うちはの火影 (SHV(元MHV))
しおりを挟む

九尾襲撃より一週間前のこと

さて、みなさんのリクエストにお答えしてNARUTOのエロ連載開始です。

ドラゴンボールの合間に書くので不定期更新になりますが、がんばって書いていきますのでよろしくです。

※すいません、色々凡ミスしましたので一部修正しました。ちょっと推考不足でしたね。


木の葉の修練場にて、肉と肉がぶつかる重い音が響く。

 

かたや修練場の真ん中に描かれた円の中で無防備にたたずむ男。歳の頃は20代後半か。自身の周りを高速で撹乱する影に、厳しい視線を投げ掛けている。

 

かたや両の拳を握りしめ、強い闘志をその目に宿した男。どこかひょうきんささえ感じられる緑色の全身タイツにおかっぱ頭、さらに忍具を入れるために無数のポケットが設けられたチョッキを着た彼は、高速で動きながらも危ういことにその視線は今、ひたすらに下を向いている。

 

「…まったく、対写輪眼の修行だというから何かと思えば、まさか相手の足下だけを見て戦うとはな。そんなバカな真似を実際にやろうとするのはお前だけだぞ、ガイ」

 

「ありがとうございますサイゾウ先生!ですが、これは俺のライバルであるカカシとの戦いには不可欠な要素!こうして俺よりも格上である先生に打ち込むことで、俺の技がどれほどの高みに至れたかの確認もできるというものです!」

 

「まあいいがな。大蛇丸先生の元へ行く用事もあるんだ、手早く済ませるぞ」

 

サイゾウと呼ばれたこの男。

 

かつて第三次忍界大戦において、四代目火影である『黄色い閃光』波風ミナトと並び称された存在である。

 

その名を“うちは”サイゾウという。

 

そしてサイゾウの言葉が終わるかどうかというタイミングで、ヒット&アウェイでは埒が明かないと感じたのかガイが極端なまでに体勢を低く沈める。

 

まるでその場に屈みこんでしまったかのように低い、実に不安定な姿勢。

 

普通ならとてもそのまま動き出せるとは思えない。

 

しかしガイは、そのまま爆発するような勢いでサイゾウの元に滑り込んできた。

 

「木の葉剛力旋風!!」

 

チャクラによって強化された身体能力による剛脚が、唸りをあげてサイゾウの胴体めがけて迫る。

 

しかしサイゾウはそれを慌てるでもなく、むしろ

 

「いい蹴りだ」

 

と一声発して自身もまた技を繰り出す。

 

「木の葉剛力旋風!」

 

遅れて繰り出された同じ回し蹴りは、しかしガイのそれを上回る威力を持って彼の蹴りを相殺する。

 

「…ほう!完全に押し返せると思っていたが、また腕をあげたなガイ!」

 

「ありがとうございます!」

 

礼の言葉を告げながら、ガイは次の行動に入っている。顔は下に向けたまま、器用に体を横に高速回転させ、連続で蹴りを放つ。

 

「木の葉!竜巻旋風!!」

 

凄まじい勢いを持って振るわれる連続蹴りをサイゾウは先程と同じように蹴りで返そうとするが、ガイが放つ蹴りの速度と圧力に押し負け円の中から出そうになってしまう。

 

(やったか…!)

 

ガイは僅かながらに勝機を感じた。それは間違いではないが、コンマ1秒に満たない隙も生んだ。だが、その隙はサイゾウが構えを変えるスイッチを入れるには十分な隙だった。

 

「我流柔拳法、風撫(かぜなで)」

 

さきほどとは打って変わってふわりと手のひらでガイの蹴りを受け止めたサイゾウは、端から見ればいとも容易くガイの蹴りの軌道を変え、体ごと空中に跳ね上げる。

 

「しまっ…!」

 

「遅い、柔拳法一撃身!」

 

一瞬で懐まで入られたガイはまともに靠(こう)から受けた一撃を腹に食らい、そのまま修練場の端まで吹き飛ばされる。

 

しばらく呻いていたガイだが、どうにか起き上がると

 

「ありが、とう、ございま、した…!」

 

と一声あげて気絶した。

 

「ふむ、まさか柔拳法まで使わされるとはな…。カエデ!ガイの治療を頼む!」

 

「はい、かしこまりました」

 

どこか見た目に幼さを感じさせる少女、日向カエデがサイゾウに促されて倒れたガイの治療に向かう。

 

彼女はサイゾウの元に嫁いできた日向一族の女であった。

 

木の葉の名門である日向の者が、同じく名門とはいえ問題視されるうちは一族のもとへ嫁ぐ。

 

二人が祝言をあげるまでにはひと悶着あったが、今は置いておこう。

 

しばらくして、治療の甲斐もありガイが目覚めると、サイゾウとの反省会が開かれた。

 

ガイはすぐにも自分ルールによる修練を己に課したがっていたが、己の師であるサイゾウから語られる反省点を聞き逃すなどありえないので素直に聞いていた。

 

「さて、敗因は誰よりもお前自身がわかっているだろうからな。特別言うことはない」

 

その言葉にガイは項垂れる。

 

まず間違いなく負けるだろうとは思っていた戦いだが、まさか反省点を指摘されないほどにひどいものだったとは。やはりあのときの油断は決してしてはならぬものだったのだと、ひたすらに悪い方向へ自分を追い込むガイ。

 

「おいおい、勘違いするな。別にお前の戦いそのものが至らなかったわけじゃない。そもそも、いかに写輪眼へ対抗するためとはいえ黒暗行の術を使うのではなく単純に“見ない”など、発想からして規格外なのだからな」

 

「は、はあ。ありがとうございます」

 

いまいち要領を得ない師の言葉にガイは困惑するも、とりあえず誉めてもらっているようなので礼の言葉を口にする。

 

「ま、なんだな。どうせ自分ルールとか言ってこの後も修行漬けにするんだろうから、俺からのアドバイスはひとつだ。そろそろいいだろ、ちょっと立ってみろ」

 

「は、はい!」

 

如何に目の前の師の妻であるカエデの医療忍術が優れているとはいえ、こんな短時間でダメージが回復するはずもない。それをわかっていてカエデは夫を止めようとするが、それよりも早くガイは気合いで起き上がる。

 

「あらゆる体術において、いやさ格闘術において。動くときには必ず“初動”というものがある」

 

すう、とサイゾウが拳を持ち上げれば、そこには視認できるほどに濃いチャクラがこめられている。

 

無防備にこれを受ければ、如何にガイといえどただではすまないだろう。

 

目の前に立つ男の二つ名のひとつを、ガイは何とはなしに思い出す。

 

『うちはの豪傑』。木の葉の忍から畏怖と尊敬を集める、接近戦のエキスパート。

 

真正面からの格闘戦において最強と謳われ、妻であるカエデとの婚姻後は我流ながら見よう見まねで柔拳をも身につけたという武人。

 

「いいかガイ。“起こり”を見逃すな。戦いにおける究極は初動の早さだ。どんなに優れた忍術も、発動が遅ければそれは敵前で棒立ちしているのと同じだ。印を結ぶ暇があるなら忍具を使え、忍具を取り出す暇があるなら敵に向かって駆け出せ、駆け出す速さがあるならそのまま敵を打ち倒せ!」

 

言い終えたサイゾウはガチガチに緊張したガイに向かって“ゆるり”と拳を突きだす。

 

あらゆる動作の無駄が省かれた理想的な拳。いつもよりややわかりやすくした拳がガイへ向かいーーー間一髪間に合ったガイのクロスした両腕がそれを防ぐ。

 

ガイは勢いを殺しきれずよろけるが、倒れそうな体勢をいつの間にやら背後に回った師に支えられる。

 

「いいぞ、よく一度で見抜いた。コツさえわかれば後は慣れだ。別にこれは戦いに限ったことじゃないからな。日常でも鍛えられる、常に修行となるぞ」

 

「先生!ありがとうございます!」

 

「礼には及ばん。お前の父にも世話になったしな…せめて俺なりに、お前を鍛えることで恩を返させてもらうさ」

 

「…っ!」

 

その言葉に、ガイは一瞬泣きそうな顔になり俯く。だが違う。こういうときになんと言うかは、もう随分と前に父と決めてあるのだ。

 

「はい!応援ありがとうございます!!」

 

顔を上げたガイの表情に浮かぶのは、空よりも晴れやかな笑顔だった。

 

□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□

 

「はぁ、はぁ、はぁ、んや、あはぁ!?もう、もう許してください…!」

 

木の葉隠れの里。その一角。人気のない路地裏にて、幼い矯声が艶やかに響く。

 

ピチャ、ピチャ、チュル

 

スパッツごとパンツを脱がされた少女が壁に手をつき、股ぐらを啜りあげられる度に込み上げる快楽に必死で耐えようとする。

 

かたや少女の股ぐらを熱心にねぶるのは、つい先頃までガイに指導を行っていた男ーーーうちはサイゾウである。

 

「どうした、アンコ。せっかく中忍になったというのに、この程度で弱音を上げるなどらしくないぞ」

 

「ですが、サイゾウ様には奥方が…はぅ!」

 

敏感な豆を摘ままれたアンコは僅かながらに抵抗していた気力が削がれていくのを感じる。

 

(だめ、こんなの気持ちよすぎる…!)

 

きっかけは些細なことだった。

 

先日中忍試験を無事終えた少女ーーーみたらしアンコは、その結果を自身が敬愛する大蛇丸へと報せようとしていた。

 

すると、そこへ向かう途中で彼とーーーうちはサイゾウと出会ったのだ。

 

サイゾウは大蛇丸の弟子であり、彼の研究室の近くにいてもおかしくはない。アンコ自身、知らない相手ではないのだ。

 

そんな彼から

 

「中忍試験合格のお祝いをあげるよ」

 

と言われれば、アンコとしては断る理由などなく、むしろ好物の甘味を奢ってもらえるかもしれないと考えてほいほいと付いていった。

 

しかしいざ付いていけば、気づくとアンコは人気のない路地裏へと連れてこられていた。

 

「あれ?」

 

と小首を傾げたときには、アンコはその小さなおとがいを掴まれ、少々強引にキスをされていた。

 

ファーストキスが、とか。唇から伝わる体温が熱い、とか。

 

アンコは混乱の極致にあったが、口の中を蹂躙される感触に次第に意識が蕩けていき、気づけば両腕はサイゾウの袖口へ必死にすがりついていた。

 

正気に戻るきっかけを取り戻したのは、皮肉にも下履きを下ろされてからだった。

 

「あ…!?や、やだ…!サイゾウさ、んぅっ!ひゃ、ひゃめへえ…!」

 

口のなかに指を入れられ、舌をこねくり回される。サイゾウの舌や唇は自身の股ぐらに入り込み、いままで弄ることのなかった秘所を遠慮せずに蹂躙していく。

 

「すまんな、アンコがかわいくて我慢できなくなってしまったよ」

 

一度口を離したサイゾウは今度は指だと言わんばかりにくちくちとアンコの秘所をかき回し広げていく。

 

口でさんざんに快感を与えられたアンコは、すでに息も絶え絶えだ。

 

「…はぁ、はぁ、はぁ、あぅ、サイゾウさん、なんでこんなこと…」

 

「言っただろう。お前がかわいくて我慢できなかったって。じゃ、挿入(い)れるぞ」

 

「えっ!?や、やだ、ちょっとま~~~~~っっ!!」

 

口をありったけ開き、アンコは自身を襲った衝撃にこらえるように息の限り叫んだ。

 

ほぐしてあったとはいえ、まだ未成熟であるアンコの秘所からは破瓜の証である鮮血が流れ落ち、彼女の激痛を物語っている。

 

「痛かったか?すぐに楽にしてやるからな」

 

そういってサイゾウは言葉とは裏腹に腰を振り始める。ところが、出し入れを続けるたびにアンコの顔から苦悶の色が消え、逆に戸惑いが広がっていく。

 

しだいに頬が赤みを帯びはじめた頃、アンコは思わずといった風に口から矯声を洩らしてしまう。

 

「んあっ…!あんっ…!ああっ、気持ちいいよっ…!なんで、なんでぇ…!?」

 

「ふっ、ふっ、ふっ、それは、な、俺が、逸物で、掌仙術を、して、る、から、だよ」

 

「あついぃ、あついよぉ、大蛇丸様ぁ、だめぇ、あたしだめにされちゃいますぅ…!」

 

次第に激しくされる抽挿にアンコはもはや遠慮せずに矯声を漏らす。

 

未知だった気持ちよさは既知のものとなり、サイゾウからもたらされる快感がアンコの常識を塗り替えていく。

 

不意にサイゾウによって後ろを振り向かされたアンコは、サイゾウからキスをされ思わず達してしまう。

 

「…こんな、こんらのひったら、もろれなくにゃる…!おろひまるひゃま、ごめんなひゃい、あんこは、あんこはぁ…!」

 

「どうなるんだ、ぜひ聞かせてくれ」

 

「もっろぉ、もっろひてほひいのぉ、あんこのあひょこぉ、くちゃくちゃにひてほしいのぉ…!」

 

舌を絡めとり体を内側から支配されていくような感覚に酔いしれるアンコ。

 

その目はすでに快楽に捕らわれており、さきほどまでの天真爛漫さは鳴りを潜め、代わりに女としての妖艶さが溢れ出ていた。それは見るものが見れば幻術にかかっていることが理解できるだろう。

 

「…アンコ、そろそろ射精(だ)す…!どこに欲しいか自分の口で言ってみるんだ…!」

 

「ああ、なかに、なかに欲しいです…!あたしのオマンコに、サイゾウ様の子種を飲み込ませてぇ!」

 

「よく言った!イクぞぉ!」

 

ビュル!ビュルルル!

 

アンコの体に埋まっているにも関わらず聞こえてきた射精の音にアンコはさらに興奮し、潮を一噴きして白目になる。

 

限界を越えた絶頂が、彼女の意識を奪ったのだ。

 

サイゾウは満足げに逸物を引き抜くと、先端についた精液を擦り付けるようにして尻で滑らせる。

 

幼さの残るかわいい尻にもう一度犯したくなる欲望が鎌首をもたげてくるが、それは気力で伏せる。

 

「…気づいてますよ。そろそろ出てきたらどうですか大蛇丸先生」

 

「あらあら、さすがねサイゾウ。…それにしてもあたしの“可愛い教え子”を勝手に奪うだなんて、どういうつもりかしら…?」

 

言葉は穏やかだが、指向性を持った濃密な殺気がサイゾウに叩きつけられる。

 

しかしサイゾウは涼しい顔で脚絆を直すと、アンコを抱き抱えて大蛇丸と向き合う。

 

「どういうつもりもなにも…なぜこの子に呪印を仕込んだんです?」

 

大蛇丸以上の苛烈さをもって殺気を叩きつけ返すサイゾウに、大蛇丸は

 

(惜しいわね…)

 

と本気で思った。これでいて目の前の男は、現火影である波風ミナトと実力を五分とする忍である。

 

火影になれなかったのは“うちは”であるという政治的な事情も多分に絡んでくるが、なによりもこの甘さが原因だ。

 

「あなたが女子供を切り捨てるのを嫌っているのは知っているわよ。けど、その子は別にあなたに関係ないでしょう?」

 

まるで自分に関係なければ誰が犠牲になろうと関係ないと言わんばかりの大蛇丸に、サイゾウは再び激昂しそうになるが無理矢理自分を抑える。

 

「…任務について調べました。最近国境沿いで盛んに動いている盗賊たちの件。彼らの殲滅が今度アンコに言い渡される予定の任務です。ですが、それはブラフ。盗賊たちは実際は霧隠れの忍で、目的は木の葉の下忍を拐うこと。そこまで調べておきながら、この子を爆弾代わりに使おうとするなどと…!」

 

「でも、効率的よ。件の盗賊は複数の拠点を持っていて、正攻法での討伐が困難。であれば、あえて餌となる下忍をおよがせ捕まえさせる。アンコは器量がいいから、さぞ可愛がられるでしょうね。そうすれば、呪印が発動して犯した盗賊たちに感染。大した損耗もなく、労せずして邪魔な盗賊を始末できるわ」

 

「ならば俺がいきましょう。幸い、表向き謹慎中ですからね。ダンゾウ殿への説明は頼みますよ、大蛇丸先生」

 

そういってサイゾウは瞬身の術で姿を消す。

 

大蛇丸はせっかくの仕込みが台無しになったことを惜しむことなく、掻き消えた姿へ思いを馳せた。

 

『うちはの豪傑』『木の葉の赤い業火』『火焔の権化』『マダラの再来』。二つ名を持つ忍は数あれど、ここまで多くの名をつけられた忍は彼くらいだろう。

 

大蛇丸は不意に路地裏に捨てていかれたアンコのパンツを見てもうひとつの名を思い出す。

 

『木の葉の種馬』。

 

希代の女好きとして知られる彼は、ただし間違いなくうちはにおいても最強と言われた。

 

そして同時に、そのどうしようもない女好きという性根から数多のクノイチを犯し、同時に敵対した女を逃がすことでも有名であった。

 

「…はあ、やっぱり体だけ見れば理想的なのだけど、あれを乗っ取ったらあたしまで種汁くさくなりそうなのよね。さて、ダンゾウ様にはなんて説明したものかしら」

 

ぼやくように呟いて大蛇丸はその場を後にする。路地裏には、パンツだけが残った。

 




とりあえず手早く少な目で済ませてます。

気になる点が多々あるかと思われますが、その辺は今後書いていきますので。

ではでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

九尾事件勃発

お待たせしました。

今回はオリキャラ同士になりますが、うちはサイゾウと日向カエデの馴れ初めとなります。

そして時系列は九尾事件当日。ちょっと最近外伝を見て知った新事実が衝撃だったのでプロットから練り直しになりました(白眼)

□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□
千手柱間の死因について考察
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=144050&uid=35351
□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□
上記の内容を考察中です。もし自分なりの考えがある方がいましたらご一報くださいませ。


薄暗い閨(ねや)にて、男女が睦事に励む音が静かに響き渡る。

 

ぱちゅ、ぱちゅ、ぱちゅ

 

しっとりとした水気のある音には、肉同士が触れあう音色も含まれていて、それがまた一層淫靡さを増すのだ。

 

ぱちゅ、ぱちゅ、ぱちゅ

 

繰り返し一定のリズムで鳴らされる淫なる音には、さらに吐息も含まれる。どこか堪えるように。どこか弾むように。

 

ぱちゅ、ぱちゅ、ぱちゅ

 

やがてリズムに狂いが出始める。それは性急さゆえにではない。供に昂り、高めあい、上り詰めていっている証。

 

ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ

 

水気のある音が、一気に激しく打ち付ける音色に変わる。限界までもう間もない。吐息はすでに音として判別ができるほどに、すなわち声として漏れるほどに大きなモノとなって響く。

 

「…んっ…ふっ、はあ、はあ、はあ…」

 

互いが重なったまま、音が止む。供に達した二人は、未だ繋がったままゆっくりと快楽の軛から抜けていく。

 

「どうか、なさいましたか、旦那様…」

 

たっぷりと汗を吸わせた肌襦袢から、しとどに濡れた体を晒す女の名は“うちはカエデ”。

 

かつて日向にあって『籠女』と呼ばれた御子である。

 

「どうした、うまく達っせなかったか」

 

「いいえ、旦那様との睦事は、いつも気をやりすぎてしまいますので…そんなことは…」

 

「ならば、どうしたというのだ」

 

まるで幼子にするように頬や額に接吻を繰り返しながら問う男は、名を“うちはサイゾウ”という。

 

二人は夫婦であり、互いが互いを思いあい、支えあう理想の男女である。…男の女癖の悪さを除いて。

 

「…わたくしの気のせいでしたら申し訳ないのですが、今日の旦那様は、どこかに心の一部を置いてこられたような、そんな様子を感じるのです」

 

カエデの言葉に、しばし押し黙るサイゾウ。どれだけ誤魔化したつもりでも、やはり彼女には隠し事はできぬ、とサイゾウは口許に笑みを浮かべる。

 

「…なに、今日は予定通りならミナトのヤツが父親になる日よ。なればこそ、今後はあまりヤツと仕合えなくなるな、と妙な寂寥(せきりょう)さを感じておったのだ」

 

「そうでございましたか…旦那様?」

 

サイゾウの胸に手をあて、睦事の火照りを冷ましていたカエデであったが、再び覆い被さったサイゾウを不思議そうに見上げる。

 

「この寂寥さは俺の身勝手よ。なればこそ、お前にそれを背負わせようとは思わぬ。だがお前の俺を思う献身、ありがたく思う。ゆえにカエデよ、今夜は寝かせぬぞ…!」

 

「ああ、旦那様、サイゾウ様。お慕い申し上げます。どこまでも、好きなだけ、カエデの体を味わってくださいませ…!!」

 

うるんだ瞳で見上げられ、サイゾウは再び屹立した逸物を掴みながらカエデと重なろうとするがーーー静かな夜に不穏な気配が広がった。

 

「…カエデ、すまぬが閨は後だ」

 

「はい、お手伝い致します」

 

刹那の間にその目が戦いを生業とする者へと変わっていったのを見て、カエデは笑む。

 

ずっとこの方を見ていたいと。見守って、傷ついたこの方を自分が抱き止めてあげたいと。

 

それは『籠女』と呼ばれ敷地から一歩も出ることを許されなかった少女の、いまだ絶えぬ恋慕の炎。

 

かつて自分を“籠”から解き放ってくれた、最愛の者へのたゆまぬ思慕の気持ちだった。

 

□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□

 

サイゾウは霧隠れとの国境に程近い半島の先、“菩提岬”と呼ばれる場所近くのあばら屋で体を休めていた。

 

そこは本来であれば最近世間を騒がせている盗賊達のアジトであり、サイゾウは大胆にもカエデを伴って任務に出向いていた。

 

 

 

うちはカエデ。元の名を、日向カエデ。

 

彼女の名を知る忍は少ない。それは彼女が名もない下忍だからというわけではない。

 

彼女の持つある特異な能力が、長い日向の歴史においても特別だったからである。

 

カエデは宗家にて生まれた。長い日向の家にあっても特に突出した才能から、将来は彼女を当主にと望む声も一族では少なくなかった。

 

しかし彼女が十歳になったとき、彼女はある能力に目覚める。

 

“千里眼”の力。元より白眼は自らの周囲数百メートルを見渡すことが可能である。

 

だが、彼女の白眼が見渡すことができる範囲は数キロを軽く越え、火の国全域の様子を伺うことさえ可能とした。

 

当然、第三次忍界大戦においてその能力は大いに利用された。当時のカエデはいまだ十二才と幼かったものの、里の為に、一族の為にと、瞳力を駆使して仲間を助け続けた。

 

しかしそれは結果的に他里から優先的に狙われる結果となり、彼女を庇い幾人もの忍が命を落とした。

 

やがて彼女は日向の里奥深くにまるで封印されるかのように隠され、生きているか死んでいるかさえも定かではないほどにその存在は秘匿された。

 

結界で隔たれ、窓さえも無い室内。

 

日向の一族から選りすぐりの者が彼女の世話をすることで何不自由ない生活を送るも、彼女は部屋にいる間は結界のせいで外の様子を伺うことさえできない。

 

そう、あまりに強すぎる彼女の力を恐れた木の葉の上層部は、許可なく彼女に“見ること”を封じた。

 

ゆえに“籠女”。

 

しかし、そんな彼女にもひとつ癒しがあった。

 

強力な結界に阻まれ周囲の様子をうかがうことはできなかったものの、強いチャクラであればそれがどこにいるのか、なにをしているのかを“色”として何となく察知することができたのだ。

 

もちろんそのことを彼女以外に知るものはいない。

 

これ以上警戒されれば、最悪眼を奪われて殺されてしまうやもしれない。

 

かつて天才と呼ばれた少女は、眼に見えぬ人の悪意に怯えていた。

 

覗き見、と彼女が呼ぶその行為において、もっとも面白かったのは“赤い炎の色”を持った男。

 

いつも様々な色と重なりあったり、他の色に追いかけられたり、彼を見ていて飽きることはなかった。

 

そして彼は強かった。

 

“黄色い”大きな安心する色と、時には戦い、時には楽しそうな輝きを見せる。

 

戦場においても彼は無敵だった。

 

どれだけ劣勢にあっても、彼が現れるだけで戦場は熱気に包まれる。

 

そして彼が戦うのは、決まって強い相手だった。

 

一度などは尾獣らしき気配に単身立ち向かい、それを撃退してしまったのだから恐れ入る。

 

自分が今もなお鍛え続けていても、彼のように振る舞えたかはわからない。

 

カエデは気づいていなかったが、それは一種の恋だった。

 

自分にはない“色”を持った彼への、届かぬ恋慕の情。

 

夜には彼を“覗き”ながら自分を慰めることも覚えた。はじめての体験にずいぶん驚いたのを覚えている。

 

そしてそれと同時に、彼の気配が変化を見せた。

 

どうしてなのか、自分が覗いているとき、彼はそのことに気づいているようだった。

 

カエデは嬉しかった。

 

理由などどうでもいい、彼にもっと自分を見てほしい。自分の元へ来てほしい。

 

そして、この狭い“籠”から出してほしい。

 

そして忍界大戦の終結より一年と経たない頃、深夜に彼女は起こされた。

 

広いのに四方を囲む闇が狭さを感じさせる寝室において、ほほを何者かにつつかれて。

 

寝ぼけて起きた彼女はそれを夢だと思った。

 

目の前で、夢にまで見た“赤い炎の色”をした男が自分の顔を眺めていることに。

 

思わずカエデは抱きつき、自分の何もかもをさらけ出した。

 

こんな籠にはいたくないと。

 

助けてほしいと。

 

貴方を慕っていると。

 

サイゾウは一言「まかせろ」と言うと、物理的にも強固な壁をあっさりと砕き壊した。

 

後から聞けば様々な技を重ね掛けした結果らしいが、そのせいで日向どころか木の葉中が大騒ぎになった。

 

当然である。

 

日向の姫であるカエデの名は、他国の影や上層部であれば知らぬ者はいないほどの超重要人物。

 

そんな人物の寝室に夜這いし、あまつさえ姫を拐おうとする不審人物。

 

日向の者がサイゾウに立ち向かい、暗部が駆けつけ、木の葉警務部隊が駆けつけ、三代目火影ヒルゼン、四代目火影の候補である波風ミナトが駆けつけた。

 

ミナトが駆けつけた頃、現場は混乱の坩堝にあった。

 

全能力を惜しみ無く発揮したサイゾウの周囲には、死屍累々といった体で暗部や警務部隊の者達が倒れていた。

 

おまけにサイゾウのやらかしたことにブチキレた本気のヒルゼンを相手に一歩も引かず打ち合っているときた。

 

ミナトはそれを見て正直帰りたくなったが、次代の火影として期待される身としては、そういうわけにもいかない。

 

しかたなく飛雷神の術を展開したものの、それさえも散々戦ってきたサイゾウを相手には決定打にならない。

 

とうとう日向の当主が出てきた時、サイゾウはあっさりと戦闘を止めた。

 

「どうだ、これでもカエデを貰うには足りぬか」と。

 

ぬけぬけと言いのけるサイゾウに、ヒルゼンが思わず拳骨を落とし、ミナトは顔を覆ってため息をついた。

 

サイゾウの言い分は単純だ。

 

兼ねてから、日向の姫であるカエデに懸想していたと言い張るサイゾウは、彼女を解き放つ方法を探していたと語る。

 

そして、たどり着いた結論が“自分の実力が姫を守れるだけのモノだと見せしめること”。

 

これを考えて以降、サイゾウは修行を重ね、尾獣すら単独で撃退するほどの実力者となった。

 

戦争が終結したこともあって、正面から日向に「カエデをくれ」と申し出に行ったが、一ヶ月近く通っても姿を見ることも叶わない。

 

業を煮やしたサイゾウは、深夜の襲撃を決行し、その際に現れるであろう実力者をことごとく打ち倒してみせればさすがに日向も認めるだろうと。

 

この言い分にミナトは笑ったものの、笑うしかなかったとも言える。

 

うちは一族であるという理由から今一歩自分に及ばないものの、実力だけを言うならば彼が火影になっても何らおかしくないのだ。

 

それを、彼は捨てた。彼自身、火影になる夢を持っていたはずである。そのことをミナトは誰よりも知っていた。

 

自分が戦場を縦横無尽に駆け抜けるとき、別の場所では敵をとどめ、味方の損耗を最小限に減らしていたサイゾウ。

 

彼の人望は高い。特に、うちは一族においては圧倒的な人気を誇る。

 

だがこんなことをしでかせば、当然火影になることなど出来ないであろう。

 

サイゾウとて馬鹿ではない。恐らく、カエデを手にいれようと言葉以上に様々な手段に及んだはずだ。

 

表面的に見れば女好きが無茶をしただけに過ぎないが、ミナトはサイゾウがすべてわかった上で動いていることを理解してしまっていた。

 

「…サイゾウ、きみは」

 

「みなまで言うな、ミナト。俺はわかっていてやっている」

 

余計なことを言わないよう、サイゾウはミナトを黙らせる。次の火影になるであろう男が、ここで自分を庇うようなことを言うべきではないと、サイゾウの目は語っていた。

 

 

 

 

それからはしばらく大騒ぎが続いた。

 

あわや第四次忍界大戦かとも思われたが、サイゾウによって倒された全員が実際には大した怪我ではないこともあり、戦力に翳りがあるどころか、それだけの相手をしてなお余裕のあるサイゾウがいることを他里は警戒した。

 

サイゾウは一時期犯罪者として収監されかけたが、火影候補の話が白紙になったこと、ヒルゼンをはじめとした里の上忍が一様に彼を庇ったこと。

 

なにより事件の責任をとって引退した日向当主に代わって就任したカエデの兄日向ヒアシがカエデとサイゾウの婚姻を正式に認めたことが大きかった。

 

もちろん無罪というわけにはいかず、サイゾウは上忍としての立場を一時的に取り上げられ、謹慎の身となった。

 

こうして暗部とうちは警務部隊、日向一族という木の葉三大戦力といっても過言ではない者達に囲まれながらサイゾウとカエデは結ばれた。

 

 

 

カエデの白眼によってあっさり捕捉され薙ぎ倒された、盗賊に扮した霧隠れの上忍を見て、サイゾウはあの日の選択は正しかったと思う。

 

十年近くに渡って自分に届けられた思慕の情。女好きを公言するサイゾウにとって、自分にあそこまで惚れてくれた女の願いを無下にすることなどできはしない。

 

「帰るぞ、カエデ」

 

優しく呼び掛ける夫の声に、カエデは答える。

 

このひとについていこう。たとえ何があっても、このひとと一緒ならなんとかなる。

 

そう思うカエデの心にもはや闇はなかった。

 

籠の中の少女は、炎と一緒に舞うのだ。

 

 

 

そんな、何もかもが希望に向かうと思った矢先だった。

 

木の葉に九尾が出現し、四代目火影波風ミナトが死んだとサイゾウが知ったのは。

 

物語は、動き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




短いですが、これにて第二話とさせていただきます。

今後もお付き合いくださいますようお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

里からの出奔 昔日のすれ違い

さて、三話となります。
前回からのまるまる続きとなりますが、どんどん事態を動かしていきたいと思います。

また今回のエロに関して、おっぱいは正義であることが証明されました。


「…火影はな、俺の夢だった」

 

ミナトの死体を前にサイゾウは動かない。

 

カエデは、そんなサイゾウがどこかへ行かぬように、しっかりと後ろから抱き締める。

 

「ガキの頃から“うちは”というだけで特別視された。写輪眼を持つことを羨まれ、いつしか写輪眼に頼らない戦い方を探し求めた。…思えばミナトが最初だったな、俺を“うちは”ではなくただの“サイゾウ”として扱ってくれたのは」

 

淡々と語るサイゾウの元へヒルゼンがやってくる。

 

「すまぬ、サイゾウ。わしがいながらみすみすミナトを失おうとは…!」

 

悔やんでも悔やみきれない忸怩たる思いがヒルゼンの口から漏れだす。

 

戦争も終わり、次代を託した男。ようやく訪れた平和な世の中を、木の葉を、この男ならば導けると、そう思っての引退だった。

 

「…じいさん、犯人は“うちは”か?」

 

「…!」

 

「そうか、やはり“うちは”か。となれば、俺が里を纏めるわけにはいかんか…。なあじいさん、フガクら他のうちはの連中はどうしていたんだ…?」

 

あくまで淡々と冷静に語るサイゾウ。しかしヒルゼンは動けなかった。

 

サイゾウは特別彼に殺気を放っているわけではない。

 

だというのに、今のサイゾウから溢れる気配にヒルゼンは戦慄を覚える。

 

(この圧力…!まるで“あの”うちはマダラじゃ…!)

 

「それについては済まぬ、としか言いようがない。里の上層部が九尾を操る者が“うちは”だと知って、決死の覚悟で里を守ろうとする彼らを押し止めたらしいのじゃ…!」

 

どれだけ自分は後悔すればいいのだろうか。

 

仮にうちはの者が、せめてフガクが現場にいてくれれば被害ははるかに減っただろうに。

 

「…なるほど。マダラの恐怖、未だ消えずか。となると、この赤ん坊を俺が預かるわけにもいかないわけだな」

 

「重ねてすまぬ…!!今“うちは”が人柱力なぞ手にいれようものなら、暗部が暴走しかねん…!!」

 

「だよな。すまんな、ミナト。俺はお前の子すら守ってやれん」

 

圧倒的な気配はそのままだというのに、サイゾウの声はひどく寂しげだった。

 

「お主、その“眼”は!!」

 

「ああ、“こうはなりたくなかった”。だが、“ならざるを得ない”ようだ」

 

振り向いたサイゾウの眼には、赤く輝く“万華鏡写輪眼”があった。

 

それを見たヒルゼンは思う。果たして、今サイゾウを止めようとして、自分は止められるのかと。

 

全盛期を過ぎたとはいえ、仙術を用いればかつては互角に戦うこともできた。

 

だが今の、万華鏡写輪眼に目覚めたサイゾウはもはや止められる気がしない。

 

彼の存在は、この不安定な里にとって危険すぎる。

 

孤高。

 

それが今の“うちはサイゾウ”そのものだった。

 

だが警戒するヒルゼンをよそに、サイゾウはなんでもないように告げる。

 

「じいさん、三年だ。三年でありとあらゆる情報を集める。今回の事件の首謀者、実行犯、協力者。洗いざらい白日の下に晒してやる…!!」

 

はじめて怒気を露にしたサイゾウの足元から炎が上がる。高まる感情に呼応して、自然と彼のチャクラが火の性質変化を起こしたのだ。

 

「…だから俺はしばらく里を出る。今の俺がいては、かつてのうちはマダラのような扱いを受けかねん。…ああ、安心しろよ。尾獣を引き連れて襲ったりしねーからよ」

 

一度眼を閉じたサイゾウの万華鏡写輪眼は、開けたときにはあっさりとその状態を解かれていた。

 

この状況にあって笑ういつものサイゾウの様子に、ヒルゼンは賭けてみることにした。

 

「行けサイゾウ。お前のことだ、ある程度の目星はつけてあるのだろう?カエデ姫は実家に戻されるだろうが、安心しろ。ダンゾウや大蛇丸には絶対に手出しさせん」

 

ヒルゼンはここに至って覚悟を決めた。

 

思えば、里にはびこる“うちは一族”への不信感をそのままにして胡座をかいていたのはヒルゼンなのだ。

 

それが此度の彼らへの不信感へ繋がり、今またサイゾウをみすみす出奔させるような事態へと繋がったのだ。

 

里の闇をダンゾウひとりに負わせ、見ない振りをしてきたツケを払うときが来たのだろう。

 

「サイゾウ様…!」

 

「カエデ…」

 

振り向かず行こうとするサイゾウを止めたのは彼を愛するカエデだった。彼女の小さな肩が震えている。

 

なぜ愛しい方と離別しなくてはいけないのか。

 

なぜ自分は付いていってはいけないのか。

 

なぜこの方をなんら助けることができないのか。

 

すべて、わかっていた。わかっているから、ただ愛しい夫の名前を呼び、その背に顔を埋めて泣くしかなかったのだ。

 

「…カエデ、お前にナルトを託す。日向の家に戻されれば、俺との縁は切られる。うちはとして、勘ぐられる心配はない。なればこそ、お前に守ってほしい。ミナトの残した、明日への希望を」

 

「…はい、わかりました。カエデは、サイゾウ様のお帰りを、ずっと、ずっとお待ちしています…!」

 

はらはらとこぼれる涙を掬い、サイゾウは触れるような口づけを交わす。

 

それは彼らの約束。必ず戻ると。信じて待てと。

 

その約束さえあれば、一日千秋に感じる時間さえも耐えてみせる。

 

カエデは微笑んで見送る。愛する者の旅立ちを。

 

□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□

 

里を去ってより一年後、サイゾウはある賭場にいた。

 

「ゴ、ゴゾロ(5のゾロ目)の丁、です」

 

「おう、腕はいいんだからイカサマなんかするんじゃねえよ」

 

サイゾウは無造作にあぐらを組み、膝に肘を立てて座っていた。

 

万華鏡写輪眼に開眼してより、サイゾウはその圧力を活かしてはイカサマをする賭場を巡って旅の資金を稼いでいた。

 

とはいえ、写輪眼を使えば丁半博打なぞ児戯に過ぎない。そこでサイゾウは、一時期より音のみでサイコロの目を当てられるように訓練し、実践で使いこなせるまでになっていた。

 

「これで、姉さんの借金はチャラだな」

 

「へ、へい。…ちくしょぉ、折角“伝説のカモ”が来たっていうのに、続けて“伝説の賭場荒し”が来ることはねえじゃねえか…!!」

 

「なにか、文句があるか?」

 

「あ、ありやせん…!なんの文句もありやせん…!!」

 

万華鏡写輪眼をただ発動して見せてやっただけだが、増した圧力に屈した強面(こわもて)の男は表情をひきつらせて今自分が言った言葉を必死で否定する。

 

サイゾウは賭場を出ると、店の前で仁王立ちしていた美女の前へと歩いていく。横にいる黒髪の少女が凹んでいるのが対照的だ。

 

「…やれやれ、こんなくだらないことで木の葉の経済状況を悪化させないでください。姉さん」

 

サイゾウが話しかけたのは、初代火影千手柱間の孫娘にして、かつて“伝説の三忍”と呼ばれたくノ一、綱手姫だった。

 

「ふん!勝てば里に負担など掛かるわけがなかったんだ!!」

 

ちなみに今回綱手が負けた額は木の葉隠れの里の一年分の予算、その20分の1に達する。

 

下手な里なら内乱が起きかねないほどの金遣いである。

 

「俺、もしあの世で初代様に会ったらまずぶん殴るわ。余計なこと教えやがって…」

 

サイゾウはうつむき片手で顔を覆う。

 

伝説のカモとまで言われる綱手姫の博打好きは各国に轟き、あまりに豪快な負けっぷりに他里からはわざと見逃されている節まであるのだから。

 

それにしても今回サイゾウが助けに来なければ、里に取って由々しき事態となっていたのも事実。

 

サイゾウは少し考え、目の前でなぜか「よくも自分の博打を邪魔しやがって」と言わんばかりにこちらを睨んでいる乳デカ女をこらしめることにした。

 

「…さて“綱手姫”。借金は俺がなんとかしましたが、これできれいさっぱり何もないだなんて、まさか思ってませんよね?」

 

ニタリ、と笑ったサイゾウの顔を見て横で見ていたシズネがびくっと震える。

 

この人が綱手様を“綱手姫”と呼ぶときはかなり怒ってるときだ、と。

 

「あ、当たり前だろう。踏み倒そうだなんて思っているわけがない!」

 

さすがにまずいと思ったのか綱手姫の口元がひくつく。

 

踏み倒す気だったのかこの乳女、とサイゾウは思いつつ、まずは場所を移すことにした。

 

「ま、こんなところで立ち話もなんなので、食事でもしながら話すとしましょうか。近くの旅館に予約を取ってありますので、どうぞ付いてきてください」

 

言うなりサイゾウはさっさと歩きだす。このまま問答を続ければ、それこそ綱手姫は駄々をこねて借金をどうにかしようとするなり、逃走を図るなりするだろう。

 

だがそうはいかない。サイゾウは具体的に「あのデカチチどうしてくれようか」などと考えながら、美女と美少女の二人を引き連れ老舗の高級旅館へと入っていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いやあ、いい酒置いてるじゃないかここ!ほれ、シズネも飲め飲め!」

 

「ひ、姫様、あたしはまだ未成年ですよぉ」

 

絡み酒をする綱手の周りには大量の酒瓶が転がっており、サイゾウは正直どうやってあれだけの水分が入っているのか純粋な疑問にかられた。

 

「きゅう~~」

 

いつの間にか口に酒瓶をつっこまれたシズネが気絶している。

 

翌日間違いなく二日酔いであろう彼女の冥福を祈り、サイゾウは綱手姫を見る。

 

どことなくとろん、ととろけるように変化した目線は何かをとらえているわけではない。

 

だが久しぶりに美酒を好きなだけ飲めた綱手姫はかなりの上機嫌だった。

 

「へへ、サイゾウ~、お前相変わらず女癖悪いのかよ~」

 

今度はサイゾウに絡みはじめた綱手姫は彼と肩を組み、気楽な様子で近況をうかがう。

 

ちなみにだが、サイゾウは九尾事件を調査するためにライフワークとも言えるナンパを止めていた。

 

つまり、平たく言って溜まっている。

 

「なんだよ~、あたしと変わらない量飲んでて表情変わってないくせに~、ん~?なんだよゆうかこの~?」

 

うりうりと弱々しい拳骨を頭に当てこする綱手姫だったが、サイゾウは内心顔面に当たってる爆乳に対処するので精一杯だった。

 

たしかに、多少エロいことはするつもりでいた。今回の苦労を労わせてもらう意味でも、しばらくおかずに困らない程度にはその乳の感触を味わい、存分におがませてもらうつもりだった。

 

だがこれでは、それよりも先に理性が八門遁甲しかねない。

 

「やめてください、姉さん。普通に邪魔です」

 

努めて拒絶するサイゾウだったが、すでに股間はギンギンである。

 

正直今の台詞も内心では「やめろ姉さん、その乳は俺に効く」とか思っていた。

 

「まったく、サイゾウもちっちゃい頃は姉さま姉さまってあんなに可愛かったのに、こんなにゴツくなっちゃって」

 

ちなみにサイゾウが綱手姫を姉さんと呼ぶのは、かつての彼女の教育(物理)の賜物である。

 

まあ後に縄樹を失ったせいもあり、余計に洒落にならなくなったとも言えるが。

 

そのせいなのか、普段は会えば頭ごなしに命令するは、我が儘を言いまくるはと傍若無人なくせに、いざ酔っぱらうと途端に甘えてくるのだ。

 

反則である。

 

「姉さん、俺はべつにあんたをーーー」

 

「ーーー嫌いじゃない?けど、あんたはあたしじゃなくて、あのお嬢ちゃんを選んだだろう?」

 

突如として真顔で言われたその一言に、サイゾウは思わず答えに詰まる。

 

「…縄樹が、ダンが死んで、あたしは戦いが怖くなった。血を見るだけで震えるし、酒を飲まなきゃ眠ることもできやしない。けどさ、あんたは、あんただけはあたしの後を付いてくるんだって、勝手に思ってた」

 

戦争が終わり、綱手が里を出奔した頃。彼女は当然、自分には監視がつけられると思っていた。

 

そしてその人選には、サイゾウが選ばれるだろうとも思っていた。

 

だが、現実は違った。

 

「あんたが火影になるには、あのときはまだ早かった。けど、あたしにくっついてきてくれれば、なにかあったときの火影候補って立場は消えなかったし、相談役になれるだけの立場だってできる。だから色々と根回しもしたんだけど、あんたが馬鹿やって全部無駄になった」

 

綱手姫はさきほどの乳を押し付けるような体勢から、サイゾウを後ろから抱き締めるような形を取る。

 

つまり、ダブルオッパイである。

 

(これはクッション、これはヌイグルミ、これはパイパイ…違う!)

 

綱手姫はシリアスに話を続けるが、サイゾウの理性は正直、いつ死門を開いてもおかしくは無かった。

 

「…ショックだったよ。あんただけはって思ってた。それが身勝手だって思い知ったのは、あんたとお嬢ちゃんの結婚式の日。こっそりあの日戻ってたんだよ、あたし。せいぜい酔っ払って、あたしを裏切ったあんたの結婚式なんてぶち壊しにしてやろうって思ってた。けど、あのお嬢ちゃん、カエデの幸せな顔見たら、急に自分がみじめになって…あたし、なにやってんだろって…でも、あんたの顔を見るつもりにもなれなくて、それからしばらくは今みたいな生活が続いてた」

 

だから、先週あんたに会ったのはホントにびっくりしたんだ、と綱手姫ははにかんで笑う。

 

サイゾウは後ろの綱手姫の年齢不相応ないい香りが気になって仕方がなかった。

 

「ねえサイゾウ…あたしのこと恨んでる?」

 

「…なぜ、ですか?」

 

その言葉にサイゾウは思わず動揺する。

 

あの日、一年前親友のミナトが死んだ日。たしかにサイゾウは思ったからだ。綱手姫がいれば、と。

 

実際にはミナトは屍鬼封尽で、クシナは九尾を抜かれたことで避けられない死が待ち構えていた。

 

だがあのときのサイゾウは、たしかに一瞬だが身勝手に里を抜けた綱手姫を恨んだ。彼女がいれば助かったかもしれないのにと。

 

だがそんなものは、そんな風に考えた自分の心こそ、身勝手そのものだとサイゾウは考える。

 

“もしも”はどれだけ想定しても、夢以上にはなりえないからだ。

 

と、冷静になったサイゾウの隙をついて、するりと綱手姫のたおやかな手がサイゾウの股間に伸びた。

 

「うわ、なにこれ…おっきくて、あつい。ダンよりすごい…」

 

ぐにぐにと逸物をしごくように弄ぶ綱手姫だが、サイゾウは興奮と恐怖がない交ぜになった複雑な心境である。

 

仮に彼女が“潰す”気になれば、自分は今色んな意味で死ぬ。そんなのはごめんである。

 

だが仮にもサイゾウは『うちはの種馬』とまで呼ばれた男。

 

ここまでされてなにもしないなどありえない。

 

「…くっ、姉さんっ!」

 

本能が、長年染み付いた姉への理性を越えた。

 

サイゾウは乱暴に綱手姫を振り払うと、器用に彼女を音もなく押し倒す。

 

「…色々言いたいことはありますけど、我慢の限界です。あなたを犯します…!」

 

覚悟を決めたサイゾウは、無造作に綱手姫の上掛けを脱がし、乳を露にする。

 

「んっ、サイゾウ!?…あ、でも、サイゾウなら、いいよ…?」

 

掌が埋まってしまいそうなほどに巨大な乳をこねくり回され、艶のある顔をした綱手姫は息を乱しながらサイゾウを誘う。

 

もはや性獣と化したサイゾウにはなんの無駄もない。数多のくノ一から情報を引き出した性技にて、あっという間に綱手姫を快楽のるつぼに落としていく。

 

「ひぅ、んはっ、こんな、胸、いじってるだけなの、にぃ!?」

 

サイゾウはいつの間にか脱がした脚絆をずらし、綱手姫の股間に当てがっていた。

 

そのことに驚いた綱手姫は抗議の視線を向けようとするが、サイゾウの興奮した顔をみてそれも止めてしまう。

 

「はうぅっ!か、はぁっ…!サイ、ゾ、もっと、ゆっく、りっ…!」

 

途絶え途絶えにサイゾウへ声を送るも、あっけなく無視され綱手姫の体は蹂躙される。

 

「あっ、あっ、あっ、あっ…!」

 

綱手姫自身、久しぶりだったこともありサイゾウの逸物を膣がくわえて離さない。まるで吸い付くかのようにサイゾウの逸物をしごく淫肉は、今か今かと彼の射精をひたすらにうながす。

 

「はぁ、んはっ、サイゾウ…!もう無理…!あたしイッちゃう、イッちゃうぅっ!」

 

「ぐぅ…っ!」

 

射精する寸前、どうにか逸物を引き抜いたサイゾウは、彼女の大きな尻へと種汁をかける。

 

それは彼女の白い肌に栄え、淫靡な光景はサイゾウの逸物を萎えさせない。

 

「…はぁ、はぁ、すごい。あひぃ、あたしも、イッちゃう…」

 

小声でしているつもりだったのだろう。

 

こちらの様子を見て興奮した様子のシズネが、自慰をしていたのだ。

 

サイゾウの理性はすでに跡形もない。だが互乗起爆札を発動したかのごときサイゾウの性欲がただの一度では収まらないのも事実。

 

「へぅ!?サ、サイゾウさん、あのその、これは違うんです、あ、ちょっと待ってくださ、あひぃぃぃぃ!?」

 

準備万端のそこに突き入れられたサイゾウの逸物がシズネの若い性器を蹂躙していく。

 

薄れゆく理性のなか、サイゾウは念のため宿泊するつもりで部屋を取っておいたことにホッとするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




( ゚∀゚)o彡°おっぱい!おっぱい!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦場の過去と現在

気分転換にこっち書いたら長文化しますた(´・ω・`)

厨二病全開\(゜ロ\)(/ロ゜)/


夜。

 

暗い森の中をひとりの男が必死に逃げている。

 

「ひっ、ひっ、ひっ、ひっ…!!」

 

恐怖に引きつった顔に余裕というものは一切なく、月光の薄明かりさえ届かない暗い森のなかで男は何度も足をとられながら必死に逃げ惑う。

 

逃げながら、男はついさっき己の身に起きた出来事を、まるで白昼夢のように思い出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その男はいつのまにか立っていた。

 

簡易とはいえ、ここはかつて戦争中に木の葉の忍が拠点として用いていた海岸近くの洞窟。

 

入り口には少なくとも二人の見張りが立っていたはずだ。

 

ただならぬ雰囲気を漂わせ、ホールのようになった洞窟の中心、五十人近い人数がたむろする中を彼は悠然と見渡した。

 

まるで気後れしていない雰囲気に、この場を治める元霧隠れの中忍は

 

(…ひょっとしたら自分の知らない、盗賊連合に参加した他の盗賊の首魁かもしれない)

 

と思った。

 

であれば問答無用に切り捨てるのは不味かろうと、元中忍の男は現れた男に誰何(すいか)した。

 

「お前、どこの団員だ?連合のひとりか?」

 

だが問いかけた元中忍の声を無視するように男は引き続き部屋を見回すと、がっかりしたように肩を落とす。

 

「…やれやれ、最大規模の非合法組織と聞いて来てみれば。なにが『夜明け連合』だ。盗賊のくせに仰々しい名前をつけやがって」

 

男の言葉に違和感を感じた元中忍は、もう一度目の前の男をよく見る。

 

良く言っても時代錯誤な装備をした男の姿に、元中忍は既視感を覚えたのだ。

 

まず目に入るのは第一次忍界大戦でよく用いられたと聞く鎧具足だろう。鉄の国の侍と違い、最小限に抑えられたそれは身を守るというより不意打ちに備えたような印象を覚える。

 

腰には恐らく口寄せ用の巻物を下げ、武器の類は苦無さえ持っていない。

 

元中忍は少なくとも目の前の男は現役の忍ではなかろうとたかをくくった。

 

しかし、それが過ちだった。

 

「《火遁・豪火滅却》」

 

「なっ!?」

 

驚く間もなく炎の壁が迫ってくる。

 

如何に広いとはいえ誰がこんな閉じた場所で、しかも初対面の人間が大規模殲滅用の術を放ってくると思うだろうか。

 

「《水遁・水陣壁》!!」

 

咄嗟に腹心の同じ元霧隠れの忍が対抗しようとするが、そのときにはもう元中忍の男は隠し通路の扉を塞ぎ、逃走を図っていた。

 

元中忍の男は現れた男の正体を炎が吐き出される寸前思い出していた。

 

『木の葉の赤い業火』。

 

かつて戦場で今の技が放たれたとき、無数の忍が瞬く間に炭に変えられたのを元中忍の男は覚えていた。

 

やつが手練れの数十人に囲まれながら、向かってくる相手を嬉々として殴り潰していった光景を覚えていた。

 

あらんかぎりのチャクラを足にこめ、元中忍の男は走る。

 

急げ、急げと。

 

背中に熱が迫ってくる。

 

このままでは焼かれてしまう。そう元中忍の男が思ったとき、隠し通路の出口が見えた。

 

元中忍の男はためらわずに雷遁で外の扉入り口につけた起爆札を爆破させる。

 

大量の土砂にもまれながら、それでも元中忍の男はめげずに外を目指す。

 

やがて、空気がひんやりとしたものに変わったのを感じたとき、元中忍の男は歓喜した。

 

やった、自分は生き残ったと。

 

しかし、息を整え見上げた先にあったのは───月を背景にこちらを睥睨する“赤い眼”だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それからも男はひた走った。

 

“赤い眼”から逃れねばと。

 

肺が破け、心臓が張り裂けんばかりに走り続けた。

 

だが、どれだけ走っても見上げた先にはあの“赤い眼”をした男が立っている。

 

もう自分がどれだけ走ったかわからない。

 

このままでは呼吸が止まる。

 

だがどれだけ走っても“赤い眼”からは逃げることができない。

 

やがてチャクラも使い果たし、体力も底を尽きた元中忍の男は、“さきほどから必死で足踏みをし続けた”場所で息絶えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

息絶えた忍を見下ろしながら、サイゾウは嘆息する。

 

彼は焦っていた。すでに里を出てから二年半が経つが、いまだ自分への接触はない。

 

サイゾウは里を出奔してから、ふたつの手段を用いて犯人を探していた。

 

ひとつは、自分自身が九尾事件の犯人であるかのような噂を流すこと。

 

これは表面上抜け忍となった自分自身への、非合法組織からの接触を期待してのものである。

 

仮に犯人が組織だった集団であれ、個人であれ、手柄を横取りされたような噂を流されて気分がいいはずがない。

 

必ず接触してくると考えたサイゾウだが、いまだ自分を“九尾事件の犯人ではない”として接触してくる相手はいなかった。

 

また逆に、サイゾウ自身は九尾事件を単独犯ではないと踏んでいた。

 

木の葉へあっさり侵入できたことといい、事件を裏から支援した存在が必ずいる。

 

だが、大小の組織を無数に潰しても未だ手がかりひとつ手に入れられてないのが現状だ。

 

こちらに関しては、近々自分が里を出てから出奔したという大蛇丸に情報提供を頼むつもりだった。

 

もうひとつが、以前ちらとその姿を見かけた黒い影だ。

 

サイゾウはこちらの方をこそむしろ本命だと思っていた。

 

妙な甘言を吹き込もうとしてきたので火遁で焼き尽くしてやろうとしたのだが、ミナトからは

 

「まず捕まえようよ」

 

と呆れられたのを思い出す。

 

もし今度姿を見かけたら、開眼した万華鏡の能力を徹底的に試してやるつもりだった。

 

サイゾウは懐から煙草を取りだし、掌に現出させた火遁で火をつける。

 

紫煙を燻らせながら、サイゾウはこれまでの調査でうちはの抜け忍はいないことを確信していた。

 

そもそも名門ともいえる“うちは”や“日向”から抜け忍が出ることは滅多にない。

 

生活環境の変化に大半が付いていけないからだ。

 

サイゾウとて、こうして調査をしているとき以外は高級宿を拠点にしている。

 

人間、早々自分の暮らしを変えることはできないものだ。

 

一年半前に会った綱手は、今は木の葉に戻ってくれている。

 

トラウマを克服したわけではないものの

 

「あんたが戻る場所くらい、守ってやらなきゃね」

 

と、サイゾウに照れ笑いを向けて告げる姿はひどく眩しかった。

 

思わずむらむらして押し倒したので出発が一日伸びたが。

 

シズネも

 

「あ、あんなことしたんですから、ちゃんと無事に戻ってきてくださいね!」

 

と言われたので、結果的には出発が二日伸びたが。

 

また三代目から直属の暗部を使って時折連絡が来るが、やはり事件当日現役のうちはに犯人はいないようだ。

 

とはいえ九尾を口寄せしただけならともかく、瞳術で操ったというのが引っかかる。

 

そんなことができるのは“万華鏡”の開眼者以外にいない。

 

サイゾウは自分自身が万華鏡写輪眼に開眼したことから、以前以上にその考えを強くしていた。

 

今サイゾウが把握している万華鏡の開眼者は三人。

 

まずは自分、次に“兇眼”フガク、そして“瞬身”シスイ。

 

このなかで九尾を操れそうな候補に上がるのがシスイだ。

 

だがそれはないだろう、とサイゾウは思う。

 

まずシスイが里を襲う理由がない。ミナトを死なせたのが結果的なものだったとしても、“弟”がそんな風になっていれば自分が気づかないはずはない、とサイゾウは独りごちる。

 

…あるいは何者かが《口寄せ・穢土転生》を用いてマダラを操ったか。

 

だがこの術には欠点がある。

 

浄土から口寄せした対象は、その能力を全盛期に近づければ近づけるほど操るのが難しくなる。

 

マダラならば操らずとも木の葉を襲いそうなものだが、そうなった場合おかしいことがある。

 

これは大蛇丸とともにサイゾウが《口寄せ・穢土転生》を研究していて気づいたことなのだが、あの術は口寄せした対象が印を知っていると一方的に解除することができるのだ。

 

するとどうなるか。

 

無限のチャクラを持つ制御不能の不死身の怪物が生まれるのである。

 

で、あるならば殊更におかしい。

 

もしそうなら先のような半端な襲撃にとどまらず、マダラは無限のチャクラを用いて里を蹂躙したはず。

 

そうなったとき、マダラを止めることは容易ではないだろう。

 

仮にあの“おとぎ話”じみた逸話が本当だとすれば、それこそ対抗手段は初代火影千手柱間を《口寄せ・穢土転生》するしかなくなる。

 

しかしそうではない。となると…

 

「…犯人は、死んだ誰か。いや、死んだように見せて生き残ったうちは、か?だとしても、里を襲うほどに憎む理由が理解できん」

 

戦争で死んだうちは一族は多い。

 

それはうちはに限らないが、みな納得して死んでいったのだ。

 

里を、誰かを守るために。

 

そんな“誰か”が木の葉を潰すほどに憎むなど、サイゾウは考えたくなかった。

 

「ま、憶測だけじゃ無理があるか。やはり犯人に繋がる情報を手にいれる必要があるな」

 

サイゾウは短くなった煙草を指で弾くと、跡形もなく焼き尽くす。

 

まずは近いうちに大蛇丸と接触し、そこで彼が入ったという“暁”に関する情報を手にいれる。

 

サイゾウは改めて今後の行動を確認すると、残った盗賊達の拠点へと、赤い眼を輝かせて向かっていくのだった。

 

□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□

 

神無毘橋の戦いより約一年前。

 

特に理由もない小競り合いから発展した第三次忍界大戦。

 

当時、戦場は未曾有の消耗戦と化した。

 

木の葉を率いた千手柱間、扉間の両名はすでに亡く、彼らと曲がりなりにも対抗できる強者もほとんどいなくなっていたことが、戦いにおける決定打を失わせ、消耗に次ぐ消耗という戦争として最悪の形へと移行していった。

 

それはお互いに手段を選ばぬ戦いへと移行していき、捕まった忍の多くが激しい拷問によって命を落とした。

 

そんな中、ひとりのクノイチが捕まった。

 

海岸近くに作られた、捕虜を捕らえておくことを目的とした簡易要塞。

 

血継限界という霧隠れにおいて忌み嫌われる能力を持ちながら、努力によって中忍へと登り詰めた才女。

 

照美メイは、大蛇丸に囚われていた。

 

「…大蛇丸先生、この間捕まえた女の尋問ってまだでしたよね」

 

サイゾウは師である大蛇丸の薬品調合を手伝いながら、なんのことはなしに尋ねた。

 

「ええそうよ。霧隠れに捕まって悲惨な目にあった木の葉の同胞は多いと聞くわ。あの女、懸命に隠していたけど霧隠れの名門“照美”の血筋よ。彼女には精々悲惨な目にあって、里の者達の溜飲を下げる“材料”になってもらうわ。くくく、自慢の娘を無惨に殺されて狼狽する、照美家当主の顔を想像するのが楽しくて仕方がないわ」

 

「…そうですか」

 

「言っておくけどサイゾウ。妙な気を起こすんじゃないわよ。あの女を逃がしたところで、仲間が後から犠牲になるだけ。それがわからないあなたじゃないでしょう?」

 

「…ま、わかってますよ」

 

「ええ、わかってるならいいのよ。けど、あの女を逃がすだなんて真似をしたら、その対価は思ったよりも高くつくのを理解してちょうだい」

 

「うす。それじゃ、俺はちょいと出てきます」

 

背後からの大蛇丸の視線を感じながら、サイゾウは霧隠れとの戦いに限らずこの戦争自体が異様な空気に呑まれていると感じていた。

 

戦争というのは、あくまで手段でなければならないとサイゾウは考えている。

 

しかしこれまでサイゾウが経験してきた小競り合いとは違う本格的な戦争は、あらゆる人から人間らしさを奪っていると感じていた。

 

師である大蛇丸ですら、近頃は捕虜を解体するのを楽しんでいる節がある。

 

だからサイゾウは自儘(じまま)に行動することに決めた。

 

そこは“まだ”生きている捕虜が入れられている牢のひとつだった。

 

サイゾウは無造作に鍵を捻り壊し、部屋へと踏みいる。

 

「…くっ!」

 

部屋には両手足を縛られた少女がいた。髪の色は茶、まだ若いが女としてそれなりに成熟した体型が自由を奪われているのは、それだけでどこか“そそる”ものがある。

 

しかしサイゾウは諸々の衝動を抑えて、冷徹に女へと話しかける。

 

「おいお前、なんで死ななかった」

 

「…」

 

「自分が捕まったらどういう目に遇わされるかくらい、わからない年齢(とし)じゃないだろう。それでもこうして大人しく捕まってるのは、なにか目的があるのか」

 

目の前の少女が大蛇丸特性の薬によりチャクラを練れなくされているとはいえ、自害まで禁じられているわけではないことをサイゾウは知っていた。

 

それは大蛇丸の慈悲か。はたまた人の心を弄んでのものか。

 

「…わたしは、わたしはこの世界を変えたい。そのためには、こんなところで死んでいる場合じゃないんだ。わたしは血霧の里と呼ばれるあの里を、霧隠れを変えたいっ!」

 

「ふっ、現実を見ろ。お前は捕まり、チャクラも練れず、やれることと言えばわめくか死ぬかの二択だけ。…それでどうやって霧隠れを変える?」

 

「…あんたに、いいえ、“貴方”に協力してもらうわ」

 

「俺が?どうして見ず知らずのお前に協力するんだ」

 

サイゾウは身動きできない少女を見下ろして薄笑いを浮かべる。

 

「ここに入ってすぐ、貴方はわたしの体を舐め回すように見ていたわ。だから、貴方が協力してくれるならあたしの体を好きにさせてあげる」

 

「全然足りないな。お前の体を好きにするだけなら、この後大蛇丸先生に薬を打たれた後でやればいい」

 

「本気で貴方を愛して抱かれてあげるわ。それでもダメ?」

 

「…悪くないが、まだ足りん。それしか無いなら、俺はもう行くぞ」

 

「くっ、なら取っておきの情報よ。六尾の人柱力がもうすぐ木の葉の国境沿いに点在する拠点をしらみ潰しに叩くわ。貴方が協力してくれるなら、人柱力が最初に目標にしている場所を教えてあげる…!」

 

「なんだと…」

 

サイゾウは僅かに悩んだ。相手が人柱力を投入しようと考えているなら、半端な忍では対処できない。

 

国境沿いの拠点といえど、ひとつではないのだ。

 

「いいだろう。では改めてお前の名を聞こう。俺は“うちはサイゾウ”だ」

 

「『赤い業火』!?とんでもない男に協力を頼んだものね、あたしも。それに今の条件で納得してくれたのも理解できたわ。優しくしてね?『種馬』さん」

 

「…その名前、マジであちこちに広がってんのかよ。ま、善処してやる」

 

言うなりサイゾウは、メイの上へと覆い被さった。

 

縄はそのままに、服を切り裂いて乳房と秘所をむき出しにする。

 

「ちょっと、裸のまま出ていかせる気?」

 

「こうでもしなけりゃ、俺が襲ったって思われないだろうが。まあ無理だと思うが、一応嫌がる演技をしてな」

 

「どういう意味───んむっ!」

 

メイは唇を奪われ、口の中をサイゾウに蹂躙される。

 

メイとて、処女というわけではない。

 

戦場に出ることになる前に、数年前に処女は捨てている。

 

相手の男はあっさり死んでしまったが、それでも会えばお互いを求めあうくらいには情熱的な関係だった。

 

だが、今されている口づけはかつて交わしたものとまるで違う。

 

まるで、炎で熱せられているような感覚。

 

体の奥が口から伝わる熱で溶かされていき、無意識に固く入れていた力が抜かれていく。

 

「んんふっ、ふんん、んぱっ、はうっ、あ、まって、息が…」

 

「そんな余裕はやらねえよ」

 

サイゾウの指が、メイの秘所をこする。

 

下履きの上からこしょこしょと。

 

柔らかく刺激されたにも関わらず、的確に“豆”をつめで掠りあげられた快感が全身に伝わっていく。

 

やがてメイは、口づけと指の刺激だけで達しそうになっている自分に気づく。

 

そのあまりの早さにメイは愕然とするも、動きをまるで緩めないサイゾウによって口を塞がれたまま達してしまう。

 

「~~~っ!」

 

自分から誘ったとはいえ、あまりといえばあまりな展開にメイの頭はついていけなくなる。

 

「…それじゃ、入れるぜ」

 

「うあああっ!?うそ、ふ、ふといぃ!」

 

かつての恋人の逸物がまるで指にしか感じられない。

 

いつのまにか縄は解かれ、四つん這いになっていたメイは声をかけられた時には挿入されていた。

 

サイゾウの逸物は急激な圧迫感をメイにもたらし、動きによって全身をしびれるような快感が追加で叩きつけられる。

 

「うあっ、こんな、いや、まって、まってえ…!」

 

「ダメだね、お前が誘ったんだ。責任はとってもらうぜ…!」

 

「…あなたはなにをしているのかしら、サイゾウ」

 

突如として聞こえた第三者の声に、メイは内心で震え、膣がきゅうきゅうと絞まる。

 

「尋問、して、るん、ですよ!」

 

動きをまるで緩めず、腰を前後させながら答えるサイゾウ。

 

メイは大蛇丸がもたらす尋常ではない殺気に震えが止まらない。

 

「…あたしは許可した覚えがないわよ」

 

「知って、ますよ!だったら、先生が“壊す”前に楽しみたいじゃないですか!」

 

サイゾウは激しく突いたことで震えているように見せかけたメイを安心させるように、今度はゆっくりとした抽挿に切り替える。

 

根本まで抜き、奥まで突き刺す。これをじっくりと、ゆっくりと繰り返すのだ。

 

「大蛇丸先生、六尾の人柱力が今どこにいるか知っていますか?」

 

「どういうこと?六尾なら、波の国でジライヤの率いる部隊と戦っているはずよ」

 

「ではもう、情報が古いですね。今詳細を聞き出している最中ですが、六尾はこちらに向かっていますよ」

 

「なんですって?」

 

その時、拠点としていた洞窟が大きく揺れる。

 

「…まさかここが最初かよ」

 

「ちっ、サイゾウ!さっさと終わらせて迎撃に出なさい!わたしは資料をまとめて木の葉に送るわ!」

 

急いで出ていった大蛇丸の姿にサイゾウはほっと胸を撫で下ろす。

 

あやうく目の前の少女とともになますに刻まれるところだった。

 

サイゾウはまだいきり立ったままの逸物を引き抜くと、口寄せ巻物を取り出してそこから着替えを取り出す。

 

「とりあえずその格好でここから逃げろ。道は俺が作ってやる」

 

「…ま、まだ股間が変な感じする。え、ちょっと、貴方はどうするのよ!」

 

「六尾を止める」

 

「な!?バカなこと言わないで!相手は尾獣よ!しかも衝撃からして、おそらく完全に尾獣化しているわ!いくらあんむっ───…バカ、キスで誤魔化すだなんて、最低よ…」

 

すがりつくように抱きつくメイを、サイゾウはゆっくりと引き剥がす。

 

「このくだらない戦争が終わったら、次に会ったときはたっぷり続きをさせてもらうぜ」

 

メイの下腹を撫でながら言うサイゾウだが、不思議とイヤらしさはなかった。

 

「…約束よ、もし破ったらあなたのこと溶かしちゃうんだから」

 

「そいつは怖いな。…さて、やるとするか」

 

サイゾウは比較的外が近い方向の壁を向き、左拳を構える。

 

「第六・景門…開!!」

 

次の瞬間、サイゾウの全身から凄まじいチャクラが溢れだす。

 

「な、なに、その技は…?」

 

「今は教えられん、いずれな。今から“出口”を作る、お前はそこからまっすぐ逃げろ」

 

「…わかったわ。死なないでね」

 

「おう!…衝犀(しょうさい)!!」

 

斜め上に向かって放たれた凄まじい一撃が、洞窟の壁を砕き貫いていく。

 

十メートル以上に渡って人一人が楽に通れるほどの穴が開くと、メイは瞬身で一気に外へと躍り出た。

 

すぐ近くで六尾の尾獣が暴れまわり、無造作に振り回した尾が岩を飛ばしてくる。

 

メイに向かって飛来した岩石だったが、彼女はそれを見ようともしない。

 

しかしそれは彼女の想定通り、後から飛び出した男がすべて打ち砕いていく。

 

「行け!」

 

メイはその言葉に返事することなく、駆け抜けていった。

 

「…さて、それじゃこっちもさっさと次の手札を切りますかね」

 

一度八門遁甲を解除したサイゾウは、術を発動する。

 

「《影分身の術》!」

 

六体現れたサイゾウの影分身は、すさまじい速度で尾獣の周囲を囲む。

 

「…お前のような馬鹿デカい化け物には、それなりの対処法ってものがある」

 

一際高い木の上に立ち暴れまわる尾獣を見下ろして告げる。

 

「《火遁・大炎界(だいえんかい)焦熱陣(しょうねつじん)!」

 

サイゾウが告げれば、六ヶ所に配置された影分身が一斉に爆発し、激しい炎の濁流と化す。

 

「《火遁影分身》だ、せいぜい焼かれて悶えろ」

 

結界を兼ねた炎の領域が、中心にいるナメクジにも似た六尾の尾獣を熱にさらし焼いていく。

 

『ギィィィィィィィィィ!?』

 

甲高く苦悶の声をあげる尾獣がさらにのたうちまわり、木々をなぎ倒し、森を壊していく。

 

「思ったよりもチャクラを消費してない…なら見た目ほどのダメージはないか、さすがは尾獣」

 

写輪眼でチャクラの流れを読み取れば、相手へのダメージはせいぜい表面的なものだとわかる。

 

とはいえ、尋常ではない苦痛を味わっているだろうが。

 

「畳み掛けさせてもらうぞ」

 

サイゾウはさらに印を組み、集中する。

 

左腕が疼き鳴動するが、それを意思力で無理矢理押さえつける。

 

「《木遁・竹林牢壁(ちくりんろうへき)》」

 

発動と同時に、サイゾウの足元から筍が生えてくる。

 

一見滑稽な姿だったが、次々と生えてくる筍はあっという間にその数を増し、進軍するかのように六尾の元へと近づいていく。

 

その間に六尾が炎の結界を、全身から吐き出したシャボン玉に似た尾獣玉で無理矢理吹き飛ばす。

 

「遅い、“(けん)”!」

 

逃げ出そうとする尾獣の足元まで殺到した筍が成長し、その動きを邪魔するように竹林がそびえ立っていく。

 

「こおぉぉぉぉっ!」

 

再び六門・景門を開いたサイゾウは、今度は右拳を構える。八門遁甲の第六の門を開いたことで活性化された身体エネルギーが、目視できるほどに濃いエネルギーとなって一点に集まっていく。

 

その間も尾獣は逃げようともがくが、折っても折っても生えてくる竹林に阻害され遅々として逃げ出すことができていない。

 

「はっ!」

 

サイゾウの立っていた木が、気合いと共に跳び立った衝撃を受け縦に爆ぜ割れる。

 

尾獣の顔面近くまで砲弾の如く近づいたサイゾウは、溜めていた力を解き放つ。

 

撃豹(げきひょう)!!!」

 

爆竹が炸裂したような音が一発周囲に響き渡り、サイゾウは大きく吹き飛ばされた。

 

「…ちっ!まだ三発が限界か!」

 

砕けた拳と腕を抱え、サイゾウは着地する。

 

六尾の尾獣はといえば、打ち込まれた拳によって顔は拳の形に陥没し、海岸に近い場所まで数百メートルは吹き飛ばされその動きを止めていた。

 

「…相変わらずでたらめな戦いかたね」

 

「大蛇丸先生!見てたなら援護してくださいよ!」

 

「冗談言わないでちょうだい。最初の大炎界ならともかく、あんたの“竹”邪魔すぎるのよ」

 

「初代の細胞移植したのは大蛇丸先生じゃないですか…」

 

「うっさいわね。なんで適合した上に木遁で出てくるのが竹なのよ。普通に樹木を扱いなさいよ」

 

「そんなこと俺に言われても…」

 

まるで喜劇のような掛け合いだが、大蛇丸は心底驚嘆していた。

 

(柱間細胞への適正だけじゃない。八門遁甲といい、この子のもっとも恐ろしいのはどんなモノでも受け入れてしまう“適応力”。忍術も体術も、全てを高いレベルで自分のモノにして昇華させていく。今はまだ体術に頼っているきらいがあるけど、本格的に忍術を操るようになったらいったいどんな“化け物”に成るのかしら…!)

 

将来の自らの“器”として、また記念すべき最初の“作品”として。

 

大蛇丸はうちはサイゾウの行く末が楽しみで仕方なかった。

 

「それにしてもサイゾウ。あなた結局あの女を───」

 

「…すげえ!尾獣を素手で倒しちまった!」

 

「ああ、それにあの火遁。さすがは“うちは”だぜ」

 

「種馬だけどな」

 

「なあ、なんか筍めっちゃ生やしてなかったか?俺の気のせいかな?」

 

わいわいがやがや、と。

 

サイゾウの活躍を間近で見た木の葉の忍達がやってくる。

 

大蛇丸は内心で舌打ちした。

 

蔓延する厭戦気分を、たった一度の戦いで吹き飛ばしてしまったサイゾウ。

 

今サイゾウを処罰すれば、せっかくの士気が台無しになるだろう。

 

これを無意識どころか半ば計算のうえでやっているのだから恐れ入る。

 

「ああ、大蛇丸先生。あのクノイチ、逃げちゃいました。すいません」

 

どこか得意気に語る己の弟子に、大蛇丸はまた今度一服盛ってやろうと考える。

 

この男と一緒にいると、自分のペースが乱され思い出してしまう。

 

綱手やジライヤと一緒に、純粋に木の葉の為に戦っていた頃を。

 

ズズズ…

 

いつのまに起きたのか、六尾がその巨体を海に沈めていく。

 

もはや追撃しようにも間に合いそうになかった。

 

「…もういいわよ。少なくとも尾獣を単独で迎撃できる忍がいる、という情報が知れ渡ることになっただけ今回の戦いは得るものがあったわ」

 

大蛇丸は考える。

 

この戦争が終わったとき、サイゾウと自分の関係はどうなっているのかと。

 

「案外サイゾウが火影になって、あたしがその補佐に回るのも面白いかもね」

 

「なにか言いました?」

 

「なんでもないわよ。それよりサイゾウ、拠点がめちゃくちゃだからここは破棄するわよ。資料まとめるの手伝いなさい」

 

「うえ、やけに早く終わったと思ったら終わってなかったんですね。…はい、睨まないでください。やりますから」

 

どこか対照的な師弟が歩いていく。

 

その未来がいずれ交わるのか。

 

夜空に輝く月は、そんな二人を照らすのみ。

 

 




補足★説明
□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□
《木遁・竹林牢壁》
移植された柱間細胞に適応したけど、なんか妙な形で発現した能力。
ちなみにこれしかできません。未熟な頃は毎晩食事が筍でした。
《火遁・大炎界》
原作であった雷遁影分身の火遁バージョンを種火に、対象の周囲を灼熱で包み込む結界忍術。
ちなみに対尾獣用な為“大”が付く。
焦熱陣はチャクラの消耗を上げて短時間高火力にしたバージョン。イメージ的にはまんまペインパッカー。
『衝犀(しょうさい)』
一点特化の打撃技。こちらは左手。まだ八門遁甲を使いこなせてないので、某アカデミアの主人公ばりに撃つ度怪我をする。印を組むときは痩せ我慢してました。
『撃豹(げきひょう)』
一点に連続で叩き込む打撃技。決まれば尾獣でもぶっ飛ぶが、自分でも制御できない速度で跳んでいくので相手を動けなくする必要あり。理想は六連撃だけど、今回はその前に腕が壊れたため失敗。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦禍と聖母 【閲覧注意】

どうも、タブレットがぶっ壊れた作者です(泣)

ドラゴンボールCともどもお待たせして申し訳ない。

とりあえずこちらから更新します。予定が崩れなければ明日にでもドラゴンボールは投稿しますので。

あ、今回【閲覧注意】です。具体的には残虐描写。一応最初に書いたときよりはあっさりとさせました。
実際の戦争とか、いまだこんなことが起きているのが恐ろしいですね。


「ミナト…これが、これが“人間”のすることか…!?」

 

ミナトはサイゾウの叫びに応える言葉を持ちえなかった。

 

ふたりの前に広がるのは“地獄”だった。

 

戦争という人の生死の極限が生み出した結果のひとつ。

 

ふたりがその村に寄ったのは偶然だった。

 

森で野盗に襲われていた親子を助けた際に、サイゾウが親子の誘いを受けたのがきっかけだった。

 

村で歓待を受けたふたりは、その晩村に滞在した。

 

サイゾウは村一番の美女が未亡人だと聞くと、ちゃっかり夜這いしに行っていたが。

 

そして一夜が明け、朝には発ったふたりが強行偵察任務を終え、村にもう一度立ち寄ったとき。

 

眼前の光景が広がっていたのだ。

 

最初にふたりを村へと案内してくれた親子は、親が子供をかばうようにして諸共に焼かれていた。

 

5歳にもなっていなかった無邪気な女の子は、腹まで裂かれて死んでいた。全身にかけられた夥しい精液が、その子が何度も犯され殺されたのだと否応なしに理解させられた。

 

サイゾウが夜這いした未亡人はもっとひどかった。

 

全身に刀や槍を突き立てられ、上半身と下半身を別たれ、乳房は齧りとられ、首は切り落とされていた。

 

少し離れたところに転がっていた頭は眼球を抉りとられ“そこ”を犯され、舌は引き抜かれていた。

 

無造作に打ち捨てられた下半身には糞尿と精液が入り交じり耐えがたい臭いを発していた。

 

別れ際にふたりへ手を振ってくれた男の子は、尻から口までを槍で貫かれ、まるで見せびらかすように同じ殺され方をした子供達と一緒に並べられていた。

 

油断がなかった、といえば嘘になる。

 

国境沿いに展開した雲隠れの忍。

 

それらの規模を確認し、可能ならば撃滅する。

 

うちはサイゾウと波風ミナトという、木の葉でも若くして上忍にまで上り詰めたふたりならば間違いなくこの任務をやり遂げるだろうという、三代目火影猿飛ヒルゼンの判断だった。

 

「根切りにしてやる…!これをやったヤツラ全員…鏖殺してくれる…!」

 

サイゾウの声には明確な憤怒が込められていた。

 

その怒りは留まることを知らないだろう。

 

ましてや女子供に甘いサイゾウにとって、眼前の光景をもたらす存在など悪鬼羅刹に等しかった。

 

ゆえに、ミナトはサイゾウを止めることにした。

 

「…ダメだサイゾウ。僕たちが任務を終わらせなければ、その分情報にズレが生じる。それはひいては木の葉の里、そして他の犠牲者を生む可能性のある選択肢だ」

 

強行偵察自体はあっさり成功したが、それはふたりが優秀だったというだけではない。

 

予測されたよりも敵がその場にいなかったということでもあり、それはすなわち他の場所にいる仲間が危険だということ。

 

忸怩たる思いが滲み出る言葉だったが、サイゾウは殺気すらこめてミナトを睨む。

 

「正気かミナト…!こんなことをしたヤツラが、今も大手を振って火の国にいるかもしれないんだぞ!!」

 

胸ぐらを掴もうとするサイゾウだったが、逆にミナトがサイゾウの胸ぐらを掴んだことで機先を制される。

 

「…僕だって!こんなことをする野獣どもをのさばらせていいだなんて思っていない!!もし“ああなった”のがクシナだったらって考えただけで頭の中が真っ白になる!…でもだからこそ、僕たちは僕たちの役割を果たさなきゃならないんだ…!」

 

「ミナト…」

 

それは文字通り必死の叫びだった。

 

かつて、木の葉に英雄がいた。

 

『白い牙』の異名を誇った、次代の火影とさえ目されていた男だった。

 

彼の名は“はたけサクモ”。

 

彼が犯した罪は、任務よりも仲間を優先したこと。

 

それだけを聞くならば、むしろ人としての善性が強い高潔漢とさえ思われるだろう。それだけならば。

 

彼は任務の最中、傷ついた仲間を助けるため戦線を離脱した。

 

火影の候補に選ばれるほどの男が。

 

その結果戦線は崩壊し、多くの木の葉の忍が犠牲になった。

 

それだけではない。戦場を支えるため後方に展開していた部隊。

 

民間人を含めた輜重部隊64名。

 

医療忍者14名。

 

これだけの人員までもがことごとく殺された。

 

特に医療忍者が殺されたことは大きく、木の葉は他国との戦線を一時下げざるを得ないほどのダメージを負ってしまったのだ。

 

この結果を、ヒルゼンは特別責めなかった。

 

自宅謹慎を命じたものの、これもどちらかというとサクモの身柄を保護するための者に近い。

 

だが真実を知る仲間たちはサクモを責めた。

 

“人殺し”と。

 

結果として伝説の三忍を上回るほどの実力者だったひとりの忍は、自責の念に駆られ自ら命を絶った。

 

「お前がひとり任務を放棄することで、“また”サクモさんみたいなことになるのを、僕は絶対に許さない…!だからこそ、変えるんだ。僕たちの手で」

 

「変えるだと…?」

 

責めているのはミナトだったが、サイゾウの怒りが解けたわけではない。

 

むしろ高まるチャクラに合わせて上がっていく周囲の温度が、そのまま彼から滲み出る怒りを思わせていた。

 

「ああ、そうだ。まずは戦争を終わらせる。そして、二度とこんなことを繰り返させないように“火影”となって世界を変えるんだ…!」

 

「火影に、なって…」

 

サイゾウは初めてミナトの真剣な様子に気づいたように、視線を落とす。ミナトもまた、親友の胸ぐらから手を離し、その場にしゃがみこんだ。

 

「…火影、か。そうか、そうだな。“今”が許せぬなら、許せる“明日”を作ればいい、か」

 

サイゾウも同じくしてその場にしゃがみこむ。

 

ふたりは死臭がただよう村で、どちらからともなく深いため息をついた。

 

「埋葬している時間はないが、せめて焼いていこう。この村の人々の魂が、少しでも清らかに天へ昇っていけるように…」

 

「…ん!そうだね。僕も手伝うよ、サイゾウ」

 

「悪いが火遁は“うちは”の専売特許だ。…頼むミナト、せめて俺に送らせてくれ」

 

「わかった。僕は周囲を警戒するよ」

 

「助かるが、少し離れていろ。この術は加減が利かない…《火遁・竜火炎陣の術》!!」

 

村目掛けてサイゾウが組んだ印。彼の口から吐き出された炎が、村を囲むように大地を走っていく。

 

円を描くようにして走った炎が向かい合いぶつかると、炎はあっという間に巨大な火柱となり、円陣の内側を焼いていく。

 

火炎の柱はあっという間に村を飲み込み、骨さえ残さず焼き尽くしていく。

 

術の最後に炎の龍が天へ昇っていく。それをふたりはどこか寂しげに見守ると、サイゾウはミナトへ振り返った。

 

「…戻ろうミナト。少しでも早くこの戦争を終わらせよう」

 

「ん!そのとおりだよ、サイゾウ!」

 

このときよりしばらくしての後、ミナトは《飛雷神の術》を極め『黄色い閃光』の名で呼ばれるようになる。

 

またサイゾウはチャクラの性質変化を極め、とりわけ火遁を多く扱ったことから『赤い業火』の名で呼ばれるようになるのであった。

 

□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□

 

ここは木の葉の外れにある孤児院。

 

戦争によって親を亡くした子供たちを預かる木の葉でも有数の規模を誇る場所である。

 

すでに時刻は夜半を過ぎ、子供たちは深い眠りについている。

 

「ダ、ダメですサイゾウくん…!わたしにはみんなの“母”としての役目が、あぅっ!」

 

後ろから抱きすくめられ、肌を極力見せない黒い衣装をたくしあげられた妙齢の美女が快感に困惑する。

 

背後から抱き締める男の体温は服の布越しに感じるほど熱く、美女の中心を責める指先の手管は美女をしてこれまで味わったことのないものだった。

 

「手遅れだノノウ。もう俺の手は“届いてる”。このまま、一度イカせるぞ…」

 

「ま、待ってくださ、ひぁ!?…ふっ、ふぁ、や、だめ、ん、んくぅ~~~~!!」

 

懸命に声を堪えようとする美女ーーーノノウは、それが無駄な抵抗だと知りながらも両手で口を押さえて声が漏れるのを防ぐ。

 

「可愛いぞ、ノノウ…」

 

「んっ…!」

 

不意討ちに耳元で囁かれ、ノノウは思わず膝から力が抜けそうになるのをこらえるが、逆にそのことで股間をまさぐるサイゾウの腕をしっかり抱き込み、より深い場所にまで指が入り込んでしまう。

 

「~~~~~~っっっ!!」

 

己で招いた快感に困惑するノノウだが、そんなことでサイゾウは手を止めたりなどしない。

 

深夜の自室において責められるノノウはわかっていながら快感によって追い詰められていた。

 

そうしてノノウがついには自分の力で立っていられなくなった頃、サイゾウは足元に屈したノノウの眼前におもむろに逸物を放り出す。

 

「あ…」

 

「わかるだろうノノウ。俺ももう我慢できそうにない。辛いんだ」

 

辛い、という一言にノノウの医者としての部分が反応し、目の前で自己主張する逸物に、女としての部分が反応する。

 

「もう、仕方がないですね」

 

どこか淫靡な表情を浮かべたノノウが呟くと、彼女はなんのためらいもなく「はむっ」と声さえ漏らして逸物をしゃぶる。

 

「んぶ、んんぶっ、んばっ、はむっ、ちゅ、ふはぁ…サイゾウくんが悪いんですからね、もう、止まりませんから…!」

 

じゅぽじゅぽと勢いよく、サイゾウの控えめに言っても大きな逸物をくわえこむノノウ。

 

その豹変ぶりにサイゾウは満足そうに微笑むが、同時に想定外の技量にあっさり達せられそうになりどうにか耐える。

 

「はら、フャイフォウふん、ふひなときにらひていいんれふよ?」

 

「ぐぅっ!」

 

くわえたまましゃべられたことが刺激になり、サイゾウは耐えられずノノウの口に勢いよく射精する。

 

しばらく続く射精とその余韻にサイゾウはひたり、ノノウは口の中に出された“それ”をゆっくりと舌で味わいながら嚥下していく。

 

「…うふ、いっぱい出ましたね」

 

艶然と微笑むノノウを孤児院の子供が見たら、まるで別人の様相を見せる彼女に驚くだろう。

 

だがこれも彼女なのだ。

 

各国を歩き、各地で有力者に抱かれて情報を引き出し、あるいは植え付ける。

 

医療忍術にも精通し、暗殺を事故として処理することにも長けた“女”としての諜報活動のスペシャリスト。

 

それが『歩き巫女』と呼ばれた彼女だ。

 

そんな彼女は戦争が終わってから、かつての自身を省みるように戦災で親を亡くした子供を集め孤児院を開いた。

 

サイゾウは“個人的に”知らない仲ではなかったこともあり、個人資産から孤児院に出資していた。

 

「どうしましたサイゾウくん?わたしはいつでもいいですよ…?」

 

ノノウは仰向けになり、足を開いてサイゾウを待っていた。

 

いつのまにかたくしあげた黒服の下には、履いていたはずの下着はない。

 

ノノウはキレイに処理された己の“女自身”をサイゾウに向かって拡げ、誘っていた。

 

その様子に股間を刺激され、見る見るうちに回復した逸物をサイゾウは片手で掴み構えると、ノノウの秘所に押し当てゆっくりと挿入する。

 

「う…ぐぅ、相変わらず…おっきいですね、サイゾウくん…」

 

どこか苦しげにうめくノノウに気を使うように、サイゾウはゆっくりと腰を動かし始める。

 

肉と肉が絡み合い、淫らな液が互いの結合部から漏れては床を汚していく。

 

「ノノウ…おまえは俺のモノだ。忍としての仕事など二度とはさせん。この体の隅々までが俺のモノだと言うのを忘れないように、今日はたっぷりと仕込んでやる…!」

 

ノノウを抱く動きを徐々に激しくしながら、サイゾウはまるでマーキングするかのようにノノウの一番奥をごりごりと先端で押し擦る。

 

「あぐ…!ふぅっ…くっ!サイゾウくん、好き、好きぃ…!」

 

それは苦しさからか、はたまたしびれるような快楽のせいか、ノノウは涙を一筋こぼしながら、サイゾウの首筋へと口づけする。

 

強く吸われたそこには痕がつき、ノノウはしてやったりといった顔でサイゾウを見上げる。

 

「…はっ、はっ、えへ、サイゾウ、くんに、わたしの、痕、つけちゃい、ひゃうん!?…ぐぅ、つけちゃい、ました…!はわ、んっ、イクっ…!」

 

「ノノウ…」

 

軽くイッたことで体を震えさせたノノウに合わせて、サイゾウは一時的に腰を止めるが、逸物は一番深いところに当てたまま。子宮の入り口を亀頭で少し刺激しながら、ノノウの顔を見下ろす。

 

「…いいんです。わたしはサイゾウくんの一番にはなれませんから。けど、時々はこうして愛しに来てください。じゃないと、浮気しちゃうんですから」

 

はにかむような笑顔でサイゾウへと告げるノノウを見下ろしながら、サイゾウはこの自分より二つほど年上の愛しい女がたまらなく欲しくなった。

 

「…月並みな台詞だが。今夜は寝かせないぞ、ノノウ」

 

「あら、それは困りますね。わたしにはマザーとしての仕事もありますのに…♪」

 

「お前が悪い」

 

「きゃん…!あ、サイゾウくん、そこは、一緒にいじっちゃだめ、んきゅ、ふあぅぅ…!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝。

 

いつもの時間に起きてこないマザーを心配し、起こそうと部屋の前にひとりの少年が現れた。

 

どこか躊躇いがちにノックをしようとすると、それよりも早く部屋が開けられる。

 

「…っと!悪いな坊主、ノノウを、いやマザーを起こしに来たのかい?」

 

「う、うん。おじさん、誰ですか…?」

 

どこか警戒しながら問いかける少年に、サイゾウは自分がおじさんと呼ばれたことのショックを受けて項垂れる。

 

「お、おじさんか。ああ、俺はな。そうさな、言うなればお前たちの“ファザー”ってところか」

 

にこりと笑って自分の頭をわしわしと撫で回すその男のごつごつとした手を、少年は不思議と嫌に感じなかった。

 

「…じゃあ俺は行くが、マザーはもう少し寝かせておいてやってくれ。代わりに俺でできる仕事ならやっておこう。あ、料理以外でな」

 

サイゾウは自分の料理がかつてミナトから

 

「…尾獣のチャクラを感知したときってこんな感じだよね」

 

と評されたのを知っている。

 

「えっと、じゃあ水汲みお願いできますか?マザーいつも大変そうだから…」

 

「よし、任せろ。水遁…じゃマズイか。影分身で速攻で終わらせてやろう!」

 

「え、おじさん忍術使えるんですか!?」

 

サイゾウの言葉に驚いた少年は思わずといった様子で聞き直す。

 

「まあな。なんなら、暇潰しに今度教えてやるよ。坊主、お前の名前はなんだ?」

 

目下謹慎中の身としては時間を余らせて仕方ないサイゾウだったが、そのほとんどは女の場所を巡ることに費やされていた。

 

「…カブトです。僕はカブトって言います」

 

どこか照れた様子で、どこか誇らしげにその名を告げるカブト少年。

 

その様子を見守る孤児院の老女は、まるで本当の親子のようだと目を細めていた。

 

□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□◽□

 

薄暗い室内で、同じくらいに陰湿な空気をまとった男が部屋に現れた相手へ問いかける。

 

「大蛇丸よ、『歩き巫女』の調略はどうなっておる」

 

どこか苛立たしげに問いかける男ーーーダンゾウは目の前に立つ白塗りの男へ問いかける。

 

「ダメね。さっさと他の手段に切り替えた方がコストの面でも得よ」

 

あっさりと言ってのける大蛇丸にダンゾウは殺気を飛ばすが、大蛇丸は暖簾に腕押しとばかりに受け流す。

 

「…あの女。よりにもよってサイゾウのお手付きじゃない。自分の女が無理矢理他国へスパイしに行かされたなんて知った日には…燃やされるわよ?ダンゾウ様」

 

「…孤児院への資金提供を止める方法はどうなった」

 

「そっちもダメね。あの孤児院、異様に規模が大きいと思ったらサイゾウが出資してるじゃない。木の葉の里から出てる助成金なんてオマケ程度よ」

 

両手を広げて降参を示す大蛇丸。その姿はどこか愉快げだ。

 

「忌々しい『種馬』め。あれで里の最高戦力のひとりだと言うのがなにより腹が立つ…!」

 

なにより写輪眼に頼っていないこともダンゾウにとっては対処が難しいことのひとつだった。

 

仮に写輪眼を主体としているのならば、その目を奪ってしまえばいいものを、とダンゾウは考える。

 

「じゃ、あたしは行くわね。これでも他にやることが山ほどあるのよ」

 

「…手だてが見つかり次第また連絡する」

 

「そう。期待しないで待ってるわ」

 

そうして薄暗い部屋からひとつ気配が消えると、少しの時間を置いてダンゾウの姿も闇に消えていった。

 




どうも、今回のヒロインはノノウさん。
すでにお手付きだったことによりダンゾウによるカブト闇落ちフラグは粉★砕されました。

《火遁・竜火炎陣の術》
対尾獣用及び拠点攻撃用の術。
込めたチャクラに応じて指定された範囲を焼き尽くす技。豪火滅失並のチャクラ消費ながら、見た目の派手さから実戦ではまず出番がない不遇の術。ちなみにこれを研究・発展させたのがサイゾウの炎界です。

時期的には前半が第三次忍界大戦中盤、後者が謹慎してから少しした頃です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

“痛み”の歴史 ★

エロなし回。

エロまで行こうかな、と思ったけど区切りがいいので投稿。

今さらだけど主人公のキャラボイスのイメージは稲田徹さん。

一言前書きとして付け加えるのであれば
「大蛇丸がデレた!(クララが立ったみたいな感じで)」



夜。

 

雑多な木々が生い茂る文字通り“雑木林”の奥深く、二人の忍が対峙していた。

 

「久しぶりね、サイゾウ。あたしからの用件は伝わってるかしら?」

 

先に話しかけたのは、赤い雲が描かれた黒い外套を羽織った白塗りの男。

 

かつて各里の“影”をも上回る『伝説の三忍』と呼ばれながら、その残酷さと冷血さから火影に選ばれることのなかった男。

 

名を大蛇丸という。

 

「ええ、ご壮健でなによりですね“師匠”。はい、伝わっていますよ。用件は“暁”へ入れ、とのことでしたか」

 

「ええそうよ。里を“出た”あなたが行き着くには相応しい場所じゃなくて?」

 

大蛇丸の言葉にサイゾウはニヤリと笑う。

 

「…そうですね。九尾も手元にない今、俺はどこに行ってもお尋ね者。であるならば、噂に名高いS級賞金首の集まりだという暁に“入って”みるのも面白いかもしれません」

 

そう言ってしばらく、二人は見つめ合う。

 

「ふふ…」

 

「くく…」

 

やがてどちらからともなく笑い始め、間もなくして二人は大笑いしはじめる。

 

二人が交わしたのは符丁。互いに特定の言葉をやり取りすることで本人かどうかを確認するもの。

 

そして交わしたのは言葉だけではない。

 

言葉と同時に発せられた細いチャクラが、互いの持つ小さな竹管(ちくかん)を振るわせることでの二重確認。

 

これに用いるチャクラパターンは二人が共同開発したもので、仮に竹管のことや符丁の言葉がバレても早々判別できるものではないものとなっている。

 

二人が笑ったのは、この符丁を作ったときが互いに酔っぱらった時の冗談半分であり、真面目な顔で言葉を交わしたことで思わず笑いが漏れてしまったことによるものだった。

 

「くくっ、いや久しぶりに笑わせてもらいましたよ大蛇丸先生。…それで、暁と九尾事件の犯人が繋がっているとの話。詳細を教えていただけますか?」

 

「ふふ、まったくこっちの台詞よ。…それにはまずあの組織の目的を知ってもらう必要があるわ」

 

「目的、ですか」

 

「ええ。暁の目的…それは各地の尾獣を集め、使えば国ひとつ滅ぼすような、言うなれば億の人間を一度に葬る規模の爆弾を作ることよ。それを各国に分け与え、使うことの“恐怖”と“痛み”によって世界を平和にする…というのが暁のリーダー“ペイン”の言い分よ」

 

大蛇丸はすでに数年前から里を出る準備を進め、それに伴って自らが“風”を導くための場所として新たな里を作るべく動きを起こしていた。

 

とはいえそれは里を捨て“抜け忍”となることを意味する。そこで大蛇丸はヒルゼンに相談し、木の葉にとって対外的な問題に応する側面を自分と新しい里に持たせることで変則的な承認を得ようとしていた。

 

そうして里作りを進めるなかで、大蛇丸は各地の迫害された血継限界や、隠れ里を吸収することで準備を整えていた。そんな大蛇丸が三代目火影猿飛ヒルゼンから託された任務。それは、非合法組織でありながらトップクラスの忍で構成された暁への接触であった。

 

はじめは存在すら眉唾だった輪廻眼を見たことから思わず奪おうとした大蛇丸だったが、その及びもつかぬ能力を前に手出しを止め、表面上は暁に協力することにしていた。

 

そして、その眼を持つ者が“誰だった”のかを思い出していた。

 

「“恐怖”と“痛み”によって世界を平和にする、ですか。その言葉…大蛇丸先生は信じていらっしゃるので?」

 

いぶかしむようなサイゾウの視線を大蛇丸は鼻で笑う。

 

「まさか。そんなことでこの世界に平和がもたらされるなら、そもそも初代火影千手柱間が尾獣を分配した時点で平和になっているわ。でも現実は…」

 

ふと、大蛇丸の言葉が止む。その様子はどこか真剣味を増すが、サイゾウは構わず大蛇丸の言葉を続ける。

 

「…“痛み”が生む“恐怖”は心を蝕む。かつて『千手柱間』そして『うちはマダラ』という二大巨頭の及ぼしたおとぎ話じみた強さの反動は、ふたりが潰えた後の歴史において表に出ない暗闘という最悪の形で返ってきた」

 

「…そうね、確かに一時戦争という災厄はなくなったけど。それは大国での話。“平和”を維持するために木の葉が…いいえ、忍がどれだけの闇を生んできたかなんて、うんざりするほど見てきたわ」

 

「…忍の闇のはじまり。木の葉においては“根”という名を持つ、忍世界でも有数の暗部結成のきっかけだ」

 

「木の葉の生み出した効率のいい暗部組織は、隠れ里システムと同じくすぐに他里も真似し始めたわ。第一次忍界大戦後、20年もの間表面的な平和が続いた裏では、頻繁に暗殺や誘拐、脅迫といった行為が繰り広げられたわ。そして闇に根差した戦いはより深い闇を作り出し、人は際限なく残酷になっていった。そうやって恨み辛みが堆積して作られていったヘドロのような悪感情は、やがて誰にも止めることのできない動きへと変わっていくのよ。すなわち、戦争へね」

 

「『公平なる利権拡大』だなんてお題目を掲げてはいたが、そんなものは口実に過ぎない。それは木の葉が表面上“根”を組織解体しても同じだった。誰もが誰もを恨み、押さえつけられていた力を振るう機会を欲していた」

「そもそも、戦前二代目火影千手扉間が急襲されたことから狂いはじめていたのよ。雲隠れとの協定途中で起きたクーデターは他国における停戦協定にも影響したわ。そのことが結果として戦争を微妙な形で終わらせてしまうきっかけとなったとも考えられるわね」

 

「ええ、そのとき二代目火影は死ぬべきでした。その後は無理がたたって永くはなかったようですが…死ぬ間際まで里の為に働いたことが木の葉の里に、ひいては三代目に“甘え”を残した。さらに言うのであれば、後に続く者が扉間ほど優秀ではなかったというのも大きい。落差が激しすぎたんだ」

 

「そうね。更に言うなら初代火影をはじめ、二代目火影までもを排出した千手一族が一気に衰退していった影響も大きいわ。その後も結局、合理的だった二代目の政策は跡を継ぐものによって徐々に方向性を歪めていった」

 

「…木の葉上層部。上層部といえば響きは大したものだが、実態は自分一人での決断を避けた三代目火影猿飛ヒルゼンによる多数決の提案。その結果、一度は権力の座を諦めた志村ダンゾウが野心を抱くことに繋がり、二代目の弟子として合理的な考えを支持する水戸門ほむらとうたたね小春は徐々にダンゾウの意見を採用するようになった」

 

「導き手として優れ過ぎていた千手を失った木の葉は、やがて戦場に用いれるだけの人柱力を用意できなくなったわ。そのことで木の葉を“弱体化”したと考えた各里は、戦後周辺の小国を管理することすらままならなくなったのをきっかけに、徐々にその矛先を木の葉へと向け始めた。しかも質の悪いことに、その動きは大国ほど顕著だった。当事者だったあなたやあたしですら、今でもあの戦争がいつから始まったのかわからないもの。ただひとつ言えるのは、戦争としては最悪の形で広がっていったということよ」

 

「…第三次忍界大戦。皮肉にもあの戦争は、結果として誰ひとり得しなかった。消耗に次ぐ消耗。倒しても倒してもキリのない戦い。こちらが血を流せば相手にはより多くの血を流させようとするどす黒い感情の波。止まることのない出血のように、戦いは“如何に相手を苦しめる”かに変わっていった」

 

「これまでのツケを払うときが来ただけよ。結局どれだけ合理的な手段であっても、人の恨みは消えやしないわ。戦争だって最終的には、消耗の果てに息切れを起こした各国が大名からの連名による停戦要請に従う形で終わらせたのだもの。…そうね、あえて理由付けをするなら、後の四代目火影波風ミナトの驚異的な時空間忍術、尾獣と真正面から戦えるあなた、うちはサイゾウの存在。そういった、再び木の葉が必要以上の戦力を手に入れつつあることを他国が恐れたのも、終戦へと後押しする一因だったとわたしは思っているわ」

 

「だが、結局結ばれたのは“休戦条約”。…つくづく業が深いというべきか」

 

「…戦争はまだ終わっていないのよ。あのときの当事者すべての中でね…」

 

「…これが今なお続く“戦い”の流れだ。お前らはこれを聞いてどう思うんだ、おふたりさん」

 

サイゾウは赤く輝く瞳を上空に向ける。

 

そこには、天使のような羽を生やした女と、オレンジ色の髪をした顔にビスを付けた男が浮いていた。

 

「…ご丁寧な説明、痛み入る。だが“それ”がどうした!そんな、知ろうと思えば知ることができるようなことを、改めて俺たちに教えてなにになる。…うちはサイゾウ、お前の力は買っている。戦争を嫌っていることも知っている。貴様が九尾事件の犯人などと下手な噂を流したところで誰も信じてなどいない。目的は波風ミナトの敵討ちか?それもいいだろう。だが貴様が語る“痛み”の歴史を知っていてなお、暁の為に力を貸そうとは思わないのか?貴様がいれば世界平和への道もより近づく。犠牲を生み続けるこの世界に“消えぬ痛み”を刻み付け、すべての争いを終わらせるのだ…!」

 

なおもサイゾウを見下ろしながら言い募るペインの姿にサイゾウはイラつきを隠そうともせずに言い返す。

 

「…大言壮語に相応しいだけの力はあるみたいだがな、大体からして“世界に消えぬ痛み”をってのに致命的な穴があるんだよ。それはな、例え大きな里や国同士での戦いが起きなくなっても、次に犠牲になるのはより小規模な国や里だ!当事者同士の戦争が大国の代理戦争と化してみろ、そこにあるのは“あの時”と変わらない!地獄絵図だ!!」

 

「ならば…!それさえも起きぬほどの“痛み”を与えればいい!!必要とあらば…何度でも…!」

 

「…その果てにあるのは、自分以外誰もいない寂しい世界だ…それは“本当”にお前らが望む世界か…!?」

 

サイゾウの言葉に羽を生やした女、小南の顔が痛みをこらえるように歪む。その手は、まるで無くしたモノを抱き締めるように胸元を掴んでいる。

 

「…もはや他に方法などない。違うというならば、言葉ではなく力で俺たちを止めてみるんだな!」

 

「ペイン…」

 

横の小南がどこか心配そうに声をかけるが、ペインは泰然自若としたまま動かない。その様子にサイゾウは臍を噛む思いだったが、横に並んだ大蛇丸はすでに外套を脱ぎ捨て腰に太い縄を携えたいつものスタイルに戻っている。

 

「…やれやれ、折角とっさに合わせてあげたのに。ま、説得なんて通じる輩じゃないのはわかってたけどね。サイゾウ、これで暁への潜入忍務がパーよ。猿飛先生への言い訳を考えておきなさい」

 

「ここに来る時点でつけられてましたけどね」

 

「だまらっしゃい。…来るわよ!」

 

空を急降下して強襲するふたつの影。

 

ペインをサイゾウが、小南を大蛇丸が請け負う。

 

「サイゾウ!その男は輪廻眼の持ち主よ!」

 

「…!なるほど、仮にも大蛇丸先生が所属する組織のリーダーだけはあるということか。だったらまずは小手調べだ…!」

 

サイゾウは手足に炎を纏い、大きく飛び上がってペインへと向かっていく。

 

「《火遁・炎纏華(えんてんか)の術》!」

 

炎を帯びた拳が浮かぶペインへ迫る。並みの忍なら一撃で触れた場所を消し炭とする攻撃だが、ペインは至って冷静に対処する。

 

「《神羅天征》!!」

 

差し出した掌から生まれた不可視の力にサイゾウは為す術なく弾き飛ばされるが、空中で一回転して体勢を立て直すと難なく着地する。

 

「チャクラをそのまま放出する柔拳とは違うな…なんだったか、どこかで覚えがある感覚なんだが…まあ今はいいか」

 

サイゾウは纏う炎へさらにチャクラを込めると、勢いを増した炎を携えて再び飛び上がる。

 

「何度やっても同じことだ」

 

「そうかい、だったらこいつはどうだ!《朝孔雀》!」

 

すさまじい勢いで繰り出された炎拳の連打はまるで孔雀の尾羽が広がる様と同じくペインの眼前を埋め尽くす。しかしそれも再び放たれた《神羅天征》によってあっさりと散らされてしまう。

 

「無駄だというのが…ぐっ!?」

 

「咄嗟に飛んで《撃豹》のダメージを最小限にしたか。だがその技はまだ“響く”ぜ」

 

いつの間にか炎を消し、代わりに全身からほとばしるチャクラエネルギーを露にしたサイゾウ。散らされた炎から飛び出したサイゾウの攻撃をペインは防いだものの、その言葉通りペインは二度、三度と続く衝撃に抗いきれず飛ばされていく。

 

「ペイン…!」

 

「あらあら、よそ見している場合かしら」

 

「くっ、しまった…!」

 

全身を紙手裏剣によってズタズタにされたように見えた大蛇丸だったが、まるで蛇が脱皮するかのように体を脱ぎ捨てると、小南の全身を締め上げ、再び脱皮しその場から離れる。

 

「《口寄せ・三重羅生門の術》!」

 

ペインが殴り飛ばされるという事態に動揺した隙をつかれて、小南はあっという間に畳み掛けられた。

 

突如として地面から出現した巨大な“門”に囲まれたかと思えば、合流したサイゾウが門のひとつに飛び乗る。

 

「女相手に手酷い技は使いたくないんですがね…《火遁・豪火滅却》!」

 

そして逃げ場を無くした彼女の頭上から容赦せずに炎の山が迫ってくると、紙の分身である彼女は瞬く間に焼き尽くされ、後には紙の燃えカスが残った。

 

「…ふう、やっぱり分身か」

 

「ホッとしてるところ悪いけど、彼戻ってきたわよ」

 

大蛇丸の言う通り。これといったダメージを受けた様子すらなく、ペインは戻ってきていた。

 

「…分身とはいえ小南が負けたか。だがお互い、“様子見”はこんなものだろう。うちはサイゾウ、次に会うまでに貴様の考えが変わっていることを望む」

 

そう言い残して、ペインは逆口寄せによって姿をかき消した。

 

するとサイゾウは突如として印を組み、事前に仕込んでおいた“雑木林”を操りはじめる。

 

「《竹遁・千重の籠(ちくとん・ちえのかご)》!」

 

すると少し離れた場所で急激に成長した竹が何者かを閉じ込める。次々と固められていく竹はやがて籠状に変形し、蓋が閉まるとチャクラによって練られた封印紋が浮かび上がる。

 

「…とりあえずは、目的達成ってところかしらね?」

 

「ええ、あれが“本命”かはわかりませんが、ひとまず“釣り”は成功です」

 

サイゾウは腰に下げた巻物を開き、人を捕まえたにしては異様に小さな竹籠を口寄せ契約して逆口寄せする。

 

ボフン、と煙を上げて消えた竹籠を見送ると、サイゾウは改めて大蛇丸に向き直った。

 

「ありがとうございます、大蛇丸先生。暁のリーダーとの戦闘は想定外でしたが、これで木の葉に向かうことができます」

 

「…やれやれ、今回はお膳立てするのに骨が折れたわ。それにしても今回の件とは別に頼み事がある上に、暁への潜入忍務以上に重要って本当なの?他のメンバーの情報も手に入ったけど、あいつら相当に厄介よ」

 

大蛇丸は暗に今後暁が忍世界を混乱へ導くだろうことをサイゾウに問いかける。

 

「ええ、ひとつ前提をひっくり返してやろうと思いまして」

 

そのときのサイゾウの顔は実に禍々しく、また魅力的なものに大蛇丸には映った。

 

「…あら、いい顔するじゃない。勿体ぶってないで教えなさいよ」

 

「なに、俺と大蛇丸先生がいれば簡単ですよ。“うちはマダラ”を穢土転生させます」

 

「なんですって…?」

 

すべての前提をひっくり返すその提案に、さしもの大蛇丸も固まった。

 

物語は、変転する。

 

 




とりあえず現実の歴史に照らし合わせてNARUTO世界の歴史を考察した結果。
他にもこれが原因じゃね?という考察を元にストーリーの造形を練っております。
今回はドラゴンボールCのように貰った設定の後付けは難しいのであしからずです。

あとデレ蛇丸(でれちまる)になった理由はあるにはあります。個人的に必要なさそうならさぱっと描写カットですが。

オリジナル忍術紹⭐介
《火遁・炎纏華(えんてんか)の術》
サイゾウが「とりあえず殴っておこう」と思った際に発動するいわば十八番の術。
手足を火遁で覆い攻撃力を増すための術。
精緻な性質変化の技量が必要であり、下手をすると自分が焼かれてしまう。

《竹遁・千重の籠(ちくとん・ちえのかご)》
柱間細胞を完全に取り込んだことで木遁は竹遁へと変化した。この竹はチャクラを弾く性質を持つため、この性質を利用した封印術。文字通り千におよぶ層に別れており、内側からの解除は不可能。ただし鍵となるチャクラパターンさえ知っていれば、子供でも開けることができる。

あと大蛇丸とサイゾウのコンビネーションはナルスト参考にしてます。

どうでもいいけど、タイトルが語尾にキラッ☆したみたいで別の意味で痛々しい(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帰ってきた男 ★

んー、今回もエロまでたどり着けず。
でもまあ伏線貼れたし、里における立ち位置がなんとなく伝わればいいな、と考えてます。

ドラゴンボールの時と違って、手を出せば出すほど修羅場と化していくぜ!(笑)


ここは木の葉隠れの里。

 

里を守る外壁と一体化するように埋め込まれた巨大な門には、ひらがなで大きく『あ』と『ん』の二文字がそれぞれの扉に描かれている。

 

多くの御用商人や、また任務へ向かう忍が利用する木の葉隠れ唯一の出入り口は、里における重要なポイントであり、また経済の要とも言える。

 

しかし、今木の葉の門は対峙する二人の女性によって通行不能となっていた。

 

「…ですから、お出迎えはわたくしがいたしますわ。曲がり角を過ぎた“人生の先輩”は、どうぞ縁側でお茶でも啜ってらしてくださいまし」

 

常であれば子供を引き寄せて止まないにこやかな笑顔を浮かべる女性『ノノウ』は、笑顔はそのままにそのたおやかな口から致死作用の毒をさらりと吐き出す。

 

「“淫売”が上等な口を聞くじゃないか?挽き肉にされたくなかったらあたしの目の前から失せるんだね…!」

 

獰猛な気配を隠そうともせず額に青筋を浮かべる女は『千手綱手』。木の葉の姫とも呼ばれる立場であり、ある忍術によって未だ全盛期の肉体を保ち続ける女傑である。

 

さて、なぜこの二人が争っているか。理由は明白である。

 

『うちはサイゾウ』が帰ってくるからだ。

 

「あらあら、乱暴ですね。そんな様子じゃ、サイゾウさんを素直にお出迎えできるようにはとても見えないのですけど?綱手姫(笑)」

 

「おい待てコラ、今最後笑っただろ。よし、ぶっ飛ばしてやるからそこを動くな…!」

 

踏み出した一歩目ですでに地面にヒビを入れながら進む綱手の形相は既に悪鬼羅刹の類いと化している。

 

見れば、周囲にはそんな二人を止めようとしたのか、幾人かが死屍累々といった体で転がっている。

 

恐らく綱手にやられたのであろう、地面に逆さに埋まった緑タイツの青年。

 

ノノウに毒でも盛られたのか、時折びくんびくんと震える、片目を塞いだ白髪の青年。

 

様子の変わった幼なじみを心配して仲裁しようとした男は、自慢の歌舞伎衣装を汚して地面に倒れ込み、尻にはクナイが刺さっている。

 

そんな状況で止められる人間など早々いるはずもなく、すでに暗部が三代目火影を呼びにいく事態となっていた。

 

「おおらぁ!」

 

振りかぶった綱手の拳を警戒しつつ、ノノウの顔から表情が消えていく。

 

すでに周囲の人間などは避難し、事態を重く見た木の葉警務部は隊長である『うちはフガク』を呼びにいっている。

 

しかし二人がぶつかる寸前、小柄な人影が割って入ると、するりと二人の攻撃をいなし、対峙したときと左右逆になるように一回転させて地面へと優しく着地させる。

 

「いけませんよ。サイゾウ様が戻る前にお二人が“ケンカ”するだなんて」

 

そこに現れたのは、日向家“現当主”のカエデであった。

 

「カ、カエデさん?」

 

「お前、出てきていいのか」

 

二人が驚愕するのも無理はなかった。

 

『千里眼のカエデ』の名はかつてと違い忍世界全体に広がっている。

 

そのため、平時であっても日向の街に引きこもることを強制されていた。

 

「ええ、ヒアシとヒザシが二人して止めようとするものですから、つい“休止の点穴”をこう、えいっ!てやっちゃいました」

 

えへへ、と笑うカエデであったが、木の葉でも有数の実力者二人を事も無げに撃退するカエデの実力にノノウと綱手は警戒する。

 

(まずいですね。目の前の怪力バカだけならまだしも、カエデ姫まで出てくるとなると…“手加減”できないかもしれません)

 

ノノウは再び張り付けた無機質な笑顔の裏側で、二人を止めるに足りるだけの毒の量を計算する。

 

(ちっ、今の技といい日向とあたしの技は相性が悪いからな。“本気”でやらなきゃだめか…!)

 

綱手は自身の切り札である《白豪の術》を全開にするかと、密かにチャクラを練り始める。

 

(それにしても“冗談”の得意なお二人ですね。サイゾウ様をお出迎えするのはわたしに決まっていますのに…ウフフ、少しお仕置きをしてあげなくちゃいけませんね)

 

カエデは白眼を発動し、それに伴って全身を獅子に似たチャクラの鎧で覆っていく。触れただけで相手の経絡系を破壊する《柔歩双獅拳》を発展させた技《柔歩纏獅勁》である。

 

三者三様なれど般若面じみたオーラを漂わせる女達を前にすれば、最近無理が祟って体を壊し気味な三代目火影にはトドメになるだろう。

 

しかし、それよりも早く睨み合う女達の中心に人影が割り込む。

 

言わずもがな。サイゾウである。

 

「わっ!」

「きゃっ!」

「んむっ…!」

 

順に乳を握られた綱手、尻を鷲掴みにされたノノウ、唇を塞がれたカエデである。

 

「…っは、んぅ…」

 

一度唇を離し、話を進めようとしたサイゾウであったがカエデはそんなサイゾウを逃そうとせず自らせがむように両腕を首の後ろに回し深く深く口付ける。

 

その間綱手とノノウはやきもきするしかなかったのだが、サイゾウが絶妙に指を動かし、艶めいた声をあげさせることで余計な手出しをさせることを防いでいた。

 

十分ほどはそうして口付けあっていたであろうか。

 

周囲から痛いほどの視線が寄せられる中、ようやくカエデは名残惜しそうに唇を離す。

 

「おかえりなさいまし…サイゾウ様…」

 

うつむいて、どうにか言葉を紡いだカエデだったが、止めどなくこぼれ落ちる涙は止められそうになかった。

 

見た目も幼いカエデが静かに泣く姿はまるで子供が泣いているようで、綱手とノノウはどことなく気まずくなり臨戦態勢を解く。

 

カエデ自身、本当は笑顔で出迎えようとしていた。

 

おかえりなさいと、そっと手を握るだけのつもりでいた。

 

けれど、サイゾウを前にして、口付けを交わして、備えておいた心の防壁は脆くも崩れ去っていた。

 

「ああ…ただいま、カエデ」

 

しかし、端から見ればそれも違ってくる。

 

帰ってきたサイゾウを見知った者達からは

 

「あー、やっぱり種馬の仕業か。…ていうか自来也さん生きてるのかあれ」

「ちくしょぉ…!綱手さんのおっぱいを、あ、あんなにしっかり揉みやがって…!そうだ!後で握手してもらおう!」

「ノノウさんって医療忍者だよな…?大蛇丸さんみたいな殺気出してたけど…」

 

であるとか。

 

「というかいつまでイチャイチャしてるつもりだあの種馬」

「誰か起爆札貼り付けてこい。ていうか倒れてる三人助けてやれよ」

「とりあえず面倒くせえけど、早くなんとかしないと三代目が心労で倒れるぞ」

 

といった意見が大勢を占めていた。

 

しかしいつまでもそんな朗らかな空気は続かない。

 

うちは警務部隊の人員を引き連れ、混沌とする場にまずは『うちはフガク』が現れた。

 

「…相変わらずだな、サイゾウ」

 

「おお、フガクか!久しぶりだなぁ!」

 

「帰ってきたかと思えば早速問題を起こしおって…!」

 

『兇眼フガク』。万華鏡写輪眼に開眼したうちはにして、木の葉警務部隊隊長を勤める傑物である。

 

しかし木の葉の忍達は彼を別の二つ名で呼ぶ。

 

『後始末のフガク』と。

 

「お、フガクが来たぞ。そろそろ終わりだな…じゃ、俺は家に戻るぞ」

「イノイチ、飯食いに行かないか?」

「…チョウザ、お前さっき昼飯食ったばかりだろうが」

 

ワイワイガヤガヤと周囲が騒がしくなるが、サイゾウは未だに綱手の乳を揉み、ノノウの尻を撫で、カエデに抱きつかれている。

 

フガクはため息をつきながら、交通整理に何人割くかを考え、部下を幾人か呼んで指示を出し始める。

 

全員の視線がサイゾウから離れた瞬間だった。

 

ひとりの少年が、腰だめに構えたクナイをサイゾウへ向け突っ込んでいく。

 

尋常ではないその気配に気づいた者が止めようと動くが、どれも間に合いそうにない。

 

サイゾウは、咄嗟に自分を庇おうとしたカエデをノノウへと預け、立ちはだかろうとする綱手を制して少年のクナイを甘んじて受け入れる。

 

心臓より少し下、胃の横に深々とクナイがささり、それを見たカエデが悲鳴を上げそうになる。

 

しかしサイゾウはそれさえも制して、自分を刺した少年を真っ直ぐ見つめる。

 

「…小僧、名前はなんだ」

 

内臓を抉られる痛みなどまるで見せないサイゾウの様子に少年は困惑するが、力が緩んだ瞬間に溢れた血に濡れた手を見て悲鳴を上げそうになる。

 

「イルカ…!うみのイルカだ!父さんと母さんの仇め…!!」

 

その憎しみにまみれた瞳を、サイゾウはただ悲しそうに見つめる。

 

綱手やノノウは一刻も早く治療しようと焦り、カエデは初めて目にする重傷に血の気を失いながらも、サイゾウの意を汲んで唇を噛みしめその場で堪えている。

 

「…お前の仇になってやれず、すまない。だがこの“痛み”は…!必ず俺が届けよう…!!それが俺がお前にしてやれる唯一の罪滅ぼしだ…」

 

口の端から血をこぼしながらも、サイゾウは屹然とした態度を崩さない。

 

あまりに堂々としたその様子にイルカ少年が困惑を強めるなか、その場に三代目火影猿飛ヒルゼンが到着した。

 

「…サイゾウ!その傷は…!」

 

「大事ありません。この程度、この子が受けた痛みに比べれば何のことはない…!」

 

とうとう喀血し始めたサイゾウを、三人の女達が先程までの様子を微塵も見せないほど見事な手際で治療していく。

 

取り込んだ柱間細胞の影響もありすぐに傷は塞がれたものの、失った血までは取り戻せない。サイゾウはいささかふらつきながら、ヒルゼンの元へ歩み出る。

 

「うちはサイゾウ、ただいま帰参致しました」

 

「…うむ。聞きたいことは山ほどあるぞ。だがまずは少し休め。報告の最中に倒れられては敵わん」

 

「問題ありません。それよりも、三代目に協力していただきたいことがあります」

 

サイゾウはチャクラを練り、八門遁甲の応用で身体活性を行い無理矢理ダメージを誤魔化す。

 

その手慣れた様子に綱手が眉をしかめるが、サイゾウは苦笑を返すだけだ。

 

「うちはシスイを呼んでいただきたい。あと他にもいくつか…ここでは不味いですね」

 

周囲を見渡し、こちらを心配そうに見る旧友達へ手を振って応える。

 

やれやれといった反応が大半だったが、無事に済んだことに安堵してくれる仲間に対し、サイゾウは自分が故郷へ帰ってきたことを一層に実感した。

 

「ノノウ、この子を頼む。カエデ、ナルトのところに戻ってやってくれ。姉さ「綱手」…綱手姉さんは俺と一緒に来てくれ」

 

サイゾウに声をかけられその場にいた人間はそれぞれの役割を持たされ動き始める。

 

そしてその場で唯一助け出されなかった自来也だけが尻にクナイを刺したまま残された。

 

_________________________

 

 

「うちはマダラを穢土転生させるだとっ…!?正気か、サイゾウ!!」

 

火影の執務室へとやって来たサイゾウは、早速用件を切り出した。

 

三代目火影猿飛ヒルゼンは、若かりし日に垣間見たマダラの恐ろしさを思い出す。

 

「…お主は知らぬからそのようなことが言えるのじゃ。うちはマダラはお前の及びつくような存在ではない。例えお前がヤツの再来とまで言われようともな…」

 

力無くうなだれるヒルゼン。その姿にはどこか覇気がなく、サイゾウはこの三年でずいぶんと痩せた老人を見つめながら、話を続ける。

 

「それはマダラが振るった完成体須佐能乎を恐れてですか?“アレ”を瞳術と呼んでいいかはわかりませんが、うちは一族の禁術においても最大級の代物ですねたしかに。けどアレ、俺も使えますし」

 

「な、なんと…であるならば、まさしくマダラの再来か…お主が味方でワシは心底ホッとしておるぞ…」

 

「そうでもないですよ。恐らく永遠の万華鏡を手にしなければ本当の意味では完成体とは呼べませんね。八門遁甲使うより体に負担かかるんで、費用対効果で見ればあまりいい術ではありません」

 

大袈裟に両腕を広げるサイゾウだが、あっけらかんとした彼の様子にヒルゼンは頼もしさを覚える。

 

「あ、それと今回の穢土転生に大蛇丸先生呼んであります。術の制御を任せるには不可欠な人ですからね。それと暁の潜入任務頓挫しました。すいません」

 

「お、大蛇丸じゃと…!?いや待てサイゾウ、なぜお主が暁への潜入任務を…!ぐうぅ、安心したところに胃が痛むことばかり持ち込みよって、少しは老い先短い老人を労らぬか…!」

 

立て続けに驚愕させられたことにより、ヒルゼンはどこか煤けたような様相になる。

 

「何をおっしゃいますか。もし倒れるようなら、俺が取り込んだ柱間細胞・改を打ち込んででも働かせますよ。あ、死んだら穢土転生しますからね」

 

「鬼畜かお主は!」

 

思わず激昂して腰を浮かせたヒルゼンにサイゾウはからからと笑う。

 

「はっはっは、やはり三代目はそうでないと!…まだ死なせませんよ。貴方には木の葉を見届ける義務がある」

 

「…ふん、わかっておるわ」

 

どこかしんみりした空気になるが、扉をノックする音が場の空気を変える。

 

「入ってよいぞ」

 

「失礼します…兄さん!?帰ってたのか!」

 

部屋に入ってきたのはうちはシスイ。

 

『瞬身のシスイ』と呼ばれ、ミナト亡き今となっては木の葉で最速の忍でもある。

 

「おお、先ごろな。…シスイ、お前に頼みがある。お前にしかできないことだ」

 

「いいよ、引き受ける」

 

「なに?」

 

「だから、いいよと言ったんだよ。あの兄さんが俺に“頼みがある”と言ってきた。“男がよくよくのことでやってきたときに、訳を聞いてから断るか引き受けるかなんて決めたりしない”。そうでしょう?兄さん」

 

その言葉が、かつて自分からシスイへ送ったものであることにサイゾウは気づき、思わず笑みを浮かべる。

 

「…お前は自慢の弟だよ。さて、頼みとは他でもない。《別天神(ことあまつかみ)》を使ってほしいんだが、いけるか?」

 

「ああ、両目とも問題なくいけるよ。…けど、火影様から許可は出ているのかい?」

 

サイゾウが見れば、ヒルゼンは得心がいったように頷いたものの、未だ腕を組み考え込んでいる。

 

「…最強幻術を使う理由としては充分か。だがそれだけでは足りんな。とはいえ、フガクまで立ち合わせるわけにはいかんぞ。他の者にいらぬ警戒心を起こさせる必要もあるまい」

 

「手順としては大蛇丸先生と共同で口寄せし、俺と先生でマダラを縛ります。更には万が一が無いよう別天神で行動を縛り、さらに万が一があれば“俺の”万華鏡写輪眼でマダラを止めます」

 

「お主の万華鏡か、そういえばまだ詳細を聞いていなかったな。よければ事前に聞きたいのだが…」

 

「そうですね…むん!」

 

「きゃあ!?」

 

サイゾウが足踏みをすると、その衝撃で床板がはがれクノイチが飛び出してくる。

 

「ふむ、乳・尻・太もものラインから見るに…卯月朝顔ちゃんだな!」

 

サイゾウは踏み込んだ衝撃の反動で床下から飛び出したクノイチを捕まえると、後ろから抱きつくような形で拘束する。さりげなく全身を撫でくりまわしているが、ヒルゼンとシスイの視線があってもまるで止める様子がないことにシスイは目の前の人物が間違いなく兄であることを苦笑いしながら再確認する。

 

「…根の者か。ダンゾウに顔を出すよう伝えよ、ヤツにも協力してもらう」

 

「木の葉の実力者揃い踏みですね。…兄さん、他の人が来るまでその人にセクハラする気?」

 

未だに続くセクハラに、どこかアワアワとしたクノイチだったが、チャクラ無しでも岩を砕く腕力のサイゾウに捕まっている為逃げ出すこともできない。

 

「は、離してください…!はぅぅ…」

 

「ひやだ、まふはひふんがほほいへはほほをひほめまはい(いやだ、まずは自分が覗いてたことを認めなさい)

 

「認めます、認めますから耳はだめぇ…!」

 

耳全体を愛撫するようにちゅるちゅるとねぶるサイゾウの尋問に、根のクノイチ『卯月朝顔』は内股になりながらも必死で抜け出そうとする。

 

しかし、逆にあちこちをまさぐっている手の位置が際どいところへ徐々に近づいていることに気がついていなかった。

 

「ふふふ、お前の弱いポイントはすでに見抜いたぞ…!さあ、レッツパーリー!「サイゾウ」…綱手姉さん、そういえばいましたねふぐぉ…?!」

 

拘束した腕はそのままにキリッとした表情で振り向いたサイゾウだったが、直後綱手の拳骨によって床をぶち抜き階下に落下していった。

 

「ふん!相変わらず油断も隙もない!」

 

「…ワシの執務室」

 

「はは、ホントに変わってないや。…良くも悪くも」

 

人の形をした穴を開けながら落下していった兄を見て、シスイはこれから起こす一大事を前にして笑いをこぼすのであった。

 

 

 




※ご指摘がありましたので、カカシとガイの描写を少年→青年に変更しました。…年齢設定が無茶苦茶な岸本先生が悪いんや(笑)

字数的にもキリがいいのでここまでです(´・ω・`)

それでは恒例の補足☆説明

後始末のフガク
木の葉の里ではっちゃけた打ち上げがあったとき、その男は現れる。道端で眠る酔っ払いを家まで送り、喧嘩しそうな夫婦を仲裁し、吐いている若者を介抱する。
人呼んで『後始末のフガク』。ただし本人に言うとキレます(´・ω・`)
ちなみに主人公とは幼馴染み。常日頃からサイゾウのやらかしたイタズラを後始末していて苦労人癖がつきましたら。

《柔歩纏獅勁(じゅうほてんしけい)》
見た目に関してはちょっとしたプチ須佐能乎。
カエデが当主になれたのは実力で認めさせました。普通にヒアシ、ヒザシより強いです。ヤンデレを本気にさせたらあかんのです。

卯月朝顔
原作にいた卯月夕顔の姉、という設定のオリキャラ。
見た目は夕顔よりも少しおっとりした感じ。でも根に配属されるくらいには冷徹になれる。
サイゾウのことは以前からこっそりファンだったので、間近で見れるのが嬉しすぎて気づかれました。
耳が弱点。ややチョロい。

サイゾウが完成体須佐能乎を使えることに対して
これはネタバレになるので詳細は語れませんが、柱間細胞を完全に取り込んだことで瞳力が跳ね上がった影響です。もっとも負担はそのままですので、使うとまず動けなくなります。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

追うもの、追われるもの

今回エロありでござる(´・ω・`)

NARUTO世界の特殊能力者の迫害具合が調べれば調べるほどヤバス。…霧の国の混迷具合って、やっぱりオビトの復讐なのかなぁと思ったりな今日この頃。

宣伝
↓↓↓
https://novel.syosetu.org/104894/
『ドラゴンボールC』

タイトルに特に意味はありません。たぶんきっと。
この作品より前に書きはじめた処女作です。
よかったら読んでください



サイゾウが、波風ミナトの仇を討とうと旅立って2年が経過した頃。

 

その日サイゾウは、水の国にある群島のひとつ。そこにある森の奥でひとり鍛練をしていた。

 

「コォォォ…!」

 

息吹、という呼吸がある。

 

腹式呼吸をする場合、吐くときには腹をへこませ、吸うときには腹を膨らませる。

 

息吹はその逆で、吸い込む空気を押さえつけるように息を吸いながら腹をへこませ腹圧をかける。

 

そうしてゆっくりと取り込んだ空気を、今度は腹を膨らませながら吐き出していく。

 

ゆっくりと、肺のなかから全ての空気を出していく。

 

水に浸した布から、一滴残さずカラカラになるまで絞るように。

 

サイゾウは早朝の森のなかで、ひとりこの呼吸を繰り返していた。

 

本気でやる呼吸というのは、それだけで体を暖める。

 

体を暖める為には柔軟体操や筋力トレーニング、走り込みといった行為でも代用できただろう。

 

しかし朝からそれらの行動でエネルギーを消耗するのも、無闇に移動するのも、忍としては憚られる。

 

それに、サイゾウ自身この息吹が好きだった。

 

自分のなかにある、モヤモヤとした不安や蟠り。

 

それらの一切合切を押し出していくようで、サイゾウは気に入っていた。

 

ふと、サイゾウの動きが止まる。

 

誰かの悲鳴。森の喧騒を勘違いしたのかとサイゾウは耳を澄ませる。

 

「西か…」

 

大体の方向を掴むと、サイゾウは瞬身と呼ぶにはいささか派手すぎる爆音とクレーターを残してその場を後にした。

_________________________

 

ひとりの女性が、幼い子供の手を引き必死に逃げ惑う。

 

その後を追うのは複数の忍。

 

霧隠れの里に所属する追い忍部隊。そのなかでも、女子供を捕らえて慰みものにするのを喜ぶ外道集団だった。

 

「へへ、どこまで走れるかな」

 

後ろから追う忍が、わざと母親の足を掠めるようにしてクナイを投げつける。

 

「あぅっ…!」

 

太ももを切り裂き、一筋の血と共に露になる柔肌を見て外道らは歓声をあげる。

 

「へはっ…!今日の獲物は活きがいいなぁ、おい!」

 

子供を傷つければ母親はすぐさま動きを止めてしまう。それをわかっている外道らは、幼い子供をあえて傷つけずに時間をかけて母親をなぶり遊んでいた。

 

「くくっ、あの綺麗な足は俺がもらうぜ!!」

 

「はっはっは!じゃあ目の穴は俺がもらうぞ!」

 

「お前アレ気持ちいいのかよ!」

 

「突っ込む度にビクビク動くのがたまんねえのよ!」

 

後ろから聞こえるおぞましい会話に母親はあちこちに切り傷をつけながらも懸命に走る。

 

きっと捕まれば、そのような目に遭うのは自分だけではないと。

 

見目が整った自分の息子も、きっと、いいや下手すれば自分以上に慰みものとして散々な目に遭わせられるだろうと母親が想像することは想像に難くなかった。

 

だがどれだけ必死に走ったところで、母親は所詮少し珍しい血を引いているに過ぎない。

 

余計な警戒心を煽らぬよう、チャクラを練ることすらしなかったことが憚られる。

 

「あっ…!」

 

とうとう、自分よりも先に子供が転んでしまう。必死に立たせようとするも、すでに幼い息子の体力が限界を超えていることを、母親は察していた。

 

だからこそ、子供を庇うように母親は立ちはだかろうとする。

 

「白、逃げなさい…!あなただけでも!!」

 

「いやだ、おかあさん!」

 

母が自分の身代わりになろうとしている。そのことを察した息子、『白』は泣きながら必死に立ち上がろうとする。

 

しかし無情にも、彼女らを追い詰める外道が幼い白の背を容赦なく踏み動きを止める。

 

「ひひっ、いいこと考え付いたぜ。その女の前でガキから“解体”してやる!できるだけ死なないように、少しずつ少しずつ、な!」

 

「いや…!お願い…わたしは、わたしはどうなってもいいから!その子だけは!!」

 

必死に懇願する母親の叫びに、外道らはさてどうしたものかと思案する。

 

“楽しみ方”は色々とあるが、こういった場合決定権は外道らをまとめる隊長にある。

 

なので子供の背を踏む男は判断を仰ぐ意味もこめて仲間に質問した。

 

「だとよ?さて、それじゃあなにをしてもらおうかな?」

 

それを皮切りに距離を置いていた隊長格の男が近づいてくる。

 

母親は覚悟を決め、無抵抗に両腕を下ろす。

 

しかし、外道らの手が母親に触れることはなかった。

 

「そうだな、通りすがりのハンサムにお礼のキスをする、っていうのはどうだ」

 

気安く母親の肩に手を置き、後ろから姿を現した男に外道らは困惑する。

 

彼らは性格こそ誉められたものではないが、それでも血継限界をはじめとした特殊な対象を相手取る一流の忍。その中でも選りすぐりの追い忍である。

 

そんな彼らが、目の前の男が接近することにまるで気づかなかった。

 

それだけで、外道らの警戒は最大まであげられる。

 

「…何者だ」

 

誰何(すいか)しながら、外道を率いる隊長格の男は違和感を覚える。

 

妙に気温が“熱い”のだ。

 

「だから、通りすがりのハンサムだよ。それで、戦力分析は済んだか?」

 

赤い瞳を見せつけるようにして浮かべたサイゾウの姿に、外道らは驚愕する。

 

「写輪眼…!うちはだとっ!?なぜ木の葉の忍がこんな場所に…!」

 

「うちはぁ?知らんなぁ…俺はただの通りすがりで、お前達は全員死ぬんだからな…!」

 

「…っ!?全員、ヤツの目を見るなっ!各自任意に散開!視界の外から畳み掛けろ!」

 

気温はますます上がっていく。

 

隊長格の男は子供を盾にしようと姿勢を低くする。

 

「残念、そいつは悪手だ」

 

「ぐ…くぎゃああああああっ!?」

 

しかし男は伸ばした手を、“いつの間にか”目の前にいたサイゾウに掴まれ、一息に握りつぶされた。

 

「…長かったぜ。お前達に会うのを今日まで待ち望んでいたんだ…偶然か必然かは知らんが、“楽に死ねる”と思うなよ…!」

 

「ひっ、ひいいいいっ!」

 

手首を握りつぶされた隊長格の男が無造作に上空へ放り投げられる。

 

腕の痛みも忘れ、空中でどうにか体勢を立て直そうと男はもがく。

 

「…《火遁・炎界》赤銅弥泥魚旋処(しゃくどうみでいぎょせんしょ)」

 

サイゾウの用意した人一人が入れる程度の大きさの結界。

 

あっという間に範囲内の大地を焼き尽くした場所に男は落ちてくる。

 

「あ、あづ、あぎゃ、だすげでぐれぇ…!」

 

落ちてきた男は炎界の中へと閉じ込められる。

 

すぐには死なない。温度は炎界としても最低限のものだが、あらかじめ仕込んだ火遁の魚が焼かれる男の体を少しずつかじっていく。

 

先程部下が言ったことを自分の身で体現した男は、10分ほどの時間をかけて焼き尽くされた。

 

…さて、この間部下の忍らが何もしていなかったわけではない。

 

外道らしく、隊長の救出を早々に諦めた彼らはサイゾウへ攻撃する者、その場を逃げ出そうとする者に別れた。

 

指示をする者がいない為攻撃は散発的なモノだったが、それでも各人が特別上忍に匹敵するだけの強さを持つだけはあり、その実力を過不足なく発揮していた。

 

だが、それらの攻撃はサイゾウが展開した黒い髑髏(どくろ)によって全て阻まれる。

 

「こ、攻撃がまるで効いていないぞ!?」

 

「アレは《須佐能乎》だ!生半可な術ではダメージすら通らんぞ!」

 

「俺に任せろ!《黒暗行の術》!!」

 

外道どもを視界に入れる為に見続けていたサイゾウは幻術をまともに受けてしまい、目の前が闇に閉ざされる。

 

「なるほど、写輪眼対策も知っていると。さすがは、と誉めてやりたいが、別に視界がなくとも《須佐能乎》の展開に問題はない。さらに言うなら…」

 

いつの間にか《須佐能乎》のなかへと保護されていた親子を気配で確認すると、サイゾウは僅かな音を拾い背後から攻撃しようとしていた外道を《須佐能乎》の手刀で突き刺し一撃で絶命させる。

 

「…このように、音があれば十分やれる。さて、次はどうする?」

 

骨組みを形成し終わった《須佐能乎》はそれだけに収まらず、次第にそのチャクラ体を筋繊維が覆い、人に似た見た目を形成していく。

 

「くそっ!強すぎる!!」

 

「逃げるしかない…!」

 

外道らが絶望を感じるなか、やがてサイゾウの《須佐能乎》は“完成”する。

 

山をも越える巨大な“悪鬼”。

 

黒いチャクラ体で構成された《須佐能乎》は、その額に親子とサイゾウを収め外道らを見下ろしていた。

 

「じ、次元が…違いすぎる…」

 

外道らは自分が見ている存在(もの)を信じられなかった。ひとりの忍がこれほどの力を持っているなど、まるで尾獣を扱う人柱力ではないかと。

 

「先に逃げようとした連中なら結界で阻まれているぞ。冥土の土産に覚えておけ、これが《完成体須佐能乎》だ。そして、貴様らはもうどこにも逃げられん…《火遁・“大”炎界》赤銅弥泥魚旋処!」

 

サイゾウの発動した術に従い、周囲四里を覆っていた火炎陣全体が炎を孕み、外道らを焼き、食い殺していく。

 

悲鳴をあげる追い忍部隊だったが、その姿も悲鳴も、やがて跡形も無く消え去るのであった。

 

《完成体須佐能乎》。

 

本来永遠の万華鏡写輪眼を手にした者でないと使えないはずの術を、サイゾウは使うことができた。

 

柱間細胞を完全に取り込んでから跳ね上がった瞳力の影響であるとサイゾウは考えているが、“使える”というだけで軽はずみに試す術ではなかった。

 

「ぐう…!」

 

全身に走るまだ未経験の七門を解いた際をも上回るであろう痛みに、サイゾウは思わずうずくまる。

 

「ちっ、防御には最適だが…これは容易には扱えんぞ」

 

痛みをこらえながらサイゾウは思わずボヤく。

 

「あ、あの…大丈夫ですか?」

 

心配そうに声を掛けてきたのは、先程保護した母親である。極上の美女についた未だ痛々しい傷のあちこちからは未だ血が滴っているが、それでもなおこちらを心配する優しさにサイゾウは思わず笑みをこぼす。

 

「…ああ、大丈夫だ。…“今度は”守れた。…それで十分、俺は満足だ」

 

思わずこぼした言葉に母親は理解が及ばず首を傾げるが、サイゾウの意識はすでに混濁し始めていた。

 

「くっ…!…すまないが、少し寝る。…分身を残しておく…できるだけ、ここを離れて…」

 

サイゾウは最後の力で《竹遁分身》を四体作り出し、その場で意識を失った。

 

_________________________

 

 

柔らかな感触と温もりを感じながら、サイゾウは目を覚ました。

 

「…ここは」

 

「あ、気がつかれましたか?実はわたしもあまり詳しくわからなくて…えっと、分身の方に担いで運ばれてきたのはわかるのですけど…」

 

母親が向けた視線の先を見れば、すでに人の形をした竹細工となった分身が転がっている。

 

それを見て、練ったチャクラからおおよその時間を計算したサイゾウは、自分が思ったより眠っていたことに気づく。

 

「半日近く寝ていたのか…それにしてもここは…なるほど。大蛇丸先生の隠し拠点のひとつか」

 

竹遁分身によって連れてこられた場所は、かつて戦争中どさくさ紛れに師匠である大蛇丸と共に築き上げた拠点のひとつだった。

 

たっぷりチャクラを籠めた竹遁分身を掃除要員として残していたはずだが、すでにその分身も力尽きており部屋全体がやや埃っぽい。

 

「ぐ…!」

 

膝枕されていたことに気づき、いまだ母親の包帯が新しいことから起き上がろうとしたサイゾウだったが、思った以上のダメージに体がうまく動かないことに気づく。

 

それもそのはずだった。ミナトの仇を追い、各国を文字通り駆け回っていたサイゾウ。

 

たしかに拠点として大きな街などを利用していたが、それでも一週間あればその内の半分は各地で集めた情報を元に盗賊や抜け忍を追い、あるいは情報収集として戦場の跡地にある破棄された拠点などを調べ回っていた。

 

それらの疲れがまともに癒せたことなど、この二年間ほとんど無く、綱手とシズネを押し倒した一夜が唯一体を休めた日と言っても過言ではなかった。

 

そこへ来てただでさえ全身の細胞に負担をかける《須佐能乎》を使ったうえに、その上位である《完成体須佐能乎》を使ったのだ。

 

如何に大蛇丸との実験で種々の改造を施し超人的な肉体を持つサイゾウといえど、動けなくなってもおかしくはなかった。

 

(…すこし無理をし過ぎたか。チャクラすら殆ど練れないとは…)

 

今の状況で襲われればひとたまりもないな、とサイゾウは考えながら、せっかくなので助けた美人と会話することにした。

 

精神エネルギーの回復にはもってこいの美女がいるのにナニもできない自分が不甲斐なかったが。

 

「それで、今さらだがなぜ襲われていたんだ?『クウウ~』…まずは食事だな」

 

鳴ってしまった空腹の音に、目の前の美女は恥ずかしそうに俯く。

 

それに可愛さを感じながら、サイゾウは非常食のある場所を女性に指示して携帯食を持ってこさせる。

 

膝枕から下ろされ、石畳を必要以上に冷たく感じる。

 

「悪いが火も起こせそうにない…不味いとは思うが、我慢して食べてくれ」

 

サイゾウは言いながら、さて自分はどう食べるかと考える。

 

すると、そんな状態のサイゾウの様子を察したのか、彼女の子供がサイゾウに近寄ってくる。

 

「おじちゃん…はい」

 

「おお、悪いなお嬢ちゃん」

 

サイゾウは無理矢理上半身を起こすと、差し出された固形の携帯食をかじる。おじちゃんと呼ばれたのはこの際スルーだ。

 

さらに乾燥した携帯食を食べたことで水が欲しくなると、子供は水を入れたコップを差し出し、サイゾウが飲むのに合わせて傾けてくれた。

 

「…ぷはぁ、ありがとうよ。それにしても美形だな、10年もすればとんでもない美女になるぞ。あ、いや、貴女も十分過ぎるほどに美女だぞ。体が動くならこの場で押し倒したいくらいだ」

 

サイゾウは水を飲み干すと再びコップを差し出すタイミングを待つ子供の顔をまじまじと見ながら、そう呟く。

 

「あら、そんなこと申されては困りますよ。その子は白、と申します。うふふ、それでも男の子なんですよ」

 

たおやかに片手で口を塞ぎながら答える母親。

 

サイゾウは目の前の子供が男だということに驚きを隠せない。

 

「なにぃ!?じ、人類の神秘だな…いやはやとはいえ、下手な美女より美人になるのは間違いないか」

 

ふむふむと頷きながら、サイゾウは時折差し出される携帯食を食べる。

 

やがて、食事を取ったこともあってか安心した白が眠ると、サイゾウは改めて母親に向き直る。

 

「助けるつもりがとんだ世話になった。改めて、礼を言う。ありがとう」

 

深々と頭を下げるサイゾウに白の母親『雪花(せつか)』は慌てる。

 

「そんな…!助けられたのはわたしたちの方です!どうか頭を上げてください!」

 

「ははは、すまんな。なにぶん俺みたいな生き方をしていると、謝礼はすぐ口にせねばいつ死ぬかわからんのでな。まあ、まだ死ぬつもりはさらさら無いが」

 

からからと笑うサイゾウにつられて雪花も思わず表情をほころばせる。

 

自分を助けた、恐らくは木の葉の忍の男。

 

これまで自分の血を恐れ、ただ怯えるだけだった日々を、目の前の男なら変えてくれるかもしれない。

 

雪花は眠る白をちらりと見ると、向き直ってサイゾウへと近づいていく。

 

「…サイゾウ殿、お願いしたいことがございます」

 

どこか追い詰められたようなその様子に、サイゾウは少し警戒しながらもしっかりとその目を見つめる。

 

「言ってみな。大半の願いなら何とかしてやる。…ただし、タダじゃないぞ」

 

「…はい。わたしの体、お気に召すかはわかりませんが、好きにしていただいて構いません」

 

「なに?…あ~、そうか、そうだよな。この状況だったらそういう意味にしか聞こえないよな。いや違うんだ、別に俺は後で返してくれるなら金銭的な融資ならいくらでも…」

 

慌てて言い直すサイゾウの唇を、雪花はそっと己の手でふさぐ。

 

「もう、女が“いい”といっているのですから。そこは“うん”と頷いていただければいいんですよ」

 

艶然と微笑む雪花の顔に、サイゾウは吸い込まれるような錯覚を覚える。

 

これまで抱いたなかでも特上の美女に微笑まれ、サイゾウの股間は一気に臨戦態勢へと変わっていった。

 

「まあ…!すごく、ご立派なモノをお持ちで…」

 

照れながらもその視線は股間から離れようとしておらず、サイゾウが動けないのをいいことにオズオズとしながらもしっかりと彼の逸物をその白魚のような指で握りこむ。

 

「…で、では、失礼しますね」

 

少々躊躇いがちに、しかし行動ではっきりと興奮した様子がサイゾウに伝わってくる。

 

サイゾウ自身は

 

(たまには攻められるのもいいなぁ…)

 

程度に考えていたが。

 

「…ん、んむ、ちゅる、れろ、むちゅ…」

 

ゆっくりと、どこかたどたどしい仕草で雪花は口にて奉仕する。

 

溜まった垢や汚れを、まるでいとおしむように舌ですくい、口に含み、サイゾウ自身への献身をもって彼を昂らせていく。

 

サイゾウはといえば、そこまでされても自由が効かない体に段々と苛立ってきていた。

 

(情けない…!これでも『種馬』とまで呼ばれた男か!)

 

サイゾウは雪花に気づかれぬよう心中で己を叱咤し、静かに全身の消耗し尽くした経絡系を把握していく。

 

消耗の果てに弱りつくした経絡系は、まるで柔拳を受けてチャクラを練れないときに似ていた。

 

(なるほど、であるならば…《八門遁甲》第二門・生門…開!)

 

八門遁甲によってこじ開けられたチャクラ穴に無理矢理チャクラを流すことで、取り込んだ柱間細胞を活性化。無理矢理に自分自身を回復させていく。

 

「ん、んむう…!」

 

するとサイゾウの股間にも変化があった。

 

具体的には逸物のサイズが1.5倍になった。

 

思わぬ急成長に雪花は喉を詰まらせ、むせかえる。

 

回復したサイゾウは咳き込む雪花の背中を撫でると、そのまま極自然な動作で背中を撫でながら服を脱がせていく。

 

気づいたときにはもう遅く、雪花は突然動けるようになったサイゾウに驚く間もないまま唇を奪われる。

 

雪花は亡き夫と比べながら、未体験の口付けに心奪われとろけていく。

 

「ふきゅう…!」

 

そうして文字通り身も心もとろかされた雪花は、不意打ちを受けるような形でサイゾウの逸物を迎えていた。

 

さきほどまで体の自由が効かない男だったとは思えぬほどに、サイゾウは激しく対面座位の体勢で雪花を突き上げていく。

 

「んん…!ふきゅ…!…ぁぁっ、んぅぅ…!」

 

雪花はといえば、自分の体を走る快感ゆえに漏れそうになる声を必死に手で押さえていた。

 

もはや自分が本当に声を抑えられているのかさえわからない。

 

そんなことを思いながら、雪花は達するのと同時に気を失っていた。

 

_________________________

 

 

朝。

 

これまでにないほどスッキリとした目覚めだったことに驚いた雪花。

 

自分の身の回りがキレイに整っていることから昨夜の出来事は夢だったのではと考え、しかし自身の胎内(なか)に残る“熱”がそれを事実だと強調するように疼かせた。

 

「よ、起きたか」

 

「あ…は、はい」

 

爽やかに挨拶するサイゾウの顔をまともに見れぬほどに雪花は照れくさい気持ちになり、思わずといっていいほど赤くした顔色のまま俯いてしまう。

 

「朝飯を作っておいた。それと、お前たちのこれからの身の振り方を説明しておく」

 

雪花はその言葉にはっとなり、サイゾウと向き合う。

 

「俺の師匠にあたる方が、近々新しい里を作ろうと動いている。俺の分身を案内につけるから、それと一緒に向かうといい」

 

「サイゾウ殿は、来てくださらないのですか…?」

 

儚げに問いかけられ、サイゾウは気まずそうな顔になる。

 

「…そんな顔をしないでくれ。いささか無責任かもしれないが、俺の側にいればいずれは戦いに巻き込まれることになる。そんなことで情を交わしあったお前を失いたくなどないからだ。わかってくれ」

 

雪花はサイゾウの言葉にしばし残念そうに俯くが、困らせても仕方がないと自分を納得させる。

 

「わかりました。重ね重ねご迷惑をおかけしますが、その分はどうかまたお会いしたとき、存分にわたしを堪能してくださいませ」

 

「ははっ、それはいい。…次は気絶した程度で終わらせんぞ」

 

挑発するつもりでサイゾウに言った雪花であったが、逆に耳元で囁かれ、背筋をぞくりと震わせ顔を赤らめてしまう。

 

ズルい。雪花はそう思う。

 

夫に操を立てたつもりはないが、短い時間でこうも心を奪われるとは思ってもみなかった。

 

雪花はせめて、彼と再会するまでに女としての魅力を落とさぬよう誓うのであった。

 

 




白という男の娘もバッチ来いな作者ですが、皆さんの好みはまた別だろうと愚考し
「逆に考えるんだ。親子丼すればいいって考えるのさ」
という紳士の導きを受け、主人公の性格などから考えオリキャラの母親登場と相成りました。
親子丼はしません。なので再不斬さんは犠牲になってません(笑)
一応味方サイドで登場予定です。
後序盤の息吹に関しては、空手の息吹を参考に自分なりに考えたものですので、正確な知識をお持ちの方がいたら教えてください( ̄▽ ̄;)

補足★説明

《火遁・炎界》赤銅弥泥魚旋処(しゃくどうみでいぎょせんしょ)
元ネタは同名の地獄から。かつて己に地獄を見せた相手に文字通り地獄を味合わせるため開発した術。
ひたすらにエグいので、外道らが食われていく描写を大幅にカットしました(苦笑)

《竹遁分身》
木遁分身と大体同じ。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

うちはマダラ ① ★

連続投稿ひとつ目。

まとめ直してたら結局合計20000文字越えたので分割して投稿します。




四方の殆どを結界仕込みの石壁で囲まれた部屋の中に、木の葉における最高戦力といっても過言ではない面子が集まっていた。

 

まずは3年前の九尾事件を契機に現役復帰し、今もなお他里から恐れられる『万能』三代目火影猿飛ヒルゼン。“ある理由から”ここ3年ほどで急激に痩せ衰えてはいるが、その眼光は戦時中をすら上回る覇気を見せつけている。

 

次に『忍の闇』と呼ばれた男、志村ダンゾウ。

ここへは無理矢理連れてこられたことと、これまで自分の立てた作戦を悉く邪魔してきたサイゾウが目の前にいるとあってやや殺気だっている。

 

そんなサイゾウを庇うように腕組みして立っているのは、千手綱手。『伝説の三忍』に数えられる忍世界全体を通しても最高峰の医療忍術の使い手であり、単純な戦闘力においても“影”クラスの戦闘力足り得る“腕力”を備える女傑である。

 

さらにそれだけではない。

 

『瞬身のシスイ』。現役のうちは一族のみならず、木の葉における最速の忍であり、うちはサイゾウの少々歳の離れた弟である。また万華鏡写輪眼の開眼者であり、その瞳力は相手に気づかれることなく幻術にかけることが可能なほど強力で、その瞳に宿った最強幻術《別天神》はあらゆる幻術を“上書き”してしまうほどの効力を発揮する。

 

そして、少し遅れてやってきた男。

白塗りの肌に蛇を思わせる青紫の隈取りをした、綱手と同じく『伝説の三忍』に数えられる男、大蛇丸である。戦時中残虐の限りを尽くし、最近ではその目に余る所業が火影に露見し木の葉を出奔した、と表向きはされていたが、実態は先日までテロ組織である暁への潜入任務を行っており、今回弟子であるサイゾウのたっての願いから木の葉に舞い戻った。

 

綱手と同じく大蛇丸もまたさりげなくサイゾウを庇う位置取りに立っている様子を見て、ヒルゼンなどは

 

「あの大蛇丸が…」

 

と驚いていたりもする。

 

そして、この場所はうずまきナルトが生まれた場所であり、ヒルゼンの妻ビワコが殺された場所でもあった。

 

穢土転生に使用する生け贄、強力な幻術で仮死状態にした盗賊らをサイゾウは口寄せする。

 

「…さて、準備は整いましたね。大蛇丸先生、触媒をいただけますか」

 

「待ちなさいサイゾウ。万が一に備えて、あたしは別の口寄せを担当するわ」

 

「別の?」

 

「ええ、まあ状況的に敵にはならないでしょうしね」

 

「なるほど…」

 

そう言って笑う大蛇丸を見て察しがついたサイゾウは同じく笑みを浮かべる。

 

「…ヒルゼン、この状況が我らを謀殺する企みであった場合、どのようにして責任を取るつもりだ」

 

「無論、死ぬしかなかろうな。元より今のワシらでは大蛇丸はおろかサイゾウの遥か格下だ。だがそんなことを今に至って心配する辺り…お主、人を見る目が衰えたか」

 

「なんだと!」

 

「ふっ、それでいいダンゾウ。お前はそうやって、“俺”に噛みついてくるぐらいでちょうどいい…もしお前が余計なことをするなら止めてやる。火影としてではなく、“友”としてな」

 

「…!?どういうつもりだ、ヒルゼン」

 

苛立ちを隠そうともせず告げるダンゾウに、ヒルゼンは至って冷静なまま答える。ここに至ってヒルゼンが自分を友と呼んだことに、ダンゾウは疑心よりも先に不穏がよぎった。

 

「…少し無理をし過ぎたせいかな、ワシはもう長くない。綱手の診断によれば、あと一年保てばいいほうだそうだ」

 

「なに!?」

「なんだとっ!」

「…妙に弱っていると思ったらそういうことだったとはね。綱手、その話は本当?」

 

ダンゾウとサイゾウは驚き、大蛇丸は内心の動揺を隠しながら綱手に確認を取る。

 

この場で驚いていないのは、3年前から火影直属の暗部となり、つい最近ヒルゼンから直接知らされていたシスイだけだ。

 

「…なにもこんなタイミングで言わなくていいだろうに。ああ、末期ガンだ。…正直、手の施しようがない」

 

うつむく綱手の診断に、この場にいる全員が理解してしまう。

 

そう遠くない内に、三代目火影が死ぬのだということを。

 

そして告げられた言葉に最もショックを受けたのはダンゾウだった。忍の闇とまで言われた男が動揺をまるで隠せず、唇を戦慄かせ困惑している。

 

「大蛇丸先生、俺の変異した柱間細胞は使えませんか?」

 

「…無理ね。あれは、柱間細胞はそもそも普通六道仙人の直系でなければ制御することすらままならない代物よ。猿飛先生の弱った体にはあんなもの毒にしかならないわ。むしろ、平然とアレを制御するどころか、完全に自分のモノにして取り込んでるあなたが異常なのよ」

 

サイゾウと大蛇丸はなにか手はあるはずだと考える。しかしその思考を止めたのもヒルゼンだった。

 

「よい、もう済んだことだ。ワシが死ぬのは変わらん。なればこそ、せめて“影”として出来ることをするまでよ」

 

泰然としたヒルゼンの様子に、その場にいる全員が呑まれる。

 

死を目前にして、ヒルゼンの醸し出す覇気はこの場にいる全員を上回っていた。

 

「…なぜだ、なぜお前が死なねばならん!そうならぬように…!その為にこそ俺は“闇”とまで呼ばれたのだぞ!」

 

血を吐くようなダンゾウの叫びだった。

 

長い戦乱の繰り返しのなかで、ダンゾウは“影”よりも深い“闇”として、ヒルゼンを、木の葉を支えてきた。

 

火影になるという夢こそ未だ捨てきれずにいたのも、そうすることでヒルゼンを奮起させるのがそもそもの目的だったのだから。

 

「…ああ、お前には苦労ばかり掛けたな。そのせいで随分と、やりたくないことばかりさせてきた。だからこそ言おう。此度のマダラの口寄せ、万が一ヤツが穢土転生を振りほどいた場合、真っ先に死ぬべきは我らだ。枯れた木の葉は、新たな芽を育てる滋養となる。…あのときは二代目様を助けられなかった。だから、“次”は俺達の番だ」

 

力強く語る、死にかけの親友の言葉に、ダンゾウは言葉を返せない。

 

すれ違うばかりだった数十年来の友が、今ともに死のうと言ってくれることが、何故かダンゾウをたまらない気持ちにさせてくれていた。

 

「…わかった。元より俺の命は里の為にある。それを使うことに、何の躊躇いもないさ」

 

一瞬。ほんの僅かな間だが、その場にいる全員が若かりし日のふたりの姿を幻視した。

 

「…綱手、一応後でカルテを見せてちょうだい。何かできることがあるかもしれないわ」

 

「…わかった」

 

「サイゾウ、死人を自由にさせるんじゃないわよ。完璧に制御してみせなさい」

 

「指ひとつ自由にさせません、と言いたいところですけど…正直不安ですね。なので大蛇丸先生“アレ”を使います…!」

 

「ええ、よくってよ」

 

ダンゾウとヒルゼンは自然と綱手とサイゾウに指示を出す姿を見て、今の大蛇丸なら火影としてもやっていけるだろうと期せずして同じことを思う。

 

「…だが、それをもたらしたのは」

 

「ああ、癪だがあの種馬だ。…伝説の三忍全員から支持を集めるなど、尋常ではない」

 

その様子を見て密かに会話するヒルゼンとダンゾウ。

 

三忍はその性格も性質も正しく三者三様である。

 

自来也はこの場にいなかったが、彼はサイゾウに頼まれてナルトの護衛に就いていた。

 

…ちなみにサイゾウに女遊びを教えたのは彼である。

 

今では幼いナルトにすっかりほだされ、スケベ親父から単なるジジ馬鹿と化していたが。

 

ちなみにこの機に乗じてナルトを狙う存在がいることを伝えると、まさかの仙人モードで待機中であった。

 

「ハアアアアァァァァァッッッ!!!」

 

サイゾウが気合いを入れると、その様相が変わっていく。

 

肌は浅黒く変化し、額からは三本の角が生え鬼を思わせる形相へと変身していく。

 

「体術、忍術、幻術…ほとんど全部使いこなせるサイゾウだけど、彼が元々体術が苦手だったのは意外と知られてないわ」

 

サイゾウの変貌に驚きを隠せない全員に言い聞かせるように、大蛇丸は語り始める。その言葉に驚いたのはシスイだ。

 

「兄さんが体術を苦手?はじめて聞きましたよ、それ」

 

「これまで必死に隠してきたのよ、カッコ悪いからって。それでもこの子は文字通り“たゆまぬ努力”ですべてをモノにしてきた。…元から才能があったと言ってしまえばそれまでだけど、この子が全身に血を滲ませながら修行していたのを知っているのは、わたしとミナト、それと今はもう死んだマイト・ダイだけよ」

 

どこか誇らしげに語る大蛇丸。

 

その間にもサイゾウの様子は変わっていき、それに合わせて肌に感じられるほどにサイゾウのチャクラも高まっていく。

 

「けど、仙術だけは違った。相性がよくなかったのか、何度やってもまともに自然エネルギーを得ることすらできなかったわ。…けどある日、わたしが保護した血継限界のなかに“仙人の力”と呼ばれるモノを使う子が現れたの。調べてみると、彼らの一族…といってももう生き残りはその子しかいなかったけど、彼らは先天的に“仙術チャクラ”を宿す一族だったの。わたしはそれを研究して、わたしの仙術チャクラを『呪印』としてサイゾウに付与する方法を確立したわ。ただし、ある衝動と引き換えにね」

 

「ある衝動?」

 

先程に続いていち早く変貌する兄という衝撃から立ち直ったシスイが大蛇丸に尋ねる。

 

「ええ、殺戮衝動とでもいうのかしら。“とにかく目の前にあるものすべてを殺さなければ気が済まなくなる”…かつてわたしの前でこの状態になったサイゾウが口にしていたことよ」

 

その言葉にヒルゼンとダンゾウは警戒を露にするが、大蛇丸はそれを一笑に付す。

 

「ダンゾウ様、それに猿飛先生。警戒するのもいいけど、あの子がそれを承知していないと思う?とっくの昔に克服しているわ。不思議なくらいにあたしのチャクラは吸収されて、今では立派なあの子の能力よ。といっても、相変わらず自分で練ることができないから定期的に補充する必要があるんだけどね」

 

腕を組み、まるで問題ないとばかりに大蛇丸が自身をサイゾウの前にさらけ出せば、ヒルゼンやダンゾウとて無理に責めるわけにもいかない。

 

「…大蛇丸先生、あまり人の恥ずかしい過去を勝手に話さないでください。さて、みなさんお待たせしました。これで下準備は十分ですかね?」

 

もし六道仙人の姿を知る者が見れば変化の終わったサイゾウの姿に驚いたであろう。

 

それはまさしく、仙人の力を得た大筒木一族の姿に酷似していたのだから。

 

強力な仙術のチャクラを自らに体現したサイゾウの気迫に、一同は気圧される。

 

「あともう一手間よ。《口寄せ・穢土転生の術》!」

 

大蛇丸が印を組み、生け贄となった盗賊に口寄せをする。塵が集まり、浄土から口寄せした対象が生前の姿を取り戻していくにつれ、ヒルゼンとダンゾウはまさかと慌てる。

 

「…む、これはどうしたことか。…おお!猿ではないか!その姿を見るに、里は長く続いておるようだな!」

 

はじめに言葉を発したのは初代火影千手柱間。

 

『忍の神』と呼ばれ、かつて起きた血みどろの戦乱を一度終わらせた男である。

 

「…これは穢土転生か。ワシらを呼び戻すなど、一体何事が起きたというのだ」

 

次に言葉を発したのは二代目火影千手扉間。冷静に現状を分析し、早くも自分を穢土転生させたのが大蛇丸であることに気づいている。

 

「お、大蛇丸よ、これはいったい」

 

「…本当はダンゾウ様への牽制と、万が一マダラが制御を振りほどいた場合に備えてお二人を穢土転生させるつもりだったのよ。ま、ダンゾウ様はあてが外れたけど」

 

あっけらかんと言う大蛇丸だが、その手はしっかりと印を組んでおり、先代の火影といえど下手な動きをさせるつもりがないように見える。

 

「ダンゾウを…?サル、事情を説明せい。それに聞き捨てならぬ名前を聞いたぞ。マダラがいったいどうしたというのだ」

 

厳しく詰問する扉間に、ヒルゼンはやや慌てる。

 

仕方なくダンゾウは、手短に説明することにした。

 

 




とりあえず穢土転生第一弾は柱間&扉間おじいちゃん。

どんでん返しのはじまりです。

そして実は死にかけヒルゼンおじいちゃん。
さて、本当に彼は死ぬのでしょうか(棒読み)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

うちはマダラ ② ★

連続投稿ふたつめ。リドリーさん、いつも誤字報告ありがとうございます( ̄▽ ̄;)

今回は黒歴史を暴露されるマダラおじいちゃん(´・ω・`)



「…なるほどな。それで犯人がマダラであれば、そもそも口寄せはできず、仮に口寄せできてもヤツは何らかの形で関わっている可能性が高いと。そういうことならまだわからぬでもないが…わしは賛成できん」

 

「お気持ちはわかります。ですが、あの事件。単独で起こすには不可解なことが多すぎます」

 

二代目火影千手扉間は顎に手をやり、サイゾウの考えた策を検証する。

 

悪い考えではない。相手が“うちはマダラ”ということを抜きにすれば。

 

「だが、マダラが素直に話すとは思えんぞ。それにヤツの万華鏡写輪眼…特に《天照》をどうやって対処するつもりぞ」

 

仮に穢土転生した者の手足を縛っても、瞳に意識を集中するだけで発動する万華鏡の瞳力はどうにもならない。柱間は暗にそう言っていた。

 

「それも問題ありません。俺の万華鏡写輪眼の瞳力《闇満羽(くらみつは)》は、あらゆる術を構成しているチャクラごと分解します。マダラがどんな瞳力を操ろうと、すべて無力化するだけです」

 

本当はもうひとつあるが、あえてサイゾウは片方だけを告げる。

 

「トドメに俺の万華鏡写輪眼…最強幻術《別天神》でマダラの意識を縛れば、ヤツの知る情報をすべからく知ることができる、というわけです」

 

兄の後に得意気な顔で続いたシスイは、自らの瞳力を説明する。

 

「なあサイゾウとやら、お主変わったチャクラをしておるのう。もしや両親のどちらかが千手ぞ?」

 

「ああ、俺の祖母がうずまき一族なので、たぶんそのせいですよ。あとは俺、あなたの細胞を取り込んでいるので。木遁を使えるはずが、なんでか竹しか生えてこないんで竹遁と呼んでますが」

 

「竹遁とな!?はっはっは!お主面白いやつぞ!確かに言われてみればオレの細胞に似たチャクラぞ!まさかオレの細胞を取り込む者がいようとはな!」

 

柱間は自分の細胞を取り込んだサイゾウがよほど面白いのか、呵々大笑とばかりに大笑いしながらサイゾウの肩をバンバン叩き話し続ける。

 

矢継ぎ早に質問されるサイゾウはそんな柱間の様子にたじろいでいた。

 

また、一方でしんみりとした雰囲気になっていたのは扉間だ。

 

「…そうか、サル…いやヒルゼン。お前には苦労ばかり残してしまったようだな」

 

扉間は死してなお明敏な自分の頭脳を呪った。

 

考えたくなくとも、あそこで自分が死ななければもっと良くできたのではという思考が止まらない。

 

「いいえ、俺が不甲斐なかったばかりに…カガミを犠牲にしました…思えばあのときから、俺達はどこかズレるようになってしまっていた…」

 

ダンゾウはまるで毒気が抜けたかのよう表情でその場に座り込んでしまっていた。その様子にヒルゼンが肩に手を置き、慰めている。

 

「そう何もかも背負おうとするな、ダンゾウ。…カガミはあれで、常に一歩引いてお前たちを見守っていた。そのカガミが自分を犠牲にしたというならば、それはきっと必要なことだったのだろう」

 

そんな二人をよく知る扉間は、死を目前にしてようやく火影らしくなれたと語るヒルゼンを見ながらカガミのことを口にした。

 

うちはカガミ。

 

うちは一族の忍にして、二代目火影千手扉間の弟子のひとり。

 

その愛情深い性格は里すべてに向いていたが、なによりも彼の愛は自らの仲間たちに向けられていた。

 

猿飛ヒルゼン、志村ダンゾウ、水戸門ホムラ、うたたねコハル、秋道トリュフ。

 

仲間を、里を守ること。

 

それは彼に最愛の娘が生まれてからも変わらなかった。

 

しかしある日彼の娘が任務中敵に捕まり、返してほしくばカガミの写輪眼を渡すように迫られたことがあった。

 

カガミ自身は万華鏡ではなかったものの、その優れた幻術は彼の写輪眼がゆえだと思われていたからだ。

 

そして向かおうとするカガミを止めたのは、他ならぬダンゾウだった。

 

「みすみす敵に写輪眼が渡るくらいならお前の娘は殺す。お前にそれはできんだろう」

 

そう断じた。このときダンゾウは戦死した秋道トリュフの穴を埋めるべく、必死で謀略を練っていた最中だったことも災いした。

 

カガミはそんなダンゾウの言葉を受けて、なにを言うでもなく、ただ悲しげな笑顔だけを残した。

 

翌日。

 

カガミの娘は帰還した。無断で出撃したカガミは帰らなかった。

 

娘いわく、敵を足止めするために《穢土転生》による《互乗起爆札》を用いて敵もろともに死んだと、ダンゾウは聞かされた。

 

ダンゾウは足下が崩れるような錯覚を覚えた。

 

娘を殺せ、と言った自分の言葉を否定しなかったカガミ。

 

もし自分が声をかけるだけでなく、はじめからカガミの娘を殺すつもりだったならば、結果は違ったはずだった。

 

仲間を気づかったはずの自分の言葉が、仲間を死なせた。

 

そのことは強く、強くダンゾウの心を打ち据えた。

 

その日からダンゾウは変わった。一握りの心をねじ伏せて、個ではなく全を生かす者として、忍として生きることを、あの日悲しげな笑顔を自分に向けたカガミに誓った。

 

こうして『忍の闇』が生まれた。

 

「おじい様、おおおじ様も、積もる話はあるのでしょうが、それは一旦後にしましょう。今は、マダラの穢土転生を」

 

どこか変わってしまった空気を、綱手が引き締める。

 

「そうね、早く終わらせてしまうほうがいいわ。語らいは後程にでも。サイゾウ、さっさとマダラを口寄せするわよ」

 

大蛇丸の言葉に待機していたサイゾウは気合いを込め直す。

 

「わかりました。念のためみなさんはマダラの視界の外にいてください。《口寄せ・穢土転生の術》!」

 

そうして最後の生け贄に魂が宿り、塵が集まり姿を変えていく。

 

大戦の時代。最強を二分し、未だ衰えぬ恐怖を各国に振り撒く大敵。

 

『うちはマダラ』が、その姿を露にしていく。

 

「…ようやくか。オビトめ、長門のガキを…どういうことだこれは?」

 

塵で構成された自分の手を見下ろしていたマダラは、自身を囲む気配に気づき殺気をあらわにする。

 

が、すぐにその殺気は治まることになった。サイゾウによる“縛り”を受け、一歩も動けなくなったのだ。

 

「術者はきさまか…《天照》!」

 

「《闇満羽》!!」

 

生まれた黒い炎がサイゾウを焼き尽くさんと虚空から現れ燃え上がるが、即座に自身の瞳力を発動させたサイゾウによってそれは防がれてしまう。

 

「諦めよマダラ。何を企んでいるかは知らんが、お前の悪巧みもここまでぞ」

 

「…やはり柱間か。おい小僧、貴様いったい何者だ。俺どころか柱間まで穢土転生するなど、並の術者ではないな」

 

本当に動けないのか疑問に思うほどに堂々とマダラはサイゾウに問う。

 

しかし口調とは裏腹にその顔は笑っており、なにかを期待しているようにも見える。

 

シスイはそんなマダラへ問答無用に《別天神》を使おうとするが、その動きはサイゾウによって阻まれる。

 

「…すまないシスイ。まずは一度だけでいい、腹を割って話がしたい」

 

シスイははじめから兄が《別天神》を使うつもりがなかったことにそのとき気づいた。

 

この兄は、目の前の英雄と真正面から話し合うつもりなのだと。

 

そして《別天神》を使わなかったことにシスイが驚いていると、サイゾウは一歩進んでマダラに自分を紹介し始めた。

 

「俺は“うちは一族”のうちはサイゾウだ。…まずはあんたに礼を言っておきたい」

 

「礼だと…?」

 

まるで見当のつかないマダラは素直にサイゾウへ問う。その言葉に驚いたのはマダラを囲む一同も同様のようで、静かにサイゾウの言葉を待つ。

 

「ああ。あんたが残してくれた『秘伝・うちは式避妊術』と『超秘伝・うちはマダラ考案房中術~虎の書~』は丸暗記するほど読み込ませてもらった。あんたがどんだけスケベだったかは知らないが、あんたのエロにかける情熱…俺が受け継いだ!だから言わせてくれ、ありがとう!」

 

完全に予想外の方向に向かったサイゾウの言葉に扉間は吹き出し、大蛇丸も肩を震わせている。

 

「マダラ!お主あれほど捨てたとか言っておきながらやっぱり残しておったのか!しかもお前考案の房中術なぞオレも知らんぞ!」

 

真っ先に反応した柱間は真面目な顔でマダラを詰問する。

 

「黙れ柱間ぁ!!!サ、サイゾウとやら、その書物、厳重に封印して処分…いやダメだ、今すぐ持ってこい!《天照》で焼いてやる!」

 

どこか焦った様子でサイゾウへ詰問するマダラの様子に、笑っている者を除いて置いていかれているのはヒルゼンとダンゾウであった。シスイは予想外の方向へかっ飛んだ兄の言葉に頬をひくつかせている。

 

同じ時代を生きた柱間と扉間はまだわかるが、あのマダラを前にしてサイゾウの胆力恐るべしである。ちなみに綱手は呆れている。

 

「…わしも死ぬ前にお宝は処分しておくか。裏四象封印でいいかのう…」

 

「…お前その年でまだ持ってたのか。封印手伝ってやるから俺にも一回読ませろ…」

 

とはいえ何だかんだマイペースに会話できるのだから、この老人らもさすがの傑物であった。

 

「さて、あんたの黒歴史を暴露するのはこの辺にして、質問したいことが山ほどある」

 

混沌とした空気を再びサイゾウの言葉が変える。

 

「まずはあんたがさっき口にした名前だ。長門にオビト。前者は知らないが、後者の名前は俺もよく知っている。オビトの小僧はあんたみたいなヤツの部下には絶対になれん…と言いたいところだが、正直あの子が闇に落ちる“原因”に心当たりはある…だから聞きたい。3年前、九尾を口寄せして里を襲い、俺の友である波風ミナトとその妻クシナをはじめとした木の葉の忍を多数殺してのけたのは、“あの”オビトなのか…?」

 

痛いほどの沈黙がその場に落ちる。

 

そのなかで、マダラはゆっくりと口を開いた。

 

「…そうだ、と言ったらどうす」

 

最後まで言わせることなく、マダラの顔をサイゾウは殴った。

 

それはサイゾウを知る者が見たならば、違和感を覚えずにはいられないほどに弱いものだった。

 

しかしマダラにとっては違ったらしく、少々呆然としている様子を柱間が珍しいものを見たような表情で眺めている。

 

「…俺は、あんたを尊敬している。例えどれだけあんたが悪逆非道を行おうと、あんたは“うちは”の為に戦ってきたからだ。なのにどうして…!あの子に闇を生きるようなことをさせたんだ!!」

 

それは哀しみの叫びだった。涙は流さずとも、人は泣けるのだなと。マダラは場違いなことを考えた。

 

「それがヤツの望みだったからだ。《無限月読》を発動させる為に必要な犠牲だったと言えば、お前も少しは納得するか…?」

 

マダラはまるで幼子に諭すように丁寧な口調でサイゾウへ話しかける。

 

「《無限月読》だと…?あんた、あのお伽噺みたいな内容を本気にしてるのか!?」

 

「ちょい待てふたりとも。その《無限月読》とはそもそもなんぞ?」

 

サイゾウとマダラのふたりだけで進んでいく会話に柱間が待ったをかける。

 

その疑問に答えたのは大蛇丸だった。

 

「《無限月読》というのは、うちはの古い石碑に残る言い伝えよ。月に写輪眼を写し、世界中全ての人を“理想の世界”という名の幻術に閉じ込める、いわば究極幻術とでも呼ぶべきものかしら。けれどあれは…っ!そういうこと…」

 

「どうしました大蛇丸先生…っ!まさか輪廻眼とは…!?」

 

なにかに気づいた様子の大蛇丸にサイゾウが疑問の声をあげながら、自身もまた同じ結論に至る。

 

「うちはマダラ。あなた、長門という子供に輪廻眼を移植したわね…?」

 

「…ほう、なぜそう思う」

 

真実に到達した大蛇丸をマダラは面白そうにうかがう。縛られているので振り向くことはできないが。

 

「簡単よ。輪廻眼は、写輪眼が進化した姿なのだから。あの子がうちは一族だというならまだわからないでもないけど、色々と条件が足りなすぎるわ」

 

「なんだと?」

 

その言葉に驚いた綱手が声をあげるが、それに驚いたのは彼女だけではない。ここにいる大蛇丸とサイゾウ以外の全員が驚いていた。

 

「大蛇丸とやら、伝説の輪廻眼が写輪眼の進化した姿とはどういうことぞ」

 

柱間が全員を代表するように質問する。

 

「うちはの古い石碑は、あたしとサイゾウでこれでもかってくらいに調べたのよ。あまりに複雑だから少し面白くてね。あの石碑は写輪眼、万華鏡写輪眼の順番で読めるようになっているのはわかっていたけど、最後の解読パターンが輪廻眼の取得を条件にしているとしたら…万華鏡の上に存在する瞳力がなんだったのかずっと疑問だったけど、そういうことなら話が見えてくるわ」

 

「それこそが、輪廻眼が写輪眼の進化した姿だという根拠か。逆説的ではあるが、うちは一族の聖地とも言えるあの石碑が情報源なら確かに信憑性はあるかもしれん」

 

扉間は自身も一度解読を試みた石碑について思いを馳せる。

 

「そうだ。“一つの神が安定を求め陰と陽に分極した。相反する二つは作用しあい森羅万象を得る”」

 

「マダラ、それはいつぞやの…」

 

「そう、かつて俺がお前に語った内容だ。そして輪廻眼を獲得するために必要な条件でもある」

 

かつての戦いを思い起こすマダラと柱間。その戦いでマダラは柱間の肉を噛み千切り手にいれていた。

 

「“輪廻の力を持つ者が月に近づきしとき無限の夢を叶えるための月に移せし眼が開く”。…これが無限月読に関する碑文の内容だ。森羅万象を操る力、すなわち輪廻眼を手にした者がさらに“十尾”の人柱力となることで、ようやく《無限月読》が発動可能となる。そして十尾とは一尾から九尾、すべての尾獣をひとつにした尾獣本来の姿だ。俺はそれによって“神”となり、すべての者を理想郷へと連れていく。争うことも、奪い合うことも、失うこともない世界へな…」

 

そう語るマダラの姿はどこか誇らしげで、同時にとても寂しげにサイゾウの目には写った。

 

「…マダラ、あんたの意見には賛成できない。すべての尾獣をひとつにするために他の尾獣を手にする必要があることはわかった。だがそれは、この忍世界すべてを敵に回すことだ。俺はそんな犠牲、とうてい許容なんてできない。そしてなによりも、夢の世界で俺は絶対に満足することなんてないからだ」

 

サイゾウは揺るぎなくマダラの顔を見つめる。その姿は“鬼”そのものであったが、その目は誰よりも“人間”だった。

 

「…そうか、だが俺もここで折れるほど簡単な決意じゃない。俺を否定するというなら、まずは俺を力で上回ってみろ…!」

 

言うなり、マダラの両目が変わっていく。中心の黒目から輪が広がっていき、輪廻眼へと変化する。

 

「シスイ!」

 

「ぐっ…兄さん!」

 

サイゾウは咄嗟にシスイへ声をかけるが、いつの間にか現れた黒い異形が弟の半身を乗っ取り動きを封じている。

 

そしてそれが致命的な隙となった。

 

「これは仙術チャクラ、いつの間に…!?ダメだ、全員ここから離れろ!!」

 

「《仙法・神羅天征》!!」

 

密かに仙術チャクラを練っていたマダラによる仙法込みの《神羅天征》は、結界石の間どころか周囲一帯を跡形もなく吹き飛ばした。

 

「危なかったな。さて、これでマダラは自由になってしまったぞ。サイゾウとやら、どうするつもりだ」

 

結界石の間にいたマダラ以外の全員は《神羅天征》に巻き込まれる前に扉間の《飛雷身の術》によって外に移動していた。

 

そのなかには当然シスイもいたが、すでに意識を乗っ取られ逃走を図っていた。

 

「大蛇丸先生、シスイを頼みます。マダラは俺が止めます!俺でなくてはダメなんです、あの哀しい英雄は…!」

 

「仕方ないわね、貸しひとつよサイゾウ」

 

サイゾウはその場で《須佐能乎》を発動させ、完成体へと近づけていく。

 

かつて発動するだけで全身に激痛をもたらした《完成体須佐能乎》を、呪印の力によって得た仙術の力によって無理矢理制御下においていく。

 

そして巨大化していくサイゾウの黒い《完成体須佐能乎》に呼応するようにして、マダラの青い《完成体須佐能乎》もその姿を露にした。

 

「まったく、だからマダラを穢土転生させるなど反対だったのだ!兄者、我々も加勢するぞ!」

 

扉間は並び立つ2体の《完成体須佐能乎》を目にして急ぎ術の準備をする。しかしそれに対して柱間は動こうとしない。

 

「…扉間。ここはあのサイゾウとやらに任せてみんか」

 

「正気か兄者!?相手はあのマダラだぞ!しかもサイゾウとやらの《完成体須佐能乎》は不完全だ!ヤツは永遠の万華鏡写輪眼を得ていないのだぞ!」

 

「ではなぜマダラは穢土転生の解印を結ぼうとせんのだ」

 

「なに…!」

 

柱間の言うとおり、いまだマダラの全身はひび割れており術者の支配下にいることが見てとれた。

 

だが扉間の指摘通り、サイゾウの《完成体須佐能乎》は不完全だった。仙術チャクラを用いて、どうにかマダラと対峙できるとサイゾウは考える。

 

「永遠の万華鏡写輪眼も得ていない…そんな半端な覚悟でこの“うちはマダラ”とやり合う気か?」

 

「覚悟ならとうに決まってるさ、真正面からあんたを越えて、成仏させてやるよ!うちはマダラ!」

 

気合いを入れ直したサイゾウの《完成体須佐能乎》がさらに姿を変える。巨大な黒鉄(くろがね)の城を思わせるチャクラ体は、背中からコウモリじみた翼を生やして構えをとる。

 

「ならば来るといい!うちはサイゾウ!!」

 

2体の巨神がぶつかり合う。神話の時代を思わせる“力”と“力”のぶつかり合いは、それだけで周囲を揺るがし破壊していく。

 

「まずいぞ!このままでは里まで被害が及ぶ…!扉間!《四赤陽陣》を張るぞ!」

 

言うなり柱間は木遁分身を作り出し、10体ほどの自分をさらわれたシスイの方向へと走り出させる。

 

「ちぃ…!わしはどうなっても知らんぞ!」

 

言いながら扉間も影分身の術を繰り出し、12体の分身の内4体を散開させ、残りは柱間の木遁分身を追わせる。

 

「ヒルゼン!ダンゾウ!お主らも手伝え!結界を張る場所まではわしの《飛雷身の術》で飛ばしてやる!」

 

「お待ちください扉間様!それではヒルゼンが…!」

 

「よいダンゾウ。ここが俺の影としての正念場よ!」

 

ヒルゼンは病に侵され、弱った自分を頼ってくれることが嬉しかった。例えここで死ぬことになってももはや悔いはない。そう思えるほどに。

 

「ヒルゼン…!………わかった!」

 

「…仕方ないね。あたしは猿飛先生の援護をするよ」

 

「じゃ、こっちは任せたわよ」

 

そうしてそれぞれは散開し、綱手とヒルゼン、扉間、ダンゾウ、柱間はそれぞれ四方に分かれ結界を構成する基点となる場所へと到着する。大蛇丸はシスイを追って柱間、扉間の分身と共に駆けていく。

 

「ゆくぞ皆のもの!」

 

「「「「《四赤陽陣》!!」」」」

 

柱間の言葉を合図に、ぶつかり合う2体の巨神を囲むようにして、即席のリングが出来上がる。

 

それは結界術としては最高峰の《四紫炎陣》をも上回る、影に至れるほどの忍が四人いなければ展開不可能とまで言われる術。

 

尾獣の最大技である尾獣玉をも難なく弾き返すほどの結界《四赤陽陣》の完成であった。

 

 




案の定失敗するマダラの穢土転生でした。
そして追い詰められるサイゾウ。とはいえある意味自業自得だったり。
でもマダラおじいちゃんもちょっとサイゾウにほだされてたり。
ちなみにサイゾウの完成体須佐能乎はマジンカイザーでイメージ。公式もといナルストでシスイがまんま鋼鉄神なので。さすがに吹きました(笑)

補足★説明
・うちはカガミ
扉間の弟子のひとり。血縁上はサイゾウの祖父にあたる。
彼の『穢土転生』は不完全で、近距離でなければ制御できない代物。
娘を殺させないため、仲間に迷惑をかけないため犠牲になりました。

・秘伝・うちは式避妊術
マダラが考案した避妊術。微細なチャクラコントロールによって精子を体外に出さないようにチャクラで塞ぐものから、卵子を破る酵素に作用させる薬の作り方など、その内容は多岐にわたる。うちはの血が外に漏れないためというのを理由に開発したが、実際は無闇に不幸な子供を増やさないため。サイゾウがマダラを尊敬する理由のひとつ。

・超秘伝・うちはマダラ考案房中術~虎の書~
書きかけで終わった~龍の書~があったりなかったり。
いわゆるムッツリスケベのマダラが女体を研究した末に書き残した黒歴史。上記の避妊術と違って完全にただのスケベ根性で書いたため内容はろくでもない。ちなみに扉間はこれを発見したが、せめてもの情けとしてうちはの古い碑石の下に封印しておいた。
後に碑石を研究するため訪れたサイゾウと大蛇丸によって暴かれ、荒唐無稽な内容をサイゾウが研究の末実践し自らのモノとした。サイゾウがマダラを尊敬(笑)する理由のひとつ。

・マダラに《別天神》を即仕掛けなかった理由。
無理矢理聞くのではなく、まずは本人の言葉で真実を聞きたかったため。それでも最悪の場合には致し方ないと考えていたが、それはシスイへ伝わらず、逆に隙をつかれて隠れていた黒ゼツによって弟がさらわれてしまうことになる。
また仙術チャクラに関しては、サイゾウが自然エネルギーを感知できないことから気づくのが遅れたため。
しかしそのことがマダラをしてサイゾウを認めさせるきっかけに繋がり、彼が正面から戦いを挑むきっかけともなった。

・《闇満羽》
サイゾウの万華鏡写輪眼のひとつ。元ネタは同名異字の神様から。
チャクラ構成を分解し、術を無効化する。大質量を伴う術であっても行使可能だが、あくまでチャクラ構成を分解するだけなので、砂の津波や隕石などは作用させてもあまり意味がない。《天照》や一部封印術などへのカウンターとして非常に優秀。

・デレマダラな理由
戦争を止めない世界に絶望していたマダラでしたが、それ以上に弱い忍を非常に嫌っていました。なので理由はともあれ完成体須佐能乎にまで至り、それでいて真っ直ぐなサイゾウがひどく眩しく見えています。また真実に至っていながら歪んでいないことも高評価なポイントです。
実際この戦い、マダラはかなり手加減しています。
まず輪廻眼の能力を限定的にしか使っていません。また、完成体須佐能乎も本来マダラのモノは尋常ではなく巨大です。わざとサイズをサイゾウに合わせています。柱間はこれに気付いて扉間を止めました。
また、本人も無自覚な深層心理では、自分に子供がいたらこんな風だろうか、と思ってしまった部分も大きいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

うちはマダラ ③ ★

これにて連続投稿終了。
そして原作本編開始前も終了。

活動報告にて、オビトと戦っていた自来也及びカエデの部分を公開しました。

挟む場所がなかったので削除しましたが、もったいないので一応。


「おおぉぉぉらああぁぁぁっ!!」

 

サイゾウは《完成体須佐能乎》の顕現させた籠手《金剛鎚拳》を振るう。

 

マダラもまた、二刀のチャクラ刀を振るい、互いにぶつかり合った。

 

「…体術はまあまあだな。では忍術はさて、どれほどのものか。試させてもらうぞ!」

 

言うなり、マダラは距離を取って自身と須佐能乎合わせて四本の腕を使って印を組む。

 

「《天碍震星》!」

 

術が発動するなり、結界の上空に巨大な隕石が現れる。それは単純ながら圧倒的な質量による攻撃。

 

これだけの質量を持つ攻撃にはサイゾウの《闇満羽》でも意味がない。

 

「舐めるな!《火遁・豪火滅失》っ!」

 

サイゾウが印を組むと同時に黒い須佐能乎が胸の前で両手を拡げた構えを取る。

 

そして吐き出された豪炎はそのまま須佐能乎の両掌間に展開された仙術チャクラに受け止められ、圧力をかけるようにして凝縮されていく。

 

やがて黙々と落下を続ける《天碍震星》の隕石がサイゾウの頭上にまで迫ったとき、小型の太陽と化した炎が胸元から熱線砲となって放たれた。

 

「《仙法須佐能乎・豪火焔失》!」

 

マダラが用意していた“二つ”の隕石をまとめて消し飛ばしたサイゾウだったが、上空に意識を飛ばしたことで隙だらけとなってしまう。

 

「隙だらけだぞ!」

 

「こなくそぉ!」

 

マダラは次に《八坂ノ勾玉》を使用しサイゾウへ向かって投げつける。サイゾウはそれをどうにか《金剛鎚拳》で殴り落とすが、飛んでくる《八坂ノ勾玉》はひとつではない。

 

打ち落とせなかった《八坂ノ勾玉》が次々と黒い須佐能乎に着弾し、その全身がひびわれていく。

 

「マダラめ、随分とはしゃぎおるぞ!」

 

柱間は己の親友が自分以外ではじめて心底嬉しそうに戦う姿を見ていた。ちなみに結界維持に余裕があるのは柱間ぐらいで、穢土転生の扉間以外は必死にこらえている。

 

思えば自分以上にマダラは孤独だったと、柱間は生前を振り返った。

 

戦いに次ぐ戦いの人生。思えば自分もマダラも青春は戦場であった。

 

夢を見失い…弟を失い…マダラが必要以上に強さに拘るのも“強さ(それ)”しかすがるものがなかったからなのかもしれないと、柱間は思った。

 

「さすがに強いな…!」

 

「当たり前だろう、俺は強者(うちは)そのものだ…!」

 

サイゾウは仙術チャクラの量から考えて《完成体須佐能乎》を後どれだけ維持していられるか冷静に計算する。

 

(あと3分が限界ってところか…!だったら、残りのチャクラを全乗せして、30秒で全部出しきってやる…!)

 

「いくぞマダラァ!!これが俺の“全力”だ!!」

 

「来い!お前の強さを俺に見せつけてみろ!」

 

サイゾウは自身の内側にあるチャクラの源…精神エネルギーと身体エネルギーを意識する。

 

「調息…調心…」

 

呟きながら、サイゾウは須佐能乎を維持したまま自らの身を外に投げ出す。

 

「ほう、なにをするつもりだ」

 

サイゾウを見てマダラはいぶかしむが、その顔はまるで童子のように笑んでいる。

 

「八門遁甲…第七・驚門……開!」

 

「来ないのならば、こちらから行くぞ…!」

 

サイゾウが小さく呟くのと、焦れたマダラが須佐能乎を突っ込ませたのは同時だった。

 

「なに…!?」

 

自身の須佐能乎にその体を蹴りあげさせ、サイゾウは舞い上がった。鬼の体のサイゾウは、全身から吹き出す“青い”チャクラに包まれている。

 

そして予想外の速度に対応を遅らせたマダラの隙を逃すことなく、懐に入り込んだサイゾウは“左拳”を構える。

 

「《衝撃の犀獣》!」

 

まるで太い一本の角が超重量と共に衝突したがごとく、咄嗟に構えただけのマダラの須佐能乎の右腕を跳ね上げ、ばらばらに破壊していく。

 

「俺の《完成体須佐能乎》を壊した上に、ここまで衝撃が届くだと…!?」

 

《完成体須佐能乎》の右腕を貫いた衝撃はマダラをしても即座に回復できるものではなく、チャクラ体の腕を失ったことで大きくたたらを踏んで隙ができる。

 

「ではこれならどうする…!《神羅天征》!!」

 

だがその状態でもマダラは即座に印を組み、須佐能乎を通して正面に威力を集中して斥力波を放つ。

 

地面を抉りながら不可視の衝撃波が迫るなか、サイゾウは空中で“右拳”を構える。

 

「《撃滅の豹獣》!!」

 

6発分の威力が込められたサイゾウの拳は連続して爆発音を響かせながらマダラの放った《神羅天征》を打ち破っていく。

 

「斥力波を素手で打ちのめすか!はっはっは、そうだサイゾウ…!俺を越えてみろ!俺の“夢”を否定するならば…!“生き”損ないの俺程度、わけもなく越えてみせろ…!!」

 

マダラは須佐能乎の片腕に残った剣を構え、迫るサイゾウを待ち構える。

 

自身の仙術チャクラをこめた青い須佐能乎のチャクラ刀は、激しい輝きと共にその大きさを増していく。

 

「大地ごと真っ二つにしてくれる!」

 

「今だ!須佐能乎ぉぉぉ!」

 

サイゾウの叫びと共に、それまで待機していた黒い須佐能乎が両の拳を前面に突き出すと、なんと黒い須佐能乎は籠手ごと両腕を発射してきた。

 

「なんとぉおぉ!」

 

マダラはサイゾウに向けるはずだったチャクラ刀で飛来した巨腕を迎え撃つが、その間にサイゾウは青い須佐能乎を駆け登り、マダラの目の前までやってくる。

 

「《抹殺の獅子獣》!!」

 

満を持して放たれた両の拳の一撃は、巨大な衝突音と爆発光によって視認することができなくなる。

 

四赤陽陣のなかで無ければ国がひとつ滅んでしまうのではないかというほどの大爆発。

 

やがて舞い上がった土ぼこりが晴れ、そこには勝者が鎮座していた。

 

うちはマダラの、青い《完成体須佐能乎》が。

 

「サイゾウっっ!?」

 

綱手は心にふりかかる絶望に追い付かれぬよう、消滅しかかっていた四赤陽陣の一部を素手で砕いて走り出す。

 

しかし綱手が爆発跡のクレーターに近づくより前に、マダラが須佐能乎を解きその姿を現した。その腕には、両腕を原型が無くすほどにぐしゃぐしゃにしたサイゾウが抱えられている。

 

「サイゾウを離せっ…!!!!」

 

怒りによって《白豪の印》を解放した綱手から吹き上がるチャクラが、大地を砕き風を起こして荒れ狂う。

 

しかし、サイゾウを見るマダラはおだやかに微笑んでいた。

 

「…ぎりぎり及第点といったところだな。要修行だ」

 

素直にその場にサイゾウを下ろしたマダラは、なにを思ったか己の練った仙術チャクラをサイゾウへ分け与えはじめる。

 

「…楽しませてもらった礼だ。目を覚ましたらサイゾウに伝えておけ。俺もオビトも、まだ諦めんとな…」

 

「マダラ!」

 

するとその場に柱間が到着する。しかしその様子が戦うときのものではないと気づいた柱間は、倒れるサイゾウを見て不思議そうな顔をする。

 

「…お前が戦った相手を殺さないとは、珍しいこともあるものぞ」

 

「…ジャリを相手に殺し合いなどせん。やはり俺の相手は、お前でなくてはな柱間。…だが、此度は存外に思うこともあった。…そうさな、10年やろう。その間に精々、この世の“なにもかも”を凌駕する力をつけるといい。俺はそれまで、浄土と穢土の狭間で待つとするさ」

 

言うなり、マダラは逆口寄せを発動されたのか忽然と何処かへ消え去る。

 

「待てマダラ!綱よ、サイゾウとやらは無事ぞ!?」

 

逃げたマダラへ声をかける柱間だったが、そのマダラと五分の戦いを見せたサイゾウを心配し綱手へと声をかける。

 

「…ふう、ひとまずは大丈夫です。どうやら枯渇した仙術チャクラをマダラが回復してくれたようで、ゆっくりとではありますが回復しています」

 

「…そうか、では念の為、オレの仙術チャクラも与えておこう」

 

柱間は非常に困難なはずの仙術チャクラをあっさり練ると、手をかざしてサイゾウへと流し込んでいく。

 

「兄者、どうやらひとまず分身らはこやつの弟、シスイとかいったか。取り戻すことに成功したようだ。…ただし、片目を奪われておる」

 

「最強幻術をひとつ奪われたか…これより二人の兄弟が歩む道は、過酷ぞ…」

 

柱間はマダラの言葉を思い起こし、彼の目的である《無限月読》について考える。

 

だがすぐに自分が考えてもしょうがないことに気づいた。こういったややこしい考えは扉間に投げるに限るからだ。

 

「…兄者、今なにかまた面倒ごとをワシに投げようと考えなかったか」

 

「き、気のせいぞ扉間…!」

 

勘のニブらぬ弟に柱間が冷や汗を垂らしながら、体に満ちた仙術チャクラによってみるみる傷を癒していくサイゾウを見る。

 

「初代様!サイゾウは無事ですか!」

 

「ヒルゼン、無理をするな!」

 

遅れてやってきたヒルゼンとダンゾウだったが、やはり相当な負担となったのかヒルゼンはダンゾウに肩を貸されている。

 

「ヒルゼン、ダンゾウ、ようやった!里を守れたのはお主らの功績ぞ!」

 

柱間は到着した二人の肩を叩きねぎらう。ヒルゼンとダンゾウの二人はそれを受けて少し苦しそうにするも、喜ぶ気配が漂っている。

 

「ありがとうございます。ですが、やはりよる年波には勝てませぬ。…それにわたしはここで死ぬつもりでしたが、生き残ってしまいました…」

 

「ならば残る余生を静かに過ごすがよい。なあに、お前が守り育んだ青い芽は、この俺に勝る大樹の器ぞ!はっはっは!」

 

柱間は笑うが、問題は山積みであった。

 

巨大なチャクラのぶつかり合いによって滅茶苦茶に破壊された大地。

 

さらには木の葉を監視する者ならば気づいたであろう禍々しいうちはマダラのチャクラ。

 

その上、当のマダラはすでに逃走している。

 

きっかけは意図的なものだったとはいえ、下手を打てば戦争になりかねないだけの事件が起きているのだ。

 

実は割りと事態は逼迫していたりする。

 

「逃げたマダラの対処はどうなさいますか」

 

ひとまずダンゾウは問題をひとつずつ対処しようとする。

 

「それもそうよな。扉間、たしか穢土転生で蘇っていられるのは…」

 

「ぴったり四十九日だ。それを過ぎればどれだけチャクラを消耗しても魂を口寄せすることは叶わなくなる。ヤツがなにか企むとしても期間が短すぎるが、あらかじめ仕込んであるのならば別だ。…兄者はどう思う?」

 

「ふむ…俺の考えでは、マダラはさきほど言った通り本当に10年待つだろう。ヤツはそういう男ぞ」

 

「…馬鹿な兄者の考えではあるし、いささか情に寄りすぎているとも思うが、まあワシも同じ考えだ。ではひとまず皆で里へ戻るとするぞ」

 

扉間は一同に声をかけるが、弟に馬鹿と言われた柱間はへこんでうつむいていた。

 

「ええい、いちいち落ち込むな兄者!面倒だわ!」

 

まるで子供のように騒がしい歴代火影一向はわいわいがやがやとさせながら、扉間の飛雷身で里へと移動するのであった。

 

__________________________________

 

「久…な…よ、まさかお前…な形で再…とはな…」

 

誰かが話す声がサイゾウの耳に届く。

 

聞いたことのない声であるはずなのに、サイゾウはその声にひどく懐かしさを覚えた。

 

(これは俺の“心”じゃない…誰かの気持ちが…チャクラを通して伝わってくる…)

 

目を開けてその姿を収めたかったが、まるで溶けた鉛が全身にへばりついているかのように体が重く動けそうにない。

 

「…んこそ、い…守ってい…だね」

 

もうひとつの声はすぐ近くから聞こえてきていた。

 

二人の会話は弾むが、何を話しているのか聞こえない。

 

サイゾウはどうにかチャクラを練ろうと試みるが、まるでなにかに邪魔されているようにうまくいかない。

 

「…そろそろ目覚めるか。ではまたな、…よ」

 

「ええ、いずれまた…」

 

ふたりの気配が淡く溶けるようにして消えていく。

 

サイゾウは気合いで無理矢理チャクラを回しはじめ、その体を起き上がらせようとする。

 

__________________________________

 

「待てっ!…ぐあっ!?」

 

「ぬおっ!」

 

勢いよく起き上がったサイゾウは自分を見ていた誰かとぶつかり、目の前に火花が散るような錯覚を覚える。

 

「わ、わしの鼻が…!サイゾウ!起きたなら先に言わぬかのう!」

 

鼻血を出しながら涙目でサイゾウに抗議するのは自来也である。

 

マダラとの一件が解決した後、意識不明となっていたサイゾウを診るために里でもっとも仙術チャクラに詳しい人物として大蛇丸に呼び出されていた。

 

鼻にティッシュを詰める姿からはそんな威厳をまるで感じないが。

 

「まったく、世話のかかるエロ弟子だのう。それにしてもお主の言うとおり、ナルトを狙って仮面の男が現れたぞ。わしとカエデ姫で撃退してやったがのう」

 

「なんだと!?カエデとナルトは無事なのか!」

 

「無事に決まっとるからわしがここにおるんだろうがのう。というか、ほれ。お前の足元で二人とも寝ておるだろうに」

 

「カエデ…ナルト…」

 

木の葉病院のベッドで寝ていたサイゾウは、ベッドの下に布団を敷き眠っているカエデとナルトを見下ろす。ちなみに部屋全体が畳敷きになっており、カエデの扱いがかなり丁重なこともうかがえた。

 

「また心配をかけたみたいだな…」

 

「そう思うんだったらさっさと本調子に戻ってみせい。それとのう、お前の仙術チャクラ妙な具合に変化しておったぞ」

 

「妙な具合?」

 

鼻血が止まったのか、鼻からティッシュをすぽん、と抜いて屑入れに投げる自来也。

 

「うむ、柱間様にも見てもらったが、どうにもお主に分け与えられたマダラと柱間様の仙術チャクラが融合し、お主に定着しておる。今までのように大蛇丸の仙術チャクラを呪印経由で受けることはできないだろうが、恐らく自前で仙術チャクラを練れるようになっておるはずだのう」

 

サイゾウは言われてさっそく胸に二つ刻んであった呪印を確認するが、たしかに消えてなくなっていた。

 

そして少し集中すれば、これまでまるで感知できなかった自然エネルギーをすぐに感知することができ、あまつさえ呪印がないにも関わらず鬼の姿へ即座に変身することまでできた。

 

「…恐ろしい早さだのう。にしても呪印がなくともその姿に変わることができるのか、ちと大蛇丸の改造受けすぎではないか…っ!?サイゾウ、その眼は!」

 

サイゾウをしげしげと眺めながらナルトの上掛けの位置を直していた自来也だったが、サイゾウの顔を見て余裕を無くした。

 

「もしや、輪廻眼に開眼しましたか…」

 

「その通りだ…サイゾウ、いったいどういうことか教えてくれるかのう。わしだけ話についていけなくて寂しいぞ」

 

自来也は己がかつて弟子とした長門を思い出していた。友のために人を殺したことを悔やんだ優しい少年を。

 

彼が死んだことは自来也にとって痛恨事だった。その後弟子にとった四代目火影波風ミナトも死んだことからもはや弟子はとるまいとまで考えていたが、目の前の男はスケベ専門とはいえ己の弟子である。

 

(まさかエロ弟子が“予言の子”だとでもいうのかのう。それはなんかイヤだのう)

 

少々げんなりとしていた自来也だったが、その思考は新たに病室に入ってきた大蛇丸によって止められる。

 

「あたしが説明してあげるわよ、自来也」

 

「げ、大蛇丸。お主の説明はくどくてわし苦手なんだがのう…」

 

「あら、だったら今度アカデミーの教室を借りて人体解剖学を半日講義してあげようかしら?」

 

「むうう、微妙に役立ちそうな知識を持ち出すのがムカつくのう…!」

 

蛙と蛇という、本来なら互いを嫌いあうような性質を持つ二人だったが、これでいて悪友じみた親友として意外と仲がよく、綱手を入れた彼らが『伝説の三忍』として里の内外で知られている証左でもあった。

 

__________________________________

 

カエデとナルトの護衛をやってきたヒアシとヒザシに任せ、サイゾウは木の葉の上層部を含めた者らが集まるアカデミーの一室にやってきていた。

 

「おお!目を覚ましたかサイゾウ!」

 

真っ先に声をかけてきたのは千手柱間であった。席から立ち上がり、両腕を広げるようにしてサイゾウを歓迎する。

 

「…よかった」

 

ひとり静かに安堵するのは綱手である。彼女は穢土転生とはいえ初代火影と二代目火影が現れたことと、現状で数少ない生き残りの千手一族の代表として間に入る役割を担わされていた。

 

「ではこれより報告会を開始する。まずはワシから先に報告しておこう。里の結界だが、時空間忍術にも対応できるようにワシの手で改造を加えた。少々維持するのにチャクラを消耗するが、里全体から分割して集めたチャクラを保管しておく要石の結界にも手を加えておいた。自来也とやらの報告にもあった“物質をすり抜ける能力”を持った『マダラもどき』も、これで手順を踏まえねば里へ入ることは叶わん」

 

さらっととんでもないことを口にした扉間であったが、これはミナトが途中まで進めていたことでもあり、彼の準備があったからこそ、これだけの早さで改造が済んだとも言える。

 

「オレからは特にないぞ。あまり口出しするつもりはないが、サルが引退した次の火影にはそこのサイゾウを推薦しておこうぞ」

 

特にないと言っておきながら、この場でもっとも発言力のある人間からの発言にダンゾウは頬をひきつらせる。

 

「たった今初代様からあったように、わしは今日をもって火影を引退する。後任には、わしもサイゾウを推薦しよう」

 

「ヒルゼン、お前の意思はよくわかった。だがサイゾウは“うちは一族”だ。九尾事件の犯人を誘き出すためとはいえ、一度他里にまで九尾事件の犯人であると通達までしている。果たして大名が納得するかどうか…」

 

扉間の視線に恐縮しながらも、至極真っ当な反論を述べたのは水戸門ホムラであった。しかしサイゾウはその言葉を受け、どこかイヤそうな顔つきで頬杖をついている。

 

「それに関しては問題あるまい。なにせ、火の国の現大名こそ、サイゾウの父親じゃからな」

 

「なに?」

 

ヒルゼンの言葉に驚いたのは扉間だった。火の国とはいわば出資者の立場に近い。

 

それゆえに縁故を結ぶことはこれまで憚られ、政治的に介入されるリスクを抑える為にもある一定の距離を置かれていた。

 

「そのことは初耳だね、ヒルゼン」

 

ヒルゼンの発した言葉の真偽を確かめるため、小春がホムラの後につづくように問いただした。

 

「当たり前じゃろう。このことを知っておるのは、独力で真相にたどり着いたミナトと大蛇丸のみよ。わしとてサイゾウの母親である『うちはコオネ』より聞き及んでいなければ知らんかったわ。ちなみに表向きの父親だった『うちはダイテツ』はシスイの父親じゃ」

 

「…俺の個人資産、異様に多いでしょう。あれ、半分は博打で稼いだ金ですけど、もう半分は名義を隠して振り込んでくる俺の父親からのものですよ」

 

サイゾウはヒルゼンの言葉を補足するように自身の資産状況を伝える。

 

サイゾウは父親の顔と声程度しか知らないし、それでいいと考えている。

 

ただひとつ、母の墓前に現れた彼から伝えられた

 

「…まろはコオネを愛していた。そのことだけは信じてほしいでおじゃる」

 

という言葉だけは一応信頼することにしていた。

 

「であれば、あとはサイゾウが火影になるのに必要なのは信任投票だけね」

 

なぜかもっとも得意気に胸を張っている大蛇丸は、残る最後の条件を口にして一同の顔をうかがう。

 

「…ワシからも一応推薦しておこう。歴代三人の火影より推薦を貰うなぞ前代未聞だがな」

 

「はっはっは!よいではないか扉間!次代を継ぐ者が“うちは”であるのもまた一興よ!なにより、里でマダラとまともにやりあえそうなのはサイゾウぐらいぞ!」

 

かんらかんらと大笑する柱間と、対照的に諸外国への影響を考える扉間。

 

このまま彼らふたりが共に木の葉の里を支えてくれたならば、どれだけよいことだろう。それがヒルゼンのみならず、この場に集まった木の葉上層部の面々が考えていることでもあった。

 

「ヒルゼン、ダンゾウ、ホムラ、小春。お前たちには重ね重ね苦労をかけるが、どうかそこの若造を導いてやってくれ。ワシからの最後の頼みだ」

 

これまで常に渋面を作っていた扉間が、笑顔を浮かべてかつての弟子たちに告げる。すでに老人となった一同だったが、その目には涙を浮かべていた。

 

「オレからも頼むぞ。戦乱に明け暮れた我らが見た理想、それが叶う日を信じて繋げた“火の意思”が、お主らにも宿っていることをオレは知っているでな」

 

笑顔を向けられたサイゾウはどこか恥ずかしそうにしながら、背筋を伸ばして柱間を見据える。

 

「あなたとマダラが紡いだ“夢”、決してないがしろにはしません。…叶えて見せますよ、そして、次の世代にも必ず繋げてみせます」

 

強い意思をこめた拳を、サイゾウと柱間はぶつけ合わせる。

 

その場に集まった者たちで、もはやサイゾウを火影として認めない者はいなかった。

 

「10年という期限を設けたマダラだが、もしヤツが現れたなら今一度ワシらを呼ぶといい。露払いを手伝ってやろう。ではな、サイゾウ」

 

“とやら”ではなく、はじめてただサイゾウと言われたことを、サイゾウは単純に嬉しく思った。

 

「そのときが来ないことを祈っています。ですが、頼るときは遠慮しませんので覚悟しておいてください」

 

「ぬけぬけと…」

 

「はっはっは!そのときは任せるぞ、サイゾウ!」

 

最後までマイペースに過ごした初代火影と二代目火影は、穢土転生を解印した大蛇丸によって穢土と浄土の狭間へと戻っていった。

 

__________________________________

 

それより一ヶ月後。

 

信任投票を終えたサイゾウは『うちはの火影』として五代目火影に就任した。

 

新たなる火の意思。そして10年という期限を設けられたマダラとの決着。

 

物語は、繋がっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




補足★説明

・《仙法須佐能乎・豪火焔失》
須佐能乎の掌で螺旋丸のように圧縮した炎を熱線砲として発射するサイゾウの切り札。
尾獣玉を飲み込んで吐き出す虚狗砲を参考に開発した。
元ネタはマジンカイザーのファイヤーブラスター。

・《金剛鎚拳》
マダラの完成体須佐能乎とも打ち合える籠手。遠隔発射可能だが、腕ごと発射するためタイミングを選ぶ。
まんまロケットパンチ。

・衝撃の犀獣、撃滅の豹獣、抹殺の獅子獣
名前の元ネタはまんまスクライド。技の作用もそれぞれ元ネタがあったりします。
衝撃は『こわしや我門』、撃滅は『トリコ』、抹殺は『BLEACH』。それぞれ何が元ネタかは考えてみてください(´・ω・`)
…こわしや我門とかわかるひといるんだろうか。

・サイゾウの夢の中のふたり
いったいダレ筒木なんだ(´・ω・`)

・オビトさくっと撃退
チャンスとばかりに襲撃しましたが、自来也に牽制されたところをカエデにチャクラのみで八卦六四掌くらって逃げました。以前紹介のオリ技『柔歩纏獅勁』本来の使い方です。
活動報告にて削除したこちらのシーンを公開しました。

・マダラを口寄せした人物
オビトです。チャクラをうまく練れないので、こういった形での援護になりました。

・サイゾウの父親
おじゃるさんです。原作よりも少しまとも。

・うちはコオネ
見た目に関しては原作で姿のみ出たうちはヒカクをイメージ。ポニーテールの美人さん。父に命を救われてからは、ダンゾウから冷遇を受けたこともあり、次第に飲んだくれになるように。ある日お忍びで飲み屋に来ていた“情けない顔”をした男と酒のことで意気投合し、気づいたら朝チュンしてサイゾウを孕んでいた。当人いわく「顔に似合わずスゴかった」とのこと。本編ではすでに死亡。奇しくも父親のカガミと同じく写輪眼を守るために自爆して死んだ。

・うちはダイテツ
シスイの父親。なのでサイゾウはシスイとは種違いの兄弟となる。
謹厳実直を絵に描いたような男で、無口。
巨根。
コオネに心底惚れ込んでおり、彼女が死んだ際には断食して死にかけた。
万華鏡写輪眼に開眼するも、大戦末期に戦死している。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

里の問題と二代目木の葉の狂気

問題提起だけで数話使いそう。

ナルト世界の闇は深いな。

とりあえず柱間は正座しとけ(´・ω・`)


感動的に消えていった先代二人の火影を見送り、残った山賊の死体を荼毘に付そうとしたサイゾウは突如としてあることを思い出した。

 

「しまった!柱間様ぶん殴るの忘れてた!」

 

そのとんでもない暴言に反応したのは、このなかでもサイゾウを警戒する扉間の弟子がひとり『水戸門ホムラ』である。

 

「…暫定的だが、お前はもう五代目火影なのだぞ。それを先代に敬意も見せない言動、やはりお前を“影”とするのは早かったとわたしに思わせる気か?」

 

まるで目にしたもの全てが射竦められるような視線がサイゾウに向けられるが、サイゾウはそれを受けて苦虫を噛み潰したような表情を向ける。

 

「…綱手姉さんに博打を教えたのは“初代火影様”だと伺っています。水戸門殿、昨年度における綱手姫への“特別編成予算”。いかほどでしたか?」

 

「…貴様に教える筋合いは「あるでしょう。俺は暫定的とはいえ火影です」…年度予算の六パーセントだ」

 

逆にサイゾウの言葉で射竦められるホムラだが、彼が言いたいことを理解したのかサイゾウ以上に微妙な表情になる。

 

「扉間様の遺言で、千手の資産は里の資産として組み込まれています。その金額は莫大なものであり、今日(こんにち)の木の葉を作る一助となったことは認めましょう。なので里の予算から千手への予算を編成するのをとやかく言うつもりはありません。で・す・が!なにごとにも限度はあります。綱手姉さん、今後金銭でのやり取りを行う他里の賭場への出入りは禁止です」

 

「な!?あたしに死ねと言うのかサイゾウ…!」

 

まるで信じていた者に裏切られたとでも言うように、綱手はその場に崩れ落ちそうになる。

 

「そんなんで死ぬなバカオッパイ!…今後は俺が経営する木の葉の店以外での賭博は禁止します。代わりに種銭は俺が負担しますし、年に一度でしたら他の賭場にも“俺が同伴であれば”赴くことを許しましょう」

 

深くため息をつきながら、サイゾウは頬を膨らます綱手を呼び寄せ頭を撫でる。するとみるみるうちに機嫌を直していく綱手だったが、周囲の視線があることに気づいてどこか気まずそうに頬を染める。

 

ちなみに賭場の経営をはじめたのは、二年前に返した以上の額の借金を綱手があっさり作ったことが原因である。

 

「ぬうう…!やはりエロ弟子め、綱手を寝とりよったな!ゆるさーん!!」

 

「寝とるも何も、綱手は元からあんたのこと恋愛対象として眼中にないでしょ」

 

憤る自来也へ冷静につっこみを入れる大蛇丸。ヒルゼンはそんな三竦みを見て爆笑している。

 

火影という重しが取れて幾分か気も楽になっているらしい。

 

「金がないのは息ができないのと同じことです。扉間様が言うように里を要として見るなら、まずは十分に息をさせねばなりません。俺が火影になった以上、優先順位をつけて種々(しゅじゅ)の問題に対処させていただく!」

 

戦後数年が経過したとはいえ、木の葉の里には多くの問題が残っている。

 

まずは今言ったように里の経済状況。綱手の博打で割かれていた金額は実際問題洒落にならず、ただでさえ名門一族と名もない下忍との間で格差が広がっているというのに、なにかの拍子に表沙汰になれば暴動になりかねない。

 

思いきり博打ができないことに不満げな綱手だが、その分のストレスは閨で晴らしてもらおうとサイゾウは考えながら、彼女のオッパイを舐めるように見ていたりする。

 

それに気づいた綱手が思わず想像して顔を真っ赤にし、自来也の顔が見ちゃいられないほどひどくなったり、大蛇丸が「ラーメン食べたいわね」と現実逃避始めたりとひと悶着を通り越してひどい有り様だったが、ひとまず戦後の経済状況を資料としてまとめるよう頼まれたホムラは「…遠慮の無さだけは扉間様そっくりだな」とぼやきながら、資料整理の為退出した。

 

ちなみにうたたねコハルは巻き込まれないよう逃げるつもりだったが、現在サイゾウに捕まり各一族ごとの人数や戦力としての規模を資料としてまとめるように言われて辟易している。これをヒルゼンも手伝うといい、彼を案じてダンゾウもその後を追った。

 

「さて、問題は文字通り山積みだな。あ、お三方にもそれぞれ手伝っていただきますよ」

 

「嫌だのォ。わしは執筆活動が忙しいのでな。そろそろまた、旅にでも出るとするかの」

 

鼻をほじりながらふてくされる自来也だったが、サイゾウは容赦しない。

 

そそくさと近寄り、何事か耳打ちすると自来也の目の色が変わった。

 

「そ、そそそんなこと言われたくらいでわしの心は変わらないぞ!」

 

言葉と裏腹に自来也の顔色はドスケベそのものと言った具合にだらしなく歪んでいる。

 

そういったところが綱手にフラレる原因だろうに、と大蛇丸とサイゾウは思ったが、サイゾウはさらに懐から色とりどりのチケットを取り出す。

 

「では、ここにある“特別優待券”でいかがです。それぞれ店は違えど、一枚でどこの店でも好きな子を指名できます。あ、予約は必要ですけどね。…選り取りみどりですよ!」

 

「サイゾウ、わしが間違っていた。お前こそ、わしの後を次ぐ“二代目木の葉の狂気”よ!」

 

「ろくでもないわね、それ」

 

大蛇丸につっこまれるようではおしまいであるが、ドスケベふたりは満足そうに握手している。

 

「ではドスケベ師匠、この書類にサインを!」

 

「任せとけエロ弟子!S級任務の十個や二十個、わしがお茶の子さいさいで片付けてくれるわ!!」

 

いつの間に用意したのか、サイゾウが用意した書類を読みもせずサインする自来也。

 

「…悪魔の契約書だな、あれ」

 

「ほんとにバカね。アレであたしと互角なんだから、忍の強さってわからないわ」

 

三忍の残る二人にバカにされながら、自来也は今更ながら書類に添付された資料を読みふける。なお、契約書は口寄せ空間に転送済みである。

 

「ア、アカデミーの臨時講師だとぉ!おいサイゾウ!なんでわしがアカデミーの講師などせにゃならんのだ!」

 

「木の葉において、九尾事件で損耗した上忍及び中忍の補充は急務。だからといって速成教育で無理矢理上忍にしたところで、そんな者に上位任務をやらせるわけには行きません。そこで!ミナトを育成したあなたの実績を買ってアカデミーで講師をしていただきます。目標は上忍十人、中忍五十人。強さは最低限で構いません。必要なのは分析力と判断力。政治的な案件にも関わることの多い上忍には、強さよりも特にそれが求められます。そして少なくともそれだけの人数が上忍になれば、下忍を率いての任務分配も効率があがり、現時点のように中忍が無理矢理下忍三個小隊を率いるような体制を無くすことができます。…これは、あなただからこそ頼めることなんですよ、自来也師匠」

 

一息に言い切ったサイゾウは、おだやかな表情で自来也を見つめる。

 

一応言っておくが、契約書にはすでにサインされており、万が一自来也がこの任務を放棄した場合彼の印税収入の半分が木の葉の里に納められることになっている。

 

どちらに転んでも損はないが、できれば受けてほしいとサイゾウは自来也を見ながら彼の決断を待つ。

 

「…仕方ないのォ。言っておくがわしはスパルタだぞ。付いてこれない者は容赦なく切り捨てるからの」

 

「それで構いません。半端な覚悟で部下を率いられても迷惑ですから。一応空いたものからローテーションを組ませて講義を受けさせるつもりです。実際に講義をはじめてもらうのは俺の火影就任を待ってもらう形にはなりますが、準備は今のうちからはじめてください」

 

自来也は自分の知らないところで収入が守られたことに気づかず、苦笑いを浮かべながら退出した。久方ぶりに人に教えるにあたって、色々と用意するものがあるとのことだったが、その手に先程のチケットが数枚握られていたのは言うまでもない。

 

「で、あたしは何をすればいいのかしら“火影様”」

 

「まだ暫定ですよ…自分が師匠って呼ばれないからってイジケないでください大蛇丸先生。あなたと綱手姉さんには、三代目の治療方法を考えてもらいます。…できるだけ早急に」

 

サイゾウの深刻そうな様子に大蛇丸も綱手もはっとした様子でサイゾウを見つめ直す。

 

「…そう、あまり時間がないのね」

 

大蛇丸は表面上冷静に、しかし拳を握りしめるその様子からは激しい悔しさを滲ませる。

 

「だがどうするつもりだサイゾウ。おじいさまの細胞を移植するには、猿飛先生は弱り過ぎているんだろう?」

 

綱手は懸念されるヒルゼンへの負担をどうするのかサイゾウに問う。大蛇丸はなにかを期待するように黙したままだ。

 

「まだハッキリと何ができるかはわかっていませんが、ひとまず輪廻眼が伝説の通りなら生命のコントロールが可能なはずです。最初に考えていたのは治活再生の応用でガンに侵された細胞を柱間細胞に置き換えていく方法でした。けどこれは拒絶反応を抑制するのにかなりの投薬が必要になりますので、リスクも大きい。けれど、俺の予想通りなら拒絶反応は輪廻眼の生命コントロールで抑えられるはずです」

 

「…なるほど、たしか伝説には死者をも蘇らせたとあったわね。けどどうやって検証するつもり?都合よく柱間細胞の被験者が現れてくれるとは思えないけど」

 

「実験はこれまで捕らえてきた盗賊どもで行います。数は十分ありますので、大蛇丸先生にはその補助を。綱手姉さんは、方法が確立されるまでの間三代目の延命をお願いします」

 

サイゾウは現在のヒルゼンから感じられる生命力を見て、一ヶ月ほどで寿命が来ると考えていた。

 

「時間との勝負です。恐らく期限は一ヶ月無いと考えていいでしょう。なにか他に使える方法や妙案が浮かべばどんな些細なことでも言ってください。可能な限り検証します」

 

「そうね、じゃあ早速動くとしましょうか。サイゾウ、あたしが使っている木の葉の研究室を使うわよ。それと“音”からテンゾウを呼んでおきなさい。血に依らず柱間細胞を制御できる唯一の存在よ、必ず参考になるわ。…なによりあたしの作った里でイチャイチャしまくってるあのバカップルの片割れにいい加減仕事させないとね」

 

テンゾウとは、かつて初代火影千手柱間の細胞を制御できる忍を得るために行われた、何度目かの実験で唯一の生き残りである。

 

大蛇丸もかつてその実験に参加したが、危うく樹木に取り込まれそうになり片腕を切り落とすことで事なきを得たことがあった。

 

テンゾウは唯一細胞の制御に成功した者で、一時は暗部の根に所属する忍だったが、任務中に出会ったイブリ一族の少女ユキミに一目惚れし、里を抜けるような形で音の忍となっていた。

 

その後、チャクラの防護で守らなければ風に吹かれるだけでも死んでしまうイブリ一族の目となり足となり活躍していたテンゾウは、新たな里を興そうと様々な忍をスカウトしている最中だった大蛇丸と遭遇。一時は戦闘になるものの、テンゾウを心配して後を追い、チャクラ切れから死にかけていたユキミを大蛇丸が助けたことで和解。

 

その後イブリ一族ごと保護され、音隠れの忍として新生したテンゾウ。

 

今となっては音隠れの『守り刀十傑衆』の一人として所属する傍ら、ユキミと常日頃からイチャついて大蛇丸を辟易させていた。

 

ちなみにイブリ一族の特異体質はかつてサイゾウを実験している過程で出来た新薬で制御させることに成功している。

 

「ああ、テンゾウくんですか。…結局その名前にしたんですね、彼」

 

暗部の忍だった頃の彼を知るサイゾウは、音隠れで働く彼にプレゼントとして初代火影が振るった刀二振りを送ろうかと考えていた。

 

守り刀を名乗るなら、半端な武器では示しがつかないだろうと。

 

「じゃああたしは行くぞ。サイゾウ、あまり無理はするなよ。…それと、今夜三人で待ってるからな」

 

一足先に帰宅せんとする綱手。扉をくぐる寸前、少し頬を赤らめサイゾウに向かってポツリと呟くと、慌てるように帰っていった。

 

「三人…!ぬふ、ぬっふふふふ…!」

 

自来也に負けず劣らずなスケベ顔を披露するサイゾウを前に大蛇丸は「塩ラーメンもいいわね」などと考え疲れた様子で部屋を去っていった。

 

その場には、しばらく妄想で股間を膨らませたサイゾウと…

 

「…はぁはぁ、サイゾウさん」

 

…覗き見する卯月朝顔が残った。

 

__________________________________

 

 

「あっ…!もっ、むり、むりだからぁ…!」

 

必死に懇願する綱手の声も空しく、腰を全力で振り続けるサイゾウには届かない。

 

綱手の隣には全身を白濁した汁に包まれ、女陰(めいん)と肛門をぱっくりと開くほどに攻めぬかれたノノウが幸せそうな顔で気絶している。

 

綱手もサイゾウもすでに何度も達していたが、徐々に体力と気力の限界が近づいてくる綱手と違いサイゾウはまるで今はじめたかのように逸物をいきり立たせている。

 

ノノウが前後不覚になるまでの間乳房を揉みしだくだけでイカされ続けた綱手の体はすでに敏感を通り越していて、もはや潮を吹いているのか失禁しているかの判別さえ本人にはつかなくなっている。

 

「出すよっ…!姉さんっ…!」

 

後ろから突かれ続けている綱手の背後から、自分の腰を振りながら、逃がさぬように綱手

の腰を掴まえるサイゾウは、不意打ちのように綱手の耳元まで急接近してささやく。

 

「あいっ…!いいいいぃぃぃぃ…!!」

 

その瞬間、より深く入った逸物に子宮をえぐられ達した綱手は、悲鳴をあげながら全身の力が抜けていくのを感じ、失神した。

 

ちゅぽんっ、と。

 

どこか間が抜けた音ながら、耳朶(じだ)を通りすぎ脳まで響くそれに全身を刺激されたカエデは、自身の興奮を隠そうともせず、息を切らせながら仰向けに転がり膝を抱えた状態でサイゾウを誘う。

 

「あ、あ、サイゾウ、様…!」

 

泣きながら、カエデは必死にねだる。

 

ノノウと綱手がイジられている間、彼女は自分の豆をイジることすら禁じられ発狂寸前にまで追い詰められていた。

 

すでに彼女の女陰は洪水のようにトロトロとした愛液を垂れ流し、膣口に至っては物欲しげに何度も何度も口を開いては閉じてを繰り返し、その都度愛液が漏れ尻たぶを流れていく。

 

「カエデ、愛してるぞ」

 

挿入しながら真正面で言われた言葉に、カエデは冗談抜きで失神と覚醒を繰り返した。

 

光と闇。白と黒。

 

自分の視界を目まぐるしいほどに変化させたその言葉は、カエデの意識のみならず女陰にも表れていた。

 

「うぐっ…!」

 

こらえきれず、カエデの膣内(なか)に入れただけで限界を迎えたサイゾウ。

 

収縮し続けるカエデの女陰は射精するサイゾウの逸物を、これだけ濡れているにも関わらず決して離そうとせず、砂漠で一滴の水を得たように必死で吸い付いていた。

 

「はっ…!かはっ…!」

 

達しすぎたせいで過呼吸になってしまったカエデは、未だ脳をとろかせる快感に支配され呼吸を忘れてしまいそうになる。

 

「ん…!んむっ、んく、ん…」

 

そんなカエデの現状を察したサイゾウが、深く深くカエデにキスをする。

 

強制的に吐き出そうとする呼吸を無理矢理止められ、しばらくは息苦しさがカエデを苦しめたが、すぐに楽になる。

 

そんなカエデを愛しむように、サイゾウは彼女の呼吸を落ち着かせようと静かなキスを繰り返す。

 

カエデはキスを交わす度に達して失神してしまいそうになるが、それでも必死に耐え、サイゾウの顔を見つめ続ける。

 

もう、どこへも行ってしまわないように。

 

「見張らずとも、俺はどこへも行かぬよ」

 

ちなみにカエデを抱くときにサイゾウの口調が古風になってしまうのは、かつてカエデとの初夜を迎える際“見届け役”である老婆から言葉遣いを直すように言われ、必死で身に付けた結果自然と口から出てしまうためであった。

 

「しゃいひょうひゃあ、しゅき、しゅきらのぉ…」

 

甘えるように、ねだるように。

 

カエデは腰を動かし、自らの膣に入ったままのサイゾウの逸物を刺激する。

 

「ぬ…!また出てしまったぞ。だがカエデ、まるで萎えそうにないんだ。このまま俺が満足するまで、抱かせてくれ…」

 

口づけを交わしながらカエデに願うようにして告げるサイゾウへの、カエデの返答は明白だった。

 

一度ギリギリまで逸物を抜き、腰を下ろしてカエデ自身の入るギリギリまでサイゾウの逸物を迎え入れる。

 

子宮口にまで達してしまったカエデは唇を震わせながら耐えると、にっこりと笑ってサイゾウへ極上の笑顔を向けた。

 

「何度でも、どれだけでも、好きなだけわたくしを抱いてくださいまし。あなたの愛を、わたくしに好きなだけ注いでくださいませ」

 

その笑顔にサイゾウはもう一度射精すると、猛然と動き出す。

 

自分が満足するために。

 

カエデは悲鳴にもならぬ叫びを息に変えて吐く。

 

必死に伸ばした両足が広げられ、全身が女陰と化したような錯覚を覚えながら、カエデはまどろむようにして気を失い、再び目を覚ます。

 

覚醒と失神。

 

それらの合わせ技を覚えてしまったカエデは、この夜から毎晩サイゾウにねだるようになるのだった。

 

 

 

 

 




実際問題厄介な任務その他を暗部に投げすぎ。
依頼の難易度とか、たぶん必死こいて調べてくるんだろうなあ…

あと名家はいいけど、各一族ごとに街があるみたい。木の葉ってようは某合衆国みたいな統治に近いんだろうか。

補足★説明

・自来也が貰ったチケット
サイゾウが厳選した風俗のVIP専用チケット。
それはもうサービスしてもらえる。

・テンゾウ
ヤマト隊長、抜け忍になってるの巻き。

・音隠れの里
保護者丸の興した別名『迫害された一族の見本市』。
うずまき一族もわりといたりする。
原作と違い実験体にしているわけではないので、雰囲気自体が悪いものじゃない。
実質的に木の葉の傘下組織。じゃなきゃテンゾウくん死んでます。

・音の守り刀十傑衆
草薙の剣コレクションを配られた里でも特に優秀な忍らの総称。
メンバーがちょっとした暁。

・盗賊に人権はない
某美少女魔導師の名言も、この世界だと本気でろくな意味じゃない


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

どっ濃い眉毛と天才少年 ★

どーも、感想欄でご指摘いただいて興が乗ったので一息に書き上げました。
サイゾウの過去その①です。

時系列的には母の死後2年が経っていて、大体少年期ナルトと同世代で考えています。

あまり細かい時系列に関しては考えていません(ナルトで時系列はつっこんだら負け)が、年齢的にも縄樹はミナトなどと同世代にしてます。

それと話中においてサイゾウやミナトがアカデミーにいる描写がありますが、あれは下忍を集めて行っている特別講義のようなものです。戦時中ということもありただ下忍を任務に放り出すのではなく、一種のアフターケアのようなものと考えていただければ。


風が吹いている。心に、風が…

 

里の入り口を潜り、サイゾウは自身の内の空虚さを痛みで誤魔化す。

 

少し歩いていくと、道の先で大柄な男が腕組みをして待ち構えていた。

 

「…サイゾウ、またひとりで任務を受けたのか」

 

普段寡黙な父親が、精一杯作ったのであろう厳しい表情で子供を睨んでいる。サイゾウはダイテツの表情を見てそんなことを思った。

 

『うちはダイテツ』。

 

12歳になったばかりの『うちはサイゾウ』の“父親”である。

 

「ああ、別になにも問題はなかった」

 

ポケットに手を入れたまま横を通りすぎようとするサイゾウの手を、ダイテツは黙って掴む。

 

「…離してくれよ、父さん」

 

いたって“無表情”にダイテツに告げるサイゾウであったが、サイゾウのその様子にダイテツは更に表情をしかめる。

 

「この腕、折れているだろう。何故治療を受けてこなかった」

 

表面上わかりにくくされていたが、サイゾウの腕は亀裂骨折を起こしていた。内出血を血抜きしたことでわかりにくくなってはいるものの、見るものが見ればサイゾウがそちら側の腕を庇っているのはまるわかりである。

 

「…医療忍術の練習に使えると思ってね。そろそろ離してくれるかな、父さん」

 

「あ、ああ、すまない」

 

「じゃあ、俺は行くよ」

 

ひどく冷たい目を残して去っていく息子の後を、ダイテツは追えなかった。

 

2年前、まだ生まれたばかりの次男『シスイ』を残してこの世を去った妻を想い、ダイテツは空を見上げる。

 

まだ、戦争は続いている。

 

第三次忍界大戦。忍だけでなく、すべての国の人々を巻き込んだこの愚かな戦争がどこに行き着くのか、妻を失った悲しみがいまだ癒えぬダイテツはわかりたくもなかった。

 

サイゾウは、自分の本当の子供じゃない。

 

そんなことは、コオネと結婚したときから知っていた。

 

生まれたばかりのサイゾウを抱いて途方に暮れている彼女を見て、思いの丈をぶちまけ結婚にこぎつけたことも後悔してはいない。

 

だが、コオネを、母を失って写輪眼に開眼した息子は、日に日にその目に闇を宿しつつある。

 

「コオネ、俺はどうすればいい…」

 

そろそろ預けているシスイを迎えに行かねばならない。忍としての仕事をこなしつつ、息子二人を抱えるダイテツには、あまりにも“父親”としての時間が少なかった。

 

__________________________________

 

「…ちっ、妙な方向に力入れやがって」

 

“己に幻術をかけて”痛みを誤魔化していたサイゾウは、治療の為に幻術を解き、覚えたての《掌仙術》をかけて治療を促していた。

 

「…さすがに下忍のチャクラじゃ効き目は薄いか」

 

断続的に襲う痛みに耐えながら、脂汗を浮かべサイゾウはひとり苦笑いをこぼす。

 

「いやいや、そう悪くはないぞ。だが致命的に手順が間違ってるな!」

 

突如として頭上から掛けられた声にサイゾウは驚き、写輪眼を発動させながら距離をとる。

 

「おお写輪眼か!むむ、よく見れば少年は最近話題の“天才忍者”サイゾウくんではないか!」

 

そこにいた男をなんと形容したものか、サイゾウは言葉につまった。

 

きれいに切り揃えられたオカッパ頭。緑色の全身タイツ。首もとにはどういうつもりなのか真っ赤なマフラーが巻かれている。

 

「…ああ、そうだよ。で、“万年下忍”のおっさんがなんの用だよ」

 

『マイト・ダイ』。忍術も幻術も扱えない体術一辺倒の暑苦しい男。

 

サイゾウの知る目の前の男は、ただそれだけの男だった。

 

「はっはっは!応援ありがとー!そう、俺こそは人呼んで万年下忍!つまり、誰よりも下忍に詳しく、誰よりも下忍に精通した男ということだ!」

 

「いや、誉めてねえよ…くっ!」

 

眼前のポジティプ男に意識を奪われ忘れかけていた痛みが、ふとした拍子に戻ってきてサイゾウは顔をしかめる。

 

「だから致命的に手順を間違っていると言っているだろう。それ、こうするんだ」

 

痛みに喘ぐサイゾウの腕をダイは無造作に掴むと、なんら遠慮なく捻る。

 

「があっ…!てめえ、なにしやが…!どういうことだ…?」

 

断続的な痛みは続いているものの、さきほどのように耐えられないほどじゃない。

 

別段見た目に変わったところはないのに、ダイに捻られた腕はさきほどよりも遥かに楽になっていた。

 

「なに、腕の《点穴》をちょいとな。以前俺も同じような骨折を何度かしたことがあってな。あんまり繰り返すから、通りすがりの日向の者が点穴で痛みを楽にしてくれたことがあったのだ。と言っても、点穴はあと二、三箇所くらいしか把握してないから大して知ってるわけじゃないんだが!はっはっは!」

 

バカ笑いする、目の前の暑苦しい男の評価をサイゾウはどう付けていいのかわからなくなった。

 

点穴。人体に存在するチャクラを流す経絡系の流れにある、チャクラの排出口である。

 

これを見抜けるのは《白眼》を持つ日向一族のみ、というのが通説になっているが、伝説ではうちはマダラの写輪眼は点穴をも見抜いたという。

 

だが目の前の男は里でもそれなりに有名なほど“使えない”ことで有名な万年下忍である。

 

その男が、点穴を数ヵ所とはいえ把握している。いったいどれだけ腕を折ればそんな知識を持つようになるというのか。

 

サイゾウは改めて《掌仙術》を腕に施すと、湿布を貼りその上から包帯を巻き付ける。

 

「…一応礼は言っておく。それと、世話になった借りはいずれ必ず返す。じゃあな」

 

「おう!少年、そんな俯いてると女の子にモテないぞ!」

 

「…あんたよりはモテるよ」

 

「はっはっは!応援ありがとー!」

 

「はあ、だから誉めてないって」

 

男、ダイとの会話に疲れながらも、サイゾウはその日珍しくすんなり眠ることができた。

 

__________________________________

 

相手の動きを見切る写輪眼の洞察眼は反則と言ってもいいほどの能力だ。

 

だから、それを使ってなお自分を上回る目の前の少年が、サイゾウは許せなくて仕方がなかった。

 

「…くっ!くそ、まだだ!!」

 

激しく打ち付けた背中が痛むが、そんなものはサイゾウにとって問題ではない。

 

問題は、写輪眼を持ってしても敵わなかった目の前の少年だ。

 

『波風ミナト』。同期の下忍において、頭ひとつ抜けた実力を持つ少年。

 

サイゾウは腹の中で自身をなじる。なにが天才だ!と。

 

“大嫌い”な《写輪眼》を使った自分は誰よりも強くなくてはいけないのに、この男はそれに従おうとしない。

 

「またミナトが勝ったぞ!」

 

「すげえなあ、写輪眼使ってるんだぞ、サイゾウは」

 

「ねえ、アカデミー終わったらラーメン食べない」

 

周囲の喧騒が、ミナトを讃える声が、サイゾウをイラつかせる。だが何より許せないのは…

 

「大丈夫、サイゾウ?ごめん、少し強く投げすぎたかな」

 

こちらを心配して“見下ろしてくる”金髪のガキだ!

 

「触るな…!ひとりで、平気だ…!」

 

しづらい呼吸を無理矢理行い痛む肺に鞭打って空気を取り込む。

 

背中以外にも痛む箇所はあるが、そんなものは無視する。

 

誰の同情もいらない。誰の助けもいらない。

 

ひとりで、全部こなさなければ。

 

仲間などに頼るから弱くなる。

 

「俺は、ひとりで強くなる…!そして誰よりも最強の火影になってみせる…!」

 

期せずして口から漏れた言葉が聞こえたのか、差し出した手をどうしたものか考えあぐねているミナトが驚いた顔をする。

 

「そうか。じゃあ、俺と競争だね!」

 

目の前の笑顔が眩しい。

 

サイゾウは一瞬呆けた後、舌打ちして表面上普通に歩いて去っていった。

 

その様子を、吹き抜けとなった上の階から見下ろしている“三人”がいた。

 

「なにやってんだか、サイゾウは!あたしの弟分でありながら負けてるんじゃないよ!」

 

酒瓶片手に息巻くのは綱手であり、最近付き合いが悪いと嘆く『縄樹』の気持ちを代弁するかの様にサイゾウを貶す。

 

「いやいや、アレはミナトが規格外すぎるんだのォ。いくら死角から攻撃したとはいえ、写輪眼を持つ相手を一本背負いするなんぞヤツくらいにしかできんぞ」

 

逆にサイゾウと忍組手を行ったミナトをベタ誉めするのは自来也。自身に弟子入りを志願してきたということもあるが、ミナトの抜きん出た才覚を認めそれを他者にも無自覚に自慢している。

 

「別に体術にこだわる必要はないわ。あの子には誰よりも優れた“眼”があるのだから。くくく…それにしてもイイ眼をしていたわ」

 

どこか獲物を狙うような眼光を向ける大蛇丸に、自来也と綱手は変態を見る視線で少し距離を取る。

 

酔いがわずかに覚めたのか、綱手は思い出したかのように出口へと向かった。

 

「なんだ綱手、小便か?ぶげらっ!?」

 

中身の残る酒瓶を顔面に受け、自来也が吹き抜けから落下する。下では落ちてきた自来也に大騒ぎだ。

 

「…なわけあるか、馬鹿が!サイゾウのところへ行って、怪我を見てやるんだよ」

 

「あら、言ってたことと違って心配性なのね」

 

「誰が!けど、あのまま縄樹のところに万が一行かれたらあたしがどやされるんだよ」

 

憤懣やるかたない様子の綱手ではあったが、その目に様子のおかしい弟分を心配するものがあったのを大蛇丸は見逃していない。

 

「…さて、あの子どうするのかしらね」

 

サイゾウが向かう行く末に興味を抱きながら、大蛇丸も静かにその場を去るのだった。

 

__________________________________

 

「はっ!おりゃっ!」

 

巻き藁に向かって、サイゾウは渾身の力を込めた突きや蹴りを次々と放つ。

 

手から血がにじみ、足は腫れているが本人はまるで気にしていない。

 

その様子を見守るのはかつてサイゾウを助けた“万年下忍”マイト・ダイである。

 

「違う違う!どんなに連続で攻撃を放っても、軽くちゃ意味がないぞ!もっと一撃に気合いを込めるんだ!」

 

そう言ったマイト・ダイが自身の前にある縄を巻いた巨木に突きを放つと、衝撃で揺れた巨木から木の葉が落ちてくる。

 

「…はあ、はあ、気合いってなんだよ、はあ、もっと、はあ、具体的な、説明を、しろよ…」

 

疲労困憊といった様子のサイゾウであったが、その目はまだ死んでいない。

 

そしてその様子を見たマイト・ダイがサイゾウに指先をびしっと突き付け言い放つ。

 

「はいストップした!巻き藁格闘を中断したので逆立ち腕立て二百回!」

 

「ぬがーっ!お前のせいだろうがー!」

 

文句を言いながらも、サイゾウは逆立ちして腕立てを始める。

 

ことの始まりは、ミナトに敗北したサイゾウが木の葉近くの森で自主的な鍛練をしていたときにマイト・ダイと再会したことだった。

 

体術に自信がないことを遠回りに言ったサイゾウに対して、ダイは

 

「簡単だ!自信がないなら自信がありあまるほどに努力すればいい!自分ルールだ!」

 

そうして、自分ルールをいまいち把握できないサイゾウに変わってダイがルールを課すという変則的な修行の日々が、ここ数ヵ月繰り広げられていた。

 

「…くそ、俺は、幻術、使い、なん、ぜえ、だぞ、なんで、腕立て、して、るん、だよ」

 

「甘いぞサイゾウ!幻術とていつでも相手がかかってくれるとは限らん!ゆえに!一に腕立て、二にスクワット、三四が腹筋、五に走り込みだ!」

 

メガホンで声援をかけてくるダイに怒りを覚えつつも、サイゾウはここ数ヵ月で急激に体術の実力が付いてきたのを実感していた。

 

やがて、ダイの課す滅茶苦茶な自分ルールの修行を終えたサイゾウは息も絶え絶えといった様子で倒れこむ。

 

全身に走る痛みにサイゾウは、またひとつ力がついたと、暗い笑みをこぼす。

 

その様子を黙って見ていたダイが、ふと思い出したかのように語り始めた。

 

「…サイゾウ、今度俺に子供が生まれるんだ」

 

「…あんた、結婚してたのか」

 

目の前の『木の葉一濃ゆいヤツ選手権』でも開かれればぶっちぎりで優勝しそうな男に妻がいたことに、サイゾウはなんだか負けたような気分になる。

 

「ああ、万年下忍の俺なんかを愛してくれる、素晴らしい人だ。…だが俺は、父親失格だ。生まれてくる子供に、なにも残してやれるものがない…!」

 

背中を向けるダイの、珍しいを通り越した泣き言に、サイゾウはなんと返していいかわからなくなる。

 

だが、“借り”は必ず返すと以前約束したのだ。ならば、この機会を逃す手はないだろうとサイゾウは考え口を開いた。

 

「…俺には、立派な父親なんてものがどんな人かわからない。父さんと血は繋がってないし、本当の父親だってどこの誰かも知らない。だけどさ、あんたが何かを残してやりたいっていうならさ、“これから”なにかを作ればいいじゃないか。それこそなんだっていいだろう。体術だって、里で一番じゃないにしても、結構いい線行ってると思うぜ?」

 

子供なりの、不器用なりの、精一杯の励ましの言葉。

 

そんな言葉が、目の前の熱血男に届かないはずもなかった。

 

「サ…」

 

「さ?」

 

「サイゾォォォォォォ!俺は今!猛烈に感動している!」

 

「うわっ!涙と鼻水垂らしてこっち来んな!ぎゃー、顔についたー!」

 

「うおおおおおん!そうだとも!“今”がダメなら!“次”を作ればいいのだ!俺はやるぞ!サイゾウ!!」

 

熱血に燃えるダイのやる気にサイゾウは汚れた顔を拭きつつ呆れながらも、その顔には普段と違いどこかスッキリとした笑顔が浮かんでいた。

 

__________________________________

 

 

それから数ヵ月後。

 

しばらくダイを見なかったサイゾウは、久しぶりにダイを見た。

 

死にかけて倒れているのを。

 

「おいダイ!なにがあった!なんでこんなボロボロなんだ!!」

 

木の葉の入り口近くの林で倒れていたダイを、サイゾウは急いで木の葉病院へと連れていった。

 

戻らぬ夫を心配していた妻も、ほどなくして到着する。

 

「お、おお!サイゾウ…俺はとうとう会得したぞ…!」

 

「点滴したばっかなんだから、無理して喋るんじゃねえよ。なんだ、どこかの里の忍にでもやられたのか」

 

ダイが倒れていたのは木の葉の里の入り口近くである。サイゾウは最悪暗部に連絡を入れねばと、ダイの言葉を聞き逃さぬよう耳をすます。

 

「…禁術《八門遁甲》だ。俺は、とうとうあの術を使うことに成功した…」

 

「なにぃ…?」

 

小声で聞きづらかったものの、サイゾウはダイの言葉に驚愕を露にする。

 

禁術《八門遁甲の陣》。体内にあるチャクラの“門”を段階的に開き、普段抑制されているチャクラの働きをすべて肉体に還元する、凶悪にして強力な術である。

 

その存在には聞き及んでいたものの、サイゾウはそれを実戦でこなしたという忍を見たことはない。

 

なぜならば、その術の使い手は全員死んでいるからだ。

 

「…ダイ、あんたなんで生きてんだ」

 

「…ふふ、ガッツで乗り切った…と言えればカッコいいんだろうが、禁術《八門遁甲》は段階的に“門”を開く。今回開いたのは第五門、杜門だ。だが予想以上に反動が凄まじくてな…里の入り口までたどり着いたはいいが、力尽きてしまった…」

 

息も絶え絶えに話すダイ。ちなみに彼の妻はこれが任務上の会話だと気を使って部屋の外にいる。実際は旦那が自爆しただけなのだが。

 

「それが本当なら、ダイ、あんたとんでもないぞ。資料に残ってる八門遁甲の使い手は全員死んでるんだ。それを自力で会得した上に、この短期間でそこまで身に付けるだなんて」

 

珍しいサイゾウの称賛だが、ダイは苦笑いを浮かべる。

 

「…そうじゃない。俺はこの術を知ってから、これまでずっと努力してきた。“自分ルール”でな。後少し、そう思えるようになるまでに、十年以上無駄にしてきた。おかげで俺は忍術もまともに使えない万年下忍だ。それも、子供が生まれてきたことで、怖くなってな。いまだに身に付けられない自分は、いったいなんなのか、と。それがこの間、お前の言葉で吹っ切れた。“死”を恐れぬ強い意思、それこそが、八門遁甲を使うのに本当に必要な要素だったんだ。…ありがとうサイゾウ、最高の“借り”の返し方だ」

 

「…ふん、だったらさっさと治して息子の顔を見に行ってやれよ。じゃないと、俺が八門遁甲身に付けて奥さん取っちゃうぜ」

 

からかうように告げるサイゾウの言葉にダイは慌てて起き上がろうとするが、痛みにうめいて再び倒れる。

 

彼の悲鳴を聞いて部屋に戻ってきた妻との寸劇を見ながら、サイゾウは取りたくても取れそうにないオシドリのような二人に笑みをこぼした。

 

彼の心に、もう風は吹いていなかった。




サイゾウ少年期。

母が死ぬまでは縄樹と普通に遊んだりしているちょっと生意気なクソガキでしたが、母が写輪眼と仲間を守るために死んだことで“仲間”も“写輪眼”も大嫌いになっています。
なので写輪眼はちょっとした道具扱い。便利ですが、頼ってはいません。
それまで幻術使いとして認められていたのを、突然積極的に忍体術を練習するようになりました。

ダイとは、歳の離れた兄のように接しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

灼遁使いの艷姿

お待たせしましたエロスでござる(´・ω・`)!

今回は原作でもチラッとしか出なかったパクラ姉さんでござい!

乳の大きさは綱手に匹敵するぜい!!


ある雨の日。戦時中。

 

大蛇丸は渦の国に近い隠し拠点にて、《血継限界》について研究を進めていた。

 

これまでサイゾウの協力もあり、多種の血継限界の血を集めてきた大蛇丸は、なぜ特定の血族だけ複数の属性を組み合わせることによる特殊な忍術が扱えるのかを研究していた。

 

サイゾウが《竹遁》という、柱間細胞を取り込んだ結果目覚めた《木遁》の亜種もそうだが、こと忍の血には謎が多い。

 

いや、血というよりはそこに宿る“チャクラ”とでも言うべきか。

 

仮に同じ血を引く一族でも《血継限界》を使える者、またそれらを使いこなせる者と使いこなせない者など差違は生まれる。

 

大蛇丸はそこに、単純な“才能の差”だけに依らない“何か”がある気がしてならなかった。

 

「…《不屍転生》への研究に応用できるものは多いけど、本当に必要なのは“器”ではないのかもしれないわね」

 

最近大蛇丸は、かつて己自身が長年追求してきた擬似的な不老不死である忍術を疑問視するようになってきていた。

 

元の“脆い”器では、いずれ強さも知識も限界が来ることを大蛇丸は知っていた。ゆえの《不屍転生》であり、その次の器にサイゾウを狙ってもいるのだが。

 

「仮にあたしがサイゾウの体を得たところで、《竹遁》どころか《木遁》が扱えるかもわからないわね」

 

自身が持つ薬品によって調整すれば、恐らく可能だろうことは大蛇丸もわかっている。

 

だがそれでは意味がないのだ。使いこなせない忍術など、宝の持ち腐れになってしまう。

 

「なにか肉体そのものに宿る術ならば…そう、写輪眼や白眼のような瞳術、あるいは肉体そのものに特異な力を持つ一族であれば…」

 

大蛇丸は瞳術の研究も進めていた。サイゾウより“ある人物”の写輪眼を預かり、それのクローン培養も進めている。

 

自分にそれを移植してもいいが、『写輪眼のカカシ』を見てもわかるように強力な術には強力な反動が伴う。

 

眼そのものを使い捨てにするのならばそれもありかもしれないが、コストを考えればとてもではないが現実的ではない。それこそ、“うちは一族が皆殺しにでもならなければ”。

 

「…ふっ、こんなことあたしが考えてると知ったら、あの子はどんな顔をするのかしらね」

 

酷薄な笑みを浮かべた大蛇丸であったが、無自覚にその笑顔からは寂寥感が漂っていた。

 

ふと、人の気配がして大蛇丸は考えを中断する。

 

見知った気配と、それが連れている“見知らぬ気配”。

 

「大蛇丸先生、ただいま戻りました」

 

「…もうつっこむ気も起きないけど、今度は誰を連れてきたの」

 

大蛇丸はサイゾウが抱える妙齢の女性を見てため息をついた。

 

彼が戦場に出るようになってしばらく経つが、この悪癖は未だに治る様子はない。

 

数年前、ミナトとの任務で“戦場の地獄”を見てきたというサイゾウは、大蛇丸に本格的に弟子入りした。

 

───対価として何を渡すのか───そう言った大蛇丸にサイゾウははじめ迷わず己の“眼”を差し出そうとした。

 

タイミング的に、そんなことがバレれば綱手に殺されてしまう。

 

そう思ってその時は止めた大蛇丸だったが、後から惜しんでいた頃にサイゾウは再び自身に眼を差し出してきた。

 

他ならぬ、自分の父親の眼を。

 

たしかに彼の父親は死んで間もなく、その眼も一族の慣例に従って死体から外され火遁で厳重に処理されたはずだった。

 

だがサイゾウは、対価として、なにより研究材料としての計り知れない価値が写輪眼にあることを知っていた。

 

それもサイゾウの父ダイテツの眼は《万華鏡写輪眼》である。

 

大蛇丸はむしろ有り余る対価に、目の前で父親の眼を差し出す弟子が自身に何を望むかの想像が及ばず、震えが走ったほどだった。

 

「さあ…?なんか死にかけてたんで咄嗟に助けちゃいましたけど、額当てを見る限り砂のくの一みたいですね」

 

「ですね、じゃないわよ。…はあ、あんたが保護した人間集めたらそろそろ隠里作れそうよ」

 

目の前の弟子が綱手直伝の掌仙術の使い手であることを知り、それなら目の前のくの一が見てとれる外傷痕の割りに命に別状がないことも理解できた。

 

ついでに大蛇丸は、これまでサイゾウが本能の赴くままに保護してきた血継限界や名もない忍(ほぼくの一)の数えたくもない人数を考えため息をつく。

 

彼ら彼女らをそのまま木の葉に連れていくわけにもいかず、かといって放り出すつもりも無さそうな弟子の様子に、大蛇丸は冗談半分本気半分でそう告げる。

 

「いいじゃないですか、それ!俺も木の葉の枠組みだけじゃ種々の問題に対処できないと思ってたところなんです。俺も協力しますから、作っちゃいましょうよ!」

 

明るく言ってのける馬鹿弟子(能力は恐ろしく優秀)の言葉に、大蛇丸はしばし考える。

 

このペースでサイゾウが保護を繰り返していけば、いずれ自分があちこちに用意した隠し拠点も飽和状態となり限界を迎えるだろう。

 

であるならば、たしかにいっそ里を興してしまえばいい。それは火影になることを半ば諦めた大蛇丸にとって、魅力的な提案だった。

 

「…けど、簡単に作れるものじゃないわよ。まず場所はどうするの…いえ、そういえば最近火の国近くに空白地帯が生まれたわね。けど里を擁する国はどこを頼るつもり?」

 

「手っ取り早くいくなら田の国大名が戦力を欲しがっています。あそこの国近くにいる忍は死韻の一族やふうま一族。どちらも好戦的で、戦時だからこそ傭兵のように運営できていますが、いずれ限界が来るでしょう。先生の言う空白地帯にも近い。信頼関係の薄い隙を突いて俺たちが割り込み、一息に国ごと乗っ取ってしまいましょう」

 

小国とはいえ、容易く国盗りを口にする己の弟子に大蛇丸は笑みを深くする。

 

「話が早いわね。もしかして前から計画していたのかしら?…まあいいけど、それならなおさら“里”としての体面は待つべきよ。急いたところで他に潰されるのが関の山。まずは十分な戦力になるだけの人材を集めないと。あなたが口説き落とした女達が仮に全員集まったとしても、それだけではたぶん足りないわ」

 

「…となると、諸々の準備や資金の調達も兼ねて十年といったところですか。ふむ…であれば大名の攻略は近いうちにやってしまいましょう。俺の幻術で傀儡にしてもいいですし、文字通り“人形”にしてもいい」

 

相変わらず爽やかな笑みを浮かべながら空恐ろしいことを告げるサイゾウ。

 

ミナトに闇へ落ちることを止められたとはいえ、サイゾウが眼にした“戦禍”は彼に大きな影響を及ぼしていた。

 

それこそ、身内以外を容易く切り捨てられるようになるぐらいには。

 

「あなたも言うようになったわね。女に甘い時のあなたより、そっちの方が好きよ」

 

「そいつはどうも。いずれにしても忍の里は、保有してくれる国があってはじめて存在できますからね。所詮は人殺しの力を持った異能集団です」

 

さらりと告げるサイゾウの言葉に大蛇丸は言葉に詰まる。

 

そうなのだ。どれだけ研究を重ねたところで、忍の強さが行き着く果ては死山血河。

 

忍の価値はその“死”で決まる、などという妄言がどこの里でも信じられているのがいい証拠だろう。

 

「ま、気長にやりましょう。此度の大戦で里から爪弾かれた連中も多い。盗賊の真似事をするクズどもはいい木偶になりますし、保護を求めてくる者はいずれ戦力にもできます」

 

「木の葉との関係はどうするつもり?完全な独立を保つなら、新しい里作りはかなり慎重にやらないといけないわよ」

 

大蛇丸の懸念は最もだろう。此度の大戦においてまず間違いなく一人勝ちするだろうと言われているのが“木の葉”だ。純粋に戦力としての層が厚いというのもあるだろうが、『忍の闇』による謀略はその戦力を可能な限り削ぐことなく行動させることを可能とする。

 

血継限界だらけの小さな隠里など、理由をつけて皆殺しにされかねなかった。

 

「そうですね、内政干渉されない程度の“距離”は必要ですが、三代目にも極秘に相談してこの際属してしまいましょう。理由はいくらでも用意できますし、三代目には情を理由にすれば否とは言えないでしょうし。それとダンゾウ殿にはこちらが有用であることを示すための取引を持ちかけるとして…彼がこちらに協力したいと思えるほどの“手土産”が必要ですか」

 

「だったら丁度いいものがあるわ。柱間細胞とクローン培養した写輪眼を併せた義手。うちはの禁術である《イザナギ》が不完全ながら使えるようになるはずよ。彼のような人間にはぴったりの代物でしょう?」

 

「…実質木の葉要素しか無いですし、大蛇丸先生頼りなのが気になりますが…まあいいでしょう。…で、仕掛けは?」

 

「あたしの仙術チャクラに従って木遁が暴走するようにしこめるわ。ま、形振り構わなくなったらそれもどこまで通じるかはわからないけど、無駄なリスクは背負わないはずよ」

 

予想通りとでも言うべきか、後年その仕掛けがさっくり無効化され、ダンゾウを抑える方法として穢土転生を選ぶハメになる大蛇丸だが、この時点では知るよしもない。

 

「なるほど。じゃ、俺は彼女を“看病”してあげなければならないので!」

 

一通り話し終えるとあっさり思考を切り替えたサイゾウは、砂隠れのくの一を嬉しそうに抱え直しながら自室へと向かっていった。

 

「…あ、耳栓どこやったかしら」

 

以前声が垂れ流しになってキレて乗り込んだことがある大蛇丸だったが、その際扉を開けた瞬間に女の潮まみれになった過去を思いだし、これから起きるであろう嬌声を無視することに決めたのだった。

 

__________________________________

 

パクラは夢を見ていた。

 

穏やかで、暖かい夢を。

 

全身を包む温もりに身を委ねることの、なんと安心することか。

 

彼女は生まれて初めて、安らかに眠れていた。

 

(…心地いい。…あたしは、死んだのか…?…そうか、里はあたしを捨て石に…)

 

英雄と持て囃され、里の為に必死で戦ってきた自分の末路に、パクラは己を嘲笑する。

 

(…何が“英雄”か。結局は都合に合わせてあっさり捨てられる“駒”のひとつに過ぎないじゃないか…)

 

涙は浮かばなかった。それよりも、自分を殺した霧隠れが憎かった。自分を売った砂隠れが憎かった。なにも考えずに安穏と騙された自分が憎かった。

 

(…マキはどうしただろうか。んっ…!なんだ、急に胸の辺りが…あんっ…!)

 

意識を夢と現(うつつ)の狭間に漂わせるパクラは、心地よさが急に自分の胸に集中しはじめたことに違和感を持つ。

 

(んくっ…!はぁ…!し、死後の世界は…やんっ…!こんな目に遭うのか…!?)

 

我ながら他より大きい胸は、術を使う上で着る忍装束が扇情的なこともありどことなく恥ずかしかったパクラであったが、その胸をこうまで好き放題に弄くられた経験などなかった。

 

(うああっ…!ダメだ…!胸、胸をいじられて…おかしくなるっ…!)

 

夢の狭間で絶頂を覚えたパクラは、まどろみが少し晴れてきたのを覚える。

 

(はぁ…はぁ…はぁ…、き、衣擦れの音…!あたしは、生きているのか…!)

 

目を開くことはできないものの、パクラは自分の服が脱がされているのを理解できていた。

 

(やだ…!今脱がされたら、下着見られる…!絶対恥ずかしいシミ付いちゃってる…!)

 

さきほどまで服の上から触られていたという衝撃的な事実を気にする余裕もなく、意外と内面は乙女だったパクラは自分の下半身が脱がされていくのを抵抗しようとするが、体は思った以上に動いてくれない。

 

(え、なに、これ…まさか、臭い嗅がれてる…!?いや!やめて…!)

 

パクラの蒸れた下着はあえて脱がされることなく、至近距離まで近づいた鼻がくすぐるようにして嗅いでいる。

 

恥じらいからか、はたまた興奮からか。パクラは再びの興奮を覚えながらも、それによってさらに拡がっていくシミを気にして叫びたい気持ちになる。

 

(くそ…!こんな辱しめを受けるなら、あのとき殺されていれば…ひゃうっ!?え、え、え、なんでそんなとこ…えきゃうっ!?)

 

心のなかで奇妙な悲鳴を上げながら、いつの間にか下着ごと脱がされたパクラの秘所は丹念に舐め回されていた。

 

(やだやだやだ…!そこ、おしっこするとこぉうっ…!?だめ…!おしりはもっとだめえ…!)

 

舌を這わされ、すすられ、ねぶられ、舐められ、甘噛みされ…

 

パクラの想像の埒外にある刺激は、もはや完全に乙女となりつつあるパクラから理性を奪うには十分過ぎるものだった。

 

いつの間にか、目を開けられるようになったパクラは、目の前にひとりの男がいるのをどうにか認識することができた。

 

下半身から来る甘い痺れ。それをもたらしたのが他ならぬ目の前の男であろうことをどうにか認識すると、次の瞬間パクラの口は男の口で塞がれていた。

 

「…ふむ…ん…ちゅ…」

 

ゆっくりと口蓋を撫でるように這わされる舌に脳がとろかされるような錯覚を覚えた頃、不意に男が口にした言葉が衝撃の合図となった。

 

「いくぞ」

 

「はあっうっっ!きゃ、ああああああああ~~っっ!!」

 

ギチギチに、限界まで拡げられた膣からもたらされる“尋常ではない快楽”に、パクラは意識を持っていかれないようにするのが精一杯だった。

 

「ああっ、うう、むね、いっしょ、だめえ…!」

 

どこか子供のように訴えるパクラであったが、彼女の願いは空しく人一倍大きい胸は腰を振り続ける男によってもまれながらねぶられている。

 

「もっと気持ちよくしてやるよ…!」

 

男がそう言うと、それまで一定のリズムで動いていた男の腰がやや不規則に変わり、同時により深く刺さった男のペニスがパクラの膣内(なか)にある“弱いポイント”を容赦なくえぐる。

 

「あ、あ、ああああああ~~~~~っっっ!!!!!」

 

目の前に白い火花が散る錯覚を覚えるほどに高められたパクラの快感はとどまることを知らず、ひたすらに彼女を昂らせ上らせ続ける。

 

「ああああ…!あああう…!」

 

もはやただ叫ぶことしかできないパクラは、どこかへ飛ばされないよう必死で目の前の男の二の腕を掴む。

 

「大丈夫だ、俺が掴まえてるから、安心して行きな…!」

 

その様子に微笑みを見せた男───サイゾウは、一度腰を限界まで引き抜くと“とどめ”をさすために全力で腰を突きいれた。

 

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!!」

 

獣のような雄叫びを上げたパクラは、激しく膣を締め付けながら失神するのであった。

 

__________________________________

 

パクラが派手に失禁しながら絶頂して数時間後。

 

今サイゾウは、パクラの前で正座して怒られていた。

 

「だいたいお前もお前だ!如何に命を助けたとはいえ、女の操を許可なく奪うなど言語道断!万死に値するぞ!」

 

素直に正座しているサイゾウだが、その視線は怒って身ぶり手振りをするたびバルンバルン揺れるパクラの乳に釘付けだ。

 

「おい!聞いているのか!」

 

「ナイスオッパイ!!いや違う!聞いてる、聞いてるって!」

 

「…体内の水分無くしてやろうか?」

 

灼遁の熱球を横に浮かべながら、パクラはやや顔を赤らめサイゾウを脅す。

 

「わかった!じゃあ改めて念入りに気持ちよくしてやるから!レッツ初体験再び!」

 

灼遁の熱球を恐れもせず、手をわきわきさせながら近寄ってくるサイゾウにパクラは本能的に下腹をきゅんとさせたじろぐ。

 

「そ、そういうことじゃないだろう…!おい待て、危ないって、や!だめ!まだそこは…あんっ…!」

 

再び下を脱がされたパクラは、自分がもはや復讐などどうでもよく思っていることに気づいていなかった。

 

「あううう…!あ、だめえ、動かないれぇ…!」

 

膣が濡れたままだったパクラはすぐさま挿入され、嬌声をあげる。

 

彼女の頭にあるのはもはや復讐ではなく、今自分に襲いかかる快感にどうやって抗えばいいかだけだった。

 

雨は、振り続けている。

 

「ひにゃあ…!おしりにゆびが…!」

 

彼女の夜は、まだまだ終わりそうにない。

 

__________________________________

 

「…いつ終わるのかしら」

 

やることも終わった大蛇丸は、ひとり帰るわけにもいかずなんとも言いがたい表情で研究室の隅で体育座りしていた。

 

尻を冷やすひんやりした石畳の感触が、ひどく印象に残っていた。

 

 

 




ちなみにエロシーンでパクラが序盤夢見心地なのは、最初は普通にサイゾウが治療していたからです

なおこの頃のサイゾウは、まだそこまで子供に甘くはありません。
女遊びを覚えた影響で、自分の女は守るという意思は固めていますが、身内以外はあっさり切り捨てる危うさを持っていたりします。
彼が子供を守ろうとするきっかけは次回オビトとの接触までお待ちくだされ。


なんだか誰かが感想でサイゾウの見た目に関して聞いてきた気がするのですが、朝起きたら消えているという不思議体験をしましたので、ちょいとついでにサイゾウの見た目に関してここに書きます。

・顔つきはたれ目がち。スケベなこと想像して鼻の下を伸ばしているときの表情は父親そっくり(大名)。戦闘時にはこの気だるげな眼がきりりと釣り上がり、殺気と混ざることで変身せずとも鬼のように見える。

・身長180センチ。体重126キロ→258キロ(硬の改造発動時)。高密度の筋肉に覆われている上に、大蛇丸とは逆の硬の改造を施してあり、骨密度も尋常ではなく高い。
冗談抜きでチャクラ抜きの素手ゴロでも並みの忍ならハンバーグの材料にできる。チャクラを使えばこれが高速移動して達人級の技術を使ってくるという悪夢。

・髪は適当に伸ばしていたが、カエデと祝言を上げてからはきちんと切り揃えている。
火影就任後また伸ばしはじめた。理由は彼の髪をいじって楽しむカエデが可愛かったため。

・戦場においてはマダラや柱間が着ていたような鎧を着込むことが多い。これは、単独特攻を仕掛ける特性上不意の攻撃に備えるため。火影就任後は須佐能乎を“着る”ことで代用しているためミナトが着ていたような陣羽織を普通の忍装束に羽織っている。

見た目に関する情報とか言っておいてあまり描写できていない件(´・ω・`)
許せ…!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真っ直ぐな子供 ★

タイトルはオビトを現しています。

闇に落ちてもひたすらにリンがいる世界を求め続けた彼の人生は、地獄そのものでした。

彼がかつてマダラを名乗っていたとき、もっとも感情をむき出しにしたのがサスケにイタチの真実を伝えたときです。

オビトはイタチの姿に、かつて己がそうあれなかった悔しさを滲ませているようにも思えます。

ではでは、繋ぎの過去話です。どうぞ。


うららかな春の陽気。

 

戦時中とは思えないほどにいい天気の木の葉の里で、“ある意味”でも有名な二人組が言い争っていた。

 

「だぁから、今そんな気分じゃないんですって」

 

いつもの様子とは打って変わって、サイゾウはしつこく絡んでくる自来也の誘いを露骨に嫌がり避けていた。

 

「なァにを言うかエロ弟子がぁ!?お前が来ないとウルルちゃんご指名できないだろうが!」

 

「やっぱそういうことかよ!このドスケベ師匠が!」

 

自来也が行こうとしていたのは短冊街。

 

二人ともに常連であるそこのキャバクラに、最近自来也お気に入りの巨乳の娘がいる。

 

しかし彼女はサイゾウに惚れていた為、自来也が来る際には彼を連れてこないと席につかないと断言していた。

 

「冷たいこと言うんじゃないのォ、なんじゃ、また胸糞悪いもんでも見てきたか」

 

「…!あんたには関係ない…」

 

「図星かいのォ。戦争中のありふれた光景だとは言わんが、そういうときは思うがままに発散するに限るぞ?」

 

核心をついた自来也の言葉に、冷たい雰囲気を滲ませるサイゾウ。わずかに漏れた殺気が通行人らを戦(おのの)かせるが、自来也は気にすることなく気晴らしを進める。

 

「…そりゃそうなんだけどよ、今度はちょっと違うんだ。…悪いが、またな」

 

そう言って、再び俯いて歩き出したエロ弟子を見守る自来也の視線はどうしたものかと揺れていた。

 

「…そうやってなんでも抱え込んじまうと、いずれ潰れるぞ…サイゾウ」

 

自来也はかつて己が見てきた、戦争の闇に耐えきれずに自らも闇に走った者達とサイゾウを重ねて見てしまう自分に嫌気がさして頭をかく。

 

行き先を違えた二人だったが、その師の心は弟子の方向を向いていた。

 

__________________________________

 

 

サイゾウは公園のベンチでひとり座っていた。

 

自分の手を見ながら、その手を握って息絶えた幼い子供の温もりが、徐々に消えていくのを思い出していた。

 

なんてことのない任務だった。

 

木の葉の情報を得ようとやってきた岩隠れの小隊。それらを蹴散らすことがサイゾウに与えられた任務だった。

 

結果はあっさりとサイゾウに軍配が上がった。

 

上忍が中隊規模で迫ってきているならともかく、上忍に率いられた下忍が相手では彼の相手になるはずもない。

 

だが、その下忍の内ひとりは、まだ子供だった。

 

「…くそっ…!!」

 

サイゾウは震える自分の手を無理矢理握りこむ。

 

投げた苦無が子供の喉に刺さり、小隊のひとりが悲鳴をあげた。

 

顔つきが似ていたことから、恐らく家族なのだろう。

 

サイゾウは心で躊躇いながらも、戦闘時における思考の切り替えから行動が緩むのを許さなかった。

 

子供を助けようと動いた他の忍を《炎纏華》で殴り消し炭に変えると、死にかけて空を見上げる子供へとサイゾウは近づいた。

 

すでに出血多量で、“助からない”だろう子供。

 

サイゾウはせめて楽にしてやろうと、子供へと苦無を振り下ろそうとして…できなかった。

 

死が迫る不安から、すでに見えない視界で必死に誰かを求めて伸ばした手を、掴んでやることしかできなかった。

 

「…俺はいつまで、この地獄を歩けばいい…!」

 

サイゾウは戦争が大嫌いだった。殺したくもない相手を殺し、犠牲を、哀しみを生み続ける戦争が。

 

ミナトは今や担当上忍となり、幼い子供の下忍を率いながら戦い続けている。

 

しかしサイゾウは、自分が守りきれなかった場合をどうしても考えてしまった。その迷いから、いまだ担当上忍の話を固辞し続けていた。

 

「あ!サイゾウの兄ちゃんだ!」

 

落ち込んでいるサイゾウの空気を読まず、突如として現れた少年はびしっと音が鳴りそうなほどにはっきりとサイゾウを指差して叫んだ。

 

「…お前は、うちはの子供か」

 

ナンパしている時以外のサイゾウは基本的に冷たい。

 

特に子供は嫌いだった。すぐに死んでしまう、弱い存在だから。

 

目の前の子供がうちはのものだと気づけたのも、どこかで見た気がしたからだ。

 

「なんだよ、俺のこと忘れたのかよ!オビトだよ!うちはオビト!」

 

「…悪いが、美少女でもなきゃジャリなんざ記憶に残さないんでな」

 

冷たくあしらいながらも、サイゾウは目の前の元気一杯な少年───オビトから目が離せなかった。

 

「ひっでえ!まあいいけどな、サイゾウの兄ちゃんもいずれオレのことを忘れられなくなるんだから!」

 

その言葉に、サイゾウはオビトが死んだ姿を幻視する。

 

なにを夢のようなことを、サイゾウはそう言おうとしてオビトの次の言葉に唖然としてしまった。

 

「なんたって!オレが火影になったらサイゾウの兄ちゃんはオレの部下!記憶に残さないなんて言わせねえんだからさ!」

 

「…お前が、火影に…?」

 

自分がひどく間の抜けた顔をしていることに、サイゾウは気づいていたが気にする余裕はなかった。

 

「おう!オレは火影になる!そんでもってリンと…にしし!」

 

頬を赤らめ、だらしなく笑う無力な目の前の子供。

 

だが子供の言葉にした“火影”という言葉は、サイゾウのなかにある“なにか”を刺激する。

 

「…そんな簡単になれるかよ。俺だってなれるかわからないんだ…」

 

自嘲するように呟くサイゾウだが、その様子に不満げなのはオビトだ。

 

「なんだよ、サイゾウの兄ちゃんは数少ないオレが尊敬するうちはの大人なんだから、情けないこと言ってるんじゃねーよ!」

 

「具体的には…?」

 

「どうか、女の子にモテる方法を伝授してください…!」

 

まるで後ろを振り向かない。まっすぐな視線。自分もかつてはこんな“眼”をしていたのだろうか。

 

まだ母がいて、父と不器用な親子を演じていた頃。

 

弟を守らねばと、使命感に燃えていた頃。

 

そう、かつて自分も無力だった頃を、サイゾウは思い出していた。

 

「…女の子にモテるには、まず強くならなくちゃな。ちょうどいい、気晴らしに鍛えてやる。付いてこい」

 

「ぐえっ!?サイゾウの兄ちゃん!くび、くびしまってる!」

 

オビトの襟首を無造作に掴んで引きずっていくサイゾウだったが、その顔には笑顔が浮かんでいた。

 

“情けない大人”ではいられない。願わくば、この真っ直ぐな子供が馬鹿にできないような、“強い大人”であろう。

 

サイゾウはそう思うことにした。

 

痛みも、哀しみも、犠牲も。

 

それらすべてを飲み干すほどに強い大人であろうと。

 

「とりあえず今日中に《豪火球》が使えるようにしてやる」

 

「え!なんでオレが使えないの知って!?ぐええ!だから絞まってるってばあ!」

 

まるで兄弟のような二人の歩む道に幸あらんことを。

 

彼らの様子をこっそり見守っていたミナトは、木陰で笑みをこぼしながらそう思うのであった。

 

__________________________________

 

 

「…ふむ、担当上忍の話。受けてくれるか」

 

三代目火影猿飛ヒルゼンは、目の前に立つ男を見上げつつ言った。

 

問題行動は目立つが、戦果という意味ではミナトにも負けず劣らない男。

 

『うちはサイゾウ』。

 

その名はかつて里の垣根を越えて尾獣を止めるために死んだ英雄、霧隠れのサイゾウと呼ばれる忍から付けられたモノだという。

 

名に恥じない…かどうかはともかく、実力においては《万華鏡写輪眼》を扱ううちはフガクにも匹敵する男であった。

 

「ええ、最近思うところがありまして。あ、できれば美少女三人とかダメですかね?」

 

「お主に美少女なんぞ預けた日には、来年の今ごろは全員懐妊じゃ」

 

「はっはっは、それほどでも!」

 

「ほめとらん!」

 

馬鹿な会話だとは思っているが、実際サイゾウは戦場で捕らえたくの一を口説き落としてどこかへと逃がしているとまことしやかに噂されている。

 

証拠を一切掴ませない上に、真実を知っているであろう師匠の大蛇丸でさえ口を濁すのだから相当巧くやってはいるのだろうが。

 

「…ともかく、現状でお前に預けられる下忍は三人。これからは小隊として彼らを率い、任務をこなしてもらうことになる。もちろん、小隊を率いる以外の任務も引き続きこなしてもらうぞ」

 

「えー…ナンパの時間が取れないじゃないですか」

 

「取るなんなもん!少しは木の葉の上忍としての自覚を持たんか!!」

 

激昂するヒルゼンであったが、サイゾウはどこ吹く風と言わんばかりに聞き流している。

 

すると、不意に火影の執務室がノックされる。

 

「来たか…入れ!」

 

ヒルゼンが声をかけると、扉を開け三人の少年少女が歩いてくる。

 

「サ、サイゾウさん!?」

 

「げ、『種馬』かよ!」

 

「ちょっとアスマ、本人目の前にいるのよ」

 

そこにやってきた子供らの一人を、サイゾウは知っていた。

 

「ガイじゃないか。そうか、お前もアカデミーを卒業できたんだな。おめでとう!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

マイト・ダイとの付き合いはあれからも続いており、サイゾウは最近ようやく《八門遁甲》が使えるようになっていた。

 

また彼の子供であるガイとは生まれたときより面識があり、時々ダイとの組手を行いがてらその姿を見受けていた。

 

ガイは普段どこか無関心なサイゾウが自分に明るく挨拶してきたことに違和感を覚える。

 

「で、『種馬』ってなにかな?」

 

慇懃無礼とはこのことか、とアスマはサイゾウの気配に怯えながら思った。

 

これまで自分に接する人間は、三代目の息子であるということからどこか遠慮がちに話しかけてくる人間ばかりだった。

 

だが今自分が『種馬』と蔑んだ男は、有無を言わさず答えるように眼で訴えている。というか写輪眼怖い、とか思っていた。

 

「え、えっと、街で大人達が、あなたのことを『種馬』、と…」

 

滲み出る圧力に半べそをかきそうになりながらアスマはなんとか答え、心配した紅が彼を庇おうと前に出ようとする。

 

が、サイゾウは彼女が出てくる前にひょいと下がり気配を収めると、どこか納得いかない様子で顎に手を当てて自身の二つ名について考える。

 

「なるほど、当たらずとも遠からずだな。だが俺にはうちは秘伝の避妊術がある。無駄な種付けはしちゃいないぞ」

 

「ひにんじゅつ?」

 

サイゾウの言葉がわからず思わず聞き返したアスマだったが、回答を得る前に紅がアスマの頭をはたいたことでその機会は失われる。

 

「いってえな紅!なにしやがる!」

 

「うるさい!バカアスマ!」

 

顔を真っ赤にしている辺り、紅は避妊術の意味をわかっているのだろう。

 

(…まあ、くの一は“万が一”に備えてその辺も覚えさせられるからな)

 

戦場において、女の末路など得てして決まっている。サイゾウはまだ幼いだろうにそんなことを知識として必要とされることに嫌悪感を抱いた。

 

「ま、俺の二つ名はともかくだ。なんであれ、今日から俺がお前達を受け持つ。ついては、これからお前達に何ができるのか把握するために第四練兵場へ向かってもらう」

 

「こ、これからですか?」

 

時刻は昼前。普段であれば食事時であり、成長期である彼らからすれば腹を空かせて運動するなど拷問に等しい。

 

「…飯食ってから動く方が危ないんだよ。覚えておけ。まあ、とにかく今から移動だ。ほれ、しゃきしゃき動く!」

 

両手を打ち合わせるサイゾウの指示に従い、どうにか少年少女らは動き始める。

 

「よし!練兵場まで競争だ!」

 

「おいおい、別に走ることないだろうよ~」

 

「もう!しゃんとしなさいよアスマ!」

 

ひとり壁を走りそうな勢いで駆け抜けていくガイに置いていかれまいと走る紅と、ぼやきながらも持ち前の優秀さからあっさり付いていくアスマ。

 

三人を見送り、サイゾウは執務室の扉越しにヒルゼンの方へ向く。

 

「…俺が担当上忍になった以上、彼らは絶対に死なせません。それだけは約束しますよ」

 

微笑んで子供達の後を追うサイゾウの姿に、ヒルゼンは自分の息子を任せてよかったと安堵する。

 

エリートとして見られるのをどこか嫌う傾向にある息子が、かつてエリートであることを否定し努力し続けた男になにを見るか。

 

今後を楽しみにするヒルゼンであった。

 

__________________________________

 

 

「さて、まずはルールを決めよう。今の時間は11時半。制限時間は三十分だ。それまでの間に、俺をこの円から動かせたらお前らの勝ちだ。寿司でも焼き肉でも、好きなものを奢ってやる」

 

「本当ですか!」

 

わかりやすい勝利条件に食いついたのは紅であるが、真っ先に反応してしまったことを恥じらい顔を赤らめている。

 

「なんだよ、今時そんなもんでガキが釣れるかってーの。…でもま、せっかくだから乗ってやるよ!」

 

ちらと食事に期待する紅を見て、やる気を出すアスマ。実にわかりやすいものである。

 

「父さんとの組手はいつも見させてもらってます!今日は胸を貸してもらいますよ!」

 

ガイは低い姿勢で構えを取り、圧倒的な実力差を持つ目の前の男がどれほどか試すつもりで真っ先に突っ込んだ。

 

「待てガイ!まずは作戦を!」

 

「サイゾウさんを円からどかすだけだろう!だったら俺だけで十分だ!」

 

下忍とは思えない踏み込みの速さで向かってきたガイだったが、サイゾウはガイが目の前に迫ってきても腕組みをしたまま防御しようともしない。

 

それに少々プライドを傷つけられたガイは、今出せる最大威力の技を打ち込むために跳ぶ。

 

「ダイナミックエントリー!!」

 

それは愚直なまでに勢いのついた跳び蹴り。まともに受ければ岩をも砕く一撃である。

 

「はっ!!」

 

サイゾウはガイの蹴りが当たる直前、気合いを発して自身からチャクラを外へ溢れ出させる。

 

小規模な衝撃波となって発せられたチャクラは、勢いづいたガイを乱気流に巻き込むがごとく吹き飛ばす。

 

「うおあっ!?」

 

「ちっ!やっぱ一筋縄じゃ行かないか…紅!」

 

「わかってる!」

 

吹き飛んだガイに変わって前に出てきたのは紅。ガイで自分への視界を封じ、その間にチャクラを練り印を構える。

 

「あたしの幻術で…きゃんっ!」

 

しかし紅はサイゾウと“眼”があった瞬間、撥ね飛ばされたように後ろへ倒れこんだ。

 

「…幻術か。その歳にしちゃ大したもんだが、俺は元々幻術使いでな」

 

写輪眼を発動させたサイゾウの眼。それを見てアスマは舌打ちしたい気持ちを抑え、手裏剣を三つ立て続けに投げる。

 

「お次は忍具か。ま、悪くないぞ」

 

カキン、チュン、カン

 

飛んでくる手裏剣をサイゾウは無造作に拳で払い除ける。

 

明らかに手から鳴っていい音ではない硬質な音にアスマが驚く。

 

「これか?ああ、大蛇丸先生に改造してもらってあるんだよ。硬くするとちょいと重くなるが、なかなか便利だぞ」

 

追加で投げた苦無を無造作に受け止めたサイゾウは、その手で苦無を“握りつぶすと”、隙を窺っていたガイに向かってひしゃげた金属の塊を投げつける。

 

「うおお!?」

 

間一髪避けたガイだったが、サイゾウの驚異的な腕力に早くも冷や汗をかいていた。

 

「…ガイ、一度合流しろ。悔しいけど個別に突っ込んでもどうにかなる相手じゃない」

 

「ああ!わかった!」

 

(…ようやく連携を意識してくれたか)

 

サイゾウはどうにか意図していたことのひとつが成功して内心でほっと息を吐く。

 

(あとは現状で足手まといになってる紅をどうするか、だな)

 

戦場で意識を失った味方ほど厄介な存在はない。

 

死んだわけではない味方ならば当然助けねばと考えてしまうし、なにより自力で動けないことから放っておけばいずれ戦闘に巻き込まれるのは必然だからだ。

 

サイゾウはあえて弱めにかけた幻術を解くつもりが二人にあるならば、まだ自分をどかすことは可能だと考えていた。

 

「よし、じゃあまずは…」

 

「紅を起こすんだな!」

 

「でけえ声でばらすんじゃねえ!」

 

あっさりと作戦を暴露するガイに不安になるサイゾウだったが、彼が紅を起こす手段を見て目を丸くする。

 

「さあ起きるんだ紅!」

 

ガイがやろうとしているのは、倒れた紅へのサッカーボールキック。確かに起きるかもしれないが、ガイの蹴りなど肉体的にどう見ても頑健ではなさそうな紅が受ければ怪我は必至である。

 

サイゾウはとっさに止めに入って紅を助けるべきか考えたが、アスマがそれを見ても動かない様子から彼らが自分を罠にはめようとしていることに気づいた。

 

「なるほど!」

 

すでに自力で起きていた紅は、ガイの蹴りの力を利用して飛び上がると、上空からサイゾウへ向けて無数の苦無を降り注がせた。

 

サイゾウは先程と同じように《硬の改造》による防御でやり過ごそうとするが、飛んできた苦無に起爆札がつけられているのを見てそれを受け止めざるを得なくなる。

 

「無茶をする…!」

 

とっさに離れた場所へ投げようとしたサイゾウは、手元のそれが起爆札に見せかけたただの札であることに気づく。

 

しかしそのときは腕を大きく振りかぶっており、改造を施した腕の重さによってサイゾウはバランスを崩している。

 

「木の葉旋風!」

 

「風遁・大突破!」

 

アスマの風遁によって勢いを増したガイの蹴りがサイゾウに迫る。

 

今度こそ!そう思う子供らの前で、サイゾウは間違いなくたたらを踏み円から一歩踏み出た。

 

「やったあ!」

 

「うおお…!」

 

「はっはっは!青春の勝利だ!」

 

所詮は円から一歩出たに過ぎないのだが、三人の喜びようは大きい。紅は嬉しさのあまりアスマに抱きつき、アスマは照れから混乱し、ガイはそんなふたりを見て父親譲りの青春を掲げる。

 

「…やれやれ、いきなり負けるとはな。お前ら、いいコンビネーションだったぞ」

 

「ま、俺達にかかればこれくらいはね」

 

得意気なアスマであったが、サイゾウが次に言い放った言葉に思わず固まる。

 

「じゃ、明日は朝5時から早朝訓練な。あ、紅は6時からでいいぞ」

 

女性の身支度に時間がかかることを知るサイゾウは、紅にのみ甘い条件をつきつける。

 

「なんだとぉ!そんな時間に起きてるのはガイぐらいだぞ!」

 

「はっはっは!青春の特訓に新たなページが加わるということですな!」

 

アスマは普段自分が如何に楽をしているか自覚している。ゆえに今出された鬼のような条件がどれだけ辛いかも理解できていた。

 

「怪我をしても綱手姫直伝の掌仙術で癒してやる。行き詰まったら大蛇丸先生に頼んで改造の予約入れてやる。あ、それとスケベなことはもっと育ってからな」

 

朗らかに告げられるとんでもない情報に、アスマは自分の平和な日々が崩れていくのを知った。

 

「それと、もし戦場に行くことになっても安心しろ。俺がお前らを絶対に死なさん」

 

どこか誇らしげに、そう断言してみせたサイゾウの姿だけは、不思議とアスマの印象に残ったのであった。

 




サイゾウの率いる小隊はオリジナルです。なんせこの設定立ち上げた頃はまだ戦争編にさえ突入してませんでしたし( ̄▽ ̄;)


なお自信満々なサイゾウですが、オビトやリンを助ける際には間に合わず、ガイがピンチのときにはダイが犠牲になっています。また九尾事件ではミナト以外にも紅の親や、他の仲間など数々の死を見てきました。
夥しい犠牲の果てに彼の心の強さはあります。だからこそ彼は「わかっている」とは口にしません。その身で痛みを受け止めるだけです。
だからこそ1話でアンコを師が犠牲にしようとしたことが許せなかったりしています。
ですが、もし自分が里に残っていればミナトを死なせずに済んだとも考えてしまう矛盾も抱えています。
すべてがうまくいくことはありえませんが、その分サイゾウは己を苛めぬきます。次こそはもっと速く動けるように。次こそはもっと強くあれるように。
たゆまぬ執念。もし主人公であるサイゾウを現すのなら、その言葉こそが相応しいのかもしれません。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雷と炎の舞い

なんか気づいたらだいぶ日付が過ぎていた。

最近疲れがたまってアカン…

目もおかしいし。でも燃え尽きる前に書きたい。

いっそなにかの賞にでも応募してみるか。


森のなかで、激しい剣戟の音が響き渡っていた。

 

濁流と化した川の上を舞台とし、炎が飛び雷が散る。

 

先端に“牙”のような返しがついた剣を女が高速で振るえば、対峙する男は両腕を鈍色に染めてさらに集束した炎のチャクラで剣を防ぐ。

 

互いの術の余波が岩を切り裂き、川底を砕く。

 

濁流はいよいよ勢いを増し、不安定な足元を変えようとしたのかお互いに一度巨岩の上に移動して構えをとる。

 

「強いね、お前。名前は?」

 

両手に雷を纏う剣─雷刀・牙─を構えるのは霧隠れの上忍においても他里にその名を轟かせる強者。

 

“忍刀七人衆”のひとりにして、最高の切れ味を誇る雷刀・牙を操る女『林檎雨由利』。

 

「うちはサイゾウだ。あんたは忍刀七人衆のひとり、林檎雨由利とお見受けするが?」

 

「よく知っているな。それとその腕、どういった仕組みかしらないがこの刀を弾くとは中々やるじゃないか。…だが、それももう限界が近いんじゃないか?」

 

にたりと、笑みを浮かべてサイゾウに嗜虐的な視線を向ける雨由利であったが、彼女の予想はえてして当たっていた。

 

下忍を率いての任務。数をこなして安心していたところにおいての、霧隠れの上忍との戦闘。サイゾウは自らが囮になることで部下である子供達を逃がすと、敵の主力である彼女との戦闘を行っていた。

 

大蛇丸によって施された《硬の改造》はサイゾウの体重を倍加し、鋼に匹敵する強度を彼の腕に与える。

 

だがそれは発動に伴い相応のチャクラを失うことを意味し、さらにサイゾウは切れ味に優れた雷刀・牙を防ぐために無理矢理高密度な火遁チャクラを腕に纏い斬撃を防いでいた。

 

しかしそれももはや難しいと言わざるを得ない。

 

それもそのはず。如何にサイゾウがチャクラコントロールに長けたところで、長時間腕を焼き尽くすような高温で包んでいたのだ。

 

普通なら既に彼の両腕は炭化し、跡形もないほどにボロボロになってもおかしくはなかった。

 

耐えられているのは、《硬の改造》以上にサイゾウが激痛を無理矢理こらえているからに過ぎない。

 

「ま、そうだろうな。だがここを通すわけにはいかねえよ。…あんた、俺が動けなくなったらあいつらを追うつもりだろう?それだけはさせるわけにはいかねえな…!」

 

サイゾウは両腕を失う覚悟を決めた。先程以上にチャクラを込めた両腕は赤熱化し、触れたものを瞬時に焼き尽くすだけの熱量を発している。その熱の影響か、あてられた川の濁流がわずかに蒸発し“霧を生みはじめる”。

 

「いいねえ、あたしのハートをビリビリさせてくれるいい男だよ、あんた。…最後の相手があんたでよかった」

 

雨由利は最後の言葉を口のなかで呟き、サイゾウに対抗するかのように雷刀・牙へチャクラを込める。

 

さながら雷神を纏うかのように激しい稲光を見せつける雷刀・牙は、今のサイゾウをしても真っ向から相手取れば先程のように受け止めることは叶わないだろう。

 

ゆえに、サイゾウはこれまで抑えていた切り札を切る。

 

「いくぞっ…!」

 

「来なっ!」

 

対峙する二人が跳びたつと同時に足場となっていた岩は砕け、空中でふたりは激しい攻防を繰り広げる。

 

どちらも当たりさえすれば一撃必殺。

 

サイゾウの腕が“焼滅”するのが先か、それとも“病”を抱えた雨由利が限界を迎えるのが先か。

 

数度のフェイントを織り混ぜ、二人は空中で舞うように何度も攻撃を繰り返す。

 

サイゾウが突きを繰り出せば雨由利が雷刀・牙を支えにするようにして濁流を足場として灼熱の拳風をかわしていく。

 

回避された拳風は濁流へと炸裂し、水蒸気爆発と見紛わんほどの爆発がお互いの視界を奪い“霧がより濃くなっていく”。

 

雨由利はサイゾウの狙いが霧に乗じた自分への奇襲であると判断し、雷刀・牙を時々放電させながら攻防を繰り返す。

 

(こいつの狙いは恐らくお互いに大技を繰り出した直後。分身か、それとも口寄せか…はたまた本体が突っ込んでくるか。どちらにしても、霧隠れの忍相手に無音暗殺(サイレントキリング)を仕掛けようだなんて、十年早いって教えてやるよ!)

 

雨由利は笑みを浮かべながら霧のなかで仕込みを終えたことを悟り、サイゾウの気配がする方向へ向かって話しかける。

 

「楽しませてもらったけどこいつで終いだよ!《雷葬・雷の宴》!」

 

周囲へ馴染ませた雷遁のチャクラが一斉に励起し、周囲へいつの間にか展開していたサイゾウの影分身をサイゾウもろとも打ち砕いていく。

 

奇襲そのものを無効とされ、動揺したサイゾウの本体へも雷遁が迫ってくる。

 

「とどめだ!《雷刀術・落雷》!」

 

雨由利はサイゾウの“眼”を見つめながら、特大の雷撃をお見舞いする。

 

一度上空で収束した雷が降り注ぎ、これまでの雷遁で動きを封じられていたサイゾウはなすすべなく粉々に吹き飛んだ。

 

「…はあ、はあ、はあ。少し、チャクラを使いすぎたか…」

 

雨由利は心臓の痛みをこらえるように胸元をきつく握りしめると、濁流から離れて木陰に身を休める。

 

本来ならサイゾウに焼かれた部下に変わって下忍を追撃するべきなのだろうが、予想以上に痛む心臓を抱えてはまともに戦うこともできそうにない。

 

それどころか、徐々に意識すら遠退きはじめる。

 

「…ここで、終わり…それも、悪くない、わね。…ふふ、死んだらあの世で…あのうちはサイゾウに、声をかけてみようかしら…」

 

「さて、本当に死んだかな?」

 

雨由利は背後からかけられた声に驚き体を動かそうとするものの、振り向いた先であった“眼”に自分が幻術にかけられていたことを悟る。

 

(写輪眼…そうか、あたしは…幻術を…)

 

落ちていく意識のなか、目の前の男のきれいな赤い瞳がいつまでも目に焼き付いていた。

 

__________________________________

 

それから約十年後。音隠れの里。二人の男女がリビングで酒を酌み交わしていた。

 

「いやあ、あのときは絶対殺されるって思ってたんだけどね!」

 

あのときサイゾウは、落雷を受ける直前幻術で狙いをわずかに逸らすと、口寄せした“ある”動物に自分を逆口寄せしてもらうことにより回避していた。

 

「写輪眼で最初にお前を見たときから、チャクラの流れで病に侵されているのはわかってたからな。それに、俺は女は殺さない主義だよ」

 

「はっはっは!よく言うよ、逆口寄せのタイミングが少しでも遅れていたらおっ死(ち)んでたくせに」

 

愉快げに升に入った強い酒を飲み干しながら、林檎雨由利は目の前で同じく升で酒を飲むサイゾウを満足げに見やる。

 

あの日、心臓の病を抱えて無理をした影響で死にかけた雨由利は、サイゾウによって助けられ、紆余曲折を経て今は新興の『音隠れの里』で働いていた。

 

元忍刀七人衆という肩書きは伊達ではなく、現在は里の主戦力である『音の守り刀十傑衆』に所属していた。

 

雷刀・牙を所持しているのは変わらないが、結界を生み出す《草薙の剣》の短刀をサイゾウから譲られており、治療の一環で柱間細胞を僅かながら移植されたこともあって、かつて戦場でサイゾウと対峙したときと比べてその実力は跳ね上がっている。

 

だがそんな忍としての実力比べなど今の雨由利にとってはどうでもよく、今日は、今日こそはサイゾウに押し倒してもらおうと並々ならぬ決意を固めていた。

 

あの日、彼の赤い瞳に恋をしてしまった雨由利は、強くなるのと同時に女としての自分を磨く努力もしてきていた。

 

…胸だけは絶望的に育たなかったが。

 

かつては、名目上音隠れの里トップである大蛇丸に恥を偲んで豊胸手術を頼みに行ったことさえあったが、そのときの大蛇丸はひどく冷たい表情で自分を睨んできたのだった。

 

『乳をデカくしたいですって?ふざけんじゃないわよ、あんたアタシにそんな暇が刹那でもあると思ってるの?ていうかこの書類の山を見てアタシに頼み事してくるとか正気なの?』

 

器用に書類を処理しながら首だけを伸ばし、血走った目でこちらを睨んでくる大蛇丸に、雨由利は巻き込まれる前に撤退したのだった。

 

里を作る。言うのは容易いものの、そのために必要な仕事は多岐に渡る。

 

大蛇丸は自らが主体となり里を作ることに邁進してきたが、これまで秘密裏に進めてきた影響もあり、圧倒的に書類仕事をこなす人間が不足していた。

 

現在もそうだが、大蛇丸は影分身を駆使し柱間細胞を研究してるついでにサイゾウと作った『超ヘビ丸くんZ』と書かれた栄養ドリンクでドーピングしつつ激務をこなしている。

 

サイゾウも同じく分身を繰り出して激務に当たっているが、彼の場合は竹遁分身であるため負担が大蛇丸より少ない。現在大蛇丸は意地でも木遁分身を身に付けてやろうと躍起になっていたが、修行の時間すら取れないでいた。

 

閑話休題。

 

雨由利はほどほどに酒精が回り、理性のタガをほんのちょっと外してサイゾウの目をまっすぐ見つめる。

 

ボシュッ

 

憐れ、まともに恋愛経験の無かった雨由利はサイゾウの顔を見ただけで顔を赤くし羞恥心からテーブルに突っ伏す。

 

(いつもの居酒屋で飲む、という選択肢を取らないでよかった。こんな姿、他の連中には見せられん!)

 

そんな雨由利の様子をニヤニヤと眺めるサイゾウは、なぜ自分が今まで目の前の初(うぶ)な女を抱こうとしなかったかを考える。

 

それは言うなれば気まぐれではあったが、彼女はここ音隠れにおいて貴重な戦力であった。

 

そんな彼女を口説き、音隠れに勧誘し、里を守る主戦力として決意を固めてもらうまでにはそれなりに苦労もした。

 

雨由利自身はそれほど自分の価値を重要視していないが、今の彼女は下手な“影”にさえ匹敵する実力を有しているのだ。

 

ゆえに、彼女を抱くことは憚(はばか)られた。

 

彼女が病から回復したタイミングなら、問題はなかった。

 

里に所属した直後なら、問題はなかった。

 

だが、今の彼女は音隠れにおいても重要人物であり、警備の要でもある。

 

サイゾウ自身、彼女のことはそれなりに好ましく思っていたので今の距離感も嫌いではなかったが、逆に一度抱いてしまえば歯止めがかからず、恐らく彼女が数日は動けなくなるほどに抱いてしまうことをわかっていた。

 

そうなっては、音の警備に重要な穴が生じてしまう。

 

血継限界を多数抱えるこの音隠れを狙う勢力は多い。もっとも大きな勢力は雲隠れだろう。

 

なりふり構わず戦力を増強しようとする四代目雷影の方針は依然脅威として音隠れを脅かしていた。

 

「…にしてもあんたが火影か。実力に関しちゃ疑う余地はないんだろうけど、ずいぶんと置いていかれちまったもんだね」

 

里の現状や、彼女との修行といった過去に思いを馳せていたサイゾウは、何気ない彼女の言葉に驚かされる。

 

「置いていかれた、か。どうしてそう思うんだ」

 

サイゾウは優しく見つめながら雨由利に問う。修行しているときなどは決して向けてくれなかったサイゾウの視線に雨由利はドギマギしながらも、誤魔化すことなく彼の疑問に答える。

 

「そ、そりゃあ今のあんたと戦って勝てるだなんて思っちゃいないからさ。雷刀・牙をいくら使いこなしたところで、もうあんたに刃を届けることさえできそうにない…」

 

“強い”ことは雨由利にとってひとつの絶対条件だった。女である幸せなど、とうの昔に一度は捨て去った身だ。ゆえに彼女にとって強さは自分を支える大きな柱であり、それを揺るがすのが自分が惚れた相手であっても、無条件に認めたくはなかったのだ。

 

「だったら試してみるか?」

 

「冗談はよせよ、あたしじゃあんたの須佐能乎さえ抜けやしない」

 

「須佐能乎ね。そうかもしれない。だがそもそも、須佐能乎を使う必要さえないぞ」

 

「…ずいぶんと自信がついたんだね」

 

自分を相手に切り札を切る必要がない。そう言われて、雨由利はひどく居たたまれない気持ちになる。なんだか気合いを入れてサイゾウを出迎えた自分が情けなくなり、泣きそうになってしまう。

 

だが次にサイゾウが取った行動に雨由利は固まってしまう。

 

「そうさ、こうしてしまえばいい」

 

「へっ…?」

 

いつの間に近づいたのか。サイゾウは雨由利を優しく抱き締めていた。

 

(うわ、近い。ていうかニオイが、くらくらする。やだ、あたし汗かいてる…!)

 

目を輪廻眼のごとくグルグルと回し、混乱の極致にある雨由利。

 

全身が高揚と動揺から汗をかき、うっすらとほどこした化粧を落としてしまいやしないかと心配になる。

 

「この距離なら、須佐能乎は意味ないな。それと、俺はお前の汗のニオイがたまらなく好きでな。正直、これまで何度もこのうなじに滴る汗を見ては、欲望を押さえつけるのに苦労してきたんだ」

 

サイゾウに言われて、雨由利は頭二つは身長の違うサイゾウの腹筋に顔を埋めながら、自分の胸元に突きつけられるように硬くなったサイゾウの逸物の熱を感じて思わず息を飲む。

 

下腹部に熱が生じ、喉がカラカラに乾く。あれだけ酒を飲んだにも関わらず、酔いが覚めてしまった。

 

いや、未だに酔っているのかもしれない。

 

雨由利は優しく落ちてきたサイゾウの口から漂う酒精のニオイをかぎながら、彼に身を委ねるようにして力を抜いていく。

 

わずかに心臓に宿った柱間細胞の影響を受けてか、雨由利の体は若い。

 

噂に聞く綱手姫のような若さを維持する術など使えるわけではないが、それでも戦いにおいて振るう自分の肉体は体感でも20代前半から変わりはなかった。

 

「ん…ふうぁ、あふ、ひうう…」

 

口に落とされたサイゾウの唇は雨由利の唇を蹂躙し、割って入ってきた舌が舌をすすり、歯も上顎も下顎も、頬の内側も、余すところなく味わわれてしまっていた。

 

雨由利は無防備に口に溜めた唾液を飲み込まれ、一部を口の端から垂らしながらも、震える膝の代わりにサイゾウの服の裾を必死で掴んで倒れまいと耐える。

 

「可愛いぞ、雨由利」

 

「ひう…!」

 

しかしサイゾウはそんな雨由利の健気さを嘲笑うように、彼女の耳元で囁く。

 

連続して受けるはじめての感触は雨由利から理性を奪い、脳をとろかせていく。

 

耳朶を口に含まれる。うなじを舐められる。喉を大きく口に含まれ、すぼめた拍子にキスマークをつけられる。

 

顔中にキスが落とされ、鼻も瞼(まぶた)も“こめかみ”でさえもキスを落とされ…気づけば雨由利の下着はしとどに濡れていた。

 

半分以上意識を失った雨由利を、サイゾウはゆっくりとベッドへ運んでいく。

 

竹遁分身の応用で腕のみを追加で二本生やすと、サイゾウは彼女を抱えながら身に付けた衣服を器用に剥いでいく。

 

やがてベッドに着く頃にはパンツのみとなった彼女は、今自分が脱がされていることに気づかないのか赤い顔でぼーっとサイゾウを見上げている。

 

サイゾウはそんな彼女の股間に顔をよせると、パンツ越しに彼女の秘部へと吸い付く。

 

「へひゃあああああっっっ!?」

 

突然の衝撃に目を覚ました雨由利だったが、彼女が両足をすぼめて頭を締め付ける力にも負けず彼女の秘部をすすり続ける。

 

「うああっ…!へああっ…!」

 

なんと悲鳴をあげてよいかわからない雨由利は、サイゾウの舌がパンツ越しに大陰唇を、小陰唇を這い回る度に悲鳴をあげて身悶える。

 

「~~~~~~~っっっ!!!」

 

やがて舌先が陰核を突くと、雨由利はぷしゅっ、と潮を漏らして再び意識を失った。

 

サイゾウはそんな雨由利へ再びキスの雨を降らせると、すでに先走りを垂れ流し続けている逸物を構え、彼女の秘部へと押し当てる。

 

ゆっくりと、ゆっくりと。

 

ただでさえ大人と子供じみた体格差がある雨由利との初セックスであるだけに、サイゾウは慎重に腰を埋めていく。

 

気絶した雨由利はサイゾウの逸物が進むたびに全身を震わせるが、その様子は起きているのか眠っているのか、それともかつてのカエデのようにひたすら覚醒と失神を繰り返しているのかわからない様子で潮を吹きながら膣を締め付けていた。

 

もはや処女喪失など雨由利にとって些事であった。

 

ゆっくりと、自分の膣といういわば内臓を、まるで丹念に味わうようにして腰を動かすサイゾウに、雨由利は抑えきれない“心”を口にする。

 

「すきぃ…!すきなんだ…!」

 

サイゾウは涙を流しながら必死に訴えるこのどうしようもなく可愛い年上をどうしてくれようかと考え、今はとにかく全力で抱くことに決めた。

 

逸物越しの掌仙術によってすでに膣内の怪我は癒されている。

 

もぐもぐと、まるで咀嚼するかのように甘噛みする膣をサイゾウは堪能しながら、腰の動きを激しいものへと変えていく。

 

雨由利の体は忍として鍛えているだけあり、はっきりとした腹筋が浮かび上がる。

 

サイゾウは自分の逸物によってわずかに出た下腹を時おり撫でてやる。

 

すると押されたことで密着度が増した膣の快感によって、雨由利は声にならない悲鳴をあげながら遂には失禁する。

 

それでもサイゾウは腰を動かすことをやめない。

 

ひたすら動かし、サイゾウはとうとう目的地である雨由利の膣内にある子宮の入り口へとたどり着く。

 

「…妊娠はさせてやれないが、これが俺の正直な気持ちだ…!孕め、雨由利…!」

 

鈴口をぴたりと子宮口へと付け、サイゾウは勢いよく雨由利の膣へとドプドプと精液を流し込んでいく。

 

やがて下腹がぽっこりと膨れるほどに注ぎ終わると、サイゾウは一度逸物を抜いて雨由利の全身へと精液をかけていく。

 

「萎えないな」

 

サイゾウは輪廻眼に目覚めてから、これまで以上の絶倫と化していた。そして今現在呼吸すら危うい雨由利にこれ以上無理をさせるわけにはいかない。

 

「…パクラは今日非番だったな」

 

サイゾウは同じく『音の守り刀十傑衆』であり、自分の女である血継限界の女を思い浮かべる。

 

すると、控えめに玄関の扉がノックされた。

 

サイゾウは感じるチャクラから相手が雪一族の雪花であることを察すると、もはや複数人で相手してもらわねばならなくなった自身の体質に笑いが止まらなくなりながら、玄関で彼女を着衣したまま犯そうと企み歩を進めるのであった。

 

 




サイゾウ絶好調なり(´・ω・`)

変態をパワーアップさせた結果がこれだよ!

雨由利姉さんに関してはこの時代に生きているひとだったのかはわかりません。ただアニオリなどの内容から、黒鋤雷牙の前任者であると勝手に判断してハーレムに加えさせていただきました。

今回使用の術はアニオリから拝借いたしました。名前に中二要素が薄いのはそのためです(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

“親”と“子”

今回没となったタイトル『ナルトに妹が生まれた日』。

両親に恵まれなかったナルトが、サイゾウ及びカエデとの親子の絆を育んでいく姿を不器用ながらに書いたつもりです。

また今回は珍しく時系列が前後しております。後半の方が時間的には前のできごとになりますのでご注意下さい。

それではご覧ください。


夕暮れ。

 

幼い子供が、公園のブランコでひとり黄昏ている。

 

炎にも似た赤い輝きが、強引に涙をぬぐった頬を照らしている。

 

子供の名は『うずまきナルト』。

 

彼を知る里の者は、彼を『英雄』と呼ぶ。

 

彼を知らない者は、彼を『化け物』と呼ぶ。

 

どちらも正しく、またどちらも正しくはない。

 

四代目火影『波風ミナト』が生まれたばかりの息子に残したモノ。

 

それは“重荷”として、彼の心を苛んだ。

 

物心がついて少し経った頃、里の人間のなかに自分を奇妙な視線で見つめる相手がいることに気づいた。

 

四歳のとき、好奇心から奇妙な視線を向ける相手を追いかけ、しつこく尋ねたことをナルトはずっと後悔している。

 

曰く“化け物の子”。

 

ナルトを指して、その大人はそう言った。

 

九尾という、災厄の魔獣。それがナルトだと。

 

そう言った大人の目がウソを言ってないのがわかって、ナルトは家で静かに泣いた。

 

ナルトの母である『日向カエデ』は言った。

 

『あなたは“化け物”でも“英雄”でもないわ。ナルト、あなたは私たちの子供よ』

 

そう言って、カエデは泣きじゃくるナルトが泣き止むまでずっと彼を撫でてくれた。

 

だからナルトは気にしないことにした。

 

普段相手にしてくれない父親『うちはサイゾウ』から、

 

『…もう少し待て。時期が来れば、いずれ必ずすべてを話してやる』

 

と言われたのもあって、ナルトはそのときのことを忘れることにした。

 

それから一年が経って、ナルトは五歳になっていた。

 

最近は同い年の『うちはサスケ』と忍術勝負で遊ぶのが日課となっていた。

 

お互いに優秀すぎる存在が父であり兄であったこともあって、彼とはすぐに仲良くなれた。

 

ともに構ってもらえない寂しさもあったのかもしれない。

 

ナルトよりほんの少し優秀なサスケはことあるごとに彼に向かって“兄”として振る舞おうとしたが、ナルトは表面上は嫌がりながらもそれがたまらなく嬉しかった。

 

あるとき、任務から帰ってきた大人たちとすれ違った。

 

ボロボロな彼らを見れば、今回の任務は大変なものだったのだろう。

 

だがそんな彼らのひとりが口にした言葉に、ナルトの小さな胸は引き裂かれた。

 

『…家族ごっこは楽しいかよ、化け物』

 

彼の言葉を聞いて、真っ先に怒ったのはサスケだった。驚くことに《火遁・豪火球の術》まで使って暴言を吐いた大人に向かっていってくれたのだ。

 

彼だけではなかった。ともに任務に向かっていた『秋道チョウザ』という大人は、サスケの豪火球をどうにか回避したその男を殴り飛ばした。

 

同じ秋道一族だったということもあるのだろうが、ナルトはチョウザが激怒した表情が恐ろしくてたまらなかった。

 

だからだろうか、喧騒のなかでナルトは逃げ出してしまった。

 

怒ってくれたサスケに「ありがとう」と言いたかった。

 

だけど、それ以上に“親子じゃない”という事実を突きつけられたのが、今のナルトにはなにより堪えていた。

 

ナルトには今度、妹が生まれる。

 

母であるカエデはすでに臨月を迎え、いつ彼に妹が生まれてもおかしくはないと嬉しそうに語ってくれた。

 

最初はナルトも興奮して、これでサスケだけに兄貴面はさせないと意気揚々としたものだったが、すぐに“あること”に気づいてしまった。

 

(本当の子供が生まれたら、おれはどうなるんだ…?)

 

幼いながらに、ナルトはそのことに恐怖した。

 

ナルトはすでに自分の両親であるサイゾウとカエデが血の繋がらない相手だと知っている。

 

それもそうだろう。まず名字が違うし、なにより自分には写輪眼も白眼もないとナルトは嘆いた。

 

血の繋がらない息子。化け物の息子。

 

そんな自分を、妹が生まれてもカエデは“我が子”と呼んでくれるだろうか。

 

サイゾウは、頭を撫でてくれるだろうか。

 

絶対に裏切らない。そう信じているはずなのに、ナルトは一度考えてしまったそのことが頭から離れなかった。

 

だからこそ余計に、あの大人の言葉が耳から離れなかった。

 

『…家族ごっこは楽しいかよ、化け物』

 

そう言い放ったときの、大人の表情をナルトは忘れることができなかった。

 

悪意に、憎しみに満ちた顔。自分がいったい何をしたのだろうか。自分が『うずまきナルト』になる前に、彼から大切なものを奪ってしまったのだろうか。それは謝れば許してくれるのだろうか。

 

どうしていいかわからなくて、ナルトは静かに泣いていた。嗚咽を漏らすことなく、ぐずることもなく、ただただ静かにブランコで泣いていた。

 

「こんなところにいたのか、“馬鹿息子”」

 

「…父さん」

 

見上げれば、そこには自分を息子だという男『うちはサイゾウ』が立っていた。

 

心なしか怒っている雰囲気に、ナルトは反射的に身を縮める。

 

ナルトの心に再び恐ろしい気持ちが浮かび上がる。

 

大騒ぎになった一連の騒動は間違いなく自分が原因だ。

 

『悪いことをしたら、ごめんなさいと謝るのよ』

 

とカエデに言われて約束していたのに、謝ることもできずに自分は逃げ出してしまったとナルトは思い出す。

 

まさかそれが原因で自分は捨てられてしまうのだろうか。あの暖かい家に帰ってくるなと、そう言われてしまうのだろうか。

 

再びナルトの目に涙が浮かぶと、サイゾウは困ったような表情でひょいと彼を抱え上げる。

 

「掴まっていろナルト。少し揺れるぞ」

 

「わっ!」

 

ナルトを抱え上げたサイゾウは、そのまま瞬身の術を発動して一飛びに舞い上がる。

 

空中高く舞い上がり、思わずチビりそうになるナルトだったが、サイゾウは構わず輪廻眼による引力操作を用いて直角に飛行し、さして時間をおかずに『顔岩』と呼ばれる歴代火影の顔が彫られた場所までやってくる。

 

「ナルト、見てみろ。ここが誰の顔岩の上か、わかるか?」

 

「ふええ…え、ここ?えっと、よんだいめさまの、かおいわ…?」

 

おずおずと、普段の溌剌さは息を潜めておっかなびっくり問いかけるナルトにサイゾウは内心でため息を吐く。

 

「そうだ。そして、お前にとって“本当の父親”でもある」

 

「え…」

 

サイゾウは過去を語った。

 

ナルトの父『波風ミナト』との思い出を。

 

少年の頃を。

 

青年の頃を。

 

彼が結婚してからを。

 

そして…彼が生まれたばかりのナルトを残して死んでいったことを。

 

「…どうして、ほんとうのおとうさんはおれを残してしんじゃったの?」

 

ナルトは再び泣いていた。

 

自分にとって本当の両親は死んでいる。もう、どこにもいないことに。

 

自分は“ひとりぼっち”だと、そう思ってしまうナルトの考えを読んだように、サイゾウは彼に話しかける。

 

「ナルト、たしかに俺とお前は“血”が繋がってはいない。だがな、俺も母さんも、お前と“心”が繋がっていると思っている。親子なんてのは、それで充分なんじゃないかな」

 

照れるように、はにかみながら微笑む“父親”を見て、ナルトは思わずその胸に顔をうずめる。

 

これ以上泣いている顔を見せたくなかった。自分をこんなにも心配してくれる、思ってくれる“父さん”に、情けない顔を見せたくなかった。

 

しばらくそうやって泣いていたナルトだったが、やがて泣きつかれたのか眠ってしまった。

 

「ミナト、安心しろ。お前の息子を、俺は決してひとりにはしない。これは誓いであり、約束だ」

 

眠ったナルトを抱えながら、サイゾウは足元の四代目火影に向かって微笑む。

 

顔岩が、どこか穏やかな雰囲気を発した気がした。

 

__________________________________

 

ナルトとサイゾウが親子の絆を強めた事件より約一年前。

 

アカデミー地下にある薄暗い場所で、ひとりの女性が調べものをしていた。

 

『日向カエデ』。“日向は木の葉にて最強”を顕現する存在そのものであり『木の葉最強は誰か』という尽きない議論においてその名がもっとも多く上がる女傑であった。

 

見た目は十代半ばの少女にしか見えないが…

 

カエデは無数の古書や巻物を指でなぞりながら、白眼で中を透視して高速でその内容を読み込んでいく。

 

「…やはりすぐには見つかりませんね。でもここにあるのは確かなはずです。…フフ、待っていてくださいね、サイゾウ様…♪」

 

常人が見ればその雰囲気に怖気を震わせるだろう酷薄な笑みを浮かべて、カエデは己の能力を最大限に発揮し調査を続けていた。

 

カエデが調査を進めるなか、彼女が入っている書庫の前をふたりの日向の忍が警護している。

 

「…なあ、いいのか兄さん。一応ここって、禁術について書かれた書物がしまってある場所だろう?」

 

「…俺に聞くな」

 

名をそれぞれ『日向ヒアシ』『日向ヒザシ』という彼ら兄弟は、互いにまだ幼くも子供もおり、それゆえにカエデがサイゾウとの子供を望む気持ちもそれとなく理解できていた。

 

彼らは今日、気まぐれに発せられた妹の発言

 

『サイゾウ様の避妊術を攻略しましょう』

 

という言葉のもと、彼女の護衛としてアカデミーに赴いていた。

 

二人はともに日向一族において長となってもおかしくないほどの実力を持つ兄弟であったが、今は妹が当主となったことにより比較的気楽に動くことが可能になっている。

 

その主な任務は妹の護衛であるが、ぶっちゃけ自分達より強い妹を相手に護衛がいるのか甚だ疑問であった。

 

「だがもしそれで問題になったらどうするんだ。いくらカエデが当主になったとはいえ、未だ各里との関係も微妙な時期に…」

 

「だから、私に言うな。ヒザシこそそういうなら腕ずくで止めたらどうなんだ」

 

「二人がかりでも勝てないのに俺だけで止められるわけがないだろう…」

 

ため息を吐きながらヒザシは妹を心配し、止めるべきではないかと口にする。

 

逆にヒアシは、妹が一度決めたら誰にも止められないことを知っていたのですでに諦めている。もうどうにでもなれ、の心境である。

 

ヒアシはかつて、一度は日向家の当主の座についた。

 

しかしそれからほどなくして、サイゾウが出奔した直後に妹が

 

『サイゾウ様をお出迎えする為に、わたしが当主になりますね』

 

と宣ってきた。

 

最初はなんの冗談かと思ったヒアシだったが、日向の長老衆を説得(物理)してきた妹を止めることは弟のヒザシと二人がかりでも叶わず、結果的にはカエデから

 

『日向が滅びるのとわたしが当主になるの。どちらになさいます?』

 

と白眼で睨まれては誰もが頷かざるを得なかった。

 

…地味に長老衆にファンが多いことも一因だったが。

 

結果として、その後日向は大改革を行った。

 

特殊な立場と宗家であるといった事情から額に呪印を持っていなかったカエデは、当主となって早々に呪印による白眼の管理を止めると言い出したのである。

 

これは完璧だと思っていた呪印による白眼の管理に、実質綻びがあることが大蛇丸の研究と調査によって明らかになったためであった。

 

事実、白眼を持つ忍として霧隠れの青という男がいることが後年明らかになっている。

 

とはいえこれにはさすがの長老衆も紛糾したが、カエデの尾獣じみたチャクラに気圧されて黙らざるを得なかった。

 

ちなみに、その後白眼は所有者が死んだ後に里へ転送できるよう宗家・分家関係なく首筋に《飛雷神の術》のマーキングを施すことになった。

 

これはうちは一族の写輪眼を管理するため、死後その首だけでも回収しようとサイゾウがミナトに協力してもらい開発したものであった。

 

死者の肉体をチャクラに変換して使うため緊急避難の用途に使うことはまだできないものの、カエデはサイゾウならばいずれそれも可能としてしまうだろうと考えていた。

 

ゆえに、今回日向一族がそれを用いるのは里へのアピールへも繋がる。

 

とまあ紆余曲折はあったが、結果としてヒアシはこれでよかったと思っている。

 

自分の娘であるヒナタもそうだが、弟のヒザシも、その息子のネジも、これまで宗家と分家に確執を生んできた呪印が打ち砕かれたのだから。

 

ちなみにすでに呪印を刻まれた者達は大蛇丸によって呪印を解除された。

 

対価を用いなければ決して協力しないとされる大蛇丸を“無償”で動かしたカエデは、むしろそのことで里の者達を畏怖させたと言っていい。

 

「ありました!」

 

カエデが喜ぶ声が聞こえてヒアシとヒザシは同時にホッと息を吐く。

 

目指す結果は『サイゾウの子を孕む』ことであるので、まだまだ色々手伝わされるのだろうが、ひとまずここで警務部に捕まることはなさそうだった。

 

…余談ではあるが、なぜかこのときカエデが捜索している間、警務部隊は彼女の周囲を避けて動いていたような節があったらしい。この件に関して隊長であるフガクは黙して語らなかったため、真相は判明していない。

 

__________________________________

 

それから数日して、日向本宅。その離れ。

 

その日、閨にはカエデのみが待っていた。

 

最近のサイゾウの絶倫ぶりは凄まじく、ひとりでは翌日起きられなくなるため基本的に三人で相手することにしている。

 

しかし今日という日は、カエデにとって絶好の妊娠日和。

 

排卵周期を計算し、今日子宮に精子を出迎えれば妊娠間違いなしと大蛇丸にも綱手にも太鼓判をもらった。

 

あとは、サイゾウの精子をどうやって子宮に受け入れるかである。

 

これまでの“研究(ヤった後に採取した精子を調べたり)”で、サイゾウが用いる避妊術が卵子の膜を破る酵素を打ち消すものだというのも、それが完璧ではないことも調べがついている。

 

であるならば、こちらで膜をあらかじめ破りやすくしてやればよい。確実に着床できる状況を作り出してやればよい。カエデは薬の副作用で興奮した体を抱き締めながら、今か今かとサイゾウを待ち構えていた。

 

「お、香を焚いているのか。珍し…どうしたカエデ?」

 

サイゾウを目の前にし、もはや興奮を抑える術を失ったカエデは素肌に羽織った薄衣を脱ぎ捨て彼にすがりついた。

 

「ひぁ…!あ、うう…」

 

しかしここでカエデに想定外の事態が発生する。

 

妊娠を確実にするための薬である『妊娠薬』の副作用である“発情作用”。

 

サイゾウを見たことで脳内麻薬さえ溢れだしたカエデにとって、その副作用は強すぎた。

 

本当は余裕をもってサイゾウを迎え、優しくキスをねだる予定だったというのに。

 

カエデは我慢しきれず抱きつき、あまつさえ乳首が触れただけで達してしまっていた。

 

「う…くっ…!こ、こんな副作用があっただなんて…!」

 

カエデは満足に動かない体を無理矢理チャクラを回すことで動かそうとするが、しかしそれはサイゾウが肩においた手によって止められた。

 

股の間から“愛液”を垂れ流す状態となっているカエデが見上げると、そこには目を血走らせて興奮のあまり万華鏡写輪眼まで発動してしまっている、異常に興奮したサイゾウが勃起(た)っていた。

 

(あ、そういえば媚薬作用のあるお香も焚いてましたっけ…)

 

カエデは自身の身に起きている副作用が相乗効果をもってエラいことになっているのに気づいたが、もう遅い。

 

サイゾウは着ていた服を破り捨てると、すでに子供の腕ほどに巨大化した逸物をカエデを抱えて挿入した。

 

「~~~っ!?あにゃ!?はぐぅおっ!?」

 

子宮口まで辿り着いた逸物の影響でカエデは一瞬意識が飛ぶ。

 

しかし普段なら少し動きを優しくするサイゾウの動きは止まらず、むしろ腕で持ち上げたカエデを上下に揺すりながら自身の腰を荒々しく振り回し、彼女から断続的に悲鳴を上げさせ続ける。

 

失神と覚醒。それは今日カエデが望んだプレイ内容であるが、まさか一撃目からそうなるのは想定外だ。

 

せめて動きに制限を付けようとカエデは必死に点穴を突こうとするが、思考をとろけさせるカエデは判断力を失いいつのまにかサイゾウの乳首をいじり回す。

 

それが余計にサイゾウの興奮を刺激し、激しい注挿はまるで衰えることなくカエデを犯していく。

 

カエデは脳を焼くけた違いの快楽をどうにかやり過ごそうとするが、その都度サイゾウは彼女の子宮口を叩いて正常な判断力を奪っていく。

 

やがていつの間にかカエデを抱く体位が、立ち上がった状態で相手を膝裏で抱え上げるいわゆる“駅弁”スタイルと呼ばれるものに移行すると、サイゾウの逸物はカエデの膣を圧迫し、カエデは失禁しながら再び失神と覚醒を繰り返す。

 

「うにゃ!ひぎゅ!へあっ…はあう!」

 

見た目にして十代半ばにしか見えない小柄なカエデの肢体が、どう見ても入らないだろうサイゾウの逸物を飲み込んで快楽の限りを尽くされる。

 

カエデは明滅する意識のなか、間違いなく幸せを感じていた。

 

他に見向きする余裕もないほど、愛しい相手が自分を求めてくれている。

 

そのことが、カエデはたまらなく嬉しかった。

 

そして、カエデは妊娠の為に研究していた“とっておき”の技を披露する。

 

「ぐあっ…!チャクラが吸われて…!うおおおおおおおおお!!!」

 

吠えるサイゾウだが、それは苦痛によるものではない。

 

今カエデが受けている快感にも匹敵する、絶え間ない射精感であった。

 

まるで間欠泉のようにとめどなく内側から溢れていくチャクラは、すべてではないものの子宮を通してカエデに吸収されていく。

 

心なしかカエデの全身が発光し、目の色が変化しているようだが、すでに余裕のないサイゾウには記憶することはできない。

 

そして、チャクラを吸収されたことで避妊術の発動が難しくなったサイゾウにいよいよ射精が迫ってきた。

 

「うあああああああああ…!カエデ、カエデ、カエデエエエエエエ…!!」

 

「はわあ…!?しゃ、しゃいぞうひゃまぁぁぁぁぁ…!!!」

 

射精と同時に震える亀頭がとうとう緩みきった子宮口にめり込み、その胎内(なか)へと挿入されていく。

 

ポルチオセックスという、お互いに未曾有の快感。

 

ふたりは半ば白目を向きながらも、きっちり同時に達しながら気絶した。

 

サイゾウは射精しながら己の敗北を理解し一瞬微笑むと、カエデを庇って後ろに倒れながら意識を失うのであった。

 

 




秋道一族の男は犠牲になったのだ…主人公を父親らしく描写するための犠牲にな…

ということで、ぶん殴られたのは例のチョウザもどきです。一応彼は九尾事件で父親を亡くしている設定。さすがになんの理由もなしにあれはないだろうということで。
あ、前半のはただのモブです。どうなったかって?話を聞いたカエデさんと一時間無言でご対面ですわ。

ちなみにこの両親。
カエデはしつけるところはしつけますが割りと甘やかしてます。お小遣いがえらいことになってたり。
サイゾウは口でなんだかんだ言いつつ、できるだけ時間を割いて会うようにしています。

あとはカエデと面談(圧力)した忍も時間を作って話し合ってますし、殴り飛ばされた秋道一族の男もあまり厳しく罰しないよう頭を下げに行ったりしてますので、かつてからは想像できないほどに後始末もしていてフガクを驚かせていたり。


※余談※
木の葉の里を戦力として考えた場合、恐ろしいのはあれだけ複数の勢力が集まっているにも関わらずそれらがある程度以上まとまりをもって動くことですよね。
ざっと書き出すだけでも
千手一族
うちは一族
志村一族
猿飛一族
日向一族
秋道一族
奈良一族
山中一族
油目一族
…と、まあ四代目エーが嫉妬するのもわかるというもの(笑)
こりゃ人柱力が戦力として機能してなくてもなんとかなるはずだわ。
ただまあ、人柱力は戦略兵器としての側面を持ちますからねえ。そこんとこを補えないので、消耗戦になればじり貧にならざるを得ないんですよね。
あれ?第三次ってもしかしてそういう…うわあ(´・ω・`;)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

凶行~うちは事件~ ★

起こるべくして起こった出来事。

それが、この作品における“うちは事件”です。

原作のようにうちは一族を皆殺し、とはいきませんが。

オビト、この時点で大分手段を選ばなくなってきました。

※追記修正済み。



その日は満月だった。

 

月夜が木の葉隠れの里を照らし、まるで夜とは思えないほどに明るい。

 

しかし今宵の里の一角は───血と臓腑の臭いに満ちていた。

 

ドシャ…!

 

重い音を立てて、ひとりの少女が首から血を流し倒れ伏す。

 

その瞳はひたすらに「なぜ?」と呟いているが、それを為した青年はもはや少女に視線すら向けていない。

 

全身を血に濡らす彼の瞳は、自分を“追ってきてしまった”弟へと向いていた。

 

「イズミさん…!?兄さんっ…!どうしてだ…!?どうしてこんな…!父さんと母さんまで…!」

 

苦悩し、混乱しながらも、幼い少年が苦無や手裏剣を投げつけ、兄と呼んだ青年『うちはイタチ』を攻撃する。

 

少年は泣いていた。今宵起きたことが信じられなくて───

 

__________________________________

 

母親の悲鳴に飛び起きた少年うちはサスケは、一体何が起きたのかと不安に想いながら両親の寝所へと向かった。

 

サスケはその惨劇を見て、思考が停止した。

 

“そこでは血まみれで倒れる母親から“眼”を抉り出す兄と、首だけになった父がいた”。

 

理解できなかった。

 

ほんの少し前、寝る前の自分を見送った兄が、彼にとっても両親であるふたりを無表情に殺して眼を奪っている姿が。

 

それでもサスケは、彼が現れたことによって逃げ出した兄を追った。

 

父の部屋から苦無や手裏剣といった忍具を無茶苦茶に全身へまとい、兄の気配がする方向へと───

 

__________________________________

 

 

涙に濡れ、激情に満ちながらも、サスケの攻撃は正確に対象へと向かっていく。

 

それを無造作に、こともなげに弾くイタチ。

 

イタチはそのたぐいまれな才能から、サイゾウをして

 

『いずれは俺をも上回る器』

 

と言わしめた天才である。

 

しかし今弟であるサスケと対峙する彼は、自分の家族と恋人を殺した血で濡れ、その瞳には何者も写してはいなかった。

 

「くそっ…!」

 

ついに忍具が尽き、それでもなおイタチに追いすがるサスケは体術で挑むが、偉大なる兄を前にそれは好手とは言えない。

 

殴りかかった拳をするりと躱し、イタチは弟の鳩尾に膝蹴りをいれる。

 

「…かっ…はぅ…!」

 

自分の体重が乗る形になった一撃はそれだけでサスケから立ち上がる力を奪った。

 

しかし呼吸すら困難な状況のなか、サスケはなおも顔を上げイタチを睨み付ける。

 

イタチは右手に握った苦無をサスケ目掛けて振り下ろそうとするが、どうしたことか手が震えそのまま苦無を落としてしまう。

 

ふと、サスケは兄の眼が自分を写しているのに気がついた。

 

「俺を殺したくば恨め…憎め…逃げて逃げて生にしがみつくがいい。…そしていつか俺と同じ眼を持って…俺を殺しに来い、サスケ…」

 

瞳から流れたのは、血か涙か。すう、と流れたそれが頬を伝うと、イタチはその身を無数の烏へと変化させ去っていこうとする。

 

「待ってくれ兄さん…!兄さん…!!………イタチィィィッッ!!」

 

幼い少年の咆哮が、夜の闇に染み渡っていく。

 

すべてはただ過ぎ去り終わるのみ。そう、思われた瞬間だった。

 

───ドガァッッッ!!!───

 

そのとき、爆音と共に大地を砕きながら、ひとりの男が落ちてきた。

 

“全裸”で。

 

隆起した筋肉は、束ねた鋼鉄によく鞣した革を張ったかのようになめらかなもの。

 

滴る汗は、不快感を感じさせるどころかどこか蠱惑的な魅力さえ感じさせる。

 

さらに汗は、男から迸る熱量によって立ちどころに蒸発していき、まるで蒸気さながらに景色をくゆらせる。

 

その姿、まさしく“仁王”の如く。

 

「なにごとだぁっ!!」

 

叫ぶ彼こそは紛うことなき木の葉隠れの里最強の男。

 

五代目火影『うちはサイゾウ』である。

 

すっぽんぽんで現場に到着したサイゾウは、目の前で今にも姿を消そうとするイタチから漂う血臭に顔をしかめると、彼に向かって己の万華鏡写輪眼の瞳力である《闇満羽》を発動する。

 

「…!」

 

烏分身と呼ばれる口寄せと幻術の合わせ技であるそれを無理矢理解かれた形になったイタチは、顔をいささか驚愕に歪めながら姿を露にした。

 

「イタチ、いったいなにがあった。…いや、“なに”をされた」

 

イタチの眼を見て即座に言葉を変えたサイゾウは、目の前の少年から本気の殺気を受け“思わず”《須佐能乎》を纏う。

 

《威装・須佐能乎》と呼ばれるこの技。かつては木の葉を襲ったうちはマダラが九尾に用いて初代火影千手柱間と激戦を繰り広げたという。

 

サイゾウはこれを聞き、自身もまた肖(あやか)ろうとして己自身に須佐能乎を纏った。

 

これが思った以上に相性がよく、彼の扱う技の大半が自身への負担を省みないダメージ必至のモノであったこととも相まって、この状態となったサイゾウと正面から戦うには三忍が同時に挑まなくてはならないほどであった。

 

ただし重ねて言うが、サイゾウは素っ裸である。つまり、チャクラの鎧である半透明の《威装・須佐能乎》から全身がスケスケェ状態であり、見るものが見れば逆にダメージを負わせることさえ可能な状態とも言えた。チャクラ量を調整すれば隠すこともできるのだろうが、この場においてそれほどの余裕はない。

 

「ぐおぁっ!?」

 

サイゾウはいきなり自身を襲った“黒い炎”に包まれ後ずさった。

 

高熱が肌を焼き、息を焦がすが、サイゾウは下がりながらも《威装・須佐能乎》を一度全身から弾けるように解き放つことによってそれを無効化する。

 

「《天照》だと…!?イタチめ、いつの間に万華鏡に目覚めた…!」

 

目の前のイタチが正気ではないことは、サイゾウも重々承知している。

 

しかし万華鏡写輪眼に目覚めた影響か、チャクラが跳ね上がったイタチを相手に、殺さず生け捕ることがどれほど難しいか。

 

サイゾウはひとまず竹遁で拘束しようと印を組み───上空から強襲してきた人物へと《火遁・豪火球》を放つ。

 

「ギャアアアア!!」

 

燃え上がる木の葉の忍らしき人物が変化を解かれ、本来の姿を露にしていく。

 

それはかつて大蛇丸と共に捕らえた柱間のクローン。白ゼツと呼ばれる謎多き男だった。

 

(チャクラの性質までまったく同じ変化とは、厄介な…!)

 

いつ、どこから現れたのか。それは今気にするべきことではない。幸いサイゾウ自身の万華鏡写輪眼であれば正体を見切ることは可能である。

 

だが次に襲ってきた人物が自らにとって大切な存在であったのを目撃した瞬間、サイゾウは不退転の覚悟を決めざるをえなかった。

 

「てええやああ!」

 

サイゾウの目の前に現れた“綱手”そっくりの偽物は貫手を放ちサイゾウを殺さんと迫る。

 

綱手を傷つけることをわずかに躊躇ったサイゾウの腹に貫手が刺さり、樹木へと変化した貫手が急成長してサイゾウを貫かんとする。

 

「ぬん!」

 

しかしサイゾウは《挿し木の術》と呼ばれるそれをチャクラで肉体活性した腹筋のみで受け止めると、無防備になった偽物を上空へと蹴り上げる。

 

半分白ゼツとなった偽の綱手は体勢を整えようともがくが、追撃を緩めることなく放たれた《火遁・豪火球の術》によって木っ端微塵に吹き飛ぶ。

 

「おのれぇ…!!」

 

偽物とはいえ、自身が愛する女を殺させるオビトへの怒りがサイゾウの胸中にふつふつと沸き上がってくる。

 

しかし歯を食い縛るサイゾウをさらに追い込むかのように、次々と路地裏から“自分の女を模した”白ゼツ達が現れ襲いかかってくる。

 

カエデの小さな胴体を《金剛鎚拳》で木っ端微塵に砕く。

 

笑顔を浮かべたノノウを捕まえ、背骨をへし折る。

 

再び現れた綱手を、振り向くことさえせずに手刀で真っ二つに切り裂く。

 

すべて偽物。だが、サイゾウを容赦なく追い込むという意味での悪辣さはサイゾウから徐々に冷静な判断力を奪っていく。

 

まるで“いつでもお前の女に成り代われるぞ”。

 

そう言いたげな無数の白ゼツを蹂躙しながら、サイゾウは吼えた。

 

「うおおおおおおおおおおっっっ!!!」

 

チャクラを乗せた咆哮が、白ゼツ達の動きを止める。

 

直後、新たに現れた人影が偽の綱手、偽のノノウ、偽のカエデを刺し、打ち据え、粉砕した。

 

「趣味が悪いですね…それにわたしのおっぱいはこんなに小さくありません!」

 

「…それほど変わりがあるようには見えませんが」

 

「お前達、なんであたしの偽物だけ余分に、しかも乳ばっか攻撃してんだよ。なんだ、そんなにうらやましいか?ああん?」

 

現れたのは、サイゾウほどではないが薄い夜着に身を包んだ女達。

 

カエデ、ノノウ、綱手の3人である。

 

「お前達!来てくれたか!」

 

サイゾウは喜び思わず3人を抱き抱える。偽物とはいえ彼女達を殺すのは実に心を抉られるようだった。その反動もあってか、思わずサイゾウは全員を巻き込むように抱きつきその香りと感触を己に焼き付けるように強くかき抱いた。

 

「…続きは後だ」

 

サイゾウは三度襲いかかってきた白ゼツの木遁を“もうひとつの瞳力”で強制的に暴走させ、樹木へと変化させて意識を奪う。

 

サイゾウはカエデとアイコンタクトを取ると、彼女を抱えた状態で《完成体・須佐能乎》を空中で展開する。

 

「ノノウと綱手姉さんは、そこのサスケを連れて下がっていてくれ!…カエデ、場合によっては“アレ”を使うことを許す。こんなことを仕出かしたヤツを、俺は許さん…!!」

 

自身の子供同然と言ってもいいふたりの兄弟が命懸けで争うなど、よほどのことが起きたのだろうとサイゾウは考える。

 

イタチの様子、サスケの嘆き。そして───先程から幼馴染みである“うちはフガク”のチャクラが一切感じられないことなどから、サイゾウはすでに最悪の事態を想定していた。

 

現状、時間を稼がれた影響ですでにイタチの姿はない。だが、それほど遠くへは行っていないはず。そう考えたサイゾウは、カエデにイタチの気配を追わせ自身はそれに追随する形で完成体須佐能乎を飛ばす。

 

木の葉の里を覆う巨神の姿は、この事態に出動する多くの忍らが目にすることとなり、それがサイゾウの展開した術だと知らなかった者達は後から知って驚愕していた。

 

「あれは、五代目の《須佐能乎》…!いったい何が起きているんだ!」

 

「アスマか!先生が本気を出すらしい、俺たちは避難を優先するべきだ!…それとカカシがどこにいるか知らないか!?」

 

火影直属の暗部であるアスマは騒ぎを聞き付けると、急いでサイゾウの元へ向かっていた。途中現れた須佐能乎の巨大さに圧倒されるものの、パジャマ姿で飛び出してきたガイの言葉に嫌な予感を感じて共にカカシを探しに向かう。

 

「なんということだ…!フガク…!!」

 

「そんな、ミコトさん!」

 

うちはフガクの邸宅へと駆けつけたのは、病を克服し“全盛期の肉体”を取り戻した猿飛ヒルゼンと彼に付き添う夕日紅。

 

彼らは事切れたふたりの遺体を見て言葉を失う。

 

そんな背後で起きている騒ぎを聞きながら、カエデは集中して急激に離れたイタチの気配を必死に追いかける。

 

「早すぎる…!これではまるで…」

 

「《飛雷神の術》…いや違うな。あれにしては発動が遅すぎる。恐らく、また別の時空間忍術だ」

 

サイゾウはカエデとある方法で視界を同期させながら、火の国上空を高速で移動していく。

 

しかしそんな二人の前に、突如として“黒い炎の壁”が立ちふさがった。

 

咄嗟に完成体須佐能乎を停止させ事なきを得たサイゾウだったが、それを為した目の前の“完成体須佐能乎”に最大級の警戒心を払う。

 

「…なるほど。兄さんと互角に戦ったというのは嘘じゃないみたいだな」

 

完成体須佐能乎の額に鎮座する穢土転生の男。

 

───うちはイズナ───

 

かつてうちは一族を率いた最強の忍の弟が、不死の体を得てサイゾウの前に立ちふさがっていた。

 

__________________________________

 

 

「あの男はいったい…」

 

「完成体須佐能乎…永遠の万華鏡写輪眼だと…?だがあれはマダラじゃない。…まさか、うちはイズナか!?」

 

疑問を口にしたカエデに答えるような形で、サイゾウは目の前の男の正体にたどり着く。

 

「兄さんに頼まれたからな。お前をここから先に行かせるわけにはいかない…《天照》!!」

 

須佐能乎の瞳が輝くのと共に、再び放たれた黒い炎がサイゾウの完成体須佐能乎を襲う。だが、そう何度も受けるサイゾウではない。

 

即座にそれを《闇満羽》で防ぎ、霧散させる。

 

「…なるほど、それが《闇満羽》か。たしかに大した術だ。…だが、その程度でこの俺を倒せると思うなよ!」

 

イズナは再び天照を放つと、今度は“もうひとつ”の瞳力を解放してその力をすでに放った天照へと向ける。

 

「《須佐能乎・加具土命》!!」

 

イズナは天照を収束し、形態変化によってそれを自身の須佐能乎が持つ剣へと纏わせる。

 

消えぬ炎の斬撃がサイゾウを襲い、サイゾウは再びそれを闇満羽で無効化しようとする。

 

「無駄だ!」

 

しかしサイゾウが消すことに成功したのはほんの一部だった。

 

闇満羽の効果が天照の炎を消す前に、イズナは黒炎を回避させ今度は手裏剣のような形にしてサイゾウへと飛ばす。

 

「ちぃっ!」

 

一度に複数を対象にできない。

 

それが唯一にして絶対の、サイゾウの持つ《闇満羽》の弱点だった。

 

そんなサイゾウの弱点を的確につくイズナは、攻め手を緩めない。

 

「まだまだぁ!」

 

次々と天照を形態変化させた手裏剣を飛ばしては、サイゾウを追い詰めていく。

 

「しまったっ!?」

 

そしてとうとう崖に阻まれたサイゾウは、羽を出すこともできず直撃を受ける。

 

───が、消せないはずの黒炎は突如として放たれた巨大な竜巻によって吹き飛ばされた。

 

「…助かったぞ、カエデ」

 

「いいえ、サイゾウ様こそご無事でなによりです」

 

そこにいたのは、サイゾウの黒い完成体須佐能乎の額より左手を差し出した日向カエデだった。

 

ただしその全身は、まるでチャクラを直接その身に纏ったかのように輝いており、その背には黒い玉が二つ浮かんでいる。

 

「…なんだ、その姿は…!?」

 

自身と対峙するサイゾウが、永遠の万華鏡写輪眼に匹敵する完成体須佐能乎を持つこと。

 

さらには輪廻眼に開眼した可能性があることは、“仮面を被ったままの兄”から聞いていた。

 

しかし、その男と共に須佐能乎に乗っていた日向らしき女が振るう力にはまるで見覚えがない。

 

「九尾の人柱力のチャクラモード…?いや、尾獣のチャクラは感じない。女、貴様いったい何者だ…!!」

 

イズナは目の前の未知なる存在を恐れた。出来ることなら即座に天照で焼いてしまいたいほどに。

 

だが、先程の竜巻を出されてはそれも叶わないだろう。

 

───ならば、ここは自身と視界を繋げている“兄”へと情報を伝えることを最優先とするべき。

 

そう判断したイズナはわずかでも情報を得ようとカエデのことを誰何する。

 

「冥土の土産に覚えておくといいでしょう。わたしの名前は日向カエデ。ここにいるサイゾウ様の愛の奴隷にして、生涯の伴侶です!」

 

自信満々に胸をはり名乗りを上げるカエデに、イズナは内心で「違う、そうじゃない」とつっこみたい気持ちを抑える。

 

「くっ…!名乗る気がないならば、そのまま死ね!」

 

ひとまず有益な情報は得られなかったが、少なくとも日向一族であることは判明した。であるならば、三大瞳術とまで呼ばれる白眼には自分にも知らない可能性が秘められていると言っていい。今はそれで十分だろう。

 

イズナは密かに溜めていた仙術チャクラを解放し、仙人モードへと移行すると《加具土命》によって操作した《天照》を天をも穿つ巨大な黒炎の剣と化して掲げる。

 

「さあどうする!避ければ木の葉の里ごと焼き尽くすぞ!死ねえええっ!」

 

しかし空を割り、迫る黒炎の刃を前にしてサイゾウもカエデも焦ることなく身構える。

 

「いくぞ、カエデ」

 

「はい、サイゾウ様」

 

サイゾウはカエデに覆い被さるように近づくと、その両手を握って互いのチャクラを繋ぎ合わせる。

 

さらに眼を輪廻眼へと変化させたサイゾウは、須佐能乎の両手を合わせ、その間に莫大なチャクラを注ぎ一本の剣を作り出していく。

 

ふたりのチャクラは融合し、須佐能乎の内側に緑色のチャクラ体が生まれ、それに呼応するようにして須佐能乎は威装へと変形する。

 

「「《極・天羽々斬》っっ!!」」

 

二人の声がひとつとなり、金色に輝くチャクラの刃が一瞬にして黒炎の刃をも上回る大きさとなって掲げられた。

 

それに向かっていく形になった黒炎の刃は抵抗すら許さず消滅し、振り下ろされた金色の刃はイズナの完成体須佐能乎を彼ごと巻き込んで呑み込み、悲鳴すらあげさせることなく消滅させた。

 

金色の巨剣が刻んだ傷跡は地平線まで続き、その破壊の威力を物語る。

 

「…はじめて使ってみたが、こいつはちと威力がありすぎるな」

 

「は、はい。わたしもちょっと張り切りすぎてしまいました」

 

これではいつぞやマダラと戦ったときのように地図を書き直さねばならない。

 

ふたりは帰ったら上層部連中からどやされるだろうことを考えながらも、再びイタチ捜索へと意識を切り替える。

 

「どうだ、カエデ?」

 

「…ダメです。恐らくは、前回と同じく時空間のなかへと逃げられたかと…」

 

「ちっ!ひとまず里に帰るぞ!…場合によってはカカシの万華鏡写輪眼を使ってもらうことになる」

 

「はい。…また、戦争になるのでしょうか」

 

「それは俺がさせん。…だが、イタチが敵に回るか」

 

須佐能乎のなかで、サイゾウはすでにイタチが敵に回った場合を想定した備えを考え始めていた。

 

それは火影としての役目。里を守るという一事において、個を切り捨てざるを得ないこと。

 

サイゾウはそのことをわかっていながら、どうにもできないことに忸怩たる思いを隠せなかった。

 

 




お待たせしました。

本当は前半で事件勃発。後半で反省会みたいな流れだったんですが、「なんでサイゾウ気づきもしないの?」と思ったらいつの間にか全裸で乱入していました。
どういうことだってばよ(´・ω・`)

作者自身、改訂版がギャグ風味のシリアスと化して苦笑いを浮かべている始末です。
しかもさらりと重大な描写かますという。
ちなみにシスイは改訂前だといましたが、気づけば消えていました。重要キャラだというのに、このハブられっぷりよ…

では恒例の補足★説明

・うちはクヌギ
ここにしか登場しないモブうちはの女の子。
原作で恋人も殺した、とあったので作りました。
性格は天真爛漫そのもので、人懐っこい性格。イタチと付き合ったきっかけも、自分からグイグイいく感じで押し通しました。

・イタチの年齢
これは本当に悩みました。原作の描写を見ると(やめろめろめろイタチめろで有名なあのシーンとか)普通に青年程度(15歳~17歳)の年齢には見えるんですが、この時点での年齢を暁での会話などから逆算すると11歳。…ファック(白目)。ということで個人的に最初に印象づいた15歳~17歳程度のつもりで書いています。じゃないとシスイと親友とか、色々おかしくなるんです。文句は岸影先生に言ってください。

・“全盛期の肉体”を取り戻した猿飛ヒルゼン
詳細はいずれ。まあそのまんまです。

・うちはイズナ登場
穢土転生させたのはもちろんオビト。術はマダラから教わった。
《別天神》で操られており、仮面をつけたオビトを兄だと思っている。
彼の扱う瞳力がサスケと同じなのは
※サスケの《加具土命》を見てそれを扉間が知っていたこと。
※マダラとイズナ、イタチとサスケの共通点。
他にもあるのですが、一番の理由は上ふたつです。

・カエデのスーパーモード
まあ、まんま映画『THE last』のあれです。充電式です。
玉はサイゾウと一緒じゃないと出せません。

・《極・天羽々斬》について
カエデの転生眼による《金輪転生爆》にサイゾウの輪廻眼固有瞳術《天羽々斬》を上乗せした最強奥義。使った理由としては穢土転生体を前に悠長なことをしている余裕はなかったので。結果的にイズナには空間ごと消滅してもらいました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

闇を照らす者~汝の名は炎なり~ ★

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜
活動報告で気ままに色々書いてます。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=150810&uid=35351
ナルスト的合体奥義集です。サイゾウと組み合わせてほしいキャラクターがあれば、上記までください。いい刺激になりますので。
⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

さて、意外とみなさんから予想のなかった今回の話。

原作突入を前にして、次辺りが最後の前日譚になりそうです。言うなれば一部終了でしょうか。

さて、すでに輪廻眼に開眼しているサイゾウですが、ここで一度その能力をおさらいしてみましょう。
【地獄道】
嘘をついた相手の魂を抜き取り、ペイン六道の蘇生・回復を行う。
【畜生道】
別名を口寄せ輪廻眼。契約を無視して口寄せを行える。
【餓鬼道】
チャクラの回路を逆回転させ、相手のチャクラを吸収するだけでなく忍術の無効化が可能。
【修羅道】
一番反則の輪廻眼。どこからともなくSFのごとき武器やカラクリを口寄せできる。
恐らく弥彦の肉体を異常な頑強さに改造したのもこの能力。
【人間道】
相手の魂を引きずり出し、記憶から何から欲しい情報を思うがままに知ることができる、拷問いらずの凄い能力。でもちょっと地獄道と被る。
【天道】
輪廻眼の能力のメインにして、作中でもかなり厄介な技として扱われた引力・斥力を操る能力。恐らく長門が外道魔像を口寄せせず、万全な状態でこの能力を扱われていたら木の葉は壊滅していた。それくらいヤバイ。

そして最後に、生命を操る能力
【外道】
輪廻眼においても禁忌とされる生命の操作を司り、その能力の真価は死者を蘇生することができる能力《外道・輪廻天生》にある。


…それではお楽しみください。


激動の一夜が明けて、時刻は昼過ぎ。

 

冷暗所に並べられた複数の棺を前に、サイゾウは立っていた。

 

「死者はこれで全部だな」

 

「間違いないよ兄さん。でも本気なのかい?万が一があったら…」

 

目の前に並ぶ都合四人の死者。それらを前にして、サイゾウは驚くほど冷静に自らの弟にして暗部の隊長である『うちはシスイ』に問いかけた。

 

片方の眼に眼帯をつけた痛々しい姿のシスイではあったが、残った方の目は兄のものであり永遠の万華鏡写輪眼である。

 

兄もまた、弟の眼と父の眼を移植して永遠の万華鏡写輪眼へと至っている。

 

そして眼帯に隠された眼は、兄と大蛇丸が産み出した切り札。輪廻眼の力こそ満足に扱えないものの、条件付きなら切り札を使うことでシスイは木の葉でも指折りの強者になりえる。

 

…しかしその彼をしても、昨晩の変事は目の前の四人以外に犠牲者を出させないのが精一杯だった。

 

その死者こそサスケの両親であり、イタチの恋人であり…犯人であるうちはオビトの親友『はたけカカシ』だった。

 

彼が殺され、眼を奪われたことが今回兄に覚悟を決めさせた一因と言ってもいい。

 

「ああ、俺は今でも“あの時”この眼があれば…そう思っている。ならばこそ、ここでこの力を使うことになんの躊躇いもないさ。保険は打たせてもらうけどな?」

 

真剣に答えながらも、どこか茶目っ気を見せる兄にシスイは苦笑する。

 

こうして笑ってはいるが、きっと兄の決意は変わらない。

 

であるならば、シスイはそれをサポートするだけであった。

 

「サイゾウ様」

 

冷暗所の扉を開けて入ってきたのはカエデ。その腕にはサイゾウとカエデの娘である『日向タカノ』が抱えられている。

 

「おとうしゃま~!」

 

父の姿を認めると、タカノは嬉しそうに抱きついた。

 

サイゾウは愛おしげに娘を撫で、頬にキスすると、再びタカノをカエデに預ける。

 

「父さん!」

 

それに遅れる形で、息急ききって現れたのはナルトだった。彼の背後には、無理矢理連れてこられたのだろう。事態を理解していないサスケもいた。

 

猫を思わせるようなひげ模様の入った顔に焦りを浮かべて、ナルトは父を真っ直ぐ見つめていた。

 

「えっと…おれ、なんて言えばいいかわかんないけど、父さんに死んでほしくないってばよ!けど、サスケの父ちゃんと母ちゃんは絶対生き返らせてほしいってばよ!!」

 

ナルトの言葉にカエデは悲しげに顔を伏せ、シスイは顔を歪める。タカノは意味がわかっていない様子だ。

 

サスケはナルトの言葉に困惑し、戸惑った表情でサイゾウを見上げる。

 

「ナルト、勘違いするな。たしかに、今回俺がやろうとしていることは“俺が死ぬかもしれない”ことだ。だがな、俺は出来ることがあるなら後悔したくない。…それと、今回頑張るのは俺だけじゃない。今動ける“木の葉の者”すべてだ」

 

サイゾウの言葉にナルトが振り向くと、そこにはゾロゾロと無数の人が集まり始めていた。

 

その数は優に千を越え、二千にも届きそうな数である。

 

───今回、サイゾウが命を賭して為そうとしていること。

 

それは神話に語られた伝説の再現。輪廻眼の持つ瞳力のなかでも禁忌の技。

 

《外道・輪廻天生の術》である。

 

確かにこの術は死者を生き返らせることができる。しかしそれには莫大なチャクラを必要とし、また死後あまりにも時間が経ってしまえばチャクラで補える限界を越え、発動した術者は必ず死ぬ。

 

それを知っていて尚、サイゾウは今回の事件で犠牲となった者達を蘇生させることを決定した。

 

「サイゾウ、主だった者はほとんど集めたぞ。場所はここでいいのか」

 

「ああ、移動する時間が勿体ない」

 

サイゾウに声を掛けたのは綱手。彼女はサイゾウの決意が揺るがないことを悟ると、即座に木の葉全体へと声をかけに走った。

 

ひとりのチャクラで足りないならば、足りるだけのチャクラを持ってくればいい。

 

そう考えた彼女は、里のなかにいるチャクラをコントロールできる者をなりふり構わず集めてきたのだ。

 

「上忍の皆さんはチャクラを橋渡しする際の変圧器となっていただきます!無理に質を調整する必要はありません!ありったけのチャクラを流してください!」

 

ずらりと並んだ人々に向かって、シズネが声をかけている。

 

今回の転生忍術にあたって、集められたのは1897人。これは今現在忍を退いた者も含めた人数であり、この中に入れなかったものは暗部やチャクラ量の少ない老人や子供であった。それでも、サイゾウの提案に誰もが乗った。

 

かつて誰もが諦めてきた奇跡を、ひとりの男が為そうとしている。

 

もしもそれが自分達の協力で叶うなら。

 

ひとつの願いに引き寄せられて無数の者が集まっていく。

 

それは正しく“火の意思”そのものでもあった。

 

「サイゾウくん…正直あたしはまだ反対です。わずかにでも貴方が死ぬ可能性があるなら、こんなこと止めるべきです」

 

悲痛な表情で、泣き腫らした目を隠そうともしないのはノノウだった。彼女の手には、一粒の丸薬が乗っている。

 

「…秋道一族の丸薬を参考に作った養命薬です。飲めば一時的にチャクラ量を補ってくれます。副作用ですごく太っちゃいますから、ダイエットしましょうね」

 

冗談で気を紛らわせようとするノノウは、腰に下げた水筒から水を含むと、丸薬を口に含んでサイゾウに口移しで流し込む。

 

「…ダメですからね。絶対に、帰ってきてくださいよ」

 

感情を留めることが難しくなったノノウがゆっくりと離れていく。サイゾウは無言で笑顔を浮かべてその姿を見送る。

 

「サイゾウ、準備はよいか」

 

一族を率いて現れたのは、三代目火影猿飛ヒルゼン。しかし、かつての彼を知る者が見ればその姿に驚くだろう。

 

なぜならば、その姿はかつて伝説の三忍を弟子とした頃を思わせるほどに若返っていたのだから。

 

数年前。ヒルゼンは病で死の淵にあった。

 

サイゾウはもはや尋常な手段で治療が間に合わないことを察すると、ヒルゼンにある提案をした。

 

『その体をそっくり諦めるつもりはないか』と。

 

最初、サイゾウは治活再生を応用してヒルゼンを健康体へと導くつもりだった。

 

しかし血液検査で投薬のひとつにヒルゼンが耐えられないことが判明すると、急遽別の手段が必要になった。

 

そこで考え付いたのが、大蛇丸の《不屍転生》である。

 

あの術は仙術チャクラを基点に自分の存在を固定し、実体を失うことと引き換えに半不死の肉体を手にいれることができるものである。

 

サイゾウはこれを応用し、捕らえた白ゼツの体を改造。

 

培養したヒルゼンの細胞を彼の仙術チャクラごと移植し、真新しいヒルゼンの肉体そのものを造り出したのである。

 

結果として移植術は上手くいった。仮死状態にしたヒルゼンを外道の棒でコントロールし、一時的な不屍転生状態に移行。そのまま中身を新しい肉体へと移し、同化させたのだ。

 

拒絶反応が心配されたが、肉体を造る段階でテンゾウに協力してもらったこともあり、柱間細胞への適合は上手くいった。

 

完全に動けるようになるまでには一ヶ月の時間を要したが、無事ヒルゼンは若返るという思わぬ特典まで手にいれて現役復帰を果たしたのである。

 

ちなみにガン細胞は新しい肉体と同化した時点で消滅した。口から次々とヒルゼンが生えてくるようなことはできないが、完全に適合した柱間細胞がガン細胞を駆逐してしまったのだ。

 

とはいえ、副作用がなかったわけではない。忍としての性質変化や形態変化。さらに言うのであればチャクラコントロールすら新しい体になったことで難しくなったヒルゼンは、つい最近まで自分を鍛え直すために“水簾洞”で修行していた。

 

ダンゾウは親友が無事生還したことに喜び、修行の際は率先して付き添ったほどであった。…また余談ではあるが、近々大蛇丸と相談して自らも若返りを試みようとしている。

 

「わしが連れてきた猿飛一族をはじめ、うちは一族、日向一族、秋道一族、奈良一族、山中一族、油女一族、犬塚一族、志村一族、さらには残り少ない千手一族までもが此度の“奇跡”に名を上げてくれたぞ」

 

かつては己も火の意思を背負って立ったヒルゼンは、サイゾウが死ぬかもしれない今回の試みに最初反対していた。それはひとえにサイゾウを心配してのことであったが、それでも今回これだけの人間が集まってくれたことこそサイゾウへの信頼の証だと感じ、今では全力でサイゾウをサポートするつもりであった。

 

また、協力を申し出たのは木の葉のみではない。

 

音隠れの里。大蛇丸が非公式に里長を勤めるここからも、時間の関係で間に合うことができた数人が参加していた。

 

「サイゾウ!死んだら承知しないんだからね!」

 

威勢よく気炎をあげるのは林檎雨由利。彼女は事態を知るなり、雷遁チャクラによる肉体活性で木の葉まで走って駆けつけた。

 

「仮にも私の旦那なのだ。不甲斐なく死ぬようなことがあれば殺してやる」

 

言っていることが滅茶苦茶なのはパクラだ。見ればノノウに負けず劣らず目の周りが赤い。彼女もまた、サイゾウが死ぬかもしれないことに心の整理が追い付いていないからだろう。

 

ちなみに彼女は大蛇丸が“こんなこともあろうかと”用意しておいた飛雷神の陣で木の葉へやってきていた。

 

この《飛雷神の陣》。造るのに一千両かかる上に使い捨てである。また一人しか飛ばすことができず、場所も木の葉に固定であった。

 

本来であれば大蛇丸が来るはずだったのだが、日々の激務で消耗した状態では役に立てまいと、里内でテンゾウに続いて図抜けたチャクラの持ち主であるパクラを送ることにしたのだ。

 

彼は今、弟子の無事を祈って静かに窓の外を眺めている。

 

「………よし!みんな聞いてくれ!」

 

サイゾウのよく通る声は隅々まで響き渡り、各々が話し合っていた忍や元忍らが一斉に彼を見る。

 

「今回の転生忍術を行うに当たって、これだけの人間が集まってくれたことにまずは礼を言わせてくれ。ありがとう!…かつてミナトが死んだときにこの力があれば、そう思ったことは何度もある。…それだけじゃない。死ぬべきではなかった人間。終わるはずじゃなかった忍の命が消えていくのを見るたびに俺は思った。“俺に死んだ人間を生き返らせる”力があればと。そして、今の俺にはその力がある!だが俺だけではダメなんだ…!どうかみんな!俺に力を貸してほしい!」

 

懇願するように、すがるように願うサイゾウ。

 

そのサイゾウの願いに応えたのは、万雷の歓声だった。

 

サイゾウは自身を叩く大音量そのものに力を貰い、決意も新たに振り返る。

 

そんなサイゾウに合わせるようにして、無数の上忍が動いた。

 

「猿飛一族は俺を基点にしろ!チャクラの流れはできるだけ均一にするんだ!」

 

猿飛一族に指示を出すのは三代目火影猿飛ヒルゼンの息子『猿飛アスマ』。

 

サイゾウから『ムッツリのアスマ』という不名誉なあだ名をつけられ、今では公認となった恋人の紅にベタ惚れの彼は元サイゾウの部下であり、かつての上司が抱いた覚悟をよく理解していた。

 

「八門遁甲第七“驚門”…開!」

 

渡すチャクラを少しでも多く。そう考える者は多かったが、なかでも一番無茶をしてのけたのはガイだった。

 

最近になってようやく開くことができた第七驚門。それに伴う身体エネルギーの増幅と、半ば視界化されるほどに濃密なチャクラは上忍十数人分と言っていいほどの量を誇る。

 

上司であり、師匠でもあるサイゾウ。そんな彼の必死の願いに応えるためならば、八門遁甲の激痛などガイにとってなんということはなかった。

 

「ヒルゼンさん!予定通り木遁で受けたチャクラは僕がカエデさんに送ります!」

 

「任せろ。綱よ、尋常ではないチャクラが流れてくるぞ。心せよ!」

 

中継点を次々と伝い、流れてくる莫大なチャクラ。

 

それらを受け止める最終変圧器としての役割を担うのは音の守り刀十傑集がひとりテンゾウ。

 

首根っこを掴まれ雨由利に連れてこられたときは何事かと思ったが、自身の居場所を作ってくれたサイゾウへの恩義を返そうと奮起している。

 

またテンゾウと同じく木遁を扱うに至ったヒルゼンは加えて仙人モードへと移行し、テンゾウが受ける三倍のチャクラを受け止めて綱手へと注ぎ込む。

 

「百豪の術!」

 

「転生眼!」

 

綱手は溜め込んだチャクラを解放する百豪の術を。

 

カエデはサイゾウと交(まぐ)わったことで開眼した転生眼の力を。

 

それぞれ解放して、すさまじいまでのチャクラの奔流を調整しサイゾウへと流し込んでいく。

 

サイゾウはそれら激流の如きチャクラを背中で受け止め、輪廻眼へと眼を変化させて叫ぶ。

 

「かあああああああああぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

サイゾウを見守るナルトは、無理矢理連れてきたサスケの手を握り父を見守る。

 

反対の腕に抱いた妹は激しく光輝く父や母の姿に喜んでいる。

 

「《外道・輪廻天生の術》!!!」

 

サイゾウから溢れたチャクラが、後光のように死者を照らす。

 

はたけカカシ。

 

うちはフガク。

 

うちはミコト。

 

うちはイズミ。

 

しかし桁外れのチャクラにも関わらず、死者の蘇生はなかなか成功しようとしない。

 

サイゾウは自身の体がバラバラになりそうなチャクラの衝撃を押さえつけながら、あまりの反動に意識を失いそうになる。

 

「ぐぅ…!!」

 

「サイゾウ!」

 

「サイゾウ様!」

 

直接触れていることで今サイゾウがどれだけの負担と戦っているかわかっている綱手とカエデは涙を流しながらも、チャクラを流し込むことをやめない。

 

すでにふたりともに指先の毛細血管は破裂し、爪もすべて剥がれ落ちてしまっている。

 

しかしそんな体の痛みなど、今まさに目の前で死にかけている愛する者を失う恐怖以上に勝るはずもない。

 

「父さん!」

 

そのとき、サイゾウの声にひとりの声が届いた。

 

本来、これだけ集中している状況でよそ見をすることは自殺行為である。

 

しかしサイゾウはふと見た先で自分を見つめる息子の姿を見た。

 

それは“信じる”という心そのもの。

 

絶対の自信をもって自分を信じぬく瞳が、サイゾウを力強く見守っていた。

 

「ふっ…ぜえやあああああああっ!」

 

息子が見守る前で、無様な姿は見せられない。

 

覚悟を決めたサイゾウがまとめてチャクラを叩きつけると、異変が起きはじめた。

 

心臓を抉られた、カカシの肉体が復元されていく。

 

首を切り裂かれたミコトの傷が塞がっていく。

 

フガクの切り落とされた首が繋がっていく。

 

血の大半を失っていたイズミの顔に、血の気が戻ってくる。

 

やがて激しいチャクラの明滅が収まると、待機していたノノウが横になった四人を急いで診ていく。

 

「…成功です!全員、生き返ってます!」

 

綱手に匹敵する医療忍者の言葉に、その場はさきほどを倍する歓声に包まれた。

 

「…父さん…母さん…生きているのか…」

 

奇跡を目の当たりにし、呆然と見つめるサスケ。

 

間違いなく死んだはずの両親が生きている。

 

そのことが実感として沸き上がると、熱いものが溢れて止まらなくなる。

 

「へへっ、よかったってばよ!サスケ!」

 

サスケは不安だった。人が生き返るなどという戯れ言に。

 

『お前になにがわかるんだよ!!』

 

そう言って突き放そうとしたナルトが、決して諦めずにここへ連れてきてくれたことに感謝しかない。

 

“ありがとう”。

 

そう一言礼を言おうとして、サスケは不意に違和感に気づいた。

 

もっとも成功を喜ぶべきひとが、なんの反応もしていない。

 

「サイゾウ!!!」

 

「サイゾウ様!!!!」

 

最初に悲鳴をあげたのはカエデと綱手の二人だった。

 

すぐに異変を察知したヒルゼンが側に近寄り、その場で木遁による簡易ベッドを作り出す。

 

「ふざけんなサイゾウ!死なないってお前言ったじゃないか!!」

 

動揺を隠そうともせず、雨由利は急いで近づいてくる。

 

「鼓動が異常に弱っている…!くそ、絶対に死なせないぞ!サイゾウ!!」

 

綱手はサイゾウの心臓の音が弱くなっていくのを聞き、チャクラメスで胸元を切り裂き直接心臓をマッサージする。

 

「ダメですよサイゾウ様…!死んじゃ…ダメです…!」

 

カエデは転生眼の力を使い果たしていたが、それでもなけなしのチャクラをサイゾウへと送り彼の命を維持し続ける。

 

動揺は広がり続ける。

 

ヒルゼンは今の状況が非常に危ういことに今さらながら気づいた。

 

ここでサイゾウが死ねば、木の葉は終わる。そう考えてしまうほどに、みなの心に絶望が広がっていくのが感じ取れた。

 

「おとうしゃん、おきて~」

 

誰もが彼女の動きに無防備だった。

 

さっきまでのサスケに匹敵するほどに動揺したナルトは、タカノを抱いたままサイゾウに近づいていた。

 

だからタカノの手が、サイゾウの心臓の点穴のうえを撫でたことに気づけなかった。

 

「鼓動が戻ってきた…!ノノウ、シズネ、手伝ってくれ!」

 

事態の慌ただしさは変わらなかったが、それでもさっきまでと違い今度は希望があった。

 

動揺する群衆は、ヒルゼンが治めていた。

 

サイゾウを慕う女達が、彼の元へ集っている。

 

太陽のように笑う幼子が、そんな彼らを優しく見守っていた。

 

__________________________________

 

 

四人の人間を生き返らせた転生事件より、約二年が過ぎていた。

 

暫定的に復帰した三代目火影猿飛ヒルゼンによって、今日も里は平和を謳歌している。

 

「…サイゾウは、まだ目覚めぬか」

 

ヒルゼンは今日結ばれる雲隠れとの和平条約締結の為に、忙しく動き回っていた。

 

そんな彼の前に現れたシスイを前に、すでに日課となった言葉を呟く。

 

「ええ、肉体的には健康そのものですが、いまだに…」

 

シスイもまた、毎日兄の元を訪れていた。

 

兄はいまだ眠ったままだった。

 

不思議なことに消耗したチャクラはすでに回復し、それどころかゆっくりとしたものではあったが自然エネルギーを吸収し続けていた。

 

この影響でサイゾウには点滴さえ必要とされていない。

 

毎日多くの人間が訪れ彼に話しかけていくものの、これといった動きはみられなかった。

 

「そうか。…シスイよ、苦労をかけるが、これもいずれ五代目が戻ってくるために必要なことだ。それと、これはわしの勘に過ぎないが、今回の和平条約。キナ臭いものを感じる…」

 

「三代目様もですか…実は義姉さんも同じことを漏らしていました」

 

「そうか…シスイ、雲の忍頭の監視、怠るなよ」

 

「はい。では俺はこれで」

 

そう言って、シスイはその二つ名に恥じない早さで姿を消す。

 

ヒルゼンは雲の忍頭がなにを狙っているのかいくつか推測するが、そのどれもを予め見張ることはできないゆえに、忸怩たる思いを抱えていた。

 

「早く帰ってこい…サイゾウ…」

 

その言葉は誰もいない執務室で、静かに響き渡っていった。

 

 

 

 

 

 

 




カカシの死亡シーンは犠牲になったのだ…長すぎる小説を圧縮する犠牲。メインパートの犠牲にな…
気が向いたら活動報告にあげます(´・ω・`)


というわけで主人公意識不明の重体に陥るの巻きでした。
意外でしたでしょうか?自分的には穢土転生のときばりに言われるかと思っていたのでちょっとびっくり(´・ω・`)
でもまあ、死者蘇生ってほんと物語の盛り上がりを無視しますからねえ。一応簡単に使えないようになっているとはいえ。

またドラゴンボールCのときもそうでしたが、最強主人公にとってもっとも厄介な敵とは自分自身だと私は思っています。
今回はそんなサイゾウが起こした行動の起こした結末ということですね。なんだかんだ皆サイゾウの我が儘に甘いのです。
その場にいることができませんでしたが、もし大蛇丸がいたら戦ってでも止めてました。

他にも前話に続いて色々伏線をちりばめときました(特に娘)ので、次回以降もどうぞお楽しみくださいませ~

ちなみに普通一歳児はあんな流暢に喋れません(笑)



補足★説明

一応誤解を招くといけないので、ひとつだけ補足をば。

《輪廻天生》って使ったら死ぬんじゃねーの?という疑問をお持ちになるかもしれません。
ですが原作にて「少人数を死んでからさして時間をおかずに生き返らせる分にはおk」と服の下がエロい紙お姉さんが言ってましたので。
もちろんサイゾウのことですから、小動物相手に実験などはやってます。
今回は準備に時間がかかりすぎたことと、死体の破損が激しすぎたことからチャクラが足りませんでした。
危うく死ぬところでしたね、サイゾウ。
彼がどうして生き残れたのかは、まあ気が向いたら描写します( ̄▽ ̄)(まさに外道)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【番外異伝】『はたけカカシの受難』★

夢のなかで「え?同じ値段でステーキを?」がエンドレス再生された作者です(´・ω・`)タスケテ…

今回は番外編。
感想でも「いつの間に死んだの」とつっこみを受けてたダラ先がかわいそうでしたので、さらっと彼が死ぬまでの流れを書きます。

ご覧あれ~


月夜に悲鳴が響き渡った。

 

「う…うああああああああああああああああ………!!!!!!」

 

それは哀惜の慟哭だった。

 

箍が外れ、止めどなく無数の感情が沸き上がってくる。

 

(リン…!

 

リン、どうして…!?

 

死…いや、おれがコロシ…!?

 

!どうしてオマエガそこにいるんだ…!

 

なぜ?

 

…オビトとの約束が!

 

俺は最低のクズダ…!

 

?ダレカ?

 

誰か“リン”を助けテくれ!!!)

 

思考は一瞬だったが、目の前でリンが倒れていくのは永遠に思えた。

 

大切なヒト。守るべきヒト。

 

守ると…約束したヒト。

 

カカシは泣きながらリンに近づき抱きしめるが、彼女から生命の気配は失われてしまっている。

 

「リン…!リン、どうして…こんな!?」

 

どれだけ呼び掛けても、彼女からの答えはない。

 

“左眼”がうずくが、それも気にならない。

 

どんな痛みも、目の前の絶望より浅い。

 

遠退いていく意識のなかで、(くら)い底無しの闇が自分を蝕んでいくのだけが理解(わか)った。

 

__________________________________

 

戦争が終わった。

 

しかし、カカシには何も残っていなかった。

 

友も、家族も、そして愛するヒトも。

 

かつて胸に去来した“絶望”という名の穴は今だ塞がる気配を見せない。

 

いや、というより───塞がらないモノ───なのだろう。

 

彼を心配して、同期の連中が何人も声をかけてくれた。

 

ライバルであるマイト・ガイは幾度となく勝負を挑むことで、カカシから痛みを忘れさせようとしてくれた。

 

彼の上司である四代目火影波風ミナトは、せめて自分の目が届く範囲に置いておこうと彼を火影直属の暗部へと推薦・入隊させた。

 

そうして数ヵ月が過ぎた頃、木の葉で事件が起きた。

 

九尾の襲来である。

 

自分よりも遥かに強い人間。そう信じて疑わないカカシの師である波風ミナトは、その日あっさりと命を落とした。

 

一粒種の息子『ナルト』を残して。

 

この件は、カカシに忍としての自信を失わせるには十分すぎる出来事だった。

 

“誰も守れない、だらしない最低のクズ”

 

それが最終的にカカシが自分自身へ下した評価であった。

 

それからも日々を無為に過ごした。それでいて才能に溢れたカカシの体は、日々の任務をこなすだけで最低限の練度は保たれていた。…ライバルに置いていかれていることに気づきもせず。

 

───だからだろうか。新たに五代目火影となったサイゾウから、長期任務として修行を課せられたのは。

 

__________________________________

 

サイゾウが火影に就任して半年が過ぎた頃、カカシは火影の執務室に呼び出され、五代目火影であるサイゾウから直々に任務を言い渡されていた。

 

だが当のカカシは、今言われた任務の内容が意外すぎて頭に入ってこなかった。

 

理解できなかったと言い換えてもいい。

 

「どういうことです?なんで今さら俺が修行なんかを…」

 

厭世的なモノの見方をするようになったカカシは、目の前で腕を組みながら自分を見つめる偉丈夫を前にしてもどこか気だるげな態度を改めようとはしない。

 

“死にたがり”。

 

それが最近のカカシに付けられたあだ名である。

 

危険な任務に率先して挑み、常に限界ギリギリまで自分を追い詰める。

 

時にはわざとなのか、厄介な相手を自分だけで対応し、仲間が援護へ向かう前に倒してしまう。

 

どれだけ傷ついても顔色ひとつ変えないのが不気味で、最近では同僚の暗部からも避けられている。

 

そんな現状を打破しようと今回サイゾウは“任務にかこつけた修行”を依頼することにした。

 

酷なことを言うようだが、カカシは木の葉においても上位者に位置する実力者である。例え日々の修行をサボっていても悠然とその位置に居座ることができるほどに。

 

そんな彼がただ腐っていくのを、サイゾウも、そしてガイも見ていられなかったのだ。

 

だが実際問題どうすればいいかが問題だった。そこで修行馬鹿と無茶振り馬鹿はどんどんダメな方向へ考え続け、結論に至った。

 

「「ひとまず悩むとか出来ないくらい修行漬けにして他のことを考えられなくしてしまおう」」

 

ちなみに…サイゾウから課せられる修行を知る人間として、他に元部下のアスマと紅がいる。

 

今回もガイから修行参加を誘われたが、アスマは急用を思いだしたと言い残して逃走。

 

紅は最近体調が優れないとのことで普通に断った。この辺アスマが同じ理由を言おうものなら「鍛えてれば治る」とか言われて連行されるものの、女は得であるとカカシは密かに思った。

 

とはいえ何も考えなくて済むならそれもいいだろうと、かつてアスマや紅からそれとなくサイゾウの課す修行の“過酷さ”を聞いていたにも関わらず、カカシは首肯することで任務を受けることを示す。

 

「まあ…よくわかりませんが、任務だと言うなら受けますよ。一応確認しておきますけど、難易度はどれくらいなんです?」

 

その言葉を待っていたと言わんばかりにサイゾウはニヤリと口許を歪める。

 

「もちろんSランクだ。ひとまずは忍者としての基礎からやってもらうぞ」

 

なにげなく告げたサイゾウの言葉だが、そのことにカカシは違和感を覚えた。

 

「忍者としての基礎ですか?任務だというなら構いませんが、どうしてまた?」

 

「…お前、自分が緩い坂を下ってる自覚ないだろ?今のお前とガイがやりあったら、間違いなくガイが勝つぞ」

 

その言葉は、不思議と納得するような形でカカシの腑に落ちた。

 

思えばここ数ヵ月、ガイから組手を挑まれていない。じゃんけんだとか、大食い勝負だとか、どこかくだらない勝負ばかりだった。

 

(…そうか、いつの間にかガイのヤツ…)

 

ショック、ではなかった。

 

むしろ、こんなカラッポな自分を目標にこれまで頑張ってきてくれたライバルに、申し訳ない気持ちすらあった。

 

そんなカカシの様子を見て、サイゾウは内心でため息をこぼしつつも、事態は思ったより切羽詰まっていることを悟る。

 

(…こんな調子じゃ、オビトのことを話すわけにもいかんな。だがいつまでも落ち込んでいてもらっちゃ困る。最悪、カカシの写輪眼を取り上げる意見すら出ているんだ。せめて自力で万華鏡の力を扱えるくらいにはなってもらわないとな)

 

九尾を操り、木の葉を襲った“うちはマダラ”らしき男の正体が、かつての親友の教え子であり、自分に背筋を伸ばすきっかけをくれた少年であることは、苦い後悔としてサイゾウの胸のなかに今も燻っている。

 

火影としての立場になった以上、有無を言わさずカカシから“眼”を取り上げてしまうべきだろう。

 

だがそれは、言うなれば里という全体を優先するあまり個を犠牲にする行為。

 

そういったモノの見方が、後に禍根を残すであろうことをサイゾウはよく知っている。

 

ゆえに、例え悠長であっても本人の意思で苦難を乗り越えてもらわねばならないのだ。

 

「よし、ひとまず任務の開始は明日の早朝六時からとする。安心しろ、午前中は俺が見ていてやるし、午後からはガイがお前を鍛える。眠る時間は無理矢理にでもとらせるから、遅刻はするなよ」

 

「はあ、わかりました」

 

ぼうっとした気配のままカカシは返事すると、部屋を退室していった。

 

サイゾウは執務机から翌日のカカシの修行メニューを取り出して確認する。

 

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

『~これで君も☆伝説☆になれる!サイゾウ式デンジャラス育成術~』

 

①朝は太陽と共に起きよう!夏場の睡眠不足は睡魔払拭のツボで無理矢理覚ませ!

 

②筋肉はチャクラ以上に君の友達だ!全身に重りを乗せて生活しよう!ひとまず体重の三分の一からだ!

 

③チャクラが足りない?それは食事が足りてないからだ!身体エネルギーの元になる高カロリー食を残さず食べよう!

 

④肉体は限界を越えてこそ進化する!身体機能を半分以下にした状態で崖登りの行だ!

 

…などなど。

 

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

といった風に、狂気の沙汰にしか思えない内容が書かれていることをカカシはまだ知らない。

 

ちなみに食事を作るのはサイゾウである。栄養バランス“だけ”は完璧だ。この出来にはカエデさえもにっこりと笑うだけであったりする。

 

…余談だが、この食事を取って夢の世界へ旅立ったアスマはご先祖の猿飛サスケに出会ったという証言を述べている。

 

__________________________________

 

 

岩山の上で、ひとりの忍がぶっ倒れていた。

 

はたけカカシ。木の葉の上忍であり、つい最近同期の友人が言っていたことが嘘じゃないことを知った男である。

 

普段は完璧に顔を隠すマスクも、少しでも酸素を取り入れるためになりふり構わず下げられている。

 

息も絶え絶えといった様子だが、ひとまず喋ることくらいはできそうであった。

 

「ねえ…ガイ、…俺、殺されるのかな…」

 

やっとの思いで絞り出した言葉は、

 

『今日から俺がお前の師匠だ!骨の髄から鍛え直してくれるわ!!』

 

と叫んで自分を生き地獄へと叩き落とした男へ向けたものだった。

 

「はっはっは!何を言うんだカカシ、先生がそのつもりならそんなところで寝かさず、その辺の岩山にめり込ませてるさ!かくいう俺も、何度めりこまされたことか!」

 

自慢げに語るガイだが、かつてを思い出したのかその額には汗が浮かんでいた。というかお前は殺されかけたのか、とカカシはつっこみたかった。その余力もないのだが。

 

そうしてかれこれ修行をはじめて一週間が経過したカカシであったが、初日から幻術で身体機能を半分以下にされるとは思ってもいなかった。

 

全身の自由がいまいち効かない状況。しかしサイゾウは容赦せず、カカシの体重をあらかじめ調べて作っておいた重さ約25キロの重りを手早く着せていく。抵抗する間もなかったこの技術はこれまで無数の女体から服を脱がしてきた末に身に付けた珠玉の早業であった。

 

そしてカカシの一日は、崖登りにはじまり崖下りに終わる。

 

早朝からガイに無理矢理叩き起こされる(ちなみに寝坊すると、どこからともなくやってきたサイゾウの一撃を喰らう)と、そのまま満足に着替えもできずに修行の場所まで連れていかれ、崖登りの行を開始。もちろん重りは外させてはくれない。

 

崖登りの行とは、片腕のみで岩山を上っていく修行である。全身の体重を支えるのは当然であるし、バランスを崩せばあっという間に落ちてしまうことになる危険な修行である。

 

さすがのカカシもこれには困難を極め、幾度となく崖から落ちた。

 

内臓に負担がかかるような負傷を何度も繰り返したが、どんなに重傷を負っても一時間程度であっという間に治療された。

 

なぜか看護婦の服装をしたカエデ、綱手、ノノウらによって。

 

…ときどき誰かがいなくなり、木陰から嬌声が響いていたのはご愛嬌である。

 

崖登りの行を終えると、次に行うのは組手だった。

 

サイゾウの言うとおり、鍛えることをやめてしまったカカシをガイは大きく突き放していた。

 

写輪眼を使おうにも、スタミナが足りず満足に発動できない日が続いた。

 

しかし一ヶ月もした頃、ようやく写輪眼を発動したカカシを待っていたのは八門遁甲を扱うガイの姿だった。

 

第一の門ですでに写輪眼状態のカカシでさえ動きについていけなかった。それだけ(はや)い。

 

サイゾウの下で素の肉体を極限まで鍛え上げ、さらにはチャクラによる肉体活性という基礎中の基礎を半ば極めたガイ。

 

このため本来八門遁甲を使わずとも、カカシの目にも止まらぬ速度で動くことさえできた。

 

それでも八門遁甲を使ったのは、ライバルである親友への礼儀であり、“今”の自分はこれだけのことができるぞというアピールでもあった。

 

そして…それより前に行われるサイゾウとの組手はもっと酷かった。

 

カカシは初日、サイゾウとの組手で人間がひたすら放たれる打撃で一分以上宙に浮いたままでいられることを知った。人はそれを現実逃避とも言うが。

 

ともあれ、午前中でボコボコにされたカカシは昼休憩として治療と食事をし、午後からはかつてのライバルから死なない程度にボコボコにされる。

 

こうしてそんな生活も三ヶ月が過ぎた頃、変化が起きはじめた。

 

まず、崖登りの行が階段を上るような気楽さで出来るようになった。これをアスマから指摘されるまで気づかなかったカカシは順調に常識がおかしくなっていた。

 

次に、サイゾウの“空中コンボ”から自力で脱出できるようになった。浮かされていても、諦めなければ道は開けるのである。

 

最後に、ガイと組手がどうにかできるようになってきた。…これには、他でもないガイが一番喜んでいたが。

 

ちなみに今現在ガイと体術で互角に組手ができる相手はサイゾウとカエデのみである。これだけで、ガイがどれだけとんでもない領域にいるのか理解できよう。

 

そうして一年が過ぎ、二年が過ぎ、三年が過ぎた頃。

 

青年と呼ばれる頃から、次第に大人へと変わっていったカカシ達。

 

気がつけば、ミナトの忘れ形見であるナルトも自力で走り回れるほどに大きくなっていた。

 

__________________________________

 

 

その日、カカシは酔いざましに夜道をひとり歩いていた。

 

酒を飲むのがはじめてだったわけではないが、祝い酒というのははじめてだった。

 

カカシがサイゾウによって修行漬けになって間もなくして、紅の妊娠が発覚した。

 

そのときは大騒ぎだった。主にアスマが。

 

だが生まれてしまえば子供というのは可愛いもので、何をとち狂ったか“娘に誇れる父親になりたい”とアスマが修行に参加してきたときは驚いたものだ。

 

…ふと気づけば、修行の毎日でろくに墓参りすることもできていなかったとカカシは思った。

 

酒の席で“妙に引きずるよりは忘れるくらいでいた方が、オビトやリンも気楽だろう”と、ガイに諭され納得した自分がいることに驚いたのを覚えている。

 

大人になってから久しぶりにライバルや仲間と飲んだ酒はうまく、一時的にでもカカシから嫌な思い出を忘れさせてくれていた。

 

───だからだろうか。

 

目の前に現れたその男が、かつて自分を励まし立ち上がらせてくれた“親友”と同一人物だということに一瞬気がつかなかった。

 

「…久しぶりだな、カカシ」

 

顔の半分に、どこか無理矢理形成したかのようなひきつった痕を残すその男は、間違いなくカカシの親友。

 

『うちはオビト』だった。

 

カカシははじめ、酔いが回りすぎたかと思った。しかしチャクラを回して無理矢理酔いを覚ましても、目の前の幻影は消えない。

 

近づいてきて、男がカカシの肩に手を置いてようやく、カカシはそれが現実だと確信した。

 

「オビト…なのか…」

 

呆然自失の体で語りかけるカカシには、一片の警戒心すらなかった。

 

ただ目の前の、泡沫の夢のごとく現れた親友に謝らなければならないことがあった。

 

「…すまない…!オビト、俺はリンを…!」

 

涙ぐむカカシの姿に、オビトは優しく語りかける。

 

「いいんだ。仕方ないさ、あのときお前も俺も間に合わなかった」

 

“かつてのように”自分を励ましてくれる親友の姿に、カカシは今見ているのが本当に夢じゃないだろうかと何度も疑う。

 

それほどに、失ったはずの相手が帰ってきてくれたことは甘美な酔夢だったと言える。

 

「…だからもう一度やり直そう。こんな地獄じゃなく…“夢の世界”でお前も、リンも、みんな一緒に…」

 

カカシがその言葉の意味を問い返す時間はなかった。

 

あっさりと侵入したオビトの貫手は、わずかな躊躇いすらなくカカシの心臓を握りつぶした。

 

カカシの胸中に灼熱が広がり、痛みよりも驚愕が広がる。

 

───どうして───

 

───なぜ───

 

急速に脱力していくカカシの脳裏には、ちんけな言葉しか浮かんでこない。

 

そして先程のオビトの言葉を思い出しながら、あの場にオビトがいたならば、彼がこうするのも無理はないと悟る。

 

…自分は目の前で想い人(リン)をコロシタのだから。

 

薄れていく意識のなか、カカシはオビトの手が自分の左眼に伸びていくのがわかった。

 

__________________________________

 

目が覚めたとき、状況が理解できなかった。

 

ガイと酒を飲んだことは覚えている。だが、見渡せばどうやら場所は病院。

 

カカシは酔って転びでもしたのかと判断するが、その割りには世界が“狭い”。

 

そこでカカシははじめて、自分の左眼が失われていることに気づいた。

 

「オビト…」

 

思わず漏れたその言葉を引き金にしたように、カカシの脳裏にかつての“悪夢”とオビトの姿が重なったままフラッシュバックする。

 

「う、うああああああっっ…!!!!」

 

暴れはじめるカカシ。その悲鳴を聞き付けたのか、見舞いの品を持ったエビスとゲンマが扉を開けて入るなり、カカシを取り押さえる。

 

「落ち着いてくださいカカシ君!」

 

「ちっ、錯乱してやがる…!無理もねえか…!」

 

状況を知る二人はどうにかカカシを取り押さえようと踏ん張るが、サイゾウに鍛え上げられた肉体はチャクラ活性せずとも二人がかり程度で抑えられるものではない。

 

しかしそこへ、新たな闖入者が現れるなり万華鏡写輪眼でカカシを無理矢理眠りにつかせる。

 

「《月読(つくよみ)》!」

 

カカシを無理矢理眠らせたのは、同じく病院に入院していた『うちはフガク』だった。

 

奪われたはずの眼は大蛇丸が用意した複製品を付けている。不安はあったが、すでにフガクのチャクラと適合し万華鏡の力も問題なく扱うことができていた。

 

「フガクさん、ありがとうございます」

 

「フガクさんか、助かったぜ」

 

エビスとゲンマの二人がそれぞれ頭を下げると、フガクは片手を上げてそれを制する。

 

「いや、状況的に仕方あるまい。ひとまず俺の万華鏡で眠らせたが、いつまで持つかわからん。なにせ、“死に”上がりなのでな」

 

ダンディな顔にニヒルな笑顔を浮かべるフガクだったが、目の前の上忍ふたりには通用しなかったようだ。

 

微妙な空気をまといつつ、それを変えようとフガクが咳払いをした辺りで、悲鳴を聞き付けた看護婦が医者と共に現れた。

 

「…それでは俺はこれで失礼する。なにかあれば近くの部屋にいるから、呼んでくれ」

 

そう言ってフガクは去っていく。

 

「…カカシ君、大丈夫なのでしょうか」

 

「…さあな、今度ばかりはダメかもしれねえな」

 

医者の指示で病室を出たエビスとゲンマの二人は、誰に語りかけるでもなく静かに会話を繰り返す。

 

うちはオビト。

 

その名前は、共にアカデミーを通った二人にとっても、印象深い意味合いを持つ。

 

まっすぐで、どじで、いつもカカシを勝手にライバル視していた少年。

 

最後までまっすぐに、仲間の為に行動して…死んだはずだった。

 

そんな彼が、九尾事件を起こし、今回またイタチを操り事件を起こした。

 

非常な現実が、ふたりの上忍を疲れさせる。

 

あの明るい笑顔を浮かべた少年が凶人と化すなどと、誰が想像できようか。

 

それに加えて、五代目火影うちはサイゾウが意識不明に陥ったということ。

 

あの奇跡に参加したふたりは、目の前でサイゾウが倒れるまで、自分達が必要以上に多くのものを背負わせてしまったことを気がつけないでいた。

 

「俺たちが、支えなくちゃな。せめて、あの人が起きるまではよ」

 

「…ええ、もちろんですよ」

 

だからこそ、今度は間違えない。

 

微々たる力でも、集めれば人の命を救うだけの奇跡を産み出せたのだ。

 

ならば今度は、その力を里を守るために使うだけのこと。

 

暗雲に包まれた木の葉だが、若木は揺るぎなく立っている。

 

今は眠る大樹が起きる日を待ちわびながら…

 

 




最初は、執務室でカカシ相手に修行の話している辺りで机の下で誰かにフェラでもさせようかなとか考えていたのですが、さすがに不謹慎な気がしてやめました。
でもネタ的にはエロいので、誰かにやらせたい(´・ω・`)

今回補足はなし。リンが死んだ状況がちょっと違う、とかそういう細かいことはあんま気にしないで読んでもらえればなにより。
あ、サイゾウ式酔いざましとか、さらっと流した紅の妊娠とか、その辺は次回以降の番外異伝でやりたいので。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大覚醒① ★

昔からそうなんだけど、ニッチなエロが好き。

壁尻とか。

痴漢になんて遇わないって思い込んでる美少年とか地味子が痴漢されてるのもイイ。

あとは催眠系も最近好き。

※2017/06/09 12:08 指摘のあった嫡子を嫡女に修正。

基本的に王道(?)主人公しか書かないけど、次辺りは平気でえげつないことする主人公が書きたい。

では本編をお楽しみください。


その日、木の葉隠れでは里をあげての祝宴が行われていた。

 

長年曖昧だった五大国同士の休戦条約。

 

今日、そのひとつである雷の国にある“雲隠れの里”との間に、和平を前提とした同盟が結ばれようとしていた。

 

…しかし、この流れを木の葉上層部は警戒していた。

 

まず、調印式の日付である。

 

雲隠れに指定された日付が、日向一族において特別な意味を持つ日だったからだ。

 

日向の宗家に生まれた者は、三歳の誕生日と共に一族へのお披露目がある。もはや宗家分家といった拘りはないものの、そこは娘が可愛くてしょうがないカエデである。しきたりに(かこ)つけて娘を自慢したいだけであった。

 

お披露目の対象となるのは日向タカノ。サイゾウとカエデの嫡女にして、何かと不思議な力を持つとされる幼子である。

 

彼女は父が覚めぬ眠りについてから、一日と欠かさず毎朝父の寝所へと足を運んだ。

 

しかしやることと言えば全身を撫でさするだけである。そしてそれを終えると満足そうに微笑むのだった。

 

母であるカエデはこの行動を不思議には思っていたが、止めることはしなかった。

 

しかし一年が過ぎたある日、サイゾウの肉体の異常に気づいた。

 

チャクラが走る経絡。それが、明らかに“太く”なっていたのである。

 

カエデはその光景に見覚えがあった。それはサイゾウが倒れ、自ら経絡を鍛えるためにカエデの柔拳を受けることを志願してきたガイのそれ。彼の並外れた精神力が成した奇跡といってもいいそれを、娘はただ撫でさするだけで起こしている。

 

仮にこのままサイゾウの経絡が太くなっていけばそれに伴い吸収される自然エネルギーの影響でチャクラ量も跳ね上がる。元のチャクラ量から考えて、三年もすれば尾獣にさえ匹敵するものとなるだろう。

 

しかもそれだけではない。経絡が太くなるということは、もちろん八門遁甲に使用される八大点穴も同じである。それがこれだけ頑丈に、さらにより太く育ったならば…恐らく八門遁甲による肉体への負荷を受け止めることさえできるかもしれない。そもそもガイの狙いがそれだったのだから。

 

日向タカノの持つ、忍の常識を越えた力。

 

人は未知のものを恐れる。たとえそれが娘であれ、普通なら怯え、忌むかもしれない。

 

だがタカノの母であるカエデもまた普通ではなかった。

 

娘が起こした現象をどうやったかはともかく、結果を理解することはできた。

 

未知の事象を起こした娘に畏怖するどころか「タカノちゃんすごい!」と言って抱き締めた。

 

ついでとばかりになぜそんなことをしたのかを聞けば、

 

『こうすればきっと、お父様が起きるの』

 

と返ってきた。

 

朗らかに笑う娘の顔にひとさじの悪意もなく、むしろ父親を心配しての行動で悪いことが起きていないなら、カエデとしても娘を止める理由などない。むしろ、もっとやれの精神である。

 

後にタカノ式マッサージと名付けられたそれは、時折タカノの好意によってサイゾウの身の回りを世話する三人の美女にも時々行われた。

 

すなわち母であるカエデ、綱手、ノノウである。

 

眠ることでチャクラを高純度のまま循環し、自然エネルギーさえ取り込み続けるサイゾウのような劇的パワーアップはできないものの、後にマッサージの作用として若さが保たれることが判明し三美女を大いに喜ばせた。

 

里の者はこれら三美女の美貌を羨んだが、綱手が百豪の術の効果であると説明すれば誰も違和感は抱かなかった。事実、綱手はさらに二つの百豪の印をその身に宿し、ノノウもまた百豪の術を会得するに至った。カエデはそもそもなぜか素で若かったりするが、つっこむのが怖いので誰も指摘しない。

 

───さて、日向宗家嫡女のお披露目である。

 

この日に限り、日向一族の忍は絶対に任務を受けず、全員が宗家の会場に集合する。

 

それはすなわち、里の周囲を監視する警戒網が薄くなることも意味した。…というのはあくまで表の認識であり、木の葉の上層部はカエデが常に火の国全体を定期的に監視しているのを知っているのだが。

 

だが実際はともかく、木の葉としてもわざわざそのような日に会談を設定する必要などない。

 

当然何度も雲隠れに日付の変更を打診したが、あちらは断固として日時を変更しようとしなかった。

 

加えて、最近雲隠れから二尾の人柱力が姿を消したとの噂。

 

“疑ってくれ”と言わんばかりのこの現状。木の葉としては警戒を強めざるを得ない。むしろ警戒させることが狙いではないかという意見まで出たほどだ。

 

今日の開催に至るまで、里の上層部でも当然会議は紛糾した。

 

和平の同盟など罠に違いない、と断言したのは綱手だった。彼女は里の上層部としては鷹派であり、やや過激な面が見られる。

 

罠とわかっているなら、むしろ正面から食い破るまで。

そう豪語したのはカエデであった。彼女からすれば、有象無象の仕掛けてくる小賢しさなど児戯に等しいと言わんばかりに。また当日の祝宴においても、彼女を誤魔化すことはできない。仮に木の葉を崩そうと多数の忍を待機させておくつもりなら、火の国全域の悪意を日常的に監視しているに等しい彼女の“眼”から逃れる術はないからだ。

 

だが敵の狙いがはっきりしない以上、事前に同盟を断ればそれを理由になにを仕掛けてくるかわからないと指摘したのはシスイだった。

 

皆わかっていた。とどのつまりは、同盟を断るか受けるかであることを。

 

かつては情に流されやすいとさえ評されたシスイだったが、兄の不在時に根の実働部隊を率いる隊長にまで至った彼の指摘はもっともであり、備えもしてあることからひとまず今日における雲隠れとの和平対談は行われる運びとなった。

 

そのうえで最も懸念された事項がある。

 

二尾が消息不明となったことから、木の葉においても人柱力を保護した方がいいとの判断が行われた。自宅にいる分にはいいが、ナルトは血気盛んな少年である。下手に閉じ込めようとすれば最悪のタイミングで居場所が掴めなくなる可能性さえある。

 

そこで彼の監視役として、ひとりの男が選ばれることになった。その人選には不安の声もあがったものの、カエデは彼を信じることにした。

 

二年前より、“鬼”の面で顔を隠し続けるその男を。

 

__________________________________

 

 

場所は変わって、ふたりの少年が日向の練兵場にて年上らしき少年に叱られていた。

 

「まったくお前らは!俺がほんの少し目を離した隙にとんでもないことを仕出かしおって!」

 

怒鳴り散らすのは日向ネジ。日向の分家に生まれながら、その才能は歴代でもカエデに匹敵するとされ、制度改革の行われた日向においては次期当主を目指せるとまで言われている。

 

そんな彼は、同世代でも突出した実力からある子供達のお目付け役を任されていた。

 

頭にこぶをこさえて正座させられている『うずまきナルト』と『うちはサスケ』である。

 

…ちなみに彼が目を離した理由は、横を通った少女がノーブラであることに気づいたためである。一部で覗きの天才とも呼ばれる彼は、今では伝説の三忍のひとりである某ドスケベの下で修行を受けていた。

 

「…ちぇ、ネジ兄ちゃんに見つからなければうまくいったのによぉ」

 

「まさかスケベネジに《おいろけの術》が効かないとは…」

 

ふたりは先程アカデミー地下にある禁書の間に侵入していたところを御用となり、お目付け役のネジに見つかり連行されていた。

 

彼らがこのような行動をするようになったきっかけは二年前。

 

奇しくもふたりともに家族を奪われ、失いかけた痛みを持つことがふたりの絆を更に強くした。

 

彼らは顔岩の上で言葉を交わし、誓った。誰よりも強くなることを。

 

守られるのではなく、守りし者になる。そんな強い誓いを胸にした彼らはひとつの賭けを打つことにした。

 

…下手を打てば里すらも巻き込みかねない大きな賭けを。

 

───そして一年前、少年ふたりの滅茶苦茶な努力は実を結び、彼らは二人で一つの大きな力を手にした。

 

とはいえ件の“大きな力”はそう簡単に手伝ってはくれず、もっぱら修行は継続中である。今回はそんな悩める彼らが更なる力を求めた結果起きた事件でもあった。

 

また意外性という意味でもふたりは修行を重ねた。里の強者にスケベが多いことに気づいたナルトの提案で開発された《おいろけの術》は、目論み通り一部の者達には効果覿面であった。

 

しかし三代目攻略の秘策である“おいろけ両手に花の術”も、日頃から全裸を覗きまくっているネジには効果がなかった。むしろ、おいろけで再現した女体に関して、細部のダメ出しを食らった。

 

さて、カエデもかつて侵入したこの禁書の間であるが、実はそれほど危険な術が書かれた書類はない。

 

というのも、そもそも禁術指定されるような術というのは構成そのものが複雑怪奇なことが多く、サイゾウや大蛇丸が行う研究とも相俟ってさらに地下の隠し書庫に納められているからだ。ちなみにこれらの禁書に関してはふたりともすべて暗記してあるため赴くことすらない。

 

ゆえに、禁書の間に侵入されてもそこには暗号で記された普通の術であったりだとか、せいぜいがチャクラの消費量が多いために禁術指定されているものしかなかった。

 

一応初代柱間が記したとされる大巻物もこれみよがしに置かれているが、それはサイズが大きいのもさることながら本来の用途が柱間のアンチョコであるため、彼が自分で理解しやすいように書いたそれは別の意味で理解するのが難しいからである。

 

ここに一部を抜粋しよう。

 

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

【影分身の術】

 

・この術は扉間が開発したものぞ。印は俺でも覚えやすく大量のチャクラを如何にギュワッと練るかが肝要ぞ。すなわちズゴッと出したチャクラをゾゾゾと放てばそれだけで完成ぞ。さらにチャクラをドーンと込めることで多重影分身の術にもなるぞ。…木遁分身を参考に作ったと言っておったが、これなら木遁分身の方が使い勝手がよいぞ。

 

【黒暗行の術】

 

・マダラのヤツめに「力押しの単純馬鹿め」と馬鹿にされたのをきっかけに俺自ら開発した術ぞ。幻術とは自分がイメージした光景を相手に植え付けるものであるらしいが、そういった細かい芸当は俺には無理ぞ。そこで対写輪眼用に何が必要かを考えた結果、少々燃費が悪いが視界を真っ黒に塗りつぶすことを思い付いたのだ。ちなみに八尾のタコ墨がヒントぞ。

 

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

ちなみに柱間自身の感覚で書かれているため、チャクラ量に関しては一切考慮されていない。チャクラ消費の比較的少ない黒暗行でさえ上位の大規模忍術に匹敵する消費量である。

 

さて、正座するふたりは各々上記ふたつの禁術に関するアンチョコをすでに読み終わっていた。

 

記憶力が悪く、感覚派のナルトは《影分身の術》を。

 

写輪眼を持ち、幻術に関する知識のあるサスケは《黒暗行の術》を身に付けていた。

 

正直ネジの説教などより、ふたりとも早く術を使いたい気持ちでいっぱいだった。

 

それに気づいたネジが口許をひくつかせると、ふっと息を吐いて念のために声をかけておいた男を呼ぶことにした。

 

「…その強くなろうとする志は立派だな。だったらお前達の有り余る元気を、一欠片も残さず消費してくれる人に修行してもらうといいだろう。お願いします!ガイ先生!!」

 

ネジの呼び掛けに従って、一匹の忍亀がのそのそと近寄ってくる。

 

ナルトが(この亀なんだってばよ…)と心のなかで思っていると、亀によるものか口寄せの煙と共にひとりの男が忍亀の上に現れる。

 

「まったく青春してるなー!お前らー!」

 

現れた男を見て、サスケはドン引きし、ナルトはそれが誰か知っているがゆえに顔を引きつらせた。

 

「ナルトくん!俺は悲しいぞ!?なぜ強くなりたいならば俺に声をかけない!」

 

叫ぶ言葉にまるで熱量がこもっているかのような大声に、ナルトは焦りはじめる。

 

目の前で左手を逆さに丸を作って目に当て、もう片方の手も同じ程度にくねらせたポーズを取る男。

 

ポーズの影響で強調された僧帽筋や三角筋をこれみよがしにビクンビクン震えさせる男。

 

筋骨隆々の肉体でピッチピチの緑色タイツを身に付け、忍ベストを羽織り、腰には紫色の帯を巻いた男。

 

『マイト・ガイ』という男。

 

彼が、母カエデと同じく“常識のズレた”存在だと知っているからである。

 

「あんたの修行に付き合ってたら絶対死ぬってばよっ!?サスケ、早く逃げるぞ!!」

 

「ど、どういうことだっ!」

 

これまで正座させられていた足のしびれにより上手く動かない足をどうにか奮い立たせ、ナルトは隣のサスケに早く逃げるよう声をかける。

 

幸か不幸か、ナルトの家に行くことは数あれどこれまでガイとカエデの組手を見たことがなかったサスケはナルトの反応に驚きを隠せない。

 

サスケが出遅れたことに気づいたナルトはチャクラによる肉体活性を行い、瞬身で撹乱しようとする。

 

しかしそれを見逃すガイではない。腰に巻いていた帯をほどくと、それを使って“瞬身を発動した”ナルトを掴まえた。

 

「なっ!?」

 

これに驚いたのはサスケである。ナルトは確かに頭は悪いが、その分感覚的に身に付けた技に関しては反復練習を人一倍行うことで、すでに一人前の忍と比べても遜色ないレベルで一部の技を扱うことができる。

 

中でも瞬身の術は、サスケの写輪眼をもってしてもあらかじめ動く方向がわかっていなければ対応できないほどの練度だったのだ。

 

「はっはっは!ナルト君、この俺から逃げたければその三倍は速く動けないとな!」

 

明らかに長さの変わっている帯でぐるぐる巻きにされたナルトはその場で俯いている…ように見えただけだった。

 

「《影分身の術》!」

 

「なにっ!?」

 

その場で増えたナルトによって帯は伸ばされ、拘束を解いたナルトはサスケに目で合図する。

 

「ふんっ!うすらトンカチのナルトにしちゃ、やるじゃないかっ!!」

 

サスケが組んだ印に驚いたのはネジである。自らもアカデミーに通いながら伝説の三忍のひとりに修行を受けることで、その印が幻術だと看破したネジはそれに備える。

 

「《黒暗行の術》!」

 

しかし対幻術用に構えたネジは予想外の真っ黒な視界に混乱し、チャクラを乱してしまう。

 

「うおおっ!停電かっ!?」

 

それは同じくサスケを見ていたガイも同じだったようで、子供と侮ったかサスケの目を見ながら術を受けてしまったためすぐには解除できていなかった。

 

ちなみに時刻は14時。場所は青空の下にある練兵場である。

 

「おっしゃ、飛ばすってばよサスケ!」

 

「よし!…来い九喇嘛!」

 

(“…わしゃ後で怒られても知らんぞ”)

 

手を繋いだナルトの声に合わせて、サスケの写輪眼によってナルトの“中にいる”存在がその力を爪の先程貸し出す。

 

赤いチャクラの衣に包まれたナルトとサスケは消耗したチャクラを回復させると、驚異的な速度で飛び去ってしまった。

 

「ナルトのやつ九尾の力を!?」

 

「ネジは知らなかったか。…ナルト君は、一年ほど前に本人いわく“サスケと一緒に腹の中の九尾と仲直り”したそうだ。かつての九尾の力からすれば微々たるものだが、今の彼らの実力は下手な上忍に匹敵するだろう。だがどうやらサスケ君と一緒でなければ上手く九尾のチャクラを扱えないようだな。…致し方ない。《八門遁甲…第一・開門》…開!」

 

驚くネジへ最低限の説明と自己分析を済ませると、ガイはナルトとサスケを追いかけるために八門遁甲を使用する。

 

膨れ上がったチャクラが周囲に暴風を生み出し、ネジもまたその風に打たれながら目の前の男が持つ『最強の体術使い』の異名を思い出す。

 

噂では“死門”を開いても死なないとまで言われる八門遁甲のエキスパート。それを支えられるだけの強靭な肉体と経絡を持つ彼を、ネジは純粋に同じ体術使いとして尊敬していた。

 

「はっ!!」

 

それは瞬身の術のような一瞬のチャクラ活性ではない。にも関わらず、練兵場の土はクレーターを作り出し、弾かれるようにして飛び出したガイはあっという間に姿が見えなくなった。

 

「…まさか、これを俺一人で片付けるのか!?」

 

ネジはふと自分しかいない現状で、ガイによって作られたクレーターを直さねばならないことに気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 




ホントは一話でもろもろサイゾウが復活するあたりまで進めたかったけど、そういうわけにもいかなかったの巻き。

とりあえずマダラのときみたいに三話くらいにわけるかもです。

補足★説明

・ネジが九尾を知っている理由
普通に人柱力であることをサイゾウが公表しています。


・ナルトの監視につけられた鬼面の男
CV:井上和彦

・ガイがムッキムキのパッツパツに。
サイゾウに師事したおかげで肉体強度は木の葉最強とサイゾウに匹敵。八門遁甲も第一門解放するだけで大半の敵が倒せちゃう。サイゾウと同じで経絡も鍛えてあったり。


他、質問などあれば随時答えます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大覚醒② ★

サイゾウ復活…まで行けるはず!

そんな風に思っていた頃が、オレにもありました…(´・ω・`)


ガイは八門遁甲による身体能力の恩恵を受けながら、二年前サイゾウが倒れたのを自分が原因だと自責の念に駆られそうになっていたナルトを思い浮かべて微笑んだ。

 

───あの日、倒れたサイゾウがどうにか息を吹き返した時。

 

タカノをカエデに預け、ふと気づいてしまったように「俺が声を掛けたからだ…」と呟き絶望しかけたナルトは、次の瞬間凄まじい勢いの張り手によって吹き飛ばされていた。

 

軽い子供の体ということもあったのだろう。だが、それ以上にナルトを叩いた男の─うみのイルカ─の怒りは激しかった。

 

「…サイゾウさんが倒れたのは、お前のせいなんかじゃない」

 

そう言って歩き出したイルカの怒気を前にして、数人の忍がそれを止めようと動くが三代目火影猿飛ヒルゼンが止めた。

 

「サイゾウさんは、いつでも自分のことを後回しにする。“痛い”のは慣れてる、そう笑いながら言ってな…」

 

近づくイルカに怯えるナルト。だが、身をすくませるナルトをイルカはそっと抱き締めた。

 

「殴ってしまってすまない。だが、お前には、お前だけには勘違いしてほしくなかった。“サイゾウさんの息子”のお前には、あの人が起こした結果の責任を誰かに被せるわけがないって、理解(わか)ってほしかったんだ…!」

 

そう言ってナルトを抱き締めるイルカの体は、悔しさに震えていた。

 

イルカは、かつてサイゾウを殺しかけた。そのことを未だ引きずるイルカであったが、折に触れサイゾウの人柄を知っていくに連れて、彼がどれだけ自分を蔑ろにしているかを知った。

 

うちはサイゾウが眠る時間は異常に短い。恐らく、一日に三時間と眠っていないだろう。

 

そのうえ、彼は非公式に音隠れにも自らの分身を送っている。

 

それらから時折送られてくるフィードバックを処理しながら、何食わぬ顔で火影としての激務をこなしているのだ。

 

師匠である大蛇丸はそんな弟子をみて、少しでも負担を改善しようと自らも激務に励んでいる。

 

他にも彼の現状を知った猿飛ヒルゼンは、現役復帰してまずサイゾウを叱り、自分の裁量で処理できるものを対処していった。

 

上層部の老人らも、これまで以上に仕事に励み、効率化に励んでいた。

 

その甲斐があってか、最近ではようやくまともに時間が取れるようになってきたところだったのだ。

 

そう、ようやく彼は安らぐことができるところだったのだ。

 

今回、彼が起こした奇跡は忍の常識を越えている。まさしく神話のごとしだろう。

 

だが、現実はどうだ。

 

彼を慕う女達は皆泣いている。甦った者達とて、これでは自責の念に駈られてしまうだろう。

 

それに死なずに済んだとはいえ、どんな副作用が待っているかもわからない。予断を許す状況ではないのだ。

 

だからこそ、うみのイルカは彼の息子に後悔するようなことを考えてほしくなかった。

 

まっすぐ、前を向いてほしかった。

 

それにイルカも、ガイも、そしてナルトも、ここにいるすべての者達が思っている。

 

───“うちはサイゾウ”なら、どんな絶望的な状況からも必ず復活してくると。

 

__________________________________

 

それから二週間が過ぎた。サイゾウの意識は未だ戻っていない。

 

木の葉の里はすでに落ち着きを取り戻し、日常を再開している。

 

そんな木の葉の里を訪れるなら、必ず目に入るモノがある。

 

歴代の火影達の“顔”を土遁によって形成した『顔岩』と呼ばれるものだ。

 

ナルトは五代目火影であるサイゾウの顔岩の上でひとり夕日を眺めていた。

 

「…なあ、九尾。俺、どうしたらいんだろうな」

 

ナルトは自分の中にいる九尾へ語りかけるのを日課としていた。

 

それは父であるサイゾウから言われたことでもあった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

自宅にてサイゾウと向き合いながら、幼い日のナルトが座っている。

 

サイゾウはそんなナルトを通して、彼の中にいる九尾を見つめていた。

 

『…お前の中にいる九尾は憎しみの塊だ。いずれお前自身をも蝕もうと、必ずや牙を向くだろう』

 

ナルトはその言葉に思わず自分の腹を抱え、怯える。

 

『大丈夫だ、何があっても“俺達”がお前を守る。そこでだナルト、お前もただ怯えているだけでは嫌だろう。俺がとっておきの九尾対策を伝授してやる!』

 

ナルトは自分を見守るサイゾウの顔を見て安心して目を閉じ、頭を撫でられる。

 

『それはな…』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「…“ひたすら九尾に話しかけろ“、か。5歳の時からずっとやってるけど、九尾のヤツ一度も返事なんてしてくれないってばよ」

 

ナルトは沈む夕日を見ながら、封印が施された己の腹を見る。複雑な紋様が描かれたそこには、間違いなく巨大なチャクラを感じとることができた。

 

「単にお前の声が聞こえてねーんじゃねえのか?こんなところにいやがったな、うすらトンカチ」

 

「サスケ…」

 

ナルトは後ろから声をかけられ振り向くと、そこにはナルトを馬鹿にしながらも柔らかい笑みを浮かべた少年─サスケ─が立っていた。

 

「…お前にお礼は言わないし、謝ったりもしない。イルカって人が言ってくれたとおり、俺も含めて周りがごちゃごちゃ言うことじゃないからな」

 

口ではそう言うものの、サスケはなんとも言えない表情でナルトの横に座る。少しの沈黙のあと、ぽつりとサスケは呟いた。

 

「なあナルト、俺達は弱いな…」

 

「ああ、守られてばっかりだってばよ…」

 

ふたりの間に再び沈黙が落ちる。

 

自分達が弱いこと。守られていることを、それぞれが自覚していた。

 

ナルトの記憶にはないが、彼の両親は彼を庇って死んだ。今でこそ父と母がいるが、それでも時々思うのだ。もうふたりの両親がいたら、どんな風だったのかと。

 

サスケはイタチが最後に残した言葉を思い出していた。自分を憎め、殺せと告げたイタチ。きっと両親が死んだままならいずれはそうなっていかもしれない。だがそうはならなかった。そしてサスケは気づいていた。あの時、苦無を振り下ろすまいとイタチが必死に抵抗していたのを。両親も恋人も殺した兄が、自分だけは守ろうとしたことを。

 

「ナルト、強くなろう。今度は俺達が守るんだ」

 

「そんなこと言っても、ガキの俺達がどうするんだってばよ…」

 

サスケの決意は伝わってきたが、ナルトにはどうすればいいのかわからなかった。

 

だがそんなナルトを見て、サスケは不敵に笑う。

 

「ああ、多分俺だけじゃ無理だ。お前だけでもな。だから、二人でやるんだ!」

 

サスケはナルトの手を握り、その目を覗きこむ。

 

「目の前で父さんや母さんが殺されるのを見て、俺は写輪眼に目覚めた。だからだろうな、ナルト。お前の中にいるヤツがなんとなくだが見れるようになってる」

 

暗い闇のなかでこちらを睥睨する気配を感じて、サスケは総毛立つ。ひとりでなら、その気配に圧倒されていたかもしれない。だが、その手に握ったナルトを強く意識することで、サスケは負けじと睨み返す。

 

「ナルト、俺達で九尾を攻略して、こいつの力をごっそり借りるぞ!」

 

「な、なに言ってるんだってばよ…!」

 

ナルトはサスケが言った言葉に驚く。その驚きはナルトだけではない。彼らを監視する男に取っても驚きであった。

 

その瞬間、ふたりの景色は変化した。

 

浅い水溜まりがどこまでも続くような、静かで不気味な場所。

 

ふたりが同時に見上げれば、そこには巨大な“檻”があった。

 

「“ずいぶんと生意気な口を聞くからなにかと思えば…ガキめ、八つ裂きにしてやろうか…!!”」

 

封印の檻に入っているにも関わらず、そのチャクラはサスケとナルトのふたりを叩き圧倒する。

 

サスケはナルトを庇おうと前に立ちはだかるが、そんなサスケの心情を知ってか知らずかナルトは勝手に前へと出る。

 

「………すっっっっっっっげええええ~~~~~!!!!!」

 

「ナルト…!?」

 

まさかの大興奮の言葉にサスケは驚く。九尾を見上げるナルトの目に嫌悪はない。むしろ、驚嘆と感嘆に満ちていた。

 

「これが九尾かってばよ!すっげえ!でけえ!」

 

興奮し続けるナルトはずんずん前へと進んでいく。呆気にとられていたサスケだが、さすがに不味いと思ったのかナルトを止めるべく慌てて隣まで駆けていく。

 

「おいナルト!危ない真似するな!」

 

「え?なんか危ないのか?」

 

「当たり前だろ!忘れたのか、こいつがお前のりょ…!いや、悪かった…」

 

途中まで言いかけてやめたサスケだが、意味はナルトに伝わっている。

 

ナルトは哀しげな顔で少し俯くと、再び九尾を見上げる。

 

「…ああ、わかってるってばよ。俺の父ちゃんと母ちゃんは、俺をこいつから守って死んだって…父さんから聞かされたから」

 

「だったら…!」

 

「けど!…俺はずっと話しかけてきたからわかる!本当に悪いのは九尾じゃない!今それがはっきりわかった!」

 

ナルトの強い言葉に、今度こそサスケは言葉を失う。そして改めて九尾を見る。

 

身の丈にしてどれほどであろうか。かつて一度催しで見た五代目火影の完成体須佐能乎に匹敵する巨大さ。そんな化け物を宿すナルト。

 

(…なるほど、大人達がビビるわけだ)

 

サスケはそれも無理はないと思った。ナルトを信じる自分でさえ、いざ九尾を目の前にしてこれだけ狼狽したのだ。

 

チャクラとは心を写す水鏡だと、かつてサスケはイタチに教わった。

 

九尾が持つ憎しみ。それが色濃く反映されたチャクラは見ているだけで気が滅入る。…にも関わらず、ナルトはまるで堪えていない。それが不思議で、サスケはナルトに訪ねる。

 

「ナルト、お前どうしてアレを見ても平気なんだ?」

 

「ん?だって、別にアレは俺達に向けられてるもんじゃないってばよ。確かにだいぶ濃ゆいけどな」

 

ふたりが言う“アレ”とは九尾が持つ憎しみである。そう言われてサスケは写輪眼で九尾をよく見直す。

 

「“…気に入らんな。その“眼”でワシを見るんじゃない…!”」

 

「ぐっ…!」

 

九尾が持つチャクラの圧力でサスケは圧されるが、それを後ろからナルトが支える。

 

「ありがとうサスケ。…九尾、俺の話を聞いてくれってばよ」

 

「“…そんな必要はない”」

 

顔を背ける九尾だが、耳は傾けてくれている。それに快くしたナルトは、笑みすら浮かべて九尾に話しかける。だがその笑みはすぐに消えた。

 

「父さんが倒れた。《輪廻天生》っていうスゲエ術使った反動で」

 

「“………(六道のじじいの術か)”」

 

「最初は俺のせいだって思った。俺が、父さんが集中している最中に声なんか掛けたからだって。けど、それは違うってある人が教えてくれた。…それからずっと考えてたんだ。父さんが眠っている間、俺はどうしたらいいかって」

 

「“………お前みたいなガキにできることなんぞない”」

 

「へへっ、やっと答えてくれたな!…そんで俺ってば馬鹿だから、自分がずっと守られてたって最近ようやく気づけたんだ。死んだ父ちゃんや母ちゃんだけじゃない。木の葉の里の大人達。色んなたくさんのひとから、俺は守られてるって」

 

「“…それはお前が“人柱力”だからだ。兵器であり、いずれ戦争の道具として利用できるからだ。いいか小僧、お前達人間が考えていることなんざいつだって同じだ。ワシら尾獣を封印できたお前達はこれまでずっとワシらを利用してきた。お前達だってそうだろう、ワシの力を利用することが目的だ!!”」

 

先程までとは比べ物にならないチャクラの暴風。しかしナルトは下がらない。サスケと手を繋ぎ、しっかりと前を向く。そんなナルトに引きずられるように、サスケもまたナルトを支え前を向き続ける。

 

「…否定はしない。あんたは“力”そのものだ。無力な俺達がすがるためのな。だが…」

 

「…ああ。けど、俺達が欲しいのはお前から無理矢理奪った力なんかじゃない。お前の力を借りたいんだ。もうただ守られるのは嫌なんだってばよ!」

 

「“………”」

 

九尾はひたすらに圧力をぶつけ続けるも、小揺るぎもしない目の前のジャリを見下ろしながら考える。

 

まだ幼いだろうに、彼らふたりの覚悟は本物だった。そこに九尾はこれまで自分をただ見守ってきたひとりの男の姿を見た。

 

「“…ふん、いいだろう。だが条件がある。ワシがお前らに試練を課してやる。それに合格できたらひとまずは爪先ほどの力を貸してやろう!”」

 

九尾はいい暇潰しになるだろうと笑みを深くする。その千年ぶりの“気まぐれ”がよい結果を導くことを願って。

 

「おっしゃ!やったってばよサスケ!」

 

「ああ!きゅう…いや、待てよ。あんたひょっとして、名前があるんじゃないか?」

 

「“…だったらなんだ”」

 

「簡単だ。どうせ試練って言ってもひとつじゃないんだろう?だったら最初の試練を乗り越えたら、まずはあんたの名前を教えてもらうぞ!」

 

「おお!さすがサスケだな!なあきゅう…えっと、なんて名前なんだ?」

 

「“それを試練で乗り越えたら教えてやるという話だろうが!アホか!”」

 

「よっしゃあ!言質は取ったぞ!」

 

「“な…!?”」

 

思わずつっこんだ九尾の台詞を前に、サスケとナルトは互いにハイタッチを交わす。サスケが誘導し、ナルトがボケて相手の言葉を誘発する。彼らふたりの常套手段である。

 

「どんな試練でもどんと来いってんだ!」

 

「ああ、俺達ふたりで乗り越えてやるよ!」

 

自信満々なふたりを前に九尾はため息をつく。思えば、こんな風に会話することなどどれだけぶりであろうか。

 

九尾は油断なく見据えながら、口許に笑みを浮かべた。千年ぶりの笑みを。

 

__________________________________

 

 

「はっはっは!追い付いたぞ少年達ぃ!」

 

地響きすら伴い、ガイは着地した。着地した瞬間何か壊してしまった気がするが気のせいだろうと無視することにする。そこは木の葉の外れであり、今日開催されている祝宴から最も遠い場所でもあった。

 

しかし辿り着いたガイは、謎の男と対峙するサスケとナルトを見つける。

 

「む?(雲隠れの額当て…何者だ)」

 

ガイはふたりを視界に納めながら、その先にいる前髪で片目を隠したポニーテールの男を見る。

 

「ちっくしょう!ガキだけじゃなくなっちまった!」

 

目の前の男、いや少年だろうか。ナルトとサスケが油断なく見据えている様子からして、ただごとではないのだろうが…

 

「やっぱチマチマと動くのはオイラには向かないな、うん!喝っ!!」

 

「いかんっ!!」

 

相手の少年が動くよりも早く、ガイはナルトとサスケを庇うように前へ出る。

 

途端、地面から起きた激しい爆発をガイは蹴り払う。土煙で視界が奪われるが、ガイは相手の足音がした方向へと胸元のポーチから小さな鉄球を取り出して投げつけた。しかし、その先に手応えはない。

 

「外したっ!?上か!」

 

「《火遁・豪火球の術》!!」

 

ガイの鉄球を起爆粘土の鳥に乗って飛行することで躱した少年─デイダラ─は続けて飛来したサスケの火遁に驚くも、危なげなくそれを回避する。

 

「へへっ!そんなもんかよ、うん!」

 

「そんなもんだってばよ!」

 

「なにっ!?」

 

豪火球に紛れて影分身に自分を投げさせ空中へ移動していたナルトの一撃がデイダラに直撃する。バランスを崩しかけたデイダラだったが、攻撃の寸前でチャクラの衣が切れてしまったナルトの蹴りでは押しきれなかった。

 

「なめやがってっ…!」

 

デイダラは即座に複数の鳥型粘土爆弾《C1》を放出する。

 

「死ねっ!!」

 

空中で無防備となってしまったナルトに粘土鳥が迫るが、狼の形をした雷遁がそれら全てを噛み砕いた。

 

雷遁を放ったのは、顔の上半分を鬼に似た仮面で隠した男。なぜかむき出しになっているのは右目のみで、左目は何らかの封印式によって塞がれている。

 

「お前は…!」

 

「ガイ、それ以上はいい。俺は誰でもない…あえて名乗るなら暗部の“ナナシ”だ。この子達の専任護衛の任務を受けている」

 

鬼の面の男の正体を知るガイ。彼が洩らしたその言葉にナルトとサスケは怒りを覚えるが、実際に自分達の実力が足りないのも事実。まだまだ修行が足りないということでもある。

 

(“ガキども、下がっていろ。こいつは今のお前らが手に負える相手じゃなさそうだ”)

 

「九喇嘛!だからってここで引くわけにいくかよ!」

 

「…サスケ!急に里のあちこちでチャクラが膨れ上がってるってばよ!」

 

ナルトとサスケはそれぞれ尾獣の力を分割して制御している。

 

ナルトがチャクラの出力、サスケがチャクラの形成といった具合に。

 

これに加えてナルトは母の千里眼を間近で見続けてきた影響によって、一種の感知タイプの能力を有していた。

 

「まさか狙いは里そのものか!?」

 

驚愕するガイをよそに、デイダラは起爆粘土を造形。《C3》によって近辺一帯を根こそぎ吹き飛ばそうと企む。

 

「こうなったら今から木の葉崩し開始だぜ、うん!俺の芸術を見せてや「できればな」ぐぁはっ!?」

 

しかしそれも、できればの話であった。哀れデイダラは鬼の面を被った男の一撃で胸を貫かれた───かに思われた。

 

「喝っ!」

 

しかし、粘土分身によるダミーだったそれは鬼の面の男を捕らえたまま爆発する。

 

「オレとマダラ様の合作芸術だ!止められるものなら止めてみな!」

 

地下から白いドラゴン状の粘土と共に現れたデイダラ本体の言葉に呼応するかのように、里全体で爆発が起き始める。

 

「ヤバいってばよ!早く止めなくちゃ!」

 

「止めるったって、どうするんだよ!」

 

焦るナルトとサスケの前に、“無傷”の鬼の面の男が降りてくる。

 

「…あんた、どうやって」

 

「悪いがその質問には答えられない。…だが、あまり出し惜しみしていられる状況でもなさそうだ」

 

サスケの疑問を鬼の面の男は一考だにせず切り捨てる。そして何らかの印を組むと、それまで封印式で塞がれていた左眼の封印式に“天”の文字が浮かび再び解放される。

 

「輪廻眼っ!?カカシ、お前いったいどうやって…!」

 

驚愕するガイにカカシと呼ばれてしまった鬼の面の男─ナナシ─はやや呆れながらも、上空を旋回するドラゴン状の起爆粘土に乗ったデイダラへと輪廻眼を向ける。

 

「《神羅天征》!!」

 

空へ向かって放たれた斥力波によって、デイダラは為す術なく吹き飛ばされた。

 

「うおあっ!?なんでアイツがペインの術を使いやがる…!?」

 

ドラゴン型の起爆粘土を盾にすることでダメージをやり過ごしたデイダラだったが、身代わりとなった為バラバラにされてしまっている。

 

「ヤバいヤバいヤバい…!くそっ、タイミングが滅茶苦茶だぜ!」

 

デイダラは温存しておいた《C4カルラ》を用いて下にいる全員を始末しようとする。

 

(…九尾のガキは拐っていく予定だったが、そうも言ってられねえ!)

 

───だが全てにおいて彼の行動は遅すぎた。

 

「《八門遁甲…第五・杜門》…(かぁい)!」

 

掛け声に気づいたときには、デイダラは殴り飛ばされていた。

 

「がっ…がはぁ…!!」

 

一撃で右腕が砕け右半身の肋骨が軒並み持っていかれた。さらには腰の起爆粘土までもがいつの間にか奪われている。

 

「はああああっっ!!」

 

サスケは上空の光景に目を奪われていた。写輪眼を持ってしても見切ることのできない超高速戦闘。それこそが『最強の体術使い』マイト・ガイの唯一にして無二の戦闘方法。

 

先ほどナルトから聞かされてはいたが、見ると聞くとではまるで違う。

 

「人間の動きじゃない…!」

 

思わずそう言ったサスケだったが、それもそうだろう。

 

空中で無数の打撃にさらされるデイダラは、すでにボロ雑巾と化していた。本来であれば追い詰められたとき用の自爆術《C0》があったが、そんなものに意識を割く暇すら与えてくれない。空中を駆けるガイの紫の腰帯に捉えられた彼は、木の葉の碧き猛獣を前に抵抗することさえできずにいた。

 

「《裏蓮華》っ!!」

 

帯を引き寄せる反動を利用した急転直下の蹴りでトドメを刺されたデイダラは、全身の骨を砕かれ内臓を複数破裂させ、見るも無惨な姿となって墜落した。

 

こうして『暁』のひとりである起爆粘土使いの少年は、その短い生涯を閉じるのであった。

 

 




「デイダラ死亡確認!!」
厄巳“王”巳厄
(´・ω・`)


…まあ、二年間に色々ありました(話すと長い)。

補足★説明

・イルカ先生(愛の張り手)
この作品だと上忍になってます。原作とトラウマ解決の経緯が違うため、サイゾウを支えるために日夜頑張ってます。封印術を中心にオールマイティに活躍できる。

・九尾の試練(という名の特訓)
「まずはワシの分身を口寄せしてみろ」から始まって、段階的に人柱力のチャクラを引き出せるようにしてくれてます。九喇嘛からすればナルトは無視してるのに寄ってくる子犬。サスケは子犬が連れてきた子猫くらいに思ってます。実はひたすら話しかけられてたせいでナルト相手にはすでにちょっとほだされてたり。
封印に関してはまだナルトが鍵をもらってないので開けられません。

・木の葉連続爆破テロ(被害はびっくりしたテウチさんが転んだだけ)
別天神で潜在意識レベルで洗脳しておいた雲の忍や商人を、条件付けで自爆するように設定。突如として爆発する人間爆弾と化しています。…血龍眼とかこれのプロット書いてる頃には知らなかったんや(´・ω・`)
この作品のオビトの何がヤバイって、現時点で複数の万華鏡所持ってところよね。
被害?シスイ率いる暗部が里の人間以外全員警戒してた上に、うちは警務部隊がまともに機能している状況で出るわけない。

・鬼の面の男(誰もナナシで呼んでくれない)
写輪眼を奪われた彼でしたが、こんなこともあろうかと口寄せ輪廻眼をクローン写輪眼を触媒に用意しておいたサイゾウのおかげで新たな瞳術をゲットです。移植したのは大蛇丸先生。
とはいえこれを制御するために彼がつけているのが鬼の面。うずまき一族の封印具のひとつであり、不安定なチャクラを安定させる効果があります。ただし副作用として外すと死にます。さらに言うのであれば輪廻眼の力を使いすぎると、寿命が削られます。鬼の面の見た目はハクオロさん的なのでイメージしてください(´・ω・`)

・デイダラ(出オチ)
一応潜入任務だったので雲隠れの額当てしてました。地雷埋めてるところを見つかってしまい、その相手がナルトだったので拐おうとしましたが思った以上の実力に手こずりガイが到着。カエデにバレなかったのは彼もギリギリまで催眠で記憶封印してた上に結界張ってましたので。ガイが踏んじゃったのがそれ。
…まだ出番あるよ!

・木の葉崩し()発動。
実は狙いは木の葉ではなかったりします。サイゾウが目を覚ますフラグではありますが。

・暁始動!(白目)
さっそくひとり死んだけどね!
「今日は特別でね、もうひとり来ているんだ(フラグ)」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大覚醒③ ★

とりあえずサイゾウ復活まで行けました。
近日中にアスマと紅のラブラブエッチを投稿予定。

今気づいたけど、うちはの火影が半分以上エロじゃない事実(´・ω・`)アレェ…


日向宗家の祝宴会場は、未曾有の破壊に包まれていた。

 

「馬鹿な…!《赤秘技・百機の操演》が、たったひとりの女に…!!」

 

雲隠れの忍頭を特製の人傀儡へと変え、その中に潜んでいた男─赤砂のサソリ─は、目の前でただひとり立ち続ける女へ畏怖の目を向けていた。

 

つい先ほど起きた爆発音。それを受けて、サソリは作戦の第一段階が失敗したことを悟った。

 

暁の選ばれた一員である彼が、首魁であるマダラより受けた指令『木の葉崩し』。

 

“彼が受けた概要”は雲隠れ上層部である忍頭を特製の人傀儡として改造し、同盟締結の為の調印式にて上層部の要人いずれかを始末すること。それは事を起こした後にサソリ自身が殺される可能性が極めて高い本来なら作戦とすら呼べないもの。

 

しかし、己の死すらもらも計算に入れたそれをサソリは“喜んで”受け入れていた。

 

───だが、デイダラが受けていた計画は違う。デイダラが下されていた命令は木の葉に潜入し、里のあちこちに爆弾をしかけ、それを合図にマダラの洗脳下においた雲の忍と一般の商人を自爆させること。

 

重なればどちらの作戦をも阻害しかねないこの作戦。これをマダラが仕掛けたのは、ひとえにサイゾウを警戒してのことである。

 

マダラを名乗るオビトは警戒していた。

 

歴代のうちはにおいても全盛期のマダラに匹敵する実力を持つサイゾウを。

 

ゆえに彼が昏睡状態に陥ったという情報を聞いても、サイゾウならば自分にとって最も厄介なタイミングで目覚めてくる…そう考えていた。

 

“ならば、サイゾウが目覚めざるを得ない状況を作ればいい”。

 

今回の『木の葉崩し』。その真の狙いは、サイゾウにとって“最も大切なモノ”を奪うことにあった。

 

だがそんなことを知らないサソリは、協力者だと聞かされていたデイダラの身勝手な行動が自身の作戦を台無しにしたと考える。

 

(デイダラめ…!マダラ様の計画を!!)

 

思わず怒気を漏らすサソリであったが、切り替えもまた早かった。…それが誘導されたものだとも気づかず。

 

作戦が失敗した場合、彼の目的は別のものへと変わる。

 

その目的こそ、『日向カエデの暗殺』あるいは『日向タカノの誘拐』。

 

龍の逆鱗に触れるがごときその行為がどれだけの難事か、サソリは判断することができない。別天神によって偽りの忠誠を抱いたサソリは、ただただ己の心に従うのみなのだから。

 

それに、サソリには勝算があった。それは彼だけが知る特殊な毒だ。

 

如何に日向カエデが凄まじい強さであるといっても、わずかな傷から入り込む猛毒を即座に対処することはできないはず。であれば、そこにこそ勝機はあると考えていた。

 

サソリは移動しながら考える。普段自分を包んでいる傀儡であるヒルコはここへ持ってきていない。ゆえに切り札のひとつである三代目風影を用いることを考えたが、日向カエデの武器は素手である。忍具ではないならば、質よりも量であたり、確実に“毒”を与えることを考えるべきだろうと結論付けた。

 

日向宗家の邸宅前。そこには門前に若い日向の者が待機していた。

 

サソリはひっそりと笑みを浮かべ近づいていく。

 

「お前ら全員俺のコレクションに加えてやるよ」

 

そう言って、《赤秘技・百機の操演》を繰り出したのである。

 

だが一体一体が強力な毒を仕込んだ特製の傀儡であるそれらは、たった3人の、いや一人の女によって打ち砕かれてしまっていた。

 

《赤秘技・百機の操演》を繰り出した初手はよかった。迎撃せんと迫る日向一族をひとり、またひとりと動けなくしていくのには笑みが止まらなかった。

 

だがその時のサソリは知らなかった。

 

───その場に木の葉最優の医療忍者である綱手がいたことを。

 

───木の葉最凶の医療忍者である薬師ノノウがいたことを。

 

───そして、木の葉最強の女である日向カエデがいたことを。

 

自身が操る自慢の傀儡。百に及ぶ特製の人傀儡が、ついに全て砕かれる。

 

それはもはや、悪夢に等しい光景だった。

 

綱手とノノウは始めこそ戦闘に参加していたものの、娘の誕生日パーティーでもある祝宴を台無しにされたカエデの怒りを感じてすぐに引き下がった。

 

とはいえ何もしないわけではなく、毒にやられた者の治療を急いだのもある。

 

すでにノノウは己の毒耐性を活かして傀儡の毒をわざと受けており、《創造再生の術》でダメージを誤魔化しながら毒を解析。恐るべき早さで毒の分解方法にたどり着いた。

 

ノノウの手によって、驚異的な早さで毒のダメージから回復していく日向の者達。

 

もちろんそれを見て、サソリとて手をこまねいていた訳ではない。むしろ百の傀儡を打ち砕きながら迫るカエデに恐怖したのか、すでにもうひとつの切り札であった三代目風影を口寄せしていた。

 

しかし《砂鉄時雨》をどれだけ打ち込んでもかすり傷ひとつカエデに与えることができない。だが距離は稼げている。その間に戦略を練り直そうとしたサソリだったが、砂鉄時雨を弾くカエデの前に綱手が立ちふさがった。

 

サソリはその隙を突いて《砂鉄界法》で蹂躙せんとするが、綱手は両手の甲と額の《百豪の印》を解放。溢れたチャクラの圧力で砂鉄を無理矢理吹き飛ばすと、追撃の砂鉄時雨をモノともせずに三代目風影まで迫り一撃で粉砕してしまった。

 

文字通り、もはや傀儡として視認できないほどバラバラに砕かれた三代目風影を見て、いよいよサソリは焦りだした。

 

しかし彼を守る傀儡はもはやひとつもない。そんな彼の前に、十代前半と言ってもおかしくないほどに可憐な姿の日向カエデが、ゆらりと歩いてくる。

 

彼女はそのたおやかな唇を開くと、その見た目からは想像もできないほどにゾッとする声音でサソリへ尋ねた。

 

「ねえ、どうしてこんなことをするの?」

 

静かな問いだった。だがサソリにはそれが、まるで耳元で死神に囁かれているように感じた。

 

「ねえ、答えてよ。今日はタカノちゃんの3歳の誕生日パーティーだったのよ。開催まで後一時間しかないわ。こんなに“散らかして”…お片付けは、してくれるのよね…?」

 

首を傾げながら疑問を口にするカエデ。その仕草とは裏腹に、カエデは周囲の人間が冷気すら感じる雰囲気を醸し出す。

 

まるで全身が凍てついたように動かなくなるサソリ。

 

だが、動けないのはサソリだけではなかった。

 

ノノウによって解毒された中でも体力に自信がある幾人かは、すでに戦闘へ参加できるほどに回復している。

 

だがかつて九尾の襲来すら経験した歴戦の日向の忍らは、揃いも揃ってうつむき冷や汗を垂らしている。

 

彼らの心はひとつだった。すなわち

 

「「「(九尾より恐ろしい…!!)」」」

 

である。

 

ヒアシは思う。ヒナタをはじめとした子供達を連れてくるのを後にしておいてよかったと。

 

ヒザシは思う。この間冷蔵庫にあったカエデのプリンを勝手に食べたことは、一生黙っていようと。

 

「ねえ、どうするの?」

 

「おおおおおおおおおおっっっ!!!!!」

 

サソリは叫んだ。雄叫びをあげた。恐怖を掻き消そうと。凍てつく体を解き放とうと。

 

彼の狙いは無防備にも目の前までやってきた女である。ならばとサソリは自分自身を使い、《縛刺縄》の一撃を撃ち込む。

 

だが無情にも、発射された縛刺縄は手刀で細切れにされた。

 

畳み掛けるつもりで続けて両掌の《赤秘技・火劇》を放つが、一撫でで雲散霧消させられる。

 

“打つ手がない”。

 

まさしくその言葉通りの状況に、サソリは恐怖していた。それは両親を失ったとき以上の恐怖であるとも言えた。

 

そんな彼の恐怖も、思惑も、なにもかも一切合切まとめてカエデは“粉微塵”にすることにした。

 

「一瞬千撃…!《八極ッ!!一〇二四掌ッッ》!!」

 

まるで光が全身を突き抜けていくような、そんな感覚をサソリは覚えた。

 

 

───それがサソリが最後に感じた知覚だった。

 

千の掌撃による柔拳の飽和攻撃。それは経絡を基点に対象を粉状に崩壊させる究極打撃。元は伝説の天忍が用いたとされる《八十神空撃》という広域技を対個人用に昇華した技。

 

サソリはそれによって傀儡部分全てを失い、“核”となる部分だけを残して動けなくなった。もはや彼には見ることも聞くことも嗅ぐこともできない。

 

「ふふふ…まさか死ねると思ったのかしら?…可愛いわね、そんなこと“許すはずがないじゃない”…!!」

 

その表情を見てしまった綱手とノノウは後に語った。ナルトがいなくてよかったと。

 

こうして『木の葉崩し』は拍子抜けするほど簡単に食い止められてしまった───かに思われた。

 

突如として、空から飛来した雷の化身の攻撃を、カエデは距離を置くことで防ぐ。

 

しかし彼女が驚くのはそこではない。目の前に降り立った相手の姿は、サイゾウや大蛇丸が得意とする忍術のひとつ。穢土転生によるモノだったのだから。

 

「なんですって!?」

 

驚くのも無理はない。二代目火影である千手扉間が開発したその忍術は、一朝一夕で身に付く術ではないからだ。

 

しかも相手が不味い。彼女の前に現れたのは、穢土転生によって口寄せされ操られた三代目雷影であった。

 

「疾(はや)い…!」

 

三代目雷影の仕掛ける貫手主体の接近戦に、カエデはペースを奪われる。ついさきほどチャクラを多量に消耗してしまったのも痛い。その上ただでさえ小柄な彼女の戦闘は攻めることで真価を発揮する。

 

だが目の前の三代目雷影による圧倒的なフィジカルは、常の余裕をカエデから奪うほどに強力なものであった。

 

「野郎っ!!」

 

綱手はカエデの危機を悟ると彼女の前に無理矢理割り込み、三代目雷影がカエデに向けて放った《地獄突き》を交差させた両腕で受け止める───が、その一撃に込められた想定以上のパワーを前に弾き飛ばされてしまった。

 

「ぐぅっ…!?」

 

その上防いでなお、防御を越え、自身の腹部を浅く抉った貫手に綱手は驚愕を露にする。

 

そして三代目雷影から漂うチャクラを感知して、驚きの声をあげた。

 

「おじいさまのチャクラ…!」

 

それこそが三代目雷影をして強化した正体。柱間細胞を用いて作られた穢土転生という、考えうる限り最悪の組み合わせ。

 

それがどれほどの驚異か。

 

即座に理解した綱手だったが、この流れこそが敵の目的そのものであった。

 

「きゃあっ!?」

 

後ろからしたノノウの悲鳴に、カエデは振り向く。そこには、同じく穢土転生体である“二代目雷影”の姿があった。

 

「タカノッッ!!」

 

そして二代目雷影の腕には、今日3歳の誕生日を迎える自身の娘が抱かれていた。

 

二代目雷影。

 

金銀兄弟のクーデターによって死んだ彼は、こと戦闘力においては実の息子である三代目雷影に遥か劣ると言っていい。だが彼の特技はそんなことではない。

 

それは速さ。かつて『電光石火』の異名を誇った二代目エーは、タカノを抱えたまま雷を思わせる速度でその場を離脱した。

 

それを目撃したカエデは《転生眼》を発動して一気に状況を逆転しようと考える。

 

が、三代目雷影を前にして棒立ちするということがどういうことか。冷静さを欠いたカエデは気づいていなかった。

 

「カエデっ!!」

 

咄嗟に叫んだ綱手の声で正気に返ったものの、カエデの胸は三代目雷影の《地獄突き一本貫手》によって深々と貫かれていた。

 

(サイゾウ…様…)

 

意識を失う寸前、カエデは己の愛する人の名前を呼んだ。

 

__________________________________

 

 

ネジは、力の限り走っていた。

 

里のあちこちで、突如として自爆を始めた一般人と雲の忍。

 

自身の白眼を用いれば、爆発の徴候を感じ取って被害を抑えることができるかもしれない。

 

だが、彼の胸に去来した“嫌な予感”。それに不安を覚えたネジの足は、全力で日向宗家へと向かっていた。

 

そして、そこで自らの初恋の人である日向カエデが深々と胸を貫かれ倒れていくのを目撃してしまった。

 

「う、うおおおおおおおっ!」

 

「ネジ、よせっ!!」

 

ヒアシは自身が割り込む隙を窺っていたが、走ってくる甥を見て思わず声を上げる。

 

しかし雷遁の鎧を纏う柱間細胞で強化された三代目雷影は、微塵の躊躇もなくネジの首を切り落とさんと手刀を振るった。

 

「ネジィィっ!」

 

ヒザシは息子の首どころか、上半身が切り落とされるのを想像した。だが、それは為されなかった。

 

「…ひとが寝ている間に、随分と好き勝手やってくれたみたいだな」

 

ネジの首をはね飛ばさんと迫った手刀は、いつの間にかその前に立ち塞がった男によって防がれていた。

 

“うちはサイゾウ”によって。

 

「サイゾウ!」

 

綱手は涙が溢れるのを堪えながら名前を呼ぶ。

 

「綱手姉さん、状況がよく分からないんだが…“コレ”がカエデをそんな目に遇わせたのか…?」

 

サイゾウは今だ力を込め続ける三代目雷影の手刀を微動だにせず“片手”で抑えている。

 

「ああ、その通りだ」

 

綱手はカエデに治療を施しながら、淡々と答える。心臓まで及んだダメージは普通の治療方法では回復など間に合わない。だが、綱手の持つ桁外れのチャクラがそれを可能としていた。傷ついた心臓さえも回復させる《外法・創造再生の術》。

 

「死んでさえいなければあたしが絶対に蘇生させてみせる!だからサイゾウ、そっちは任せたぞ!!」

 

「わかった」

 

綱手の言葉を信じ、カエデに外道の術を用いようと考えていたサイゾウはその手を止め、上空の敵をにらみつけた。

 

…するとどうしたことだろうか。まるで地震が起きたかのように“なにか”が鳴動する音が聞こえ始めた。

 

空気が揺れ、大地が震える。それは木の葉一帯を揺るがすと、急速にその気配を収束していく。

 

「ぶっとべ」

 

───ボッ!!───

 

サイゾウが呟いたのと、三代目雷影が空中高く蹴りあげられたのはどちらが速かっただろうか。ヒアシは、サイゾウから迸る怒気を見つめながら考えた。

 

三代目雷影は錐揉みしながらどうにか体勢を整えようとするが、あまりの威力に下降することすら許されずひたすらに上昇し続ける。

 

「…“発”!」

 

その隙にサイゾウは特殊なチャクラを脳内に構成し、かつて自身のライバルが得意としていたもうひとつの術を発動する。

 

その名も《分神の術》。それは、自身の意識を分けることで“同時に別々のことを考える”ことを可能とする忍術である。

 

今、サイゾウは自身の肉体に宿った力を高速で解析していた。

 

(いったい俺はどれだけ眠っていたのだ…それになんだこの体から溢れるチャクラは…眠っている間に改造でも受けたか?いや、先生がやったとは考えにくい…)

(里全体で複数のチャクラが乱れているな…シスイに…フガクも動いているのか。こちらは問題なさそうだな)

(蹴りあげたときはわからなかったが、あれはまさか三代目雷影か…なるほど穢土転生を用いたか…周囲に散らばった傀儡の残骸を見る限り、もうひとりの下手人は『赤砂』のサソリ…日向の者がヒアシやヒザシまで追い詰められるわけだ…なるほどオビトめ、《別天神》を使いこなしたな)

 

これこそ四代目火影波風ミナトが得意とした並列思考である。

 

ミナトの常人離れした飛雷神の精度は、この術あってのものである。その上更にミナト本人の超人的な思考速度が加わり、彼ははあらゆる状況で即座に戦術を練ることができた。

 

それこそが、かつて彼が最強の名を欲しいままにした理由だ。

 

分析を終えたサイゾウは《分神の術》を解くと、ようやく落下してきた三代目雷影を見上げる。

 

「まずはヤツを封印する!」

 

イズナを倒したときのように、このまま輪廻眼の固有瞳術《天羽々斬》を使って空間ごと削り取ってしまえばすぐに終わるだろう。

 

だが、それではかつてと同じだ。この後に何が待っているかわからない以上、尋常ではない消耗を強いる輪廻眼の固有瞳術は控えるべきだろう。

 

「然らば…《竹遁・千重の籠》!!」

 

サイゾウが持つ最強の封印術。落下してきた三代目雷影は軌道を変化させることすらできず、あっさり竹の束に捕まり封印された。

 

「《八門遁甲…第七・驚門》…開!!」

 

雷にも等しい速度で逃げていくタカノの気配を追うためには、完成体須佐能乎による飛行能力を使用した方が効率がいいだろう。

 

だが、それでは長期戦になった場合後手に回る可能性がある。ゆえに、急ぐからこそ走る。

 

輪廻眼による重力操作によってあっという間に音の速さを越えたサイゾウは、ソニックブームによる被害を一部にもたらしながら駆けていく。

 

桜花掌の要領でチャクラをコントロールし、足が触れるたびに大地を爆裂させ、サイゾウは加速していく。

 

風が全身を打ち付ける。チャクラによる防御を越えてサイゾウに負担がかかる。

 

「《修羅の攻》!」

 

すると、サイゾウの声に併せてどこからともなく現れた鎧がサイゾウの全身を包んでいく。

 

この世界では考えもつかない黒と赤に彩られた機械(からくり)の鎧がサイゾウを保護すると、彼は一層速度を増して駆け抜けていく。

 

やがて、走るふたりの人影は雷の国へと突入した。

 

「追い付いた…!!」

 

サイゾウは加速を繰り返しながら、機械(からくり)の鎧の機能を用いて三キロほど先にいる二代目雷影の姿を捉える。娘のタカノは何らかの封印具にしまわれているのか、気配は感じるが姿はなかった。

 

「《万象天引》!!」

 

サイゾウは娘が手元にないのならば好都合だと言わんばかりに片手を突き出し引力波を発生させ、二代目雷影を強引に止める。

 

「よし!」

 

サイゾウは近づいてきた二代目雷影を三代目雷影と同じように千重の籠にて封印する。

 

手元には、タカノが封じられている小さな壺があった。

 

「“解”!」

 

封印を解いてやると、壺からは以前見たときよりも大きく成長した我が子の姿があった。

 

ただ眠っているだけのその姿に安堵しつつも、輪廻眼と万華鏡写輪眼を交互に用いて異常がないか精査する。

 

何事もないことがわかると、サイゾウはひとまず大きなため息をついた。

 

「…ふう、どうにかなったか」

 

(…どうやら起きたようね、サイゾウ)

 

「大蛇丸先生…!?」

 

しかし、サイゾウの脳裏に突如として大蛇丸の声が響く。それは輪廻眼の共鳴現象を用いた緊急通信。

 

(…悪いけど、後は頼んだわよ)

 

「先生!?いったい何があったんですか!大蛇丸先生…!」

 

しかし、サイゾウの呼び掛けも虚しく大蛇丸からの返事はなかった。

 

「まさか俺が復活することも計画のうちか…!?いったい何が起きているんだ…!!!」

 

娘を救出したのも束の間、サイゾウは己の師からの不穏な言葉を聞く。自分の復活すら計画にあるのではと思わされる現在の状況に、内心で忸怩たる思いを抱く。

 

「おのれええええぇぇっ!」

 

サイゾウの叫び声だけが、火の国から雷の国まで続く新たな一本道に響いた。

 




あとがきで補足しないで~という意見がありましたので一応下は【閲覧注意】扱いにしておきます(´・ω・`)
カードゲームのフレーバーテキストが好きな自分としてはこれはこれで楽しいんですよ( ̄▽ ̄)

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽【閲覧注意】◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜
⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽【閲覧注意】◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜
⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽【閲覧注意】◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜
⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽【閲覧注意】◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜
⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽【閲覧注意】◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜
⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽【閲覧注意】◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜









ということで補足★説明。o@(・_・)@o。<モウナニモコワクナイ

・デイダラとサソリで聞いている作戦内容が違う理由(出オチコンビ)
マダラを名乗るオビトの仕組んだ遅延工作。サイゾウが目覚めることも予定にあり、少しでも彼が到着するのを遅れさせる為。

・縛刺縄(刻んだネギみたいになった)
サソリのお腹にあったワイヤーロープみたいなヤツ。名前調べたら出てきたので一応補足しておきます。

・《八極・一〇二四掌》(相手は死ぬ)
チャクラで構成した疑似的な腕を無数に用いて一瞬にして相手に千を越える打撃を打ち込み崩壊させる技。まんま瞬獄殺。カエデが生身で放てる最強の技。

・天羽々斬(チートだけどハイリスク)
サイゾウが持つ輪廻眼の固有瞳術。焦点を定めた対象の空間を切り裂き、削り取る。このため効果範囲が洒落にならないくらい広い(空に放つと空が割れる)。例え穢土転生であっても術式を空間ごと消滅させてしまうので復活は不可能。逆に生身の再生忍術の方が回復できる可能性がある。当初はカカシが十分に神威を使いこなせるようになってから、この能力で神威空間に突入しオビトを急襲する予定だった。
チャクラと瞳力をけた違いに消耗する。復活前のサイゾウで一日に二度が限界。

・《分神の術》(ミナトも十分チート)
波風ミナトが得意とした忍術のひとつ…という設定。精神を分化させ、同時並列思考を可能とする。サイゾウは主に事務仕事において使っているが、使用にはかなりの集中力を要する。ミナトはこれを戦闘において用いることでどんな状況でも対応可能な柔軟性を手にいれた。
ちなみにミナトは事務仕事ではこれを応用して影分身のフィードバックすら無難に処理して定時に帰ってた。

・飛雷神の術(原作最強候補の術)
ついでにこれにおけるこの小説での定義も紹介。
飛雷神の術は『座標の特定』『術式の展開』『チャクラの構成』を同時にやらなければならず、元ミナトの護衛班が三人がかりでこの術をやっていたのはこの為。
扉間はそれぞれの発動を遅延させ、タイミングを合わせることで術を発動している。こちらはこちらで咄嗟の発動が難しいものであるが、それでもコンマ単位のズレで術を起動しているので相当早い。開発当初は影分身で担当分けすることにより発動していた。

・タカノが封印されていた壺
イメージは神様がピッコロを魔封波で封印する際に使っていた壺。琥珀の浄瓶を小型化したものだが、子供程度しか封印できない。が、こういうのは使い用である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【番外異伝】アスマと紅 湯煙慕情

戦中とはいえ間隙はある。

ある日、川の国での任務後サイゾウの計らいで木の葉近くの温泉宿に泊まることになった一行。

しかし酔っ払ったガイを介抱するためサイゾウは急遽自分の部屋にガイを連れていくことに。

思わぬタイミングで一人きりとなったアスマ。

そこへ全身を朱に染めた紅が現れて…

果たして彼女があてられたのは、湯か恋か。

__________________________________


【処女喪失描写有り】
一応閲覧注意ってことで。

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽【閲覧注意】◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜
⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽【閲覧注意】◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜
⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽【閲覧注意】◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜
⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽【閲覧注意】◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜



木の葉隠れの里に程近い温泉街がある。

 

短冊街のような賭場や女郎部屋があるところとは違い、疲れを癒す温泉宿を中心とした街だ。

 

今回、任務を終えたサイゾウ班の一行は、サイゾウの計らいによって高級温泉宿へと訪れていた。

 

「…うわぁ、すごいわね」

 

「…さすがにこのレベルは俺も初めてだな」

 

「むぅ、この空気では修行ができん…!」

 

紅、アスマ、ガイの少年少女ら3人は、厳かに出迎える女中達に挨拶をしながらどんどん先へ進んでいくサイゾウに遅れまいと、周囲をちらほら眺めながら着いていく。

 

他の女中とは雰囲気の違う老女に案内されて向かった部屋は、広すぎない和の空間。

 

心を休めるのにほどよい空気を演出していた。

 

「さて、荷物を置いたら早速風呂だ。女将、露天に酒を持ってきてくれ」

 

「あら、今日は“女”はよろしいので?」

 

「はっはっは!子供の手前だ、刺激が強すぎる」

 

にこやかに笑いながら交わされる大人の会話に、今年13歳になるかならないかの少年少女らは妄想を膨らませる。

 

「まったく、先生ったら…!」

 

紅はその名の通り頬を染めながらも、何を想像したのかアスマをチラホラ見ながら更に顔を赤くする。

 

「ふ、風呂のなかで、だと…!?レベルが違う…!!」

 

そんなアスマはと言えば、女将と呼ばれた老女の持っていた『大人向けパンフレット』を読み、そこに書かれた内容と値段に驚愕しながらも手を離そうとはしていない。

 

「むぅ、青春のベクトルが違う…!」

 

ガイは宿泊中は修行禁止を言い渡されたが、早くも全身が疼き、横のイチャイチャオーラにあてられたのかげんなりとした表情で戦いている。

 

一行はその後も和気藹々と騒いでいたが、やがてサイゾウの号令で浴場まで足を向けた。

 

__________________________________

 

「…うむ、この一献が何者にも代えがたい」

 

岩の上で大吟醸を湯呑みで煽るサイゾウ。一献というにはサイズが巨大だが、誰もつっこみはしない。それこそ下手をすればこの男は樽ごと飲み干しかねないからである。

 

───念のため言っておくが、本来湯に当たりながら酒を呑むのはご法度である。

 

これは酔いが回りやすくなるのもさることながら、様々な疾患が発祥しやすいのもあるからだ。

 

とはいえサイゾウの蟒蛇(うわばみ)ぶりは彼と付き合っていれば誰もが知っている。蒸留酒を水のように呑む男が、今さら大吟醸ごときで前後不覚に陥るはずもなかった。

 

「酒の味はまだわかんねえな…」

 

サイゾウからお猪口で渡された大吟醸を口にしたアスマだったが、まだその旨味がわからず顔を苦みばしらせしかめている。

 

「せ、せいしゅん、だ…」

 

しかしガイにとってはそうもいかなかったようだ。顔を赤くし、浴槽に沈みそうになっていた。

 

「やれやれ、言わんこっちゃない…」

 

サイゾウはガイが沈む前にその体を抱き止めると、急いで上がり掌仙術を応用して肝臓の働きを強化する。

 

「アスマ、お前は大丈夫か?」

 

サイゾウの声掛けに自身もガイを心配して近寄ってきたアスマがやや赤くなった顔に苦笑いを浮かべる。

 

「…まあ、倒れるほどでは。やっぱ俺らに酒は早いっすね」

 

「ま、いずれ飲めるようになるさ。…ダメだな、完全にのびてる。ガイは俺の部屋で看ておくから、アスマは1人で部屋に戻っておけ」

 

「え?ああ、まあしゃーないっすね。わかりました。…すいません、俺らから言ったことなのに」

 

今回、彼らが酒を飲みたいと言ってきたのをサイゾウは止めはしなかったが注意は与えていた。

 

だが言葉だけで若い彼らが適量を理解できるはずでもなく、アスマはお猪口二杯ほどを。ガイはお猪口一杯でご覧の有り様だった。

 

急性アルコール中毒になってもサイゾウが対処できるとはいえ、いささか軽率であったのは否めないであろう。

 

「止めなかった俺が悪いさ。それに、なんだかんだ一口はいい酒が飲めた。それで充分だよ。…続きは戦争が終わってから、いずれまた、な」

 

そう言って風呂を出ていくサイゾウを見送り、アスマはふと板で仕切られた隣の女湯にいるであろう少女のことを考える。

 

「…紅」

 

口にして呟けば、想い人でもある彼女の姿がすんなり想像できる。

 

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

アスマにとって、紅は最初“うっとおしい女”だった。

 

自分一人では何もできず、どこかおどおどした様子でこちらを見てくるのがいつも気にくわなかった。

 

そんな彼女の評価が変わったのは、ある日のこと。

 

後輩のくのいちらが質の悪い中忍に絡まれているのを、紅が割って入ったときのことだった。

 

アスマは当初、どうみても10歳前後の少女相手にナンパ紛いの行為を働く馬鹿な大人を懲らしめてやろうと思い様子を見ていた。

 

だが紅は現れるなり、普段の様子が嘘のようにチンピラ中忍らを捲し立てた。あまりの剣幕に、いつの間にやらうちは警務部隊までやって来ている。

 

チンピラ中忍は月並みな台詞を吐いて退散すると、紅はその場にへたりこんだ。怯えながらも助けてくれた紅に礼を言う後輩の少女。紅は照れながらも、どこか誇らしげに微笑んでいた。

 

アスマはそのときの紅の表情が忘れられず、気づけば彼女は“うっとおしい女”から“格好つけたい女”になっていた。

 

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

紅への慕情を再自認したせいか、スタンダップした愚息を治めるために今一度湯に浸かったせいで些か逆上せてしまったアスマは、部屋でよく冷えた水を飲み喉をうるおしていた。

 

「ひとりだと余計に部屋が広いな…」

 

本来、この部屋にはガイと一緒に寝泊まりする予定だった。

 

だがガイは酒を飲んだことでノックダウン。サイゾウが看てくれているから大事には至らないだろうが、二日酔いは間違いないであろうとアスマは考える。

 

一人で過ごしていると、どうしても暇になってしまったせいか紅のことを考えてしまう。

 

彼女のうなじ。彼女のふともも。彼女のふくらはぎ。

 

考えれば考えるほど、若いアスマに余計な元気を与えてくる。

 

ふと、アスマは再び起き上がった自身の愚息を見て、すっきりしてから寝ようと考えた。

 

浴衣の前部分をはだけ、下着を脱ぎ捨て少しの間解放感に浸る。

 

少しして、アスマはおもむろに自身の愚息をこすりはじめる。

 

最初は先を刺激するように、次第に全体をしごくように動かしていく。

 

そうして繰り返していくと、やがて快感から荒くなる自身の息が嫌でも意識される。

 

「はぁ…はぁ…!」

 

それでも愚息をしごく手は止まらない。いつも以上に怒張している気がする自身の分身が物足りなさを覚えるが、それをアスマは今ごろは寝ている“はず”の紅の名を呟くことで充たそうとする。

 

「紅…!」

 

「アスマ…」

 

「…っ!!?!?!?」

 

自身の近距離から聞こえてきた少女の声に、アスマは頭が真っ白になりながらもんどりうって転んでしまう。

 

しかしアスマにとって転んだことによる痛みは感じることさえない。

 

転んだ拍子に振り向けば、そこには顔を赤くした“文字通りの紅”が膝立ちで片手を握り口に当てて、どこか耐えるようにしてうるんだ瞳がアスマを見つめていた。

 

文句を言えばいいのか、どうしてここにいるのか問いただすべきなのか、考えだけがまとまりなく頭を駆け巡り、アスマは紅を見つめる。

 

───紅もまた、混乱していた。

 

彼女がアスマの泊まる部屋を訪ねたのは、偶然ではない。

 

ガイを連れて浴場を出た際に紅と会ったサイゾウは、今晩アスマが部屋でひとりであることを告げる。

 

それを聞いて顔を真っ赤に染めた紅を見て(余計なこと言ったかな…)とサイゾウは思ったが、色々と想定して彼らが今晩セックスする流れしか思い付かなかったので、ひとまず武器口寄せの応用で手元に出現させたコンドームを一箱預けておいた。

 

普段使うことはほとんど無いものの、サイゾウからせめてもの若いカップルへの贈り物である。

 

このときのサイゾウの笑顔が無駄に格好よくてムカついたとは、翌日の紅談である。

 

さて、サイゾウから一箱も避妊具を預かってしまった紅は顔を赤くした状態で固まっていた。

 

どきどきしながらアスマを訪ねたが、部屋の外から呼び掛けて(小声)も返事がなく、仕方ないよねと自分に言い訳をして部屋に入ってみれば、想い人は“自分の名前を呼んで”ひとりエッチの真っ最中。

 

ちなみにアスマがおもむろに愚息を取り出し、しごき始めるところから一部始終を見ていた。相手が紅でなかったら死亡確定案件である。

 

「アスマ、えっと、その…」

 

顔を赤くし、しどろもどろの紅。

 

中断させてしまった行為。

いまだ“いきり立った”ままのアスマの股間。

それなりに覚悟を決めて部屋にやってきたこと。

 

それらの思考が混ざり、紅は自分でさえ予想だにしなかった行動に出た。

 

「く、紅…!?」

 

「だいじょうぶ、あたしが、してあげる…から」

 

アスマの顔を見つめ、お互いに真っ赤になった状態で紅は正面からアスマのぺニスを握った。

 

少々握る力が弱すぎるものの、はじめての体験にアスマの股間はリミットブレイク寸前である。

 

「ま、待て、出ちまう…!うあっ…!」

 

「え?わぷっ…!?」

 

事実、紅の暖かい手に握られ頭が沸騰したかのように快楽で沸いたアスマはそのまま達してしまった。

 

アスマのぺニスから滴る精液が紅の顔面にほとばしり、若さゆえか大量に出た“それ”に紅は顔を被われる。

 

「ん…ちゅ…にがい、ね」

 

「紅…!!」

 

しかし紅は自分の顔にかかったそれを嫌悪することなく、むしろ愛しそうにすくい舐めあげる。

 

自分で気持ちよくなってくれたことが嬉しくての、思わぬ行動だったのだが、その行為は同時にアスマのなけなしの理性もぶっちぎりで破壊した。

 

「んぅ…!?はっ、アス、マ…!」

 

「紅!紅、紅、紅…!!」

 

互いに、行為そのものに対しての知識はあった。

 

それはアカデミーでくのいちだけが学ぶそれに対して、サイゾウが詳しく解説したことでもある。

 

敵に捕まったくのいちがどういった目に遭うのか、男であってもそれが絶対とは限らないことなど、サイゾウは知る限りのことを知識として部下である三人に与えた。

 

性の知識とは同時に人体の知識でもある。

 

ふたりともそれぞれこっそりとサイゾウに耳年増な知識を補完され、恥ずかしい思いをしたのは決して昔のことではなかった。

 

戦争という極限状況がもたらす人の理性の限界は恐怖として部下三人の脳裏に刻まれ、仲でも不器用に恋を育むふたりの男女は互いの想いに具体性をもたされたことで余計にお互いを意識するようになった。

 

「ふぅ…!はあぅ…!」

 

「はあ、はあ、はあ…!」

 

もはや互いに他のことなど見えてはいない。ただ目の前にいる相手に、精一杯自分の思いの丈をぶつけるだけである。

 

下になにも着てこなかった紅は浴衣をはだけさせるなり乳房を吸われ、とろとろに濡れていた秘所をアスマの不器用な指で刺激され身悶える。

 

アスマもまた、紅が伸ばした手に再びぺニスを刺激され、痛いほどに膨張しながら先端から先走りを垂れ流していた。

 

「紅、いいか…!するぞ…!」

 

起き上がり、必死な表情で紅を見下ろすアスマ。それに対して紅は、想い人に刺激されたことで痙攣するほどの快感を覚えて意識を朦朧とさせていた。

 

サイゾウから気持ちいいことは聞いていたが、これほどとは考えていなかった。

 

薄れそうな意識のなかで、紅はアスマの呼び掛けになんとか答える。

 

「…好き…して…!(アスマ、好き。抱き締めて…!)」

 

余裕のない紅は、必死なアスマに悪いと思いながらも一度抱き締めてもらって息を整えようと考えた。

 

だがしかし。小声の紅の言葉は追い詰められたアスマにとって都合よく聞こえてしまう。

 

彼にはこう聞こえた。“好きにして”と。

 

「わかった…!手加減、しないぞ…!!」

 

アスマは紅の言葉に天元突破した怒張を思いきりねじ込んだ。

 

「……~~~~~~~~~っっァァァァ!!!????」

 

紅はまぎれもなく処女である。処女膜とは言うまでもなく体の一部であり、裂けることが宿命づけられているとはいえ痛覚が通っていることには間違いない。

 

夢にも上るような気持ちから、急転激しい痛みに襲われた紅は悲鳴をあげる。

 

だが、勘違いしたアスマは動くことを止めてくれない。それどころか、自分の快感を求めて激しく腰を前後させる。

 

「い゛ぎっ、いたい…!痛いよ、アスマぁ…!!」

 

傷口を何度も抉られ続ける激痛に悶え、紅はポロポロと涙を流す。

 

しかしアスマはその変化に気づかない。自分のことに精一杯で、恋人の痛みに気づけない。

 

「も、ダメだ…!!出るっ!!」

 

「う゛…あ゛…!」

 

痛みに耐えるのが精一杯で、紅は苦悶の声をあげることしかできない。

 

「はあ、はあ、はあ…あ…くれ、ない…?」

 

アスマは、ようやく自分がしでかしたことに気づいた。

 

繋がった場所から出血し続ける恋人の異変に。

 

血と涙を流し、自分に必死で訴えていたことに。

 

「うあ…!お、おれ、そんなつもりじゃ…!」

 

言いながらアスマは自分がやってしまったことに怯え、すっかり萎えたぺニスを引き抜きその場に尻餅を着く。

 

正直に言えば、逃げ出したい。それが今のアスマの心境だった。

 

しかしそんなアスマを救ったのは、かつてサイゾウから教わったことだった。

 

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

『はじめて同士は上手くいかないって、本当なんすか?』

 

その日アスマはサイゾウとふたりで任務後の書類作成を行っていた。

 

特別アスマにすることはなかったものの、これも経験だと報告書の一部を任されていた。

 

元々忍術をはじめ頭を使うことには優秀であるアスマはそれを無難にこなすと、手持ち無沙汰なのか他にまとめているサイゾウへと常から疑問に思っていたことを口にする。

 

『なんだ、いきなり?あぁ…そうだな、個人差はあるが概ね上手くはいかないな』

 

『個人差、ですか?』

 

サイゾウは顔をあげると、アスマに向かって改めて語りはじめる。

 

『ああ、個人差だ。まずはセックスに対してどの程度の知識があるかってのもあるが、なによりセックスする当人同士が好き合ってた場合、間違いなくろくなことにならん』

 

『お互いが好きなのに、ですか…?』

 

『好きだからこそ、だ。自分が惚れて頭がおかしくなるくらいに想ってた相手同士、いざ裸で向き合って、その上でややこしいことごちゃごちゃ考えてるヒマがあると思うか?ねえよ、そんなもん』

 

アスマはそう言われて紅の裸を考え、やや前屈みになる。

 

『特に男はな。女の処女ってのは、言うなれば“傷口に火箸を突っ込んで抉るようなもん”らしいが、実際意図的に内臓を傷つけるんだし似たようなもんだろ。そうだな、口のなかに刃物突っ込まれて動かれるようなもんじゃないか?』

 

さらっと言うサイゾウだが、それを想像してアスマは顔を青くする。

 

『…そんなんでホントに気持ちよくなるんすか』

 

『なるとも。ならなかったら人類はとうに絶滅してる。とはいえ、そうなるまでには相応の努力が必要だがな』

 

『………』

 

『あんまり難しく考えるな。こればっかりは経験しないとなんとも言えねえよ』

 

書類仕事を終わらせたサイゾウが立ち上がり、悩むアスマの頭をくしゃりと撫でる。

 

『ひとつアドバイスだ。もしやらかしても、絶対に逃げるな。むしろ相手を慰めてやり直せ』

 

『いやいや、無理っすよそんなん』

 

『無理でもおっ起てろ。でもなきゃ全身をキスして慰めてやりな。お互いに惚れてるならな、下手に謝るよりも“好きだ”って気持ちを前面に押し出した方がいいんだよ。…で、いつ頃紅を押し倒すつもりだ?』

 

『最後で台無しだよ!なんでスケベそうな顔してんだよ!絶対見せねえからな!!』

 

『はっはっは!そういう台詞は俺の隠れ身を見破ってからほざくんだな!』

 

『見る気満々かよ!少しは遠慮しろドスケベ!』

 

『はっはっは!それほどでもない!』

 

『ほめてねえっ!』

 

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

───くだらないやり取りではあった。

 

だがそのかつて交わしたくだらなさが、アスマに冷静さを取り戻させた。

 

アスマは無言で紅に近づいていく。

 

紅はまだ泣いていた。混乱から脱していなかった。だからこそなのだろう。

 

ここで逃げれば最悪の選択肢となることが、今のアスマには理解できた。

 

「………」

 

アスマは無言で紅に近づき、覆い被さるようにして抱き締める。

 

泣きじゃくる紅はびくりと体を震わせたものの、アスマを拒絶しようとはしていない。

 

ここで拒絶されたら折れてしまったかもしれないアスマとしては、その“優しさ”が嬉しくもあり、自分が情けなかった。

 

「紅…」

 

「あすまぁ…」

 

どこか子供帰りしてしまったような紅を、アスマは精一杯の慈しみを持って彼女を慰める。

 

柔らかく、ついばむようなキス。

 

互いの体温を確認しあうように、ときおり身動(みじろ)ぎをする以外にふたりは動かない。

 

どれほどそうしていただろうか。

 

不意にアスマは紅の裸体を意識してしまい、再びぺニスを固くさせてしまう。

 

「あ…」

 

「わ、悪い紅…!大丈夫だ、すぐに縮まるから…!」

 

そう言って無理矢理隠そうとするアスマだったが、慌てるアスマを紅が止める。

 

「…ううん、あたしこそごめんねアスマ。…ね、折角だからやり直そう?ふたりの初体験が、これじゃイヤな思い出しか残らないよ…」

 

「でも俺は、お前を傷つけて…!」

 

「そういうのは無しだよ、アスマ。あたしなら大丈夫、痛くてパニクっちゃったけど、今話してる間に傷は塞いだからさ。先生に掌仙術習っててよかった」

 

アスマが見下ろせば、傷つけてしまった紅の割れ目からの出血は止まっている。

 

「ね、お願いアスマ。優しくして?」

 

そう言って紅は、まだ血がこびりついた自身の割れ目を指で拡げてアスマに見せつける。

 

「…わかった。少しずつ動くから、痛かったら言ってくれ」

 

「…うん。大好きだよ、アスマ」

 

「紅…」

 

もう何度目になるだろうか。

 

ふたりの唇が重なる。

 

アスマは思った。

 

もう二度と紅を傷つけないと。自分が目の前の少女を、絶対に守ってみせると。

 

紅は思った。

 

もう二度とアスマを後悔させないと。自分が目の前の少年を、支えてみせると。

 

少年と少女の慕情は、湯煙と共にくゆりながら昇っていく。

 

痛みを越え。快楽を越え。互いの繋がりが心までも繋げていく悦びに、ふたりは朝が来ても酔いしれた。

 

__________________________________

 

 

サイゾウは白み始めた空を見て、安堵のため息をついた。

 

童貞と処女がセックスすればどうなるかなぞ、わかりきっている。

 

そんな彼からすれば二人の関係を心配しつつ、こうして一晩イチャコラしている少年少女の声を聞き続けるのは拷問であるとも言えた。

 

「…まあ、煽った甲斐はあったか」

 

今回、サイゾウがふたりを煽ったことには理由がある。

 

今起きている第三次忍界大戦。その流れは、佳境にあると言っていい。

 

こうして子供達を率いて任務をこなしているが、恐らく近いうちに彼らを危険な目に遇わせなければならない時が来るだろう。

 

彼らが無理をしないように、これまで下忍でいさせ続けたが、自分のわがままにも限界はある。

 

ただでさえ自分が鍛えているのだ。これ以上立場を優遇されれば、三代目火影猿飛ヒルゼンが身内贔屓が過ぎるとさえ取られかねない。

 

そんなとき彼らに待っているのは、恐らくこれまで組んできたメンバーではなく、それぞれの得意分野を活かした者と組ませた個別任務だろう。

 

自分の眼が届く範囲であれば、サイゾウはどんな状況であれ彼らを守るつもりでいる。

 

だが、そうではない場合。生死を左右するのは運と“何がなんでも生き残ろうとする覚悟”だ。

 

ガイはあれでいて、他の二人よりも大人びた部分がある。幼い頃から鍛え続けてきた影響もあるのだろうが、なにより胆が座っている。仲間が目の前で死んでも、動き続けることができるだろう。

 

だがふたりは違う。猿飛アスマと、夕日紅は違う。彼らは互いが想い合うがゆえに。それが成就されていなかったがゆえに、どこかで臆してしまうだろう。

 

そうならない為にも、彼らには子供のままでいてもらうわけにはいかなかった。

 

「…せん、せい…」

 

「お、起きたかガイ。水飲むか?」

 

自分の姿を認めて呟いたガイの声に反応したサイゾウは、水飲みを使ってガイにゆっくりと水を飲ませていく。

 

喉の乾きが癒えたガイは再び横になると、苦しそうにしながらもサイゾウに謝辞を送る。

 

「…ありがとう、ござい、ます…」

 

「いいから喋らないで寝てろ。…俺にできるのは、後は祈るだけだ」

 

再び眠りについたガイを見守りながら、サイゾウは戦争の虚しさを再認してため息をつく。

 

“子供が戦争に赴くことのない世界”。いつしか火影よりも大きくなっていた自身の夢を叶えるために、サイゾウは今日も朝日を睨む。

 

世の理不尽など、すべて燃え尽きてしまえと言わんばかりに。

 

__________________________________

 

 

※余談※

 

「なあ、紅。変なこと聞くけど、どうして俺のこと好きになったんだ…?」

 

激しい行為が終わり、互いにやらかしたことに青ざめたり赤面したりと忙しい彼らではあったが、不意に自分に自信を持てないアスマが紅へと質問する。

 

「…もう、なんでそんなこと聞くかな」

 

やや不満げに、だが少し得意気に。紅はアスマの腕のなかでわざと頬を膨らませる。

 

「あ、いや、別に言いたくなければいいんだ…!なんていうかその、今回の件で自制心とか色々自信を無くした次第でありまして…」

 

言いながら落ち込むアスマだが、その腕は言っていることと裏腹に紅を強く抱き締めている。

 

「…へへ、内緒♪」

 

紅から秘密にされた内容が気になり、アスマはしつこく紅に尋ねるが、紅はアスマの胸板に顔を擦り寄せるだけではにかみながら答えようとはしない。

 

(…アカデミーに入ったばかりの頃。自分の教室が分からなくて泣きそうだったあたしを、ぶっきらぼうに手を引っ張って教室まで連れていってくれた男の子。それが理由で自分は教室へ行くのが遅れちゃったあの優しい男の子が、アスマだって知ったとき。それだけじゃないけど、それが好きになったきっかけかな♪)

 

紅は狼狽するアスマをからかいながら、想いが叶ったことを噛み締めて幸せな気分に浸る。

 

そしてふと思い出した。サイゾウが“一応”渡してきた避妊具を結局使わなかったことに。

 

それともうひとつ。幻術によるものだったとはいえ、サイゾウを相手に“口でする練習”をしたことは黙っておこうと、紅はこっそり舌を出して思うのだった。

 

 




処女とセックスするとこうなることもあるぞ!(´・ω・`)っていう話。
おじさんからのアドバイスだけど、もし処女とするときはたっぷり時間をかけて拡げてあげるか(数ヵ月単位)、膜破るなら一息にしたほうがいい場合もあるよってことだけだZE☆あ、あと生理用ナプキンは用意しておくと便利だけど相手にドン引きされる場合もあるから一長一短だYO★

『とある忍の後日談』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【事案発生】
木の葉の里第3区にて、11歳のくのいちに「俺の特製おしるこ食べない?」と声をかける事案が発生。男は30歳位、茶髪、身長160センチ程度。目撃情報が入り次第うちは警務部隊にまで連絡を。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「…なんじゃこりゃ」

「ん、なんでも、最近はじめた『事案報告』って制度らしいよ。あぶれた下忍の男連中が、年齢を問わずにくのいちに声かけて回ってるみたい。…クシナが怒って止めるのに苦労したよ。でも怒ってるクシナも可愛くてね、ついつい朝から彼女のスカートをズリ下ろして「…へー」何で止めるんだい」

サイゾウはうちは一族の自分よりも先に詳細を知っている親友は何者なのだろうと想いながら、シモの話まで聞く気はないので話をぶったぎる。

「ん、なんだいサイゾウ?僕のノロケに文句でも?」

しかしそれはサイゾウの親友である波風ミナトには通用しなかったようだ。なにが悲しくてかつて自分をボコボコにした女の艷姿なぞ想像したいと言うのだ。

余談だが、赤いハバネロはサイゾウにとってトラウマであったりする。

…ちなみに結婚して一年以上が経つというのに、いまだに彼らは新婚気分でいちゃつく。それを見るたび荒れる綱手姫を抑えるのがライフワークと化しつつあるサイゾウはそのことにも辿り着きため息をついた。

「…あー、もうなんていうか…お前そんなにめんどくさかったっけ?」

「ん、失礼な。僕は昔からこうだよ。ただ愛する人を自慢する機会を持たなかっただけさ」

「…ああ、そう」

サイゾウはげんなりしながら、それからもミナトの自慢ノロケ話に付き合わされることになった。

そんな中ではあったが、サイゾウは先程“玉を潰してきた男”について思い出していた。

見るからに子供を相手に獣欲を満たそうとしているのが見え見えだったので、彼が退散した後をつけ、不意打ちで股間を蹴りあげてきたのだ。

死にはしないだろうが、もはや二度と勃起することは叶わないだろう。

どんな獣欲も、相手を間違えればろくな目には遭わないということである。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【番外異伝】我が首を持って辺獄に至れ ★

相変わらずエロはないけど、オビトくんのお話(´・ω・`)

そして最近知ったけど、オビトって漢字だと首って書くんですね。

あとは書いてて狂気を表現するのがちょい辛かった。序盤と後半で文体も変えようとしたけど、あんまりできなかったし。でもやっぱギャップって大事よね。


⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

「…ビト、オビトってば!」

 

まどろむ意識が甘い刺激を受け、覚醒する。

 

天上から降りそそぐ祝福の鈴にも似たその声は、彼にとって何よりの甘露だ。

 

「…………あと5分…おぅわっ!?わ、わかった、わかったからフライパンは勘弁してくれ!」

 

自身の頭上でフライパンを振り下ろさんと掲げる少女の気配を感じとり、オビトは慌ててベッドから跳ね起きる。

 

「まったくもう!“火影”なんだから朝くらいシャキッと起きてよね!まったく、ダメな“旦那様”ね」

 

「へへっ、ごめんよリン」

 

オビトは笑いながら“愛くるしい妻”であるリンの姿を眺める。朝御飯を作ってくれていたのだろう。エプロン姿が非常に似合っている。

 

「ほら、口調も昔に戻ってる。じゃあ顔洗って、朝御飯食べちゃってね♪」

 

「…ああ、わかったよ。それじゃ目覚ましついでに、キスしてもいいかな」

 

「もう、あんまり時間ないんだからね…」

 

そう言いながらも、顔を赤らめ目を閉じるリン。

 

ヤワラカイ感触が触れ、離れる。

 

「…続きはまた、今夜な」

 

「…スケベ」

 

ツカンダ肩から手を離して、リビングへと移動する。

 

トテモオイシイ手作りの食事を堪能し、リンと過ごすかけがえのない時間を名残惜しみながら、彼女の見送りを受けて家を出る。

 

大切ナ人と過ごス何げナい日常。“他に何を望もう”。

 

__________________________________

 

 

「おはよう、火影様!」

 

「おお、火影様じゃ。おはようございます」

 

里を歩けば、道行くヒトが自分に挨拶をしてくれる。…どうしてか今日はヒトの顔がボヤけて見辛い。まだ寝ぼけているのだろうか、とオビトは考える。

 

「…おっと、忘れるところだった」

 

オビトは仕事をはじめるまでに後5分ほどあるのを確認すると、瞬身の術で“ある場所”へと向かう。

 

そこは木の葉の一角に作られた、慰霊碑。

 

オビトはそこに刻まれた“はたけカカシ”の名前を見て、静かに黙祷を捧げる。

 

「…カカシ、今日も里は平和そのものだよ。お前に返してもらった写輪眼のおかげで、俺は火影になれた。おかげさまでリンも守ってやることができてる」

 

そう言ってオビトは再び沈黙し、慰霊碑を見つめる。

 

「やっぱりここにいたんですか!」

 

「げ、アスマ!?」

 

「げ、じゃないですよ、げじゃ。…火影になったんだから、遅刻の癖は直せよなオビト」

 

「お前こそ敬語使ってるけど、全然俺のこと敬ってないだろ!」

 

「そんなことありませんよー」

 

オビトは目の前で敬意の欠片も見せない男に煽られるも、遅刻したのは自分なので素直に謝る。

 

「…悪かったよ。ただ、ここに来ないと一日が始まらない気がしてな。なんだか最近、まるでここが現実じゃないみたいな…そんな気分になるんだ」

 

すると父親を真似たのか、最近髭を生やしはじめたアスマは急にまじめな顔になってオビトの謝罪に答える。

 

「イや、俺の方こソ言い過ギマした。でも悩ンでいルコトがあるナラ、吐き出シた方がいいデスよ。こコガ現実ジャナいだナんて、火影ニ言ワせルノは忍びないでスシ」

 

まるでノイズが走るように聞こえづらいアスマの声を、オビトはきちんと聞こえている振りをして彼の方を向く。

 

───一瞬、アスマの顔が真っ黒に見えて、オビトは思わず目頭を揉む。

 

「どうかしましたか?」

 

「あ、ああ、いやなんでもない」

 

オビトは答えて遅れた仕事を取り戻すべく、火影の執務室へと向かった。

 

今日も充実した一日が始まる。“他に何を望もう”。

 

__________________________________

 

「…いやあ、書類仕事ってのは随分疲れるなぁ」

 

時刻は夕方。オビトは執務室で手ずから入れたコーヒーを飲みながら、残した仕事がないかと確認する。

 

“気がつけば”あれだけあった書類の山も無くなり、オビトは仕事をこなした充実感と共に伸びをする。

 

最近はめっきり忍としての仕事をしていないので、そろそろ鈍った体を動かさなくてはならないだろう。

 

…そういえば、最近ガイに突っかかれることが多くなったとオビトは思う。自分と同じくカカシの死を乗り越え、再び己を鍛えだした彼の体術は今では自分を遥かに上回る。

 

「…でも、カカシに代わってライバル宣言までされたんだ。負けてられやしない」

 

オビトは自分自身の言葉で決意を新たにし、今日は帰る前に一度崖登りの行をしていこうと考える。

 

かつて自身を鍛えた男であるうちはサイゾウからも「基礎をおろそかにするな」と言われていたからだ。どんなに術の応用力を鍛えようとも、それらを支える体力が無くては話にならないのはオビトもよくわかっている。

 

机の上を片付けて、修行するために火影の陣羽織を脱いで忍衣装に着替える。

 

そのまま出掛けてはどうせアスマ辺りが口うるさくついてくるだろうと考えたオビトは、ふと思い付いて今の時間アカデミーにいるはずの人間に声をかけることにした。

 

かつての師であり、火影であり、今はアカデミーで講師を勤める“うちはサイゾウ”である。

 

共に鍛える相手としては最上の相手だ。“他に何を望もう”。

 

__________________________________

 

 

火影の執務室はアカデミーと建物自体が繋がっている。移動はすぐだった。

 

職員室に入り声をかければ、そこにはややだらしないものの一応机に座っているサイゾウがいた。

 

「…オビトか。どうした、そんな格好をして」

 

目の前でタバコをふかすサイゾウは火影を前にしてもそのふてぶてしい態度を改めない。だがまあ本人も元火影であり、なにより現火影であるオビトの師でもあるのだ。特別それを咎めようとする者はいない。

 

サイゾウはオビトの格好と雰囲気から、おおよその用件を見抜くとすぐに立ち上がりタバコを消す。

 

「トルネ、残りの採点やっといてくれ」

 

突然指名されたゴーグル付きの覆面を被った男─油女トルネ─は自分の予定が終わっていることもあり余計なことを頼まれないようそそくさと退室しようとしていた。

 

だがそんなことを先輩であるサイゾウが許すはずもなく、彼を捕まえ自分の机まで連れてくる。

 

「ちょっ!?どういうことですか…って二枚しか採点してないじゃないですか!俺今日デートなんですよ!嫌です!」

 

サイゾウのあまりの不真面目っぷりにトルネは怒りを露にするが、サイゾウはまるで戦場で見せるような凛とした顔つきでトルネの両肩をつかむ。

 

「大丈夫だ、お前なら出来ると…俺は信じている!」

 

「カッコよく言ってもダメです!この間もその手のノリで俺に期末試験の問題全部作らせたでしょうがっ!」

 

しかしすでにその手段で数回に渡りトルネを乗せて騙してきたことでサイゾウは余計に怒りを買ってしまう。ちなみにオビトは今さら声をかける人間を間違えたか、と後悔し始めていた。

 

「…ちぇ、ケチ臭いな。《影分身の術》!…これでいいか?」

 

「最初っからやれええええええっっ!!!」

 

サイゾウは影分身を作り、驚異的な速度で採点を終わらせていく。トルネはあまりの速さに答案用紙をチェックするが、間違えもなくむしろ誤答に対する的確なアドバイスまでされていて思わずキレる。

 

サイゾウは腕を黒く染めはじめたトルネに対して「やべ」と呟きながら、オビトを連れて職員室を出ていく。

 

「離せお前らっ!あのアホいっぺん俺の毒蟲食らわせてやるっ!!」

 

「落ち着けトルネっ!アホでもアイツは元火影だ!!」

 

「そうだぞ、それにやるならもっとバレないようにだな!」

 

「煽るなフー!?」

 

トルネの毒蟲に触れぬよう気遣いながら、うみのイルカと山中フーは必死に彼を抑える。だが一見協力しているように見えて煽っているフーのせいでイルカが損するような役割になっていた。

 

「よし、じゃあ平和的に問題が解決したところで行くかオビト」

 

「…あんたの平和の基準が知りたいよ」

 

オビトはぼやきながらも、自分も毒蟲のターゲットにされては参ると考えさっさとその場を立ち去る。

 

二人は瞬身を駆使し、あっという間に里の中にある険しい崖の前までやってくる。

 

するとふたりはどちらが言うでもなく、するすると崖を片腕で登り始める。

 

「にしても、よく俺が“崖登りの行”やろうとしているのわかりましたね」

 

「俺はこれでもお前の師匠だぞ。…夢枕でミナトに託されてからこっち、お前との付き合いだって長いんだ。それくらいわかるに決まってるだろ」

 

サイゾウのわずかに陰った表情を見て、オビトはかつての恩師の最後を思い出す。

 

カカシが死に、追い詰められた自分とリンを助けるために散ったかつての恩師を。

 

「…でも、先生が死んでそのあとすぐに師匠が火影になったのは先を越された気分でしたね」

 

「馬鹿野郎、お前がいくらとんでもなく強力な万華鏡写輪眼に目覚めてたからって、いきなりガキにやらせるほど里だって間抜けじゃねーよ」

 

「けど、俺が二十歳になったら師匠だってまだ全然現役なのにあっさり火影を辞めちゃったじゃないですか。アレって俺に気を使ってくれたんでしょ?」

 

オビトは笑いながらサイゾウの方を見る。

 

するとサイゾウは真っ黒な顔になってオビトに向けて微笑んでいる。

 

オビトはそれに驚き、思わず掴んでいた腕を滑らせてしまう。

 

「うおっ!?」

 

「オビトっ!」

 

間一髪サイゾウの後ろに回していた腕が伸び、オビトが伸ばした腕を掴む。

 

「た、助かりました。…へへっ、こりゃ本格的に鍛え直さなきゃならないな」

 

「マッタクその通リダな。ダガ焦るコトハナいサ、少しズツ確実ニ進メテイケバいイ」

 

「え…?」

 

またノイズが混じったような声で聞こえた。オビトは内心帰ったらリンに診てもらおうと考えながら、どうにかその後は滑落せずに崖登りの行を終える。

 

「まったく、冷や冷やさせやがって。明日から少し時間をとれ。俺も付き合ってやるから、一度鍛え直すぞ」

 

少々怒りながらも自分を心配して声をかけてくるサイゾウの姿には、“なにも違和感はない”。

 

オビトは師の気遣いに頭が上がらない思いながらも、また彼と鍛えることができることがどこか嬉しかった。そうだとも、“他に何を望もう”。

 

__________________________________

 

「ただいま」

 

「あら、遅かったじゃない。なにかあったの?」

 

「ああ、悪いなリン。ちょっと師匠に付き合ってもらって鍛え直してた」

 

家に帰れば、そこにはエプロン姿のリンが出迎えてくれる。いつもより一時間ほど遅くなったからだろうか、リンはオビトになにか問題でもあったのか心配で訪ねる。

 

「…それじゃしょうがないわね。にしてもサイゾウ先生がいてくれてよかったわ、崖から落ちてもあなたならなんとでもするでしょうけど。…でもあんぱり心配させないでよ」

 

少し拗ねたように唇を尖らせるリン。オビトは自身も苦笑いしながら、そんな彼女に一歩近づいて────────────彼女の胸が何者かに貫かれた。

 

「っ!!!!????」

 

オビトは声も出せずに彼女に駆け寄る。

 

一体だれが。一体なにが。

 

混然としてはっきりしない思考が崩れ落ち抱き締めたリンの一言で奈落に落とされる。

 

「ねえオビト…どうしてタスケテクレナカッタノ…?」

 

そこには、顔を真っ黒に染めたリンがこちらを見て横たわっていた。

 

「うあ、う、うあああああああああっ!!」

 

オビトは急になにもかもが恐ろしくなり、家の扉を開ける。

 

するとそこは先程までの平和な木の葉の里ではない。眼下には血溜まりが広がり、あちこちに人を捻り潰した血まみれの樹木が生えている。

 

「オビト…」

 

声がした方向を振り向けば、そこには体の半分が潰れ、脳漿を“でろり”と漏らしたカカシが立っていた。

 

「ドウシテ…」

 

言いながら、カカシが腸を引きずりながらオビトへと近づいてくる。

 

「オマエガ…」

 

さらに後ろから声が聞こえた。オビトが再び振り向くと、そこには一人の“首が無い”赤ん坊の死体を抱いたうずまきクシナがいた。

 

「オマエダケガ…」

 

さらにはその後ろから下半身と両腕がない波風ミナトが這いずり近寄ってくる。

 

「あ…あ、ああ…!!」

 

オビトは恐怖がぬぐえない。さきほどまでほとんど感じなかった触感にはない死体の重みが、オビトの両腕に残っていた。

 

「違う…!!リンは死んでない…!死んでなんかいない…!!」

 

オビトは目の前に広がる地獄を否定する。

 

死んでいった者達すべてを否定する。

 

うずくまり、駄々をこねる子供のようになにもかもを否定する。

 

…どれだけそうしていたのだろうか。

 

気づけば、鼻につく血の臭いも、死者の群れも消えていた。

 

オビトは、自宅の前でうずくまっていた。

 

「…夢、なのか」

 

オビトは詳細を思い出せないまでも、今味わった恐怖が否定しきれなかった。

 

「そうだ、リン…リンのところへ帰らなきゃ…」

 

まるで夢遊病のようにふらふらとオビトは扉に手をかける。

 

だが、ドアノブに触れる手が一瞬躊躇する。

 

“ここを開ければ、なにか恐ろしいことが待っているのでは”。

 

そういった思いが拭いきれない。

 

だが逡巡するオビトの心とは裏腹に、扉は不意を突くかのように開けられる。

 

「あれ、やっぱりオビトだ。なにしてるの?」

 

そこにいたのは、愛するヒトであるリン。今日も元気なその姿に泣きそうなほど安堵したオビトは“さきほどまで覚えていた悪夢をすっかり忘れて”家へと入っていく。

 

「ただいま、リン。へへっ、お腹空いちゃったよ!」

 

オビトは不安な様子を見せまいと努めて笑顔になりながらリンの後ろを追いかける。

 

「…なにかあった?」

 

しかしそんなバレバレの嘘が通用するリンではなく、彼女はオビトの顔を覗きこむようにしてうかがう。

 

彼女の“眼”から、まるで吸い込まれるように眼が離せなくなるオビト。

 

「いいや、少し昔を思い出しただけだよ。…リン、抱き締めてもいいかな?」

 

「奥さんに何を遠慮してるの?いいよ、おいでオビト」

 

リンはオビトを優しく抱き締める。

 

オビトはそんな彼女の温もりに違和感を感じるが、そのことを全力で否定する。

 

ここに彼女はいるのだ。今抱き締めていて、自分を受け入れてくれる。

 

それが“幻のように感じる”ことなど、きっとそれこそ質の悪い悪夢に過ぎない。

 

そうとも、“他に何を望もう”。

 

オビトは眼を閉じ、いつまでもリンを抱き締め続けた。

 

黒い顔をしたリンを。

 

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

「…黒ゼツ、何をしている」

 

オビトの神威空間から帰還したマダラは、穢土転生を解術される前にオビトと話し合うつもりだった。

 

今さら自分のやってきたことを否定するわけではない。だが、今日マダラは違う可能性を見た。

 

同じうちはでありながら、折れることなく歩み続ける灯火を見た。

 

今はまだ頼りない火だが、それはかつての柱間をも上回る“火の意思”になるのではないか。

 

マダラはそう思わずにいられなかった。

 

だからこそオビトに、あくまで保険としてサイゾウの為にもなる立ち回りをするべきだと言いに来たのだが、かつてのアジトでマダラが見たのは───神樹に繋がれ虚ろな眼をしたオビトだった。

 

「マダラ、アンタホダサレタナ。カツテのヒリヒリする殺意がナクナッテル…」

 

そのオビトの前に立ちはだかるのは、片方の眼に“万華鏡写輪眼”を付けた黒ゼツだった。

 

マダラは既に須佐能乎を展開し、最大級の警戒を向けている。

 

「まったく、ヒトの苦労ヲ台無しニシヤがって。…お前の意思である“振り”をするのも今日で終わりだ」

 

これまでどこかノイズが走ったような口調だった黒ゼツの口調が次第にはっきりしていく。

 

マダラは警戒を強めるが、すべては遅かった。

 

「馬鹿な…!」

 

気がつけば、マダラは木遁によって縛られ封印されかけていた。マダラ自身、警戒を緩めたつもりはない。柱間との時ほどではないにせよ、敵と相対するときに向ける警戒としては最大級に集中していた。

 

「ククク…間抜けなアンタに教えてやろう。この“別天神”。万華鏡写輪眼のなかでも月読を上回るほどに幻術に特化した瞳力を持つのさ。アンタが間抜けにも俺を直接見た瞬間、すでにアンタは俺の術中にある」

 

そう言って黒ゼツはマダラに近づいていく。

 

マダラはせめて一太刀報いろうと須佐能乎を展開するが、それも追加された木遁によって封じられなにもできなくなってしまう。

 

「このまま霊体ごと封じさせてもらうぞ。なにかの拍子でまた復活されても厄介だからな。ああそうそう、オビトは貰っていくぞ。アイツの万華鏡の能力もそうだが、アレはアンタよりよっぽどいいコマだ。カッハッハッハ!!」

 

高笑いする黒ゼツに、マダラはふと考える。もしやこれまでの己の歩みが、目の前の存在が仕向けたモノだったのではないか、と。だがそうだというなら、一体何が目的であるというのか。

 

「お前の意思は…いったい何者だ…!!」

 

須佐能乎で無理矢理封印を遅れさせるが、それも限界に近づきつつある。

 

もはや顔も見えないほどに木遁で埋め尽くされつつあるマダラに黒ゼツは答えた。

 

「お前がすべてを利用する者だと、いつからそう錯覚していた?“俺の意思”は、カグヤだ…!!」

 

その言葉を最後に封印が完了し、黒ゼツはさらに十重二十重に封印を重ねていく。

 

「さて、予定は狂ったがこれで計画を進められる。…それにしても恐るべきはあの男、うちはサイゾウ。インドラやアシュラの転生体では無いにも関わらず、あれだけの力を振るうとは…いや、もしやヤツめハゴロモの転生体か…ありえるな。…まあいい。眼も手に入ったことだし、久しぶりに“実体”で動くか。オビトの強化もしなくてはな。時間はかかるが、マダラの言い捨てた十年にせっかくだから便乗してやろう。ククク…母さん、もう少しだよ。“いい器”も見つけたことだしね」

 

かつて神無毘橋と呼ばれる橋があった。

 

そこは今より十年以上前に、戦争の趨勢を決めるほどの戦いがあった。

 

そして戦いの場であったそこより遥か地下深く。

 

再び闇が芽吹こうとしている。昏い世界が広がろうとしている。

 

───物語はまだ、はじまってすらいない。

 

 




すべての黒幕がオビトだと、いつから思っていた…?
…え、割りと最初からばれてる?(´・ω・`)アレェ
ちなみにオビトの夢ですが、彼が経験していないことは再現されてません。やったつもりになってるだけです。あと表現がバラバラなのは、徐々に黒ゼツが仕掛けた幻術にハマっているため。いやあ幻術って便利(ゲス顔)


ということで今回は黒ゼツの暗躍とちょいとほだされたマダラさん封印されちゃうの巻き。オビト?あんなんおまけだよ。

黒ゼツって最後の最後で黒幕でしたーってなったけど、それならもっと序盤から動かしておこうぜってことでこのお話では早めに悪党してもらってます。
現在オビトくんは夢をみていますが、これもただ夢を見ているのではなく別天神で強制的にいい夢と悪い夢を見せられ続けているのが肝。
ぶっちゃけほだされたマダラなんぞ、黒ゼツからしたら邪魔にしかなりませんし。
まあオビトくんがこのまま操り人形で終わるか一矢報いるかは、今後の展開次第ってことで。

ああ、ちなみに“他に何を望もう”はアメコミが元ネタ。

ではでは次回もお楽しみに。
たぶん予定通りなら数話に分けて音での話をする予定。

ちなみにオビトの見る夢に関してはこんな感じ
原案:オビト
監督:黒ゼツ
脚本:黒ゼツ
キャスト
リン:黒ゼツ
アスマ:黒ゼツ
サイゾウ:黒ゼツ
他の教職員のメンツなんかは黒ゼツが見かけた人間から適当に選んでたり。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【番外異伝】鬼の眼に写るモノ

胃が痛いからの翌日起きれないはホンットキツかったです。
ということで、遅ればせながら更新(´・ω・`)

あ、今回のヒロインはサクラちゃんより美人で有名なハクです。彼は男です。ええ、彼です。美人ですけど。
ちんちん付いた男の娘です(´・ω・`)
ちんちん吸ったり舐めたりしてるので趣味じゃないひとは閲覧注意。
まあ、吸ったり舐めたりはしょっちゅうなんですけどね(笑)


うちは事変が起きる一年前。

 

音隠れの里に点在する練兵場のひとつに、ふたりの男の姿があった。

 

ひとりは肩から浅黒い肌をさらけ出し、顔の下半分を覆う覆面を付けた鬼気迫る気配を醸し出す男。

 

男は黒を主体とした忍服(しのびふく)に身を包み、音隠れの額当てを斜めにつけ、自分の身の丈ほどある巨大な刀を脇構えにしている。その全身は、視認できるほどに高密度なチャクラを纏っていた。

 

対峙する男は対照的に涼しげな表情で佇んでいる。巨大な刀を手にした男とほとんど変わらない身長ながら、圧倒的筋量を備えるせいか一回り以上大きく見える。

 

巨躯を思わせる男は相手が武器を持っているにも関わらず両腕を組み、その全身を黒いチャクラの鎧で纏うに任せていた。

 

「シッ!!」

 

脇構えにしていた浅黒い男─桃地再不斬─が先に動く。瞬身の術を応用して真横に発射された彼の体は、いつの間に構えを変えたのか巨大な刀─断刀・“鬼”斬り包丁─を前にして突っ込んでいく。

 

如何に対峙する黒いチャクラの鎧─須佐能乎─に身を包んだ男─うちはサイゾウ─をしても、まともに受ければ刺し貫かれる…かもしれない。

 

しかし視認することすら困難な速度のそれを、サイゾウは自らの持つ瞳力《写輪眼》で見切る。しかし動きが見切られていることに気づいてながらも、再不斬は突進を止めない。否、止められない。

 

高密度な赤黒いチャクラを刀身に纏わせながら、突き出し迫る再不斬。

 

サイゾウは再不斬の一撃を紙一重で受け流そうとし───その瞬間再不斬の顔が笑みに歪んだ。

 

「解ッ!!」

 

再不斬の気合いの声と共に、断刀がその姿を変える。四方八方に爆発するかのような勢いで、刀身を棘状に変化させたのだ。

 

「おおっ!!」

 

思わず感嘆の声を漏らしながら、サイゾウは瞬間的に須佐能乎へ込めるチャクラを増幅させ対処する。

 

“ガリガリ”と須佐能乎が削られる音を楽しみながら、サイゾウは次なる手を打つためにいつのまにか刀から手を離していた再不斬を見つめる。

 

「《水遁・霧隠れの術》!」

 

高密度の霧がサイゾウの周囲を覆い、数秒で視界が塞がれる。それと同時に断刀は棘状となった刀身を元に戻していき、霧の中に消えていく。

 

サイゾウは須佐能乎のみを動かすと、断刀が消えた方向へ向けて須佐能乎の右腕から《金剛鎚拳》を発射し霧を散らす。命中したかと思われた一撃だったが、向かった先にあったのは再不斬のチャクラを宿した《霧分身》だけだった。

 

他にも次々と現れる《霧分身》らしき気配を捉えながら、サイゾウは一分の油断もなく《万華鏡写輪眼》で周囲を警戒する。

 

いつの間にか、組んだ両腕は解かれていた。

 

「…上かっ!!」

 

「遅え!」

 

大上段から迫り来る再不斬の斬撃を、サイゾウは両腕を硬化することで受け止める。

 

急激に増した体重と斬撃の威力から地面へ足がめり込む。

 

サイゾウは腕に食い込む断刀の感触を味わいながら、不意に刀身が常より薄いことに、そして上の再不斬が《水遁影分身》だということに気づく。

 

「後ろだとっ!?」

 

気づかれると同時に水遁影分身の再不斬がほどけていく。それに合わせるように、後ろから“もうひとつの断刀”を持った再不斬がサイゾウへと迫っていた。

 

その上ほどけた水遁影分身はサイゾウを《水遁・水牢の術》で捕らえようとする。

 

「《闇満羽》!」

 

サイゾウはそれを万華鏡写輪眼の瞳術によって構成を破壊し防ぐが、その動きが致命的な隙となって本体の再不斬へ更なる踏み込みを許す。

 

「とったぞっ!」

 

「《八極掌・轟天》っ!!!!」

 

袈裟懸けに斬り伏せようとした再不斬であったが、サイゾウが全身のチャクラ穴から放出した《回天》の応用技《轟天》による衝撃波に吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐっ…!くそ、これだけやってもダメか…!」

 

体勢を大きく崩した再不斬が前を見れば、そこには分けた断刀のひとつをこちらへ向けたサイゾウの姿があった。

 

「いや、かなりいい線いってたぜ。俺に万華鏡を使わせるなんざ、最近じゃ“三忍”くらいなもんだ」

 

サイゾウは刀の切っ先を下げ、立ち上がった再不斬へ向けてそれを放り投げる。

 

「…ふん、伝説の三忍と同格か。なら少しは、お前に預かった『守り刀』の役目も果たせそうだな」

 

放り投げられた断刀・鬼斬りは“とぷん”という水音を発してひとつの刀へと戻った。

 

「『音の守り刀十傑集』か。自分で設立しておいたなんだが、元七人衆が多いな」

 

「…雨由利の姉(あね)さんが生きてた上に、おまえの前でデレッデレだった衝撃は忘れられねえよ」

 

苦笑いと共に返す再不斬。彼自身もまた『音の守り刀十傑集』のひとりである。

 

ちなみに再不斬が見たのはJKスタイルでミニスカートを翻す『林檎雨由利**(なぜか読めなくなっている)歳』の姿である。それはそれは周囲が温かく見守るほどにノリノリだったそうな。

 

「お前こそ、最近じゃ男の娘のハクとしょっちゅうデートしてるそうじゃねえか。…で、どうだった?」

 

「…なんか色々おかしい気がするが、つっこまないでおいてやる。だが“どうだった”ってのはどういう意味だコラ?」

 

吹き上がるチャクラが鬼の顔を形成するが、サイゾウはニヤニヤしたゲスい表情を止めない。

 

「まったまたぁ~あんだけの美人に真っ正面から好意を向けられて“何もなかった”とは言わせねえぞ?ん?ちんちんが付いててもありゃもはや“そういう”美少女。付加価値ってもんだぜ…っどわおっ!?」

 

抜き打ちで放たれた斬撃を、上半身を真後ろに折り曲げて回避するサイゾウ。

 

「下卑た想像してんじゃねーぞ…!アイツは、アイツはな…!!」

 

「…俺なんか好きになるべきじゃねえってか?あのな再不斬、誰かを好きになるのに前提なんざ必要ねえぞ」

 

複雑な表情を浮かべる再不斬をサイゾウはブリッジしたまま諭す。

 

「ま、俺みたいに好きになったらその場で口説けとまでは言わねえけどな。向こうの気持ちも考えてやれや。…んじゃ、俺はムラムラきたから雪花に男の格好させて押し倒してくるぜ♪」

 

「待てやコラァッ!」

 

捨て台詞を言いながらブリッジのまま高速移動するサイゾウへ、思わずあらぬことを想像した再不斬は怒鳴る。

 

だがすぐに虚しくなったのか、その場に座り込んでしまった。

 

「…まったく、俺のどこがいいんだか」

 

「全部ですよ」

 

「ぬおぁ!」

 

不意に背後から囁かれた声に再不斬は驚くが、条件反射で繰り出すはずの斬撃はその人物へは向けられない。

 

「…ハク、脅かすな。ブッた斬るところだっただろうが…」

 

「フフ、再不斬さんはそんなことしませんよ♪」

 

ニコニコと膝を抱えてしゃがむハクの視線に耐えきれず、再不斬は一度向けた視線を逸らす。

 

「…何を笑ってやがる」

 

「再不斬さん見てるからです」

 

ハクの即答に再不斬はいよいよ何も言えなくなる。

 

向けられている好意には、再不斬とてとうの昔に気がついている。というより、本人から言われたそれが冗談ではないと知って困っている。

 

再不斬の脳裏に、かつて自分が好意を寄せた少女の姿が浮かぶ。

 

『霧隠れの鬼人』百地再不斬。

 

その二つ名と共に、自分がかつて為したことが有名になったのはいつからだったろうかと、再不斬は考える。

 

かつて霧隠れは、“血霧の里”と呼ばれるほどに陰鬱な里として知られていた。

 

三代目水影から続く恐怖政治。二代目水影の急死に伴う混乱期の間を縫うようにして始まったそれは、いつからか里の誰もが“慣習”として受け入れるようになっていた。

 

かつて再不斬は二度、この悪しき慣習を断ち切らんとしたことがあった。

 

一度目は鬼として同胞を斬った日。そして二度目は里そのものを転覆させようとした日。

 

再不斬がそこまでの行動を起こしたのは、それぞれに理由がある。

 

二度目は水影が四代目となっても何も変わらなかったからだ。

 

再不斬はそのことに、誰よりも絶望した。ゆえにクーデターを起こし、音隠れへと逃げ延びる形になったのだが、それはまたの機会に語ろう。

 

すべての始まりは一度目。三代目の頃、再不斬はある事件を起こした。

 

悪しき因習を破壊する為に。後に続く者達が、これ以上犠牲にならない為に。

 

 

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

 

かつて少年だった頃再不斬の名は、三太夫(さんだゆう)と言った。

 

その頃各地の里に生まれることの多かった十年に一人と評される逸材。それが彼だった。

 

それだけがこのときの彼の全てだった。

 

血霧の里と呼ばれる霧隠れだが、霧隠れのアカデミーに通う者達は、卒業試験を受けるまでその内容を知らない。

 

───だがその試験を受けた者がどうなるか。

 

───優しかったはずの先輩がなぜ豹変してしまうのか。

 

後輩である者は皆(みな)、薄々気づいていた。

 

そして三太夫は優秀だったことから教員らの会議を盗聴し、そのことを逸早く知ってしまった一人だった。

 

成績順に選ばれた百名を対象に、三年に一度行われる卒業試験。それが意味するモノを。

 

『逃げようシロ!こんな里にいるべきじゃない…!ここにいれば、俺たちはどっちみち死ぬことになる…!!』

 

幼い再不斬、三太夫少年は同期の少女シロを連れて里を抜けることを考えていた。

 

こんな里に拘る必要はないと。手土産に里の内情を持ち出し、木の葉隠れの里へ亡命する。それが三太夫少年の計画だった。

 

『ごめん三太夫…それはできない。だって、私たちが逃げたら後の子達はどうなるの?…きっと、これまでと同じ。何も知らないで傷ついて、何も知らないで死んでいく。私はそんなの嫌だよ』

 

きっぱりと告げる少女に再不斬は何度も説得を試みた。それを耳にする忍もいたが、三太夫少年が才能豊かだったこと。どうせ逃げられないことから、あえて見逃されていた。

 

『そんなこと言ったって、どうするんだよ!?卒業試験の日を迎えれば、皆で殺しあうことになるっ!薬で頭をおかしくされて、気がつけば人殺しだ!俺は…!俺はみんなを傷つけたくなんかないっ!』

 

『…自分が殺されるかも、ってことは、考えないんだ?』

 

『…っ!そ、それは…!』

 

シロの言い分に三太夫は二の句を告げられず、黙ってしまう。

 

『三太夫は優しいね。…ねえ、頼みたいことがあるの』

 

『え…?』

 

『今度の卒業試験…きっと、私たちは殺し合うことになるんだと思う。逃げようと思ってもきっとダメ。三太夫、あなたは気づいてないかもしれないけど、暗部の人間が私たちを監視しているわ』

 

衝撃の事実に三太夫は答えることができない。まさか、とは思う。けれど、三太夫には想像がついてしまった。彼女が、シロが何を自分に頼もうとしているか。

 

『…それでも私たちが処分されていないのは、きっと彼らも諦めているから。逃げることもできないなら、せめて希望だけでも見せようって。笑っちゃうよね。…だから三太夫。“あなたが私を殺して”。“私達全員”を』

 

『…ダメだっ!そんな、そんなのできるはずがないっ…!』

 

『お願い、もうそれしかないの。霧隠れの上層部も、卒業試験で一人を残して全員死んでしまうなんてことになれば、卒業試験を考え直さざるを得なくなる。そうすればきっと他の人も動く。必要なのは“きっかけ”なの。“こんなことに意味はない”って知らしめる“きっかけ”が必要なのよ!』

 

三太夫はシロの真剣な目を逸らさずに見つめ、震えながら黙考する。

 

(どうすればいい。どうすればシロを助けられるっ…!考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ…!!!!)

 

必死に頭を回転させる三太夫。だが彼の頭はそれ以外に選択肢がないことをわかってしまった。理解してしまった。自分がその気になればそれができることも…。

 

『俺じゃなきゃ…ダメなんだな…』

 

『うん…私は死ぬならあなたに殺してほしい…』

 

『わかっ…たッッ…!!』

 

三太夫は悔しさのあまり唇を噛み切る。ただ無力な自分が許せなくて。非力な自分が情けなくて。

 

それから数週間後。

 

霧隠れの卒業試験はつつがなく行われた。

 

彼らを監視する暗部は、最後まで微動だにしなかった。

 

それは一人の少年へのせめてもの敬意。

 

少年は最初叫び、吠え、狂ったように殺し回った。

 

少年は最後黙し、佇み、理智を極めたかの様に見下ろしていた。

 

狂気の殺し合いが終演に至る頃。少年はひとつの境地に達していた。

 

“無音殺人”。

 

風遁で音を消し。水遁の霧で姿を消し。ばらまいた血の臭いで体臭を消し。

 

最後には己の体から発するチャクラまでも消した彼の姿は“その場にあってその場にない存在”と化した。

 

そうして百の同胞から奪った命は、彼のチャクラに鬼を宿した。

 

そうしたなかで想い人たる少女もまた、彼の手にかかって死んだ。

 

そしてその日から、彼は自身の名前を変えた。

 

“百(桃)”の“血(地)”を啜った鬼としての名を背負い。

 

“再”び大切な人を“不斬(きらぬ)”誓いを立てて。

 

彼は自らを“桃地”の“再不斬”と名乗った。

 

…それが、霧隠れの鬼人と呼ばれた、哀しく強い男の誕生だった。

 

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

 

ハクは再不斬に付き添いどこまでも着いてくる。

 

最初は再不斬もそれをよしとはしなかった。瞬身の術を使い全力で逃げたこともある。

 

だがそれが通じたのも最初のうちだけ。

 

数ヵ月もした頃には、なに食わぬ顔で再不斬の瞬身に食らいつく白がいて驚愕した。

 

最近では気がつけば側にいるほどだ。再不斬はそれが不快でないことに何より困惑していた。

 

やがてふたりは滝壺近くの岩の上までやってくる。高さにして木の葉にある“終末の谷”に匹敵するだろうか。

 

刀を岩に突き刺し、眼下の大瀑布を見やる再不斬。ハクは、その隣で静かにたたずんでいる。

 

───再不斬とハクが出会ったのは数年前。森で山菜取りをしていたハクを彼が助けたことが原因だ。

 

ハクを襲ったのは巨大な熊だった。だが幼いとはいえ、忍としての修行をはじめたハクを普通の動物が追い詰めたわけではない。

 

それは時々現れる突然変異でチャクラを操る動物。

 

通称“赤毛”と呼ばれる右目の抉れた人食い熊だった。チャクラの身体活性によって驚異的な怪力と俊敏性を誇る“赤毛”を前に、ハクは死を覚悟した。

 

───そこに現れたのが再不斬だった。

 

断刀・首斬り包丁をへし折るほどの怪力を持つ赤毛を前に防戦一方の再不斬だったが、折れた刀身を赤毛の口に捩じ込み貼り付けた起爆札を爆破。さらには口内に自身と赤毛の血を媒介とした《水遁・水龍弾》を叩き込んでようやく倒すことができたのだった。

 

再生能力を越える破損を受けた断刀・首斬り包丁はバラバラに砕け散り、二度と振るえぬだろうと再不斬は思ったが、そこへサイゾウが待ったをかけた。

 

無数の血と肉にまみれたバラバラの刀から発せられるチャクラを感知したサイゾウはそれらを全て回収し、音の里唯一の刀鍛冶『巌鉄(ガンテツ)』に依頼。

 

すったもんだの後、赤毛のチャクラが籠ったチャクラ刀『断刀・鬼斬り包丁』として甦ったのだ。

 

冒頭でのサイゾウとの戦いはこれを使いこなせるようになったかどうかの確認である。

 

「どうかしましたか、再不斬さん?」

 

暖かく微笑みながらこちらを覗きこむハクに、再不斬は言葉を詰まらせる。

 

無防備に近づくハクの顏(かんばせ)を見つめる。

 

上等な女よりもよほど整った顔。鼻孔をくすぐる甘い芳香(かおり)。僅かに紅がさした頬。

 

(…いつからこんな風になっちまったんだ)

 

再不斬は己の半生を振り替える。

 

血と臓物を掻き分け進んできたかのような人生だった。

 

同胞を斬り、想い人を斬り、そして誰よりも敵を斬り刻んできた。

 

血の臭いが体に染み付いたのはいつからだっただろうか。

 

臓腑の臭いを嗅いでもなにも感じなくなったのはいつからだっただろうか。

 

哀れに助けをこう敵の首を、無慈悲に斬り飛ばせるようになったのはいつからだっただろうか。

 

鬼と呼ばれた。鬼人と呼ばれた。血霧の里最悪の男とまで言われた。

 

それで、よかった。

 

一本の“首斬り包丁”としての人生。

 

糞にまみれた屑(くず)の人生。

 

気がつけば終わっている人生。

 

それで、よかった“はず”だった。

 

だが再不斬の今見る景色は違う。

 

ハクがいる。ただそれだけで景色が輝いて見える。

 

目の前の幼ささえ残る少年の性別などまるで気にならないほどに惹かれている自分がいることを、再不斬は気づいている。

 

常に彼を庇える位置に立てるよう、近くにいるときは無意識に歩幅を合わせている自分に気づいている。

 

だからこそ再不斬は怖いのだ。己の名にこめた誓い。それに足り得る相手を見つけてしまったことに。

 

だからこそ、どんなに想っていても再不斬は突き放し続ける。───そのとき自分を見ないことを知っているハクが、どんな表情で再不斬を見つめているか知らないまま。

 

「…ハクよ。お前が俺を慕ってくれていることは知っている。だからこそ何度でも言う。俺のことは忘れろ。俺は“鬼人”だ。鬼と呼ばれ、多くを斬って生きてきた修羅だ。俺なんかよりもいい相手なんぞいくらでもいるんだ。“諦めろ”、俺はお前を愛せない」

 

再不斬は殺気すらこめてハクを威圧する。“諦めろ”という言葉が、どちらへ向けられたかわからないままに。

 

しかし再不斬の渾身の説得にも関わらず、ハクは涼しい顔でそれを受け流す。

 

「イヤです、諦めません。…ねえ再不斬さん。僕、あなたのことが好きです。愛してます」

 

「…知るかよ」

 

真正面から向けられる“好意”の感情。再不斬は胸を引き裂かれるような気持ちになりながら、うつむく。

 

(…どうすればこいつは諦めてくれる)

 

再不斬は勘違いをしていた。

 

彼は自分がハクを殺してしまうかもしれないことを恐れている。

 

いずれ自らの手でハクを斬り殺す日が来るかもしれないことを恐れている。

 

幾度人を斬っても忘れることのできない、“あの日”の感触が訪れるかもしれないことを恐れている。

 

「…でも、再不斬さんがどうしてもダメだっていうなら、仕方ないですね。さようなら、再不斬さん」

 

そのときハクが取った行動は、再不斬をしても予想だにできないものだった。

 

トン、という軽い音と共にハクが大瀑布へと飛んだのだ。

 

「………っっ!!!!」

 

再不斬は先ほどまでうつむいていた己に呪詛を送った。

 

なにをしていた、この間抜け!と。

 

滅茶苦茶なチャクラコントロールでその場に転びそうになりながら、再不斬は己の断刀の存在すら忘れて落下する水を蹴りながらハクへと追い付くために加速する。

 

不規則な飛沫をあげながら、ようやく追い付いた再不斬はハクを抱き止める。

 

お互いに無言。だが滝壺に落下するまでの間…ふたりは静かに抱き締めあった。

 

__________________________________

 

 

「っこの!大馬鹿野郎がっ!!!俺なんかにフラれたくらいで…!こんな“人でなし”にフラれたくらいで死ぬんじゃねえ!」

 

全身ずぶ濡れになりながら、抱き止めていたハクを下ろした再不斬は全身を震わせながら怒鳴る。

 

あまりの怒気に近くの林から小動物達が逃げ惑い、さすがのハクも気まずい顔でうつむく。

 

「………だって」

 

「だってじゃねえ…!くそっ、こっちが死ぬかと思ったぞ!?」

 

「大丈夫ですか、再不斬さん?」

 

本気で心配してくるハクに再不斬はなんと言っていいかわからなくなり、頭を乱暴にかきむしる。

 

ハクとしては再不斬に嫌われること以上の恐怖など無いのだ。恐るべきは思春期の片想い(?)である。

 

だからこそハクは次に再不斬から告げられた言葉に固まった。

 

「脱げ」

 

「へ?」

 

「いいから、脱げって言ってるんだよ」

 

その言葉にハクは目の前の再不斬を急激に意識して全身が熱くなる。濡れて冷えた体がむず痒くなるほどに。

 

「いや、あの、ちょっと待ちましょう再不斬さん。僕もそれなりに覚悟はありますからせめて初体験はベッドの上で…」

 

「四の五の言ってるんじゃねえ」

 

「ひゃ…!」

 

再不斬は自分が着ている忍装束を乱雑に脱ぎ捨てると、ハクの服を手際よく脱がしていく。

 

ハクは顔を赤くしたまま動けない。

 

再不斬はいつの間にか自身の覆面がとれていることに気づくが、どうしてかハクが相手だと顔を隠さなくてもいい気がしていた。

 

「…どうしても俺じゃなきゃ、ダメか」

 

蚊の鳴くような小さな問いかけ。その間も再不斬の手は止まらずハクを脱がしていくが、ハクは彼がようやく絞り出したすがるような声を聞き逃さず、固くなっていた体から力を抜いて再不斬の顔を見つめる。

 

「…はい、どうしても再不斬さんじゃなきゃダメです」

 

再不斬の目を見て告げたハクは、そのまま体を伸ばして再不斬のむき出しになった唇へと己の唇を合わせる。

 

不器用で、幼い口づけ。再不斬に言えるのは、一言だけだった。

 

「手加減は…努力しよう…」

 

__________________________________

 

 

「ふぅ…はっ、はっ、はっ…!!」

 

お互いに一糸纏わぬ姿となり、再不斬とハクは水車小屋で体を重ねあう。

 

皮肉にも落ちた滝壺の近くにあった水車小屋にはタオルとベッド、そして暖炉があり、濡れたふたりが暖めあうには最適だった。ちなみに家は竹製である。

 

「再不斬…さん…!」

 

「ハク…!」

 

不器用なふたりは貪るように互いを求めあう。

 

まだ再不斬は幼いハクの中に挿入していなかった。

 

興奮しすぎた己の怒張がハクを傷つけやしないかと、これまで密かに夢想していたハクの体を前にしたこともあって入念すぎる愛撫を先に与えていた。

 

ハクは息も絶え絶えな状態で、己の全身に与えられる再不斬の体温と刺激に歓喜していた。

 

再不斬の舌がへそから横腹をはいまわり、時おり白磁の肌に噛み痕を残しながら上へと進む。

 

ほんのりと桜色の小さな蕾はすでに鬼の唾液で“ぬらぬら”と濡れ光っており、精一杯の存在感を出すつもりなのか固く勃っている。

 

しかし再不斬が弱所であるそこへ触れたのは最初だけで、すでに二時間近くの間ハクは全身へ落とされるキスと口戯で三回射精させられていた。

 

「ああぅ…再不斬ひゃん…も、無理です…んにゃあっ!?」

 

すでにハクは限界を越え、甘い痺れに抵抗できなくなっていた。そこへ容赦なく再不斬がハクの小さな“屹立”を咥える。

 

「う゛っ、あ゛ぁ゛っ!!だめ、だめええっ!!」

 

熱い舌が己の“屹立”を這い回る感触に耐えられず、ハクはあっさりと達してしまう。

 

再不斬は白濁をすべて飲み干すと、いよいよと言わんばかりにハクの尻を割り開く。

 

菊の花にも似たその“すぼまり”へと、興奮冷めやらぬ再不斬はなんの躊躇いもなく舌を伸ばし、ねぶる。

 

「あ゛あ、はぁ、いぅ、あっ、はぁ、ああ…」

 

舌が前後左右に、縦横無尽に動く。

 

舌と交代で射し込まれた指が、少し進んだ先にある“コリコリ”とした急所の裏側を責め立てる。

 

何度目かの射精に、ハクは腰を震わせる。

 

「あ…ダメ…再不斬さん…」

 

限界を迎えたハクはとうとう失禁するが、それさえも再不斬は飲み込んでいく。まるで“お前のなにもかもが俺のものだ”と宣言するかのように。

 

「ハク…」

 

「あ…」

 

耐えて迸った先走りによりすでにドロドロになった己の逸物をあてがい、再不斬はハクへ口づけを落とす。

 

体を支配する熱はまるで冷めようとしない。それどころか、お互いの身も心も灼熱へと追いやっていく。

 

「はっ…はっ…はっ…ぁ…!」

 

ゆっくりと。だが確実に埋まっていく再不斬の逸物。

 

許容量を越えたその大きさにハクは息を詰まらせるが、再不斬が無理矢理口づけすることで呼吸を引き出し、その息を整えていく。

 

ゆえに注挿は、時間をかけて行われた。

 

それでも30分も経つと、この日の為に“後ろの穴”で自慰してきたハクは今の状況を再認識して“ぽろぽろ”と涙を流す。

 

「嬉しいのか…ハク…」

 

再不斬の問いかけに、もはや喋ることも叶わず静かにうなずくだけのハク。

 

再不斬もまた、全身を震わせる歓喜に身を委ねながら、ずくりと疼く心の傷が癒されていくのを感じる。

 

ずにゅ、くちゅ、くちゅ。

 

重なりあう逢瀬は終わりを知らないかのように続けられる。

 

再不斬は“なぜか置いてあった”ローションを結合部に垂らし、そのヒヤリとした感触に体を震わせるハクに愛しさを感じながら注挿を激しくしていく。

 

くちゃ、ぱんっ、ぱんっ。

 

肉と肉が打ち合う音。尻と腿の肉が重なり、音が小屋に響く。

 

何度目のキスだろうか。もはや頭蓋までとろけたかのような感覚に支配されたハクも再不斬も、お互いを求めることしか考えることはできない。

 

だがすべてのことがそうであるように、逢瀬にも終わりは来る。

 

「もうっ…ダメだっ…ハクっ!!」

 

「あぅ、ああっ…!再不…斬…さん……っっ!!」

 

互いが互いの名を呼びあいながら、同時に絶頂する。

 

ハクは流し込まれる再不斬の白濁を腹の奥で感じとりながら、あとどれだけまぐわっていられるのかを艶然と微笑みながら考えた。

 

__________________________________

 

「…あー、なんていうか、無事か?」

 

「…聞くな」

 

サイゾウが思わずそう聞きたくなるほど、再不斬はやつれていた。

 

反面艶を増して通りすぎる人々が男女問わず振り向くような変貌を遂げたハクは、今は母親に連れていかれている。

 

雪花は「お説教します!」と息巻いていたが、あれで耳年間な雪花のことだ。詳細を聞いて今度の閨では同じことを求めてくるに違いないとサイゾウは期待に股間を膨らませていた。

 

「ああ、そうか。うんうん、なるほどな。…で、どうだった?」

 

「…色々礼はあるが、動けるようになったらひとまずブッた斬ってやる…!」

 

ゲスいスケベ顔のサイゾウだが、無論のこと再不斬とハクが体を重ねた水車小屋はサイゾウが用意したものである。

 

異様に用意がよかった水車小屋だが、これは二人がよく一緒にいる場所が滝壺であったことからその近くに全く同じものを十件ほど用意してあっただけである。

 

そんなサイゾウの先読みに再不斬は礼を言えばいいのか怒ればいいのか複雑な心境に陥るが、不意に母親と一緒に帰ってきたハクを見て柔らかく微笑む。

 

 

 

 

 

音隠れの里には、数多くの忍が集う。

 

居場所を失った者。

 

大切な人を失った者。

 

誰もが再び希望を抱けるわけではない。

 

だが、この里を守る“刀”のひとつは揺るぎない心を得た男。

 

かつて鬼と呼ばれながら、人としての己を取り戻した男。

 

彼が守るのは、氷の鏡に写る魔性の少年。それはすなわち、彼が暮らす場所すべて。

 

であるならば、この里で暮らすことになんの不安があろうか。

 

鬼の目は、常に彼が住む場所を写しているのだから。

 




なぜか再不斬の刀が元の名前【人斬り包丁】になっていたので訂正。恥ずかしい(*/□\*)

お楽しみいただけましたでしょうか。
活動報告でも書いたんですが、自分再不斬さんが好きすぎてこれでも相当圧縮してます。
過去編とか、白との出会いとか。
あと、作中で白の表記をこの話ではカタカナにしてあります。理由は読んでても書いてても紛らわしいため( ̄▽ ̄;)
ちなみに過去編で出てきた彼女は設定だけ無駄にあります(笑)
いやもうね、後書きだから書かせていただきますけど再不斬さんだけでぶっちゃけ10話くらい書けるんですよ。それくらい好きなんですよ彼。
おまけにヒロインが男の娘とかなにこいつって感じですし(´・ω・`)ウラヤマシス

とはいえそんなことになった日には盛り上がりはするでしょうけど、脱線甚だしいのでどうにか10000文字に圧縮。大体当初予定の6分の1ですがそれでもこんな文章量に…

ということで他の十傑集は本編描写でさらっと紹介になるかもしれない。
JKの雨由利姉さんのお話が見たかったら感想で教えてください。本編はさらに遠退きますけど書きます(笑)


補足★説明

・『断刀・鬼斬り包丁』
再不斬が元々用いていた断刀・首斬り包丁が、赤毛との戦いで砕け再び打ち直したもの。
材料に柱間の用いたチャクラ刀が用いられている。
“血”そのものの性質を持ち、さながら某漫画の血闘術のごとく変幻自在の性質を持つ。
再び打ち直される際に再不斬の血も混ざっているため、彼自身の血を加えることで刀身をさらに巨大にしたり、逆に輸血したりすることも可能。
ちなみに自在に変形させられるのは再不斬のみ。その際にはそれなりにチャクラを用いる。

・《霧分身の術》
単品ではバレバレなので使いどころが限られる忍術。霧隠れの術と併用することで真価を発揮する。原作がどうなのかは知らないが、チャクラを混ぜた霧である霧隠れの術は一種のチャフやジャミングに似た性質を持ち、チャクラなどから感知して動きを探られることを防ぐ特質を持つ。ここに霧分身を追加することで、不可視の霧のなかで相手をさらに錯乱させることが可能となる。対応策として火遁などで霧を晴らされてしまうと同時に分身も解けてしまうのが弱点。とはいえ少ないチャクラで万華鏡でも誤魔化せる優れもの。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

不協和音 ① ★

む・り(´・ω・`)

どんだけ圧縮しても音隠れが出来るまでで一話使うって…
というわけで今回は音隠れができるまでの流れ的な話、と襲撃の出だし。
今回を見て『黒の章』ってビデオテープとか『ダークエンジェル』とか思い付いた人とは一緒に墓を掘れそう(´・ω・`)シチニンミンナデ

ちょいと時系列が今回特にわかりにくいので説明。

序盤の過去編は大体マダラとの戦いから1年ないし2年以内くらいです。
最後の暁登場はサイゾウが覚醒直前ですね。


⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

田の国と呼ばれる場所がある。

 

場所は火の国と隣接した位置に存在し、火の国ほどではないが肥沃で作物を育てやすい土地であり、かつて六道仙人に連なる者が掘り築いたという井戸があることで有名な土地だ。

 

この土地を治める大名はある時期から、自国の戦力としての隠れ里を欲した。

 

肥沃な土地であるがゆえに生まれた“余裕”からの野心であり、これまで雇ってきた風魔一族や死韻一族といった強力な忍びらが我が物顔で国内を歩き回るのをよく思わなかったことも大きかった。

 

彼は“忍”を嫌悪していた。

 

超常の力を振るう彼らを同じ人間とは思わないほどに…。

 

それに目をつけた者がいた。結果として彼らから提供された力に溺れた大名は凶行に走り、彼自身の命運を決定付けることになる…。

 

__________________________________

 

 

「な、なんなのだお前は…!?」

 

田の国の大名は、その晩突如として自身の寝所の扉を蹴り破った忍に見下ろされていた。

 

大きな、太い男だった。

 

筋肉というものをとことんまで鍛え、いったん太くなったそれをさらに縒り合わせたかのような質感。

 

金剛力士が如く肉体に憤怒の表情を乗せたその男はさながら不動明王を思わせた。

 

それでも大名は枕元の刀に手をかけ抵抗を試みる。が、あっさりと刃は素手で掴まれ、まるで鉛筆をへし折るように刀身を次々と折り壊された。

 

不動明王───うちはサイゾウは自身の怒りをこらえるようにして口を開いた。

 

「…俺には許せないことが“ふたつ”ある。女が泣くことと、子供が笑えなくなることだ」

 

「ええいっ!者共出合え!なにをしておるかっ!?」

 

つばを飛ばしながら焦りと共に叫ぶ田の国の大名。だが滑稽にもその叫びは誰にも届かない。さらには逃げようにも、何らかの力を上から加えられた指は刀から剥がすことができなくなっている。

 

「馬鹿ね、この状況でここに来れるようなのが残ってると思う?」

 

さらに彼のもとへ新たな忍が現れた。長く伸ばした髪を団子状にまとめた、“よく透る声”をした一見女のような外見をした忍─大蛇丸─である。

 

彼は“ある術”を止めたことにより、徐々にその肉体の持ち主の特徴が出つつあった。大きく姿形は変わっていないものの、細く柔らかく変わっていく姿に違和感を覚える者も多い。だがもう慣れたのか。サイゾウはさしてそれを気にせず話しかける。

 

「…先生、下の女達は」

 

「殆どは無事よ。…何人かは、もう手遅れだったわ。すぐに治療が必要な者もいるからあまりここで時間をかけるわけにもいかないわよ」

 

「…わかりました。で、大蛇丸先生もアレを試すんですか?」

 

「勿論よ、効率がいいし。それに、能力を検証するには実践を重ねるのが一番よ」

 

「なんだ!?なんの話をしている!」

 

ふたりの会話に不穏なものを感じながらも、田の国の大名は動くことができなかった。

 

今回、田の国の城を襲撃した二人であったが、本来これほど急ぐつもりはなかった。

 

段階で言えば今は田の国を拠点とする隠れ里の者達を説得している段階であり、これまで保護した血継限界の忍などを一ヶ所に集めるための準備をしていたところだったのだ。

 

ところがである。

 

田の国を拠点とする一族のひとつ。死韻(しいん)一族の者達から、サイゾウと大蛇丸は思わぬ依頼を受けることになった。

 

それは、彼ら一族の女達の救出。

 

事情を聞けば、大名の護衛として向かった彼ら一族の女達が戻ってこないというのだ。

 

彼らの一族は女が主体となった忍である。見目も整った彼らの一族は、普段は国の祭事などにも顔を出すことがあり、護衛として映えることから側仕えとしても重宝される。

 

とはいえ今の大名との関係はやや冷えてはいたが、それでも定期的な護衛の依頼は受けており、里の上位者とも言える女達が雇われているはずだった。

 

しかしあるとき、護衛としての契約期間が過ぎたにも関わらず、一族の女ふたりが戻ってこなかった。

 

何かあったのかと、事情を確認しにいった者も帰ってこない。

 

これに、すわ一大事と死韻一族の中でも手練れの者が向かったがその者らも戻ってこない。

 

ここに至って詰んでしまった彼らは、藁にもすがる想いでこれまで幾度か訪ねてきたサイゾウを頼ったのだった。

 

そして城に潜入したサイゾウが見たのは───田の国の城に勤める武士達が好き放題に女達をなぶる姿だった。

 

死韻一族の者だけではない。よく見ればその中には風魔一族らしき女や他の里のくのいちらしき女もいる。

 

一体どうやってこれだけのくのいちを捕らえたのか。大蛇丸はまずそのことを疑問に思ったが、思考は長く続かなかった。

 

女の中には手足に杭を打たれて切り刻まれている者。首を鎖に繋がれあちこちを針で刺された者。───手足を断たれ既に事切れた者。

 

目にしただけでそれだけの惨状が広がっている様を見て、横で同じものを見たサイゾウが大人しくしているはずもないのだから。

 

すなわち、それを見た瞬間サイゾウは“キレていた”。

 

惨劇は一瞬だった。大蛇丸が止める間もなく、その場にいた武士達は人としての原型をとどめぬほどにバラバラに潰された。中には武士ではない忍らしき者もいたが、サイゾウは止まらなかった。

 

サイゾウの怒りはそれだけで治まらなかった。あえて殺さなかった太った武士から《輪廻眼・人間道》で無理矢理情報を引き出すと、この城に勤める男達で“饗宴”に参加しなかったのが新任のひとりしかいないことを知ると、女達を大蛇丸に任せて彼自身は影分身で逃げ場をなくした。

 

そこでさらに用いたのは《口寄せの術》。それも、畜生道と呼ばれる輪廻眼による口寄せだ。

 

サイゾウは大量のチャクラで身の丈ほどある巨大百足(ムカデ)を無数に呼び寄せると、武士の男どもを毒による激痛で皆殺しにした。

 

…目の前で突如起きた惨劇に失禁し、気絶した新任の武士ひとりを残して。

 

田の国の大名が叫んでも誰も来るはずがないのだ。全員死んでいるのだから。

 

「じゃ、手早く済ませるわよ。《輪廻眼・人間道》!」

 

大蛇丸は片眼に移植した口寄せ輪廻眼による術を行使して田の国の大名から魂を引きずり出す。

 

あわれな悲鳴をあげる魂から無慈悲に情報を引きずり出すと、用済みとばかりに死体を足元に落とす。

 

「…これ、結構クルわね。やっぱり本家本元じゃないと難しいのかしら」

 

「それはあるでしょうね。あとは吸収した情報を取捨選択できないのが問題かと。余計な情報までイチイチ吸い上げていては、資料としてまとめるのも一苦労ですし」

 

「…そうね。じゃああたしはマンダを口寄せして女達を運ぶけど、あなたはどうするの?」

 

「女達の遺骸を回収して、この城を壊します。…ていうかマンダ呼ぶのはいいですけど、食われないように気を付けてくださいよ?」

 

サイゾウの心配に大蛇丸は少し嬉しそうに微笑むと、意外なほどに柔らかい口調でサイゾウへと語りかける。

 

「あたしなら問題ないわ。輪廻眼の切り替え実験は何度も実証済みだし、マンダくらい単純なら畜生道でどうにでもできるしね」

 

両手を広げてあえておどけてみせる大蛇丸にサイゾウは笑みを返すと、雰囲気を切り替え戦時の空気を纏う。

 

「では任せます。それと、死韻一族は全員笛などの楽器をもっていたはずです。それも探しておきましょう…《口寄せの術》!」

 

印を組みサイゾウが口寄せしたのは、かつて契約した一匹の“鼠”。

 

「ぬ?…おお~!久しぶりじゃな、坊(ぼん)!」

 

現れたのは白髭を蓄えた老齢の鼠。名を─旧鼠道人(きゅうそどうじん)─という。

 

「ご無沙汰してます、道人殿」

 

「カッカッカ!コオネの坊が堅っ苦しいこと抜かすでないわ!…で、何をしてほしいんじゃ?」

 

ニヤリと笑いながらサイゾウの目論見をすでにある程度見抜いた節のある旧鼠道人の姿に、サイゾウはありし日の母との思い出をわずかに思い出す。

 

「ここに連れてこられた女達が用いていた楽器を探して回収して欲しいのです。笛や琴、三味線など…恐らく形も大きさも千差万別でしょうが、そこはあなたの“鼻”に任せます」

 

「女の楽器か。ヌッフッフ、任せとけ!《影分身の術》!」

 

旧鼠道人は影分身によって数十体の分身を作り出すと、あっという間に散っていく。

 

「アレが旧鼠道人…あなたの母親の切り札のひとつね」

 

「…ええ、母の眼を持ってきてくれたのもあの人です。世にも珍しい仙術影分身の使い手ですよ。ま、呼ぶのにそれなりのチャクラは消耗しますけど」

 

旧鼠道人。齢(よわい)にして大蝦蟇仙人に匹敵すると豪語する鼠の口寄せ動物である。その特技の最たるモノとして挙げられるのが今用いた《仙術影分身》。二代目火影扉間とも契約していたという彼は、扉間から“いくつか”の忍術を教わっていた。

 

サイゾウの母であるコオネは彼と契約することで、万華鏡に開眼せずとも圧倒的な戦果を上げたと言われている。報酬には使用済み下着を要求されたと笑って語っていたが。

 

「そういえばあの童貞君、どうするの?」

 

「ああ、忘れてましたね。女達と一緒に行かせるわけにはいきませんし、俺が回収しておきますよ」

 

「わかったわ。じゃ、また後でね」

 

溶けるように姿を消した大蛇丸の気配が遠ざかっていくのを確認すると、サイゾウは念のため田の国の大名の死体を口寄せ空間に回収する。

 

死体とて、使い道はいくらでもあるのだ。

 

「…さて、行くか」

 

サイゾウはマンダの背に乗せられ次々と運ばれていく女達を窓から見送りながら、自身は饗宴の場となっていた一室へと赴いていく。

 

大蛇丸がやったのか、表面にシーツを被せられた女達の遺骸を前にサイゾウは手を合わせる。

 

彼女達からそれぞれの遺髪を取ると、さきほどの大名とは別の口寄せ空間へと送っていく。

 

童貞君は漏らしていて触りたくなかったので、大鷹を口寄せして隠し拠点のひとつに連れていってもらった。

 

なお、最初サイゾウは彼女達を《輪廻天生》で蘇生しようとして大蛇丸に止められていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『やめなさいサイゾウ。その術の反動がどれだけ恐ろしいかは貴方も知っているでしょう』

 

『ですがっ!まだ間に合う者がいるかもしれませんっ!』

 

『そうやって目の前で死んだ人間を全員生き返らせて回るつもり?貴方が“お人好し”なのは構わないけど、貴方の命は貴方だけの者じゃないのよ。自覚なさい、サイゾウ』

 

『…ぐっ!わかりました。ではせめて、あとで穢土転生を使って最後の別れをさせてやってください。こんな最後は…惨すぎるっ!』

 

『…仕方ないわね』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

サイゾウはつい先ほどの会話を思い出すが、いずれ自分ならば無理を通して輪廻天生を行使する日が来ることになるだろうと考える。

 

そうなったとき、誰をも犠牲にしない為には、幾ばくかの研鑽と研究が必要だった。

 

「…すまない。お前達を助けられなかったのは俺の責任だ。この責任感が我が儘だというのもわかっているが、せめてお前達が守ろうとした一族は俺が責任をもって預かろう」

 

最後の遺骸を仕舞い、サイゾウは旧鼠道人の気配を探るが、彼はすでにサイゾウの足元へと戻ってきていた。

 

身軽にサイゾウの肩へと乗った道人は、どこからともなく爪楊枝のようなサイズの煙管を出して吸い始める。

 

「ぷっは~、一仕事やり終えた後の一服はうまいのう」

 

「火種は使いますんで間を合わせてくださいね」

 

「…可愛いげのないやっちゃのう」

 

道人がサイゾウのやろうとしたことを察して煙管に火をつけたように、サイゾウもまた彼の気遣いを察して忠言する。

 

すでに道人は影分身を逆口寄せすることによって集めた楽器を“自らの”口寄せ空間へと送っていた。この早業こそ彼の真骨頂であり、扉間をして相棒と認めさせた腕前である。

 

「では…《火遁・灰積焼の術》!」

 

サイゾウが口からチャクラを変質させた火薬を吐くと同時に、城の各所に陣取った影分身の半数が分身状態を解き灰色の火薬粉と化していく。

 

「ほいなっ、と」

 

サイゾウが飛ぶのと合わせて、旧鼠道人が何気なく煙管の火種を落とす。

 

すると、灰に当たった火薬粉は一瞬で燃え上がり連鎖爆発を起こす。さらに爆発に合わせて、残った火遁影分身が業火と化し城を燃やしていく。

 

「ほっほ~♪派手じゃのお!」

 

「はしゃいで落ちないでくださいよ」

 

やや昔を思い出しながら無表情になりつつあるサイゾウであったが、輪廻眼で浮遊しつつも眼下へと向けた警戒は解かない。

 

「…ちっ、出てくるかと思ったがそのまま死んだか」

 

「なんじゃ、誰か潜んでおったんか」

 

「屍(かばね)一族…今回女達を捕らえた主犯格ですよ。女達の症状ですぐにわかりました。毒の扱いに長けた一族で、今じゃ数人しか生き残っていないはずです」

 

「なるほどなるほど、そいつはひょっとしてこやつかの?」

 

ニタリと笑った旧鼠道人が手を差し出すと、そこから全身に奇妙な入れ墨を入れた忍の死体が現れる。

 

「これはっ!」

 

サイゾウは慌ててそれを受けとると、死体の状態から自分が城へ侵入するよりも早く屍一族らしき忍が死んでいたことを悟る。

 

「楽器をとるついでに、妙な場所で死んでるそやつを発見しての。ついでじゃから回収しといたぞい」

 

「さすがは道人殿、手が早い…!」

 

「ほっほっほ!褒めるくらいならお前の女の乳にでもはさんでもらおうかのぅ!」

 

「断る」

 

「早いわ!」

 

掛け合いつつ、サイゾウは男の体に未練がましくまとわりつく魂に気づき《口寄せ・獄閻王》でそれを捕まえる。

 

「…なるほど、呪印か」

 

人間道の力も用いて死者の魂から情報を抜き取ったサイゾウは迷える魂を獄閻王に吸収させる。

 

呪印を用いられてはいたが、死んだ屍一族の男が女達へしたことは自分の意思であった。そうであるならば、彼への慈悲などあるはずもない。

 

問題は呪印を仕込んだ“何者”かだが、すでに発動した呪印は心臓を食い破り原型を残していなかった。せめて何かわかればとサイゾウはその死体も口寄せ空間にしまう。

 

「後で大蛇丸先生やダンゾウ殿にも見てもらいます。俺がわからないことや見落としていることがあるかもしれません」

 

「ま、好きにせい。わしはまだしばらくここにおるでな」

 

サイゾウと旧鼠道人は、大蛇丸が向かった死韻一族の里の方向へと飛んでいった。

 

__________________________________

 

 

死韻一族の隠れ里は、悲しみに包まれていた。

 

一族でも指折りの実力者ふたりが、死者として帰ってきたからである。

 

だが大蛇丸は彼らの悲しみに耳を傾けている暇はなかった。

 

生き残った者達への解毒を施しながら、穢土転生の準備も進めていたからである。

 

万が一にも血迷って弟子が輪廻天生などやらかさない為にだ。

 

影分身なども用いて並列的に事態を処理していた大蛇丸だったが、不意の立ちくらみからその場に倒れそうになる。

 

「くっ…!」

 

それを気合いで建て直し、再び集中して解毒の治療に入る。

 

綱手であれば片手間で出来るであろう作業も、大蛇丸にとっては極度の集中を用いる。

 

理解していることと実践できることの差異がこれほどの負担になるとは、大蛇丸も予想していないことだった。

 

(…けど、なにより厄介なのはこの“体”ね。不屍転生を止めたことがここまで響くことになるだなんて、また投薬を調整しなきゃいけないわね)

 

そう、大蛇丸は不屍転生を諦めていた。理由は様々だが、結果的に肉体と魂を繋ぐ霊体が脆くなっていることに気づいたのが最も大きい。

 

“自分が自分で無くなる感覚”。それを覚えてしまった大蛇丸は、もう不屍転生を使う気にはなれない。

 

以前は次の体として捕らえた白ゼツを使おうかとも考えていたのだが、今ではせいぜいパーツとして使うにとどめていた。

 

「大丈夫ですか!?大蛇丸先生!」

 

「…問題ないわ。それより、万事うまくいったのね」

 

「万事、とはいきませんがひとまずは。道人殿、楽器を」

 

「おお、任せておけ。ほいっと」

 

旧鼠道人が手を掲げれば、そこから溢れるようにして楽器が次々と現れる。

 

サイゾウは竹遁分身を繰り出しそれらを丁重に受け取りながら待機する死韻一族の者達へと渡していく。

 

「おお…!これは!」

 

「お母さんの笛!」

 

思わずといった様子で少女が駆け出し、いの一番に笛を受けとる。

 

「…そうか、お前はあの者の娘か」

 

サイゾウは悲しげな顔を浮かべながら、笛を受け取った少女を見下ろす。

 

「お許しくだされサイゾウ殿…此度の件で命を失った者の娘“多由也”にございます。満足に礼も尽くせぬうちに…」

 

「よい、俺が好きでやったことだ。それと此度の件、見ての通り巻き込まれたのは死韻一族のみではない。以前から言っていたが、俺はこれを機にこの周囲一体を中心として新しい里を作るつもりだ。元々田の国は乗っ取るつもりだったしな」

 

多由也を庇うようにして前に出てきた死韻一族の長老に、サイゾウは己の展望を語る。

 

「なんと…!で、ですが貴方は火影では?」

 

「…正直に言って、木の葉は“狭い”。無闇に受け入れてきた俺にも責はあるが、今回里の中心となるのはこの忍世界においても爪弾きにされてきた者達だ。木の葉とおだやかなる関係を結ぶにも、しばし時間はかかる。ま、実質的な指導者はそこの大蛇丸先生がやってくれる。不気味だが頼りになる人だぞ」

 

「聞こえてるわよ」

 

「我々のような者のために格別なる力添え、まことになんと礼を申し上げてよいやら…」

 

頭を下げようとする長老を止め、サイゾウは大蛇丸が準備を終えたことを悟って自身もまた術を発動するために彼の近くへ寄っていく。

 

「大蛇丸先生、無理はなさらずに。穢土転生は俺がやります」

 

「ふっ、私を誰だと思ってるのよ。薬も飲んだし、問題はないわ」

 

強がる大蛇丸にサイゾウも強くは言えず、とはいえ全てを任せるわけにはいかないので互いに穢土転生の担当をふたつにわける。

 

「では…「《穢土転生の術》!」」

 

サイゾウの掛け声に従い、四つの棺が口寄せされる。

 

その内のひとつが開くと、そこからは赤い髪を伸ばした色気のある女性が現れる。

 

「…ここは、私は死んだはずでは?」

 

「お母さんっ!!」

 

「多由也…?」

 

穢土転生として蘇った多由也の母親は、しばし泣きじゃくる娘をあやしながら己の身に起きたことを振り返ろうとするが、それはサイゾウによって止められた。無闇に思い出すことではないと。

 

「こ、ここは里の中心?わたしは死んだはずでは…?」

 

「死韻一族の里だと!?いや、そもそもこれはどういう状況だ!」

 

次々と穢土転生されていく死者達。

 

蘇ったもう一人の死韻一族の者は戸惑いながらも、大蛇丸から説明を受けてゆっくりと事態を受け入れ沈痛な表情を見せる。

 

もうひとりは風魔一族の少女。己の死を自覚していなかった彼女に、サイゾウはゆっくりと彼女が死んだことを教えていく。彼女にはこの後風魔一族の里まで一緒に来てもらい、最後の別れをさせるつもりだ。

 

…そして最後のひとり。田の国の大名が穢土転生されその場に現れると、周囲からは憎しみの声が上がった。

 

「こ、これはどういうことだ!だだ、だれかなんとかしろぉ!」

 

「サイゾウ殿、なぜこのような男を…」

 

長老が周囲の者を代表してサイゾウへ質問する。

 

「なあに、ここにいる誰もが憎しみを抱いたまま、悲しみを抱えたままこれからも幾多の夜を過ごすことになる。で、あるならば。改めてお前達の前でこの男が地獄に落ちていく様を見せつけてやろうと思ってな…!!」

 

サイゾウが示した怒気に、周囲の者が彼本来の実力を思いだし総毛立つ。

 

そこにいるのは『火焔の権化』。かつて起きた忍界大戦において、最も多くの忍を焼いたと言われる男。

 

その男が燃やす怒りが、すでに死んだはずの田の国の大名に恐怖を思い出させる。

 

「ひ…!」

 

「簡単に死なせてもらえたと思ったか?残念だな、お前はこれから明確に地獄へ落としてやる!《輪廻眼・地獄道》!」

 

サイゾウの声に従い、再び地の底から地獄の裁断者獄閻王が呼び出される。

 

輪廻眼地獄道。それはただ獄閻王を口寄せする能力ではない。

 

その真髄は魂の管理。輪廻眼が捕らえることのできる魂が何処に行くかを選ばせる審判の能力。

 

「お前が行くのは地獄…!それも八熱地獄の第七層“大炎熱地獄”だ!三千二百年の間焼かれ続けるがいい!」

 

「~~~~~~~~~~~■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!」

 

声にならぬ悲鳴をあげ、大名は獄閻王の開いた口から覗く地獄へと飲まれていく。

 

酸鼻を極める有り様に目を背ける者が多く出るなか、サイゾウは決して目を背けることなく睨み続ける少女─多由也─と目が合う。

 

「…多由也といったか。何がそんなに悔しいのだ」

 

「あたしは、自分でお母さんの仇を討てなかったっ!それがなにより悔しいっ!」

 

「危ういが、見込みはあるな…よし。大蛇丸先生、この子を弟子にしてあげてください」

 

「…なんでそこであたしに振るのかしら」

 

「いやぁ、俺が師匠になったら色々まずいんで」

 

笑いながら言うサイゾウだが、大蛇丸の脳裏には十歳にして妊娠した多由也がありありと想像できた。

 

「…そうね。まずいわね、それは。………………………仕方ないわね、色々用を済ませたら一度見てあげるわ。弟子にするのはそれからよ」

 

訳が分からないまま話が進んでいくことに多由也は混乱するが、そこへサイゾウが追い討ちをかける。

 

「いや助かります。なかなかに器量がいいですからね、正直自分の女にしない自信がない!はっはっは!」

 

「じぶんのおんな…およめさん?」

 

「多由也、この人にはお母さんがよおっっっく言っておきますから今のは忘れなさい」

 

母に忘れるように言われるも、多由也の中ではサイゾウの存在がそれから十年近く経っても忘れることなく刻まれているのであった。

 

後に“音隠れ”と呼ばれる場所からは、死者を慰める笛の音が静かに響くのであった。

 

 

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

 

サイゾウが目覚めるよりも少し前。木の葉でデイダラとサソリがそれぞれ潜入を果たした頃。音隠れの里を一望できる切り立った崖の上に人影があった。

 

「あれが音隠れの里ですか。なかなか大きいですね」

 

布に包んだ大きな刀らしきものを背負った鮫に似た顔の男が、笑みを浮かべて里を見た感想を述べる。

 

「油断するな鬼鮫。単純な戦力なら五大国に匹敵すると言われる場所だぞ。それに我々の目的は人柱力だ。未確認だが、二尾もあそこに逃げ込んだとの情報がある」

 

「なんでもいーけどオレは陽動でいいんだよな!ジャシン様への供物も捧げなきゃいけないしよぉ!」

 

「…賞金首もたんまりといるようだ。稼ぎ時だな」

 

鬼鮫の言葉に答えたのはうちはイタチ。両の眼に万華鏡を開眼した、『兇眼潰し』のイタチの名で呼ばれるS級賞金首である。

 

次に発言したのが飛段、角都と呼ばれる男達。

 

武器として使うには大きすぎる鎌を掲げた飛段と呼ばれる男は、自らが信仰する宗教“ジャシン教”の教義を実践する為に我慢ができない様子である。

 

また隣の大男角都は守銭奴と呼ばれるほどに金に固執し、今回音隠れを襲撃するに当たってどれだけの賞金首を手にすることができるかを楽しそうに覆面越しでも分かるほどに顔を歪めている。

 

「イタチ、鬼鮫は人柱力の探索を。飛段と角都は陽動。ペインは一塊となって里の中心部を襲撃する。…これより、世界に痛みを!」

 

さらには六体のペインが四人の後ろから現れ、天道と呼ばれるペインの一人が彼らへ指示を下す。

 

音隠れに、不協和音が響きつつあった。

 




多由也ちゃん5歳!はさすがにロリ過ぎてアウトだったのでエロは作れなかったでごじゃる(´・ω・`)

今回はオビトの言っていた「どこに行っても同じようなことばかり」的な台詞からくそったれな世界観を広げてみた話。残念なことに穢土転生の素材がまるで足りなくなりません。
心臓に呪印だなんて、これもうちはマダラってヤツの仕業なんだ(棒読み)
…たぶんあの人こんな調子で悪の種を世界中にバラまいたと思われるんですよね。色々仕込み的な感じで。まあ生き返ったりはしませんけど、そんな外道なマダラさんにも活躍の場は与えられますので好ご期待。
何話先になるかわからないけどね!(泣)

後大蛇丸先生に関してようやく見た目の描写ができました。
これまで激務で消耗している大蛇丸先生は書いてきましたが、なぜ彼がそこまで弱ることになったのか。その伏線を今回書いてます。現在のcvは高乃麗さんくらいをイメージしてます。もう十分かな、とも思いますが。

あと今回死韻一族に関して女が主体のとか書きましたけどオリジナル設定です。風魔一族も同じく劇中を考察して得たオリジナル設定がありますので、近いうちに書きます。
いや実際守り刀全員書いてたらたぶん各一話使うので悩みどころ。ミフネの娘とか作ったんですけどエロいから書きたいんですよね。

補足★説明

・死韻一族
原作では名前しか出てこない一族。アニメだとちらっと出たかも。まあ名前からして多由也の一族だろうと当たりをつけてオリジナル設定を組んでます。楽器を用いて物質霊を操る秘伝忍術の使い手です。

・旧鼠道人
元ネタは同名の妖怪から。この妖怪親を亡くした子猫らを育てたという伝説があったりします。
サイゾウのお母さんことコオネさんの切り札。スケベネズミ。声のイメージは故永井一郎氏。ポジション目玉の親父みたいだけど。
地味に扉間の術を教わっていたりと有能。サイゾウのあんな適当な説明にも関わらず余さず楽器を回収した上に死体まで回収してきたのがその示唆。でも察し良すぎて描写をはしょってるように見えるからあんまり出番ないかも。
忍世界の闇についても詳しかったりしますが、本人は享楽的に暮らすことをよしとしているのであまりそれらに関して口にはしません。
ふざけてばっかりですが本気になると超厄介だったり。ちなみに教わった術は《影分身の術》《天泣》《飛雷神の術》。飛雷神はちょっと難しいので滅多に使いません。
ちなみにこの鼠さんの最も恐ろしい能力は驚異的な読心術。相手が喋る前に微表情などから内容を察してしまえる。
最終決戦で扉間に呼ばれなかったのは穢土転生だったからってことで。あれ血出せないし。

・屍一族
全身に入れ墨をほどこした一族。毒の扱いに長け、女の内臓を材料とした呪毒と呼ばれる特殊な毒でひとを操ると言われている。第一次忍界大戦において今回見られたような惨劇を起こしたため、これを見たマダラによって一族のことごとくが殺され実質滅びている。死韻一族は屍市尾属の男が用いた麻痺毒で捕らえられた。見た目のイメージは幽白の画魔(化粧後)。


ではまた次回をお楽しみに~


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

不協和音 ② ★

パない疲れた。

投稿まであと約四時間。ちなみにこれ書き上げたのも同じくらい。死ぬ。

とりあえず寝ます。

今回は前半が音の設立の続き。後半は暁襲撃の続き。


たった二人の忍を相手に落とされた田の国。

 

大名が為した鬼畜の所業が明らかになったこともあり、住民らがさして反感を覚えることはなかった。

 

これまで大名が先代以上に年貢の量を増やしていたことなども大きいのだろう。

 

だが武士と大名。それら搾取する存在の消滅は、民に期待と不安を残した。

 

ただでさえ豊かな土地。それはすなわち何もしていなくとも他国から侵略の対象とされるということ。

 

いくら鬼畜の所業を繰り返したとはいえ、戦力としての忍を雇っていたのは彼ら大名と武士らなのだ。

 

その彼らがいないということがどれだけの無防備を招くのか。

 

しかし民らは、明日をも知れぬ恐怖に苛まれなかった。

 

ある猟師らは、城が焼け落ちてから夜な夜な山を押し退け森を切り開く巨人を見たという。

 

またある山菜採りの少女は、一夜にして一面竹林と化した森を見たという。

 

またある農村の子供らは、仮面をつけた忍らが村を守ってくれてると口を揃えて言っていた。

 

これらすなわち、すべてサイゾウの所業である。

 

仮面をつけた忍はサイゾウの竹遁分身と彼に保護された忍達である。

 

夜な夜な開発されていたのは音隠れの里を切り開くサイゾウの“完成体須佐能乎”。

 

森一面が竹林と化したのは、音隠れ全周を覆うように展開されたサイゾウの《竹遁・竹林降誕》で築かれた結界兼用の防護林である。

 

さらにそれから二週間後。

 

正式に田の国の大名を、木の葉隠れの火影であるサイゾウが名代として継いだ。

 

横紙破りな方法ではあったが、彼が正式に大名に連なる血族であることを公表したのが大きい。また表面上は田の国の代表として大蛇丸と契約を交わしたことになっている。

 

これと同時に音隠れの里が発足。額当てに音符が刻まれた、五大国においても火の国は木の葉隠れに匹敵する血継限界や秘伝忍術の使い手らを主体とした隠れ里である。

 

もちろん、他国はこの状況に手をこまねいていたわけではない。

 

雷の国に至っては火の国に抗議文を送ったほどだ。

 

だが大名という希少な人脈を持つサイゾウによるハニートラップに引っ掛かった雷の国大名は即座にこれを撤回。休戦条約こそ結ばれることはなかったものの、この事態に四代目雷影は激しい怒りを覚えたという。

 

さらに、音隠れの里が立ち上げられて間もなく、次々と音隠れに同盟を求める声が上がった。

 

設立にも関わった木の葉隠れはじめとして、滝隠れ。湯隠れ。霜隠れ。草隠れ。

 

木の葉以外は小国の隠れ里とはいえ、どこも三度に渡る大戦を潜り抜けた生え抜きの里である。

 

それら複数の里が同盟を為すことは、もはや木の葉を頂点においた一大軍事同盟に近い。

 

これらのことを強引とも言える手法で進めたサイゾウは、そのことを聞いてきた上忍のイルカにこう答えている。

 

『まあ、たしかに強引だな。下手をすれば戦争になってもおかしくないだろう』

 

イルカはあっけらかんと言う己の上司に驚き、さらに問い詰める。

 

『でしたら、どうしてここまで強引なことを?』

 

『なあイルカ。恨み、って感情は案外根深い。三代目はひとの可能性を信じてかつて岩との和平交渉において一切の賠償を求めなかった。だが、それじゃダメだというのはわかるな?』

 

『…はい。それが原因であの方は火影を降任することになりました』

 

『そうだ。ひとの恨みは根深い。なんらかの形で清算してやらなきゃ、絶対に残るものだ。“呉越同舟”なんて言うがな、あんなもん嘘っぱちだよ。いざ追い詰められてみろ、計ったかのように最悪のタイミングで口をついて不満が出てきやがる。そうなったときは何をやっても手遅れだ…』

 

それは戦争を経験したからこその言葉であり、己自身過酷な任務はいくつ受けていても戦争を直接知らないイルカはサイゾウの鬼気迫る気配に問い返すことができない。

 

『だからこそだ。なにも木の葉隠れが世界を支配しようだなんて考えちゃいない。だが今の五大国は“拮抗しすぎている”。戦力としてのみ、な。本来なら、島国で構成された水の国はもっと偏った戦力になってもおかしくはない。本来なら、砂ばかりの土地で構成された風の国はもっと貧しくてもおかしくない。それら前提を覆しているのはなんだ?』

 

サイゾウが言っていることに気づいたイルカは、自身の想像が違っていることを期待しながらも、至ってしまった結果に顔を青ざめさせる。

 

『…俺たち、“忍”ですか』

 

『そういうことだ。なまじ柱間様が尾獣なんぞ配ったから、五大国の隠れ里は戦力として安定してしまっているんだ。それ単体で国ひとつを滅ぼせる兵器である人柱力。そんな風にしか考えてないもんだから、他の部分も追い付こうと無茶なことをどこの里も繰り返す』

 

イルカはサイゾウが指摘している問題が木の葉にも及んでいることにも気づいた。

 

かつて木の葉において行われた狂気じみた実験。初代火影千手柱間の細胞を移植することもそうだ。

 

霧隠れにおいては厳選した“忍の質”を維持するために“根”と同じ殺し合いを子供らに強要した。

 

砂隠れは日々低下していく国力を守る為に、例え英雄と呼ばれた忍であっても形振り構わず忍を切り捨てていった。

 

雲隠れは手段を問わず血継限界や秘伝忍術を集め、国境沿いでの小競り合いが耐えない。

 

岩隠れは独立独歩の性質が強すぎて、いまだにどこの里とも休戦条約を結んでいない。

 

『わかるか、だからこその同盟だ。後の平和を作るためにはある程度まとまった力が必要になる。半端に理想論を説いて、現状を維持して。三代目を悪く言うつもりはないが、俺はそんな風にただ構えて木の葉の者を犠牲にするつもりはさらさらない』

 

力強いサイゾウの言葉。だがイルカはどこか納得できない風でいる。

 

今のサイゾウの言葉は正しい。力が無くてはなにも守ることができないのは、彼自身痛いほどよく知っている。

 

『納得できない様子だな。それでいい。俺ができるのは、精々お前ら“後に続く者達”が歩きやすいように道を整えてやることだけだ。悪名も憎しみも、すべて俺が引き受けてやる。後の世の平和は、お前達が築いてくれればいい』

 

サイゾウが笑うその姿に、イルカはなんとも言えない哀しみを覚えて顔を伏せるのみだった。

 

木の葉を中心とした軍事同盟の影響は大きかった。

 

自然と五大国は木の葉を警戒し、監視するようになる。一種の冷戦構造の始まりであった。

 

これがサイゾウの狙いでもあった。実際、今のサイゾウが本気になれば五大国の内三つは確実に滅ぼせる。

 

形振り構わなければ、すべての国を焦土と化すことも可能だろう。

 

穢土転生、竹遁、そして完成体須佐能乎をはじめとした万華鏡写輪眼の力。その上彼には輪廻眼まであるのだ。

 

そんな彼を他国や他里が警戒しないはずがない。

 

だがサイゾウが自身を弱く見せる意味がないし、彼が弱い振りをしたところで誰も信用などしない。

 

であるならば、生半可なことでは手出しできないようにすること。

 

それがサイゾウの狙いであり、整えられたかのようになだらかな戦力バランスを崩す意図が今回の行動には含まれていたのだった。

 

さて、音隠れの戦力を改めて整理しよう。

 

新参であるとはいえ、里においての血継限界や秘伝忍術を扱う者の数は木の葉に匹敵する。

 

サイゾウを慕って集った女達もそうだが、他にも風魔一族、死韻一族、イブリ一族といった元々強力な忍術を扱う一族。

 

桃地再不斬、林檎雨由利といった元忍び刀七人衆であった者達。

 

仙鬼一族、かぐや一族といったすでに一族が滅びた者の生き残り達。

 

さらにはこれらの中から選りすぐりの者達を防衛戦力の要として配置されたのが、【音の守り刀十傑集】。

 

主に十傑集として呼ばれる彼らは、【壱の刀】から【拾の刀】まで存在し、大蛇丸やサイゾウから任命の証として希少な草薙の剣の一振りや千手柱間の扱ったチャクラ刀などを用いる。

 

そしてそれらをまとめあげているのが、かつて木の葉において『伝説の三忍』と呼ばれた男。大蛇丸である。

 

彼は不屍転生を諦めたことから肉体的には弱体化しつつあったが、長年の研究の末に柱間細胞の制御方法を確立。

 

一定水準を越えるチャクラを持つ者であれば、重傷であっても癒すことが可能となる術《再癒活性の術》を作り出す。

 

肉体的にはほぼ完全に女性化しており、彼の美貌に血迷う者が後を絶たないとも言われている。

 

そんな大蛇丸であったが、彼の激務はあるときを境にその殆どを軽減された。

 

その立役者こそ、かつて田の国の城において饗宴に参加しなかったひとりの若武者である。

 

名を大崎九郎という。見た目は細面の冴えない青年だが、彼の実務能力は大蛇丸をして「思わぬ拾い物」と言わしめるだけの才能を有していた。

 

彼は、恐ろしいほどに計算能力が高かった。元々商人の家に生まれたらしく、その高い算術能力を活かせないかと考えたひとりの老中による養子縁組によって彼は武士となった。

 

だが、彼を抜擢した老中は饗宴をはじめようとした大名を諌めたことで処刑。ここから、彼の人生は狂い始める。

 

行き場を失った彼は、各村を回る徴税官としての役割を与えられた。

 

ここで彼ははじめて才能を発揮。行く先々で計算を誤魔化していた先任の徴税官を問い詰め、また彼の護衛として同時に左遷された武士が元城勤めだったこともありその手腕は大名にまで届くことになった。

 

これを聞いた大名は彼を手元に置き、最近滞りがちとなっている政務の一部をさせてしまおうと考えてた。

 

念願の城勤めが叶った彼であったが、自分を推薦してくれた護衛の武士は城に着くなり行方が知れなくなってしまっていた。

 

そして若輩である彼に任されるには、あまりに膨大な量の仕事をどうにかこなしながらあるとき事件は起きた。

 

サイゾウと大蛇丸による襲撃である。

 

彼は、任されている仕事柄饗宴には参加させてもらえなかった。

 

城で何かが行われているとは思っていたが、これまでそのことに関わってきたと思わしき人間が尽く死ぬか行方不明になっていることから彼はあえてそのことに触れなかった。

 

そして城に鬼が現出し、彼は失禁して気絶した。

 

次に彼が目を覚ましたとき、そこにいたのは白塗りの肌に長い髪をお団子にまとめた美貌の忍─大蛇丸─だった。

 

美麗な声で語りかける彼の声に聞き惚れながらも、九郎はその話が田の国の大名に近しいことになるにつれ顔をしかめていった。

 

ひとりの人間がきっかけとなって起きた狂気。死体を見せられ、図らずも自分がそれを増長させる行為に関わっていたことに思わず吐く彼を、大蛇丸は優しく説き伏せた。

 

彼の能力を大名の記憶から知っていた大蛇丸は、彼から大名の仕事に必要な知識を一通りまとめさせると、彼を解放した。

 

解放された九郎であったが、どうしてよいかわからなかった。実家に戻ることも考えたが、それ以上に彼のなかで大蛇丸の存在感は大きくなっていた。

 

“あの美女の為になりたい”。そう考え、一念発起した彼は田の国のみならず各国を商人として渡り歩く。

 

それは危険な旅だった。時折護衛を雇いながら、雇った忍に別で料金を払い忍に関する情報を仕入れる日々。

 

しかしそんなことを繰り返していれば、警戒されて命を狙われるのは当然である。

 

霧隠れの忍によって追い詰められた彼を救ったのは、かつて彼のなかに“鬼”として絶対の恐怖の象徴と化したうちはサイゾウであった。そこは折しも、かつてサイゾウがカエデと任務と閨を共にした菩提岬だったからだ。

 

サイゾウは彼が誰かを気づいていなかったが、その並々ならぬ覚悟からしばしの間竹遁分身を彼につけ旅に同行させることにした。

 

気まぐれではあったが、こうして無敵無類の護衛を供にした九郎は五大国以外にも様々な国を回った。

 

匠の国、錠前の国。

 

鉄の国、林の国。

 

また旅の途中でサイゾウはひとりの少女を助けることになるが、その話はまた別の機会に語るとしよう。

 

こうして、およそ五年近い時間をかけて音隠れへと帰ってきた九郎。

 

すでに彼が誰かを思い出していたサイゾウの伝を使い、大蛇丸へと直談判する。

 

すなわち、自分を雇えと。

 

彼を雇ったことで、大蛇丸はまずまともな睡眠時間がとれるようになった。

 

実務能力が優れた者とは、一体なにが優秀なのか。

 

まずひとつが計算能力である。これは九郎が元々備えていたものであったが、各国を巡りながらも絶えず磨いてきた算術の能力はもはや暗算で予算編成を行うほどである。

 

次に知識量。忍に関する知識が絶対的に不足していた彼は、貪欲に各国を巡りながらそれらの知識を吸収していった。

 

途中から旅に同行することになったサイゾウの竹遁分身からも、まるで真綿が水を吸い込むように次々と知識を吸収し、その知識はやがて各国の国力比にまで及んだ。

 

最後に相手が何を望んでいるかを察する洞察力。途中旧鼠道人を師匠として派遣したサイゾウは、あまりの優秀さになんとか彼が木の葉に来るようにできないか本気で考えたほどである。

 

こうして、音隠れの里は鋭利な懐刀を手にいれることになる。

 

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

「ひゃーはっはっはっは!ほらほら逃げろぉ!」

 

大鎌を振るい、ひとりの男─飛段─が血に酔っていた。

 

「…ふ、こいつも賞金首か」

 

ニンマリと口許を笑みで歪ませた男─角都─がたった今殺した忍から心臓を抉り出しつつ己の持っていた心臓として“追加”し、その巨体をさらに肥大化させる。

 

逃げ惑う民衆を散らしながら、彼らは己らに課せられた役割を果たしていた。すなわち陽動である。

 

そのことには民衆の盾となっている音忍らも気づいてはいたが、とはいえ彼らに民衆を見捨てるという選択肢はなく、彼らはここで命を捨てる覚悟を決めていた。

 

「よぉし、お前に決めたぜ!喜びなぁ、お前をジャシン様への供物として─えぶっ!」

 

「飛段!─ぬぉ!?」

 

飛段と角都。彼らは突如として地面から生えてきた無数の骨に襲われ、逃げ遅れた飛段は全身を骨に貫かれて見るも無惨な姿になっていた。

 

「無事か」

 

「は、はい!」

 

「では下がってお前は避難の誘導に当たれ。…仲間の敵は俺が取ってやる」

 

「わかりました、お願いします─君麻呂様!」

 

君麻呂と呼ばれた少年は、無表情な面立ちに静かな怒りを浮かべながら、腰へ手をやりひとつの“柄”を取り出す。

 

「貴様、楽に死ねると思うなよ…!」

 

「─なんだ、俺が生きてるのに気づいてやがったか」

 

そう言いつつ、自身を貫いた骨をあっさり砕いて戦線に復帰した飛段。抜くのと同時に回復したのか、すでに彼の体は“傷が塞がっている”。

 

「お前こそ、俺を殺せると思ってるんならお笑いだぜぇ?」

 

笑みを絶やさない飛段の不気味な様子に、しかし対峙する君麻呂は表情を崩さない。

 

「大蛇丸様の里を襲い、あまつさえそこに生きる民を傷つけたこと。それすなわち、大蛇丸様の血を流させたことと同じこと…!その罪万死に値する!」

 

君麻呂は手にした柄から骨の刀を生やすと、飛段へと向かっていく。飛段もまた、大鎌を構えて君麻呂を迎え撃つ。

 

だが接近した君麻呂は大鎌を片手の骨の剣で受け止めると、おもむろに指を揃えて飛段へと向ける。

 

「《十指穿弾》!」

 

君麻呂の指から発射された骨の弾丸は文字通り飛段の全身を穿ち、食い込み、破壊していく。

 

しかしそれだけでは終わらない。君麻呂は己の肩から“ずるり”と音を立てて骨を取り出すと、その形状を片手に持つ刀に似たものへと変えていく。

 

「《椿の舞》!」

 

十指穿弾で吹き飛ぶ飛段へだめ押しを加えるかのように、君麻呂は追撃を加えていく。次々と刺さり削られていく飛段ではあったが、君麻呂は防御しようとすらしないその姿勢を見て早々に切り札を切ることにする。

 

「《灰骨の劔(つるぎ)》…!!」

 

君麻呂がチャクラを込めると、途端に柄のある骨の剣、その刀身がぼろぼろと崩れていく。

 

「ぐっ…があああああっ!!」

 

それによって突き刺された飛段がはじめて苦悶の表情と共に悲鳴をあげ、のたうち回る。

 

すると、刺さった刀身が消滅するのと同時に飛段の体が崩れていく。

 

《灰骨の劔(つるぎ)》。それは君麻呂が大蛇丸より与えられたチャクラ刀の名前でもある。

 

千手柱間が振るったチャクラ刀のなかでも特に強力な刀二つを鋳溶かし、材料として作られたのが君麻呂が持つ“柄”の正体である。

 

かぐや一族という、かつて一族単体で霧隠れの里に挑み絶滅した一族。それが、君麻呂の前身であった。

 

牢に幽閉され、死を待つのみであった君麻呂であったが、そんな彼を救ったのが大蛇丸だった。

 

兵器として、武器として扱われてきた日々。大蛇丸はそんな君麻呂へ愛情を持って接し、彼を“人間”として育て上げた。

 

やがて成長した君麻呂は、己の一族の命運も、すべて目の前の大蛇丸と出会うための犠牲だったのだと悟るようになる。

 

その結果、彼は狂信的に大蛇丸を信望するようになった。大蛇丸自身に諌められるのでそれほど表面には出さないものの、日常的に彼の側に使え雑務をこなしている。…九郎とは、いろんな意味でライバルであったりする。

 

《灰骨の劔(つるぎ)》を受けて崩れ落ちていく飛段。その様子を見て、君麻呂は即座に視線をもうひとりの侵入者である角都へと向ける。

 

だが、角都はひとりニヤニヤと笑っているだけであった。

 

「なにがおかしい。貴様の相棒はすでに死んだぞ」

 

「くくっ、くっくっく…!死んだ?いったい誰が死んだというのだ」

 

「そういうことぉ!」

 

君麻呂は突如として後ろから切りかけられ、“わずか”に腕を切られてしまう。

 

そんな君麻呂の血を舐めとりながら、さきほど崩れ落ちたはずの飛段は崩れ落ちる前と変わらぬ姿で君麻呂の血を大鎌から舐めとっていた。

 

「ヒャハッ!これで終わりだぜお前ぇ!」

 

「なにっ!?」

 

君麻呂は突如として地面より現れた呪印によって動きを封じられる。

 

さきほどの意趣返しと言わんばかりに、封印した場所はさきほど君麻呂が飛段を貫いた部分であった。

 

「お、おのれっ…!」

 

焦る君麻呂であったが、呪印はすぐに外れそうにない。

 

時間をかければなんら問題ない強度ではあったが、今現在対峙する飛段を相手にそれは得策とは言えなかった。

 

「極上の供物ですよジャシン様ぁ!今捧げます…!!」

 

そう言って、己の心臓を大鎌の柄に当たる部分で刺し貫こうとして───飛段は強烈な風に吹き飛ばされた。

 

「《颱遁・暴風裂波》!」

 

放たれた暴風は飛段の体をもみくちゃにし、全身の骨を砕きながら吹き飛ばしていく。

 

「ぐっ、そうか、自分のダメージを相手にも押し付ける忍術か…!」

 

不死身であるがゆえに成立するとんでもない戦法ではあるが、君麻呂は颱遁によるダメージを己の特異体質で無理矢理治しながら、自分を援護してくれた人物へと礼を述べる。

 

「助かったぞ、幻幽丸」

 

「すまない君麻呂、お前にまでダメージが行くとは…!」

 

慌てて君麻呂に謝罪する少年、幻幽丸。彼は元々田の国を拠点としていた風魔一族のひとりである。

 

穢土転生によって一時蘇った姉の言葉をきっかけに限界を越えて鍛えた彼は、今では一族の長足る名前をすでに与えられていた。

 

すなわち─幻幽丸小太郎─。

 

「無事か、君麻呂」

 

「重吾…」

 

さらに遅れて現れた少年─重吾は、飛段に傷つけられた忍をいつのまに回収したのか、足元に寄せた彼らへ手をかざし、己の血肉を文字通り分けて癒していく。

 

「重吾…!それを使ったら君は!」

 

うろたえる君麻呂だったが、重吾は微笑むだけで治療を止めようとはしない。

 

「ああ、しばらくは戦えないだろうな。だが“この程度”の相手、お前と幻幽丸なら十分だろう?」

 

「勿論だ。君麻呂、さっさとこいつらを仕留めて一度里の守りを固めるぞ」

 

「承知した。重吾、治療の邪魔はさせないから安心しろ」

 

余裕すら見せる三人の少年。それを見て角都はイライラとした気持ちを隠そうともせず、飛段と共に並びながら外套を脱ぎ捨て全身のあちこちに移植された顔をむき出しにする。

 

肥大化した全身に浮かぶ顔の数は“十三”。角都はそれぞれチャクラを高めながら、飛段へ再び儀式の準備をはじめさせる。

 

「早いところこんなガキは始末して、残りの賞金首を追うぞ!」

 

「やるね旦那ぁ、じゃあ俺もちょいと本気出しちゃうかな!」

 

そう言って、すでに身の丈三メートルはある角都は禍々しい顔を触手で浮かばせながら揺蕩わせている。

 

対して飛段は、視認できるほどに濃い赤黒いチャクラを身に纏い、自身の身体を活性化させていく。

 

音を崩さんとする不協和音は、今だ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 




ちょいと色々限界なので今回あとがきは短め。

あとで追記修正します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【番外異伝】鉄の少女、竹の分身、童貞の旅路

質問に答えていただいた方ありがとうございました!
とりあえず普通の現実世界と同じに扱います。
ボルトでクレジットカード出てきた気がするのであることにしてブラックカードとか普通に使わせます!(´・ω・`)(笑)


にしても勢いで書いてたら前半と後半のノリがエラいことに!!

本当は不協和音の③だったのに、色々と長すぎたので【番外異伝】扱いに。

今回は作者いちおちのオリキャラ美甘ちゃん登場なのに台詞が全然ないっていうね!(泣)

とりあえず早いうちに不協和音の③をあげます。

時期的にはメインの時間軸はサイゾウ(竹遁影分身)と大崎九郎の旅路が空白の八年間での出来事。
前半での回想がその出だしなので少なくとも7~6年前。
どれもうちは事変より前の出来事です。

ではお楽しみください。


⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

岩隠れにある、大きな歓楽街。

 

女郎部屋や賭場が立ち並ぶ場所で、顔の半分を覆面で隠した竹遁影分身のサイゾウと細面の男─大崎九郎─は歩いていた。

 

「あまりこういった場所は好みませぬ。…まあ、必要だというのは理解できますが」

 

不承不承といった様子でやや眉根を寄せて呟く大崎の様子に、サイゾウは苦笑を浮かべて答える。

 

「ま、あの饗宴を真っ向から嫌悪したお前ならそう言うのもわからんではないがな。だがこういった人の欲がむき出しになった場所ほど学ぶことも多い。どうだ、金なら俺が出してやるからその辺で女と遊んでいかぬか?」

 

「お断りします。私の童貞は大蛇丸殿に捧げるのみです」

 

「お前やっぱすげーよ」

 

思わず素に戻りながら、サイゾウは横に並ぶ細面の男をからかう。

 

 

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

 

サイゾウが大崎九郎と出会ったのは、まるっきり偶然であった。

 

波の国で近年取りかかっている大きな橋の出資者として名を連ねるサイゾウは水の国に程近い歓楽街に来ていたのだが、そこで忍に後を尾行(つ)けられている男の姿を目撃した。

 

尾行しているのが見覚えのある霧隠れの上忍であることを看破したサイゾウは、その男が追う相手がどう見てもド素人であることに興味を持った。

 

同じ疑念は男を追う上忍─青─も感じているようだったが、その視線には殺気が込められている。

 

サイゾウはさりげなく二人の後を追い、やがて細面の男がなにやら懐から巻物を出し、そこに書き記し出したのを契機に青が飛び出した。

 

男はまるで気づいていない。このままではなにが目的かはわからないが、男はあっさり殺されるだろう。

 

なので、サイゾウは割って入ることにした。

 

「っと!はは、危うい危うい」

 

「ぬぐっ!き、貴様何者だ!」

 

毒の塗られた苦無を硬化した掌で握りつぶし、下に落としながらサイゾウはニヤつく。

 

「なに、目の前で人殺しが起きそうになっていたからな。慌てて止めたまでよ」

 

「くぅ…!どこの忍か知らぬが余計なことを!」

 

激昂する青だったが、自分が突っ込む速度よりも早く目の前に割り込み苦無を受け止めたサイゾウを最大限に警戒していた。

 

(霧隠れの術で視界を消して逃げるか…いや、それでは任務が果たせない)

 

思案しながら腰のポーチから新たに手裏剣を取り出す青。手袋をはめた掌に握られている手裏剣の色を見れば、そちらにも毒を塗ってあるのがわかる。

 

「はっはっは!なんの毒かは知らんが、やめておけ。俺にそんな毒は通じんぞ。なにせ、日常的に毒を盛られているからな!」

 

これはハッタリではなく、事実であった。

 

孤児院の経営者であり、マザーの名でも知られる薬師ノノウ。彼女との付き合いはそれなりに長いサイゾウだが、他の女の気配が少しでもする度にサイゾウは毒を盛られている。

 

最近では普通の痺れ毒では効かないのでもっぱら致死量の毒をさらっと盛られているが、柱間細胞の影響かはたまた輪廻眼の影響か、サイゾウにはまるで効果がなかった。いや、あるにはあったのだが次には効かなくなっていたいのだ。

 

「わけのわからないことを…!」

 

構える青だが、いまだに自分のことを思い出さない青に焦れたサイゾウは改めて目の前の霧隠れの上忍に問いただす。

 

「それにしてもあれだけの目に遇わせてやったというのに、まだ思い出せないのか。青、お前この顔を忘れたか?」

 

「貴様のような男の顔など…!顔…な、ど…!」

 

じっくり見ていなかったのであろう。青はサイゾウの顔をまじまじと見つめると、萎んでいく言葉と共にその表情を名前通りに蒼白に染めていく。

 

「お、お、お!お前はぁ!?」

 

「いやぁ、懐かしいな青。で、どうだ。あれから腹の調子は?」

 

「こ、この…!どの面下げてそんなことを!!」

 

サイゾウと青の出会いは大戦時に遡る。

 

霧隠れとの国境沿いにおいてかつて尾獣と戦ったサイゾウであったが、その後遺症としてしばらく拳が使い物にならなくなっていた。

 

そこでしばらくは大蛇丸の研究を手伝っていたのだが、それでも普段が激しい任務であるばっかりに暇ができる。

 

そこでサイゾウは、暇潰しに作った罠でひとりの忍を生け捕りにしていた。

 

それこそが青である。

 

別に殺すつもりもなかったサイゾウであったが、運悪く捕まえたのが大蛇丸にバレてしまった。

 

メイのように体と引き換えに解放するつもりにもなれず、困ったサイゾウは最近開発した新薬の実験台にすることにした。

 

これは服用すると急激な腹痛を起こし、吐き気と下痢の症状を繰り返させる毒薬である。

 

しかも感染するこの毒は潜伏期間が長く、解放しても霧隠れの拠点でこの男が発症すれば体よく拠点がひとつ潰せると解いたのだ。

 

…もちろん、建前である。サイゾウとてゲロとウンコまみれになった霧隠れの拠点など見たくもない。

 

そこで、サイゾウは青に選択肢を与えた。

 

服用すると感染作用はなくなるが、症状が強くなる解毒剤を飲むか。

 

服用すると症状はなくなるが、感染作用だけが強まる解毒剤を飲むか。

 

青は、前者を選んだ。

 

サイゾウはせめてもの情けとして水と食料を持たせ、彼を解放した。その後青がどうなったかはお察しである。

 

「たしかに貴様のおかげで霧隠れに被害は出なかった!だが、その代わりに俺は三日三晩下痢で苦しみ救出に来た仲間からも敬遠される始末…!あげくの果てに一度落ち着いたかと思ったら症状がぶり返して、俺はよりによって水影様の前で…!!!!」

 

「おおぅ…そ、それは大変だったな。まあ、なんていうか命は助かったんだし。な?…ぶふぅ!」

 

「笑ったな!?今笑ったなこの俺を!ええい、助けられた恩など知ったことか!ここで殺してくれるわ!」

 

追いかけっこをはじめてしまったサイゾウと青。サイゾウは笑いながら青からの攻撃を避けている。

 

その場には、置いてきぼりの大崎九郎だけが残った。

 

__________________________________

 

 

その後、適当に青を撒いたサイゾウは再び大崎九郎の前に現れていた。

 

「で、なんでお前はそうまでして調べものをしているんだ?」

 

サイゾウによってあっさり捕らえられた大崎九郎は、細面にどこか覚悟を乗せてサイゾウと向き合っている。

 

なんら抵抗などできないはずなのに、異様な落ち着きようであった。

 

「…私は、あの方に報いたいのです。私をはじめて慰めてくださった、あの大蛇丸殿に!」

 

「ぬ?」

 

「あなたが誰かはさきほどのやり取りの最中、気づいておりました。私の名は大崎九郎。かつて田の国にて大名に仕えていた者の生き残りです」

 

「あのときの男か…!」

 

驚くサイゾウを尻目に、大崎の独白は続く。

 

「はい。わたしは気絶したあと、目を覚ましたときそこにはあの大蛇丸殿がいらっしゃいました。白磁のごとき肌、結わえた髪から匂い立つような色気を醸し出す、あの方に!」

 

「えー…」

 

「一目見て、誰かに目を奪われたのはアレがはじめてでした。思えば私には算術しかなかった。それだけを買われ、生きてきましたが、あの城で私の知らぬ間にあんなことが起きていたなどと…!私は真実を聞かされ、むごたらしく殺された者の死体を見せられて、嫌になってしまったのです。ですが、大蛇丸殿はそんな私の頭を優しく撫で、諭してくれました。私はできることをやっていただけなのだから、と。そのとき背筋を走った電流は、えも言えぬ快美なる刺激となって私の脳髄に革命を起こしました!すなわち、この方に童貞を捧げたい、と!」

 

「…あー、うんうん。聞いてる聞いてる。それで?」

 

「ですが、私に出来るのは算術のみ。聞けば大蛇丸殿は里を起こし、田の国も含めた統治をするとの話ではないですか。できることなら即座にあの方の助けになりたかった…!ですが半端な私ができることなどたかが知れています。そこで、世界を巡り片っ端から情報を仕入れることにしたのです。食事から服装、住居に至るまで。また忍の方を雇って装備や忍具についても聞きました。…追加料金を取られてしまいましたが、致し方ないでしょう。今現在雲隠れと霜隠れ、滝隠れと湯隠れの里は見聞を終えました。霧が終われば木の葉に入り、ゆくゆくは砂と岩についても調べるつもりです」

 

「…また、随分と壮大な目標だな」

 

のろけ話が終わり、大崎と名乗る男の目的がなんとなく見えてきたサイゾウは彼の話を本格的に聞くために体勢を変える。

 

「いいえ、大したことではありません。よかったらまとめた資料がありますので見ますか?」

 

「いいのか?」

 

「ええ、構いません。むしろ、大蛇丸殿に近しいあなただからこそ見ていただきたい。…一応確認したいのですが、恋仲などではないですよね」

 

「次それ言ったらぶっ飛ばすぞ」

 

「おお、それはよかった!…で、資料の方はいかがでしょうか?」

 

サイゾウは改めて目の前の男の顔を見る。

 

まとめられた資料はざっと目を通しただけだが、そこに書かれた内容はあまりに詳細にすぎていた。

 

隠れ里と街や関所との距離。果ては隠し拠点と思わしき場所の簡易地図まで乗っている。

 

こんなものを作っていれば命を狙われるのは当然である。

 

「算術が得意だと言っていたな。…よし、ちょっとこれを読んで簡単に予算をまとめてみてもらえるか?」

 

サイゾウが渡したのは、今現在建設中の波の国にかかる橋に関する予算の書類。もちろん一部ではあるが、サイゾウは戦いではないにも関わらず強敵を前にしたような首筋をチリチリと焦がす感覚に苛まれていた。

 

「少し時間をいただけますか?五分ほどで構いません」

 

「五分?いや別に構わないが…」

 

言いながらサイゾウはブツブツ呟きながら手元に出したメモにすらすらと記していく大崎の手際を見て顔をひきつらせていた。

 

「できました」

 

「三分と経ってないぞ…」

 

そこに書かれた計算結果を見て、サイゾウは固まる。

 

いかに一部とはいえ、複数の出資者の思惑が絡む一代事業。予算配分は膨大であり複雑怪奇。そこに各陣営の意図まで含まれるのだから満場一致はあり得ない。それでも毎度苦労の末にまとめているのが予算なのだ。

 

一部とはいえ計算にも参加したサイゾウは大崎が間違えればすぐにわかる。だからこそ、気づきにくいが間違っている計算はそのままにしてあった。

 

「一応計算が間違っている部分はこちらで手直しさせていただきました。また、他の予算との配分傾向や詳細から無駄と思われるものを洗い出しておきました。さらに詳細な資料がいただけるならもっと詳しく書けるのですが…」

 

どこか不満そうな大崎。

 

サイゾウは満面の笑みで大崎に話しかける。

 

「…大崎、言い値で雇ってやるから木の葉に来ないか?」

 

「これは異なことを。私は大蛇丸殿に仕えると言ったではないですか」

 

「デートでもなんでもさせてやる。俺は火影であの人の弟子だ」

 

「でえとですと!?い、いやですが私はあの方に仕えると…」

 

「わかった。お前の好みの服装を言え。バニーでもチャイナでも好きなの言え。あの人に着させてお前の前に連れてきてやる。いいか、口説くときは相手を押し倒しながらだ」

 

「ななななにを言ってるんですか!?私は童貞です!」

 

「わかった、じゃあこれから卒業しにいこう。でもってついでにアナルセックスの仕方を教えてもらってだな…」

 

「いい加減にしてください!私の童貞は大蛇丸殿に捧げるのです!他の女性に捧げるなど言語道断です!」

 

「じゃあどういう条件だったらいいんだよ!」

 

「最初から言っているではないですか!」

 

ふたりのやり取りは朝まで続いたが、結局どうあっても折れない大崎にサイゾウはせめて彼の技術を学ぼうと旅に特製の竹遁影分身を連れていかせることを了承させる。

 

こうして、五年に及ぶふたりの旅ははじまったのであった。

 

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

 

繁華街を進む大崎九郎とうちはサイゾウ。

 

覆面をして正体を隠すサイゾウの竹遁影分身だったが、見るものが見ればわりとばればれであったりする。

 

そもそも隠しているのはかつてのカカシのように顔の下半分であり、本体との違いも額にある大きな黒い点だけだった。

 

───最初、その少女に気づいたのは大崎だった。

 

彼は自分には算術しかないと言うが、それは違う。サイゾウは彼の観察力も買っていた。

 

その異常なまでの観察力は、幻術の違和感すら察してしまうほどのものだったからだ。

 

「…あの少女は、いったい何があったのでしょうか」

 

「どれどれ」

 

少女、という言葉に反応したサイゾウが眼を万華鏡へと変化させ大崎が指差す方向へと向ける。

 

万が一何らかの幻術だったとしても、万華鏡写輪眼の瞳力ならば見抜くことはできる。

 

だが満を持して見た先には、手に枷をはめられ縄を引かれて連れていかれる少女の姿があった。おまけに少女の頬は赤く腫れており、つぶらな瞳には涙も浮かんでいる。

 

「よし、行くぞ」

 

「お手柔らかにお願いしますよ」

 

サイゾウは大崎を連れて少女を連れ歩く女衒へと近づいていく。

 

「ちなみにどちらに付くので?」

 

「女!」

 

「聞くまでもないですね」

 

ため息を吐きながらも、大崎の足取りは軽い。

 

彼はこうして時おり見せる、サイゾウの“弱きを助け強きをくじく”行動が好きだった。

 

…実際は違うのだが、少なくとも表面的にはそういう行動を取っている。

 

いよいよ到着すれば、少女は泣きじゃくりながら必死の抵抗を見せていた。

 

「いやだっ!離すでござるっ!」

 

「くそ生意気な小娘がっ!」

 

散々に抵抗されただろう。生傷の目立つ女衒の男が少女の腹を殴る。

 

「あぐっ…!」

 

「優しくしてればつけあがりやがって…!もういい、ここでもう一度躾をしてやる!!」

 

吐き捨てながら少女を殴り蹴る男。

 

見れば男の体には噛み痕や大小のアザや擦過傷もある。…噛みつかれ蹴られひっかかれ、そういった行動の果てに起きたうっぷんを晴らす行為だったのかもしれない。

 

だが、この男の前でやるべきではなかった。

 

「はい、そこまで」

 

「な、なにしやがる…があっ!?」

 

サイゾウは怒りのあまり自分を殴ろうとする女衒の腕を掴んで止めるが、岩をも握りつぶすサイゾウに掴まえられたせいで女衒の男は苦悶の声をあげる。

 

「別にお前の商売を邪魔するつもりはねーよ。ただ、場所くらい考えな」

 

「…サイゾウ殿、少しよろしいですか」

 

「なんだ?」

 

サイゾウはへし折れんばかりに握っていた女衒の腕を離し、小声で語りかけてきた大崎へと耳を近づける。

 

「…あの少女、助けられませんか?」

 

「…なに?いや出来なくはないが、何かあるのか?」

 

「…はい。私の記憶が間違いなければ、あの少女は鉄の国の侍大将ミフネ殿の娘です」

 

「…わかった」

 

少ない会話だが、サイゾウは大崎のこういった情報を信用している。伊達に大名の仕事を肩代わりさせられてなどいない彼は各国の要人の容姿にも詳しい。さらに彼の持つそういった情報は、旅を経て膨大なものへと昇華されていた。

 

「おい女衒。このガキ、いくらだ」

 

「なんだてめえ、人の商売にケチ付ける気かこらっ!」

 

腕を押さえ腰は引けているが、目はぎらついたままである。サイゾウはこういった手合いに恨みを買うと後を引くのを知っていた。

 

「そんなつもりはないさ。さっきは悪かったな、俺は“うちはサイゾウ”と言うんだが、その娘を言い値で見受けしよう。最近若い娘に目がなくてな」

 

「た、種馬ぁっ!?いやだとしても現役の火影がなんでこんなところに!?」

 

狼狽する女衒だったが、悪い意味での噂もこういったときには役に立つ。

 

サイゾウが女を買うことなど、色街に暮らす者ならば腹が減ったら飯を食うのと同じレベルでの常識であるからだ。

 

「疑うか?なんならここの上役と直接話してもいいぞ。久門のじじいなら俺の顔も覚えてるだろうしな」

 

久門とは、ここ岩隠れの歓楽街を治める色街の顔役である。若い頃は忍として活躍したという噂もある男だが、彼とサイゾウはサイゾウがミナトの仇を取るために諸国を巡っていた頃よりの知り合いでもある。

 

「や、やめてくれよ!俺みたいな下っ端が久門のじいさまを動かしただなんて知られたら何されるかわかったもんじゃねえ!こんな小娘が欲しいなら捨て値でくれてやるよ!」

 

「ほう、ずいぶん気前がいいな」

 

「ああ、言っちゃなんだがこいつ賭場で借金こさえた癖に真っ当な仕事で返そうともしやがらねえクソガキでな。担保で取り上げた刀が業物だからそれなりにはなったんだが、残りの払いを渋るどころか“刀を返せ”と来たもんだ。…まったく、こういった損な役回りはいつも俺だぜ」

 

思わず愚痴をこぼす女衒の表情からはどうしようもない苦みと後悔が見て取れた。

 

サイゾウは懐からカードを取り出すと、それを女衒の男に投げつける。

 

「そいつで頼む。店で清算してきてくれ」

 

「…疑うつもりはねえがアンタ本物だな。ブラックカードを俺みたいなチンピラに投げて寄越すなんざ、そこらのへたれにゃできっこねえや」

 

ひきつった笑いを浮かべながらも、女衒の男はそそくさと立ち去っていく。

 

サイゾウを信用しているのだろう。少女を捕らえていた縄さえ離してしまっていた。

 

「さて、これでお前さんは俺のモノだ。理解できるか?」

 

「うるさいっ!離れるでござるこの変態!」

 

涙の痕を残しながらも、抵抗をやめない少女はサイゾウを蹴りつけるがそんな蹴りなどサイゾウに通じるはずもない。

 

「元気だな。さて、まずは身形を整えるぞ。美人にしてやろう」

 

「うわぁっ!?やめるでござる下ろせでござる…ひゃんっ!」

 

サイゾウは拘束された少女を肩に担ぐと、そのままのしのしと歩いていく。

 

もちろん少女は抵抗するが、サイゾウに尻を叩かれ黙らされてしまう。

 

「今すぐ尻の穴に色々突っ込まれたくなかったら黙ってろ」

 

「ひっ…!」

 

サイゾウは少女が黙してからもすたすたと歩き、やがてある場所で立ち止まる。

 

「なんでお前が借金してまで博打に走ったかは聞かん。だが、大勢の人間に迷惑をかけたことを“おしおき”しながら理解(わか)らせてやろう」

 

そこはいわゆるオイルマッサージを専門とするマッサージ店だった。なぜこの店かと言えば、サイゾウがオーナーだからであったりする。

 

ちなみに“おしおき”と言ったサイゾウの顔がイヤらしく歪んでいくのを隣に並ぶ大崎九郎はジト目で見つめていたが、気にしても仕方ないことだと思い一応サイゾウに忠告する。

 

「…忠告しておきますが、その娘の“処女”は散らさないでくださいよ」

 

「なるほど、“処女膜”は破かん。約束しよう」

 

「…どうして単語が変わったのかは聞かなかったことにしておきます」

 

言うなり立ち去ろうとする大崎だったが、そこへさきほどの女衒が走ってやってくる。

 

「ちょいと旦那!とんでもないモノ渡したまま移動しないでくだせえ!」

 

「ん?おお、もう終わったのか。そうだ、丁度いいからこいつを久門のじじいのところまで連れていってやってくれ。いい暇潰しの相手になってくれるだろう」

 

「げえっ!?俺がですかぁ!?勘弁してくださいよぉ!」

 

「やれ」

 

「…はい、わかりました」

 

サイゾウに軽く威圧され、女衒の男は渋々大崎を連れていく。

 

「な、なにをする気でござるか…?」

 

女衒へ向けたサイゾウの威圧に当てられたのか、幾分か以上に大人しくなった少女はサイゾウへ恐る恐る訪ねる。

 

「なぁに、ちょっとしたデトックスとエステを兼ねたマッサージだ。喜べ、普通に受けたら一万両じゃきかんぞ」

 

「え、でも、あの、ちょ…!」

 

「着替えはその間に見繕わせておく。刀は大崎がどうにかしてくれるだろう。他に聞きたいことはあるか?」

 

「え?えっと、あの、その」

 

狼狽する少女はいつのまにかお姫様抱っこに移行されてしまい、間近でサイゾウに見つめられたことから顔を赤くして戸惑う。

 

サイゾウは少女の全身についた傷を掌仙術で癒しながらするすると服を脱がしていく。

 

少女がどうしていいかわからず混乱している間に下着姿にすると、彼女をつれて“特別施術室”と呼ばれる場所へと入っていくのであった。

 

__________________________________

 

 

「この施術室は特別でな。どのコースをすることもできるが、俺しか使えないことになっている。ちなみに完全防音だ」

 

簡易ベッドが置かれた部屋には香が炊かれ、リラックスできる落ち着いた色合いで部屋を構成されている。

 

酒が置いてあるところなどから見ても、本当に専用の個室なのだろう。

 

「ぼう、おん?」

 

「音が外に漏れない、ということだ」

 

「や、やっぱり私の体が目当てでござったか…!」

 

聞きなれない単語に首をかしげる少女だったが、即座に返されるサイゾウの言葉に改めて下着姿となった自身の体を庇うように隠す。

 

それに対してサイゾウはやや呆れながらも、少女の分の冷たい飲み物を注いで私ながら答える。

 

「その通りだが、やっぱりもなにもないだろ。そもそもお前の身柄は俺に買われたことがまだ理解できないのか?」

 

「う…!そ、それは…」

 

「どんな事情があれ、お前は金を借りたあげくに真っ当な返し方を示した相手にも刃を向けようとした。そこは反省しろ。…ま、お前みたいなちんちくりんに金を貸すような阿呆は今ごろ久門のじじいに絞められてるだろうけどな」

 

サイゾウの見立てでは目の前の少女は年の頃にしてまだ十代半ばだろう。

 

元々は髪をサイドテールに縛っていたのか、ほつれた髪が少女の不安をそのまま表しているようだった。

 

この年代の少女だけが持つ、未成熟さを残しつつ大人へと変わろうとする危うげな魅力。

 

青い果実という、本来であれば手を出すことがはばかれる少女の肉体をじっくりとサイゾウは眺めながらどうやって味わうかを考えていた。

 

「ま、待ってくだされ!拙者今はこのような身形をしておりますが、これでも拙者は…んむぅ!」

 

「ふ…黙ってな」

 

サイゾウは少女に二の句を告げさせずに再び唇を塞ぎ、彼女から正常な思考を奪っていく。

 

(せ、拙者の“ふぁーすときす”が奪われてしまったでござるぅ…!)

 

少女は大層混乱していたが、どこか興奮している自分にも気づいていた。

 

サイゾウは少女に口づけを落とし力を抜きながら、彼女を簡易ベッドへ横にさせていく。

 

指圧の重さをしっかり伝えるために固いベッドにはクッションなどないが、サイゾウに横たえられた少女はそんなことに意識などいっていない。

 

「じゃ、解(ほぐ)していくぞ…」

 

サイゾウは時折キスを落としながら、少女の全身を揉んでいく。

 

肩、背中、腰。

 

ふともも、ひざの周辺、ふくらはぎ。

 

耳の後ろ、首のつけね、頭頂部。

 

万華鏡写輪眼を展開し点穴を見抜きながらマッサージしていくサイゾウは、確実に少女から抵抗する力を奪っていった。

 

「次だ。香油を塗り込むぞ…」

 

「ひきゅっ…!」

 

耳元でささやかれ、全身をぶるりと震わせる少女。

 

すでに“普通”のマッサージで少女は夢見心地にあった。

 

そんな少女に、サイゾウは容赦なく人肌に暖めておいた香油という名のローションをかけていく。

 

油分をふくんだローションの照り返しが少女の小さな尻や肩を照らし、何とも言えない艶かしい色香を感じさせる。

 

「あぅぅ…しょこ、らめぇ…!」

 

ぐったりしながらも少女が強い抵抗を示した場所。

 

尻タブを割りくサイゾウは、可愛らしい桃色をほんのり残す彼女の“尻の穴”へとローションを塗り込んでいく。

 

「うぐぅ…!ぐ…!う゛あ゛、あ゛…!」

 

排泄する場所が逆流させられる奇妙な感覚。

 

事実、普通ならばすでに排便してもおかしくない程度にはほぐされている。

 

しかしサイゾウはそれによって出てきた宿便をすべて口寄せした触手生物に食べさせていた。

 

そんなことがされているとは思いもよらない少女は、ひたすらに喉から悲鳴をあげ、わずかばかりの抵抗か尻に力をこめようとする。

 

だがそれらの抵抗はむなしくも少女の快楽をより引き出すスパイスとなり、少女は次第に尻穴から全身に駆け巡る興奮に抵抗できなくなりつつあった。

 

「どうだ?反省したか?」

 

そこでサイゾウはわざとらしく少女の耳元で囁き訪ねる。

 

途絶えかけの意識のなか、少女はどうにかサイゾウへ答えようとするが口から漏れるのは快感に震える悲鳴ばかり。

 

「そうか、“まだ”足りないか。ではとっておきだ」

 

言うなりサイゾウは自身の逸物を少女の尻の穴へと宛がう。

 

ズブ…ズブ…

 

ゆっくりと、少女に息を吐かせながらサイゾウは逸物を少女の尻穴へと埋めていく。

 

なんら激しさのない遅い動きだったが、逸物が裏から子宮をこすっていく感触にたまらず少女は絶頂を繰り返す。

 

「……!!…っ…!…ぁ……!」

 

途絶え途絶えに呼吸を許されながら、尻穴をえぐられる少女は混濁した意識のなかに光を求める。

 

無意識に手を伸ばす少女の手をサイゾウが握り、“ぐちゅん”と音を立てて少女をひっくり返す。

 

「…っ…かはっ…!」

 

呼吸を途絶えさせる快楽の信号が少女から自由を奪う。

 

身もだえする少女は全身をわななかせながら失禁する。

 

サイゾウはわななく少女に構わず注挿を続ける。

 

…かれこれそうして三時間ほど続けただろうか。

 

ぽっかりと空いた尻の穴から大量の精液を垂れ流す少女は、サイゾウに名を訪ねられどうにか美甘(みかも)と名乗った。

 

__________________________________

 

 

「…あの色狂いめ、ミフネ殿のご息女にまで手を出しよったか」

 

片足のない、隻眼の大男。

 

老境の雰囲気をまるで感じさせないこの男こそ、サイゾウから“久門のじじい”と呼ばれた男だった。

 

かつての大戦期においては千手柱間やうちはマダラのお伽噺じみた戦いを目撃したことのある老人の話しは、大崎にとってこれまで聞いてきた忍の話がゴシップに思えるほどに興味をそそるものであった。

 

そうして大崎との話が盛り上がっていた久門ではあったが、件の少女─美甘─がサイゾウの手に落ちたことを聞くと実に悔しがっていた。

 

「あの娘はミフネ殿にとって弁慶の泣き所よ。ヤツの手に落ちたとあらば、まあ処女ではいられまいが…はてさてどうやって責任を取るつもりであろうな」

 

「は、一応処女膜は破らぬと申していましたが…」

 

「かっ!あの色狂いめが膜を破らないだと?冗談きついぜ、がっはっはっはっは!」

 

大声で笑う久門の声に悩まされながらも、大崎は今後の旅がどうなるのかの不安にも苛まれていた。

 

__________________________________

 

 

場所は打って変わって木の葉の里。

 

火影の執務室にて、ふたりの美女があられもない姿で尻から精液を垂れ流していた。

 

しかし彼女らがそうしていたのも少しの間で、黒髪の少女シズネはすぐに再び尻に逸物を注がれて喘ぎ狂う。

 

「ひ…っ!ひぐっ…、あひぃ…!」

 

激しい注挿に何度も達しながらも、サイゾウに求められる喜びが隠せず悶えるシズネ。

 

着物のすそをめくられ、下着を脱がされ愛撫された全身にはキスマークがあちこちにつけられている。

 

「も…むり…」

 

その隣では同じような格好で倒れこむ綱手がいた。

 

彼女は尻だけでなく膣からもどぼどぼと精液を垂れ流しており、喋っているだけでもはや動くことも叶いそうになかった。

 

「あひいいいいいいいーっ!!!」

 

悲鳴をあげて、シズネが何度目かの絶頂を迎えて潮を吹く。

 

失禁と見紛うほどの大量の潮にしばし見とれていた綱手だったが、引き抜かれたサイゾウの逸物がいまだ萎えないのを見て戦慄する。

 

「姉さん…!」

 

「あ、ああ…」

 

その様子に綱手は恐怖と歓喜が入り交じりながら、開いた膣と尻穴をきつくしめてサイゾウを迎え入れるのだった。

 

「うおおおぉぉぉんっっ!!?」

 

もはや獣のごとき雄叫びをあげながら、綱手はサイゾウの逸物を受け入れる。

 

そしてそんなサイゾウはと言えば…

 

「くそっ!俺の分身め!好き放題しやがって!外道の術で強化したら行動が昔の俺じゃねーか!おまけにフィードバックをひたすら送ってくるからムラムラがまるで落ち着かん!」

 

激しく腰を振りながらサイゾウは岩の国で自侭に振る舞う己の分身のことを考える。

 

これは、束の間の出会いの物語。

 

 




前半の青との絡みは「その方、余の顔見忘れたか?」がやりたかっただけ(´・ω・`)
あと青さんは白眼手にいれてないので普通のお目目です。

「この方に童貞を捧げたい!」な大崎九郎くんはたぶん作中一番のチートキャラ。大蛇丸がぶっ倒れる量の作業を平然と肩代わりして他の人間にも仕事を割り振る有能ぶり。現在進行形の不協和音における音崩しだけど、たぶんこいつ殺した方が手っ取り早い。どんくらいチートかと言うと扉間より頭の回転が早い。…なんでこんなキャラ作ったんだろ( ̄▽ ̄;)
一応イメージ初期は処女厨の人を逆方向へ全力で突っ走らせるってコンセプトから生まれてます。

美甘ちゃん
名前の読みは“みかも”です!ミカンじゃないよ!(´・ω・`)
年齢十五歳。お父さんの用意したお見合い相手が気に入らず、剣の修行と称して家出。
案の定路銀が足りなくなり博打に手を出すも、あっという間に刀まで取られる始末。
ちなみにサイゾウが来なかった場合、遊郭でお手伝いさせられる予定でした。さすがに身売りさせるわけにはいかないので。
久門のじいさんには刀から正体がばれていて、殴った女衒の男は後で半殺しにされてます。
ぽんこつな彼女ですが、剣の腕は父親譲りの才能を持ってます。
サイドテールな美少女。見た目的にはネギまの刹那をイメージしてくだされ。



竹遁影分身のサイゾウ。
これ、気づいた人いるかもしれませんけどサイゾウと繋がっていますが微妙に別人格。頭に外道の棒を差し込まれていて、それが黒子みたいになってます。サイゾウが昏睡状態に陥ってからも普通に活動していたりします。
本体のサイゾウより冷酷な部分があり、美甘のことも最初は普通に見捨てるつもりでした。本体との違いは戦い方にもあり、彼は刀を使います。別キャラと言ってしまえばそれまでなんですが、彼には後にある重要な役割があるので登場となりました。

では次回もお楽しみに~


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

不協和音 ③

飛段のてらそままさきさんカッコよす(´・ω・`)

さて、それではいよいよ本格的に音崩し再開!…とはいかないんだよなぁこれが( ̄▽ ̄;)今回も過去回想からの本編です。
展開が遅い?
「いいんだよ、細けえことは!」って革ジャンマッチョなアフロヘアーのお兄さんが言ってるので許してください(´-ω-)人

今回は音崩しに伴う他国の動きも交えて展開予定。なんで予定かと言うと前書き書いてる段階ではそこまで進んでないからです☆←無理でした(白目)

あ、あと白の年齢訂正。原作より3歳ほど年上ということで。まあ大体それくらいなんだなあって思っていただけたらよろしいです。…時系列振り返ったら再不斬に抱かれた時点で12歳より上じゃないとおかしいことに気づきましたので(´・ω・`)
まあ、そんな気にしないでください。

※告知※
https://novel.syosetu.org/111392/2.html
~俺は鳥じゃねえ~ とある超竜軍団長の軌跡

上記の第二話を更新しましたので告知(´・ω・`)
今後の展開について簡単なアンケートを募集していますのでどうぞ感想をお寄せください。



⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

夜の音隠れ。

 

三人の男達が、静かに夜空を見上げて月を見つめていた。

 

臥待月。満月を過ぎて遅くなった月がいつの間にか現れているその姿を見ながら、各々は自分のペースで酒杯を呷(あお)る。

 

「…そうか、久蔵が死んだか」

 

「ああ、あいつ“畳の上じゃ死ねない”とか言っておきながら、最後は弟子に看取られて死んだとよ」

 

「羨ましいですね。自分が大切にしていた誰かに最後を見届けてもらえるっていうのは…」

 

それぞれ“うちはサイゾウ”“桃地再不斬”“鬼灯満月”である。

 

久蔵とは、霧隠れの抜け忍である彼ら二人が里を抜けた際に着いてきてくれた暗部の手練れだった男だ。

 

かつて再不斬の覚悟を見届けた彼は、再不斬が仲間を率いてクーデターを起こした際にも率先して彼の味方となり、音隠れへと所属してからは後進を育てるとしてひとりの少女を弟子にとっていた。

 

弟子となった少女─美甘─とサイゾウには少なからず縁があったこともあり、今こうして音隠れを訪ねた際に久蔵の訃報を聞き、その旧友とも言える再不斬と満月のふたりを交えて酒を酌み交わしていた。

 

「そういえば満月、お前子供が出来たんだってな」

 

「そうなんですよ!正直最初の頃はつわりとかで大変で大変で…!でもお腹が大きくなってくるに連れて、なんていうか、俺がこの子の父親なんだって思うと、体の奥底からふつふつと沸いてくる“なにか”があるというか…!」

 

「おいサイゾウ、そいつにその話振ると長いぞ」

 

「…みたいだな。朧と結婚したときも相当だったが、こりゃ親バカ確定だな」

 

朧とは、音隠れに住むくの一であり、かつてサイゾウに体と引き換えに解放された一人でもある。彼女は一年ほど前に、一目惚れした満月に口説き倒され彼の妻となっていた。

 

はしゃぐ満月を肴に再不斬とサイゾウは酒を呷る。

 

「美甘のヤツの実力は確かだ。若い分まだ粗削りだが、正面からの実力ならもう十傑集入りしてもおかしくないぞ」

 

「…!そこまでですか?」

 

サイゾウの言葉に満月は驚き見つめる。

 

「ああ、一度受けてみたが、硬化していてなお俺の腕が切り落とされた。とっさに避けてなければ危なかったな」

 

「…わざわざ切られるヤツがあるかよ」

 

「なんだ、心配してくれるのか?さっすが音隠れで“旦那にしたい忍ランキング”で一位を取っただけあるな」

 

「だああああ!それを言うんじゃねーよ!大体なんだあの企画は!?しかもなんで一位になったときのコメントを白に聞いてんだよっ!?」

 

「…“再不斬さんってば、優しいだけじゃなくて…その、夜もスゴいんですよ”だっけか。いやあ、ごちそうさまです!ぶわっはっはっ!」

 

大笑いするサイゾウに再不斬は殴りかかるがサイゾウはひょいひょいとそれを避ける。

 

満月はそのノリに置いていかれながらも、かつて霧隠れでは見られなかった再不斬の姿に安堵する。…サイゾウの完全再現した声真似にはドン引きしていたが。

 

「そういえば、あの男。“拾の刀”の男は、本当に彼でいいんですか?」

 

「んー?まあ、いいんじゃないか。本人がやりたがってることだし。…にしてもああも変わると元が自分だった自信をなくすぜ」

 

「うぎぎぎ…!は、離せぇ…!」

 

再不斬を卍固めで拘束しながら、サイゾウは十傑集に名乗りをあげた“己の分身”について思いを巡らせる。

 

かつて外道の術で別個の自我を与えて大崎九郎との旅を同行させたサイゾウの竹遁影分身は、いつの間にか自我を確立させるまでに至っていた。

 

その上、旅の途中で出会った少女“美甘”と愛し合い、彼女と添い遂げるとまで言い切ったのだ。

 

これを消すのを忍びないと思ったサイゾウは、彼に新たな名前として“レンヤ”を与え、ひとりの忍びとして扱うことにしていた。

 

__________________________________

 

 

音隠れの一角。

 

ある一軒家で、男女がふたり激しく交わっている。

 

「だめ…で、ござるぅ…!あっ!おしり…!おしりがぁ!」

 

男の逸物が挿入されているのは菊門とも呼ばれる尻の穴。

 

直腸まで抉られ、全身を汗でしとどに濡らしながら少女は走る快感に身を悶えさせる。

 

「美甘…!イクぞ!」

 

「はい…!お情けをっ!はしたない私の菊に…!レンヤ殿のお情けをぉ!」

 

「うおおおっ!!」

 

「はぅ…!んあっは、あああっ!!」

 

たっぷりの種汁を注がれ、達したことにより全身の力を脱力させる美甘。

 

いまだ尻の中で固さを残すレンヤの逸物を味わいながら、混ざりあった互いの淫臭に美甘は胸をときめかせる。

 

「ん…ちゅ…ふうぅ…はっ、はっ、はっ!」

 

体を仰向けにして、レンヤの口づけを味わう美甘。

 

甘さとそれに伴う痺れるような快楽に、美甘はとろけるような夢心地を味わう。

 

「…久蔵様が抜けた十傑集の欠員。レンヤ殿が立候補したというのは本当でござるか?」

 

「ああ、本当だ」

 

「…私では、まだ“足りない”でござるか」

 

互いの息が整った頃、唐突に切り出した話題にレンヤ、元サイゾウの竹遁影分身は答える。

 

「いや、技術だけで言うならお前の剣の腕が師匠を上回っているのは俺もサイゾウも、そして大蛇丸も知るところだ」

 

「でしたら!」

 

「…聞け。だがそれは正面からの話だ。搦め手を前提とした忍同士の戦いじゃ、それだけでは通じない。急ぐな、お前は俺にとって大切な相手なんだ。焦ってなにもかも手に入れようとする必要はない」

 

レンヤは美甘の頭を優しく撫でながら諭す。

 

美甘はそんなレンヤに甘えるように頭を彼の胸板へとすり付ける。

 

「わかったでござる。であるならば、今後も精進するのみ!…つきましては、その、もっとしてほしいでござる…♪」

 

「…わかった」

 

レンヤは興奮を隠さず、美甘に覆い被さる。

 

甘い声は、夜通し一軒家から響き渡った。

 

__________________________________

 

 

「疾っ!!」

 

「覇っ!!」

 

互いの剣が真っ向から向かい合い、そこに込められたチャクラが溢れ周囲を吹き飛ばす衝撃波となる。

 

向かい合って斬り合うのは、美甘と鬼灯満月。

 

その様子を、白、再不斬、サイゾウ、レンヤが見守っていた。

 

「満月の一撃を受け止めるか…」

 

再不斬は白と変わらない小柄な体型ながら、見た目以上に怪力である満月の一撃を受け止める美甘の戦いを見て感嘆の声をあげる。

 

「それだけじゃないみたいですよ。彼女の動き、ほとんど“間”がありません。それに加えて久蔵殿から伝授された“雲耀の太刀”が彼女にはある…サイゾウさんはどう見ます?」

 

なぜかセーラー服の白が再不斬の腕に絡み付きながら冷静な意見を述べると、話をふられたサイゾウが写輪眼で見抜いた速度を正直に述べる。

 

「雷遁で瞬間的に肉体の超活性を行っていた久蔵と比べればまだ“遅い”。ま、並みの写輪眼でも見抜けないほどには早いがな。“雲耀”ではなく、せいぜい“忽”の速さといったところだろう」

 

「…だがそれでも十傑集では上位に食い込む剣の腕は驚異的だろう。大体、あいつに腕ぶった切られておいてよくも上から言えたもんだぜ」

 

サイゾウの正確な見切りに異を唱えるようにして口を挟んだのはレンヤであった。

 

彼が“未だ至らぬ”と断じた美甘の剣を庇うレンヤであるが、そこにサイゾウへの対抗意識があるのは否めない。

 

「ま、そいつは否定せんよ。後はあれで搦め手を覚えられれば大分手強いな。…そら、そろそろ満月が勝つぞ」

 

サイゾウに言われ、全員が勝負へ集中する。

 

裂帛の気合いから放たれる太刀を剣で逸らし、受け止める満月であったが、次第に剣を使わずとも躱すことができるようになっていた。

 

鬼灯満月。彼の名は彼が霧隠れにいた当時より“あらゆる忍刀を操る”として有名であったが、その最たる能力は驚異的なまでの学習能力にあった。

 

事実、今も美甘の剣をあっという間に見切っており、すでに彼女の剣を紙一重で避けている。

 

さらに彼が持つ刀は、持ち主である大蛇丸でさえ扱えなかった草薙の剣最高の一振り。

 

その名も【布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)】。

 

神樹の幹より削り造られた、との伝説を持つこの剣はあらゆるチャクラを弾き、また“成長する”特性を持つ。

 

音隠れに来てより彼の手にあった布都御魂剣は、今では水のチャクラ性質を有し、その姿を変幻自在に変える。もっとも、今はその能力を制限し“ただ固い両刃の剣”としているだけだが。

 

「取ったでござる!…え?きゃっ!」

 

美甘は満月の腕を切り落としたつもりだったが、彼の特異体質を知らなかった美甘は水を切り裂いたような感触に驚き、ダメージのなかった満月から蹴り飛ばされてしまう。

 

だが飛ばされた彼女の後ろには瞬身で移動したレンヤがおり、彼女が地面を転がる前に優しく受け止める。

 

ちなみに平然と腕を切り落とそうとしているがこれは重傷であっても即座に治療できる音隠れだからこそである。

 

「うう…負けてしまったでござる」

 

「安心しろ、剣の腕ならあいつにも負けてなかったんだ。今後はチャクラを扱う修行の比率を増やせばいい」

 

「レンヤ殿ぉ…」

 

「美甘…」

 

慰められ、甘える美甘を見て満月は「僕当て馬だなー」とか思っていたが同時に帰ったら久しぶりに妻の“朧”を思いきり求めたくなっていた。

 

「ねえ再不斬さん、僕も甘えていいですか?」

 

「お前常にだろう。いや、別に甘えるなって言ってるわけじゃなくてだな…!」

 

白はその姿を見て自分達もいちゃいちゃしようと再不斬を見上げて質問し、再不斬はその見上げる姿にダメージを受けつつ狼狽える。

 

「なんだこの空気」

 

この場において相手がいないサイゾウだけが、なぜか置いてきぼりになった気がしていた。

 

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

絢爛豪華な街並みでも知られる音隠れの里。

 

しかし今その発展した街の一角は、破壊し尽くされ瓦礫の山と化していた。

 

「《颱遁・烈風斬》!!」

 

幻幽丸は自身の血継限界を手に持つ倭刀【風神の太刀】に乗せ飛段を切り裂く。が、斬ったはずなのに飛段の傷口は即座に塞がれてしまう。

 

「ひゃぁっはっは!痛えなちくしょぉ!でも全然効かねぇぞぉ!」

 

笑いながら飛段は大鎌のギミックを発動させ、ワイヤーを発射して幻幽丸を捉えようとする。

 

「《椿の舞い》!」

 

君麻呂が全身から骨を出し、そのひとつでワイヤーを切り落とすと、そのまま飛段へと向かい高速の連続突きを見舞わせる。

 

「うおおおおぉぉ!めっちゃ痛え!超激痛!ジャシン様見てて下さいよォォ!!オレ本気出すから!マジ本気!」

 

傷つき、確かに血も流れているはずだが一向にダメージを与えられない飛段の様子に君麻呂は苛立ちを強めていく。

 

「おのれぇ…!」

 

怒りのままに呪印を解放しようとする君麻呂だったが、それを飛段の死体を吸収することで回復した重吾がチャクラ砲で飛段を牽制しつつ彼を抑える。

 

「落ち着け君麻呂。幻幽丸も、チャクラを使いすぎだ。一度状況を整えるぞ」

 

「アイツの死体を食ったのか…!?重吾、お腹壊したりしてないかい!?」

 

「問題ない、ちゃんと消化できている」

 

「…コントは後にしてくれ。重吾、なにか分かったか」

 

重吾の心配をしているのか、そもそも天然なのか関係ないことを気にする幻幽丸。

 

それに正直に答える重吾とのやり取りを君麻呂がつっこみ、なにか少しでも情報が手に入ればと重吾に訪ねる。

 

「…ひどく奇妙な相手だ。ヤツの死体は間違いなく人のモノだが、同時にとても“がらんどう”な感じがあった。もしかすればあそこにいるのは本体ではないのかもしれん」

 

「サイゾウ様の六道の術に似たようなモノがあるが、あれとは別か」

 

「ああ、死体ではない。かといって傀儡でもない。“奇妙”だと言ったのはそういうことだ」

 

「それは厄介だね…」

 

幻幽丸は対峙する相手の不死身ぶりがより強調された結果に戦きながらも、自分ができることをするためにチャクラを練り上げる。

 

「ならば封印術で対処しよう。僕と幻幽丸で動きを止めるから、呪印で拘束してくれ」

 

「承知した」

 

「任せてくれ」

 

三人がそれぞれ対処を整えると、飛段の隣にはさらに巨大化した角都がいた。その大きさはすでに六メートルを越えている。

 

「グフ…グフフ!キキ貴様らのシシ心臓をエエ抉り出しオオ俺に取り込んでくククれルルる!!」

 

黒い触手を全身から生やし、さらにあちこちに無数の仮面を取り付けたその醜悪な姿を見て三人は警戒を強める。

 

「やれると思ってるのかよぉ!」

 

飛段が飛び出し、大鎌を振り下ろし向かってきたのを重吾が受け止める。

 

「君麻呂!」

 

「《早蕨の舞》!!」

 

動きが止まった飛段を君麻呂が地面を経由して生やした骨の牙によって拘束していく。

 

「《呪禁封縛》!!」

 

手足を貫かれ動きを封じられた飛段は重吾からの一撃を受け、全身を呪印で覆われていく。

 

複雑な紋様が飛段の全身を覆っていくが、彼の顔から笑みは消えない。

 

「消えろロロロロ!!《火遁・頭刻苦》!《風遁・圧害》!《混成忍術・外留愚々》!!」

 

「まずい…!《颱遁・断空壁》!!」

 

角都から放たれた風遁により勢いを増した火遁を幻幽丸は圧縮した空気の層を作り受け止めるが、複数の頭から火遁と風遁を発射する角都には敵わず競り負けてしまう。

 

「ぐああああっ…!!」

 

幻幽丸は風神の太刀で威力は減衰させたものの、直撃を受けることになってしまい吹き飛ばされる。

 

「幻幽丸…!」

 

「よそ見してていいのかよぉ!オイ!」

 

幻幽丸を助けようと動こうとした重吾だったが、突如として現れた“別の飛段”に教われ腕を切り裂かれてしまう。

 

「馬鹿な…!」

 

この事態に慌てたのは君麻呂だった。

 

間違いなくさきほどまで捕らえていたはずの飛段が拘束を抜け、重吾を斬りつけていることに焦りを見せる。

 

「ハッハァ!残念だったなガキども!そして再び準備は整ったぜぇ!」

 

言うなり飛段が重吾の血を取り込むと、皮膚が黒と白に変化し骨のような模様が浮かび上がってくる。

 

同時に自ら切った手首から血を滴らせ、その血を使い足で法陣を描いていく。

 

「《呪術・死司憑血》!!」

 

「させるか!」

 

宣言と同時に飛段は大鎌で自らの胸を刺そうとするが、それを君麻呂が止める。が、予想以上に強い力に君麻呂は引っ張られていく。

 

「うおおおお!!!」

 

拮抗したふたりの間に《仙力解放》状態となった重吾がつっこみ、自身へのダメージも省みず飛段を吹き飛ばす。

 

「くくく…!しぶといなぁおいぃ!角都!めんどくせぇからまとめて吹き飛ばしちまぇ!!」

 

「グカカカカ…!よし、トト特大のジュジュ術をかますぞゾゾ!!」

 

飛段が下がるのと同時、角都が合計五つの火遁を解放し、それに二つの風遁を合わせていく。

 

「ここまで、か…」

 

「ぐっ…!こんなところで…!」

 

「すまない、みんな…!」

 

少年達の間に絶望が広がるなか、ひとりの忍がその前に躍り出る。

 

「───まったく、あたしの里を滅茶苦茶にしてくれた代償は重いわよ」

 

「母さん!」

 

「「大蛇丸様!」」

 

向かってくる極大の火炎にもまったく怯まずに、大蛇丸は片眼の輪廻眼を発動させ術を起動する。

 

「《封術吸引》」

 

手を差し出し、極炎はその規模が嘘のように大蛇丸の掌に吸い込まれていく。

 

その光景に後ろの三人は呆気に取られるが、大蛇丸はなんとも言えない表情で振り向く。

 

「…ねえ君麻呂、その“母さん”ていうのは止めなさいって言ったでしょ。ああもうそんな顔しないで、わかったわよ、いいわよ母さんで」

 

「母さん…!」

 

「はぁ…で、あんたら、人の子供になにしてくれてんのよ」

 

里を傷つけられたとき以上の怒りをもって殺気を叩きつけるが、飛段も角都もまるで怯む様子がない。

 

そもそも、これだけの戦闘を繰り広げたというのにまるで消耗していないように見えることがそもそもおかしいと大蛇丸は思っていた。

 

「なるほど、“色々”おかしいことになってるみたいね…」

 

大蛇丸は警戒を最大限に強めたまま、目の前のふたりを観察する。

 

まともにぶつかれば影と相対しても互角以上に戦える三人との戦闘で“無傷”というのはありえず、であるならばその秘密にはなにか仕掛けがあるということ。

 

「まずはあなたね。…たしか、ジャシン教の飛段だったかしら」

 

「おぉ?なんで俺のこと知ってるんだよ…あー、お前が大蛇丸かそうかそうかなるほどなぁ!じゃあ死ね!」

 

ひとりで納得しながら飛段は突如として凶相を示し先程の数倍の速度で大蛇丸へ突っ込んでくる。

 

「あなた馬鹿でしょ」

 

しかしそれは大蛇丸の神羅天征によって弾かれ、その勢いのまま角都の所まで吹き飛ばされてしまう。

 

「ひとつ質問するわ、“なぜ音隠れを狙ったの”?」

 

「ケヒヒ…!痛って~!ああ?狙った理由なんぞねーよババア!ガッ…!!!」

 

「そう、残念ね。地獄で反省なさい」

 

大蛇丸が言うと同時に地面から現れた獄閻王が飛段の体から魂を抜き取り“食らって”いく。

 

これまでどれだけダメージを負っても苦しむ姿ひとつ見せなかった飛段が、そのときはじめて悲鳴をあげはじめた。

 

「あああああああああああっっ…!!!!イダイイダイイダイ!!やべでぐれぇ!!」

 

ブチブチと肉が千切れるような音と共に飛段の魂が幽体と共に無理矢理体から引き剥がされていく。

 

角都はどうにかそれを食い止めようとするが、霊体に触れられない彼ではどうすることもできない。

 

飛段の不死の秘密。それはジャシン教によってもたらされた偶然の産物である。

 

《霊化の術》というものがある。かつて木の葉に存在した加藤一族が得意とした忍術であり、その名の通り自らの霊体を分離させ相手に取りつき一方的な支配を可能とする忍術である。

 

飛段の不死はこれに近く、自らの肉体に霊体として取り憑いている状態であるのだ。呪術・死司憑血は、これによって不安定な霊体を血を媒介に相手を殺し、相手の霊体を自分に吸収させることが目的の呪術である。ダメージが相互に及ぶのはこの為であり、本来の目的から言えば相互ダメージは一種の副作用とも言える。

 

これを知っていた黒ゼツは彼に白ゼツを無数に仕込み、仮に肉体が破壊されても次々と白ゼツコピーに乗り移ることであたかも絶対に殺せないように見せかけていたのである。

 

しかも白ゼツが持つ再生能力のおかげでダメージもすぐに回復してしまう。

 

だが当然、コピーがなくなれば憑依先を無くした飛段はさ迷うしかない。本来彼を殺すにはストックがなくなるまで殺し続けるしかないのだ。

 

が、今回大蛇丸は輪廻眼で飛段の不安定な霊体を一目で見抜くと、地獄道による魂の強制的な引き剥がしを行ったのだ。

 

そして痛みの感覚がおかしなことになっている飛段は、霊体を無理矢理剥がされるという行為から自身の消失を連想し、それが激しい苦痛となって現れたのである。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛~~~~~ッッッ!!!」

 

やがて一際激しい断末魔を残すと、かつて飛段だった肉体はさらさらと白い砂のようになって崩れ去っていった。

 

「さあ、次はあなたよ」

 

「ココ小娘が!モモ悶え狂い死ぬがヨヨよい!」

 

角都は術が効かないことから巨体と化した肉体と触手で大蛇丸を襲おうと迫る。

 

「《増幅口寄せの術》!行きなさいマンダ!」

 

しかし迫る直前現れた巨大な大蛇が、真正面から角都を飲み込まんと大口を開けぶつかり合う。

 

「グロロロロロッッッ!!!」

 

角都は触手と硬化した体でマンダの口を引き裂くが、その分だけマンダの首は多肢にわかれていき角都の動きを封じていく。

 

「終わりよ、《天碍震星》!!」

 

里から十分に距離を取った時点ですでに発動されていた隕石が角都へと降り注ぐ。

 

純粋な物理エネルギーによる破壊はいかなる防御をもってしても打ち破ることはできず、角都はすべての心臓を潰されマンダ共々消滅した。

 

「…ふう、終わったわね。みんな、他にも被害が出ているところがあるから手分けして…かふっ…!」

 

チャクラをあらかた使い尽くし、感知しても気配がないことから大蛇丸は油断していた。

 

…それこそが、なによりも危険だというのに。

 

「ああ、残念ながらこれで終わりだ。大蛇丸、あなたは死ぬ」

 

「母さあぁぁん!」

 

万華鏡写輪眼によって“最初からこの場の全員に幻術をかけていた”イタチが、須佐能乎で大蛇丸の胴を貫きながら、現れた。

 

音を崩す不協和音。その音が、にわかに大きくなって里を包みつつあった。

 

 




ということで大蛇丸先生危うし!

ちなみに自分cv高野麗さんとか言っておいて頭のなかは折笠愛さんでした(´・ω・`)ビックリ
まあ読んでる方の好きな方でイメージしてください人( ̄ω ̄;)スマヌ

まあ大体本編に入れられたと思うのですが、他国の様子まで行けなかったなあ( ̄▽ ̄;)
案の定だよ!

・久蔵
再不斬が同胞を皆殺しにした卒業試験のとき見守っていた暗部のおっちゃん。
里抜け時には結構高齢。サイゾウをヒヤリとさせる剣の腕を持ち、チャクラの瞬間的な超活性による極意“雲耀の太刀”は彼をして回避不能と言わしめた。
様々な苦労が重なり病で一気に衰弱したが、最後は弟子にとった美甘に看取られて死んでいった。享年62歳。名前のモデルは七人の侍から。

・鬼灯満月
原作とアニメの双方で大々的な扱いをされながら台詞が一切ないという非業の人。
この作品においては再不斬と共にクーデターを起こして里を抜けている。
音隠れにてサイゾウを慕ってやってきたオリキャラ朧にひとめぼれ。口説いて口説いて最終的には押し倒して水化の術を駆使したオリジナルプレイで完堕ちさせる。サイゾウからある意味寝取った唯一の男として音では名を轟かせている。
設定にあった“すべての忍刀を使いこなした”設定をもとに草薙の剣最高の一振り【布都御魂剣】を授けられる。
キャラのイメージはマクロスのマックス。ナルト世界に多数いる天才をぶっちぎりで置き去りにする本物の天才です。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

不協和音 ④ ★

最近なんか色んな反動で時間ができた瞬間色々書きまくった。結果としてスケジュールが余計に大変なことに(白目)

ということであとがきで作品紹介してますのでよかったら見てください。

あと【!】や【……】などの使い方に関して長らく勘違いしていました。この話だけ訂正するのも違和感があるので、次回以降から直します。

それでは本編をどうぞ。

不協和音はまだ続きます。


大蛇丸は、自身を貫いたのが半霊体である須佐能乎であることにすぐ気づいた。

 

「…くっ!《封術吸引》!」

 

内臓への甚大なダメージをあえて無視して、大蛇丸は須佐能乎のチャクラを吸収することで対処しようとする───が。

 

「無駄だ…」

 

イタチの須佐能乎に宿った宝剣《十拳剣》は同時に封印術でもある。

 

その特性を利用し、大蛇丸が輪廻眼を発動することを阻害していた。

 

「母さんを離せぇ!!」

 

しかし、イタチが大蛇丸を完全に封印しようとする寸前“状態2”まで変身した竜人を思わせる姿の君麻呂が、《鉄線花の舞》をもって須佐能乎の持つ剣をへし折る。

 

しかし須佐能乎の武器を破壊されたにも関わらず、イタチはまるで動揺せずただ静かに君麻呂を見つめている。

 

「ぐぅ…!!」

 

状態2。それは君麻呂が大蛇丸に無許可で重吾の持つ仙術チャクラを操る細胞を呪印を用いて取り込んだことによる強化形態。

 

だが如何に君麻呂が才能に溢れていようとも、重吾の細胞を無理矢理取り込んだ副作用は大きく、君麻呂は変身する度に肉体へ尋常ではない負担を課していた。

 

消耗していたところに加えて変身してしまった君麻呂は、その反動に耐えきれず気絶してしまう。

 

「…強き少年。お前の姿は生涯覚えていよう…《天照》!!」

 

血の涙を流しながら、気絶した君麻呂へトドメを刺そうとするイタチ。

 

しかしそれは、その前に立ちふさがった重吾によって防がれる。

 

「ぐおおおおおおおおっっ!!」

 

全身を焼かれる痛みに喘ぎながら、重吾はまるで脱皮するように肉体の表面を脱ぎ捨て幼子のような姿となってかろうじて黒炎から逃れる。

 

「《颱遁・大突風壁》!!」

 

少しでも距離と時間を稼ごうと、復帰した幻幽丸がなけなしのチャクラでイタチを須佐能乎ごと押し退ける。

 

が、それもわずかな時間しか稼ぐことが叶わない。

 

散らされた風の向こうには、再び《天照》を発動しようとするイタチの姿があった。

 

「……………………………《外道っ!転成の術》っ!!!!」

 

大蛇丸のその声は不思議とその場にいた全員へ届き、次の瞬間イタチは予想だにしない強烈な斥力波によって吹き飛ばされた。

 

確実に空いたはずの傷口が、集まる“塵”によって塞がっていく。

 

枯渇したはずのチャクラは塵と共に集まる自然エネルギーによって大蛇丸自身のものへと変換されていく。

 

「その術は…!」

 

イタチはその眼にわずかばかりの理性の光を覗かせながら、思わずといった風情で呟く。

 

「…さあ、どうしてかしらね。あの子達が殺されると思ったら、こうしていたわ。…ふっ、私の最後の舞台よ。精々盛り上げてちょうだい!!《口寄せの術》!!」

 

言いつつ大蛇丸は口寄せによってマンダに匹敵する大蛇を四体召喚する。

 

それぞれから発せられる濃密な殺気。

 

警戒するイタチは、気がつけば足元が血の海に変わっていることに気づく。その血は、他でもない大蛇丸から流されていた。

 

「《血封印・蛇睨潜縛》!」

 

大蛇丸が唱えると同時、等間隔に並んだ大蛇四体から放たれた視線に晒されイタチは身動きが取れなくなる。

 

同時に結界が発動したのか、周囲の景色が塗り変わっていく。

 

「《月読》!!」

 

だがイタチは月読によって四体のうち一つを無力化し、閉じかけた結界を須佐能乎でこじ開けていく。

 

「ちょっと反則すぎるわよ…!!」

 

無理矢理結界術を破るイタチに戦慄しながらも、大蛇丸はさらに連続で口寄せを行い、大小様々な蛇をイタチへと差し向ける。

 

そのどれもがイタチの須佐能乎、あるいは手裏剣や天照によって無力化されていく。

 

大蛇丸は蛇の合間を縫うようにして草薙の剣を取り出すとイタチに切りかかり、イタチもそれを手にした苦無で受け止める。

 

「《神羅天征》!!」

 

「《八咫鏡》!!」

 

一転集中で放たれた斥力波を、イタチは須佐能乎に構えさせた盾《八咫鏡》で防ぎ反射しようと試みる。

 

しかし通常の性質変化忍術と違う輪廻眼の力に互いの術は拮抗し、やがて激しい破裂音と共に衝撃波が周囲を吹き飛ばす。

 

「なんて戦いだ…!」

 

幻幽丸は目の前で起きている戦いを見て、自身が持つ“小太郎”の名に恥じぬ研鑽を必ず成し遂げると誰に言うでもなく誓った。

 

それはまさしく次元違いの戦い。

 

状況は大蛇丸が確実に押している───にも関わらず、それを見る君麻呂の胸中は穏やかではない。

 

大蛇丸が使った術を知らないにも関わらず、彼はそれが決して使っていい類いのものではないと確信していた。

 

「…どうする、君麻呂!」

 

「母さんを援護したいが、正直足手まといにしかならない…!悔しいが、ここはいったん距離を取って…なんだあれは!?」

 

少年達が対応を相談する中、突如として里の一角に巨大な水球が発生する。

 

見れば、水球からは時折見覚えのある血の斬撃が飛んでいる様子から見て対応しているのが再不斬だとわかる。

 

「次から次へと…!」

 

君麻呂は消耗したチャクラと肉体を癒すために大蛇丸特性の兵糧丸を一息にかみ砕き飲みこむが、とても回復には足りない。

 

現状、重吾は肉体の大半を失い戦線離脱。幻幽丸はチャクラを使いすぎて立っているのがやっとであり、君麻呂自身も状態2を使った反動からまともに動けない状況だった。

 

「…くっ!いったん引くぞ!」

 

君麻呂にとっては耐えがたい苦渋の決断。それでも目の前で戦う“母”の強さを信じて、今は仲間の安全を優先させた。

 

───それが、大蛇丸の最後の戦いになるとは知らずに。

 

__________________________________

 

 

“怪人”と“鬼人”。

 

ふたりの対峙は驚くほどに穏やかなものだった。

 

音隠れの外れで何とはなしに再開した二人は、優雅に向かい合って茶を飲んでいた。

 

「…さて、鬼鮫よ。追い忍で来た、ってわけじゃなさそうだが、何の用だ」

 

再不斬は背後に刺した断刀に手をやるでもなく、実にリラックスした佇まいで無造作に訪ねる。

 

「…そうですね。こうして貴方とお茶を酌み交わすことになったのは行幸でしたが、私の役目はそこにいる“人柱力”です。できれば戦うことなく渡していただきたいんですが、いかがでしょうか」

 

鬼鮫は、自身へお茶を運んできてくれた緑髪の少女へ微笑む。凶相がゆえにその表情からは恐怖しか感じないが、笑顔を向けられた七尾の人柱力フーは戸惑っている。

 

「…お前達“暁”の目的は知っている。すべての尾獣をひとつにした伝説の魔獣“十尾”の復活。それが何を意味するのか、何を目的にしているのか…お前はわかっていて、それでもなおその子を渡せと、そう言うのか」

 

再不斬はあくまで真摯に、鬼鮫へと問いかける。

 

鬼鮫はそんな再不斬の態度に困ったような嬉しいような表情を浮かべ、立ち上がる。

 

「…あなたは変わりましたね、いい意味で。…そこでバニーガールをしているお嬢さんのおかげですか?」

 

再不斬の背後には、フーを庇うように立つバニーガールの格好をした白が立っている。…よく見れば再不斬の首筋にキスマークがあるが、鬼鮫はあえて見ない振りをした。

 

「ああ、そうだ。こいつが、白がいるから俺は変われた。…なあ鬼鮫、今からでも遅くない。“暁”を抜けろ。ここならお前を守ってやれる」

 

「私を…守る…?」

 

思わぬ言葉に鬼鮫は問い返すように再不斬の言葉を繰り返し、しかしすぐにその戸惑いは止まぬ哄笑へと変わった。

 

「はははっ…!はっはっはっはっはっはっは…!!はっはっはっはっは!!わたしを…!守るだなんて…!」

 

笑い声が止まらない鬼鮫。その様子を見る白の目は氷のように冷たい。だがフーには、笑う鬼鮫がまるで泣いているように見えた。

 

「…再不斬さん、遅いんですよ。私の手は、全身は血に染まっている! 否、染まりすぎている…!!今さら私に救いなど、遅すぎるんですよ!!」

 

一転して激昂するようにチャクラを解放する鬼鮫。さきほどまでお茶を飲んでいた湯飲みが吹き飛ぶが、再不斬はそれを器用に受け止めると、自分のと合わせて背後の白とフーに渡す。

 

「どんな“救い”も、遅すぎることなんてないさ…」

 

言いつつ、再不斬は断刀を構える。

 

解放したチャクラが鬼を象り、鬼斬り包丁が朱に染まっていく。

 

「くおおおおっ!!」

 

「ぬんっ!」

 

布で包まれていた大刀・鮫肌を振りかぶり、再不斬へ向けて振り下ろす鬼鮫。

 

再不斬はそれをなんなく受け止め、峰に蹴りを入れることで鬼鮫ごと鮫肌をのけ反らせる。

 

「なんですとっ!?」

 

「どうした、チャクラが“削れねえ”か?」

 

言いながら、再不斬は次々と斬撃を鮫肌へと加えていく。

 

「その刀が“生きている”のは先刻承知。だったら食欲がなくなるくらいにビビらせてやるまでよ…!!」

 

再不斬から迸るのは、百の命を奪って生まれた修羅の気配。

 

鬼と呼ばれた男の本気の殺意に、鮫肌は怯えていた。

 

「くっ…!こんなことが!!」

 

本領を発揮できない鮫肌を操る鬼鮫は、自身の不利を悟り距離を開こうとするがなかなかうまくいかない。

 

「食らいなっ!《紅時雨》!」

 

再不斬の振るう断刀から、無数の血で出来た千本が降り注ぐ。

 

鬼鮫はそれを鮫肌で受けず、あえて自身の肌で受けきると、それによって出来た隙を用いて鮫肌と融合する。

 

「まさか早々この姿を晒すことになるとは思いませんでしたよ…!!」

 

大刀・鮫肌。その刀の特性はチャクラを削り取り吸収することにあるが、なによりも驚異的なのは相性のいい担い手と融合する能力にあった。

 

鬼鮫はチャクラを練り、自身にとって最も有利な戦場を作り出す。

 

「《水遁・大爆水衝波の術》!!」

 

鬼鮫の口から鉄砲水を思わせるほどの大量の水が吐き出され、再不斬に迫る。

 

「白っ!!」

 

「はい!」

 

バニーガールの格好をした白は即座に自身の周囲へ氷遁による結界を作り出し、大爆水衝波による津波を防ぐ。

 

再不斬自身はそれに巻き込まれるも、激しい濁流のなかでもすぐに体勢を取り戻す。が、すでに鬼鮫はすさまじい速度で再不斬へ接近している。

 

「《血斬り》!!」

 

しかし再不斬は水中で重さが増したとは思えない速度で断刀を振るい、血による質量を伴った斬撃を鬼鮫へと飛ばし巨大な水玉と化している大爆水衝波を切り裂く。

 

水玉はすぐに再生されるものの、連続で飛ぶ斬撃を放ち続ける再不斬に鬼鮫は近づくことができないでいた。

 

だが近付くことができないのであれば、近づかなければいい。

 

「《水遁・千食鮫の術》!」

 

水中を無数の鮫が飛び交うように再不斬へと迫る。

 

チャクラで作られた鮫は次々と再不斬へ襲いかかり、断刀によって切り捨てられていく。

 

(…ちっ、このまま水中で戦うのは得策じゃねえな。さすがに鮫肌と融合した鬼鮫相手じゃ向こうが有利すぎる。だがまあ、これで詰みだ!)

 

再不斬は血の斬撃によって水球の正確なサイズを割り出していた。

 

それによって判明した水球の大きさを把握した再不斬は、水球の外に飛ばした血の斬撃を媒介に四体の水遁影分身へと変化させる。

 

「「「「《水遁・水龍弾の術!!》」」」」

 

それぞれが四方に散った赤い水遁影分身達は、鬼鮫の作った大爆水衝波の水を媒介に特大の水龍弾を作り出す。

 

「はあっ!!」

 

上空へと打ち上げられた巨大な水の龍によって巨大な水球はあっという間に小さくなっていき、再不斬の気合いによって残りの水も弾けとんでしまう。

 

「おのれっ!?」

 

「終わりだ!《堕天水龍斬》!!」

 

上空高く飛び上がった再不斬が、断刀へさきほど打ち上げた水龍弾を纏わせ圧縮する。

 

「《水遁・大鮫弾の術》!!」

 

しかし鬼鮫もまた残ったチャクラによって自身最大の切り札を発動。相手のチャクラを吸収する鮫肌の特性をもった、巨大な鮫の形を象った忍術が鬼鮫を食い尽くさんとその巨大な顎(あぎと)を開き迫る。

 

───だが鬼鮫は忘れていた。この場には、彼を愛する少年がいたことを。

 

「《氷遁・氷華の術》」

 

小さな千本が結界を解いた白の手から放たれると、大鮫弾に命中したそれはあっという間に巨大鮫を凍りつかせていく。

 

「ちぇええええりゃああああああああっっ!!!!!!」

 

チャクラを食らう特性を凍らされたことで失った巨大鮫は切り裂かれ、再不斬はそのまま眼下の鬼鮫をも切り裂いた。

 

__________________________________

 

 

周囲一帯が水に濡れた音隠れの一角は、津波の被害にでもあったかのごとく変わり果てている。

 

潰れた家屋、崩れた道、どれも直すのには一朝一夕ではいかないだろう。

 

そんな中、再不斬は体を肩口から両断され死にかけている鬼鮫を見下ろしていた。

 

「…フ、フフ。負けましたねぇ…ゴフッ…!」

 

どこか清々しさを感じるほどに晴れやかな表情で、鬼鮫は再不斬を見上げる。

 

「白がいなけりゃ負けてたさ。お前はやっぱり天才だよ」

 

「ぐ…っ!かつての天才にそう言ってもらえるとは…うれしい、ですね…」

 

かつて鬼鮫は再不斬に憧れた。

 

血霧の里を変えようと、ひとり孤独な戦いを強いられていた再不斬。

 

そんな彼に倣おうと、自分もまた孤独な戦いを続けてきた鬼鮫。

 

どこで違ってしまったのかと、鬼鮫は意味のないことを考えて、やめた。

 

そんなことよりも、彼は今だからこそ伝えねばならないことがあった。

 

「再不斬さん、ぐっ…!聞いてください!心臓の呪印を切り裂かれた今だからこそ、あなたに、伝えなければならないことが、あるんです…ぐぼっ…!」

 

「わかった。言ってみろ」

 

血を吐き、指一本動かせない状況で鬼鮫は再不斬へ後を託すことにした。

 

唯一“暁”において洗脳も改造も受けていない彼にしかできないことだったからだ。

 

再不斬は鬼鮫の手を握り、彼の口許へと近づく。

 

「…はぁ、はぁ、はぁ…“暁”を今支配しているのは、うちはマダラを名乗る男ではありません…!ヤツに取りついた、もっとどす黒い、“悪意”そのもの…!これを、渡しておきます…!き、気をつけてください再不斬さん、決して…どんな相手が現れて、も…!」

 

耳の中から出した小さな巻物を再不斬へ渡し、鬼鮫は事切れた。

 

再不斬はそんな彼の目をそっと閉じると、黙って立ち上がる。

 

「…行くぞ白、フー。中央へ行って守りを固める」

 

「はいっス!」

 

「わかりました、再不斬さん」

 

鬼人は怪人を弔い音を駆ける。

 

この里は、かつてのように失わないと。

 

__________________________________

 

 

「…なるほど、やはり中枢を攻めてくる別動隊がいましたか」

 

「落ち着いている場合ではなかろう!俺は出るぞ!!」

 

冷静に窓の外を見据え、空を浮かぶ六体のペインを見つめながら呟く九郎。

 

そんな彼を諌めるのは、かつて岩隠れに所属していた人柱力ハン。

 

『蒸気忍者』の異名を誇る彼だが、里ではその容姿と人柱力であることから嫌われており、行く宛もなく黄昏ていたところを見た目美女の大蛇丸にスカウトされ音隠れへやって来ていた。

 

彼もまた、心底大蛇丸に惚れ込んでおり、また己の容姿を馬鹿にしない音隠れの里を心から愛していた。

 

例え敵の狙いが自分にあるとしても、この場所を襲う相手がいるならば命懸けで戦う。

 

ハンには、その覚悟がすでに出来ていた。

 

「すでに大蛇丸様が戦場に出ていらっしゃる以上、この場での最高責任者は私です。指示には従っていただきます。あなたの出番はもっと後です」

 

「そうですよ、ハンさん。まずは俺達が出ます。たぶんハンさんの出番無いですけどね」

 

「ふん、そういうことだ。美甘を傷つけようとするヤツらは俺がぶった切ってやる…!」

 

ハンを諌める九郎に同調するように出てきたのは、満月とレンヤ。

 

ある意味では音隠れの最高戦力とも言える彼ら二人の登場に、人柱力と言えどもハンはたじろぐ。

 

「いいえ、お二人もまだです。今上空のペインの中央にいるのはどうやら天道。で、あるならば。“あの仕掛け”を使った方が手っ取り早いので」

 

「…あー、あれですか。でもいいんですか?サイゾウさんが眠っている以上、もう一度設置するのは難しいですよ」

 

「構いません。それにあの方のことですから、ここが危機に陥っているなら絶対に起きます」

 

「そいつに関しちゃ俺も否定しねえな。もし眠ったままでいるつもりなら、俺が殺してやるよ」

 

三者三様にリアクションを返す中、ひとりだけ“あの仕掛け”の意味がわからないハンが思わずといった風に九郎へ尋ねる。

 

「なあ九郎殿、あの仕掛けとは一体?」

 

「すぐにわかります。皆さん、どうやらそろそろ来ますよ。仕掛けの発動に合わせて全周囲を警戒してください。ハンさんはここでチャクラを練り、不測の事態への準備を」

 

眼鏡をかけた細面の男大崎九郎。彼はその観察力からペイン天道の放つ術を見切り、ひとつの仕掛けを発動準備させていた。

 

そうとも知らず、上空のペイン天道はチャクラを高めていく。

 

「何もわからず消えてなくなるといい…《神羅天征》!!」

 

最大威力の神羅天征が中央府上空で発動し、巨大な斥力波が音隠れそのものを押し潰さんと迫る。

 

「残念でしたね。《竹遁反転壁》発動」

 

九郎が手元の札にチャクラを注ぐと、里の街路樹として機能していた竹が一瞬で成長し、その枝葉を繋げていく。

 

わずかな間で里を覆うほどの広さとなった竹林の枝葉はそのまま神羅天征を受け止めると、竹遁の特性を最大級に利用して斥力波を跳ね返す。

 

「情報がわかっているほど、恐ろしいことはありません。ましてや貴方達ペインの能力はネタバレが過ぎます。出来ることは全てこちらで把握済み…さて、次はどう出ますか?」

 

かつてサイゾウをして破格の待遇で迎えられた大崎九郎。

 

最低限のチャクラコントロールを教えられただけだった彼だが、今や《分神の術》すら可能とする。

 

“暁”にとって最大の障害となる男が、その敵意の鎌首を持ち上げる。

 

上空にて、ほぼ全員が斥力波の餌食となり粉々に吹っ飛んだペイン六道を見据えて、大崎は呟く。

 

さらに上空では、ペイン天道が大気圏を突破していた。




【【【MHV新作紹介】】】

【短編】僕のヒーローアカデミア異伝【Laughing joke】
https://novel.syosetu.org/127975/

【短編】エルフの耳を舐める少年【BL注意】
https://novel.syosetu.org/128332/

【連載】俺のハーレムアカデミア
https://novel.syosetu.org/128104/

__________________________________

・・・本編あとがき・・・

やっぱネタバレしてちゃダメよね、って話(´・ω・`)
ちなみに天道が仕掛けてくるのが《天碍震星》だった場合、もうちょっと苦戦してました。

あと最近ペイン畜生道ちゃんにハマった。くちよせのじゅちゅ!
そしてアニオリであのペインになった女の子には生きてた頃の活躍があったとか!
これはもうぬふぅするしかありませんなぁ(ジュビロスマイル)

はーい、以下は久々の術とか技の解説です。

補足★説明

・《外道転成の術》
本来使うつもりのなかった大蛇丸の切り札。その効果は…

・《血封印・蛇睨潜縛》
大量の血と口寄せした大蛇らによる大蛇丸の最強封印術。蛇による麻痺と、大蛇丸の血による呪縛で相手を未来永劫結界の中へと封印する忍術。残念ながらチート忍者イタチの前にあっさり破られる。

・《紅時雨》
血で作った千本。白の真似。

・《血斬り》
見た目は赤い月牙天衝。血を媒介にしているので、それを使って水遁影分身も作れる。

・《堕天水龍斬》
名前に意味はない。ネーミングは再不斬さんによる即興。圧縮した水で相手をぶった斬る。

・《氷遁・氷華の術》
恐ろしいほどのチャクラが込められたひとつの千本が飛び、刺さった対象を一瞬で凍りつかせる。

・七尾の人柱力フーちゃん
元気なロリ。再不斬さんに初恋中。白には気づかれてる。音にいたのは滝隠れからの留学という名目で送られた人質であるため。…とはいえ本人はそんなこと微塵も気にしておらず気楽に過ごしている。

・五尾の人柱力ハンさん
醜男。普通に不細工。そのせいで里でいじめられていたが、美女(大蛇丸)にスカウトされたことであっさり里を捨てて音隠れへ。このせいで岩隠れと音隠れは険悪だが、本人はそのことを気にしなくてもいいと大蛇丸に言われて余計に惚れ込んでいる。…他と違い大蛇丸が男だと知らない。

・《竹遁反転壁》
サイゾウが残した音隠れを守るシステム。神羅天征の威力と効果範囲を早い内から見抜いていたサイゾウが、大規模忍術への対抗策として音隠れに仕込んでおいた防衛装置。中央府にある厳重に管理された起動符にチャクラを注ぐことで発動し、質量をもった術でなければ完璧に反射できる。ただし一回のみ。ペイン天道は肉体こそ無事だったが大気圏を離脱して吹っ飛んでいった。

・大崎九郎
相変わらずのチート。チャクラコントロールを身に付けてからは反則な頭脳に磨きがかかった。
上空にいるペインの動きと天道の挙動から相手が神羅天征を発動してくること察知。あっさり撃退して見せた。
ちなみにこの事件より前だと手紙二枚で岩隠れの大部隊を壊滅させたりと、元ネタさながらの活躍もしていたりする。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

不協和音 ⑤ ★

これにて不協和音は最終回。

先月から続く怒濤の展開もこれにてラストとなります。

次回以降は再び主人公であるうちはサイゾウへと視点を移していきます。


大蛇丸とイタチの激闘は続く。

 

目まぐるしく景色を変える彼らの激しい攻防はすでに里を離れ、地図を書き直さねばならないほどの被害を周囲一帯に出しながらも、互いに攻めきれないでいた。

 

「……ほんっと! うちは一族な上に天才だなんて、オビトなんかに操られてるのが勿体ないわよ……!!」

 

言いながらも大蛇丸は術の展開を止めない。

 

《修羅の攻》にて大量の火器を出現させたかと思うと、それらの一斉攻撃により高速で動くイタチを面で制圧する──が。

 

「くっ……! 出たわね、《完成体須佐能乎》っっ……!!」

 

爆煙に包まれたイタチが遂に繰り出した完成体須佐能乎の剣が振るわれ、たった一撃で火器群は粉砕されてしまう。

 

だが、大蛇丸も負けていない。

 

目には目を。巨体には巨体を。

 

自身が持つ最大規模の忍術を即座に展開する。

 

「《八岐(やまた)の術》!!」

 

白煙と共にその場に現れた、文字通り山をも跨ぐ八頭(やつがしら)の大蛇の上に大蛇丸は乗って完成体須佐能乎を真正面から見据える。

 

《八岐の術》。それはかつて大蛇丸が研究した白蛇の再生力を極限まで強化した産物。

 

本来であれば、不屍転生の大蛇丸と融合することによって無類の再生力と攻撃力を誇り、あらゆる対象を蹂躙する大規模忍術である。

 

しかしその八つある頭の半分は塵に覆われ、今にも崩れ落ちそうなほど不安定に見える。

 

「……もう、あまり時間がないわね」

 

言いながら大蛇丸は八岐の大蛇それぞれの内五つの口から異なる性質変化の大規模忍術を放ち、イタチの完成体須佐能乎を襲わせる。

 

しかし須佐能乎が持つ《八咫鏡》によってそれらの術は無効化されてしまう。

 

「そうよね、()()()()わよね」

 

須佐能乎が《八咫鏡》を構え術を無効化した瞬間。

 

いつの間に潜らせていたのか、地面から現れた残り三つの大蛇が須佐能乎に噛みつき、呪印を完成体須佐能乎へ感染させその動きを止める。

 

「まだまだぁ……!!」

 

さらに大蛇丸は呪印で縛り上げた完成体須佐能乎へ八岐の大蛇を巻き付かせる。

 

「《蛇睨石縛》!!」

 

大蛇の頭がそれぞれを見る形で瞳術を発動。

 

あっという間に大蛇は石化していき、それはイタチの完成体須佐能乎ごと巻き込んでいく。

 

暴れもがく完成体須佐能乎だが、石化の呪縛によって満足に動けず徐々にその動きを止めていく。

 

「……勝ったの、かしら」

 

どこまでも懐疑的に……イタチごと封印され巨石と化した完成体須佐能乎を見やる。

 

しばらくそれを見つめていた大蛇丸は一度仙人モードへと変身して周囲を再度精査しようと動きを止め──咄嗟に前へ跳んだ。

 

数十年に及ぶ、戦闘の勘。それが大蛇丸を救った。

 

先程まで立っていた場所。そこには、大蛇丸がさっきまでいた場所を深々と切り裂き、封印術など無かったと言わんばかりに全身に須佐能乎を着込むイタチの姿があった。

 

その手に完成体須佐能乎と同じ両刃の大剣を構えるイタチを見て、大蛇丸は彼もまた禁術を行使してでもこの場での決着を望んでいるのかと考える。

 

そう、イタチの左眼からは光が失われていた。

 

イタチが用いた術。それこそはうちは一族に秘められし禁術《イザナギ》。

 

写輪眼ひとつと引き換えに、自らが展開した幻術と現実を入れ換えるという、途方もない効果を持つ術である。

 

(けどイザナギを用いてくる以上、最悪失明してでも…………待って、“暁”にとっての勝利条件は人柱力の奪取のはず。まさかそれがミスリードだというなら……くっ、なんてこと……!!)

 

大蛇丸は自身が導いた結論がほぼ正解だということを悟る。

 

目の前のイタチが、須佐能乎を解いたからである。

 

「……“暁”の目的は達成した。せめてその短い残りの生涯を、有意義に過ごすがいい」

 

イタチの全身は戦慄(おのの)いていたが、それを無理矢理イタチは抑えると烏分身によってその姿を散らし姿を消した。

 

「そんな……!!」

 

大蛇丸は地団駄を踏みたくなるほどの怒りを覚える。

 

“暁”の目的は、他ならぬ大蛇丸(自分)だったのだと。

 

__________________________________

 

 

打ち崩された音隠れの里。そのなかでも万全の布陣を敷き無傷だった中央府において、里の主だった者達が集められていた。

 

雰囲気は一様に暗い。

 

間もなく、大蛇丸が消えてしまうからだ。

 

「何とかならねえのかっ! アンタが開発した術なんだろう……!!」

 

「そんな……母さんが……」

 

「嘘だと言ってくだされ大蛇丸殿!!」

 

順に再不斬、君麻呂、ハンである。

 

再不斬は激昂しながらも己に何もできないことが何よりも許せず、その握りしめた掌からは血が滴っている。

 

君麻呂は現実が受け止められず、呆然と膝をついて涙を流しており、そんな彼を心配して同じく涙を流す重吾と幻幽丸が側についている。

 

ハンもまたその衝撃は同じだったが、自分以上に動揺する者達を見て幾分か冷静でいられてしまえていた。

 

「……なるほど。自身の肉体を強制的に穢土転生と同じ状態にする術ですか。確かに強力なんでしょうけど、あなたがそれを使ってしまうことがどういう意味なのか。わからないあなたではないでしょうに」

 

「大蛇丸先生……」

 

鬼灯満月が冷静に今の大蛇丸の状態を見抜き、唯一彼を責める。だがそれを咎める者はいない。怒りよりも、悲しみが勝ってしまっているがゆえに。

 

レンヤに至っては衝撃が強すぎ、思わずサイゾウの記憶にある呼び名で大蛇丸のことを呼んでいた。

 

「“この世の本当の力とは、忍術を極めた先などにはありはしない。大切な者を守る時……真の忍の力は表れる”。かつて猿飛先生から教えられた言葉よ。……本来なら、わたしは何をおいても生き残るべきだったんでしょうね。けど! 目の前でこの子達が殺されるかもしれない。そう思ったら、形振りなんて構っていられなかった。わたしはどうなってもいい……! この子達だけは、絶対に生き残らせる! ……そう、思ったのよ」

 

悲しげに、満足げに語る大蛇丸。

 

その体からは徐々に塵が散らばりつつあり、彼を構成する魂がほどかれていくのが見てわかった。

 

「……輪廻眼を通して口寄せ獣から得た情報よ。今回の事件。襲われたのは音だけではないわ。パクラと雨由利が派遣されていた霜隠れは雲隠れの非合法部隊に襲われ、テンゾウのいる滝隠れは謎の人柱力擬きに襲われたそうよ。それに、木の葉も襲撃されているみたいね。輪廻眼のリンクが起動したわ。サイゾウが起きたみたいよ」

 

意識不明だった火影の復活。それは一同にひとつの希望を思い起こさせるのに十分な内容だった。

 

「そうだ! だったらサイゾウ様に言って《輪廻天生の術》で生き返らせていただければいい!」

 

真っ先に発言したのは、これまで顔面蒼白となっていた大崎九郎だ。

 

彼はただ顔を蒼くしていたわけではない。必死に、持てる情報すべてを用いて大蛇丸が延命する方法を探っていた。

 

「……九郎、ごめんなさい。わたしの用いた《外道転成の術》は人の輪廻から外れる術なのよ。だから如何に輪廻眼の転生忍術であっても、わたしを蘇らせることは不可能なの……」

 

「そんな……!」

 

その時の大崎の顔は、まさしく絶望そのものだった。

 

そんな大崎の元へ、大蛇丸は体を散らしながら近づいていく。

 

「んぐ……!」

 

「……ごめんね。あなたの想いは知っていたけど、かつて魔道に落ちたあたしには誰かに愛される資格なんてないって、ずっと想っていたの。“もし”があるなら、どうか来世でも、わたしのことを愛してね」

 

不器用な、唇を合わせるだけの口づけ。しかしそれを受けた九郎は、涙を流しながら頷くことしかできなかった。

 

「ハン、あなたがこの里を守って。もうわたしはこの子達の行く末を見届けてあげることはできない。だから、その役目をあなたに任せるわ。わたしからの最初で最後のお願いよ」

 

大蛇丸はハンにも同じように口づけをして、離れる。すでに大蛇丸には片腕がなく、足も無くなりかけつつあるのを輪廻眼の能力で浮いている状態だ。

 

「……例えこの五体砕けようとも、必ずや音隠れをお守り致します!!」

 

ハンはぼろぼろと泣き崩れ、その場に跪く。

 

「君麻呂、重吾、幻幽丸。こんなダメなわたしでも、お母さんって思ってくれてありがとうね。あなたたちのことを、いつまでも愛しているわ」

 

大蛇丸は3人を優しく抱き締める。

 

「俺が……! 俺が弱かったから、母さんを……!!」

 

血を吐くような君麻呂の言葉。しかしそれを大蛇丸は優しく否定する。

 

「そんなことないわ。あなたたちは()()。その強さを貰えたから、わたしは最後まで“人”であることができたの。でももし、自分が不甲斐ないと思うなら存分に鍛えなさい。誰にも負けないほどに。何も奪われないほどに」

 

大蛇丸からの言葉を受けて、君麻呂は立ち上がる。その最後を、目に焼き付けるために。

 

「ねえレンヤ。貴方って不思議よね。元々は分身なのに、今じゃ言われなければわからないほどにサイゾウとは違う。……ねえ、命って、どこから来てどこへ行くのかしらね」

 

どこか抽象的な言葉。その間にも大蛇丸の体は崩壊していき、遂には上半身のみとなる。

 

「レンヤ。あなたをわたしの次の長として、音隠れの里を任せます。それと、これはせめてもの餞別よ」

 

大蛇丸は残った右腕をレンヤの心臓の上へ重ねると、自身に残されたチャクラを全て注ぎ込む。

 

「……《起生転生の術》。……ふふ、これであなたはもう“紛い物”なんかじゃないわ。胸を張りなさい。あなたはサイゾウの分身なんかじゃない。レンヤという、たったひとりの人間よ」

 

大蛇丸がレンヤへ渡したチャクラは彼の全身を隈無く巡りわたり、その身にひとつの奇跡を起こす。

 

レンヤの体は、これまでも生身ではなかった。ただ外道の術によって“人によく似た存在”としてこの世にあるだけだった。

 

そんな彼の体は今、鼓動を繰り返す生身の肉体と化していた。

 

「こ、これは……!!」

 

「レンヤ……!」

 

美甘は涙を流しながら、その奇跡を起こした大蛇丸を見つめる。

 

「……どうやら、ここまでのようね……でもよかったわ、こんなにも強い子達に……会えて……」

 

大蛇丸の体が崩れ、怒号のように悲鳴が起きる。

 

完全な塵と化した大蛇丸の体は風に乗って空を舞い、あまねく彼方へと運ばれていく。

 

(…どうやら起きたようね、サイゾウ)

 

幽体となった大蛇丸がその魂すらも綻ばせながら、サイゾウへと話しかける。

 

久しぶりに語らう弟子は今の彼の状態にひどく焦っていたが、大蛇丸はそうやって焦る姿にかつての彼の様子を見る。

 

自分に弟子入りし、試行錯誤を繰り返していた頃の姿を。

 

(…悪いけど、後は頼んだわよ)

 

どこか突き放すような言葉だが、自分の弟子ならこれで十分だろうと大蛇丸は微笑む。

 

あの男に出会って変わることができた。与えるものも、与えられるものも、十分にあった。

 

これにて大蛇丸という忍の物語は終わり。

 

けれど、その意思は、心は生き続ける。

 

誰かのなかで…………………………………………

 

__________________________________

 

 

かつて白蛇を拾った少年は、己を育む師からそれが“幸運”と“再生”の象徴だと教わった。

 

彼は後に自らが白蛇となり、不死の体でこの世の理を解き明かそうとした。

 

しかし彼の弟子となった者に“違う可能性”を見つけた少年は、その生き方を変えていった。

 

『伝説の三忍』大蛇丸。音隠れを守り、愛する者の為に死す。

 

 




大蛇丸が死ぬ、という展開は最初期から考えていました。

原作最終章での綱手との会話がきっかけです。

この作品において彼は愛すること、愛されることを知りました。

その最後は悲しいものとなってしまいましたが、今後も彼の意思は生き続けるでしょう。

音の意思として。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

五影会談①

なんか別作品での読者の皆様が言うNTRの定義がよくわかんないので、今回こちらでも書いてみました(´・ω・`)
個人的にはこれがNTRってやつです。レイプとNTRは違うのです。
ここで一応注意喚起しておきますので、閲覧は自己責任です。タグも必須ではないのでつけません。まあそんな大した量書いてないんですけどね。

それでは大蛇丸が没した後のお話をどうぞ。


音隠れの里。

 

大蛇丸を失った悲しみは大きく、すでに事件より一ヶ月が経過した今も、里に住む者達の表情はどこか陰りを帯びていた。

 

そんな音隠れもとい田の国全体の行政を司る中央府。

 

そこで、かつては大蛇丸が座っていた執務室の机に元守り刀十傑集の一人であるレンヤが座っている。

 

大蛇丸から音隠れの長という立場を継いだ彼は、その名を九頭竜レンヤと改めていた。

 

そしてレンヤの前には、火影であり田の国大名でもあるうちはサイゾウが肉厚の巨体をソファに沈めている。

 

「……五影会談? たしかにここまで騒ぎが大きくなったのなら必要かもしれないが、他里の連中が応じるのか? 正直、すでに忍界大戦が開戦していると言っても過言ではない状況なんだぞ」

 

レンヤの言うことは最もだった。

 

木の葉隠れにおいては雲隠れを隠れ蓑に“暁”がテロを起こし、さらには日向のお披露目式を襲撃。あまつさえ現火影の妻に重傷を負わせたのが、穢土転生体とはいえかつての雷影であったことから“雲に宣戦布告するべし”との意見まで上がっていた。

 

「ああ、わかっている。なにせ襲撃を受けた里が多過ぎる。霜隠れは人的被害こそ抑えられたものの、里全体が壊滅的な被害を受けている。滝隠れは……もう無理だな。人的被害がデカ過ぎる。それにあの里が長年秘匿していた封印術などの情報も漏れた可能性が高い。里を襲ったのが人柱力擬きってのが謎だが、状況を考えればそれらをより安定して運用する為にあの里を狙った可能性もある。テンゾウはよくやった方だよ。……はあ、嫌な話だぜ」

 

状況を整理するように口にして、思わずため息を吐くサイゾウ。

 

レンヤは益々不思議そうな顔になるが、サイゾウはそれに構わず話を続ける。

 

「だからこその()()()()だ。すでに通達は出したが、今回の会談に応じればよし、応じないならば“暁”と協力しているとみなして宣戦布告するとな」

 

サイゾウの言葉は落ち着いたものだったが、そこに迸る怒りがあるのをレンヤは見て取りうすら寒さを覚える。

 

(……生身を得たとはいえ、仮にこの男が“音”の敵に回った場合俺は勝てるのか……?)

 

それは里長という役目を任されたこそ想定しなければならないこと。だがそんなレンヤの様子に気づいたのか、サイゾウは笑みさえ浮かべて彼の懸念を否定する。

 

「……安心しろ。例え将来的に穢土転生されても、俺がこの里に手を出すことは間接的にでも絶対ねえよ。本来なら他の里にしてもそうなんだがな……。ああ、それより今回の五影会談、音からも来てもらうぞ。名目は同盟代表とその護衛としてな。お前はその代表だ」

 

「なに?それは……一波乱ありそうだな」

 

「ああ、面白いことになるぞ」

 

口角を上げるサイゾウに同調するように、レンヤもまた笑みを浮かべる。

 

その様子を後ろで見ていた美甘は

 

(似た者同士だなー)

 

と気楽な感想を持っていたが。

 

__________________________________

 

再度の通達。

 

五影会談を了承する旨がすべての里から届くと、その場所は即座に決められた。

 

そこは大戦期においてもただひとつ中立を貫いた国。侍が治める、“鉄の国”である。

 

三狼と呼ばれる険しい山々に囲まれたその天然の要害ぶりもさることながら、忍術ではなくチャクラを操る彼ら侍の武力は国土こそ小さいものの五大国に匹敵する。

 

それゆえの中立であり、何者からも侵されないというのは侍にとっての誇りでもあった。

 

──そんな鉄の国の一室にて、尋常ならざる緊張感が漂っている。

 

その場にいるのはうちはサイゾウ、美甘、九頭竜レンヤ──そして侍大将ミフネその人である。

 

今レンヤとミフネは、互いに真剣を持って対峙していた。

 

音隠れでのレンヤとの対談を終えたサイゾウは、翌日には彼と妻である美甘を連れて鉄の国へ向かった。

 

移動には尾獣を思わせる巨大な鷹を口寄せし、五大国のどこよりも早くたどり着いている。

 

一応火影の護衛という名目で、ガイとナナシがナルトとサスケを連れて後から合流する予定ではあった。

 

人柱力であるナルトを里外へ連れ出すことには反論もあったが、護衛として更に三代目火影猿飛ヒルゼンが加わることで了承された。

 

鉄の国を訪れたサイゾウ、レンヤ、美甘を出迎えたのは、侍大将ミフネであった。

 

父親自らの出迎えに、家出同然で出国したゆえどうなるものかと心配した美甘であったが、ミフネはその瞳に涙すら浮かべて久しぶりの娘の帰りを喜んだ。

 

それに安心したのか、美甘もまたいきなり「レンヤ殿と正式に祝言を上げたいでござる」とぶっちゃけミフネの顔を引きつらせていた。

 

ミフネは考える。

 

相手は五大国の木の葉に属する音隠れの重鎮。ここで頷くのは簡単だが、それでは鉄の国としての面子が保てない。そして何より、一方的に娘の貞操を奪っておいていきなり結婚しますでは父親として納得できない。

 

考えれば考えるほど「とりあえず斬っておこう」としか考えられないミフネを見てサイゾウは最初ニヤニヤしていたが、ミフネを納得させる条件として“剣でレンヤがミフネに勝つこと”を提案した。

 

ミフネとしてはこの場で最も発言力があるサイゾウがそう言うのであれば、願ったり叶ったりである。

 

条件はすぐに了承され、身内のことだからと側仕えの者すら部屋から追い出し修練場の一室を貸しきりふたりは対峙した。

 

そして、今に至る。

 

ミフネの構えは居合い。刀は鞘に納め、脇構えに近い低い姿勢で抜刀の機会を窺っている。

 

対するレンヤの構えは正眼。真正面からミフネの迸る剣気を受け流し、かつ自身から溢れる剣気を隠そうともせずミフネへ向けている。

 

見た目だけならば、鞘に刀がある分ミフネが不利に思えるかもしれない。

 

だが実際には、居合いというのは鞘の内にありながら既に抜いている状態に等しく、極めれば例え相手の刀が首元にあっても()()()()ことが可能な剣術の妙技である。

 

ミフネはかつて大戦期に国が戦に巻き込まれた際、その居合いの早さを持ってして『二の打ちいらず』『術殺し』とまで呼ばれたほどの(はや)さを誇る男だった。

 

そしてその腕前はいささかも衰えておらず、むしろ目の前の男に対する敵愾心から最速の一撃を出せる自信があった。

 

しかし──────現状、ミフネは微動だにできなかった。

 

(信じられん……この若さでこの男、ここまでやりおるか……!!)

 

剣に限らず、何かしらの武芸を極めた者のみが到達できる領域に、互いの力量を事前に知ることができるというのがある。

 

ミフネは改めて目の前の男を見る。(おもて)はサイゾウに似ているだろうか。

 

タレ目がちでどこか柔和な印象を受けるサイゾウとは違い、最初見た彼の目はきっとつり上がり意思の強さを宿しているのが分かった。

 

だが今ミフネを見る彼の眼は、半眼にて殺気なく平常無心。

 

さらにその全身は細身だが、それは決して肉を無駄に削ぎ落としたのではなく、まるで鋼を縒り合わせたかのごとく引き絞られたものだ。

 

しかもそれだけの肉体を得ていながら、彼の全身は優柔脱力。構えあって構えなし。

 

正眼に構えてはいるが、ミフネはまるで彼がそこにあってそこにいないような印象すら受けていた。

 

……それから、どれだけの時間が過ぎたか。

 

やがて三十分ほどが過ぎた頃、変化が現れた。これまで互角に対峙していたミフネが、汗を垂らし始めたのだ。

 

しかしレンヤはその構えを解こうとはしない。否、構えているつもりですらないのかもしれない。

 

ただそこにある。それだけで、レンヤはミフネを圧倒していた。

 

それから五分が更に経ち、とうとうミフネは膝を屈した。自らの敗けを認めたのである。

 

ただ静かに対峙していたわけではない。星々の瞬きを思わせる無数の攻防があった。互いの気配を読みあい先を取り合う“気”による戦いは、まるで大戦(おおいくさ)を終えた後のような疲労感があった。

 

「……素晴らしい剣気であった。改めて、名前を伺ってもよいかな。後の息子の名前を」

 

夥しい汗に濡れ、全身から疲労の気配を出しながらもミフネは笑顔でレンヤを見上げる。

 

まるで如来が宿ったかのような笑顔を浮かべるレンヤは、一礼してミフネと同じ視線になるようその場に正座すると名を名乗った。

 

「かつて一抹の気まぐれより生まれたゆえ、生国(しょうごく)はありませぬ。ただ今は亡き大蛇丸殿への敬意を表し、名を“九頭竜レンヤ”と名乗っております」

 

「九頭竜……勇ましい名前だな。美甘、お主とんでもない男を捕まえよったな。はっはっは!」

 

明け透けに笑うミフネは心地よい疲労感に包まれながらふと心の中で思った。

 

(二人に子が生まれれば、その子を次の侍大将に指名してもよいな)

 

思わぬタイミングで安泰となった鉄の国の将来に思いを馳せながら、ミフネは後日に控える五影会談の準備を進めるのだった。

 

__________________________________

 

音隠れの里、その外れ。

 

初代音隠れの長として多くの者に愛された大蛇丸の墓の前に、ひとりの男がいた。

 

「まさか……お前が先に逝くとは、のぉ……」

 

自来也。木の葉隠れの忍であり、今は“暁”の動向を探るために世界中を駆け回っていた。

 

すでに年齢は五十を越えたが、老いてなお盛んと呼べるだけの実力者である。

 

「あなたが自来也様ですね。大蛇丸様からお噂はかねがね伺っております」

 

「おお、お主が大崎殿か。音の重鎮がワシのような流れ者にわざわざ会いに来なくてもよいものをのぉ」

 

自来也の後ろに現れたのは大崎九郎だった。なぜか“大蛇丸LOVE”と書かれたTシャツを着ているが、つっこんだら面倒そうだと自来也は見なかったことにした。

 

「ご謙遜を。それより、此度のご来訪はどういった用件でしょうか」

 

「親友の墓参り……だけならよかったんだがのぉ。──“暁”が拠点にしている場所が()()()()わかった」

 

「それはっ……!」

 

その言葉に大崎の全身が総毛立つ。暗い喜びと怒りがない交ぜになり、どんな顔をしていいのかわからないほどの激情が心身を焦がす。

 

「焦るな、大崎殿。今サイゾウが五影会談に向かっているのはその為でもある。なにせ、拠点の内二つは五大国だからのぉ」

 

「……なるほど。いぶり出すつもりですか、サイゾウ殿は」

 

大崎はサイゾウが去る間際“戦時中のつもりで動け”と指示を下していった意味を悟り笑みを浮かべる。

 

「そうなるのぉ。ま、他の里に行った連中も戻ってくるという話だからワシはそれほど必要ではないとも思うが、一応万が一に備えてこの里を守るようにサイゾウから任務として言われておるでな。しばし、逗留させてもらうとするのぉ」

 

どれだけ備えても備えすぎるといったことはないが、自来也という巨大戦力が音隠れの守りとなってもらえるのは行幸である。

 

そうであれば、自来也のおかげで浮いた戦力を使って、大崎にはやっておきたいことがあったからだ。

 

「ありがとうございます。……あ、中央府に行けば大蛇丸様グッズ売ってますよ。いかがですか?」

 

「……それは遠慮するのぉ」

 

大崎はそれからも宿に着くまでの間自分が作らせた大蛇丸グッズの商品紹介を通販番組のごとく語り続けた。

 

__________________________________

 

──砂隠れ──

 

「では、行ってくるぞ」

 

「まあ精々不意打ちで殺されんようにな! ギャハ! ギャハ!」

 

里を出ようとする四代目風影羅砂(らさ)に対し、笑いながら送り出すチヨ婆。その横では弟であるエビゾウが姉の態度にオロオロしている。

 

「……護衛もいる。戦争の可否を決める大事な会合なのだ。無様は見せんよ」

 

羅砂は護衛として上忍のバキを始めとした十数名を率い、さらにはサイゾウからの手紙にあったように人柱力が狙われる可能性を考慮してまだ幼さの残る我愛羅、テマリ、カンクロウを率いていた。

 

「あなた、道中気を付けてくださいね」

 

そこへ、()()の羅砂の妻加瑠羅(かるら)が現れ夫の無事を祈る。

 

彼女は我愛羅を生んだ後衰弱したが、同盟国である木の葉からもたらされたうずまき一族の封印術により守鶴の封印が安定した影響もあって、今も健全であった。

 

ただ封印術によるものかチャクラの大半を失っており、忍として再度活躍することは不可能であるとも言われていたが。

 

今回も可能ならば夫と子供達に着いていきたかったのだが、足手まといになるとして同行を断念せざるを得なかったのだ。

 

「ああ。三人は任せろ。これもいい経験になるだろう。夜叉丸、後は任せたぞ」

 

「はい、風影様。姉さんは俺がきっちり守ってみせますよ」

 

自信ありげに胸を叩く夜叉丸。実のところ彼もまた里長の血統に連なる者であり、数少ない磁遁忍術の使い手でもある。

 

「母さま……」

 

そんな中、加瑠羅にしがみついて離れない者がいる。我愛羅だ。

 

「大丈夫よ我愛羅。お父様は強いから、あなたのこともちゃんと守ってくれるわ」

 

もう10歳になるというのに母離れできていない我愛羅ではあったが、母の言うことを聞いてどうにか離れる。

 

……もし、加瑠羅が我愛羅の産後死んでいたならば。もし、我愛羅の封印術が不安定で、何度も暴走を繰り返していたら。こんな風景はありえなかったかもしれない。

 

だが、そんなことは起きなかった。それがすべてであり、今の結果である。

 

風影一家の一行は砂漠へと向かって出発する。

 

今後の未来を左右しかねない五影会談へと。

 

__________________________________

 

「あっ……! あっ……! あっ……! うっぐぅっ……!」

 

薄暗い闇の中で、一人の女が涙を流しながら抱かれていた。

 

「リン……! リン……!」

 

必死に腰を振るのはオビトその人であるが、その目は虚ろでとても正気には見えない。

 

呟く名前の相手が既にこの世にいないことすら理解にないだろう。

 

抱かれる相手は、青紫の髪に紙で作った花のコサージュをつけた女性小南(こなん)であった。

 

《別天神》による強制支配。

 

それが今の“暁”の現状であった。小南もまた“顔のない男”によって意識を奪われ彼の為すがままである。

 

そして彼女は今、戯れにオビトへ与える女として抱かれていた。

 

「ぐぅっ……! うあ゛っ、やめ、やめろぉっ……!」

 

言葉だけは必死で抵抗する小南。しかし、体を操ることそのものを許可されていない今、彼女は強制的に絶頂を繰り返させられていた。

 

一突きごとに、自分のなかにある大切なものが壊れていく。

 

小南はせめてもの反抗として、自分を見下ろす“顔のない男”をにらむ。

 

「ふむふむ、面白いな。快感は最上級のモノを与えているというのにこの反抗的な態度。はて、あのうちはサイゾウは一体どうやって“女”というものを攻略しているのだ」

 

無造作に近づいた“顔のない男”が小南の乳房を乱暴に握る。まるで千切らんばかりにこめられた力が小南に激痛を与えるが、それさえ快感に変じられ小南はヨダレを垂らしながら全身を痙攣させる。

 

「まあ、素晴らしい精神力だと誉めておこう。だがこのままというわけにはいかないのでな。〝感度を五倍に上げろ〟」

 

「待て! そ、そんなことをしたら……いぎゅうぅ!? おぐ! おごえ!」

 

顔のない男の(おもて)に突然現れた目に見つめられ、小南は今度こそ理性を失った。

 

もはや自分の手足が付いているかどうかさえ認識できない。ただ脳が焼き切れんばかりに続けられる快楽に翻弄され、失禁を繰り返す。

 

「ぐああっ! あ゛あ゛っ! う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!」

 

「ハッハッハ、まるで豚だな。まあお前にはお似合いだよ」

 

そう言って、オビトに抱かれ続ける小南を放置して“顔のない男”はその場を後にする。

 

“顔のない男”──黒ゼツはすでに暁の拠点を五大国のどこでもない場所へと移していた。

 

これまでのアジトを失うのは手痛いが、現時点で()()()()()達成している。

 

であるならば、大切なのは外道魔像のみ。

 

黒ゼツは外道魔像に直接接続され、無数の管に繋がれた長門を見上げて呟く。

 

「ごめんよ母さん……もうすぐだから。あと少しだけ準備に時間をかけさせて欲しい。なに、心配はいらないさ。どんな力の持ち主でも、運命には逆らえないんだから」

 

愉悦を浮かべて外道魔像を見上げる黒ゼツは、その無貌をあげてケタケタと笑う。

 

邪悪な意思が、物語を侵食していく。

 

 




暗躍と安堵と暗躍、というテンポで書いてみました。
あれだけの壮大な話を書いたあとに続き書きはじめられるかなあと不安だったのですが、書いてみれば案外いけるものです。

ちなみに黒ゼツの性格モデルは自分の悪い部分をを参考にしてます。
基本的に人を見下して、絶対に自分が間違ってると思いません。そして恋した相手への粘着質なメンヘラっぷり。自分で書いててもやばいと思います(笑)

それと色々書きたいんですけど、岩隠れとかって情報量無いんですよねえ。
次回で霧隠れを書くとして、他はノータッチかなあ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

五影会談②

一応閲覧注意です。

綱手のチャクラ尽きた後の形態とのセックスシーンがあります。すぐに膨らませますけど。
絵面はマッチョがしわしわ婆さんを強引に……うわぁお(´・ω・`)
ということでここで注意喚起しておきます。

本編開始。時系列が前後しますが、あんまり気にせず読んでください。



五影会談より約一月前。

 

“暁”の襲撃を受けた木の葉隠れではあったが、特別被害が出なかったこともあり、崩れた建物などの後始末以外では、既に日常を取り戻していた。

 

そんな木の葉の一角にある日向の街。最も大きな被害を受けた日向の本家屋敷であったが、馬車馬のごとく働く三代目によってすでに家は再建されていた。

 

「世話をかけたな、カエデ」

 

「いえ、私こそとんだご迷惑を」

 

胸を貫かれ重傷だったカエデだが、綱手が自身のチャクラの殆どを注ぎ込んだ影響もあってかもはや歩けるほどに回復していた。

 

今も大事をとって布団で横になってはいるが、正直本人としても手持ち無沙汰で暇をもて余している。

 

事件が起きて三日が経過した。今の時間は娘のタカノを綱手やノノウが見てくれている。

 

これはサイゾウがカエデを見舞いに来ると知った二人が、カエデに気を使って家を空けてくれたのだ。

 

「迷惑だ、などと思っているわけがないだろう。お前は俺の“妻”のひとりだ。その妻ひとり助けることがどうして迷惑になると言うのだ。愛してるぞ、カエデ」

 

突如として真正面から愛を囁かれ、カエデは困惑しながらも濡れてしまう自分がいるのを自覚する。

 

「や、やだ。恥ずかしいです、サイゾウ様」

 

「何を照れる。……いや、可愛いからもっと照れろ。大好きだぞ、カエデ」

 

「はあぁ……♡ んぅ……!」

 

耳元で囁かれた声に我慢ができず、カエデはサイゾウの襟元に掴まり喘ぐ。

 

「達したのか……?」

 

「………………はい」

 

消え入りそうな顔で朱に染まった(おもて)を見せないよう、俯くカエデ。

 

見た目だけなら十代半ばの少女の容姿を持つ自分の妻に、サイゾウは今どうしようもないほど興奮していた。

 

「あっ……!」

 

余裕のないサイゾウは、無言でカエデを押し倒しその服を脱がせていく。

 

元々下着を着けていなかったのか、一枚はだけさせればカエデはその瑞々しい裸体を惜しげもなくサイゾウに晒されていた。

 

「美しいな……」

 

「サ、サイゾウ様……!」

 

もはや乳首は張り詰め、痛いほどに突起している。

 

膣は失禁したかのように濡れているし、こんなこともあろうかと菊の穴も丁寧に処理してある。

 

「ひゃぁぁぁうっ!!!」

 

再び無言で、サイゾウが動き始める。

 

まるで童貞のように、カエデの胸にしゃぶりついたのだ。

 

童貞と言ったが、それはあくまで必死な様子がそう見えるだけで、カエデを攻めるサイゾウの舌技が衰えたわけではない。

 

以前よりも情熱的に蠢くサイゾウの舌に、カエデはあっさりと2度目の絶頂を迎える。

 

「……くぅぅぅ、んっ!」

 

布団の端を手で握り、体をよじるカエデ。絶頂して尚続くサイゾウの舌から逃れんと動くが、それは逆効果となり余計に興奮したサイゾウによって何度も絶頂させられる。

 

「ふぅぅうぅぅうん……♡ ひくっ♡ んひぃい♡」

 

甘い、まさしく蕩けるような至福の時間。だからこそカエデは油断していた。

 

「ひっぎぃぃ……!! あは♡」

 

自分の腕ほどはあろう逸物。寝ている間、自分と綱手、ノノウの三人で代わる代わる搾精していたそれが突き入れられ、今完全に不意打ちでカエデの子宮口をノックしていた。

 

「あ……あ……動いちゃ、らめ、れふぅぅうぅん♡」

 

ぬとぬとと、粘度の高い水音を響かせながらサイゾウは抽挿する。

 

カエデの五体にはもはや力は残っていない。元より抵抗するつもりなぞどこにもなかったが、自身を支えることすらできそうにない。

 

ただ貪るように己の体を味わうサイゾウの体温と重さを感じながら、カエデは嬉しさのあまり涙を流して口づけをする。

 

「んむ……んぅ……ん……」

 

息をするのを忘れたかのような長い口づけ。その間にもサイゾウは動き続けており、カエデは絶え間ない絶頂を迎える。

 

多幸感によって涙を流しながら、カエデは繰り返しサイゾウへ愛を告げる。そうしなければ自分は死んでしまうと言わんばかりに。

 

「愛して……ます……! あなたを愛してます! ああ! こんな、こんなにも人を愛せるだなんて……! あなたの好きにしてくださいまし……! いつでも、どんなときでも私はあなたの為なら股を開きます! ああ! サイゾウ様! サイゾウ様ぁ!」

 

自分がどうなっているのかわからないが、それでもカエデにはしっかりとした道標があった。

 

自分の膣内(なか)にあるサイゾウの逸物。そこから感じる劣情と愛情の入り交じった強烈な欲求。それを感じられるのならば、今自分がどれだけあられもない姿であっても問題ない。カエデはそう確信しながら、もう何十度目かの絶頂を迎えて気を失った。

 

__________________________________

 

サイゾウがカエデを抱いたときより更に前。

 

サイゾウはタカノを取り戻し、木の葉に戻るなりその面倒を既に回復を済ませたノノウに任せて綱手の元へと急いでいた。

 

医療忍術。それは己のチャクラによって相手の生命力を活性化する掌仙術をはじめとして、多彩な医療知識を前提とした“人を救けることを前提とした忍術”である。

 

今回綱手は、本来ならば複数の上級医療忍者が必要な《治活再生》を触媒もなしに行使したのである。

 

そして()()()傷つけられたカエデを癒すために限界までチャクラを使った綱手はその変わり果てた姿を見られぬよう、日向の屋敷の奥深くに姿を隠していた。

 

「姉さん、今戻ったよ」

 

「……そうかい。私もしばらく時間を貰ったら戻るから、カエデの側にいておやり」

 

それは明らかな強がりだった。たしかにカエデの側にいたい、という想いはサイゾウの中にあった。

 

だが、今はそれ以上に目の前で打ち震える綱手を抱き締めねばならないと、強く感じていた。

 

サイゾウは無言で綱手の腕を取る。その腕は普段の彼女からは考えられないほどにしわくちゃで、まるでくたびれた老婆のそれを思い起こさせた。

 

術の反動。それは、綱手が年齢を重ねたこともあったが、なによりも彼女特有の医療忍術に秘密があった。

 

《創造再生》。無尽蔵の再生能力を肉体に宿すこの呪文は、封印していなければ常時発動してしまうという危険性を秘めている。

 

綱手はそれを百豪の印によって習得したチャクラコントロールで《陰封印》を己にかけ、常に封じていたのだ。だが身体機能を抑制するようなことをすれば今度はその反動が来るのもまた事実。

 

老体となった綱手の体は、治療によってチャクラが尽きた結果起きた現象だった。

 

サイゾウはそんな綱手の様子を見て、痛ましく、哀しい気持ちになる。どれだけ姉がその姿を晒すことが辛かっただろうかと。

 

しかし内心の動揺を一切出すことなく、サイゾウは次いで綱手の顔を自分へと向かせる。

 

僅かに抵抗した綱手だが、普段の怪力も満足に発揮できない今となっては、サイゾウによって為すがままだった。

 

「見ないでくれ……」

 

涙すら浮かべて懇願する綱手。しかしサイゾウはそんな老婆と化した綱手に無言で口づけする。

 

唇が触れ合うような生易しいものではない。互いの粘膜と粘膜を交換し合うような、ねっとりとした重い口づけだ。

 

「無茶をし過ぎだ、姉さん」

 

「あっ……」

 

サイゾウは綱手の服を脱がし、その裸体を露にしていく。

 

羞恥と情けなさで消え入りたい綱手は思わず顔を隠すが、それもサイゾウによって止められる。

 

「恥ずかしがり屋で意地っ張りの綱手姉さん。あんまり無茶をするんだから、今日はおしおきだよ」

 

「え……? うっ!」

 

サイゾウは唾液をたっぷりまぶした逸物で、まだ濡れてもいない綱手の膣口を強引にこじ開けていく。

 

無理矢理ねじ込まれるサイゾウの逸物。完全に勃起していないとはいえ、常より太いそれをねじこまれる苦痛が綱手から呼吸を奪う。

 

「かはっ、さい、ぞ、苦し……うぅ!」

 

老婆の姿の綱手を無理矢理抱くサイゾウだったが、その動きは慈愛に満ちている。

 

胸や陰核を丁寧に愛撫し、抵抗する彼女から残りの力を奪っていく。

 

「はっ、はっ、はっ!」

 

やがて陰部が十分に濡れると、サイゾウは抽挿を激しいものへと変える。

 

それは今の綱手の体が傷つかないよう極めて優しいものだったが、綱手は今の自分の状態がわからなくなるほどに気持ちよくなっていた。

 

「あぐっ……!」

 

サイゾウの逸物から、音を鳴らしてびゅるびゅると精液が注ぎ込まれていく。

 

同時に精液にこめられたチャクラが綱手の全身を瞬時に駆け巡り、彼女の体をいつもの若く瑞々しいそれへと戻していく。

 

途端、これまでどこか鈍かった性感が、若く敏感な体に戻されたことでフィードバックして全身を駆け巡る。

 

「はぉっ! うあぁあぁぁあ~~~~っっ!?」

 

天地上下がわからなくなるほどの衝撃。綱手は気がつけば失禁していた。

 

「はっ……はっ……はっ……んぅぐっ! ま、待って、さいぞ、んむ……!」

 

下半身が痺れ麻痺するほどの快感。自由は効かないのに気持ちよさだけが全身を駆け巡る状態に、綱手は必死で呼吸を整える。

 

が、それを許さないかのごとくサイゾウは即座に復活した逸物を綱手の若返った膣内へとずぶずぶと埋めていく。

 

舌を吸うような口づけを落とし、完全に綱手の理性を無くすつもりで抱き始めるサイゾウ。

 

綱手はサイゾウの目論見に気づくも、もはや抵抗どころか動くことすら叶わない。

 

「……姉さん。二、三日は動けないようにするから覚悟するように」

 

「ま、待へ、ひゃいろぅ(まて、サイゾウ)! ひきゅぅ……!?」

 

まるで綱手の内臓を根こそぎ自分のものにするような動き。

 

遠慮呵責のない暴力のような抽挿に綱手は、()()()()()

 

「あぐっ、いぐっ、いっでる、いぎっぱなしぃぃ……!」

 

どんなに綱手が強い絶頂を迎えようと、サイゾウの腰は止まらない。

 

むしろより激しく、より強く綱手を抉っていく。

 

「ぐるっちゃぅ! ぐるっちゃうからやめれぇ!」

 

悲鳴をあげる綱手だったが、もはやその目は正気ではない。快楽と悦楽に捉えられた憐れなナメクジ姫である。

 

「身も心も溶かして俺のモノだ! 姉さん!!」

 

「きゃああぁぁぁああぁああぁああああぁあぁ!!!」

 

足を限界までぴんと伸ばし、最後は正常位で絶頂した綱手は悲鳴をあげて気絶するのだった。

 

__________________________________

 

 

大蛇丸が死んだ。

 

そのことは各国を震撼させたが、それはここ木の葉隠れの里でも同じであった。

 

アカデミーと隣接した火影の執務室。

 

波の国近くまで任務に出ていた少年、薬師(やくし)カブトは、どこか呆然としながらそのことを目の前に立つサイゾウの口から聞かされていた。

 

「そんな! 先生が死んだって言うんですか!?」

 

「それが事実だ。すでに葬儀も済み、墓は音隠れにある」

 

「……こんなときに何もできなかっただなんて……!!」

 

医療忍者であり、大蛇丸の弟子であり、サイゾウも重宝するほどの才能に満ちた天才であるカブトだったが、彼自身予想外に大蛇丸を慕っていた。

 

大蛇丸を先生と呼ぶのも、短期間彼に師事していた名残である。

 

しばらくそうして俯いていたカブトだったが、忍として鍛えられた精神が彼に止まることを許さなかった。

 

気持ちを切り替えたカブトは、自分の醜態を詫びつつ気になったことをサイゾウに聞く。

 

「……すいません。仮にも上忍が、火影の前で取り乱しました」

 

「構わん。他に誰がいるわけでもないし、それ以前に俺はお前の“ファザー”で、お前は俺の“息子”だ」

 

その言葉にカブトははにかむような表情になり、次いで気になっていたことをサイゾウに聞く。

 

「母さんは、マザーはご無事でしょうか?」

 

「ああ、軽傷だ。すでに傷も治っている」

 

「……“暁”とは、それほどの相手なのでしょうか」

 

不意に、カブトがサイゾウへ尋ねた。その答えをサイゾウは持ち合わせていなかったが、確かに彼自身違和感を抱いていた。

 

今回、音隠れと木の葉隠れを同時に襲った“暁事件”。一見すれば大蛇丸を失い、中規模の里である霜隠れと滝隠れが半ば壊滅するなど被害は大きい。

 

だが一騎当千の強者を多く抱える“暁”が、今回出し惜しみせずに戦力を出してきたのがサイゾウには何より気にかかっていた。

 

「これまでの調査で“暁”にいると思われた抜け忍の内、二人は俺が寝ている間に自来也先生が倒したという報告が届いている。奴等は特殊な指輪を用いて人柱力から尾獣を抜き出すらしく、その指輪の数は恐らく十個だと大蛇丸先生から聞いている。そして今回討伐された“暁”の数が11人。ペインは同一個体みたいなものだから抜くとしても、戦力の大半を失ったわけだ」

 

「……妙ですね。仮に封印にその指輪が関係ないとしても、それだけの戦力低下を招けば最悪組織が瓦解しかねない」

 

「その通りだ。ゆえに奴等の狙いは別にあると思う。現時点での結論として、ひとつは大蛇丸先生の殺害、もうひとつが俺を起こすことだな」

 

「敵であるファザーを? なぜですか?」

 

「これまでの“暁”を調べていくと、やつらは計画外の要素を嫌う。下手に暗殺を仕掛け俺が起きて暴れるよりも、起きて火影としての立場に縛られた方がやりやすいと思ったんだろうさ。まったく、舐めてくれやがる」

 

文句を言って座るサイゾウであったが、それは事実でもあった。

 

たしかに自分が眠ったままことが進めば、最悪の事態になった可能性もあるだろう。

 

だが同時に、そんな事態で自分が起きれば形振り構わず暴れることは必至。そんなことになれば五大国は最悪消滅。人柱力どころの騒ぎではなくなってしまう。

 

巨大すぎる力を持つがゆえに、サイゾウはその動きを限られてしまう。

 

ひとまずサイゾウはカブトに孤児院へ顔を出してやるよう言って小遣いを無理矢理渡すと、ひとり火影の執務室で久しぶりのタバコを吸う。

 

「やれやれ、色々と背負うために火影になったが……なかなか儘ならないものだな、ミナト」

 

今はいない親友に向かって、サイゾウはひとり寂しく呟いた。

 

__________________________________

 

 

──霧隠れの里──

 

五影会談前。“暁”事件より一ヶ月後。

 

霧隠れでは慌ただしく決められた五代目水影の護衛を誰にするかで揉めていたが、結局は他に人選のしようもないということで最後の忍刀七人衆長十郎(ちょうじゅうろう)と、その行動の実直さから信頼度の高い(あお)が選ばれていた。

 

「それでは長老殿。行って参ります」

 

霧隠れの相談役であり、三代目水影の戦友でもある老人はひとりまだ若い女を“影”として送り出さねばならない里の現状に嘆きたくなる。

 

「すまぬな。もうお主に任せるしかないのだ。どうか、戦争にだけはならぬよう務めてくれ」

 

今戦争になれば、霧隠れは確実に滅びる。それをわかっているからこそ、あえて女である彼女が選ばれたと言ってもいい。

 

「大丈夫ですよ、サイゾウ殿とは単なる顔見知りじゃありませんし……♡」

 

もはやその表情は恋する乙女であり、それを見た全員が(……本当に大丈夫かなー……)と思っているのだが、そんなものは五代目水影照美(てるみー)メイには関係ない。

 

恋する乙女は無敵なのだ。

 

「さ! 出発するわよ!」

 

ひとり元気にずんずん進んでいくメイの後ろ姿を見ながら、青は実に不機嫌な表情をしていた。

 

(ぐぬぅ、現状で五代目火影の助力を受けねばならないのは必然だが……! 正直ヤツの顔を見てぶん殴らない自信がない!)

 

数年前に再会し、思い出したくもない過去を思い出させられてから余計に怒りが消えなくなっていた青は不穏な気配さえ醸し出しながら五影会談へと向かう。

 

(うう……僕なんかで大丈夫なんだろうか。『最後の七人衆』だなんて二つ名付けられてるけど、どう考えても名前負けしてるよぉ)

 

まだ幼さの残る少年、長十郎は霧隠れに残った忍刀の最後の一刀を振るう少年だった。

 

その才能は鬼人再不斬や怪人鬼鮫と比較されるほどのものだったのだが、なまじその開花が遅かっただけに彼自身は非常に自信がない。

 

とはいえ()()()()()()()()()()()()のが現時点での霧隠れである。

 

彼らが目指すのは五影会談であったが、目的は違うところにあった。

 

 




はい、不穏なフラグびんびん丸でござる(´・ω・`)

……サソリの話とかしたかったのに全然出せやしない。


ちょっと時間が欲しいので投稿作品全部繰り上げで公開です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【番外異伝】絡繰師の新生

復活第一弾(´・ω・`)

今回は外伝と言いつつ、本編と地続き。まああまりにも五影会談と関係なかったので外伝にしたとも言う( ̄▽ ̄;)

今回のヒロインはサソリ(♀)とノノウ。ノノウは追記した分になるので、おまけ感があります。




⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

(……何も見えない。何も聞こえない)

 

かつて赤砂のサソリと呼ばれた男は、深い闇の中を揺蕩(たゆた)っていた。

 

(……わからない。オレはどこだ。ここはどこだ)

 

何も感じることができず、思考だけが続く永劫の闇。それは人から理性を奪うに十分足るものだった。

 

(……イヤだ。一人はイヤだ。独りはイヤだ。誰か……)

 

そのときだった。僅かな光を感じた。サソリは思わずその光へと意識を向ける。

 

それは光だったが、何も感じない。言うなれば白い闇だった。だが孤独なサソリは、ふらふらと白い闇(そちら)へ向かって行こうとする。

 

『そっちはダメだ』

 

誰かがサソリに声をかけた。サソリにとって聞き覚えのない声だった。

 

だが、なぜか暖かさを感じる。

 

『こっちへ来るんだ』

 

きっとそちらへ行けば後悔するのだろうと、サソリは考える。

 

だがそれでもサソリは構わなかった。あの白い闇よりも、この炎の如く暖かい気配の方が寂しくないと感じてしまったから。

 

⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜◽⬜

 

 

「ここは……」

 

「あ、目が覚めました? サイゾウ様ー!」

 

眠るサソリの面倒を見ていたカエデが、起きたことに気づいて駆けていく。

 

とてとてと走る姿は愛らしいが、最近はアカデミー生と紛れても違和感がなくなっているその雰囲気にサイゾウを見る目が日に日に厳しくなっていたりする。

 

「今の女は……オレは死んだはずだが……」

 

「いや、死んではいない」

 

サソリの独白を遮るように現れたのは、上半身にかいた汗を拭かれながら現れたうちはサイゾウ。

 

隆起する瘤のような筋肉が見る者に暑苦しさと威圧感を与えるが、本人は気にせず堂々としている。その横では甲斐甲斐しくサイゾウの汗を拭くカエデがいたが、頬を上気させ息を荒くするその姿はどこか変態チックである。

 

「どういうことだ……」

 

警戒も露にサイゾウを睨むサソリ。人形もなく、隙だらけだった環境だが己を使えばどうとでも切り抜けられると考えて──違和感に気づいた。

 

「な、なにぃ!?」

 

「おお、役得役得」

 

「サイゾウ様、めっ!」

 

立ち上がったサソリは一糸纏わぬ姿を晒し、驚愕冷めやらぬ様子で自分の体を見下ろす。

 

まず、がある。有り体に言って、いわゆるおっぱいだ。

 

「……キサマ、オレに何をした」

 

「座れ」

 

「……っぐ!」

 

睨むサソリだったが、逆にサイゾウに睨まれ一言で動けなくなる。

 

無論、サイゾウは写輪眼にすらなっていない。万華鏡を発動したわけでもない。

 

サイゾウの発した“胆(たん)”。ただそれだけで、サソリは自分が目の前の男に勝てないことを理解した。

 

「お前をそのような体にしたのは、まあぶっちゃけて言えば趣味だ」

 

その言葉に、せめてもの抵抗として改めてサイゾウを睨むサソリ。当のサイゾウは涼しい顔である。

 

「……一応もうひとつ理由はある。お前の残った“肉身”。そしてお前自身の人傀儡。どちらにも厳重に呪印が施してあったのでな。それと……恐らくだが《別天神》の影響下にもあったな?」

 

有無を言わさぬサイゾウの問いかけ。だがカエデは知っている。本当にサイゾウが相手を尋問するつもりならば、このようなまだるっこしい会話などしないことを。

 

《別天神》や《月読》は別として、いまだ単独での幻術使い最強は目の前の夫なのだ。

 

カエデはサイゾウがかつてマダラと対峙したときのように、サソリという男(?)を説得しようとしているのだと理解していた。

 

「…………ああ、雁字搦めに縛られていたよ。()()()からしてみれば、オレも所詮は駒の一つだったということだ。皮肉だな。当代きっての傀儡師が、逆に操り人形になっていたんだから」

 

そういって皮肉げに嗤うサソリからは、生きる気力がすべて抜け出てしまっているように思えた。

 

「安心しろ。お前を縛るモノは()()()取り除いた。お前自身の肉体もな」

 

「……それだ。人傀儡を作ったオレが言えたことではないが、生身の肉体を作り出すなど神の所業だ。キサマはいったい何者だ?」

 

「俺か?俺はうちはサイゾウ。五代目火影だ」

 

「……なるほど。捕らえた敵を片端から犯すという噂、違わぬことない()()ぶりだな。この体を趣味だと言ったな? 精々好きなだけ犯すといい。今のオレに抵抗する力などありはしないのだろう?」

 

皮肉げに微笑みながら無防備な仕草を取るサソリ。しかしそれを見て怒る人物がいた。

 

「サイゾウ様!」

 

カエデからすればサイゾウは無防備な女の子を乱暴しようとしている卑劣漢である。

 

おおむね間違ってはいないが。

 

「いや待てカエデ! いきなり怒るな! はじめからそのつもりならわざわざ話し合いなんぞせんぞ!? ぬおおぉ!? 頼むから転生眼は止めろ! 木の葉が吹っ飛ぶ!!」

 

ポカポカといった表現がふさわしい勢いの拳だが、それらすべてはチャクラのこもった柔拳である。まともに受ければサイゾウとて悶絶必至の。

 

しかし理解が及ばないサソリはただ呆然とするしかなかった。

 

サソリは己が女の体になったことを、思ったよりあっさりと受け入れていた。それは彼女が彼だった頃より、元々自身の肉体に対しての拘りがないからこその切り替えの早さがゆえである。

 

だからこそ目の前の男が噂通りならば何を置いてもまずは自分を犯すだろうと思ってみれば、自分の存在をまるで無視して痴話喧嘩をはじめている。

 

……とはいえ実際この夫婦が本気で喧嘩でもしようものなら、あっという間にマダラ対柱間の再現である。そんなことになれば里は滅びる。

 

「ええいまだるっこしい! そんなに足りないならば今から抱いてくれるわ! 足腰立たなくしてやるっ!」

 

「もうっ! そんなことじゃ騙されないんですからね! 大体サイゾウ様が、んぅ♡ ……って違う! サイゾウ様があの子を女の子になんかしちゃうぅぅぅん♡」

 

持ち上げられ、文句を言いながらポカポカとサイゾウを叩くカエデ。徐々に全身をチャクラが纏いつつあるので見た目とは裏腹に抜き差しならない事態だったりする。

 

しかしサイゾウは慌てず、抵抗するカエデを愛撫し、サソリが呆気にとられるほどの速度でカエデを脱がしていき、一息に貫いた。

 

「はぅ……はぐぅ……ズ、ズルいです、サイゾウ、様♡」

 

サイゾウの汗を嗅いだ時点で準備万端だったカエデは、サイゾウに抱えられ脱がされた下履きをしとどに濡らしていたこともあって、即座にサイゾウの逸物を飲み込んでいた。

 

「何を言うか! これだけ準備万端で、ズルいも何もなかろうが!」

 

叫ぶサイゾウ喘ぐカエデ。そして困るサソリ。

 

サソリ自身はどうしてか下腹の辺りが熱く感じる自分の新しい体を不思議に思っていた。

 

ちなみにこの後、なかなか帰ってこない二人を心配して様子を見に来たノノウにスゴく怒られた。

 

__________________________________

 

傀儡、という技がある。

 

チャクラの糸を用いて己の意思を伝え、人形を意のままにする術だが、これには実は原型がある。

 

チャクラ糸ではなく、そのまま本物の糸を使い操る絡繰。元々は過去の忍が用いた暗殺用忍具の一種でもあった。

 

──あれから数日して、サイゾウはサソリを伴ってかつて大蛇丸と共に研究に使っていた一室へと赴いていた。

 

そこに、サイゾウ自慢の絡繰が仕舞われているからだ。

 

やや埃を被った室内。そこに二体の絡繰が鎮座するのを見て、サソリはほぅと吐息を漏らす。

 

「……随分と古風な傀儡を持っているのだな」

 

一体は身の丈にして三メートルを越える鎧武者。重厚な大鎧には生半可な攻撃が通じないだけの風格があるし、腰に佩いた刀は一振りで人どころか門扉すら両断しそうな威容を醸し出している。

 

もう一体は典型的な忍の姿を模した覆面の絡繰。背中に二刀の忍刀(しのびがたな)を携える。大きさは一体目と変わらないものの、(はや)いことを求められているのだろう。細身から窺える俊敏さが目で見てわかる。

 

「古風か。いやな、これの制作者は俺なのだ」

 

「なにぃ……?」

 

「輪廻眼の能力のひとつに、異世界から絡繰を口寄せする術がある。それを応用して“作り方”だけわかった絡繰があったのでな。暇を見て組んでみたのだが、どうにも動かし方が複雑すぎて上手く操作することができん。お前ならやれるか?」

 

なにかを含んだサイゾウの言葉にサソリはムッとするが、刺激されたプライドがただ反論するだけなのを拒み、サソリは無言で絡繰へと触れていく。

 

「……素材は一体なんだ……人傀儡よりも細かい、いや、場所によっては大雑把な部分もある……おい、これはまさか“糸”で操るのか?」

 

サソリはそれぞれの絡繰を確認している内に、その後ろにある指通しのついた四角い板を発見する。よく見れば板からは無数の糸が絡繰へと繋がっていた。

 

「そうだ。俺も正直そんなデカブツを糸なんぞで操れるのかと不思議だったんだがな。面白いことに操るものの僅かな所作を読み取り動いてくれるのだ。どれ、貸してみろ」

 

サイゾウはそういって絡繰の一体、大武者の方の板を取る。

 

そのまま板を操作して五指を通す指通しが張られた木枠状に展開すると、中心に張られた五本の指通しへと指を嵌めていく。

 

「そらっ!」

 

サイゾウが声をかけるのと同時、大武者が動き出す。まるで生きた人間が中に入っているようなその姿に、サソリは息を呑む。

 

一歩一歩歩みを進めるその姿は鈍重なれど、これまでサソリが操ってきたどの傀儡と比べても柔軟なその様子に、いつの間にか目を奪われていた。

 

「こいつらをお前にやる」

 

「……正気か?」

 

サソリはサイゾウの言った言葉が信じられず思わず問い直すが、彼の顔には僅かな動揺も狂気もない。

 

「ああ、代わりに頼みたいことがある。娘の護衛だ」

 

「オレはその娘を誘拐しようとした連中のひとりだぞ……」

 

「だが本意ではなかったんだろう?」

 

あまりに突拍子もない言葉の連続にサソリは困惑を強めるが、本意ではなかったというのも事実だった。

 

“暁”という組織で過ごした日々をかけがえのない日々だなどと言うつもりは更々ないサソリだったが、自分を意のままの操り人形に仕立てあげた者の元へ戻る気になどならなかった。

 

ならば、精々目の前の男の機嫌をとればかつてほどではなくとも存分に“永遠の美”を追求する日々が送れるかもしれない。

 

「……わかった、依頼を受けよう。お前の娘を護衛し、傷一つ付けさせないことを誓う。手付がこの傀儡二体。それと、オレの求める“永遠の美”に関する研究も進めさせてもらう。それが条件だ」

 

「いいだろう、契約成立だ……なぜ脱ぐ」

 

なぜか目の前でサソリが脱ぎだし、困るサイゾウ。

 

なまじ自分で調整した肉体なだけに完璧なプロポーションを誇るサソリの肉体を前にして、思わず逸物が反応してしまう。

 

「……? 契約を交わす際には相手を抱くのが種馬の流儀なのだろう?」

 

「……誰だそんなの言ってたヤツは」

 

「“暁”にいた角都という男だ。まあ、正気だった頃の話だがな」

 

言いながらもサソリは淡々と服を脱いでいき全裸になる。そのあまりに無頓着な様子にサイゾウは頭を抱えたくなるが、どうせだからついでに説明してやろうと考えた。据え膳はいただくのだ。

 

「……なるほど。言っておくが、途中でやめてと言われても止まらんぞ」

 

「当たり前だろう。すでに契約を半ば交わしているのだ。それを中途半端に──んひゃああっ!?」

 

「おいおいどうした? まだ乳首をつねっただけだぞ」

 

言いながらサイゾウはさもありなんと内心でほくそ笑む。

 

サソリの新しい体である女体は、サイゾウ自身が作り上げたものだ。

 

人傀儡を破壊され、カエデの側に転がっていたサソリの本体とも言える核。それは、呪印で汚染されているといっても過言ではないほどにひどい有り様だった。

 

“暁”の情報を得るため、デイダラと呼ばれる男の死体を媒介に穢土転生で洗いざらい知っていることを吐かせたサイゾウだったが、その情報は思っている以上に少なかった。

 

確実にわかったのは、かつての理念は消えてなくなりひとりの男が思うがままに操っていること。

 

そこでサイゾウは()()()()()()()()()()サソリの核を用いて彼を生身で蘇らせることにした。

 

これは他から入った情報からサソリのみが過剰に縛られていたことを受けて、なにか重要なことを知っているかもしれないと考えたのと、ひょっとすれば味方に引き込めるやもと考えたのが理由である。

 

サイゾウはサソリの体を、白ゼツをベースに作り上げ、その体を女体とした。

 

これは単純に趣味というのもあるし、あまり男の体を弄くりたくないというのもあったが、保険のひとつとしてサソリが素直に協力しないようなら女として堕とすつもりでもあったからだ。

 

ゆえに、サソリの今の体はサイゾウのチャクラに反応して感度が数倍に高まるようになっている。それこそ、僅かな時間愛撫されただけで立っていられなくなるほどに。

 

「はっ、あぁ……! う……! ううっ……!」

 

サイゾウは無言でサソリの乳を揉みしだき、小ぶりながら立派に主張する突起を指でころがし反応を楽しむ。

 

ちなみに乳のサイズはやや大きい程度。掌に収まる玄人好みのほどよいサイズである。

 

なお断っておくが乳の大きさに貴賤はない。単なる好みの問題である。

 

「なぜ、むね、ばかり……!」

 

「お前の反応が可愛いからな」

 

「ひぅ……!」

 

無意識にサイゾウの手首に掴まるサソリであったが、乳首をこねられてもはや自力で立つこともままならない。

 

顔は元のままとはいえ、それなりに整った美少年であったサソリの顔は、女の体にあっては美少女そのものとも言える。

 

「もう、ダメだ……!」

 

ぷしゅっ、と勢いのある音と共にサソリが潮を吹く。

 

サイゾウは、失禁したと勘違いして顔を赤くするサソリの膣へと指を伸ばし、そこをかきまぜる。

 

「だめだ……! そこ、きたな、あぅ、うう……!」

 

「大丈夫だ、お前の体はどこもかしこも綺麗だよ」

 

ちなみに最初のトイレはノノウが付き添った。感覚がわからないため仕方ないとはいえ、人に見られながら尿をするという行為が背徳感と共に奇妙な快感をもたらしていたのを、なぜかこのときサソリは思い出していた。

 

挿入()れるぞ」

 

「か、かまわない……! はや、くぅ! すませ、ろ」

 

息も絶え絶え、言葉は途切れ途切れになりながらも、サソリは強気を崩さずサイゾウの逸物を自ら手に持ち導く。

 

「ほら、そこじゃないぞ。こっちだ」

 

「はぐぅ! かはっ……!」

 

とはいえまだ慣れない女体でうまく導けるはずもなく、サイゾウによって場所を修正されサソリは深々と膣内を抉られる。

 

処女膜はあった。だが相性抜群に作られた肉体はサイゾウの逸物に限り処女喪失の痛みをほとんど感じないように作られている。

 

性的な経験がほとんどない人間が突然極上の快楽を叩き込まれたらどうなるのか。答えは恐慌(パニック)である。

 

「大丈夫か、ちゃんと息をしろ」

 

「ひっ……! ひぃぃ……! うあ、うあああっ!」

 

下腹から来る無上の快楽に翻弄され、手足をバタつかせるサソリ。しかし逸物はわずかに腹を浮き上がらせるほどにしっかり挿入されており、わずかな抽挿がやすりで削るがごとく理性をかき消していく。

 

「やだ……! たすけ、てぇ! ひとりは、やだぁ!」

 

遂には子供のように泣きじゃくりはじめるサソリ。

 

サイゾウはそんなサソリを優しく抱き止める。

 

「大丈夫だ。ここにいるだろう。お前はひとりなんかじゃない」

 

「ふぅ……! いっしょ、いるぅ……!」

 

「ああ、お前も俺のモノだ。そら、存分に貪れ!」

 

「ひぎっ! ひきゃああぁぁぁぁぁっっ!?」

 

いくら食べても飽きないという言葉の意味通り、サソリはその膣内(なか)を蹂躙される。

 

角度を変え、内臓を捏ね回されるような感覚を味わいながらも、サソリはほんの僅かに残った理性で己の選択が間違っていないことを悟っていた。

 

(これで、いい……ここなら、安心できる……)

 

白い闇ではなく、暖かい炎を思わせる男に抱かれ、この日サソリは久しぶりに安眠した。

 

その後約三時間に渡ってセックスしていたサイゾウだったが、気絶したサソリを家に持ち帰る途中でカエデにバレて、あわや木の葉が“終末の谷”と化しかけたことを明記しておく。

 

__________________________________

 

 

「すごーい! サソリおねーちゃんカッコいー!」

 

明るい声をあげ、もはや完全に女性の体に慣れたサソリは、ノノウの膝上で拍手するカエデの前で新しい二体の傀儡を操り、その動きを“魅”せていた。

 

「……当たり前だ。オレは格好いい」

 

少々照れて頬を染めながらサソリは更なるアクロバティックな動きを二体の傀儡にさせる。

 

「次郎丸! “虎乱”!!」

 

サソリの声に従い、次郎丸と呼ばれた覆面の傀儡がその絡繰を発動させて腰の部分を開き、複数の歯車が噛み合い回りはじめる。

 

すると、途端に高速回転を開始した次郎丸は両手に持った忍刀を縦横無尽に振るい対峙する大鎧の傀儡へと迫る。

 

「受けろ! 太郎丸!!」

 

しかし大鎧の傀儡、太郎丸も負けじと己の大刀を構え次郎丸の斬撃を受け止めんと身構える。

 

袈裟、逆袈裟(さかげさ)、唐竹、右薙、逆風(さかかぜ)、刺突など、複数の斬撃を振るう次郎丸に対し、太郎丸は最小限致命となる攻撃のみを斬り払い後は自らの大鎧を頼りに攻撃を受け止めていく。

 

「斬!」

 

サソリの声に応えてか、太郎丸と次郎丸は互いに必殺の一撃を出そうとして──乱入してきたサイゾウに三本の刀を止められた。

 

「……確かに俺は訓練しろと言った。ある程度の破損は構わないとな。だが今の一撃は下手をしなくともどちらも壊れかねない一撃だったぞ、サソリ」

 

よく見れば二体の斬撃を受け止める為にサイゾウは須佐能乎を展開しており、その下の腕も硬化状態にあった。すぐに傷口は塞がったが、どちらの攻撃もサイゾウの須佐能乎を貫いたことになる。

 

刀を下げた二体の傀儡はどこか申し訳なさげだ。

 

「……オレは悪くない」

 

「違うの、お父様! 私がサソリおねーさまに頼んだの!」

 

目の前で怒られるサソリを庇おうと、タカノがその前に躍り出る。その姿が愛らしくてノノウ、サイゾウ、サソリの三人が心を奪われる。

 

「ぬぅ、ぐっ! だ、だがなタカノ。いけないことをしたら、まずやることはなんだ?」

 

「は! ごめんなさいなの!」

 

「……カエデは悪くない」

 

サイゾウの言葉に従いペコリと頭を下げるタカノ。サソリも思わず彼女を庇い後ろから抱き締めるが、どう見てもただ単に抱き締めたかっただけにしか見えない。

 

「うん、タカノは悪くないぞー! ほーれ高い高いしてやろう!」

 

「あはは! たかーい!」

 

今は腕を上げるだけだが、これは一度サイゾウが本気で高い高いをして雲まで達したためである。そのときはカエデ、ノノウ、綱手の三人がかりで怒られたが、時々タカノに頼まれたときはこっそりやっていたりする。

 

「また()()()まで飛ばさないでくださいよ、サイゾウくん」

 

「そ、そんなことはしないとも! なあタカノ!」

 

「うん! すっごい楽しいからまたやってねお父様!」

 

「……サイゾウくん?」

 

「タカノーーー!?」

 

毒々しい色の針を取り出したノノウを見て焦るサイゾウ。タカノはそんな二人を見て笑顔である。

 

「……構ってもらえず寂しいなどと、思うものか」

 

そんなサソリは二体の傀儡に肩を叩かれつつ、隅の方でタカノが声をかけてくれるまで待っていたそうな。

 

__________________________________

 

~おまけ・ノノウ対サイゾウ~

 

「最近私だけ構ってもらう数が少ないんですよね。これはあれですかね、年齢相応になってきた私の体なんてサイゾウくんは飽きちゃったってことでしょうか……」

 

ひとり自室で悩むノノウ。以前は毎日のように犯されていたのに、目覚めてからはまだ一度も抱かれていない。そのことがノノウを悩ませていた。

 

ちなみにノノウの体は確かに熟女然とはしているが、垂れている部位はひとつもなく、肌の張りも20代の女性から羨ましがられるレベルである。

 

乳の大きさも綱手ほどではないとはいえ、ほどよいそのサイズはサイゾウが思わず通りすがりに揉みたくなるほどだ。

 

「……いいえ、ここで諦めてしまってはあっという間に倦怠期よ。ここは私が努力せねば!」

 

ノノウは奮起することに決めた。さっそく今晩……いや、今すぐにでもサイゾウの所へ向かうことを。

 

__________________________________

 

 

「……一応、以上で報告は終わりです。他、二年間で気になることはありますか?」

 

「いや、渡された資料で後は十分だろう。少し時間はかかるが、これは寝ていた俺の責任だ」

 

サイゾウは火影の執務室でシスイから報告を受けながら事務仕事に取り組んでいた。

 

二年間三代目火影猿飛ヒルゼンが代替わりを務めてくれたとはいえ、その引き継ぎ業務は多量に上る。

 

今も三体の影分身がサイゾウと並行して業務を進めており、膨大な書類すべてに目を通している段階だ。

 

五影会談の日が迫るなか、少しでも多くの情報を取得しなければならないとサイゾウは奮起していた。

 

「……まあ、その辺は止めなかった俺達にも責任があることですから。けど、もうあんな無茶はやめてくださいよ」

 

「そうさな、無理も無茶も状況によりけりだが、そうならないように備えは怠らないさ……ぐっ! ははは、まあ後はこの大量の仕事を終わらせるだけだな!」

 

どこか様子のおかしなサイゾウだったが、シスイはそれを見て呆れを多分に含んだ視線を兄へと投げつける。

 

「……()()()()()お願いしますよ、兄さん」

 

「はは、あ、ああ、もちろんだとも。それよりシスイ、最近お前犬塚家のハナという子とよろしくヤって「では失礼します」……逃げやがったアイツ」

 

釘を刺すシスイへと反撃を試みたサイゾウであったが、その二つ名に恥じない瞬身の速度をもってシスイは部屋を出ていった。

 

ちなみに本人達は隠しているつもりだが、すでにうちは一族・犬塚一族公認の仲である。

 

「……さて、ノノウ。もう我慢できんぞ」

 

「んぶ、ふ、ん。ぷはっ、サイゾウくんこそ射精()しすぎですよ」

 

「それは仕方ないだろう。お前の口が気持ちよすぎる」

 

サイゾウはこれまで二時間近く机の下でフェラをしていたノノウを引っ張り出すと、その修道服をめくり下着をつけていない陰部をむき出しにする。

 

「そういえばノノウとは起きてからまだだったな。待たせた分たっぷりしてやるつもりだったが、待ちきれないとはいえ()()()()()で仕掛けてきたお前が悪いんだぞ」

 

「え……? わっ、サ、サイゾウくんがいっぱい!」

 

ノノウの前には自分の業務を半ば終わらせたサイゾウの影分身が並んでいた。さすがサイゾウの影分身ということもあり、エロへの欲求から仕事の大半をこれまでの間に終わらせるその根性足るや流石である。

 

「ノノウ、俺達も……」

 

「ずっと本体ばかり咥えて、我慢なんてもう無理だぞ……」

 

「これはこれで……」

 

四人のサイゾウ(内三体は影分身)に囲まれノノウは少しだけ後悔したが、すでに準備万端の体を机の上に横にさせられアソコを拡げられる。ちなみに机の上はサイゾウ本体が三秒で片付けた。

 

「はぁっ♡ ひ、ひさしぶり……!」

 

「嘘をつけ。俺が寝ている間、綱手とカエデも交えて定期的に絞っていたそうじゃないか!」

 

「はぐぅ! は、はいそうですっ! でも、起きたサイゾウくんとするのはひさしぶり、だからぁ♡」

 

サイゾウ本体に貫かれながら、差し出された三本の逸物をそれぞれ両手と口で受け止めるノノウ。聖母と呼ばれる女の淫らな姿にサイゾウ達の興奮は青天井に上がっていく。

 

「ひきゃっ! や、やだ、こんな格好……!」

 

数度の抽挿で視線を感じたサイゾウが、ノノウを抱えて机の前に回り込む。

 

仰向けになり、ノノウの尻たぶを掴み拡げたことで、影分身のサイゾウらは一瞬視線を交差させる。

 

「んぅぅ! んぶうぅぅっ!」

 

口、膣、尻。セックスに用いられる穴という穴に挿入され、ノノウは悶絶する。

 

ひとりは相変わらず手だったが、これは約束された必然。彼にはこの後ノノウの膣へと入れる権利が与えられている。

 

瞬時にこれらの判断を可能としたのは、サイゾウの影分身が情報のみのフィードバックを一部可能にしているからこそ。

 

それは消滅までのカウントダウンを早める行為にもなりかねないが、それを覚悟での行動だった。

 

「本体よっ……! 先に逝くぞ!」

 

「んぐぅぅ……! ん、こく、ごく……」

 

ノノウの口を犯していたサイゾウ影分身が射精と共に煙となって消えていく。彼のこなした業務とノノウを犯した情報が、サイゾウ本体へと完全にフィードバックする。

 

「ぐぅっ……! 俺ももう限界だ、後は頼んだぞ!」

 

続いて尻に挿入していたサイゾウ影分身が消滅する。体勢に負担を強いるためあえて離れていた最後のサイゾウ影分身がノノウの尻へと近づいてくる。

 

サイゾウは彼の目を見てその覚悟を読み取り、ノノウと繋がったまま立ち上がる。

 

「本体……俺は……」

 

「皆まで言うな。俺もお前も、同じ“うちはサイゾウ”だ」

 

どちらも同じドスケベ。ヤりたいことなどはじめからわかっている。

 

サイゾウ本体はノノウを抱えたまま一度膣から逸物を引き抜くと、空中で一回転させその体勢を強引に逆へと変える。

 

「ふや……あぅ、ちょっと、やすませ……くおぉぉぉぉんっ!」

 

さすがに四人相手は無理があったのかノノウがギブアップしようとするが、このサイゾウ達は聞いちゃいない。

 

今度はサイゾウ本体が尻を、サイゾウ影分身が膣内へと挿入し、お互いに息を合わせて抽挿していく。

 

前後に挿さった二本の逸物。どちらも愛しい人のたくましいそれをノノウは飲み込みながら、ちょっぴり後悔しつつ堪能していた。

 

(これ……またやってもらおう……)

 

そんなノノウの内心は知らぬサイゾウブラザーズは勢いよく抽挿を繰り返す。

 

そしてとうとう限界がやってきた。

 

「うぐぅ、本体よ、俺もそろそろ限界のようだ……! ふふ、俺は最後まで、お前に勝てなかった……!」

 

「そんなことはない。お前はまさしく強敵(とも)だった!」

 

「もうらめ、つながっひゃうぅ、おひりもあそこも、めくれひゃうぅぅ……!」

 

断っておくがこれはセックスである。断じて無双転生を繰り広げたりだとか、悲しい兄弟の死闘があったわけではない。

 

「我が生涯に、一片の悔い無し!!!!」

 

叫びと共に射精した影分身が消えていく。

 

サイゾウ本体もそれに呼応するかのように、フィードバックした快感と併せてノノウの直腸へと発射する。

 

「ノノウ、愛してるぞぉぉぉ!!!」

 

「こわれりゅうぅぅぅ……!?」

 

アヘ顔を晒し潮を大量に吹きながらノノウはとんでもない絶頂を迎え、失神した。全身は痙攣し、呼吸も不規則になっているので危うくサイゾウは口を塞いで呼吸を整える。

 

やがてどうにかノノウの状態が安定し(といっても絶頂しすぎただけだが)、サイゾウは改めて部屋の参上を見回す。

 

大量に飛び散った愛液と精液。ビクンビクンと痙攣するノノウ。そして……残った仕事。

 

「……さて、もう少し頑張るか」

 

サイゾウは自分のやらかしたこととはいえ、淡々と片付けをはじめる。とはいえ単独ではどうにもできなかったので、口寄せで死体を後始末する用の蛇を呼び寄せて精液や愛液を処理させたが。蛇達はやや躊躇しながらも一応は片付けてくれた。

 

……余談だが、これ以後執務室でのセックスはサイゾウ自身により禁止事項となった。明文化していないだけでそもそもそんなことをするのはサイゾウくらいなのだが。

 

ちなみにこの通達を受けて卯月夕顔が密かにショックを受けていたそうな。

 

 

 




「なぜ脱ぐ」ってヒロアカでも何度か使ったけど個人的に好きなフレーズ。
デイダラさんの出番を期待していた人はいたでしょうか? 残念ながら情報を吐かされただけでしたがね(ゲス笑)

サソリちゃんはボッチ可愛いキャラなイメージ。cvは悠木碧辺りでイメージしといてください。
タカノはまあ、察した人もいるかもですがちょっぴりサーバルちゃんチック(´・ω・`)

二体の絡繰太郎丸次郎丸の元ネタは私の尊敬する漫画家筆頭藤田和日朗先生の短編【からくりの君】より。
起承転結のお手本と言ってもいいほどの作品で、時々漫画とOVAを見直すくらいには好きです。ちなみになぜかニコニコ動画に上記作品のOVAが転がってます。主役のひとりは若本さんです。

サイゾウが机の上を片付けた方法はラピュタのドーラみたいに全部押し退けつつ口寄せ空間に仕舞う離れ業だったりします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

五影会談③ ★

お待たせしました。
キャラの特徴だけを全面に出した結果個人的に納得がいかず全面書き直しした為遅れました( ̄▽ ̄;)

一応今回の会談で五影会談は終了。次話は雲隠れにいくか、それとも他キャラクターの話にするか。

まだ悩んでますが、まあそれなりに時間を作って頑張ります。


鉄の国。

 

三狼と呼ばれる険しい三つの山に囲まれた、天然の要害を拠点とする独立国家である。

 

国土の大半が寒冷地であり他は厳しい山々であるため、富んでいるとはとても言えない厳しい国でもある。が、反面その厳しい環境によって鍛えられた兵士──侍たちは、対(しのび)に特化した装備を纏い、チャクラの形態変化と身体強化のみを用いることで破格の戦闘力を誇る。

 

彼らは忍術を使わない。使えないのではなく、使わないのだ。

 

それはひとつの技を極めることで生まれる一点突破の爆発力を求めてのことである。彼ら侍を倒そうと思うならば、消耗戦を仕掛けるのが最も有効であり、だからこそそれを嫌う他国から侵略する対象には選ばれない秘訣があった。

 

“侍”が守るこの地は五大隠れ里が出来た頃より不可侵が約束されている。それは今なお侍達の実力が五大国に準じるほどに強力であることの証明であり、仮に仕掛けたとしてなんら旨味のないことからである。

 

そしてそのような侵略されぬ土地だからこそ、幾度も戦争を繰り返した五つの里の代表が集うのに相応しい場所と言えた。

 

「……五影の傘を前へ。火影殿の呼び掛けにより、今ここに五影が集った。これより“五影会談”を開始する!」

 

場を仕切る侍大将ミフネの号令により、各々が影として背負った国の名を刻んだ傘を前に置く。これは“この場での不戦を約束する”という一種の儀礼的なものであり、そのそのものに意味はない。

 

だがこういった形式というものは幾人もの犠牲の果てに生まれた約束でもあるのだ。これを馬鹿にし、蔑ろにするようなことがあればその者は二度とこの機会を得られないであろう。“礼”を失するということは、信頼を失うことと同義なのだ。

 

そして今回の五影会談を呼び掛けた代表者である五代目火影うちはサイゾウはおごそかに立ち上がると、今だ表情をぴくりとも動かさない雷影に目を留める。

 

「各影殿においてはよく集まっていただいた。……だがまあ、まずは()()()()()を取り除かせていただくとしよう。《闇満羽》!!」

 

サイゾウの目が赤く輝き、万華鏡写輪眼の力が解放される。目線を合わせていた四代目雷影エーがその場に崩れ落ち、がくがくと全身を痙攣させ、同時に口から黒いどろどろとしたアメーバ状の物体が漏れ出てくる。

 

「グ……グゲエ……! よ、よくも貴様……!!」

 

エーの口から出てきた黒ゼツだったが次の言葉を放つことはできなかった。

 

「疾っ!!」

 

予めサイゾウより霊刀として祀られていた草薙の剣の一刀を受け取っていたミフネによる居合いは、黒ゼツが動くよりも遥かに早くその体を六分割に切り裂いていた。

 

「縛!!」

 

さらにそれを見越して動いていた四代目風影羅砂が動く。自らの服の下に仕込んでいた砂金によって再結合しようとする黒ゼツを捉え、顔以外の大半を磁遁によって封印してしまう。

 

「とどめよ!」

 

さらにそこへ五代目水影照美メイが溶遁で溶かし尽くさんと印を組むが、それはサイゾウによって止められた。

 

「メイ、よせ。やはりこいつは本体ではない」

 

万華鏡写輪眼で不定形生物と化した黒ゼツを見るサイゾウは、そのチャクラからかつて見た黒ゼツとは似て非なる存在と断じて見せた。だがそれは決して目の前の存在を軽んじているわけではない。

 

「シスイ!!」

 

「……ようやく出番だね! 《別天神》!」

 

どうにか再生しようとする黒ゼツだったが、その頭部が形成された瞬間どこからともなく現れたシスイがその眼へと《別天神》を仕掛ける。

 

うちはシスイ。うちはサイゾウの実弟であり、サイゾウ以上の最強幻術《別天神》を操る暗部の隊長であり、今回の五影会談には極秘裏にサイゾウの護衛として着いてきていた。

 

そう、今日行われる五影会談とはこの為にあった。全ては雷影を解放し、可能ならば黒幕を捕らえる為に。だがサイゾウや他の影達も予想していたことではあったが、捕らえた黒ゼツは本物ではなかった。そしてそれが二代目土影(ムウ)の操った分裂体と同種の存在であることが待機していた三代目土影オオノキによって語られた。

 

「……さて、どうするんじゃぜ火影。全員で一芝居打ったはいいがこの後の流れは聞いてないぞ」

 

黒ゼツを調べ終えたオオノキがサイゾウに語りかける。気を失った四代目雷影エーはミフネの指示により医務室へと運ばれた。

 

「まずは雷影殿が目覚めるのを待って本格的な五影会談といこう。事前に連絡しておいたので十尾や無限月読に関しては説明が十分かと思うが、彼が目覚めたらもう一度確認の時間を設けたい」

 

サイゾウは会談が行われる円卓の中央に封印された黒ゼツを厳しく睨みながら告げる。

 

「……兄さん。《別天神》は保険の予定でしたが、手応えからして間違いなく術が効いているのはなぜでしょう?」

 

黒ゼツは見ての通り不定形生物のような相手だ。であるならば、瞳を通して術をかける幻術は相性が悪いのではとシスイやサイゾウは考えていた。

 

ゆえにシスイは小声でサイゾウに訪ねる。それはサイゾウ自身も思っていたことだが、しばらく観察してその理由がはっきりし、サイゾウは怒りを露にする。

 

「シスイ。こいつがどういう存在かは知らないが、こいつが使っている眼は写輪眼だ。それも、どうやらこいつはフガクの眼だな」

 

「サイゾウ様、見ただけでわかるのですか!?」

 

思わず驚いて素で聞いてしまうメイ。サイゾウは「……火影と呼べ、ここではな」と一応注意して説明を続ける。メイは顔を赤くして俯く。

 

「俺は木の葉の里にいる者全員のチャクラパターンを覚えている。いくらか変質しているがこの眼はどちらもフガクのだよ。分裂体ゆえ本物とはある意味違うが。それにしてもこいつは一体どういう存在なんだ……」

 

サイゾウは肉体とも呼べない奇妙な肉体を観察し、時おり触るなどして確認している。

 

「俺の磁遁で封印はしたが、妙な感触だな。まるで作り物の泥を掴まされているような気分だ」

 

子供達がサイゾウの連れてきたナルトとサスケと打ち解けたことに安堵する羅砂だったが、この場においては影としての顔を保つ。……我愛羅に友達が出来たのを目撃した瞬間は思わず涙ぐんでしまったが。

 

「ひとまず絞れるだけ情報を絞り出してしまおう。シスイ、俺の幻術と繋げろ。精神空間で時間を短縮してこいつの記憶を引きずり出す」

 

そう言ってサイゾウは──隙を窺っていた黒ゼツを見つめこれまで秘匿していたもうひとつの瞳力を解放した。

 

「《闇龗(くらおかみ)》」

 

「……!」

 

無防備に触れるサイゾウを隙を見て乗っ取ろうと画策していた黒ゼツだったが、サイゾウの万華鏡車輪によってもはや微動だにできなくされてしまう。

 

《闇龗》。あまりに強力すぎる為にサイゾウ自身が使いどころに困っているもうひとつの万華鏡写輪眼の瞳力。

 

その作用はひとえに術の強化にある。強化と言ってもわずかなものではない。例えば火遁豪火球の術にこの瞳術を用いればその術は火遁・豪火滅却級の爆炎と化す。

 

そして今サイゾウが用いたのは別天神の強化。人間相手なら脳死するほどの幻術であっても人間擬きならば問題ないだろうと考えての措置だ。

 

「兄さん!? まさか《別天神》から逃れるだなんて……!」

 

驚き駆けつけるシスイだが、サイゾウはさして気にしてはいない。

 

「気にするな。ひょっとしたらと考えて準備しておいたのが無駄にならなかっただけだ」

 

サイゾウは動かなくなった黒ゼツの眼を無造作に抉り取る。そのことに周囲は眼を見張るが、サイゾウは何事もなかったかのように口寄せした保存液に眼をつけるとそれを逆口寄せしてしまう。

 

「……ふむ。恐らくだが、眼球を途中で物理的に切り離したんだろう。《闇龗》で無理矢理効果を全身に及ぼしたが……シスイ、この方法は生身の人間でも覚悟さえあればできなくはないから気を付けろ。幻術を受けたら神経が切除されるよう条件付けをするとか、時限式にしても可能だからな」

 

「は、はい兄さん!」

 

シスイはサイゾウが眠る間の二年という歳月を無為に過ごしてきたわけではない。

 

誰よりも厳しく修行してきたし、柱間細胞さえも適合して見せた。更には眼帯の下に()()()()()()()()切り札もある。

 

(……けれど、そのどれを使ってもまるで兄さんに勝てる気がしない。ふふ、こういうのを誇らしい気持ちと言うのかな)

 

全面的に負けているのに、それがまるで苦にならない。そのことが悔しくもあり、また誇らしくシスイは思うのだった。

 

「さて、では死ぬ前に覗かせてもらうぞ。お前のすべてをな」

 

サイゾウは黒ゼツの頭に手を伸ばすと、その意識を暗い闇のなかへと侵入させていった。

 

__________________________________

 

 

(やはり分裂体か……)

 

輪廻眼の力も応用して黒ゼツの精神へと侵入したサイゾウは、直近の記憶を覗き今侵入している黒ゼツが念のため作られた分裂体であることを確認していた。

 

さらに彼の記憶へ潜航し、思考の海を漂うサイゾウ。

 

サイゾウが今目にしているのは情報の奔流。数え切れぬ記憶の群が、まるで天の川のごとく煌めき天地上下を流れていく。

 

だがそのほとんどはただ輝くばかりで記憶としての意味を為しておらず、サイゾウは断片的に拾い集めたものから内容を精査しようとするが、それも拾う傍から砂のように崩れて消えてしまう。

 

しかしそこにはただひとつ、狂おしいほどに純粋な想いだけが残った。

 

「“カグヤ”、か」

 

サイゾウは即座にその名が石碑にあった大筒木カグヤのことであることを察した。

 

最初にチャクラの実を食した女。

 

サイゾウはそもそもカグヤこそ全ての原因なのではと疑っていた。

 

うちはの石碑を読み解いてからなおのことその思いは強くなっている。誰かが意図的に彼女の情報を伏せていると。

 

あの石碑をただ何も知らず、理念や信念を失いかけた状態で見たのならば、あるいは《無限月読》の世界を信じたやもしれない。だがサイゾウは折れるどころかより強くなって歩き続けている。

 

彼をマダラと比べる者は多いが、彼とマダラの違いは多くの者に支えられ折れなかった心にあった。

 

「……ちっ、記憶のほとんどが読み取れん。これでは使い物にならんな。さて、お前を締め上げたら少しは内容がわかるのかな?」

 

サイゾウが振り返り語りかけると、そこに不定形の黒いアメーバが集まっていた。時間をかけて人の形になったそれは不安定だったが、その姿は今現在現実世界で全身を縛られている黒ゼツそのものだった。

 

「ぐぐ、貴様よくも俺のなかに……!!」

 

苦しげにうめく黒ゼツだったが、サイゾウはそれを見て笑むこともなければ憤ることもない。ただただ無感情に目の前で人の形をした成れの果てが憤るのを見守っていた。

 

「“カグヤ”に“母さん”。意味がある記憶として拾えたのはこの二つだけだったが、なるほどなるほど。それで、お前はあの女をどうするつもりだ?」

 

ニヤニヤと笑い嘲りながら、サイゾウは手近にあったカグヤの姿を写した記憶を握りつぶす。

 

「き、きさまあああ!!」

 

「腹が立つか? 奇遇だな、俺もだ」

 

サイゾウは向かってきた黒ゼツの顔面を思いきり殴り、吹き飛ばす。

 

精神世界であるがゆえにそれは決定的なダメージにはならないものの、黒ゼツはそのことにひどく動揺する。

 

「馬鹿な、ここは……! ここは俺の世界だぞ……!!」

 

「だからどうした? お前、俺を誰だと思っている。瞳術抜きなら幻術には木の葉で一番精通しているのは俺だぞ? 精神世界での鍛練なんぞ飽きるほどやっている。さて、どうやらお前がここの記憶を読めないように細工しているみたいだな。……なるほど、マダラを唆したのはお前か」

 

サイゾウは再び無造作に記憶を取りだしそれを読み取る。一見何の考えもなく記憶を選んでいる様にみえるが、実際には写輪眼によって膨大な記憶の群れを把握し最適なモノを引き寄せ読み取っている。

 

「だったらどうした。いいだろう、お前もオビトのように俺の支配下に置いてやる。くくく、こんな場所に入ってきたのが運の尽きだ! さっきは油断したが今度はぼぎゅがっ!!」

 

手足を変形させ、無数の触手を作り出した黒ゼツだったが一瞬にして踏み込んだサイゾウによって腹を殴られ吹き飛んでいく。

 

「さらにもう一発!!」

 

しかし吹き飛んでいく黒ゼツに合わせてサイゾウも飛び、今度は右拳を構えて同じ場所へと叩き込む。

 

「《撃滅の豹獣》!」

 

かつてマダラに叩き込まれたそれが十連続の衝撃となって黒ゼツを打ちのめし吹き飛ばしていく。

 

精神世界とはいえ生身の人間なら原型を留めないほどの怒濤の攻撃だが、サイゾウは物足りげに見るも無惨な姿になった黒ゼツを見る。

 

「悪いな、十発だった。それと大して効いちゃいないんだろ? さっさと起きろよ」

 

サイゾウはさらに読めるようになった記憶を解析しつつ、黒ゼツの様子を監視する。

 

「死ねぇ! ぐげぁ!?」

 

「……減点だ。せっかく後ろから不意打ちしても声を出したら台無しだろうが」

 

サイゾウの目の前で崩れた黒ゼツの残骸。それに眼を向けていたサイゾウだったが、後ろから不意に現れた黒ゼツの不意打ちを見ることすらなく蹴りで対処する。

 

「……なるほど、オビトの奴め……哀れな」

 

続いてオビトを洗脳した黒ゼツの記憶を読み取りサイゾウの握った拳にぎちぎちと力がこもる。

 

「おおぉぉぉのれえええぇぇぇえぇぇ!!!! ならばこれならどうだ!」

 

「……ほう」

 

黒ゼツは精神世界とはいえ《完成体須佐能乎》を繰り出しサイゾウを見下ろす。その展開速度にこそサイゾウは眼を見張ったものの、驚異として捉えてすらいない。

 

「はっはっは! 如何に貴様が強かろうと対処する時間が取れまい! 砕け散れえええ!!」

 

黒ゼツはサイゾウのそれを模したのか、黒い須佐能乎の巨拳でもってサイゾウを圧殺せんと拳を振るう。

 

しかしそれは、先程の黒ゼツ以上の速度をもって展開された《完成体須佐能乎》によってあっさり止められた。

 

「馬鹿な……! こんな速度、あり得ん!! そんなチャクラを練っている時間はなかったはずだ……!!」

 

「もういい、砕け散れ。《獣王百撃》!!」

 

サイゾウの意に従い、黒い悪鬼を思わせる完成体須佐能乎が巨拳を構える。

 

その拳を守るようにさらに巨大な籠手が腕を包むと、背に展開していた黒い羽根が変形しもう一対の拳となる。

 

都合四本二対の巨拳。それらはさながら正面から迫る巨大な流星群となって黒ゼツを最微塵(クォーク)まで消滅させた。

 

「さすがに他の重要な記憶はなしか。……だが手応えが無さすぎる。一体ヤツの目的はなんだったのだ」

 

サイゾウは気づいていなかった。砕かれる寸前、黒ゼツが笑みを浮かべていたことに。

 

__________________________________

 

 

しばらくして、意識を取り戻した四代目雷影エーが戻ってきて改めて会談が執り行われた。

 

ひどく消耗していたエーであったが、生来の頑強さもあり頑なに会談を続けることを主張したためでもあった。

 

「……まずは火影よ。礼を言う。よくぞ、ワシを呪縛から解き放ってくれた」

 

普段の彼を知る者なら目を疑う光景だったであろう。傲岸不遜を絵に描いたような性格の四代目雷影が頭を下げるという光景に、サイゾウは思った以上に雲隠れが切羽詰まっていることを悟る。

 

「礼には及ばん。それとお前の部下達も、一度は捕らえたが全員洗脳から解放しておいたぞ。さすがに黒ゼツに取りつかれていたのはお前だけだったがな」

 

「……重ね重ね本当にすまん。無理を承知で尋ねるが、火影よ。雲隠れを救ってはくれまいか。これは火影のみならず、他四つの里全てへの救援要請だ」

 

再び頭を下げる雷影。それを見かねたのはオオノキだった。

 

「雷影よ、影ともあろうものがあまり軽々しく頭を下げるでない。……とはいえ状況は逼迫しているようじゃぜな。火影よ、お主はどこまで掴んでおる?」

 

オオノキはエーを諌めながら、この場で最も発言力があるサイゾウへと問いかける。すでに彼が一ヶ月前、娘を取り戻す為に雲の国まで道を作ったことも知った上ので発言だった。

 

「そうさな、遠方から確認した限りでは里全体のチャクラが随分と乱れていたのを感じている。ゆえに俺は今回の会談で雲隠れへの侵攻も辞さないつもりだったが、まずは情報の共有を優先しよう。十尾や《無限月読》についてなにか聞きたいことはあるか? ああ、雷影殿は手元に資料を置いておいた。まずはそれを読んでくれ」

 

「わかった」

 

言われ、手元にある資料を確認し始める雷影。その間疑問となる部分を聞こうとまず手を挙げたのはメイだった。

 

「サイ……火影殿。十尾の魔物が他の尾獣の集合体であり、それゆえに各国の人柱力が狙われていることはすでに承知しました。ですが残念ながら霧隠れは里の中にあった“暁”との戦いで人柱力は全滅。正確には四代目水影ヤグラ殿は死亡しましたが、三尾の人柱力は解放しております。六尾のウタカタは行方不明……ですが状況的にすでに“暁”に捕らわれたと判断しております」

 

メイの淀みない説明であったが、それは実質霧隠れのみならず水の国そのものが軍事的には壊滅状態にあることを意味している。

 

「やはりそこまで追い詰められていたか。では後で“暁”の拠点調査も含めて人を送ろう。なにか不足している物資があれば、そのときに言ってくれ」

 

「はい、かしこまりました」

 

会談の始まる前、再開の喜びも束の間にメイはサイゾウを通して木の葉への救援要請を出していた。“暁”によって戦力を二分された霧隠れは三代目水影の洗脳こそ何故か解かれたものの、すでに洗脳されていた身内との戦いを通して里としての対面を保つぎりぎりまでその戦力を落としていた。

 

結果として霧隠れはこれをきっかけに衰退し、後に波の国の経済的傘下に収まるのだが、それはまた別の話である。

 

「火影殿。この場で言うことではないかもしれんが、封印術の提供、改めて礼を言う。おかげで俺は妻を失うことなく、また子供達の親であれた」

 

そう言って頭を下げる羅砂の真摯な対応にサイゾウはこそばゆそうに頬をかく。

 

「気にするな、と言っても無理だろうから精々恩に着てくれ。こちらこそナルトのヤツが我愛羅くん相手に無茶をしていないか心配なくらいだ」

 

今回の会談において連れてこられたナルトとサスケは、さっそく我愛羅と仲良くなっていた。きっかけは勿論ナルトであり、洗脳された雲隠れの部下を取り押さえる際にも彼らは活躍している。

 

「ははは、まあそれは見ている大人がいれば問題あるまい。まさか子守りに三代目火影殿がいるとは思わなかったがな」

 

そう言って苦笑する羅砂だったが、最初その姿を見たときは猿飛一族の親類だと思っていた。本人が若返ったという情報も得ていたが、まさか眉唾だと思っていたのだ。ちなみに雲隠れの部下はナルト、我愛羅、サスケの少年組によって一撃を加えられた後にヒルゼンによって捕らえられた。ガイやナナシを始めとした上忍もいたのだが、彼らが手を出す間もない早業だった為本人達は仕事を取られたことをぼやいていたりする。

 

「岩隠れは四尾の人柱力老紫が両足を失う重傷じゃが、幸いにも死んではおらん。……とはいえもがれた足はやつらに奪われたらしい。尾獣のチャクラは奪われたと言ってもよいじゃぜ、十尾復活の条件とやらは達成されてしもうたわ」

 

ため息を吐きながら報告するオオノキ。五影会談に参加する面々は事前に十尾と《無限月読》に関しての情報をサイゾウから提供されたが、オオノキなどは「もっと早くこの情報を寄越していれば!」と憤っていた。

 

「……資料は読ませてもらった。《無限月読》、確かに恐ろしい術だ。ここに防ぐ術はない、と書かれているがこれは本当なのか?」

 

読み終わった雷影がサイゾウに語りかける。

 

「確認する術もないが、多角的に情報を検証した結果その結論に至っただけだ。ひょっとしたら俺の須佐能乎なら防げるかもしれんが、それもどうかわからん。ゆえにそもそも発動自体を防ぐのが目標だ」

 

「そうか……雲隠れは、と言っても朧気な記憶だが八尾のブルービーは最後まで抵抗して死んだ。今は死ぬ寸前に解放された八尾を俺の弟のキラービーに封印し、それを使いこなす修行をしている最中だ。ブルービーからチャクラを奪っている記憶があるので、恐らくだが八尾に関しては尾獣のチャクラを奪われていると言ってもいい。それと勿論だが、弟も洗脳されている。唯一洗脳を逃れた二尾のユギトは里を脱して行方不明だ」

 

実際に消耗しているのと相まって、辛そうに報告するエー。

 

サイゾウはそれを見てひとつの話題を取り出す。

 

「雷影殿、いい報せがある。ユギトは生きている。俺を頼ってか、音隠れの方向へと逃走中敵にやられて片腕欠損の重体だった。恐らくこれに関しては四尾の人柱力と同じことだろう。近隣の村で保護されていたのを巡回の音隠れの忍が発見して今は音隠れで療養を受けている。義手の調整中だ」

 

「なんと……!! だがなぜお前を頼るのだ?」

 

「……ふむ、昔取った杵柄というか、まあそのなんだ。人知れず逢瀬を重ねたというかなんというかだな」

 

「……ユギトが妙に身持ちが固かったのはお前のせいか」

 

呆れた顔で話すエー。同じような顔は羅砂やオオノキもしている。唯一メイだけは頬を膨らませていた。

 

「ま、まあその話は今はいい。最悪なことに現状では二尾、四尾、六尾、八尾のチャクラが敵の元にあると考えられる。それと木の葉の九尾だが、こっちは無事だが敵が穢土転生を使えることからすでに九尾のチャクラは手に入れている可能性が高い」

 

「……そうか!! 金銀兄弟のチャクラを!!」

 

サイゾウの言葉に反応したのはエーだった。悔しげに机を叩き皹を入れている。

 

「そうだ。かつて九尾に食われながらもその腹で九尾の肉を食らい生き延びた忍。やつらを穢土転生すればチャクラそのものの回収は行える」

 

「だが、それならば過去の人柱力を穢土転生されたらもはや十尾復活は間もないのではないのか?」

 

危機感に煽られながら、羅砂が冷や汗を垂らしつつ聞く。

 

「その可能性は高い。だが同時に完全な復活は無理だろう。そもそもそれでチャクラの回収が済むならば、はじめから全て穢土転生で賄えばよいのだ」

 

「それもそうじゃぜな。だが量よりも質が重要なんじゃろう? お主の見立てではどうなんじゃぜ、火影殿」

 

オオノキの問いかけにサイゾウはしばし黙考してから答える。

 

「……長くて十年。早くて三年か。これはあくまで自然エネルギーで量を補った場合の計算だ。ちなみにこれは俺が眠っている間に吸収していた自然エネルギーの量をベースに計算している。奴らの手に輪廻眼の持ち主である長門がいる以上、奴を洗脳して自然エネルギーを収集するためだけに使えば可能だ」

 

「どうにか止められないのですか?」

 

「出来る限りのことは試すつもりだ。事前に十尾の脱け殻である外道魔像を口寄せしたが、それはできなかった。今後奴らも、より完全な復活の為に手段を選ばず攻めてくるだろう。各里においてはこれに対抗するために、“忍連合”の発足を承認していただきたい」

 

メイの問いかけに答えつつ、サイゾウは全体を見渡して宣言した。

 

忍連合。それは里同士の垣根を越えてことに挑むための共同体の発足。史上初の五里全てによる連合でもある。

 

「情報の共有、戦力の迅速な配置、強力な単体の敵が出てきた場合の対応……連合を組むことによるメリットはいくらでもある。どうだろうか、オオノキ殿」

 

サイゾウはこの場で唯一連合の話が出たときに顔をしかめたオオノキへと問いかける。

 

「……断る、というわけにはいかんじゃぜな。戦力の低下した霧隠れや、半ば亡命状態の雷影殿らも含めればここでわしら岩隠れがその条件を断るメリットもない。そうじゃぜな、強いてわしから条件を出すならば音の持つ医療技術。特に義肢技術に興味がある。なあ、音隠れの代表殿?」

 

そこでオオノキに話を振られ、これまでずっと沈黙していた音隠れ代表九頭竜レンヤは目を開いて答えた。ちなみに参加は二回目からの会談であり、最初の会談のときは外部からの敵を警戒して施設の外にいた。

 

「構いませぬ。とはいえ里外に技術ごと派遣するわけには参りませぬので、こちらに来ていただく形になりますが、よろしいか」

 

有無を言わせぬレンヤの口調。オオノキは技術提供を呼び掛けるつもりだっただけに機先を取られて苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「……仕方あるまい。じゃぜが、これで老紫の足が治ったならばハンの件は不問にするじゃぜ。それが条件でよかろう」

 

オオノキの言葉に無言で礼をするレンヤ。その厳かな様子に、オオノキは内心で溜め息をつく。

 

(火影の身内というからどんな女好きかと思えば、とんだ堅物じゃぜ。これは下手な贈り物で篭絡するのは無理そうじゃぜな)

 

オオノキは当初考えていたくのいちらによる美女部隊の派遣を取り下げ、ひとまずは大人しく里内の防衛に力を入れることに決めた。

 

実際、正体不明の相手によって人柱力が敗けたという事実は彼のみに限らず全ての里が重く受け止めていた。

 

「ではここに忍連合の結束を宣言させてもらう! 細かい条件や詳細については別途詰めるとしよう。それでよろしいか」

 

「五代目水影、照美メイ。それで構いませぬ」

 

「四代目風影、羅砂。構わん」

 

「四代目雷影エー。それでよい」

 

「……三代目土影オオノキ。それでよかろう」

 

「音隠れ代表、九頭竜レンヤ。微力なれど各里に力添えさせていただこう」

 

「もちろん鉄の国も参加いたす! 額宛は我らがお作りいたそう!」

 

わずかな思惑はあれど、ひとつの意思の元に忍が集った。

 

敵は強大にしてその全貌は不明。なれどこちらも前代未聞の大連合。

 

一大決戦の幕が、徐々に開きつつあった。

 

 

 




もうね、会議シーンて長すぎ。でも話自体は重要だからしなければならないという……

最初は十尾や無限月読に関しても話の中に入れていたんですが、くっそ長くなったので資料にしました。

時間があれば資料ということで活動報告にあげるかもです。

それと、凹んだ自分を応援していただいた皆様に感謝を。特に付き合いの長いhisaoさんや歌舞伎rocksさん、そして勝手に師匠呼ばわりしている丸焼きどらごんさんや誤字報告で助けられてるリドリーさんなどなど、とても励まされました。しばらくはこちらの執筆に集中して、今後の作品について考えていきます。

それでは今後ともにお楽しみください!!


※誤字訂正しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

深淵より覗く者共 ★


難産だったぁ( ̄▽ ̄;)

編集したのでとりあえず寝ます。


雲隠れの外れにある岩山。

 

そのひとつにある洞窟のなかに、雲隠れの忍である三人の男女は隠れていた。

 

「……とうとうアツイまで捕まった。こうして私たちが話を出来るのも、これが最後かもね」

 

「ダルいっすけど、否定するのが難しいっすね。実際上忍で残ってるのはサムイさんと俺だけ。戦力としては心もとないにも程がある」

 

「くそっ、せめて雷影様だけでも解放できれば……!!」

 

会話を交わす三人の名はそれぞれサムイダルイオモイ。サムイは色白の肌に大きな胸をした金髪でおかっぱの美人。アツイは彼女の弟であり、彼女らを逃がす為に囮となって捕まった。ダルイは色黒の肌に白髪、気だるげに瞼を半目に開けてはいるが、目の力そのものは現状に憤っているのか力強く光るものがある。オモイはダルイと同じ色黒の肌に白い髪だが、彼よりも体格的には細く背中に刀を背負っている。ちなみに彼は中忍だ。

 

隠れているのは彼らだけではない。主に一個小隊を目処に各所に散らばった雲隠れの忍は数百人は()()

 

今となっては雷影を解放する可能性のあった上忍のシーも洗脳され、感知タイプであるその能力を活かして次々と隠れ潜む雲隠れの正気の者達を捕らえていた。

 

かつて多数の民族が入り交じり、自由を気風とした雲隠れはもはやない。空前のディストピアに、残った忍らの心は削られていた。

 

「あらあら、こんな場所に隠れていたんですね」

 

「……! マ、マブイさん!」

 

突如として洞窟入り口に現れた金髪に色黒の肌をしたスーツ姿の女。

 

彼女こそは雷影の秘書として知られた人物にして、里内で唯一の“物質転送”の術を使えるくのいちでもある。

 

「抵抗は無駄ですよ。ここはすでに囲みました。……さあ、大人しくマダラ様に従いなさい」

 

掌から電光を迸らせながら近づくマブイ。彼女に限らず、洗脳を受けた忍らはなんらかの強化措置を施されているらしく、残った者達が追い詰められている一因ともなっている。

 

「ちっ……! ダルいっすけど、こうなったらやるしかないっすね!」

 

ダルイは印を組み、己が得意とする血継限界《嵐遁》を発動せんとチャクラを高める。しかし、その前にサムイが立ちはだかった。

 

「……ダルイ。ここは私が引き受けるわ。忍者ならもっとクールに、状況判断を徹底しなさい。あなたは雷影様の右腕……つまりは次代の雷影候補でもあるのよ。五影会談に向かった雷影様が洗脳されている以上、生きて帰ってくるかはわからない。そうなったとき、里をまとめるのはあなたよ。さあ、行って!」

 

「お喋りは済みましたか? では申し訳ありませんが、全員()()させていただきますね」

 

言うなり、マブイは雷遁を纏い高速で三人へと迫る。

 

彼女の得意とする物質転送の術。その名を《天送の術》という。雷によって強制的に対象を送り先の座標へと移動させるこの術は、時空間忍術ではなくあくまで高速移動の術である。そのため雷速で送られた対象はよほど強固でなければ反動でぼろぼろになってしまうので、人体に使うなどもっての他の術だ。

 

この術に耐えることができるのは、三代目雷影直系の雷遁チャクラを身に纏える人物に限る。ゆえに、これを生身の相手に使うということは相手を殺すのと同じことを意味する。

 

(せめて一目会いたかった。ユギトさんは会えたのかしら、あの人に……)

 

迫るマブイの掌が回避不可能なことを悟ったサムイはせめて後ろの二人を巻き込まないよう自ら彼女の術へとつっこむ。かつて戦場で重傷の自分を助けてくれた男の顔を思い出しながら。

 

「さあ! 死になさい!!」

 

せめて衝撃に備えようと目をつむり、身構えるサムイ。しかし、予想していた痛みも衝撃もなく、気がつけば彼女の肩を、いつの間に現れたのか一人の偉丈夫が支えていた。

 

「……戯れにマーキングしておくものだな。道人殿、助かったぞ」

 

「やれやれ、年寄りをこきつかいおって」

 

マブイとサムイの間に突如として現れた男、うちはサイゾウは肩に口寄せした鼠旧鼠道人を乗せ、マブイのチャクラを《封術吸引》であらかた吸い付くす。

 

「眼を覚ましな、《闇満羽》」

 

サイゾウの万華鏡写輪眼によって洗脳状態を解かれたマブイは、急激にチャクラを失ったこともあって気を失いその場に倒れる。だがサイゾウはちゃっかり胸を中心に抱くようにして彼女を受け止めた。

 

「ふむ、役得役得♪ ……さて、サムイよ。無事な忍らはお前らで最後だ。反撃といくぞ」

 

もにもにとマブイの乳を揉むサイゾウに怒った方がいいのか喜んだらいいのか困惑していたサムイだったが、急に話を振られてさらに混乱する。

 

「え? え? 私たちで最後とは? いえ、そもそも貴方いったいどうやって……」

 

「ここへ来たのは《飛雷神の術》だよ。使ったのはもう片方の乳に掴まってる旧鼠道人殿だがな。俺は火影として、木の葉の忍三個中隊を引き連れて到着したところだ」

 

大活躍の旧鼠道人は器用にマブイの乳に捕まりながら、その小さな手で乳首を捏ね回している。気絶しているとはいえ刺激があるのか、次第にマブイの顔に赤みが差してきた。

 

サムイはそんなエロネズミをとりあえずデコピンで弾き飛ばすと、改めてサイゾウに向き直って胸を押し付けるようにしっかりと抱きつく。匂いまで嗅ぎ、ひとしきり彼の男としての気配を堪能すると、後ろで呆然と見守っていたダルイとオモイの視線を感じてか慌ててサイゾウから離れる。

 

「んんっ! ……救援、礼を言います。では改めて現状の説明をお願いします。私たちで最後、そしてあなたがここに来たということは……もしや雷影様は正気に戻られたのですか?」

 

サムイだけでなく、それは後ろの二人も気になっていることだ。そのことにサイゾウは笑みを浮かべて首肯し、自分の後ろからやってきた人物を指差す。

 

「種馬! お前マブイに変なことしとらんだろうな!!」

 

幾人かの洗脳された雲隠れの忍らを殴り倒してきたのだろう。少なくない傷を負った雷影が洞窟の入り口からやってきた。

 

「安心しろ、()()やってない」

 

「まだとはなんだ、まだとは!?」

 

やいのやいのと口喧嘩しあう雷影と火影のふたりだったが、彼らの間に割り込むようにしてダルイが跪く。

 

「雷影様……! ご無事で……! ご無事で何よりでした……!!」

 

その涙は自分の不甲斐なさゆえか。今回雷影であるエーが五影会談に赴くことは一種の反乱勢力と化していた無事な雲隠れの忍らも知っていた。否、あえて知らされていた。

 

彼らの考えは二分した。雷影を止めるべきか、それとも行かせるべきか。それがマダラを名乗る黒ゼツの狙いでもあったからだ。

 

最終的に、意思決定をしたサムイとダルイは雷影を行かせることにした。万が一、雷影が五影会談にて殺されるようなことがあればダルイを雷影として祭り上げ、残った勢力での一大決起をうながそうとサムイが考えたことでもあった。実際にはサイゾウならば何とかしてくれるのでは……そういった淡い期待がないわけでもなかったが。

 

とはいえ万が一そうなっていた場合、玉砕は間違いなかった。彼らにとって運がよかったのは、はじめからサイゾウがエーを殺すつもりでなかったことだろう。

 

彼を始末するつもりであったのならば、この救援措置すらあり得なかったかもしれないのだ。そも単純に雲隠れを敵対視しているならば、サイゾウが《天涯流星》でも使って里ごと潰してしまえばよいのだから。

 

「さて、派手に行くとするか!」

 

サイゾウは瞬時にその場にいる全員を取り込んで完成体須佐能乎を発動する。雲隠れを見下ろす巨神。今ここに、うちはの火影が現れた。

__________________________________

 

 

 

場所は変わり、雲隠れ中心にある武器庫の最奥。

 

雷影の情報を元に、ある特殊な忍具を保管した場所を木の葉の上忍三人が強襲していた。

 

「どうしたお前達ー! 青春が足りないぞーっ!」

 

無茶苦茶な理屈と共に、そのたぐいまれな筋力を更に活性化する八門遁甲によって雲隠れの忍達を凪ぎ払うのはマイト・ガイ。

 

五影会談で活躍できなかった鬱憤を晴らすと言わんばかりに、正しく縦横無尽に暴れまわっている。一応相手が洗脳されている可能性から殺してはいないが。

 

ちなみに現在は五門まで開いた状態だ。

 

先程から幾度も術の直撃を受けているのだが、小規模な術ならば強化された自慢の筋肉によって耐え、強力な術ならば手足を振るう度に発生する衝撃波によって反らすという理不尽を体現している。

 

もはや人間というより台風とでも言った方がいい蹂躙劇に、雲隠れの忍らが洗脳を解かれた後トラウマにならないかとそれを見るアスマは苦笑した。

 

「相変わらず暑苦しいな、ガイのやつ」

 

「いいじゃない。おかげで移動がスムーズよ」

 

付かず離れず、互いの隙をカバーし合いながら進むのは猿飛紅と猿飛アスマ。すでに結婚し子供もいる二人は本来ならば木の葉近辺での任務を言い渡されることが多い。

 

これは二人に限らず、既婚者や幼い子供がいる人間ほどそういった任務につかされることが多いのだ。仮に危険な任務でも、里の近辺ならば援助や救援もやりやすい。

 

そして今回立場の違う三人が請け負った任務とは、サイゾウいわく“必ずある”と断言された六道仙人の宝具の確保封印だ。

 

元々雲隠れには、八尾を封印する為に六道仙人の宝具が用いられてきた。その大半はかつて二代目雷影を暗殺した金銀兄弟によって失われたが、穢土転生を相手が用いてきたことからそれらが回収されている可能性をサイゾウをはじめとした木の葉上層部は示唆。

 

同盟を組んだとはいえ()()()()()()それらを回収することがアスマと紅に課された任務だった。

 

「ま、信頼してもらってるってことなんだろうけどな。だがそんな重要なモノをこの程度の警備に任せてるわけがない。本命は別だな……そうだろ、オビト」

 

両手に愛用のチャクラ刀を構えたアスマは、目的の扉の前にいつの間にか現れたオビトを睨む。

 

まるで白痴のようにぼぉっと宙を見つめるオビトだったが、彼の危険性は師でもあるサイゾウから十分に聞かされている。

 

(カカシが使っていた万華鏡写輪眼《神威》。それのオリジナルがオビトらしいからな。カカシと同じように空間ごと抉る攻撃はもちろん、自動で攻撃された部分を時空間転移させることができるらしいな。カエデさんくらい体術が出来ればそれも正面から攻略できるらしいが、それは俺と紅には無理。かといって時空間忍術で対抗するには四代目レベルの技量がいる。こっちにはそのどちらもない。……だったらまずは、時間を稼ぐ!)

 

一秒に満たない時間の思考。オビトの攻略を考えていたアスマは何気なく向けられたその瞳が万華鏡に変化したのを目視した瞬間、隣の紅を抱えて風のチャクラを纏い高速移動する。

 

そして次の瞬間、さきほどまで立っていた場所の空間が捻れ、球状に抉りとられた。

 

「疾っ!!」

 

掛け声一閃、紅を抱いていない方の手で振るわれたチャクラ刀から風の刃が発射される。

 

彼が持つ拳に嵌め込む形のチャクラ刀は、彼のチャクラが込められると性質変化によって風の刃が纏われる。兼ねてから得意としていた近接戦での立ち回り。その要となるチャクラ刀も、サイゾウが言うところの()()()()()()()()()によって桁違いの威力が込められるようになり、文字通りの必殺武器と化した。

 

だが分厚い鉄扉(てっぴ)すら両断する五つの風の刃も、オビトに当たる側からまるでそこに彼がいないかのようにすり抜けていく。

 

「紅」

 

「先に行け、とか言ったら後でひどいわよ」

 

「なわけあるか。……《二人羽織》で行くぞ」

 

「ふふ、いいわ。じゃああたしから仕掛けるわよ! 《八門遁甲第五・杜門》……解!!」

 

たった今神威の威力を目にしたにも関わらず、紅は八門遁甲によるチャクラの活性化によって臆さずオビトへと立ち向かっていく。

 

かつてサイゾウに師事した者。彼らは皆、八門遁甲を扱うことができる。その中でも極めることができたと言えるのはガイのみだったが、何も極めなくとも八門遁甲が強力な切り札となりうることは言うまでもない。

 

「くれ……ない……」

 

オビトはヨダレすら垂らしながら、移動する紅へと向かって次々と神威を発動し、あちこちを抉っていく。

 

かすることすら許されない怒濤の攻撃だが、紅は緩急をつけた動きと基本的な分身の術を駆使してそれらを避けていく。

 

オビトとて、万華鏡写輪眼の持ち主だ。その動体視力は桁違いに高い。更に例え意識は混濁していようと、戦うために調整された精神は躊躇なく敵対者を殺戮する。

 

しかし、そも敵が守る重要な場所にはオビトかイタチがいると考えていたサイゾウはあえて彼ら三人を向かわせた。それは対万華鏡写輪眼を見越した人選。彼らはその気になれば視線を向けられるよりも速く動くことができるからでもあり、木の葉で最強の写輪眼使いと戦った経験を豊富に持つからでもある。

 

「人妻相手に気安いわよ、オビト!!」

 

紅は影分身の術によって四人に分身、一気にオビトへと迫る。

 

「う……あ……」

 

しかしそれらの攻撃は瞬時に展開された骨の状態の須佐能乎によって凪ぎ払われ()()が霧散する。そう、分身はフェイク。本体である紅は最初の攻防でその姿を幻術によって隠していた。

 

確かに写輪眼は瞳術としては最強の部類だ。あらゆる動きを見切る洞察眼。相手の行動を制限する催眠眼。そして瞳術。凡そ欠点らしい欠点がないが、それこそが最大の欠点と為りうる。

 

写輪眼を持つ者が当然持つ概念。自分以上の相手はいないという常識。

 

紅はそれを逆手に取り、ほんの一秒オビトを幻術にかけた。それは近接戦で用いたならば容易く破ることができる程度のものだっただろう。だがオビトにはそれが、紅が自分の動きを紛らわしくかき乱すだけのものだと捉えていた。

 

それこそが罠。ゆえに、本来であればオビトの神威の影響下にあるはずの須佐能乎は、驚くほどにあっさりと無数の包帯に包まれていた。

 

「どうしたのかしら? ああ、どうして神威が発動できないのか不思議なのね。神威って本当に反則な能力だもの。その存在を知ってて、先生が何もしないと思う? あの用意周到に逃げ場を無くした上で相手を思う存分蹂躙する人が、ひとつやふたつの攻略方法で満足すると思う? あなたを捕らえるその布は、先生の竹遁から編み出した特殊繊維。チャクラを弾く性質を利用して、捕らえた相手のチャクラを封じる作用があるの。須佐能乎をしまうことも、大きくすることもできないでしょ? あ、そうそう。あたしがこんなに喋ってるの、時間稼ぎだから」

 

全身から展開した包帯。それは彼女が着ている服そのものに偽体させていた為、彼女は今現在半裸となっている。下着をむき出しにし、艶然とオビトを煽るその艶かしさは幻術へのきっかけにも為りうる。

 

だが紅は目の前のオビトの反応から違和感を感じとる。自分を見た上での彼の反応は無関心。嫌悪でも羞恥でもなく。彼の身に起きた異変が何かはわからないまでも、こんなちょっとしたことでも推測を立てる為の情報源にはなる。

 

(サイゾウ先生に報告することが増えたわね……さて、そろそろかしら)

 

紅の台詞が終わらない間に、オビトは須佐能乎の力で無理矢理包帯を引きちぎろうとしていた。それはそうだろう、いくらサイゾウの竹遁から作り出されたとはいえ、巨人の(かいな)にかかればあっさりと千切れてしまうのから。

 

だが彼女が言うとおり、時間稼ぎによって準備が間に合ったふたりの忍が動き出した。

 

「吹っ飛べ!!《風遁・旋風怒濤》!!」

 

アスマの風遁によって足元から持ち上げられたオビトと須佐能乎は錐揉み状に回転しながら空中へと舞い上がる。

 

さらにそこへ、遅れてやってきたガイが八門遁甲をさらに開く。

 

「《八門遁甲第六・景門》……解!! いくぞアスマァ!」

 

「応! 《八門遁甲第六・景門》解!」

 

共に赤黒く染まった全身を駆動させ、神威による防御を失ったオビトへと連続攻撃を与えていく。

 

木の葉流二人羽織。それは、ふたりの呼吸をぴったり同調させた完全同時攻撃。身動きできないなりに抵抗しようとするオビトだったが、超高速の一撃を繰り出す二人を前に何もできず須佐能乎が切り裂かれ或いは砕かれ破壊されていく。

 

しかしそれでもまだ須佐能乎は砕けない。

 

「固いな……よし、ガイやるぞ!」

 

「任せとけ! 《八門遁甲第七・驚門》(かぁい)!!!」

 

爆発するように溢れ出た碧い汗が蒸発し、彼の全身は青いチャクラに似たオーラに包まれる。もはや今のガイは移動するだけで地面が(めく)()ぜる。その動きは写輪眼を持ってしても捕捉不能。

 

「はっ!」

 

空気の壁を突破するガイの超音速の一撃が次々と須佐能乎に刺さっていく。遂には砕かれる須佐能乎だったが、オビトはその場に崩れ落ちかけた不自然な体勢にも関わらず、無理矢理上体を起こして再び神威を発動させる。

 

「ぎ……!」

 

口から泡を吹き、全身から血を流しながらも発動された神威は紅を追い詰めたときを遥かに上回る直径にして十メートル近くを一息に抉る。

 

だが予想していたのか、三人はあっさりと避けて見せた。

 

『どんなに強力な忍術だろうと、発動のタイミングさえわかっていれば対応出来る』

 

そう語ったいい笑顔のサイゾウを相手にかつて修行を積んだ三人にとって、万華鏡写輪眼に頼ったオビトの戦いは無様とさえ言えた。

 

さらにガイは回避と同時にチャクラを高める。彼が放つ次の一撃で決まることを、アスマと紅の二人は語るでもなく理解した。そしてその為に必要な援護は自分達がすればいいことも理解している。

 

「〝止まりなさい〟!!」

 

「……!?」

 

紅は己が持つチャクラをそのまま精神エネルギーとしてオビトに発射。言霊を通じて彼の動きを数秒その場に釘付けにする。

 

「吠えろ青春!! 《昼虎(ひるどら)》ぁ!!」

 

続いて、ガイは現時点で自身が放てる準最強の技《昼虎》を放つ。

 

まるで印を組むかのように組み合わせた手が正面へと押し出される。ガイいわく“獣の顔”を思わせるその組まれた両掌を中心に、ガイから白虎が放たれた。

 

虎の姿を模したそれは一見しただけではチャクラの気弾にも見える技だが、実際は違う。

 

その正体は空圧正拳。一点に集中された空圧は直撃の寸前縮まり、炸裂と同時に拡散して相手を吹き飛ばす。

 

体術の極点とも言えるこの技。これを持ってしてガイはサイゾウから“背中を預けられる”一人前として認められた。

 

「……あ」

 

圧縮空気の直撃によって腕がもげ、全身の骨がばらばらに砕けるのを感じたオビトは呆気に取られたような顔をして落下していった。

 

オビトはいまだ現実を認識していない。アスマはそんなオビトを警戒するのと同時に、そんな彼を援護する者が現れやしないかと警戒し続けている。

 

だがそんなふたりの警戒も空しく、オビトは無防備に地面へと叩き落ちた。

 

「《口寄せの術》!」

 

しかしそれでもアスマは安心しない。口寄せによって猿の集団を呼び寄せ、周囲の警戒に当たらせ、自身はオビトへと近づく。

 

「ほんっと使えないねえ、おまえ」

 

突如として声が響いた。猿達も、アスマも、紅も、もちろんガイも。誰もが油断など微塵もしていなかった。

 

だが気がつけば、猿達は全員が殺され彼らの前に黒い男が立ちはだかっていた。

 

「どうもー、()()()()()()です♪」

 

明るく爽やかな声。きっと街中で後ろから語りかけたならば十人中十人が振り向くこと請け合いだが、真正面から見た場合は話が違う。

 

その顔は、言うなれば無貌。確かに眼もある、口もある、耳も鼻もある。だがそれらが合わさるとどんな顔なのか、どうしても認識することができないのだ。

 

存在感が薄いだとか、そういった話ではない。ここに来る前言われた言葉が三人の脳裏をよぎる。

 

(かお)がない男。

 

その意味を今、この場にいる三人は理解していた。

 

「お前が“黒ゼツ”か」

 

警戒を込めてアスマが呟けば、黒ゼツはつまらなそうにため息をつく。

 

「なんだよノリが悪いなもう。せっかくこっちが“うちはマダラ”だ! って言ってるんだから、ここは“なにぃ!? お前がうちはマダラだとお!?” とか、驚く場面だろ?」

 

「詰まんない冗談ね。それよりあたしたちはそこでぶっ倒れてる死にかけに用があるのよ。くだらないこと言いに来ただけならどいてくれない?」

 

「……うざいな、おまえ」

 

黒ゼツがそう呟いた瞬間腕がぶれる。同時に、アスマは自分が八門遁甲を()()()()()()()()()()()判断は間違っていなかったと確信した。

 

咄嗟に紅の前に躍り出るが、術では到底間に合わない。何を飛ばしたかすら視認できないなか、せめてもとチャクラの性質変化によって分厚く展開した風で防ぐ。

 

直接的な防御には向かない風のチャクラによる暴風壁。

 

それは夫の意地か男の矜持か。紅をズタズタに引き裂くはずだった無数の黒い千本は、ひとつ足りとて彼女に届くことはなかった。

 

──だが、アスマ自身への代償は軽くなかった。

 

「あれあれ、すごいね旦那様。今ので間違いなくその女の上半身くらいは吹っ飛んだと思ったんだけど、原型あるんだね。いやほんとすごいわ、誉めてるんだよこれマジで」

 

アスマは、その全身を防御を抜けた無数の千本に貫かれていた。威力の幾分かを殺したとはいえ、右目と首に刺さったそれは間違いなく致命傷。それを理解した紅はアスマを抱き止めるが、彼の全身からは止めどなく血が溢れ止まらない。

 

「はっはっは! 何を呆けてるんだよ。お前のせいだよ? お前が俺に生意気なこと言うのが悪いんだからさ。ああ、でも心配しないで。俺優しいから、今すぐ二人とも塵にしてあげるよ……なに?」

 

黒ゼツが何をするつもりだったのかはわからないが、ガイは咄嗟に彼が掲げた腕を掴まえていた。今だ八門遁甲は継続中。それもリスク承知の第八・死門を開いた状態に準じる第七・驚門を開いた状態だ。

 

だが、にも関わらずガイは目の前の少年とも青年とも老人とも判断がつかない男にまるで勝てる気がしなかった。

 

「冷や汗ひとつ垂らしたらもう敗けなんだよ? なんてね」

 

そう言って放たれた裏拳をかろうじて防げたのは、かつてサイゾウとの修行で培った()()()()()()をガイが見逃さなかった為。

 

しかしガイはその何気ない動作によって殴り飛ばされ、分厚い武器庫の扉を吹き飛ばしてようやく停止した。

 

「は、速すぎる……!!」

 

今の一撃を直接防いだ右腕が折れていた。ガイは、飛び出した骨を腕を無理矢理引っ張ることで継ぎ治して再び構える。

 

「うひゃあ! すげえなおい、今のなんだよそれ! あっはっは、すげえ根性!」

 

腹を抱えて笑う黒ゼツ。だがガイは動けない。無防備に見えるその姿に、まるで隙を見いだせなかったからだ。

 

「……あ~笑った。あれ? 攻撃してこなかったんだ。そうだ、どうせだったら死門開いてみてよ。ひょっとしたら俺に勝てるかもしれないよ……?」

 

それは正しく悪魔の誘惑。三日月状に歪む口許を見て、ガイはそれも止む無しと覚悟を決める。

 

「……焦るなガイ、まだお前の()()を発動する時じゃないだろ」

 

「先生……!」

 

ガイの肩に手を置き、いつの間に現れたのか彼の後ろにサイゾウがいた。

 

いや、よく見ればその肩には旧鼠道人が乗っている。どうやら異変を察知して《飛雷神の術》でその場に現れたようだった。

 

「よお、三日ぶりくらいか? と言っても、お前は俺のことを覚えちゃいないんだろうけどな」

 

「そうだな、知ってはいるが覚えちゃいねえよ。あ~にしてもホントムカつく顔してんなぁ、うちはサイゾウ!」

 

再び黒ゼツの腕が振るわれ、無数の千本が飛来する。しかしそれらは焦ることなく、サイゾウの輪廻眼による重力操作によって空中で受け止められる。

 

「……ふ~ん」

 

「ノノウ、綱手。アスマを見てやってくれ。まだ生きている」

 

「わかりました。先に行きます」

 

「急に呼ばれたから何事かと思ったぞ。……サイゾウ、気を付けろよ。」

 

全身を赤く染め、必死で止血する紅の元に、旧鼠道人に導かれ木の葉から《飛雷神の術》でやってきたノノウと綱手が駆けつけていた。

 

「おい、返すぞこれ」

 

「うおっ!?」

 

サイゾウは斥力によって受け止めた千本を発射。ご丁寧に彼ひとりに刺さり尽くすように一部の軌道を敢えて変更している。

 

だが、それら千本はまるで始めからなかったかのように黒ゼツに吸収され消えてしまった。

 

「……気味の悪い体してるな。どういう構造してるんだぞれ」

 

「ん? まあ俺の自前だよ。《口寄せの術》!!」

 

「ふん、まあいい。《口寄せの術》!」

 

互いにチャクラで牽制しながら、まずは口寄せを行う。

 

黒ゼツが呼び出したのは巨大な蜘蛛。サイゾウが呼び出したのは巨大な百足。

 

口寄せされた百足と蜘蛛は睨み合うが、サイゾウと黒ゼツはそれらを無視するかのように殺気をぶつけ合う。

 

そして、次の瞬間空気が爆ぜた。

 

ぶつかり合ったのは黒ゼツとサイゾウの拳。お互いに拳が砕け、血を流している。

 

「その速さ……キサマ、ナニを取り込みやがった」

 

「おっほぉ! さすがはうちはサイゾウ! 気がついたかぁ!」

 

黒ゼツは喜びながら大蜘蛛をけしかけ、サイゾウはそれを大百足に対処させる。

 

「《八門遁甲第七・驚門、解》」

 

サイゾウは自身もまた八門遁甲を解放する。七の門まで解放するのは今の彼にとって最大級の賛辞に等しい。

 

同時にそれを見たガイは冷や汗をかく。サイゾウが本気で戦おうとしている姿など、そうそうお目にかかれるものではない。ましてや、目覚めてからのサイゾウは以前とは桁違いにパワーアップしている。

 

目覚めてから一度手合わせをしたガイだからこそ分かる。彼が本気で戦えば、この辺一帯は更地になる。

 

「先生……!!」

 

ガイの必死な叫びだったが、サイゾウは余裕をもった笑みを返す。“大丈夫だ”と。

 

言葉にはしなかったが、ガイを真似たサムズアップが、ガイの心に絶対の信頼を呼び戻した。

 

「もーいーですかー?」

 

あくまで飄々と。からかうように、嘲るように。

 

黒ゼツは相当な自信があるのか、ぶらぶらと手を振りサイゾウを挑発する。

 

「ああ、待たせて悪かったな」

 

サイゾウが完全に振り向くよりも早く、黒ゼツは突っ込んでいく。

 

(さっきの攻防ではっきりしたが、恐らく今の状態ならオレも本気を出せば互角。条件達成の為にもヤツをここで始末するか? ……いや、どうせなら持って帰るか。使い道はいくらでもあるだろう)

 

余裕。慢心。自惚れ。驕慢。

 

黒ゼツの心中を占めるのは、それら己に対する賛辞のみ。

 

しかしそれに至るだけの下地はある。黒ゼツは踏み込みながらサイゾウの一挙手一投足を見逃さぬよう構えて──何もできずに殴り返され吹き飛んだ。

 

「……ぶげっ! が、がはぁっ! こ、こんな馬鹿なっ! 見えていたのに、なぜ……!?」

 

「そりゃわからんだろうな、ド素人」

 

その言葉に見上げれば、いつの間にか目の前まで来ていたサイゾウが黒ゼツを見下ろしている。

 

「おのれぇっ!!」

 

黒ゼツは全身から土気色の触手を瀑布のごとく繰り出し、サイゾウから距離を取ろうとする。

 

「朝孔雀」

 

しかしそれらは視認することすらできない高速の拳舞によって凪ぎ払われてしまう。

 

「ちぃぃっ!!」

 

黒ゼツは攻撃を緩めない。想定外だった。これほどまでに差があるなどと。

 

触手を追加で繰り出し、さらにはそれに追随するように二つの仮面を体から産み出す。“零”と刻まれたその仮面らは触手を自分にまとわりつかせ人の形になる。

 

「滝隠れの禁術《地怨虞(じおんぐ)》でも参考にしたか? ま、無駄だがな。《抹殺の獅子獣》」

 

声を荒げることすらなく、サイゾウは両の拳でもって同時に触手人形を迎撃。大量のチャクラを打ち込むのと同時に叩き込まれた人形は共に一撃で粉砕され、再生することすらできずに塵となっていく。

 

「くそぉ! まだだ、こんなもので終わってたまるか!」

 

「いいや、終わりだ」

 

サイゾウへ向かって両手を合わせて貫手を放った黒ゼツだったが、それはあっさりとサイゾウに避けられ、腹を蹴りあげられて空中高く舞い上がっていく。

 

「がぁぁっ……! がはぁっ!!」

 

空中でもがき苦しみながら落下する黒ゼツ。なまじ生身を得ていただけにそのダメージは筆舌に尽くしがたく、まさか最強の肉体を手にいれたと思った矢先にそれを力で真正面から破られるなど想定すらしていなかった。

 

「《威装・須佐能乎》」

 

サイゾウはそんな黒ゼツへと冷めた眼を向けながら、右腕だけに須佐能乎を纏い、そこへチャクラを集中させていく。

 

あまりのチャクラに輝くサイゾウの右拳。さらに拳には彼の須佐能乎の武器である籠手が装着されていく。

 

輝くチャクラの眩さが周囲を照らし、そのチャクラに呼応して黒ゼツの全身から竹遁が発生し身動きを封じる。

 

落下する先は、サイゾウの目の前。

 

「《金剛鎚拳》!!」

 

ごぱっ、という音を発して黒ゼツは肉だったモノへと変わり果て砕け散った。あまりにもあっさりとした決着。サイゾウに至っては息切れすら起こしていない。

 

「ガイ! まだ動けるか!!」

 

「は、はい先生!」

 

正直気が抜けて倒れそうだったが、悲しいかな修行の影響か師にかけられる声に体が反応し痛む体に鞭打って気を付けしてしまう。

 

「……嘘をつくな。ひとまず休んでおけ。道人殿、アスマの容態が安定したようだから木の葉まで送ってやってくれ」

 

「うむ、任せておけ。だがそれは影分身で十分じゃな。ワシはもう少しお主に付き合うぞい」

 

旧鼠道人はサイゾウが倒した仮面の人形を見下ろしながら己の記憶を探っていた。

 

「……なるほど。零尾か」

 

「零尾? 道人殿、それは尾獣ですか?」

 

「ん? いや、厳密には違うのう。零尾とはかつて空忍の先祖が尾獣を模して作った人造兵器じゃよ。今からもう、300年ほど昔になるかのぅ……」

 

「……そうですか、詳細は後でお聞きします」

 

サイゾウはハンドサインで付近に控えていた“根”の者達を呼び寄せ、オビトを回収させる。ナナシことカカシに会わせる必要はあるだろうが、それまでに()()と調べておく必要はあるだろう。

 

周囲に人気がなくなったところで不意に旧鼠道人がサイゾウへと語りかける。

 

「……サイゾウ、気がついているか。お前、試されとるぞ」

 

「やはりそうですか。前回が精神世界、今度が現実世界。どちらも並みの忍なら対処することすらできない次元だったが、どうにもお粗末な結果だった。今回のアレも、やはり分裂体でしょうか……?」

 

「……わからん。観察した限りではそうとも言えるし、そうでないとも言える。じゃが絶対に気を抜くな。ただの勘じゃが、アレが死んだとは到底思えん」

 

見たこともない旧鼠道人の深刻な顔にサイゾウは眉をしかめるが、今は警戒を密にするしかない。まだ洗脳されたイタチは残っているのだし、他にも“暁”に所属する者達がいないとも限らない。

 

「やれやれ、難儀だな」

 

サイゾウはひさしぶりにタバコを取りだし深く息を吸うと、紫煙をくゆらせながら今後に思いを馳せるのだった。

 

 

__________________________________

 

 

そんなサイゾウ達の様子を遥か離れた場所から観察する()()()()()()()がいた。

 

「……物理特化の零尾の人柱力でもダメか。いよいよ化け物だな」

 

「だがこれである程度底が知れた。やはり奴を足止めするには飽和攻撃以外に手段はないな」

 

「効率は悪いがそうなるか? そういえば仕込みはどうなのだ」

 

「現状で数秒ってところだな。まあ実際にはそれ以上の時間は作れるだろうが、あまり余裕があると考えない方がいいだろう」

 

すべてが違う黒ゼツから語られる言葉。しかしその容姿は微細な部分に至るまでまったく同じ。

 

そう、彼らはすべてがオリジナル。記憶と感情と野望を共有し、ただひとつの目的に向かう狂信者。

 

すべては、(カグヤ)復活の為に。

 

彼らの計画は最終段階に入りつつあった。

 

「後は時間だけだ。なあに、これまで数百年を待ったのだ。後数年程度、瞬く間に過ぎ去るさ……」

 

外道魔像に繋がれ、自然エネルギー収集器と化した長門。

 

虚ろな顔で虚空を見つめる、腹を大きくした小南。

 

彼らの企みは未だ全貌を明かしていない。

 

“暁”に隠れた“宵闇”は、深淵の奥深くから機を窺っていた。

 

物語は、ここからである。





疲れましたわい(´・ω・`)

にしても時間がとれないぜマジで。今回のも書く時間確保するのがどんだけ大変だったか( ̄▽ ̄;)

補足とか今回はなしで。次回も一週間以内には更新します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

波の国での任務① ★

幾つかパターンを考えてましたが、そのまま原作突入にしました。

アカデミー卒業とか鈴取りとかはカット。特に鈴取りなんぞやった日には強化され過ぎて練兵場が崩壊しちゃうので(´・ω・`)




音を崩しかけた不協和音より数年。

 

ここは木の葉隠れの里における火影の執務室。

 

そこに、白い仮面をつけ最近上忍として復帰したナナシに引き連れられて、三人の少年少女がやって来ていた。

 

「父さん、今度こそちゃんとした任務くれってばよ!」

 

「おいナルト! こういった場では火影様と呼べって言われてるだろ!」

 

「あ! わ、悪いってばよ。えっと……火影父さん!」

 

サイゾウが話しかける前からマイペースに自分の欲求を訴えかけるナルトだったが、これをサスケが諫めた。

 

だがナルトの要求も無理はない。木の葉でも初期の下忍にはまともな任務など割り振られないとはいえ、たぐいまれな実力を持つ彼らが家出の猫探しやら、どぶさらいなどと言った雑務を半年以上行っているのだ。フラストレーションも溜まるといったものだろう。

 

さらに厳しい修行を日々自らに課しているナルトからすれば、自分へ任務を割り振る父親にもっと自分を認めて欲しいといういじらしい願いの表れでもある。

 

なお、目の前で行われたナルトとサスケの寸劇にサイゾウは無表情を貫いているが、これはナルトが可愛くてニヤつくのを我慢している為である。

 

(火影父さん……ブフッ!)

 

(火影父さん……ククッ!)

 

また同じく無表情だが、横では護衛として控えるサイゾウの弟であるシスイと、同じく護衛のサソリが内心で吹いていた。よく見ればシスイは口元をひくつかせているし、サソリも顔を背けていた。

 

ちなみに今日のタカノの護衛はノノウと自来也のふたりである。また彼女には基本的に距離をおいて日向とうちは、さらには里から選りすぐられた者による護衛小隊が3チーム付いている。両親ともに権力使いまくりであった。

 

「んんっ! ナルト、任務はきちんと実績に応じて割り振るのが当然だ。だが、戦闘力で言えば並の上忍を上回るお前らになんでこんな雑務ばかりをやらせてきたのかにも意味がある。サクラ、君はわかるか?」

 

「へっ! わた、わたしですか!?」

 

ワタワタと慌て、両手を忙しく動かし始めた少女。名前を春野サクラという。

 

名前の通り桜色の髪をした可憐な少女だ。

 

忍者アカデミー設立以来の秀才と呼ばれ、既に知識量だけなら上忍に匹敵するだけの頭脳を有した天才少女だ。

 

それだけに、彼女の将来性を見込んだ情報処理担当の上忍達からはそれとなく注目を浴びていた。

 

しかし本人の目指すモノがハッキリする前に選択肢を狭めるのはよくないとして、スカウトなどの行為は火影であるサイゾウから止められている。なにかと優遇はされているが。

 

「……わたしが、いるからでしょうか」

 

どこか気落ちした雰囲気で問い返すサクラ。その自信無さげな様子にサイゾウは己の良心がわずかにチクリと痛むのを覚える。

 

彼女を含めた下忍第七班の構成は、うずまきナルト、うちはサスケ、そして春野サクラの三名である。これに彼らの監督者をも兼ねるナナシが加わって任務を受ける。

 

成績はともあれ、規格外の二人に天才とはいえ何故方向性の違う彼女を加えたのか。

 

それは(ひとえ)に、彼らふたりに“後ろ”を意識させる為だ。

 

サスケとナルト。彼らは変則的な人柱力の力の使い手である。

 

九尾直々に認められたふたりは既にチャクラを衣として扱うこともでき、さらにはこれまでネックだった二人が物理的に繋がっていないとチャクラリンクが切れてしまう問題もこの数年で解決していた。

 

そう、彼らは齢13歳という年齢にして、正面からなら既に影に準じる実力を有しているのだ。

 

勿論経験値はまだまだ足りないし、搦め手を使われれば手も足も出ない可能性はある。

 

だがその程度ならば監督者を兼ねるナナシが十分にカバーできるし、何より生半可な手段では抑えきれないだけの潜在能力(ポテンシャル)がある。

 

話を戻そう。そんな彼らに、如何に優秀とはいえ下忍の枠を越えないサクラをつけたのはなぜか。

 

それが先ほど述べた“後ろ”だ。ナルトとサスケのふたりは強い。だが強くなった彼らに、今だからこそ誰かを守る大切さを教えたい。

 

サイゾウはそう考え、彼女を小隊の仲間として迎え入れさせた。

 

また、サクラが後ろにいるという事実は、彼らふたりの無茶な特攻を止めさせる効果もあった。今となってはサイゾウの思惑以上に彼女は役立っている。

 

「残念、外れだ。そもそも難易度で言えば、お前達下忍にはBランクの任務でさえ任せるわけにはいかない。そもそもナルト、サスケ。お前達が仮に高難易度の依頼を任され、達成したとしよう。そうなったとき、そもそもどう報告すればいいのかわかるのか? ましてや報告書が書けませんでは話にならんぞ」

 

「うぐ……!」

 

「……ある程度の報告書なら書けますが、それだけではないということですか?」

 

ナルトは痛いところを突かれたとばかりに顔をしかめ、サスケは単なる書類上の報告に収まらないという意味を見抜いて逆にサイゾウへ質問する。

 

「そうだ。本来、Bランク以上の任務というのは中忍以上の忍が請け負う代物だ。それに伴う危険はもちろんだが、最低限必要なものが求められる」

 

「そうか……! 中忍以上ということは、ある程度自分の判断も加えて、より正確な情報や加味すべき内容を簡潔にまとめる必要があるんだわ!」

 

「正解だ、サクラ。そう、高難易度の任務を達成する為に必要とされるのは“判断力”と“洞察力”。この二点を考慮できない者を向かわせたところで、例え目標を達成できても意味がない場合があるからだ。そして高難易度の任務を任せられるのは同時に信頼の証。わかるか? お前達には()()それが足りないんだよ」

 

「「……!」」

 

父親から、誰よりも尊敬する人間から告げられた“信頼できない”という言葉に二の句を告げられなくなるナルトとサスケ。

 

だが当然サイゾウがそれだけで話を切り上げるはずもない。今度は笑みさえ浮かべて全員に語りかける。

 

「だが()()はお前達の話。担当上忍であるお前が代表して任務を受けるならば話は違う。そうだな、カカシ」

 

「……あの、五代目までそっちで呼ばれるとホントこの名前にした意味があるのかなーって最近思うんですけど……」

 

ナナシは汗すら浮かべて問いかけるがサイゾウはまるで気にしていない。ちなみに彼をナナシと呼ぶのは暗部の元同僚のみである。

 

「まあ気にするな。で、どうする? 丁度今波の国への護衛任務があるが、受けるか?」

 

「……はあ。まあこれだけお膳立てされて受けないってのも無いでしょうし。いいですよ、俺が責任を持って引率しましょう」

 

「応、任せたぞ」

 

短いやり取りではあるが、ナナシに任されたのは何も任務だけではない。

 

うちはサスケは将来を有望視されるうちは一族の天才にして、初の外部から人柱力の力を制御した逸材である。

 

うずまきナルトは四代目の忘れ形見であり、九尾の人柱力であり、五代目の義理の息子でありと、正直なぜ軟禁されていないのかが不思議なほどの立場な存在である。

 

そしてオマケではあるが、春野サクラ。この少女が持つ稀有な才能はサイゾウ自身も買っている。優秀な処理能力を持つ忍としての将来性もさることながら、幻術への適正、さらには医療忍術にも応用できるほどのチャクラコントロールを持つのだ。

 

それら全てを引っくるめてサイゾウが“任せた”と言葉にしたのは、この子供達三人を絶対に守り抜けという意味でもある。

 

ナナシは人知れずかかるプレッシャーにため息をつきたくなりながら、久しぶりに酒が飲みたくなっていた。

 

__________________________________

 

 

「やあ諸君、お待たせ」

 

時刻は集合予定時刻より三十分後。元はたけカカシことナナシは平然とした様子で依頼人と共に待つ三人の少年少女の元へと現れた。

 

「カカシ先生ってば遅いってばよー!」

 

「まあいつものことだけどな」

 

「……あはは、あたし達予定時刻からの三十分間で勉強するクセついちゃったね」

 

例のごとく遅刻してきたナナシ。カカシとしか呼んでもらえないのはもはや様式美である。

 

「ふんっ! 高い金を払って忍を雇ったというのに、超遅刻してくるとはどういう了見じゃ!」

 

「いや、それは、はい、どうもすいません」

 

ナナシも謝るが、どこか気の抜けたような仕草は依頼人である老人タズナを余計に怒らせてしまう。

 

なんとかサクラが取りなし出発する一行だったが、出だしから失敗するような展開にナルトは不満を抱いていた。

 

一行が向かう波の国とは、大名こそいるものの隠れ里もない小国である。霧隠れと木の葉隠れの間に存在するこの国は、早くから木の葉へと立場を寄せることで戦争による被害を最小限にしてきた経緯があった。

 

だが時代の流れか、近年弱体化した霧隠れの隙をついてか、海運業をきっかけにひとりの男がこの国を実質支配し始めた。

 

その男こそガトー。彼の取った手段は単純。波の国の交通網をすべて自分が牛耳ったのだ。

 

当然反発はあったが、彼は海運会社ガトーカンパニー会長にして、五大国でも有数の実業家である。

 

そして、裏の顔として『闇の世界の帝王』という二つ名まで持つ男だ。

 

事実、彼のアンダーグラウンドへの影響力は大きく、無数にあるカジノ経営に始まり、抜け忍や浪人ら、果てはギャングまで使っての暴力行為によって数知れない無実の人間が命を奪われてきていた。

 

(……どう考えても普通の護衛任務じゃなさそうだよなぁ、サイゾウ先生も人が悪いよ)

 

内心で師匠に向かって文句を言うカカシだったが、それも無理のないことだろう。

 

なにせこの任務に関しての書類を受けとる際、シスイから密かに暗部三個小隊を護衛と調査に割くとまで言われたのだから。

 

絶対に何かある。それはナナシの中で確信へと変わっていた。

 

だが結局、しばらくは何事もなかった。何度か宿を利用し、サクラやナルトに至ってはちょっとした旅行のつもりなのかお土産なども買っていた。

 

護衛任務とはいえ、向かう先の波の国は木の葉の傘下。本来であれば警戒するべき霧隠れも今となっては木の葉より下の立場にある。

 

道中の盗賊などは全員が警戒していたが、特別な緊張感などあろうはずもない。ナナシはそんな油断しきっている部下達をあえて放置していたが、サスケだけは一人冷静に違和感を感じ取っていた。

 

そんな風にして街道を進む一行。しかし、不意に水溜まりを発見したサスケが全員の歩みを止める。

 

「待て」

 

手を出し、チャクラを練りつつ写輪眼を発動して周囲一帯を監視するサスケ。ナルトは即座に意識を切り替え、体内のチャクラを練りつつ九尾である九喇嘛に相談する。

 

「九喇嘛、なにか感じるかってばよ」

 

(“……ああ、気配を隠すのが下手くそな連中がざっと20人ばかり潜んでいるぞ”)

 

「わかった。行くぞサスケ」

 

「ああ、行くぞナルト。20人程度なら俺たちだけで十分だ。カカシ先生、()()()()は任せます」

 

ふたりは瞬時にチャクラの衣を纏うと、驚くべき早さでそれぞれが別方向へ突っ込んでいく。

 

「やれやれ、勝手に行動しちゃダメでしょうに。後でお説教だな」

 

言いつつカカシは水溜まりから不意に現れた二人組の忍を、視線を向けることすらなく倒してのける。

 

「ど、どういうことじゃ……!?」

 

これに慌てたのはタズナである。彼が今回護衛の任務を依頼したことになんら思惑なく、ただ義理の息子から安全に帰ってこれるように渡された支度金があったからに過ぎない。

 

だがこれでは、まるで自分を狙って賊が襲ってきたようではないか。そうタズナは考える。

 

「……その様子では、なにかを隠しているというわけではなさそうですね。サクラ、彼の護衛を頼む。タズナさん、彼女から絶対に離れないでくださいね。《口寄せの術》!」

 

ナナシは己が頼る八匹の忍犬を口寄せする。

 

鍛えられた犬は人間よりも感覚に優れ、爪や牙は道具が使えずとも十分な武器となる。ナナシが彼らを口寄せしたのはひとまず警戒網を敷き、現在こちらへ急接近しつつある巨大なチャクラへ自分一人が集中して対処する為だ。

 

ばきばきと木々をへし折りながら接近する気配の正体。

 

だがそのチャクラを完全に感知した時、ナナシは思わず驚愕の声をあげた。

 

「馬鹿な! 尾獣だと!?」

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

現れたのは三尾の尾獣磯撫(いそぶ)。ナナシことカカシにとっても実に因縁深き相手であった。

 

__________________________________

 

 

響く咆哮。それは離れているとはいえ合流したナルトとサスケにもしっかりと聞こえていた。

 

「サスケ、向こうがヤバいってばよ!」

 

「ああ! だがこいつらを倒さなきゃ戻るのも難しいぞ!」

 

赤黒いチャクラの衣を纏った二人は敵の半数を瞬く間に倒したが、続けて現れたひとりの忍に存外に苦戦していた。

 

緑青(ろくしょう)アオイ

 

雷を迸らせるチャクラのエネルギー刀を振るう抜け忍であり、横一文字に刻まれた額当ては木の葉隠れのモノであった。

 

対峙するナルトとサスケのふたり。目の前の男の実力は、かつて組手を行った()()()()()()鬼灯満月をふたりにイメージさせた。

 

「くくく、まさか人柱力が里の外に出向くとはな。お前達自分にいくらの懸賞金がかかってるか知らないのか? 精々手土産に儲けさせてもらうぜ!」

 

剣化した雷を振るい二人に迫るアオイ。

 

その手に持つのはかつて二代目火影千手扉間の用いた『雷神の剣』。彼はこれを盗んだ罪で指名手配されている賞金首である。

 

「へっ、俺達を土産にするなんて10年は早いってばよ!!」

 

「そういうことだ!」

 

チャクラとは扱う者の意思ひとつで如何様にも形を変える力を持つ。この作用を“形態変化”という。

 

ナルトとサスケはお互いの掌を向かい合わせ、チャクラを送り込み乱回転させていく。

 

次々と送り込まれ乱回転するチャクラは圧縮され、二人の意志が合わさることでその場に留められていく。

 

すると赤い光が球状となって彼ら二人の間に形成された。

 

ふたりが発動したのは形態変化の究極とも言える技。かつて四代目火影が得意とした必殺の一撃。その名も──

 

「「螺旋丸っ!!」」

 

赤いチャクラの球体を携え突進するふたり。

 

九尾チャクラによって高まった身体能力は爆発的な推進力を生み、一瞬で距離を詰める。

 

さらにはサスケの写輪眼で相手の動きを見切ることで、カウンター対策も行っている。

 

「螺旋丸だと! 馬鹿なっ!?」

 

緑青アオイは元木の葉の忍であり、ふたりが発動した忍術を知っている。

 

四代目火影が得意としたチャクラの形態変化を極めた忍術。まともに当たれば即死確定の技。

 

接近するそれを見ながらアオイは必死に頭を回転させる。

 

油断して近づきすぎていたせいで回避は不可能。相手に写輪眼がいる以上、生半可なカウンターは逆効果。

 

眼前に迫る破壊の渦。アオイは咄嗟に雷神の剣へ大量のチャクラを注ぎ込み、炸裂させた。

 

迸る雷光。轟く雷鳴。周囲で様子を見ていたアオイの部下達はその光景に思わず目を瞑る。

 

「がっ……! くそぉっ、俺の、俺の腕がっ!」

 

閃光が晴れたとき、そこにはナルトとサスケが倒れていた。アオイは、炭化し手首から先を失った右腕を抱えてその場にうずくまっている。

 

アオイが取った手段は、右腕を犠牲にした雷神の剣の暴走。

 

過剰なチャクラを流し込まれた雷神の剣は雷そのものと化し、螺旋丸のエネルギーさえも散らしてその場で炸裂したのだ。

 

これによって螺旋丸による致命傷は防ぐことが出来たものの、アオイは右腕と雷神の剣を失った。

 

「ぐぅ……! おい! 何をボサっとしてやがる! さっさとこのクソガキどもを回収しろ!! 尾獣がこっちに来る前にずらかるぞ!」

 

口角泡を飛ばす勢いで怒鳴り散らすアオイ。恐らく痛み止め(モルヒネ)の類いであろう簡易注射器を、残った左腕でどうにか自分に注射する。

 

その間部下が行動するのを待っていたアオイだったが、不意に誰も動いていないことに気づく。

 

気づけば、いつの間にか控えていたはずの部下達が全員倒れていた。

 

「な、なにが起きた!?」

 

「残念、もう少し頑張れると思ったんだけどね。ナルト君、サスケ君」

 

そこに現れたのは五代目火影うちはサイゾウの弟。うちはシスイだった。

 

自ら暗部三個小隊を率いてナルトとサスケの護衛及び波の国の調査を行っていたシスイは、部下を先行させてふたりの戦いを見守っていたのだ。

 

「……ま、まだ負けてないってばよ!」

 

「……そうだ、この程度でくたばってられるか!」

 

シスイの言葉に奮起したのか、二人は震えながらもどうにか立ち上がる。

 

だがどう見ても虚勢そのものの姿に、アオイはチャンスが巡ってきたかと考える。

 

「……ふむ、そうだね。じゃあこうしよう。もし君達が彼を倒せなかったら俺は彼を見逃す。どうだい、緑青アオイ。悪い条件じゃないだろう?」

 

笑顔で詰問するシスイ。アオイは冷や汗を浮かべながら、彼の提案を受け入れざるを得ない状況を理解する。

 

「……くく、いいだろう。だがいいのか? 片腕がない程度で俺がそのガキどもに負けるとでも?」

 

虚勢混じりに笑うアオイ。さらに何らかの薬品を取り出すと、おもむろにそれを炭化した腕へと注射する。

 

「がああ……!! く、ぐうっ、はあ、はあ、はあ……そして、これでガキどもの優位も消えた……!!!」

 

(柱間細胞……! ガトーカンパニー……これは一筋縄ではいかなそうだな)

 

警戒するシスイ。ふたりを成長させる為とはいえ、柱間細胞まで使うような相手にあまり好き勝手やらせるわけにはいかないと考えたシスイは自分が動くべきかと考える。

 

だが、それより早くナルトとサスケが動いた。

 

「だあっ!」

 

深く沈みこむようにアオイの足を取りに行ったナルト。

 

だがそれはあっさりと避けられ、続いて迫っていたサスケの手裏剣も難なくアオイは躱していく。

 

「まだだ!」

 

しかし躱された手裏剣はサスケがあらかじめ投げておいた手裏剣に当たり、まるで跳ねるようにして再びアオイを狙う。

 

「ちっ!」

 

避けるアオイだったが、今度は後ろから影分身のナルトが次々と襲いかかる。

 

九尾チャクラを纏っていない影分身一人一人の実力は彼にとって大したものではなかったが、その間にサスケとナルトは術の準備ができていた。

 

「《火遁・豪火球の術》!!」

 

「《風遁・追い風の術》!」

 

挟み撃ちの形でサスケの火遁をナルトの風遁が増強、逃げ場をなくしたアオイは全身を焼かれる。

 

「ぬおおおおぉぉ……!!」

 

それでも柱間細胞の回復力が続いているのか、火傷によって爛れた皮膚が瞬く間に再生していくアオイ。しかし再生という治療以上のチャクラ運用に彼のチャクラはあっという間に枯渇しかける。

 

「くそっ、チャクラの消耗が激しすぎる……! ガトーめ、半端なモノ寄越しやがって……!」

 

思わず文句を口走り膝をつくアオイ。その姿は隙だらけ過ぎた。

 

「「螺旋丸!!」」

 

「しまっ……ぐはあっ!」

 

再び螺旋丸を作り出したナルトとサスケによって、アオイは今度こそ回復不能なダメージを負って倒される。

 

「よっしゃあ!」

 

「今度は決まったな」

 

螺旋丸の驚異的な効果のひとつとして、生身で受ければ防御も受け流すことも不可能だという点にある。

 

強靭な肉体や驚異的な回復力があるならばその限りではないが、使用するチャクラ量に比例して指数関数的に威力が増加し、ましてや単純なチャクラの形態変化に過ぎないため優位な性質変化も存在しない。

 

四代目火影の用いたこの牙は、今ふたりの少年に受け継がれていた。

 

(あれが四代目の螺旋丸。俺も使うことはできるけど、実戦で使うには少し経験がいるかな。兄さんが驚異的だと言った意味がわかるよ)

 

緑青アオイは螺旋丸によって抉られた肉体をすでに回復させていたが、その消耗は激しく、また回復したにも関わらずダメージが抜けきれないのか気を失ったままだった。

 

「ご苦労様、ふたりとも。(てい)()、この男の連行を頼む」

 

シスイが声をかけると、音もなく瞬身で仮面をつけた暗部が現れ緑青アオイを連れていく。

 

シスイはそれを見届けると、ナナシことカカシが戦う尾獣の元へと向かうべく瞬身の術を発動した。

 

__________________________________

 

 

「■■■■■■■■■■!!!」

 

「くっ、《増幅口寄せ》でもダメか!」

 

どこか虚ろな目で暴れる三尾の尾獣相手に、ナナシは手をこまねいていた。

 

口寄せで呼び出した魔狼は序盤こそダメージを受けた分だけ増えるという特性を活かして立ち回っていたが、それも三尾の攻撃による珊瑚礁で身動きを取れなくされることで対策されてしまった。

 

「こんなとき写輪眼ならどうにか出来たのかも、って考えるのは贅沢かな。《神羅天征》!!」

 

ひとまず三尾を斥力で吹き飛ばし距離を取るナナシ。

 

「さてと……サクラ、動けるか」

 

「むむむ、無理ですぅ……」

 

半ベソになりながらヘタりこんでしまったサクラを後ろに庇いながらナナシは冷や汗を垂らす。

 

自分だけなら輪廻眼の力でどうにでもなるが、さすがにサクラとタズナの二人を庇いながらではどうにもならない。

 

ちなみにパックン達忍犬はすでに送り返している。巨大な三尾相手では無駄に殺されるだけだ。

 

しかしそこへ瞬身によって駆けつけたシスイが現れた。

 

「俺の出番ですかね、ナナシさん」

 

「……」

 

「どうしました? なにか問題でも?」

 

「いや、久しぶりにその名前で呼んでもらったからちょっと戸惑って」

 

「もう戻したらいいんじゃないですか? 全然浸透しませんし」

 

二人は会話しながらも三尾から目を反らさず隙を窺う。

 

「無難に《別天神》でいきましょう。カカシさんは援護お願いします」

 

「わかった。でも名前はちょっと切り替え早すぎない?」

 

「行きますよ!」

 

シスイは瞬身の術を発動し、一瞬にして三尾の頭上を占領する。

 

「来い……《須佐能乎》!!」

 

発動したシスイの須佐能乎が三尾へと落下し、その巨体を抑え込む。

 

なぜ片眼にしか写輪眼をもたないシスイが須佐能乎を使えるのか。それは須佐能乎の特異性にある。

 

須佐能乎とは《万華鏡写輪眼》に開眼した者だけが辿り着ける一種神の領域だ。

 

チャクラで構成された体は生半可なダメージでは破壊できず、自らの術を拡大展開することさえ可能な強みもある。

 

さて、ではその須佐能乎は()()()()()()()()()()。その答えは“脳”である。

 

うちはの写輪眼が開眼する際に作用するのは脳である。これはかつて二代目火影千手扉間が、戦乱の世で無法を働いたうちは一族で実験を行ったことからも判明している。

 

サイゾウは弟であるシスイが写輪眼を奪われて以来、彼の身を守る方法に腐心した。最も手っ取り早い方法は本人が強くなることであるが、それでも限度はある。

 

そこでサイゾウが考えたのがクローン培養した写輪眼の移植だ。

 

これは生来の写輪眼には及ばないものの、本人のチャクラに適合すれば十分に実用に叶う。

 

その際に判明したのが、須佐能乎が写輪眼無しでも発動できるということ。

 

ついでだからと両目を取っ替え引っ替えされたのはシスイにとって未だトラウマである。

 

とはいえそのときの経験から瞳力も上がり、必然的に須佐能乎の扱いにも慣れたのだからシスイも転んでもタダでは起きない根性の持ち主である。

 

「じゃあ抑えますよ……《万象天引》!!」

 

ナナシが地面に掌を叩きつけると、三尾の全身が急激に引っ張られて地面にめり込んでいく。

 

「よし! 《別天神》!!」

 

その隙をついてシスイが別天神をかけると、三尾は即座に沈静化し、眠るように気を失ってしまった。

 

「ふう……なんとかなったな。それにしてもとんだ大物が捕れたけど、これどうする?」

 

「尾獣が出た時点で兄さんに連絡を向かわせてます。あの人のことだから多分すぐに「ナルト無事かー!!」ほらね」

 

三尾を観察していたシスイとナナシは突如として現れたサイゾウに呆れる。どうやら《飛雷神の術》で駆けつけたらしい。

 

「うん? 俺は尾獣が出たと聞いたからてっきり“暁”の連中が出たのかと考えたんだが」

 

三尾を足蹴にしながら悠々と語るサイゾウ。心なしか意識がないはずの三尾がプルプルしているのはサイゾウに怯えているからだろうか。

 

「いや、恐らくだけど同じ尾獣である九尾の気配に釣られたんじゃないかな。たしか三尾って“暁”に捕まらなかったんでしょ?」

 

「なるほど、そういうことか。……ふむ、状況から察するにタズナ殿を狙った連中と三尾が偶然かち合ったと見るべきか。まあ簡単に結論は出せんが、この件に関しては他の暗部に調査させよう。では俺は帰るぞ。ああ、こいつは俺が持ち帰るから安心しろ。ナルト達によろしくな。サクラも頑張れよ」

 

「わかりました。五代目もお気をつけて」

 

「あ、ありがとうございます」

 

しばし準備に時間をかけつつも《飛雷神の術》で去っていったサイゾウを見送り、サクラは自分の里の最高権力者のフットワークの軽さに驚愕しつつナルトとサスケを待った。

 

「あれ? 今父さん来てなかったかってばよ」

 

「尾獣が消えている……サクラ、何があったんだ」

 

シスイに遅れることしばらくして、やってきたナルトとサスケ。これは彼らが遅いのではない。シスイが速すぎるのだ。

 

「えっと、三尾の尾獣が出たんだけどカカシ先生とシスイさんが倒してくれたの。そしたら連絡を受けてたらしい五代目様がやってきて持って帰ったわ」

 

自分で言っていてとんでもないことを口にしている自覚があるサクラだったが、事実なのでしょうがない。

 

「じゃ、俺は任務に戻るよ。ナルトくんもサスケもサクラちゃんも、カカシさんの言うことちゃんと聞くんだよ。それじゃ」

 

言って瞬身で立ち去るシスイ。

 

怒濤の展開に思考が追い付かなかったサクラだが、一件落着したかと思うと途端に力が抜けて座り込んでしまった。

 

その様子を心配したタズナが彼女に話しかける。

 

「大丈夫か、お嬢ちゃん」

 

「うん、怖かったけどみんな無事でよかった……」

 

「サクラ、悪いが少し休んだら出発するぞ。どうも色々キナ臭いからな」

 

「え、わたし臭いんですか……?」

 

「なに? いや今の言葉はそういう意味じゃなくてだな……」

 

自分の発言に涙ぐむ年頃の女の子の扱いなどどうすればよいのか。ナナシは本気で頭を抱えたくなった。

 

こんなことならなんであの種馬はまだ残っていてくれなかったのかなどと余計なことを考えつつ、ナナシは色々な意味で前途多難なこの小隊初の高難度任務がどうなるかに思考を割くのであった。

 

 

 

 




エロまで進まないR18でスマヌ(´・ω・`)

まあその分グロい展開多目にしておきますので。え、そうじゃない?

とりあえずサクラ可愛いよサクラ。個人的にはムチッとしてきた二部も好きですが、サクラは特に一部の方が好み。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

波の国での任務② ★


遅くなって本当に申し訳ない(´・ω・`)

うん、二年ぶりくらいにゲームをしたら思いの外楽しかったんです。

やってたのは世界樹です。すまぬ。

後はプライベートが忙しかったですたい。

とまあ言い訳はこれくらいにして、本編をどうぞ。詰め込みました。




まさかの三尾の尾獣襲撃、さらにはガトーの手配らしき抜け忍による襲撃を受けた一行であったが、辛くもこれらを撃退しすでに波の国へと入っていた。

 

「タズナさん、道中ご苦労様でした。我々はここで先行している他里の忍と合流する手筈になっています。何か心配がありましたら家まで送りますが……」

 

「いや、超充分じゃよ。ここまで送ってくれて助かった、あんたらがいなければワシは超死んでたからな。サクラちゃん、ナルトくん、サスケくん。三人も本当にありがとう」

 

「へへっ、気にするなってばよ」

 

「そうだ、正式な依頼を俺たちは果たしただけだ」

 

「そうですよ。気にしないでください」

 

そう言って、依頼を受けた当初の目的を達成した一行はタズナと別れてナナシの後をついていく。ちなみに別れ際タズナの家を聞いた一行は、機会があれば家に寄ってくれるよう声をかけられていたので、後程行くつもりでいた。

 

「カカシ先生、他里との合同任務だなんて初耳だってばよ。どういうことだってばよ」

 

歩きながら当然の疑問を口にするナルト。そのことは不意打ちで聞かされたサスケやサクラも思っていたことだった。

 

「……お前達には説明していなかったが、実は俺は任務を二つ受けている。ひとつはタズナさんの護衛。そしてもうひとつは、ここ波の国で起きている違法な取引の調査だ」

 

まじめな顔で三人に語りかけるナナシ。

 

「違法な取引……? あ……!」

 

サスケはナナシの言葉を訝しむように首を傾げるが、不意に思い付いたのか声をあげる。

 

「気づいたか。そうだ、今回お前たちが撃退した元木の葉の抜け忍緑青アオイは、本来なら持ち得ないはずの柱間細胞を使った超再生薬を持っていた。あれは音隠れで作られている極秘の試薬だ。本来あんな抜け忍が持っているはずがない代物なんだ」

 

「……やつは“ガトー”と口にしていた。もしかして、そいつがその違法な取引をしている張本人なのか」

 

「ああ、とはいえただ者じゃない。奴は海運王の名でも知られる世界でも有数の大富豪だ。そしてこれまでに合法非合法を問わず、やつが実質傘下に置いてきた小国や企業は両の指では足りないほどにある。今回そのターゲットに波の国が選ばれていることを知って、数年前から複数の隠れ里の忍が波の国で動いている。ま、もっともこれから会うのは潜伏している忍ではなく、俺たちと同じように派遣された人間だがな」

 

「ん~、難しくてよくわからないってばよ……あ!」

 

「ちょっと、どうしたのよナルト」

 

「そんなヤバい奴が狙ってるならタズナのおっちゃんそのまま帰したらダメだってばよ!!」

 

サスケとサクラはナルトのその言葉に一瞬戸惑い、次いで嫌な予感を感じたのか併せてナナシの顔を見上げる。

 

「そんな顔しなさんな。勿論、あのままタズナさんを素直に帰してるわけないだろ。ガトーの狙いがわからない以上、身柄を狙われた彼には護衛兼監視としてシスイがついてる。腕利きの暗部もセットでな。おいそれと手は出せんよ」

 

言いながらも歩き続ける一行は、やがて一見の茶屋で止まる。

 

「いらっしゃいませー!」

 

威勢のいい挨拶をかけてくる店員の少女に向かって、ナナシは何気なく話しかける。

 

「やあどうも。()()()()()()で待たせてる二人の所まで案内してくれるかな」

 

ナナシの言葉に少女はほんの一瞬動きを止めると、ニコリとナナシを見つめてから案内し出す。

 

その隙のない所作に、サスケは写輪眼で動きを学習しつつ今の一連の流れを反芻していた。

 

(……この女、ただ者じゃねえ。今カカシが合言葉らしきことを言った瞬間この場にいる全員を殺傷圏内に収めやがった。今も歩きながら、俺達が少しでも不振な動きを見せたらすぐに対処できるように歩いてやがる……!!)

 

目の前にいる自分と大して年齢が変わらないように見える少女を相手に、サスケは戦慄する。

 

だが、そんな彼の動揺も少女に扮したくのいち──卯月朝顔には微笑ましいものだった。

 

「フフ、あんまり緊張しなくていいですよ。私も木の葉の忍ですから」

 

奥の間の手前で、少女は変化の術を解くと、そこから妙齢の美女が現れた。

 

「卯月さんも人が悪い。俺とナルトにだけ殺気を飛ばさなくたってよかったでしょうに」

 

「あら、放っておくとサイゾウ様にせっつかれるまでボケッとしているあなたに言われたくないわね」

 

どうやら卯月朝顔は先ほどのやり取りの最中にナナシとナルトのみに絞って殺気を送っていたらしい。サスケはそのことにまるで気づけなかったが、侮られたという怒りよりも素直にけた違いの実力を持つ目の前の女への敬意が勝った。

 

「……凄いですね。俺には警戒しているように見えても、殺気までは感じとることができなかった」

 

「わたしが漏らした態度の変化を見切ることができただけでも大したものよ、サスケ君。でもナルト君はさすがね。全部わかった上でまるで無防備なんだもん。お姉さん毒気を抜かれちゃったわ」

 

夕顔が呆れながらも降参のポーズを見せたのは、大人しく後ろをついてきていたナルトだった。

 

「ん? でも俺にはサスケみたいに動きを見切るのは無理だし、それに父さん曰く“悪意がなくても人を傷つけられる奴はいる”って話だからそんなに大したことないってばよ」

 

稚気から向けたとは思えないほどに特濃の殺気をぶつけても何ら反応をよこさなかったナルトへ降参する朝顔。

 

ナルトは九尾を通じて人の悪意を感じ取れる。殺気を感じても、そこに悪意がないのを理解しているがゆえの無防備であるのだ。

 

「さ、雑談はお仕舞い。あちらさんも準備が出来たようだし、行きましょうか」

 

朝顔に促され、奥の部屋へと入っていく一行。

 

そこには二人の忍が待機していた。

 

「……おう、来たか」

 

なぜだかどこかゲッソリしているのは音隠れの守り刀十傑集筆頭桃地再不斬

 

「ようこそいらっしゃいました、木の葉の皆さん。私は(はく)、こちらは十傑集筆頭の再不斬さんです。あ、今お茶を入れますね」

 

とてとてと目の前を通りすぎる()()()に目を奪われるサスケ。そのツヤツヤとした様子にナルトとナナシは「あっ」と口にしてお互いに目を合わせ沈黙する。

 

その様子にサクラは不思議な表情を浮かべていたが、答えがわかるでもなく首を傾げていた。

 

やがて白によってお茶が運ばれ、全員が席につく。卯月朝顔は再び変化して店子の仕事をするべく戻っていった。

 

「早速だが情報の擦り合わせといこう。そちらでも確認できたみたいだが、音隠れで開発した秘薬……通称“仙丹”の()()()が最近出回っている。法外な値段だがな。こちらでも手にいれたが、作用そのものは同じでも大分粗悪品だ」

 

言いつつ、再不斬は予め用意しておいた粗悪品の方の仙丹を机に置く。

 

「こいつを服用すれば、手足が無くなるような重傷でもたちまち回復する。だが本来の仙丹と違い、チャクラを無尽蔵に吸い上げてしまう副作用がある。音隠れ(ウチ)で開発した仙丹はむしろチャクラが回復するからな」

 

「それがあるからこそ、音隠れは一気に新たな五大国として名を上げましたからね。まあ、霜隠れ、湯隠れ、滝隠れと、中規模な里の難民らを含めてまとめて吸収してくれたんです。木の葉としても願ったり叶ったりでしたが」

 

「それに関しちゃ俺は大して役に立ってねえ。主なところは大崎だし、存外にパクラと雨由利の姉御が頑張ったからな」

 

黒ゼツの乱とも称される五大国を揺るがす一大事件の後、五大国の関係には明確な変化があった。

 

まず、実質的に軍事力として崩壊した霧隠れは木の葉隠れに半ば吸収されるような形でその傘下となった。

 

これは水の国をも含むことであったが、幸いにも大名は現状を理解できる人間だった為混乱は最小限で済んだ。

 

音隠れは黒ゼツによって里を壊滅状態に追い込まれた霜隠れ、湯隠れ、滝隠れといった隣接する里を吸収。

 

これには急遽発生した難民を受け入れる、といった意味合いが強く、実際に各国で発生した混乱に伴って盗賊や野盗の類いが乱発し正規の忍びらはそれらの対処にも終われていた。

 

「ま、そのことはいい。問題は、粗悪品でもやつらに()()を作る技術力を持った連中と繋がりがあるってことだ。……そして、俺らはその技術力を持った連中に当てがある」

 

「……“暁”か」

 

“暁”。空前絶後のテロリストとして、そのメンバーの大半が生死を問わない指名手配と化している組織である。

 

元々は対話による平和を理念とした組織であった筈が、今となってはかつての理念とは程遠い組織として名を馳せているのは実に皮肉であった。

 

「そうだ。とはいえ、もはや“暁”としての実態は無いに等しいがな。便宜上そう呼ばれているだけだ」

 

「現時点で、ガトーカンパニーと“暁”を結ぶ証拠や情報は一切出てきてません。ですが、複数の資料を多角的に見たときに奇妙な共通項がありました」

 

そう言って話に割り込んできた白がひとつの資料を提示する。

 

それを読んで、ナナシは白が言っている共通項を理解した。

 

「そういうことか。ここ数年で“暁”が起こした事件とガトーカンパニーの運行ルート。確かにガトーカンパニーの商人も襲われているが、こうして全体を見れば確かにおかしい。なぜ一定の頻度でのみ襲撃が起きているんだ。ということは、これは襲撃に見せた物資の授受。取引の可能性があるな」

 

「ああ、音隠れ(うち)でもそう見てる。だから半年ほど前から調査を進めているんだが、一行に動きが掴めん。ことは波の国で起きているのは確かなんだが……そこで、少々力業で行くことにした」

 

「なるほど。それで再不斬さん、あなたが来たというわけだ」

 

「そういうことだ」

 

ニタリと笑みを浮かべる再不斬。それは見るものからすれば怖気を振るうほどの殺意を感じさせるが、この場合味方である彼の殺意は敵へと向けられる頼もしいものとなる。

 

「で、決行は?」

 

「今夜だ。ガトーカンパニーの地下倉庫を襲う。万が一にも逃げられないよう、少数精鋭でな」

 

「ガトー自身の身柄はどうします? 殺してしまってもよいのですか?」

 

「……正直あんな悪党殺した方が世のためだと思うんだがな。それに関しちゃ大崎にも音影殿にも止められた。殺さず捕まえろとさ。ま、その辺に関しちゃ木の葉(そっち)音隠れ(こっち)で何やら企んでいるみたいだからな。あまり心配しなくていいだろう」

 

ガトーは世界でも有数の大富豪であり、その財が無闇に散逸すれば、ひいては“暁”を長じさせるきっかけにもなりかねない。

 

そんなことは木の葉も音の上層部もわかっていることであり、ゆえに慎重な対応が求められていた。

 

「さあて、これから面白くなるぞ」

 

白いわく“ゾクゾクする笑顔”を浮かべたままの再不斬は今宵へと想いを馳せる。久しぶりに全力で戦える予感を感じながら。

 

__________________________________

 

「で、やっぱり俺らは待機だってばよ」

 

用意された宿の一室で、ナルトがうつ伏せになりながら不貞腐れていた。

 

「当たり前でしょ。いくらあんたが強いからって、搦め手にはまだまだ弱いって今日カカシ先生から言われたばかりじゃない」

 

「そういうことだ。ま、人柱力であるお前を狙ってくる可能性もある。反撃ならそのときにすればいい」

 

ナルトを抑えつつも、自身もまた襲撃要員に選ばれなかったことに不満を抱くサスケは写輪眼のまま待機していた。

 

「でもサスケくん、どうして写輪眼のままなの?」

 

「……勘だ。どうにも胸騒ぎがする。今回の件、恐らくだが普通には終わらない」

 

言いつつサスケはポーチから各種装備を出し、それらのメンテナンスを始める。

 

いつ何時戦闘になるか分からない状況においては、休めるときに不備がないよう万全のメンテナンスをしておく必要がある。

 

サスケは今がそのときだとは微塵も思っていなかったが、同時に目の前に武器がある状況に奇妙な安心感を覚えていた。

 

「……サスケ」

 

「ああ、俺も今気がついた。サクラ、暗部と連絡を取れ。それと俺たちから絶対に離れるな」

 

「え、どういう──きゃあっ!?」

 

サクラが最後まで聞くよりも早く、窓から無数の手裏剣が飛来し、それをナルトが展開した尾獣チャクラの衣が防いでいく。

 

「サスケェ!」

 

「《火遁・豪火球の術》!」

 

手裏剣を防ぎきったナルトの合図に従い、サスケが敵へと向かって火遁を発射する。

 

しかし、その攻撃は()()()()()()の豪火球によって打ち消された。

 

「いい夜だな、サスケ」

 

「……兄さん!」

 

月夜を背負い、“暁”最強の男(うちはイタチ)が電柱の上に立っていた。

 

__________________________________

 

 

「《神羅天征》! くそっ、まるでゾンビだな!」

 

夜。ナルト達の元にうちはイタチが襲撃をかけたタイミングより少し早く、ナナシ、白、再不斬の三人はガトーカンパニー所有の地下倉庫へ襲撃をかけていた。

 

ナナシは輪廻眼の斥力波によって、両腕が千切れながらも向かってくる浪人らしき男を木っ端微塵に吹き飛ばす。

 

「白! 千本では無理だ! 氷遁で動きを止めろ!」

 

双刀へと分裂させた鬼切り包丁を振るい、再不斬は背後で自身を援護する白へと声をかける。

 

「はい! 《氷華の術》!!

 

白の振るう氷遁の千本が白濁した浪人や盗賊崩れらしき男達へと刺さると、あっという間に全身を凍てつかせていく。

 

敵はナナシと再不斬によって既に二十人以上が倒されていたが、尽きることなく更なる地下の入り口から現れていた。

 

「こりゃ、大元を潰さないとダメってやつですかね」

 

「みたいだな。よし、ここをぶった斬るぞ」

 

「……ダメって言ってもやるんですよね」

 

「わかってんじゃねえか。白、合図したら結界だ!」

 

「わかりました、再不斬さん!」

 

一度三人は互いに背中合わせとなり、ナナシが敵を近づけないようにしている間に白と再不斬はチャクラを練る。

 

「変われ、鬼切り包丁! 《金剛角紅蓮怒(こんごうかくぐれんど)》!」

 

再不斬の声に従い、螺旋状の杭を思わせる形へと変形した鬼切り包丁は、一気に床へと叩きつけらるとその威力を存分に発揮して更なる地下へと一行を落としていった。

 

「《氷球壁の術》!」

 

白はそんな一行を包み込むように球状の結界を作り出すと、それに合わせてナナシが重力操作によって一行をゆっくりと下へと下ろしていく。

 

そこは、広大な地下空間だった。

 

「ここは……なんて広い空間なんだ」

 

「造船所……でしょうか。けど、それにしてはおかしい」

 

わずかな浮遊感と共に地下空間へと降り立つ一行。

 

あまりに広い場所であったことはさすがの再不斬も予想外だったらしく、時折上から降ってくるゾンビもどきをうっとおしそうに斬り払いながらも周囲を観察している。

 

「あれ、ここまで来られちゃったんだ。すごいね」

 

どこか舌っ足らずな口調で、病院服のような貫頭衣を纏ったひとりの幼子(おさなご)が話しかけてきた。

 

齢にして2、3歳だろうか。ひどく幼いにも関わらずしっかりした足取りでペタペタと歩いてくるその様子は可愛らしくもあるが、この場においては不気味でしかない。

 

更に言うのであれば、彼我(ひが)の距離はわずか十メートルほど。全員が最大級の警戒をしていたにも関わらず呆気なく接近を許してしまったのは、そのあまりにも無防備な所作にあった。

 

「子供……?」

 

「ただの子供なわけあるか。油断するなよ、白」

 

再不斬は敵であるならば例え赤ん坊であろうとも斬る覚悟が出来ている。それはナナシも同じだ。

 

だが白はその優しさからか、わずかに敵対するべきか戸惑ってしまう。

 

「じゃ、いただきます」

 

幼子の動きは全員が想定するよりも遥かに早かった。ナナシは写輪眼ほどではないとはいえ、輪廻眼によって僅かに見切った幼子の姿に驚愕した。

 

まるで粘土細工のようにぐねぐねと瞬時に体を変形させ、上半身を巨大な(あぎと)へと転じさせた幼子は今だ呆然と固まる白へと肉薄した。

 

白は自分が無惨に食い殺されるのを夢想したが──当然そうはならなかった。

 

(ふん)っ!」

 

予め白の前へと移動していた再不斬が際どいタイミングで巨大な(あぎと)を受け止める。

 

が、受け止めた側からその長い不規則な牙が槍衾のように突き出され、再不斬を串刺しにせんと迫る。

 

「させないよ!」

 

それを今度は追い付いたナナシが《雷切》を応用した掌打で幼子だったモノを弾き飛ばす。

 

ナナシは今自分が叩いた奇妙な感触を訝しみ、思わず自分の掌を確かめる。

 

「なんだ、今の感触は……」

 

しかし相手は考える時間など与えてくれない。今度は全身を変形させ、毛がない犬のような姿に転じると先程よりも早い速度で三人を強襲する。

 

「《氷遁・魔鏡氷壁》!」

 

白がタイミングを合わせて発生させた氷の壁。それは相手の攻撃をそっくりそのまま反射する陰遁の性質をも持った白最強の攻性防御。

 

まるで肉を思いきり叩きつけたような音を立てて、幼子だった獣は潰れて動かなくなる。

 

「やった、のか……」

 

ナナシは思わずそれを見て呟くが、それも束の間。ぐずぐずの肉の塊だったソレは、時間をかけて元の姿へと戻っていく。

 

「白!」

 

「はい!」

 

「《雷遁・雷獣追牙の術》!」

 

咄嗟に雷遁を仕掛けるナナシに合わせて白の結界を再不斬が解除させる。

 

輪廻眼を受け入れるだけの素地があるナナシの雷遁はかつてとは比べ物にならない威力を持つ。

 

だが、確実に細胞を破壊しているであろう雷遁に包まれながらも、目の前のソレは徐々にだが再生していっていた。

 

「埒が開かねぇな。仕方ない、封印するぞ。《水遁・水牢の術》」

 

再不斬は再生しつつある肉の塊に近づきそのまま球状の水遁で閉じ込める。ナナシの雷遁に感電しないよう、札を使った遠隔操作での発動だ。

 

「では、念のため僕も追加で封印しておきますね。《氷遁・魔鏡封鎖》」

 

さらにそこへ白の発動した氷遁が鎖のように絡み付き、全体を凍らせる。最後にナナシが封印札を幾枚も貼り付け完全に閉じ込めることができた。

 

「……それにしても、コレなんだったんですかね」

 

ナナシは封印された中身を輪廻眼のチャクラを読み取る力で透かして見るが、内部は再生途中で封印されたからなのかまるで(サナギ)の中身のようにぐちゃぐちゃになっていた。

 

とてもではないが同じ人間とは思えない存在。それが三人の共通認識だった。

 

「……さあな。変化とは違う肉体変異とでも言うのか? まあ、細かいことは俺らが考えることじゃない。さて、ひとまず書類を探すぞ。物的証拠だけでも十分だが、こんなことしでかす連中に関わってる時点でアウトだ。証拠や情報はいくらあっても足りないだろう。ああ、それと他にも何か潜んでいないとも限らない。全員で動くぞ」

 

ナナシはそんな再不斬の言葉を聞きながら──

 

(意外と世話好きって噂は本当らしいな)

 

──と考えていたが、緊張感のない思考とは裏腹に感覚は研ぎ澄まされている。

 

先程のような“意”の無い相手が現れても十分対処できるだろう。

 

三人は広大な地下空間を改めて調べ始めるのだった。

 

__________________________________

 

 

「ナルトっ……! どうしよう、血が、血が止まらないっ……!!」

 

懸命に両手で押さえるも、まるで意味を為さないように腹部から溢れ出す血を、サクラは泣きながら止血していた。

 

うろ覚えの掌仙術を発動しようと試みるも、困惑した頭ではチャクラの集中など望むべくもない。だがこのままでは、間違いなく目の前で記を失っている少年──うちはサスケは死ぬだろう。

 

「ガアアアアアッ!!」

 

ナルトにはサクラの声が聞こえていた。だがそれ以上に激しい怒りに襲われていた。

 

目の前で為す術なく兄弟のように育った存在を傷つけられた自分自身への怒り。

 

それは、内側から九尾が押さえつけていなければ瞬く間に尾獣と化してしまうだろうほどの怒りだった。

 

(“おいナルト! しっかりしろ!! お前がぶちギレたままじゃ治すモノも治せん!!”)

 

実はサスケを治療する最も効果的な方法はあった。それは九尾チャクラを用いての再生治療。

 

元より人柱力で無いにも関わらず九尾のチャクラを扱えるのがサスケだ。すぐにチャクラを流し込めば、問題なく助けることができるだろう。

 

だがそれは、同時に目の前の存在を相手に無防備になることを意味する。

 

「……諦めろ。お前が“暁”に投降すればサスケの命を助ける機会をやろう」

 

イタチはナルトの纏う九尾の衣を《天照》で焼き、血の涙を流しながら問いかける。

 

それが自分にできる最大限の譲歩だとでも言わんばかりに。

 

サクラはそんな現状を見て、なにも出来ない自分が情けなくて仕方がなかった。

 

弱い自分。頭でっかちな自分。

 

かつて泣いていた自分を助けてくれた二人がこんなにも命がけで戦っているのに、自分は何一つ助けになっていない。

 

それでも、諦めてしまえば何もかもが終わりになる。

 

だからこそ、サクラはどこかで自分の思考を分けることを考え出していた。

 

それは、ある偉大な忍者が開発した忍術への第一歩。

 

“自らの思考を分ける”という常軌を逸した忍術への。

 

だが今はまだそこまで芽吹くことはない。ただきっかけを得ただけ。

 

しかしそれが、後に彼女をある忍の後継者へと育てていくきっかけとなるのだ。

 

「──ごめん! 待たせた!!」

 

そして、何も害意に立ち向かうのは子供達だけではない。

 

『瞬神』の名を持つ最速の忍。うちはシスイが、かつての友を止める為に現れていた。

 

シスイはただ現れたのではない。すでにナルトとイタチの間に入り、イタチの体を()()()に殴り飛ばしていた。

 

しかもそれだけではない。二人と交差した瞬間、ナルトには幻術で怒りを強制的に霧散させ冷静さを取り戻させている。

 

「……悪い! 助かったってばよ、シスイ兄ちゃん!」

 

ナルトは頭を振りつつ、半壊した宿の一角で泣きながらサスケの治療を続けるサクラの元へ駆けつける。

 

「ごめん、サクラちゃん。後でいっぱい殴ってくれ。……サスケ、痛むぞ」

 

ナルトはサスケの手を握ると、一気に練り上げたチャクラを流していく。

 

血を流し、内臓まで傷ついているのか蒼白だったサスケの顔がみるみる内に血の気を取り戻し──激痛に歪む。

 

「ぐあああああっ!?」

 

思わず、暴れそうになる体をサクラは軽い体重で懸命に押さえつける。

 

下手に傷口がこれ以上開けば取り返しにつかないことになる、と考えた彼女だったが、それは杞憂だった。

 

「どけサクラ……! ちょっとこいつぶっ飛ばさせろ!」

 

実はサスケの意識ははっきりしていた。

 

彼自身、重傷を負いながらも咄嗟に傷口の、特に内臓近辺をチャクラで覆っており、無駄に血を流さない為に動きこそ最小限にしていたものの致命傷だけは避けていたのである。

 

その為サスケが死んでしまうとはりきってナルトが流し込んだチャクラは過剰であり、本来自身のチャクラと同期するのに準備を必要とするサスケからすれば全身の経絡に焼きごてを突っ込まれたに等しい激痛が襲ったのである。

 

そしてそれは本来ナルトが冷静であればすぐに気づいたことであり、幻術で怒りが解かれても困惑していたナルトがそのことに気づいたのは正しくチャクラを流した直後であった。

 

「サ、サスケェ……無事でよかったってぶらっ!!」

 

若干頬を引くつかせながら、写輪眼全開のサスケから距離を取ろうとしたナルトだったが問答無用で接近したサスケに腹パンされた。まあ可愛いコミュニケーションである。常人ならしばらく飯が食えなくなる威力だが。

 

「おお、おかげで無くなった血の気までばっちり回復したぜ。……後で覚えてろ」

 

「……聞かなかったことにするってばよ。サ、サクラちゃん、心配かけてごめんってばよ」

 

“実はそんなに追い詰められてませんでした”などという事態についていけず、サクラは涙を拭うこともできずに呆然としていた。

 

そしてそんな和気藹々とした少年少女らの横では、静かな激闘が繰り広げられていた。

 

飛び交う手裏剣。交差する苦無。仕掛けられたワイヤー。

 

一挙手一投足全てが次の行動への仕込み。

 

超一流の忍者らによる戦いは、周囲へ一切の被害を出さずただ静かに続けられていた。

 

「洗脳されていてその腕前。流石だな、イタチ」

 

「……」

 

称賛するシスイだが、イタチは答えない。

 

無機質に目の前の元親友を見据えるだけである。

 

「でも、お互いまだ本気じゃない。そしてそうなるのは本意じゃない。どうだい、ここは一旦引くっていうのは。俺もお前を追わないことを『瞬神』の二つ名に誓おう」

 

「……いいだろう」

 

ついでに出来ることならと派遣されたイタチは、目的である九尾回収が事実上不可能であることを悟っていた。後はいつ引き上げるかであったが、目の前の相手が名をかけてまで誓ったことならば大丈夫だろうと、()()()()()()()()()()()()は判断した。

 

そして撤退しようと幻術を発動しようとしたイタチを、周囲に散開していたイタチとシスイ二人のワイヤーが瞬時に束ねる。

 

「……」

 

イタチは須佐能乎を出して抵抗するも、それは同じくシスイの須佐能乎によって抑えられ無力と化す。

 

「イタチの向こうで操ってるお前。俺が必ず殺してやるから覚えておけ。それとな、親友を助けるためなら俺の二つ名に価値なんていらない! 今だ! イズミ!!」

 

「はいッッ!!!」

 

少女は、ただこの機会を待っていた。

 

ようやく目にした最愛の人と再開することを。

 

それは容易い道ではなかった。

 

己の命と引き換えに火影を死なせかけた、ただの少女。

 

そのことが彼女を追い詰め、一族からさえ居場所をなくした。

 

そんな彼女に、目的を与えたのがシスイだった。

 

イタチを取り戻すのに協力してほしいと。君の力が必要だと。

 

少女には特別才能があったわけではない。能力としても、うちは一族として及第点に至る程度の幻術があるだけだった。

 

体術も忍術も、忍としては下忍の枠を出ないものだった。

 

だが彼女は努力した。血反吐を吐き、何度も何度も傷つきながら。

 

“絶対にイタチを取り戻してみせる”。

 

その執念は意識を取り戻したうちはサイゾウをして認めさせ、彼女を火影直属の暗部に引き入れるまでとなった。

 

そして今日。

 

タズナを護衛する小隊に偶然いた彼女は、タズナを襲った影分身が己の最愛の人であることに気づき、その本体が近くにいることに即座に気づいた。

 

同じくそのことに気づいたシスイは無数の影分身に対処しながら、応援として現れた霧隠れの忍達と協力しつつ、イタチの居場所を探した。

 

場所はすぐにわかった。派手な戦いを繰り広げるナルトの尾獣チャクラが感じられたからである。

 

それでもすぐには駆けつけなかった。シスイは己の切り札である眼帯の下の眼。“魍魎眼”を発動するか否かをぎりぎりまで迷った。

 

それほどに、事態は切羽詰まっていた。

 

だがシスイは、そしてイズミは賭けに勝った。

 

ナルトを奪われることなく、イタチが撤退することなく、サスケもサクラも死ぬことなく、最高のタイミングで駆けつけることができた。

 

イタチに気づかれないため、この日の為に鍛え上げた隠形で必死に息を潜めた。

 

そして今こそ、彼女の開眼した万華鏡写輪眼は開かれる。

 

「《櫛梛拿(くしなだ)》ぁ!!」

 

瞬間、イタチは全身をびくりと震わせ硬直する。

 

するとイタチの全身至るところから、まるで呪詛のような禍々しいチャクラが漏れだし、雲散霧消とばかりに空気中へと消えていった。

 

万華鏡写輪眼《櫛梛拿》。その瞳術としての効果は、特別強いものではない。

 

攻撃力、という意味では間違いなく最弱に位置するだろう。

 

だがその真価は攻撃などにはない。

 

この瞳力は、あらゆる呪縛からの解放を可能とする。

 

呪印であろうが、別天神であろうが、封印術であろうが。

 

どんな強力な呪縛も、この瞳を前にしては為す術なく解かざるを得ない。

 

万華鏡写輪眼の瞳術は、それを持つ人間の望みに沿う形で発動する傾向がある。

 

彼女の願いは、恋人を縛る呪縛からの解放。

 

他に何を望むべきだというのか。ただそれだけが、彼女の願いなのだから。

 

……しかし、強力な瞳術にはリスクが付き物である。

 

彼女自身の能力を遥かに越えた瞳術は、彼女の片目から光を奪っていた。

 

「……イタチ」

 

「……イズミ」

 

しっかりと名前を呼び、泣き出してしまった恋人を優しく抱き締めるイタチ。

 

そんなふたりを優しく見守るシスイ。

 

月明かりは、解き放たれたふたりを優しく見下ろしていた。

 

 

 





ということで不穏な影ちらっ☆&イタチ解放。

イズミによるイタチ解放はイタチ洗脳の頃から考えていました。サスケが加具土命を開眼した下りなどから、万華鏡の瞳術は使い手の願望を反映するのでは? といった考察やどうせ活躍するならこういった役割でしょうといった部分から彼女の登場となりました。
地味にこれまで登場を伏せてましたのでぽっと出に見えるかもしれませんが、それは自分の実力不足です。

まあイタチにはいずれ味方に戻ってもらうつもりでしたので、ちょいと予定より早いですがこんなところです。

え? 味方側の戦力強化がヤバい? 

HAHAHA! 私は藤田和日朗先生をリスペクトしてます。

つまり味方側がすごいなら、敵はもっとヤバくすればいいんですよ。

……というか、予定通りだとイタチが来たところで焼け石に水なんだよな。文字通り。



ということでまあ更新は遅れましたがこれからも【うちはの火影】をよろしくお願いします!

ではでは(´・ω・`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

波の国での任務③

復活の第一段(・∀・)

とりあえずエロいれました感。

誤字などちょいちょいこれまでの話で見つけたのですが、自発的に修正した以外では特別加筆などは行っておりません。

それでは本編をどうぞ☆


うちはイタチが帰還した報せは、瞬く間に木の葉隠れの里を駆け巡った。

 

里は歓喜に湧いた。しかし同時に、本人の意思でないとはいえテロ組織“暁”に所属していたことは問題になった。

 

誰もが同情的だったが木の葉は最大級の忍里であり、不本意であれその対応には相応のモノが求められる。

 

──だがここでも、サイゾウがその辣腕を振るった。

 

まず、救出されたのは“イタチ”という名前を名乗る里を失った流浪の忍だと説明がされた。

 

そして彼は傷心だったうちはイズミと恋仲にあり、今回S級犯罪者であるうちはイタチを討伐した功績で木の葉隠れに迎え入れられ、近く祝言を遂げ正式に名前を“うちはイタチ”とすると結論つけられていた。

 

勿論、嘘である。だがその嘘をわざわざ暴きたて騒ごうとする人間など木の葉にいるはずもない。

 

他国からの追求であっても、それをねじ伏せるだけの下地が今の木の葉にはある。もはや弱気になり他里からの理不尽な要求を受け入れる必要はなかった。

 

そして、今回の件はそれまで孤独だったうちはイズミの評価をも改めることになった。

 

うちは一族始まって以来の天才忍者であるうちはイタチの帰還は、戦略的にも相手の戦力を大幅にダウンさせた結果となる。そしてそれを生還させたことは、すなわち次世代の木の葉上層部へと食い込む人材にうちは一族が追加されることでもあることが、うちは一族の長老衆を満足させた。

 

さて、波の国での任務の顛末を話そう。

 

波の国における任務。その第二弾とも言えるガトーの逮捕は成功に終わった。

 

地下倉庫を襲撃したナナシ達三人の活躍により、違法な仙丹はすべて回収。

 

浪人や犯罪者を使って改造した仙丹による半不死の実験体を操ったガトーであったが、発見されたときには()()()()()()()()壁にくくりつけられ、ぎりぎり死なないよう調整されていた。その上彼には仙丹が用いられており、今も封印術と無数の管に繋がれながら()()()()()生きている。

 

ガトーカンパニーを構成する海運会社は今回の混乱を機に乗っ取られ、複数の企業として再出発を余儀なくされた。

 

イタチに狙われたナルト、サスケ、サクラの三人も任務を終えてから改めてガトーの計画の詳細を聞かされた。

 

これまでにガトーが小国を乗っ取ってきたのはすでに何度も説明があったことだが、その実情は真実暗澹たるものであった。

 

小国とはいえ、国家である。ガトーは様々な国家を乗っ取る上で実に悪辣な手段をその豊富な資金力でもって強引に実行してきた。

 

当然、恨みは買うしこれまで何度も暗殺の危機に陥ってきた。が、それもここ数年は彼が“暁”の出資者となったことで沈静化してしまっていた。

 

しかしそれも最初の内だけだった。音の里を襲撃した事件をきっかけに“暁”は瞬く間に規模を収縮し弱体化。おまけにガトーのこれまでしてきた所業が明らかになり、五大国はガトーカンパニーとの取引を制限するようになる。

 

結果的に追い詰められたガトーは全てのきっかけとなったうちはサイゾウ

暗殺せんとあらゆる手を尽くすが、毒殺すら通じない彼を相手に焦燥が募り遂には波の国をまるごと実験台とせんとした彼の者の計画へと乗ることになる。それが己を破滅させる悪魔の取引になるとは露ほども思わずに。

 

ナナシことカカシに引き連れられ火影であるサイゾウの前に連れてこられた三人の少年少女。ナルト、サスケ、サクラの三人はあまりに規模の大きな話に唖然とする。

 

「──とはいえ、今回の任務は戦略的にはあまり成功とはいえん。なにせガトーがあの様だからな。経済的な混乱を最小限に抑えられたのが一番の収穫だ」

 

疲れすら浮かぶサイゾウ。彼はここ数ヵ月、今回の件を円滑に動かすために各国を飛び回っていた。如何に超人的な体力の持ち主である彼とて、さすがに疲労の色が隠せない。

 

「だがお前達の任務は成功だ。それは誇っていいし、今回起きたイレギュラーへの対処も見事なものだった。──そこで、だ。お前達には近々開催される五大国合同での中忍試験へと参加してもらう」

 

ニヤリ、と笑うサイゾウ。

 

その言葉を受けた3人の表情はそれぞれ違っていた。

 

サクラは決意と覚悟をその面に写し、サスケは不安と焦燥の入り交じった顔で押し黙り、ナルトは期待と興奮に満ちた表情を浮かべる。

 

「中忍という責任ある立場な以上、試験内容は単純な戦闘力を図るものではない。以前も言った通り、判断力や洞察力といったものを追求する内容になる。それと、身内贔屓を期待するなよ? むしろ厳しく採点してやる」

 

「え゛」

 

ちょっぴり期待していたナルトはまさかの難関の出現に思わず悲鳴を上げるが、サイゾウは嫌らしく笑うのみである。

 

「安心しろ、優秀な家庭教師を用意しておいた。影分身使わせてでも試験に間に合わせるから安心しろ」

 

どこかマイト・ガイを彷彿とさせるナイスな笑顔に一同が凍りつく。

 

「全然安心できないってばよ!」

 

「……ナルト、強く生きろ」

 

「サスケ、安心しているところ悪いがお前も一緒にやってもらうぞ」

 

「なん……だと……?」

 

思わず出した驚愕のリアクション。だがそれも無理はない。なぜならナルトはともかく、サスケはペーパーテストにおいても優秀だからだ。

 

が、それは日常的にある程度勉学をこなしていればの話。ナルトと一緒に馬鹿をやっている現状で彼の成績がよい筈もない。

 

──そして咄嗟に視線を合わせたナルトとサスケは逃走を図る。しかし自然に後ろから近づいた人影が、二人の肩を捕まえる。

 

「そこまでだ、二人とも。俺に《須佐能乎》を出させるつもりか?」

 

そこにいたのはうちはイタチ。まだ任務復帰は難しいものの、音隠れから提供された仙丹の影響もあり既に六割方快復していた。

 

「ついでだ。俺もしばらくは何もできんから一緒に家庭教師をしてやろう」

 

「兄さんが!?」

 

露骨にうれしそうな顔になるサスケ。イタチはその顔色に年相応の幼さを見て笑うが、次にナルトが露骨に安堵した表情をしているのを見てイタチは“五代目の修行は厳しいの基準が違う”という言葉を思い出していた。

 

──そしてサクラは、そんな空気のなか一人拳を握ってサイゾウを見つめていた。

 

__________________________________

 

 

 

「弟子にしてくれだぁ?」

 

「はい! 私は本気です!」

 

一人“話があるから”と火影の執務室に残ったサクラ。彼女は今回の任務で己の無力さをこれでもかというほど味わった。

 

サイゾウは困り顔で腕を組む。

 

彼女の優秀さは何度も聞き及んでおり、もう10年もすれば優秀なくのいちとして引く手数多となるだろう。

 

そんな彼女が火影に弟子入りしようとする。それだけで様々なやっかみが想像できてサイゾウは辟易した顔になる。

 

「……あー、悪いがそれはできん。確かに俺は万能型であるし、お前の才能を引き出してやることもできるだろう。だが状況がそれを許さん」

 

懇切丁寧に全てを説明する気はなかったが、ここで安易に頷いてしまえばずるずると教える嵌めになる。女子供に甘いサイゾウならではの悩みであったが、事実彼女を弟子とすればその才能ゆえに愛でてしまう自覚がサイゾウにはあった。

 

「だったら! 私を抱いてください!」

 

サイゾウは今度こそ目頭を抑え頭を抱えたくなった。脳裏に今は亡き師の声で「自業自得よ」と聞こえてきた気がするが、頭を振って幻聴を振りほどく。

 

「なぜそうなる。……いや、俺の来歴を考えればそうするのがベストだと判断したのか。その判断力と洞察力は評価するがな。サクラよ、お前はまだまだ若い──って何故脱ぐ」

 

「ベストな判断だと洞察したからです」

 

きっぱりとそう告げるサクラは、そう言ってから一度脱いだスパッツを下着を着けずに履きなおす。

 

既に少女の全裸から目が離せないサイゾウからすれば、その光景に戦慄しつつも股間が屹立するのを必死で堪えねばならなかった。

 

「五代目様……私は役立たずです。ナルトもサスケも必死に戦ってるのに、私だけまた何もできなかった。もう、そんな思いは嫌なんです……!」

 

机を乗り越え迫る少女の裸体。サイゾウは理性と獣の狭間で、震える彼女の肩を見て無理矢理獣欲を押さえ込む。

 

「サクラ、ひとつだけ教えてやる。俺が抱くのは基本的に惚れた相手のみだ。少々数が多いだけでな。……妥協で抱くのは、あまり好きじゃない」

 

言いつつサイゾウは、サクラをゆっくりと抱き寄せると、影分身を発動して彼女が脱ぎ散らかした服を拾って着せてやる。

 

かつてサイゾウは、大蛇丸の企みによって犠牲になりかけたみたらしアンコというくのいちを半ば強引に抱いたことがある。

 

失った処女膜すら再生させ、記憶も抱いた痕跡も幻術で書き換えた。だが子宮に仕込まれた呪印を解除するのが目的であったとはいえ、無自覚に自身へすり寄るアンコを見ると彼はいたたまれない気持ちになる。

 

責任を取るべきなのかもしれないが、そうであれば彼女には辛い思いをさせることになる。

 

故に火影という里の者全てを愛する立場であるサイゾウにとって、サクラを抱くことは容易でも、彼女の人生における選択肢を自らの欲求で奪うわけにはいかなかった。

 

だからサイゾウは、甘いキスのみを彼女の唇へ落として離れる。

 

「これはせめてもの詫びだ。それと、俺に抱かれることと弟子入りすることは全く別の事柄なのをまず理解しろ。強くなりたくば、カエデの所へ行くがいい。話は通しておく」

 

「は、はい……」

 

有無を言わせぬサイゾウの様子と、唇に残る熱の感触に頬を染めながら、サクラは部屋を出ていった。

 

サイゾウは残った仕事の量と下半身の調子を確認しながら、まだ報告が終わっていない人間がひとりいたのを思い出してほくそ笑んだ。

 

__________________________________

 

 

──ピチャ、チュル、ズチュ、ジュルル──

 

夜の火影執務室に、淫猥な水音が響き渡る。

 

「ふぅ、あっ……! うくっ……!」

 

暗部という任務の性質上、彼女は普段己を押し殺して過ごしている。

 

が、それもここでは別だ。彼女が二人きりで火影であるサイゾウへ報告するとき、その空間は彼女が己の淫らさを全て解放していい特別な空間へと変わる。

 

──クチュ、ズチュ! ズチュ!──

 

「ひぅぅ……! あ、ああ……!!」

 

忍の証であるズボンもベストもシャツも脱ぎ捨て、用意された薄いレギンスを半端に脱がされた姿となった卯月朝顔は、その顔を蕩けさせてサイゾウから奔放にもたらされる悦楽へと溺れていた。

 

ねじ込まれた2本の指は彼女の秘所にある弱点を的確に擦り、淫核に当てられた歯と舌は思わず白目を剥きそうなほどの刺激を彼女へと注ぎ込む。

 

「あ、ああ……! も、らめ、れす……! ひくぅ……!」

 

──プシャ! シャアアア……!──

 

尿と見まがうほどの大量の潮を吹き、彼女は自身の下半身とそこに顔をつけたサイゾウを濡らしていく。

 

腰をひくつかせ、火影の執務机に上半身を横たわらせる朝顔。立ち上がったサイゾウは彼女の尻たぶを掴むと、ぐいと開きそこへ己の剛直をあてがう。

 

──ズニュル──

 

ゆっくりと挿入(はい)っていくサイゾウの剛直。気持ちよさに気絶寸前だった朝顔の(おもて)がだらしなく歪む。

 

「ふんっ!」

 

「あがっ……!」

 

半分ほどが挿入ったところでサイゾウが残りの部分を根本まで挿し込む。肺が潰されたかと錯覚するほどの大きさに朝顔は一瞬呼吸を忘れるが、すぐに乳首を摘ままれ強制的に呼吸を呼び覚まされる。

 

──グジュ、ズブ、ジュブ……!──

 

蕩けきった朝顔の淫らな花からは絶えず愛液が漏れただれ、打ち付る肉同士の音が紛れるほどの水音を響かせる。

 

「はあっ……! ふあ、あ、あう……!」

 

サイゾウは後ろから朝顔の蜜壺をえぐりつつ、彼女の下腹部を掌で押す。

 

「ひっぎっっ……!」

 

それによってただでさえ狭い膣道が押され、彼女の急所をより強く擦り抉り掻き乱す。

 

止まない抽挿。サイゾウは朝顔の尻の穴を指でいじりながら、ふとよぎったサクラの裸と朝顔の後ろ姿が重なりその動きを加速させる。

 

「サ、サイゾウさ──むぐぅ……!?」

 

いつも以上の激しさに困惑した朝顔が振り向こうとするが、横を向いた途端唇を塞がれる。

 

限界のピストンに加え、押さえ込まれた子宮内壁。口腔を蹂躙する舌、尻の穴をなぶる親指、淫核をこすりつまみ上げるサイゾウの指。

 

全てを同時進行で施され、ほどなくして朝顔は快楽の限界値を迎え気絶した。

 

「はひゅ……! ひっ、ひっ……!」

 

不安定になった呼吸を、サイゾウは胸をこねながら唇を塞ぐことで無理矢理整えていく。

 

──まるで萎えない剛直をもてあましながら、サイゾウは昼間の出来事を惜しみつつ来る中忍試験へと思いを馳せるのであった。

 




つーことでひとまず更新。次回更新は未定です。ひとまず時間があるときに原作を読み返したいので。

それではドラゴンボールRで好評だった次回予告をこちらでも(・∀・)
__________________________________


暗躍する者の影を感じながら、次なる世代が集うは木の葉。

後継を担う者達が招かれしは木の葉の一角“死の森”。

絆引き裂く意地の戦いは、幼い彼らに何をもたらすのか。

次回うちはの火影
『開幕、中忍試験』


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

中忍試験① ★

折れど曲がれど、不屈こそが私の信条。



──ナルトとサスケが苦難を乗り越え中忍試験に挑んでいる頃。

 

サイゾウは試験会場から離れた訓練場にて、ひとりの男と対峙していた。

 

「だいぶ勘が戻ってきたな。全盛期まで、あと三割ってところか?」

 

「昔と比べての全盛期なら、とっくに追い越しているんですけどね……!!」

 

息を荒げながらサイゾウと対峙するのは、うちはイタチ。見守る者のいない戦いではあったが、その緊張感は森を震わせ、目敏い者は巨大な気配同士がぶつかり合う空気を感じ取っていた。

 

龍池洞(りゅうちどう)での修行の成果。そろそろ見せてもらおうか」

 

「お手柔らかにお願いしますよ!」

 

イタチは言うなり印を組むと、その姿を無数の烏へと転じさせ姿を眩ませる。

 

変化と幻術を併用したイタチ得意の烏分身の応用である。

 

「ほう……」

 

サイゾウは静かに一言漏らすと、自身を囲み今にも襲いかかりそうなイタチの殺気に心地よさげな笑みを浮かべる。

 

──瞬間、どうやって飛ばしたのか烏から無数の苦無や手裏剣がサイゾウへ向かって飛来する。

 

サイゾウはそれを輪廻眼・天道の斥力を発動してその場に留めると、片手印によって発動した風遁によって飛ばされた方向へとそのまま打ち返す。

 

しかしそれを見越して放たれた苦無と手裏剣の第二波が互いに打ち合い、全てとは言わないまでも弾かれた多くが乱雑にサイゾウへと向かって殺到する。それら全てを斥力で再び弾くこともできたが、サイゾウは敢えて両腕を硬化させてそれら全てを素手で叩き落とす。

 

「──術を発動した直後のタイムラグを狙うつもりでしたが、思ったよりも手強いのですね」

 

烏に紛れ姿を現したイタチ。仙術を発動したその目には完璧な隈取りが、更にその右腕には須佐能乎が纏われており、彼の本気が見て取れた。

 

「舐めるな。俺の隙を窺うつもりなら、術の規模をあと三倍は大きくするんだな」

 

獰猛な笑みを浮かべ、サイゾウは駆ける。硬化した状態の腕による打撃は八門遁甲を用いずとも、生身で受けるには些か危険すぎる。

 

イタチは即座に印を組むと、得意とする寅の印をこれ見よがしにサイゾウへと示す。

 

火遁・豪火球の術!

 

仙術によって並みの豪火球を上回るサイズの火炎だが、サイゾウはそのまま火球へと剛拳を繰り出しチャクラをかき乱して術を霧散させる。

 

天照!!

 

しかし次の瞬間発動された術には、流石のサイゾウもたたらを踏まざるをえなかった。

 

「ぬおっ!?」

 

突き出した右拳から体へと黒い炎が這い上がってくる。

 

消えることのない不滅の炎に皮膚を焦がされながらも、サイゾウは不敵に笑った。

 

闇満羽!

 

サイゾウの万華鏡写輪眼によって不滅であるはずの炎は掻き消える。しかしその瞬間をこそ狙っていたと言わんばかりに、瞬身を用いて接近したイタチの持つ須佐能乎の刀がサイゾウの首へとめり込み──いとも簡単にへし折れた。

 

「……くっ!」

 

さしものイタチも想定外と言わんばかりに距離を取る。サイゾウは首の様子を確かめるかのようにコキコキと鳴らすと、称賛する視線をイタチへと投げ掛けた。

 

「やれやれ。俺でなければ死んでいるぞ」

 

「……正直手合わせであることを忘れるくらいには本気の一撃でしたよ。今のは一体どういう理屈ですか?」

 

「そう難しいことではない。硬化と併用して威装・須佐能乎を発動しているだけのことよ。皮の下一枚にな」

 

とんとんと首を叩くサイゾウへとイタチは呆れた視線を向ける。

 

反射的にした行動ではなかった。つまり、戦闘中サイゾウは常に今の防御方法を全身に及ぼしているということである。

 

「俺自身、強さには自信があるんですが……ちょっと無くしそうです」

 

言いつつイタチは再び烏分身によって姿を消す。如何にサイゾウが無敵無類の強さを誇るとはいえ、だからこそまだ試したい手段があった。

 

「ふん、俺と一対一(タイマン)張れる時点でお前は誇っていい強さの持ち主だよ。さあ、お次はなんだ!」

 

サイゾウは嬉しそうに烏に紛れて現れた無数のイタチへと拳を構える。

 

朝孔雀!!

 

一息に発動された八門遁甲から流れるように燃える拳を繰り出すサイゾウ。イタチの烏分身が燃えていくが、影分身と思われたイタチは炎を纏い更にその数を増やして襲いかかる。

 

「俺に幻術だと……!? いつ仕掛けた!!!」

 

サイゾウは即座に幻術を解除し嗤う。恐るべきはサイゾウをして気づかれずに幻術を仕掛けたイタチの実力にあった。

 

サイゾウは自身を取り巻く炎を腕の一振りで掻き消すと、頭上には展開されたイタチの完成体須佐能乎があった。

 

八坂ノ勾玉!!

 

火遁・豪火滅却!!

 

巨大な三つの勾玉とそれを上回るサイズの連なった無数の火球がぶつかり合う。

 

余波を自身の須佐能乎で御しつつ、サイゾウは特攻して捕らえたイタチの首を握りながら心臓に当てられた苦無を見下ろし──満足げに微笑んだ。

 

「ま、こんなところだろう。しっかし流石は一族の麒麟児と称されただけはあるな! 危うく殺すところだったぞ! はっはっはっはっは!」

 

笑いながらイタチを助け起こすサイゾウ。

 

イタチはと言えば殺すつもりで挑んだ結果がこれである。最後も苦し紛れに心臓へと苦無を当てたが、果たして通用したかと思えば疑問が残る。

 

あまり深く考えない方がよいだろうと、大半の忍がサイゾウに抱くことを考えつつ、イタチは今ごろ第二試験を受けている弟のことを考えるのだった。

 

__________________________________

 

 

ナルトとサスケは無難に第一の試験を乗り越え、続く第二の試験の会場である死の森へと既に突入していた。

 

連日の修行でふらふらのサクラは意地で付いてきているが、その体力に限界が近いのは誰から見ても明らかであり、二人はひとまず彼女を休ませようと長い試験期間を利用して簡易拠点を構築していた。

 

これは第二の試験内容が“森を72時間以内に突破すること”という、彼らからすれば実に簡単な内容であったからだ。

 

「“死の森”なんて仰々しい名前だからどんなところかと思ったが、案外過ごしやすいじゃないか」

 

「生き物の気配がスゴいってばよ! これなら食べるのには困らねえな!」

 

大木の虚を十分ほどで見せかけの拠点へと改造したサスケは、即座にその反対側の木の根本を土遁で掘り起こしその地下に二十畳ほどの空間を作り上げていく。

 

ナルトは僅かな時間で獲得してきた蛇や野兎といった獲物をさばき、手際よく食べられるように加工していく。その早さはサイゾウの妻である三人から料理の手解きを受けたサクラをして惚れ惚れするほどのものだった。

 

「山菜も取ってきてあるから、汁物も作るってばよ」

 

「キノコはあるのか?」

 

「選別も済んでるってばよ。毒キノコは後でトラップに使うってばよ」

 

疲労でまともに動けないとはいえ、二人の見せる異様なサバイバビリティにサクラは圧倒されっぱなしである。

 

とはいえ役に立てない自身がこれほど情けないことはないとサクラは思う。足手まといにならない為に鍛えた結果がこれであるのだから尚更だ。

 

「……ごめん、あたしまた「そこまでだ。俺達はチームなんだ。今役に立たないって思うなら、今後役に立ってくれればいい。実際、お前の知識は十分役に立っている」……ありがとう」

 

サクラ自身動くことが出来ない分その豊富な知識を活かしたサポートを行っていた。

 

ナルトでさえ初見でわからないキノコの選別を行ったのは彼女である。もはやこの三人にとって“死の森”で過ごす時間などキャンプと変わらない。

 

三人は試験が始まるまでの間、徹底的に短所を鍛えられた。

 

ナルトならば思考の短絡さ、知識不足、勤勉さ。

 

サスケならば必要以上の猜疑心、慎重さ、決断力。

 

サクラならば絶対的な決定力不足、知識頼りに偏重した立ち回り、胆力不足。

 

これらを解決するに当たって、ナルトにはイルカを。サスケにはイタチ。サクラにはサイゾウの妻である三人のくのいちがつくことになった。

 

ナルトはそこでイルカがかつて九尾事件に際して両親を失った話を聞き、いずれやってくる敵との戦いにおける覚悟を新たにした。また高いサバイバビリティはこのとき身に付けている。

 

サスケはイタチとの組手や龍池洞での修行を経て強さと自分自身への自信を得た。万華鏡写輪眼こそ開眼していないものの、今の彼の実力は兄のお墨付きとなった。

 

サクラは試験までに体調を整えることがままならなかったものの、サイゾウを支える女三人による死の一歩手前まで追い込む訓練は確実に彼女を強くした。なお中忍試験が終了しても彼女の修行は継続予定である。

 

──サクラは先の第一試験を振り返り、改めてこのメンバーの精強さを思う。ぶっちゃけ合同の試験でよかったのかと。

 

第一の試験は、全十問の減点式筆記試験。教官の判断で即失格を言い渡され、試験の内容は上忍でなければわからないような難問ばかりであった。

 

しかしナルトは人柱力としての超感覚で、サスケは写輪眼の瞳力によって即座にこの試験が仕組まれたものであることを看破。サクラは実力で試験を突破した。最後に試験官であるイビキが「試験を受けるか、それとも辞めるか。ただし失格すれば二度と試験を受けられない」という恫喝を行ったが、そもそもナルトが動じないので二人は泰然とクリアして見せた。

 

そして、そんな彼らが悠々自適に過ごす第44演習場、その通称を“死の森”といった。これは大袈裟ではなく、常人が入れば遭難必至なほどに入りくんだ複雑な土地と、獰猛な肉食獣が無数に生息することから付けられた名である。

 

ただし、それは他里の忍であればの話。木の葉の忍は下忍の内から必須条件として高いマッピング技能を身に付けさせられる。これは木の葉を置く火の国が広大な森林と山々に囲まれた土地であることから発展した必須技能である。

 

自らの土地である森の中を行き交う術は木の葉の忍であるならば当然身に付けるべき技能であり、ましてやそれも中忍ともなれば全ての場所をある程度把握している必要性に駆られる。ゆえに木の葉では仲間に火急の危機あらば即座に救援を送ることができるし、中忍以上ならば例え侵入者が格上でも互角以上に戦えるほどの土地勘を必然的に身に付けていなければならないのだ。

 

そう、初めから木の葉の忍に有利に出来ているのがこの第二の試験。だがそんなことは他の里も承知のことであり、これが霧隠れなら霧隠れが、雲隠れなら雲隠れが有利な試験が組み込まれるのは当然である。

 

これは暗に“この程度の逆境をはね除けられないようでは、中忍となるには不足”と断言されているに等しい。

 

その上今回の中忍試験は初となる全里合同での試験。送り込まれた下忍の少年少女らはやる気も十分に逸っていた。

 

しかし、彼らの想像以上に試験は残酷だった。

 

「あぎゃあああ!!」

 

「ドス!」

 

突如現れた大蛇によって捕らわれ、瞬く間に全身の骨を砕かれていくドス・キヌタ。得意の籠手による攻撃を披露することもなく、呆気なくその身を飲み込まれていく。

 

「いやああああ!」

 

仲間が無惨に殺され悲鳴をあげるキン・ツチだが彼女だけ狙われないわけではない。ドスを襲ったそれよりも一回り以上巨大な蛇が顎を開き彼女を飲み込もうとするが、それを横合いから駆けてきたザク・アブミが突き飛ばす──己の身を犠牲にすることで。

 

「があああ!! 斬空極波ぁ!!

 

両手の平に空けられた穴から繰り出された圧縮空気と超音波を併用した斬撃によってどうにか大蛇を倒したザクだったが、その身を貫いた牙による出血は間違いなく致命傷だった。

 

「ザク! しっかりして!!」

 

「ばが……やろ……さっさと、逃げ……ろ!」

 

音隠れから参加した彼ら三人は、よりによって死の森最大の難所である“蛇の巣”へと足を踏み入れてしまっていた。

 

他にも雨隠れの忍らがいたが、彼らもまた抵抗空しく既に大蛇の胃の中である。

 

「やだよぉ! ザクだけ置いていけないよ!」

 

泣きじゃくりながら叫ぶキンだが、事態が好転したわけではない。ザクは感覚がなくなりはじめた下半身を引きずりながら、どうにか彼女を助けようと腕を上げ──意識を失った。

 

(……ああ、こんなところで死ぬのか。すいません、大蛇丸様……)

 

「ほら、起きな坊主」

 

「え……?」

 

意識を失ったと思ったザクは、直後に木の葉の忍に起こされて呆然と佇む。五体には傷ひとつなく、その隣には死んだと思われたドスや、泣きじゃくっていたキンが横たわり眠っていた。

 

「ど、どういうことだ……!?」

 

「幻術だよ。悪いが、第二の試験はこの幻術を突破できるかが合格条件なんだ」

 

そこにいたのは、今回受験生の大半を幻術へと陥れたシスイの姿があった。

 

「じゃ、じゃあこの試験で死んだ人達は……!!」

 

「誰も死んでないよ。ま、残念ながら不合格だけどね」

 

そう言って快活に笑うシスイの姿に、意地の悪い試験もあったものだとザクは思う。

 

そしてふと見下ろしたキンの目から涙がこぼれ落ちたのを見て、ザクの胸が締め付けられる。

 

「……俺の術中で涙を流すだなんて、よほどツラい思いをさせちゃったみたいだな。起きたら謝らなきゃね」

 

「いえ、そんな! むしろ幻術に気づけなかった俺達が悪いんですし!」

 

「はは、そこはまあ五代目を除けば最強の幻術使いを自負しているからね。むしろあっさり突破して見せた子達とかを見るとちょっと自信を無くしそうだよ」

 

たはは、と笑うシスイ。

 

今回の試験は幻術空間において72時間耐えるか、幻術空間に仕掛けられたゴールへとたどり着くことでも突破することができる。

 

ただし、この試験を幻術と見抜いて突破した組が二つあった。

 

日向ネジ、テンテン、ロック・リーの組と、日向ヒナタ、犬塚キバ、油目シノの組である。

 

ネジは下忍離れした実力とこれまでの経験から幻術であることを察知して突破。ヒナタはキバが瀕死の重傷を負ったにも拘わらず、怪我の内容とキバの状態の齟齬から幻術であることを見抜きこれを突破した。

 

また砂隠れの三人は、シンプルに我愛羅の砂に乗って最速で森のゴールへと駆け抜け突破している。

 

「あとは幻術って察知しているにも拘わらず、ついでにキャンプを満喫している馬鹿な甥っ子達とかね」

 

「な、なんですかそれ」

 

「ああ、気にしなくていいよ。彼らを下忍として扱うこと自体、俺は本来反対なんだから」

 

呆れた表情を浮かべるシスイは、やれやれと言わんばかりに眠りこけるナルトとサスケの姿を見下ろすのであった。

 

 




……大変長らくお待たせいたしました。

まあ、ね。色々あったんですよ。色々。
書きますけどね引き続き。

色々無編集ですけどそこまでは時間とか諸々なかったのであしからず。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

中忍試験② ★

そのまま続き。

トーナメントの予選やら、本編で起きたことをなぞるつもりはないのでその辺を深く書くつもりはありません。

平和な時間こそ戦争の本番というやつですね。


拘束された両腕が締め付けられる度、入り込んだ異物が肉(ひだ)の内側をこすり上げ、苦痛じみた切ない快楽が背筋を込み上げる。

 

「……ぅぐう! はあ、はっ、はっ、はっ……!」

 

潜影蛇手。本来であれば相手を拘束するのを目的とした術を、自身を慰めるために使いながらアンコは何度目かの絶頂を迎えて息をついた。

 

それでも終わることなく前と後ろの両方に潜り込んだ蛇の頭が、時おり身をくねらせることでさらなる快感を彼女の全身へともたらす。

 

甘い刺激。間断なく襲う快感の波。──しかし、どれだけ自分自身で慰めてもそれは求める絶頂にはほど遠かった。

 

いつからだったか。こんな慰め方をするようになったのは。

 

──中忍になってすぐに出来た彼氏と別れてからだった。処女を喪失した痛みが思ったよりも薄く、気持ちよさもそれほどでなかったからか。

 

それとも、密かな片想いに気づいてしまってからか。

 

たっぷり三時間ほど自慰に耽り。彼女は、みたらしアンコはベッドから起き上がった。

 

「げ、痣になっちゃった。やっばいな~、まあ包帯で隠しておけばいいか」

 

手首についた緊縛痕を隠しながら、アンコは今回の試験に思いを馳せる。

 

自分が中忍になった頃は死人が出るのは当たり前で、中忍になっても試験で負った重い怪我を引きずって任務で死ぬような人間はそれなりにいた。

 

けれど、それも昔の話。今は忍を引退しても暮らしていける。仕事が選べる。忍を続けていても、十分な訓練が受けられる。

 

それが、どれだけ恵まれた話か。アンコは今の現状を作った五代目火影に今日も密かに感謝を捧げる。

 

彼女の同期に限らず、戦中の動乱は仲間をことごとく死に追いやっていった。

 

間が悪かったと言えばそれまでだ。四代目が急逝してからも、駆り出された忍に同期が多かったが、それだけのこと。そのとき付き合っていた男が死んだのも、当時は悲しんだが今となっては特別引きずってもいない。むしろ、それがきっかけで五代目への想いに気づかされてしまったきっかけの方が感情としては大きかった。

 

彼との出会いは、初めは大蛇丸の弟子として。いわゆる兄弟子として紹介されたが、最初はひどく冷たい態度だったのを覚えている。

 

だが出会う度に明るく、炎のように周囲を照らし始めた彼の人となりが気になり出した頃は、むしろ周りの人間から女好きのダメ人間としてあまり近づかないように言われていたので、どこか避けてさえいた。

 

──ただ、いつだったか。彼女は大蛇丸から謝られたことがあった。戦後の動乱で必要だったとはいえ、自分を捨てゴマにしようとしたことがあったと。それを止めたのがサイゾウだったと。

 

詳細を語ってくれない大蛇丸に変わりその当時のことを調べて後悔した。彼女が捨てゴマにされるはずだった任務を受けなければ、五代目火影は親友を死なせなかったかもしれないのだから。

 

自分が彼にとって大事なものを失う機会を作ってしまったのかもしれない。しかしそんな後悔を吹き飛ばしてくれたのも五代目だった。

 

彼は事実を知ったアンコが悩んでいるのを知ると、唐突に現れて言った。「お前のせいじゃない」と。

 

本当は親友を失って誰よりも辛く、悔やんで、悲しかったはずなのに。

 

それからの彼は彼女からしても凄まじいと言っていい活躍をしてみせた。事件の黒幕を単身で見つけ出し、撃退し、火影となった。

 

翻弄される里をまとめ上げ、四代目の遺児を引き取り、死者を蘇らせ、復活すれば里を襲う暗雲を一息に吹き飛ばしてみせ、さらには各国をまとめ上げて忍連合なるものを結成してしまった。

 

「……ちょっと、遠くにいきすぎだよなぁ」

 

噂では各国に愛人がいるとも聞くし、暗部の卯月朝顔なんかは平然と肉体関係にあるらしい。

 

精力絶倫だという彼ならではだろうが、自分には彼と接触する名目すらない。

 

「あー、もう悩むのやめやめ! よっし! 今日は帰ったらピクシーちゃんにチャレンジだ!」

 

ピクシーちゃんとは、彼女と契約する口寄せ蛇のひとりであり、そのサイズは子供の腕ほどある。

 

オナニーのし過ぎでちょっと馬鹿になりつつある彼女は、それが彼氏を作っても長続きしない原因だとは気づいていない。

 

__________________________________

 

 

中忍試験の第三試験はトーナメントであり、ここまでたどり着いた面々には後ほど面接を経てほぼ間違いなく中忍への合格が言い渡される。

 

このトーナメントはいわゆるエキシビジョンであり、集まった各国の重鎮への新たな中忍達のお披露目でもあった。

 

そしてトーナメントは現在、日向一族の天才とうちは一族の天才による一騎討ちが行われていた。

 

「「八卦百二十八掌!!」」

 

激突する柔拳同士の余波で会場が震える。

 

日向ネジとうちはサスケの対決は、相手の体術を完全にコピーするサスケ有利に進んでいた。

 

「ふん! カエデさんのに比べたらまだまだだな、ネジ!」

 

不敵に笑うサスケ。その姿に、観客席からは黄色い声援が上がる。

 

「あの人と俺の技など、比べることも烏滸がましい。だが今のが俺の全力だと思っているなら、大間違いだッッ!!」

 

低い姿勢で突進するネジ。サスケはそれを見て考える。

 

ここまで、彼はネジの動きをコピーすることで全ての攻撃をさばいてきたが、実はその戦い方にも限界が近づきつつあったのだ。

 

たしかにコピーすることで防御することはできる。だが、そこはネジもさるもの。催眠眼による技の誘導にまでは至らなかったのだ。

 

しかもネジには切り札として八門遁甲があり、先にそれを出されれば如何にサスケといえど苦戦は必死。現状はサスケを警戒して温存しているが、いつ発動してもおかしくはない。

 

「そろそろ()()()一族の本気ってやつを見せてやるよ!」

 

「望むところだ!」

 

ネジの繰り出した掬い上げるような掌打の一撃を蹴りで殺して宙に浮かび上がると、サスケは高速で組んだ印によって術を組み上げる。

 

火遁・豪火球の術!

 

迫り来る火炎の塊。しかし、ネジは怯まず全身からチャクラを放出し高速回転する。

 

日向一族の絶対防御回天である。

 

しかしサスケの攻撃はそれだけではない。即座に組んだ次の術を発動させた。

 

火遁・龍炎放歌の術!!

 

「おお!」

 

自らも得意とする放たれた火遁の上級忍術に、思わずサイゾウが興奮する。

 

しかしネジは慌てず回天によって四方から迫る龍を象った炎を受け止め、完全に防ぎきった。

 

「なに!?」

 

「次はこっちの番だ! 八卦空掌!!

 

「ぐあっ!」

 

無防備な空中へ打ち出されたチャクラの空気砲にサスケが吹き飛び、壁に叩きつけられる。

 

「今だ! 八門遁甲、第五杜門……開!!

 

「サスケくん!!」

 

柔拳から剛拳へ。切り替わったネジの攻撃スタイルに、サクラが思わず悲鳴を上げる。

 

しかし、その様子にナルトは笑みさえ浮かべて叫んだ。

 

「今だ! サスケ!」

 

「応!!!」

 

瞬間、壁にめり込んでいたサスケの全身をチャクラの衣が包む。威装・須佐能乎を思わせる九尾のチャクラによる鎧。

 

それがネジの放った剛拳の一撃を完全に受け止め、サスケは力尽くでネジを舞台中央へと叩きつける。

 

「がはっ!!」

 

さらにサスケは九尾のチャクラを変形させネジを完全に地面へと縫い付けると、苦無を彼の額へと突きつけて勝利宣言した。

 

「俺の勝ちだな、ネジ」

 

「……次は勝つ」

 

大いに沸き上がる会場。自慢げにするサイゾウへと水影であるメイがすり寄る。よく見ればサイゾウの手が彼女の尻を揉みしだいているが、残念ながらこの場にツッコミ()は不在である。

 

他に横並びとなった影らはそんなイチャツキを見なかったことにしつつ、風影である羅砂などはこっそり砂文字で医療室にいる綱手にチクっていたりする。

 

オオノキは人柱力でなくとも尾獣のチャクラを扱う例外であるサスケの存在を改めて見たことで黙考し、エーはサイゾウに張り合ってマブイの乳を揉んでビンタされていた。

 

「お、次はナルトと我愛羅くんか。……となれば、少々ここは手狭だな」

 

「うむ。完全尾獣化された日には全員潰されるな」

 

「想定がおかしいだろう。本気で戦わせるな、親馬鹿ども」

 

あっけらかんと告げるサイゾウと羅砂。それを諌める音影のレンヤは頭痛を堪えるようにこめかみを揉む。

 

「我愛羅、たぶん本気で戦うと色々やべーから、完全尾獣化はなしな」

 

「それで構わん。というか、ナルトはもう完全尾獣化できるのか?」

 

「ああ、この間の修行でようやくな。完璧に制御するにはサスケと一緒じゃなきゃダメだけど」

 

「それでもスゴいよ。じゃあ、俺も負けてられないな……!」

 

(帰りてえ……)

 

試験官としてその場に控えざるをえない上忍の不知火ゲンマは内心ぼやきつつ、戦いを始めさせる。

 

影分身の術!!

 

流砂瀑流!!

 

百人ほどに分身したナルトに対して、我愛羅は試合前から仕込んでおいた広範囲を埋め尽くす砂の津波で迎え撃つ。ゲンマが危うく壁へと避難する中、ナルト達は為す術なく飲み込まれていく。

 

砂瀑大葬!!

 

──ズズゥン!!──

 

舞台が一段沈んだと思わせるほどの衝撃が辺りに響くが、我愛羅の目はナルトがこの程度で負けたとは欠片も思っていない。

 

唯一サクラや同期の山中いのなどの女性陣が顔を青ざめさせているが、サスケやロック・リーなどは自分ならばあの技にどう立ち向かうかで盛り上がっている。

 

──ボンッ!!──

 

砂を爆発させ、地中ならぬ砂中から九尾の骨を鎧のように纏ったナルトが現れる。

 

螺旋丸!!

 

「守鶴!!」

 

ナルトの攻撃を砂から実体化させた守鶴によって防ぐ我愛羅。吹き飛ぶ砂に紛れ、我愛羅自身も砂に乗りその場を回避する。

 

「砂が邪魔だってばよ! 風遁・大突破!!

 

「ナルトが性質変化の忍術を!?」

 

「うっそでしょ!」

 

驚くキバといの。ナルトと言えばとにかく印がまともに組めない、覚えられないで有名だったアカデミー時代を覚えているがゆえのことだった。

 

「イルカさん、すげえな……」

 

その事実には親友であり相棒であるサスケも思わず手放しで称賛するほどである。

 

連弾砂時雨!

 

我愛羅は砂上を駆け回るナルトへ空中で固めた砂の弾丸を乱れ撃つが、命中しても九尾の骨の鎧に弾かれ効果がない──否、彼の狙いはそこではなかった。

 

砂縛柩!!

 

「うおっ!?」

 

弾かれ砕けた砂を少しずつ纏わせ、我愛羅はナルトを拘束する。骨の鎧の内側へと砂を潜り込ませた拘束はナルトの関節を抑えており、まともな手段では抜け出せそうにない。

 

「この程度ぉ……!!」

 

案の定、ナルトはそれを力尽くで抜け出そうとするが、無論我愛羅もただ座してそれを見守るだけではない。

 

「はあああああ!!!!」

 

大量に展開した砂を圧縮し、ひとまとめにナルトの体を覆っていく。

 

砂漠送大層封印!!!!

 

四角錐の立方体となった砂によって完全に拘束されたナルト。顔だけが頂上から覗いており、その様子にはコミカルささえある。

 

「俺の勝ちだな、ナルト」

 

「……へへ、そいつはどうかな?」

 

途端に、ナルトの姿が煙となって消える。

 

「影分身だと!?」

 

「尾獣影分身だってばよ!」

 

尾獣影分身とは尾獣のチャクラを混ぜた極めて戦闘力の高い影分身であり、現時点でのナルトの切り札である。ただし、チャクラの多くを分ける性質上2体が限界である。

 

再び砂中から現れたナルトはチャクラの衣で我愛羅を引きずり下ろし押し倒すと、先程のサスケを真似るように我愛羅へと苦無を向けて勝利を宣言した。

 

「俺の勝ちだってばよ!」

 

「あ、ああ」

 

下手をすればキスでもしそうなほどに近い顔の距離にどぎまぎする我愛羅。ナルトはそんな相手のリアクションなど露知らず、敗けを認めた彼を起こして観衆へ向けてガッツポーズを取って見せた。

 

__________________________________

 

 

「……粒揃い、といったところですかな」

 

「まあな」

 

中忍試験が恙無く終了し、影6人が集まり会談を行っていた。

 

サイゾウは羅砂からかけられた言葉に答えるも、しかしその表情は晴れていなかった。

 

「……予想されうる敵戦力。それほど、なのですか?」

 

「あくまで最悪を想定した場合だがな。──レンヤ」

 

「ああ。先月、各里共同で及んだ波の国での任務。そこで遭遇した化け物を解体してようやくわかったことがある」

 

カカシ、再不斬、白の三人をして戦慄させた敵の正体。ある程度の報告を各影は受けていたが、遂にそれを突き止めたとあって各自が息を飲む。

 

「……端的に言えば、あれは人柱力だ。それも、仙丹を仕込まれたな」

 

「どういうことだ。奴らめが、手にいれた尾獣をみすみす使い捨てにするような真似をするとは思えん」

 

オオノキがレンヤに尋ねる。

 

「……以前、雲隠れを解放した際に火影が倒した黒ゼツがいただろう。あれに使われていた零尾の尾獣に関して覚えているか?」

 

「たしか大昔に作られた人工の尾獣だと……まさか!?」

 

雷影であるエーが立ち上がり、その強面から冷や汗を流す。

 

「そうだ。奴らはどうやってか知らないが、人工尾獣を作る方法を手に入れたと思っていい。それも、不完全とはいえ仙丹を仕込まれた人柱力を作って、それをぶつけてきた。見た目は子供だが、怖気を振るう化け物だったと、あの再不斬が言っていたよ。つまり、奴らが仕掛けてくる次の戦争ではそいつらが大量に攻めてくると考えた方がいい」

 

「なんてこった……!」

 

オオノキが頭を抱える。報告通りの化け物だというならば、それと戦ったときこちらの受ける被害は幾ばくか。想定するだけで気が遠くなる。

 

「……オオノキ、エー、羅砂、メイ、レンヤ。忍連合盟主として宣言する。この戦争、絶対に勝つぞ」

 

サイゾウの静かな言葉に、各影らはしっかりと頷く。

 

「……最後の見せ場じゃぜ。両天秤の実力を刻んでやろうぞ」

 

「そのときは借りを存分に返してやる……!」

 

「最後の戦にしたいものだな……」

 

「お側にいさせていただきます」

 

「根切りにしてやるまでよ」

 

想定される開戦は三年後。これより各里は、戦争に向けての準備を始めることとなる。

 

 

 




勢いで、突き進む。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雨崩し★

蝶がつくほどお久しぶりでございます。ひじき姐さんの活動報告くらいしか最近顔を出していませんが皆さんいかがお過ごしでしょうか。どうにか時間を作ってえっちらおっちらこちらから書き上げました。
久しぶりすぎて話の流れを作者すら忘れてますが、まあ連載なんてそんなもんです。

それでもいいという人だけ、お読みください。


──木の葉での合同中忍試験を終え、一年が過ぎた。

 

下忍から中忍になった者。

 

それ以上の立場になった者。

 

変わらず下忍のままである者。

 

少々の変化はあったが、概ね世界では平和な時間が過ぎていた。──表面上は、という言葉が頭につくが。

 

あれより一年。各国より選抜された上忍を中心に組まれた黒ゼツ探索部隊【黄昏】は、不規則に各地で現れる不死身の化け物と日夜戦っていた。並の下忍や中忍では対峙することがすなわち死を意味するその化け物はいつしか【暴獣】と呼ばれ、その存在を隠蔽されつつも静かに各国の強者を疲弊させていた。

 

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

 

 

木の葉病院の特設入院棟の入り口でひとりの男が立っていた。

 

既に火が消えたタバコのフィルターを噛みながら、男──不知火ゲンマが戻ってきみたらしアンコへ問いかける。

 

「……ライドウの容態は?」

 

「……まだ、意識が戻らないそうよ。幸い生きてはいるけど、運ばれたのがここじゃなければ死んでたって」

 

「そうか。仙丹様様だな、まったく……!!」

 

悔しげに壁を殴りつけるゲンマは、都合四度目となる“暴獣”との戦いを振り返る。

 

圧倒的なチャクラ。無限とも思えるほどの再生能力。それだけでも厄介だというのに、奴らは日々学習し厄介になっていく。

 

──まるでニンゲンのように──

 

今回も木の葉の上忍である並足ライドウが、自身の両腕と引き換えに体内で起爆札を炸裂させたものの、暴獣は再生よりも攻撃を優先し彼の腹を引き裂いた。三個小隊で活動している忍の中に氷遁を扱う白がいなければ彼の生還はありえなかっただろう。

 

暴獣の出現場所は多岐に渡る。木の葉、砂、岩、雲、音、霧。

 

人口密集地にまでその被害は及んでいないものの、小規模な村や集落はすでに文字通り壊滅してしまった場所も多い。

 

各国はこれによる恐慌状態を避けるため【黄昏】の大部分を特化運用して対処に当たっていたが、それでも限界は近づいていた。

 

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

 

サイゾウは執務室で火影としての仕事をする傍ら、竹遁分身により並列して各地で現れる暴獣に自ら対処するという多重生活を送っていた。

 

圧倒的に手が足りなのだ。無論【黄昏】には木の葉を始め、各里から優秀な忍が参加している。だが木の葉においてライドウが助かったように他の里でもというわけにはいかない。既に多数の犠牲者が出ているのが現状だ。黄昏の中にはイタチやナナシといった実力者らも参加しているが、それでも全ての戦線に対応できるわけではないのだ。

 

それに、今や人知を超えた強さを得たサイゾウが出撃するのが事態への対処としては最も手っ取り早いのも事実だ。だがそれは最悪サイゾウが必要な事態に即応できない可能性を意味し、最悪の事態を招く可能性をも秘めている。

 

その為サイゾウが出動するのは可能な限り最後の手段だ。本人でなくとも竹遁分身で須佐能乎を展開すれば、暴獣を須佐能乎で包むことで驚異的な再生能力も無理矢理封印することは可能であるのだから。

 

しかし須佐能乎はそれだけで肉体へ強い反動を与える。影分身とはいえ日々の反動がじわじわとサイゾウを苛むのも事実。決戦までに自身が疲弊しきっては意味がないと自覚するサイゾウではあったが、目立った対策が取れない現状に忸怩たる思いを隠せないでいた。

 

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

 

止まない雨が降り注ぐ街中を、10人ほどの忍達が疾駆する。

 

建物の影をまるで這うように動き回り、全員がまるでひとつの生き物であるかのように素早く移動していく。

 

彼らは黒ゼツを探索する為に結成された部隊【黄昏】の本来の役割を負った部隊である。【黄昏】の任務は今となっては二種類存在する。そしてその任務の大半は、現状各国から選りすぐられたかつての【暁】における特級戦力へのカウンターを想定した部隊だ。暴獣への対処はこれらの部隊が対処していることになる。

 

そしてもうひとつが、各国の暗部より選りすぐられた者で構成された黒ゼツの捜索隊である。

 

表向きには【黄昏】自体が黒ゼツ探索を理由に結成されたが、時を同じくして各地で暴獣による被害が多発したことから、忍連合によってその名を借りて大部隊が編成されたというのが実情である。だがそれでは肝心の黒ゼツ探索がおろそかになってしまう。そこで各影らが推薦した者達、いわゆる直属の暗部による特殊戦術部隊が結成されたのである。

 

そんな尋常ならざる実力をもった忍らを取りまとめるのはサイゾウの養子でもある薬師カブトである。これには多分に政治的な事情も鑑みられるが、カブトの実力は今は亡き大蛇丸にすら匹敵すると言われている。部隊を率いる上で周囲の者からの反対はなかった。さらに部隊には音の守り刀十傑集のひとりでもある鬼灯満月の姿もある。影級の戦力を少なくとも2名擁するこの部隊は、遂に雨隠れへの潜入を果たしていた。

 

そびえ立つ旧時代の遺跡とも言われる、巨大な高層建築群を彼らは疾駆する。しかし全員が一様に違和感を抱いていた。なぜ人の気配が一切しないのかと。

 

「……」

 

カブトは集合の合図を示すハンドサインを出して、扉の開いたままになっている一軒家へと全員を集合させる。部隊のひとりである日向一族の者と霧隠れから参加した青が周囲を警戒する。

 

「誰もいない。不気味なくらいにね」

 

カブトが切り出す前に満月が雨に濡れた体を水化の術を応用して体内に吸収、雨に仕込まれたチャクラを分析しつつ先に答えを口に出す。

 

「強化された雨の結界でこれまで外から確認はできなかったが、まさか雨隠れの里から人の姿が消えているとはな……」

 

「やはり、すでに住民全員が殺されたと見るべきでしょうか?」

 

満月の言葉を受けて、青が呟く。それを受けて夜月一族らしき雲隠れから参加したらしき青年がカブトへと質問する。その意味は撤退するか否かである。

 

「暴獣の素材には人間が使われているからな。……恐らくは、そういうことだろう」

 

カブトが表情を平淡なまま雨隠れを襲った悲劇を口にする。

 

彼の視線は下。それに気づいた感知タイプの何人かが、下へと意識を向ければそこには無数のチャクラが感じ取れた。

 

「これは……まさか……!」

 

思わずといった光景に、青が呻く。白眼を通して彼が眼にしたのは、無数の女達が奇妙な触手に繋がれ強制的に妊娠と出産を繰り返させられる姿。

 

その数は数百や数千では効かない。妊婦となれる体の者なら、年齢を問わずに苗床とされていたのだ。

 

「……隊長、囲まれています。敵は地中からです」

 

岩隠れから参加した忍、紺ツチの言葉にカブトは警戒を怠ったかと考えるが、それは違う。暴獣には自身が持つチャクラをジャミングする能力があり、これによって距離感を狂わし、視界に写るチャクラによって感知する日向一族による感知を遅らせてしまうことができるのだ。

 

しかしそれもオオノキの一族に連なる、この中で最も優秀な感知タイプである紺ツチによって地中の振動を感知されれば何ということはない。カブトは手を合わせると、瞬時に自身へ自然エネルギーを取り込み隈取りを出現させる。

 

仙人モードへの早すぎる移行に満月さえも口笛を吹くが、それもそのはず。彼の展開速度は、初代火影千手柱間に匹敵するほどであるのだから。これこそは義父であるサイゾウをも凌駕する、彼の努力によって開花した才能だった。

 

仙法・無機転生!!」

 

土遁・地沈の術!」

 

生まれたその性質ゆえに、自然エネルギーが集まるのに気づいた数体の暴獣が急ぎカブト率いる部隊が待機する一軒家へと飛びかかる。しかしカブトの術が展開するのに合わせて紺ツチが一軒家をまるごと沈下させ、彼らの攻撃を回避してしまう。

 

しかしその程度で諦める暴獣らではない。彼らはその身に抱えた量産型零尾の力を解き放ち、尾獣チャクラを収束させた虚狗砲を沈下した一軒家へと叩き込む。

 

禍々しい黒いチャクラを、さながらレーザーのごとく圧縮して放つ暴獣。しかし森を薙ぎ払い山をも穿つ威力のそれは、一本の剣をもった男によって全て弾き返される。

 

「悪いけど、返すよ」

 

満月によって反射された虚狗砲によって上半身を蒸発、あるいは抉り削られる暴獣達。しかし彼らの再生速度をもってすれば例え心臓を失ってもなんら問題はない。

 

しかしその間に紺ツチとカブトは無機転生と土遁を組み合わせ、地中を掘り進み驚くべき速度で逃げていく。満月はすっかり球状に変形した一軒家に避難しながら、果たしてこのまま逃げ切れるものかと冷静に考える。場合によっては自身が持つ草薙の剣、布都御魂剣の力を解放せねばならないかと。

 

しかしそんな満月の覚悟を知ったか知らずか、夜月一族の青年が地上へと続く道を作ってもらえるよう紺ツチとカブトに頼み込む。彼の持つ術を知るカブトは即座にそれを了承し、地下へと掘り進んでいたのを急展開させ上昇を始める。

 

無論それを見逃す暴獣ではない。彼らは今度こそ外すまいと、先程以上の数をもって撃滅せんとチャクラを溜め込み始める。──しかしその程度、見抜いていないカブトではない。

 

土遁・開土昇掘!!」

 

紺ツチによって突如として地面が盛り上がり、構えていた暴獣らは立つべき地面を失って跳ね上げられる。そしてそれは彼らだけではない。地中を走っていた一軒家もまた同じくである。

 

天送の術!!」

 

カブトと比べれば遥かに時間はかかったものの、予定のタイミングまでに仙人モードを発動させた少々カエルじみた顔になってしまった青年が空中へ飛び上がった一軒家へ自身得意の術をあえて不完全に発動させる。

 

彼の姉は雷影の秘書マブイ。そして彼の名はマタタキ。もうひとりの天送の術の使い手である。

 

「イイイヤッホオオオウ!!!」

 

マタタキの歓声と共に凄まじい勢いで飛び出した一軒家はあっという間に雨隠れから離れていく。……このあと、着地の問題を考えていなかったマタタキが大いに慌てるがカブトの無機転生によって落下する森一体をクッションとすることで事なきを得ることができた。

 

こうしてカブト率いる特殊戦術部隊は、どうにか暴獣による追撃を避けて雨隠れの里を脱出することに成功する。

 

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

 

サイゾウは滅多に吸わないタバコを口にしながら、窓から外を眺める。今日は、雨が降っていた。

 

「はい。あの国で生きている人間は……いえ、人として存在している者はもはや一人としていません」

 

カブトは冷静に青が見た光景をサイゾウへと報告した。地下に広がる大空洞。そこが暴獣の一大生産工場として稼働していること。生きながらただ生体兵器を産むための存在として扱われる女達のこと。化け物になぶられ、限界が来れば処理される光景のことを。

 

これを直接見てしまった青は精神を病み、今は霧隠れに戻り療養を受けている。それほどの光景を、カブトは報告の為に山中一族によって彼の記憶を一部自身へ写させていた。サイゾウはそれほどのことをしたにも拘わらず、眉もしかめず冷静に報告する義理の息子を見つめる。忍として優秀に育ったと誇らしい気持ちになる反面、人としては誤った育て方であることを改めて自覚し、いずれは彼にも人間らしい生き方を与えてやりたいと願う。

 

そして老若男女を問わず暴獣の苗床とする、文字通り人間など蛆のように湧いて出るとしか思っていないだろう黒ゼツの所業に、知れずサイゾウの表情が険しくなる。

 

かつての“暁”の理念を知るサイゾウからすれば、その行為はかつての理念を侮辱するにもほどがあり、あまつさえ戦乱の中に生きてきたあの国の人間の誰もが望まぬ結末であると。

 

──ゆえにサイゾウは覚悟を決める。

 

「イタチ、いるか」

 

「ここに」

 

音もなくカブトの横に現れるうちはイタチ。

 

「カブト、シスイを呼んできてくれ」

 

殺気とも違う、見るもの全てに圧力をかける覇気を漏らしながら、サイゾウは静かに告げる。

 

「承知しました」

 

「イタチ、結界班に()()が出たらすぐに結界を最大出力で発動させるように伝えろ。第二級戦闘配備だ」

 

「承知です」

 

サイゾウの指示に二人が退出し、サイゾウはタバコを握りつぶす。

 

「カブト達が全員無事に帰ってきたのを見るに、黒ゼツは直接現場に関わっていないか、はたまた明らかな挑発か……。だがまあこれだけお膳立てしてくれるってことは、どうしても俺に雨隠れまで来てほしいってことか。……上等だ!」

 

サイゾウは握ったタバコを感情の昂りに応じて溢れた炎で焼き尽くしながら、憤怒の表情で雨隠れの方向を睨む。その眼には、生半可な罠など小細工同然だと言わんばかりの炎が満ちていた。

 

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

 

うちは一族という忍の一族がいる。

 

六道仙人直系の子孫にして、最強の忍の一族筆頭に数え上げられる存在である。

 

かつて木の葉隠れを興した英雄、千手柱間とうちはマダラの二人によって纏めあげられた里は、マダラの暴走による混迷、初代火影と二代目火影の死、九尾事件に伴う四代目火影着任早々の死などといった多くの困難を潜り抜けて、大きく強く育ってきた。

 

そして里が始まって以来初となる“うちはの火影”はそれに匹敵する幾度もの混乱を乗り越え、死すら乗り越えて君臨している。

 

そんな彼が今久しぶりに本気で戦おうとしていることを、彼の幼馴染みであり親友であるフガクは察していた。日頃里全体を包み込むようなサイゾウの暖かいチャクラが、まるで嵐の前触れのように凪いでいるのに気づいたからだ。

 

うちは警務部隊も変わった。かつてのように政治犯を見張る牢獄は別の場所に建て直され、彼らの主な任務は里の守護となった。皮肉にも暴獣による数度の襲撃がうちは警務部隊の必要性を高め、里からの信頼度をあげていた。

 

フガクはサイゾウの気配が空へと移動したことに気づき、ふと見上げる。するとそこには、突如として黒い巨神が現れていた。どこか悪魔を思い起こさせる、黒い翼を持つサイゾウの須佐能乎である。さらにそれだけではなかった。同じく自身の息子であるイタチが赤い巨神を、その親友であるシスイの緑の巨神もその傍らに並んで空に聳え立つ。一種幻想的な光景だが、ともすれば国を滅ぼしかねない存在が三柱存在していることに不安を隠せない者も出るだろう。警務部隊としてはそれによって起きるかもしれない混乱にも備えねばならない。

 

「サイゾウめ、相変わらず面倒なことは俺に押し付けてくれる……」

 

自身もまた須佐能乎を展開することはできるが、あそこまで見事なものは展開できないだろうとフガクは見上げながら思う。いつの間にか自身の力など及ぶべくもない領域へと至った親友と、それと並び立つまでになってくれた息子の姿を、フガクは誇らしげに見上げながら自分の仕事をする為に警務部隊の本部へと足を運ぶのだった。

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

雨隠れ上空にて、三柱の巨神が雨雲の上空に集っていた。

 

『いいか、5分で全てを終わらせる。全員最大級の豪火球を一点集中で放て』

 

有無を言わさぬサイゾウからの心伝心の術による指示に、二人は無言で従う。サイゾウが何を仕掛けるか、術を介さずとも察したからだ。

 

「「火遁・豪火滅却!!」」

 

イタチとシスイはそれぞれが放てる最大威力の豪火球、その発展系である豪火滅却を放つ。須佐能乎を介したことにより、まるで巨神がその口から巨大な炎を吐き出すかのような姿は遂にこの世の終わりが来たのかと思わせるほどであった。

 

火遁・豪火滅失

 

しかしそんな二人以上の規模を持った火炎が、あっさりとサイゾウの須佐能乎の前に形成され始める。

 

サイゾウはそれらをひとつに纏め、さながら雨隠れの上空を包む黒雲のごとく巨大な火炎を一度膨れ上げさせ、圧縮させる。それこそはかつてうちはマダラの天碍震星をも消滅させた大忍術。

 

火遁……豪火大焔失

 

僅かな躊躇を見せ発動された小型の太陽が、ゆっくりと地上へ降りていく。

 

ゆっくりと落下していくように見える炎の雲が、雨隠れを囲むように包み込む雨雲とぶつかって大爆発を起こす。

 

須佐能乎で衝撃の大半を防ぎながらも、シスイとイタチはその衝撃を受けて苦しそうに呻く。しかしサイゾウはその表情になんら変化を表さず、雨雲を消し飛ばした小太陽をじっと見守る。

 

やがて高層ビルを飲み込みながら地上へと辿り着く小太陽。サイゾウは最後の仕上げとばかりに、着弾の寸前その眼を赤く輝かせて瞳術を発動する。

 

闇龗……!」

 

サイゾウの写輪眼によって、着弾の瞬間太陽が一気に膨れ上がる。とはいえ、このまま発動すればサイゾウはともかくイタチやシスイはただでは済まない。

 

無論サイゾウはそれを理解してか、さらにだめ押しの一手を指す。

 

神羅天征!!」

 

瞬時に変化した輪廻眼によって静かに発動された術。それによって生まれた超重力が、膨れ上がる爆焔を押さえつけ雨隠れの里そのものを消滅させていく。

 

圧縮された爆発力が、熱量が、文字通り細胞の一欠片も残さず雨隠れの地下にあった生産工場を焼き尽くしていく。地下から無数の暴獣が湧き出してくるが、その身に宿した量産型零尾の力を発動するまでもなく彼らは焼き消されていく。

 

地上の熱量とは裏腹に、サイゾウはどこまでも地上を冷たく見下ろす。すでに写輪眼へと戻した超視力を用いて、文字通り一体も残さず討ち滅ぼすために静かに冷徹に観察を続けていた。

 

文字通り、雨が崩された。圧倒的な熱量と斥力によって、天地のチャクラが乱れたことでいつまでも降り続けていた雨はその役割を終え、そこにはかつて雨隠れの里と呼ばれた、どこまで続くかわからないほどの巨大な穴のみが残った。

 

サイゾウはこのために連れてきたイタチとシスイに見逃しがないか確認をさせる。二人はサイゾウに従い周囲一体を観察するが、かつて雨隠れと呼ばれた場所にはもはや何も存在していなかった。

 

『戻るぞ』

 

サイゾウの言葉に従い、帰還する三柱の巨神達。

 

そんな彼らを、遥か離れた場所から眺める黒ゼツの姿があった。

 

「やはり正面から戦うには……十尾が必要なほどかッ」

 

空間を歪めて三人を、もといサイゾウの力を確認した黒ゼツ。

 

黒ゼツにとって雨隠れはすでに利用価値を失っていた。常人や並みの忍を苗床とした人工尾獣は本来の零尾ほどの力はもたなかった。量産型零尾とでも言えるそれらを気まぐれに暴獣へと与えたのは、黒ゼツ自身にとっても失敗と言えた。なぜならばこの一年世間を騒がせる暴獣による騒動は、黒ゼツ自身制御が難しくなってしまった暴獣による暴走とでも言える事態だったのだから。

 

ゆえに黒ゼツにとって暴獣が各地で暴れまわるのは想定外だった。だが幸いだったのは彼らが各国の忍およびサイゾウを疲弊させてくれたことだ。黒ゼツにとって他の有象無象はもはや問題ではない。唯一自らの母であるカグヤに匹敵すると思わしき力を持つうちはサイゾウ。彼の力をカグヤ復活までに如何に削いでおくかは、黒ゼツ自身ひたすらに悩んでいたことなのだから。

 

それに元々暴獣とは人工尾獣を作る上での副産物に過ぎなかった。短い寿命と引き換えに得させた驚異的な再生能力こそ厄介だが、再生を繰り返せば一月と持たず寿命が来てしまう。それでは、今後到来するであろう大筒木と戦わせる兵隊としては不十分だと黒ゼツは考える。

 

それゆえに雨隠れへ黄昏の特殊戦術部隊がやってくるように状況を整え、すでに黒ゼツの手を離れていながらも未だ生産を続けていた工場を潰させるように仕向けたのだ。そして黒ゼツにとって、そこへサイゾウが乗り込んでくるであろうことは予想通りであった。

 

「クフ……! 女子供の悲鳴が忘れられないだろう、サイゾウ? お前はこれからも日々雨隠れで生きたまま苦しんでいた者達の悲鳴を背負って苦しむんだ。……ククク、お前が心に数多の傷を抱えていること、私が知らぬとでも思ったか? クククククククク……!」

 

如何にも可笑しいと言いたげに、黒ゼツはその黒い髪を靡かせて嗤い転げる。

 

「クク、さぁて、サイゾウのおかげで不良在庫の処理もできたし、あとはこちらの準備を整えるだけだ。……クク、他にもあちこちに人をやって必死に探しているようだけど、無駄無駄。こっちの拠点はお前らの空間には存在しないんだからさ」

 

薄く嗤いながら、黒ゼツはその身を翻す。もしサイゾウがその姿を眼にしていれば、紛れもなく驚愕させられていただろう。褐色の肌という点を除けば、その姿は彼の妻である“日向カエデ”と瓜二つであるのだから。

 

やがて黒ゼツは掌をかざし、無数の板をズラすかのように空間に隙間を開けると、何処かへと消えていった。

 

 

 




久々すぎてなんかもう関係ない作品色々見ながら書きました。ちなみに決め手になったのは血煙の石川五右衛門。
あれの独特な雰囲気見てたらすらすら書けた私の脳内はどうなっているんでしょう……

まあ作中で書こうとしたこと、かなり端折ってます。色々と中途半端で泣けてくるぜ。
ほんと悲しいわ。人生って儘ならないものよね。

※諸々訂正済み。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過ぎていく日々★

待たせ過ぎてすまない。

作者もようやく心が立ち直ってきたばかりなんだ。

エロが書けるようになるのはいつになるやら……。


「あ、カカシさん。オビトの見舞いですか?」

 

案内人である猿飛家の若者と対面しながら、もはや誰も呼んでくれない今の名前に何の意味があるのかと思いながら、ナナシもといカカシは苦笑いを浮かべる。

 

彼が赴いたのは、かつてナルトが誕生する際に使われた石造りの結界部屋だ。さらに言うのであれば、そこを利用してさらに地下にて造り上げられた特級犯罪者専用牢獄である。

 

かつて木の葉が九尾に襲撃されて以後、サイゾウは結界部屋を襲撃したそのカラクリが時空間忍術にあることを解析していた。

 

そのためオビトを捕らえたサイゾウは、忍連合や大名らにも声をかけ、大規模な結界忍術を封じる一種の同質異空間とでも呼べる空間忍術を開発したのである。

 

そもそもどれほど堅牢な結界や牢を造り上げようと、時空間忍術の前では無駄である。そのことを理解したサイゾウは、指定された空間そのものを僅かにズラす術式を開発し、その対策としたのだ。

 

この術式によって作られた結界には物理的防御力こそほぼ無いものの、時空間忍術に限定すれば飛雷神の術すら無効化する効果を持っていた。

 

──そして正気を失い捕らわれたオビトは、今はこの特級犯罪者専用牢獄に封印されていた。

 

「……ああ。悪いな、毎回」

 

「いえ、必要な手順は踏んでいただいてますし。それらを踏まえてでもお会いしたいという貴方の気持ちが、わからないわけではありませんから……」

 

そういって顔を伏せた猿飛の青年は、黙してほぼ壁面と変わらない入口へと近づく。いくつかの指定された場所に触れ、それらへ手にした割符を介したチャクラを流し込む。

 

すると無数の石がスライドし、一人がようやく通れる程度の入口が現れる。

 

「それでは、この割符をお願いします。今一度説明しますが、万が一それを無くすと全ての結界に拒絶されますので……」

 

「ああ、わかってるよ」

 

仕事として説明をする青年に、真面目な表情で答えるナナシ。

 

数多の結界があったところで、ナナシが本気になればそれらを突破することは可能だ。たどり着くまでの時間稼ぎに重点を置かれた牢獄であるここは、相応の実力者ならば無理矢理突破できなくもないのだ。

 

とはいえ、ナナシがわざわざそんな間抜けなことをする理由もない。そして無数のセキュリティを重ねたこれらの処置は、里におけるオビトへの強い警戒心の現れでもあると同時に、彼を守るためでもあった。

 

そう、上層部のみならず、里全体においてオビトを処刑すべきだという声は、無論あった。

 

だがサイゾウは、批判も覚悟であえてオビトを生かした。殺せばそこで終わりであり、そも殺すことこそ黒幕である黒ゼツの思惑通りであるとして。

 

ゆえに最大限警戒をしつつ、黒ゼツの企みを少しでもくじく意図も踏まえて生かしておくべきだと主張し、こうして専用の牢獄さえも用意したのだ。名目上は特級犯罪者専用ということにして。

 

様々なしがらみがあっただろうに、苦心してそれだけのことを成し遂げてくれたサイゾウに、ナナシは感謝に堪えなかった。

 

そしていつか、オビトと再び語らうことが出来たらばと願わずにはいられなかった。……それが例え、どれだけ不可能に近いことだとしても。

 

いくつもの階段を降りていき、対時空間結界以外にも用意された無数の結界を通り、狭い通路を通ってナナシは地下へと降りていく。

 

ちなみにこれらの結界を素通りできる機能もこの割り符には込められている。奪われれば一大事だが、この割符にはサイゾウの髪の毛が織り込んであり、万が一彼の知らぬ人間や黒ゼツなどが触れようものなら即座に彼の知るところとなるのだ。

 

……やがて、十五分ほどかけてナナシは地下深くのオビトがいる場所へとたどり着く。そこには、相変わらず顔以外の全身を小山のごとき封印術に閉じ込められたオビトが空中を眺めていた。食事すら与えられない環境だが、皮肉にも彼に移植された柱間細胞が彼を生かしている。

 

オビトの眼は何も写していない。ただ空虚があるだけだ。絶望の果てに弄ばれ、成すべきことも成せなくなった彼の心は、考えることを止めていた。

 

しばらくナナシは何も言わずオビトを見つめていた。だが面会する時間は決められている。話したいことは無数にあっても、それを全て伝えるだけの時間はない。それでも無数の手順を踏み、決して十分とは言えない時間の面会をナナシは繰り返す。贖罪を望む罪人のように。

 

「……オビト。戦争が始まるよ。俺達から大切なモノをいくつも奪った……戦争が。もう忍も民も関係ない、人が生きる為の、生き残る為の戦争だ。きっと、大勢が死ぬ。……なあオビト、この戦争が終わったら、俺はもう忍を止めようと思う。……本当は俺なんか、忍に向いてないんだよ……。けど、まだ死ぬわけにはいかない……! 死ぬなら、この戦争を終わらせてからだ。……次に会うのは、終わってからかな。……元気でな、オビト」

 

まるでその言葉は今生の別れのようだった。それを最後に、ナナシはオビトの前から去っていく。

 

隠すもののないよう、明るくされた室内が再び静寂に支配される。不意に、オビトの瞳がほんの僅かに輝いた。

 

「…………………………カカシ」

 

それは静かな呟きだった。

 

だが、絶望に囚われた男にとってその呟きは、血を吐くような叫び声に等しかった。

 

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

 

──さながら桃色の花びらが舞い散るように、幼さの残る見た目からは想像もできないほどの速度で、少女が大地を走り抜ける。

 

力強い踏み込みと、適切に管理されたチャクラ運用によって超加速される全身は、赤い衣装と相まって、さながら八門遁甲を発動しているのではとすら思わせる迫力があった。

 

彼女がサイゾウに弟子入りを迫ってより、一年以上が経過していた。

 

サイゾウの妻三人の弟子となったサクラは、それぞれから得意な技を教わり、それを自らのモノとしていた。

 

そして今日。いよいよもってサクラはサイゾウへと弟子入りすべく、教わった技()()()を併用してサイゾウへと挑む。

 

素人だなどとはとても言えない相手。とはいえ、見た目にはまだ幼さの残る少女だ。ゆえにサイゾウは今回、妻三人から術の使用を厳禁されていた。逆に言えば、サクラはサイゾウに術を使わせれば勝ちであるとも言える。

 

今回の勝負においてサクラの勝利条件は二つ。ひとつはサイゾウが術を用いること。ふたつめがサイゾウの両肩を地面につけることである。この条件を聞いて『最悪色仕掛けで押し倒してしまえばいい』と正妻及び愛人全員から提案されたのは内緒である。

 

どちらの条件にしても、絡め手を用いるのが常識であるのだろうが、サクラはあえて真正面から条件を満たしたかった。

 

すなわち、サイゾウを自らの実力で追い詰めて叩きのめすことである。

 

それを成してこそ、この一年修業した甲斐があったというものだ。

 

「ふッ……!!」

 

鋭い掛け声と共に、突如としてサクラの体がぶれる。

 

それは初歩的ではあるが、サイゾウもまた得意とする相手との距離感を誤魔化す基礎幻術の応用。

 

写輪眼すら発動していないサイゾウは為す術なく術中に陥るが、その程度で彼は追い詰められない。

 

轟天!」

 

そもそも術がなくとも、チャクラの運用が可能なサイゾウに接近戦を挑むこと自体、正気の沙汰ではないのだから。

 

百戦錬磨の勘と超人的な視力によってサクラの接近を捉えたサイゾウは、真上から流星のごとく降り注ぐサクラに気付き、回天の発展技である轟天で吹き飛ばす。

 

さらにサイゾウの優れた感覚は視力のみではない。幻術を解きながら、聴覚と嗅覚によって目だけに頼らずサクラの居場所を探知する。

 

が、その結果見つけたサクラは5人。

 

姿はともかく匂いまでとなれば、下着を囮に影分身でも用いたか──とサイゾウがそこまで考えた時点で分身が消え、再びサクラが正面から迫った。

 

「──しゃーッッ、んなろッッ!!!」

 

瞬身を応用した踏み込みから繰り出された全力の一撃。サイゾウは咄嗟に腹筋を固め、一度受けてからやり過ごそうと考え──。

 

「ぐはっ!?」

 

──その予想外の威力に、思わず吹き飛ばされた。

 

「ぐく……!」

 

練兵場の地面を削りながら、サイゾウは朝食を吐きそうになりつつ微笑む。

 

「綱手のチャクラ集中か……!? とんでもない切り札を身に着けたものだな!」

 

予想は裏切り、期待を裏切らないその一撃に嬉しくなったサイゾウが、思わずサクラに声をかける。サクラはその言葉に全身で喜びを表現したくなるが、その隙を突かれて負けたとあっては3人の師匠に顔向けできない。

 

「さあ来い! サービスタイムだ。今から一撃だけ、どんな攻撃でも受けてやる!!」

 

サイゾウの叫びにサクラのプライドが刺激される。怒りにも似た、甘え混じりの焦燥感。

 

(この人なら私の最大級の攻撃でも受け止めてもらえる……! でも、それが嘘で、避けられたり防がれたりして倒せなければ私の負け。……なら! まずは確実に当てられる状況を作る!)

 

これはサクラにとっての転機である。サイゾウを信じているが、それと勝負は別の話。

 

甘い判断によって自爆するような女を、サイゾウが弟子にするはずないとサクラは内心で断じる。

 

ゆえにサクラは、サイゾウと関係した女達に協力してもらい用意した手段を文字通り投じる。

 

サイゾウは思わず届く前に苦無で迎撃しようとするが、先ほどの言葉を思いだしそれを止め、しかしそこに巻き付いていた()()に気づいて思わずといった風に叫ぶ。

 

「なあぁぁにいぃぃぃッッッッ!?」

 

そこに巻かれていたのはサイズの大小こそあれ、全て見覚えのあるパンティ。超人的な嗅覚で思わず嗅げば、7つ投じられたそれらが照美メイ、林檎雨由利、パクラ、加藤シズネ、卯月朝顔、サクラ、サソリのモノだと判別できた。瞬時にそれらを鑑定するサイゾウの変態ぶりは、もはや天元突破の領域である。

 

中でも思わず写輪眼すら発動したサイゾウの眼を引いたのが、普段嫌がって下着をつけようとしないサソリのパンティである。女体化してからのサソリはノーパン主義なのだ。

 

ゆえに臭いはサソリであるそのパンティを咥えつつ、一体これをどうやって用意したのか、と考えるサイゾウの周囲に、無数の()()()がある特殊な起爆札が浮いていた。

 

「しまったッッ!」

 

「……もどきですけど、どうぞ受け止めてください!」

 

その術は本来、死なぬ死者である穢土転生の傀儡を用いて運用される術として開発された。

 

その威力は筆舌に尽くしがたく、完全なものを受けたのならばサイゾウとて脱出は困難となる二代目火影必殺の術。

 

札が札を口寄せし、無限に起爆し続ける大爆破を伴う時空間忍術。

 

互乗起爆札の術!」

 

「ぐああああああああああああああ!」

 

まさかの2代目火影の奥義に、サイゾウはダメージを負いながらも、咄嗟に須佐能乎でパンティを優先しつつ自身を庇う。その姿に、もはや火影としての威厳などない。

 

そしてどこかの獣王のような叫び声をあげつつも、サイゾウは須佐能乎によって連鎖爆破を防ぎながら、術から脱出する機会を伺う。

 

(ぐむぅ……! もどきという言葉が本当なら、これは無限爆破忍術ではないということか……。というか、受けてやると言っておいた手前回避するわけにもいかないんだが、なんて手段を用いてきやがる。よりによってパンティとは……)

 

サイゾウは大事そうにパンティーズを懐へとしまうと、須佐能乎を解除し爆破へと己が身をさらした。

 

だがその威力が届く頃には、サイゾウは八門遁甲を発動し終えている。

 

衝撃の犀獣!!

 

一点突破の衝撃波が互乗起爆札による連鎖爆発上部に穴をあけ、それによって安定を崩した起爆札があっさりとその役目を終える。

 

──しかし、それらすべてはこの一撃への伏線。

 

上へと脱出したサイゾウの目前には、両の拳を振りかぶったサクラが待ち構えていた。

 

桜花連鎚!!!!!!

 

「……がっはぁ!!」

 

鍛えぬいた腹筋を文字通り貫くほどの威力でもって、勢いよく地面へと叩きつけられるサイゾウ。

 

桜花連縋。全身のチャクラの殆どを一点集中させた、サクラ最強にして最後の攻撃である。

 

この技はカエデより教わった柔拳と併用し、カエデの奥義である浸透させる打撃を擬似的に再現したものである。

 

サクラオリジナルの一点集中炸裂打撃とでも呼べる技であるこれは、当てた相手に自身のチャクラを同期させ内部から崩壊させる浸透掌と違い、医療における打診を応用した技である。

 

対象の体内チャクラに二重の衝撃の波を重ねることで可能とされるその威力は、与える衝撃そのものがチャクラ一点集中によって桁違いの威力となっているのと相まって、例え尾獣であろうとも相応のダメージを与えられる絶技である。

 

しかしなぜ下忍であり、まだ幼ささえ残る彼女にそれだけの技が出来たのか。その秘密は、ある忍術にあった。

 

その忍術こそは、ある意味で最も彼女に向いた忍術。

 

その技こそは、かつて四代目火影が得意とした忍術。

 

その名を、分神の術という。

 

──最大級の技を決めたサクラは、もうもうと立ち込める土煙を見ながら、やや距離を取ってこれまで耐えていた呼吸を再開させる。

 

「ふっ……ぐっ……!! はあっ……! はあっ……! はあっ……!」

 

荒々しい呼吸を繰り返す中、サクラは内心で今のが決定打になっていないことを理解していた。

 

それはある意味、当然の帰結とも言えた。いくら使えるようになったとはいえ、互乗起爆札などというとんでも忍術に相応のチャクラと集中力を消耗した彼女の技は、そもそも完全なものとなっていなかったのだ。

 

そのことに臍を噛みたいほどの無力さを味わいながらも、歩くこともままならず、整わない呼吸をそのままにサクラはその場へと膝をついてしまう。

 

「むぅ……」

 

呻き声をあげながら、土煙の中からサイゾウが歩き出てくる。

 

そこに現れたサイゾウを見て、サクラは思わず苦笑を浮かべた。

 

確かにサイゾウの上半身を包んでいた忍装束は吹き飛び、痛ましい火傷と裂傷に覆われていた。だが、それだけである。

 

そんな表面的なダメージではサイゾウに膝をつかせることすらできない、と悔しがるサクラ。だがそもそもサイゾウに膝をつくほどのダメージを与えること自体目的を超越している。

 

サクラ自身まだ自覚はないが、中々にバトルジャンキーとしての資質をもっていると言えた。

 

そんな間にも、サイゾウはチャクラを全身に回すことによって再生能力まがいの治癒力を発揮する。サクラの見立て通り、サイゾウにとってこの程度は紛れもないかすり傷であった。

 

しかし、サイゾウが庇っていた腹から掌をどかせば、そこには紛れもなく拳の痕が残っている。不完全なれど、直撃したサクラの一撃は間違いなくダメージを与えていた。

 

ここに至ってサクラは考える。現状、あといくつかの手札はあるにはある。だがその内ひとつは、未だ成功すらしていないリスキーな技であるし、さらにもうひとつは現状では効果があるかわからない。

 

しかしそんな風に決死の覚悟でいるサクラの前で、ふっとサイゾウの雰囲気が和らぎ、両手を掲げて降参のポーズをとった。

 

「参った参った。俺の敗けだ」

 

そう言いながら、サイゾウはサクラへ近づくとそっと彼女の腕を取る。

 

興奮してサクラは気づいていなかったが、その手首は骨折でもしたのか、赤黒く腫れ上がっていた。

 

サイゾウは優しく彼女の腕を持ち上げると、そこへ己のチャクラを交えた回復術を施していく。

 

「あ……!」

 

それは紛れもない忍術。回復を目的とした仙人掌と呼ばれる基礎医療忍術であった。

 

「認めよう、お前の熱意を。サクラ、君を俺の弟子とする」

 

「じゃ、じゃあ!」

 

「ああ、正直気乗りはしないがな……」

 

「やったー!!」

 

その言葉にはしゃぎ、飛び上がるサクラ。

 

しかし後日、サイゾウが如何にして弟子を()()()()()()()鍛えるかを身をもって知ったサクラは、それを唯一乗り越えたマイト・ガイを尊敬するようになったとかならなかったとか。

 


 

 

音隠れにて。

 

仙術チャクラをものにするため他の人柱力と共に厳しい修行に明け暮れていたナルトだったが、突如として空が曇ったことを訝しむ。

 

しかし次の瞬間、同じように空を見上げた音隠れにいるほぼ全員が空の様子に絶句した。

 

「なんだと……!!」

 

同じように空を見上げた音影のレンヤが、()()を見て驚愕する。

 

()()を表現するのに、岩山という表現は過小すぎると、誰もが感じた。

 

言うなればそこには、小惑星もかくやというほどに、あまりに巨大な隕石が突如として降り注ごうとしていたのだから。

 

 




動画で松岡修造さんに「だって君は太陽だから!」って言ってもらえたから、オラもうちょっとがんばるぞ。

……うそです。皆さんに色々声をかけてもらってそれが積もって地獄から抜けることができました。
まだまだ時間はかかりますが、ひとまず休止中の作品を更新していけたらと思ってます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む