す可能性が大きいです。でも、投稿欲求が抑えられないので更新します。8巻が出て問題があったら修正ないし書き直します。
 これから投稿する話の話の前書きにもこの旨を書いていくつもりです。


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人知れず道ができる

 日刊に乗りました、ありがとうございます。


 色々考えた末、私は難しく考えるのは止めた。何時あるか分からない募集を待っていられるほど我慢強くもない。であるなら、もう直接黄昏の館に赴き入団したいと言うのが一番現実的な手段だろう。

 

「これは、また立派な」

 

 黄昏の館は近くで見るとより一層大きく見えた。実際の大きさに加え、色合いと言い構造と言いインパクトの大きさも関係しているのだろう。それに加え遠くからでは見えなかった豪奢な門があったことには驚いた。

 その門にの男女二人の門番が立っていた。冒険者はダンジョン探索ばかりしていると思っていた私は、門番もやっていることを意外に感じた。私が入団したら、何時かそういう仕事もすることになるのかもしれない。

 

 私は意を決して門へと近付く。近付いてくる私に気が付いた門番の片方、女性の冒険者が私に視線を向けた。私はそれを真正面から見返した。

 

「こんにちは」

「こんにちは、【ロキ・ファミリア】に何か用ですか?」

 

 目についたのは肩口まで伸びた黒い髪、そして頭の上に生えた猫の耳だった。ややつり上がった大きな目は大人しいというよりは好奇心旺盛で活発な人柄を表しているようだ。年頃は私と同じくらいか、少し上といったくらいだ。

 じっくりと見えたわけではないが、彼女の臀部からは猫の尻尾も生えていた。言わずもがな、その女性は獣人だった。その中でも猫の要素を持つ猫人(キャットピープル)だ。彼等はそれほど珍しい種族ではない、故郷でも何度か見かけたことがあった。

 

「【ロキ・ファミリア】に入りたいんです」

 

 回りくどいのは面倒だったので、要件を分かり易く短く簡潔に伝える。

 私の用を聞いた途端、門番の二人は「またか」と言った風な表情になった。私のような訪問客は多いのかもしれない。

 

「【ロキ・ファミリア】は不定期に入団者の募集をしています」

「知ってます」

「なので、募集があるまで待ってください」

「そこを何とか」

「できません」

 

 予想をしていた対応に、予想をしていた返し。

 

「今すぐ冒険者になりたいなら、【ロキ・ファミリア】以外の【ファミリア】に入団した後に改宗するという手段もります」

「いえ、【ロキ・ファミリア】に入りたいんです」

「……今は募集してないわ」

 

 髪色に良く似た黒い瞳を見つめる。募集していようがしていまいが、私はここから引き下がるつもりはないという意志を見せる。

 

「…………」

「…………」

 

 見つめること数秒、相手も視線を外さない。相手の瞳に自分が映っているのが分かるほど見つめる。普段であれば女性と見つめ合っていたら照れて視線を逸らしていただろうが、この時ばかりは私は意地でも逸らさないようにした。

 もう一人いる門番は私と相手を交互に見て、どこか所在なさげだ。

 

「あの、平伏した方が良いですか?」

「…………はぁ」

 

 相手が何も言わないので、もしかしてもっと誠意を見せろという意思表示なのかもしれないと思い私は提案した。沈黙の後、相手は大きく息を吐き、諦めと呆れの混じった声でもう一人の門番に言った。

 

「ラウル、ロキに次の募集を何時にするのか聞いてきて」

「え、でも」

「前回からそろそろ一年だし、最近入団希望者もたくさん訪問してきてるって聞くし。それにロキが暇だ暇だってぼやいてた」

「うぅ、何で俺が」

「行くの、行かないの?」

「……行ってくるっす」

 

 そう言って男の門番、ラウルさんは門の中へと歩いていった。

 

「えっと、ありがとうございます」

「こんなところで土下座なんてされたら堪ったもんじゃないわ」

「土下座?」

「こっちではそういうの」

「はあ、で、その土下座というのが冗談だとは思わなかったんですか?」

 

 普通、平伏しましょうかなどと言われたら冗談と受け取るだろう。勿論、私はしろと言われればするくらいの気持ちだった。まあ、これはする方もさせる方も問題しかないと思うが。

 

「ふーん、冗談だったの?」

 

 そして、そんな私の気持ちを目の前の女性は察したのだろう。質問に質問で返され、答えられなかった私に彼女は上品に小さく笑った。沈黙こそ是だ。

 

「そう言えば、申し遅れました。私はアゼル・バーナムと言います」

「ご丁寧にどうも。私はアナキティ・オータム、さっきのはラウル・ノールド、【ロキ・ファミリア】の冒険者よ」

 

 そう言ってアナキティさんは手を差し出した。私はそれに応えて握手を交わし、お互いの自己紹介は終わった。それからはアナキティさんも少しだけ砕けた口調になってくれた。

 

「アゼルはいつこっちに?」

「昨日ですよ。出身が辺鄙な田舎なので、オラリオでは驚くことばかりです」

「そうなるわよねえ……あれ、でも【ロキ・ファミリア】のことはどこで?」

 

 その問に、私はどう答えるべきか少し悩んだ。当然、私が【ロキ・ファミリア】にどうしても入りたい理由はアイズだ。だが、ここで彼女の名前を出すことは、つまり彼女の力を借りて入団するということになる。

 ギルドでローズさんにも言ったように、それはあまり良くない。どうしようもなくなったら、力を借りることに躊躇はしないが、現状自分の力でどうにかできるかもしれない。

 だが、嘘を吐くのは寛大な対応をしてくれたアナキティさんに不義だ。

 

「知り合いがいるんです」

「あの、それなら最初に言ってくれれば」

「元々彼女の力を借りずに入団するつもりだったので、敢えて言いませんでした」

 

 それから彼女はオラリオに来たばかりの私に料理の美味しいお店や主要な施設を親切に教えてくれた。もしかしたら世話焼きな人なのかもしれない。

 数分もすると主神へと報告に行った少年、ラウルさんが帰ってきた。少し腑に落ちない表情をしながらも、彼はアナキティさんに主神からの伝言を伝えた。

 

「入団試験の日程が決まったっす……でも、何と言うか」

「どうかしたの?」

 

 ラウルさんの言葉にアナキティさんが安堵したが、その続きを言うことに戸惑っているのを見て何か問題があったと察した。

 

「み、三日後だそうっす」

「はい!?」

 

 アナキティさんは思わずと言った風に声をあげた。落ち着いた見た目なだけに、その驚き様が理解できた。試験が決まったということが、その前に応募期間がなければいけないし、試験の準備にも時間はかかるだろう。

 三日後、というのはあまりにも無理難題だったのだろう。

 

「ほ、本当にそう言ったんです。自分もそれは無理ですって言ったっす」

「それで?」

 

 続きを促した彼女から視線を外し、ラウルさんは私を見た。

 

「一般の応募じゃなくて、()()()()()()()()()()()を三日後に執り行うそうっす」

「三日後って言うと、団長達が帰った次の日だから分かるけど……アゼルだけ?」

「はい、確かにそう言ってたっす。だから、また三日後来るように伝えろ、と」

 

 ラウルだけでなくアナキティさんも私を訝しげに眺めた。だが、自分でも何故こんなことになったのか理解できていないのだ。

 

「アゼル、もしかしてロキと知り合いだったりする?」

「いえ、神様の知り合いは――」

 

 いない、と答えようと思ったが、一瞬ジャガ丸くんの屋台で出会った一柱の女神のことを思い出した。黄昏色の髪の毛に薄く開けられているのか開けられていないのか分からない目。

 だが、あの女神は知り合いではない。少なくとも、私はあの女神のことを何も知らない。

 

「――神様の知り合いはいません」

「今の間は何ですか?」

「気にしないでください」

 

 だが、あの女神は私のことを知っていた。少なくとも名乗ってもいないのに彼女は私の名前を知っていた。辺鄙な田舎から来たばかりの私の名前を知っている人など、それこそアイズくらいしかいないだろう。

 ああ、そうかとここに来て私はあの女神がロキなのではないかという結論に至った。だが、それを言っても状況は何も変わらないし、変える必要もない。

 

「試験は三日後、昼頃に来れば良いですか?」

「ちょっとびっくりな結果になったけど、そうね」

「分かりました」

 

 人生何が起こるか分からない、とは陳腐な言い方だが的を射た言葉だ。

 

「アナキティさん、ラウルさん、本当にありがとうございました。アナキティさんが真剣に取り合ってくれたおかげです」

「ロキをその気にさせたのは私じゃないわよ。後、アナキティは長いからアキでいいわ」

 

 そう言われて、私はアキさんと呼ぶことにした。

 

「結果はどうなるか、そもそもどんな試験かも知らないけど、頑張ってね」

「頑張るっす」

「はい」

 

 一度お辞儀をしてから私はその場から去ることにした。次来るのは三日後の昼、その時に私の今後が決まる。オラリオに来るまでの半年間、毎日の鍛錬は欠かさなかったが老師との稽古がなくなり剣の腕は横ばいだ。

 少し、否、大いにやる気を出さないといけない。

 

 そう思った私は、次の予定を決めた――いざ行かん、オラリオの地下数多の怪物共が跋扈する迷宮(ダンジョン)へ。

 

 

 

 

 

 今より千年程昔の話、当時は神なんていうとんでもない存在は地上にいなかった。しかし、ダンジョンはその時からあった。今でこそダンジョンにはバベルの塔という蓋がされていてモンスターは地上に進出できなくなったが、その昔は違った。

 怪物は地上を荒らした、弱き者を殺した、人の肉を貪り力を付けた。それは正に弱肉強食の世界だったに違いない。

 

 だが、そんな時代でも人々は生きていた。人々は自分達より遥かに強靭な肉体を持ち、時には火を吹いたり毒液を吐きかけてきたりと文字通り人外の能力を有する化け物たちと真正面から戦った。長い長い戦いの時代の終止符を打ったのが神々だった。

 それまでは数少ない英雄が精霊という超自然的な存在から力を授かり一騎当千の力を発揮していたが、それでも人々は勝てなかった。神々はそんな英雄を量産することを可能とした。モンスター達の大部分を彼等の生まれ落ちる穴へと押し戻し、そして蓋をした。

 それ以来、その蓋となった塔を中心に街ができ、地上に溢れないようモンスターを狩る冒険者達が現れた、ということだ。

 

 つまり、何が言いたいかと言うと――そういうことだ。

 

『グギャギャギャ!!』

「シッ!」

 

 踏み込みながら剣を片手で横に薙ぐ。寸分違わず刃は相手の首へと到達、そして斬り捨てる――と思いきや半ばで止まってしまった。それでも首を半分斬られた相手は、数秒間痙攣した後小さな呻き声と共に絶命した。

 

「うーむ……」

 

 その屍を見下ろす。子供のような体躯、毛むくじゃらな身体、そして犬のような頭部。私が斬り殺したのは人形(ヒトガタ)ではあったが人ではない。ダンジョン1階層に生息する『コボルト』というモンスターだ。

 

「肉が硬いのか、それとも皮が断ちにくいのか」

 

 ダンジョンの中では()()の部類に含まれるモンスターだ。動きの速度や攻撃方法、見た目通り小さい体に見合った狭い間合い、『コボルト』はそれ相応に弱いとは感じた。しかし、それでも首を斬り落とすことができなかったのは、その人とは比べ物にならない強靭な肉体故だろう。

 モンスターを狩ることを生業とする冒険者達は自分達の主神から『恩恵(ファルナ)』を授かり、その効果で身体能力が著しく向上しているらしい。私はまだ冒険者ではないのでそれがどんな感覚なのかは分からない。

 

 そして、モンスターの強弱は冒険者基準なのだろう。単純に力が強ければ断てなかった皮と肉、そして骨を砕き、剣は『コボルト』の首を斬り落としただろう。

 

「まあ、やりようはなくはないですね」

 

 しばらく次はどう倒すか思案しながら歩くと都合の良いことに一匹の『コボルト』に出会った。背後から近付こうとしたが、その鋭い嗅覚で私を察知した相手は警戒状態になり私は奇襲を失敗した。

 

「さて、では――」

 

 私は剣を両手で握って構えた。それは当たり前のことだ。片手で構えることもあるが、やはり未だに筋肉が発達しきっていない私が安定性を求めると両手で持たざるを得ない。剣はそれなりに重いのだ。

 

「――死合ましょうか」

 

 そして一気に踏み込む、剣はそのまま両手で握る。

 

『ギャウウウウゥ!!』

 

 鋭い爪と敵意を剥き出しにして『コボルト』は接近する私に襲い掛かってくる。今までそれなりに獣相手に実戦はしてきたつもりだったが、モンスターとの戦闘は根本からして違う。

 獣との戦いは生存をかけた戦いだ。生きるために戦うのであって、その過程で敵を殺すこともあるだろうが退かせることもある。だが、モンスターは違う

 

 殺す、そんな声が聞こえてきそうなほどの殺意。彼等は生きために戦っているのではなく、殺すために戦っている。まるで恨みでもあるかのように、憎悪と言ってもいいほどの殺意が向けられる。

 それだけで冷や汗をかいてしまった。

 

「ッ」

 

 突き出された爪を回避するも、僅かに頬に掠り痛みが走った。だが、そんなことで止まっている暇はない。『コボルド』の伸び切った腕を逆袈裟に斬りつけて斬り落とす。

 

『ギャアアウウウゥッッ!!』

 

 腕を斬り落とされた痛みで『コボルト』が絶叫を上げる。その隙を見逃さず、私は再び『コボルト』の首目掛けて剣を走らせる。

 太い毛に覆われた皮膚を斬り裂き、硬い肉に刃が食い込む感覚が腕に伝わる。何度やっても嫌な感覚だが、それを振り切って一思いに剣を振り抜いた。硬い骨を砕き、そして刃は首の反対側へと突き抜けた。

 

『ゥ――――』

 

 断末魔を上げることなく『コボルト』は亡骸となった。

 

「ふぅ……生きた心地がしませんね」

 

 先程まで斬れなかった首を斬る方法、それは単純に剣を片手で振るうのではなく両手で振るうだけのことだ。片手と両手、勿論より力を出しやすいのは両手で持ったときだ。二本の腕で振るうのだから当たり前のことだ。しかし、その分リーチが短くなる。

 そして、『コボルト』相手にリーチの差というのは圧倒的有利に働く。子供くらいの体躯の『コボルト』は武器でも持たない限り極狭い間合いの中でしか攻撃できない。片手で剣を振るうのであれば、その間合いの外から攻撃することができた。

 だが両手で剣を握って戦う場合、その間合いに入ることになる。それだけリスクを負わないといけないということになる。

 

「今日はこれくらいにしておきますか……」

 

 初めてのダンジョンでの戦闘に大きく集中力を割き、既に疲労を感じていた。稽古であればまだまだ行けるくらいしか動いていないのに、実戦ではそう上手くは行かない。

 三日後には入団試験もあるので、それまで怪我をするわけにもいかない。実戦で刺激を受けやる気を出そうと思っていたが、それ以上に学ぶことが多かった。今まで感じたことのないほど濃密な殺気と向き合う精神力、そしてその危険をどこか楽しく感じている自分、本当に多くのことが分かる。

 

「強くなる、か」

 

 納めた剣の柄を握る。早く、早くアイズと剣を交えたい、そう強く思った。

 

 

 

 

 因みに、その後また違う冒険者に聞いたのだが、別に生物的に殺さずともモンスターには弱点である『魔石』があり、それを砕くことで即死させることができるらしい。『コボルト』であれば人間でいう心臓部に『魔石』があるので、心臓を突けば楽に倒せるのだとか。

 もっと早く聞いていれば良かったと思う反面、殺し合いなのだからそんな楽な方法で良いのだろうかと思う自分がいた。




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 本当は門番にアリシアさん出してお姉さん感出したかったんですが、アリシアはアキとラウルより入団時期が遅いので断念。この時期にアキとラウルがいたかどうかも分からないんですが……。
 この時期下っ端であるアキとラウルがロキに何かしら進言できるかどうかは、ちょっと分からないですけど、できるということにしておいてください。ロキってばフレンドリーな神だから!!


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斯くして再び巡り合う

 今日はリューさん外伝のコミカライズの発売日でしたね。勿論買って読みました。まあ、こちらにはあまり関わってこないとは思います。

 ベートの入団時期の関係でベートの登場する描写を削除しました。そのため、短いです。


「よし、じゃあ帰還しようか」

 

 そう団員達に指示を出したのは【ロキ・ファミリア】の小さな団長フィン・ディムナだ。汚れ一つない金の髪、凛々しく美しい青色を映し出す瞳、そして整った顔、オラリオで人気の高い男性冒険者の筆頭である。しかし、魅力はそれだけではないのだ。

 【ロキ・ファミリア】団長、【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナは小人族(パルゥム)である。大人びた仕草、知略にも長けた軍師であり、団長と呼ぶに相応しい実力と数々の偉業を持ち合わせた英傑だ。

 普通にしててもモテモテなのだが、その「できる男」と「少年らしい見た目」とのギャップが彼の人気に拍車をかける。

 

「アイズ、どうかしたのか?」

 

 フィンの指示に従い動き出す団員たちの中、動き出そうとしないアイズにリヴェリアが話しかけた。

 リヴェリア、本名リヴェリア・リヨス・アールヴ。【ロキ・ファミリア】最古参の一人であり副団長、エルフの中でも特別なハイエルフ。新緑を思わせる長髪と瞳、エルフの中でも飛び抜けた美貌、男性人気は言わずもがな、女性エルフの中には崇拝するものまでいるという。

 神々から授かった二つ名は【九魔姫(ナイン・ヘル)】、九つの魔法を駆使するオラリオで最強ではないかと噂される魔道士の一人だ。

 

「……アイズ?」

「――足りない」

 

 そんなリヴェリアの呼びかけに、アイズは反応しない。それどころか目を閉じて何か考え事をしている。

 

「はぁ……」

 

 またか、と言わんばかりにリヴェリアは溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 最近、アイズ・ヴァレンシュタインの様子がおかしい。

 

 そう感じている【ロキ・ファミリア】の団員は少ないが、確かにいる。そもそも様子がおかしいと思えるほど彼女と関わっている団員が少ない。母数が少なければ、当然そう感じる者も少なくなる。

 

 横を歩く少女を一瞥して、リヴェリアは最近のアイズのことを考えた。アイズに専属の教育係はいない、というのも彼女の教育はフィン、リヴェリア、ガレス、幹部全員でしているからだ。最初はそのことを不審に思った団員も、アイズの強さを知ると納得した。

 つまるところ、アイズは入った時点で幹部候補として育てられているのだ。

 

 アイズのことが放って置けないリヴェリアは結果として一番長くアイズの傍にいる。まあ、フィンは団長としての職務で忙しく、子守りが向いていなさそうなガレスには任せられないので当然の帰結とも言えた。

 だからこそ、最近のアイズの変化を彼女なりに観察してきた。

 

 半年前、都市外へと仕事で赴いた際にサーベルを失くしたと言ったアイズを見て、リヴェリアだけでなく大半の団員が嘘であると見抜いただろう。サーベルを失くすなんてそもそも滅多なことではないし、戦闘のことばかり考えているアイズが失くすわけがない。

 しかし、そんな嘘を吐いてまで彼女はその本当の理由を隠した。フィンと相談した結果、詮索しないことにした。それは、彼女が失くした自分のサーベルの代わりと言わんばかりに手に入れた長剣についてもだ。

 

 その剣を、アイズはずっと持ち歩いている。そして、それを使っていないと殆どの団員が思っているが、リヴェリアはアイズがそれを使っているところを時々見る。

 それは朝の鍛錬の時だ。アイズは早朝、それこそ団員達の中でも起きているのは朝食の支度をする数名だけの時間帯に鍛錬を始める。リヴェリアはその監督役だ。いなくても良いと言われたが、リヴェリアも譲らなかった。

 

 昇る朝日を受けて輝く金髪、見事なまでに澄んだ剣閃、それはまるで一枚の絵画だ。リヴェリアでさえ時々見惚れてしまうほどに、剣を振るうアイズは美しい。

 そんな朝の鍛錬の最後、毎日というわけではないが、三日に一度かそれくらいの頻度でアイズは普段使わない長剣をその鞘から抜き放つ。

 

 戦闘で使用しているサーベルよりも一回り大きい長剣は、そもそもアイズの身体に合っていない。それでも楽々と扱えてしまうのは冒険者としての膂力があるからだ。

 サーベルを使っての鍛錬とは違う、というより鍛錬ですらないのかもしれないとリヴェリアは見ていて思った。ゆっくりと、脳裏の記憶をなぞるようにアイズは長剣で軌跡を描く。それはそれまでアイズが振るっていた剣とはまるで違うのだ。

 一通り終わると、彼女はその長剣の刃に映る自分をじっと見つめて、納刀する。

 

 何をしていたのかとリヴェリアが訪ねても、彼女は何も答えない。あの行為が不可侵であるかのように、頑なにあの長剣を持つ理由と同様に口を割らない。

 だが、それで良いとリヴェリアは思った。それほどまでにアイズが大切だと思える何かが彼女にもできたということだ。

 

 

 

 

 

――足りない

 

 アイズがそう感じたのは、半年前アゼルと再会の約束をしてからだった。

 

 何かが足りない。それが何なのかアイズには分からなかった。しかし、満たされない感覚だけは如実に日々大きくなっていく。

 何度敵を斬り殺そうと、何度フィンと模擬戦をしようと、渇きは満たされない。

 

 それが何なのかは分からないが、その原因は明らかだ。その満たされない欲求を、満たすことのできる者がいるとすれば、それはアゼルしかいない。

 半年だ、もうあれから半年も経っている。

 

 アイズは約束と共に渡されたアゼルの剣を、荷物を持っていたサポーター役の下位団員から受け取る。業物というわけではない、オラリオでならもっと質の良い剣はごまんとある。自分の師から貰ったと言っていた大切な剣をアゼルは何の躊躇いもなくアイズに渡した。

 そして、アイズも自分の得物をアゼルに渡した。約束を形にしたように、お互いの剣を交換したのだ。

 

 勿論自分の武器ではないので戦闘で使ったりはしない。しかし、今となってはアゼルの存在を示すのは記憶の中の彼の剣閃と、その長剣のみだ。

 物思いに耽ると、どうしてもあの時の剣を思い出してしまう。

 

 打ち合う度に、心が晴れていった。誰もが強さに傾倒したアイズを心配したり恐れたりした。だが、アゼルは向き合っても尚態度を変えない。むしろより距離を縮めてきた。さあもっと打ち込んでこいと、まだ満たされないアイズに気付き疲れた身体に鞭を打って剣を構えた。

 誰かを通して自分を知るということ、つまり誰かと向き合うというその姿勢をアイズは今まで取ることはなかった。誰も彼女と真正面から向き合うことはなかった。理由も聞かず、むしろ名前すら聞かず、女であるからと侮ることもなく、振るわれた剣にアゼルもまた剣で応えてくれた。

 

――自分はこんなに強くなった

 

 それをアゼルに知ってほしい。アゼルの剣がどう応えてくれるのか、知りたい。

 

「ん――」

 

 ダンジョンから地上へと出ると、太陽の光が世界を照らす。ずっと薄暗い地下にいた冒険者達は慣れない目を腕で隠したりする。アイズもその例には漏れない。

 戻ってきた、と思った矢先のことだった。

 

 

 

 

「おい餓鬼ぃ! 次は気をつけろよ!」

「すみませんでした」

 

 

 

 

 バベルから出て塔の周りの広場を横切っている時だった。在り触れた会話だ、広場には多くの人が行き交っているのでぶつかったとしてもなんらおかしくない。会話自体は何も特別ではなかった。しかし、謝ったその人物の声を聞いた瞬間、脳裏に剣閃が蘇った。

 

「――ッッ!!」

 

 声のした方向に勢い良く振り向いた。すぐそこにいた団員は突然振り返ったアイズに驚いたが、そんなことに構っている暇はなかった。

 人混みでよく見えなかったが、その時アイズは確かに見た気がした。赤い髪の毛の少年の後ろ姿が街へと消えていく。

 

(――待って!)

「アイズ!?」

 

 考えるよりも早く、アイズは駆け出していた。探索の疲れがなかったわけではない、しかしあの後ろ姿がアゼルだと思った瞬間疲れなど感じなくなった。

 人混みの中、巧みに人を避けながらアイズは走る。後ろからリヴェリアが名前を呼んでいたが無視した。

 

(アゼルッ)

 

 だが、人混みの中に消えてしまった少年をアイズは見つけられなかった。もしかしたら見間違えだったのかもしれないという考えに至るまで彼女は辺りを忙しなく見渡した。いっその事名前を叫んでいればよかった、と後悔をした。

 

「アイズ!?」

 

 リヴェリアが追いついた。人混みの中だと身体の小さいアイズの方が素早く移動できる。

 

「どうしたんだ行き成り走り始めたりして」

「……なんでも、ない」

「いや、なんでもないとは……」

 

 到底思えない、と言いかけてリヴェリアは止めた。アイズの吐く数少ない嘘に詮索するというのはなんだか気が引けたのだ。そう思わせるほどまでに、その時のアイズは沈んでいた。全身でその感情を表していた。それは、感情をあまり見せないアイズには珍しいことだ。

 

「なら帰るぞ」

「……うん」

 

 しょんぼりしていたアイズは思いの外素直で、リヴェリアはこれはこれで楽で良いなと少し思ったが流石に頭を振ってその考えを捨てた。

 

「いたと……思ったのに」

 

 耳を澄ましていなければ聞こえないほどの小声で、アイズが何事か呟いた。アイズが誰かを探していた、そして見失ったということをその相手が誰なのかまでは分からなかったが、リヴェリアは察した。

 

 アイズの突然の行動に唖然として止まっていた他の団員達と合流しアイズは【ロキ・ファミリア】のホームである黄昏の館へと向かっていった。

 

「あ、皆さんお帰りなさい!」

「お帰りなさいっす!」

 

 ホームの前で出迎えてくれたのはその日も門番をしていたアキとラウルだった。彼等は今回の小遠征には連れて行ってもらえず、人員不足となっていたのでここ数日は夕方の門番のローテーションに組み込まれていた。

 

「団長すみません、今よろしいでしょうか?」

「今かい?」

「はい、なるべく早い方が良いと思いまして」

「何か不在の間に問題でもあったのかい?」

 

 アキは中へと入ろうとするフィンを呼び止めた。リヴェリアも立ち止まり、そしてつられてアイズも立ち止まる。

 

「問題というか……明日入団試験をすると、ロキが」

「……明日?」

「はい……あ、人数は一人だけですけど」

「一人? ロキのスカウトということかい?」

「いえ、それが違って……三日前に訪ねてきた少年なんですけど。ロキとは知り合いじゃないって言ってましたし」

「ふーん……その少年の名前は?」

 

 あまりに急な話にフィンは首を傾げた。聞いていたリヴェリアは溜め息を吐いて呆れ返った。ロキはいつも思いつきで行動するが、今回のは群を抜いて突発的だ。

 アイズは既に関係ない話と割り切ってアキの横を通ってホームの中へと歩き出していた。

 

 

 

 

 

「アゼル・バーナムという少年です」

 

 

 

 

 

 時間が止まったかのような感覚にアイズは陥る。その名前を自分以外の口から聞くことはないと思っていたが、今確かにアキはその名前を口にした。

 

「今、なんてッ」

「へ?」

「アゼルが、来たの?」

「は、はい、来ましたけど。アイズ、さんの知り合いですか?」

 

 有無を言わせない凄みのある雰囲気を出す少女にアキはたじろいだ。思わず敬語を使ってしまうほどだ。

 自分があの時見た後ろ姿はやはりアゼルだったのだと、アイズは確信した。アキの問に答えることなく、フィンに向き直った。

 

「フィン」

「何だい、アイズ」

「試験は私にやらせて、ください」

 

 アイズの真剣な眼差しを受けて、フィンは頭を縦に振った。止まっていた時が動き始める、満たされぬ渇きを潤す雨が降る。強さを求めた剣と、極みを目指した剣、再び交わるその時をアイズは待ちわびていた。




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言葉にできずとも

 本編日間2位とIF日間4位という結果を残せてハッピーだったので更新。


 この半年間、目を閉じれば瞼の裏には彼女の姿があった。だが、今は目の前に本物の彼女がいる。触れることも、言葉を交わすことも、視線を交差させることもできる。

 自然と、笑みが浮かび、動悸が速まる。喜びが抑えられず、感極まって目尻に涙が浮かぶ。

 

「君のことを夢に見たよ」

 

 幾度も幾度も、夢の中で彼女の剣閃を見た。だが、それでは満足できない。そもそも記録として見る彼女の剣閃は、実際のそれより幾分にも劣っていた。こんなものじゃない、彼女の剣はもっと鋭く澄んでいた。

 だが、夢の中、想像の中でしか見ることができないのだから、それで満足するしかなかった。

 

「でも、これは夢じゃない」

 

 熱に浮かされたかのように、身体が熱かった。幾ら言葉を重ねようとも、この想いを十全に表現することはできないだろう。

 会いたかった、でもそれだけじゃない。

 共にいたかった、でもそれだけじゃない。

 君のことを知りたかった、でもそれだけじゃない。

 

 私の言葉に答えず、否、口ではなく彼女は行動で私に応えた。

 

「……」

 

 静かなる金色の瞳が、私を射抜く。腰に挿してあったサーベルを抜き放ち、そして構えた。視線がぶつかり、そして伝わる。早く抜け、早く。

 そう急かさないで欲しい、などと返すわけもなく、私も腰に下げていた長剣を抜刀。剣でのみこの想いは表現し得るのだ。

 

「ああ、待ちきれなかったのは私だけじゃなかったんですね」

 

 その事実が余りにも嬉しくて、つい言葉にしてしまう。

 やはり、駄目だ。アイズを前にすると、どうしても語りかけてしまう。そんなものは不要であると分かっているのに、この想いは抑えられない。私と彼女に必要なのは、言葉ではなく剣。

 

「ふぅ……では、参りましょう」

「うん」

 

 息を吐いて心を落ち着かせる。それでも、やはり心臓は煩く脈打ち隠せない感情を奏でる。向き合った瞬間世界は色づいた。自分には彼女しかいない、なんて思えるわけもない。

 まだ生まれて11年しか過ごしていないのに、そんなことが分かるはずもないのだ。だから、私は願った。

 

――どうか、この命が尽きる時、自分には彼女しかいなかったと思えるように

 

「両者、準備は良いね?」

 

 【ロキ・ファミリア】の団長と名乗ったフィンさんが腕を振り上げて静止させた。私とアイズを一度見て、特に問題がないと判断してから彼は腕を振り落とす。

 

「では、始めッ!」

 

――今は、剣戟を重ねよう

 

 

 

 

 

 

 【ロキ・ファミリア】に初めて訪問し、そのままダンジョンへと赴いた日から三日が過ぎた。それまで日に一度はダンジョンへと行き、怪我をしない程度にモンスターと戦ったりしていた。

 その日、私は朝起きてから入念に身体を伸ばし調子を整えてから黄昏の館へと向かった。

 

「こんにちは」

「よく来たわねアゼル」

「こんにちはっす」

 

 出迎えてくれたのは三日前と同じアキさんとラウルさんだった。

 

「それにしても、アゼルの知り合いってアイズのことだったのね」

「ええ、まあ。アイズから聞いたんですか?」

「ううん、でも態度で分かるわ。アゼルの話にだけ食いついていたもの」

 

 その時のことを思い出したのかアキさんは苦笑いだった。話によるとアイズはあまり【ロキ・ファミリア】の他の団員との交流に積極的ではないらしい。無心に強さを求めるその姿勢に他の団員も引き気味だとか。

 

「あれはびっくりしたっすね」

「そうねえ、行き成り話しかけられて何事かと思ったわ」

「私にとっては、とても素直な人なんですけどね」

「素直ぉ?」

 

 打てば響く、私と打ち合っている時の彼女はそんな感じの人だ。彼女の剣の弱い部分を重点的に攻めればそこを直す辺りアイズは強さを求めることに関してはこれ以上ないほど素直だ。

 

「あ、武器はこっちで用意するって話よ。万が一壊れたりしたら申し訳ないし」

「武器が壊れるような試験なんですか?」

「そりゃもう、色々と想定外だからね」

 

 何がどう想定外なのかは教えてくれなかったが、アキさんとラウルさんに連れられ私は念願の黄昏の館へと足を踏み入れた。

 きょろきょろと辺りを見渡す私を見て、ラウルさんが尋ねる。

 

「どうかしたっすか?」

「いえ、何だか思ってたより普通で」

「うちのホームを何だと思ってるのよ」

 

 勿論、中身も外見と同じく豪快な作りなのだが、なんというか外見ほどは尖っていなかった。高価そうな壺や絢爛な石像などを想像していたのだが、スケールは大きいが普通の家とあまり変わらない。

 少しだけ残念だった。

 

「で、どんな試験なんですか?」

「模擬戦よ」

「武器が壊れるような?」

「そう、相手が相手だから」

 

 相手が相手だと模擬戦ですら武器を壊されるのが【ロキ・ファミリア】なのだろうかと一瞬自分の所属しようとしている集団に不安を抱いた。

 

「なんたってアゼルの相手はアイズだからね」

 

 だが相手の名前を聞いた瞬間不安など散った。それはもう見事に消え失せた。その代わり、内から燃える闘志が宿る。

 

「さあ、早く行きましょう!」

「アゼルもアゼルで凄い食いつきねえ」

「相思ってやつっすかね」

 

 突然やる気を倍増させた私を見て、アキさんとラウルさんが呆れる。だが、やる気を出さずにはいられないのだ。半年間待ちに待った彼女との打ち合いがもうすぐそこに来ている。そう思うだけで、もう今すぐ剣を抜きたい気分だ。

 

「さあさあ、早く案内してください!」

「ああもう……こっちよこっち」

 

 見当違いの方へ歩き出そうとする私の肩を掴みアキさんが正しい方向へと向かせてくれた。向かう先は黄昏の館の中庭、建物の中でぽっかりと空いた円形の空間らしく日頃からそこで戦闘訓練をしているらしい。

 

 中庭へと続く扉を押し開け、私は外へと出た。一陣の風が吹き、私の前髪を煽る。ゴミが目に入らないように私は顔を腕で覆った。日光が真上から照らしつけ、室内との明暗の差で一瞬景色が歪んだ。

 しかし、すぐに目が慣れ、私は遂に彼女の姿を目にする。

 

 金色の髪、スラリとした立ち姿。半年前に比べて少し背は伸びていたが、彼女の雰囲気はあの時と何も変わらない。強さを求める金色の姫、美しくも貪欲に力を求める彼女がそこにいた。

 

「――アイズ」

 

 彼女の名を口にする。アキさんとラウルさんは開け放った扉で待機している。彼等の案内はそこまでということだろう。

 彼女は中庭で誰かと喋っていた。私に背を向けていたのでまだ私が来たことを知らないのだろう。だが、名前を呼ばれ彼女は振り向いた。

 

「来ましたよ、君の元に」

 

 金色の瞳が私を見た。視線が絡み、そして彼女は口を開いた。

 

「遅い」

「これでも急いだんですけどね」

「遅い」

「私も三日待たされました」

「……半年も、待った」

 

 表情は変わらなかったが、彼女の不満は分かった。そんなことを言ってしまえば、私だって半年間不満を溜めていたのだ。だが、仮にも私のほうがアイズより年上で、その上女性には優しくしろと老師に言われてきた私は、折れなければならないのだろう。

 

「では、待たせてしまった半年分、今から打ち合いましょう」

「うん」

「……君がアゼル・バーナムだね?」

 

 私とアイズの会話に区切りができると、直前まで彼女と話していた人物が前に出てきた。

 金髪碧眼の美少年、だがどこか大人な雰囲気を纏った人だった。アイズと喋っていたということは親しい人物なのかもしれない。

 

「僕はフィン・ディムナ。種族は小人族(パルゥム)で、こう見えて【ロキ・ファミリア】の団長を務めてる。よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いしますフィンさん」

 

 少年だと思っていたが小人族の成人だったようだ。フィンさんの言い方からして、種族として成人しても小柄である小人族ではよくある間違われ方なのだろう。

 

「さて、アイズから君は長剣を扱うと聞いてね。用意しておいたよ」

 

 そう言ってフィンさんは一振りの長剣を差し出した。受け取り、鞘から抜く。鈍色の刃が丹念に磨き上げられていて自分の顔が写っていた。老師から餞別にと貰った長剣と比べると少し劣るものの、凡庸ながら良い出来の得物だ。

 

「それで大丈夫かい?」

「はい、ありがとうございます」

「それはよかった。じゃあ、早速始めたいんだけど」

「あ、少し待ってください」

 

 そう言って私は腰に挿していたサーベルを外す。

 

「これを、持っていて貰ってもいいでしょうか? 大切な物なので」

「うん、構わないよ」

 

 フィンさんは特に文句を言わずに私からサーベルを受け取ってくれた。それを一瞥して、彼は何事か納得した表情をしていたが、私にはなんのことか分からない。

 

「一応、上の階から主神や団員達が見てるけど、気にしないでやってくれ」

「はい――」

 

 中庭の端の方へと移動するフィンさんが最後にそう言う。

 

「――もとより気にする暇もないでしょう」

 

 向き合った金色の少女が、私に暇など与えるはずもない。

 

 

■■■■

 

 

 【ロキ・ファミリア】の面々はその模擬戦にあまり意義を感じてはいなかった。ロキがこんな無茶なスケジュールで入団試験をしたということは、既にその入団希望者が特別であることを示している。十中八九、その者は【ロキ・ファミリア】の新たな眷属となるだろう。

 だから、模擬戦に意味はない。現在の強さを調べる、という目的はあるかもしれないが、現在の強さと冒険者の強さはほぼ別物だ。武芸に秀でた一般人が冒険者となったチンピラにすら勝てないのが現実。

 

 そして入団希望者、アゼルの相手をするのは()()アイズ・ヴァレンシュタインである。8歳で冒険者となり、そこから一年ばかりでLv.2へとランクアップを果たした異例の女剣士だ。一般人とは隔絶した身体能力を持ちながらも、その剣技も日々めきめきと成長している。

 つまるところ、相手になるわけがないのだ。

 

 だが、目の前の光景はなんなのだろうか。

 

「ハァッ!」

 

 あのアイズが声を出し、気合いを入れて斬り込んでく。

 

「――くッ」

 

 相手は迫る刃をなんとか自分の長剣で受け止め苦しそうに弾き返す。苦しくて当然だ、アイズは現在9歳の幼い少女ではあるがLv.2の冒険者。彼女の剣速はそこらの剣士を凌駕し、膂力も細い身体からは想像できないほどに強い。

 一撃一撃が、アイズにとっては軽く振るっているだけでも、アゼルにとっては重すぎる。それでも、なんとか受け止められているのはアゼルの天性の戦闘センスだろう。できるだけ受け止めやすく、衝撃を受け流せるように、そして弾く。

 それをやってのけるだけでも驚きだ。しかし、それを越える驚きが今は【ロキ・ファミリア】の団員達が目の当たりにしていた。

 

「ヤァッ!」

「そう、何度もッ――」

 

 ()()()()()

 

 アイズ・ヴァレンシュタインはアゼルと剣を交えながら、僅かにその口角を上げていた。主神が『表情筋がちゃんと発達しているのか心配やわー』などと言うほどいつも無表情で、他人に興味を示さなかったアイズが――今確かに笑っている。

 その金色の瞳が、確かに今目の前の剣士に向いている。

 

「――同じ剣が通じると思わないことだッ」

 

 言葉と同時に、アゼルは今まで弾いていたアイズの剣を下方向へと受け流した。何度も剣を受けたことで衝突のタイミング、その方向、強さを感じ取り、戦いの最中で技術を向上させていた。

 これだ、これが見たかったのだとアイズは喜んだ。

 

「シッ」

 

 そして受け流した剣をそのままカウンターで叩き込む。だが、僅かな感動を覚えて動きが鈍ったアイズに容易く避けられる。

 動きの速度がそもそも違う。倍速と言ってもいいくらいにアゼルとアイズの動きの速さには差がある。

 

「ハアッ、ハアッッ」

 

 避けると同時にアイズは一度飛び退いた。別段不利になったからではない。彼女が不利になることは今はありえない。

 彼女は、自分の中に渦巻く今まで感じたことのない感覚を、感情を、感動を整理したかったのだ。そのために彼女は向き合った。自分より二歳ほど年下のアイズに、良いようにやられっぱなしなのに、アゼルの表情は心底嬉しそうに笑っていた。

 

「す、みませんね。すぐに息を整えます」

 

 アゼルは良く自分に謝罪をすると、アイズはこの時ふと思った。出会った時もそうだった。アイズの相手を十全に務められない自分のことを、アゼルは恥じていた。謝りながら、アゼルはその時の最善を尽くしアイズと向き合っていた。

 だから、本当は自分が感謝をするべきなのだとアイズは子供心ながら思った。

 

 相手の行動で心が温かくなった時は感謝をするのだと、今は亡き自分の母が教えてくれた。今の自分の心は、果たして温かいのだろうかとアイズは考えた。

 分からない、何も分からない。言葉にすることも、自分の中で消化することもできない感覚が身体に広がっている。

 

 それが何なのかアイズには分からなかったが、剣を振るう腕に、前へ踏み込む腕に、勝手に出てしまう声に、いつもより力が入るのはそれのせいということは分かった。

 自分は、この何かをアゼルにぶつけたいのだ、アゼルに受け止めてほしいのだ。

 

「はぁ、もう大丈夫です。さあ、続きを」

「――アゼル」

「はい」

 

 不意に呼ばれた名前にもアゼルは即答した。思えば自分は今日アゼルに再会してから一度もその名前を呼んでいないことにアイズは気付いた。

 

「アゼル」

 

 だから、もう一度その名を口にした。そこに本当に相手がいることを確認するように、いつものように目が覚めて近くにあるのがその残滓である長剣だけではないことを知るために。

 アイズが冒険者となったのは8歳だった。まだ親に甘えていたい年頃であり、甘えていて当たり前の少女だった。だが、彼女は戦場へと身を投じた。寂しさがなかったはずはない、辛さがなかったわけがない。

 だが、誰もが彼女を理解しない。その幼さで強さに取り憑かれた少女から、その間違った欲求を取り除こうとする。しかし、そうじゃない。幼いながらも、アイズは自分でその道を選んだ。一緒に誰かに歩いて欲しかったわけではないし、想像したこともなかった。

 

 だが、そんな誰かがいた。彼女は、きっと嬉しかった。

 

「アゼル」

 

 三度も名前を呼ばれて、今回ばかりはアゼルも首を傾げた。少し恥ずかしかったのか、アゼルは僅かに頬を染めた。それはそうだろう、誰でも異性から意味もなく名前を三度も呼ばれたら恥ずかしくもなる。しかも、アイズの声色はどこか切なさがあった。

 彼女の意図しない吐露だった故に、彼女の意図しない感情が込められていた。

 

「どうか、しましたか?」

「あ、ぁり――」

 

 大切な時なのに言葉が続かなかった。どうしても、その先が言えない。素直になれと自分に言い聞かせても、いつもは感じない感情の束縛が強くなる。

 そんなアイズを見かねて、アゼルは言った。

 

「アイズ、言葉にできないことなら、無理に言う必要はない」

 

 それは、なんて有り触れた言葉だっただろうか。会話を聞いていた観戦者もそう思ったことだろう。だが、アゼルは続ける。

 

「私に何かを伝えたいのなら、剣でいい」

 

 何を言っているのかと、大半の人間が思うに違いない。拳で語り合うなんて表現があるが、あんなものは嘘だ。そんな以心伝心ありえない、それは偶然の感情の一致でしかない。身体の一部である拳でもそうなのだ、体外の存在である剣で分かり合うことなどできるものか。

 

「私は君のことなら何でも分かる、なんて言えないけど。君のことなら何でも知りたい。どんなことを思って剣を振るうのか、どんなことを願って剣を突き出すのか」

 

 誰かが吹き出した。きっと多くの団員がそうした。開いた口が閉じないと言った風に惚ける人間もいた。

 だって、アゼルの口にしたことは最早告白だ。しかも公衆の面前だ。

 

「だから、教えてほしい。その伝えたいことを剣に込めて、何度でも打ち合おう。私ではそれがどんな想いなのか分からないかもしれない。だから、私は勝手にそれを想像するよ、自分の都合の良いように、自分のやる気が出るように」

 

 何時になく饒舌だ、などと言えるほどアゼルと付き合いのある人間はここにはいない。しかし、後になって今言っていることを思い返して悶絶することは必至だろうと、絶対に口数が多くなっている少年を皆が見た。

 

「後で答え合わせをしよう。その時、私の想像と、君の想いが合っていたなら――」

 

 アゼルは既に構えを解いていた。片手に長剣を持ち、両腕を大きく広げ、少し芝居がかった仕草で台詞を締めくくる。

 

「――私は君を知り、そして君もまた自分を知る。とても、素敵なことだ」

 

 アゼルは、言ってしまったことを少し後悔した。素敵、などというメルヘンチックな言葉など普段は使わないのに、この時は何故か興が乗って使ってしまった。相手が幼い少女だったからかもしれない。

 しかし、それがアゼルの率直な感情だった。嬉しくもある、楽しくもある、やる気もでる。そんないい事尽くしの言葉なのだ、素敵というものは。

 

「どうかな?」

「――うん」

 

 一瞬ぽかんとした表情をしたアイズは、真っ直ぐ見つめてくるアゼルの瞳を見て、そして頷いた。アイズの表情に迷いはなくなっていた。無理に言葉にする必要はない、その通りだ。有り触れたその言葉にこそ答えはある。

 自分とアゼルを繋ぐのは、二人の道を交差させるのは――剣ではないか。

 

「ふぅ……はぁぁぁ――……」

 

 アゼルなら、言葉通り何度でも打ち合ってくれる、向き合ってくれる。そう、信じられる。自分の満足のいくまで、何度でも。それが何故なのか、アイズには分からなかったが、知る必要はない。アゼルがそこにいれば、それでいい。

 

「【吹き荒れろ(テンペスト)】」

 

 静かな声で、アイズは荒れ狂うその感覚を外へと押し出した。

 それはアイズ・ヴァレンシュタインに与えられた《魔法》。風のような剣閃であるとアゼルはアイズを評した。それは、的を射た表現だったということをその時アゼルは知った。

 

「少し、本気でいく」

 

 風が渦巻き吹き荒れる。その中心にいるのは、金の髪を風になびかせるアイズだった。

 

「――ああ、受けて立とう」

 

 剣で知り、剣で教え、剣で応える――二人の逢瀬は剣戟と共に。

 周りに人がどれだけいても、その感情は見えない所で向かい合う。




閲覧ありがとうございます。
感想や指摘等あったら気軽に言ってください。

 さて、アゼル君が饒舌になる話。いや、本当にどうしてこうなった……。まあ、本編より突っ走ってしまう感じのアゼル君が今作のアゼル君なので、これでいい、のか? まあ、自分は書いてて凄くうきうきしたので良しとします!!


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いつか、剣戟を重ねた先

 冒険者には超人的な身体能力が備わっている。これは『神の恩恵(ファルナ)』によって与えられた【ステイタス】によるものだ。

 そしてその全員ではないけれど、多くの者は身体能力の域を越えた超常の力を持っている。それは《スキル》であったり《魔法》であったりだ。見た限り、今アイズが使っているのは《魔法》だろう。

 

 風のような少女であると思っていたが、私の勘も馬鹿にできないということだろう。アイズは風を纏っていた。見えないはずのそれが、彼女を中心に吹き荒れているのが分かった。

 

(それが君の本気か)

 

 残念ながら、私にはこの身一つ、手に持つ剣一振りしかない。なんら特別な能力などなく、冒険者のように超人的な身体能力もない。

 だが、それがどうしたというのだろうか。

 

――さあ、剣を執れ

 

 私には、最初から剣しかなかったではないか。このオラリオで、数多の怪物がひしめき、その怪物を打倒するような英傑達が集う、このオラリオで――彼女が待ちわびていてくれたのは、剣しかない私ではないか。

 

 卑下なんてするものじゃない。それは、待っていてくれた彼女に対しても失礼な感情だ。

 

「ふっ」

 

 無自覚な非礼を自覚し、そして短く笑みを溢してしまった。果たして彼女はそんな私を見てどう思っただろうか。

 正直なところ、少し本気を出した彼女を前にしていると脚がすくむような思いだった。だが、それと同時に心臓は早鐘のように鳴り響くのだ。以前は見ることのできなかったアイズの姿を見て、私は現金にも舞い上がっているのだ。

 そうしてやっと、私は彼女と向かい合って剣を構えることができる。

 

 風、それは人が逆らうことのできない自然の力だ。剣があったからと言って、私はただの人。どれほどの力を内包した《魔法》なのか私には皆目見当も付かない。

 死ぬかもしれない、大怪我をするかもしれない。だが、受けて立つと決めた。

 

 彼女を知るために、この命を危険に晒さないといけないと言うのなら、それが唯一の方法であるというのなら、私は喜んでこの命を危険に晒して彼女と向き合おう。

 言葉はいらないと言ったのは、他でもない私だ。そしてなによりも、アイズがそれを望んでいる。

 

 真正面からぶつかってくる自分を、身体を避けることなく、視線を逸らすことなく、ただ真正面から受け止めることを私に望んでいる。

 であるなら、応えないわけにはいかないだろう。

 

(私は、彼女の望む私で在りたい)

 

 彼女が強さを望むのであれば、私は強くなろう。彼女が剣を望むのなら、私は剣を執ろう。

 でも、実のところ私は欲張りなのだ。欲しいものは欲しいと願ってしまう、勝手な心がどこかにあるのだ。だから、私も望んでしまう。

 

(どうか、私だけを見て欲しい)

 

 それ故に向き合う。それ故に手を伸ばす。それ故に――剣を交える。

 

 

 

 何か合図があったわけでもなく、示し合わせたわけでもない。しかし、私たちは同時に動き出した。

 

 

 

「――ッ!」

 

 そのはずだったのに、私が一歩踏み込み終える前にアイズは間合いに飛び込んでいた。次の瞬間、ゾクリと背筋が凍るような感覚が身体を走り抜ける。

 

(くるッ)

 

 理屈などなかった。捉えることのできない踏み込みから放たれる一撃が捉えられるはずがない。故に、避けるか、それとも受けるか、どう避けるか、どう受けるか、その判断を下したのは理性ではなく本能。

 

 押し潰されるかのような衝撃。真上から振り下ろされる鋭い一撃を、私は長剣を横にして柄と刃の腹をそれぞれの手で持ち、さながら盾のようにその斬撃を受けた。

 一瞬意識が飛ぶかと思うほどに、それは今まで受けてきたどんな攻撃よりも重かった。

 

「ラァッ!」

 

 押し返すことは不可能、圧倒的に力が足りていない。であれば、どうにかして受け流さなければならない。踏み出そうとしていた脚を無理やり横方向へと転換させる。平行に持っていた長剣を傾けて刃で刃を滑らせる。

 その攻防は、僅か一秒ほどの間になされた。

 

 無理矢理逸らされた剣戟は地面へと突き刺さり抉った。その威力に恐ろしいものを感じながら、やはり自分はどこか狂っているのだと自覚をする。

 面白い、そう感じているのだ。今受けそこねていたら、私は死んでいたかもしれない。だというのに、私は心底心からその一撃を受けたいと思っていたのだ。次はもっと上手く受け流してみせると、何かが私の中で燻るのだ。

 

「シッ――」

 

 爆音を響かせた一刀から間を空けずにもう一撃。それの直撃を受けなかったのは、今回ばかりは本当に運がよかったからだ。横合いから飛んできたその一撃が、偶然にも先の斬撃を滑らせた長剣にぶちあたった。

 腕力だけではない、剣の一撃に次ぐ突風。風に煽られて踏ん張ることができない。なんの準備もしていなかった私は吹き飛ばされた。

 

「ガッ――!!」

 

 天と地、右と左、方向という方向、感覚という感覚がひっくり返る。自分が地面に転がっているのか、それとも宙を待っているのかすら定かではない。

 頬に冷たい地面の感触が蘇ったのは、数秒後のことだった。

 

 全身が痛い。思えば、これまで生きている中でこれほどの衝撃で吹き飛ばされたことはない。身体を燃やされたこともないし、わざわざ炎の中に指を突き入れたこともないので、実際の所どうかは分からないが――言うなれば、全身が燃えるように痛い。

 衝撃は全くと言っていいほどに殺せなかったようだ。などと、熱さで苛まれる身体とは別に脳が冷静に判断した。

 

 骨は折れているのだろうか、口の中に血の味がするのでもしかしたら内蔵も傷付いたかもしれない。流石に少しとは言え本気を出した冒険者相手に無謀だったのだろうか。

 アキさんは武器が壊れるような模擬戦と教えてくれたが、全然違う。武器なんかより先に身体が壊れそうだ。

 

 

 

 でも、立たないと。

 

 

 

 どうやら骨は折れていなかったらしく、腕で身体を押し上げて私はなんとか立ち上がることができた。脚は震えていないだろうか、そもそもちゃんと真っ直ぐ立てているのだろうか。

 

「いッ、やあ、驚きました」

 

 声を出しただけで肺に痛みが走る。それでも、声を出せ。まだ続けられると、見せなければいけない。否、私がもっと続けたいのだ。

 

「私はまだ戦える。さあ、続きと行きましょう」

 

 情けない姿など見せるものかと、私は精一杯口角を上げた。

 

「私も、()()で行きます」

 

 我ながら、狂っていると思わずにはいられない。

 しかし、剣とは本来そういうもの。活人剣とは剣技ではなく、それを扱う人を指す言葉であると老師は言った。それはそうだろうと当時剣を握って数週間の私は納得した。

 どこまでいこうと、剣は人を殺し得る凶器でしかなく、剣技は人を殺し得る技でしかない。それで人を守るのか、それとも人を殺すのか、その判断をするのは剣を持った人だ。

 

 剣の本質とは殺傷――この世で最も完成された剣とは必殺。

 

 思えば、私も彼女には本気を見せていなかった。何せ、私は彼女に恋をしたのだ。普通に考えれば、私の判断はあり得ない。

 

 アゼル・バーナムには今以上の力を出す術はない。この身は常人であり、身体能力には限界があり、願ったからと言って剣技の練度が突然上がることもない。

 であるなら、そんな私にとっての本気とは何なのか。

 

 答えは、決まっている。それは物理的なものではなく、精神的な部分。

 

――君を、殺す気で行きます

 

 愛する少女に向って、私は殺意を持って剣を構えた。

 

 

■■■■

 

 

 何度目だろうか、未だ勝負の付かないアゼルとアイズの模擬戦を眺めながらリヴェリアはそう思った。

 視界の中で二人が忙しなく、縦横無尽に動いている。二人がぶつかる度に剣が交差し激しい音と共に火花が散る。何度も何度も、決定的な一撃が入ることなく剣戟が交わされていく。

 そのことがリヴェリアや他の団員達にとっては信じられなかった。

 

 アイズ・ヴァレンシュタインは【ロキ・ファミリア】の冒険者、しかもLv.2の第二級冒険者だ。アイズが本気で、それこそ殺す気で戦っていないことは重々承知だが、それでも冒険者ですらないアゼルが未だ立っていることが驚愕だった。

 しかも、剣戟を重ねる毎にアゼルの動きが速くなっているようにすら思えた。相手の攻撃を察知し、予測し、剣で受けて、そして衝撃を逸らす。間違いない、アゼル・バーナムは戦闘の最中凄まじい速度で成長している。

 

 だが、ここで新たな疑問がリヴェリアの中に生じる。

 

 ()()()()()()

 

 それだけの技量があるのなら、アイズの攻撃を避けることも可能なはずなのだ。しかし、アゼルは一切の攻撃を避けない。すべてを剣で受け、そして驚くべき技量で致命傷を避けている。だが、そもそも地力の差が激しく、消耗が大きい。殺しきれない衝撃で徐々に身体は傷付いていく。

 考えるまでもなく、攻撃を受けずに避けた方が何倍も効率的だ。

 

 それ故に、何故。

 

 それともう一つ、その少年が醸し出す雰囲気にも疑問があった。

 殺意だ、少年の剣には確かな殺意が込められている。リヴェリアがアゼルを知ったのは今日のことだが、それでもアゼルがアイズに想いを寄せていることは分かった。であるからこそ、殺意を向けるのはおかしい。

 愛しているから殺す、なんていう狂った恋愛観を持っている者もいなくはない。だが、戦闘中だと言うのに優しくアイズに語りかけるアゼルは、そういった類いの人間には見えない。

 

 真っ直ぐなようで、アゼル・バーナムという少年はどこか歪んでいる。言葉を交わしたこともないのに、戦っている姿だけでそれが分かる。

 本来であれば、アイズの情操教育にあまりよろしい相手ではないと苦言を呈しているところだ。だが、一番の問題はアイズが活き活きしていることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 雰囲気を一変させたアゼルを前にして、アイズは剣を止めることができなかった。

 誰が見ても弱い者いじめである。Lv.2の冒険者と冒険者でもなんでもない少年。戦闘が一方的であることなど最初から分かっていた。その上アイズは《魔法》を使用し、速度と攻撃力共に向上させている。

 一方的である、しかし致命傷を与えることができない。

 

 どう打ち込もうと、アゼルは苦しくも対応してみせる。その緑の瞳がアイズを捉え、一挙手一投足を見定め、そして攻撃を予測していく。

 視線がぶつかると、アイズは相手の雰囲気に飲み込まれそうになる。

 

 今のアゼルからは殺気が滲み出ている。

 だが、それは相手を威嚇するような熱く、激しいものではない。そう言った類いの殺気はアイズもダンジョンで幾度となく向けられてきたから分かる。モンスターが冒険者に向けるような、それは獣の殺気だ。

 

 冷たく、鋭く――澄んでいる。

 それは、まるで一振りの刃のような雰囲気だ。

 

 それが、アゼルにとても似合っていた。殺意を向けられている、それはどう考えたって良いことではない。普通なら嫌悪感を抱いたり、怒りを覚えたり、それこそ殺意を返したりするだろう。

 だが、アゼルが放つ殺意は――本当にどうかと彼女自身も思ったが――心地よかった。

 

 アゼルは今、自分を曝け出している。その剥き出しの殺意は、感情であるとか、立場であるとか、そう言ったこととは無縁のものなのだろう。

 アゼル・バーナムがアゼル・バーナムであるために、その殺意は必要なのだ。

 

『私も、本気で行きます』

 

 アゼル・バーナムの本質とは剣であり、その結末は斬り裂くことである。どのように生きようが、それは変わらない。誰かの意図か、それともアゼル本人の意志か、神々でも与り知らない運命はそれを定めてしまった。

 

 剣とは殺すもの、それをアゼルは体現しているだけなのだ。

 だから、本気で剣を振るうということは相手を殺すということ。殺せるか殺せないか、そういった問題ではなく、殺すつもりで剣を振るうことがアゼルの本気なのだ。

 例え、それが一日千秋の想いで待ち続けた相手であってもだ。

 

 酷く歪んでいる、酷く狂っている。

 アゼル・バーナムは歪んでしまった。一つの出会いをきっかけに、その存在の本質と結末の間に一つの要素を――願いを差し込んでしまった。

 

 だが、それは自分も同じだ。アイズはそう思った。

 

 自分もアゼルを待ち望んでいた。夢に見るほどまでにその剣に焦がれ、声を聞くだけで剣を握る手に力が入り、向かい合っただけで自分の剣閃がいつもより鋭い自覚があった。こんな風になるのは、これまでも、そしてこれからもきっと、アゼルだけだ。

 そう思える、そう想える。

 

 それでも、アイズの根源的欲求は変わらない。

 強くなりたい、アイズの心がそう叫び、それに逆らうことができない。アゼルと打ち合うことが嬉しくて、楽しくて、それでも剣に求めるのは強さなのだ。だから、苛烈なまでにアゼルと剣を重ねる。

 

 ありがとう、と言葉にはできない。

 楽しいね、なんて笑うことができない。

 だって、強さを求めてこそアイズ・ヴァレンシュタインなのだ。自分をそう定めたのだ、曲げられない生き方にしてしまったのだ。

 

 だから、言葉にできない想いは、表現できない感情は――剣に込めて伝えよう。

 この生き様は強さを求める一振りの剣で在り続けよう。だけど、隣に立っているアゼルにだけは、真っ直ぐ向かい合ってくれているアゼルにだけは、見えない所で生き様を歪め、想いを伝えよう。自分で理解できるまで何度でも、相手に理解してもらえるまで何度でも。

 

 お互いの生い立ちを知らずとも、お互いの過去を知らずとも、アゼルとアイズは剣に込める想いだけはお互い理解できると信じている。

 飽くなき強さを追い求める、それがアイズ・ヴァレンシュタイン。

 飽くなき求道を突き進む、それがアゼル・バーナム。

 

 だから、お互いが求めるのは、ありのままの相手だ。

 アゼル・バーナムは強さを求めて剣を振るうアイズ・ヴァレンシュタインに恋をした。

 アイズ・ヴァレンシュタインは、剣技を剣技として極めんとするアゼル・バーナムを必要とした。

 

 自分の中の感情がアイズには分からない。もしかしたら一生かけても十全に理解することはないのかもしれない。だから、アゼルの言ったような『答え合わせ』なんてものは一生できないのかもしれない。

 でも、それで良いのではないだろうか。

 

 アイズはまだ9歳の子供である。先のことなど分かっていないし、歳を重ねていくということに関しては素人も素人だ。それでも、朧気ながら彼女はこの時未来を思い描いた。

 自分の隣に立っている、誰かを彼女は見た。答えが出せない彼女の横で、優しく微笑む誰か。そんな誰かを見上げて、答えなどいらないと思ってしまう自分。

 

 そんな幻想を描いて、剣を重ねた。剣戟は一度として同じ音を奏でない、一度として同じ感情は込められない。それは過ぎ去る川の水のようなものだ。その時々の感情が流れ、そして彼女の奥底へと溜まっていく。

 答えなんてものは、無理矢理導く出すものではないのかもしれない。

 

 風を纏った一撃がアゼルを弾き飛ばした。地面を転がりながらもアゼルは体勢を立て直し、直ぐ様立ち上がる。未だ剣を構える姿に衰えはなく、滲み出る殺意の鋭さは弱まらない。

 アイズはそんなアゼルを見て、剣を下ろした。

 

「答えが、出ましたか?」

 

 僅かに変化したアイズの雰囲気を察したアゼルが問いを投げかけた。アイズは首を横に振って答えた。

 

「でも、それでいい」

 

 自分の抱える感情を、そのまま言葉にすることはできない。だが、どんな想いでいるのかは伝えたかった。答えを急くことなんてないのだと、分かっていることを言いたかった。

 

()()、まだ」

「……そうですね、()()

 

 それは、再会を果たした二人が交わした、二つ目の約束。

 これから先何度でも向き合おうという、短い言葉に秘められた二人の誓い。

 

「では、最後にもう一度」

「うん」

 

 誓いをたてるならば言葉ではなく、剣で。それが二人のあり方である。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 風が収束していく。少女の剣が、すべてをなぎ倒す大自然の権化へと形を変えていく。

 

「ふぅ……」

 

 殺意が膨れ上がる。風すらも斬り裂いてみせようと言うかのように、高まる想いが鋭さを増していく。

 

「「――――ッ」」

 

 動き出したのはアゼルだった。疲労困憊の身体ながらも、見事な踏み込み、隙のない構え、しっかりと立った剣筋。剣士としては破格の才能、積み重ねてきた研鑽を感じさせるに足る動きだった。

 

 

 だが、それだけでは勝てないのだ。悔しそうに、アゼルは痺れる拳で柄を握った。

 

 

 振り抜かれた剣と共に突風が中庭を走り抜けた。甲高い音と共に、半ばで斬り裂かれた刃が太陽の光を反射させながら宙を舞う。

 弾き飛ばされた長剣の剣先が地面へと落ちて乾いた音が響く。それが、アゼルとアイズの模擬戦、アゼル・バーナムの入団試験の終了を告げた。




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スタートライン

「こっちだよ」

 

 フィンさんに連れられ黄昏の館の中を進む。

 アイズとの模擬戦が終わると、私は急ぎ治療されることとなった。とは言ったものの、大怪我をしていたわけでもなく、回復薬(ポーション)という傷を癒やす薬品と【ロキ・ファミリア】の冒険者の回復魔法で直ぐ様全快した。

 今までなら何日間か痛みに耐えながら鍛錬をしていたところ、オラリオではあまりそう言った心配はなさそうだ。まあ、常に全快の状態で戦えるというわけではないので、少し怪我をしている状態での鍛錬が無駄というわけではないが。

 

「これから主神であるロキに会ってもらう。幾らか質問されると思うけど、もう殆ど入ったようなものだからそう緊張しなくて良いと思うよ」

「ロキ、様は高い所が好きなんですか?」

 

 向かう先はこの建物の中で一番高い塔の一番上の部屋だそうだ。勿論そこに行くまでに何度も階段を登らないといけない。現在は最後の螺旋階段を登っている最中だ。

 

「ははっ、好きなんじゃないかな? 聞いたことはないけど。後、たぶん様付けもいらないと思うよ」

「一応、相手に許可を貰ってからにします」

 

 私の質問が面白かったのか、フィンさんは小さく笑った。

 

「あの、アイズさんは?」

「あの子なら多分説教を受けてると思うよ」

「説教?」

「そ、リヴェリア、うちの副団長にね」

 

 後で君もされるかもね、と恐ろしいことをフィンさんは言った。

 

「手加減が不十分だったこと、それと魔法がね」

「はあ」

「あれは、ちょっと危なかったから。冒険者でもない一般人に向けていい力じゃないんだ、本当は」

 

 それは確かにそうだろう。いや、そんなことを言ってしまったら冒険者の力はすべて一般人に向けてはいけないものだろう。

 

「君も君だけどね」

「私が何か?」

「とぼけているのか本当に分かっていないのか……あの時の君はアイズを殺す気で剣を振るっていたね」

「あれが、私の本気ですからね」

 

 その説明で納得したのか、それとも最初から答えなんて求めていなかったのか、それ以降フィンさんは黙ってしまった。無言のまま階段を登りきりドアの前で止まる。

 

「ここからは君一人だ」

「分かりました」

「まあ、これからよろしくねアゼル」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 きっと色々とご迷惑を掛けると思うので、と付け足すとフィンさんは苦笑いを浮かべて階段を降りていった。その後姿が見えなくなるまで待ち、私は目の前の扉へと視線を移した。

 この向こうに【ロキ・ファミリア】の主神がいる。そして、その神は恐らく初日に出会ったあの女神である。

 

「ふぅ」

 

 一度深呼吸をしてから私はノックをした。返事はすぐ返ってきた。

 

「入ってええで」

 

 僅かな緊張感と共にドアを開けて部屋の中へと入る。そこには予想外な光景が広がっていた。

 

「いらっしゃい、アゼル。こっちやこっち」

「……どうも」

 

 予想通り、そこにいたのは黄昏色の髪の毛を後ろで束ねた糸目の女神だった。彼女はベッドの上に胡座をかいて私を手招きした。

 私は地面に転がっている酒瓶や書類を踏まないように注意しながら彼女の元へと行く。

 

「あの、もう少し」

「アゼルまでママみたいなこと言うん? 明日やるから大丈夫やって!」

「ママ?」

「まだ聞いてへん? リヴェリアは【ロキ・ファミリア】のお母さんなんやで。あ、ちなみにお父さんはおらんから」

 

 だからリヴェリアさんが説教をしているのか、と妙に納得。

 

「4日ぶりですね、ロキ様」

「様なんて付けんくてええって、そのまま呼び捨てにしてや」

「分かりました、ロキ」

「まあ、ほんまなら堅苦しい敬語も嫌なんやけど」

「それはちょっと、癖みたいなものなので」

 

 フィンさんの言うとおり様付けはなしになった。随分と人と距離の近い神という印象だったが、そもそも私はロキ以外の神を一切知らない。オラリオではこれくらいが標準なのかもしれない。

 

「んじゃ、早速本題に入ろか」

「お願いします」

 

 私はベッドの縁に座る。程よく沈み、心地よく身体を包み込む。

 

「今まで色んな子を見てきたけど、アゼルはそん中でもなかなかおもろい子や」

「ありがとうございます?」

「ま、色んな意味でやから、勿論悪い意味でもおもろいと思っとるよ」

「……自覚はありますよ」

 

 悪い意味で面白い、というのは私の生き方などのことだろう。流石に自分の眷属に殺意を向けたことを気にしているのかもしれない。謝ろうとも一瞬思ったが、それは何か違うだろうとも思った。あれが、私である。他人に嘘を吐くことはまだ許容できる、だが自分に嘘を吐くことはしたくはない。

 

「私は、剣に魅入られてしまった、どうしようもない人間なんです」

「そうなんやろうな」

 

 ロキは私の言葉を否定しなかった。それが、堪らなく嬉しかった。自分がまともな人間ではないということは理解している、そして私はそれを受け入れている。アゼル・バーナムはまともではない、それでも生きている。私だけの人生を歩み、私だけの想いを抱え、私だけの物語を綴っている。

 

「剣を執ったあの時から、私は己を定めてしまった。剣を握り、剣を振るい、剣を極める、そのためだけに生きるのだと決めてしまったんです。でも――」

 

 他のあらゆる可能性を斬り捨てて、私は剣を極めようと思った。そこまでする価値なんてないと誰かは言うだろう。当然だ、私だってそう思うことがある。

 だが、価値なんてものは誰にも分からない。それはこの道の終わりに知るものなのだろうから。だから、この道を、この求道を走りきってみなければ何も分からない。己の生に意味があったのか、私が剣に掲げた想いに意味があったのか。

 私は、私という剣士の果てを知りたいだけなのかもしれない。

 

 だけど。

 

「――私は、出逢ってしまった、知ってしまった、歪んでしまった。剣のためだけに生きようとしていた私は、たった一度の剣戟で、変わってしまった」

 

 目を閉じれば瞼の裏にいるのはいつでも彼女で、夢を見れば彼女の剣閃を繰り返し見て、その感情は時が経てば薄れるどころか更に勢いを増していくのだ。会いたい、傍にいたい、剣を重ねたい、そして叶うのならば、彼女の全身全霊、心を曝け出した剣を見てみたい。その一撃を、私の剣が引き出せたのならばそれ以上に幸せなことはないだろう。

 

「どうしようもない人間が、どうしようもない理由で、抱いてはいけない想いを抱いてしまったんです」

 

 だって、私は恋をした相手にすら殺意を向けられる。否、あの時は殺意を向けることが正しいとすら思っていた。破綻している、間違っている、気が狂っている。その感情が恋ではないと糾弾する者もいるに違いない。

 私も分からない。果たして、この感情を恋と名付けて良いのか、この初めて芽生えた抑えようのない衝動が私に何をもたらすのか。

 

 身を焦がすような恋があった。

 身を捧げるような恋があった。

 身を灼くような恋があった。

 ならば、剣戟を重ねた先、そんな恋があっても良いんじゃないだろうか。

 

「私はきっと――――恋をしてしまったんです」

 

 言葉にしてしまえば、たったそれだけのこと。陳腐な物語の冒頭のような、唐突な心の吐露。一人の男が、一人の女に惹かれてしまっただけの話。

 ただ、彼女が求めるのは甘い言葉でなく鋭い剣閃だったというだけのこと。私は、それに応えるしかない、いや、応えたい。恋した相手に殺意を向けることになったとしても、彼女が私の剣を求めるというのなら、私は甘んじて狂人の名を受け入れる。

 

「そっか」

 

 私の告白のような独白に対して、短すぎる返答。だが、私にとってはそれだけで十分だった。今語った理由が私のすべてだ。ロキの前で自分を偽ることは許されない、否、私自身自分を偽ることは許さない。

 剣士であるが故に、この想いは曲げられない。

 

「アイズたんは、強敵やと思うで」

「倒し甲斐がある方が良いじゃありませんか」

 

 きっと、私はロキにとっては何ら特別ではない一存在でしかないのだ。だから、こんなにも当たり前のように彼女は私に接してくれる。狂っている、それくらいでは人をやめることはできないのだから。

 

「ま、ええんとちゃう? うち好みの理由や。ただ強うなりたいだけやない、強くなって誰かを振り向かせたい。恋、大いに結構!」

 

 にやりと笑いながら彼女は言う。

 

「まあ、アイズたんは渡さんけどな!! あの子はうちのや!」

「――――」

「言っとくけど、うちの愛は海よりも深く山よりも高い、それはもうでっかいんやからな!」

 

 私は彼女の言葉に呆気に取られ、何も言い返せなかった。

 そもそも女同士では、いや神と人でそんな関係になれるのだろうか? もしかしたらオラリオでは割りと標準的なカップリングなのかもしれない。いや、だとしても、どうなのだろうか。

 色々考えて、私はロキなりの激励として受け取ることにした。

 

「それはつまり、奪えるものなら奪ってみろということですね」

「え、いや」

「初恋が略奪愛になるとは思ってもいませんでしたが、受けて立ちましょう。でも、ロキ――」

 

 今度はロキが私の返しに呆気に取られる番だったようだ。どうやら私は彼女の真意を理解していなかったらしい。だが、言いたいことは言っておこう。

 

「――私はこの想いが、この願いが、この求道が、貴方達(神々)に劣っているとは露ほども思っていませんよ」

 

 ロキ達神々は人を越えた存在、遥か高みにいる超越存在(デウスデア)。ありとあらゆる意味で、彼等は私達と違い、私達の方が遥かに劣っているだろう。

 だが、この心だけは、この身体を衝き動かす魂の鼓動だけは、劣っていないはずだ。神々にしてみれば瞬き程の時間しか生きられない私達が、その一瞬の命を燃やし放つ想いの輝きだけは、劣っているはずがない。

 

「――ぶはっ、あはははっ、はっはっはっはっははっ!!」

 

 ロキが腹を抱えて爆笑する。ベッドへと身を投げ出し転がりながら、笑い声を抑えようともせず、息が続く限り笑い、苦しそうに呼吸をしてからまた笑う。数秒、数十秒、もしかしたら一分間は笑っていたかもしれない。

 その横でどう反応すれば良いか迷っている私の心情を、誰が理解できようか。

 

「ひー、苦しい!! もう、やっぱおもろいやっちゃなー、アゼルー、このこのー!!」

「ちょっ、ロキッ、くすぐっ、た、いはははっ」

 

 ある程度笑いが治まったロキは後ろから私に抱きつき脇腹をくすぐってきた。流石にどれほど剣の鍛錬をしてもくすぐられるのに耐えられるわけもなく、私も強制的に笑わせられる。

 

「ええやん、ええやん!! 喧嘩するほど仲が良い、女の子取り合って深まる関係ちゅうのもあるかもしれんな!」

「私は別にロキのことは嫌いじゃないですよ」

「なーに言っとんねん、うちもやで」

 

 脇をくすぐっていた手を止め、後ろから首に手を回して抱きしめられて後ろに引っ張られて一緒にベッドに仰向けになる。頭の下にロキの胸があるはずなのにまったく柔らかさを感じなかったのは、一生黙っていようと思った。

 

「その想いの果て、その求道の果て、その剣戟の果て、ウチに見せてみいや。夢を見てこそ人の子、理想を抱いてこそ人の子、果ての星に手を伸ばしてこそ人の子! 始めようやないか、アゼルの、アゼルだけの――」

 

 その時、ロキは言ってくれたのだ。

 剣だけの私が、剣以外を求めたという事実を、あまりにも嬉しそうに、あまりにも楽しそうに、待ちきれないような表情で、高らかに言ってくれた。

 

「――剣戟が綴る【恋の物語(フィリアズ・ミィス)】を!!」

 

 この身に宿る剣以外の衝動、ずっと一人きりだった鈍色の世界を照らす金色の輝き、剣狂いが得た唯一少年らしい感情――それは恋だったに違いない。

 

 

 

アゼル・バーナム

Lv.1

力:I 0

耐久:I 0

敏捷:I 0

器用:I 0

魔力:I 0

《魔法》

《スキル》

剣ノ徒(フィロ・フィディル)

・ 基本アビリティ上方補正。

・ 己の力への信頼の丈により効果向上。

・ 剣を装備している限り効果持続。

 

 

 

 彼女と出会って半年、私は漸くスタートラインに立ったのだった。道は険しいだろう、人より遥かに強い怪物達と渡り合うのは生半可なことではないだろう。

 だが、剣に対する求道がある限り心は折れたりなどしない。

 だが、彼女に対する恋心がある限り歩みを止めることなどない。




閲覧ありがとうございます。
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 長らくお待たせしました。
 まあ、長く待たせた割には短いですし、この次の話はまだ書いていないので申し訳ないです。
 一応将来的にどんな魔法やスキルを獲得するのかはもやっと決めています。まあ、そこまで辿り着くのが何時になるのかは分かりませんが。


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